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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】抗タウ抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240312BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/18 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P25/28
A61P25/16
A61P21/02
A61P25/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558741
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 IB2022052765
(87)【国際公開番号】W WO2022201123
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】63/166,439
(32)【優先日】2021-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/196,365
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217663
【弁理士】
【氏名又は名称】末広 尚也
(72)【発明者】
【氏名】ナンジュンダ,ルペシュ
(72)【発明者】
【氏名】ファン コレン,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA92Y
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA21
4H045FA74
(57)【要約】
モノクローナル抗PHF-タウ抗体及びその抗原結合断片が記載される。また、抗体をコードする核酸、抗体を含む組成物、抗体を生成する方法、及びタウ異常症などの状態を治療又は予防するための抗体を使用する方法も記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、
配列番号1のアミノ酸配列からなる又は配列番号1のアミノ酸配列内のタウタンパク質のエピトープで、タウタンパク質に結合し、
前記抗体又はその抗原結合断片は、対らせん状細線維(PHF)-タウ、好ましくはヒトPHF-タウに結合する、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
(a)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化S433又はリン酸化S435のいずれか一方を含むが、リン酸化S433及びリン酸化S435を含まない、
(b)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435のうちの1つ以上を含むが、リン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435の全てを含まない、
(c)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427及びリン酸化S433のうちの1つ以上を含むが、リン酸化S435を含まず、かつ、リン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435の全てを含まない、又は
(d)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427を含むが、リン酸化S433又はリン酸化S435を含まない、請求項1に記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
(a)それぞれ配列番号4、5、及び6のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号7、8、及び9のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)それぞれ配列番号14、15、及び16のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(c)それぞれ配列番号24、25、及び26のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号27、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(d)それぞれ配列番号32、33、及び34のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び35のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、又は
(e)それぞれ配列番号40、41、及び42のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び43のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、を含む、請求項1又は2に記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
配列番号2、12、22、30、若しくは38と少なくとも90%同一のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39と少なくとも90%同一のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
配列番号2、12、22、30、若しくは38のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
(a)配列番号2のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号3のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(b)配列番号12のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号13のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(c)配列番号22のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号23のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(d)配列番号30のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号31のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(e)配列番号38のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号39のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域とを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
(a)配列番号10のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号11のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(b)配列番号20のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(c)配列番号28のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号29のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(d)配列番号36のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号37のポリペプチド配列を有する軽鎖、又は
(e)配列番号44のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号45のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
(a)それぞれ配列番号4、5、及び6のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号7、8、及び9のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)配列番号2のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号3のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(c)配列番号10のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号11のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
(a)それぞれ配列番号14、15、及び16のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)配列番号12のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号13のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(c)配列番号20のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする、単離核酸。
【請求項11】
請求項10に記載の単離核酸を含む、ベクター。
【請求項12】
請求項10に記載の単離核酸を含む、宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片と、医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物。
【請求項14】
タウシーディングのブロックを必要とする対象における、タウシーディングをブロックする方法であって、請求項13に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項15】
タウ異常症の治療を必要とする対象における、前記タウ異常症を治療する方法であって、請求項13に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項16】
病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散の低減を必要とする対象における、前記病理学的タウ凝集又は前記タウ異常症の拡散を低減する方法であって、請求項13に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項17】
前記タウ異常症が、家族性アルツハイマー病、散発性アルツハイマー病、染色体17に関連したパーキンソン症候群を伴う前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維変化優位型認知症、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症複合、ダウン症候群、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン・シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化による非グアマニアン運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)からなる群から選択される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~9のいずれか一項に記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片を産生する方法であって、前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を含む細胞を、前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片を産生する条件下で培養することと、前記細胞又は細胞培養液から前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片を回収することとを含む、方法。
【請求項19】
対象からの生体試料におけるPHF-タウの存在を検出する方法であって、前記生体試料を請求項1~9のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は抗原結合断片と接触させることと、前記対象からの前記試料におけるPHF-タウへの前記モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の結合を検出することとを含む、方法。
【請求項20】
前記生体試料が、血液、血清、血漿、間質液、又は大脳脊髄液試料である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、抗PHF-タウ抗体、抗体をコードする核酸及び発現ベクター、ベクターを含有する組換え細胞、並びに抗体を含む組成物に関する。抗体を作製する方法、タウ異常症を含む状態を治療するために抗体を使用する方法、及びタウ異常症などの疾患を診断するために抗体を使用する方法もまた提供される。
【0002】
(電子的に提出された配列表の参照)
本出願は、「065768.96US2_Sequence_Listing」というファイル名で、2021年6月3日に作成された66kbのサイズのASCIIフォーマット配列としてEFS-Webを介して電子的に提出された配列表を含む。EFS-Webを介して提出された配列表は、本明細書の一部であり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
アルツハイマー病(Alzheimer's Disease、AD)は、徐々に激しい精神機能低下を導き、最終的には死に至らしめる、記憶、認知、論理的思考、判断力、及び情動安定性の進行性喪失を臨床的特徴とする、退行性脳障害である。ADは、高齢者の進行性精神機能不全(認知症)の非常に一般的な原因であり、米国では4番目に多い医学的死亡原因を表すと考えられている。ADは、世界中の民族集団で観察され、現在及び未来の、主たる公衆の健康上の問題を提示する。
【0004】
ADを患う個体の脳は、老人性(又はアミロイド)斑、アミロイド血管症(血管におけるアミロイド沈着)及び神経原線維変化と呼ばれる特徴的な病変を呈する。これら病変の大多数、特にアミロイド斑及び対らせん状細線維の神経原線維変化は、一般に、ADを患う患者の記憶及び認知機能に重要なヒトの脳のいくつかの領域で見られる。
【0005】
現在のAD治療の状況には、認知症を患う患者における認知症状を治療するために認可された治療法のみが含まれる。ADの進行を修正又は遅延させる承認された療法はない。潜在的な病気修飾物質は、Eli Lillyのドナメマブ(Donanemab)、Aβ(p3-42)を認識するヒト化IgG1モノクローナル抗体、Aβのピログルタミン酸型、及びアデュカヌマブ、Aβ上に見出される立体配座エピトープに対するヒトIgG1モノクローナル抗体を含む抗アミロイド抗体である。これらの療法、及び今後10年間に開始され得る他の可能性のある疾患修飾物質のほとんどは、Aβを標的としている(アミロイド斑の主成分は、ADの2つの「特徴的な」病理学的兆候の1つである)。
【0006】
ADの第2の特徴的な病理学的兆候である神経原線維変化は主に、過剰リン酸化タウタンパク質の凝集体で構成される。タウの主な生理学的機能は、微小管の重合及び安定化である。タウの微小管への結合は、タウの微小管結合領域における正電荷と、微小管格子における負電荷との間のイオン性相互作用により発生する(Butner and Kirschner,J Cell Biol.115(3):717-30,1991)。タウタンパク質は、85個の可能なリン酸化部位を含有し、これらの部位の多くにおけるリン酸化が、タウの一次機能を妨げる。軸索の微小管格子に結合したタウは、擬リン酸化状態にあるが、AD内で凝集したタウは過剰リン酸化状態にあり、タウの生理学的に活性なプールとは異なる独自のエピトープをもたらす。
【0007】
タウ異常症の伝達及び拡散仮説が報告されており、これは、ヒトの脳におけるタウ異常症の進行のBraak段階及び前臨床的タウモデルにおけるタウ凝集体を注射した後のタウ異常症の拡散に基づいている(Frost et al.,J Biol Chem.284:12845-52,2009、Clavaguera et al.,Nat Cell Biol.11:909-13,2009)。
【0008】
タウの凝集を予防又は一掃する治療薬を開発することには長年関心が持たれており、抗凝集化合物及びキナーゼ阻害剤を含む候補薬物が、臨床試験に導入されている(Brunden et al.,Nat Rev Drug Discov.8:783-93,2009)。トランスジェニックマウスモデルにおける能動的及び受動的タウ免疫付与の両方の有益な治療効果を示す、複数の研究が公開されている(Chai et al.,J Biol Chem.286:34457-67,2011、Boutajangout et al.,J Neurochem.118:658-67,2011、Boutajangout et al.,J Neurosci.30:16559-66,2010、Asuni et al.,J Neurosci.27:9115-29,2007)。活性は、ホスホ指向性抗体及び非ホスホ指向性抗体の両方で報告されている(Schroeder et al.,J Neuroimmune Pharmacol.11(1):9-25,2016)。
【発明の概要】
【0009】
進展にもかかわらず、タウ凝集及びタウ異常症の進行を予防して、AD及び他の神経変性病などのタウ異常症を治療するのに効果的な治療薬が依然として必要とされている。
【0010】
本出願は、対らせん状細線維(paired helical filament、PHF)-タウに対して高い結合親和性を有し、リン酸化タウに対して選択的である抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片を提供することによりこの必要性を満たす。本出願の抗体は、マウスPHF-タウ特異的抗体のヒトフレームワークへの適応(human framework adaptation、HFA)によって生成された。リン酸化タウに対する抗体の選択性により、通常のタウ機能を妨げずに病原性タウに対する効能が可能となると考えられる。本出願はまた、抗体をコードする核酸、抗体を含む組成物、並びに抗体を生成する方法及び抗体を使用する方法も提供する。本出願の抗PHF-タウ抗体、又はその抗原結合断片は、HEK細胞可溶化物に由来する、又は変異体タウトランスジェニックマウスの脊髄溶解物に由来するタウシードを使用する細胞アッセイにより測定されるように、タウシードを阻害する。更に、本出願の抗PHF-タウ抗体の可変領域及びマウスIg定常領域(例えばマウスIgG2a定常領域)を有するキメラ抗体は、インビボでの変異体タウトランスジェニックマウスにおいてシーディング活性をブロックした。
