(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】細胞を選択する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240312BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20240312BHJP
C12N 5/0781 20100101ALI20240312BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240312BHJP
C12N 5/12 20060101ALI20240312BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240312BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240312BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N1/02
C12N5/0781
C12N5/10
C12N5/12
C12N1/21
G01N33/53 M
G01N33/53 D
G01N33/543 595
G01N33/543 575
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557456
(86)(22)【出願日】2022-03-16
(85)【翻訳文提出日】2023-10-25
(86)【国際出願番号】 GB2022050671
(87)【国際公開番号】W WO2022195281
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521217482
【氏名又は名称】ライトキャスト ディスカバリー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LIGHTCAST DISCOVERY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヘンリー アイザック
(72)【発明者】
【氏名】エマ ヘッド
(72)【発明者】
【氏名】マチェイ ソスナ
(72)【発明者】
【氏名】ネーレ マリー ゴデッテ ディークマン
(72)【発明者】
【氏名】クレア マリー ムルゾー
(72)【発明者】
【氏名】エヴァンジェリナ ネフェリ アサナソポウロウ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ウェーバー
(72)【発明者】
【氏名】キャメロン フレイリング
(72)【発明者】
【氏名】ポール ローフェン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ13
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4B065BA01
4B065BD14
4B065CA24
4B065CA25
(57)【要約】
EWODまたはoEWOD装置において、少なくとも1つの特性に基づいて細胞および/または細胞の一部を選択する方法が提供される。方法は以下のステップ、すなわち、
i. 少なくとも培地または培地および少なくとも1つの細胞を含む、微小液滴の試験パネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含有する、微小液滴の少なくとも1つのレポーターパネルを準備するステップと、
iii. 試験パネルの微小液滴を少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴とマージして、マージされたアッセイ微小液滴のパネルを形成するステップと、及び
iv. 少なくとも1つの特性の存在に基づいて、前記レポーター実体の変化を検出することができる検出システムを用いて、アッセイ微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、並びに
v. レポーター実体の変化に基づいて、パネルから微小液滴のサブセットを選択するステップであり、前記サブセットは選択された細胞を含有するものである、該選択するステップと、
を備え、
少なくとも培地を含む微小液滴の試験パネルは、少なくとも1つの細胞および培地を含有する微小液滴のパネルを分割することによって作製され、さらに、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルを作製する、並びに/または、さらに、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルが、ステップ(i)~(v)のいずれかの前または後に、少なくとも2つの微小液滴のパネルに分割され、前記2つのパネルは、少なくとも培地または培地および少なくとも1つの細胞を含み、レポーター実体パネルの微小液滴とマージするのに適した微小液滴の試験パネル、及び少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EWODまたはoEWOD装置において、少なくとも1つの特性に基づいて細胞および/または細胞の一部を選択する方法であって、以下のステップ、すなわち、
i. 少なくとも培地または培地および少なくとも1つの細胞を含む、微小液滴の試験パネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含有する、微小液滴の少なくとも1つのレポーターパネルを準備するステップと、
iii. 試験パネルの微小液滴を少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴とマージして、マージされたアッセイ微小液滴のパネルを形成するステップと、及び
iv. 少なくとも1つの特性の存在に基づいて、前記レポーター実体の変化を検出することができる検出システムを用いて、アッセイ微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、並びに
v. レポーター実体の変化に基づいて、パネルから微小液滴のサブセットを選択するステップであり、前記サブセットは選択された細胞を含むものである、該サブセットを選択するステップと、
を備え、
少なくとも培地を含む微小液滴の試験パネルは、少なくとも1つの細胞および培地を含有する微小液滴のパネルを分割することで作製され、さらに、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルを作製し、
並びに/または、さらに、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルが、ステップ(i)~(v)のいずれかの前または後に、少なくとも2つの微小液滴のパネルに分割され、前記2つのパネルは、レポーター実体パネルの微小液滴とマージするのに適した少なくとも培地または培地および少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネル、及び少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルである、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、細胞の前記特性は、1つ以上の細胞表面分子の存在、1つ以上の細胞活性の存在、細胞形体、1つ以上の細胞分泌物の存在、および/または、1つ以上の細胞内産生物の存在のうちいずれか1つ以上から選択される、方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法において、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルを分割する前に、前記細胞を細胞分裂可能な条件下で培養する、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記条件が、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルを、培地を含有する微小液滴のパネルとマージさせることを含む、方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の方法において、微小液滴の参照パネルおよび試験パネルは、微小液滴の参照パネルが微小液滴の試験パネルに含有される細胞に対応する細胞の少なくとも1つのクローンコピーを含有するように分割される、方法。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか一項に記載の方法において、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の前記試験パネルは、前記細胞を溶解するための薬剤を含有する微小液滴のパネルとマージされる、方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法において、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のうち任意なパネル中の細胞が、その形態学的特性について検査され、また前記形態学的特性が細胞のサブセットを選択するために使用され得る、方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記形態学的特性は、サイズ、形状、接着状態、細胞膜状態、および/または細胞内特徴の存在を含む、方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法において、ステップ(ii)の前に、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルを、細胞の特性を決定するための少なくとも1つのアッセイで評価してもよく、前記アッセイは、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の前記パネルを、少なくとも1つのレポーター実体を含有する微小液滴の少なくとも1つのパネルとマージさせ、前記特性の存在に基づいて少なくとも1つのレポーター実体の変化を決定することによって実施される、方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法において、ステップ(iv)の後、水性微小液滴の少なくとも1つのパネルは、微小液滴のマージされたアッセイパネルとマージされ、またその後、微小液滴のマージされたパネルが分割される、方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法において、方法の任意な段階において、望ましくないまたは空の微小液滴が廃棄される、方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法において、選択された微小液滴のパネルの細胞が装置から分注される、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、選択された微小液滴のパネルを分注した後、その中に含有される細胞を処理して、集団を増殖する、および/またはクローンを培養する、方法。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の方法において、選択された微小液滴のパネルを分注した後、その中に含まれる分泌物、代謝産物などの細胞および/または非細胞体を、以下のいずれか1つ以上の分析を含むがこれらに限定されないさらなる分析、すなわち、
i. 質量分析、
ii. 表面プラズモン共鳴、
iii. 高速流体クロマトグラフィー、および/または、
iv. 核酸配列決定およびPCR増幅を含む遺伝子分析、
を課す、方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法において、試験パネルの微小液滴が参照パネルの微小液滴に対応し、参照パネルに保持された細胞が、微小液滴の試験パネルにおける前記レポーター実体の変化に基づいて選択され得る、方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法において、細胞は遺伝子工学的に操作される、方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の方法において、細胞は、ステップ(i)の前に遺伝子操作される場合があり、この遺伝子操作は、以下のステップ、すなわち、
a. 各々が少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルを準備するステップと、
b. 各々が細胞を修飾することができる1つ以上の遺伝子要素を含む修飾微小液滴のパネルを準備するステップ、と
c. 細胞を含有する微小液滴を、1つ以上の遺伝的要素を含有する微小液滴とマージするステップであり、各々が遺伝子工学的に操作された細胞を含有する微小液滴のパネルを形成する、該マージするステップと、
を備える、方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法において、前記細胞の特性は、生存率、細胞活性化能及び/又は細胞殺傷能である、方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の方法において、前記細胞の特徴は、レポーター実体を用いて検出され得る細胞内産生物、細胞表面分子および/または分泌物として、以下の産生物、すなわち、
i. 糖タンパク質またはリポタンパク質を含むタンパク質、
ii. 化学物質、
iii. ポリマー、
iv. 核酸、
v. 化合物、
のうちいずれか1つ以上を作ることができる、方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の方法において、少なくとも1つのレポーター実体は、以下の実体、すなわち、
i. 抗体、
ii. 抗原、
iii. 受容体、
iv. 基質、
v. 酵素、
vi. リガンド、
vii. 核酸、
viii. 細胞、
ix. 細胞の一部、
x. 細胞外小胞、
xi. リポソーム、
xii. ポリマー、
xiii. 化学物質、
xiv. 薬物、
xv. FRETレポーター
xvi. 化学発光物質、
xvii. 組織サンプル、
xviii. ウイルスまたはバクテリオファージ、
xix. サイトカイン、および/または、
xx. タンパク質、
のうちいずれか1つ以上である、方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法において、前記レポーター実体は、変化を直接検出するためにラベリングされる、および/または、レポーター実体内の変化を検出し報告することができる第2のラベリングされた実体も含まれるようにする、方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、前記ラベルは、可視性、発光性、蛍光性、リン光性、スプリット蛍光、スプリット発光、または蛍光発生性のようなタンパク質相補性のリガンドである、方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか一項に記載の方法において、前記検出ステップは光学検出ステップである、方法。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の方法において、前記細胞が以下のタイプ、すなわち、
i. 免疫細胞、
ii. バクテリア、
iii. 真菌細胞、
iv. 昆虫細胞、
v. 多能性細胞、
vi. がん細胞、
vii. ハイブリドーマ細胞融合体、
viii. 細胞株、
ix. 植物細胞、
x. 人工細胞、
xi. マイクロ細胞、
xii. 細胞の一部、
xiii. 細胞外小胞、または、
xiv. リポソーム、
のうちいずれか1つから選択される、方法。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか一項に記載の方法において、前記細胞はリンパ球である、方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、前記細胞は、Bリンパ球であり、免疫グロブリンの分泌が可能である、方法。
【請求項27】
請求項24または請求項25に記載の方法において、前記レポーター実体はレポーター細胞であり、随意的に、所望の免疫グロブリンがレポーター細胞に結合して変化を引き起こすことができる、方法。
【請求項28】
請求項25に記載の方法において、1つ以上のレポーター実体は、以下のもの、すなわち、
i. 抗原結合ビーズおよび蛍光色素結合二次抗体、
ii. 二次抗体結合ビーズおよび蛍光色素結合抗原、または、
iii. キャリア表面に結合した抗原および蛍光色素結合二次抗体ビーズ、
から選択され、
免疫グロブリンの特性をモニタリングするステップは、抗原結合活性をアッセイするステップを含む、方法。
【請求項29】
請求項25に記載の方法において、前記細胞は、細胞表面受容体またはT細胞係合分子のいずれかを発現するように遺伝子操作されている、方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法において、前記細胞は免疫細胞であり、前記細胞表面受容体はキメラ抗原受容体である、方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、方法はCAR-T細胞を選択するためである、方法。
【請求項32】
請求項1~31のいずれか一項に記載の方法において、前記細胞は患者から単離されたものである、方法。
【請求項33】
請求項1~24のいずれか一項に記載の方法において、前記細胞は、薬剤を産生するように遺伝子操作された細菌細胞である、方法。
【請求項34】
請求項1~24のいずれか一項に記載の方法において、前記細胞は免疫療法薬を産生することができる、方法。
【請求項35】
請求項1~34のいずれか一項に記載の方法において、微小液滴は非混和性液体によって取り囲まれている、方法。
【請求項36】
請求項1~35のいずれか一項に記載の方法において、1つ以上のレポーター実体がレポーターパネルの各微小液滴に存在し、随意的に、ステップ(v)は多重アッセイの検出である、方法。
【請求項37】
請求項24に記載の方法において、前記細胞は、細胞融合プロセスにより形成されたハイブリドーマ細胞であり、免疫グロブリンの分泌が可能である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、望ましい特性に基づいて細胞を選択するための装置を使用する方法に関する。これらの選択された細胞は、治療用途または製造用途に拡大することができる。この方法は、養子細胞療法(ACT:adoptive cell therapy)、とりわけ細胞免疫療法に有用であるが、他の用途、特に集団からの細胞の特性解析、一般的には細胞が遺伝子操作されている場合にも有用である。さらに、この方法は、免疫グロブリンまたは免疫療法薬のような、所望の分子を産生する能力に基づいて細胞を選択するために使用することもできる。合成生物学は急速に発展している分野であり、細胞を利用して医薬品、燃料、食品、および飲料を生成したり、または、プラスチックおよびその他の汚染物質を分解する酵素を産生したりすることができる。本発明の装置はマイクロ流体工学の分野であり、微小液滴を操作できるマイクロ流体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の迅速かつ高スループットな処理は、研究、開発、製造において重要な課題である。このことは、細胞療法および細胞由来の治療薬のような生物学的治療薬(生物学的製剤)の生成に特に当てはまり、細胞の同定および選択が必要とされる一方で、さらなる増殖または試験のために細胞を保持する必要がある。細胞を分類、アッセイ、および選択するための既存の方法は、マイクロ流体装置が開発されたにもかかわらず、依然として遅く、扱いにくい。
【0003】
細胞ベース療法の承認は増加しており、患者に注入される細胞が望ましい特性を持ち、さらに患者にいかなるリスクにつながりかねない特性を持たないことを保証することが最も重要である。免疫系の遺伝性疾患、ヘモグロビン異常症、代謝性疾患、がんなど、多くの疾患に対して、患者から取り出した細胞を遺伝子操作(遺伝子治療)して患者の体内に戻す方法が知られている。細胞ベースの遺伝子治療の他の用途としては、眼の疾患や障害が知られている。
【0004】
ある例では、遺伝子工学によってT細胞にキメラ抗原受容体(CAR)として知られる細胞表面受容体を付与する。このようなCAR―T細胞は、発現した細胞表面マーカーを介してがん細胞と結合し、特異的な抗腫瘍反応を引き起こすことができるという重要な利点を有している。現在認可されている治療法ではT細胞の自家再注入が行われているが、将来的にはアロジェニックT細胞の使用も可能である。とはいえ、安定した表現型を持ち、正しいCARを修飾することなく表面に発現しているCAR―T細胞を使用し、そしてこのCARが「オンターゲット/オフ腫瘍(on target/off-tumour)」、さらには患者の健康な細胞が標的とされるような、「オフターゲット(off target)」結合能を示さないことだけが、非常に重要である。加えて、注入前にCAR―Tは標的に対して効能があると決定することは有益である。現在承認されている2つのCAR―T細胞療法には、投与量の一貫性、患者の安全性、および製造プロセスの影響に関して、多くの既知の欠陥がある。これらの欠陥は、養子細胞療法および遺伝子療法の分野全体で共有されていることが理解されている。
【0005】
重要な基礎的要因には以下のようなものがある、すなわち、
・治療法および製造された用量によって収量に極端なばらつきがあるため、患者における有効性が予測できない。
・既知のオフターゲット効果(CNSオフターゲットおよび心臓ターゲットなど)は、一部の患者に重篤な副作用をもたらす。
・白血球除去による収量のばらつきがあるため、細胞の生存率を最大限に維持する必要があり、かつ、投入した細胞の亜集団を注意深く選択する必要がある。
・汚染物質(B細胞など)は培養を台無しにする可能性がある。
・腫瘍標的に対するT細胞活性を測定する簡単な自動化された方法がないため、患者の反応を予測することは困難または不可能である。
【0006】
さらに、細胞は、治療適応症、アッセイ、調査、食品および飲料、農業を含む、かつ原材料として、多くの用途の製品を作るまたは製造するために採用することができる。これは、免疫グロブリンのような分泌物として細胞から採取される、または、薬物分子のような細胞内生成物を回収するために細胞を溶解することで採取される、生成物を産生するために効果的に細胞を使用するものである。
【0007】
特に興味深いのは、ハイブリドーマおよびリンパ球からの免疫グロブリンの製造である。特定の抗原結合能力を持つ免疫グロブリンを産生する細胞を同定することは多くの場合望ましく、そうすれば、もし特定の抗原結合特性が決定されれば、この細胞を増殖したり分析したりすることができる。このような免疫グロブリンは通常、モノクローナル抗体などの抗体であり、治療的に、またはアッセイおよび研究に使用される。このような特徴を持つ細胞を選ぶには、何千もの細胞をスクリーニングする必要があるかもしれない。所望の生成物を産生する、細胞の採取と細胞の同定との間の中間工程は、損失および/または性能低下を引き起こす可能性があるため、細胞を装置に直接載せ、ハンドリング工程を減らすことが最善である。事前のFAC分類なしでは、望ましい細胞の望ましくない細胞に対する比率が大幅に低下する。ここでは、大きな液滴のハンドリングおよび、スクリーニング能力が必要とされる。
