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特表2024-512776フッ化水素酸捕捉特性を示す塩基処理されたバッテリーセパレータ
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  • 特表-フッ化水素酸捕捉特性を示す塩基処理されたバッテリーセパレータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】フッ化水素酸捕捉特性を示す塩基処理されたバッテリーセパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/403 20210101AFI20240312BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240312BHJP
【FI】
H01M50/403 E
H01M50/434
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560889
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(85)【翻訳文提出日】2023-10-04
(86)【国際出願番号】 US2022022695
(87)【国際公開番号】W WO2022212613
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】63/170,435
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521434964
【氏名又は名称】ソテリア バッテリー イノベーション グループ インク.
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モーリン ブライアン ジー.
(72)【発明者】
【氏名】フー カール シー.
(72)【発明者】
【氏名】ペレイラ ドリュー ジェイ.
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB09
5H021EE21
5H021EE31
5H021HH00
(57)【要約】
本開示は、ある種類および量の苛性配合物での処理後にフッ化水素酸捕捉特性を示す、リチウムイオンバッテリー用のセパレータに関する。このような塩基性処理は、HFと反応して、解離されたフッ素イオンを捕捉する対イオンとの表面錯体を生成し、それにより、対象バッテリーの利用中に対象バッテリー内の損傷を与え得る酸の量を低下させる。セパレータ上のこのような表面対イオン-フッ素錯体は、その後解離する傾向が低く、したがって、酸化性/酸性のフッ素イオンの存在を低下させ、増大した充電レベルを通じてバッテリーセルの寿命を延長させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンバッテリーセル用のバッテリーセパレータであって、
前記バッテリーセパレータはその表面に対イオンを示し、
前記対イオンは最大で6.0のpKレベルを有する塩基によって付与されるイオンからなる群から選択され、
前記バッテリーセパレータはフッ化水素酸捕捉特性を示す、ことを特徴とするリチウムイオンバッテリーセル用のバッテリーセパレータ。
【請求項2】
前記対イオンは、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、バリウムイオンおよびカルシウムイオンから選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のバッテリーセパレータ。
【請求項3】
請求項1に記載のバッテリーセパレータを備えるバッテリーであって、
前記バッテリーセパレータはカソードとアノードとの間に配置されている、ことを特徴とするバッテリー。
【請求項4】
請求項2に記載のバッテリーセパレータを備えるバッテリーであって、
前記バッテリーセパレータはカソードとアノードとの間に配置されている、ことを特徴とするバッテリー。
【請求項5】
前記対イオンは、前記バッテリーセパレータの製造中または製造後に適用される、ことを特徴とする請求項1に記載のバッテリーセパレータ。
【請求項6】
前記対イオンはナトリウムイオンである、ことを特徴とする請求項3に記載のバッテリーセパレータ。
【請求項7】
