(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】優れた包括的成形性及び曲げ特性を有する自動車用途向けの高強度冷延鋼板
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240313BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240313BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/58
C21D9/46 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561357
(86)(22)【出願日】2022-04-05
(85)【翻訳文提出日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2022059016
(87)【国際公開番号】W WO2022214488
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518219457
【氏名又は名称】フォエスタルピネ シュタール ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(71)【出願人】
【識別番号】511312997
【氏名又は名称】トヨタ モーター ヨーロッパ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル シュバルツェンブルンナー
(72)【発明者】
【氏名】エディップ オゼル アルマン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヘベスベルガー
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA22
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA35
4K037EB05
4K037EB09
4K037EB12
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC04
4K037FC05
4K037FE01
4K037FE02
4K037FF01
4K037FF02
4K037FG00
4K037FG01
4K037FH01
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FL02
4K037FL05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、C 0.08~0.14、Mn 2.5~3.0、Si 0.7~1.1、Cr 0.05~0.4、任意に、Al ≦0.2、Nb ≦0.1、Mo ≦0.1、V ≦0.1、Ti ≦0.1、Ca ≦0.05、Cu ≦0.1、Ni ≦0.2、B ≦0.005、残部は、不純物を除いて、Fe、である元素(重量%)からなる組成を有する高強度冷延鋼板に関する。
前記鋼は、0.72以下の降伏比を有し、曲げ性(Ri/t)は2.0以下である。
本発明は、また、鋼板を製造する方法及び鋼板を含む自動車構造部品に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)下記の元素をからなる組成(重量%):
C 0.08~0.14
Mn 2.5~3.0
Si 0.7~1.1
Cr 0.05~0.4
任意に、
Al ≦0.2
Nb ≦0.1
Mo ≦0.1
V ≦0.1
Ti ≦0.1
Ca ≦0.05
Cu ≦0.1
Ni ≦0.2
B ≦0.005
残部は、不純物を除いて、Fe、
b)下記を有する多相ミクロ組織(体積%):
残留オーステナイト 2~20
マルテンサイト ≦15
ベイナイトフェライト及び焼戻しマルテンサイト 50~90
ポリゴナルフェライト ≦10
c)引張強度(R
m) 980~1180MPa
降伏強度(R
p0.2) 580~750MPa
降伏比(R
p0.2/R
m) ≦0.72
d)Riをmmでの曲げ半径、tをmmでの鋼板の厚さとしたとき、35×100mmの寸法を有する試料についての90°V曲げ試験による曲げ性の値がRi/t≦2.0、
を有する高強度冷延鋼板。
【請求項2】
前記ミクロ組織が、下記要件(体積%)のうちの少なくとも一つ、好ましくは全ての要件を満たしている、請求項1に記載の高強度冷延鋼板:
残留オーステナイト 5~15
マルテンサイト 5~10
ベイナイトフェライト及び焼戻しマルテンサイト 70~90
ポリゴナルフェライト ≦5。
【請求項3】
前記組成(重量%)が、下記を満たしている、請求項1又は2に記載の高強度冷延鋼板:
