(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】光電磁エネルギー照射を用いたリチウム金属電池の陽極電極の製造方法、及びリチウム金属電池の陽極電極
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20240312BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240312BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20240312BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240312BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240312BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20240312BHJP
H01M 4/52 20100101ALI20240312BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20240312BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M4/62 Z
H01M4/48
H01M4/50
H01M4/52
H01M4/1395
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557750
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-09-15
(86)【国際出願番号】 KR2022003612
(87)【国際公開番号】W WO2022197068
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】10-2022-0028234
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523353834
【氏名又は名称】ビチュロセル カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】523357441
【氏名又は名称】メイクセンス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,シモン
(72)【発明者】
【氏名】パク,チャニル
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,ホンソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】パク,キョンス
(72)【発明者】
【氏名】カン,ジフン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA16
5H050CA11
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA02
5H050FA13
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA24
5H050GA30
5H050HA05
(57)【要約】
本開示は、電池の電気化学的特性を低下させ、電池構造に致命的なダメージを与えるリチウムデンドライトの成長を抑制するリチウム金属陽極電極に関し、特に、光電磁エネルギー照射を含む、3次元高空隙率構造又は金属系若しくは炭素系3次元網目構造を有する陽極電極の製造方法に関する。
【選択図】
図2b
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属電池の陽極電極であって、
集電体と、
前記集電体上に設けられたリチウム金属層と、
前記リチウム金属層上に設けられ、3次元連続気泡多孔質構造を有する保護層と、
前記保護コーティングの表面上に設けられたリチウム合金金属と、を含む、リチウム金属電池の陽極電極。
【請求項2】
前記リチウム金属層はエンジニアリングされた表面テクスチャを有する、請求項1に記載の陽極電極。
【請求項3】
前記保護層は、重合体マトリックス、導電性炭素添加剤及び構造支持材料を含む連続気泡ナノ多孔質重合体ナノ複合材料層である、請求項1に記載の陽極電極。
【請求項4】
前記保護層は、3次元連続気泡多孔質構造を有するカーボンナノファイバーマットレスを含む、請求項1に記載の陽極電極。
【請求項5】
前記保護層は、3次元連続気泡多孔質構造を有する、親リチウム性金属酸化物を含むカーボンナノチューブ網目を含む、請求項1に記載の陽極電極。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ網目は、勾配親リチウム性を有し、最上層が疎リチウム性カーボンナノチューブであり、最下層が親リチウム性金属酸化物-カーボンナノチューブ複合材料であり、親リチウム性は、親リチウム性金属酸化物の濃度が増加するにつれて、最上層から最下層に向かって徐々に増加する、請求項5に記載の陽極電極。
【請求項7】
前記親リチウム性金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化チタンのうちの1種又は複数種を含む、請求項5に記載の陽極電極。
【請求項8】
前記リチウム合金金属は、インジウム、スズ、ビスマス、ガリウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、白金、ゲルマニウム、及びフィールド金属から選択される低融点金属である、請求項1に記載の陽極電極。
【請求項9】
リチウム金属電池の陽極電極であって、
金属集電体と、
前記金属集電体上に設けられた3次元網目構造と、を含み、
ここで、前記3次元網目構造は、金属系構造又は炭素系構造である、リチウム金属電池の陽極電極。
【請求項10】
前記3次元網目構造の表面に形成されたリチウム合金金属層をさらに含む、請求項9に記載の陽極電極。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載のリチウム金属電池の陽極電極の製造方法であって、
集電体上にリチウム金属層を設けるステップと、
前記リチウム金属層上に、3次元連続気泡多孔質構造を有する保護層を形成するステップと、
前記保護コーティングの表面上にリチウム合金金属層を形成するステップと、を含み、
ここで、保護コーティングを形成するステップ及びリチウム合金金属コーティングを形成するステップのうちの少なくとも一方は、光電磁エネルギー照射を含む、製造方法。
【請求項12】
前記保護層を形成するステップは、
第1重合体と、第1重合体よりも沸点の低い第2重合体と、導電性炭素添加剤と、構造支持添加剤と、溶媒とを混合したスラリーを調製するステップと、
薄膜コーティング方法を用いて、スラリーをリチウム金属層上に塗布し、その後、風乾して中間コーティングを形成するステップと、
中間コーティングに光電磁エネルギーを照射し、中間コーティング中の第2重合体を蒸発させてナノ孔を形成するステップと、を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1重合体及び前記第2重合体は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ポリジアセチレン(PDAs)、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、グリセロール、スクロース、セルロース、及びリグニンから選択され、
前記導電性炭素添加剤は、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNP)、及び炭素ドットから選択され、
前記構造支持添加剤は、六方晶窒化ホウ素(hBN)、ケイ素ナノワイヤ(SiNW)、及びアルミナから選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
保護層を形成するステップは、
ナノファイバー前駆体溶液を製造するステップと、
前記ナノファイバー前駆体溶液をエレクトロスピニングして、重合体ナノ複合材料製のナノファイバーマットレスを製造するステップと、
前記重合体ナノ複合材料ナノファイバーに光電磁エネルギーを印加して、前記重合体ナノ複合材料ナノファイバーを炭化し、カーボンナノファイバーマットレスを形成するステップと、
前記カーボンナノファイバーマットレスをリチウム金属陽極に付着させるステップと、を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノファイバー前駆体溶液は、重合体と、導電性炭素添加剤と、溶媒と、を含み、
ここで、前記重合体は、ポリアミド(PA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリウレタン(PU)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリジアセチレン(PDAs)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、コラーゲン、及びセルロースアセテート(CA)のうちの1種又は複数種を含み、
ここで、前記導電性炭素添加剤は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNP)、及び炭素ドットのうちの1種又は複数種を含み、
ここで、前記溶媒は、水、アセトン、ギ酸、クロロホルム、イソプロパノール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びテトラハイドロフラン(THF)のうちの1種又は複数種を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記カーボンナノファイバーマットレスを付着させるステップは、
熱応力と圧縮応力を同時に印加して、カーボンナノファイバーマットレスをリチウム金属層に付着させるステップを含み、
熱応力及び圧縮応力は圧延機、圧縮成形機及びホットプレスによって印加される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
保護コーティングを形成するステップは、
親リチウム性金属酸化物と疎リチウム性カーボンナノチューブのナノ複合材料前駆体を溶媒中で混合するステップと、
薄膜コーティング方法を用いて、親リチウム性金属酸化物と疎リチウム性カーボンナノチューブとのナノ複合材料をリチウム金属層上に堆積させるステップと、
光電磁エネルギーを印加して、溶媒を急速に乾燥させ、親リチウム性金属酸化物の濃度が上から下に向かって徐々に増加するカーボンナノチューブ網目を形成するステップと、を含み、
ここで、前記カーボンナノチューブ網目は、最上層が疎リチウム性カーボンナノチューブであり、最下層が親リチウム性金属酸化物カーボンナノチューブ複合材料であり、
ここで、前記親リチウム性金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化チタンのうちの1種又は複数種を含み、
ここで、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、二層カーボンナノチューブ(DWCNTs)、多層カーボンナノチューブ、官能化カーボンナノチューブ、又は短いカーボンナノファイバーを含み、
前記溶媒は、水、エタノール、ヘキサン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、又はこれらの組み合わせを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
保護層上にリチウム合金金属を塗布するステップは、
粉末状リチウム合金金属を保護コーティング上に堆積させ、圧延プロセスを利用して粉末状リチウム合金金属を前記多孔質構造を介して前記保護コーティングに浸透し、光電磁エネルギー照射を行い、前記粉末状リチウム合金金属を溶融し、その後、毛細管作用に基づいて、溶融したリチウム合金金属を保護コーティングの表面上に塗布するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
サンドブラストを利用してリチウム金属層上にエンジニアリングされた表面テクスチャを形成するステップをさらに含み、
ここで、サンドブラスト用研磨材は、1μm~100μmの範囲のアルミナ、粉砕シリカ粉末又はソーダライムガラスビーズを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
請求項9又は10に記載のリチウム金属電池の陽極電極の製造方法であって、
金属ナノ粒子前駆体、導電性炭素添加剤、重合体担体及び溶媒のうちの1種又は複数種を混合したスラリーを形成するステップと、
薄膜コーティング方法を用いて、前記スラリーを金属集電体上に堆積させるステップと、
光電磁エネルギーを照射して、堆積させたスラリーを焼結するステップと、
光電磁エネルギー照射後のスラリーを焼結し、3次元金属系網目構造を形成するステップと、を含む、製造方法。
【請求項21】
前記金属ナノ粒子前駆体は、銅系ナノ粒子前駆体と銀塩とを含み、
ここで、前記銅系ナノ粒子前駆体は、銅、酢酸銅、酸化銅及びギ酸銅四水和物から選択される1種又は複数種であり、
ここで、前記銀塩は、銀、硝酸銀、亜硝酸銀、酢酸銀及び銀塩を含むナノ粒子のうちの1種又は複数種の組み合わせを含み、
ここで、前記導電性炭素添加剤は、カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、官能化カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラフェンナノプレートレットのうちの1種又は複数種の組み合わせを含み、
ここで、前記重合体担体は、ポリエチレングリコール(PEG)に溶解したポリビニルピロリドン(PVP)の組み合わせを含み、
前記溶媒は、水、脱イオン水、エタノール、ギ酸、硝酸、又は硫酸のうちの1種又は複数種の組み合わせを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
3次元金属系網目構造上にリチウム合金金属を塗布するステップをさらに含み、
3次元金属系網目構造上にリチウム合金金属を塗布するステップは、
粉末状リチウム合金金属を3次元金属系網目構造上に堆積させ、圧延プロセスを利用して粉末状リチウム合金金属を前記多孔質構造を介して前記3次元金属系網目構造に浸透し、光電磁エネルギー照射を行い、粉末状リチウム合金金属を溶融し、その後、毛細管作用に基づいて、溶融したリチウム合金金属を3次元炭素系網目構造の表面上に塗布するステップを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
請求項9又は10に記載のリチウム金属電池の陽極電極の製造方法であって、
炭素前駆体、導電性炭素添加剤及び溶媒を混合して、スラリーを調製するステップと、
薄膜コーティング方法を用いて、前記スラリーを金属集電体上に堆積させるステップと、
堆積させたスラリーに光電磁エネルギーを印加して、スラリーを炭化し、3次元炭素系網目構造を形成するステップと、を含む、製造方法。
【請求項24】
前記炭素前駆体は、アスファルテン、メソフェーズピッチ、セルロース、セルロースナノ結晶、及びリグニンから選択され、
ここで、前記導電性炭素添加剤は、カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、官能化カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラフェンナノプレートレットのうちの1種又は複数種の組み合わせを含み、
