(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】癌細胞の表面上に過剰発現される標的
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240312BHJP
C12Q 1/6874 20180101ALI20240312BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240312BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240312BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
G16H 20/10 20180101ALI20240312BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/6874 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
A61K45/00 101
A61P35/00
G16H20/10
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560067
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 IB2022052869
(87)【国際公開番号】W WO2022208333
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】504425406
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・ケープ・タウン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF CAPE TOWN
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】マーティン,ダレン
(72)【発明者】
【氏名】ナラン,クルパ
(72)【発明者】
【氏名】ムサルラ,シンカラ
(72)【発明者】
【氏名】バルト,シュテファン
【テーマコード(参考)】
4B063
4C084
5L099
【Fターム(参考)】
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
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4B063QS34
4C084AA17
4C084NA06
4C084ZB261
4C084ZB262
5L099AA25
(57)【要約】
本発明は、抗癌剤の差次的に発現される標的の同定、および/または対象における抗癌剤の潜在的なCSR関連オフターゲット効果の同定のための方法およびシステムに関する。特に、本方法およびシステムにより、オフターゲット効果を生じてはならない対象における癌治療のための抗癌剤を同定できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)対象から得た癌性臓器または組織由来の細胞の表面上に、どの細胞表面受容体(CSR)が存在するかを確定する工程;
(ii)(i)の同じ臓器または組織の健康な部分由来の細胞の表面上に、どのCSRが存在するかを確定する工程;
(iii)健康な臓器または組織と比較して、癌性臓器または組織でどのCSRが差次的に発現されるかを決定する工程;
(iv)差次的に発現されるCSRを抗癌剤治療の標的として同定する工程;
(vi)差次的に発現されるCSRが、対象の同じ臓器または組織の健康な部分由来の細胞と比較して、または対象の他の健康な臓器または組織におけるそれらの発現と比較して、癌細胞でより高レベルで発現されていることを確認する工程;および
(vii)癌性臓器または組織から、差次的に発現されるCSRの1以上を標的とする1以上の抗癌剤を同定する工程であって、それらの抗癌剤は、同じ臓器または組織の健康な部分由来の細胞を標的としない、工程
を含む、抗癌剤を同定する方法、
ここで、前記抗癌剤は、癌性臓器または組織由来の細胞の表面上に差次的に発現されるCSRに優先的に結合し、および
前記抗癌剤は、健康な臓器または組織由来の細胞の表面上のCSRに結合しないとき、優先的に対象に全身投与され、また前記抗癌剤は、健康な臓器または組織の表面上のCSRに結合するとき、優先的に対象の組織または臓器に局所投与される。
【請求項2】
対象から採取した臓器または組織サンプルを、工程(i)で用いるために提供することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CSRの存在が、細胞内のCSRをコードするmRNA転写物レベルを測定することによって確定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
mRNA転写物レベルが、マイクロアレイ、SAGE、ブロッティング、RT-PCR、配列決定または定量的PCRによって測定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
抗癌剤が、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチドまたは低分子からなる群より選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
癌性臓器または組織において差次的に発現されるCSRが、対数倍の差で過剰発現しており、該差次的に発現されるCSRが、健康な臓器または組織の細胞と比較して、対数倍の差が1から2の間で発現しているとき、前記抗癌剤が、癌性臓器または組織への局所投与に適する抗癌剤であり、また差次的に発現されるCSRが、癌細胞上で、健康な臓器または組織からの細胞上の発現と比較して、対数倍の差が2以上で発現しているとき、前記抗癌剤が、対象への全身投与に適する抗癌剤である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
差次的に発現されるCSRが、(i)対象の健康な臓器または組織において発現されないか、または(ii)対象の健康な臓器または組織において、log2倍差が2以下のレベルで発現される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
対象がヒトである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
癌性臓器または組織由来の細胞の表面上にCSRが存在し、すべての健康な臓器または組織由来の細胞の表面上にCSRが存在しないことが、抗癌剤の好適な標的となる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
抗癌剤が、差次的に発現されるCSRに対する特異性に基づいて選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本発明は、抗癌剤の差次的(differentially)に発現される標的の同定、および/または対象における抗癌剤のオフターゲット効果の同定のための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞と健康な未形質転換細胞との間の最も顕著な違いに、癌細胞における特定の細胞表面受容体(CSR)タンパク質の過剰発現がある。CSRタンパク質は細胞膜を通過し、細胞外環境と細胞質シグナル伝達経路との間のシグナル的な繋がりを提供する。細胞の外表面に暴露されるだけでなく、多くのCSRが機能するシグナル伝達経路の変化は、癌化に直接関与している。したがって、CSRはしばしば免疫診断または抗癌剤、および抗体を用いた抗癌剤治療の有効な標的となる。CSRの発現変化は、癌化の過程で顕著に一般的であり、遺伝子変異、遺伝子コピー数の変化および/または転写変化を伴い得る。
【0003】
現在、腫瘍の処置のための標的となっているCSRは、当初、隣接する健康な組織と比較して腫瘍で過剰発現しているか、あるいは癌細胞における変異プロファイルのいずれかに基づいて、有用な標的として同定された。しかしながら、信頼できる標的を同定するためのこのアプローチは、一般的に、腫瘍細胞上の標的CSRの発現レベルの差の大きさについて、隣接する健康な組織、ならびに検討中の原発腫瘍とは直接関係のない体内臓器の組織と比較して、ほとんど考慮してこなかった。
【0004】
CSR標的治療の有効性を評価することを目的とした臨床治験の多くは、用量制限毒性および予期せぬ副作用のために最終的に失敗に終わる。このような望ましくない副作用の多くは、低分子薬剤または治療用抗体と健康な組織のCSRとの相互作用の結果であると考えられる。もしそうであれば、癌細胞では過剰発現され、かつ全ての健康な組織では発現が低いCSRを標的とすることで、治療の成功率を向上させ、オフターゲット毒性を減らすことができる。
【発明の概要】
【0005】
発明の概要
本発明は、抗癌剤の差次的に発現される標的の同定、および/または対象における抗癌剤の潜在的なCSR関連オフターゲット効果の同定のための方法およびシステムに関する。特に、この方法およびシステムによって、オフターゲット効果を生じてはならない対象における癌の処置のための抗癌剤を同定できる。
【0006】
