(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】タンパク質の精製
(51)【国際特許分類】
C07K 1/30 20060101AFI20240313BHJP
C12N 9/26 20060101ALI20240313BHJP
C12N 9/20 20060101ALI20240313BHJP
C12N 9/50 20060101ALI20240313BHJP
C12N 9/48 20060101ALI20240313BHJP
C12N 9/42 20060101ALI20240313BHJP
C12N 9/80 20060101ALI20240313BHJP
C12N 9/24 20060101ALI20240313BHJP
C12N 9/64 20060101ALI20240313BHJP
C12N 15/56 20060101ALI20240313BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20240313BHJP
C07K 1/34 20060101ALI20240313BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20240313BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240313BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240313BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240313BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240313BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240313BHJP
A61K 35/68 20060101ALI20240313BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20240313BHJP
A61K 38/47 20060101ALI20240313BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20240313BHJP
C12N 15/55 20060101ALN20240313BHJP
【FI】
C07K1/30
C12N9/26 A ZNA
C12N9/20
C12N9/50
C12N9/48
C12N9/42
C12N9/80
C12N9/24
C12N9/64
C12N15/56
C12N15/57
C07K1/34
A61P1/14
A61P1/18
A61P3/00
A61P37/02
A61P1/00
A61P35/00
A61K35/68
A61K38/48
A61K38/47
A61K38/46
C12N15/55
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561617
(86)(22)【出願日】2022-04-11
(85)【翻訳文提出日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2022059587
(87)【国際公開番号】W WO2022214705
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】323008187
【氏名又は名称】シリアン アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】ハートマン マルクス ヴォルフ ヴィリアム
(72)【発明者】
【氏名】アルダグ インゴ
(72)【発明者】
【氏名】ロスドルフ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウトフ シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】シューマッハー フロリアン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA11
4C084DC02
4C084DC07
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4C084NA20
4C084ZA66
4C084ZA69
4C084ZB07
4C084ZB26
4C084ZC21
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087AA05
4C087BB01
4C087MA52
4C087NA20
4C087ZA66
4C087ZA69
4C087ZB07
4C087ZB26
4C087ZC21
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA53
4H045CA20
4H045DA89
4H045EA20
4H045EA25
4H045FA74
4H045GA40
(57)【要約】
本発明は、クロマトグラフィーで精製されていない採取した細胞培養液(HCCF)から、繊毛虫宿主における同種または異種発現によって産生されたタンパク質を精製する方法に関する。この方法は、採取した細胞培養液をコスモトロピック剤とともにインキュベートする工程、結晶の形成によってタンパク質をエフロレッセンス化させる工程、および任意選択でエフロレッセンス化タンパク質を採取する工程を含む(
図1)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊毛虫宿主における同種または異種発現によって産生されたタンパク質を、クロマトグラフィーで精製されなかった採取された細胞培養液(HCCF)から精製する方法であって、
a) 採取した細胞培養液をコスモトロピック剤とインキュベートする工程、
b) 結晶の形成によりタンパク質をエフロレッセンス化する(efflorescing protein)工程、および
c) 任意選択で、エフロレッセンス化タンパク質(effloresced protein)を採取する工程
を含み、
エフロレッセンス化の前または後にタンパク質を架橋する工程を含まない、方法。
【請求項2】
タンパク質がグリコシル化タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
コスモトロピック剤が
・硫酸アンモニウム、
・リン酸二水素ナトリウム、および/または
・ポリエチレングリコール
の少なくとも1つである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
採取された細胞培養液が、3以上から200g/l以下のタンパク質を含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
タンパク質をエフロレッセンス化するために、
・培地中のpHが5以上から8以下に設定され、および/または
・温度が10℃以上から40℃以下に設定される、
前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
採取された細胞培養液のインキュベーションのために、コスモトロピック塩濃度が50以上から2500mM以下の範囲に設定される、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
採取された細胞培養液のインキュベーションのために、多価アルコール濃度が2以上から25w/v%以下の範囲に設定される、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
採取された細胞培養液とコスモトロピック剤とのインキュベーションが、10分以上36時間以下の期間にわたって行われる、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
採取前細胞培養液を、工程a)の前に1つ以上の濾過及び/又は遠心分離工程に供し、採取された細胞培養液を得る、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
繊毛虫宿主がTetrahymena sp.である、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記同種または異種発現が、
・メタロチオネイン遺伝子(MTT1)誘導性プロモーター、および/または
・熱誘導性プロモーター
の制御下にある、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
タンパク質が酵素である、前述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
タンパク質が、
・リパーゼ
・プロテアーゼ
・アミラーゼ
・グルテナーゼ
・グルタミン特異的システイン・プロテアーゼ
・プロリルエンドペプチダーゼ
・サッカラーゼ、および/または
・ラクターゼ
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
酵素が、
a) 配列番号1~3または8~10のいずれか1つに記載のテトラヒメナ・リパーゼ、
b) 配列番号4または11に記載のテトラヒメナ・アミラーゼ、
c) 配列番号5~7、12~14または15~17のいずれかに記載のテトラヒメナ・プロテアーゼ、または