ここで、前記溶媒は、水、脱イオン水、及びエタノールのうちの1種又は複数種の組み合わせを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
3次元炭素系網目構造上にリチウム合金金属を塗布するステップをさらに含み、
3次元金属系網目構造上にリチウム合金金属を塗布するステップは、
粉末状リチウム合金金属を3次元金属系網目構造上に堆積させ、圧延プロセスを利用して粉末状リチウム合金金属を前記多孔質構造を介して前記3次元金属系網目構造に浸透し、光電磁エネルギー照射を行い、粉末状リチウム合金金属を溶融し、その後、毛細管作用に基づいて、溶融したリチウム合金金属を3次元炭素系網目構造の表面上に塗布するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記光電磁エネルギー印加は、低沸点材料を蒸発させ、重合体及び炭素前駆体材料の炭化を誘導し、導電性金属ナノ粒子を焼結し、
ここで、前記光電磁エネルギー印加は、短時間で高エネルギーを印加し、炭素添加剤が高吸収率でエネルギーを吸収し、照射面のみにエネルギーが印加され、
ここで、光電磁エネルギーは、強いパルス光、マイクロ波、レーザ、プラズマ、又は赤外線炉の照射により印加される、請求項11、12、14、17、20、及び23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
請求項12、15、17、及び20に記載の方法によって光電磁エネルギーを印加するときに基材を冷却する冷却装置であって、
前記冷却装置は、光電磁エネルギーの直接照射下において、前記材料に接触する基材の温度を低下させ、過熱による基材の損傷を防止するものであり、前記冷却装置は、
i.熱伝導性金属付きホルダープレートと、
ii.ペルチェ素子から選択される熱交換器システム、又は冷媒が熱交換器に圧送された状態でホルダープレートを通過する熱交換器システムと、を含む、冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属電池の陽極電極及びその製造方法を開示する。
【0002】
具体的には、本開示のリチウム金属電池の陽極電極の製造方法は、光電磁エネルギー照射により基材上に3次元構造を形成して、陽極電極の表面積を大幅に増加させ、リチウムイオン拡散を強化し、界面抵抗を減少させ、リチウムデンドライト成長を抑制することを含む。
【0003】
一実施例では、前記リチウム金属電池の陽極電極の製造方法は、リチウム金属基材上に3次元構造を形成することを含む。前記3次元構造は、導電性重合体ナノ複合材料の層のナノ多孔質構造であってもよいし、炭素フレームの3次元構造であってもよい。別の実施例では、前記リチウム金属電池の陽極電極の製造方法は、集電体上に直接塗布された銅銀カーボンナノチューブからなるリチウム金属の3次元多孔質構造を形成することを含む。
【背景技術】
【0004】
高エネルギー密度二次電池に対する市場の需要が高まっていることから、従来のグラファイト陽極に代わる新たな陽極材料を探し始めている。各種候補材料のうち、リチウム金属は高い理論比容量(3860mAh/g)と低い密度(0.59g/cm3)から、リチウム二次電池の陽極材料として好適である。しかし、リチウム金属陽極はこれらの利点を有しているにもかかわらず、リチウム二次電池への大規模な応用には、リチウム化サイクル中の大きな体積変化とリチウムデンドライトの成長といういくつかの重要な課題がある。
【0005】
リチウムデンドライトは、充電中に陽極上に形成される金属ミクロ構造である。電極の堆積速度が異なるため、陽極表面には追加のリチウムイオンが蓄積され、堆積/溶解を繰り返すうちに成長し、その際にリチウムデンドライトが形成される。リチウムデンドライトの成長はセパレータを突き刺して電池内部をショートさせ、電池を損傷させ、発火や爆発の原因となる壊滅的な故障を引き起こすことがある。
【0006】
電池の使用中にリチウムメッキが行われると、デンドライトはリチウム金属表面の核形成点から成長する。リチウムデンドライトが破断され、不可逆的なリチウムとなり、電池容量が低下する。極端な場合、リチウムデンドライトがある程度成長すると、陰極と陽極をつないで短絡を引き起こし、セパレータを傷つけて、発火や爆発に至ることがある。充放電サイクル中に、リチウムデンドライトの成長やリチウム金属陽極の体積変化は、物理的損傷、層間剥離及び固体電解質相界面(SEI)層の破断を引き起こすことができる。これにより、リチウム金属陽極と電解質との間で持続的な反応が起こり、新しいSEI層が形成され、電解質が消費される。
【0007】
リチウムデンドライトの形成過程
【0008】
リチウム金属電池に関連する難題を解決し、リチウムデンドライトの形成と成長のメカニズムを理解するために、研究者は多くの努力を払ってきた。一般に、リチウムデンドライトの発生原因は、電荷分布の不均一化によるリチウム析出の不均一化である。例えば、集電体上の粗面は、粗面の先端付近でのイオン流の集中を引き起こし、ピーク付近でのリチウムイオンの析出を促進し、デンドライトを形成することもある。デンドライトの成長点(粗面の先端など)は核形成点と呼ばれる。
【0009】
理論的には、リチウムデンドライトが成長することを示すモデルはいくつかある。Chazlvielモデル[Chazlviel 1990]では、陽極表面付近のアニオンが枯渇することにより空間電荷が存在し、これにより、リチウムデンドライトが形成されることが指摘されている。このモデルは、イオンと電界の流動性に基づいてデンドライトの成長速度を説明する。デンドライトの出現までの時間は、電流密度が高くなるとデンドライトの出現までの時間が短くなるというスキャッチャード方程式に従う。
【0010】
MonroeとNewman[MonroeとNewman 2003]によって提案されたもう1つのモデルは、デンドライトの成長がセパレータの弾性に依存し、固体電解質を備えたリチウム金属電池に適していると主張している。このモデルは、電解質の機械的強度が十分に高ければ、デンドライトの成長を回避できることを示している。しかし、このように高い弾性率を持つ電解質は、イオン伝導性を低下させ、バッテリの正常なサイクル機能を妨げるため、この解決策は現実的ではない。
【0011】
デンドライト抑制方法:電気化学的に安定な電解質
【0012】
前述した他のモデルの多くは、これに改良を加え、リチウムデンドライトの成長を抑制するための基本的な考え方を提供している。1つの方法は、アニオン結合混合電解質、特にアニオン液体-ナノ粒子混合電解質のような電気化学的特性がより安定な電解質を使用することである。このイオン液体の一例が1-メチル-3-プロピルイミダゾール(IM)TFSI[Luら2014]である。上記電解質は、電気化学的特性が安定し、引火性がなく、誘電率が高い。これらの電気化学的安定性は、アニオンがカチオンに接続され、カチオンが無機粒子に共有結合してアンカーされているような独特な構造に由来している。スキャッチャードモデルによれば、この場合、アニオンが固定されると、デンドライトの出現には無限に長い時間がかかる。
【0013】
電解質の最適化を含む、リチウム金属陽極におけるデンドライトの成長を防止又は抑制するいくつかの技術が提案されている。しかし、このような方法は、電池の電気化学的特性に悪影響を与える。デンドライトの成長を抑制するもう1つの方法は、陽極の表面に保護層を追加し、安定な固体電解質相界面(SEI)層を形成することである。いくつかの研究によると、3次元構造は、核形成点をその表面全体に均一に分布させることで一貫した成長を調節でき、それによって、デンドライトを形成するのではなく、陽極全体にリチウムの均一な堆積を誘導することができる。また、この構造が局所的な電流密度を低下させ、リチウムデンドライトの形成を防ぐことも研究から明らかになった。
【0014】
このような3次元構造は、3次元カーボンペーパー、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、導電性重合体ナノ複合材料、金属ファイバー、さらにはリチウム金属自体を含む様々な材料を用いて製造されてもよい。
【0015】
リチウム金属陽極電極、US 10483534B2
【0016】
本願は、2つの異なる層(すなわち、リチウム金属層と多孔質導電層)からなる陽極電極に関する。まず、多孔質導電層は、集電体と導電負荷層との2つの層を含んでもよく、これらの層はいずれも複数の空隙を有する。それはさまざまな材料でできていて、透水性のメッシュ、網目や棒状の構造、又はそれらの組み合わせを形成することができる。多孔質導電層は、リチウムを堆積させるためにより大きな表面積を提供し、安定したSEIを形成し、リチウムデンドライトの形成を減少させる。さらに、多孔質導電層の存在により、リチウム金属表面からリチウムデンドライトが成長したり、リチウム金属表面及びセパレータにより接近したりする。さらに、陽極の導電率もより均一になり、リチウムデンドライトが減少する。
【0017】
本願では、デンドライトの成長を抑制し、致命的な故障の発生を防止することができる、リチウム金属陽極上に塗布された3次元構造の基本構造について述べた。しかし、3次元導電構造の存在は示していない。
【0018】
リチウム金属保護層及びその製造方法、並びにリチウム金属保護層を有する電池、CN111490252A
【0019】
本願は、リチウム金属陽極の多孔質保護層に関する。保護層は、均一に分散したリチウム合金や窒化リチウムを生成することができ、リチウムイオン拡散能を向上させ、リチウムデンドライトの生成を抑制することができる。この方法では、経済的な材料を用いてリチウム金属陽極をスラリー中に塗布し、その後、乾燥させて、保護層を形成する。保護層の材料は、金属化合物、導電剤及びバインダーを含む。金属化合物は、金属窒化物、アルミナ、フッ化アルミニウム又は非リチウム化テトラアルミニウムであってもよい。本願では、リチウム金属陽極上に多孔質構造を形成するプロセスについて詳しく説明したが、スラリーの単純な堆積プロセスと単純な乾燥プロセスに限定されている。
【0020】
リチウム金属電極の表面変性、DE102013114233A1
【0021】
本願では、リチウムデンドライトの成長を抑制するために、リチウム金属陽極(又は他の金属陽極)の表面構造を直接変性することが提案されている。このプロセスでは、金属陽極の表面に様々な幾何学的形状の溝、すなわち、ブラインドホール状の溝やテーパー状の溝が形成される。前記溝の横断面は、矩形、台形、ドーム形又は三角形である。成形中に、圧延ロールを使用してマイクロニードルロール又はレーザにより所望の溝形状を生成する。リチウム金属などの軟質金属を使う場合、溝の両側には成形時に特殊な方法により溝が入っている。
【0022】
金属陽極に形成された溝は、電極の表面積を増加させる。表面積を大きくすることにより、放電率、充電率及びサイクル安定性が向上し、最終的に界面抵抗が減少する。さらに、サイクル安定性の向上は、デンドライトの成長抑制に繋がる。
【0023】
リチウム金属電極の表面変性、KR100449765B1
【0024】
本願は、一体化されたセパレータ層、集電体層及び保護膜層からなるリチウム金属陽極に関する。セパレータ層は、多孔質ポリエチレン、ポリプロピレン、又はそれらの多層構造から構成されていてもよい。電解液の滲出率が低いため、セパレータとリチウム金属層との間の保護膜層はリチウムイオン伝導性が高い。保護膜は、有機材料及び無機材料を含んでいてもよい。
【0025】
本願は、一体化されたセパレータ層及び保護層を有するリチウム金属電極に関する。しかし、保護層の製造には、原材料の材料特性を改善するための後処理は含まれない。
【0026】
Ti
2
C薄膜を含むリチウム金属電池用陽極、その製造方法、及び前記リチウム金属電池用陽極を含むリチウム金属電池、KR 20190102489A
【0027】
本願では、リチウム金属陽極上にTi2C薄膜を形成することにより、安定したSEIを形成し、リチウムデンドライトの形成を抑制することが提案されている。Ti2C薄膜は、リチウムイオンの迅速かつ安定な拡散を誘導し、リチウムデンドライトの形成を防止することができる。また、リチウム金属と電解質との間の不要なガルバノメータ反応を防止し、SEIの安定性を向上させることもできる。さらに、本願はまた、分散Ti2C粉末を含む溶液を用いて、基材上にTi2C薄膜を形成する方法、Langmuir-Blodgett scooping(LBs)法、及び形成されたTi2C薄膜をリチウム金属陽極の表面に転写する方法に関する。
【0028】
本願は、デンドライトの成長を抑制するのに有効な方法を提案したが、Ti2C薄膜の形成とリチウム金属陽極へのその転写は、リチウム金属陽極のエッチングプロセスを伴うため、時間と費用がかかる。
【0029】
コーティング付きリチウム電極、US6955866B2
【0030】
本願は、陽極がリチウムと他の2つの金属からなる三元合金層である、リチウム金属陽極を用いた電気化学電池に関する。特に、リチウム以外の第1金属は、リチウムサイクル中の体積変化に対応するためのマトリックスを提供し、第2金属は、リチウム及び第1金属と合金化される。第1金属は銅であってもよく、第2金属はスズであってもよい。三元合金層が塗布されたリチウム金属陽極は、より高い陽極安定性及びリチウムサイクル効率を示す。
しかし、この方法には必ずリチウムを他の金属と合金化することが含まれる。
【0031】
安定化リチウム陽極の界面加工、US10256448B2
【0032】
本願は、電解質に対するリチウム金属の反応性を制御し、リチウム化サイクル中の顕著な体積変化に対応することができる界面層からなるリチウム金属陽極を用いた電気化学電池に関する。界面層は、その壁部をリチウムイオンが通過することを許容する。また、界面層の一方の側に安定な固体電解質相界面(SEI)を形成し、他方の側のリチウム金属の析出と溶解を隔離することができる。界面層は、リチウム金属陽極の体積変化に対応するために、界面層とリチウム金属陽極との間に空間を空けて、リチウム金属陽極に緩く付着させる。
【0033】
界面層は、グラフェンとh-BN(六方晶窒化ホウ素)とからなる2次元原子結晶層状材料を含む。これらは、電解質やリチウム金属に対して化学的に不活性であり、頑丈で耐久性に優れている。さらに、細孔径が小さく、超薄で柔軟性に優れているという特徴もある。しかし、h-BNは絶縁性を持つため、グラフェンなしでそのまま使用することはできない。
【0034】
本願は、リチウム金属の反応性を機械的及び化学的に効果的に制御する方法を提案する。しかし、グラフェンとh-BNの界面層を形成するには高温(1000℃)と制御された環境が必要なため、高価なプロセスとなる。
【0035】
スペーサを含むリチウム金属重合体二次電池のリチウム金属陽極及びその形成方法、KR100582558B1
【0036】
本願は、格子状スペーサによって分離されたリチウム金属陽極に関する。スペーサは、集電体に積層され、リチウム金属膜よりも厚い。スペーサ間の開口部は多角形、円形又は楕円形であってもよく、スペーサはガラス強化ファイバー、カーボンファイバー又はアルミナを主成分として製造される。
【0037】
リチウム化サイクルでは、スペーサ間の間隙において、分離されたリチウム金属膜の体積が増加する。これにより、実際の電池の体積を変えずにリチウム金属陽極の体積を変化させることができ、これによって、SEIを維持し、リチウム金属電池の安定性を向上させることができる。
【0038】
前述した方法では、デンドライトの形成を抑制し、リチウム二次電池におけるリチウム金属陽極の安定性を向上させるための様々な方法が提案されている。しかし、これらの方法は、電池の安定性をある程度高めたが、量産の場合は経済的な解決策ではない。
【0039】
先行技術文献
【0040】
特許文献
【0041】
(文献001)US 10,483,534 B2
【0042】
(文献002)CN 111490252 A
【0043】
(文献003)DE 102013114233 A1
【0044】
(文献004)KR 10-0449765 B1
【0045】
(文献005)KR 2019-0102489 A
