(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子、その製造方法、およびその治療のための使用
(51)【国際特許分類】
A61K 9/14 20060101AFI20240312BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240312BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240312BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20240312BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 33/30 20060101ALI20240312BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/401 20060101ALI20240312BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20240312BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240312BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20240312BHJP
【FI】
A61K9/14
A61P25/28
A61P9/10
A61P27/06
A61P21/00
A61P43/00 111
A61K33/30
A61K45/00
A61K31/401
A61K31/198
B82Y40/00
B82Y5/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558657
(86)(22)【出願日】2021-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 CN2021082357
(87)【国際公開番号】W WO2022198438
(87)【国際公開日】2022-09-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521313935
【氏名又は名称】武漢広行科学研究有限公司
【氏名又は名称原語表記】WUHAN VAST CONDUCT SCIENCE FOUNDATION CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 506, Building 1, Optics Valley International Biomedical Enterprise Accelerator, No. 388 Gaoxin 2nd Road, Donghu New Technology Development Zone Wuhan, Hubei 430070 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】スゥン、タオレイ
(72)【発明者】
【氏名】ガオ、グァンビン
(72)【発明者】
【氏名】ウィ、マァン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076CC01
4C076CC10
4C076CC11
4C076CC41
4C076DD21A
4C076FF36
4C084AA17
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA15
4C084ZA36
4C084ZA94
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
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4C086HA03
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA36
4C086ZA94
4C086ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA01
4C206MA02
4C206MA04
4C206MA05
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZA15
4C206ZA36
4C206ZA94
4C206ZC41
(57)【要約】
リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の製造方法、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含む組成物、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子および前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含む組成物のアミロイドβ(Aβ)の線維化を抑制すること、炎症因子の発現を低下させること、Aβ線維化が原因/関連するアルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)の治療を含む使用、AD、CAA、RGCDまたはMMの治療のための医薬の製造における使用、および上記の疾患の治療方法に関する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化亜鉛コアと、前記硫化亜鉛コアに結合したリガンドとを含む、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項2】
前記硫化亜鉛コアの直径が、0.5~4.0nmである、請求項1記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項3】
前記硫化亜鉛コアの直径が、1.0~3.5nmである、請求項1記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項4】
前記リガンドは、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである、請求項1記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項5】
前記リガンドは、カプトプリルである、請求項1記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項6】
リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NPs)の製造方法であって、
リガンド水溶液におけるリガンドの濃度が0.02~2.0mol/Lとなるように、リガンドを脱イオン水に溶解し、リガンド水溶液を得るステップと、
酢酸亜鉛溶液を前記リガンド水溶液に添加し、酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を得るステップであって、酢酸亜鉛水溶液の濃度が0.01~1.0mol/Lであり、リガンドと酢酸亜鉛とのモル比が1:1~10:1の範囲内にあるステップと、
前記酢酸亜鉛/リガンド反応混合物のpHを7~10の範囲に調整するステップと、
添加された硫化ナトリウムと前記酢酸亜鉛/リガンド反応混合物における酢酸亜鉛とのモル比が0.1:1~5:1の範囲にあるように、硫化ナトリウム水溶液を前記pH調整済の酢酸亜鉛/リガンド反応混合物に滴下し、硫化ナトリウム/酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を得るステップと、
前記硫化ナトリウム/酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を所定の温度までに加熱し、そして、前記反応を所定の時間維持し、R-ZnS NPsを形成するステップであって、前記所定の温度は、50~100℃であり、前記所定の時間は、1~5時間であるステップと、
を含む、方法。
【請求項7】
前記方法は、さらに、
限外濾過チューブを用いた遠心分離により、前記R-ZnS NPsを精製するステップであって、前記限外濾過チューブの分子量カットオフが5kダルトンであるステップを含み、請求項6記載の方法。
【請求項8】
アルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象の治療において使用されるための、請求項1~5のいずれか1項に記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含み、アルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象の治療のために使用される、組成物。
