(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】二重特異性分子並びに関連する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240312BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240312BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240312BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240312BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240312BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240312BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240312BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240312BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C12N15/63 Z
C07K19/00
A61K39/395 N
A61K38/16
A61K47/42
A61P35/00
A61P37/02
A61K47/64
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560076
(86)(22)【出願日】2022-04-01
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 US2022023166
(87)【国際公開番号】W WO2022212918
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ベルトッツィ、 キャロライン アール.
(72)【発明者】
【氏名】スターク、 ジェシカ
(72)【発明者】
【氏名】グレイ、 メリッサ
(72)【発明者】
【氏名】ウィスノフスキ、 サイモン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076BB11
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084BA41
4C084CA53
4C084MA55
4C084NA14
4C084ZB07
4C084ZB26
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD33
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本開示の態様は、二重特異性分子を含む。二重特異性分子は、細胞標的化部分及びグリカン結合部分を含む。いくつかの実施形態によれば、細胞標的化部分は、がん細胞標的化部分又は免疫細胞標的化部分である。特定の実施形態において、グリカン結合部分は、レクチンのシアログリカン結合ドメインを含み、その非限定的な例は、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Siglec)である。二重特異性分子は、ヘテロ二量体分子、融合タンパク質、コンジュゲートなどを含む種々の形態をとってもよい。例えば治療目的のために二官能性分子を使用する組成物、キット及び方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重特異性分子であって、
細胞標的化部分と、
グリカン結合部分と、を含む、二重特異性分子。
【請求項2】
前記細胞標的化部分が、がん細胞標的化部分である、請求項1に記載の二重特異性分子。
【請求項3】
前記がん細胞標的化部分が、5T4、AXL受容体チロシンキナーゼ(AXL)、B細胞成熟抗原(BCMA)、c-MET、C4.4a、炭酸アンヒドラーゼ6(CA6)、炭酸アンヒドラーゼ9(CA9)、カドヘリン-6、CD19、CD20、CD22、CD25、CD27L、CD30、CD33、CD37、CD44、CD44v6、CD56、CD70、CD74、CD79b、CD123、CD138、がん胚性抗原(CEA)、cKit、Criptoタンパク質、CS1、デルタ様カノニカルノッチリガンド3(DLL3)、エンドセリン受容体タイプB(EDNRB)、エフリンA4(EFNA4)、上皮成長因子受容体(EGFR)、EGFRvIII、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ3(ENPP3)、EPH受容体A2(EPHA2)、線維芽細胞成長因子受容体2(FGFR2)、線維芽細胞成長因子受容体3(FGFR3)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)、葉酸受容体1(FOLR1)、GD2ガングリオシド、糖タンパク質非転移性B(GPNMB)、グアニル酸シクラーゼ2C(GUCY2C)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、ヒト上皮成長因子受容体3(HER3)、インテグリンアルファ、リソソーム関連膜タンパク質1(LAMP-1)、ルイスY、LIV-1、ロイシンリッチリピート含有15(LRRC15)、メソセリン(MSLN)、ムチン1(MUC1)、ムチン16(MUC16)、ナトリウム依存性リン酸輸送タンパク質2B(NaPi2b)、ネクチン-4、NMB、NOTCH3、p-カドヘリン(p-CAD)、プログラム細胞死受容体リガンド1(PD-L1)、プログラム細胞死受容体リガンド2(PD-L2)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、タンパク質チロシンキナーゼ7(PTK7)、溶質担体ファミリー44メンバー4(SLC44A4)、SLIT様ファミリーメンバー6(SLITRK6)、STEAPファミリーメンバー1(STEAP1)、組織因子(TF)、T細胞免疫グロブリン及びムチンタンパク質-1(TIM-1)、Tn抗原、栄養芽細胞表面抗原(TROP-2)、並びにウィルムス腫瘍1(WT1)からなる群から選択されるがん細胞表面分子に結合する、請求項2に記載の二重特異性分子。
【請求項4】
前記細胞標的化部分が、免疫細胞標的化部分である、請求項1に記載の二重特異性分子。
【請求項5】
前記免疫細胞標的化部分が、PD-1、PD-L1、PD-L2、CLTA-4、VISTA、LAG-3、TIM-3、CD24、CD47、SIRPアルファ、CD3、CD8、CD4、CD28、CD80、CD86、CD19、ICOS、OX40、OX40L、GD3ガングリオシド、TIGIT、Siglec-2、Siglec-3、Siglec-7、Siglec-8、Siglec-9、Siglec-10、Siglec-15、ガレクチン-9、B7-H3、B7-H4、CD40、CD40L、B7RP1、CD70、CD27、BTLA、HVEM、KIR、4-1BB、4-1BBL、CD226、CD155、CD112、GITR、GITRL、A2aR、CD137、CD137L、CD45、CD206、CD163、TRAIL、NKG2D、CD16、及びTGF-ベータからなる群から選択される免疫細胞表面分子に結合する、請求項4に記載の二重特異性分子。
【請求項6】
前記グリカン結合部分が、シアログリカン結合部分を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項7】
前記シアログリカン結合部分が、レクチンのシアログリカン結合ドメインを含む、請求項6に記載の二重特異性分子。
【請求項8】
前記レクチンが、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Siglec)である、請求項7に記載の二重特異性分子。
【請求項9】
前記Siglecが、CD33関連Siglecである、請求項8に記載の二重特異性分子。
【請求項10】
前記CD33関連Siglecが、Siglec-7、Siglec-9、及びSiglec-10からなる群から選択される、請求項9に記載の二重特異性分子。
【請求項11】
前記CD33関連Siglecが、Siglec-7である、請求項10に記載の二重特異性分子。
【請求項12】
前記CD33関連Siglecが、Siglec-9である、請求項10に記載の二重特異性分子。
【請求項13】
前記Siglecが、Siglec-15である、請求項8に記載の二重特異性分子。
【請求項14】
前記シアログリカン結合部分が、Siglec様アドヘシンのシアログリカン結合ドメインを含む、請求項6に記載の二重特異性分子。
【請求項15】
前記グリカン結合部分が、C型レクチンのグリカン結合ドメインを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項16】
前記C型レクチンが、DECTIN-1、レクチン様酸化低密度リポタンパク質受容体-1(LOX-1)、C型レクチン様受容体-1(CLEC-1)、C型レクチン様受容体2(CLEC-2)、骨髄阻害性C型レクチン様受容体(MICL)、CLEC9A、DC免疫受容体(DCIR)、DECTIN-2、血中DC抗原-2(BDCA-2)、マクロファージ誘導性C型レクチン(MINCLE)、マクロファージガラクトースレクチン(MGL)、又はアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)である、請求項15に記載の二重特異性分子。
【請求項17】
前記グリカン結合部分が、ガレクチンのグリカン結合ドメインを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項18】
前記ガレクチンが、Gal-1、Gal-2、Gal-3、Gal-4、Gal-5、Gal-6、Gal-7、Gal-8、Gal-9、Gal-10、Gal-11、Gal-12、Gal-13、Gal-14、又はGal-15である、請求項17に記載の二重特異性分子。
【請求項19】
前記ガレクチンがGal-1である、請求項17に記載の二重特異性分子。
【請求項20】
前記ガレクチンがGal-3である、請求項17に記載の二重特異性分子。
【請求項21】
前記グリカン結合部分が、セレクチンのグリカン結合ドメインを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項22】
前記セレクチンが、P-セレクチン(CD62P)、E-セレクチン(CD62E)、又はL-セレクチン(CD62L)である、請求項21に記載の二重特異性分子。
【請求項23】
前記細胞標的化部分が、標的細胞の表面上の受容体に対するリガンド、又は標的細胞上の細胞表面分子に結合する小分子を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項24】
前記細胞標的化部分が、抗体の抗原結合ドメインを含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項25】
前記細胞標的化部分が、可変重鎖(V
H)領域を含む抗体重鎖及び可変軽鎖(V
L)領域を含む抗体軽鎖を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項26】
前記抗体重鎖が、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項25に記載の二重特異性分子。
【請求項27】
前記抗体重鎖が、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はその両方を含む、請求項25又は26に記載の二重特異性分子。
【請求項28】
前記抗体重鎖が、結晶化可能断片(Fc)領域を含む、請求項25~27のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項29】
前記グリカン結合部分が、抗体重鎖ドメインを含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項30】
前記グリカン結合部分の前記抗体重鎖ドメインが、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項29に記載の二重特異性分子。
【請求項31】
前記グリカン結合部分の前記抗体重鎖ドメインが、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はその両方を含む、請求項29又は30に記載の二重特異性分子。
【請求項32】
前記グリカン結合部分の前記抗体重鎖ドメインが、結晶化可能断片(Fc)領域を含む、請求項29~31のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項33】
前記細胞標的化部分が、CH3ドメインを含む抗体重鎖を含み、前記二重特異性分子が、ノブ・イントゥ・ホール修飾CH3ドメインを含むヘテロ二量体である、請求項31又は請求項32に記載の二重特異性分子。
【請求項34】
前記二重特異性分子が、前記グリカン結合部分に融合した前記細胞標的化部分を含む融合タンパク質である、請求項1~32のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項35】
前記細胞標的化部分が、前記グリカン結合部分に直接的に融合している、請求項34に記載の二重特異性分子。
【請求項36】
前記細胞標的化部分が、リンカーを介して前記グリカン結合部分に間接的に融合している、請求項34に記載の二重特異性分子。
【請求項37】
前記二重特異性分子が、前記グリカン結合部分にコンジュゲートした前記細胞標的化部分を含むコンジュゲートである、請求項1~32のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【請求項38】
核酸であって、
請求項1~36のいずれか一項に記載の二重特異性分子の細胞標的化部分;
請求項1~36のいずれか一項に記載の二重特異性分子のグリカン結合部分;又は
その両方をコードする、核酸。
【請求項39】
請求項38に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項40】
医薬組成物であって、
請求項1~37のいずれか一項に記載の二重特異性分子と、
薬学的に許容される担体と、を含む、医薬組成物。
【請求項41】
前記細胞標的化部分が、がん細胞標的化部分である、請求項40に記載の医薬組成物。
【請求項42】
前記細胞標的化部分が、免疫細胞標的化部分である、請求項40に記載の医薬組成物。
【請求項43】
キットであって、
請求項40~42のいずれか一項に記載の医薬組成物の1回以上の単位投与量と、
前記医薬組成物の1回以上の単位投与量を、それを必要とする個体に投与するための説明書と、を含む、キット。
【請求項44】
前記医薬組成物の2回以上の単位投与量を含む、請求項43に記載のキット。
【請求項45】
前記細胞標的化部分が、がん細胞標的化部分であり、前記説明書が、抗腫瘍免疫の増強を必要とする個体に前記医薬組成物の1回以上の単位投与量を投与するための説明書を含む、請求項43又は請求項44に記載のキット。
【請求項46】
前記細胞標的化部分が、免疫細胞標的化部分であり、前記説明書が、免疫応答の増強又は抑制を必要とする個体に前記医薬組成物の1回以上の単位投与量を投与するための説明書を含む、請求項43又は請求項44に記載のキット。
【請求項47】
抗腫瘍免疫の増強を必要とする個体において抗腫瘍免疫を増強する方法であって、
有効量の請求項41に記載の医薬組成物を前記個体に投与することを含む、方法。
【請求項48】
免疫応答の増強又は抑制を必要とする個体において免疫応答を増強又は抑制する方法であって、
有効量の請求項42に記載の医薬組成物を前記個体に投与することを含む、方法。
【請求項49】
前記投与が、非経口投与によるものである、請求項47又は請求項48に記載の方法。
【請求項50】
二重特異性分子であって、
Fc領域に融合された細胞標的化部分と、
Fc領域に融合された受容体のリガンド結合ドメインを含む部分と、を含み、
前記細胞標的化部分及び受容体のリガンド結合ドメインを含む前記部分が、前記Fc領域を介してヘテロ二量体化されている、二重特異性分子。
【請求項51】
前記細胞標的化部分が、請求項2~5のいずれか一項に記載される通りである、請求項50に記載の二重特異性分子。
【請求項52】
受容体のリガンド結合ドメインを含む前記部分が、細胞表面リガンドに結合する受容体のリガンド結合ドメインを含む、請求項50又は請求項51に記載の二重特異性分子。
【請求項53】
前記二重特異性分子が、ノブ・イントゥ・ホール修飾CH3ドメインを含むヘテロ二量体である、請求項50~52のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月2日に出願された米国仮特許出願第63/170,297号の利益を主張し、この出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府支援の声明
本発明は、国立衛生研究所によって授与された契約CA226051、CA250324、及びGM058867の下で政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
テキストファイルとして提供される配列表の参照による組込み
配列表は、2022年4月1日に作成され、425,000バイトのファイルサイズを有するテキストファイル(S21-091_STAN-1838WO_SEQ_LIST_ST25)で本明細書と共に提供される。テキストファイルの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
序論
選択された症例において観察されたがん免疫療法の顕著な利益にもかかわらず、多くの腫瘍は、既存の処置に対して非応答性のままである。したがって、がんの進行を推進する更なる免疫チェックポイントを標的とする療法に対する満たされていない必要性がある。細胞表面上のシアル酸単糖の高シアリル化、又はアップレギュレーションは、侵襲性及び転移速度の増加に関連するがんの確立された顕著な特徴である。新たな証拠は、高シアリル化により、腫瘍が免疫細胞上のSiglecと呼ばれる阻害性グリカン結合受容体に関与することが可能になることを示唆している。Siglec受容体は、あらゆる免疫細胞クラスによって発現され、8つのSiglecファミリーメンバーの細胞内ドメインは、確立されたPD-1免疫チェックポイントに対する相同性を有する。これらの研究は、Siglec及びそれらのシアログリカンリガンドを、がん進行に寄与する免疫チェックポイントとして確立している。
【0005】
Siglec-シアログリカン免疫チェックポイントの発見及び特性評価は、チェックポイント遮断のためにSiglec受容体を標的化することへの関心に拍車をかけてきた。しかしながら、高い親和性及び選択性を有するグリカン結合試薬の欠如は、これまで、チェックポイント遮断のための腫瘍関連シアログリカンリガンドの標的化を予防してきた。哺乳動物グリカン構造の弱い免疫原性は、歴史的に、抗グリカン抗体の開発を妨げてきた。たとえグリカン結合抗体が利用可能であったとしても、Siglecに関与するために腫瘍によって使用されるシアログリカンの同一性は完全には理解されておらず、標的としてのそれらの使用が排除されている。可溶性Siglec-Fcキメラは、天然シアログリカン結合特異性を維持することが示されているが、それらの結合親和性は、デコイ受容体治療薬として使用するには低すぎる。したがって、チェックポイント遮断のために腫瘍関連シアログリカンを標的化するのに有効な薬剤が必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
本開示の態様は、二重特異性分子を含む。二重特異性分子は、細胞標的化部分及びグリカン結合部分を含む。いくつかの実施形態によれば、細胞標的化部分は、がん細胞標的化部分又は免疫細胞標的化部分である。特定の実施形態において、グリカン結合部分は、レクチンのシアログリカン結合ドメインを含み、その非限定的な例は、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Siglec)である。二重特異性分子は、ヘテロ二量体分子、融合タンパク質、コンジュゲートなどを含む種々の形態をとってもよい。例えば治療目的のために二官能性分子を使用する組成物、キット及び方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1a】抗体-レクチン(AbLec)二重特異性抗体が、チェックポイント遮断のためのレクチンデコイ受容体の使用を可能にすることを実証する概略図及びデータである。
【
図1b】抗体-レクチン(AbLec)二重特異性抗体が、チェックポイント遮断のためのレクチンデコイ受容体の使用を可能にすることを実証する概略図及びデータである。
【
図1c】抗体-レクチン(AbLec)二重特異性抗体が、チェックポイント遮断のためのレクチンデコイ受容体の使用を可能にすることを実証する概略図及びデータである。
【
図1d】抗体-レクチン(AbLec)二重特異性抗体が、チェックポイント遮断のためのレクチンデコイ受容体の使用を可能にすることを実証する概略図及びデータである。
【
図1e】抗体-レクチン(AbLec)二重特異性抗体が、チェックポイント遮断のためのレクチンデコイ受容体の使用を可能にすることを実証する概略図及びデータである。
【
図2a】AbLecが標的化グリカン結合免疫受容体の結合を遮断することを実証する概略図及びデータである。
【
図2b】AbLecが標的化グリカン結合免疫受容体の結合を遮断することを実証する概略図及びデータである。
【
図2c】AbLecが標的化グリカン結合免疫受容体の結合を遮断することを実証する概略図及びデータである。
【
図2d】AbLecが標的化グリカン結合免疫受容体の結合を遮断することを実証する概略図及びデータである。
【
図2e】AbLecが標的化グリカン結合免疫受容体の結合を遮断することを実証する概略図及びデータである。
【
図2f】AbLecが標的化グリカン結合免疫受容体の結合を遮断することを実証する概略図及びデータである。
【
図3a】AbLecが抗体依存性細胞食作用及び細胞傷害性インビトロを増強することを実証する概略図及びデータである。
【
図3b】AbLecが抗体依存性細胞食作用及び細胞傷害性インビトロを増強することを実証する概略図及びデータである。
【
図3c】AbLecが抗体依存性細胞食作用及び細胞傷害性インビトロを増強することを実証する概略図及びデータである。