【0011】
AD脳におけるタウ異常症の進行は、異なる特殊な拡大パターンに従う。前臨床モデルにおいては、細胞外ホスホ-タウシードがニューロンでのタウ異常症を誘発し得ることが示されている(Clavaguera et al.,PNAS 110(23):9535-40,2013)。それゆえ、タウ異常症はある脳の領域から次の領域に、プリオンのように拡大し得ると考えられている。この拡大プロセスには、近くのニューロンにより取り込まれることができ、更なるタウ異常症を引き起こし得るタウシードの外在化が伴う。理論に束縛されるものではないが、本出願の抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片は、脳内でホスホ-タウシードと相互作用することにより、タウ凝集又はタウ異常症の拡大を予防すると考えられている。
【0012】
一般的な一態様において、本出願は、PHF-タウに結合する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0013】
別の一般的な態様では、本出願は、配列番号1のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号1のアミノ酸配列内のタウタンパク質のエピトープでタウタンパク質に結合する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、対らせん状細線維(PHF)-タウ、好ましくはヒトPHF-タウに結合する、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0014】
特定の態様に従うと、本出願は、
(a)タウタンパク質のエピトープは、タウタンパク質のリン酸化S433又はリン酸化S435のいずれか一方を含むが、リン酸化S433及びリン酸化S435を含まない、
(b)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435のうちの1つ以上を含むが、リン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435の全てを含まない、
(c)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427及びリン酸化S433のうちの1つ以上を含むが、リン酸化S435を含まず、リン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435の全てを含まない、又は
(d)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427を含むが、リン酸化S433又はリン酸化S435を含まない、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0015】
別の特定の態様によれば、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、
(a)それぞれ配列番号4、5、及び6のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号7、8、及び9のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)それぞれ配列番号14、15、及び16のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(c)それぞれ配列番号24、25、及び26のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号27、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(d)それぞれ配列番号32、33、及び34のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び35のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、又は
(e)それぞれ配列番号40、41、及び42のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び43のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、を含む。
【0016】
別の特定の態様によれば、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号2、12、22、30、若しくは38と少なくとも90%同一のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39と少なくとも90%同一のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0017】
別の特定の態様によれば、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号2、12、22、30、若しくは38のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0018】
別の特定の態様によれば、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、
(a)配列番号2のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号3のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(b)配列番号12のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号13のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(c)配列番号22のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号23のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(d)配列番号30のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号31のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(e)配列番号38のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号39のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域とを含む。
【0019】
別の特定の態様によれば、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、
(a)配列番号10のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号11のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(b)配列番号20のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(c)配列番号28のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号29のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(d)配列番号36のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号37のポリペプチド配列を有する軽鎖、又は
(e)配列番号44のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号45のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む。
【0020】
別の一般的な態様では、本出願は、
(a)それぞれ配列番号4、5、及び6のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号7、8、及び9のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)配列番号2のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号3のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(c)配列番号10のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号11のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0021】
別の一般的な態様では、本出願は、
(a)それぞれ配列番号14、15、及び16のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)配列番号12のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号13のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(c)配列番号20のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0022】
別の一般的な態様では、本出願は、本出願の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする、単離核酸に関する。
【0023】
別の一般的な態様では、本出願は、本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする単離核酸を含む、ベクターに関する。
【0024】
別の一般的な態様では、本出願は、本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする単離核酸を含む、宿主細胞に関する。
【0025】
別の一般的な態様では、本出願は、本出願の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片と、医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物に関する。
【0026】
別の一般的な態様では、本出願は、タウシーディングのブロックを必要とする対象における、タウシーディングをブロックする方法であって、本出願の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0027】
別の一般的な態様では、本出願は、タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症を治療する方法であって、本発明の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。タウ異常症としては、家族性アルツハイマー病、散発性アルツハイマー病、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia with parkinsonism linked to chromosome 17、FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維変化優位型認知症、石灰化によるびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症複合、ダウン症候群、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン・シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化による非グアマニアン運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)からなる群から選択される1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
別の一般的な態様では、本出願は、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散の低減を必要とする対象における、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散を低減する方法であって、本出願の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。タウ異常症としては、家族性アルツハイマー病、散発性アルツハイマー病、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia with parkinsonism linked to chromosome 17、FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維変化優位型認知症、石灰化によるびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症複合、ダウン症候群、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン・シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化による非グアマニアン運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)からなる群から選択される1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
別の一般的な態様では、本出願は、本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を生成する方法であって、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を含む細胞を、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片を生成する条件下で培養することと、細胞又は細胞培養液からモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を回収することとを含む、方法に関する。
【0030】
別の一般的な態様では、本出願は、対象由来の生体試料におけるPHF-タウの存在を検出する方法であって、生体試料を本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片と接触させることと、対象由来の試料におけるPHF-タウへのモノクローナル抗体又はその抗原結合断片の結合を検出することとを含む、方法である。生体試料は、血液、血清、血漿、間質液、又は大脳脊髄液試料からなる群から選択される1つ以上を含むが、これらに限定されない。
【0031】
本出願の実施形態による本発明の特徴及び利点は、本出願の詳細な説明、並びにその好ましい実施形態及び添付の特許請求の範囲を含む以下の開示より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
上述の発明の概要及び以降の発明を実施するための形態は、添付の図面と併せて読むことでより良好に理解されるであろう。本出願は、図面に示される実施形態そのものに限定されないことを理解するべきである。
図1】ELISAによって分析された組換え2N4Rに対する、組換え的に発現されたPT66、PT69/PT87、hTau60の結合を示す。
図2】(左から右へ):WT(スロット1)及びタウ-/-(スロット2)マウス脳、イヌ脳(スロット3)、サル脳(スロット4)、及びヒト脳(スロット5)、並びに死後AD脳に由来するPHF調製物(スロット6)からの脳抽出物に対するPT66、hTau60、及びPT69/PT87のウエスタンブロットプロファイリングを示す。
図3】PHF-タウに対するPT66、hTau60、及びPT69/PT87モノクローナル抗体(mAb)、並びにPHF-タウ及び組換えタウに対するそれらのそれぞれのFab断片の代表的なSPR結合データを示す。PHF-タウ及び全長組換えタウタンパク質に対する抗タウ抗体及びそれらの対応するFab断片のSPR結合センサグラム。各センサグラム内の個々のトレースは、注射された抗体又はFabの異なる濃度を表す。個々のトレースは、上から下へ、75nM、15nM、3nM、0.6nM及び0.12nMに対応する。HT7については、上部トレース(濃度)は15nMである。黒い実線は、二価分析物モデル(PHF-Tauを有するmAbについて)又は1:1ラングミュアモデル(PHF-Tau及び組換えTauを有するFabについて)のいずれかを用いたグローバルキネティクスフィッティングを示す。HT7については、Fab断片は利用できない。
図4】PT66、hTau60、及びPT69/PT87のAD及び非AD脳の凍結切片における結合データを示す。
図5】PT66、hTau60、及びPT69/PT87からのIHCプロファイリングデータを示す。WT、Tau-/-、及びP301Sマウス由来のパラフィン切片に対する結合を示す。
図6A】免疫枯渇アッセイの概略図を示す。
図6B】ヒトAD脳組織(四角)及びP301S脊髄(三角)に由来する試験抗体(hTau60、PT69、PT66及び内部N末端結合タウmAb(PT26)タウ種子に対する免疫枯渇アッセイの結果を示す。PT66、hTau60及びPT69/PT87は、FRETアッセイを使用して決定されるように、N末端抗体よりも効果的にタウシーディングを阻害した。ヒトAD脳ホモジネートからの免疫枯渇画分もまた、hTau60/hTau60タウ凝集体特異的MSDアッセイ(丸)で分析した。
図6C】連続免疫枯渇(ID)アッセイの結果を示し、ここで、第1ラウンドの免疫枯渇アッセイ(ID1)は、抗体PT93(タウのN末端部分を標的とする)、PT51(HT7様抗体)及びhTau60(タウのC末端部分を標的とする)のそれぞれを用いて、又はいずれの抗体も用いずに(mAb無し)行い、第2ラウンドの免疫枯渇アッセイ(ID2)は、ID1に使用したものと同じ又は異なる抗体を用いて行った。ID1に使用したのと同じ抗体を有するID2は、更なる凝集体を枯渇させないこと、並びにPT93を有するID1の後、PT51(HT7様)及びhTau60(C末端)を有するID2は、タウ凝集体の更なる枯渇をもたらし、hTau60は、全ての残りの凝集体を枯渇させたことが示された。
図7A】タウPHF及び試験抗体を同時注射したePHF注入モデルにおける(例えば、米国特許第10,766,953号を参照)、AT120、PT/76、及びPT53抗体と比較した、hTau60及びPT69/PT87の有効性を示す。***P<0.0001ボンフェローニ多重比較。
