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特表2024-512769抗原特異的T細胞を生成し、疾患を治療するための材料及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】抗原特異的T細胞を生成し、疾患を治療するための材料及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/15 20150101AFI20240312BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240312BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240312BHJP
   C12N 15/88 20060101ALN20240312BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240312BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240312BHJP
   C12N 15/24 20060101ALN20240312BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240312BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
A61K35/15
A61K48/00
A61K31/7105
A61P35/00
A61P37/02
A61P19/02
A61P37/04
A61K9/00
A61K39/00 H
A61P29/00
A61P35/02
C12N15/88 Z ZNA
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/24
C12N15/12
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560854
(86)(22)【出願日】2022-04-01
(85)【翻訳文提出日】2023-11-08
(86)【国際出願番号】 US2022023125
(87)【国際公開番号】W WO2022212888
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】63/170,221
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521126302
【氏名又は名称】ナットクラッカー セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】ドイチュ、サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ハーベス、オーレ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4C076AA95
4C076CC04
4C076CC06
4C076CC07
4C076CC27
4C076FF68
4C084AA13
4C084MA11
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZB07
4C084ZB09
4C084ZB11
4C084ZB26
4C084ZB27
4C085AA03
4C085BB01
4C085DD62
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA11
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZB07
4C086ZB09
4C086ZB11
4C086ZB26
4C086ZB27
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA11
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB09
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本開示は、抗原ペプチドをコードするインビトロで転写されたmRNAを含有するナノ粒子の形態の材料、及びがん、自己免疫疾患、感染症、又は炎症などの疾患を治療又は予防するための個別化医療の方法を提供し、方法では、予防的又は治療的処置を受ける対象の細胞をエクスビボでナノ粒子と接触させ、対象の細胞にmRNAをプロセシングさせ、コードされた産物を発現させ、提示させて対象自身のT細胞を活性化し、それによってがん細胞などの罹患した細胞に対する免疫応答を高める。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
罹患した組織由来のポリヌクレオチドを対照と比較して特徴付ける工程と、
前記特徴付けられたポリヌクレオチドから、前記罹患した組織に関連するポリペプチドをコードする候補mRNAを同定する工程と、
前記mRNAを少なくとも1つの送達ビヒクル分子で封入して少なくとも1つのmRNAナノ粒子を形成する工程と、
前記少なくとも1つのmRNAナノ粒子を対象の末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球に導入する工程であって、前記mRNAが前記ポリペプチドをコードする、導入する工程と、
mRNAを含む前記末梢血白血球又は前記センチネルリンパ節白血球を前記対象のT細胞と接触させる工程と、
少なくとも1つの抗原特異的T細胞を得る工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記疾患が、がん、感染症、自己免疫疾患又は炎症である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象ががんを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記がんが、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、副腎皮質がん、カポジ肉腫、リンパ腫、肛門がん、星細胞腫、非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍、皮膚の基底細胞がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳がん、腫瘍、乳がん、気管支腫瘍、カルチノイド腫瘍、心(心臓)腫瘍、髄芽腫、胚細胞腫瘍、子宮頸がん、胆管がん、脊索腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、大腸がん、頭蓋咽頭腫、皮膚T細胞リンパ腫、非浸潤性乳管がん(DCIS)、胎児性腫瘍、上衣腫、食道がん、鼻腔神経芽細胞腫(頭部及び頸部がん)、ユーイング肉腫(骨がん)、頭蓋外胚細胞腫瘍、眼がん、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫、卵管がん、骨線維性組織球腫、骨肉種、胆のうがん、胃がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)(軟部組織肉腫)、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣胚細胞腫瘍、精巣がん、妊娠性絨毛疾患、有毛細胞白血病、心臓腫瘍、組織球症、ランゲルハンス細胞ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、眼内黒色腫、膵島細胞腫瘍、膵神経内分泌腫瘍、腎(腎細胞)がん、ランゲルハンス細胞組織球症、喉頭がん、白血病、口唇及び口腔がん、肝がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、胸膜肺芽腫、気管気管支腫瘍、男性乳がん、骨悪性線維性組織球腫、悪性黒色腫、眼内(眼)、メルケル細胞がん、中皮腫、転移性頭頸部扁平上皮がん、正中線がん、口腔がん、多発性内分泌腫瘍症症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍、骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病(CML)、鼻腔及び副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽種、非ホジキンリンパ腫、口腔がん、口唇及び口腔がん、中咽頭がん、骨肉種、骨未分化多形肉腫、卵巣がん、膵臓がん、膵神経内分泌腫瘍、乳頭腫症、傍神経節腫、副鼻腔及び鼻腔、上皮小体がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、形質細胞腫瘍/多発性骨髄腫、胸膜肺芽腫、中枢神経系原発悪性リンパ腫(CNS)、原発性腹膜がん、前立腺がん、直腸がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、ユーイング肉腫(骨がん)、カポジ肉腫、骨肉腫、軟部肉腫、子宮肉腫、セザリー症候群、皮膚がん、小腸がん、皮膚扁平上皮がん、T細胞リンパ腫、精巣がん、咽喉がん、中咽頭がん、下咽頭がん、胸腺腫、胸腺がん、甲状腺がん、腎盂及び尿管の移行上皮がん、尿道がん、子宮がん、子宮内膜がん、膣がん、血管腫瘍、外陰がん、ウィルムス腫瘍、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記がんが、膀胱がん、乳がん、結腸がん、直腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん、白血病、肝がん、肺がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、前立腺がん、甲状腺がん、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が腫瘍を有する、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項8】
前記腫瘍が、非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍、気管支腫瘍、カルチノイド腫瘍、心(心臓)腫瘍、胚細胞腫瘍、胎児性腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣胚細胞腫瘍、心臓腫瘍、膵島細胞腫瘍、膵神経内分泌腫瘍、気管気管支腫瘍、血管腫瘍、ウィルムス腫瘍、又はそれらの任意の組み合わせである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球が樹状細胞を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの抗原特異的T細胞が、CD8 T細胞又はCD4 T細胞である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記CD4 T細胞がTH1、TH2又はTH17のT細胞である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対象の前記末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球を、少なくとも1つのエフェクター分子、又はエフェクター分子をコードするmRNAを封入してそれによってmRNAナノ粒子を形成する第2の送達ビヒクル分子と接触させる工程を更に含み、前記エフェクター分子が、T細胞リプログラミング分子、共刺激分子、転写因子、抗体若しくはその抗原結合断片、又はT細胞の増殖を増強する分子である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
T細胞の増殖を増強する前記分子が、IL2、IL3、IL4、IL7、IL15、IL18、4-1BB、CD3z、CD28、抗PD1抗体、又は抗CTLA4抗体である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記T細胞リプログラミング分子が、IL12、IL2、IL7、IL15、IL18、IL21、IL3、IFNα、IFNβ、IFNγ、又はTNF-αである、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記共刺激分子が、CD80、CD86、ICOSリガンド、CD70、4-1BBL、CD40、CD40L、OX40、OX40L、TCF7、ICAM-1、LFA-1、LFA-2、LFA-3、LIGHT、又はHVEMである、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記転写因子が、ヒトテロメラーゼ、PU.1、CEPBA、CIITA、HLA、β2マイクログロブリン、TAP-1、TAP-2、IRF4、STAT3、又はインバリアント鎖Liである、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体又はその抗原結合断片が、抗CD3抗体、抗CD28抗体、抗CD40抗体、抗OX40抗体、抗PD1抗体、抗CTLA4抗体、抗TIGIT抗体、抗LAG3抗体、抗GTTR抗体、又はその抗原結合断片である、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの抗原特異的T細胞の数を拡大させる工程を更に含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの抗原特異的T細胞の数を、前記T細胞を前記mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する前記送達ビヒクル分子、又は前記mRNAナノ粒子に曝露された抗原提示細胞に曝露することによって、細胞の生存能力に適合する条件下であるが追加の入力又は操作を加えることなく、受動的に拡大させる、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記受動的に拡大させたT細胞の数を、mRNAを封入してT細胞リプログラミング分子、共刺激分子、又は転写因子をコードするmRNAを含むmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子への曝露によって更に拡大させ、特異化させる、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ワークフローが自動化され、細胞が定期的にサンプリングされて、細胞数、生存率、特異性、表現型、又はそれらの任意の組み合わせが決定されて、T細胞療法産物が製造される、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記対照が、健康な同族組織、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、若しくはペプチドであるか、又はポリヌクレオチド、ポリペプチド若しくはペプチドの認められた野生型配列である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記mRNAが、hCD1d選別ペプチドに融合したポリペプチドをコードし、それによって抗原提示を増加させる、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
治療有効量の抗原特異的T細胞を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項25】
前記抗原特異的T細胞の数を、何らの追加の入力又は操作を加えることなく、細胞の生存能力に適合する環境において受動的に拡大させる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記抗原特異的T細胞が腫瘍細胞を標的とする、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記腫瘍細胞ががん性細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記患者に投与される前記抗原特異的T細胞が同系T細胞である、請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記患者に投与される前記抗原特異的T細胞が自家T細胞である、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
治療有効量の抗原特異的T細胞を、それを必要とする自己免疫患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項31】