【0046】
(文献006)US 6,955,866 B2
【0047】
(文献007)US 10,256,448 B2
【0048】
(文献008)KR 10-0582558 B1
【0049】
非特許文献
【0050】
(文献001)YY. Guo, H. Li, and T. Zhai, Adv. Mater., 2017, 29, 1700007.(『先端材料』)
【0051】
(文献002)L, Li, S. Li, and Y. Lu, Chemical Communication, 2018, 54, 6648 - 6661.(『化学通信』)
【0052】
(文献003)C. Monroe and J. Newman, J. Electrochem. Soc., 2003, 150, A1377(『電気化学学会誌』)
【0053】
(文献004)Y. Lu, K. Korf, Y. Kambe, Z. Tu and L. A. Archer, Angew. Chem., Int. Ed. Engl., 2014, 53, 488 - 492.(『ドイツ応用化学国際版(英語版)』)
【0054】
(文献005)N. Chazalviel, 1990, Physical Review A: Atomic, Molecular, and Optical Physics and Quantum Information, 42, 7355 - 7367.(『物理学概説 A: 原子、分子、光学物理学及び量子情報』)
【0055】
(文献006)C. Monroe and J. Newman, J. Electrochem. Soc., 2005, 152, A396 - A404(『電気化学学会誌』)
【0056】
(文献007)C. P. Yang, Y. X. Yin, S. F. Zhang, N. W. Li, and Y. G. Guo, Nat. Commun., 2015, 6, 8058(『自然通信』)
【0057】
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(文献010)J. Xiang, Z. Cheng, Y. Zhao, B. Zhang, L. Yuan, Y. Shen, Z. Guo, Y. Zhang, J. Jiang and Y. Huang, Adv. Sci., 2019, 6, 1901120.(『先端科学』)
【0060】
(文献011)H. Zhang, X. Liao, Y. Guan, Y. Xiang, M. Li, W. Zhang, X. Zhu, H. Ming, L. Lu, J. Qiu, Y. Huang, G. Cao, Y. Yang, L. Mai, Y. Zhao, H. Zhang, Nature Communications, 2018, DOI: 10.1038/s41467-018-06126-z.(『自然通信』)
【0061】
(文献012)L. Liu, Y.X. Yin, J.Y. Li, N.W. Li, X.X. Zeng, H. Ye, Y.G. Guo, L.J. Wah, Joule, 2017, 1, 563-575. DOI: 10.1016/j.joule.2017.06.004.(『ジュール』)
【0062】
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【0063】
(文献014)J. Yu, Y. Dang, M. Bai, J. Peng, D. Zheng, J. Zhao, L. Li, Z. Fang, 2019, Front. Chem., DOI: 10.3389/fchem.2019.00748.(『化学フロンティア』)
【0064】
(文献015)T. Wang, R. V. Salvatierra, A. S. Jalilov, J. Tian, J. M. Tour, 2017, ACS Nano, 11, 10761 - 10767. DOI: 10.1021/acsnano.7b05874.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0065】
本開示は、従来の製造方法とは異なる電極の製造方法を提案する。提案された方法は、光電磁エネルギー照射に基づいて3次元ナノ多孔質構造を形成し、これによって、リチウムデンドライトの成長を防止し、リチウム金属陽極の安定性を向上させ、エネルギー効率と現在の製造プロセスへの適用性を確保することができる。
【0066】
本開示は、リチウムデンドライトの成長を抑制し、リチウム二次電池におけるリチウム金属陽極の安定性を向上させることに寄与する方法を提供する。この方法では、光電磁エネルギーを印加することにより、3次元構造を短時間で形成することができる。リチウム金属陽極上の3次元多孔質構造は、リチウム金属陽極の体積変化を受容する空間を提供する。3次元多孔質構造はリチウムメッキ層に関連しており、分布が均一であるため、リチウムデンドライトの成長を防止し、安定したSEIを維持することができる。
【0067】
本開示は、リチウム金属陽極の表面に適用されるナノ複合材料製の導電性ナノ多孔質コーティングを提案する。重合体マトリックス、導電性添加剤、及び低融点を有する蒸発添加剤を含む、使用された混合物に光電磁エネルギー照射(例えば、強いパルス光(IPL))を行うことにより、導電性ナノ多孔質複合材料を生成する。
【0068】
本開示は、リチウム金属陽極の表面に適用されるカーボンナノチューブ3次元構造を提案する。ランダムに分散された高アスペクト比のカーボンナノチューブと金属酸化物溶液との混合物に光電磁エネルギー照射(例えばIPL)を行うことにより、カーボンナノチューブの3次元フレームを生成する。
【0069】
本開示は、3次元形状の銅、銀及びカーボンナノチューブに基づく集電体と一体化されたリチウム金属陽極の3次元構造を提案する。集電体にリチウムを電気メッキすることにより、リチウム金属陽極の3次元構造が生成される。銅、焼結鉱、カーボンナノチューブの3次元構造を用いて集電体の表面を前処理し、光電磁エネルギー(例えばIPL)の照射により集電体の表面を焼結して、カーボンナノチューブを得る。
【0070】
本開示は、光電磁エネルギー照射中に蓄積された廃熱をリチウム金属から放散するための冷却システムを提案する。
【0071】
さらに、本開示は、保護コーティング材料の付着力を増加させ、接触抵抗を減少させるために、サンドブラスト技術を用いてリチウム金属陽極を表面処理することについても説明する。
【0072】
一実施例では、リチウム金属電池の陽極電極は、集電体と、集電体上に設けられたリチウム金属層と、リチウム金属層上に設けられ、3次元連続気泡多孔質構造を有する保護層と、保護コーティングの表面上に設けられたリチウム合金金属と、を含む。
【0073】
前記リチウム金属層はエンジニアリングされた表面テクスチャを有してもよい。
【0074】
前記保護コーティングは、連続気泡ナノ多孔質重合体マトリックス、導電性炭素添加剤及び構造支持材料を含む重合体ナノ複合材料層であってもよい。
【0075】
前記保護コーティングは、3次元連続気泡多孔質構造を有するカーボンナノファイバーマットレスを含んでもよい。
【0076】
前記保護コーティングは、親リチウム性金属酸化物を含む3次元連続気泡多孔質構造を有するカーボンナノチューブ網目を含んでもよい。
【0077】
前記カーボンナノチューブ網目は、最上層が疎リチウム性カーボンナノチューブであってもよく、下層が親リチウム性金属酸化物カーボンナノチューブ複合材料であってもよい。
【0078】
前記親リチウム性金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化チタンを含んでもよい。
【0079】
前記リチウム合金金属は、インジウム、スズ、ビスマス、ガリウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、白金、ゲルマニウム、及びフィールドメタルから選択される低融点金属であってもよい。
【0080】
別の実施例では、リチウム金属電池の陽極電極は、金属集電体と、金属集電体上に塗布された3次元網目構造と、を含み、前記3次元網目構造は、金属系構造又は炭素系構造である。
【0081】
前記陽極電極は、3次元網目構造の表面に形成されたリチウム金属層をさらに含んでいてもよい。
【0082】
一実施例では、リチウム金属電池の陽極電極の製造方法は、集電体上にリチウム金属層を設けるステップと、リチウム金属層上に、3次元連続気泡多孔質構造を有する保護コーティングを形成するステップと、保護コーティングの表面上にリチウム合金金属層を形成するステップと、を含み、ここで、保護コーティングを形成するステップ及びリチウム合金金属コーティングを形成するステップの2つのステップのうちの少なくとも一方は、光電磁エネルギー照射を含む。
【0083】
保護コーティングを形成するステップは、
【0084】
第1重合体と、第1重合体よりも沸点の低い第2重合体と、導電性炭素添加剤と、構造支持添加剤との混合物と、溶媒とを含有するスラリーを調製するステップと、スラリーをリチウム金属層上に塗布し、乾燥して中間コーティングを形成するステップと、薄膜コーティングを使用して保護コーティングを形成し、中間コーティングに光電磁エネルギーを照射し、中間コーティング中の第2重合体を蒸発させてナノ孔を形成するステップと、を含む。
【0085】
前記第1重合体及び前記第2重合体は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ポリジアセチレン(PDA)、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、グリセロール、スクロース、セルロース、及びリグニンから選択されてもよい。前記導電性炭素添加剤は、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、多層カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNP)、及び炭素ドットから選択されてもよい。前記構造支持添加剤は、六方晶窒化ホウ素(hBN)、ケイ素ナノワイヤ(SiNW)、及びアルミナから選択されてもよい。
【0086】
保護コーティングを形成するステップは、ナノファイバー前駆体溶液を製造するステップと、前記ナノファイバー前駆体溶液をエレクトロスピニングして、重合体ナノ複合材料製のナノファイバーマットレスを製造するステップと、重合体ナノ複合材料ナノファイバーに光電磁エネルギーを印加して、重合体ナノ複合材料ナノファイバーを炭化し、カーボンナノファイバーマットレスを形成するステップと、カーボンナノファイバーマットレスをリチウム金属陽極に付着させるステップと、を含む。
【0087】
前記ナノファイバー前駆体溶液は、重合体と、導電性炭素添加剤と、溶媒と、を含んでもよい。前記重合体は、ポリアミド(PA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリウレタン(PU)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリジアセチレン(PDA)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、コラーゲン、及びセルロースアセテート(CA)のうちの1種又は複数種を含んでもよい。前記導電性炭素添加剤は、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、多層カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNP)、及び炭素ドットから構成されてもよい。前記溶媒は、水、アセトン、ギ酸、クロロホルム、イソプロパノール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びテトラハイドロフラン(THF)のうちのうちの1種又は複数種を含んでもよい。
【0088】
前記カーボンナノファイバーマットレスを付着させるステップは、熱応力と圧縮応力を同時に印加して、カーボンナノファイバーマットレスをリチウム金属層に付着させるステップを含み、熱応力及び圧縮応力は圧延機、圧縮成形機及びホットプレスによって印加されてもよい。
【0089】
保護コーティングを形成するステップは、親リチウム性金属酸化物と疎リチウム性カーボンナノチューブのナノ複合材料前駆体を溶媒中で混合するステップと、
【0090】
薄膜コーティング方法を用いて、親リチウム性金属酸化物と疎リチウム性カーボンナノチューブとのナノ複合材料をリチウム金属層上に堆積させるステップと、光電磁エネルギーを印加して、勾配親リチウム-疎リチウム性特性を有するカーボンナノチューブ網目を形成するステップと、を含み、前記カーボンナノチューブ網目は、最上層が疎リチウム性カーボンナノチューブであり、最下層が親リチウム性金属酸化物カーボンナノチューブ複合材料である。
【0091】
リチウム合金金属コーティングを形成するステップは、保護コーティング上に粉末状リチウム合金金属を堆積させるステップを含んでもよい。このように、圧延プロセスを利用して粉末状リチウム合金金属を保護コーティング中に入れ、光電磁エネルギー照射を行い、粉末状リチウム合金金属を溶融し、その後、毛細管作用に基づいて、溶融したリチウム合金金属を保護コーティングの表面に塗布する。
【0092】
前記方法は、サンドブラストを利用してリチウム金属層上にエンジニアリングされた表面テクスチャを形成するステップをさらに含んでもよい。
【0093】
別の実施例では、リチウム金属電池の陽極電極の製造方法は、金属ナノ粒子前駆体、導電性炭素添加剤、重合体担体の混合物と、溶媒とのうちの1種又は複数種からなるスラリーを形成し、前記薄膜コーティング方法を用いて、スラリーを金属集電体上に堆積させるステップと、光電磁エネルギーを照射して、堆積させたスラリーを焼結するステップと、光電磁エネルギー照射後のスラリーを焼結し、3次元金属系網目構造を形成するステップと、を含む。
【0094】
前記金属ナノ粒子前駆体は、銅系ナノ粒子前駆体を含んでもよく、前記銅系ナノ粒子前駆体は、銅、酢酸銅、酸化銅、及びギ酸銅四水和物から選択される1種又は複数種であってもよい。
【0095】
前記方法は、3次元金属系網目構造を有する金属集電体にリチウムメッキを施すステップをさらに含んでもよい。
【0096】
別の実施例では、リチウム金属電池の陽極電極の製造方法は、炭素前駆体、導電性炭素添加剤、及び溶媒を混合して、スラリーを調製するステップと、前記薄膜コーティング方法を用いて、スラリーを金属集電体上に堆積させるステップと、堆積させたスラリーに光電磁エネルギーを印加して、スラリーを炭化し、3次元炭素系網目構造を形成するステップと、を含む。
【0097】
前記炭素前駆体は、アスファルテン、メソフェーズピッチ、セルロース、セルロースナノ結晶、及びリグニンから選択されてもよい。
【0098】
前記方法は、3次元炭素系網目構造を有する金属集電体にリチウムメッキを施すステップをさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【
図1】サンドブラスト及び保護コーティングの形成によって形成されたリチウム金属層のエンジニアリングされた表面テクスチャの概略図を示す。
【
図2a-2b】リチウム金属層上に重合体ナノ多孔質複合コーティングを形成する方法の概略図を示す。
図2aは、スラリーが塗布されたリチウム箔を示し、
図2bは、光電磁エネルギーを印加してリチウム金属層上に形成された重合体ナノ多孔質複合コーティングを示す。
【
図3a-3b】リチウム金属層上にカーボンナノチューブの3次元構造を形成する方法の概略図を示す。
図3aは、リチウム金属層上に形成されたカーボンナノチューブ及び金属酸化物を含むコーティングを示す。
