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特表2024-512695セラミック電解質を形成するための組成物及び結果として生じる電解質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】セラミック電解質を形成するための組成物及び結果として生じる電解質
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/113 20060101AFI20240312BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20240312BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C04B35/113
C04B35/447
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560464
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 GB2022050758
(87)【国際公開番号】W WO2022208058
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】2104429.2
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520129713
【氏名又は名称】リナ エナジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100202603
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 智史
(72)【発明者】
【氏名】ドーソン リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ルイス ジーン
(72)【発明者】
【氏名】アゼヴェード ジョアナ フィリッパ ジンゲイラ ジャルディン デ
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA14
5G301CA17
5G301CA18
5G301CA19
5G301CA25
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
(57)【要約】
ナトリウムイオン伝導性電解質構造体を形成するための組成物であって、少なくとも1種の遷移金属酸化物、例えば酸化銅、酸化チタン及び酸化ニオブ若しくは酸化鉄、又はこれらの酸化物の前駆物質の粒子と組み合わせて、ナトリウムイオン伝導性セラミックの粒子を含んで、金属酸化物が、粒子の質量の5質量%以下を構成する、組成物を提供する。ナトリウムイオン伝導性セラミックは、ナシコン、又はβ’’-アルミナと呼ばれるタイプのものであってよい。金属酸化物は、粒子の質量の2%以下を構成してよい。金属酸化物は、焼結セラミックの電気的特性に有意な悪影響を及ぼさずに、低減した焼結温度で緻密化を達成できるようにする焼結助剤として作用する。本発明は、この組成物を焼結させることことによって作り出される電極構造をも包含する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムイオン伝導性電解質構造体を形成するための組成物であって、ナトリウムイオン伝導性セラミックの粒子と、少なくとも1種の遷移金属酸化物、又は遷移金属酸化物用の少なくとも1種の前駆物質の粒子とを含んで、1種又は複数の前記遷移金属酸化物が、前記粒子の質量の5質量%以下を構成する、前記組成物。
【請求項2】
前記遷移金属が、銅、チタン、ニオブ、ハフニウム、スカンジウム、コバルト、バナジウム又は鉄から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記金属酸化物が、銅、チタン及びニオブの酸化物を含む、請求項1~2のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
