(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】核酸の自己組織化媒介ADC薬の構築方法および適用
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20240312BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240312BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240312BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240312BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20240312BHJP
A61K 38/07 20060101ALN20240312BHJP
A61K 31/537 20060101ALN20240312BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
A61K47/68 ZNA
A61K39/395 L
A61P35/00
A61K45/00
C40B40/06
A61K38/07
A61K31/537
C07K16/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560927
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 CN2022084311
(87)【国際公開番号】W WO2022206881
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】202110354236.5
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519401664
【氏名又は名称】アッセンブリー メディシン,エルエルシー.
【氏名又は名称原語表記】ASSEMBLY MEDICINE,LLC.
【住所又は居所原語表記】2-3F,Bldg.1,No.88 Da‘erwen Road.China(Shanghai) Pilot Free Trade Zone,Pudong New Area,Shanghai 201203,China
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,リウジュアン
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ,チャン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ナン
(72)【発明者】
【氏名】パン,リーチャン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ジェイムズ ジェイウェン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE59
4C084AA17
4C084BA16
4C084BA32
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB26
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085AA25
4C085AA27
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB26
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA54
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、バイオテクノロジー医薬品の分野に関し、具体的には、本発明は、相補的対合核酸骨格に基づくADC(antibody-drug conjugate)複合体を提供し、前記ADC複合体は、相補的対合核酸骨格を有するn個のモノマーが複合して形成されたポリマーであり、ここで、前記ポリマーは、核酸一本鎖に連結された細胞表面を標的とする抗体またはタンパク質であるm個の「標的化モノマー」、および核酸一本鎖に連結された薬物(毒素ペイロード(toxin payload))であるk個の「薬物モノマー」を含み、nは、2-8の正の整数であり、mは、1~3の正の整数で、且つm<nであり、kは、1~(n-m)の正の整数であり、前記ポリマーにおいて、各モノマーの核酸一本鎖は、別の1~3個のモノマーの核酸一本鎖と塩基相補性により相補的対合二本鎖を形成することによって、相補的対合核酸骨格構造を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相補的対合核酸骨格に基づく抗体薬物コンジュゲート(antibody-drug conjugate、ADC)であって、
前記抗体薬物コンジュゲートは、相補的対合核酸骨格を有するn個のモノマーが複合して形成されたポリマーであり、
ここで、前記ポリマーは、
m個の標的化モノマー、前記「標的化モノマー」は、核酸一本鎖に連結された細胞表面を標的とする抗体またはタンパク質であり、および
k個の薬物モノマー、前記「薬物モノマー」は、核酸一本鎖に連結された薬物(毒素ペイロード(toxin payload))であり、
を含み、
nは、2~8の正の整数であり、mは、1~3の正の整数で、且つm<nであり、kは、1~(n-m)の正の整数であり、
前記ポリマーにおいて、各モノマーの核酸一本鎖は、別の1~3個のモノマーの核酸一本鎖と塩基相補性により相補的対合二本鎖を形成することによって、相補的対合核酸骨格構造を形成することを特徴とする、
前記抗体薬物コンジュゲート。
【請求項2】
前記標的化モノマーは、式Iの構造を有し、
A-W-D0(I)
前記薬物モノマーは、式IIの構造を有し、
D1-W-D2(II)
式において、
Aは、抗体またはタンパク質であり、
Wは、核酸一本鎖配列であり、
D0は、なしまたは薬物であり、
D1は、なしまたは薬物であり、
D2は、なしまたは薬物であり、
「-」は、リンカーまたは結合であり、
D0、D1およびD2のうちの少なくとも一つは、薬物であることを特徴とする、