前記自己免疫疾患が、関節リウマチ、アカラシア、アジソン病、成人スチル病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、抗GBM/抗TBM腎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性血管性浮腫、自己免疫性自律神経障害、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳障害(AIED)、自己免疫性心筋炎、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性蕁麻疹、軸索型及びニューロン型神経障害(AMAN)、バロー病、ベーチェット病、良性粘膜類天疱瘡、水疱性類天疱瘡、キャッスルマン病(CD)、セリアック病、シャーガス病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群(CSS)、又は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、瘢痕性類天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素症、先天性房室ブロック、コクサッキー心筋炎、クレスト症候群、クローン病、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性食道炎(EoE)、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、本態性混合型クリオグロブリン血症、エバンス症候群、線維筋痛症、肺線維症、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、巨細胞性心筋炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、多発血管炎性肉芽腫症、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本病、溶血性貧血、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HSP)、妊娠性疱疹又は妊娠性類天疱瘡(PG)、化膿性汗腺炎(HS)(反転型座瘡)、低ガンマグロブリン症、IgA腎症、IgG4関連硬化性疾患、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、封入体筋炎(IBM)、間質性膀胱炎(IC)、若年性リウマチ、若年性糖尿病(1型糖尿病)、若年性筋炎(JM)、川崎病、ランバート・イートン症候群、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質結膜炎、線状IgA水疱性皮膚症(LAD)、全身性エリテマトーデス、ライム病、慢性メニエール病、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、混合性結合組織病(MCTD)、モーレン潰瘍、ムッカ・ハーベルマン病、多巣性運動ニューロパチー(MMN)、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、新生児ループス、視神経脊髄炎、好中球減少症、眼瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ(PR)、PANDAS、傍腫瘍性小脳変性症(PCD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリーロンバーグ病、扁平部炎(周辺性ブドウ膜炎)、パーソネイジ・ターナー症候群、天疱瘡、末梢神経障害、静脈周囲性脳脊髄炎、悪性貧血(PA)、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、多腺性症候群1型、2型、3型、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、プロゲステロン皮膚炎、乾癬、乾癬性関節炎、赤芽球癆(PRCA)、壊疽性膿皮症、レイノー現象、反応性関節炎、反射性交感神経性ジストロフィー、再発性多発軟骨炎、レストレスレッグス症候群(RLS)、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、自己免疫性精子形成障害、スティッフパーソン症候群(SPS)、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感神経性眼炎(SO)、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、甲状腺眼症(TED)、トロサ・ハント症候群(THS)、横断性脊髄炎、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎(UC)、未分化結合組織病(UCTD)、ぶどう膜炎、血管炎、白斑、又はフォークト・小柳・原田病である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記患者に投与される前記抗原特異的T細胞が同系T細胞である、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
前記患者に投与される前記抗原特異的T細胞が自家T細胞である、請求項30~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
治療有効量の抗原特異的T細胞を、それを必要とする感染症又は炎症性疾患を有する患者に投与する工程を含む、方法。
【請求項35】
前記患者に投与される前記抗原特異的T細胞が同系T細胞である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記患者に投与される前記抗原特異的T細胞が自家T細胞である、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
抗原ポリペプチドに曝露された対象由来の末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球を、mRNAを封入して前記抗原ポリペプチド又はその抗原性断片をコードするmRNAを含むmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクルと接触させる工程と、
前記末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球由来の少なくとも1つの抗原特異的T細胞の数を拡大させる工程と、
有効量の前記抗原特異的T細胞を前記対象に投与し、それによって前記抗原ポリペプチドに対する免疫応答をブーストする工程と、を含む、方法。
【請求項38】
前記対象をワクチンの形態の前記抗原に曝露させる、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記抗原が前記対象に導入されたmRNAからインビボで発現される、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
mRNAを封入してmRNAナノ粒子ワクチンを形成する送達ビヒクル分子を、疾患を有するリスクのある対象に投与する工程を含み、前記mRNAが前記対象に由来する抗原ポリペプチドをコードし、それによって、前記対象において免疫応答を誘導することで前記対象にワクチン接種する、方法。
【請求項41】
mRNAナノ粒子ワクチンの第2の送達を更に含み、それによって前記免疫応答をブーストする、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記投与されるmRNAナノ粒子ワクチンのmRNAと前記第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンのmRNAとが同一のmRNAである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記投与されるmRNAナノ粒子ワクチンと前記第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンとが同一のmRNAナノ粒子ワクチンである、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記送達ビヒクルが前記mRNAを封入して多成分リピトイドmRNAナノ粒子を形成する、請求項41~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記投与されるmRNAナノ粒子ワクチンが第1の送達ビヒクル分子を含み、前記第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンが第2の送達ビヒクル分子を含み、前記第1の送達ビヒクル分子と前記第2の送達ビヒクル分子とが同じである、請求項41~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記投与されるmRNAナノ粒子ワクチンが第1の送達ビヒクル分子を含み、前記第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンが第2の送達ビヒクル分子を含み、前記第1の送達ビヒクル分子と前記第2の送達ビヒクル分子とが異なる、請求項41~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
ネオエピトープを含むペプチドをコードするmRNAを含むmRNAナノ粒子を含む、ワクチン。
【請求項48】
前記mRNAナノ粒子が、多成分リピトイド系ナノ粒子である送達ビヒクル分子を含む、請求項47に記載のワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2021年4月2日に出願された米国仮特許出願第63/170,221号の優先権の利益を主張するものであり、この仮特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された資料の参照による組み込み
本出願は、参照によりその全体が組み込まれ次に特定される、コンピュータ可読形式の配列表を、本開示の別個の部分として含む;ファイル名:56579_Seqlisting.txt;サイズ6,544バイト;作成日:2022年3月31日。
【背景技術】
【0003】
近年、固形がんの治療のための免疫療法が有望な治療代替策として浮上してきている。がん免疫療法において、免疫系は、がん細胞を標的として死滅させるために受動的又は能動的のいずれかで利用される。免疫療法は、高度に強力な抗がん応答を誘導すると同時に、オフターゲット毒性を排除する標的特異性を提供する。腫瘍細胞又はそれらの微小環境を標的とすることによって、受動免疫療法は、抑制を克服することで内因性の抗腫瘍免疫応答を増強し、腫瘍細胞の成長を阻害することができる。能動免疫療法では、免疫細胞を刺激してがんと能動的に戦うように指示し、このアプローチは、より困難であるが、極めて有望である。能動免疫療法は、キラーT細胞及び抗体産生B細胞などの抗原特異的免疫細胞の効率的な刺激に強く依存する。養子T細胞の移入では、単離された自家の腫瘍特異的T細胞をエクスビボで増殖させて、十分に刺激した後にがん患者に再注入しており、これらの細胞が強力な抗腫瘍応答を誘発すると予想されている(1)。養子細胞療法(ACT)、特にT細胞ベースの養子細胞療法は、治療に応答する患者のパーセンテージ(百分率)によって示されるように、腫瘍の退縮を引き起こすことにおける成功は限られている。また、チェックポイント阻害剤は、がんの治療におけるT細胞コンパートメントの可能性を更に強調している。しかしながら、全ての患者がこれらの治療に応答するわけではなく、多くの課題が残っている。
【0004】
いくつかの異なるレベルの障害が、固形腫瘍におけるT細胞ACTの成功を妨げる一因となっている。困難の1つはターゲットの選択である。T細胞免疫療法のために選択される標的抗原は、既知の腫瘍抗原であってもよく、又は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)療法の場合のように、1つの特定の腫瘍において見られる固有の変異によって形成されるネオアンチゲンか若しくは更に未知であってもよい。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、疾患の治療のための抗原特異的T細胞を生成するための材料及び方法を提供する。材料及び方法の様々な実装形態を以下に記載し、以下に列挙される更なる実装形態を含む、また除いた材料及び方法は、任意の組み合わせで(これらの組み合わせが矛盾しない限りで)、これらの欠点を克服し、本明細書に記載される利益を実現することができる。
【0006】
本開示は、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクルの形態で抗原性材料を生成するための材料及び方法を提供する。封入されたmRNAは、少なくとも、がん(例えば、腫瘍)、炎症、感染症、及び自己免疫疾患などの疾患を治療するための治療的免疫応答の誘発に有用な抗原ペプチド又は抗原ポリペプチドをコードする。がんは、少なくとも1つの細胞型における細胞周期の制御の喪失による制御されない細胞増殖を特徴とする疾患である。いくつかのがん性細胞は腫瘍の形態で固形塊を形成し得る。腫瘍は、良性又は悪性であり得る。良性腫瘍はがんを生じない場合があるが、悪性腫瘍はがんの一形態であり、がん性細胞から構成されると考えることができる。炎症とは、傷害、疾患、刺激又は異物若しくは外来生物による侵入から保護するための生理学的プロセスからもたらされる発赤、腫脹、疼痛及び体温上昇を特徴とする症状である。感染性疾患とは、対象と接触するか、又は対象に侵入する外来生物によって引き起こされる疾患である。感染性病原体は、細菌、真菌、又はウイルスであり得る。自己免疫疾患とは、身体の免疫系が、身体を自己抗原に対して不適切に保護することを特徴とする疾患である。本方法は、免疫細胞には直接送達されないが、mRNAを封入してmRNAナノ粒子(例えば、mRNA脂質ナノ粒子)を形成する送達ビヒクル中にパッケージされたmRNAによってコードされる抗原ペプチドの形態の自己抗原を利用する。mRNAナノ粒子は、本開示の少なくとも1つのmRNAなどのナノ粒子のカーゴを部分的又は完全に封入することができる。処置される対象の抗原提示細胞は、エクスビボ、例えばインビトロで、少なくとも1つの抗原ペプチドをコードするmRNAでトランスフェクトされ、トランスフェクトされたAPCは、その同じ対象のT細胞に抗原ペプチドを提示する。T細胞の活性化及び増殖は、提示増強配列及びエフェクター組成物によって促進され得る。その結果は、固形腫瘍がんなどのがんの治療によって例示される様々な疾患を治療するための免疫療法への個別化医療アプローチである。
【0007】
本開示の一態様は、罹患した組織由来のポリヌクレオチドを対照と比較して特徴付ける工程と、当該特徴付けられたポリヌクレオチドから、当該罹患した組織に関連するポリペプチドをコードする候補mRNAを同定する工程と、当該mRNAを少なくとも1つの送達ビヒクル分子に封入して、少なくとも1つのmRNAナノ粒子を形成する工程と、当該少なくとも1つのmRNAナノ粒子を当該対象の末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球に導入する工程であって、当該mRNAは当該ポリペプチドをコードする、導入する工程と、mRNAを含む当該末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球を当該対象のT細胞と接触させる工程と、少なくとも1つの抗原特異的T細胞を得る工程と、を含む、方法に関する。mRNAを封入する送達ビヒクル分子を含むmRNAナノ粒子を白血球に送達することによって、mRNAナノ粒子のmRNAがプロセシング及び翻訳されて、コードされたペプチドを得ることができる。本明細書中で使用されるペプチドとは、ポリペプチド断片及び全長ポリペプチドの両方を指す。いくつかの実装形態において、対象はヒトである。いくつかの実装形態において、疾患は、がん、感染症、自己免疫疾患又は炎症である。
【0008】
いくつかの実装形態において、対象はがんを有する。いくつかの実装形態において、がんは、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、副腎皮質がん、カポジ肉腫、リンパ腫、肛門がん、星細胞腫、非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍、皮膚の基底細胞がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、脳がん、腫瘍、乳がん、気管支腫瘍、カルチノイド腫瘍、心(心臓)腫瘍、髄芽腫、胚細胞腫瘍、子宮頸がん、胆管がん、脊索腫、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、大腸がん、頭蓋咽頭腫、皮膚T細胞リンパ腫、非浸潤性乳管がん(DCIS)、胎児性腫瘍、上衣腫、食道がん、鼻腔神経芽細胞腫(頭部及び頸部がん)、ユーイング肉腫(骨がん)、頭蓋外胚細胞腫瘍、眼がん、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫、卵管がん、骨線維性組織球腫、骨肉種、胆のうがん、胃がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)(軟部組織肉腫)、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣胚細胞腫瘍、精巣がん、妊娠性絨毛疾患、有毛細胞白血病、心臓腫瘍、組織球症、ランゲルハンス細胞ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、眼内黒色腫、膵島細胞腫瘍、膵神経内分泌腫瘍、腎臓(腎細胞)がん、ランゲルハンス細胞組織球症、喉頭がん、白血病、口唇及び口腔がん、肝がん、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、胸膜肺芽腫、気管気管支腫瘍、男性乳がん、骨悪性線維性組織球腫、悪性黒色腫、眼内(眼)、メルケル細胞がん、中皮腫、転移性頭頸部扁平上皮がん、正中線がん、口腔がん、多発性内分泌腫瘍症症候群、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、菌状息肉腫、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍、骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病(CML)、鼻腔及び副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽種、非ホジキンリンパ腫、口腔がん、口唇及び口腔がん、中咽頭がん、骨肉種、骨未分化多形肉腫、卵巣がん、膵臓がん、膵神経内分泌腫瘍、乳頭腫症、傍神経節腫、副鼻腔及び鼻腔、上皮小体がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、形質細胞腫瘍/多発性骨髄腫、胸膜肺芽腫、中枢神経系原発悪性リンパ腫(CNS)、原発性腹膜がん、前立腺がん、直腸がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、ユーイング肉腫(骨がん)、カポジ肉腫、骨肉腫、軟部肉腫、子宮肉腫、セザリー症候群、皮膚がん、小腸がん、皮膚扁平上皮がん、T細胞リンパ腫、精巣がん、咽喉がん、中咽頭がん、下咽頭がん、胸腺腫、胸腺がん、甲状腺がん、気管気管支腫瘍、腎盂及び尿管の移行上皮がん、尿道がん、子宮がん、子宮内膜がん、膣がん、血管腫瘍、外陰がん、ウィルムス腫瘍、又はそれらの任意の組み合わせである。いくつかの実装形態において、がんは、膀胱がん、乳がん、結腸がん、直腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん、白血病、肝がん、肺がん、黒色腫、非ホジキンリンパ腫、膵臓がん、前立腺がん、甲状腺がん、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0009】
いくつかの実装形態において、対象は腫瘍を有する。いくつかの実装形態において、腫瘍は、非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍、気管支腫瘍、カルチノイド腫瘍、心(心臓)腫瘍、胚細胞腫瘍、胎児性腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、性腺外胚細胞腫瘍、卵巣胚細胞腫瘍、心臓腫瘍、膵島細胞腫瘍、膵神経内分泌腫瘍、気管気管支腫瘍、血管腫瘍、ウィルムス腫瘍、又はそれらの任意の組み合わせである。
【0010】