酸化銅の比率が、酸化チタンの比率より高く、一方で酸化チタンの比率が、酸化ニオブの比率より高い、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記酸化物CuO:TiO2:Nb2O5の質量比が、比4:2:1である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記金属酸化物が酸化鉄である、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記金属酸化物粒子が、前記組成物中の粒子の質量の3%以下を構成する、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記金属酸化物粒子が、前記組成物中の粒子の質量の2%以下を構成する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記金属酸化物粒子が、前記ナトリウムイオン伝導性セラミック粒子より小さいメジアン径を有し、そのため加工中に前記ナトリウムイオン伝導性セラミック粒子間の空隙にそれらが適合して電解質構造体を形成する、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記金属酸化物の粒子が、前記ナトリウムイオン伝導性セラミック粒子のメジアン径の10分の1未満のメジアン径を有するナノ粉末である、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記金属酸化物粒子が、前駆物質塩の熱分解によって、前記ナトリウムイオン伝導性セラミック粒子の表面上に作られる、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物を焼結させて、ナトリウムイオン伝導性焼結セラミックを形成することによって形成される、電解質構造体。
【請求項13】
ナトリウムイオン伝導性セラミックの粒子間の界面に少なくとも1種の遷移金属酸化物を含む焼結ナトリウムイオン伝導性セラミックを含む電解質構造体であって、前記遷移金属酸化物が、前記電解質構造体のセラミックの5質量%以下を構成する、前記電解質構造体。
【請求項14】
前記少なくとも1種の金属酸化物が、前記電解質構造体のセラミックの2質量%以下を構成する、請求項11に記載の電解質構造体。
【請求項15】
前記焼結ナトリウムイオン伝導性セラミックを支持するための穴あき金属シートをも含む、請求項12~14のいずれか1項に記載の電解質構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに用いるセラミック電解質を形成するための組成物又は混合物、及び結果として生じる電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミック電解質を使用するいくつかの様々なタイプの電気化学セルが知られている。これらには、十分な伝導度を与えるために電解質が高温でなければならないセル;及び液体であるべき電極成分のために電極が高温でなければならないセルが含まれる。このようなタイプのセルの1つは溶融ナトリウム金属ハロゲン化物充電式電池、例えばZEBRAセルと呼ばれることがあるナトリウム/ニッケル塩化物セルである(例えばJ.L. Sudworth, “The Sodium/Nickel Chloride (ZEBRA) Battery (J. Power Sources 100 (2001) 149-163参照)。ナトリウム/ニッケル塩化物セルは、ナトリウムイオンを伝導する固体電解質によって正極と隔てられた液体ナトリウム負極を組み込む。固体電解質は、例えばβアルミナから成り得る。正極は、ニッケル、塩化ニッケル及びテトラクロロアルミン酸ナトリウムを含み、使用中は液体であり、二次電解質として作用して、塩化ニッケルから固体電解質へのナトリウムイオンの輸送を可能にする。正極はアルミニウム粉末をも組み込む。鉄等の他の遷移金属でニッケルの一部を置き換えると、追加の放電電圧レベルをもたらすことができる。このセルは、典型的に350℃未満である温度で作動するが、157℃であるテトラクロロアルミン酸ナトリウムの融点より高くなければならず、作動温度は典型的に270℃と300℃の間である。放電中、通常の反応は以下のとおりである。
カソード(正極):NiCl2+2Na++2e-→Ni+2NaCl
アノード(負極):Na→Na++e-
全体的な結果は、無水塩化ニッケル(カソード内)が金属ナトリウム(アノード内)と反応して塩化ナトリウム及びニッケル金属を生成し;セル電圧は、300℃で2.58Vである。
【0003】
