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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】サイクレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 257/02 20060101AFI20240312BHJP
【FI】
C07D257/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560995
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(85)【翻訳文提出日】2023-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2022057614
(87)【国際公開番号】W WO2022207425
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】21165846.3
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504448162
【氏名又は名称】ブラッコ・イメージング・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.P.A.
(71)【出願人】
【識別番号】523373935
【氏名又は名称】セリキム・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】Serichim Srl
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】バラッタ,ワルテル
(72)【発明者】
【氏名】フィリオリア,ロザーリオ
(72)【発明者】
【氏名】デログ,ピエトロ
(72)【発明者】
【氏名】アダモ,イラーリア
(72)【発明者】
【氏名】ボッカロン,マリアンジェラ
(72)【発明者】
【氏名】ブオンサンティ,フェデリカ
(57)【要約】
本発明は、MRI造影剤として使用される様々な大環状ガドリニウム錯体の製造において広く用いられているサイクレンの製造方法に関する。本製造方法は、グリオキサールとトリエチレンテトラミンの効率的なカップリングと、それに続く、得られた中間誘導体のアルミニウムベースの還元剤による還元を含む。本製造方法は、有害な化合物の使用および/または形成を回避し、さらにサイクレンを高収率および高純度で製造できるため、特に工業的規模で有利である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイクレンの製造方法であって、
a)グリオキサールをトリエチレンテトラミンと反応させ、デカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンを得ること;および
b)得られたデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンを、水素化ジアルキルアルミニウムまたはトリアルキルアミンアラン錯体、またはそれらの混合物からなる群から選択される還元剤で還元すること;
(ここで、前記アルキル基は、それぞれ同一または異なり、直鎖または分枝鎖のC-Cアルキル基から選択される)
を含み、
工程(a)が、グリオキサールの水溶液を無水エタノール中のアミンの溶液に添加し、反応を約1時間またはそれ以下の時間行うことにより実施される、
製造方法。
【請求項2】
工程(a)が、室温以下に保たれた無水エタノール中のアミンの溶液にグリオキサールの水溶液を添加し、室温以下で反応を行うことによって実施される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
温度が0℃~10℃の範囲である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(a)の最後に、工程(a)から得られた反応粗製物と炭化水素溶媒とを蒸留カラムに供給することにより、溶媒の交換が行われる、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
炭化水素溶媒が、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカンまたはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
炭化水素溶媒がトルエンである、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
工程(b)が、
(b’)選択された水素化ジアルキルアルミニウムもしくはトリアルキルアミンアラン錯体またはそれらの混合物を、炭化水素溶媒中のデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンの溶液に添加し;次いで
(b”)選択した炭化水素溶媒中で反応混合物を大気圧下で還流すること
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(b)が、
(b’)選択された水素化ジアルキルアルミニウムもしくはトリアルキルアミンアラン錯体またはそれらの混合物を、炭化水素溶媒中のデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンの溶液に添加し;次いで
(b”)選択した炭化水素溶媒中で反応混合物を加圧下で還流すること
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
