(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-19
(54)【発明の名称】ポリアミド用酸洗い剤
(51)【国際特許分類】
C23C 18/24 20060101AFI20240312BHJP
C23C 18/26 20060101ALI20240312BHJP
【FI】
C23C18/24
C23C18/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561013
(86)(22)【出願日】2022-03-28
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 EP2022058134
(87)【国際公開番号】W WO2022207559
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523374378
【氏名又は名称】ハーエスオー ヘルベルト シュミット ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェタホヴィチュ、アルメディナ
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA15
4K022BA14
4K022CA02
4K022DA01
(57)【要約】
ポリアミドを酸洗いするプロセスであって、a)ポリアミドを、2種類以上の無機酸の混合物、MHF2(式中、Mはアルカリイオン又はアンモニウムイオンである)、炭素原子を1~5個有するモノカルボン酸を含む酸洗い溶液と接触させる工程、b)炭素原子を1~10個有する有機溶剤と接触させる工程を含み、ここで工程a)及びb)は、連続的に又は同時に行われる、前記プロセス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドを酸洗いするプロセスであって
a)ポリアミドを、
2種類以上の無機酸の混合物、
MHF
2(式中、Mはアルカリイオン又はアンモニウムイオンである)、
炭素原子を1~5個有するモノカルボン酸
を含む酸洗い溶液と接触させる工程、
b)炭素原子を1~10個有する有機溶剤と接触させる工程
を含み、
ここで工程a)及び工程b)は、連続的に又は同時に行われる、前記プロセス。
【請求項2】
前記無機酸が、塩酸、リン酸、硫酸、硝酸であり、特に塩酸及びリン酸である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記有機溶剤が、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、及びグリコールエーテル、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタン-1-オール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、ジプロピレングリコールメチルエーテル、及びそれらの混合物から選択される、請求項1又は請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記MHF
2が、NaHF
2、KHF
2、又はそれらの混合物である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記モノカルボン酸が、メタン酸、エタン酸、プロパン酸、又はそれらの混合物である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記酸洗い溶液における濃度が、
無機酸の混合物は1~5mol/l、
MHF
2は10~60g/l、
モノカルボン酸は50~300g/l、
任意選択的に(optionally)、有機溶剤は30~100g/l
である、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記接触は20~50℃で行われる、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記接触は3~15分間実施される、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
1つ以上のすすぎ工程が用いられる、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
触媒を含む工程が後に続く、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
無電解ニッケルめっき工程が後に続く、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
2種類以上の無機酸の混合物、
MHF
2(式中、Mはアルカリイオン又はアンモニウムイオンである)、
炭素原子を1~5個有するモノカルボン酸
を含む酸洗い溶液。
【請求項13】
さらに、炭素原子を1~5個有する有機溶剤を含む、請求項12に記載の酸洗い溶液。
【請求項14】
前記酸洗い溶液における濃度が、
無機酸の混合物は1~5mol/l、
MHF
2は10~60g/l、
モノカルボン酸は50~300g/l、
任意選択的に(optionally)、有機溶剤は30~100g/l
である、請求項12又は請求項13に記載の酸洗い溶液。
【請求項15】
前記無機酸が、塩酸、リン酸、硫酸、及び硝酸からなる群より選択される、請求項12~請求項14のいずれか一項に記載の酸洗い溶液。
【請求項16】
前記無機酸が、塩酸及びリン酸を含む、請求項12~請求項14のいずれか一項に記載の酸洗い溶液。
【請求項17】
ポリアミドを酸洗いするための、請求項12~請求項16のいずれか一項に記載の酸洗い溶液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後続のメタライゼーション(metallization)の前にポリアミドを酸洗いするためのプロセス、及びこの目的のために使用される酸洗い溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド表面は、メタライズする前に、金属層が接着するように、酸洗される必要がある。