C 0.09~0.12
Mn 2.5~2.9
Si 0.7~1.0
Cr 0.1~0.3
Al 0.005~0.1
任意に、
Nb ≦0.1
Mo ≦0.1
V ≦0.1
Ti ≦0.1
Ca ≦0.05
Cu ≦0.1
Ni ≦0.2
B ≦0.005
残部は、不純物を除いて、Fe。
【請求項4】
機械的特性が、下記要件のうちの少なくとも一つを満たしている、請求項1~3のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板:
引張強度(R
m) 1000~1100MPa
降伏強度(R
p0.2) 580~700MPa
全伸び(A
50) ≧11%
降伏比(R
p0.2/R
m) 0.50~0.70
曲げ性(Ri/t) ≦1.7。
【請求項5】
機械的特性が、下記要件を満たしている、請求項1~4のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板:
引張強度(R
m) 1000~1100MPa
降伏強度(R
p0.2) 580~700MPa
全伸び(A
50) ≧11%
降伏比(R
p0.2/R
m) 0.50~0.70
曲げ性(Ri/t) ≦1.5。
【請求項6】
前記冷延鋼板の厚さが0.9~1.6mmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項7】
Nb、Mo、V、Ti及びCaからなる群から選択された元素のうちの少なくとも一つのみが不純物として存在し、好ましくは、Nb、Mo、V、Ti及びCaからなる群の全ての元素のみが不純物として存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の高強度冷延鋼板。
【請求項8】
下記を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の冷延鋼片又は鋼板の製造方法:
a)請求項1~7のいずれか一項に記載の組成を有する鋼スラブを提供すること;
b)前記オーステナイト範囲内のスラブを熱延片材へと熱間圧延すること;
c)500~650℃の範囲内の巻取り温度で前記熱延片材を巻取りすること;
d)任意には、前記巻取りされた鋼片に対してスケール除去プロセスを施すこと;
e)5~30時間にわたって、500~650℃の範囲内の温度でバッチ焼鈍すること;
f)前記焼鈍された鋼片を35~90%の圧下率で冷間圧延すること;
g)連続焼鈍ライン内で前記片材を800℃~890℃の温度まで加熱し、80~180秒間にわたり均熱すること;
h)5~15℃/秒の速度で前記片材を700~750℃の温度までゆっくりと冷却し、次いで20~60℃/秒の速度で405~460℃の過時効温度まで急速に冷却し、150~1000秒間にわたって保持すること;
i)室温まで冷却すること。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の前記高強度冷延鋼材料を含む自動車構造部品。
【請求項10】
前記構造部品が、自動車のB-ピラーヒンジ、ルーフレール、又はドアパネルである、請求項9に記載の自動車構造部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の利用分野に好適である高強度鋼板に関する。詳細には、本発明は、少なくとも980MPaの引張強度を有しかつ優れた包括的成形性及び優れた曲げ特性を有する冷延鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
車体質量の削減が、燃費の削減を結果としてもたらすことから、多様な利用分野について、強度レベルを増大させることは、軽量構造物、詳細には自動車産業にとっての必須条件である。
【0003】
自動車の車体部品は多くの場合、薄板の複雑な構造部材を形成する鋼板からスタンピングされる。しかしながら、複雑な構造部品用には成形性が低すぎるため、従来の高強度鋼からはこのような部品を生産することができない。このため、近年、詳細には自動車の車体構造部品での使用のため、多相変態誘起塑性鋼(TRIP鋼)が脚光を浴びている。
【0004】
TRIP鋼は、TRIP効果を生成する能力を有する準安定性残留オーステナイト相を含む多相ミクロ組織を有する。鋼が変形させられると、オーステナイトは、マルテンサイトへと変態し、その結果、卓越した加工硬化をもたらす。この硬化効果は、材料内のネッキングに耐え、板材形成作業における破損を遅延させるように作用する。TRIP鋼のミクロ組織は、その機械的特性を大幅に改変することができる。
【0005】
国際公開第2018/09090A1号は、エッジ亀裂に対する優れた耐性と、高い穴拡げ率を伴い、高い降伏比(局所的成形性)を有する高強度TBF鋼を開示している。
