(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】セパレータフィルム及びセパレータフィルムを製造する方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/414 20210101AFI20240313BHJP
H01M 50/426 20210101ALI20240313BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20240313BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240313BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240313BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240313BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20240313BHJP
【FI】
H01M50/414
H01M50/426
H01M50/42
H01M50/44
H01M50/403 D
H01M50/403 A
H01M50/489
H01M50/491
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532705
(86)(22)【出願日】2022-03-09
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 CN2022079936
(87)【国際公開番号】W WO2023168626
(87)【国際公開日】2023-09-14
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523198372
【氏名又は名称】江▲蘇▼▲硅▼▲時▼代材料科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100175075
【氏名又は名称】田中 康子
(72)【発明者】
【氏名】邱 ▲ジャン▼▲ミン▼
(72)【発明者】
【氏名】曾 吉永
(72)【発明者】
【氏名】王 秀慧
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB01
5H021BB12
5H021CC01
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE06
5H021EE09
5H021EE10
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】
本出願は、酸二無水物類モノマー、ジアミン類モノマー及び溶媒を使用して重合を行い、可溶性ポリマーを形成することを含む、セパレータフィルム及びセパレータフィルムを製造する方法を提供する。酸二無水物類モノマーは、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含み、ジアミン類モノマーは、3,4’-オキシジアニリン(ODA)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、3,3’-ジメチルベンジジン(TOL)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸二無水物類モノマー、ジアミン類モノマー及び溶媒を使用して重合を行い、可溶性ポリマーを形成することを含む可溶性ポリマーを製造する方法であって、
前記酸二無水物類モノマーは、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物を含み、前記ジアミン類モノマーは、3,4’-オキシジアニリン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジンを含む、可溶性ポリマーを製造する方法。
【請求項2】
前記可溶性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、カルボキシメチルセルロース、または硬質ポリウレタン弾性体を含む、請求項1に記載の可溶性ポリマーを製造する方法。
【請求項3】
前記酸二無水物類モノマーと前記ジアミン類モノマーのモル比は0.95~1.1の間である、請求項1に記載の可溶性ポリマーを製造する方法。
【請求項4】
前記可溶性ポリマーを第一溶媒に添加して繊維を形成することと、
第二溶媒で前記繊維を洗浄することと、を更に含み、