図7B】ePHF注射モデルにおける、TauのN末端(N末端)又は中央(Mid)部分における他のエピトープに結合する抗体と比較した、C末端PHF-タウ(C末端)PT81及びPT66に結合する抗体の有効性を示す。C末端抗体は、インビボでのタウシーディングの強い減少を示した。
図7C】C末端抗体(PT66及びhTau60)及びPT3の両方が腹腔内投与後にインビボ活性を保持したことを示す。マウスに20mg/kgの抗体を週2回注射した。
図8】内部C末端抗体の直鎖状ペプチドマッピングを使用したエピトープマッピングデータを示す。
図9】N末端抗体によるより低い有効性が、PHF-tauのN末端でのより広範なプロセシングによって説明され得ることを示す:C末端PHF-tau抗体PT66及びhTau60(C末端)を、PHF-tauを分析するウエスタンブロッティングスクリーンにおいて、N末端PHF-tau抗体(PT93)と比較する。
【発明の詳細な説明】
【0033】
「背景技術」において、また、本明細書全体を通じて各種刊行物、論文及び特許を引用又は記載し、これら参照文献の各々はその全容が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれる文書、操作、材料、デバイス、物品などの考察は、本出願のコンテキストを与えるためのものである。かかる考察は、これらの事物のいずれか又は全てが、開示又は特許請求されるいずれかの発明に対する先行技術の一部を構成することを容認するものではない。
【0034】
定義
特に規定のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。そうでない場合、本明細書で使用される特定の用語は、本明細書に記載される意味を有するものである。本明細書に引用される全ての特許、公開された特許出願及び刊行物は、あたかも本明細書に完全に記載されているように参照により組み込まれる。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、特に文脈上明らかでない限り、複数の指示対象物を含むことに留意する必要がある。
【0035】
特に明記しない限り、本明細書に記載される濃度又は濃度範囲などのあらゆる数値は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、数値は、通常、記載される値の±10%を含む。例えば、1mg/mLの濃度は0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、1%~10%(w/v)の濃度範囲は0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。本明細書で使用するとき、数値範囲の使用は、文脈上そうでない旨が明確に示されない限り、その範囲内の整数及び値の分数を含む、全ての可能な部分範囲、その範囲内の全ての個々の数値を明示的に含む。
【0036】
本明細書に使用される場合、複数の列挙された要素間の「及び/又は」という接続的な用語は、個々の及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」によって接続される場合、第1の選択肢は、第2の要素なしに第1の要素が適用可能であることを指す。第2の選択肢は、第1の要素なしに第2の要素が適用可能であることを指す。第3の選択肢は、第1及び第2の要素が一緒に適用可能であることを指す。これらの選択肢のうちのいずれか1つは、意味に含まれ、したがって、本明細書に使用される場合、用語「及び/又は」の要件を満たすことが理解される。選択肢のうちの2つ以上の同時適用性もまた、意味に含まれ、したがって、用語「及び/又は」の要件を満たすことが理解される。
【0037】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、文脈上必要としない限り、用語「含む(comprise)」並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、指定の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を含むが、任意の他の整数若しくはステップ又は整数若しくはステップの群を除外するものではないことを意味すると理解されるであろう。本明細書で使用するとき、用語「含む」は、用語「含有する」又は「含む(including)」に置き換えることができ、又はときに本明細書で使用するとき、用語「有する」に置き換えることもできる。
【0038】
本明細書に使用される場合、「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲の要素において指定されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。本明細書に使用される場合、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程は除外しない。本発明の態様又は実施形態の文脈において本明細書で使用するときは常に、本開示の範囲を変化させるために、「含む(comprising)」、「含有する」、「含む(including)」、及び「有する」という上記用語のいずれかを、用語「からなる」又は「から本質的になる」に置き換えることができる。
【0039】
本明細書で使用するとき、「単離(された)」という用語は、生物学的構成成分(例えば、核酸、ペプチド、又はタンパク質)が、これらの構成成分が天然に生じる生物の他の生物学的構成成分(すなわち、他の染色体及び染色体外DNA及びRNA、並びにタンパク質)から実質的に分離されたか、これらの他の成分とは別に生成されたか、又はこれらの他の成分から精製されたものであることを意味する。このため、「単離(された)」核酸、ペプチド、及びタンパク質は、標準的な精製法により精製された核酸及びタンパク質を含む。「単離された」核酸、ペプチド、及びタンパク質は、組成物の一部であることができ、このような組成物が核酸、ペプチド、又はタンパク質の本来の環境の一部ではない場合であっても単離されている。また、この用語は、宿主細胞中での組換え発現により調製された核酸、ペプチド、及びタンパク質、並びに化学合成された核酸も包含する。
【0040】
本明細書で使用するとき、「抗体」又は「免疫グロブリン」という用語は広い意味で用いられ、ポリクローナル抗体を含む免疫グロブリン又は抗体分子、マウス、ヒト、ヒト適合、ヒト化、及びキメラモノクローナル抗体及び抗体断片を含むモノクローナル抗体を含む。
【0041】
一般に、抗体は、特定の抗原に対する結合特異性を示すタンパク質又はペプチド鎖である。抗体の構造は、周知である。免疫グロブリンは、重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に応じて5つの主なクラス、すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMに割り当てられ得る。IgA及びIgGは、アイソタイプのIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4として更に細分類される。本出願の抗体としては、半減期の延び、ADCC又はCDCの増減、及びサイレンシングされたFcエフェクター機能が挙げられるがこれらに限定されない、野生型Fc領域と比較して変化した特性を有するように、Fc領域に多様性を有するものが挙げられる。したがって、本出願の抗体は、5つの主要なクラス又は対応する下位クラスのいずれかのものであり得る。好ましくは、本出願の抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4である。いずれの脊椎動物種の抗体軽鎖も、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて2つの明確に異なるタイプ、すなわちκ及びλのうちの一方に割り当てることができる。したがって、本出願の抗体は、κ又はλ軽鎖定常ドメインを含有することができる。特定の実施形態によれば、本出願の抗体は、マウス抗体又はヒト抗体の重鎖及び/又は軽鎖定常領域を含む。
【0042】
重鎖及び軽鎖定常領域に加えて、抗体は、軽鎖及び重鎖可変領域を含有する。免疫グロブリン軽鎖又は重鎖可変領域は、「抗原結合部位」が割り込んだ「フレームワーク」領域からなる。抗原結合部位は、以下のとおり様々な用語及び符番スキームを用いて定義される。
(i)Kabat:「相補性決定領域」又は「CDR(Complementarity Determining Region)」は、配列可変性に基づく(Wu and Kabat,J Exp Med.132:211-50,1970)。一般に、抗原結合部位は、各可変領域に3つのCDR(例えば、重鎖可変領域(heavy chain variable region、VH)にHCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに軽鎖可変領域(light chain variable region、VL)にLCDR1、LCDR2、及びLCDR3)を有する。
(ii)Chothia:「超可変領域」、「HVR(hypervariable region)」、又は「HV」という用語は、Chothia及びLeskにより定義されているように、構造中で超可変性である抗体可変ドメインの領域を指す(Chothia and Lesk,J Mol Biol.196:901-17,1987)。一般に、抗原結合部位は、各VH(H1、H2、H3)及びVL(L1、L2、L3)に3つの超可変領域を有する。CDR及びHVの付番体系及び注釈は、最近、Abhinandan及びMartinにより改訂された(Abhinandan and Martin,Mol.Immunol.45:3832-9(2008))。
(iii)IMGT:抗原結合部位を形成する領域の別の定義は、免役グロブリン及びT細胞受容体からのVドメインの比較に基づき、Lefranc(Lefranc et al.,Dev Comp Immunol.27:55-77,2003)により提案されている。International ImMunoGeneTics(IMGT)データベースが、標準化したこれらの領域の符番及び定義を提供している。CDR、HV、及びIMGTの描写間の対応については、Lefranc et al.,2003,同上に記載されている。
(iv)AbM:Kabat及びChothiaの付番スキームの妥協点は、Martin(Martin ACR(2010)Antibody Engineering,eds Kontermann R,Dubel S(Springer-Verlag,Berlin),Vol 2,pp 33-51)に記載されている、AbM付番の取り決めである。
(v)抗原結合部位はまた、「特異性決定残基使用量」(Specificity Determining Residue Usage、SDRU)に基づいて描写することができ(Almagro、Mol Recognit.17:132-43,2004)、SDRは、抗原接触に直接関与する免疫グロブリンのアミノ酸残基を指す。
【0043】
「フレームワーク」又は「フレームワーク配列」は、抗原結合部位の配列であると定義されるもの以外の、抗体の可変領域内の残りの配列である。抗原結合部位の正確な定義は、上述したような様々な描写により決定され得るため、正確なフレームワーク配列は、抗原結合部位の定義に依存する。フレームワーク領域(framework region、FR)は、より高度に保存された可変ドメインの部分である。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々、3つの超可変ループにより接続された、βシート構成を一般的に用いる4つのFR(それぞれFR1、FR2、FR3、及びFR4)を含む。各鎖の超可変ループはFRにより互いに緊密に折りたたまれ、他の鎖の超可変ループと共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。抗体の構造分析により、相補性決定領域により形成される結合部位の配列と形状との関係が明らかとなった(Chothia et al.,J.Mol.Biol.227:799-817,1992、Tramontano et al.,J.Mol.Biol.215:175-182,1990)。これらの高い配列可変性にもかかわらず、6つのループのうち5つだけが、「標準構造」と言われる、小さなレパートリーの主鎖構造を採用する。これらの構造はまず、ループの長さにより決定され、次に、折りたたみ、水素結合、又は異常な主鎖構造を推定する能力により構造が決定される、ループ及びフレームワーク領域の特定の位置における鍵となる残基の存在により決定される。
【0044】
本明細書で使用するとき、「抗原結合断片」という用語は、例えば、ダイアボディ、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、(dsFv)、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv’)、ジスルフィド安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、単鎖抗体分子(scFv)、単一ドメイン抗体(sdab)、scFv二量体(二価ダイアボディ)、1つ以上のCDRを含む抗体の一部分から形成される多重特異性抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、二価ドメイン抗体、又は抗原に結合するが完全な抗体構造を含まない任意の他の抗体断片などの抗体断片を指す。抗原結合断片は、親抗体又は親抗体フラグメントが結合する同じ抗原に結合することができる。特定の実施形態によれば、抗原結合断片は、軽鎖可変領域、軽鎖定常領域、及び重鎖の定常領域のFdセグメントを含む。他の特定の実施形態によれば、抗原結合断片はFab及びF(ab’)を含む。
【0045】
本明細書で使用するとき、用語「ヒト化抗体」とは、抗体の抗原結合特性が保持されるが、人体における抗原の抗原性が低下するように、改変によりヒト抗体への配列相同性を増加させた非ヒト抗体を意味する。
【0046】
本明細書で使用するとき、「エピトープ」という用語とは、免疫グロブリン、抗体、又はその抗原結合断片が特異的に結合する、抗原上の部位を指す。エピトープは、タンパク質の三次折りたたみにより並置された連続アミノ酸から、又は非連続アミノ酸からのいずれかで形成することができる。連続アミノ酸から形成したエピトープは、典型的には、変性溶媒にさらして保持されるが、三次折りたたみにより形成したエピトープは、典型的には、変性溶媒による処理で喪失される。エピトープは、典型的には、独自な空間構造の中に、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15個のアミノ酸を含む。エピトープの空間構造を決定する方法としては、例えば、x線結晶構造解析、及び二次元核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology,Vol.66,G.E.Morris,Ed.(1996)を参照されたい。
【0047】
本明細書で使用するとき、「タウ」又は「タウタンパク質」という用語とは、複数のアイソフォームを有する、多くある中枢神経系及び末梢神経系のタンパク質を指す。ヒト中枢神経系(central nervous system、CNS)では、代替スプライシングにより、352~441アミノ酸長のサイズ範囲の6つの主要なタウアイソフォームが存在する(Hanger et al.,Trends Mol Med.15:112-9,2009)。アイソフォームは、0~2個のN末端挿入、及び3又は4個の一列に配列した微小管結合反復を制御して含めることにより互いに異なり、0N3R(配列番号46)、1N3R(配列番号47)、2N3R(配列番号48)、0N4R(配列番号49)、1N4R(配列番号50)、及び2N4R(配列番号51)と称される。本明細書で使用するとき、「対照タウ」という用語は、リン酸化及び他の翻訳後修飾されていない、配列番号51のタウアイソフォームを指す。本明細書で使用するとき、「タウ」という用語は、完全長野生型タウの変異(例えば、点変異、断片、挿入、欠失、及びスプライスバリアント)を含むタンパク質を含む。「タウ」という用語はまた、タウアミノ酸配列の翻訳後修飾を包含する。翻訳後修飾としては、リン酸化が挙げられるが、これに限定されない。本明細書中で使用される場合、句「タウタンパク質のリン酸化S433」及び類似の句は、全長野生型タウタンパク質の特定の位置のリン酸化アミノ酸、例えば、433位のセリンを指す。
【0048】
タウは、微小管に結合しており、タウのリン酸化によって調節され得るプロセスである、細胞を通じたカーゴの輸送を制御する。AD及び関連する疾患においては、タウの異常リン酸化が広く生じ、これは、タウの対らせん状細線維(PHF)と呼ばれる原線維への凝集の前に生じ、及び/又はその凝集を誘発すると考えられる。PHFの主要構成成分は、過剰リン酸化タウである。本明細書で使用するとき、「対らせん状細線維-タウ」又は「PHF-タウ」という用語とは、対らせん状細線維中のタウの凝集体を指す。PHF構造における2つの主要な領域は、電子顕微鏡、ファジーコート、及びコア細線維により明らかであり、ファジーコートは、タンパク質分解に敏感であり、細線維の外側に位置し、細線維のプロテアーゼ耐性コアは、PHFの主鎖を形成する(Wischik et al.Proc Natl Acad Sci USA.85:4884-8,1988)。
【0049】
本明細書で使用するとき、「PHF-タウに結合する単離モノクローナル抗体」又は「単離モノクローナル抗PHF-タウ抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない、モノクローナル抗PHF-タウ抗体を指すことを意図する(例えば、単離モノクローナル抗PHF-タウ抗体は、PHF-タウ以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、単離モノクローナル抗PHF-タウ抗体は、例えば他の種(PHF-タウ種のホモログなど)の他の関連抗原に対して交差反応性を有する。
【0050】
本明細書で使用するとき、「特異的に結合する」又は「特異的結合」という用語は、本出願の抗PHF-タウ抗体が、約1×10-6M以上、例えば、約1×10-7M以下、約1×10-8M以下、約1×10-9M以下、約1×10-10M以下、約1×10-11M以下、約1×10-12M以下、又は約1×10-13M以下の解離定数(K)で所定の標的に結合する能力を指す。KDは、Kaに対するKdの比率(すなわち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表される。抗体のKD値は、本開示を考慮して当該技術分野における方法を使用して決定することができる。例えば、抗PHF-タウ抗体のKD値は、表面プラズモン共鳴を用いることにより、バイオセンサシステム、例えば、Biacore(登録商標)システム、ProteOn機器(BioRad)、KinExA機器(Sapidyne)、ELISA、又は当業者に知られている競合結合アッセイを用いることなどにより、決定することができる。典型的には、抗PHF-タウ抗体は、例えば、ProteOn機器(BioRad)を使用した表面プラズモン共鳴によって測定した場合に、非特異的標的に対するKよりも少なくとも10倍低いKで所定の標的(すなわち、PHF-タウ)に結合する。しかしながら、PHF-タウに特異的に結合する抗PHF-タウ抗体は、他の関連標的、例えば、他の種(ホモログ)からの所定の同じ標的に対する交差反応性を有することができる。