【0006】
これらの鋼は、いくつかの魅力的な特性を開示しているものの、全体的成形性及び曲げ特性に関して改善された特性プロファイルを有する980MPa鋼板に対する需要が存在する。詳細には、自動車のB-ピラーヒンジ、ルーフレール、ドアパネル又は類似の部品にこのような材料が使用されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/09090A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、980~1180MPaの引張強度並びに優れた全体的成形性及び優れた曲げ特性を有する高強度(TBF)鋼板に向けられている。さらに、連続焼鈍ライン(CAL)内において工業規模で鋼板を生産することが可能でなくてはならない。本発明は、全体的成形性に影響を及ぼす降伏比及び曲げ性の両方が重要である複雑な構造部材へと加工され得る鋼組成を提供することを目的としている。これは、自動車のB-ピラーヒンジ、ルーフレール、ドアパネル又は類似の部品に特に好適である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は特許請求の範囲中で説明されている。
【0010】
鋼板は、下記合金元素(重量%)からなる組成を有する:
C 0.08~0.14
Mn 2.5~3.0
Si 0.7~1.1
Cr 0.05~0.4
任意に、
Al ≦0.2
Nb ≦0.1
Mo ≦0.1
V ≦0.1
Ti ≦0.1
Ca ≦0.05
Cu ≦0.1
Ni ≦0.2
B ≦0.005
残部は、鉄及び不純物からなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、降伏比に対して曲げ性Ri/tをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
別個の元素及びそれらの間の相互作用の重要性、並びに請求対象の合金の化学成分の制限について、以下で簡単に説明する。鋼の化学組成についての百分率は全て、本明細書全体を通して重量%(wt.%)で示されている。硬質相の量は、体積%(vol.%)で示されている。個別の要素の上限及び下限は、特許請求の範囲で提示されている限度内で自由に組合せ可能である。数値の計算精度は、本出願中で示されている全ての値について1又は2桁増大させることができる。したがって例えば0.1%として示された値を、0.10又は0.100%として表わすことも可能である。
【0013】
C:0.08~0.14%
Cは、オーステナイトを安定化させ、残留オーステナイト相内に充分な炭素を得るために重要である。Cは、所望される強度レベルを得るためにも重要である。概して、0.1%のCあたり100MPa程度の引張強度の増加が期待される。Cが0.08%よりも少ない場合には、980MPaの引張強度に到達するのは困難である。Cが0.14%を超える場合には、溶接性が損なわれる。上限は0.13又は0.12%でもよい。下限は0.09又は0.10%でもよい。好ましい範囲は0.09~0.12%である。
【0014】
好ましくは、炭素当量CEL(=C+Si/50+Mn/25+P/2+Cr/25)は0.20~0.30の範囲内とすべきである。
【0015】
Mn:2.5~3.0%
マンガンは、Ms温度を低下させることによってオーステナイトを安定化させかつ冷却中のフェライト及びパーライトの形成を防止する、固溶体強化元素である。さらに、MnはAc3温度を低下させ、オーステナイトの安定性にとって重要である。2.5%未満の含有量では、所望される量の残留オーステナイト、980MPaの引張強度を得ることが困難である場合があり、オーステナイト化温度は、従来の工業用焼鈍ラインにとっては高過ぎる場合がある。さらに、より低い含有量では、ポリゴナルフェライトの形成を回避することが困難である場合がある。一方、Mnの量が3.0%超である場合、Mnは液相内で蓄積しバンディングをひき起こし結果として加工性劣化の可能性をもたらすことから、偏析の問題が発生し得る。したがって、上限は3.0、2.9、2.8又は2.7%でもよい。下限は2.5又は2.6%でもよい。
【0016】
Si:0.7~1.1%
Siは、固溶体強化元素として作用し、薄鋼板の強度を確保するために重要である。Siはセメンタイトの析出を抑制し、オーステナイトの安定化にとって不可欠である。しかしながら、含有量が高すぎる場合には、過度に多くの酸化ケイ素が片材表面上に形成し、これがCAL内のロール上にクラッディングを発生させかつ後続して生産される鋼板上の表面欠陥を導く場合がある。したがって、上限は1.1%であり、1.05、1.0又は0.95%に制限されてもよい。下限は0.75又は0.80%であり得る。好ましい範囲は、0.7~1.0%でもよい。