d) (i)上記の酵素のいずれか1つと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、上記の酵素のいずれか1つの変異体であって、ここで前記変異体は酵素機能を保持するもの、および/または(ii)上記の酵素のいずれか1つのN末端および/またはC末端で1から3個のアミノ酸残基が除去または付加された変異体
である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法であって、該方法は、エフロレッセンス化タンパク質を可溶化する工程をさらに含む、方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法で得られた医薬中間体。
【請求項17】
エフロレッセンス化タンパク質の可溶化形態またはエフロレッセンス化タンパク質自体を含む、請求項16に記載の医薬中間体。
【請求項18】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法で得られた精製タンパク質。
【請求項19】
繊毛虫型グリコシル化パターンを含む精製され、結晶化されたタンパク質または医薬中間体。
【請求項20】
以下の少なくとも1つであるか、またはこれらを含む、請求項16または17のいずれか一項に記載の中間体または請求項18または19のいずれか一項に記載のタンパク質。
a) 配列番号1~3または8~10のいずれか1つに記載のテトラヒメナ・リパーゼ、
b) 配列番号4または11に記載のテトラヒメナ・アミラーゼ、
c) 配列番号5~7、12~14または15~17のいずれかに記載のテトラヒメナ・プロテアーゼ、または
d)(i)上記の酵素のいずれか1つと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、上記の酵素のいずれか1つの変異体であって、ここで前記変異体は酵素機能を保持するもの、および/または(ii)上記の酵素のいずれか1つのN末端および/またはC末端で1から3個のアミノ酸残基が除去または付加された変異体。
【請求項21】
結晶形態で提供される、請求項16、17もしくは20のいずれか一項に記載の中間体または請求項18~20のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項22】
純度が80%以上である、請求項16、17、20もしくは21のいずれか一項に記載の中間体または請求項18~21のいずれか一項に記載のタンパク質。
【請求項23】
請求項16、17、または20~22のいずれか一項に記載の中間体、または請求項18~22のいずれか一項に記載のタンパク質であって、タンパク質結晶が長さ2以上から1000μM以下である、タンパク質。
【請求項24】
請求項16、17、または20~23のいずれか一項に記載の中間体、または請求項18~22のいずれか一項に記載のタンパク質、および任意選択でさらに1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬製剤。
【請求項25】
タンパク質が酵素である、請求項24に記載の医薬製剤。
【請求項26】
酵素が、
・リパーゼ
・プロテアーゼ
・アミラーゼ
・グルテナーゼ
・グルタミン特異的システイン・プロテアーゼ
・プロリルエンドペプチダーゼ
・サッカラーゼ、および/または
・ラクターゼ
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項25に記載の医薬製剤。
【請求項27】
酵素は、以下のものであるか、または以下のものを含む、請求項26に記載の医薬製剤
a) 配列番号1~3または8~10のいずれか1つに記載のテトラヒメナ・リパーゼ、
b) 配列番号4または11に記載のテトラヒメナ・アミラーゼ、
c) 配列番号5~7、12~14または15~17のいずれかに記載のテトラヒメナ・プロテアーゼ、または
d)(i)上記の酵素のいずれか1つと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、上記の酵素のいずれか1つの変異体であって、ここで前記変異体は酵素機能を保持するもの、および/または(ii)上記の酵素のいずれか1つのN末端および/またはC末端で1から3個のアミノ酸残基が除去または付加された変異体。
【請求項28】
請求項18~22のいずれか一項に記載のタンパク質、または請求項26~27のいずれか一項に記載の医薬製剤の、酵素欠乏もしくは機能不全によって引き起こされる障害の診断を受けているか、罹患しているか、もしくは発症する危険性があるヒトもしくは動物対象の治療のための、もしくはそのような状態の予防のための(医薬の製造のための)使用。
【請求項29】
酵素の欠乏または機能不全によって引き起こされる障害を治療または予防するための方法であって、ヒトまたは動物対象に、請求項18~22のいずれか一項に記載の酵素、または請求項26~27のいずれか一項に記載の医薬製剤を、治療上十分な量で投与することを含む方法。
【請求項30】
酵素欠乏または機能不全によって引き起こされる障害が、
・脂質消化不全および/または消化障害
・酵素の欠乏または機能不全による障害
・膵外分泌機能不全であって、次のような原因が考えられるもの:
・慢性膵炎
・嚢胞性線維症
・主膵管閉塞
・膵臓切除
・胃切除
・短腸症候群
・遺伝性ヘモクロマトーシス
・セリアック病
・ゾリンジャー・エリソン症候群
・セリアックスプルー
・スクロース不耐症または遺伝性スクロースイソマルターゼ欠損症(GSID)、および/または
・乳糖不耐症
からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項28に記載の使用のためのタンパク質または請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項18~22のいずれか一項に記載のタンパク質、または請求項26~27のいずれか一項に記載の医薬製剤を含む投与ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、タンパク質の精製に関する。
【背景技術】
【0002】
生物学的システムで生産されるタンパク質は、患者に投与する前に精製が必要である。この目的のためにさまざまなアプローチが存在し、それぞれに異なる長所と短所がある。多くの場合、純度を上げるとコストが上がり、処理能力が低下し、逆もまた同様である。
【0003】
さらに、製造方法や投与経路によって、純度に関して異なる要件が存在する。外用タンパク質は、静脈内投与用タンパク質よりも精製度を低くする必要がある。
【0004】
一般に、タンパク質の同種または異種発現において、どの宿主(細菌、酵母、哺乳動物細胞)を選択するかにかかわらず、細胞培養上清は、採取前の細胞培養液の成分および生産されるタンパク質の他に、エンドトキシン、抗生物質、残渣、代謝産物などのような不要な成分を含んでいる。
【0005】
タンパク質精製の標準的な方法のひとつにクロマトグラフィーがある。しかし、物質移動の制限により、大型のクロマトグラフィーカラムを設計する必要があり、それに伴って大量の樹脂が必要となる。樹脂の寿命には限りがあるため、消耗品となる。さらに、樹脂は高価であり、特にアフィニティークロマトグラフィー樹脂や固定化金属クロマトグラフィー樹脂の場合はそうである。
【0006】
一般に、クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー精製工程を用いたタンパク質精製は、高度な装置や消耗品、高価なバッファーを大量に必要とするため、コストがかかる。さらに、クロマトグラフィー精製工程の処理能力は制限されることが多く、十分な収量を得るためには並行処理が必要となり、その結果コストが上昇する。
【0007】
それでもなお、ヒトの消費や治療に使用されるタンパク質については、製品の純度に関する高い要求を満たすために、クロマトグラフィーが依然として選択される方法である。
【0008】
しかし、大量のタンパク質を必要とする治療用途も存在する。これは特に、膵酵素補充療法(PERT)のようないくつかの酵素補充療法に当てはまるが、特に、他の経口酵素補充療法にも当てはまる。この場合、クロマトグラフィーによる精製は、許容限度を超えてコストを押し上げることになる。
【0009】
一方、繊毛虫の発現システムのように、生産される酵素1グラムあたりの生産コストが比較的低いタンパク質発現システムも存在する。生産された酵素のクロマトグラフィー精製は、これらのシステムが提供できる経済的利点に影響を与えるだろう。
【0010】
したがって、本発明の一つの目的は、上記の欠点を克服する精製方法を提供することである。
【0011】
これらおよび他の目的は、本発明の独立した請求項に記載の方法および手段によって達成される。従属請求項は、具体的な実施形態に関連する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、改変型リパーゼ酵素を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明及びその特徴の一般的な利点を以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、様々な分類群におけるN-グリコシル化パターンの概要を示している。一般に、「N-グリコシル化」という用語は、アミノ酸残基アスパラギン(N)のグリコシル化を指す。ここで、オリゴ糖鎖はトリペプチド配列Asn-X-SerまたはAsn-X-Thrに存在するアスパラギン残基にオリゴ糖転移酵素によって結合される。原核生物がN-グリコシル化を全く持たないのに対し、繊毛虫は、哺乳類、酵母、トランスジェニック植物などの他の分類群に比べ、非常に単純で小さいN-グリコシル化パターンを特徴とすることは明らかである。
