(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-21
(54)【発明の名称】細胞浸透性凍結保護剤の必要性を排除する、効率的な生体適合性凍結保存培地
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20240313BHJP
【FI】
C12N5/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504909
(86)(22)【出願日】2022-04-05
(85)【翻訳文提出日】2023-10-26
(86)【国際出願番号】 US2022023439
(87)【国際公開番号】W WO2022216676
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523379111
【氏名又は名称】クライオクレート・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】CryoCrate LLC
(71)【出願人】
【識別番号】501305844
【氏名又は名称】ザ・キュレーターズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミズーリ
【氏名又は名称原語表記】THE CURATORS OF THE UNIVERSITY OF MISSOURI
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ハン,シュー
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト,ヘンリー
(72)【発明者】
【氏名】カウレン,ピーター
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA87X
4B065BB12
4B065BB16
4B065BB18
4B065BB40
4B065CA50
(57)【要約】
第1の凍結保護粒子または巨大分子;第2の凍結保護粒子または巨大分子;および水性液体を含む凍結保存培地であって、第1の凍結保護粒子または巨大分子は親水性であり、水性液体に溶解または懸濁したときに球形を有し、第2の凍結保護粒子または巨大分子は、第1の凍結保護粒子または巨大分子に対する親和性および細胞の原形質膜に対する親和性を有する、凍結保存培地。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の凍結保護粒子または巨大分子;
第2の凍結保護粒子または巨大分子;および
水性液体を含む凍結保存培地であって、
第1の凍結保護粒子または巨大分子は親水性であり、水性液体に溶解または懸濁したときに球形を有し、および
第2の凍結保護粒子または巨大分子は、第1の凍結保護粒子または巨大分子に対する親和性および細胞の原形質膜または脂質膜結合生体構造の脂質膜に対する親和性を有する、凍結保存培地。
【請求項2】
第1の凍結保護粒子または巨大分子の量が、約10%(w/v)~約50%(w/v)である、請求項1に記載の凍結保存培地。
【請求項3】
該培地中の第1の凍結保護粒子または巨大分子の量が、約15%(w/v)~約30%(w/v)である、請求項1~2のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項4】
該培地中の第2の凍結保護粒子または巨大分子の量が、約1%(w/v)~約15%(w/v)である、請求項1~3のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項5】
該培地中の第2の凍結保護粒子または巨大分子の量が、約2.5%(w/v)~約10%(w/v)である、請求項1~4のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項6】
凍結保存培地が、細胞浸透性凍結保護剤を実質的に含まない、請求項1~5のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項7】
凍結保存培地が、5%w/v未満の細胞浸透性凍結保護剤を含む、請求項1~6のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項8】
細胞浸透性凍結保護剤が、ジメチルスルホキシド、グリセロール、エチレングリコールまたはそれらの組み合わせを含む、請求項6~7のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項9】
第1の凍結保護粒子または巨大分子が、緻密な三次元構造を形成するポリマーを含む、請求項1~8のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項10】
