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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】分子検出のためのスケーラブル回路
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240313BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240313BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20240313BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240313BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/6869 Z
G01N27/00 Z
G01N27/00 J
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022580754
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-02-07
(86)【国際出願番号】 US2022020395
(87)【国際公開番号】W WO2022212038
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】63/169,041
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500358711
【氏名又は名称】イルミナ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【弁理士】
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(74)【代理人】
【識別番号】100221556
【弁理士】
【氏名又は名称】金田 隆章
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ボヤノフ,ボイヤン
【テーマコード(参考)】
2G060
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G060AA15
2G060AA19
2G060AD06
2G060AF03
2G060AF20
2G060AG03
2G060AG11
2G060FA07
2G060FA10
2G060FA17
2G060HA02
2G060JA07
2G060KA09
4B029AA07
4B029CC01
4B029FA10
4B029GA03
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QQ62
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR82
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX05
(57)【要約】
一態様では、開示された技術は、ポリヌクレオチドをシーケンシングするためのシステム及び方法に関する。一実施形態では、開示された技術は、ヌクレオチドを識別するためのナノポアセンサ装置であって、このナノポアセンサ装置は、1つ以上のシスウェルと、1つ以上のシスウェルに関連した1つ以上のシス電極と、複数のトランスウェルであって、複数のトランスウェルの各々が、ナノポアを有する脂質又は固体膜によって1つ以上のシスウェルから分離されている、複数のトランスウェルと、複数のトランスウェルのうち1つと関連した複数のFETの各々である、複数の電界効果トランジスタ(field effect transistor:FET)と、1つ以上のシス電極と複数のFETのソース端子との間に交流(alternating current:AC)入力を提供するように構成された電源と、複数のFETへと動作可能に結合されたコントローラであって、このコントローラが複数のFETのAC応答を測定するように構成されており、AC応答が、ナノポア内又はナノポア内近くのヌクレオチドの同一性に依存する、コントローラと、を含み得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレオチドを識別するためのナノポアセンサ装置であって、
1つ以上のシスウェルと、
1つ以上のシスウェルに関連した1つ以上のシス電極と、
複数のトランスウェルであって、複数のトランスウェルの各々が、ナノポアを有する脂質又は固体膜によって1つ以上のシスウェルから分離されている、複数のトランスウェルと、
複数のトランスウェルのうち1つと関連した複数のFETの各々である、複数の電界効果トランジスタ(FET)と、
前記1つ以上のシス電極と前記複数のFETのソース端子との間に交流(AC)入力を提供するように構成された電源と、
前記複数のFETに動作可能に結合されたコントローラであって、前記コントローラが前記複数のFETのAC応答を測定するように構成され、ここで、前記AC応答が、前記ナノポア内又は前記ナノポア近くの前記ヌクレオチドの同一性に依存する、コントローラと、
を備える、ナノポアセンサ装置。
【請求項2】
前記コントローラが、前記AC応答の振幅の変化を測定するように構成されている、請求項1に記載のナノポアセンサ装置。
【請求項3】
前記コントローラが、前記AC応答の前記波形状の変化を測定するように構成されている、請求項1に記載のナノポアセンサ装置。
【請求項4】
前記電源が、正弦波形、方形波形、三角波形、のこぎり波形、又は陽電位と陰電位との間で交互になった別の好適な波形に、AC電圧を提供するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のナノポアセンサ装置。
【請求項5】
前記ナノポアを通るイオンフラックスが、前記ナノポアを通過するヌクレオチド、ポリヌクレオチドに組み込まれるヌクレオチド上の標識、又はそれらの任意の組合せによって変調される、請求項1~4のいずれか一項に記載のナノポアセンサ装置。
【請求項6】
ヌクレオチドを識別する方法であって、
シスウェル及びトランスウェルを分離する膜内にナノポアを提供することと、
前記シスウェル内のシス電極及び前記トランスウェル内のFETの前記ソース端子に動作可能に結合された電源からのAC入力を提供することと、
前記FETからのAC応答を測定することであって、ここで、前記AC応答が、前記ナノポア内又は前記ナノポア近くのヌクレオチドの同一性に依存する、測定することと、
を含む、方法。
【請求項7】
前記AC応答を測定することが、前記AC応答の前記振幅の変化を測定することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記AC応答を測定することが、前記AC応答の前記波形の変化を測定することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記AC入力を提供することが、正弦波形、方形波形、三角波形、のこぎり波形、又は陽電位と陰電位との間で交互になった別の好適な波形に、AC電圧を提供することを含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記AC応答を測定することが、定常状態応答に近づくために過渡応答を待つことなく、第1のヌクレオチドと関連した第1の応答及び第2のヌクレオチドと関連した第2の応答を測定することを含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
ヌクレオチドを識別するためのセンサ装置であって、
電極と、
FETと、
前記電極へと動作可能に結合された一端を有する部分的二本鎖核酸ポリマー及び前記FETの前記ゲート端子へと動作可能に結合された他端と、
前記電極と前記FETの前記ソース端子との間にAC入力を提供するように構成された電源と、
前記FETに動作可能に結合されたコントローラであって、前記コントローラが前記FETのAC応答を測定するように構成されており、ここで、前記AC応答が、前記部分的二本鎖核酸ポリマーと相互作用するヌクレオチドの同一性に依存する、コントローラと、
を備える、センサ装置。
【請求項12】
前記コントローラが、前記AC応答の前記振幅の変化を測定するように構成されている、請求項11に記載のセンサ装置。
【請求項13】
前記コントローラが、前記AC応答の前記波形状の変化を測定するように構成されている、請求項11に記載のセンサ装置。
【請求項14】
前記電源が、正弦波形、方形波形、三角波形、のこぎり波形、又は陽電位と陰電位との間で交互になった別の好適な波形に、AC電圧を提供するように構成されている、請求項11~13のいずれか一項に記載のセンサ装置。
【請求項15】
前記部分的二本鎖核酸ポリマーを通る電気伝導が、ポリヌクレオチドに組み込まれているヌクレオチド上の核酸標識によって変調され、前記核酸標識が、前記部分的二本鎖核酸ポリマーと部分的に相補的である、請求項11~14のいずれか一項に記載のセンサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年3月31日に出願された米国仮特許出願第63/169041号の利益を主張し、その全内容は参照によりその全体が組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
いくつかのポリヌクレオチドシーケンシング技術は、支持表面の上で、又は所定の反応チャンバの内部で、非常に数多くの制御された反応を実施することを伴う。次いで、制御された反応を観察又は検出することができ、その後の分析は、反応に関与するポリヌクレオチドの特性を識別するのに役立ち得る。そのようなシーケンシング技術の例としては、ライゲーションによるシーケンシング、合成によるシーケンシング、可逆的ターミネータ化学、若しくはパイロシーケンシングアプローチを伴う次世代シーケンシング又は大規模並列シーケンシングが挙げられる。
【0003】
いくつかのポリヌクレオチドシーケンシング技術はナノポアを利用し、イオン電流の経路を提供することができる。例えば、ポリヌクレオチドがナノポアを通って横断する際、ナノポアを通る電流に影響を及ぼす。ナノポアを通過する各通過ヌクレオチド、又は一連のヌクレオチドは、特徴的な電流を生じる。通過ポリヌクレオチドのこれらの特徴的な電流を記録して、ポリヌクレオチドの配列を決定することができる。
【0004】
しかしながら、最新のナノポアシーケンシング技術の状態は、いくつかの問題に悩まされ得る。例えば、ナノポアの電気化学的DC電流読み出しは、小さなトランスウェル容積にはスケーラブルでない。更に、細孔を通る小さな電流により増幅器は大きくなる。その上、大きな二重層静電容量はスイッチング読み出しを困難にする。更に、大きな抵抗器-コンデンサ(resistor-capacitor:RC)は、二重層の充電又は放電中に過渡的である。以前の方法は、直流(direct current:DC)又は方形波入力を適用することができ、これは、定常状態信号を読み取る前に、過渡電気応答の減衰を待つことが必要となる。したがって、従来のナノポアのイオン電流を測定することは、RC過渡性を誤って測定し得る。
【発明の概要】
【0005】
本明細書の実施例では、バイオポリマーをシーケンシングするためのシステム及びシステムを用いる方法が提供される。
【0006】
一態様では、ヌクレオチドを識別するためのナノポアセンサ装置が本明細書に開示される。装置は、1つ以上のシスウェルと、1つ以上のシスウェルに関連した1つ以上のシス電極と、複数のトランスウェルであって、複数のトランスウェルの各々が、ナノポアを有する脂質又は固体膜によって1つ以上のシスウェルから分離されている、複数のトランスウェルと、複数のトランスウェルのうち1つと関連した複数のFETの各々である、複数の電界効果トランジスタ(field effect transistor:FET)と、1つ以上のシス電極と複数のFETのソース端子との間に交流(alternating current:AC)入力を提供するように構成された電源と、複数のFETへと動作可能に結合されたコントローラであって、このコントローラが複数のFETのAC応答を測定するように構成されており、AC応答が、ナノポア内又はナノポア内近くのヌクレオチドの同一性に依存する、コントローラと、を含み得る。いくつかの実施形態では、コントローラは、AC応答の振幅の変化を測定するように構成されている。いくつかの実施形態では、コントローラは、AC応答の波形状の変化を測定するように構成されている。いくつかの実施形態では、電源は、正弦波形、方形波形、三角波形、のこぎり波形、又は陽電位と陰電位との間で交互になった別の好適な波形に、AC電圧を提供するように構成されている。いくつかの実施形態では、ナノポアを通るイオンフラックスは、ナノポアを通過するヌクレオチド、ポリヌクレオチドに組み込まれるヌクレオチド上の標識、又はそれらの任意の組合せによって変調される。
【0007】
一態様では、ヌクレオチドを識別する方法が、本明細書に開示される。本方法は、シスウェル及びトランスウェルを分離する膜内にナノポアを提供することと、シスウェル内のシス電極及びトランスウェル内のFETのソース端子へと動作可能に結合された電源からのAC入力を提供することと、FETからのAC応答を測定することと、を含んでもよく、ここで、AC応答は、ナノポア内又はナノポア近くのヌクレオチドの同一性に依存する。いくつかの実施形態では、AC応答を測定することは、AC応答の振幅の変化を測定することを含む。いくつかの実施形態では、AC応答を測定することは、AC応答の波形の変化を測定することを含む。いくつかの実施形態では、AC入力を提供することは、正弦波形、方形波形、三角波形、のこぎり波形、又は陽電位と陰電位との間で交互になった別の好適な波形に、AC電圧を提供することを含む。いくつかの実施形態では、AC応答を測定することは、定常状態応答に近づくために過渡応答を待つことなく、第1のヌクレオチドと関連した第1の応答及び第2のヌクレオチドと関連した第2の応答を測定することを含む。
【0008】
一態様では、ヌクレオチドを識別するためのセンサ装置が、本明細書に開示される。本装置は、電極と、FETと、電極へと動作可能に結合された一端を有する部分的二本鎖核酸ポリマー及びFETのゲート端子へと動作可能に結合された他端と、電極とFETのソース端子との間にAC入力を提供するように構成された電源と、FETに動作可能に結合されたコントローラであって、コントローラがFETのAC応答を測定するように構成されており、AC応答が、部分的二本鎖核酸ポリマーと相互作用するヌクレオチドの同一性に依存する、コントローラと、を備え得る。いくつかの実施形態では、コントローラは、AC応答の振幅の変化を測定するように構成されている。いくつかの実施形態では、コントローラは、AC応答の波形状の変化を測定するように構成されている。いくつかの実施形態では、電源は、正弦波形、方形波形、三角波形、のこぎり波形、又は陽電位と陰電位との間で交互になった別の好適な波形に、AC電圧を提供するように構成されている。いくつかの実施形態では、部分的二本鎖核酸ポリマーを通る電気伝導は、ポリヌクレオチドに組み込まれているヌクレオチド上の核酸標識によって変調され、核酸標識は、部分的二本鎖核酸ポリマーと部分的に相補的である。
【0009】
本明細書で開示されるシステム、装置、キット、及び方法は各々いくつかの態様を有し、それらのうち1つだけがそれらの望ましい属性を単独で担うことはない。特許請求の範囲を限定することなく、いくつかの顕著な特徴を簡単に説明する。より少ない、追加の及び/又は異なる構成要素、工程、特徴、目的、利益、及び利点を有する例を含む、多数の他の例もまた企図される。構成要素、態様、及び工程はまた、異なるように配置及び順序付けされてもよい。この説明を考慮した後、特に「発明を実施するための形態」と題されたセクションを読んだ後、本明細書に開示された装置及び方法の特徴が他の既知の装置及び方法を超える利点をどのように提供するかを理解するであろう。
【0010】
本明細書で開示される装置及び/又はアレイの任意の特徴は、任意の所望の様式及び/又は構成で一緒に組み合わせてもよいものと理解されるべきである。更に、本装置を用いる本方法の任意の特徴を、任意の所望の様式で一緒に組み合わせてもよいことを理解されたい。その上、この方法の特徴、及び/若しくは装置及び/若しくはアレイの特徴の任意の組合せを一緒に使用してもよく、並びに/又は本明細書に開示された例のいずれかと組み合わせてもよいことを理解されたい。また更には、装置及び/若しくはアレイのいずれかの特徴、並びに/若しくは本方法のいずれかの特徴の任意の特徴又は組合せは、任意の所望の様式で一緒に組み合わせてもよく、並びに/又は本明細書で開示された例のいずれかと組み合わせてもよいことを理解されたい。