【
図3d】AbLecが抗体依存性細胞食作用及び細胞傷害性インビトロを増強することを実証する概略図及びデータである。
【
図3e】AbLecが抗体依存性細胞食作用及び細胞傷害性インビトロを増強することを実証する概略図及びデータである。
【
図4】インビトロADCPのAbLec増強が、標的抗原(この実施例では、トラスツズマブアームによって標的化されるHER2)の発現に依存することを実証するデータである。
【
図5】AbLecがヒト腫瘍細胞株に結合し、Siglec受容体結合を遮断することを実証するデータである。
【
図6a】AbLecが抗腫瘍免疫応答インビトロのSiglec依存性増強を介して併用免疫療法よりも優れていることを実証する概略図及びデータである。
【
図6b】AbLecが抗腫瘍免疫応答インビトロのSiglec依存性増強を介して併用免疫療法よりも優れていることを実証する概略図及びデータである。
【
図6c】AbLecが抗腫瘍免疫応答インビトロのSiglec依存性増強を介して併用免疫療法よりも優れていることを実証する概略図及びデータである。
【
図6d】AbLecが抗腫瘍免疫応答インビトロのSiglec依存性増強を介して併用免疫療法よりも優れていることを実証する概略図及びデータである。
【
図7a】AbLecプラットフォームが多様な糖免疫チェックポイント標的の遮断を可能にすることを実証する概略図及びデータである。
【
図7b】AbLecプラットフォームが多様な糖免疫チェックポイント標的の遮断を可能にすることを実証する概略図及びデータである。
【
図7c】AbLecプラットフォームが多様な糖免疫チェックポイント標的の遮断を可能にすることを実証する概略図及びデータである。
【
図7d】AbLecプラットフォームが多様な糖免疫チェックポイント標的の遮断を可能にすることを実証する概略図及びデータである。
【
図8】R7 AbLecが、リツキシマブと比較してCD 20+Raji細胞のADCCを増強することを実証するデータである。
【
図9-1】多様なAbLec分子の発現を実証する概略図及びデータである。
【
図9-2】多様なAbLec分子の発現を実証する概略図及びデータである。
【
図9-3】多様なAbLec分子の発現を実証する概略図及びデータである。
【
図9-4】多様なAbLec分子の発現を実証する概略図及びデータである。
【
図9-5】多様なAbLec分子の発現を実証する概略図及びデータである。
【
図10】グリカン免疫チェックポイントを標的化するためのモジュール剤としてのAbLecの概略図である。
【
図11】質量分析によって確認された、ヘテロ二量体形成を促進するためのノブ・イントゥ・ホール修飾CH3ドメインを含む例示的なリツキシマブ-Siglec-7 AbLecヘテロ二量体(「Ritux-Sig7 AbLec」)のアミノ酸配列である。
【
図12】質量分析によって確認された、ヘテロ二量体形成を促進するためのノブ・イントゥ・ホール修飾CH3ドメインを含む例示的なリツキシマブ-Siglec-9 AbLecヘテロ二量体(「Ritux-Sig9 AbLec」)のアミノ酸配列である。
【
図13】質量分析によって確認された、ヘテロ二量体形成を促進するためのノブ・イントゥ・ホール修飾CH3ドメインを含む例示的なトラスツズマブ-Siglec-9 AbLecヘテロ二量体(「Tras-Sig9 AbLec」)のアミノ酸配列である。
【
図14】質量分析によって確認された、ヘテロ二量体形成を促進するためのノブ・イントゥ・ホール修飾CH3ドメインを含む例示的なトラスツズマブ-Siglec-7 AbLecヘテロ二量体(「Tras-Sig7 AbLec」)のアミノ酸配列である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の二重特異性分子、組成物及び方法がより詳細に記載される前に、二重特異性分子、組成物及び方法は、記載される特定の実施形態に限定されず、したがって当然のことながら変化し得ることが理解されるべきである。二重特異性分子、組成物及び方法の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0009】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限との間の各介在値、及びその記載された範囲内の任意の他の記載された値又は介在値は、文脈が別途明確に指示しない限り、下限の単位の10分の1まで、二重特異性分子、組成物、及び方法内に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立して、より小さい範囲に含まれてもよく、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界に従って、二重特異性分子、組成物、及び方法内にも包含される。記載された範囲が限界の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限界のいずれか又は両方を除外する範囲も、二重特異性分子、組成物、及び方法に含まれる。
【0010】
特定の範囲は、「約」という用語が先行する数値で本明細書に提示される。「約」という用語は、本明細書では、それが先行する正確な数、並びにその用語が先行する数に近いか又は近似している数に対する文字通りの裏付けを提供するために使用される。ある数が具体的に列挙された数に近いか、又は近似しているかどうかを決定する際に、その近いか、又は近似している列挙されていない数は、それが提示されている文脈において、具体的に列挙された数の実質的な等価物を提供する数であってもよい。
【0011】
別途定義される場合を除き、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、二重特異性分子、組成物及び方法が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の二重特異性分子、組成物及び方法もまた、二重特異性分子、組成物及び方法の実施又は試験に使用することができるが、ここでは代表的な例証的な二重特異性分子、組成物及び方法を記載する。
【0012】
本明細書に引用される全ての刊行物及び特許は、各個々の刊行物又は特許が具体的かつ個々に参照により組み込まれることが示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれ、刊行物が引用されている材料及び/又は方法を開示及び記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。任意の刊行物の引用は、出願日より前のその開示のためであり、提供される刊行物の日付が、独立して確認される必要があり得る実際の公開日とは異なり得るので、本発明の二重特異性分子、組成物、及び方法がこのような刊行物に先行する権利がないことの承認として解釈されるべきではない。
【0013】
本明細書及び添付の「特許請求の範囲」で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が別途明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。特許請求の範囲は、任意の要素を除外するように作成され得ることに更に留意されたい。したがって、この記述は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連して「単独で(solely)」、「のみ(only)」などの排他的用語の使用、又は「否定的」限定の使用のための先行詞としての役割を果たすことが意図される。
【0014】
また、明確にするために、別個の実施形態の文脈において記載される二重特異性分子、組成物、及び方法の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよいことが理解される。逆に、簡潔にするために、単一の実施形態の文脈において記載される二重特異性分子、組成物、及び方法の様々な特徴はまた、別個に又は任意の好適な部分的組み合わせで提供されてもよい。実施形態の全ての組み合わせは、本開示によって具体的に包含され、このような組み合わせが実施可能なプロセス及び/又は組成物を包含する程度まで、ありとあらゆる組み合わせが個々にかつ明示的に開示されたかのように本明細書に開示される。加えて、このような変数を記載する実施形態において列挙される全ての部分的組み合わせもまた、本発明の二重特異性分子、組成物、及び方法によって具体的に包含され、ありとあらゆるこのような部分的組み合わせが、個々にかつ明示的に本明細書に開示されたかのように本明細書に開示される。
【0015】
本開示を読んだ後に当業者に明らかになるように、本明細書に記載及び例証される個々の実施形態は各々、本方法の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態のうちのいずれかの特徴から容易に分離され得るか、又はそれらと組み合わせられ得る別個の構成要素及び特徴を有する。任意の列挙された方法は、列挙された事象の順序で、又は論理的に可能な任意の他の順序で行うことができる。
【0016】
二重特異性分子
本開示は、二重特異性分子を提供する。二重特異性分子は、細胞標的化部分(例えば、がん細胞標的化部分又は免疫細胞標的化部分)及びグリカン結合部分を含む。特定の実施形態において、グリカン結合部分は、レクチンのシアログリカン結合ドメインを含み、その非限定的な例は、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Siglec)である。二重特異性分子は、ヘテロ二量体分子、融合タンパク質、コンジュゲートなどを含む種々の形態をとってもよい。本明細書において実証されるように、がん細胞標的化部分及びグリカン結合部分を含む本開示の二重特異性分子は、例えば、抗体依存性細胞食作用(ADCP)及び/又は細胞傷害性(ADCC)の増強によって、抗腫瘍免疫応答を増強するのに有効である。更に、増強には二重特異性フォーマットが必要であり、結果は、単一の二重特異性分子において腫瘍細胞標的化アームとグリカン結合アームとを組み合わせることから生じる治療的相乗作用を実証する。本明細書で使用される場合、2つ以上の個々の成分によって生じる効果に関する「相乗作用」又は「相乗効果」は、これらの成分によって生じる全効果が、組み合わせて利用される場合(ここでは、単一の二重特異性分子中に存在する)、単独で作用する各成分の個々の効果の合計よりも大きい現象を指す。ここで、本開示の実施形態による二重特異性分子に関する更なる詳細を記載する。
【0017】
細胞標的化部分
種々の細胞標的化部分が、本開示の二重特異性分子において用いられてもよい。特定の実施形態において、細胞標的化部分は、がん細胞標的化部分である。「がん細胞」とは、以下の例示的な特性の1つ以上によって特徴付けられ得る、新生物細胞表現型を示す細胞を意味する:異常な細胞成長、異常な細胞増殖、密度依存性の成長阻害の喪失、足場非依存性の成長能力、免疫無防備状態の非ヒト動物モデルにおける腫瘍成長及び/若しくは発達を促進する能力、並びに/又は細胞形質転換の任意の適切な指標。「がん細胞」は、本明細書では「腫瘍細胞」、「悪性細胞」又は「がん性細胞」と互換的に使用されてもよく、固形腫瘍、半固形腫瘍、血液悪性腫瘍(例えば、白血病細胞、リンパ腫細胞、骨髄腫細胞など)、原発腫瘍、転移性腫瘍などのがん細胞を包含する。
【0018】
特定の実施形態において、細胞標的化部分ががん細胞標的化部分である場合、がん細胞標的化部分は、がん細胞の表面上に発現される分子(例えば、タンパク質)に特異的に結合する。がん細胞標的化部分が特異的に結合し得るがん細胞表面分子の非限定的な例としては、5T4、AXL受容体チロシンキナーゼ(AXL)、B細胞成熟抗原(BCMA)、c-MET、C4.4a、炭酸アンヒドラーゼ6(CA6)、炭酸アンヒドラーゼ9(CA9)、カドヘリン-6、CD19、CD20、CD22、CD25、CD27L、CD30、CD33、CD37、CD44、CD44v6、CD56、CD70、CD74、CD79b、CD123、CD138、がん胚性抗原(CEA)、cKit、Criptoタンパク質、CS1、デルタ様カノニカルノッチリガンド3(DLL3)、エンドセリン受容体タイプB(EDNRB)、エフリンA4(EFNA4)、上皮成長因子受容体(EGFR)、EGFRvIII、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ3(ENPP3)、EPH受容体A2(EPHA2)、線維芽細胞成長因子受容体2(FGFR2)、線維芽細胞成長因子受容体3(FGFR3)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)、葉酸受容体1(FOLR1)、GD2ガングリオシド、糖タンパク質非転移性B(GPNMB)、グアニル酸シクラーゼ2C(GUCY2C)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、ヒト上皮成長因子受容体3(HER3)、インテグリンアルファ、リソソーム関連膜タンパク質1(LAMP-1)、ルイスY、LIV-1、ロイシンリッチリピート含有15(LRRC15)、メソセリン(MSLN)、ムチン1(MUC1)、ムチン16(MUC16)、ナトリウム依存性リン酸輸送タンパク質2B(NaPi2b)、ネクチン-4、NMB、NOTCH3、p-カドヘリン(p-CAD)、プログラム細胞死受容体リガンド1(PD-L1)、プログラム細胞死受容体リガンド2(PD-L2)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、タンパク質チロシンキナーゼ7(PTK7)、溶質担体ファミリー44メンバー4(SLC44A4)、SLIT様ファミリーメンバー6(SLITRK6)、STEAPファミリーメンバー1(STEAP1)、組織因子(TF)、T細胞免疫グロブリン及びムチンタンパク質-1(TIM-1)、Tn抗原、栄養芽細胞表面抗原(TROP-2)、並びにウィルムス腫瘍1(WT1)が挙げられる。
【0019】
いくつかの実施形態によれば、細胞標的化部分は、免疫細胞標的化部分である。特定の実施形態において、細胞標的化部分が免疫細胞標的化部分である場合、免疫細胞標的化部分は、免疫細胞の表面上に発現される分子(例えば、タンパク質)に特異的に結合する。免疫細胞標的化部分は、任意の所望の免疫細胞を標的化するように選択されてもよく、その非限定的な例としては、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好中球、樹状細胞、肥満細胞、好塩基球、及び好酸球が挙げられる。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、T細胞である。例示的なT細胞型としては、ナイーブT細胞(TN)、細胞傷害性T細胞(TCTL)、メモリーT細胞(TMEM)、Tメモリー幹細胞(TSCM)、セントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)、組織常在性メモリーT細胞(TRM)、エフェクターT細胞(TEFF)、調節性T細胞(TREG)、ヘルパーT細胞(TH、TH1、TH2、TH17)CD4+T細胞、CD8+T細胞、ウイルス特異的T細胞、アルファベータT細胞(Tαβ)、及びガンマデルタT細胞(Tγδ)が挙げられる。
【0020】
免疫細胞標的化部分が特異的に結合し得る免疫細胞表面分子の非限定的な例としては、PD-1、PD-L1、PD-L2、CLTA-4、VISTA、LAG-3、TIM-3、CD24、CD47、SIRPアルファ、CD3、CD8、CD4、CD28、CD80、CD86、CD19、ICOS、OX40、OX40L、GD3ガングリオシド、TIGIT、Siglec-2、Siglec-3、Siglec-7、Siglec-8、Siglec-9、Siglec-10、Siglec-15、ガレクチン-9、B7-H3、B7-H4、CD40、CD40L、B7RP1、CD70、CD27、BTLA、HVEM、KIR、4-1BB、4-1BBL、CD226、CD155、CD112、GITR、GITRL、A2aR、CD137、CD137L、CD45、CD206、CD163、TRAIL、NKG2D、CD16、及びTGF-ベータが挙げられる。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、細胞標的化部分は、標的細胞上の細胞表面分子に結合する小分子を含む。「小分子」とは、1000原子質量単位(amu)以下の分子量を有する化合物を意味する。特定の実施形態において、小分子は、750amu以下、500amu以下、400amu以下、300amu以下、又は200amu以下である。いくつかの実施形態において、小分子は、ポリマー中に存在するような反復分子単位で作製されていない。特定の実施形態において、標的細胞表面分子は、リガンドが小分子である受容体であり、細胞標的化部分の小分子は、受容体の小分子リガンド(又はその誘導体)である。目的の標的細胞にコンジュゲートを標的化する際に使用される低分子が知られている。ほんの一例として、葉酸(FA)誘導体は、例えば多くの上皮腫瘍において過剰発現される葉酸受容体に結合することによってある種のがん細胞を効果的に標的とすることが示されている。例えば、Vergote et al.(2015)Ther.Adv.Med.Oncol.7(4):206-218を参照されたい。別の例では、小分子シグマ-2は、がん細胞の標的化において有効であることが証明されている。例えば、Hashim et al.(2014)Molecular Oncology8(5):956-967を参照されたい。シグマ-2は、シグマ-2受容体の小分子リガンドであり、膵臓がん細胞を含む多くの増殖腫瘍細胞において過剰発現される。特定の態様において、本開示の二重特異性分子の細胞標的化部分は小分子を含み、小分子は、標的細胞上の細胞表面分子に結合することによって、目的の標的細胞にコンジュゲートを標的化するのに有効であることが小分子薬物コンジュゲート(SMDC)との関連で実証されている。
【0022】
特定の実施形態によれば、細胞標的化部分は、リガンドを含む。本明細書中で使用される場合、「リガンド」は、生物学的目的を果たすために生体分子と複合物を形成する物質である。リガンドは、標的細胞の表面上の細胞表面分子と複合物を形成する循環因子、分泌因子、サイトカイン、成長因子、ホルモン、ペプチド、ポリペプチド、小分子及び核酸から選択される物質であってもよい。特定の実施形態において、細胞標的化部分がリガンドを含む場合、リガンドは、細胞表面分子との複合体形成が起こるが、そのような複合体形成の通常の生物学的結果は起こらないように修飾される。特定の態様において、リガンドは、標的細胞上に存在する細胞表面受容体のリガンドである。
【0023】
特定の実施形態において、細胞標的化部分は、アプタマーを含む。「アプタマー」とは、標的細胞表面分子に対する特異的結合親和性を有する核酸(例えば、オリゴヌクレオチド)を意味する。アプタマーは、選択及び合成の容易さ、高い結合親和性及び特異性、低い免疫原性、並びに汎用的合成到達性などの二重特異性分子の標的化送達のための特定の望ましい特性を示す。細胞表面分子に結合するアプタマーは既知であり、例えば、TTA1(細胞外マトリックスタンパク質テネイシン-Cに対する腫瘍標的アプタマー)を含む。本開示の二重特異性分子に用途が見出されるアプタマーとしては、Zhu et al.(2015)ChemMedChem10(1):39-45;Sun et al.(2014)Mol.Ther.Nucleic Acids3:e182;及びZhang et al.(2011)Curr.Med.Chem.18(27):4185-4194に記載されているものが挙げられる。
【0024】
いくつかの実施形態によれば、細胞標的化部分は、ナノ粒子を含む。本明細書で使用される場合、「ナノ粒子」とは、1nm~1000nm、20nm~750nm、50nm~500nm(100nm~300nm、例えば、120~200nmを含む)の範囲内の少なくとも1つの寸法を有する粒子である。ナノ粒子は、球状、回転楕円体、棒形状、円盤形状、錐体形状、立方体形状、円筒形状、ナノ螺旋形状、ナノスプリング形状、ナノリング形状、矢印形状、涙滴形状、テトラポッド形状、プリズム形状、又は任意の他の好適な幾何学的形状若しくは非幾何学的形状を含むが、これらに限定されない任意の好適な形状を有してもよい。特定の実施形態において、ナノ粒子は、その表面上に、例えば、抗体、リガンド、アプタマー、小分子など、本明細書に記載される他の標的化部分のうちの1つ以上を含む。本開示の二重特異性分子での用途が見出されるナノ粒子としては、Wang et al.(2010)Pharmacol.Res.62(2):90-99;Rao et al.(2015)ACS Nano9(6):5725-5740;及びByrne et al.(2008)Adv.Drug Deliv.Rev.60(15):1615-1626に記載されているものが挙げられる。
【0025】