図3bは、光電磁エネルギー照射により生成されるカーボンナノチューブと金属酸化物の複雑な3次元網目を示す。
【
図4】リチウム金属箔又は金属集電体冷却システムの概略図を示す。
【
図5a-5b】集電体上に銅銀炭素3次元構造を形成する方法の概略図である。
【
図6】リチウムイオン親和性を向上させ、SEIを安定化させるために、リチウム金属層をリチウム合金金属で塗布する方法の一例の概略図を示す。
【
図7】リチウムイオン親和性を向上させ、SEIを安定化させるために、3次元構造をリチウム合金金属で塗布する方法の一例の概略図を示す。
【
図8a-8b】多孔質ナノ複合薄膜サンプルの空隙率の概略図であり、走査型電子顕微鏡(SEM)画像では、サンプルの厚さが(a)70μm、(b)100μmであることが示されている。
【
図9】ガスピクノメータ分析から得られた多孔質ナノ複合薄膜サンプルの空隙率の概略図を示す。
【
図10】多孔質ナノ複合薄膜サンプルのリチウム金属陽極の安定性を分析するための対称電池構造の概略図を示す。
【
図11a-11b】厚さ(70μmと100μm)の異なる多孔質ナノ複合薄膜サンプルのリチウム金属陽極の安定性の分析結果の概略図を示す。
【
図12a-12b】光電磁エネルギー照射前後における銅系金属導電性インクの表面形態の比較結果の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0100】
図面によれば、本開示によるいくつかの態様が限定的ではなく例示的に詳細に説明される。
【0101】
本開示は、主として強いパルス光(IPL)などの光電磁エネルギー照射を用いて3次元構造を形成することで、リチウムデンドライトの成長を抑制する新規な方法を提案している。流延法などの方法で材料を基材上に堆積させ、光電磁エネルギーを照射することにより、これらの手順は、ロールツーロールプロセスを用いた現在の電池の量産のプロセスに適用することができる。本開示で提案されるプロセスは、以下に説明される他のプロセスと比較して、時間が短く、エネルギー効率が高いので、有利である。材料コーティングは、照射後の光電磁エネルギーを吸収して3次元構造を形成する。さらに、光電磁エネルギーを短時間照射することにより、コーティングからリチウム金属に廃熱が伝達されることを防止し、リチウム金属基材の直接加熱による性能低下を回避することができる。さらに、本開示は、リチウム金属の熱分解を防止する新規な冷却装置も提案している。
【0102】
エネルギー密度がより高いリチウム二次電池の需要が高まる中、従来のグラファイト陽極に代わる新材料が注目されている。各種候補材料のうち、リチウム金属陽極は、理論容量が高く(3860mAh/g)、電気化学電位が低く(-3.04V)、密度が小さい(0.534g/cm3)ので、有望な材料として期待されている[Guoら,2017]。
【0103】
しかし、科学界は、リチウム金属電池の商業化にはいくつかの内在的な問題が存在し、電池の安全性を直接脅かすことを発見した[Whittingham 2004]。充放電サイクルを繰り返すと、リチウム金属はリチウムデンドライトを急速に形成する。リチウムデンドライトはしばしば破断し、電解質中で不可逆的なリチウムの破片を形成し、電池容量の低下を招く。さらに深刻な場合、リチウムデンドライトが鋭くなってセパレータを突き抜けて短絡を引き起こし、火災を引き起こしたり、場合によっては爆発を起こしたりすることもある。
【0104】
さらに、リチウム金属の低い電気化学的電位も両刃の剣である。それは、電池により高い電圧を提供する反面、いかなる有機電解質とも反応しやすく、陰極材料(リチウム硫黄電池のポリサルファイドなど)から生成される生成物とも反応する。これらの反応は不可逆的であり、電池インピーダンスを増加させ、総容量を減少させ、リチウム金属電池の劣化率を増加させる[Liら,2019]。上記の問題のほかに、リチウム化サイクルにおけるリチウム金属の大きな体積変化、電解質の消費や不安定な固体電解質相界面(SEI)層もリチウム金属陽極の劣化を引き起こす。
【0105】
リチウム金属陽極に関連する課題に対処するために、保護コーティングを塗布することが望まれる。本開示は、リチウム金属陽極用の3つの異なる保護コーティング及び集電体用の1つの保護コーティングを提供する。保護コーティングは、3次元連続気泡ナノ多孔質構造を有するが、異なる材料で構成されている。しかし、その製造プロセスは類似しており、使用するプロセスは、光電磁エネルギー印加技術を含むロールツーロール製造プロセスに容易に適用することができる。リチウム金属陽極用の保護コーティングを製造するための実施例が以下に詳細に説明される。
【0106】
リチウム金属陽極のサンドブラスト
【0107】
リチウム金属陽極に保護コーティングを施す前に、エンジニアリングされた表面テクスチャを有するリチウム金属陽極表面を製造することが好ましい。エンジニアリングされた表面テクスチャは、サンドペーパーによる研磨、機械加工、マイクロニードル、フェムト秒レーザ又はサンドブラストなどのプロセスを含む、様々な方法でリチウム金属表面に製造してもよい。これらのプロセスによって形成されるマイクロ構造は、接触表面積を増加させ、コーティング材料の付着力を向上させ、接触抵抗を減少させ、イオン拡散速度を向上させる(
図1参照)。
【0108】
図1は、リチウム金属電池の陽極電極上に塗布されたリチウム金属層110上に、エンジニアリングされた表面テクスチャ115を形成するブラストプロセスを概略的に示す。本開示では、リチウム金属層は一般にリチウム金属陽極と呼ばれる。また、
図1は、エンジニアリングされた表面テクスチャを有するリチウム金属層110a上に形成された保護コーティング120の一例を概略的に示す。
【0109】
サンドブラストは、研磨材粒子の流れがターゲット表面に衝突することを利用して、磨耗と表面変形を発生させることである。研磨材の形状、大きさ、硬さ、速度や接触角は、サンドブラスト方法の効果を左右する。研磨材の最終速度は、ポンプによって適用される圧力の大きさ、ノズルの種類、及びターゲット表面からの距離によって制御される。
【0110】
研磨材粒子は、アルミナ、粉砕シリカ、及び化学的に不活性なソーダライムガラスビーズを含んでもよいが、これらに限定されない。研磨材粒子の平均直径は、500nmから10μmの範囲であってもよい。本実施例では、使用される研磨材粒子は球状であり、使用されるキャリアガスは、リチウム金属と水分との化学反応を最小限にするために、通常使用される圧縮空気ではなく、不活性ガスでなければならない。
【0111】
この例示的な実施例では、平均表面粗さRaが1~100μmのリチウム金属表面は、サンドブラストを用いて製造される。所望の平均表面粗さRaは、一連の異なるプロセスパラメータを使用して達成されてもよい。一例では、平均直径50μmのアルミナ粒子に、接触角15°で80psiの圧縮アルゴンガスを噴射する。ブラスト領域の直径を2cm、表面へのブラスト速度を1cm/sとして2回繰り返す。サンドブラストはアルゴンガスで満たされたグローブボックス内で行われ、グローブボックス内の湿度は0.1ppmとする。接触式プロファイラ(Mitutoyo SJ.201P)を用いて表面の異なる10点を測定し、リチウム金属陽極の平均表面粗さRaの平均値を求める。測定された平均表面粗さRaは67.4μmである。
【0112】
サンドブラストプロセスは、接触面を増加させ、導電性保護コーティング120の付着力を向上させ、界面抵抗を減少させるために、リチウム金属陽極110上に粗面、すなわち、エンジニアリングされた表面テクスチャ115を形成することを含む。
【0113】
3次元連続気泡発泡多質構造を有する保護コーティング
【0114】
3次元連続気泡発泡多孔質構造を有する保護コーティングの開発は、多様な用途のニーズに対応することができる。まず、その複雑な構造は豊富な核形成点を提供し、リチウムデンドライトが少数の核形成点で集中的に成長するのではなく、リチウムはこれらの核形成点で均一にめっきされ得る。次に、3次元構造の表面積は平面よりもはるかに大きく、リチウム金属陽極における局所的な電流密度を低下させ、デンドライトの成長を遅らせる[MonroeとNewman 2005]。さらに、サブミクロン領域の構造は均一な電荷分布を誘導し、デンドライトの成長を減少させる[Yangら,2015]。
【0115】
3次元連続気泡発泡多質構造の低密度も、リチウム金属の体積膨張による応力緩和に寄与する。リチウムメッキは、リチウム金属陽極の体積を増加させることなく、3次元構造の保護コーティングの内部で行われる。体積変化に起因する内部変形であっても外部変形であっても、3次元構造が機械的に変形を吸収することがあり、付加的な応力を発生させることはない。
【0116】
本実施例では、3次元連続気泡発泡多質構造を有する3つの異なる保護コーティングが記載されている。その中でも、ナノ多孔質重合体ナノ複合コーティング、金属酸化物コーティング付きカーボンナノチューブ網目、及びカーボンファイバーマットレスが含まれる。
【0117】
ナノ多孔質重合体ナノ複合コーティング
【0118】
重合体材料は、その材料特性や取り扱いやすさから、リチウム金属陽極の保護コーティングの候補材料として好適である。重合体材料は、セパレータ、電極バインダー、及び固体リチウム電池における重合体ゲル電解質など、リチウムイオン電池の様々な部分に一般的に使用されている。重合体は、その成分、構造や官能基によって、異なる特性を有していてもよい。
【0119】
リチウム金属陽極に塗布するための重合体は、リチウム金属と電解質の両方に対して電気化学的に安定であり、電極表面近傍のリチウムイオンのフラックスを均一化し、リチウムデンドライトの形成を阻害し、リチウム金属と電解質との間の直接接触を低減し、また、大きな体積変化に対しても、電極との接触を維持することができる。さらに、スピンコート、スプレーコート、コーティング法、ドクターブレード成膜法などの従来の方法を用いて、リチウム金属陽極に重合体を容易に塗布することができる。塗布方法が簡便であるため、大規模加工の効率が確保され、コーティング厚さの制御が容易である。
【0120】
リチウム金属陽極に塗布するための重合体材料の例としては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリ(エチレン-ビニルアルコール-β-アクリロニトリルエーテル)(EBC)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びポリドーパミン(PDA)のうちの1種又は複数種が含まれていてもよい。上記の重合体は、極性(例えば、PEO中の酸素基、EBC中のシアノ基、PVA中のヒドロキシ基)を有するため、リチウムイオンとの間に強い静電的相互作用が存在する。
【0121】
3次元構造がなくても、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)薄膜[Zhuら,2017]やその他の高粘度重合体は、リチウム化サイクルにおけるリチウム金属陽極の安定化にすでに利用されている。さらに、ポリエチレンオキシド(PEO)コーティングは、リチウム金属陽極の最初の電気化学サイクルで安定な極性オリゴマーが形成され、安定化されたSEI層が生成されることを示している[Assegieら,2018]。
【0122】
リチウム金属陽極の重合体コーティングのもう1つの興味深い例は、β相にポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用することである。β相にあるPVDFは、その独特な結晶構造により、強誘電性を持ち、応力(すなわち、リチウム金属陽極の体積膨張による応力)の作用によってコーティングに圧電電位が発生する。圧電電位がリチウムイオンポンプの役割を果たし、コーティング上でのリチウムイオンの拡散を促進することで、充電速度とリチウムイオンフラックスの均一性が向上する[Xiangら,2019]。
【0123】
図2a及び2bは、リチウム金属層上に重合体ナノ多孔質複合コーティングを形成する方法を概略的に示す。
図2aは、スラリーが塗布されたリチウム箔を示し、
図2bは、光電磁エネルギーを印加してリチウム金属層上に形成された重合体ナノ多孔質複合コーティングを示す。
【0124】
本実施例では、リチウム金属電池の陽極電極に塗布されたリチウム金属層110は、リチウム箔であってもよい。リチウム金属層110は、金属集電体(例えば銅集電体)上に設けられる。スラリー混合物は、高沸点の第1重合体121と、第1重合体121よりも沸点が低い低沸点の第2重合体122と、導電性炭素添加剤123と、を含む。スラリーをリチウム金属層110上に堆積させ、真空オーブンで乾燥して、コーティング120を形成する(
図2a参照)。
【0125】
さらに、IPL照射装置201により光電磁エネルギーを印加して、コーティング120を加熱し、低沸点の第2重合体121を蒸発させることもできる。このプロセスにより、最終的には、重合体ナノ複合材料中にナノ孔122aが残されるので、ナノ孔122aを介して連続空隙形態の連続気泡多孔質構造を形成することができる(
図2b参照)。
【0126】
本実施例では、リチウム金属層110上に連続気泡多孔質構造を有するナノ複合コーティングを形成する新規な製造方法が提案される。この方法では、保護コーティング120内の低沸点材料の急速な蒸発を利用して、連続気泡多孔質構造を形成する。ナノ複合コーティングは、主重合体マトリックス、導電性炭素添加剤、構造支持添加剤、及び主重合体よりも沸点が著しく低い第2重合体材料からなる。
【0127】
主重合体(第1重合体)マトリックスは、多孔質膜構造の本体である。第2重合体の沸点は非常に低く、急速な蒸発の間、光電磁エネルギーの作用によって第2重合体は薄膜から放出され、これにより、空隙が生じる。第1及び第2重合体として使用される重合体の例としては、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ポリジアセチレン(PDA)、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、グリセロール、スクロース、セルロース、又はリグニンが含まれる。このうち、主重合体及び第2重合体として、沸点が10℃以上又は20℃以上の差がある複数種の重合体を選択することができる。
【0128】
炭素系導電性ナノ材料は、重合体マトリックス内に導電性網目を形成し、光電磁エネルギーの吸収体として機能する。炭素系導電性ナノ材料の例としては、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、多層カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNP)、又は炭素ドットが含まれる。
【0129】
構造支持添加剤は、高い機械的強度及び電気化学的不活性を有する材料を用いる。添加剤は、多孔質重合体ナノ複合材料の機械的強度及び耐久性を向上させることができる。構造支持添加剤の例としては、六方晶窒化ホウ素(hBN)、ケイ素ナノワイヤ(SiNW)及びアルミナが含まれる。
【0130】
上記成分を、混合物に使用される重合体の適当な溶媒と混合してスラリーを形成し、その後、薄膜塗布技術(例えば、ドクターブレード成膜法、バーコート、スプレーコート又は溶液流延)を用いて、リチウム金属陽極の表面上にスラリーを塗布して、薄膜を形成する。その後、薄膜を真空オーブンで乾燥させる。乾燥させた薄膜に光電磁エネルギーを照射して、低沸点の第2重合体を速やかに蒸発させ、薄膜から蒸発ガスを逃がすと、連続気泡多孔質構造を形成する。
【0131】
金属酸化物を含有するCNT網目
【0132】
炭素導電性材料は、高い導電率と高い機械的強度を有するため、様々な分野で広く使用されている。炭素導電性材料の中でも、カーボンナノチューブ(CNT)は、ナノ径とミクロンの長さによりアスペクト比が高いことから知られている。この3次元構造のCNTは、高アスペクト比、高導電率や疎リチウム性材料の特性を有するため、リチウム金属陽極上に好適な界面層を形成することができ、リチウムデンドライトの形成を防止し、リチウムイオンの拡散を促進しながら安定したSEI層を形成することができる。