前記第一溶媒と前記第二溶媒はメタノールを含む、請求項1に記載の可溶性ポリマーを製造する方法。
【請求項5】
前記繊維を第三溶媒に添加して可溶性ポリマースラリーを得ることを更に含む、請求項4に記載の可溶性ポリマーを製造する方法。
【請求項6】
前記第三溶媒はテトラヒドロフランを含む、請求項5に記載の可溶性ポリマーを製造する方法。
【請求項7】
請求項1に記載の可溶性ポリマーをポリアミド酸に添加してスラリーを得ることを含むセパレータフィルムを製造する方法であって、
前記スラリーにおいて、前記可溶性ポリマーの前記ポリアミド酸における重量パーセントが5%~50%の間である、セパレータフィルムを製造する方法。
【請求項8】
前記スラリーを塗布してウェットフィルムを得ることと、
脱イオン水、エタノール、イソプロパノール、アセトンを含む溶媒を前記ウェットフィルムに添加することと、を更に含む、請求項7に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項9】
摂氏80度~250度で前記ウェットフィルムを1~60分間加熱し、前記スラリーを硬化させて前記セパレータフィルムを得ることを更に含む、請求項8に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項10】
前記セパレータフィルムのガラス転移温度が摂氏250度よりも高い、請求項9に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項11】
前記セパレータフィルムのガラス転移温度が摂氏350度よりも低い、請求項10に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項12】
前記セパレータフィルムの厚さが5μm~50μmの間である、請求項9に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項13】
前記セパレータフィルムの空隙率が45%~85%の間である、請求項9に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項14】
前記セパレータフィルムの空隙率が50%~80%の間である、請求項13に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項15】
体積比が1:1であるエチレンカルボナート/炭酸ジメチルの溶媒にモル濃度1Mのヘキサフルオロリン酸リチウムを添加して得られる電解液に対する前記セパレータフィルムの吸収率が200wt%よりも高い、請求項9に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項16】
前記セパレータフィルムの蒸留水に対する接触角が100度よりも小さい、請求項9に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項17】
体積比が1:1であるエチレンカルボナート/炭酸ジメチルの溶媒にモル濃度1Mのヘキサフルオロリン酸リチウムを添加して得られる電解液に対する前記セパレータフィルムの接触角が60度よりも小さい、請求項9に記載のセパレータフィルムを製造する方法。
【請求項18】
ケースにおいて、請求項9に記載のセパレータフィルムを正極及び負極の間に設置することと、
前記正極及び前記負極に電解液を添加して電池を形成することと、
前記電池を加熱することと、を含む、電池をテストする方法。
【請求項19】
前記電池を加熱する温度が120℃よりも高い、請求項18に記載の電池をテストする方法。
【請求項20】
前記電池を加熱する時間が30分よりも長い、請求項18に記載の電池をテストする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、量産性を有し、濡れ性を調節することができるポリイミドセパレータフィルムの製造方法に関するものであり、更にリチウムイオン電池に応用することができるセパレータフィルムを含む。
【背景技術】
【0002】
ここ数十年で、リチウムイオン二次電池は、高エネルギー比率、高電圧、小型、軽量、メモリ効果がない等の利点により、通信類電子製品の主要なエネルギー源の一つになった。しかし、多くの場合、人為的誤用により、リチウムイオン二次電池は、発煙、発火、更には爆発等の使用者の安全を脅かす隠れた危険を引き起こしやすい。よって、リチウムイオン電池の安全性を向上させることは、リチウムイオン電池を開発及び普及し、自動車用電源等の分野で応用する鍵となる。
【0003】
