(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】慣性センサおよび慣性測定ユニット
(51)【国際特許分類】
G01C 19/66 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
G01C19/66
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558383
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 GB2022050806
(87)【国際公開番号】W WO2022208090
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523359582
【氏名又は名称】ゼロ・ポイント・モーション・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Zero Point Motion Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(72)【発明者】
【氏名】リィ,インリア
【テーマコード(参考)】
2F105
【Fターム(参考)】
2F105DD07
2F105DE01
2F105DE05
2F105DE21
(57)【要約】
慣性センサおよび慣性測定ユニットが提供される。一例では、慣性センサは1つ以上の微小共振器を備え、各微小共振器は対応する光共振をサポートする。慣性センサは、1つ以上の微小共振器に隣接するとともに1つ以上の微小共振器と非連続に吊り下げられた微小電気機械慣性試験質量体をさらに備える。試験質量体は、慣性力の印加下で撓み可能である。慣性センサは、試験質量体の撓みを静電気力で打ち消すための1つ以上の電極をさらに備える。慣性センサは、対応する微小共振器に入る光およびその微小共振器から出る光を結合する1つ以上の光カプラをさらに備える。慣性センサは、1つ以上の光カプラが1つ以上の微小共振器から受け取った光を検出するための1つ以上の検出器をさらに備える。試験質量体と少なくとも1つの微小共振器との間隔の変化によって、その微小共振器の光共振特性が変化する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の微小共振器であり、各微小共振器は対応する光共振をサポートする、1つ以上の微小共振器と、
1つ以上の前記微小共振器に隣接するとともに1つ以上の前記微小共振器と非連続に吊り下げられ、慣性力の印加下で撓み可能な微小電気機械慣性試験質量体と、
前記試験質量体のたわみを静電気力で打ち消すための1つ以上の電極と、
対応する微小共振器に入る光および前記対応する微小共振器から出る光を結合するための1つ以上の光カプラと、
1つ以上の前記光カプラが1つ以上の前記微小共振器から受け取った光を検出するための1つ以上の検出器と、を備え、
前記試験質量体と少なくとも1つの微小共振器との間の間隔の変化によって、その微小共振器の光共振特性が変化する、慣性センサ。
【請求項2】
前記試験質量体は、各微小共振器よりも厚い、請求項1に記載の慣性センサ。
【請求項3】
前記試験質量体は、1ミクロン以上の平均厚さを有する、請求項1または2に記載の慣性センサ。
【請求項4】
前記試験質量体は、数十または数百ミクロンのオーダーの平均厚さを有する、請求項1から3のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項5】
前記試験質量体と1つ以上の前記微小共振器のそれぞれとの間の距離が1ミクロン以下である、請求項1から4のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項6】
前記慣性センサが、少なくとも2つの微小共振器、少なくとも2つの光カプラ、および少なくとも2つの検出器を備え、
前記試験質量体と前記2つの微小共振器のうちの第1の微小共振器との間の第1の間隔の変化、および、前記試験質量体と前記2つの微小共振器のうちの第2の微小共振器との間の第2の間隔の変化が、前記2つの微小共振器の光共振特性の差動変化を生じさせる、請求項1から5のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項7】
前記試験質量体が、第1の微小共振器と第2の微小共振器との間に吊り下げられている、請求項1から6のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項8】
前記試験質量体は、第1の微小共振器と第2の微小共振器との間に位置する突出部を有する、請求項1から7のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項9】
前記試験質量体は、1つ以上の追加の突出部をさらに含み、1つ以上の前記追加の突出部は、それぞれ、2つの微小共振器の間に位置する、請求項8に記載の慣性センサ。
【請求項10】
少なくとも2つの前記電極は、それぞれ、前記慣性センサに対して静止したフィンガー部を含み、
前記試験質量体は、前記慣性センサに対して可動であるフィンガー部を含み、
前記試験質量体のフィンガー部および少なくとも2つの前記電極のフィンガー部がインターディジット状になるように、前記試験質量体の前記可動のフィンガー部が、少なくとも2つの前記電極の前記静止したフィンガー部の間に位置する、請求項1から9のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項11】
1つ以上の前記微小共振器は、前記試験質量体から半径方向に離れている、請求項1から10のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項12】
1つ以上の前記電極および/または1つ以上の前記微小共振器は、前記慣性センサに対して相対的に固定されている、請求項1から11のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項13】
前記慣性センサは、加速度または回転速度を検出するためのものである、請求項1から12のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項14】
1つ以上の前記微小共振器は、ウィスパリングギャラリーモード共振器である、請求項1から13のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項15】
前記試験質量体は、1つ以上の前記微小共振器のそれぞれよりも大きい、請求項1から14のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項16】
1つ以上の前記電極は、前記慣性センサの長期安定性を制御するために使用される、請求項1から15のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項17】
1つ以上の前記光カプラのそれぞれに光を伝送するための光源をさらに備える、請求項1から16のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項18】
1つ以上の前記光カプラのそれぞれに伝送される光が広帯域光である、請求項1から17のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項19】
1つ以上の前記光カプラのそれぞれに伝送される光は、コヒーレントな単一周波数光である、請求項1から17のいずれかに記載の慣性センサ。
【請求項20】
前記光共振特性の変化は、前記光共振のシフトおよび/または前記光共振の広帯域化である、請求項1から19のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項21】
1つ以上の前記微小共振器がそれぞれ異なる光共振を有する、請求項1から20のいずれか1つに記載の慣性センサ。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか1つに記載の慣性センサを1つ以上と、プロセッサと、を備える慣性測定ユニットであって、
前記プロセッサは、各慣性センサについて、
1つ以上の前記検出器から電気信号を受信し、
前記試験質量体と1つ以上の前記微小共振器との間の間隔の変化に応答した1つ以上の前記微小共振器の光共振特性の変化を検出し、
1つ以上の前記微小共振器の光共振特性の変化に基づいて、前記慣性センサの加速度および/または回転速度を決定し、および、
1つ以上の前記微小共振器の光共振特性の変化に基づいて、1つ以上の前記電極の静電気力を制御する、ように構成されている、慣性測定ユニット。
【請求項23】
請求項1から21のいずれか1つに記載の慣性センサを6つ備え、
前記6つの慣性センサは、
第1軸における加速度を検出するための第1の慣性センサと、
前記第1軸に垂直な第2軸における加速度を検出するための第2の慣性センサと、
前記第1軸および前記第2軸に直交する第3軸における加速度を検出するための第3の慣性センサと、
前記第1軸まわりの回転速度を検出するための第4の慣性センサと、
前記第2軸まわりの回転速度を検出するための第5の慣性センサと、
前記第3軸まわりの回転速度を検出するための第6の慣性センサと、を含み、
前記プロセッサはさらに、各慣性センサの前記加速度および/または前記回転速度に基づいて、前記慣性測定ユニットの総加速度および/または総回転速度を計算するように構成されている、請求項22に記載の慣性測定ユニット。
【請求項24】
1つ以上の前記電極のうちの1つの電極の静電気力の制御は、対応する微小共振器の光共振特性の変化に基づいて行われる、請求項22または23に記載の慣性測定ユニット。
【請求項25】
回転速度を検出するための各慣性センサについて、前記プロセッサは、1つ以上の前記電極の静電気力を制御して、前記試験質量体を第1の方向に固定周波数で振動させるように構成されており、
1つ以上の前記微小共振器の光共振特性の変化の検出は、前記固定周波数における前記第1の方向に垂直な第2の方向における前記試験質量体と1つ以上の前記微小共振器との間の間隔の変化に応答して行われる、請求項22から24のいずれか1つに記載の慣性測定ユニット。
【請求項26】
前記プロセッサはさらに、各電極の静電気力を変化させ、各微小共振器の光共振特性の変化を検出することにより、各慣性センサを較正するように構成されている、請求項22から25のいずれか1つに記載の慣性測定ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に慣性センサおよび慣性測定ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
モバイルデバイスの機能および性能が向上し続けるにつれて、モバイルデバイスは、モバイルデバイスの位置を決定するための少なくとも1つの微小電気機械システム(micro-electro-mechanical system、MEMS)慣性センサを含むことが多くなっている。