本発明の第一の局面において、抗癌剤を同定する方法が提供され、該方法は、第一に、対象から得られた癌性臓器または組織由来の細胞の表面上にどの細胞表面受容体(CSR)が存在するかを確定する工程と、第二に、対象の同じ臓器または組織の健康な部分由来の細胞の表面上にどのCSRが存在するかを確定する工程と、次に、癌性臓器または組織においてどのCSRが差次的に発現されるかを決定する工程とを含む。差次的に発現されるCSRが同定されると、これらのCSRを抗癌剤治療の潜在的標的としてリストする。その結果、対象の同じ臓器または組織の健康な部分の細胞と比較して、差次的に発現されるCSRが癌細胞上でより高いレベルで発現していることを確認するか、または対象の他の健康な臓器または組織における発現と比較して、差次的に発現されるCSRが癌細胞上でより高いレベルで発現していることを確認する。その後、癌性臓器または組織から、差次的に発現されるCSRの1以上を標的とする1以上の抗癌剤を同定する。ただし、抗癌剤は、同じ臓器または組織の健康な部分からの細胞を標的とせず、および/または抗癌剤は、別の健康な臓器または組織からの細胞を標的としない。抗癌剤は、癌性臓器または組織由来の細胞の表面上に差次的に発現されるCSRに優先的に結合することが理解され得る。抗癌剤は全身性標的(または理想的標的)とみなされ、好ましくは、抗癌剤が対象の同じ臓器または組織の健康な部分の細胞の表面のCSRに結合しないとき、および/または抗癌剤が健康な臓器または組織の細胞の表面のCSRに結合しないとき、対象に全身投与される。抗癌剤は、局所標的(または他の標的)とみなされ、同じ臓器または組織の健常部分および/または健康な臓器または組織の表面のCSRに結合するとき、対象の組織または臓器に優先的に局所投与される。
【0007】
本発明の第一の態様では、対象から採取した臓器または組織サンプルを、対象から得た癌性臓器または組織由来の細胞の表面上にどの細胞表面受容体(CSR)が存在するかを確定するのに用いるために提供する。
【0008】
本発明の第二の態様では、細胞表面上の特定のCSRの存在または不存在を、細胞内のCSRをコードするmRNA転写物レベルを測定することによって確定する。mRNA転写物レベルは、当技術分野で知られているmRNAレベルを測定するための何れかの技術によって測定され得ることが理解され得る。好ましくは、mRNAレベルは、マイクロアレイ、SAGE、ブロッティング、RT-PCR、配列決定または定量的PCRからなる群より選択される技術によって測定される。
【0009】
抗癌剤は、当技術分野で知られている何れかの抗癌剤から選択され得ることも理解され得る。換言すれば、癌の制御に活性があることが知られている薬剤であれば何でもよい。好ましくは、抗癌剤は、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチドまたは低分子からなる群より選択される。
【0010】
癌性臓器または組織において差次的に発現されるCSRは、最も好ましくは、対象の同じ臓器または組織の健康な部分におけるCSRの発現と比較して過剰に発現され、および/または異なる健康な臓器または組織におけるCSRの発現と比較して過剰に発現されることがさらに理解され得る。
【0011】
本発明のさらなる態様において、癌性臓器または組織において差次的に発現されるCSRは、癌性臓器または組織の健康な臓器、健康な組織または健康な部分と比較して、対数倍の差で過剰発現される。
【0012】
好ましい態様では、差次的に発現されるCSRが、健康な臓器または組織の細胞と比較して、あるいは癌性臓器または組織の健康な部分の細胞と比較して、1から2の対数倍の差で発現しているとき、抗癌剤は癌性臓器または組織への局所投与に適し得る。これは、前記抗癌剤がオフターゲット効果を有し得るためである。
【0013】
さらに、差次的に発現されるCSRが、癌性細胞上で、健康な臓器、健康な組織、または癌性臓器もしくは組織の健康な部分からの細胞上の発現と比較して、2以上の対数倍差で発現されるとき、その抗癌剤は対象への全身投与に適していることが理解され得る。これは、前記抗癌剤がオフターゲット効果を有する可能性が極めて低いか、あるいは有さないという事実によるものである。癌性臓器または組織に存在する差次的に発現されるCSRを標的とする抗癌剤は、最も好ましくは、対象の健康な臓器または組織では発現しないか、または対象の健康な臓器または組織では2以下の対数倍差のレベルで発現される。
【0014】
本発明のさらに好ましい態様では、対象はヒトである。
【0015】
本発明のさらに別の態様では、癌性臓器または組織の細胞の表面上にCSRが存在し、すべての健康な臓器または組織の細胞の表面上にCSRが存在しないことが、抗癌剤の標的として適している。抗癌剤は、差次的に発現されるCSRに対する特異性に基づいて選択されることが理解され得る。これは、対象にオフターゲットの影響を与えないようにするためである。
【0016】
本発明の第2の局面において、抗癌剤のオフターゲット効果またはオフターゲット効果の可能性を予測する方法を提供する。データを用いて機械学習モデルまたはアルゴリズムをトレーニングすることを含む方法であって、前記データが、(i)抗癌剤で処置された対象において報告された有害事象のデータであって、前記有害事象が特定の臓器または組織にマッピングされているデータ、(ii)有害事象の対象であった健康な臓器または組織の細胞表面に発現されるCSRのデータ、および/または(iii)訓練された機械学習モデルまたはアルゴリズムを利用することにより、前記抗癌剤が、健康な臓器または組織の細胞表面上に発現されるCSRの1つ以上を標的とするかどうかを確認するデータ、および前記抗癌剤で処置された対象の健康な臓器または組織においてオフターゲット効果が生じる可能性を予測するデータ、を含む、方法を提供する。
【0017】
本明細書中、“モジュール”とは、特定の機能、操作、処理または手順を実現するためのコード、コンピューターによる指示または実行可能指示、またはコンピューターによるオブジェクトの識別可能な部分を含む。モジュールは、ソフトウェア、ハードウェア、またはソフトウェアおよびハードウェアの組合せで実装され得る。さらに、モジュールは必ずしも1つの装置に統合される必要はない。
【0018】
本発明の第1の態様において、細胞表面上のCSRの存在は、細胞内のmRNA転写物レベルを測定することによって確定される。
【0019】
第2の態様において、抗癌剤は、ポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチドまたは低分子からなる群より選択される。
【0020】
本発明の第3の態様において、機械学習モデルまたはアルゴリズムは、二次サポートベクターマシン回帰(quadratic support vector machines regression)および/または平方指数ガウス過程回帰(squared exponential Gaussian process regression)を含む。
【0021】
本発明の第4の態様において、高いオフターゲット効果の可能性は、特定の抗癌剤を処置に用いるべきか否かを判別する。
【0022】
本発明の第3の局面では、抗癌剤のオフターゲット効果を予測するためのシステムが提供され、このシステムは予測モデルを含む。この局面の予測モジュールは、データによって訓練される機械学習モデルまたはアルゴリズムを含むか、または組み込んでおり、ここでデータは以下を含む:(i)抗癌剤で処置された対象において報告された有害事象のデータであって、前記有害事象が特定の臓器または組織にマッピングされているデータ、(ii)有害事象の対象であった健康な臓器または組織由来の細胞の表面上に発現しているCSRのデータ、および/または(iii)抗癌剤が健康な臓器または組織由来の細胞の表面上に発現しているCSRの1つ以上を標的とするかどうかを確認するデータ。予測モジュールは、訓練された機械学習モデルまたはアルゴリズムを利用することにより、抗癌剤で処置された対象の健康な臓器または組織においてオフターゲット効果が発生する可能性を予測するように構成される。
【0023】
一態様では、システムは、ユーザーから通信ネットワークまたは通信リンクを介して特定の抗癌剤に関する情報を受信または取得するように構成された通信モジュールを含み、この情報は、対象が特定の抗癌剤で処置された場合に、該対象の健康な臓器または組織においてオフターゲット効果が生じる可能性を予測するために予測モジュールによって用いられ、前記通信モジュールは、予測された可能性に関する情報を、通信ネットワークまたは通信リンクを介してユーザーに送り返すようにさらに構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下、本発明の限定されない態様について、例示のためにのみ、以下の図を参照して説明する:
【
図1】乳癌 対 正常乳房と、乳癌 対 その他の正常組織との間で発現が増加したCSR転写産物の数。2セットの比較対象間で62個の転写産物が共通して上方制御されている。
【
図2】PAM50乳癌サブタイプ(x軸)の各一対比較(pairwise comparison)間で差次的に発現されるCSR転写産物の数を示す棒グラフ。2つの棒グラフは、各比較間で上昇した転写産物(左)および各比較間で下降した転写産物(右)についてプロットしたものである。
【
図3】混同行列のプロット。対角のセルは、正しく分類された観察(observations)に対応する。非対角のセルは、間違って分類された観察に対応する。観察数および観察の総数に占める割合の両方を各セルに示す。右端の列は、正確性(または陽性的中率)(セル内の一番上の値)および陰性的中率(一番下の値)を示す。プロットの一番下の行は、再現率(または真陽性率)(上の値)および偽陰性率(下の値)を示す。プロットの右下のセルは全体的な正確度を示す。