【0051】
本明細書で使用するとき、用語「ポリヌクレオチド」は、同義的に「核酸分子」、「ヌクレオチド」、又は「核酸」とも称され、非修飾RNA若しくはDNA又は修飾RNA若しくはDNAであってもよい、任意のポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドを指す。「ポリヌクレオチド」としては、一本鎖及び二本鎖DNA、一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖RNA、並びに一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であるRNA、一本鎖又はより典型的には二本鎖又は一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であってもよいDNA及びRNAを含むハイブリッド分子が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、「ポリヌクレオチド」は、RNA若しくはDNA又はRNA及びDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。ポリヌクレオチドという用語には、1つ以上の修飾された塩基を含有するDNA又はRNA、及び安定性又は他の理由により修飾された骨格を有するDNA又はRNAも含まれる。「修飾された」塩基は、例えば、トリチル化塩基及び異常な塩基、例えば、イノシンを含む。様々な修飾をDNA及びRNAに行うことができる。したがって、「ポリヌクレオチド」は、典型的には天然に認められるポリヌクレオチドの化学的、酵素的又は代謝的に修飾された形態、並びにウイルス及び細胞のDNA及びRNAの特徴を有する化学的形態を包含する。「ポリヌクレオチド」はまた、比較的短い核酸鎖(多くの場合、オリゴヌクレオチドと称される)も包含する。
【0052】
本明細書で使用するとき、用語「ベクター」は、別の核酸セグメントを機能的に挿入することによってそのセグメントの複製又は発現を引き起こすことができるレプリコンのことである。
【0053】
本明細書で使用するとき、用語「宿主細胞」は、本出願の核酸分子を含む細胞を指す。「宿主細胞」は、例えば、初代細胞、培養中の細胞、又は細胞株由来の細胞のいずれのタイプの細胞であってもよい。一実施形態では、「宿主細胞」は、本出願の核酸分子をトランスフェクトした細胞である。別の実施形態では、「宿主細胞」は、かかるトランスフェクトされた細胞の子孫又は潜在的な子孫である。ある細胞の子孫は、例えば、後続の世代で生じ得る変異若しくは環境の影響、又は宿主細胞ゲノムへの核酸分子の組み込みによって、親細胞との同一性を有していない場合がある。
【0054】
本明細書で使用するとき、用語「発現」は、遺伝子産物の生合成を指す。この用語は、遺伝子のRNAへの転写を包含する。この用語はまた、RNAの1つ以上のポリペプチドへの翻訳も包含し、全ての天然に生じる、転写後及び翻訳後修飾も更に包含する。PHF-タウに結合する、発現したモノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、宿主細胞の細胞質内に存在することができるか、細胞培養液の増殖培地などの細胞外環境に入ることができるか、又は細胞膜に固着することができる。
【0055】
本明細書で使用するとき、用語「担体」は、任意の賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝液、安定剤、可溶化剤、油、脂質、脂質含有小胞、ミクロスフェア、リポソーム封入体、又は医薬製剤で使用するための当該技術分野において周知である他の材料を指す。担体、賦形剤又は希釈剤の特性は、特定の用途の投与経路によって決まる点は理解されよう。本明細書に使用される場合、用語「医薬的に許容される担体」は、本出願による組成物の有効性にも本出願による組成物の生物学的活性にも干渉しない非毒性性材料を指す。特定の実施形態によれば、本開示を考慮して、抗体の医薬組成物での使用に好適ないずれの医薬的に許容される担体も、本発明において使用することができる。
【0056】
本明細書で使用するとき、「対象」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物を指す。特定の実施形態によれば、対象は、非霊長類(例えば、ラクダ、ロバ、シマウマ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ラット、ウサギ、モルモット又はマウス)、又は霊長類(例えば、サル、チンパンジー、又はヒト)を含む哺乳動物である。特定の実施形態では、対象はヒトである。
【0057】
本明細書で使用するとき、「治療有効量」という用語は、対象に所望の生物学的又は薬理的応答を惹起する活性成分又は構成成分の量を指す。治療有効量は、記載される目的に対して経験的かつ通常の方法で決定することができる。例えば、任意選択的にインビトロアッセイを用いて、最適な用量範囲の特定に役立てることができる。具体的な有効用量の選択は、治療又は予防される疾病、伴う症状、患者の体重、患者の免疫状態、及び当業者に既知の他の因子を含むいくつかの因子の考慮に基づいて、当業者によって(例えば、臨床試験により)決定することができる。また、製剤に用いられる正確な用量は、投与経路及び疾患の重症度に応じて決まり、医師の判断及び各患者の状況に従って決定されるべきである。有効用量は、インビトロ又は動物モデル試験系から導かれる用量応答曲線から推定することができる。
【0058】
本明細書で使用する場合、用語「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、及び「治療(treatment)」は全て、タウ異常症に関連した少なくとも1つの測定可能な物理的パラメータの改善又は逆転を指すものであり、これは対象において必ずしも認識されるとは限らないが、対象において認識可能な場合もある。用語「治療する」、「治療すること」、及び「治療」はまた、疾患、障害、又は病態を退縮させる、その進行を防止する、又は少なくともその進行を遅らせることを指す場合もあり得る。特定の実施形態では、「治療する(treat)」、「治療する(treating)」、及び「治療(treatment)」は、タウ異常症に関連する1つ以上の症状の緩和、進展若しくは発症の予防、又はその期間の短縮を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、疾患、障害、又は病態の再発の防止を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、疾患、障害、又は病態を有する対象の生存率の向上を指す。特定の実施形態では、「治療する」、「治療すること」、及び「治療」は、対象における疾患、障害、又は病態の消失を指す。
【0059】
本明細書で使用するとき、「タウ異常症」は、脳内のタウの病理学的凝集を伴う任意の神経変性疾患を包含する。家族性及び散発性ADに加えて、他の例示的なタウオパチーは、染色体17に関連したパーキンソン症候群を伴う前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia with parkinsonism linked to chromosome 17、FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維変化優位型認知症(tangle only dementia)、石灰化を伴うびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症複合、ダウン症候群、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン・シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化による非グアマニアン運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、及び、拳闘家認知症(ボクサー病)などの慢性外傷性脳症である(Morris et al.,Neuron,70:410-26,2011)。
【0060】
本明細書で使用するとき、対象への2つ以上の療法の投与の文脈における用語「組み合わせで」は、2つ以上の療法の使用を指す。用語「組み合わせで」の使用は、療法を対象に投与する順序について限定しない。例えば、第1治療薬(例えば、本明細書に記載される組成物)を、被検者への第2治療薬の投与の前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、又は12週間前)、同時、又はその後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、又は12週間後)に対象へ投与することができる。
【0061】
抗PHF-タウ抗体
一般的な一態様において、本出願は、PHF-タウに結合する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。このような抗PHF-タウ抗体は、PHF-タウにてリン酸化エピトープを結合させる特性、又はPHF-タウにて非リン酸化エピトープを結合させる特性を有することができる。抗PHF-タウ抗体は治療薬として有用である場合があり、また、例えば組織又は細胞中での、生体試料におけるPHF-タウを検出するための調査又は診断試薬としても有用である場合がある。
【0062】
特定の態様によれば、本出願は、タウタンパク質のC末端ドメインにおけるエピトープにおいてタウタンパク質に結合する単離抗体又はその抗原結合断片に関する。いくつかの実施形態において、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を有するか又は配列番号1のアミノ酸配列内のタウタンパク質のエピトープにおいてタウタンパク質に結合し、ここで、抗体又はその抗原結合断片は、PHF-タウ、好ましくはヒトPHF-タウに結合する。好ましくは、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列からなるか又は配列番号1のアミノ酸配列内のタウタンパク質のエピトープにおいてタウタンパク質に結合し、ここで、抗体又はその抗原結合断片は、PHF-タウ、好ましくはヒトPHF-タウに結合する。
【0063】
いくつかの実施形態において、タウタンパク質のエピトープは、タウタンパク質のリン酸化S433又はリン酸化S435のいずれか1つを含むが、リン酸化S433及びリン酸化S435を含まない、又は、タウタンパク質のエピトープは、タウタンパク質のリン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435のうちの1つ以上を含むが、リン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435の全てを含まない、又は、タウタンパク質のエピトープは、タウタンパク質のリン酸化T427及びリン酸化S433のうちの1つ以上を含むが、リン酸化S435を含まず、リン酸化T427、リン酸化S433及びリン酸化S435の全てを含まない、又はタウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427を含むが、リン酸化S433又はリン酸化S435を含まない。
【0064】
本発明の抗体は、多様な技術により、例えば、ハイブリドーマ法により生成することができる(Kohler and Milstein Nature.256:495-7,1975)。ドナー抗体(典型的にはマウス)に由来する軽鎖及び重鎖可変領域と共に、アクセプター抗体(典型的にはヒトなどの別の哺乳類種)に由来する軽鎖及び重鎖定常領域を含有するキメラモノクローナル抗体を、米国特許第4816567号に記載されている方法により調製することができる。非ヒトドナー免疫グロブリン(典型的にはマウス)に由来するCDRを有し、分子の残りの、免疫グロブリンに由来する部分は1種類又はそれ以上のヒト免疫グロブリンに由来する、CDRグラフトモノクローナル抗体を、例えば米国特許第5225539号に開示されている、当業者に知られている技術により調製することができる。非ヒト配列を欠く完全ヒトモノクローナル抗体は、Lonberg et al.,Nature.368:856-9,1994;Fishwild et al.,Nat Biotechnol.14:845-51,1996、及びMendez et al.,Nat Genet.15:146-56,1997において参照された技術により、ヒト免役グロブリントランスジェニックマウスから調製することができる。ヒトモノクローナル抗体はまた、ファージディスプレイライブラリから調製及び最適化され得る(例えば、Knappik et al.,J Mol Biol.296:57-86,2000、Krebs et al.,J Immunol Methods.254:67-84,2001、Shi et al.,J Mol Biol.397:385-96,2010を参照されたい)。
【0065】
特定の態様によれば、本出願は、
(a)それぞれ配列番号4、5、及び6のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号7、8、及び9のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)それぞれ配列番号14、15、及び16のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(c)それぞれ配列番号24、25、及び26のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号27、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(d)それぞれ配列番号32、33、及び34のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び35のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、又は
(e)それぞれ配列番号40、41、及び42のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び43のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、を含む単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0066】
本明細書では、配列番号2、12、22、30、若しくは38と少なくとも90%同一のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39と少なくとも90%同一のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片が提供される。いくつかの実施形態では、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号2、12、22、30、若しくは38のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、配列番号2、12、22、30、若しくは38のポリペプチド配列からなる重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39のポリペプチド配列からなる軽鎖可変領域を含む。
【0067】
特定の態様によれば、本出願は、
(a)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(b)配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(c)配列番号22のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(d)配列番号30のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(e)配列番号38のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号39のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域とを含む単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0068】
別の特定の態様によれば、本出願は、
(a)配列番号2のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖可変領域と、配列番号3のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる軽鎖可変領域、
(b)配列番号12のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖可変領域と、配列番号13のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる軽鎖可変領域、
(c)配列番号22のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖可変領域と、配列番号23のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる軽鎖可変領域、
(d)配列番号30のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖可変領域と、配列番号31のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる軽鎖可変領域、又は
(e)配列番号38のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖可変領域と、配列番号39のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる軽鎖可変領域とを含む、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0069】
別の特定の態様によれば、本出願は、
(a)配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖、
(b)配列番号20のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号21のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖、
(c)配列番号28のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号29のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖、
(d)配列番号36のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号37のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖、又は