改変タイプのZEBRAセル、すなわち溶融ナトリウム-ニッケル塩化物充電式セルがWO 2019/073260に記載されている。これは、非反応性金属の穴あきシート、及びこの穴あきシートの一面に結合したナトリウムイオン伝導性セラミックの非透過性層を含む電解質要素を使用する。従ってこの電解質要素では、強度は金属シートによって与えられ、これが、電解質の厚さを従来のZEBRAセルで必要とされる厚さに比べてかなり薄くすることを可能にする。このことが、かなり低い温度、例えば200℃未満で十分に機能できるセル又は電池をもたらす。さらに、セラミックのかなり薄い層は、周囲温度から加熱することによって誘導される応力をもかなり低減させるので、周囲温度からの立ち上げ時間をわずか数分にすることができる。これらは、両方とも商業的に有利な利点である。非透過性セラミック層は、穴あき金属シートの上に堆積されてそこに結合され、この結合は多孔性セラミック副層によることもある。同様の電解質が2020年12月9日出願のGB2019388.4=PCT/GB2021/053215に記載されている。この出願では、電解質として作用するセラミックのシートが、金属の穴あきシートと、実質的にその全面積に渡って接触して、セラミックのシートへの支持を与えているが、この出願では、セラミックシートは、金属シート上への堆積によって形成されるのではなく、別々に形成されている。
【0004】
ナトリウムイオンを伝導するのに適したセラミックは、ナシコン(Nasicon)と呼ばれるものであり;別の適切なセラミックはアルミナ、より詳細にはβ’’-アルミナであり、Na2O.5Al2O3のβ’’相である。この後者の材料の電解質はBASE、「βアルミナ固体電解質(Beta Alumina Solid Electrolyte)」と呼ばれることがある。ナシコンは、略称「Na Super-Ionic CONductor」の材料のファミリーであり、式NaMP3O12によって広範に表すことができ、式中、Mは、種々多様の可能な原子価を有する1つ以上の金属イオンを表す。ナシコン材料は頂点共有MO6八面体とPO4四面体の三次元骨格から成る構造を有するが、結晶構造は組成によって決まる。該材料の1つはNa3Zr2(SiO4)2(PO4)である。
β’’-アルミナ又はナシコンの電解質構造体の形成は、粒状材料の層を形成し、焼成してコヒーレント構造を形成し、緻密化を果たす必要がある。燃焼温度は、ナシコンでは1200℃超であり、β’’-アルミナでは典型的に1600℃である。1100℃未満の温度は高温ステンレス鋼とより適合し、1200℃未満の温度は炉の資本コストもランニングコストをも削減するので、焼結及び緻密化をより低い温度で達成できれば望ましいだろう。さらに、1200℃超の高温度での加工は、セラミック層又はそれが上に形成される基材のねじれをもたらす可能性があり、炉が1400℃超で作動すれば、この問題が悪化する。セル内での有効なパフォーマンス、パッキング及びシーリングのためには層が平坦なままであることが不可欠である。いずれの該ねじれも研削、切断及び研磨等の追加の加工を必要とする可能性があり、生産コストを増大させ、材料の脆性のためばらつきを発生させることになる。重要なことには、1200℃以下の温度での燃焼は、ナトリウムイオン伝導層とのいずれの焼結後の機械的相互作用の必要性をも否定するだろう。
【発明の概要】
【0005】
本発明によれば、ナトリウムイオン伝導性電解質構造体を形成するための組成物であって、ナトリウムイオン伝導性セラミックの粒子と、少なくとも1種の遷移金属酸化物、又は遷移金属酸化物用の少なくとも1種の前駆物質の粒子とを含んで、1種又は複数の遷移金属酸化物が、粒子の質量の5質量%以下を構成する、組成物が提供される。
このように、組成物はこれらの2タイプの粒子、すなわちナトリウムイオン伝導性セラミックの粒子と、低比率の遷移金属酸化物(又は前駆物質)の粒子との混合物である。その又は各遷移金属酸化物は、焼結助剤として作用するので、ナトリウムイオン伝導性セラミック粒子の緻密化に必要とされる温度を下げる。遷移金属は、銅、チタン及び/又はニオブを含んでよい。使用してよい他の遷移金属は、ハフニウム、スカンジウム、コバルト又はバナジウムである。別の適切な遷移金属は鉄である。
セラミックで焼結助剤を使用することは周知である。典型的に、焼結助剤の添加は焼結温度を下げるが、実質的にホスト材料の特性を変え得る材料相互作用を有する。本発明は、β’’-アルミナとナシコン(NASICON)の両方の焼結温度を著しく下げ、かつ、重要なことに、セラミック内のナトリウムイオン空孔構造を害さない焼結助剤を提供する。従って、それらは緻密化セラミックのイオン伝導度を減じない。さらに、これらの焼結助剤のナトリウムイオン伝導性ホストへの添加方法は、ナトリウム伝導性材料の厚膜の開発に用いる方法論にわずかな影響しか及ぼさない。該方法としては、限定するものではないが、スクリーン印刷、噴霧、電気泳動堆積、テープキャスティング及びカレンダー掛けが挙げられる。