前記対イオンは、最大で4.0のpKレベルを有する塩基によって付与されるイオンからなる群から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のバッテリーセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年4月2日に出願された係属中の米国仮特許出願第63/170,435号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
本開示は、ある種類および量の苛性配合物での処理後にフッ化水素酸捕捉特性を示す、リチウムイオンバッテリー用のセパレータに関する。このような塩基性処理は、HFと反応して、解離されたフッ素イオンを捕捉する対イオンとの表面錯体を生成し、それにより、対象バッテリーの利用中に対象バッテリー内の損傷を与え得る酸の量を低下させる。セパレータ上のこのような表面対イオン-フッ素錯体は、その後解離する傾向が低く、したがって、酸化性/酸性のフッ素イオンの存在を低下させ、増大した充電レベルを通じてバッテリーセルの寿命を延長させる。
【背景技術】
【0003】
先進リチウムイオンバッテリー(LIB)の費用対効果に優れた導入に対する主な障害は、容量の低下/サイクル寿命の短縮の問題である。従来のリチウムイオンバッテリーの電解質は、典型的には、直鎖状および環状有機カーボナートと六フッ化リン酸リチウム(LiPF)との混合物からなる。最も純度の高いグレードのバッテリー電解質でさえ、典型的には約25ppmの水を含有し、これは、機序によって限定されることなく、LiPFの吸湿特性によるものであり得る。水および水分の存在は、HFの分解およびその後の形成を引き起こし、これは、多くの異なるカソード組成物中の遷移金属を攻撃し、溶解させる。液体電解質中のフッ化水素酸(HF)の存在は、この分解およびバッテリー寿命短縮の主な原因として特定されている。溶解された金属イオンは、リチウム/グラファイトアノードに移動して、めっきし、リチウム/グラファイトアノードを故障させる。HFはまた、カソード表面上に堆積した無機種(例えば、LiF)を攻撃して浸出させることができる。これが起こると、その上に一旦LiFが堆積されていたカソード表面が電解質溶液にさらされ、新たにさらされた表面上でさらなる電解質分解が起こる。HFの存在下でのカソードの構造的安定性を改善するために、保護コーティングおよびHFを化学的に捕捉する、電解質中の塩基性添加剤の利用を含むいくつかのアプローチが使用されてきた。また、保護/反応性コーティングが、セパレータ上に堆積されてきた。これらのアプローチの全ての1つの欠点は、LIBの容量および/または出力密度に寄与することなくLIBの質量および体積を増加させることである。さらに、バッテリーの障害発生時点より前に、バッテリーの分解を容易に検出することができない。したがって、対象の(液体電解質型)リチウムイオンバッテリーセル内でフッ素イオンを確実に捕捉する能力は、この分野において非常に有益である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の明白な利点は、適切に処理されたセパレータ構成要素の提供を通じて、バッテリー内の有害な遊離HFを低下させる能力である。別の明白な利点は、このようなHF低下のためにバッテリー装置内に導入された予め形成されたセパレータの苛性処理のプロセスが容易になることである。したがって、本開示の他の明白な利点は、このような処理されたセパレータを有する典型的な充電式バッテリーに改善を与える能力である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本開示は、リチウムイオンバッテリーセル用のバッテリーセパレータであって、バッテリーセパレータはその表面に対イオンを示し、対イオンは最大で6.0、好ましくは最大で4.0のpKレベルを有する塩基によって付与されるイオンからなる群から選択され、バッテリーセパレータがフッ化水素酸捕捉特性を示す、ことを特徴とするリチウムイオンバッテリーセル用のバッテリーセパレータを包含する。さらに、本開示は、前記バッテリーセパレータであって、対イオンが、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、バリウムイオンおよびカルシウムイオンから選択される、バッテリーセパレータを包含する。また、本開示は、前記バッテリーセパレータを備えるバッテリー(および他のエネルギー貯蔵装置)も包含する。
【0006】