いくつかの実施形態において、細胞標的化部分は、標的細胞の表面上に発現される受容体に特異的に結合する。そのような細胞標的化部分は、例えば、受容体に特異的に結合する抗体の抗原結合ドメイン、又は受容体に対するリガンドを含んでもよい。そのような細胞表面受容体の非限定的な例としては、幹細胞受容体、免疫細胞受容体(例えば、T細胞受容体、B細胞受容体など)、増殖因子受容体、サイトカイン受容体、ホルモン受容体、受容体チロシンキナーゼ、CD28、CD80、ICOS、CTLA4、PD1、PD-L1、BTLA、HVEM、CD27、4-1BB、4-1BBL、OX40、OX40L、DR3、GITR、CD30、SLAM、CD2、2B4、TIM1、TIM2、TIM3、TIGIT、CD226、CD160、LAG3、LAIR1、B7-1、B7-H1、及びB7-H3などの免疫受容体、インターロイキン-1受容体、インターロイキン-2受容体、インターロイキン-3受容体、インターロイキン-4受容体、インターロイキン-5受容体、インターロイキン-6受容体、インターロイキン-7受容体、インターロイキン-9受容体、インターロイキン-11受容体、インターロイキン-12受容体、インターロイキン-13受容体、インターロイキン-15受容体、インターロイキン-18受容体、インターロイキン-21受容体、インターロイキン-23受容体、インターロイキン-27受容体、エリスロポイエチン受容体、GM-CSF受容体、G-CSF受容体、成長ホルモン受容体、プロラクチン受容体、レプチン受容体、オンコスタチンM受容体、白血病抑制因子などのI型サイトカイン受容体、インターフェロンアルファ/ベータ受容体、インターフェロンガンマ受容体、インターフェロンIII型受容体、インターロイキン-10受容体、インターロイキン-20受容体、インターロイキン-22受容体、インターロイキン-28受容体などのII型サイトカイン受容体、腫瘍壊死因子受容体2(1B)、腫瘍壊死因子受容体1、リンホトキシンベータ受容体、OX40、CD40、Fas受容体、デコイ受容体3、CD27、CD30、4-1BB、デコイ受容体2、デコイ受容体1、デス受容体5、デス受容体4、RANK、オステオプロテゲリン、TWEAK受容体、TACI、BAFF受容体、ヘルペスウイルス侵入メディエーター、神経増殖因子受容体、B細胞成熟抗原、グルココルチコイド誘導性TNFR関連、TROY、細胞死受容体6、細胞死受容体3、エクトジスプラシンA2受容体などの腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーの受容体、CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CX3CR1、XCR1、ACKR1、ACKR2、ACKR3、ACKR4、CCRL2などのケモカイン受容体、表皮増殖因子受容体(EGFR)ファミリーの受容体、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)ファミリーの受容体、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)ファミリーの受容体、トランスフェクション中の再構成(RET)受容体ファミリーの受容体、Eph受容体ファミリーの受容体、細胞分化を誘導できる受容体(例えば、Notch受容体)、細胞接着分子(CAM)、インテグリン受容体、カドヘリン、セレクチンなどの接着受容体、及びジスコイジンドメイン受容体(DDR)ファミリーの受容体、形質転換増殖因子ベータ受容体1、及び形質転換増殖因子ベータ受容体2が挙げられる。いくつかの実施形態において、そのような受容体は、T細胞受容体、B細胞受容体、ナチュラルキラー(NK)細胞受容体、マクロファージ受容体、単球受容体、好中球受容体、樹状細胞受容体、肥満細胞受容体、好塩基球受容体、及び好酸球受容体から選択される免疫細胞受容体である。
【0026】
特定の実施形態において、細胞標的化部分は、抗体の抗原結合ドメインを含む。「抗体」という用語は、任意のアイソタイプの抗体又は免疫グロブリン(例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)、IgE、IgD、IgA、IgMなど)、全抗体(例えば、四量体から構成され、次いで、重鎖ポリペプチド及び軽鎖ポリペプチドの2つの二量体から構成される抗体);単鎖抗体(例えば、scFv)、単鎖Fv(scFv)、Fab、(Fab’)2、(scFv’)2、及び二重特異性抗体を含むがこれらに限定されない、標的細胞の細胞表面分子への特異的結合を保持する抗体の断片(例えば、全抗体又は単鎖抗体の断片)、キメラ抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体(例えば、ヒト化全抗体、ヒト化半抗体、又はヒト化抗体断片、例えば、ヒト化scFv)、及び抗体の抗原結合部分と非抗体タンパク質とを含む融合タンパク質を含み得る。特定の実施形態において、抗体は、IgG、Fv、単鎖抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、又はFab’から選択される。抗体は、例えば、インビボイメージング剤、放射性同位体、検出可能な生成物を生成する酵素、蛍光タンパク質などで検出可能に標識されてもよい。抗体は、特異的結合対の要素、例えば、ビオチン(ビオチン-アビジン特異的結合対の要素)などの他の部分に更にコンジュゲートされてもよい。
【0027】
いくつかの実施形態において、細胞標的化部分が、抗体の抗原結合ドメインを含む場合、抗原結合ドメインは、例えば、患者における特定の疾患関連細胞の抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導するため、抗体依存性細胞食作用(ADCP)を誘導するためなどの治療用抗体としての使用のために米国食品医薬品局及び/又は欧州医薬品庁(EMA)によって承認された抗体のものである。本開示の二重特異性分子において用いられてもよい抗原結合ドメインの非限定的な例としては、アデカツムマブ、アスクリンバクマブ、シクスツムマブ、コナツムマブ、ダラツムマブ、ドロジツマブ、デュリゴツマブ、デュルバルマブ、デュシギツマブ、エンフォルツマブ、エノチクマブ、フィジツムマブ、ガニツマブ、グレンバツマブ、インテツムマブ、イピリムマブ、イラツムマブ、イクルクマブ、レキサツムマブ、ルカツムマブ、マパツムマブ、ナルナツマブ、ネシツムマブ、ネスバクマブ、オファツムマブ、オララツマブ、パニツムマブ、パトリツマブ、プリツムマブ、ラドレツマブ、ラムシルマブ、リロツムマブ、ロバツムマブ、セリバンツマブ、タレクスツマブ、テプロツムマブ、トベツマブ、バンチクツマブ、ベセンクマブ、ボツムマブ、ザルツムマブ、フランボツマブ、アルツモマブ、アナツモマブ、アルシツモマブ、ベクツモマブ、ブリナツモマブ、デツモマブ、イブリツモマブ、ミンレツモマブ、ミツモマブ、モキセツモマブ、ナプツモマブ、ノフェツモマブ、ペムツモマブ、ピンツモマブ、ラコツモマブ、サツモマブ、ソリトマブ、タプリツモマブ、テナツモマブ、トシツモマブ、トレメリムマブ、アバゴボマブ、イゴボマブ、オレゴボマブ、カプロマブ、エドレコロマブ、ナコロマブ、アマツキシマブ、バビツキシマブ、ブレンツキシマブ、セツキシマブ、デルロツキシマブ、ジヌツキシマブ、エンシツキシマブ、フツキシマブ、ギレンツキシマブ、インダツキシマブ、イサツキシマブ、マルゲツキシマブ、リツキシマブ、シルツキシマブ、ウブリツキシマブ、エクロメキシマブ、アビツズマブ、アレムツズマブ、ベバシズマブ、ビバツズマブ、ブロンチクツズマブ、カンツズマブ、カンツズマブ、シタツズマブ、クリバツズマブ、ダセツズマブ、デムシズマブ、ダロツズマブ、デニンツズマブ、エロツズマブ、エマクツズマブ、エミベツズマブ、エノブリツズマブ、エタラシズマブ、ファルレツズマブ、フィクラツズマブ、ゲムツズマブ、イムガツズマブ、イノツズマブ、ラベツズマブ、リファスツズマブ、リンツズマブ、ロルボツズマブ、ルムレツズマブ、マツズマブ、ミラツズマブ、ニモツズマブ、オビヌツズマブ、オカラツズマブ、オトレルツズマブ、オナルツズマブ、オポルツズマブ、パルサツズマブ、ペルツズマブ、ピナツズマブ、ポラツズマブ、シブロツズマブ、シムツズマブ、タカツズマブ、チガツズマブ、トラスツズマブ、ツコツズマブ、バンドルツズマブ、バヌシズマブ、ベルツズマブ、ボルセツズマブ、ソフィツズマブ、カツマキソマブ、エルツマキソマブ、デパツキシズマブ、オンツキシズマブ、ブロンツベトマブ、タムツベトマブ、又はそれらの抗原結合バリアント、例えば、単鎖バージョン(例えば、scFvバージョン)から選択される抗体に由来するものが挙げられる。
【0028】
特定の実施形態において、細胞標的化部分は、γ、α、δ、ε、若しくはμ抗体重鎖又はその断片を含む抗体重鎖を含む。いくつかの実施形態によれば、抗体重鎖又はその断片は、IgG重鎖又はその断片、例えば、ヒトIgG1重鎖又はその断片である。特定の実施形態において、抗体重鎖又はその断片は、重鎖可変領域(VH)を含む。そのような抗体重鎖又はその断片は、重鎖定常領域又はその断片を更に含み得る。例えば、重鎖定常領域又はその断片が、細胞標的化部分に含まれる場合、抗体の重鎖定常領域又はその断片は、CH1ドメイン、CH2ドメイン、及び/又はCH3ドメインのうちの1つ以上を含んでもよい。いくつかの実施形態によれば、細胞標的化部分は、VH、CH1ドメイン、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む抗体重鎖である、全長抗体重鎖である。
【0029】
特定の実施形態において、細胞標的化部分は、抗体軽鎖又はその断片を含む。いくつかの実施形態によれば、抗体軽鎖又はその断片は、カッパ(κ)軽鎖若しくはその断片、又はラムダ(λ)軽鎖若しくはその断片を含む。いくつかの実施形態によれば、抗体軽鎖又はその断片は、軽鎖可変領域(VL)を含む。そのような抗体軽鎖又はその断片は、抗体軽鎖定常領域(CL)又はその断片を更に含み得る。特定の実施形態において、細胞標的化部分は、全長抗体軽鎖、すなわち、VL及びCLを含む抗体軽鎖である。
【0030】
いくつかの実施形態によれば、細胞標的化部分は、可変重鎖(VH)領域を含む抗体重鎖及び可変軽鎖(VL)領域を含む抗体軽鎖を含む。特定の実施形態において、細胞標的化部分は、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はそれらの任意の組み合わせを含む。例えば、細胞標的化部分は、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はその両方を含む抗体重鎖を含んでもよい。そのような細胞標的化部分の例としては、結晶化可能断片(Fc)領域を含むものが挙げられる。
【0031】
本開示の二重特異性分子の細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分は、それらのそれぞれの標的に特異的に結合してもよい。本明細書で使用される場合、細胞標的化部分又はグリカン結合部分は、例えば、試料及び/又はインビボにおいて、他の物質に結合するよりも高い親和性、結合活性で、より容易に、及び/又はより長い期間で結合する場合、標的に「特異的に結合する」又は「優先的に結合する」。特定の実施形態において、細胞標的化部分又はグリカン結合部分は、例えば約104M-1以上の親和性又はKa(すなわち、1/Mの単位との特定の結合相互作用の会合速度定数)で標的に結合又は会合する場合、標的に「特異的に結合する」。あるいは、親和性は、Mの単位で特定の結合相互作用の平衡解離定数(KD)(例えば、10-5M~10-13M、又はそれ未満)として定義されてもよい。特定の態様において、特異的結合は、細胞標的化部分又はグリカン結合部分が、約10-5M以下、約10-6M以下、約10-7M以下、約10-8M以下、又は約10-9M、10-10M、10-11M、若しくは10-12M以下のKDで標的に結合することを意味する。標的に対する細胞標的化部分又はグリカン結合部分の結合親和性は、従来の技術を使用して、例えば競合ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、平衡透析によって、表面プラズモン共鳴(SPR)技術(例えば、製造業者によって概説された一般的な手順を使用したBIAcore 2000又はBIAcore T200機器)を使用することによって;ラジオイムノアッセイなどによって容易に決定することができる。
【0032】
グリカン結合部分
種々のグリカン結合部分が、本開示の二重特異性分子において用いられてもよい。特定の実施形態において、グリカン結合部分は、レクチンのグリカン結合ドメインを含む。例えば、グリカン結合部分は、シアログリカン結合レクチンのシアログリカン結合ドメインを含んでもよい。シアログリカン結合部分の非限定的な例としては、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Siglec)のシアログリカン結合ドメインを含むものが挙げられる。
【0033】
Siglecは、その機能がグリカンリガンドによって調節される免疫調節受容体のファミリーである。Siglecファミリーは、希突起膠細胞及びシュワン細胞上のSiglec-4(MAG)並びに胎盤栄養膜上のSiglec-6を含む既知の例外を除いて、造血系統における限られた細胞セット上に発現されるヒトにおける15個のファミリーメンバーからなる。Siglecは、それらの最も外側のN末端Vセットドメインを介して、糖タンパク質及び糖脂質上のシアル酸含有グリカンリガンドを、特有であるが重複する特異性で認識する。それらのリガンドの認識により、それらの細胞質尾部の免疫受容体チロシンベースの阻害モチーフ(ITIM)を介する細胞シグナル伝達に影響が及ぼされ得る。Siglecの大部分では、これらのITIMはホスファターゼをリクルートする能力を有し、それ故に、これらのメンバーは抑制型Siglecと称される。例外には、かかるモチーフを欠くSiglec-1及びMAG、並びに膜貫通領域内で正電荷を持つアミノ酸を介して免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を有するアダプタータンパク質に関連する活性化型Siglec(Siglec-14~Siglec-16)が挙げられる。
【0034】
Siglecは、哺乳類種間のそれらの遺伝的相同性に基づいて2つの群に分けることができる。第1の群は全ての哺乳類に存在し、Siglec-1(シアロアドヘシン)、Siglec-2(CD22)、Siglec-4、及びSiglec-15で構成されている。第2の群は、Siglec-3(CD33)、Siglec-5、Siglec-6、Siglec-7、Siglec-8、Siglec-9、Siglec-10、Siglec-11、Siglec-14、及びSiglec-16を含むCD33関連Siglecで構成されている。単球、単球由来のマクロファージ、及び単球由来の樹状細胞は、ほぼ同じSiglecプロファイル、すなわち、Siglec-3、Siglec-7、Siglec-9の高発現、Siglec-10の低発現、及びIFN-αでの刺激時のSiglec-1の発現を有する。対照的に、マクロファージは、それらの分化状態に応じて、主にSiglec-1、Siglec-3、Siglec-8、Siglec-9、Siglec-11、Siglec-15、及びSiglec-16の発現を有する。従来の樹状細胞は、単球由来の樹状細胞と同様に、Siglec-3、Siglec-7、及びSiglec-9を発現するが、加えて、低レベルのSiglec-2及びSiglec-15も発現する。形質細胞様樹状細胞は、Siglec-1及びSiglec-5を発現する。単球由来の樹状細胞でのSiglec-7及びSiglec-9発現のダウンレギュレーションがLPSで48時間刺激した後に観察されるが、単球由来のマクロファージでは、LPSでの刺激時にSiglec発現は変化しない。Siglecは、B細胞、好塩基球、好中球、及びNK細胞などの他の免疫細胞にも存在する。Siglecに関する更なる詳細は、例えば、Angata et al.(2015)Trends Pharmacol Sci.36(10):645-660;Lubbers et al.(2018)Front.Immunol.9:2807;Bochner et al.(2016)J Allergy Clin Immunol.135(3):598-608;and Duan et al.(2020)Annu.Rev.Immunol.38(1):365-395;に見出され得、これらの開示は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0035】
グリカン結合部分は、15個のヒトSiglecファミリーメンバーのいずれかのシアログリカン結合ドメインを含んでもよい。特定の実施形態において、グリカン結合部分は、CD33関連Siglecのシアログリカン結合ドメインを含む。いくつかの実施形態によれば、CD33関連Siglecは、Siglec-7(UniProtKB-Q9Y286)である。いくつかの実施形態において、グリカン結合部分は、Siglec-7リガンドに結合し、グリカン結合部分は、配列番号15に示されるアミノ酸配列、又は配列番号15に示されるアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上のアミノ酸配列同一性を含むそのSiglec-7リガンド結合バリアント、又はSiglec-7リガンドに結合する能力を保持するその断片を含む。特定の実施形態において、CD33関連Siglecは、Siglec-9(UniProtKB-Q9Y336)である。いくつかの実施形態において、グリカン結合部分は、Siglec-9リガンドに結合し、グリカン結合部分は、配列番号21に記載のアミノ酸配列、又は配列番号21に記載のアミノ酸配列に対して70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、若しくは99%以上のアミノ酸配列同一性を含むそのSiglec-9リガンド結合バリアント、又はSiglec-9リガンドに結合する能力を保持するその断片を含む。いくつかの実施形態によれば、CD33関連Siglecは、Siglec-10(UniProtKB-Q96LC7)である。特定の実施形態において、グリカン結合部分は、Siglec-15のシアログリカン結合ドメイン(UniProtKB-Q6ZMC9)を含む。いくつかの実施形態によれば、グリカン結合部分は、Siglec様アドヘシンのシアログリカン結合ドメインを含む。例えば、Deng et al.(2014)PLoS Pathog10(12):e1004540、及びBensing et al.(2018)Glycobiology28(8):601-611を参照されたく、これらの開示は全ての目的のために参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0036】
特定の実施形態において、グリカン結合部分は、C型レクチンのグリカン結合ドメインを含む。C型レクチンは、少なくとも1つのC型レクチン様ドメイン(CTLD)の存在によって定義されるタンパク質のスーパーファミリーであり、リガンドの広範なレパートリーを認識し、多様な範囲の生理学的機能を調節する。ほとんどの研究の注目は、C型レクチンが先天性及び適応性の抗菌免疫応答において機能する能力に焦点を合わせているが、これらのタンパク質は、自己免疫疾患において主要な役割を有し、多細胞存在の多くの他の局面に寄与することがますます認識されている。C型レクチンという用語は、Ca2+依存性炭水化物結合レクチンとCa2+非依存性炭水化物結合レクチンとを区別するために導入された。C型レクチンは、保存された残基モチーフを含有し、CLRの炭水化物特異性を決定するコンパクトな構造モジュールである、少なくとも1つの炭水化物認識ドメインを共有する。先天性免疫及び適応免疫の両方のカップリングにおけるそれらの役割について特に興味深いのは、遺伝子のナチュラルキラークラスターのテロメア領域に局在するDECTIN-1及びDECTIN-2ファミリーの遺伝子である。これらの2つの群のC型レクチンは、単球、マクロファージ、樹状細胞(DC)、及び好中球などの骨髄系列の細胞によって主に発現される。C型レクチンは、内在化及びT細胞への提示のための抗原取り込み受容体として機能するだけでなく、NF-κB、I型インターフェロン(IFN)、及び/又はインフラマソーム活性化をもたらす複数のシグナル伝達経路も誘発する。これは、順に、炎症誘発性又は抗炎症性サイトカイン及びケモカインの産生をもたらし、その後、適応免疫応答を微調整する。C型レクチンに関する更なる詳細は、例えば、Zelensky et al.(2005)FEBS J.272:6179-6217;Geijtenbeek & Grinhuis(2009)Nature Reviews Immunology 9:465-479;Brown et al.(2018)Nature Reviews Immunology 18:374-389;Dambuza & Brown(2015)Curr.Opin.Immunol.32:21-7;及びChiffoleau(2018)Front.Immunol.9:227;に見出され得、これらの開示は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態によれば、グリカン結合部分は、DECTIN-1、レクチン様酸化低密度リポタンパク質受容体-1(LOX-1)、C型レクチン様受容体-1(CLEC-1)、C型レクチン様受容体2(CLEC-2)、骨髄阻害性C型レクチン様受容体(MICL)、CLEC9A、DC免疫受容体(DCIR)、DECTIN-2、血中DC抗原-2(BDCA-2)、マクロファージ誘導性C型レクチン(MINCLE)、マクロファージガラクトースレクチン(MGL)、及びアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)から選択されるC型レクチンのグリカン結合ドメインを含む。
【0037】
特定の実施形態において、グリカン結合部分は、セレクチンのグリカン結合ドメインを含む。セレクチンは、白血球輸送並びに白血球、血小板及び内皮細胞と腫瘍細胞との特異的接着相互作用を媒介するC型膜貫通レクチンである。これらのレクチンは、内皮細胞(E-セレクチン)、白血球(L-セレクチン)、及び血小板(P-セレクチン)上に存在し、いくつかの腫瘍型において豊富に発現されているSLeX及びSLeAグリコエピトープを含有するグリカンに優先的に結合する。TMEでは、セレクチンは、白血球動員、腫瘍促進性炎症、及び転移能の獲得に関連して機能的に関連している。P-セレクチン(CD62P)は、腫瘍形成に寄与する活性化血小板とがん細胞との間の相互作用を媒介するので、腫瘍成長及び転移に関与する。E-セレクチン(CD62E)はまた、転移カスケードの異なる事象におけるがん細胞接着性において主要な役割を果たし、腫瘍細胞溢出を促進する。最後に、白血球上で構成的に発現されるL-セレクチン(CD62L)は、腫瘍白血球相互作用を調節し、塞栓形成に有利に働くことによって細胞接着及び血行性転移を促進する。セレクチンに関する更なる詳細は、例えば、Cagnoni et al.(2016)Front Oncol.6:109;Barthel et al.(2007)Expert Opin Ther Targets11(11):1473-91;and Chen & Geng(2006)Arch Immunol Ther Exp54(2):75-84;に見出され得、これらの開示は、全ての目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態によれば、グリカン結合部分は、P-セレクチン(CD62P)、E-セレクチン(CD62E)、及びL-セレクチン(CD62L)から選択されるセレクチンのグリカン結合ドメインを含む。
【0038】