【
図2】
図2は、クロマトグラフィーで精製していない採取された細胞培養液(HCCF)を1000mM 硫酸アンモニウムと130分間インキュベートした後に形成されたリパーゼ結晶の顕微鏡写真(40倍)である。
【
図3】
図3は、クロマトグラフィーで精製していない採取された細胞培養液(HCCF)を850mM 硫酸アンモニウムと130分間インキュベートした後に形成されたリパーゼ結晶の顕微鏡写真(40倍)である。
【
図4】
図4は、クロマトグラフィーで精製していない採取された細胞培養液(HCCF)を700mM 硫酸アンモニウムと130分間インキュベートした後に形成されたリパーゼ結晶の顕微鏡写真(40倍)である。
【
図5】
図5は、3000mMの塩化ナトリウムで130分間インキュベートした後、クロマトグラフィーで精製しなかった採取された細胞培養液(HCCF)の顕微鏡写真(40倍)である。
【
図6】
図6は、300mM硫酸アンモニウムで3時間インキュベートした後、クロマトグラフィーで精製しなかった採取された細胞培養液(HCCF)の顕微鏡写真(10倍)である。
【
図7】
図7は、300mM硫酸アンモニウムで20時間インキュベートした後、クロマトグラフィーで精製しなかった採取された細胞培養液(HCCF)の顕微鏡写真(10倍)である。
【
図8】
図8は、リパーゼを含む細胞培養液をさまざまな結晶化条件に曝した後、上清と結晶の脂肪分解活性を測定するためのローダミン-トリグリセリド-アガロースアッセイの結果である。
【
図9】
図9は、採取した細胞培養液を異なる結晶化条件に曝した後、上清と結晶中のタンパク質の総濃度を測定するためのBCAアッセイの結果である。
【
図10】
図10はタンパク質の結晶化スキームを示している。結晶化工程で実施された工程を図式化した。リパーゼ酵素は、繊毛虫発現系で、本明細書の別の箇所で論じたように生産された。タンパク質の結晶化は0.3M硫酸アンモニウムで開始した。硫酸アンモニウムの0.7Mへの増加は、室温で20時間培養した後に行った。タンパク質結晶はその後2回洗浄され、上清は廃棄された。残りの湿潤リパーゼ結晶は-20℃で保存した。
【
図11】結晶化剤として6%(w/v)のPEG4000を用い、93時間後に得られたT.thermophila由来a-アミラーゼの結晶。倍率:
図11:100倍
図12:400倍バーは約100μmを示す。
【
図12】結晶化剤として6%(w/v)のPEG4000を用い、93時間後に得られたT.thermophila由来a-アミラーゼの結晶。倍率:
図11:100倍
図12:400倍バーは約100μmを示す。
【
図13】
図13は、NaH
2PO
4を晶析剤として用い、リパーゼを含む細胞培養液を異なる晶析条件に曝した後、上清および晶析物の脂肪分解活性を測定するローダミン-トリグリセリドアッセイの結果である。
【
図14】
図14は,結晶化剤として最終濃度1.25M NaH
2PO
4を用い、115時間後に得られたT.thermophila由来リパーゼ0120の結晶である。バーは約100μmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を詳細に説明する前に、本発明は説明されたデバイスの特定の構成要素部分に限定されず、あるいはそのようなデバイスおよび方法は変化する可能性があるので、説明された方法のプロセス工程に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図していないことを理解されたい。明細書および添付の請求項において使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は文脈が明確に別途指示しない限り、単数形および/または複数形の参照を含むことに留意されたい。さらに、数値によって区切られるパラメータ範囲が与えられる場合、その範囲は、これらの限界値を含むものとみなされることを理解されたい。
【0016】
さらに、本明細書に開示される実施形態は、互いに関連しない個々の実施形態として理解されることを意味しないことを理解されたい。一実施形態で議論される特徴は、本明細書に示される他の実施形態に関連しても開示されることを意味する。1つの場合において、特定の特徴が1つの実施形態で開示されず、別の実施形態で開示される場合、当業者は、前記特徴が前記他の実施形態で開示されることを意味しないことを必ずしも意味しないことを理解するのであろう。当業者であれば、他の実施形態についても前記特徴を開示することが本出願の主旨であるが、単に明瞭にするため、及び本明細書を管理可能な量に維持するために、これが行われていないことを理解されよう。
【0017】
さらに、本明細書で参照される先行技術文献の内容は、参照により援用される。これは、特に、標準的または通常方法を開示する先行技術文献を指す。その場合、参照による援用は、主に、十分に実施可能な開示を提供し、長い繰り返しを回避する目的を有する。
【0018】
本発明の第一の態様によれば、タンパク質を精製する方法が提供され、タンパク質は、繊毛虫宿主における同種または異種発現によって産生され、クロマトグラフィー的に精製されなかった採取された細胞培養液(HCCF)から得られる。
【0019】
この方法は以下の工程を含む
a) 採取した細胞培養液をコスモトロピック剤とともにインキュベートする工程、
b) 結晶の形成によりタンパク質をエフロレッセンス化する(efflorescing)工程、および
c) 任意選択で、エフロレッセンス化タンパク質(effloresced protein)を採取する工程。
【0020】
この方法は、エフロレッセンス化の前または後にタンパク質を架橋する工程を含まない。
【0021】
本発明者らは、このような方法は、クロマトグラフィーによる精製の工程もタンパク質の架橋の工程も含まないが、例えばクロマトグラフィーによる精製と比較して、純度および収率に関して優れた結果をもたらし、さらに、コスト面でも実質的な利点があることを示した。
【0022】
本明細書で使用する「繊毛虫宿主」という用語は、繊毛虫門という科学的な門(phylum)を指すものとし、繊毛虫門は単細胞の真核生物(「原生動物(protozoa)」または「原生生物(protists)」)であり、特に、比較的大きなサイズ(長さが2mmに達する種もある)、繊毛で覆われた細胞表面、2種類の核、すなわち、小さな2倍体の小核と大きな倍体の大核(タンパク質の発現に使用される)を特徴とする。後者はゲノムの増幅と重編集(heavy editing)によって小核から生成される。繊毛虫、特にテトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)は、例えばWeide et al.2006やEP1350838(US6962800)(その内容は参照により本明細書に援用される)に記載されているように、異種または同種タンパク質発現産生のための発現宿主として使用されてきた。
【0023】
本明細書で使用する場合、「採取前の細胞培養液(CCF)」という用語は、繊毛虫宿主細胞を含む液体培地に関するものであり、特に同種発現または異種発現によって産生された酵素を含む培地に関するものである。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「採取された細胞培養液(HCCF)」は、遠心分離、濾過、および/または類似の分離方法によって採取前細胞培養液(CCF)から得られる液体培地に関する。
【0025】
本明細書において、「クロマトグラフィーで精製されていない」という用語は、採取した細胞培養液がクロマトグラフィーに基づく精製を受けていないことを意味するものとする。これは、ろ過のような単なるサイズ排除精製工程や、遠心分離のような密度ベースの精製工程を除外するものではない。
【0026】
本明細書において、「エフロレッセンス化(efflorescing)」という用語は、結晶の形成によってタンパク質が沈殿するプロセスに関する。「エフロレッセンス化(efflorescing)」と「結晶の形成による沈殿」という用語は、同じ意味で使われることがある。本来、「エフロレッセンス(efflorescence)」という用語は、レンガ、コンクリート、石、漆喰、その他の建築物の表面に水が存在する場合に形成される結晶性の沈殿物に関するものである。しかし、本明細書では、その意味は上に記載したプロセスに関するものである。
【0027】
本明細書で使用する「エフロレッセンス化タンパク質」は、沈殿および結晶形成のようなプロセスによって得られたタンパク質である。
【0028】
つまり、エフロレッセンス化タンパク質とは、上記の方法に従って得られる、結晶の形で存在するタンパク質のことである。その意味で、本明細書では、「エフロレッセンス化タンパク質」および「結晶化タンパク質」という用語を互換的に使用する。
【0029】
本明細書において、「コスモトロピック剤」という用語は、溶液中の水-水相互作用の安定性と構造に寄与する薬剤に関する。コスモトロープは、水分子を有利に相互作用させ、タンパク質のような高分子の分子内相互作用を安定化させるが、カオトロープは逆に、水の構造を破壊し、非極性溶媒粒子の溶解度を高め、溶質の凝集体を不安定化させる。
【0030】