【0011】
以下でより詳細に考察される前述の概念及び追加の概念の全ての組合せが、本明細書に開示される発明の主題の一部であると考えられ、本明細書に記載される便益及び利点を実現するために使用されてもよいことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示の例の特徴は、以下の詳細な説明及び図面を参照することにより明らかになろう。図面において、同様の参照番号は、類似なものではあるが、おそらく同一ではない構成要素に対応している。簡潔にするために、前述の機能を有する参照番号又は特徴は、それらが現れる他の図面と関連させて記載してもよく、記載しなくてもよい。
図1A】ナノポアを含む実施形態を概略的に示す。
図1B】ナノポアを含む実施形態を概略的に示す。
図1C】ナノポアを含む実施形態を概略的に示す。
図1D】ナノポアを含む実施形態を概略的に示す。
図1E】固体ナノポアの例を概略的に示す。
図2A】生体ナノポアに隣接して固定されたテザーを含む実施形態を概略的に示す。
図2B】生体ナノポアに隣接して固定されたテザーを含む実施形態を概略的に示す。
図2C】生体ナノポアに隣接して固定されたテザーを含む実施形態を概略的に示す。
図2D】生体ナノポアに隣接して固定されたテザーを含む実施形態を概略的に示す。
図2E】生体ナノポアに隣接して固定されたテザーを含む実施形態を概略的に示す。
図2F】生体ナノポアに隣接して固定されたテザーを含む実施形態を概略的に示す。
図3A】イオノフォアで形成されたナノポアを含む実施形態を概略的に示す。
図3B】イオノフォアで形成されたナノポアを含む実施形態を概略的に示す。
図3C】イオノフォアで形成されたナノポアを含む実施形態を概略的に示す。
図4】分子架橋センサを含む感知システムの例の概略図である。
図5】分子架橋感知システムの別の例の概略図である。
図6】ナノポア及びAC電源を含む実施形態を概略的に示す。
図7】分子架橋及びAC電源を含む実施形態を概略的に示す。
図8図7の実施形態の等価回路を示す。
図9図6の実施形態の等価回路を示す。
図10】いくつかのパラメータ下において図9に示す回路の応答をプロットしている。
図11A】他のパラメータ下において図9に示す回路の応答をプロットしている。
図11B】他のパラメータ下において図9に示す回路の応答をプロットしている。
図11C】他のパラメータ下において図9に示す回路の応答をプロットしている。
図12A図9に示す回路の応答の信号雑音比をプロットしている。
図12B図9に示す回路の応答の信号雑音比をプロットしている。
図12C図9に示す回路の応答の信号雑音比をプロットしている。
図13図9に関連する異なるシナリオにおける回路応答を示す。
図14A図8に示す回路の応答の信号雑音比を示す。
図14B図8に示す回路の応答の信号雑音比を示す。
図15A】例示的なAC応答波形を示す。
図15B】例示的なAC応答波形を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で言及される全ての特許、出願、公開出願、及び他の刊行物は、参照された材料及びその全体が参照により本明細書に組み込まれる。用語又は語句が、参照により本明細書に組み込まれる特許、出願、公開出願、及び他の刊行物に記載されている定義に反するか又は矛盾する方法で本明細書で使用される場合、本明細書での使用は、参照により本明細書に組み込まれる定義よりも優先する。
【0014】
序論
開示される技術は、交流(AC)電気応答に基づいてモノマー(例えば、ヌクレオチド又はアミノ酸)を識別することによって、バイオポリマー(例えば、DNA、RNA、ポリペプチド、又はタンパク質)をシーケンシングするためのシステム及び方法に関する。各特定の種類のモノマー、又は代替的にはその固有のラベル若しくはバーコードは、開示されたシステムの等価回路内の抵抗器の一部として作用し得る。AC入力(例えば、正弦波電流又は電圧)がシステムに印加される場合、システムの電気的応答とは、モノマーの同一性に依存する抵抗と、システム内の静電容量との関数であり得る。システム内の静電容量は、システム内の膜又はトランジスタに関連付けられてもよい。AC電気応答の位相、振幅、又は波形を読み出して(例えば、トランジスタによって)、バイオポリマーの配列を決定することができる。
【0015】
ある特定の実施形態では、開示された技術においてAC入力を用いることにより、RC過渡遅延に起因する待機の必要がなくなり、したがって、より速い読み出し及び/又はより正確な読み出しが可能になり得る。ある特定の実施形態では、AC入力の周波数が、開示されたシステムの電気的特性に合わせて調節される場合、測定感度は増加する。加えて、バイオポリマーは電解質又は緩衝液中に溶解されることが多く、開示されたシステムにおいて正味の電気化学反応を伴わない非ファラデー性プロセスを有することが有益であり得る。ある特定の実施形態では、ACモードかつ正味の電気化学反応なしで作動することにより、より少ないバッファ消費、より小さいシーケンシングユニット装置、及び/又はシーケンシングユニット装置のよりスケーラブルなアンサンブルを達成することができる。ある特定の実施形態では、AC読み出しアプローチは、ナノポアシーケンシングのスケーラブル、電気化学的にフリーな、及び/又は広帯域幅の適用を提供する。
【0016】
非ファラデー性伝導では、金属電極の表面において化学反応(化学物質の還元又は酸化)は生じない。金属電極と電解質との間の電気二重層(コンデンサのように挙動する)を横切る変化する電位は、イオン流を駆動する。非ファラデー性伝導のために、金属電極は、腐食及び酸化に耐性のある金属、例えば、チタン、又は白金若しくは金などの貴金属で作製されてもよい。電極と電解質との間に化学的相互作用がないにもかかわらず、印加された電位に応じて、金属液体界面におけるイオン枯渇領域の成長及び収縮からの、電解質中のイオンの過渡的な物理的変位が存在する。このイオン枯渇領域は電気化学において「電気二重層」と称される。電気工学モデルを用いて、金属が一方のプレートであり、枯渇領域が誘電体であり、液体中のイオンの拡散分布が他方のプレートである、平行板コンデンサが形成される。
【0017】
シーケンシング装置の動作
電気的応答に基づいて有機分子を識別するためのシステム及び方法の動作原理を本明細書に記載する。一実施形態では、そのようなシステムは、液体を収容するフローチャンバ、1つ以上の電極、静電容量を有する1つ以上の構造、及びトランジスタを含み得る。目的の分子は液体中に溶解され得る。更に、目的の分子は、システムの等価回路内の抵抗器の一部として作用することができ、この抵抗は、目的の分子の同一性の関数であり得る。静電容量を有する1つ以上の構造は、抵抗器と直列又は並列に接続され得る。いくつかの場合では、トランジスタ自体が等価回路において無視できない静電容量を有していてもよい。交流電流又は電圧がシステムに印加されてもよく、システムの電気的応答は、目的の分子の同一性の関数であってもよい。電気応答の位相、振幅、又は波形は、トランジスタによって読み出され、目的の分子の同一性を決定するために使用され得る。いくつかの場合では、目的の分子は、異なるヌクレオチド又はアミノ酸であり得る。いくつかの場合では、液体は、電解質/緩衝液であり得る。いくつかの実施形態では、複数のそのようなシステム(又は複数のナノポアシーケンシング装置)を、アレイ状に配置し、論理回路によって個別にアクセスしてもよい。例えば、アレイ内の各列は、1つのセレクタ装置を用いて制御されてもよく、アレイ内の各行は、1つの増幅器を用いて読み出されてもよい。いくつかの場合では、アレイ内の各システムはそれ自体で増幅器を必要とせず、したがって、そのようなアレイはよりスケーラブルであり得る。いくつかの実施形態では、それぞれのナノポアシーケンシング装置内のバイオポリマーは、実質的に同時に制御又は作動され得る。いくつかの実施形態では、それぞれのナノポアシーケンシング装置内のバイオポリマーは、実質的に同時に検出又はシーケンシングされ得る。
【0018】
複数のナノポアシーケンシング装置が基材上にアレイを形成する例では、アレイ内の複数のナノポアシーケンシング装置の各々は、共通のシス電極及び共通のトランス電極を共有し得る。別の例では、複数のナノポアシーケンシング装置の各々は、共通のシス電極を共有するが、別個のトランス電極を有する。更に別の例では、複数のナノポアシーケンシング装置の各々は、別個のシス電極及び別個のトランス電極を有する。また別の例では、複数のナノポアシーケンシング装置の各々は、別個のシス電極を有し、共通のトランス電極を共有する。
【0019】
ナノポアシーケンシング装置のアレイを有する基材には、基材上のアレイ内のナノポアシーケンシング装置の一部又は全部と連通する、1つの共通のシスウェル及び1つの共通のトランスウェルが存在し得る。しかしながら、ナノポア装置のアレイはまた、互いに流体的に単離され、互いに流体的に単離され、並びに互いに流体的に単離されかつ基材で画定されたそれぞれの1つ以上のトランスウェルへと流体結合された、いくつかのシスウェルを含んでもよいことを理解されたい。例えば、単一の基材上の複数のポリヌクレオチドの測定を可能にするために、複数のシスウェルが望ましい場合がある。いくつかの実施形態では、ナノポアシーケンシング装置のアレイを有する基材は、1つの共通のシス電極、1つの共通のトランス電極、1つの共通のシスウェル、1つの共通のトランスウェル、及び複数のナノポアシーケンシング装置を含む。
【0020】
他の実施形態では、ナノポアシーケンシング装置のアレイを有する基材は、1つの共通のシスウェル、複数のトランスウェル、及び複数のナノポアシーケンシング装置を含み、各ナノポアシーケンシング装置は、個別のトランス電極で個別にアドレス指定可能であり得る。他の実施形態では、ナノポアシーケンシング装置のアレイを有する基材は、複数の共通のシスウェル、複数のトランスウェル、及び複数のナノポアシーケンシング装置を含み、各ナノポアシーケンシング装置は、個別のトランス電極で個別にアドレス指定可能であり得る。いくつかの例では、シスウェルは、ナノポアのアレイと接触していてもよく、したがって、アレイ内のナノポアの各々と接触した電解質を維持することが可能である。
【0021】
ナノポアシーケンシング装置のアレイを含む基材は、規則的、反復的、及び非規則的なパターンのナノスケール開口部を含む、アレイ上のナノスケール開口部の多くの異なるレイアウトを有し得る。一例では、ナノスケール開口部は、装置の最密充填及び改善された密度のために六角格子状に配置され得る。他のアレイレイアウトは、例えば、直線的な(すなわち、長方形)レイアウト、及び三角形のレイアウトなどを含み得る。例としては、レイアウト又はパターンは、行及び列をなしているナノスケール開口部のx-yフォーマットであり得る。いくつかの他の例では、レイアウト又はパターンは、ナノスケール開口部の反復配置であり得る。更に他の例では、レイアウト又はパターンは、ナノスケール開口部のランダムな配置であり得る。パターンは、スポット、ポスト、ストライプ、渦巻き、線、三角形、長方形、円、円弧、チェック、格子縞、対角線、矢印、正方形、及び/又はクロスハッチを含み得る。
【0022】
ナノスケール開口部のレイアウトは、ナノスケール開口部の密度(すなわち、アレイを備える基材の画定された領域内のナノスケール開口部の数)に関して特徴付けられてもよい。例えば、ナノスケール開口部のアレイは、約10ナノスケール開口部/mm~約1,000,000ナノスケール開口部/mmの範囲にわたる密度で存在し得る。密度はまた、例えば、少なくとも約10/mm、約5,000/mm、約10,000/mm、約10万/mm、又はそれ以上の密度を含み得る。代替的又は追加的に、密度は、約1,000,000/mm以下、約10万/mm以下、約10,000/mm以下、約5,000/mm以下であり得る。基材におけるナノスケール開口部の密度は、上記の範囲から選択された低い値の1つと高い値の1つとの間にあり得ることを更に理解すべきである。
【0023】
基材上のアレイ内のナノスケール開口部のレイアウトはまた、平均ピッチ、すなわち、ナノスケール開口部の中心から隣接するナノスケール開口部の中心までの間隔(中心間間隔)に関して特徴付けられてもよい。パターンは、平均ピッチ周辺の変動係数が小さくなるように規則的である場合もあれば、パターンが不規則である場合もあり、その場合、変動係数は比較的大きくなる可能性がある。一例では、平均ピッチは、約100nm~約500μmの範囲であり得る。平均ピッチは、例えば、少なくとも約100nm、約5μm、約10μm、約100μm又はそれ以上であり得る。代替的又は追加的に、平均ピッチは、例えば、最大で約500μm、約100μm、約50μm、約10μm、約5μm、又はそれ未満であり得る。装置の例示的アレイの平均ピッチは、より低い値のうちの1つと、上の範囲から選択される上の値のうちの1つとの間であることができる。一例では、アレイは、約10μmのピッチ(中心間間隔)を有し得る。他の例では、アレイは、約5μmのピッチ(中心間間隔)を有し得る。更に別の例では、アレイは、約1μm~10μmの範囲にわたるピッチ(中心間間隔)を有し得る。
【0024】
いくつかの例では、アレイ寿命は約48時間以上であり、トランスウェルの典型的な直径は約100μm以上である。
【0025】
実施形態
開示された技術の一態様は、核酸のナノポアシーケンシングに関する。一実施形態では、開示されたシステムは、ナノポアを含む。開示されたシステムは、電解質を収容するフローチャンバを含んでもよく、したがって、システム全体に電圧を印加することで、ナノポアを通るイオン電流が生じる。目的の分子は、ヌクレオチドであってもよく、又は同等に、ヌクレオチドの固有のタグ若しくは標識であってもよい。例えば、ヌクレオチドのタグ又は標識は、ヌクレオチドの特定の配列の組合せであり得る。目的の分子がナノポアの中又はナノポア近くにある場合、これはナノポアでの固有のイオン電流遮断、したがって目的の分子の同一性に応じた固有のナノポア抵抗をもたらし得る。いくつかの場合では、ナノポアは、タンパク質又はDNAから形成され、脂質二重層に沈着した生体ナノポアであり得る。他の場合では、ナノポアは、膜(例えば、ケイ素系、グラフェン、又はポリマー膜)にナノスケール開口部として直接形成された固体ナノポアであり得る。ナノポアは、なお生体及び固体ハイブリッドであってもよい。脂質二重層又は膜は、システムの等価回路においてコンデンサとして作用し得る。いくつかの実施形態では、開示されたシステムを使用して、アミノ酸又は他の生体分子を識別してもよい。
【0026】
開示されたシステムの一実施形態を図6に示す。図6では、ヌクレオチドを識別するためのナノポアセンサ装置6000が示される。ナノポアセンサ装置6000は、1つ以上のシスウェル6002を含み得る。ナノポアセンサ装置6000は、1つ以上のシスウェルに関連した1つ以上のシス電極を更に含み得る。ナノポアセンサ装置6000は、複数のトランスウェル6006を更に含み得る。複数のトランスウェルの各々は、ナノポア6003を有する脂質又は固体膜6004によって1つ以上のシスウェルから分離され得る。ナノポアセンサ装置6000は、複数のトランスウェルのうち1つと関連した複数のFETの各々である、複数の電界効果トランジスタ6005(FET)を更に含み得る。
【0027】
ナノポアセンサ装置6000は、1つ以上のシス電極と複数のFETのソース端子との間に交流(AC)入力を提供するように構成された電源6001を更に含み得る。ナノポアセンサ装置6000は、複数のFETに動作可能に結合されたコントローラ6010であって、コントローラ6010は複数のFETのAC応答を測定するように構成され、AC応答は、ナノポア内又はナノポア近くのヌクレオチドの同一性に依存する、コントローラを更に含み得る。図15A及び図15Bは例示的なAC応答波形を示す。ナノポア抵抗の変化は、図15Bに示すように波形の振幅及び位相変調を引き起こし得る。いくつかの場合では、コントローラ6010は、例えば、図15Bの点153と点154との比較で示すように、AC応答の振幅の変化を測定するように構成される。例えば、振幅は、図15Bの最大点151と最小点152とを比較することによって取得され得る。いくつかの場合では、コントローラ6010は、AC応答の波形状の変化を測定するように構成されている。いくつかの場合では、電源は、正弦波形、方形波形、三角波形、のこぎり波形、又は陽電位と陰電位との間で交互になった別の好適な波形に、AC電圧を提供するように構成されている。いくつかの場合では、ナノポアを通るイオンフラックスは、ナノポアを通過するヌクレオチド、ポリヌクレオチドに組み込まれるヌクレオチド上の標識、又はそれらの任意の組合せによって変調される。図9はナノポアセンサ装置6000の等価回路を示す。
