(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】グルカゴン誘導体を含む慢性腎臓疾患予防又は治療用薬学組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/26 20060101AFI20240313BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240313BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240313BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240313BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240313BHJP
C07K 14/605 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
A61K38/26
A61K47/68
A61P13/12
A61P9/12
C07K16/00 ZNA
C07K14/605
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553081
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(85)【翻訳文提出日】2023-08-31
(86)【国際出願番号】 KR2022005188
(87)【国際公開番号】W WO2022216129
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】10-2021-0046648
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】リ ソン ミョン
(72)【発明者】
【氏名】リ ジョン スク
(72)【発明者】
【氏名】キム ジュン クク
(72)【発明者】
【氏名】パク ウン ジン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC11
4C076CC17
4C076EE59
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA23
4C084BA25
4C084BA41
4C084CA18
4C084CA59
4C084DB35
4C084NA14
4C084ZA421
4C084ZA422
4C084ZA811
4C084ZA812
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA18
4H045BA50
4H045BA57
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA10
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、グルカゴン誘導体及びその用途に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルカゴン誘導体及び薬学的に許容される賦形剤を含む慢性腎臓疾患(chronic kidney disease)予防又は治療用薬学組成物であって、
前記グルカゴン誘導体は、下記一般式1のアミノ酸配列を含むペプチドである、組成物。
X1-X2-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-F-X23-X24-W-L-X27-X28-X29-X30(一般式1,配列番号46)
上記式において、
X1はチロシン(Y)であり、
X2はα-メチルグルタミン酸(α-methyl-glutamic acid)、Aib(aminoisobutyric acid)、D-アラニン、グリシン(G)、Sar(N-methylglycine)、セリン(S)又はD-セリンであり、
X7はトレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、
X10はチロシン(Y)又はシステイン(C)であり、
X12はリシン(K)又はシステイン(C)であり、
X13はチロシン(Y)又はシステイン(C)であり、
X14はロイシン(L)又はシステイン(C)であり、
X15はアスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)又はシステイン(C)であり、
X16はグルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、セリン(S)、α-メチルグルタミン酸もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、
X17はアスパラギン酸(D)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、リシン(K)、アルギニン(R)、セリン(S)、システイン(C)もしくはバリン(V)であるか、又は存在せず、
X18はアラニン(A)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)、バリン(V)もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、
X19はアラニン(A)、アルギニン(R)、セリン(S)、バリン(V)もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、
X20はリシン(K)、ヒスチジン(H)、グルタミン(Q)、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、α-メチルグルタミン酸もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、
X21はアスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、ロイシン(L)、バリン(V)もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、
X23はイソロイシン(I)、バリン(V)もしくはアルギニン(R)であるか、又は存在せず、
X24はバリン(V)、アルギニン(R)、アラニン(A)、システイン(C)、グルタミン酸(E)、リシン(K)、グルタミン(Q)、α-メチルグルタミン酸もしくはロイシン(L)であるか、又は存在せず、
X27はイソロイシン(I)、バリン(V)、アラニン(A)、リシン(K)、メチオニン(M)、グルタミン(Q)もしくはアルギニン(R)であるか、又は存在せず、
X28はグルタミン(Q)、リシン(K)、アスパラギン(N)もしくはアルギニン(R)であるか、又は存在せず、
X29はトレオニン(T)であり、
X30はシステイン(C)であるか、又は存在しない
(ただし、前記一般式1のアミノ酸配列が配列番号1又は配列番号12と同じ場合は除く)。
【請求項2】
前記ペプチドは、持続型結合体の形態であり、前記持続型結合体は、下記化学式(1)で表されるものである、請求項1に記載の組成物。
【化1】
ここで、Xは前記一般式1のアミノ酸配列を含むペプチドであり、
Lはエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーであり、
Fは免疫グロブリンFc領域であり、
-はXとL間、LとF間の共有結合連結を示すものである。
【請求項3】
前記一般式1において、
X2はAib(aminoisobutyric acid)であり、
X7はトレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、
X10はチロシン(Y)であり、
X12はリシン(K)であり、
X13はチロシン(Y)であり、
X14はロイシン(L)又はシステイン(C)であり、
X15はアスパラギン酸(D)であり、
X16はグルタミン酸(E)又はセリン(S)であり、
X17はリシン(K)、アルギニン(R)又はシステイン(C)であり、
X18はアルギニン(R)であり、
X19はアラニン(A)又はシステイン(C)であり、
X20はグルタミン(Q)又はリシン(K)であり、
X21はアスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)であり、
X23はバリン(V)であり、
X24はグルタミン(Q)であり、
X27はメチオニン(M)であり、
X28はアスパラギン(N)であり、
X29はトレオニン(T)であり、
X30はシステイン(C)であるか、又は存在しない、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ペプチドは、配列番号7~11、13~25、27、29、31、33及び35~45からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ペプチドは、配列番号20、22、23、27、33、35、37、38、40、41、42及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むものである、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、次の特性の少なくとも1つを有するものである、請求項1又は2に記載の組成物。
(a)血圧降下
(b)アルブミン排泄量減少
(c)タンパク尿減少
(d)腎臓機能回復
【請求項7】
前記組成物は、個体に投与されると、個体の血圧降下効果及び腎臓機能回復効果を発揮するものである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
前記ペプチドは、C末端がアミド化されているものである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
前記ペプチドは、アミノ酸残基間に環が形成されたものである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項10】
前記免疫グロブリンFc領域は、非グリコシル化されたものである、請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域である、請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
前記免疫グロブリンFc領域は、2本のポリペプチド鎖からなる二量体であり、Lの一末端が前記2本のポリペプチド鎖のいずれかのポリペプチド鎖にのみ連結されたものである、請求項2に記載の組成物。
【請求項13】
前記持続型結合体は、Lの一末端がFのアミノ基又はチオール基、Lの他の末端がXのアミノ基又はチオール基にそれぞれ反応して形成された共有結合により、F及びXにそれぞれ連結されたものである、請求項2に記載の組成物。
【請求項14】
前記Lはポリエチレングリコールである、請求項2に記載の組成物。
【請求項15】
前記L中のエチレングリコール繰り返し単位部分の化学式量は、1~100kDaの範囲にある、請求項2に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物は、GLP-1受容体アゴニスト(glucagon like peptide 1 receptor agonist)をさらに含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項17】
前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1、エキセンジン-3、エキセンジン-4、それらのアゴニスト(agonist)、誘導体(derivative)、フラグメント(fragment)、変異体(variant)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記GLP-1受容体アゴニストは、N末端のヒスチジン残基がデス-アミノ-ヒスチジル、ジメチル-ヒスチジル、β-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びβ-カルボキシイミダゾプロピオニルからなる群から選択される物質に置換されたGLP-1受容体アゴニスト誘導体である、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記GLP-1受容体アゴニストは、天然エキセンジン-4、エキセンジン-4のN末端のアミノ基が除去されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がヒドロキシ基に置換されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がジメチル基で修飾されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を欠失(deletion)させたエキセンジン-4誘導体からなる群から選択される、請求項16に記載の組成物。
【請求項20】
前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1受容体アゴニストが免疫グロブリンFc領域に連結された持続型結合体の形態である、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
前記GLP-1受容体アゴニストは、イミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4)がエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーを介して免疫グロブリンFc領域に連結されたものである、請求項20に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴン誘導体を含む組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
グルカゴンは、薬物治療、疾病、ホルモン、酵素の欠乏などの様々な原因で血糖値が低下すると膵臓で産生されて分泌される。分泌されたグルカゴンは、肝臓にグリコーゲンを分解してグルコースを放出するように働きかけ、結果として血糖レベルを正常レベルまで引き上げる役割を果たすことが知られている。また、肝臓において脂肪の合成を抑制するだけでなく、脂肪酸の燃焼を促進することにより血中脂質の数値を降下させることが知られている。さらに、グルカゴンは、白色脂肪にも直接、間接的に作用して脂肪の燃焼及び脂肪褐色化を促進し、効果的な体重減量効果を発揮することが知られている(非特許文献1)。このようなグルカゴンは、グルカゴン受容体に作用することにより活性を示す。
【0003】
近年、効能向上、副作用改善などのために、グルカゴン受容体に作用すると共に、物性が改善されたグルカゴン誘導体の必要性が高まっていることから、本発明者らは、グルカゴン受容体に作用するグルカゴン誘導体及びその結合体を開発した(特許文献1)。
【0004】
腎臓(キドニー,kidney)は、横隔膜の下方、肺の後方に位置し、体内の老廃物を除去すると共に、水分及び塩分の量、電解質並びに酸塩基平衡を調節する臓器である。このような腎臓の損傷又は機能異常による疾患の一つとして、慢性腎臓疾患が挙げられる。
【0005】
慢性腎臓病ともいう慢性腎臓疾患は、継続して尿にタンパク質が排出される状態(タンパク尿)や、腎臓の機能が低下した状態を呈する疾患であり、特に糖尿病、高血圧の患者に慢性腎臓疾患の発症リスクが高いことが知られている。慢性腎臓疾患の患者においては、腎臓機能の低下により、老廃物が体に溜まり、血圧が上昇し、貧血が生じ、骨が弱くなり、神経損傷などが発生し、心血管疾患の発症リスクが高まる。
【0006】
このような慢性腎臓疾患は、進行性疾患であり、初期段階では自覚が困難であるので、検査による早期診断が重要であり、治療時期が遅れると慢性腎不全に進行し、透析や腎臓移植が必要となる。
【0007】
慢性腎臓疾患の治療は、リスクを減少させ、腎臓機能の維持又は回復により行われる。特に、慢性腎臓疾患の患者の60%が高血圧を伴うことが知られており、それほど高血圧は慢性腎臓疾患に密接な関連があるため、抗高血圧剤を用いた慢性腎臓疾患の治療が研究されており、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(angiotensin converting enzyme inhibitor)、アンジオテンシン受容体拮抗薬(angiotensin receptor blocker)などを用いた治療方法が研究されている。しかし、従来の抗高血圧剤を投与すると、腎機能異常、高カリウム血症、虚血性腎損傷などの副作用が生じることも報告されている。
【0008】
よって、血圧降下及び腎臓機能回復による新たな慢性腎臓疾患治療剤及び治療法を開発する努力が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2018/004283号
【特許文献2】国際公開第2016/108586号
【特許文献3】国際公開第2017/003191号
【特許文献4】国際公開第97/034631号
【特許文献5】国際公開第96/032478号
【特許文献6】国際公開第2015/005748号
【特許文献7】国際公開第2007/021129号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nat Rev Endocrinol. 11, 329-38 (2015); Physiol Rev. 97, 721-66 (2017)
【非特許文献2】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献3】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献4】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献5】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献6】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献7】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献8】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献9】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献10】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献11】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献12】H.Neurath, R.L.Hill, The Proteins, Academic Press, New York, 1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
血圧降下及び腎臓機能回復による新たな慢性腎臓疾患治療剤及び治療法の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、グルカゴン誘導体又はその結合体を含む慢性腎臓疾患(chronic kidney disease)予防又は治療用薬学組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物を投与するステップを含む慢性腎臓疾患予防又は治療方法を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、本発明は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途を提供することを目的とする。
【0014】
さらに、本発明は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途を有する薬剤の製造のための用途を提供することを目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体とを含む慢性腎臓疾患(chronic kidney disease)予防又は治療用薬学組成物を提供することを目的とする。