【0006】
驚いたことに本発明で使用する低比率の金属酸化物は、焼結材料のイオン伝導度を著しく低下させることなく、焼結及び緻密化に必要とされる温度のかなりの低減をもたらすことが分かった。
時には前駆物質塩(例えば銅酸化物用の前駆物質としての硝酸銅(II)、又は酸化鉄用の前駆物質としての硝酸第二鉄)の熱分解によって金属酸化物粒子をナトリウムイオン伝導性セラミックの表面上に作って、焼結助剤として作用する金属酸化物と、ナトリウムイオン伝導性セラミックの粒子との超微細混合を引き起こすことができる。セラミック粒子は粉末の形態であるので、これは、前駆物質塩の水溶液又はアルコール系溶液の粉末への添加を必要とすることがある。
遷移金属酸化物が、銅、チタン及びニオブの酸化物である場合、酸化銅の比率は酸化チタンの比率より大きく、一方で酸化チタンの比率は酸化ニオブの比率より大きくてよい。例えばこれらの質量による比率は、酸化物CuO:TiO2:Nb2O5について4:2:1であり得る。
【0007】
1種又は複数の遷移金属酸化物、例えば銅、チタン及びニオブの酸化物、又は酸化鉄の粒子が組成物中の粒子の質量の3%以下、好ましくは2%以下であるが、典型的に0.5質量%超、場合により1質量%超を構成する場合にナシコンによる緻密化向上が達成される。
最良の結果のためには、金属酸化物粒子はナトリウムイオン伝導性セラミックの粒子より小さくなければならず、そうしてそれらは加工中にナトリウムイオン伝導性セラミック粒子間の空隙に適合して電解質構造体を形成する。金属酸化物の粒子は、50nm未満、例えば30nm又は20nmのサイズのナノ粒子であり得るので、それらはセラミック粒子のサイズの10分の1未満である。セラミック粒子は、D95が2μm未満、例えば約1μmである単峰性粒度分布を有し得る。これらの粒子のD50は0.5μm未満、例えば約0.40又は0.35μmであり得る。金属酸化物の粒子は、好ましくはナトリウムイオン伝導性セラミック粒子の10分の1未満のメジアン径を有する。これは、金属酸化物粒子がセラミック粒子間の空隙に適合するのに十分小さいため、セラミック粒子の良好な充填を確実にする。
前駆物質からの遷移金属酸化物の現場生成は、全てのセラミック粒子の周りの遷移金属酸化物粒子の一様な分布、及び酸化物の非常に小さいナノサイズの粒子の両方の利益をもたらすことができる。例えば酸化鉄粒子は、硝酸第二鉄を加熱することによって作製可能であり、結果として生じる酸化鉄粒子は10nm未満であり得る。
緻密化を確実にするため、セラミック粒子と金属酸化物粒子の混合物は、所望形状(例えばペレット又は層)に形成されたらすぐに、例えば圧縮による圧密を受けた後に燃やされる。好ましくはこれが完全密度の50%と65%の間、又はさらに高いグリーン密度を達成する。圧密は、高いグリーン密度が燃焼前に確実に達成されるようにするので、残留空隙率、及び焼結中のクラックの形成をも回避する。
【0008】
第2の態様では、本発明は、上記組成物を焼結させて緻密化を達成することによって形成される電解質構造体を提供する。
本発明は、電解質構造体であって、電解質構造体の5質量%以下を構成する少なくとも1種の遷移金属酸化物を含む緻密化ナトリウムイオン伝導性セラミックを含む電解質構造体をも提供する。この構造体は、ナトリウムイオン伝導性セラミック粒子と、セラミックの隣接粒子間の界面にある遷移金属酸化物粒子とから成る。遷移金属酸化物は、例えば酸化鉄、又は銅、チタン及びニオブの酸化物のような組み合わせであり得る。
電解質は、孔又は穴のある金属シート又は金属箔によって支持されるか又はその上に堆積され得る。電解質は、穴あき金属シート上に形成された多孔質層、及び該多孔質層の反対面に形成された不透過性層を含み得る。或いは、不透過性層によって覆われた、漸進的に低レベルの空隙率を有する複数のセラミック層があってよい。例えば3つのセラミック層、すなわち穴あき金属シート上に形成された多孔質層、この多孔質層の外面に形成されたそれほど多孔質でない層、及びこのそれほど多孔質でない層の外面に形成された不透過性層があってよい。異なるサイズのセラミック粒子、及び異なる比率の遷移金属酸化物を利用して異なる多孔度を得ることができる。