いくつかの実装形態において、末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球は、樹状細胞を含む。いくつかの実装形態において、少なくとも1つの抗原特異的T細胞は、CD8 T細胞又はCD4 T細胞である。いくつかの実装形態において、CD4 T細胞は、TH1、TH2又はTH17のT細胞である。いくつかの実装形態において、本方法は、対象の末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球を、少なくとも1つのエフェクター分子、又はエフェクター分子をコードするmRNAを封入し、それによってmRNAナノ粒子を形成する第2の送達ビヒクル分子と接触させる工程を更に含み、エフェクター分子は、IL12、IL2、IL7、IL15、IL18、IL21、IL3などのサイトカイン、IFNα、IFNβ、若しくはIFNγなどのインターフェロン(すなわち、IFN)、又は腫瘍壊死因子α(すなわち、TNF-α)を含むT細胞リプログラミング分子、CD80、CD86、ICOSリガンド、CD70、4-1BBL、CD40、CD40L、OX40、OX40L、TCF7、ICAM-1、LFA-1、LFA-2、LFA-3、LIGHT、若しくはHVEM、転写因子、ヒトテロメラーゼ、PU.1、CEPBA、CIITA、HLA、β2マイクログロブリン、TAP-1、TAP-2、IRF4、STAT3、若しくはインバリアント鎖Liなどの共刺激分子、又は抗CD3抗体(すなわち、a-CD3)、a-CD28、a-CD40、a-OX40、a-PD1、a-CTLA4、a-TIGIT、a-LAG3、若しくはa-GTTRを含む抗体あるいはその抗原結合断片、又は、IL2、IL3、IL4、IL7、IL15、IL18、4-1BB、CD3z、CD28、抗PD1抗体、若しくは抗CTLA4抗体などのT細胞の増殖を促進する分子である。いくつかの実装形態において、本方法は、少なくとも1つの抗原特異的T細胞の数を拡大させる工程を更に含む。いくつかの実装形態において、少なくとも1つの抗原特異的T細胞の数は、T細胞を、細胞の生存能力に適合する条件下ではあるが追加の入力又は操作を加えることなく、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子、又はmRNAナノ粒子に曝露された抗原提示細胞に曝露することによって受動的に拡大される。いくつかの実装形態において、受動的に拡大されたT細胞の数を、mRNAを封入してT細胞リプログラミング分子、共刺激分子、又は転写因子をコードするmRNAを含むmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子に曝露することによって更に拡大及び分化させる。いくつかの実装形態において、ワークフローは自動化され、細胞を定期的にサンプリングして、細胞数、生存率、特異性、表現型、又はそれらの任意の組み合わせを決定して、T細胞療法産物が製造される。いくつかの実装形態において、対照は、健康な同族組織、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、若しくはペプチドであるか、又はポリヌクレオチド、ポリペプチド、若しくはペプチドの認められた野生型配列である。認められた野生型配列とは、野生型配列であることが当技術分野で公知の野生型配列である。いくつかの実装形態において、mRNAは、ヒトCD1d(すなわち、hCD1d)選別ペプチドに融合されたポリペプチドをコードし、それによって抗原の提示を増加させる。
【0011】
本開示の別の態様は、治療有効量の抗原特異的T細胞を、それを必要とする患者、例えば、がん患者、又は感染症、自己免疫疾患、若しくは炎症性疾患を有する患者に投与することを含む、方法に関する。いくつかの実装形態において、抗原特異的T細胞の数は、細胞の生存能力に適合する環境において何らの追加の入力又は操作を加えることなく、受動的に拡大される。いくつかの実装形態において、抗原特異的T細胞はがん性細胞などの腫瘍細胞を標的とする。いくつかの実装形態において、抗原特異的T細胞はがん細胞を標的とする。他の実装形態において、抗原特異的T細胞は非がん性の良性腫瘍細胞を標的とする。いくつかの実装形態において、患者に投与される抗原特異的T細胞は同系T細胞である。いくつかの実装形態において、患者に投与される抗原特異的T細胞は自家T細胞である。
【0012】
本開示の更に別の態様は、治療有効量の抗原特異的T細胞を、それを必要とする自己免疫患者に投与することを含む、方法を提供する。いくつかの実装形態において、自己免疫疾患は、関節リウマチ、アカラシア、アジソン病、成人スチル病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、抗GBM/抗TBM腎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性血管性浮腫、自己免疫性自律神経障害、自己免疫性脳脊髄炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳障害(AIED)、自己免疫性心筋炎、自己免疫性卵巣炎、自己免疫性精巣炎、自己免疫性膵炎、自己免疫性網膜症、自己免疫性蕁麻疹、軸索型及びニューロン型神経障害(AMAN)、バロー病、ベーチェット病、良性粘膜類天疱瘡、水疱性類天疱瘡、キャッスルマン病(CD)、セリアック病、シャーガス病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群(CSS)、又は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、瘢痕性類天疱瘡、コーガン症候群、寒冷凝集素症、先天性房室ブロック、コクサッキー心筋炎、クレスト症候群、クローン病、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性食道炎(EoE)、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、本態性混合型クリオグロブリン血症、エバンス症候群、線維筋痛症、肺線維症、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、巨細胞性心筋炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、多発血管炎性肉芽腫症、グレーブス病、ギランバレー症候群、橋本病、溶血性貧血、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HSP)、妊娠性疱疹又は妊娠性類天疱瘡(PG)、化膿性汗腺炎(HS)(反転型座瘡)、低ガンマグロブリン症、IgA腎症、IgG4関連硬化性疾患、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、封入体筋炎(IBM)、間質性膀胱炎(IC)、若年性リウマチ、若年性糖尿病(1型糖尿病)、若年性筋炎(JM)、川崎病、ランバート・イートン症候群、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質結膜炎、線状IgA水疱性皮膚症(LAD)、全身性エリテマトーデス、ライム病、慢性メニエール病、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、混合性結合組織病(MCTD)、モーレン潰瘍、ムッカ・ハーベルマン病、多巣性運動ニューロパチー(MMN)、多発性硬化症、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、新生児ループス、視神経脊髄炎、好中球減少症、眼瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ(PR)、PANDAS、傍腫瘍性小脳変性症(PCD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリーロンバーグ病、扁平部炎(周辺性ブドウ膜炎)、パーソネイジ・ターナー症候群、天疱瘡、末梢神経障害、静脈周囲性脳脊髄炎、悪性貧血(PA)、POEMS症候群、結節性多発動脈炎、多腺性症候群1型、2型、3型、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、プロゲステロン皮膚炎、乾癬、乾癬性関節炎、赤芽球癆(PRCA)、壊疽性膿皮症、レイノー現象、反応性関節炎、反射性交感神経性ジストロフィー、再発性多発軟骨炎、レストレスレッグス症候群(RLS)、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、自己免疫性精子形成障害、スティッフパーソン症候群(SPS)、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感神経性眼炎(SO)、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、甲状腺眼症(TED)、トロサ・ハント症候群(THS)、横断性脊髄炎、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎(UC)、未分化結合組織病(UCTD)、ぶどう膜炎、血管炎、白斑、又はフォークト・小柳・原田病である。いくつかの実装形態において、患者に投与される抗原特異的T細胞は同系T細胞である。いくつかの実装形態において、患者に投与される抗原特異的T細胞は自家T細胞である。
【0013】
本開示の更に別の態様では、治療有効量の抗原特異的T細胞を、それを必要とする感染症又は炎症性疾患を有する患者に投与することを含む、方法を示す。いくつかの実装形態において、患者に投与される抗原特異的T細胞は同系T細胞である。いくつかの実装形態において、患者に投与される抗原特異的T細胞は自家T細胞である。
【0014】
更に別の態様は、抗原ポリペプチド又は抗原ペプチドに曝露された対象由来の末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球を、mRNAを封入して抗原ポリペプチド又はその抗原性断片をコードするmRNAを含むmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子と接触させる工程と、当該末梢血白血球又はセンチネルリンパ節白血球由来の少なくとも1つの抗原特異的T細胞の数を拡大させる工程と、有効量の当該抗原特異的T細胞を当該対象に投与して、それによって、当該抗原ポリペプチドに対する免疫応答をブーストする工程と、を含む、方法に関する。いくつかの実装形態において、対象はワクチンの形態の抗原に曝露される。本開示のこの態様のいくつかの実装形態において、抗原は、例えば、本明細書に開示される送達ビヒクル分子を使用することによって対象に導入されたmRNAからインビボで発現される。
【0015】
本開示の別の態様は、mRNAを封入してmRNAナノ粒子ワクチンを形成する送達ビヒクル分子を、疾患を有するリスクのある対象に投与することを含み、mRNAは対象に由来する抗原ポリペプチド又は抗原ペプチドをコードし、それによって、対象において免疫応答を誘導することで対象にワクチン接種する、方法である。いくつかの実装形態において、本方法は、mRNAナノ粒子ワクチンの第2の投与又は第2の送達を更に含み、それによって免疫反応をブーストする。いくつかの実装形態において、投与されるmRNAナノ粒子ワクチンのmRNAと第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンのmRNAとは、同一のmRNAである。第1及び第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンに関して述べると、これらのワクチンは同じ配列のmRNAを含む。いくつかの実装形態において、投与されるmRNAナノ粒子ワクチンと第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンとは、同一のmRNAナノ粒子ワクチンである。再び、第1及び第2のmRNAナノ粒子ワクチンに関して述べると、ワクチンは同一であり、すなわち、投与されるmRNAナノ粒子ワクチンと第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンとは同一の成分から構成される。上記と一致して、本開示の方法のいくつかの実装形態において、投与されるmRNAナノ粒子ワクチンは第1の送達ビヒクル分子を含み、第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンは第2の送達ビヒクル分子を含み、第1の送達ビヒクル分子と第2の送達ビヒクル分子とは同じである。いくつかの実装形態において、投与されるmRNAナノ粒子ワクチンは第1の送達ビヒクル分子を含み、第2の送達されるmRNAナノ粒子ワクチンは第2の送達ビヒクル分子を含み、第1の送達ビヒクル分子と第2の送達ビヒクル分子とは異なる。
【0016】
本明細書に開示される方法の各々のいくつかの実装形態において、送達ビヒクル分子はmRNAを封入して多成分リピトイドmRNAナノ粒子を形成する。多成分リピトイドmRNAナノ粒子のmRNAは、T細胞リプログラミング分子、共刺激分子、転写因子、又は抗体若しくはその抗原結合断片、又はT細胞の増殖を増強する分子などのエフェクター分子をコードして、又はコードせずに、抗原ポリペプチド又は抗原ペプチドをコードする。本開示によるmRNAを封入して多成分脂質mRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクルは、更なる脂質成分、例えば構造脂質、リン脂質、及び遮蔽脂質と組み合わされた脂質化カチオン性ペプチド化合物の複合体を含み、それには、リピトイドとして知られるカチオン性ペプチド-リン脂質コンジュゲート、又は本明細書でより詳細に記載されるように、脂質部分、及び/又は(オリゴ及び/又はポリ)エチレングリコール部分でN置換されたN置換カチオン性ペプチド化合物(本明細書では、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物と称される)がカチオン性ペプチド化合物として含まれ得る。mRNAを封入して多成分脂質mRNAナノ粒子を形成するこれらの送達ビヒクル分子は、非常に効率的であり市販の脂質ナノ粒子製剤で観察される効率を超える細胞にmRNAを送達するためのビヒクルを提供する。
【0017】
本開示のもう1つの態様では、ネオエピトープを含むペプチドをコードするmRNAを含むmRNAナノ粒子を含む、ワクチンを提供する。いくつかの実装形態において、mRNAナノ粒子は、多成分リピトイド系ナノ粒子である送達ビヒクル分子を含む。
【0018】
上記の概念及び以下でより詳細に論じられる追加の概念の全ての組み合わせ(そのような概念が相互に矛盾しない限り)は、本明細書で開示される本発明の主題の一部であるとして企図されることを理解されたい。特に、本開示の最後に示される特許請求される主題の全ての組み合わせは、本明細書に開示される本発明の主題の一部であるとして企図される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1-1】腫瘍特異的T細胞産物の同時生成による選択を伴うがんワクチンエピトープ発見のフローチャートである。(A)及び(B)に、患者特異的、機能特異的T細胞産物を誘発し、誘導し、拡大するためのフローチャートを示す。
図1-2】腫瘍特異的T細胞産物の同時生成による選択を伴うがんワクチンエピトープ発見のフローチャートである。(A)及び(B)に、患者特異的、機能特異的T細胞産物を誘発し、誘導し、拡大するためのフローチャートを示す。
図2-1】養子移入T細胞産物の製造である。(A)同時の機能特異的ワクチン接種(例えば、がんワクチン接種)と養子T細胞産物を生成するための末梢血白血球(PBL)の回収のフローチャート;(B)機能特異的(例えば,がん特異的)T細胞の初期のインビボでの増殖及び誘導、それに続く養子T細胞産物の生成のためのPBLの回収を示すフローチャート。
図2-2】養子移入T細胞産物の製造である。(A)同時の機能特異的ワクチン接種(例えば、がんワクチン接種)と養子T細胞産物を生成するための末梢血白血球(PBL)の回収のフローチャート;(B)機能特異的(例えば,がん特異的)T細胞の初期のインビボでの増殖及び誘導、それに続く養子T細胞産物の生成のためのPBLの回収を示すフローチャート。
図3】活性化末梢血単核細胞(PBMC)のFACS選別である。(A)CD4+T細胞をゲーティングした。左から:対照処理PBMCs、Gen.1 mRNA活性化、Gen.2 mRNA活性化、ペプチド活性化のFACSプロット。(B)CD8+T細胞をゲーティングした。左から:対照処理PBMCs、Gen.1 mRNA活性化、Gen.2 mRNA活性化、ペプチド活性化のFACSプロット。
図4】図に示した種々の末梢血単核細胞型の末梢血単核細胞のトランスフェクション効率である。細胞をThy1 mRNAナノ粒子に曝露して24時間後に、トランスフェクション効率を測定した。ヒストグラムの高さはトランスフェクトされた親細胞のパーセンテージを反映している。
図5】抗原をコードするmRNAでトランスフェクトされた天然に存在する抗原提示細胞(APC)は、従来のペプチド抗原刺激と比較して、優れた抗原提示及びT細胞活性化を与える。(A)抗原チャレンジ後のCD8 T細胞の活性化のフローサイトメトリー。(B)抗原処理又は対照処理したPBMCsサンプルにおけるIFNγの分泌。
図6-1】(A)及び(B)抗原提示並びにその後のT細胞の活性化は、MHC提示増強配列を含めることで抗原mRNAの設計を最適化することによって更に増強された。
図6-2】(A)及び(B)抗原提示並びにその後のT細胞の活性化は、MHC提示増強配列を含めることで抗原mRNAの設計を最適化することによって更に増強された。
図7-1】天然に存在するAPCによって活性化されたT細胞は、抗原を発現する標的細胞を死滅させることができ、また受動的に増殖して多数になることができる。(A)MHC提示増強配列を含むpp65をコードする1μgのmRNAで処理した培養物において、頑健(ロバスト)なCD8 T細胞の増殖が明らかである。生存率及び細胞数の両方で、ペプチドで処理した細胞よりも優れていた。(B)活性化され増殖したCD8 T細胞は、T2標的細胞がCMV-pp65抗原でパルスされた場合にのみ、T2標的細胞を認識して死滅させた。(C)mRNAで処理した培養物から単離されたCD8 T細胞において、ペプチドと比較して有意により良好な死滅の効果が見られる。
図7-2】天然に存在するAPCによって活性化されたT細胞は、抗原を発現する標的細胞を死滅させることができ、また受動的に増殖して多数になることができる。(A)MHC提示増強配列を含むpp65をコードする1μgのmRNAで処理した培養物において、頑健(ロバスト)なCD8 T細胞の増殖が明らかである。生存率及び細胞数の両方で、ペプチドで処理した細胞よりも優れていた。(B)活性化され増殖したCD8 T細胞は、T2標的細胞がCMV-pp65抗原でパルスされた場合にのみ、T2標的細胞を認識して死滅させた。(C)mRNAで処理した培養物から単離されたCD8 T細胞において、ペプチドと比較して有意により良好な死滅の効果が見られる。