【0028】
目的の分子の同一性を決定するために、開示された方法は、システム全体にAC電圧を印加し、トランジスタから電圧又は電流応答を読み出すことができる。AC電圧を印加することにより、システムは、目的の分子の同一性に応じて非ファラデー性容量応答を有するであろう。このシステムは正味の電気化学反応を有しなくてもよい。AC電圧を用いると、より高速な読み出しもまた可能になる。AC電圧周波数がナノポア及び二重層/膜の共鳴の周波数付近である場合、測定感度が増加し得る。
【0029】
例えば、図6を参照すると、ヌクレオチドを識別する方法は、シスウェル6002とトランスウェル6006とを分離する膜6004内にナノポア6003を提供することを含み得る。ヌクレオチドを識別する方法は、シスウェル内のシス電極及びトランスウェル内のFET6005のソース端子に動作可能に結合された電源6001からのAC入力を提供することを更に含み得る。ヌクレオチドを識別する方法は、FETからのAC応答を測定することであって、AC応答が、ナノポア6003内又はナノポア6003近くのヌクレオチドの同一性に依存する、測定することを更に含み得る。
【0030】
いくつかの場合では、AC応答を測定することは、AC応答の振幅の変化を測定することを含む。いくつかの場合では、AC応答を測定することは、AC応答の波形の変化を測定することを含む。いくつかの場合では、AC入力を提供することは、正弦波形、方形波形、三角波形、のこぎり波形、又は陽電位と陰電位との間で交互になった別の好適な波形に、AC電圧を提供することを含む。いくつかの場合では、AC応答を測定することは、定常状態応答に近づくために過渡応答を待つことなく、第1のヌクレオチドと関連した第1の応答及び第2のヌクレオチドと関連した第2の応答を測定することを含む。
【0031】
ある特定の実施形態では、図9に示す等価回路は、以下の式を満たす。VはFETゲート上の測定電圧であり、以下によって計算することができる:
【0032】
【数1】
式中、
【0033】
【数2】
である。図9において、ωはAC入力の周波数を表し、Rはナノポアの抵抗を表し、CBLは脂質二重層の静電容量を表し、CはFETに関連した静電容量を表す。
【0034】
図10は、特定のパラメータの下における応答
【0035】
【数3】
をプロットし、式中、
【0036】
【数4】
であり、C=CBL=Cを仮定する。x軸は、FETによって測定されるAC電源又は信号の周波数をプロットする。Rの変化に対する最大感度の位置101は、
【0037】
【数5】
で見出すことができる。言い換えれば、位置101は、FETへの信号が細孔抵抗の変化に対して、又はナノポア及び膜/二重層の抵抗率の変曲点で若しくは変曲点近くの変化に対して感受性である、ナノポア及び膜/二重層の共振周波数である。
【0038】
図11A図11B、及び図11Cは、異なるパラメータ下における応答をプロットし、細孔抵抗(R_細孔)での変化がナノポア及び膜/二重層の共振周波数での変化をもたらすことを示す。ナノポアの共振周波数は、細孔抵抗(R_細孔)での変化に感受性である。y軸は、FETゲート上の電圧によって測定される回路応答の実数部(Re)をプロットし、虚数部(Im)もまたプロットする。x軸は、FETによって測定されるAC電源又は信号の周波数をプロットする。ある特定の実施形態では、ナノポア及び膜/二重層の共振周波数は、実数部(Re)がAC電圧周波数での変化、又は変曲点若しくは変曲点近くでの変化に感受性である場合に決定することができる。ある特定の実施形態では、ナノポア及び膜/二重層回路応答の共振周波数は、位相シフトに関する虚数部(Im)が最大レベル又は最大レベル付近にあることによって決定することができる。
【0039】
図11Aの例では、FETのゲート面積は約1.0umであり、膜/二重層面積は約1.0umであり、ゲート静電容量密度は約17ff/umである。細孔抵抗が1.0Gオームである場合のナノポア及び膜/二重層の共振周波数は、細孔抵抗が1.5Gオームである場合と比較して、高くシフトする。
【0040】
図11Bの例では、FETのゲート面積は約.25umであり、膜/二重層面積は約0.25umであり、ゲート静電容量密度は約17ff/umである。細孔抵抗が1.0Gオームである場合のナノポア及び膜/二重層の共振周波数は、細孔抵抗が1.5Gオームである場合と比較して、高くシフトする。
【0041】
図11Cの例では、FETのゲート面積は約3.50umであり、膜/二重層面積は約100.00umであり、ゲート静電容量密度は約17ff/umである。細孔抵抗が1.0Gオームである場合のナノポア及び膜/二重層の共振周波数は、細孔抵抗が1.5Gオームである場合と比較して、高くシフトする。
【0042】
図11A図11Cは、ナノポアの抵抗の変化に起因するナノポア及び膜/二重層の共振周波数における変化が、ナノポアの抵抗を変化させるシーケンシングされた塩基を検出するために利用され得ることを示す。
【0043】
図12A図12B、及び図12Cは、FETゲート及び/又は脂質二重層のサイズ及び静電容量における変化に対する応答変化の信号雑音比を示す。示されているような信号雑音比は、細孔抵抗(R_細孔)に関するFET測定応答の微分に比例する。
【0044】
図13は、回路応答が、二重層なし、二重層のみ、又はナノポア及び二重層の両方のシナリオを区別することができる例を示す。y軸は、FETゲート上の電圧によって測定される回路応答の実数部(Re)をプロットし、虚数部(Im)もまたプロットする。x軸は、FETによって測定されるAC電源又は信号の周波数をプロットする。ある特定の実施形態では、ナノポアを有する又は有しない膜/二重層の共振周波数は、実数部(Re)がAC電圧周波数での変化、又は変曲点若しくは変曲点近くでの変化に感受性である場合に決定することができる。ある特定の実施形態では、ナノポアを有する又は有しない膜/二重層の共振周波数は、位相シフトに関する虚数部(Im)が最大レベル又は最大レベル近くある場合に決定することができる。
【0045】
膜/二重層が損傷し、もはやシス細胞とトランス細胞とを分離しない場合など、細孔抵抗(R_細孔)が0.0Gオームである例では、回路応答は概してAC電圧に従う。
【0046】
ナノポアが膜/二重層に組み込まれていない場合など、細孔抵抗(R_細孔)が100.0Gオームである例では、回路応答は、AC電圧周波数の変化に感受性であり、約100HzのAC電源の周波数で共振状態にある。
【0047】
ナノポアが膜/二重層に組み込まれている場合など、細孔抵抗(R_細孔)が1.0Gオームである例では、回路応答は、AC電圧周波数の変化に感受性であり、約10HzのAC電源の周波数で共振状態にある。ナノポア及び膜/二重層は、ナノポアを組み込まずに共振状態にある膜/二重層と比較して、AC電源の高周波数で共振する。
【0048】
点131は、ナノポア及び二重層の両方を有するシナリオにおける共振周波数での応答を示す。矢印132は、膜/二重層へのナノポア挿入が、共振周波数をより高い周波数へとシフトさせることを示す。
【0049】
ある特定の実施形態では、共振周波数の欠如を使用して、膜/二重層が損傷しており、かつ特定のトランスウェルが欠損しているものと決定することができる。ある特定の実施形態では、ナノポアが膜/二重層へと組み込まれていないことを決定するために、比較的低い共振周波数を使用することができる。例えば、新しいナノポアを膜/二重層へと導入することができる。ある特定の実施形態では、ナノポアが膜へと組み込まれており、特定のトランスウェルが適切に機能していることを決定するために、比較的高い共振周波数を使用することができる。
【0050】
いくつかの実施形態によれば、図1A図1Dは、ナノポアに固定されたテザー又はナノポアに隣接したテザーを含む組成物であって、ナノポアを横切る電位の変化に応答してナノポアに固定されたテザー又はナノポアに隣接したテザーを用いて、ヌクレオチドに対するポリメラーゼの作用を検出する際に使用するように構成された組成物を概略的に示す。いくつかの場合では、ナノポアは、図1Eに示されるような固体ナノポアであり得る。
【0051】
図1Aに示す組成物は、第1の側面1801、第2の側面1802、第1の側面及び第2側面を貫通して延在する開孔部1803、並びに第1側面と第2側面との間に配置された狭窄部1804を含むナノポア1800;ナノポア1800の第1の側面1801に固定された頭部領域(特異的に標識されず)、ナノポア1800の第1の側面1801と第2の側面1802との間で移動可能な尾部領域(特異的に標識されず)、並びにレポータ領域1814及び部分1815を含む伸長体(特異的に標識されず)を含む永久テザー1810;並びに、部分1832を含むがレポータ領域を欠く伸長タグ(特異的に標識されず)を含むヌクレオチド1830を含む。図1Aに示すように、ヌクレオチド1830の部分1832とテザー1810の部分1815との間の相互作用は、レポータ領域1814を部分1832に対して所定の位置に配置することができる。場合により、2つ以上のレポータ領域、例えば、少なくとも2つ、又は3つ、又は4つ、又は5つ、又は5つを超えるレポータ領域を提供することができる。加えて、部分1815は、伸長タグに沿った任意の好適な位置に配置することができ、例えば、図1Aに示すように、頭部領域1811とレポータ領域1814との間及びレポータ領域1814に隣接して配置することができ、又は頭部領域1811に隣接して、尾部領域1812に隣接して、若しくは尾部領域1812とレポータ領域1814との間に配置することができる。
【0052】
部分1832に対する所定の位置におけるレポータ領域1814の配置は、任意の好適な様式で検出可能であり得ることを理解されたい。例えば、組成物は、測定回路と動作可能に連通することができる。測定回路は、部分1832に対するレポータ領域1814の位置を検出するように構成され得る。例示的な一実施形態では、ナノポア1800、テザー1810、ポリメラーゼ1850、及びヌクレオチド1830は、導電性流体、例えば塩類水溶液に浸漬することができる。測定回路は、第1及び第2の電極と連通することができ、図1Aに示す「+」及び「-」の記号によって表されるとおり、ナノポア1800にわたって電圧を印加するようにこれらの電極間に第1の電圧を印加し、かつ電極を使用して第1の電圧で開孔部1803を通る電流又は流束の大きさを測定するように構成することができる。レポータ領域1814は、テザーの伸長体の一部又は全ての他の領域(具体的には標識されず)とは異なる電気的遮断特性又は流束遮断特性を有し得る。例えば、レポータ領域1814は静電荷を含むことができる一方で、伸長体の一部若しくは全ての他の領域は異なる静電荷を含んでもよく、又は帯電していなくてもよい(例えば、電気的に中性であり得る)。又は、例えば、レポータ領域1814は帯電していなくてもよい一方で、伸長体の一部又は全ての他の領域は静電荷を含むことができる。例示的で非限定的な一例では、テザーの伸長体は、レポータ領域1814を定義する1つ以上の脱塩基ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを含む。開孔部1803を通る電流又は流束の大きさは、開孔部1803内のレポータ領域1814の相対位置に応じて測定可能に変化することができ、そのような相対位置は、印加電圧及び部分1832に対するレポータ領域1814の位置に基づくことができ、これは次に、ヌクレオチド1830に対するポリメラーゼ1850の作用に基づくことができる。
【0053】
より具体的には、測定回路は、例えば、図1Bに示すような「+」及び「-」の記号の反転によって表されるように印加電圧を反転させることによって、ナノポア1800にわたる印加電圧を第2の電圧へと変化させるように更に構成することができる。そのような印加電圧の変化は、ナノポア1800の開孔部1803内の相互作用部分1815、1832の移動を引き起こし得る。例えば、図1Bに示すように、印加電圧の変化は、狭窄部1804に隣接する相互作用部分1815、1832を移動させることができ、かつ狭窄部1804に隣接して又は狭窄部1804の中にレポータ領域1814を配置することができる。測定回路は、電極を使用して、開孔部1803を通る電流又は流束の大きさを第2の電圧で測定するように構成することができる。第1の電圧における電流又は流束は第2の電圧における電流又は流束とは異なり、そのような電流又は流束は、第2の電圧及び部分1832に対するレポータ領域1814の位置に基づくことができ、これは次に、ヌクレオチド1830に対するポリメラーゼ1850の作用に基づくことができることが分かる。
【0054】
ヌクレオチド1830に対するポリメラーゼ1850の作用は、そのようなシステムによって産生された信号の測定された(例えば、光学的又は電気的に測定された)大きさ若しくは持続時間、又はその両方に基づいて、個別に識別することができる。例えば、ヌクレオチド1830に対するポリメラーゼ1850の作用は、部分1815と部分1832との間の相互作用を引き起こすことができ、これにより、レポータ領域1814が部分1832に対して第1の位置に配置され、第1の位置にレポータ領域1814が存在することで、信号、例えば開孔部1803を通る電流又は流束が第1の大きさになる。したがって、第1の大きさを有する信号は、ヌクレオチド1830が生じた際のポリメラーゼ1850の作用と相関する。部分1815と部分1832との間に形成される二本鎖は、例えば第2の電圧下において、狭窄部を通る二本鎖の移動を阻害するのに充分な大きさであり得ることに留意されたい。
【0055】
図1Cに示されるように、いくつかの実施形態では、第2の電圧の継続的な印加は、部分1815を部分1832から解離させることができる。そのような解離は、部分1815と部分1832との間に形成される二本鎖を「妨害」すると考えることができる。いくつかの実施形態では、レポータ領域1814若しくは部分1815、又はその両方は、ナノポア1800の第2の側面1802に配置されるように狭窄部1804を通って移動することができる。部分1832は、部分1815がナノポア1800の第2の側面に配置された場合でもナノポア1800の第1の側面に配置されたままであり、部分1815と部分1832との間の相互作用を一時的に阻害するように構成することができる。図1Dに示されるように、そのような解離に続いて、開孔部1803にわたって印加される電圧を再び変化させることができ、例えば、部分1815及び部分1832が互いに相互作用することができることに応答して、第1の電圧に戻すように変化させることができる。
【0056】
いくつかの実施形態では、テザーの伸長体及びヌクレオチドの伸長タグのそれぞれの長さ、部分1815及び部分1832のそれぞれの位置、並びにレポータ領域1814のそれぞれの位置は、ヌクレオチドがポリメラーゼ1850によって作用されている間にヌクレオチド1830への力の印加を阻害し、したがってそのような力がポリメラーゼの性能を改変することを阻害又は排除するように共選択されることに留意されたい。例示的な一実施形態では、部分1815と部分1832との間の相互作用は、二本鎖を形成する。テザーの伸長体の長さ、及び伸長体に沿った部分1815の位置は、例えば部分1815と部分1832との間に解離を引き起こすように、適切な印加電圧に応じて狭窄部1804を通って部分1815を延ばすことができるように、共選択することができる。ヌクレオチドの伸長タグの長さ、及び伸長タグに沿った部分1832の位置は、第2の印加電圧下において狭窄部1804に隣接するレポータ領域1814を配置するために伸長タグをピンと張った状態に引っ張る必要がないように、追加のスラックを提供するように共選択することができる。二本鎖1815、1832のサイズは、狭窄部1804を通る二本鎖の移動を阻害することができ、そうでなければ伸長タグ1831を介してヌクレオチド1830に加えられた可能性がある力からヌクレオチドを遮蔽することができる。加えて、レポータ領域1814並びに部分1815及び部分1832の相対位置は、部分1815及び部分1832が互いに相互作用する場合にレポータ領域の検出を容易にするように、第2の電圧下において狭窄部1804に対して好適な位置にレポータ領域1814を配置するように共選択することができる。例示的な一実施形態では、レポータ領域1814は、部分1815及び部分1832がポリメラーゼ1850の作用に応じて互いに相互作用する場合に、ナノポア1800の狭窄部1804内に又はナノポア1800の狭窄部1804に隣接して配置されるように、伸長体1831に沿った好適な位置に配置される。
【0057】
いくつかの実施形態によれば、図2A図2Fは、生体ナノポアに隣接して固定されたテザー、及びナノポアにわたる印加電圧の変化を用いて第1のヌクレオチドに対するポリメラーゼの作用の検出で使用するように構成されたテザーを含む組成物を概略的に示す。