(e)配列番号44のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号45のアミノ酸配列と少なくとも90%、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%同一であるポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0070】
別の特定の態様によれば、本出願は、
(a)配列番号10のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖と、配列番号11のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(b)配列番号20のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖と、配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(c)配列番号28のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖と、配列番号29のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(d)配列番号36のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖と、配列番号37のポリペプチド配列を有する軽鎖、又は
(e)好ましくは配列番号44のポリペプチド配列、好ましくはからなるからなる重鎖と、配列番号45のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関する。
【0071】
特定の実施形態では、本出願の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、
(a)それぞれ配列番号4、5、及び6のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号7、8、及び9のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)配列番号2のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖可変領域と、配列番号3のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる軽鎖可変領域、又は
(c)配列番号10のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖と、配列番号11のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる軽鎖とを含む。
【0072】
特定の実施形態では、本出願の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、
(a)それぞれ配列番号14、15、及び16のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び19のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)配列番号12のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる重鎖可変領域と、配列番号13のポリペプチド配列を有する、好ましくはからなる軽鎖可変領域、又は
(c)配列番号20のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む。
【0073】
別の特定の態様によれば、本出願は、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関し、抗体又は抗原結合断片は、ヒトPHF-タウに、5×10-9M以下の解離定数(KD)、好ましくは1×10-9M以下又は1×10-10M以下のKDで結合し、KDは、表面プラズモン共鳴分析により、例えばBiacore又はProteOnシステムを使用することにより測定される。
【0074】
PHF-タウに結合するモノクローナル抗体及びその抗原結合断片の機能活性は、当該技術分野において既知の方法により、そして本明細書に記載のとおりに特性決定することができる。PHF-タウに結合する抗体及びその抗原結合断片を特性評価するための方法としては、Biacore、ELISA、及びFACS分析を含む親和性及び特異性アッセイ;免疫組織化学分析;タウシーディングを阻害する際の抗体の有効性を決定するためのインビトロ細胞アッセイ及びインビボ注射アッセイ;抗体の抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity、ADCC)及び補体依存性細胞傷害(complement dependent cytotoxicity、CDC)活性の存在を検出するための細胞傷害性アッセイ等が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態によれば、PHF-タウに結合する抗体及びその抗原結合断片を特性評価するための方法としては、以下の実施例に記載されるものが挙げられる。PHF-タウに結合するが対照タウには結合しないモノクローナル抗体の例示的なマウス親抗体は、抗体PT3であり、これは、米国特許第9,371,376号に記載されており、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0075】
いくつかの公知の方法を用いて本出願の抗体の結合エピトープを決定することができる。例えば、両方の個別の構成成分の構造が既知である場合、インシリコでタンパク質-タンパク質ドッキングを行って、適合する相互作用部位を特定することができる。抗原抗体複合体を用いて水素-重水素(Hydrogen-deuterium、H/D)交換を行うことによって、抗体が結合する抗原の領域をマッピングすることができる。抗原のセグメント及び点変異誘導を用いることにより、抗体の結合に重要なアミノ酸の位置を特定することができる。抗体-抗原複合体の共結晶構造を使用して、エピトープ及びパラトープに寄与する残基を特定することができる。特定の実施形態によれば、本出願の抗体の結合エピトープを決定するための方法としては、以下の実施例に記載されるものが挙げられる。
【0076】
本出願の抗体は、二重特異的又は多重特異的であってよい。例示的な二重特異的抗体は、PHF-タウの2つの異なるエピトープに結合することができるか、又はPHF-タウ及びアミロイドベータ(Aβ)に結合することができる。別の例示的な二重特異性抗体は、PHF-タウ及び内因性血液脳関門トランスサイトーシス受容体、例えば、インスリン受容体、トランスフェリング受容体(transferring receptor)、インスリン様増殖因子-1受容体、及びリポタンパク質受容体に結合することができる。例示的な抗体は、IgG1タイプである。
【0077】
本出願の抗体の免疫エフェクターの特性は、当業者には既知の技術により、Fc修飾によって強化又はサイレンシングすることが可能である。例えば、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、貧食、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体(BCR))の下方制御などのFcエフェクター機能は、これらの活性を担うFcの残基を修飾することによって提供及び/又は制御され得る。また、薬物動態的な特性は、抗体の半減期を延長するFcドメインの残基を変異させることによって向上させることができる(Strohl,Curr Opin Biotechnol.20:685-91,2009)。
【0078】
更に、本出願の抗体は、グリコシル化、異性化、脱グリコシル化、又はポリエチレングリコール部分の付加及び脂質化等の自然界では生じない共有結合修飾等のプロセスによって、翻訳後修飾してもよい。かかる修飾は、インビボ又はインビトロで行われ得る。例えば、本出願の抗体はポリエチレングリコールとコンジュゲート(PEG化)することによって薬物動態的なプロファイルを向上させることができる。コンジュゲーションは、当業者に既知の方法によって行うことができる。治療用抗体の、PEGとのコンジュゲーションは、機能を低下させずに薬力学を向上させることが示されている(Knight et al.,Platelets.15:409-18,2004、Leong et al.,Cytokine.16:106-19,2001、Yang et al.,Protein Eng.16:761-70,2003)。
【0079】
別の一般的な態様において、本出願は、本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする単離ポリヌクレオチドに関する。タンパク質のアミノ酸配列を変えることなく、タンパク質のコード配列を変える(例えば置換する、欠失する、挿入するなど)ことができることが、当業者には理解されよう。したがって、タンパク質のアミノ酸配列を変化させることなく、本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードしている核酸配列を変更できることが当業者には理解されるであろう。例示的な単離ポリヌクレオチドは、実施例(例えば、配列番号10、11、20、21、28、29、36、37、44、45)に記載される免疫グロブリン重鎖及び軽鎖を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、並びに重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)(例えば、配列番号2、3、12、13、22、23、30、31、38、39)を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。遺伝コードの縮重又は所与の発現系におけるコドンの選好性を考慮すると、本出願の抗体をコードする他のポリヌクレオチドも本出願の範囲内に含まれる。本発明の単離核酸は、公知の組換え又は合成技術を用いて作製することができる。モノクローナル抗体をコードしているDNAは、当該技術分野において公知の方法を用いて容易に単離され、配列決定される。ハイブリドーマが生成される場合、そのような細胞はそれらのDNAの供給源として機能することができる。あるいは、コード配列と翻訳生成物が結合したディスプレイ技術、例えばファージ又はリボソームディスプレイライブラリを使用することができる。
【0080】
別の一般的な態様において、本出願は、本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする単離ポリヌクレオチドを含むベクターに関する。本開示を考慮して、当業者に既知である任意のベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージベクター、又はウイルスベクターを使用することができる。いくつかの実施形態では、ベクターは、プラスミドなどの組換え発現ベクターである。ベクターは、例えば、プロモータ、リボソーム結合エレメント、ターミネータ、エンハンサ、選択マーカー、及び複製起点という、発現ベクターの従来の機能を確立するための任意のエレメントを含むことができる。プロモータは、常時発現型、誘導型、又は再形成可能なプロモータであり得る。細胞に核酸を送達することができる多数の発現ベクターが当該技術分野において既知であり、細胞内で抗体又はその抗原結合断片を産生するために、本明細書で使用することができる。従来のクローニング技術、又は人工遺伝子合成法を使用して、本出願の実施形態に従った組換え発現ベクターを生成することができる。
【0081】
別の一般的な態様において、本出願は、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする単離ポリヌクレオチドを含む宿主細胞に関する。本開示を考慮すると、当業者に知られている任意の宿主細胞を、本出願の抗体又はその抗原結合断片の組換え発現に使用することができる。そのような宿主細胞は、真核細胞、細菌細胞、植物細胞又は古細菌細胞であってよい。例示的な真核細胞は、哺乳動物、昆虫、鳥類、又は他の動物由来のものであってもよい。哺乳動物真核細胞としては、SP2/0(米国培養コレクション(American Type Culture Collection、ATCC)、Manassas、Va、CRL-1581)、NS0(欧州細胞培養コレクション(European Collection of Cell Cultures、ECACC)、Salisbury、Wiltshire、UK、ECACC No.85110503)、FO(ATCC CRL-1646)及びAg653(ATCC CRL-1580)ネズミ細胞株などといった、ハイブリドーマ又は骨髄腫の細胞株などの不死化細胞株が挙げられる。例示的なヒト骨髄腫細胞株は、U266(ATTC CRL-TIB-196)である。他の有用な細胞株としては、CHO-K1 SV(Lonza Biologics)、CHO-K1(ATCC CRL-61、Invitrogen)、又はDG44などのチャイニーズハムスターの卵巣(Chinese Hamster Ovary、CHO)細胞に由来するものが挙げられる。
【0082】
別の一般的な態様において、本出願は、本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を生成する方法であって、本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を生成する条件下で、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードするポリヌクレオチドを含む細胞を培養することと、細胞又は細胞培養液から(例えば上清から)、抗体又はその抗原結合断片を回収することとを含む、方法に関する。発現した抗体又はその抗原結合断片を細胞から回収して、当該技術分野において通常的な技術に従い精製することができる。
【0083】
医薬組成物及び治療方法
本出願の抗PHF-タウ抗体、又は本出願のその断片は、脳内でのタウの病理学的凝集を伴う神経変性病、又はタウ異常症を有する患者、例えばADを患う患者における症状の治療、低減、又は予防に使用することができる。
【0084】
したがって、別の一般的な態様において、本出願は、本出願の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片、及び医薬的に許容される担体を含む、医薬組成物に関する。
【0085】
別の一般的な態様では、本出願は、タウシーディングのブロックを必要とする対象における、タウシーディングをブロックする方法であって、本出願の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。本明細書で使用される「タウシード」は、細胞によって内在化された場合、又はインビトロで単量体タウに曝露された場合に、細胞内タウ凝集を核形成又は「シーディング」することができるタウ凝集体を指す。タウシーディング活性は、本明細書に記載される細胞タウ凝集アッセイにおいて評価され得る(例えば、その全体が参照により組み込まれる米国特許第9,834,596号も参照されたい)。
【0086】
別の一般的な態様において、本出願は、タウ異常症などの病気、疾患又は状態の症状の治療又は低減を必要とする対象における、タウ異常症などの病気、疾患又は状態の症状の治療又は低減方法であって、対象に本出願の医薬組成物を投与することを含む、方法に関する。
【0087】
別の一般的な態様では、本出願は、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散の低減を必要とする対象における、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡散を低減する方法であって、本出願の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。
【0088】
本出願の実施形態によれば、医薬組成物は、治療有効量のモノクローナル抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片を含む。モノクローナル抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片に関して本明細書で使用するとき、治療有効量は、疾患、障害、若しくは状態の治療をもたらすか、疾患、障害、若しくは状態の進行を予防する若しくは遅延させる、又は免疫疾患、障害、若しくは状態に関連する症状を低減若しくは完全に緩和する、モノクローナル抗PHF-タウ抗体又はその抗原結合断片の量を意味する。
【0089】
特定の実施形態によれば、治療有効量は、以下の効果のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、又はそれ以上を達成するのに十分な治療の量を指す:(i)治療される疾患、障害若しくは状態又はそれに関連する症状の重症度を軽減又は改善すること、(ii)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれと関連する症状の期間を短縮すること、(iii)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれと関連する症状の進行を予防すること、(iv)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれと関連する症状の退縮を生じさせること、(v)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれと関連する症状の進行又は発症を予防すること、(vi)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれと関連する症状の再発を予防すること、(vii)治療される疾患、障害、若しくは状態、又はそれと関連する症状を有する対象の入院を減少させること、(viii)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれと関連する症状を有する対象の入院期間を短縮させること、(ix)治療される疾患、障害若しくは状態、又はそれと関連する症状を有する対象の生存率を高めること、(xi)治療される対象の疾患、障害若しくは状態、又はそれと関連する症状を阻害又は軽減すること、及び/あるいは(xii)別の療法の予防又は治療効果を強化又は改善すること。
【0090】
特定の実施形態によれば、治療される病気、疾患又は状態はタウ異常症である。より具体的な実施形態によれば、治療される病気、疾患又は状態としては、家族性アルツハイマー病、散発性アルツハイマー病、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維変化優位型認知症、石灰化によるびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症複合、ダウン症候群、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン・シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化による非グアマニアン運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、又は拳闘家認知症(ボクサー病)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
