(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】ループまたは末端でペプチドタグと相互作用するポリペプチドおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240313BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20240313BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240313BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240313BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240313BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240313BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240313BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20240313BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240313BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240313BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C07K14/00
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C07K17/00
C12P21/02 A
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561866
(86)(22)【出願日】2022-04-01
(85)【翻訳文提出日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 GB2022050841
(87)【国際公開番号】W WO2022214795
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】507226592
【氏名又は名称】オックスフォード ユニヴァーシティ イノヴェーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ハワース、マーク
(72)【発明者】
【氏名】ヤーダヴ、ビカシュ
(72)【発明者】
【氏名】フェルラ、マッテオ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB15
4B029CC01
4B029FA15
4B029GB10
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA13
4B065AA26X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045AA40
4H045BA09
4H045EA50
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、2部式リンカーの1つの部分を形成するポリペプチドであって、当該ポリペプチドが、当該2部式リンカーにおいて、2部式リンカーの2つ目の部分であるペプチドタグとのイソペプチド結合を自発的に形成する、ポリペプチドに関する。当該ポリペプチドをコードする核酸分子、当該核酸分子を含むベクター、ならびに当該ベクターおよび当該核酸分子を含む宿主細胞も提供される。さらに、前記2部式リンカー(すなわち、ペプチドタグおよびポリペプチド結合パートナー)および/または核酸分子/ベクターを含むキットも提供される。前記ポリペプチドの製造方法、ならびに本発明のポリペプチドの使用も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの2つ以上を含み、前記アミノ酸配列が75位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~6)および8)~10)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、前記アミノ酸配列が71位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~5)および7)~9)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される、ポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの3つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、ポリペプチド。
【請求項3】
請求項1に記載のポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、75位のプロリン、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、ポリペプチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、および
6)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上をさらに含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、ポリペプチド。
【請求項5】
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)75位のプロリン、および
7)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)71位のプロリン、および
6)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)65位のイソロイシン、
2)83位のセリン、および
3)85位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の部分、
を含む、ポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される、ポリペプチド。
【請求項6】
請求項5に記載のポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)75位のプロリン、および
7)92位のアスパラギン酸
のうちの2つ以上、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、ポリペプチド。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、75位のプロリン、以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、および
6)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にあり、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される、ポリペプチド。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のポリペプチドであって、前記ポリペプチドが、配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに、以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
の全てを含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、ポリペプチド。
【請求項9】
核酸分子、タンパク質、ペプチド、低分子有機化合物、フルオロフォア、金属-リガンド複合体、多糖類、ナノ粒子、二次元単層(例えば、グラフェン)、脂質、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはこれらの組み合わせにコンジュゲートされている、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
i)配列番号18に記載のアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、アミノ酸配列;
ii)配列番号19に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、(i)の一部分;
iii)配列番号18に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、前記アミノ酸配列が75位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~6)および8)~10)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号18における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号19に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、前記アミノ酸配列が71位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~5)および7)~9)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号19における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに選択的かつ可逆的に結合する、ポリペプチド。
【請求項11】
i)配列番号18に記載のアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、アミノ酸配列;
ii)配列番号19に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、(i)の一部分;
iii)配列番号18に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)75位のプロリン、および
7)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号19に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)71位のプロリン、および
6)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)65位のイソロイシン、
2)83位のセリン、および
3)85位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号19における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに選択的かつ可逆的に結合する、ポリペプチド。
【請求項12】
配列番号18または19に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、配列番号18の9位または配列番号19の5位に相当する位置にリジンを含む、請求項10または11に記載のポリペプチド。
【請求項13】
前記ポリペプチドが、システイン残基を含む追加のN末端配列またはC末端配列を含む、請求項10から12のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項14】
前記ポリペプチドが、配列番号18または19に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記ポリペプチドが、システイン残基を含む、請求項10から12のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項15】
前記システイン残基が、配列番号18の31位もしくは41位に相当する位置、または配列番号19の27位もしくは37位に相当する位置にある、請求項14に記載のポリペプチド。
【請求項16】
前記ポリペプチドが、固体基材に固定化されている、請求項1から15のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項17】
前記ポリペプチドが、共有結合を介して固体基材に固定化されている、請求項1から16のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項18】
前記ポリペプチドが、システイン残基と固体基材との間の共有結合を介して当該固体基材に固定化されている、請求項10から15のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載のポリペプチドに連結されたペプチドまたはポリペプチドを含む、組換えポリペプチドまたは合成ポリペプチド。
【請求項20】
請求項1から8のいずれか一項もしくは請求項10から18のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列または請求項19に記載の組換えポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項22】
請求項20に記載の核酸分子または請求項21に記載のベクターを含む、細胞。
【請求項23】
請求項1から8のいずれか一項もしくは請求項10から18のいずれか一項に記載のポリペプチドまたは請求項19に記載の組換えポリペプチドを製造する、または発現させる方法であって、
a)請求項21に記載のベクターで宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトする工程;
b)前記ポリペプチドの発現を可能にする条件下で前記宿主細胞を培養する工程;および、任意選択的に、
c)前記ポリペプチドを単離する工程、
を含む、方法。
【請求項24】
イソペプチド結合を介して2つの分子または成分をコンジュゲートさせるための、請求項1から9および16のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用であって、
イソペプチド結合を介してコンジュゲートされる前記分子または成分が、下記a)およびb)を含む、使用:
a)請求項1から9または16のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む、第1の分子または成分;および
b)下記(i)および(ii)から選択されるペプチドを含む、第2の分子または成分:
(i)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むペプチド、および
(ii)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドであって、前記アミノ酸配列が、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含む、ペプチド、
ここで、前記ペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3、4、5、または17の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位のリジン残基との間に形成される。
【請求項25】
前記第2の分子または成分が、前記ペプチドを内部部位に含む、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記第2の分子または成分がタンパク質であり、前記タンパク質が前記ペプチドをループ内に含む、請求項24または25に記載の使用。
【請求項27】
イソペプチド結合を介して2つの分子または成分をコンジュゲートする方法であって、
a)請求項1から9および16のいずれか一項に記載のポリペプチドを含む、第1の分子または成分を用意すること;
b)下記(i)および(ii)から選択されるペプチドを含む、第2の分子または成分を用意すること:
(i)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むペプチド、および
(ii)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドであって、前記アミノ酸配列が、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含む、ペプチド、
ここで、前記ペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3、4、5、または17の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位のリジン残基との間に形成される;および
c)前記ポリペプチドと前記ペプチドとの間のイソペプチド結合の自発的な形成を可能にする条件下で、前記第1の分子または成分と前記第2の分子または成分とを接触させ、これにより、前記第1の分子または成分を、イソペプチド結合を介して前記第2の分子または成分にコンジュゲートさせて複合体を形成すること、
を含む、方法。
【請求項28】
前記第2の分子または成分が、前記ペプチドを内部部位に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第2の分子または成分がタンパク質であり、前記タンパク質が前記ペプチドをループ内に含む、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
キット、好ましくは請求項24から26のいずれか一項に記載の使用または請求項27から29のいずれか一項に記載の方法において使用するためのキットであって、
(a)請求項1から9および16のいずれか一項に記載のポリペプチドであって、任意選択的に、分子または成分にコンジュゲートまたは融合されたポリペプチド;および
(b)下記(i)および(ii)から選択されるペプチドであって、任意選択的に、分子または成分にコンジュゲートまたは融合されたペプチド:
(i)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むペプチド、および
(ii)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドであって、前記アミノ酸配列が、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含む、ペプチド、
ここで、前記ペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3、4、5、または17の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位のリジン残基との間に形成され、任意選択的に、分子または成分にコンジュゲートまたは融合される;および/または
(c)(a)に記載のポリペプチドをコードする、核酸分子、特にベクター;および/または
(d)(b)に記載のペプチドをコードする、核酸分子、特にベクター、
を含む、キット。
【請求項31】
前記ペプチドが、下記(i)および(ii)から選択される、請求項24から26のいずれか一項に記載の使用、請求項27から29のいずれか一項に記載の方法、または請求項30に記載のキット:
(i)配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチド;および
(ii)配列番号3に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドであって、前記アミノ酸配列が、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、11位のグリシン残基、および17位のアスパラギン残基を含み、
これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号3における位置に相当する位置にある、ペプチド。
【請求項32】
配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドを含む分子または成分を精製または単離するための方法であって、前記アミノ酸配列が、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含み、前記方法が、
a)請求項10から15のいずれか一項に記載のポリペプチドが固定化された固体基材を用意すること;
b)前記分子または成分を含む試料を用意すること;
c)a)における前記固体基材と、b)における前記試料とを、前記ペプチドが前記ポリペプチドに選択的に結合することを可能とする条件下で接触させ、これにより、前記固体基材に固定化された前記ポリペプチドと、前記ペプチドを含む分子または成分との間で非共有結合複合体を形成させること;
d)前記固体基材を緩衝液で洗浄すること;
e)前記固体基材に固定化された前記ポリペプチドから、前記ペプチドを含む前記分子または成分を分離させること、
を含む、方法。
【請求項33】
配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドを含む分子または成分を精製または単離するための、請求項10から18のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用であって、前記アミノ酸配列が17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含む、使用。
【請求項34】
請求項10から15のいずれか一項に記載のポリペプチドが固定化された固体基材を含む、請求項32に記載の方法または請求項33に記載の使用において使用するための装置。
【請求項35】
請求項10から15のいずれか一項に記載のポリペプチドが固定化された固体基材の作製に使用するキットであって、
a)請求項10から15のいずれか一項に記載のポリペプチド;および
b)a)に記載のポリペプチドを固体基材に固定化する手段、
を含む、キット。
【請求項36】
前記ペプチドが配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む、先行する請求項のいずれかに記載の使用、方法、またはキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一態様において、2部式(two part)リンカーの1つの部分を形成するポリペプチドであって、当該ポリペプチド(タンパク質)が、当該2部式リンカーにおいて、2部式リンカーの2つ目の部分であるペプチドタグとのイソペプチド結合を自発的に形成する、ポリペプチドに関するものである。詳細には、2部式リンカーは、本発明のポリペプチドと前記ペプチドタグとの間でのイソペプチド結合の自発的形成を可能にする条件下で接触させると共有結合を介してコンジュゲートさせることが可能な、ペプチドタグとポリペプチド結合パートナーとの同族対とみなし得る。第2の態様において、本発明はまた、同族ペプチドタグ(リガンド)に選択的(例えば、特異的)かつ可逆的に結合する改変ポリペプチド(タンパク質)、すなわち、ペプチドタグとのイソペプチド結合を自発的に形成しない改変ポリペプチド(タンパク質)を含む、親和性精製システムを提供する。これらのポリペプチドをコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、ならびに前記ベクターおよび前記核酸分子を含む宿主細胞も提供される。また、前記ポリペプチド(例えば、ペプチドタグおよびポリペプチド結合パートナー)および/または核酸分子/ベクターを含むキットも提供される。さらに、前記ポリペプチドを含む製品、ならびに本発明のポリペプチドの使用も提供される。
【背景技術】
【0002】
細胞機能は、膨大な数の可逆的な非共有結合性のタンパク質間相互作用に依存しており、複合体におけるタンパク質の厳密な配置が細胞機能に影響し、細胞機能を決定している。よって、共有結合性のタンパク質間相互作用を工学設計(engineer)する能力は、基礎研究、合成生物学、およびバイオテクノロジーに広い範囲の新たな好機を与えることができる。特に、いわゆる「融合タンパク質」を形成する2つ以上のタンパク質のコンジュゲーションにより、有用な特徴を有する分子をもたらすことができる。例えば、1種類のタンパク質をクラスター化することで、例えば、ワクチンの抗原構造の反復等、生体信号が大幅に増強されることが多い。異なる活性を有するタンパク質のクラスター化によっても、例えば、酵素による基質チャネリング等、活性が向上した複合体をもたらすことができる。
【0003】
共有結合性のタンパク質相互作用は、典型的にはジスルフィド結合によって媒介されるが、ジスルフィドは可逆的で、細胞コンパートメントの縮小には適用不可であり、タンパク質フォールディングに干渉する場合がある。ペプチドタグは、サイズが小さいためタンパク質機能の混乱が最小限に抑えられることから、タンパク質の分析および改変に便利なツールである。ペプチドタグは、遺伝的コード化が容易であり、かつ、そのサイズが小さいことから、(i)他の相互作用への干渉、(ii)生合成のコスト、および(iii)免疫原性の導入、による破壊(disruption)が抑えられる。しかしながら、ペプチドタグとそれらのペプチドまたはポリペプチド結合パートナーとの間の相互作用が高親和性であることはまれであり、これにより、安定な複合体の形成における有用性が制限されている。
【0004】
自発的にイソペプチド結合を形成できるタンパク質(いわゆる「イソペプチドタンパク質」)は、相互に共有結合して不可逆的な相互作用をもたらす、ペプチドタグ/ポリペプチド結合パートナーの対(すなわち、2部式リンカー)を開発するために有利に使用されてきた(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、および特許文献4を参照されたい。これらは全て参照により本明細書に組み込まれる。)。この点に関し、自発的にイソペプチド結合を形成することができるタンパク質は、別々のフラグメントとして発現させてペプチドタグおよび当該ペプチドタグに対するポリペプチド結合パートナーとしてもよく、ここで、当該2つのフラグメントは、イソペプチド結合形成によって共有結合による再構成が可能であり、これにより、当該ペプチドタグに融合された分子または成分と、そのポリペプチド結合パートナーとが連結される。
【0005】
イソペプチド結合は、カルボキシル/カルボキサミド基とアミノ基との間に形成されるアミド結合であり、ここで、前記カルボキシル基または前記アミノ基の少なくとも1つが、タンパク質主鎖(タンパク質の骨格)の外側にある。このような結合は、典型的な生物学的条件下では化学的に不可逆であり、ほとんどのプロテアーゼに対して抵抗性を有する。イソペプチド結合は本質的に共有結合であるため、測定された最も強いタンパク質相互作用のいくつかは、イソペプチド結合によってもたらされている。ペプチドタグとそのポリペプチド結合パートナーとで形成されたイソペプチド結合は、非共有結合性の相互作用が速やかに解離すると考えられる条件下において安定であり、例えば、長期間にわたって(例えば、週単位)、高温下で(少なくとも95℃まで)、強い力の下で、または過酷な化学的処理を伴う条件下(例えば、pH2~11、有機溶媒、界面活性剤(detergents)、または変性剤)にて安定である。
【0006】
簡潔には、2部式リンカー、すなわち、ペプチドタグおよびそのポリペプチド結合パートナー(いわゆる、ペプチドタグ/結合パートナー対)は、自発的にイソペプチド結合を形成することができるタンパク質(イソペプチドタンパク質)から得てもよく、ここで、当該タンパク質のドメインを別々に発現させて、当該イソペプチド結合に関与する一方の残基(例えば、アスパラギン酸塩またはアスパラギン)を含むペプチドタグと、当該イソペプチド結合に関与する他方の残基(例えば、リジン)および当該イソペプチド結合の形成に必要な少なくとも1つの別の残基(例えば、グルタミン酸塩)を含むペプチド結合パートナーまたはポリペプチド結合パートナー(すなわち、「キャッチャー」)を製造する。ペプチドタグと結合パートナーとを混合すると、当該タグおよび当該結合パートナーとの間で自発的にイソペプチド結合が形成される。よって、ペプチドタグおよび結合パートナーを、異なる分子または成分、例えば、タンパク質、に別々に融合させることにより、当該分子または成分を、ペプチドタグと結合パートナーとの間に形成されたイソペプチド結合を介して共有結合により連結すること、すなわち、ペプチドタグおよび結合パートナーに融合された当該分子または成分間にリンカーを形成することが可能となる。
【0007】
タンパク質同士をそれらの末端でつなげる効率的な方法は、古典的な遺伝子融合から、高度な酵素的ライゲーションならびに本明細書中に開示の上述のような2部式ペプチドタグ/ポリペプチド結合パートナー対(すなわち、2部式リンカー)に至るまで、数多く存在する。翻訳後のタンパク質ユニットの連結を確立するために、ネイティブケミカルライゲーション、スプリットインテイン、ソルターゼ、およびブテラーゼをはじめとする幅広い研究が行われてきた。しかしながら、これらの連結方法のいくつかは、内部部位でのタンパク質のライゲーションには適していない。例えば、スプリットインテインは、タンパク質の末端になければならない。同様に、ソルターゼ酵素は、ほとんどの場合、タンパク質の末端で使用され、非常に高濃度のオリゴグリシン反応物を必要とする。末端と比べて立体障害が多く、アクセス可能な化学物質が少ない内部部位でのタンパク質間ライゲーションは、これまであまり注目されてこなかった。天然のタンパク質のN末端やC末端は、多くの場合、柔軟性が高くかつ露出が多いため、反応が容易であるが、これに対し、内部ループは、多様な構造を取り得るため、ループ内へのペプチドタグの挿入により、タンパク質のフォールディングや機能が阻害される例が無数にある。したがって、タンパク質のループ等の内部部位でタンパク質をつなげることは、柔軟性がより低くかつ環境がより変化しやすいことから、はるかに困難である。
【0008】
しかしながら、用途によっては、タンパク質同士を内部部位でつなげることが必要な場合や、望ましい場合がある。末端での融合に適していないタンパク質が数多くあり、このようなタンパク質としては、タンパク質の機能の鍵となる末端を有するタンパク質(例えば、プロテアソーム)、細胞膜の細胞内側に位置する末端を有するタンパク質(例えば、テトラスパニンや多くのイオンチャネル)、またはタンパク質間の界面に埋没したタンパク質(例えば、Qβウイルス様粒子)が挙げられる。また、末端が利用可能な融合部位であったとしても、診断薬の表面、多酵素複合体内、またはワクチンコンジュゲート内等では、タンパク質の配向を制御するために、ループ融合等の内部融合がやはり好まれる場合がある。
【0009】
本発明者らは、これまでに、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)FbaBタンパク質のCnaB2ドメインに基づいて、SpyTag/SpyCatcherとして知られる別の2部式ペプチドタグ/ポリペプチド結合パートナーシステムを開発している(Zakeri et al., 2012, Proc Natl Acad Sci U S A 109, E690-E697)。このシステムの最新のイテレーションであるSpyTag003/SpyCatcher003は、末端でのタンパク質間反応において最速の反応性を有することがこれまでに立証されている対である(参照により本明細書に組み込まれる特許文献4参照)。しかしながら、実施例に示すように、SpyTag003は、ある種のタンパク質の特定のループ領域に挿入することができ、かつその同族パートナーであるSpyCatcher003と反応することができるものの、その反応速度はSpyTag003が同じタンパク質の末端に融合された場合と比べて著しく低下していた。さらに、ある特定のケースでは、所与のタンパク質のループ領域にSpyTag003を挿入したところ、そのタンパク質が全く発現できなかった。
【0010】
タンパク質を内部部位で結合させるための代替システムは、イソペプチド結合形成に関与する残基を構成するイソペプチドタンパク質のドメインを別々に、すなわち3つの別個のフラグメント、すなわち2つのペプチドおよび1つのポリペプチドとして発現させることによって提供され得る(例えば、Fierer et al. 2014, PNAS E1176-E1181を参照)。このようなシステムの1つが、RrgAに基づき、本発明者らにより開発されている(参照により本明細書に組み込まれる、特許文献5参照)。当該RrgAタンパク質は、3つの別個の成分、すなわち、イソペプチド結合に関与する一方の残基(例えば、リジン)を含む第1のペプチドタグ(SnoopTagJrと呼ぶ)、イソペプチド結合に関与する他方の残基(例えば、アスパラギン)を含む第2のペプチドタグ(DogTagと呼ぶ)、およびイソペプチド結合形成の媒介に関与する残基(例えば、グルタミン酸塩)を含むポリペプチド(SnoopLigaseと呼ぶ)に分割された。3つのフラグメントの全て、すなわち、両ペプチドとポリペプチドとを混合することにより、反応してイソペプチド結合を形成する残基を含む前記2つのペプチド間、すなわち、SnoopTagJrとDogTagとの間に、イソペプチド結合が形成される。しかしながら、SnoopLigaseの反応速度は比較的遅く(完了までに約48時間)、このため、その用途、特に細胞系での用途が制限される。加えて、SnoopLigase系は、ある種の緩衝液とは相溶性がなく、かつ、構成成分を比較的高濃度で必要とするが、これは、実際的な応用、特に、例えば、哺乳類の発現系において常に可能というわけではない。
【0011】
したがって、内部部位でタンパク質を結合できる改良されたリンカーシステムが必要とされている。
【0012】
RrgATag/RrgACatcherと呼ばれるペプチドタグ/結合パートナー対(2部式リンカー)は、ヒトにおいて敗血症、肺炎、および髄膜炎を引き起こし得るグラム陽性菌であるストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)のアドヘシンタンパク質RrgA由来である。自発的なイソペプチド結合は、RrgAのD4免疫グロブリン様ドメインにおいて、残基Lys742とAsn854との間に形成される。このD4ドメインは、これまでに、RrgATag(配列番号4)およびRrgACatcher(配列番号6)と呼ばれるリンカー対に分割された(参照により本明細書に組み込まれる特許文献2参照)。RrgATagは、RrgAタンパク質の残基838~856に由来し、よって、Asn854残基を含み、一方、RrgACatcher(R2Catcherとしても知られる)は、RrgAタンパク質の残基734~837に相当し、よって、Lys742残基を含む。したがって、RrgATag(配列番号4)およびRrgACatcher(配列番号6)は、自発的にイソペプチド結合を形成することができる。