いくつかの実施形態によれば、グリカン結合部分は、ガレクチンのグリカン結合ドメインを含む。ガレクチンは、高度に保存されたグリカン結合可溶性レクチンのファミリーであり、保存された炭水化物認識ドメイン(CRD)及び共通の構造フォールドによって定義される。Vasta GR(2012)Adv Exp Med Biol946:21-36。構造的特徴に基づいて、哺乳動物ガレクチンは、3つのタイプに分類されている:プロトタイプガレクチン(Gal-1、Gal-2、Gal-5、Gal-7、Gal-10、Gal-11、Gal-13、Gal-14、及びGal-15、1つのCRDを含有し、単量体として存在するか、又は非共有結合相互作用を通して二量体化する)、リンカーペプチドによって接続された2つの異なるCRDを含む二価ガレクチンとして存在するタンデムリピート型ガレクチン(Gal-4、Gal-6、Gal-8、Gal-9、及びGal-12)、並びに最後に、ガレクチンファミリーの唯一のキメラ型メンバーであるGal-3。ガレクチンは、腫瘍形成及び転移における異なる事象を調節する。ガレクチンは、エフェクターT細胞のアポトーシス、クローン増殖の調節、調節性T細胞(Treg)の機能、及びサイトカイン分泌の制御を通じて、免疫寛容及びエスケープに寄与する。いくつかのガレクチンの発現レベルも悪性形質転換中に変化し、がん進行におけるそれらの役割が確認される。ほとんど全ての悪性腫瘍細胞によって豊富に分泌されるGal-1は、免疫抑制性腫瘍形成促進性微小環境の主要なプロモータとして特徴付けられている。このファミリーの別のメンバーであるGal-3は、多数の腫瘍において顕著な腫瘍形成促進効果を示している。Gal-1と同様に、Gal-3シグナル伝達は、特異的グリカンと相互作用し、抗腫瘍応答を損なうことによって、免疫抑制性TMEに向かってバランスを傾けることに寄与する。これに関して、Gal-3は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のアネルギーを促進することが示されている。いくつかの実施形態によれば、グリカン結合部分は、Gal-1、Gal-2、Gal-3、Gal-4、Gal-5、Gal-6、Gal-7、Gal-8、Gal-9、Gal-10、Gal-11、Gal-12、Gal-13、Gal-14、及びGal-15から選択されるガレクチンのグリカン結合ドメインを含む。特定の実施形態において、グリカン結合部分は、Gal-1のグリカン結合ドメインを含む。いくつかの実施形態によれば、グリカン結合部分は、Gal-3のグリカン結合ドメインを含む。
【0039】
レクチンの「グリカン結合ドメイン」又は「シアログリカン結合ドメイン」とは、それぞれのグリカンへの結合を担うレクチン又はそのグリカン/シアログリカン結合バリアント(例えば、グリカン/シアログリカン結合断片)のドメインを意味する。Siglecは、例えば、シアロシドリガンドの結合に関与する細胞外N末端VセットIg(Ig-V)ドメインを含む。特定の実施形態において、本開示のポリペプチド又はそのドメインのいずれかの「バリアント」は、1つ以上のアミノ酸置換を含有する。いくつかの実施形態によれば、1つ以上のアミノ酸置換は、保存的置換である。「保存的置換」は、アミノ酸が、類似の特性を有する別のアミノ酸で置換されたものであり、その結果、ペプチド化学の当業者は、ポリペプチドの二次構造及び水治療法性質が実質的に変わらないと予想するであろう。特定の実施形態で想定されるポリヌクレオチド及びポリペプチドの構造において、改変がなされてもよく、ポリペプチドは、所望な特徴を有するバリアント又は誘導体ポリペプチドをコードする機能性分子を少なくともほぼ有し、かつ依然として得るポリペプチドを含む。ポリペプチドのアミノ酸配列を変更して、同等の、又は更に改良されたバリアントポリペプチドを作成することが望ましい場合、当業者は、例えば、コードするDNA配列のコドンの1つ以上を変更することができる。
【0040】
レクチンのグリカン結合ドメインに加えて、グリカン結合部分は、レクチンの1つ以上の更なるドメイン又はそのバリアント(例えば、断片)を含んでもよい。例として、Siglecの文脈では、Siglec(例えば、Siglec-7、Siglec-9、Siglec-10、Siglec-15など)のシアログリカン結合ドメインに加えて、グリカン結合部分は、Siglecの1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上)のIg様ドメイン又はその断片を更に含んでもよい。Siglec及び他のレクチンのアミノ酸配列及びドメイン(例えば、細胞外ドメイン)は既知であり、任意のそのようなドメインは、所望及び/又は有用なようにグリカン結合部分に含まれてもよい。
【0041】
特定の実施形態において、グリカン結合部分は、γ、α、δ、ε、若しくはμ抗体重鎖又はその断片を含む抗体重鎖を含む。いくつかの実施形態によれば、抗体重鎖又はその断片は、IgG重鎖又はその断片、例えば、ヒトIgG1重鎖又はその断片である。特定の実施形態において、抗体重鎖又はその断片は、重鎖定常領域又はその断片を含む。例えば、重鎖定常領域又はその断片が、グリカン結合部分に含まれる場合、抗体の重鎖定常領域又はその断片は、C
H1ドメイン、C
H2ドメイン、及び/又はC
H3ドメイン、例えば、C
H2ドメイン及びC
H3ドメインのうちの1つ以上を含んでもよい。いくつかの実施形態によれば、グリカン結合部分は、C
H1ドメイン、C
H2ドメイン、及びC
H3ドメインを含む。いくつかの実施形態によれば、グリカン結合部分は、結晶化可能断片(Fc)領域を含む。いくつかの実施形態によれば、細胞標的化部分及びグリカン結合部分の各々は、C
H2ドメイン及び/又はC
H3ドメイン(例えば、Fc領域)を含み、二重特異性分子は、ノブ・イントゥ・ホール修飾ドメイン、例えば、修飾C
H3ドメインを含むヘテロ二量体である。本開示のそのような二重特異性分子の非限定的な例は、
図14~17に(アミノ酸配列と共に)概略的に示される。
【0042】
「ノブ・イン・ホール」戦略(その非限定的な例は、例えば、WO 2006/028936に記載されている)を使用して、二重特異性分子の部分のヘテロ二量体化を促進し得る。簡潔には、ヒトIgGにおけるCH3ドメインの界面を形成する選択されたアミノ酸を、CH3ドメイン相互作用に影響を及ぼす位置で変異させて、ヘテロ二量体形成を促進することができる。第1の標的に特異的に結合する部分の重鎖に側鎖の小さいアミノ酸(ホール)を導入し、第2の標的に特異的に結合する部分の重鎖に側鎖の大きいアミノ酸(ノブ)を導入する。2つの部分の共発現後、「ホール」を有する重鎖と「ノブ」を有する重鎖との優先的相互作用の結果として、ヘテロ二量体が形成される。ノブ及びホールを形成する例示的なCH3置換対は、(第1の重鎖の第1のCH3ドメインにおける修飾位置/第2の重鎖の第2のCH3ドメインにおける修飾位置として発現される)T366Y7F405A、T366W/F405W、F405W/Y407A、T394W/Y407T、T3945/Y407A、T366W/T394S、F405W/T394S、及びT366W/T366S_L368A_Y407Vである。
【0043】
US2010/0015133;US2009/0182127;US2010/028637又はUS2011/0123532に記載されているように、1つのCH3表面で正に帯電した残基及び第2のCH3表面で負に帯電した残基を置換することによる静電相互作用を使用して、重鎖ヘテロ二量体化を促進するなどの他の戦略が使用されてもよい。他の戦略では、ヘテロ二量体化は、(第1の重鎖の第1のCH3ドメインにおける改変位置/第2の重鎖の第2のCH3ドメインにおける改変位置として表される)以下の置換によって促進され得る:US2012/0149876又はUS2013/0195849に記載されるようなL351 Y_F405A_Y407V T394W、T366I_K392M_T394W/F405A_Y407V、L351 Y_Y407A’T366A_K409F、L351Y_Y407A/T366V_K409F、Y407A/T366A_K409F若しくはT350V_L351Y_F405A_Y407V/T350V_T366L_K392L_T394W。
【0044】
いくつかの実施形態によれば、本開示の二重特異性分子は、グリカン結合部分に融合された細胞標的化部分を含む融合タンパク質である。二重特異性分子が融合タンパク質である場合、細胞標的化部分は、グリカン結合部分に(例えば、グリカン結合部分のN末端若しくはC末端で)直接的に融合されてもよく、又は細胞標的化部分は、リンカーを介してグリカン結合部分に間接的に融合されてもよい。セリン-グリシンリンカーなどを含むがこれらに限定されない任意の有用なリンカーが用いられてもよい。特定の実施形態において、リンカーの長さは、約1~約25アミノ酸、約5~約20アミノ酸、若しくは約10~約20アミノ酸、又は任意の介在する長さのアミノ酸である。いくつかの実施形態では、リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、又はそれ以上のアミノ酸の長さである。本開示の融合タンパク質をコードする核酸、並びにそのような核酸を含む発現ベクター、並びにそのような核酸及び/又は発現ベクターを含む宿主細胞も提供される。
【0045】
特定の実施形態において、本開示の二重特異性分子は、リンカーを介してグリカン結合部分にコンジュゲートされた細胞標的化部分を含むコンジュゲートである。本開示のコンジュゲートにおいて用いられてもよいリンカーの非限定的な例としては、エステルリンカー、アミドリンカー、マレイミド又はマレイミドベースのリンカー;バリン-シトルリンリンカー;ヒドラゾンリンカー;N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ブチレート(SPDB)リンカー;スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)リンカー;ビニルスルホン系リンカー;ポリエチレングリコール(PEG)、例えば、限定されないが、テトラエチレングリコールを含むリンカー;プロパン酸を含むリンカー;カプロン酸を含むリンカー、及びそれらの任意の組み合わせを含むリンカーが挙げられる。特定の態様において、リンカーは、中性pH(血流pH7.3~7.5)で安定であるが、標的細胞(例えば、がん細胞)の弱酸性エンドソーム(pH5.0~6.5)及びリソソーム(pH4.5~5.0)への内部移行時に加水分解を受ける、酸切断性リンカーなどの化学的に不安定なリンカーである。化学的に不安定なリンカーとしては、ヒドラゾン系リンカー、オキシム系リンカー、カーボネート系リンカー、エステル系リンカーなどが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態によれば、リンカーは、血流中で安定であるが、例えば、標的細胞(例えば、がん細胞)のリソソーム内のリソソームプロテアーゼ(カテプシン又はプラスミンなど)によって、標的細胞への内部移行時に酵素的切断を受ける、酵素不安定性リンカーなどの酵素不安定性リンカーである。酵素不安定性リンカーには、ペプチド結合を含むリンカー、例えば、ジペプチドベースのリンカー、例えばバリン-シトルリンリンカー、例えばマレイミドカプロイル-バリン-シトルリン-p-アミノベンジル(MC-vc-PAB)リンカー、バリル-アラニル-パラ-アミノベンジルオキシ(Val-Ala-PAB)リンカーなどが含まれるが、これらに限定されない。化学的に不安定なリンカー、酵素不安定性リンカー、及び非開裂リンカーが知られており、例えば、Ducry & Stump(2010)Bioconjugate Chem.21:5-13に記載されている。
【0046】
特定の実施形態において、本開示のコンジュゲートは、バリン-シトルリンジペプチド、バリン-アラニンジペプチド、又はその両方を含むリンカーを含む。いくつかの実施形態によれば、リンカーは、バリン-シトルリン-パラアミノベンジルオキシ(Val-Cit-PAB)リンカーである。特定の実施形態において、リンカーは、バリルアラニルパラアミノベンジルオキシ(Val-Ala-PAB)リンカーである。
【0047】
細胞標的化部分は、任意の好都合なアプローチを使用してグリカン結合部分にコンジュゲートされてもよい。例えば、コンジュゲートすることは、細胞標的化部分の予め選択されたアミノ酸にグリカン結合部分を部位特異的にコンジュゲートすること(又はその逆)を含んでもよい。特定の態様において、予め選択されたアミノ酸は、細胞標的化部分のN末端又はC末端にある。他の態様において、予め選択されたアミノ酸は、細胞標的化部分の内部、すなわち細胞標的化部分のN末端アミノ酸とC末端アミノ酸との間にある。いくつかの実施形態では、予め選択されたアミノ酸は、非天然アミノ酸である。コンジュゲーションを容易にするために細胞標的化部分(又はグリカン結合部分)に提供されてもよい非天然アミノ酸の非限定的な例としては、アジド、アルキン、アルケン、アミノオキシ、ヒドラジン、アルデヒド(例えば、ホルミルグリシン、例えば、Catalent Pharma SolutionsのSMARTag(商標)技術)、ニトロン、ニトリルオキシド、シクロプロペン、ノルボルネン、イソシアニド、ハロゲン化アリール及びボロン酸官能基から選択される官能基を有するものが挙げられる。目的の官能基を提供するために組み込まれ、選択されてもよい非天然アミノ酸は、既知であり、例えば、Maza et al.(2015)Bioconjug.Chem.26(9):1884-9;Patterson et al.(2014)ACS Chem.Biol.9:592-605、Adumeau et al.(2016)Mol.Imaging Biol.(2):153-65、及び他の箇所に記載されている。
【0048】
リンカーを通して細胞標的化部分及びグリカン結合部分をコンジュゲート化するための多数の戦略が利用可能である。例えば、グリカン結合部分は、グリカン結合部分にリンカーを共有結合させることによって誘導体化されてもよく、リンカーは、細胞標的化部分上の「化学的ハンドル」と反応することができる官能基を有する。また、例として、細胞標的化部分は、細胞標的化部分にリンカーを共有結合させることによって誘導体化されてもよく、リンカーは、グリカン結合部分上の「化学的ハンドル」と反応することができる官能基を有する。リンカー上の官能基は、様々であってもよく、細胞標的化部分又はグリカン結合部分上の化学的ハンドルとの適合性に基づいて選択されてもよい。一実施形態によれば、化学的ハンドルは、化学的ハンドルを有する非天然アミノ酸を細胞標的化部分又はグリカン結合部分に組み込むことによって提供される。いくつかの実施形態において、細胞標的化部分とグリカン結合部分とをコンジュゲートすることは、銅を含まない、歪み促進付加環化、アルキン-アジド付加環化などによるものである。
【0049】
本明細書で提供される情報を使用して、本開示の細胞標的化部分及びグリカン結合部分並びに融合タンパク質は、当業者に既知の標準的な技術を使用して調製されてもよい。例えば、本開示の二重特異性分子の細胞標的化部分及びグリカン結合部分のアミノ酸配列をコードする核酸配列を使用して、細胞標的化部分及びグリカン結合部分を発現させることができる。核酸配列は、当業者に既知の方法に従って、様々な発現系について特定のコドン「選択」を反映するように最適化することができる。提供された配列情報を使用して、当業者に知られているいくつかの標準的な方法に従って核酸を合成してもよい。
【0050】
対象の細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分をコードする核酸が合成されると、それは標準的な方法に従って増幅及び/又はクローニングすることができる。これらの目的を達成するための分子クローン化技術は、当該技術分野で既知である。組換え核酸の構築に適した多種多様なクローン化及びインビトロ増幅方法は、当業者に知られており、多数の教科書及び実験マニュアルの主題になっている。
【0051】
本開示の細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分をコードする天然又は合成核酸の発現は、細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分をコードする核酸をプロモータ(構成的又は誘導性のいずれかである)に作動可能に連結し、構築物を発現ベクターに組み込んで組換え発現ベクターを生成することによって達成することができる。ベクターは、原核生物、真核生物、又はその両方における複製及び組込みに適する可能性がある。典型的なクローン化ベクターは、機能的に適切に配向された転写及び翻訳ターミネータ、開始配列、並びに細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分をコードする核酸の発現の調節に有用なプロモータを含有する。ベクターは、任意選択で、少なくとも1つの独立したターミネータ配列、例えば、シャトルベクターにおいて見出されるような、真核生物及び原核生物の両方においてカセットの複製を可能にする配列、並びに原核生物系及び真核生物系の両方についての選択マーカを含む、一般的な発現カセットを含む。
【0052】
クローン化された核酸の高レベルの発現を得るために、典型的には、転写を指向する強力なプロモータ、翻訳開始のためのリボソーム結合部位、及び転写/翻訳ターミネータを、各々、互いに対して、かつタンパク質コード配列に対して機能的な配向において含む発現プラスミドを構築することが一般的である。大腸菌におけるこの目的に好適な調節領域の例は、大腸菌トリプトファン生合成経路のプロモータ及びオペレータ領域、ファージλ(phage lambda、PL)の左方プロモータ、並びにL-アラビノース(araBAD)オペロンである。大腸菌中で形質転換されたDNAベクターに選択マーカを含めることも有用である。このようなマーカの例としては、アンピシリン、テトラサイクリン、又はクロラムフェニコールに対する耐性を特定する遺伝子が挙げられる。抗体を発現するための発現系は、例えば、大腸菌、バシラス菌、及びサルモネラ菌を用いて利用可能である。大腸菌系も使用され得る。
【0053】
細胞標的化及び/又はグリカン結合部分遺伝子は、精製を容易にするために、細胞標的化及び/又はグリカン結合部分のC末端又はN末端にタグ(例えば、FLAG、ヘキサヒスチジンなど)を付加することを可能にする発現ベクターにサブクローニングしてもよい。哺乳類細胞において遺伝子をトランスフェクト及び発現させる方法は、当該技術分野で既知である。細胞を核酸で形質導入することは、例えば、核酸を含有する脂質微粒子を細胞と共にインキュベートすること、又は核酸を含有するウイルスベクターをベクターの宿主範囲内の細胞と共にインキュベートすることを含み得る。細胞株及び組織(例えば、腫瘍)又は血液試料からの培養細胞を含む、本開示で使用される細胞の培養は、当該技術分野で既知である。
【0054】
対象の細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分をコードする核酸が単離され、クローニングされると、当業者に既知の種々の組換え操作された細胞において核酸を発現させることができる。このような細胞の例としては、細菌、酵母、糸状菌、昆虫(例えば、バキュロウイルスベクターを用いる昆虫)、及び哺乳類細胞が挙げられる。
【0055】
対象の細胞標的化及び/又はグリカン結合部分の単離及び精製は、当該技術分野で既知の方法に従って実現することができる。例えば、タンパク質は、構成的にかつ/又は誘導の際にタンパク質を発現するように遺伝子修飾された細胞の溶解物から、又は合成反応混合物から、免疫親和性精製(又はプロテインL若しくはAを使用する沈殿)、非特異的に結合した物質を除去するための洗浄、並びに特異的に結合した細胞標的化及び/又はグリカン結合部分の溶出によって単離することができる。単離された細胞標的化及び/又はグリカン結合部分は、透析及びタンパク質精製方法で通常用いられる他の方法によって更に精製することができる。一実施形態において、細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分は、金属キレートクロマトグラフィー法を使用して単離されてもよい。本開示の細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分は、上記で考察されるように、単離を容易にするための修飾を含有してもよい。
【0056】
細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分は、実質的に純粋な形態又は単離された形態(例えば、他のポリペプチドを含まない)で調製されてもよい。タンパク質は、存在し得る他の成分(例えば、他のポリペプチド又は他の宿主細胞成分)と比較してポリペプチドが濃縮された組成物中に存在することができる。精製された細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分は、細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分が、他の発現タンパク質を実質的に含まない組成物中に存在するように、例えば、組成物の90%未満、通常は60%未満、より通常は50%未満が他の発現タンパク質で構成されるように提供されてもよい。
【0057】
原核細胞によって産生された細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分は、適正な折り畳みのためにカオトロピック剤への曝露を必要とし得る。大腸菌からの精製中に、例えば、発現タンパク質は、任意選択で変性され得、次いで再生され得る。これは、例えば、細菌産生細胞標的化及び/又はグリカン結合部分をグアニジンHClなどのカオトロピック剤に可溶化することによって実現することができる。次いで、細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分を、ゆっくりした透析又はゲル濾過のいずれかによって再生する。あるいは、細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分をコードする核酸は、細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分が正しい折り畳み形態でペリプラズムに分泌されるように、pelBなどの分泌シグナル配列に作動可能に連結されてもよい。
【0058】
核酸、発現ベクター、及び細胞
本開示の二重特異性分子の細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分を産生する方法に関する上記の節を考慮すると、本開示は核酸、発現ベクター及び細胞も提供することが理解されよう。
【0059】
特定の実施形態において、本開示の二重特異性分子の細胞標的化部分のいずれか、本開示の二重特異性分子のグリカン結合部分のいずれか、又はその両方をコードする核酸が提供される。本開示の実施形態による二重特異性分子の細胞標的化部分及びグリカン結合部分をコードするヌクレオチド配列の非限定的な例は、以下の実験の節に提供される。
【0060】
