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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】肢位置決めシステム
(51)【国際特許分類】
   A61G 13/12 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
A61G13/12 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558770
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2022057992
(87)【国際公開番号】W WO2022200603
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】21305375.4
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ベルクロ
(71)【出願人】
【識別番号】523215978
【氏名又は名称】ガニメッド ロボティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ギルアード,マルゴー
(72)【発明者】
【氏名】クロース,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ブルーンヴェン,ブレイズ
(72)【発明者】
【氏名】カーヘン,ソフィー
【テーマコード(参考)】
4C341
【Fターム(参考)】
4C341MM05
4C341MN16
4C341MS02
4C341MS24
(57)【要約】
本発明は、整形外科手術中に患者の肢(L)を手術台(T)に対して所望の位置に位置決めし、かつ固定化された状態に維持するための肢位置決めシステム(10)であって、対応する長手軸に沿って延在する長手方向部分(21)を有する回動部材(20)と、患者の肢を支持するように構成された支持部材(30)であって、前記長手方向部分(21)に接続され、かつ前記長手方向部分に沿って移動可能な支持用引掛部(31)を備えた支持部材と、開放構成およびロック構成を有する回動部材(20)に接続されたクラッチ(40)であって、開放構成ではクラッチは長手軸(A)に平行な長手軸とは異なる回転軸(A)の周りでの回動部材の回動を可能にし、かつロック構成ではクラッチ(40)は所望の位置において回動部材(20)の固定化を可能にするクラッチ(40)と、本システムを手術台(T)に対して適所に維持するように構成された少なくとも1つの固定部材(50)と備えるシステムに関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
整形外科手術中に、患者の肢(L)を手術台(T)に対して所望の位置に位置決めし、かつ固定化された状態に維持するための肢位置決めシステム(10)であって、前記システムは、
・対応する長手軸に沿って延在する長手方向部分(21)を有する回動部材(20)であって、前記システムが通常の使用構成にある場合に前記長手軸が前記手術台(T)に平行であるように構成されている回動部材(20)と、
・前記患者の肢を支持するように構成された支持部材(30)であって、前記長手方向部分(21)に接続され、かつ前記長手方向部分に沿って移動可能な支持用引掛部(31)を備えた支持部材と、
・開放構成およびロック構成を有する、前記回動部材(20)に接続されたクラッチ(40)であって、前記開放構成では前記クラッチは、前記長手軸(A)に平行な前記長手軸とは異なる回転軸(A)の周りでの前記回動部材の回動を可能にし、かつ前記ロック構成では前記クラッチ(40)は、前記所望の位置での前記回動部材(20)の固定化を可能にするクラッチ(40)と、
・前記システムを前記手術台(T)に対して適所に維持するように構成された少なくとも1つの固定部材(50)と、
備える、システム。
【請求項2】
前記回動部材(20)は、前記長手軸(A)と前記回転軸(A)との間の距離を変えるために前記クラッチ(40)に対して移動可能である、請求項1に記載の肢位置決めシステム。
【請求項3】
前記固定部材(50)は、前記システムを前記手術台(T)、好ましくは前記手術台の手すり(R)に締め付けるように構成されている、請求項1または2に記載の肢位置決めシステム。
【請求項4】
前記固定部材(50)は、前記回転軸(A)に直交する平面において前記回動部材(20)、前記支持部材(30)および前記クラッチ(40)の位置を修正するように構成された設定モジュール(51、52)を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の肢位置決めシステム。
【請求項5】