以下、例としてのみ、かつ下記添付図面を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】1000℃まで焼結された種々の組成物のペレットについての膨張率測定データを示す。
図2】1050℃まで焼結された種々の組成物のペレットについての膨張率測定データを示す。
図3】1100℃まで焼結された種々の組成物のペレットについての膨張率測定データを示す。
図4】酸化物焼結助剤を添加して1000℃まで1時間焼結されたナシコンペレットの破断面の画像を10,000倍の拡大率で示す。
図5】酸化物焼結助剤を添加して1100℃まで1時間焼結されたナシコンペレットの破断面の画像を10,000倍の拡大率で示す。
図6】酸化物焼結助剤を添加せずに1000℃及び1100℃まで1時間焼結されたナシコンペレットの破断面の画像を10,000倍の拡大率で示す。
図7】室温における様々な組成のナシコンペレットについての直流伝導度の測定値を示す。
図8】250℃における様々な組成のナシコンペレットについての直流伝導度の測定値を示す。
図9】焼結剤の有無によって生成されたナシコンペレットについて、実数インピーダンスに伴う虚数インピーダンスの変化を示すナイキスト(Nyquist)プロットとして電気インピーダンスデータをグラフを使って示す。
図10】2%のFe(硝酸塩分解経路)焼結助剤と共にナシコンを用いてフェクラロイ(FeCralloy)鋼の上に作製されたナシコン電解質の断面図を示す。
【実施例
【0010】
例1-基層
プロパン-2-オールと、平均径1.3μmのβ’’-アルミナ粒子とを含有するスラリーを形成することによって、β’’-アルミナをベースとする電解質層を調製した。このスラリーを適切な基材の上に広げ、乾燥させ、緻密化してから焼結させる。実験目的では、同一電解質材料のペレットを同一組成物で作製し、この組成物を乾燥させ、ダイ内でペレットに成形し、次に圧縮してから基材上の層と同様に焼結させた。ある例では、酸化銅(CuO)、二酸化チタン(TiO2)及び酸化ニオブ(Nb2O5)のナノ粒子を質量比4:2:1で含有する金属酸化物ナノ粒子の混合物がスラリーに含められ、質量で固形物の5%を構成した。
いずれの場合にも焼結は1100℃で1時間行われ;この温度は、β’’-アルミナの通常の焼結温度より約500℃低い。この焼結処理後に、β’’-アルミナのみを含有した試料は緻密化の兆候を示さず、約50%だけ高密度なことが分かった。対照的に、β’’-アルミナ及び金属酸化物の混合物の両方を含有した試料は、約72%の緻密化を達成した。これらの緻密化測定は、層について定量的に行うのは困難なのでペレットについて行った。それでもこの場合は、焼結助剤のないセラミック粉末は、本質的に、鋼基材から容易に除去できるルーズな粉末のままであるが、一方で焼結助剤が与えられたセラミック粉末は良く付着され、強度を有するので、層への効果が明らかである。
【0011】
例2-ナシコン層
プロパン-2-オールと、ナシコンの粒子とを含有するスラリーを形成することによって組成Na3Zr2(SiO4)2(PO4)のナシコンをベースとする電解質層を調製した。ナシコン材料を製粉して、d50が1μm未満の単峰性サイズ分布を有する粉末を与えた。この場合d50は0.36μmであり、これが充填及び焼結性を向上させる。
実験目的では、同一組成物を用いて、組成物を乾燥させてからダイ内でペレットに成形した後に圧縮してから基材上の層と同様に焼結させることを除き、実質的に同じ方法で同一電解質材料のペレットを作製した。焼結プロセス中のペレットの収縮を測定する膨張計を用いて焼結を評価した。3つの場合、酸化銅(CuO)、二酸化チタン(TiO2)及び酸化ニオブ(Nb2O5)のナノ粒子を質量比4:2:1で含有する金属酸化物ナノ粒子の混合物がスラリーに含まれ;ある場合にはこの酸化物混合物は質量で固形物の5%を構成し、別の場合には金属酸化物粒子は2質量%を構成し、他の場合には1質量%を構成した。下表1及び他のキャプションでは、これらの例をCTNと称する。
さらに3つの場合には酸化鉄を前駆物質分解経路(プロパン-2-オール中0.05M~0.5Mの硝酸鉄がその後<300℃で分解されて酸化物を形成する)によって添加し;ある場合にはこの酸化鉄が質量で固形物の5%の混合物を生じさせ、別の場合には酸化鉄粒子が2質量%を構成し、他の場合には1質量%を構成した。最後の2つの場合には酸化鉄を約20nmのサイズの酸化鉄ナノ粒子として添加し;ある場合にはこの酸化鉄混合物は質量で固形物の2%を構成し、他の場合には1質量%を構成した。