【
図4】正常乳腺様乳癌(Normal-like breast cancer)のROC-AUC(受信者操作特性-曲線下面積)。ROC曲線は、訓練された分類器(classifier)によって行われた乳癌のPAM50クラスの予測について、真陽性率 対 偽陽性率を示す。プロット上のドットは、CSRを用いて乳癌のPAM50サブタイプを予測するために訓練された分類器の偽陽性率および真陽性率の値を示す。
【
図5】HER2陽性乳癌のROC-AUC。ROC曲線は、訓練された分類器によってなされた乳癌のPAM50クラスの予測について、真陽性率 対 偽陽性率を示している。プロット上のドットは、CSRを用いて乳癌のPAM50サブタイプを予測するための訓練された分類器の偽陽性率および真陽性率の値を示す。
【
図6】Luminal-A乳癌のROC-AUC。ROC曲線は、訓練された分類器によってなされた乳癌のPAM50クラスの予測について、真陽性率 対 偽陽性率を示す。プロット上のドットは、CSRを用いて乳癌のPAM50サブタイプを予測するために訓練された分類器の偽陽性率および真陽性率の値を示す。
【
図7】Luminal-B乳癌のROC-AUC。ROC曲線は、訓練された分類器によってなされた乳癌のPAM50クラスの予測について、真陽性率 対 偽陽性率を示す。プロット上のドットは、CSRを用いて乳癌のPAM50サブタイプを予測するための訓練された分類器の偽陽性率および真陽性率の値を示す。
【
図8】基底細胞様乳癌のROC-AUC曲線。ROC曲線は、訓練された分類器によってなされた乳癌のPAM50クラスの予測について、真陽性率 対 偽陽性率を示す。プロット上のドットは、CSRを用いて乳癌のPAM50サブタイプを予測するための訓練された分類器の偽陽性率および真陽性率の値を示す。
【
図9】乳癌のPAM50サブタイプの各一対間で、差次的に発現されるCSR転写産物の数の比較。2つのプロットはTCGA原発腫瘍での比較を示し、下の2つのプロットはGDSC乳癌細胞株での比較を示す。左側のプロットは各比較対象間で発現が増加した転写産物を示し、右側のプロットは各比較対象間で発現が減少した転写産物を示す。
【
図10】薬物標的の転写レベルが高い細胞株とそれが低い細胞株とのCSR標的抗癌剤に対する薬物応答プロファイルの比較。各棒グラフは、ウェルチ検定を用いて算出したt値を示す。棒グラフは統計的有意水準に基づいて色分けされている。薄い灰色の棒グラフは、薬物標的を過剰発現している細胞株では、薬物標的を過小発現している細胞株と比較して、薬物に対する反応が統計的に有意に増加した(p値<0.05)ことを示す。灰色の棒グラフは、薬物反応に統計学的に有意な差がないことを示す。黒色棒グラフは、統計学的に有意な薬物反応の低下を示す。GDSCのデータベースに掲載されている各薬物について比較を行った。
【
図11】薬物標的の転写レベルが高い細胞株とそれが低い細胞株とのCSR標的抗癌剤に対する薬物応答プロファイルの比較。各棒グラフは、ウェルチ検定を用いて算出したt値を示す。棒グラフは統計的有意水準に基づいて色分けされている。薄い灰色の棒グラフは、薬物標的を過剰発現している細胞株では、薬物標的を過小発現している細胞株と比較して、薬物に対する反応が統計的に有意に増加した(p値<0.05)ことを示す。灰色の棒グラフは、薬物反応に統計学的に有意な差がないことを示す。黒色棒グラフは、統計学的に有意な薬物反応の低下を示す。標的CSRに基づいてグループ化された薬物間で比較を行った。
【
図12】特定のCSRを標的とする薬剤の乳癌臨床治験で報告された有害事象の分布。このグループは、乳癌患者の処置に用いられる薬剤の種類によって、(1)乳癌腫瘍で高発現されるCSR(理想的な標的)を標的とするもの、および(2)そうでないもの、に分類される。各棒グラフについて、有害事象を経験した個体の割合の中央値を報告する。
【
図13】癌治療薬として用いられるCSRの発現に基づく本発明者らの臨床治験の分類すべてにおいて、特定の有害事象を経験した乳癌患者の数を示すハイライト表。
【
図14】薬剤ダサチニブについて、特定の組織に影響を及ぼす有害事象の一般的な報告値および予測される反応、および起こり得る異常値を示す箱ひげ図。中央の印は中央値、箱の下端および上端はそれぞれ25パーセントおよび75パーセントを示す。ヒゲは、ボックスから外れ値とはみなされない最も極端なデータポイントまで伸びており、一方、外れ値は“+”記号で個別に表示されている。
【0025】
【
図17】急性骨髄性白血病(AML)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図18】急性骨髄性白血病(AML)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図19】副腎皮質癌(ACC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図20】副腎皮質癌(ACC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図21】膀胱尿路上皮癌(BUC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図22】膀胱尿路上皮癌(BUC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図23】脳低悪性度神経膠腫(LGG)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図24】脳低悪性度神経膠腫(LGG)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図25】乳房浸潤癌(BIC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図26】乳房浸潤癌(BIC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図27】子宮頸部扁平上皮癌および子宮頸部内膜腺癌(CSCC ECA)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図28】子宮頸部扁平上皮癌および子宮頸部内膜腺癌(CSCC ECA)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図29】結腸腺癌(CAA)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【0026】
【
図30】結腸腺癌(CAA)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図31】食道癌(EC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健常組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図32】食道癌(EC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図33】多形膠芽腫(GBM)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による治療の標的となり得る標的である。
【
図34】多形膠芽腫(GBM)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図35】腎臓色素異常症(KC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図36】腎臓色素異常症(KC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図37】腎臓腎明細胞癌(RCCC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図38】腎臓腎明細胞癌(RCCC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図39】腎臓腎乳頭細胞癌(RPCC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図40】腎臓腎乳頭細胞癌(RPCC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図41】肝細胞癌(HCC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図42】肝細胞癌(HCC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図43】肺腺癌(LAC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【0027】
【