工程(b”)を、1~6気圧の圧力下、120℃~160℃の温度にて2~6時間行う、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
還元剤が、水素化ジアルキルアルミニウム、トリアルキルアミンアラン錯体、またはそれらの混合物からなる群から選択され、前記アルキル基が、それぞれ同一または異なり、直鎖または分枝鎖のC-Cアルキル基から選択される、請求項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
還元剤が、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)、ジメチルエチルアミンアラン錯体、またはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
還元剤が、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
a)グリオキサールの水溶液を無水エタノール中のトリエチレンテトラミンの溶液と接触させ、反応を1時間またはそれ以下の時間行うことによりデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンを得;次いで、工程(a)から得られた反応粗製物とトルエンとを連続蒸留カラムに供給することにより、トルエン中のデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンの溶液を得ること;および
b)このようにして得られたデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンを水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)で還元すること
を含み、
工程(b)が、
(b’)水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)を、室温にてトルエン中のデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンの溶液に添加し;
(b”)反応混合物を大気圧下で18~40時間還流する、あるいは120℃~160℃の温度にて、反応混合物を1~6気圧の圧力下で2~6時間還流することを含む、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
工程(b)の最後で得られる大環状テトラアザ誘導体を、フッ化ナトリウムまたは水酸化ナトリウムと水とで処理することによりサイクレンに変換する、請求項1~13のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクレンを製造するための新規で簡便な方法に関する。
サイクレン(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン)は、磁気共鳴画像法(MRI)の造影剤として広く利用されている大環状ガドリニウム錯体の製造において、よく用いられている既知の化合物である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
サイクレンの製造法として、いくつかの化学的製法が文献に記載されている。報告されている合成経路のほとんどが、マクロ環を得るために適切にカップリングされ、環化の工程に用いる方法に応じて異なる、低分子量の前駆体をベースにしている。
【0003】
それらのうち、ジエチレントリアミンとジエタノールアミンを出発物質とするRichman-Atkins法(J. Am. Chem. Soc. 1974,96,p.2268-2270)がある。アミノ基とヒドロキシル基が適切に保護されたこれら2つの出発物質をまずカップリングさせてテトラアザシクロドデカン環を得た後、脱保護してフリーのサイクレンを得られる。
さらなる例として、米国特許第5,744,616号(Schering)には、対応する保護されたアジリジンを経て、環化した後、脱保護してサイクレンを得る、保護されたエタノールアミンの四量体化が開示されている。
別の製造法として、トリエチレンテトラミン(TETA)を出発物質として用い、最初に適当なジカルボニル誘導体と反応させる方法も知られている。主な合成工程として、最初に末端以外のアミノ基を保護するためのジカルボニル試薬と反応させた後、エチレン置換試薬(例えば1,2-ジブロモエタン)によってアルキル化することが含まれる。このような環化反応により四環中間体が得られ、最終的に脱保護してサイクレンが得られる;例えば、WO00/53588、US6156890、WO96/28432およびUS5587451等の特許または特許出願を参照。
これらの合成経路には、一般的に原子効率が低く工程が煩雑であるという特徴がある。さらに、アジリジンなどの有害な化合物の使用や形成は、大規模な工業生産にとって大きな欠点となる。
【0004】
ジチオオキサミドとトリエチレンテトラミンを原料とする、よりシンプルなアプローチが、Weisman and Reed [J. Org. Org. Chem. 1996,61,5186-5187およびOrganic Syntheses,Coll. Vol.10,p.667 (2004);Vol.78,p.73 (2002)]に記載されている。ジチオオキサミドは、四量体の環を適切に閉じるために必要な追加のエチレン架橋部分ためのテンプレート剤として作用する。次いで、対応する三環系ビスアミジノ誘導体を水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)で還元することにより、最終的にサイクレンが得られる。