図7-3】天然に存在するAPCによって活性化されたT細胞は、抗原を発現する標的細胞を死滅させることができ、また受動的に増殖して多数になることができる。(A)MHC提示増強配列を含むpp65をコードする1μgのmRNAで処理した培養物において、頑健(ロバスト)なCD8 T細胞の増殖が明らかである。生存率及び細胞数の両方で、ペプチドで処理した細胞よりも優れていた。(B)活性化され増殖したCD8 T細胞は、T2標的細胞がCMV-pp65抗原でパルスされた場合にのみ、T2標的細胞を認識して死滅させた。(C)mRNAで処理した培養物から単離されたCD8 T細胞において、ペプチドと比較して有意により良好な死滅の効果が見られる。
図8】抗原をコードするmRNAでトランスフェクトされた天然に存在する抗原提示細胞(APC)は、子宮頚部異形成患者由来のPBMCにおいて、従来のペプチド抗原刺激と比較して、優れた抗原提示及びT細胞の活性化を与える。(A)抗原チャレンジ後のCD8 T細胞の活性化のフローサイトメトリー。(B)MHC提示増強配列を含むHPV16抗原のmRNAをコードする1μgのmRNAで処理した培養物において、頑健なCD8 T細胞の増殖が明らかである。生存率及び細胞数の両方で、ペプチドで処理した細胞よりも優れていた。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、疾患抗原ペプチド(例えば、腫瘍抗原ペプチドなどのがん抗原ペプチド)の同定とmRNAナノ粒子のロバスト性及び柔軟性とを組み合わせた免疫療法を提供する。一例において、mRNAナノ粒子は、少なくとも1つの抗原ペプチドをコードする少なくとも1つのmRNAを封入する送達ビヒクル分子を含む。本明細書における「封入する」という用語は、mRNAの周囲の送達ビヒクル分子の全ての適切な程度の被覆を意味する。例えば、封入は、送達ビヒクル分子によって完全に被覆され取り囲まれたmRNA、又は送達ビヒクル分子によって部分的に被覆され取り囲まれた(例えば、実質的に被覆された)mRNAを指すことができる。
【0021】
少なくとも1つの送達ビヒクル分子でmRNAを封入することによって少なくとも部分的に形成されたmRNAナノ粒子は、少なくとも1つの抗原ペプチドをコードする封入されたmRNAを、発現、プロセシング、及び対象のT細胞へのエクスビボでの提示のために、樹状細胞などの抗原提示細胞に輸送するために使用することができる。本方法は、腫瘍抗原ペプチドなどの疾患抗原ペプチドをコードする最適化されたmRNAの開発を容易にする。少なくとも抗原ポリペプチド又は抗原ペプチドをコードする本開示の治療用又は予防用mRNAを、送達ビヒクル分子の中に封入して、mRNAナノ粒子を生成することができる。本開示によるmRNAナノ粒子はまた、腫瘍浸潤Tリンパ球のリプログラミング及び拡大のために、送達ビヒクル中に封入されてmRNAナノ粒子を形成する1つ以上のmRNAによってコードされ得るエフェクター分子を提供することができる。更に、本開示は、抑制を克服し、活性化を増強し、増殖を確実にし、及び/又はT細胞のリプログラミングを誘導するための、エフェクターと腫瘍抗原mRNAとの組み合わせを提供する。本明細書に開示される材料及び方法は、養子細胞療法(すなわち、ACT)のための、がん抗原ペプチド特異的(例えば、腫瘍抗原ペプチド特異的)T細胞などの疾患を標的とする抗原ペプチド特異的T細胞の効果的かつ効率的な同定及び増殖を提供する。
【0022】
本開示の免疫療法は、がん、自己免疫疾患及び炎症などの疾患を治療するために対象自身の免疫応答の力を利用する。本方法は、抗原ポリペプチド又はペプチドの形態の自己抗原に焦点を当て、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子を送達して、mRNAはそのようなポリペプチド及びペプチドをコードして、細胞の生理学によって、驚くほど有効な免疫応答を生じる様式で、それらのコードされた産物がプロセシング及び発現されるようにする。本開示は更に、がん、自己免疫疾患又は炎症などの疾患を有する対象に、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子を送達することによって、その免疫応答をブーストする方法であって、mRNAは抗原ポリペプチド又はペプチドをコードする、方法を提供する。いくつかの実装形態において、免疫応答をブーストするために使用される封入されるmRNAは、最初の免疫応答を誘発するために使用された封入されたmRNAと同じである(すなわち、同じ配列を有する)。免疫応答をブーストするために使用されるmRNAナノ粒子を形成する際にmRNAを封入する送達ビヒクル分子は、最初の免疫応答を誘発するために使用されたmRNAナノ粒子を形成するためにmRNAを封入する送達ビヒクルと同じ(すなわち、同一の成分を有する)であってもよく、又は異なっていてもよい。
【0023】
更に、本明細書に開示される材料及び方法は、トランスジェニックT細胞療法産物の生成のための機能的T細胞受容体(すなわち、TCR)配列の同定を提供する。本開示の方法における使用に適したエフェクター分子としては、表1に特定される例示的なエフェクター分子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
【表1】
【0025】
本開示の方法における使用が企図される抗原ペプチド(例えば、腫瘍抗原ペプチド)としては、独立した抗原をコードする配列の間にプロテアーゼで切断可能なリンカーを含むように改変された抗原ペプチド、同じmRNA分子における複数の抗原ペプチド(同じ又は異なる抗原ペプチド)の包含、安定化されたサイトカイン、安定化された受容体分子、増強された分泌される増殖因子、構成的に活性なシグナル伝達ドメイン、MITD及びhCD1dなどの主要組織適合性複合体I(すなわち、MHC I)及び/又はMHC II選別配列の包含、KDELなどの小胞体保持配列、分泌シグナル/リーダーペプチド、PADREなどのTヘルパーエピトープ、細胞特異的な非翻訳配列、及び/又は細胞特異的なコドン最適化が挙げられるが、これらに限定されない。これらの分子はいずれも、使用の前に適切な最適化プロセスを行なうことができる。これらの最適化のいずれか又は全ては、本開示の方法における使用のための抗原ペプチドを最適化するために、個別に、又は任意の組み合わせで適用することができる。
【0026】
対象に特異的な(例えば、患者に特異的な)生体材料は、対象の任意の臓器、組織又は細胞源から得ることができると企図される。そのような生体材料の供給源の例は、循環系、例えば全血又は分画血液、リンパ系(例えば、センチネルリンパ節などのリンパ節)、及び疾患組織(例えば腫瘍組織)である。
【0027】
個別化医療の適用において自己のmRNAにコードされた抗原ペプチドを使用して疾患に対する免疫応答を刺激又は活性化することによって、抗原提示細胞(すなわち、APC)集団のエクスビボでの生成のための面倒な要件を回避するという利益、外因的に導入される増殖因子及びサイトカインの必要性を低減するか、又は場合によっては更に排除する能力、ペプチドの合成及びコンジュゲーションを回避する能力、抗原ペプチドの最適でない提示、T細胞の最適でない共刺激、及び/又はエフェクター細胞サブタイプの最適でない産生に影響されない方法の実施、免疫抑制、及び/又は場合によっては他の形態の免疫療法に影響を及ぼすT細胞の枯渇の問題の低減、又は場合によっては排除という利益が得られる。
【0028】
ここで、本開示の方法に関係する例示的なワークフローの図としての図1(A)を参照して、対象101(例えば、ヒト患者)を採取工程102に送り、これにより、末梢血白血球、及び対象が腫瘍について治療される場合には腫瘍細胞を採取する生体サンプルを得る。次いで、採取された細胞の部分ゲノム又は完全ゲノムを、配列及び同定工程103に送って、変異した、又は過剰発現されたポリヌクレオチド配列を同定する。対象は任意の哺乳動物であってよく、ヒトは一例にすぎないことに留意する。いくつかの例では、サンプルは事前に採取されて提供されてもよく、したがってワークフローは工程103から開始されてもよいことに留意する。変異した、及び/又は過剰発現された配列を同定した後、対象に特異的な(例えば、患者に特異的な)mRNAライブラリの構築工程104が続き、ライブラリはNTXのmRNA設計スキャフォールド(足場)を使用して生成される。次いで、mRNAライブラリを刺激工程105で使用して、本明細書に記載されるように製剤化される、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクルを用いて対象に特異的な(例えば、患者に特異的な)PBLを刺激し、mRNAを封入する送達ビヒクルを生成するプロセス中に、形成されたmRNAナノ粒子はまた、送達ビヒクル担持工程107のエフェクター分子をコードするmRNAを封入してもよく、これはまた、mRNAナノ粒子担持工程107と見なすことができる。対象に特異的な(例えば、患者に特異的な)PBLを、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクルで刺激した後、同定工程106を行ない、特定のT細胞が同定され、部分的又は完全に単離される。
【0029】
図1Aに示したワークフローは図1Bに示すように続き、同定され単離されたT細胞は、標的細胞(例えば、腫瘍細胞)に対する特異性及び活性を確認する確認工程110に送られる。エフェクター分子もまたコードするmRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子に曝露されたPBLも含んでもよい、同定され単離されたT細胞の収集物は、抗原特異的T細胞を増殖させる増殖工程111に送られる。次いで、増殖させたT細胞集団を抗原同定工程112に送って、T細胞の抗原特異性を同定する。抗原特異性が決定されたT細胞を、個別化抗原設計工程113に送って、特定の対象(例えば、患者)に合わせたRNA(例えば、mRNA)ワクチンを調製する。増殖させたT細胞の集団はまた、T細胞生成工程114に送られ、T細胞産物を産生し、次いで、それを対象101(例えば、患者101)への送達に利用することができる。図1(A)~図1(B)に記載された工程は、同じ人又は異なる人で実施されてもよいことに留意する。
【0030】
図2(A)に、同時の機能特異的ワクチン接種(例えば、がんワクチン接種)及び養子T細胞産物を生成するための末梢血白血球(PBL)採取の例示的ワークフローを示す。腫瘍抗原エピトープを同定し、同定に基づいてmRNAワクチンを生成する、エピトープ同定及びワクチン生成工程120を実施する。次いで、mRNAワクチンを投与工程126に送り、例えば、がんmRNAワクチンが対象に投与される。本開示における対象とは、本明細書に記載される治療を必要とする任意の患者を指し得る。同時に、PBL採取工程125を対象に対して行ない、採取したPBLを、既知のがん抗原をコードするmRNAを使用して対象のPBLを刺激する刺激工程124に送る。次いで、刺激したPBLをT細胞同定工程123で分析して、T細胞の特異性及び機能を同定する。次いで、同定された目的のT細胞を増殖工程122に送って、がん特異的T細胞を得る。次いで、増殖させたがん特異的T細胞を養子移入工程121で使用して、対象の特異的ながんに対処するように合わせ調製されたがん特異的T細胞を対象に提供する。
【0031】
図2(B)では図2(A)に示したフローチャートの代替例を提供する。図2(B)に、個別のプロトコールを使用して機能特異的(例えば、がん特異的)T細胞のインビボでの増殖及び誘導を行い、続いて養子T細胞産物を生成するためのPBLの採取に関係するワークフローを示す。このアプローチを使用して、エピトープ同定及びワクチン生成工程120を最初に実施して、対象101(例えば、患者101)に投与されるがんmRNAワクチンを得る。次いで、対象101がワクチン特異的応答を生じ、ワクチン接種された対象101由来のPBLをPBL採取工程125において得る。採取されたPBLを刺激工程124に送り、PBLをmRNAにコードされたがん抗原によって刺激する。次に、同定及び検証工程130を行なって、標的特異的(例えば、がん特異的)T細胞を同定して特徴付ける。次いで、標的特異的T細胞を増殖工程122に送ってそのような細胞の数を増加させ、次に、増殖させた標的特異的T細胞を、増殖させた標的特異的(例えば、がん特異的)T細胞を対象に投与することによる養子移入工程121において使用する。本明細書で説明されるワークフローの、全てを含む、任意の部分が自動化され得ることに留意する。例えば、細胞を定期的にサンプリングして、細胞数、生存率、特異性、表現型、又はそれらの任意の組み合わせを決定して、T細胞療法産物を製造することができる。自動化は、例えば、少なくとも1つのプロセッサ及び必要なハードウェアとアルゴリズムとを伴い得る。
【0032】
以下の開示では、これらの工程が様々な状況において実装され得ることを更に説明する。
【0033】
本明細書では、送達ビヒクル分子(いくつかの例では、略して「送達ビヒクル」と称される)が、インビトロで、一次免疫細胞の混合集団中の生細胞にmRNAナノ粒子の形態でmRNAカーゴを効果的に送達することを立証する実験結果を開示する(図4)。データはまた、抗原ペプチドをコードするmRNAでトランスフェクトされた天然に存在するAPCが、従来のペプチド抗原刺激と比較して優れた抗原提示及びT細胞の活性化を与えるという驚くべき結果を示している(図5)。抗原ペプチドのmRNAに基づく提示によって、対象の細胞は発現産物をプロセシングして、個別化された免疫応答を誘発する抗原ペプチドを産生することができる。本開示の方法は抗原の提示を提供し、その後のT細胞の活性化を、MHC選別配列を含めることによって抗原ペプチドをコードするmRNAの設計を最適化することによって更に増強できることにも留意する(図6)。これらの方法は、mRNAをプロセシング及び翻訳し、発現された抗原ペプチドをプロセシング及び提示した天然に存在するAPCによって活性化されたT細胞を利用して、T細胞を受動的に増殖させて多数にすることができる(図7A)。更に、mRNAをプロセシング及び翻訳して、コードされた抗原ペプチドを発現し、プロセシングして提示する天然に存在するAPCによって活性化されたT細胞は、同じ抗原を発現する標的細胞をMHC拘束性の様式で死滅させることができる(図7B)。更に、mRNAによってコードされる抗原ペプチドでは、抗原性物質としてのペプチドの外因性投与と比較して、よりポリクローナルな、したがってより頑健なT細胞の応答を生じる。図8(A)~8(B)に示すように、子宮頚部異形成患者由来のPBMCにおいて、抗原をコードするmRNAでトランスフェクトされた天然に存在する抗原提示細胞(APC)は、従来のペプチド抗原刺激と比較して、優れた抗原提示及びT細胞の活性化を与えた。図8(A)に、抗原チャレンジの後のCD8 T細胞の活性化のフローサイトメトリーの結果を示し、図8(B)に、MHC提示増強配列を含むHPV16抗原のmRNAをコードする1μgのmRNAで処理した培養物における明らかな頑健なCD8 T細胞の増殖を示す。結果は、生存率及び細胞数の両方で、ペプチドで処理した細胞よりも優れていることを示した。
【0034】
本開示の材料及び方法の状況におかれると、養子T細胞療法のための生産的T細胞産物の生成では、抗原発現のレベル、がん組織に対する特異性、及び特定のヒト白血球抗原(HLA)分子と関連した抗原の効率的な提示が可能であるかどうか、などの面に注意を払う必要があることに留意する。これらの考慮事項によって、標的の選択が複雑になり、不十分な標的化の効果又はオフターゲット効果などのリスクが生じ得る。T細胞産物のインビトロでの製造は別の面での困難を増やすことがある。異なるT細胞の表現型はインビボで異なる能力を有することが知られているため、T細胞培養中のサイトカインの選択などの因子が重要であることがある。T細胞療法の開発に関係する更なる考慮事項には、T細胞の供給源の選択、抗原提示細胞の供給源の選択、免疫抑制の現象を軽減するか、さもなければ対処するためのアプローチの設計、適切な抗原の選択のために取られるアプローチ、応答性T細胞を増殖させる際に採用されるプロトコール、T細胞の治療的に有用な活性化を確実にするためのT細胞の十分な共刺激を確保する方法、エフェクター表現型の選択、及びT細胞の枯渇の現実の脅威が含まれ得る。
【0035】
抗原の選択
T細胞養子細胞療法(すなわち、ACT)のための標的の抗原ペプチドの選択は、治療の成功の確実な達成にとって重要である。本開示の方法は、少なくとも3つの主要な標的カテゴリー、すなわち、(1)未知の標的を用いた療法、(2)既知の腫瘍関連抗原(TAA)を標的とする療法、及び(3)1つの個々の腫瘍に特異的なネオアンチゲンを標的とする療法のいずれでの使用にも適しているという点で柔軟である。
【0036】
未知の抗原
未知の抗原を標的とする本開示の方法は一般に、抗腫瘍特異性について富化されたT細胞の集団の調達に基づいている。よく知られて広範に研究されている1つは、腫瘍組織に浸潤するT細胞の単離を行なう、腫瘍浸潤リンパ球、又はTILの方法論である。この特異的T細胞の集団を採取するための基礎は、腫瘍組織における腫瘍特異的T細胞の富化である。多くの公表された研究において使用される培養プロセスは急速増殖プロトコール(REP)に従い、それには、TILを消化された腫瘍組織から単離して増殖させ、インターロイキン2(IL-2)中で培養してTILの出発バッチを得る、プレREPと呼ばれることもある第1の工程が含まれる。続いて、REP培養工程において、TILを、照射された同種異系のフィーダー細胞と共にTCR刺激(モノクローナル抗CD3)で再刺激する。
【0037】
治療に関して、患者などの対象は、多くの場合、本明細書に記載される抗原提示細胞、最終的には治療用T細胞産物の調製に使用されるリンパ球を取り出した後に、リンパ球を除去される。場合によっては、リンパ球を除去した患者は、T細胞産物の注入前に放射線療法を受ける。T細胞の注入は、多くの場合IL-2のインビボ投与を伴う。
【0038】
本開示の治療プロトコールはまた、T細胞の注入前の化学療法と、場合によっては放射線療法とによるリンパ球の除去、及び注入後のインビボIL-2投与を含む。様々な用量レベルのIL-2が企図されるが比較的低い投与量によって、望まない副作用を最小限にする。一例において、リンパ球の除去は、注入されたTILの恒常性サイトカインへの確実なアクセス、Tregの減少、及び抗原提示細胞(APC)に対する刺激効果によるTILなどのT細胞の生存及び局在化を改善するために行われる。
【0039】
未知の抗原を標的とする別のアプローチは、腫瘍排出センチネルリンパ節によって自家T細胞の供給源が提供されるSentoclone(登録商標)法である。センチネル節は、腫瘍組織と同様に、腫瘍特異的T細胞が富化されたT細胞の集団を有する。単離されたT細胞を自家腫瘍のホモジネートで刺激し、インビトロで増殖させ、事前のリンパ球の除去又はアジュバントのIL-2なしで再注入する。
【0040】
腫瘍関連抗原
本開示の方法はまた、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子と共に使用するために適しており、mRNAは腫瘍関連抗原をコードする。腫瘍関連抗原(TAA)の同定及び標的化は、がん免疫療法のための別の戦略である。一例において、TAAは、均質であり、高度に安定であり、腫瘍細胞によって特異的に発現され(すなわち、健康な組織には見られない)、多くの患者に存在し、T細胞によって認識され、その後、T細胞の細胞傷害性を誘発できることが望ましい。天然に存在するTAA特異的T細胞は、患者の血液から供給され、開示される方法の様々な実装形態において、抗原提示細胞(APC)及びサイトカインと組み合わせて、既知の腫瘍関連ペプチド抗原(例えば、PRAME、MAGEA4、SSX2、Survivin、及びNY-ES0-1)を使用して増殖させることができる。
