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特表2024-512562微結晶ナノスケールシリコン粒子およびリチウムイオン二次電池におけるアノード活物質としてのその粒子の使用
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  • 特表-微結晶ナノスケールシリコン粒子およびリチウムイオン二次電池におけるアノード活物質としてのその粒子の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】微結晶ナノスケールシリコン粒子およびリチウムイオン二次電池におけるアノード活物質としてのその粒子の使用
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/029 20060101AFI20240312BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240312BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240312BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240312BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240312BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240312BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240312BHJP
【FI】
C01B33/029
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
H01M4/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558375
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2022057998
(87)【国際公開番号】W WO2022200606
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】2104362.5
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522308244
【氏名又は名称】セネート アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】サーワル,エーリク
(72)【発明者】
【氏名】キルケンゲン,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】フィルツェット,ワーネル
【テーマコード(参考)】
4G072
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072BB12
4G072DD06
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH04
4G072JJ23
4G072JJ47
4G072LL02
4G072MM01
4G072MM40
4G072QQ09
4G072RR11
4G072TT01
4G072TT06
4G072UU30
5H017AA03
5H017CC03
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA16
5H050CA01
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA21
5H050EA28
5H050FA16
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、微結晶ナノスケールシリコン粒子の製造方法と、この方法により製造される粒子と、二次電気化学セルの負極の活物質として前記粒子を用いた二次電気化学セルとに関し、シリコン粒子は、式Si(1-x)の化合物からなり、ここで、0.005≦x≦0.20であり、Mは、C、Nまたはこれらの混合体から選ばれる少なくとも1つの置換元素であり、粒子は800~900℃の熱処理を受けて1~15nmの範囲の微結晶サイズを有する微結晶相に変換される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン含有粒子であって、
前記粒子は、ISO9277:2010によるBrunauer-Emmet-Teller(BET)分析によって決定される、25.8~182m/gの表面積を有し、
前記シリコン含有粒子は、式Si(1-x)の化合物を含み、ここで、0.005≦x≦0.20であり、Mは、C、N、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの置換元素であり、
前記シリコン含有粒子の化合物は、リートベルト法により決定される、1~15nmの範囲の微結晶サイズを有する、シリコン含有粒子。
【請求項2】
前記シリコン含有粒子は、式Si(1-x)xの化合物からなり、ここで、Mは、C、N、あるいはこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの置換元素であり、0.001≦x≦0.15、好ましくは0.005≦x≦0.10、より好ましくは0.0075≦x≦0.075、より好ましくは0.01≦x≦0.05、最も好ましくは0.02≦x≦0.03である、請求項1に記載のシリコン含有粒子。
【請求項3】
前記粒子は、ISO9277:2010に従いBrunauer-Emmet-Teller(BET)分析によって決定される、34~136m/g、好ましくは39~109m/gの範囲、より好ましくは45~91m/gの範囲、最も好ましくは54~68m/gの範囲のBET表面積を有する、請求項1または2に記載のシリコン含有粒子。
【請求項4】
前記シリコン含有粒子の前記化合物が、リートベルト精密化により決定される、2~12nmの範囲、好ましくは3~10nmの範囲、より好ましくは4~8nmの範囲、最も好ましくは5~6nmの範囲の微結晶サイズを有し、装置ブラッグピークプロファイルは、基本パラメータから計算し、小さな粒径によるローレンツ型およびガウス型のサンプル拡がりを考慮して精密化し、形状係数0.89を用いて半値全幅(FWHM)に対するサンプルの寄与からシェラーの式を用いて粒径を計算する、請求項1~3のいずれか1項に記載のシリコン含有粒子。
【請求項5】
前記シリコン含有粒子が、0.2~10nm、好ましくは1.5~8nmの範囲、より好ましくは2~6nmの範囲、最も好ましくは3~4nmの範囲の厚さの炭素被膜をさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリコン含有粒子。
【請求項6】
前記粒子は、前記粒子の表面の少なくとも一部を覆う被膜を有し、前記被膜は、前記シリコン含有粒子の表面と気体状一酸化炭素COとの反応からの反応生成物である、請求項1~4のいずれか1項に記載のシリコン含有粒子。
【請求項7】
高分解能明視野透過電子顕微鏡法(TEM)によって決定される、前記被膜の厚さは、0.1~3nm、好ましくは0.2~2nm、より好ましくは0.3~1.5nm、より好ましくは0.4~1.0nm、より好ましくは0.5~0.8nm、最も好ましくは0.6~0.7nmの範囲である、請求項6に記載のシリコン含有粒子。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の多結晶シリコン含有粒子の製造方法であって、
シリコン含有化合物の第1の前駆体ガスと、置換元素M含有化合物の少なくとも1つの第2の前駆体ガスとの均質なガス混合体を形成する工程であって、MはCまたはN、またはそれらの組み合わせである工程と、
前記第1および前記第2の前駆体ガスの前記均質なガス混合体を反応器空間内に注入する工程であって、前記前駆体ガスを700~900℃の範囲の温度に加熱することにより前記前駆体ガスが反応して主として非晶質のシリコン含有粒子を形成する工程と、
前記主として非晶質のシリコン含有粒子を、不活性雰囲気中で800~900℃の範囲の温度で0.1~4時間にわたり熱処理して前記非晶質のシリコン含有粒子を多結晶シリコン含有粒子に変換する工程と、
前記多結晶シリコン含有粒子を冷却して回収する工程とを含み、
前記第1および前記第2の前駆体ガスの相対量は、前記形成された粒子が[0.005、0.25]の範囲の原子比M:Siを得るように適合される、方法。
【請求項9】
前記第1の前駆体ガスは、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、トリクロロシラン(HClSi)、またはこれらの混合体であり、前記第2の前駆体ガスは、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、エテン(C)、エチン(C)、アルカン、アルケン、アルキン、Nの水素化物、シアン化水素、またはそれらの混合体から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1及び前記第2の前駆体ガスの相対量は、前記形成された粒子が、[0.0070、0.177]の範囲、好ましくは[0.0081、0.11]の範囲、好ましくは[0.0091、0.081]の範囲、最も好ましくは[0.01、0.053]の範囲の原子比M:Siを得るように適合される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1および前記第2の前駆体ガスの前記均質なガス混合体は、前記反応器空間に挿入する前に300~500℃の範囲の温度に予熱され、次いで、前記反応器空間への注入後、740~850℃の範囲、好ましくは780~830℃の範囲、最も好ましくは790~820℃の範囲の温度までさらに加熱される、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記均質なガス混合体は、水素、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴンなどの希ガス、または前記特定された温度で前記前駆体ガスと化学的に反応しないその他の任意のガスをさらに含む、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記第1および前記第2の前駆体ガスの前記相対量は、前記反応器に注入される前記第1および前記第2の前駆体ガスの流量を調節し、質量分析計を用いて前記反応器から出る排出ガスの組成を測定して注入された前記第1および前記第2の前駆体ガスが粒子に変換される割合を決定し、この情報を用いて前記形成された粒子中の原子比M:Siを推定し、前記第1および前記第2の前駆体ガスの供給速度を調節して、製造中の前記粒子において前記意図された原子比M:Siを得るように適合される、請求項8~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法は、
