(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】細胞集合体の培養のための微細流体の懸滴培養デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240313BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20240313BHJP
【FI】
C12M3/00
C12N5/071
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560009
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 KR2022005199
(87)【国際公開番号】W WO2022216132
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】10-2021-0046483
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0044172
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522011562
【氏名又は名称】セルアートジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】チョ,スン ウ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ス ギョム
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ボバン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA04
4B029AA11
4B029BB11
4B029CC01
4B029DA03
4B029DF05
4B029DG06
4B029GA03
4B029GB03
4B065AA90X
4B065BC20
4B065BC26
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、細胞集合体の培養のための微細流体の懸滴培養デバイスに関し、従来のオーガノイド/スペロイドの培養技術に比べて、本発明のデバイスで培養されたオーガノイド/スペロイドは、更に増進している幹細胞活性、及び高い分化度を持たせる効果があり、繰り返した再使用が可能であり、ウェルのサイズ及び個数を変更することで多様な用途に応じたプラットホームとして活用可能であり、デバイスに撹拌機を活用することで、マイクロチャンネルを介してレザボア及び培養チャンバ内のウェルに位置した培養液が流れ続けるようになって、全体ウェルの環境が同一であるように維持され、細胞集合体を高効率で培養することができる。また、前記細胞集合体の培養システムは、疾患表現型が維持される細胞集合体の大量生産を通じて、疾患の研究、及び薬物スクリーニングモデルとしての活用が可能であり、また、治療用細胞集合体の大量生産を通じた疾患の治療のための移植治療にも適用が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上のウェルを含む培養チャンバと、
培養液を格納する一つ以上のレザボアと、
培養チャンバ及びレザボアを連結するマイクロチャンネルと、
を含む、細胞集合体の培養デバイス。
【請求項2】
前記培養チャンバは、複数のウェルを連結するマイクロチャンネルを更に含む、請求項1に記載の細胞集合体の培養デバイス。
【請求項3】
前記ウェルの直径は、1.5~4mmであり、
前記マイクロチャンネルで連結されたウェルの間隔は、1.5~5mmである、請求項1に記載の細胞集合体の培養デバイス。
【請求項4】
前記レザボアは、デバイスの両端に位置する、請求項1に記載の細胞集合体の培養デバイス。
【請求項5】
前記細胞集合体は、中間葉幹細胞、神経幹細胞、血管内皮細胞、誘導万能幹細胞、胚芽幹細胞、組織幹細胞、胎児幹細胞、癌幹細胞、及び心臓細胞の何れか一つから由来したスペロイドまたはオーガノイドである、請求項1に記載の細胞集合体の培養デバイス。
【請求項6】
前記細胞集合体は、脳、眼杯(optic cup)、腎臓、肝、膵膓、神経管、胃膓、大腸、前立腺、乳房、心臓、唾液腺(salivary gland)、子宮内膜(endometrium)、乳腺(mammary gland)、甲状腺、舌、小腸、食道、脊髓、肌、胆管、肺、血管、筋肉、副腎皮質、及び甲状腺オーガノイドからなる群の一つから由来したものである、請求項1に記載の細胞集合体の培養デバイス。
【請求項7】
撹拌機(rocker)と、
マイクロチャンネルを介して共有される培養液と、
を含む、請求項1~6の何れか一項に記載の細胞集合体の培養デバイス。
【請求項8】
前記デバイスは、前記撹拌機により揺れ運動(swing motion)する、請求項7に記載の細胞集合体の培養デバイス。
【請求項9】
請求項7に記載の培養デバイスを用いて細胞集合体を培養する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞集合体の培養のための微細流体の懸滴培養デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
組織特異的なオーガノイドの培養技術は、現在、幹細胞の研究において最も脚光を浴びている最先端の分野であって、難治性疾患モデル、患者オーダーメード型薬物スクリーニングプラットホーム、新薬の開発のための体外モデル等、再生医学、及び新薬研究の分野において活用性が無限に拡張されることができる。
【0003】
微細流体デバイスを用いて細胞を培養する技術は、メクロスケール培養とは異なって、細胞に適合した微細な環境を提供し、周辺環境に対して鋭敏に反応する細胞の培養条件を精緻に調節する技術であって、近来の細胞組織工学分野において脚光を浴びている。
【0004】
しかし、動的培養(dynamic culture)は、静的培養(static culture)とは異なって、流体の流れが必要なので、シリンジポンプや油圧ポンプのような複雑な設備、及びユーザにとって高い熟練度が要求されている。
【0005】
既存のオーガノイド研究において、培養液に流れを与えるために使用した方法としては、培養皿(culture dish)を軌道型シェーカー(orbital shaker)に搭載するか、スピンナーフラスコ(spinner flask)のようなバイオリアクターを用いたが、各オーガノイドに提供される流体の流れが不均一なので、オーガノイド研究において最大の問題として指摘されている極甚な個体差(batch-to-batch variation)を引き起こすことができる。
【0006】
既存の懸滴培養技術は、硝子またはペトリ皿の上にマイクロリットル嵩(20-50μl)の細胞培養液を上げながら施行される。その後、硝子またはペトリ皿を覆す。この液滴は、表面張力のため落ちることが防止され、培養液中にぶら下げられている細胞は、重力により定着され、培養液の内部に定着されている細胞は、隣接した細胞と相互作用して結合を成しながら、3次元スペロイドまたは3次元マイクロ組織を形成する。このような技術における最大の問題は、液滴(Droplet)からの培養液の交換である。
【0007】
ここで、本発明者は、実験室でよく使用されている撹拌装置を用いて、別途の設備なしに流体の流れを生成することができる微細流体の懸滴培養デバイスを開発し、オーガノイドの生存能、分化能、及び機能性を増進させることができることが確認できた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、一つ以上のウェルを含む培養チャンバと、培養液を格納する一つ以上のレザボアと、培養チャンバ及びレザボアを連結するマイクロチャンネルと、を含む、細胞集合体の培養デバイスを提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、前記デバイスと、撹拌機(rocker)と、マイクロチャンネルを介して共有される培養液と、を含む、細胞集合体の培養システムを提供することを目的とする。
【0010】
本発明は、前記培養システムを用いて、細胞集合体を培養する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、一つ以上のウェルを含む培養チャンバと、培養液を格納する一つ以上のレザボアと、培養チャンバ及びレザボアを連結するマイクロチャンネルと、を含む、細胞集合体の培養デバイスを提供する。
【0012】
本発明の一具体例として、前記培養チャンバは、複数のウェルを連結するマイクロチャンネルを更に含むことができる。
【0013】
本発明の一具体例として、前記ウェルの直径は1.5~4mmであり、前記マイクロチャンネルで連結されたウェルの間隔は1.5~5mmであり得る。
【0014】
本発明の一具体例として、前記レザボアは、デバイスの両端に位置するものであり得る。
【0015】
本発明の一具体例として、前記細胞集合体は、中間葉幹細胞、神経幹細胞、血管内皮細胞、誘導万能幹細胞、胚芽幹細胞、組織幹細胞、胎児幹細胞、癌幹細胞、及び心臓細胞の何れか一つから由来したスペロイドまたはオーガノイドであり得る。
【0016】
本発明の一具体例として、前記細胞集合体は、脳、眼杯(optic cup)、腎臓、肝、膵膓、神経管、胃膓、大腸、前立腺、乳房、心臓、唾液腺(salivary gland)、子宮内膜(endometrium)、乳腺(mammary gland)、甲状腺、舌、小腸、食道、脊髓、肌、胆管、肺、血管、筋肉、副腎皮質、及び甲状腺オーガノイドからなる群の一つから由来したものであり得る。