タウ異常症に関連する行動的表現型としては、認知障害、初期人格変化及び脱抑制、感情鈍麻、無為症、無言症、失行症、反復症、常同運動/挙動、口愛過度、混乱、連続タスクを計画又は組織化する能力の欠如、利己的行動/無神経、反社会的特徴、共感の欠如、言葉のつかえ、錯誤的誤りは頻繁にあるが比較的理解力は保たれている失文症的な話し方、理解障害及び換語欠陥、緩徐進行性歩行不安定性、後方突進、すくみ、頻繁な転倒、非レボドパ反応性軸剛性、核上性注視麻痺、方形波痙攣、緩徐な垂直断続性運動、仮性球麻痺、四肢失行症、筋緊張異常、皮質性感覚消失、及び振戦が挙げられる。
【0092】
治療を受けやすい患者としては、AD又は他のタウ異常症のリスクがある無症候性の個体、及び現在症状を示している患者が挙げられるが、これらに限定されない。治療の影響を受けやすい患者としては、ADの家族歴又はゲノムにおける遺伝的リスク因子の存在など、ADの公知の遺伝的リスクを有する個体が挙げられる。例示的なリスク因子は、特に、位置717、並びに位置670及び671におけるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein、APP)の変異(それぞれ、Hardy及びSwedish変異)である。他のリスク因子は、プレセニリン遺伝子PS1及びPS2、並びにApoE4における変異、高コレステロール血症又はアテローム性動脈硬化症の家族歴である。現在ADに罹患している個体は、上記リスク因子の存在によって特徴的な認知症から認識することができる。更に、ADを有する個体を特定するために、多数の診断試験が利用可能である。これらとしては、脳脊髄液のタウ濃度及びAβ42濃度の測定が挙げられる。タウ濃度の上昇及びAβ42濃度の低下は、ADの存在を表す。また、ADに罹患している個体は、AD及び関連障害の協会の基準によって診断することもできる。
【0093】
本出願の抗PHF-タウ抗体は、AD又は他のタウ異常症等、タウの病理学的凝集を伴う神経変性疾患を治療又は予防するための治療剤及び予防剤の両方に好適である。無症候性患者では、治療は何歳から開始してもよい(例えば、約10、15、20、25、30歳)。しかしながら、通常、患者が約40、50、60、又は70歳に達するまで治療を始める必要はない。治療は、典型的には、ある期間にわたる複数回投与を伴う。治療は、経時的に治療剤に対する抗体、又は活性化T細胞若しくはB細胞の応答を評価することによってモニタリングしてもよい。応答(反応)が低下した場合、追加用量を指示してよい。
【0094】
予防用途では、医薬組成物又は薬剤は、疾患の生化学的、組織学的、及び/又は挙動的症状、その合併症、並びに疾患の発現中に提示される中間病理学的表現型を含む、疾患のリスクをなくす又は低減する、重症度を低下させる、又は疾患の発症を遅らせるのに十分な量で、ADに罹患しやすいか又はそうでなければADのリスクを有する患者に投与される。治療用途では、組成物又は薬剤は、疾患の症状(生化学的、組織学的、及び/又は挙動的)のいずれかを低減、阻止、又は遅延させるのに十分な量で、かかる疾患が疑われるか又は既に罹患している患者に投与される。治療薬の投与により、特徴的なアルツハイマー病状を未だ発現していない患者における軽度の認知障害を低減又はなくすことができる。
【0095】
治療有効量又は用量は、治療される疾患、障害又は状態、投与手段、標的部位、対象の生理学的状態(例えば、年齢、体重、健康状態を含む)、対象がヒトであるか動物であるか、投与される他の薬剤、及び、治療が予防的なものであるか治療的なものであるか、などの様々な因子によって異なり得る。治療用量は、安全性及び有効性を最適化するために最適に漸増される。
【0096】
本出願の抗体は、医薬的に許容される担体内の活性成分として、治療有効量の抗体を含有する医薬組成物として調製することができる。担体は、液体、例えば水、及び落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油等の、石油、動物、植物、又は合成起源のものを含む油であってよい。例えば、0.4%生理食塩水及び0.3%グリシンを用いることができる。これらの溶液は滅菌され、概して粒子状物質を含まない。これらは、従来から公知の滅菌技術(例えば、濾過)によって滅菌することができる。組成物は、生理学的条件に近づけるために必要とされる医薬的に許容できる補助物質、例えばpH調整剤及び緩衝剤、安定化剤、増粘剤、潤滑剤、及び着色剤等を含有することができる。こうした医薬製剤中の本出願の薬剤の濃度は大きく、すなわち、約0.5重量%未満、通常は少なくとも約1重量%~最大で15又は20重量%までと異なってよく、選択される特定の投与様式に従って、主として必要とされる用量、流体体積、粘度等に基づいて選択される。
【0097】
本出願の抗体を治療的に使用するための投与様式は、薬剤を宿主に送達する任意の好適な経路であってもよい。例えば、本明細書に記載する組成物は、非経口的投与、例えば皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻孔内、若しくは頭蓋内投与に好適であるように製剤化することができ、又は、脳若しくは脊椎の脳脊髄液内に投与することができる。
【0098】
治療は、単回投与スケジュール、又は複数回投与スケジュールで行ってもよく、複数回投与計画では、一次治療過程が1~10回の別個の投与と、続いて、応答を維持しかつ/又は強化するのに必要な後続の時間間隔で他の投与とを行い、例えば第2の投与を、1~4ヶ月で行い、また必要であれば、次の投与を数ヶ月後に行う。好適な治療スケジュールの例としては、(i)0、1ヶ月及び6ヶ月、(ii)0、7日及び1ヶ月、(iii)0及び1ヶ月、(iv)0及び6ヶ月、又は疾患の症状を軽減するか若しくは疾患の重症度を低下させることが期待される、所望の応答を惹起するのに十分な他のスケジュールが挙げられる。
【0099】
本出願の抗体は、保存のために凍結乾燥させ、使用前に好適な担体に溶解させることができる。この技術は、抗体及び他のタンパク質調製物に効果的であることが示されており、当該技術分野において公知の凍結乾燥及び溶解技術を用いることができる。
【0100】
特定の実施形態によれば、タウ異常症の治療で使用される組成物を、関係する神経変性病の治療に効果的な他の作用物質と組み合わせて使用することができる。ADの場合、本出願の抗体は、アミロイドベータ(amyloid-beta、Aβ)の沈着を低減又は予防する作用物質と組み合わせて投与することができる。PHF-タウ及びAβの病理は相乗的である可能性がある。したがって、PHF-タウ、並びにAβ及びAβ関連病理の両方のクリアランスを同時に標的とする併用療法は、各々を個々に標的とするよりも効果的であり得る。パーキンソン病及び関連する神経変性疾患の場合、α-シヌクレインタンパク質の凝集形態をクリアランスするための免疫修飾も新たに開発された治療法である。タウ及びα-シヌクレインタンパク質のクリアランスを同時に標的とする併用療法は、いずれかのタンパク質を個々に標的とするよりも効果的であり得る。
【0101】
別の全般的な態様では、本出願は、本出願のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む、医薬組成物を製造する方法であって、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片を医薬的に許容される担体と組み合わせて、医薬組成物を得ることを含む、方法に関する。
【0102】
診断方法及びキット
本出願のモノクローナル抗PHF-タウ抗体を、対象におけるAD又は他のタウ異常症の診断方法において使用することができる。
【0103】
したがって、別の一般的な態様において、本出願は、対象にPHF-タウが存在することを検出する方法、及び、本発明のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を使用して対象にPHF-タウが存在することを検出することにより、タウ異常症を診断する方法に関する。
【0104】
生体試料を診断抗体試薬と接触させ、対象の試料において、診断抗体試薬のリン酸化タウへの結合を検出することにより、対象の生体試料(例えば血液、血清、血漿、間質液、又は大脳脊髄液試料)においてリン酸化タウを検出することができる。検出を実行するためのアッセイとしては、ELISA、免疫組織化学、ウエスタンブロット、又はインビボイメージングなどの周知の方法が挙げられる。
【0105】
診断抗体又は同様の試薬は、患者の体内に静脈内注射により投与することができ、又は作用物質を宿主に送達する任意の好適な経路により脳内に直接投与することができる。抗体の用量は、治療方法と同じ範囲内であるべきである。典型的には、抗体は標識されるが、いくつかの方法において、リン酸化タウに対して親和性を有する一次抗体は未標識であり、二次標識剤が、一次抗体に結合させるために用いられる。標識の選択は、検出手段に依存する。例えば、蛍光標識は、光学検出に好適である。常磁性標識の使用は、外科的介入のないトモグラフィー検出に好適である。また、放射標識は、PET又はSPECTを用いて検出され得る。
【0106】
診断は、対象由来の試料又は対象における、標識PHF-タウ、タウ凝集体、及び/又は神経原線維変化の数、大きさ、及び/又は強度を、対応するベースライン値と比較することによって行われる。ベースライン値は、健常な個体の集団における平均レベルを表し得る。また、ベースライン値は、同じ対象において決定された以前の値を表す。
【0107】
また、上記の診断方法は、治療前、治療中、又は治療後の対象におけるリン酸化タウの存在を検出することによって治療に対する対象の応答をモニタリングするために用いることもできる。ベースラインに対する値の減少は、治療に対する陽性応答を示す。また、値は、病理学的タウが脳からクリアランスされたとき、生物学的流体において一時的に増加する場合がある。
【0108】
本出願は、更に、上記診断及びモニタリング方法を実施するためのキットに関する。典型的には、このようなキットには、本出願の抗体などの診断試薬と、任意選択的に検出可能な標識とが入っている。診断抗体自体は、直接検出可能であるか又は二次反応(例えば、ストレプトアビジンとの反応)を介して検出可能である、検出可能な標識(例えば、蛍光標識、ビオチン等)を含有してもよい。あるいは、検出可能な標識を含有する第2の試薬を使用してもよく、この場合、第2の試薬は、一次抗体に対する結合特異性を有する。生体試料におけるPHF-タウを測定するのに好適な診断キットでは、キットの抗体は、マイクロタイターディッシュのウェル等の固相に予め結合して供給され得る。
【0109】
本出願全体で引用した全ての引用参考文献(論文参考文献、交付済み特許、公開された特許出願、及び同時係属の特許出願を含む)の内容は、参照により本明細書に明白に組み込まれる。
【0110】
実施形態
本出願は以下の非限定的な実施形態も提供する。
【0111】
実施形態1は、配列番号1のアミノ酸配列を有するか、又は配列番号1のアミノ酸配列内のタウタンパク質のエピトープでタウタンパク質に結合する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、対らせん状細線維(PHF)-タウ、好ましくはヒトPHF-タウに結合する、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0112】
実施形態1aは、配列番号1のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号1のアミノ酸配列内のタウタンパク質のエピトープでタウタンパク質に結合する単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、対らせん状細線維(PHF)-タウ、好ましくはヒトPHF-タウに結合する、単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0113】
実施形態2は、
(a)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化S433又はリン酸化S435のいずれか一方を含むが、リン酸化S433及びリン酸化S435を含まない、
(b)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435のうちの1つ以上を含むが、リン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435の全てを含まない、
(c)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427及びリン酸化S433のうちの1つ以上を含むが、リン酸化S435を含まず、リン酸化T427、リン酸化S433、及びリン酸化S435の全てを含まない、又は
(d)タウタンパク質のエピトープが、タウタンパク質のリン酸化T427を含むが、リン酸化S433又はリン酸化S435を含まない、実施形態1又は1aに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0114】
実施形態3は、
(a)それぞれ配列番号4、5、及び6のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号7、8、及び9のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)それぞれ配列番号14、15、及び16のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(c)それぞれ配列番号24、25、及び26のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号27、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(d)それぞれ配列番号32、33、及び34のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び35のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、又は
(e)それぞれ配列番号40、41、及び42のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び43のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、を含む実施形態1~2のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0115】
実施形態3aは、
(a)それぞれ配列番号4、5、及び6のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号7、8、及び9のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)それぞれ配列番号14、15、及び16のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び19のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(c)それぞれ配列番号24、25、及び26のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号27、18、及び19のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(d)それぞれ配列番号32、33、及び34のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び35のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、又は
(e)それぞれ配列番号40、41、及び42のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び43のポリペプチド配列からなる免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0116】
実施形態4は、配列番号2、12、22、30、若しくは38と少なくとも90%同一のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39と少なくとも90%同一のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、実施形態1~3aのいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0117】
実施形態5は、配列番号2、12、22、30、若しくは38のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0118】
実施形態5aは、配列番号2、12、22、30、若しくは38のいずれか1つのポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号3、13、23、31、若しくは39のいずれか1つのポリペプチド配列からなる軽鎖可変領域を含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0119】
実施形態6は、
(a)配列番号2のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号3のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(b)配列番号12のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号13のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(c)配列番号22のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号23のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(d)配列番号30のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号31のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(e)配列番号38のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号39のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域とを含む、実施形態1~5aのいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0120】
実施形態6aは、
(a)配列番号2のポリペプチド配列からなる重鎖可変領域と、配列番号3のポリペプチド配列からなる軽鎖可変領域、
(b)配列番号12のポリペプチド配列からなる重鎖可変領域と、配列番号13のポリペプチド配列からなる軽鎖可変領域、