【0016】
さらに、本発明は、グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体を併用する治療学的用途を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のグルカゴン誘導体は、血圧降下及び腎臓機能回復効果を有するので、慢性腎臓疾患の患者の治療薬物として用いることができ、GLP-1受容体アゴニストと併用することにより、さらなる効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本態性高血圧(SHR)モデルにおいて、本発明の配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体による尿中アルブミン排泄量減少効果を確認した図である。
【
図2】本態性高血圧(SHR)モデルにおいて、本発明の配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体による収縮期(左)及び拡張期(右)の血圧降下効果を確認した図である。
【
図3】本態性高血圧(SHR)モデルにおいて、本発明の配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体とCAエキセンジン-4の持続型結合体の併用投与による尿中ACR(albumin to creatinine ratio)の変化を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実現する一態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体を含む組成物である。前記結合体とは、グルカゴン誘導体に対して活性を有するペプチドが免疫グロブリンFc領域にリンカーにより共有結合された物質を意味する。
【0020】
一具体例による組成物は、グルカゴン誘導体又はその結合体を含む慢性腎臓疾患(chronic kidney disease)予防又は治療用薬学組成物である。
【0021】
他の具体例による組成物において、前記グルカゴン誘導体は、一般式1のアミノ酸配列を含むペプチドであることを特徴とする。
【0022】
X1-X2-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-F-X23-X24-W-L-X27-X28-X29-X30(一般式1,配列番号46)
【0023】
上記式において、X1はチロシン(Y)であり、X2はα-メチルグルタミン酸(α-methyl-glutamic acid)、Aib(aminoisobutyric acid)、D-アラニン、グリシン(G)、Sar(N-methylglycine)、セリン(S)又はD-セリンであり、X7はトレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X10はチロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X12はリシン(K)又はシステイン(C)であり、X13はチロシン(Y)又はシステイン(C)であり、X14はロイシン(L)又はシステイン(C)であり、X15はアスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)又はシステイン(C)であり、X16はグルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、セリン(S)、α-メチルグルタミン酸もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X17はアスパラギン酸(D)、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、リシン(K)、アルギニン(R)、セリン(S)、システイン(C)もしくはバリン(V)であるか、又は存在せず、X18はアラニン(A)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アルギニン(R)、バリン(V)もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X19はアラニン(A)、アルギニン(R)、セリン(S)、バリン(V)もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X20はリシン(K)、ヒスチジン(H)、グルタミン(Q)、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、α-メチルグルタミン酸もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X21はアスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、ロイシン(L)、バリン(V)もしくはシステイン(C)であるか、又は存在せず、X23はイソロイシン(I)、バリン(V)もしくはアルギニン(R)であるか、又は存在せず、X24はバリン(V)、アルギニン(R)、アラニン(A)、システイン(C)、グルタミン酸(E)、リシン(K)、グルタミン(Q)、α-メチルグルタミン酸もしくはロイシン(L)であるか、又は存在せず、X27はイソロイシン(I)、バリン(V)、アラニン(A)、リシン(K)、メチオニン(M)、グルタミン(Q)もしくはアルギニン(R)であるか、又は存在せず、X28はグルタミン(Q)、リシン(K)、アスパラギン(N)もしくはアルギニン(R)であるか、又は存在せず、X29はトレオニン(T)であり、X30はシステイン(C)であるか、又は存在しない(ただし、一般式1のアミノ酸配列が配列番号1又は配列番号12と同じ場合は除く)。
【0024】
他の具体例による組成物において、前記グルカゴン誘導体は、配列番号2~11、及び13~45からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含むものであることを特徴とする。
【0025】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、持続型結合体の形態であり、前記持続型結合体は、化学式(1)で表されるものであることを特徴とする。
【0026】
X-L-F・・・(1)
【0027】
ここで、Xは一般式1のアミノ酸配列を含むペプチドであり、Lはエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーであり、Fは免疫グロブリンFc領域であり、-はXとL間、LとF間の共有結合連結を示すものである。
【0028】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、一般式1にて、X2はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7はトレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X10はチロシン(Y)であり、X12はリシン(K)であり、X13はチロシン(Y)であり、X14はロイシン(L)又はシステイン(C)であり、X15はアスパラギン酸(D)であり、X16はグルタミン酸(E)又はセリン(S)であり、X17はリシン(K)、アルギニン(R)又はシステイン(C)であり、X18はアルギニン(R)であり、X19はアラニン(A)又はシステイン(C)であり、X20はグルタミン(Q)又はリシン(K)であり、X21はアスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)であり、X23はバリン(V)であり、X24はグルタミン(Q)であり、X27はメチオニン(M)であり、X28はアスパラギン(N)であり、X29はトレオニン(T)であり、X30はシステイン(C)であるか、又は存在しないことを特徴とする。
【0029】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、配列番号7~11、13~25、27、29、31、33及び35~45からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むものであることを特徴とする。
【0030】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記ペプチドは、配列番号20、22、23、27、33、35、37、38、40、41、42及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むものであることを特徴とする。
【0031】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記組成物は、次の特性の少なくとも1つを有するものであることを特徴とする。
(a)賦形剤投与対照群に比べて血圧が降下する
(b)賦形剤投与対照群に比べてアルブミン排泄量が減少する
(c)賦形剤投与対照群に比べてタンパク尿が減少する
(d)賦形剤投与対照群に比べて腎臓機能が回復する
【0032】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記組成物は、個体に投与されると、個体の血圧降下及び/又は腎臓機能回復効果を発揮するものであることを特徴とする。
【0033】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記グルカゴン誘導体は、C末端が修飾されていないか、アミド化されているものであることを特徴とする。
【0034】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記グルカゴン誘導体は、アミノ酸残基間に環が形成されたものであることを特徴とする。
【0035】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、非グリコシル化されたものであることを特徴とする。
【0036】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、(a)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、(b)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、(c)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、(d)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、(e)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域又はヒンジ領域の一部との組み合わせ、並びに(f)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体からなる群から選択されることを特徴とする。
【0037】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、ジスルフィド結合を形成する部位が除去されたか、天然FcからN末端の一部のアミノ酸が欠失したか、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加されたか、補体結合部位が除去されたか、又はADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されたものであることを特徴とする。
【0038】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE又はIgMに由来するものであることを特徴とする。
【0039】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgMからなる群から選択される免疫グロブリンに由来する異なる起源を有するドメインのハイブリッドであることを特徴とする。
【0040】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、二量体形態(dimeric form)であることを特徴とする。
【0041】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、2本のポリペプチド鎖からなる二量体であり、Lの一末端が前記2本のポリペプチド鎖のいずれかのポリペプチド鎖にのみ連結されたものであることを特徴とする。
【0042】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であることを特徴とする。
【0043】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であることを特徴とする。
【0044】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合で連結された構造であり、前記2本の鎖のうち1本の鎖の窒素原子を介してのみ連結されたものであることを特徴とする。
【0045】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号67のアミノ酸配列を有する単量体を含むものであることを特徴とする。
【0046】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号67のアミノ酸配列の単量体からなるホモ二量体であることを特徴とする。
【0047】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記免疫グロブリンFc領域は、そのN末端プロリンの窒素原子により連結されたものであることを特徴とする。
【0048】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記結合体は、Lの一末端がFのアミノ基又はチオール基、Lの他の末端がXのアミノ基又はチオール基にそれぞれ反応して形成された共有結合により、F及びXにそれぞれ連結されたものであることを特徴とする。
【0049】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記Lはポリエチレングリコールであることを特徴とする。
【0050】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記L中のエチレングリコール繰り返し単位部分の化学式量は、1~100kDaの範囲にあることを特徴とする。
【0051】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記エチレングリコール繰り返し単位は[OCH2CH2]nであり、nは、自然数であって、前記結合体中の[OCH2CH2]n部分の平均分子量、例えば数平均分子量が1~100kDaになるように決定されるものであることを特徴とする。
【0052】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記二量体形態の免疫グロブリンFc領域のいずれかのFc領域鎖にX1分子が前記エチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーを介して共有結合的に連結されたものであることを特徴とする。
【0053】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記リンカーの一末端が前記二量体形態の免疫グロブリンFc領域の2本のFc領域鎖のいずれかのFc領域鎖にのみ連結されたものであることを特徴とする。
【0054】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記組成物は、GLP-1受容体アゴニスト(glucagon like peptide 1 receptor agonist)をさらに含むものであることを特徴とする。
【0055】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1、エキセンジン-3、エキセンジン-4、それらのアゴニスト(agonist)、誘導体(derivative)、フラグメント(fragment)、変異体(variant)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする。
【0056】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記GLP-1受容体アゴニストは、N末端のヒスチジン残基がデス-アミノ-ヒスチジル、ジメチル-ヒスチジル、β-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びβ-カルボキシイミダゾプロピオニルからなる群から選択される物質に置換されたGLP-1受容体アゴニスト誘導体であることを特徴とする。
【0057】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記GLP-1受容体アゴニストは、天然エキセンジン-4、エキセンジン-4のN末端のアミノ基が除去されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がヒドロキシ基に置換されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基がジメチル基で修飾されたエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を欠失(deletion)させたエキセンジン-4誘導体からなる群から選択されることを特徴とする。
【0058】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記GLP-1受容体アゴニストはイミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4)であることを特徴とする。
【0059】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1受容体アゴニストが免疫グロブリンFc領域に連結された持続型結合体の形態であることを特徴とする。
【0060】
前述した具体例のいずれかによる組成物において、前記GLP-1受容体アゴニストは、イミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4)がエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーを介して免疫グロブリンFc領域に連結されたものであることを特徴とする。
【0061】
本発明を実現する他の態様は、グルカゴン誘導体、その結合体、又はそれを含む組成物を個体に投与するステップを含む慢性腎臓疾患予防又は治療方法である。
【0062】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、及びGLP-1受容体アゴニストもしくはその結合体、又はそれを含む組成物を個体に投与するステップを含む慢性腎臓疾患予防又は治療方法である。
【0063】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途である。
【0064】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、及びGLP-1受容体アゴニストもしくはその結合体、又はそれを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途である。
【0065】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途を有する薬剤の製造のための用途である。
【0066】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、及びGLP-1受容体アゴニストもしくはその結合体、又はそれを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途を有する薬剤の製造のための用途である。