【0008】
生成物を産生する上で望ましい特性を持つ細胞を選択することは、その試験中に細胞が損傷を受けたり破壊されたりする可能性があり、望ましい生成物を産生する細胞を選択する場合には望ましくない。
【0009】
従って、望ましい特性について細胞をスクリーニングする労働集約的なプロセスを合理化し、そのような細胞の選択およびその後の増殖または更なる試験を可能にし、望ましくない特性を持つ特定の細胞を拒絶し、全体的な時間およびコストを削減する強固な方法が必要とされている。従って、細胞が試験できるだけでなく回収できることも重要である。このニーズを解決するためにマイクロ流体プラットフォームが提案されているが、臨床の場で実用的で信頼できる方法はまだ証明されていない。特に、複数の細胞に対する多重化アッセイを実施する能力は掴みどころがないことが証明されており、さらに、多数の細胞を同時に、高スループットで処理する能力についても同様である。実際、このような装置での研究の多くは、隔離ペンのような固定構造の使用によって決定されており、細胞に対して複数のアッセイを実施する柔軟性がない。いくつかのプラットフォームでは、個々の細胞レベルでの調査ができない代わりに、複数の細胞での評価を行っている。さらに、柔軟性に欠けるシステムでは、連続した評価を可能にする機構、または、一旦評価が終了するとさらなる増殖のために細胞を保持する機構がないため、細胞上で単一のアッセイしか実行できないことを意味する。アッセイの小型化により、アッセイ工程で消費される試薬の量が減り、消耗品のコストが下がる。
【0010】
本開示は、細胞が微小液滴に入れられている場合の細胞選択の方法を提供し、微小流体チップの表面上の細胞を含む微小液滴を操作するためのアクチュエーションメカニズムは、誘電体上でのエレクトロウェッティング(EWOD:electrowetting on dielectric)であり、随意的に誘電体上での光学的に媒介されたエレクトロウェッティング(oEWOD:optically mediated electrowetting on dielectric)である。
【0011】
このようなチップベースの装置を使用することで、有利なことに、幅広いサイズにわたって微小液滴を操作することが可能となり、デジタル制御されることで、動的に再プログラム可能な操作ステップが提供される。この装置構造は、微小液滴の独立制御など、従来のアプローチと比較して、より精巧で統合されたワークフローを可能にし、また微小流体チップ表面の領域全体にわたって、より高密度の微小液滴を制御することを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本開示は、EWODまたはoEWODマイクロ流体チップの柔軟性を利用することで微小液滴の高スループット処理を可能にし、したがって、スクリーニング用途における多重処理の必要性を解決する方法を提供する。本願発明で特許請求される細胞を選択する方法は、本明細書で開示される細胞、細胞の一部および/または細胞由来種を含む。
【0013】
本明細書で提供されるのは、細胞を選択する方法であり、特に治療的用途または製造のために細胞を選択する方法であり、本開示の方法は、特に養子細胞療法、遺伝子治療および細胞ベースの製造において有用である。選択される細胞は、より大きな細胞母集団のサブセット(部分集合)であってもよく、ここで細胞は一般に同じ種類または同じ種である。選択される細胞は、同じ種類や同じ種でなくてもよい。細胞は、細胞集団内に異質性を提供するように選択してもよい。細胞は遺伝学的に同じであるが、特定の遺伝子がオンまたはオフに切り替わる可能性がある。
【0014】
本明細書で提供されるのは、(生物)化学/(生物)分子実体、または他の細胞(細胞―細胞間相互作用)などの他の実体との細胞相互作用を調べるために細胞を選択する方法である。例えば、この方法は、2つ以上の選択された細胞が近づけられたときに、標的化した細胞間相互作用を含むことができる。
【0015】
本明細書で提供されるのは、単一細胞からの分泌物、または、細胞間相互作用を調べるために細胞を選択する方法である。例えば、この方法は、2つ以上の選択された細胞が近づけられたときの、標的化した細胞間相互作用を含むことができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の一態様によれば、EWODまたはoEWOD装置において細胞を選択する方法が提供され、該方法は以下のステップ、すなわち、
i. 少なくとも培地、または培地および少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含有する、微小液滴の少なくとも1つのレポーターパネルを準備するステップと、
iii. 試験パネルの微小液滴を少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴にマージし、マージしたアッセイ微小液滴のパネルを生成するステップと、及び
iv. 少なくとも1つの特徴の存在に基づいて、前記レポーター実体の変化を検出することができる検出システムを用いて、アッセイ微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、並びに
v. レポーター実体の変化に基づいて、パネルから微小液滴のサブセットを選択するステップであり、前記サブセットは選択された細胞を含有するものである、該選択するステップと、
を備える。
【0017】
ここで、少なくとも培地を含む微小液滴の試験パネルは、少なくとも1つの細胞および培地を含む微小液滴の試験パネルを分割することで作製され、さらに、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルを作製する。
【0018】
並びに/または、さらに、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルが、工程(i)~(v)のいずれかの前または後に、少なくとも2つのパネルに分割され、前記2つのパネルは、レポーターパネルの微小液滴とマージするのに適した少なくとも1つの培地または培地および少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネル、および、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルである。
【0019】
従って、細胞は1つ以上の特性に基づいて選択することができる。
【0020】
本明細書に記載される方法は少なくとも1回の分割操作を含むことができ、例えば、ステップ(i)の前に、微小液滴のパネルが最初に分割し、少なくとも培地を含有する微小液滴の試験パネル、および、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルを準備するようなことである。
【0021】
もしステップ(i)の微小液滴パネルが1つ以上の細胞を含んでいれば、ステップ(iii)の前に分割操作を行う必要はない。
【0022】
代替的または追加的に、1つ以上のさらなる分割操作を、手順の任意の適切なステップに含めることができる。分割は、少なくとも培地を含む微小液滴の試験パネル、および/または少なくとも培地および少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルを生成することができる。
【0023】
分割操作は、もし細胞が分泌物を産生することができれば、培地中に任意の分泌物が含まれるように行うことができる。分割ステップは、異なる濃度の前記分泌物を有する複数の子液滴が生成されるように実施することができる。代替的または追加的に、分割操作は、子微小液滴が異なる濃度の分泌物を含むように、異なる時間に実行することができる。
【0024】
分割操作は、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の1つ以上の参照パネル、および、少なくとも1つの細胞を含むまたは含まない微小液滴の1つ以上の試験パネルを形成するに至る可能性がある。
【0025】
この方法は、考えられるところでは、関心のある特性に応じて、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルおよび少なくとも培地を含む微小液滴の両方を含むステップを含む。
【0026】
このような分割操作の目的は、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の参照パネルを生成することである。
【0027】
あるいは、EWODまたはoEWOD装置において細胞を選択する方法が提供され、この方法は以下のステップ、すなわち、
i. 1つ以上の細胞および培地からなる微小液滴のパネルを準備するステップ、
ii. 前記微小液滴のパネルを少なくとも2つの微小液滴のパネルに分割し、1つ以上の細胞を含む、少なくとも1つの微小液滴の参照パネルおよび、少なくとも前記培地を含む、少なくとも1つの微小液滴の試験パネルとするステップ、
iii. 1つ以上のレポーター実体を含有する、少なくとも1つの微小液滴のレポーターパネルを準備するステップ、
iv. 試験パネルの微小液滴を少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴にマージし、マージされたアッセイ微小液滴のパネルを形成するステップ、及び
v. 少なくとも1つの特性の存在に基づいて、前記レポーター実体の変化を検出することができる検出システムを用いて、アッセイ微小液滴のパネルをモニタリングするステップ、並びに
vi. 対応するアッセイ微小液滴パネルにおけるレポーター実体の変化に基づいて、参照パネルから微小液滴のサブセットを選択し、前記サブセットは選択された細胞を含むステップ、
を備える。
【0028】
本開示の方法は、細胞の1つ以上の特性の検出または決定を含む。本明細書で使用する場合、細胞の特性は、1つ以上の細胞表面分子の存在、1つ以上の細胞活性の存在、細胞形体、1つ以上の細胞分泌物の存在、および/または1つ以上の細胞内生成物の存在、のいずれか1つ以上のような、任意の適切な特性でありうる。
【0029】
細胞の特性は、本明細書に記載された方法に従って、任意の適切な手段によって決定することができる。本方法は、特性の存在を決定または検出することができる1つ以上のレポーター実体を使用することができる。このようなレポーター実体は微小液滴内に設けるのがよく、それは前記特性のための試験を受ける微小液滴とマージするからである。
【0030】
本明細書に記載の方法は、細胞の選択に関するものであってもよく、この場合、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルが分割され、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルが生成され、これらはここでは参照パネルと定義される。この分割ステップまたは分割操作は、手順の中の任意の適切な時点またはステップで実施してもよく、つまり、参照パネルは適切な時点で構築される。この参照パネルは、選択中の細胞に応じて手順の異なる時点/ステップで構築することができる。従って、参照パネルは当初検討された細胞のサブセットを含む可能性がある。
【0031】
分割ステップはまた、微小液滴の少なくとも1つの試験パネルの生成をもたらす。微小液滴の試験パネルは、前駆微小液滴からの培地を含んでもよい。細胞が分泌能を持つ場合、培地は前記細胞からの分泌物を含むこともできる。試験パネルおよび参照パネルは相関しており、試験パネルの識別結果および所望の特性の選択は、少なくとも1つの細胞を含む、対応する参照微小液滴が選択される結果となる。こうして、試験パネルの識別結果は、前駆細胞と関連付けられ、同じものが選択される。
【0032】
分割ステップの前に、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルを、細胞分裂、随意的にクローン増殖が可能な条件下で培養することができる。このような条件には、培地を含む微小液滴パネルと、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴パネルとをマージさせることにより、細胞に追加の培地を供給することが含まれ得る。他の条件としては、補充培地を含む微小液滴パネルと、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴パネルとをマージさせることにより、成長因子、栄養素、細胞シグナリング分子、化学物質などの補充物を細胞に供給することを含む。
【0033】
微小液滴パネル内の細胞の分裂が許容される場合、微小液滴の参照パネルおよび試験パネルは分割することができ、参照パネルまたは微小液滴は、微小液滴の試験パネルに含まれる細胞に対応する細胞の少なくとも1つのクローンコピーを含む。こうして、試験パネルの識別結果は、前駆細胞と関連付けられ、同じものが選択される。
【0034】
一態様によれば、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルは、前記細胞を溶解するための薬剤を含む微小液滴のパネルとマージさせることができる。このようなステップは、判定すべき細胞の特性が細胞内生成物の存在である場合に必要となる。あるいは、細胞内産生物は、細胞内に入ることのできるレポーター実体を用いて直接検出することができる。
【0035】
したがって、パネルを形成する微小液滴中の細胞は、特定のレポーター実体に曝露される前に、細胞分裂することが可能となるかもしれない。一旦細胞が分裂すると、パネル内の各微小液滴は分割することができ、少なくとも2つの子微小液滴パネルが形成され、その中の微小液滴が少なくとも1つの細胞を含む。少なくとも1つの微小液滴パネルを参照パネルとして確保し、少なくとも1つの他のパネルを本発明の方法で使用することができる(「試験パネル」)。したがって、参照パネルおよび試験パネルは、対応するまたは相関する細胞を含み、そして、試験パネルの結果は、参照パネル内にある対応する細胞を同一化する結果となり得る。微小液滴の試験パネルおよび微小液滴の参照パネルはそれぞれ、もとの前駆細胞に由来する細胞を含むため、遺伝的に同一である、またはクローンであると説明することができる。
【0036】
本開示の任意の態様によれば、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の任意のパネル内の細胞は、その形態学的特徴について検査され、前記形態学的特徴は、細胞のサブセットを選択するために使用され得る。この検査は、本方法のステップ(ii)の前に行われてもよいし、本方法のいずれかのステップの前または後に行われてもよい。形態学的特徴には、大きさ、形状、接着状態、ブレブのような細胞膜の特徴、および/または液胞のような細胞内の特徴の存在を含んでもよい。
【0037】
任意の側面による細胞の選択とは、細胞のサブセットを定義し、残りの細胞を破棄または除外することを意味する。選択は、陽性(特性の存在に基づく細胞の選択)または陰性(陰性特性の非存在に基づく細胞の選択)である。破棄/除外された微小液滴は、装置から取り除いてもよいし、パネル内に残して考慮から除外してもよい。
【0038】
いくつかの態様によれば、ステップ(i)の前に、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルを、細胞の特性を決定するために少なくとも1つのアッセイで評価してもよく、前記アッセイは、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の前記パネルと、少なくとも1つのレポーター実体を含有する、少なくとも1つの微小液滴のパネルとをマージさせ、前記特性の存在に基づいて少なくとも1つのレポーター実体の変化を決定することによって実施される。従って、任意の分割ステップの前に、初期検査または識別を行うことができる。
【0039】
一態様によれば、一旦選択されると、細胞は、増殖、またはさらなる試験のために、装置から取り除かれる。
【0040】
本開示の別の態様によると、EWODまたはoEWOD装置の使用により細胞を選択する方法が提供され、この方法は、以下のステップ、すなわち、
i. 少なくとも1つの細胞および培地を含む微小液滴のパネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含む、少なくとも1つのレポーター微小液滴のパネルを準備するステップと、
iii. 少なくとも1つの細胞を含むパネルの微小液滴を、少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴とマージさせて、結合した微小液滴のパネルを形成するステップと、
iv. 細胞の1つ以上の特性に基づいて前記レポーター実体の変化を検出し、またレポーター実体内の前記変化に基づいて微小液滴のサブセットを選択して細胞を含む微小液滴の選択されたパネルを形成することができる検出システムを使用して、マージされた微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、
v. 細胞を含む選択された微小液滴のパネルを採取する、及び随意的にステップ(ii)~(iv)を1回以上繰り返し、1つ以上の異なるレポーター実体がステップ(ii)で使用されるステップと、
vi. ステップ(v)で選択された微小液滴の最終パネルに基づいて細胞を選択するステップと、
を備え、
ステップ(iii)および/またはステップ(v)の前に、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルが、微小液滴の少なくとも2つのパネルに分割され、前記パネルは、以下の通り、すなわち、
a. 少なくとも培地を含み、レポーター実体パネルの微小液滴とマージするのに適した試験パネル、及び
b. 少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の参照パネル
である。
【0041】
一態様では、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルを分割する前に、細胞を培養して細胞分裂を可能にし、微小液滴の試験パネルが細胞、随意的に参照パネルからの細胞のクローン細胞コピーを含むようにすることができる。
【0042】
あるいは、一態様によれば、本発明はEWODまたはoEWOD装置の使用により細胞を選択する方法を提供し、この方法は、以下のステップ、すなわち、
i. 少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の第1のパネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含有するレポーター微小液滴のパネルを少なくとも1つ準備するステップと、
iii. 第1のパネルの微小液滴と少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴とをマージして、マージされたアッセイ微小液滴の第1のパネルを形成するステップと、
iv. 1つ以上の細胞の特性に基づいて前記レポーター実体の変化を検出し、またレポーター実体の前記変化に基づいて微小液滴の第1のサブセットを選択して微小液滴の第1の選択パネルを形成することができる検出システムを使用して、アッセイ微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、
v. 1つ以上のレポーター実体を含有する、微小液滴のレポーターパネルを少なくとも1つ準備するステップと、
vi. 選択された微小液滴のパネルからの微小液滴と、さらなる微小液滴のレポーターパネルからの微小液滴とをマージして、マージされたアッセイ微小液滴の第2のパネルを形成するステップと、
vii. 1つ以上の細胞の特性に基づいて前記レポーター実体の変化を検出し、またレポーター実体の前記変化に基づいて微小液滴の第2のサブセットを選択し、微小液滴の第2の選択されたパネルを形成することができる検出システムを使用して、アッセイ微小液滴の第2のパネルをモニタリングするステップであり、前記サブセットは選択された細胞を含有するものである、該モニタリングするステップと、
を備え、
ステップ(iii)および/またはステップ(v)の前に、細胞を含む微小液滴のパネルが、少なくとも2つの微小液滴のパネルに分割され、前記2つのパネルは、
a. 少なくとも培地を含み、レポーターパネルの微小液滴とマージするのに適した、微小液滴のパネル、及び
b. 少なくとも1つの細胞を含む、微小液滴の参照パネル
である。
【0043】
以下の特徴は、本明細書に開示された方法のいかなる変形にも適用され得る。
【0044】
微小液滴の分割は、均等でも不均等でもよく、1つの微小液滴が2つ以上の微小液滴に分割され、2つ以上の微小液滴がそれぞれ同じサイズまたは異なるサイズであってよい。
【0045】
一態様では、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルを分割する前に、細胞を培養して細胞分裂を可能にし、微小液滴の試験パネルが細胞、随意的に参照パネルからの細胞のクローン細胞コピーを含むようにすることができる。
【0046】
本明細書に開示される方法の一実施形態によれば、ステップ(i)における微小液滴のパネルは、少なくとも1つの細胞を含んでいてもよく、または、元の細胞が細胞分裂を起こした場合には2つ以上の細胞を含んでいてもよい。本発明の方法の目的は、特定の細胞タイプを特徴付けることであり、ここで、アッセイされる同種の細胞母集団全体にわたる細胞の特徴は変動する可能性がある。本方法は、同種の複数の異なる細胞を含む微小液滴を廃棄または処分するステップを含んでもよく、該細胞は細胞分裂によって生じたものではない。
【0047】
本明細書に開示される方法の一実施形態によれば、ステップ(i)における微小液滴のパネルは、少なくとも培地を含むことができる。少なくとも培地を含む前記微小液滴は、前記培地中の細胞を含む微小液滴から以前に分割または分割されている。分割ステップの前に、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルを、培地を含む微小液滴のパネルとマージさせることができ、該培地は、随意的にシグナリング分子または細胞を含むことができ、細胞に分泌物を産生させる。従って、微小液滴の試験パネル中の培地は、細胞からの分泌物を含んでもよく、該分泌物は、細胞の特性を定義するためにレポーター実体に曝露される。本方法は、目的の分泌物を含まない微小液滴を廃棄または処分するステップを含んでもよい。培地を含有する液滴は、細胞を含有する液滴と体積が異なっていてもよい。
【0048】
さらに随意的に、細胞の選択に使用されるレポーターパネルは、例えば特定の細胞表面マーカーの発現、または、望ましい分子の分泌のような細胞表面特性など、望ましい特性を有する細胞の同定を可能にする。このようなラウンドにおけるレポーター実体は、細胞表面分子または分泌分子と結合または相互作用する実体とすることができる。