図44】肺腺癌(LAC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図45】肺扁平上皮癌(LSCC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図46】肺扁平上皮癌(LSCC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図47】リンパ性新生びまん性B細胞リンパ腫(DLBCL)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図48】リンパ性新生物びまん性B細胞リンパ腫(DLBCL)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図49】卵巣漿液性嚢胞腺癌(OSCC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図50】卵巣漿液性嚢胞腺癌(OSCC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図51】膵臓腺癌(PAAC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図52】膵臓腺癌(PAAC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図53】前立腺腺癌(PrAC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図54】前立腺腺癌(PrAC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図55】全ての肉腫(SAR)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による処置の標的となり得る標的である。
【
図56】全ての肉腫(SAR)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【0028】
【
図57】胃腺癌(SAC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による治療の標的となり得る標的である。
【
図58】胃腺癌(SAC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図59】精巣胚細胞腫瘍(TGCT)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による治療の標的となり得る標的である。
【
図60】精巣胚細胞腫瘍(TGCT)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図61】甲状腺癌(TC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による治療の標的となり得る標的である。
【
図62】甲状腺癌(TC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図63】子宮癌肉腫(UCS)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による治療の標的となり得る標的である。
【
図64】子宮癌肉腫(UCS)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図65】子宮体部子宮内膜癌(UCEC)の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による治療の標的となり得る標的である。
【
図66】子宮体部子宮内膜癌(UCEC)のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【
図67】皮膚黒色腫の理想的な標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の全身投与による治療の標的となり得る標的である。
【
図68】皮膚黒色腫のその他の標的の例。上の棒グラフは、同じ健康な組織における腫瘍細胞間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。下の棒グラフは、腫瘍細胞とそれ以外の健康な組織との間の様々な遺伝子のmRNA発現レベルの違いを示す。これらは、抗癌剤の局所投与による処置の対象となり得る標的である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本発明は、添付図面を参照して以下により詳細に説明され得る。この図面には本発明の態様がいくつか示されているが、全ての態様は示されていない。
【0030】
本明細書に記載の本発明は、開示された特定の態様に限定されるべきではなく、変更および他の態様も本発明の範囲に含まれることが意図される。本明細書では特定の用語が用いられるが、これらは一般的かつ説明的な意味でのみ用いられており、限定を目的とするものではない。
【0031】
本明細書全体および添付の特許請求の範囲で用いる、単数形“a”、“an”および“the”は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数形を含む。
【0032】
本明細書で用いる用語および表現は、説明のためのものであり、限定するものとみなされるべきではない。本明細書で用いる用語“含む(comprising, containing and including)”および“有する(having)”、およびその変形は、その後に列挙される項目およびその等価物、ならびに追加の項目を包含することを意味する。
【0033】
乳癌は、さまざまな抗癌療法に対して種々の反応を示すことが特徴であり、これらの療法は無数のオフターゲット効果を生じる。早期乳癌の第一選択療法は外科的腫瘍切除術であり、一般的に、病理学的完全奏効(pCR)を促進するために1以上の術後補助療法を伴う(Recht et al., (1985), Fisher et al., (1998), Park et al., (2000))。現在までに腫瘍縮小効果が確認されている補助療法としては、放射線療法(局所療法)、化学療法(全身療法)、および増加しつつある標的療法が挙げられる(Gerber (2008))。手術前に行われる補助療法(ネオアジュバント療法)は、多くの種類の乳癌において、切除断端を縮小し、術後のpCRに寄与することが示されている(Liu et al, (2010))。転移が疑われる場合は、局所治療の後、残存する悪性細胞を追跡する全身治療が行われる。pCRに関係なく、最も一般的に用いられる全身療法である化学療法は、細胞を無差別に破壊することで有名である。
【0034】
細胞表面受容体(CSR)を標的とする薬剤について、腫瘍の反応の違い、およびこれらの薬剤によって生じる有害事象は、乳癌および健常組織の両方におけるCSRの転写ランドスケープの違いに起因しているのではないかという仮説が立てられた。本発明者らは、さまざまな供給源からのデータを用いて、種々の乳癌および種々の非罹患ヒト組織のCSR転写ランドスケープの比較を行った。本発明者らは、乳癌細胞株の薬物に対するゆらぎ(perturbation)反応と標的CSRの転写レベルとの関連性を実証した。PAM50原発乳癌サブタイプのCSR転写ランドスケープおよび乳癌細胞株のCSR転写ランドスケープにおける重要な相違点が同定され、薬剤反応予測の精度に影響を及ぼすと考えられる。本発明者らは、臨床治験データを応用し、健康な組織におけるCSR遺伝子の発現レベルと、抗癌剤による患者の副作用との関連性を明らかにした。全体として、このアプローチは、抗癌剤に対する細胞株の用量反応測定、患者の健康な組織におけるCSR転写ランドスケープ、およびCSRを標的とする薬剤に対する患者の有害反応の報告のみに基づいて、発現転写産物の中から最適なCSR標的を単離することを可能にする。これは、対応する理想的な標的ベースのコンパニオン診断薬および免疫治療薬を提供することで、正確な医療および免疫療法の将来に重要な意味を有し得る。
【0035】
本発明者らは、乳癌の診断および処置の標的を確定するという観点から、かかるCSRを同定した。具体的には、本発明は、仮説生成のためのプラットフォームおよび望ましくない副作用の確率を最小化するためにどのCSRを標的とすべきかを選択するためのフレームワークを提供する。複数の公的リソースからデータを収集してまとめ、統計的手法、機械学習および予測モデリングを用いて、種々のCRSを標的とすることによるオフターゲット毒性影響の可能性を調査した。薬物応答およびオフターゲット毒性における薬物作用と、乳癌細胞と健康な組織の転写ランドスケープとの関係に関して、いくつかの明確な仮定がなされ、これらの概念を、何千もの高品質な実験室測定から得られたデータを用いて評価した。
【0036】
本発明は、特定のCSRを標的とする薬剤に対する癌細胞株の反応と、それらの細胞株におけるCSRの転写レベルとの関係を調べるためのバイオインフォマティクス・アプローチに関する。さらに、本発明は、乳癌の処置に用いられるCSR標的化薬の有害作用(またはオフターゲット作用)および種々の健康な組織における標的CSRの転写ランドスケープの関連を評価する。全体として、採用した計算アプローチにより、乳癌における薬物の作用とCSRの発現との関連性が明らかになり、この知見は、急性骨髄性白血病、副腎皮質がん、尿路上皮がん、低悪性度神経膠腫、子宮頸部扁平上皮癌、結腸腺癌、食道癌、多形膠芽腫、腎明細胞癌、腎乳頭癌、肝細胞癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌、びまん性大細胞リンパ腫、卵巣漿液性嚢胞腺癌、膵臓腺癌、前立腺腺がん、肉腫、皮膚黒色腫、胃腺癌、精巣胚細胞腫瘍、甲状腺癌、子宮体癌、ならびに子宮内膜癌を含む他の組織の多くの癌おいても確認されており、この研究は、薬物標的を選択する基準を改善するための枠組みを提供するものである。
【0037】