【発明の概要】
【0003】
加速度センサやジャイロスコープなどのMEMS慣性センサは、慣性力に応じて動く試験質量体の変位から慣性力の有無および大きさを決定することによって動作する。この変位は、可動の試験質量体と固定された電極との間のギャップを変化させ、静電容量の変化を生じさせる。静電容量の変化は、慣性力を決定するために検出される。しかしながら、これらのセンサには、例えば製造上の不完全性、試験質量体の応答における非線形性、寄生容量、パッチ電位などに起因して、過大なノイズやドリフトが発生しやすい。ノイズやドリフトの物理的な原因を打ち消すために、静電気力を用いて試験質量体の動きを規制してもよい。しかし、静電気力自体が、センサの電気回路や試験質量体表面の寄生容量や浮遊容量を含むノイズを引き起こす。静電気力によって引き起こされるノイズは、容量読み出し(capacitive readout)を妨げ、出力信号にさらなるノイズを加える可能性がある。ただし、静電作動(静電駆動)によるノイズ寄与は、一般的に容量読み出しのノイズ寄与よりも低い。さらに、容量読み出しは、静電気力を用いた作動を妨げる。静電気力および容量読み出しの両方によるノイズ寄与は、上記のような慣性センサの精度および感度を低下させる。
【0004】
本発明の実施形態の目的は、当該技術分野で知られている1つ以上の問題を少なくとも軽減することである。
【0005】
本発明の一態様によれば、慣性センサが提供される。慣性センサは、1つ以上の微小共振器(microresonator)を備え、各微小共振器は対応する光共振をサポートする。慣性センサは、1つ以上の微小共振器に隣接するとともに1つ以上の微小共振器と非連続に吊り下げられた微小電気機械慣性試験質量体をさらに備える。試験質量体は、慣性力がかかると撓み可能(deflectable)である。慣性センサは、試験質量体の撓みを静電気力で打ち消すための1つ以上の電極をさらに備える。慣性センサは、対応する微小共振器に入る光および前記対応する微小共振器から出る光を結合するための1つ以上の光カプラをさらに備える。慣性センサは、1つ以上の光カプラが1つ以上の微小共振器から受け取った光を検出するための1つ以上の検出器をさらに備える。試験質量体と少なくとも1つの微小共振器との間の間隔の変化によって、その微小共振器の光共振特性に変化が生じる。
【0006】
電子工学、機械工学、光学工学を統合したデバイスの製造は困難で時間がかかり、特に電子部品と光学部品の間に複数の接続が必要な場合、デバイスが大型化し得るというのが一般的な見解である。このようなデバイスを設計・製造するには、相当数の複雑な工程が必要となる。このような理由から、また、他の考慮事項(フォトニック構造と電気機械構造のサイズの非互換性、フォトニック構造と電気機械構造の一体型を作成するために必要なすでに複雑な製造など)によって、現在の慣性センサは、純粋に電気機械的であるか、純粋に光学的である。純粋に電気機械的な慣性センサ(読み出しおよび作動(actuation)の両方が電極を使用して行われる)を、純粋に光学的な慣性センサ(読み出しおよび作動の両方が光学的手段を使用して行われる)に置き換えることで、容量読み出しに関する上述の欠点を取り除くことができる。また、光学的な作動を使用することで、試験質量体の動きを規制することができる。
【0007】
上記の理由から、光学センサの構成部品と電気機械センサの構成部品とを組み合わせることには偏見がある。しかしながら、本発明者は、発明技術を駆使して、共振器増強(cavity enhanced)光学機械読み出し機構と静電駆動(electrostatic actuation)とを組み合わせた慣性センサを提供した。本発明者はまた、共振器増強光学機械読み出し機構と試験質量体の静電駆動との組み合わせが、純粋に電気機械的な慣性センサや純粋に光学的な慣性センサよりも大きな利点をもたらすという驚くべき認識に至った。特に、試験質量体の作動にのみ電圧を利用し、検知には電圧を利用しないことで、ノイズを大幅に低減することができ、その結果、センサの感度を向上させることができる。
【0008】
また、電圧を用いると、大きな試験質量体を効果的かつ効率的に作動させることができるので、作動に電圧を用いることで、高い光出力を必要とせずに、大きな試験質量体を使用することが可能になる。これは、作動用の光学的手段を有する慣性センサを用いる場合には不可能である。なぜなら、光学的手段を使用して作動させるためには、試験質量体を小さく薄くする必要があるからである。大きな試験質量体、特に厚い試験質量体は、高い機械的感度を有するので、慣性力に対してより大きく、より高感度の機械的応答が得られるので有利である。さらに、光学機械読み出し機構に共振光を使用すると、試験質量体の運動によって共振条件がシフトし、ノイズを増幅せずに信号を増幅させるので、感度がさらに向上する。
【0009】
慣性センサにおいて、(1つ以上の微小共振器と1つ以上の光カプラを用いて)試験質量体の変位を光学機械的に検知することと、(1つ以上の電極を用いて)試験質量体を静電的に作動させることとを組み合わせることで、試験質量体のサイズに妥協することなく、容量検知に基づく慣性センサと比較して、感度が高められ、信号対雑音比が改善されたハイブリッド光学-電気-機械センサが得られる。このようなセンサは、慣性力に対する大きな機械的応答のための大きな試験質量体を作動させる能力を保持する。
【0010】
慣性センサのハイブリッドな性質によって、すべての光学センサでは不可能であった感度の向上および応答性(レスポンス)の向上の両方を実現することができる。このような応答性の向上は、センサ感度の調整または較正(キャリブレーション)を効果的に行うために重要である。実際、試験質量体を十分に作動させることにより、閉ループ動作を効果的に実施することができるので、試験質量体のドリフト(例えば熱誘起ドリフト)や試験質量体の非線形応答をよりよく制御することができる。従って、センサに位置決め誤差が発生しにくくなる。本明細書で説明する慣性センサは、極めて低ノイズの測定値を生成することができ、ごくわずかな位置の変化も追跡することができる。
【0011】
光読み出し機構と閉ループ動作との組み合わせにより、感度、制御、長期安定性の最適なバランスを実現し、必要な測定を達成するために精密に制御可能な高感度で安定した慣性センサが提供される。
【0012】
試験質量体は1ミクロン以上の平均厚さを有してもよい。
【0013】
試験質量体は、数十または数百ミクロンのオーダーの平均厚さを有してもよい。
【0014】
試験質量体は微小共振器より大きく、例えば厚くてもよい。試験質量体は10ミクロン以上の平均厚さを有していてもよい。試験質量体は500ミクロン未満の平均厚さを有していてもよい。試験質量体は、20ミクロンと30ミクロンとの間の平均厚さを有してもよい。試験質量体は微小共振器よりかなり大きくてもよい。試験質量体は微小共振器よりも著しく厚く、例えば100倍厚くてもよい。試験質量体は微小共振器よりも大きな表面積を有していてもよい。試験質量体の表面積は、1ミリメートル×1ミリメートル未満であってもよい。試験質量体の表面積は約250ミクロン×250ミクロンであってもよい。微小共振器の直径は約100ミクロンであってもよい。試験質量体のサイズが大きいと、センサの加速度や回転速度に対する応答性が向上する。
【0015】
試験質量体と1つ以上の微小共振器との間の距離は、1ミクロン以下であってもよい。この距離は、慣性センサが静止しているとき、すなわち試験質量体のたわみがないときの距離であってもよい。試験質量体を1つ以上の微小共振器から近い距離内に設けると、応答のスケールファクタが大きくなり、検出された慣性力が同じ量であれば、出力される光信号の変化が大きくなる。
【0016】
慣性センサは、少なくとも2つの微小共振器、少なくとも2つの光カプラ、および少なくとも2つの検出器を備えてもよい。試験質量体と2つの微小共振器のうちの第1の微小共振器との間の第1の間隔の変化、および試験質量体と2つの微小共振器のうちの第2の微小共振器との間の第2の間隔の変化によって、2つの微小共振器の光共振特性の差動変化を生じさせることができる。
【0017】
試験質量体は、第1の微小共振器と第2の微小共振器との間に吊り下げられていてもよい。
【0018】
試験質量体は、第1の微小共振器と第2の微小共振器との間に位置する突出部を有してもよい。突出部は、第1および/または第2の微小共振器から脱した光子を導く光チャネルとして機能してもよい。これにより、光子が突出部によって吸収または透過されるため、センサの感度が向上する。
【0019】
試験質量体は1つ以上の追加の突出部をさらに含んでもよい。1つ以上の追加の突出部は、それぞれ、2つの微小共振器の間に位置する。
【0020】
少なくとも2つの電極は、それぞれ、センサに対して静止したフィンガー部を含んでもよい。試験質量体は、慣性センサに対して可動であるフィンガー部を含んでもよい。試験質量体の可動のフィンガー部は、少なくとも2つの電極の静止したフィンガー部の間に位置し、試験質量体のフィンガー部と少なくとも2つの電極のフィンガー部とがインターディジット状に(互いにかみ合うように)なっていてもよい。
【0021】
試験質量体のフィンガー部の動きは試験質量体の運動と強く結合しており、フィンガー部の動きが試験質量体全体の動きにつながる。したがって、電極の静止したフィンガー部は、試験質量体のフィンガー部の動きを制御するために使用され、結果として試験質量体の動きを制御する。試験質量体のフィンガー部は、試験質量体に対して静止するように、試験質量体と一体であってもよいし、試験質量体に硬く固定されていてもよい。あるいは、試験質量体のフィンガー部は、例えばカンチレバーモードのように、それ自身の機械的自由度を有していてもよい。試験質量体のフィンガー部は、試験質量体全体の位置を移動または維持するためにのみ使用されるように配置されていてもよい。
【0022】
1つ以上の微小共振器は、試験質量体から半径方向に離れていてもよい。
【0023】
1つ以上の電極および/または1つ以上の微小共振器は、慣性センサに対して相対的に固定されていてもよい。
【0024】
慣性センサは、加速度または回転速度を検出するためのものであってもよい。
【0025】
1つ以上の微小共振器は、ウィスパリングギャラリーモード共振器であってもよい。
【0026】
1つ以上の微小共振器は、それぞれ、使用時にその微小共振器の縁部を越えて延びるエバネッセント場を有してもよい。エバネッセント場が微小共振器の縁部を超えて延びる量は、光カプラに結合される光の波長の大きさに基づいてもよい。エバネッセント場は、使用時にその微小共振器の縁部を越えて少なくとも1ミクロン延びていてもよい。これにより、光カプラに結合される光の波長が1550nmである場合に、特に効果的なセンサが得られる。
【0027】
試験質量体は、1つ以上の微小共振器のそれぞれよりも大きくてもよい。
【0028】
1つ以上の電極は、慣性センサの長期安定性を制御するために使用されてもよい。
【0029】
慣性センサは、1つ以上の光カプラのそれぞれに光を伝送するための光源をさらに備えてもよい。
【0030】