【請求項10】
インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-1β(IL-1β)、過敏性C反応性タンパク質(Hs CRP)、または腫瘍壊死因子-α(TNFα)の過剰発現の状態を有する対象の治療において使用されるための、請求項1~5のいずれか1項に記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含み、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-1β(IL-1β)、過敏性C反応性タンパク質(Hs CRP)、または腫瘍壊死因子-α(TNFα)の過剰発現の状態を有する対象の治療のために使用される、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ技術およびその応用の技術分野に関し、特にリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含む組成物、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の治療用の医薬の製造における使用、並びに、治療のために前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子および前記組成物を利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドβ(Aβ)の線維化は、アルツハイマー病(AD)、脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)、筋炎・ミオパチー(MM)などの疾患の原因または関連因子である。
【0003】
アルツハイマー病(AD)は、慢性的な神経変性疾患である。その病理学的特徴としては、細胞外の老人斑の沈着、細胞内の神経原線維のもつれ、神経細胞とシナプスの異常な消失などが挙げられる。細胞外の老人斑の沈着と細胞内の神経原線維のもつれの初期蓄積は、ヒトのアストロサイト(HA)の増殖性炎症と酸化ストレスを含む一連の深刻な病理過程を引き起こすことが、より多くの証拠によって示唆されている。HAの増殖性炎症と酸化ストレスは、老人斑と神経原線維もつれの蓄積を加速させる。この悪循環は、神経細胞やシナプスの異常な消失につながる。老人斑の沈着は、Aβのミスフォールディングや異常凝集、線維化によって引き起こされる。したがって、Aβプラークと神経炎症を同時に抑制することができる潜在的な薬剤を開発することは、大きな意義がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NP)を提供する。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子が、硫化亜鉛コアと、前記硫化亜鉛コアに結合したリガンド(R)とを含む。特定の実施形態では、前記リガンド(R)が、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである。特定の実施形態では、前記リガンド(R)が、カプトプリルである。前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の特定の実施形態では、前記硫化亜鉛コアの直径が、0.5~4.0nmである。前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の特定の実施形態では、前記硫化亜鉛コアの直径が、1.0~3.5nmである。
【0005】
本発明は、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NPs)の製造方法を提供する。特定の実施形態では、前記方法が、
【0006】
リガンド水溶液におけるリガンドの濃度が0.02~2.0mol/Lとなるように、リガンド(R)を脱イオン水に溶解し、リガンド水溶液を得るステップと、
【0007】
酢酸亜鉛溶液をリガンド水溶液に添加し、酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を得るステップであって、酢酸亜鉛水溶液の濃度が0.01~1.0mol/Lであり、リガンドと酢酸亜鉛とのモル比が1:1~10:1の範囲内にあるステップと、
【0008】
前記酢酸亜鉛/リガンド反応混合物のpHを7~10の範囲に調整するステップと、
【0009】
添加された硫化ナトリウムと前記酢酸亜鉛/リガンド反応混合物における酢酸亜鉛とのモル比が0.1:1~5:1の範囲にあるように、硫化ナトリウム水溶液を前記pH調整済の酢酸亜鉛/リガンド反応混合物に滴下し、硫化ナトリウム/酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を得るステップと、
【0010】
前記硫化ナトリウム/酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を所定の温度までに加熱し、そして、前記反応を所定の時間維持し、R-ZnS NPsを形成するステップであって、前記所定の温度は、50~100℃であり、前記所定の時間は、1~5時間であるステップと、
を含む。
【0011】
特定の実施形態では、前記方法が、さらに、限外濾過チューブを用いた遠心分離により、前記R-ZnS NPsを精製するステップであって、前記限外濾過チューブの分子量カットオフが5kダルトンであるステップを含む。
【0012】
本発明は、アルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象の治療において使用されるためのリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を提供する。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、カプトプリルである。
【0013】
本発明は、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含む組成物であって、アルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象の治療のために使用される、組成物を提供する。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、カプトプリルである。
【0014】
本発明は、インターロイキン-6(interleukin-6、IL-6)、インターロイキン-8(interleukin-8、IL-8)、インターロイキン-1β(interleukin-1β、IL-1β)、過敏性C反応性タンパク質(hypersensitive-c-reactive-protein、Hs CRP)、または腫瘍壊死因子-α(tumor necrosis factor-alpha、TNFα)の過剰発現の状態を有する対象の治療において使用されるためのリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を提供する。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、カプトプリルである。
【0015】
本発明は、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含む組成物であって、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-1β(IL-1β)、過敏性C反応性タンパク質(Hs CRP)、または腫瘍壊死因子-α(TNFα)の過剰発現の状態を有する対象の治療のために使用される、組成物を提供する。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、カプトプリルである。
【0016】
本発明の目的および利点は、添付の図面に関連して、その好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明による好ましい実施形態は、次に、同様の参照数字が同様の要素を示す、図を参照して説明される。
【0018】
【
図1】Cap-ZnS NPsのTEM画像および物理的特性群の曲線を示す:(A)Cap-ZnS NPsのTEM画像;(B)Cap-ZnS NPsの粒子サイズおよびサイズ分布の統計図;(C)Cap-ZnS NPsの赤外スペクトル;(D)Cap-ZnS NPsのX線光電子スペクトル;(E)Cap-ZnS NPsのZnスペクトル、および(F)Cap-ZnS NPsのSスペクトル。