【0049】
随意的に、選択ステップにより、望ましい細胞、該細胞相互作用特性、例えば細胞結合、活性化、細胞融合、細胞取り込み、細胞死などを有する細胞を同定することができる。このような選択のラウンドにおけるレポーターは、腫瘍細胞などの細胞とすることができる。
【0050】
随意的に、選択ステップは、生存率、活性化および/または増殖特性または能力を見るためのアッセイを含むことができる。
【0051】
随意的に、微小液滴の試験パネルに細胞が存在する場合は、細胞内容物を放出するために溶解させる。このようなステップは、細胞がすでに細胞分裂イベントを経験しており、さらに、各々が少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の参照パネルが作成されている場合に考慮される。
【0052】
さらなる分析が必要ないと判断された場合、微小液滴は該分析過程のどの時点でもパネルから取り除くことができる。例えば、微小液滴は、細胞が所望の特性を含まない、細胞分裂を起こさない、レポーター実体細胞の細胞死を促進したり、抗原に結合できる抗体を放出したりするような所望の特性を有していない場合には、廃棄することができる。
【0053】
本発明の方法を用いてあらゆる種類の細胞を分析することが望ましいかもしれないが、細胞は同じ種類、例えばB細胞またはT細胞(リンパ球)であるかもしれず、本発明の方法は、特定の特徴を持つ細胞を選択するのに使用することができ、該特徴は、前記細胞に本来的に内在する、または、前記細胞に遺伝子操作されてもよい。細胞は生物学的細胞とも表現される。液滴内の細胞が、レポーター細胞および初代細胞の組み合わせ、または、組織状の構造を形成するために異なる表現型の上皮細胞を組み合わせた培養など、異なる種類の共培養を分析することが望ましい場合もある。細胞は天然のものでもよい。細胞は人工的なものでもよい。細胞はマイクロ細胞でもよい。本発明の方法は無細胞であってもよく、細胞の一部、例えば核および/またはミトコンドリアを使用してもよい。本発明の方法は、リポソームを使用してもよい。
【0054】
本発明の方法は、治療に使用するために望ましい特性を持つ細胞を選択するために使用することができる。
【0055】
本発明の方法は、研究に使用するために望ましい特性を持つ細胞を選択するために使用することができる。
【0056】
本発明の方法は、分子/化合物/化学物質などの望ましい製品の製造に使用するために、所望の特性を有する細胞を選択するために使用することができる。 このような使用において、細胞は遺伝子操作された細菌細胞などであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】例示的な方法を示しており、大量増殖および患者への再注入の前に、患者から血液を採取し、T細胞を分離し、形質導入し、分類し、選別する。また、我々のCAR-Tワークフローが対象とするこの製造プロセス内のセクションも示す。
【
図2】薬量測定およびプロファイリング前の、例示的なCAR―Tワークフローにおける初期段階の概要を示しており、患者の血液から分離されたT細胞が微小液滴に乳化され、分類され、形質導入される。不要な微小液滴は廃棄され、残った微小液滴の細胞に対してマルチレポーター細胞表面マーカーアッセイが実施される。このアッセイに基づいて、微小液滴のパネルが選択される。
【
図3】例示的なCAR―Tワークフローにおける後期段階の概要を示し、マルチレポーター細胞表面マーカーアッセイに続いて、選択された微小液滴パネルの細胞が、細胞生存率、活性化、および疲弊行動について評価される。微小液滴のパネルは、CAR―T細胞が参照パネルに保持され、クローン性CAR―T細胞が更なる選択ステップで使用されるように分割することができる。活性化評価は例えば、T細胞を含む微小液滴とがん細胞を含む微小液滴とを混合し、がん細胞の死滅活動を定量化することを含む。その後、微小液滴の最終的なパネルが選択され、T細胞は大量増殖および患者への再注入のために装置から分注される。
【
図4】例示的な免疫腫瘍学ワークフローを概説しており、A)CHO細胞を修飾して免疫療法薬を製造し、微小液滴に充填するステップと、B)微小液滴が、分割の時点に応じて等用量または異なる用量の薬剤を含む子液滴に分割するステップと、C)T細胞を含む微小液滴は、第1のマージ操作でがん細胞を含む微小液滴と対でマージし、マージした微小液滴は次に、第2のマージ操作で薬剤の投与量を含む微小液滴とマージするステップと、D)陽性ヒットは、がん細胞の死を定量化することで決定され、陽性ヒットに対応するCHO細胞が選択されるステップと、及びE)選択したCHO細胞をウェルプレートに分注し、増殖させるステップと、からなる。
【
図5】T細胞または腫瘍細胞のいずれか、およびTCR薬剤を含む微小液滴を生成するための例示的な調製プロトコルを示す。
【
図6】微小液滴のパネルを示し、各々は様々なT細胞/腫瘍細胞比率でT細胞および腫瘍細胞を含む。各液滴について、腫瘍細胞の数を各ボックスの左に示し、T細胞の数を各ボックスの右に示す。液滴I、KおよびLは腫瘍細胞のみを含む陰性対照である。
【
図7】時間(時間)対T細胞と接触したときアポトーシスしたがん細胞の割合のプロットを示す。腫瘍のみの対照との比較が示されている。この場合、アポトーシスは試験条件下でのT細胞の抗腫瘍死滅活動のレポーターとして作用し、後のT細胞の増殖またはさらなる分析のためにそれらをサンプリングする際の選択基準として用いることができる。
【
図8】
図8Aは、T細胞および2つの腫瘍細胞を含有する微小液滴を36時間にわたって周期的に撮影した明視野画像を示す。T細胞が2つの腫瘍細胞を連続的に死滅させていることが示されている。
図8Bは、同じ時間軸で各腫瘍細胞のカスパーゼ蛍光強度を定量化することにより、この腫瘍細胞死滅活動を確認している。
【
図9】
図9Aは、36時間の実験の最初の13時間にわたって周期的に撮影した、T細胞および2つの腫瘍細胞を含む微小液滴の近接明視野画像およびDeep Red染色像で、同じ時間軸で定量化されたカスパーゼ蛍光強度を示している。
図9Bは、前記実験の最後の10時間にわたって周期的に撮影した、同じ微小液滴の近接視野画像およびDeep Red染色像で、同様に同じ時間軸で定量化されたカスパーゼ蛍光強度を示している。T細胞の連続的な腫瘍細胞死滅活動がここで可視化されている。
【
図10】ハイブリドーマ細胞の生存率を時間に対する百分率で示したもので、細胞は装置内または液滴内にある。細胞生存率は、液滴内では最長5.3時間、装置内では最長3.6時間100%を維持し、液滴内では最長20.3時間、装置内では最長18.6時間90%以上を維持する。
【
図11】左側に、ハイブリドーマ細胞およびビーズ、またはビーズのみ、またはハイブリドーマ細胞のみを含む微小液滴のパネルの画像を示す。ビーズを正方形で示し、細胞を丸で示す。C1およびC2はそれぞれビーズのみを含み、C3は細胞のみを含み、D1~D3はそれぞれ細胞2個およびビーズ1個を含み、D4およびD5はそれぞれ細胞1個およびビーズ1個を含む。右側は同じパネルの画像で、ビーズの蛍光も示す。D1~D5では、異なる程度で蛍光凝集体が現れた。細胞のみまたはビーズのみを含む微小液滴(対照)では蛍光は検出されなかった。
【
図12】フィルタリングしたAF488蛍光をY軸に、遊離抗標的抗体濃度をX軸にとったグラフを示す。右端には、無関係なハイブリドーマ集団および標的のハイブリドーマ集団について、平均のフィルタリングした蛍光がプロットされている。遊離抗標的抗体で観察された最大レベルに近い蛍光が、分泌した標的ハイブリドーマ細胞で測定されたことがわかる。
【
図13】マルチプレックススパイキングアッセイのデータを示すグラフで、標的ビーズのフィルタリングしたAF488蛍光をY軸に、時間をX軸にとる。標的ビーズのフィルタリングしたAF488蛍光は、微小液滴の集団の時間に対して測定され、各々は、標的または無関係なハイブリドーマ細胞およびレポーターを含む。陰性対照もまた含まれる。無関係なハイブリドーマ細胞を含むD2は暗いままであり、陰性対照と区別できない。全標的ハイブリドーマが陽性シグナルを示した。
【
図14】10倍対物レンズを用いたSolR1、R3、R5ビーズの蛍光および明視野(挿入)像を示す。グラフは、複数のビーズ内でSolR1、R3、R5ビーズの集団が容易に区別されるように測定した、フィルタリングした蛍光を示す。
【
図15】上図はマルチプレックビーズアッセイのデータを示すグラフで、ビーズのフィルタリングした蛍光をY軸に、AF488のフィルタリングした蛍光をX軸にとる。フィルタリングしたAF488蛍光は、標的または無関係なハイブリドーマ細胞およびレポーターを含有する微小液滴の集団について、各ビーズにおいて測定する。ビーズは検出システム(R5ヒューマンターゲット、R3オフターゲット、およびR1サイノターゲット)によってデコードされる。陽性(25nM遊離標的抗体)および陰性(抗マウスAF488のみ)対照の微小液滴もまたアッセイする。陰性対照の微小液滴は暗いままであるのに対し、陽性対象の微小液滴は遊離標的抗体が両方の標的抗原(R1およびR5)に結合していることが確認できる。分泌した抗体を含む微小液滴もまた、両方の標的抗原に結合する。下図は、Y軸がフィルタリングしたAF488蛍光、X軸が、各カテゴリーがさらにR1、R3およびR5のサブカテゴリーに分かれている微小液滴のカテゴリーである棒グラフを示す。
【
図16】例示的なモノクローナル抗体発見ワークフローを概説しており、B細胞が微小液滴に投入され、加えた体積に対して対となる細胞培養培地を含む微小液滴とマージされ、その後の分割ステップを容易にするステップと、マージした微小液滴が子液滴に分割し、各細胞によって産生された分泌抗体を複数回投与分取得するステップと、B細胞を含む微小液滴を参照パネルに分類する一方、抗体の用量を含む微小液滴を試験パネルに分類するステップと、試験パネルが微小液滴のレポーターパネルと対にしてマージするステップと、光学的検出システムを用いて、マージしたレポーター―mAbパネル内の陽性ヒットを判定するステップと、及び前記陽性ヒットに対応するB細胞を含む参照パネルの微小液滴をウェルプレートに分注し、大量増殖するステップと、からなる。
【
図17】例示的な細菌細胞のワークフローを概説しており、細菌細胞が微小液滴に投入され、加えた体積に対して対となる細胞培養培地を含む微小液滴とマージされ、その後の分割ステップを容易にするステップと、マージした微小液滴が細胞分裂を起こすことを可能にし、クローンコロニーに分裂するステップと、クローン性細菌細胞を含む1セットの微小液滴を参照パネルとして保持する一方、クローン性細菌細胞を含むさらなるセットの微小液滴または前記細菌細胞の分泌物を含む微小液滴のセットを微小液滴の試験パネルに分類するステップと、微小液滴の試験パネルが微小液滴のレポーターパネルと対にしてマージするステップと、細菌細胞を溶解して内容物を放出させるステップと、光学的検出システムを用いて、マージしたレポーター―細菌細胞内の陽性ヒットを判定するステップと、及び前記陽性ヒットに対応する細菌細胞を含む参照パネルの微小液滴をウェルプレートに分注し、大量増殖するステップと、からなる。
【
図19A】液滴の対が水平にマージする、液滴マージ操作の画像である。
【
図19B】マージ前に、対となった微小液滴が共に移動している画像である。
【
図20A】液滴が水平に分割する、液滴の分割操作を示す。
【
図20B】分割操作の途中で引き伸ばされている液滴を示す。
【
図20C】液滴が2つの子液滴に分割しているのを示す。
【
図21】単一細胞占有で微小液滴に封入された出芽酵母(S. cerevisiae)バイオ粒子(加熱不活性化酵母)の画像である。
【
図22】オイル内にある細胞培地のエマルション中の微小液滴内でサイトカインレポータービーズと共封入されたサイトカイン分泌細胞の画像である。分泌されたサイトカインの存在下では、蛍光標識抗体を用いたサンドイッチELISA法によりレポータービーズが蛍光を発する。明視野像(a)は、液滴内の細胞およびビーズの分布を示す。蛍光画像は、b)分泌サイトカイン存在下でどのレポータービーズが陽性反応を示すか、c)無傷の膜の完全性を持つすべての細胞の位置、d)すべてのビーズの位置、および、e)ヨウ化プロピジウム染色で示される死細胞を示す。
【
図23】微小液滴の柔軟でユニークなワークフロー操作であり、投入、分類、マージ、分割操作などの微小液滴操作を含む。プログラム可能な決定は、ワークフロー全体を通しての任意の時点で実施することができ、元の命令から逸脱する、および/または、選択した液滴のみに操作を適用したりすることができる。
【
図24】抗体分泌細胞は、オイル内にある細胞培地のエマルション中の液滴内でレポータービーズと共封入されている。分泌された抗体の存在下では、蛍光標識を付けた抗体を用いたサンドイッチELISAメカニズムによりレポータービーズが蛍光を発する。明視野像(a)は、液滴内の細胞およびビーズの分布を示す。蛍光画像は、b)分泌抗体の存在下でどのレポータービーズが陽性反応を示すか、c)無傷の膜の完全性を持つすべての細胞の位置、および、d)死細胞、を示す。
【
図25】細胞分泌物または細胞間相互作用をモニタリングするための様々な検出モード。
【
図26】典型的な微小液滴操作を示すワークフロー。細胞を含む微小液滴は、分割、マージ、分類操作などの操作が可能である。微小液滴はレポーターを含有することもできる。
【
図27】分類オプション、および/または、マージの組み合わせ、および分注の操作を記述するワークフロー。
【
図28】A~Dは、細胞内カルシウムの色素存在下でインキュベートした、微小液滴内に封入された細胞の様々な画像。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明者らは、細胞選択に関する先行技術の方法の欠陥は、本明細書で開示される方法を用いることで克服できる可能性があることを見出した。本明細書に開示された方法を用いることで、より優れた製品品質、予測可能性、および、より多くの好ましい細胞選択がもたらされる。
【0059】
本開示の方法は、特に、複数の特性について細胞を試験することを提案するためユニークであり、所望の特性および最良のプロファイルを持つ細胞が選択され、細胞治療の観点からは、これが最良の安全プロファイルである。開示された方法は、選択後に更なる増殖または試験を可能にする形式で、所望の特性を持つ細胞の選択を可能にする。望ましい細胞特性としては、特定の細胞表面分子の有無、分泌物の有無、細胞内生成物の有無、細胞形態、生存率、増殖能力、および/また、は望ましい細胞間相互作用活性の存在等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
本開示の方法は、微小液滴を操作可能なマイクロ流体装置上で実施され、少なくとも1つの細胞または細胞の一部が存在する。細胞は天然のものであってもよい。細胞は人工的なものであってもよい。細胞はマイクロ細胞であってもよい。少なくとも1つのリポソームが存在してもよい。
【0061】
[装置]
本発明は、EWODまたはoEWOD装置のような微小液滴操作装置で実施可能な方法に関する。本明細書に記載の方法に従って微小液滴を操作することができる任意の適切な装置を採用することができる。
【0062】
液滴または磁気ビーズを操作するための装置は、当技術分野でこれまでに記載されており、例えば米国特許第6、565、727号、米国特許公開第2013-0233425号および米国特許公開第2015-0027889号を参照のこと。液滴の場合、これは通常、例えば非混和性キャリア流体の存在下で、液滴をカートリッジまたはマイクロ流体チューブの2つの対向する壁によって画定されたマイクロ流体チャンネルを通過させることによって達成される。カートリッジまたはチューブの壁に埋め込まれているのは、誘電体層で覆われた電極であり、各電極はA/Cバイアス回路に接続され、間隔をおいて急速にオンおよびオフの切り替えが可能であり、層のエレクトロウェッティング特性を変更する。これにより、液滴を所定の経路に進ませるのに使用できる、局所的な指向性の毛管力が生じる。
【0063】
エレクトロウェッティング・オン・ダイエレクトリック(EWOD)とは、液体と基板の間に電界をかけると、液体が自然な状態よりも表面に濡れやすくなるというよく知られた効果である。エレクトロウェッティングの効果は、基板上に一連の空間的に変化する電界を印加し、一連の空間的変化に追従して表面の濡れ性を増加させることにより、流体を操作(例えば、移動、分割、または形状変化)するために使用することができる。エレクトロウェッティングに基づく装置で操作された液滴は、通常、2枚の平行なプレートの間に挟まれ、デジタル電極によって作動する。
【0064】
光学的に媒介されるエレクトロウェッティングに基づくこのアプローチの変形は、例えば米国特許第6、958、132号、米国特許公開第2015-0298125号および米国特許第9、815、056号に開示されている。一般に10μm未満のサイズ範囲にある何千もの微小液滴を同時に操作することを可能にするこのアプローチの改良版が、国際公開第2018/234445号に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。このoEWODデバイスでは、微小液滴は、含有壁によって画定されたマイクロ流体空間を通って移動し、例えばその間にマイクロ流体空間を有する一対の平行なプレートなどがあげられる。 含有壁の少なくとも一方は、「仮想」エレクトロウェッティング電極位置と呼ばれるものを含み、これは壁内に埋設された半導体層の領域を選択的に照明することによって生成される。別個の光源からの光で層を選択的に照明することにより、仮想的なエレクトロウェッティング電極位置の仮想経路を過渡的に生成することができ、それに沿って微小液滴を移動させることができる。さらに、好適なoEWODデバイスが国際公開第2020/104769号に記載されており、該国際公開も参照により組み込まれるが、これは微小液滴が細胞を含む場合に特に関連するため、本方法に特に関連する可能性がある。 他のoEWOD装置は、国際公開第2020/169965号に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
oEWODのもう1つの開示は、非特許文献(Park, Sung-Yong, Michael A. Teitell, and Eric PY Chiou, "Single-sided continuous optoelectrowetting (SCOEW) for droplet manipulation with light patterns "Lab on a Chip 10.13 (2010): 1655-1661)に記載の片面オープン構成プラットフォームである。
【0066】
微小液滴を操作するのに適した装置は、随意的に以下の特徴、すなわち、
以下を含む第1の複合壁であって、
・ 第1の透明な基板、
・ 70~250nmの範囲の厚さを有する前記基板上の第1の透明な導体層、
・ 300~1000nmの範囲の厚さを有する、前記導体層上の、波長400~1000nmの範囲の電磁放射線によって活性化される光活性層、
・ 120~160nmの範囲の厚さを有する、前記導体層上の第1の誘電体層
を含む、該第1の複合壁、
以下を含む第2の複合壁であって、
・ 第2の基板、
・ 70~250nmの範囲の厚さを有する、前記基板上の第2の導体層、及び
・ 120~160nmの範囲の厚さを有する、前記導体層上の随意的な第2の誘電体層、
を含む、該第2の複合壁
のうち1つ以上を含むことができ、
第1および第2の誘電体層の露出面が少なくとも10μm、好ましくは50~100μm離れて配置し、微小液滴を含むように調整されたマイクロ流体空間を画定し、そして誘電体層のいずれかが生体適合性コーティングまたは防汚コーティングでコーティングされる。
【0067】
随意的に、誘電体層と防汚/生体適合性コーティングとの間に、厚さ1~10nmのシリカの介在層と、
前記第1の導体層および前記第2の導体層を接続する第1および第2の複合壁を横切って電圧を供給するA/C電源と、
第1の誘電体層の表面上の対応する仮想エレクトロウェッティング電極位置を誘導するために光活性層に衝突するように適合された、光励起性層のバンドギャップよりも高いエネルギーを有する少なくとも1つの第2の電磁放射源と、
電磁放射線の光活性層への衝突点を操作して、仮想エレクトロウェッティング電極位置の配置を変化させ、それによって、微小液滴を移動させることができる少なくとも1つの光学的に媒介されたエレクトロウェッティング経路を形成するための手段と、があってもよい。
【0068】
高スループット微小液滴操作のための方法および装置は、同時係属出願中のPCT/GB2021/050148に記載されており、そのような装置および技術は、本開示の方法を実施するのに適しているであろう。そこで開示されている装置は、2つの個別に制御可能な光学アセンブリを含み、その両方がoEWODチップの表面上に固定および切り替え可能な光スポットのアレイを生成することができる。このような構成は、微小液滴の高スループット、柔軟な投入および処理を容易にすることに最適化されている。第1の光学アセンブリは、チップの表面上に複数のoEWODトラップを形成して、チップの表面上の複数の微小液滴に、oEWODトラップの第1のアレイに対応する微小液滴のアレイを形成させることができ、第2の光学アセンブリは、チップの表面上にoEWODトラップの第2のアレイを形成することができる。1つ以上の第2のアレイのoEWODトラップは、第1のアレイのoEWODトラップと位置合わせされている。本方法は、微小液滴のアレイの内容物を検査し、微小液滴の1つ以上がoEWODトラップの第2のアレイによって所定の位置に保持されている間に、第1の光学アセンブリを調整することを含み得る。 PCT/GB2021/050148は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
いくつかの実施形態において、光学的に媒介されるエレクトロウェッティングを使用して微小液滴を操作するための装置が提供されており、この装置は以下のもの、すなわち、
・ 以下を含む第1の複合壁であって、
・ 第1の基板
・ 前記基板上の第1の導体層
・ 前記導体層の光学活性層
・ 20nm未満の厚さを有する、前記光学活性層上の第1の誘電体層を含む、該第1の複合壁と、
・ 以下を含む第2の複合壁であって、
・ 第2の基板
・ 前記基板上の第2の導体層
・ 20nm未満の厚さを有する、前記導体層上の第2の誘電体層を含む、該第2の複合壁と、
を備える。
【0070】
第1の誘電体層および第2の誘電体層は連続層であってもよい。第1の誘電体層は、原子層堆積法によって光活性層上に堆積させることができる。さらに、または代わりに、第2の誘電体層は光活性層上に堆積させることができる。
【0071】
驚くべきことに、第1および/または第2の誘電体層を20nm未満の厚さで連続層により設けることにより、液滴がより安定し、したがって液滴が基板上で静止することが発見された。対照的に、本発明者らは、20nmを超える厚さまで第1および/または第2の誘電体層の厚さを増加させると、基板上での液滴の動きがより制御されなくなり、したがって、液滴が照明領域から逸脱する制御されていない動きを示す可能性が高くなる結果をもたらすことを見出した。その結果、制御されていない液滴は、例えば液滴のマージや分割といった、正確かつ効率的なoEWOD操作をより困難にするおそれがある。