焼結は、温度を最高まで上昇させ、その最高温度でそれを1時間保持してから再び温度を下げることによって行った。これを1000℃、1050℃又は1100℃の最高温度で行って至適温度を決定し;これらの温度は、ナシコンの完全緻密化、すなわち連結空隙率をなくすために必要とされる通常の焼結温度より約100℃~200℃低い。これらのペレットで達成された緻密化を表1に示す。
【0012】
表1
【表1】
【0013】
さらにいずれの場合にも膨張率測定データを得て、焼結プロセス中に温度によって収縮率がどのように変化するかを示した。これらのペレットについて温度に伴う収縮を示す膨張率測定データを図1、2、及び3に3つの最高焼結温度について示す。図1及び図3には、原料粉末ペレット、すなわち上記と同じナシコン粉末で作ったが、いずれの金属酸化物焼結助剤をも含まないペレットに関する比較グラフも含まれる。
このように当然のことながら、低比率の金属酸化物混合物の供給はこのより低い温度で達成される緻密化を改善し;かつ約2質量%の添加で最良の結果が得られる。膨張率測定曲線の導関数の精密調査は、遷移金属酸化物添加の利用によって緻密化の最大率が上昇するのみならず、これが起こる温度が、典型的に少なくとも50℃下がることを指摘する。従って、金属酸化物粒子は焼結助剤として作用する。
これらの様々な結果は、1%と2%(wt)の間の焼結助剤を含めた組成物から作製されたナシコンペレットの破断面を示す図4及び図5、並びに焼結助剤を供給せずに作製されたナシコンペレットの破断面を示す図6の走査型電子顕微鏡画像においても明白である。図4において1000℃(超低焼結温度)ではセラミックの粒子間に細孔がほとんど見えず;1100℃まで焼結後の図5では、ナシコンの粒子間に無視できるほどの空隙があることが分かるだろう。対照的に、図6において、特に1000℃で焼結されたペレットについての場合に材料が非常に多孔性であることが分かるだろう。
【0014】
次に、このようにして作製されたナシコンペレットについて室温でインピーダンス試験を行った。7MHzと100Hzとの間で作動し、明瞭かつ再現できるインピーダンススペクトルを与える電気化学インピーダンス分析器を用いて室温(図7)及び250℃(図8)でデータを得た。図7は、原料粉末、すなわちいずれの金属酸化物焼結助剤をも含めずに作製されたペレットについてのデータをも示し、これには原料粉末と表示してある。
図7は、一連の様々な焼結助剤を用いて1000℃及び1100℃で焼結し、室温で測定したナシコンペレットについての直流伝導度の値を示し、一方で図8は、様々な焼結助剤を用いるが、250℃で測定した該ナシコンペレットについての直流伝導度の値を示す。
実数インピーダンス及び虚数インピーダンス、すなわち抵抗及び誘導抵抗の測定は、一連の異なる周波数で焼結助剤を含まないナシコンペレット(11.68mmの直径及び2.16mmの厚さ)、及び2%(wt)のCNT焼結助剤を用いて作製されたナシコンペレット(9.39mmの直径及び1.93mmの厚さ)について行い、結果をナイキストプロットとして図9にグラフを用いて示す。黒丸によって示す測定値は焼結助剤のないペレットに関するものであり、白丸によって示す結果は、焼結助剤を用いて作製されたペレットに関するものである。
【0015】
これらの測定値は、ナシコンに関する文献値と一致し、金属酸化物焼結助剤による1%及び2%のドーピングレベルではナトリウムイオンの伝導性に有意な損失はなく、5%では少しだけ有害な影響があることを示唆している。同様の緻密化について同様に比較した場合、実際には見かけのインピーダンス全体は緻密化向上のためにより低く現れるが、生成されるナイキストスペクトルの形状(図9に与えた例)は、インピーダンスのいくらかのわずかな増加(伝導度の低下)があったことを示唆するだろう。焼結温度が低いほど、もっと微細な粒子を有する構造を作り出すので、伝導度のわずかな低下があり得ると予想される。焼結助剤は、粒界を固定し、粒成長のような他の焼結機構に比べて緻密化を顕著に高める。材料の伝導度は、バルク成分と粒界成分の両方の組み合わせであり、それ故により低い温度で焼結された材料は、全抵抗率に対してより大きい比率の粒界抵抗率を有すると予想される。従って、伝導度の低下は、焼結助剤との材料の相互作用が原因であるとは考えられず、むしろ基本的に異なる微細構造を有することに起因する。このことは、焼結助剤は、全ての粒子のサイズが類似し(均質)、かつ小さいことを保証し、これは、作動中にセラミックを著しく強靱にし、かつ耐久性を高くするので、有益である。ナシコンの伝導度への悪影響の可能性は、全ての焼結助剤(鉄、銅、チタン及びニオブの酸化物)がナトリウムイオン伝導性を有する相を形成するためにナシコン構造に実行できる代替物であるという事実によっておそらく緩和される(Journal of Power Sources 273 (2015) 1056-1064)。