【0019】
【
図2】Aβ40と60時間インキュベートしたCap-ZnS NPs、MA-ZnS NPsおよびDHLA-ZnS NPsのThT動態曲線をそれぞれ示し、20μMでのAβ40の線維化動態に対する異なる濃度の(A)Cap-ZnS NPs、(B)MA-ZnS NPsおよび(C)DHLA-ZnS NPsの影響を説明する。
【0020】
【
図3】Aβ40と60時間インキュベートしたCap-ZnS NPのAFMおよびTEM画像を示す:(A)、(B)、(C)は、Cap-ZnS NPsの最終濃度がそれぞれ0、1および5ppmのときのAFM画像;(D)、(E)、(F)は、Cap-ZnS NPsの最終濃度がそれぞれ0、1および5ppmのときのTEM画像。
【0021】
【
図4】PC12細胞の生存率のヒストグラムであり、(A)PC12細胞の生存率に対する、異なる濃度のCap-ZnS NPsの効果;(B)Aβ40(最終濃度25μM)の細胞毒性に対する、異なる濃度のCap-ZnS NPsの阻害効果を示す。
【0022】
【
図5】ELISAによって検出されたLPSモデルにおける5つの炎症因子の発現に対するCap-ZnS NPsおよびCapの効果の棒グラフである:(A)IL-6、(B)IL-8、(C)IL-1β、(D)hs CRPおよび(E)TNF-α。
【0023】
【
図6】100mg/kgのCap-ZnS NPsを腹腔内注射した後のマウスの心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓および脳の組織切片のHE染色画像を示す。
【0024】
【
図7】20mg/kgのCap-ZnS NPs(n=5)の腹腔内注射後、2、6、12および24時間における心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓および脳におけるCap-ZnS NPsの分布を示す図である。
【0025】
【
図8】Cap-ZnS NPs、MA-ZnS NPsまたはDHLA-ZnS NPsを毎日4週間投与した後の雄マウスのモリス水迷路の結果:(A)潜伏期間;(B)プラットフォーム横断回数;(C)目標象限の遊泳時間;(D)目標象限の滞在時間。
【0026】
【
図9】海馬におけるAβ40、IL-1β、TNF-αおよびGFAPの免疫組織化学的画像を示す。正常マウスは、20mg/kgのCap-ZnS NPsを腹腔内注射した対照群であり、60番目のADマウスは、60週目のモデル対照群であり、64番目のADマウスは、60週から64週まで20mg/kgのCap-ZnS NPsを毎日注射されたマウスである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、以下の本発明の特定の実施形態に対する詳細な説明を参照することによって、より容易に理解することができる。
【0028】
本出願にわたって、刊行物が参照される場合、これらの刊行物の開示は、本発明が関係する技術状態をより完全に説明するために、その全体が参照により本出願に組み込まれる。
【0029】
本明細書で使用される「投与」とは、対象への経口(「po」)投与、座薬としての投与、局所接触、静脈内(「iv」)、腹腔内(「ip」)、筋肉内(「im」)、病変内、海馬内、脳室内、鼻腔内または皮下(「sc」)投与、または徐放デバイス(例えば、ミニ浸透圧ポンプもしくは侵食性インプラント)の埋め込みを意味する。投与は、非経口および経粘膜(例えば、経口、鼻腔、膣、直腸、または経皮)を含む任意の経路によるものである。非経口投与には、例えば、静脈内、筋肉内、動脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、および頭蓋内など投与が含まれる。他の送達形態としては、リポソーム製剤の使用、静脈内注入、経皮パッチなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
「全身的投与」及び「全身投与」という用語は、化合物又は組成物が循環系を介して、医薬作用の標的部位を含む体内の部位に送達されるように、哺乳動物に化合物又は組成物を投与する方法を意味する。全身投与には、経口、鼻腔内、直腸および非経口の(すなわち、筋肉内、静脈内、動脈内、経皮および皮下などの消化管経由以外の)投与が含まれるが、これらに限定されない。ただし、本明細書で使用される場合、全身投与は、髄腔内注射および頭蓋内投与などの循環系経由以外の手段による脳領域への直接投与を含まない。
【0031】
本明細書で使用される「治療する」及び「治療」という用語は、その用語が適用される疾患もしくは状態、又はこのような疾患もしくは状態の1つ以上の症状のいずれかの発症を遅らせること、その進行を遅らせること又は逆転させること、又は緩和もしくは予防することを指す。
【0032】
「患者」、「対象」または「個体」という用語は、互換的に、哺乳類、例えば、ヒト、または霊長類(例えば、マカク、パントログロディート、ポンゴ)、家畜哺乳類(例えば、ネコ科動物、イヌ科動物)、農業用哺乳動物(例えば、ウシ科動物、ヒツジ科動物、ブタ、ウマ科動物)、および実験用哺乳動物またはげっ歯類(例えば、ラット、ネズミ、ラゴムノキ、ハムスター、モルモット)を含む非ヒト哺乳類を指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「室温」という用語は、約22~25℃を意味する。
【0034】
本発明は、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NPs)を提供する。
【0035】
特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NPs)が、リガンド(R)と、硫化亜鉛コアとを含み、前記リガンドが、前記硫化亜鉛コアに結合している。前記リガンドが前記硫化亜鉛コアに結合していることとは、前記リガンドが共有結合、水素結合、静電気力、疎水性力(hydrophobic force)、ファンデルワールス力等によって前記硫化亜鉛コアと溶液中で安定しているナノ粒子を形成することを意味する。特定の実施形態では、前記硫化亜鉛コアの直径が、0.5~4.0ナノメートル(nm)である。特定の実施形態では、前記硫化亜鉛コアの直径が、1.0~3.5nmの範囲にある。
【0036】
特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである。
【0037】
特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、式(I)で示されるカプトプリルである(すなわち、1-[(S)-3-メルカプト-2-メチルプロピオニル]-L-プロリン)。
【0038】
本発明は、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NP)の製造方法を提供する。
【0039】
特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NP)の製造方法が、
【0040】
リガンドを脱イオン水に溶解し、リガンド水溶液を得ること(特定の実施形態では、前記リガンド水溶液におけるリガンドの濃度が0.02~2.0mol/Lであり、好ましくは0.02~0.2mol/Lである。)と、
【0041】
酢酸亜鉛溶液を前記リガンド水溶液に添加し、酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を得ること(特定の実施形態では、前記酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を室温で0.1~3時間、好ましくは0.3~1.5時間撹拌する。特定の実施形態では、酢酸亜鉛水溶液の濃度が0.01~1.0mol/Lであり、好ましくは0.02~0.2mol/Lである。特定の実施形態では、リガンドと酢酸亜鉛とのモル比が1:1~10:1の範囲内にあり、好ましくは1:1~5:1である。)と、
【0042】
前記酢酸亜鉛/リガンド反応混合物のpHを7~10、好ましくは8~9の範囲に調整すること(特定の実施形態では、前記pH調整済の酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を室温で0.3~5時間、好ましくは0.5~2時間撹拌する。特定の実施形態では、前記pH調整用の試薬が、水酸化ナトリウム溶液である。)と、
【0043】