【0017】
本発明の他の一態様は、前記デバイスと、撹拌機(rocker)と、マイクロチャンネルを介して共有される培養液と、を含む、細胞集合体の培養システムを提供する。
【0018】
本発明の一具体例として、前記デバイスは、前記撹拌機により揺れ運動(swing motion)するものであり得る。
【0019】
本発明の他の一態様は、前記培養システムを用いて細胞集合体を培養する方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の細胞集合体の培養デバイス、これを含む細胞集合体の培養システム、及びこれを用いる細胞集合体を培養する方法は、従来の細胞集合体の培養技術に比べて更に増進した幹細胞活性、及び高い分化度の効果がある。
【0021】
前記細胞集合体の培養デバイスは、繰り返した再使用が可能であり、ウェルのサイズ及び個数を変更することで、多様な用途に応じたプラットホームとして活用可能である。
【0022】
また、前記細胞集合体の培養システムは、撹拌機を活用することでマイクロチャンネルを介してレザボア、及び培養チャンバ内のウェルに位置した培養液が流れ続けるようになって、全体ウェルの環境が同一であるように維持され、細胞集合体を均一且つ高効率で培養することができる。
【0023】
なお、前記細胞集合体の培養システムは、疾患表現型が維持される細胞集合体の大量生産を通じて、疾患の研究、及び薬物スクリーニングモデルとしての活用が可能であり、さらに、治療用細胞集合体の大量生産を通じた疾患の治療のための移植治療にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の懸滴培養チップ(hanging drop chip;HD chip)の構造を示す図である。
【
図2】懸滴培養チップ(HD chip)の構造と培養方式を示す図である。
【
図3】懸滴培養チップ(HD chip)の構造と培養方式を示す図である。
【
図4】懸滴培養チップ(HD chip)を用いたスペロイドの形成、及び培養写真である。
【
図5】PDMSで製作された懸滴培養チップ(HD chip)の再使用可能性(reusability)を示す図である。
【
図6】懸滴培養チップ(HD chip)を用いた多様な細胞集合体の形成方式を示す写真である。
【
図7】既存のペトリディッシュ懸滴培養方式の比較のために、脂肪幹細胞スペロイド(hADSC spheroid)培養した結果を示す写真である。
【
図8】既存のU-bottomウェル-プレート培養方式との比較のために、脂肪幹細胞スペロイド(hADSC spheroid)培養した結果を示す写真である。
【
図9】多様なスペロイド/オーガノイド培養を適用した例示として、神経幹細胞スペロイド(hNSC spheroid)を培養した結果を示す写真である。
【
図10】多様なスペロイド/オーガノイド培養を適用した例示として、心臓スペロイド(cardiac spheroid)を培養した結果を示す写真である。
【
図11】多様なスペロイド/オーガノイド培養を適用した例示として、脳オーガノイド(human iPSC-derived brain organoid)を培養した結果を示す写真である。
【
図12】HD chipにおいて培養された肝オーガノイド(Human iPSC-derived liver organoid)の細胞構成による分化能の差異の分析結果を示す図である。
【
図13】人間iPSC由来の肝オーガノイド(Human iPSC-derived liver organoid、HEM)の長期培養の分化能を比較した結果である。
【
図14】人間iPSC由来の肝オーガノイド(Human iPSC-derived liver organoid、HEM)のマーカーの発現の分析結果を示す図である。
【
図15】人間iPSC由来の肝オーガノイド(Human iPSC-derived liver organoid、HEM)のマーカーの発現の分析結果を示す図である。
【
図16】人間iPSC由来の肝オーガノイドのマーカーの発現、及び機能性の分析結果を示す図である。
【
図17】人間iPSC由来の肝オーガノイドの長期培養時のマーカーの発現の比較結果を示す図である。
【
図18】高効率(high-throughput)HD chipの製作結果を示す図である。
【
図19】高効率(high-throughput)HD chipの製作結果を示す図である。
【
図20】高効率(high-throughput)HD chipの製作結果を示す図である。
【
図21】100-well HD chipで生産された人間iPSC由来の肝オーガノイド(Human iPSC-derived liver organoid)の均一性の分析結果を示す図である。
【
図22】高効率(high-throughput)HD chipにおいて培養された人間iPSC由来の肝オーガノイド(Human iPSC-derived liver organoid)遺伝子の発現の均一性の比較結果を示す図である。
【
図23】人間iPSC由来の正常及び非アルコール性脂肪肝炎オーガノイドの大量生産及び機能性の分析結果を示す図である。
【
図24】人間iPSC由来の非アルコール性脂肪肝炎オーガノイドの大量生産、及び有効薬物のテスト結果を示す図である。
【
図25】人間iPSC由来の非アルコール性脂肪肝炎オーガノイドの大量生産、及びROS定量分析の結果を示す図である。
【
図26】人間iPSC由来の膵膓オーガノイド(Human iPSC-derived pancreas organoid)大量培養結果を既存のMicrowell、及びU-bottomウェル-プレート方式と比較して示す図である。
【
図27】人間iPSC由来の膵膓オーガノイド(Human iPSC-derived pancreas organoid)のマーカーの発現、及び分化能の比較結果を示す図である。
【
図28】人間iPSC由来の膵膓オーガノイド(Human iPSC-derived pancreas organoid)のインシュリン生産の比較結果を示す図である。
【
図29】Chip-to-chip transferを通じたspheroid(人間脂肪幹細胞(hADSC)スペロイド)fusion結果を示す図である。
【
図30】人間iPSC由来の肝オーガノイド-膵膓オーガノイド(Human iPSC-derived liver-pancreas fused organoid)の異種臓器間の接合方式を比較した結果を示す図である。
【
図31】高効率(high-throughput)HD chipを製作し、これを通じた脂肪幹細胞スペロイド(hADSC spheroid)間の高効率の接合結果を示す図である。
【
図32】HD chip基盤の肝-膵膓オーガノイドの高効率の接合結果を示す図である。
【
図33】HD chipにおいて培養された肝オーガノイド(Human iPSC-derived liver organoid)のマウス脂肪肝炎モデルへの移植結果を示す図である。
【
図34】HD chipにおいて培養された肝オーガノイド(Human iPSC-derived liver organoid)のマウス脂肪肝炎モデルへの移植結果を示す図である。
【
図35】On-chip薬物スクリーニング、及びプレートリーダーを用いた蛍光定量分析(hADSC-人間脂肪幹細胞スペロイド)の結果を示す図である。
【
図36】3Dプリンティングを用いたHD chip試製品の製作結果を示す図である。
【
図37】アクセサリーを用いた3次元スペロイド/オーガノイド培養結果を示す図である。
【
図38】アクセサリーを用いた多層構造の3次元の脂肪幹細胞(ADSC)スペロイドの培養結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一態様は、一つ以上のウェルを含む培養チャンバと、培養液を格納する一つ以上のレザボアと、培養チャンバ及びレザボアを連結するマイクロチャンネルと、を含む、細胞集合体の培養デバイスを提供する。
【0026】
前記培養チャンバは、一つ以上のウェルを含み、前記ウェルは、培養液で満たされているため、細胞集合体を培養することができる。前記培養チャンバのウェルは、1列に培養されることができると共に、培養の規模や用途を考慮して、多列に構成されることもできる。
【0027】
前記レザボアは、培養チャンバに培養液をマイクロチャンネルを介して供給、共有する装置であって、実験の目的を考慮して、多様な形態、及び個数に製作されることができる。
【0028】
前記マイクロチャンネルは、培養チャンバ及びレザボアを連結するものであって、培養液が流れることができれば、その形態、サイズ、長さ等は制限されることなく変更可能である。
【0029】
本発明の一具体例として、前記培養チャンバは、複数のウェルを連結するマイクロチャンネルを更に含むものであり得る。前記培養チャンバは、一つ以上のウェルを含むため、培養チャンバとレザボアとの間のマイクロチャンネルだけではなく、ウェル間のマイクロチャンネルを更に含めて、複数のウェルとレザボアとの間の培養液を共有して、一定の環境を維持することができる。一方、複数のウェル間のマイクロチャンネルは、一部の実験の目的を考慮して、一部のウェル間にだけ形成されることもできる。
【0030】