第1の凍結保護粒子または巨大分子が、球状の親水性多糖類、重合シクロデキストリン、重合糖類、球状タンパク質、球状タンパク質の外表面に結合したオリゴ糖鎖を含む球状糖タンパク質、球状タンパク質誘導体、球状ポリペプチド、球状核酸、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~9のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項11】
第1の凍結保護粒子または巨大分子が、球状タンパク質の外表面に結合したオリゴ糖鎖を含む球状糖タンパク質を含む、請求項1~10のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項12】
第1の凍結保護粒子または巨大分子が、スクロースとエピクロルヒドリンのコポリマーを含む球状親水性多糖類を含む、請求項1~11のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項13】
球状親水性多糖類が、約5,000Da~約1,000,000Daの平均分子量を有する、請求項12に記載の凍結保存培地。
【請求項14】
球状親水性多糖類が、約68,000Da~約72,000Daの平均分子量を有する、請求項12~13のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項15】
第2の凍結保護粒子または巨大分子が、グリコサミノグリカン、修飾グリコサミノグリカン、それらの塩、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~14のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項16】
第2の凍結保護粒子または巨大分子が、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、コンドロイチン硫酸D、デルマタン硫酸、それらの塩、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~15のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項17】
第2の凍結保護粒子または巨大分子が、コンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含む、請求項1~16のいずれかに記載の凍結保存培地。
【請求項18】
脂質膜結合生体構造の脂質膜を保護する方法であって、
脂質膜結合生体構造を約-70℃~約-273℃の温度に冷却する前に、脂質膜結合生体構造を凍結保存培地と接触させることを含み、
約-70℃~約-273℃の温度で脂質膜の周囲にナノスケールの立方体氷が形成される、方法。
【請求項19】
脂質膜結合生体構造の凍結保存方法であって、
脂質膜結合生体構造を請求項1~17のいずれかに記載の凍結保存培地と接触させて、脂質膜結合生体構造を処理すること;
処理された脂質膜結合生体構造を約-70℃~約-273℃の温度に冷却して、脂質膜結合生体構造を凍結させること;および
約-70℃~約-273℃の温度で凍結した脂質膜結合生体構造を維持すること;を含む方法。
【請求項20】
脂質膜結合生体構造が、細胞、組織、細胞外小胞、脂質結合小胞、器官、生物、またはそれらの組み合わせを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
約-70℃~約-273℃の温度への冷却の前に、脂質膜結合生体構造を約-18℃~約-25℃の温度で一定の期間凍結することをさらに含む、請求項19~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
該期間が、約6~約12時間である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
凍結保存培地と脂質膜結合生体構造を室温で約30分~約120分間接触させた後、冷却する、請求項19~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
凍結した脂質膜結合生体構造が、約-70℃~約-85℃の温度で少なくとも3週間の期間、維持した場合に実質的に無傷のままである、請求項19~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
期間が、少なくとも1年である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
凍結保存培地と脂質膜結合生体構造の体積比が、約1:1~約10:1である、請求項19~25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