請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項3】
Aは、細胞表面受容体に特異的に結合することによりエンドサイトーシスが引き起こされた抗体またはタンパク質であることを特徴とする、
請求項2に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項4】
D1/D2は、細胞を殺傷するために使用される小分子またはポリペプチド毒素であることを特徴とする、
請求項2に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項5】
前記核酸一本鎖は、分解に耐性があり、L型核酸、ペプチド核酸、ロックド核酸、ホスホロモルホリデート核酸、チオ修飾核酸、2’-フルオロ修飾核酸、5-ヒドロキシメチルシトシン核酸、またはその組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする、
請求項2に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項6】
前記標的化モノマー(式I)および薬物モノマー(式II)における核酸一本鎖配列Wは、式IIIに示される構造を有し、
X1-R1-X2-R2-X3(III)
ここで、
R1は、塩基相補的対合領域1であり、
R2は、塩基相補的対合領域2であり、
X1、X2およびX3は、それぞれ独立して、なしまたは冗長な核酸であり、
「-」は、結合であることを特徴とする、
請求項2に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項7】
R1およびR2の長さは、それぞれ独立して、10~20塩基、好ましくは14~16塩基であることを特徴とする、
請求項6に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項8】
各モノマーのR1は、左隣(または左側)のモノマーのR2と塩基相補的対合構造を形成し、R2は、右隣(または右側)のモノマーのR1と塩基相補的対合構造を形成することを特徴とする、
請求項6に記載の抗体薬物コンジュゲート。
【請求項9】
医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、
(a)請求項1に記載の相補的対合核酸骨格に基づく抗体薬物コンジュゲートと、
ここで、前記標的化モノマーは、標的化モノマーライブラリーから選択され、前記薬物モノマーは、薬物モノマーライブラリーから選択され、および
(b)薬学的に許容される担体とを含み、
ここで、前記標的化モノマーライブラリー内のアセンブリユニットは、がん細胞の表面受容体に特異的に結合することによりエンドサイトーシスが引き起こされることができる抗体またはタンパク質を保持し、前記薬物モノマーライブラリー内のアセンブリユニットは、細胞を殺傷する小分子またはポリペプチド薬物部分を保持することを特徴とする、
前記医薬組成物。
【請求項10】
核酸配列ライブラリーであって、
前記核酸ライブラリーは、請求項1に記載の相補的対合核酸骨格に基づく抗体薬物コンジュゲートを形成するために使用される核酸配列を含むことを特徴とする、
前記核酸配列ライブラリー。
【請求項11】
前記核酸配列は、式IIIに示される構造を有し、
X1-R1-X2-R2-X3(III)
ここで、
R1は、塩基相補的対合領域1であり、
R2は、塩基相補的対合領域2であり、
X1、X2およびX3は、それぞれ独立して、なしまたは冗長な核酸であり、
「-」は、結合であることを特徴とする
請求項10に記載の核酸配列ライブラリー。
【請求項12】
請求項10に記載の核酸配列ライブラリーの使用であって、
請求項1に記載の相補的対合核酸骨格の抗体薬物コンジュゲートを調製するために用いられることを特徴とする、
前記使用。
【請求項13】
請求項1に記載の抗体薬物コンジュゲートを調製するための方法であって、
(1)核酸一本鎖と細胞毒性を有する薬物とを化学固定点カップリングを介して核酸-薬物アセンブリユニットに形成する段階と、
(2)抗体と相補的核酸一本鎖とを固定点カップリングさせて、抗体-核酸アセンブリユニットを形成する段階と、
(3)抗体-核酸アセンブリユニットと複数の相補的核酸-薬物アセンブリユニットとを相補的核酸配列を介して迅速に自己組織化させて、前記抗体薬物コンジュゲートを形成する段階とを含むことを特徴とする、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー医薬品の分野に関し、具体的には、核酸の多量体化媒介ADC (antibody-drug conjugate)、即ち、抗体-薬物コンジュゲートの構築方法および適用に関する。
【背景技術】
【0002】
ADCは、癌治療のために開発された標的化薬であり、細胞に対する殺傷性の強い化学療法薬をがん細胞に特異的に送達し、人体内の細胞の非特異的殺傷を減らすことができる。ADCのメカニズムは、抗体ががん細胞の表面にある受容体に結合することにより細胞にエンドサイトーシスされ、次いで薬物は、リソソーム(lysosome)内で放出され、リソソームから逃れて、細胞質に入り、細胞死を引き起こす。ADCの概念は、古くから提案されてきたが、様々な知識や技術的条件の限界により、関連する薬物の開発はかつては遅く・複雑である。しかし、技術の進歩と臨床研究経験の蓄積により、ADC薬は、近年徐々に低迷から抜け出し、バイオ医薬品開発分野の主流の一つになっている。
【0003】
現在、当該分野では、ADC分子の調製は、化学リンカーと小分子負荷で構成される化合物(リンカーペイロード(linker-payload))とモノクローナル抗体分子の間のカップリングに焦点を当てている。古典的な方法は、特異的な化学反応を介してリンカーを抗体分子の表面のリジンまたはシステイン部位に固定点カップリングする。しかし抗体分子には通常複数のリジンまたはシステイン部位があり、各アミノ酸付近の立体障害効果がまったく同じではないため、実際に抗体分子にカップリングしたリンカーペイロードの数、即ちDAR(Drug-Antibody Ratio)が不均一になり、さらにADCの薬効、薬物動態、生体内分布、毒性学等の様々な側面の分析に大きな不確実性をもたらし、ADCの生産コストの高騰にもつながる。しかしDARの不均一性の状況は、従来のカップリング方法の固有な欠陥によるものであるため、FDAによって承認されたADC分子、DARであっても非常に不均一である。