イオン性コスモトロープは小さいか、電荷密度が高い傾向がある。イオン性コスモトロープには、CO3
2-、SO4
2-、HPO4
2-、Mg2+、Li+、Zn2+およびAl3+などがある。ホフマイスター系列を参照するか、塩の水素結合自由エネルギー(ΔGHB)を調べれば、水中でのイオンの水素結合の程度を定量化する尺度を確立できる。例えば、コスモトロープCO3
2-、およびOH-のΔGHBは0.1~0.4J/molであるのに対し、カオトロープSCN-のΔGHBは-1.1~-0.9である。
【0031】
他の適切なコスモトロープには、非イオン性コスモトロープがあり、これは正味の電荷を持たないが、非常に溶けやすく、非常に水和する。このようなコスモトロープには、トレハロースやグルコースなどの炭水化物、多価アルコール、プロリン、tert-ブタノールなどが含まれる。
【0032】
本発明者らは、驚くべきことに、同種または異種発現によって繊毛虫宿主で生産された酵素は、事前のクロマトグラフィー精製を必要とせず、コスモトロープで処理した後、エフロレッセンス化と結晶形成によって簡単かつ容易に精製できることを示した。
【0033】
これは非常に驚くべきことである。先行技術の文献では、タンパク質、特にリパーゼを結晶化させる前に、タンパク質は、必ずクロマトグラフィー精製などの精製工程を経ているからである。この点に関しては、精製と製剤化のためのタンパク質の大規模結晶化について論じたHekmat(2015)などを参照されたい。
【0034】
しかし、著者は、結晶化がタンパク質の精製プロセスにおける1つ以上のクロマトグラフィー工程を置き換えることができることを理解しているが、研究され、最終的に結晶化されるタンパク質はすべて精製されたもの、すなわち、使用される前にクロマトグラフィー精製工程を経たものである。
【0035】
さらに、本発明者らは、こうして生産された酵素は、例えばいくつかの先行技術文献で示唆されているように、架橋する必要がないことを驚くべきことに示した。
【0036】
例えばUS6359118B2は、糖鎖架橋糖タンパク質結晶の製造と使用を開示している。架橋は、例えばヘキサメチレンジアミン、ジアミノオクタン、またはエチレンジアミンのようなジアミン架橋剤を使用することによって達成されるのが好ましい。糖タンパク質は、好ましくはリパーゼであり、より好ましくはカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)リパーゼである。このような架橋糖タンパク質結晶は、
・糖タンパク質骨格の構造的および機能的完全性を維持しながら、
・過酷な環境条件に対してより優れた安定性を示す
と言われており、
一方、架橋法は、糖タンパク質の濃度が、所定の大きさの分子に対して達成可能な理論的充填限界に近く、濃厚溶液であっても達成可能な収量を大幅に提供すると言われている。
【0037】
理論に束縛されることなく、本発明による方法が酵素を事前に架橋することなく優れた結果をもたらす理由の一つは、適切なプロモーターを使用することにより、同種および異種の酵素、特にリパーゼを含むタンパク質を繊毛虫で大量に発現させることができるという事実にあるのかもしれない。このようにして、高い収率が得られ、架橋工程(エフロレッセンス化後の収率を上げるための工程)を不要にすることができる。
【0038】
さらに、理論に束縛されることなく、本発明による方法が酵素の事前のクロマトグラフィー精製なしに卓越した結果をもたらす理由の一つは、繊毛虫は大量のタンパク質を細胞フリーの上清に分泌する能力があり、事前のクロマトグラフィーおよび/または架橋なしでも結晶化が可能であるという事実にあるのかもしれない。
【0039】
さらに、理論に束縛されることなく、本発明による方法が酵素を事前にクロマトグラフィーで精製することなく卓越した結果をもたらす理由の一つは、繊毛虫が非常に単純で均一なグリコシル化パターンを特徴とするタンパク質を産生するという事実にあるのかもしれない。図解は
図1を参照。
【0040】
したがって、一実施形態では、タンパク質はグリコシル化タンパク質である。
【0041】
一般に、酵素を含む多くのタンパク質は、活性と安定性を維持するためにグリコシル化を必要とする。テトラヒメナ・リパーゼ120(本明細書の別の箇所で論じる)には、例えば2つの潜在的なn-グリコシル化部位がある(N61、モチーフはNV;N67、モチーフはNST)。
【0042】
この点に関しては、例えばChang et al(2007)が、構造ゲノム解析には特別な問題があり、なぜなら、正しく折り畳むためにはグリコシル化が必要であることが多く、一方、化学的および立体構造の不均一性は一般に結晶化を阻害するからであると論じている。
【0043】
興味深いことに、Chang et alは、タンパク質の発現中にグリコシル化処理阻害剤を使用することで、グリコシル化を回避し、結晶化を促進することを提案している。このような処理は、処理された酵素の化学物理学的および生理学的特性に重大な影響を及ぼし、その結果、活性および/または安定性が望ましくない形で失われる可能性がある。
【0044】
もちろん、酵素は原核生物の発現系でも生産できる。これらの系はタンパク質を全くグリコシル化しないので、こうして生成されたタンパク質は結晶化する際にも問題が少ないと思われる。しかしながら、グリコシル化を完全に欠くことは、このようにして生産された酵素の化学的・物理的および生理学的特性に重大な影響を及ぼし、その結果、活性および/または安定性の望ましくない欠如をもたらす可能性がある。
【0045】
このような観点から、理論に縛られることなく、繊毛虫が非常に単純で均一なグリコシル化パターン(
図1参照)を特徴とするタンパク質を産生するという事実は、確かに結晶化を促進し、以前のクロマトグラフィー精製工程やグリコシル化処理阻害剤の使用を不要にするかもしれない。
本発明の一実施形態によると、コスモトロピック剤は
・硫酸アンモニウム、
・リン酸二水素ナトリウム、および/または
・ポリエチレングリコール
の少なくとも1つを有する。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、使用されるポリエチレングリコールは、50以上から10000g/mol以下の間のサイズ範囲を有する。
【0047】
さらなる実施形態において、使用されるポリエチレングリコールは、50g/mol以上;100g/mol以上;200g/mol以上;300g/mol以上;400g/mol以上;500g/mol以上;600g/mol以上;700g/mol以上;800g/mol以上;900g/mol以上;1000g/mol以上;1200g/mol以上;1400g/mol以上;1600g/mol以上;1800g/mol以上;2000g/mol以上;2200g/mol以上;2400g/mol以上;2600g/mol以上;2800g/mol以上;3000g/mol以上;3200g/mol以上;3400g/mol以上;3600g/mol以上;3800g/mol以上;4000g/mol以上;4200g/mol以上;4400g/mol以上;4600g/mol以上;4800g/mol以上;5000g/mol以上;5200g/mol以上;5400g/mol以上;5600g/mol以上;5800g/mol以上;6000g/mol以上;6200g/mol以上;6400g/mol以上;6600g/mol以上;6800g/mol以上;7000g/mol以上;7200g/mol以上;7400g/mol以上;7600g/mol以上;7800g/mol以上;8000g/mol以上;8200g/mol以上;8400g/mol以上;8600g/mol以上;8800g/mol以上;9000g/mol以上;9200g/mol以上;9400g/mol以上;9600g/mol以上;9800g/mol以上および/または10000g/mol以上のサイズ範囲を有する。
【0048】
さらなる実施形態において、使用されるポリエチレングリコールは、10000g/mol以下;9800g/mol以下;9600g/mol以下;9400g/mol以下;9200g/mol以下;9000g/mol以下;8800g/mol以下;8600g/mol以下;8400g/mol以下;8200g/mol以下;8000g/mol以下;7800g/mol以下;7600g/mol以下;7400g/mol以下;7200g/mol以下;7000g/mol以下;6800g/mol以下;6600g/mol以下;6400g/mol以下;6200g/mol以下;6000g/mol以下;5800g/mol以下;5600g/mol以下;5400g/mol以下;5200g/mol以下;5000g/mol以下;4800g/mol以下;4600g/mol以下;4400g/mol以下;4200g/mol以下;4000g/mol以下;3800g/mol以下;3600g/mol以下;3400g/mol以下;3200g/mol以下;3000g/mol以下;2800g/mol以下;2600g/mol以下;2400g/mol以下;2200g/mol以下;2000g/mol以下;1800g/mol以下;1600g/mol以下;1400g/mol以下;1200g/mol以下;1000g/mol以下;900g/mol以下;800g/mol以下;700g/mol以下;600g/mol以下;500g/mol以下;400g/mol以下;300g/mol以下;200g/mol以下;100g/mol以下および/または50g/mol以下のサイズ範囲を有する。
【0049】
