(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】折り畳まれたフィルムから成るマイクロ流体システム及び製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/00 20060101AFI20240313BHJP
B32B 3/10 20060101ALI20240313BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240313BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20240313BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240313BHJP
B29C 59/04 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
B29C59/00 E
B32B3/10
B05D7/00 A
B05D3/12 C
B05D3/12 D
C12M1/00 A
B29C59/04
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023549923
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(85)【翻訳文提出日】2023-10-16
(86)【国際出願番号】 EP2022053879
(87)【国際公開番号】W WO2022175361
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517204173
【氏名又は名称】ヨアネウム・リサーチ・フォーシュングスゲゼルシャフト・エムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バーバラ・シュタットローバー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ヘッセ
(72)【発明者】
【氏名】アンヤ・ハーセ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ヴォルフ
【テーマコード(参考)】
4B029
4D075
4F100
4F209
【Fターム(参考)】
4B029AA23
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4D075AC02
4D075AC25
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4F100AK01A
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4F209PW43
(57)【要約】
1枚のフィルムから折り畳まれて複数の積層されたフィルム層(1)を形成し、異なる平面にマイクロ流体構造(5)を含むフィルム複合材料であって、マイクロ流体構造は、エンボス加工によって形成された窪みを有するフィルム層が、積層方向において隣接するそれぞれのフィルム層によって覆われていることによって形成されており、1つの平面のマイクロ流体構造は、少なくとも1つのフィルム層の貫通孔を介して他の平面のマイクロ流体構造と接合されているフィルム複合材料、フィルム複合材料を製造するための方法、フィルム複合材料の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚のフィルムから折り畳まれて複数の積層されたフィルム層(1)を形成し、異なる平面にマイクロ流体構造(5)を含んでいるフィルム複合材料であって、前記マイクロ流体構造は、エンボス加工によって形成された窪みを有するフィルム層が、積層方向において隣接するそれぞれのフィルム層によって覆われていることによって形成されており、1つの平面のマイクロ流体構造が、少なくとも1つのフィルム層の貫通孔を介して他の平面のマイクロ流体構造に接続されているフィルム複合材料。
【請求項2】
2つの折り畳みエッジを有し、したがって中央フィルム層と第1及び第2の外側フィルム層とを有するフィルムを、第1の外側フィルム層が中央フィルム層の上に折り畳まれ、第2の外側フィルム層がその後に第1のフィルム層の上に折り畳まれるように折り畳むことによって、扇形に折り畳まれるか、又は得られる、請求項1に記載のフィルム複合材料。
【請求項3】
前記フィルム層の少なくとも1つが、キャリアフィルムと、前記キャリアフィルムの一方の表面に、エンボス加工によって形成された窪みを有するラッカー層と、を有している、及び/又は、前記フィルム層の少なくとも1つが、キャリアフィルムと、前記キャリアフィルムの両方の表面に、前記キャリアフィルムの両方の表面の少なくとも1つにエンボス加工によって形成された窪みを備えたラッカー層と、を有している、請求項1又は2に記載のフィルム複合材料。
【請求項4】
前記フィルムが、前記フィルムのレーザー切断によって形成された折り畳みエッジで折り畳まれている、及び/又は、前記貫通孔がレーザー切断によって形成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載のフィルム複合材料。
【請求項5】
全面が直接重なり合っている合同のフィルム層と、折り畳みエッジと、を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のフィルム複合材料。
【請求項6】
積層方向において隣接する2つのフィルム層が、互いに対向し、積層方向において部分的にのみ重なり合うエンボス加工によって形成された窪みを有することによって、互いに連通するマイクロ流体構造が異なる平面に形成されている、請求項1から5のいずれか1項に記載のフィルム複合材料。
【請求項7】
前記マイクロ流体構造内に、機能化、ナノ構造化、疎水化及び加熱剤充填から選択された少なくとも1つの修飾を有する、請求項1から6のいずれか1項に記載のフィルム複合材料。
【請求項8】
フィルム層の少なくとも1つが、キャリアフィルムと、前記キャリアフィルムの少なくとも1つの表面に、エンボス加工によって形成された窪みを有するラッカー層と、を有しており、前記窪みは、前記フィルム層の前記ラッカー層に存在し、前記ラッカー層はUV硬化によって隣接する前記フィルム層と接合されるか、又は、前記窪みは、前記フィルム層の熱可塑性ラッカー層に存在し、前記ラッカー層が専ら熱接合によって隣接するフィルム層と接合される、請求項1から7のいずれか1項に記載のフィルム複合材料。
【請求項9】
扇形に折り畳まれていると共に、全面が直接重なり合う合同のフィルム層と折り畳みエッジとから構成されており、前記折り畳みエッジ及び前記貫通孔はレーザーを用いて形成され、前記フィルム層はキャリアフィルムと窪みを備えたラッカー層とを有し、前記ラッカー層はUV硬化によって隣接するフィルム層と接合される、請求項1に記載のフィルム複合材料。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のフィルム複合材料を製造するための方法であって、以下のステップ:
(a)硬化性エンボスラッカーの層をキャリアフィルムの第1の表面に塗布し、エンボスラッカー部分にエンボスラッカー層を形成するステップ、
(b)硬化性ボンディングラッカーの層を前記キャリアフィルムの第1の表面に塗布し、ボンディングラッカー部分にボンディングラッカー層を形成するステップ、
(c)ステップ(a)で得られたエンボスラッカー層に、エンボス加工ツールを用いて窪みをエンボス加工によって形成するステップ、
(d)ステップ(c)でエンボス加工されたエンボスラッカー層を部分硬化させるステップ、
(e)ステップ(d)の後でエンボス加工ツールを除去するステップ、
(f)ステップ(e)で得られた構造を前記キャリアフィルムの第1の表面から第2の表面に貫通する貫通孔を形成し、前記構造を前記エンボスラッカー部分と前記ボンディングラッカー部分との間で折り畳んで2つのフィルム層を形成するステップ、
(g)ステップ(f)で得られた2つのフィルム層を重ね合わせ、複合材料を形成し、一方のフィルム層の前記エンボスラッカー部分の前記エンボスラッカー層の窪みを他方のフィルム層の前記ボンディングラッカー部分の前記ボンディングラッカー層で閉じることによって、マイクロ流体構造を形成するステップ、
(h)ステップ(g)で得られた前記複合材料の部分硬化した前記エンボスラッカー層及び前記ボンディングラッカー層を硬化させて、前記層の間に共有結合を形成し、フィルム複合材料を得るステップ、
を含む方法。
【請求項11】
硬化性ボンディングラッカーが、ステップ(c)~(e)に従ってエンボス加工され、部分硬化した硬化性エンボスラッカーである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項に記載のフィルム複合材料を製造するための方法であって、以下のステップ:
(a)ポリマーにラジカル重合可能なモノマーを含むエンボスラッカーの層をキャリアフィルムの第1の表面に塗布し、エンボスラッカー部分にエンボスラッカー層を形成するステップ、
(b)前記キャリアフィルムの第1の表面にカバー層を塗布し、カバー層部分において前記カバー層を形成するステップ、
(c)ステップ(a)で得られた前記エンボスラッカー層に、エンボス加工ツールを用いて窪みをエンボス加工によって形成するステップ、
(d)前記エンボスラッカー層に含まれるモノマーをポリマーに重合させて、前記キャリアフィルムの上に熱可塑性エンボスラッカー層を形成するステップ、
(e)ステップ(d)の後で前記エンボス加工ツールを除去するステップ、
(f)ステップ(e)で得られた構造を前記キャリアフィルムの第1の表面から第2の表面へ貫通する貫通孔を形成し、前記構造を前記エンボスラッカー部分と前記カバー層部分との間で折り畳んで2つのフィルム層を形成するステップ、