硫化ナトリウム水溶液を前記pH調整済の酢酸亜鉛/リガンド反応混合物に滴下し、硫化ナトリウム/酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を得ること(特定の実施形態では、前記硫化ナトリウム/酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を室温で1~5時間、好ましくは1~3時間撹拌する。特定の実施形態では、添加された硫化ナトリウムと前記酢酸亜鉛/リガンド反応混合物における酢酸亜鉛とのモル比が0.1:1~5:1の範囲にあり、好ましくは0.2:1~2:1である。)と、
【0044】
前記硫化ナトリウム/酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を所定の温度までに加熱し、そして、前記反応を所定の時間維持し、R-ZnS NPsを形成すること(特定の実施形態では、前記所定の温度が50~100℃、好ましくは50~70℃である。特定の実施形態では、前記所定の時間が1~5時間、好ましくは1~2時間である。)と、
を含む。
【0045】
特定の実施形態では、前記方法が、さらに、
【0046】
限外濾過チューブを用いた遠心分離により、前記R-ZnS NPsを精製すること(特定の実施形態では、前記遠心分離の条件が5000~6000r/min、5分間である。特定の実施形態では、前記限外濾過チューブの分子量カットオフが5kダルトンである。)と、
【0047】
前記限外濾過チューブの上部の液体を回収し、精製されたR-ZnS NPsを得ること(特定の実施形態では、前記分離されたR-ZnS NPsを超純水で、例えば、3回洗浄する。)と、
【0048】
前記精製されたL-ZnS NPsを凍結乾燥し、安定的なL-ZnS NPsの粉末を得ることと、
を含む。
【0049】
本発明は、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-1β(IL-1β)、過敏性C反応性タンパク質(Hs CRP)、または腫瘍壊死因子-α(TNFα)の過剰発現の状態を有する対象の治療のために使用される、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NPs)を提供する。ここで、「過剰発現」とは、タンパク質レベルが生理的発現レベルよりも20%以上高いことを意味する。前記治療は、R-ZnS NPsまたはR-ZnS NPsを含む組成物の投与である。前記治療は、IL-6、IL-8、IL-1β、Hs CRP、またはTNFαの過剰発現を少なくとも50%、好ましくは60%、70%、80%、90%または100%減少させることができ、ここで、「過剰発現」は、生理学的条件での発現レベルと過剰発現の条件での発現レベルの間の差として定義される。特定の実施形態では、過剰発現の状態は、真菌、細菌およびウイルスなどの微生物による感染によって誘導される。対象に病原微生物が感染すると、病原微生物はリポ多糖(LPS)などの特定の物質を分泌し、サイトカインの過剰発現を誘発することになる。LPSは、内毒素とも呼ばれ、グラム陰性菌の外膜に存在する脂質と多糖類からなる大きな分子である。グラム陰性菌は、細菌の鑑別法であるグラム染色法に用いられるクリスタルバイオレット染色を保持しない細菌である。グラム陰性菌には、大腸菌(Escherichia coli、E.coli)、サルモネラ(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、シュードモナス(Pseudomonas)、モラクセラ(Moraxella)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ステノトロホモナス属菌(Stenotrophomonas)、ブデロビブリオ属菌(Bdellovibrio)、酢酸菌(acetic acid bacteria)、レジオネラ属菌(Legionella)、シアノバクテリア(cyanobacteria)、スピロヘータ(spirochaetes)、緑色硫黄細菌(green sulfur)、緑色非硫黄細菌(green non-sulfur bacteria)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、カタル球菌(Moraxella catarrhalis)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis)、チフス菌(Salmonella typhi)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)が含まれる。特定の実施形態において、過剰発現の状態は、自己免疫疾患または癌を含む慢性炎症疾患によって誘導される。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、カプトプリルである。
【0050】
本発明は、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含む組成物であって、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-1β(IL-1β)、過敏性C反応性タンパク質(Hs CRP)、または腫瘍壊死因子-α(TNFα)の過剰発現の状態を有する対象の治療のために使用される組成物を提供する。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである。特定の実施形態では、前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子の前記リガンドが、カプトプリルである。
【0051】
本発明は、アルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)、または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象の治療のための医薬組成物を提供する。
【0052】
特定の実施形態では、前記組成物が、上述した前記リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NPs)と、薬理学的に許容される賦形剤とを含む。特定の実施形態では、前記賦形剤が、リン酸緩衝液、または生理食塩水である。
【0053】
本発明は、アルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象の治療のために使用されるリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NPs)を提供する。
【0054】
本発明は、上述したR-ZnS NPsのアルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象を治療するための使用、または上述したR-ZnS NPsを用いた、アルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象の治療方法を提供する。特定の実施形態では、前記治療方法は、対象に薬理学的に有効な量のR-ZnS NPsを投与することを含む。前記薬理学的に有効な量は、体内研究で通常の方法により決定されてもよい。特定の実施形態では、前記R-ZnS NPsの薬理学的に有効な量は、少なくとも0.001mg/kg/日、0.005mg/kg/日、0.01mg/kg/日、0.05mg/kg/日、0.1mg/kg/日、0.5mg/kg/日、1mg/kg/日、2mg/kg/日、3mg/kg/日、4mg/kg/日、5mg/kg/日、6mg/kg/日、7mg/kg/日、8mg/kg/日、9mg/kg/日、10mg/kg/日、15mg/kg/日、20mg/kg/日、30mg/kg/日、40mg/kg/日、50mg/kg/日、60mg/kg/日、70mg/kg/日、80mg/kg/日、100mg/kg/日、200mg/kg/日、300mg/kg/日、400mg/kg/日、500mg/kg/日、600mg/kg/日、700mg/kg/日、800mg/kg/日、900mg/kg/日、または1000mg/kg/日の用量である。
【0055】
特定の実施形態では、前記対象が、ヒトである。特定の実施形態では、前記対象が、犬などのペット動物である。
【0056】
以下の実施例は、本発明の原理を説明することのみを目的として提供され、それらは決して本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0057】
実施例
【0058】
現在、Aβ誘発細胞性ADモデル及びLPS誘発細胞性炎症モデル、並びにAPP/PS1ダブルトランスジェニックADマウスモデルが、実験モデルとして広く使用されている。
【0059】