この合成経路は合成の工程が2つしかなく原子効率が高い。ところが、非常に高価な原料であるジチオオキサミドを使用する上、毒性の高い副生成物としてアンモニアや硫化水素が生じるという大きな欠点がある。従って、この製法はサイクレンの工業生産を対象としたものではないし、対象とすることも困難である。
【0005】
サイクレンの製造に関する最近の試みとして、ジチオオキサミドの代わりにジカルボニル誘導体を用いることも報告されている。この場合、Reedによって提案された前述の合成スキームを受けて、特許出願KR20190108383には、ジチオオキサミドの代わりにオキサミドを用いて三環系ビスアミジノ誘導体を得、水素化リチウムアルミニウムの存在下で最終的にサイクレンに還元することを含むサイクレンの製造方法が開示されている。しかしながら、上記の方法は、副産物としてアンモニアガスが発生し、さらに、最終生成物の収率が非常に低いという特徴がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の記載
これまでのサイクレンの製造方法に関連する既知の欠点は、本発明の製造方法によって克服される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、サイクレンの製造方法であって、
a)グリオキサールをトリエチレンテトラミンと反応させ、デカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンを得る;および
b)得られたデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンを、水素化ジアルキルアルミニウムまたはトリアルキルアミンアラン錯体、またはそれらの混合物からなる群から選択される還元剤で還元する;
(ここで、前記アルキル基は、それぞれ同一または異なり、直鎖または分枝鎖のC-Cアルキル基から選択される)
製造方法に関する。
【0008】
本発明の製造方法における反応工程をより理解するために、以下のスキーム1を参照されたい。
【化1】

式中、ジアルキル水素化アルミニウムまたはトリアルキルアミンアラン錯体におけるR、RおよびRは、上で報告された意味を有する。
【0009】
本発明の製造方法は、反応の全過程において有害物質の使用および/または放出が回避でき、また、温和な条件下で効率的に操作することにより、サイクレンが高収率および高純度で合成されるので、特に有利である。
出発物質と選択された試薬はすべて公知のものであり、容易に市販品が入手化可能である。特にグリオキサールは、前述の先行技術の製造法で使用されるジチオオキサミドよりもはるかに安価で確実に安全である。
全体として、また以下に詳述するように、本発明の製造方法は、大規模な工業生産に特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
トリエチレンテトラミンとグリオキザールとの反応は、例えばHerveら[Tetrahedron Letters 40(1999) 2517-2520]により報告されているように、当技術分野で知られており、以下に示す4つの異性体の混合物が形成する。
【化2】

上記異性体の割合、すなわち得られる混合物の組成は、採用する反応条件に強く依存し、2組の三環系誘導体(熱力学的に有利であることが知られているジェミナル(GEM)コンフォメーションまたは動力学的に有利であることが知られているビシナル(VIC)コンフォメーションの、それぞれシスおよびトランス配置)が得られる。
ここで、VIC異性体が、本発明の製造方法に従って還元することにより、サイクレンの製造が可能な唯一の有用な化合物であるということは指摘するに値する。
これに対し、GEM異性体が同様に還元されると、実験セクションでさらに詳述するように、ピペラジン副生成物(以下の構造参照)が形成するに過ぎない。
【化3】

したがって、その後の工程で還元されるVIC/GEM混合物において、特にGEM異性体が優勢であるか、あるいはかなりの量存在する場合、生じたピペラジン誘導体がサイクレンの最終的な回収と精製をはるかに困難にする。
【0011】
以上の理由から、VIC異性体の収率を最大化するサイクレンの製造法であることが最も重要である。
この場合において、当技術分野ではVICリッチな混合物を得るためのいくつかの取り組みが報告されている。
例えば、Chuburouら(Eur. J. Org. Chem. 2003,1050-1055)には、グリオキサールとトリエチレンテトラミンのエタノール溶液を出発物質として、-10℃にて2時間、無水条件下で操作することによってVIC異性体だけを形成することが記載されている。しかし、この方法は工業的規模には適用できない。少なくとも、商業的に入手可能なグリオキザールは水溶液(水中最大濃度40%)であるため、水の存在は避けられない。
別の方法として、特許出願WO96/28432に記載されているように、室温にて、エタノール中で水性のグリオキサールをトリエチレンテトラミンで一晩攪拌しながら処理することにより、混合物の実際の組成に関する情報は記載されていないが、VIC異性体が約75~80%で得られた。
また、特許出願CA2353680には、20時間という長時間の反応時間を要するものの、グリオキサールとトリエチレンテトラミンのカップリングに関する同様の操作条件が開示されているが、異性体混合物の組成に関するデータはない。
【0012】
しかし、Argeseら[Tetrahedron 62 (2006) 6855-6861]は、このように先行技術で報告されている条件下で操作することによって、より具体的にはWO96/28432に開示されている方法に従って操作することによって、過剰のVIC異性体を含む当初の反応混合物は、後処理の過程でその組成に変化が生じ、GEMとVICの異性体混合物となることを開示している。