本発明の一具体例として、前記ウェルの直径は、1.5~4mm、具体的に2~3.1mmであり、前記マイクロチャンネルで連結されたウェルの間隔は、1.5~5mm、具体的に2.5~4.5mmであり得る。更に具体的に、前記ウェルの直径は、2.0mmまたは3.1mmであり、前記マイクロチャンネルで連結されたウェルの間隔は、2.5mmまたは4.5mmであることがあり、最も具体的に、前記ウェルの直径が2.0mmである場合、ウェルの間隔は2.5mmであり、ウェルの直径が3.1mmの場合、ウェルの間隔は4.5mmであり得る。
【0031】
本発明の一具体例として、前記レザボアは、デバイスの両端に位置するものであり得る。前記レザボアは、デバイスの両端に位置し、培養チャンバの一つ以上のウェルとマイクロチャンネルとで連結されており、各ウェル間もマイクロチャンネルで連結されており、レザボア-1つ以上のウェル-レザボアが連結され、培養液が全体に供給、共有されることができる。
【0032】
本発明の一具体例として、前記細胞集合体は、中間葉幹細胞、神経幹細胞、血管内皮細胞、誘導万能幹細胞、胚芽幹細胞、組織幹細胞、胎児幹細胞、癌幹細胞、及び心臓細胞の何れか一つから由来したスペロイドまたはオーガノイドであり得る。
【0033】
前記「スペロイド」とは、球状の細胞の凝集塊を意味する。実質的に、球状とは、完全な球状の物に限定されるのではなく、若干、扁平の形状となっている形態も含まれ得る。
【0034】
前記「オーガノイド(organoid)」とは、組織または全分化能幹細胞から由来した細胞を、3D形態で培養して、人工臓器のような形態で製作したマイクロ生体器官を意味する。前記オーガノイドは、幹細胞から発生し、生体内の状態と類似した方式でセルフ-組織化(またはセルフ-パターン化)する臓器特異的な細胞を含む三次元組織類似体として制限された要素(Ex.growth factor)パターニングにより、特定の組織に発達することができる。前記オーガノイドは、細胞の本来の生理学的特性を有し、細胞混合物(限定された細胞類型だけではなく、残存幹細胞、近接生理学的ニッチ(physiological niche)を何れも含む)の元々の状態を模倣する解剖学的の構造を有することができる。前記オーガノイドは、3次元培養方法を通じて、細胞と細胞の機能が更によく配列され、機能性を有する器官のような形態と組織特異的な機能を有することができる。
【0035】
本発明の一具体例として、前記細胞集合体は、脳、眼杯(optic cup)、腎臓、肝、膵膓、神経管、胃膓、大腸、前立腺、乳房、心臓、唾液腺(salivary gland)、子宮内膜(endometrium)、乳腺(mammary gland)、甲状腺、舌、小腸、食道、脊髓、肌、胆管、肺、血管、筋肉、副腎皮質、及び甲状腺オーガノイドからなる群から一つ以上選択されるものであり得る。
【0036】
本発明の他の一態様は、前記デバイスと、撹拌機(rocker)と、マイクロチャンネルを介して共有される培養液と、を含む、細胞集合体の培養システムを提供する。
【0037】
前記「撹拌機(rocker)」は、前記培養デバイスを一定の周期で運動させることで、前記培養液に動的流れ(flow)を付与することができる。前記撹拌機は、前記デバイスの位置を変化させて、前記培養液に動的流れを付与することができれば充分であり、運動の範囲や形態が特に制限されるのではない。
【0038】
前記「培養液(culture medium)」は、細胞に対する培養媒体であると同時に、栄養分や酸素等の転送媒体である。前記培養液は、細胞に必要な栄養分や酸素等を供給し、老廃物を取り除くことができる。
【0039】
本発明の一具体例として、前記デバイスは、前記撹拌機により揺れ運動(swing motion)するものであり得る。
【0040】
前記「揺れ運動(swing motion)」は、機械装置の作動形態を意味するものであって、駆動部分が軸を中心として回転するのではなく、一定の区間を往復する運動を意味する。
【0041】
前記デバイスは、一定の周期で揺れ運動するので、前記デバイス内の培養液がチャンバ内で一定の周期で往復運動することができ、前記細胞集合体が安定的に培養することができる環境が構築され得る。
【0042】
本発明の他の一態様は、前記培養システムを用いて細胞集合体を培養する方法を提供する。
【0043】
前記培養は、適合した条件で細胞を維持、及び成長させる過程を意味し、適合した条件は、例えば、細胞が維持される温度、栄養素の可溶性、大気のCO2含量、及び細胞密度を意味することができる。
【0044】
互いに異なる類型の細胞を維持、増殖、拡大、及び分化させるための適切な培養条件は、当該技術分野に公知されており、文書化されている。前記細胞集合体の形成に適合した条件は、細胞分化、及び多細胞構造の形成を容易にするか、許容する条件であり得る。
【実施例】
【0045】
以下、一つ以上の具体例を、実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、一つ以上の具体例を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるのではない。
【0046】
実施例1:オーガノイド培養デバイスの製造
【0047】
オーガノイドが培養される培養チャンバと、培養液を盛り込むレザボアと、で構成されたチップを具現し、実験の目的とオーガノイドの特性により、ウェルの直径、及び間隔を選択できるように具現した。具体的に、高効率のオーガノイドの形成が目標である場合、ウェルのサイズと間隔を減らして、培養効率を高めることができ、オーガノイドの形成だけではなく、分析まで目標である場合、既存のプレートと規格を合わせて常用化されたプレートリーダーを用いることができる。
【0048】
一方、培養液の表面張力を用いて培養液の流れ、及び細胞を閉じこめる培養液の液滴を維持することができ、HD chipは、基本的にPDMS高分子を用いて一般のmicrofluidic chipの製作方式で製作した。
【0049】
HD chip製作の具体的な方法は、目的とするプレート図案をデザイン(
図1)した後、リソグラフィ工程を通じて彫り上げのパターンになっているシリコーンウェハを製作し、これを鋳型として用いて、PDMS(Polydimethylsiloxane)を硬化させるソフトリソグラフィ(soft lithography)工程を通じてデバイスパターンPDMSを製作する。ブレードで整形し、バイオプシーパンチ(biopsy punch)を用いてウェルチャンバや培養液の注入口に穴を掘る。このように形成した素子は、表面に酸素プラズマを60Wで1分間照射して活性化させた後、互いに接合する。完全な結合のために、70度以上のオーブンに一晩置いた後、高温・高圧の滅菌、及びUV照射を通じて滅菌する。
【0050】
その結果、
図2の上端に示すように、96ウェルデバイス、及び25ウェルデバイスを製造した。
【0051】
また、製作されたデバイスに人間脂肪幹細胞(hADSC)を培養した際、一日以内に細胞が固まり、スペロイドを形成することができる(hADSCの場合、6時間以内)ことが確認できた。
【0052】
具体的に、実施例1で製造された25ウェルデバイスに、人間脂肪幹細胞(hADSC)を入れて、これを培養した。
【0053】
25ウェルデバイスに細胞懸濁液を注入すると、重力により細胞が沈み込み、培養液の液滴が末端の点に集まるようになり、時間が経つことにより細胞が互いに固まり、6000 cell/organoidの水準のスペロイド/オーガノイドの形態が確認できた(
図2の下側)。
【0054】
一方、本発明のデバイスは、撹拌機(rocker)を用いて、両方の培養液格納レザボアの培養液と、各培養チャンバの培養液とを持続的に交ぜながら、消耗された培養液と分泌された老廃物とを交換することができる。
【0055】
これを通じて、撹拌機上でもHD chip内に培養液の液滴構造が安定的に維持され、両方のレザボアを通じて容易に培養液を交替できることが確認できた(
図3)。
【0056】
実験例1:懸滴培養チップ(HD chip)を用いたスペロイドの形成、及び培養結果の確認
【0057】
培養チャンバの数を増やして(96 well)高効率のスペロイド/オーガノイドの形成プラットホームとして使用可能であることが確認できた(
図4の左側)。このような結果を通じて、一度に容易に細胞を注入して、スペロイド/オーガノイドを大量に形成することができる。
【0058】
図4の右側に示すように、HD chipを利用すれば、サイズが均一なスペロイドを形成することができ、注入する細胞数に応じて、スペロイドのサイズの調節が可能であり、スペロイドの形成初期から長期培養(long-term culture)する間、デバイスの表面に付着するか、変形することなく安定的なスペロイドの培養が可能であることが確認できた。
【0059】
実験例2:PDMSで製作された懸滴培養チップ(HD chip)の再使用可能性(reusability)の確認
【0060】
PDMSで製作された懸滴培養チップ(HD chip)の再使用可能性(reusability)が確認できた。
【0061】
HD chipデバイスは、多様な材料で生産可能であるが、特に、PDMS材質で製作された場合、滅菌を通じた再活用が可能である。
【0062】
懸滴培養チップをPDMSで製作し、実際に人間脂肪由来の幹細胞(hADSC)スペロイド培養のために、10回以上に再使用した際にもhADSCスペロイドが毎回よく形成され、細胞が死滅することなく高い細胞の生存率の確認ができた(
図5)。
【0063】
実験例3:懸滴培養チップ(HD chip)を用いた多様な細胞集合体の形成方式の確認(多様な方式のOn-chip cell/gel loadingを通じた3次元のスペロイド、及びオーガノイドの形成が可能)
【0064】