【0058】
より具体的には、図2Aは、第1の側面2201、第2の側面2202、第1の側面及び第2の側面を貫通して延在する開孔部2203、並びに第1の側面と第2の側面との間に配置された狭窄部2204を含むナノポア2200を含む組成物を示す。例示的には、ナノポア2200は、生体由来の膜(例えば、脂質二重層)又は固体膜などの障壁に配置されたMspAナノポア(例えば、M2-NNN MspA変異体)などの生体細孔を含み得る。図2Aに示す組成物は、頭部領域2211、尾部領域2212、及びそれらの間に配置された伸長体2213を含むテザー2210を更に含む。頭部領域2211は、例えば、本明細書に提供されるか、そうでなければ当技術分野で公知である、任意で好適な付着を用いて、ポリメラーゼ2250に好適に固定される。テザー2210の伸長体2213は、部分2214を含み得る。例示的には、伸長体2213はポリヌクレオチドを含むことができ、ポリヌクレオチドの核酸の第1のサブセットは部分2214を定義することができる。加えて、尾部領域2212は少なくとも1つの荷電原子を含むことができ、それにより、工程1の最中に図2Aで示すナノポア2200にわたって印加される電圧に基づいて、そのような電圧は、図2Bに示すような様式で、細長い尾部2213の一部が開孔部2203内に配置され、かつ尾部領域がナノポア2200の第2の側面2202を越えて配置されるように、開孔部2203及び狭窄部2204を通過する尾部領域2212の転流を引き起こす第1の方向力F1を産生する。このような方向力F1はまた、ポリメラーゼ2250が図2Bに示すような様式でナノポア2200の第1の側面2202上又はそれに隣接して静止するまで、ナノポア2200の第2の側面2201に向かってポリメラーゼ2250を転位させ、方向力F1の下におけるポリメラーゼ2250の更なる移動を防止又は阻害する。ポリメラーゼは、場合により、ナノポア2200の開孔部2203内に部分的に配置され得ることに留意されたい。
【0059】
図2Aに示す組成物はまた、テザー2210の尾部領域2212が付着することができる別のメンバー2250’を含み得る。例えば、図2Aに示す組成物は、テザー2210の伸長体2213又は尾部領域2212上の対応する核酸へと好適にハイブリダイズすることができる配列を有する、1つ以上のポリヌクレオチド2250’を含み得る。例えば、図2Bに示すように、工程1(図2A)の最中に加えられ、工程2(図2B)の最中に継続することができる方向力F1の下において、尾部領域2212はナノポア2200の第2の側面2202を越えて配置されるようになり、メンバー2250’、例えばナノポア2200の第2の側面2202(例えば、トランス側)に隣接して存在するDNAの相補的断片(「捕捉DNA」)に付着、例えばハイブリダイズするようになる。尾部領域2212とメンバー2250’との間の結合、例えば、二本鎖DNAなどの二本鎖2212、2250’を形成するような、尾部領域2212の1つ以上の第1の核酸とメンバー2250’の1つ以上の第2の核酸との間のハイブリダイズは、逆方向力F2(例えば、図2Cに示す工程3の最中)の印加の際、例えば電圧の反転時に、二本鎖がポリメラーゼのナノポアからの分離を阻害し、したがってポリメラーゼがナノポアで捕捉されたままであるように、充分に強い。例えば、二本鎖2212、2250’は、二本鎖が力F2の印加下において解離しないように、充分な数のハイブリダイズした核酸を含み得る。加えて、二本鎖2212、2250’は、狭窄部2204を通る二本鎖の移動を阻害するのに充分な大きさであり得る。その上、いくつかの実施形態では、ナノポア2200の狭窄部2204の横寸法は、単一のテザー2210の単一の伸長体2213のみがそこを通って配置され得るように選択され、したがって、単一のポリメラーゼ2250のみがナノポアに捕捉されるようになることが保証される。
【0060】
特定の実施形態では、品質評価工程を利用して、ナノポア又はナノポアでのポリメラーゼの捕捉を評価することができる。膜に適切に埋め込まれたナノポアは、ナノポアが膜内に存在しない場合、又はナノポアが完全に機能しない場合に生じる電流又は流束パターンと区別可能である、特徴的な電流又は流束パターンを生成することができる。品質評価がナノポアが膜に適切に埋め込まれていないことを示す場合、ナノポアを装荷するために使用される工程を繰り返すことができる。
【0061】
ナノポアによって適切に捕捉されたポリメラーゼはまた、特徴的な電流又は流束パターンを生成することができる。例えば、テザーを介してポリメラーゼを捕捉したナノポアに印加されるバイアス電圧は、ナノポア開孔部と核酸テザー中のシグネチャ塩基との間の相互作用を示す電流又は流束パターンを生成することができる。バイアス電圧を反対方向に印加して、シグネチャ塩基が予測されるように開孔部と相互作用するように、テザーがナノポア内腔に所望の移動度を有するかどうかを決定することができる。ポリメラーゼがナノポアによって適切に捕捉されていないことを品質評価が示す場合、ポリメラーゼは、例えば強い逆バイアスを印加することによって除去することができ、ナノポアでポリメラーゼを捕捉するために使用される工程を繰り返すことができる。
【0062】
別の任意選択の品質評価ルーチンでは、比較的大きな逆バイアス電圧をシステムに印加して、ポリメラーゼ及びテザーがナノポアから除去されたかどうかを決定することができる。典型的には、メンバー2250’とメンバー2212との間に形成された二本鎖は、テザーの除去を防止するのに充分な強度を有する。この品質評価ルーチンは、これが該当するかどうかを示す。同様に、この段階でバイアス電圧を印加することができ、得られた電流又は流束パターンを検出して、本明細書で前述したようにコーキング又はアンコーキングが発生しているかどうかを決定することができる。ポリメラーゼが充分な安定性でナノポアによって捕捉されていないことを品質評価が示す場合、ナノポアでポリメラーゼを捕捉するために使用される工程を繰り返すことができる。
【0063】
本明細書に記載のいくつかの実施形態は、その各々がポリメラーゼに付着することが望ましい複数のナノポアが装荷された多重装置に関する。上記のような品質評価工程を多重集団に対して行うことができる。所望の数の機能性ナノポアが多重ナノポア装置内で形成されていない場合、又は端数装荷が充分でない場合、装置をバルクで処理してナノポア(又はポリメラーゼ)装荷を繰り返すことができる。場合により、ナノポア(又はポリメラーゼ)は、例えば欠陥のあるナノポア又はポリメラーゼが存在する場合、装荷工程を繰り返す前に除去することができる。例えば、予想される部位の90%未満、75%未満、50%未満、30%未満、又はそれ未満で多重装置が装荷される場合、装荷の繰り返し(及び場合によりナノポア又はポリメラーゼの除去)を行うことができる。
【0064】
図2Cに示される工程3において、図2Bに示される組成物は、逆方向力F2、例えば工程1及び工程2の電圧に対する電圧の反転を更に受けることができ、それに基づいて、ポリメラーゼ2250はナノポア2200の第1の側面2201と接触することができ、かつシーケンシングプライマ2280、標的一本鎖DNA 2270(標的)、及び複数のヌクレオチド2230、2230’と接触することができ、これらの各々は、そのヌクレオチド2230又は2230’に作用するポリメラーゼ2250に応じてテザー2213の部分と相互作用する対応部分2232、2232’を含む、対応する伸長タグ2231、2231’を含む。
【0065】
図2Dに示す工程4では、標的2270の配列に基づいて、ポリメラーゼ2250が第1のヌクレオチド2230に作用し、それに基づいてヌクレオチド2230の伸長タグ2231の対応する部分2232がテザー2310の部分2214と相互作用する。例えば、ポリメラーゼ2250は、第1のヌクレオチド2230が標的2270の配列中の次のヌクレオチドに相補的であることに基づいて、第2のヌクレオチド2230’と比較して、第1のヌクレオチド2230に優先的に結合することができる。加えて、伸長タグ2231は、第1のヌクレオチド配列を含むことができ、伸長体2213の部分2214は、第1のヌクレオチド配列と第2のヌクレオチド配列とが互いにハイブリダイズするように、伸長タグ2231の第1のヌクレオチド配列に相補的である第2のヌクレオチド配列を含むことができる。工程4は、逆方向力F2、例えば工程1及び工程2の電圧に対する電圧の反転した下において実行することができ、その結果、ポリメラーゼ2250をナノポア2200の第1の側面2201に対して配置する必要がないことに留意されたい。
【0066】
図2Eに示す工程5では、方向力F1を再び加えることができ、これにより、尾部領域2212がナノポア220の第1の側面2201から離れる方向に移動し、ポリメラーゼ2250がナノポア2200の第2の側面2202に向かって移動する。例えば、ナノポア2200にわたる電圧を再び反転させることができる。しかしながら、工程5における力F1の印加は、図2Bに示すような様式で、ポリメラーゼ2250をナノポア2200の第1の側面2201上又はそれに隣接して静止させるとは限らない。代わりに、力F1の印加(トランスに向かって引っ張る)は、部分2214と部分2232との間の相互作用(例えば、結合又はハイブリダイゼーション)によって定義される二本鎖を、狭窄部2204上又はそれに隣接して静止させることができる。例示的には、組成物は、狭窄部2204を通る電流又は流束を測定するように構成された測定回路を含むシステムに含めることができる。工程5の間、電流又は流束は、例えば部分2232の特定の配列に基づいて、第1の部分2232に基づくことができ、第1のヌクレオチド2230は電流又は流束に基づいて識別可能であり得る。例えば、第1のヌクレオチド2230の部分2232は、第2のヌクレオチド2230’の部分2232’とは異なる配列を有することができ、テザー2210の伸長体2213の異なる部分(部分)に結合することができる。実例として、伸長タグは、そのようなタグが付着しているヌクレオチドを互いに区別することを容易にする任意の好適なポリヌクレオチド配列を含むことができる。
【0067】
図2Fに示す工程6では、方向力F1の継続的な印加下において、確率的時間の後、テザー2210の部分2214とヌクレオチド2230の伸長タグ2231の部分2232との間の二本鎖は、本明細書の他の箇所に引用されているDerringtonら、PNAS 2010に記載されているものと同様の様式で解離する。そのような解離に続いて、方向力F1は、図2Bに示すような様式で、ポリメラーゼ2250をナノポア2200の第1の側面2201上又はそれに隣接して静止させることができる。
【0068】
なお、他の構成も好適に用いることができる。例えば、図2E及び図2Fにそれぞれ示す工程5及び6の代わりに、伸長タグ2231は、テザー2210の部分2214とヌクレオチド2230の伸長タグ2231の部分2232との間の二本鎖が方向力F1の印加下において狭窄部に到達せず、代替的にポリメラーゼ2250が、図2Bに記載したような様式でナノポア2200の第1の側面2201上又はそれに隣接して静止するように充分に短くなり得る。そのような実施形態では、ポリメラーゼ2250によって結合され得る異なるヌクレオチド2230、2230’に付着した伸長タグ2231、2231’は、互いに異なる配列又は長さである部分2232、2232’を含むことができ、したがって、テザー2214の長さの異なる変化を引き起こすように、互いにテザー2210の部分2214と異なるように相互作用する、例えば互いに異なるようにハイブリダイズする。対応するヌクレオチド2230、2230’は、部分2214と対応する部分2232、2232’との間の相互作用によって引き起こされる、テザー2210の長さに基づく電流又は流束の変化に基づいて識別することができる。図2D図2Fに示されているものと同様の工程4~工程6を繰り返すことができ、したがって、AC電圧を印加して電極を維持する。更に別の実施形態では、伸長タグ又は伸長体は、本明細書の他の場所に提供されるようなレポータ領域を含むことができ、開孔部2203を通る電流又は流束は、開孔部内に配置されているレポータ領域に基づくことができ、ヌクレオチド2230は、電流又は流束に基づいて識別可能であり得る。
【0069】
加えて、機能不全ポリメラーゼが捕捉された場合、捕捉DNAが外れて新しいポリメラーゼが捕捉され得るように、電圧を非常に高い電圧に逆転させることができる(工程1~工程3を繰り返す)。
【0070】
電圧、電流、又は光学波形は、ナノポアを通過するテザーの様々な状態について測定することができる。電圧波形、電流波形、又は光学波形は、ナノポアシステムで実行される分析方法の結果を決定するのに有用であり得る。例えば、波形をデータに適合させて、シーケンシング読み出しの精度を高めることができる。
【0071】
一実施形態では、鋳型DNAのシーケンシングを開始するために、開示された方法は、DNAポリメラーゼがナノポアの近傍に移動するようにポリマーテザーを引っ張るためにトランス電極に正の相対電位を印加することができる。ポリマーテザーは、脱塩基性セグメントを含有する一本鎖DNAであり得る。DNAポリメラーゼが鋳型DNAと塩基対合するためにタグ化ヌクレオチドを組み込むので、タグ化ヌクレオチドの同一性を決定することができる。DNAポリメラーゼによって組み込まれる各タグ付きヌクレオチドは、固有のタグを有し得る。固有のタグは、脱塩基性セグメントから固有の距離を有するポリマーテザーの固有領域に結合(例えば、ハイブリダイズする)することができ、その結果、ナノポアに対する脱塩基性セグメントの位置を固有に決定することができる。ナノポアに対する脱塩基性セグメントの固有位置は、ナノポアにおける固有のイオン電流遮断、したがって固有のナノポア耐性をもたらし得る。タグ化ヌクレオチドの同一性を読み出すために、開示された方法はAC電圧を印加することができる。AC電圧を印加することにより、システムは非ファラデー性容量応答を有することができ、正味の電気化学反応を有しなくてもよい。いくつかの実施形態では、固有のナノポア抵抗に依存するFETゲート電圧波形を測定することによって、タグ化ヌクレオチドの固有の同一性を決定することができる。過渡応答が減衰するのを待つ必要があるDC電圧を印加することによってタグ付けされたヌクレオチドの同一性を読み出すことと比較して、AC電圧を用いることは、より速い読み出しを可能にし得る。AC電圧周波数が、ナノポア、及びナノポアの抵抗率の変化に対する応答感度を最大化する膜/二重層の共振周波数付近にある場合、測定感度を改善することができる。タグ付けされたヌクレオチドの同一性を決定した後、開示された方法は、タグがポリマーテザーから解離するように、ポリマーテザーに対する引張力を増加させるために、トランス電極により大きな正の相対電位を別に印加することができる。いくつかの実施形態では、開示された方法を使用して、タンパク質又は他のタイプのバイオポリマーを検出することができる。
【0072】
いくつかの実施形態によれば、図3A図3Cは、イオノフォアで形成されたナノポアを概略的に示す。単一のポリメラーゼ3010を膜3020に固定することができる。膜は、脂質単層又は脂質二重層であり得る。ポリメラーゼは、膜貫通ペプチド(membrane-spanning peptide:MSP)3011を用いて固定することができ、このペプチドは、下にある表面に固定することができる。イオノフォア(例えば、グラミシジン)の半分(gB)3030は、テザーを介してMSPにコンジュゲートされてもよく、この半分は膜のトランス側に存在する。このテザーの目的は、gBをポリメラーゼ及びトランス側へと局在化させることである。トランス側のポリメラーゼに近接してgBを局在化させる他の方法としては、gBを表面に固定すること、又はgBがトランス側二重層に有利な特性を有する非対称二重層を用いることが挙げられる。ポリメラーゼは、細孔を通過し得ない鋳型ポリヌクレオチド3002及びプライマ3001と相互作用し得る。ガンマリン酸標識ヌクレオチド3003は、グラミシジン二量体(gA)3031(これはシス側である)の他の半分に付着されてもよい。ヌクレオチドがポリメラーゼ活性部位に位置する場合、二量体3040がグラマイシンの二等分から形成されてもよく、ナノポア又はイオンチャネルを開いて電流3050を流すことができる。グラミシジンペプチド配列に対する単純な修飾は電流フローに影響を及ぼし得るので、4つの異なる修飾は、4つの異なる信号を可能にし得る。グラマイシンの二等分は速いオフレートを有するように操作することができるので、ガンマリン酸連結が開裂された後、gAはバルク中に拡散する。1つのgAだけでは、イオンフローを可能にするために膜全体に及ばない場合があることに留意されたい。標識ヌクレオチドの同一性を読み出すために、開示された方法はAC電圧を印加することができる。AC電圧を印加することにより、システムは非ファラデー性容量応答を有することができ、正味の電気化学反応を有しなくてもよい。いくつかの実施形態では、4つの異なる修飾に依存するAC応答波形を測定することによって、標識ヌクレオチドの固有の同一性を決定することができる。