本発明の一実施形態によれば、採取された細胞培養液は、0.05以上から200g/l以下の間のタンパク質を含む。
【0050】
いくつかの実施形態において、採取された細胞培養液は、0.05g/l以上;0.1g/l以上;0.15g/l以上;0.2g/l以上;0.3g/l以上;0.4g/l以上;0.5g/l以上;0.6g/l以上;0.7g/l以上;0.8g/l以上;0.9g/l以上;1g/l以上;2g/l以上;3g/l以上;4g/l以上;5g/l以上;6g/l以上;7g/l以上;8g/l以上;9g/l以上;10g/l以上;15g/l以上;20g/l以上;25g/l以上;30g/l以上;35g/l以上;40g/l以上;45g/l以上;50g/l以上;55g/l以上;60g/l以上;65g/l以上;70g/l以上;75g/l以上;80g/l以上;85g/l以上;90g/l以上;95g/l以上;100g/l以上;110g/l以上;120g/l以上;130g/l以上;140g/l以上;150g/l以上;160g/l以上;170g/l以上;180g/l以上;190g/l以上;または200g/l以上のタンパク質を含む。
【0051】
いくつかの実施形態において、採取された細胞培養液は、200g/l以下;190g/l以下;180g/l以下;170g/l以下;160g/l以下;150g/l以下;140g/l以下;130g/l以下;120g/l以下;110g/l以下;100g/l以下;95g/l;90g/l以下;85g/l以下;80g/l以下;75g/l以下;70g/l以下;65g/l以下;60g/l以下;55g/l以下;50g/l以下;45g/l以下;40g/l以下;35g/l以下;30g/l以下;25g/l以下;20g/l以下;15g/l以下;10g/l以下;9g/l以下;8g/l以下;7g/l以下;6g/l以下;5g/l以下;4g/l以下;3g/l;2g/l以下;1g/l以下;0,9g/l以下;0,8g/l以下;0,7g/l以下;0,6g/l以下;0,5g/l以下;0,4g/l以下;0,3g/l以下;0,2g/l以下;0,15g/l以下;0,1g/l以下;または0,05g/l以下のタンパク質を含む。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態によれば、タンパク質をエフロレッセンス化するために、
・培地中のpHが5以上から8以下の間に設定され、および/または
・10℃以上から40℃以下の間の温度に設定される。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、採取された細胞培養液のインキュベーションのために、コスモトロピック塩濃度は50以上から2500mM以下の範囲に設定される。
【0054】
いくつかの実施形態において、コスモトロピック塩濃度は、50mM以上;100mM以上;150mM以上;200mM以上;250mM以上;300mM以上;350mM以上;400mM以上;450mM以上;500mM以上;550mM以上;600mM以上;650mM以上;および700mM以上であるように設定される。
【0055】
いくつかの実施形態において、コスモトロピック塩濃度は、2500mM以下;2300mM以下;2100mM以下;2000mM以下;1900mM以下;1800mM以下;1700mM以下;1600mM以下;1500mM以下;1400mM以下;1300mM以下;1200mM以下;1100mM以下;および1000mM以下であるように設定される。
【0056】
いくつかの実施形態において、コスモトロピック塩濃度は、50mM以上と2500mM以下の間;100mM以上と2300mM以下の間;150mM以上と2100mM以下の間;200mM以上と2000mM以下の間;250mM以上と1900mM以下の間;300mM以上と1800mM以下の間;350mM以上と1700mM以下の間;400mM以上と1600mM以下の間;450mM以上と1500mM以下の間;500mM以上と1400mM以下の間;550mM以上と1300mM以下;600mM以上と1200mM以下;650mM以上と1100mM以下の間;700mM以上と1000mM以下の間に設定される。
【0057】
好ましくは、これらの濃度範囲は硫酸アンモニウムおよび/またはリン酸二水素ナトリウムに適用される。
【0058】
一実施形態では、アミラーゼの結晶化のために、100mM以上のコスモトロピック塩濃度が使用される。一実施形態では、リパーゼの結晶化には、コスモトロピック塩濃度300mM以上を使用する。好ましくは、これらの濃度範囲は硫酸アンモニウムおよび/またはリン酸二水素ナトリウムに適用される。
【0059】
いくつかの実施形態では、コスモトロピック塩濃度は700mM以上1M以下の範囲に設定される。好ましくは、これらの濃度範囲は硫酸アンモニウムおよび/またはリン酸二水素ナトリウムに適用される。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、採取された細胞培養液のインキュベーションのために、ポリアルコール濃度は、2以上から25w/v%以下の範囲に設定される。
【0061】
いくつかの実施形態において、ポリアルコール濃度は、2w/v%以上;2,5%以上;3%以上;3,5%以上;4%以上;4,5%以上;5%以上;5,5%以上;6%以上;6,5%以上;7%以上;7,5%以上;8%以上;8,5%以上;9%以上;9,5%以上;10%以上;10.5%以上;11%以上;11.5%以上;12%以上;12.5%以上;13%以上;13.5%以上;14%以上;14.5%以上;15%以上;15.5%以上;16%以上;16.5%以上;17%以上;17.5%以上;18%以上;18.5%以上;19%以上;19.5%以上および/または20w/v%以上である。
【0062】
いくつかの実施形態において、ポリアルコール濃度は、25w/v%以下;24,5%以下;24%以下;23,5%以下;23%以下;22,5%以下;22%以下;21,5%以下;21%以下;20,5%以下;20%以下;19,5%以下;19%以下;18,5%以下;18%以下;17,5%以下;17%以下;16,5%以下;16%以下;15,5%以下;15%以下;14,5%以下;14%以下;13,5%以下;13%以下;12,5%以下;12%以下;11,5%以下;11%以下;10,5%以下および/または10w/v%以下であるように設定される。
【0063】
好ましくは、これらの濃度範囲はポリエチレングリコールに適用される。
【0064】
いくつかの実施形態において、多価アルコールはPEG4000(4000g/mol)である。好ましくは、6 w/v %の濃度を設定する。
【0065】
いくつかの実施形態において、多価アルコールはPEG6000(6000g/mol)である。好ましくは、6 w/v %の濃度を設定する。
【0066】
上記の濃度範囲は決して拘束力を持つものではない、なぜなら本発明者らは、培地中のタンパク質濃度が高ければ高いほど、必要なコスモトロピック剤の濃度が低くなることに気づいたからである。
【0067】
本発明の一実施形態によれば、採取された細胞培養液とコスモトロピック剤とのインキュベーションは、10分以上36時間以下の期間にわたって行われる。
【0068】
本発明の一実施形態によれば、採取前の細胞培養液は、工程a)の前に1つ以上の濾過及び/又は遠心分離工程に供され、採取された細胞培養液を得る。
【0069】
このような濾過には、以下の少なくとも1つが含まれる:
・CCFから細胞を除去するための精密ろ過、例えば中空糸クロスフローろ過システム(0.4~0.8μmのサイズ排除)
・より小さなペプチドや不純物を除去するために、限外濾過と、任意選択により、それに続くダイアフィルトレーション。
【0070】
このような遠心分離には、例えばWestfalia Separatorが提供するような遠心分離機または遠心分離器の使用が含まれる。一実施形態では、適用される少なくとも1つのフィルターは、精製されるそれぞれのタンパク質に適合する分子量カットオフ(MWCO)を有する。
【0071】
一実施形態では、適用される少なくとも一つのフィルターは、50kd以下の分子量カットオフ(MWCO)を有する。
【0072】
さらなる実施形態において、適用される少なくとも1つのフィルターは、49kDa以下;48kDa以下;47kDa以下;46kDa以下;45kDa以下;44kDa以下;43kDa以下;42kDa以下;41kDa以下;40kDa以下;39kDa以下;38kDa以下;37kDa以下;36kDa以下;35kDa以下;34kDa以下;33kDa以下;32kDa以下;31kDa以下;30kDa以下;29kDa以下;28kDa以下;27kDa以下;26kDa以下;25kDa以下;24kDa以下;23kDa以下;22kDa以下;21kDa以下;20kDa以下;19kDa以下;18kDa以下;17kDa以下;16kDa以下;15kDa以下;14kDa以下;13kDa以下;12kDa以下;11kDa以下;10kDa以下;9kDa以下、好ましくは8kDa以下の分子量カットオフ(MWCO)を有する。
【0073】
この文脈では、分子量カットオフがシグナルペプチドを含まないタンパク質の分子量に適合していることを理解することが重要である。さらに、酵素は、例えばプロテアーゼCCP5(12kDaの活性断片を形成する)のように、酵素活性を保持する酵素活性断片を形成しうることが過去に示されている。
【0074】
本発明の一実施形態によれば、繊毛虫宿主はテトラヒメナ属の種(Tetrahymena sp.)である。
【0075】