【0133】
しかし、CNTの疎リチウム特性により、CNTに基づく構造をリチウム金属陽極に粘着することが困難になる。Zhangら[Zhangら,2018]は、界面層が勾配親リチウム特性-疎リチウム特性を持つリチウム金属陽極を報告していた。様々な酸化亜鉛(ZnO)を含有するCNTをリチウム箔上に層ごとに滴下して、親リチウム性の最下層と疎リチウム性の最上層を形成する。リチウム金属箔に塗布された勾配親リチウム性-疎リチウム性層をCNTのみが塗布されたリチウム金属箔と比較する。CNTのみが塗布されたリチウム金属箔と比較して、勾配親リチウム性-疎リチウム性層は、1mA・cm-2の定電流密度で実施した対称電池試験では、より高いサイクル安定性を示した。対称電池試験では、リチウム箔サンプルは、陽極及び陰極の両方としてボタン電池内に配置される。そして、定電流密度で充放電サイクルを行う。充放電電圧の振幅は一定に維持する。電圧振幅の増加が観察された場合、電池内部でリチウムデンドライトが形成され始めていることを示している。勾配親リチウム性-疎リチウム性層は、最大500時間のサイクル時間にわたって安定性を示し、一方、CNTのみが塗布されたサンプルは、200時間のサイクル時間の後に電圧振幅が増加する不安定性を示す。
【0134】
勾配親リチウム性-疎リチウム性界面層は、リチウム金属電池におけるリチウムデンドライトの成長を抑制するための実行可能な方法である。しかし、Zhangらが提案した方法は複雑な製造プロセスを必要とする。例えば、勾配層を形成するためには、様々な濃度胃のCNTと酸化亜鉛の溶液を調製しなければならない。これらはリチウム箔上に層ごとに堆積され、のため、各層の2回の堆積の間に乾燥プロセスが必要とされ、その結果として、製造時間が増加する。リチウム金属の融点が低い(180℃)ため、溶媒を高温で急速に乾燥させることができない。
【0135】
図3は、リチウム金属層上にカーボンナノチューブの3次元構造を形成する方法を概略的に示す。
【0136】
本実施例では、リチウム金属層310はリチウム箔であってもよい。溶媒321、ランダムに分散したカーボンナノチューブ325及び金属酸化物を含むスラリーをリチウム金属層の表面上に堆積させ、真空オーブンで乾燥させ、コーティング320を形成する(
図3a参照)。
【0137】
IPL光電磁エネルギー照射によりコーティング320を加熱して、溶媒321を蒸発させ、カーボンナノチューブ325aと金属酸化物322とが相互に接続された複雑な3次元網目を残す(
図3b参照)。
【0138】
本開示では、光電磁エネルギーの新規な利用方法が提案されている。親リチウム性-疎リチウム性層の勾配は、層ごとの堆積ではなく、光電磁エネルギー効果によって形成される。様々な濃度のCNT及び酸化亜鉛を含む複数の溶液を使用する代わりに、CNT、金属酸化物、少量の重合体バインダー及び溶媒のスラリー混合物をリチウム金属箔上に堆積させ、光電磁エネルギーを照射する。光電磁エネルギーは、重合体コーティングを蒸発させ、最上層の金属酸化物を減少させ、上部に疎リチウム性CNT層を残す。照射された光電磁エネルギーは上から印加されるので、コーティングスラリーの奥まで伝達されるエネルギーは少なく、親リチウム性金属酸化物と重合体バインダーは最下層に残る。
【0139】
前記親リチウム性金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化チタンのうちの1種又は複数種を含んでもよいが、これらに限定されない。カーボンナノチューブは、単層CNT(SWCNTs)、二層CNT(DWCNTs)、多層CNT(MWCNT)、官能化CNT、又は短いカーボンナノファイバーを含んでもよいが、これらに限定されない。前記溶媒は、水、エタノール、ヘキサン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、又はこれらの組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0140】
図4は、リチウム金属箔又は金属集電体冷却システムを概略的に示す。
【0141】
図4に示す冷却システムは、光電磁エネルギー照射中に
図2b及び3bにおけるリチウム金属層110又は金属集電体に蓄積され得る廃熱の移動を示す。
【0142】
冷却システムは、熱伝導性金属付きホルダープレート401と、ホルダープレートの一方の側に設けられた冷媒入口410と、冷媒入口からホルダープレート内に延びる熱交換流路420と、ホルダープレートの一方又は他方の側に設けられ、熱交換流路420に接続された冷媒出口430と、を含む。
【0143】
ホルダープレート401は、特定の大きさのリチウム金属陽極に適合するように押出固定手段を備えた金属プレートを含み、金属プレートは、熱交換器システムを固定するのに十分な厚さを有し、金属プレートの材料は、銅及びアルミニウムを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0144】
冷媒入口410及び出口430は、冷媒ポンプ等に接続可能である。また、ペルチェ素子を冷媒が流れる熱交換流路に交換してもよい。
【0145】
冷却水などの冷媒は、高熱伝導性材料で構成された熱交換流路420を通過する。例えば、リチウム金属陽極に接触するアルミニウムは、光電磁エネルギー照射により、リチウム金属陽極が吸収した余分な熱を奪うことができる。
【0146】
カーボンナノファイバー/ファイバーマットレス
【0147】
カーボンファイバーマットレスは、リチウム金属陽極に適した別の多孔質炭素構造であり、リチウムデンドライトの形成を抑制し、充電中にリチウム堆積に必要な空間を提供することができる。カーボンファイバー製造は比較的成熟したプロセスである。しかし、炭素前駆体材料を安定化して炭化するには、通常、長い加工時間と高温加熱が必要とされる。高温加工すると、カーボンファイバーマットレスを単独で製造し、リチウム金属陽極に付着させることができる。カーボンファイバーマットレスをリチウム金属に付着させるために必要な温度と圧力は、通常、リチウム金属の融点(180.5℃)よりも低い。
【0148】
Liuらは、2017年、市販綿を炭化処理することで、リチウム金属陽極に独立した中空カーボンファイバー構造を形成した。リチウム堆積は、カーボンファイバーの外面に発生し、複数のカーボンファイバーの間を埋め、カーボンファイバーの内面にも発生し、カーボンファイバーの内部の中空空間を埋めることが観察された。表面積と多孔質構造を最大限に増やすことで、中空カーボンファイバー構造が塗布されたリチウム金属陽極は、対称電池試験の600サイクル以上で安定性を示したが、ベアリチウム箔は同じ条件下で180サイクルを経過すると不安定になり始めた[Liuら,2017]。Zhangらが行ったもう1つの研究は、カーボンファイバーに直接銀をメッキすることで、カーボンファイバーに親リチウム性銀を塗布することである。これにより、リチウムの注入が容易になり、純粋なリチウム金属と同様の安定性を持つリチウム金属陽極が得られた[Zhangら,2017]。
【0149】
本開示は、デンドライトの成長を抑制し、安定性を維持するために、リチウム金属陽極上に3次元カーボンファイバー構造を形成する新規な方法を提案する。前記方法は、光電磁エネルギー照射を用いて炭化処理を行うことで、エネルギー効率を向上させ、処理時間を短縮させる。エネルギーが到達する深さの不足を補うために、炭素質ナノ粒子を含む重合体ナノ複合材料ナノファイバーをエレクトロスピニング法により製造してもよい。小径のナノファイバーとエネルギー吸収率の高い炭素質ナノ粒子は、炭化に必要なエネルギーのしきい値を低下させる。
【0150】
横型エレクトロスピニング装置は、重合体ナノ複合材料ナノファイバーを紡出するために使用され得る。エレクトロスピニング装置は、高電圧電源を用いてシリンジポンプに取り付けられた針に接続されている。ポンプとドラムのベースが接地する。ドラムは一定速度で回転し、また、ベースは高抵抗(約100MΩ)の抵抗器に接続され、これにより、ドラムへの堆積量を最大にすると同時に、他の位置でのファイバーの堆積量を最小にする。システムへの流速は、針の先端に1滴の液滴を保持するように設定されている。シリンジポンプは、ドラム全体にファイバーを均一に堆積させるために揺動運動するようにプログラムされたXYプラットフォーム上に取り付けられている。エレクトロスピニングは、ナノスケールのファイバー及び不織布マットの製造に使用できるコストパフォーマンスが高く、簡便な代替方法である。エレクトロスピニングにより、ファイバーマットレスの空隙率及び表面積を制御することができる。
【0151】
エレクトロスピニング法を用いて、重合体、炭素質ナノ複合材料及び溶媒の混合物を紡糸することができる。適用可能な重合体は、ポリアミド(PA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリウレタン(PU)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリジアセチレン(PDA)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、コラーゲン、及びセルロースアセテート(CA)のうちの1種又は複数種を含む。
【0152】
前記導電性炭素添加剤は、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNP)、及び炭素ドットのうちの1種又は複数種を含んでもよい。
【0153】
前記溶媒は、使用する重合体に応じて、水、アセトン、ギ酸、クロロホルム、イソプロパノール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びテトラハイドロフラン(THF)の組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0154】
重合体ナノ複合材料ナノファイバーは、一旦エレクトロスピニングが完了すると、光電磁エネルギーを用いて炭化することができる。このプロセスでは、紡出されたファイバーをリチウム金属陽極とは異なる基材上に置き、光電磁エネルギーを照射しながら紡出されたファイバーに高強度IPLを印加することで、カーボンファイバーマットレスを表裏両面から完全に炭化することができる。重合体ナノ複合材料ナノファイバーが炭化されてカーボンファイバーマットレスになると、熱と圧力条件下でホットプレス技術を利用してリチウム金属陽極に転写される。
【0155】
強いパルス光(IPL)による光電磁エネルギーの印加
【0156】
リチウム金属陽極のコーティング膜又は集電体上に3次元連続気泡多孔質構造を形成する最も重要なステップは、エネルギー印加工程である。従来の方法では、熱分解による熱エネルギーの印加が最も一般的であったが、一般には、多くのエネルギーと時間を消費する必要があった。さらに、このプロセスはリチウム金属陽極のコーティング膜にエネルギーを印加する必要があるため、リチウム金属の融点が低いため(180.5℃)、高温(400~800℃)での熱分解が利用できない。本開示では、リチウム金属陽極に損傷を与えることなくエネルギーを印加する光電磁エネルギーの印加方法(すなわち、IPLなど)が利用される。
【0157】
強いパルス光(IPL)はキセノンランプから発生する高速光電磁波を利用している。キセノン充電ランプにより高強度の電気パルスを印加し、キセノンガスが高エネルギー状態に励起された後、低エネルギー状態に戻ることにより、光子照射が発生する。レーザやマイクロ波などの他の電磁エネルギー印加工程と比較して、IPL技術の利点は、短時間(数ミリ秒)で大きな表面積をカバーできることである。
【0158】
さらに、IPLのパルススペクトルは広く、一般的に200nmから1100nmまでであるが、レーザやマイクロ波技術の波長スペクトルはより具体的である。現代のIPL装置は、コンピュータで制御されるコンデンサ群を利用してIPLを発生させ、そのパルスの持続時間、パルス間隔、パルス数や強度はすべて制御可能である。フルエンス(単位面積当たりの表面が受ける放射エネルギー)は、エネルギー源からターゲット表面までの距離、リフレクタの角度、及びターゲット表面の吸収率に関係する。
【0159】
前述したように、広いスペクトル範囲で高い吸収率を有する炭素添加剤が活物質を封入した混合物中に存在し、吸収エネルギーを熱エネルギーに変換してナノ多孔質構造を形成する。これは、IPLプロセスのエネルギー効率が熱分解プロセスよりもはるかに高く、はるかに高速であることを意味する。この方法は、エネルギー効率が高く、加工時間が短いので、既存のロールツーロール製造プロセスを伴う電池の量産プロセスにより適している。
【0160】
一般的なIPLシステムを考慮すると、IPL照射の拡散深さは表面から約1μmの範囲に制限されている。バルク材料を加工する場合、この限定された拡散深さは望ましくない可能性がある。しかし、本開示では、薄膜にエネルギーを送るだけで、コーティング上に所望の効果をもたらすのに十分である。また、表面より下の層にはエネルギーが伝達されないか、又は表面より下の層への影響が極めて小さいため、コーティングより下のリチウム金属陽極への損傷を回避することができる。カーボンナノチューブと金属酸化物の勾配親リチウム性-疎リチウム性層を形成する際の記述によれば、この場合も勾配効果を発生させるなど興味深い効果がある。
【0161】
3次元構造を有する陽極レス銅集電体
【0162】
3次元連続気泡発泡多孔質構造を有する保護コーティングは、デンドライトの成長やリチウム化サイクルに関連する体積変化によって生じる過大な外部応力を防止するために、リチウム金属陽極上に形成される。しかし、リチウム金属陽極のリチウム化過程はリチウムイオンの電着であるため、リチウム金属層が必要かという問題が生じていた。リチウムイオンは陰極由来であり、陽極は電着リチウムの形でリチウムイオンを貯蔵するだけでよい。このことから、「陽極レス」集電体はリチウム金属電池の陽極の役割を果たすことができるということが結論付けられる。
【0163】
「陽極レス」集電体が正常に作動するためには、リチウム化中にリチウムイオンを貯蔵できるラック又は構造が必要である。このため、集電体上に3次元連続気泡発泡多孔質構造を形成することが再度必要となる。集電体上の3次元連続気泡発泡多質構造は、リチウム金属陽極の保護コーティングと同じ利点を有する。リチウム化サイクルでは、リチウム堆積のための豊富な核形成点と空間を提供し、体積変化を防止し、内部応力が過大にならないようにする。さらに、高導電性材料の表面積が大きいことにより、電荷の均一な分布が促進され、デンドライトの形成が低減される。内部又は外部に機械的応力が存在する場合、集電体の3次元構造は構造支持体として応力を吸収することができる。
【0164】
陽極レス集電体のための3次元構造やラックの作製については、すでに多くの研究が行われている。これらの研究には、表面粗さの高い表面の形成、集電体表面の化学的及び機械的エッチング、重合体、金属又は炭素質材料による追加構造の構築などが含まれる。
【0165】
例えば、銅集電体上に構築された銅炭素フレームの3次元構造[Chenら,2020]が例示される。メラミン-ホルムアルデヒド発泡体を熱分解して炭素フレームを形成し、この炭素フレーム上に銅メッキを施して立体構造とする。これは、良好な導電率を実現し、表面積を増加し、安定したSEIを付与し、デンドライトを減少させ、その電池試験の結果、300回以上のサイクルを経ても99.85%の容量を維持することができる。しかし、炭素フレームを作製するには、900℃の温度でN2雰囲気中2時間加熱後、銅とCuSO4(硫酸銅)電解質を使用して10分間電気メッキする必要があるが、この電解質は有毒な電解質である。
【0166】