【0073】
実施形態の更なる詳細は、米国特許第10364463B2号、Liu、Zewenら、「Solid-state nanopore-based DNA sequencing technology」、Journal of Nanomaterials 2016(2016年)に見出すことができ、この開示の各々の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0074】
代替的な実施形態
開示される技術の一態様は、電気を伝導する分子架橋の一部として目的の分子を用いることに関する。一実施形態では、開示されるシステムは、ナノギャップと、ナノギャップを横切って延びる分子架橋とを含む。誘電体のスラブはまた、コンデンサとして作用するようにナノギャップにわたって延在してもよい。目的の分子が分子架橋と相互作用(例えば、ハイブリダイズする)する場合、分子架橋の電気伝導率に明確な変化が生じ得る。分子架橋は、部分的二本鎖DNA、DNAオリガミ、カーボンナノチューブ、その他の分子ワイヤであってもよく、ナノ粒子を含有していてもよい。この開示されたシステムは、多種多様な分子、例えば異なるヌクレオチド又はアミノ酸を識別するために使用することができる。
【0075】
開示されたシステムの一実施形態を図7に示す。図7では、ヌクレオチドを識別するためのセンサ装置7000が示される。センサ装置7000は電極7012を含み得る。センサ装置7000は、ゲート酸化物7113を有するFET 7020を更に含み得る。センサ装置7000は、フローチャンバ7017内に、分子架橋、例えば部分的二本鎖核酸ポリマー7099を更に含んでもよい。分子架橋7099は、例えば頂部金属表面7018を介して電極7012に動作可能に結合された一端と、例えば底部金属表面7008及び厚い絶縁体7007に埋め込まれた金属相互接続部7022を介してFET 7020のゲート端子に動作可能に結合された他端とを有してもよい。キャップ誘電体7223並びに金属表面7008及び金属表面7018は、部分的二本鎖核酸ポリマー7099と並列に接続されたコンデンサを形成してもよい。キャップ誘電体7223は、約数nm、10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、又は90nmの厚さであってもよい。
【0076】
センサ装置7000は、電極とFETのソース端子との間にAC入力を提供するように構成された電源7001を更に含み得る。センサ装置7000は、AC入力を印加するための追加の電極7002を更に含んでもよい。バイアス電圧7004は、FETの電源端子とドレイン端子との間に印加されてもよい。センサ装置7000は、FETに動作可能に結合されたコントローラ7003であって、コントローラがFETのAC応答を測定するように構成されており、AC応答が、部分的二本鎖核酸ポリマー7099と相互作用するヌクレオチドの同一性に依存する、コントローラ7003を更に含み得る。
【0077】
図15A及び図15Bは、図6のコントローラ、図7のコントローラ7003、又は他の好適なセンサ装置のコントローラによって測定された応答波形などの、例示的なAC応答波形を示す。分子架橋7099の電気伝導の変化は、図15Bに示すような波形の振幅及び位相変調を引き起こし得る。いくつかの場合では、コントローラは、例えば、図15Bの点153と点154との比較で示すように、AC応答の振幅の変化を測定するように構成される。例えば、振幅は、図15Bの最大点151と最小点152とを比較することによって取得され得る。いくつかの場合では、コントローラは、AC応答の波形状の変化を測定するように構成されている。いくつかの場合では、電源7001は、正弦波形、方形波形、三角波形、のこぎり波形、又は陽電位と陰電位との間で交互になった別の好適な波形に、AC電圧を提供するように構成されている。いくつかの場合では、部分的二本鎖核酸ポリマー7099を通る電気伝導は、ポリヌクレオチドに組み込まれているヌクレオチド上の核酸標識によって変調され、核酸標識は、部分的二本鎖核酸ポリマーと部分的に相補的である。図8はセンサ装置7000の等価回路を示す。
【0078】
図14A及び図14Bは、図8に示す回路の応答の信号雑音比を示す。図14Aの例では、FETゲートの面積は約1.00umであり、FET 7020のゲート静電容量密度は約17ff/umである。分子架橋7099の共振周波数は、SNRのピーク又はSNRのピーク近くにある。図14Aに示すように、分子架橋(R_ワイヤ)の抵抗が小さいほど、分子架橋の共振周波数は高くなる。したがって、分子架橋の共振周波数の変化を利用して、分子架橋の抵抗を変化させるシーケンシングされた塩基を検出することができる。図14Bの例では、FETゲートの面積は約0.25umであり、FET 7020のゲート静電容量密度は約17ff/umである。分子架橋7099の共振周波数は、SNRのピーク又はSNRのピーク近くにある。図14Bに示すように、分子架橋(R_ワイヤ)の抵抗が小さいほど、分子架橋の共振周波数は高くなる。したがって、分子架橋の共振周波数の変化を利用して、分子架橋の抵抗を変化させるシーケンシングされた塩基を検出することができる。
【0079】
いくつかの実施形態によれば、図4に示す感知システム40は、フローセル41と、フローセル41に組み込まれた電子センサ10とを含む。電子センサ10は、2つの電極12、14;2つの電極12、14を架橋する修飾された部分的二本鎖核酸ポリマー16であって、修飾された部分的二本鎖核酸ポリマー16は、一緒に(水素結合を介して)部分的に結合した2つのポリヌクレオチド鎖18、20、ヌクレオチドが欠損しているポリヌクレオチド鎖の最初の18におけるギャップ22を含む、修飾された部分的二本鎖核酸ポリマー16;及びギャップ22に曝露したポリヌクレオチド鎖の第2の20の複数のヌクレオチド塩基24を含む。フローセル41はセンサ10を収容する容器である。例えば、ウェル、チューブ、チャネル、キュベット、ペトリ皿、又はボトルなどの他の容器が代替的にセンサ10を収容してもよいことを理解されたい。核酸シーケンシング反応などの循環プロセスは、フローセル41に特によく適している。
【0080】
例示的なフローセル41は、基材/支持体13、及びそれに直接若しくは間接的に結合された蓋、又はそれと一体的に形成された蓋を含む。フローセル41は、フローセル41内に収容された1つセンサ10又は複数のセンサ10のアレイへのバルク試薬の送達を可能にする流体入口45及び流体出口47を含んでもよい。
【0081】
感知システム40はまた、フローセル41の入力部(例えば、流体入口45)に、センサ10を越えて、次いで流体出口47から試薬を選択的に導入するための試薬送達システム49を含んでもよい。試薬送達システム49は、流体入口45に恒久的又は取り外し可能に取り付けることができるチューブ又は他の流体を含んでもよい。試薬送達システム49は試料容器51を含み得る。試薬(電子センサ10に導入される標識ヌクレオチド30を含む)は、試料容器に貯蔵されていてもよく、又は使用直前に調製して試料容器へと導入してもよい。試薬送達システム49はまた、試料容器51から試薬を回収し、それを流体入口45へと送達するためのポンプ又は他の好適な機器を含むことができる。他の例では、試料容器51は、試薬が重力によって流体入口45に流れ、センサ10を越えて、流体出口47から出ることができるように配置される。フローセル41内のセンサ10はまた、感知システム40が使用される場合にセンサ10の導電率変化を検出するために、検出器15に動作可能に接続されてもよい。
【0082】
いくつかの実施形態によれば、システム40’が図5に示されており、2つの電極12、14を含む電子センサ10;2つの電極12、14を架橋する修飾された部分的二本鎖核酸ポリマー16であって、この修飾された部分的二本鎖核酸ポリマー16は、一緒に(水素結合を介して)部分的に結合した2つのポリヌクレオチド鎖18、20、ヌクレオチドが欠損しているポリヌクレオチド鎖の最初の18におけるギャップ22を含む、修飾された部分的二本鎖核酸ポリマー;及びギャップ22に曝露したポリヌクレオチド鎖の第2の20の複数のヌクレオチド塩基24;並びに、電子センサ10に導入される別個の試薬であって、この試薬が、標識ヌクレオチド30を含み、ヌクレオチド32を含む標識ヌクレオチド30のうち少なくとも1つ、ヌクレオチドのリン酸基に付着した連結分子34、連結分子34に付着したスイッチ鎖28、スイッチ鎖28が、ギャップ22に曝露した複数のヌクレオチド塩基24のうち少なくともいくつかに相補的な塩基36を含むヌクレオチドの鎖を含むスイッチ鎖28を含む、別個の試薬を含む。図5に示す例では、ポリヌクレオチド鎖18は、ACCGGGGTA-gap-ATCCGであり、ポリヌクレオチド鎖20は、TGGGCCCCATCCCCCCTAGGCである(配列番号1)。ポリヌクレオチド鎖20では、ヌクレオチド塩基「CCCCCC」は(少なくともスイッチ鎖28が会合するまで)ギャップ22に曝露している。
【0083】
図示されていないが、センサ10は、フローセル41(図4)、チューブ、チャネル、キュベット、ペトリ皿、又はボトルなどの容器内又は容器の一部に配置されてもよいことを理解されたい。好適な容器の別の例はフローセルである。
【0084】
図5には1つのセンサ10が示されているが、感知システム40’は、基材上に配置された複数のセンサ10のアレイを含むことができることを理解されたい。更に、感知システム40’のセンサ(複数可)10は、それぞれの検出器15に電気的に各々接続されて、スイッチ鎖28がギャップ22に会合した場合に電気センサ10からの応答を検出することができる。
【0085】
感知システム40’のいくつかの例は、修飾dsNA 16’に固定されたポリメラーゼ38と、センサ10に導入される鋳型ポリヌクレオチド鎖48とを更に含む。
【0086】
図5に示すように、センサ10はポリメラーゼ38を含む。新生鎖への一度に1つのヌクレオチドの付加を触媒することができる任意のDNAポリメラーゼを使用してもよい。DNAポリメラーゼは、以下のファミリー:A、B、C、D、X、Y及びRTのいずれかに由来し得る。ファミリーAの具体例としては、T7 DNAポリメラーゼ、Pol I、Pol γ、Pol θ、若しくはPol vが挙げられ、又はファミリーBとしては、Pol II、Pol B、Pol ζ、Pol α、Pol δ、及びPol εが挙げられ、又はファミリーCとしては、Pol IIIが挙げられ、又はファミリーDとしては、Pol D(DP1/DP2ヘテロ二量体)が挙げられ、又はファミリーXとしては、Pol β、Pol α、Pol λ、Pol μ、及び末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼが挙げられ、又はファミリーYとしては、Pol ι、Pol κ、Pol η、Pol IV、及びPol Vが挙げられ、又はファミリーRTとしては、テロメラーゼが挙げられる。
【0087】
図5に示すように、ポリメラーゼ38は、テザー46によって修飾dsNA 16’に固定化される。別の例では、ポリメラーゼ38は、テザー46で基材に固定化される。テザー46はポリメラーゼ38のアンカーとして使用され、テザー46は非導電性であることが望ましい場合がある。ポリメラーゼ38が修飾dsNA 16’に付着される場合、非導電性テザーが特に望ましい場合がある。好適なテザー46の例としては、PEG鎖に沿ったある点で開裂可能な連結を有するポリエチレングリコール(PEG)が挙げられ、又はニッケルNTA/Hisタグ化学、ストレプトアビジン/ビオチン化学(例えば、修飾dsNA 16’に付着したストレプトアビジン、及びポリメラーゼ38にしたビオチン)、DNA-DNAハイブリダイゼーション、DNA-PNAハイブリダイゼーション、カルボキシルシラン1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、又はポリメラーゼを修飾dsNA 16’又は基材表面に付着することができる任意の他の好適なリンカーが挙げられ得る。いくつかの例では、テザー46は、修飾dsNA 16’から少なくとも10nm離れてポリメラーゼ38を保持する。これは、例えば、ポリメラーゼ38に対するコンフォーマルな変化、ポリメラーゼ38の電荷、及び/又はポリメラーゼ38によって保持された標的/鋳型ポリヌクレオチド鎖48の電荷が、修飾dsNA 16’の感知動作を妨害しないように、望ましい場合がある。
【0088】
一例では、修飾dsNA 16’は、開裂可能な連結を含むテザー46によってポリメラーゼ38に最初に付着され得る。この組合せを電極12、14に導入して、修飾dsNA 16’の対向する端部を電極12、14に取り付け、例えばニッケルNTA/Hisタグ化学を介してポリメラーゼ38を基材表面に取り付けることができる。この例では、開裂可能な連結を切断して、ポリメラーゼ38を修飾dsNA 16’から切り離すことができる。この例では、ポリメラーゼ38は、修飾dsNA 16’に近接しているが、実際にはそこに接触していない。テザー46は、ポリメラーゼ38を、例えば基材表面上及びセンサ10に近接して保持するための化学作用が提供される場合、開裂され得ることを理解されたい。
【0089】
本明細書で述べるように、システム40、40’の例はまた、センサ10に導入される鋳型ポリヌクレオチド鎖48も含み得る。
【0090】
鋳型ポリヌクレオチド鎖48は、シーケンシングされる任意の試料であってもよく、DNA、RNA、又はそれらの類似体(例えば、ペプチド核酸)から構成されてもよい。鋳型(又は標的)ポリヌクレオチド鎖48の供給源は、ゲノムDNA、メッセンジャRNA、又は天然供給源由来の他の核酸であり得る。いくつかの場合では、そのような供給源に由来する鋳型ポリヌクレオチド鎖48を、本明細書中の方法又はシステム40、40’において使用する前に増幅することができる。ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)、ローリングサークル増幅(rolling circle amplification:RCA)、多置換増幅(multiple displacement amplification:MDA)、又はランダムプライマ増幅(random primer amplification:RPA)を含むがこれらに限定されない、様々な既知の増幅技術のいずれかを使用することができる。本明細書に記載の方法又はシステム40、40’で使用する前の鋳型ポリヌクレオチド鎖48の増幅は、任意であることを理解されたい。したがって、鋳型ポリヌクレオチド鎖48は、いくつかの例において使用前に増幅されないであろう。鋳型/標的ポリヌクレオチド鎖48は、場合により合成ライブラリに由来し得る。合成核酸は、天然のDNA若しくはRNA組成物を有することができ、又はその類似体であり得る。
【0091】
鋳型ポリヌクレオチド鎖48を誘導することができる生体試料としては、例えば、哺乳動物、例えば、げっ歯類、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、有蹄動物、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、ネコ、イヌ、霊長類、ヒト若しくは非ヒト霊長類;シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、トウモロコシ、ソルガム、エンバク、コムギ、イネ、セイヨウアブラナ、ダイズ等の植物;コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)などの藻類;エレガンス線虫(Caenorhabditis elegans)などの線形動物;キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)、蚊、ショウジョウバエ、ミツバチ、クモなどの昆虫;ゼブラフィッシュなどの魚;爬虫類;カエルやアフリカツメガエル(Xenopus laevis)などの両生類;キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum);ニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carinii)、トラフグ(Takifugu rubripes)、酵母、出芽酵母(Saccharamoyces cerevisiae)、若しくは分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)などの真菌;又は熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)からの生体試料が挙げられる。鋳型ポリヌクレオチド鎖48は、細菌、大腸菌(Escherichia coli)、ブドウ球菌(staphylococci)、又は肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)などの原核生物;古細菌(archae);C型肝炎ウイルス(Hepatitis C virus)、エボラウイルス、又はヒト免疫不全ウイルスなどのウイルス;又はウイロイドに由来し得る。鋳型ポリヌクレオチド鎖48は、上記の生物の均質な培養物若しくは集団から、又はあるいはいくつかの異なる生物の集合体、例えば群生若しくは生態系から誘導することができる。