既存スペロイド/オーガノイドの培養システムは、単純3次元培養である場合が大部分であるが、本発明において開発されたHD chipシステムを利用すれば、既存の培養システムでは具現し難い多様な方式のOn-chip3次元培養が可能である。
【0065】
具体的に、(1)細胞スペロイド(cell spheroid)、(2)ハイドロジェル上での培養(gel bed)、(3)ハイドロジェル内での培養(gel encapsulation)、(4)これらを混合した複合的な培養(combination)、(5)異種のハイドロジェルの接合(gel+gel fusion)等、多様な形態の三次元の細胞集合体の培養が可能であることが確認できた(
図6)。
【0066】
その他にも、培養過程中で追加的に細胞の注入が可能であり、多様な種類の細胞で構成された高度化されたスペロイド、及びオーガノイドの製作ができることが期待される。
【0067】
実験例4:既存の培養方式との比較
【0068】
実験例4-1.既存のペトリディッシュ懸滴培養方式との比較(脂肪幹細胞スペロイド(hADSC spheroid)の培養)
【0069】
既存に一般的に使われていたペトリディッシュ蓋を用いた懸滴培養方式(hanging drop)は、均一な培養液の液滴形成のためには熟練度が要求され、培養液の交替が非常に煩わしく、培養液の総量が少なくて、培養環境に敏感な細胞、及びスペロイド/オーガノイドの形成において時間が所要される細胞の場合、生存能が大きく減少される問題を有している。
【0070】
これとは異なって、マイクロチャンネルを介して安定的に培養液が供給されるHD chipを用いる場合、
図7に示すように、向上した細胞の生存率と活性を有する均一なスペロイド/オーガノイドを形成することができる。
【0071】
実験例4-2.既存のU-bottomウェル-プレート培養方式との比較(脂肪幹細胞スペロイド(hADSC spheroid)の培養)
【0072】
現在、広く使用されているU-bottomウェル-プレートの場合、前述の比較した培養皿の懸滴培養とは異なって、高い細胞の生存能を示したが、6日間の培養後、Live/dead assayを行った結果、スペロイドの形態が不規則であり、比較的に粗い構造を有するが、これは底面との接触が原因であると判断される。これとは異なって、細胞が接触するか、付着することができる底面が存在しないHD chipにおいて培養した脂肪幹細胞スペロイドの場合、均一な球状の模様と細胞密度が高く、細胞間の接合が優れた形態に形成されることが確認できた(
図8A)。
【0073】
U-bottomプレートの各ウェルにおいて培養したスペロイドとHD chip内の各ウェルで培養されたスペロイドからmRNAを抽出し、幹細胞遺伝子(Oct4、stemness marker)に対するqPCRを行った結果、U-bottomグループと比較して、HD chipグループにおいてOct4の発現量が大きく増進したと共に(
図8B)、発現の均一性が大きく向上したことが確認できた(
図8C)。
【0074】
よって、このような結果を通じて、HD chip培養システムを利用すれば、既存の方式に比べて更に優れた品質の幹細胞スペロイドの製作が可能であることが分かる。
【0075】
実験例5:多様なスペロイド/オーガノイドの培養
【0076】
実験例5-1.神経幹細胞スペロイド(hNSC spheroid)の培養
【0077】
人間神経幹細胞(hNSC)は、一般的に、ペトリディッシュで浮遊培養を通じて自然に互いに固まりながらスペロイドを形成するところ、ペトリディッシュではスペロイドが無作為に形成されるため、多様なサイズ及び形態を有するようになって、均一性が低く、各スペロイドを構成する細胞の増殖、及び分化能において配置間の差が非常に大きいことが知られている。
【0078】
同じペトリディッシュで培養された神経幹細胞スペロイドのようなHD chipにおいて培養された神経幹細胞スペロイドを比較分析した結果、HD chipにおいて培養されたスペロイドのサイズが一層均一に形成されることが確認できた(
図9A)。幹細胞遺伝子(Oct4、stemness marker)発現の分析のため、培養6日目にqPCRを行った時、HD chipで形成された個別スペロイドでのOct4遺伝子の発現がペトリディッシュで形成されたスペロイドよりも均一であることが確認できた(
図9B)。
【0079】
実験例5-2.心臓スペロイド(cardiac spheroid)の培養
【0080】
マウス繊維芽細胞(fibroblast)から直接交差分化(direct reprogramming)方法で誘導された心筋細胞を用いた心臓スペロイドの製作のため、HD chip培養システムを適用した。その結果、
図10に示すように、既存のペトリディッシュでの懸滴培養方式や、U-bottomウェル-プレートでの培養と比べて、HD chip培養を通じて形成された心臓スペロイドが構造的に一層発達しており、心筋細胞マーカー(α-actinin)の発現が大きく向上し、更に鮮明なα-actininパターンを有していることが確認できた。
【0081】
また、HD chipにおいて培養された心臓スペロイドで更に明確にα-actinin構造が形成され、近接した細胞と、よりパターン化された配列を有していることから、HD chipを利用すれば既存の方式と比べて心臓拍動等、電気生理学的な側面で、更に高い成熟度と機能性を有する心臓スペロイドを製作することができることが分かる。
【0082】
実験例5-3.脳オーガノイド(human iPSC-derived brain organoid)の培養
【0083】
人間誘導万能幹細胞(human iPSC)由来の脳オーガノイドを各条件で形成し、培養しながら(
図11A、
図11B)観察した形態、及び(
図11C)神経分化マーカーの発現を分析するためのqPCRの結果を確認した(Pax6-培養25日、及びMAP2-培養27日)。
【0084】
(
図11A、
図11B)対照群であるU-bottomウェル-プレートで培養された脳オーガノイドに比べて、HD chipにおいて培養された脳オーガノイドのサイズが更に大きいことが確認でき、(
図11C)HD chipで血管細胞(EC)と空培養された脳オーガノイドの遺伝子の発現を確認した結果、神経先駆細胞マーカー(Pax6)及び神経細胞マーカー(MAP2)の発現が顕著に増加することが確認できた。
【0085】
実験例6:肝オーガノイド(Human iPSC-derived liver organoid)培養の確認
【0086】
実験例6-1.HD chipにおいて培養された肝オーガノイドの細胞構成による分化能の差の分析
【0087】
HD chipにおいて培養された人間iPSC由来の2つの種類の肝オーガノイド(HM-iPSC由来の肝細胞(H):中間葉幹細胞(M)=10:2、HEM-iPSC由来の肝細胞(H):血管内皮細胞(E):中間葉幹細胞(M)=10:7:2)の分化能の差を分析するために、培養5日目と7日目に免疫染色と定量的PCR(qPCR)方法でマーカーの発現を比較分析した。
【0088】
その結果、
図11Aに示すように、HD chipにおいて培養されたHM、HEMの肝オーガノイドの何れも、肝特異的分化マーカーであるHNF4A、ALBをよく発現し、HEMの場合、血管マーカーであるCD31も良く発現することが確認できた。
【0089】
また、
図11Bに示すように、培養7日目に、HM、HEMグループ間の遺伝子の発現を比較した時、血管内皮細胞が含まれたHEMグループから肝分化マーカー(AFP、FOXA2、HNF4A、ALB)の発現が増加する傾向を観察し、血管内皮細胞が含まれた肝オーガノイドが更に成熟した肝オーガノイドに発達されることが確認できた。
【0090】
このような結果を通じて、HD chipを利用すれば、多様な細胞で構成された肝オーガノイドの効率的な培養が可能であることが分かる。
【0091】
実験例6-2.人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEM)の長期培養の分化能の比較
【0092】
血管内皮細胞が含まれた人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEM)を各培養システムで20日間長期培養した後、多様なマーカーに対する遺伝子の発現を比較した。
【0093】
その結果、
図13に示すように、対照群グループであるU-bottom plateとmicrowellに比べて、HD chipにおいて培養された肝オーガノイドの分化マーカーが有意味に増加する傾向が確認できた。肝分化関連マーカー(AFP、ALB)と血管マーカー(PECAM1、CD34、CDH5)の何れも、HD chipグループで発現が増加し、細胞死滅マーカーであるCASP3は、HD chipグループで多少減少する傾向が確認できた。
【0094】
よって、既存のオーガノイドの培養システムであるU-bottom well-plate及びmicrowellと比べて、HD chipを利用すれば、肝オーガノイド(HEM)の肝細胞の分化、及び血管の成熟を増進させることができ、細胞の死滅を減少させることができることが確認でき、より優れた品質の肝オーガノイドの製作が可能であった。
【0095】
実験例6-3.人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEM)のマーカーの発現の分析
【0096】
血管内皮細胞が含まれた人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEM)を各培養システムで15日間培養した後、免疫染色を通じてグループ間の肝分化マーカー及び血管マーカーの発現を比較した。
【0097】
その結果、