【0013】
精製されたRrgATagとRrgACatcherは、混合するとうまく再構成され反応することができたが、イソペプチド結合の形成速度は、特に当該リンカーが細胞発現レベルと同等の濃度で存在する場合には、比較的遅かった。RrgATagの工学設計バージョン(DogTag、配列番号3)は、再構成がより速い、すなわち、RrgACatcherとのイソペプチド結合の形成速度がより速いことが示されている。RrgATagは、RrgAの842位に対応する位置に、Gly残基の代わりにThr残基を含んでいる。この配列をさらに改変し、RrgAの残基857~860に対応する残基を含むようにペプチドを伸長し、RrgATag内の848位に対応するAsp残基をGlyで置換した。これら2つの改変(C末端伸長およびD848G)を有するRrgATagを、RrgATag2(配列番号5)と称した。さらに、RrgATagおよびRrgATag2内のRrgAの847位に対応するAsn残基を、Aspで置換した。これら3つの改変(C末端伸長、N847D、およびD848G)を全て有するRrgATagを、DogTag(配列番号3)と称した。
【0014】
DogTagは、実施例に示すように、RrgATagおよび当該タグの他のバージョン、例えば、R2Tag(配列番号17)、と比べて、RrgACatcherとの反応速度が向上していたが、低濃度では依然として反応速度が遅かった。さらに、RrgACatcherポリペプチドは、ある特定の条件下では、溶解度が制限されることが観察された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2011/098772号
【特許文献2】国際公開第2016/193746号
【特許文献3】国際公開第2018/197854号
【特許文献4】国際公開第2020/183198号
【特許文献5】国際公開第2018/189517号
【発明の概要】
【0016】
本発明者らは、驚くべきことに、RrgACatcherポリペプチドのアミノ酸配列を改変する(すなわち、変異させる)ことにより、RrgACatcherポリペプチドの反応速度を少なくとも一桁上昇させることができること、さらに、一般的な緩衝液および条件での当該ポリペプチドの溶解度を有意に向上できることを明らかにした。注目すべきことに、そして予想外なことに、反応速度および溶解度を増加させるこれらの改変は、当該ポリペプチドの他の望ましい性質に悪影響を及ぼすことがない。よって、本発明の改変RrgACatcherポリペプチド(DogCatcherと呼ぶ、配列番号1)は、DogTagとの反応速度が、元のRrgACatcherポリペプチドと比べて一桁を上回るほど速く、さらに、その向上した溶解度により、広範な条件下で様々な用途に使用することができる。
【0017】
理論に束縛されることを望むものではないが、前記DogCatcherポリペプチドを生じるRrgACatcherポリペプチドに対する10個の改変のうち、7個(「溶解度改変」と呼ぶ)はポリペプチドの溶解度を増加させるために独立して機能している可能性があると仮定している。7個の溶解度改変の全てを含むRrgACatcherの配列を、RrgACatcherBまたはR2CatcherB(配列番号8)と呼ぶ。DogCatcherをRrgACatcherと区別する残りの3つの改変(「反応性改変」と呼ぶ)は、DogTagペプチドとの反応速度を増加させるために独立して機能している可能性があると考えられている。前記3つの反応性改変を全て含むRrgACatcherの配列は、配列番号9に示されている。よって、RrgACatcherのアミノ酸配列に対する本発明のポリペプチド(DogCatcher(配列番号1)またはDogCatcherバリアント(例えば、配列番号8または9))の溶解度改変および反応性改変のそれぞれが、ポリペプチドの溶解度および反応性を、それぞれ別々に向上させ得ることが企図されている。
【0018】
さらに、本明細書に例示するポリペプチド(すなわち、DogCatcher、配列番号1)が、ポリペプチドの活性を有意に低下させることなく、N末端および/またはC末端においてトランケートされ得ることが企図されている。詳細には、配列番号1は、N末端では4個のアミノ酸まで(例えば、1個、2個、3個、もしくは4個のアミノ酸)がトランケートされてもよく、および/または、C末端では5個のアミノ酸まで(例えば、1個、2個、3個、4個、もしくは5個のアミノ酸)がトランケートされてもよい。
【0019】
よって、有利なことに、本発明のポリペプチド(変異「キャッチャー」またはペプチドタグ結合パートナー)(DogCatcher、配列番号1)は、低濃度のペプチドタグおよびポリペプチド結合パートナーのみが利用可能な実用用途、例えば、インビボにおいて、その同族ペプチドタグ、例えば、DogTag(配列番号3)と共に(すなわち、2部式リンカーとして)使用し得る。本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)はまた、高い感度および/または速度を要する分析アッセイ、例えば、ペプチドタグ(例えば、DogTag、配列番号3)をエピトープタグとして用いるウェスタンブロットにおいて、特に有用となり得る。本発明の変異体キャッチャー(ポリペプチド)の向上した速度定数は、タグおよび/またはキャッチャーが反応を遅らせる可能性がある分子または成分(例えば、巨大タンパク質に融合される反応、ならびに、タグおよび/またはキャッチャーに融合された分子または成分が立体障害を生じる反応、例えば、ワクチン構築のためのウイルス様粒子形成等においても有利である。
【0020】
この点に関し、本発明者らは、DogTagが由来するRrgAのドメイン4の配列(残基838~860)が、反応性Asn854残基を含むβヘアピンを形成していることに注目し、これがループフレンドリーなTag/Catcher対(すなわち、タンパク質ループ等の内部部位でタンパク質を結合できるTag/Catcher対)の基礎を形成し得ると仮定した。驚くべきことに、かつ有利なことに、DogTagは、前記タンパク質の発現または機能を破壊することなく、異なるタンパク質中の様々なループ部位に挿入可能であること、ならびに、本発明のポリペプチド(DogCatcher、配列番号1)とその結合パートナー(DogTag、配列番号3)との間の反応速度は、DogTagがタンパク質の末端部位または内部(例えば、ループ)部位のいずれに挿入されたかにかかわらず、同等であることが見出された。本発明のポリペプチドを含む、DogTag/DogCatcherの2部式リンカーは、ある特定のタンパク質ループ部位にペプチドタグが挿入された場合に、SpyTag003/SpyCatcher003の反応速度よりもおよそ10倍速い反応速度を示した。後述の実施例でより詳細に説明するように、DogTag/DogCatcherの2部式リンカーは、主としてα-ヘリカル、主としてβ-シート、またはα+βフォールドであるタンパク質の内部にDogTagを挿入した場合に、機能を発揮することが実証された。さらに、上述の変異の結果、DogCatcherポリペプチドは異なる緩衝液に可溶性を示し、よって、DogTag/DogCatcherの2部式リンカーは、様々な条件下でより低い濃度で使用することができる。
【0021】
よって、本発明のポリペプチド(DogCatcher、配列番号1)は、ペプチドタグが対象の分子または成分の内部に挿入される場合、例えば、内部タンパク質部位、例えば、ループ部位に挿入される場合に、高反応速度で自発的にイソペプチド結合を形成することができる2部式リンカーシステムの1つの部分を形成する。したがって、この2部式リンカーは、特定のタンパク質間に、特に、これらのタンパク質の少なくとも一方における末端が融合に最適な部位でない場合に、共有結合性のタンパク質ライゲーションを導入する、改良された方法を提供するものである。
【0022】
別の観点によれば、本発明のポリペプチド(DogCatcher、配列番号1)は、その同族ペプチドタグ(DogTag、配列番号3)と組み合わせて、タンパク質同士をタンパク質ループ等の内部部位でつなげるのに特に有用な2部式リンカーシステムを提供するものである。
【0023】
よって、一態様において、本発明は、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、前記アミノ酸配列が75位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~6)および8)~10)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、前記アミノ酸配列が71位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~5)および7)~9)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)であって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される、ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を提供する。
【0024】
代替の実施形態では、本発明のポリペプチドは、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)75位のプロリン、および
7)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)71位のプロリン、および
6)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)65位のイソロイシン、
2)83位のセリン、および
3)85位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含んでもよく、
前記ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合は、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される。
【0025】
別の観点によれば、本発明は、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、ここで、(A)前記アミノ酸配列が75位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~6)および8)~10)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含むか、または、(B)前記アミノ酸配列は、1)~5)、7)、および10)から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基と、6)、8)、および9)から選択される1つのアミノ酸残基を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、ここで、(A)前記アミノ酸配列が71位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~5)および7)~9)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含むか、または、(B)前記アミノ酸配列は、1)~4)、6)、および9)から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基と、5)、7)、および8)から選択される1つのアミノ酸残基を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)であって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される、ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を提供する。
【0026】
別の態様において、本発明は、本発明のポリペプチドに連結されたペプチドまたはポリペプチドを含む、組換えポリペプチドまたは合成ポリペプチドを提供する。
【0027】
別の態様において、本発明は、イソペプチド結合を介して2つの分子または成分をコンジュゲートさせるための本発明のポリペプチドの使用であって、
イソペプチド結合を介してコンジュゲートされる前記分子または成分が、下記a)およびb)を含む、使用を提供する:
a)本発明のポリペプチドを含む、第1の分子または成分;および
b)下記(i)および(ii)から選択されるペプチドを含む、第2の分子または成分:
(i)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むペプチド、および
(ii)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列と少なくとも85%、90%、または95%同一である)アミノ酸配列を含むペプチドであって、前記アミノ酸配列が、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含む、ペプチド、
ここで、前記ペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3、4、5、または17の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位のリジン残基との間に形成される。
【0028】
別の観点によれば、本発明は、イソペプチド結合を介して2つの分子または成分をコンジュゲートする方法であって、
a)本発明のポリペプチドを含む、第1の分子または成分を用意すること;
b)下記(i)および(ii)から選択されるペプチドを含む、第2の分子または成分を用意すること:
(i)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むペプチド、および
(ii)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列と少なくとも85%、90%、または95%同一である)アミノ酸配列を含むペプチドであって、前記アミノ酸配列が、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含む、ペプチド、
ここで、前記ペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3、4、5、または17の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位のリジン残基との間に形成される;および
c)前記ポリペプチドと前記ペプチドとの間のイソペプチド結合の自発的な形成を可能にする条件下で、前記第1の分子または成分と前記第2の分子または成分とを接触させ、これにより、前記第1の分子または成分を、イソペプチド結合を介して前記第2の分子または成分にコンジュゲートさせて複合体を形成すること、
を含む、方法を提供する。
【0029】
さらに別の態様において、本発明は、キット、好ましくは本発明の使用または方法において使用されるキットであって、
(a)本発明のポリペプチドであって、任意選択的に、分子または成分にコンジュゲートまたは融合されたポリペプチド;および
(b)下記(i)および(ii)から選択されるペプチドであって、任意選択的に、分子または成分にコンジュゲートまたは融合されたペプチド:
(i)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むペプチド、および
(ii)配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号3から5のいずれか1つに記載の配列と少なくとも85%、90%、または95%同一である)アミノ酸配列を含むペプチドであって、前記アミノ酸配列が、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含む、ペプチド、
【0030】
ここで、前記ペプチドが、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合が、配列番号3、4、5、または17の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位のリジン残基との間に形成される;および/または
(c)(a)に記載のポリペプチドをコードする核酸分子、特にベクター;および/または
(d)(b)に記載のペプチドをコードする核酸分子、特にベクター、
を含む、キットを提供する。
【0031】
本発明者らは、「キャッチャー」ポリペプチドを、それらの同族ペプチドタグの親和性精製システムを確立するために改変し得ることをこれまでに明らかにしている(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開公報2020/115252号参照)。したがって、当該システムは、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)およびその同族ペプチドタグ(親和性タグ)を含む2部式システムであって、ポリペプチドおよびペプチドタグは、安定かつ可逆的な非共有結合複合体(すなわち、ポリペプチド:リガンド複合体)を形成することが可能であり、前記複合体は、適切な条件下で解離でき、これにより、前記ペプチドタグにコンジュゲートまたは融合された分子または成分(融合パートナー)の単離および/または精製が容易に行えるシステムとみなし得る。
【0032】
RrgACatcherポリペプチドの特性を、DogCatcherに見られる変異を導入することによって改善できることを明らかにした上で、本発明者らは、上記で定義するポリペプチドの改変によってDogTag親和性精製システムを確立する可能性を見出した。理論に束縛されることを望むものではないが、RrgAのD4ドメイン内の活性化グルタミン酸残基の位置におけるDogCatcherポリペプチドの変異(803E)は、選択的、安定、かつ可逆的なDogTagとの非共有結合性相互作用を維持しつつ、DogCatcherとDogTagとの間のイソペプチド結合の形成を十分に抑止すると考えられている。
【0033】
したがって、さらなる態様において、本発明は、
i)配列番号18に記載のアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく(すなわち、70位のXがグルタミン酸とアスパラギン酸以外の任意のアミノ酸)、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、アミノ酸配列;
ii)配列番号19に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、(i)の一部分;
iii)配列番号18に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、前記アミノ酸配列が75位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~6)および8)~10)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号18における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号19に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、前記アミノ酸配列が71位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~5)および7)~9)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号19における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)であって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに選択的かつ可逆的に結合する、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)を提供する。
【0034】
代替的な態様において、本発明は、
i)配列番号18に記載のアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、アミノ酸配列;
ii)配列番号19に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、(i)の一部分;
iii)配列番号18に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)75位のプロリン、および
7)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号19に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)71位のプロリン、および
6)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)65位のイソロイシン、
2)83位のセリン;
3)85位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号19における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)であって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに選択的かつ可逆的に結合する、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)を提供する。
【0035】
別の観点によれば、本発明は、
i)配列番号18に記載のアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく(すなわち、70位のXがグルタミン酸とアスパラギン酸以外の任意のアミノ酸)、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、アミノ酸配列;
ii)配列番号19に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、(i)の一部分;
iii)配列番号18に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、ここで、(A)前記アミノ酸配列が75位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~6)および8)~10)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含むか、または、(B)前記アミノ酸配列は、1)~5)、7)、および10)から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基と、6)、8)、および9)から選択される1つのアミノ酸残基を含み、
これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号18における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号19に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、ここで、(A)前記アミノ酸配列が71位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~5)および7)~9)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含むか、または、(B)前記アミノ酸配列は、1)~4)、6)、および9)から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基と、5)、7)、および8)から選択される1つのアミノ酸残基を含み、
これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号19における位置に相当する位置にある、
(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)であって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに選択的かつ可逆的に結合する、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)を提供する。
【0036】
さらなる態様において、本発明は、配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドを含む分子または成分を精製または単離するための方法であって、前記アミノ酸配列が、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含み、前記方法が、
a)上記で定義するポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)が固定化された固体基材(solid substrate)を用意すること;
b)前記分子または成分を含む試料を用意すること;
c)a)における前記固体基材と、b)における前記試料とを、前記ペプチドが前記ポリペプチドに選択的に結合することを可能とする条件下で接触させ、これにより、前記固体基材に固定化された前記ポリペプチドと、前記ペプチドを含む分子または成分との間で非共有結合複合体を形成させること;
d)前記固体基材を緩衝液で洗浄すること;
e)前記固体基材に固定化された前記ポリペプチドから、前記ペプチドを含む前記分子または成分を分離させること、
を含む、方法を提供する。
【0037】
さらに別の実施形態においては、本発明は、配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドを含む分子または成分を精製または単離するための、上記で定義するポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)の使用であって、前記アミノ酸配列が17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含む、使用を提供する。
【0038】
別の態様において、本発明は、上記で定義するポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)が固定化された固体基材を含む、上記で定義する方法または使用において使用するための装置を提供する。
【0039】
さらなる態様において、本発明は、上記で定義するポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)が固定化された固体基材の作製に使用するキットであって、
a)上記で定義するポリペプチド(親和性精製ポリペプチド);および
b)a)に記載のポリペプチドを固体基材に固定化する手段、
を含む、キットを提供する。
【0040】
さらなる態様において、本発明は、上記で定義する本発明のポリペプチドまたは本発明の組換えポリペプチドもしくは合成ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子を提供する。
【0041】
さらに別の態様において、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを提供する。
【0042】
別の態様において、本発明は、本発明の核酸分子またはベクターを含む細胞を提供する。
【0043】
本発明はまた、本発明のポリペプチドまたは組換えポリペプチドを製造する、または発現させる方法であって、
a)本発明のベクターで宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトする工程、
b)前記ポリペプチドの発現を可能にする条件下で前記宿主細胞を培養する工程、および、任意選択的に、
c)前記ポリペプチドを単離する工程、
を含む、方法を提供する。
【0044】
詳細な説明
上述の通り、RrgACatcherに対するDogCatcherにおける溶解度変異および反応性変異のそれぞれが、ポリペプチドの溶解度および反応性を、それぞれ別々に独立して向上させ得ることが企図されている。したがって、いくつかの実施形態では、前記ポリペプチドは、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの2つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの2つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含み、
前記ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合は、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される。
【0045】
前記ポリペプチドが上記1)~10)から選択される2つ以上の残基を含むいくつかの実施形態において、前記ポリペプチドは、少なくとも1つの溶解度改変(すなわち、1)~5)、7)または10)のうちの少なくとも1つ)および少なくとも1つの反応性改変(すなわち、6)、8)または9)のうちの少なくとも1つ)を含む。
表1のデータに基づいて、また、理論に束縛されることを望むものではないが、配列番号1の75位に相当する位置(配列番号2の71位に相当する位置)のプロリン残基の存在は、本発明のポリペプチドの溶解度に特に有益な効果をもたらすものと仮定される。いくつかの実施形態において、前記ポリペプチドは、配列番号1の75位に相当する位置(配列番号2の71位に相当する位置)にプロリン残基を含む。したがって、前記2つ以上のアミノ酸は、配列番号1の75位のプロリンと、1)~6)および8)~10)のいずれか1つ以上、または配列番号2の71位のプロリンと、2)~6)および8)~10)(または上記部分(iv)での番号付けを用いて1)~5)および7)~9))のいずれか1つ以上であってもよい。しかしながら、先に挙げたものから選択される2つ以上のアミノ酸のあらゆる組み合わせが、本明細書において企図されている。いくつかの実施形態において、前記2つ以上のアミノ酸は、配列番号1の75位のプロリンならびに1)、4)および10)のうちのいずれか1つ以上、または配列番号2の71位のプロリンならびに4)および10)(または上記部分(iv)での番号付けを用いて3)もしくは9))の一方または両方であってもよい。
【0046】
本発明のさらなる実施形態において、前記ポリペプチドは、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、または9つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、または8つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含み、
前記ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合は、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される。
【0047】
いくつかの実施形態において、前記4つ以上の残基は、残基1)、4)、7)および10)を含み、任意選択的に、6)、8)および9)のうちの1つ、2つ、または3つを含む(上記部分(iii)での番号付けを使用)。
【0048】
上述のように、DogCatcherポリペプチド(配列番号1)をもたらすRrgACatcherポリペプチド(配列番号6)に付与された10個の改変のうち、7個(「溶解度改変」と呼ぶ)はポリペプチドの溶解度を増加させるように機能することが示唆されており、3個(「反応性改変」と呼ぶ)はDogTagペプチドとの反応速度を増加させるように機能することが示唆されている。
【0049】
前記7個の溶解度改変は、元のRrgAタンパク質の残基では、D737E、N774D、N746T、N780D、K792T、A808P、およびN825Dである。配列番号1の残基では、これらの溶解度改変は、以下に対応する:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)75位のプロリン、および
7)92位のアスパラギン酸。
【0050】
上述のように、7個の溶解度改変を全て含むRrgACatcherの配列は、RrgACatcherBまたはR2CatcherB(配列番号8)と呼ばれる。いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、前記溶解度改変を全て含んでもよい、すなわち、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含むか、または本明細書中で定義する機能性ポリペプチドを生じるそのバリアントアミノ酸配列、例えば、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができるバリアントアミノ酸配列を含んでもよい。別の言い方をすれば、本発明のポリペプチドは、
i)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)75位のプロリン、および
7)92位のアスパラギン酸
の全てを含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)71位のプロリン、および
6)88位のアスパラギン酸
の全てを含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含んでもよく、
前記ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合は、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される。
【0051】