具体的には、わずか0.5時間後に反応混合物をミセル動電クロマトグラフィー法(MEKC)で分析したところ、VIC異性体の混合物が生成し、GEM異性体は検出されなかったことから、前者が速度論的に有利な反応生成物であることが確認された。
その後、単離された生成物の後処理と回収中に、GEM異性体への部分的な異性化が観察され、このことは、望ましくないGEM異性体前駆体がその後の還元工程で遭遇し得る前述の欠点につながる。
【0013】
したがって、VIC異性体に対し高い選択性を有するサイクレンの製造法であるだけでなく、後処理の段階においても、VIC異性体から安定なGEM異性体への変換率を最小化する製造法であることが非常に重要である。
上記のすべては、商業的に入手可能なグリオキザール水溶液を出発物質とすることにより、その後の還元工程のためにVIC異性体を便利に供給するための非常に効率的な製造方法を提供する本発明によって最もよく達成される。本発明の製造方法は、VIC異性体の選択性が85%以上と高く、後処理の段階でVIC異性体のGEM異性体への有意な変換は生じない。
疑義を避けるため、ここでいうVIC異性体とは、本製造方法の工程(a)の最後に得られるデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンと称されるビス-アミナールのシスおよびトランス異性体のことである。
したがって、特に記載しない限り、本明細書では、上記の用語を互換的に使用する。
【0014】
実際には、上記の先行技術の欠点をできるだけ回避するために、グリオキサールの商業的に入手可能な水溶液、より具体的にはグリオキサールの40%水溶液を、慣用的な手段に従って操作することにより、例えば継続的にまたは何回かに分けて、アミンの無水エタノール溶液にゆっくりと添加する。
好ましくは、このグリオキザールの添加は、少なくとも5分間~少なくとも40分間かけて行う。さらに好ましくは、添加は少なくとも10分間~少なくとも35分間かけて行う。
グリオキサールの水溶液の添加が終了した後、反応は短時間、例えば約5分~約30分、で完了する。
全体として、本製造方法の工程(a)による反応は、約1時間またはそれ以下、例えば約30分から約60分で達成するのが最適であり、この時間は、グリオキサールの添加と反応完了の両方を含む時間である。
従って、本発明は、工程(a)が、グリオキサールの水溶液を無水エタノール中のアミンの溶液に添加し、反応を約1時間またはそれ以下の時間行うことにより実施される、サイクレンの製造方法である。
【0015】
本発明のさらなる実施形態によれば、工程(a)の反応は室温以下で行われる。上記の条件は、グリオキサールをアミンのエタノール溶液に添加する間と反応が完了するまでの間、好適に適用することができる。
従って、本発明は、工程(a)が、室温以下に保たれた無水エタノール中のアミンの溶液にグリオキサールの水溶液を添加し、室温以下で反応を行うことによって実施される、サイクレンの製造方法である。
好ましくは、温度は約0℃~約20℃、さらに好ましくは約0℃~約10℃の範囲である。
【0016】
上記から、当業者には、温度と反応時間の好ましい操作条件を適切に組み合わせることができることは明らかである。
したがって、本発明のさらに好ましい実施形態は、工程(a)が、室温以下に保たれた無水エタノール中のアミンの溶液にグリオキサールの水溶液を添加し、室温以下で反応を約1時間またはそれ以下の時間行うことによって実施される、サイクレンの製造方法である。
【0017】
先行技術で報告されている方法とは異なり、本発明の製造方法は、温和な操作条件下で比較的短時間で操作することにより、高い収率と選択性でVIC異性体を製造することが可能である。このように、工程(a)によるカップリング反応に要する滞留時間が短いという利点を利用することで、本発明の製造方法は、セミバッチでも、あるいは連続モードでも、便利に操作できる。
上記から、当業者には、工程(a)によれば、グリオキサールのトリエチレンテトラミンへの添加は、それぞれが溶媒媒体に適切に溶解している場合、接触、または反応物の流れが適切に接触して所望の反応が実施される、連続モードまたはフローケミストリー技術に一般的に採用される用語により、前者の成分を後者の成分と接触させることによっても達成され得ることは明らかである。
したがって、本明細書において特に規定がない限り、「添加する」または「添加」という用語は、ある反応物質を別のものに加えるという文脈で用いられるが、連続モードの製造法においては、結果的により適切となるよう、場合により「接触させる」または「接触」という用語に適宜置き換えることができる。
【0018】
本製造方法の工程(a)を連続モードで行う場合、本発明に従って採用されるリアクターや技術は、例えば、反応生成物の流れの連続形成および連続排出を伴う任意の適切なリアクターへの反応物の連続供給からなる公知のリアクターや技術である。
非限定的な例としては、例えば、パイプリアクター、プラグフローリアクター、マイクロリアクター、連続攪拌タンクリアクター(CSTR)などと呼ばれる管状のリアクターがある。
流速、滞留時間、温度など、本製造方法のあらゆるパラメーターは、満たすべき所望の反応条件に適合するように、慣用の手段に従って適切に選択できる。
【0019】
例えば、本発明の製造方法の工程(a)は、無水エタノール中のトリエチレンテトラミンの適当な溶液およびグリオキザール水溶液を適切に供給するCSTRカスケードを通して操作することにより、連続モードで容易に実施できる。反応物の両方の流れの供給は、慣用のシリンジポンプまたは任意の適切なポンプシステムによって別々に操作できる。
好ましくは、アミンのエタノール溶液を最初のCSTRに供給し、適切な量のグリオキザール水溶液をCSTRのカスケードに沿って分配する。
同様に、任意の管状リアクターによって、グリオキザール水溶液の流れは、あらかじめアミンのエタノール溶液が供給されたリアクター自体の長さに沿って配置された複数の入口に都合よく分配される。