【0041】
ネオアンチゲン
新たに形成された腫瘍特異的抗原はまた、本明細書においてネオアンチゲンとも呼ばれ、対象の身体における非同義変異及び他の異常な遺伝子改変から生じる。TAAよりもネオアンチゲンを標的とすることの1つの利点は、それらが1つの個々の腫瘍のがん細胞に対して高度に特異的であることである。変異は生殖系列DNAでは起こらないため、それらは正常組織では見られない。したがって、それらは正常な自己抗原から区別され、T細胞によって非自己として認識され得る。それらは単一の個々の腫瘍に特異的であり、治療に対する個別化アプローチに適合する。
【0042】
単一の変異に基づくネオアンチゲンによるワクチン接種が陽性の臨床応答の誘発に十分であることが分かっているため、変異の特徴は治療転帰に影響を及ぼす。また、皮膚悪性黒色腫又は非小細胞肺がんなどのネオアンチゲンの担持の高いがんは概して、チェックポイント阻害剤療法に良好に応答し、その療法はまた、がん(例えば、腫瘍)細胞を標的とする自家T細胞などの治療用T細胞産物の投与との組み合わせでも企図される。
【0043】
どのネオアンチゲンが陽性の免疫応答を誘発する可能性を有するか、の予測を容易にするためにいくつかの方法が開発されており、これらの方法は、がんのネオアンチゲンなどのネオアンチゲンを標的とする治療用T細胞産物の開発と組み合わせての使用が企図される。COSMIC又はThe Cancer Genome Atrasなどの主要なデータベースを使用して発見された変異は、それらの多くががんドライバー変異であり、本開示の方法においてネオアンチゲンとしての使用が企図される。しかしながら、ネオアンチゲンに基づく免疫療法のために、ドライバー変異に焦点を当てる利点はよくわかっていない。HLAクラスI分子及びHLAクラスII分子の両方への結合についての変異ランドスケープの最近のコンピュータ解析は、ドライバー変異がランダムな変異よりも全体的に低い親和性を有することを示している。次世代シーケンシング(NGS)もまた、個々の患者についてのネオアンチゲンの系統的かつ個別化された予測を通してネオアンチゲンを同定するためのツールとして企図される。ネオアンチゲンの予測のためのNGSは、選択された組織のタンパク質をコードするゲノム中の全ての既知のDNA配列(全エクソーム配列決定、WES)又は現在利用可能なRNA転写物(トランスクリプトーム配列決定、RNA-seq)のいずれかの大規模並列配列決定(大規模並列シーケンシング)に基づく。ネオアンチゲンを同定するためにNGSを使用する取り組みでは、pVAC-Seq、MuPeXI、TIMiner、及びOpenVaxを含む利用可能なネオアンチゲン予測パイプラインが役立っている。ほとんどのネオアンチゲン予測パイプラインは、腫瘍RNAについてのRNA-seqと組み合わされた正常及び腫瘍DNAについてのWESに依存しており、WESは慣例的に、腫瘍DNAにおいてのみ見られる変異を同定するために使用され、RNA-seqは、対応するmRNA転写物の発現を検証するために使用される。発現に加えて、RNA-seqはまた、選択的スプライシング変異体又は転写エラーなどの、WESによって可視化されない更なる情報を明らかにする。
【0044】
ネオアンチゲンの同定における次の工程は、個々の患者由来の対応するHLA分子への推定されるエピトープ候補の結合を予測することを含んでもよい。NetMHCシリーズ(バージョン4.0)は、クラスI HLA対立遺伝子にわたるペプチドの結合の予測に役立つ。しかしながら、いくつかの研究は、HLA分子上に提示されると予測されるペプチドの実際の数が5%未満であり得ることを示している。HLAクラスII複合体上の抗原提示は、がんなどの疾患のネオアンチゲンに基づくT細胞療法に焦点を当てた本明細書に開示される方法が企図される。HLAクラスII複合体上に提示されたネオアンチゲンは、HLAクラスI複合体上の提示と同様に、腫瘍エピトープの認識及び抗腫瘍活性を促進する。したがって、クラスII分子及びクラスI分子は、本開示の方法において使用するためのネオアンチゲンの予測に含まれる。更に別のアプローチは、ペプチドのプロテアソームに誘導されるスプライス変異体を調べることである。これらのネオアンチゲンは、スプライシングが翻訳後に生じるため、元のペプチド鎖とはアラインしない。
【0045】
従来の予測パイプラインに関連する障害を克服するために、ネオアンチゲンペプチドの適合性といくつかのデータセットからの臨床応答に関する結果とを相関させる機械学習アルゴリズムを同時に使用して、ネオアンチゲン予測を改善することができる。Neopepsee機械学習プラットフォームを使用して、感受性及び特異性を改善することができる。
【0046】
ネオアンチゲンは、自家腫瘍特異的クローンを刺激及び/若しくは選択するために、又は腫瘍特異的TCRの産生のための鋳型としてのいずれかで、T細胞ACT戦略に使用することができる。ネオアンチゲンの概念は、センチネル節ベースのT細胞ACTに適用可能であるとして企図される。そのような実装形態において、ネオアンチゲンペプチドをリンパ節細胞の培養に添加される常磁性ビーズに結合させ、リンパ節由来のAPCにネオアンチゲンをプロセシングさせ、それらをT細胞に提示させて、特異的な増殖を引き起こす。ネオアンチゲン反応性T細胞のクローンを同定し、それらのTCRを配列決定して、本開示によるTCRトランスジェニック療法に使用する。本開示の方法のいくつかの実装形態において、自家TILは数が少ししかなく、機能的に抑制されている場合が多いことから、患者の腫瘍組織から同定されたネオアンチゲンを使用して、反応性クローンについて健常ドナーのT細胞をスクリーニングする。次いで、同定されたネオアンチゲン特異的TCRを、所望のT細胞の集団へのトランスジェニック移入のために使用する。本開示の方法の他の実装形態は、PD-1並びに/又は活性化マーカーOX40及び4-1BBを発現する(したがって、腫瘍反応性である可能性が高い)TILをフローサイトメトリーによって選別し、培養し、ネオアンチゲンペプチドでパルスされたAPCと共培養する、TIL療法を伴う。上記の方法と同様に、応答するクローンをTCR配列決定によって解析して、TCR鋳型を得る。
【0047】
インビボでのT細胞の応答の誘導は、腫瘍特異的抗原を提示するプロフェッショナル抗原提示細胞(APC)、特に樹状細胞(DC)との相互作用に高度に依存する。本開示の方法は、抗原ペプチドをコードするmRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子を、治療を必要とする対象にバイアスなしで投与するため、そのようなインビボでの適用によく適している。したがって、プロフェッショナルAPCは、免疫応答を刺激する適切な提示形態で抗原ペプチドを生じるmRNAナノ粒子を形成する際にmRNAを封入する送達ビヒクル分子の取り込みにおいて不利にはならない。実際、天然のAPC、特にDCは、腫瘍抗原特異的ナイーブT細胞の効率的な活性化及び増殖を誘導するよう十分に態勢が整い、それにより、特異的抗原を提示するがん細胞を死滅させることができるCD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を含むT細胞の大集団を誘導することができる。いくつかの例において、がん治療における天然のAPCの使用は、有害副作用が軽微である有益な臨床転帰と関連しており、能動免疫療法の有望性が強調される。
【0048】
DCなどの天然のAPCの従来の使用から、いくつかの制限が明らかにされている。腫瘍微小環境における免疫抑制因子の有害な効果と最適な抗原負荷DCの知識の欠如とが合わさると、臨床試験において観察される様々な結果の原因となることがある。更に、いくつかの例において、自家DCの単離及びエクスビボでの刺激は、時間がかかり、高価である場合があり、またエクスビボで生成されたDCの質は変動し得る。本開示の方法は、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子の送達に依存し、mRNAは、対象自身の天然に存在するAPCがmRNAをプロセシングし、タンパク質を発現して対象自身のT細胞を活性化する抗原ペプチドを提示させる、抗原ペプチドをコードし、それによってがんなどの疾患を治療する。
【0049】
mRNAの構造
本開示の抗原ペプチドは、少なくとも、対象の免疫系による認識のために抗原ペプチドを提示することができる白血球などの少なくとも1つの細胞型においてmRNAの発現を可能にするための十分な発現制御配列と共に、抗原の構造に関与するペプチドの部分のコード領域を含むmRNAにコードされる。したがって、本開示のmRNAは、少なくとも、抗原ペプチドのコード領域、リボソーム結合部位(例えば、コザック配列)、及び終止コドンを有してもよい。本開示のmRNAはまた、少なくとも1つの、5’UTR又は3’UTRなどの非翻訳領域(すなわち、UTR)を含有してもよい。いくつかの実装形態において、mRNAは、5’UTR及び3’UTRを有する。更に、本開示のmRNAは、腫瘍浸潤Tリンパ球(すなわち、TIL)などのT細胞のリプログラミング及び増殖のためのエフェクター分子をコードしていてもよい。また、本開示のmRNAは、MHC提示増強配列を更にコードしていてもよい。より広くは、本明細書に記載されるエフェクターのコード領域の1つ以上が、本開示のmRNAに含まれていてもよい。また、本明細書の他の箇所に記載されるように、本開示のmRNAナノ粒子は、1つ以上の抗原ペプチドをコードするmRNA及び1つ以上のエフェクター分子をコードする別のmRNAなどの、2つ以上のタイプのmRNAを、単独で、又は抗原ペプチドの少なくとも1つのコード領域と組み合わせて含有してもよい。いくつかの例では、本開示のmRNAは、発現可能な抗原ペプチドをコードする最小のサイズよりも大きくてもよく、追加のRNA配列は、抗原ペプチドを発現及び提示するプロセスにおいて対象の白血球によるmRNAの細胞内プロセシングを促進する。
【0050】
mRNAナノ粒子
本明細書に開示される送達ビヒクル分子は、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する。本開示のmRNAナノ粒子のナノ粒子成分は、例えば60~150ナノメートルの範囲の概ね1~300ナノメートルの大きさを有する物質の小粒子であり、それは1~1,000μmの大きさである微細粒子の典型的なサイズよりも小さい。mRNAナノ粒子は、有機物(例えば、リポソーム)、無機物(例えば、金、銀、又は白金)、又は中空のいずれであってもよい。概して、企図されるmRNAナノ粒子は、エクスビボ(例えば、インビトロ)又はインビボのいずれかで、対象の細胞にmRNAを送達する能力を有する任意の化合物又は物質を含む。本開示のmRNAナノ粒子において見られる適切な化合物又は組成物としては、限定はされないが、リポソーム粒子、ポリマーベースの粒子(例えば、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)粒子)、インシュレーター粒子組成物、及びデンドリマー(有機対無機)が挙げられ、これらはいずれも、本開示に従って、その中にmRNAを含むことができる。
【0051】
ワクチンカセット
ワクチンは、抗体の産生を刺激し、1つ又はいくつかの疾患に対する免疫を提供するために使用される物質であり、疾患の原因因子、その産物、又は合成代替物から調製される。本明細書では、ワクチン組成物の生成のための新規な構築物及びスキャフォールドを開示する。これらのワクチン組成物は抗原ペイロードを担持又は運搬するスキャフォールドを含む。ワクチンスキャフォールドと抗原ペイロードとの組み合わせはワクチンカセットと呼ばれる。本明細書で使用される場合、「ワクチンカセット」とは、ワクチンとして集合的に機能するワクチンスキャフォールドと抗原ペイロードとをコードするポリヌクレオチド(又はそのコードされたポリペプチド)である。ワクチンカセットは、直接投与するように構成されてもよく、又は細胞における発現のために1つ以上のポリヌクレオチドにコードされるように構成されてもよく、投与のためにDNA、RNA又はmRNAにコードされてもよい。
【0052】
ワクチンスキャフォールド
本開示のワクチンスキャフォールドは、1つ以上の親ポリペプチド(例えば、受容体分子)の1つ以上の領域に由来してもよい。このような親分子としては、限定されないが、受容体又はタンパク質の、CD1、LDLR、LDLRP及び/又はLRP1ファミリーを挙げることができる。本開示は、mRNAカーゴが送達ビヒクル分子で封入されてmRNAナノ粒子を形成する実装形態を企図する。送達ビヒクル分子は、mRNAカーゴに広用途で有効な送達ビヒクルを提供するために、ペプトイド系脂質材料を含んでもよく、これについては以下で更に説明する。
【0053】
いくつかの実装形態において、親分子は受容体のCD1糖タンパク質ファミリーから選択される。CD1タンパク質は、ヒト1番染色体上の遺伝子座にコードされている。この領域は、5つのCD1アイソフォーム(CD1a~e)をコードしている。これらのタンパク質は、CD1eを除いて、細胞表面で発現されて抗原提示分子として機能し、CD1eは細胞内でのみ発現され、他のヒトCD1アイソフォームによる提示のための脂質のプロセシング及び編集に関与する。CD1アイソマーは、カルネキシン、カルレティキュリン、更にはB2Mなどの様々なシャペロンと会合することによって、細胞の周囲を移動する。新たに合成された結合していないCD1のアイソマーは、ER及びゴルジから原形質膜に出て、続いて内在化して、アダプタータンパク質複合体2及び3とのそれらの結合を可能にするチロシンベースの選別モチーフを介して様々なコンパートメントに進入し、これにより、様々なエンドソームコンパートメント(初期エンドソーム、リサイクリングエンドソーム、後期エンドソーム)及びリソソームへの進入が促進され、最終的にMHC I分子の輸送経路と同様の輸送経路をたどる。更に、CD1アイソマーは、これらのエンドソームコンパートメントを介して移動して抗原を担持し、多くの場合、CD1並びにMHC I及びMHC II分子は同じコンパートメント内で検出される。
【0054】
本開示によれば、ワクチンスキャフォールドは以下の式を有する:
5’UTR-[[Signal/Leader]-[(An1)n-Xo-(An2)p]-[TMD]-[CYD]]-3’UTR-PolyA
式中、「UTR」は、標準的なmRNA構築物の5’及び3’末端に位置する非翻訳領域であり、「PolyA」は、mRNAのポリアデニル化部位を指し、[Signal/Leader]は、抗原ペイロード領域のフレーム内、及びその上流に位置する任意のシグナル又はリーダー又は選別配列を指し、
[(An1)n-Xo-(An2)p]は、「n」回複製され得る第1の抗原ペイロード(An1)と、任意で存在しなくてもよく、若しくは「o」回繰り返されてもよいスペーサー又はリンカー領域(X)と、任意で、存在する場合に「p」回繰り返されてもよい第2の抗原ペイロード(An2)と、を含む任意の抗原ペイロード領域を指し、TMDは、1つ以上のCDI、LDLR、LDLRP及び/又はLRP1タンパク質由来の膜貫通領域の全部又は一部分を指し、また
CYDは、1つ以上のCDI、LDLR、LDLRP及び/又はLRP1タンパク質由来の細胞質領域の全部又は一部分を指す。
【0055】
いくつかの実装形態において、本開示のワクチンスキャフォールドは、エンドソーム及び/又はリソソームコンパートメントへの抗原のルーティングを促進するための、CD1、LDLR、LDLRP及び/又はLRP1アイソマーのシグナル配列及び/又は細胞質選別シグナルの1つ以上を含み、最終的にMHCクラスI及びMHCクラスII分子のプロセシング及び担持を可能にする。
【0056】
いくつかの実装形態において、シグナル配列は、ヒトCD1a(MLFLLLPLLAVLPGDG;配列番号1)、ヒトCD1b(MLLLPFQLLAVLFPGGN;配列番号2)、ヒトCD1c(MLFLQFLLLALLLPGGD;配列番号3)、ヒトCD1d(MGCLLFLLLWALLQAWGSA;配列番号4)、ヒトCD1e(MLLLFLLFEGLCCPGENTA;配列番号5)、ヒトLDLR(MGPWGWKLRWTVALLLAAAGT;配列番号6)、又はヒトLRP1(MLTPPLLLLLPLLSALVAA;配列番号7)から選択される。本開示によれば、シグナル配列は任意のタンパク質に由来することができる。シグナル配列は、4~50アミノ酸の範囲であってよく、キメラ、タンデム、繰り返し又は逆位であってもよい。シグナル配列は、シグナル伝達機能が実質的に保持される限り、本明細書に教示されるもの、又は本明細書に教示されるものと少なくとも50、60、70、80、90、95若しくは99%同一である任意のシグナル配列を含むことができる。
【0057】
いくつかの実装形態において、膜貫通ドメイン配列は、ヒトCD1a(GFIILAVIVPLLLLIGLALW;配列番号8)、ヒトCD1b(IVLAIIVPSLLLLLCLALWYM;配列番号9)、ヒトCD1c(NWIALVVIVPLVILIVLVLWF;配列番号10)、ヒトCD1d(MGLIALAVLACLLFLLIVGFT;配列番号11)、ヒトCD1e(SIFLILICLTVIVTLVILVVV;配列番号12)、ヒトLDLR(ALSIVLPIVLLVFLCLGVFLLW;配列番号13)、又はヒトLRP1(HIASILIPLLLLLLLVLVAGVVFWY;配列番号14)から選択される。本開示では、膜貫通ドメイン配列は、任意のタンパク質に由来することができる。膜貫通配列は、10~100アミノ酸の範囲であってよく、キメラ、タンデム、繰り返し又は逆位であってもよい。膜貫通配列は、機能が実質的に保持される限り、本明細書において教示されるもの、又は本明細書において教示されるものと少なくとも50、60、70、80、90、95若しくは99%同一である任意の膜貫通配列を含むことができる。
【0058】
いくつかの実装形態において、細胞質ドメイン配列は、ヒトCD1a(RKRCFC;配列番号15)、ヒトCD1b(RRRSYQNIP;配列番号16)、ヒトCD1c(KKHCSYQDIL;配列番号17)、ヒトCD1d(SRFKRQTSYQGVL;配列番号18)、ヒトCD1e(DSRLKKQSSNKNILSPHTPSPVFLMGANTQDTKNSRHQFCLAQVSWIKNRVLKKWKTRLNQLW;配列番号19)、ヒトLDLR(KNWRLKNINSINFDNPVYQKTTEDEVHICHNQDGYSYPSRQMVSLEDDVA;配列番号20)、及びヒトLRP1(KRRVQGAKGFQHQRMTNGAMNVEIGNPTYKMYEGGEPDDVGGLLDADFALDPDKPTNFTNPVYATLYMGGHGSRHSLASTDEKRELLGRGPEDEIGDPLA;配列番号:21)から選択される。本開示では、細胞質ドメイン配列は、任意のタンパク質に由来することができる。細胞質配列は、10~100アミノ酸の範囲であってよく、キメラ、タンデム、繰り返し又は逆位であってもよい。細胞質配列は、機能が実質的に保持される限り、本明細書で教示されるもの、又は本明細書で教示されるものと少なくとも50、60、70、80、90、95若しくは99%同一である任意の細胞質配列を含むことができる。