重量補償力を前記回動部材(20)に与えるように構成された重量補償装置(43)をさらに備え、前記力は前記回動部材(20)に印加される肢の重量に対向している、請求項1~4のいずれか1項に記載の肢位置決めシステム。
【請求項6】
前記重量補償装置(43)は受動装置(好ましくはバネ)または能動装置(アクチュエータなど)である、請求項5に記載の肢位置決めシステム。
【請求項7】
前記回動部材(20)に固定された第1の部分(71)を有し、かつ第2の部分(72)の一端に、前記患者の少なくとも1つの骨に強固に固定されるように構成された把持部材(73)を備えた骨把持用支持体(70)をさらに備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の肢位置決めシステム。
【請求項8】
前記支持部材(30)は前記肢を取り囲むように構成された環状部(32)を備え、かつ前記環状部(32)は前記肢が前記環状部(32)を用いて前記回動部材(20)の長手方向部分(21)に吊り下げられるように前記回動部材(20)に対して位置決めされている、請求項1~7のいずれか1項に記載の肢位置決めシステム。
【請求項9】
前記環状部(32)が前記長手方向部分(21)から取り外し可能であるように、前記支持用引掛部(31)は前記環状部(32)に取り外し可能に接続されている、請求項8に記載の肢位置決めシステム。
【請求項10】
前記クラッチは電磁電源オフブレーキである、請求項1~9のいずれか1項に記載の肢位置決めシステム。
【請求項11】
前記クラッチ(40)を前記開放構成とロック構成との間で切り換えるための切り換え部材(60a,60b)をさらに備え、前記切り換え部材は前記システムが通常の使用構成にある場合に前記回転軸(A)の下であって床から所定の距離に位置している、請求項1~10のいずれか1項に記載の肢位置決めシステム。
【請求項12】
前記切り換え部材は、前記固定部材(50)の両側にそれぞれ位置している2つのスイッチ(60a、60b)を備える、請求項11に記載の肢位置決めシステム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の肢位置決めシステム(10)と、外科用ロボット装置(80)とを備える組立体であって、前記肢位置決めシステムおよびロボット装置は互いに接続されている、組立体。
【請求項14】
前記外科用ロボット装置(80)は、前記肢位置決めシステム(10)の回動部材の回転軸(A)に一致して回転軸の周りで回動するように構成された少なくとも1つの可動部材(81)を備える、請求項13に記載の組立体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外科用支持システムの分野に関する。特に本発明は、整形外科手術中に患者の肢を手術台に対して所望の位置に位置決めし、かつ固定化された状態に維持するためのシステムの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数十年の間に外科手術は、外科医をその業務において助けることを目的とした技術的装置の使用により改善されてきた。具体的には整形外科手術における主要な問題の1つは、どのように手術する肢を位置決めし、かつ固定化するかである。
【0003】
外科手術、例えば膝関節形成術(すなわち、関節炎によって損傷した膝を表面再建するための外科手術)などの特に膝の手術のための位置決めおよび固定化の問題を解決するために、長年にわたって異なる解決法が開発されてきた。この種の外科手術では、外科医は伸展および屈曲(すなわち内側伸展、内側屈曲、外側伸展および外側屈曲ギャップならびに靱帯張力)において患者の脚の靱帯バランス評価を行うことが重要であり、それは、その生物力学的機能に対して患者の膝のバランスを十分に保つのを助ける。膝のバランスが保たれている患者は運動および固有受容感覚の範囲が増加し、かつ痛みが減少する可能性が高い。靱帯バランス調整を行うためには、外科医が脚を自由に動かせるようにする必要がある。従って、外科手術中に脚の固定化を容易に解除する必要がある。外科医は外科手術中に、脚をふくらはぎが大腿に接触した状態にする過屈曲位置に置くこと望む場合もある。
【0004】
1つの提案されている解決法は、足の下に位置づけられる脚安定装置の使用である。そのような脚安定装置は足の裏が支持要素の上にある場合に、大腿およびふくらはぎが180度未満の角度を形成する所望の屈曲位置に脚が維持されるように手術台に位置づけられる前記支持要素(すなわちクッション)からなる。脚が手術台の外側で落ちるのを防止するために、第2の支持要素が脚の片側にさらに配置されていてもよい。この解決法は単純であり(静的で完全に手動であり)、使用が容易であり、かつ小型である。外科医は脚を先に設定した屈曲位置から容易に解放することができる。次いで、伸展時の患者の脚の靱帯バランス評価を行うことが容易となる。しかし脚はしっかりと取り付けられておらず、専念される屈曲位置に維持されない(すなわち固定化されない)。この解決法は脚を完全に引っ張らず、得られる屈曲位置は大まかであり、位置への保持は甘い。