別の例では、集電体として発泡銅を製造し、これに還元酸化グラフェン(rGO)を付着させた[Yuら,2019]。この方法において、製造プロセスは、酸化グラフェン懸濁液を含む液体に発泡銅を12時間浸漬して、発泡銅に被覆された還元酸化グラフェン(rGO)を得ることを含む。リチウム金属電池の陽極としてrGOが被覆された発泡銅を用いた半電池試験では、350サイクル後もクーロン効率(CE)は98.5%以上に維持されていることが示された。プロセスは簡単であるが、長い加工時間(12時間)と高価な低密度発泡銅が必要である。
【0167】
集電体の金属系3次元構造
【0168】
本開示は、金属導電性インクに被膜を施した後、光電磁エネルギーによる焼結プロセスを行う方法によって実現される金属系網目の3次元構造を提案する。前記3次元構造は、導電性金属と少量の添加剤とを主成分として構成される。
【0169】
図5は、銅系導電性インクを例に、集電体上に導電性金属の3次元構造を作製する過程を概略的に示す。特に、
図5は、銅集電体510上に銅銀炭素3次元構造を形成する方法を示す。その後、充電中にリチウムメッキを行い、リチウム金属陽極を形成する。
【0170】
本実施例では、集電体は銅で製造される。導電性インク混合物を集電体に塗布し、真空オーブンで乾燥させる(
図5a参照)。本実施例では、導電性インク混合物は、溶媒担体、銅ナノ粒子511、銀ナノ粒子512、及び導電性炭素添加剤513を含むが、これらに限定されない。特定の用途では、さまざまな材料を異なる比率で使用することができる。
【0171】
例えば、IPL照射装置501は、光電磁エネルギーを照射して銅ナノ粒子を焼結し、集電体510上に銅ナノ粒子511、銀ナノ粒子512a及び導電性炭素添加剤513からなる3次元導電性網目を形成するものである。
【0172】
集電体上に形成された3次元導電性網目は、それ自体が1つの陽極電極であってもよい。充電中に、3次元導電網目が形成された集電体上にリチウムメッキが施され、3次元構造のリチウム金属陽極電極が形成され得る(
図5b参照)。
【0173】
導電性金属ナノ粒子は、主として銅系ナノ粒子であり、純銅ナノ粒子、ギ酸銅、酸化銅、硝酸銅、亜硝酸銅、酢酸銅ナノ粒子、スズ又は重合体保護層を有するコーテイングナノ粒子を含むが、これらに限定されない。それら自体は導電性ではないが、臨界量のエネルギーにさらされると、金属ナノ粒子は瞬時に溶融し、導電性ブリッジを形成する。
【0174】
重合体担体には、ジエチレングリコール(DEG)及び/又はポリ(N-ビニルピロリドン)(PVP)が含まれるが、これらに限定されず、両者はいずれも一般的な導電性インク担体である。添加物には、金属添加物と非金属添加物の2種類があり、それぞれの添加物の添加には特定の目的がある。保護層及び添加剤は、主金属導体(すなわち銅ナノ粒子)を取り囲み、ナノ粒子間の間隙を充填する。さらに、導電率の向上、酸化の除去や抑制、焼結に必要なエネルギーの低減、エネルギー吸収性の向上、はんだ付け性や粘着性の向上、腐食・摩耗からの確実な保護、自己修復性の向上なども図られる。これらの添加剤には、銀塩、錫、マンガン、ガリウム、酸化インジウム錫、ビスマス、亜鉛、鉛、アンチモン、金、銀、パラジウム、白金、マイクロファイバー、カーボンナノファイバー、金属ファイバー、グラフェン、グラフェンナノプレートレット、及びカーボンナノチューブなどの各種寸法規格の材料が含まれるが、これらに限定されない。
【0175】
混合物は、撹拌及び超音波処理により製造される。溶媒や担体重合体では主要材料の一部を溶解できないため、材料の分散性を高めるために、超音波周波数を用いた超音波処理が必要となる。導電性インク混合物を製造した後、各種塗膜法(バーコート、スプレーコート、ドクターブレード成膜法等を含むが、これらに限定されない)により集電体に塗布することができる。いったん混合物を塗布した後、低温(<50℃)真空乾燥により、残りの溶媒を蒸発除去する。
【0176】
堆積させた導電性インク粒子は、導電性金属粒子間に隙間が生じるような緩い層を形成するので、乾燥状態では直ちに導電性が得られない。エネルギーの印加(典型的には、熱の形で)は、ナノ粒子を部分的に溶融して、ナノ粒子間に導電性ブリッジを形成することができる。ナノ粒子焼結技術には、従来の技術もあれば、先駆的な技術もある。
【0177】
従来の金属ナノ粒子焼結方法は、150℃~300℃の不活性ガス環境下で行う必要があった。さらに、このような温度及びガス環境ができるまでには、時間がかかり、高価な設備や高温に耐えるベースが必要となる。これらの条件により、従来の焼結方法は、実用上の効果が期待できない。
【0178】
本開示では、光電磁エネルギーを印加して金属粒子を焼結する。光電磁エネルギーの印加方法には、IPL(強いパルス光)、レーザ、IR(赤外光)、マイクロ波のうちの1種又は複数種を照射することが含まれる。光電磁エネルギーの印加方法は、従来の熱分解又は熱印加と比較して、いくつかの利点を有する。最も重要なのは、光電磁エネルギーの印加により、より高いエネルギー効率が確保されることである。他の加熱方法では、加熱室全体の温度を上げる必要があるが、光電磁エネルギーの印加は、ターゲット表面に直接エネルギーを作用させるのとは異なる。さらに、炭素添加剤を添加することにより、エネルギー吸収効率をさらに向上させ、消費電力を低減することができる。
【0179】
さらに、光電磁エネルギーの印加方法は、短時間のエネルギー照射のみに関する。IPL方法は、キセノンランプの閃光を利用し、わずか数ミリ秒で広い面積の表面をカバーすることができる。照射領域ごとに、レーザやマイクロ波方式では、数秒かかる場合があるが、ロールツーロール製造プロセスでは、高い供給スループットを実現できる。必要な電力は高いかもしれないが、処理時間が短いため、必要なエネルギーの総量は従来の熱印加プロセスよりもはるかに低い。最も重要なことは、光電磁エネルギーの印加方法では、いかなるチャンバーや不活性環境も必要としないため、既存の陽極製造設備を大幅に改造する必要がないことである。
【0180】
工業副産物を利用した銅集電体の炭素系3次元構造の形成
【0181】
炭素は、導電率が高く、構造が硬く、3次元構造を形成しやすいという特徴があるため、陽極レス集電体の3次元構造に固定するのに理想的な材料となっている。
【0182】
様々な炭素源が潜在的な候補として考えられている。例えば、ユニバーサルグラフェングループのAruna ZhamuとBor Z.Jangは、リチウム金属層とグラフェン多孔質導電層からなる陽極電極について説明している。多孔質導電層は、リチウム堆積の表面積を増加させ、安定したSEIを形成し、リチウムデンドライトの形成を減少させる。陽極の導電率もより均一になり、リチウムデンドライトが減少する。この技術は、デンドライトの成長や致命的な故障を防止するために、リチウム金属陽極に3次元構造の基本構造を塗布するものであるが、その構造を形成するための効率的な製造プロセスは含まれていない。
【0183】
別の例として、Zhaohui Liao、Chariclea Scordilis-Kelley及びYuriy Mikhaylikは、均一に分散されたリチウム合金及び/又は窒化リチウムを生成することができる、リチウム金属陽極用の多孔質保護層を2012年に提案した。これにより、リチウムイオンの拡散能を向上させることができ、リチウムデンドライトの形成を防止することができる。この方法は、コストパフォーマンスの高い材料を使用して、リチウム金属陽極をスラリー中に塗布し、その後、乾燥処理して、保護層を形成する。保護層の材料は、金属化合物、導電剤及びバインダーからなり、金属化合物は、金属窒化物、アルミナ又はフッ化アルミニウムであってもよい。この方法は、多孔質構造の形成を含むが、スラリー堆積及び乾燥工程に限定される。さらに、乾燥工程は720時間を要し、時間効率が悪かった。
【0184】
多孔質炭素構造の別の有望な炭素前駆体は、アスファルテン、ピッチ、セルロース、及びリグニンなどの工業副産物である。原油の工業副産物であるアスファルテンは、粘度が高く炭素含有量が高いため、燃料としての生産やエネルギー効率に悪影響を及ぼすため、除去されることが多い。アスファルテンは石油・天然ガス業界の廃材として扱われてきたため、安価で十分に供給されている。アスファルテンを利用した先進的なリチウムイオン電池の生産は、経済的で環境に優しい利点がある。ピッチは、石油、コールタール、又は木材から抽出される炭素含有量の高い工業副産物である。セルロースやリグニンは植物に含まれる高炭素物質であり、もみ殻、小麦、わら、おがくずなどの農林副産物でもある。
【0185】
炭素源として集電体上に3次元構造を形成するアスファルテンの利点も発見された。Wangらは、アスファルテンを用いて超高速充電の高容量リチウム金属電池製造した[Wangら,2017]。この研究では、未処理の硬質ピッチを炭素前駆体として使用した。硬質ピッチは、天然に生成された黒色の固形軽量材料であり、アスファルテンの含有量が多い。未処理の硬質ピッチを400℃、アルゴンガス充填下で3時間前処理した後、水酸化カリウム(KOH)を用いてすり鉢中で粉砕する。混合物を850℃で1時間加熱した後、濾過して水洗し、110℃で12時間乾燥させる。KOHと前処理した硬質ピッチ混合物、グラフェンナノリボン(GNR)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)を4.5:4.5:1の質量比で、乳鉢において混合し、その後、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒を加えてスラリーを形成する。このスラリーを銅箔に塗布した後、50℃の真空中で一晩乾燥させ、Asp-GNR-Li陽極と呼ばれる高空隙率炭素構造を得る。
【0186】
Asp-GNR-Li陽極は、従来の銅リチウム陽極と比較して、電流密度範囲全体にわたって高比容量を示すことを発見した。さらに、0.5Cの定電流密度で充放電サイクルを繰り返した結果、Asp-GNR-Li陽極は、130サイクル後にも90%の比容量を維持することができ、一方、従来の銅リチウム陽極は、130サイクル後の比容量が75%以下に低下していた。この傾向は、サイクル数の増加に伴い、従来の銅リチウム陽極の比容量が急速に低下していることを示している。
【0187】
炭素含有量の高いアスファルテンを炭素構造の前駆体として利用するアイデアは、特にコストパフォーマンスが高く、十分に供給されていることから、非常に期待されている。しかし、Wangらの研究で提案された製造プロセスは、多くのステップを含み、高温と長い加工時間を必要とする。
【0188】
本開示は、銅箔上に多孔質炭素構造を有する陽極レス集電体を形成する、光電磁エネルギー照射を利用した新規な製造技術を提案する。上述した通り、光電磁エネルギーの印加方法は、従来の溶融炉による加熱プロセスに比べて、省エネや省時間であるという利点がある。光電磁エネルギーの印加方法は、いかなる溶融炉、チャンバー、不活性環境も必要とせず、ロールツールロールプロセスを伴う大量産のプロセスに直ちに適用することができる。
【0189】
前記方法では、炭素前駆体、導電性炭素添加剤及び溶媒のスラリー状混合物が製造される。前記炭素前駆体は、アスファルテン、メソフェーズピッチ、セルロース、セルロースナノ結晶やリグニンなどの炭素含有量の高い工業副産物を含む。導電性炭素添加剤は、構造剛性を高め、導電率を向上させ、光電磁エネルギーのエネルギー吸収を増加させる。これらは、カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、官能化カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラフェンナノプレートレットのうちの1種又は複数種の組み合わせを含む。スラリー状混合物は、薄膜コート法を用いて銅箔上に堆積される。銅箔上でスラリーを乾燥させた後、光電磁エネルギーを印加してスラリーを炭化し、3次元炭素系網目構造を形成する。充電中に、3次元炭素系網目構造の表面にリチウムメッキを施す。
【0190】
低融点リチウム合金金属コーティング
【0191】
低融点リチウム合金金属コーティングの追加は、固体電解質相界面(SEI)層の安定化に寄与する。このような金属コーティングは、リチウム金属層、保護層、又は陽極レス集電体のいずれにも適用することができる。高い導電率、リチウムイオンとの急速な合金化反応、及び自己修復という3つの異なる特性を利用してSEI層を安定化している。
【0192】
リチウム合金金属は、銅や銀に比べて、導電率が高いことが多い。これをリチウム金属層に塗布することにより、電解質と陽極との接触抵抗を低減し、電荷輸送率を向上させることができる。リチウム金属陽極にインジウムを塗布すると、電解質と陽極間の電気的接触抵抗が著しく低下することが明らかになった[Choudhuryら,2017]。
【0193】
また、インジウムが表面拡散作用によりリチウムイオンを速やかに拡散させることも研究から明らかになった。密度汎関数理論の計算では、インジウムは表面に拡散障害が少ないことが示されている。リチウムイオンはインジウムメッキ層と緩やかに結合し、インジウムメッキ層を急速に通り抜けて、下層のリチウム金属層に電着する[Choudhuryら,2017]。また、迅速なイオン伝導はデンドライトの形成を減少させることができる。
【0194】
最後に、インジウムなどの金属は自己修復能力を有しており、リチウム化及び脱リチウムによる体積変化のサイクルにおいてSEIを維持することができる。液体電解質環境では、電解質に微量の金属塩を添加して金属メッキを行うことができ、その過程で損傷した金属メッキ層を修復することができる。これが可能なのは、インジウムが一般的な電解質に対して不活性なため、副反応の発生を防ぎ、250回の充放電サイクル後も元のエネルギー容量の90%を超えるエネルギー容量を維持できるからである[Choudhuryら,2017]。
【0195】
固体電解質環境では、リチウム合金金属コーティングはその低融点を利用して自己修復を行う。フィールド金属はビスマス、インジウム、スズの合金で、いずれの金属も融点が271.4℃、156.6℃、231.9℃と比較的高いのに対し、合金の融点はわずか62℃である。低融点は、電池の内部抵抗から発生する熱を受動的に利用するか、電池のジュール加熱システムを能動的に利用することにより、金属コーティングを自己修復することを可能にする(寒冷環境で電池の温度を制御するために一般的に使用される)。この自己修復能力は、充放電サイクルを繰り返した場合においてSEI層を安定に維持し、デンドライトを低減し、電解質及び活物質を維持することができる。
【0196】
図6は、リチウムイオン親和性を向上させ、SEIを安定化させるために、リチウム合金金属を用いてリチウム金属層を塗布する方法の例を概略的に示す。
図6に示すように、リチウム金属層610の上には、粉砕されたリチウム合金金属粉末620が直接載置されている。その後、光電磁エネルギーを照射してリチウム合金金属粉末を焼結する。瞬間焼結プロセスは、部分的に溶融したリチウム合金金属をリチウム金属陽極610の表面に均一に塗布し、リチウム合金金属コーティング620aを形成することができる。
【0197】
図7は、リチウムイオン親和性を向上させ、SEIを安定化させるために、リチウム合金金属を用いて3次元構造を塗布する方法の例を概略的に示す。
図7に示すように、リチウム金属層610の上に塗布された3次元構造710の上に、粉砕されたリチウム合金金属粉末620が配置される。その後、リチウム合金金属粉末620を圧延して3次元構造710をリチウム金属陽極に塗布する。光電磁エネルギーを印加してリチウム合金金属粉末を焼結する。瞬間焼結プロセスは、部分的に溶融したリチウム合金金属を3次元構造710の表面に均一に塗布し、リチウム合金金属コーティング620aを形成することができる。
【0198】
低融点リチウム合金金属コーティングは、
図6に示すようにリチウム金属層上に直接塗布されてもよいし、
図7に示すようにリチウム金属層上の3次元連続気泡多孔質保護コーティング上に塗布されてもよい。
【0199】