図14に示すように、対照群グループであるU-bottom plateとmicrowellに比べて、HD chipにおいて培養された肝オーガノイドにおいて肝分化マーカーであるHNF4Aの発現量が更に高く、血管マーカーであるCD31の発現も更に増進していることが確認できた。形成された肝オーガノイドの模様及び形態も、対照群グループに比べて均一に形成されていることが確認できた。
【0098】
よって、既存のオーガノイドの培養システムであるU-bottom well-plate、及びmicrowellと比べて、HD chipを利用すれば肝オーガノイド(HEM)の肝細胞の分化、及び血管の成熟を増進させることができるので、優れた品質の肝オーガノイドの製作が可能であることが確認できた。
【0099】
血管内皮細胞が含まれた人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEM)を各培養システムで15日間培養した後、免疫染色を通じてグループ間の肝分化マーカー、及び血管マーカーの発現を比較した。
【0100】
その結果、
図15に示すように、対照群グループであるU-bottom plateとmicrowellに比べて、HD chipにおいて培養された肝オーガノイドにおいて、肝分化マーカーであるALBの発現量が更に高く、血管マーカーであるCD31の発現も更に増進していることが確認できた。形成された肝オーガノイドの模様及び形態も、対照群グループに比べて均一に形成されていることが確認できた。
【0101】
よって、既存のオーガノイドの培養システムであるU-bottom well-plate、及びmicrowellと比べて、HD chipを利用すれば肝オーガノイド(HEM)の肝細胞の分化、及び血管の成熟を増進させることができるので、優れた品質の肝オーガノイドの製作が可能であることが確認できた。
【0102】
実験例6-4.人間iPSC由来の肝オーガノイドのマーカーの発現、及び機能性の分析
【0103】
人間iPSC由来の肝オーガノイドを各培養システムで15日間培養した後、免疫染色を通じてグループ間のマーカーの発現を比較し、肝機能の重要な指標中の一つである要素合成の能力を比較した。
【0104】
その結果、
図16Aに示すように、対照群グループであるU-bottom well-plateとmicrowellに比べて、HD chipにおいて培養された肝オーガノイドにおいて、肝分化マーカーであるAFPとHNF4Aの発現が更に高く、F-actin染色を通じてアクチン繊維構造を確認してみたところ、HD chipグループで模様の均一なオーガノイドが形成されたことが確認できる。
【0105】
肝機能性指標である要素合成の能力を比較した時、
図16Bに示すように、HD chipにおいて培養された肝オーガノイドの要素合成の能力が対照群システムで培養された肝オーガノイドに比べて有意味に増加したことが確認できる。
【0106】
よって、既存のオーガノイドの培養システムであるU-bottom well-plate、及びmicrowellと比べて、HD chipを利用すれば機能性が向上した肝オーガノイドの製作が可能であることが確認できた。
【0107】
実験例6-5.人間iPSC由来の肝オーガノイドの長期培養時のマーカーの発現の比較
【0108】
人間iPSC由来の肝オーガノイドを各培養システムで10日、15日、30日間培養した後、免疫染色を通じてマーカーの発現を比較した。
【0109】
その結果、
図17に示すように、対照群グループであるU-bottom plateとmicrowellに比べて、HD chipにおいて培養された肝オーガノイドの模様が長期間に亘って均一に維持されることが確認でき、成熟した肝分化マーカー(中期と後期のマーカー)であるHNF4AとALBも、更に高い水準に発現されることが確認できた。また、30日以上に長期培養時、U-bottom plateとmicrowellで培養された肝オーガノイドは死滅したが、HD chipにおいて培養された肝オーガノイドは、肝組織特異的な構造を形成し(HD chipグループ高配率イメージ)、より成熟したオーガノイドが形成されることが確認できた。
【0110】
実験例7:高効率(high-throughput)HD chipの製作
【0111】
実験例7-1.高効率(high-throughput)HD chipの製作
【0112】
25 well HD chipの培養効率を増進させるために、既存の25 well HD chipのように、384 wellプレートの規格を有し、培養チャンバの数を増やした高効率のHD chipを製作した(
図18)。
【0113】
高効率のHD chipは、100個のウェルでスペロイド/オーガノイドを同時に懸滴培養することができ、既存の25 well HD chipのように、互いに垂直方向に重畳することが可能なデザインで製作し、tray plateに盛り込んで培養できるように製作した。
【0114】
高効率のHD chipにおける流体の流れの様相を確認するためのシミュレーションを行い、具体的に、10rpmの条件でtime-dependent studyでシミュレーションを行った。
【0115】
チャンネル近傍では、流体の流動性が相対的に高いのに対し、オーガノイドの表面はshear stressが低いことが確認できた(
図19)。
【0116】
これは、HD chipが持続的な流れを用いて円滑な培養液の循環を通じた物質の交換を可能にすると同時に、オーガノイドが他のチャンバに移るか、流れにより直接的な損傷を被らないこともあるため、繊細なオーガノイドの培養に適合していることを示す。
【0117】
U bottom plateとHD chipにおいて、オーガノイド内部への酸素伝達率を比較するために、シミュレーションを行った。平均の流れを通じたsteady state状態のシミュレーションの結果であって、培養の全般的な平均数値をシミュレーションした値に該当する。
【0118】
HD chipにおける酸素濃度(
図20A)及びU bottom plate wellにおける酸素濃度(
図20B)を3次元(左)、及び断面(右)に表現したイメージを示し、各々の断面イメージでの赤い矢印に該当する酸素濃度数値グラフ(
図20C)を導出した。
【0119】
シミュレーションの結果、HD chipにおいて培養する時、U bottom plateにおいて培養する時よりも、オーガノイドの中心部の酸素濃度が高いことが確認できた。よって、細胞が高密度に集まっているオーガノイドの中心部への物質伝達が重要なオーガノイドの培養において、HD chip培養システムが更に効果的であると予測される。
【0120】
実験例7-2.高効率のチップ(100-well HD chip)で生産された人間iPSC由来の肝オーガノイドの均一性の分析
【0121】
高効率の100-well HD chipにおいて、人間iPSC由来の肝オーガノイドの均一な大量生産が可能であるか否かを確認するために、iPSC肝細胞(H):血管内皮細胞(E):中間葉幹細胞(M)=10:7:2の比率に、1well当たり6000個の細胞数を合わせて、1チップ当たり計600、000細胞を種蒔きした(seeding)。追加に形成された肝オーガノイドが増殖能力を有するか否かを確認するために、Ki67免疫染色を通じてこれを確認した。
【0122】
その結果、
図21Aに示すように、600、000個の細胞をHD chipに種蒔きした時、すべてのウェル内部の培養液の液滴に均一に細胞が集まって固まりながら、24時間以内に100個のオーガノイドが何れも均一なサイズに形成されたことが確認できた。
【0123】
各well当たり1個ずつ形成された計100個のオーガノイドに対して、細胞増殖マーカーであるKi67を染色してみた時、オーガノイドの内部で活発に細胞増殖が均一な水準に起きることが確認できる(
図21B)。
【0124】
よって、HD chipは、既存のオーガノイドの培養システムであるU-bottom well plate、及びmicrowellと比べて、均一な肝オーガノイドを同時に大量製作することにおいて更に適合していると予想される。
【0125】
実験例7-3.高効率(high-throughput)のHD chipにおいて培養された人間iPSC由来の肝オーガノイド遺伝子の発現の均一性の比較
【0126】
高効率の100-well HD chipにおいて製作された100個の人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEM)を同時に懸滴培養しながら、既存のU-bottom well plateにおいて培養された肝オーガノイド(HEM)と肝組織マーカーに対する遺伝子の発現の均一性を比較した。
【0127】
その結果、
図22に示すように、代表的な肝分化マーカーAFP、HNF4A、ALBに対して、定量的PCR分析を行った時、既存のU-bottom well plateにおいて培養した肝オーガノイドの遺伝子の発現分布に比べて、HD chipを用いて製作した肝オーガノイドの遺伝子の発現の偏差が少なく、有意味に均一であることが確認できた。これを通じて、HD chipを用いた高効率の懸滴培養を通じて、主要分化マーカーの発現が均一な肝オーガノイドの生産が可能であることが検証された。
【0128】
実験例7-4.人間iPSC由来の正常及び非アルコール性脂肪肝炎オーガノイドの大量生産及び機能性の分析
【0129】