1つ以上の光カプラのそれぞれに伝送される光は、広帯域光であってもよい。
【0031】
1つ以上の光カプラのそれぞれに伝送される光は、コヒーレントな単一周波数光であってもよい。
【0032】
光共振特性の変化は、光共振のシフトおよび/または光共振の広帯域化であってもよい。
【0033】
1つ以上の微小共振器は、それぞれ異なる光共振を有してもよい。
【0034】
本発明の別の態様によれば、慣性測定ユニットが提供される。慣性測定ユニットは、本明細書に記載の慣性センサを1つ以上と、プロセッサとを備える。プロセッサは、各慣性センサについて、1つ以上の検出器から電気信号を受信するように構成される。プロセッサはさらに、各慣性センサについて、試験質量体と1つ以上の微小共振器との間の間隔の変化に応答して、1つ以上の微小共振器の光共振特性の変化を検出するように構成される。プロセッサはさらに、各慣性センサについて、1つ以上の微小共振器の光共振特性の変化に基づいて、慣性センサの加速度および/または回転速度を決定するように構成される。プロセッサはさらに、各慣性センサについて、1つ以上の微小共振器の光共振特性の変化に基づいて、1つ以上の電極の静電気力を制御するように構成される。
【0035】
慣性測定ユニットは、本明細書に記載の慣性センサを6つ備えてもよい。6つの慣性センサは、第1軸における加速度を検出するための第1の慣性センサと、第1軸に垂直な第2軸における加速度を検出するための第2の慣性センサと、第1軸および第2軸に垂直な第3軸における加速度を検出するための第3の慣性センサと、第1軸まわりの回転速度を検出するための第4の慣性センサと、第2軸まわりの回転速度を検出するための第5の慣性センサと、第3軸まわりの回転速度を検出するための第6の慣性センサと、を備える。プロセッサはさらに、各慣性センサの加速度および/または回転速度に基づいて、慣性測定ユニットの総加速度および/または総回転速度を計算するように構成されてもよい。
【0036】
1つ以上の電極のうちの1つの電極の静電気力の制御は、対応する微小共振器の光共振特性の変化に基づいて行われてもよい。
【0037】
回転速度を検出するための各慣性センサについて、プロセッサは、1つ以上の電極の静電気力を制御して、第1の方向に一定の周波数(固定周波数)で試験質量体を振動させるように構成されていてもよい。1つ以上の微小共振器の光共振特性の変化の検出は、固定周波数で第1の方向に垂直な第2の方向における試験質量体と1つ以上の微小共振器との間の間隔の変化に応答して行われてもよい。
【0038】
プロセッサは、各電極の静電気力を変化させ、各微小共振器の光共振特性の変化を検出することにより、各慣性センサを較正するようにさらに構成されてもよい。
【0039】
本明細書に記載された発明が関連する当業者であれば、本明細書に提示された教示に照らして、これらの発明の多くの変更および他の実施形態を思いつくであろう。したがって、本明細書の開示は、本明細書に開示された特定の実施形態に限定されるものではないことが理解されよう。さらに、本明細書で提供される説明は、要素の特定の組み合わせの文脈において例示的な実施形態を提供するが、ステップおよび/または機能は、本発明の範囲から逸脱することなく、代替的な実施形態によって提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して例示的にのみ説明する。
【
図2】例示的な慣性センサの光学機械エレメントおよび出力例を示す図である。
【
図3】例示的な慣性センサの特性変化の一例を示すグラフである。
【
図5】加速前および加速中における例示的な慣性センサの光学機械エレメントおよび出力例を示す図である。
【
図6】加速度を測定するための例示的な慣性センサを示す図である。
【
図7】慣性センサが加速度を検出するものである場合に使用される制御ループフィードバックシステムを示す図である。
【
図8】回転前および回転中における例示的な慣性センサの光学機械エレメントおよび出力例を示す図である。
【
図9】回転速度(rate of rotation)を測定するための例示的な慣性センサを示す図である。
【
図10】回転速度を測定するための別の例の慣性センサを示す図である。
【
図11】慣性センサが回転速度を検出するものである場合に使用される制御ループフィードバックシステムを示す図である。
【
図12】例示的な慣性測定ユニットのブロック図である。
【0041】
説明および図面を通して、同様の参照数字は同様の部品を指す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に様々な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態の変形は、特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲内に当然含まれ得る。
【0043】
以下では、慣性センサについて説明する。加速度センサおよびジャイロスコープが例示されているが、当業者には理解されるように、本明細書で説明する慣性センサは、さらに幅広く適用可能である。
【0044】
詳細な説明を読めば理解されるように、微小共振器は、光共振をサポートする閉回路物である。微小共振器が光共振をサポートするとは、微小共振器の閉回路に入射する光が、微小共振器内での建設的干渉(constructive interference)と全内部反射により、少なくとも1つの共振周波数で増幅されることを意味する。微小共振器の材料の例としては、シリコン、シリカ、窒化シリコン、結晶性フッ化物が挙げられる。微小共振器の直径の例は、数ミクロンから数百ミクロンの範囲である。
【0045】
詳細な説明を読めば理解されるように、試験質量体(テストマス)とは、MEMSセンサで使用するための機械的構造体を指す。試験質量体の材料の例としては、シリコン、石英が挙げられる。
【0046】
詳細な説明を読めば理解されるように、光カプラは、微小共振器に入る光および微小共振器から出る光を結合する手段である。光カプラは導波路であってもよい。光カプラは導波路に取り付けられていてもよい。光カプラは、光源から微小共振器内に光を導いてもよい。光カプラは、微小共振器から検出器に光を導いてもよい。光カプラは、埋設導波路、リッジ導波路、またはリブ導波路であってもよい。光カプラは微小共振器と同時に作製されてもよい。
【0047】
詳細な説明を読めば理解されるように、光共振特性の変化とは、光共振の特性のあらゆる変化である。光共振特性の変化は、光共振特性の線形の変化、例えばピーク振幅の低減であってもよい。光共振特性の変化は、光共振の位置の変化であってもよい。
【0048】
図1は、例示的な慣性センサ100を示す図である。慣性センサ100は、光共振をサポートする微小共振器102を備える。慣性センサ100は、微小電気機械(micro-electro-mechanical)慣性試験質量体104をさらに備える。試験質量体104は、微小共振器102に隣接するとともに微小共振器102と非連続になるように吊り下げられている。すなわち、試験質量体104は、微小共振器102に近接するが、微小共振器102から距離/間隔「d」(
図1では112で示されている)だけ離隔するように、慣性センサ内に配置される。試験質量体104は、慣性力が加わると撓み可能(deflectable)である。すなわち、慣性力の影響下で、試験質量体104と微小共振器102との間の間隔112は一時的に変化し得る。慣性センサ100は、試験質量体104の撓みを静電気力で打ち消すための電極106をさらに備える。慣性センサ100は、微小共振器102に入る光および微小共振器102から出る光を結合するための光カプラ108をさらに備える。慣性センサは、光カプラ108が微小共振器102から受け採った光を検出するための検出器110をさらに備える。試験質量体104と微小共振器102との間の間隔「d」112の変化は、その微小共振器102の光共振特性の変化を引き起こす。
【0049】
慣性センサ100は、例えば加速度や回転によって生じる慣性力を、慣性力に応じて動く試験質量体104の変位に基づいて検出する。より詳細には、
図1の慣性センサ100は、以下のように動作する。慣性センサ100が例えば装置の一部として動かされると、慣性センサは特定の速度まで加速し、または特定の角度まで回転する。試験質量体は、アンカー116に接続されたサスペンション手段114(この例ではバネである)によって吊り下げられている。試験質量体104は、加速度または回転速度によって生じる慣性力に応答し、慣性力の大きさと方向に基づいて変位する。試験質量体104の変位は、加速度または回転速度によって引き起こされる慣性力に比例し得る。この変位により、試験質量体104と微小共振器102との間のギャップ「d」112が変化し、その微小共振器102の光共振特性が変化する。光カプラ108は光を受光し、その光を微小共振器104に結合し、また微小共振器104から光を結合する。微小共振器104から結合された光の1つ以上の特性は、微小共振器104の光共振特性の変化に基づいて変化し、そのような変化は検出器110で検出される。検出器110における透過出力(transmission output)のこのような変化は、試験質量体の変位に関連しており、その結果、慣性センサ100が受けた慣性力を計算するために使用され得る。このように、微小共振器104、光カプラ108、検出器110、試験質量体104、バネ114、およびアンカー116によって、センサの光学機械的読み出し機構が形成され、検出器110で検出された光透過率(optical transmission)の変化に基づいて慣性力を決定することが可能になる。
【0050】
試験質量体104の動きを制御することができるように、電極106が設けられる。電極106に電圧が印加されてもよい。電極106は、試験質量体104を作動させるために、印加された電圧による静電気力を出力するように構成されている。静電気力の大きさは印加電圧の大きさに基づく。作動の大きさは静電気力の大きさに基づくので、作動の大きさは印加電圧にも基づいており、電極106に印加される電圧を変えることによって制御可能である。したがって、電極106は、印加電圧による静電気力を用いて試験質量体104を動かすことにより、微小共振器に対する試験質量体104の位置を変えることができる。このような作動は容量作動(capacitive actuation)と呼ばれることがある。電極106はセンサ100に対して固定されていてもよい。電極は、試験質量体をX方向および/またはY方向に動かしてもよい。電極はまた、試験質量体をZ方向(図示せず)に動かしてもよい。
【0051】
試験質量体を作動させることなくオープンループ構成で動作する慣性センサは、大きな試験質量体変位において、温度変動、バイアス、非線形性により経時的にドリフトしやすい。そのため、慣性センサは、電極106が試験質量体を作動させるフィードバック機構を使用して閉ループシステムを実施する。電極106の作動力は、試験質量体を積極的に平衡に戻すために使用され得、線形性と検出範囲を拡大し、ドリフトを低減または打ち消すことができる。電極106からの作動力は、フィードバックを使用して調整可能であり、試験質量体104を最適なセンサ測定を提供する位置にすることができる。このように、電極106は慣性センサの長期安定性を向上させる。電極106はまた、試験質量体104の振動を減衰させるために使用されてもよい。光学機械的読み取り(optomechanical reading)と電気機械制御とを組み合わせることで、高感度の慣性センサが提供される。