(g)ステップ(f)で得られた2つのフィルム層を熱接合し、一方のフィルム層の前記エンボスラッカー部分の前記エンボスラッカー層の窪みを他方のフィルム層の前記カバー層部分の前記カバー層によって閉じ、マイクロ流体構造を形成し、これによってフィルム複合材料を得るステップ、
を含む方法。
【請求項13】
前記カバー層が、ステップ(c)~(e)に従ってエンボス加工及び重合される熱可塑性エンボスラッカー層である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
エンボス加工がロールtoロールプロセスで実施される、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ポリメラーゼ連鎖反応又は等温増幅によるDNAの増幅のための、請求項1から9のいずれか一項に記載のフィルム複合材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体システムを構成する折り畳まれたフィルムから成るフィルム複合材料、フィルム複合材料を製造するための方法及びフィルム複合材料の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体構造を有する部品は、多くのセンサチップ内の典型的な要素であり、液体を受容、移送、混合、又は、その他の方法で処理できるマイクロチャネル及びマイクロチャンバを含んでいる。病院での病原菌の迅速診断、又は、プロセス技術、環境分析などにおける化学物質の迅速分析のためのバイオセンサが使用例である。使用に際して多くの場合、マイクロ流体構造は、入口及び出口を含むカバーで閉じられている。
【0003】
ラボオンチップシステムは、例えば直接、患者宅又はかかりつけ医で迅速な検査及び分析を行うために用いられる小型ミニラボである。このようなシステムがフィルム基板上に集積されている場合、ラボオンフィルムシステムと呼ばれる。当該システムは、小型で、使用後の廃棄が容易で、したがって低費用で製造されるべきである。ラボオンフィルムシステムは、これらの条件を特に高い程度で満たしている。多くの場合、このようなシステムは、従来の測定セットアップに適合するように、顕微鏡スライドの大きさで製造される。これによって当該システムの大きさが制限されるので、わずかな機能のみが含まれることがしばしばである。
【0004】
特許文献1は、PCRマイクロリアクターとしてのマイクロ流体システムを開示しており、マイクロ流体システムは、マイクロ流体構造及び貫通孔を備えた2つのフィルム層を有する折り畳み構造を含んでいる。マイクロ流体構造は、一方のフィルム層に窪みを形成することによって構成され、当該窪みは、貫通孔を有する第2のフィルム層によって、折り畳むことで覆われる。代替的に、マイクロ流体構造は、2つのフィルム層に互いに鏡像となるように配置された窪みを形成し、2つのフィルム層を折り重ねることによって構成され、これによって、2つのフィルム層の窪みから成るマイクロ流体構造が構成される。つまり、異なる平面にマイクロ流体構造を有するマイクロ流体システムは形成されない。さらに、マイクロ流体システムは、2つのフィルム層のみから構成されるので、異なる平面のマイクロ流体構造を接続するための貫通孔は含まれていない。
【0005】
特許文献2は、複数のフィルム層を有する折り畳み構造を含む組織工学用のマイクロ流体システムを開示しており、フィルム層内のマイクロ流体構造及びフィルム層を通る貫通孔がレーザーを用いて形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第10106008号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2018/0264474号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102020114621号明細書
【特許文献4】国際公開第2020/187990号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術は、マイクロ流体構造がエンボス加工によっては形成されず、フィルムの折り畳みによって形成されるマイクロ流体システムを開示している。エンボス加工は、レーザー加工と比較して、特にロールtoロールプロセスとして実施される場合、迅速かつ効率的に実施可能であり、マイクロ流体構造が容易に製造され得るという利点を有している。
【0008】
したがって、本発明の課題は、より容易なプロセスを用いて、マイクロ流体構造を有する改良されたフィルム複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本課題は、1枚のフィルムを折り畳むことによって形成されると共に、エンボス加工によって形成されたマイクロ流体構造を有しているフィルム複合材料を提供することによって解決された。
【0010】
本発明の対象は、特に以下の通りである:
【0011】
[1]1枚のフィルムから、複数の積層されたフィルム層(1)を形成するように折り畳まれた、異なる平面にマイクロ流体構造(5)を含むフィルム複合材料であって、マイクロ流体構造は、エンボス加工によって形成された窪みを有するフィルム層が、積層方向においてそれぞれ隣接するフィルム層によって覆われていることによって構成されており、1つの平面のマイクロ流体構造が、少なくとも1つのフィルム層の貫通孔を通じて他の平面のマイクロ流体構造に接続されている、フィルム複合材料。
【0012】
つまり、マイクロ流体構造は、フィルム層に窪みをエンボス加工によって形成し、この窪みを他のフィルム層で覆うことによって形成される。異なる平面にあるこれらのマイクロ流体構造の少なくとも2つ、任意で2つ以上、又は全てが貫通孔を通じて接続されており、すなわち互いに連通している。
【0013】
[1-1]好ましくは、マイクロ流体構造は、フィルム層間に接着剤を使用せずに構成されている。
【0014】
[2][1]又は[1-1]に記載のフィルム複合材料であって、扇形に折り畳まれているフィルム複合材料か、又は、2つの折り畳みエッジと、したがって、中央フィルム層並びに第1及び第2の外側フィルム層を有し、好ましくは3つのフィルム層及び2つの折り畳みエッジから成るフィルムを、第1の外側フィルム層が中央フィルム層の上に折り畳まれ、次に第2の外側フィルム層が第1のフィルム層の上に折り畳まれるように折り畳むことによって得られるフィルム複合材料。
【0015】
[2]によると、折り畳みは扇形に、すなわちファンフォールドの原理に従って行われる。[2]によると、折り畳みは代替的に、
図5及び
図6に示す原理に従って行われる。当該原理の利点は、3つのフィルム層を有するフィルムの場合、2つの折り畳みエッジがフィルムの同じ側に形成され、全ての窪みがフィルムの同じ側にエンボス加工によって形成され得るが、折り畳みの後には、全ての窪みがフィルム複合材料の内側にあり、すなわち外側面には窪みが存在しないことにある。
【0016】
[3][1]、[1-1]又は[2]に記載のフィルム複合材料であって、(i)フィルム層の少なくとも1つが、キャリアフィルムと、キャリアフィルムの一方の表面に、エンボス加工によって形成された窪みを備えたラッカー層とを有しており;及び/又は(ii)フィルム層の少なくとも1つが、キャリアフィルムと、キャリアフィルムの両方の表面に、キャリアフィルムの両方の表面の少なくとも一方にエンボス加工によって形成された窪みを有するラッカー層とを有しているフィルム複合材料。
【0017】
(ii)の場合、(a)隣接する2つのフィルム層の窪みが覆われていること、及び/又は、(b)フィルム層の両方の表面に窪みが存在し、両方の表面上の窪みが覆われていることによって、マイクロ流体構造を異なる平面に形成することができる。
【0018】
フィルムを扇形に折り畳む場合には、一方の表面にエンボスラッカー層を備えた部分と、他方の表面にエンボスラッカー層を備えた部分とを交互に有し、当該部分間で折り畳まれてフィルム層を形成するフィルムから折り畳まれた、[3](i)に係るフィルム複合材料が好ましい。このような方法で、フィルム複合材料全体において、キャリアフィルムがキャリアフィルムによって覆われることを防止することができる。
【0019】
キャリアフィルムの両方の表面に窪みが存在する、[3](ii)に係るフィルム複合材料が好ましい場合がある。この場合、キャリアフィルムを介在させることなく、各折り畳みプロセスの際に、異なる平面のマイクロ流体構造が生じる。
【0020】
隣接する2つのフィルム層の場合、窪みを有する表面は対向していてよい。対向し合う窪みは、少なくとも部分的に重なり合うことが可能であり、これによって、例えば反応室として使用可能である高次のマイクロ流体構造が形成される。
【0021】
[3-1]好ましくは、[3]に係るフィルム複合材料において、2つの隣接するフィルム層のラッカー層は、UV硬化によって接合されている。
【0022】
UV硬化によって共有結合が形成され、層の特に固い接合とマイクロ流体構造のハーメティックカバーとがもたらされる。
【0023】
[4]上述の点のいずれか1つに係るフィルム複合材料であって、フィルムのレーザー切断によって形成された折り畳みエッジで折り畳まれ、及び/又は、貫通孔がレーザー切断によって形成されたフィルム複合材料。
【0024】
[5]上述の点のいずれか1つに係るフィルム複合材料であって、全面が直接重なり合う合同のフィルム層及び折り畳みエッジから成るフィルム複合材料。
【0025】
[5-1]好ましくは、[5]に係るフィルム複合材料は、扇形に折り畳まれている。
【0026】
[5-2]好ましくは、[5]に係るフィルム複合材料において、隣接する2つのフィルム層のラッカー層は、UV硬化によって接合されている。
【0027】
[6]上述の点のいずれか1つに係るフィルム複合材料であって、積層方向において隣接する2つのフィルム層が、対向し合い、積層方向において部分的にのみ重なり合うエンボス加工によって形成された窪みを有することによって、互いに連通するマイクロ流体構造が異なる平面において形成されている。
【0028】