(c)配列番号22のポリペプチド配列からなる重鎖可変領域と、配列番号23のポリペプチド配列からなる軽鎖可変領域、
(d)配列番号30のポリペプチド配列からなる重鎖可変領域と、配列番号31のポリペプチド配列からなる軽鎖可変領域、又は
(e)配列番号38のポリペプチド配列からなる重鎖可変領域と、配列番号39のポリペプチド配列からなる軽鎖可変領域とを含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0121】
実施形態7は、
(a)配列番号10のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号11のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(b)配列番号20のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(c)配列番号28のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号29のポリペプチド配列を有する軽鎖、
(d)配列番号36のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号37のポリペプチド配列を有する軽鎖、又は
(e)配列番号44のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号45のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、実施形態1~6aのいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0122】
実施形態7aは、
(a)配列番号10のポリペプチド配列からなる重鎖と、配列番号11のポリペプチド配列からなる軽鎖、
(b)配列番号20のポリペプチド配列からなる重鎖と、配列番号21のポリペプチド配列からなる軽鎖、
(c)配列番号28のポリペプチド配列からなる重鎖と、配列番号29のポリペプチド配列からなる軽鎖、
(d)配列番号36のポリペプチド配列からなる重鎖と、配列番号37のポリペプチド配列からなる軽鎖、又は
(e)配列番号44のポリペプチド配列からなる重鎖と、配列番号45のポリペプチド配列からなる軽鎖とを含む、実施形態1~7のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0123】
実施形態8は、
(a)それぞれ配列番号4、5、及び6のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号7、8、及び9のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)配列番号2のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号3のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(c)配列番号10のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号11のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、実施形態1~7aのいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0124】
実施形態9は、
(a)それぞれ配列番号14、15、及び16のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン重鎖HCDR1、HCDR2、及びHCDR3、並びに、それぞれ配列番号17、18、及び19のポリペプチド配列を有する免疫グロブリン軽鎖LCDR1、LCDR2、及びLCDR3、
(b)配列番号12のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域と、配列番号13のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、又は
(c)配列番号20のポリペプチド配列を有する重鎖と、配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖とを含む、実施形態1~7aのいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0125】
実施形態10は、実施形態1~9のいずれか1つに記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする、単離核酸である。
【0126】
実施形態11は、実施形態10に記載の単離核酸を含む、ベクターである。
【0127】
実施形態12は、実施形態10に記載の単離核酸を含む、宿主細胞である。
【0128】
実施形態13は、実施形態1~9のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片と、医薬的に許容される担体とを含む、医薬組成物である。
【0129】
実施形態14は、タウシーディングのブロックを必要とする対象における、タウシーディングをブロックする方法であって、実施形態13に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法である。
【0130】
実施形態15は、タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症を治療する方法であって、実施形態13に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法である。
【0131】
実施形態16は、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡大の低減を必要とする対象における、病理学的タウ凝集又はタウ異常症の拡大を低減する方法であって、実施形態13に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、方法である。
【0132】
実施形態17は、タウ異常症が、家族性アルツハイマー病、散発性アルツハイマー病、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、線維変化優位型認知症、石灰化によるびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症複合、ダウン症候群、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン・シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化による非グアマニアン運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、及び拳闘家認知症(ボクサー病)からなる群から選択される、実施形態15又は16に記載の方法である。
【0133】
実施形態17aは、タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症の治療のための追加の作用物質を対象に投与することを更に含む、実施形態15~17のいずれか1つの記載の方法である。
【0134】
実施形態18は、実施形態1~9のいずれか1つに記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を生成する方法であって、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片をコードする核酸を含む細胞を、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片を生成する条件下で培養することと、細胞又は細胞培養液からモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を回収することとを含む、方法である。
【0135】
実施形態19は、対象由来の生体試料におけるPHF-タウの存在を検出する方法であって、生体試料を実施形態1~9のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片と接触させることと、対象由来の試料におけるPHF-タウへのモノクローナル抗体又はその抗原結合断片の結合を検出することとを含む、方法である。
【0136】
実施形態20は、生体試料が、血液、血清、血漿、間質液、又は大脳脊髄液試料である、実施形態19に記載の方法である。
【0137】
実施形態21は、実施形態1~9のいずれか1つに記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む、医薬組成物を製造する方法であって、モノクローナル抗体又はその抗原結合断片を医薬的に許容される担体と組み合わせて、医薬組成物を得ることを含む、方法である。
【0138】
実施形態22は、タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症の治療に使用するための、実施形態1~9のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片である。
【0139】
実施形態23は、タウ異常症の治療を必要とする対象における、家族性アルツハイマー病、散発性アルツハイマー病、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維変化優位型認知症、石灰化によるびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症複合、ダウン症候群、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン・シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化による非グアマニアン運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、又は拳闘家認知症(ボクサー病)などの、タウ異常症の治療に使用するための、実施形態1~9のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体若しくはその抗原結合断片、又は実施形態13に記載の医薬組成物である。
【0140】
実施形態24は、タウ異常症の治療を必要とする対象における、タウ異常症の治療における医薬品を製造するための、実施形態1~9のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の使用である。
【0141】
実施形態25は、タウ異常症の治療を必要とする対象における、家族性アルツハイマー病、散発性アルツハイマー病、染色体17に関連したパーキンソン症候群による前頭側頭型認知症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ピック病、進行性皮質下神経膠症、神経原線維変化優位型認知症、石灰化によるびまん性神経原線維変化病、嗜銀顆粒性認知症、筋萎縮性側索硬化症・パーキンソン症候群認知症複合、ダウン症候群、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、ハラーフォルデン・シュパッツ病、封入体筋炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、多系統萎縮症、C型ニーマン・ピック病、プリオンタンパク質大脳アミロイド血管障害、亜急性硬化性全脳炎、筋強直性ジストロフィー、神経原線維変化による非グアマニアン運動ニューロン疾患、脳炎後パーキンソン症候群、慢性外傷性脳症、又は拳闘家認知症(ボクサー病)などの、タウ異常症の治療のための薬剤を製造するための、実施形態1~9のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の使用である。
【0142】
実施形態26は、対象由来の生体試料におけるPHF-タウの存在を検出することによって、対象におけるタウ異常症を診断する方法であって、生体試料を、実施形態1~9のいずれか1つに記載の単離モノクローナル抗体又はその抗原結合断片と接触させることと、対象由来の試料におけるPHF-タウへの抗体又は抗原結合断片の結合を検出することとを含む、方法である。
【実施例
【0143】
以下の本出願の実施例は、本発明の本質を更に説明するためのものである。以下の実施例は本出願を限定するものではなく、また本出願の範囲は添付の特許請求の範囲によって定められることが理解されるべきである。
【0144】
実施例1:抗体の生成
抗PHF-タウ(PT/53、PT/66、PT/69、PT/81)及び抗インビトロ凝集タウ抗体(hTau/60)を、タウノックアウト(KO)マウスにおいて標準的なハイブリドーマ技術を使用して作製した(Kohler and Milstein Nature256:495-7,1975)。得られたハイブリドーマを96ウェルプレートに播種し、10日後に、下記のとおり25ng/ウェルでコーティングされたPHF-タウにおいて直接ELISAでスクリーニングした。陽性細胞を、大腸菌(E.Coli)BL21細胞で発現させた対照タウ(配列番号51)でコーティングされたウェルあたり10ngで交差反応性について試験し、熱処理及び硫酸アンモニウム沈殿によって精製した。PT/53、PT/66、PT/69、PT/81、及びhTau60が、PHFタウ及び対照タウ(配列番号51)の両方に結合することが見出された。PT/66、PT/69、及びhTau/60を、V領域クローニング及びヒト化に優先した。
【0145】
陽性細胞を直ちにサブクローニングし、陽性クローンを液体窒素中で凍結させた。10%ウシ胎仔血清(Hyclone,Europe)、Hybridoma Fusion Cloning Supplement(2%)(Roche,Brussels,Belgium)、2%HT(Sigma,USA)、1mMのピルビン酸ナトリウム、2mMのL-グルタミン及びペニシリン(100U/mL)、並びにストレプトマイシン(50mg/mL)を添加したダルベッコ変法イーグル培地において、全てのハイブリドーマを増殖させた。
【0146】
抗体可変領域を、選択したハイブリドーマ細胞からマウスIgG1/IgG2/κバックグラウンドにクローニングし、発現させ、常法を用いて精製した。簡潔に述べると、ハイブリドーマ細胞をRLTバッファ(Qiagenカタログ番号79216)で溶解させ、-70℃で凍結した。溶解物を37℃で解凍し、RNeasy96キット(Qiagenカタログ番号74182)を使用してRNAを単離した。
【0147】
RNAのアリコートを使用して、マウスIgG重鎖、マウスカッパ軽鎖、及びマウスラムダ軽鎖の定常領域にアニーリングするように設計されたプライマーを使用して、遺伝子特異的リバースプライマーミックスを使用してcDNAを合成した。
【0148】
IgG重鎖可変領域、カッパ軽鎖可変領域、又はラムダ軽鎖可変領域のいずれかを増幅するように設計されたマウスプライマーセットを用いたPCR反応において、cDNAのアリコートを使用した。フォワードプライマーは、フレームワーク1にアニーリングするように設計された複数のプライマーからなっており、リバースプライマーは、定常領域にアニーリングするように設計されていた。PCR産物のアリコートを2%アガロースゲルで泳動したところ、重及びカッパPCR産物は、正確なサイズの可視バンドを示した。
【0149】
それぞれの定常領域にアニーリングするように設計された重鎖又はカッパ軽鎖リバースプライマーを使用して、重鎖及びカッパ軽鎖のPCR産物の配列を決定した(サンガー法)。配列を分析し、アラインメントして、最も一致するマウス生殖系列を同定した。重鎖及びカッパ鎖フレームワーク1配列の最初の10個のアミノ酸を、一致する生殖系列配列を用いて置換した。IgG重鎖及びカッパ可変領域のアミノ酸配列を、コドン最適化及び合成した。コドン最適化されたIgG重鎖及びカッパ軽鎖可変領域を合成し、断片をマウスIgG2aアイソタイプ重鎖及びカッパ軽鎖アイソタイプ発現ベクターにクローニングした。
【0150】
抗体の可変領域を、選択されたハイブリドーマ細胞からクローニングし、標準的な方法を用いて配列を決定し、mAb及びFab用の発現ベクターにサブクローニングした。MabをマウスIgG2a/κバックグラウンドで生成し、発現させ、親和性クロマトグラフィー(プロテインA)によって精製した。ヒトIgG1/κ定常ドメインに融合したマウス可変ドメイン及び重鎖のC末端におけるHisタグを有するキメラバージョンとして、Fabを生成した。FabをHEK293F細胞で一過的に発現させ、親和性クロマトグラフィー(HisTrap)によって精製した。
【0151】
実施例2:抗体の特性決定
ELISA及びウエスタンブロッティング
組換えWT(2N4R)タウへの結合をELISAによって分析した。完全長タウタンパク質(1ng/mL又は10ng/mL)をプレートに直接コーティングし、異なる濃度の組換え的に又はハイブリドーマで生成されたpT/66、pT/69、又はhTau/60抗体のいずれかと共にインキュベートした(図1)。予想通り、タウのより低いコーティング濃度は、より低い最大値をもたらした。組換え的に及びハイブリドーマで生成された抗体の結合プロファイル間には、実質的な差は観察されなかった。
【0152】
抗体の更なるプロファイリングは、異なる種(マウス、イヌ、サル、及びヒト)からの脳試料におけるタウへの結合を評価することによって実施した。ヒトタウの場合、可溶性タウ(非ADヒト脳からの熱安定抽出物)と、凝集PHFタウ(ヒトAD脳からのサルコシル不溶性調製物)との間で区別を行った。非タウ関連タンパク質に対するより低い親和性相互作用を検出することができるように、抗体を1μg/mLで試験し、比較的多量の脳ホモジネート(総タンパク質20μg)をゲルにロードした。これらのプロファイルの例を図2に示す。
【0153】
表面プラズモン共鳴(SPR)による結合評価
PHF-タウ及び組換えタウとの相互作用を、PT66、PT69、hTau60抗タウ抗体及びそれらの対応するFab断片について、ProteOn(Bio-Rad,Hercules,CA)機器でのSPRによって評価した。エピトープの複数のコピーを有するPHF-タウの多重結合/凝集性質、及び、IgGの二価の性質のために、mAb親和性が、本研究フォーマットの結合活性により影響を受けた。Fabの親和性は、抗体の固有親和性についての情報をもたらす。PHFタウに結合するmAb及びそれらのFab断片の代表的なセンサグラムを図3に示し、概要を以下の表1に示す。HT7を参照として使用した。
【0154】
【表1】
報告された親和性は、IgGの二価の性質及びPHF-タウの多量体/凝集した性質による見かけの親和性として扱われるべきである
n.a=利用不可
Rec.=組換え
【0155】
IHCを使用した抗体プロファイリング
AD及び非AD脳の凍結切片に対して免疫組織化学分析を実施して、原位置での生理学的及び病態生理学的タウとの反応性を確認した。PT66、PT69/PT87、及びhTau60は、可溶性タウ(非AD及びAD脳)及び凝集タウ(AD脳)の両方への強い結合を示した(図4)。更なるIHC分析を、WT、タウノックアウト(KO)、及びP301S(5ヶ月)マウス脳由来のホルマリン固定パラフィン包埋組織に対して行った。タウKOマウスからの脳切片におけるシグナルの欠如により、抗体の特異性が確認された。非凝集タウがWT及びP301Sマウスからの切片において検出されたが、P301Sマウスの脳幹における凝集タウもまた、PT/66、PT/69、及びhTau/60によって染色された(図5)。