【0059】
CD1eの配列構造はまた、エンドソームコンパートメントにおいてプロセシングされて膜の結合に関与するN末端プロペプチド配列(APQALQSYHLAA;配列番号22)を含有すること、他方、それがない場合に可溶性分子を生じることに留意する。
【0060】
上記で参照した親受容体分子の各々について、NCBIの参照を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
抗原ペイロード
本開示のワクチンスキャフォールドは、抗原ポリペプチド又は抗原ペプチドをコードするmRNAなどの少なくとも1つの抗原ペイロードで担持され得るか、又はその中に組み込まれ得るように操作される。抗原ペイロードをワクチンスキャフォールドと組み合わせると、構築物をワクチンカセットと称することができる。
【0063】
抗原ポリペプチド又は抗原ペプチドをコードするmRNAを含む1つ以上の抗原ペイロードを含む医薬組成物、例えば本開示のワクチンを用いて、免疫応答が望まれる様々な疾患及び/又は症状を治療することができる。このような疾患としては、がん、自己免疫疾患及び炎症が挙げられる。
【0064】
mRNAナノ粒子化合物及び組成物
本開示は、構造脂質、リン脂質、及び遮蔽脂質などの更なる脂質成分と組み合わせた脂質化カチオン性ペプチド化合物の複合体を含む多成分脂質組成物、例えば多成分脂質ナノ粒子を含む、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子を提供する。多成分脂質組成物及び複合体は、リピトイドとして知られるカチオン性ペプチド-リン脂質コンジュゲート、又はカチオン性ペプチド化合物として脂質部分及び/又は(オリゴ及び/又はポリ)エチレングリコール部分でN置換されたN-置換カチオン性ペプチド化合物(本明細書において、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物と称される)を含んでもよい。
【0065】
送達ビヒクルのリピトイド並びに/又は三級アミノ脂質化及び/若しくはPEG化カチオン性ペプチド化合物を含む多成分脂質組成物は、他の市販の脂質ナノ粒子製剤(例えば、市販のキットに見られる製剤)又は単独の薬剤で観察される効率を超える、封入されたmRNAの細胞への高度に効率的な送達を示す。興味深いことに、本開示の脂質組成物を有する送達ビヒクルは、構造脂質を含めずに、mRNAの十分な送達を実現した。
【0066】
本開示は複合体を含む組成物を提供し、複合体は1つ以上のポリアニオン性化合物及び3つ以上の脂質成分を含む。前述のいくつかの実装形態において、複合体は、1つ以上のポリアニオン性化合物、1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物、及び2つ以上の他の脂質成分を含む。
【0067】
1つ以上のポリアニオン性化合物及び/又は非アニオン性化合物とともに1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物を含む組成物及び複合体が更に、2つ以上の脂質成分(例えば、本明細書に記載されるリン脂質、構造脂質、及び/又は遮蔽脂質)を含むいくつかの実装形態において、組成物は脂質製剤として記載され得る。組成物が2つ以上の脂質成分を含む特定の実装形態において、脂質組成物は、多成分脂質製剤として記載され得る。複合体が脂質化カチオン性ペプチド化合物、ポリアニオン性化合物、リン脂質、構造脂質、及び遮蔽脂質を含む特定の実装形態において、組成物は、本開示による少なくとも1つのmRNAを封入する送達ビヒクルから形成された脂質ナノ粒子を含む。組成物が、本開示による少なくとも1つのmRNAを封入する送達ビヒクルから形成された脂質ナノ粒子複合体を含む更に別の実装形態において、組成物は、脂質ナノ粒子(LNP)組成物として特徴付けられる。
【0068】
いくつかの実装形態において、本開示の組成物は1つ以上のポリアニオン性化合物と脂質成分との複合体を含み、脂質成分は任意で1つ以上の構造脂質、1つ以上のリン脂質、1つ以上の遮蔽脂質、及び1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物を含む。いくつかの実装形態において、本開示の組成物は、1つ以上のポリアニオン性化合物と脂質成分との複合体を含み、脂質成分は1つ以上のリン脂質、1つ以上の遮蔽脂質、及び1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物を含む。他の実装形態において、組成物は1つ以上のポリアニオン性化合物と脂質成分との複合体を含み、脂質成分は1つ以上の構造脂質、1つ以上のリン脂質、1つ以上の遮蔽脂質、及び1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物を含む。
【0069】
本開示の組成物は複合体を含み、複合体は1つ以上のポリアニオン性化合物と脂質成分とを含み、脂質成分は任意で1つ以上の構造脂質と、1つ以上のリン脂質と、1つ以上の遮蔽脂質と、1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物とを含む。
【0070】
それらの正電荷によって、複合体及び組成物中の脂質化カチオン性ペプチド化合物は、ポリアニオン性カーゴ上の負電荷と釣り合った複合体を形成し、ひいては、標的細胞へのカーゴの取り込みを促進するすることができる。本明細書に記載の脂質化カチオン性ペプチド化合物は、正味でゼロの電荷又は正味の正電荷を有する。複合体又は組成物が1つ以上のカチオン性化合物を含むいくつかの実装形態において、1つ以上のカチオン性化合物は独立して、正味でゼロの電荷又は正味の正電荷を有する。特定の実装形態において、1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物は独立して、少なくとも+1の正味の正電荷を有する。1つ以上のカチオン性化合物上に存在する正味の電荷は、環境条件に応じて変化し得ることを認識されたい。例えば、いくつかの実装形態において、1つ以上のカチオン性化合物は独立して、生理学的に適切なpHの範囲で安定な正味の正電荷を有する。例えば、生理学的pHは少なくとも約5.5、典型的には少なくとも約6.0である。より典型的には、生理学的pHは少なくとも約6.5である。通常、生理学的pHは約8.5未満、典型的には約8.0未満である。より典型的には、生理学的pHは約7.5未満である。
【0071】
本明細書において提供される組成物に利用される脂質化カチオン性ペプチド化合物は、リピトイドとしても知られるカチオン性ペプトイド-リン脂質コンジュゲート構築物、又は本明細書において三級アミノ脂質化及び/若しくはPEG化カチオン性ペプチド化合物と称される、ペプチド骨格全体にわたって脂質部分及び/若しくは(オリゴ及び/若しくはポリ)エチレングリコール部分を有するN-置換カチオン性ペプチド化合物を含むことができる。いくつかの実装形態において、本開示の組成物は、1つ以上の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物を含む複合体を含む。他の実装形態において、組成物は1つ以上のリピトイドを含む複合体を含む。更に別の実装形態において、組成物は1つ以上の三級アミノ脂質化及び/若しくはPEG化カチオン性ペプチド化合物、1つ以上のリピトイド、又はそれらの任意の組み合わせを含む複合体を含む。
【0072】
いくつかの実装形態において、本開示の複合体及び組成物は、1つ以上の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物を含む。三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は、N-置換アミノ酸残基を含むペプチド鎖である。本開示の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物はオリゴペプチド骨格を含み、オリゴペプチド骨格はN置換された中性(「スペーサー」)及び/又は脂質アミノ酸残基が任意で挟まれた、N-置換カチオン性アミノ酸残基の繰り返しサブユニットを含む。オリゴペプチド骨格は更に、脂質部分でN-置換された(「N-脂質化」)、並びに/又はオリゴエチレングリコール及び/若しくはポリエチレングリコールでN-置換された(「N-PEG化」)アミノ酸残基によって、N末端及び/又はC末端で更にキャッピングされる。
【0073】
いくつかの実装形態において、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は、ペプチド化合物中に存在するアミノ酸残基の総数によって特徴付けてもよく、各アミノ酸残基は一般構造-(NR-CRaRb-C(O))-によって表される。いくつかの実装形態において、アミノ酸残基の総数は、2~40アミノ酸残基、2~30アミノ酸残基、3~25アミノ酸残基、5~20アミノ酸残基、又は7~15アミノ酸残基である。特定の実装形態において、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は5~20アミノ酸残基を含む。
【0074】
他の実装形態において、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は正味でゼロの電荷又は正味の正電荷を有する。三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物が三級アミノ脂質化カチオン性ペプチド化合物である特定の実装形態において、三級アミノ脂質化カチオン性ペプチド化合物は少なくとも+1の正味の正電荷を有する。三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物が、三級アミノPEG化カチオン性ペプチド化合物又は三級アミノ脂質化及びPEG化カチオン性ペプチド化合物である他の実装形態において、カチオン性ペプチド化合物は、正味でゼロの電荷を有する(すなわち、電荷的に中性である)か、又は正味の正電荷を有する。三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物が三級アミノPEG化カチオン性ペプチド化合物又は三級アミノ脂質化及びPEG化カチオン性ペプチド化合物であるいくつかの実装形態において、カチオン性ペプチド化合物は+1の正味の正電荷を有する。特定の実装形態において、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は(rxp)+の正味の正電荷を有する。
【0075】
三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は、mRNAなどのポリアニオン性化合物との複合体化、及びそのようなポリアニオン性化合物の細胞への送達に有用であり得る。本開示の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は、N-置換中性スペーサーアミノ酸残基及び/又はN-脂質化アミノ酸残基が任意で挟まれた、N-置換カチオン性アミノ酸残基の繰り返しサブユニットのオリゴペプチド骨格を含む。
【0076】
オリゴペプチド骨格の繰り返しサブユニット中のカチオン性アミノ酸残基は、本開示の化合物に正電荷を付与し、それにより、mRNAのようなポリアニオン性種との好ましい静電相互作用及びその電荷の中和が可能になる。カチオン性残基中に、またその間に中性又は脂質化アミノ酸残基を挟み込むことによって、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物の全体にわたる正電荷の空間分布をより高度に制御することができ、それにより、カチオン性ペプチド化合物と、特定の長さ、電荷分布及び/又は立体構造を有するポリアニオン性種との複合体形成を改善することができる。
【0077】
本開示の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物の各繰り返しサブユニットは、少なくとも1つのカチオン性アミノ酸残基を含む。カチオン性アミノ酸残基は正電荷を提供し、それにより、核酸又はポリアニオン性化合物上の負電荷との相互作用によって、本明細書に記載されるペプチド化合物が核酸又は他のポリアニオン性化合物と静電複合体を形成できる。核酸の複合体形成は、核酸の負電荷を部分的又は完全に遮蔽し、細胞の脂質膜を通る細胞内部への輸送を容易にする。
【0078】
本明細書に記載される三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は、オリゴペプチド骨格に沿って互いに近接した複数のカチオン性部分を含むことができる。複数のカチオン性部分がオリゴペプチド骨格に沿って存在する場合、特定のカチオン性部分のプロトン化又は脱プロトン化の状態は、近接した他のカチオン性部分のpKa値に影響を及ぼし得る。
【0079】
カチオン性、又は正に荷電した部分としては、例えば、以下の官能基、すなわち、アミノ、グアニジノ、ヒドラジド、及びアミジノを含有するものなどの窒素系置換基を挙げることができる。これらの官能基は、芳香族、飽和環式、又は脂肪族のいずれであってもよい。
【0080】
三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物のオリゴペプチド骨格内において、カチオン性アミノ酸残基は、N位に中性スペーサー部分を有する中性スペーサーアミノ酸残基で任意で挟まれていてもよい。中性アミノ酸残基は、カチオン性ペプチド化合物と複合体化されるポリヌクレオチドを含むポリアニオン性化合物との静電相互作用の改善のために、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物における正電荷の空間分布を調節するために有用であり得る。中性スペーサー部分は、生理学的に適切なpHの範囲で中性である、又はゼロの正味電荷を有する任意の置換基を含むことができる。
【0081】
三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物のオリゴペプチド骨格内のカチオン性アミノ酸残基で中性アミノ酸残基を任意で挟み込むことに加えて、N位に脂質部分を有するN-脂質化アミノ酸残基もまた、カチオン性(及び任意で中性スペーサー)アミノ酸残基に任意で挟み込むことができる。三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物がN-脂質化アミノ酸残基を含むいくつかの実装形態において、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物はN-脂質化されている。中性アミノ酸残基と同様に、オリゴペプチド骨格内のN-脂質化アミノ酸残基は、三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物における正電荷の空間分布を調節するために、並びにポリアニオン性材料の封入及び細胞内送達の改善のためにそれらの親油性を増大させるために有用であり得る。ペプトイド骨格に沿った脂質の間隔はまた、細胞の取り込み及びエンドソーム放出に影響することが知られている脂質の流動性/結晶化度にも影響を及ぼし得る。好適な脂質部分としては、例えば、任意で置換された分岐鎖若しくは直鎖脂肪族部分、又は、脂肪酸、ステロール、及びイソプレノイドを含む天然の脂質化合物に由来する任意で置換された部分を挙げることができる。
【0082】
いくつかの実装形態において、脂質部分は、約6~約50個の炭素原子又は約10~約50個の炭素原子を有し、任意で1つ以上のヘテロ原子を含み、また任意で1つ以上の二重又は三重結合を含む(すなわち、飽和又はモノ若しくはポリ不飽和の)分岐鎖又は直鎖脂肪族部分を含んでもよい。特定の実装形態において、脂質部分は、任意で置換された脂肪族の直鎖又は分岐鎖部分を含んでもよく、各疎水性の尾部は独立して、約8~約30個の炭素原子又は約6~約30個の炭素原子を有する。特定の実装形態において、脂質部分としては、例えば、脂肪酸、脂肪アルコール、リン脂質、グリセリド(ジ又はトリグリセリドなど)、グリコシルグリセリド、スフィンゴ脂質、セラミド、並びに飽和及び不飽和ステロール、またイソプレノイドに由来する脂肪族炭素鎖を挙げることができる。他の適切な脂質部分としては、任意で置換されたアリール、シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、又はアリールアルキル部分などの親油性炭素環式基又は芳香族基を挙げることができ、それらとしては例えば、ナフタレニル又はエチルベンジル、又はエステル官能基を含む脂質、例えばステロールエステル及びワックスエステルが挙げられる。
【0083】
本開示の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は、脂質部分でN-置換された(「N-脂質化」)、並びに/又はオリゴエチレングリコール及び/若しくはポリエチレングリコールでN-置換された(「N-PEG化」)アミノ酸残基で、そのN末端及び/又はC末端がキャッピングされたオリゴペプチド骨格を含む。本明細書に記載されるカチオン性ペプチド化合物のN及び/又はC末端におけるN-脂質化アミノ酸残基の組み込みによって、化合物の親油性が増大する。カチオン性ペプチド化合物の親油性の増大によって、細胞膜の脂質二重層などの疎水性環境に対するそれらの親和性が高くなり、したがって、第三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物、並びにポリアニオン性化合物とのそれらの任意の複合体の、細胞内に輸送される傾向が増大する。
【0084】
本開示の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は、N-脂質化及び/又はN-PEG化されたアミノ酸残基を含み得る。本明細書で提供されるカチオン性ペプチド化合物は、N-脂質化又はN-PEG化された少なくとも1つのアミノ酸残基を含む。本開示の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物はまた、N末端及びC末端がそれぞれ遊離アミンの形態及び遊離酸の形態で提供されてもよい。
【0085】
特定の実装形態において、複合体又は組成物は、カチオンリッチな1つ以上の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物と、高度に脂質化された、及び/又は少なくとも1つのPEG部分を含有する1つ以上の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物との組み合わせを含み得る。理論的には、このような組み合わせは、(脂質化ペプチド化合物による)より大きな親油性の遮蔽とともに、(カチオンリッチペプチド化合物を介した)より大きな電荷の安定化を提供することによって、ポリアニオン性化合物の送達の改善を与えることができる。更に、個々の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物の各々の個々の量は、所望の特性を得るために調整できることを認識されたい。