前記3個の反応性改変は、元のRrgAタンパク質の残基では、F802I、A820S、およびQ822Rである。配列番号1の残基では、これらの溶解度改変は、以下に対応する:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン。
【0052】
上述のように、3個の反応性改変の全てを含むRrgACatcherの配列は、配列番号9に示されている。いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、前記反応性改変を全て含んでもよい、すなわち、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含むか、または本明細書中で定義する機能性ポリペプチドを生じるそのバリアントアミノ酸配列、例えば、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を好適な条件下で自発的に形成することができるバリアントアミノ酸配列を含んでもよい。別の言い方をすれば、本発明のポリペプチドは、
i)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
の全てを含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)65位のイソロイシン、
2)83位のセリン、および
3)85位のアルギニン
の全てを含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含んでもよく、
前記ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合は、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される。
【0053】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号1の75位に相当する位置(配列番号2の71位に相当する位置)にプロリン残基を含む。したがって、本発明のポリペプチドは、前記位置のプロリン残基と、前記反応性改変の1つ以上を含んでもよい。これに関し、本発明のポリペプチドは、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、75位のプロリン、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、5位のリジン、66位のグルタミン酸、71位のプロリン、ならびに以下:
1)65位のイソロイシン、
2)83位のセリン、および
3)85位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含んでもよく、
前記ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合は、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される。
【0054】
さらなる実施形態において、本発明のポリペプチドは、配列番号1の75位に相当する位置にプロリン残基、1つ以上の追加の溶解度改変、および1つ以上の反応性改変を含む。すなわち、本発明のポリペプチドは、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、75位のプロリン、以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、および
6)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、5位のリジン、66位のグルタミン酸、71位のプロリン、以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン;および
5)88位のアスパラギン酸;
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)65位のイソロイシン、
2)83位のセリン、および
3)85位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含んでもよく、
前記ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合は、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される。
【0055】
さらなる実施形態において、本発明のポリペプチドは、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)75位のプロリン、および
7)92位のアスパラギン酸
のうちの2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、もしくは6つ以上、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上(例えば、2つまたは3つ)を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)71位のプロリン、および
6)88位のアスパラギン酸
のうちの2つ以上、3つ以上、4つ以上、もしくは5つ以上、ならびに以下:
1)65位のイソロイシン、
2)83位のセリン、および
3)85位のアルギニン
のうちの1つ以上(例えば、2つまたは3つ)を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含み、
前記ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合は、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される。
【0056】
いくつかの実施形態において、溶解度改変として挙げたものから選択された2つ以上のアミノ酸は、配列番号1の75位のプロリンと、1)~5)および7)(上記の部分(iii)での番号付けを使用)のいずれか1つ以上、または配列番号2の71位のプロリンと、1)~4)および6)(上記の部分(iii)での番号付けを使用)のいずれか1つであってもよい。しかしながら、先に挙げたもののうち、2つ以上のアミノ酸のあらゆる組み合わせが、本明細書において企図されている。いくつかの実施形態において、前記ポリペプチドは、少なくとも4位のグルタミン酸;47位のアスパラギン酸;75位のプロリン;および92位のアスパラギン酸を含む。いくつかの実施形態において、トランケートされたポリペプチド(ポリペプチド部分)は、少なくとも43位のアスパラギン酸;71位のプロリン;および88位のアスパラギン酸を含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドは、溶解度改変の全て、および反応性改変の1つ以上、例えば、全てを含む。したがって、本発明のポリペプチドは、
i)配列番号1に記載のアミノ酸配列;または
ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分;
iii)配列番号1に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号1に記載の配列と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列が、9位のリジン、70位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
の全てを含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号2に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号2に記載の配列に少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一である)アミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、前記アミノ酸配列が、5位のリジン、66位のグルタミン酸、ならびに以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のてを含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号2における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含んでもよく、
前記ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとのイソペプチド結合を自発的に形成することができ、前記イソペプチド結合は、配列番号3の17位のアスパラギン残基と、配列番号1の9位または配列番号2の5位のリジン残基との間に形成される。
【0058】
特に好ましい一実施形態では、DogCatcherをRrgACatcherから区別する、配列番号1に関して上述した10個のアミノ酸(配列番号2に関しては9個)が全て、本発明のバリアントポリペプチド中に存在する。本発明のポリペプチドバリアント(すなわち、配列同一性関連ポリペプチドおよびその一部分)が前記指定の残基全ては含有していない実施形態では、前記バリアントは、前記指定の位置において、RrgACatcherポリペプチド(配列番号6)の相当する位置におけるアミノ酸残基またはその保存的置換を含むことが通常は好ましい。相当する位置は、ポリペプチドバリアントのアミノ酸配列を、例えば、BLASTPアルゴリズムを用いて、配列番号6と比較することにより、容易に決定することができる。
【0059】
よって、例として、本発明のポリペプチドが、本明細書中で定義する配列(例えば、配列番号1または18に記載のもの)に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む実施形態では、4位(または相当する位置)の残基がグルタミン酸ではない場合、当該残基はアスパラギン酸であることが好ましい。同様に、11位(または相当する位置)の残基がアスパラギン酸ではない場合、当該残基はアスパラギンであることが好ましい。13位(または相当する位置)の残基がスレオニンではない場合、当該残基はアスパラギンであることが好ましい。47位(または相当する位置)の残基がアスパラギン酸ではない場合、当該残基はアスパラギンであることが好ましい。59位(または相当する位置)の残基がスレオニンではない場合、当該残基はリジンであることが好ましい。69位(または相当する位置)の残基がイソロイシンではない場合、当該残基はフェニルアラニンであることが好ましい。75位(または相当する位置)の残基がプロリンではない場合、当該残基はアラニンであることが好ましい。87位(または相当する位置)の残基がセリンではない場合、当該残基はアラニンであることが好ましい。89位(または相当する位置)の残基がアルギニンではない場合、当該残基はグルタミンであることが好ましい。92位(または相当する位置)の残基がアスパラギン酸ではない場合、当該残基はアスパラギンであることが好ましい。下記に指定するその他の残基に関しても同様である。
【0060】
しかしながら、いくつかの実施形態では、87位(または相当する位置)の残基がセリンではない場合、当該残基はグルタミン酸であることが好ましい。後述の
図9に示すように、この位置のグルタミン酸残基は、ポリペプチドの溶解度をさらに向上させ得る。よって、いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、「反応性」改変として69位(または相当する位置)のイソロイシンおよび89位(または相当する位置)のアルギニンの2個のみを含むと共に、87位(または相当する位置)のグルタミン酸を含む。
【0061】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドバリアントは、配列番号1または18と相違していてもよく、その相違が、例えば、1~30個、1~25個、1~20個、1~15個、1~10個、1~8個、1~6個、1~5個、1~4個、例えば、1個、2個、もしくは3個のアミノ酸の置換、挿入、および/または欠失であってもよく、好ましくは、1~21個、1~20個、1~15個、1~10個、1~8個、1~6個、1~5個、1~4個、例えば、1個、2~3個のアミノ酸の置換および/または1~15個、1~10個、1~9個、1~8個、1~6個、1~5個、1~4個、例えば、1個、2個、もしくは3個のアミノ酸の欠失であってもよい。後述するように、いくつかの実施形態において、欠失はN末端および/またはC末端にあること、すなわち、トランケーションであることが好ましく、これにより、上記で定義する配列番号1のポリペプチドの部分、例えば、配列番号2または19が生成される。
【0062】
いくつかの実施形態では、例示のポリペプチド(例えば、配列番号1もしくは18)に対する本発明のポリペプチドに存在する任意の変異が、保存的アミノ酸置換であってもよい。保存的アミノ酸置換とは、ポリペプチドの物理化学的性質を保存する、別のアミノ酸によるアミノ酸の置き換えを指す(例えば、DはEに、またはその逆に置き換えられてもよく、NはQまたはLもしくはIからVに、あるいはこれらの逆に置き換えられてもよい)。よって、一般的には、置換する側のアミノ酸は、置換される側のアミノ酸と類似する特性、例えば、類似の疎水性、親水性、電気陰性度、嵩高な側鎖等を有する。未変性L-アミノ酸の異性体、例えば、D-アミノ酸を組み込んでもよい。
【0063】
よって、本発明のポリペプチドバリアントが前記指定の残基および下記でさらに指定する残基全て(すなわち、配列番号6と比較した、配列番号1または18における変異の全て)は含有していないいくつかの実施形態では、前記バリアントは、本明細書中で指定する位置、特に、下記に指定する位置において、RrgACatcherペプチド(配列番号6)の相当する位置におけるアミノ酸残基の保存的置換を含んでもよい。よって、例えば、69位(または相当する位置)の残基がイソロイシンでもフェニルアラニンでもない場合、当該残基は、配列番号1、6、または18における相当する位置の残基、例えば、ロイシン、の保存的置換であることが好ましい。
【0064】
本明細書中で使用される「リンカー」という用語は、2つの分子または成分を、好ましくは共有結合、例えば、イソペプチド結合によって、連結させる、すなわち、コンジュゲートまたは結合させるように機能する分子を指す。よって、本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)およびそのペプチドタグは、2部式リンカーとみなしてもよく、第1の部分、すなわちポリペプチドと、第2の部分、すなわちペプチドタグとの間におけるイソペプチド結合の形成によりリンカーを再構成し、これにより、リンカーの第1の部分および第2の部分に融合またはコンジュゲートされた分子または成分を結合させる。言い換えると、本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)およびそのペプチドタグは、リンカーとして機能する同族対、すなわち、ペプチドタグとポリペプチドの同族対、またはペプチドタグと結合パートナーの同族対とみなし得る。これらの用語は、記載全体を通し、互換的に使用されている。
【0065】
「同族の(cognate)」という用語は、共に機能するか、または特異的に相互作用する成分を指す。よって、本発明の文脈において、同族対とは、自発的に互いに反応してイソペプチド結合を形成するペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を指し得る。よって、イソペプチド結合の自発的な形成を可能にする条件下で、効率的に互いに反応してイソペプチド結合を形成するペプチドタグおよびポリペプチドを含む2部式リンカーは、「相補対」、すなわち、ペプチドタグとポリペプチドとの相補対とも称することができる。
【0066】
いくつかの実施形態において、同族対とは、非共有結合して複合体(すなわち、ポリペプチド:ペプチドタグ複合体)を形成する、ペプチドタグ(すなわち、DogTagまたはそのバリアント)および本発明のポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)を指す。
【0067】
よって、いくつかの実施形態において、同族ペプチドタグとは、本発明のポリペプチドが自発的にそれと反応してイソペプチド結合を形成する、DogTagペプチド、またはRrgATagもしくはRrgATag2等のそのバリアント(例えば、配列番号3から5および17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むペプチド)を指す。いくつかの実施形態において、前記同族ペプチドタグは、配列番号3から5および17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%(例えば、少なくとも85%、90%、または95%)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチドとのイソペプチド結合を、例えば、当該同族ペプチドタグ中のアスパラギン(すなわち、配列番号3から5および17のいずれか1つの17位に相当する位置のアスパラギン)と配列番号1の9位のリジン残基との間で、自発的に形成することができるペプチドであってもよい。
【0068】
いくつかの実施形態において、同族ペプチドタグは、本発明のポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)が選択的(例えば、特異的)かつ可逆的に結合することができる本明細書中で定義するペプチドタグ(例えば、配列番号3から5および17のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むペプチド)を指す。
【0069】
よって、いくつかの好ましい実施形態では、前記ペプチドタグは、配列番号3、4、5、または17に記載のアミノ酸配列あるいは配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも85%、90%、または95%同一である)アミノ酸配列であって、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含むアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。よって、いくつかの実施形態では、前記ペプチドタグは、配列番号3に記載される配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する(例えば、配列番号3に記載される配列と少なくとも85%、90%、もしくは95%同一である)アミノ酸配列であって、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、11位のグリシン残基、および17位のアスパラギン残基を含むアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0070】
よって、本発明はさらに、ペプチド(ペプチドタグ)およびポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を含む2部式リンカーであって、
a)前記ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)が、上記で定義するアミノ酸配列(すなわち、配列番号1またはそのバリアント)を含み、
b)前記ペプチド(ペプチドタグ)が、上記で定義するアミノ酸配列(例えば、配列番号3、4、もしくは5に記載のアミノ酸配列またはそのバリアント)を含み、
前記ペプチド(ペプチドタグ)と前記ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)とが、当該ペプチドタグ中のアスパラギン残基(例えば、配列番号3、4、または5の17位)と配列番号1の9位のリジン残基との間に自発的にイソペプチド結合を形成することができる、2部式リンカーを提供する。
【0071】
本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)(例えば、配列番号1)の9位のリジン残基は、前記ペプチドタグと前記ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)との間のイソペプチド結合の形成に好適な下記に説明する条件を含む様々な条件下で、配列番号3、4、5、または17の17位のアスパラギン残基と自発的にイソペプチド結合を形成する。後述の実施例より、本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、様々な条件下で活性であり、種々のペプチドタグ(具体的には、配列番号3~5)と反応することができることが明らかである。
【0072】
例えば、前記ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、EDTA含有またはEDTA非含有の、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、HEPES緩衝生理食塩水(HBS)、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、およびTris緩衝生理食塩水(TBS)をはじめとする、種々の緩衝液中で活性を示す(すなわち、本明細書中に記載のように、ペプチドタグと自発的にイソペプチド結合を形成することができる)。前記ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、約5.5~11.0のpH、例えば、5.5~10.0、6.0~9.5のpH、6.0~8.5または6.5~9.0のpH等で、広範囲にわたる温度、例えば、0℃~40℃、例えば、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、10℃、12℃、15℃、18℃、20℃、22℃、25℃、28℃、30℃、35℃、もしくは37℃、好ましくは、約25℃~35℃、例えば約25℃で、活性を示す。本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)はまた、例えば、約1%(v/v)までの濃度の、Tween 20およびTriton X-100のような一般的に使用される界面活性剤の存在下、および、還元剤、例えば、ジチオスレイトール(DTT)の存在下において、活性を示す。当業者であれば、他の好適な条件を容易に決定できるであろう。
【0073】
よって、いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)と同族ペプチドタグ(例えば、配列番号3から5に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチド)との間のイソペプチド結合の形成に好適な条件としては、当該ペプチドタグと本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)とを接触させることによって、前記ペプチドタグと前記ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)との間、具体的には、配列番号3、4、または5の17位のアスパラギン残基と配列番号1の9位(または相当する位置)のリジン残基との間にイソペプチド結合の自発的な形成が生じるあらゆる条件が挙げられる。例えば、前記ペプチドタグと前記ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)とを、緩衝条件下、例えば、緩衝液中、またはPBS等の緩衝液で平衡化されている固相(例えば、カラム)上で接触させることが挙げられる。前記接触工程は、任意の好適なpHで行えばよく、好適なpHは、約pH5.5~11.0等であり、例えば、pH5.5~10.0であり、約pH5.6、5.8、6.0、6.2、6.4、6.6、6.8、7.0、7.2、7.4、7.6、7.8、8.0、8.2、8.4、8.6、8.8、9.0、9.2、9.4、または9.6等が挙げられる。これらに加えて、あるいはこれらの代わりに、前記接触工程は、任意の好適な温度で行えばよく、好適な温度は約0℃~40℃等であり、例えば、約1℃~39℃、2℃~38℃、3℃~37℃、4℃~36℃、5℃~35℃、6℃~34℃、7℃~33℃、8℃~32℃、9℃~31℃、または10℃~30℃であり、例えば、約10℃、12℃、15℃、18℃、20℃、22℃、25℃、28℃、30℃、33℃、35℃、もしくは37℃、好ましくは、約25℃~35℃、例えば、約25℃が挙げられる。
【0074】
上述のように、本明細書に記載のペプチドタグと本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)との間のイソペプチド結合の形成は自発的である。この点に関し、当該ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、ペプチドタグおよびポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)にそれぞれ含まれるアスパラギン残基とリジン残基との間のイソペプチド結合の形成を容易化、例えば、誘導、促進、または触媒する70位(または相当する位置、配列番号1の番号付けに基づく)のグルタミン酸を含む。
【0075】
本明細書中で使用される「自発的」という用語は、タンパク質中、またはペプチド間もしくはタンパク質間(例えば、2つのペプチドの間、またはペプチドとタンパク質の間、すなわち、前記ペプチドタグと本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)の間)に、その他の作用物質(例えば、酵素触媒)が存在しなくても、および/または、当該タンパク質もしくはペプチドの化学的改変を行わなくても、例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を用いたネイティブケミカルライゲーションまたは化学的なカップリング行わなくても、形成することができるイソペプチド結合を指す。よって、C末端チオエステルを有するペプチドまたはタンパク質を修飾するネイティブケミカルライゲーションは行われない。
【0076】
よって、自発的なイソペプチド結合は、本明細書中で定義するペプチドタグと本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)との間で、当該ペプチドタグおよび/または本発明のポリペプチドが別個に存在し、かつこれらに対する化学修飾がない状態で形成が可能である。したがって、自発的なイソペプチド結合は、酵素またはその他の外因性物質が存在せず、かつ、当該ペプチドタグおよび/または本発明のポリペプチドの化学修飾がない状態で、自発的に形成し得る。
自発的なイソペプチド結合は、前記ペプチドタグと本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)の接触後ほぼすぐ、例えば、1分、2分、3分、4分、5分、10分、15分、20分、25分、もしくは30分以内に、または1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、16時間、20時間、もしくは24時間以内に、形成し得る。
【0077】
イソペプチド形成の速度は、ペプチドタグ反応物およびポリペプチド反応物の濃度および反応条件、例えば、温度等、に依存することとなる。いくつかの実施形態では、例えば、各反応物が約25℃の反応温度で約5μMの濃度で存在する場合、反応物の約80%以上について、約20分以内で自発的なイソペプチド結合形成が完了し得る。
【0078】
別の観点によれば、いくつかの実施形態では、例えば、各反応物が約25℃の反応温度で約μMの濃度で存在する場合、反応物の約80%以上について、約20分以内で自発的なイソペプチド結合形成が完了し得る。
【0079】
上記で定義する反応の速度を決定するために使用する他の反応条件、例えば、緩衝液、pH等は、本明細書中で定義するいずれの条件であってもよい。いくつかの実施形態において、反応条件は、実施例で使用された反応条件である。例えば、いくつかの実施形態において、自発的なイソペプチド結合形成は、約7.5のpHのPBS緩衝液中で、上記で指定した量で完了する。
【0080】
本発明のポリペプチドは、ポリペプチド(すなわち、ペプチドタグ結合パートナーまたは親和性精製ポリペプチド)の変異型(すなわち、本明細書中ではホモログ、バリアント、または誘導体と称する)を包含するが、これらは配列番号1および18に記載される例示のポリペプチドと構造が類似している。本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)バリアントは、ペプチドタグ結合パートナー(キャッチャー)として機能できる、すなわち、上記で定義するような好適な条件下で、本明細書中で定義するペプチドタグの17位(または相当する位置)のアスパラギンと、ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)バリアントの9位(または相当する位置)のリジンとの間で、イソペプチド結合を自発的に形成することができる。本発明の親和性精製ポリペプチドバリアントは、本明細書中で定義するような好適な条件下で、同族ペプチドタグに選択的かつ可逆的に結合することができる。
【0081】
ポリペプチドバリアントが、配列番号1または18に対する変異、例えば、欠失または挿入を含む場合、上記で指定した残基は、バリアントポリペプチド配列における相当するアミノ酸位置に存在する。いくつかの実施形態では、本発明のポリペプチドバリアントにおける欠失は、N末端および/またはC末端トランケーションではない。
【0082】
しかしながら、上述のように、本明細書中に例示のポリペプチド(例えば、配列番号1または18)は、当該ポリペプチドの活性または機能を有意に低下させることなく、N末端および/またはC末端においてトランケートされてもよいことが企図されている。詳細には、配列番号1または18は、N末端では4個までのアミノ酸(例えば、1個、2個、3個、もしくは4個のアミノ酸)がトランケートされてもよく、および/または、C末端では5個までのアミノ酸(例えば、1個、2個、3個、4個、もしくは5個のアミノ酸)がトランケートされてもよい。よって、本明細書中で使用するバリアントという用語には、例示のポリペプチドのトランケーションバリアントが含まれる。別の観点によれば、本発明は、例示のポリペプチドの一部分を提供するものとみなしてもよく、前記部分は、上述のように、配列番号2または19に記載のアミノ酸配列またはそのバリアントを含む。
【0083】
本明細書中で言及する「部分」とは、例えば、配列番号2または19に記載のアミノ酸配列を少なくとも含み、すなわち、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む配列番号1または18(前記部分が由来する配列)における少なくとも95個、96個、97個、98個、99個、100個、101個、102個、または103個のアミノ酸を含む。よって、前記部分は、前記配列の中央部分、またはN末端部分もしくはC末端部分から得てもよい。前記部分は中央部分から得られることが好ましい、すなわち、前記部分は、上記で定義するN末端トランケーションおよび/またはC末端トランケーションを含むことが好ましい。注目すべきは、本明細書中に記載の「部分」とは、本発明のポリペプチドであり、したがって、本明細書中で言及した、(比較対象領域に対する)同一性の条件および機能的同等性の条件を満たす。
【0084】
いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドと共に使用するペプチドタグは、本明細書に記載の配列のバリアントであってもよく、前記ペプチドタグは、例えば、配列番号3から5と、例えば、上記で定義したように、1~5個、1~4個、例えば、1個、2~3個のアミノ酸の置換、挿入、および/または欠失、好ましくは、置換により相違していてもよい。いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドバリアントは、例えば、配列番号1または18との相違が、上記で定義した通りであってもよい。ただし、前記ペプチドおよびポリペプチドバリアントは、それらの機能活性、例えば、それらの同族結合パートナーおよびペプチドとそれぞれ自発的にイソペプチド結合を形成するそれらの能力、または複合体(すなわち、ポリペプチド:ペプチドタグ複合体)を形成するそれらの能力を保持していなければならない。
【0085】
配列同一性は、当該技術分野において公知の任意の好適な手段によって決定してもよく、例えば、pam因子(pamfactor)が可変であって、ギャップ生成ペナルティを12.0に設定し、ギャップ伸長ペナルティを4.0に設定し、ウィンドウを2アミノ酸としたFASTA pep-cmpを使用するSWISS-PROTタンパク質配列データバンクを用いて決定してもよい。アミノ酸配列の同一性を決定するための他のプログラムとしては、ウィスコンシン大学によるGenetics Computer Group(GCG)のバージョン10ソフトウエアパッケージのBestFitプログラムが挙げられる。このプログラムは、デフォルト値として、ギャップ生成ペナルティ=8、ギャップ伸長ペナルティ=2、平均マッチ=2.912、平均ミスマッチ=-2.003としたSmith-Watermanの局地的相同性アルゴリズムを使用している。
【0086】
前記比較は、配列全長にわたって行うことが好ましいが、より小さい比較ウィンドウ、例えば、100個未満、80個未満、または50個未満の連続するアミノ酸に対して行ってもよい。
【0087】
前記ペプチドタグおよびポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)バリアント(例えば、配列同一性関連バリアント)は、配列番号3から5または配列番号1もしくは2に記載の配列を有するペプチドタグおよびポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)のそれぞれと、機能的に同等であることが好ましい。本明細書中で言及する「機能的同等物(functional equivalence)」とは、本明細書中に定義するペプチドタグおよび上述の本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)のバリアントであって、親分子(すなわち、前記バリアントが配列相同性を示す分子)と比べて、それぞれのパートナーとのイソペプチド結合の自発的形成の有効性にいくらかの低減(例えば、より低い発現収率、より低い反応速度、または限られた範囲の反応条件(例えば、10℃~30℃等の、より狭い温度範囲)での活性)を示してもよいバリアントを指すが、好ましくは、同程度の有効性またはより高い有効性を示すバリアントを指す。