対向し合う窪みは互いに重なり合っているが、部分的に重なっているに過ぎない。つまり、折り畳んだ後は合同ではなくなる。これによって、2つのフィルム層が折り畳みの際に互いに重なることで、異なる平面に位置し、連通するマイクロ流体構造が生じ、例えばレーザーを用いて形成しなければならないであろう貫通孔は不要である。
【0029】
[7]上述の点のいずれか1つに係るフィルム複合材料であって、マイクロ流体構造中に、機能化(Funktionalisierung)、ナノ構造化、疎水化及び加熱剤充填から選択される少なくとも1つの修飾を有するフィルム複合材料。
【0030】
マイクロ流体構造は、これらの修飾のうちの複数を有していてもよく、修飾はマイクロ流体構造の異なる部分に存在する。折り畳みの際に2つの窪みを重ねることによって、2つの別個の異なる修飾が、上面図においてマイクロ流体構造の同じ位置に、すなわち、1つの修飾が上側に、1つの修飾が下側に存在することさえあり得る。
【0031】
[8]上述の点のいずれか1つに係るフィルム複合材料であって、フィルム層の少なくとも1つが、キャリアフィルムと、キャリアフィルムの少なくとも一方の表面に、エンボス加工によって形成された窪みを備えたラッカー層とを有し、(i)窪みがフィルム層のラッカー層に存在し、ラッカー層がUV硬化によって隣接するフィルム層に接合されているか、又は(ii)窪みがフィルム層の熱可塑性ラッカー層に存在し、ラッカー層が専ら熱接合によって隣接するフィルム層に接合されているフィルム複合材料。
【0032】
[8](i)に係るフィルム複合材料が、第1の実施形態において記載される。[8](ii)に係るフィルム複合材料が、第2の実施形態において記載される。
【0033】
[9][1]に記載のフィルム複合材料であって、扇形に折り畳まれており、全面が直接重なり合う合同のフィルム層及び折り畳みエッジから構成されており、折り畳みエッジ及び貫通孔がレーザーを用いて形成されており、フィルム層が、キャリアフィルムと、窪みを備えたラッカー層とを有し、ラッカー層が、UV硬化によって隣接するフィルム層に接合されているフィルム複合材料。
【0034】
[10]以下のステップを含む、[1]~[9]のいずれか1点に係るフィルム複合材料を製造するための方法:
(a)硬化性エンボスラッカーの層をキャリアフィルムの第1の表面に塗布し、エンボスラッカー部分にエンボスラッカー層を形成するステップ、
(b)硬化性ボンディングラッカーの層をキャリアフィルムの第1の表面に塗布し、ボンディングラッカー部分にボンディングラッカー層を形成するステップ、
(c)ステップ(a)で得られたエンボスラッカー層に、エンボス加工ツールを用いて窪みをエンボス加工によって形成するステップ、
(d)ステップ(c)でエンボス加工によって形成されたエンボスラッカー層を部分硬化させるステップ、
(e)ステップ(d)の後でエンボス加工ツールを除去するステップ、
(f)ステップ(e)で得られた構造をキャリアフィルムの第1の表面から第2の表面に貫通する貫通孔を形成し、当該構造をエンボスラッカー部分とボンディングラッカー部分との間で折り畳んで2つのフィルム層を形成するステップ、
(g)ステップ(f)で得られた2つのフィルム層を重ね合わせ、複合材料を形成し、一方のフィルム層のエンボスラッカー部分のエンボスラッカー層の窪みを他方のフィルム層のボンディングラッカー部分のボンディングラッカー層で閉じることによって、マイクロ流体構造を形成するステップ、
(h)ステップ(g)で得られた複合材料の部分硬化したエンボスラッカー層及びボンディングラッカー層を硬化させて、これらの層の間に共有結合を形成し、フィルム複合材料を得るステップ。
【0035】
[11][10]に係る方法であって、硬化性ボンディングラッカーが、ステップ(c)~(e)に従ってエンボス加工され、部分硬化される硬化性エンボスラッカーである方法。
【0036】
[12]以下のステップを含む、[1]~[9]のいずれか1点に係るフィルム複合材料を製造するための方法:
(a)ポリマーにラジカル重合することが可能であるモノマーを含むエンボスラッカーの層をキャリアフィルムの第1の表面に塗布し、エンボスラッカー部分にエンボスラッカー層を形成するステップ、
(b)キャリアフィルムの第1の表面にカバー層を塗布し、カバー層部分にカバー層を形成するステップ、
(c)ステップ(a)で得られたエンボスラッカー層に、エンボス加工ツールを用いて窪みをエンボス加工によって形成するステップ、
(d)エンボスラッカー層に含まれるモノマーをポリマーに重合させて、キャリアフィルム上に熱可塑性エンボスラッカー層を形成するステップ、
(e)ステップ(d)の後でエンボス加工ツールを除去するステップ、
(f)ステップ(e)で得られた構造をキャリアフィルムの第1の表面から第2の表面に貫通する貫通孔を形成し、当該構造をエンボスラッカー部分とカバー層部分との間で折り畳んで2つのフィルム層を形成するステップ、
(g)ステップ(f)で得られた2つのフィルム層を互いに熱接合し、一方のフィルム層のエンボスラッカー部分のエンボスラッカー層の窪みを他方のフィルム層のカバー層部分のカバー層で閉じることによってマイクロ流体構造を形成し、フィルム複合材料を得るステップ。
【0037】
[13][12]に係る方法であって、カバー層が、ステップ(c)から(e)に従ってエンボス加工及び重合される熱可塑性ラッカー層である方法。
【0038】
[14][10]から[13]のいずれか1点に係る方法であって、エンボス加工がロールtoロールプロセスで実施される方法。
【0039】
[15]ポリメラーゼ連鎖反応又は等温増幅によるDNAの増幅のための、[1]~[10]のいずれか1点に係るフィルム複合材料の使用。
【0040】
マイクロ流体構造を有する薄いフィルム層を使用することによって、同じ設置面積でより大きなスペースが利用可能になり、同じ面積でより多くの機能を搭載することができる。
【0041】
本発明に係るフィルム複合材料の製造は、所定の折り畳み線でフィルム層を折り畳むことによって容易になる。
【0042】
本発明に係るフィルム複合材料中にマイクロ流体構造を製造するために、大面積かつハイスループットでのマイクロ構造のロールtoロールエンボス加工を用いることができる。これらのマイクロ構造は、既知の方法を用いてカバー層を積層することによって同時に封止され得る。これによって、例えばバイオセンサの使用に際して必要な、閉じたチャネル網を形成することができる。
【0043】
マイクロ流体構造には、カバーと側壁との間で全体的にハーメティックシールが施されている。これによって、マイクロ流体構造は機械的に安定し、取り扱いの際の圧力差及び応力の影響を受けにくくなる。ハーメティックシールはまた、分析結果を歪曲する可能性のある異物及び汚染物質の侵入を防止し、温度制御されたプロセス(例えばオンチップ増幅)の進行も可能にする。同時に、キャリアフィルムと薄いラッカー層とから成る構造によって、高い機械的柔軟性が生じ、低価格でのロール加工による生産と円滑な折り畳みとが可能になる。また、マイクロ流体構造は接着剤を使用せずに封止されているので、生じ得る汚染は回避される。
【0044】
マイクロ流体構造は全体的に同じ材料から構成され得るので、液体又は検体の均一で円滑な輸送が可能である。
【0045】
本発明に係る方法は、単純なUV接合又は熱接合を可能にし、したがってハイスループットのプロセスで使用され得る。UV接合の際には、共有結合が形成される。さらに、UV接合の際は、熱可塑性挙動を必要とせず、単官能基アクリレートに限定する必要がないので、材料開発の自由度を高めることができる。硬化に際して架橋が形成されるので、チャネル材料は弾性を有しており、したがって、ロールに基づく製造の際又は使用の際に、クラックの形成が回避される。
【0046】
異なる寸法、形状及び特性のマイクロ流体構造を多数連通することによって、単一の基板上で様々な機能を組み合わせることが可能であり、したがって、時間、費用及びリソースを節約することができる。例えば、このような組み合わせには、以下の機能の1つ以上が含まれる:(例えば、LAMP(ループ介在等温増幅)又はPCR(ポリメラーゼ連鎖反応法)を用いて)分析すべきDNAをチップ内で直接増幅させることが可能であるサンプル増幅;チップを流れる液体を所望の位置で停止させることが可能である、疎水性遅延構造の形成;より大きな表面を形成し、生体機能化の改善を可能にするための、構造化されたセンサ表面の形成;反応室の拡張;追加のプロセス液体を収容するための拡張された貯蔵室;毛細管現象の作用によって層から層へと液体を引き込むような貫通孔の、フィルム層間における形成;毛細管現象の作用によってマイクロ流体構造に金属インクを充填した後、焼成(加熱剤充填)することによって行われる、サンプル増幅の際に必要な温度調整のための加熱導体構造の形成。
【0047】
空気で満たされたチャンバを形成することによって、フィルム加熱によって温度調節されたチャンバの断熱性を改善することができる。このような空気で満たされたチャンバには、再帰反射器を取り付けてもよく、再帰反射器は、光信号(例えば化学発光反応)をよりよく外部に伝えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】DNAの増幅に使用するフィルム複合材料の例を用いて、本発明に係るフィルム複合材料の製造原理を示した図である。
【
図2A】フィルム層(1)の横断面を概略的に示した図である。
【
図2B】片面にエンボスラッカー層を有するフィルム層から成る本発明に係るフィルム複合材料の横断面を示した図である。
【
図3A】フィルム層(1)の横断面を概略的に示した図である。
【
図3B】2つの面にエンボスラッカー層を有するフィルム層から成る本発明に係るフィルム複合材料の横断面を示した図である。
【
図4】2つの面にエンボスラッカー層を有するフィルム層から成る本発明に係るフィルム複合材料の横断面を示した図である。
【
図5】本発明に係るフィルム複合材料を製造するためのフィルムを示した上面図である。
【
図6】