一実施形態では、繊毛虫宿主はテトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)である。この文脈において、テトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)は、例えばWeide et al.2006やEP1350838(US6962800)(その内容は参照により本明細書に援用される)に記載されているように、異種または同種タンパク質発現産生のための発現宿主として使用されてきた。
【0076】
一般に、本発明の文脈で使用することができる、テトラヒメナを含む繊毛虫の形質転換のための方法は、特にマイクロインジェクション、エレクトロポレーションおよび微粒子銃からなり、例えば、Tondravi & Yao (1986), Gaertig & Gorovsky (1992) and Cassidy-Hanley et al (1997) に記載されている。
【0077】
形質転換および異種タンパク質発現の方法は、少数の原生生物について記載されている(WO 00/58483 および WO 00/46381)。繊毛虫テトラヒメナ・サーモフィラ(Tetrahymena thermophila)の分裂安定形質転換体の作製は、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、または微粒子銃による体細胞大核または生殖系小核(somatic macronucleus or the generative micronucleus)のいずれかのトランスフェクション後に達成することができる。
【0078】
形質転換体の選択は、ネオマイシン耐性(Weide et al.2006, BMC)のような異なる選択マーカーを用いて行うことができ、相同DNA組み換えによって異種遺伝子を組み込むことで、安定したチミジン栄養要求性のテトラヒメナ細胞を得ることができる(Weide et al.2006, BMC)。また、ブラストサイジンS(Weide et al.2007, BMC)またはパクリタキセル(WO 00/46381 )耐性も考慮されている。
【0079】
繊毛虫におけるタンパク質発現に適したプロモーターは、例えば、本発明の出願人に登録されているUS2008261290A1に開示されており、その内容は参照することにより本明細書に援用される。そこでは、本発明の目的にも使用できる熱誘導性プロモーターとメタロチオネインプロモーターが開示されている。
【0080】
本発明の一実施態様によれば、同種発現または異種発現は、
・メタロチオネイン遺伝子(MTT1)誘導性プロモーター、および/または
・熱誘導性プロモーター
の制御下にある。
【0081】
前記MTT1誘導性プロモーターは、例えば、WO2003006480A1(US20030027192A1)に開示されており、その内容は、実施可能性の目的で本明細書に組み込まれる。
【0082】
前記熱誘導性プロモーターは、例えば、EP1902138B1(US7723506B2)に開示されており、その内容は、実施可能性の目的で本明細書に組み込まれる。
【0083】
本発明の一実施形態によると、タンパク質は酵素である。
【0084】
さらなる実施形態によれば、酵素は、
・リパーゼ
・プロテアーゼ
・アミラーゼ
・グルテナーゼ
・グルタミン特異的システイン・プロテアーゼ
・プロリルエンドペプチダーゼ
・サッカラーゼ、および/または
・ラクターゼ
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0085】
リパーゼ、アミラーゼまたはプロテアーゼは、例えば、膵外分泌機能不全の治療のための膵酵素補充療法(PERT)に用いることができる。膵外分泌機能不全には以下のような原因がある:
【0086】
このような治療では、患者はしばしば大量の酵素を必要とし、経口投与される。標準的な治療法は、豚膵臓ホモジネート(すなわち,リパーゼ含量が変化する非常に複雑な製品)を顆粒状にしてカプセルとして提供するもので、患者は1日平均2.5g(1カプセル300mg×8カプセル)あるいはそれ以上(50カプセルまで服用しなければならない患者もいるという報告もある)を服用しなければならない。これは、年間約1kgの製品となり、クロマトグラフィーによる精製が製品コストを過度に押し上げるという事実を強調している。
本発明の一実施形態によると、酵素は以下である:
a) 配列番号1~3または8~10のいずれか1つに記載のテトラヒメナ・リパーゼ、
b) 配列番号4または11に記載のテトラヒメナ・アミラーゼ、
c) 配列番号5~7、12~14または15~17のいずれかに記載のテトラヒメナ・プロテアーゼ、または
d) (i)上記の酵素のいずれか1つと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、上記の酵素のいずれか1つの変異体であって、ここで前記変異体は酵素機能を保持するもの、および/または
(ii)上記の酵素のいずれか1つのN末端および/またはC末端で1から3個のアミノ酸残基が除去または付加された変異体。
【0087】
配列番号1はUniProt Identifierで公開されているテトラヒメナ・リパーゼ120の配列である:Q237S4(TTHERM_00320120).これは、特にWO2016116600A1(US10590402B2)ですでに議論されており、現在、膵酵素補充療法(PERT)の前臨床評価中である。
【0088】
さらなる酵素について以下に詳述する。配列番号1~7の各々はシグナルペプチドを持つ酵素を示す。配列番号8-14はシグナルペプチドを持たない酵素を指す。配列番号15-17はプロペプチドを持たないプロテアーゼ酵素を指す。
【0089】
本明細書中「配列同一性のパーセンテージ」は、比較窓上で2つの最適に並べられた生物配列(アミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列)を比較することによって決定され、ここで、比較窓における対応する配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのために、付加または欠失を含まない参照配列と比較して、付加または欠失(すなわち、ギャップ)を含み得る。パーセンテージは、両配列において同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が生じる位置の数を決定して一致位置の数を得、一致位置の数を比較窓における位置の総数で除し、結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。
【0090】
用語「同一」又はパーセント「同一性」は、2つ以上の核酸又はポリペプチド配列に関して、同じ配列である2つ以上の配列若しくはサブ配列を指す。2つの配列が、下記の配列比較アルゴリズムの1つを用いて、または手動アラインメントと目視検査によって測定された比較ウィンドウ、または指定領域にわたって最大対応となるように比較およびアラインメントしたときに、同じアミノ酸残基またはヌクレオチドが指定された割合(すなわち、指定領域にわたって少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性、または指定しない場合は、参照配列全体)であれば「実質同一」であるとする。本開示は、本明細書に例示されるポリペプチドと実質的に同一であるポリペプチドを提供する。アミノ酸配列に関して、同一性または実質的同一性は、長さが少なくとも5、10、15または20アミノ酸、場合によっては長さが少なくとも約25、30、35、40、50、75または100アミノ酸、場合によっては長さが少なくとも約150、200または250アミノ酸、または参照配列の全長にわたる領域にわたって存在することができる。より短いアミノ酸配列、例えば20以下のアミノ酸配列に関しては、本明細書で定義される保存的置換に従って、1または2個のアミノ酸残基が保存的に置換された場合、実質的な同一性が存在する。
【0091】
一実施形態によれば、本方法は、エフロレッセンス化タンパク質を可溶化する工程をさらに含む。このようにして精製されたタンパク質は、再び溶液に移される。これは、非経口投与など、可溶性タンパク質が必要とされる用途に有用であろう。経腸投与などの他の用途では、タンパク質のエフロレッセンス化形態を使用することができる。
【0092】
本発明の別の態様によれば、上記の説明による方法で得られた医薬中間体が提供される。一般的な定義によれば、医薬中間体とは、合成または生物発酵によって得られる原料薬物またはプロドラッグのことで、患者に投与可能な医薬製剤を製造するための原料として使用される。そのためには、医薬中間体はさらなる分子変化や加工を受けなければならない。
【0093】
したがって、本発明の文脈では、このような中間体は、上記の説明による方法によって直接的または間接的に得られたが、それ自体はまだ患者に投与する準備ができていない製品として定義される。つまり、この中間体は、医薬製剤を製造するために使用される。ある面ではプロドラッグともいえる。このような中間体は、上記のように可溶化した形態や、エフロレッセンス化(=結晶化)した形態をとることができる。
【0094】
したがって、一実施形態によれば、医薬中間体は、エフロレッセンス化タンパク質の可溶化形態またはエフロレッセンス化タンパク質そのものを含む。
【0095】
本発明の別の態様によれば、上記の説明による方法で得られた精製タンパク質または医薬中間体が提供される。
【0096】