本開示の核酸のいずれかを含む発現ベクターも提供される。細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分をコードする天然又は合成の核酸の発現は、細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分をコードする核酸をプロモータ(構成的又は誘導性のいずれか)に作動可能に連結し、構築物を発現ベクターに組み込んで組換え発現ベクターを生成することによって達成することができる。ベクターは、原核生物、真核生物、又はその両方における複製及び組込みに適する可能性がある。典型的なクローン化ベクターは、機能的に適切に配向された転写及び翻訳ターミネータ、開始配列、並びに細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分をコードする核酸の発現の調節に有用なプロモータを含有する。ベクターは、任意選択で、少なくとも1つの独立したターミネータ配列、例えば、シャトルベクターにおいて見出されるような、真核生物及び原核生物の両方においてカセットの複製を可能にする配列、並びに原核生物系及び真核生物系の両方についての選択マーカを含む、一般的な発現カセットを含む。
【0061】
本開示の核酸及び/又は発現ベクターのいずれかを含む細胞も提供される。いくつかの実施形態によれば、本開示の細胞は、本開示の二重特異性分子の細胞標的化部分のいずれか、本開示の二重特異性分子のグリカン結合部分のいずれか、又はその両方をコードする核酸を含む。特定のそのような実施形態において、二重特異性分子は、融合タンパク質(上記のような)であり、核酸は、融合タンパク質をコードする。いくつかの実施形態によれば、本開示の二重特異性分子の細胞標的化部分のいずれかをコードする第1の核酸、及び本開示の二重特異性分子のグリカン結合部分のいずれかをコードする第2の核酸を含む細胞が提供される。特定の実施形態では、例えば細胞は、第1の核酸を含む第1の発現ベクターと、第2の核酸を含む第2の発現ベクターと、を含む。
【0062】
本開示の二重特異性分子を作製する方法であって、細胞が細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分を発現するのに好適な条件下で本開示の細胞を培養することを含み、細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分が産生される、方法も提供される。細胞標的化部分及び/又はグリカン結合部分が発現されるように細胞を培養するための条件は、変化してもよい。そのような条件は、好適な容器(例えば、細胞培養プレート又はそのウェル)内で、好適な培地(例えば、DMEM、RPMI、MEM、IMDM、DMEM/F-12などの細胞培養培地)において、好適な温度(例えば、32℃~42℃(37℃など))及びpH(例えば、pH7.0~7.7(pH7.4など))で、好適なCO2のパーセンテージ、例えば、3%~10%(5%など))を有する環境において、細胞を培養することを含み得る。
【0063】
更なる二重特異性分子
本開示によってまた提供されるのは、本明細書の他の箇所に記載されるような二重特異性分子であるが、第2の部分は、グリカン以外の標的に結合する。すなわち、本開示の利益により、本開示のAbLecは、技術がグリカン結合の文脈を超えた文脈に適用され得るという概念の証拠を提供することが理解されるであろう。特定の実施形態において、Fc領域に融合された細胞標的化部分(例えば、本明細書の他の箇所に記載される細胞標的化部分のいずれか)、及び受容体のリガンド結合ドメインを含む部分を含む二重特異性分子が提供され、受容体のリガンド結合ドメインを含む部分はまた、Fc領域に融合される。特定の実施形態において、2つの部分は、Fc領域を介してヘテロ二量体化される。いくつかの実施形態において、Fc領域を介したヘテロ二量体化は、本明細書の他の箇所に記載されるようなノブ・イン・ホール戦略を介する。
【0064】
いくつかの実施形態において、受容体のリガンド結合ドメインを含む部分は、細胞表面リガンドに結合する受容体のリガンド結合ドメインを含む。すなわち、リガンド結合ドメインは、細胞表面リガンドに結合する。特定の実施形態において、細胞標的化部分及び第2の部分(受容体のリガンド結合ドメインを含む部分)が、同じ細胞の表面上に存在する異なるタイプの分子に結合するように、細胞表面リガンドは、細胞標的化部分に対する標的も提示する細胞の表面上に存在する。
【0065】
特定の実施形態において、受容体のリガンド結合ドメインを含む部分は、幹細胞受容体、免疫細胞受容体、成長因子受容体、サイトカイン受容体、ホルモン受容体、受容体チロシンキナーゼ、上皮成長因子受容体(EGFR)ファミリーの受容体(例えば、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)など)、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)ファミリーの受容体、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)ファミリーの受容体、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)ファミリーの受容体、トランスフェクション中の再編成(RET)受容体ファミリーの受容体、Eph受容体ファミリーの受容体、ジスコイジンドメイン受容体(DDR)ファミリーの受容体、及びムチンタンパク質(例えば、MUC1)のリガンド結合ドメインを含む。いくつかの実施形態において、受容体のリガンド結合ドメインを含む部分は、CD71(トランスフェリン受容体)のリガンド結合ドメインを含む。特定の態様において、受容体のリガンド結合ドメインを含む部分は、免疫細胞受容体のリガンド結合ドメインを含み、その非限定的な例としては、T細胞受容体、B細胞受容体、ナチュラルキラー(NK)細胞受容体、マクロファージ受容体、単球受容体、好中球受容体、樹状細胞受容体、肥満細胞受容体、好塩基球受容体、及び好酸球受容体が挙げられる。
【0066】
組成物
本開示の態様は、組成物を更に含む。いくつかの実施形態によれば、本開示の組成物は、本開示の二重特異性分子を含む。例えば、二重特異性分子は、上記の二重特異性分子の節に記載されている二重特異性分子のいずれかであってもよく、その記載は、本明細書に組み込まれるが、簡潔にするために繰り返されない。
【0067】
特定の態様において、本開示の組成物は、液体培地中に存在する二重特異性分子を含む。液体培地は、水、緩衝溶液などの水性液体培地であってもよい。塩(例えば、NaCl、MgCl2、KCl、MgSO4)、緩衝剤(トリス緩衝剤、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)(HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸ナトリウム塩(MES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)など)、可溶化剤、洗浄剤(例えば、Tween-20などの非イオン性洗浄剤)、ヌクレアーゼ抑制剤、プロテアーゼ抑制剤、グリセロール、キレート剤などの、1つ以上の添加剤が、このような組成物中に存在してもよい。
【0068】
本開示の態様は、医薬組成物を更に含む。いくつかの実施形態において、本開示の医薬組成物は、本開示の二重特異性分子及び薬学的に許容される担体を含む。
【0069】
二重特異性分子は、治療的投与のための種々の製剤に組み込むことができる。より具体的には、二重特異性分子は、適切な薬学的に許容される賦形剤又は希釈剤との組み合わせによって、医薬組成物に製剤化することができ、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏、溶液、注射剤、吸入剤及びエアロゾルなどの固体、半固体、液体又は気体形態の製剤に製剤化されてもよい。
【0070】
個体(例えば、ヒト投与に好適)への投与のための二重特異性分子の製剤は、一般に無菌であり、更に、選択された投与経路による患者への投与に対して禁忌である検出可能な発熱物質又は他の汚染物質を含まなくてもよい。
【0071】
医薬剤形では、二重特異性分子は、それらの薬学的に許容される塩の形態で投与することができ、又はそれらはまた、単独で若しくは適切に関連して、並びに他の薬学的に活性な化合物と組み合わせて使用されてもよい。以下の方法及び担体/賦形剤は単なる例であり、決して限定するものではない。
【0072】
経口剤については、二重特異性分子は、単独で、又は錠剤、粉末、顆粒、若しくはカプセルを作製するための適切な添加剤、例えば、ラクトース、マンニトール、コーンスターチ、若しくはジャガイモデンプンなどの従来の添加剤、結晶セルロース、セルロース誘導体、アカシア、コーンスターチ、若しくはゼラチンなどの結合剤、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、若しくはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの崩壊剤、タルク若しくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、並びに必要に応じて、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、及び香味剤と組み合わせて使用することができる。
【0073】
二重特異性分子は、非経口(例えば、静脈内、動脈内、骨内、筋肉内、脳内、脳室内、髄腔内、皮下など)投与用に製剤化することができる。特定の態様において、二重特異性分子は、植物油若しくは他の類似の油、合成脂肪族酸グリセリド、高級脂肪族酸のエステル、又はプロピレングリコールなどの水性溶媒又は非水性溶媒中に二重特異性分子を溶解、懸濁、又は乳化することによって注射のために製剤化され、必要に応じて、可溶化剤、等張剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤、及び防腐剤などの従来の添加剤と共に製剤化される。
【0074】
二重特異性分子を含む医薬組成物は、所望の純度を有する二重特異性分子を任意の生理学的に許容される担体、賦形剤、安定剤、界面活性剤、緩衝剤及び/又は等張化剤と混合することによって調製されてもよい。許容可能な担体、賦形剤、及び/又は安定剤は、用いられる投与量及び濃度においてレシピエントに対して非毒性であり、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸、グルタチオン、システイン、メチオニン、及びクエン酸を含む抗酸化剤;(エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロル-m-クレゾール、メチルパラベン若しくはプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、又はこれらの組み合わせなどの)防腐剤;アルギニン、グリシン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン、プロリン、及びこれらの組み合わせなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;ゼラチン若しくは血清アルブミンなどのタンパク質;EDTAなどのキレート剤;トレハロース、スクロース、ラクトース、グルコース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ラフィノース、グルコサミン、N-メチルグルコサミン、ガラクトサミン、及びノイラミン酸などの糖類、並びに/又はTween、Brij Pluronics、Triton-X、若しくはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0075】
医薬組成物は、液体形態、凍結乾燥形態、又は凍結乾燥形態から再構成された液体形態であってもよく、凍結乾燥調製物は、投与前に滅菌溶液で再構成される。凍結乾燥された組成物を再構成するための標準的な手順は、ある体積の(典型的には、凍結乾燥中に除去された体積に等しい)純水を添加し戻すことであるが、抗菌剤を含む溶液は、非経口投与用の医薬組成物の産生に使用され得る。
【0076】
二重特異性分子の水性製剤は、例えば、約4.0~約7.0、又は約5.0~約6.0、又はあるいは約5.5の範囲のpHで、pH緩衝溶液中で調製されてもよい。この範囲内のpHに好適な緩衝剤の例としては、リン酸塩緩衝剤、ヒスチジン緩衝剤、クエン酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、及び他の有機酸緩衝剤が挙げられる。緩衝剤濃度は、例えば、緩衝剤及び製剤の所望の張度に応じて、約1mM~約100mM、又は約5mM~約50mMであってもよい。
【0077】
等張化剤は、製剤の張度を調節するために含まれてもよい。等張化剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、及びアミノ酸、糖、並びにこれらの組み合わせの群からの任意の成分が挙げられる。いくつかの実施形態において、水性製剤は、等張液であるが、高張液又は低張液が好適であってもよい。「等張性」という用語は、生理食塩水又は血清などの、それが比較されるいくつかの他の溶液と同じ等張性を有する溶液を示す。等張化剤は、約5mM~約350mMの量で、例えば、100mM~350mMの量で使用され得る。
【0078】
また、界面活性剤を製剤に添加して、製剤中の凝集を低減させ、かつ/又は微粒子の形成を最小限に抑え、かつ/又は吸着を低減させてもよい。界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(Brij)、アルキルフェニルポリオキシエチレンエーテル(Triton-X)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(Poloxamer、Pluronic)、及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられる。好適なポリオキシエチレンソルビタン-脂肪酸エステルの例としては、ポリソルベート20(Tween 20(商標)の商標で販売されている)及びポリソルベート80(Tween 80(商標)の商標で販売されている)である。好適なポリエチレン-ポリプロピレンコポリマーの例としては、Pluronic(登録商標)F68又はPoloxamer 188(商標)の名称で販売されているものである。好適なポリオキシエチレンアルキルエーテルの例としては、Brij(商標)の商標で販売されているものである。界面活性剤の濃度の例は、約0.001%~約1%(w/v)の範囲であり得る。
【0079】
二重特異性分子を凍結乾燥プロセス中の不安定化条件から保護するために、凍結乾燥保護剤を加えてもよい。例えば、既知の凍結乾燥保護剤としては、糖(グルコース及びスクロースを含む)、ポリオール(マンニトール、ソルビトール、及びグリセロールを含む)、及びアミノ酸(アラニン、グリシン、及びグルタミン酸を含む)が挙げられる。例えば、凍結乾燥保護剤は、約10mM~500nMの量で含むことができる。
【0080】
いくつかの実施形態において、本医薬組成物は、二重特異性分子と、上で特定された成分(例えば、界面活性剤、緩衝剤、安定剤、等張化剤)のうちの1つ以上とを含み、エタノール、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、p-クロル-m-クレゾール、メチル又はプロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、及びそれらの組み合わせなどの1つ以上の防腐剤を本質的に含まない。他の実施形態において、防腐剤は、例えば、約0.001~約2%(w/v)の範囲の濃度で製剤中に含まれる。
【0081】
キット
本開示の態様は、キットを更に含む。特定の実施形態において、キットは、本開示の方法、例えば、本開示の医薬組成物を個体に投与して、個体における抗腫瘍免疫を増強すること、本開示の医薬組成物を個体に投与して、個体における免疫応答を増強又は抑制することなどを含む方法を実施する際に使用される。
【0082】
したがって、特定の実施形態において、本開示のキットは、本開示の医薬組成物の1回以上の単位投与量、及びそれを必要とする個体に医薬組成物を投与するための説明書を含む。キットに含まれる医薬組成物は、本開示の二重特異性分子のいずれか、例えば、本明細書において上記の二重特異性分子のいずれかを含んでもよく、これらは、簡潔にするために本明細書において繰り返されない。
【0083】
本開示のキットは、単位投与量、例えば、アンプル、又は複数回投与量形式で存在する、ある量の組成物を含み得る。したがって、特定の実施形態において、キットは、本開示の二重特異性分子を含む組成物の1つ以上の(例えば、2つ以上の)単位投与量(例えば、アンプル)を含んでもよい。「単位投与量」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト及び動物対象のための単位用量として好適な物理的に別個の単位を指し、各単位は、所望の効果を生じるのに十分な量で計算された所定の量の組成物を含有する。単位投与量の量は、用いられる特定の二重特異性分子、達成される効果、及び個体における二重特異性分子に関連する薬力学などの様々な要因に依存する。更に他の実施形態において、キットは、組成物の単回複数回投与量を含んでもよい。
【0084】
特定の実施形態において、本開示のキットは、抗腫瘍免疫の増強を必要とする個体に医薬組成物の1回以上の単位投与量を投与するための説明書を含む。いくつかの実施形態によれば、本開示のキットは、免疫応答の増強又は抑制を必要とする個体に医薬組成物の1回以上の単位投与量を投与するための説明書を含む。
【0085】
キットに含まれる説明書(例えば、使用説明書(IFU))は、好適な記録媒体に記録されていてもよい。例えば、説明書は、紙又はプラスチックなどの基材上に印刷することができる。そのようなものとして、説明書は、添付文書としてキット内に、キットの容器又はその構成要素のラベル(すなわち、包装又は副包装に関連)などに存在し得る。他の実施形態では、説明書は、ポータブルフラッシュドライブ、DVD、CD-ROM、ディスケットなどの適切なコンピュータ可読記憶媒体上に存在する、電子記憶データファイルとして存在する。更に他の実施形態では、実際の説明書はキットには存在しないが、例えばインターネットを介してリモートソースから説明書を取得するための手段が提供される。本実施形態の一例は、説明書を見ることができ、かつ/又は説明書をダウンロードすることができるウェブアドレスを含むキットである。説明書と同様に、説明書を得るための手段は、好適な基材上に記録される。
【0086】
方法
本開示の態様は、本開示の二重特異性分子を使用する方法を含む。方法は、インビトロ及び/若しくはインビボ研究並びに/又は臨床用途を含む種々の状況で有用である。
【0087】
特定の態様において、抗腫瘍免疫の増強を必要とする個体において抗腫瘍免疫を増強する方法が提供される。そのような方法は、有効量の本開示の医薬組成物、例えば、がん細胞標的化部分及びグリカン結合部分を含む本開示の二重特異性分子を含む医薬組成物を個体に投与することを含む。特定の実施形態において、方法は、個体における抗体依存性細胞食作用(ADCP)及び/又は細胞傷害性(ADCC)を増強するためのものである。
【0088】
特定の態様において、免疫応答の増強又は抑制を必要とする個体において免疫応答を増強又は抑制する方法が提供される。そのような方法は、有効量の本開示の医薬組成物、例えば、免疫細胞標的化部分及びグリカン結合部分を含む本開示の二重特異性分子を含む医薬組成物を個体に投与することを含む。
【0089】
それを必要としている個体は、細胞増殖性障害を有する可能性がある。「細胞増殖性障害」とは、多細胞生物の細胞における1つ以上のサブセットの望ましくない細胞増殖が起こり、生物にとっての害(例えば、痛み又は平均余命の低下)をもたらす障害を意味する。細胞増殖性障害には、がん、前がん、良性腫瘍、血管増殖性障害(例えば、関節炎、再狭窄など)、線維性障害(例えば、肝性肝硬変、アテローム性動脈硬化症など)、乾癬、表皮及び類皮嚢胞、脂肪腫、腺腫、毛細血管及び皮膚血管腫、リンパ管腫、損傷性母斑(nevi lesions)、奇形腫、腎腫、筋線維腫症、骨形成腫瘍、形成異常腫瘤(dysplastic masses)、メサンギウム細胞増殖性障害などが含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
いくつかの実施形態において、個体はがんを有する。対象の方法は、多種多様ながんの治療に用いることができる。本明細書で使用される「腫瘍」は、悪性又は良性にかかわらず、全ての新生物細胞の成長及び増殖、並びに全ての前がん性及びがん性の細胞及び組織を指す。「がん」及び「がん性」という用語は、典型的には無秩序な細胞成長/増殖を特徴とする哺乳動物における生理学的状態を指すか又は説明する。主題の方法を使用して治療することができるがんの例には、がん腫、リンパ腫、芽細胞腫、及び肉腫が含まれるが、これらに限定されない。そのようながんのより具体的な例には、扁平上皮がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん、肺扁平上皮がん、腹膜がん、肝細胞がん、胃腸がん、膵臓がん、膠芽腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、胆管がん、膀胱がん、肝がん、乳がん、大腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん若しくは子宮がん、唾液腺がん、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、外陰外陰部がん、甲状腺がん、肝臓がん、様々なタイプの頭頸部がんなどが挙げられる。特定の実施形態では、個体は、固形腫瘍、再発性多形性神経膠芽細胞腫(GBM)、非小細胞肺がん、転移性黒色腫、黒色腫、腹膜がん、上皮性卵巣がん、多形性神経膠芽細胞腫(GBM)、転移性結腸直腸がん、結腸直腸がん、膵管腺がん、扁平上皮がん、食道がん、胃がん、神経芽細胞腫、ファロピウス管がん、膀胱がん、転移性乳がん、膵臓がん、軟組織肉腫、再発性頭頸部がん扁平上皮がん、頭頸部がん、未分化星状細胞腫、悪性胸膜中皮腫、乳がん、扁平上皮非小細胞肺がん、横紋筋肉腫、転移性腎細胞がん、基底細胞がん(基底細胞上皮腫)、及び神経膠肉腫から選択されるがんを有する。特定の態様では、個体は、黒色腫、ホジキンリンパ腫、腎細胞がん(RCC)、膀胱がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、及び頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)から選択されるがんを有する。