凍結保存培地と脂質膜結合生体構造の体積比が、約10:1~約10,000:1である、請求項19~26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
接触が、脂質膜結合生体構造を含む二次元または三次元培養物および培養培地に一定量の凍結保存培地を添加し、および任意選択で、接触前に二次元または三次元培養物から培養培地を除去することを含む、請求項19~27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
冷却が、約0.01℃/分~約100℃/分の速度で行われる、請求項19~28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
冷却が、約1℃/分~約5℃/分の速度で行われる、請求項19~29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
脂質膜結合生体構造が複数の細胞を含み、凍結された複数の細胞の解凍後の生存率が、冷却前の生存細胞の総数の約60%以上である、請求項19~30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
凍結された複数の生存細胞の解凍後の生存率が、冷却前の生存細胞の総数の約80%以上である、請求項19~31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
脂質膜結合生体構造が、複数の細胞を含む組織、複数の細胞を含む器官、または複数の細胞を含む生物である、請求項19~32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
複数の細胞が、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、またはそれらの組み合わせである、請求項19~33のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
解凍後の凍結組織の生存率が、細胞透過性凍結保護剤を含む凍結保存培地と接触させた同じ凍結組織の生存率よりも高い、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
冷却中に、凍結保存培地中の水が、脂質膜結合生体構造の脂質膜の外表面に立方体氷を形成する、請求項19~35のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年4月5日出願の米国仮出願第63/170,673号に基づき、それに対する優先権を主張し、その開示は、参照により本願に組み込まれる。
連邦政府の後援による研究または開発に関する声明
本発明は、米国国立衛生研究所(NIH)中小企業イノベーション研究(SBIR)によって授与されたNIH 2R44OD020163-02A1に基づく米国政府の支援により行われた。政府は、本発明に対して一定の権利を有する。
技術分野
本開示は、生物学的サンプルおよび臨床サンプルの保存だけでなく、凍結生物学、凍結保存、および氷形成制御技術の分野を対象とする。
【背景技術】
【0002】
凍結保存は、生物材料を水の凝固点(すなわち、0℃)以下の温度で保存することができる技術である。凍結保存は、ナノスケール次元での氷形成メカニズムの理解に限界があることに加え、細胞スケールで氷形成を制御する効率的な手段が欠如していることが主な原因で、進歩が遅い分野である。実際の凍結保存は、1949年にグリセロールリッチ培地を使用して動物の精液を凍結保存できることが驚くべきことに発見されたときに始まった(Polge C、Smith Au、Parkes As. Revival of spermatozoa after vitrification and dehydration at low temperatures. Nature. 1949 Oct 15;164(4172):666)。それ以来、数十年にわたる凍結保存技術の革新の努力にもかかわらず、既存の凍結保存技術(ユニークな生物物理学的特徴を持つ少数の細胞タイプのみに採用しうるいくつかのものを除く)と市場のすべての製品は、依然として生物学的に不適合な(すなわち、細胞透過性と反応性)さまざまな小分子凍結保護剤の使用に依存している。これらの細胞透過性凍結保護剤には、グリセロール、ジメチルスルホキシド (DMSO)、エチレングリコール、およびプロパンジオールが含まれるが、これらに限定されない。残念ながら、これらの小分子試薬が凍結保存培地に含まれることは、多くの技術的、実用的、および規制上の問題の原因となる。さらに重要なことは、無数の細胞および組織タイプが、既存の凍結保存プロトコルにあまり反応せず、解凍後の生存率が低く、機能が損なわれていることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