【0005】
他の解決法では、患者の足を支持するように構成された専用の足装具およびその上に前記足装具が固定される固定台を備え、前記固定台は手術台の上に固定されるシステムが使用される。これらのシステムのいくつかは連続的な線形設定を可能し、他のシステムはノッチまたは穴による別々の調整を有する。その固定化は、上に記載されているクッションを有する脚安定装置よりも信頼でき、かつ強固である。しかしこれらのシステムは、(1)それらが手術台の適合を必要とする(すなわち、その台のいくつかの部分は除去する必要がある)、(2)ふくらはぎが足装具によって取り囲まれており、従ってそれを大腿に完全に押し当てることができないため、それらは完全な脚の過屈曲を可能にしない、(3)外科医が靱帯バランスを評価したいと望む場合に脚をそのようなシステムから容易に解放することができない(すなわち、使用者が足を本システムから取り外さない限り、脚を自由にまたは足で扱うことができず、これはかなりの時間の損失である)という複数の欠点を示す。
【0006】
さらなる解決法が特許EP 1 940 337 B1(欧州特許第1940337号公報)によって提案されており、これは患者の肢を(大腿により)支持するクレードルおよび前記クレードルを複数の軸に対して位置決めするための手段を用いて、脚を手術台の側方の手すりに対して位置決めし、かつ屈曲位置への保持を可能にするシステムを提案している。しかしこの特許のシステムは、(1)脚固定化の強固さを低下させる設定における多くの隙間、(2)クレードルの可動域が対称的でなく、従って左脚を手術するための構成から右脚を手術するための構成(あるいはその逆)に移行させるために機械的操作が必要である、(3)直観的ではなく、かつ理解が容易でない(すなわち、前記システムを適切に装着および調整するために訓練および学習段階が必要である)数多くの別々の設定により、患者に対する本システムの調整および適合が難しい、(4)大腿の下でのクレードルの使用により、脚が本システムに取り付けられている間に外科医が脚を過屈曲位置に設定することが不可能になる、(5)本システムは足踏みペダルを介して使用者によって指示され、これは外科手術中に誤差および誤用を引き起こしやすいといういくつかの欠点を示す。
【0007】
本発明のシステムは、より人間工学的であり、かつ外科医のために使用がより容易であるより単純な構造を使用することにより、上で言及した問題のための解決法を提供する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、整形外科手術中に患者の肢を手術台に対して所望の位置に位置決めし、かつ固定化された状態に維持するのための肢位置決めシステムに関する。本システムは、
・対応する長手軸に沿って延在する長手方向部分を有する回動部材であって、本システムが手術台の上に固定されている場合に、前記長手軸が手術台に平行であるように構成されている回動部材と、
・患者の肢を支持するように構成された支持部材であって、前記長手方向部分に接続され、かつ前記長手方向部分に沿って移動可能な支持用引掛部を備えた支持部材と、
・開放構成およびロック構成を有する回動部材に接続されたクラッチであって、開放構成ではクラッチは長手軸に平行な長手軸とは異なる回転軸の周りでの回動部材の回動を可能にし、かつロック構成ではクラッチは所望の位置での回動部材の固定化を可能にするクラッチと、
・本システムを手術台に対して適所に維持するように構成された少なくとも1つの固定部材と、
を備える。
【0009】
有利には本発明は、クラッチおよび回動部材の構成のおかげで、外科手術中に所望の位置における肢の容易な固定化を可能にし、それにより身振りの精度を高め、かつ手術中に外科医が肢を自由に操作するのを可能にするための肢の容易な解放を可能にするシステムを提供する。この操作は外科医をその手術において助け、かつ最終的に患者が外科手術後に肢の自然な動きを取り戻すことを保証する。さらに本システムは小型であり、これにより外科手術中に、肢の操作のために外科医により多くの自由空間が残される。さらに、肢を位置決めするための本システムの回動部材によって許容される可動域は対称的であり、従って本システムを左もしくは右肢の手術のために交互にどんなさらなる調整も必要とすることなく容易に設置し、従って手術台の左もしくは右側に装着することができる。これは有利には、本システムに対して僅かな変更を行うことにより左および右肢(例えば膝)を連続的に手術するのを可能にし、かつ従って外科手術中に時間を節約する。