上記から、リアクターの適切な形状と各流量に対する任意の選択された供給速度により、任意の選択された滞留時間における反応物の最適な混和がもたらされることは、当業者には明らかである。温度は、本製造方法の他のパラメーターと同様に、出発原料の所望の変換およびその後のVIC異性体の回収に適合するように、慣用の手段に従って適切にコントロールできる。
【0020】
従って、本発明のさらなる目的は、グリオキサールの水溶液をアミンのエタノール溶液と接触させることにより、工程(a)を連続モードで実施するサイクレンの製造方法である。
好ましくは、グリオキザールの水溶液の添加は、任意の所定の管状リアクターのリアクター長に沿って、またはどのような方法であれ複数の連続リアクター(例えばCSTRカスケード)において、いくつかに分けて実施される。
【0021】
本発明の製造方法の続く工程(b)は、VICビス-アミン、すなわちデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンの還元である。
この反応は、上記のVICビスアミナールを、炭化水素溶媒の存在下、還流条件下で、選択した還元剤で処理することにより均一相で行われる。
そのため、工程(a)の最後に溶媒の交換が行われる。
この操作は、バッチ式、セミバッチ式、または好ましくは連続式で、工程(a)から得られた反応粗製物と選択された水不混和性炭化水素溶媒を蒸留カラムに供給することにより、慣用の手段に従って行うことができる。
こうして、エタノールと水は上部の生成物として回収され、無水炭化水素溶媒中のVICビスアミナールが下部で回収される。
この蒸留は、好ましくは減圧下で、典型的には数分間で行ない、VIC-異性体に富んだ炭化水素の流れが得られ、後に続く反応工程に直接使用するか、あるいは、後処理をして最終生成物として回収する。
いずれの場合も、観察されるGEM異性体への変換はないか最小限である。
適切な炭化水素溶媒とは、蒸留カラムの底部に留まりながら、エタノールと水を上澄みとして回収できるような溶媒のことである。
典型例としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカンなどの芳香族炭化水素または脂肪族炭化水素、あるいはそれらの混合物が挙げられる。
好ましくは、炭化水素溶媒は、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンまたはそれらの混合物から選択される。さらに好ましくは、炭化水素溶媒はトルエンである。
【0022】
還元剤に関して、上記水素化ジアルキルアルミニウムAlHRまたはトリアルキルアミンアランAlH・NR錯体において、R、RおよびRは、それぞれ独立して、C-Cの直鎖または分岐鎖のアルキル基を表す。非限定的な例として、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどが挙げられる。
より好ましくは、前記R、RおよびRは、それぞれ独立に、直鎖または分枝鎖のC-Cアルキル基である。
本発明の好ましい実施形態によれば、還元剤は、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)、ジメチルエチルアミンアラン錯体、またはそれらの混合物からなる群から選択される。
さらに好ましくは、還元剤は水素化ジイソブチルアルミニウムである。
前記還元剤は、例えばトルエン溶液として市販されているか、あるいは既知の方法に従って調製可能である。
水素化ジアルキルアルミニウムの調製に関する一般的な参考文献としては、例えば、T. Wartik and H. I. Schlesinger (J. Am.Chem.1953,75,835-839), H. Lehmkuhl、K. Ziegler (Methoden Org.Chem. (Houben-Weyl), 4th ed., Vol. XIII/4,Thieme,Stuttgart,1952,p.58)、およびJ. J. Eisch(Organometallic Syntheses 1981,vol.2,p.136,Academic Press: New York)を参照。
アラン錯体の調製に関する一般的な参考文献としては、例えば、T. D. Humpries et al. (Dalton Transaction 2013,42,6965-6978)、E. M. Marlett and W. S. Park (J. Org.Chem.1990,55,2968-2969)、およびR. A. Kovar et al. (Inorg. Synth. 1977,17,36-42)を参照。
【0023】
還元反応は4当量の還元剤を必要とし、2段階で起こる:第1段階での還元剤は、デカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジン内の第2級アミノ基の各水素原子を置換するために実際に必要であり、第2段階での還元剤は、環の還元に係るものであり、窒素原子がアルミニウム基に結合したまま(すなわち、>N-AlR)大環状テトラアザシクロドデカン構造が得られる。そして、以下に述べるように、公知の方法に従って後処理を行うことで、最終的にサイクレンとして回収が可能となる。
本発明の選択された前記の還元剤は、第1段階の還元剤、次いで、同じまたは異なる第2段階の還元剤を、一緒にして、または時間をかけて分けて、還元工程を受ける基質に添加される。
添加終了後、反応は通常、大気圧にて還流条件下で完了する。
【0024】
従って、さらに本発明は、工程(b)が、
(b’)選択された水素化ジアルキルアルミニウムもしくはトリアルキルアミンアラン錯体またはそれらの混合物を、炭化水素溶媒中のデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンの溶液に添加し;次いで