図5に示したフィルムを折り畳むことによって形成されたフィルム複合材料の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は、DNAの増幅に使用するフィルム複合材料の例を用いて、本発明に係るフィルム複合材料の製造原理を示している。等温PCRの温度は、PCRチャンバ(13)の下に位置する加熱剤が充填されたマイクロ流体構造(15)を通じて設定される。マイクロ構造化された表面(14)は、生体機能化(例えば、DNA及び/又はタンパク質の結合)を有していてもよい。疎水性バルブ(12)は、表面と物質との選択的相互作用、例えば隣接するマイクロ流体構造への選択的通過のために用いられる。
【0050】
図2Aは、フィルム層(1)の横断面を概略的に示している。深さ100%の窪み(4)を有するエンボスラッカー層(3)が、キャリアフィルム(2)の片面に塗布されている。
【0051】
図2Bは、片面にエンボスラッカー層を有するフィルム層から成る本発明に係るフィルム複合材料の横断面を示している(
図2Aを参照)。折り畳みエッジは図示されていない。窪みは隣接するフィルム層によって覆われ、横断面が閉じられたマイクロ流体構造(5)を形成する。貫通孔(6)は、異なる平面のマイクロ流体構造(5)を接続する。
【0052】
図3Aは、フィルム層(1)の横断面を概略的に示している。深さ100%の窪み(4)を有するエンボスラッカー層(3)が、キャリアフィルム(2)の両方の面に塗布されている。窪み(4)は様々な機能を有することができる。例えば、窪み(4)は加熱剤(7)又はナノ構造(8)を含むことができる。
【0053】
図3Bは、2つの面にエンボスラッカー層を有するフィルム層から成る本発明に係るフィルム複合材料の横断面を示している(
図3Aを参照)。折り畳みエッジは図示されていない。窪みは隣接するフィルム層によって覆われ、横断面が閉じられたマイクロ流体構造(5)を形成している。貫通孔(6)は異なる平面のマイクロ流体構造(5)を接続する。マイクロ流体構造(5)は様々な機能を有することができる。例えば、マイクロ流体構造(5)は、加熱剤(9)又はナノ構造(10)を含むことができる。
【0054】
図4は、2つの面にエンボスラッカー層を有するフィルム層から成る本発明に係るフィルム複合材料の横断面を示している。折り畳みエッジ及び貫通孔は図示されていない。窪みは隣接するフィルム層によって覆われ、横断面が閉じられたマイクロ流体構造(5)を形成する。マイクロ流体構造(5)は、横断面において様々な機能を有することができる。例えば、マイクロ流体構造(5)は、加熱剤(9)及びナノ構造(10)を含むことができる。マイクロ流体構造(5)は、深さ100%の幅広い窪み(4)(
図2A、
図2B及び
図3Aを参照)から形成することによって、より大きな空洞(16)を形成することが可能であり、当該空洞は、反応室又は貯蔵室として利用され得る。空洞(16)は、接続凹所(17)を通じてマイクロ流体構造(5)に接続されている。
【0055】
図5は、本発明に係るフィルム複合材料を製造するためのフィルムを示した上面図である。当該フィルムは、3つのフィルム層A、B、Cと、2つの折り畳みエッジ(11)とから構成されている。フィルム層は、貫通孔(6)と、上面に窪み(4)とを有している。フィルム層(A)のフィルム層(B)への第1の折り畳み(
図5では「1.」と表記)によって、複合材料(A)/(B)が生じる。複合材料(A)/(B)のフィルム層(A)上へのフィルム層(C)の第2の折り畳み(
図5では「2.」と表記)によって、フィルム複合材料(B)/(A)/(C)が生じる。(A)の窪みは、(A)の貫通孔及び(B)の対応する貫通孔と共に、液体入口を生じさせる。(B)のチャンバは、例えばLAMP用の反応室として用いられ得る。(A)の窪みと(B)の窪みとが合同ではないので、(A)及び(B)を折り畳むことによって、異なる平面に位置し、連通している2つのチャンバが生じ、貫通孔は不要である。(C)に形成された窪みは、折り畳みの際に、例えば、センサチャネル及び廃棄物貯蔵庫として用いられ得るチャンバをもたらし、センサチャネルは、(A)の貫通孔を通じて(B)の反応室と連通するように接続されている。
【0056】
図6は、
図5に示したフィルムを折り畳むことによって形成されたフィルム複合材料の断面図である。
【0057】
図面において、マイクロ流体構造は長方形の形状を有し、大抵の場合、エンボスラッカー層の層厚の100%の深さを有している。マイクロ流体構造は、エンボス加工によって形成可能である他のあらゆる形状、例えばキャリアフィルムに向かって先細になる三角形状又は丸みを付けられた形状を有し得ることに留意すべきである。さらに、マイクロ流体構造がキャリアフィルムによって部分的に覆われないように、深さを100%未満にすることもできる。
【0058】
本発明に係るフィルム複合材料は、単一のフィルムから折り畳まれている。すなわち、フィルム複合材料は折り畳まれたフィルムから成る。したがって、他の成分、例えば接着剤又はフィルム層間の他の層若しくはプライは除外されているが、これに対して、ナノ構造、加熱剤、機能化などの付加的な成分はマイクロ流体構造において除外されていない。フィルムは数回折り畳まれ、複数のフィルム層と、その間に位置する折り畳みエッジとを形成する。
【0059】
フィルム複合材料において、マイクロ流体構造は異なる平面に含まれており、(i)マイクロ流体構造は、エンボス加工によって形成された窪みを有するフィルム層が、積層方向において隣接するそれぞれのフィルム層によって覆われていることによって構成されており、(ii)1つの平面のマイクロ流体構造は、少なくとも1つのフィルム層の貫通孔を通じて、他の平面のマイクロ流体構造に接続されている。特徴(ii)は、フィルム層の両方の面におけるマイクロ構造、すなわち窪みを規定している。これらのマイクロ構造は、特徴(i)に従って、窪みがそれぞれさらなるフィルム層によって覆われていることによって生じる。つまり、特徴(i)と(ii)との組み合わせは、フィルム複合材料が少なくとも3つのフィルム層を有することを必要とする。
【0060】
一実施形態において、フィルム複合材料は、積層されたフィルム層が全面で重ね合わされるように、すなわち、折り畳みエッジの直ぐ後ろでも接続されているように構成されている。つまり、フィルム複合材料は、全面が直接重なり合っている合同のフィルム層と折り畳みエッジとから構成されている。フィルム層は同じ長さ、幅及び表面形状を有しており、好ましくはフィルム層は同じ大きさの長方形であり、折り畳みエッジは、フィルム複合材料の垂直方向において、フィルム層の一方の端部と反対側の端部とに交互に、好ましくは長方形のフィルム層の向かい合う表面に位置する。窪みは、フィルム層が合同であることとは関係なく、合同ではないか、又は、合同でもある。
【0061】
したがって、フィルム複合材料は、好ましくは、ファンフォールドの原理に従って折り畳まれていてよく、すなわち、例えば連続紙のスタックのように扇形に折り畳まれていてよい。これによって、フィルム層の少なくとも一方の表面には、隣接するフィルム層に接続されていない領域は存在しない。このようにして、フィルム層の表面は最大限に利用される。
【0062】
ファンフォールドの原理に従う折り畳みに対して代替的又は付加的に、自明のことながら任意の種類の折り畳みが可能である。例えば、2つの折り畳みエッジを有し、したがって中央フィルム層と第1及び第2の外側フィルム層とを有するフィルムを、第1の外側フィルム層が中央フィルム層の上に折り畳まれた後、第2の外側フィルム層が第1のフィルム層の上に折り畳まれるように折り畳むことができる。
【0063】
本明細書において、フィルム層に関連して、「積層されたフィルム層」という表現は、フィルム複合材料において各フィルム層が他のフィルム層に直接接続されていることを意味する。本明細書において、「積層方向」という表現は、平坦なフィルム層のx-y平面に対して垂直なz方向を意味し、フィルム層の上方又は下方の位置を示している。フィルム層に関連して、「積層方向において隣接する」という表現は、第1のフィルム層が第2のフィルム層に直接接続されており、z方向において第2のフィルム層の上方又は下方に位置するということを意味する。本明細書において、「異なる平面において」という表現は、z方向における異なる高さを意味する。例えばマイクロ流体構造の異なる平面は、フィルム複合材料内のマイクロ流体構造が異なるフィルム層に存在すること、又は、同じフィルム層の下面及び上面に存在することによって生じ得る。
【0064】
フィルム複合材料において、異なる平面のマイクロ流体構造の少なくとも一部は、貫通孔を通じて互いに接続されている。本明細書において、マイクロ流体構造が「接続されている」という表現は、マイクロ流体構造が連通し得ること、すなわち、例えば液体などの流体といった材料が、あるマイクロ流体構造から他のマイクロ流体構造へと移動可能であることを意味する。
【0065】
フィルム層は、当該フィルム層が、フィルムの折り畳みによって、特に折り畳みエッジによって、他のフィルム層から分離されているということによって定義される。
【0066】
フィルム及び各フィルム層は平坦であり、積層方向において隣接するフィルム層との接触面を画定するx方向及びy方向と、フィルム厚さ又はフィルム層厚さに相当するz方向とにおいて寸法を有している。x方向及びy方向の寸法は、それぞれz方向の寸法の少なくとも10倍、好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも50倍である。フィルム層はそれ自体が薄いフィルムである。
【0067】
本発明において、例えば「1つのマイクロ流体構造」又は「前記マイクロ流体構造」のように、要素又は構造を表すために単数形が使用される場合、これらの要素又は構造の複数形を明示的に除外することは意図していないので、例示的な表記は、特に反対のことが記載されていない限り、「少なくとも1つのマイクロ流体構造」又は「少なくとも1つの前記マイクロ流体構造」と同義である。
【0068】
特定の使用に関して、フィルム複合材料において加熱装置が必要であり得る。加熱装置は、様々な方法で供給され得る。加熱装置は、マイクロ流体構造内に加熱剤を充填することによって形成可能であり、