【0091】
本開示の二重特異性分子は、経口(例えば、錠剤形態、カプセル形態、液体形態など)、非経口(例えば、静脈内、筋肉内、皮下、筋肉内、若しくは硬膜外注射)、局所、鼻腔内、又は腫瘍内投与から選択される投与経路を介して投与されてもよい。
【0092】
本開示の二重特異性分子は、治療有効量で医薬組成物中で投与されてもよい。「治療有効量」とは、所望の結果をもたらすのに十分な投与量を意味し、例えば、対照と比較して、がん及び/又は免疫障害の症状の軽減などの有益な又は所望の治療的(予防的を含む)結果をもたらすのに十分な量を意味する。がんに関して、いくつかの実施形態では、治療有効量は、腫瘍の成長を遅らせる、腫瘍のサイズを縮小する、及び/又は同様のことをするのに十分である。有効量は、1回以上の投与で投与することができる。
【0093】
本開示の態様は、個体のがん及び/又は免疫障害を処置するための方法を含む。治療とは、個体のがん及び/又は免疫障害に関連する1つ以上の症状の少なくとも改善を意味し、改善は、治療されるがん及び/又は免疫障害に関連するパラメータ、例えば症状の大きさの少なくとも減少を指すために広義に使用される。したがって、治療はまた、個体ががん及び/若しくは免疫障害又は少なくともがん及び/若しくは免疫障害を特徴付ける症状にそれ以上苦しまないように、がん及び/若しくは免疫障害又は少なくともそれに関連する1つ以上の症状が完全に阻害される、例えば、発生するのを防止される、又は停止される、例えば、中止される状況も含む。
【0094】
本開示の二重特異性分子は、単独で又は第2の薬剤と組み合わせて個体に投与されてもよい。目的の第2の薬剤には、がんの治療に使用するために米国食品医薬品局及び/又は欧州医薬品庁(EMA)によって承認された薬剤が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、第2の薬剤は、免疫チェックポイント阻害剤である。目的の免疫チェックポイント阻害剤には、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)阻害剤、プログラム細胞死-1(PD-1)阻害剤、プログラム細胞死リガンド-1(PD-L1)阻害剤、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG-3)阻害剤、T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3(TIM-3)阻害剤、インドールアミン(2,3)-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、Ig及びITIMドメイン(TIGIT)阻害剤を含むT細胞免疫受容体、T細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(VISTA)阻害剤、B7-H3阻害剤、及びそれらの任意の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0095】
本開示の二重特異性分子が第2の薬剤と共に投与される場合、二重特異性分子及び第2の薬剤は、任意の好適な投与レジメンに従って個体に投与されてもよい。特定の実施形態によれば、二重特異性分子及び第2の薬剤は、個々の使用のために承認された投薬レジメンに従って投与される。いくつかの実施形態において、二重特異性分子の投与は、第2の薬剤が二重特異性分子の投与を伴わずに投与されるときに利用されるものと比較して、1つ以上のより低い及び/若しくはより少ない頻度の用量、並びに/又はサイクル数の減少を伴う投薬レジメンに従って、第2の薬剤が投与されることを可能にする。特定の態様において、第2の薬剤の投与は、第2の薬剤を投与せずに二重特異性分子が投与される場合に利用されるのと比較して、二重特異性分子が、1回以上の低用量及び/又は低頻度の用量、及び/又はサイクル数の減少を伴う投薬レジメンに従って投与されることを可能にする。
【0096】
いくつかの実施形態において、二重特異性分子及び第2の薬剤の1回以上の用量が個体に同時に投与される。「同時に」とは、二重特異性分子及び第2の薬剤が同じ医薬組成物中に存在するか、又は二重特異性分子及び第2の薬剤が1時間以下、30分以下、又は15分以下以内に別個の医薬組成物として投与されるかのいずれかを意味する。
【0097】
いくつかの実施形態において、二重特異性分子及び第2の薬剤の1回以上の用量を個体に連続的に投与する。
【0098】
しかしながら、いくつかの実施形態において、二重特異性分子及び第2の薬剤は、異なる組成で及び/又は異なる時間に個体に投与される。例えば、二重特異性分子は、第2の薬剤の投与前に、例えば特定のサイクルで投与されてもよい。あるいは、第2の薬剤は、二重特異性分子の投与前に、例えば特定のサイクルで投与されてもよい。投与され得る第2の薬剤は、投与され得る第1の薬剤投与後の少なくとも1時間後、3時間後、6時間後、12時間後、24時間後、48時間後、72時間後、又は最長5日以上後に開始する期間に投与されてもよい。
【0099】
一例において、第2の薬剤は、二重特異性分子の投与前の望ましい期間にわたって個体に投与される。特定の態様において、個体ががんを有する場合、そのようなレジメンは、二重特異性分子の抗がん効果を強化するためにがん細胞を「プライミング」する。二重特異性分子を投与するステップから第2の薬剤を投与するステップを分離するそのような期間は、望ましくは、二重特異性分子の抗がん効果が増加するように、がん細胞のプライミングを可能にするのに十分な長さである。
【0100】
いくつかの実施形態では、1つの薬剤の投与は、別の薬剤の投与に対して特異的なタイミングである。例えば、いくつかの実施形態において、二重特異性分子は、特定の効果が観察されるように投与される(例えば、所与の投薬レジメンと目的の特定の効果との間の相関を示す集団研究に基づいて観察されるか、又は観察されると予想される)。
【0101】
特定の態様において、組み合わせて投与される薬剤の所望の相対的投薬レジメンは、例えば、エクスビボの、インビボの、及び/又はインビトロのモデルを使用して、評価されるか、又は経験的に決定されてもよく;いくつかの実施形態において、そのような評価又は経験的決定は、患者集団において(例えば、相関が確立されるように)インビボで、又は代替的に、目的の特定の個体で行われる。
【0102】
いくつかの実施形態において、二重特異性分子及び第2の薬剤は、少なくとも2サイクルを含む間欠的投薬レジメンに従って投与される。2つ以上の薬剤が組み合わされて投与され、各々がそのような間欠的、周期的なレジメンによって投与される場合、異なる薬剤の個々の用量は、互いに交互配置されてもよい。特定の態様では、第2の薬剤の1回以上の用量は、第1の薬剤の1回の用量後、ある期間に投与される。いくつかの実施形態において、第2の薬剤の各用量は、第1の薬剤の用量の一定期間後に投与される。特定の態様において、第1の薬剤の各用量の後の一定期間後に、第2の薬剤の用量が続く。いくつかの実施形態において、第1の薬剤の2回以上の用量は、第2の薬剤の少なくとも一対の用量の間に投与され、特定の態様において、第2の薬剤の2回以上の用量は、第1の薬剤の少なくとも一対の用量の間に投与される。いくつかの実施形態において、同じ薬剤の異なる用量は、共通の時間間隔によって隔てられ、いくつかの実施形態において、同じ薬剤の異なる用量間の時間間隔は、変化する。特定の態様において、二重特異性分子及び第2の薬剤の異なる用量が、共通の時間間隔だけ互いに隔てられ;いくつかの実施形態において、異なる薬剤の異なる用量は、異なる時間間隔によって互いに隔てられている。
【0103】
2つの断続的な周期投薬レジメンを交互配置するための1つの例示的なプロトコルは、(a)治療有効量の二重特異性分子が個体に投与される第1の投薬期間;(b)第1の休止期間、(c)治療有効量の第2の薬剤が個体に投与される第2の投薬期間;及び(d)第2の休止期間、を含んでもよい。2つの間欠的な周期投薬レジメンを交互配置するための第2の例示的なプロトコルは、(a)治療有効量の第2の薬剤が個体に投与される第1の投与期間;(b)第1の休止期間、(c)治療有効量の二重特異性分子が個体に投与される第2の投与期間;及び(d)第2の休止期間、を含んでもよい。
【0104】
いくつかの実施形態において、第1の休止期間及び第2の休止期間は、同一の時間数又は日数に対応し得る。あるいは、いくつかの実施形態において、第1の休止期間と第2の休止期間とは異なり、第1の休止期間が第2の休止期間よりも長いか、又は、その逆である。いくつかの実施形態において、休止期間の各々は、120時間、96時間、72時間、48時間、24時間、12時間、6時間、30時間、1時間、又はそれ未満に対応する。いくつかの実施形態において、第2の休止期間が第1の休止期間よりも長い場合、それは、時間ではなく日数又は週数(例えば、1日、3日、5日、1週間、2週間、4週間、又はそれ以上)として定義することができる。
【0105】
第1の休止期間の長さが、特定の生物学的事象又は治療事象の存在又は発生によって決定される場合、第2の休止期間の長さは、異なる要因に基づいて、別々に又は組み合わせて決定され得る。例示的なそのような因子は、療法が投与されるがんのタイプ及び/若しくはステージ;二重特異性分子の特性(例えば、薬物動態特性)、並びに/又は二重特異性分子を用いた療法に対する患者の応答の1つ以上の特徴を含んでもよい。いくつかの実施形態では、一方又は両方の休止期間の長さは、投与薬剤の一方又は他方の(例えば、血漿濃度レベルを介して評価されるような)薬物動態特性に照らして調整され得る。例えば、関連薬剤の血漿濃度が、任意選択で個体の応答の1つ以上の特徴の評価又は他の考慮時に所定のレベルを下回る場合、関連休止期間は完了したとみなされ得る。
【0106】
特定の態様において、特定の薬剤が投与されるサイクル数は、経験的に決定されてもよい。また、いくつかの実施形態において、従った正確な計画(例えば、用量の数、用量の間隔(例えば、互いに対して、又は別の治療の投与などの別の事象に対して)、用量の量など)は、1つ以上の他のサイクルと比較して、1つ以上のサイクルについて異なり得る。
【0107】
二重特異性分子及び第2の薬剤は、一緒に投与されてもよく、又は任意の好適な投与経路を介して独立して投与されてもよい。二重特異性分子及び第2の薬剤は、経口、(例えば、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、若しくは硬膜外注射による)局所、又は鼻腔内投与から独立して選択される投与経路を介して投与されてもよい。特定の実施形態によれば、二重特異性分子及び第2の薬剤は両方とも、経口的に(例えば、錠剤形態、カプセル形態、液体形態などで)同時(同じ医薬組成物若しくは別個の医薬組成物において)又は連続してのいずれかで投与される。
【0108】
添付の特許請求の範囲にかかわらず、本開示は、以下の実施形態によっても定義される:
1.二重特異性分子であって、
細胞標的化部分と、
グリカン結合部分と、を含む、二重特異性分子。
【0109】
2.細胞標的化部分が、がん細胞標的化部分である、実施形態1に記載の二重特異性分子。
【0110】
3.がん細胞標的化部分が、5T4、AXL受容体チロシンキナーゼ(AXL)、B細胞成熟抗原(BCMA)、c-MET、C4.4a、炭酸アンヒドラーゼ6(CA6)、炭酸アンヒドラーゼ9(CA9)、カドヘリン-6、CD19、CD20、CD22、CD25、CD27L、CD30、CD33、CD37、CD44、CD44v6、CD56、CD70、CD74、CD79b、CD123、CD138、がん胚性抗原(CEA)、cKit、Criptoタンパク質、CS1、デルタ様カノニカルノッチリガンド3(DLL3)、エンドセリン受容体タイプB(EDNRB)、エフリンA4(EFNA4)、上皮成長因子受容体(EGFR)、EGFRvIII、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ3(ENPP3)、EPH受容体A2(EPHA2)、線維芽細胞成長因子受容体2(FGFR2)、線維芽細胞成長因子受容体3(FGFR3)、FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)、葉酸受容体1(FOLR1)、GD2ガングリオシド、糖タンパク質非転移性B(GPNMB)、グアニル酸シクラーゼ2C(GUCY2C)、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)、ヒト上皮成長因子受容体3(HER3)、インテグリンアルファ、リソソーム関連膜タンパク質1(LAMP-1)、ルイスY、LIV-1、ロイシンリッチリピート含有15(LRRC15)、メソセリン(MSLN)、ムチン1(MUC1)、ムチン16(MUC16)、ナトリウム依存性リン酸輸送タンパク質2B(NaPi2b)、ネクチン-4、NMB、NOTCH3、p-カドヘリン(p-CAD)、プログラム細胞死受容体リガンド1(PD-L1)、プログラム細胞死受容体リガンド2(PD-L2)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、タンパク質チロシンキナーゼ7(PTK7)、溶質担体ファミリー44メンバー4(SLC44A4)、SLIT様ファミリーメンバー6(SLITRK6)、STEAPファミリーメンバー1(STEAP1)、組織因子(TF)、T細胞免疫グロブリン及びムチンタンパク質-1(TIM-1)、Tn抗原、栄養芽細胞表面抗原(TROP-2)、並びにウィルムス腫瘍1(WT1)からなる群から選択されるがん細胞表面分子に結合する、実施形態2に記載の二重特異性分子。
【0111】
4.細胞標的化部分が、免疫細胞標的化部分である、実施形態1に記載の二重特異性分子。
【0112】
5.免疫細胞標的化部分が、PD-1、PD-L1、PD-L2、CLTA-4、VISTA、LAG-3、TIM-3、CD24、CD47、SIRPアルファ、CD3、CD8、CD4、CD28、CD80、CD86、CD19、ICOS、OX40、OX40L、GD3ガングリオシド、TIGIT、Siglec-2、Siglec-3、Siglec-7、Siglec-8、Siglec-9、Siglec-10、Siglec-15、ガレクチン-9、B7-H3、B7-H4、CD40、CD40L、B7RP1、CD70、CD27、BTLA、HVEM、KIR、4-1BB、4-1BBL、CD226、CD155、CD112、GITR、GITRL、A2aR、CD137、CD137L、CD45、CD206、CD163、TRAIL、NKG2D、CD16、及びTGF-ベータからなる群から選択される免疫細胞表面分子に結合する、実施形態4に記載の二重特異性分子。
【0113】
6.グリカン結合部分が、シアログリカン結合部分を含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0114】
7.シアログリカン結合部分が、レクチンのシアログリカン結合ドメインを含む、実施形態6に記載の二重特異性分子。
【0115】
8.レクチンが、シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(Siglec)である、実施形態7に記載の二重特異性分子。
【0116】
9.Siglecが、CD33関連Siglecである、実施形態8に記載の二重特異性分子。
【0117】
10.CD33関連Siglecが、Siglec-7、Siglec-9、及びSiglec-10からなる群から選択される、実施形態9に記載の二重特異性分子。
【0118】
11.CD33関連Siglecが、Siglec-7である、実施形態10に記載の二重特異性分子。
【0119】
12.CD33関連Siglecが、Siglec-9である、実施形態10に記載の二重特異性分子。
【0120】
13.Siglecが、Siglec-15である、実施形態8に記載の二重特異性分子。
【0121】
14.シアログリカン結合部分が、Siglec様アドヘシンのシアログリカン結合ドメインを含む、実施形態6に記載の二重特異性分子。
【0122】
15.グリカン結合部分が、C型レクチンのグリカン結合ドメインを含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0123】
16.C型レクチンが、DECTIN-1、レクチン様酸化低密度リポタンパク質受容体-1(LOX-1)、C型レクチン様受容体-1(CLEC-1)、C型レクチン様受容体2(CLEC-2)、骨髄阻害性C型レクチン様受容体(MICL)、CLEC9A、DC免疫受容体(DCIR)、DECTIN-2、血中DC抗原-2(BDCA-2)、マクロファージ誘導性C型レクチン(MINCLE)、マクロファージガラクトースレクチン(MGL)、又はアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)である、実施形態15に記載の二重特異性分子。
【0124】
17.グリカン結合部分が、ガレクチンのグリカン結合ドメインを含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0125】
18.ガレクチンが、Gal-1、Gal-2、Gal-3、Gal-4、Gal-5、Gal-6、Gal-7、Gal-8、Gal-9、Gal-10、Gal-11、Gal-12、Gal-13、Gal-14、又はGal-15である、実施形態17に記載の二重特異性分子。
【0126】
19.ガレクチンがGal-1である、実施形態17に記載の二重特異性分子。
【0127】
20.ガレクチンがGal-3である、実施形態17に記載の二重特異性分子。
【0128】
21.グリカン結合部分が、セレクチンのグリカン結合ドメインを含む、実施形態1~5のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0129】
22.セレクチンが、P-セレクチン(CD62P)、E-セレクチン(CD62E)、又はL-セレクチン(CD62L)である、実施形態21に記載の二重特異性分子。
【0130】
23.細胞標的化部分が、標的細胞の表面上の受容体に対するリガンド、又は標的細胞上の細胞表面分子に結合する小分子を含む、実施形態1~22のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0131】
24.細胞標的化部分が、抗体の抗原結合ドメインを含む、実施形態1~22のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0132】
25.細胞標的化部分が、可変重鎖(VH)領域を含む抗体重鎖及び可変軽鎖(VL)領域を含む抗体軽鎖を含む、実施形態1~22のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0133】
26.抗体重鎖が、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はそれらの任意の組み合わせを含む、実施形態25に記載の二重特異性分子。
【0134】
27.抗体重鎖が、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はその両方を含む、実施形態25又は26に記載の二重特異性分子。
【0135】
28.抗体重鎖が、結晶化可能断片(Fc)領域を含む、実施形態25~27のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0136】
29.グリカン結合部分が、抗体重鎖ドメインを含む、実施形態1~28のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0137】
30.グリカン結合部分の抗体重鎖ドメインが、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はそれらの任意の組み合わせを含む、実施形態29に記載の二重特異性分子。
【0138】
31.グリカン結合部分の抗体重鎖ドメインが、CH2ドメイン、CH3ドメイン、又はその両方を含む、実施形態29又は実施形態30に記載の二重特異性分子。
【0139】
32.グリカン結合部分の抗体重鎖ドメインが、結晶化可能断片(Fc)領域を含む、実施形態29~31のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0140】
33.細胞標的化部分が、CH3ドメインを含む抗体重鎖を含み、二重特異性分子が、ノブ・イントゥ・ホール修飾CH3ドメインを含むヘテロ二量体である、実施形態31又は実施形態32に記載の二重特異性分子。
【0141】
34.二重特異性分子が、グリカン結合部分に融合した細胞標的化部分を含む融合タンパク質である、実施形態1~32のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0142】
35.細胞標的化部分が、グリカン結合部分に直接的に融合している、実施形態34に記載の二重特異性分子。
【0143】
36.細胞標的化部分が、リンカーを介してグリカン結合部分に間接的に融合している、実施形態34に記載の二重特異性分子。
【0144】
37.二重特異性分子が、グリカン結合部分にコンジュゲートした細胞標的化部分を含むコンジュゲートである、実施形態1~32のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【0145】
38.核酸であって、
実施形態1~36のいずれか1つに記載の二重特異性分子の細胞標的化部分;
実施形態1~36のいずれか1つに記載の二重特異性分子のグリカン結合部分;又は
その両方をコードする、核酸。
【0146】
39.実施形態38に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【0147】
40.医薬組成物であって、
実施形態1~37のいずれか1つに記載の二重特異性分子と、
薬学的に許容される担体と、を含む、医薬組成物。
【0148】
41.細胞標的化部分が、がん細胞標的化部分である、実施形態40に記載の医薬組成物。
【0149】
42.細胞標的化部分が、免疫細胞標的化部分である、実施形態40に記載の医薬組成物。
【0150】
43.キットであって、
実施形態40~42のいずれか1つに記載の医薬組成物の1回以上の単位投与量と、
医薬組成物の1回以上の単位投与量を、それを必要とする個体に投与するための説明書と、を含む、キット。
【0151】
44.医薬組成物の2回以上の単位投与量を含む、実施形態43に記載のキット。
【0152】