高効率の100-well HD chipにおいて、人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEMKS)を製作した後、正常(Normal)グループは7日間正常培養液で培養し、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)グループは、正常培養5日後に遊離脂肪酸であるオレイン酸(Oleic acid)を500μMの濃度に培養液で混合して、2日間、追加培養して脂肪肝炎を誘発した。このように計7日間培養した後、正常及び脂肪肝炎グループ間の脂肪蓄積の程度を比較し、肝機能の重要な指標の一つであるシトクロム活性(CYP3A4 activity)を比較した。より正確な脂肪肝炎モデリング、及び薬物スクリーニングのために、肝組織の微細環境を構成する兔疫細胞(クッパー細胞)及び気質細胞(肝星細胞)を含めて肝オーガノイドを製作した。このため、人間iPSC由来の肝オーガノイドは、iPSC由来の肝細胞(H):血管内皮細胞(E):中間葉幹細胞(M):iPSC由来のクッパー細胞(K):iPSC由来の肝星細胞(S)=10:7:2:2:1の比率(HEMKS)に製作した。
【0130】
その結果、
図23Aに示すように、大量生産された正常の肝オーガノイドの場合、アクチンフィラメント(F-actin)がオーガノイドによく分布しており、lipidを標識するBODIPY蛍光信号は、ほとんど観察されていないことが確認できた。一方、NASHオーガノイドの場合、F-actin構造が非正常的に観察され、オーガノイドの内部にlipidの蓄積が起きたことが確認できた。
【0131】
肝機能性指標であるシトクロム活性を比較した時、
図23Bに示すように、NASHを誘発したオーガノイドグループに比べて、正常オーガノイドグループが約2倍程度に高く活性を示すことを確認することで、脂肪肝炎の誘発により肝機能性が阻害されたNASHオーガノイドの製作に成功したことが確認できた。
【0132】
よって、高効率のHD chipを利用すれば、正常の肝オーガノイドだけではなく、疾患表現型を示す非アルコール性脂肪肝炎オーガノイドの大量生産も可能であることが確認できた。
【0133】
実験例7-5.人間iPSC由来の非アルコール性脂肪肝炎オーガノイドの大量生産及び有効薬物テスト
【0134】
高効率の100-well HD chipにおいて、人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEMKS)を製作した後、正常(Normal)グループは7日間正常培養液で培養し、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)グループは、正常培養5日後、遊離脂肪酸であるオレイン酸(Oleic acid)を500μM濃度に培養液で混合し、2日間、追加培養して脂肪肝炎を誘発した。脂肪肝治療有効薬物であるEzetimibe(Eze)は、コレステロール吸収抑制剤として、既存に高血糖コレステロール及び脂質異常の治療に使用されていた薬物候補群である。正常培養5日後に、オレイン酸(Oleic acid、500μM)とEzetimibe(50μM)とを培養液に混合し、2日間、追加培養して、脂肪肝炎の薬物テストを行った。計7日間の培養後、脂肪蓄積の程度を比較し、免疫染色及び定量的PCR分析を通じて、グループ間の主要マーカーの発現、及び遺伝子の発現を比較した。より正確な脂肪肝炎モデリング、及び薬物スクリーニングのために、肝組織の微細環境を構成する兔疫細胞(クッパー細胞)及び気質細胞(肝星細胞)を含めて肝オーガノイドを製作した。このため、人間iPSC由来の肝オーガノイドは、iPSC由来の肝細胞(H):血管内皮細胞(E):中間葉幹細胞(M):iPSC由来のクッパー細胞(K):iPSC由来の肝星細胞(S)=10:7:2:2:1の比率(HEMKS)に製作した。
【0135】
その結果、
図24Aに示すように、HD chipにおいて培養したNormal、NASH、NASH+Ezeの各オーガノイドグループに対して、定量的PCR分析を通じて遺伝子の発現を確認した時、脂肪酸蓄積マーカーであるPLIN2、炎症マーカーであるTNF-α、肝繊維化マーカーであるSMA、VIMの発現量がNASHグループで増加し、Eze薬物を処理したグループでは減少することが確認できた。
【0136】
また、
図24Bに示すように、正常オーガノイドグループの場合、アクチンフィラメントマーカーであるF-actinがオーガノイド内に良く分布しており、lipidを標識するBODIPY蛍光信号はほとんど観察されないことが確認できた。NASHオーガノイドの場合、損傷されたF-action構造が観察され、オーガノイドの内部にlipidの蓄積が多く起きたことが確認できた。有効薬物(Eze)を処理したグループでは、脂肪酸の蓄積が減少して機能性が回復していることが確認できた。肝分化マーカーであるALB発現量の場合にも、正常グループに比べてNASHオーガノイドでは発現量が減少するのに対し、Eze薬物を処理したグループでは一定水準が回復している様相が観察できた。肝纎維化マーカーであるVimentinの場合、NASHオーガノイドグループで有意味に発現が増加したことが確認できるところ、特に、肝オーガノイドの製作時に含まれた肝星細胞が活性化されながら繊維化を誘発するmyofibroblast細胞がオーガノイドの内部に分布することを免疫染色を通じて確認できる。
【0137】
よって、高効率のHD chip基盤に製作された人間の肝オーガノイドを用いて疾患表現型が維持される非アルコール性脂肪肝炎モデリングが可能であることが確認でき、薬物の有効性スクリーニングも可能であることが追加的に検証できた。
【0138】
実験例7-6.人間iPSC由来の非アルコール性脂肪肝炎オーガノイドの大量生産及びROSの定量分析
【0139】
前述した方式と同じ培養方法で、高効率の100-well HD chipにおいて製作した人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEMKS)のNormal、NASH、NASH+Ezeグループに対して、oxidative stress(酸化ストレス)による活性酸素種ROS蓄積量を確認するために、酸化ストレス検出分析法であるCM-H2DCFDA染色を通じてグループ間のROSの活性及び定量分析を行った。
【0140】
その結果、
図25Aに示すように、大量生産された正常(Normal)オーガノイドグループの場合、ROSによる酸化ストレスが100個のオーガノイドでほとんど現われないのに対し、NASHオーガノイドではROS関連の酸化ストレスが大きく増加したことが確認できた。有効薬物(Eze)を処理したNASHオーガノイドグループでは、このような酸化ストレスも一定水準の以下に減少したことが確認できることにより、脂肪肝炎治療薬物の有効性の評価のためのHD chipの肝オーガノイド基盤の高効率のスクリーニングの可能性が確認できた。
【0141】
また、
図25Bに示すように、各々のオーガノイドに対するROS酸化ストレス定量評価のため、肝オーガノイドが培養されるHD chipを、常用化されたプレートリーダー(plate reader)装置に適用して、On-chip分析を行った。高効率のHD chipの場合、商業的に販売されている既存の384-wellプレートと同じ規格にデザインされて製作されたため、プレートリーダーのような既存の分析装置との互換使用が可能である。定量分析を行った時、NASHオーガノイドで蛍光強度が大きく増加し、Eze薬物を処理したオーガノイドグループでは、蛍光強度が減少していることを確認し、薬物処理を通じて脂肪肝炎オーガノイド内の酸化ストレスを減少することができることが確認できた。
【0142】
よって、既存の384-wellプレートと同じ規格に製作された高効率のHD chipを利用すれば、大量生産された非アルコール性脂肪肝炎オーガノイド基盤の大規模の薬物スクリーニング及び有効性定量評価が可能であることが確認できた。
【0143】
実験例8:Human iPSC-derived pancreas organoid膵膓オーガノイド培養研究の結果
【0144】
実験例8-1.人間iPSC由来の膵膓オーガノイド大量培養(既存のMicrowell及びU-bottomウェル-プレート方式との比較)
【0145】
製作したHD chipを用いて、人間iPSC由来の膵膓オーガノイドの培養を実施した。対照群グループは、3Dオーガノイドの製作に最も広く用いられているU-bottom well-plateとMicrowellとを用いた。
【0146】
膵膓オーガノイドの場合、iPSC由来の膵膓先駆細胞(P):血管内皮細胞(E):中間葉幹細胞(M)=10:7:2の比率に混合して、1well当たり6000個の細胞数を合わせて細胞を種蒔きした(seeding)。オーガノイドが形成された後、ベタ細胞分化培養液で膵膓オーガノイドに追加の分化を誘導した。
【0147】
その結果、
図26Aに示すように、HD chipにおいて培養された膵膓オーガノイドが対照群グループよりも更に均一であり、一定の形態でオーガノイドが形成されることが確認できた。
【0148】
また、
図26Bに示すように、オーガノイドの形成2日目に各培養環境で形成されたオーガノイドのサイズを測定した時、対照群グループと比べて、HD chipにおいて製作された膵膓オーガノイドの場合、個体間の偏差が最も少ないことが確認できた。これを通じて、HD chipの培養を通じてサイズが更に均一な膵膓オーガノイドの製作が可能であることが分かる。
【0149】
実験例8-2.人間iPSC由来の膵膓オーガノイドのマーカーの発現及び分化能の比較
【0150】
血管内皮細胞が含まれた人間iPSC由来の膵膓オーガノイド(PEM)を各培養システムで5日間培養した後、免疫染色とqPCRとを通じた遺伝子の発現分析を通じて、グループ間の膵膓分化マーカー及び血管マーカーの発現を比較した。