“細胞”は、生体の基本的な構造および機能単位である。動物のような高等生物では、似たような構造および機能を有する細胞は一般的に、特定の機能を果たす“組織”または“臓器”に集合している。従って、組織には、上皮組織、結合組織、筋肉、神経など、類似の細胞集合体および周囲の細胞間物質が含まれる。“臓器”は、腎臓、心臓、脳、肝臓など、ある特定の機能に特化した、異なるタイプの組織および高等生物における完全に分化した構造的かつ機能的単位から構成され得る。従って、本明細書において“特定の臓器、組織または細胞”とは、何れか特定の臓器、およびその臓器に見出される細胞および組織を含むことを意味する。
【0038】
本明細書で用いる用語“健康な臓器または組織由来の細胞”とは、異常な発現および/または異常な増殖の影響を受けておらず、癌化した臓器または組織あるいは臓器または組織の一部に由来しない細胞を意味する。
【0039】
“癌”とは、生理的機能を果たさない細胞の何らかの望まれない増殖である。一般に、癌細胞は、正常な細胞分裂の制御から逸脱した細胞であり、換言すれば、その増殖が細胞環境における正常な生化学的および生理学的影響によって制御されていない細胞である。従って、“癌”とは、制御不能な異常な細胞増殖を特徴とする疾患の総称である。ほとんどの場合、癌細胞は増殖して悪性のクローン細胞を形成する。細胞塊または腫瘍は一般的に、周囲の正常組織に浸潤し、それを破壊し得る。癌細胞は、リンパ系または血流を通して、元の部位から体の他の部位に拡がることがあり、この過程は“転移”として知られている。多くの癌は処置に抵抗性があることが判明しており、致命的であることが多い。癌の例としては、これらに限定されないが、様々な臓器および組織における形質転換細胞および/または不死化細胞が挙げられる。
【0040】
本発明の様々な面は、癌の診断および処置に用いられ得る薬剤(すなわち“抗癌剤”)を同定することを伴う。本明細書中、処置はさまざまな結果をもたらすように実行され得る。例えば、処置は、(i)癌の成長または増殖を阻害または改善するのに有効な免疫反応を引き起こし得る、(ii)癌細胞または腫瘍の成長または増殖を阻害し得る、(iii)癌の寛解を引き起こし得る、(iv)生活の質を改善し得る、(v)癌の再発リスクを低減し得る、(vi)癌の転移を阻害し得る、または(vii)特に、CSR標的療法に最もよく反応する患者を同定するために対応するコンパニオン診断と組み合わせたときに、患者集団における患者の生存率を改善し得る。本明細書中、患者または患者集団の平均余命の延長とは、特定の診断後に一定期間生存する患者数を増やすことを意味する。いくつかの態様では、化学療法または手術が有効な処置でなかった患者など、他の治療法に反応しなかった患者の処置が行われ得る。特定の組織または臓器に癌が発生しやすい遺伝的または生活習慣的素因を有する患者は、抗癌剤を用いて処置できる。
【0041】
“癌性臓器または組織由来の細胞”とは、癌細胞を含む臓器または組織の一部から採取された細胞を意味する。癌細胞とは、異常な増殖を示し、絶え間なく分裂し、それによって固形腫瘍または非固形腫瘍を形成する細胞であると理解されている。これらの細胞は、直接採取することもできるし、動物またはヒト対象から外科的に取り出すこともできる。供給源となる臓器または組織は限定されないが、例えば、脂肪組織、副腎、膀胱、血液、血管、骨髄、脳、乳房、子宮頸部、結腸、食道、卵管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、神経、卵巣、膵臓、下垂体、前立腺、皮膚、小腸、脾臓、胃、精巣、甲状腺、子宮および膣などが挙げられる。
【0042】
本明細書中、“標的”とは、癌の臓器または組織の細胞表面に存在する細胞表面受容体を意味する。
【0043】
本明細書で用いる用語“他の標的”とは、腫瘍細胞が由来する健康な正常細胞と比較して、mRNA発現レベルが腫瘍細胞上で少なくとも対数2倍の差を示すが、それでも他の健康な臓器または組織ではバックグラウンド発現を示し得るCSRを意味する。
【0044】
一方、“理想的な標的”とは、腫瘍細胞のmRNA発現量が、腫瘍細胞が由来する健康な正常細胞と比較して少なくとも2倍異なり、また他の健康な臓器または組織と比較して少なくとも2倍の差を示すCSRを意味する。換言すれば、癌化した細胞または組織では、同じまたは異なる細胞または組織由来の健康な細胞または組織と比較して、特定のCSRのmRNAの発現が少なくとも2倍以上である。
【0045】
用語“オフターゲット効果”とは、薬剤などの抗癌剤が、その薬剤などの抗癌剤が結合することを意図した標的以外の標的(体内のタンパク質または他の分子)に結合するとき生じ得る効果を意味する。これは、処置すべき対象に有害な予期せぬ副作用を引き起こし得る。オフターゲット活性とは、薬剤が意図する生物学的標的とは異なる生物学的活性のことである。副作用の原因となることが最も多い。
【0046】
本発明において用語“オフターゲット効果”とは、抗癌剤が健康な臓器または組織の細胞の細胞表面受容体を標的とすることを意味する。このようなオフターゲット効果は、健康な臓器または組織の細胞に有害な影響を及ぼし得る。抗癌剤(anticancer agents or anticancer drugs)は、臨床使用においていわゆるオフターゲット効果を示さないことが望ましい。オフターゲット効果を回避または制限するために、本発明は、健康な臓器および組織と比較して腫瘍細胞および組織におけるCSRの発現の対数倍差に依存して変化する。これは、抗癌剤が標的とする特定の細胞表面受容体が、対象の健康な臓器または組織ではなく、罹患細胞に優先的に結合するようにするためである。ある薬剤が“その他の標的”として同定された場合、オフターゲット効果を低減するために、腫瘍の局所治療に適し得ることを意味する。もし“理想的な標的”として同定されれば、その薬剤はオフターゲット効果を示さないと予期されるため、全身的な処置または投与に適し得る。ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、受容体リガンド、抗体、低分子化合物、およびそれらの何れかの組合せを含む抗癌剤は、これらが有害な副作用を引き起こす可能性があるため、癌の処置に用いられる場合、オフターゲット効果を有さないか、またはそれを低減させることが基本的に重要である。
【0047】
用語“抗癌剤”とは、悪性疾患または癌性疾患の処置に有効な何れかの薬剤を意味する。本発明の好ましい態様において、抗癌剤は、CSRを特異的に標的とする薬剤である。抗癌剤にはいくつかの主要なクラスがあり、アルキル化剤、代謝拮抗剤、天然産物およびホルモンなどが挙げられる。さらに、前述の分類には入らないが、抗癌作用を示し、悪性疾患の治療に用いられる薬剤も数多くある。化学療法という用語は、抗癌剤として化学化合物を用いて癌を処置することを意味することが多い。
【0048】
“抗癌剤”には、現在癌治療で用いられている一般的な抗癌剤、ならびに今後開発される新規抗癌剤も含まれる。本明細書で用いる用語“抗癌剤”とは、標的細胞に結合し、非癌性細胞には結合しない薬剤を意味する。抗癌剤の標的細胞への結合は、一般的に、細胞表面受容体を介して起こり得る。抗癌剤の例としては、例えば、ポリペプチド、核酸、糖質、脂質、受容体リガンド、抗体、低分子、およびそれらの何れかの組合せが含まれる。
【0049】
本発明の抗癌剤は、対象の癌を処置するために用い得る。疾患、障害、状態または細胞集団の処置には、急性短期ベースおよび慢性長期ベースの治療および予防的処置が含まれることが理解され得る。
【0050】
用語“薬学的に許容される”とは、薬理学的または毒物学的観点から対象への投与が許容される特性および/または物質を意味する。さらに“薬学的に許容される”とは、製剤化、安定性、患者受容性、バイオアベイラビリティなど、物理的/化学的観点から製造薬学化学者にとって既知の因子を意味する。
【0051】
抗癌剤の“適切な形態”は、対象への医薬活性成分の効率的な送達を確実にするために、“薬学的に許容される担体”および当技術分野で知られている他の要素と組み合わせ得る。
【0052】
“薬学的に許容される担体”とは、対象への抽出物、医薬組成物および/または医薬の投与に安全に用いられ得る固体または液体の充填剤、希釈剤またはカプセル化物質を意味する。
【0053】
病状の予防または処置における用語“有効量”とは、処置を必要とする個体への医薬化合物中の活性医薬成分の投与量を意味し、医薬化合物の単回投与量または数回投与量を対象に投与できる。
【0054】
有効量の正確な投与量および投与頻度は、いくつかの要因によって変わる。これらの要因には、用いられる個々の成分、抗癌剤の製剤、処置される病状、病状の重篤度、処置される対象の年齢、体重、健康状態および一般的な身体状態、対象が服用している可能性のある他の薬物、および当業者に公知の他の因子が含まれる。有効量は、常套的な試験で決定できる比較的広い範囲に収まると予期される。
【0055】
本発明の抗癌剤の毒性および治療効果は、LD50およびED50の測定など、細胞培養または実験動物を用いた標準的な薬学的手順によって決定できる。細胞培養および/または動物実験から得られたデータは、対象に用いるための投与量範囲を処方するために用い得る。本発明の抗癌剤の投与量は、好ましくは、ED50を含む循環濃度の範囲内にあるが、毒性はほとんどなく、オフターゲット効果もほとんどない。投与量は、用いる投与量形態および投与経路によってこの範囲内で変わる。本発明の抗癌剤の場合、治療上有効な用量は、まず細胞培養アッセイから推定され得る。
【0056】