(b”)選択した炭化水素溶媒中で反応混合物を還流すること
を含む、サイクレンの製造方法である。
好ましくは、工程(b’)における還元剤の添加は、約0℃~約50℃の温度で、さらに好ましくは室温で、慣用の手段に従って(例えば、滴加するまたは何回かに分けて)行われる。
一方、工程(b”)の還流は、使用する炭化水素溶媒の選択に応じて、約100℃~約170℃の温度にて、選択した操作条件と採用する還元剤の選択に応じて、数時間~数日間、例えば約18時間~約96時間、にわたって行われる。
一例として、実際に、DIBAL-Hを用いて、反応混合物をトルエンの存在下、大気圧で約110℃、約18時間~約40時間、より好ましくは約20時間~約24時間還流させることにより、大環状誘導体(すなわちサイクレン前駆体)を定量的に形成することができた。
【0025】
驚くべきことに、本願発明者は、適切な選択性と高い収率を維持しながら、工程(b”)の反応時間を、例えば、約2時間~約12時間、さらに好ましくは約2時間~約6時間に劇的に短縮できることを発見した。実際に、反応混合物を加圧下で還流させることによって、上記のことが達成された。
従って、さらに本発明は、工程(b)が、
(b’)選択された水素化ジアルキルアルミニウムもしくはトリアルキルアミンアラン錯体またはそれらの混合物を、炭化水素溶媒中のデカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンの溶液に添加し;次いで
(b”)選択した炭化水素溶媒中で反応混合物を加圧下で還流すること
を含む、サイクレンの製造方法である。
この後者の場合、工程(b”)は、例えば約1~約6気圧の圧力下で運転することを意図した任意の適切なリアクターにおいて、慣用の手段に従って容易に達成できる。適切な加圧条件は、選択した炭化水素溶媒と採用した還流温度、例えば約120℃~約160℃によって容易に達成される。
好ましくは、前記したように、工程(b”)は、トルエン中で、加圧下、約120℃~約160℃の温度、例えば約140℃で、約2時間~約6時間の時間、例えば約4時間操作することにより行われる。
【0026】
最後に、サイクレンの単離は、例えば、還元剤としてDIBAL-Hを用いる反応の後処理(Fieser,L. F.; Fieser,M. Reagents for Organic Synthesis; John Wiley and Sons: New York, 1967; Vol.1, p.260)に基づき、Yamamoto and Reed (J. Am. Chem. Soc., Vol. 103,No.14,1981,p.4186-4194 and J. Org. Chem. 1996, 61, 5186-5187)に記載されているような既知の手順に従って行うことができる。
この場合、工程(b)の最後に得られた大環状誘導体内のAl-イソブチルを水で加水分解し、NaFまたはNaOHで処理すると、アルミニウムがフッ化物または水酸化物として沈殿する。適当な溶媒、例えばトルエンとクロロホルムの混合溶媒で最終的に抽出した後、得られた生成物を精製すると、ビスアミナール供給物中に存在するVIC異性体を基準として、80~90%の単離収率でサイクレンが得られる。
【0027】
以上のことから、本発明の、そして工程(a)または(b)に言及し得る任意の好ましい実施形態が互いに好適に組み合わされ得ることは、当業者には明らかである。一例として、例えば、グリオキサールの水溶液をアミンのエタノール溶液に添加する時間、および工程(a)による反応完了までの時間を含む本製造方法のパラメーターはいずれも、選択された反応温度と好適に組み合わせることができる。同様に、上記は、炭化水素溶媒の選択、選択された還元剤、および本製造方法の工程(b)に言及するパラメーターのいずれにも(例えば、適用される温度および/または圧力条件を含む)適用され得る。
【0028】
本発明のさらなる実施形態はまた、前述のいずれかの好ましい操作条件と共に、本製造方法の上記工程(a)および工程(b)自体のそれぞれによって表される。
具体的には、本発明のさらなる目的は、デカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンの製造方法であって、グリオキサールの水溶液を無水エタノール中のトリエチレンテトラミンの溶液に添加し、反応を約1時間またはそれ以下の時間行うことを含む製造方法である。
【0029】
さらに、本発明の目的は、水素化ジアルキルアルミニウムまたはトリアルキルアミンアラン錯体またはそれらの混合物からなる群から選択される還元剤を、炭化水素溶媒中のデカヒドロジイミダゾ[1,2-a.2’,1’-c]ピラジンの溶液に添加し、窒素原子がジアルキルアルミニウム基に結合したままの1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン誘導体を得、次いで公知の方法に従ってサイクレンに変換する(ここで、前記アルキル基は、それぞれ同一または異なる直鎖または分枝鎖のC-Cアルキル基から選択される)ことを含む、サイクレンの製造方法である。
【0030】
最後に、前述のN-(2-ピペラジン-1-イルエチル)エタン-1,2-ジアミンは、様々な用途(例えば樹脂およびポリマーの分野で硬化添加剤として)が知られている既知の化合物であるため、上記GEM誘導体をトリ水素化アルキルアルミニウムまたはトリアルキルアミンアラン錯体で還元することによる製造方法は、本発明のさらなる目的である。
【0031】
本発明の製造方法に関する更なる詳細は、以下の実験セクションに記載するが、その目的は単に、さらなる説明のためであり、限定するものではない。
【実施例
【0032】