【0004】
従って、当該分野では、ADCが完全に均一なDARを有することを可能にする、ADC薬を調製するための簡単で、柔軟で、効率的で、モジュール化の方法を開発することが緊急に必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主な目的は、ADCが完全に均一なDARを有することを可能にする、ADC薬を調製するための簡単で、柔軟で、効率的で、モジュール化の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、相補的対合核酸骨格に基づく抗体薬物コンジュゲート(antibody-drug conjugate、ADC)を提供し、前記抗体薬物コンジュゲートは、相補的対合核酸骨格を有するn個のモノマーが複合して形成されたポリマーであり、ここで、前記ポリマーは、m個の標的化モノマー、前記「標的化モノマー」は、核酸一本鎖に連結された細胞表面を標的とする抗体またはタンパク質であり、および、k個の薬物モノマー、前記「薬物モノマー」は、核酸一本鎖に連結された薬物(毒素ペイロード(toxin payload))であり、を含み、nは、2~8の正の整数であり、mは、1~3の正の整数で、且つm<nであり、kは、1~(n-m)の正の整数であり、前記ポリマーにおいて、各モノマーの核酸一本鎖は、別の1~3個のモノマーの核酸一本鎖と塩基相補性により相補的対合二本鎖を形成することによって、相補的対合核酸骨格構造を形成する。
別の好ましい例において、n=3~8である。
【0007】
別の好ましい例において、前記標的化モノマーは、式Iの構造を有し、
A-W-D0(I)
前記薬物モノマーは、式IIの構造を有し、
D1-W-D2(II)
式において、
Aは、抗体またはタンパク質であり、
Wは、核酸一本鎖配列であり、
D0は、なしまたは薬物であり、
D1は、なしまたは薬物であり、
D2は、なしまたは薬物であり、
「-」は、リンカーまたは結合であり、
D0、D1およびD2のうちの少なくとも一つは、薬物である。
【0008】
別の好ましい例において、「-」は、共有結合またはリンカーまたは療法の組み合わせである。
別の好ましい例において、Aは、細胞表面受容体に特異的に結合することによりエンドサイトーシスが引き起こされた抗体またはタンパク質である。
【0009】
別の好ましい例において、前記抗体またはタンパク質は、抗HER2抗体、抗HSA抗体、抗PD-L1抗体またはその組み合わせからなる群から選択される。
別の好ましい例において、前記抗体またはタンパク質は、抗HER2ナノボディであり、そのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1に示されたとおりである。
【0010】
別の好ましい例において、D1/D2は、細胞を殺傷するための小分子またはポリペプチド毒素である。
別の好ましい例において、前記核酸鎖は、分解に耐性があり、L型核酸、ペプチド核酸、ロックド核酸、ホスホロモルホリデート(phosphoromorpholidate)核酸、チオ修飾核酸、2’-フルオロ修飾核酸、5-ヒドロキシメチルシトシン核酸、またはその組み合わせからなる群から選択される。
【0011】
別の好ましい例において、前記ポリマーにおいて、各標的化モノマーの成分Aは、同じであるか、または異なる。
別の好ましい例において、前記ポリマーにおいて、各薬物モノマーの成分D1は、同じであるか、または異なり、各薬物モノマーの成分D2は、同じであるか、または異なる。
【0012】
別の好ましい例において、前記ポリマーにおいて、各モノマーのWは、異なる。
別の好ましい例において、化学修飾によってWの両末端和/または中央のヌクレオチドに薬物D1またはD2を連結することができる。
【0013】
別の好ましい例において、前記標的化モノマー(式I)および薬物モノマー(式II)における核酸一本鎖配列Wは、式IIIに示される構造を有し、
X1-R1-X2-R2-X3(III)
ここで、
R1は、塩基相補的対合領域1であり、
R2は、塩基相補的対合領域2であり、
X1、X2およびX3は、それぞれ独立して、なしまたは冗長な核酸であり、
「-」は、結合である。
【0014】
別の好ましい例において、R1およびR2の長さは、それぞれ独立して、10~20塩基、好ましくは14~16塩基である。
別の好ましい例において、X1の長さは、0~5塩基である。
別の好ましい例において、X3の長さは、0~5塩基である。
別の好ましい例において、X2の長さは、0~3塩基である。
別の好ましい例において、X2の配列は、A、AA、AGAまたはAAAからなる群から選択される。
【0015】
別の好ましい例において、各モノマーのR1は、左隣(または左側)のモノマーのR2と塩基相補的対合構造を形成し、R2は、右隣(または右側)のモノマーのR1と塩基相補的対合構造を形成する。
【0016】
本発明の第2の態様は、医薬組成物を提供し、前記医薬組成物は、
(a)第1の態様に記載の相補的対合核酸骨格に基づく抗体薬物コンジュゲートと、
ここで、前記標的化モノマーは、標的化モノマーライブラリーから選択され、前記薬物モノマーは、薬物モノマーライブラリーから選択され、および
(b)薬学的に許容される担体とを含む。
【0017】
別の好ましい例において、前記医薬組成物は、2~8量体複合体を含む。
別の好ましい例において、前記標的化モノマーライブラリー内のアセンブリユニットは、がん細胞の表面受容体に特異的に結合することによりエンドサイトーシスが引き起こされることができる抗体またはタンパク質を保持する。
別の好ましい例において、前記薬物モノマーライブラリー内のアセンブリユニットは、細胞を殺傷する小分子またはポリペプチド薬物部分(moiety)を保持するする。
【0018】
別の好ましい例において、前記医薬組成物中の標的化モノマーおよび薬物モノマーは、個別の治療ニーズに応じて選択でき、リアルタイムでの自己組織化によってポリマーADC薬を調製する。
別の好ましい例において、前記医薬組成物中のA/(D1+D2)およびD1/D2の比率は、個別の治療ニーズに応じて選択できる。
【0019】
本発明の第3の態様は、核酸配列ライブラリーを提供し、前記核酸ライブラリーは、第1の態様に記載の相補的対合核酸骨格に基づく抗体薬物コンジュゲートを形成するための核酸配列を含む。