【0072】
いくつかの実施形態において、第1および/または第2の誘電体層は、1nm~20nmの厚さであってもよく、または2nm~20nm、3nm~20nm、4nm~20nm、5nm~20nm、6nm~20nm、7nm~20nm、8nm~20nm、9nm~20nm、10nm~20nm、12m~20nm、14nm~20nm、15nm~20m、または18nm~20nmであってもよい。また、1~15nm、1~10nm、1~5nm、5~10nm、5~15nmまたは10~15nmであってもよい。
【0073】
第1の基板および第1の導体層、ならびに/または第2の基板および第2の導体層は透明であってもよい。
【0074】
本装置は、さらに、第1および第2の導体層を接続する第1および第2の複合壁を横切って電圧を供給するためのA/C源と、第1の誘電体層の表面上の対応する一過性のエレクトロウェッティング位置を誘導するために光活性層に衝突するように適合された、光励起層のバンドギャップよりも高いエネルギーを有する少なくとも1つの電磁放射線源と、光活性層への電磁放射線の衝突点を操作して、一過性のエレクトロウェッティング位置の配置を変化させ、微小液滴を移動させることができる少なくとも1つのエレクトロウェッティング経路を形成するマイクロプロセッサ、を備えることができる。
【0075】
本装置は、さらに、酸化シリコンの介在層を備えることができる。介在層の利点は、防汚層または非防汚層の結合層として使用できることである。介在層は、誘電体層と疎水性層の間に設けられる。介在層の厚さは、0.1nm~5nmの間とすることができる。介在層の厚さは、0.1、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4または4.5nm以上であってもよいし、5nm、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.75、0.5または0.25nm以下であってもよい。
【0076】
第1および第2の誘電体層の露出表面は、微小液滴を含むように適合されたマイクロ流体空間を画定するために、200μm未満の間隔で配置することができる。マイクロ流体空間の幅は2~50μmであってもよい。いくつかの実施形態において、マイクロ流体空間は、2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46または48μm以上である。いくつかの実施形態では、マイクロ流体空間は、50、48、46、44、42、40、38、36、34、32、30、28、26、24、22、20、18、16、14、12、10、8、6または4μm未満であってもよい。
【0077】
第1および第2の誘電体層の露出表面は、第1および第2の壁を所定の距離を離して保持するための1つ以上のスペーサーを含むことができ、微小液滴を含むのに適したマイクロ流体空間を画定する。スペーサーの物理的形状は、装置内での微小液滴の分割、マージおよび伸長を補助するために使用され得る。一部の実施形態では、微小液滴は1つ以上の細胞を含有することがある。微小液滴はまた、細胞培地および/または緩衝液などの培地を含んでもよい。
【0078】
A/C源は、第1および第2の導体層を接続する第1および第2の複合壁を横切って0V~100Vの間の電圧をかけるように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、A/C源は、0、5、10、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80もしくは90Vを超える電圧をかけるように構成されてもよいし、または90、80、70、60、50、45、40、35、30、25、20、15、10もしくは5V未満でもよい。
【0079】
第1および第2の複合壁は、それぞれ第1および第2の誘電体層上の第1および第2の防汚層をさらに含んでもよい。第2の誘電体層上の防汚層は疎水性であってもよい。電磁放射源は、このようなアレイから反射し、またはアレイを透過した光のピクセル化したアレイを構成し得る。エレクトロウェッティング位置は、微小液滴の移動方向に向かって三日月状であってもよい。この装置はさらに、装置の中流または下流に位置する微小液滴中の光信号を検出する光検出器を含んでもよい。光信号は蛍光信号であってもよい。この装置はさらに、非混和性キャリア流体中の水性微小液滴のエマルションからなる媒体を生成するための上流入口をさらに含んでもよい。この装置はさらに、マイクロ流体空間への入口を介してマイクロ流体空間を通して非混和性キャリア流体中の水性微小液滴のエマルションからなる媒体の流れを誘導するための上流入口を含んでもよい。
【0080】
間にマイクロ流体空間を画定する第1および第2の複合壁は、カートリッジまたはチップの周縁部を形成することができる。この装置は、互いに同時に走る複数の第1のエレクトロウェッティング経路をさらに含んでもよい。この装置は、少なくとも1つの微小液滴合体場所を形成するために第1のエレクトロウェッティング経路と交差するように適合した複数の第2のエレクトロウェッティング経路をさらに含んでもよい。
【0081】
本装置は、微小液滴をマイクロ流体空間に導入するための上流の入口をさらに含んでもよく、このとき、微小液滴の直径は、マイクロ流体空間の幅よりも20%以上大きい。
【0082】
第2の複合壁は、第2の光励起可能層をさらに含んでいてもよく、電磁放射源は、第2の光励起可能層にも衝突し、変化させることもできる一過性のエレクトロウェッティング位置の第2のパターンを形成しうる。
【0083】
電磁放射源は、LED光源であってもよく、0.005~0.1Wcm-2レベルの電磁放射を供給することができる。いくつかの実施形態において、電磁放射源は、0.005~0.1Wcm-2のレベルであり、または0.005、0.0075、0.01、0.025、0.05もしくは0.075Wcm-2以上であってもよい。いくつかの実施形態では、電磁放射源は、0.1、0.075、0.05、0.025、0.01、0.0075、0.005または0.0025Wcm-2未満のレベルであってもよい。
【0084】
基板上の第1の透明な導体層は、70~250nmの範囲の厚さであってよい。光活性層は、導体層上で波長範囲400~1000nmの電磁放射線によって活性化され、該導体層は300~1000nmの範囲の厚さを有することができる。いくつかの実施形態では、光活性層はアモルファスシリコンで作ることができる。
【0085】
いくつかの実施形態において、微小液滴は、2つの対向する壁によって画定されるマイクロ流体空間を通過することができ、各々の壁は、誘電体層の絶縁破壊電圧を下回るように誘電体層を横切って印加された十分に低い電圧のかかった誘電体層を含む。誘電体層を横切る十分に低い電圧のかかった2つの誘電体層を使用することは、導電性液滴の破壊的なイオン化を防ぐだけでなく、誘電体ピンホール欠陥による液滴への悪影響を実質的に排除し、2つの誘電体層を使用することによるエレクトロウェッティング力の減少にもかかわらず、想定以上に性能が向上する。結果として、光学的に媒介されたエレクトロウェッティングは、例えば、数千の液滴を同時に操作するために0.01W/cm2という低電力を発生するLEDのような低電力の照明源を使用して実現することができる。面積が1cm×1cmを超える大面積マイクロ流体装置から成る実施形態の場合、該装置は、10、000液滴以上を同時に操作するのに適しており、超大面積の装置の場合は、50、000個以上の液滴、100、000個以上の液滴、または1、000、000個以上の液滴を同時に操作するのに適している。
【0086】
いくつかの実施形態では、大面積の装置を、何千もの液滴を取り扱うために利用することができる。本発明者らは以前、液滴を同時に取り扱うために単一の誘電体層を用いてより大きな装置を作ることを試みたが、本発明者らは、液滴が移動できない欠陥領域に遭遇した。実験および試験を通して、発明者たちは、特にデバイスが大きくなるにつれて、ピンホールの欠陥がデバイス性能の重要な制限となることを発見した。
【0087】
誘電体層には常にまばらなピンホール欠陥があり、それによって該誘電体層は小さな孤立した領域で導電性を示す。最適化された既知のプロセスでは、1cm2あたりおよそ38個のピンホール密度が得られる。ピンホール欠陥は液滴を捕捉し、該液滴が移動することを不可能にする。緩衝液のような導電性媒体の液滴を使用する場合、その影響はより深刻になる。
【0088】
いくつかの実施形態では、絶縁破壊以下で使用できる2つの誘電体層構造が提供される。破壊電圧以下で使用する場合、二面の誘電体層構造は、ピンホール欠陥の影響をほとんどなくすという新たな効果を与えることができる。誘電体が液滴の上部および下部の両方に配置されているため、導電体経路は、第1の誘電体層のピンホール欠陥が第2の誘電体層のピンホール欠陥に直接並んだ場合にのみ、形成される。これが起きる確率は極めて小さい。第2の誘電体層の存在によって達成されるこのピンホール削減特性は、比較的大きな面積で何千もの液滴を同時に操作することを可能にする上で鍵となる。
【0089】
100,000個以上の液滴、あるいは1,000,000個以上もの液滴を同時に操作するのに適した大面積装置または超大面積装置の場合、単一の液滴がピンホール欠陥に接触する確率が非常に高くなるため、ピンホール欠陥の数が装置の性能の重要な制限となる。ピンホール欠陥に捕捉された単一の液滴は、装置内の他の液滴の動きをブロックする可能性があるため、システムの動作を損なったり、中断したりする可能性がある。このように、ピンホール欠陥の影響を打ち消す本発明の利点は、多数の微小液滴を含む超大面積の装置の操作において、格別に重要である。
【0090】
図18は、マイクロ流体装置、特にoEWOD装置100である。
図18に図示されるようなoEWOD装置は、ガラスから作ることができる第1の基板104と、前記基板104上の第1の透明な導体層106であって、70~250nmの範囲の厚さを有する、該第1の透明な導体層106と、前記導体層106上の波長400~850nmの範囲の電磁放射線によって活性化される光活性層108であって、300~1500nmの範囲の厚さを有する、該光活性層108と、及び前記光活性層108上の第1の誘電体層110とを含む、第1の複合壁102を備える。第1の誘電体層110は、20nm未満の厚さを有する連続層として形成される。層の厚さの下限は、少なくとも部分的には、連続的でなければならないこのような薄い層を設ける方法論によって決定される。しかし、理論的には0.1nmから20nmの厚さを持つことができる。
【0091】
装置100はまた、第2の基板114で、ガラスから作ることができる第2の基板114と、前記基板114上の第2の透明な導体層116と、を含む第2の複合壁112を備える。第2の導体層116は、70~250nmの範囲の厚さを有してもよい。第2の誘電体層118は透明な第2の導体層116上にあってもよく、第2の誘電体層118は20nm未満の厚さを有する。第1の誘電体層と同様に、第2の誘電体層は連続的でなければならず、実際的な厚さの下限は製造上の制約によって決まるが、1nmから20nmの間とすることができる。第1の誘電体層110および第2の誘電体層118の露出面は、20~180μm離れて配置され、微小液滴122を含むのに適合したマイクロ流体空間121を画定する。光活性層108はアモルファスシリコンで作成される。第1および第2の導体層はITOで作成される。
【0092】
介在結合層124は、第1の誘電体層110上に設けられ、第2の誘電体層118上にも設けることができる。介在結合層の厚さは0.1nmから5nmの間であってよい。介在層の厚さは、0.1、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4または4.5nm以上とすることができ、あるいは5nm、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.75、0.5または0.25nm以下とすることもできる。介在層の利点は、防汚層または非防汚層の結合層として使用することができ、疎水性とすることができる。
【0093】
疎水性層126は介在結合層124上に設けられている。疎水性層の例としては、フルオロシランが挙げられる。介在性結合層124は随意的であり、チャネル壁120はSU8で作ることができ、またはガラス構造の一部であってもよい。介在性結合層124は、誘電体層110、118と疎水性相126との間に設けられる。
【0094】
図18に図示されるように、入射光130は光スプライトパターン131を付与するのに使用することができ、該入射光130は光活性体110の一部に光を照射し、微小液滴122をマイクロ流体空間121内の静止位置に保持する。油性キャリア相134は、装置の穴136を通して微小液滴122に供給され、1つ以上の細胞などの微小液滴122内の内容物を生き生きと健康に保つための重要な栄養素および成分を補充することができる。場合によっては、油相134は、細胞の成長、生存能力、および/または生産性のために重要な栄養素、培地、および内容物を供給することができる。
【0095】
第1及び第2の基板104、114は、機械的強度を有する材料で作られている。例えば、第1及び第2の記板は、ガラス、金属またはエンジニアリングプラスチックから形成することができる。いくつかの実施形態では、基板はある程度の可撓性を有してもよい。いくつかの実施形態では、第1の基板はシリコン、溶融シリカまたはガラスである。いくつかの実施形態では、第2の基板は、溶融シリカおよびガラスである。
【0096】
第1及び第2の導体層106、116は、第1及び第2の基板104、114の一方の表面に位置し、通常70~250nm、好ましくは70~150nmの範囲の厚さを有する。これらの層の少なくとも1つは、酸化インジウム・スズ(ITO)などの透明導電材料、銀などの導電性金属の極薄膜、PEDOTなどの導電性ポリマー、またはそれに類するもので作成される。これらの層は、連続シートまたはワイヤーなどの一連の離散構造として形成してもよい。あるいは、導体層は導電性材料のメッシュであってもよく、電磁放射線はメッシュの間隙に照射される。
【0097】
光活性相108は、電磁放射源による刺激に応答して電荷の局所領域を生成することができる半導体材料から形成される。例えば、300~1500nmの範囲の厚さを有する水素化アモルファスシリコン層が挙げられる。いくつかの実施形態では、光活性層は可視光の使用により活性化される。この層の誘電体特性としては、好ましくは、107V/mを超える高耐圧および3を超える誘電定数が挙げられる。いくつかの実施形態では、誘電体層は、アルミナ、シリカ、ハフニア、または薄い非導電性ポリマーフィルムから選択される。
【0098】
あるいは、少なくとも第1の誘電体層、好ましくは両方を防汚層でコーティングして、さまざまな仮想エレクトロウェッティング電極の位置で所望の微小液滴/キャリア流体/表面の接触角を確立するのを補助してもよい。防汚層は加えて、微小液滴の内容物が表面に付着し、微小液滴がチップ内を移動するにつれて減少するのを防ぐことを目的としている。最適な性能のためには、防汚層が微小液滴/キャリア流体/表面の接触角の確立を補助する必要があり、該接触角は、25℃で空気-液体-表面の3点界面として測定した場合、50℃~180°の範囲にあるべきである。いくつかの実施形態では、これらの層は10nm未満の厚さを有し、典型的には単分子層として形成される。あるいは、これらの層は、メチルメタクリレートなどのアクリル酸エステルのポリマー、または親水性基(例えばアルコキシシリル)で置換したそれらの誘電体を含むことができる。防汚層のどちらか一方または両方は、最適な性能を確保するために疎水性である。いくつかの実施形態では、化学的に適合するブリッジを提供するために、防汚コーティングと誘電体層との間に厚さ20nm未満のシリカの介在層を挿入させてもよい。
【0099】
第1および第2の誘電体層、したがって第1および第2の壁は、少なくとも10μm、好ましくは20~180μmの範囲の幅を有し、微小液滴が含まれるマイクロ流体空間を画定する。好ましくは、内包される前、微小液滴自体は、微小液滴空間の幅より10%または20%大きい固有直径を有する。そのため、チップに入ると微小液滴は圧縮され、エレクトロウェッティング性能の向上(例えば、よりよい微小液滴のマージ力)に繋がる球状の微小液滴の変形をもたらす。いくつかの例では、第1および第2の誘電体層は、フルオロシランのような疎水性コーティングで被覆することができる。
【0100】
いくつかの実施形態では、マイクロ流体空間は、第1および第2の壁を所定の距離を離して保持するための1つ以上のスペーサーを含む。スペーサーの選択肢としては、ビーズまたはピラー、フォトパターニングによって作製された中間レジスト層から形成されたリッジなどがある。あるいは、酸化シリコンまたは窒化シリコンのような蒸着材料の使用によりスペーサーを形成することもできる。あるいは、接着剤コーティングの有無にかかわらず、可撓性プラスチックフィルムを含むフィルムの層は、スペーサー層を形成するのに使用することができる。様々なスペーサーの形状を使用して、細いチャンネル、テーパー状のチャンネル、またはピラーの線によって画定される部分的に囲まれたチャンネルを形成することができる。注意深く設計することで、これらのスペーサーを使用して微小液滴の変形を補助し、続いて微小液滴の分割、および、変形した微小液滴に対して効果的な操作を行うことが可能である。同様に、これらのスペーサーは、液滴集団間の相互汚染を防止するためにチップのゾーンを物理的に分離するために使用することができ、液圧下でチップを投入する際に液滴の流れを正しい方向に促進することができる。
【0101】
第1および第2の壁は、導体層に取り付けられたA/C電源を使ってバイアスされ、その間に電位差が与えられ、該電位差は0~50ボルトが適切である。このようなoEWOD構造は、通常、400~850nmの範囲の波長、例えば550nm、620nm、660nmを有し、光活性層のバンドギャップを超えるエネルギーを持つ電磁放射源と関連して採用される。好適には、光活性層は、使用される放射線の入射強度が0.005~0.1Wcm-2の範囲にある仮想エレクトロウェッティング電極位置で活性化される。電磁放射源は、0.005~0.1Wcm-2のレベルである、または0.005、0.0075、0.01、0.025、0.05もしくは0.075Wcm-2以上とすることができる。いくつかの実施形態では、電磁放射源は、0.1、0.075、0.05、0.025、0.01、0.0075、0.005または0.0025Wcm―2未満のレベルであってもよい。
【0102】
電磁放射源がピクセル化されている場合は、LEDやその他のランプからの光で照らされたデジタル・マイクロミラー・デバイス(DMD)などの反射スクリーンを用いて、直接または間接的に供給するのが好適である。これにより、仮想エレクトロウェッティング電極位置の非常に複雑なパターンを、第1の誘電体層上に迅速に作成・破壊することが可能となり、それにより、微小液滴を、厳密に制御されたエレクトロウェッティング力を用いて、本質的にあらゆる仮想経路に沿って正確に移動させることが可能となる。このようなエレクトロウェッティング経路は、第1の誘電体層上の仮想的なエレクトロウェッティング電極位置の連続体から構築されると見なすことができる。
【0103】
第1及び第2の誘電体層は、単一の誘電体材料で構成されていてもよいし、2つ以上の誘電体材料の複合体であってもよい。誘電体層は、Al2O3およびSiO2から作られてもよいが、これに限定されるものではない。
【0104】
第1および第2の誘電体層の層間に構造体を設けてもよい。第1及び第2の誘電体層の間の構造体は、エポキシ、ポリマー、シリコンまたはガラス、またはそれらの混合物または複合物で作ることができるが、これらに限定されるものではなく、直線状、角度付き、曲線状、または微細構造の壁/面を有する。第1及び第2の誘電体層の層間の構造は、上部および下部の複合壁に連結することができ、密閉されたマイクロ流体装置を作成し、該装置内のチャネルおよび領域を定義する。構造体は、2つの複合壁の壁間のギャップを占めることができる。代替的または追加的に、導体および誘電体は、すでに壁を有する形をとられた基板上に堆積させることができる。
【0105】
[微小液滴]
本発明の方法では、装置内で少なくとも1つの微小液滴を操作する必要があるが、この微小液滴は一般に、例えば細胞(単)/細胞(複)、レポーター実体、またはその2つの組み合わせを含む、水性液体などの液体の液滴を指す。微小液滴は、生物種または反応を分離できる仕切りを提供する。 それらは単一細胞を扱う可能性を可能とし、高スループット実験に適している。 微小液滴は、細胞および/またはレポーター実体をカプセル化し、マージが望まれるようになるまで同じものを分離しておくことができる。
【0106】
微小液滴はどのような形状または大きさでもよいが、好ましくは、球状または円柱状である。微小液滴の大きさは20~600μmであってよいが、20、30、40、50、60、80、100、120、140、150、160、180、200、220、240、250、260、280、300、320、340、360、380、400、420、440、460、480、500、520、540、550、560または580μm以上であってもよい。いくつかの実施形態では、微小液滴の大きさは、600、580、560、550、540、520、500、480、460、440、420、400、380、360、340、320、300、280、260、250、240、220、200、180、160、150、140、120、100、80、60、50、40または30μm未満であってよい。複数の微小液滴をマージさせて、より大きな液滴を形成することもできる。あるいは、大きな液滴を適宜分割して、より小さな大きさの微小液滴(子微小液滴)を形成することもできる。
【0107】
マイクロ流体装置の高さに対して液滴が小さすぎる場合、液滴はマイクロ流体チャンバー内のどちらの側壁とも接触しないため、液滴はoEWODによって移動することができない。これとは対照的に、装置の形状に対して大きな液滴は、マイクロ流体装置内で移動しにくく、かつ/または移動速度が遅く、単純に他の正しい大きさの液滴を妨害したり、正しい大きさの液滴とマージしたりして邪魔をし、他の操作をしばしば中断させる。
【0108】
一般的に、微小液滴は通常、微小液滴の内容物(細胞(単又は複数)、栄養素、レポーター実体、アッセイ試薬、ハイドロゲルビーズポリマーなど)を含む水相からなる。場合によっては、微小液滴は、さらに水性物質を取り囲む非混和性流体のさらなる内相から構成され、二重エマルションおよび液滴内液滴エマルションなどの多重エマルションを形成する。
【0109】