実施例1
デカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジン(すなわちVIC-ビスアミナール)のフェドバッチ合成
トリエチレンテトラミン二水和物(30グラム、164.6ミリモル)と600mLの無水エタノールを、攪拌機付きの1リットル容の3つ口丸底フラスコに入れた。溶液を5℃に冷却し、40%グリオキザール水溶液(24グラム、164.6ミリモル)を35分かけてゆっくり加えた。この溶液を10分間置いた後、150グラムのトルエンを含む5トレイの蒸留カラムの底に供給した。減圧下、カラム底温度35~40℃にて蒸留を行い、Dean-Starkセパレーターを用いてカラム上部から水相/エタノール相を抜き出した。残留溶媒を除去後、VIC/GEM比6.1/1(VIC選択率86%、クロマトグラフィー収率83%)の固体29グラムを得た。
【0033】
実施例2
デカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジン(すなわちVIC-ビスアミナール)のフェドバッチ合成
トリエチレンテトラミン二水和物(10.3グラム、56.3ミリモル)と205mLの無水エタノールを、攪拌機付きの1リットル容の3つ口丸底フラスコに入れた。溶液を5℃に冷却し、40%グリオキザール水溶液(8.18グラム、56.3ミリモル)を10分かけてゆっくり加えた。溶液を30分間置いた後、減圧下で14mLまで濃縮した。濃縮溶液を、60グラムのトルエンを含む5トレイの蒸留カラムの底に供給した。減圧下、カラム底温度35~40℃にて蒸留を行い、Dean-Starkセパレーターを用いてカラム上部から水相/エタノール相を抜き出した。残留溶媒を除去後、VIC/GEM比6.7/1(VIC選択率87%、クロマトグラフィー収率84%)の固体10グラムを得た。
【0034】
実施例3
デカヒドロジイミダゾ[1,2-a:2’,1’-c]ピラジンの連続合成
本製造方法の工程(a)を連続モードで実施し、反応物の2つの流れの各々(すなわち無水エタノール中のグリオキサールと40%トリエチレンテトラミン水溶液)が管状リアクターの入口から供給される場合、反応動力学は純粋なバッチリアクターで起こるものをシミュレートできる。しかし、この方法ではVICの選択率が65%と低いため、CSTRカスケードによる表題化合物の連続合成のシミュレーションモデルを実施した。
より具体的には、このシミュレーションモデルは、連続リアクターをCSTRカスケードとして表現しており、トリエチレンテトラミンエタノール溶液を第1セルに供給し、40%グリオキザール水溶液の総量を、CSTRの段数に等しい数に分配して供給し、各部を各段に順次供給する。
VICビスアミナールの合成は、10段のCSTRカスケードでシミュレーションされ、各段の容積は20mL、総容積は200mLであった。無水エタノール中の濃度0.317モル/Lのトリエチレンテトラミン溶液を、0.04L/分の速度で第1段に供給する。グリオキザールの40%水溶液を0.145mL/minの速度で各段に供給する。温度は25℃、全体の滞留時間は5分である。
シミュレーションモデルの解析から、グリオキザール水溶液の流れをリアクターの長さ方向に分散させることで、VIC異性体に対する選択性を驚くことに80%以上まで高めることができ、最終的なトリエチレンテトラミン変換率は94%に達することが観察された。このモデルは、次の表のように、最後のCSTRから出るストリームにおけるVIC選択性が、リアクターを形成するCSTRの数とともに増加することを予測するものである。
【表1】
【0035】
実施例4
DIBAL-Hによるビスアミナール混合物(VIC/GEM=5)の還元
ビスアミナール混合物(1g,5.94mmol,VIC/GEM=5,VIC=83%)を100mL容のシュレンク管に入れ、真空-アルゴンサイクルを3回行い、冷水浴(約8℃)に入れた。次に、トルエン中の4.5当量のDIBAL-Hの1M溶液(26.75mL、26.75mmol)をアルゴン気流下で滴加した。透明な淡黄色の溶液ができた後、シュレンク管をオイルバスに入れ、還流温度で40時間撹拌した。溶液を室温まで冷却し、NaF(4.54g,108mmol,18当量)を加えて懸濁液とし、氷浴中で10分間撹拌した。水1.62mL(90mmol,15当量)を5分かけて滴加した。スラリーを75℃に加熱し、30分間撹拌した後、セライトパッドで濾過した。ケーキを熱トルエン(3x20mL)とEtOH(2x10mL)で洗浄し、溶媒を真空留去して、900mgの白色生成物を得た(収率88%)。粗製物の13C{H}NMR分析により、85%のサイクレン(δ=45.9ppm)と15%のN-(2-ピペラジン-1-イルエチル)エタン-1,2-ジアミンが得られた。
【0036】
実施例5
DIBAL-Hによるビスアミナール混合物(VIC/GEM=5)の還元(10gスケール)
ビスアミナール混合物(10g,59.4mmol,VIC/GEM=5,VIC=83%)を500mL丸瓶フラスコに入れ、真空-アルゴンサイクルを3回行った。次に、トルエン中の4.5当量のDIBAL-Hの1M溶液(267.5mL、267.5mmol)を、アルゴン気流下、何回かに分けて加えた。混合物を完全に溶解した後、フラスコをオイルバスに入れ、加熱中に発生した過圧を取り除き、還流温度にて24時間機械的に撹拌した。溶液を室温に冷却し、NaF(45.4g,1080mmol,18当量)を加え、懸濁液を10分間撹拌した。フラスコを氷浴に入れ、水16.2mL(900mmol,15当量)を1時間かけて滴加した。スラリーを70℃で15分間撹拌し、ガラス漏斗フィルターでろ過した。ケーキを熱トルエン(3x50mL)、EtOH(2x50mL)で洗浄し、溶媒を真空留去して、7gの白色の生成物を得た(68%)。粗製物の13C{H}NMR分析により、80%のサイクレンと20%のN-(2-ピペラジン-1-イルエチル)エタン-1,2-ジアミンが得られた。