i)前記シリコン含有粒子を反応器室内に配置し、
ii)一酸化炭素COを含む前駆体ガスを前記反応器室内に導入し、
iii)前記シリコン粒子上に被膜が形成されるまでの時間、前記シリコン含有粒子を前記反応器室内に維持することによって、
前記シリコン含有粒子を被覆することをさらに含む、請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
リチウムイオン二次電気化学セルの負極であって、前記負極は、
少なくとも1種の粒子状活物質と、
バインダー材料と、
集電基板とを含み、
前記少なくとも1つの粒子状活物質は、前記バインダー材料に埋め込まれて、前記集電基板上にアノード塊層として堆積されるアノード塊を形成し、
前記少なくとも1つの粒子状活物質は、請求項1~7のいずれか1項に記載のシリコン含有粒子である、負極。
【請求項16】
前記導電性基板は、グラファイト、CuまたはAlのいずれかの箔またはシートであり、前記バインダーは、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン-プロピレン-ジエンメチレン(EPDM)、ポリアクリル酸(PAA)のいずれかである、請求項15に記載の負極。
【請求項17】
前記アノード塊が、前記粒子状活物質に混合され前記バインダー材料中にともに埋め込まれた粒子状導電性添加材料をさらに含む、請求項15または16に記載の負極。
【請求項18】
前記粒子状導電性充填材料が、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、またはこれらの混合体である、請求項17に記載の負極。
【請求項19】
リチウムイオン二次電気化学セルの負極に用いられる複合粒子であって、前記複合粒子は、請求項1~7のいずれか1項に記載のシリコン含有粒子を複数個と、グラフェンまたは還元された酸化グラフェンと、を含む、複合粒子。
【請求項20】
リチウムイオン二次電気化学セルの負極に用いられる複合粒子であって、前記複合粒子は、請求項1~7のいずれか1項に記載のシリコン含有粒子を複数個と、主として炭素を含有するナノ多孔質構造または主として炭素を含有するエアロゲルと、を含む、複合粒子。
【請求項21】
リチウムイオン二次電気化学セルの負極に用いられる複合粒子であって、前記複合粒子は、請求項1~7のいずれか1項に記載のシリコン含有粒子を複数個と、炭素に富む物質の熱分解によって製造された主として炭素を含有する物質と、を含む、複合粒子。
【請求項22】
前記シリコン含有粒子は、Cおよび/またはNの合計含有量が0.05~20原子%であり、残部がSiおよび不可避不純物である、請求項1~7のいずれか1項に記載のシリコン含有粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケール微結晶シリコン粒子を製造する方法と、製造された粒子と、二次電気化学セルの負極の活物質としてこの粒子を利用する二次電気化学セルとに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、化石燃料エネルギーで動いている社会において、多くの分野で再生可能エネルギーや電力の使用が強く増加していることに伴い、国連気候条約のもとでのパリ協定の各目標を達成することが必要となる。これらの目標を達成するために重要なことは、優れた比エネルギーを有する再充電可能な電池へのアクセスである。
【0003】
リチウムは0.534g/cmという比較的非常に低い密度を有し、また、半反応Li→Li+eについて-3.045Vの高い標準還元電位を有する。これにより、リチウムは、高いエネルギー密度をもつ電気化学セルを製造するための魅力的な候補となる。しかしながら、金属リチウムの負極を有する二次(再充電可能)電気化学セルは、数回の充放電サイクル後に電気化学セルを短絡する傾向がある、充電時のデンドライト形成という持続的な問題に苦しめられていることが示されている。
【0004】
デンドライト問題は、インターカレーションによりリチウム原子を放出可能に貯蔵することができる負極を適用することによって解決された。このような電池は、リチウムイオン二次電池(LIB)として知られている。LIBの電気化学的特性は、負極の活物質の物理的および化学的性質によって直接的に影響される。物質の選択および調製、並びに、活物質の適切な構造上の変更および設計は、ともに、電池性能に影響する。この点における重要な問題は、電池が充電されるときにリチウム原子を高い体積密度で確実にかつ可逆的に貯蔵し、その後、多数の連続的な充放電サイクルで放電されるときにリチウムをイオン(Li)として放出することができる活物質を見出すことであったし、今もなおそうである。
【0005】
現在、市販されているLIBの大半は、負極の活物質としてグラファイトを用いる。グラファイトは、6つの炭素原子あたり1つのリチウムイオンを、ほとんど形状変形を伴わないインターカレーションにより収容/充填することができ、372mAh/gの理論的な比エネルギーを有する。グラファイトアノードを有する市販の二次LIBは、典型的には、100~200Wh/kgの比エネルギーを得て、例えば、中型長距離電気自動車電池を数百キロの重さとする。このレベルの比エネルギー密度は、パリ協定の目標を実現するにはおそらく不十分である。
【0006】
LIBの比エネルギーを改善するための1つの戦略は、負極の活物質として使用されるグラファイトよりもリチウムイオンの貯蔵能力が高い物質を見出すことである。この点に関して多く研究された1つの候補はシリコンであり、これは、拡散および合金化によってリチウム原子を貯蔵する高い能力のためである。典型的な周囲温度において、シリコンの最もリチウム化された相は、理論的比容量3579mA h/gを有するLi3、75Siである[非特許文献1]。シリコンの負極もまた、セル過充電の際のリチウム析出に関する安全上の懸念を減少させる、魅力的な作動電位を提供することを可能にするという利点を有する[非特許文献2]。
【0007】
最もリチウム化された状態であるLi3.75Siにおいて、シリコン材料は、非リチウム化状態よりも約320%大きい体積を有する。Wang et al.(2013)[非特許文献4]は、結晶シリコン中のリチウムの拡散動態を研究し、シリコン結晶中のリチウムの拡散速度が、<100>方向および<111>方向におけるよりも、<110>方向において、より速いことを見出した。これは、リチウム化の際のシリコン結晶の異方性膨張、ひいては、シリコン材料の破砕および粉砕を引き起こすおそれのある異方性応力を引き起こす。この異方性応力は、シリコン材料が結晶シリコンと比較して非晶質である場合、いくつかのアノード構造において低減されることが見出され[非特許文献3]、これはおそらく非晶質シリコンのより等方的な膨張に起因する。シリコン材料の粉砕は、電気的接触の喪失、電極内の活物質の消失、無効な電子移動、固体電解質界面の繰り返し動的形成などにより、電池の急速な容量減衰をもたらす[非特許文献1、2]。
【0008】
電極におけるナノスケール粒子の使用は、電気伝導度の改善や、機械的および光学的特性の改善などの効果をもたらす小さな粒径に起因する傑出した特性を有する電極を提供し得ることが実証されている[非特許文献1]。さらに、ナノサイズ粒子は体積に対する表面積の比が非常に高いため、ナノサイズ活物質を有する負極は、リチウムイオンの吸着/脱着のための高度に利用可能な表面に起因して、優れた充放電容量を提供することができる[非特許文献1]。
【0009】
シリコン/グラファイトアノードにおけるいくつかの課題は、シリコン粒子をより小さくすると減少する。各粒子の絶対膨張が少なくなると、周囲の各粒子からの機械的圧力が少なくなり、シリコン内部でのリチウムの拡散距離が小さくなる。表面積対体積比を増加させることにより、粒子表面上の電流密度が減少し、有害な過電圧を低減する。
【0010】
一方、表面積の増加は、アノードにおける表面自体に一部のLiが閉じ込められる(第1のサイクル中の不可逆的損失)などの新たな問題、ならびに、空気中での自己着火のリスクの増加や、大気暴露中に形成される酸化シリコンに関する不可逆的な第1のサイクル損失が大きくなる可能性をもたらす。
【0011】
液体電解質を有するLIBでは、最初のリチウム化の際に固体電解質界面(SEI)が形成されることが多い。SEI層の形成は、不可逆的にリチウムを消費し、電気化学セルに対する不可逆的容量損失を示す[非特許文献1]。したがって、安定したSEI層を形成して、セルの最初のリチウム化/充電に対するリチウムのSEI誘起損失を制限することが有利である。シリコンと電解質との間の直接接触を避けるために、シリコン表面を適当な元素で被覆すると、安定したSEI層を得ることができる[非特許文献1]が、亀裂が発生した場合には、保護されていない表面が現れることが実証されている。
【0012】
炭素は、負極中の活物質としてナノ構造シリコンを有するLIBにおいて、被膜材料および/またはシリコンとの複合材料として、研究され利用されている。シリコンの単純な混合体から、シリコンとグラフェンまたはグラファイトとの複雑な形状にわたって、多くのシリコン-炭素構造が文献に報告されている。これらの複雑な構造は、優れたサイクル性および容量を示すが、高いクーロン効率に達するために多数の充放電サイクルを必要とすることに苦しめられ、商業的生産レベルまで拡大するためには複雑化した多段合成プロセスが必要となる[非特許文献2]。