前述した通り、フッ化水素、HFおよびフッ化水素の水溶液形態(フッ化水素酸)は、高度に腐食性の化合物である。HF腐食は、リチウム、六フッ化リン酸リチウム、またはフッ素を含有する他のリチウム塩を含有するバッテリーに特に関連する問題である。本出願は、最大で6.0(好ましくは、上記のように、最大で4.0)のpKを示す塩基の対イオンの存在を示すHFを捕捉する1つまたは複数のセパレータを提供する。「HFを捕捉するセパレータ」という用語は、HFを捕捉し、結合し、捕らえ、拘束し、反応し、固定し、または留めるセパレータに関することを意図している。HFを捕捉するセパレータ内のHFは、遊離HFと比べて、構成要素に損傷を与える可能性がより低い。いくつかの実施例において、HFを捕捉するセパレータは、バッテリー寿命を増加させる。このようなセパレータはまた、上述したように、吸湿性を示して、対象のバッテリーセルの利用時に当該バッテリーセル内の吸湿も可能にする。
【0007】
予め形成され、その後苛性処理されたバッテリーセパレータを備え、増加したHF捕捉(および吸湿の可能性)特性を示すリチウムイオンバッテリーが提供される。提供されるバッテリーは、減少したHFダメージを示し得る。「減少したHFダメージ」という用語は、このような特に苛性処理された予め形成されたセパレータを備えていないバッテリーと比較して、1つまたは複数のバッテリー構成要素に対するHF関連のダメージを低下、低減および/または改善させること、中容量から高容量を伴った、ある期間または長期間の低下または低減されたHF関連のダメージに関することを意図している。増加したHF捕捉特性を有するリチウムイオンバッテリーは、このような予め形成された苛性処理されたセパレータが配列された、またはこのような予め形成された苛性処理されたセパレータによって覆われた構成要素を備える。配列された/覆われた構成要素は、アノード、カソード、封入材料(おそらくは、集電装置も)および異なる種類の電解質イオン伝導性材料を含む構成要素の群から選択され得る。「封入材料」という用語は、限定されないが、壁、蓋、キャップ、床、缶またはキャニスタなどの、アノード、カソードおよび電解質を取り囲む任意の構造または装置に関することを意図している。したがって、塩基で処理されたセパレータ物品は、このような処理されたセパレータをアノードとカソードとの間に配置し、(バッテリーから外部への電気の移動を可能にするための接続とともに)少なくとも1つの集電装置を含み、得られた構造物をセル筐体内に配置し、その中に液体電解質を導入し、液体電解質を封止するリチウム構造物製造手順により導入され得る。次いで、得られたリチウムイオンバッテリーは充電および再充電され、外部の機械的/電気的装置に電力を供給するために、外部の機械的/電気的装置とともに利用され得る。
【0008】
低pK配合物で処理された予め形成されたセパレータ物品のこのようなHF捕捉能力およびその表面上のある種の対イオンの存在は、セル充電寿命およびそのサイクルを同時に改善させながら、使用中の内部バッテリーセルの劣化および損傷を低減させることにとって極めて有効な結果をもたらす。したがって、本開示は、1つの想定される実施例として、フッ化水素(HF)捕捉セパレータ物品(不織布またはフィルム)、および想定され得るものとして、より具体的には、HFに加えて、膜が対象のバッテリーセル内の水分を吸収することも可能な吸湿性のセパレータを提供する。このような想定され得るセパレータは、まず、形成または製造され、その後、表面に存在するヒドロキシルの、表面からの対イオンとの錯体形成を生じさせるために塩基性処理に供され得る。様々な態様において、このような塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムを含むがこれらに限定されない、最大で6.0(好ましくは、最大で4.0)のpKを示す塩基の群から選択される。このような吸湿膜は、限定されないが、Alなどの少なくとも1つの添加剤をさらに含み得る。対象のバッテリー(または他の同様のエネルギー貯蔵装置)に十分な物理的特性を提供するこのようなセパレータは、好ましくは、少なくとも35MPaの引張強度および65ガーレー超の透気度を示す。さらに、セパレータのこのような想定され得る実施例は、高いイオン伝導率およびddendr以下の平均孔径を示す。
【0009】