マイクロ流体装置では、微小液滴は非混和性キャリア相または流体によって互いに分離される。好適なキャリア相として、シリコーンオイル、ミネラルオイル、またはフルオロカーボンオイルなどのオイルが挙げられる。例示的なフルオロカーボンオイルとして、HFE7500、HFE7700またはFC-40が挙げられる。キャリア相は好適には、微小液滴の安定性を維持するために、界面活性剤および他の添加剤をさらに含むことができる。界面活性剤は微小液滴/キャリア界面に局在し、それによって表面張力を低下させることで微小液滴を安定化させる。水性微小液滴のキャリアに対する重量比が低い場合、微小液滴は時間とともに収縮する傾向があり、これは、それらの中の反応性が失われることにつながる現象である。この効果を打ち消すひとつの方法は、水和させたキャリア相を使うことである。一般に、上述のキャリアは水を溶解する能力が高くないため、水和反応は、キャリア相内に水または水性緩衝液のミセルまたは二次的な微小液滴を形成することによって好適に達成される。この緩衝液は、微小液滴自体の組成と同じであっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、これらのミセルまたは二次的な微小液滴は、微小液滴自体の塩含有量の最大5倍を含み、随意的にグリセロールを含むことができる。通常、これらのミセルおよび二次的な微小液滴は一桁小さい。状況によっては、キャリア相は分散層液滴の内外に拡散することができる親油性化合物を含んでもよい。
【0110】
本開示の方法で使用される微小液滴は、それらがどのパネルに存在するかによって、様々な成分を含む。微小液滴は本来水性であり、例えばゲルまたはコーティングされた微小球のような支持構造を提供するための成分など、追加的な成分を含んでもよい。それらはさらに、栄養素、炭水化物のようなエネルギー源、緩衝剤などを含む製剤の細胞培養培地を含んでもよい。
【0111】
本開示の方法は、少なくとも単一の細胞を含有する微小液滴を使用することを含む。前記細胞は、随意的に前記細胞の特徴に基づき、選択するためにアッセイまたは試験される細胞である。選択されるべき対象が細胞の特性であることを考えると、最初の微小液滴は一般に単一の細胞を含有する。したがって、本開示の方法は、単一の細胞を含むパネル用の微小液滴のみを選択し、空の細胞または多占有細胞を廃棄するステップを伴う。このステップの後、細胞は分裂することができ、微小液滴は少なくとも1つの細胞を含有するようになる。
【0112】
少なくとも1つの細胞を含む微小液滴は微小液滴のパネルを形成する。
【0113】
微小液滴のパネルは複数の微小液滴によって形成される。微小液滴のパネルは、微小液滴の集合体、グループ、またはアレイであり、各微小液滴は類似の内容物を有する。例えば、細胞を含む微小液滴のパネルでは、前記微小液滴の各々は少なくとも1つの細胞を含み、随意的に同じタイプ(B細胞など)である。微小液滴のパネルは、代わりに、細胞培養培地、レポーター実体、選択された細胞、拡大された細胞、核酸などを含んでもよい。微小液滴のパネルは、例えば50個~70万個の微小液滴を含む。
【0114】
本開示の方法において、少なくとも1つのレポーター実体を含む微小液滴のパネルが提供される。そのような微小液滴は、本明細書でさらに定義されるようなレポーター実体を少なくとも1つ含有することができる。
【0115】
本開示の方法は、微小液滴のパネルのサブセットの選択を伴う。この選択されたサブセットは、次いで、本開示の方法においてさらに使用するための微小液滴の新しいパネルを形成し得る。
【0116】
微小液滴は、本物または仮想のエレクトロウェッティング電極を用いて装置内で操作される。微小液滴は、マージ、分裂、および検出のイベントの手配を容易にするためのアレイ状となるよう操作してもよい。マージおよび分裂のイベントは、本物または仮想のエレクトロウェッティング電極を用いて行ってもよい。微小液滴を操作して所望の方法を達成するために、任意の適切なレイアウトを使用してもよい。微小液滴はまた、音響的な方法などの別の方法を用いて操作することもできる。
【0117】
微小液滴は一般に、水性製剤に必要な成分(細胞、レポーター実体など)をカプセル化することによって調製される。微小液滴は乳化技術によって形成される。一例では、乳化はボルテックス乳化である。別の例では、乳化はステップ乳化である。微小液滴はマイクロ流体装置上で生成してもよいし、それに隣接したところで生成してもよい。
【0118】
[細胞]
本開示の方法は、特定の、または所望の特性を持つ細胞を選択するためのものである。疑義を避けるため、前記細胞は生物学的細胞である。細胞は天然のものでもよい。細胞は人工的なものでもよい。細胞は微小核体(microcells)でもよい。本発明の方法は無細胞であってもよく、細胞の一部、例えば核および/またはミトコンドリアを使用してもよい。本発明の方法は、リポソームを使用してもよい。前記細胞は、任意の適切な供給源、例えばヒトまたは動物、植物または微生物からの細胞サンプルから採取することができる。
【0119】
細胞はヒトまたは動物、随意的に哺乳動物由来の細胞であってもよい。細胞は、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞、細菌細胞、またはアメーバ細胞であってもよい。ハイブリドーマのような細胞融合体であってもよい。
【0120】
細胞は、例えば幹細胞、多能性細胞、遺伝子操作細胞の培養菌などの細胞培養菌から採取してもよい。
【0121】
細胞がサンプル/生物学的サンプルに由来する場合、これは少なくとも一種類の細胞を含む、ヒト、動物、環境(自然、人工、または修飾)、食品試料のいずれでもよい。サンプル/生物学的サンプルは、便、末梢血液、血清、血漿、腹水、尿、脳脊髄液(CSF)、喀痰、唾液、骨髄、滑液、房水、羊水、耳垢、母乳、気管支肺胞洗浄液、精液、前立腺液、カウパー液または射精前液、女性射精液、汗、糞便、毛髪、涙液、膀胱液、胸水および腹膜液、心嚢液、リンパ液、繊液、チャイル、胆汁、間質液、月経、膿、皮脂、嘔吐物、膣分泌液、乳腺分泌液、粘膜分泌液、便水、膵液、副鼻腔洗浄液、気管支肺吸引液、胚盤胞液、および臍帯血、から選択してもよい。あるいは、組織検体から採取してもよい。
【0122】
細胞は、患者や個人から単離されたものでもよい。ここに述べた方法は、そのような細胞をスクリーニングし、患者に戻すために用いることができる(自家細胞移植)。細胞は、ある個体から単離され、患者に投与されるように選択されてもよい(同種細胞移植)。
【0123】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルは、同じタイプの細胞、例えばT細胞のようなリンパ球を含有する。従って、細胞は、微小液滴に含ませる前にあらかじめ選択される可能性がある。しかし、どのような生物学的細胞であっても何らかの汚染が起こる可能性はあり、例えば、T細胞が所望のタイプであるときにB細胞が含まれるなど、異なるタイプの細胞も微小液滴に含まれるおそれがある。本開示の方法は、このような微小液滴を迅速に同定し、微小液滴のサブセットに選択されないようにする。
【0124】
いくつかの実施形態では、未知の細菌細胞が存在する環境サンプルをスクリーニングする場合など、微小液滴のパネルに含まれる細胞タイプが多様である可能性がある。
【0125】
細胞はヒトまたは哺乳類の細胞であってもよい。細胞は、生体の臓器または組織など、任意の組織由来の好適なタイプでもよい。
【0126】
この細胞は免疫系細胞であってもよい。そのような細胞には、単球、マクロファージ、破骨細胞、好中球(多形核白血球)樹状細胞、ミクログリア細胞、マスト細胞、T細胞(ヘルパーT細胞、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、および、ナチュラルキラーT細胞を含む)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、造血幹細胞などが挙げられる。
【0127】
細胞は多能性細胞または幹細胞であってもよく、培養技術によって単離または調整される。多能性幹細胞は再プログラムされた成熟細胞タイプでもよい。
【0128】
細胞は、微小液滴にカプセル化する前に遺伝子操作されてもよい。細胞は、微小液滴へのカプセル化後に遺伝子操作され得る。
【0129】
細胞の遺伝子工学は、形質導入(ウイルス遺伝子導入)、遺伝子編集(Znフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、CRISPR/Cas9塩基およびプライム編集などのヌクレアーゼを用いる)、非ウイルス遺伝子導入(ナノ粒子導入など)、例えば遺伝子サイレンシングまたは活性化などのRNAを用いた遺伝子ノックダウン、遺伝子ノックインおよび遺伝子操作、または、オプトジェネティクスを含む、任意の適切な方法による。遺伝子工学は一般に、任意の適切な手段によって遺伝的要素を細胞に導入することを伴う。
【0130】
遺伝子工学には、単に細胞のゲノムに突然変異を起こす実体を導入し、ランダムな突然変異が望ましい細胞の特性をもたらすかどうかを調べる場合がある。本開示の方法によって、ランダムまたは意図的な変異を有する多数の細胞のスクリーニングが可能となり、変異後に所望の特性を有する細胞を選択することができる。このようなことは、細胞選択の最適化、特に細胞ベースの製造を可能にする。このようなことは、細胞の「指向性進化(directed evolution)」と言えよう。
【0131】
遺伝子の要素は随意的に、プロモーターに操作可能にリンク付けされる核酸を含み、核酸配列(nucleic acid sequence)はCARのような所望の生成物をコード化する。
【0132】
遺伝子の要素は、細胞内で発現させたい、あるいは含ませたい目的の配列を含むウイルスベクターであってもよい。核酸は、細胞内で発現させるためのミニサークルのような非ウイルス「ネイキッド」ベクターであってもよい。核酸は、細胞内の遺伝子を編集するための遺伝子編集成分を含んでいてもよい。遺伝子の要素は、例えば新しい細胞表面分子を発現させるなど、細胞に任意の望ましい遺伝子工学を施すことを可能にするために、望ましい配列を含むことができる。
【0133】
一実施形態では、細胞を微小液滴にカプセル化して遺伝子操作してもよい。この実施形態では、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルおよび少なくとも1つの遺伝要素を含む微小液滴のパネルが準備される。本開示の方法は、したがって、少なくとも1つの細胞を含むパネルの微小液滴を、少なくとも1つの遺伝要素を含むパネルの微小液滴とマージさせて、マージした微小液滴のパネルを形成するさらなるステップを備え得る。このような微小液滴は、本明細書に記載された選択方法に従った、遺伝子操作された細胞を少なくとも1つ含有する。その後、アッセイによって遺伝子操作の成功を判定し、非修飾細胞は廃棄される。
【0134】
遺伝子工学は、誘導性プロモーターの下で遺伝子配列を提供することを伴う。これにより、遺伝子操作された細胞は、遺伝子配列によってコード化される産物を生成するように刺激される。
【0135】
細胞を含む微小液滴のパネルを調製しているとき、カプセル化ステップで培地のみがカプセル化されたり、カプセル化ステップと方法ステップとの間で細胞が死滅したりするため、一部の微小液滴が空になることがある。あるいは、分割ステップの結果、微小液滴中の細胞が欠落することもある。このプロセスでは、細胞がカプセル化されることにより、液滴の集団はポアソン統計で記述される占有率を持つ結果となる。
【0136】
本開示の方法は、単細胞カプセル化の効率を向上させるために、能動的に制御された液滴生成方法と併せて使用することができる。随意的に、カプセル化プロセスは単一細胞を含む微小液滴のパネルを供給する。単一細胞のカプセル化は、プロセス中のクローン拡大を可能にする。
【0137】
しかし、利用できるいくつかのカプセル化プロセスは効率が悪く、これらのシステムでは、液滴あたりにカプセル化される細胞数がポアソン統計によって記述されるため、所望の数の細胞を含む液滴の割合が減少し、その結果、単一細胞をカプセル化できる有効率が低下する。したがって、装置の使用者によって選択されたカプセル化プロセスによって、1つ以上の細胞を含む少数派の細胞となるおそれがある。しかしながら、当業者はこのような状況に寛容であり、これらの空の微小液滴は、同じ分割およびマージ操作にさらされ、選択の目的のために無視される。このように、本明細書で述べる選択方法は柔軟であり、様々な細胞カプセル化方法と併せて使用することができる。
【0138】
したがって、「少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネル(panel of microdroplets containing at least one cell)」という用語が使用されている場合、その割合が1つ以上の細胞を欠いていてもよいことは、当業者には理解されよう。本開示の方法は、細胞が必要とされるそのような空の微小液滴を迅速に特定し、それ以上の検討からそれらを切り捨てることができる。したがって、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルでは、実質的にすべての微小液滴が少なくとも1つの細胞を含有する可能性があるが、一部または部分は空である可能性がある。微小液滴のパネルはまた、制御または位置マーカーとして、意図的に空の微小液滴を含んでもよい。
【0139】
微小液滴のパネルは、既知の特性を持つ細胞、または抗体などの既知の産生物/分子を含有する微小液滴などの対照微小液滴を含有してもよく、それらはレポーター実体に対して陽性対照を提供しうる。陰性対照もまた含まれてよく、これはレポーター実体で陽性結果を生ずると予想されない細胞または産生物/分子であってもよいし、または、空の液滴または培地の液滴であってもよい。
【0140】
同様に、「1つ以上のレポーター実体を含有する微小液滴のパネル(a panel of microdroplets containing one or more reporter entities)」という用語が使用されている場合、その割合が1つ以上のレポーター実体を欠いていてもよいことは、当業者には理解されよう。本開示の方法は、このような空の微小液滴を同定し、必要なレポーター実体を持たないすべてを除去するが、必要なレポーター実体を持たない液滴がアッセイ中にまだ存在する場合がある。場合によっては、レポーター実体のない液滴をパネルのサブセットに導入し、陰性対照として作用させてもよい。実質的にパネルのすべてがレポーター実体を含んでもよい。
【0141】
[細胞の特徴]
選択される細胞は、1つ以上の特性に基づいて選択される。
【0142】
このような特性には、以下のいずれか1つ以上の性質および/またはその有無が挙げられる、すなわち、
細胞表面分子、活性化プロファイル、増殖能力、分泌能力、分泌産物の親和性、分泌産物の機能的挙動、細胞内生成物を作る能力、生存能、形態、および/または細胞間相互作用能(殺細胞または、細胞活性化または、細胞凝集など)である。
【0143】
細胞は任意の所望の特性の組み合わせに基づいて選択することができ、実質的に同時(多数)に、または逐次的に試験することができる。従って、1つ以上のレポーター実体が必要な場合もあり、または少なくとも1つのレポーター実体を含有する1つ以上のレポーター微小液滴パネルが必要な場合もある。連続した選択ラウンドにより、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のサブセットを選択することができる。
【0144】
一実施形態では、決定される特性は1つ以上の細胞表面分子またはマーカーの有無である。すべての細胞は、特徴的な分子マーカー(例えば、タンパク質、脂質、糖鎖マーカーなど)を発現しており、これらは細胞のタイプを区別するのに役立つ。細胞表面分子またはマーカーの特定の組み合わせは、特定の細胞を同定するのに使用することができる。
【0145】
一実施形態では、細胞表面マーカーはCD分子である。CD(cluster of differentiation)は、分化抗原群(指定または分類決定因子のクラスターとしても知られ、しばしばCDと略される)の略である。細胞のフェノタイピングはCD分子を用いて可能である。このようなマーカーは多くの場合、特定の免疫機能に関連するが、それだけに限定されるわけではない。例えば、様々なT細胞はCD3、CD4またはCD8の存在によって、B細胞はCD19またはCD20によって、そして、NK細胞はCD56によって同定することができる。
【0146】
一実施形態では、細胞表面分子またはマーカーは、細胞表面受容体、細胞表面トランスポーター、細胞接着タンパク質、細胞表面シグナリング分子、および、細胞間相互作用を担う細胞表面分子である。
【0147】
一実施形態では、細胞表面マーカーは、細胞が産生するように遺伝子操作された人工、合成、またはキメラ細胞表面マーカーである。
【0148】
随意的に、人工細胞表面マーカーはキメラ抗原受容体(CAR)である。CARは、抗原認識ドメイン、細胞外ヒンジドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナリングドメインの4つのドメインから構成されてよい。抗原認識ドメインは細胞の外側に露出し、潜在的な標的分子と相互作用し、修飾した細胞を、適合する分子を発現する任意の細胞に標的化する役割を持つ。抗原認識ドメインは通常、単鎖可変領域フラグメント(scFv)として連結されたモノクローナル抗体の可変領域から誘導されるが、工学的に設計された単一ドメインから誘導することもできる。通常互いに結合するリガンド/受容体のペアを用いるなど、CARの開発には抗体なしのアプローチも用いられてきた。
【0149】
細胞表面マーカー(天然または修飾された)を、細胞の第1のサブセット、または細胞の第2のサブセットまたは細胞さらなるサブセットを規定するための選択中に、細胞を選択するために用いてもよい。
【0150】
一実施形態では、細胞選択は細胞表面マーカーまたは分子に基づいてもよい。従って、レポーター実体は細胞表面マーカーまたは分子と相互作用するものであってもよい。
【0151】
一実施形態では、決定される特性は、細胞からの1つ以上の分泌物の有無である。多くの細胞は分泌が可能であり、例えば哺乳類細胞は絶えずタンパク質を細胞外マトリックスに排泄している。異なる特殊化した細胞は特殊化した分泌物を有し、例えば、免疫細胞はサイトカイン、免疫グロブリン、リガンド、受容体などの分泌タンパク質を発現する。細胞は、糖タンパク質またはリポタンパク質を含むタンパク質、化学物質、核酸、ポリマー、または分子を分泌する。分泌は、物質を細胞の内部から外部に移動させるステップであり、細胞の種類によって様々な経路を使用する。例えば、細胞外小胞が本発明の実施形態のいずれかに関与してもよい。細菌細胞は、適応し生き残るために分泌能力に依存しているかもしれない。
【0152】
分泌物は細胞本来の分泌物、例えばB細胞からの抗体のような免疫グロブリン、であってもよく、もしくは、分泌物は、分泌物の遺伝子またはコード配列を導入した細胞の遺伝子操作によるものであってもよい。一実施形態では、細胞はB細胞またはハイブリドーマであり、分泌物はモノクローナル抗体である。
【0153】
分泌物は、例えば結合能のような、所望の特性を持つこともあれば、持たないこともある。これは、1つ以上のレポーター実体によって調べることができる。
【0154】
一実施形態では、細胞選択は細胞からの分泌物に基づいてもよい。従って、レポーター実体が、細胞分泌物と相互作用するものである。細胞の分泌物は、微小液滴を、少なくとも1つの細胞を含有する基準微小液滴と、分泌物が存在する培地を含む試験微小液滴とに分けることによって、細胞から分離することができる。
【0155】
一実施形態では、決定される特性は、細胞によって産生される1つ以上の細胞内産生物の有無である。すべてではないにしても、ほとんどの細胞は、糖タンパク質およびリポタンパク質を含むタンパク質を産生するために使用することができるが、一部の細胞、特に細菌は、化学物質、核酸、およびその他のポリマーを作ることができる。遺伝子操作された細胞は、所望の産物を作るように修飾され、該産生物は分泌されずに細胞内に保持されるかもしれないが、それを放出するには細胞を溶解しなければならない。
【0156】
細胞内産生物は、例えば触媒能のような、所望の特性を持つこともあれば、持たないこともある。これは、1つ以上のレポーター実体によって調べることができる。
【0157】
産生物は、細胞本来の産生物かもしれないし、または前記産生物の遺伝子またはコード配列を導入する細胞の遺伝子操作による産生物かもしれない。
【0158】
一実施形態では、細胞選択は細胞内産生物の検出に基づいて行われる。従って、レポーター実体は前記産生物と相互作用するものであってもよい。産生物は、細胞内に入るレポーター実体によってその場で検出されることもあれば、産生物は試験微小液滴内での細胞溶解によって細胞から分離されることもある。
【0159】
細胞内産生物は、任意の適切な生物学的または化学的分子であってよい。細胞内産生物は、ホルモン、酵素、細胞シグナリング分子、シグナル伝達分子、免疫グロブリンなどのタンパク質であってもよい。細胞内産生物は、RNA、DNAまたはそれらのハイブリッドなどの核酸であってもよい。細胞内産生物は、殺虫剤、毒素、抗生物質、燃料、医薬品、ワクチン、抗ウイルス剤などの化学物質であってもよい。
【0160】
一実施形態では、細胞は増殖能に基づいて選択される。このような選択は、細胞分裂イベント(微小液滴中の細胞数の増加)の存在を検出することによって、または増殖マーカーに基づいて決定することができる。増殖マーカーは、それに特化したなレポーター実体を用いて検出することができる。
【0161】
一実施形態では、細胞は形態に基づいて選択される。このような選択は、例えば適切な光学的検出手段を用いた細胞の目視検査によって決定することができる。細胞の形態には、大きさ、形状、細胞接着性の有無、ブレブのような細胞膜の突起の有無、液胞のような細胞内実体の有無のいずれか1つ以上が挙げられる。
【0162】
一実施形態では、細胞はレポーター実体との相互作用の結果に基づいて選択され、レポーター実体は細胞である。相互作用は、細胞とレポーター実体、または分泌物とレポーター実体の間で起こる。レポーター実体細胞は、腫瘍細胞、細胞株、腫瘍様細胞、細菌細胞、免疫系提示細胞(抗原提示細胞など)など、どのような細胞の種類でもよい。レポーター実体細胞に応答して、選択される細胞が活性化され、分子を分泌するように誘導され、そして/またはレポーター実体細胞の細胞活性化もしくは死滅を促進し、あるいは分泌物がそれに結合する可能性がある。
【0163】
レポーター実体細胞との直接的または間接的な(分泌物を介した)相互作用の結果に基づいた細胞選択は、治療指針に適した特性を決定できる。
【0164】
細胞は、任意の数の所望の特性、および/または所望でない特性がないことに基づいて選択することができる。これらは、ここで説明した特性の任意の組み合わせに基づいてもよい。
【0165】
[レポーター]
本明細書に記載の方法は、少なくとも1つレポーター実体を含む少なくとも1つの微小液滴のパネルの使用に関する。2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上など、任意の適切な数のパネルを採用してよい。各パネルは1つ以上のレポーター実体を含み、それぞれ異なっている。
【0166】
少なくとも1つのレポーター実体を含む任意の微小液滴のパネルは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上のレポーター実体を含んでもよい。
【0167】
レポーター実体は、検出可能な変化をもたらすために、細胞、細胞生成物、または細胞分泌物と相互作用することができる任意の適切な実体である。レポーター実体は、以下の実体またはその誘導体のいずれか1つ以上、すなわち、
i. 抗体、
ii. 抗原、
iii. 受容体、
iv. リガンド、