図4の加熱器(9)のように、フィルム複合材料の一体的な構成要素であり得る。しかしまた、加熱装置は、フィルム複合材料の外面に取り付けられていてもよい。加熱剤は、外側フィルム層のエンボス加工によって形成された窪みに充填され得る。例えば、金属インクを毛細管現象の作用によって加熱剤として充填することができる。このようにして、マイクロ流体的に充填された電極を形成することが可能であり、電極をフィルムの加熱に用いることが可能である。また、加熱装置は、別途製造された加熱フィルムを貼付することによっても供給され得る。しかしまた、加熱剤は、例えばインクジェット印刷又はスクリーン印刷によって、外側フィルム層に印刷することも可能である。
図6は、上述の加熱装置の1つに適したフィルム複合材料を示している。特に、加熱装置は、有利には、フィルム層(B)内又はフィルム層(B)上の外側、すなわち窪みを有する側の裏面に形成され得る。
図6に示すフィルム複合材料には、フィルム加熱装置と印刷された加熱装置との両方が適している。
【0069】
フィルムはキャリアフィルムと、任意でその表面の一方又は両方のさらなる層、例えばエンボスラッカー層又はボンディング層とから成る。
【0070】
フィルム複合材料のフィルム層は、フィルムから折り畳まれる。
【0071】
キャリアフィルム
キャリアフィルムは、x-y方向に面を有し、z方向に厚みを有する平坦なポリマーフィルムである。
【0072】
キャリアフィルムは、好ましくは5μm~2000μm、好ましくは10μm~1000μm、特に好ましくは20μm~500μmの厚さを有している。キャリアフィルムは、好ましくは、PI、PP、MOPP、PE、PPS、PEEK、PEK、PEI、PSU、PAEK、LCP、PEN、PBT、PET、PA、PC、COC(シクロオレフィンコポリマー)、POM、ABS、PVC、PTFE、ETFE(エチレンテトラフルオロエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVF(ポリフッ化ビニル)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、及びEFEP(エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フルオロポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、PS(ポリスチレン)から成るプラスチックフィルムである。
【0073】
キャリアフィルムの表面は、例えばヒドロキシ基、チオ基又はアミン基などの官能基を有していてもよい。代替的に、官能基は保護基で保護されていてもよく、保護基はエンボスラッカー層の出発材料のエンボス加工及び重合後に除去される。官能基の保護は、表面の疎水化にも資するので、キャリアフィルムの材料とエンボスラッカー層の材料とがより適合し、非共有結合による接着が強化される。
【0074】
官能基は、エンボスラッカー層のポリマーの共有結合に用いられ得る。
【0075】
官能基はまた、例えば診断目的のために所望の化合物を共有結合させるためにも用いられ得る。このような化合物は、例えば核酸、抗体などのタンパク質、脂質又は炭水化物などの生体分子であってもよい。さらに、2つの反応基を有する分子をこれらの官能基を通じて結合させることが可能であり、一方の反応基は、キャリアフィルムの官能基と共有結合を行い、他方の反応基は標的物質と反応することができる。
【0076】
しかしながら、一般的に、可能な官能基はエンボスラッカー内又は上に存在している。
【0077】
エンボスラッカー層
キャリアフィルム上に存在し、エンボス加工によって形成された窪みを有するラッカー層は、エンボスラッカー層と呼ばれる。エンボスラッカー層は、好ましくは10nm~1000μm、より好ましくは50nm~500μm、さらにより好ましくは100nm~100μmの厚さ、すなわちキャリアフィルムの表面との接触面に対して垂直な寸法を有する。個々の実施形態において、厚さは100nm~50μmであってよい。
【0078】
エンボス加工の深さは、ラッカー層の厚さ及びスタンプ構造の深さに依存する。エンボス加工の深さは、エンボスラッカー層の厚さの1%~100%未満、又は、1%~100%であってもよい。好ましくは、エンボスラッカー層の厚さの50%~100%、より好ましくは50%~100%未満、さらに好ましくは80%~95%である。エンボスラッカー層の厚さ(単位:μm)とエンボス加工の深さ(単位:%)との組み合わせは、好ましくは0.1μm~500μm及び10%~100%、より好ましくは0.1μm~100μm及び70%~100%、又は0.1μm~50μm及び30%~100%であってよい。個々の実施形態において、エンボス加工の深さは50μm~200μmであってよく、エンボスラッカー層の厚さの50%~100%であってよい。
【0079】
一般的には、エンボス加工の深さは、エンボスラッカー層の厚さの100%未満であり、したがって、マイクロ流体構造は3つの面(2つの壁と底面)で同じ材料を有している。マイクロ流体構造体のカバーがエンボスラッカー層と同じ材料から成る場合、マイクロ流体構造は、全体的に同じ材料で形成される。
【0080】
特定の実施形態において、エンボス加工の深さは、エンボスラッカー層の厚さの100%であってもよく、すなわち、ラッカー層材料がキャリア上に残らない領域がエンボス加工内部に存在する。言い換えれば、ラッカー層は、形成されたマイクロ流体構造が少なくとも部分的にキャリアフィルムによって覆われるように、キャリアフィルムまで延在する窪みを有することができる。この場合、エンボスラッカー層は連続層ではなく、断続層となる(
図2から
図4を参照)。一般的に、キャリアフィルムとの接触面におけるエンボスラッカー層のこれらの中断は、好ましくはエンボスラッカー層の総面積の1%~90%、より好ましくは5%~70%、さらに好ましくは10%~60%を占める。エンボス加工の深さがエンボスラッカー層の厚さの100%である場合、エンボス加工が行われた領域には、エンボスラッカー層のない、すなわちアクセス可能なキャリアフィルムの表面が存在し、当該表面は、エンボスラッカー層の窪みの表面とは異なっていてもよい。これらの相違は、例えば、キャリアフィルムの表面が、例えばヒドロキシル基、チオ基又はアミン基などの官能基を有することにある。エンボス加工の深さが100%の場合、空洞はカバー層の下面からキャリアフィルムの表面まで延在しており、エンボスラッカー層の厚み領域が空洞の側壁を形成する。エンボスラッカー層のエンボス加工が行われた領域で露出したキャリアフィルム表面上の官能基は、さらに上述したように、所望の化合物を、好ましくは共有結合によってキャリアフィルムに結合させるために用いられ得る。このようにして、エンボスラッカー層への結合の可能性を必要とせずに、化合物をエンボスラッカー層のエンボス加工が行われた領域に選択的に導入することができる。これによって、エンボスラッカー層の出発材料の選択に際する自由度がより大きくなる。
【0081】
マイクロ流体構造
本発明に係るフィルム複合材料は、空洞であるマイクロ流体構造を含んでおり、当該空洞は、窪みを有するフィルム層が隣接するフィルム層によって覆われることによって生じる。つまり、2枚のフィルムの間に挟まれている。
【0082】
マイクロ流体構造は、キャリアフィルム上のエンボスラッカー層の窪みから形成することが可能であり、この窪みは隣接するフィルム層、すなわちカバー層によって覆われている。エンボスラッカー層は、カバー層に対向する表面においてエンボス加工が施されている。カバー層はラッカー層の真上に存在している。より好ましくは、ラッカー層のエンボス加工の面は、エンボス加工の窪みを除いて、カバー層によって完全に直接覆われている。好ましくは、エンボス加工の窪みにはラッカー層材料もカバー層材料も存在しないので、流体を充填することができる空洞が形成される。「直接」という表現は、ラッカー層とカバー層との間にさらなる材料、例えば接着剤が存在しないことを意味する。
【0083】
マイクロ流体構造は、z方向とx方向又はy方向のいずれかとにおいて、マイクロメートル単位の寸法を有し、x-y平面はフィルム層の面によって画定されている。例えば、マイクロ流体構造は、深さ(z方向)及び幅(x方向又はy方向)がそれぞれ0.1μm~200μm、好ましくは1μm~50μmである。マイクロ流体構造の長さは限定されていない。マイクロ流体構造は、流体、すなわち気体又は液体の受容及び輸送に適している。21℃の流体は液体又は気体、特に空気である。マイクロ流体構造は、エンボスラッカー層材料ともカバー層材料とも異なる固体材料で充填することもできる。このような材料は、例えば加熱剤である。
【0084】
エンボス加工の深さが100%の場合、空洞はキャリアフィルムと隣接するフィルム層との間に形成され、エンボス加工の深さがより少ない場合は、エンボスラッカー層と隣接するフィルム層との間に形成される。
【0085】
マイクロ流体構造は全体的に固く封止されている。本明細書において、カバーに関して「全体的に」という表現は、マイクロ流体構造がz方向、すなわち基板フィルム面に対して垂直な方向、及びx方向又はy方向のいずれの点においても閉じられていることを意味する。貫通孔又は接続凹所を有する領域を除いて、マイクロ流体構造の各点において、マイクロ流体構造が全体的に閉じられているy方向の横断面が存在する。マイクロ流体構造は、少なくとも1つの開口部、好ましくは少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口を、好ましくはx-y平面におけるそれらの端部の一方に有している。
【0086】
エンボス加工
フィルム層は、エンボス加工によって形成された窪みを有している。本明細書において、「エンボス加工」とは、十分に柔らかい基板を、所望の窪みのネガ型を有するエンボス加工ツールに接触させ、基板に所望の窪みを形成するプロセスを表している。
【0087】