本開示はさらに、増大した水分捕捉特性を有するバッテリー(または、例えば、コンデンサなどの他の種類のエネルギー貯蔵装置)を提供する。このバッテリーは、苛性処理後に、表面錯化対イオンがその上に存在する吸湿性のセパレータを備える。このように、開示されたバッテリーは、このような処理されたセパレータと関連して、減少したHFダメージの傾向を示す。このような1つのセパレータ(または複数のセパレータ)は、アノードとカソードとの間に導入され、このような対象のバッテリー(またはエネルギー貯蔵装置)内の少なくとも1つの集電装置に隣接する。このようなバッテリーの実施例は、250サイクル後に少なくとも90%の容量を示す。
【0010】
したがって、本開示は、バッテリー内の水分を減少させる方法であって、本出願の吸湿膜をバッテリーに組み込むことを含み、バッテリーにおける遊離HFを減少させる方法が同時に行われる可能性を有する、方法を提供する。
【0011】
別段の定義が為されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。
【0012】
本明細書で使用される場合、「A」、「an」および「the」は、1つの指示対象に明示的かつ明確に限定されない限り、複数の指示対象を含むことができる。
【0013】
「セパレータ」という用語は、フィルム、不織構造、シート、ラミネート、織物または平面状の可撓性固体を含むことを意図している。セパレータの特性には、厚さ、強度、柔軟性、引張強度、多孔度および他の特性が含まれるが、これらに限定されない。異なるセパレータまたはセパレータの異なる種類は、異なるまたは類似の特性を示し得ることが認識される。
【0014】
「イオン伝導性セパレータ」という用語は、アノードとカソードであるか、または正極と負極である2つの電極間のセパレータに関することを意図している。イオン伝導性セパレータは、2つの領域を分割し、分離し、または仕切りながら、2つの領域間のイオンの流れを可能にする。
【0015】
「吸湿性セパレータ」という用語は、液体を吸収し、取り込み、保持し、浸し、内在化し、または捕捉するセパレータを含むことを意図している。関心の対象である液体には、有機溶液、水溶液、電解質溶液、フッ化水素酸、HFおよびカーボナートをベースとする電解質溶液が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、このような苛性処理されたHF捕捉(および表面上に存在し得る吸湿性基による吸湿)は、一般に、水分を吸収したときにその元の大きさを保持し、または一般的には、最小限に大きさを変化させ得、最も確実に電極間の分離界面を完全にカバーする。
【0016】
本明細書に記載される適切な低pK塩基で処理される1つまたは複数のセパレータ(2つ以上がバッテリー内で利用される可能性もある)の種類は、i)フィルム、例えば、限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、二層ポリプロピレンおよびポリエチレンなどのポリオレフィン、およびこれらのポリオレフィン系フィルムの組み合わせ、セラミックコーティングを有するこのようなポリオレフィン(塩基対イオン自体と錯体を形成する能力の増大に寄与し得る)、ii)単独でのまたは不織補強材を有するセラミックセパレータ、iii)セラミックコーティングを有する不織布構造体、iv)マイクロファイバ、ナノファイバ、これらの組み合わせを有する不織布構造物、均一サイズのマイクロファイバ、均一サイズのナノファイバ、絡み合った(enmeshed)マイクロファイバおよびナノファイバ、このような種類の単層不織布、個々のマイクロファイバ層、個々のナノファイバ層、絡み合ったおよび/または組み合わされたマイクロファイバおよびナノファイバの個々の層の二層または多層不織布、およびこれらの任意の組み合わせ、ならびにv)ポリビニルアルコールフィルム、ポリカーボナートフィルム(いずれも、非限定的な例として、その表面に存在する遊離のヒドロキシル基を有する)、これらの組み合わせなどを含むがこれらに限定されない、塩基対イオンと錯体を形成し得る独立した表面基および部分を有するポリマー構造物を含み得るが、これらに限定されない。このような塩基性処理をセパレータ表面上に存在するフッ素捕捉対イオンと調和させる能力は、所望の効果を提供し、したがって、このように処理されたおよび/または遊離の錯化基をその上に有し、このような錯体形成の可能性に関して制約されていない(ここでも、非限定的な例として、ヒドロキシル基)任意の種類のセパレータが、このように使用および実施され得る。電解質がこのようなバッテリー内のこのようなセパレータを通って流れ、対象セル内でのHFの生成、およびしたがってHFの存在は、困難を伴って是正される可能性が高いことが証明されているので、リチウムイオンバッテリー構造物内のセパレータに許容され、よく理解されている目的は、この総合的な能力に役立つ。