v. 基質、
vi. 酵素、
vii. リガンド、
viii. 拡散、
ix. 細胞、
x. 細胞の一部、
xi. 細胞外小胞、
xii. リポソーム、
xiii. ポリマー、
xiv. 化学物質、
xv. 薬物、
xvi. FRETレポーター、
xvii. 化学発光物質、
xviii. 組織のサンプル、
xix. ウイルスまたはバクテリオファージ、
xx. サイトカイン、および/または
xxi. タンパク質
のうちの任意な1つ又はそれ以上とすることができる。
【0168】
レポーター実体は、細胞またはその一部またはそれらの誘導体(産生物または分泌物など)と相互作用することができ、この相互作用によってレポーター実体内に検出可能な変化が生じる。このような変化は、結合、アニーリング、凝集、分離、増幅、コンフォメーション、活性化、および/または破壊である。レポーター実体は、レポーター実体細胞の場合など、検出可能な変化を直接モニタリングするのに適している。レポーター実体は、ビーズまたは可視、発色、発光、蛍光、リン光ラベルのようなラベルなどの構造体、スプリット蛍光、スプリット発光、または蛍光発生性のようなタンパク質相補性のリガンドと関連/接合する。
【0169】
代替的または付加的に、レポーター実体の変化は第2の実体によって検出され、ラベリング(可視、発光、蛍光、または蓄光ラベル)してもよい。第2の実体は、例えばレポーター実体の細胞への結合を検出し、二次抗体またはその誘導体となりうる。代替的または付加的に、レポーター実体を酵素に接合または結合させ、その酵素の基質を第2の実体として加え、視覚的、発色的、蛍光的シグナルを引き出してもよい。当業者であれば、特定の分析物の存在を測定するための数多くのアッセイ手段を知っているであろう。
【0170】
一般的に、レポーター実体は、抗体またはそのフラグメントもしくは誘導体(抗原結合フラグメント(Fab)、単一鎖可変フラグメント(scFv)、小型化抗体、またはアフィボディなど)である。
【0171】
一実施形態では、微小液滴の試験パネルは、複数のレポーター実体を含有する微小液滴のパネルと接触している。従って、細胞は「複数要素のレポーター
アッセイ(multi-element reporter assay)」または「複数のレポーター細胞表面マーカーアッセイ(multi-reporter cell-surface marker assay)」で評価されうる。これは、とく性の多くがレポーター実体のシステムによって検査されるアッセイであり、各レポーター実体は個々の検出可能な変化を生成することができる。
【0172】
一実施形態では、レポーター実体の少なくとも1つは、少なくとも1つのレポーター実体細胞を含んでいる。細胞は、腫瘍細胞、がん細胞、細胞株、腫瘍様細胞、提示細胞、付属細胞、または相互作用が望ましくない「オフターゲット」細胞など、任意の適切な細胞の種類であってよい。レポーター実体細胞における変化が検出される。このような変化は、細胞の死滅または破壊、細胞の活性化、また細胞の凝集がありうる。これらの変化は、(適切な倍率で)視覚的に観察することもできるし、または、細胞内部成分、サイトカインなどの細胞シグナリング分子、または増加した細胞表面分子の存在など、微小液滴中の適切な分析物の存在を検出する第2の実体を通して観察することもできる。代替的または付加的に、レポーター実体細胞は、受容体活性化などのイベントに関連する少なくとも1つのレポーター遺伝子を含むように遺伝子操作されてもよい。このイベントが起こると、細胞内シグナリングカスケードが測定可能なシグナルを発生させるレポーター遺伝子を活性化させる(例えば、ルシフェラーゼ遺伝子は、必要な基質が与えられると光を発生する)。
【0173】
一実施形態において、レポーターパネルの少なくとも1つは、以下の少なくとも1つ以上を含む、すなわち、
i. 抗原またはリガンド結合ビーズおよび蛍光色素が結合した二次抗体、
ii. 二次抗体結合ビーズおよび蛍光色素が結合した抗原またはリガンド、または
iii. キャリア表面に結合した抗原またはリガンドおよび蛍光色素が結合した二次抗体ビーズ
のうち、少なくとも1つ以上を含む。
【0174】
このようなレポーター実体は、抗体、受容体、酵素などの結合能を持つ分子の検出に有用である。アッセイ設計の当業者であれば、レポーター実体のあらゆる可能性のある組み合わせ、および、どのように特性が検出および伝達できるかについて知っているであろう。
【0175】
CAR-T細胞にとっては、以下のような実体、すなわち、CD4、CD8、CD19、scFvドメインマーカー(特異性および/または親和性スクリーニングのため)、B細胞マーカー(または他の不要な汚染細胞のマーカー)、および/または分化マーカー(関連するサブパネルを選択するため)が好適な特性である。
【0176】
[検出]
レポーター実体内の変化は検出することができる。上述したように、検出は、拡大(顕微鏡)してではあるが、目視可能なイベントの単純な観察であってもよい。したがって、検出イベントは、変化の視覚的検出であってもよい。
【0177】
いくつかの実施形態における検出は光学的なものであり、例えば採用されるラベルは視覚的、発色的、発光的、蛍光的、または蓄光的である。すべてに適した検出技術を採用することができる。
【0178】
検出システムは、各微小液滴の個々の独立したレポーター実体のシグナルをスクリーニングするために使用することができる。一例では、マージされた微小液滴のパネルが画像化され、そこへの全ての変化が検出および定量化される。このようなアッセイの結果は、細胞の特性(表現型)を決定するために使用することができ、個々の細胞を、それらが発現するマーカー、それらが有する活性、またはそれらが産生または分泌する可能性のある産生物によってスクリーニングすることができる。
【0179】
検出システムは、例えば高感度カメラを使用した広範囲の高画質撮像を可能にする。いくつかの実施形態では、検出システムはマルチチャンネル蛍光検出をサポートし、暗視野イメージング、明視野イメージング、および細胞形態の検出が可能である。高品質イメージングは、高N.A.(60倍)レンズを含む、複数の対物レンズによってサポートされている。細胞の高スループットスクリーニングを促進する個々の微小液滴について、異なるレポーター実体のシグナルが検出され、強度が空間的に定量化される。
【0180】
[選択]
本明細書に開示された方法は、細胞の特徴に依存した細胞のサブセットの選択を可能にする。微小液滴パネル内の細胞は、細胞表面マーカー/分子、細胞内部生成物、または細胞からの分泌物など、特定の特徴に基づいて選択される。その特徴には、分泌物または細胞内産生物の特異性/活性が伴ってもよい。選択または選別された細胞は、微小液滴パネルのサブセットを形成する。少なくとも1つの細胞を含有する残りの微小液滴は、廃棄されるまたは無視される。このように選択された微小液滴のサブセットは、細胞の特性がさらに調査またはアッセイされる更なるステップに従い、その結果、さらなるサブセットが選択され得る。本明細書に記載の方法の最終段階が実施されると、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の最終サブセットは選択された細胞を含有する。
【0181】
選択された細胞はその後、装置から分注される。一旦選択および装置から分注されると、細胞は更なるアッセイの対象にしてもよいし、細胞の維持および/または増殖を促進するために培養してもよい。分注後、細胞は随意的に、患者への注入または再注入のために調製してもよい。分注後、細胞は免疫グロブリンまたは医薬品のような治療体の生産に使用するために増殖させてもよい。
【0182】
一実施形態では、選択された細胞は、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルに存在する。参照パネルは、試験パネル内の微小液滴と相関する微小液滴を含むが、これは、両者は同じ前駆微小液滴に由来するからである。一実施形態では、前駆微小液滴の分割により、少なくとも1つの細胞を含有する参照パネル微小液滴、および、少なくとも培地を含有する試験パネル微小液滴が生成される。培地は細胞からの分泌物を含有してもよく、これは前記細胞の特性である。代替の実施形態では、前駆微小液滴は、少なくとも1つの細胞を含有する参照パネル微小液滴および、1つの細胞を含有する試験パネル微小液滴を生成する。したがって、前記微小液滴の参照パネルは、細胞の特性を決定するためのアッセイに評価される少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルのクローンまたはクローンコピーである細胞を含有する。選択ステップでは、試験パネル内の細胞を溶解することを伴ってもよいが、これはさらなる増殖のために細胞を選択する場合には望ましくない。
【0183】
このように、いずれの実施形態にせよ、微小液滴の試験パネルのアッセイから得られた結果は、参照パネルの細胞と直接相関させることができ、選択されたのは参照パネルからの細胞である。このようなステップの利点は、細胞にとって有害である、または腫瘍細胞への曝露のような治療目的に使用される細胞の調製において望ましくないような、いくつかのレポーター実体に曝露されていないことである。
【0184】
細胞は、特性の存在、特性の非存在、またはその両方の混合に基づいて選択してよい。従って、細胞、そこからの抽出物または分泌物は、本明細書に記載した方法を用いて、複数の特性についてしけんまたはアッセイすることができる。一実施形態では、細胞は単一ステップで複数の特性について同時に試験される。このような多重検査は、レポーター実体内の変化が、例えば蛍光、発光、蓄光ラベルまたはイベントなど、異なる手段を用いて検出される場合に実現可能である。検出手段はまた、スプリット蛍光、スプリット発光または蛍光発生性のリガンドのようなタンパク質相補イベントを含んでいてもよい。
【0185】
選択された細胞はさらに装置から分注されてもよく、さらなる使用の前に培養して細胞分裂を起こすことができる。一実施形態では、細胞は患者に注入するためのものである。いくつかの実施形態では、選択された微小液滴のパネルを分注した後、そこに含まれる細胞を処理して集団を増殖し、および/またはクローンを培養する。
【0186】
装置から分注した後、微小液滴のサブセットに含まれる分泌物、代謝産物などの細胞および/または非細胞体は、以下のいずれか1つ以上、すなわち、
i. 質量分析、
ii. 表面プラズモン共鳴、
iii. 高速液体クロマトグラフィー、および/または
iv. 核酸配列決定およびPCR増幅を含む遺伝子分析、
のうち任意な1つ又はそれ以上の分析が挙げられるが、これらに限定されない更なる分析を課してもよい。
【0187】
[培地]
本開示の方法のために、細胞は微小液滴にカプセル化される。任意の実施形態による細胞は、一般的に培地、通常は水性培地中に供給される。培地とは、単に細胞を培養するための物質である。この培地は、細胞をサポートするのに十分な物質を含む最小限の培地であってもよく、そのような最小限の培地の内容は、カプセル化される細胞の種類に依存する。必要とされる成分は、研究される細胞の種類によって異なり、当業者であれば、課題に適した培地を特定する方法を理解するであろう。
【0188】
一般に、細胞培養培地は炭素源(例えばグルコースなどの糖類)、水、1つ以上の塩類、pH緩衝剤、アミノ酸源、および窒素を含んでもよい。培地には、必要であれば、細胞分裂または細胞生存を補助する、または促進する分子または薬剤で補完してもよい。これには、適切な栄養素、成長因子、シグナリング分子(サイトカインなど)、ビタミン、塩類、血清タンパク質、補酵素、炭水化物、ガス、微量元素、および抗生物質が挙げられる。
【0189】
例示的な培地はダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)で、これは基礎培地であり、タンパク質または成長促進剤を含有しない。従って、それは補完が「完全な(complete)」培地であることを必要とする。5~10%のウシ胎児血清(FBS)で補完されるのが一般的である。DMEMは哺乳動物細胞培養に広く応用できることが分かっており、ハイブリドーマの培養にも使用できる。代替培地は、イーグル最小必須培地(EMEM)である。EMEMは平衡塩類溶液、非必須アミノ酸、および、ピルビン酸ナトリウムを含む。EMEMは非複合培地であるため、一般に追加的な補完またはより高濃度の血清で強化され、広範な哺乳動物細胞に適合するようにする。RPMIは、哺乳動物細胞、特に造血細胞に幅広く応用できる汎用培地である。RPMIはMcCoy‘s 5Aを改良したもので、末梢血リンパ球の長期培養用に開発され、懸濁液中で様々な細胞の増殖をサポートする。血清または血清代替物と共に補完した場合、この培地は新鮮なヒトリンパ球の培養、融合プロトコル、および抗体調製用のマウスハイブリドーマ細胞のようなハイブリッド細胞の増殖を含む、哺乳動物細胞に対して幅広い用途がある。末梢血単核球の保存/懸濁にもしばしば使用される。多くの種類の細胞培養培地が入手可能であり、選択する細胞の種類の生存が最適になるように選ばれるべきである。
【0190】
本開示の方法は、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルを、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネル、および少なくとも培地を含有する微小液滴の試験パネルに分割するステップを伴い得る。当業者であれば、いくつかの試験パネルの微小液滴も細胞を含有することがあり、特に、少なくとも1つの細胞を含有する前駆微小液滴で細胞分裂が起こった場合には、そうであることを理解されよう。
【0191】
一実施形態では、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴はすでに分割操作を受けており、少なくとも1つの微小液滴を含有する細胞の参照パネルが作成されている。この結果、細胞のクローンコピーが保存され、その後の任意のステップで試験パネルの細胞を刺激して細胞を損傷させた場合でも、まだ参照パネルまたは微小液滴から細胞を選択することができる。特にこの損傷は、遺伝物質または細胞内生成物にアクセスするために細胞を溶解する過程で生じることがある。
【0192】
細胞と培地を分離するためにこのような分割が採用される場合、少なくとも1つの細胞を含有する前駆微小液滴は、分泌物が培地中に蓄積できる条件下で培養される。このような条件としては、刺激分子またはシグナリング分子(例えばサイトカイン)のような分泌を促進するための媒剤を培地中に供給すること、または、分泌物の形成を誘導するために細胞と相互作用する抗原提示細胞のような細胞を含めることが挙げられる。あるいは、分泌物が細胞によって産生されるように遺伝学的にそうされている場合、操作は分泌物の発現を条件付けるように適用することもでき、そのような発現はラクトースなどの化学物質の添加によって活性化される。このような適切なシグナルは発現を開始するために供給される。
【0193】
一旦細胞を培養して分泌を促進すると、微小液滴のパネルを分割することができる。分割操作は、現実または仮想のエレクトロウェッティング電極を用いて実施してもよい。一実施形態では、微小液滴パネルの各微小液滴は分割され、子液滴の少なくとも2つのパネルを形成する。これらの子液滴はおよそ同じ大きさである、又は分割が非対称で、一方のパネルの微小液滴の寸法が大きいことがあり得る。微小液滴が分割されると、1つの子液滴が少なくとも1つの細胞を受け取る場合があり、またそのような微小液滴が参照パネルを形成する。
【0194】
培地内の分泌物の存在は、本明細書に記載されているように確認することができる。水性微小液滴の1つ以上のパネルをマージさせるなど、試験パネルの微小液滴に一連のマージおよび分割イベントを採用することは有用であり、微小液滴の試験パネル内の分泌物は希釈または洗浄され得る。
【0195】
細胞および培地を含む微小液滴は、環境および温度などの条件を制御して、細胞の維持に最適な条件に維持することができる。細胞を維持するためには、国際公開第2020/104769号に記載されているように、飽和レベルの栄養素、緩衝液、窒素、酸素および/または二酸化炭素の1つ以上を含む非混和性キャリア液体の流動流を供給することを伴う。
【0196】
当業者であれば、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴は、微小液滴が本来は水性であるため、本質的に培地も含むことを理解するであろう。
【0197】
[細胞分裂]
本開示の方法は、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルが細胞分裂することを許容されるステップを含み得る。細胞分裂とは、親細胞が2つ以上の娘細胞に分裂する過程である。この文脈では、それぞれの娘細胞は親細胞と遺伝的に同一である(真核生物の場合、細胞は有糸分裂を経ている)。原核生物(バクテリアおよび古細菌)は、二元分裂を行う場合があり、遺伝物質が2つの娘細胞に均等に分離される。これらの細胞は遺伝物質が同一であるはずなので、クローンと表現されることもある。
【0198】
一実施形態では、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルはクローン性増殖を行うことができる。クローン性増殖とは、親細胞から娘細胞が発生するプロセスのことで、一般的には免疫細胞(例えばNK細胞、BおよびTリンパ球)のような特定の種類の細胞に適用される用語である。
【0199】
本開示の方法では、細胞分裂またはクローン性増殖は微小液滴のパネル内で行うことが許可または奨励されている。細胞は、微小液滴内の適切な培養培地の供給、栄養素、サイトカイン、ビタミン、活性化剤、ホルモン、または成長因子などの関連補助分子の添加など、前記細胞分裂を可能にする適切な条件が付与され得る。当業者であれば、細胞分裂に必要な条件は問題の細胞の種類によって異なることを認識するであろう。
【0200】
一実施形態では、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルに存在する細胞は、リンパ球(NK細胞、B細胞、またはT細胞)などの免疫細胞である。このような免疫細胞は、クローン増殖を誘発するために活性化を必要とする場合がある。活性化には、特異的サイトカインなどのシグナリング分子が伴うこともある。活性化には、代わりにまたは追加的に、免疫細胞上の特異的細胞表面受容体への結合が伴うこともある。これは、これらの受容体に向けられた抗体を用いて結合することができる。あるいは、適切な細胞(抗原提示細胞、APCなど)を用いて活性化することもできる。
【0201】
一実施形態では、少なくとも1つのT細胞を含有する微小液滴のパネルは、抗CD3抗体または抗CD28抗体などの少なくとも1つのT細胞活性化因子を含む微小液滴のパネルを含む、またはそれらとマージすることができる。
【0202】
一実施形態では、微小液滴内で最小限の細胞分裂が行われるように、細胞は最小限に刺激/活性化されることがあり得る。
【0203】
細胞が活性化しない、又は細胞分裂が起こらない場合には、その細胞(クローン)のさらなる複製の生成の欠如により、その微小液滴は選択されないことになるおそれがある。したがって、活性化および/または分裂能力は、本開示の方法において選択される特性であり得る。
【0204】
細胞分裂を促進するために細胞が培養されると、パネルまたは微小液滴は分割することができる。分割操作は、本物のまたは仮想のエレクトロウェッティング電極を使用して実施してもよい。一実施形態では、微小液滴パネルの各微小液滴は分割され、子液滴の少なくとも2つのパネルを形成する。これらの子液滴はおよそ同じ大きさである、又は分割が非対称で、一方のパネルの微小液滴の寸法が大きいことがあり得る。微小液滴が分割されると、各子液滴は少なくとも1つの細胞を受け取る。少なくとも1つの細胞がない微小液滴は、廃棄、または選択から除外され得る。分割された微小液滴中の細胞は、実質的に遺伝的に同一である、またはクローンである。
【0205】
一実施形態では細胞分裂後、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネルは、微小液滴の参照パネル、および、本明細書に記載の方法でさらに使用され得る試験微小液滴のパネルの2つのパネルに分割される。本開示の方法は、両者が遺伝的に同一の細胞を含むため、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴のパネル内の細胞の特性に関するアッセイおよび/または試験に基づいて、微小液滴の参照パネルの細胞が選択されることを可能にする。
【0206】
ここで説明する方法は、細胞分裂を可能にするための細胞の「培養(culturing)」を意味する。このような技術は、単に微小液滴環境内で細胞を増殖させるだけである。本明細書で論じるように、適切な細胞培養培地、栄養物など、増殖に好ましい条件を使用する。当業者であれば、細胞の増殖および分裂を促進する細胞培養技術のことは知っているだろう。
【0207】
[微小液滴の同定および追跡]
本開示の微小液滴は、本明細書に記載されるような装置上で適切に操作可能である。微小液滴の操作の制御は、コンピュータで実施することができる。装置上の微小液滴の位置は、相関または対応する微小液滴、例えば、前駆微小液滴の分裂イベントに由来する微小液滴が識別されるように、前記微小液滴の識別を可能にする。これにより、レポーター実体が試験パネルで結果を示した時、参照パネルから微小液滴を選択することができる。加えて、分裂イベントから生成された微小液滴の1つがマイクロ流体チップから回収され、外部のマイクロウェルプレートに分注される場合、分裂イベントの元の前駆微小液滴(参照パネルのチップ上に維持される)は、関連する子液滴で実施されるDNA配列決定、PCR、または質量分析などのオフチップアッセイの結果に対応させることができる。
【0208】
一実施形態では、どのパネルの微小液滴にもラベルまたはバーコードを付ける必要がない。
【0209】
パネル内の微小液滴の位置から、微小液滴の同一性を判断することが可能である。微小液滴の位置およびその同一性は、ソフトウェアで制御することができる。レポーター実体の微小液滴とマージした微小液滴内で細胞の特性が決定されると、その結果を同じ細胞に関連する対応する参照パネルの微小液滴と相関させることができる。
【0210】
上記のアッセイステップをソフトウェアで制御することで、特定の細胞の種類またはレポーターアッセイの正確な要件に応じて、一連の操作を適合させたり変更したりすることが可能となる。例えば、分泌の遅い細胞の場合、レポーターパネル液滴がマージするまでの潜伏期間を調整することができる。ソフトウェアアルゴリズムは、チップ上で発生する時間依存性のイベントに反応するアッセイステップを実現するように実装することができる。細胞分裂の場合、画像認識ソフトウェアを使用して微小液滴内の細胞数をカウントし、細胞数が特定のレベルに達したら液滴を分割するプロセスを誘発することができる。いくつかの実施形態では、微小液滴は、マイクロ流体チップ内の小型バルブ構造または密閉チャンバー構造内の流体保持ペンなどの微細構造トラップ内に含まれる流体の液滴である。いくつかの実施形態では、液滴を分割するプロセスは、機械的構造の適用または微細構造の変形によって実施される。いくつかの実施形態では、液滴は音響操作を使用して分割される。
【0211】