【0017】
Cr:0.05~0.4%
Crは、鋼板の強度を増大させる上で有効である。Crは、フェライトを形成し、パーライト及びベイナイトの形成を遅らせる。AC3温度及びMS温度は、Cr含有量の増加に伴って、わずかしか低下しない。Crは、安定した残留オーステナイト量の増加を結果としてもたらす。Crの量は、0.4%に制限される。上限は、0.35、0.30又は0.25%でもよい。下限は0.10又は0.15%でもよい。好ましい範囲は0.1~0.3%である。
【0018】
Al:≦0.2%
Alは、フェライト形成を促進し、同様に脱酸素剤として一般的に使用されている。Ms温度は、Al含有量の増加に伴って上昇させられる。Alのさらなる欠点は、Ac3温度の極端な上昇を結果としてもたらし、したがってCAL内で鋼をオーステナイト化するのをさらに困難にするという点にある。これらの理由から、Al含有量は、好ましくは、0.2%未満、より好ましくは0.1%未満、最も好ましくは0.06%未満に制限される。
【0019】
Nb:≦0.1%
Nbは、一般に、結晶粒サイズに対するその影響のため、低合金鋼内において強度及び靭性を改善する目的で使用される。Nbは、NbCの析出に起因する残留オーステナイト相及びマトリクスミクロ組織の微細化によって強度伸びバランスを増大させる。鋼は0.1%以下の量でNbを含有してもよい。本発明によると、Nbの意図的な添加は不要である。したがって、上限は0.03%以下に制限されてもよい。上限は、さらに、0.01又は0.005%に制限されてもよい。
【0020】
Mo≦0.1%
強度を改善するために、モリブデンを添加することができる。モリブデンについては、炭化物の結晶粒粗大化反応速度を低下させることによってNbC析出物の利益をさらに増進してもい。本発明によると、Moの意図的な添加は不要である。したがって、上限は0.03%以下に制限されてもよい。上限はさらに、0.02%又は0.01%に制限されてもよい。
【0021】
V:≦0.1%
Vの機能は、それが析出硬化及び結晶粒細粒化に寄与するという点において、Nbの機能と類似する。鋼は、0.1%以下の量でVを含有してもよい。上限は、0.09、0.07、0.05、0.03又は0.01%に制限されてもよい。本発明によると、Vの意図的な添加は不要である。したがって、上限は0.01%以下に制限されてもよい。
【0022】
Ti:≦0.1%
Tiは、一般に、炭化物、窒化物又は炭窒化物を形成して結晶粒サイズに対して影響を及ぼすことから、強度及び靭性を改善するために低合金鋼内で使用される。詳細には、Tiは強い窒化物形成物質であり、鋼内の窒素を結合させるために使用可能である。しかしながら、効果は0.1%超で飽和する傾向にある。上限は、0.09、0.07、0.05、0.03又は0.01%に制限されてもよい。本発明によると、Tiの意図的な添加は不要である。したがって、上限は0.005%以下に制限されてもよい。
【0023】
Ca≦0.05
Caは、非金属介在物の改良のために使用されてもよい。上限は0.05%であり、0.04、0.03、0.01%に設定されてもよい。本発明によると、Caの意図的な添加は不要である。したがって、上限は0.004%以下に制限されてもよい。
【0024】
Cu:≦0.1%
Cuは、望まれない不純物元素であり、使用されるスクラップを入念に選択することにより0.1%以下に制限される。上限は、0.06%以下に制限されてもよい。
【0025】
Ni:≦0.2%
Niは、望まれない不純物元素であり、使用されるスクラップを入念に選択することにより0.2%以下に制限される。上限は、0.08%以下に制限されてもよい。
【0026】
B:≦0.005%
Bは、望まれない不純物元素であり、使用されるスクラップを入念に選択することにより0.005%以下に制限される。Bは、硬度を増大させるが、曲げ性の低下という犠牲を払う場合があり、したがってここで示唆されている鋼中では望ましくない。Bはさらに、スクラップの再利用をさらに困難にし、Bの添加は同様に加工性も低下させる場合がある。したがって、本発明によると、Bの意図的な添加は望まれない。したがって、上限は0.0006%以下に制限されてもよい。
【0027】
他の不純物元素が、通常存在する量で鋼中に含まれてもよい。しかしながら、P、S、As、Zr、Snの量を以下の任意の最大含有量に制限することが好ましい:
P:≦0.02%
S:≦0.005%
As≦0.010%
Zr≦0.005%
Sn≦0.015%
【0028】
窒素含有量を:
N:≦0.015%、好ましくは0.003~0.008%の範囲に制御することも同様に好ましい。この範囲内では、窒素の安定した固定を達成することができる。
【0029】
酸素及び水素をさらに、