【0086】
三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチドは、固相合成法及び液相合成法のいずれか又は両方を用いて、ペプチド鎖中のN-置換残基を生成するための当分野で公知の方法によって完全に合成することができる。
【0087】
いくつかの実装形態において、本明細書に記載される複合体及び組成物の1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物は、1つ以上の、リピトイドとしても知られるカチオン性ペプトイド-リン脂質コンジュゲート構築物を含む。リピトイドは、ペプトイド骨格に沿ってグリシン残基のN位にカチオン性及び/又は中性の側鎖の組み合わせを有する、更にペプトイド鎖の単一の末端リン脂質基にコンジュゲート化された、N-置換ポリグリシン化合物(「ペプトイド」としても知られる)である。リピトイド及びそれらの合成方法は当分野で公知である。
【0088】
カチオン性、又は正に荷電した部分としては、例えば、以下の官能基、すなわち、アミノ、グアニジノ、ヒドラジド、及びアミジノを含有するものなどの窒素系置換基を挙げることができる。これらの官能基は、芳香族、飽和環式、又は脂肪族のいずれであってもよい。リピトイドのいくつかの実装形態において、各カチオン性部分は独立して、アミノアルキル、アルキルアミノアルキル、アミノアルキルアミノアルキル、グアニジノアルキル、又はN-ヘテロシクリルアルキルである。
【0089】
中性部分としては、限定されないが、シクロアルキル、ヘテロシクリルアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アルキルヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、又はヒドロキシアルキルで置換されたC~C-アルキルが挙げられ、各シクロアルキル、ヘテロシクリルアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アルキルヘテロアリール、ヘテロアリールアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、又はヒドロキシアルキルは、1つ以上の置換基-OH、ハロ、又はアルコキシで、任意で置換される。
【0090】
三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物と同様に、本明細書に記載されるリピトイドは、ランダムな配列で配置されたアミノ酸残基、又は交互配列若しくはブロック配列の繰り返しモチーフを含むことができる。
【0091】
カーゴとしてのmRNAなどの1つ以上のポリアニオン性化合物の電荷の中和のための主要脂質成分として使用される脂質化カチオン性ペプチド化合物に加えて、多成分脂質組成物及びその中の複合体は、構造脂質、リン脂質及び遮蔽脂質を含む他の脂質成分を含むことができる。本明細書に記載される追加の脂質成分は、カチオン性ペプチド化合物とポリアニオン性材料との複合体に物理的構造及び安定性を提供し、それによって、溶液中でのそれらの投与が容易になり、また細胞への複合体の取り込みが促進される。
【0092】
構造脂質は、本明細書に記載されるように、多成分組成物中のポリアニオン性化合物の複合体に物理的安定性を付与するために、また複合体の親油性を高めて標的細胞との結合及びエンドサイトーシスを促進するために使用され得る。いくつかの実装形態において、本開示の組成物は、脂質成分として1つ以上の構造脂質を任意で含む複合体を含む。いくつかの変形において、組成物は1つ以上の構造脂質を含む複合体を含む。
【0093】
存在する場合、本開示の組成物及び複合体に好適な構造脂質としては、限定されないが、ステロールが挙げられる。いくつかの実装形態において、構造脂質は、コレステロール、フェコステロール、シトステロール、エルゴステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、トマチジン、ウルソール酸、アルファ-トコフェロール、及びそれらの混合物からなる群から選択される。特定の実装形態において、構造脂質はコレステロールである。本開示のいくつかの実装形態において、組成物及び複合体は、構造脂質を含有しないが、依然として非常に良好な送達効率を示す。
【0094】
構造脂質のようにリン脂質もまた、本開示の複合体及び組成物に組み込むことができる。リン脂質は、溶液中の複合体に更なる安定化を提供し、並びに、それらの両親媒性特性及び細胞膜を破壊する能力によって、細胞のエンドサイトーシスを促進する。いくつかの実装形態において、本明細書で提供される組成物は、脂質成分として1つ以上のリン脂質を含む複合体を含む。特定の実装形態において、1つ以上のリン脂質は1つ以上の双性イオン性リン脂質を含む。
【0095】
いくつかの実装形態において、1つ以上のリン脂質は、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジウンデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DUPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(18:0ジエーテルPC)、1-オレオイル-2-コレステリルヘミサクシノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(OChemsPC)、1-ヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C16LysoPC)、1,2-ジリノレノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジアラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(ME16.0PE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジリノレノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジアラキドノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジドコサヘキサエノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-rac-(1-グリセロール)ナトリウム塩(DOPG)、スフィンゴミエリン、及びそれらの混合物からなる群から選択される。特定の実装形態において、リン脂質はDOPEである。
【0096】
エンドサイトーシスのための細胞膜の破壊を促進するためにリン脂質によって提供される両親媒性の属性は、リン脂質ではない双性イオン性脂質によって代替的に提供されてもよいことを認識されたい。いくつかの実装形態において、組成物は、リン脂質ではない1つ以上の双性イオン性脂質を含む複合体を含む。なお更なる実装形態において、それは、1つ以上のリン脂質、1つ以上の双性イオン性脂質、又はそれらの任意の組み合わせを含む複合体を含む。
【0097】
本開示の複合体及び組成物は、1つ以上の遮蔽脂質を更に含むことができる。PEG化脂質などの遮蔽脂質は、1つ以上のポリアニオン性化合物に対する対電荷として1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物に追加の電荷中和の層を提供し、細胞の貪食プロセスによるクリアランスを防止することができる。いくつかの実装形態において、本明細書で提供される組成物は脂質成分として1つ以上の遮蔽脂質を含む複合体を含む。
【0098】
いくつかの実装形態において、遮蔽脂質はPEG脂質である。他の実装形態において、PEG脂質は、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミン、PEG修飾ホスファチジン酸、PEG修飾セラミド、PEG修飾ジアルキルアミン、PEG修飾ジアシルグリセロール、PEG修飾ジアルキルグリセロール、及びそれらの混合物からなる群から選択される。いくつかの実装形態において、PEG脂質は、PEG修飾DSPE(DSPE-PEG)、PEG修飾DPPE(DPPE-PEG)、及びPEG修飾DOPE(DOPE-PEG)からなる群から選択されるPEG修飾ホスファチジルエタノールである。特定の実装形態において、PEG脂質は、ジミリストイルグリセロール-ポリエチレングリコール(DMG-PEG)、ジステアロイルグリセロール-ポリエチレングリコール(DSG-PEG)、ジパルミトイルグリセロール-ポリエチレングリコール(DPG-PEG)、及びジオレオイルグリセロール-ポリエチレングリコール(DOG-PEG)からなる群から選択される。特定の実装形態において、PEG脂質はDMG-PEGである。
【0099】
前述のPEG脂質におけるPEG鎖の分子量は、本開示の複合体への組み込みに特に有利である。例えば、いくつかの実装形態において、PEG鎖は350~6,000g/mol、1,000~5,000g/mol、又は2,000~5,000g/molの分子量を有する。特定の実装形態において、PEG脂質のPEG鎖は約350g/mol、500g/mol、600g/mol、750g/mol、1,000g/mol、2,000g/mol、3,000g/mol、5,000g/mol、又は10,000g/molの分子量を有する。特定の他の実装形態において、PEG脂質のPEG鎖は約500g/mol、750g/mol、1,000g/mol、2,000g/mol又は5,000g/molの分子量を有する。例えば、特定の実装形態において、PEG化された脂質は、ジミリストイルグルセロール-ポリエチレングリコール2000(DMG-PEG2000)である。
【0100】
なお更なる実装形態において、1つ以上のPEG脂質は、少なくとも1つのオリゴ又はポリエチレングリコール部分を含む式(I)の三級アミノPEG化カチオン性ペプチド化合物を含む。式(I)の三級アミノ脂質化及び/又はPEG化カチオン性ペプチド化合物は、より少ししかないより長いポリエチレングリコール部分の代わりにいくつかの短いオリゴエチレングリコール部分を含んでもよく、複合体に同様の粒子の安定化を提供できることを認識されたい。
【0101】
本開示の脂質化カチオン性ペプチド化合物を含む多成分脂質組成物は、mRNAなどの1つ以上のポリアニオン性化合物との複合体形成に有用であり得る。1つの態様において、本開示は、1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物及び2つ以上の他の脂質成分と複合体化された1つ以上のmRNAを含む複合体を含む組成物を提供する。
【0102】
いくつかの実装形態において、1つ以上のmRNAは、天然に存在してもよく、又は、ホスホロチオエートなどの非天然の骨格及び修飾骨格結合、非天然及び修飾塩基、並びに非天然及び修飾末端を有する、天然に存在しない変異体であってもよい。mRNAは、組換えで生成された分子又は化学的に合成された分子であってもよい。
【0103】
mRNAは抗原ペプチド又は抗原ポリペプチドをコードし、抗原ポリペプチドは1つ以上の抗原ペプチドを含んでもよい。いくつかの実装形態において、2つ以上の特定のmRNAを一緒に組み合わせた送達は、本開示の免疫原性の方法に特に有用であり得る。
【0104】
本開示の組成物は、1つ以上のmRNAと脂質成分とを含む複合体を含み、脂質成分は1つ以上の脂質化カチオン性ペプチド化合物、1つ以上のリン脂質、1つ以上の遮蔽脂質、及び任意で1つ以上の構造脂質を含む。本明細書中に記載される複合体及び組成物の物理的特性は、所与のポリアニオン性化合物に対する脂質成分の特定の選択、並びに複合体及び組成物中の各成分の量によって影響され得る。いくつかの実装形態において、複合体及びその組成物内の脂質成分は、存在する総脂質成分の質量に対する脂質成分(単独又は組み合わせ)の質量百分率及び/又は互いに対する個々の脂質成分の質量比によって特徴付けられ得る。
【0105】
追加の成分を複合体に添加して、mRNAポリアニオン性カーゴの高度な封入及び/又はその標的化された制御放出を容易にすることもまた可能である。このような追加の成分としては、例えば、ポリマー及び界面活性成分を挙げることができる。
【0106】
複合体は、mRNAカーゴ及び他の化合物の細胞への送達に有用な更なる成分を含むことができる。このような成分としては、限定されないが、例えば、mRNAを封入して脂質mRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクルに適合する超複合体又は他の送達系(すなわち、脂質-ポリマーのハイブリッドナノ粒子)を一緒に形成するものが挙げられる。
【0107】
本明細書に記載される複合体へのポリマーの組み込みによって、mRNAを封入してポリマーmRNAナノ粒子の小胞を形成して、又は追加の脂質成分の存在下で、脂質-ポリマーのハイブリッドmRNAナノ粒子を形成することで送達ビヒクルを形成することによって、脂質化カチオン性ペプチド化合物とポリアニオン性化合物とを含む複合体を安定化させることができる。いくつかの実装形態において、本開示の複合体はポリマーを含む。適切なポリマーとしては、中性ポリマー(例えば、(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)又はポリグリコール酸(PGA))、アニオン性ポリマー(ポリ(アスパラギン酸)、ポリ(グルタミン酸)、及びヘパリンを含む)、及び/又はカチオン性ポリマー(例えば、ポリエチレンイミン、プロタミン)を挙げることができる。
【0108】
ナノ粒子及びそれらのmRNAカーゴの組成物及び製剤の更なる説明は、そのような組成物を製造し、そのような製剤を調製する方法の説明と共に、国際出願PCT/US第19/053661号、PCT/US第19/053655号、及びNL第2026825号に提供されており、これらの各々は、上記のように、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0109】
有機材料は、本開示のmRNAを封入してリピトイドmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子の調製の際の使用が企図される。mRNAナノ粒子ポリマーとしては、ポリスチレン、シリコーンゴム、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエチレン及びポリプロピレンを含むポリアルカン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、並びにポリエーテルが挙げられる。生分解性バイオポリマー(例えば、BSAなどのポリペプチド、多糖類など)、他の生物学的材料(例えば、炭水化物)、及び/又はポリマー化合物もまた、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子の生成の際の使用が企図される。
【0110】
mRNAを封入する送達ビヒクル分子から形成されるリポソームmRNAナノ粒子もまた、本開示の材料及び方法における使用が企図される。中空ナノ粒子もまた企図される。本開示のmRNAを封入する送達ビヒクル分子から形成されるリポソームmRNAナノ粒子は、少なくとも実質的に球状の幾何形状、内面及び外面を有して、脂質二重層を含む。脂質二重層は、様々な実装形態において、脂質のホスホコリンファミリー又は脂質のホスホエタノールアミンファミリー由来の脂質を含む。限定することを意図するものではないが、本開示のmRNAを封入してリポソームmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子中に見られる脂質は、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジミリストイル-sn-ホスファチジルコリン(DMPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-ホスファチジルコリン(POPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(DSPG)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(DOPG)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジヘキサデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、カルジオリピン、リピドA、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0111】
異なるサイズ、形状及び/又は化学組成を有する粒子の混合物の使用、並びにmRNAを封入して均一なサイズ、形状及び化学組成を有するmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子の使用が企図される。適切な粒子の例としては、限定されないが、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子が挙げられ、ナノ粒子成分は、従来の構造のもの、凝集粒子、等方性粒子(例えば、球状粒子)及び異方性粒子(例えば、非球状ロッド、四面体、角柱)、並びにコア-シェル粒子である。
【0112】
mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子は本明細書に記載される材料を含み、その材料は、市販されているものでもよく、又は溶液中での漸進的核形成(例えば、コロイド反応)によって生成されてもよく、又はスパッタ蒸着などの様々な物理的及び化学的蒸着プロセスによって生成されてもよい。
【0113】
mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子は、平均直径が約1nm~約250nm、平均直径が約1nm~約240nm、平均直径が約1nm~約230nm、平均直径が約1nm~約220nm、平均直径が約1nm~約210nm、平均直径が約1nm~約200nm、平均直径が約1nm~約190nm、平均直径が約1nm~約180nm、平均直径が約1nm~約170nm、平均直径が約1nm~約160nm、平均直径が約1nm~約150nm、平均直径が約1nm~約140nm、平均直径が約1nm~約130nm、平均直径が約1nm~約120nm、平均直径が約1nm~約110nm、平均直径が約1nm~約100nm、平均直径が約1nm~約90nm、平均直径が約1nm~約80nm、平均直径が約1nm~約70nm、平均直径が約1nm~約60nm、平均直径が約1nm~約50nm、平均直径が約1nm~約40nm、平均直径が約1nm~約30nm、又は平均直径が約1nm~約20nm、又は平均直径が約1nm~約10nmのサイズの範囲であってもよい。他の態様では、mRNAナノ粒子のサイズは、約5nm~約150nm(平均直径)、約5~約50nm、約10~約30nm、約10~150nm、約10~約100nm、又は約10~約50nmである。mRNAナノ粒子のサイズは、約5nm~約150nm(平均直径)、約30~約100nm、約40~約80nmであってもよい。本開示の方法において使用されるmRNAナノ粒子のサイズは、それらの特定の使用又は用途による必要に応じ、変化させることができる。サイズの変化は、mRNAナノ粒子の特定の物理的特性を最適化するために有益に使用される。