【0052】
図1には慣性センサ100の各構成要素が1つだけ図示されているが、慣性センサ100は複数の各構成要素を備えてもよい。慣性センサ100は、複数の微小共振器102、複数の電極106、複数のバネ114、複数のアンカー116、および複数の光カプラ108を備えてもよい。微小共振器はセンサに対して固定されていてもよい。
図1では、試験質量体104は、微小共振器102から半径方向に配置されているが、試験質量体104は微小共振器102に対して他の位置に配置されてもよい。
【0053】
光共振特性は、試験質量体の変位により変化する。光共振特性の変化は、微小共振器に対する試験質量体の動きに応答して、共振波長のシフト、および/または光共振の曲線の広帯域化(broadening)または深帯域化(deepening)であり得る。シフトは、赤色離調または青色離調のいずれかに進行するように、いずれの方向に発生してもよい。広帯域化または深帯域化は、
図2に関連して以下に説明するように、例えば散逸性または散乱性の光機械結合(optomechanical coupling)などの光損失の変化によるものである。
【0054】
図1に示されるように、試験質量体は、バネの形態のサスペンション手段114を用いて吊り下げられてもよい。バネの一端がアンカー116に接続されることでセンサに対して固定され、バネの他端は試験質量体に接続されて試験質量体を吊り下げている。バネ114は試験質量体104の変位を可能にする。バネ114およびアンカー116は、この図および明細書全体に亘って示されているが、当業者であれば、バネ114とアンカー116の代わりに、他のタイプのサスペンション手段が、慣性センサ100および本明細書に記載されている慣性センサのいずれかに使用され得ることを理解するであろう。
【0055】
微小共振器102は、試験質量体104の撓みがその微小共振器102の光共振特性を変化させるように、試験質量体104の近くに配置される。
【0056】
電極106によって提供される静電駆動は、
図4に関連してさらに後述するように、制御器(
図1には図示せず)によって制御されてもよい。慣性センサがそのような制御器を備えてもよいし、制御器が慣性センサ100の外部にあってもよい。
【0057】
図1の電源で示されるように、電圧が電極106に印加される。印加される電圧が電極106とアンカー116の間の電位差となるように、アンカーを接地してもよい。印加される電圧は、試験質量体104の撓みを打ち消すために必要な静電気力に基づいて変化してもよい。したがって、
図1には電源が図示されているが、代わりに上述の制御器(
図1には図示せず)によって電圧が印加されてもよい。
【0058】
検出器110は、光信号を電気信号に変換する任意の装置であってよい。検出器110は光検出器であってもよい。検出器110は、センサによって検知された慣性力を計算するために光信号を処理するプロセッサを備えてもよい。検出器110は、光カプラ108および微小共振器102からの光信号を入力として受信し、慣性力測定値を出力してもよい。あるいは、上述の制御器(
図1には図示せず)を用いて、検出器110によって検出された光信号に基づいて慣性力を計算してもよい。
【0059】
光カプラ108は、導波路に結合されてもよい。光カプラ108は、光が導波路から微小共振器102に結合され、微小共振器102から導波路に結合されるように、微小共振器102に近接して配置される導波路であってもよい。光源(
図1には示されていない)からの光は、光カプラ108に入力され、微小共振器102に送られ、微小共振器102から検出器110に送られてもよい。光源はセンサ内にあってもよいし、センサの一部でなくてもよい。例えば、光源は複数の慣性センサに接続され、複数の慣性センサに光を供給してもよい。光カプラ108に入力される光は、広帯域光であってもよいし、コヒーレント単一周波数光であってもよい。
【0060】
試験質量体104は、例えばY軸に沿って微小共振器に向かうように又は微小共振器から離れるように変位される。X軸及びY軸は
図1に図示されている。試験質量体104は、追加的または代替的に、微小共振器に対して横方向に、例えばX軸に沿って変位してもよい。試験質量体はシリコン製であってもよい。
【0061】
図1に示した微小共振器102はリング共振器であるが、この微小共振器は、ディスク型微小共振器やレーストラック型微小共振器など、別のタイプの微小共振器102に置き換えられ得る。
【0062】
図1に示される微小共振器102は、センサが使用されているとき、微小共振器102の縁部を越えて延びるエバネッセント場の少なくとも一部を有する。エバネッセント場は、微小共振器102の縁部から1ミクロンだけ延びていてもよい。微小共振器102の縁部から実質的に延びるエバネッセント場は、エバネッセント場と試験質量体104との間の相互作用が増大するにつれてセンサの感度を高める。
【0063】
微小共振器102は、ウィスパリングギャラリーモード微小共振器であってもよい。微小共振器がウィスパリングギャラリーモード微小共振器である場合、ウィスパリングギャラリーモード微小共振器は、ウィスパリングギャラリーモード光共振として光を捕捉し、その縁部を越えて広がるエバネッセント場を有する。試験質量体104が変位すると、エバネッセント場と相互作用し、エバネッセント場との相互作用に伴って微小共振器の特性が変化し、微小共振器の実効屈折率が変化する。この変化により、微小共振器のウィスパリングギャラリーモード光共振がシフトする。このように、試験質量体104がウィスパリングギャラリーモード微小共振器のエバネッセント場内で動くと、微小共振器の光共振が摂動され、光共振の特性が変化する。
【0064】
装置は、加速度を検出するための慣性センサ100と回転速度を検出するための慣性センサ100とを備えてもよい。このような装置は、位置追跡に利用され得る。
【0065】
図2は、例示的な慣性センサ100の光学機械エレメント200と例示的な出力250とを示す図である。
図2に示す図は、慣性センサ100の光学機械エレメントの動作の理解を助けるためのものであり、したがって、
図1の慣性センサのすべての構成要素を示していない。以下の説明は、微小共振器102がウィスパリングギャラリーモード(WGM)微小共振器である場合のものであるが、
図1の微小共振器102は異なるタイプの微小共振器であってもよいことを理解されたい。WGM微小共振器はエバネッセント場を有する。図には、光子の移動速度のモデル化に使用され得る結合率k
i、k
e、k
a、およびk
sを示す。
【0066】
光は、微小共振器102に出入りする矢印で示すように、外部結合率k
eによって定義される速度で、光カプラ108から微小共振器102へ送られ、そして微小共振器102から光カプラ108へと戻される。外部結合率は、例えば、1秒あたりの正規化された共振器内電磁場の(ゆっくりと変化する部分の)変化をヘルツ単位で定義する。光が微小共振器102に入射すると、固有損失率k
iで定義される内部損失により光が漏れ出す。試験質量体は、センサの加速または回転によって生じる慣性力によって変位され得る。試験質量体の変位は、慣性力の大きさおよび方向に基づいている。試験質量体104が距離「d」で微小共振器102の縁部に近づくと、試験質量体104はエバネッセント場内で変位し、エバネッセント場と相互作用する。これによって、微小共振器102の共振周波数をシフトさせるWGM微小共振器の実効屈折率の変化が引き起こされる。試験質量体が物理的に存在すると、散乱損失(k
sで表される)を生じさせる散乱効果と、吸収または誘導による試験質量体への光の結合(
図2の結合損失k
aによって示される)との両方によって、一部の光子が微小共振器102から漏れ出す。例えば、光子は、表面粗さに起因して試験質量体表面との相互作用で吸収および/または散乱されてもよい。試験質量体104の変位は、散乱損失k
sを変化させる。なぜなら、k
sは、次式で示されるように、試験質量体104と微小共振器102との間の距離「d」に対して指数関数的な依存性を有するからである。次式において、alphaは、エバネッセント場の実効減衰長であり、k
s0は定数である。
【0067】
試験質量体104の変位はまた、同様の理由により、結合損失kaも変化させる。試験質量体104の変位、ひいては試験質量体104と微小共振器102との間の距離「d」の変化は、屈折率を変化させ、その結果、離調度Δを変化させる。離調度Δは、初期WGM共振周波数ω0からの光の離調度を意味し、次のように定義され得る。
Δ=ω-ω0
よって、微小共振器の光共振がシフトすると、離調度が変化する。
【0068】
したがって、WGM微小共振器102の実効屈折率および結合率の変化によって、WGM共振の周波数のシフトおよび広帯域化が生じる。特に、WGM光共振は、散乱結合率ksおよび/または吸収もしくは透過結合率kaによって広帯域化され、離調度Δの変化を引き起こす実効屈折率の変化によってシフトする。
【0069】
光カプラ108の出力における透過光強度Tは、WGM光共振の変化による試験質量体104の位置に基づいて変化する。以下の式に示すように、このモデルでは、Tは結合率および離調度に依存し、1に正規化されている。
【0070】
検出器110で得られた透過強度の測定値は、透過率の変化を求めるために、以前の値または基準値と比較されてもよい。これにより、光共振の変化を検出することができる。光共振の変化は試験質量体の変位を示す。その結果、光共振の変化の検出から、試験質量体にかかる慣性力を計算することができる。
【0071】
要約すると、慣性力によって試験質量体の変位が生じ得る。試験質量体の変位は、慣性力の大きさおよび方向に基づいている。試験質量体104の変位およびその結果である試験質量体104と微小共振器102との間の距離の変化により、微小共振器102の結合率および屈折率が変化し、これによって離調度が変化する。離調度の変化は、導波路カプラの出力における共振器内電磁場および光強度を変化させる。その結果、微小共振器102の光共振周波数の変化が検出器110で検出可能となる。
図2のグラフ250はこのような変化を示している。
【0072】
慣性センサに慣性力が加わっていないときの慣性センサ100の初期位置では、試験質量体104は微小共振器102から距離dの位置にある。試験質量体104が微小共振器102から距離dの位置にあるときの検出信号は、
図2のグラフ250に実線で示されている。例えばセンサの加速や回転による慣性力がある場合、試験質量体104は微小共振器102からΔyだけ離れて、微小共振器102からd+Δyの距離に位置し得る。試験質量体104が微小共振器102から距離d+Δyに位置するときの検出信号は、