短絡を防ぐために、リチウムイオン電池の正負極の間にはセパレータフィルムが設置され、正負極が直接接触することを防ぐ。しかし、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の従来のリチウムイオン電池セパレータフィルムは、いずれも高温での保全性を保証し難い。そのため、過熱や過充電等の安全性テストを行う際に、電池セパレータフィルムが収縮することにより、電池の内部短絡を引き起こし、その結果、熱暴走の問題が発生することがよくある。よって、耐熱性の高い電池セパレータフィルムを用いることが、リチウムイオン電池の安全性を解決する鍵の一つになる。
【発明の概要】
【0004】
本出願の実施例は、酸二無水物類モノマー、ジアミン類モノマー及び溶媒を使用して重合を行い、可溶性ポリマーを形成することを含む、可溶性ポリマーを製造する方法を提供する。酸二無水物類モノマーは、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)を含み、ジアミン類モノマーは、3,4’-オキシジアニリン(ODA)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、3,3’-ジメチルベンジジン(TOL)を含む。
【0005】
いくつかの実施例において、可溶性ポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミド(PI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、または硬質ポリウレタン(PU)弾性体を含む。
【0006】
いくつかの実施例において、酸二無水物類モノマーとジアミン類モノマーのモル比は0.95~1.1の間である。
【0007】
いくつかの実施例において、可溶性ポリマーを製造する方法は、可溶性ポリマーを第一溶媒に添加して繊維を形成することと、第二溶媒で繊維を洗浄することと、を含み、第一溶媒と前記第二溶媒はメタノールを含む。
【0008】
いくつかの実施例において、可溶性ポリマーを製造する方法は、繊維を第三溶媒に添加して可溶性ポリマースラリーを得ることを更に含む。
【0009】
いくつかの実施例において、第三溶媒はテトラヒドロフランを含む。
【0010】
本出願の実施例は、可溶性ポリマーをポリアミド酸に添加してスラリーを得ることを含むセパレータフィルムを製造する方法であって、スラリーにおいて、可溶性ポリマーのポリアミド酸における重量パーセントが5%~50%の間である、セパレータフィルムを製造する方法を更に提供する。
【0011】
いくつかの実施例において、セパレータフィルムを製造する方法は、スラリーを塗布してウェットフィルムを得ることと、脱イオン水、エタノール、イソプロパノール、アセトンを含む溶媒をウェットフィルムに添加することと、を更に含む。
【0012】
いくつかの実施例において、セパレータフィルムを製造する方法は、摂氏80度~250度でウェットフィルムを1~60分間加熱し、スラリーを硬化させてセパレータフィルムを得ることを更に含む。
【0013】
いくつかの実施例において、セパレータフィルムのガラス転移温度は摂氏250度よりも高い。
【0014】
いくつかの実施例において、セパレータフィルムのガラス転移温度は摂氏350度よりも低い。
【0015】
いくつかの実施例において、セパレータフィルムの厚さが5μm~50μmの間である。
【0016】
いくつかの実施例において、セパレータフィルムの空隙率が45%~85%の間である。
【0017】
いくつかの実施例において、セパレータフィルムの空隙率が40%~80%の間である。
【0018】
いくつかの実施例において、体積比が1:1であるエチレンカルボナート/炭酸ジメチルの溶媒にモル濃度1Mのヘキサフルオロリン酸リチウムを添加して得られる電解液に対するセパレータフィルムの吸収率は200wt%よりも高い。
【0019】
いくつかの実施例において、セパレータフィルムの蒸留水に対する接触角は100度よりも小さい。
【0020】
いくつかの実施例において、体積比が1:1であるエチレンカルボナート/炭酸ジメチルの溶媒にモル濃度1Mのヘキサフルオロリン酸リチウムを添加して得られる電解液に対するセパレータフィルムの接触角は60度よりも小さい。
【0021】
本出願の実施例は、ケースにおいて、セパレータフィルムを正極及び負極の間に設置することと、正極及び負極に電解液を添加して電池を形成することと、電池を加熱することと、を含む、電池をテストする方法を更に提供する。
【0022】
いくつかの実施例において、電池を加熱する温度は120℃よりも高い。
【0023】