実施例1.カプトプリル結合硫化亜鉛ナノ粒子(Cap-ZnS NPs)の製造
【0060】
(1)リガンドであるカプトプリル(43.46 mg)を脱イオン水(10 ml)に溶解し、カプトプリル水溶液を得て、前記カプトプリル水溶液を反応フラスコに入れて、その後、前記カプトプリル水溶液に酢酸亜鉛溶液(0.01mol/L、10 mL)をゆっくり添加し、カプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物を得て、前記カプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物を室温で0.5時間撹拌し、前記カプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物におけるカプトプリルと酢酸亜鉛とのモル比が2:1であった。
【0061】
(2)新たに調製された水酸化ナトリウム溶液(1M)を前記カプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物に添加し、前記カプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物のpHを9に調整し、pH調整済のカプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物を得て、そして室温で1時間撹拌した。
【0062】
(3)ゆっくり硫化ナトリウム水溶液(0.004mol/L、約10ml)をpH調整済のカプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物に滴下し、硫化ナトリウム/カプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物を得て、前記硫化ナトリウム/カプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物を室温で1時間撹拌し、前記硫化ナトリウム/カプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物における硫化ナトリウムと酢酸亜鉛とのモル比が0.4:1であった。
【0063】
(4)前記硫化ナトリウム/カプトプリル/酢酸亜鉛反応混合物を含む反応フラスコを60℃オイルバスに移動し、そして2時間撹拌し、Cap-ZnS NPsを形成した。
【0064】
(5)形成したCap-ZnS NPsを分子量カットオフ5kの限外濾過チューブを用いた遠心分離により5000~6000r/minで5分間分離し、その後分離したCap-ZnS NPsを超純水で3回限外濾過洗浄し、精製されたCap-ZnS NPsを得た。
【0065】
(6)前記精製されたCap-ZnS NPsを凍結乾燥し、白色の安定しているCap-ZnS NP粉末を得た。
【0066】
実施例2. Cap-ZnS NPsの同定
【0067】
2.1.Cap-ZnS NPsの粒子サイズ
【0068】
室温で、Cap-ZnS NPsをエタノールと水との体積比1:1の混合物に懸濁させ、JEM-2100F透過型電子顕微鏡(JEOL、日本)によりCap-ZnS NPsの粒子径を測定した。100個のCap-ZnS NPsをImage Jでランダムにカウントして粒子サイズを算出した。
【0069】
図1Aは、代表的な透過型電子顕微鏡写真であり、製造されたCap-ZnS NPsが良好な分散性を有したことを示す。
図1Bは、Cap-ZnS NPsのサイズ分布を示し、それは主に0.5~4.0ナノメートル(nm)に分布した。
【0070】
2.2. Cap-ZnS NPsの赤外スペクトル
【0071】
室温で、4000~500cm
-1の範囲におけるCap-ZnS NPsおよびCapの赤外スペクトルを、ドイツBruker vertex 80v FTIRを使用して測定した。凍結乾燥したサンプルは、MIR-ATRモードで測定し、その結果を
図1Cに示す。
【0072】
その結果によれば、リガンドCapがCap-ZnS NPsの形成に関与した後、赤外線スペクトルにおける-SH伸縮振動特性ピーク(2566cm-1)が消失し、CapがZn-S結合を介してZnSコアにグラフトすることに成功したことを明らかにした。
【0073】
2.3. Cap-ZnS NPsのX線光電子分光法(XPS)
【0074】
ESCALAB 250Xi XPS(Thermo Fisher, USA)を用いて、全XPSスペクトルおよびC、N、O、S、Znの単一元素スペクトルの元素組成、含有量および結合エネルギーを測定した。単一元素スペクトルのデータはXPS PEAKで解析し、その結果を
図1D、1E、および1Fに示す。
【0075】
図1DのC1s、O1s、N1s、S2s、S2p、Zn2pの特性ピーク、および
図1EのZn2p、
図1FのS2pの高解像度XPSスペクトルは、Zn2p
1/2、Zn2p
3/2、S2p
1/2及びS2p
3/2の理論予測と非常に一致しており、ZnSコアの存在とZnSコアの表面にCapがグラフト(結合)したことに成功したことを明らかにした。
【0076】
実施例3.Cap-ZnS NPsと他の2つのリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子との抗Aβタンパク質線維化能の比較
【0077】
他の2つのリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子は、4-メルカプト酪酸(MA)結合硫化亜鉛ナノ粒子(MA-ZnS NPs)およびジヒドロリポ酸(DHLA)結合硫化亜鉛ナノ粒子(DHLA-ZnS NPs)であった。これらの製造方法は、リガンドをそれぞれMAとDHLAに置き換えた以外は、Cap-ZnS NPsの製造方法と同様であった。それらのサイズの範囲もCap-ZnS NPsのそれと一致した。
【0078】
3.1.ThT蛍光分光法によるCap-ZnS NPs、MA-ZnS NPs及びDHLA-ZnS NPsの抗タンパク質線維化能の比較
【0079】
米国Bio Tek社のGenetic Synergy
TM MXマイクロプレートリーダーを用いて、Aβ40の線維化の動態学的プロセスを研究した。40μM Aβ40および50μM ThTを含むPBS緩衝液を、黒い管壁および透明なガラス底板を有する96ウェルプレートに加えた(最終濃度はそれぞれ20μMおよび25μMであった)。濃度の異なるCap-ZnS NP、MA-ZnS NPまたはDHLA-ZnS NPサンプルをそれぞれ最終濃度が0、1、5、10、20、50ppmになるように同量加え、膜でシールした後、プレートを多機能読み取り装置(Syngy TM Multi-Mode MX)に置き、プレート読み取りプログラムを設定した。試験条件:走査型終点蛍光(scanning end-point fluorescence)、励起光波長を445nm、検出蛍光発光波長を485nmとした。温度を37℃に維持し、10分毎の最後の10秒間プレートを適度な強さで振とうし、485nmの蛍光発光強度を60時間連続測定した。ThTの蛍光強度をモニターすることで、異なるリガンドが結合した3種類の硫化亜鉛ナノ粒子がAβ40線維化の動態(kinetics)に及ぼす影響を反映させた。その結果は
図2に示す。
【0080】
図2A、
図2Bおよび
図2Cはそれぞれ、濃度20μMのAβ40の線維化の動態に対する、異なる濃度のCap-ZnS NPs、MA-ZnS NPsおよびDHLA-ZnS NPsの効果を示している。その結果から、Cap-ZnS NPsは優れた抗Aβタンパク質線維化能を有し、5ppmという低濃度でAβの線維化を完全に抑制した(ThT蛍光の速度論的曲線(kinetic curve)が完全にフラットになった)ことがわかった。MA-ZnS NPsとDHLA-ZnS NPsも一定のAβ線維化抑制能力を示したが、50ppmという高濃度でもAβ線維化を完全に抑制することができなかった。3つのThT蛍光の速度論的曲線を比較すると、1ppmのCap-ZnS NPsのAβ線維化抑制効果は、最終濃度50ppmの他の2種類の硫化亜鉛ナノ粒子のそれに達するかそれを上回っており、Cap-ZnS NPsの抗タンパク質線維化能は他の2種類の硫化亜鉛ナノ粒子をはるかに上回ることが分かった。
【0081】
3.2.原子間力顕微鏡(AFM)によるAβ40線維化の微視的形態に対するCap-ZnS NPsの効果の研究
【0082】
室温で、FastScan原子間力顕微鏡(Bruker、ドイツ)を使用して、異なる濃度のCap-ZnS NPsの存在下で60時間インキュベートした後のAβ40繊維の微視的形態を研究した。ScanAsyst airモード、SNL-10ピンスキャンを採用し、画像解像度は512×512であった。