O:≦0.0003
H:≦0.0020
に制限してもよい。
【0030】
本発明の高強度TRIP援用ベイナイトフェライト(TBF)鋼板は、主としてマトリクス内に包埋された残留オーステナイト介在物からなるミクロ組織を有する。
【0031】
ミクロ組織の割合は、以下で体積%(vol.%)により表現されている。
【0032】
鋼は、ベイナイトフェライト(BF)のマトリクスを含む。したがって、ベイナイトフェライトの量は、概して50%以上である。ミクロ組織は同様に焼戻しマルテンサイト(TM)も含有してもよい。構成成分BF及びTMは、互いに区別するのが困難である場合がある。したがって、両方の構成成分の総含有量は、70~90%に制限されてもよい。量は通常75~85%の範囲内にある。
【0033】
マルテンサイトは、その安定性に応じて、最終的ミクロ組織に存在してもよく、それは、一部のオーステナイトが過時効ステップの終りで冷却中にマルテンサイトに変態する場合があるためである。マルテンサイトは、15%以下の量、好ましくは10%以下の量で存在してもよい。この量は通常5~10%の範囲内にある。これらの未焼戻しマルテンサイト粒子は、多くの場合、残留オーステナイト粒子と密に接触しており、したがって多くの場合これらはマルテンサイト・オーステナイト(MA)粒子と呼ばれる。
【0034】
残留オーステナイトは、所望されるTRIP効果を得るための必須条件である。したがって、残留オーステナイトの量は、2~20%、好ましくは5~15%の範囲内にあるべきである。残留オーステナイトの量は、Proc.Int.Conf.on TRIP-aided high strength ferrous alloys(2002)、Ghent、Belgium、p.61~64中で詳細に説明されている飽和磁化方法を用いて測定された。
【0035】
ポリゴナルフェライト(PF)は、所望されるミクロ組織成分ではなく、したがって10%以下、好ましくは5%以下、3%以下又は1%以下に制限される。最も好ましくは、鋼は、PFを含まない。
【0036】
特許請求の範囲の鋼の機械的特性は、重要であり、以下の要件の少なくとも1つが満たされなければならない:
引張強度(Rm) 980~1180MPa
降伏強度(Rp0.2) 580~750MPa
全伸び(A50) ≧11%
降伏比(Rp0.2/Rm) ≦0.72
曲げ性(Ri/t) ≦2
【0037】
好ましくは、これらの要件は全て同時に満たされる。
【0038】
引張強度(Rm)の上限はさらに、1160、1140、1120、又は1100MPaに制限され得る。下限はさらに、990又は1000MPaに制限されてもよい。
【0039】
降伏強度(Rp0.2)の上限はさらに、740、730、720、710、700、690、680、670又は660MPaに制限され得る。好ましい間隔は580~700MPaである。
【0040】
降伏比(Rp0.2/Rm)の上限はさらに、0.71、0.70、0.69、0.68、0.67、0.66又は0.65に制限され得る。下限は、0.50、0.51、0.52、0.53、0.54、0.55、0.56、0.57又は0.58であり得る。
【0041】
Rm、Rp0.2値並びに全伸び(A50)は、日本工業規格JIS Z 2241:2011に準じて導出され、ここで試料は片材の横断方向で採取されている。
【0042】
曲げ性Ri/tの上限はさらに、1.9、1.8、1.7、1.6又は1.5に制限されてもよい。好ましくはRi/tは1.7以下、より好ましくは1.5以下である。Ri/tの下限は0.5、0.6、0.7、0.8、0.9又は1.0でもよい。
【0043】
曲げ性は、亀裂の発生の全く無い最小曲げ半径として定義される限界曲げ半径(Ri)と鋼板厚み(t)の比率によって評価される。この目的で、JIS Z2248に準じて鋼板を曲げるために90°のV字形ブロックが使用される。試料サイズは35×100mmである。曲げ値Ri/tは、mm単位の限界曲げ半径をmm単位の厚みで除することによって得られる。
【0044】
本発明の鋼板の機械的特性は、合金組成及びミクロ組織によって大幅に調整可能である。ミクロ組織は、CAL内の熱処理によって、詳細には過時効ステップにおける恒温処理温度によって調整可能である。
【0045】
提案されている鋼は、上述の組成を有する、転炉溶解の従来冶金と二次冶金の鋼スラブを作製することにより生産され得る。スラブは、オーステナイト範囲内で熱延鋼片へと熱間圧延される。好ましくは、スラブを1000℃~1280℃の温度まで再加熱することにより、スラブはオーステナイト範囲内で完全に圧延され、ここで圧延鋼片を得るための熱間圧延仕上げ温度は850℃以上である。その後、熱延片は、500~650℃の巻取り温度で巻取られる。任意には、巻取片は、酸洗いなどのスケール除去プロセスに付される。巻取片はその後、500~650℃、好ましくは550~650℃の範囲内の温度で、5~30時間にわたりバッチ焼鈍される。その後、焼鈍済み鋼片は、35~90%の圧下率、好ましくは40~60%前後の圧下で、冷間圧延される。冷間圧延鋼片は、連続焼鈍ライン(CAL)内でさらに処理される。