いくつかの実施例において、電池を加熱する時間は30分よりも長い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下、添付の図面と併せて本出願の実施例を詳細に説明する。留意すべきこととして、業界の標準的な慣例により、さまざまな特徴は縮尺通りに描かれておらず、説明のための例に過ぎない。実際、本出願の特徴を明瞭に説明するために、各要素の寸法は任意に拡大または縮小されていることがある。
【0025】
【
図1】
図1は本出願のいくつかの実施例におけるセパレータフィルムを製造する方法を示す。
【
図2】
図2は本出願のいくつかの実施例におけるポリイミドセパレータフィルムと市販のセパレータフィルムCelgard 2325の電解液に対する接触角テストの概略図である。
【
図3】
図3は本出願のいくつかの実施例におけるポリイミドセパレータフィルムのガラス転移温度テストのデータ図である。
【
図4】
図4は本出願のいくつかの実施例におけるポリイミドセパレータフィルムと市販のセパレータフィルムCelgard 2325の異なる温度での耐熱性テストの比較である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本出願の異なる特徴を実現するために、以下で、多くの異なる実施形態や実施例を開示する。本出願を説明するため、具体的な要素とその配置の実施例を以下に記述する。もちろん、これらの実施例は、例示するためのものに過ぎず、本出願の範囲を限定するものではない。例えば、明細書において、第一の特徴が第二の特徴の上に形成されると記載する場合、第一の特徴及び第二の特徴が直接接触する実施例を含み、また、第一の特徴及び第二の特徴の間にその他特徴を有する実施例、すなわち、第一の特徴及び第二の特徴が直接接触しない実施例も含む。
【0027】
また、異なる実施例において、符号または表示を重複して用いる可能性があるが、これら重複は、本出願を簡単且つ明確に説明するためのものに過ぎず、異なる実施例及び/または構造の間には特定の関連性があることを示すものではない。また本出願において、別の特徴の上に形成される、別の特徴に接続され及び/または結合されるとは、関与する特徴が直接接触で形成される実施例を含むことができ、且つ前記特徴が直接接触しないように、付加的な特徴が前記特徴の間に介在するように形成された実施例を含むこともできる。また、例えば、「垂直の」、「上方」、「上」、「下」、「底」及び類似の用語(例えば「下向きの」、「上向きの」等)のような空間と関連する用語を用いる場合、これら空間関連用語は、図面に示されるような一つ(複数)の要素または特徴と別の一つ(複数)の要素または特徴の関係を記述しやすくするためのものであり、これら空間関連用語は特徴を含むデバイスの異なる方向を包含することを意図されている。
【0028】
ここにおいて、「約」、「大体」、「実際」という用語は、通常、所定の値または範囲の20%内、好ましくは10%内、更に好ましくは5%内、または3%内、または2%内、または1%内、または0.5%内を意味する。ここにおいて、所定の数量は大体の数量であり、「約」、「大体」、「実際」という用語が特別に記載されていない場合であっても、「約」、「大体」、「実際」の意味を含むことができる。
【0029】
また、「第一数値から第二数値までの範囲内」、「範囲は第一数値から第二数値まで」という用語は、前記範囲が第一数値、第二数値及びそれらの間におけるその他の数値を含むことを意味する。
【0030】
本出願の各工程の順序は例に過ぎない。結果に影響を与えないという前提の下で、各工程の順序は合理的に配置して組み合わせることができる。
【0031】
リチウムイオン電池において、正極と負極が互いに接触して短絡が起こるのを防ぐために、正負極の間にはセパレータフィルムが設置され、正極と負極を物理的に隔絶する必要がある。また、電解液におけるイオンが正極と負極の間を自由に移動するためには、セパレータフィルムは多孔質セパレータフィルムである必要がある。
【0032】
ポリイミド(Polyimide,PI)は、良好な熱安定性、化学的安定性、及び優れた機械的特性を有しており、その長期使用温度は300℃に達する可能性があり、現在総合性能が最も優れたフィルム類絶縁材料である。ポリオレフィンセパレータフィルムと比較すると、ポリイミドは極性基を備えているため、リチウムイオン電解液の濡れ性が優れている。よって、ポリイミドは、耐高温の安全電池セパレータフィルムとして用いるのに非常に適した材料である。
【0033】