細胞ベースの組織工学および再生医療における最近の急速な進歩、ならびにヒトドナーまたは異種組織を使用した移植技術の継続的な開発に直面して、臨床的に実用的であり、長年の課題を克服する改良された凍結保存培地および凍結保存方法が緊急に必要とされている。特に、細胞透過性凍結保護剤を含める必要性を排除する効率的な凍結保存培地、および細胞透過性凍結保護剤に伴う合併症および非効率性を軽減する実用的な使用方法への必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
本明細書には、細胞透過性凍結保護剤を含める必要性を排除する効率的な凍結保存培地が開示される。凍結保存培地の使用方法も開示される。
【0005】
本明細書は、第1の凍結保護粒子または巨大分子;第2の凍結保護粒子または巨大分子;および水性液体を含む凍結保存培地であって、第1の凍結保護粒子または巨大分子は親水性であり、水性液体に溶解または懸濁したときに球形を有し、第2の凍結保護粒子または巨大分子は、第1の凍結保護粒子または巨大分子に対する親和性および細胞の原形質膜または脂質膜結合生体構造の脂質膜に対する親和性を有する、凍結保存培地を開示する。
【0006】
本明細書には、脂質膜結合生体構造の脂質膜を保護する方法であって、脂質膜結合生体構造を約-70℃~約-273℃の温度に冷却する前に、脂質膜結合生体構造を凍結保存培地と接触させることを含む方法であって、約-70℃~約-273℃の温度で脂質膜の周囲にナノスケールの立方体氷が形成される方法も開示される。
【0007】
上記およびその他の特徴を、次の図面と詳細な説明によって例示する。
【0008】
以下の図面は例示的な実施形態であり、同様の要素には同様の番号が付けられている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の凍結保存培地の作用機構を示す図である。
【
図2】
図2は、凍結破砕サンプルのレプリカの極低温X線回折および透過型電子顕微鏡検査を通して、フィコール70を含む培地中でのナノスケールの立方体氷の形成を明らかにする実験結果を示す。
【
図3】
図3は、コンドロイチン硫酸Aナトリウム塩分子が フィコール70分子と細胞膜間の親和性を有意に促進することを示す、蛍光顕微鏡を使用した実験結果を示す。
【
図4】
図4は、本発明の培地が凍結中の細胞内氷の形成を防止することを実証するための極低温顕微鏡法を用いた実験結果を示す。
【
図5】
図5は、-80℃および液体窒素温度の両方におけるSf9細胞の凍結保存における本発明の培地の効率を示す。
【
図6】
図6は、-80℃でのヒト脂肪幹細胞の凍結保存における本発明の凍結保存培地の効率を示す。
【
図7】
図7は、-80℃でのウシクロム親和性細胞の凍結保存における本発明の凍結保存培地の効率を示す。
【
図8】
図8は、-80℃でのヒト植皮の凍結保存における本発明の凍結保存培地の効力を示す。
【
図9】
図9は、-80℃でのヒト角膜輪部組織の凍結保存における本発明の凍結保存培地の有効性を示す。
【
図10】
図10は、-80℃でのウシ副腎組織の凍結保存における本発明の凍結保存培地の有効性を示す。
【
図11】
図11は、-80℃での2D iPSC由来RPE組織の凍結保存における本発明の凍結保存培地の有効性を示す。
【
図12】
図12は、-80℃での3D分化神経組織の凍結保存における本発明の凍結保存培地の有効性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
凍結保存は、生物材料を、機械式冷凍庫または液体窒素の極低温冷凍庫またはタンクなど、通常約-80℃~-196℃の非常に低い温度で保存できるようにする技術である。凍結保存または低温保存は、そのような生物材料を比較的長期間、場合によっては無期限に、生物材料の機能劣化なし、または実質的に制限された分解なしに保存することが知られている。実用的な冷凍保存は、動物の精液がグリセロールに富んだ培地を使用して冷凍保存することができることが偶然発見された1949年に始まった。それ以来、細胞の凍結保存に関して、実際に使用されているほぼすべての凍結保存技術と市場のすべての既存製品は、細胞膜を透過して細胞に侵入(すなわち、細胞浸透)する、さまざまな種類および濃度の生物学的反応性小分子凍結保護剤の使用に依存し続けている。細胞浸透性凍結保護剤は、凍結保存の実施の目的が組織内の大部分の細胞の生存能力と機能を維持することである限り、あらゆる種類の組織の凍結保存に常に必要となる。凍結保護剤が浸透しない場合、組織ではほとんど、遺伝物質または病理学的特徴のみが保存される。細胞透過性低分子凍結保護剤の使用により、3つの主要な凍結保護機能が提供される:
【0011】
第1に、細胞浸透性小分子凍結保護剤は、凍結保護剤溶液の粘度を増加させる。比較的低濃度では、粘稠で細胞に浸透した低分子凍結保護液は、凍結中に形成される細胞外氷結晶のサイズを小さくし、非常に高濃度では、氷の形成を防ぎ、すなわち、いわゆるガラス化アプローチである。
【0012】