【0088】
配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグの活性と「同等」の活性を有する変異ペプチドタグまたはバリアントペプチドタグは、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグの活性に類似の(すなわち、匹敵する)活性を有してもよい、すなわち、当該ペプチドタグの実際の適用に有意に影響しないような、例えば、実験誤差の範囲内であるような活性を有してもよい。よって、同等のペプチドタグ活性とは、変異ペプチドタグまたはバリアントペプチドタグが、同一条件下で、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグと類似の反応速度(すなわち、後述のような速度定数)および/または収率で、ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー、例えば、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる)とイソペプチド結合を自発的に形成することができることを意味する。
【0089】
同様に、配列番号1、2、18、もしくは19(好ましくは、配列番号1もしくは18)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性と「同等」の活性を有する本発明の変異ポリペプチドまたはバリアントポリペプチドは、配列番号1、2、18、もしくは19(好ましくは、配列番号1もしくは18)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性に類似の(すなわち、匹敵する)機能的特性(例えば、溶解度および/または活性(例えば、反応性または親和性))を有してもよい、すなわち、当該ペプチドタグの実際の適用に有意に影響しないような、例えば、実験誤差の範囲内であるような活性を有してもよい。
【0090】
よって、いくつかの実施形態では、同等のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)活性または機能とは、本発明の変異ポリペプチドまたはバリアントポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)が、同一条件下で、配列番号1または2(好ましくは、配列番号1)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)と類似の反応速度(すなわち、後述のような速度定数)および/または収率で、ペプチドタグ(例えば、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる)とイソペプチド結合を自発的に形成できることを意味する。
【0091】
いくつかの実施形態では、同等のポリペプチド機能とは、本発明の変異ポリペプチドまたはバリアントポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)が、同一条件下で、配列番号1、2、18、または19(好ましくは、配列番号1または18)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)と類似の溶解度特性を有することを意味する。注目すべきは、いくつかの実施形態では、配列番号1または2(好ましくは、配列番号1)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)と類似の溶解度特性を有する同等のポリペプチドもまた、本明細書中で定義するペプチドタグ(例えば、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる)とイソペプチド結合を自発的に形成可能でなくてはならない。好ましくは、同等のポリペプチドは、同一条件下で、配列番号1または2(好ましくは、配列番号1)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)と類似の溶解度、反応速度、および/または収率を有する。
【0092】
いくつかの実施形態では、配列番号18または19(好ましくは、配列番号18)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)と類似の溶解度特性を有する同等のポリペプチドもまた、本明細書中で定義する好適な条件下において、選択的かつ可逆的に同族ペプチドタグに結合可能でなければならない。好ましくは、同等のポリペプチドは、同一条件下で、配列番号18または19(好ましくは、配列番号18)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)と類似の溶解度、結合親和性、および/または収率を有する。
【0093】
したがって、本発明の変異ポリペプチドまたはバリアントポリペプチドは、配列番号1、2、18、または19(好ましくは、配列番号1または18)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるからなるポリペプチドの溶解度と類似の(すなわち、匹敵する)溶解度を有してもよい、すなわち、当該ペプチドタグの実際の適用に有意に影響しないような、例えば、実験誤差の範囲内であるような活性を有してもよいことがわかる。
【0094】
同一反応条件下、例えば、上記に例示したような、温度、基質(すなわち、ペプチドタグまたはポリペプチド配列)およびそれらの濃度、緩衝液、塩等の条件下で測定された、異なるペプチドタグおよびポリペプチド(例えば、それぞれ、配列番号3対変異体、および配列番号1対変異体)の活性は、容易に比較でき、各ペプチドタグおよびポリペプチドについて、活性がより高いか、より低いか、または等しいかどうかを決定することができる。
【0095】
特に、本明細書中で定義するペプチドタグバリアントおよび本発明のポリペプチドバリアントは、それぞれ、配列番号3から5または配列番号1もしくは2に記載の配列を有するペプチドタグおよびポリペプチドと等しい速度定数を有してもよい。速度定数とは、所与の温度における反応(イソペプチド結合の形成)速度と反応物の濃度の積(すなわち、ペプチドタグおよび本発明のポリペプチドの濃度の積)とを関連付ける比例係数を指す。
【0096】
よって、本明細書中に開示のバリアント(例えば、変異)ペプチドタグの活性、例えば、速度定数は、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグの活性、例えば、速度定数の、少なくとも60%であってもよく、例えば、少なくとも70%、75%、80%、85%、または90%であってもよく、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグの活性の少なくとも91%、92%、93%、94%、または95%等であってもよい。別の観点によれば、変異ペプチドタグの活性、例えば、速度定数は、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグの活性、例えば、速度定数より、40%以下低くてもよく、例えば、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグの活性、例えば、速度定数より、35%、30%、25%、または20%以下低くてもよく、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグの活性、例えば、速度定数より、10%、9%、8%、7%、6%、または5%以下低い等であってもよい。
【0097】
同様に、本発明のバリアントポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)の活性、例えば、速度定数は、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性、例えば、速度定数の少なくとも60%であってもよく、例えば、少なくとも70%、75%、80%、85%、または90%であってもよく、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性、例えば、速度定数の少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%等であってもよい。別の観点によれば、前記バリアントポリペプチドの活性は、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性、例えば、速度定数より、40%以下低くてもよく、例えば、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性、例えば、速度定数より、35%、30%、25%、または20%以下低くてもよく、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性、例えば、速度定数より、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%以下低い等であってもよい。
【0098】
さらに、本発明のバリアントポリペプチドの溶解度は、同じ条件、例えば、緩衝液、温度、pH等が同じ条件下で測定した場合に、配列番号1、2、18、または19に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの溶解度の少なくとも60%であってもよく、例えば、少なくとも70%、75%、80%、85%、または90%であってもよく、配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの溶解度の少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%等であってもよい。別の観点によれば、前記バリアントポリペプチドの溶解度は、同じ条件、例えば、緩衝液、温度、pH等が同じ条件下で測定した場合に、配列番号1、2、18、または19に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの溶解度と比べて、40%以下低くてもよく、例えば、配列番号1、2、18、または19に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの溶解度と比べて、35%、30%、25%、または20%以下低くてもよく、配列番号1、2、18、または19に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの溶解度と比べて、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%以下低い等であってもよい。ポリペプチドの溶解度は、当該技術分野において公知の任意の好適な手段を用いて測定し得る。例えば、実施例に示すように、溶解度は、好適な宿主細胞、例えば、大腸菌における発現から得られる可溶性タンパク質の収率を、所定の条件下で決定することによって測定してもよい。さらに別の代表的な例では、タンパク質の相対的溶解度を、スピン濃縮器を用いて測定してもよく、この方法では、タンパク質溶液をタンパク質の凝集が生じるまで濃縮し、当該タンパク質の相対的溶解度を、凝集点を使用して決定してもよい。
【0099】
注目すべきことに、本明細書中に開示のペプチドタグと本発明のポリペプチドとの反応の速度定数は、当該ペプチドタグおよび/またはポリペプチドが大きな分子または成分(例えば、タンパク質)に融合される場合には、単離されたペプチドタグおよびポリペプチドと比べてゆっくりと拡散し、実施例に記載の値より低い値となる場合がある。さらに、ペプチドタグおよび/またはポリペプチドが融合された分子または成分により反応に対する立体障害が生じると、速度定数が低下する場合がある。したがって、本明細書中に開示のペプチドタグバリアントと本発明のポリペプチドバリアントとの反応の速度定数を測定する際には、単離されたペプチドタグおよびポリペプチド、すなわちその他の分子または成分に融合またはコンジュゲートされていないペプチドタグおよびポリペプチドを用いて測定を行うことが好ましい。
【0100】
しかしながら、実施例に示すように、多くの場合、ポリペプチドに融合されたペプチドタグを使用して、本発明のポリペプチドバリアントの反応の速度定数を測定することが便利である。よって、ポリペプチドに融合されたペプチドタグを使用して異なるポリペプチドバリアントの速度定数を測定し比較する場合、ペプチドタグに融合されたポリペプチドは、全ての反応において、同じサイズであることが好ましく、好ましくは、同じ配列である。
【0101】
大きな分子もしくは成分への融合および/または立体障害は、他のペプチドタグおよびポリペプチド、例えば、RrgATag、RrgATag2、およびRrgACatcherの速度定数にも影響を与えることは明白であろう。よって、本発明のポリペプチドの速度定数の向上は、本発明のポリペプチドおよびその同族ペプチドタグを低濃度で使用する場合だけでなく、少なくとも約10μM等の高濃度で使用する場合(例えば、大きな分子または成分に融合された場合)においても、やはり有利となり得る。
【0102】
反応速度および速度定数は、実施例および国際公開公報第2018/197854号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載のような、当該技術分野において公知の任意の好適な手段によって評価することができる。例えば、反応速度は、(i)あらゆる非共有結合性の相互作用を破壊すると思われるSDS中での煮沸もしくは他の強力な変性処理を行い、その後、SDS-PAGE上で反応生成物の移動度を評価することによって、モニターしてもよく、または(ii)質量分析によって、モニターしてもよい。
【0103】
したがって、任意の改変または任意の組合せの改変を配列番号1に行って本発明のバリアントポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を製造してもよいが、ただし、当該バリアントポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、上記で定義した通り、配列番号1の9位に相当する位置にリジン残基と、配列番号1の70位に相当する位置にグルタミン酸残基と、配列番号1の4位、11位、13位、47位、59位、69位、75位、87位、89位、および92位に相当する位置に少なくとも1つ(好ましくは、2つ以上)の他のアミノ酸残基とを含み(前記少なくとも1つのアミノ酸が75位のプロリンである場合には、前記アミノ酸配列は、上記で定義した通り、配列番号1の4位、11位、13位、47位、59位、69位、87位、89位、および92位に相当する位置に少なくとも1つの他のアミノ酸残基も含む旨も含まれる)、かつ、上記で定義する機能的特性を保持することを条件とする、すなわち、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグとイソペプチド結合を自発的に形成することができるポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)であって、任意選択的に、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)と比較して、同等またはより優れた収率、反応速度、例えば、速度定数、溶解度、温度変化に対する耐性、および/または緩衝液の範囲を有するポリペプチドとなることを条件とする。
【0104】
いくつかのさらなる実施形態では、本発明のバリアントポリペプチドは、上記で指定する残基を含み、かつ、上記で定義する機能的特性を保持する、すなわち、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグとのイソペプチド結合を自発的に形成することができるポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)であって、任意選択的に、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)と比較して、同等またはより優れた収率、反応速度、例えば、速度定数、溶解度、温度変化に対する耐性、および/または緩衝液の範囲を有するポリペプチドとなる。
【0105】
別の観点によれば、任意の改変または任意の組合せの改変(好ましくは、置換)を配列番号2に行って本発明のバリアントポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を製造してもよいが、ただし、当該バリアントポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、上記で定義した通り、配列番号2の5位に相当する位置にリジン残基と、配列番号2の66位に相当する位置にグルタミン酸残基と、配列番号2の7位、9位、43位、55位、65位、71位、83位、85位、および88位に相当する位置に少なくとも1つ(好ましくは、2つ以上)の他のアミノ酸残基とを含み(前記少なくとも1つのアミノ酸が71位のプロリンである場合には、前記アミノ酸配列はまた、上記で定義した通り、配列番号2の7位、9位、43位、55位、65位、71位、83位、85位、および88位に相当する位置に少なくとも1つの他のアミノ酸残基を含む旨も含まれる)、かつ、上記で定義する機能的特性を保持することを条件とする、すなわち、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグとイソペプチド結合を自発的に形成することができるポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)であって、任意選択的に、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)と比較して、同等またはより優れた収率、反応速度、例えば、速度定数、溶解度、温度変化に対する耐性、および/または緩衝液の範囲を有するポリペプチドとなることを条件とする。
【0106】
いくつかのさらなる実施形態では、本発明のトランケートされたバリアントポリペプチドは、上記で指定する残基を含み、かつ、上記で定義する機能的特性を保持する、すなわち、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグとのイソペプチド結合を自発的に形成することができるポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)であって、任意選択的に、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)と比較して、同等またはより高い収率、反応速度、例えば、速度定数、溶解度、温度変化に対する耐性および/または緩衝液の範囲を有するポリペプチドとなる。
【0107】
本明細書中に開示のペプチドタグにおける相当する位置は、好ましくは配列番号3のアミノ酸配列を参照することによって決定される。本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)における相当する位置は、配列番号1または2のアミノ酸配列を参照することによって決定される。相同な位置または対応する位置は、例えば、BLASTアルゴリズムを使用して、配列間の相同性または同一性に基づき、ホモログ(変異体、バリアント、または誘導体)ペプチドタグの配列と配列番号3の配列とを、またはホモログ(変異体、バリアント、または誘導体)ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)の配列と配列番号1または2の配列とを整列させることによって、容易に推測することができる。
【0108】
本明細書中で使用する「タグ」および「ペプチドタグ」という用語は、一般的には、ペプチドまたはオリゴペプチドを指す。
【0109】
本明細書中で使用する「ペプチドタグ結合パートナー」、「結合パートナー」、または「キャッチャー」という用語は、一般的には、ポリペプチドまたはタンパク質を指す。
【0110】
この点に関し、ペプチドとポリペプチドのサイズの境界についての標準的な定義はない。典型的には、ペプチドは、2個から39個のアミノ酸を含むものとみなしてもよい。したがって、ポリペプチドは、少なくとも40個のアミノ酸、好ましくは、少なくとも50個、60個、70個、80個、90個、または100個のアミノ酸を含むものとみなしてもよい。
【0111】
よって、好ましい実施形態では、本明細書中で定義するペプチドタグは、少なくとも12個のアミノ酸、例えば、12個~39個のアミノ酸を含むものとみなしてもよく、例えば、13個~35個、14個~34個、15個~33個、16個~31個、17個~30個のアミノ酸長等であり、例えば、当該ペプチドタグは、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、または23個のアミノ酸を含むかまたはそれらからなっていてもよい。
【0112】
本明細書中で定義する本発明のポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー、結合パートナーもしくは「キャッチャー」、または親和性精製ポリペプチド)は、少なくとも95個のアミノ酸、例えば、95個~150個のアミノ酸を含むものとみなしてもよく、例えば、95~140、95~130、95~120アミノ酸長等であり、例えば、当該ポリペプチドは、95個、96個、97個、98個、99個、100個、101個、102個、103個、または104個のアミノ酸を含むかまたはそれからなっていてもよい。
【0113】
上述のように、2部式リンカー(例えば、タグとキャッチャーのシステムまたは対、すなわち同族対)には多数の有用性があり、本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)およびその同族ペプチドタグ(例えば、配列番号3から5)は、イソペプチド結合を介して2つの分子または成分をコンジュゲート(すなわち、結合または連結)する際に特に有用である。例えば、該ペプチドタグおよびポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を、対象の分子または成分に別々にコンジュゲートまたは融合させた後、該ペプチドタグとポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)との間のイソペプチド結合の自発的な形成を可能とするのに好適な条件下でこれらを接触させ、これにより、イソペプチド結合を介して、前記対象の分子または成分を結合(すなわち、連結またはコンジュゲート)させることができる。
【0114】
よって、いくつかの実施形態において、本発明は、イソペプチド結合を介して2つの分子または成分をコンジュゲートさせるための、本明細書中で定義するペプチド(ペプチドタグ)およびポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)の対の使用を提供するものとみなしてもよく、
イソペプチド結合を介してコンジュゲートされる前記分子または成分は、
a)本明細書中で定義する本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を含む(例えば、前記ポリペプチドにコンジュゲートまたは融合された)、第1の分子または成分;および
b)本明細書中で定義するペプチド(ペプチドタグ)を含む(例えば、前記ペプチドにコンジュゲートまたは融合された)、第2の分子または成分を含む。
【0115】
上述のペプチドタグとポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)の対(すなわち、2部式リンカー)の使用は、上述の通り、前記ペプチドタグとポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)との間のイソペプチド結合の自発的な形成を可能にする(例えば、促進するまたは容易にする)のに好適な条件下で、前記第1の分子と第2の分子とを接触させることを含むことは明白であろう。
【0116】
先に述べた通り、上述のペプチドタグおよびポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)の対(すなわち、2部式リンカー)は、前記ペプチドタグが、分子または成分に、当該分子または成分の内部部位、すなわち、一方の端部ではない箇所において組み込まれている場合に特に有効である。したがって、いくつかの実施形態において、前記第2の分子または成分は、本明細書中で定義するペプチド(ペプチドタグ)を、内部部位、例えば、ループ内に含んでもよい。別の言い方をすれば、本明細書中で定義するペプチドタグは、第2の分子または成分の内部部位に存在してもよい。
【0117】
本明細書中で使用する「内部部位」という用語は、本発明のペプチドタグまたはポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)が組み込まれる分子または成分内の部位であって、当該分子または成分のいずれの末端でもない、すなわち、当該分子または成分の内部にある部位を指す。分子または成分がタンパク質である場合、内部部位は、タンパク質の末端から少なくとも1残基以上離れた部位、例えば、タンパク質の末端から少なくとも2残基、3残基、4残基、5残基、10残基、15残基、20残基、または25残基以上離れた部位であってもよい。内部部位は、分子または成分の内部のいずれの箇所にあってもよい。分子または成分がタンパク質である場合、内部部位は、タンパク質のループ領域内、すなわち、当該タンパク質内の、境界が定まった規則的な二次構造(defined regular secondary structure)の2つの領域をつなぐ領域内にあることが好ましい。
【0118】
したがって、いくつかの実施形態では、前記第2の分子または成分はタンパク質であってもよく、本明細書中で定義するペプチド(ペプチドタグ)を、内部部位に含んでもよい。好ましい実施形態において、前記第2の分子または成分はタンパク質であってもよく、本明細書中で定義するペプチド(ペプチドタグ)を、ループ領域またはドメイン内に含んでもよい。
【0119】
別の観点によれば、本発明は、イソペプチド結合を介して2つの分子または成分をコンジュゲートする方法であって、
a)本明細書中で定義する本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を含む(例えば、前記ポリペプチドにコンジュゲートまたは融合された)、第1の分子または成分を用意すること;
b)本明細書中で定義するペプチド(ペプチドタグ)を含む(例えば、前記ペプチドにコンジュゲートまたは融合された)、第2の分子または成分を用意すること;
c)上述のように、前記ペプチドと前記ポリペプチドとの間のイソペプチド結合の自発的な形成を可能にする(例えば、促進するまたは容易にする)条件下で、前記第1の分子または成分と前記第2の分子または成分とを接触させ、これにより、前記第1の分子または成分を、イソペプチド結合を介して前記第2の分子または成分にコンジュゲートさせて複合体を形成すること、
を含む、方法を提供する。
【0120】
ここでも、いくつかの実施形態において、前記第2の分子または成分は、本明細書中で定義するペプチド(ペプチドタグ)を内部部位に含んでもよい。好ましい実施形態において、前記第2の分子または成分はタンパク質であり、本明細書中で定義するペプチドタグは、前記タンパク質の内部部位、好ましくは、ループ領域またはドメインに存在する。
【0121】
複合体を形成するために2つ以上の分子または成分をつなげることに関する本発明の文脈において、「コンジュゲートする」または「連結する(linking)」という用語は、前記分子または成分、例えば、タンパク質、を共有結合を介して、特に、前記分子または成分、例えば、タンパク質、に組み込まれるかまたは融合されているペプチドタグとポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)との間に形成されるイソペプチド結合を介して、結合またはコンジュゲートさせることを指す(例えば、ペプチドタグおよびポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、コンジュゲートまたは連結される対象のタンパク質のドメインを形成していてもよい)。
【0122】
上述のように、いくつかの実施形態において、本明細書中に開示のペプチドタグおよび/または本発明のポリペプチドは、他の分子に、または他の成分もしくは実体に融合またはコンジュゲートされている。このような分子または成分(すなわち、実体)は、核酸分子、タンパク質(例えば、抗体またはその抗原結合フラグメント)、ペプチド、低分子有機化合物、フルオロフォア、金属-リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、二次元単層(例えば、グラフェン)、脂質、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはこれらの任意の組合せであってもよい。いくつかの実施形態において、前記ペプチドタグおよび/またはポリペプチドが融合またはコンジュゲートされる成分または実体は、下記に定義するような固体支持体、すなわち固体基材または固相である。
【0123】
よって、別の観点によれば、本発明は、本発明のペプチドタグおよび/またはポリペプチドに融合またはコンジュゲートされた、核酸分子、タンパク質(例えば、抗体またはその抗原結合フラグメント)、ペプチド、低分子有機化合物、フルオロフォア、金属-リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、二次元単層(例えば、グラフェン)、脂質、ナノチューブ、ポリマー、細胞、ウイルス、ウイルス様粒子、ウイルスベクター、もしくはこれらの任意の組合せ、または固体支持体を提供する。
【0124】
細胞は、原核細胞であっても真核細胞であってもよい。いくつかの実施形態において、細胞は、原核細胞、例えば、細菌細胞である。いくつかの実施形態において、細胞は、動物細胞等の真核細胞、例えば、ヒト細胞である。
【0125】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)は、治療的または予防的効果を有する化合物または分子、例えば、抗生物質、抗ウイルス剤、ワクチン、抗腫瘍薬、例えば、放射性化合物もしくは同位体、サイトカイン、毒素、遺伝子をコードするオリゴヌクレオチドおよび核酸、または核酸ワクチンに、コンジュゲートまたは融合されてもよい。
【0126】
いくつかの実施形態において、前記ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)は、例えば、放射標識、蛍光標識、発光標識、発色団標識のような標識に、コンジュゲートまたは融合されていてもよく、ならびに、基質および検出可能な信号を生成する酵素、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、またはアルカリホスファターゼに、コンジュゲートまたは融合されていてもよい。この検出は、ウエスタンブロッティング/イムノブロッティング、組織化学、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)、またはフローサイトメトリー(FACS)フォーマットを含む、従来抗体が使用されている非常に多くの測定法に適用し得る。また、磁気共鳴画像法のための標識、陽電子放出断層撮影プローブ、および中性子捕獲療法のためのホウ素10も、ペプチドタグおよび/または本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)にコンジュゲートさせ得る。特に、前記ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)を、別のペプチド、例えば、Hisタグを用いて融合または製造してもよいし、および/または、例えば、マルトース結合タンパク質(Maltose Binding Protein)に融合させることによって組換えタンパク質の発現を増強する目的で、別のタンパク質を用いて融合または製造してもよい。
【0127】
いくつかの実施形態では、本発明のポリペプチドは、例えば、リンカーまたは配列番号16等のスペーサ配列を介してそのC末端に融合されたペプチド(例えば、c-myc Tag)を含んでもよく、これにより、例えば、C末端ペプチドを含まないポリペプチドと比べて、当該ポリペプチドの溶解度がさらに向上し得る。
【0128】
いくつかの実施形態では、本発明のポリペプチド中にシステイン残基を導入し、当該ポリペプチドを、例えば、蛍光標識等の標識または固体基材のような別の分子または成分とカップリングさせることが有用となり得る。例えば、システイン残基の導入によって、当該ポリペプチドを、マレイミド官能基を含有する標識、例えば、蛍光標識、等の別の分子または成分とカップリングさせることが可能となると考えられる。
【0129】
上述のように、上記で定義するペプチドタグ結合パートナーポリペプチド(「キャッチャー」)は、前記ポリペプチドとその同族ペプチドタグとの間のイソペプチド結合の自発的形成を抑制するように改変されてもよい。有利なことに、前記改変されたポリペプチドを固体基材(相)に固定化することで、本明細書中で定義するペプチドタグを含む分子または成分の単離および/または精製のための親和性精製システムを提供し得る。よって、上記で定義するポリペプチドのいずれかに対し、配列番号1の70位または配列番号2の66位(もしくは相当する位置)のグルタミン酸を置換する改変を行い、当該改変ポリペプチドが本明細書中で定義するペプチドタグとイソペプチド結合を自発的に形成できないようにすることによって、親和性精製システムにおいて有用なポリペプチドを提供してもよい。よって、前記改変ポリペプチド(すなわち、親和性精製ポリペプチド)は、配列番号1の70位または配列番号2の66位(もしくは同等の位置)のグルタミン酸の非保存的置換を含んでもよい。別の観点によれば、前記改変ポリペプチドは、配列番号1の70位または配列番号2の66位(もしくは相当する位置)に、グルタミン酸およびアスパラギン酸を含まない。いくつかの実施形態において、配列番号1の70位または配列番号2の66位(もしくは相当する位置)のグルタミン酸を、アラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンで置換してもよい。