本発明の別の側面によれば、繊毛虫型グリコシル化パターンを含む精製され、結晶化されたタンパク質または医薬中間体が提供される。本明細書で論じたように、繊毛虫は非常に単純で均一なグリコシル化パターンを特徴とするタンパク質を産生する。これは他の分類群に比べユニークである。
【0097】
特に、繊毛虫型グリコシル化パターンは、以下の少なくとも1つである。
・フコースなし
・キシロースなし
・マンノースに乏しい
・ガラクトースなし
・N-アセチルノイラミン酸なし、および/または
・N-グリクリルノイラミン酸(N-glyclylneuraminic acid)なし、
図解は
図1を参照。このようなタンパク質は、例えば、上記の説明による方法で得ることができる。
【0098】
上記の酵素のいずれか1つの変異体であって、本発明の一実施形態によれば、中間体またはタンパク質は、以下の少なくとも1つであるか、またはこれらを含む:
a) 配列番号1~3または8~10のいずれか1つに記載のテトラヒメナ・リパーゼ、
b) 配列番号4または11に記載のテトラヒメナ・アミラーゼ、
c) 配列番号5~7、12~14または15~17のいずれかに記載のテトラヒメナ・プロテアーゼ、または
d) (i)上記の酵素のいずれか1つと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、上記の酵素のいずれか1つの変異体であって、ここで前記変異体は酵素機能を保持するもの、および/または(ii)上記の酵素のいずれか1つのN末端および/またはC末端で1から3個のアミノ酸残基が除去または付加された変異体
【0099】
本発明の別の実施態様によれば、中間体またはタンパク質は、以下の表に示す群から選択される酵素であるか、またはそれらを含む:
【0100】
これらの酵素は経口酵素補充療法に使用され、膵臓酵素補充療法と同様に大量に必要とされるため、本明細書に記載した結晶化プロセスのように、費用対効果の高い発現・精製技術が有利となる。
【0101】
本発明の一実施形態によれば、中間体またはタンパク質は結晶形態で提供される。
【0102】
本発明の一実施形態によれば、中間体またはタンパク質は、80%以上の純度等級を有する。
【0103】
本発明の一実施形態によれば、中間体またはタンパク質のタンパク質結晶は、2以上から1000μm以下の間の長さを有する。
【0104】
本発明の一実施形態によれば、中間体またはタンパク質のタンパク質結晶は、0.05μm以上から10μm以下の間の直径を有する。
【0105】
本発明の別の態様によれば、上記の説明による中間体またはタンパク質を含み、任意にさらに1つ以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬製剤が提供される。
【0106】
本発明のいくつかの実施形態によれば、タンパク質は酵素である。
【0107】
本発明のさらなる実施形態によれば、酵素は、以下からなる群から選択される少なくとも1つである。
・リパーゼ
・プロテアーゼ
・アミラーゼ
・グルテナーゼ
・グルタミン特異的システイン・プロテアーゼ
・プロリルエンドペプチダーゼ
・サッカラーゼ、および/または
・ラクターゼ。
【0108】
さらなる実施形態において、酵素は
a) 配列番号1~3または8~10のいずれか1つに記載のテトラヒメナ・リパーゼ、
b) 配列番号4または11に記載のテトラヒメナ・アミラーゼ、
c) 配列番号5~7、12~14または15~17のいずれかに記載のテトラヒメナ・プロテアーゼ、または
d) (i)上記の酵素のいずれか1つと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有する、上記の酵素のいずれか1つの変異体であって、ここで前記変異体は酵素機能を保持するもの、および/または(ii)上記の酵素のいずれか1つのN末端および/またはC末端で1から3個のアミノ酸残基が除去または付加された変異体。
【0109】
リパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ活性をモジュール式に組み立てることが可能なため、さまざまな病態の患者、ひいてはさまざまな投薬が必要な患者に製剤を適応させることができる。例えば、ムコビシドースを持つ子供にとって、アミラーゼの含有量が多いことは望ましくない。プロテアーゼは急性膵炎または活動性の慢性膵炎の患者には禁忌である。そして第四に、真菌由来のリパーゼとは対照的に、この製剤は生理的濃度の胆汁酸によって活性化される。
【0110】
本発明の別の態様によれば、上記記載に係る酵素または医薬製剤は、酵素欠乏または機能不全によって引き起こされる障害と診断されているか、罹患しているか、または発症する危険性があるヒトまたは動物の対象の治療に使用するために(医薬品の製造のために)提供される。
【0111】
この文言は、一部の国で受け入れられているスイスタイプのクレーム文言(この場合、括弧はないものとみなされる)と、EPC2000の文言(この場合、括弧と括弧内の内容はないものとみなされる)の両方を包含するものとみなされる。
【0112】
本発明の別の態様によれば、酵素の欠乏または機能不全によって引き起こされる障害を処置または予防するための方法が提供され、この方法は、ヒトまたは動物対象に、治療上十分な用量の上記の説明による酵素または薬学的調製物を投与することを含む。
【0113】
さらなる実施形態によれば、酵素欠乏または機能不全によって引き起こされる障害は、
・脂質消化不全および/または消化障害
・酵素の欠乏または機能不全による障害。
・膵外分泌機能不全であって、次のような原因が考えられるもの:
・慢性膵炎
・嚢胞性線維症
・主膵管閉塞
・膵臓切除
・胃切除
・短腸症候群
・遺伝性ヘモクロマトーシス
・セリアック病
・ゾリンジャー・エリソン症候群
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0114】
一実施形態では、前記使用において、消化障害は膵外分泌機能不全(EPI)である。このような膵外分泌機能不全は、特に嚢胞性線維症、膵管閉塞、膵臓切除術によって引き起こされることがある。
【0115】
他の1つの実施形態によれば、炎症状態は、膵臓の慢性炎症(膵炎)または炎症性腸疾患である。
【0116】
その他の消化器系疾患としては、脂肪便、セリアック病、消化障害などがある。
【0117】
EPIとは、膵臓で作られる消化酵素の不足により、食物を適切に消化できない状態を指す。EPIは、嚢胞性線維症やシュワックマン・ダイヤモンド症候群に罹患したヒトにみられ、消化酵素を作る膵臓の細胞が徐々に失われることによって引き起こされる;消化酵素が失われると、消化不良が起こり、正常な消化過程から栄養素が吸収されなくなる。慢性膵炎はヒトにおけるEPIの最も一般的な原因である。
【0118】
脂肪便とは、便中に脂肪が過剰に含まれている状態をいう。便はまた、過剰な脂質のために浮遊し、油っぽく見え、特に悪臭を放つことがある。油性の肛門漏れやある程度の便失禁が起こることもある。脂肪排泄が増加し、これは糞便中の脂肪レベルを測定することでわかる。どの程度の糞便脂肪が脂肪便となるかの定義は標準化されていない。
【0119】
消化不良は、患者が高脂肪食の後に腹部膨満感、ガス、満腹感に悩まされる症状である。このような症状は、一般的に過敏性腸症候群(IBS)と関連しているため、一部の研究者は、膵酵素がIBSの症状の治療に役立つのではないかと推測している。しかし、研究は行われていない。
【0120】
一実施形態では、前記使用において、脂質消化不全はリポ蛋白リパーゼ欠損症であり、これはリポ蛋白リパーゼをコードする遺伝子の突然変異によって引き起こされる状態である。
【0121】
本発明のさらに別の実施態様によれば、嚢胞性線維症の治療のための、上記の説明による2種以上のリパーゼ酵素の組み合わせ、または後者を含む医薬製剤の使用が提供される。
【0122】
嚢胞性線維症は、体内で異常に濃く粘り気のある粘液を産生する遺伝性の疾患である。粘液が膵酵素の腸への到達を阻害するため、患者はしばしば栄養不足に陥る。リパーゼを摂取することは、これらの患者が食物から摂取する栄養を改善するのに役立つ。
【0123】
さらなる実施形態によれば、酵素欠乏または機能不全によって引き起こされる障害は、
・セリアックスプルー
・スクロース不耐症または遺伝性スクロースイソマルターゼ欠損症(GSID)、および/または
・乳糖不耐症
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0124】
本明細書の他の箇所で述べたように、これらの疾患は、本明細書に開示した方法で製造したそれぞれの酵素を用いた経口酵素補充療法によって有利に治療することができる。
【0125】
本発明の別の態様によれば、上記の説明によるタンパク質または薬学的調製物を含む投与ユニットが提供される。
【0126】
一実施形態では、このような投与ユニットは、経口投与に適した実体で提供される。
【0127】
いくつかの実施形態において、前記投与ユニットは、カプセル、錠剤、または小袋である。
【実施例】
【0128】