別の好ましい例において、前記核酸配列Wは、式IIIに示される構造を有し、
X1-R1-X2-R2-X3(III)
ここで、
R1は、塩基相補的対合領域1であり、
R2は、塩基相補的対合領域2であり、
X1、X2およびX3は、それぞれ独立して、なしまたは冗長な核酸であり、
「-」は、結合である。
【0020】
本発明の第4の態様は、第1の態様に記載の相補的対合核酸骨格の抗体薬物コンジュゲートを調製するために使用される、第3の態様に記載の核酸配列ライブラリーの用途を提供する。
【0021】
本発明の第5の態様は、
(1)核酸一本鎖と細胞毒性を有する薬物とを化学固定点カップリングを介して核酸-薬物アセンブリユニットに形成する段階と、
(2)抗体と相補的核酸一本鎖とを固定点カップリングさせて、抗体-核酸アセンブリユニットを形成する段階と、
(3)抗体-核酸アセンブリユニットと複数の相補的核酸-薬物アセンブリユニッとを相補的核酸配列を介して迅速に自己組織化させて、前記抗体薬物コンジュゲートを形成する段階とを含む、第1の態様に記載の抗体薬物コンジュゲートを調製するための方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の範囲内で、本発明の上記の各技術的特徴と以下(例えば、実施例)に具体的に説明される各技術的特徴との間を、互いに組み合わせることにより、新しいまたは好ましい技術的解決策を構成することができることに理解されたい。スペースに限りがあるため、ここでは繰り返さない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】核酸鎖の相補的対合媒介ADC薬の自己組織化のモード図を示す。
【
図2】ニッケルカラムアフィニティー精製抗-HER2(anti-HER2)ナノボディの電気泳動ゲル画像を示す。
【
図3】抗-HER2ナノボディとL-DNAカップリング効率との電気泳動ゲル画像を示す。
【
図4】イオン交換精製抗-HER2ナノボディ-L-DNAコンジュゲートを示す。
【
図5】陰イオンモードESIイオントラップ液体クロマトグラフ質量分析によるDM4-L-DNA1カップリング効率の同定を示す。
【
図6】DM4-L-DNA1フェニル-アガロースゲル疎水性精製カラムの分離結果を示す。
【
図7】陰イオンモードESIイオントラップ液体クロマトグラフ質量分析によるMMAE-L-DNA1カップリング効率の同定を示す。
【
図8】ナノボディ薬物コンジュゲートの自己組織化電気泳動ゲル画像を示す。ここで、a.SDS-PAGE、b.2%アガロース(agarose)DNA gel。
【
図9】ナノボディ薬物コンジュゲートのインビトロ細胞殺傷活性評価を示す。
【
図10】異なる腫瘍細胞株におけるナノボディ薬物コンジュゲートのインビトロ殺傷活性評価を示す。
【
図11】異なる投与群におけるBALB/c-nuマウスの皮下に接種されたBT474ヒト乳がんモデルの腫瘍体積の変化を示す。データは、平均値(Mean)±SEMとして表される。N=3~6匹/群。
【
図12】異なる投与群におけるBALB/c-nuマウスの皮下に接種されたBT474ヒト乳がんモデルのエンドポイント腫瘍重量を示す。データは、平均値±SEMとして表される。PBS群と比較して、独立したサンプルT検定を使用する。N=3~6匹/群。
【
図13】異なる投与群におけるBALB/c-nuマウスの皮下に接種されたBT474ヒト乳がんモデルの体重変化を示す。平均体重は、平均値±SEMとして表される。N=3~6匹/群。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、広範囲かつ詳細な研究の結果、核酸鎖相補的対合自己組織化に基づいて形成されたADC複合体、その調製方法および適用を予期せずに初めて開発した。前記自己組織化の特徴に基づいて、本発明者らは、ADC複合体をリアルタイムで調製するために使用できるADC薬アセンブリユニットライブラリーを初めて開発した。この調製方法を使用すると、アセンブリユニットライブラリーは、個別化された治療のニーズに応じて、高度に特異的な標的性および高度な均一なDARを有するADC薬を迅速に、効率的に、低コストで、効率よく調製できる。これに基づいて、本発明を完成させた。
【0025】
具体的には、本発明は、多価タンパク質薬物を提供し、それは、n個のタンパク質薬物ユニットを含み、ここで、各薬物ユニットは、同じ種類の薬物要素部分と、前記薬物要素部分と連結された異なる核酸要素部分とを含み、nは、≧2の正の整数であり、n個の異なる核酸要素部分は、核酸塩基の相補性方式によりn量体を形成し、それによって前記多価タンパク質薬物を構成し、本発明の多価タンパク質薬物は、迅速なアセンブリ(例えば、1分間)によってのみ安定な核酸塩基相補性対構造を形成する(複雑なペプチド結合または他の化学修飾等ではない)。実験によると、本発明の薬物は、高価化により分子量を増加し、それによって動物の体内の半減期を延長することができることを示す。
【0026】
具体的には、本発明は、相補的対合核酸骨格に基づくADC複合薬物を提供し、それは、自己組織化を正確に完了してn量体複合体を形成できるn個のユニットを含み、nは、2の正の整数である。ここで、m個の標的化モノマーは、核酸一本鎖に連結された標的細胞の抗体またはタンパク質であり、k個の薬物モノマーは、核酸一本鎖に連結された薬物(毒素ペイロード(toxin payload))であり、nは、3~8の正の整数であり、m(<n)は、1~4の正の整数であり、kは、1~(n-m)の正の整数であり、前記ポリマーにおいて、各モノマーの核酸一本鎖は、別の1~3個のモノマーの核酸一本鎖と塩基相補性により相補的対合二本鎖を形成することによって、前記n量体ADC複合体を構成し、本発明のADC複合薬物は、迅速なアセンブリ(例えば、1分間)によってのみ安定した核酸塩基相補性対構造を形成し、同時に均一なDARを有する(ランダムな化学修飾によって得られたADC薬)。実験によると、本発明のADC複合薬物は、細胞を特異的に標的とすることによりエンドサイトーシスを引き起こし、それによって細胞を殺傷することができることを示す。
【0027】
用語