図2のグラフ250に点線で示されている。グラフ250に示されるように、実線(試験質量体104と微小共振器102との間の初期距離に対応する)と点線(慣性力を受けて撓んだ後の試験質量体104の微小共振器102からの距離に対応する)との間には、微小共振器102の実効屈折率の変化によって生じる共振周波数の変化Δfがみられる。また、散乱(係数k
sに関連する)および/または吸収もしくは透過(係数k
aに関連する)により微小共振器から出た光によって引き起こされる共振線幅の変化Δdfもみられる。
【0073】
図3は、慣性センサの特性変化の一例を示すグラフである。これらのグラフは、慣性力の検出方法を説明するためのものである。光カプラ108で検出された透過出力を用いて試験質量体104の変位から慣性力を検出するために、例えば変位1ナノメートルあたりの透過率の変化など、スケールファクタを定義してもよい。透過率と変位との間の関係は、
図2に関連して上記で説明され、透過率(したがってスケールファクタ)が結合率および離調度に基づいていることを示している。グラフA 310は、離隔距離「d」による光機械分散結合率(optomechanical dispersive coupling rate)の変化を示している。光機械分散結合率は、移動1メートルあたりの共振周波数の変化であり、単位はHz/mである。グラフB 320は、離隔距離「d」による光機械散逸結合率(optomechanical dissipative coupling rate)の変化を示している。光機械散逸結合率は、移動1メートルあたりの線幅の変化であり、移動1メートルあたりの損失の変化を示し、単位はHz/mである。光機械分散結合率は、離隔距離「d」に対して指数関数的な依存性を持つ。エバネッセント場の指数関数的性質に起因して、光共振シフトが指数関数的な依存性を持つからである。光機械散逸結合率は、離隔距離「d」に指数関数的な依存性を持つ。散乱損失k
sと結合損失k
aの大きさが、エバネッセント場の指数関数的性質により、離隔距離「d」に指数関数的な依存性を持つからである。したがって、スケールファクタは、これらの光機械結合率に基づいている。グラフA 310、グラフB 320に示すように、両方の結合率が離隔距離「d」に指数関数的に依存するため、試験質量体の変位に対する応答は非線形である。
【0074】
慣性力を測定するために、平衡位置を決定してもよい。これは、試験質量体104が初期位置にあるときの試験質量体104と微小共振器102との間の離隔距離であってもよいし、またはこれに対応する隔離距離であってもよい。その後、平衡位置付近での小さな動きを検出することができる。このような小さな動きは平衡位置付近で検出されるので、応答はこれらの動きに対して実質的に線形である。
【0075】
しかし、試験質量体104の初期位置は時間とともに変化する可能性があり、これによって平衡位置が変化する。平衡位置が異なると、共振器の周囲のエバネッセント場の指数関数的な強度分布により、光機械結合率が異なる。したがって、試験質量体の初期位置が変化すると、平衡位置が変化し、その結果、センサ100のスケールファクタが変化する。閉ループ動作は初期位置を維持し、その結果スケールファクタも維持する。これにより、線形性および正確な測定が保たれる。具体的には、静電駆動により試験質量体の動きが規制され、特に、離隔ギャップが調整されることで、光学機械応答が調整される。
【0076】
したがって、閉ループ動作では、微小共振器と試験質量体との間のギャップを小さく(例えばミクロンよりも小さく)保つことが可能になる。この小さなギャップは有利である。試験質量体を微小共振器の近くに位置させると、応答のスケールファクタが大きくなり、検出される慣性力が同じ量でも出力される光信号の変化が大きくなるからである。さらに、試験質量体を微小共振器の近くに位置させると、微小共振器周辺のエバネッセント場がわずかな距離(光の波長オーダー)にしか広がらないので、光学的読み出しをより確実に行うことができる。
【0077】
慣性センサは加速度を測定するために使用可能である。グラフC 330とグラフD 340は、試験質量体の撓み(振れ)に基づいて、印加される加速度の変化を示す。
【0078】
加速度測定値を求めるために、d1またはd2として平衡位置が決定される。d1、d2は、グラフA 310およびグラフB 320に示されているように、異なる離隔距離「d」である。d1としての平衡位置の選択は、グラフC 330に示されている。d2としての平衡位置の選択は、グラフD 340に示されている。平衡位置の選択、例えばd1とd2の間の選択は、上述したスケールファクタを定義する。これは、共振器周囲のエバネッセント場の指数関数的な強度分布に起因して、グラフA 310およびグラフB 320に示すように、各平衡位置において、光機械分散結合率および光機械散逸結合率が異なり、スケールファクタがこれらの結合率に基づいているからである。
【0079】
試験質量体104の小さな運動は、例えば平衡位置から+/-50nmの動きのように、グラフがまだ実質的に直線である平衡付近で検出される。このように、センサ100を動作させるために、平衡位置を選択し、小さな動きを検出してもよい。
【0080】
閉ループフィードバックを用いることで、フィードバック機構によって生じる静電気力が撓み(deflection)を打ち消すため、より小さな動きでより高い加速度を検出することができる。例えば、100gの加速度は、閉ループフィードバックなしの場合に50nmの撓みを生じるのに対し、閉ループフィードバックを使用すると、10nmの撓みを引き起こし得る。上記で説明したように、閉ループ動作は、センサ100を平衡位置で安定させるので、センサ100に不要なオフセットが発生せず、長期にわたって維持され得る。
【0081】
図4は、フローチャート400の一例を示す。このフローチャートは、慣性センサ100に使用する閉ループフィードバックシステムを示している。閉ループフィードバックシステムは、
図1に関連して前述したように、センサ100と、センサ100の内部または外部の制御器とによって実現される。慣性力によって試験質量体104が複数回変位すると、試験質量体は非線形に応答し始め、時間の経過とともにドリフトする可能性がある。ドリフトは、試験質量体の熱変化に起因する場合もあれば、慣性センサの温度変化に起因する熱誘起の場合もある。ドリフトは、非対称加工や減衰に起因する場合もある。閉ループフィードバックシステムは、試験質量体のドリフトを低減し、幅広い力の大きさにわたって試験質量体の応答の線形性を維持し、試験質量体を積極的に安定させ、センサの出力における誤差を低減するのに適している。具体的には、フィードバックは、特に長期ドリフトを低減するために、ドリフトに関連する試験質量体の応答を連続的に打ち消すものである。これは、慣性センサが位置の追跡(トラッキング)に使用される場合(この場合、慣性センシングは、単発的な計測値を提供するのではなく、時間をかけて継続的に計測値を追跡する)、閉ループ動作が特に重要であることを意味する。閉ループフィードバックシステムは、衝撃から試験質量体を保護することもできる。
【0082】
図4のフローチャート400では、慣性センサ100は、センサ自体の加速または回転に起因し得る慣性力を受ける(402)。上述したように、試験質量体104は慣性力によって撓む(404)。これは共振器内光機械読み出し機構(微小共振器102、光カプラ108および検出器110の形態)によって検出される(406)。光機械読み出し機構は、試験質量体104の撓みによる微小共振器102の光共振特性の変化を示す出力光信号の変化を受信する。光共振特性の変化に基づいて、加速度または回転速度が計算され、出力される(410)。この計算は、検出器110または制御器内の処理手段によって実行される。その後、制御器は閉ループフィードバックを適用する。制御器は、出力された光信号の変化を受信し(408)、電極106を介して静電駆動(静電アクチュエーション)を用いて試験質量体を作動させ(406)、試験質量体104のドリフトを減少させる。このように、電極106に電圧を印加して静電気力を発生させ、試験質量体104を動かして試験質量体104と微小共振器102との間の距離を変化させることによって、閉ループフィードバックが試験質量体104に適用される。
【0083】
制御器は電極に印加される電圧を制御し、静電気力は印加された電圧に基づく。電極と試験質量体との間の電圧差が分かるように、試験質量体を接地してもよい。静電気力は、試験質量体を動かして、微小共振器に対する微細な位置決め、衝撃からの保護、および非線形性やドリフトを低減する閉ループ動作を行う。このように、閉ループ動作は、より長時間の連続動作においてセンサの精度を維持するので、センサの長期安定性に有利である。
【0084】
制御器は、必要なフィードバックを決定するために比例積分微分(PID)制御を採用してもよい。フィードバック帯域幅は、基本機械周波数までの直流であってもよいし、基本機械周波数を超えてもよい。慣性センサ100が加速度センサである場合、フィードバック帯域幅は検出帯域幅よりもかなり大きくてもよい。慣性センサがジャイロスコープである場合、閉ループフィードバックは駆動周波数で動作してもよい。フィードバックおよび/または加速度もしくは回転速度の測定を決定するために、制御器が信号を処理する前に信号処理が必要な場合がある。信号処理技術の例が、
図7および
図11に詳述されている。閉ループフィードバックを実行する他に、制御器は、電極106を使用して試験質量体104を所定の距離だけ作動させることによって、センサ100の「セルフテスト」手順を実行することで、光読み出しのその場でキャリブレーションを行ってもよい。
【0085】
慣性センサ100は加速度を検出するためのものであってもよい。試験質量体がバネ114を用いて吊り下げられている場合、加速度は、バネの伸縮の大きさがバネに加えられる力に正比例するフックの法則を用いて決定され得る。慣性センサ100が加速されると、慣性センサに慣性力が加わり、試験質量体104が撓み、微小共振器102の共振が乱される。共振からの撓み量を求めた後、フックの法則を使用して力を求め、その結果としてセンサ100の加速度を求める。
【0086】
図5は、加速前および加速中における例示的な慣性センサの光学機械エレメントと出力例とを示す図である。以下の図において、上方向(上向き)は、Y軸に沿ってYの値が増加するように動くことを指し、下方向(下向き)は、Y軸に沿ってYの値が減少するように動くことを指すために使用される。Y軸は、図中に示されている。イメージ
図B 520では、加速度が試験質量体から微小共振器に向かう下方向に示されているが、慣性センサ100は、下方向の加速度のみを検出するように限定されていない。慣性センサ100は、上方向および下方向の加速度を検出し得る。慣性センサ100は、XおよびY平面内の加速度を検出してもよいし、X、YおよびZ平面内の加速度を検出してもよい。
【0087】
イメージ
図A 510は、加速度が加わっていない場合、すなわちセンサが静止している場合または等速である場合の光学機械エレメントを示す。イメージ
図B 520は、矢印522で示されるように、試験質量体104から微小共振器102に向かって下方向に加速している(下方向の加速度が加わっている)ときの光学機械エレメントを示す。イメージ