基板は、エンボス加工後に重合又は硬化する、未重合又は不完全に重合又は硬化したポリマー出発材料であってもよい。しかしまた、基板は、エンボス加工後に固化する軟化ポリマーであってもよい。例えば、固体のポリマーを熱によって軟化させ、エンボス加工を施した後、冷却によって再び硬化させることができる。同様に、固体のポリマーを押出機内で熱によって溶融し、押出及びエンボス加工後に冷却して再び硬化させてもよい。所望の窪みのネガ型を有するエンボス加工ツールは、例えば、エンボスダイ又はローラであってよい。
【0088】
エンボス加工プロセスの一例は、紫外線ナノインプリントリソグラフィー(UV-NIL)である。この際、液状のエンボスラッカーが低温の状態でポリマー基板に塗布される。窪みの外形が反転したナノ構造化されたスタンプがネガ型として使用され、エンボスラッカーに押し込まれ、所望の構造がポジ型としてエンボス加工される。エンボスラッカーは紫外線の照射によって重合し、固化する。エンボスパターンからスタンプを分離した後、スタンプの外形を反転させて複製する。このプロセスは、シリンダ形状のスタンプを使用する場合、連続的なロールtoロールプロセスで実施することができる。これによって、非常に大きい面を短時間で構造化することができる。
【0089】
エンボス加工プロセスの例は、以下において、第1及び第2の実施形態に係るフィルム複合材料の説明の際に言及する。
【0090】
本発明に係るフィルム複合材料にエンボス加工によって窪みを形成する別の例は、ポリマーの押出及びローラを用いたエンボス加工である。
【0091】
いずれの場合も、エンボス加工の際、十分に柔らかい基板と固いエンボス加工ツールとの間の接触、及びそれによる相互作用が生じる。これらの相互作用は、例えば疎水性相互作用又はイオン相互作用である。基板は硬質ではないので、基板に含まれる分子は移動可能である。エンボス加工ツールとの相互作用によって、いずれの場合にも、基板分子の一定の方向性と、したがって基板表面の変化とが生じ、当該変化は、エンボス加工された固い基板において検出される。例えば、エンボス加工が行われた表面は、その水湿潤性において、エンボス加工されていない基板の表面とは異なる。
【0092】
エンボス加工が行われた基板表面のこのような構造の変化及び特性の変化によって、エンボス加工によって形成された窪みと、例えばレーザーを用いて形成された窪みとを区別することができる。レーザー処理の基板は軟質ではなく硬質であるので、基板分子の配向、したがって表面特性の変化は排除されている。さらに、エンボス加工とは異なり、レーザー処理の際には、その減法的プロセスとしての性質及び高いエネルギー入力ゆえに、不可避的に基板の表面分子の破壊及び修飾が生じる。
【0093】
第1の実施形態に係るフィルム複合材料及びその製造
第1の実施形態に係るマイクロ流体構造の製造は、特許文献3に記載されている。
【0094】
第1の実施形態に係るフィルム複合材料を製造するための方法は、以下のステップを含んでいる:
(a)硬化性エンボスラッカーの層をキャリアフィルムの第1の表面に塗布し、エンボスラッカー部分にエンボスラッカー層を形成するステップ、
(b)硬化可能なボンディングラッカーの層をキャリアフィルムの第1の表面に塗布し、ボンディングラッカー部分にボンディングラッカー層を形成するステップ、
(c)ステップ(a)で得られたエンボスラッカー層に、エンボス加工ツールを用いて窪みをエンボス加工によって形成するステップ、
(d)ステップ(c)でエンボス加工が行われたエンボスラッカー層を部分硬化させるステップ、
(e)ステップ(d)の後でエンボス加工ツールを除去するステップ、
(f)ステップ(e)で得られた構造をキャリアフィルムの第1の表面から第2の表面に貫通する貫通孔を形成し、エンボスラッカー部分とボンディングラッカー部分との間で構造を折り畳んで2つのフィルム層を形成するステップ、
(g)ステップ(f)で得られた2つのフィルム層を重ね合わせて複合材料を形成し、一方のフィルム層のエンボスラッカー部分のエンボスラッカー層の窪みを、他方のフィルム層のボンディングラッカー部分のボンディングラッカー層によって閉じ、マイクロ流体構造を形成するステップ、
(h)ステップ(g)で得られた複合材料の部分硬化したエンボスラッカー層及びボンディングラッカー層を硬化させて、これらの層の間に共有結合を形成し、フィルム複合材料を得るステップ。
【0095】
好ましくは、硬化性ボンディングラッカーは、ステップ(c)~(e)に従ってエンボス加工され、部分硬化される硬化性エンボスラッカーである。
【0096】
本発明に係る好ましいフィルム複合材料は、第1の実施形態の方法に従って製造可能である。
【0097】
当該実施形態では、マイクロ流体構造は固く封止されている。本明細書において、「固く」という表現は、マイクロ流体構造のカバーを、例えば加熱によって非破壊に取り外すことができないことを意味する。本発明において固いカバーの基礎となるのは、初期構造間の共有結合である。マイクロ流体構造の固い封止は、要素の表面が互いに化学的に結合している、すなわち共有結合していることによって得られる。これによって、もはや個々の部品には分離できない、マイクロ流体構造が埋め込まれた層状構造が形成される。ハーメティックシールはまた、分析結果を歪曲する可能性のある異物及び汚染物質の侵入を防止し、さらに、温度制御されたプロセス(例えばオンチップ増幅)の進行も可能にする。
【0098】
マイクロ流体構造は、専ら硬化エンボスラッカー及び硬化性ボンディングラッカーを用いて封止されている。これは、つまり、底部、側壁及びカバーが、専らこれらの硬化ラッカーから構成されているということを意味するが、例外として、深さが100%のエンボス加工を行う場合は、底部はキャリアフィルムである。この成形は、他の物質、例えば底部とカバー部との間の接着剤を除外する。
【0099】
硬化性エンボスラッカー及び硬化性ボンディングラッカーは、同じであっても異なっていてもよい。本実施形態で使用される概念「ラッカー」及び「ラッカー層」は、特に反対のことが記載されていない限り、硬化性エンボスラッカーにも、硬化性エンボスラッカーとは関係なく、硬化性ボンディングラッカー又は硬化性ボンディングラッカーから形成される層にも関係している。ラッカー層はラッカーを含んでいるか、又はラッカーから構成されている。
【0100】
ラッカーは、例えば熱、又は紫外線若しくは電子線を用いて硬化させることができる。紫外線照射による硬化が好ましい。ラッカーは好ましくは、重合可能なC-C二重結合を有する少なくとも1つの化合物を含んでいる。当該化合物は、アクリレート、メタクリレート、ビニルエーテル、アリルエーテル、プロペニルエーテル、アルケン、ジエン、不飽和エステル-特にポリイタコネート、アリルトリアジン、アリルイソシアネート及びN-ビニルアミドから成る群から選択されてよい。(メタ)アクリレートが好ましい。ウレタンアクリレートが好ましい。重合可能なC-C二重結合を有する化合物に加えて、ラッカーはチオール含有化合物を含み得る。ポリイタコネートは不飽和エステルの特殊な例であるが、それでも言及する価値は大いにある。
【0101】
適切なUV硬化性ラッカーは、例えば、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)をベースとし、場合によっては1重量%~10重量%の高官能アクリレートを含んでいるか、又は、高架橋多官能ポリエーテル、ポリエステル又はポリウレタンアクリレート系をベースとするラッカー系である。好ましいのは、ポリエチレングリコールジアクリレート、エトキシ化(非常に重要!)トリメチロールプロパントリアクリレート、アクリロイルモルホリン、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、三官能性ウレタンアクリレートオリゴマーである。その他の例としては、トリグリセロールジアクリレート/グリセロール‐1,3‐ジグリセロレートジアクリレート、並びに、ポリエトキシ化ペンタエリスリトールジアクリレート及びトリアクリレートである。ペンタエリスリトールの4つのOH基のうち非アクリレート基は、マイクロ流体構造中の水溶液と相互作用を有するか、又は、官能基化に使用することができる。
【0102】
UV硬化性アクリルラッカーが特に好ましい。UV硬化性アクリルラッカーは、前処理(SU8などのプリベーク)を必要とせず、非常に速く(1秒未満で)架橋するので、ロールtoロールプロセスでの加工が容易である。さらに、毛細管現象によって駆動されるマイクロ流体工学において重要な役割を果たす表面エネルギー及び湿潤特性に関しても、非常に調整しやすい。
【0103】
ラッカーは、紫外線照射下で架橋をもたらす0.05重量%~5重量%の光開始剤を含有することが可能であり、例えばアクリルホスフィンオキシドに基づく光開始剤、又は、オリゴマー多官能性αヒドロキシケトン又はモノマーαヒドロキシケトンを含有することができる。
【0104】
エンボスラッカー及びボンディングラッカーは、互いから独立して添加剤を含むことができる。このような添加剤の例としては、表面活性付着防止添加剤又は反応性希釈剤がある。
【0105】
エンボス加工ツールへのエンボスラッカーの付着を低減し、エンボス加工後のエンボス加工ツールの除去を容易にするために、出発材料として使用されるエンボスラッカーに表面活性付着防止添加剤を添加することが可能であり、表面活性付着防止添加剤は、シリコーン含有又はフッ素含有であってもよい。特に、添加剤は、シリコーン含有添加剤又はフッ素含有添加剤を含む群から選択される少なくとも1つの要素である。これらの添加剤は、接着を減少させ、エンボス加工ツールからのエンボスラッカーの剥離を容易にするために用いられる。上述の付着防止添加剤は、本発明に係るプロセスを実施した後のエンボス加工された構造層内に少なくとも部分的に、例えば0.1重量%~3重量%の量で含まれていてよい。
【0106】
反応性希釈剤は、エンボスラッカー及び/又はボンディングラッカー中に含まれていてよい。反応性希釈剤は、ラッカーの粘度を調整するための低分子化合物を含んでいる。
【0107】
ラッカー層材料は基板フィルムに塗布される。ラッカー層材料は硬化していない、すなわち重合していないので、粘度が低く、例えば刷毛塗り又は鋳込によって塗布され得る。好ましくは、エングレービング又はスロットダイコーティングによって塗布される。
【0108】