本明細書で使用されるように、「本発明の抗体と薬物とのカップリング体」、「本発明の抗体と薬物とのコンジュゲート」、「本発明のカップリング体」、「本発明の抗体薬物コンジュゲート」、「ポリマーADC薬」「本発明の相補的対合核酸骨格に基づくADC複合体」、「本発明のADC」または「本発明のADC薬」とは、交換可能に使用され、式Iの構造に示されるADC複合体を有することを指す。
【0028】
特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
本明細書に使用されるように、具体的に記載された値に関連して使用される場合、「約」という用語は、当該値が記載された値から1%以下しか変化しない可能性があることを指す。例えば、本明細書に使用されるように、「約100」という表現は、99から101までの間のすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4等)を含む。
【0029】
ADC
本発明において、前記ADCとは、細胞表面分子を特異的に標的とすることができる抗体、細胞毒性を有する薬物、抗体と薬物とを接続するリンカー(リンカー)を含む、抗体薬物コンジュゲート(Antibody-drug conjugates)を指す。
典型的には、前記ADCにおける抗体は、ナノボディ、一本鎖抗体、Fab、モノクローナル抗体等を含むが、これらに限定されない。
【0030】
典型的には、前記ADCにおける薬物は、MMAE/MMAF、DM1/DM4、カリケアマイシン(Calicheamicin)、デュオカルマイシン(Duocarmycin)、PBD、アマニチン(amanitin)、SN38、DXd、PNU-159682等を含むが、これらに限定されない。
本発明の好ましい一実施例において、前記抗体は、抗-HER2単一ドメイン抗体であり、前記薬物は、DM4またはMMAEであり、前記リンカーは、相補的な核酸一本鎖である。
【0031】
標的抗体/タンパク質A
本発明において、前記抗体/タンパク質要素部分は、細胞表面分子を特異的に標的とし、且つエンドサイトーシスを引き起こすことができる。
典型的には、前記抗体/タンパク質は、ナノボディ、一本鎖抗体、Fab、モノクローナル抗体、サイトカイン、ホルモン(例えば、インスリン、成長ホルモン等)、ポリペプチドを含むが、これらに限定されない。
【0032】
本発明の好ましい一実施例において、前記抗体要素部分は、BT474細胞上のHER2受容体を標的とするための抗-HER2単一ドメイン抗体である。前記抗-HER2単一ドメイン抗体のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1に示されたとおりである。
本発明の別の好ましい実施例において、前記抗体要素部分は、抗HSA抗体をさらに含む。前記抗HSA抗体のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:2に示されたとおりである。
【0033】
SEQ ID NO:2、抗HSAナノボディ突然変異体のアミノ酸配列:
MGSAHHHHHHWSHPQFEKGGGSGGGSGGSAWSHPQFEKENLYFQSAVQLVESGGGLVQPGNSLRLSCAASGFTFRSFGMSWVRQAPGKEPEWVSSISGSGSDTLYADSVKGRFTISRDNAKTTLYLQMNSLKPEDTAVYYCTIGGSLSRSSQGTQVTVSSGSC
【0034】
薬物D
本発明において、前記薬物要素部分は、ADC薬で一般的に使用される小分子またはポリペプチド薬物負荷であり、標的化モノマー-薬物モノマー複合体が細胞によってエンドサイトーシスされた後、リソソームに入り、次いで細胞質に放出される。
【0035】
典型的には、前記薬物要素部分は、例えば、オーリスタチン(auristatins)、メイタンシノイド(maytansinoids)、エポチロン(epothilone)、トキソイド(toxoids)、チューブリシン(tubulysins)、ビノレルビン(vinorelbine)等の微小管毒素、例えば、カリケアマイシン、デュオカルマイシンおよび類似体(duocarmycins and analogs)、PBD-ダイマー(dimers)、ドキソルビシン(doxorubicin)、トポテカン(topotecan)、ブレマイシン(blemycin)A2、ダクチノマイシン(dactinomycin)、マイトマイシン(mitomycin)C等のDNA毒素、例えば、アマトキシン(amatoxins)、タイランスタチン(thailanstatin)A等の転写毒素、例えば、オリゴマイシン(oligomycins)、イパタセルチブ(ipatasertib)等の阻害剤を含むが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の好ましい一実施例において、前記薬物要素部分は、MMAEであり、それは、チューブリンに作用して細胞の微小管ネットワークを破壊し、細胞周期の停止とアポトーシスを引き起こす。
【0037】
核酸鎖W
本明細書で使用されるように、「核酸鎖」、「核酸一本鎖」、「一本鎖核酸」および「核酸要素部分」とは、交換可能に使用され、いずれも本発明の抗体薬物コンジュゲートを構成する相補的対合核酸骨格構造が、抗体またはタンパク質または薬物(毒素ペイロード(toxin payload))に連結される核酸配列を指す。
【0038】
本発明において、前記核酸鎖は、インビボで分解に耐性があり、強い自然免疫応答を引き起こさない核酸鎖である。
典型的には、前記核酸要素部分は、L型核酸、ペプチド核酸、ロックド核酸、ホスホロモルホリデート(phosphoromorpholidate)核酸、チオ修飾核酸、2’-フルオロ修飾核酸、5-ヒドロキシメチルシトシン核酸を含むが、これらに限定されない。
【0039】
本発明の好ましい一実施例において、前記核酸要素部分は、安定した四量体核酸骨格に正確に自己組織化されることができる、異なる配列の四つの左旋-DNAである。L型核酸は、自然界に存在する右旋核酸(D-核酸)に対して鏡像として存在することを指し、左旋DNA(L-DNA)および右旋RNA(L-RNA)に分けられる。左旋(キラル中心)は、主に核酸のデオキシリボースまたはリボース部分に存在し、鏡像反転を示す。従って,L型核酸は、血漿中に遍在するヌクレアーゼ(例えば、エキソヌクレアーゼ、エンドヌクレアーゼ)によって分解されない。
【0040】