本出願のいくつかの実施例では、多官能基を有する酸二無水物及びジアミン類をまずは重合して可溶性ポリマーを得る。次に、可溶性ポリマーをポリアミド酸(Poly(amic acid),PAA)系内に導入し、塗布する方法でウェットフィルムを得る。可溶性ポリマーはポリアミド酸内にランダムに分散することができる。続いて、ウェットフィルムを異なる溶媒内に浸して可溶性ポリマーを除去する。最後に、高温でベークして、得られたセパレータフィルムに多孔性を持たせる。可溶性ポリマーの添加量を変えることにより、異なる濡れ性を有するポリイミドセパレータフィルムを得ることができる。このようなセパレータフィルムは高い耐熱性と優れた電解液の濡れ性を有すると同時に、製造プロセスがシンプル且つ多様であり、要件が低いため、工業生産に適している。
【0034】
本出願のいくつかの実施例では、前記方法により、濡れ性の優れたポリイミドセパレータフィルムを更に提供する。このセパレータフィルムをリチウムイオン電池に応用すると、プロセスに低エネルギー消費や低汚染等の一連の利点を持たせることができる。例えば、このポリイミドセパレータフィルムを通常の環境(例えば室温)でリチウムイオン電池に応用した場合、電池の充放電効率は市販のセパレータフィルムに匹敵することができる。このようなセパレータフィルムを有するリチウムイオン電池を高温の環境(140℃)で一時間加熱しても電池は動作するが、この時一般的なセパレータフィルムは正常に動作することができなくなる。よって、本出願の製造方法により製造されたポリイミドセパレータフィルムは、高い安定性、優れた電解液親和性、及び高い耐熱性を有することから、リチウムイオン電池のセパレータフィルムとすることができ、現在知られているポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)セパレータフィルムの高温下における不安定性と低い電解液の濡れ性等の問題が改善される。
【0035】
本出願をより明確に理解するために、以下では
図1と併せて、本出願のいくつかの実施例におけるセパレータフィルムの製造プロセスを概要説明する。
図1は本出願のいくつかの実施例におけるセパレータフィルムを製造する方法10を示す。
図1に示すように、セパレータフィルムを製造する方法10は、可溶性ポリマーを合成する工程12と、可溶性ポリマーをポリアミド酸に添加してスラリーを得る工程14と、スラリーを塗布してウェットフィルムを得る工程16と、ウェットフィルムを溶媒に浸す工程18と、溶媒に浸したウェットフィルムを加熱硬化させてセパレータフィルムを得る工程20とを含む。
【0036】
いくつかの実施例において、工程12に示すように、酸二無水物類モノマー、ジアミン類モノマー及び溶媒を使用して重合を行い、可溶性ポリマーを形成することができる。いくつかの実施例において、酸二無水物類モノマーは、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含むことができ、ジアミン類モノマーは、3,4’-オキシジアニリン(ODA)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、3,3’-ジメチルベンジジン(TOL)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。いくつかの実施例において、製造された可溶性ポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミド(PI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、または硬質ポリウレタン(PU)弾性体を含むことができる。いくつかの実施例において、酸二無水物類モノマーとジアミン類モノマーのモル比は、例えば、約0.97~約1.05、約0.99~約1.02、または約1:1に近い等、約0.95~約1.1の間であってよい。酸二無水物類モノマーとジアミン類モノマーのモル比を前記範囲内に調整することで、形成される可溶性ポリマーは、セパレータフィルムの形成に用いるのにより適することができる。いくつかの実施例において、可溶性ポリマーを製造する方法は、可溶性ポリマーを第一溶媒に添加して繊維を形成することと、第二溶媒で繊維を洗浄することと、を含む。いくつかの実施例において、第一溶媒と前記第二溶媒はメタノールを含む。これにより、溶媒に可溶な可溶性ポリマーを形成することができる。いくつかの実施例において、可溶性ポリマーを製造する方法は、繊維を第三溶媒に添加して可溶性ポリマースラリーを得ることを更に含む。いくつかの実施例において、酸二無水物類モノマーとジアミン類モノマーのモル比は0.95~1.1の間である。いくつかの実施例において、第三溶媒はテトラヒドロフランを含む。
【0037】
いくつかの実施例において、前記可溶性ポリマーを使用してセパレータフィルムを製造する方法を更に提供する。工程14に示すように、この方法は前記可溶性ポリマーをポリアミド酸に添加してスラリーを得ることを含む。実際のニーズにより、可溶性ポリマーの割合は調整することができる。例えば、可溶性ポリマーのポリアミド酸における重量パーセントは、得られるセパレータフィルムが信頼できる物理特性を有することを保証するために、約5%~約50%の間であってよい。