【0067】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0068】
なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。さらに、本明細書全体にわたって多くの論文及び特許文献が参照されており、その引用が示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容はその全体が本明細書に参照として組み込まれており、それにより本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【0069】
本明細書全体を通して、天然に存在するアミノ酸に対する通常の1文字及び3文字コードが用いられるだけでなく、Aib(α-アミノイソブチル酸)、Sar(N-methylglycine)、α-メチルグルタミン酸(α-methyl-glutamic acid)などの他のアミノ酸に対して一般に許容される3文字コードが用いられる。また、本明細書において略語で言及したアミノ酸は、IUPAC-IUB命名法に従って記載したものである。
アラニン Ala,A
アルギニン Arg,R
アスパラギン Asn,N
アスパラギン酸 Asp,D
システイン Cys,C
グルタミン酸 Glu,E
グルタミン Gln,Q
グリシン Gly,G
ヒスチジン His,H
イソロイシン Ile,I
ロイシン Leu,L
リシン Lys,K
メチオニン Met,M
フェニルアラニン Phe,F
プロリン Pro,P
セリン Ser,S
トレオニン Thr,T
トリプトファン Trp,W
チロシン Tyr,Y
バリン Val,V
【0070】
本明細書における「Aib」は「2-アミノイソブチル酸(2-aminoisobutyric acid)」又は「アミノイソブチル酸(aminoisobutyric acid)」と混用され、2-アミノイソブチル酸(2-aminoisobutyric acid)とアミノイソブチル酸(aminoisobutyric acid)は混用される。
【0071】
本発明を実現する一態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体を含む組成物である。具体的には、前記組成物は、グルカゴン誘導体又はその結合体を含む慢性腎臓疾患(chronic kidney disease)予防又は治療用薬学組成物である。
【0072】
一具体例において、前記慢性腎臓疾患予防又は治療用薬学組成物は、薬学的に許容される賦形剤と、グルカゴン誘導体又はその結合体とを薬学的有効量で含む薬学組成物であってもよい。
【0073】
本発明によるグルカゴン誘導体又はその結合体を有効成分として含む組成物は、グルカゴン受容体に対する作用により、血圧を低くし、腎臓機能を回復させ、慢性腎臓疾患予防又は治療効果を奏する。
【0074】
本発明の組成物は、慢性腎臓疾患予防又は治療効果を発揮する。
【0075】
本発明における「慢性腎臓疾患(chronic kidney disease, CKD)」とは、慢性腎臓病と混用され、腎臓の構造的又は機能的異常が3カ月以上存在するか、腎臓の損傷有無とは関係なく、糸球体濾過量が60mL/分/1.73m2以下に減少して3カ月以上経過した状態と定義される独立した疾患名である。慢性腎臓疾患は、進行によって5段階に分けられて臨床に適用される。高い血糖により腎臓に損傷がある場合や、血圧が高い状態が長く続く場合に慢性腎臓疾患の発症リスクが高くなり、それ以外にも、糸球体腎炎、多嚢胞性腎疾患、自己免疫疾患(例えば、全身性エリテマトーデス)なども慢性腎臓疾患の原因として知られている。
【0076】
前記慢性腎臓疾患の患者は、糸球体濾過量が減少して尿にタンパク質が排出される状態(タンパク尿)や、腎臓の機能が低下した状態を呈し、特に高血圧は、慢性腎臓疾患の原因でもあるが、慢性腎臓疾患の合併症としても知られている。慢性腎臓疾患の患者は糸球体高血圧及びタンパク尿を伴うことが多いので、血圧を低くし、タンパク尿を減少させることが慢性腎臓疾患の治療に必要かつ重要であることが知られている。
【0077】
前記慢性腎臓疾患には、ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome)、尿細管機能障害(renal tubular dysfunction)、腎性高血圧(renal hypertension)、尿毒症(uremia)、腎不全(renal failure)及び慢性腎不全(chronic renal failure)からなる群から選択される少なくとも1つの疾患が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
本発明によるグルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物は、血圧を低くし、かつ/又は腎臓機能の回復効果を奏する。
【0079】
前記血圧降下とは、収縮期血圧(systolic blood pressure, SBP)と拡張期血圧(diastolic blood pressure, DBP)の減少を意味するが、これに限定されるものではない。
【0080】
前記腎臓機能回復とは、血液中の老廃物を濾過する腎臓固有の機能を回復することを意味し、様々な方法で測定することができる。測定方法の例として、アルブミン排泄量、糸球体濾過量、タンパク尿、クレアチン濃度などを測定することが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本発明におけるタンパク尿(proteinuria)とは、糸球体濾過量が低くなった慢性腎臓疾患の患者の尿に正常値より高いタンパク質(例えば、アルブミン、グロブリンなど)が含まれる症状を意味する。アルブミンは尿タンパクの約40%を占めるタンパク質であり、尿中のアルブミンレベルを測定することにより、タンパク尿レベルを確認することができる。本発明によるグルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物は、腎臓機能を回復させ、体外に排出されるタンパク質(例えば、アルブミン)の量を減少させるものであってもよい。よって、本発明において、タンパク尿減少は、腎臓機能回復と同じ意味で用いられる。
【0082】
本発明によるグルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物は、個体に投与されると、個体の血圧降下効果を発揮するものであってもよい。また、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物は、個体に投与されると、個体の腎臓機能を回復させるものであってもよい。前記血圧降下及び腎臓機能回復は、本発明によるグルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物により、互いに独立して行われてもよく、共に行われてもよい。
【0083】
本発明における「個体」とは、腎臓損傷、腎臓機能異常及び/又は慢性腎臓疾患を有する、ヒトをはじめとして、マウス、家畜などが含まれる哺乳動物を意味し、血圧降下及び/又は腎臓機能回復により有利な効果が得られるものであれば特に限定されるものではない。
【0084】
本発明の実施例に用いた本態性高血圧モデル(spontaneously hypertensive rat, SHR)は、先天性高血圧による腎臓損傷などを誘導した慢性腎臓疾患関連モデルとして知られており、血圧降下治療剤の効能評価に用いられるものである。本発明の実施例において、本発明によるペプチドグルカゴン誘導体又はその持続型結合体の血圧降下及び腎臓機能回復効果が前記モデルで確認された。これは、慢性腎臓疾患予防又は治療に有用であることを示唆するものである。
【0085】
本発明によるグルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物は、投与された個体において次の特性の少なくとも1つを有するものであるが、これらに限定されるものではない。
(a)賦形剤投与対照群に比べて血圧が降下する
(b)賦形剤投与対照群に比べてアルブミン排泄量が減少する
(c)賦形剤投与対照群に比べてタンパク尿が減少する
(d)賦形剤投与対照群に比べて腎臓機能が回復する
【0086】
本発明によるグルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物は、前記特性を有することにより、慢性腎臓疾患に対する予防又は治療効果を奏する。
【0087】
本発明における「グルカゴン」とは、膵臓のα細胞から分泌されるホルモンの一種であり、グリコーゲンの分解を促進することにより、グルコースの濃度を上昇させて体内の血糖値を上げる役割を果たす。天然グルカゴンは、次のアミノ酸配列を有する。
His-Ser-Gln-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Tyr-Ser-Lys-Tyr-Leu-Asp-Ser-Arg-Arg-Ala-Gln-Asp-Phe-Val-Gln-Trp-Leu-Met-Asn-Thr(配列番号1)
【0088】
本発明のグルカゴン誘導体には、天然グルカゴンと比較してアミノ酸配列に少なくとも1つの差異のあるペプチド、天然グルカゴン配列を修飾(modification)することにより改変されたペプチド、天然グルカゴンのようにグルカゴン受容体を活性化させることのできる天然グルカゴンの模倣体が含まれる。このような天然グルカゴンの誘導体は、生体内での血圧降下及び/又は腎臓機能回復効果を有するものであってもよい。
【0089】
また、前記グルカゴン誘導体は、天然に存在しない(non-naturally occurring)ものであってもよい。
【0090】
本発明における前記グルカゴン誘導体とは、天然グルカゴンに比べて有意なレベルでグルカゴン受容体に作用するペプチドを意味する。本発明において、前記グルカゴン誘導体は、「グルカゴン受容体に活性を有するペプチド」、「グルカゴンアナログ」又は「ペプチド」と混用される。
【0091】
本発明のグルカゴン誘導体は、グルカゴン受容体に対する活性を有するペプチドであり、ここで、受容体に対する活性は、天然のものに比べて、受容体に対するin vitro活性が0.1%以上、0.2%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上又は200%以上である例が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0092】
具体的には、本発明のグルカゴン誘導体は、グルカゴン受容体に対するin vitro活性が、当該受容体の天然リガンド(天然グルカゴン)に比べて、約0.001%以上、約0.01%以上、約0.1%以上、0.2%以上、約1%以上、約2%以上、約3%以上、約4%以上、約5%以上、約6%以上、約7%以上、約8%以上、約9%以上、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約100%、約200%以上であるが、有意に増加する範囲であればいかなるものでもよい。具体的には、本発明のグルカゴン受容体に活性を有するペプチドは、天然グルカゴンに比べて、グルカゴン受容体に対する相対的活性が5%以上、10%以上、20%以上又は30%以上のものであるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
本発明における「約」とは、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などが全て含まれる範囲であり、約という用語の後に続く数値と同等又は同程度の範囲の数値であればいかなるものでもよい。
【0094】
このようなペプチドのin vitro活性を測定する方法としては、当該技術分野で公知の様々な方法(例えば、特許文献1、2、3)を用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0095】
本発明の目的上、前記グルカゴン誘導体には、グルカゴン受容体のアゴニスト(agonist)、又は天然グルカゴンの少なくとも1つのアミノ酸に置換、付加、欠失、修飾及びそれらの組み合わせからなる群から選択される変異が生じたアナログもしくはフラグメントが含まれる。
【0096】
本発明における「グルカゴン受容体のアゴニスト」とは、「作用薬」又は「作動薬」と同じ意味であり、グルカゴン受容体に結合して実際の生体内でグルカゴンと同様の機能を果たす物質を意味する。
【0097】
本発明における「グルカゴンアナログ(glucagon analog)」とは、天然グルカゴンとは異なる非天然グルカゴンを意味する。このようなグルカゴンアナログには、天然グルカゴンの一部のアミノ酸が付加、欠失又は置換の形態で改変されたアナログが含まれる。
【0098】
本発明における「フラグメント」とは、体内で慢性腎臓疾患予防又は治療効果を発揮するものであって、天然グルカゴン又はグルカゴン誘導体のN末端又はC末端の少なくとも1つのアミノ酸が欠失した形態を意味する。
【0099】
本発明のグルカゴン誘導体は、天然グルカゴンの一部のアミノ酸が置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)及び修飾(modification)のいずれかの方法又はそれらの組み合わせにより改変されたものであってもよい。前記アミノ酸の置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。このような類似した性質を有するアミノ酸への保存的置換は、同一又は類似の活性を示すものと期待される。
【0100】
上記方法の組み合わせにより作製されるグルカゴン誘導体の例として、天然グルカゴンとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なり、N末端のアミノ酸残基が脱アミノ化(deamination)された、グルカゴン受容体に対する活性化機能を有するペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、誘導体作製のための様々な方法の組み合わせにより、本発明に用いられる天然グルカゴンの誘導体を作製することができる。
【0101】
また、本発明においては、ペプチドの作製のためのL型もしくはD型アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸を用いた改変、並びに/あるいは天然配列の修飾、例えば側鎖官能基の改変、分子内の共有結合、一例として側鎖間の環形成、メチル化、アシル化、ユビキチン化、リン酸化、アミノヘキサン化、ビオチン化などの修飾による改変が全て含まれる。さらに、前記改変には、非天然化合物への置換が全て含まれる。
【0102】
さらに、N及び/又はC末端に少なくとも1つのアミノ酸が付加されたものが全て含まれる。
【0103】
前述したように置換されるか、付加されるアミノ酸としては、ヒトタンパク質において通常観察される20種のアミノ酸だけでなく、異常又は非天然アミノ酸を用いることができる。異常アミノ酸の市販元には、Sigma-Aldrich、ChemPep、Genzyme pharmaceuticalsが含まれる。これらのアミノ酸が含まれるペプチドと定型的なペプチド配列は、民間のペプチド合成会社、例えば米国のAmerican peptide companyやBachem、又は韓国のAnygenにおいて合成及び購入することができる。
【0104】
アミノ酸誘導体も同様に入手することができ、一例として4-イミダゾ酢酸(4-imidazoacetic acid)などが挙げられる。
【0105】
また、本発明のグルカゴン誘導体は、上記作製方法を単独で用いるか、組み合わせて用いて作製したものであってもよい。
【0106】
具体的な一態様として、前記グルカゴン誘導体は、一般式1のアミノ酸配列を含むペプチドであってもよい。
【0107】
X1-X2-QGTF-X7-SD-X10-S-X12-X13-X14-X15-X16-X17-X18-X19-X20-X21-F-X23-X24-W-L-X27-X28-X29-X30(一般式1,配列番号46)
【0108】
上記式において、X1はチロシンであり、X2はα-メチルグルタミン酸(α-methyl-glutamic acid)、Aib(aminoisobutyric acid)、D-アラニン、グリシン、Sar(N-methylglycine)、セリン又はD-セリンであり、X7はトレオニン、バリン又はシステインであり、X10はチロシン又はシステインであり、X12はリシン又はシステインであり、X13はチロシン又はシステインであり、X14はロイシン又はシステインであり、X15はアスパラギン酸、グルタミン酸又はシステインであり、X16はグルタミン酸、アスパラギン酸、セリン、α-メチルグルタミン酸もしくはシステインであるか、又は存在せず、X17はアスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、リシン、アルギニン、セリン、システインもしくはバリンであるか、又は存在せず、X18はアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、バリンもしくはシステインであるか、又は存在せず、X19はアラニン、アルギニン、セリン、バリンもしくはシステインであるか、又は存在せず、X20はリシン、ヒスチジン、グルタミン、アスパラギン酸、アルギニン、α-メチルグルタミン酸もしくはシステインであるか、又は存在せず、X21はアスパラギン酸、グルタミン酸、ロイシン、バリンもしくはシステインであるか、又は存在せず、X23はイソロイシン、バリンもしくはアルギニンであるか、又は存在せず、X24はバリン、アルギニン、アラニン、システイン、グルタミン酸、リシン、グルタミン、α-メチルグルタミン酸もしくはロイシンであるか、又は存在せず、X27はイソロイシン、バリン、アラニン、リシン、メチオニン、グルタミンもしくはアルギニンであるか、又は存在せず、X28はグルタミン、リシン、アスパラギンもしくはアルギニンであるか、又は存在せず、X29はトレオニン(T)であり、X30はシステインであるか、又は存在しない(ただし、一般式1のアミノ酸配列が配列番号1又は配列番号12と同じ場合は除く)。
【0109】
より具体的には、一般式1において、X2はAib(aminoisobutyric acid)であり、X7はトレオニン(T)、バリン(V)又はシステイン(C)であり、X10はチロシン(Y)であり、X12はリシン(K)であり、X13はチロシン(Y)であり、X14はロイシン(L)又はシステイン(C)であり、X15はアスパラギン酸(D)であり、X16はグルタミン酸(E)又はセリン(S)であり、X17はリシン(K)、アルギニン(R)又はシステイン(C)であり、X18はアルギニン(R)であり、X19はアラニン(A)又はシステイン(C)であり、X20はグルタミン(Q)又はリシン(K)であり、X21はアスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)であり、X23はバリン(V)であり、X24はグルタミン(Q)であり、X27はメチオニン(M)であり、X28はアスパラギン(N)であり、X29はトレオニン(T)であり、X30はシステイン(C)であるか、又は存在しない。
【0110】
本発明の他の具体例として、前記グルカゴン誘導体は、配列番号2~45からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、具体的には配列番号2~45からなる群から選択されるアミノ酸配列で(必須に)構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。具体的には、前記グルカゴン誘導体は、配列番号2~11、13~45からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むもの、より具体的には配列番号2~11、13~45からなる群から選択されるアミノ酸配列で(必須に)構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0111】