【0130】
よって、一実施形態において、本発明は、
i)配列番号18に記載のアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく(すなわち、グルタミン酸とアスパラギン酸以外の任意のアミノ酸)、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、アミノ酸配列;
ii)配列番号19に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、(i)の一部分;
iii)配列番号18に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、前記アミノ酸配列が75位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~6)および8)~10)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号18における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号19に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、前記アミノ酸配列が71位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~5)および7)~9)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号19における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)であって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに選択的かつ可逆的に結合する、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)を提供する。
【0131】
さらなる実施形態では、本発明は、
i)配列番号18に記載のアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく(すなわち、グルタミン酸とアスパラギン酸以外の任意のアミノ酸)、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、アミノ酸配列;
ii)配列番号19に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、(i)の一部分;
iii)配列番号18に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)75位のプロリン、および
7)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)69位のイソロイシン、
2)87位のセリン、および
3)89位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号1における位置に相当する位置にある、アミノ酸配列;または
iv)配列番号19に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)71位のプロリン、および
6)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上、ならびに以下:
1)65位のイソロイシン、
2)83位のセリン、および
3)85位のアルギニン
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号19における位置に相当する位置にある、(iii)の一部分、
を含む、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)であって、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに選択的かつ可逆的に結合する、ポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)を提供する。
【0132】
いくつかの実施形態では、配列番号18の70位(または相当する位置)のXは、酸性アミノ酸以外の従来の(標準的な)アミノ酸である、すなわち、Xは、DでもEでもない。
【0133】
いくつかの実施形態において、配列番号18の70位(または相当する位置)のXは、塩基性アミノ酸(例えば、R、K、またはH)、芳香族アミノ酸(例えば、F、Y、またはW)、システイン(C)、プロリン(P)のいずれかには該当しないか、あるいはこれらのいずれでもない。
【0134】
よって、いくつかの実施形態では、配列番号18の70位(または相当する位置)のXは、A、G、I、L、M、N、Q、S、T、およびVから選択される。いくつかの実施形態では、70位(または相当する位置)のXは、A、G、S、N、およびTから選択される。
【0135】
「従来のまたは標準的なアミノ酸」とは、ポリペプチドまたはタンパク質分子の生成のためにインビボで使用されるアミノ酸、すなわち、タンパク質原性アミノ酸である。言い換えれば、標準的なまたは従来のR基を有するアミノ酸、または、標準的な遺伝子コードによってコードされる側鎖を有するアミノ酸、すなわち「コードされたアミノ酸」である。
【0136】
本発明のペプチドタグ結合パートナーポリペプチド(すなわち、本明細書中で定義するペプチドタグとイソペプチド結合を自発的に形成することができるポリペプチド、例えば、DogCatcherおよびその機能的バリアント)に関して上記で指定した「溶解度改変」および/または「活性改変」の組み合わせは、上記で定義される改変(親和性精製)ポリペプチドに対しても同様に適用される。例えば、親和性精製ポリペプチドは、上記で定義される「溶解度改変」の全て、および/または「活性改変」の全て、またはこれらの任意の選択もしくは組合せを含んでもよい。
【0137】
配列番号1の9位のリジン残基は、本発明の親和性精製ポリペプチドにおいては、当該ポリペプチドが本明細書中で定義されるペプチドタグと自発的にイソペプチド結合を形成しないため、必要とされない場合がある。しかしながら、この残基は、ペプチドタグと非共有的に相互作用して、ポリペプチドとペプチドタグとの選択的な結合を促進し得るため、本発明の親和性精製ポリペプチド中に保持しておくことが有利となり得る。
【0138】
よって、いくつかの実施形態では、上記で定義する(親和性精製)ポリペプチドが、配列番号18または19に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、配列番号18の9位または配列番号19の5位に相当する位置にリジンを含む。
【0139】
上述のように、本発明のポリペプチドにシステイン残基を導入して、当該ポリペプチドを、例えば、本明細書中で定義する親和性精製システムまたは親和性精製装置において使用するための別の分子または成分、特に、固体基材とカップリングさせることが有用となり得る。いくつかの実施形態において、前記システイン残基は、配列番号20に示すような、システイン残基を含むN末端またはC末端アミノ酸配列(例えば、タグ)を付加することによって、ポリペプチドに組み込まれてもよい。
【0140】
よって、いくつかの実施形態において、上記で定義するポリペプチド(例えば、親和性精製ポリペプチド)は、システイン残基を含む追加のN末端配列またはC末端配列を含む。
【0141】
いくつかの実施形態において、システイン残基は、アミノ酸をシステイン残基で置換することによってポリペプチドに導入してもよい。好ましい実施形態において、システイン残基は、上記で定義する溶解度改変残基または活性改変残基のいずれの位置にも導入されていない。いくつかの実施形態では、配列番号18の31位に相当する位置または配列番号19の27位に相当する位置にあるアスパラギン酸が、システイン残基に置換されている。いくつかの実施形態では、配列番号18の41位に相当する位置または配列番号19の37位に相当する位置にあるグルタミンが、システイン残基に置換されている。
【0142】
よって、いくつかの実施形態では、前記(親和性精製)ポリペプチドは、
i)配列番号21または22に記載のアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、アミノ酸配列;
ii)配列番号23もしくは24に記載のアミノ酸配列を含む(i)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される、(i)の一部分;
iii)配列番号21または22に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、70位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が、31位または41位のシステインおよび以下:
1)4位のグルタミン酸、
2)11位のアスパラギン酸、
3)13位のスレオニン、
4)47位のアスパラギン酸、
5)59位のスレオニン、
6)69位のイソロイシン、
7)75位のプロリン、
8)87位のセリン、
9)89位のアルギニン、および
10)92位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号21または22における位置に相当する位置にあり、かつ、任意選択的に、(A)前記アミノ酸配列が75位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~6)および8)~10)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含むか、または、(B)前記アミノ酸配列が、1)~5)、7)、および10)から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基と、6)、8)、および9)から選択される1つのアミノ酸残基を含む、アミノ酸配列;または
iv)配列番号23または24に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(iii)の一部分であって、66位のXがグルタミン酸でもアスパラギン酸でもなく、任意選択的に、66位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択され、前記アミノ酸配列が、27位または37位のシステインおよび以下:
1)7位のアスパラギン酸、
2)9位のスレオニン、
3)43位のアスパラギン酸、
4)55位のスレオニン、
5)65位のイソロイシン、
6)71位のプロリン、
7)83位のセリン、
8)85位のアルギニン、および
9)88位のアスパラギン酸
のうちの1つ以上を含み、これらの指定のアミノ酸残基が、配列番号23または24における位置に相当する位置にあり、かつ、任意選択的に、(A)前記アミノ酸配列が71位のプロリンを含む場合には、前記アミノ酸配列は、1)~5)および7)~9)から選択される1つ以上のアミノ酸残基も含むか、または、(B)前記アミノ酸配列は、1)~4)、6)、および9)から選択される少なくとも1つのアミノ酸残基と、5)、7)、および8)から選択される1つのアミノ酸残基を含む、部分、
を含む、ポリペプチドを含み、
前記ポリペプチドが、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに選択的かつ可逆的に結合する。
【0143】
いくつかの実施形態では、前記(親和性精製)ポリペプチドが、配列番号21から24のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記アミノ酸配列が、配列番号21もしくは22の9位または配列番号23もしくは24の5位に相当する位置にリジンを含む。
【0144】
「選択的に結合する」という用語は、前記(親和性精製)ポリペプチドの非共有的に結合する能力であって、ペプチドタグが存在する試料(例えば、ペプチドタグ(およびペプチドタグが融合もしくはコンジュゲートされた関連分子もしくは関連成分、すなわち、融合パートナー)がそこから単離または精製される試料)中の他の成分よりも高い親和性および/または特異性で、前記(親和性精製)ポリペプチドが、その同族ペプチドタグに非共有結合的に(例えば、ファンデルワールス力および/または水素結合により)結合する能力を意味する。よって、本発明の(親和性精製)ポリペプチドは、別の観点によれば、好適な条件下において、配列番号3、4、5、または17に記載のアミノ酸配列を含むペプチド等の、その同族ペプチドタグ(すなわち、DogTagペプチドまたはそのバリアント)に特異的かつ可逆的に結合するとみなし得る。
【0145】
前記同族ペプチドタグへの結合は、試料中に存在する他の分子(例えば、ペプチドまたはポリペプチド)、すなわち、非同族分子への結合と区別してもよい。本発明の(親和性精製)ポリペプチドは、試料中に存在する他の分子(例えば、ペプチドまたはポリペプチド)に結合しないか、または、そのような非特異的結合が仮に生じたとしても、無視できる程度であるか、もしくは検出不可能であり、同族ペプチドタグへの結合と容易に区別し得る。
【0146】
特に、本発明の(親和性精製)ポリペプチドが同族ペプチドタグ以外の分子に結合する場合、そのような結合は一時的なものでなければならず、結合親和性は、同族ペプチドタグに対する当該(親和性精製)ポリペプチドの結合親和性よりも低くなくてはならない。よって、前記ペプチドタグに対する前記(親和性精製)ポリペプチドの結合親和性は、試料中に存在する他の分子(すなわち、非同族分子)のそれよりも、少なくとも1桁大きい値であるべきである。好ましくは、前記(親和性精製)ポリペプチドの前記同族ペプチドタグに対する結合親和性は、非同族分子(例えば、ペプチドまたはポリペプチド)に対する結合親和性よりも、少なくとも2桁、3桁、4桁、5桁、または6桁大きい値であるべきである。
【0147】
よって、選択的結合または特異的結合とは、同族ペプチドタグに対するポリペプチドの解離定数が約10-3M未満である場合の、同族ペプチドタグに対する本発明の(親和性精製)ポリペプチドの親和性を指す。好ましい実施形態では、ポリペプチドのその同族ペプチドタグに対する解離定数は、約10-4M、10-5M、10-6M、10-7M、10-8M、または10-9M未満である。
【0148】
本発明の(親和性精製)ポリペプチドの結合選択性(例えば、特異性)はまた、下記で定義される単離または精製方法で得られる生成物、すなわち、同族ペプチドタグおよびペプチドタグが融合またはコンジュゲートされた関連分子または関連成分(融合パートナー、例えば、ポリペプチド)の収率および/または純度に基づいて定義してもよい。いくつかの実施形態において、下記に定義する方法における本発明の(親和性精製)ポリペプチドは、少なくとも約75%、例えば、少なくとも約80%、85%、または90%の純度で生成物を生じる。本発明の方法および(親和性精製)ポリペプチドを用いて得られる生成物の純度は、国際公開公報第2020/115252号(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるSDS-PAGE法等、任意の適切な手段を用いて決定し得る。
【0149】
いくつかの実施形態において、下記で定義する方法における本発明の(親和性精製)ポリペプチドは、少なくとも約50%の収率、約60%、70%、75%、80%、85%、または90%等の収率で、生成物を生じる。本発明の方法および(親和性精製)ポリペプチドを用いて得られる生成物の収率は、任意の適切な手段を用いて決定し得る。
【0150】
よって、本発明のポリペプチド(親和性精製ポリペプチド)は、配列番号3から5および17に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる少なくとも1つのペプチドに選択的かつ可逆的に結合しなければならない。好ましい実施形態では、前記(親和性精製)ポリペプチドは、配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドに選択的かつ可逆的に結合しなければならない。よって、本発明の(親和性精製)ポリペプチドは、ペプチドタグが存在する試料中の他の成分(すなわち、非同族分子)よりも高い親和性および/または特異性で、配列番号3から5または17に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる少なくとも1つのペプチドに結合する。試料は、ペプチドタグ(およびペプチドタグが融合またはコンジュゲートされた関連分子または関連成分、すなわち融合パートナー)がそれから単離または精製される任意の試料(例えば、以下に記載される細胞溶解物等)であってもよい。しかしながら、本発明のポリペプチドは、本明細書中で定義する他の同族ペプチドタグにも結合し得る。
【0151】
非同族分子、特に、非同族ペプチドまたはポリペプチドは、本明細書中で定義するペプチドタグ、すなわち、配列番号3、4、5、または17に対して少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるアミノ酸配列を含まないペプチドまたはポリペプチドと定義し得る。好ましくは、前記非同族分子は、本明細書中で定義するペプチドタグ、すなわち、配列番号3、4、5、または17に対して約60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、または20%を超える配列同一性を有する19個から23個のアミノ酸の連続配列を含まない。その他の非同族分子としては、炭水化物、糖、脂質、イオン、および低分子が挙げられる。
【0152】
(親和性精製)ポリペプチドとその同族ペプチドタグとの選択的または特異的な結合に好適な条件は、日常的な実験を用いて決定し得る。好適な条件としては、例えば、本発明のペプチドタグ結合パートナーポリペプチドに関して上記に記載した条件、ならびに本明細書中で定義するペプチドタグとのイソペプチド結合形成のための条件を挙げることができる。
【0153】
「可逆的」または「可逆的に結合する」という用語は、(親和性精製)ポリペプチドとその同族ペプチドタグとの間の相互作用が破壊され、その結果、好適な条件下で当該複合体の分離(解離)を生じる能力を指す。言い換えれば、親和性精製ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体によって形成される非共有結合性の相互作用は、構成部分の分離を可能にする好適な条件下で切断可能である。複合体を解離させる好適な条件としては、複合体の形成に必要な非共有結合を破壊または切断することができる任意の条件を挙げることができ、日常的な実験を用いて決定し得る。
【0154】
親和性精製ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体を解離させる条件は、DogTagペプチドおよび/または融合パートナーの活性の不可逆的な喪失を招かないものが好ましいことは明白であろう。例えば、DogTagが本発明のペプチドタグ結合パートナーポリペプチド(例えば、DogCatcher)と自発的に反応してイソペプチド結合を形成することを妨げるような条件は避けるべきである。同様に、DogTagペプチドに融合した分子または成分(すなわち、融合パートナー、例えば、ポリペプチド)が変化または阻害(例えば、変性)される条件は、そのような条件は下流の用途におけるDogTag融合の有用性を制限することになるため、親和性精製ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体の解離には適していない。そのような条件は、融合パートナーの性質に依存すると考えられ、当業者であれば、当該技術分野で公知の方法に基づいて、いずれの条件が適切であるか(または不適切であるか)を容易に決定し得る。一例として、親和性精製ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体の煮沸および/または1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いた処理は、当該親和性精製ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体を解離させるが、融合パートナーを不可逆的に変化(例えば、変性)させるおそれがある。
【0155】
本明細書中で言及する「機能的同等物」とは、本明細書中に記載ペプチドタグおよび上述の本発明の親和性精製ポリペプチドのバリアントであって、親分子(すなわち、前記バリアントが配列相同性を示す分子)と比べて、それぞれのパートナーとの結合(非共有結合複合体の形成)における選択性(例えば、特異性)または親和性にいくらかの低減(例えば、本発明の方法においてより低い純度もしくは収率、または限られた範囲の反応条件(例えば、10℃~30℃等の、より狭い温度範囲)での活性)を示してもよいが、好ましくは、同程度の有効性またはより高い有効性を示すバリアントを指す。
【0156】
配列番号3から5または17の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグの活性と「同等」の活性を有する変異同族ペプチドタグまたはバリアント同族ペプチドタグは、配列番号3から5または17の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる同族ペプチドタグの活性に類似の(すなわち、匹敵する)活性を有してもよい、すなわち、当該ペプチドタグの実際の適用に有意に影響しないような、例えば、実験誤差の範囲内であるような活性を有してもよい。
【0157】
よって、いくつかの実施形態において、同等のペプチドタグ活性とは、記載の変異同族ペプチドタグまたはバリアント同族ペプチドタグが、本発明の親和性精製ポリペプチドに選択的かつ可逆的に結合できることを意味する。いくつかの好ましい実施形態では、変異同族ペプチドタグまたはバリアント同族ペプチドタグが、同一条件下で、配列番号3から5または17の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるペプチドタグと類似の反応速度(すなわち、上述の速度定数)および/または収率で、本明細書で定義されるペプチドタグ結合パートナーポリペプチドとイソペプチド結合を自発的に形成することができる。
【0158】
同様に、配列番号18(好ましくは、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性と「同等」の活性を有する本発明の変異親和性精製ポリペプチドまたはバリアント親和性精製ポリペプチドは、配列番号18(好ましくは、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性に類似の(すなわち、匹敵する)活性を有してもよい、すなわち、当該ペプチドの実際の適用に有意に影響しないような、例えば、実験誤差の範囲内であるような活性を有してもよい。よって、同等のポリペプチド活性とは、本発明の変異親和性精製ポリペプチドまたはバリアント親和性精製ポリペプチドが、同一条件下で、上述のように、配列番号18(好ましくは、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドと類似の親和性および/または収率で、本明細書中に記載の同族ペプチドタグ(例えば、配列番号3から5または17の1つに記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる)に選択的かつ可逆的に結合できることを意味する。
【0159】
配列番号18(好ましくは、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドの活性と「同等」の活性を有する本発明の変異ポリペプチドまたはバリアントポリペプチドは、本明細書中で定義する同族ペプチドタグ、例えば、配列番号3から5、17のうちの1つ、あるいはこれらの全てとの結合に関し、配列番号18(好ましくは、70位のXがアラニン、グリシン、セリン、アスパラギン、またはスレオニンから選択される)に記載のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるポリペプチドと競合し得る。
【0160】
同一反応条件下、例えば、上記に例示したような、温度、リガンド(すなわち、同族ペプチドタグ配列)およびそれらの濃度、緩衝液、塩等の条件下にて測定された異なるポリペプチドの活性(例えば、配列番号18対変異体)は、容易に比較でき、各ポリペプチドについて、親和性および/または収率がより高いか、より低いか、または等しいかどうかを決定できる。
【0161】
特に有用な実施形態において、ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)は、別のペプチドまたはポリペプチドに融合またはコンジュゲートされる。例えば、ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)は、後述のような組換え技術を使用して、別のペプチドまたはポリペプチドの一部として、すなわち、組換えまたは合成のタンパク質またはポリペプチドとして製造してもよい。
【0162】
本明細書中に開示のペプチドタグおよび/または本発明のポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)を、任意のタンパク質またはポリペプチドに融合させてもよいことは明白であろう。前記タンパク質は、任意の好適な供給源から誘導または取得すればよい。例えば、前記タンパク質は、インビトロで翻訳されてもよいし、あるいは、生体試料および臨床試料から、例えば、生物(真核生物、原核生物)の任意の細胞もしくは組織試料、またはそれらに由来する任意の体液もしくは調製物、ならびに、細胞培養物、細胞製剤、細胞溶解物等の試料から精製されてもよい。タンパク質は、環境試料から誘導または取得、例えば、精製してもよく、当該環境試料としては、例えば、土壌および水試料または食品試料が挙げられる。前記試料は、新たに調製してもよいし、あるいは、例えば、保存のために、任意の簡便な方法で前処理してもよい。
【0163】
上述のように、好ましい一実施形態において、本明細書中に開示のペプチドタグおよび/または本発明のポリペプチドに融合されたペプチドまたはタンパク質は、遺伝子組換えによって製造してもよく、よって、前記組換えタンパク質をコードする核酸分子は、任意の好適な供給源、例えば、あらゆる原核または真核細胞、ウイルス、バクテリオファージ、マイコプラズマ、原形質体、および細胞小器官を含む、任意のウイルス性または細胞性の物質から誘導または取得してもよい。よって、そのような生体物質は、あらゆる種類の哺乳動物細胞および非哺乳動物細胞、植物細胞、ラン藻類を含む藻類、真菌類、細菌類、原生生物、ウイルス等を含み得る。いくつかの実施形態において、前記タンパク質は、合成タンパク質であってもよい。例えば、本明細書中に開示のペプチドおよびポリペプチド(タンパク質)は、固相ペプチド合成等の化学合成によって製造してもよい。
【0164】
ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)は、組換えまたは合成タンパク質内の任意の便利な位置に配置し得る。いくつかの実施形態において、ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、組換えまたは合成ポリペプチドのN末端またはC末端に配置してもよい。いくつかの実施形態において、ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)は、組換えまたは合成ポリペプチドの内部に配置してもよい。よって、いくつかの実施形態において、ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)は、組換えまたは合成ポリペプチドのN末端ドメイン、C末端ドメイン、または内部ドメインとみなし得る。
【0165】
上述のように、本発明のペプチドタグおよびペプチドタグ結合パートナーポリペプチドは、少なくとも1つのループ領域を介してタンパク質同士をカップリングする必要がある状況下で特に効果的である。したがって、いくつかの実施形態では、前記ペプチドタグは、組換えまたは合成ポリペプチドの内部に配置することが好ましい。好ましい実施形態では、前記ペプチドタグは、組換えまたは合成ポリペプチドのループ領域またはループドメイン内に位置する。よって、いくつかの実施形態では、前記ポリペプチドタグは、組換えまたは合成ポリペプチドの内部ドメインとみなし得る。
【0166】
いくつかの実施形態において、1つ以上のスペーサ、例えば、ペプチドスペーサを、ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)に結合またはコンジュゲートさせるペプチドまたはポリペプチドの間に備えることが有用となり得る。よって、ペプチドまたはポリペプチドと、ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)とは、互いに直接連結してもよいし、または、1つ以上のスペーサ配列により間接的に連結してもよい。よって、スペーサ配列は、組換えまたは合成ポリペプチドにおける2つ以上の別個の部分間に空間を設け得るか、またはこれらを分離し得る。いくつかの実施形態では、例えば、ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)を、結合またはコンジュゲートされるペプチドまたはポリペプチドのN末端またはC末端に配置しようとする場合には、スペーサは、当該ペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)に対してN末端またはC末端であってもよい。上述のように、本発明のペプチドタグおよびポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)は、当該ペプチドタグが、結合またはコンジュゲートされる(あるいは、単離または精製される)ペプチドまたはポリペプチドの内部部位に位置する場合における使用に特に適している。例えば、前記ペプチドタグを、ループ領域に挿入してもよい。よって、いくつかの実施形態では、スペーサは、ペプチドタグの両側にあってもよい。
【0167】
スペーサ配列の正確な性質としては、長さおよび/または配列は可変であってもよく、例えば、スペーサ配列は、1個~40個、より具体的には、2個~20個、1個~15個、1個~12個、1個~10個、1個~8個、または1~6個の残基、例えば、6個、7個、8個、9個、10個、またはそれ以上の残基を有してもよい。代表的な例として、スペーサ配列が存在する場合、当該スペーサ配列は、1個~15個、1個~12個、1個~10個、1個~8個、または1個~6個等の残基を有してもよい。残基の性質は重要ではなく、これら残基は、任意のアミノ酸、例えば、中性アミノ酸または脂肪族アミノ酸等であってもよいし、あるいは、疎水性アミノ酸であってもよいし、または極性もしくは荷電アミノ酸、または構造形成アミノ酸、例えば、プロリンであってもよい。いくつかの好ましい実施形態において、リンカーは、セリンリッチ配列および/またはグリシンリッチ配列である。例示的なリンカー/スペーサ配列が、配列番号16に記載されている。
【0168】
よって、例示的なスペーサ配列としては、任意の単一のアミノ酸残基、例えば、S、G、L、V、P、R、H、M、A、もしくはE、または、そのような残基のうちの1つ以上で構成された、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、もしくはヘキサペプチドが挙げられる。
【0169】
よって、いくつかの実施形態において、本発明は、上記で定義する本発明のポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)を含む組換えまたは合成ポリペプチド、すなわち、本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)に融合されたペプチドまたはポリペプチド(例えば、異種のペプチドまたはポリペプチド、すなわち、通常は本発明のポリペプチドと関連しない、例えば、異なる生物由来である、ペプチドまたはポリペプチド)を含む組換えまたは合成ポリペプチドを提供する。組換えまたは合成ポリペプチドは、任意選択的に、上記で定義するようなスペーサを含む。
【0170】
本発明の組換えまたは合成ポリペプチドはまた、(例えば、後述の本発明の方法および使用において使用する前に)精製を容易にするための精製部分(purification moieties)またはタグを含んでいてもよい。任意の好適な精製部分またはタグは、ポリペプチドに組み込まれていてもよく、そのような部分は、当該技術分野では周知である。例えば、いくつかの実施形態において、組換えまたは合成ポリペプチドは、ペプチド精製タグまたは部分、例えば、His-タグまたはC-タグ配列を含んでいてもよい。このような精製部分またはタグは、ポリペプチド内の任意の位置に組み込まれていてもよい。いくつかの好ましい実施形態において、精製部分は、ポリペプチドのN末端またはC末端に、あるいは、N末端またはC末端寄り(すなわち、各末端から5、10、15、20アミノ酸以内)に位置している。いくつかの実施形態において、前記タグは、組換えまたは合成ポリペプチドと別の分子または成分、例えば、固体基材とのコンジュゲーションを容易にするために、システイン残基を含んでもよい。
【0171】
上述のように、本発明の利点は、ペプチドまたはポリペプチド中に組み込まれた本発明のペプチドタグおよび/またはポリペプチド(例えば、本発明の組換えまたは合成ポリペプチド)は、完全に遺伝的コード化し得るという事実から生じている。よって、さらなる態様において、本発明は、上記で定義するようなポリペプチド(例えば、ペプチドタグ結合パートナー)または組換えポリペプチドをコードする、核酸分子を提供する。
【0172】
いくつかの実施形態において、前記核酸分子は、宿主細胞中での発現のためにコドン最適化されている。よって、いくつかの実施形態では、前記核酸分子は、大腸菌等の菌体中での発現のために、例えば、配列番号7に記載のヌクレオチド配列のようにコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記核酸分子は、ヒト細胞、例えば、HEK細胞等の哺乳動物細胞中での発現のために、コドン最適化されている。
【0173】