【0038】
いくつかの実施例において、工程16に示すように、セパレータフィルムを製造する方法は、例えば、ブレード塗布またはスピンコーティング等の方法を使用して塗布を行うように、スラリーを塗布してウェットフィルムを得ることを更に含む。いくつかの実施例において、工程18に示すように、セパレータフィルムを製造する方法は、ウェットフィルムを溶媒に浸すことを更に含み、前記溶媒は、脱イオン水、エタノール、イソプロパノール、アセトン等の適切な溶媒を含むことができる。
【0039】
いくつかの実施例において、工程20に示すように、セパレータフィルムを製造する方法は、摂氏80度~250度でウェットフィルムを約1~60分間加熱し、ウェットフィルムを硬化させてセパレータフィルムを得ることを更に含む。いくつかの実施例において、セパレータフィルムのガラス転移温度は摂氏250度よりも高くてよい。いくつかの実施例において、セパレータフィルムの厚さは5μm~50μmの間であってよい。いくつかの実施例において、セパレータフィルムの空隙率は、約45%~約85%であってよく、例えば、約50%~約80%の間であってよい。留意すべきこととして、工程20において、ポリアミド酸における可溶性ポリマー及び溶媒を除去して、多孔質ポリイミドセパレータフィルムを得ることができる。
【0040】
以下、各実施例と併せて本出願の詳細を更に説明する。
【0041】
[可溶性ポリマーの製造-実施例1]
【0042】
まず、窒素雰囲気下で、18.0212gの2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を150gのm-クレゾール溶媒に添加し、25℃で30分間攪拌した。2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンが完全に溶解し終わるのを待った後、25gの4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)と22gのm-クレゾール溶媒を添加し、22℃で30分間攪拌を続けた。その後、温度を90℃まで上げて3時間攪拌し、最後に、更に温度を180℃まで上げて16時間攪拌を続けた。
【0043】
次に、温度を室温(25℃)まで下げ、50gのm-クレゾール溶媒を添加し、30分間攪拌を続けて、希釈したスラリーを得た。希釈したスラリーを800mlのメタノール溶液内に徐々に滴下して、長尺状の細繊維を形成し、その後、新しいメタノール溶液を使用して得られた繊維を十分に洗浄し、残留するm-クレゾール溶媒を除去した。最後に150℃の真空オーブンで24時間乾燥を行い、可溶性ポリマーを得た。
【0044】
次に、37.5gの乾燥した前記繊維を112.5gのテトラヒドロフラン(THF)に添加し、12時間攪拌した後、1μmの濾紙を使用して濾過を行い、澄明な可溶性ポリマースラリーを得た。
【0045】
[可溶性ポリマーの製造-実施例2]
【0046】
まず、窒素雰囲気下で、21.4275gの2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)を150gのm-クレゾール溶媒に添加し、25℃で30分間攪拌した。2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンが完全に溶解し終わるのを待った後、15gの1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(HPMDA)と50gのm-クレゾール溶媒を添加し、22℃で30分間攪拌を続けた。その後、温度を90℃まで上げて3時間攪拌し、最後に、更に温度を180℃まで上げて16時間攪拌を続けた。
【0047】
次に、温度を室温(25℃)まで下げ、50gのm-クレゾール溶媒を添加し、30分間攪拌を続けて、希釈したスラリーを得た。そして、この希釈したスラリーを800mlのメタノール溶液内に徐々に滴下して、長尺状の細繊維を形成し、その後、新しいメタノール溶液を使用して得られた繊維を十分に洗浄し、残留するm-クレゾール溶媒を除去した。最後に、150℃の真空オーブンで24時間乾燥を行い、可溶性ポリマーを得た。
【0048】
次に、37.5gの乾燥した前記繊維を112.5gのテトラヒドロフランに添加し、12時間攪拌した後、1μmの濾紙を使用して濾過を行い、澄明な可溶性ポリマースラリーを得た。
【0049】
[ポリアミド酸の製造]
【0050】