【0013】
Sourice et al.(2016)[非特許文献2]から、不活性ガス中で希釈されたシランのガス流が、COレーザによって照射された第1の反応ゾーンに入り、シランガスを非晶質シリコンコア粒子に分解する、2段階レーザ熱分解プロセスによって、カーボンシェル/被膜を有するナノスケール非晶質シリコン粒子を製造する方法が知られている。形成されたシリコンコア粒子を有するガスに、次に、エチレンが添加され、この混合体が第2の反応ゾーンに通されてCOレーザにより照射されて、エチレンを分解してシリコンコア粒子上に堆積されたカーボンシェルにする。炭素被膜を有する非晶質シリコン粒子は、優れた比容量と高い充放電サイクル能力を有することが見出されている。
【0014】
特許文献1は、式SiCのシリコン含有化合物を含むLIBの負極用の活物質を開示し、ここで、xは0.05~1.5であり、物質中の炭素濃度は、A≦Bの関係に従い、Aは活物質の中心におけるシリコンに対する炭素のモル濃度比であり、Bは活物質の表面領域上の/におけるシリコンに対する炭素のモル濃度比である。この文献は、炭素がシリコンに共有結合していてもよいこと、さらに、シリコン含有化合物が微粒子状で、非晶質分子構造を有していてもよいことを知らせる。さらに、特許文献1の段落[0030]には、活物質中の炭素含有量が低すぎると、すなわち、xが0.05未満となった場合には、亀裂によって活物質が劣化するおそれがあることが記載されている。
【0015】
特許文献2から、式SiAの非晶質シリコンベースの化合物を含む、再充電可能なLIBのための負極の活物質が知られ、ここで、Aは炭素、窒素、あるいはこれらの組み合わせのいずれかであり、x>0、y>0、および0.1≦x+y≦1.5である。活物質は、粒子状であって炭素層で被覆されてもよい。活物質は、水素ガスおよびSiとCのターゲットを用いたスパッタリング工程、または、水素ガス、シランガスおよび窒素ガスを用いたプラズマ法により製造することができる。
【0016】
特許文献3は、加熱され急速回転する反応器空間内でシード粒子上にシリコン含有前駆体を化学蒸着することによって、結晶質または非晶質のシリコン粒子を製造するための反応器および方法を開示している。シリコン含有ガスは、キャリアガス中で希釈してもよいし、SiH、Si、SiHClのうちのいずれかまたはそれらの混合体であってもよい。キャリアガスは、水素、窒素、アルゴンのうちの1つとすることができる。SiO、SiC、SiNなど、C、O、またはNをシリコンと組み合わせたもの、非晶質炭素、グラファイト、低結晶性炭素または短距離秩序グラフェン構造を含む第2の前駆体ガス、液体または物質を導入することによって、形成されたシリコン粒子に、粒子のコア物質よりもシリコン含有量が低い第2の物質の外側層を与えることができる。
【0017】
Wang et al.(2013)[非特許文献4]は、シリコンナノ粒子およびピッチなどの炭素前駆体からの二次粒子の形成、および、Liイオン電池におけるそのような粒子の使用を開示したいくつかの研究グループのうちの1つである。二次粒子は、シリコンと電解質との間の界面領域を減少させ、これにより、リチウムと電解質の両方を消費しこれにより電池の容量を徐々に減少させることが知られている、固体電解質界面(SEI)の形成を減少させる。第1のサイクルにおける(SEI)の形成は、第1のリチウム化サイクルのクーロン効率(CE)を測定することによって数値化され、さらに、SEIの厚さ及び品質は、XPSを用いて推定することができる。Jeff Dahn(1995)[非特許文献5]により、炭化が>500℃、好ましくは>700℃、より好ましくは、>800℃で少なくとも2時間起こり得るならば、ピッチまたは糖から形成される炭素のCEが改善されることが実証されている。Escamilla-Perez et al.(2019)[非特許文献6]では、実に900℃で3時間熱分解した。
【0018】
特許文献4は、任意に、電子ドナーおよび/または電子アクセプタと合金化することができる、極めて純粋なナノ粒子状の非晶質シリコン粉末を開示している。さらに、シリコン粉末の製造方法およびシリコン粉末を製造するための反応器の使用が開示されている。当該発明のシリコン粉末は、好ましくは、半導体出発材料、半導体、廃熱からのエネルギー回収用熱電対、特に高温で安定な熱電対の製造に用いることができる。
【0019】
特許文献5は、シリコンナノ粒子およびその製造方法を開示している。この文献は、特に、シリコンを活性成分として含み、ドーピング限界を超えて過剰量の原子Pまたは原子Bをナノ粒子の内部/外部に有することにより、非結晶性すなわち非晶質相を有するシリコンナノ粒子、および、ナノ粒子の製造方法に関する。製造されたシリコンナノ粒子は、シリコンの充放電時に生じる体積の膨張および収縮に関する衝撃吸収体として作用する非結晶性すなわち非晶質相の二次相を有することにより、シリコンナノ粒子をアノード材料として用いる二次電池の充放電サイクル(寿命)を改善することができる。
【0020】
したがって、要約すると、最適なシリコンベースの負極活物質は、いくつかの矛盾する要求を持つ。それは、亀裂を低減するためには非常に小さい粒子を含まなければならないが、製造中に高すぎるSEIの形成または制御されない酸化をもたらすほど小さくてはならない。それは、等方性もしくは等方性に近い膨張を有さねばならず、このことは、粉末が単結晶であってはならないことを意味するが、最終的なアノード材料の製造は、クーロン効率を改善するためには約900℃までの温度を必要とし、この温度は、純粋なシリコンナノ粒子が結晶質となる温度である。好ましくは、最初の充電でも高速に充電することが可能でなければならず、最初のサイクル効率損失を最小限に抑えつつシリコンの高い充電容量をほぼすべて維持しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許出願公開第2012/0107639号明細書
【特許文献2】欧州特許第2405509号明細書
【特許文献3】国際公開第2018/052318号
【特許文献4】欧州特許出願公開第3025702号明細書
【特許文献5】韓国特許出願公開第2016/0009807号明細書
【特許文献6】英国特許出願公開第2592097号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Qi et al.(2017),“Nanostructured anode materials for lithium-ion batteries:principle,recent progress and future perspectives”,J.Mater.Chem.A、vol.5、pp.19521-19540
【非特許文献2】Sourice et al.(2016),“Core-shell amorphous silicon-carbon nanoparticles for high performance anodes in lithium-ion batteries”,Journal of Power Sources,vol.328,pp.527-535
【非特許文献3】Berla,Lucas A.;Lee、Seok Woo;Ryu、Ill;Cui、Yi;Nix,William D.(2014),“Robustness of amorphous silicon during the initial lithiation/delithiation cycle”,Journal of Power Sources 258:253-259,Bibcode:2014JPS...258...253B.doi:10.1016/j.jpowsour.2014.02.032.
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【非特許文献6】Escamilla-Perez,A.M.,Roland,A.,Giraud,S.,Guiraud,C.,Virieux,H.,Demoulin,K.,Oudart,Y.,Louvainac,N.,and Monconduit,L.,(2019),“Pitch-based carbon/nano-silicon composite, an efficient anode for Li-ion batteries”,RCS Advances, Vol.9,pp.10546-10553.
【非特許文献7】Domi,Y.,Usui,H.,and Sakaguchi,H.,(2019)“Effect of Silicon Crystallite Size on Its Electrochemical Performance for Lithium-Ion Batteries”,Energy technol.,Vol.7,1800946,DOI:10.1002/ente.201800946.
【非特許文献8】Tonio Buonassisi,Andrei A Istratov, Matthew D Pickett,Matthias Heuer,Juris P Kalejs,Giso Hahn,Matthew A Marcus,Barry Lai,Zhonghou Cai,Steven M Heald,TF Ciszek,RF Clark,DW Cunningham, AM Gabor,R Jonczyk,S Narayanan,E Sauar,ER Weber(2006)“Chemical natures and distributions of metal impurities in multicrystalline silicon materials”,Progress in Photovoltaics:Research and Applications,page 513-531.
【非特許文献9】R.A.Young ed.,“The Rietveld Method”,Oxford University Press,New York,1993, ISBN 0-19-855577-6.
【非特許文献10】H.M.Rietveld,A Profile Refinement method for Nuclear and Magnetic Structures,Journal of Applied Crystallography,2(1969)65-71.