【0083】
図3A、3B、および3Cは、Cap-ZnS NPsの最終濃度がそれぞれ0、1、および5ppmであるときのAFM試験の結果を示している。
【0084】
反応系にCap-ZnS NPs(0ppm)が存在しない場合、多数のAβ繊維が出現し、Cap-ZnS NPsの最終濃度が1ppmになると、Aβの繊維状構造は小さな棒状の原繊維(プロトフィブリル)からなる集合体に変化し、そして、Cap-ZnS NPsの最終濃度が5ppmに達すると、反応系にAβ繊維やフィブリル構造がほとんど存在しないことが確認された。これらの結果は、ThT蛍光法で測定した線維化動態の結果と一致した。さらに、1ppmのCap-ZnS NPsは良好なAβ線維化抑制効果を示し、5ppmのCap-ZnS NPsは完全抑制の効果を達成できたことがわかった。
【0085】
3.3.透過型電子顕微鏡
【0086】
透過型電子顕微鏡JEM-2100F(日本電子、日本)を用いて、Aβ40の形態変化を測定した。その結果を
図3D、3E、および3Fに示す。この結果は、AFMの試験結果と一致した。
【0087】
実施例4.Aβ誘発PC-12細胞損傷のADモデル試験
【0088】
PC-12細胞は、Wuhan Procell Life Science & Technology Co., Ltd.から入手した。PC-12細胞の細胞生存率を検出するために、CCK8法(CCK8 method)を使用した。これらの細胞は、10%FBSおよび1%PSを含むDMEM培地で、温度37℃、CO
2濃度5%の条件下で培養された。細胞が適当な数まで増殖した後、状態の良い細胞100μLを96ウェルプレートに5×10
4細胞・mL
-1の密度で接種し、24時間培養した(n=6)。次に、細胞と共培養していた培地を全て除去し、96ウェルプレートに異なる用量のCap-ZnS NPs、Aβ40またはそれらの混合物を添加し(1ウェルあたり100μL)、さらに22時間インキュベートした。その後、10%CCK-8を含むDMEM溶液を各ウェルに100μLずつ添加し、2時間インキュベートした。マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定し、その結果を
図4に示す。
【0089】
図4Aは、PC-12細胞の生存率に対する、異なる濃度のCap-ZnS NPsの効果を示している。Cap-ZnS NPsの最終濃度が100ppmに達したとき、細胞生存率は依然として92%以上を維持し、Cap-ZnS NPsが細胞レベルで良好な安全性を有することを示す。
図4Bは、Aβ40(最終濃度25μM)存在下での、PC-12細胞の細胞生存率に対する異なる濃度のCap-ZnS NPsの効果を示している。Aβ40はPC-12細胞の生存率を著しく低下させたが(100%から68.5±5.2%)、Cap-ZnS NPsの添加により細胞生存率は著しく回復し、この効果はCap-ZnS NPsの濃度の上昇とともに著しく増大した。Cap-ZnS NPsの最終濃度が100ppmに達すると、細胞生存率は90%以上まで回復した。これらの結果は、Cap-ZnS NPsがAβ40によって誘発されたPC-12細胞の損傷を有意に低減できることを示し、Cap-ZnS NPsの神経保護効果を実証した。
【0090】
実施例5.LPS誘発細胞炎症実験
【0091】
試験薬:Cap-ZnS NPs、L-Cys-ZnS NPs、D-Cys-ZnS NPs、L-NIBC-ZnS NPs、D-NIBC-ZnS NPs、L-NAC-ZnS NPs、およびD-NAC-ZnS NPs。
【0092】
ヒトアストログリア(HA)細胞は、Wuhan Procell Life Science & Technology Co., Ltd.から入手した。細胞培養液は、10%FBSおよび1%PSを含むDMEM培地であった。細胞培養器の培養温度は37℃、CO2濃度は5%であった。状態の良いHA細胞を6ウェルプレートに2.4×108細胞/mLで接種し、培養した。ブランク対照群、LPS傷害モデル対照群、Cap-ZnS NPs(最終濃度1ppm、5ppm、10ppm又は20ppm)の試験群の4つの群(n=4)、Cap対照群(Capの最終濃度は20ppm)の1つの群(n=4)、合計7つの群とした。24時間培養後、前処理のために、DMEM最小培地とCap-ZnS NPまたはCapを添加し、2時間後にLPS(最終濃度5ppm)を添加した。さらに24時間培養した後、培養液と細胞を回収し、ELISAキットを用いて、細胞培養液中の炎症因子(IL-6、IL-8、IL-1β、hs-CRP、TNF-α)のタンパク質発現量を検出した。具体的な方法は以下の通りである:特定の濃度に希釈した標準液およびサンプル希釈液を100μLとり、96ウェルプレートに添加した。37℃で90分間インキュベートした後、ウェル内の液体を除去し、ビオチン化抗体ワーキングソリューション100μLを加えて1時間インキュベートした後、プレートを洗浄した。酵素結合体ワーキングソリューション100μLで0.5時間インキュベートした後、プレートを洗浄し、発色試薬(TMB)90μLを加えて暗所で15分間インキュベートし、停止液50μLで反応を停止させた。マイクロプレートリーダーは、450nmでの吸光度を測定した。
【0093】
L-Cys-ZnS NPs、D-Cys-ZnS NPs、L-NIBC-ZnS NPs、D-NIBC-ZnS NPs、L-NAC-ZnS NPs、およびD-NAC-ZnS NPsを用いて同様の実験を実施した。
【0094】
図5A、5B、5C、5Dおよび5Eはそれぞれ、5つの炎症性因子IL-6、IL-8、IL-1β、hs-CRPおよびTNF-αのタンパク質発現量を示している。LPSによって5つの炎症因子が大幅に増加し(ブランク対照群と比較して、Pはすべて0.001未満、##)、モデルの確立に成功したことがわかった。Cap-ZnS NPsの添加は、5つの炎症因子の増加を有意に抑制し(LPSモデル対照群と比較して、Pはすべて0.05未満、*、0.01未満、**、または0.001未満、***)、濃度の上昇とともに、この効果は明らかな増大傾向を示す。Cap-ZnS NPsの濃度が100ppmに達すると、5つの炎症因子のレベルはほぼ正常な対照群と同様のレベルまで低下した。しかし、Cap対照群の炎症因子のレベルは、LPSモデル対照群に比べ、有意に低下することはなかった。以上の結果から、Cap-ZnS NPsは、細胞実験において優れた抗炎症作用を示すことがわかった。
【0095】
L-Cys-ZnS NPs、D-Cys-ZnS NPs、L-NIBC-ZnS NPs、D-NIBC-ZnS NPs、L-NAC-ZnS NPs、およびD-NAC-ZnS NPsもCap-ZnS NPsと同様に優れた抗炎症作用を示したので、簡潔のために、詳細な説明は省略する。
【0096】
実施例6.マウスにおける急性毒性、組織分布及び代謝試験
【0097】
6.1.試験方法
【0098】
(1)マウスの維持管理
【0099】
6~8週齢、体重25~30kgの清潔な昆明マウス42匹(雄・雌各21匹)を、毎日12時間明:12時間暗の明暗条件のある普通のケージに収容した。マウスは餌と水へ自由にアクセスできた。雄と雌のマウスを無作為に選択し、実験のために1~6群(7匹/群)に分けた。
【0100】
(2)組織処理
【0101】
マウスに対する急性毒性試験には、群1と群2を使用した。群1を薬物試験群とし、群2をブランク対照群とした。薬物試験群には、Cap-ZnS NPs薬剤を100mg/Kgマウス体重で腹腔内注射し、ブランク対照群には、同量の通常の生理食塩水を注射した。マウスは24時間後に犠牲死させた。通常の生理食塩水で灌流後、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、脳を解剖し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定した動物組織を包埋箱に入れ、流水で30分間洗浄し、組織中のパラホルムアルデヒドを除去した。組織をアルコール勾配で脱水し、キシレンで透明になるようにした。透明な組織をパラフィンワックスとキシレンの1:1の混合液に90分間浸漬し、パラフィンワックスに2時間置き、すぐに冷却させた。パラフィンミクロトームを用いて組織の5μmの連続スライスを作製し、スライスを60℃で2時間ベークした。スライスをキシレンに5分間浸漬して脱パラフィンを行い、これを3回繰り返した。その後、スライスを勾配エタノール(100%、90%、80%、70%)に各5分間浸漬し、水道水の流水で5分間リンスした。ヘマトキシリン染色液で切片を5分間染色した後、スライド上の余分な染色液を水道水で洗浄し、0.7%塩酸とエタノールで10秒間色分離し、顕微鏡で核と核クロマチンがはっきりするまで水道水でスライドをリンスした。70%および90%のエタノールで10分間脱水後、0.5%エオシン溶液で5分間染色し、余分な染料溶液を流水でリンスした。染色した切片を70%、80%、90%、及び100%エタノールで10秒間脱水し、キシレンに1分間浸漬して組織を透明化した後、換気した場所で自然乾燥させた。中性ガムを適量加え、スライドにマウントした。この病理スライスを光学顕微鏡で観察・撮影し、各スライスについてランダムに2視野を選択し、全組織を分析した。