窒素雰囲気下で、13.6117gの3,4’-オキシジアニリン(ODA)を150gの無水ジメチルアセトアミド(DMAc)に添加し、25℃で30分間攪拌した。3,4’-オキシジアニリンが完全に溶解し終わるのを待った後、20gの3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)を前記溶媒に添加し、更に、18.2gの無水ジメチルアセトアミドを添加し、25℃で24時間攪拌を続けて、ポリアミド酸スラリーを得た。
【0051】
[セパレータフィルムの製造]
【0052】
前記ポリアミド酸スラリーを重量パーセントが0%、10%、30%、及び50%の割合の可溶性ポリマースラリーにそれぞれ添加し、30分間攪拌を続けた。そして、得られたスラリーをガラス板に塗布してウェットフィルムを得、次に、異なる溶媒に浸して可溶性ポリマーを除去し、これにより異なる濡れ性を有するウェットフィルムを得た。最後に、摂氏230℃で真空オーブンにおいて60分間加熱を行うことにより、塗布したウェットフィルムを硬化させてセパレータフィルムを形成した。前記溶媒は、例えば、脱イオン水またはアルコール類であってよく、アルコール類は、例えば、エタノールであってよい。
【0053】
[セパレータフィルムの特性のテスト]
【0054】
表1は、前記方法で製造されたセパレータフィルムと市販でよくあるセパレータフィルムCelgard 2325(PP/PE/PP)との比較であり、使用された電解液は、体積比が1:1であるエチレンカルボナート(EC)/炭酸ジメチル(DMC)(EC/DMC)の溶媒にモル濃度1Mのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を添加して得られた電解液である。
図2は、本出願のサンプル4のポリイミドセパレータフィルムと市販のセパレータフィルムCelgard 2325の前記電解液に対する接触角テストの概略図である。
【0055】
表1における接触角は、光学式接触角計測器(Creating Nano Technologies Inc.製、型番OCA 40 Micro)により、蒸留水と電解液をセパレータフィルムに滴下した接触角を測定して得たものである。
【0056】
表1における空隙率は、n―ブチルアルコール吸収法により得たものである。具体的には、セパレータフィルムをn―ブチルアルコールに二時間浸した後、浸す前と浸した後のセパレータフィルムの重量を比較することにより、空隙率を得ることができる。以下の方程式で示される。
【0057】
式中、P(%)は空隙率、Mdはn―ブチルアルコールに浸す前のセパレータフィルムの重量、Mwはn―ブチルアルコールに浸した後のセパレータフィルムの重量、ρはn―ブチルアルコールの密度、Vdはセパレータフィルムの体積を表す。
【0058】
表1における電解液吸収率は、アルゴン雰囲気下でセパレータフィルムを前記電解液に2時間浸し、浸す前と浸した後の重量を比較することにより得たものである。以下の方程式で示される。
【0059】
式中、EU(%)は電解液吸収率、Wiは電解液に浸す前のセパレータフィルムの重量、Wfは電解液に浸した後のセパレータフィルムの重量である。表1から分かるように、本出願で得られたサンプル1~4は、市販のセパレータフィルムに比べると、蒸留水または前記電解液に関わらず、比較的小さい接触角を有し(例えば、蒸留水に対して100度よりも小さく、EC:DMC溶媒に対して60度よりも小さくすることができる)、また、本出願のセパレータフィルムは比較的高い電解液吸収率を更に有する。つまり、本出願のセパレータフィルムは、市販のセパレータフィルムに比べて優れた濡れ性を有する(例えば、200wt%よりも高くすることができる)。また、本出願のセパレータフィルムは、イオンが移動しやすいようにより高い空隙率を更に有することで、このセパレータフィルムを使用するリチウムイオン電池の電気特性を高めることができる。留意すべきこととして、表1におけるセパレータフィルムの厚さは25μmであるが、本出願はこれに限定されるものではない。必要に応じてセパレータフィルムの厚さを変更することができ、例えば、さまざまな異なるニーズを満たすために、セパレータフィルムの厚さを約5μm~約50μmの間に設計することができる。また、本出願の実施例で得られるセパレータフィルムの空隙率は、約45%~約85%の間であってよく、例えば、約50%~約80%の間であり、電気特性及び機械的強度のさまざまな要件に応じて適切なセパレータフィルムを選択することができる。
【表1】
【0060】