本発明は図面および前記の説明において詳細に図示および説明されてきたが、そのような図示および説明は例示または例示的であり、限定的ではないと考えられるべきであり、本発明は開示された実施形態に限定されない。開示される実施形態に対する他の変形形態は、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の研究から、請求される発明を実施する際に当業者によって理解され、実施され得る。特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という語は、他の要素又は工程を排除するものではなく、不定冠詞「a(1つの)」又は「an(1つの)」は複数形を除外するものではない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に列挙されているという単なる事実は、これらの手段の組合せを使用して利益を得ることができないことを示すものではない。特許請求の範囲のどの引用符号も、範囲を限定すると解釈するべきではない。
【0129】
本明細書に開示される全てのアミノ酸配列は、N末端からC末端まで示される;本明細書に開示される全ての核酸配列は、5′->3′で示される。
1.硫酸アンモニウムを用いたT. thermophila由来リパーゼの結晶化
材料及び方法
培地
標準複合培地
発酵のためのパロモマイシン濃度:
2 μg/ml パロモマイシン
バッファー
硫酸アンモニウムのストック溶液
20mMリン酸-クエン酸塩
4M硫酸アンモニウム
pH6.0
洗浄バッファー
20mMリン酸-クエン酸塩
0.7M硫酸アンモニウム
pH7.0
クエン酸塩/リン酸塩バッファー
20mMリン酸-クエン酸塩
pH7.0
機械:
ソフトウェア
【0130】
トランスフォーメーション
細胞基質(Tt_pAX_hn_MTT1_Ttherm_00320120_K12)の生成のために、エピソームベクターpAX_hn_MTT1_Ttherm_00320120(Cilian AGにより提供)を、Cassidy-Hanleyら(1997)に以前に記載されたように行われた生物学的形質転換の方法によって、結合親細胞T. thermophila B 1868.7およびT. thermophila SB 1969に挿入した。
【0131】
細胞培養/発酵
T. thermophilaのバッチ発酵は、Techfors T900 fermenter(Infors, Bottmingen-Basel, Switzerland)を用い、600リットルのスケールで行った。発酵槽に10×103細胞/mlを接種し、SPP培地で培養した。温度は30℃に維持され、pO2は攪拌機の回転数(50~105rpm)と空気流量(0.1~0.3vvm)によって空気飽和度の20%に制御された。発酵中、pHは7.0に調整された。対数期の培養に10μg/mlの塩化カドミウムを添加し、リパーゼ発現を誘導した。
【0132】
採取とろ過/USP
誘導後24時間後、中空糸モジュール(Spectrum PES、内腔0.5 mm、面積2.9m2、カットオフ0.5 μm;Spectrum Laboratories Inc.、米国カリフォルニア州ランチョ・ドミンゲス)を用いた濾過により、600 lの培養液から550 lの上清を得た。Sartocon Slice Hydrosartタンジェンシャルフローカセット(30 kDaカットオフ;Sartorius社、ドイツ、ゲッティンゲン)を用いて、濾液を6 lに濃縮した。濃縮終了後、濃縮液をバッファー(クエン酸-リン酸塩、pH7.0)で洗浄し、直ちに-80℃で凍結した。
【0133】
結晶化実験
リパーゼタンパク質の結晶化は、タンパク質濃縮液に適切な結晶化試薬を加えて行った。濃縮・ダイアフィルトレーションした発酵ブロスのタンパク質濃度は46.69mg/mlであった。濃縮液を硫酸アンモニウムストック溶液と混合し、硫酸アンモニウムの最終濃度を0.3M (
図1)とした。この懸濁液を室温で20時間インキュベートした。その後、懸濁液の硫酸アンモニウム濃度を1Mに増やした。 調製した懸濁液をさらに室温で2時間インキュベートした。結晶化ブロスを1,900xgで10分間遠心した(Sorvall Lynx 6000 Centrifuge; Thermo Scientific
TM)。上清を捨て、残った結晶ペレットをラミネートし洗浄バッファーでほぐした。この懸濁液を1,900xgで10分間再度遠心した。全てにおいて、結晶ペレットは2回洗浄し、上清は廃棄した。最後の遠心分離は2,500 x gで20分間行った。 湿った結晶ペレットは、さらなる調査のために-20℃で保存した。
【0134】
顕微鏡写真は、Motic microscope AE2000と対応する評価ソフトウェアMotic Images Plus 3.0を使用して実施した。結晶懸濁液20μlを顕微鏡用スライドグラスに移し、スライドグラスで覆った。調製した懸濁液を、数回の増幅(10倍、20倍、40倍)を行って目視検査した。長さと幅は評価ソフトを使って測定した。
【0135】
ローダミンアッセイ
脂肪分解活性は、Jetteらによって発表されたローダミン-トリグリセリド-アガロースアッセイに基づいて測定された。 オリジナルのプロトコールとは対照的に、トリグリセリド-アガロース混合物は基質としてオリーブ油に置き換えられている。活性型リパーゼはトリグリセリドをグリセロールと遊離脂肪酸に分解する。これらの脂肪酸はローダミンBと結合し、励起波長485nm、発光波長535nmで検出できる。試料は、許容可能な消光ができるように希釈しなければならない。こうして希釈されたサンプルは、マイクロタイタープレートでオリーブオイルのローダミン混合液と混合される。その後、サンプルをマイクロタイタープレートリーダー(Synergy H1; BioTek Instruments, Inc)で30℃で20分間インキュベートした。蛍光は50秒ごとに20分間測定された。最後に、測定された活性を基準標準物質の活性に従って計算した。
【0136】
ランバート・ビア アッセイ
リパーゼタンパク質の純度が高いと仮定し、タンパク質濃度はランバート・ビールの法則に基づいて決定された。吸光度を280nmで測定し、式(i)に基づいてタンパク質濃度を算出した。消衰係数は、インシリコ予測ツールProtparamを用いて求めた。
式1:ε
λ= モル吸光率; c=モル濃度; d=層の厚さ
【0137】
2.PEG 4000を用いたT. thermophila由来α-アミラーゼの結晶化
T.thermophila由来のa-アミラーゼ(TTHERM_00411610)は、PEG 4000を用いた組換えT.thermophilaの発酵とその後のDSPによって得られた20mMリン酸-クエン酸(pH 7)で緩衝化したアミラーゼリッチタンパク質濃縮物(95g/L)から結晶化した。
結晶化は、穏やかに撹拌したアミラーゼ濃縮液に、25%(v/v)のPEG 4000ストック溶液(20mMリン酸-クエン酸バッファー、pH 7中の40%(w/v)PEG 4000)をゆっくりと加え、最終PEG 4000濃度を6%(w/v)にすることで開始した。溶液が適切に混合された後、混合物を室温(20~22℃)で93時間、攪拌せずにインキュベートした。サンプルは毎日取り出され、結晶の形成について顕微鏡で検査された。最初の3日間では結晶化は見られなかったが、93時間後には長さ約650μm、幅約5μmまでの大きな針状結晶が確認された(
図11および12)。
結晶は遠心分離(10分、1500rcf、RT)でペレット化し、H
2Oで再溶解した。結晶溶液および遠心分離上清は、Phadebas Amylase Test(Phadebas AB, Kristianstad, Sweden)を用いて、製造元の推奨に従ってアミラーゼ活性を測定した。全アミラーゼ活性の約67%が分解結晶ペレットに認められ、約33%が上清に残った。
【0138】
3.リン酸二水素ナトリウムを用いたT. thermophila由来リパーゼの結晶化
バッファー
NaH2PO4 ストック溶液
20 mM K2HPO4
2.5 M NaH2PO4
pH7.0
溶解バッファー
10 mM K2HPO4
pH7.0
【0139】
過剰生産されたテトラヒメナ・リパーゼ120を含む採取された細胞培養液(HCCF)を濾過して未溶解成分を除去し、55g/L(アプローチ1)、40g/L(アプローチ2)、25g/L(アプローチ3)、16g/L(アプローチ4)に濃縮した。4つのサンプルは、最終濃度が0.3M NaH
2PO
4(アプローチ1)、0.5M NaH
2PO
4(アプローチ2および3)、0.7M NaH
2PO
4(アプローチ4)になるように調整された。25時間後、NaH
2PO
4濃度を 0.5M(アプローチ1)、0.75M(アプローチ2)、1M(アプローチ3および4)に上げた。48時間後、アプローチ3と4の濃度を1.25Mに上げた。最終サンプルは115時間後に採取した。結晶化リパーゼと未結晶化リパーゼの比率を測定するため、25、48、115時間後にサンプルを採取し、遠心分離した(10,000rcf、5分間)。上清中の全リパーゼ活性は未結晶のリパーゼを表し,再溶解したペレット中の全リパーゼ活性は結晶化したリパーゼを表す。結果を
図13と
図14に示す。
【0140】
【0141】
配列
下記の配列は、本出願の開示の一部を形成する。WIPO ST 25互換性のある電子化配列表もまた、この出願と共に提供される。疑義を避けるため、以下の表中の配列と電子化配列表中の配列との間に齟齬が存在する場合、この表中の配列は正しいものとみなされるものとする。それぞれの 配列番号1~7はシグナルペプチドを持つ酵素を意味する。配列番号8~14(このリストには表示されていないが、電子配列リストには表示されている)はシグナルペプチドなしの酵素を指す。 配列番号15~17(このリストには表示されていないが、電子配列リストには表示されている)はシグナルペプチドなしのプロテアーゼ酵素を指す。
【配列表】
【国際調査報告】