【0102】
群3から群6は、薬物の組織分布を調べるために使用された。各群にCap-ZnS NPsを20mg/Kgマウス体重の量で腹腔内注射し、2、6、12、または24時間後に犠牲死させた。解剖後、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓、脳を直ちに液体窒素に入れ、凍結乾燥させた。5日後、取り出し、均一な粉末に粉砕した。組織粉末2mgを秤量し、濃硝酸と過酸化水素の混合溶液(体積比5:1)で消化し、誘導結合プラズマ発光分光法で心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓および脳中のCap-ZnS NPsの含有量を測定した。
【0103】
6.2.試験結果
【0104】
急性毒性試験の結果、Cap-ZnS NPsはマウスの目、皮膚、粘膜、および24時間以内の呼吸、食物摂取、運動、排泄に影響を与えないことが判明した。さらに病理検査を行ったところ、
図6に示すように、ブランク対照群(上)と比較して、Cap-ZnS NPs試験群のマウスの心臓、肝臓、脾臓、肺、脳組織などの主要臓器は正常に配置されており、炎症細胞の浸潤は認められなかった。以上の研究から、Cap-ZnS NPsは正常な組織や臓器に対して明らかな毒性や副作用を起こさず、生物学的安全性が良好であることがわかった。
【0105】
図7は、心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓および脳の組織におけるCap-ZnS NPsの含有量を示している。その結果、各臓器における薬物の含有量は、約6時間で最大となり、その後、時間の経過とともに徐々に減少していることが確認された。また、脳内でもかなりの量の薬物が観察され、薬物が血液脳関門を通過して脳内に入ることが示された。
【0106】
実施例7.APP/PS1ダブルトランスジェニックのADモデルマウスを用いた試験
【0107】
7.1.試験方法
【0108】
試験薬:Cap-ZnS NPs、L-Cys-ZnS NPs、D-Cys-ZnS NPs、L-NIBC-ZnS NPs、D-NIBC-ZnS NPs、L-NAC-ZnS NPs、D-NAC-ZnS NPs、MA-ZnS NPおよびDHLA-ZnS NP。
【0109】
試験マウスとしては、60週齢のC57BL/6生殖細胞系APP/PS1トランスジェニックADモデルマウスを用いた。このモデルマウスをモデル対照群、Cap-ZnS NPs投与群、L-Cys-ZnS NPs投与群、D-Cys-ZnS NPs投与群、L-NIBC-ZnS NPs投与群、D-NIBC-ZnS NPs投与群、L-NAC-ZnS NPs投与群、D-NAC-ZnS NPs投与群、MA-ZnS NPs投与群とDHLA-ZnS NPs投与群にランダムに分けた。同時に、同齢のC57BL/6野生型マウス群を正常対照群として設定した。各群に15匹のマウスがあった。各投与群には、対応する薬剤の生理食塩液を1日1回腹腔内注射し、投与量は20mg/Kgマウス体重とし、注射量は100μLとした。モデル対照群および正常対照群のマウスには、同量の生理的食塩水を腹腔内注射した。
【0110】
4週間の連続投与後、モリス水迷路試験により、全動物の認知・記憶機能を解析した。
【0111】
場所ナビゲーションテスト:モリス水迷路試験システムは、水迷路と自動映像記録・解析システムで構成されている。カメラは水迷路の上方に配置され、コンピュータに接続されている。水迷路は、直径120cm、高さ60cmの円形プールと、直径9cmのプラットフォームで構成されている。液面はプラットフォームより0.5cm高く、水温は22±0.5℃に保たれた。白色顔料を使い、水を乳白色に染めた。水迷路でのマウスの学習・記憶能力を測定するために、5日間にわたる場所ナビゲーションテストが行われた。水迷路はN、S、W、Eの4象限に分けられ、プラットフォームは固定の象限に配置された。プラットフォームの位置は、実験中に固定された。訓練では、毎日、頭をプールの壁に向けたマウスを、異なる象限の1/2弧から外壁に近い水中に静かに入れた。マウスが隠れたプラットフォームに登った時間を記録するか、60秒に達した時点で試験を中止した。60秒以内にプラットフォームが見つからない場合は、実験者がマウスを誘導し、30秒間留まらせた。試験中、マウスがプラットフォームを探すまでの潜伏時間をカメラトラッキングシステムで記録した。試験終了後、各動物を取り出し、ヘアードライヤーで静かに乾燥させた。各動物は、1日に4回、トレーニングの間に20分の間隔を空けて、5日間連続してトレーニングされた。
【0112】
空間探索テスト:5日目のトレーニング終了後、6日目にプラットフォームを取り外し、マウスをプールの壁に向けながらプラットフォームの最遠位点から水中に静かに入れた。各マウスの60秒以内の移動軌跡をカメラで記録し、マウスがプラットフォームを横切った回数、目標象限での滞在時間、目標象限での遊泳時間をソフトウェアで解析した。
【0113】
【0114】
行動試験後、マウスに7%抱水クロラールを腹腔内注射して麻酔し、心臓灌流接続を確立した後、通常の生理食塩水を7分間急速に流し、4%抱水クロラールを使用して7分間組織を固定した。灌流終了後、脳組織を慎重に採取し、4%灌流液に入れ、後の使用のために室温で保存した。海馬と大脳皮質におけるAβ40と炎症因子の発現を検出するために、免疫組織化学的方法を用いた:灌流した組織を脱水して透明にし、ワックスで包埋し、パラフィンミクロトームを用いて切片化した。脱ワックスには、キシレンと無水エタノールの勾配を使用した。マイクロ波による抗原回収後、スライスを酸化水素でインキュベートし、血清で30分間ブロッキングした。Aβ40、IL-1β、TNF-α、GFAP、IL-6、またはCOX-2に対する一次抗体(1:100)を室温で添加し、4℃で一晩(15時間)インキュベートした。一次抗体を捨て、スライスをPBSで洗浄し、HRP標識ヤギ抗ウサギ/マウス二次抗体とし、室温で30分間インキュベートした。PBSでスライスを洗浄後、発色試薬DAB発色液を加えて発色させ、ハリスヘマトキシリン対比染色、脱水、マウントした。撮影には蛍光顕微鏡を使用し、スライスの定量解析にはImage Jを使用した。
【0115】
2.試験結果
【0116】
図8は、Cap-ZnS NPs、MA-ZnS NPs及びDHLA-ZnS NPsを4週間連続して毎日投与した後の、モリス水迷路における雄マウスの成績に及ぼす影響を示す。場所ナビゲーションテスト(
図8A)の訓練過程において、正常対照群(●)と比較して、訓練2日目から5日目まで、モデル対照群(■)のマウスの潜伏期間は、正常マウスよりも有意に高かった(P<0.05、#;P<0.01、#)。モデル対照群に比べ、Cap-ZnS NPs投与群(△)はマウスの潜伏期間を大幅に短縮でき、3日目以降モデル対照群との有意差が認められた(3日目、4日目、5日目のP値はいずれも0.05未満、*)。しかし、MA-ZnS NPs(□)投与群およびDHLA-ZnS NPs(○)投与群は潜伏期間の短縮に有意な効果は認められなかった。
【0117】
空間探索テストの結果(
図8B~D)、正常対照群と比較して、モデル対照群では、プラットフォームの横断回数(
図8B)(P<0.05、#)、目標象限での遊泳時間(
図8C)(#)、目標象限での滞在時間(
図8D)(P<0.05、#)が有意に減少したことが確認された。モデル対照群と比較して、MA-ZnS NPsおよびDHLA-ZnS NPsはマウスのプラットフォーム横断回数を増加させることができず(
図8B)、Cap-ZnS NPs投与群ではプラットフォーム横断回数が明らかに増加したが、統計的差はなかった(P>0.05)。
【0118】
目標象限遊泳時間および目標象限滞在時間(
図8Cおよび
図8D)について、Cap-ZnS NPs薬剤はこれら2つの値を有意に増加させたが(Pは0.05未満、*)、MA-ZnS NPsおよびDHLA-ZnS NPsはいずれもこれら2つの値を増加させることができなかった。
【0119】
上記のデータは、Cap-ZnS NPs薬剤がADモデルマウスの認知能力および記憶能力を有意に改善し得るが、MA-ZnS NPsおよびDHLA-ZnS NPsはそのような効果を有しないことを示している。