図B 520に示されるように、微小共振器102に向かって下方向に加速しているとき、試験質量体は、微小共振器から離れるように上方にΔyだけ変位する。この変位は、下方向の加速の結果、試験質量体に上向きの慣性力がかかるために生じる。したがって、センサ100が加速していないときと、センサ100が下向きに加速しているときとの、微小共振器と試験質量体との間の距離の差はΔyとなる。
【0088】
グラフC 530およびD 540では、実線は慣性センサ100が加速していないときを表し、破線は慣性センサ100が下方向に加速しているときを表す。慣性センサ100が下方向に加速しているときには、試験質量体の変位Δyにより、微小共振器の共振波長にシフトΔλが生じる。グラフC 530は、光カプラの出力における異なる波長の信号強度を示す。このグラフは、実線(センサが加速していないとき)から破線(センサが下方向に加速しているとき)へと、信号強度の最小値がシフトしていることを示している。このシフトは、センサが加速していないときから下方向に加速しているときへの微小共振器の共振波長のシフトΔλに起因するものである。微小共振器の共振波長のシフトは、センサが加速していないときと下方向に加速しているときの、センサから供給される信号の所定の波長における強度の違いによっても示される。所定の波長における信号の強度の違いは、グラフC 530の点532と点534で示されている。この波長では、センサが加速していないときから下方向に加速しているときにかけて、信号強度にはシフトΔIが生じる。このシフトΔIは、センサ100が加速していないときの点532から、センサ100が下方向に加速しているときの点534までのシフトである。この理由としては、センサ100が加速していないときには、所定の波長は共振波長ではないので信号強度が最小とならないが、センサ100が下方向に加速しているときには、所定の波長が共振波長であるため、信号強度が最小となるからである。グラフCはまた、センサが加速されたときに発生し得る線の広がり(広帯域化)を示している。このような広がりによって、グラフCに示すように、最小信号強度が増加する可能性がある。
【0089】
グラフD 540は、グラフCと同じ所定の波長における経時的な信号強度を示し、点542は点532に対応し、点544は点534に対応している。グラフDは、センサ100が加速していない時点からセンサ100が下方向に加速している時点までの、所定の波長における信号強度の減少(シフトΔIと表示されている)を示す。グラフC 530に関連して説明したように、信号強度のこの減少は、センサ100が加速していないときには所定の波長が共振波長ではなく、センサ100が下方向に加速しているときには、試験質量体が微小共振器から離れるように変位することによって所定の波長が共振波長であることに起因している。
【0090】
図6は、加速度を測定するための例示的な慣性センサ600を示す図である。慣性センサ600は加速度センサとも呼ばれることがある。慣性センサ600は、
図1の慣性センサ100の実施例である。このセンサは、
図5に関連して説明したように、フックの法則を用いて動作する。
図6に示されるように、慣性センサ600は、微小電気機械慣性試験質量体604を備える。試験質量体604は、それぞれのアンカー616に接続された2つの吊り下げ手段614(この例では試験質量体604の可撓性部分)によって吊り下げられている。試験質量体のこれらの可撓性部分はバネとして機能してもよい。試験質量体604は、慣性センサ600の加速による慣性力の印加下で撓み可能(偏向可能)である。アンカー616はセンサ600に対して固定されている。慣性センサ600はまた、4つの微小共振器602を備える。試験質量体604は、4つの微小共振器602に隣接し、かつ微小共振器602と非連続に吊り下げられている。試験質量体は2つの突出部618を有し、各突出部は2つの微小共振器602の間に位置する。各突出部618は、突出部618のいずれかの側の微小共振器602から脱した光子を導く光チャネルとして作用し得る。
【0091】
慣性センサ600は、試験質量体604の撓みを静電気力で打ち消すための4つの電極606をさらに備える。電極606は試験質量体604の両側に配置され、これによって、静電気力を試験質量体640のいずれかの側に加えて試験質量体604の移動または試験質量体604の位置の維持を正確に制御することができる。4つの電極606のそれぞれは2本のフィンガー部を備える。フィンガー部は突出部であり、これらの用語は本明細書を通じて互換的に使用される。電極606およびフィンガー部の両方は、センサ600に対して固定され、静止している。試験質量体604もまた、フィンガー部を備える。試験質量体604のフィンガー部は、固定電極のフィンガー部の間に位置する。慣性力が印加された状態では、試験質量体604のフィンガー部も撓むので、試験質量体604のフィンガー部は可動である。可動試験質量体のフィンガー部は、固定電極(静止電極)のフィンガー部間にインターディジット状に(互いにかみ合うように)配置されている。各可動試験質量体のフィンガー部の動きは、試験質量体の運動に強く結合されているので、そのフィンガー部の動きが試験質量体全体の動きを生じさせる。従って、固定電極のフィンガー部は、可動試験質量体のフィンガー部の撓みを打ち消すことにより、静電気力で試験質量体604の撓みを打ち消す。これにより、電極606のフィンガー部がそれぞれ少量の力を各試験質量体のフィンガー部に与えることができるので、試験質量体604の正確な制御と微小共振器602に対する試験質量体604の微細な位置決めが可能になる。固定電極のフィンガー部は、X方向及び/又はY方向における試験質量体の撓みを打ち消し得る。固定電極のフィンガー部はまた、Z方向(図示せず)における試験質量体の撓みを打ち消し得る。
【0092】
慣性センサ600は、対応する微小共振器602に入る光および対応する微小共振器602から出る光を結合させるための4つの光カプラ608をさらに備える。慣性センサ600は、1つ以上の検出器(
図6には図示せず)をさらに備える。光は、
図6に図示されるように、矢印の位置で各光カプラ608に入り、対応する微小共振器602に入力およびその微小共振器602から出力された後、光カプラ608から検出器に出力される。
【0093】
試験質量体604がY軸に沿って上下に動くと、試験質量体604と各微小共振器602との間の間隔に変化が生じる。微小共振器602の設置位置により、試験質量体604の動きは、試験質量体604と4つの微小共振器602との間の間隔を差動的に(differential way)変化させる。試験質量体604と各微小共振器602との間の間隔の変化により、その微小共振器602の光共振特性に変化が生じる。各微小共振器602の間隔の変化が異なることにより、各光カプラ608からの光出力に差動変化(different changes)が生じる。各光カプラ608からの光出力の異なる変化を比較することにより、差動出力が決定される。このような差動出力によると、差分に着目しているため、全ての微小共振器で発生する誤差が除去される。したがって、
図6の慣性センサ600を配置することによって差分動作が可能となり、差分動作によると、ドリフトおよび温度オフセットを低減することによって読み出しが大幅に改善される。
【0094】
慣性センサ600は、特定の方法で配置された特定の数の構成要素を備えるが、他の数の構成要素および配置も効果的な慣性センサを提供する。試験質量体の両側にそれぞれ少なくとも1つの微小共振器がある限り、上記の利点を提供する差動測定を実行することができる。微小共振器602はすべて実質的に同じ光共振を有していてもよいし、微小共振器602のそれぞれが異なる光共振を有していてもよい。
【0095】
図6は、試験質量体の周囲の特定の位置に配置されたインターディジット状の電極によって行われる静電駆動を示すが、静電駆動は、X方向および/またはY方向に試験質量体に力を加えるような任意の方法で設定され得る。
【0096】
図7は、慣性センサ100または慣性センサ600が加速度を検出する場合に使用する制御ループフィードバックシステム700を示す。この制御ループフィードバックシステム700は、
図4のフィードバックシステム400の一例である。閉ループフィードバックシステム700は、
図1に関連して前述したように、センサ100またはセンサ600と、センサの内部または外部の制御器とによって実現される。
【0097】
加速によりセンサに力が加わり、センサは出力電圧Vを出力する(710)。センサから出力された電圧は制御器に入力される。この電圧は、アナログデジタル変換器(ADC)712によってデジタル信号に変換され、制御器内のデジタル信号プロセッサ(DSP)714によってフィルタリングされる。フィルタリングは、ハイパスフィルタリングまたはローパスフィルタリングであってもよい。その後、制御器内の閉ループ制御部716によって、フィルタリングされた信号を用いて加速度が決定され得、センサ出力722として提供される。制御器内の閉ループ制御部716は、センサへのフィードバックも提供する。そのために、閉ループ制御部716は非線形性、ドリフト、ノイズを決定し、これらの影響を低減するために電極に電圧信号を出力する。電圧信号はデジタルアナログ変換器(DAC)718によって生成され、センサの電極に供給される。電極は、試験質量体を作動させる電圧信号の大きさに基づいた静電気力を出力する。電極による試験質量体の作動は、センサの測定に対するノイズとドリフトの寄与を除去するためのものであるため、作動は本質的にネガティブフィードバック(負帰還)である。制御ループフィードバックシステム700は、センサのドリフトおよびノイズを継続的に低減し、正確で精密な加速度の出力測定を提供する連続システムである。
【0098】
慣性センサは回転速度を検知するためのものであってもよい。回転速度は、振動ジャイロスコープ構造にかかるコリオリ効果を利用して検知される。回転速度を測定するために、試験質量体は、周波数Ωで第1の方向に(例えばX軸に沿って)駆動される。コリオリ効果により、Z軸を中心とした回転は、周波数ΩでY軸に沿った変位を引き起こす。その後、周波数ΩにおけるY軸の振動の振幅の変化を求めることによって、回転速度を決定することができる。
【0099】
図8は、回転前および回転中における例示的な慣性センサ100の光学機械エレメントおよび出力例を示す。上述したように、慣性センサ100が回転速度を測定するものである場合、試験質量体はX方向に駆動されて周波数Ωで振動する。イメージ
図A 810は、センサ100が回転していないとき、例えばセンサ100が静止しているときの光学機械エレメントを示し、イメージ
図B 820は、センサ100がZ軸を中心に回転しているときの光学機械エレメントを示す。X、Y、Z方向は理解のために与えられた方向であり、センサはZ軸を中心とした回転の速度測定のみに利用されることに限定されないことを理解されたい。
【0100】
イメージ
図A 810およびイメージ