上述したように、フッ化水素(したがって、最終的にはフッ化水素酸)は、リチウムイオンバッテリー内の電解質と水分の結果として生じる反応産物であると考えられる。このような酸化性イオン化合物(本質的には、遊離のフッ素イオン)は繊細な金属部品と内部で結合し、それによってその有効性を低下させ、同じく、最終的にはセルの停止に至り得るので、このような酸性種は、対象のバッテリーセル内の経時的な劣化に寄与すると考えられる。さらに、このプロセスは、この点において、遅く、長期間一定であり得、(特に、このような充電式リチウムイオンタイプでの)バッテリー充電に関連して劣化する結果を生じさせ、大幅に短縮された充電サイクルをもたらして、ユーザはより頻繁に充電を行う必要がある。最終的に、充電サイクルはより低い充電レベルを保持し、バッテリーセルの無効化および交換をもたらす。さらに、このようなセルの劣化はまた、電解質に、少なくとも短絡を引き起こし得る望ましくない潜在的に危険な樹状結晶および類似の構造をセル内で形成させ得る。したがって、このような起こり得る破壊的な結果の可能性を低減する能力は、このようなリチウムイオンバッテリー技術にとって重要であり得る。
【0017】
このような塩基処理されたセパレータは、前述のように、(例えば、少なくとも、このような目的に適したサイズの細孔の存在を通じて)電極間における対象セル内での必要とされる電解質移動を与える任意の種類のものであり得る。このようなセパレータは、1つの非限定的な例では、(前述のように)様々な種類の繊維から形成された不織布構造物を含む異なる材料から形成され得る。このような繊維は、均一なサイズの繊維および同じ繊維構成材料を有する構造物から、異なる材料から形成された様々なサイズの繊維まで、任意の直径のものであり得る。したがって、材料は、直径がミクロン、直径がナノメートルの合成および天然繊維、マイクロファイバとナノファイバとの組み合わせ、絡み合ったマイクロファイバおよびナノファイバなどから選択され得る。このような繊維は、材料に関して、本質的にポリマーであり得、セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ポリオレフィンコポリマー、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリスルホン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセチル、ポリウレタン、芳香族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、ポリプロピレンテレフタラート、ポリメチルメタクリラート、ポリスチレン、合成セルロース系ポリマーならびにこれらの混和物、混合物およびコポリマーを含むがこれらに限定されない。このような繊維は、必要なアラミド繊維もその中に存在する単層構造物(不織布)を形成するために、マイクロファイバおよびナノファイバとして提供され得る。このような構造物は、例として、米国特許第8,936,878号、同第9,637,861号および同第9,666,848号に開示されている材料および方法に従って形成され得る。
【0018】
このようなセパレータはまた、上記のように、フィルム構造物でもあり得る。このようなフィルムは、(同じく、上記のように)効果的な電解質移動のための細孔構造を有するものを含む。例として、限定されないが、CELGARDおよびPOLYPOREセパレータ製品(上述したように、同じく、電解質移動能力を有するポリプロピレンフィルムなどのポリオレフィンタイプ)が挙げられる。後続の塩基処理のための製造された構造として提供される他の可能なセパレータ物品は、前述のように、セラミックセパレータ、セラミックコーティングを有する不織布タイプ、セラミックコーティングを有するポリオレフィンフィルムタイプ、ポリカーボナートフィルム、ポリビニルアルコールフィルムおよびこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0019】