【0151】
その結果、
図27Aに示すように、対照群であるU-bottom plateとmicrowellグループに比べて、HD chipにおいて培養された膵膓オーガノイドで、内胚葉分化マーカーであるSOX17、膵膓先駆細胞マーカーであるPDX1、NKX6.1、及びベタ細胞マーカーであるCHGA、Insulinの発現が更に高く、血管マーカーであるCD31の発現も更に増進していることが確認できた。
【0152】
なお、
図27Bに示すように、対照群グループとHD chipにおいて培養された膵膓オーガノイドの遺伝子の発現量を比較した時、膵膓分化マーカー(PDX1、KRT19)、血管マーカー(PECAM1)、及び増殖能関連マーカー(KI67)が、何れもHD chipグループで発現が最も増加している傾向が確認できた。
【0153】
これを通じて、製作したHD chipが膵膓オーガノイドの均一性だけではなく、膵膓特異的分化マーカーの発現量も既存の常用化されたプラットホームに比べて増進させることができるデバイスであることが確認できた。
【0154】
実験例8-3.人間iPSC由来の膵膓オーガノイドのインシュリン生産の比較
【0155】
人間iPSC由来の膵膓オーガノイド(PEM)を高効率の100-well HD chipにおいて製作し、ベタ細胞誘導培養液で5日間、追加培養した後、免疫染色を通じてオーガノイドの均一性とベタ細胞特異的なインシュリン生産が確認できた。
【0156】
その結果、
図28に示すように、人間iPSC由来の膵膓オーガノイドも、肝オーガノイドと同様に、100-well HD chipで均一な膵膓オーガノイドの大量生産が可能であり、ベタ細胞培養液で分化誘導した100個の膵膓オーガノイドは均一で、高い水準にインシュリンを生産していることが確認できた。
【0157】
これは、高効率のHD chipの培養を通じて糖尿治療において最も重要なインシュリンの生産/分泌能力を有する均一な人間膵膓オーガノイドの大量生産が可能であることを示す。
【0158】
実験例9:HD chip高効率の接合を通じた多重オーガノイドの製作
【0159】
実験例9-1.Chip-to-chip transferを通じたspheroid fusion
【0160】
上方へ開かれているHD chip(25 well ver.)は、互いに垂直に重畳するように考案されており、互いの垂直の座標に接合可能であることが確認できた。
【0161】
互いに異なるスペロイドを、各々のHD chipにおいて培養した後、2個のチップを一度に1:1に接合して、一つのチップから他のチップへと直ぐにスペロイドの移動を誘導することができる(
図29の左側)。
【0162】
HD chipからHD chipへの移動であるため、1チップに集まった2つのスペロイドは、wellに溜まる培養液の液滴の窪んだ部分の頂点に位置するようになり、効率的にスペロイド間の接合(fusion)が可能であることが確認できた(
図29の右側)。
【0163】
近来、互いに異なるオーガノイドのfusionを通じて、より高度化された臓器類似体を製作しようとする研究が活発に行われているため、HD chipはこのような用途に活用され、多重組織構造を有するオーガノイドの生産のための培養システムに適用され得る。
【0164】
実験例9-2.U-bottomウェル-プレート接合方式との比較
【0165】
人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEMKS)と膵膓オーガノイド(PEM)とを各々のHD chipにおいて培養した後、2個のチップを垂直方向に1:1に接合して、一つのチップから他のチップにオーガノイドを移動した後、オーガノイド間の接合(fusion)を通じて肝-膵膓接合オーガノイドを製作した。
【0166】
対照群グループであるU-bottom plateを用いたオーガノイド接合の場合、各々培養されたオーガノイドを1:1に1つずつ移して接合しなければならない(
図30Aの左側)。一方、HD chipを用いた接合の場合、すべてのウェルにあるオーガノイドを効率的に一度に移動して接合することが可能である(
図30Bの右側)。
【0167】
HD chipにおいて培養された肝-膵膓オーガノイドの場合、移動後、24時間以内に接合オーガノイドを形成することが確認できた(
図30B)。
【0168】
対照群グループであるU-bottom plateとHD chipとの何れでも肝-膵膓オーガノイドが形成されることが確認できた(
図30C)。
【0169】
肝、膵膓関連の分化マーカーの遺伝子の発現量を、qPCR分析を通じて比較してみた時、肝分化マーカー(ALB、HNF4A)、膵膓分化マーカー(NKX6.1、PDX1)と肝-膵膓胆管マーカー(KRT19)の発現が、対照群(U-bottom plate)グループに比べて、HD chipグループにおいて有意味に増加していることが確認できた(
図30D)。
【0170】
実験例9-3.高効率(high-throughput)HD chip基盤のスペロイド接合結果の確認
【0171】
高効率のHD chipで、ADSCを用いてスペロイドを形成した結果、均一なサイズを有する100個のスペロイドを一度に形成して培養することができることが確認できた(
図31の左側)。
【0172】
既存の25 well HD chipのように、100-well HD chipの2つを互いに垂直方向に重畳して、スペロイドを一方に移動した結果、80%以上の成功率にスペロイドを移動することができ、追後、チップを製作する素材を変えれば、効率が更に増進されると予想される(
図31の右側)。
【0173】
実験例9-4.HD chip基盤の肝-膵膓オーガノイドの高効率の接合
【0174】
高効率の100-well基盤のHD chipで、人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEMKS)を均一に大量生産し、また他のHD chipで、人間iPSC由来の膵膓オーガノイド(PEM)を均一に大量生産した後、2つのHD chipを互いに垂直に重畳するチップ-チップ接合(Chip-to-chip fusion)を通じて肝オーガノイドと膵膓オーガノイドとを1:1に接合誘導した。
【0175】
その結果、
図32に示すように、100-well HD chipの2つを互いに垂直方向に重畳して、肝オーガノイドを膵膓オーガノイドの方に移動した結果、95%以上の成功率に肝オーガノイドを移動することができ、よって、単一臓器オーガノイドの大量生産だけではなく、効率的なオーガノイドの接合を通じて肝-膵膓多重オーガノイドの高効率の大量生産も可能であることが確認できた。
【0176】
形成された肝-膵膓接合多重オーガノイドの各臓器特異的分化マーカーを分析するために、免疫染色を行った時、肝オーガノイド部分のみに肝特異的分化マーカーであるHNF4Aが発現し、膵膓部分には発現しないことが確認できた。肝兔疫細胞であるクッパー細胞マーカー(CD68)も、肝オーガノイドのみから発現し、膵膓分化マーカーであるNKX6.1は、膵膓オーガノイド部分のみから特異的に発現することが確認できた。肝と膵膓との何れからも発現する内胚葉マーカーであるSOX17と血管マーカーであるCD31も、HD chipで接合された多重オーガノイドにおいて良く発現することが確認できた。
【0177】
実験例10:HD chipにおいて培養された肝オーガノイドのマウス脂肪肝炎モデルに移植
【0178】
HD chipにおいて大量生産された人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEM-肝細胞:血管内皮細胞:中間葉幹細胞=10:7:2)の生体内の移植可能性、及び脂肪肝炎治療効果を確認するために、MCD(Methionine-choline-deficient)飼料を用いて脂肪肝炎を誘発したマウスNASHモデルに肝オーガノイド移植を行った。メチオニン(Methionine)とコリン(Choline)が欠乏しているMCD食餌は、脂肪肝炎、酸化ストレス、炎症、及び纎維化を誘発して、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の病変を良く誘発する飼料であって、マウス脂肪肝炎モデルの誘発において多く用いられる。
【0179】
正常グループ(Normal)は、正常食餌(Normal Chow)で4週間飼育し、脂肪肝炎誘発グループ(NASH)はMCD飼料を用いて4週間飼育し、最初の2週以後に肝門脈(Hepatic portal vein)を通じて肝オーガノイド培養液(100μL)のみを注入し、残りの2週間にMCD飼料をずっと食べさせながらNASH疾患を誘発した。脂肪肝炎が誘発されたマウスに、肝オーガノイドを移植したグループ(NASH+Organoid)は、MCD飼料で4週間飼育し、最初の2週以後に肝門脈を通じてHD chipから生産された肝オーガノイドを注入(100μL培養液に含めて移植)した後、残りの2週間にMCD飼料を食べさせながら、NASH疾患をずっと誘発した。マウス一匹当たり4個のHD chipから生産された計400個の肝オーガノイドをインシュリンシリンジに集め、肝門脈を通じて移植した(
図33A)。
【0180】
その結果、