図B 820に示されているように、回転速度を検出するための慣性センサは、2つのサスペンション手段(この例ではバネである)を備える。2つのサスペンション手段は、互いに実質的に垂直に配置され、これにより2つの垂直方向の動きが可能になる。これについては
図9に関連してさらに説明する。イメージ
図B 820に示されているように、Z軸を中心として回転していると、試験質量体は周波数ΩでY軸に沿ってΔyだけ変位する。したがって、センサ100が回転していないときと、センサ100がZ軸を中心に回転しているときとの距離「d」の差は、Δyである。
【0101】
グラフC 830およびグラフD 840では、実線は慣性センサ100が回転していないときを表し、破線は慣性センサ100がZ軸を中心に回転しているときを表す。グラフC 830は、光カプラの出力における信号の高速フーリエ変換(FFT)を示しており、試験質量体104が周波数ΩでX軸に沿って駆動されると、その周波数Ωで振幅が最大になることを示している。グラフC 830は、センサが回転していないときから、センサがZ軸を中心に回転しているときまでの周波数Ωにおける信号ΔIの振幅の変化も示している。
【0102】
回転すると、コリオリの力により、周波数ΩでY軸に振幅変調された振動が生じる。これは、グラフC 830に、センサが静止しているときから回転しているときまでの、周波数Ωにおける信号の振幅の増加ΔIによって示されている。信号の振幅の変化ΔIを求めることで、既知の方程式を用いてコリオリ力を求めることができ、そこから回転速度を決定することができる。
【0103】
グラフD 840は、光カプラ108からの出力の信号強度を経時的に示している。試験質量体104が周波数ΩでX軸に沿って駆動されると、グラフD 840に示すように、Y軸において、Ωの周波数を有する信号の小部分が検出される。グラフD 840は、グラフC 830に関連して上記で説明したように、周波数の振幅の増加も示している。グラフD 840には、特に、回転していないセンサと回転しているセンサとのピーク振幅の差ΔIpkが明確に示されている。
【0104】
微小共振器と試験質量体との間の距離の変化により、微小共振器の共振周波数特性が変化し、検出器における光カプラからの透過出力が変化する。
図2に関連して説明したように、検出器での透過率の変化から、共振周波数の変化を検出することができる。共振周波数の変化は試験質量体の変位に基づいているので、周波数Ωにおける信号の振幅の変化を決定することができ、コリオリ力を決定することができ、結果として回転速度を測定することができる。
【0105】
図9は、回転速度を測定するための例示的な慣性センサ900を示す図である。慣性センサ900はジャイロスコープと呼ばれることがある。慣性センサ900は振動ジャイロスコープの一種である。慣性センサ900は、
図1の慣性センサ100の1つの実施例である。
図9に示されるように、慣性センサ900は、微小電気機械慣性試験質量体904を備える。試験質量体904は、2つのサスペンション手段によって吊り下げられている。サスペンション手段(この例ではバネ914である)は、それぞれのアンカー916に接続されている。アンカー916はセンサに対して固定されている。バネ914は、互いに実質的に垂直に配置され、これによって2つの垂直方向の動きが可能になる。これにより、試験質量体は互いに垂直な2自由度で動くことができる。この2自由度の動きは、以下に説明するように、センサをセンスモードとドライブモードとで動作可能にするために必要である。センサは、
図8に関連して説明したように動作し、Z軸まわりの回転も検出する。しかしながら、X、Y、Zの方向は理解のために与えられたものであり、センサはZ軸まわりの回転速度測定のみに利用されることに限定されないことを理解されたい。
【0106】
試験質量体904は、X軸およびY軸に沿って撓み可能である。慣性センサ900はまた、2つの微小共振器902を備える。試験質量体904は、2つの微小共振器902に隣接するとともに微小共振器902と非連続に吊り下げられている。慣性センサ900はさらに、対応する微小共振器902に入る光および対応する微小共振器902から出る光を結合するための2つの光カプラ908を備える。慣性センサ900は、1つ以上の検出器(
図9には図示せず)をさらに備える。光は光カプラに入力され、光カプラから対応する微小共振器902に光が入力される。その後、光は微小共振器902から出力されて光カプラ908に戻される。光カプラ908は検出器に光を出力する。
【0107】
慣性センサ900は、試験質量体904の撓みを静電気力で打ち消すための2つの電極906をさらに備える。電極906は試験質量体904の互いに垂直な2つの側に配置され、これにより、試験質量体をX軸およびY軸の両方に沿って制御することができる。慣性センサ900は、同時に実行されるセンスモードとドライブモードとを有する。したがって、概念的には、慣性センサ900は、互いに直交し、共通の試験質量体を有する
図1の2つの慣性センサ100と同じものであってもよい。X軸に沿って動く慣性センサの主目的は駆動であり、Y軸に沿って動く他方の慣性センサの主目的は検知である。
【0108】
第1のアンカー916、第1のバネ914、第1の電極906、第1の微小共振器902および第1の光カプラ908のそれぞれはドライブモードに使用され、第2のアンカー916、第2のバネ914、第2の電極906、第2の微小共振器902および第2の光カプラ908のそれぞれはセンスモードに使用される。
図9に示すように、ドライブモードはX軸に沿ったモードであり、試験質量体の右側にある電極906は、試験質量体を周波数Ωで振動させるように駆動するためのものである。図において試験質量体の右側にあるバネ914およびアンカー916は、そのような振動を可能にするために試験質量体904がX方向に自由に動くことができるようにする。試験質量体の左側にある光カプラ908と微小共振器902は、試験質量体が正しい周波数で駆動されていることを検知するためのものである。試験質量体の右側にある電極906は、
図4に関連して説明したように、ノイズとドリフトを低減するためのものでもある。
【0109】
センスモードは、試験質量体の上方のバネ914およびアンカー916を備えたY軸に沿ったモードである。バネ914およびアンカー916は、試験質量体904がY方向に自由に動くことを可能にする。
図8に関連して説明したように、試験質量体がX方向に周波数Ωで駆動されると、試験質量体は、コリオリ効果に起因して、Z軸まわりの回転によってY軸に沿って変位する。試験質量体がY軸に沿ってΔyだけ変位すると、試験質量体の上部の電極906は、
図4に関連して説明したように、試験質量体をY軸に沿って作動させてドリフトおよびノイズを低減する。
【0110】
Y軸に沿った試験質量体の変位によって、試験質量体904と試験質量体904の下の微小共振器902との間の間隔が変化する。これにより、試験質量体904の下方の微小共振器902の光共振特性が変化し、その結果、微小共振器の下方の光カプラ908から検出器(
図9には図示せず)によって検出される透過出力が変化する。
図8に関連して説明したように、光カプラからの透過出力を用いて、回転速度を計算することができる。
【0111】
慣性センサ900は、特定の方法で配置された特定の数の構成要素を備えるが、他の数の構成要素および配置も、回転速度を測定するための効果的な慣性センサを提供する。センサは、Y軸またはX軸まわりの回転速度を測定するためのものであってもよい。センサは、複数の軸まわりの回転速度を測定するものであってもよい。
【0112】
図10は、ジャイロセンサとも呼ばれる回転速度を測定するための慣性センサ1000の別の例を示す図である。慣性センサ1000は、振動ジャイロスコープの一種である。慣性センサ1000は、
図9の慣性センサ900の1つの実施例である。
図10に示されるように、慣性センサ1000は、フレーム1004のように機能する外側の微小電気機械慣性試験質量体と、内側の微小電気機械慣性試験質量体1054とを備える。外側試験質量体フレーム1004は、4つのサスペンション手段1034によって吊り下げられている。サスペンション手段1034(この例では外側試験質量体フレーム1004の可撓性部分である)は、それぞれのアンカー1016に接続されている。アンカー1016はセンサに対して固定されている。外側試験質量体フレーム1004のこれらの可撓性部分は、バネとして動作してもよい。サスペンション手段1034は、X方向には高い剛性を有するが、Y方向には柔軟性を有する(bendable)である。従って、外側試験質量体フレーム1004はY方向に動くように拘束される。内側試験質量体1054は、2つのサスペンション手段1044によって吊り下げられている。サスペンション手段1044(この例では内側試験質量体1054の可撓性部分である)は、内側試験質量体1054の外側から外側試験質量体フレーム1004の内側に連結されている。内側試験質量体1054のこれらの可撓性部分は、バネとして動作してもよい。サスペンション手段1044は、Y方向に高い剛性を有するが、X方向に柔軟性を有する。したがって、内側試験質量体1054は、外側試験質量体フレーム1004に対してY方向に動くことを拘束され、外側試験質量体フレーム1004とともにY方向に動く。内側試験質量体1054は、外側試験質量体フレーム1004に対してX方向に動くことができる。このように、外側試験質量体フレーム1004のサスペンション手段1034のX方向における剛性により、内側試験質量体1054のみが、回転が加えられたときに生じるX軸のコリオリ力を受ける。
【0113】
慣性センサ1000はまた、4つの微小共振器1002を備える。内側試験質量体1054は、微小共振器1002のうちの2つに隣接するとともに当該2つの微小共振器1002と非連続に吊り下げられている。外側試験質量体フレーム1004は、他の2つの微小共振器1002に隣接するとともに当該他の2つの微小共振器1002と非連続に吊り下げられている。慣性センサ1000はさらに、対応する微小共振器1002に入る光およびその微小共振器1002から出る光と結合するための4つの光カプラ1008を備える。慣性センサ1000は、1つ以上の検出器(
図10には示されていない)をさらに備えてもよい。
図10に矢印で示すように、光は光カプラに入り、対応する微小共振器に入力され、その微小共振器から出力された後、検出器に出力される。
【0114】
慣性センサ1000は、外側試験質量体フレーム1004のY方向への撓みを静電気力で打ち消すための4つの電極1006をさらに備える。外側試験質量体フレーム1004の上方に2つの電極1006があり、外側試験質量体フレーム1004の下方に2つの電極1006があるので、静電気力を外側試験質量体フレーム1004の両側に印加して、外側試験質量体フレーム1004の移動または位置の維持を正確に制御することができる。慣性センサ1000はさらに、内側試験質量体1054のX方向への撓みを静電気力で打ち消すための2つの電極1046を備える。6つの電極1006、1046のそれぞれは、2本のフィンガー部を備え、
図6に関連してより詳細に説明するように、インターディジット型である。
【0115】