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【非特許文献14】P.Thompson,E.D.Cox,J.B.Hastings,Rietveld Refinement of Debye-Scherrer Synchrotron X-ray Data from Al2O3,Journal of Applied Crystallography,20(1987)79-83.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の主な目的は、上記の要件を満たす再充電可能なリチウムイオン電気化学セルにおいて負極における活物質として用いるのに適したナノスケールシリコン含有粒子と、ナノスケールシリコン含有粒子を製造する方法とを提供することである。
【0024】
本発明のさらなる目的は、上記シリコン含有粒子を含むアノード材料を提供することである。
【0025】
本発明のさらなる目的は、ナノスケールシリコン含有粒子を含む負極を有する二次電気化学セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記のとおり、非晶質シリコン粒子を電極活物質とするリチウムイオン二次電池(LIB)は、改善されたサイクル能力を有することを見いだした。これは、特に、[非特許文献2]に報告されるように、優れた比容量及び高い充放電サイクル能力を有することを見出した、表面に炭素被膜を有するナノスケール非晶質シリコン粒子に関する。
【0027】
本発明者らは、シリコン前駆体ガスと比較的少量の置換元素の前駆体ガスとの混合体の蒸気凝縮によりナノスケールシリコン粒子を製造することにより、シリコン構造中に少ない原子%の置換元素を導入したシリコン含有粒子が生成されることを発見した。シリコン相は、主として非晶質であり、純粋なシリコンの非晶質相と比較してより耐熱性であることが示されている。すなわち、非晶質の純粋なシリコンは、700℃未満の温度で結晶シリコンへの相変態を開始するのに対し、シリコン構造中に少ない原子%の微量元素を有する主として非晶質の本粒子は、微量元素置換の程度に応じて約750~820℃までの温度で主として非晶質の相に留まることが観察されている。
【0028】
これらの主として非晶質のシリコン含有粒子の温度安定性の増加は、粒子を結晶相に変態させることなくより高温で、粒子の表面上の炭素被膜や粒子の周囲の炭素ベース構造を形成することを可能とするという点で有益である。すなわち、有益な非晶質構造がより高い被覆温度において維持され、これは、[非特許文献5]によって観察されたように、低い炭化温度で被覆または焼成された粒子と比較して、クーロン効率が改善されたシリコン粒子を与える。したがって、このような主として非晶質のナノスケールシリコン含有粒子を含む電極活物質は、比較的高いサイクル性、高い比容量及び高いクーロン効果を有する、二次LIBを形成することを可能にする。
【0029】
ナノスケール非晶質シリコンの別の有益な特性は、シリコン相中のリチウム原子の拡散速度が、結晶シリコンと比較して高いことである。これにより、2つの利点が得られる。すなわち、リチウム化の際のリチウム原子のより均一な分布(外側部分における密集が少ない)ひいてはシリコン粒子のより均一な/等方性の膨張であり、また、電池の工業的生産における負極の最初のリチウム化に関連するかなりの時間節約である。
【0030】
したがって、本願出願人は、特許文献6においてこれらの主として非晶質のシリコン含有粒子の特許保護を申請しており、その全体を本明細書に組み込む。特許文献6に記載された主として非晶質のシリコン含有粒子は、式Si(1-x)の化合物からなり、ここで、0.005≦x<0.05であり、Mは、C、Nまたはこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの置換元素であり、前記粒子は、非単色化CuKα放射線を用いたXRD分析を受けたとき、約28°に1つのピークを、約52°に1つのピークを示し、両ピークは、ガウスピークフィッティングを用いたときに少なくとも5°の半値全幅を有することを特徴とする。
【0031】
特許文献6はさらに、これら主として非晶質のシリコン含有粒子である少なくとも1つの粒子状活物質と、粒子状導電性充填材料と、バインダー材料と、集電基板とを有し、少なくとも1つの粒子状活物質が、バインダー材料に埋め込まれて集電基板上にアノード塊層として堆積されるアノード塊を形成する、リチウムイオン二次電気化学セルの負極を開示している。
【0032】
特許文献6はまた、複数の主として非晶質の粒子と、炭素に富む物質の熱分解によって作られた主として炭素を含有する物質とを含む複合粒子を開示している。特許文献6は、さらに、これらの主として非晶質のシリコン含有粒子の製造方法を開示し、この方法は、シリコン含有化合物の第1の前駆体ガスと、置換元素M含有化合物の少なくとも1つの第2の前駆体ガスとの均質なガス混合体を形成し、第1および第2の前駆体ガスの均質なガス混合体を反応器空間に注入し、ここで前駆体ガスが700~900℃の範囲の温度に加熱されることにより前駆体ガスが反応して粒子を形成し、粒子を回収し周囲温度から約350℃までの範囲の温度に冷却することを含み、第1および第2の前駆体ガスの相対量は、形成された粒子が[0.005、0.05)の範囲内の原子比M:Siを得るように適合される。
【0033】
本明細書で使用される「主として非晶質」という用語は、100%の非晶質分子構造を有するシリコン材料から、原子長スケールで非常に小さな結晶ドメイン(XRD分析により実質的に検出不能)を含むシリコン材料までを包含する。
【0034】
本発明は、特許文献6に記載された発明のさらなる発展と考えることができ、これらの主として非晶質のシリコン含有粒子を、それらが結晶化する温度、例えば800~900℃の温度、に加熱すると、純粋なシリコンの非晶質粒子を同じ温度に加熱したときに得られる微結晶サイズと比較して、シリコン構造中の炭素及び/又は窒素の含有量に応じて、著しく小さい微結晶を得ることができるというさらなる発見に基づく。
【0035】
二次LIB中の電極活物質として用いた場合の、同じ大きさのシリコン粒子の微結晶サイズの電気化学的特性に対する効果を研究した、Domi et al.(2019)[非特許文献7]に示すように、小さな微結晶サイズは、より大きな微結晶サイズと比較して、サイクル性を大幅に改善することによって、そのような用途に好適である。この効果は、リチウムイオンがバルクシリコンにおけるよりも速く結晶境界に沿って拡散する(例えばBuonassisi et al.(2006)[非特許文献8]参照)ことと、境界が広いほど拡散がより速くなることに起因すると考えられる。Domi et al.は、通常、より大きい微結晶間の粒界はより小さい微結晶間よりも広いため、粒界における微結晶中のLi濃度勾配は、より小さい微結晶と比較してより大きい微結晶で高くなるという仮説を立てている。これにより、対応する体積膨張からの歪みが、より小さい微結晶では少なくなり、充放電サイクルに伴う体積変化に対する耐性がより高くなる。濃度勾配が小さくなるとLiフラックスが少なくなるため、微結晶中のLi濃度勾配減少は速度性能に悪影響を及ぼす傾向がある。一方、この効果は、微結晶が小さいほど、Li原子がシリコンに入る表面積が大きくなることにより弱められる。Domi et al.(2019)[非特許文献7]は、微結晶が80nmの粒子を微結晶が30nmの粒子と比較した場合の速度性能の低下を見出した。これは、本発明の粒子の1~15nmの小さな微結晶についてはあてはまらないかもしれない。なぜなら、このような小さな微結晶では、微結晶の表面積がかなり大きくなるためである。
【0036】
本発明者らが寄与するであろうと考える、関連するが同一ではない仮説は、Liイオンが粒界に沿ってより速く移動するという同じ理解に基づくが、このことは、単結晶または少結晶ナノ粒子と比較して、多結晶ナノ粒子の膨張がより等方性であり非晶質状になることを意味する。粒界に沿った高速イオン移動にともない、多結晶ナノ粒子は、いくつかの内部結晶境界を超えて分布したLiイオンを充電時に急速に獲得する。その後、イオンがナノ結晶の各々のバルク中への拡散を開始すると、それらの結晶は非常に小さくかつ変動する結晶方位を有するが、総合的な効果は、粒子自体が単結晶または少結晶粒子よりもはるかに等方的に膨張することである。このことは、ナノ粒子の周囲の機械的圧力に対して非常に有益であろう。また、これは、内側バルク相が膨張を開始する前に完全なリチウム化によって外側層が強く膨張する単結晶状態に比べて、シリコン粒子の外表面層が亀裂する傾向を減少させる。これに加えて、内表面が外表面と急速にイオンを交換するため、Liイオンの内部拡散は、実際には、はるかに大きな表面積を用いることになるという事実に至る。したがって、粒子表面を横切るイオン交換を駆動するための過電圧を低減することができ、表面上のシリコン原子のイオン化の危険性も同様に低下し、表面がより安定する。