一般に本発明の異なる特徴は、ほとんど調整を必要とすることなく患者に容易に適合可能なシステムを提供するために協働し、これは有利には患者を外科手術のための構成に設置するために必要な時間を減らす。さらにクラッチおよび回動部材の構成は、回転軸が対象の腰の中心を通るように対象の肢を位置決めし、かつ本システムに固定するのを可能にする。これは有利には、クラッチが開放構成にある場合に、対象の体の上部を移動させることなく、かつ/または本システムのあらゆる他の構成要素の調整を要求することなく、外科医が対象の肢を容易に操作して屈曲位置から伸展位置およびその逆に移行させるのを可能にする。回動要素と手術台との角度のみが変わり、本システムの他の修正は必要でない。これは、本システムの邪魔になるどんな構成要素も有することなく、かつ/または肢の自由な操作を可能にするために調整も必要とすることなく、外科医が意のままに肢を扱うのを可能にする。
【0010】
さらに、本システムを手術台に対して適所に維持するように構成された固定部材の使用(例えば、床に直接位置決めされるベース構造によって維持されるシステムの代わり)は、手術台それ自体を修正することを必要とすることなく、本システムを標準的な手術台に設置するのを可能にする。最後に、本システムの単純性により本システムの製造を単純化し、かつ製造コストを減らすのを可能にする。
【0011】
本発明に係る肢位置決めシステムは、単独でまたは互いに組み合わせて用いられる以下の特徴の1つまたはいくつかを含んでいてもよい。
【0012】
一実施形態によれば、回動部材は、長手軸と回転軸との間の距離を変えるためにクラッチに対して移動可能である。この実施形態は有利には、本システムを患者の異なる形態に適合させ、特に本システムを患者の肢の高さに適合させるのを可能にする。
【0013】
一実施形態によれば、固定部材は、手術台の修正を必要としないように本システムを手術台、好ましくは手術台の手すりに締め付けるように構成されている。固定部材は、手すりを介して既存の手術台に締め付けられるように構成されていてもよい。
【0014】
一実施形態によれば、固定部材は、回転軸に直交する平面において回動部材、支持部材およびクラッチの位置を修正するように構成された設定モジュールを備える。固定部材は有利には、手術する肢が脚である場合には常に、回転軸を患者の予め定められた解剖学的参照、例えば対象の腰の中心に位置合わせするのを可能にする。
【0015】
一実施形態によれば、本システムは、重量補償力を回動部材に与えるように構成された重量補償装置をさらに備え、前記力は回動部材に印加される肢の重量に対向している。実際には、クラッチは開放構成およびロック構成のみであるように構成されている。重量補償装置は有利には、外科医が肢の重量全てを支持する必要がないように、クラッチが開放構成にある場合に外科医が肢を容易に再位置決めするのを支援するのを可能にする。
【0016】
一実施形態によれば、重量補償装置は、受動装置(好ましくはバネ)または能動装置(アクチュエータなど)である。
【0017】
一実施形態によれば、支持部材は本システムが使用中である場合に、肢が回動部材の長手方向部分から吊り下げられる(懸下される)ように、回動部材に対して位置決めされている吊り下げ要素を備える。好ましくは吊り下げ要素は、支持用引掛部を介して前記長手方向部分に着脱自在に接続されていてもよい。前記吊り下げ要素は環状部であってもよい。この特定の実施形態では、長手方向部分は常に肢の上に配置され、これは有利には、吊り下げられている肢と手術台との間の空間からあらゆる妨害要素をなくすのを可能にする。さらにこの構成は、肢の前部からあらゆる煩わしい機構をなくすことを可能にし(すなわち、吊り下げ要素のみが存在する)、これにより外科医は肢でより広範囲の動きを行うことが可能になる。従って肢が脚である場合に脚の過屈曲が可能となり、手術台の上での脚の完全な伸展についても同様である。
【0018】
一実施形態によれば、支持部材は肢を取り囲むように構成された環状部を備え、ここでは環状部は、肢が環状部を用いて回動部材の長手方向部分に吊り下げられるように回動部材に対して位置決めされている。肢の上に配置されている回動部材を有するこの特定の配置は、吊り下げられている肢と手術台との間の空間からあらゆる妨害要素をなくすため有利である。さらにこの構成は、肢の前部からあらゆる煩わしい機構をなくす(すなわち環状部のみが存在する)ことを可能にし、これにより外科医は肢でより広範囲の動きを行うことが可能となる。従って肢が脚である場合に脚の過屈曲が可能となり、手術台の上での脚の完全な伸展についても同様である。
【0019】
一実施形態によれば、支持用引掛部は環状部に接続されており、かつ回動部材の長手方向部分から取り外し可能である。この実施形態は、手術の緊急停止の場合に患者の迅速な解放を可能にする。この実施形態はさらに支持部材の設置を単純化する。