本明細書で用いる用語“細胞表面受容体”とは、細胞表面に提示され、細胞表面に接触する治療用化合物による結合が可能な何れかの分子を意味する。“細胞表面受容体”は膜受容体または膜貫通受容体とも呼ばれ、細胞の細胞膜に埋め込まれた受容体である。細胞外分子を受け取る(結合する)ことにより、細胞のシグナル伝達に働く。“細胞表面受容体”は特殊化された膜タンパク質であり、細胞と細胞外空間との間のコミュニケーションを可能にする。細胞表面受容体に結合する細胞外分子は、ホルモン、神経伝達物質、サイトカイン、増殖因子、細胞接着分子、薬物、栄養素などのタンパク質である。これらの細胞外分子は“細胞表面受容体”と反応して、細胞の代謝および活性に変化を引き起こす。シグナル伝達の過程では、リガンドの結合が細胞膜を通して連鎖的な化学変化を引き起こす。細胞表面受容体は、治療用化合物として用いられ得る抗癌剤の受容体として機能する。
【0057】
用語“差次的に発現される”とは、少なくとも2つの細胞間の遺伝子および/またはタンパク質発現の測定を意味し、少なくとも2つの細胞間の遺伝子および/またはタンパク質産物の量に差がある。遺伝子は、2つの実験条件間でリードカウントまたは発現レベルの差または変化が観察され、統計的に有意な場合、“差次的に発現される”とみなされる。“差次的発現”とは、細胞内でどの遺伝子がどのような条件下で活発に転写され、mRNAおよびタンパク質に翻訳されるかを決定する生化学的プロセスである。
【0058】
以下の例は例示であり、限定を意図するものではない。
【実施例】
【0059】
実施例1
乳癌および健常組織におけるCSRの分析
健康な組織のトランスクリプトーム・プロファイルは、3つのリソースから入手した:
(i)The Genotype-Tissue Expression consortium - 54 body tissues (Ardlie, KG., et al. (2015));
(ii)The Human Protein Atlas project - 33 tissues (Ponten, F., et al. (2008));および
(iii)The Functional Annotations of Human Genome Project - 57 tissues (Kawaji, H., et al. (2017))。
【0060】
これらのデータを照合することで、ヒト身体のすべての主要臓器および種々の組織タイプについて、101個のユニークなトランスクリプトーム・プロファイルを得た。その後、文献、UniProt Knowledgebase(Uniprot (2017))、Surfaceomeデータベース(Bausch-Fluck, D., et al. (2015))、Gene Ontology Consortium(Gene Ontology Consortium (2015))からの情報を用いて、Gene Ontologyのplasma membraneという用語を用いてCSRを含むリストを作成した。このCSRのリストを用いて、CSRである遺伝子のmRNA転写データのみを抽出し、これに教師なし階層クラスタリングを適用して、CSRの発現に基づく健康な組織のクラスタリングを明らかにした(
図15)。
【0061】
乳癌および健常組織におけるCSRのmRNA発現
健常組織および乳癌組織におけるCSRのランドスケープ発現を確定する。mRNA発現データを、ARCHS4データベース(Lachmann, A., et al. (2018), Weinstein, JN., et al. (2013))から、GTExによる31個の健康な組織の発現およびTCGAによる1,079個の乳癌サンプルにわたる9,685名から収集し、かつ処理した。これらのデータセットは、reCount2プロジェクト(Collado-Torres, L., et al. (2017))によって同じ計算パイプラインを用いて再処理されたため、直接比較可能である。乳癌腫瘍および健常組織のクラスタリングパターンを明らかにするために、t分布型確率的近傍埋め込み法を適用した。
【0062】
理想的な薬物標的CSRの同定
本発明者らは、CSRを標的とする抗癌剤が、他の健康な組織におけるCSRの発現に関連するオフターゲット有害作用も示す可能性が高いという仮説を立てた。従って、最適な薬物標的CSRは、他の健康な身体組織と比較して、疾患状態で上方制御され得る。このようなCSR標的を同定するために、TCGAからの乳癌とGTExプロジェクトからの各健康な組織との間でCSR転写産物を比較することにより、負の二項検定を用いて差次的遺伝子発現を行った。すべての乳癌組織と健常組織の比較(すなわち、交差部分)において、上方制御される(調整p値<0.05、log2 倍変化>1)ことが見いだされたCSR転写産物が、“理想的な”薬剤および抗体の標的として同定された。
【0063】
CSR転写データを用いた乳癌サブタイプの予測
乳癌はPAM50分類(ルミナルA、ルミナルB、正常様、基底細胞様およびHER-2陽性)を用いてサブタイプ分類されるため、本発明者らはCSRのmRNA転写物のみを用いて腫瘍サブタイプを再現できるかどうかを調べた。本発明者らは、TCGAデータセットで報告された乳癌PAM50サブタイプおよびCSR遺伝子の転写レベルを用いて、ブースティング決定木(boosted decision tree-based)ベースの機械学習アルゴリズムに基づく組み込み特徴選択法を適用し、乳癌PAM50サブタイプの最も重要な予測因子である50個のCSR特徴を同定した。次に、Random Undersampling Boostingを用いて20個の決定木を集約することによりアンサンブル予測モデルを訓練し、これを用いてTCGA乳癌腫瘍のサブタイプをルミナルA、ルミナルB、正常様、基底細胞様およびHER-2に予測した。
【0064】
薬剤に対するPAM50サブタイプの反応におけるCSR転写の影響
CSRのmRNA転写が、抗癌剤に対する乳癌のPAM50サブタイプの全体の効果(overall response)とどのように関連しているかを評価するために、本発明者らは乳癌細胞株の対応するPAM50サブタイプを利用した。ここでDaiら[47]およびAniruddha[48]によって4つの乳癌サブタイプに分類された乳癌細胞株のGDSC(Yang, W., et al. (2012))の用量反応を用いた。本発明者らは、2つの異なる乳癌サブタイプに属する細胞株群について、不等分散を仮定したスチューデントのt検定を用いて、32種の抗癌剤すべてについて、特定の抗癌剤に対する薬物反応を比較した。
【0065】
原発腫瘍 対 癌細胞株におけるCSR転写の比較
TCGAデータベースに代表される原発性乳癌PAM50サブタイプのCSRのmRNA転写を、GDSCデータベースに代表される対応するPAM50癌細胞株と評価するために、PAM50サブタイプの各対の間で差次的に発現される転写産物のリストを比較した。より具体的には、まず、GDSC癌細胞株のPAM50サブタイプの各対の間で、ウェルチ検定を用いて差次的に発現されるCSR転写産物を同定した。次に、乳癌原発巣のPAM50サブタイプ(例えば、基底性 対 HER2陽性)と、対応する癌細胞株(基底性 対 HER陽性)の各対の間で、差次的に発現されるCSRのリストを比較した。ここで、本発明者らは、マッチングされた各比較について、上方制御および下方制御の一致したリストを予期した。
【0066】
細胞株CSR転写および薬剤応答の関連性
乳癌細胞株は、乳癌のPAM50サブタイプ分類に関係なく、各薬剤応答性比較において2つのカテゴリーに分類された:1)薬剤のCSR標的を過剰発現する細胞株、および2)薬剤のCSR標的を過少発現(under expression)する細胞株。癌細胞株をこの2つのグループに分けるために、まず各薬剤について、本発明者らはGDSC由来の標的細胞株全体の転写プロファイルを取得し、該プロファイルにz-正規化を適用した。次に、1標準偏差のカットオフ値を用いて、zスコア値が1以上の細胞株を薬剤標的発現量の多い細胞株、-1未満の細胞株を薬剤標的発現量の少ない細胞株として分類した。zスコアが-1~1の範囲にある細胞株は、薬剤間の比較から除外した。これら2つの細胞株群(高薬物標的発現群および低薬物標的発現群)の平均薬剤応答を比較するため、本発明者らは、細胞株群の用量反応曲線の曲線下面積にウェルチ検定を適用した。
【0067】
報告された有害事象を用いた理想標的の検証
単一の抗癌剤または抗体を適用した乳癌臨床試験のデータを取得した(Zarin, D. A., et al. (2016))。さらに、本発明者らは、Pharosデータベース(Nguyen, D-T., et al. (2017))およびDrug Gene Interaction データベース(Cotto, K. C., et al. (2018))から、臨床治験に適用された各薬剤の実際の標的を得て、CSRを標的とする薬剤を利用した臨床治験のみを戻した。臨床治験の記録には、各治験参加者が経験した処置および有害事象などの参加者情報が含まれる。従って、本発明者らは、用いた抗癌剤治療および各抗癌剤について報告された有害事象に関する情報を抽出した。
【0068】
本発明者らは、臨床治験を2つに分類した:本発明者らが“理想的な”標的(すなわち、他の健康な身体組織と比較して乳癌で高発現している)として特定したCSRを採用した臨床治験、および“その他の標的”を採用した臨床治験。“理想的な標的”を採用した臨床治験では544名の参加者に有害事象が報告されたのに対し、“その他の標的”を採用した臨床治験では501名の参加者に有害事象が報告された。最後に、本発明者らは、報告された割合および実際に有害事象を経験した人数を、これら2つの臨床治験カテゴリー間で比較した。その結果、臨床治験において、“理想的な標的”の治験では“その他の標的”の治験よりも薬剤関連有害事象の報告が有意に少ないことがわかった(カイ二乗検定、χ2=15.2、p値9.8×10