45.細胞標的化部分が、がん細胞標的化部分であり、説明書が、抗腫瘍免疫の増強を必要とする個体に医薬組成物の1回以上の単位投与量を投与するための説明書を含む、実施形態43又は実施形態44に記載のキット。
【0153】
46.細胞標的化部分が、免疫細胞標的化部分であり、説明書が、免疫応答の増強又は抑制を必要とする個体に医薬組成物の1回以上の単位投与量を投与するための説明書を含む、実施形態43又は実施形態44に記載のキット。
【0154】
47.抗腫瘍免疫の増強を必要とする個体において抗腫瘍免疫を増強する方法であって、
有効量の実施形態41に記載の医薬組成物を個体に投与することを含む、方法。
【0155】
48.免疫応答の増強又は抑制を必要とする個体において免疫応答を増強又は抑制する方法であって、
有効量の実施形態42に記載の医薬組成物を個体に投与することを含む、方法。
【0156】
49.投与が、非経口投与によるものである、実施形態47又は実施形態48に記載の方法。
【0157】
50.二重特異性分子であって、
Fc領域に融合された細胞標的化部分と、
Fc領域に融合された受容体のリガンド結合ドメインを含む部分と、を含み、
細胞標的化部分及び受容体のリガンド結合ドメインを含む部分が、Fc領域を介してヘテロ二量体化されている、二重特異性分子。
【0158】
51.細胞標的化部分が、実施形態2~5のいずれか1つに記載される通りである、実施形態50に記載の二重特異性分子。
【0159】
52.受容体のリガンド結合ドメインを含む部分が、細胞表面リガンドに結合する受容体のリガンド結合ドメインを含む、実施形態50又は実施形態51に記載の二重特異性分子。
【0160】
53.二重特異性分子が、ノブ・イントゥ・ホール修飾CH3ドメインを含むヘテロ二量体である、実施形態50~52のいずれか1つに記載の二重特異性分子。
【実施例】
【0161】
以下の実施例は、説明のために提供され、限定のために提供されるものではない。
【0162】
実験
実施例1-がん細胞標的化部分及びグリカン結合部分を含む二重特異性分子を使用する抗腫瘍免疫応答の増強
細胞標的化部分及びグリカン結合部分を含む二重特異性分子、並びにそのような分子が、例えば抗体依存性細胞食作用(ADCP)及び/又は細胞傷害性(ADCC)の増強による抗腫瘍免疫応答の増強に有効であることの実証が本明細書に記載される。
【0163】
原理証明として、本明細書に記載されるのは、チェックポイント遮断のために腫瘍関連シアログリカンを標的とする新しいクラスの抗体-レクチン二重特異性分子(本明細書では「AbLec」と呼ばれることもある)である。このアプローチでは、シアログリカン結合特異性を有する組換えSiglec結合ドメインを、高親和性腫瘍標的化抗体結合ドメインにカップリングさせる。AbLecは、がん細胞表面上に高い有効モル濃度で蓄積することが予想され、そうでなければ低い親和性の組換えSiglecが治療に関連する濃度でがん細胞表面シアログリカンに結合することを可能にする。
【0164】
最初の概念実証として、ノブ・イン・ホールアプローチを使用して、それぞれ一般的ながん抗原HER2及びCD20を標的とするFDA承認抗体(トラスツズマブ及びリツキシマブ)に由来する一価抗体鎖と二量体化する組換えSiglec-7及びSiglec-9-Fcキメラのパネルを生成した。これらの構築物を
図11~
図14に概略的に示し、それらのアミノ酸配列を提供する。
【0165】
抗体-レクチン(AbLec)二重特異性抗体が、チェックポイント遮断のためのレクチンデコイ受容体の使用を可能にすることを実証する概略図及びデータを
図1a~
図1eに提供する。(a)AbLecは、各プラットフォームの限界を克服しながら、モノクローナル抗体(所望の腫瘍、免疫細胞又は組織標的に対する高い親和性及び選択性)の有益な特性をレクチンデコイ受容体(コグネイト複合糖質リガンドに対する選択性及び特異性)と組み合わせる。(b)IgG1抗体フレームワークを使用する修飾ノブ・イントゥ・ホール戦略を使用して、AbLecを設計した。(c)Expi293細胞におけるトラスツズマブ重鎖及び軽鎖とSiglec-7-Fc又はSiglec-9-Fc鎖との共発現は、単一タンパク質産物の発現をもたらした。還元SDS-PAGE分析は、これらの生成物が、Siglec-Fc鎖並びにトラスツズマブ重鎖及び軽鎖の分子量と一致する3つのジスルフィド結合タンパク質鎖から構成されることを示した。それぞれ、Siglec-Fc及び抗体重鎖上のHA及びHis
6タグに対するウェスタンブロッティングは、全長タンパク質産物が抗体及びデコイ受容体アームの両方から構成されることを更に実証した。総合すると、この証拠は、AbLecが抗体及びデコイ受容体アームの両方から構成される二官能性ヘテロ二量体であることを示唆する。(d)トラスツズマブ×Siglec-7(T7)及びトラスツズマブ×Siglec-9 AbLecについての解離常数K
D値を、フローサイトメトリーを介して様々な濃度でのSK-BR-3細胞への結合を定量化することによって測定した。SK-BR-3細胞は、トラスツズマブによって結合されたHER2抗原、並びにフローサイトメトリーによるSiglec-7及びSiglec-9のリガンドを発現する。(e)デコイ受容体分子(Siglec-7/9-Fc)は、試験した最高濃度(200nM)であっても、SK-BR-3細胞がSiglec-7及び-9リガンドを発現するという事実にもかかわらず、SK-BR-3細胞に低レベルでしか結合しない(
図1d)。しかしながら、デコイ受容体アームを高親和性トラスツズマブ抗体アームと組み合わせることによって、AbLecは、治療に関連する濃度でSK-BR-3細胞に結合することができる(左)。AbLecは、親抗体であるトラスツズマブと同様の低いnM K
D値を示す(右)。更に、AbLec結合は、協同的である。Siglec-Fc結合部位中の保存されたアルギニン残基をアラニンに変異させることによって、以前に報告されているように、Siglecリガンドに対する親和性が有意に低下したSiglec-Fcアームを有するT7A及びT9A AbLecバリアントが作製された。変異AbLecは、SK-BR-3細胞への結合の減少を示し(中央)、WT AbLecと比較して見かけのK
Dの約2~3倍の増加をもたらした(右)。これは、Siglec-Fcデコイ受容体分子の低親和性にもかかわらず、高親和性抗体-抗原相互作用によって細胞表面上に高い局所濃度で蓄積する場合、Siglecリガンドに結合することができることを示唆している。Siglec-Fcアームの結合への観察された寄与は、AbLec解離定数が、1つの抗体アームのみを有するにもかかわらず、二価親抗体トラスツズマブと同程度の大きさである理由を説明し得る。
【0166】
実施例2-標的化グリカン結合免疫受容体のAbLecブロック結合
この実施例では、AbLecが標的化グリカン結合免疫受容体の結合を遮断することが実証される。概略図及びデータを
図2a~
図2f及び
図5に示す。(a)AbLecが、抗体エフェクター機能を介して免疫細胞を動員することに加えて、腫瘍細胞上のSiglecリガンドを遮断することによって、Siglec軸を介した阻害性シグナル伝達を軽減することができる場合、それらは親モノクローナル抗体と比較して抗腫瘍免疫応答を増強する可能性を有すると仮定された。(b)トラスツズマブ/Siglec-7(T7)及びトラスツズマブ/Siglec-9 AbLecについての解離常数(K
D)値を、フローサイトメトリーを介して様々な濃度でSK-BR-3細胞への結合を定量化することによって測定した。SK-BR-3細胞は、トラスツズマブによって結合されたHER2抗原、並びにフローサイトメトリーによるSiglec-7及びSiglec-9のリガンドを発現する。標的HER2抗原並びにSiglec-7及びSiglec-9のリガンドを発現するHER2+K562細胞への結合について、T7及びT9 AbLecがAF647標識Siglec-Fc試薬と競合する能力を試験した。漸増濃度のT7又はT9 AbLecによる細胞の処理が、それぞれSiglec-7-Fc-AF647(c)又はSiglec-9-Fc-AF647(d)の結合を遮断する本発明者らの能力を増強することが、フローサイトメトリーによって観察された。AbLecは、Siglec-Fc結合をシアリダーゼ対照のレベル近くまで低下させ、これは、それらがSiglec受容体の細胞へのシアル酸依存性結合の大部分を遮断することができることを示唆している。(e)AbLecは更に、標的化されたSiglecの結合のみを遮断するようである。T7 AbLecによる処理は、試験した全ての濃度において、トラスツズマブ又は非コグネイトT9 AbLecによる処理と比較して、コグネイトSiglec-7-Fcの結合をより大きな程度まで遮断することができた。(f)AbLecは、内因性受容体によって結合された同じエピトープに結合し、遮断する。HER2+K562細胞への結合について抗CD43抗体MEM59と競合するAbLecの能力を試験した。K562細胞上で発現されるSiglec-7の主なリガンドがムチン糖タンパク質CD43であること、及びMEM59がCD43上のシアル化エピトープへのSiglec-7の結合を遮断できることが以前に示されている。T7 AbLecがMEM59の結合を遮断することができることが観察され、これは、T7 AbLecが内因性Siglec-7免疫受容体によって結合される同じCD43エピトープに結合し、遮断することを示唆している。更に、T7 AbLecは、トラスツズマブ又は非コグネイトT9 AbLecよりも大きな程度でMEM59の結合を遮断することができた。
【0167】
図5は、トラスツズマブハイブリッドAbLecが、多様なHER2+ヒト腫瘍セルラインに結合し、Siglec受容体の結合を遮断することを示す。図の左側のプロットは、T7 AbLecが、様々なレベルの標的化HER2抗原及びSiglec-7に対するリガンドを発現するHCC-1954、SK-BR-3、BT-20、及びZR-75-1細胞株に結合することを示す。図の右側のグラフは、本発明者らがSK-BR-3細胞を漸増濃度のT7 AbLecで処理すると、Siglec-7-Fc-AF647の細胞への結合を遮断する本発明者らの能力が増強されたことを示す。T7 AbLecは、Siglec-Fc結合をシアリダーゼ対照のレベル近くまで低下させたが、これは、AbLecが、細胞へのSiglec受容体のシアル酸依存性結合の大部分を遮断することができることを示唆している。
【0168】
実施例3-AbLecは、インビトロで抗体依存性細胞食作用及び細胞傷害性を増強する。
この実施例では、AbLecがインビトロで抗体依存性細胞食作用及び細胞傷害性を増強することが実証される。概略図及びデータを
図3a~
図3e及び
図4に示す。(a)インビトロ抗体依存性細胞食作用(ADCP)アッセイを、健常ドナー末梢血から単離及び分化したヒトマクロファージを使用して実行した。アッセイの時点で、マクロファージはSiglec-7及びSiglec-9を発現した。SK-BR-3標的細胞をpHrodoレッドで標識して、Incucyte機器を使用するタイムラプス蛍光顕微鏡法によるADCPの定量化を可能にした。(b)5時間のインキュベーション後のマクロファージ/SK-BR-3共培養実験の画像は、食作用の指標として赤色蛍光のレベルを示す。(c)n=3のユニークドナーにわたって、T7及びT9 AbLecは、トラスツズマブ又はSiglec-Fc単独と比較して、SK-BR-3細胞のADCPを有意に増強する。(d)インビトロ抗体依存性細胞傷害(ADCC)アッセイを、健常ドナー末梢血から単離されたヒトNK細胞を使用して実行した。アッセイの時点で、NK細胞はSiglec-7を発現した。SK-BR-3標的細胞をcelltracker redで標識し、Sytox greenの存在下でNK細胞と共培養して、フローサイトメトリーによる標的細胞死の定量を介したADCC活性の評価を可能にした。(e)n=3のユニークドナーにわたって、T7 AbLecは、トラスツズマブ又はSiglec-7-Fc単独と比較して、SK-BR-3細胞のADCCを有意に増強した。
【0169】
図4は、ADCPのAbLec媒介性増強が標的抗原(例えば、HER2)の発現に依存することを示す。n=3のユニークドナーにわたって、T7及びT9 AbLecは、トラスツズマブ又はSiglec-7/9-Fc単独と比較して、HER2+K562細胞のADCPを有意に増強した。しかしながら、HER2を発現しないWT K562細胞について、本発明者らは、トラスツズマブ又はAbLecのいずれかでADCP活性を観察しなかった。これは、AbLec免疫療法が、目的の抗原(例えば、腫瘍抗原、免疫細胞マーカなど)を発現する細胞に特異的に向けられ得ることを示唆する。
【0170】
実施例4-AbLecは、インビトロでの抗腫瘍免疫応答のSiglec依存性増強を介した併用免疫療法よりも優れている。
この実施例では、AbLecが、インビトロでの抗腫瘍免疫応答のSiglec依存性増強を介した併用免疫療法よりも優れていることが実証される。概略図及びデータを
図6a~
図6dに示す。(a)T7及びT9 AbLecは、n=3のユニークドナーにわたって、トラスツズマブとSiglec-7-Fc、Siglec-9-Fc又はV.コレラエシアリダーゼとの組み合わせと比較して、HER2+K562細胞のADCPの増強を誘発した。T7及びT9 AbLecは、n=3のユニークドナーにわたって、トラスツズマブとSiglec-7若しくはSiglec-9アンタゴニスト抗体又はV.コレラエシアリダーゼとの組み合わせと比較して、SK-BR-3細胞のADCP(b)及びADCC(c)の増強を誘発した。(d)ADCP及びADCCのAbLec媒介性増強は、Siglec依存的であった。マクロファージ(上)又はNK細胞(下)を、免疫細胞においてSiglec-7/9ノックアウトとして本質的に機能するSK-BR-3細胞との共培養の前に、Siglec-7又はSiglec-9アンタゴニスト抗体と共にインキュベートした場合、AbLec処理時に観察されたADCP又はADCCレベルは、トラスツズマブ処理で観察されたレベルと同様のレベルに低下した。しかしながら、Siglec免疫受容体が遮断されなかった場合、AbLecは、インビトロADCP及びADCCを増強した。このSiglec依存性は、n=3のユニークなドナーにわたって観察され、AbLec処置で観察されたADCP及びADCCの増強が、標的Siglec軸の遮断の結果であることを示唆している。
【0171】
実施例5-AbLecプラットフォームは、多様な糖免疫チェックポイント標的の遮断を可能にする。
この実施例では、AbLecプラットフォームが多様な糖免疫チェックポイント標的の遮断を可能にすることが実証される。概略図及びデータを
図7a~
図7d及び
図8に示す。(a)AbLecを作製するために使用されるノブ・イントゥ・ホール二重特異性足場のモジュール構造に起因して、追加のチェックポイント阻害剤の産生のために抗体及びデコイ受容体成分を容易に交換することができる。(b)多様な作用機序を有する追加のAbLec候補のSDS-PAGE特性評価。腫瘍細胞上のCD47及びSiglec-7リガンドの二重チェックポイント遮断のために、マグロリマブx Siglec-7 AbLecを設計する。マグロリマブは、現在、血液がんに対する第III相臨床試験中の抗CD47抗体(Liu他2015)である(Garcia-Manero et al.2021)。ペムブロリズマブ×ガレクチン-9 AbLecは、疲弊T細胞上のPD-1及びガレクチン-9リガンドの二重チェックポイント遮断のために設計されている。ガレクチン-9は、T細胞上のTIM-3チェックポイントに結合し、T細胞疲弊に寄与することによって、免疫回避に寄与することが示されている(Yang et al.2021)。トラスツズマブ×Siglec-10 AbLecは、HER2+腫瘍を同時に標的とし、Siglec-10免疫チェックポイントを遮断するように設計されており、これは、乳がん及び卵巣がんにおける免疫回避において役割を果たすことが最近示された(Barkal et al.2019)。リツキシマブ×Siglec-7(R7)及びセツキシマブ×Siglec-7(C7)AbLecの機能的特性評価は、多様な腫瘍型における併用腫瘍標的化及び糖免疫チェックポイント遮断のためのAbLecプラットフォームの有用性を実証する。n=3のユニークなドナーにわたって、R7(c)及びC7(d)AbLecは、親抗体又はSiglec-7-Fc単独と比較して、CD20+Ramos細胞又はEGFR+K562細胞のADCPを有意に増強する。
【0172】
図8は、n=3のユニークなドナーにわたって、R7 AbLecがまた、リツキシマブと比較してCD20+Raji細胞のADCCを増強することを示す(左)。シアリダーゼによる処理後にリツキシマブと比較してR7 AbLecによるADCCの有意な増強がなかったので、ADCCの増強は、シアル酸依存性効果であった(右)。
【0173】
実施例6-多様なAbLec分子の発現
図9に示すのは、多様なAbLec分子についての還元及び非還元SDS-PAGE並びにウェスタンブロット分析である。還元SDS-PAGEは、各AbLecが、デコイ受容体鎖並びに抗体重鎖及び軽鎖の分子量と一致する3つのジスルフィド結合タンパク質鎖から構成されることを示して実証した。それぞれデコイ受容体及び抗体重鎖上のHA及びHis6タグに対するウェスタンブロッティングは、完全長AbLecが抗体及びデコイ受容体アームの両方から構成されることを更に実証した。
【0174】
材料及び方法
プラスミド及びタンパク質配列
全てのAbLecプラスミドは、Twist Bioscienceによって生成された。DNA配列を表1に列挙し、タンパク質配列を表2に列挙する。AbLec配列を、XhoI及びNheI切断部位を使用して、Twist BioscienceベクターpTwist CMV BetaGlobinに挿入した。この明細書で使用したトラスツズマブは、本発明者らの以前の研究(Gray et al.2020)に記載のpCDNA3.1ベクターから発現させた。リツキシマブ及びセツキシマブ抗体可変配列をIDTによって生成し、In-Fusionクローニングキット(Takara)を製造業者のプロトコルに従って使用することによって、VRC01抗体プラスミドベクター(StanfordのKim labからの厚意)の可変領域にクローニングした。
【0175】
タンパク質の発現及び精製
抗体及び培養AbLecを、Expi293Fシステム(Thermo Fisher)において発現させ、確立された製造業者プロトコルに従って発現させた。リツキシマブ及びセツキシマブ抗体については、1:1の重鎖プラスミド対軽鎖プラスミドの重量比を使用した。AbLecについては、2:1:1の比のレクチン:重鎖:軽鎖を使用した。トラスツズマブ抗体重鎖及び軽鎖を単一プラスミドから共発現させた。発現の7日後、細胞を300×gで5分間ペレット化し、続いて3700×gで40分間スピンして清澄化し、0.2μmナイロンフィルター(Fisher Scientific 0974025A)で濾過することによって、タンパク質を上清から収集した。抗体を、プロテインAアガロース(Fisher Scientific 20333)を使用する手動重力カラムによって、清澄化した上清をカラム2×に流し、ビーズ上で2μM STシアリダーゼで0.5~2時間室温でシアリダーゼ処理し、次いで5×カラム体積のPBSで洗浄し、100mMグリシン緩衝液pH2.8で5mLずつ、150uLの1M Tris pH8で予め平衡化したチューブに溶出することによって精製した。抗体を、PD-10カラム(GE)を使用してPBSに緩衝液交換した。培養AbLecを、ニッケル-NTAアガロース樹脂(Qiagen 30210)を使用する手動重力カラムによって精製した。簡潔に述べると、AbLec上清を樹脂(PBS中で予め平衡化した)と共に4Cで約1時間インキュベートした。次いで、ビーズ及び上清をクロマトグラフィーカラム(BioRad 7321010)にロードし、ビーズ上のシアリダーゼを2μM STシアリダーゼで室温で2時間処理し、20×カラム体積のPBS+20mMイミダゾールで洗浄し、5×カラム体積のPBS+250mMイミダゾールで2回溶出した。AbLecを、PD-10脱塩カラムを使用してPBSに緩衝液交換した。
【0176】
Siglec-Fc-AF647試薬を作製するためのバイオコンジュゲーション
Siglec-Fc DNA配列を、アルデヒドタグ付けのために安定なヒトFGEタンパク質を共発現するExpi293F細胞において発現させた。細胞を、Thermo FisherからのExpi293プロトコルに従って暗所で発現させ、次いで、0.2μmフィルターを通して濾過し、プロテインAアガロースビーズを含有するカラムにロードした。タンパク質をカラム上で2時間シアリダーゼ処理した(2μMサルモネラティフィムリウムシアリダーゼ、室温)。続いて、PBSで洗浄し、100mMグリシン(pH 2.8)、10mLで緩衝化トリスpH 8溶液中に溶出した。Gray,et al(Gray et al.2020)からのプロトコルに従って、Siglecを酸性緩衝液に緩衝液交換し、濃縮し、HIPS-アジドとコンジュゲートさせた。次いで、Siglec-Fc-アジドを更なる特性評価なしで採取し、緩衝液をPBSに交換し、DMSO中の100×モル当量のDBCO-AF647(Click Chemistry Tools、1302-1)を添加し、反応物を暗所にて500rpmで2時間室温で混合した。Siglecを、PBS中のAmiconカラム(30kDa MWCO)での6回遠心分離によって緩衝液交換し、AF647色素(吸光係数239,000)については650nmで、タンパク質については280nmでNanoDrop分光光度計を使用することによって(Expasyによって各Siglecについて計算された吸光係数を使用して)、AF647の添加を確認した。18
【0177】
AbLecゲル特性評価
SDS-PAGEゲルについては、SDS色素単独(非還元条件)、又は95Cで5分間加熱した(還元条件)SDS色素+1Mベータメルカプトエタノールを含む2μgのタンパク質を、Bis-Tris 4-12%Criterion(商標)XT Bis-Tris Protein Gel、18ウェル(Bio-Rad 3450124)上にロードし、XT-MES緩衝液を用いて180Vで40分間泳動した。タンパク質をAquastain(Bulldog Bio AS001000)で10分間染色し、続いて水中で10分間脱染した。AbLecのウェスタンブロッティングのために、0.2μgのタンパク質をSDS-PAGEゲルにロードし、上記のように泳動し、次いでゲルを、Trans-Blot(登録商標)Turbo(商標)RTA Midi Nitrocellulose Transfer Kit(Bio-Rad 1704271)、25V、14分を使用してニトロセルロース膜に移した。膜をブロッキング緩衝液(PBS+0.5%BSA)中で室温で1時間ブロッキングし、次いでInvitrogen HAタグポリクローナル抗体(SG77)(Thermo Fisher Scientific 71-5500)及び精製抗His Tag抗体(BioLegend 652502)でブロッキング緩衝液中で室温で振盪しながら1時間染色した。膜をPBST(PBS+0.1%Tween)中で3回洗浄し、続いてPBST中の二次抗体IRDye(登録商標)800CWヤギ抗マウス及びIRDye(登録商標)680RDヤギ抗ウサギ(LI-COR)で室温で15分間振盪しながら染色し、続いてPBST中で更に3回洗浄した。全てのゲルを、Odyssey(登録商標)CLx Imaging System(LI-COR)で画像化した。