他の具体例として、前記グルカゴン誘導体は、配列番号7~11、13~25、27、29、31、33及び35~45からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むものであるか、前記アミノ酸配列で(必須に)構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0112】
あるいは、前記グルカゴン誘導体は、配列番号20、22、23、27、33、35、37、38、40、41、42及び44からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むものであるか、前記アミノ酸配列で(必須に)構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0113】
本発明に「特定配列番号で構成される」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、当該配列番号のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加や、自然発生する突然変異や、その非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、このような配列付加又は突然変異を有するものも本発明に含まれることは言うまでもない。すなわち、一部の配列に差異があっても、所定レベル以上の相同性を示し、グルカゴン受容体に対する活性を示すものであれば、本発明に含まれる。
【0114】
例えば、本発明のグルカゴン誘導体は、天然グルカゴンと配列同一性を比較した場合に、少なくとも60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上又は95%以上の配列同一性を有するものであるが、慢性腎臓疾患予防又は治療効果を有するものであれば、特定配列に限定されるものではない。本発明のグルカゴン誘導体については、特許文献1、2、3に開示されている。
【0115】
また、本発明のグルカゴン誘導体は、配列番号2~45のいずれかのアミノ酸配列を含むものであるか、配列番号2~45のいずれかのアミノ酸配列で(必須に)構成されるものであるか、又は配列番号2~45のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上又は95%以上の配列同一性を有するペプチドを含むものであるが、慢性腎臓疾患予防又は治療効果を有するものであれば、特定配列に限定されるものではない。
【0116】
本発明における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が互いに関連する程度を意味し、百分率で表される。
【0117】
相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0118】
任意の2つのペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献2のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献3)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献5)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献6、7及び8)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0119】
ペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献9に開示されているように、非特許文献4などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、アミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献10に開示されているように、非特許文献11の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。よって、本発明における「相同性」又は「同一性」は、配列間の関連性(relevance)を示すものである。
【0120】
前述した本発明のグルカゴン誘導体は、分子内架橋(intramolecular bridge)を含んでもよく(例えば、共有結合的架橋又は非共有結合的架橋)、具体的にはアミノ酸残基間に環を含む形態であってもよい。例えば、ペプチドの12番目のアミノ酸と16番目のアミノ酸間、又は16番目のアミノ酸と20番目のアミノ酸間に環が形成される形態であってもよいが、特にこれらに限定されるものではない。
【0121】
前記環の例として、ラクタム架橋(又はラクタム環)が挙げられるが、特にこれに限定されるものではない。
【0122】
また、前記グルカゴン誘導体には、目的とする位置に環を形成するアミノ酸を含むことにより環を含むように改変されたものが全て含まれる。
【0123】
このような環は、前記グルカゴン誘導体中のアミノ酸側鎖間に形成される形態、例えばリシンの側鎖とグルタミン酸の側鎖間にラクタム環が形成される形態であるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0124】
例えば、一般式1のアミノ酸配列を含むペプチドは、一般式1のX10とX14、X12とX16、X16とX20、X17とX21、X20とX24、及びX24とX28のアミノ酸対において、各アミノ酸対のアミノ酸がそれぞれグルタミン酸又はリシンに置換されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。上記において、Xn(nは自然数)のnは、提示されたアミノ酸配列のN末端からのアミノ酸位置を示すものである。
【0125】
また、一般式1のアミノ酸配列を含むペプチドは、X12とX16のアミノ酸対、X16とX20のアミノ酸対、又はX17とX21のアミノ酸対の各アミノ酸が環を形成するグルタミン酸又はリシンに置換されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0126】
さらに、一般式1のX10とX14、X12とX16、X16とX20、X17とX21、X20とX24、及びX24とX28のアミノ酸対の少なくとも1つのアミノ酸対において、各アミノ酸対の各アミノ酸間に環(例えば、ラクタム環)を形成するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0127】
さらに、一般式1において、X16はグルタミン酸であり、X20はリシンであり、X16とX20の側鎖はラクタム環を形成するものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0128】
また、本発明のグルカゴン誘導体は、N末端及び/又はC末端が改変されていないものであってもよいが、生体内のタンパク質切断酵素から保護して安定性を向上させるために、そのN末端及び/又はC末端などが化学的に修飾された形態、有機基により保護された形態、又はグルカゴン誘導体の末端などにアミノ酸が付加されて改変された形態も本発明によるグルカゴン誘導体に含まれる。C末端が改変されていない場合、本発明によるグルカゴン誘導体の末端はカルボキシ基を有するが、特にこれに限定されるものではない。
【0129】
特に、化学的に合成したグルカゴン誘導体の場合、N及びC末端が電荷を帯びているので、その電荷を除去するために、N末端のアセチル化(acetylation)及び/又はC末端のアミド化(amidation)を行うが、特にこれらに限定されるものではない。
【0130】
具体的には、本発明のグルカゴン誘導体のN末端又はC末端は、アミノ基(-NH2)又はカルボキシ基(-COOH)を有するが、これらに限定されるものではない。
【0131】
本発明において、前記グルカゴン誘導体は、その生体内半減期を延長させることのできる生体適合性物質部が結合されている結合体の形態であるが、これに限定されるものではない。
【0132】
本発明における「持続型結合体」又は「結合体」とは、前記グルカゴン誘導体と生体適合性物質が結合された構造を有し、前記生体適合性物質が結合されていないグルカゴン誘導体より効力の持続性が向上したものを意味する。前記持続型結合体における生体適合性物質は、グルカゴン誘導体に共有結合で連結されたものであるが、特にこれに限定されるものではない。本発明において、前記結合体の一構成要素であるグルカゴン誘導体は、天然グルカゴン配列の少なくとも1つのアミノ酸に置換、付加、欠失、修飾又はそれらの組み合わせの変異が生じたペプチド又はフラグメントであり、生体適合性物質の結合により活性を失わないものであるが、慢性腎臓疾患予防又は治療効果を有するものであれば、いかなるものでも本発明の結合体の一構成要素として用いられる。
【0133】
例えば、前記結合体に含まれるグルカゴン誘導体は、前述した一般式1のアミノ酸配列を含むペプチドである。あるいは、前記結合体に含まれるグルカゴン誘導体は、配列番号2~45のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドである。あるいは、前記結合体に含まれるグルカゴン誘導体は、配列番号2~11、及び13~45のいずれかのアミノ酸配列を含むペプチドであるが、これらに限定されるものではない。
【0134】
本発明における「生体適合性物質」とは、生理活性物質である本発明のグルカゴン誘導体に結合され、生体適合性物質部又はキャリアに結合されていない生理活性物質より生理活性物質の効力の持続性を向上させることのできる物質を意味する。前記生体適合性物質は、生理活性物質に共有結合で連結されたものであるが、特にこれに限定されるものではない。
【0135】
前記生体適合性物質は、高分子重合体、脂肪酸、コレステロール、アルブミン及びそのフラグメント、アルブミン結合物質、特定アミノ酸配列の繰り返し単位の重合体、抗体、抗体フラグメント、FcRn結合物質、生体内結合組織、ヌクレオチド、フィブロネクチン、トランスフェリン(Transferrin)、サッカライド(saccharide)、ヘパリン及びエラスチンからなる群から選択されるものであるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0136】
例えば、前記FcRn結合物質は、免疫グロブリンFc領域であり、より具体的にはIgG Fc領域であるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0137】
本発明のペプチド中の少なくとも1つのアミノ酸側鎖は、生体内で可溶性及び/又は半減期を向上させ、かつ/又はバイオアベイラビリティを増加させるために、このような生体適合性物質に接合される。また、このような改変は、治療学的タンパク質及びペプチドのクリアランス(clearance)を減少させる。
【0138】
前述した生体適合性物質は、水溶性(両親媒性又は親水性)のもの、無毒性のもの、及び/又は薬学的に許容されるものであってもよい。
【0139】
以下、本発明の組成物に含まれる有効成分であるグルカゴン誘導体の持続型結合体についてより具体的に説明する。
【0140】
本発明のグルカゴン誘導体の持続型結合体は、グルカゴン誘導体と免疫グロブリンFc領域が互いに連結された形態である。具体的には、前記結合体は、グルカゴン誘導体に免疫グロブリンFc領域がリンカーを介して共有結合的に連結されたものであるが、特にこれに限定されるものではない。
【0141】
前記グルカゴン誘導体の持続型結合体とは、免疫グロブリンFc領域が結合されていないグルカゴン誘導体より効力の持続性が向上したものを意味し、本発明においては、一般式1のペプチドの化学式(1)で表される結合体を「持続型結合体」といい、「グルカゴン誘導体の持続型結合体」と混用される。
【0142】
具体的には、前記グルカゴン誘導体又はペプチドは、持続型結合体の形態であり、前記持続型結合体は、化学式(1)で表される結合体である。
【0143】
X-L-F・・・(1)
【0144】
ここで、Xは一般式1のアミノ酸配列を含むペプチド(グルカゴン誘導体)であり、Lはエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーであり、Fは免疫グロブリンFc領域であり、-はXとL間、LとF間の共有結合連結を示すものである。
【0145】
本発明の持続型結合体は、一般式1のアミノ酸配列を含むペプチド(グルカゴン誘導体)を結合体の一部として含むものであることを特徴とする。
【0146】
本発明の結合体は、結合体の形態においても、グルカゴン誘導体と同様に、グルカゴン受容体に対して有意な活性を示すので、血圧降下及び腎臓機能回復による慢性腎臓疾患予防又は治療効能を発揮する。
【0147】
具体的には、本発明の結合体は、天然グルカゴンに比べて、グルカゴン受容体に対するin vitro活性が約0.01%以上、0.1%以上、0.2%以上、0.5%以上、0.7%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上であるが、これらに限定されるものではない。
【0148】
本発明の目的上、前記ペプチド(グルカゴン誘導体)又はその結合体は、天然グルカゴンに比べて、グルカゴン受容体に対する活性が約0.01%以上、約0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上、200%以上であるが、これらに限定されるものではない。
【0149】
本発明の組成物は、(i)グルカゴン受容体に対して活性を有するグルカゴン誘導体であってもよく、(ii)前記グルカゴン誘導体の持続型結合体を含むものであってもよく、前記持続型結合体は、向上した体内持続性に基づいて、優れた慢性腎臓疾患予防又は治療効果を発揮する。
【0150】
前記結合体において、Fは、半減期を延長させる生体適合性物質、具体的にはX、すなわち本発明のグルカゴン誘導体の半減期を延長させる物質であって、本発明の前記結合体の一構成要素である。
【0151】
前記Fは、Xに共有化学結合又は非共有化学結合により互いに結合されたものであってもよく、Lを介して、Xに共有化学結合、非共有化学結合又はそれらの組み合わせにより互いに結合されたものであってもよい。
【0152】
より具体的には、XとL、及びLとFは、共有結合により互いに連結されたものであってもよく、ここで、前記結合体は、化学式(1)の順に、X、L及びFが共有結合によりそれぞれ連結された結合体である。
【0153】
本発明において、前記Fは、免疫グロブリンFc領域であってもよい。
【0154】
前記「免疫グロブリンFc領域」とは、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除いたものであり、重鎖定常領域2(CH2)及び/又は重鎖定常領域3(CH3)部分を含む部位を意味する。前記免疫グロブリンFc領域は、本発明の結合体の一部をなす一構成であってもよい。具体的には、化学式(1)のFに該当する。
【0155】
本明細書において、Fc領域には、免疫グロブリンのパパイン消化により得られる天然配列だけでなく、その誘導体、例えば天然配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより置換されて天然のものとは異なる配列などの改変体も含まれる。前記誘導体、置換体、改変体は、FcRnに結合する能力を保有することを前提とする。本発明において、Fはヒト免疫グロブリン領域であるが、これに限定されるものではない。前記Fは、2本のポリペプチド鎖がジスルフィド結合で連結された構造であり、前記2本の鎖のうち1本の鎖の窒素原子を介してのみ連結された構造であるが、これに限定されるものではない。前記窒素原子を介した連結は、リシンのεアミノ原子やN末端のアミノ基に還元的アミノ化により連結されるものであってもよい。
【0156】
還元的アミノ化反応とは、反応物のアミン基又はアミノ基が他の反応物のアルデヒド(すなわち、還元的アミノ化が可能な官能基)と反応してアミンを生成し、次いで還元反応によりアミン結合を形成する反応を意味し、当該技術分野で周知の有機合成反応である。
【0157】
一具体例として、前記Fは、そのN末端のプロリンの窒素原子を介して連結されたものであるが、これに限定されるものではない。
【0158】
前記免疫グロブリンFc領域は、本発明の化学式(1)の結合体の一部をなす一構成であり、具体的には、化学式(1)のFに該当する。
【0159】
このような免疫グロブリンFc領域は、重鎖定常領域にヒンジ(hinge)部分を含むが、これに限定されるものではない。
【0160】
本発明における「ヒンジ配列」とは、重鎖に位置してジスルフィド結合(inter disulfide bond)により免疫グロブリンFc領域の二量体を形成する部位を意味する。
【0161】
本発明における前記ヒンジ配列は、次のアミノ酸配列を有するヒンジ配列中の一部が欠失して1つのシステイン残基のみ有するように変異したものであるが、これに限定されるものではない。
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号47)
【0162】
前記ヒンジ配列は、配列番号47のヒンジ配列中の8番目又は11番目のシステイン残基が欠失して1つのシステイン残基のみ含むものであってもよい。本発明のヒンジ配列は、1つのシステイン残基のみ含む、3~12個のアミノ酸からなるものであるが、これに限定されるものではない。より具体的には、本発明のヒンジ配列は、次の配列を有するものであってもよい。
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号48)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser-Pro(配列番号49)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser(配列番号50)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Pro(配列番号51)
Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro-Ser(配列番号52)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys(配列番号53)
Glu-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys(配列番号54)
Glu-Ser-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号55)
Glu-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号56)
Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号57)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号58)
Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号59)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号60)
Glu-Ser-Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys(配列番号61)
Lys-Tyr-Gly-Pro-Pro-Cys-Pro(配列番号62)
Glu-Ser-Lys-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号63)
Glu-Ser-Pro-Ser-Cys-Pro(配列番号64)
Glu-Pro-Ser-Cys(配列番号65)
Ser-Cys-Pro(配列番号66)
【0163】
より具体的には、前記ヒンジ配列は、配列番号57(Pro-Ser-Cys-Pro)又は配列番号66(Ser-Cys-Pro)のアミノ酸配列を含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0164】
本発明の免疫グロブリンFc領域は、ヒンジ配列の存在により免疫グロブリンFc鎖の2つの分子が二量体を形成した形態であり、また、本発明の化学式(1)の結合体は、リンカーの一末端が二量体の免疫グロブリンFc領域の1本の鎖に連結された形態であるが、これらに限定されるものではない。