調製方法
本発明は、次のような段階を含む、相補的対合核酸骨格に基づくADC(antibody-drug conjugate)複合体を調製するための方法を提供する。
【0041】
1.L-核酸鎖フレームワークの設計および調製
本発明によれば、L-核酸鎖フレームワークは、2本以上のL-核酸一本鎖の対合によって形成される。各L-核酸一本鎖の5’または3’末端は、後続で修飾できる基(例えば、NH2等)に活性化され、次いでリンカー(例えば、SMCC、SBAP等)の一末端を使用して、L-核酸一本鎖上の活性化基とカップリングされる。リンカーを有するL-核酸は、所望のL-核酸鎖フレームワークにアセンブリされることができる。別の好ましい例において、L-核酸一本鎖の5’または3’末端の活性化官能基(例えば、アルデヒド(aldehyde)、マレイミド(maleimide)等)は、核酸合成中に含まれる。リンカーを有するL-核酸がうまく自己組織化されてフレームワークを形成できることが決定された後、リンカーを有するL-核酸一本鎖をそれぞれ抗体にカップリングさせて、後続のアセンブリを行うことができる。本発明のL-核酸フレームワークは、基本的に次のような段階により調製されることができる。
【0042】
1.1.迅速に自己組織化可能なL-核酸一本鎖の設計
必要な多価数n(例えば、三量体、四量体)を決定し、多価数nに応じて、必要なL-核酸一本鎖の数nを決定し、対応する数のL-核酸一本鎖配列を設計し、塩基対合を最適化することで標的核酸フレームワークの安定性を調節し、核酸鎖間の非特異的対の可能性を低減する。核酸配列設計の詳細は、発明の概要および実施例に具体的に記載されている。
本発明の好ましい一実施形態において、次のようなL-DNAを調製する。
L-DNA1:5’ AGGCGATCACAATCCAAATGAGCGTGTTACGG 3’ (SEQ ID NO:4)
L-DNA2:5’ ACCGTAACACGCTCAAAACCGAAGTGCCAATT 3’(SEQ ID NO:5)
L-DNA3:5’ AAATTGGCACTTCGGAAAACTATGCGGCTGCT 3’ (SEQ ID NO:6)
L-DNA4:5’ AAGCAGCCGCATAGTAAAGGATTGTGATCGCC 3’(SEQ ID NO:7)
【0043】
1.2.L-DNAまたはL-RNAの活性化
L-核酸の活性化は、その5’末端(X1)または3’末端(X3)の活性基の修飾および後続のリンカーカップリングを含む。活性基の修飾は、核酸合成会社によってカスタマイズでき、リンカーは、一般に二官能性基を有し、即ち、一末端は、核酸の活性基にカップリングすることができ、他末端は、タンパク質上の特異的部位(例えば、NH3、SH)に連結できる。
本発明の好ましい一実施形態によると、フレームワークを構成するすべてのL-核酸は、5’末端がNH2で修飾され、これによりL-核酸の活性化が完了し、その後タンパク質のシステイン上のスルフヒドリル基とカップリングすることができる。
【0044】
2.タンパク質-L-核酸複合体の調製方法
まず、L-核酸の5’または3’末端が活性基で修飾され(例えば、NH2)、次いでタンパク質の特定の部位に別の活性基を導入し(例えば、タンパク質のC末端にシステイン突然変異を導入する)、その後二重リンカーリンカー分子(例えば、SMCC)を使用してL-核酸とタンパク質とを架橋し、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等の方法でタンパク質-L-核酸複合体を精製する。
【0045】
3.薬物-L-核酸複合体の調製方法
L-核酸の5’末端にNH2修飾を追加し、L-核酸の活性化および後続の連結を行う。薬物は、一般に-SuO/-NHS反応基を有し、当該反応基は、核酸の活性基とカップリングすることができる。
【0046】
本発明の主な利点は、次のとおりである。
(1)本発明は、ポリマーADC複合薬物を柔軟かつ効率的に調製することができ、個別化された治療のための標的要件および薬物ペイロードの組み合わせに対して、個別化されたADC薬を短時間で調製することができる。
(2)本発明によって調製されたADC薬は、高度に均一なDARを非常に容易に達成することができる。
(3)本発明は、モジュール式、および正確な自己組織化の特性を使用して、二重特異性、さらには三重特異性のADC薬を実現しながら、高度に均一なDARを確保することができる。
(4)本発明は、モジュール式、および正確な自己組織化の特性を使用して、二つの異なる薬物ペイロードを有するADC薬を容易に実現しながら、高度に均一なDARを確保して、ADC薬物耐性の問題を解決することができる。
【0047】
以下、本発明は、具体的実施例と併せてされに説明される。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。以下の実施例において、具体的条件を示さない実験方法は、通常、例えば、Sambrookら、分子クローニング:実験マニュアル(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989)に記載される条件等の従来の条件、またはメーカーによって提案された条件に従う。特に明記しない限り、パーセンテージと部数は、重量のパーセンテージおよび重量の部数である。
【0048】
実施例1:抗-HER2ナノボディの調製
タンパク質を精製するためにナノボディのアミノ基末端にHisタグおよびダブルStrepタグを添加し、核酸固定点をカップリングするためにナノボディのカルボキシル基末端にシステイン突然変異を導入する。抗HER2のナノボディの遺伝子配列を大腸菌が好むコドンに最適化し、次いでpET-28b(+)プラスミドにサブクローニングする。抗HER2のナノボディアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1である。
【0049】
SEQ ID NO:1、抗HER2ナノボディ突然変異体のアミノ酸配列:
MSAHHHHHHWSHPQFEKGGGSGGGSGGSAWSHPQFEKENLYFQSEVQLVESGGGLVQAGGSLRLSCAASGITFSINTMGWYRQAPGKQRELVALISSIGDTYYADSVKGRFTISRDNAKNTVYLQMNSLKPEDTAVYYCKRFRTAAQGTDYWGQGTLVTVSSGSC