いくつかの実施形態では、微小液滴をマージさせるプロセスは、機械的作動、電気泳動、音響波、または遠心力の使用により微小液滴同士を衝突させることによって実施される。
【0212】
[方法]
本開示は、細胞の選択を可能にする方法、特に、選択が完了した後に細胞のさらなる使用を可能にする細胞の選択方法に関する。
【0213】
一実施形態では、方法は以下の通りである。
【0214】
本開示の一態様によれば、EWODまたはoEWOD装置において細胞を選択する方法が提供され、該方法は以下のステップを備える、すなわち、
i. 少なくとも培地または培地および少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含有する、微小液滴の少なくとも1つのレポーターパネルを準備するステップと、
iii. 試験パネルの微小液滴を少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴とマージして、マージされたアッセイ微小液滴のパネルを形成するステップと、及び
iv. 少なくともの1つの特性の存在に基づいて、前記レポーター実体の変化を検出することができる検出システムを用いて、アッセイ微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、並びに
v. レポーター実体の変化に基づいてパネルから微小液滴のサブセットを選択するステップであって、前記サブセットは選択された細胞を含有するものである、該サブセットを選択するステップと、
を備え、
少なくとも培地を含む微小液滴の試験パネルは、少なくとも1つの細胞および培地を含有する微小液滴のパネルを分割し、さらに少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルを作製することによって、作製されるものであり、また
さらに、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルは、ステップ(i)~(v)のいずれかの前または後に、微小液滴の少なくとも2つのパネルに分割され、前記2つのパネルは、少なくとも培地または培地および少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルであって、レポーター実体パネルの微小液滴とマージするのに適している、該微小液滴の試験パネル、及び少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルである。
【0215】
したがって、細胞は1つ以上の特性に基づいて選択してもよい。
【0216】
あるいは、EWODまたはoEWOD装置において細胞を選択する方法が提供され、この方法は以下のステップを備える、すなわち、
i. 1つ以上の細胞および培地を含む微小液滴のパネルを準備するステップと、
ii. 前記微小液滴のパネルを少なくとも微小液滴の2つパネルに分割するステップであって、1つ以上の細胞を含む少なくとも1つの微小液滴の参照パネル、および少なくとも前記培地を含む少なくとも1つの微小液滴の試験パネルに分割するステップと、
iii. 1つ以上のレポーター実体を含む、少なくとも1つの微小液滴のレポーターパネルを準備するステップと、
iv. 試験パネルの微小液滴を少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴とマージして、マージされたアッセイ微小液滴のパネルを形成するステップと、
v. 少なくとも1つの特性の存在に基づいて、前記レポーター実体の変化を検出することができる検出システムを用いて、アッセイ微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、
vi. 対応するアッセイ微小液滴パネルにおけるレポーター実体の変化に基づいて、参照パネルから微小液滴のサブセットを選択するステップであって、前記サブセットは選択された細胞を含むものである、該サブセットを選択するステップと。
を備える。
【0217】
本開示の別の態様によれば、EWODまたはoEWOD装置の使用により細胞を選択する方法を提供し、この方法は、以下のステップを備える、すなわち、
i. 少なくとも1つの細胞および培地を含む微小液滴のパネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含む、少なくとも1つのレポーター微小液滴のパネルを準備するステップと、
iii. 少なくとも1つの細胞を含むパネルの微小液滴を、少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴とマージさせて、マージされた微小液滴のパネルを形成するステップと、
iv. 細胞の1つ以上の特性に基づいて前記レポーター実体の変化を検出し、またレポーター実体の前記変化に基づいて微小液滴のサブセットを選択して細胞を含む微小液滴の選択されたパネルを形成することができる検出システムを使用して、マージされた微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、
v. 細胞を含む微小液滴の選択されたパネルを採取し、またステップ(ii)~(iv)を1回以上繰り返し、1つ以上の異なるレポーター実体がステップ(ii)で用いられるステップと、
vi. ステップ(v)で選択された微小液滴の最終パネルに基づいて細胞を選択するステップと、
を備え、
ここで、ステップ(iii)および/またはステップ(v)の前に、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルが、微小液滴の少なくとも2つのパネルに分割され、前記2つのパネルは、
a. 少なくとも媒体を含み、レポーター実体パネルの微小液滴とマージするのに適している微小液滴の試験パネル、および、
b. 少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の参照パネル
である。
【0218】
以下の特徴は、本明細書に記載されているどの方法にも適用できる。
【0219】
任意のパネルの微小液滴は、微小液滴の内容物を希釈する目的で、または微小液滴の内容物を「洗浄(wash)」する目的で、複数のマージおよび分割操作の対象となってよい。このような操作としては、微小液滴のパネルを、培地、緩衝液、または適切な水溶液を含む微小液滴のパネルとマージさせること、およびマージした微小液滴を少なくとも2つの子微小液滴のパネルに分割すること、が挙げられる。このステップは、内容物をさらに希釈するために連続して行ってもよい。
【0220】
一実施形態では、様々なパネル内の微小液滴は対でマージされ、1対(2つ)の微小液滴がマージされて新しい微小液滴が形成される。この対のステップは、一度以上実行され、複数の微小液滴が結合してマージした微小液滴を形成する。したがって、微小液滴をマージするステップは、最終的に2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上の微小液滴を伴いうる。各々は順次にまたはほぼ同時にマージされる。
【0221】
微小液滴のセットがマージされると、ほぼ同時に、各パネルから1つの微小液滴がマージされ、新しくマージされた微小液滴のパネルが形成される。このマージ操作のための微小液滴のセットは、それぞれ別のパネルからの2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれ以上の微小液滴を含んでもよい。
【0222】
少なくとも1つのレポーター実体を含む複数の微小液滴のパネルが準備される場合、各パネルは、少なくとも1つのレポーター実体を含有する微小液滴を含み得る。各レポーター実体は、特定の細胞特性の有無を決定するために使用される。あるいは、複数のレポーター実体を含有する微小液滴の単一パネルが、マージステップで採用されることもある。
【0223】
一実施形態では、ステップ(ii)は、特定の細胞マーカーまたは分子の有無など、細胞の細胞表面特性を決定するレポーター実体の使用を伴う。次に、微小液滴の試験パネルは、微小液滴のさらなるレポーターパネルとマージさせることができ、その際、別の細胞の種類を活性化または死滅させる能力など、細胞間相互作用の特性を決定するレポーター実体の使用を伴う。
【0224】
あるいは、別の実施形態では、これらのステップを逆にし、例えば、別の細胞の種類を活性化または死滅させる能力など、細胞間相互作用の特性を決定するレポーター実体を用いて、第1に細胞が特徴付けられ、そして第2に、特定の細胞マーカーの有無など、細胞の細胞表面特性を決定するレポーター実体を用いて特徴付けられる。
【0225】
微小液滴の試験パネルを微小液滴のレポーターパネルとマージさせるステップが複数使用される場合、そのような複数のステップの前または後に分割ステップを採用することが可能であり、細胞を含有する微小液滴の参照パネルが方法の任意の適切な時点で形成される。従って参照パネルは、初期的に得られた細胞のサブセットを表すことがあり得る。
【0226】
一実施形態では、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルを、少なくとも1つのレポーター実体を含有するレポーター実体のパネルとマージする前に、微小液滴は少なくとも2つの微小液滴のパネルに分割され、微小液滴の参照パネルは少なくとも1つの細胞を含むように保持される。これらの細胞は、細胞にとって有害である、または治療などにおいて細胞の更なる使用を妨げるおそれがあるレポーター実体と接触しない。もう一方の構築された微小液滴のパネル(試験パネル)は、培地または培地および少なくとも1つの細胞を含有することができる。分割のステップの前に、細胞は細胞分裂または細胞分泌のどちらかが可能な条件下で培養することができる。
【0227】
特定の実施形態では、本方法は以下を備える。
【0228】
EWODまたはoEWOD装置を用いて、CARをコード化する核酸がトランスフェクト(導入)されたT細胞などの免疫細胞を選択する方法であって、以下のステップを備える、すなわち、
i. CARをコード化する核酸がトランスフェクトされた少なくとも1つの免疫細胞を含む、微小液滴のパネルを準備するステップと、
ii. 細胞表面マーカーに特異的な1つ以上のレポーター実体を含む、レポーター微小液滴の少なくとも1つのパネルを準備するステップと、
iii. 少なくとも1つの細胞を含むパネルの微小液滴をレポーターパネルの微小液滴とマージさせて、微小液滴のマージしたパネルを形成するステップと、
iv. 1つ以上の細胞表面マーカーの存在に基づいて前記レポーター実体の変化を検出し、またレポーター実体の前記変化に基づいて微小液滴のサブセットを選択して少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の選択されたパネルを形成することができる検出システムを使用して、微小液滴のマージされたパネルをモニタリングするステップと、
v. 少なくとも1つの細胞を含む選択された微小液滴のパネルを採取し、また随意的にステップ(ii)~(iv)を一回以上繰り返し、ステップ(ii)では1つ以上の異なるレポーター実体を使用するステップと、
vi. ステップ(iv)または(v)で選択された微小液滴の最終パネルに基づいて細胞を選択するステップと、
を備え、
ステップ(iii)および/またはステップ(v)の前に、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルは、細胞分裂を可能にするように培養され、またその後、少なくとも1つの細胞を含む少なくとも2つの微小液滴のパネルに分割され、前記2つパネルは、
a. 少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネル、および
b. 少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の参照パネル
である。
【0229】
免疫細胞はT細胞であってもよい。T細胞について検出できる適切なマーカーには、以下のいずれか1つ以上、すなわち、
CD4、CD8、CD19、scFvドメインマーカー(特異性および/または親和性スクリーニングのため)、B細胞マーカー(またはその他の不要な汚染細胞のマーカー)、および/または分化マーカー(関連するサブパネルを選択するための)、
が挙げられる。
【0230】
分裂せず、活性化せず、または必要な細胞死滅特性を持たない細胞(T細胞)は廃棄される。
【0231】
異なる実施形態では、方法は以下を提供する。
EWODまたはoEWOD装置を用いて遺伝子組換え造血幹細胞を選択する方法であって、以下のステップを備える、すなわち、
i. 少なくとも1つの遺伝子組み換え造血幹細胞を含む微小液滴のパネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含む少なくとも1つのレポーター微小液滴のパネルを準備するステップと、
iii. 少なくとも1つの細胞を含むパネルの微小液滴をレポーターパネルの微小液滴とマージさせ、マージされた微小液滴のパネルを形成するステップと、
iv. 細胞の1つ以上の特性に基づいて前記レポーター実体の変化を検出し、またレポーター実体の前記変化に基づいて微小液滴のサブセットを選択して、少なくとも1つの細胞を含む選択された微小液滴のパネルを形成することができる検出システムを使用して、マージされた微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、
v. 少なくとも1つの細胞を含む選択された微小液滴のパネルを採取し、また随意的にステップ(ii)~(iv)を一回以上繰り返し、ステップ(ii)では1つ以上の異なるレポーター実体を使用するステップと、
vi. ステップ(iv)または(v)で選択された微小液滴の最終パネルに基づいて細胞を選択するステップと、
を備え、
ステップ(iii)および/またはステップ(v)の前に、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルが、細胞分裂を可能にするように培養され、その後、少なくとも1つの細胞を含む少なくとも2つの微小液滴のパネルに分割され、前記2つパネルは以下の通りである。
a. 少なくとも1つの細胞を含み、レポーターパネルの微小液滴とマージするのに適している微小液滴のパネル、および
b. 少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の参照パネル
である。
【0232】
異なる実施形態では、方法は以下を提供する。
EWODまたはoEWOD装置における免疫グロブリンの産生に基づいて細胞を選択する方法であって、前記方法は以下のステップ、すなわち、
i. 少なくとも培地または培地および少なくとも1つの免疫細胞を含む微小液滴の試験パネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含有する、少なくとも1つの微小液滴のレポーターパネルを準備するステップと、
iii. 試験パネルの微小液滴を少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴とマージし、マージされたアッセイ微小液滴のパネルを形成するステップと、
iv. 少なくとも1つの免疫グロブリンの存在に基づいて、前記レポーター実体の変化を検出することができる検出システムを使用して、アッセイ微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、及び
v. レポーター実体の変化に基づいてパネルから微小液滴のサブセットを選択し、前記サブセットは選択された細胞を含有するものである、ステップと、
を備え、
少なくとも培地を含む微小液滴の試験パネルは、少なくとも1つの細胞および培地を含む微小液滴のパネルを分割することで作製され、さらに少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネル作製し、
並びに/または、さらに、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルは、ステップ(i)~(v)のいずれかの前またはあとに少なくとも2つの微小液滴のパネルに分割し、前記2つのパネルは、少なくとも培地または培地および少なくとも1つの細胞を含み、レポーター実体パネルの微小液滴とマージするのに適している微小液滴の試験パネル、および、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネル、である。
【0233】
異なる実施形態では、方法は以下を提供する。
EWODまたはoEWOD装置における医薬品の生産に基づいて遺伝子操作された細胞を選択する方法であって、前記方法は以下のステップ、すなわち、
i. 少なくとも培地または培地および少なくとも1つの遺伝子操作細胞を含む微小液滴の試験パネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含有する、少なくとも1つの微小液滴のレポーターパネルを準備するステップと、
iii. 試験パネルの微小液滴を少なくとも1つのレポーターパネルの微小液滴とマージして、マージされたアッセイ微小液滴のパネルを形成するステップと、および、
iv. 少なくとも1つの薬剤の存在に基づいて前記レポーター実体の変化を検出することができる検出システムを用いて、アッセイ微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、並びに、
v. レポーター実体の変化に基づいてパネルから微小液滴のサブセットを選択し、前記サブセットは選択された細胞を含有するものである、ステップと、
を備え、
少なくとも培地を含む微小液滴の試験パネルは、少なくとも1つの細胞および培地を含む微小液滴のパネルを分割することで作製され、さらに少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルを作製し、
並びに/または、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の試験パネルは、ステップ(i)~(v)のいずれかの前または後に少なくとも2つの微小液滴のパネルに分割し、前記2つのパネルは、少なくとも培地または培地および少なくとも1つの細胞を含み、レポーター実体パネルの微小液滴とマージするのに適している微小液滴の試験パネル、および、少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネル、である。
【0234】
以下の特徴は、本明細書に記載されている任意の方法にも適用できる。
【0235】
任意のパネル内の微小液滴の操作は、現実または仮想のエレクトロウェッティング電極を用いて行われる。微小液滴がマージされる場合、単一の微小液滴を形成するよう複数の個別微小液滴の合体を伴う。
【0236】
随意的にこの方法は、任意のマージステップの前に、装置上で分化を可能にするさらなるステップを備えることができる。レポーター実体は、遺伝子工学によって導入された導入遺伝子の活性を決定することができる、また特定の細胞表面マーカー、細胞産生物、または細胞分泌物を探すこともできる。
【0237】
代案的実施形態では、この方法は、遺伝的に付加された導入遺伝子の発現に基づいて、特定の遺伝子組み換え細胞を選択するものであり、この細胞の使用により産生物(化学物質やタンパク質など)を産生することができる。
【0238】
EWODまたはoEWOD装置を用いて遺伝子操作された細胞を選択する方法であって、以下のステップ、すなわち、
i. 少なくとも1つの遺伝子操作された細胞を含む、微小液滴のパネルを準備するステップと、
ii. 1つ以上のレポーター実体を含む、少なくとも1つのレポーター微小液滴のパネルを準備するステップと、
iii. 少なくとも1つの細胞を含むパネルの微小液滴をレポーターパネルの微小液滴とマージし、マージされた微小液滴のパネルを形成するステップと、
iv. 細胞の1つ以上の特性に基づいて前記レポーター実体の変化を検出し、またレポーター実体の前記変化に基づいて微小液滴のサブセットを選択して、少なくとも1つの細胞を含む選択された微小液滴のパネルを形成することができる検出システムを使用して、マージされた微小液滴のパネルをモニタリングするステップと、
v. 少なくとも1つの細胞を含む選択された微小液滴のパネルを採取し、またステップ(ii)~(iv)を一回以上繰り返し、ステップ(ii)で1つ以上の異なるレポーター実体が使用されるステップと、
vi ステップ(v)で選択された微小液滴の最終パネルに基づいて細胞を選択するステップと、
を備え、
ここで、ステップ(iii)および/またはステップ(v)の前に、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴のパネルが、細胞分裂を可能にするように培養され、その後、少なくとも1つの細胞を含む微小液滴の少なくとも2つのパネルに分割され、前記2つのパネルは、
a. 少なくとも1つの細胞を含む、微小液滴の試験パネル、および
b. 少なくとも1つの細胞を含む、微小液滴の参照パネル、
である。
【0239】
随意的にこの方法は、さらに、微小液滴のレポーターパネルとマージする前に、パネルの微小液滴中の細胞を溶解するステップを備えることができる。このようなステップは、一般に、各々が少なくとも1つの細胞を含有する微小液滴の参照パネルが確立された後に実施される。
【0240】
細胞は、哺乳類、昆虫、植物、細菌、真菌など、遺伝子組み換えに適したあらゆる種類の細胞であってよい。
【0241】
本明細書で開示される方法、任意の組み合わせが考えられ、方法のステップおよび方法を実行する順序は、選択される細胞の性質および所望の特性に依存する。
【0242】
微小液滴は液滴と称されることもある。
【実施例】
【0243】
次に、本発明の特定の態様および実施形態を、例として、かつ、上述した図につき説明する。本明細書に記載の方法は、独自のマイクロ流体装置(Lightcast Discovery LTD, UK)で実施した。
【0244】
(実施例1)―代表的なCAR-Tのワークフロー
このワークフローは、T細胞の遺伝子組換えから始まり、選択されたT細胞の大量増殖および患者への再注入の前に終了する、CAR-T細胞製造プロセスの特定の領域を対象としている(
図1に描かれているように)。
【0245】
基本的に、CAR-T細胞の選択のために、2部分スクリーニングすなわち、1)マルチレポーター細胞表面マーカーアッセイ、2)活性化評価が用いられ、また、これらのステップはどちらの順序でも実施可能である。
【0246】
患者の血液が採取され、患者由来のT細胞(未修飾)が分離される。これらのT細胞は、通常の方法でマイクロ液滴に乳化され、マイクロ流体プラットフォームに投入される。次にT細胞は形質導入され、このステップは、各々がT細胞を含有する前記微小液滴のパネルと、各々がベクターを対として含有する微小液滴のパネルにマージし、第1のマージした微小液滴のパネルを形成するステップを含む。ベクターはプロモーターに操作可能にリンク付けされた核酸を含み、核酸配列はキメラ抗原受容体をコード化する。形質導入後、T細胞は最初のスクリーニングステップに進む。空の、または複数占有している微小液滴は、必要に応じて廃棄される(
図2)。
【0247】