【0037】
さらに、多結晶シリコンナノ粒子内の微結晶境界の相対存在量は、同様な大きさの単結晶シリコン粒子と比較して、シリコン粒子の最初のリチウム化のプロセスをはるかに速くする。このことは、二次LIBの量産ラインにおいて大幅なコスト削減をもたらす。
【0038】
主として非晶質のシリコン含有粒子が結晶化する温度における熱力学的に安定な状態は、粒子のCおよび/またはNの含有量がSiCおよび/またはSi相として存在し、残りのSiが純Si結晶として存在することである。すなわち、Si(1-x)相またはSi(1-x)相中に存在するCおよび/またはNは、このような温度でバルク相から拡散しようとし、結晶境界においてSiCまたはSiのいずれかとして蓄積される。しかしながら、固体拡散の反応速度は、二次LIB用の負極の製造にともなう典型的な熱処理時間の間にSiとCまたはN含有量の完全な分離を得るためには遅すぎると考えられている。したがって、本発明によって得られる多結晶シリコン含有粒子は、純粋なSi(1-x)x粒子と、Si、SiC及び/またはSiの純粋な複合粒子との間のどこかにあると思われる。ただし、粒子のCおよび/またはNの合計含有量は、相分離の程度に関わらず同じであろう。
【0039】
さらに、ナノスケール微結晶性の形成は、主として非晶質の粒子に対する上記所定の範囲と比較して、やや高い微量元素含有量によって促進される、ことが観察されている。
【0040】
したがって、第1の態様において、本発明は、シリコン含有粒子に関し、
粒子は、ISO9277:2010によるBrunauer-Emmet-Teller(BET)分析によって決定される、25~182m/gの表面積を有し、
シリコン含有粒子は、式Si(1-x)の化合物を含み、ここで、0.005≦x≦0.20であり、Mは、C、N、またはそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの置換元素であり、
シリコン含有粒子の化合物は、リートベルト法により決定される、1~15nmの範囲の微結晶サイズを有する。
【0041】
リートベルト法による微結晶サイズの決定は当業者によく知られており、例えばR.A.Young編によるテキスト「The Rietveld Method」[非特許文献9]で証明されるような一般的知識に属している。XRDデータを用いたリートベルト法を実践する例は次のように記載することができる。XRDデータにおけるシャープな特徴、すなわち、ブラッグピークの幅から微結晶サイズτが求められる。結晶性Siのモデルから計算されたXRDデータを最小二乗法を用いて実験データにフィッティングすることによって解析が行われ、これはいわゆるリートベルト精密化[非特許文献10]である。リートベルト精密化は、GSAS-II[非特許文献11]などの無料で利用できるソフトウェアまたはTopas[非特許文献12]などの市販のソフトウェアを用いて実行することができる。ブラッグピークの幅に対する装置の寄与は、機器の幾何学形状から計算される(「fundamental parameter approach」[非特許文献13])か、または、NIST SRM 640fシリコンなどの高結晶性標準物質から実験的に決定されたThomson-Cox-Hastings擬似Voigt関数[非特許文献14]によって説明される。ブラッグピークに対する装置の寄与は、リートベルト精密化の間、固定されたままである。観察されたブラッグピークの全ての付加的拡がりは、小さい微結晶サイズに起因し、ローレンツ形状を有すると推定される。この微結晶サイズの広がりは、散乱角とともに変化する計算されたブラッグピーク幅に対する付加的寄与βを精密化することによってモデル化される。
【数1】
ここで、λは、XRD測定において用いられるX線波長である。βは、散乱角2θにおけるブラッグピークの付加的な半値全幅(FWHM)、すなわち、ピークの頂部と底部との中間の、角度における幅である。微結晶サイズの値τは、リートベルト精密化中に自由に変化させることができ、実験で得られたXRDデータと計算されたXRDデータとの間で最もよく一致する値に収束する。
【0042】
例示的な実施形態において、本発明の第1の態様によるシリコン含有粒子は、Cおよび/またはNのみ(不可避不純物を除き)を含むことが有利である。すなわち、シリコン含有粒子は、Cおよび/またはNの合計含有量が0.05~20原子%であり、残部がSiおよび不可避不純物である。
【0043】
ここで用いられる化学式Si(i-x)(0.005≦x≦0.20)は、無機化学命名法IUPAC勧告2005年IR-11.3.2「変化可能な組成をもつ相」に従って解釈及び理解されるべきである。すなわち、前記式は、変数「x」により規定される量だけ、Si原子をM原子に等原子価置換することにより単独であるいは部分的に変化する組成を有する単一(相)化合物を規定する。そこで、ここで用いられる「シリコン含有粒子」なる用語は、前記粒子が、シリコン相の分子構造に分散された合金化元素を含むシリコン優位相から作られていることを意味する。M原子は、合金におけるように化学的に結合され分散され、典型的なM原子に最も近接および次に近接する複数の隣接原子がSi原子である。材料履歴に応じて、分離相SiCとSiを若干含有してもよい。
【0044】
例示的な実施形態において、本発明の第1の態様によるシリコン含有粒子は、式Si(1-x)xの化合物からなり、ここで、Mは、C、N、あるいはこれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの置換元素であり、0.001≦x≦0.15、好ましくは0.005≦x≦0.10、より好ましくは0.0075≦x≦0.075、より好ましくは0.01≦x≦0.05、最も好ましくは0.02≦x≦0.03である。
【0045】
本発明による粒子は、約2200kg/mの密度を有することを見出した。したがって、これらの粒子が球形又は準球形であり、非多孔質であると仮定した場合、25~182m/gのBET表面積は、15~110nmの範囲の平均粒径に対応する(概算見積)。
【0046】
さらに、第1の態様に係る本発明の例示的な実施形態において、シリコン含有粒子は、34~136m/g、好ましくは39~109m/gの範囲、より好ましくは45~91m/g、最も好ましくは54~68m/gの範囲のBET表面積を有してよい。これらのBET表面積は、20~80nmの範囲、好ましくは25~70nmの範囲、好ましくは30~60nmの範囲、最も好ましくは40~50nmの範囲の平均粒径に対応する。粒子表面積のBET決定は、当業者にとって周知である。本発明の第1及び第2の態様に係る主として非晶質のシリコン含有粒子のBET表面積を決定するために適用され得る規格の例は、ISO 9277:2010である。
【0047】
微結晶サイズは、15~100nmの粒径よりも小さい1~15nmの範囲にあるため、第1の態様に係るシリコン含有粒子は、多結晶ナノスケール粒子である。多結晶構造は、Domi et al.(2019)[非特許文献7]によって観察されたように、より大きくしたがってより少ない微結晶を有する同様なナノスケールシリコン粒子よりも、本発明による粒子を、充放電サイクルに対する耐性がより高いものとする。第1の態様に係る本発明の例示的な実施形態において、シリコン含有粒子の化合物は、リートベルト精密化により決定される、2~12nmの範囲、好ましくは3~10nmの範囲、より好ましくは4~8nmの範囲、最も好ましくは5~6nmの範囲の微結晶サイズを有してよく、ここで、装置ブラッグピークプロファイルを、基本パラメータから計算し、小さな粒径によるローレンツ型およびガウス型のサンプル拡がりを考慮して精密化し、次に、形状係数0.89を用いて半値全幅(FWHM)に対するサンプルの寄与から、シェラーの式を用いて粒径を計算した。
【0048】
1つの例示的な実施形態において、本発明の第1の態様によるシリコン含有粒子は、0.2~10nm、好ましくは1.5~8nmの範囲、より好ましくは2~6nmの範囲、最も好ましくは3~4nmの範囲の厚さの炭素被膜をさらに含んでよい。
【0049】