最終的な実施およびターゲットのリチウムイオンバッテリーセル内への導入のためにこのようなセパレータ構造を提供した後、セパレータは塩基で処理されて、セパレータ表面上で錯化された対イオン(ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、カリウムイオン、バリウムイオン、水酸化リチウムが苛性塩基として利用される場合には可能であるが、程度がより少ないものとして、リチウムイオンなど)の存在をもたらす。このような錯体を形成する能力は、セパレータ構成要素として、遊離のヒドロキシル(または同様の)基を有するある種の材料が存在することによって増大され得る。所望に応じておよび/または必要に応じて、このような錯体形成が生じることを可能にするために、少なくとも仮説として、塩基適用前処理も行われ得る。したがって、このような苛性処理は、限定されないが、浸漬、噴霧、スプレーコーティング、ブラシ(または同様の)コーティングおよび任意の同様の手順などの任意の適用工程を含み得る。このような塩基性配合物は、使用時に、薄くかつ繊細であり得るセパレータ物品に対してそれ自体有害であることが判明していないレベルで、対象のセパレータ表面上で錯体形成が確実に生じるようにするための任意の適切なモル濃度のものであり得る。したがって、このような処理配合物中の塩基の濃度は、(水溶液中で、または例えば、可能性があるものとして、限定されないが、DMSOなどの非プロトン性溶媒中で)約0.1~10モル濃度であり得る。モル濃度に関してより注目されるのは、0.2~5の可能なレベルであり、最も好ましいのは0.5~5であり得る。同様に、このようなレベルは、ターゲットのセパレータ表面への適用時に対イオンの十分な搭載を可能にし、モル濃度が低すぎると、フッ素イオン捕捉(捕獲)に必要なレベルを生成することができず、高すぎると、ターゲットのセパレータ物品自体の望ましくない劣化を引き起こす可能性がある。したがって、導入された塩基処理は、対象のセパレータを実際に損傷させたり、収縮させたりすることなく、このような所望の錯体レベルをもたらすべきである。したがって、本方法は、その後、ターゲットのリチウムイオンバッテリーセル内に導入する前に、セパレータ表面から(苛性配合物の水性に起因する)過剰な水分を除去するための乾燥工程をさらに含み得る。このような乾燥工程は、特に、このようなバッテリーセル実装の前に、処理されたセパレータ物品の寸法安定性を確保するのに十分低い温度レベルでの、オーブン乾燥、真空乾燥、または空気乾燥、または強制空気乾燥の可能性も含み得る。
【0020】
セパレータ形成/製造後の苛性処理において使用する(前述したような)塩基は、限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムおよび水酸化マグネシウム(全て、最大で6.0、より具体的には最大で4.0のpKを示す)を含む。いくつかの方法において、好ましい塩基は水酸化ナトリウム(NaOH)またはKOHである。他の方法において、好ましい塩基は、水酸化カルシウムまたは水酸化バリウムである。(本明細書で述べているように、製造および/または形成後に)このような後続の苛性処理手順によって対象のセパレータ上に表面対イオン錯体を生成する能力は、このように処理されたセパレータに、明白なHF捕捉能力(に加えて、場合によっては、吸湿特性)を提供する。したがって、最大で6.0、好ましくは最大で4.0のpKの任意の塩基の対イオンをその表面上に示すセパレータは、本開示内に包含される。
【0021】
ターゲットのセパレータ表面上での対イオン錯化は、このような所望のフッ素捕捉レベルを達成する(および潜在的には吸湿も可能にする)のに十分な量でこのように移動され得る。このような対イオンレベルは、上記の錯体形成および乾燥工程の後にX線光電走査手順(XPS)を利用して測定され得る。セパレータの全重量を基準として0.01~1(好ましくは0.1~1、より好ましくは約0.1~約0.75)の対イオン百分率の基準が、このような目的のために目標とされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、表面積に対する(処理されたおよび処理されていない)試験を行ったセパレータのpHのグラフを示す。
図2図2は、表面積に対する試験を行ったセパレータ上のHFの濃度のグラフを示す。
図3図3は、表面積に対する試験を行ったセパレータ上のHFの濃度差のグラフを示す。
図4図4は、表面積に対する試験を行ったセパレータ上の捕捉されたHFのモルのグラフを示す。
図5図5は、セパレータのグラムに対する試験されたセパレータ上の捕捉されたHFのグラムのグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明および例は、本開示の可能性がある態様を表したものに過ぎない。特許請求の範囲に関して、このような開示の範囲およびその広さは、当業者によって十分に理解されるであろう。
【0024】