【0165】
本発明における「N末端」とは、タンパク質又はポリペプチドのアミノ末端を意味し、アミノ末端の最末端、又は最末端から1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個以上のアミノ酸が含まれる。本発明の免疫グロブリンFc領域は、ヒンジ配列をN末端に含むが、これに限定されるものではない。
【0166】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域は、天然のものと実質的に同等又は向上した効果を有するものであれば、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域を除き、一部又は全部の重鎖定常領域1(CH1)及び/又は軽鎖定常領域1(CL1)を含む拡張されたFc領域であってもよい。さらに、CH2及び/又はCH3に相当する非常に長い一部のアミノ酸配列が欠失した領域であってもよい。
【0167】
例えば、本発明の免疫グロブリンFc領域は、1)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメイン、2)CH1ドメイン及びCH2ドメイン、3)CH1ドメイン及びCH3ドメイン、4)CH2ドメイン及びCH3ドメイン、5)CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCH4ドメインの少なくとも1つのドメインと免疫グロブリンヒンジ領域(又はヒンジ領域の一部)との組み合わせ、6)重鎖定常領域の各ドメインと軽鎖定常領域の二量体である。しかし、これらに限定されるものではない。
【0168】
本発明における前記免疫グロブリンFc領域は、同一起源のドメインからなる一本鎖免疫グロブリンで構成された二量体又は多量体の形態であるが、これらに限定されるものではない。
【0169】
また、前記免疫グロブリンFc領域Fは、2本のポリペプチド鎖からなる二量体(dimer)であり、ここで、前記Fc領域二量体FとXは、エチレングリコール繰り返し単位を含む1つの同じリンカーLを介して共有結合的に連結されている。本実施形態の具体的な例において、Xは、このようなFc領域二量体Fの2本のポリペプチド鎖のいずれかのポリペプチド鎖にのみリンカーLを介して共有結合により連結されている。本実施形態のさらに具体的な例において、このようなFc領域二量体Fの2本のポリペプチド鎖のうちXが連結された1本のポリペプチド鎖には、1分子のXのみLを介して共有結合的に連結されている。本実施形態の最も具体的な例において、前記Fはホモ二量体(homodimer)である。
【0170】
他の具体形態において、前記免疫グロブリンFc領域Fは、2本のポリペプチド鎖からなる二量体であり、Lの一末端が前記2本のポリペプチド鎖のいずれかのポリペプチド鎖にのみ連結されているものであるが、これに限定されるものではない。
【0171】
本発明の持続型結合体の他の実施形態においては、二量体の形態の1つのFc領域に2分子のXが対称に結合されてもよい。ここで、前記免疫グロブリンFc領域とXは、非ペプチド性リンカーにより互いに連結されてもよい。しかし、上記例に限定されるものではない。
【0172】
また、本発明の免疫グロブリンFc領域には、天然アミノ酸配列だけでなく、その配列誘導体も含まれる。アミノ酸配列誘導体とは、天然アミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸残基が欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより異なる配列を有するものを意味する。
【0173】
例えば、IgG Fcの場合、結合に重要であることが知られている214~238、297~299、318~322、又は327~331番目のアミノ酸残基が修飾に適した部位として用いられる。
【0174】
また、ジスルフィド結合を形成する部位が除去された誘導体、天然FcからN末端のいくつかのアミノ酸が欠失した誘導体、天然FcのN末端にメチオニン残基が付加された誘導体など、様々な誘導体が用いられる。さらに、エフェクター機能をなくすために、補体結合部位、例えばC1q結合部位が除去されてもよく、ADCC(antibody dependent cell mediated cytotoxicity)部位が除去されてもよい。このような免疫グロブリンFc領域の配列誘導体を作製する技術は、特許文献4、5などに開示されている。
【0175】
分子の活性を全体的に変化させないタンパク質及びペプチドにおけるアミノ酸交換は、当該分野で公知である(非特許文献12)。最も一般的な交換は、アミノ酸残基Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Thy/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu、Asp/Gly間の交換である。場合によっては、リン酸化(phosphorylation)、硫酸化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、グリコシル化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)、アセチル化(acetylation)、アミド化(amidation)などにより修飾(modification)されてもよい。
【0176】
前述したFc誘導体は、本発明のFc領域と同等の生物学的活性を示し、Fc領域の熱、pHなどに対する構造的安定性を向上させたものであってもよい。
【0177】
また、このようなFc領域は、ヒトや、ウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物の生体内から分離した天然のものから得てもよく、形質転換された動物細胞もしくは微生物から得られた組換えたもの又はその誘導体であってもよい。ここで、天然のものから得る方法は、全免疫グロブリンをヒト又は動物の生体から分離し、その後タンパク質分解酵素で処理することにより得る方法であってもよい。パパインで処理するとFab及びFcに切断され、ペプシンで処理するとpF’c及びF(ab)2に切断される。これらは、サイズ排除クロマトグラフィー(size-exclusion chromatography)などを用いてFc又はpF’cを分離することができる。より具体的な実施形態において、ヒト由来のFc領域は、微生物から得られた組換え免疫グロブリンFc領域である。
【0178】
また、免疫グロブリンFc領域は、天然糖鎖であってもよく、天然のものに比べて増加した糖鎖であってもよく、天然のものに比べて減少した糖鎖であってもよく、糖鎖が除去された形態であってもよい。このような免疫グロブリンFc糖鎖の増減又は除去には、化学的方法、酵素学的方法、微生物を用いた遺伝工学的手法などの通常の方法が用いられる。ここで、Fcから糖鎖が除去された免疫グロブリンFc領域は、補体(c1q)との結合力が著しく低下し、抗体依存性細胞傷害又は補体依存性細胞傷害が低減又は除去されるので、生体内で不要な免疫反応を誘発しない。このようなことから、糖鎖が除去されるか、非グリコシル化された免疫グロブリンFc領域は、薬物のキャリアとしての本来の目的に適する形態である。
【0179】
本発明における「糖鎖の除去(Deglycosylation)」とは、酵素で糖を除去したFc領域を意味し、非グリコシル化(Aglycosylation)とは、原核生物、より具体的な実施形態においては大腸菌で産生されてグリコシル化されていないFc領域を意味する。
【0180】
一方、免疫グロブリンFc領域は、ヒト起源、又はウシ、ヤギ、ブタ、マウス、ウサギ、ハムスター、ラット、モルモットなどの動物起源であり、より具体的な実施形態においてはヒト起源である。
【0181】
また、免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM由来のFc領域であってもよく、それらの組み合わせ(combination)又はそれらのハイブリッド(hybrid)によるFc領域であってもよい。より具体的な実施形態においては、ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来のものであり、さらに具体的な実施形態においては、リガンド結合タンパク質の半減期を延長させることが知られているIgG由来のものである。一層具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域はIgG4 Fc領域であり、最も具体的な実施形態において、前記免疫グロブリンFc領域はヒトIgG4由来の非グリコシル化されたFc領域であるが、これらに限定されるものではない。
【0182】
また、具体的な一実施形態において、免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4 Fcの領域であり、各単量体(monomer)の3番目のアミノ酸であるシステイン間のジスルフィド結合(inter-chain形態)により2つの単量体が連結されたホモ二量体(homodimer)の形態であってもよく、ここで、ホモ二量体の各単量体は、独立して35番目と95番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、及び141番目と199番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、すなわち2つの内部のジスルフィド結合(intra-chain形態)を有するものである/有するものであってもよい。
【0183】
各単量体のアミノ酸は、221個のアミノ酸からなり、ホモ二量体を形成するアミノ酸は、全体で442個のアミノ酸からなるが、これらに限定されるものではない。具体的には、免疫グロブリンFc領域は、配列番号67のアミノ酸配列(221個のアミノ酸からなる)を有する2つの単量体が各単量体の3番目のアミノ酸であるシステイン間のジスルフィド結合によりホモ二量体を形成し、前記ホモ二量体の単量体は、それぞれ独立して35番目と95番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、及び141番目と199番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合を形成するものであるが、これに限定されるものではない。
【0184】
化学式(1)のFは、配列番号67のアミノ酸配列を有する単量体を含むものであり、前記Fは、配列番号67のアミノ酸配列の単量体のホモ二量体であるが、これらに限定されるものではない。
【0185】
一例として、免疫グロブリンFc領域は、配列番号68のアミノ酸配列(442個のアミノ酸からなる)を含むホモ二量体であるが、これに限定されるものではない。
【0186】
一具体例として、前記免疫グロブリンFc領域とXはグリコシル化されていないが、これに限定されるものではない。
【0187】
一方、本発明における「組み合わせ(combination)」とは、二量体又は多量体を形成する際に、同一起源の一本鎖免疫グロブリンFc領域をコードするポリペプチドが異なる起源の一本鎖ポリペプチドに結合することを意味する。すなわち、IgG Fc、IgA Fc、IgM Fc、IgD Fc及びIgEのFc領域からなる群から選択される少なくとも2つの領域から二量体又は多量体を作製することができる。
【0188】
本発明における「ハイブリッド(hybrid)」とは、一本鎖免疫グロブリン定常領域内に、少なくとも2つの異なる起源の免疫グロブリンFc領域に相当する配列が存在することを意味する。本発明においては、様々な形態のハイブリッドが可能である。すなわち、IgG Fc、IgM Fc、IgA Fc、IgE Fc及びIgD FcのCH1、CH2、CH3及びCH4からなる群から1つ~4つのドメインのハイブリッドが可能であり、ヒンジを含んでもよい。
【0189】
一方、IgGもIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに分けられ、本発明においては、それらの組み合わせ又はそれらのハイブリダイゼーションも可能である。具体的には、IgG2及びIgG4サブクラスであり、より具体的には、補体依存的細胞傷害(CDC, Complement dependent cytotoxicity)などのエフェクター機能(effector function)のほとんどないIgG4のFc領域である。
【0190】
また、前述した結合体は、天然グルカゴンより、又はFが修飾されていないXより効力の持続性が向上したものであり、このような結合体には、前述した形態だけでなく、生分解性ナノ粒子に封入された形態などが全て含まれる。
【0191】
一方、化学式(1)において、前記Lは、非ペプチド性リンカー、例えばエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーであってもよい。
【0192】
本発明における「非ペプチド性リンカー」には、繰り返し単位が少なくとも2つ結合された生体適合性重合体が含まれる。前記繰り返し単位は、ペプチド結合を除く任意の共有結合により互いに連結される。前記非ペプチド性リンカーは、本発明の結合体の一部をなす一構成であり、化学式(1)のLに該当する。
【0193】
本発明に用いられる非ペプチド性リンカーは、生体内タンパク質分解酵素に抵抗性のある重合体であればいかなるものでもよい。本発明における前記非ペプチド性リンカーは、非ペプチド性重合体と混用される。
【0194】
本発明における非ペプチド性リンカーは、末端に反応基を含み、結合体を構成する他の構成要素との反応により結合体を形成することができる。両末端に反応性官能基を有する非ペプチド性リンカーが各反応基を介して化学式(1)のX及びFに結合することにより結合体を形成する場合、前記非ペプチド性リンカー又は非ペプチド性重合体を非ペプチド性重合体連結部(linker moiety)又は非ペプチド性リンカー連結部ともいう。
【0195】
前記非ペプチド性リンカーは、エチレングリコール繰り返し単位を含むリンカー、例えばポリエチレングリコールであるが、特にこれらに限定されるものではない。また、当該分野で公知のそれらの誘導体や当該分野の技術水準で容易に作製できる誘導体も本発明に含まれる。
【0196】
前記非ペプチド性リンカーの繰り返し単位は、エチレングリコール繰り返し単位であってもよく、具体的には、前記非ペプチド性リンカーは、エチレングリコール繰り返し単位を含むと共に、結合体として構成されるまでは、結合体の作製に用いられる官能基を末端に含むものであってもよい。本発明による持続型結合体は、前記官能基を介してXとFが連結された形態であるが、これに限定されるものではない。本発明における前記非ペプチド性リンカーは、2つ又は3つ以上の官能基を含み、各官能基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0197】
具体的には、前記リンカーは、化学式(2)で表されるポリエチレングリコール(PEG)であるが、これに限定されるものではない。
【0198】
【0199】
ここで、n=10~2400、n=10~480、又はn=50~250であるが、これらに限定されるものではない。
【0200】
前記持続型結合体でPEG部分は、-(CH2CH2O)n-構造だけでなく、連結要素とその-(CH2CH2O)n-間に介在する酸素原子も含むが、これに限定されるものではない。
【0201】
一具体例として、前記エチレングリコール繰り返し単位は[OCH2CH2]nで表され、n値は、自然数であって、前記持続型結合体中の[OCH2CH2]n部分の平均分子量、例えば数平均分子量が0超~約100kDaになるように決定されるが、これらに限定されるものではない。他の具体例として、前記n値は、自然数であって、前記持続型結合体中の[OCH2CH2]n部分の平均分子量、例えば数平均分子量が約1~約100kDa、約1~約80kDa、約1~約50kDa、約1~約30kDa、約1~約25kDa、約1~約20kDa、約1~約15kDa、約1~約13kDa、約1~約11kDa、約1~約10kDa、約1~約8kDa、約1~約5kDa、約1~約3.4kDa、約3~約30kDa、約3~約27kDa、約3~約25kDa、約3~約22kDa、約3~約20kDa、約3~約18kDa、約3~約16kDa、約3~約15kDa、約3~約13kDa、約3~約11kDa、約3~約10kDa、約3~約8kDa、約3~約5kDa、約3~約3.4kDa、約8~約30kDa、約8~約27kDa、約8~約25kDa、約8~約22kDa、約8~約20kDa、約8~約18kDa、約8~約16kDa、約8~約15kDa、約8~約13kDa、約8~約11kDa、約8~約10kDa、約9~約15kDa、約9~約14kDa、約9~約13kDa、約9~約12kDa、約9~約11kDa、約9.5~約10.5kDa、又は約10kDaであるが、これらに限定されるものではない。
【0202】
また、具体的な一実施形態における前記結合体は、グルカゴン誘導体(X)と免疫グロブリンFc領域(F)がエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーを介して共有結合により連結された構造であるが、これに限定されるものではない。
【0203】
具体的な他の実施形態における前記持続型結合体において、前記Lは、エチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーであり、Fは、二量体形態の免疫グロブリンFc領域であってもよい。より具体的には、二量体形態の免疫グロブリンFc領域のいずれかのFc領域にX1分子が前記エチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーを介して共有結合的に連結されたものであるが、これに限定されるものではない。また、具体的なさらに他の実施形態においては、前記エチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーの一末端が前記二量体形態の免疫グロブリンFc領域の2本のFc領域鎖のいずれかのFc領域鎖にのみ連結されたものであるが、これに限定されるものではない。
【0204】
前記ポリエチレングリコールは、エチレングリコールホモポリマー、PEGコポリマー又はモノメチル置換PEGポリマー(mPEG)の形態を包括するものであるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0205】
前記L中のエチレングリコール繰り返し単位部分の化学式量は、1~100kDaの範囲にあるが、これに限定されるものではない。また、具体的な一実施形態において、前記結合体は、両末端にF、具体的には免疫グロブリンFc領域、及びX、具体的にはグルカゴン誘導体に結合される反応基を有する非ペプチド性リンカーを介して、FとXが互いに共有結合的に連結されたものであってもよい。
【0206】
本発明に用いられる非ペプチド性リンカーは、生体内タンパク質分解酵素に抵抗性を有し、エチレングリコール繰り返し単位を含む重合体であればいかなるものでもよい。前記非ペプチド性重合体の分子量は、0超~約100kDaの範囲、約1~約100kDaの範囲、具体的には約1~約20kDaの範囲、又は約1~約10kDaの範囲であるが、これらに限定されるものではない。また、前記Fに該当するポリペプチドに結合される本発明の非ペプチド性リンカーは、1種類の重合体だけでなく、異なる種類の重合体の組み合わせが用いられてもよい。
【0207】
本発明における「約」とは、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などが全て含まれる範囲であり、約という用語の後に続く数値と同等又は同程度の範囲の数値であればいかなるものでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0208】
具体的には、前記非ペプチド性リンカーは、F及びXに結合されていない状態で両末端に反応基を有し、前記反応基を介してF及びXに結合されるものであってもよい。
【0209】