【0016】
上述したように、電解質は、穴あき金属シートによって支持されるか又はそれに結合されたナトリウムイオン伝導性電解質の層を含んでよい。穴あきシートが形成される金属は、使用中にそれが接触しているセルの成分と化学的に反応しないという意味で「不活性」でなければならず;それは例えばニッケル等の金属、又はアルミニウム保有フェライト鋼(例えばフェクラロイ(Fecralloy)(商標)として知られるタイプ)、又は空気中で加熱されると電気化学的に伝導性かつ付着性のスケール、例えばCrMn酸化物スケールを形成する鋼であり得る。セラミックの金属への付着は、アルミナの酸化物コーティングを形成するフェクラロイのような金属合金を使用するときにより良好であり得る。穴あきシートは、1.0mm以下、又は0.5mm以下、例えば0.1mm若しくは0.2mmの厚さのものであってよい。シートは穿孔されて、超多数の貫通孔を有し、穴又は孔は、50μm未満、例えば30μm以下の平均径、又は50μmと300μmの間の平均径のものであってよく、例えばレーザードリリングプロセス又は化学エッチングによって生成され得る。貫通孔は、100μmと500μmの間、例えば150μm隔てられたそれらの中心を有し得る。現場で硝酸第二鉄の分解によって生成された焼結助剤としての2%の酸化鉄と共にナシコンを用いて1050℃の燃焼温度で1時間かけてフェクラロイ鋼の上に作製された該層は、平滑かつコヒーレントであり、金属表面に堅く結合され、1×10-08~3×10-07mbarL/sの範囲のヘリウム透過率示度を与えるのに十分に緻密化され、上首尾のセル作動のために十分に密封性(leak tight)であることが分かった。
【0017】
穴あきシートは、穴があいていないその外縁の周りにマージンを有してよく;このマージンは、セルの隣接成分への穴あきプレートの外縁のシールを容易にし得る。このマージンは、15mm以下、例えば10mm又は5mm又は3mmの幅のものであり得る。
電極は、穴あき金属シートに結合したナトリウムイオン伝導性電解質の層を含んでよく、金属シートと不透過性ナトリウムイオン伝導性層との間に多孔質セラミック層がある。
複数の該多孔質層があってよく、例えば金属表面上の第1の多孔質層が、多孔性がより低い層によって覆われ、最後に不透過性層によって覆われる。異なる程度の空隙率及び透過性は、異なるサイズのセラミック粒子、及び異なる量の遷移金属焼結助剤を使用することによって達成可能である。第1の多孔質層は、例えばスクリーン印刷によって堆積され、粒子の混合物は結合剤及び流動助剤をも含み;結合剤及び流動助剤は、焼結プロセスの開始時には典型的に300℃以下の結合剤燃焼ステップ中に燃え尽きてしまうだろう。引き続く1つ又は複数の層は、噴霧コーティング、スクリーン印刷又は電気泳動堆積によって堆積され得る。
【0018】
断面を示す走査型電子顕微鏡写真である図10に該層化構造の例を示す。電解質は、ナシコンの3つの層を有する。第1の最も高い多孔性の層がスクリーン印刷プロセスによって堆積され、インクに用いたナシコン粒子サイズは16.6μmのD95を有した。この層は、単一の印刷及び乾燥プロセスで形成された後、1000℃で1時間燃やされて強固だが多孔質の層を与え、これは基材フェクラロイ鋼によく付着した。この上に4.7μmのD95の中間粒子サイズを有する層を噴霧コーティングして、より微細な相互接続空隙率を有する構造を形成した。この層は、前駆物質分解経路を経て添加された2%wtの酸化鉄を含有し;それが加圧下で緻密化され、1000℃で1時間燃やされて強力でよく付着するが、それでも多孔質の層を生成した。最後に、この層の上に、上記ペレット緻密化研究で用いたのと同じ仕様で前駆物質分解経路を介して添加された2%wtの酸化鉄添加によるより微細な粒子サイズを有する層を噴霧コーティングした。次にこの層を1050℃で1時間燃やし、高密度で透過性の層を与えた。
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【国際調査報告】