【0020】
一実施形態によれば、本システムは、回動部材に固定された第1の部分を有し、かつ第2の部分の一端に患者の少なくとも1つの骨に強固に固定されるように構成された把持部材を備えた骨把持用支持体をさらに備える。この実施形態は有利には、手術する骨を本システムに対して適所に保持することを可能にし、これは整形外科手術中に極めて重要である。
【0021】
一実施形態によれば、クラッチはブレーキ、好ましくは電磁電源オフブレーキである。ブレーキの使用は、ギアモータを用いる場合よりもはるかに有利であり、それは、ギアモータが機械的摩耗を受けやすい多くの脆弱な可動部品を備え、ブレーキはより小型であり、かつ設計および製造が容易であるからである。
【0022】
一実施形態によれば、本システムは、クラッチを開放構成とロック構成との間で切り換えるための切り換え部材を備える。
【0023】
一実施形態では、切り換え部材は、本システムが通常の使用構成にある場合に回転軸の下であって床から所定の距離に位置している。切り換え部材のこの特定の位置は、外科医および/または医療スタッフの一員が肢を操作するために両手を空けておくために自身の脚の一部で切り換え部材を押すのを可能にする。例えば切り換え部材は、人が自身の膝でそれを押すのを可能にする高さに位置づけられていてもよい。
【0024】
あるいは切り換え部材は、床の上に配置されるように構成された足踏みスイッチであってもよい。
【0025】
一実施形態では、切り換え部材は、固定部材の両側にそれぞれ位置している2つのスイッチを備える。この実施形態は、外科医および/または医療スタッフの一員が固定部材の両側から切り換え部材を押すことによりクラッチを起動/停止するのを可能にする。本実施形態では、右もしくは左肢を手術している外科医が認識的により容易な同じ動きでクラッチを起動/停止することができるように、スイッチは有利には回転軸に対して対称的な位置にある。
【0026】
本発明は、上に記載されている実施形態のいずれか1つに係る肢位置決めシステムと、外科用ロボット装置とを備える組立体であって、肢位置決めシステムおよびロボット装置は互いに接続されている組立体にも関する。
【0027】
一実施形態では、外科用ロボット装置は、肢位置決めシステムの回動部材の回転軸に一致して回転軸の周りで回動するように構成された少なくとも1つの可動部材を備える。
【0028】
一実施形態では、外科用ロボット装置は膝関節形成術のための外科用補助ロボット装置である。
【0029】
以下の詳細な説明は、図面と共に読んだ場合により良く理解されるであろう。例示の目的のために、本システムおよび組立体は好ましい実施形態で示されている。しかしながら、その適用は図示されている正確な配置、構造、特徴、実施形態および態様に限定されないことを理解されたい。図面は一定の縮尺で描かれておらず、特許請求の範囲を描写されている実施形態に限定するものではない。従って、添付の特許請求の範囲において言及されている特徴の後に参照符号がある場合、そのような符号は特許請求の範囲の理解容易性を高める目的のために含まれており、決して特許請求の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0030】
本発明の特徴および利点は、添付の図面を参照しながら単に例として与えられているシステムの実施形態の以下の説明から明らかになることになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態に係る患者の一方の脚に結合されている本システムの斜視図である。
図2】患者の一方の脚に結合されている本発明のシステムの上面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る患者の一方の脚に結合されている本発明のシステムの側面図である。
図4】本発明のシステムを使用した場合に患者の脚を配置することができる異なる位置の概略図である。
図5】本発明のシステムを患者の一方の脚に結合させた場合に脚に対して許容され得る動きの概略図である。
図6】本システムがロック構成にある場合に患者の脚を操作している外科医の概略図である。
図7】骨把持用支持体を備える本システムの斜視図である。
図8】本発明の組み立ての斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
様々な実施形態について説明および図示してきたが、詳細な説明はそれらに限定されるものとして解釈されるべきではない。特許請求の範囲によって定められている本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、当業者によって実施形態に対して様々な修正を行うことができる。
【0033】
ここで、本発明の一実施形態に係る肢位置決めシステム10が図1を参照しながら説明されることになる。