慣性センサ1000は、
図9に関連して上記で説明したように、同時に実行されるセンスモードとドライブモードとを有する。
図10に示すように、ドライブモードはY軸に沿っており、センスモードはX軸に沿っている。サスペンション手段1044、1034の向きは、上述したように、内側試験質量体1054および外側試験質量体フレーム1004の移動方向を拘束するので、ドライブモードがセンスモードに相互結合(cross couple)することはなく、同様にコリオリ効果がドライブモードに結合することもない。
【0116】
ドライブモードについては、外側試験質量体フレーム1004の上部および下部にある4つの電極1006は、フレーム1004を駆動して周波数Ωで振動させるためのものである。外側試験質量体フレーム1004と内側試験質量体1054とを接続するサスペンション手段1044は、Y方向に剛性があり、したがって外側試験質量体フレーム1004から内側試験質量体1054に振動を伝える。したがって、振動エネルギーは、外側試験質量体フレーム1004から内側試験質量体1054に伝達され、内側試験質量体がコリオリ効果を受けるようになる。外側の試験質量体フレーム1004の上部および下部の突出部のそれぞれの側にある微小共振器1002とそれに対応する光カプラ1008とは、試験質量体フレーム1004が正しい周波数で駆動されていることを検知するためのものである。
【0117】
センスモードについては、内側試験質量体1054の右側および左側にあるサスペンション手段1044によって、X方向に自由に動くことができる。内側試験質量体1054は、Z軸を中心とする回転によってX方向に変位する。試験質量体1054がX方向にΔxだけ変位すると、
図4に関連して説明したように、試験質量体1054の内部の電極1046は、内側試験質量体1054をX軸に沿って作動させ、ドリフトおよびノイズを低減する。
【0118】
外側試験質量体フレーム1004がY方向に周波数Ωで駆動されているとき、振動エネルギーは、サスペンション形状によってX軸方向に動くように拘束されている内側試験質量体1054に伝達される。センサ1000が回転すると、内側試験質量体1054は、コリオリ効果により周波数ΩでX軸に沿って撓む。
図8および
図9に関連して説明した方法と同じ方法で、内側試験質量体の中心柱の左右にある微小共振器1002を使用して回転速度を検出することができる。
【0119】
図10は、試験質量体の周囲の特定の位置に配置されたインターディジット電極によって行われる静電駆動を示している。静電駆動は、X方向およびY方向に試験質量体に力を加えるような任意の方法で配置され得る。
【0120】
図10に示す配置では、バネが駆動方向(ドライブ方向)またはセンス方向のいずれかに非常に硬くなるように調整可能な2つのフレームを使用するため、センス方向とドライブ方向の振動の軸間結合(cross-axis coupling)が減少するという利点がある。
【0121】
図10は、内側試験質量体1054および外側試験質量体フレーム1004を有するセンサ1000を示しているが、センサは単一の試験質量体を有することができ、ディスク型半球システムや音叉構造など他の方法で設計可能である。
【0122】
図10は、特定の数の各構成要素を備えるが、センサは、任意の数の光カプラ、微小共振器、試験質量体、および電極を備えることができ、任意の単一または複数の軸の加速度および回転速度の測定を行うことができる。
【0123】
図11は、
図9の慣性センサ900または
図10の慣性センサ1000が回転速度を検出する場合に使用する制御ループフィードバックシステム1100を示す。この制御ループフィードバックシステム1100は、
図4のフィードバックシステム400の一例である。閉ループフィードバックシステム1100は、慣性センサと、センサの内部または外部の制御器とによって実現される。
【0124】
センサがZ軸を中心に回転しているとき(1120)、センサはセンスモード1114とドライブモード1113の両方にある。閉ループフィードバックを実行する制御器は、ドライブモードおよびセンスモードに対して別々の閉ループ制御を有する。ドライブモード用の閉ループ制御部1116は、閉ループフィードバックを使用して振幅を安定に保ち、ドライブモード振動振幅を所定の基準設定値と比較し規制することによって静電気力を調整する(1122)。センスモード用の閉ループ制御部1118は、センサ出力を監視し、周波数Ωにおける振幅の変化を調べ、静電駆動部(静電アクチュエーション部)1146を用いてそのような変化を打ち消す。
【0125】
ドライブモード1113では、静電駆動部1122を用いて試験質量体が周波数ΩでX方向に駆動される。センサにはX方向に駆動力がかかり、センサは出力電圧Vを出力する。センサの出力電圧は、ドライブモード用の閉ループ制御のための制御器に入力される。出力電圧は、電圧をデジタル信号に変換するために制御器内のADC1128に入力され、DSP1130を使用してフィルタリングされる。その後、信号は復調され(1132)、所定の基準点と比較可能なドライブモード振動振幅を得る。特に、復調された信号は、振動の振幅および振動の周波数のオフセットに関する情報を抽出するために使用され、その後、閉ループ制御からのフィードバックによって補正され得る。閉ループ制御部1134は、ドライブモード振動振幅を所定の基準設定値と比較し、安定性を維持するために必要なセンサの作動を決定する。閉ループ制御部1134は、X軸方向の静電駆動部1122のために、変調器1126およびDAC1124を介して駆動信号をセンサの適切な電極に送る。また、デジタル制御発振器1108に接続された位相ロックループ(PLL)1106が設けられている。PLL1106は、周波数をロック状態に保ち、システムの他の部分で使用される周波数基準を生成する。回転速度に対するセンサの感度を高めるには、駆動力が非常に正確で、安定したピーク振幅および周波数を有する振動を生成することが重要である。
【0126】
センスモード1114では、Z軸を中心とするセンサの回転により(1120)、Y軸に沿って試験質量体に力が加えられる。センサは出力電圧Vを出力する。センサの出力電圧は、センスモード用の閉ループ制御のための制御器に入力される。出力電圧は、電圧をデジタル信号に変換するためにADC1136に入力され、DSP1138を使用してフィルタリングされる。次に、信号は復調されて(1140)、回転速度に比例し、回転速度に応答して発生するコリオリ振幅を表す同相レートを得る。復調器1140は、周波数の不一致に関連する誤差を表す直交信号も出力する。次いで、閉ループ制御部1142は、同相レートを用いて回転速度を決定し、出力する(1152)。また、閉ループ制御部1142は、直交信号と同相レートを抑制するための補正信号を出力する。補正信号は変調され(1150)、DAC1148を介して電圧信号に変換され、Y軸方向の静電駆動のためのセンサの適切な電極に送られる(1146)。
【0127】
図12は、例示的な慣性測定ユニット(IMU)1200のブロック図である。IMU1200は、少なくとも1つの慣性センサ100とプロセッサ1202とを備える。
図12は、6つの慣性センサ100を図示している。慣性センサ100のうち5つは、オプションであることを示す破線で示されている。IMU1200には6つのセンサ100が示されているが、慣性測定ユニット1200は、より多くのまたはより少ない慣性センサを備えることができる。プロセッサは、本明細書で説明する任意の制御器の動作を実行することができる。
図1の慣性センサ100がIMUに含まれるものとして示されているが、IMUは、本明細書に記載される任意の慣性センサを含んでもよい。IMUは、
図6の慣性センサ600、
図9の慣性センサ900、および/または
図10の慣性センサ1000を備えてもよい。
【0128】
プロセッサ1202は、各慣性センサ100について、1つ以上の検出器110から電気信号を受信し、試験質量体104と微小共振器102との間の間隔の変化に応答した1つ以上の微小共振器102の光共振特性の変化を検出し、1つ以上の微小共振器102の光共振特性の変化に基づいて慣性センサ100の加速度および/または回転速度を決定し、1つ以上の微小共振器102の光共振特性の変化に基づいて1つ以上の電極106の静電気力を制御するように構成されている。1つ以上の電極106の静電気力は、対応する微小共振器102の光共振特性の変化に基づいて制御されてもよい。プロセッサ1202はさらに、各電極106の静電気力を変化させ、各微小共振器102の光共振特性の変化を検出することによって、各慣性センサ100を較正(キャリブレーション)するように構成されてもよい。
【0129】
IMU1200は、
図12に示すように、6つの慣性センサを備えてもよい。6つの慣性センサは、加速度検出用の3つの慣性センサ100と回転速度検出用の3つの慣性センサ100とを含む。加速度検出用の3つの慣性センサ100はそれぞれ異なる軸を検出するように配置され、回転速度検出用の3つの慣性センサ100はそれぞれ異なる軸を検出するように配置される。例えば、3つの加速度検出用慣性センサ100は、X軸方向の加速度を検出するためのセンサ100と、Y軸方向の加速度を検出するためのセンサ100と、Z軸方向の加速度を検出するためのセンサ100とを備えてもよい。また、3つの回転速度検出用慣性センサ100は、X軸まわりの回転速度を検出するためのセンサ100と、Y軸まわりの回転速度を検出するためのセンサ100と、Z軸まわりの回転速度を検出するためのセンサ100とを備えてもよい。これにより、3次元軌道のトラッキングのための6自由度を提供することが可能になる。プロセッサ1202は、各慣性センサ100の加速度および/または回転速度に基づいて、慣性測定ユニット1200の総加速度および/または総回転速度を算出する。
【0130】
この例のIMUは、加速度検出用の3つの慣性センサ100と回転速度検出用の3つの慣性センサ100とを備えるが、IMU1200は、加速度検出用の任意の数の慣性センサ100と回転速度検出用の任意の数の慣性センサ100を備えることができる。
【0131】
本明細書に記載された方法の多くの変形は、当業者には明らかであろう。
【0132】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示された各特徴は、明示的に別段の記載がない限り、同一、同等または類似の目的を果たす代替的な特徴で置き換えることができる。したがって、明示的に別段の記載がない限り、開示される各特徴は、同等または類似の特徴の包括的なシリーズの一例に過ぎない。
【0133】
本発明は、前述の実施形態の詳細に限定されるものではない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示された特徴の新規なもの、または新規な組み合わせ、あるいはそのように開示された方法またはプロセスのステップの新規なもの、または新規な組み合わせに及ぶ。特許請求の範囲は、単に前述の実施形態のみをカバーするように解釈されず、特許請求の範囲に含まれる任意の実施形態もカバーするように解釈されるべきである。
【国際調査報告】