【0050】
構築した発現ベクター1ulを採取して大腸菌シャッフル(shuffle)T7に形質転換し、形質転換したシャッフルT7シングルコロニーをLB培地(50ug/mLのカナマイシン)に移し、37℃でOD600=0.6~0.8になるまで培養し、最終濃度0.1mMのIPTGを添加して発現を誘導し、16度で引き続き18~20時間を培養する。遠心分離によって発現完了後の単細胞タンパク質を収集し、Tris緩衝液(20mMのTris-HCl、200mMのNaCl、pH7.4)に再懸濁し、少量の還元剤(例えば、10μMのTCEP)およびプロテアーゼ阻害剤カクテル(cocktail)(Sigma)を添加する。超音波により細菌を破砕し、菌液を17000rpmで30分間遠心分離した後に上清を収集する。Hisタグアフィニティーカラムを用いて上清中のナノボディを精製し、上清をカラムに通した後にそれぞれ10mM、30mM、50mMのイミダゾールを含むTris緩衝液(50mMのTris-HCl、200mMのNaCl、10μMのTCEP、pH7.4)を用いて不純物タンパク質が流れ出なくなるまでカラムを洗浄し(フロースルー液を収集し、かつUVを使用してフロースルー液のA280吸収を検出し、これにより不純物タンパク質が完全に除去されたかどうかを確認する)、カラムに結合したナノボディを250mMイミダゾールを含むTris緩衝液(50mMのTris-HCl、200mMのNaCl、10μMのTCEP、pH7.4)で溶離し、最終的により高純度のナノボディを取得する(
図2)。
【0051】
実施例2:ナノボディ-核酸複合体のカップリングおよび精製
実施例1で精製した抗-HER2ナノボディを1~2倍モル比過剰のSMCC-L-DNA一本鎖と混合し(モル比は、予備実験を通じて測定できる)、4℃で一晩カップリング反応させ、カップリング効率は、90%以上に達する(
図3)。
【0052】
Strepアフィニティーカラムを使用して未反応のSMCC-L-DNA一本鎖を除去し、ナノボディおよびナノボディ-L-DNA混合物を収集する。その緩衝液を陰イオン交換カラムのローディング緩衝液に置き換える。DNAのマイナスに帯電した属性を利用して、陰イオン交換カラム(HiTrap Q HPカラム)を使用してナノボディ-L-DNAをさらに分離および精製し、未反応のナノボディを除去する。分離プロセスは、勾配溶離によって実現され、20mMのTris-HCl、15mMのNaCl、pH8.5のローディング緩衝液、および20mMのTris-HCl、1MのNaCl、pH8.5、0~100%の溶離緩衝液を使用して勾配溶離し、未反応のナノボディ、ナノボディ-L-DNAに連続してピークが出る。DNAは、溶離緩衝液中で様々な立体構造で存在するため、勾配溶離中に三つのナノボディ-L-DNAコンジュゲートの溶離ピーク(
図4)が現れる。ナノボディ-L-DNAを収集し、濃縮後にPD-10脱塩カラムを使用して緩衝液を50mMのNaH
2PO
4、150mMのNaCl、pH7.4に置き換える。
【0053】
実施例3:毒素DM4-核酸コンジュゲートのカップリング
DM4-L-DNA1のカップリングを例として挙げる。まず、SPDB-DM4粉末を100%ジメチルアセトアミドに溶解させ、最終濃度10mMのSPDB-DM4溶液を得る。L-DNA1を100%リン酸塩緩衝液に溶解させ、最終濃度1mMのL-DNA1溶液を得る。次いで1mMのL-DNA1溶液、10mMのSPDB-DM4溶液、リン酸塩反応液を2:5:3の体積比で混合し、一晩反応させ、カップリング効率は、約70%に達することができる。反応生成物は、陰イオンモードのESIイオントラップ液体質量分析により検出および分析することができる(
図5)。
【0054】
実施例4:毒素DM4-核酸コンジュゲートの精製
DM4-L-DNA1の精製を例として挙げる。DM4-L-DNA1の反応物をフェニル-アガロースゲル疎水性精製カラムにローディングし、20%エタノールでワンステップで溶離し、L-DNA1とDM4-L-DNA1とを完全に分離することができ(
図6)、分離後の生成物は、陰イオンモードのESIイオントラップ液体クロマトグラフィー質量分析により精製生成物を同定することができる。
【0055】
実施例5:毒素MMAE-核酸コンジュゲートのカップリング
MMAE-L-DNA1のカップリングを例として挙げる。まず、SuO-vc-PAB-MMAE粉末を100%ジメチルアセトアミドに溶解させ、最終濃度10mMのSuO-vc-PAB-MMAE溶液を得る。L-DNA1を100%リン酸塩緩衝液に溶解させ、最終濃度1mMのL-DNA1溶液を得る。次いで1mMのL-DNA1溶液、10mMのSuO-vc-PAB-MMAE溶液、リン酸塩反応液を2:5:3の体積比で混合し、一晩反応させ、陰イオンモードのESIイオントラップ液体クロマトグラフィー質量分析により検出および分析し、カップリング効率は、100%に達することができる(
図7)。反応生成物を100%エタノールで沈殿させ、未反応のSuO-vc-PAB-MMAEと完全に分離することができ、75%エタノールで4回洗浄した後、沈殿物をリン酸塩緩衝液に溶解させる。
【0056】
実施例6:ナノボディ薬物コンジュゲートの自己組織化
以下、二重抗体二重毒素NAPPA
4-DM4
(1,2)-HER2
(3,4)分子構造を例として、ナノボディ薬物コンジュゲートの自己組織化プロセスを紹介する。DM4は、DNA番号1および2にカップリングされ、抗-HER2ナノボディ(実施例1で調製した)は、DNA番号3および4にカップリングされる。
DM4-L-DNA1、DM4-L-DNA2、抗-HER2 Nb-L-DNA3コンジュゲート、抗-HER2 Nb-L-DNA4コンジュゲートの濃度をそれぞれ測定する。上記成分を適量取り、37℃で5分間予熱し、次いで37℃条件下で1:1のモル比で混合し、1分間インキュベートして、NAPPA
4-DM4
(1,2)-HER2
(3,4)分子構造のナノボディ薬物コンジュゲートの自己組織化を完了させる(
図8)。
【0057】
実施例7:L-核酸フレームワーク媒介抗体薬物コンジュゲートに基づくインビトロ細胞殺傷実験