粘度は、材料が容易に塗布できるように調整される。その一方で、エンボス加工の際に形成される構造が維持される程度には粘性を有している必要がある。両方の要求を満たすために、キャリアに塗布された材料にまず適度な照射を行うことが可能であり、これによって、部分硬化が行われ、したがって粘度が増大する。部分硬化後のラッカーは既に固形であってもよいが、未反応の反応基を有している。ラッカー層材料は、所望の低い粘度を、好ましくは室温で有している。これによって、室温などの低温におけるラッカー層材料の塗布が行われ得る。
【0109】
エンボスラッカー層は、好ましくは100nm~1000μm、より好ましくは1μm~100μmの厚さ、すなわち基板フィルムとの接触面に対して垂直な寸法を有する。個々の実施形態において、厚さは1μm~50μmであってよい。
【0110】
ボンディングラッカー層は、好ましくはエンボスラッカー層よりも薄く、好ましくは5μm未満、より好ましくは1μm未満の厚さを有している。好ましい組み合わせは、1μm~100μmの厚さを有するエンボスラッカー層と、1μm未満の厚さを有するボンディングラッカー層とである。
【0111】
第1の実施形態に係る方法のステップを以下に詳細に説明する。
【0112】
ステップ(a)及び(b):
硬化性エンボスラッカーの層及び硬化性ボンディングラッカーの層のキャリアフィルムの同じ表面への塗布は、例えばロールtoロールプロセスによって行われ、当該プロセスでは、基板フィルムへのラッカー層の塗布が、例えば、スリットノズルを用いて、又はエングレービングローラを用いたグラビア印刷によって実施される。ファンフォールドの原理に従って折り畳まれる場合、エンボスラッカー層及びボンディングラッカー層は、キャリアフィルムの同じ表面の異なる部分に形成可能であり、後に、2つの部分の間に位置する折り畳みエッジで折り畳むことによって、重ね合わせられ得る。異なる原理に従って折り畳む場合、例えば、2つの外側フィルム層を中央フィルム層の上に折り畳むことによって、エンボスラッカー層及びボンディングラッカー層は、キャリアフィルムの対向する表面、すなわち、表側と裏側とに形成され得る。
【0113】
ボンディングラッカー層の厚さは、好ましくは、ステップ(h)においてより迅速な硬化を可能にし、ステップ(g)において複合材料を形成する際に、窪みの閉塞を防止するために小さい。ボンディングラッカー層が厚すぎる場合、ステップ(g)において、表面及び層が化学的に硬化する前、すなわち共有結合する前であっても、依然として液状の材料がエンボスラッカー層の窪みに流入する、又は、押し込まれることがあり得る。例えば、ボンディングラッカー層の厚さは1μm未満である。さらに、ボンディングラッカー層の厚さがナノメートルの領域にあることによって、所定のフィルム複合材料の高さにおいて、フィルム層の数の増大が可能になる。
【0114】
ステップ(a)において塗布するためのエンボスラッカーは、好ましくは低粘度であり、好ましい実施形態においては、エンボスラッカー及びボンディングラッカーの組成は同じであるので、ボンディングラッカーも塗布に際して低粘度である。この場合、ボンディングラッカーを有するキャリアフィルムは、ボンディングラッカー層が重力の作用下でキャリアフィルムの上に位置するように配置されていることが好ましいか又は必要であり得る。なぜなら、さもなければ、低粘度のボンディングラッカー層が積層ステップ(g)まで、キャリアフィルム上に留まることが保証され得ないからである。第1の実施形態において、エンボスラッカー及びボンディングラッカーは、キャリアフィルムの同じ表面に塗布される。当該表面は、好ましくはキャリアフィルムの上面であり、これによって上述の問題が回避される。
【0115】
しかしながら、代替的に、キャリアフィルムへのボンディングラッカーの接着は、重力の作用とは無関係に行われ、非共有結合による接着に基づいている。この接着は、カバーフィルム及びボンディングラッカーの表面エネルギーを調整することによって、適切なボンディングラッカー材料を選択することによって、及び/又は、特にボンディングラッカーの薄い層を使用することによって得られる。
【0116】
ボンディングラッカー層をより高い粘度を有するものとし、必要に応じてカバーフィルムと共有結合させるために、ボンディングラッカー層を部分硬化させることが可能である。しかしながら、これによって、ステップ(h)における硬化後の接着力の低下がもたらされる。
【0117】
第1の実施形態の一態様において、キャリアフィルムは、両方の表面にエンボスラッカー層を有してもよく、2つのエンボスラッカー層の各々は、キャリアに背向する表面にそのエンボス加工を有するので、両方の面にエンボス加工された構造を得ることができる。これは、例えば、ロールtoロールプロセスにおいて2回通過させることによって行われ得る。
【0118】
ステップ(c):
ステップ(a)で得られたエンボスラッカー層の窪みのエンボス加工ツールを用いたエンボス加工は、エンボスラッカー層の少なくとも部分領域で行われ、エンボスラッカー層の平面に窪みを形成することを含んでいる。
【0119】
エンボス加工は、エンボス加工ツール、例えばスタンプを用いて行われ、シリンダ形状のスタンプが使用される場合、連続的なロールtoロールプロセスにおいて実施され得る。
【0120】
UV-NILを用いることが可能であり、この場合、所望の構造の反転した外形を有するナノ構造化されたスタンプが、ネガ型として使用され、エンボスラッカー内に押し込まれ、次に、所望の構造がポジ型としてエンボス加工される。本発明に係る好ましい方法は、マイクロ流体構造に関するハイスループット生産プロセス(ロールtoロール-UV-NIL)であり、当該プロセスでは、チャネル及びチャンバがロール形式の大型ポリマー基板上に製造される。
【0121】
エンボス加工の深さ、すなわちz方向における窪みの寸法は、エンボスラッカー層の厚さの1%~100%未満であってよい。好ましくは、エンボスラッカー層の厚さの50%~100%未満、より好ましくは80%~100%である。
【0122】
同様に、ボンディングラッカー層にエンボス加工を施すことが可能である。このようにして、キャリアフィルム上のエンボスラッカー層のエンボス加工とボンディングラッカー層のエンボス加工とが、構造的及び機能的に補完し合うことが可能であり、エンボスラッカー層のみがエンボス加工される場合には得られない、マイクロ流体構造及び空洞を有する様々な構造を得ることが可能である。ボンディングラッカー層の窪みは、エンボスラッカー層の窪みの上方に配置されていてよく、これによって、より高い空洞が生じる。このようにして、大きな容積を有するマイクロ流体構造を形成することが可能であり、当該空洞は、例えば、貯蔵室又は反応室として使用され得る。
【0123】
ステップ(d):
ステップ(c)でエンボス加工が行われたエンボスラッカー層の部分硬化の程度は、一方では、その後の硬化及びボンディングラッカーとの接合のために十分な量の反応基が残存し、他方では、離型及び折り畳みに対して構造の必要な安定性を確保するために十分な部分硬化が行われるように調整される。この目的のために、以下のパラメータが最適化される:エンボスラッカーの重合速度(特に光開始剤の種類と含有量)、紫外線強度、ウェブ速度、基板フィルムの透過率。
【0124】
ステップ(e):
エンボス加工及び部分硬化の後、エンボス加工ツールが除去される。当該ステップを容易にし、エンボス加工の質を高めるために、ステップ(a)で使用したエンボスラッカーに表面活性付着防止添加剤を加えることが可能である。
【0125】
ステップ(f):
ステップ(e)で得られた構造を介して、z方向において貫通孔が形成される。例えば、貫通孔の形成は、エンボス加工によって形成された窪みが存在する場所で行われる。それぞれの位置において、キャリアフィルムの片面又は両面がエンボスラッカーで覆われているかどうか、及び、エンボス加工の深さが100%か又はそれより低いかに応じて、キャリアフィルムの材料及び場合によってはエンボスラッカーの材料を除去しなければならない。貫通孔はレーザーを用いて形成することができる。
【0126】
ステップ(e)で得られた構造は、貫通孔の形成前又は形成後に折り畳まれる。折り畳みは好ましくは折り畳みエッジで行われ、折り畳みエッジは、例えばレーザー構造化によって形成される。折り畳みエッジに印をつけることによって、フィルム層の自己整合を可能にする。
【0127】
ステップ(g)
2つのフィルム層が重ね合わされる。2つのフィルム層が合同であることが好ましいので、2つのフィルム層は正確に適合するように重ね合わされ得る。必要に応じて、2つのフィルム層を低圧でプレスし、この状態で保持することも可能である。
【0128】
一方のフィルム層のエンボスラッカー層は、エンボス加工の窪みを除いて、他方のフィルム層のボンディングラッカー層によって全面が直接覆われる。好ましくは、エンボス加工の窪みには、エンボスラッカーもボンディングラッカーも存在しないので、空洞が生じる。2つのフィルム層は、外側のキャリアフィルムと内側のラッカー層とでサンドイッチ状の複合材料を形成し、外側のキャリアフィルム及び内側のラッカー層は、互いに接続されており、マイクロ流体構造を有している。
【0129】
ステップ(h):
本発明に係るフィルム複合材料では、エンボスラッカー層及びボンディングラッカー層は完全に硬化される、すなわち重合及び架橋される。この完全硬化はステップ(h)で行われる。この硬化は、好ましくは光重合であり、放射線の作用によって行われる。この放射線は、好ましくは適切な波長の光、例えば紫外線である。放射線の線量は、出発材料の完全な重合を確実にする程度に高い。好ましくは、硬化の完全性を保証するために過剰な線量が用いられる。
【0130】
ステップ(d)の部分硬化及びステップ(h)の硬化は、同じ方法で行ってもよいし、異なる方法で行ってもよいが、同じ方法が好ましい。部分硬化及び硬化は、互いに独立して、熱的に、又は紫外線もしくは電子線を用いて行われ得る。好ましくは、ステップ(d)の部分硬化及びステップ(h)の硬化は、紫外線照射によって行われる。
【0131】