-5;
図12)。また、有害事象の様々なカテゴリーにおいて、“その他の標的”の治験(中央値4.8%)では、“理想的な標的”の治験(中央値1.9%、順位-和検定統計量=186.5、p値=0.0094)よりも有害事象を報告した患者の割合が有意に高かった(
図13)。(27)
【0069】
健康な組織のCSR転写レベルを用いた有害事象の予測
臨床治験で報告された有害事象を特定の身体組織にマッピングした:例えば、“皮膚および皮下組織障害”は皮膚に、一方、“心疾患”は心臓に割り当てた。次に、本発明者らは、これらの有害事象のそれぞれを、GTExデータから得られたCSR転写物レベルの健常組織発現に関連付けた。例えば、ある抗癌剤により心臓で発生する有害事象を特定するデータの行は、健康な心臓のCSR発現と関連している。
【0070】
さらに、本発明者らは、臨床治験で用いた各薬剤について、PharosデータベースおよびDrug Gene Interactionデータベースから薬剤標的を取得し、CSRを標的とする薬剤を用いた臨床治験のみを考慮した。
【0071】
本発明者らは、これらのデータ、すなわち特定の組織に起因する有害事象および薬物標的(処置に用いられ、有害事象を引き起こす)の組織CSR転写物レベルを用いて、種々の健康な組織における有害事象を予測する機械学習モデルを訓練した。本発明者らは、線形回帰(単純な線形モデル、交互作用項およびステップワイズ法を用いる)、決定木回帰(多様なツリー(tree)および葉(leaf)のサイズ)、(種々のカーネルスケール、カーネル関数および矩形制約(box constraint)の)サポートベクターマシン回帰、アンサンブルツリー(アンサンブル学習(boosted)およびバギングツリー)、および(種々のカーネルスケール、カーネル関数ならびにシグナル標準偏差およびシグマの)ガウス過程回帰を含む20種の機械学習回帰モデルを訓練した。本発明者らは、5分割交差検証の精度に基づいて、2つの最も性能の良い回帰モデルを選択した:二次サポートベクターマシンモデル(二乗平均平方根誤差=0.042)および二乗指数ガウス過程回帰(二乗平均平方根誤差=0.043)。次に、本発明者らは、2次サポートベクターマシン回帰および二乗指数ガウス過程回帰に基づくアンサンブル機械学習アルゴリズムを訓練することによって、これらの2つの最良パフォーマンスのモデルを組み合わせた。このアンサンブルモデルは、種々の健康な組織における抗癌剤標的のCSR発現に基づいて、各特定の抗癌剤が引き起こす有害事象を予測するために用いた。
【0072】
統計分析およびデータ視覚化
統計解析はすべてMATLAB 2019bで行った。カテゴリー変数間の関連性の評価にはフィッシャーの正確検定を用いた。連続変数の比較には、独立標本スチューデントのt検定、ウェルチ検定および一元配置分散分析を適宜用いた。統計検定は、単一比較ではp<0.05で有意とみなし、多重比較のp値はベンジャミニ-ホッホベルグ法で調整した。すべての結果およびデータは、MATLAB 20109bまたはタブロー(Tableau)バージョン2019.1.7で視覚化された。
【0073】
乳癌および健常組織におけるCSRの転写ランドスケープ
種々の正常な組織におけるCSR転写パターンを定義するために、本発明者らは、GTExプロジェクト、FANTOMプロジェクトおよびHuman Protein Atlasデータベースから、101種の主要な臓器および組織のmRNA転写データを検索し、照合した。このデータをフィルタリングして1,140個のCSR遺伝子発現レベルのみを保持した後、階層的クラスタリングを用いて、種々の健康な臓器および組織におけるCSRの発現のばらつきを調べた。同様に処理された乳癌サンプルのmRNA転写データは、The Cancer Genome Atlas (TCGA)から入手され(1,091サンプル)、GTExプロジェクトから入手された健康な組織のCSR mRNA転写データ(健康な乳房組織由来の218サンプルを含む9,658サンプル)と比較した。
【0074】
乳癌と健康な乳房組織との間で差次的に発現される(log-2 倍差 >2または<-2、および調整p値<0.05)CSR転写産物は全部で634個同定され、乳癌と健康な体組織全般との間で差次的に発現されるCSR転写産物は581個同定された。ここで、健康な乳房組織よりも乳癌で高度に発現される322個のCSR転写産物が同定された(
図1)。最も有意に発現が上方制御された転写産物は、CEACAM6(log2Fc=8.8)、KCNJ(log2Fc=8.4)およびCLDN6(log2Fc=7.6)であった。さらに、非乳房健康体組織と比較して乳癌において有意に発現が上昇した72個のCSR転写産物が同定された(
図1)。このうち、VTCN1(log2Fc=7.0)、LRRC(log2Fc=5.8)およびSLITRK6(log2Fc=5.5)であった。本発明者らは、(1)健常な乳房組織と比較して乳癌で発現が上昇する転写産物、および(2)健常な非乳房組織と比較して乳癌で発現が上昇する転写産物のうち、62個の転写産物だけが共通していることを見出した(
図1)。これらに含まれるのは、ERBB2、ERBB3、EPCAMおよびIGFRの転写産物である。
【0075】
さらに本発明者らは、511個のCSR遺伝子が、健康な非乳房組織と比較して乳癌で有意に下方制御されていることを見出した。興味深いことに、乳癌で発現低下したこれらの遺伝子のうち、72個は健康な乳房組織と比較して乳癌で有意に発現上昇していた。不一致を示したこれらの転写産物の中には、FGFR3、CD48およびCCR3を含む乳癌の処置に用いられる周知の薬物標的が含まれている。これらの知見は、薬物標的が健康な乳房組織と比較して乳癌で高発現しているときでも、標的CSRは、潜在的に多くの健康な組織で高発現し得ることを示している。
【0076】
上記のようなCSRタンパク質の発現における組織間の自然なばらつきは、CSR結合抗癌分子の有用な治療薬への応用を困難なものにすると予想される。具体的には、健康な組織の細胞上に標的CSRが大量に存在することが、CSRを標的とした抗癌剤によく見られる用量制限毒性作用の主な原因であると考えられる。
【0077】
したがって、本発明者らは、健康な乳房および乳房以外の組織に発現しているCSRよりも、癌細胞に多く発現しているCSRを標的とすることで、このようなオフターゲット毒性作用を軽減できるのではないかと考えた。乳癌におけるCSR転写産物レベルを健康な組織タイプと比較することにより、乳癌において健康な組織タイプよりも有意に高発現する26個のmRNA転写産物が同定され、オフターゲットの細胞毒性作用を最小限に抑えながら抗癌剤の標的となり得ることが示された。
【0078】
PAM50乳癌サブタイプは、異なるCSR転写パターンを示す
乳癌は、PAM50と呼ばれる50の遺伝子シグネチャーに基づいて5つの分子サブタイプに分類されている。これらのPAM50サブタイプは、ルミナルA、ルミナルB、正常様、基底細胞様およびHER-2陽性である。TCGAによって異なるPAM50サブタイプに属すると分類される腫瘍間でCSR転写レベルを比較することにより、本発明者らは、種々のCSR遺伝子の転写レベルがサブタイプ間で大きく異なることを見出した(
図2)。本発明者らは、基底細胞様乳癌とルミナルA型乳癌の間で最も多くの差次的に発現される転写産物を同定し(323個)、かつルミナルA型乳癌とルミナルB乳癌の間で最も少ない差次的に発現される転写産物を同定した(32個)。
【0079】
乳癌の処置および予後において、乳癌のPAM50サブタイプ分類は極めて重要であるため、本発明者らは、CSR mRNA転写レベルの変動のみを利用して乳癌腫瘍を正確に分類できるかどうかを評価した。PAM50につき、提供されているTCGAデータベースをサンプルのCSR転写データとともに各サンプルに用いて、腫瘍を分類する教師あり機械学習モデルを訓練したと注記する。
【0080】
本発明者らは、アンサンブル・ブースト決定木モデルを適用することにより、1140個のCSR転写産物レベルのみに基づいて、乳癌サンプルのPAM50サブタイプを正確に予測(平均曲線下面積93%および分類精度89%)できることを見出した(
図3-8)。このモデルの陽性適中率は、ルミナルA乳癌で85.9%、ルミナルB乳癌で87.8%、正常様乳癌で76.9%、基底細胞様乳癌で98.2%、HER-2陽性乳癌で92.9%であった(
図3-8)。全体として、これらの結果から、HER-2型乳癌および基底細胞様乳癌が最も特徴的なCSR転写プロファイルを有するのに対し、ルミナルAおよびルミナルBは最も鑑別が困難な転写プロファイルを有することが示された。
【0081】
薬物反応は、標的となるCSRの転写レベルと関連している
本発明者らは、CSR標的薬に対する乳癌細胞株の応答プロファイルが、細胞株のPAM50サブタイプ分類に関連して異なるかどうかを評価した。GDSCから入手可能なルミナルA、ルミナルB、基底細胞様およびHER-2乳癌細胞株の薬物反応データを用いて、13種のCSR標的薬物に対する各乳癌サブタイプの細胞株間の平均薬剤応答性を対比較した。多重比較を補正した結果、基底細胞様乳癌 対 ルミナルA乳癌(調整p値=0.0079)を除き、異なるサブタイプの癌細胞株の薬剤反応プロファイルに有意差はないことが分かった。
【0082】