【0178】
AbLec融解温度特性評価
SYPROオレンジ色素(Thermo Fisher)を希釈して25×ストックを作製し、5uL(抗体を含む最終5×)濃度)を、PBS中0.2mg/mLの20uLのAbLec、Siglec-Fc、又は抗体に添加して、96ウェルqPCRプレートにおいてウェル当たり25uLを作製した。タンパク質の変性は、温度を25℃から95℃まで1分毎に0.5℃上昇させることによって、qPCRにおけるFRET蛍光チャネルにおいて分析した。
【0179】
AbLec質量分析特性評価
プロテオミクス分析のために、PBSに溶解した4マイクログラムの各AbLecをトリプシンで消化した。試料を5mMジチオスレイトールと共に55℃で18分間インキュベートし、続いて15mMヨードアセトアミドと共に暗所で室温で30分間インキュベートした。トリプシン(Promega)を1:20w:w比で添加し、消化を室温で一晩進行させた。翌朝、最初にギ酸で消化をクエンチして約2の最終pHにし、続いてポリスチレン-ジビニルベンゼン固相抽出(PS-DVB SPE)カートリッジ(Phenomenex,Torrance,CA)で脱塩することによって、試料を脱塩した。試料を脱塩後に真空遠心分離で乾燥させ、0.2%ギ酸水溶液に0.5μg/μLで再懸濁した。
【0180】
分析毎に約1μgのペプチドを注入し、ペプチドを25cm EasySpray逆相LCカラム(2μm、100Å、PepMap C18粒子を充填した内径75μm、Thermo Fisher Scientific)で分離した。移動相(A:0.2%ギ酸を含む水及びB:0.2%ギ酸を含むアセトニトリル)を、Dionex Ultimate 3000 RPLCナノシステム(Thermo Fisher Scientific)によって駆動及び制御した。勾配溶出を300nL/分で実行した。移動相Bを6分間にわたって0%に保持し、続いて7分で5%に増加させ、66分で25%に増加させ、70分で90%Bに傾斜させ、90%Bで5分間洗浄した。次いで、流量を75.1分で0%Bに戻し、カラムを0%Bで15分間再平衡化し、全分析時間を90分とした。溶出したペプチドを、Orbitrap Fusion Tribrid MSシステム(Thermo Fisher Scientific)上で分析した。接地と比較して+2.2kVに保持されたEASY-Sprayイオン化源(Thermo Fisher Scientific)源を使用して前駆体をイオン化し、カラムを40℃に保持した。入口キャピラリー温度を275℃に保持した。ペプチド前駆体のサーベイスキャンを、1,000,000のAGC標的、50msの最大注入時間、及び200m/zで60,000の分解能で、350~1350m/zのOrbitrapにおいて収集した。モノアイソトピック前駆体選択をペプチド同位体分布に対して可能にし、z=2~5の前駆体をサイクル時間2秒間のデータ依存的MS/MSスキャンに対して選択し、動的排除を30秒に設定し、前駆体モノ同位体の周囲に±10ppmウィンドウを設定した。1m/zの単離窓を使用して、四重極で前駆イオンを選択した。MS/MSスキャンを、100,000のAGC標的及び54msの最大注入時間で30正規化衝突エネルギー(nce)でHCDを使用して収集した。質量分析は、Orbitrapにおいて、200m/zで30,000の分解能及び自動計算に設定されたスキャン範囲で実行した。
【0181】
生データを、Byonic19、バージョンMaxQuantバージョン3.11.3を使用して処理した。メチオニンの酸化(+15.994915)を一般的な20可変修飾として設定し、タンパク質N末端アセチル化(+42.010565)及びアスパラギン脱アミノ化(+0.984016)をまれな1可変修飾として特定し、システインのカルバミドメチル化(+57.021464)を固定修飾として設定した。3つまでの一般的な改変及び2つのまれな改変が許容された。10ppmの前駆イオン検索許容範囲及び20ppmの生成イオン質量許容範囲を検索のために使用し、完全なトリプシン特異性のために3つの欠損切断を許容した。ペプチドスペクトルマッチ(PSM)を、Siglec-7及び-9ホール、並びにトラスツズマブ/リツキシマブノブ及び軽鎖の適切な組み合わせを含有するカスタムFASTA配列ファイルに対して作製した。ペプチドを1%偽発見率(FDR)にフィルタリングし、1%タンパク質FDRを標的-デコイ法に従って適用した。2全てのペプチド同定を手動で検査し、配列カバレッジを検証されたペプチド同定からのみ計算した。配列カバレッジパーセンテージは、アミノ酸の総数に対するペプチド同定によって説明されるアミノ酸の割合に由来する。
【0182】
細胞培養
全ての細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC)から購入した。SK-BR-3、HCC-1954、K562、Raji、及びRamosを、抗生物質選択なしで、RPMI+10%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)中で培養した。Expi293F細胞は、スタンフォードのKim labからの贈り物であり、Thermo Fisher Scientificのユーザーガイドに従って培養した。予めパッケージングされたレンチウイルス粒子(G&P Biosciences)を使用して、製造業者のプロトコルに従ってK562にEGFRをトランスフェクトし、1μg/mLピューロマイシン(InVivoGen)中での培養によってEGFR発現について選択した。予めパッケージングされたレンチウイルス粒子(G&P Biosciences LTV-CD20)を使用して、製造業者のプロトコルに従ってK562にCD20をトランスフェクトし、リツキシマブ及びFACS機器上の染色試薬としてBV421標識抗ヒト二次抗体(Biolegend)を使用してCD20発現について選別した。HER2 WTは、Mien-Chie Hungから贈与されたものであり(Addgeneプラスミド#16257)、安定なHER2+細胞株をそれらのプロトコルに従って生成し、21タンパク質発現をフローサイトメトリーによって検証した。細胞株は、ATCCから提供される同一性を超えて独立して認証されなかった。細胞株を、5%CO2及び37℃の加湿インキュベーター中で培養し、PCRベースのアッセイを使用して、マイコプラズマについて四半期毎に陰性であると試験した。
【0183】
AbLec KDの定量化
HER2+K562及びSK-BR-3細胞を、それぞれ、細胞培養上清から、又はTrypLE(Gibco)での解離を介して単離し、1×PBSで洗浄し、ブロッキング緩衝液に再懸濁した。次いで、60,000個の細胞を96ウェルV底プレート(Corning)のウェルに分配した。様々な濃度(200~0.4nM)のトラスツズマブ、Siglec-Fc、又はAbLecを等体積で細胞に添加し、定期的にピペットで混合しながら細胞と共に4℃で1時間インキュベートした。細胞をブロッキング緩衝液中で3回洗浄し、洗浄の間に4℃で5分間、300gで遠心分離することによってペレット化した。細胞を、ブロッキング緩衝液中のAF647ヤギ抗ヒト(BioLegend)に4℃で30分間再懸濁した。細胞を更に2回洗浄し、ブロッキング緩衝液に再懸濁し、フローサイトメトリー(BD LSR II)によって蛍光を分析した。FlowJo v.10.0ソフトウェア(Tree Star)を使用してゲーティングを実行し、デブリを除去し、単一細胞を単離した。細胞集団の平均蛍光強度(MFI)を、各実験反復からの50nMトラスツズマブで染色された細胞のMFIに対して正規化した。GraphPad Prism 9を使用して、MFI値を一部位全結合曲線に当てはめ、最大半量結合を達成するのに必要な抗体濃度としてKD値を計算した。
【0184】
Siglec-Fc-AF647試薬との競合的結合
HER2+K562及びSK-BR-3細胞を、それぞれ、細胞培養上清から、又はTrypLE(Gibco)での解離を介して単離し、1×PBSで洗浄し、ブロッキング緩衝液に再懸濁した。ブロッキング緩衝液中37℃で30分間、100nMのV.コレラエシアリダーゼによるシアリダーゼ処理のために細胞を分注した。次いで、60,000個の未処理細胞又はシアリダーゼ処理細胞を96ウェルV底プレート(Corning)のウェルに分配した。様々な濃度(100~0.4nM)のトラスツズマブ又はAbLecを200nMのSiglec-Fc-AF647試薬と共に等体積で細胞に添加し、定期的にピペットで混合しながら細胞と共に4℃で2~3時間インキュベートした。細胞を3回洗浄し、ブロッキング緩衝液中に再懸濁し、洗浄の間に4℃で5分間、300gで遠心分離することによってペレット化し、蛍光をフローサイトメトリー(BD LSR II)によって分析した。FlowJo v.10.0ソフトウェア(Tree Star)を使用してゲーティングを実行し、デブリを除去し、単一細胞を単離した。細胞集団の平均蛍光強度(MFI)を、各実験複製物由来の抗体又はAbLecを含まない200nMのSiglec-Fc-AF 647で染色した細胞のMFIに対して正規化した。GraphPad Prism 9を使用して、MFI値を一部位全結合曲線に当てはめ、最大半量結合を達成するのに必要な抗体濃度としてKD値を計算した。
【0185】
ドナーNK細胞の単離
PBMCを上記のようにLRSチャンバーから単離し、90%熱不活性化FBS+10%DMSO中2~4×107細胞でストックを調製し、使用するまで液体窒素蒸気中で保存した。使用前日にストックを解凍し、EasySep NK単離キット(StemCell Technologies 17955)を使用してNK細胞を単離し、使用するまで、RPMI+10%熱不活性化FBS中の0.5μg/mL組換えIL-2(Biolegend 589106)と共に細胞を一晩培養した。
【0186】
NK細胞フローサイトメトリー
IL-2で24時間活性化した後、NK細胞を培養上清から収集し、1×PBSで洗浄し、ブロッキング緩衝液に再懸濁した。分析の日に、マクロファージを、ブロッキング緩衝液中の抗CD16、Siglec-7、及びアイソタイプ対照で、4℃で30分間染色した。PBS中で2回洗浄した後、NK細胞をフローサイトメトリー(BD LSR II)によって分析し、FlowJo v10を使用してCD16陽性細胞についてゲーティングした。NK細胞は、フローサイトメトリーにより>85%純粋であった。
【0187】
NK細胞死滅アッセイ
標的細胞をリフトし、製造業者のプロトコルに従ってcelltracker深赤色色素で染色した。NK細胞及び標的細胞を4:1のエフェクター対標的(E/T)比で混合し、Sytox Green(Thermo)を100nMで添加した。細胞死を、フローサイトメトリーによって、赤色(FL4-A+)細胞を選択し、Sytox Green+/全赤血球として死滅パーセントを計算することによって分析した。3人の固有の血液ドナーからの複製をPrism 9.0(GraphPad Software,Inc)でプロットした。
【0188】
ドナーマクロファージの単離及び分化
LRSチャンバーを健康な匿名血液バンクドナーから入手し、Ficoll-Paque(GE Healthcare Life Sciences)密度勾配分離を使用してPBMCを単離した。無血清RPMIのT75フラスコに約1×108個のPBMCを1~2時間プレーティングし、続いてPBS+Ca+Mgで3回厳密に洗浄して非接着細胞を除去することによって単球を単離した。次いで、培地を10%ヒトAB血清(Gemini)を含むIMDMと交換して、マクロファージを7~9日間分化させた後、食作用又はフローサイトメトリー実験に使用した。
【0189】
マクロファージフローサイトメトリー
7~9日目のマクロファージを上記のようにプレートから持ち上げ、次いでPBS中の4%ホルムアルデヒド(Thermo)で15分間固定し、PBSで3回洗浄し、分析まで4℃で2~7日間保存した。分析当日に、マクロファージを、ブロッキング緩衝液中のCD11b、CD14、Siglec-7、Siglec-9、Siglec-10、及びアイソタイプ対照で、4℃で30分間染色した。PBS中で2回洗浄した後、マクロファージをLSR II機器でフローサイトメトリーによって分析し、FlowJo v10を使用してCD11b及びCD14二重陽性細胞についてゲーティングした。マクロファージは、フローサイトメトリーによって>85%純粋であった。
【0190】
食作用アッセイ
マクロファージをPBSで洗浄し、10mLのTrypLE(Thermo)と共に37℃で20分間インキュベートすることによって取り出した。RPMI+10%HI FBSを等容量まで添加し、マクロファージを300×gで5分間遠心分離することによってペレット化し、IncuCyte培地(フェノールレッドを含まないRPMI+10%HI FBS)に再懸濁した。マクロファージ(10,000細胞、100μL)を96ウェル平底プレート(Corning)に添加し、加湿インキュベーター中、37℃で1時間インキュベートした。一方、標的細胞をPBSで1回洗浄し、次いで、PBS中の1:80,000希釈したpHrodoレッドスクシンイミジル(succinimydyl)エステル色素(Thermo Fisher)で37℃で30分間処理し、1回洗浄し、IncuCyte培地に再懸濁した。最後に、PBS中の10uLの20×抗体又はAbLecストックをマクロファージに添加し、続いてpHrodoレッド染色標的細胞(90uL、20,000細胞)を添加した。細胞を穏やかな遠心分離(50×g、2分)によってプレーティングした。最大シグナルに達するまで1時間間隔でウェル当たり2枚の画像を取得した(乳がん細胞株及びK562細胞については5時間、Raji細胞及びRamos細胞については2時間)。pHrodo赤色蛍光の定量化は、それらのバックグラウンド蛍光及びサイズに基づいて各細胞株の食作用について経験的に最適化された。K562を0.8の閾値、-70のエッジ感度で分析し、面積を100~2000μm2にゲーティングし、積分強度は300~2000RCU×μm2/画像であった。HCC-1954を、1.5の閾値、-45のエッジ感度、及び30~2000μm2の面積で分析した。SK-BR-3分析は、1の閾値、-55のエッジ感度、60の最小積分強度、並びにそれぞれ3000及び0.96の最大面積及び偏心率を有した。Ramos及びRajiゲーティングは、1.5の閾値、-45のエッジ感度、及び100~2000μm2の面積を使用して定義した。全赤色物体積分強度(RCU×μm2/画像)を各画像について得た。各実験について、pHrodo redによって測定された最大食作用を1に正規化し、次いで、各生物学的複製物について三連の技術的ウェル複製物を平均化した。3人の固有の血液ドナーからの複製をPrism 9.0(GraphPad Software,Inc)でプロットした。
【0191】
IncuCyte画像の取得
食作用及び毒性アッセイのために、5%CO2で37℃に維持されたThermo Fisher Scientific組織培養インキュベーター内でIncucyte(登録商標)S3 Live-Cell Analysis System(Essen BioScience)を使用して経時的に画像を得た。データは、位相差の10倍対物レンズ、緑色蛍光チャネル(例えば、460±20、em:524±20、取得時間:300ms)、及び赤色蛍光チャネル(例えば、585±20、em:665±40、取得時間:400ms)から取得した。ウェル当たり2つの画像を間隔をおいて取得した。特に明記しない限り、全ての細胞を、半径100μm、エッジスプリットオン、ホールフィル:0μm2を用いたTop-Hatセグメンテーションによって分析した
【0192】
細胞成長及び毒性アッセイ
GFP+SK-BR-3、HER2+K562、及びHCC-1954細胞を、2mLトリプシンを用いて37℃で5分間リフトし、8mL正常成長培地ですすぎ、細胞を300×gでの遠心分離によってペレット化し、GFP陽性SK-BR-3株について50nM Sytoxグリーン細胞死染色(Thermo Fisher)又は5nM Sytoxレッド死細胞染色(Thermo Fisher)を含有するフェノールレッド不含成長培地に再懸濁して、細胞毒性を測定した。細胞を平底96ウェルプレート上にプレーティングし(10,000細胞/ウェル、95uL)、次いでPBS中の5uLのAbLec、Siglec、又は抗体を添加し、混合し、続いて30×gで1分間遠心分離した。画像を2時間毎に3日間取得した。SK-BR-3細胞を、セグメンテーション調整=1及び200μm2の最小面積を有する位相によって分析し、細胞死を、0.3RCUの閾値を使用して赤色蛍光によって定量化し、エッジ感度は-50及び面積は50~1000平方ミクロンであった。HCC-1954セルは、0.9セグメンテーション調整、300平方ミクロンホール充填、及び200平方ミクロンの最小面積を有した。Sytox緑色死事象は、1の閾値、-45のエッジ感度、及び100~3000平方ミクロンの面積で検出された。K562位相セグメンテーション調整は0.2であり、ホールフィルはなく、最小面積は60ミクロンであった。緑色蛍光チャネルでは、閾値は2であり、エッジ感度は-45であり、面積は50~800ミクロンであり、偏心度及び積分強度は、それぞれ0.95及び40000未満であった。
【0193】
統計分析
統計分析は、Prism(バージョン9)で実行した。結合曲線については、1部位特異的結合曲線を使用して、抗体及びAbLecの解離定数を計算した。結合アッセイ、NK細胞の細胞傷害性実験、食作用実験及びSiglec発現分析では、処置群を比較するためにテューキーの多重比較検定を用いて通常の一方向ANOVAを実行した。全ての場合において、アスタリスク*はp<0.05を示し、**はp<0.01を示し、***はp<0.001を示し、****はp<0.0001を示す。
【0194】
アミノ酸配列
本明細書で用いたAbLec及び抗体のアミノ酸配列を以下の表に示す。イタリック体のアミノ酸は、最終精製分子中に存在しないシグナル輸送配列を表す。HAタグ及びヘキサヒスチジンタグは、下線又は太字であり、終止コドンは、アステリクス*で表される。
【0195】
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
【0202】
【0203】
【0204】
ヌクレオチド配列
本明細書で用いたAbLec及び抗体をコードするヌクレオチド配列を以下の表に示す。配列は、輸送シグナルペプチド、ヘキサヒスチジンタグ及びHAタグなどのペプチドタグ、並びに終止コドンを含む。
【0205】
【0206】
【0207】
【0208】
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
【0216】
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
【0225】
【0226】
【0227】
参考文献
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Gray,M.A.,M.A.Stanczak,N.R.Mantuano,H.Xiao,J.F.A.Pijnenborg,S.A.Malaker,C.L.Miller,et al.2020.「Targeted Glycan Degradation Potentiates the Anticancer Immune Response in Vivo.」Nature Chemical Biology16:1376-1384.
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Wisnovsky,Simon,Leonhard Mockl,Stacy A.Malaker,Kayvon Pedram,Gaelen T.Hess,Nicholas M.Riley,Melissa A.Gray,et al.2021.「Genome-Wide CRISPR Screens Reveal a Specific Ligand for the Glycan-Binding Immune Checkpoint Receptor Siglec-7.」Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America118(5).https://doi.org/10.1073/pnas.2015024118.
Yang,Riyao,Linlin Sun,Ching-Fei Li,Yu-Han Wang,Jun Yao,Hui Li,Meisi Yan,et al.2021.「Galectin-9 Interacts with PD-1 and TIM-3 to Regulate T Cell Death and Is a Target for Cancer Immunotherapy.」Nature Communications12(1):1-17.
【0228】
したがって、上記は、単に本開示の原理を説明するものである。当業者であれば、本明細書に明示的に記載又は図示されていないが、本発明の原理を具現化し、その趣旨及び範囲内に含まれる様々な構成を考案することができることが理解されよう。更に、本明細書に列挙された全ての例及び条件付き言語は、主に、本発明の原理及び本発明者らが当該技術を促進するのに寄与した概念を読者が理解するのを助けることを意図しており、そのような具体的に列挙された例及び条件に限定されないと解釈されるべきである。更に、本発明の原理、態様、及び実施形態、並びにそれらの特定の例を記載する本明細書における全ての記述は、それらの構造的均等物及び機能的均等物の両方を包含することが意図される。更に、そのような均等物は、現在知られている均等物及び将来開発される均等物、すなわち、構造にかかわらず同じ機能を実行する開発された任意の要素の両方を含むことが意図される。したがって、本発明の範囲は、本明細書に示され説明された例示的な実施形態に限定されるものではない。
【配列表】
【国際調査報告】