図3は、本出願のいくつかの実施例におけるポリイミドセパレータフィルムのガラス転移温度(Tg)テストのデータ図である。具体的には、TA Instruments社製の型番Q400熱機械分析装置(TMA)を使用して、窒素雰囲気下で縦15mm、横5mm、厚さ約25μmのポリイミドセパレータフィルムに対し分析を行うことができる。まずは、セパレータフィルムを120℃まで加熱してから完全に冷却し、含まれる水分がテスト結果に影響を与えないようにする。次に、100℃~400℃の温度範囲内で、昇温速度5℃/minで加熱を行う。分析の過程において、セパレータフィルムが受ける荷重は、厚さ1μmあたり0.5gであり、例えば、厚さ25μmのセパレータフィルムの場合、荷重は10gである。
【0061】
図4は、本出願のいくつかの実施例におけるポリイミドセパレータフィルムと市販のセパレータフィルムCelgard 2325の異なる温度での耐熱性テストの比較であり、
図4におけるテスト結果は、各セパレータフィルムを異なる温度環境下に30分間置いて得られたものである。
【0062】
図3及び
図4から分かるように、本出願のポリイミドセパレータフィルムのガラス転移温度は摂氏250℃よりも高くてよく、例えば、
図3におけるポリイミドセパレータフィルムのガラス転移温度は289.13℃である。これにより、本出願のポリイミドセパレータフィルムが高温下でもある程度の安定性を有することを保証することができる。
図4に示すように、本出願のポリイミドセパレータフィルムは250℃以下の形状がいずれも安定しており、300℃で変形し始める。しかし、市販のセパレータフィルムCelgard 2325は150℃で変形し始め、250℃以上になると更には直接溶けて消失する。しかしながら、本出願はこれに限定されるものではない。例えば、いくつかの実施例において、本出願のポリイミドセパレータフィルムは350℃で変形し始めることができ、つまり、ガラス転移温度は350℃よりも低くてよい。よって、本出願のポリイミドセパレータフィルムは、一般的な市販のセパレータフィルムに比べて優れた熱安定性を有することが分かる。
【0063】
[電池特性テスト]
【0064】
表2は、本出願のいくつかの実施例におけるポリイミドセパレータフィルムと市販のセパレータフィルムCelgard 2325がそれぞれ電池に組み込まれた後、140℃(120℃よりも高い)の環境で1時間(30分間よりも長い)ベークしてから、電池のサイクルテストを行った結果を示す。具体的には、電池の正負極材料は、それぞれリチウム(Li)とチタン酸リチウム(Li4Ti5O12、LTO)である。前記電極、セパレータフィルム、電解液は、アルゴン雰囲気下でCR2032ボタン電池に組み込まれ、そして、UBIQ社の型番BAT-750Bの電池充放電器を使用して室温で電池のサイクルテストを行った。
【0065】
表2に記録されたデータは、一回目のサイクルで得られた電気容量を100%容量とする。表2に示すように、一般的な市販のセパレータフィルムを使用する電池は、ベークした後の電気容量の減衰が非常に速く、例えば、2回目のサイクルでは元の容量の37.5%しか残っていないが、本出願のポリイミドセパレータフィルムは20回目のサイクルでも100%の残りの電気容量を有している。よって、本出願のポリイミドセパレータフィルムを電池に応用すると、耐高温の効果を奏することができるため、電池は高温環境での動作により適したものになることが分かる。
【表2】
【0066】
以上より、本出願の実施例は、可溶性ポリマーを製造する方法を提供し、この可溶性ポリマーを使用してセパレータフィルムを製造する方法を更に提供する。本出願の方法により製造されたセパレータフィルムは、高い耐熱性、高い電解液の濡れ性、高い空隙率等の利点を有することができ、リチウムイオン電池に応用すると、より優れた性能及び高い安全性を有するリチウムイオン電池を得ることができる。
【0067】
本出願の実施例及びその利点は前記のとおり開示されているが、当業者であれば、本出願の精神及び範囲から逸脱することなく、変更、置換、及び変形を行うことができることを理解すべきである。また、本出願の保護範囲は、明細書内に記載の特定の実施例におけるプロセス、機械、製造、物質組成、装置、方法、及びステップに限定されず、当業者であれば、本出願の開示内容から、現行の、または未来で発展するプロセス、機械、製造、物質組成、装置、方法、及びステップは、ここで記載される実施例において、ほぼ同じ機能を実行できる、または、ほぼ同じ結果を達成することができれば、本出願に基づいて使用することができることを理解することができる。従って、本出願の保護範囲は、前記のプロセス、機械、製造、物質組成、装置、方法、及びステップを含む。また、各特許請求の範囲は、個別の実施例を構成し、且つ、本出願の保護範囲は、各特許請求の範囲の組み合わせ、及び各実施例の組み合わせも含む。
【符号の説明】
【0068】
10 方法
12、14、16、18、20 工程
【国際調査報告】