【0034】
図1に示すように、肢は患者の脚Lであり、位置決めシステム10は、回動部材20と、患者の肢を支持するように構成された支持部材30と、回動部材20に接続されたクラッチ40と、固定部材50とを備える。
【0035】
この第1の実施形態では、回動部材20は対応する長手軸Aに沿って延在する長手方向の第1の部分21を有する。本システムが通常の使用構成にある場合には、その台Tに対する回動部材20の位置に関わらず回動部材は、長手軸Aが常に手術台Tに平行な平面に属するように構成されている。図1に示すように、回動部材20は長手方向部分21をクラッチ40に接続する第2の部分22を含んでいてもよい。この例では、第2の部分22は長手方向部分21および長手軸Aに実質的に垂直または直角である。長手軸Aは方向Zに延在している(図2)。
【0036】
あるいは、対応する長手軸Aに沿って延在する長手方向部分21はクラッチに直接接続されていてもよい(図示せず)。
【0037】
回動部材20をクラッチ40に向かって適切に設定するために、長手軸Aと回転軸Aとの間の距離を変えることにより第2の部分22を調整することができる。一実施形態では、クラッチと結合させるために第2の部分22のために様々な長さを有する複数の回動部材20が利用可能であってもよい。外科医は患者の形態に従って第2の部分の長さを選択しなければならないであろう。
【0038】
あるいはクラッチ40は、第2の部分22の可変長さの一部を受け入れるように構成されていてもよく、クラッチ40の中に挿入される一部の長さは、患者の形態に適合するように外科医によって決定される。
【0039】
本実施形態では、支持部材30は、前記長手方向部分21に接続された支持用引掛部31と、肢を受け入れて支持するように構成された吊り下げ要素とを備える。前記吊り下げ要素は、本システムが通常の使用構成にある場合に、肢が回動部材の長手方向部分から吊り下げられるように回動部材に対して位置決めされている。図示のように、吊り下げ要素は肢を受け入れて支持するように構成された環状部32であってもよく、前記環状部32は、支持用引掛部31を介して前記長手方向部分21に移動可能に接続されている。肢が環状部32の中に正確に配置されている場合に、環状部32は、前記肢が回動部材20の長手方向部分21から吊り下げられるように支持用引掛部31に接続されている。肢が脚である実施形態では、環状部32は、患者の大腿の周りに締め付けられるように構成されている。これは、大腿を吊るすこの構成のおかげで大腿の前部、ふくらはぎおよび手術台間の領域からあらゆる妨害物がなくなり、その結果、膝関節形成術を行っている外科医がどんな妨害もなく患者の脚を容易に過屈曲(すなわち、ふくらはぎが大腿の後部と接触している)、屈曲または完全伸展(すなわち、脚はその台の上で伸びた状態で位置している)状態にすることができるので特に有利である。この実施形態は有利には、本システムの構成要素が、外科医が肢の任意の前部に自身の両手を置いて、それを持ち上げ、かつ所望の操作を行うのを妨げないため、外科医によって肢をより容易に意のままに扱うことも可能にする。
【0040】
環状部32は、そのストリップを環状形状に近づけて環状部32を形成するのを可能にする締め付け手段を含む織物のストリップであってもよい。患者の形態により良好に適合させるために、例えばベルクロストラップなどの複数の締め付け手段が、ストリップを環状部32になるように閉じるのを可能にするためにストリップの両端の中に位置決めされていてもよい。環状部32は装具であってもよい。
【0041】
本実施形態では、支持用引掛部31は、支持部材30の位置を各特定の患者に合わせて容易に調整することができるように前記長手方向部分21に沿って移動可能であり、その際に長手軸Aに沿った支持部材30の位置をブロックするために締め付けられてもよい(図示せず)。
【0042】
肢を吊っている環状部32をいかなる時でも長手方向部分21から取り外し可能であり得るように、支持用引掛部31は環状部32に取り外し可能に接続されていてもよい。支持用引掛部31は、一度押すと環状部32を支持用引掛部31から解放するスイッチまたは押しボタンを含んでいてもよい。この特徴は、外科手術の緊急停止の場合に患者を本システムから迅速に解放するのを可能にするので特に有利である。
【0043】
本実施形態では、クラッチ40は開放構成とロック構成とを可逆的に切り替えるように構成されたブレーキである。開放構成では、クラッチは回動部材20にどんな力も加えず、従ってこれは回転軸Aの周りを方向D1およびD2の両方に自由に回転し、この動きに対する制限は、本システムが通常の使用構成にある場合には手術台Tの存在によって、最終的に本システムが患者に接続されている場合には肢Lの存在によって課される。
【0044】