【0120】
L-Cys-ZnS NPs投与群、D-Cys-ZnS NPs投与群、L-NIBC-ZnS NPs投与群、D-NIBC-ZnS NPs投与群、L-NAC-ZnS NPs投与群、D-NAC-ZnS NPs投与群の効果は、Cap-ZnS NPs投与群と同様である。簡潔にするために、本明細書では、これらの詳細な説明は省略する。
【0121】
図9は、免疫組織化学の結果の代表的な写真である。
図9に示すように、野生型マウスの海馬には、Aβ40プラークが認められず、IL-1β、TNF-α及びGFAPを含む顕著な炎症因子の発現も認められなかった。正常対照群の野生型マウスと比較すると、モデル対照群の海馬では、多数のAβ40プラークが認められ、IL-1β、TNF-α及びGFAPの発現も認められた。また、Cap-ZnS NPs投与群の海馬では、Aβ40プラークが少量であり、TNF-α、IL-1β、GFAPの発現は軽微であり、正常対照群に近い状態であった。また、統計解析の結果、Cap-ZnS NPs投与群の海馬におけるAβ40プラーク数はモデル対照群に比べ71.8%減少し、統計学的に有意差があり(P<0.01)、TNF-α、IL-1β、GFAPの発現は70%を超えて減少した(P<0.01)。以上のことから、Cap-ZnS NPsの投与により、ADモデルマウスの脳内のAβプラークを有意に減少させ、ADモデルマウスの中枢性炎症を大幅に抑制することができ、これにより、神経細胞障害が軽減され、ADが治癒されることを判明した。これらの試験に使用されたADモデルマウスは60週齢の老齢マウスであり、投与サイクルも4週間と短いため、このような良好な効果が得られることは、Cap-ZnS NPs医薬品がAD治療において優れた応用性を有することを示している。
【0122】
本発明に記載のR-ZnS NPsは、簡便な製造方法と良好な生体適合性という特徴を有する。
【0123】
本発明によって提供されるR-ZnS NPsは、以下の利点を有する:
【0124】
第1に、R-ZnS NPsは、他のリガンド(4-メルカプト酪酸(MA)およびジヒドロリポ酸(DHLA)など)結合ZnS NPsよりも、Aβの線維化を阻害する効果が著しく高く、5ppmという超低用量のR-ZnS-NPsは、20μMの濃度でAβの線維化を完全に阻害することができる。
【0125】
第2に、R-ZnS NPsは、LPS処理したHA細胞における炎症性因子(IL-1β、IL-6、TNF-a、IL-8およびhs-CRP)の発現を大幅に低減することができる。
【0126】
第3に、R-ZnS NPsは、Aβ誘発細胞損傷モデル実験において、Aβ線維化による細胞毒性を有意に減少させた。
【0127】
第4に、R-ZnS NPsは、APP/PS1ダブルトランスジェニックADモデルマウス試験において、ADモデルマウスの海馬におけるAβプラークを有意に減少させ、ADモデルマウスの脳における神経炎症性因子のレベルを有意に減少させた。APP/PS1ダブルトランスジェニックADモデルマウス試験において、R-ZnS NPsは、モデルマウスの認知および記憶行動障害を有意に改善した。
【0128】
第5に、R-ZnS NPsは、血液脳関門を通過し、マウスの脳に入ることができる。
【0129】
第6に、R-ZnS NPsは、動物レベルで生物学的安全性を有する。
【0130】
L-システイン、D-システイン、L-NIBC、D-NIBC、L-NACまたはD-NACをリガンドとするリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子は、上記と同様のプロトコルに従って合成、特性評価、および試験されており、炎症性サイトカインの発現を低減し、Aβ線維化を阻害し、ADなどのAβ関連疾患を治療する上で同様の効果が示された。簡潔さのために、本明細書においてそれらの詳細な説明は省略する。
【0131】
本発明を特定の実施形態を参照して説明したが、実施形態は例示であり、本発明の範囲はそれほど限定されないことが理解される。本発明の代替的な実施形態は、本発明が関係する技術分野における通常の技術を有する者に明らかになる。そのような代替の実施形態は、本発明の範囲内に包含されると考えられる。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義され、前述の説明によって支持される。
【手続補正書】
【提出日】2023-11-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化亜鉛コアと、前記硫化亜鉛コアに結合したリガンドとを含む、リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項2】
前記硫化亜鉛コアの直径が、0.5~4.0nmである、請求項1記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項3】
前記硫化亜鉛コアの直径が、1.0~3.5nmである、請求項1記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項4】
前記リガンドは、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる一つである、請求項1記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項5】
前記リガンドは、カプトプリルである、請求項1記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項6】
リガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子(R-ZnS NPs)の製造方法であって、
リガンド水溶液におけるリガンドの濃度が0.02~2.0mol/Lとなるように、リガンドを脱イオン水に溶解し、リガンド水溶液を得るステップと、
酢酸亜鉛溶液を前記リガンド水溶液に添加し、酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を得るステップであって、酢酸亜鉛水溶液の濃度が0.01~1.0mol/Lであり、リガンドと酢酸亜鉛とのモル比が1:1~10:1の範囲内にあるステップと、
前記酢酸亜鉛/リガンド反応混合物のpHを7~10の範囲に調整するステップと、
添加された硫化ナトリウムと前記酢酸亜鉛/リガンド反応混合物における酢酸亜鉛とのモル比が0.1:1~5:1の範囲にあるように、硫化ナトリウム水溶液を前記pH調整済の酢酸亜鉛/リガンド反応混合物に滴下し、硫化ナトリウム/酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を得るステップと、
前記硫化ナトリウム/酢酸亜鉛/リガンド反応混合物を所定の温度までに加熱し、そして、前記反応を所定の時間維持し、R-ZnS NPsを形成するステップであって、前記所定の温度は、50~100℃であり、前記所定の時間は、1~5時間であるステップと、
を含む、方法。
【請求項7】
前記方法は、さらに、
限外濾過チューブを用いた遠心分離により、前記R-ZnS NPsを精製するステップであって、前記限外濾過チューブの分子量カットオフが5kダルトンであるステップを含み、請求項6記載の方法。
【請求項8】
アルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象の治療
のための、請求項1~5のいずれか1項に記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含み、アルツハイマー病(AD)および脳アミロイド血管症(CAA)、緑内障における網膜神経節細胞変性(RGCD)または筋炎・ミオパチー(MM)を有する対象の治療のために使用される、組成物。
【請求項10】
インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-1β(IL-1β)、過敏性C反応性タンパク質(Hs CRP)、または腫瘍壊死因子-α(TNFα)の過剰発現の状態を有する対象の治療
のための、請求項1~5のいずれか1項に記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のリガンド結合硫化亜鉛ナノ粒子を含み、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-1β(IL-1β)、過敏性C反応性タンパク質(Hs CRP)、または腫瘍壊死因子-α(TNFα)の過剰発現の状態を有する対象の治療のために使用される、組成物。
【国際調査報告】