【0156】
実施例3-細胞アッセイにおける機能試験
PT/66、PT/69、及びhTau/60を、凝集によって近接した場合にシグナルを生成する2つの発色団タグ化K18タウ断片を発現するHEK細胞を利用する免疫枯渇アッセイにおいて、タウシーディングの阻害について試験した。細胞を、異なる供給源に由来する凝集し、リン酸化された完全サイズのタウシードで処理する場合、蛍光活性化細胞選別(fluorescence-activated cell sorting、FACS)を使用して蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer、FRET)陽性細胞をカウントすることによって定量化され得るK18凝集体を誘発する(Holmes et al.,2014,PNAS.111(41):E4376-85)。免疫枯渇試料の生化学的分析を、hTau60/hTau60自己サンドイッチMSDアッセイによって行った。
【0157】
最大阻害割合(%)の値が、シード上のエピトープの密度、又はPT/66、PT/69、及びhTau/60エピトープを含有するシードの数に関係するかどうかを調査するために、免疫枯渇アッセイを実施した。ADタウシードを試験抗体によりインキュベートし、Gタンパク質のビーズを用いて溶液から除去した。枯渇した上清を、発色団-K18含有HEK細胞内での残留シーディング能力について試験し、上述したようにFACSによって分析した(Holmes et al.,PNAS.111(41):E4376-85,2014)。
【0158】
免疫枯渇のためのタウシードを含有するホモジネートは、22~23週齢のP301Sトランスジェニック動物の脊髄、又は冷凍保存したヒトAD脳組織から生成した。ヒトAD脳免疫枯渇アッセイにおいて、トランスフェクション試薬Lipofectamine2000の存在下において、枯渇後に上清を試験し、許容されるアッセイウィンドウを得た。タウシーディング(及びhTau60/hTau60凝集シグナル)は、C末端抗体を用いて完全に減少させることができたが、ヒトAD脳由来の全ホモジネート及びP301Sトランスジェニックマウス由来の脊髄ホモジネートにおいて、N末端抗体PT93を用いては減少させることができなかった(Vandermeeren et al.,J Alzheimers Dis,2018;65(1):265-281に記載されており、その関連する内容は参照により本明細書に組み込まれる)(>95%阻害;図6A~B及び表2は、陰性対照と比較した阻害%を示す(少なくとも2回の独立した実験の平均))。
【0159】
【表2】
【0160】
別の実験において、連続免疫枯渇アッセイにおいて、N末端抗体PT93による最初の免疫枯渇後、C末端抗体hTau60は、全ての残存するPHF凝集物を更に枯渇させたが、PT93又はPT51(HT7様)では、枯渇は観察されなかったか、又はいくらか更なる枯渇が観察されたことが示された(Vandermeeren et al.,J Alzheimers Dis,2018;65(1):265-281に記載されており、その関連する内容は参照により本明細書にそれぞれ組み込まれる)(図6C)。
【0161】
タウ抗体治療の作用機序は依然として議論の主題であり、複数の機序が提示されている。ミクログリア細胞による細胞外シードの抗体媒介クリアランスは、最近、1つの優勢な作用機序として示唆されている(Funk et al.,J Biol Chem.290(35):21652:62,2015、及びMcEwan et al.,2017,PNAS 114:574-9)。本文脈では、ヒトの脳に由来するシーディング材料の免疫枯渇が、最も並進的な細胞の結果であると考えることができ、この種の細胞アッセイにおけるC末端抗体PT66、PT68/PT87、及びhTau60の高い有効性は、これらの抗体のHFAバージョンが効果的な治療薬であることを示唆している。
【0162】
実施例4-ePHF注射モデルにおけるPT/66、PT/69、及びhTau/60のインビボ効力
導入
インビボでのタウ抗体の効能を評価するために、脳でタウの病状を示すマウスを、必須のモデルシステムとする(Julien et al.,Methods Mol Biol.849:473-91,2012)。これらのモデルのいくつかが記載されており、それらは一般に以下の3つの群に分けることができる:1)WT又は突然変異体(例えば、P301L又はP301S)タウを過剰発現するタウトランスジェニックマウスであって、突然変異体が、株に応じて5~9ヶ月後に重度の病態を示すもの(Allen et al.,J Neurosci.22(21):9340-51,2002;Scattoni et al.,Behav Brain Res.208(1):250-7,2010;Terwel et al.,J Biol Chem.280(5):3963-73,2005;Yoshiyama et al.,Neuron.53(3):337-51,2007)突然変異タウ(例えば、P301L)の時空間的に調節された発現を有するマウス(Liu et al.,Brain Imaging Behav.6(4):610-20,2012)又は凝集促進断片(例えば、K18)(Mocanu et al.,J Neurosci.28(3):[737-48-2008]]、及び3)プラーク及びタウ病理の両方を示す突然変異タウ及びAPPの両方の発現を有するマウス(Oddo et al.,J Neurochem.102(4):1053-63,2007)。
【0163】
変異体タウを発現するマウスが強い病状を発現する一方で、病状の開始は動物によって変化する可能性があり、検討において変動性を引き起こす。また、細胞の自律神経によるタウ凝集、及び全体のタウ凝集シグナルへの拡散の相対的寄与は、はっきりとしていない。したがって、タウシーディング及び拡散を効果的に研究するために使用することができるモデル(例えば、de Calignon et al.,2012,Neuron.73(4):685-97,2012;Liu et al.,同上)は価値が高い。ALZ17マウス(通常のヒトタウを発現する株)に、異なるタウ異常症に由来する脳のホモジェネートを注射することにより、ヒトの脳におけるタウ異常症に類似するモルホロジーを有して、タウが含まれる形成を誘発することの発見により、このようなモデルの並進的価値は更に強化される。例えば、マウスに、嗜銀顆粒性認知症試料の材料を注射することにより、疾病そのものに回転楕円体又はコンマ様構造の特徴を有する沈着がもたらされ、AD様のタウ病状が、AD材料を注射したマウスで観察された(Clavaguera et al.,2013,PNAS 110(23):9535-40)。
【0164】
よって、トランスジェニックP301Lマウス注射モデルが確立されており、合成K18原線維(Li and Lee,Biochemistry.45(51):15692-701,2006)又はヒトAD脳に由来するPFH-タウシードなどのタウの凝集促進断片を、細胞自律的凝集が開始されていない年齢で、P301Lトランスジェニックマウスモデルの皮質又は海馬領域に注射する。注射モデルは、タウ拡散の決定的な細胞外播種構成成分を再現することを目的としている。注射されるK18又はPHF-タウシードは、注射部位において、また接続した反対側の領域においてより軽度に、タウ異常症を誘発する(Peeraer et al.,Neurobiol Dis.73:83-95,2015)。このモデルにより、AD脳由来のPHF-タウシード又はK18原線維と同時注射したときに、本出願の抗タウ抗体などの抗体の抗シーディング能の試験が可能となる(Iba et al.,2015,J Neurosci.33(3):1024-37,2013;Iba et al.,Acta Neuropathol.130(3):349-62)。
【0165】
死後のAD脳のサルコシル不溶性画分の皮質注射により、タウ凝集の緩徐に進行する増加が誘発される。注射された半球では、注射の1ヶ月後に最初のシグナルが測定され、注射の更に3ヶ月後まで進行する。注射の5ヶ月後に、いくつかの動物では、P301L変異により引き起こされる濃縮の形成が開始される(Terwel et al.,2005,同上)。AT8の染色レベルは、1ヶ月と3ヶ月との間で増加するため(米国特許第10,766,953号)、抗体の有効性実験を、同時注射の2ヶ月後に分析する。更に、死後のAD脳のサルコシル不溶性画分の海馬注射により、注射された半球由来のサルコシル不溶性画分をMesoScale Discoveries(MSD)分析することによって測定される、用量依存的に進行するタウ凝集の増加が誘発される。
【0166】
動物治療及び頭蓋内注射
注射の検討のために、P301L変異を有する最長のヒトタウアイソフォーム(タウ-4R/2N-P301L)(Terwel et al.,2005,同上)を発現するトランスジェニックタウ-P301Lマウスを、月齢3ヶ月にて手術に使用した。現地の倫理委員会が認可した手順を遵守して、全ての実験を実施した。定位脳手術については、モノクローナル抗体の存在下又は不存在下において、死後AD組織(富化した対らせん状細線維、ePHF)由来のサルコシル不溶性prep3μL(速度:0.25μL/分)を、マウスの海馬(AP-2.0、ML+2.0(ブレグマから)、DV1.8mm(硬膜から))に片側(右半球)注射した。マウスを切開するために屠殺した(頭蓋内注射の2ヶ月後)。
【0167】
抽出手順
注射した半球のマウス組織の重量を測定し、6体積の均質化緩衝液(10mM Tris HCl(pH7.6)、0.8M NaCl、10%w/vショ糖、1mM EGTA、PhosStopホスファターゼ阻害剤カクテル、完全なEDTAを含まないミニプロテアーゼ阻害剤))中で均質化した。28,000×gで20分間、ホモジネートを遠心分離し、得られた上清(全ホモジネート)からアリコートを取り出した後、1%のN-ラウロイルサルコシンを添加した。90分後(900rpm、37℃)、溶液を再び、184,000×gで1時間遠心分離にかけた。上清はサルコシル可溶性画分として保持したが、サルコシル不溶性材料を含有するペレットは、均質化緩衝液中に懸濁させた。
【0168】
生化学的分析
コーティング抗体(AT8)をPBS(1μg/ml)で希釈し、MSDプレート(30μL/ウェル)(L15XA、Mesoscale Discoveries)に分注し、これを4℃で一晩インキュベートした。5×200μLのPBS/0.5%のTween-20で洗浄した後、プレートをPBS中の0.1%のカゼインでブロックし、5×200μLのPBS/0.5%のTween-20で再び洗浄した。サンプル及び標準(共に、PBS中の0.1%のカゼインに希釈)を添加した後、プレートを4℃で一晩インキュベーションした。その後、プレートを5×200μLのPBS/0.5%Tween-20で洗浄し、PBS中の0.1%カゼイン中SULFO-TAG(商標)コンジュゲート検出抗体(AT8)を添加し、600rpmで振盪しながら室温で2時間インキュベーションした。最後の洗浄(5×200μLのPBS/0.5%のTween-20)の後、150μLの2×緩衝液Tを添加し、プレートをMSDイメージャで読み取った。死後のAD脳(ePHF)のサルコシル不溶性prepの16個の希釈物からなる検量線に対してそのままのシグナルを正規化し、任意の単位(AU)ePHFとして表した。統計分析(Bonferroni事後テストと合わせたANOVA)を、GraphPadプリズムソフトウェアで行った。
【0169】
結果
この同時注射モデルでは、内部抗タウ抗体のいくつかを評価した(例えば、米国特許第10,766,953号及びVandermeeren et al.,J.Alzheimers Dis.65(1):265-81(2018)を参照)。海馬同時注入モデル下でのこれらの抗体(IgG2aとして組換え発現された)の活性を、以下の表3に従って比較した。タウ抗体の同時注射は、P301LマウスにおけるePHF誘導性タウ凝集を減弱した(図7A)。AT120は、Vandermeerenら、J Alzheimers Dis,2018;65(1):265-281(その関連内容は参照により本明細書に組み込まれる)に記載されており、タウのプロリンリッチドメイン(PRD)に結合する。PT/76は、Vandermeerenら、J Alzheimers Dis,2018;65(1):265-281(その関連する内容は参照により本明細書に組み込まれる)記載されており、タウにおける微小管nindingドメイン(MTBD)の近くに結合する。
【0170】
【表3】
【0171】
結果を表4にまとめる。
【0172】
【表4】
多重検定のためにボンフェローニ補正を使用する一元配置ANOVA。
【0173】
別の実験において、海馬同時注射マウスモデルにおけるC末端抗体PT66及びPT81の活性を、PHFタウのN末端部分及び中間部分に結合する内部Janssen抗タウ抗体の活性と比較した。抗体をePHFタウ(0.6ピコモル)と共に皮質に同時注射した。C末端抗体の同時注射は、P301LマウスにおけるePHF誘導性タウ凝集を、他の抗体よりも有意に減衰させた(図7B)。
【0174】
追跡研究において、PT66、hTau60、及びPT3(米国特許第10,633,435号を参照されたく、その内容は参照により本明細書に組み込まれる)の有効性を、抗体+PHFの頭蓋内同時注射後、各抗体の末梢投与(20mg/kg;2回/週)時に比較した。末梢投与は、PHFの頭蓋内注射の2週間前に開始し、実験の生活相(life phase)の間継続した。第1の研究と一致して、PT66、hTau60、及びPT3の各々の同時投与は、ePHF誘導性凝集シグナルを減少させ、ePHFによって誘導されるシーディングを阻害した(図7C)。
【0175】
実施例5-C末端抗体のエピトープマッピング
材料及び方法。
アレイペプチドの合成
標的分子のエピトープを再構築するために、タウ441配列を網羅するペプチド(18アミノ酸が重複している20mer)のライブラリを合成した。独自の親水性ポリマー製剤でグラフト化し、続いて、N-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)と共にジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を用いてt-ブチルオキシカルボニル-ヘキサメチレンジアミン(BocHMDA)と反応させ、その後、トリフルオロ酢酸(TFA)を用いてBoc基を切断することにより、アミノ官能化ポリプロピレン担体を得た。標準的なFmocペプチド合成を使用して、カスタム変性JANUS液体ハンドリングステーション(Perkin Elmer)によってアミノ官能化固体担体上でペプチドを合成した。構造模倣体の合成は、Pepscanの専売のChemically Linked Peptides on Scaffolds(CLIPS)技術を用いて行った。CLIPS技術により、ペプチドを単ループ、二重ループ、三重ループ、シート状折畳み、らせん状折畳み、及びこれらの組み合わせにペプチドを構造化することが可能になる。CLIPSテンプレートは、システイン残基に結合する。ペプチド中の複数のシステインの側鎖が、1つ又は2つのCLIPSテンプレートに結合する。例えば、P2 CLIPS(2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン)の0.5mM溶液を重炭酸アンモニウム(20mM、pH7.8)/アセトニトリル(1:3(v/v))に溶解させる。この溶液をペプチドアレイに添加する。CLIPSテンプレートは、ペプチドアレイの固相結合ペプチド(3μLのウェルを有する455ウェルプレート)中に存在するとき、2つのシステインの側鎖に結合する。ペプチドアレイを、溶液中で完全に被覆しながら、溶液中で30~60分間穏やかに振盪する。最後に、ペプチドアレイを過剰のHOで広範に洗浄し、70℃で30分間PBS(pH7.2)中1%SDS/0.1%β-メルカプトエタノールを含有する破壊バッファ中で超音波処理し、続いて、更に45分間HO中で超音波処理する。T3 CLIPS担持ペプチドを同様の方法で作製したが、ここでは3つのシステインを用いて作製した。
【0176】
Elisaスクリーニング
各合成ペプチドに対する抗体の結合(IgG2aとして組換え的に発現)を、ペプスキャン系ELISAにおいて試験した。ペプチドアレイを、一次抗体溶液と共にインキュベートした(4℃で一晩)。洗浄後、ペプチドアレイを、適切な抗体ペルオキシダーゼコンジュゲート(SBA;表4)の1/1000希釈物と共に25℃で1時間インキュベートした。洗浄後、ペルオキシダーゼ基質2,2’-アジノ-ジ-3-エチルベンズチアゾリンスルホネート(ABTS)及び20μL/mLの3%Hを添加した。1時間後、発色を測定した。発色を電荷結合素子(CCD)カメラ及び画像処理システムを用いて定量した。
【0177】
結果
データは、5つの関連抗体、PT/66、PT/53、hTau60、PT/81、及びPT/69の、1から開始して残基441までの一連のペプチドへの結合を示す(図8)。簡便な解釈のために、最初の2つのN末端ペプチド及び411から441までの一連のペプチドのみを示す。これらの抗体については、他のタウペプチド(すなわち、タウ上の他の位置)に対する結合は観察されなかった。データを以下の表5に示す。
【0178】
【表5】
【0179】
実施例6-エピトープ処理
理論に束縛されることを望まないが、PT66などのC末端抗体による改善された有効性、及びN末端抗体によるより低い有効性は、PHF-tauのN末端におけるエピトープの広範なプロセシングによって説明することができると考えられる。これは、ウエスタンブロッティングスクリーンを用いたヒトAD脳由来PHF試料の分析によって得られたウエスタンブロットプロファイルに基づく(図9)。この実験では、大量の試料を1ウェルゲルにロードした。ブロッティング後、個々のストリップを、異なるエピトープに結合する抗タウmAbのパネルと共にインキュベートした。レーン10、21、及び24のストリップをC末端タウmAbとインキュベートしたところ、低分子量バンドの広範な染色が示された。比較すると、レーン13、18及び20のストリップをN末端タウmAbと共にインキュベートしたが、これは低分子量バンドの広範な染色を示さなかった。更なる合理化は、Vandermeeren et al.,2018,J Alzheimers Dis,2018;65(1):265-281に記載されている。
【0180】
以上、本発明の実施形態を詳細に、かつその具体的な実施形態を参照して説明したが、当業者には、発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明に様々な変更及び改変を行い得ることは明らかであろう。
【0181】
【表6-1】
【0182】
【表6-2】
【0183】
【表6-3】
【0184】
【表6-4】
【0185】
参考文献
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図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8
図9
【配列表】
2024512589000001.app
【国際調査報告】