クラッチは、患者が支持要素30に接続されていない場合には回動要素が180度の角度範囲を網羅するのを可能にするように構成されていてもよい。患者の脚が支持要素30に接続されている場合には、回動要素20は例えば20~90度の角度範囲を網羅することができる。
【0045】
ロック構成では、クラッチのブレーキが起動され、回動部材20は、患者の肢Lが所望の位置に吊り下げられるように所望の(角度)位置に固定化される。
【0046】
図1に示すように、本システムが脚を支持するように構成されている場合、それは対応する足を予め定めた位置に固定するためのどんな支持体も備えておらず、足は単に手術台の上であって大腿から適切な距離に配置される。外科医は外科手術の工程ごとに脚の最も好適な構成を見つけ、いかなる時でも前記構成を自由に変えることができる。
【0047】
本実施形態では、本システムは固定部材50のおかげで手術台Tに対して適所に維持される。固定部材50は一体型すなわち単一成形物であってもよく、従ってこれは、本システムを手術台に対して1箇所の位置のみに固定することを可能にする。あるいは固定部材50は、手術台Tに対する本システムの位置の微調整を可能にする設定モジュールを備えていてもよい。この代替形態は図3に関連して詳細に説明されている。
【0048】
本発明のシステムの上面図を提供する図2は、回転軸Aが長手軸Aに平行であることをはっきりと示している。さらに図2は、本システムの一部ではない手術台Tおよび手術台の手すりRも示している。
【0049】
本実施形態では、固定部材50は本システムを手術台Tに締め付けるように構成されている。固定部材50は特に、手術台の1つの手すりRに固定されるように構成されていてもよい。固定部材50は、図3に示されている設定モジュールをさらに備えていてもよい。
【0050】
図3はシステム10の側面図である。特に図3はここでは、回転軸(A)に直交する平面において回動部材20、支持部材30およびクラッチ40の位置を修正するように構成されている設定モジュールを説明するために使用される。より詳細には設定モジュールは、手術台の長手方向Xに沿って(すなわち床に対して水平に)手術台の上に固定されると本システムの位置を修正するように構成されている第1のプラットフォーム51を備える。この第1のプラットフォーム51は、例えばクリップを用いてシステム10を手術台Tに締め付けることができる固定要素の一部であるように構成されていてもよい。設定モジュールは、システム10を垂直方向Y(すなわち手術台Tの平面に垂直な軸に平行な方向)に沿って変位させるように構成された第2のプラットフォーム52も備える。第2のプラットフォーム52は垂直変位を得るためにクランクハンドルを備えているか、モータを備えていてもよい。第2のプラットフォーム52は第1のプラットフォーム51に固定されていてもよく、かつクラッチ40に接続されていてもよい。これらのXおよびY設定は有利には、クラッチ40の回転軸Aを肢の解剖学的回転中心、より詳細には肢が脚である場合には記載されている例では腰の中心に位置合わせするのを可能にする。
【0051】
図3は、クラッチ40がブレーキ41および重量補償装置43の少なくとも一部を含み、かつ外部環境から保護するように構成された外部ハウジング42を備え得ることも示す。
【0052】
ブレーキ41は電磁ブレーキ、より詳細には電磁電源オフブレーキであってもよく、これは、ブレーキが電流がそこを通って流れないそのロック構成になることを意味している。有利には前記ブレーキ内の永久磁石は、電流がそこを通って流れていない場合にそのロック構成のままであることを保証する。
【0053】
重量補償装置43を考察すると、それは肢を支持している回動部材20に重量補償力を与えるように構成されている。前記力は肢の重量に対向しており、重量は本明細書では肢に作用している引力を表しているベクター量としてみなす。重量(ベクター)は肢の質量の一部に従属する大きさを有していてもよい。実際には肢が脚である場合、足は通常は手術台の上に位置決めされる。この実施形態はクラッチが開放構成にある場合に、脚の位置決めおよび膝のセットアップ中ならびに軟組織バランス調整操作中に、有利には外科医が脚を持ち上げるのを支援することを可能にする。
【0054】
重量補償装置43は、バネが肢の重量を支持している回動部材20によって引っ張られたり押されたりする場合に常に復元力を加えるバネ付勢機構などの受動装置であってもよい。あるいは重量補償装置43は、回動部材20に接続された能動装置(アクチュエータなど)であってもよい。
【0055】