図7に示すリチウム金属層又は3次元保護コーティングの上にリチウム合金金属を塗布する例について以下に説明する。この例では、リチウム合金金属粉末の下にあるリチウム金属層への熱影響を最小限に抑えながら、光電磁エネルギーを照射してリチウム合金金属粉末を短時間で溶融し、溶融したリチウム合金金属粉末をリチウム金属層又は3次元保護コーティング上に塗布する。この方法は、従来のホットメルトディップコートや電着金属塗装とは異なる。
【0200】
本実施例では、圧延、光電磁エネルギー印加及び毛管現象を利用した簡単な方法で低融点リチウム合金金属コーティングを形成するプロセスが記載されている。まず、粉末状の低融点リチウム合金金属を製造する。低融点リチウム合金金属は、インジウム、スズ、ビスマス、ガリウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、白金、ゲルマニウム及び共晶合金(例えば、フィールド金属)を含んでもよいが、これらに限定されない。これらの金属やメタロイドは、高い延性を持つため、微細な粉末状にするために凍結粉砕を行う必要がある場合がある。
【0201】
金属粉末は、3次元保護コーティングの表面にランダムに堆積し、加圧及び加熱により圧延処理して3次元保護コーティングの空隙に浸透させることができる。光電磁エネルギーを印加すると、金属粉末が溶融し、毛細管作用により3次元構造を介して濡れる。これらの金属は融点が低く、所望の温度で基材(すなわち保護層付きリチウム金属層)に損傷を与えないので、この方法は実行可能である。
【0202】
リチウムデンドライト形成抑制効果を観察するため、金属酸化物を含む3次元構造CNT網目のサンプルを作製した。カルボン酸変性CNT(ACNTs)と酸化亜鉛とPVDFとをNMP溶媒に2:3:5の重量比で溶解して混合物とする。混合物を遊星球形撹拌機で30分間撹拌した後、薄膜コートを用いて銅箔に塗布する。コーティングの厚さが異なる2つのサンプル(70μmと100μm)を作製し、40℃の真空オーブンで2時間乾燥させる。その後、乾燥したサンプルに電力2.3kVのIPLを照射してナノ多孔質構造を形成する。
【0203】
図8a及び8bは、多孔質ナノ複合薄膜サンプルの空隙率を示しており、走査型電子顕微鏡(SEM)画像では、サンプルの厚さが70μm(a)、100μm(b)であることが示されている。サンプル表面のSEM画像は、2種類の異なる厚さのサンプルのナノ孔とマイクロ細孔を示している。
【0204】
図8aに示すように、厚さ70μmのサンプルの空隙の最大直径は15μmである。
図8bに示すように、厚さ100μmのサンプルの空隙の大径は20μmである。
【0205】
図9は、ガスピクノメータ分析から得られた多孔質ナノ複合薄膜サンプルの空隙率を示す。
図9に示すように。ガスピクノメータを用いた空隙率解析では、厚さ100μmのサンプルの空隙率は41%で、厚さ70μmのサンプルの空隙率である36%よりも大きくなっている(
図8参照)。2つのサンプルの組成は同じであるが、厚さが異なるため、空隙率が異なる。厚さの増加による空隙率の増加は、乾燥工程に関連している可能性があり、乾燥工程では、厚さのあるサンプルに若干の溶媒が残留し、空隙率が増加する可能性がある。
【0206】
図10に示すように、リチウム金属陽極上のナノ複合コーティングサンプルを対象とした対称電池試験を用いた試験を実施した。対称電池試験では、陽極及び陰極に代えて、一対のリチウム金属電極1010a、1010bを配置する。前記一対のリチウム金属電極1010a、1010bの間には、1枚のセパレータ1020が設けられている。一方のリチウム金属電極1010aの上にはスペーサ1030、ばね1040及び上蓋1050が連続して配置され、他方のリチウム金属電極1010bの下には下蓋1060が配置されている。定電流密度で充放電サイクル全体にわたって経時的に変化する電圧を監視する。電圧振幅が増加して臨界限界に達した場合、リチウムデンドライトが形成され、電池が故障したと判断する。
【0207】
図11a及び
図11bは、多孔質ナノ複合薄膜サンプルのリチウム金属陽極安定性分析の結果を示す。PVDF、ZnO、及びCNTからなる様々な厚さ(70μmと100μm)のサンプルを対象とした対称電池試験を使用して分析する。
【0208】
図11a及び11bに示すように、電圧図では、厚さが異なる2つのサンプル(70μmと100μm)は0.5mA/cm
2密度で安定したサイクルを示す。このことから、この2つのサンプルともリチウムデンドライトの形成を効果的に抑制していることは明らかである。
図11aの厚さ70μmのサンプルと異なり、
図11bの厚さ100μmのサンプルでは、電圧振幅は大きくなった(約15%増加)、安定性は70μmのサンプルと同様である。電圧振幅の増加は、厚さ100μmのサンプルの空隙率と体積は厚さ70μmのサンプルよりも高いことを示しており、サンプルのエネルギー容量が高いことを示している。
【0209】
一例として、平均直径100nm(Tekna)の銅ナノ粒子(Cu NP)を硝酸銀(AgNO3)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、MW:40000g/mol)、ジエチレングリコール(DEG)、グラフェンナノプレートレット(GnP、比表面積:500m2/g)、及びギ酸(HCOOH)と混合する。試験を行うために、ドクターブレード成膜法を用いて3Dプリントしたアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)製の基材にインクを堆積させる。コーティング膜を50℃の真空オーブンで1時間乾燥させ、残留溶媒を除去する。その後、IPL処理を用いて導電性インク膜を焼結し、堆積させた粒子間に導電性網目を形成する。キセノン閃光管(セリウムA型)からの強光パルスは、2種類の異なる角型パルスでサンプルを焼結する。持続時間はそれぞれ1msと2.5msで、エネルギー密度は1.07~3.66J/cm2である。
【0210】
図12a及び12bは、走査型電子顕微鏡(SEM)による、光電磁エネルギー照射前後における銅系金属導電性インクの表面形態の比較結果を示す。
【0211】
図12aに示すように、IPLを印加する前に、塗布された銅系金属導電性インクの表面には、凝集した金属ナノ粒子と結晶化した金属酸化物以外のものはない。しかし、
図12bに示すように、IPLを印加した後、金属酸化物は還元されて金属になり、高多孔質3次元構造を有する薄い焼結銅導電性網目が形成される。
【0212】
本開示の主題は、以下のようにまとめてもよい。
【0213】
デンドライトの成長を抑制し、安定したSEIを維持し、充放電の繰り返しサイクル中にリチウム金属の体積変化による内部応力に耐える機能を有するリチウム金属電池の陽極電極であって、i.銅集電体層と、ii.集電層の表面に配置されたリチウム金属層と、iii.連続気泡空隙を有する3次元構造における保護層と、iv.低融点リチウム合金金属コーティングと、を含む。
【0214】
リチウム金属層は、保護層との付着力を高めることができるエンジニアリングされた表面テクスチャを有する。
【0215】
エンジニアリングされた表面テクスチャは、サンドブラスト方法を用いて、研磨材粒子をリチウム金属層上に噴射して形成される。
【0216】
研磨材粒子は、アルミナ、粉砕シリカ、及び化学的に不活性なソーダライムガラスビーズのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。
【0217】
前記保護層は、連続気泡ナノ多孔質重合体マトリックス、炭素系導電性ナノ材料及び構造支持材料を含む重合体ナノ複合材料からなる。
【0218】
本開示は、i.重合体ナノ複合材料の前駆体材料を混合してスラリーを形成するステップと、ii.薄膜コーティング方法を用いて、スラリーをリチウム金属層上に塗布し、乾燥させるステップと、iii.光電磁エネルギーを印加し、スラリー中の低融点重合体を蒸発させ、3次元連続気泡ナノ孔を形成するステップと、を含む、連続気泡ナノ孔構造を有する重合体ナノ複合材料層の形成方法を提供する。
【0219】
重合体ナノ複合材料スラリーの混合物は、異なる沸点を有する複数種の重合体、導電性炭素添加剤、構造支持材料、及び溶媒を含み、前記異なる沸点を有する複数種の重合体は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ポリジアセチレン(PDA)、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、グリセロール、スクロース、セルロース、及びリグニンから無制限に選択される。
【0220】
前記構造支持添加剤は、六方晶窒化ホウ素(hBN)、ケイ素ナノワイヤ(SiNW)、アルミナなどの機械的強度の高い材料と電気化学的に不活性な材料とを含む。
【0221】
前記導電性炭素添加剤は、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNP)及び炭素ドットから無制限に選択される。
【0222】
前記溶媒は、水、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、又はこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0223】
前記保護層は、3次元連続気泡多孔質構造を有するカーボンナノファイバーマットレスを含む。
【0224】
連続気泡ナノ多孔質構造を有するカーボンナノファイバーマットレスの形成方法は、i.ナノファイバー前駆体溶液を製造するステップと、ii.重合体ナノ複合材料製のナノファイバーマットレスをエレクトロスピニングするステップと、iii.光電磁エネルギーを印加し、重合体ナノ複合材料ナノファイバーを炭化してカーボンナノファイバーを形成するステップと、iv.重合体ナノ複合材料ナノファイバーマットレスをリチウム金属陽極に熱圧着するステップと、を含む。
【0225】
ナノファイバー前駆体溶液は、エレクトロスピニングに適した1種又は複数種の重合体と、導電性炭素添加剤と、溶媒との混合物を含む。
【0226】
前記重合体は、ポリアミド(PA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリウレタン(PU)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリジアセチレン(PDA)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、コラーゲン及びセルロースアセテート(CA)から無制限に選択される。
【0227】
前記導電性炭素添加剤は、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNPs)及び炭素ドットのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。
【0228】
前記溶媒は、水、アセトン、ギ酸、クロロホルム、イソプロパノール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びテトラハイドロフラン(THF)のうちのうちの1種又は複数種を含むが、これらに限定されない。
【0229】
エレクトロスピニングプロセスは、シリンジポンプに取り付けられたシリンジ針とドラムとの間に電圧差を形成する高電圧電源付き横型エレクトロスピニング装置を使用する。
【0230】
カーボンナノファイバーマットレスを付着させるステップでは、熱応力と圧縮応力とを同時に印加してカーボンナノファイバーマットレスをリチウム金属層に付着させ、熱応力と圧縮応力とは圧延機、圧縮成形機、及びホットプレスにより無制限に印加される。
【0231】
保護層は、金属酸化物が塗布されたカーボンナノチューブ網目からなり、3次元連続気泡多孔質構造を有する。
【0232】
金属酸化物が塗布されたカーボンナノチューブ網目の形成方法は、i.親リチウム性金属酸化物と疎リチウム性カーボンナノチューブのナノ複合材料前駆体を混合するステップと、ii.薄膜コーティング方法を用いて、親リチウム性金属酸化物と疎リチウム性カーボンナノチューブとのナノ複合材料をリチウム金属層上に堆積させるステップと、iii.光電磁エネルギーを印加して、勾配親リチウム性-疎リチウム性特性を有するカーボンナノチューブ網目を形成するステップと、を含み、ここで、前記カーボンナノチューブ網目は、最上層が疎リチウム性カーボンナノチューブであり、最下層が親リチウム性金属酸化物カーボンナノチューブ複合材料である。
【0233】
ナノ複合前駆体の混合物は、カーボンナノチューブをリチウム金属陽極に付着させて網目構造を維持するための親リチウム性金属酸化物と、導電性網目を形成するための疎リチウム性カーボンナノチューブとからなる。
【0234】
前記親リチウム性金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化チタンを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0235】
カーボンナノチューブは、単層CNT(SWCNTs)、二層CNT(DWCNTs)、多層CNT、官能化CNT、又は短いカーボンナノファイバーを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0236】
前記溶媒は、水、エタノール、ヘキサン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、又はこれらの組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0237】
デンドライトの成長を抑制し、安定したSEIを維持し、充放電サイクルを繰り返す過程でリチウム金属の体積変化による内部応力に耐える機能を有する集電体であって、i.銅金属集電体層と、ii.銅金属集電体層上に塗布された3次元網目構造と、を含み、前記3次元網目構造は銅系構造又は炭素系構造である。
【0238】
3次元銅系網目構造の形成方法であって、銅、銀、導電性炭素添加剤、重合体担体及び溶媒を混合したスラリーを形成するステップと、ii.薄膜コーティング方法を用いて、スラリーを銅金属層上に堆積させるステップと、iii.堆積させたスラリーを光電磁的に焼結し、3次元銅系網目構造を形成するステップと、を含む。
【0239】
前記スラリーは、銅系ナノ粒子、銀塩、重合体担体、導電性炭素添加剤、及び溶媒を含む。
【0240】
前記銅系ナノ粒子は、銅、酢酸銅、酸化銅及びギ酸銅四水和物から無制限に選択される1種又は複数種からなる。
【0241】
前記銀塩は、銀、硝酸銀、亜硝酸銀、及び酢酸銀から無制限に選択される1種又は複数種からなる。
【0242】
前記重合体担体は、ポリビニルピロリドンを溶解したポリエチレングリコールを含む。
【0243】
前記導電性炭素添加剤は、カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、官能化カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラフェンナノプレートレットから選択される1種又は複数種からなる。
【0244】
3次元連続気泡炭素系網目構造の形成方法であって、炭素前駆体と導電性炭素添加剤と溶媒とを混合してスラリーを形成するステップと、ii.薄膜コーティング方法を用いて、前記スラリーを銅金属層上に堆積させるステップと、iii.光電磁エネルギーを印加してスラリーを炭化し、3次元炭素系網目構造を形成するステップと、を含む。
【0245】
混合物は、炭素前駆体、導電性炭素添加剤、及び溶媒のうちの1種又は複数種を含む。
【0246】
前記炭素前駆体は、アスファルテン、メソフェーズピッチ、セルロース、セルロースナノ結晶、及びリグニンなどの工業副産物を含む。
【0247】
前記導電性炭素添加剤は、カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、官能化カーボンナノチューブ、グラフェン、グラフェンナノプレートレット、又はこれらの組み合わせからなる。
【0248】