【0092】
更に、鋳型ポリヌクレオチド鎖48は、天然源に由来しなくてもよく、むしろ公知の技術を用いて合成することができる。例えば、遺伝子発現プローブ又は遺伝子型決定プローブを合成し、本明細書に記載の実施例で使用することができる。
【0093】
いくつかの例では、鋳型ポリヌクレオチド鎖48は、1つ以上のより大きな核酸の断片として得ることができる。断片化は、例えば、噴霧化、超音波処理、化学的開裂、酵素的開裂、又は物理的剪断を含む、当技術分野で公知の様々な技術のいずれかを用いて行うことができる。断片化はまた、より大きな核酸鎖の一部のみをコピーすることによって、アンプリコンを生成する特定の増幅技術の使用から生じ得る。例えば、PCR増幅は、増幅中に隣接するプライマがハイブリダイズする位置の間にある元の鋳型上のヌクレオチド配列の長さによって定義されるサイズを有する断片を生成する。鋳型ポリヌクレオチド鎖48の長さは、ヌクレオチドの数に関してであってもよく、又はメートル長(例えば、ナノメートル)に関してであってもよい。
【0094】
鋳型/標的ポリヌクレオチド鎖48又はそのアンプリコンの集団は、本明細書に記載の方法又はシステム40、40’の特定の用途に望ましいか又は適切である平均鎖長を有することができる。例えば、平均鎖長は、約100,000ヌクレオチド、約50,000ヌクレオチド、約10,000ヌクレオチド、約5,000ヌクレオチド、約1,000ヌクレオチド、約500ヌクレオチド、約100ヌクレオチド、又は約50ヌクレオチド未満であり得る。代替的又は追加的に、平均鎖長は、約10ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約100ヌクレオチド、約500ヌクレオチド、約1,000ヌクレオチド、約5,000ヌクレオチド、約10,000ヌクレオチド、約50,000ヌクレオチド、又は約100,000ヌクレオチド超であり得る。標的ポリヌクレオチド鎖48又はそのアンプリコンの集団の平均鎖長は、上記の最大値と最小値との間の範囲であり得る。
【0095】
いくつかの場合では、鋳型/標的ポリヌクレオチド鎖48の集団は、そのメンバーに対して最大長を有する条件下において、又はそうでなければそのメンバーに対して最大長を有するように構成され得る。例えば、メンバーの最大長は、約100,000ヌクレオチド、約50,000ヌクレオチド、約10,000ヌクレオチド、約5,000ヌクレオチド、約1,000ヌクレオチド、約500ヌクレオチド、約100ヌクレオチド、又は約50ヌクレオチド未満であり得る。代替的又は追加的に、鋳型ポリヌクレオチド鎖48の集団又はそのアンプリコンは、そのメンバーのための最小長を有するような条件の下において生成され得るか、又はそうでなければそのメンバーのための最小長を有するように構成され得る。例えば、メンバーの最小長は、約10ヌクレオチド、約50ヌクレオチド、約100ヌクレオチド、約500ヌクレオチド、約1,000ヌクレオチド、約5,000ヌクレオチド、約10,000ヌクレオチド、約50,000ヌクレオチド、又は約100,000ヌクレオチド超であり得る。集団中の鋳型ポリヌクレオチド鎖48の最大鎖長及び最小鎖長は、上記の最大値と最小値との間の範囲であり得る。
【0096】
図5に示すように、シーケンシングされる鋳型ポリヌクレオチド鎖48(例えば、一本鎖DNA鎖)は、標識ヌクレオチド30などの試薬と共に溶液中に導入された後に、ポリメラーゼ38へ結合される。
【0097】
いくつかの例では、複数のセンサ10のアレイを含むシステム40、40’において、いくつかの異なる標識ヌクレオチド30(例えば、ヌクレオチド32として、dA、dC、dG、及びdTでそれぞれ標識される)を一緒に使用することができる。一例では、各々が、異なるヌクレオチド32及び異なるヌクレオチド特異的スイッチ鎖28を含む、4つの異なる標識ヌクレオチド30が使用される。一例として、標識ヌクレオチド30は、ヌクレオチドとしてデオキシアデノシンポリホスフェート及び第1のヌクレオチド特異的スイッチ鎖を含む、第1の標識ヌクレオチド;ヌクレオチドとしてデオキシグアノシンポリホスフェート及び第1のスイッチ鎖とは異なる配列を有する第2のヌクレオチド特異的スイッチ鎖を含む、第2の標識ヌクレオチド;ヌクレオチドとしてデオキシシチジンポリホスフェート及び第1のスイッチ鎖及び第2のスイッチ鎖の各々とは異なる配列を有する第3のヌクレオチド特異的スイッチ鎖を含む、第3の標識ヌクレオチド;並びに、ヌクレオチドとしてデオキシチミジンポリホスフェート及び第1のスイッチ鎖、第2のスイッチ鎖、及び第3のスイッチ鎖の各々とは異なる配列を有する第4のヌクレオチド特異的スイッチ鎖を含む、第4の標識ヌクレオチドを含む。したがって、この例では、第1のヌクレオチド、第2のヌクレオチド、第3のヌクレオチド、及び第4のヌクレオチド特異的スイッチ鎖は、互いに異なる。異なるスイッチ鎖は(相補的ギャップ22で会合している場合に)異なる導電率変化を生じ、これを使用して、それに付着している特定のヌクレオチドを識別してもよい。
【0098】
目的の分子の同一性を決定するために、開示された方法は、システム全体にAC電圧を印加し、トランジスタから電圧又は電流応答を読み出すことができる。分子架橋の電気導電率、したがってシステムの電気的応答は、目的の分子の同一性に依存する。AC電圧周波数が応答感度を最大化する最適周波数付近にある場合、測定感度を改善することができる。
【0099】
実施形態の更なる詳細は米国特許出願公開第2020/0002758号に見出すことができ、各開示の各々の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0100】
更なる実施例
実施例1:高分子中の構成要素を識別するためのシステムであって、
第1の抵抗を有する第1の素子であって、当該第1の抵抗が当該構成要素の当該同一性に依存する、第1の素子と、
第1の静電容量を有する第2の素子であって、当該第2の要素が当該第1の素子と動作可能に接続される、第2の要素と、
およそ第1の周波数を有する第1の周期波形を供給するように構成された電源であって、それによって、当該第1の抵抗に対する当該システムの電気応答の感度が最大化される、電源と、
を含む、システム。
実施例2:当該第1の周波数が、当該第1の抵抗及び当該第1の静電容量に依存する、実施例1に記載のシステム。
実施例3:当該第1の周期波形が、正弦波形である、実施例1に記載のシステム。
実施例4:当該第1の素子及び当該第2の素子が、並列に接続されている、実施例1に記載のシステム。
実施例5:複数の電極及び複数のトランジスタを更に備える、実施例1に記載のシステム。
実施例6:当該複数のトランジスタのうち1つが、電界効果トランジスタ(field-effect transistor:FET)である、実施例5に記載のシステム。
実施例7:電極及びFETを更に含み、ここで、当該電極が、当該第1の素子の一方の側に動作可能に接続され、当該FETのゲート端子が、当該第1の素子の反対側に動作可能に接続され、当該第1の素子及び当該第2の素子が、並列に接続される、実施例1に記載のシステム。
実施例8:当該第1の周期波形が、当該FETの当該電極と当該ソース端子との間の電圧として供給される、実施例7に記載のシステム。
実施例9:当該第1の周波数が、当該FETに関連する第2の静電容量に更に依存する、実施例7に記載のシステム。
実施例10:当該第2の静電容量が、当該FETの当該ゲート静電容量である、実施例9に記載のシステム。
実施例11:当該電源が、第2の波形を供給するように更に構成される、実施例1に記載のシステム。
実施例12:当該電源が、当該第2の波形及び当該第1の周期波形を同時に供給するように構成されている、実施例11に記載のシステム。
実施例13:当該第2の波形が、周期的である、実施例11に記載のシステム。
実施例14:当該第2の波形が、直流(DC)波形である、実施例11に記載のシステム。
実施例15:当該高分子が、複数の種類のポリマーを含み、当該構成要素が、複数の種類のポリマーのうち1つのモノマーである、実施例1に記載のシステム。
実施例16:当該高分子が1つ以上のポリペプチドを含み、当該構成要素がアミノ酸である、実施例1に記載のシステム。
実施例17:当該高分子が1つ以上のポリヌクレオチドを含み、当該構成要素がヌクレオチドである、実施例1に記載のシステム。
実施例18:任意の2種類のヌクレオチドに対する第1の抵抗の値が区別可能であるように、当該1つ以上のポリヌクレオチドのヌクレオチドが修飾及び/又は標識されている、実施例17に記載のシステム。
実施例19:逆転写酵素を更に含み、当該逆転写酵素が、当該高分子の一部を逆転写するように構成される、実施例17に記載のシステム。
実施例20:DNAポリメラーゼを更に含み、当該DNAポリメラーゼが、当該高分子の一部を複製するように構成される、実施例17に記載のシステム。
実施例21:チャンバ、当該チャンバ内の電解質、及び核酸の前駆体を更に含み、当該前駆体が、電解質中に溶解している、実施例20に記載のシステム。
実施例22:当該DNAポリメラーゼに永久的に付着されたポリマーテザーを更に含み、当該ポリマーテザーが、当該電解質中に充填されるように構成される、実施例21に記載のシステム。
実施例23:当該前駆体の一部が、当該ポリマーテザーの所定の領域とハイブリダイズするように構成され、当該所定の領域が、当該前駆体の種類に依存する、実施例22に記載のシステム。
実施例24:当該電源が、当該ポリマーテザーを作動させるように更に構成される、実施例22に記載のシステム。
実施例25:当該電解質及び当該前駆体を当該チャンバへと供給するように構成された流体サブシステムを更に含む、実施例21に記載のシステム。
実施例26:当該前駆体が、任意の2種類の前駆体に対する当該第1の抵抗の当該値が区別可能であるように、修飾及び/又は標識されている、実施例21に記載のシステム。
実施例27:当該前駆体が、イオノフォア又はイオノフォアの一部に結合している、実施例26に記載のシステム。
実施例28:当該第2の要素が、少なくとも1つの誘電体層及び少なくとも1つの導電層を含む、実施例1に記載のシステム。
実施例29:当該第1の要素が、修飾された部分的二本鎖核酸ポリマーを含む、実施例28に記載のシステム。
実施例30:当該修飾された部分的二本鎖核酸ポリマーが、
一緒に部分的に結合した2つのポリヌクレオチド鎖と、
ヌクレオチドが欠損している1つのポリヌクレオチド鎖におけるギャップと、
当該ギャップに曝露した当該他のポリヌクレオチド鎖の複数のヌクレオチド塩基と、
を含む、実施例29に記載のシステム。
実施例31:当該第2の要素が、膜を含む、実施例1に記載のシステム。
実施例32:当該膜が、脂質、ケイ素、グラフェン、固体材料、合成材料、脂質の生体模倣同等物(biomimetic equivalent)、又はそれらの任意の組合せから形成される、実施例31に記載のシステム。
実施例33:当該膜に沈着したイオノフォア又はイオノフォアの一部を更に含む、実施例31に記載のシステム。
実施例34:当該第1の素子が、当該イオノフォア又は当該イオノフォアの一部に部分的に基づいた当該膜で形成されたイオンチャネルを含む、実施例33に記載のシステム。
実施例35:当該第1の素子が、ナノポアを含む、実施例31に記載のシステム。
実施例36:当該ナノポアが、当該膜の正孔である、実施例35に記載のシステム。
実施例37:当該ナノポアが、当該膜に沈着した構造を含み、当該構造が、1つ以上のポリヌクレオチド、1つ以上のポリペプチド、1つ以上の種類のバイオポリマー、1つ以上のカーボンナノチューブ、1つ以上の種類の固体材料、又はそれらの任意の組合せから形成される、実施例35に記載のシステム。
実施例38:少なくとも1つのシーケンサが、実施例1~37のいずれか一例に記載のシステムに従って定義される、複数のシーケンサのアレイ。
実施例39:当該高分子中の構成要素を識別するために、当該構成要素の同一性の関数として当該FETの応答を測定することを含む、実施例7~10のいずれかに定義されるシステムを用いる方法。
実施例40:当該応答を測定することが、当該FETのゲートソース電圧、当該FETのFETソースドレイン電流、当該FETのドレインソース抵抗、又はそれらの任意の組合せを測定することを含む、実施例39に記載の方法。
実施例41:当該応答を測定することが、当該応答の位相、当該応答の振幅、当該応答の波形、又はそれらの任意の組合せを測定することを含む、実施例39に記載の方法。
実施例42:本方法が、当該第1の抵抗に対する当該FETの応答の偏導関数が最大又は最小になるような値に、当該第1の周波数を設定することを更に含む、実施例39に記載の方法。
実施例43:本方法が、当該第1の抵抗の変化に対する当該FETの当該応答の測定された変動が閾値よりも大きくなるような値に、当該第1の周波数を設定することを更に含む、実施例39に記載の方法。
実施例44:本方法が、当該第1の周波数の10%以内である周波数において当該第1の周期波形を供給するように当該電源を構成することを更に含む、実施例42に記載の方法。
実施例45:本方法が、当該第1の周波数と同じ程度の大きさを有する周波数において当該第1の周期波形を供給するように当該電源を構成することを更に含む、実施例42に記載の方法。
【0101】
定義
本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、別途定義されない限り、本開示が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0102】
本明細書で使用するとき、単数形「1つの」(「a」、「and」、及び「the」)には、別段の指示がない限り、複数の参照物も含まれる。したがって、例えば、「配列」への言及は、複数のそのような配列などを含み得る。
【0103】
含む(comprising)、含む(including)、含有する(containing)という用語、及びこれらの用語の様々な形態は、互いに同義であり、等しく広義であることを意味する。更に、反対に明示的に記載されない限り、特定の特性を有する1つの要素又は複数の要素を「備える(comprising)」、「含む(including)」、又は「有する(having)」実施例は、その特性を有するか否かにかかわらず、追加の要素を含み得る。
【0104】
本明細書で使用するとき、「シス」とは、分析物若しくは修飾された分析物が開口部に入るか、又は分析物若しくは修飾された分析物が移動する面を横切る、ナノポア開口部の側面を指す。
【0105】
本明細書で使用するとき、「トランス」とは、分析物若しくは修飾された分析物(又はその断片)が開口部を出るか、又は分析物若しくは修飾された分析物が移動しない面を横切る、ナノポア開口部の側面を指す。
【0106】
本明細書で使用するとき、用語「流体結合する(fluidically connecting)」、「流体連通」、及び「流体連結した(fluidically coupled)」などは、液体又は気体が2つの空間領域間で流れ得るように、互いに接続されている2つの空間領域を指す。例えば、シスウェル/ウェルは、中間ウェル、流体トンネル、より狭い領域、又は細孔、例えばナノポアを介してトランスウェル/ウェルに流体結合されてもよく、これにより、電解質の少なくとも一部が接続されたウェルの間を流れてもよい。2つの空間領域は、第1のナノスケール開口部及び第2のナノスケール開口部を介して、又はシステムを通る流体の流れを制御又は調節する、1つ以上の弁、リストリクタ、又は他の流体構成要素を介して流体連通することができる。
【0107】
本明細書で使用するとき、「動作可能に接続された」という用語は、要素の構成を指し、ここで、1つの要素の作用又は反応は別の要素に影響を及ぼすが、各要素の機能性を維持する様式で影響を及ぼす。
【0108】