この第3の実施形態では、本システムは、開放構成とロック構成との間でクラッチを切り換えるための切り換え部材(60a、60b)をさらに備える。この切り換え部材(60a、60b)は、外科医が自身の膝で圧力を印加することにより切り換え部材を押すことができるように、本システムが通常の使用構成にある場合に回転軸の下であって床から所定の距離に位置していてもよい。図3に示すように切り換え部材は、固定部材の両側にそれぞれ位置している2つのスイッチ60aおよび60bを含む。この例では各切り換え部材60aまたは60bは、実質的に水平に(すなわち床またはその台Tに実質的に平行な方向に)押すことにより起動される。あるいは、切り換え部材は第2のプラットフォーム52の外面(すなわち、手術台に面していない第2のプラットフォーム52の表面)に位置決めされた単一のスイッチ(図示せず)を含んでもよい。切り換え部材を外科医の膝の高さに位置決めする利点は、外科医が自身の腕を用いて患者の肢を操作する間に自身の脚の単純な動きによりスイッチを押すことができることである。
【0056】
あるいは、開放構成とロック構成との間でクラッチを切り換えるための切り換え部材は、床に位置決めされた単純なペダルであってもよい。しかし膝または大腿の一部(外科医の身長に応じて)によりスイッチ部材を押すことは、床に配置されたスイッチを足で探すよりも容易かつ安全である。
【0057】
図4は、大腿が本システムによって許容される異なる位置にある環状部32の中に位置決めされる患者の脚の側面図を示す。
【0058】
脚は、支持部材30にどんな力も印加しない脚が手術台の上にある伸展位置E(図4)に配置されてもよく、従ってクラッチはロック解除構成にあってもよい。次いでクラッチがロック解除構成にある間に、外科医は脚の位置を大腿およびふくらはぎが180度未満の角度を形成する屈曲位置Fに変えてもよい。この図4に示すように、支持部材30および回動部材20はそれらが接続されている大腿と共に移動する。脚をこの屈曲位置Fに維持するために、クラッチをロック構成に切り換え、足を手術台の上の適当な位置に位置決めする。既に上で説明したように、支持部材30の特定の構成は、過屈曲位置Hと呼ぶ特定の屈曲位置に達するために外科医がふくらはぎを大腿にさらに押し付けることも可能にする。前述のとおり、屈曲位置から過屈曲位置に移行させるために、クラッチ40を開放構成に切り換え、かつ過屈曲位置に達したらロック構成に戻す。矢印F1は伸展位置Eから屈曲位置(F、H)およびその逆に変える場合の回動要素20および患者の大腿の動きの視覚的表示を与える。
【0059】
図5は本システムの斜視図を提供し、矢印F1により回転軸の周りでの大腿の回動移動を示している。この回動移動は、クラッチが開放位置にある場合に回転軸の周りで回転する支持要素20によって可能となる。矢印F2およびF3は、クラッチがロック構成にある場合の外科医による脚の操作中(図6には脚を操作している外科医の両手が表されている)のふくらはぎの変位方向を表す。
【0060】
図7は、システム10が患者の骨を所望の位置に強固に固定するための骨把持用支持体70をさらに備える構成を示す。この例では、骨把持用支持体70はクラッチ40に対向する回動部材20の端部に固定された第1の部分71を有し、かつ前記第1の部分71にヒンジ接続された第2の部分72を含む。ヒンジ式接続部に対向する第2の部分72の端部は、患者の少なくとも1つの骨に強固に固定されるように構成された把持部材73を備える。第1の部分71は、ここでは回動部材の長手方向部分21に直角に延在している。ヒンジ式接続部は、第2の部分72に対する第1の部分71の所望の固定位置においてヒンジ式接続部をブロックするのを可能にするロック要素を備えていてもよい。この実施形態は有利には、最初に骨把持用支持体70を患者の形態に適合させるために第1の部分71および第2の部分72を移動させ、次に所望の固定位置においてロック要素が第1の部分71および第2の部分72をブロックした場合に回動部材20と骨との強固な接続を与えるのを可能にする。把持部材73は、本システムを例えば患者の脛骨または大腿骨に固定するのを可能にする外科用スクリューを含んでもよい。そのような骨把持用支持体70は本システムに組み込まれており、従って小型設計および外科医のためのより多くの場所が得られる。
【0061】
図8は、本発明の一実施形態に係る肢位置決めシステム10および外科用ロボット装置80を備える組立体を示し、ここでは肢位置決めシステムおよびロボット装置は互いに接続されている。この例では外科用ロボット装置80は、肢位置決めシステムの回動部材の回転軸Aに一致して回転軸の周りで回動するように構成された少なくとも1つの可動部材81を備える。従ってロボットおよび位置決めシステムは同じ軸に対して参照されてもよく、このように外科用ロボット装置の精度を高める。さらに、そのような組立体を骨把持装置70(図示せず)と組み合わせて使用する場合、ロボット装置80の精度も装置70が取り付けられる骨の固定位置により高められる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】