前述のように、充電可能なシステム用の苛性処理されたバッテリーセパレータ(リチウムイオン、ナトリウムイオンなど)がフッ化水素酸(またはフッ化水素)の捕捉を提供するという発見は、本分野において、全体的な安全性および性能の向上を可能にする改善をもたらす。この点に関して、セパレータを提供し、ある種の苛性溶液でセパレータを処理し、次いで、そのようなHF濃度およびpHレベルに関連するいくつかの特性についてセパレータを個別に試験した。
【0025】
この目的のために、ある例示的なバッテリーセパレータタイプ(Dreamweaver Gold 20)のHF捕捉性能および同じセパレータの塩基処理後の性能を評価するための研究を行った。
【0026】
(セパレータの準備)様々な量の乾燥させたセパレータを、一定量のダミー電解質(循環的に反応するLiPF塩を含まない電解質成分)に曝露させた。ダミー電解質は、専ら苛性処理に関してHFの捕捉を試験するために当初のHF含量を含有していた。セパレータサンプルの一部には、過剰の塩基溶液および適切な排水が予め与えられ、次いで、残留塩基溶液を除去するために十分に乾燥され、他のサンプルは非処理のままとした。比較のため、セパレータ(後述する)が3N水酸化ナトリウムおよび3N水酸化バリウムで処理され、他のサンプルは塩基性溶液に関して非処理とした。得られた溶液をpHレベルについて測定し、これにより、セパレータHF捕捉能の効果に関するセパレータの量および塩基処理の研究が可能となった。
【0027】
Dreamweaver Gold 20のセパレータのA4ハンドシートを利用し、13mmの直径の打ち抜き型またはSilhouette Cameo4カッターを利用して、このようなハンドシートから円板を取り出した。Cameo4の場合、A4シートを低粘着性の裏当て材にテープで留めて、装置に供給した。手動ブレードは、その深さを7に設定して使用した。Cameo4のプログラム設定は、2の深さ設定、15の力設定および10のパスを含む。Cameo4ソフトウェアには、13mmの円板のアレイがプログラムされた。切断/打ち抜き後、円板を小さな20mLのPTFEバイアル(瓶)の中に入れた。存在するHFに関連する従来のガラスバイアルでの腐食を避けるために、このようなPTFEバイアルを使用した。上記のように水酸化ナトリウムおよび水酸化バリウム(3N溶液)が導入されたバイアルを用いて、塩基処理されたセパレータおよび非処理のセパレータを上記のように製造した。
【0028】
次いで、セパレータを含むこのようなバイアルを真空オーブン内に少なくとも48時間入れて、125℃の温度で確実に完全に乾燥させた。
【0029】
処理されたセパレータ要素のHF捕捉能力のより良好な理解のため、「ダミー」電解質を作製し、この実験分析において利用した。実際の電解質では、主要な塩であるLiPFは、循環反応を起こさせ、結果を複雑化させる。代わりに、従来の電解質の主成分、すなわちエチルメチルカーボナート(EMC)およびエチレンカーボナート(EC)(いずれもSigma Aldrich社から調達)を使用した。ダミー電解質を作製するため、その融点に達するまでECを加熱し、次いでガラスフラスコ内に加えた。2つの化学物質の比が体積で1:1になるようにEMCをフラスコに加えて、十分に混合した。ダミー電解質のマスターバッチから一部を分割して、より小さなフラスコに入れた。各実験についての所望の当初HF濃度まで、これらの一部にHF溶液を「投入」して十分に混合した。
【0030】
次いで、セパレータを含有するサンプルバイアルをオーブンから取り出し、ダミー電解質とともに直ちに投入し、サンプルが実験室空間内の周囲の湿気から汚染されることを軽減するために密封した。試験の終了時にpHを測定する一方で、セパレータを完全に湿らせ、サンプルを採取するのに十分な必要以上の溶液を得るために、全てのサンプルについて、7mLのダミー電解質を使用した。バイアルをPTFEキャップで密封した。バイアルを密封したまま、所定の曝露時間の間、Bel-Artドライキーパー乾燥剤キャビネット(Bel-Art Dry Keeper Desiccant Cabinet)内で保存した。
【0031】
曝露時間の最後に、分析のためサンプルを1つずつ取り出した。プローブの損傷を回避し、妥当なpH範囲内での測定を確保するために、サンプルに10mLの水を投入し、十分に混合した。本研究では、メトラー・トレド社製のセブンコンパクトS220 pH/イオンメータ(Mettler Toledo SevenCompact S220 pH/Ion meter)を使用した。分析のため、混合したサンプルをキャップをしないままにし、予め較正したプローブをサンプル中に浸漬した。