GDSCデータベース内にある乳癌細胞株のCSR転写プロファイルは、TCGAデータベース内にあるような原発腫瘍の転写プロファイルとは異なるかもしれないという仮説が立てられた。もしそうであれば、特定のCSRを標的とする薬剤について、細胞株の薬剤応答は、主に標的となるCSRの発現レベルの違いに基づいて細胞株間で異なることが予想される。
【0083】
この仮説を検証するため、本発明者らは、異なるPAM50サブタイプに属すると分類された細胞株間で一貫して異なる発現を示すCSR転写物に焦点を当てて解析を行った。
【0084】
基底細胞様サブタイプおよびHER2+サブタイプ、またはHER2+サブタイプおよびルミナルBサブタイプを比較したとき、有意に異なるレベルのCSR転写産物は認められなかった(p値が0.05未満、log2倍差が1以上または-1未満)。乳癌細胞株の基底細胞様サブタイプおよびルミナルBサブタイプで有意にレベルの異なるCSR転写物が1つだけ同定された。したがって、異なるPAM50サブタイプに属する原発腫瘍(CSR発現に実質的な差異を示す)と比較して、乳癌細胞株はサブタイプ間ではるかに均一なCSR発現パターンを示すことが明らかである(
図9)。このことは、少なくとも部分的には、異なるPAM50サブタイプに属する乳癌細胞株間でCSR標的薬に対する反応の均一性が観察されたことを説明し得る。
【0085】
したがって、本発明者らは、CSR標的薬剤に対する反応を比較する際に、乳癌細胞株のPAM50分類に注目するのではなく、代わりに細胞株における特定の薬剤標的CSRの発現レベルに注目し、各薬剤反応試験について、細胞株を単純にCSR発現量の高いカテゴリーと低いカテゴリーに分けた。驚くべきことに、42%(19種の抗癌剤のうち8種)の薬物反応プロファイルが、標的CSRの発現量が多い群と少ない群で有意に異なることが判明した(
図10および11)。また、これらの薬物反応比較のうち、15/19の抗癌剤が負のt値(高い群では低い群よりも有効性が高い傾向)を示し、これらの抗癌剤の多くで、薬効が標的とするCSRの転写レベルと関連していることがさらに確認された。
【0086】
健康な組織におけるCSRのmRNA転写レベルは薬物有害事象と関連する
本発明者らは、CSR標的薬の毒性は、健康な組織におけるCSR遺伝子の転写レベルと関連しているという仮説を立てた。そこで、本発明者らは、乳癌の臨床治験データを調査し、試験した抗癌剤に関連する情報を抽出し、CSR転写データが利用可能な特定の組織における薬物毒性に起因すると考えられる有害事象を報告した。
【0087】
次に、臨床治験を2つのカテゴリーに分類した:(1)健康な身体組織よりも乳癌で高発現しているCSRを標的とする薬剤を含むもの(“理想的標的”と呼ばれる)(544名;
図12および13)、ならびに(2)その他のCSRを標的とする薬剤を含むもの(“その他の標的”と呼ばれる)(501名)。そして、これら2つの臨床治験カテゴリー間で有害事象を経験した人の割合を比較した。
【0088】
臨床治験において、“理想的標的”試験では“その他の標的”試験よりも薬剤関連有害事象の報告が有意に少ないことがわかった(カイ二乗検定、χ
2= 15.2、p値9.8×10
-5;
図12)。また、有害事象の種々のカテゴリーにおいて、“その他の標的”試験(中央値4.8%)では、理想的標的治験(中央値1.9%、順位和検定統計量=186.5、p値=0.0094)よりも有害事象を報告した患者の割合が有意に高かった(
図13)。
【0089】
したがって、CSRを標的とした薬剤の有害反応と、健康な細胞における標的としたCSRの発現レベルとの間には、正の相関関係が存在することが明らかである。
【0090】
機械学習による、薬物標的のCSR転写プロファイルを用いた身体組織全体の薬物有害事象の予測
機械学習法を用いて、臨床治験データから健康な組織における薬物有害事象の発生を予測できるかどうかを検討した。ここで、本発明者らは、健康な組織に影響を及ぼす有害事象が報告された、公表された臨床薬物試験で標的とされたCSRについて、組織レベルのmRNA転写物測定に関する情報を抽出した。これらのデータは、ガウス過程回帰(Qinonero-Candela J. et al. (2007))およびサポートベクターマシン(Platt JC. (1999))アンサンブル機械学習モデルを用い、この学習済みモデルを用いて独立した試験セットを用いて副作用を予測した。
【0091】
各抗癌剤について、標的CSRの組織レベルの転写物量をインプットとして用いると、どの健康な組織に有害事象が発生するかをモデルが正確に予測した(R2=0.75)。さらに、各抗癌剤について、モデルは特定の組織に関連する有害事象を経験する可能性の高い個体の割合を正確に予測した(
図14)。例えば、本発明者らは、薬剤ダサチニブが標的とするCSR(ABL、SRC、EPH、PDGFRおよびKIT)の転写レベルで学習させたアンサンブル機械学習モデルを用いて、薬剤副作用を示す患者の割合を予測できることを示すことができた(
図14)。
【0092】
実施例2
一つの実施可能な適用例では、機械学習モデルは、抗癌剤のオフターゲット効果を予測するために、本発明に従ってシステム10内に実装できる(
図16)。より具体的には、システム10は、上記の機械学習モデル(またはアルゴリズム)を含む/組み込む予測モジュール12を含む。システム10はまた、通信ネットワーク/リンク18(例えば、インターネット)を介して1名以上のユーザー16(例えば、医師)と通信するように構成された通信モジュール14を含む。
【0093】
実際には、ユーザー16は、コンピューター20またはスマートデバイス(例えば、スマートフォンまたはタブレット)を利用して、通信ネットワーク18を介して特定の抗癌剤に関する情報を通信モジュール14に送信する。換言すれば、ユーザー16は通信モジュール14から離れた場所にいてもよい。次に、予測モジュール12は、特定の抗癌剤で処置された対象の健康な臓器または組織においてオフターゲット効果が発生する可能性を予測するために、機械学習モデルを利用する。その後、通信モジュール14は、予測された尤度を通信ネットワーク18を介してユーザー16に返信する。
【0094】
少しの変形例として、予測モジュール12および通信モジュール14は、コンピューター、スマートデバイスまたは別のコンピューティングデバイス(例えば、コンピューター20)上に実装でき、その後、ユーザー16によって使用される。この例では、通信モジュール14は、通信ネットワークを介して情報を送信する代わりに、ユーザーインターフェース(例えば、コンピューターまたはスマートデバイスのディスプレイ画面上に表示される)を介してユーザー16と通信する。
【0095】
実施例3
健康な組織と比較した種々の癌におけるCSRの分析
理想的な標的の同定
CSRを標的とする抗癌剤は、他の健康な組織におけるCSRの発現に関連するオフターゲット有害作用も示す可能性が高い。従って、最適な薬物標的CSRは、他の健康な組織と比較して、疾患状態で発現量が増加し得る。このようなCSR標的を同定するために、TCGAからの各癌タイプおよびGTExプロジェクトからの各健康な組織のCSR転写レベルを比較し、負の二項検定(Anders and Huber (2010))を用いた差次的遺伝子発現を行った。本発明者らによって研究/スクリーニングされた健康な組織としては、脂肪組織、副腎、膀胱、血液、血管、骨髄、脳、乳房、子宮頸部、結腸、食道、卵管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、神経、卵巣、膵臓、下垂体、前立腺、唾液腺、皮膚、小腸、脾臓、胃、精巣、甲状腺、子宮および膣が挙げられる。スクリーニングされた癌種ごとに、全身標的として同定されたCSR標的を表1および
図17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65および67に示す。本発明者らは、腫瘍細胞が由来する健康な正常細胞と比較して腫瘍細胞で上方制御(調整p値<0.05かつlog2倍変化 >2)されていることが判明したCSR転写物、および健康な組織と比較して腫瘍細胞で上方制御(調整p値<0.05かつlog2 倍変化 >2)されていることが判明したCSR転写物を考慮し、“理想的な”薬物および抗体標的を得た。このような理想的な標的をターゲットとする抗癌剤は、対象にオフターゲット作用が起こる可能性が極めて低いため、全身投与が可能である。
【0096】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【0097】
その他の標的の同定
腫瘍細胞が由来する健康な正常細胞と比較して、腫瘍細胞上で上方制御(調整p値<0.05、log2 倍変化 >2)されたCSR転写産物であって、健康な組織との比較では上方制御されなかったものを、本発明者らが“その他の”薬物および抗体の標的として提案するものに戻した。これらのCSR標的を
図18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66および68に示す。これらの他のターゲットを標的とする抗癌剤は、他の健康な組織でのCSR発現から生じる予期されるオフターゲット作用を避けるために、局所投与され得る。
【0098】
文献
Anders S and Huber W. Differential expression analysis for sequence count data. Genome Biol 2010;11:R106. doi:10.1186/gb-2010-11-10-r106
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【国際調査報告】