【0003】
金属被覆(電気めっき)される典型的なプラスチックとして、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS)及びABSポリカーボネート(ABS-PC)が挙げられる。これらは、例えば自動車において、装飾要素、スイッチ、表示要素などに使用される。
【0004】
ポリアミド(PA)プラスチック表面は多くの場合、装飾上及び技術上の理由から、適切な金属層でコーティングされる。ポリアミド(PA)は自動車工学において、例えば、その特殊な特性から、ドアハンドル及び他の安全性に関連する構成要素に十分な強度を与えるために使用される。この点で必要とされる装飾的で貴重な文字は、接着性金属コーティングによって強調される。
【0005】
ポリアミド表面上に堆積された金属層の耐久性のためには、ポリアミド表面上に十分な接着強度を有することが決定的に重要である。したがって、相応の接着強度を形成するために、相応の金属堆積の前にポリアミド表面を粗面化/膨潤させて、堆積された金属層の十分な接着強度を確保することができるようにすることが、従来技術において一般的である。この目的のために、従来技術において様々な方法が知られている。典型的には、ポリアミド表面はクロム(VI)含有酸洗溶液及びフッ化物含有酸洗溶液の組み合わせで処理され、次いで金属化される。このようなクロム硫酸系酸洗い溶液は例えば、酸化クロム(VI)と硫酸とを1:1の重量比で含有しうる。
【0006】
ポリアミドのための典型的な酸洗い溶液は、クロムを含有するクロム(VI)系化合物を含む。しかしながら、クロム(VI)含有化合物は発がん性が疑われるので、これらの化合物の取扱いは厳格な環境保護及び労働安全規制の対象となる。REACHでは、欧州連合内でのクロム(VI)の商業的使用の禁止が予定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、言及された欠点の少なくともいくつかを克服する、特にクロム化合物を含有しない、ポリアミドで作られた成分を酸洗いするためのプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、ポリアミドを酸洗いするプロセスによって解決され、このプロセスは
a)ポリアミドを、
・2種類以上の無機酸の混合物
・MHF2(式中、Mはアルカリイオン又はアンモニウムイオンである)。
・炭素原子を1~5個有するモノカルボン酸
を含む酸洗い溶液と接触させる工程、
b)炭素原子を1~10個有する有機溶剤と接触させる工程
を含み、工程a)及びb)は、連続的に又は同時に行われる、前記プロセスである。
【0009】
本発明による組成物は、クロム(特にクロム(VI))に頼ることなく、後続の金属化のためのポリアミドの酸洗いを可能にする。
【0010】
酸洗い溶液は、クロムを実質的に含まず、特にクロム含有量が1mg/l未満であることが好ましい。
【0011】
このプロセスでは、ポリアミド(例えばポリアミド成分)の表面が粗面化され、微小な空洞が形成される。強鉱酸もアミド結合を切断することができる。
【0012】
本発明の一実施形態では、酸洗い溶液が2種類の無機酸、フッ化物源、及びモノカルボン酸を含有する。酸洗後、酸洗された生成物を有機溶剤と接触させる。
【0013】
別の実施形態では、酸性酸洗い溶液と有機溶剤との接触は同時に行われる。
【0014】
好適な無機酸としては特に、典型的な鉱酸塩酸、リン酸、硫酸、硝酸が挙げられ、塩酸及びリン酸が好ましい。
【0015】
特に好適なフッ化物源は、フッ化水素ナトリウム、フッ化水素カリウム及びフッ化水素アンモニウムである。
【0016】
好適なモノカルボン酸としては、メタン酸、エタン酸、プロパン酸又はそれらの混合物が挙げられる。
【0017】
1~10個のC原子を有する適切な有機溶剤としては、例えば、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、及びグリコールエーテル、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタン-1-オール、2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、ジプロピレングリコールメチルエーテル及びそれらの混合物が挙げられる。3~8個の炭素原子を有する化合物が好ましい。好ましくは、有機溶剤がアルコール及びエーテルから選択される。
【0018】
適切な濃度は、例えば
・無機酸の混合物が、酸洗い剤中において1~5mol/lの濃度
・MHF2が5~50g/l
・モノカルボン酸が50~300g/L
・任意選択的に、有機溶剤が30~100g/l
である。
体積は23℃で測定される。
【0019】
2種類の無機酸の混合物は、2種類の無機酸をそれぞれ独立に0.5~3mol/lの範囲で含有し得、好ましくは1~4mol/l又は2~4mol/lの総濃度で含有する。
【0020】
ポリアミドとの接触は、典型的には20~50℃の温度で、適切なやり方で行われる。適切な接触時間は約3~15分間である。
【0021】
本発明のプロセスを実施する場合、酸洗い溶液又は酸洗い溶液中の製品を動かすことは必ずしも必要ではない。いくつかの実施形態では、酸洗い溶液又は製品は酸洗い溶液中で撹拌される。
【0022】
酸洗いの後処理を進める前に、1つ以上のすすぎ工程を実施することが推奨される。
【0023】
多くの場合、すすぎ工程は2つ実施することが理にかなっている。特に好適なプロセスは、第1の高温すすぎ工程が25℃を超える温度で行われ、続いて室温で低温すすぎ工程が行われるプロセスである。高温すすぎ工程に適した温度範囲は、30~40℃である
【0024】
高温すすぎ工程及び低温すすぎ工程の両方について、表面濡れ性を向上するために、すすぎ溶液中に界面活性剤が含まれてもよい。界面活性剤は、高温すすぎ工程に含まれてもよく、低温すすぎ工程に界面活性剤が含まれなくてもよい。すすぎ工程における典型的な曝露時間は、3~10分である。