【0032】
(結果および考察)最初の分析は、サンプルセパレータのpHレベルを測定することに関するものとした。生データは、図1のグラフに示しており、非処理のセパレータは、pHが上昇する傾向を示すが、水酸化物で処理されたセパレータと比較してはるかに低いレベルであった。このように、セパレータ表面積の増加に伴ってpHが上昇する明確な傾向が存在する。以下の式(数1)を使用して、pHを水素イオンの濃度[H]に変換することができる。
(数1)
[H]=10-pH
【0033】
したがって、図2は、捕捉された[H]の濃度に対して、処理されたセパレータに関して同じような上向きのグラフの傾向を示す。以下の式(数2)は、基本的には、サンプルセパレータについての測定された結果に関してこのような結果を示す(処理されたセパレータは、捕捉された酸に関して明確に増加している)。
(数2)
[Hブランクサンプル-[Hサンプル=[H捕捉された
【0034】
図3は、ブランク(非処理サンプル)から苛性処理されたセパレータまでの濃度差に関して、上記の式および測定値からのさらなるデータを使用するグラフを示している。ここでも、明確な傾向が、開示されたセパレータ例の利点を示しているが、非処理のセパレータがそれ自体で僅かな酸捕捉能力(但し、開示されている塩基処理されたセパレータよりもはるかに低いレベルまで)を示すことがある程度明らかである。
【0035】
図4は、セパレータ(処理および非処理)の表面積に対する、捕捉された実際のモルHFのグラフを示している。ここでも、上記の酸捕捉測定に関連して予想されるように、このような捕捉されたHFモルの結果は、本開示の塩基性処理されたセパレータが全ての非処理セパレータ捕捉能力をはるかに超えることを示している。さらに、水酸化ナトリウム処理は、水酸化バリウム処理セパレータと比較して捕捉レベルが増大したように見える。
【0036】
ダミー電解質には(既知の量および濃度で)HFのみが投入されたので、このグラフを作成するために以下のように仮定した。
(数3)
[H]=[HF]
ダミー電解質と水の総量を使用してモルに変換する。
(数4)
[HF]*0.017[L]=HFのモル
また、さらに、対象のセパレータの重量を基準としたこのようなHF捕捉能力は、セパレータの質量に変換するための以下の式(数5)を用いて計算され得る。
【数5】
HFのモル質量は既知であるので、処理されたセパレータのグラムと捕捉されたHFのグラムとの間の関係が提供される図5の結果を生成する能力が可能である。
【数6】
【0037】
要約すると、セパレータの表面積(または質量)が増加されるにつれて、HF捕捉能力の量が増加する。非処理セパレータによって捕捉されるHFの量は、塩基処理されたセパレータより著しく少なく、セパレータの塩基処理が捕捉能力に影響を与えているという証拠を提供する。両塩基処理は、セパレータに過剰な3N塩基を(適切な排水を伴って)投入することによって行われた。すなわち、各塩基中に存在する(-OH)基は等しかった。NaOH処理されたセパレータがBa(OH)よりも優れていた理由については、2つの可能な説明が存在する。第1は、バリウムがより高い電荷を示し、その第2の(-OH)基を放出することを困難にさせることである。第2は、より小さなNaOH基は、セパレータを透過しやすいことである。BaおよびNa基はいずれも同様の傾きを示し、捕捉速度が、セパレータ量の増加とともに、非処理のセパレータに比べてより高くなることを示す。これは、セパレータ表面の均一な官能化を示す。
【0038】
したがって、セパレータが塩基で処理されると、HF捕捉能力が増強される。標準化されたセパレータ処理(3N対3M溶液)は、同じ数の(-OH)基がセパレータ環境内に導入されたという確信を与える。実際、開示された塩基処理されたセパレータは、充電可能なエネルギー貯蔵装置の分野でこれまで調査されていなかったHF捕捉能力および容量を示す。したがって、このような処理されたセパレータ要素を使用する上記のような改善によって、より安全でより優れた性能を有するバッテリーを実現することができる。
【0039】
本開示を詳細に説明してきたが、当業者が本開示の範囲から逸脱することなく本開示に変形および修正を加えることができることは明らかである。したがって、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ決定されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】