【0046】
CAL内の焼鈍サイクルには、800~890℃、好ましくは840~860℃の温度までの加熱ステップ、80~180秒、好ましくは100~140秒間の均熱ステップ、700~750℃の温度まで5~15℃/秒の速度での低速ガスジェット冷却ステップ、405~460℃の過時効温度まで20~60℃/秒、好ましくは30~50℃/秒の速度での高速ガス冷却ステップ、150~1000秒間の保持とその後の室温までの冷却ステップが含まれる。過時効温度は、450、440、430又は420℃に上方制限されてもよい。下限は、405、406、407、408、409又は410℃でもよい。過時効温度の好ましい範囲は、405~420℃である。
【実施例】
【0047】
鋼I1~I3及び参照鋼R1~R3を、転炉融解による従来冶金と二次冶金によって製造した。組成は表1に示されており、さらなる元素は不純物としてしか存在せず、以下では、本明細書において最低レベルが規定されている。
【0048】
表1は、調査された鋼板の組成を示す。
【0049】
【0050】
鋼合金のスラブを連続鋳造機内で製造した。スラブを再加熱し、表2に示されている厚さまで熱間圧延に付した。熱間圧延仕上げ温度は、約900℃であり、巻取り温度は約550℃であった。熱間圧延片を酸洗いし、約620~625℃で10時間にわたりバッチ焼鈍して、熱間圧延片の引張強度を低下させ、これにより、冷間圧延力を低下させた。その後、片材を、5スタンド型冷間圧延ミル内で、約1.4mm(I1、I3、R1、R2)又は1mm(I2、R3)の最終厚みまで冷間圧延し、最後に連続焼鈍に供した。
【0051】
表2は、熱間及び冷間圧延パラメータを示す。熱間圧延ステップと冷間圧延ステップの間に約10時間にわたり、バッチ焼鈍を行なった。
【0052】
【0053】
焼鈍サイクルは、約850℃の温度までの加熱ステップ、約120秒間の均熱、約720℃の温度まで約10℃/秒の速度での低速ガスジェット冷却ステップ、発明例については405℃超、そして非発明例については約390~395℃の過時効温度まで約40℃/秒の速度での高速ガス冷却ステップ、過時効温度での等温保持ステップ、及び周囲温度までの最終冷却ステップで構成されていた。
【0054】
CAL内での処理の詳細を表3に示す。表4から分かるように、異なる過時効温度は、鋼の降伏強度及び曲げ特性に影響を及ぼしている。
【0055】
【0056】
本発明にしたがって製造された材料は、表4に示すような優れた機械的特性を有することが分かった。
【0057】
全ての鋼は、980~1180MPaの範囲内の引張強度を有する。全伸びは全ての鋼について11%超であった。
【0058】
発明例I1~I3は、750MPa未満の降伏強度を有する。詳細には、全ての発明例(実施例)が、0.72未満の降伏比との組合せで2.0未満の曲げ性(Ri/t)を開示するということを指摘することができる。最高のRi/tは1.5であり、最高の降伏比は0.64であった。基準鋼R1~R3は、降伏強度及び曲げ性と組合わせた降伏比の要件を満たしていない。
【0059】
図1は、降伏比に対して曲げ性Ri/tをプロットした図表である。実施例I1~I3は、「保護領域」とマーキングされた、請求項1の請求境界線内にあり、一方、参照例R1~R3はその外側にある。
【0060】
【0061】
Rm及びRp0.2値は、欧州規格EN10002第1部に準じて導出され、ここで試料は、片材の長手方向で採取されたものである。伸び(A50)は、片材の横断方向で採取された試料について、日本工業規格JIS Z2241:2011に準じて導出される。
【0062】
Ri/tを、JIS Z2248に準じてV曲げ試験で求めた。製造された片材の試料(35×100mm)を、V曲げ試験に供して、限界曲げ半径(Ri)を求めた。亀裂発生を調査するため、試料を、目視と倍率25倍の光学顕微鏡の両方によって検査した。限界曲げ半径(Ri)を冷延片材の厚さ(t)で除することによって、Ri/tを求めた。Riは、材料が3回の曲げ試験の後にいかなる亀裂も示さない最大半径である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の材料は、自動車における高強度構造部品に広く適用可能である。高強度鋼板は、全体的成形性及び曲げ性についての要求が高い部品の生産に特に好適である。それは、自動車のB-ピラー、ルーフレール又はドアパネルに特に好適である。
【国際調査報告】