第2の実施形態に係るフィルム複合材料及びその製造
第2の実施形態に係るマイクロ流体構造の製造は、特許文献4に記載されている。
【0132】
第2の実施形態に係る本発明によるフィルム複合材料を製造するための方法は、以下のステップを含んでいる:
(a)ポリマーにラジカル重合可能なモノマーを含むエンボスラッカーの層をキャリアフィルムの第1の表面に塗布し、エンボスラッカー部分にエンボスラッカー層を形成するステップ、
(b)カバー層をキャリアフィルムの第1の表面に塗布し、カバー層部分においてカバー層を形成するステップ、
(c)ステップ(a)で得られたエンボスラッカー層に、エンボス加工ツールを用いて窪みをエンボス加工によって形成するステップ、
(d)エンボスラッカー層に含まれるモノマーをポリマーに重合させて、キャリアフィルム上に熱可塑性エンボスラッカー層を形成するステップ、
(e)ステップ(d)の後でエンボス加工ツールを除去するステップ、
(f)ステップ(e)で得られた構造をキャリアフィルムの第1の表面から第2の表面へ貫通する貫通孔を形成し、当該構造をエンボスラッカー部分とカバー層部分との間で折り畳んで2つのフィルム層を形成するステップ、
(g)ステップ(f)で得られた2つのフィルム層を熱接合し、一方のフィルム層のエンボスラッカー部分のエンボスラッカー層の窪みを他方のフィルム層のカバー層部分のカバー層によって閉じ、マイクロ流体構造を形成し、これによってフィルム複合材料を得るステップ。
【0133】
好ましくは、カバー層は、ステップ(c)~(e)に従ってエンボス加工及び重合される熱可塑性ラッカー層である。
【0134】
本発明に係るフィルム複合材料において、マイクロ流体構造は、エンボス加工によって形成された窪みを有するフィルム層がそれぞれ隣接するフィルム層によって覆われていることによって構成されている。第2の実施形態の記載では、具体的に説明するために、隣接するフィルム層又はその最下層をカバー層と呼ぶ。しかしながら、当該カバー層は、エンボス加工によって形成された窪みを有するフィルム層の上方に位置するとは限らない。むしろ、エンボスラッカー層がキャリアフィルムの下面に配置されている場合、類似の方法でフィルム層の下に位置することもあり得る。カバー層は、フィルム層の両方の表面に配置されていてもよい。
【0135】
ステップ(a)及び(b)におけるエンボスラッカー層及びカバー層の塗布は、基本的には第1の実施形態のように行われるが、材料が異なっている。ステップ(c)~(e)のエンボス加工も、同じく第1の実施形態において記載されたように行われるが、ステップ(d)では、第1の実施形態の部分硬化と第2の実施形態の重合とが異なっている。
ステップ(f)は、両方の実施形態において同じである。
【0136】
第2の実施形態に係る方法は、主にエンボスラッカー層及びボンディング層又はカバー層の出発材料の性質において、第1の実施形態に係る方法と異なっている。
【0137】
第2の実施形態で使用されるエンボスラッカー層は、熱可塑性であり、エンボス加工され、ラジカル重合されたラッカー層であるという特徴を有している。
【0138】
第2の実施形態の1つの態様において、キャリアフィルムは、両方の表面にエンボスラッカー層を有することが可能であり、2つのエンボスラッカー層の各々は、キャリアに背向する表面にそのエンボス加工を有しているので、両方の面にエンボス加工された構造が得られる。これは、例えば、ロールtoロールプロセスにおいて2回通過することによって行われ得る。
【0139】
ラッカー層の出発材料は、重合されないか、又は、完全には重合されず、ラジカル重合、好ましくは光重合又は熱重合によってラッカーに移行する。これは、モノマー又はオリゴマーである。プレポリマー及び鎖延長剤を使用することも可能である。
【0140】
ラッカー層の出発材料は、キャリア層、例えばポリマー基板に塗布される。ラッカー層の出発材料は、硬化していない、すなわち重合していないことによって、所望の粘度を有しており、例えば刷毛塗りによって塗布され得る。好ましくは、当該材料は液状であり、したがって、鋳込によって塗布され得る。ロールtoロールプロセスでは、ラッカーのキャリアへの塗布は、例えばスリットノズルを用いて、又は、エングレービングローラを用いたグラビア印刷によって行われる。
【0141】
粘度は、材料が容易に塗布され得るように調整される。他方では、エンボス加工の際に形成される構造を保持する程度の粘度がなければならない。
【0142】
重合の際、例えば紫外線を照射した際に、線状ポリマー鎖のみを形成する、又は概ね線状ポリマー鎖のみを形成するラッカー層が使用される。これらの鎖は互いに架橋しないか、又は、ほとんど架橋しないので、架橋は生じないか、わずかに生じるのみである。このようなラッカー層は熱可塑性挙動を示し、したがって熱によって変形し得る。
【0143】
ラッカー層の出発材料は、ステップ(d)で完全に重合される。重合は、好ましくは光重合であり、放射線の作用によって行われる。この放射線は、好ましくは適切な波長の光、例えば紫外線である。放射線の線量は、出発物質の完全な重合を保証する程度に高い。好ましくは、重合の完全性を保証するために、過剰な線量が使用される。
【0144】
第2の実施形態に係る本発明によるフィルム複合材料において、カバー層は、隣接するフィルム層又はその最下層に対応する。したがって、カバー層材料は、隣接するフィルム層のキャリアフィルム、又は、キャリアフィルムに塗布される層、例えばエンボスラッカー層のいずれかであってよい。カバー層材料は限定されておらず、好ましくは同様に熱可塑性である。
【0145】
カバー層は、エンボス加工された表面を折り畳んだ後、エンボスラッカー層と対向するので、エンボスラッカー層の窪みゆえに、2つの層の間には、マイクロ流体構造を形成する空洞が存在している。
【0146】
カバー層はエンボス加工を有することができる。このようにして、キャリアフィルム上のエンボスラッカー層のエンボス加工とカバー層のエンボス加工とが、構造的にも機能的にも補完し合うことが可能であり、エンボスラッカー層のみがエンボス加工される場合には得られない、マイクロ流体構造及び空洞を有する様々な構造が得られる。カバー層の窪みは、エンボスラッカー層の窪みよりも上方に配置されていてよく、これによって、より高い空洞が生じる。
【0147】
ステップ(g)では、エンボスラッカー層をカバー層と接合するために、熱接合が行われる。本明細書において、「熱接合」という表現は、2つの構成要素のうちの少なくとも一方の加熱を含む熱可塑性溶接の種類のプロセスによって、2つの構成要素、例えば2つの層の間に結合を形成することを意味する。熱接合の例としては、ホットプレス、ホットラミネーション、熱圧着、超音波及びレーザー溶接が挙げられる。つまり、熱接合とは、一方では、2つの成分のうちの少なくとも一方を加熱し、2つの成分を接触させ、その後冷却し、2つの成分から複合材料を形成することによって、2つの成分間の結合が形成可能であること、他方では、この結合が加熱によって非破壊的に再び解除することもできることを意味している。
【0148】
エンボスラッカー層をカバー層と接合するための熱接合は、冷却後に層間に強固な接合が生じる程度に2つの層の材料が軟化する温度(接合温度)で行われる。接合温度は、一方では、層の所望の接合が形成され、他方では、エンボスラッカー層のエンボス加工が軟化によって損傷を受ける、又は、不利に変化することがないように、層の材料に応じて選択される。したがって、層の軟化温度は、好ましくは類似しているべきである。これは、エンボスラッカー層とカバー層とに同じ材料を使用し、結果として同じ軟化特性を有することによって最も容易に達成することができる。
【0149】
一実施形態では、エンボスラッカー層は、カバー層よりわずかに高い軟化温度を有している。これによって、軟化及び接合の際に、エンボス加工が損傷する、又は、変化することがないようにすることができる。
【0150】
エンボスラッカー層が専ら熱接合によってカバー層と接合されている場合、2つの層間に共有結合は生じないので、2つの層を加熱によって再び分離することも可能である。
【0151】
使用例
本発明に係るフィルム複合材料の使用例は、
図1に示す等温増幅を用いたDNA増幅(LAMP)であり、試料調製量が減少するので、時間及び費用が節約される。さらに、検査手順の複雑さが軽減されるので、医師の診療所又は民間での迅速検査として広く利用されやすくなる。
【0152】
等温増幅に必要な加熱剤は、エンボス加工後に形成される窪みに直接充填することができる。例えば、加熱剤として、金属インク、例えばAgナノ粒子インクを毛細管現象の作用によって充填することができる。このようにして、等温DNA増幅用のフィルム加熱剤として使用できる、マイクロ流体充填電極を作成することができる。必要に応じて、加熱チャネルは、マイクロ流体構造と同じフィルムの表面、又は、反対側の表面にエンボス加工によって形成され得る。これによって、別個の加熱フィルムの製造に比べて、プロセスステップの数が大幅に削減され、費用も大幅に削減される。同時に、中間接着層及び追加基板を使用せずに熱伝達がより直接的に行われるので、性能も向上し、消費エネルギーも少なくなる。
【0153】
階層構造(マイクロ又はナノスケールの上部構造を有するチャネル)の作製は、1回のエンボス加工で行うことができる。例えば、共通のフォトリソグラフィステップ、又は、マイクロ構造又はナノ構造の先行するエンボス加工によって、マスター作製の範囲内で上部構造を作製した後、エンボス加工された構造上でフォトリソグラフィが行われる。例えば、測定チャネルに階層構造を設けることによって、センサの表面積を増大させ、感度及び選択性を高めることができる。
【符号の説明】
【0154】
1 フィルム層
2 キャリアフィルム
3 エンボスラッカー層
4 窪み
5 マイクロ流体構造
6 貫通孔
7、9 加熱剤を有する窪み又はマイクロ流体構造
8、10 ナノ構造を有する窪み又はマイクロ流体構造
11 折り畳みエッジ
12 疎水性バルブ
13 等温PCRのためのチャンバ
14 マイクロ構造化された表面
15 加熱剤を有するマイクロチャンバ
16 反応室
17 接続凹所
【国際調査報告】