1つの例示的な実施形態において、本発明の第1の態様によるシリコン含有粒子は、原シリコン含有粒子を気体状一酸化炭素COと反応させることによって形成される表面不活性化膜をさらに含んでよい。すなわち、本発明の第1の態様に係るシリコン含有粒子は、シリコン粒子の表面の少なくとも一部を覆う被膜をさらに備えていてもよく、被膜は、シリコン表面と気体状一酸化炭素COとの反応からの反応生成物である。
【0050】
本明細書で使用される「シリコン表面と気体状一酸化炭素COとの反応からの反応生成物」なる用語は、表面被膜が、COが粒子のシリコン表面と反応して保護被膜を形成する分圧及び温度で原シリコン粒子(非酸化またはほとんど非酸化の表面を有する粒子)を気体状一酸化炭素と単に接触させることの結果であることを意味する。被膜は、実際には、Si、O、およびC原子の混合体となる。
【0051】
シリコン粒子のXPS検査は、COとの接触時に形成される被膜が、気体が官能基としてかつシリコン相の分子格子に入る解離原子として反応した反応生成物の混合体であることを示している。XPS分析は、酸素原子に結合した炭素原子がシリコンカルボニルSiCO化合物の形成を示し、シリコン原子に結合した炭素原子とシリコン原子に結合した酸素原子が、CO分子が解離し炭素原子と酸素原子がシリコン相の分子格子内の別々のSi原子に結合することを示すことを見出した。また、XPSデータは、粒子表面にSi-O-Si-Cの4員環構造が形成され得ることを示している。
【0052】
XPSの結果は、CO由来の被膜の分子構造および組成が、解離および非解離気体分子の両方からの反応生成物の複雑な混合体であり、被膜を化合物として定義することを困難にするおそれがあることを示す。しかし、XPS分析は、反射された放射線が検出器に逃れる表面領域において分子格子内に存在するさまざまな元素の原子パーセントを提供する。X線は、各測定においてシリコン粒子の分子格子内に貫通して実質的に等しい深さから情報を取り出し、XRD分析により、実質的に等しい厚さの最外バルク相と粒子の表面層の原子組成を決定する。異なる原子からの放射線の吸収断面積は異なることがあり、異なる原子が見出される深さに基づく異なる信号をもたらす。したがって、何らかの解釈が必要であり、同様の材料からの経験をもつ熟練したオペレータによって行われなければならない。これにより、X線及び再放射信号が粒子全体を貫通せず、XPS分析に、粒子の、陰になった側(裏側)の被膜が含まれないのであれば、XPSにより決定された原子組成は、粒径にかかわらずCO由来の被膜の厚さの間接測定となる。実際には、このことは、シリコン粒子の直径が10nm以上であれば、XPS分析が信頼できることを意味する。
【0053】
透過電子顕微鏡(TEM)および特に電子エネルギー損失分光法(EELS)測定を用いて、被膜層の厚さおよび特に均質性を推定することもできる。TEM画像は粒子全体の断面であるため、表面粗さや表面の曲率によって、被膜が実際より若干厚く現れることがある。また、EELSは、組成の精密な分析のためにはXPSよりも適切でないことがある。したがって、TEMは、主に均質性の検証に用いられ、一方、XPSは、表面被膜の定性および定量分析のために用いられる。
【0054】
例示的な実施形態において、本発明の第1の態様によるシリコン含有粒子上の被膜の厚さは、0.1~3nm、好ましくは0.2~2nm、より好ましくは0.3~1.5nm、より好ましくは0.4~1.0nm、より好ましくは0.5~0.8nm、最も好ましくは0.6~0.7nmの範囲であってよい。この厚さは、層厚を可視化するための高分解能明視野透過電子顕微鏡(TEM)によって決定することができる。電子エネルギー損失分光法およびエネルギー分散型X線分光法を用いた走査透過電子顕微鏡法を用いて、粒子および観察された外側層の両方が予想された化学組成を有することを確認してもよい。
【0055】
本明細書で使用される「XPS分析」なる用語は、1486.6eVの単色化AlKα放射線を用いる分光計において行われるX線光子分光法(XPS)測定を指し、データ解析は、Shirleyバックグラウンド減算および純粋なSi 2p 3/2=99.4eVを用いたエネルギー軸の較正を備えた、CasaXPSソフトウェアを用いて行われる。他の波長の他の放射線源を用いる分光計を用い、これらの測定値を、1486.6eVにおける単色化AlKα放射線を用いた測定値に匹敵するように変換することが可能である。このような変換は、当業者に周知である。
【0056】
本発明の第1の態様に係るシリコン含有粒子の比較的高い温度耐性は、二次LIBの負極の活物質に粒子を適用したときに利点を提供する。そこで、シリコン含有粒子を、典型的には、グラファイト及びバインダーと混合し、次いで熱分解して、活物質を構成する炭素マトリックス中にシリコン含有粒子を埋め込む。
【0057】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様による多結晶シリコン含有粒子の製造方法に関し、この方法は、
シリコン含有化合物の第1の前駆体ガスと、置換元素M含有化合物の少なくとも1つの第2の前駆体ガスとの均質なガス混合体を形成する工程であって、MはCまたはN、またはそれらの組み合わせである工程と、
第1および第2の前駆体ガスの均質なガス混合体を反応器空間内に注入する工程であって、前駆体ガスを700~900℃の範囲の温度に加熱することにより前駆体ガスが反応して主として非晶質のシリコン含有粒子を形成する工程と、
主として非晶質のシリコン含有粒子を、不活性雰囲気中で800~900℃の範囲の温度で0.1~4時間にわたり熱処理して非晶質のシリコン含有粒子を多結晶シリコン含有粒子に変換する工程と、
多結晶シリコン含有粒子を冷却して回収する工程とを含み、
第1および第2の前駆体ガスの相対量は、形成された粒子が[0.005、0.25]の範囲の原子比M:Siを得るように適合される。
【0058】
本明細書で使用される「シリコン含有化合物の第1の前駆体ガス」なる用語は、気体状態にあり、意図された反応温度で反応してSi粒子を形成する、任意のシリコン含有化合物を意味する。好適な第1の前駆体ガスの例には、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、トリクロロシラン(HClSi)、またはこれらの混合体が含まれるが、これらに限定されない。同様に、本明細書で使用される「置換元素M含有化合物の第2の前駆体ガス」なる用語は、置換元素Mを含む任意の化合物であって、気体状態にあり、気相反応に関与し、意図された反応温度に加熱されたときに、形成されるSi粒子の分子構造中にM原子が組みこまれる、任意の化合物を意味する。好適な第2の前駆体ガスの例には、アルカン、アルケン、アルキン、芳香族化合物、またはNの水素化物、シアン化水素、およびそれらの混合体が含まれるが、これらに限定されない。
【0059】
前駆体ガス、すなわち、気体状のシリコンと水素の化合物と、気体状の置換元素Mと水素の化合物との均質なガス混合体の特に好ましい例示的な実施形態は、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、エテン(C)、エチン(C)、およびこれらの混合体のうちの1つから選択される炭化水素ガスと混合された、シラン(SiH)またはジシラン(Si)のいずれかである。
【0060】
本発明の第2の態様による方法の例示的な実施形態において、第1および第2の前駆体ガスの均質なガス混合体は、反応器空間に注入され、740~850℃の範囲、好ましくは780~830℃の範囲、最も好ましくは790~820℃の範囲の温度まで加熱される。反応器空間に挿入する前に第1および第2の前駆体ガスの均質なガス混合体を300~500℃の範囲内の温度に予熱することを任意で含んでもよい。
【0061】
本発明の第2の態様による方法の例示的な実施形態において、第1および第2の前駆体ガスの相対量は、形成された粒子が[0.0070、0.177]の範囲、好ましくは[0.0081、0.11]の範囲、好ましくは[0.0091、0.081]の範囲、最も好ましくは[0.01、0.053]の範囲の原子比M:Siを得るように適合される。
【0062】
本発明の第2の態様による方法の例示的な実施形態において、均質なガス混合体は、水素、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、などの希ガス、または、特定の温度において前駆体ガスと化学的に反応しないその他の任意のガスをさらに含む。
【0063】