複数要素のレポーターアッセイは、形質導入されたT細胞上の複数のマーカーを分析する検出システムを使用することができ、微小液滴はこれに基づいて選択される。レポータースキームとしては、例えば以下のマーカー、すなわち、CD4/CD8、CD19、scFvドメインマーカー(特異性および/または親和性スクリーニングのため)、B細胞マーカー(または他の不要な細胞のマーカー)、および/または分化マーカー(関連するサブパネルを選択するため)が挙げられる。T細胞上の複数のマーカーを分析するには、形質導入したT細胞を含有する微小液滴を、レポーター(一次抗体および蛍光色素標識検出抗体など)を含有する微小液滴にマージさせるステップを伴う。最適でない細胞は、増殖前の可能な限り早い段階であるここで除去される。これにより、後の増殖およびプロファイリングステップに最良であり得るインプットを与える。ここから、選択された微小液滴は薬量測定およびプロファイリングの段階へと進む(
図2に描かれているように)。
【0248】
CAR-T細胞の参照パネルは、少なくとも1つのCAR-T細胞を含有する微小液滴のパネルを、細胞が活性化され分裂させられた後に分割することによって構築することができる。
【0249】
選択された微小液滴の細胞はチップ上で展開され、生存率、活性化および消耗挙動が評価される。活性化スクリーニングには、例えば、抗腫瘍活性および有効性に関するスクリーニングが含まれる。抗腫瘍細胞活性の詳細な評価方法は実施例3に記載されている。これらのアッセイの結果に従って、不要な微小液滴は廃棄され、微小液滴の最終パネルが選択され、それは参照パネルのサブセットとなりうる。オンチップ活性アッセイでは、例えば、T細胞の投与量を含む微小液滴を、腫瘍細胞または腫瘍様物質を含有する微小液滴と様々なT細胞/腫瘍細胞比でマージし、T細胞のがん細胞死滅活性を測定する。投与量の有効性および安全性プロファイルはこの段階で評価できる。これらのT細胞のゲノムを配列決定し、単一細胞のゲノムデータをここで取得することができる(
図3)。
【0250】
最終的に選択された微小液滴のサブパネルのT細胞は、装置からウェルプレートに分注し、大量増殖させた後、患者に再注入することができる(
図3)。この方法は、選択された細胞の可能な限り最良の一貫性および生存率を可能にし、有効性および安全性プロファイル情報の定量化を可能にする。
【0251】
(実施例2)―免疫腫瘍学ワークフロー
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、免疫治療薬(TCRなど)を産生するように修飾され、微小液滴に乳化されてマイクロ流体プラットフォームに投入される。空の、または複数占有している微小液滴は廃棄される。単一のCHO細胞を含む残りの微小液滴は、免疫治療薬の産生を促進するためにオンチップでインキュベートされる。その後、CHOを含む液滴は分裂され、各細胞が産生する薬剤を複数回分得る。T細胞および標的の腫瘍細胞は別々に乳化され、マイクロ流体プラットフォームにアレイ状に投入され、各微小液滴の細胞占有率を希望通りに調整する。T細胞および腫瘍細胞はその後マージする。第2のマージ操作は、免疫治療薬の投与量を追加するために使用され、各投与がどのCHO細胞から来たかを追跡する。得られたアッセイはインキュベートされ、アポトーシスの蛍光マーカーであるカスパーゼ3/7蛍光を検出することにより、検出システムを用いてT細胞の殺傷挙動をモニタリングする。試験薬の有効量を産生したCHO細胞は、この装置からウェルプレートに分注することができる(
図4)。
【0252】
(実施例3)―Pan T細胞殺傷アッセイ
[調整プロトコル]
EMEM(10%FCS、1%グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)で80%コンフルエントに培養した腫瘍モデル細胞株(パッセージ59+1)をその後、1μMカスパーゼ3/7、50μMヘキスト33342、0.1nM TCR薬剤を添加した3e6/mLの液滴培地(RPMI1640(10%FCS、1%グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン))で、5%CO
2、37℃で2時間インキュベートする。一方、ヒトドナー由来のPan T細胞は、密度2e6/mLの液滴培地(RPMI 1640)でインキュベートする前に、解凍し、PBSで洗浄した後、1μM Deep Redで、5%CO
2および37℃で30分間インキュベートする。その後、両方の細胞懸濁液を微小液滴に乳化する(
図5)。
【0253】
[液滴パネル]
Pan T細胞を含む微小液滴は第1のパネルに分類され、腫瘍細胞を含む微小液滴は第2のパネルに分類される。2つのパネルはその後対にマージし、様々な腫瘍細胞/Pan T細胞の比率で、T細胞および腫瘍細胞の両方を含む微小液滴を生成する。陰性対照として、腫瘍細胞のみを含む微小液滴も含まれる(
図6)。腫瘍細胞が早期にアポトーシスしていないことを確認するため、t=0時間でマージされた微小液滴はカスパーゼ3/7蛍光をスキャンされる。
【0254】
[結果]
結果は、生存率50%の領域は約28時間であり、がん細胞の明確な死滅挙動を確認するのに十分な時間であることを示した(
図7)。時間依存の腫瘍細胞アポトーシスを定量化するために、カスパーゼ強度が各液滴について経時的に測定される。各微小液滴内の腫瘍細胞と相互作用し、腫瘍細胞を連続的に殺傷するT細胞を画像化するために、明視野顕微鏡が使用される(
図8、
図9)。
【0255】
(実施例4)―抗体の発見
[細胞生存率]
無関係なハイブリドーマ細胞をゾンビ染色で染色し、微小液滴内で乳化してマイクロ流体プラットフォームに投入した。その後細胞は、微小液滴をイメージングすることで生存率が評価された(10倍レンズ、ゾンビグリーン/GFP(励起:457/50、発光:520/28):露光時間0.54秒、ランプパワー100%、BF:露光時間0.1秒)。陽性対照として、熱で死滅させた無関係なハイブリドーマ細胞が用いられた。細胞生存率は、液滴では5.3時間、装置内では3.6時間まで100%(33細胞)を維持した。さらに、細胞生存率は、液滴では20.3時間、装置内では18.6時間まで90%以上を維持した(28細胞、1液滴で5細胞はアッセイを通して保持されなかった)。したがって、アッセイ領域の期間中およびその後も、優れた生存率が示された。これは、このシステムで使用されているガス再供給メカニズムが一因であり、観察された持続的な生存率に寄与している可能性がある(
図10)。
【0256】
[陰性対照]
ハイブリドーマ細胞を含有する微小液滴およびレポーター(抗原結合ビーズおよび二次検出抗体)を含有する微小液滴はライトキャストプラットフォームに投入され、対でマージし、1ビーズ/2細胞、1ビーズ/1細胞、ビーズのみ、および細胞のみを含む微小液滴を生成した(
図11)。ハイブリドーマ細胞またはレポーターのみを含む陰性対照の微小液滴からは蛍光は検出されなかった。細胞はまた、ゾンビグリーン染色で染色され、―実験中、細胞死は検出されなかった。アッセイは16時間20分にいたるまで行った。ハイブリドーマおよびレポーターを含有する微小液滴では、蛍光凝集体がt=3時間20分に現れ始めた。
【0257】
[バルクアッセイ]
ハイブリドーマ細胞を微小液滴に乳化し、マイクロ流体プラットフォームに投入した。レポーター(抗原結合ビーズおよびAF488結合二次抗体など)を含有するハイブリドーマ培地も微小液滴に乳化し、装置に投入した。ハイブリドーマ細胞を含む微小液滴は第1のパネルに、レポーターを含有する微小液滴は第2のパネルに分類された。第1および第2のパネルは対にしてマージされ、ハイブリドーマ培地中に0.5M/mLのビーズ、0.5M/mLの細胞および200nMのAF488標識二次抗体を含有する微小液滴を生成し、37℃で2時間インキュベートした。分泌された抗標的抗体について、ビーズの蛍光を画像化した(BB1、対物レンズ10倍、露光時間2秒)。
【0258】
ハイブリドーマ培地で室温、4.5時間インキュベートした、2M/mLのビーズ、200nMのAF488標識二次抗体、および10~100nMの[遊離抗標的抗体(抗マウスAF488)]を含有する更なる微小液滴が生成された。ビーズの蛍光を、試験した遊離抗標的抗体の濃度範囲にわたって画像化し(BB1、対物レンズ10倍、露光時間2秒)、抗標的抗体濃度に対するフィルター蛍光(a.u.)を示す曲線を作成した(
図12)。
【0259】
無関係なハイブリドーマ細胞を含む微小液滴は一貫して暗かった。対照的に、遊離抗標的抗体で観察される最大レベルに近い蛍光が、標的ハイブリドーマ細胞を分泌する細胞で測定された(
図12)。検出システムは、ビーズの増加したAF488蛍光強度をスキャンする。
【0260】
[無関係な/標的のハイブリドーマ]
Cell Tracker Deep Red蛍光染色を、乳化前に無関係なハイブリドーマに適用し、マイクロ流体装置上でのそれらの同定に使用した。この場合、無関係なハイブリドーマとは、レポーター分子によって検出されるべきでないタンパク質を分泌するハイブリドーマ細胞と定義される。ハイブリドーマ細胞を含有する微小液滴およびレポーターを含有する微小液滴をマイクロ流体プラットフォームに投入し、対にしてマージさせ、一定範囲の異なる無関係な、または標的ハイブリドーマ細胞/ビーズ比を含む微小液滴を生成する。レポーターのみを含有する陰性対照の微小液滴も調製した。陰性対照、およびDeep Redで無関係と同定された細胞とインキュベートしたビーズは、実験期間中(16時間)光らなかった。標的ハイブリドーマ(抗標的抗原一次抗体を産生するハイブリドーマ)とインキュベートしたビーズは、マージ後2時間20分で明らかなAF488シグナルを示した(
図13)。
【0261】
[多重化スパイキングアッセイ]
多重化スパイキングアッセイは、それぞれが無関係または標的ハイブリドーマ細胞のいずれかを含有する微小液滴の混合集団を分離するのに使用された。このアッセイには多数の微小液滴を必要とし、そのすべてが10倍以上の解像度で画像化された。ハイブリドーマ細胞の2つの別々の培養物(ターゲットおよび無関係)を培養し、培地に採取した。標的および無関係なハイブリドーマ細胞をその後、別々に微小液滴に乳化し、マイクロ流体プラットフォームに投入した。それぞれが標的または無関係のハイブリドーマ細胞のいずれかを含有する微小液滴は、最初のパネルに分類された。レポーター(標的抗原結合ビーズおよび[AF488結合抗マウス二次抗体]200nM)を含有する培地も微小液滴に乳化され、第2のパネルに分類された。第1および第2のパネルは対にしてマージされ、マージした微小液滴のパネルを生成した。ビーズ上のフィルター蛍光((exc. 457/50nm)/a.u.)をスパイキングランの各マージした微小液滴について経時的に測定し、各ハイブリドーマ細胞株について抗標的抗体分泌曲線を作成した(
図13)。無関係なハイブリドーマ細胞株からのAF488シグナルは陰性対照と区別できなかった。すべての標的ハイブリドーマは陽性シグナルを示した。凝集物は約4時間後に液滴中に形成され始め、9時間後には分析に支障をきたし始めた。
【0262】
単細胞分泌データも収集され、単細胞からの抗体分泌の時間依存性を示す単細胞分泌曲線が作成された。ビーズは128nMで投入され、ビーズ蛍光はビーズと抗体のマージから数えて7時間にわたって測定された。この結果は複数回の実行で再現された。単一細胞のデータを収集するため、第1パネルおよび第2パネルをマージする前に、複数占有のハイブリドーマ細胞微小液滴は廃棄された。
【0263】
[多重化ビーズ]
ハイブリドーマの培地中で、マイクロ流体プラットフォームで一括してイメージングをテストした。高濃度のビーズ(SolR1、R3、およびR5ビーズ)をそれぞれ含有する微小液滴を装置に投入した。異なる倍率(2倍、4倍、10倍)でイメージングをテストし、すべての強度バンド(R1、R3、R5)を良好に分離し、強度の定量化のためビーズを適切に分解できるようにしながら、イメージングに最適なパラメータを決定した。すべての強度バンド間の良好な分離は10倍で達成され、まずまずの分離は4倍で得られた。
【0264】
色コード化されたビーズ(solR1、R3、R5)には、それぞれサイノ標的抗原、オフターゲット抗原、およびヒト標的抗原が結合している。抗原結合ビーズおよび抗マウスAF488検出抗体を含む細胞培養培地はその後微小液滴に乳化され、Lightcastプラットフォームに投入された。各々が単一の標的または無関係なハイブリドーマ細胞を含有する微小液滴も得られ、各々が分泌産生物を含有する微小液滴のパネル、および、各々が対応するハイブリドーマ細胞を含有する微小液滴の参照パネルを生成するように分割し、分泌抗体の各容量がどのハイブリドーマ細胞に由来するかを追跡した。次に、レポーター(ビーズおよび検出抗体)を含有する微小液液滴を、分泌抗体を含有する微小液滴と対にしてマージした。マージした微小液滴および対照微小液滴の特性を、ビーズの強度バンドのデコード、および同時発生的なAF488蛍光の定量化の両方が可能なLightcast検出システムを用いてモニタリングした。細胞を含有しない陰性対照の微小液滴(レポーターのみ)および無関係なハイブリドーマ細胞を含むマージされた微小液滴は、暗いままであり、一次抗体がないことを確認された。レポーターおよび遊離標的抗体[25nM]を含有する陽性対照の微小液滴は、遊離標的抗体が両方の標的抗原(R1およびR5)に結合することを確認した。分泌抗体を含有する微小液滴も、両方の標的抗原に結合した(
図15)。
【0265】
[抗体発見のワークフロー]
B細胞は微小液滴に乳化され、マイクロ流体プラットフォームに投入される。空または複数占有の微小液滴は廃棄される。単一B細胞を含有する残りの微小液滴は、体積を増やすために、細胞培養培地を含む微小液滴と対にしてマージし、その後の分割ステップを容易にする。その後、マージした微小液滴はモノクローナル抗体の産生を促進するためにオンチップでインキュベートされ、娘液滴に分割して各細胞が産生する抗体を複数回分取得する。B細胞を含有する微小液滴は参照パネルに分類され、一方、抗体の投与量を含む微小液滴は別のパネルに分類され、抗原結合ビーズおよび検出抗体を含有する微小液滴のレポーターパネルと対にしてマージする。光学的検出システムは、レポーター―mAbパネルの陽性ヒットを判定するのに用いられる。前記陽性ヒットに対応するB細胞を含有する参照パネルの微小液滴をウェルプレートに分注し、増殖する(
図16)。
【0266】
(実施例5)―細菌のワークフロー
細菌細胞は微小液滴で乳化され、Lightcastプラットフォームに投入される。空または複数占有の微小液滴は廃棄される、単一細菌細胞を含有する残りの微小液滴は、体積を増やすために細胞培養培地を含有する微小液滴と対にしてマージし、その後の分割ステップを容易にする。マージした微小液滴は増殖し、クローンコロニーに分割する。クローン性細菌細胞を含有する微小液滴のセットが参照パネルに分類される一方、クローン性細菌細胞を含む微小液滴の他のセット、または前記細菌細胞の分泌物を含有する微小液滴のセットは、微小液滴のアッセイパネルに分類される。微小液滴のアッセイパネルは、微小液滴のレポーターパネルと対にしてマージする。アッセイ成分が細菌膜の内部にある場合、どの段階でも細菌細胞は溶解して内容物を放出させることができる。光学的検出システムは、マージしたレポーターパネルの陽性ヒットを判定するのに用いられる。前記陽性ヒットに対応する細菌細胞を含有する参照パネルの微小液滴をウェルプレートに分注し、増殖する(
図17)。
【0267】
(実施例6)―マージおよび/または分割する微小液滴の明視野イメージング
図19A~
図19Cは、例示的なマージ操作の明視野像である。液滴の対が、装置全体で並列にマージされる。
図19Aは、マージ操作のために選択された微小液滴の対を示す。
図19Bは、対になった微小液滴が近接し、マージの準備が整った状態を示す。
図19Cはマージした微小液滴を示す。
【0268】
図20A~
図20Cは、例示的な分割操作の明視野像である。微小液滴は2対の娘微小液滴に並列に分割される。
図20Aは、分割操作を待つアレイ内の液滴を示す。
図20Bは、分割操作の途中で引き伸ばされた微小液滴を示す。
図20Cは、娘液滴の対に分割した微小液滴を示す。操作によって履歴情報を保持し、子孫液滴の全情報を得ることができる。
【0269】
図21を参照すると、単一細胞占有で液滴にカプセル化された出芽酵母(S. cerevisiae)バイオ粒子(熱不活性化酵母)の明視野像が示されている。
【0270】
(実施例7)―オイル内にある細胞培地のエマルジョン中の液滴内にレポータービーズでカプセル化された細胞
図22を参照すると、オイル内にある細胞培地のエマルション中の微小液滴内でサイトカインレポータービーズと共封入されたサイトカイン分泌細胞の画像が示されている。分泌サイトカインの存在下では、蛍光標識をつけた抗体を用いたサンドイッチELISAメカニズムによりレポータービーズが蛍光を発する。
図22Aに示すように、明視野像は微小液滴内の細胞およびビーズの分布を示す。
図22Bに示す蛍光画像は、分泌サイトカインの存在下でどのレポータービーズが陽性反応を示すかを示している。
図22Cは、無傷の膜の完全性を有するすべての細胞の位置を示す。
図22Dに示す蛍光画像はすべてのビーズの位置を示し、
図22Eはヨウ化プロピジウム染色で示した死細胞を示す。
【0271】
図24を参照すると、オイル内にある細胞培地のエマルション中の微小液滴内でレポータービーズと共封入されている抗体分泌細胞の画像示されている。分泌した抗体の存在下では、蛍光標識をつけた抗体を用いたサンドイッチELISAメカニズムによりレポータービーズが蛍光を発する。
図24Aの明視野像は、微小液滴内の細胞およびビーズの分布を示す。
図24Bに示す蛍光画像は、分泌した抗体の存在下でどのレポータービーズが陽性反応を示すかを示している。
図24Cは、無傷の膜の完全性を有する全細胞の位置を示し、
図24Dは死細胞を示す。
【0272】
(実施例8)―微小液滴操作のモジュール設計
図23は、独自のワークフローを構築するために、どのような順序でも、全部または一部を柔軟に組み合わせることができる操作のモジュール設計の概要を示す。プログラム可能な決定は、ワークフローを通して任意の時点で実施することができ、デシジョンツリー(決定木)論理のナビゲーションに基づいて、元の順序から逸脱する、および/または、選択した微小液滴のみに操作を適用したりすることができる。このように、アッセイは動的に再構成することができる。例示的なモジュールが示されているが、これらに限定されるものではなく、微小液滴の投入および/または分類、微小液滴のマージ、インキュベーション、アッセイ、分割、およびエクスポートが挙げられる。微小液滴の分類の例としては、サイズ、内容物、および/または占有率に基づく分類が挙げられるが、これらに限定されない。液滴をマージさせることで、試薬および/またはレポーターの供給が可能になり、細胞間相互作用を促進するための細胞の制御された導入が可能になる。液滴を分割することで、材料を回収して下流の分析に使ったり、細胞回収の場合はさらに増殖したりすることができる。
【0273】
図25に示すワークフローは、細胞分泌または細胞間相互作用をモニターするために利用可能な様々な検出モードを例示している。検出は、蛍光検出、発光検出、FRET検出、明視野検出などが挙げられるが、これらに限定されない。細胞内イメージングでは、細胞または細胞容器の一部内のシグナルを明らかにすることができ、その例としては、核、ゴルジ体、および/または、ミトコンドリアなどが挙げられる。
【0274】
(実施例9)―合成生物学ワークフロー、哺乳類細胞株開発および/またはCRISPRスクリーニング
図26は、合成生物学、哺乳動物細胞株開発、および/またはCRISPRスクリーニングに適した例示的なワークフローの概要であるが、これらのスクリーニングに限定されるものではない。目的の産生物を生成するように設計された細胞は、プラットフォームに投入され、液滴に含有され、これは、単一細胞を選択するために占有率で分類することができる。細胞をインキュベートして、プラットフォーム上で一定期間増殖させることができる。増殖をモニターすることで、健全なクローンを選択することができる。微小液滴は随意的に分割することができ、液滴サイズを制御し、または、下流分析のために産生物または細胞のいずれかを収集する一方、代替操作のための集団を保持する。集団の保持は、娘微小液滴上で細胞の分解をもたらす可能性のあるアッセイステップを実施しながら、第2の娘微小液滴でさらなる試験を行うために生きた細胞を保持する場合に特に有用である。マージすることにより、液滴の大きさを制御し、細胞液滴に成分、例えば、細胞寿命を延ばすための培地および/またはレポーター、を供給することができる。レポーターは、細胞の生産性を評価するために、様々な検出モードによる力価の読み出しを容易にすることができる。微小液滴はプラットフォームから分注し、回収することができる。細胞を回収することで、さらなる増殖または下流分析が可能になる。あくまで一例だが、産生物の回収は産生物の品質評価を可能にする。操作の順序は自由に変更できる。例えば、産生性が高く、増殖性の高いトップクローンなど、スクリーニング中に実施された評価に基づいて、微小液滴を分注することができる。
【0275】
(実施例10)―微小液滴の分類操作ワークフロー
図27を参照すると、モジュラー操作のシーケンス例に従った例示的なワークフローが提供されており、ワークフロー全体を通して、微小液滴を随意的に分類できる可能性のあるポイントを示している。分類は、液滴の大きさ、内容物、占有率、アッセイ結果、またはそれらの組み合わせなど、多くの要因に基づいて行うことができる。明視野、蛍光、ルミネッセンス、FRETは、微小液滴内におけるレポーターまたは細胞のどこにシグナルが局在化できるかを分類するための検出モダリティのいくつかの例である。
【0276】
(実施例11)―微小液滴にカプセル化された細胞の明視野イメージング
図28A~28Dを参照すると、細胞内カルシウムの色素の存在下でインキュベートされた、微小液滴内にカプセル化された細胞の複数の画像が提供されている。
図28Aは液滴の明視野像で、各液滴内の細胞の位置および数を示している。
図28Bは、活性化したカルシウム代謝を示す蛍光画像を示している。
図28Cは細胞の核染色の蛍光画像、
図28Dはヨウ化プロピジウム染色で示された死細胞を示している。
【0277】
本発明の様々なさらなる態様および実施形態は、本開示の観点から当業者には明らかであろう。
【0278】
本明細書で使用される「および/または(and/or)」は、2つの指定された特徴又は構成要素の各々について、他方の有無にかかわらず具体的に開示されているものとみなされる。 例えば、「Aおよび/またはB」は、(i)A、(ii)B、および(iii)AおよびBのそれぞれの具体的な開示とみなされ、あたかもそれぞれが本明細書に個別に記載されているかのように解釈される。
【0279】
文脈から別段の指示がない限り、上記に記載された特徴の説明および定義は、本発明の特定の態様または実施形態に限定されるものではなく、記載されたすべての態様および実施形態に等しく適用される。
【0280】
本発明をいくつかの実施形態を参照して例示的に説明したが、本発明は開示された実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の要旨から逸脱することなく代替の実施形態を構築し得ることが当業者にはさらに理解されるであろう。
【国際調査報告】