【0114】
mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子の前述の説明から明らかなことは、固形腫瘍の形態のがんを含むがん、自己免疫疾患、又は炎症などの疾患の予防又は治療を必要とする対象の細胞に1つ以上のmRNAを送達する際に使用するために、多種多様なmRNAナノ粒子が企図されることである。
【0115】
以下の実施例に、がん(例えば、腫瘍)などの疾患の治療に対する個別化医療アプローチを提供するために、罹患した対象の免疫系の動員に有用な少なくとも1つの抗原ペプチドをコードするmRNAを中に封入する送達ビヒクル分子を含むmRNAナノ粒子を調製する方法を立証するデータを示す。
【0116】
非限定的な実施例
実施例1
PBMCのトランスフェクション効率
末梢血単核細胞のトランスフェクション効率を、凍結保存された健常ドナー(HD)の末梢血単核細胞を使用して、これを解凍し、14mlのRPMI1640に再懸濁して、評価した。細胞を1200rpmで10分間遠心分離することでペレット化した。上清を吸引し、細胞を再懸濁して、適切な体積の培養培地(1:1AIM-V/RPMI1640+10%の濾過したヒトAB血清+50μMのβ-メルカプトエタノール(TCグレード))中で計数した。細胞をCOインキュベーター(5%CO)中に37℃で一晩置いた。インキュベーション後、細胞を、送達ビヒクル中に封入されたラットThy1.1をコードする100ngのmRNAで処理し、50μlの培養培地中でmRNAナノ粒子を形成した。細胞をCOインキュベーター(5%CO)中、37℃で24時間インキュベートした。24時間後、細胞を回収し、pH7.2のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した。次いで、洗浄した細胞を、室温(RT)で15分間、PBS中のZombie Near Infrared live dead strain(NIR)(BioLegend)で染色した。次いで、細胞を洗浄し、蛍光色素とコンジュゲート化された抗ラットThy1.1、抗CD8抗体(すなわち、a-CD8)、a-CD4、a-CD56、a-CD11c、a-CD19、a-MHCクラスII、及びa-CD14(BioLegend)を含有する100μlのFACS緩衝液(PBS+0.5%BSA+0.02%アジ化ナトリウム)に再懸濁した。次いで、細胞を室温で20分間インキュベートした。染色後、細胞を200μlのPBSで2回洗浄し、続いて1200rpmで10分間遠心分離した。最終の洗浄後、上清を棄てて、細胞を200μlのPBSに再懸濁した。次いで、再懸濁した細胞をフローサイトメーター(Cytek)で解析した。
【0117】
送達ビヒクルに封入されたmRNAは、健常ドナーのPBMC由来の一次免疫細胞にカーゴを送達した。mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクルを使用して、本発明者らは、APC集団、すなわち、B細胞、DC、及び単球並びに初代T細胞及びNK細胞において高いトランスフェクション効率を観察した。図4を参照されたい。
【0118】
この実験は、プロフェッショナル抗原提示細胞の集団におけるmRNAカーゴの効率的な送達及び翻訳が、APCの単離及びインビトロでの分化の必要性を減らし、また、それによってそれらを効果的に排除することを立証している。これらの細胞型におけるタンパク質の発現は、抗原提示及びその後のT細胞の刺激を増強し、これらの細胞型が本開示の免疫療法において有益であることを立証している。
【0119】
実施例2
抗原ペプチドをコードするmRNAを含むAPC
mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクルによって送達される抗原ペプチドをコードするmRNAを有する抗原提示細胞を、それらの抗原提示及びT細胞活性化特性について分析した。凍結保存されたヒトサイトメガロウイルス(CMV)血清反応陽性健常ドナー(CMV+)の末梢血単核細胞を解凍して、14mlのRPMI1640に再懸濁した。細胞を1200rpmで10分間遠心分離することでペレット化した。上清を吸引し、細胞を再懸濁し、適切な体積の培養培地(1:1AIM-V/RPMI1640+10%の濾過したヒトAB血清+50μMのβ-メルカプトエタノール(TCグレード))中で計数した。細胞をCOインキュベーター(5%CO)中に37℃で一晩置いた。インキュベーション後、細胞を、天然のCMV pp65タンパク質をコードする50ngのmRNA、pp65分子全体をカバーする2μg/mlのCMV pp65ペプチドプール、又はノンコーディングmRNAで処理した。細胞をCOインキュベーター(5%CO)中、37℃で24時間インキュベートした。24時間後、細胞と細胞培養物の上清とを回収し、細胞をpH7.2のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した。次いで、洗浄した細胞を、室温(RT)で15分間、PBS中のZombie Near Infrared live dead strain(NIR)(BioLegend)で染色した。次いで、細胞を洗浄し、蛍光色素とコンジュゲート化された抗CD8抗体(すなわち、a-CD8)、a-CD4、a-CD137、及びa-CD69(BioLegend)を含有する100μlのFACS緩衝液(PBS+0.5%BSA+0.02%アジ化ナトリウム)に再懸濁した。次いで、細胞を室温で20分間インキュベートした。染色後、細胞を200μlのPBSで2回洗浄し、続いて1200rpmで10分間遠心分離した。最終の洗浄後、上清を棄てて、細胞を200μlのPBSに再懸濁した。次いで、再懸濁した細胞をフローサイトメーター(Cytek)で解析した。上清を使用して、標準化された市販のヒトIFNγELISAキットとプロトコール(Thermo Scientific)とを用いて、分泌されたインターフェロンガンマ(IFNγ)を測定した。
【0120】
実験結果を図5に示す。図5Aに、抗原チャレンジ後のCD8 T細胞活性化のフローサイトメトリーの結果を示す。図5Bに、抗原処理又は対照処理したPBMCサンプルにおけるIFNγ分泌を示す。それらの同族抗原を認識すると、CD8 T細胞は、多くの場合活性化マーカーと呼ばれるタンパク質の表面発現をアップレギュレートする。活性化されたCD8 T細胞はまた、IFNγを産生して分泌する。このように、分泌されたIFNγ及び活性化マーカーの発現は、抗原特異的なCD8 T細胞の応答の識別子として役立つ。HLA分子上に提示された抗原を認識したCD8 T細胞に特異的な2つのそのような活性化マーカーは、CD69とCD137とである。本発明者らは、ペプチド抗原及びmRNAにコードされた抗原の両方を使用することで、頑健なCD8 T細胞の活性化を観察した。予想外に、したがって驚くべきことに、mRNAの形態で送達された抗原は、ペプチドの形態で送達された抗原よりも、活性化マーカーを発現するCD8 T細胞が多く、また上清中に分泌されるIFNγが多いことにより、より強い応答を示した。
【0121】
ペプチド及びmRNAの処理の両方は理論的には同じ抗原をカバーするが、ペプチドがPBMC集団中の全てのAPCに利用可能である一方、mRNAはAPCのサブセットに入り込むだけであるにもかかわらず、本発明者らは、細胞がそれらの内因性の機構を用いて細胞に送達されたmRNA由来の抗原を翻訳、輸送、プロセシング及び提示する場合に、より良好な応答を観察した。
【0122】
実施例3
MHC提示増強配列を含むことによるmRNAの設計の最適化
抗原ペプチドをコードするmRNAの設計を、主要組織適合遺伝子複合体提示増強配列を組み込むことによって最適化した。凍結保存されたヒトサイトメガロウイルス(CMV)血清反応陽性健常ドナー(CMV+)の末梢血単核細胞を解凍して、14mlのRPMI1640に再懸濁した。細胞を1200rpmで10分間遠心分離することでペレット化した。上清を吸引し、細胞を再懸濁し、適切な体積の培養培地(1:1AIM-V/RPMI1640+10%の濾過したヒトAB血清+50μMのβ-メルカプトエタノール(TCグレード))中で計数した。細胞をCOインキュベーター(5%CO)中に37℃で一晩置いた。インキュベーション後、細胞を、天然のCMV pp65タンパク質をコードする50ngのmRNA、MHC提示増強配列を含むpp65をコードする50ngのmRNA、pp65分子全体をカバーする2μg/mlのCMV pp65ペプチドプール、又はノンコーディングmRNAで処理した。細胞をCOインキュベーター(5%CO)中、37℃で24時間インキュベートした。24時間後、細胞と細胞培養の上清とを回収し、細胞をpH7.2のPBSで2回洗浄した。次いで、洗浄した細胞を、室温(RT)で15分間、PBS中のZombie Near Infrared live dead strain(NIR)(BioLegend)で染色した。次いで、細胞を洗浄し、蛍光色素とコンジュゲート化された抗CD8抗体(すなわち、a-CD8)、a-CD4、a-CD137、及びa-CD69(BioLegend)を含有する100μlのFACS緩衝液(PBS+0.5%BSA+0.02%アジ化ナトリウム)に再懸濁した。次いで、細胞を室温で20分間インキュベートした。染色後、細胞を200μlのPBSで2回洗浄し、続いて1200rpmで10分間遠心分離した。最終の洗浄後、上清を棄てて、細胞を200μlのPBSに再懸濁した。次いで、再懸濁した細胞をフローサイトメーター(Cytek)で解析した。上清を使用して、標準化された市販のヒトIFNγELISAキットとプロトコール(Thermo Scientific)とを用いて、分泌されたインターフェロンガンマ(IFNγ)を測定した。
【0123】
図7に示した結果は、図5に示した結果と同様であったが、より強い応答が、MHC提示増強配列を含むpp65 mRNAで処理したサンプルで観察された。MHC提示増強配列の導入によって、抗原提示及びCD8 T細胞の活性化が、これらのPBMCサンプルにおいて改善された。
【0124】
実施例4
活性化T細胞は、抗原を発現する標的細胞を死滅させ、受動的に増殖させることができる
天然に存在する抗原提示細胞(すなわち、APC)によって活性化されたT細胞は、抗原を提示する標的細胞を死滅させる。更に、実験結果は、これらのT細胞が、費用対効果が高くかつ簡単な様式で顕著な数に達するような受動的増殖に適していることを証明している。凍結保存されたヒトサイトメガロウイルス(CMV)血清反応陽性健常ドナー(CMV+)の末梢血単核細胞を解凍して、14mlのRPMI1640に再懸濁した。細胞を1200rpmで10分間遠心分離することでペレット化した。上清を吸引し、細胞を再懸濁し、適切な体積の培養培地(1:1AIM-V/RPMI1640+10%の濾過したヒトAB血清+50μMのβ-メルカプトエタノール(TCグレード))中で計数した。細胞をCOインキュベーター(5%CO)中に37℃で一晩置いた。インキュベーション後、8×10個の細胞を、MHC提示増強配列を含むpp65をコードする1μgのmRNA、pp65分子全体をカバーする2μg/mlのCMV pp65ペプチドプール、又はノンコーディングmRNAのいずれかで処理した。細胞をCOインキュベーター(5%CO)中37℃で、T細胞の増殖を支援するための追加のサイトカインを含まない培養培地中で6日間インキュベートした。6日後、細胞を回収し、ヒトCD8単離キット(STEMCELL)を用いてCD8 T細胞を単離した。生存率を測定し、細胞を計数した。ペプチド処理サンプル又はmRNA処理サンプルのいずれかから単離した50,000個のCD8 T細胞を、96ウェルU底プレート中の100μlの完全培地中に8連で播種した。次に、HLA-A2:01、発現するT2細胞(ATCC)を、製造業者のプロトコール(Thermo Scientific)に従って、細胞トレーサーのバイオレット色素で標識した。標識後、細胞を予熱した培地中で2回洗浄して、生存率及び細胞数を評価した。次に、T2細胞の半分にCMV pp65ペプチドを37℃で1時間パルスした。T2細胞の他方の半分はパルスしないままにした。1時間後、細胞を予熱した完全培地中で2回洗浄した後、10,000個のパルスした、又はパルスしていないT2細胞を、単離したCD8 T細胞を入れたウェルに加えた。単離したCD8 T細胞と、パルスした、又はパルスしていないT2細胞とを37℃で4時間共インキュベートした。4時間後、5μlのヨウ化プロピジウム(PI)を各ウェルに添加し、CD 8媒介性のT2の死滅をフローサイトメトリー(Cytek)によって分析した。
【0125】
図7に実験の結果を示す。図7Aに、6日間の受動的な増殖の後に、MHC提示増強配列を含むpp65をコードする1μgのmRNAで処理した培養物において、頑健なCD8 T細胞の増殖が観察されたことを示す。生存率及び細胞数の両方で、ペプチドで処理した細胞よりも優れていた。図7Bに、T2標的細胞をCMV-pp65抗原でパルスした場合にのみ、活性化及び増殖させたCD8 T細胞がT2標的細胞を認識して死滅させることができたことを立証するデータを示す。更に、抗原特異的T細胞を、細胞の生存能力に概ね適合するエクスビボ又はインビボの環境を提供することとは別に、他の何らの特別な処理を行なうことなく、抗原ペプチドへの曝露によって受動的に増殖させることができることは注目に値する。本明細書に開示されるように、本方法は、リンパ球の約2%から約80%を超えるまでのT細胞の受動的な増殖を提供し、少なくとも約160万個の生存T細胞が産生された。したがって、本開示は、例えば個別化医療の用途においてT細胞の製造を一変させることができる簡単で、有効で、経済的に有利な方法を提供する。
【0126】
観察された結果は、抗原ペプチドに直接曝露した培養物と比較して、抗原ペプチドをコードするmRNAで処理した培養物から単離されたCD8 T細胞における有意により良好な殺傷効果という非直感的な転帰を立証するということにおいて、驚くべきことでありかつ予想外であった。これらの結果は、遺伝子産物自体又はその遺伝子産物をコードする発現可能なmRNAのいずれを提供しても、機能的な遺伝子産物を提供するという点において結果は同様になるという当該分野における従来の理解に反していた。
【0127】
この実験では、多数の機能的な(すなわち、標的細胞を死滅させることができる)CD8 T細胞が、mRNAが抗原ペプチドをコードする、mRNAを封入してmRNAナノ粒子を形成する送達ビヒクル分子でPBMC集団全体を処理することによって生成されることが示された。この受動的な増殖のプロトコールは、治療される対象の細胞によって行なわれる適切な抗原のプロセシング及び提示によってもたらされるT細胞の応答の頑健性を示している。
【0128】
本明細書で特定される各特許又は他の刊行物は、文脈から当業者に明らかであるように、その全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれ、この組み込みによって、例えば、本明細書に開示される情報に関連して使用され得るそのような刊行物に記載される方法論を効果的に記載及び開示する。
【0129】
上記の説明は、当業者が本明細書に記載される様々な構成を実践することを可能にするために提供されたものである。主題の技術を、様々な図及び構成を参照して具体的に説明してきたが、これらは例示のみの目的であり、主題の技術の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0130】
本明細書で使用される場合、単数形で記載され、単語「a」又は「an」が先行する要素又は工程は、そのような除外が明示的に述べられていない限り、複数の要素又は工程を除外しないものとして理解されるべきである。更に、「1つの実装形態」への言及は、記載された特徴も組み込む更なる実装形態の存在を除外するものとして解釈されることについて意図しているものではいない。更に、そうでないと明示的に述べられていない限り、特定の特性を有する1つの要素又は複数の要素を「備える」、「含む」、又は「有する」実装形態は、それらがその特性を有するか否かにかかわらず、追加の要素を含み得る。更に、「備える」、「含む」、「有する」などの用語は、本明細書において互換的に使用される。
【0131】
本明細書全体を通して使用される「実質的に」、「およそ」、及び「約」という用語は、プロセスにおける変化などによる小さな変動を記載し計算に入れるために使用される。例えば、それらは、±5%以下、例えば±2%以下、例えば±1%以下、例えば±0.5%以下、例えば±0.2%以下、例えば±0.1%以下、例えば±0.05%以下を指すことができる。
【0132】
主題の技術を実装するために、他に多くの方法が存在し得る。本明細書で説明される様々な機能及び要素は、主題の技術の範囲から逸脱することなく、示されたものとは異なって分割されてもよい。これらの実装形態への様々な修正は当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義される一般原理は他の実装形態に適用することができる。したがって、主題の技術の範囲から逸脱することなく、当業者は多くの変更及び修正を主題の技術に対して行なうことができる。例えば、異なる数の所与のモジュール又はユニットを使用してもよく、1つ又は複数の異なるタイプの所与のモジュール又はユニットを使用してもよく、所与のモジュール又はユニットを追加してもよく、あるいは所与のモジュール又はユニットを省略してもよい。
【0133】
下線付き及び/又はイタリック体の見出し及び小見出しは便宜上の使用にすぎず、主題の技術を限定するものではなく、また主題の技術の説明の解釈に関連して言及されるものではない。当業者に知られている、又は後に知られるようになる、本開示全体にわたって説明される様々な実装形態の要素に対する全ての構造的及び機能的等価物は、参照により本明細書に明示的に組み込まれ、主題の技術によって包含されると意図される。更に、本明細書で開示されるものはいずれも、そのような開示が上記の説明において明示的に記載されているかどうかに関係なく、公けに提供されることについて意図されているものではいない。
【0134】
上記の概念及び以下でより詳細に論じられる追加の概念の全ての組み合わせ(そのような概念が相互に矛盾しない限り)は、本明細書で開示される本発明の主題の一部であるとして企図されることを理解されたい。特に、本開示の最後に示される特許請求される主題の全ての組み合わせは、本明細書に開示される本発明の主題の一部であるとして企図される。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
【配列表】
2024512769000001.app
【国際調査報告】