一具体例として、前記リンカーの両末端は、免疫グロブリンFc領域のチオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、及びグルカゴン誘導体(X)のチオール基、アミノ基、アジド基、ヒドロキシ基に結合されるが、これらに限定されるものではない。
【0210】
具体的には、前記リンカーは、両末端がそれぞれ免疫グロブリンFc領域及びグルカゴン誘導体(X)に結合される反応基、より具体的には、免疫グロブリンFc領域のシステインのチオール基と、N末端、リシン、アルギニン、グルタミン及び/又はヒスチジンに位置するアミノ基と、C末端に位置するヒドロキシ基とからなる群から選択される少なくとも1つに結合され、グルカゴン誘導体(X)のシステインのチオール基と、リシン、アルギニン、グルタミン及び/又はヒスチジンのアミノ基と、アジドリシンのアジド基と、ヒドロキシ基とからなる群から選択される少なくとも1つに結合される反応基であるが、これらに限定されるものではない。
【0211】
さらに具体的には、前記リンカーの反応基は、アルデヒド基、マレイミド基及びスクシンイミド誘導体からなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。
【0212】
上記において、アルデヒド基の例として、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0213】
上記において、スクシンイミド誘導体としては、スクシンイミジルバレレート、スクシンイミジルメチルブタノエート、スクシンイミジルメチルプロピオネート、スクシンイミジルブタノエート、スクシンイミジルプロピオネート、N-ヒドロキシスクシンイミド、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル又はスクシンイミジルカーボネートが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0214】
前記リンカーは、上記反応基を介して、免疫グロブリンFc領域であるF、及びグルカゴン誘導体であるXに連結され、リンカー連結部に変換されてもよい。
【0215】
また、アルデヒド結合による還元性アミノ化で生成された最終産物は、アミド結合で連結されたものよりはるかに安定している。アルデヒド反応基は、低いpHではN末端に選択的に反応し、高いpH、例えばpH9.0の条件ではリシン残基と共有結合を形成することができる。
【0216】
また、前記非ペプチド性リンカーの両末端の反応基は、同じものであってもよく、異なるものであってもよい。例えば、両末端にアルデヒド基を有するものであってもよく、一末端にはマレイミド基、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基を有するものであってもよい。しかし、非ペプチド性リンカーの各末端にF、具体的には免疫グロブリンFc領域とXが結合されるものであれば、特にこれに限定されるものではない。
【0217】
例えば、前記非ペプチド性リンカーの一末端には反応基としてマレイミド基を含み、他の末端にはアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基などを含んでもよい。
【0218】
両末端にヒドロキシ反応基を有するポリエチレングリコールを非ペプチド性重合体として用いる場合、公知の化学反応により前記ヒドロキシ基を前述した様々な反応基として活性化するか、市販されている修飾された反応基を有するポリエチレングリコールを用いることにより、本発明の持続型タンパク質結合体を作製することができる。
【0219】
具体的な一実施形態におおて。前記非ペプチド性重合体は、Xのシステイン残基、より具体的にはシステインの-SH基に連結されたものであるが、これらに限定されるものではない。
【0220】
例えば、前記Xに該当するペプチドにおいて、7番目のシステイン残基、10番目のシステイン残基、12番目のシステイン残基、13番目のシステイン残基、14番目のシステイン残基、15番目のシステイン残基、16番目のシステイン残基、17番目のシステイン残基、18番目のシステイン残基、19番目のシステイン残基、20番目のシステイン残基、21番目のシステイン残基、又は30番目のシステイン残基に前記非ペプチド性重合体が連結されたものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0221】
具体的には、前記システイン残基の-SH基に非ペプチド性重合体の反応基が連結されてもよい。反応基については前述した通りである。マレイミド-PEG-アルデヒドを用いる場合、マレイミド基はXの-SH基にチオエーテル(thioether)結合で連結することができ、アルデヒド基はF、具体的には免疫グロブリンFcの-NH2基に還元的アミノ化反応により連結することができるが、これらに限定されるものではなく、これらは一例にすぎない。
【0222】
このような還元的アルキル化により、PEGの一末端に位置する酸素原子に免疫グロブリンFcフラグメントのN末端アミノ基が-CH
2CH
2CH
2-の構造を有するリンカー官能基を介して互いに連結され、-PEG-O-CH
2CH
2CH
2NH-免疫グロブリンFcのような構造を形成することができ、チオエーテル結合により、PEGの一末端が一般式1のペプチドのシステインに位置する硫黄原子に連結された構造を形成することができる。前述したチオエーテル結合は、
の構造を有するものであってもよい。
【0223】
しかし、上記例に特に限定されるものではなく、これは一例にすぎない。
【0224】
具体的な他の実施形態において、前記非ペプチド性重合体は、Xのリシン残基、より具体的にはリシンのアミノ基に連結されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0225】
また、前記結合体において、非ペプチド性重合体の反応基が免疫グロブリンFc領域のN末端に位置する-NH2に連結されたものであってもよいが、これは一例にすぎない。
【0226】
さらに、前記結合体において、本発明によるグルカゴン誘導体は、反応基を有するリンカーにC末端を介して連結されてもよいが、これは一例にすぎない。
【0227】
本発明における「C末端」とは、ペプチドのカルボキシ末端を意味し、本発明の目的上、リンカーに結合する位置を意味する。例えば、これらに限定されるものではないが、C末端の最末端のアミノ酸残基だけでなく、C末端周辺のアミノ酸残基が全て含まれ、具体的には最末端から1~20番目のアミノ酸残基が含まれる。
【0228】
一具体例として、化学式(1)の結合体は、化学式(3)の構造を有するものであってもよい。
【0229】
【0230】
化学式(3)において、Xは前述した一般式1のペプチドであり、Fはヒト免疫グロブリンFc領域であり、nは自然数である。ここで、nについては前述した通りである。
【0231】
一具体例として、化学式(3)の持続型結合体は、配列番号46の一般式1のペプチドのXとヒト免疫グロブリンFc領域のFがエチレングリコール繰り返し単位を介して共有結合により連結された構造であってもよく、また、Xは化学式(3)のスクシンイミド環、Fは化学式(3)のオキシプロピレン基にそれぞれ連結された形態であってもよい。
【0232】
化学式(3)において、前記nの値は、前記ペプチド結合体中の[OCH2CH2]n部分の平均分子量、例えば数平均分子量が1~100kDa、1~20kDa、又は10kDaになるように決定されるが、これらに限定されるものではない。
【0233】
前記結合体のXは、グルカゴン受容体に対して活性を有するペプチドであってもよい。
【0234】
一実施形態において、化学式(3)のスクシンイミド環にXが連結される部位は、XのC末端システインの硫黄原子であってもよい。
【0235】
化学式(3)のFは、ヒト免疫グロブリンFc領域であり、Fにおいて、前記オキシプロピレン基に連結される部位は、特に限定されるものではない。本発明の一実施形態において、前記オキシプロピレン基に連結されるFの部位は、N末端窒素又はFの内部残基の窒素原子(例えば、リシンのε窒素)であってもよい。本発明の具体的な一実施形態において、Fが化学式(3)のオキシプロピレン基に連結される部位は、FのN末端プロリンであるが、これに限定されるものではない。
【0236】
一具体例として、前記Fは、そのN末端のプロリンの窒素原子を介して連結されたものであるが、これに限定されるものではない。
【0237】
前記グルカゴン誘導体の種類として、特許文献2及び特許文献3に記載された種類が挙げられ、前記特許文献の明細書の全文が参考資料として本発明に援用される。また、前記グルカゴン誘導体の持続型結合体の作製方法は、特許文献3に記載されており、前記特許文献の明細書の全文が参考資料として本発明に援用されることは言うまでもない。
【0238】
また、前述した結合体は、Fが修飾されていないXより効力の持続性が向上したものであり、このような結合体には、前述した形態だけでなく、生分解性ナノ粒子に封入された形態などが全て含まれる。
【0239】
本明細書において特に断らない限り、本発明による「ペプチド」又はそのペプチドが生体適合性物質に共有結合で連結された「結合体」についての明細書の詳細な説明や請求の範囲の記述は、当該ペプチド又は結合体は言うまでもなく、当該ペプチド又は結合体の塩(例えば、前記ペプチドの薬学的に許容される塩)又はその溶媒和物の形態が全て含まれるカテゴリーにも適用される。よって、明細書に「ペプチド」又は「結合体」とのみ記載されていたとしても、当該記載内容はその特定の塩、その特定の溶媒和物、その特定の塩の特定の溶媒和物にも同様に適用される。これらの塩の形態は、例えば薬学的に許容される任意の塩を用いた形態であってもよい。前記塩の種類は、特に限定されるものではない。もっとも、個体、例えば哺乳類に安全かつ効果的な形態であることが好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0240】
前記「薬学的に許容される」とは、医薬学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応などを誘発することなく所望の用途に効果的に使用できる物質を意味する。
【0241】
本発明における「薬学的に許容される塩」には、薬学的に許容される無機酸、有機酸又は塩基から誘導された塩が含まれる。好適な酸の例としては、塩酸、臭素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などが挙げられる。好適な塩基から誘導された塩には、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、アンモニウムなどが含まれる。
【0242】
また、本発明における「溶媒和物」とは、本発明によるペプチド、結合体又はその塩が溶媒分子と複合体を形成したものを意味する。
【0243】
また、本発明のペプチドは、その長さに応じてこの分野で周知の方法、例えば自動ペプチド合成機により合成することができ、遺伝子操作技術により産生することができる。
【0244】
具体的には、本発明のペプチドは、標準合成方法、組換え発現システム又は任意の他の当該分野の方法により製造することができる。よって、本発明によるグルカゴン誘導体は、例えば(a)ペプチドを固相もしくは液相法で段階的に又はフラグメント組立により合成し、最終ペプチド生成物を分離及び精製する方法、(b)ペプチドをコードする核酸作製物を宿主細胞内で発現させ、発現生成物を宿主細胞培養物から回収する方法、(c)ペプチドをコードする核酸作製物を無細胞試験管内で発現させ、発現生成物を回収する方法、又は(a)、(b)及び(c)の任意の組み合わせによりペプチドのフラグメントを得て、次にフラグメントを連結してペプチドを得ることにより当該ペプチドを回収する方法をはじめとする多くの方法で合成することができる。
【0245】
本発明による組成物は、グルカゴン誘導体又はその結合体を含むものであってもよく、具体的には、薬理学的有効量のグルカゴン誘導体又はその結合体を含むものであってもよい。また、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。本発明の組成物は、慢性腎臓疾患予防又は治療用途を有するものであり、血圧降下及び/又は腎臓機能回復効果を有するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0246】
本発明における「薬学的に許容される」とは、治療効果を発揮する程度の十分な量と副作用を起こさないことを意味し、疾患の種類、患者の年齢、体重、健康状態、性別、薬物に対する感受性、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合、同時に用いられる薬物などの医学分野における公知の要素により当業者が容易に決定することができる。
【0247】
薬学的に許容される担体は、経口投与の場合は、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などを用いることができ、注射剤の場合は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張化剤、安定化剤などを混合して用いることができ、局所投与用の場合は、基剤、賦形剤、滑沢剤、保存剤などを用いることができる。本発明の薬学的組成物の剤形は、前述したような薬学的に許容される担体と混合して様々な形態に製造することができる。例えば、経口投与の場合は、錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハー剤などの形態に製造することができ、注射剤の場合は、使い捨てアンプル又は複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、徐放性製剤などに剤形化することができる。
【0248】
なお、製剤化に適した担体、賦形剤及び希釈剤の例としては、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシア、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱油などが挙げられる。また、充填剤、抗凝集剤、滑沢剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などをさらに含んでもよい。
【0249】
また、本発明の組成物は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤、滅菌水溶液剤、非水性溶剤、凍結乾燥製剤及び坐剤からなる群から選択されるいずれかの剤形を有してもよい。
【0250】
さらに、前記結合体は、生理食塩水や有機溶媒のように薬剤に許容される様々な担体(carrier)と混合して用いることができ、安定性や吸収性を向上させるために、グルコース、スクロース、デキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸(ascorbic acid)、グルタチオンなどの抗酸化剤(antioxidants)、キレート剤、低分子タンパク質、他の安定化剤(stabilizers)などを薬剤として用いることができる。
【0251】
本発明の組成物の投与量と回数は、治療する疾患、投与経路、患者の年齢、性別及び体重、疾患の重症度などの様々な関連因子と共に、活性成分である薬物の種類により決定される。具体的には、本発明の組成物は、前記グルカゴン誘導体又はその結合体を薬学的有効量で含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0252】
前記グルカゴン誘導体又はその結合体を薬学的有効量で含むとは、グルカゴン誘導体又はその結合体により目的とする薬理活性(例えば、慢性腎臓疾患予防又は治療)が得られる程度に含むことを意味し、また、投与される個体に毒性や副作用がないか、僅かなレベルであって、薬学的に許容されるレベルで含むことを意味するが、これらに限定されるものではない。このような薬学的有効量は、投与回数、患者、剤形などを総合的に考慮して決定される。
【0253】
本発明の前記薬学的組成物は、上記成分(有効成分)を0.01~99重量対体積%で含有するが、特にこれに限定されるものではない。
【0254】
本発明の組成物の総有効量は、単回投与量(single dose)で患者に投与してもよく、複数回投与量(multiple dose)で長期間投与する分割治療方法(fractionated treatment protocol)により投与してもよい。本発明の組成物は、疾患の程度に応じて有効成分の含有量を変えてもよい。具体的には、本発明の結合体の総用量は、1日体重1kg当たり約0.0001mg~500mgであることが好ましい。しかし、前記結合体の用量は、薬学的組成物の投与経路及び治療回数だけでなく、患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌、排泄率など様々な要因を考慮して患者に対する有効投与量が決定されるので、これらを考慮すると、当該分野における通常の知識を有する者であれば、前記本発明の組成物の特定の用途に応じた適切な有効投与量を決定することができるであろう。本発明による薬学的組成物は、本発明の効果を奏するものであれば、その剤形、投与経路及び投与方法が特に限定されるものではない。
【0255】
例えば、本発明の組成物は、1週間に1回、2週間に1回、4週間に1回、又は1カ月に1回投与するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0256】
本発明による組成物の具体的な他の態様は、GLP-1受容体アゴニスト(glucagon like peptide 1 receptor agonist)をさらに含むものであるが、これに限定されるものではない。
【0257】
具体的には、本発明の組成物は、グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストを含む慢性腎臓疾患予防又は治療用薬学組成物であり、より具体的には、グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト及び薬学的に許容される賦形剤を含む慢性腎臓疾患予防又は治療用薬学組成物であるが、これらに限定されるものではない。
【0258】
本発明の(i)グルカゴン誘導体及び(ii)GLP-1受容体アゴニストを含む薬学的組成物は、a)(i)グルカゴン誘導体と、(ii)GLP-1受容体アゴニストが混合された1つの混合物(mixture)で投与されるものであるか、又はb)(i)グルカゴン誘導体と、(ii)GLP-1受容体アゴニストが分離された形態で投与されるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0259】
例えば、グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストが1つの製剤に製剤化されたものであってもよく、個別に製剤化されたものであってもよい。グルカゴン誘導体と、GLP-1受容体アゴニストが分離された形態の場合、グルカゴン誘導体と、GLP-1受容体アゴニストが別個の製剤に製剤化され、同時、個別、順次又は逆順に投与されてもよい。
【0260】
本発明における併用投与とは、単に同時の投与を意味するだけでなく、グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストが個体に共に作用し、各物質が本然の機能と同等又はそれ以上のレベルの機能を果たす投与形態を意味するものと理解されるべきである。よって、本発明における「併用」とは、グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストの同時、個別、順次又は逆順の投与を意味するものと理解されるべきである。前記投与が順次、逆順又は個別の場合、投与の順序は、特に限定されるものではないが、2次成分投与の間隔は、前記併用の有利な効果を失わないものでなければならない。
【0261】