いくつかの実施形態において、上記で定義するポリペプチド結合パートナーをコードする核酸分子は、配列番号7に記載のヌクレオチド配列、または配列番号7に記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。
好ましくは、上述の核酸分子は、配列番号7と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%同一である。
【0174】
核酸配列同一性は、例えば、設定値がデフォルト値かつpam因子が可変であって、ギャップ作成ペナルティを12.0に設定し、ギャップ伸長ペナルティを4.0に設定し、ウィンドウを6ヌクレオチドとしたGCGパッケージを用いるFASTA Searchを使用して決定してもよい。。前記比較は、配列全長にわたって行うことが好ましいが、より小さい比較ウィンドウ、例えば、300個未満、200個未満、100個未満、または50個未満の連続するヌクレオチドに対して行ってもよい。
【0175】
本発明の核酸分子は、リボヌクレオチドおよび/またはデオキシリボヌクレオチド、ならびにワトソン-クリック型または類似(analogous)塩基対の相互作用に関与することができる合成残基、例えば、合成ヌクレオチドで構成されてもよい。好ましくは、前記核酸分子は、DNAまたはRNAである。
【0176】
上述の核酸分子は、発現制御配列、またはそのような組換えDNA分子を含有する組換えDNAクローニング媒体もしくはベクターに、作動可能に連結してもよい。これにより、本発明のペプチドおよびポリペプチドを遺伝子産物として細胞内発現させることが可能となるが、この発現は、対象の細胞に導入された遺伝子によって指示される。遺伝子発現は、対象の細胞内において活性なプロモーターから誘導されるものであり、ゲノムへの組込みまたは独立した複製もしくは一過性トランスフェクション/発現のために、任意の形態の直鎖状または環状の核酸(例えば、DNA)ベクターに挿入され得る。好適な形質転換またはトランスフェクションの技術は、詳細に文献に記載されている。あるいは、裸の核酸(例えば、DNAまたはRNAであり、1つ以上の合成残基、例えば、塩基アナログおよび/または糖アナログを含み得る)分子を前記細胞に直接導入して本発明のポリペプチドを製造してもよい。あるいは、前記核酸をインビトロ転写によりmRNAへと変換し、インビトロ翻訳により関連するタンパク質を生成させてもよい。
【0177】
適切な発現ベクターは、適切な制御配列、例えば、本発明の核酸分子と読み枠が一致するように連結された、翻訳制御エレメント(例えば、開始および終止コドン、リボソーム結合部位)および転写制御エレメント(例えば、プロモーター-オペレーター領域、停止終止配列(termination stop sequences))等を含む。適切なベクターは、プラスミドおよびウイルス(バクテリオファージおよび真核ウイルスの両方を含む)を含んでもよい。好適なウイルスベクターとしては、バキュロウイルス、さらには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ヘルペス、およびワクシニア/ポックスウイルスが挙げられる。その他の多くのウイルスベクターが、当該技術分野において示されている。好適なベクターの例として、pGEX-KG、pEF-neo、およびpEF-HA等、細菌発現ベクターおよび哺乳動物発現ベクターが挙げられる。
【0178】
上述のように、本発明の組換えまたは合成ポリペプチドは、追加の配列(例えば、ポリペプチドの精製を容易にするペプチド/ポリペプチドタグ)を含んでもよく、よって、核酸分子を、追加のペプチドまたはポリペプチド、例えば、Hisタグ、マルトース結合タンパク質等をコードするDNAと、簡便な方法で融合させて、発現時に融合タンパク質が生成されるようにしてもよい。
【0179】
よって、さらなる態様として、本発明は、ベクター、好ましくは、上記で定義するような核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0180】
本発明の他の態様としては、本発明に係る組換え核酸分子を調製する方法であって、本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)をコードする本発明の核酸分子をベクター核酸に挿入することを含む方法が挙げられる。
【0181】
本発明の核酸分子、好ましくはベクターに含有された本発明の核酸分子は、任意の適切な手段によって細胞に導入し得る。好適な形質転換またはトランスフェクションの技術は、詳細に文献に記載されている。非常に多くの技術が公知であり、これらを用いて、そのようなベクターを発現用の原核細胞または真核細胞中に導入してもよい。この目的のために好ましい宿主細胞としては、昆虫細胞株、酵母、哺乳動物細胞株、またはBL21(DE3)株等の大腸菌が挙げられる。本発明はさらに、核酸分子、特に、上記で定義するようなベクターを含有する、形質転換またはトランスフェクトされた原核宿主細胞または真核宿主細胞にも及んでいる。
【0182】
よって、別の態様では、上述のような核酸分子および/またはベクターを含有する組換え宿主細胞が提供される。
【0183】
「組換え」とは、核酸分子および/またはベクターが宿主細胞に導入されたことを意味する。宿主細胞は、核酸分子の内因性コピーを天然に含有することもあれば含有していないこともあるが、核酸分子および/またはベクターの外因性コピーまたはさらなる内因性コピーが導入されているという点において、宿主細胞は組換え体である。
【0184】
本発明のさらなる態様は、本発明のポリペプチドまたは本明細書中で上記に定義した組換えポリペプチドを調製する方法であって、上記で定義する核酸分子を含有する宿主細胞を、前記ポリペプチドをコードする前記核酸分子が発現される条件下で培養することと、このように製造された前記分子(ポリペプチド)を回収することとを含む方法を提供する。発現されたポリペプチドによって、本発明のさらなる態様が生じる。
【0185】
いくつかの実施形態において、本明細書中に開示のペプチドタグおよび/または本発明のポリペプチド、もしくは本発明の方法および使用において使用するための、本発明のポリペプチドは、合成により生成してもよく、例えば、アミノ酸またはより小さい合成ペプチドのライゲーションによって、合成してもよく、あるいは、より簡便に、本明細書中で上記に記載したポリペプチドをコードする核酸分子の組換え発現によって、合成してもよい。
【0186】
本発明の核酸分子は、当該技術分野において公知の任意の好適な手段を用いて合成により生成してもよい。
【0187】
よって、本明細書中に開示のペプチドタグおよび/または本発明のポリペプチドは、単離、精製、組換え、または合成ペプチドタグまたはポリペプチドであってもよい。
【0188】
「ポリペプチド」という用語は、本明細書において「タンパク質」という用語と互換的に使用されている。上述のように、ポリペプチドまたはタンパク質という用語は、典型的には、少なくとも40個の連続したアミノ酸残基を含む任意のアミノ酸配列を含み、例えば、少なくとも50個、60個、70個、80個、90個、100個、150個のアミノ酸、40個~1000個、50個~900個、60個~800個、70個~700個、80個~600個、90個~500個、100個~400個のアミノ酸等を含む任意のアミノ酸配列を含む。
【0189】
同様に、本発明の核酸分子は、単離、精製、組換え、または合成核酸分子であってもよい。
【0190】
よって、別の観点によれば、本発明のポリペプチドおよび核酸分子は、好ましくは非天然の、すなわち、天然には存在しない分子である。
【0191】
本明細書中では、標準的なアミノ酸命名法を使用している。よって、アミノ酸残基の省略しない名称は、一文字コードまたは三文字略号と互換的に使用してもよい。例えば、リジンはKまたはLysに置き換えてもよく、イソロイシンはIまたはIleに置き換えてもよく、その他も同様である。さらに、アスパラギン酸塩(aspartate)とアスパラギン酸(aspartic acid)、およびグルタミン酸塩(glutamate)とグルタミン酸(glutamic acid)という用語は、本明細書では互換的に使用され、それぞれ、AspもしくはD、またはGluもしくはEに置き換えてもよい。
【0192】
本明細書中に開示のペプチドタグ、ならびに本発明のポリペプチド、および本発明で使用するためのポリペプチドは、組換えによって製造してもよいものと想定されているが、これは本発明の好ましい一実施形態であり、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチドは、その他の手段によって、タンパク質またはその他の実体、例えば、上記で定義するような分子または成分にコンジュゲートされてもよいことは明白であろう。言い換えれば、前記ペプチドタグまたはポリペプチドと、他の分子、成分、または実体、例えば、タンパク質または固体基材とを、任意の好適な手段、例えば、組換えにより、別々に製造し、その後、コンジュゲート(結合)して、本発明の方法および使用において使用可能な、ペプチドタグと他の成分とのコンジュゲートまたはポリペプチドと他の成分とのコンジュゲートを形成してもよい。例えば、本明細書中に開示のペプチドタグおよび/または本発明のポリペプチドは、上述のように、合成または組換えによって製造されてもよく、別の成分、例えば、タンパク質に、非ペプチドリンカーまたは非ペプチドリンカースペーサ、例えば、化学的リンカーまたは化学的スペーサを介して、コンジュゲートされてもよい。
【0193】
上述の他の実施形態と同様に、ペプチドタグは、内部部位で、すなわち、前記他の成分の末端の1つではない部位で、他の成分にコンジュゲート(結合)されてもよい。前記他の成分がタンパク質である場合、ペプチドタグは、好ましくは、前記タンパク質内のループ領域にコンジュゲート(結合)されてもよい。
【0194】
上述のように、本発明の親和性精製ポリペプチドは、2部式親和性精製システムの1つの部分を形成し、本明細書中で定義する同族ペプチドタグを含む(例えば、同族ペプチドタグが結合またはコンジュゲートされている)分子または成分(融合パートナー)を精製する(すなわち、単離または分離する)際に特に有用である。
【0195】
よって、さらなる態様において、本発明は、本明細書中で定義する同族ペプチドタグ、例えば、配列番号3から5または17の1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドタグであって、前記アミノ酸配列が17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含むペプチドタグを含む分子または成分を精製または単離するための、上記で定義する本発明の親和性精製ポリペプチド(例えば、配列番号18)の使用を提供するものとみなし得る。
【0196】
親和性精製システムは、典型的には、標的リガンドの捕捉、洗浄、および溶出を容易にするために、固体基材上に固定化された捕捉分子(例えば、受容体)を利用する。よって、本発明の親和性精製ポリペプチドは、固体基材(すなわち、固相または固体支持体)に固定化(例えば、融合、コンジュゲート、または連結)されてもよい。任意の簡便な方法によりこれを達成すればよいことは明白であろう。別の観点によれば、本発明は、本発明のポリペプチドが固定化された固体支持体を提供する。
【0197】
固定化の手法または手段および固体支持体は、当該技術分野において広く知られた、文献に記載されているような、任意の多数の固定化手段および固体支持体から、選択肢に応じて選択し得る。よって、本発明のポリペプチドは、例えば、当該ポリペプチドのドメインまたは部分を介して(例えば、化学的に架橋されて)、前記支持体に直接結合されてもよい。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、リンカー基によって、または介在する結合基によって(例えば、ビオチン-ストレプトアビジン相互作用によって)、間接的に結合されてもよい。よって、ポリペプチドは、共有結合または非共有結合により、固体支持体に連結されてもよい。ある実施形態では、ポリペプチドは、共有結合を介して固体基材に固定化されている。
【0198】
前記結合は、可逆的(例えば、切断可能な)な結合であっても、不可逆的な結合であってもよい。よって、いくつかの実施形態では、前記結合は、酵素により、化学的に、または光を用いて切断してもよく、例えば、前記結合は、感光性の結合であってもよい。
【0199】
よって、いくつかの実施形態において、ペプチドタグおよび/またはポリペプチドと、その他の成分、例えば、タンパク質または固体基材とは、結合手を介して直接結合されてもよいし、または連結基を介して間接的に結合されてもよい。連結基が使用される場合、このような基の選択は、当該連結基によってペプチドタグまたはポリペプチドと他の実体、例えば、タンパク質または固体基材との共有結合が提供されるように行い得る。対象の連結基は、前記他の実体、例えば、タンパク質の性質に応じて、様々であってもよい。連結基が存在する場合には、当該連結基は、多くの実施形態で生物学的に不活性である。
【0200】
多くの連結基が当業者には公知であり、本発明において使用することができる。代表的な実施形態において、連結基は、一般的には少なくとも約50ダルトン、通常は少なくとも約100ダルトンであり、1000ダルトン程度以上であってもよく、例えば、連結基がスペーサを含む場合は1000000ダルトンに及ぶこともあるが、一般的には約500ダルトンを超えることはなく、通常は約300ダルトンを超えることはない。一般的には、このようなリンカーは、ペプチドタグまたはポリペプチドと、他の分子または成分、例えば、タンパク質または固体基材とを共有結合させることが可能な反応性官能基を有するいずれかの末端で終端するスペーサ基を備えるであろう。
【0201】
対象のスペーサ基としては、脂肪族および不飽和の炭化水素鎖、酸素(ポリエチレングリコール等のエーテル)または窒素(ポリアミン)等のヘテロ原子を含有するスペーサ、ペプチド、炭水化物、ヘテロ原子を含有する可能性がある環式系または非環式系が挙げられる。スペーサ基はまた、金属に結合する複数のリガンドであって、金属イオンの存在により2つ以上のリガンドを配位させて錯体を形成するリガンドから構成されてもよい。具体的なスペーサ要素としては、1,4-ジアミノヘキサン、キシリレンジアミン、テレフタル酸、3,6-ジオキサオクタン二酸、エチレンジアミン-N,N-二酢酸、1,1’-エチレンビス(5-オキソ-3-ピロリジンカルボン酸)、4,4’-エチレンジピペリジン、オリゴエチレングリコール、およびポリエチレングリコールが挙げられる。潜在的な反応性官能基としては、求核性官能基(アミン、アルコール、チオール、ヒドラジド)、求電子性官能基(アルデヒド、エステル、ビニルケトン、エポキシド、イソシアネート、マレイミド)、環化付加反応、ジスルフィド結合の形成、または金属への結合が可能な官能基が挙げられる。具体例としては、第1級アミンおよび第2級アミン、ヒドロキサム酸、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステル、N-ヒドロキシスクシンイミジルカルボネート、オキシカルボニルイミダゾール、ニトロフェニルエステル、トリフルオロエチルエステル、グリシジルエーテル、ビニルスルホン、およびマレイミドが挙げられる。ペプチドタグ/ポリペプチド結合パートナーコンジュゲートに使用し得る具体的なリンカー基としては、アジドベンゾイルヒドラジド、N-[4-(p-アジドサリチルアミノ)ブチル]-3’-[2’-ピリジルジチオ]プロピオンアミド)、ビス-スルホスクシニミジルスベラート、ジメチルアジピミダート、ジスクシンイミジル酒石酸塩、N-マレイミドブチリルオキシスクシンイミドエステル、N-ヒドロキシスルホスクシンイミジル-4-アジド安息香酸、N-スクシンイミジル[4-アジドフェニル]-1,3’-ジチオプロピオナート、N-スクシンイミジル[4-ヨードアセチル]アミノベンゾアート、グルタルアルデヒド、ならびにスクシンイミジル-4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SPDP)、4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)等のような、ヘテロ官能性化合物が挙げられる。例えば、スペーサは、アルキンと反応するアジドを用いて形成されてもよいし、あるいは、トランス-シクロオクテンまたはノルボルネンと反応するテトラジンを用いて形成されてもよい。
【0202】
いくつかの実施形態では、ペプチドタグおよび/またはポリペプチドの1つ以上の残基を修飾することにより、これらの分子のコンジュゲーションを容易にすること、および/または、ペプチドタグおよび/またはポリペプチドの安定性を向上させることが有用であり得る。よって、いくつかの実施形態では、本明細書中に開示のペプチドタグまたは本発明の、もしくは本発明で使用するための、ポリペプチドは、非天然のアミノ酸または非標準的なアミノ酸を含んでもよい。
【0203】
いくつかの実施形態において、本明細書中に開示のペプチドタグまたは本発明のポリペプチド、もしくは本発明で使用するためのポリペプチドは、非従来型のアミノ酸、すなわち、標準的な遺伝子コードによってコードされていない側鎖を有するアミノ酸であって、本明細書中では「非コードアミノ酸」と呼ばれるアミノ酸を、1個以上、例えば、1個、2個、3個、4個、5個またはそれ以上含んでもよい。このようなアミノ酸は、当該技術分野では周知であり、オルニチンもしくはタウリン等、代謝過程を経て形成されるアミノ酸、および/または9H-フルオレン-9-イルメトキシカルボニル(Fmoc)、(tert)-ブチルオキシカルボニル((B)utyl (o)xy (c)arbonyl(Boc))、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル(Pmc)保護アミノ酸、もしくはベンジルオキシ-カルボニル(Z)基を有するアミノ酸等の人工的に修飾されたアミノ酸から選択してもよい。
【0204】
前記ペプチドタグまたは本発明のポリペプチド、および本発明で使用するためのポリペプチドにおいて使用し得る非標準的アミノ酸または構造類似アミノ酸(structural analogue amino acids)の例としては、Dアミノ酸、アミド同配体(N-メチルアミド、レトロインバースアミド、チオアミド、チオエステル、ホスホネート、ケトメチレン、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル、(E)-ビニル、メチレンアミノ、メチレンチオ、またはアルカン等)、L-Nメチルアミノ酸、D-αメチルアミノ酸、D-N-メチルアミノ酸が挙げられる。本明細書中に開示のペプチドタグならびに/または本発明のポリペプチド、および本発明で使用するためのポリペプチドにおいて使用し得るさらに別の非標準的なアミノ酸が、Willis and Chin, Nat Chem. 2018; 10(8):831-837、国際公開公報第2018/189517号の表1、および国際公開公報第2018/197854号に開示されており、これらの文献は、いずれも参照により本明細書に組み込まれる。
【0205】
よって、いくつかの実施形態において、本発明のペプチドタグまたはポリペプチドは、支持体上に設けられる固定化のための手段(例えば、その結合パートナー、すなわち、同族結合パートナー、例えば、ストレプトアビジンまたは抗体に結合可能な親和性の結合パートナー、例えば、ビオチンまたはハプテン)を備えてもよい。いくつかの実施形態において、ペプチドタグまたはポリペプチドと固体支持体との相互作用は、洗浄工程を許容できる程度に十分に堅固なものでなければならない、すなわち、ペプチドタグまたはポリペプチドと固体支持体との相互作用は、洗浄工程によって破壊(著しく破壊)されない。例えば、各洗浄工程について、固相から除去または溶出されるペプチドタグまたはポリペプチドは5%未満、好ましくは、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%未満であることが好ましい。
【0206】
固体支持体(相または基材)は、固定化、分離等のために現在広く使用されているか、または提案されている周知の支持体またはマトリックスのいずれかであってもよい。これらは、粒子(例えば、磁性、常磁性、または非磁性であってもよいビーズ)、シート、ゲル、フィルター、膜、繊維、キャピラリー、スライド、アレイもしくはマイクロタイターストリップ、チューブ、プレート、またはウェル等の形態をとり得る。
【0207】
支持体は、ガラス、シリカ、ラテックス、または高分子材料、例えば、アガロース(例えば、セファロース)等の多糖高分子材料でできていてもよい。本発明のポリペプチドの結合のため、表面積が大きい材料が好適である。このような支持体は、でこぼこな表面を有してもよく、例えば、多孔性または粒子状であってもよく、粒子、繊維、織物、焼結物、または篩等が例示される。粒子状物質、例えば、ビーズは、結合能がより高いことから有用であり、特に、高分子ビーズが有用である。
【0208】
便利なことに、本発明に従って使用される粒子状固体支持体には、球状ビーズが挙げられる。ビーズの大きさは重要ではないが、例えば、少なくとも約1μm程度の直径、好ましくは、少なくとも約2μm、5μm、10μm、または20μm程度の直径を有してもよく、また、好ましくは、約500μm以下、例えば、約100μm以下の最大直径を有してもよい。
【0209】
単分散粒子、すなわち、大きさが実質的に均一な(例えば、直径の標準偏差が5%未満である)粒子は、反応の再現性が非常に均一であるという利点を有する。代表的な単分散高分子粒子は、米国特許第4336173号に記載の技術によって製造し得る。
【0210】
しかしながら、操作および分離を助けるためには、磁性ビーズが有利である。本明細書中で使用する「磁性」という用語は、支持体が磁場中に置かれると、当該支持体に付与される磁気モーメントを有することができ、よって、当該支持体がその磁場の作用下で変位可能であることを意味する。換言すれば、磁性粒子を含む支持体は磁気凝集によって容易に除去し得るものであり、これにより、イソペプチド結合形成工程に引き続き、当該粒子を分離する迅速、単純、かつ効率的な方法が提供される。
【0211】
いくつかの実施形態では、固体支持体は、樹脂、例えば、アミロース樹脂である。いくつかの実施形態では、固体支持体は、チオール反応性樹脂である。よって、いくつかの実施形態において、固体基材はヨードアセチル基を含んでいてもよく、例えば、固体基材は、ヨードアセチル活性化基材であってもよい。
【0212】
さらなる実施形態において、本発明は、キット、特に、本発明の方法および使用において使用するためのキット、すなわち、イソペプチド結合を介して2つの分子または成分をコンジュゲートするためのキットであって、複合体中の分子または成分のうちの2つがイソペプチド結合を介してコンジュゲートされ、当該キットが、
(a)上記で定義するペプチドタグ結合パートナーポリペプチド、任意選択的に分子または成分、例えば、タンパク質にコンジュゲートまたは融合された、上記で定義するペプチドタグ結合パートナーポリペプチドを含む組換えもしくは合成ポリペプチドのような、上記で定義するペプチドタグ結合パートナーポリペプチド;および
(b)上記で定義するペプチド(ペプチドタグ)、任意選択的に分子または成分、例えば、タンパク質にコンジュゲートまたは融合された、上記で定義するペプチド(ペプチドタグ);および/または
(c)(a)に記載のペプチドタグ結合パートナーポリペプチドをコードする、核酸分子、特にベクター;および/または
(d)(b)に記載のペプチドタグをコードする、核酸分子、特にベクター、
を含む、キットを提供する。
【0213】
本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のペプチドタグ結合パートナーポリペプチドが、広範な有用性を有することは明白であろう。別の観点によれば、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のペプチドタグ結合パートナーポリペプチドは、様々な産業において採用され得る。
【0214】
例えば、いくつかの実施形態では、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、蛍光またはその他の生物物理学的なプローブもしくは標識を特定のタンパク質にターゲティングするという有用性を見出し得る。この点に関し、対象のタンパク質を、上述のように、ペプチドタグ(例えば、配列番号3から5の1つ)を組み込むように修飾してもよく、蛍光またはその他の生物物理学的なプローブもしくは標識を、ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー、例えば、配列番号1または2)に融合またはコンジュゲートさせてもよい。前記修飾されたタンパク質とプローブまたは標識とを、前記ペプチドタグと前記ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)の間でのイソペプチド結合の自発的形成を可能にする好適な条件下で接触させ、これにより、前記タンパク質を、イソペプチド結合を介して前記標識またはプローブで標識してもよい。例えば、標識された本発明のポリペプチドは、抗体を使用しないウェスタンブロット、すなわち、標識された抗体を別途要することなく、前記標識されたポリペプチドを使用してDogTagまたはRrgATag/RrgATag2ペプチドを含有するポリペプチド(例えば、配列番号3から5の1つに記載のアミノ酸配列を有するペプチド)を検出するウェスタンブロットにおいて有用性を見出し得る。
【0215】
いくつかの実施形態において、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、プロテオミクスのためのタンパク質固定化において有用性を見出し得る。この点に関し、対象のタンパク質を、ペプチドタグ(例えば、配列番号3から5の1つ)を組み込むように修飾してもよく、固体基材を、ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー、例えば、配列番号1または2)に融合またはコンジュゲートさせてもよい。前記修飾されたタンパク質と固体基材とを、ペプチドタグとポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)との間のイソペプチド結合の自発的形成を可能にする好適な条件下で接触させ、これにより、前記タンパク質を、イソペプチド結合を介して前記固体基材に固定化してもよい。本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を、複数のタンパク質を固相/基材に同時に固定化するために使用し得ること、すなわち、複合的な反応に使用し得ることは明白であろう。
【0216】
さらに別の実施形態において、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、ワクチン接種のための、ウイルス様粒子、ウイルス、ウイルスベクター、細菌、または多量体化足場(multimerisation scaffolds)への抗原のコンジュゲーションにおいて有用性を見出し得る。例えば、本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)(例えば、配列番号1または2)を表面に提示するウイルス様粒子、ウイルス、ウイルスベクター、または細菌の製造によって、ペプチドタグ(例えば、配列番号3から5の1つ)を含む抗原の、これらの表面へのイソペプチド結合を介するコンジュゲーションが容易になるであろう。この点に関し、抗原の多量体化によって、免疫応答が大幅に増強される。よって、いくつかの実施形態において、本発明のポリペプチドに融合された分子または成分は、ウイルスカプシドタンパク質であり、および/または、ペプチドタグに融合された分子または成分は、抗原、例えば、感染、自己免疫疾患、アレルギー、または癌等の、特定の疾患に関連する抗原である。
【0217】
他の実施形態において、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、例えば、ペプチドタグおよび結合パートナーをタンパク質、例えば、酵素の各末端に融合させ、続いて前記ペプチドタグと前記ポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)との間のイソペプチド結合の自発的形成を可能とすることによって、当該タンパク質、例えば、酵素を環化するために使用してもよい。この点に関し、酵素の環化は、酵素レジリエンスを高めることが明らかにされている。
【0218】
特に、酵素または酵素ポリマー(融合タンパク質)の環化により、酵素ポリマー中のタンパク質またはタンパク質ユニットの熱安定性を向上し得る。この点に関し、酵素は多くのプロセスにおいて有益なツールであるが、不安定であり、回復させることが困難である。酵素ポリマーは、温度、pH、および有機溶媒に対してより高い安定性を有し、工業プロセスにおける酵素ポリマーの使用の要望が高まっている。しかしながら、酵素ポリマーの生成には、グルタルアルデヒド非特異的反応が一般的に使用されるが、この反応により、潜在的に有用な酵素の多くが損傷または変性される(すなわち、活性が低下する)。本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を使用するイソペプチド結合を介した鎖(ポリマー)へのタンパク質の部位特異的な結合は、診断または動物飼料に添加される酵素等において、酵素レジリエンスを高めることが期待されている。特に好ましい実施形態では、酵素は、上述の通り、環化によって安定させてもよい。
【0219】
本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)を使用して、国際公開公報第2016/193746号に記載されているように、代謝効率を促進する経路に複数の酵素を連結させることができた。この点に関し、多くの場合、複数の酵素が細胞内の経路において協働して機能しており、複数の酵素を細胞外(インビトロ)でまとめてつなげることは、従来、困難であった。よって、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、酵素をカップリングまたはコンジュゲートさせて融合タンパク質を製造するため、ひいては、多段階の酵素経路の活性を増強するために使用し得るものであり、これは、様々な工業的変換また診断のために有用となり得る。
【0220】
本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)はまた、抗体ポリマーの製造においても有用性を見出せるであろう。この点に関し、抗体は、最も重要なクラスの医薬の1つであり、多くの場合、表面に付着させて使用される。しかしながら、抗原は試料に混合されており、よって当該試料中で抗原を捕捉するには、表面近傍では非効率である。抗体の鎖を伸長させることにより、捕捉効率が向上するものと予測される。これは、現在、癌の早期診断を可能にする最も有望な方法の1つである循環腫瘍細胞の単離において、特に、有益となるであろう。
【0221】
さらに別の実施形態において、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、細胞シグナル伝達を活性化する薬剤の製造において有用性を見出し得る。この点に関し、細胞機能を活性化する最も有効な方法の多くは、タンパク質リガンドを介するものである。しかしながら、タンパク質リガンドは、その性質上、通常は単独では作用せず、他のシグナル伝達分子との特異的な組み合わせで作用する。よって、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)によって、目的に応じた融合タンパク質(すなわち、タンパク質の一団)の生成が可能となり、これにより、細胞のシグナル伝達の最適な活性化を行い得る。これらの融合タンパク質(タンパク質の一団)を、細胞の生存、分裂、または分化の制御に適用できる可能性がある。
【0222】
さらに別の実施形態において、本明細書中に開示のペプチドタグおよび本発明のポリペプチド(ペプチドタグ結合パートナー)は、真核細胞、例えば、ニューロン、幹細胞の増殖のためのハイドロゲルの生成、生体材料の調製、色素または酵素を用いた抗体への機能付与、および環化による酵素の安定化において有用性を見出し得る。
【0223】
本発明の親和性精製ポリペプチドの主な有用性は、本明細書中で定義するペプチドタグを含む分子または成分の単離および/または精製にある。よって、さらなる態様において、本発明は、配列番号3から5および17のいずれか1つに記載の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチド(すなわち、同族ペプチドタグ)を含む分子または成分を精製または単離するための方法であって、前記アミノ酸配列が、17位のアスパラギン残基を含み、任意選択的に、5位のスレオニン残基、10位のアスパラギン酸残基、および11位のグリシン残基を含み、前記方法が、
a)本発明の親和性精製ポリペプチド(例えば、配列番号18)が固定化された固体基材を用意すること;
b)前記分子または成分を含む試料を用意すること;
c)a)における前記固体基材と、b)における前記試料とを、前記ペプチドが前記ポリペプチドに選択的に結合することを可能とする条件下で接触させ、これにより、前記固体基材に固定化された前記ポリペプチドと、前記ペプチドを含む分子または成分との間で非共有結合複合体を形成させること;
d)前記固体基材を緩衝液で洗浄すること;
e)前記固体基材に固定化された前記ポリペプチドから、前記ペプチドを含む前記分子または成分を分離させること、
を含む、方法を提供する。
【0224】
本明細書に記載の親和性精製システムの同族ペプチドタグは、例えば、当該同族ペプチドタグをペプチドタグ結合パートナーポリペプチド(例えば、DogCatcher、すなわち、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むポリペプチド)と反応させるような他の下流の用途に先立って、他の分子または他の成分もしくは実体(すなわち、融合パートナー)と融合またはコンジュゲートさせ、これらの精製を容易にしてもよい。このような分子または成分(すなわち、実体)は、核酸分子、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチド、脂質、低分子有機化合物、フルオロフォア、金属-リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、細胞小器官、小胞、ウイルス、ウイルス様粒子、ウイルスベクター、またはこれらの任意の組合せであってもよい。
【0225】