【0037】
実施例6
DIBAL-Hによるビスアミナール混合物(VIC/GEM=5)の還元(140℃にて加圧下)
ビスアミナール混合物(336mg,2mmol,VIC/GEM=5,VIC=83%)を25mL容のシュレンク管に入れ、真空-アルゴンサイクルを3回行った。次に、トルエン中の4.5当量のDIBAL-Hの1M溶液(9mL、9mmol)をアルゴン気流下で滴加した。完全に溶解した後、アルゴン下で混合物をカニューレで密閉ガラスリアクターに移し、オイルバスに入れ、140℃で4時間撹拌した。溶液を室温に冷却し、NaF(1.55g,36mmol,18当量)を添加した。懸濁液を冷水浴(約8℃)に入れ、水480μL(27mmol,13当量)を注意深く滴加した。スラリーを70℃で15分間撹拌し、ガラス漏斗フィルターでろ過した。ケーキを熱トルエン(3x10mL)、EtOH(2x5mL)で洗浄し、溶媒を真空留去して、296mgの白色の生成物を得た(収率86%)。粗製物の13C{H}NMR分析により、91%のサイクレンと9%のN-(2-ピペラジン-1-イルエチル)エタン-1,2-ジアミンが得られた。
【0038】
実施例7
DIBAL-Hによるビスアミナール混合物(GEM/VIC=5)の還元
ビスアミナール混合物(168mg,1mmol,GEM/VIC=5,GEM=83%)を100mLのシュレンク管に入れ、真空-アルゴンサイクルを3回行った。次に、トルエン中の4.5当量のDIBAL-Hの1M溶液(4.5mL、4.5mmol)を滴加した。混合物を完全に溶解した後、シュレンク管をオイルバスに入れ、加熱中に発生した過圧を取り除き、還流温度で攪拌した。40時間後、溶液を室温に冷却し、NaF(755mg,18mmol,18当量)を加え、懸濁液を10分間撹拌した。シュレンク管を冷水浴(約8℃)に入れ、水240μL(13.3mmol、13当量)を注意深く滴加した。スラリーを70℃で15分間撹拌し、ガラス漏斗フィルターでろ過した。ケーキを熱トルエン(3x5mL)、EtOH(2x5mL)で洗浄し、溶媒を真空留去して、150mgの白色の生成物を得た(収率87%)。粗製物の13C{H}NMR分析により、80%のN-(2-ピペラジン-1-イルエチル)エタン-1,2-ジアミン(δ=58.4,54.4,52.6,46.0,45.9,41.6ppm)と、20%のサイクレンが得られた。
【0039】
実施例8
サイクレンの合成
トリエチレンテトラミン二水和物30g(165mmol)とエタノール600mLを500mLフラスコに導入し、無色透明の溶液を得た。この溶液を氷浴で5℃まで冷却し、40%グリオキサール水溶液24g(165mmol)を35分かけて加えた。反応液を10分間5℃に保った。透明な黄色の溶液を減圧下、50℃で濃縮して溶媒を除去し、透明なオレンジ色の液体33gを得た。
トルエン(150g)を加え、混合物を5プレートカラム、重相回収ヘッド、濃縮器を備えた250mL容の三口フラスコに注いだ。この系を真空に接続し、オイルバス(プレートセット45℃、Tout 38℃、Tin 35℃)中、35~40℃に加熱し、留出液を採取して廃棄した。蒸留の最後にロータリーエバポレーターで完全に蒸発させ、VIC異性体を83.8%(クロマトグラフィー分析)含むワックス状の黄色がかった固体(29g)を得た。
得られたビスアミナール10g(59.4mmol)とトルエン20mLを、マグネチックスターラーバーと滴下漏斗を備えた500mL三口フラスコに導入し、黄色の透明溶液を得た。内部温度は28℃であった。窒素加圧下、カニューレを用いて、トルエン中の25%DIBAL-H(268mmol)180mLを滴下漏斗に注ぎ、室温で、窒素雰囲気(滴下漏斗上に窒素を入れる)を維持しながら、DIBAL-Hのトルエン溶液をゆっくりと加えた(1.5時間)。発熱が起こり、温度が40℃まで上昇し、氷浴で系を冷却した。発熱は、最初の70mLの溶液の添加後に終わった。添加終了後、滴下漏斗を取り外し、還流冷媒と交換した。系を還流温度(120℃にセット)に20時間保った。NaFとエタノールで処理した1mLの分析試料をクロマトグラフィーで測定したところ、ビスアミナールの変換率は96%、サイクレンへの還元収率は80%であった。トリエチレンテトラミンに対するサイクレンの全体の収率は70%であった。
【0040】
実施例9
DIBAL-HおよびアランN,N-ジメチルエチルアミン錯体溶液によるビスアミナール混合物(VIC/GEM=5)の還元
ビスアミナール混合物(168mg,1mmol,VIC/GEM=5,VIC=83%)を25mL容のシュレンク管に入れ、真空-アルゴンサイクルを3回行った。次に、トルエン中の2.1当量のDIBAL-Hの1M溶液(2.1mL、2.1mmol)をアルゴン気流下で滴加した。完全に溶解した後、トルエン中の1.5当量の0.5MアランN,N-ジメチルエチルアミン錯体(NMeEt・AlH)溶液(3mL、1.5mmol)を加えた。シュレンク管をオイルバスに入れ、加熱中に発生した過圧を除去し、還流温度で96時間撹拌した。溶液を室温に冷却し、NaF(755mg、18mmol、18当量)を加え、懸濁液を10分間撹拌した。シュレンク管を冷水浴(約8℃)に入れ、水240μL(13.3mmol、13当量)を注意深く滴加した。スラリーを70℃で15分間撹拌し、ガラス漏斗フィルターでろ過した。ケーキを熱トルエン(3x50mL)、EtOH(2x50mL)で洗浄し、溶媒を真空留去して、白色の生成物147mg(収率85%)を得た。粗製物の13C{H}NMR分析により、83%のサイクレンと17%のN-(2-ピペラジン-1-イルエチル)エタン-1,2-ジアミンおよびVICとGEMの出発物質が得られた。
【国際調査報告】