本発明のグルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニスト、又はそれを含む組成物は、キットの形態で提供されるものであるが、これに限定されるものではない。本発明における「キット」は、グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストを併用投与するために、本発明による組成物を含むものであってもよい。具体的には、本発明によるキットは、1つの製剤に製剤化されたグルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストを含むものであってもよく、グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストの個別製剤を含むものであってもよく、2つの物質の併用投与に必要な物質をさらに含むものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0262】
なお、前記グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストは、免疫グロブリンFc領域が連結された持続型結合体の形態であるが、これに限定されるものではない。
【0263】
GLP-1(glucagon-like peptide-1)は、小腸から分泌されるホルモンであり、細胞内へのグルコース取り込みを促進することが知られている。小腸において、グルカゴン前駆体は、グルカゴン、GLP-1、GLP-2の3つのペプチドに分解される。ここで、GLP-1とは、GLP-1(1-37)を意味し、インスリン分泌機能のない形態であるが、GLP-1(7-37)の形態にプロセシングされて活性型GLP-1(7-37)となる。GLP-1(7-37)アミノ酸配列は次の通りである。
GLP-1(7-37):HAEGT FTSDV SSYLE GQAAK EFIAW LVKGR G(配列番号69)
【0264】
GLP-1受容体アゴニストとは、前記GLP-1の受容体に作用するアゴニストを意味し、様々な物質、例えば化合物又はペプチドの形態の物質が含まれるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0265】
前記GLP-1受容体アゴニストは、天然GLP-1だけでなく、GLP-1受容体に対するin vitro活性が当該受容体の天然リガンド(天然GLP-1)に比べて0.1%以上、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%以上である、GLP-1受容体に対して有意なレベルの活性を有する物質(例えば、ペプチド)であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0266】
このようなGLP-1受容体アゴニストのin vitro活性を測定する方法は、当該技術分野で公知の様々なin vitro活性測定により行うことができる。
【0267】
本発明によるGLP-1受容体アゴニストには、GLP-1受容体に対して有意なレベルの活性を有し、かつ天然GLP-1と比較してアミノ酸配列に少なくとも1つ差異のあるペプチド、天然GLP-1配列を修飾(modification)により改変したペプチド、天然GLP-1の模倣体などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0268】
具体的には、本発明において、GLP-1受容体アゴニストには、GLP-1、エキセンジン-3、エキセンジン-4、それらのアゴニスト(agonist)、誘導体(derivative)、フラグメント(fragment)、変異体(variant)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0269】
本発明における「アゴニスト」とは、「作用薬」又は「作動薬」と同じ意味であり、受容体に結合して実際の生体内で天然リガンドと同様の機能を果たす物質を意味する。
【0270】
本発明における「誘導体」とは、GLP-1受容体に対して有意なレベルの活性を有し、かつ天然GLP-1の一部の配列が改変されてアミノ酸残基の一部の基が化学的に置換(例えば、alpha-methylation、alpha-hydroxylation)、除去(例えば、deamination)又は修飾(例えば、N-methylation)された形態を意味するが、これらに限定されるものではない。
【0271】
本発明のGLP-1受容体アゴニストには、N末端のアミノ基を除去した誘導体(Desamino-histidyl誘導体)、アミノ基をヒドロキシ基に置換した誘導体(beta-hydroxy imidazopropionyl誘導体)、アミノ基を2つのメチル(methyl)残基で修飾した誘導体(Dimethyl-histidyl誘導体)、N末端のアミノ基をカルボキシ基に置換した誘導体(beta-carboxyimidazopropionyl誘導体)、N末端のヒスチジン残基のα炭素を除去してイミダゾアセチル(imidazoacetyl)基のみ残し、アミノ基の正電荷(positive charge)を除去した誘導体(Imidazoacetyl誘導体)などが含まれ、他の形態にN末端のアミノ基が変異した誘導体も本発明に含まれる。
【0272】
具体例として、本発明において、GLP-1受容体アゴニストは、エキセンジン-4のN末端のアミノ基又はアミノ酸残基を化学的に変異させた誘導体であり、より具体的には、エキセンジン-4のN末端の1番目のアミノ酸であるヒスチジン残基のα炭素に存在するαアミノ基又はα炭素を置換又は除去したエキセンジン-4誘導体であり、さらに具体的には、N末端のアミノ基を除去したデスアミノ-ヒスチジル-エキセンジン-4(Desamino-histidylexendin-4, DA-エキセンジン-4)、ヒドロキシ基又はカルボキシ基に置換したβ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル-エキセンジン-4(beta-hydroxy imidazopropionyl-exendin-4, HY-エキセンジン-4)、β-カルボキシイミダゾプロピオニル-エキセンジン-4(beta-carboxyimidazopropionyl-exendin-4, CX-エキセンジン-4)、2つのメチル残基で修飾したジメチル-ヒスチジル-エキセンジン-4(Dimethyl-histidyl-exendin-4, DM-エキセンジン-4)、又はN末端のヒスチジン残基のα炭素を除去したイミダゾアセチル-エキセンジン-4(Imidazoacetyl-exendin-4, CA-エキセンジン-4)であるが、これらに限定されるものではない。
【0273】
本発明のGLP-1受容体アゴニストの例としては、N末端のヒスチジン残基がデス-アミノ-ヒスチジル、ジメチル-ヒスチジル、β-ヒドロキシイミダゾプロピオニル、4-イミダゾアセチル及びβ-カルボキシイミダゾプロピオニルからなる群から選択される物質に置換されたGLP-1受容体アゴニスト誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものでない。
【0274】
本発明における「GLP-1フラグメント」とは、GLP-1受容体に対して有意なレベルの活性を有し、かつ天然GLP-1のN末端又はC末端に少なくとも1つのアミノ酸が付加又は欠失された形態を意味し、付加されるアミノ酸は天然に存在しないアミノ酸(例えば、D型アミノ酸)であってもよい。
【0275】
本発明における「GLP-1変異体」とは、GLP-1受容体に対して有意なレベルの活性を有し、かつ天然GLP-1とアミノ酸配列が少なくとも1つ異なるペプチドを意味し、「アナログ」と混用される。
【0276】
具体的には、GLP-1変異体は、天然GLP-1から一部のアミノ酸が置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)及び修飾(modification)のいずれかの方法又はそれらの組み合わせにより改変されたものであってもよい。
【0277】
上記方法の組み合わせにより作製されるGLP-1変異体の例として、天然GLP-1とアミノ酸配列が少なくとも1つ異なり、N末端のアミノ酸残基が脱アミノ化(deamination)された、GLP-1受容体に対する活性化機能を有するペプチドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0278】
また、天然GLP-1のN及び/又はC末端に少なくとも1つのアミノ酸が付加されたものが全て含まれる。前述したように置換されるか、付加されるアミノ酸としては、ヒトタンパク質において通常観察される20種のアミノ酸だけでなく、異常又は非天然アミノ酸を用いることができる。異常アミノ酸の市販元には、Sigma-Aldrich、ChemPep、Genzyme pharmaceuticalsが含まれる。これらのアミノ酸が含まれるペプチドと定型的なペプチド配列は、民間のペプチド合成会社、例えば米国のAmerican peptide companyやBachem、又は韓国のAnygenにおいて合成及び購入することができる。アミノ酸誘導体も同様に入手することができ、一例として4-イミダゾ酢酸(4-imidazoacetic acid)などが挙げられる。
【0279】
また、誘導体又は変異体の作製のためのこのような改変には、L型もしくはD型アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸を用いた改変、並びに/あるいは天然配列の修飾、例えば側鎖官能基の改変、分子内の共有結合、一例として側鎖間の環形成、メチル化、アシル化、ユビキチン化、リン酸化、アミノヘキサン化、ビオチン化などの修飾による改変が全て含まれる。さらに、前記改変には、非天然化合物への置換が全て含まれる。
【0280】
本発明のエキセンジン-3とエキセンジン-4は、GLP-1と53%のアミノ酸配列類似性を示す39個のアミノ酸からなるGLP-1受容体アゴニストであり、エキセンジン-3とエキセンジン-4のアミノ酸配列は次の通りである。
【0281】
エキセンジン-3:HSDGT FTSDL SKQME EEAVR LFIEW LKNGG PSSGA PPPS(配列番号70)
エキセンジン-4:HGEGT FTSDL SKQME EEAVR LFIEW LKNGG PSSGA PPPS(配列番号71)
【0282】
エキセンジンアゴニストとは、エキセンジンの構造に関係なく、エキセンジンの生体内受容体に結合してエキセンジンと同一の生物学的活性を示す物質を意味し、エキセンジン誘導体は、天然エキセンジンと比較して、少なくとも80%のアミノ酸配列相同性を有し、アミノ酸残基の一部の基が化学的に置換(例えば、alpha-methylation、alpha-hydroxylation)、除去(例えば、deamination)又は修飾(例えば、N-methylation)された形態であるが、これらに限定されるものではない。
【0283】
エキセンジン誘導体には、N末端のアミノ基を除去した誘導体(Desamino-histidyl誘導体)、アミノ基をヒドロキシ基に置換した誘導体(beta-hydroxy imidazopropionyl誘導体)、アミノ基を2つのメチル(methyl)残基で修飾した誘導体(Dimethyl-histidyl誘導体)、N末端のアミノ基をカルボキシ基に置換した誘導体(beta-carboxyimidazopropionyl誘導体)、N末端のヒスチジン残基のα炭素を除去してイミダゾアセチル(imidazoacetyl)基のみ残し、アミノ基の正電荷(positive charge)を除去した誘導体(Imidazoacetyl誘導体)などが含まれ、他の形態にN末端のアミノ基が変異した誘導体も本発明に含まれる。
【0284】
具体例として、本発明において、エキセンジン誘導体は、エキセンジン-4のN末端のアミノ基又はアミノ酸残基を化学的に変異させた誘導体であり、より具体的には、エキセンジン-4のN末端の1番目のアミノ酸であるヒスチジン残基のα炭素に存在するαアミノ基又はα炭素を置換又は除去したエキセンジン-4誘導体であり、さらに具体的には、N末端のアミノ基を除去したデスアミノ-ヒスチジル-エキセンジン-4(Desamino-histidylexendin-4, DA-エキセンジン-4)、ヒドロキシ基又はカルボキシ基に置換したβ-ヒドロキシイミダゾプロピオニル-エキセンジン-4(beta-hydroxy imidazopropionyl-exendin-4, HY-エキセンジン-4)、β-カルボキシイミダゾプロピオニル-エキセンジン-4(beta-carboxyimidazopropionyl-exendin-4, CX-エキセンジン-4)、2つのメチル残基で修飾したジメチル-ヒスチジル-エキセンジン-4(Dimethyl-histidyl-exendin-4, DM-エキセンジン-4)、又はN末端のヒスチジン残基のα炭素を除去したイミダゾアセチル-エキセンジン-4(Imidazoacetyl-exendin-4, CA-エキセンジン-4)であるが、これらに限定されるものではない。
【0285】
本発明のエキセンジン誘導体の例としては、エキセンジン-4のN末端のアミノ基を除去したエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基をヒドロキシ基に置換したエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4のN末端のアミノ基をジメチル基で修飾したエキセンジン-4誘導体、エキセンジン-4の1番目のアミノ酸(ヒスチジン)のα炭素を除去(deletion)したエキセンジン-4誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0286】
エキセンジンフラグメントとは、天然エキセンジンのN末端又はC末端に少なくとも1つのアミノ酸が付加又は欠失された形態を意味し、付加されるアミノ酸は天然に存在しないアミノ酸(例えば、D型アミノ酸)であってもよい。
【0287】
エキセンジン変異体とは、天然エキセンジンとアミノ酸配列が少なくとも1つ異なるペプチドを意味し、具体的には、天然エキセンジンの一部のアミノ酸が置換(substitution)、付加(addition)、欠失(deletion)及び修飾(modification)のいずれかの方法又はそれらの組み合わせにより改変されたものを意味する。
【0288】
前述したアゴニスト、誘導体、フラグメント及び変異体において用いる各作製方法は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。例えば、アミノ酸配列が少なくとも1つ異なり、N末端のアミノ酸残基が脱アミノ化(deamination)されたインスリン分泌ペプチドが挙げられる。
【0289】
本発明の具体的なGLP-1受容体アゴニストの例として、[(1H-Imidazol-4-yl)-acetyl1]GEGTFTSDL SKQMEEEAVR LFIEWLKNGGPSSGAPPPS(配列番号72)(Bachem社)、又はHGEGTFTSDV SSYLEEQAAK EFIAWLVKG(配列番号73)(Bachem社)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記アミノ酸配列は、N末端からC末端の方向に記載したものである。本発明のGLP-1受容体アゴニストについては、特許文献6の明細書に開示されている。
【0290】
本発明において、前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1受容体アゴニストが免疫グロブリンFc領域に連結された持続型結合体の形態であるが、これに限定されるものではない。具体的には、前記GLP-1受容体アゴニストは、イミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4)がエチレングリコール繰り返し単位を含むリンカーを介して免疫グロブリンFc領域に連結されたものであり、より具体的には、配列番号72のGLP-1受容体アゴニストのリシン(lysine, Lys)にポリエチレングリコールリンカーの一末端を連結し、前記ポリエチレングリコールリンカーの他の末端に免疫グロブリンFc領域を連結したGLP-1受容体アゴニストの持続型結合体であるが、これらに限定されるものではない。
【0291】
本発明において、前記GLP-1受容体アゴニストは、GLP-1受容体アゴニスト「エフペグレナチド(efpeglenatide)」であるが、これに限定されるものではない。
【0292】
ここで、「持続型結合体」及びそれに関する「免疫グロブリンFc領域」、「エチレングリコール繰り返し単位を含むリンカー」などについては前述した通りである。
【0293】
本発明の組成物は、次の(i)~(iv)のいずれかを含むものであってもよい。
(i)グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニスト
(ii)グルカゴン誘導体の持続型結合体及びGLP-1受容体アゴニスト
(iii)グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストの持続型結合体
(iv)グルカゴン誘導体の持続型結合体及びGLP-1受容体アゴニストの持続型結合体
【0294】
本発明によるグルカゴン誘導体もしくはその結合体、及びGLP-1受容体アゴニストもしくはその結合体、又はそれを含む組成物は、個体に投与されると、個体の血圧降下効果を発揮するもの、及び/又は腎臓機能を回復させるものであるが、これらに限定されるものではない。具体的には、本発明によるグルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体の併用投与により、賦形剤対照群に比べて、血圧降下、アルブミン排泄量減少、タンパク尿減少及び/又は腎臓機能回復の効果を発揮するものである。
【0295】
本発明の前記薬学的組成物は、前記グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体とを0.01~99重量対体積%で含有するが、特にこれに限定されるものではない。
【0296】
具体的には、本発明の組成物は、グルカゴン誘導体を0.01~5nmol/kg、0.05~4nmol/kg、0.05~3.5nmol/kg、又は0.09~2.99nmol/kg含み、GLP-1受容体アゴニストを0.01~5nmol/kg、0.05~4nmol/kg、0.05~3.5nmol/kg、又は0.09~2.99nmol/kg含むものであるが、これらに限定されるものではない。また、本発明の組成物は、グルカゴン誘導体とGLP-1受容体アゴニストを0.01~50、0.02~40、又は0.03~33.22のモル比で含むものであるが、これらに限定されるものではない。
【0297】
本発明の薬学的組成物は、個体にグルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体をそれぞれ0.1~20mg、又は0.5~16mg投与するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0298】
以上の内容は、本発明の他の具体例又は他の態様にも適用されるが、これらに限定されるものではない。
【0299】
本発明を実現する他の態様は、グルカゴン誘導体、その結合体、又はそれを含む組成物を個体に投与するステップを含む慢性腎臓疾患予防又は治療方法である。
【0300】
本発明による慢性腎臓疾患予防又は治療方法は、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体、又はそれを含む組成物を個体に投与するステップをさらに含んでもよい。
【0301】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体を個体に併用投与するステップを含む慢性腎臓疾患予防又は治療方法である。
【0302】
前記方法は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体と、GLP-1受容体アゴニストもしくはその結合体とを含む組成物を個体に投与するものであるか、又はグルカゴン誘導体もしくはその結合体と、GLP-1受容体アゴニストもしくはその結合体を別個の製剤で併用投与するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0303】
本発明の方法は、(i)グルカゴン誘導体及び(ii)GLP-1受容体アゴニストを1つの製剤として投与するものであるか、又は個別製剤を同時、個別、順次もしくは逆順に投与するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0304】