本発明の第2の態様による方法の例示的な実施形態において、第1および第2の前駆体ガスの相対量は、反応器に注入される第1および第2の前駆体ガスの流量を調整し、質量分析計を用いて反応器から出る排出ガスの組成を測定して注入された第1および第2の前駆体ガスが粒子に変換される割合を決定し、この情報を用いて形成された粒子中の原子比M:Siを推定し、第1及び第2の前駆体ガスの供給速度を調節して、生成される粒子内の意図された原子比M:Siを得るように適合されている。
【0064】
本明細書で使用される区間の表記は、国際標準ISO80000-2に従うものであり、角かっこ “[ ”および“ ]”は、閉区間の境界を示し、丸かっこ “( ”および“ )”は、開区間の境界を示す。例えば、[a、b]は、a(含む)からb(含む)までのすべての実数を含む閉区間:
【数2】
であり、一方、(a、b)は、a(含まない)からb(含む)までの左半開区間:
【数3】
である。
【0065】
均質なガス混合体は、例示的な実施形態において、例えば、水素、窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウムその他のガスなどの追加の不活性ガスを含んでもよく、これらは、加熱、冷却、粒子形成速度、物質輸送に影響を及ぼすために用いることができ、最終粒子生成物中に化学的不純物を残さない。反応器室内の前駆体ガスの加熱は、対流、伝導、放射、レーザ、より温かいガスとの混合、または任意の他の公知の方法により達成できる。
【0066】
前駆体ガスから粒子を形成するガス反応における反応速度は、第1および/または第2の前駆体ガスとしてどのガスが用いられるか、および、粒子が形成される反応温度によって大きく変動し、前駆体ガスにおける原子比M:Siが、製造された粒子における原子比M:Siから大きくずれることがある。そこで、本明細書で用いられる「第1および第2の前駆体ガスの相対量は、形成された粒子が...の範囲内の原子比M:Siを得るように適合されている」という用語は、混合され均質化された第1および第2の前駆体ガスの相対量が、前駆体ガスの混合体が意図された反応温度に加熱され反応して粒子を形成するときに、得られた粒子が意図された原子比を得るように調整されることを意味する。
【0067】
意図された粒子を形成するために第1および第2の前駆体ガスの相対量を適合化させることは、当業者の通常の技術の範囲内である。例えば、所与の第1および第2の前駆体ガスおよび意図された反応温度についての前駆体ガスの相対量の適合化は、単純に試行錯誤テストを行なってこのガス混合体と反応温度で適用すべき前駆体ガスの相対量を決定することにより、製造段階に先立って得ることができる。
【0068】
あるいは、形成された粒子内の原子比M:Siは、質量分析計において反応器から出る排出ガスを分析することによって監視/決定され、供給された第1および第2の前駆体ガスのどれだけの量が反応器内で反応/消費されたかを決定し、次いで、形成された粒子におけるMとSiとの相対量を間接的に決定することができる。例えば、反応器に注入される第1および第2の前駆体ガスの流量を調節し、質量分析計を用いて反応器から出る排出ガスの組成を測定して注入された第1および第2の前駆体ガスが粒子に変換される割合を決定し、この情報を用いて形成された粒子における原子比M:Siを推定し、第1および第2の前駆体ガスの供給速度を調節して、生成される粒子内の意図された原子比M:Siを得る。
【0069】
本発明の第2の態様に係る方法は、1つの例示的な実施形態において、追加のプロセス工程、すなわち、
i)シリコン含有粒子を反応器室内に配置する工程と、
ii)一酸化炭素COを含む前駆体ガスを反応器室内に導入する工程と、
iii)シリコン粒子上に被膜が形成されるまでの時間、シリコン含有粒子を反応器室内に維持する工程と、
によってシリコン含有粒子の表面上に表面不動態化層を形成することをさらに含んでもよい。
【0070】
第3の態様において、本発明は、リチウムイオン二次電気化学セルの負極に関し、負極は、
少なくとも1つの粒子状活物質と、
バインダー材料と、
集電基板と、を含み、
少なくとも1つの粒子状活物質は、バインダー材料に埋め込まれて、集電基板上にアノード塊層として堆積されるアノード塊を形成し、
少なくとも1つの粒子状活物質は、本発明の第1の態様に係るシリコン含有粒子である。
【0071】
二次電気化学セルでは、電極における化学的半電池反応は、それぞれ、充放電サイクルの充電状態と放電状態とに伴って、酸化反応から還元反応に切り替わる。本明細書で用いられる「負極」という用語は、化学反応の酸化側が放電中に起きる、電気化学セルの電極を示すために用いられる。すなわち、負極は、電気化学セルから電力を取り出す際の電子発生電極である。負極は、文献においてアノードとして示される場合もある。アノードおよび負極という用語は、本明細書において交換可能に用いることができる。
【0072】
本発明の第3の態様に係る負極は、リチウムイオン二次電気化学セルの負極において集電体として用いるのに適した、当業者に公知または想到可能な任意の導電性基板を用いることができる。好適な導電性基板の例としては、グラファイト、アルミニウム又は銅の箔/シートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
本発明の第3の態様に係る負極は、リチウムイオン二次電気化学セルの負極においてバインダーとして用いるのに適した、当業者に公知または想到可能な任意のバインダー材料を用いることができる。好適なバインダーの例としては、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、エチレン-プロピレン-ジエンメチレン(EPDM)、およびポリアクリル酸(PAA)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
例示的な実施形態では、アノード塊は、粒子状活物質と混合されバインダー材料中に共に埋め込まれた粒子状導電性充填材料をさらに含んでよい。本発明の第3の態様に係る負極は、リチウムイオン二次電気化学セルの負極のためのアノード塊の導電性充填材として用いるのに適した、当業者に公知または想到可能な任意の導電性充填材料を用いることができる。好適な粒子状導電性充填材料の例としては、グラフェンなどの炭素同位体、還元した酸化グラフェン、弾性ポリマーや、炭素に富む物質、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、またはこれらの混合体の熱分解によって製造される主として炭素を含有する物質、が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本発明の第4の態様では、本発明の第1の態様による多結晶シリコン含有粒子を形成する主として非晶質のシリコン粒子の結晶化は、本発明の主として非晶質のシリコン粒子の複数個を含む炭素質物質の熱分解中に得ることができ、二次粒子を形成する。二次粒子の各々は、10個からおそらく100万個までの、本発明の多結晶シリコン含有粒子と、炭素原子を含む前駆体物質の熱処理によって形成される、大量の炭素とを含んでもよい。この前駆体物質は、例えば、石油やピッチのような大きな炭素集約分子であってもよい。あるいは、前駆体物質は、レゾルシノールホルムアルデヒドまたはメラミンホルムアルデヒドなどの強く架橋された物質であってもよく、ここで、熱分解を使用して、主として炭素を含有するナノ多孔質構造又は主として炭素を含有するエアロゲルを形成することができる。熱分解プロセスは、>600℃、好ましくは>700℃、より好ましくは>800℃で実施することができる。1つの例示的な実施形態において、二次粒子は、今日の電池に使用されるグラファイト粒子と同様のサイズ、すなわち、例えば2~5ミクロンの平均断面距離を有することができる。
【0076】
本発明の第5の態様では、本発明の第1の態様による多結晶シリコン含有粒子を形成する主として非晶質のシリコン粒子の結晶化は、導電性添加剤としておよび電解質に対する保護バリアとしてグラフェンまたは酸化グラフェンを有する二次粒子の形成中に得ることができる。その後、二次粒子は、再び電池電極に使用することができ、例えば10個からおそらく100万個までの、本発明の多結晶シリコン含有粒子と、酸化されたグラフェンまたは酸化グラフェンを含む前駆体物質の熱処理によって形成される、大量のグラフェンまたは還元された酸化グラフェンとを含んでもよい。還元プロセスは、>600℃、好ましくは>700℃、より好ましくは>800℃で実施することができる。1つの例示的な実施形態において、二次粒子は、今日の電池で使用されるグラファイト粒子と同様のサイズ、すなわち、例えば2~5ミクロンの平均断面距離を有することができる。二次粒子は、後の製造工程において二次粒子の幾何学的安定性を保証するバインダーまたはその他の成分をさらに含んでもよい。