【0025】
1つ以上のすすぎ工程を、表面を中和するためのアルカリすすぎ工程として実施してもよい。高温すすぎ工程の間、空気注入によって洗浄溶液を撹拌してもよい。低温すすぎ工程は、典型的には浴撹拌なしで行われる。
【0026】
典型的なさらなるステップは、触媒と接触させて、酸洗い済み表面上に金属核を堆積させることである。このようなプロセスは当業者に公知であり、本発明に従って酸洗される表面にも使用することができる。この目的のための一般的な金属は例えば、パラジウム、白金(platinum)、銀又はルテニウムである。これらは、典型的にはコロイドとして、酸洗いされた表面と接触させられる。金属核の堆積が酸及びアルカリによって行われるプロセスは公知である。
【0027】
これに続いて、通常、銅又はニッケルの層を用いて、それらの金属塩からの還元による無電解金属化が行われる。原則として、例えばコバルト層、銅/ニッケル層、ニッケル/コバルト層又は金層を堆積させるための他の無電解めっきプロセスも知られている。いくつかの実施形態では、アンモニウムを用いない無電解ニッケルプロセスが使用される。
【0028】
次いで、他のプラスチックについて当業者に知られているように、外部電流を伴わないメタライゼーションの後に、さらなる層でコーティングしてもよい。
【0029】
したがって、好ましくは、本発明によるプロセスは以下の工程を含む:
・本発明の酸洗い剤により酸洗いすること、
・触媒により金属核を分離すること、
・第1の金属層を無電解めっきすること、及び(as well as)
・必要に応じて、さらなる金属層をめっきすること。
【0030】
また、本発明の目的は、以下を含む酸洗い溶液を提供することである:
・2種類以上の無機酸の混合物
・MHF2(式中、Mはアルカリイオン又はアンモニウムイオンである)。
・1~5個のC原子を有するモノカルボン酸。
【0031】
また、本発明の目的は、ポリアミド、特にPA6を酸洗いするための酸洗い溶液を使用することである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、本実施例によってより詳細に説明される。
【実施例】
【0034】
実施例1:酸洗
成分を以下の組成の酸洗い溶液で処理した。
・HCl37%-ig:150ml/L
・H3PO485%-ig:100ml/L
・2-(2-ブトキシエトキシ)エタノール:50ml/L
・重フッ化アンモニウム:35g/L
・ギ酸:100ml/L
・残量:水
40℃で5分間酸洗した。
酸洗ポリアミドは、サイズ3dm2のPA6M40試験片であった。
【0035】
比較として、同一のポリアミドを市販のクロム(VI)酸洗い剤(CrO3 380g/l、H2SO4 380g/l)で酸洗した。
【0036】
本発明による実施例及び比較例のSEM画像2つを
図1及び
図2に示す。
【0037】
表面構造の侵襲の仕方が異なることが分かる。質的な差異は、このレベルでは事実上評価できない。
【0038】
実施例2 洗浄(Flushing)及び活性化(activation)
表面を最初に空気撹拌しながら35℃で5分間すすぎ、次いで撹拌無し且つ湿潤剤の添加無しで室温で2分間冷却し、パラジウム濃度40mg/Lのパラジウム含有触媒を用いて40℃で4分間活性化した。次いで、表面において堆積されたパラジウムの量を測定した。本発明に従ってエッチングされたポリアミドについては>0.3mg/dm2超であり、比較製品については0.3mg/dm2であった。パラジウムをより多量にローディングすると、層の無電解めっきはより促進される。
【0039】
実施例3:無電解析出
このようにして得られた生成物を、次の工程において、外部電流なしでニッケル溶液めっきでコーティングした。
【0040】
実施例4:分析
本発明に従う生成物によれば、DIN53494に従う剥離強度試験(pull-off test)で15 N/cm超である剥離強度が達成され得、比較生成物では8N/cmが達成され得る。この規格に従って亜鉛めっきプラスチック部品の金属層の剥離力を決定することにより、平滑で平坦な表面を有する試験片に対するプロセスの比較評価及びプロセスパラメータの影響の調査が可能となる。前記規格における剥離力とは、試料表面に対して垂直に40μm厚の銅層の25mm幅の条片を剥離するのに必要な、単位Nの力を意味する。
【0041】
別の比較製品として、ATO社より入手した製品を使用した。
400ml/lのPA Sweller Concentrate及び130ml/l PAのコンディショナーを以って40℃で5分間処理し、
40 ℃で8分間すすぎ、
さらに冷水で4分間ずつ2回すすぐ処理
を行ったこと以外、工程は同一であった。ここでは、剥離強度6.9N/cmのニッケル層のみを達成することができた。
【0042】
本結果は、環境に優しい、クロム非含有の酸洗い剤を使用するにもかかわらず、最新技術よりも優れた接着レベルが達成されることを示す。
【0043】
実施例5:溶媒のバリエーション
溶媒の種類を、以下に示すように変更した。
表面エネルギーは、DIN 55660-2の、接触角の測定による固体表面の自由表面エネルギーの決定に従って測定した。Kruss Advanceソフトウェアを使用した。
【0044】
【0045】
続いて、すすぎ、活性化、及びその後の堆積を上記のように行った。活性化後、パラジウム取り込みを測定し、堆積後、接着性を一定期間にわたってモニターした。最後に、衝撃試験(100℃で1時間、続いて急冷)を最大3回まで反復実施し視覚的に評価した。
【0046】
【0047】
衝撃試験では、コーティングの安定性が異なることが示された。用途によっては、当該用途に適するためには反復に合格する必要はない。
【0048】
実施例6:成分の関連性
これらの実験は、溶媒として2-(2-ブトキシエトキシ)エタノールを用いて行った。
【0049】
【0050】
実施例5におけると同様に、さらなる分析を実施した。
【0051】
【0052】
実施例7:濃度のバリエーション
【0053】
【0054】
【国際調査報告】