本明細書で使用するとき、「膜」という用語は、同じ組成物又はそこに異なる組成物を含有し得る2つの液体/ゲルチャンバ(例えば、シスウェル及び流体空洞)を分離する、非透過性若しくは半透過性のバリア又は他のシートを指す。任意の所与の種に対する膜の透過性は、膜の性質に依存する。いくつかの例では、膜は、イオン、電流、及び/又は流体に対して非透過性であり得る。例えば、脂質膜は、イオンに対して不透過性であり得るが(すなわち、それを通るいかなるイオン輸送も可能にしない)、少なくとも部分的に水に対して透過性であり得る(例えば、水拡散率は、約40μm/秒~約100μm/秒の範囲にわたる)。別の例では、その一例が窒化ケイ素である合成/固体膜は、イオン、電荷、及び流体に対して不透過性であり得る(すなわち、これらの種の全ての拡散は0である)。膜が膜貫通ナノスケール開口部を含むことができ、かつ膜を横切る電位差を維持することができる限り、本開示に従って任意の膜を使用することができる。膜は、単層又は多層膜であり得る。多層膜は、各々が非透過性又は半透過性材料である2つ以上の層を含む。
【0109】
膜は生体由来又は非生体由来の材料から形成され得る。生体由来の材料は、生物若しくは細胞などの生体環境、又は生物学的に利用可能な構造体(例えば、生物模倣型材料)の合成製造バージョンに由来するか、又はそれらから単離された材料を指す。
【0110】
生体由来の材料から作製される例示的な膜は、ボラ脂質(bolalipid)によって形成される単層を含む。生体由来の材料から作製される別の例示的な膜は、脂質二重層を含む。好適な脂質二重層としては、例えば、細胞の膜、細胞小器官の膜、リポソーム、平面脂質二重層、及び支持脂質二重層が挙げられる。脂質二重層は、例えば、リン脂質の2つの対向する層から形成することができ、それらは、それらの疎水性尾部基が互いに面して疎水性内部を形成するように配置される一方で、脂質の親水性頭部基は、二重層の各側で水性環境に向かって外側に面する。脂質二重層はまた、例えば、脂質単層が、水溶液/空気界面上において、その界面に実質的に垂直な開孔部の両側を通過する方法によって形成され得る。脂質は、通常、最初に有機溶媒中に溶解し、次いで開孔部の両側の水溶液の表面で溶媒の液滴を蒸発させることによって、水性電解液の表面に添加される。有機溶媒が少なくとも部分的に蒸発すると、開孔部の両側の溶液/空気界面は、二重層が形成されるまで開孔部を越えて物理的に上下に動かされる。二重層形成の他の好適な方法としては、先端浸漬、塗布二重層、及びリポソーム二重層のパッチクランプが挙げられる。脂質二重層を得るか又は脂質二重層を産生するための任意の他の方法もまた使用され得る。
【0111】
生体由来ではない材料もまた膜として使用され得る。これらの材料のいくつかは固体材料であり、固体膜を形成することができ、これらの材料の他のものは薄い液体フィルム又は膜を形成することができる。固体膜は、支持基材(すなわち、固体支持体)上のコーティング若しくはフィルムなどの単層、又は独立した要素であり得る。固体膜はまた、サンドイッチ構成の多層材料の複合体であってもよい。得られた膜が膜貫通ナノスケール開口部を含むことができ、かつ膜を横切る電位差を維持することができる限り、生体由来でない任意の材料を使用してもよい。膜は、有機材料、無機材料、又はその両方を含んでもよい。好適な固体材料の例としては、例えば、マイクロ電子材料、絶縁材料(例えば、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ハフニウム(HfO)、五酸化タンタル(Ta)、酸化ケイ素(SiO)など)、いくつかの有機ポリマー及び無機ポリマー(例えば、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのプラスチック、又は2成分付加硬化シリコーンゴムなどのエラストマー)、及びガラスが挙げられる。加えて、固体膜は、二次元ハニカム格子へと高密度に充填された炭素原子の原子的に薄いシートである単層のグラフェン、多層のグラフェン、又は他の固体材料の1つ以上の層と混合されたグラフェンの1つ以上の層から作製することができる。グラフェン含有固体膜は、グラフェンナノリボン又はグラフェンナノギャップである少なくとも1つのグラフェン層を含むことができ、これは、標的ポリヌクレオチドを特徴付けるための電気センサとして使用することができる。固体膜は、任意の好適な方法、例えば、化学蒸着(chemical vapor deposition:CVD)によって作製することができることを理解されたい。一例では、グラフェン膜は、CVD又はグラファイトからの剥離のいずれかによって調製することができる。使用され得る好適な薄い液体フィルム材料の例としては、ジブロックコポリマー又はトリブロックコポリマー、例えば両親媒性PMOXA-PDMS-PMOXA ABAトリブロックコポリマーが挙げられる。
【0112】
本明細書で使用するとき、「ナノポア」という用語は、イオン、電流、及び/又は流体が膜の一方の側から膜の他方の側へと交差することを可能にする、膜とは別個の、又は膜内に画定され、かつ膜を横切って延びる中空構造を意味するよう意図している。例えば、イオン又は水溶性分子の通過を阻害する膜は、膜を横切って延在して、膜の一方の側から膜の他方の側へのイオン又は水溶性分子の通過(ナノポア構造を通って延在するナノスケール開口部を通る)を可能にする、ナノポア構造を含むことができる。ナノポア構造を通って延びるナノスケール開口部の直径は、その長さに沿って(すなわち、膜の一方の側から膜の他方の側へと)変化し得るが、任意の点でナノスケール上にある(すなわち、約1nm~約100nm、又は1000nm未満)。ナノポアの例としては、例えば、生体ナノポア、固体ナノポア、生体、並びに生体及び固体ハイブリッドナノポアが挙げられる。
【0113】
本明細書で使用するとき、「直径」という用語は、ナノスケール開口部の断面の重心を通るナノスケール開口部の断面に刻印可能な最長直線を意味することを意図している。ナノスケール開口部は、円形又は実質的に円形の断面(ナノスケール開口部の断面はシス/トランス電極と実質的に平行である)を有しても、又は有しなくてもよいことを理解されたい。更に、断面は、規則的又は不規則的な形状であってもよい。
【0114】
本明細書で使用するとき、「生体ナノポア」という用語は、その構造部分が生体由来の材料から作製されるナノポアを意味するよう意図されている。生体由来とは、生物若しくは細胞などの生体環境、又は生物学的に利用可能な構造体の合成製造バージョンに由来するか、又はそれらから単離された材料を指す。生体ナノポアとしては、例えば、ポリペプチドナノポア及びポリヌクレオチドナノポアが挙げられる。
【0115】
本明細書で使用するとき、「ポリペプチドナノポア」という用語は、膜を横切って延在し、かつイオン、電流、DNA若しくはペプチドなどのポリマー、若しくは適切な寸法及び電荷の他の分子、並びに/若しくは流体が膜の一方の側から膜の他方の側までそこを通って流れることを可能にする、タンパク質/ポリペプチドを意味することを意図している。ポリペプチドナノポアは、モノマー、ホモポリマー、又はヘテロポリマーであり得る。ポリペプチドナノポアの構造としては、例えば、αヘリックスバンドルナノポア及びβバレルナノポアが挙げられる。例示的なポリペプチドナノポアとしては、α-ヘモリシン、スメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)ポリンA(MspA)、グラミシジンA、マルトポリン、OmpF、OmpC、PhoE、Tsx、F線毛などが挙げられる。タンパク質α-ヘモリシンは細胞膜に天然に見出され、ここでは、イオン又は分子が細胞内外に輸送されるための細孔として作用する。スメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)ポリンA(MspA)はマイコバクテリアによって生成される膜ポリンであり、これは、親水性分子を細菌へと侵入させる。MspAは、緊密に相互接続された八量体、及び杯に似ており、かつ中心細孔を含有する膜貫通ベータバレルを形成する。
【0116】
ポリペプチドナノポアは合成であり得る。合成ポリペプチドナノポアは、天然には存在しないタンパク質様アミノ酸配列を含む。タンパク質様アミノ酸配列は、存在することが知られているが、タンパク質の基礎を形成しない、アミノ酸のいくつかを含み得る(すなわち、非タンパク質原性アミノ酸)。タンパク質様アミノ酸配列は、生物内で発現させるのではなく、人工的に合成し、次いで、精製/単離してもよい。
【0117】
本明細書で使用するとき、「ポリヌクレオチドナノポア」という用語は、膜を横切って延び、かつイオン、電流、及び/又は流体が膜の一方の側から膜の他方の側へと流れることを可能にするポリヌクレオチドを含むよう意図される。ポリヌクレオチド細孔は、例えば、ポリヌクレオチドオリガミ(例えば、ナノポアを作製するためのDNAのナノスケールフォールディング)を含むことができる。
【0118】
本明細書で使用するとき、「固体ナノポア」という用語は、その構造部分が固体膜によって定義され、かつ非生体由来の材料(すなわち、生体由来のものではない)を含むナノポアを意味するよう意図される。固体ナノポアは無機材料又は有機材料から形成することができる。固体ナノポアとしては、例えば、窒化ケイ素ナノポア、二酸化ケイ素ナノポア、及びグラフェンナノポアが挙げられる。
【0119】
本明細書に開示されるナノポアはハイブリッドナノポアであり得る。「ハイブリッドナノポア」とは、生体由来及び非生体由来の両方の材料を含むナノポアを指す。ハイブリッドナノポアの例としては、ポリペプチド固体ハイブリッドナノポア及びポリヌクレオチド固体ナノポアが挙げられる。
【0120】
本明細書で使用するとき、「ナノポアシーケンサ」という用語は、ナノポアシーケンシングに使用することができる本明細書に開示される装置のいずれかを指す。本明細書に開示される例では、ナノポアシーケンシングの最中、ナノポアは、本明細書に開示される電解質の例に浸漬され、かつ電位差が膜を横切って印加される。一例では、電位差は、電位差又は電気化学的電位差である。シスウェル、又はトランスウェルの1つ以上に含有される電解質のイオンの少なくとも1つに電流を注入又は投与する電圧源を介して、膜全体に電位差を課すことができる。電気化学的電位差は、電位と組み合わせたシスウェル及びトランスウェルのイオン組成の差によって確立することができる。異なるイオン組成は、例えば、各ウェル内の異なるイオン、又は各ウェル内の異なる濃度の同じイオンであり得る。
【0121】
ナノポアにわたる電位差の印加はナノポアを通る核酸の転位を強制し得る。ナノポアを通るヌクレオチドの転位に対応する1つ以上の信号が産生される。したがって、標的ポリヌクレオチドとして、又はモノヌクレオチドとして、又は標的ポリヌクレオチド若しくはモノヌクレオチドに由来するプローブとして、ナノポアを通過すると、膜を横切る電流は、例えば、狭窄部の塩基依存性(又はプローブ依存性)遮断に起因して変化する。電流の変化からの信号は、様々な方法のいずれかを用いて測定することができる。各信号は、得られた信号を使用してポリヌクレオチドの特徴を決定することができるように、ナノポア内のヌクレオチド(複数可)(又はプローブ)の種に固有である。例えば、特徴的な信号を生成するヌクレオチド(複数可)(又はプローブ)の1つ以上の種の同一性を決定することができる。
【0122】
本明細書に使用されるとき、「ヌクレオチド」は、窒素含有複素環式塩基、糖、及び1つ以上のリン酸基を含む。ヌクレオチドは、核酸配列のモノマー単位である。ヌクレオチドの例としては、例えば、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドが挙げられる。リボヌクレオチド(RNA)において、糖はリボースであり、デオキシリボヌクレオチド(DNA)において、糖は、デオキシリボース、すなわち、リボースの2’位に存在するヒドロキシル基が欠如している糖である。窒素含有複素環式塩基は、プリン塩基であってもピリミジン塩基であってもよい。プリン塩基としては、アデニン(A)及びグアニン(G)、並びにそれらの修飾された誘導体又は類似体が挙げられる。ピリミジン塩基としては、シトシン(C)、チミン(T)、及びウラシル(U)、並びにそれらの修飾された誘導体又は類似体が挙げられる。デオキシリボースのC-1原子は、ピリミジンのN-1又はプリンのN-9に結合される。リン酸基は、一リン酸形態、二リン酸形態、又は三リン酸形態であり得る。これらのヌクレオチドは天然ヌクレオチドであるが、非天然ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド又は前述のヌクレオチドの類似体もまた使用できることを更に理解されたい。
【0123】
本明細書で使用するとき、「信号」という用語は、情報を表すインジケータを意味するよう意図されている。信号としては、例えば、電気信号及び光信号が挙げられる。「電気信号」という用語は、情報を表す電気的品質の指標を指す。インジケータは、例えば、電流、電圧、トンネリング、抵抗、電位、電圧、コンダクタンス、又は横方向電気効果であり得る。「電子性電流(electronic current)」又は「電流」とは、電荷の流れを指す。一例では、電気信号はナノポアを通過する電流であってもよく、ナノポアを横切って電位差が印加される場合、電流が流れ得る。
【0124】
「基材」という用語は、水性液体に不溶性であり、かつ開孔部、ポート、又は他の同様の液体導管がないと液体を通過させることができない、剛性の固体支持体を指す。本明細書に開示される例では、基材は、その中に画定されたウェル又はチャンバを有してもよい。好適な基材の例としては、ガラス及び改質又は官能化ガラス、プラスチック(アクリル、ポリスチレン、及びスチレンと他の材料とのコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(例えば、Chemours製のTEFLON(登録商標))、環状オレフィン/シクロオレフィンポリマー(cyclo-olefin polymer:COP)(例えば、Zeon製ZEONOR(登録商標))、ポリイミドなど)、ナイロン、セラミック、シリカ又はシリカ系材料、ケイ素及び改質ケイ素、炭素、金属、無機ガラス、並びに光ファイバ束などが挙げられる。
【0125】
装置及び/若しくはナノポアシーケンサ並びに/又は装置の様々な構成要素を説明するために、本明細書では、上(top)、下(bottom)、下方(lower)、上方(upper)、上(on)などの用語が使用される。これらの方向を示す用語は、特定の配向を示すことを意味するものではなく、構成要素間の相対的な配向を指定するために使用されることを理解されたい。方向を示す用語の使用は、本明細書に開示される例を任意の特定の配向に制限すると解釈されるものではない。本明細書で使用するとき、「上部」、「下部」、「垂直」、及び「水平」などの用語は、相対的な方向を示すことを意味する。
【0126】
本明細書で使用するとき、「ウェル」、「空洞」、及び「チャンバ」という用語は同義的に使用され、流体(例えば、液体、ゲル、気体)を収容することができる装置に定義された個別の特徴を指す。シスウェルは、シス電極を収容するか又は部分的にシス電極によって画定されるチャンバであり、また次いで、トランスウェル/チャンバに流体接続されるFETの流体システムにも流体結合される。本装置のアレイの例は、1つのシスウェル又は複数のシスウェルを有し得る。トランスウェルは、それ自体のトランス電極を収容するか又はそれによって部分的に画定される単一のチャンバであり、またシスウェルに流体結合される。複数のトランスウェルを含む例では、各トランスウェルは、互いにトランスウェルから電気的に単離されている。更に、ウェルを少なくとも部分的に画定する基材の表面と平行して取られたウェルの断面は、湾曲、正方形、多角形、双曲線、円錐形、角度などであり得ることを理解されたい。
【0127】
本明細書で使用するとき、「電界効果トランジスタ」又は「FET」は、典型的には、例えばシリコン、ゲルマニウム、ガリウム砒素、炭化ケイ素などの半導体材料から形成され、かつチャネル領域によって分離されている、ドープされたソース/ドレイン領域を含む。n-FETは、電流キャリアが電子であるnチャネルを有するFETである。p-FETは、電流キャリアが正孔であるpチャネルを有するFETである。n-FET装置のソース/ドレイン領域は、p-FET装置のソース/ドレイン領域とは異なる材料を含んでもよい。いくつかの例では、ソース/ドレイン領域又はチャネルはドープされなくてもよい。ドープ領域は、真性半導体にドーパント原子を添加することによって形成してもよい。これにより、熱平衡時の真性半導体の電子及び正孔キャリア濃度が変化する。ドープ領域はp型又はn型であってもよい。本明細書で使用するとき、「p型」とは、価電子の欠乏をもたらす真性半導体への不純物の添加を指す。ケイ素の場合、p型ドーパントの例、すなわち不純物には、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、及びインジウムが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用するとき、「n型」とは、真性半導体への自由電子に寄与する不純物の添加を指す。ケイ素の場合、n型ドーパントの例、すなわち不純物には、アンチモン、砒素、及びリンが含まれるが、これらに限定されない。ドーパント(複数可)はイオン注入又はプラズマドーピングによって導入してもよい。