【0077】
本発明の第6の態様では、本発明の第1および第2の態様による多結晶シリコン含有粒子は、電解質に対するバリアとして弾性バインダーを用いる二次粒子を形成するために用いてもよい。二次粒子はまた、導電性添加剤を含んでもよい。その後、二次粒子は、再び電池電極に使用することができ、本発明の主として非晶質のシリコン粒子を例えば10個から100万個まで含んでもよい。弾性バインダーは、イミド類、アミド類、シリコーン類、スチレン-ブタジエン-ゴム、ニトリルゴムなどの公知のエラストマー類を含む、任意の弾性ポリマーまたはプラスチックとすることができる。1つの例示的な実施形態において、二次粒子は、今日の電池で使用されるグラファイト粒子と同様のサイズ、すなわち、例えば、2~5ミクロンの平均断面距離を有することができる。
【0078】
本発明の第7の態様では、本発明の第1の態様による多結晶シリコン含有粒子を形成する主として非晶質のシリコン粒子の結晶化は、導電性添加剤として且つ電解質に対する保護バリアとして炭素に富む物質を熱分解してなる主として炭素を含有する物質を有する二次粒子の形成中に得ることができる。次いで、この二次粒子は、再び電池電極に使用することができ、10個からおそらく100万個までの、本発明の多結晶シリコン含有粒子と、炭素に富む物質の熱分解により製造された、大量の主として炭素を含有する物質とを含んでもよい。熱分解プロセスは、>700℃、好ましくは>800℃で実施することができる。1つの例示的な実施形態において、二次粒子は、今日の電池で使用されるグラファイト粒子と同様のサイズ、すなわち、例えば2~5ミクロンの平均断面距離を有することができる。二次粒子は、後の製造工程において二次粒子の幾何学的安定性を保証するバインダーまたはその他の成分をさらに含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
図1】3つの異なる温度で作製されたシリコン粒子のXRD分析を示す図である。
図2図1とほぼ同様のプロセスで、800℃超で製造され、依然として完全に非晶質であるSi0。990。01およびSio。980.02の各種サンプル(サンプルR11_FA、R11_FB、R11_FC)のXRD分析を示す図である。
図3】それぞれ、700℃(R18-F2 700)および800℃(R18-F2 800)で2時間熱処理した後のSi0。920.08のXRD分析を示す図である。これらの曲線は、Si0。920.08は700℃で2時間の後でも非晶質のままであり、800℃で2時間にわたり暴露されると結晶化を開始することを示している。
図4】シリコン含有粒子の炭素含有量の関数として、800または900℃で2時間熱処理した後の微結晶サイズを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
本発明を、例示的な実施形態によってさらに詳細に説明する。
【0081】
比較例
水素ガス中に希釈された33%シランの均質ガス混合体を約400℃に予熱し、このガスを分解反応器に導入し、シランガスを、それぞれ、710℃、745℃、770℃の温度の予熱された水素ガスと混合することによって、(純粋な)シリコン粒子の3つのサンプルを作製した。反応器内の滞留時間は約1.5秒であった。得られたシリコン粒子を300℃未満に急速冷却し、濾過により回収した。
【0082】
次いで、サンプル粒子をXRDにより分析して、それらの原子構造を調べた。710℃で製造した粒子(図1にRTF1と記されている)は、非晶質シリコンに典型的なXRD曲線を有し、745℃で製造した粒子(図1にRTF2と記されている)は、結晶シリコンの若干の形成を示すXRD曲線を有し、770℃で製造した粒子(図1にRTF3と記されている)は、結晶シリコンに典型的なXRD曲線を有する。
【0083】
非晶質前駆体粒子の調製
本発明の例示的な実施形態による多結晶シリコン粒子は、以下のように製造することができる。
【0084】
シランガスとエテンとの均質な混合体を約400℃に予熱して反応器室に導入した。ここで、シランガスとエテンとの均質な混合体を、さらに、結果として得られるガス混合体の温度が810℃となる温度に予熱した不活性ガス(窒素)と混合した。最終混合体中の各ガスの相対量は、シラン約28モル%、エテン1.5モル%、残部(70モル%)窒素であり、ガス混合体中のC:Siの原子比は、0.05であった。しかしながら、得られた粒子のC:Siの原子比は0.02であり、すなわち、粒子は主として非晶質のSi0.980.02で構成されていた。
【0085】
反応器内の滞留時間は約1.0秒であった。その後、反応器空間から出る排気ガス及び粒子は急速に冷却され、フィルタに回収された。粒子をXRDにより分析して、それらの原子構造を調べた。その結果を、R11_FAと記した曲線として図2に示す。このXRD曲線は、非晶質の分子構造を有するシリコンに典型的なものである。
【0086】
さらに、ガス混合体がシラン、エテン、アンモニアおよび窒素を含むことを除き、同様にしてさらに3つの実施形態の主として非晶質の粒子を製造した。これらのサンプルは、示差走査熱量測定を用いて特性評価され、結晶化の際に放出されたエネルギーから結晶化温度を決定した。窒素含有量は、その含有が少ないため、炭素含有量ほど測定が容易ではないが、より高い窒素含有量を有するサンプルからの線形外挿に基づいて、および、反応におけるガス消費を分析して、粒子の組成Si、C、NがSiO0.9840.016、Si0.992008、およびSi0.9760.0120.012であることが推定された。
【0087】
これら全てのサンプルは、上述した純粋なシリコンの比較例粒子と比較して、高い結晶化温度を示し、推定組成Si0.9760.0120.012のサンプルが794℃の最高結晶化温度を有していた。他の2つのサンプルは、少なくとも10℃低い、すなわち784℃より若干低い結晶化温度を示した。
【0088】
図3は、それぞれ700℃(図中R18-F2 700で示す)および800℃(図中R 18-F2 800で示す)で2時間熱処理した後のSi0.920.08サンプルのXRD分析を示している。これらの曲線は、Si0.920.08が700℃で2時間後でも非晶質のままであるが、800℃で2時間暴露されると結晶化を開始することを示す。
【0089】
発明の実証
上記実施例において示したと同様にして主として非晶質の粒子のサンプルのセットを作製した。粒子は、34m/gのBET(約80nmの粒径に対応)を有し、表1に示されるような、すなわち、CゼロからC3.1重量%までの範囲の炭素含有量を有していた。これらの粒子を、700℃、800℃または900℃の不活性雰囲気中で2時間熱処理した。
【0090】
得られた粒子の結晶化度を、異なる粒度割合を有する2つの相を仮定したピークフィッティングを用いるリートベルト精密化によって決定した。熱処理された粒子の微結晶サイズは、各相の2つの異なる粒度割合の線形平均とした。得られた微結晶サイズは、図4に炭素含有量の関数として示されている。炭素含有量は、図において重量%で与えられている。1.4重量%のCは、3.2原子%のCに相当し、化学式で表したときSi0.9680.032となる。
【0091】
表1及び図4からわかるように、主として非晶質の純粋なシリコン粒子(Cを含まない)は、粒径に近い18~22nmの比較的粗い微粒子を有する微結晶相に変換された。しかしながら、シリコン分子構造中に比較的少量の炭素を含有させることは、熱処理時に著しく小さい微結晶を形成する効果がある。炭素含有量が2.5および3.1重量%(それぞれ5.6および7.0原子%)である粒子は、900℃で2時間の熱処理後に微結晶サイズが10~11nmの微結晶構造を、800℃で2時間の熱処理後に微結晶サイズがわずか2~3nmの微結晶構造を発現したことを見いだした。
【0092】
【表1】
【0093】
また、分子構造中にNのみ、あるいは、NおよびC原子を、表2に示す量だけ有する、主として非晶質のシリコン含有粒子についても、同様の試験を行った。粒子を800℃または900℃の不活性雰囲気中で2時間熱処理し、得られた粒子の結晶化度をリートベルト精密化によって決定した。表2からわかるように、1.4重量%のN(Cは含まず)を有する主として非晶質のシリコン含有粒子も、純粋なシリコン粒子において得られた微結晶よりやや小さい微結晶を有する微結晶相に変換された。若干のCをも含有させた場合、得られた微結晶サイズは、表1に示すSi1-x粒子に匹敵した。
【0094】
【表2】
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】