よって、本発明の方法または使用は、同族ペプチドタグが融合またはコンジュゲートされた、核酸分子、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチド、脂質、低分子有機化合物、フルオロフォア、金属-リガンド複合体、多糖、ナノ粒子、ナノチューブ、ポリマー、細胞、オルガネラ、小胞、ウイルス、ウイルス様粒子、ウイルスベクターまたはこれらの組み合わせの精製または単離に使用し得る。ペプチドタグを融合またはコンジュゲートさせ得る分子または成分のさらに別の例は、先に挙げられている。
【0226】
本発明の方法または使用における精製または単離のために同族ペプチドタグを分子または成分につなげることに関する本発明の文脈において、「コンジュゲートする」または「連結する」という用語は、当該ペプチドタグを、当該分子または成分、例えば、タンパク質に、共有結合を介して結合させることを指し、特に、当該ペプチドタグと当該ポリペプチドの間のペプチド結合を介して結合させることを指す。本発明の親和性精製ポリペプチドを固体基材につなげることに関して、「コンジュゲートする」または「連結する」とは、当該ポリペプチドを当該固体基材、例えば、ビーズに、共有結合を介して結合させることを指し、特に、当該ポリペプチド(例えば、当該ポリペプチド中のシステイン残基)と当該固体基材との間のチオエーテル結合を介して結合させることを指す。
【0227】
本発明の方法で使用される試料(すなわち、同族ペプチドタグを含む分子または成分、例えば、組換えタンパク質を含む試料)は、任意の生体試料および臨床試料から、例えば、生物(真核生物、原核生物)の任意の細胞もしくは組織試料、またはそれらに由来する任意の体液もしくは調製物、ならびに、細胞培養物、細胞製剤、細胞溶解物等の試料から得てもよい。前記試料は、新たに調製してもよいし、あるいは、例えば、保存のために、任意の簡便な方法で前処理してもよい。
【0228】
いくつかの実施形態では、固体基材に固定化されたポリペプチドからペプチドを含む分子または成分を分離する工程は、前記固体基材を(親和性精製)ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体の破壊に好適な条件、すなわち、ポリペプチドと同族ペプチドタグの間の非共有相互作用の破壊に好適な条件に供することを含んでもよい。好適な条件は、ポリペプチドに連結またはコンジュゲートされた分子または成分に応じた条件としてもよく、日常的な実験を用いて決定してもよい。
【0229】
代表的な実施形態において、ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体を破壊するのに好適な条件は、前記複合体を、イミダゾールを含む溶液(例えば、少なくとも1.0M、例えば、1.0~4.0M、1.0~3.0Mまたは2.0~3.0M、好ましくは、約2.5M イミダゾール)に接触させることを含んでもよい。前記複合体の破壊に好適な他の条件としては、固体基材を低pHの溶液または緩衝液(例えば、0.1M グリシン、pH2.0、4℃)と接触させること、当該複合体を、高温、例えば、少なくとも30℃、35℃、40℃、または45℃の温度、30℃~65℃、35℃~60℃、40℃~55℃等にさらすこと、および/または当該複合体を競合物(例えば、上記で定義された同族ペプチドタグ、例えば、配列番号3)を含む溶液でインキュベートすることが挙げられる。
【0230】
いくつかの実施形態では、精製する分子または成分の収率を最大にするために、固体基材をこれらの条件に、繰り返し、例えば、2回、3回、4回、5回、またはそれ以上、供してもよい。いくつかの実施形態では、精製される分子または成分の収率を最大にするために、複数の条件を組み合わせて用いること、例えば、イミダゾールを含む溶液を使用する第1の工程と、低pH溶液または緩衝液を使用する第2の工程を組み合わせて用いることが有利となり得る。任意の好適な条件の組み合わせを使用することができ、このような組み合わせは当業者の理解の範囲内である。ペプチド競合溶出が使用される実施形態、すなわち、複合体が同族ペプチドタグ等の競合物とインキュベートされる実施形態では、溶出工程を、複数回、例えば、2回、3回、4回、5回、またはそれ以上繰り返してもよい。
「低pH溶液または緩衝液」は、本発明の(親和性精製)ポリペプチドと、その同族ペプチドタグパートナーとの間の非共有結合性の相互作用を破壊するのに適した任意の溶液または緩衝液とみなし得る。いくつかの実施形態では、前記低pH溶液または緩衝液は、抗体溶出緩衝液である。この点に関し、本発明の(親和性精製)ポリペプチドとその同族ペプチドタグパートナーとの間の相互作用を破壊するのに必要な溶液のpHが、当該溶液中の成分に依存し得ることは明白である。例として、抗体溶出緩衝液は、pH2.2~2.8の50mM グリシンまたはpH3.5~4.0の100mM クエン酸緩衝液を含むかまたはそれからなってもよい。よって、いくつかの実施形態では、前記低pH溶液または緩衝液は、pHが4.0以下、例えば、3.9、3.8、3.7、3.6、3.5、3.4、3.3、3.2、3.1、3.0以下、例えば、約1.5~3.5、1.6~3.4、1.7~3.3、1.8~3.2、1.9~3.1、または2.0~3.0であり、約2.2~2.8または2.5~2.7等である。
【0231】
(親和性精製)ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体を破壊するために使用される条件は、同族ペプチドタグが下流の用途でも依然として使用可能であるもの、すなわち、当該条件が同族ペプチドタグの不可逆的な活性損失をもたらさないものであることが好ましい。
【0232】
本明細書中で定義するペプチドタグを親和性精製に使用すれば、精製された分子または成分に下流の機能性(すなわち、本発明のペプチドタグ結合パートナーポリペプチドを介して他の分子にコンジュゲートする能力)が付与されることから特に有利であるが、本発明の方法は、標的分子または標的成分のみ、すなわち、ペプチドタグなしでの精製または単離に有用性を見出し得る。これは、標的分子または標的成分からペプチドタグを切断する切断反応によって、固体基材に固定化されたポリペプチドから標的分子または標的成分を分離することによって達成し得る。
【0233】
よって、いくつかの実施形態では、ペプチドを含む分子または成分を固体基材に固定化されたポリペプチドから分離する工程は、前記固体基材を、ペプチドタグを含む分子または成分から当該ペプチドタグを切断するのに好適な条件、例えば、オンレジンタグ切断(on-resin tag cleavage)に供することを含んでもよい。これは、ペプチドタグと標的分子または標的成分との間に、その部位に特異的な1つ以上のプロテアーゼによって認識可能な切断部位を組み込む(例えば、遺伝子でコードする)ことによって達成し得る。標的分子:ペプチドタグ融合体を特異的プロテアーゼによって切断部位で切断することにより、ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体から標的分子または標的成分が遊離するが、ペプチドタグは、依然としてポリペプチドに結合したままである。好適なプロテアーゼおよびそれぞれの認識部位は、当該技術分野では周知であり、任意の適切な設定を本方法で利用し得る。
【0234】
よって、いくつかの実施形態では、ペプチドタグを含む分子または成分は、ペプチドタグと分子または成分との間に、切断部位、例えば、ペプチドタグと分子または成分とを連結している切断部位を含む。別の観点によれば、ペプチドタグは、切断可能なリンカーを介して間接的に分子または成分に融合またはコンジュゲートされる。いくつかの実施形態において、切断部位または切断可能なリンカーは、TEV認識部位等のプロテアーゼ切断部位である。よって、いくつかの実施形態では、ペプチドを含む分子または成分を固体基材上に固定化されたポリペプチドから分離する工程は、切断部位または切断可能なリンカーを切断するのに好適な条件下で、固体基材を実体(例えば、プロテアーゼ、例えば、SuperTEV)と接触させ、これにより分子または成分をペプチドタグおよび固体基材上に固定化されたポリペプチドから遊離させることを含んでもよい。
【0235】
前記固体基材からの前記複合体の分離に先立ち、前記固体基材を緩衝液で洗浄する工程では、任意の好適な緩衝液、例えば、TBSを利用し得る。緩衝液は、ペプチドタグにコンジュゲートまたは連結される分子または成分に基づいて選択してもよい。さらに、固体基材を洗浄する工程は、複数回、例えば、2回、3回、4回、5回、またはそれ以上繰り返してもよい。別の観点によれば、いくつかの実施形態において、前記方法は、複数の洗浄工程を含み、同一または異なる洗浄条件を各工程で使用してもよい。
【0236】
固体基材がビーズ(例えば、アガロースベースのビーズ)を含む場合、洗浄工程で使用される緩衝液の体積は、ビーズの体積の少なくとも約2倍、例えば、ビーズの体積の少なくとも約3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、または10倍であってもよい。
【0237】
いくつかの実施形態では、固体基材は、ストリンジェントな洗浄条件に供される。ストリンジェントな洗浄条件の性質は、ペプチドタグにコンジュゲートまたは連結される分子または成分、および/または固体基材の組成に依存する。当業者であれば、日常的な事項としてこのような条件の選択を行えるであろう。
【0238】
洗浄工程および分離(溶出)工程の温度は、日常的な実験に基づいて当業者が容易に決定し得るものであり、単離または精製される分子または成分の性質に依存し得る。いくつかの実施形態では、洗浄工程および/または分離工程は、10℃以下、例えば、9℃、8℃、7℃、6℃、5℃、または4℃以下で実施される。
【0239】
本発明の親和性精製ポリペプチドを、同族ペプチドタグを含む分子または成分を含む試料と接触させる前に固体支持体上に固定化することが有用であり得るが、これは必須ではないことは明白であろう。例えば、本発明のポリペプチドと同族ペプチドタグを含む成分との結合は、溶液中で行われてもよく、前記溶液は、その後の洗浄工程および分離(例えば、溶出)工程のために、固体支持体または固相、例えば、カラムに塗布される。いくつかの実施形態では、ポリペプチド:同族ペプチドタグ複合体は、ポリペプチド(例えば、ポリペプチド上の固定化ドメイン)を介して当該複合体を固相に固定化するのに好適な条件下で固相に塗布され、好適な条件下で洗浄され、次いで、前記複合体を破壊するために、例えば、イミダゾールを含む溶液と接触させる等、上述の条件の1つ以上に供してもよく、これにより、同族ペプチドタグを含む成分とポリペプチドとを分離してもよい。
【0240】
さらなる態様において、本発明は、本発明の(親和性精製)ポリペプチドが固定化された固体基材を含む、本明細書中で上記に定義した方法または使用において使用するための装置を提供する。
【0241】
いくつかの実施形態では、前記装置は、本発明の(親和性精製)ポリペプチドが固定化された固体基材を含むクロマトグラフィーカラムを備えてもよい。前記装置は、固体基材を試料、洗浄緩衝液、および溶出緩衝液と接触させるための手段、および/または固体基材から液体(例えば、ウォッシュスルー(wash-through)画分、溶出画分)を除去(例えば、吸引)または回収するための手段をさらに備えてもよい。
【0242】
さらなる態様では、本発明は、キット、特に、本発明の(親和性精製)ポリペプチドが固定化された固体基材の作製に使用するキットであって、
a)本発明の(親和性精製)ポリペプチド;および
b)a)に記載のポリペプチドを固体基材上に固定化する手段、
を含む、キットを提供する。
【0243】
さらなる実施形態において、前記キットは、上記で定義された固体基材をさらに含む。
【0244】
本発明のポリペプチドを固体基材上に固定化するための手段は、固体基材(例えば、樹脂)および/またはポリペプチドを活性化するための試薬(例えば、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)、ポリペプチドを固体基材にカップリングさせるための試薬(例えば、50mM Tris-HCl、5mM EDTA等のカップリング緩衝液、pH8.5)、および/または固体基材をブロッキングするための試薬(例えば、カップリング緩衝液中のL-システイン-HCl)を含んでもよい。
【0245】
次に、本発明を、以下の非限定的実施例において、後述の図面を参照しながら、さらに詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0246】
【
図1】
図1:R2Tag/R2Catcherのアミド結合形成速度、並びに、DogTag使用による増加(DogTag/R2Catcher曲線)およびDogCatcher使用による増加(DogTag/DogCatcher曲線)を伴うアミド結合形成速度は、各タンパク質を5μMで用い、pH7.5のPBS中、25℃で測定した。平均値±1標準偏差、n=3、SDS-PAGEデンシトメトリーに基づく。一部のエラーバーは小さすぎて見えない。
【
図2】
図2:DogTag/DogCatcherおよびR2Tag/R2Catcherの二次速度定数決定。(A)DogTag/DogCatcherまたはR2Tag/R2Catcherの反応の経時変化。5μM AviTag-DogTag-MBPおよび5μM DogCatcher、または5μM AviTag-R2Tag-MBPおよび5μM R2Catcherを、pH7.5のPBS中、25℃でインキュベートし、SDS-PAGE/クーマシーおよびデンシトメトリーで定量した(平均値±1標準偏差、n=3)。一部のエラーバーは小さすぎて見えない。その結果得られた二次速度定数に印をつけている(平均値±1標準偏差、n=3)。(B)R2Tag/R2Catcherに関するデータをより分かりやすくするために、(A)のy軸を拡大したもの。
【
図3】
図3:R2Catcher(配列番号6)の、DogCatcher(配列番号1)との配列アライメント。DogCatcherを作製するための変異を、下線を引き太字で示している。
【
図4】
図4:DogTag/DogCatcher反応性の条件依存性。(A)pH依存性。2μM AviTag-DogTag-MBPと2μM DogCatcherを、図中に表示のpHのSPG緩衝液中、25℃で30分間反応させた。(B)温度依存性。2μM AviTag-DogTag-MBPと2μM DogCatcherを、図中に表示の温度のpH7.0のSPG中、25℃で30分間反応させた。(C)緩衝液依存性。5μM AviTag-DogTag-MBPと5μM DogCatcherを、図中に表示の緩衝液(HBSはHEPES緩衝生理食塩水、TBSはトリス緩衝生理食塩水)中でpH7.5、25℃で5分間反応させた。データは平均値±1標準偏差、n=3であり、一部のエラーバーは小さすぎて見えない。
【
図5】
図5:DogTagが内部にある場合の、完了に至るまでのDogTag/DogCatcher反応。(A)DogTagを内部に有するHaloTag7SSを用いた場合のDogCatcher反応速度は、AviTag-DogTag-MBPにおける非拘束DogTagを用いた場合と類似していた。データは平均値±1標準偏差、n=3であり、一部のエラーバーは小さすぎて見えない。(B)DogTag/DogCatcher反応について、完了するまで試験した。DogCatcherを、HaloTag7SS-DogTagと共に、pH7.5のPBS中で200分間インキュベートした後、クーマシー染色を用いたSDS-PAGEを行った。+=10μM、++=20μM。M=分子量マーカー。デンシトメトリーによれば、過剰量のDogCatcherの存在下、98%のHaloTag7SS-DogTagの消失が見られた。過剰量のHaloTag7SS-DogTagの存在下、98%のDogCatcherの消失が見られた。
【
図6】
図6:DogTagは、sfGFPのβ-バレルドメイン内で良好に機能し、SpyTag003よりも反応速度が速かった。sfGFPループA内のDogTagに対するDogCatcherの反応速度を、SpyTag003に対するSpyCatcher003の反応速度と比較した2次反応プロット。平均値±1標準偏差、n=3。一部のエラーバーは小さすぎて見えない。
【
図7】
図7:イソバレルアルデヒド還元酵素のループにタグを挿入した後のタグ反応性および酵素活性。二次反応プロット。DogTag/DogCatcherは、Gre2pのループB中のSpyTag003/SpyCatcher003よりも反応速度が速かった。
【
図8】
図8:DogTag/DogCatcher直交性。(A)DogTagはDogCatcherと反応したが、SnoopCatcherやSpyCatcher003とは反応しなかった。15μM DogCatcher、Affi-SnoopCatcher、またはSpyCatcher003を、10μM HaloTag7SS-DogTagと共に、pH7.5のPBS中、25℃で24時間インキュベートした後、クーマシー染色を用いたSDS-PAGEを行った。(B)DogCatcherは、DogTagおよびSnoopCatcherと反応した。15μM DogCatcherを、10μM HaloTag7SS-DogTag、SpyTag003-MBP、SnoopTagJr-Affi、Affi-SnoopCatcher、またはSpyCatcher003と共に、pH7.5のPBS中、25℃で24時間インキュベートした後、クーマシー染色を用いたSDS-PAGEを行った。M=分子量マーカー。
【
図9】
図9:棒グラフは、R2Catcherに対する様々な修飾がその溶解度に及ぼす影響を、Ni-NTA精製後の大腸菌培養物1Lから得られた可溶性タンパク質の収率に基づいて示している。
【
図10】
図10は、DogTag/DogCatcherを用いて哺乳動物細胞表面のイオンチャネルを特異的にターゲティングした結果を示している。(A)DogTagの挿入は、イオンチャネルの開口にほとんど影響を及ぼさなかった。1枚の96ウェルプレートから得た代表的な細胞内カルシウム測定値(Ca
2+
i)(平均値±1標準偏差、n=4)は、30nM (-)-エングレリンA(横線で示す期間に存在)により、HEK293細胞中のTRPC5-SYFP2(灰色のトレース)またはTRPC5-DogTag-SYFP2(中央のトレース)が活性化されたことを示している。空ベクターをトランスフェクトした細胞では、(-)-エングレリンAによるカルシウム応答の誘導は起こらなかった(下方のトレース)。(B)DogCatcherによる細胞表面での迅速な標識化。TRPC5-DogTag-SYFP2またはTRPC5-SYFP2コントロールを発現するCOS-7細胞を、5μM ビオチン-DogCatcher-MBPと共に、25℃で、図中に表示の時間インキュベートした。細胞溶解液をGFP-Trapで免疫沈降させた後、ビオチン(上段のパネル)または蛍光タンパク質(下段のパネル)のいずれかについてのブロッティングを行った。(C)DogCatcher反応は、イオンチャネルの開口にほとんど影響を及ぼさなかった。1枚の96ウェルプレートから得た代表的な細胞内カルシウム測定値(Ca
2+
i)(平均値±1標準偏差、n=6)は、5μM ビオチン-DogCatcher-MBPによる30分間の前処理ありの場合(灰色のトレース)または前処理なしの場合(黒のトレース)で、10nM (-)-エングレリンA(横線で示す期間に存在)によって、HEK293細胞中のTRPC5-DogTag-SYFP2の活性化を示している。
【実施例】
【0247】
実施例1:RrgAドメイン4由来のタグ-キャッチャー対の改良
RrgAは、4つのドメインからなるストレプトコッカス・ニューモニエ由来のアドヘシンである。ドメイン4(残基734~861)は、Glu803による、Lys742とAsn854との間のアミド基転移化反応により自発的分子内イソペプチド結合を形成する。このドメインを分割および工学設計することにより、これまでに、タンパク質カップリング試薬R2Catcher(RrgACatcher(配列番号6)としても知られ、RrgAの残基734~838に相当し、反応性Lysおよび触媒Gluを含む)およびR2Tag(配列番号17、RrgAの残基838~860に相当する)が創出されている。
【0248】
R2TagとR2Catcherとを混合することで首尾よく再構成および反応が起こったものの、その速度は遅いことが分かった(
図1)。二次速度定数を求めたところ、pH7.4のPBS中、25℃において、3±0.1M
-1s
-1であった(平均値±1標準偏差、n=3)(
図2)。より速い再構成のため、R2Tagを工学設計した。β鎖内842位のフレキシブルなGlyを、親水性を維持し、βシート内でより好まれる(favoured)Thrで置換した。タイトターン形成を起こり易くするため、Asp848をGlyに置換した。Asn847をAspに置換し、Lys849との静電相互作用を向上させた。変異G842T、N847D、およびD848Gを有するR2Tag(DogTagと呼ぶ、配列番号3)は、R2Catcherとの反応を10倍向上させた。DogTagのR2Catcherとの二次速度定数は、30±2M
-1s
-1であった(平均値±1標準偏差、n=3)。
【0249】
R2Catcherの主な問題点は、pH7.4のPBS中での溶解度が制限されることであり(約140μM)、SpyCatcherの溶解度(1mMを超える)と比べて低いことであった。RrgAのD4ドメイン由来のポリペプチドであるSnoopLigaseは、これまでに、PROSSおよびRosettaを用いた演算処理により最適化されており、変異D737S、D838G、およびI839Vをもたらしている。しかしながら、R2Catcherバリアントの酸性残基の変異は、中性pHでは高度に不溶性であるタンパク質をもたらした。本発明者らは、R2Catcherの予測pIが中性に近い(6.6)ことを観察により見出し、R2Catcherの表面陰性変化を増加させる変異を導入することにより、タンパク質の溶解度を向上させ得ると仮定した。本発明者らは、ポリペプチドの表面陰性変化を増加させ得る多数の変異を特定した。選択した変異をRosettaで評価し、当該変異がポリペプチドの予測された安定性を大きく低下させないかを確認した(表1参照)。
【0250】
【0251】
R2Catcherのβターンの構造的柔軟性を低下させるために導入したA808Pに加え、変異D737E、N744D、N746T、N780D、K792T、およびN825Dを組み合わせることで、pH7.4のPBS中での溶解度が316μMに上昇した。得られた変異体は、R2CatcherB(配列番号8)と命名された。
【0252】
実施例2:R2Catcher反応性の向上
新規なタンパク質足場(protein scaffolds)のファージディスプレイは、ミスフォールディング、ペリプラズムでの分解、ファージの感染性の喪失、およびフレームシフトしたバリアントまたはトランケートされたバリアントの蓄積等を含む障害にしばしば直面する。このため、指向性進化法を試みる前に、R2Catcherを合理的に最適化する必要があった。溶解度の高いR2CatcherBを得た本発明者らは、指向性進化法を適用して反応速度を向上させた。R2CatcherBの変異ライブラリーは、error-prone PCR法によって生成された。従来のファージディスプレイパニングでは、非共有結合ファージは、ベイトタンパク質からpH2.5のグリシン等の条件で溶出される。ここで採用するアプローチでは、これと同じ洗浄方法を用いて非共有結合ファージを除去し、イソペプチド結合形成を可能にするバリアントのみを選択した。次に、TEVプロテアーゼを使用してファージを特異的に溶出させた。ファージディスプレイを複数ラウンド実施し、異なるファージライブラリーを評価したところ、DogCatcher(配列番号1)と呼ばれる最も性能の良いバリアントは、R2Catcherと比べて25倍の速度でAviTag-DogTag-MBPと反応した(760±20M
-1s
-1、平均値±1標準偏差、n=3)(
図1および
図2)。DogCatcherは、R2CatcherBと比較して、さらに3つの変異を含んでいた(F802I、A820S、およびQ822R)(
図3)。これらの変異がドメインの安定性に及ぼす影響をRosettaを用いて個々に評価したところ、変化はごくわずかであると予測された(上記表1)。全体として、DogTag/DogCatcherは、初期の分割対(R2TagおよびR2Catcher)と比べて、反応速度の250倍の向上を示している(
図1および
図2)。
【0253】
実施例3:DogTag/DogCatcherの特性評価
DogTag/DogCatcher対の特性評価を行い、反応条件への依存性を決定した(
図4)。
DogTag/DogCatcherは、pH4およびpH5では反応が悪かったが、pH7までは反応性の急激な上昇を示し、pH8およびpH9では高反応性を維持していた(
図4A)。DogTag/DogCatcherは、25℃~37℃での高い反応性と共に、4℃で実質的な活性を有することが示された(
図4B)。DogTag/DogCatcherは、様々な緩衝液(HEPES、PBS、Tris)中で高い反応性を示し、キレート剤(EDTA)または界面活性剤にも耐性を有していた(
図4C)。
【0254】
実施例4:ループ内に挿入されたDogTagは、良好なDogCatcher反応性を維持していた
Tag/Catcherを用いたアプローチは、何百ものタンパク質に対して採用されてきたが、その大多数において、Tagは対象のタンパク質のフレキシブルな末端に挿入されている。DogTagはβ-ヘアピンを形成してドメイン4の構造を再構成するとの予想を踏まえて、本発明者らは、タンパク質の構造化された内部部位にDogTagを拘束することで、効率的なイソペプチド結合形成が可能になるであろうと仮定した。そこで、本発明者らは、42kDaのHaloTag7タンパク質(HaloTag7SSと呼ばれるバージョン)のαヘリックスの残基139と140との間に挿入されたDogTagに対するアッセイを行った。非拘束DogTag(MBPドメインにN末端で融合)の反応との比較により、DogTagは、これらの異なる環境でも類似の反応性を示すことが明らかとなった(
図5A)。
DogTag/DogCatcher反応が完了する能力についても試験した。2倍過剰量のDogCatcherを用いた場合、98%のHaloTag7SS-DogTagが反応した(
図5B)。これとは逆に、2倍過剰量のHaloTag7SS-DogTagを用いた場合、98%のDogCatcherが反応した(
図5B)。
【0255】
実施例5:DogTagは、スーパーフォルダーGFP内でのキャッチャー反応性が、SpyTag003よりも優れていた
SpyTag003またはDogTag等のタグをタンパク質内のループへと挿入した場合において、キャッチャータンパク質との高い反応性と、宿主タンパク質の機能保持との両立が可能であることが理想的である。最初のケースでは、G
5Sリンカーで両側を挟まれたDogTagまたはSpyTag003を、これまでにループ挿入が許容可能であることが判明しているβ-バレルタンパク質であるスーパーフォルダーGFP(sfGFP)内のループにクローニングした。sfGFPのバリアントは、全て可溶性発現させた(DogTagまたはSpyTag003と、ループA、ループB、またはループCとを含む)。
キャッチャー間で大きな反応性の違いが観察された。ループA内のDogTagとDogCatcherの反応(
図6)では、二次速度定数は1.0±0.08×10
3M
-1s
-1(平均値±1標準偏差、n=3)であったが、これは、末端DogTag融合での速度(
図2)に匹敵するものである。これに対し、sfGFPの同ループ内のSpyTag003とのSpyCatcher003反応の二次速度定数は、87±8M
-1s
-1(平均値±1標準偏差、n=3)であり、末端融合のSpyTag003での速度(5.5±0.6×10
5M
-1s
-1)よりも6000倍遅かった。
sfGFPのループ挿入バリアントは全て、未融合の野生型sfGFPのものと匹敵する吸収強度とスペクトルを示した。同様に、いずれのバリアントでも、蛍光発光の強度またはスペクトルの変化はごくわずかであった。したがって、DogTagまたはSpyTag003の挿入は、蛍光タンパク質の機能を保持する上で十分に許容できるものであった。
【0256】
実施例6:触媒活性を維持したまま酵素内のループにDogTagを挿入できた
Tag/Catcher反応は、多酵素複合体の足場形成および触媒ヒドロゲルの作製に使用されてきた。イソバレルアルデヒド還元酵素であるGre2pは、SpyTag/SpyCatcherと共にこの用途に用いられており、β-α-β混合ロスマンフォールド(mixed β-α-β Rossmann fold)を有している。このタンパク質は、効率的に機能するために柔軟性を維持しなければならない酵素に対し、DogTag/DogCatcherが使用可能かどうかを試験するために選択された。活性部位から離れたGre2p内の3つのループを選択し、G
5Sリンカーで両側を挟まれたDogTagまたはSpyTag003を挿入した。SpyTag003またはDogTagの挿入物は全て、可溶性酵素の発現を可能にした。Gre2pによるイソバレルアルデヒドからイソアミルアルコールへの還元は、NADPH依存性である。NADPHがNADP
+に酸化される際の吸光度変化を用いて、野生型(WT)およびループ挿入型のGre2pバリアントの反応を追跡した。各ループにSpyTag003またはDogTagが存在した状態でも、イソバレルアルデヒド還元酵素の活性は、野生型Gre2pの活性の2倍の範囲内で首尾よく維持された(表2)。
【表2】
Gre2pのループBでは、DogTagのDogCatcherとの反応の二次速度定数は527±80M
-1s
-1であったが、SpyTag003のSpyCatcher003との反応ははるかに遅かった(93±13M
-1s
-1;平均値±1標準偏差、n=3、
図7)。
【0257】
実施例7:DogTag/DogCatcher直交性試験
SnoopTagJr/SnoopCatcherは、RrgAのD4ドメインに由来し、Tag/CatcherのSpyTag/SpyCatcherファミリーと直交性である。DogTag/DogCatcherのSnoopTagJr/SnoopCatcherまたはSpyTag003/SpyCatcher003との交差反応性を試験した。DogTagは、高タンパク質濃度で24時間後であっても、DogCatcherとのみ反応した(
図8A)。DogCatcherは、DogTagを含むTag/Catcher構築物とのみ反応した(
図8B)。結果として、DogCatcherは、SpyTag003、SpyCatcher003、またはSnoopTagJrと反応しなかった。これに対し、DogCatcherは、HaloTag7SS-DogTagまたはSnoopCatcherと完了に至るまで反応した(
図8B)。DogCatcherがSnoopCatcherと反応するのは、SnoopCatcherがそのC末端にDogTagのような配列を含むためである(DogCatcherも同様に、そのN末端にSnoopTagのような配列を含む)。
【0258】
実施例8:DogCatcherは哺乳動物細胞表面のイオンチャネルと特異的に反応する
種々の細胞表面タンパク質が、細胞膜でアクセス可能なN末端やC末端を欠いている。したがって、ループを介したライゲーションにより、外因性プローブによる共有結合標識を容易化できる可能性がある。
一過性受容体電位正準5(TRPC5)は、Na
+およびCa
2+透過性のイオンチャネルであり、不安、腎臓病、心血管疾患、代謝性疾患を含む様々な病態に関与している。TRPC5の両末端は、膜の細胞質側にある。
DogTagを、細孔から離れた位置にある、TRPC5の第2細胞外ループにおける残基460と461の間に遺伝的に挿入した。明るく急速に成熟する黄色蛍光タンパク質SYFP2を、C末端に融合させた。これにより全TRPC5(total TRPC5)の分布の画像化が可能となるが、活性表面プールは強調されない。
一過性トランスフェクションしたHEK293細胞の細胞内カルシウム測定を行い、セスキテルピノイド活性化因子である(-)-エングレリンAでTRPC5の開口を刺激することによって、DogTag挿入の機能性の試験を行った。DogTag融合により、効率的なアゴニスト応答を伴う機能チャネルが形成された(
図10A)。
細胞表面でのDogCatcher認識の有効性(efficacy)を、TRPC5-DogTag-SYFP2を発現しているCOS-7細胞にビオチン-DogCatcher-MBPを添加することによって試験した。SYFP2融合のGFP-Trapプルダウン後、全細胞溶解物をストレプトアビジン-HRPでブロッティングした。DogCatcherとTRPC5-DogTag-SYFP2との反応は迅速で、わずか1分間のインキュベーションで検出可能であり、DogTag融合を欠くネガティブコントロール細胞上のシグナルはごくわずかであった(
図10B)。
ビオチン-DogCatcher-MBPで標識した後のHEK293細胞におけるTRPC5の機能性についても試験を行った。DogCatcherによる標識は、(-)-エングレリンAによって刺激されたこれらの細胞へのTRPC5媒介性カルシウム流入に影響を及ぼさなかった(
図10C)。
表面に露出したTRPC5プールを可視化するため、DogCatcherのN末端にユニークなシステインを導入し、マレイミド-Alexa Fluor 647とカップリングさせて、DogCatcher-647を得た。DogCatcher-647により、DogTagを欠くコントロールと比較して、COS-7細胞におけるTRPC5-DogTag-SYFP2の選択的染色が可能となり、共焦点蛍光顕微鏡により受容体が可視化された。
DogCatcher染色は、添加のわずか1分後に観察され、10分で最適な染色が得られた。全体として、DogTag/DogCatcherは、種類の異なる哺乳動物細胞の表面のイオンチャネルの迅速かつ選択的な共有結合標識を可能にしていた。
【0259】
結論
DogTag/DogCatcher対は、多様なタンパク質ループにおける共有結合性のタンパク質間反応に効率的である。DogTag/DogCatcherは、当該システムの応用を容易にする多くの特徴を示している。両パートナーとも、通常の20種類のアミノ酸からの遺伝的コード化が可能であり、反応は、様々な条件(4℃~37℃、pH6~8、界面活性剤、および異なる緩衝液)に耐性がある。反応は検出可能な副生成物を生じることなく、約98%の変換率で進行し、高い安定性を有すると予想されるアミド結合が残る。DogTagもDogCatcherもシステイン残基を含まないため、還元条件または酸化条件を要するタンパク質に対してもカップリングを行える。