低融点リチウム合金金属コーティングは、自己修復能力を有し、固体電解質界面層を安定化するために、リチウム金属陽極、保護コーティング又は陽極レス集電体の表面に適用することができる。
【0249】
リチウム金属陽極保護コーティング上にリチウム合金金属コーティングを形成する方法であって、i.リチウム合金金属の粉砕粉末をリチウム金属層、保護コーティング又は陽極レス集電体上に添加するステップと、ii.光電磁エネルギーを印加して、リチウムターゲット表面に薄いリチウム合金金属を焼結するステップと、を含む。
【0250】
この粉砕粉末は、低融点リチウム合金金属及びメタロイドのうちの1種又は複数種を含む。
【0251】
前記低融点リチウム合金金属及びメタロイドは、インジウム、スズ、ビスマス、ガリウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、白金、ゲルマニウム、及びフィールド金属から無制限に選択される。
【0252】
薄膜コーティング方法を用いた材料の堆積方法は、ナノ複合材料のスラリー混合物をコーター(ワイヤコーター又はドクターコーターであってもよい)で塗布し、塗布したスラリーを真空オーブンに入れて乾燥させ、スラリー中のすべての溶媒を蒸発させるステップを含む。
【0253】
光電磁エネルギーの印加方法であって、低沸点材料を蒸発させ、重合体及び炭素前駆体材料の炭化を誘導するステップと、導電性金属ナノ粒子を焼結するステップと、を含む。
【0254】
光電磁エネルギーの印加は、短時間で高エネルギーを印加し、印加されたエネルギーを炭素添加剤により高い吸収率で吸収することを含む。
【0255】
光電磁エネルギーの印加は、照射された表面にエネルギーを印加することのみを含む。
【0256】
光電磁エネルギーの印加には、強いパルス光(IPL)、マイクロ波、レーザ、プラズマ、又は赤外線炉による照射が含まれる。
【0257】
光電磁エネルギーの印加中に基材を冷却するための冷却装置であって、光電磁エネルギーの直接照射下において、材料(例えば、リチウム金属層又は銅集電層)に接触する基材の温度を低下させ、過熱による基材の損傷を防止する。
【0258】
前記冷却装置は、i.熱伝導性金属付きホルダープレートと、ii.ペルチェ素子や熱交換器システムなどの熱交換器システムとを含み、冷媒がホルダープレートを通過した後に熱交換器に圧送されることを可能にする。
【0259】
ホルダープレートは、特定の大きさのリチウム金属陽極に適合するように押出固定手段を備えた金属プレートを含み、金属プレートは、熱交換器システムを固定するのに十分な厚さを有し、金属プレートの材料は、銅又はアルミニウムを含むが、これらに限定されない。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属電池の陽極電極であって、
集電体と、
前記集電体上に設けられたリチウム金属層と、
前記リチウム金属層上に設けられ、3次元連続気泡多孔質構造を有する保護層と、
前記保護
層の表面上に設けられたリチウム合金金属と、を含
み、
ここで、前記保護層は、重合体マトリックス、導電性炭素添加剤及び構造支持材料を含む連続気泡ナノ多孔質重合体ナノ複合材料層である、リチウム金属電池の陽極電極。
【請求項2】
前記リチウム金属層はエンジニアリングされた表面テクスチャを有する、請求項1に記載の陽極電極。
【請求項3】
リチウム金属電池の陽極電極であって、
集電体と、
前記集電体上に設けられたリチウム金属層と、
前記リチウム金属層上に設けられ、3次元連続気泡多孔質構造を有する保護層と、
前記保護層の表面上に設けられたリチウム合金金属と、を含み、
ここで、前記保護層は、3次元連続気泡多孔質構造を有する、親リチウム性金属酸化物を含むカーボンナノチューブ網目を含
み、
ここで、カーボンナノチューブ網目は、最上層が疎リチウム性カーボンナノチューブであり、最下層が親リチウム性金属酸化物-カーボンナノチューブ複合材料である、リチウム金属電池の陽極電極。
【請求項4】
前記親リチウム性金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化チタンのうちの1種又は複数種を含む、請求項
3に記載の陽極電極。
【請求項5】
前記リチウム合金金属は、インジウム、スズ、ビスマス、ガリウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、白金、ゲルマニウム、及びフィールド金属から選択される低融点金属である、請求項1に記載の陽極電極。
【請求項6】
リチウム金属電池の陽極電極の製造方法であって、
集電体上にリチウム金属層を設けるステップと、
前記リチウム金属層上に、3次元連続気泡多孔質構造を有する保護層を形成するステップと、
前記保護
層の表面上にリチウム合金金属層を形成するステップと、を含み、
ここで、
前記保護
層を形成するステップ及びリチウム合金金属
層を形成するステップのうちの少なくとも一方は、光電磁エネルギー照射を含む、製造方法。
【請求項7】
前記保護層を形成するステップは、
第1重合体と、第1重合体よりも沸点の低い第2重合体と、導電性炭素添加剤と、構造支持添加剤と、溶媒とを混合したスラリーを調製するステップと、
薄膜コーティング方法を用いて、スラリーをリチウム金属層上に塗布し、その後、風乾して中間コーティングを形成するステップと、
中間コーティングに光電磁エネルギーを照射し、中間コーティング中の第2重合体を蒸発させてナノ孔を形成するステップと、を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1重合体及び前記第2重合体は、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、ポリジアセチレン(PDAs)、ポリプロピレン、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、グリセロール、スクロース、セルロース、及びリグニンから選択され、
前記導電性炭素添加剤は、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNP)、及び炭素ドットから選択され、
前記構造支持添加剤は、六方晶窒化ホウ素(hBN)、ケイ素ナノワイヤ(SiNW)、及びアルミナから選択される、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
保護層を形成するステップは、
ナノファイバー前駆体溶液を製造するステップと、
前記ナノファイバー前駆体溶液をエレクトロスピニングして、重合体ナノ複合材料製のナノファイバーマットレスを製造するステップと、
前記重合体ナノ複合材料ナノファイバーに光電磁エネルギーを印加して、前記重合体ナノ複合材料ナノファイバーを炭化し、カーボンナノファイバーマットレスレスを形成するステップと、
前記カーボンナノファイバーマットレスレスをリチウム金属陽極に付着させるステップと、を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項10】
前記ナノファイバー前駆体溶液は、重合体と、導電性炭素添加剤と、溶媒と、を含み、
ここで、前記重合体は、ポリアミド(PA)、ポリアクリルアミド(PAAm)、ポリウレタン(PU)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリジアセチレン(PDAs)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、コラーゲン、及びセルロースアセテート(CA)のうちの1種又は複数種を含み、
ここで、前記導電性炭素添加剤は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、グラフェン、酸化グラフェン、グラフェンナノプレートレット(GNP)、及び炭素ドットのうちの1種又は複数種を含み、
ここで、前記溶媒は、水、アセトン、ギ酸、クロロホルム、イソプロパノール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及びテトラハイドロフラン(THF)のうちの1種又は複数種を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記カーボンナノファイバーマットレスレスを付着させるステップは、
熱応力と圧縮応力を同時に印加して、カーボンナノファイバーマットレスレスをリチウム金属層に付着させるステップを含み、
熱応力及び圧縮応力は圧延機、圧縮成形機及びホットプレスによって印加される、請求項
9に記載の方法。
【請求項12】
保護
層を形成するステップは、
親リチウム性金属酸化物と疎リチウム性カーボンナノチューブのナノ複合材料前駆体を溶媒中で混合するステップと、
薄膜コーティング方法を用いて、親リチウム性金属酸化物と疎リチウム性カーボンナノチューブとのナノ複合材料をリチウム金属層上に堆積させるステップと、
光電磁エネルギーを印加して、溶媒を急速に乾燥させ、親リチウム性金属酸化物の濃度が上から下に向かって徐々に増加するカーボンナノチューブ網目を形成するステップと、を含み、
ここで、前記カーボンナノチューブ網目は、最上層が疎リチウム性カーボンナノチューブであり、最下層が親リチウム性金属酸化物カーボンナノチューブ複合材料であり、
ここで、前記親リチウム性金属酸化物は、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マンガン、及び酸化チタンのうちの1種又は複数種を含み、
ここで、前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNTs)、二層カーボンナノチューブ(DWCNTs)、多層カーボンナノチューブ、官能化カーボンナノチューブ、又は短いカーボンナノファイバーを含み、
前記溶媒は、水、エタノール、ヘキサン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、又はこれらの組み合わせを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項13】
保護層上にリチウム合金金属を塗布するステップは、
粉末状リチウム合金金属を保護
層上に堆積させ、圧延プロセスを利用して粉末状リチウム合金金属を前記多孔質構造を介して前記保護
層に浸透し、光電磁エネルギー照射を行い、前記粉末状リチウム合金金属を溶融し、その後、毛細管作用に基づいて、溶融したリチウム合金金属を保護
層の表面上に塗布するステップを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項14】
サンドブラストを利用してリチウム金属層上にエンジニアリングされた表面テクスチャを形成するステップをさらに含み、
ここで、サンドブラスト用研磨材は、1μm~100μmの範囲のアルミナ、粉砕シリカ粉末又はソーダライムガラスビーズを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項15】
リチウム金属電池の陽極電極の製造方法であって、
金属ナノ粒子前駆体、導電性炭素添加剤、重合体担体及び溶媒のうちの1種又は複数種を混合したスラリーを形成するステップと、
薄膜コーティング方法を用いて、前記スラリーを金属集電体上に堆積させるステップと、
光電磁エネルギーを照射して、堆積させたスラリーを焼結するステップと、
光電磁エネルギー照射後のスラリーを焼結し、3次元金属系網目構造を形成するステップと、を含む、製造方法。
【請求項16】
前記金属ナノ粒子前駆体は、銅系ナノ粒子前駆体と銀塩とを含み、
ここで、前記銅系ナノ粒子前駆体は、銅、酢酸銅、酸化銅及びギ酸銅四水和物から選択される1種又は複数種であり、
ここで、前記銀塩は、銀、硝酸銀、亜硝酸銀、酢酸銀及び銀塩を含むナノ粒子のうちの1種又は複数種の組み合わせを含み、
ここで、前記導電性炭素添加剤は、カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、官能化カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラフェンナノプレートレットのうちの1種又は複数種の組み合わせを含み、
ここで、前記重合体担体は、ポリエチレングリコール(PEG)に溶解したポリビニルピロリド(PVP)ンの組み合わせを含み、
前記溶媒は、水、脱イオン水、エタノール、ギ酸、硝酸、又は硫酸のうちの1種又は複数種の組み合わせを含む、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
3次元金属系網目構造上にリチウム合金金属を塗布するステップをさらに含み、
3次元金属系網目構造上にリチウム合金金属を塗布するステップは、
粉末状リチウム合金金属を3次元金属系網目構造上に堆積させ、圧延プロセスを利用して粉末状リチウム合金金属を前記多孔質構造を介して前記3次元金属系網目構造に浸透し、光電磁エネルギー照射を行い、粉末状リチウム合金金属を溶融し、その後、毛細管作用に基づいて、溶融したリチウム合金金属を3次元炭素系網目構造の表面上に塗布するステップを含む、請求項
15に記載の方法。
【請求項18】
リチウム金属電池の陽極電極の製造方法であって、
炭素前駆体、導電性炭素添加剤及び溶媒を混合して、スラリーを調製するステップと、
薄膜コーティング方法を用いて、前記スラリーを金属集電体上に堆積させるステップと、
堆積させたスラリーに光電磁エネルギーを印加して、スラリーを炭化し、3次元炭素系網目構造を形成するステップと、を含む、製造方法。
【請求項19】
前記炭素前駆体は、アスファルテン、メソフェーズピッチ、セルロース、セルロースナノ結晶、及びリグニンから選択され、
ここで、前記導電性炭素添加剤は、カーボンブラック、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、官能化カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラフェンナノプレートレットのうちの1種又は複数種の組み合わせを含み、
ここで、前記溶媒は、水、脱イオン水、及びエタノールのうちの1種又は複数種の組み合わせを含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
3次元炭素系網目構造上にリチウム合金金属を塗布するステップをさらに含み、
3次元金属系網目構造上にリチウム合金金属を塗布するステップは、
粉末状リチウム合金金属を3次元金属系網目構造上に堆積させ、圧延プロセスを利用して粉末状リチウム合金金属を前記多孔質構造を介して前記3次元金属系網目構造に浸透し、光電磁エネルギー照射を行い、粉末状リチウム合金金属を溶融し、その後、毛細管作用に基づいて、溶融したリチウム合金金属を3次元炭素系網目構造の表面上に塗布するステップを含む、請求項
18に記載の方法。
【請求項21】
前記光電磁エネルギー印加は、低沸点材料を蒸発させ、重合体及び炭素前駆体材料の炭化を誘導し、導電性金属ナノ粒子を焼結し、
ここで、前記光電磁エネルギー印加は、短時間で高エネルギーを印加し、炭素添加剤が高吸収率でエネルギーを吸収し、照射面のみにエネルギーが印加され、
ここで、光電磁エネルギーは、強いパルス光、マイクロ波、レーザ、プラズマ、又は赤外線炉の照射により印加される、請求項
6~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
請求項
6~20のいずれか1項に記載の方法によって光電磁エネルギーを印加するときに基材を冷却する冷却装置であって、
前記冷却装置は、光電磁エネルギーの直接照射下において、前記材料に接触する基材の温度を低下させ、過熱による基材の損傷を防止するものであり、前記冷却装置は、
i.熱伝導性金属付きホルダープレートと、
ii.ペルチェ素子から選択される熱交換器システム、又は冷媒が熱交換器に圧送された状態でホルダープレートを通過する熱交換器システムと、を含む、冷却装置。
【国際調査報告】