前記グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体、組成物、血圧降下、腎臓機能回復、慢性腎臓疾患、予防及び治療については前述した通りである。
【0305】
本発明における前記個体とは、ヒトをはじめとしてマウス、家畜などが含まれる哺乳動物を意味し、慢性腎臓疾患を発症したか、発症するリスクのある個体であるが、これらに限定されるものではない。
【0306】
本発明における「投与」とは、任意の適切な方法で患者(個体)に所定の物質を導入することを意味し、前記グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体、又は組成物の投与経路は、特にこれらに限定されるものではないが、前記グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体又は組成物を生体内の標的に送達できるものであれば、一般的なあらゆる経路で投与することができ、例えば腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、直腸内投与などが挙げられる。
【0307】
また、前記グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体又は組成物は、薬学的分野における通常の方法による患者の体内投与に適した単位投与型の製剤、具体的にはタンパク質医薬品の投与に有用な製剤形態に剤形化し、当該技術分野で通常用いる投与方法を用いて経口、又は皮膚、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、髄膜腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、消化管内、局所、舌下、膣内もしくは直腸経路が含まれる非経口投与経路で投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0308】
本発明の方法は、前記グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体を含む組成物を薬学的有効量で投与するステップを含んでもよい。好適な総1日使用量は正しい医学的判断の範囲内で担当医により決定され、1回又は数回に分けて投与することができる。しかし、本発明の目的上、特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、場合によっては他の製剤が用いられるか否か、具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食餌、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と共に又は同時に投与される薬物をはじめとする様々な因子や、医薬分野で周知の類似の因子に応じて異なる量であることが好ましい。
【0309】
本発明のグルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体、又はそれを含む組成物は、1週間に1回、2週間に1回、4週間に1回、又は1カ月に1回投与するものであるが、これらに限定されるものではない。
【0310】
具体的には、グルカゴン誘導体及びGLP-1受容体アゴニストを投与する場合は、患者の体重1kg当たり約1~200μg、3~180μg、又は5~160μgとなるように投与し、2つの物質を併用する場合は、総量が患者の体重1kg当たり約2~400μg、約6~360μg、又は10~320μgとなるように投与するが、これらに限定されるものではない。また、グルカゴン誘導体とGLP-1受容体アゴニストを併用投与する場合は、0.01~50、0.02~40、又は0.03~33.22のモル比で投与するが、これらに限定されるものではない。
【0311】
具体的には、グルカゴン誘導体を0.09~2.99nmol/kg、GLP-1受容体アゴニストを0.09~2.99nmol/kg投与するか、又はグルカゴン誘導体とGLP-1受容体アゴニストを0.01~50、0.02~40、もしくは0.03~33.22のモル比で投与するが、これらに限定されるものではない。
【0312】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体もしくはその結合体、又はそれを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途である。
【0313】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体とを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途である。
【0314】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体の慢性腎臓疾患予防又は治療のための併用用途である。
【0315】
前記グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体、組成物、血圧降下、腎臓機能回復、慢性腎臓疾患、予防及び治療については前述した通りである。
【0316】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体、それを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途を有する薬剤の製造のための用途である。
【0317】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体とを含む組成物の慢性腎臓疾患予防又は治療用途を有する薬剤の製造のための用途である。
【0318】
前記グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体、組成物、血圧降下、腎臓機能回復、慢性腎臓疾患、予防及び治療については前述した通りである。
【0319】
また、本発明のさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体、それを含む組成物の血圧降下及び/又は腎臓機能回復用途である。
【0320】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体とを含む組成物の血圧降下及び/又は腎臓機能回復用途である。
【0321】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体の血圧降下及び/又は腎臓機能回復のための併用用途である。
【0322】
前記グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体、組成物、血圧降下、腎臓機能回復、慢性腎臓疾患、予防及び治療については前述した通りである。
【0323】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体、それを含む組成物の血圧降下及び/又は腎臓機能回復用途を有する薬剤の製造のための用途である。
【0324】
本発明を実現するさらに他の態様は、グルカゴン誘導体又はその結合体と、GLP-1受容体アゴニスト又はその結合体とを含む組成物の血圧降下及び/又は腎臓機能回復用途を有する薬剤の製造のための用途である。
【0325】
前記グルカゴン誘導体、GLP-1受容体アゴニスト、その結合体、組成物、血圧降下、腎臓機能回復、慢性腎臓疾患、予防及び治療については前述した通りである。
【0326】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0327】
グルカゴン誘導体の作製及び活性測定
本発明者らは、グルカゴン受容体に対する活性により、血圧降下及び腎臓機能回復による慢性腎臓疾患予防又は治療効果が得られるか否かを確認した。
【0328】
まず、次の表1に示すように、天然グルカゴン及びそれと同等の活性を有するグルカゴン誘導体を作製した。特許文献1、2、3を参照してグルカゴン誘導体を合成し、そのpI及びin vitro活性を測定した。
【0329】
【0330】
表1の配列において、Xで表記したアミノ酸は非天然アミノ酸であるアミノイソブチル酸(Aib)を示すものであり、アミノ酸記号の下線は下線及び太字で示す当該アミノ酸対の側鎖間におけるラクタム環の形成を示すものであり、「-」は当該位置にアミノ酸残基がないことを示すものである。また、環形成の有無の列において、「-」は当該配列に環が形成されていないことを示すものである。
【実施例2】
【0331】
グルカゴン誘導体持続型結合体の作製
リンカーとしてポリエチレングリコールを用いて、前記実施例で作製した配列番号37のグルカゴン誘導体と、免疫グロブリンFc領域を結合させ、グルカゴン誘導体持続型結合体を作製した。
【0332】
両末端の水素がそれぞれ3-(3-マレイミドプロピオンアミド)プロピル基及び3-オキソプロピル基(プロピオンアルデヒド基)に置換された分子量10kDaの線形修飾ポリエチレングリコールであるマレイミド-PEG-アルデヒド(NOF社,日本)を配列番号37のグルカゴン誘導体に反応させ、そのグルカゴン誘導体ペプチドのシステイン残基をマレイミド-PEG-アルデヒドのマレイミド側の末端にペグ化させた。具体的には、配列番号37のグルカゴン誘導体ペプチドとマレイミド-PEG-アルデヒドのモル比を1:1~5とし、タンパク質の濃度を3~10mg/mlとして、低温で1~3時間反応させた。ここで、反応は、50mM Tris緩衝液(pH7.5)に20~60%イソプロパノールを添加した環境下で行った。反応終了後に、上記反応液をSP sepharose HP(GE healthcare, 米国)に適用し、システインにモノペグ化されたグルカゴン誘導体を精製した。
【0333】
一方、免疫グロブリンFc領域は、N末端にPro-Ser-Cys-Pro配列(配列番号57)のヒンジ領域を有する免疫グロブリンFc領域(49.8kDa,配列番号67の2本の鎖がジスルフィド結合で連結されたホモ二量体)を用いて、特許文献7に記載されている方法で作製した。
【0334】
次に、前述したように精製したモノペグ化グルカゴン誘導体と免疫グロブリンFc領域のモル比を1:2~10とし、タンパク質の濃度を10~50mg/mlとして、4~8℃で12~18時間反応させた。反応は、100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)に還元剤として10~50mMシアノ水素化ホウ素ナトリウムと10~20%イソプロパノールを添加した環境下で行った。反応終了後に、上記反応液をButyl sepharose FF精製カラム(GE healthcare, 米国)とSource ISO精製カラム(GE healthcare, 米国)に適用し、前記モノペグ化グルカゴン誘導体ペプチドのアルデヒド側のポリエチレングリコール末端が免疫グロブリンFcホモ二量体の2本の鎖のうち1本の鎖のN末端プロリン窒素に連結されたグルカゴン誘導体ペプチドの持続型結合体を精製した。精製した前記結合体は、分子内においてグルカゴン誘導体、ポリエチレングリコール(PEG)リンカー、二量体の免疫グロブリンFc領域が1:1:1のモル比で共有結合により連結された構造であり、PEGリンカーは、免疫グロブリンFc領域の2本のポリペプチド鎖のうち1本の鎖のN末端プロリン窒素に連結されている。
【0335】
作製後に逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーで分析した純度は95%以上であった。
【0336】
前記免疫グロブリンFc領域は、配列番号67のアミノ酸配列(221個のアミノ酸からなる)を有する2つの単量体が各単量体の3番目のアミノ酸であるシステイン間にジスルフィド結合によりホモ二量体を形成し、前記ホモ二量体の単量体は、それぞれ独立して35番目と95番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合、及び141番目と199番目のシステイン間の内部のジスルフィド結合が形成されたものである。
【0337】
ここで、グルカゴン誘導体ペプチドと免疫グロブリンFc領域がPEGを介して連結された結合体を「グルカゴン誘導体の持続型結合体」と命名した。
【実施例3】
【0338】
慢性腎臓疾患ラットモデルにおける腎臓機能改善効果
前記実施例で作製したグルカゴン誘導体の持続型結合体の慢性腎臓疾患(CKD)改善効果を確認するために、高血圧及びCKD疾患モデルとして知られるspontaneous hypertensive rat(SHR)モデルを用いた。SHRは、高血圧により腎臓機能異常が発生したモデルであり、CKDの病因学(etiology)面でヒトのものと極めて類似することが知られている。
【0339】
まず、血圧上昇により腎臓機能異常が発生することが知られている16週齢のSHRを賦形剤対照群、配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体(3.9nmol/kg,Q3D,皮下)投与群に分け、6週間の反復投与を行った。陰性対照群としては、正常ラット、賦形剤対照群を用いた。6週間の反復投与中の腎臓機能を評価するために、day 0、day 13、day 28、及びday 46時点で尿中アルブミン排泄量を測定した。統計処理には1元ANOVAを用いた(*~***p<0.05~0.001 vs.SHR賦形剤対照群)。
【0340】
その結果、グルカゴン誘導体の持続型結合体投与13日後から尿中アルブミン排泄量がSHR賦形剤対照群に比べて減少し始め、投薬28日以降は有意差が生じることが確認された(
図1)。
【実施例4】
【0341】
慢性腎臓疾患ラットモデルにおける血圧降下効果
実施例2で作製した配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体の慢性腎臓疾患における血圧降下効果を確認するために、CKD疾患モデルとして知られるspontaneous hypertensive rat(SHR)モデルを用いた。SHRは、週齢に応じて次第に血圧が上昇することが知られているモデルであり、様々な血圧降下治療剤の効能評価に用いられている。
【0342】
まず、高血圧レベルに血圧が上昇した15週齢のSHRに手術により遠隔測定装置(telemetry)を大動脈に挿入し、その後賦形剤対照群、グルカゴン誘導体の持続型結合体(2nmol/kg,Q3D,皮下)投与群に分け、1週間の反復投与を行った。1週間の反復投与中の収縮期(SBP)及び拡張期(DBP)血圧の変化は、大動脈に挿入した遠隔測定装置により2時間間隔でモニタリングした。投与した配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体の血圧降下効果を評価するために、投与前2日間の平均血圧に対する投与期間1週間の平均血圧の変化量を算出した。統計処理にはt-testを用いた(*p<0.05 vs.SHR賦形剤対照群)。
【0343】
その結果、賦形剤対照群においては、投与前に比べて血圧が上昇したのに対して、配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体投与群においては、収縮期、拡張期血圧がどちらも減少することが確認された。特に、収縮期血圧においては、賦形剤対照群に比べて有意差が生じることが確認された(
図2)。
【0344】
よって、本発明のグルカゴン誘導体の持続型結合体は、慢性腎臓疾患(CKD)における血圧降下にも治療効果を有することが確認された。
【実施例5】
【0345】
GLP-1受容体アゴニストとの併用投与による腎臓機能改善効果の確認
本発明のグルカゴン誘導体の慢性腎臓疾患に対する治療効果に基づいて、GLP-1受容体アゴニストを本発明のグルカゴン誘導体と併用した際の慢性腎臓疾患の治療効果をさらに確認した。
【0346】
実施例5-1:GLP-1受容体アゴニストの持続型結合体の作製
両末端にプロピオンアルデヒド基を有する3.4kDaのプロピオン(propion)-ALD2 PEG(IDB, 韓国)を配列番号72のGLP-1受容体アゴニスト(イミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4))のリシン(Lysine)と位置特異的に反応させ、その後PEGとイミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4)が1:1で結合された連結体を得るために、前記反応混合物から陽イオン交換カラムを用いてモノペグ化(mono-PEGylated)イミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4)を精製した。免疫グロブリンFc領域のN末端と特異的にモノペグ化されたイミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4)が連結されたイミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4)-免疫グロブリンFc領域結合体を作製するために、pH5.0~8.2の条件で反応させた。カップリング反応後に疎水性カラムと陰イオン交換カラムを用いた2段階の精製方法を行うことにより、最終的に位置特異的に結合されたGLP-1受容体アゴニスト-免疫グロブリンFc領域結合体を精製した。
【0347】
ここで、配列番号72のGLP-1受容体アゴニスト(イミダゾ-アセチルエキセンジン-4(CAエキセンジン-4))と免疫グロブリンFc領域がPEGを介して連結された結合体を「GLP-1受容体アゴニストの持続型結合体」又は「CA-Exd4誘導体の持続型結合体」と命名した。
【0348】
なお、前記GLP-1受容体アゴニストの持続型結合体の作製に用いた免疫グロブリンFc領域は、実施例2で用いたFc領域と同一である。
【0349】
実施例5-2:GLP-1受容体アゴニストとの併用投与効果の確認
実施例2で作製した配列番号37のグルカゴン誘導体の持続型結合体と、実施例5-1で作製したGLP-1受容体アゴニスト(CA-Exd4誘導体の持続型結合体)の持続型結合体の併用投与による慢性腎臓疾患(CKD)改善効果を確認するために、CKD疾患モデルであるspontaneous hypertensive rat(SHR)モデルを用いた。
【0350】
まず、血圧上昇により腎臓機能異常が発生することが知られている16週齢のSHRを賦形剤対照群、グルカゴン誘導体の持続型結合体(3.0nmol/kg,Q3D,皮下)投与群、グルカゴン誘導体の持続型結合体(3.0nmol/kg,Q3D,皮下)とGLP-1受容体アゴニストの持続型結合体(6.9nmol/kg,Q3D,皮下)の併用投与群に分け、10週間の反復投与を行った。陰性対照群としては、正常ラット、賦形剤対照群を用いた。10週間の反復投与中の腎臓機能及びCKDの進行程度を評価するために、day 0、day 14、day 28、day 42、day 56、及びday 70時点で尿中ACR(albumin to creatinine ratio)を測定した。統計処理には1元ANOVAを用いた(*~***p<0.05~0.001 vs.SHR賦形剤対照群)。
【0351】
その結果、賦形剤対照群においては、ACRが継続して上昇するのに対して、グルカゴン誘導体の持続型結合体投与群においては、ACRの上昇が遅延する効果が確認された。また、グルカゴン誘導体の持続型結合体とGLP-1受容体アゴニストの持続型結合体の併用投与群においては、賦形剤対照群に比べて、有意にACRが減少することが確認された(
図3)。
【0352】
よって、グルカゴン誘導体の持続型結合体による慢性腎臓疾患(CKD)治療効果は、GLP-1受容体アゴニストの持続型結合体との併用投与により、さらに改善されることが確認された。
【0353】
これらの実験結果は、全て本発明のグルカゴン誘導体が血圧降下及び腎臓機能回復効果を有し、慢性腎臓疾患の治療に有効な効果を有すると共に、GLP-1受容体アゴニストと併用投与することにより、さらなる治療効果を期待できることを示唆するものである。
【0354】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
【国際調査報告】