DogTagは、タンパク質の末端にあるDogCatcher、またはタンパク質の内部、主にα-ヘリカル、主にβ-シート、もしくはα+βフォールドに挿入されているDogCatcherと、効率的に反応する。sfGFPの異なるループに挿入した際の良好な蛍光特性の維持、ならびに、Gre2pの異なるループ内での良好な触媒活性が観察された。膜タンパク質(TRCP5)のループ内にDogTagを挿入することで、哺乳動物細胞の標識も可能となった。HaloTagの場合、DogTagは二次構造要素内に挿入された。
迅速かつ高収率の反応のTag/Catcher対を得ることはかなりの難題である。文献にあるTag/Catcher対の大多数が、実質的なカップリングに高マイクロモル濃度と日数を要している。分割したタンパク質が全く反応性を示さない場合もある。したがって、本明細書中に示す効率的な自発的分子間イソペプチド結合形成を達成するためには、相当なタンパク質工学的な取り組みが必要であった。DogTag/DogCatcher反応の速度は、末端部位でもループ部位でも同等であり、したがって、DogTag/DogCatcher対は、様々なループとの反応に好ましいペアリングである。
【0260】
材料および方法
プラスミドおよび構築物のクローニング
PCRに基づくクローニングおよび部位特異的突然変異誘発は、Q5 High-Fidelity Polymerase(NEB社)またはKODポリメラーゼ(EMD Millipore社)と、ギブソン・アセンブリ(Gibson assembly)を用いて、標準的な方法で行った。pDEST14-R2Catcherは、ストレプトコッカス・ニューモニエ TIGR4(GenBank AAK74622)由来のRrgAアドヘシンの残基734~838(番号付けはPDB ID 2WW8に基づく)を、pDEST14-SpyCatcher(GenBank JQ478411、Addgene社製プラスミドID35044)由来の骨格にクローニングすることによって得た。変異D737E、N744D、N746T、N780D、K792T、A808P、およびN825DをR2Catcherにオーバーレイし、ギブソン・アセンブリによりpDEST14-R2CatcherBを形成した。ファージミドベクターpFab5cHis-R2CatcherBは、pFab5cHis-SpyCatcher-gIIIから得た。pDEST14-DogCatcher(
図3)は、F802I、A820S、およびQ822Rの変異をギブソン・アセンブリにより組み込むことによってpDEST14-R2CatcherBから得た。pDEST14-SpyCatcher003については、これまでに記載されている(GenBankアクセッション番号MN433887、Addgene社製プラスミドID133447)。pET28-AviTag-R2Tag-MBPは、pET28a-SpyTag003-MBP(GenBankアクセッション番号MN433888、Addgene社製プラスミドID133450)から得た。pET28-AviTag-DogTag-MBPは、pET28a-SpyTag003-MBP(GenBankアクセッション番号MN433888、Addgene社製プラスミドID133450)から得た。pET28-AviTag-DogTagNA-MBPは、ギブソン・アセンブリによりpET28-AviTag-DogTag-MBPから得た。pET28a-HaloTag7SS-DogTagは、HaloTag7の残基D139と残基E140の間に挿入されたDogTagと、さらに、ジスルフィド結合形成をブロックするため、HaloTag7におけるC61S変異およびC261S変異とをコードしている。pET28-Gre2pは、pET28-SpyTag003-sfGFP(Addgene社製プラスミドID133454)から、sfGFPの代わりにサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のGre2pイソバレルアルデヒド還元酵素(大腸菌B株での発現のために最適化されたコドンを有する合成遺伝子ブロック)をギブソン・アセンブリにより挿入することによって得た。pET28-Gre2p-SpyTag003ループ挿入物は、スペーサ-SpyTag003-スペーサ(配列GGGGSRGVPHIVMVDAYKRYKGGGGS、配列番号10)をギブソン・アセンブリにより次の箇所に挿入することにより、pET28-Gre2pから得た:残基Lys140と残基Ser141の間(pET28-Gre2p-SpyTag003 Loop A)、残基Glu229と残基Asp230の間(pET28-Gre2p-SpyTag003 Loop B)、または残基Ser297と残基Thr303の間(pET28-Gre2p-SpyTag003 Loop C)。pET28-Gre2p-DogTagループ挿入物は、スペーサ-DogTag-スペーサ(配列GGGGSDIPATYEFTDGKHYITNEPIPPKGGGGS、配列番号11)をギブソン・アセンブリにより次の箇所に挿入することにより、pET28-Gre2pから得た:残基Lys140と残基Ser141の間(pET28-Gre2p-DogTag Loop A)、残基Glu229と残基Asp230の間(pET28-Gre2p-DogTag Loop B)、または残基Ser297と残基Thr303の間(pET28-Gre2p-DogTag Loop C)。pET28-sfGFPは、pET28-SpyTag003-sfGFP(AddgeneプラスミドID133454)から、N末端のSpyTag003をギブソン・アセンブリにより欠失させることによって得た。pET28-sfGFP-SpyTag003ループ挿入物は、スペーサ-SpyTag003-スペーサ(配列番号10)をギブソン・アセンブリにより次の箇所に挿入することにより、pET28-sfGFPから得た:残基Val22と残基Asn23の間(pET28-sfGFP-SpyTag003 Loop A)、残基Asp102と残基Asp103の間(pET28-sfGFP-SpyTag003 Loop B)、または残基Asp173と残基Gly174の間(pET28-sfGFP-SpyTag003 Loop C)。pET28-sfGFP-DogTagループ挿入物は、スペーサ-DogTag-スペーサ(配列番号11)をギブソン・アセンブリにより次の箇所に挿入することにより、pET28-sfGFPから得た:残基Val22と残基Asn23の間(pET28-sfGFP-DogTag Loop A)、残基Asp102と残基Asp103の間(pET28-sfGFP-DogTag Loop B)、または残基Asp173と残基Gly174の間(pET28-sfGFP-DogTag Loop C)。pGEX-2T-GST-BirAは、オックスフォード大学のChris O’Callaghan氏から寄贈されたものである。pET28-MBP-sTEVは、ドメイン配置MBP-His
6-TEVプロテアーゼ-Arg
6を有する修飾TEVプロテアーゼ構築物であるが、MBPとTEVプロテアーゼの間に、内部TEV切断部位を有していない。TEVプロテアーゼドメインは、以下の溶解度変異/安定性変異を含む(番号は、標準的なTEVプロテアーゼ番号付けスキームを示す):C19V、L56V、C110V、C130S、S135G、およびS219D。pET28 Affi-SnoopCatcherは、抗HER2アフィボディをpET28 SnoopCatcherのN末端にクローニングすることによって作製した(GenBankアクセッション番号KU500646、Addgene社製プラスミドID72322)。pDEST14-Cys-DogCatcherは、ギブソン・アセンブリによりTEV切断部位とDogCatcher部分の間にシステインを挿入することにより、pDEST14-DogCatcherから得た。
【0261】
タンパク質の発現および精製
R2Catcher、DogCatcherバリアント、AviTag-R2Tag-MBP、DogTag-MBP融合体、SpyTag003-MBP、SpyCatcher003-sfGFP、およびHis6-MBPを、大腸菌BL21 DE3 RIPL(Agilent社)に発現させた。SpyCatcher003を、大腸菌C41 DE3(オックスフォード大学のAnthony Watts氏からの寄贈)に発現させた。複数の単一コロニーを、100μg/mLのアンピシリン(SpyCatcher003、SpyCatcher003-sfGFP、R2Catcher、もしくはDogCatcherバリアント)または50μg/mLのカナマイシン(His6-MBP、SpyTag003-MBP、AviTag-R2Tag-MBP、およびDogTag融合体)のいずれかを含む10mLのLBに播種し、200rpmで振盪しながら37℃で16時間増殖させた。二次培養では、飽和一晩培養液の1/100希釈液を、ultra-yieldバッフル付きフラスコ(Thomson Instrument Company社)中で、適切な抗生物質を加えた0.8%(v/v)グルコース添加の1Lの自動導入LBブロスに播種し、200rpmで振盪しながら37℃でOD600が0.5になるまで増殖させた後、200rpmで4時間振盪しながら30℃で0.42mM IPTGで過剰発現を誘導した。細胞を回収し、300mM NaClと、混合プロテアーゼ阻害剤(cOmplete mini EDTAフリーのプロテアーゼ阻害剤カクテル、Roche社)および1mM フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含有する10mM イミダゾールとを含む、pH8.0の50mM Tris-HCl中で氷上超音波処理により溶解し、Ni-NTA(Qiagen社)により精製した。タンパク質を、3.5kDa分画分子量の透析チューブ(Spectrum Labs社)を用いて、pH7.5のPBS(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、1.8mM KH2PO4)に透析した。プロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤を使用しなかったこと以外は、MBP-sTEVを上述と同様にして発現させ精製した。タンパク質濃度は、ExPASy ProtParamの吸光係数(extinction coefficient)を用いて、OD280から求めた。
GST-BirAは、大腸菌BL21 DE3 RIPL(Agilent社)に発現させた。複数の単一コロニーを、100μg/mLアンピシリンを含む10mLのLBに播種し、200rpmで振盪しながら37℃で16時間増殖させた。二次培養では、飽和一晩培養液の1/100希釈液を、ultra-yieldバッフル付きフラスコ(Thomson Instrument Company社)中で、適切な抗生物質を加えた0.8%(v/v)グルコース添加の1Lの自動導入LBブロスに播種し、200rpmで振盪しながら37℃でOD600が0.5になるまで増殖させた。細胞の誘導を、200rpmで4時間振盪しながら、30℃で0.42mM IPTGを用いて行った。タンパク質を、文献に記載のグルタチオン-セファロース精製を用いて精製した(Fairhead and Howarth, 2015)。
GST-BirAでAviTagをビオチン化し、文献(Fairhead and Howarth, 2015)に記載のようにSDS-PAGEで確認した。簡潔には、952μLのPBS中の100μM ベイトタンパク質、5μLの1MのMgCl2、20μLの100mM ATP、20μLの50μM GST-BirA、および1.5mM ビオチンでマスターミックスを作製した。これを、800rpmで振盪しながら、30℃で1時間インキュベートした。50μM GST-BirAをさらに20μL添加した後、さらに1時間インキュベートした。最後に、前記ベイトを、4℃でpH7.5のPBS緩衝液に透析した。タンパク質のビオチン化の程度を、ストレプトアビジンゲルシフトアッセイにより試験した。
スーパーフォルダーGFP(sfGFP)バリアントを、大腸菌BL21 DE3 RIPLに発現させた。複数の単一コロニーを、50μg/mLカナマイシン添加のLBに播種し、200rpmで振盪しながら37℃で16時間増殖させた。二次培養では、飽和一晩培養液の1/100希釈液を50μg/mLカナマイシン添加のLBに播種し、200rpmで振盪しながら37℃でOD600が0.5になるまで増殖させ、これに0.42mM IPTGを加え、培養物を22℃で18時間増殖させた。細胞を回収し、300mM NaClと、cOmplete mini EDTAフリーのプロテアーゼ阻害剤カクテルおよび1mM PMSFを含有する10mM イミダゾールとを含む、pH8.0の50mM Tris-HCl中で氷上超音波処理により溶解し、標準的な手法を用いてNi-NTA(Qiagen社)により精製した。タンパク質を、3.5kDa分画分子量の透析チューブ(Spectrum Labs社)を用いて、pH7.5のPBSに透析した。タンパク質の定量を、Pierce bicinchoninic acid(BCA)Protein assay kit(Thermo Fisher社)を取扱説明書に従って、ただし、吸光度の読み取り前にタンパク質をアッセイ溶液中、60℃で1時間インキュベートするという変更を加えて使用することによって行った。
Gre2pバリアントは、大腸菌BL21 DE3 RIPLに発現させた。複数の単一コロニーを、50μg/mLカナマイシン添加のLBに播種し、200rpmで振盪しながら37℃で16時間増殖させた。二次培養では、飽和一晩培養液の1/100希釈液を50μg/mLカナマイシン添加のLBに播種し、200rpmで振盪しながら37℃でOD600が0.5になるまで増殖させ、これに0.42mM IPTGを加え、培養物を25℃で18時間増殖させた。細胞を回収し、300mM NaClと、混合プロテアーゼ阻害剤(cOmplete mini EDTAフリーのプロテアーゼ阻害剤カクテル、Roche社)および1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を含有する10mMイミダゾールとを含む、pH8.0の50mM Tris中で氷上超音波処理により溶解し、標準的な手法を用いてNi-NTA(Qiagen社)により精製した。タンパク質を、3.5kDa分画分子量の透析チューブ(Spectrum Labs社)を用いて、pH7.4の100mMリン酸カリウム[単塩基性(KH2PO4)と二塩基性(K2HPO4)のリン酸カリウム溶液の100mM溶液を混合して調製]に透析した。タンパク質の定量を、Pierce BCA Protein assay kit(Thermo Fisher社)を取扱説明書に従って使用して行った。
【0262】
R2Catcher変異のモデル化
Rosetta3を使用し、変異がR2Catcherに与える影響をモデル化した(Leaver-Fay et al., 2011)。A808P変異を有するRrgA(PDBコード2WW8)の残基734~838の結晶構造を緩和し、pmut_scanプロトコルを用いて各変異体のロゼッタエネルギー単位(Rosetta Energy Units)を算出した。
【0263】
<R2CatcherB 野生型ファージの製造>
R2CatcherBは、当初はファージ表面にほとんど提示されなかったため、R2CatcherBファージの製造のためのよりよい条件を特定するために2つの異なる細胞株を選択した。R2CatcherBファージミドを大腸菌XL1-Blue(Agilent社)または大腸菌K12 ER2738(Lucigen社)に形質転換し、18℃、25℃、または30℃で16時間増殖させてファージを製造した。形質転換細胞を、100μg/mLアンピシリンと、10μg/mLテトラサイクリンと、0.2%(v/v)グリセロールとを添加した50mLの2YT中で、37℃、200rpmでOD600が0.5になるまで増殖させた(約2~3時間)。1012個のR408ヘルパーファージ(Agilent社)を、対数期に細胞に感染させ、37℃、80rpmで30分間インキュベートした。R2CatcherB-pIIIの発現を0.1mM IPTGで誘導し、細胞を18℃、25℃、または30℃、200rpmで18~20時間インキュベートした。上清4体積あたり1体積の沈殿緩衝液[滅菌済、20%(w/v)PEG8000、2.5M NaCl]を用いて、ファージを回収した(Keeble et al., 2017)。簡潔には、上清を沈殿緩衝液と混合し、4℃で3~4時間インキュベートした。15,000g、4℃で30分間の遠心分離を行ってファージをペレット化し、上清を除去した。ファージペレットをPBS(培養物100mLにつき2mL)に再懸濁させ、15,000g、4℃で10分間遠心分離して残存細胞を除去してから、上清を新しいチューブへと移した。先に行ったように混合物を再び沈殿させたが、今回は、培養物100mLにつき0.25mLのPBSで再懸濁させた。試料を15,000g、4℃で10分間遠心分離させ、ファージの3回目の沈殿を行い、培養物100mLにつき0.25mLのPBSで再懸濁させた。試料は4℃で短期保存(1~2週間)するか、または20%グリセロール(v/v)を凍結保護剤として-80℃で長期保存した。ファージの定量を、再感染後の連続希釈液をプレーティングすることにより行った。
【0264】
ファージライブラリーの生成
ランダム化突然変異誘発ライブラリーを作製するため、pFab5cHis R2CatcherBファージミド構築物をPCR反応の鋳型として使用した。ベクターを、KODポリメラーゼ(EMD Millipore社)を用いてオリゴヌクレオチドプライマー(フォワードプライマー:5’-GGATCCAGTGGTAGCGAAAACCTCTAC(配列番号12);リバースプライマー:5’-CATGGCGCCCTGATCTCGAGG(配列番号13))で増幅した。GeneMorpHII Random Mutagenesis kit(Agilent社)を製造元のプロトコルに従って使用し、インサートを、フォワードプライマー5’- GACCTCGAGATCAGGGCGCCATG(配列番号14)およびリバースプライマー5’-GAAGTAGAGGTTTTCGCTACCACTGGATC(配列番号15)で増幅した。サーマルサイクリング後にDpnIを加え、37℃で1時間インキュベートし、80℃で20分間、加熱不活性化した。増幅断片をアガロースゲル電気泳動で分離し、ベクターとインサートのDNAバンドをゲル抽出(Thermo Scientific社)により精製した。ライゲーションは、最適化されたベクター:インサートのモル比である1:3で、総体積20μL中、約500ngのDNAを用いて行った。等体積の2×マスターミックスGibson(New England Biotech社)をインサート-ベクター混合物に加え、50℃で16時間インキュベートした。DNAをスピンフィルター(Wizard PCR clean up kit;Promega社)上で濃縮し、3μL(約700ng)のDNAを、電圧設定2.5kVのGenePulserXcell(Bio-Rad社)内のBio-Rad 2mmエレクトロポレーション用キュベットでのエレクトロポレーションにより、50μLのエレクトロコンピテントなER2738アンバー終止コドンサプレッサー細胞(Lucigen社)に形質転換した。形質転換体を、950μLのSOC培地を37℃で1時間添加して回収し、次に、100μg/mLのアンピシリンと10μg/mLのテトラサイクリンを含む50mLの2YT培地中、37℃で16時間さらに増殖させた。形質転換効率を、100μg/mLアンピシリンと10μg/mLテトラサイクリンを添加した寒天板上に1mLのレスキュー培養液の連続希釈液をプレーティングすることによって測定した。アリコートを瞬間冷凍し、-80℃で保存した。ライブラリーを採取するため、一晩培養液1mLを、100μg/mLアンピシリンと、10μg/mLテトラサイクリンと、0.2%(v/v)グリセロールとを含む250mLの2YT培地に添加し、37℃、200rpmでOD600が0.5になるまで増殖させた(約2~3時間)。1012個のR408ヘルパーファージ(Agilent社)を細胞に感染させ、37℃、80rpmで30分間インキュベートした。0.1mM IPTGでR2CatcherB-pIIIライブラリーの発現を誘導し、18℃、200rpmで18~20時間インキュベートした。細胞を4℃、15,000gで10分間遠心分離して除去し、上述のようにファージを精製した。
【0265】
ファージの選択
ビオチン化AviTag-DogTag-MBPを、R2CatcherBファージライブラリーと反応させるためのベイトとして使用した。非反応性ベイトバリアント(ビオチン化AviTag-DogTag NA-MBP)を並列選択(parallel selections)に含め、パニングの効率を評価した。反応は、3%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA; Sigma A9418)を含有する、25μM His6-MBPを添加したpH7.5のPBS中、25℃で行った(MBPに結合するDogCatcherバリアントを逆選択するため)。1回目の選択ラウンドでは、1012個のファージを0.5μM ベイトと混合し、18時間反応させた。後続の3回の選択ラウンドは、ストリンジェンシーを上げながら行った(2回目のラウンドでは0.2μM ベイトと60分間の反応;3回目のラウンドでは0.1μM ベイトと15分間の反応;4回目のラウンドでは0.05μM ベイトと10分間の反応)。AviTagを含まないベイト(DogTag-MBP)を100倍過剰量添加することにより、反応を停止させた。
PEG-NaCl沈殿により、ファージを未反応のビオチン化ベイトから精製した。ファージ-ビオチン化ベイト付加物を含有するペレットを、0.1%(v/v)Tween-20を含むpH7.5のPBSに再懸濁させた。pH7.5の0.1%(v/v)Tween-20添加PBS中で、3%(w/v)BSAにより25℃で2時間プレブロックした96ウェル低結合Nuncプレートにおいて、200μLのファージを、20μLのBiotin-Binder Dynabeads(Thermo Fisher Scientific社)と混合した。前記ビーズを、200μL/ウェルのpH7.5の0.1%(v/v)Tween-20添加PBSで4回予洗した。ファージ-ビオチン化ベイト付加物を、マイクロタイタープレート中のビーズと共に、Eppendorf Thermomixerにおいて800rpmで振盪しながら25℃で1時間インキュベートした。結合が弱いファージを除去するために、150μLのpH2.2のグリシン-HClを用いてビーズを25℃で1回洗浄し、次いで、150μLの0.5%(v/v)Tween-20を含むTBS(50mM Tris-HCl+150mM NaCl,pH7.5)で、25℃で4回洗浄した。0.5mM EDTAを含むpH8.0の50mM Tris-HCl中、34℃で2時間のTEVプロテアーゼ消化により、ファージをビーズから溶出させた。溶出したファージを、中期対数期(mid-log phase)のER2738細胞(OD600=0.5)の培養液10mLに感染させてレスキューした。細胞を37℃、80rpmで30分間増殖させた後、アンピシリン(100μg/mL)、テトラサイクリン(10μg/mL)、0.2%(v/v)グリセロールを添加した200mLの2YTへと移し、37℃、200rpmで約2時間増殖させた(OD600が0.5となるまで)。培養物を1012個のR408ヘルパーファージに感染させ、37℃、80rpmで30分間インキュベートした。0.1mM IPTGでR2CatcherB-pIIIの発現を誘導し、細胞を18℃、200rpmで18~20時間インキュベートした。溶出したファージの数を、10mLのレスキュー培養液の連続希釈液をプレーティングすることにより定量した。
【0266】
イソペプチド結合形成アッセイ
反応は、通常、pH7.5のPBS中、25℃で行われた。反応の分析は、XCell SureLockシステム(Thermo Fisher社)を180Vで使用して、16%(w/v)ポリアクリルアミドゲルのSDS-PAGEにより行った。Bio-Rad社製C1000サーマルサイクラー内に、6×SDSローディングバッファー[0.23M Tris-HCl、pH6.8、24%(v/v)グリセロール、120μM ブロモフェノールブルー、0.23M SDS]を添加した後、95℃で5分間、反応をクエンチした。タンパク質を、InstantBlue(Expedeon社)Coomassieを用いて染色した。バンド強度を、Gel Doc XRイメージャーおよびImage Lab 5.0ソフトウェア(Bio-Rad社)を用いて定量した。イソペプチド結合の形成率(%)を、共有結合複合体のバンドの強度を、レーン中の全てのバンドの強度で割り、100を掛けることによって算出した。
5μM AviTag-DogTag-MBPおよび5μM Catcherタンパク質を反応させた際の共有結合複合体形成の二次速度定数を、R2CatcherまたはDogCatcherのバンドの相対強度の減少をモニターすることによって決定し、未反応のCatcherバリアントの濃度を変更した。反応曲線の直線部分の時間点を分析した。1/[Catcherバリアント]を時間に対してプロットし、最良適合のための標準偏差の算出を含む分析を、Excel(Microsoft社)およびOrigin 2015(OriginLab Corporation社)を使用した線形回帰によって行った。データは3回の繰り返し測定(triplicate measurement)の平均値±1標準偏差を表す。
DogTag:DogCatcherイソペプチド結合形成の温度依存性を、2μM AviTag-DogTag-MBPおよびDogCatcherを含むコハク酸-リン酸-グリシン(SPG)緩衝液(12.5mM コハク酸、43.75mM NaH2PO4、43.75mM グリシン;NaOHを使用してpHを7.0に調整)において、15分の時点で、4℃、25℃、または37℃で、3回繰り返し測定して(in triplicate)評価した。
DogTag:DogCatcherのイソペプチド結合形成のpH依存性を、AviTag-DogTag-MBPとDogCatcherをそれぞれ2μM含むSPG緩衝液中で、30分の時点で、pH4、5、6、7、8、または9で3回繰り返し測定して評価した。
DogTag:DogCatcherのイソペプチド結合形成の緩衝液依存性を、5μM AviTag-DogTag-MBPおよび5μM DogCatcherを含むpH7.5の種々の緩衝液中で、5分の時点で評価した。使用した緩衝液は、PBS、PBS+1mM DTT、PBS+1mM EDTA、PBS+1%(v/v)Triton X-100、PBS+1%(v/v)Tween-20、HBS(50mM HEPES+150mM NaCl)、TBS(50mM Tris-HCl+150mM NaCl)、またはTris(50mM Tris-HCl)であった。
SpyTag003/SpyCatcher003の条件依存性を、下記のようにして決定した。温度依存性アッセイでは、100nM SpyCatcher003-sfGFPおよびSpyTag003-MBPを、0.2%(w/v)のBSAを添加したpH7.4のPBS中、4℃、25℃、30℃、または37℃で2分間反応させた。緩衝液依存性アッセイでは、100nM SpyCatcher003-sfGFPおよびSpyTag003-MBPを、以下の種々の緩衝液中、25℃で2分間反応させた:PBS pH7.4、PBS pH7.4+1mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、PBS pH7.4+1%(v/v)Triton X-100、PBS pH7.4+1%(v/v)Tween-20、HBS(20mM HEPES pH7.4+150mM NaCl)、またはTBS(20mM Tris-HCl pH7.4+150mM NaCl)。各緩衝液には、0.2%(w/v)BSAを添加していた。pH依存性アッセイでは、1μM SpyCatcher003およびSpyTag003-MBPを、SPG緩衝液中、25℃で反応させた。
DogCatcherとDogTagの反応が完了するかどうかを、10μMまたは20μM DogCatcherと、10μMまたは20μM HaloTag7SS-DogTagとを、pH7.5のPBS中で200分間反応させることによって試験した。5μM DogCatcherを、5μM HaloTag7SS-DogTagまたはAviTag-DogTag-MBPのいずれかと、pH7.5のPBS中で反応させ、ループ内に拘束されたDogTag(HaloTag7SS-DogTag)またはこの拘束がないDogTag(AviTag-DogTag-MBP)の反応を比較した。
sfGFPまたはGre2pのループバリアントの反応は、5μM ループバリアントを5μM DogCatcherまたはSpyCatcher003と、pH7.5のPBS中、25℃で反応させることにより行った。
DogCatcher(15μM)とHaloTag7SS-DogTag(10μM)の交差反応性の試験は、Affi-SnoopCatcher、SnoopTagJr-AffiHer2、SpyCatcher003、SpyTag003-MBPを用い(DogCatcher反応性の試験では全て10μM、HaloTag7SS-DogTagとの反応ではAffi-SnoopCatcherおよびSpyCatcher003を15μMとした)、pH7.5のPBS中、25℃で24時間行った。
【0267】
分光計測
0.5μM sfGFPバリアントのスペクトルの収集を、pH7.5のPBS中、25℃で、Horiba-Yvon Fluoromax 4を使用し、励起波長を488nmとし、偏光子をマジックアングル(54.7°)に設定してデータを収集しながら、モノクロメーターを使用して500nmから660nmの間で蛍光発光を収集して行った。10μM sfGFPバリアントの吸光度スペクトルを、Jasco V-550 UV/VIS分光光度計を用い、pH7.5のPBS中、25℃で収集した。スキャン速度200nm/分、高速応答、バンド幅2.0nmで、250nmから600nmまで1nmごとにデータを収集した。データは、生物学的反復実験3回(biological triplicates)の平均値である。
【0268】
Gre2p活性アッセイ
50nM Gre2pバリアントを、1.5mMイソバレルアルデヒド(Merck社)および0.25mM還元型ニコチンアミドジヌクレオチドリン酸(NADPH)(ChemCruz社)と共に、0.1%(w/v)BSAおよび1mMジチオスレイトール(DTT)を添加したpH7.4の100mMリン酸カリウム[単塩基性(KH2PO4)と二塩基性(K2HPO4)のリン酸カリウム溶液の100mM溶液を混合して調製]中、25℃でインキュベートした。pH7.4の100mMリン酸カリウム中のイソバレルアルデヒドの15mMストック100μLを反応混合物にピペッティングすることによって反応を開始し、その進行を、レスポンスを中程度、バンド幅を5.0nmとしたJasco V-550 UV/VIS分光光度計を用いて測定されるA340の減少によって測定した。200秒間にわたり、毎秒データを収集した。
【0269】
DogCatcher染料標識
色素標識は、露光を最小限に抑えるため、チューブをホイルで包んで行った。Alexa Fluor 647-マレイミド(サーモフィッシャー社)を、10mg/mLになるようにDMSOに溶解した。Cys-DogCatcherをpH7.4のTBSに透析し、1mM TCEP[トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)]を用い、25℃で30分間還元した。100μM Cys-DogCatcherを3倍モル過剰量の色素:タンパク質と共にインキュベートし、25℃で4時間転倒回転(end-over-end rotation)しながら反応させた。未反応のマレイミドを1mM DTTを用いて25℃で30分間クエンチした後、試料を16,000g、4℃で5分間遠心分離し、凝集物を除去した。遊離色素の除去を、Sephadex G-25樹脂(Merck社)を用い、3回の透析を各回少なくとも3時間、pH7.4のPBSに4℃で行うことによって行った。
【0270】
細胞内カルシウム測定
HEK293細胞を、トランスフェクションに先立って、6ウェルプレート上に0.8×10
6細胞/ウェルで24時間プレーティングした。jetPRIMEトランスフェクション試薬(VWR社)を用いて、pcDNA4/TO(空ベクター)、TRPC5-SYFP2、またはTRPC5-DogTag-SYFP2のいずれかについて、2μgのDNAを細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞を、透明な底付きの黒い96ウェルプレート(Greiner社)に、60,000細胞/ウェルでプレーティングし、16~18時間放置して接着させた。細胞内カルシウムの記録のため、培地を除去し、2μM Fura-2 AM(Thermo Fisher社)および0.01%(v/v)プルロン酸を含有するSBSに交換した。SBSは、NaClを130、KClを5、グルコースを8、HEPESを10、MgCl
2を1.2、CaCl
2を1.5含有し(数値はmM)、NaOHの滴定でpH7.4としたものである。その後、細胞を37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、Fura-2 AMを除去し、新たなSBSに交換した。細胞を25℃で30分間インキュベートした。そして、SBSを記録用緩衝液[化合物緩衝液(compound buffer)に合わせて、SBSに0.01%(v/v)プルロン酸と0.1%(v/v)DMSOを添加したもの]に交換した。DogCatcher標識化によるTRPC5機能への影響を明らかにするための実験のため、Fura-2 AMインキュベーション後に、細胞をSBSで2回洗浄した。5μM ビオチン-DogCatcher-MBP含有SBSまたは非含有SBSを添加し、細胞を25℃で30分間インキュベートした。その後、前記緩衝液を、記録緩衝液に交換した。細胞内カルシウムの測定を、FlexStation3(Molecular Devices社)を使用し、励起波長340nmおよび380nm、発光波長510nmで行った。5秒間隔で5分間記録した。60秒時点で、アゴニストである(-)-エングレリンA(PhytoLab社)を、化合物緩衝液[0.01%(v/v)プルロン酸と(-)-エングレリンAを含むSBS]を含有する化合物プレートから、最終濃度が30nM(
図10A)または10nM(
図10C)となるまで添加した。
【配列表】
【国際調査報告】