図33Bに示すように、モデル誘発後、グループ別に血液の分析を行った時、モデル誘発2週次のオーガノイドを移植する前日(Post-operative day(POD)-1日)に、肝毒性指標であるALTとLDH数値は正常グループに比べて、MCD食餌療法でNASH疾患を誘発したマウスグループにおいて有意味に高い水準に測定された。肝門脈を通じて、培養液及びオーガノイドを注入した後、3日目まではNASHグループの場合にもオーガノイド培養液が注入されたため、培養液に含まれた因子が肝機能の回復に役立てるため、肝オーガノイドを移植したNASH+Organoidグループと同様に、注入の直後にはALT、LDH数値がますます回復する様相を示した。しかし、注入7日後からは、培養液による肝機能性の回復効果は大きくなかったため、培養液のみが注入されたNASHグループでは、肝機能がますます確実に減少したが(ALT、LDH数値の増加)、肝オーガノイドを移植したNASHグループでは、ALT及びLDH数値がほぼ正常の水準に減少して、肝機能の明らかな改善が確認できた。肝機能性の指標であるALB数値の場合にも、NASHグループでは、培養液が注入された3日以後からはますます減少して肝機能が減少するのに対し、肝オーガノイドを移植したNASHグループでは、ALB数値が正常水準と同様に回復することが確認できた。
【0181】
このような結果を通じて、HD chipを通じて大量生産された均一な肝オーガノイドは、非アルコール性脂肪肝炎マウスモデルに適用された時、肝損傷を減らし、肝機能性の回復に寄与することができることが確認できた。すなわち、高効率のHigh-throughput HD chipは、肝損傷治療をオーガノイド基盤の細胞治療剤の大量生産のための効率的な培養システムとして活用可能であることが確認できた。
【0182】
HD chipにおいて大量生産された人間iPSC由来の肝オーガノイド(HEM)を、マウス脂肪肝炎(NASH)モデルの肝門脈を通じて移植した後、脂肪肝炎治療効果を誘導することができるか否かを確認するために、移植して2週後に組織学分析及び免疫染色を行った。
【0183】
その結果、
図34Aに示すように、MCD飼料で4週間、脂肪肝炎(NASH)を誘発しながら2週次に培養液を注入したグループは、正常肝に比べて、激しい脂肪肝病変を示すことが確認でき、一方、HD chipから生産された肝オーガノイドを移植したグループでは、病変が一部回復したことが目視で確認できた。
【0184】
また、
図34Bに示すように、H&E染色を通じて組織学分析を行った時にも、正常肝に比べてNASH誘発モデルにおいて脂肪が多量に蓄積されていることが確認できた。肝オーガノイドを注入したグループでは、移植された肝オーガノイドが、脂肪が蓄積されている部位に生着され、脂肪蓄積が減少し、損傷された部分が減少していることが確認できた。MT(Masson’s Trichrome)染色を通じて、繊維化により蓄積されたコラーゲン染色を行った時にも、培養液のみが注入されたNASHグループでは一部の肝組織に繊維化が進行されたことが確認できたが、肝オーガノイドが移植されたグループは、コラーゲンの蓄積が減少し、繊維化の進行が阻害されていることが確認できた。
【0185】
移植した肝オーガノイドが脂肪肝組織に良く生着して機能するか否かを確認するために、人間タンパク質にだけ特異的に反応する抗体を用いて、肝分化マーカー(ALB、SOX17)と密着連接マーカー(ZO1)に対する免疫染色を行った時、人間iPSC由来のオーガノイドが移植されたマウスの肝組織のみから人間タンパク質分化マーカーが発現することが確認できた(
図34C)。本実験においては、肝オーガノイドを肝門脈を通じて注入したため、移植されたオーガノイドが肝組織内に均一に分布することができ、よって、脂肪肝炎により阻害された肝機能性を回復するのに効果的であることが期待される。培養液のみが注入されたNASHモデルでは、肝組織内のSMA陽性である繊維化が起きた組織が観察されたが、肝オーガノイド移植治療を受けたNASHモデルでは、SMAが発現される繊維化部位が大きく減少した。
【0186】
移植2週後、各グループのマウスの体重を測定した時、培養液のみ注入したNASHマウスグループは、既存に知られたように、体重が大きく減少したが、それに比べて、肝オーガノイドを移植したNASHマウスグループでは、体重が一定の水準以上に回復した。また、培養液のみが注入されたNASHグループの場合、肝:体重の比率が正常グループよりも低く測定されたところ、肝オーガノイドを移植したNASHグループでは、肝:体重の比率が一定の水準に回復した(
図34D)。よって、移植された肝オーガノイドにより、NASHの誘発により阻害された肝機能性がある程度回復し、肝損傷が減少していることが確認できた。
【0187】
このような結果を通じて、HD chipにおいて大量生産された均一な肝オーガノイドが非アルコール性脂肪肝炎(NASH)マウスモデルに移植された時、肝機能性の回復を誘導し、繊維化を阻害する効果を示していることが確認できた。すなわち、高効率のHigh-throughput HD chipは、肝損傷治療をオーガノイド基盤の細胞治療剤の大量生産のための効率的な培養システムとして活用され得る。
【0188】
実験例11:HD chipの追加の応用
【0189】
実験例11-1.On-chip薬物スクリーニング及びプレートリーダーを用いた蛍光定量の分析
【0190】
生きている細胞を染色するcalceinを10分間染色して、hADSCスペロイドを蛍光で標識した。
【0191】
一つのチップ内にライン毎に異なる濃度のcalceinを注入し、一つのHD chipにおいて培養されたhADSCスぺロイドが他の蛍光intensityを有するように標識し、直ぐにチップで蛍光強度をイメージングして分析した。
【0192】
本発明において製作されたHD chip(25 well ver.)は、384ウェル-プレートの規格に合わせてデザインしたため、商業的に販売する汎用的なプレートリーダー装置を用いて直ぐに分析可能である。すなわち、チップ内でスペロイドまたはオーガノイドを培養した後に蛍光染色し、直ぐにプレートリーダーを通じて蛍光強度を測定して定量することができる(
図35)。
【0193】
実際に蛍光イメージを通じて分析した結果とプレートリーダーを用いて蛍光強度を測定した結果を比較してみると、高い相関性を有することが分かる。
【0194】
実験例11-2.3Dプリンティングを通じたデバイス製作可能性の確認
【0195】
前述した本発明のデバイスは、PDMS高分子素材で製作したが、大量量産の側面において限界がある。よって、このような問題点を克服するために、3Dプリンティング工程を導入した時、実際に商品化されるデザインの本発明のデバイスを3Dプリンティングして製作することができるか否かが確認できた。
【0196】
その結果、
図36に示すように、3Dプリンティングを通じて本発明のデバイスを容易に製作することができることが確認でき、3Dプリンティングを用いるため、デザインの変更が容易であり、材料の選定において規格化及び大量生産が容易なプラスチック系列の素材でも生産が可能な利点があるということが分かった。
【0197】
また、培養時に、外部の連結装置がなくても、撹拌機(rocker)上で持続的な培養液の混合を通じて懸滴培養デバイス内のオーガノイド個体間の差異を減少しながら培養するのが可能であるが、実験の目的や分析の種類に応じて、必要に応じてチューブを追加に連結してシリンジポンプを用いることもできる。
【0198】
実験例11-3.本発明デバイスに適用可能なアクセサリーの活用
【0199】
本発明のデバイスの活用可能性を高めることができるアクセサリーを製作し、活用可能性の確認ができた。
【0200】
具体的に、単純に培養液にジェル溶液を追加してジェル化を誘導する本発明のデバイス培養方式(
図6)から、さらにリング形態のアクセサリーを用いてジェル溶液が培養液に触れる前にも、ジェル溶液の粘性及び表面張力を用いて特定の形態を有するようにすることができるため、多様な特性を有するハイドロジェルを用いることができるようになり、スペロイド/オーガノイド培養に使用されるジェルの種類を多様に適用することができる(例えば、粘性の低いジェル、固体化される前に培養液に触れてはいけない種類のジェル等)。
【0201】
アクセサリーは、チップ本体の形態に合うようにデザインされて脱付着が可能であり、時間が経過した後、スペロイド/オーガノイドが良く形成されれば、アクセサリーは取り除いて培養を引き続くことができる(
図37)。
【0202】
既存の方式で多層構造3Dスペロイドを製作する時に、中心部分と外層部分とを別途に形成するためには、一般的に追加的な微細の流体装置が必要であり、大部分が小さなサイズの多層構造のスペロイドを製作する水準に過ぎない。
【0203】
このような既存の方式は、損失率が比較的に高く、サイズの大きいスペロイドや特にオーガノイドと同様の水準の細胞集合体の培養には適用し難い。
【0204】
本発明において開発されたHD chipでは、追加のアクセサリーの装着を通じて、中心部分と外層部分とを分けて注入することで、多層構造を有するカプセル形態のスペロイドを非常に容易且つ効率的に形成することができることが確認できた(
図38)。
【0205】
以上、本発明について、その望ましい実施例を中心として説明した。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者は、本発明が、本発明の本質的な特性から脱しない範囲で、変形された形態に具現され得ることが理解できるだろう。よって、開示されている実施例は限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は、前述した説明ではなく、特許請求の範囲に開示されており、それと同等の範囲内にあるすべての差異点は本発明に含まれていると解釈すべきである。
【国際調査報告】