【0128】
例えば、複数のモス電界効果トランジスタ(metal oxide semiconductor field effect transistors:MOSFET)を有する集積回路では、各MOSFETは、半導体材料の層にn型又はp型の不純物を注入することによって半導体層の活性領域に形成されるソース及びドレインを有する。ソースとドレインとの間にはチャネル(又はボディ)領域が配置されている。ボディ領域の上方にはゲート電極が配置されている。ゲート電極及びボディは、ゲート誘電体(ゲート酸化物)層によって離間されている。チャネル領域はソースとドレインとを接続し、電流はチャネル領域を通ってソースからドレインへと流れる。電流フローは、ゲート電極に印加される電圧によってチャネル領域へと誘導される。
【0129】
ナノシート(又はナノワイヤ)トランジスタなどの非平面トランジスタ装置構造は、平面トランジスタよりも高い装置密度及び性能を提供することができる。「ゲート・オール・アラウンド」トランジスタとは、ゲートがチャネルを包み込むように構造化されたトランジスタである。「ナノシートトランジスタ」とは、チャネルを形成する一対のソース/ドレイン領域間に延在する複数の積層ナノシートを含み得るタイプのFETを指す。従来のプレーナFETとは対照的に、ナノシートトランジスタは、複数のナノシートのチャネル領域の全周を包むゲートスタックを含み得る。ナノシートトランジスタ構成は、ナノシートチャネル領域のより完全な空乏化を可能にし、短チャネル効果を低減する。「ナノワイヤトランジスタ」は、チャネルがナノシートの代わりにナノワイヤを含んでもよいことを除いて、ナノシートトランジスタと同様であってもよい。ナノシート又はナノワイヤトランジスタのゲート・オール・アラウンド構造は、より良好なスイッチング制御、より低いリーク電流、より速い動作、及びより低い出力抵抗を有する非常に小さい装置を提供することができる。
【0130】
チャネル導電率を増加させ、かつFETサイズを減少させる方法は、ナノ構造としてチャネルを形成することである。例えば、ゲート・オール・アラウンド(gate-all-around:GAA)ナノシートFETとは、チャネル領域を一連のナノシートとして形成することによって、比較的小さいFETフットプリントを提供するための構造である。GAA構成では、ナノシートベースのFETは、ソース領域、ドレイン領域、及びソース領域とドレイン領域との間の積層ナノシートチャネルを含む。ゲートは積層されたナノシートチャネルを取り囲み、ソース領域とドレイン領域との間のナノシートチャネルを通る電子の流れを調整する。GAAナノシートFETは、チャネルナノシートと犠牲ナノシート(sacrificial nanosheet)との交互層を形成することによって製造することができる。犠牲ナノシートは、FET装置が完成する前にチャネルナノシートから解放される。n型FETの場合、チャネルナノシートは、典型的にはケイ素(Si)であり、犠牲ナノシートは、典型的にはシリコンゲルマニウム(SiGe)である。p型FETの場合、チャネルナノシートは、典型的にはSiGeであり、犠牲ナノシートは、典型的にはSiである。いくつかの実装形態では、p-FETのチャネルナノシートは、SiGe又はSiであってもよく、犠牲ナノシートは、Si又はSiGeであってもよい。第1の種類の半導体材料(例えば、n型FETの場合はSi、p型FETの場合はSiGe)から形成されたチャネルナノシートと、第2の種類の半導体材料(例えば、n型FETの場合はSiGe、p型FETの場合はSi)から形成された犠牲ナノシートとの交互層からGAAナノシートを形成することは、優れたチャネル静電制御を提供し、これは、ゲート長を7ナノメートル以下のCMOS技術まで連続的にスケーリングするのに有益である。GAA FET半導体装置内にチャネル領域を形成するための多層SiGe/Si犠牲/チャネルナノシート(又はSi/SiGe犠牲/チャネルナノシート)の使用は、SiGeとSiとの間の界面における歪みの導入を含む、望ましい装置特性を提供する。
【0131】
いくつかの例では、「ナノワイヤ」は、約30nm未満の限界寸法を特徴とする一方で、「ナノシート」は、約30nm以上の限界寸法を特徴とする。例示的な装置では、限界寸法はゲートに沿って測定される。その方向において、チャネルの幅が小さい場合、チャネル断面は「ワイヤ」のようになる一方で、チャネルの幅が大きい場合、チャネル断面は「シート」のようになる。
【0132】
いくつかの例では、ナノシート又はナノワイヤの最小寸法は、約1~10、約1~50、約1~100、約1~500、又は約1~1000nmである。いくつかの例では、ナノシート又はナノワイヤの最小寸法は、約1~5、約3~10、約5~15、約10~20、約15~30、約20~40、約30~50、約40~75、約50~100、約75~150、約100~200、約150~300、約200~400、約300~500、約400~750、又は約500~1000nmである。いくつかの例では、ナノシートの最小寸法は、ナノシートの他の2つの寸法よりも、少なくとも約3、約5、約7、約10、約15、約20、約50、約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約450、約500、約600、約700、約800、約900、約1000、約2000、約2500、約3000、約4000、又は約5000倍小さい。いくつかの例では、ナノシートの最小寸法は、ナノシートの他の2つの寸法よりも、約2~5、約3~7、約5~10、約7~15、約10~20、約15~50、約20~100、約50~150、約100~200、約150~250、約200~300、約250~350、約300~400、約350~450、約400~500、約450~600、5約00~700、約600~800、約700~900、約800~1000、約900~2000、約1000~2500、約2000~3000、約2500~4000、又は約3000~5000倍小さい。いくつかの例では、ナノシートの最小寸法は、ナノシートの他の2つの寸法よりも、最大で約3、約5、約7、約10、約15、約20、約50、約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約450、約500、約600、約700、約800、約900、約1000、約2000、約2500、約3000、約4000、又は約5000倍小さい。いくつかの例では、ナノワイヤの最大寸法は、ナノワイヤの他の2つの寸法よりも、少なくとも約3、約5、約7、約10、約15、約20、約50、約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約450、約500、約600、約700、約800、約900、約1000、約2000、約2500、約3000、約4000、又は約5000倍大きい。いくつかの例では、ナノワイヤの最大寸法は、ナノワイヤの他の2つの寸法よりも、約2~5、約3~7、約5~10、約7~15、約10~20、約15~50、約20~100、約50~150、約100~200、約150~250、約200~300、約250~350、約300~400、約350~450、約400~500、約450~600、約500~700、約600~800、約700~900、約800~1000、約900~2000、約1000~2500、約2000~3000、約2500~4000、又は約3000~5000倍大きい。いくつかの例では、ナノワイヤの最大寸法は、ナノワイヤの他の2つの寸法よりも、最大で約3、約5、約7、約10、約15、約20、約50、約100、約150、約200、約250、約300、約350、約400、約450、約500、約600、約700、約800、約900、約1000、約2000、約2500、約3000、約4000、又は約5000倍大きい。
【0133】
本明細書に記載され、特許請求の範囲に列挙される態様及び実施例は、上記の定義を考慮して理解され得る。
【0134】
追記事項
以下により詳細に考察される、前述の概念及び更なる概念の全ての組合せが、(かかる概念が相互に矛盾しなければ)本明細書に開示される発明の主題の一部であると企図されることを理解されたい。具体的には、本開示の終わりに現れる特許請求される主題の全ての組合せは、本明細書に開示される発明の主題の一部であると企図される。本明細書で明示的に用いられ、また参照により組み込まれる任意の開示においても出現し得る用語は、本明細書で開示される特定の概念と最も一致する意味が与えられるべきであることも理解すべきである。
【0135】
「一例」、「別の例」、「ある例」などへの本明細書全体を通じての言及は、例に関連して記載されている特定の要素(例えば、特徴、構造、及び/又は特性)が、本明細書に記載されている少なくとも1つの例に含まれており、他の例に存在していても、存在していなくともよいことを意味している。更に、文脈上明確に別段の指示がない限り、任意の例に関する記載の要素は、様々な例において任意の好適な様式で組み合わせ得ることを理解すべきである。
【0136】
本明細書に提供される範囲は、そのような値又は部分範囲が明示的に列挙されているかのように、示される範囲及びその示される範囲内の任意の値又は部分範囲を含むことを理解されたい。例えば、約2nm~約20nmの範囲は、約2nm~約20nmの明示的に列挙された限度だけでなく、個々の値、例えば、約3.5nm、約8nm、約18.2nmなど、及び部分範囲、例えば、約5nm~約10nmなどもまた含むと解釈されるべきである。更に、値を表現するために「約」及び/又は「実質的に」が利用される場合、これは、明示される値からのわずかな変動(最大±10%)を包含することを意味する。
【0137】
いくつかの実施例を詳細に説明してきたが、開示された例は修正され得ることを理解すべきである。したがって、これまでの説明は非限定的なものであると考えるべきである。
【0138】
特定の例が説明されてきたが、これらの実施例は例としてのみ提示されており、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。実際、本明細書に記載の新規の方法及びシステムは、様々な他の形態で具体化され得る。更に、本明細書に記載のシステム及び方法の様々な省略、置換、及び変更は、本開示の趣旨から逸脱することなく行われ得る。添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物は、本開示の範囲及び趣旨に含まれるように、そのような形態又は修正を網羅することが意図される。
【0139】
特定の態様又は実施例と併せて記載された特徴、材料、特性、又は基は、このセクションに記載される任意の他の態様若しくは実施例、又はそれと互換性がない限り本明細書の他の場所に適用可能であると理解されるべきである。本明細書(添付の特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に開示された特徴の全て、及び/又はそのように開示された任意の方法若しくはプロセスの工程の全ては、そのような特徴及び/又は工程の少なくともいくつかが相互に排他的である組合せを除いて、任意の組合せで組み合わせてもよい。保護は任意の前述の例の詳細に限定されない。保護は、本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約、及び図面を含む)に開示された特徴の任意の新規なもの若しくは任意の新規な組合せ、又はそのように開示された任意の方法若しくはプロセスの工程の任意の新規なもの若しくは任意の新規な組合せにまで及ぶ。
【0140】
更に、別個の実装形態の文脈において本開示に記載されている特定の特徴はまた、単一の実装形態において組み合わせて実装され得る。逆に、単一の実装形態の文脈で説明される様々な特徴はまた、複数の実装形態で別々に、又は任意の好適な部分組合せで実装され得る。更に、特徴が特定の組合せで機能するものと上述される場合があるとしても、特許請求された組合せからの1つ以上の特徴は、場合によっては組合せから削除することができ、この組合せは、部分的組合せ、又は部分的組合せの変形として特許請求され得る。
【0141】
その上、動作は特定の順序で図面又は本明細書に表され得るが、このような動作が、所望の結果を得るために、示される特定の順序で若しくは順次実行される、又は全ての動作が実行される必要はない。図示又は説明されていない他の動作は、例示的な方法及びプロセスに組み込むことができる。例えば、記載された動作のいずれかの前、後、同時、又は間に、1つ以上の追加の動作を実行することができる。更に、動作は、他の実装形態では再配置又は再順序付けされてもよい。いくつかの例では、図示及び/又は開示されたプロセスで行われる実際の工程は、図に示されたものとは異なり得ることが当業者には理解されよう。例に応じて、上記した工程のうちのいくつかが除去されてもよく、又は他の工程が追加されてもよい。更に、上で開示された特定の例の特徴及び属性は、追加の例を形成するために異なる方法で組み合わされてもよく、その全てが本開示の範囲内に含まれる。また、上記の実装形態の種々のシステム構成要素の分離は、全ての実装形態でこのような分離を必要とするとして理解されてはならず、記載した構成要素及びシステムは通常、単一の製品に一緒に統合することができる、又は複数の製品内にパッケージ化することができることを理解すべきである。例えば、本明細書に記載のエネルギー貯蔵システムの構成要素のいずれかは、エネルギー貯蔵システムを形成するために、別個に提供されてもよく、又は一体化されてもよい(例えば、一緒に包装されるか、又は一緒に取り付けられる)。
【0142】
本開示の目的のために、ある特定の態様、利点、及び新規な特徴が本明細書に記載されている。必ずしも、そのような利点の全てが任意の特定の例に従って達成され得るとは限らない。したがって、例えば、当業者は、本開示が、本明細書で教示又は示唆され得る他の利点を必ずしも達成しなくとも、本明細書で教示する1つの利点又は一群の利点を達成するような様式で、具現化又は実行することができることを認識するであろう。
【0143】
「得る(can)」、「得る(could)」、「得る(might)」、又は「得る(may)」などの条件付き用語は、特に明記しない限り、又は使用される文脈内において他の意味で理解されない限り、概して、特定の例は、特定の特徴、要素、及び/又は工程を含むが、他の例は含まないことを伝えることを意図している。したがって、そのような条件付き術語は、概して、特徴、要素、及び/若しくは工程が1つ以上の例に何らかの形で必要とされること、又は1つ以上の例が、ユーザ入力又はプロンプトの有無にかかわらず、これらの特徴、要素、及び/若しくは工程が任意の特定の例に含まれる若しくは実行されるべきかを決定するための論理を必ず含むことを意味するように意図されるものではない。
【0144】
語句「X、Y、及びZのうちの少なくとも1つ」などの接続的な術語は、特に明記しない限り、項目、用語などがX、Y、又はZのいずれかであり得ることを伝えるために一般に使用される文脈で別様に理解される。したがって、そのような接続的な術語は、概して、特定の例がXの少なくとも1つ、Yの少なくとも1つ、及びZの少なくとも1つの存在を必要とすることを意味するようには意図されていない。
【0145】
用語「およそ(approximately)」、「約(about)」、「概して(generally)」、及び「実質的に(substantially)」などの本明細書で使用される程度の術語は、所望の機能を依然として実行するか又は所望の結果を達成する、記載された値、量、又は特性に近い値、量、又は特性を表す。
【0146】
本開示の範囲は、このセクション又は本明細書の他の場所における好ましい例の特定の開示によって限定されることを意図するものではなく、このセクション若しくは本明細書の他の場所に提示されるように、又は将来提示されるように、特許請求の範囲によって定義され得る。特許請求の範囲の術語は、特許請求の範囲で採用される述語に基づいて広く解釈されるべきであり、本明細書又は本出願の遂行中に記載された例に限定されず、この例は非排他的であると解釈されるべきである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
【国際調査報告】