L-核酸フレームワークの抗体薬物コンジュゲートに基づくインビトロ細胞殺傷活性をさらに分析するために、四つの薬物分子NAPPA4-MMAE(1,2)-HER2(3,4)、NAPPA4-MMAE(1,2)-PD-L1(3,4)、NAPPA4-MMAE(1,2)、NAPPA4-HER2(3,4)をそれぞれアセンブリし、HER2陽性細胞株BT474を細胞モデルとして使用して、インビトロ殺傷活性を評価する。ここで、使用された抗-HER2ナノボディは、実施例で調製した抗-HER2ナノボディであり、使用された抗PD-L1抗体のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:3に示されたとおりである。
【0058】
SEQ ID NO:3、抗PD-L1ナノボディ突然変異体のアミノ酸配列:
MGSAHHHHHHWSHPQFEKGGGSGGGSGGSSAWSHPQFEKENLYFQSEVQLLE SGGGEVQPGGSLRLSCAASGGIFAIKPISWYRQAPGKQREWVSTTTSSGATNYAESVKGRFTISRDNAKNTLYLQMSSLRAEDTAVYYCNVFEYWGQGTLVTVKPGSC
【0059】
BT474細胞を96ウェルプレートに接種し、細胞密度は、20000細胞/ウェルであり、三つのデュープリケートウェルを設置し、37℃のインキュベーターでインキュベートし、24時間後に新しい培地に交換し、特定の濃度勾配の薬物を添加し、引き続き37℃のインキュベーターでインキュベートし、48~72時間後に新しい培地に交換し、10%CCK8溶液を添加し、引き続き37℃下で暗所でインキュベートし、2~4時間後にマイクロプレートリーダーを使用して、各サンプルの450nmでの吸光度を測定し、細胞に対する薬物の殺傷状況を計算する。
【0060】
実験結果によると、対照群NAPPA
4-MMAE
(1,2)-PD-L1
(3,4)と比較して、標的薬物NAPPA
4-MMAE
(1,2)-HER2
(3,4)は、HER2陽性細胞株BT474に対してより顕著な殺傷効果を有することを示す。NAPPA
4-MMAE
(1,2),NAPPA
4 -HER2
(3,4)には、ほとんど殺傷効果がない(
図9)。
【0061】
異なる腫瘍細胞株に対するL-核酸フレームワークに基づく抗体薬物コンジュゲートのインビトロ殺傷効果をさらに検証するために、二つの薬物分子NAPPA4-MMAE(1,2)-HER2(3)-HSA(4)およびNAPPA4-MMAE(1,2)-HSA(4)を選択して、BT474、SK-BR-3、NCI-N87、HCC1954、SKOV-3およびCalu-3腫瘍細胞株に対して、インビトロ細胞殺傷を行い、使用された検出キットは、CellTiter-Glo(Promega、G7572)であり、マイクロプレートリーダーを使用して、各サンプルの450nmでの吸光度を測定し、細胞に対する薬物の殺傷状況を計算する。
【0062】
実験結果によると、NAPPA
4-MMAE
(1,2)-HSA
(4)と比較して、NAPPA
4-MMAE
(1,2)-HER2
(3)-HSA
(4)は、六つの腫瘍細胞株において全てより顕著な殺傷効果を有し、殺傷効果は、報告された腫瘍細胞表面のHER2発現量と正の相関関係があることを示す(
図10)。
【0063】
実施例8:L-核酸フレームワーク媒介抗体薬物コンジュゲートのインビボ腫瘍阻害実験
L-核酸フレームワークに基づく抗体薬物コンジュゲートのインビボ腫瘍阻害活性を試験するために、薬物NAPPA4-MMAE(1,2)-HER2(3,4)およびNAPPA4-MMAE(1,2)-HER2(3)-HSA(4)のインビボ腫瘍阻害活性を評価するための、BT474ヒト乳がん腫瘍担持ヌードマウスモデルを構築し、NAPPA4-MMAE(1,2)、NAPPA4 -HER2(3,4)およびPBS群を対照として設定する。
【0064】
BT474細胞を10%FBS含有DMEM培地で培養し、5%CO2の37℃飽和湿度インキュベーター内で維持する。対数成長期BT474細胞を収集して、DMEM基本培地に再懸濁し、1:1の比率でマトリゲルを添加する。無菌条件下で、0.2mLの細胞懸濁液をヌードマウスの右背中に皮下接種し、接種濃度は、1×107細胞/0.2mL/マウスである。ノギスを使用して移植腫瘍の直径を測定し、腫瘍が100~300mm3に成長した時点で、動物をランダムに6匹ずつのグループに分ける。グループ分けの日をD0日目と定義し、マウスに試験対象の薬物NAPPA4-MMAE(1,2)-HER2(3,4)、NAPPA4-MMAE(1,2)-HER2(3)-HSA(4)、NAPPA4-MMAE(1,2)、NAPPA4 -HER2(3,4)およびPBS対照を1回静脈内注射し、投与量は、125nmol/kgである。投与開始後、D0、D3、D5、D7、D10、D12、D14、D17、D19、D21、D24、D26、D28日目に、ノギスを使用して腫瘍の大きさを検出し、マウスの体重を秤量する。
腫瘍体積の計算方法は、腫瘍体積(mm3)=0.5×腫瘍長径×腫瘍短径2である。
【0065】
投与期間中の異なるグループのマウスの平均腫瘍体積の変化(
図11)および試験終了時の異なるグループのマウスの平均腫瘍重量(
図12)の結果によると、PBS対照群と比較して、NAPPA
4-MMAE
(1,2)-HER2
(3,4)およびNAPPA
4-MMAE
(1,2)-HER2
(3)-HSA
(4)は、顕著なインビボ腫瘍阻害効果を有し、抗HSA抗体含有薬物NAPPA
4-MMAE
(1,2)-HER2
(3)-HSA
(4)は、抗HSA抗体を含まない薬物NAPPA
4-MMAE
(1,2)-HER2
(3,4)よりもインビボでの腫瘍阻害効果が優れており、薬物NAPPA
4-MMAE
(1,2)およびNAPPA
4-HER2
(3,4)には、殺傷効果がほとんどないことを示す。実験観察期間全体を通じて、異なるグループのマウスの平均体重変化は、通常の変動範囲内に留まり(
図13)、これは、125nmol/kgの単回投与量条件下で、各試験薬物は、マウスの体重に有意な影響を及ぼさないことを示す。
【0066】
本発明で言及されたすべての文書は、あたかも各文書が個別に参照として引用されたかのように、本出願における参照として引用される。さらに、本発明の上記の教示内容を読んだ後、当業者は本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態も、本出願の添付の請求範囲によって定義される範囲に含まれる。
【配列表】
【国際調査報告】