第2に、細胞浸透性低分子凍結保護剤は、細胞内の氷の形成を防ぐ。粘稠な液体が浸透によって細胞に入り、それによって細胞小器官が損傷を受けない程度に細胞内の氷のサイズを縮小するか、または細胞内の氷の形成を完全に防ぐ。細胞内の氷の形成は、一般に、損傷した細胞膜を破壊する大きな細胞外の氷の結晶によってもたらされると考えられている。
【0013】
第三に、細胞浸透性小分子凍結保護剤は、溶液の粘度を増加させることにより、細胞に損傷を与える再結晶プロセスを遅らせる。氷の再結晶範囲を超える温度、たとえば約-80℃以上で保存すると、前述の粘度増加メカニズムにより、細胞に損傷を与える再結晶プロセスが遅くなる。損傷メカニズムは、約-100℃を超える温度での六角形氷晶(すなわち、Ice Ih、普通の氷の六角形の結晶形、または凍った水)の物理的特性に起因すると考えられる。凍結プロセス中に形成される小さな六角形氷晶は、熱的に不安定で、自然に結合して大きな氷の結晶を形成するか、または単純に成長し続ける傾向があり、それによって大きな結晶が形成されるため、約-80℃(通常の実験用冷凍庫の典型的な使用温度)での保存中または解凍プロセス中に細胞または組織への損傷が発生する。
【0014】
これらの保護メカニズムの効率をさらに向上させるために、さまざまなタイプの非浸透性凍結保護剤が利用され、さまざまな凍結保存方法で使用するために開発されてきた。添加物には、スクロース、ラフィノース、トレハロースなどのオリゴ糖;ヒドロキシエチルデンプン(HES)、多糖類、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、コンドロイチン硫酸、アルブミン、不凍タンパク質およびそれらの類似体の一部などのポリマー;およびヒトおよび動物の血清および血清代替品などの天然または新たに配合された生物学的化合物が含まれるが、これらに限定されない。しかしながら、これらの成分を含む既存の凍結保護剤は、ほとんどの細胞タイプとすべての組織タイプの実際の凍結保存用途に十分な規模で解凍後の生存率を確実に達成するために、培地混合物中に細胞浸透性凍結保護剤の必要性を完全に排除することはできない。ウチダらの報告(Uchida T、Takeya S. Powder X-ray diffraction observations of ice crystals formed from disaccharide solutions. Phys Chem Phys. 2010 Dec 7;12(45):15034-9)では、極めて高濃度(約50%w/v)の二糖類(たとえば、スクロースおよびトレハロース)を含む溶液を比較的高い冷却速度(たとえば、数百度/分)で凍結すると、低温の水中での溶解度限界により糖類分子が自発的に沈殿し、自発的にナノスケールの球状粒子(約10~20nmのサイズ)を形成し、システムのエネルギーを最小限に抑える。これらの糖粒子の周囲には、サイズ10nm未満の安定な立方体氷(すなわち、氷Ic)の結晶、すなわちナノスケール立方体氷が確認された。六角形の氷とは異なって、立方晶系の氷は非常に小さな結晶を形成する氷の準安定な立方体結晶バリアントであり、比較的大きな(通常は10μm以上)六角形氷晶の形成によって生じる機械的損傷を防ぐことにより、凍結保存手順中に細胞の生存率を高める可能性がある。しかしながら、上記の方法を使用してナノスケールの立方体氷を形成するには、非常に高濃度の二糖類と速い冷却速度が必要であるため、このような手順は凍結保存における実用化には至っていない。
【0015】
細胞浸透性凍結保護剤なしで凍結保存できる細胞の種類はほとんどない。たとえば、赤血球(核といくつかの細胞小器官を欠いている)は、HESまたは不凍タンパク質の類似物を使用して凍結保存できる;特定の肝細胞タイプは、能動輸送を通じて細胞内に高濃度のグルコースを蓄積し、比較的高い解凍後の生存率を達成することができる。明らかに、これらの特定の機能は通常の細胞タイプには存在しないため、関連する手法の適用は非常に制限される。トレハロースは、凍結保護剤を浸透させることなく細胞の凍結保存を達成するために、エレクトロポレーションまたは音響法によってさまざまな細胞タイプに輸送されてきた。しかしながら、これらの技術は、電場または音響場の輸送距離に制限があるため、あらゆる種類の組織の凍結保存には適していない。一方、上記の方法では、トレハロースとグルコースの両方の分子が実際に細胞膜を透過するため、これらの方法は依然として、いわゆる細胞透過性アプローチを採用している。これらの方法はすべて、細胞の広範囲な損傷を防ぐための複雑な操作と高価な装置を必要とし、さらに重要なことに、長期保存には液体窒素設備が必要である。
【0016】
一方、上で列挙および記載した非浸透性凍結保護剤の使用は、浸透性凍結保護剤の使用から生じるよく知られた悪影響を効果的に軽減しない。これらの悪影響として、次のものが挙げられる:
・毒性、アポトーシス、および幹細胞の望ましくない分化などを含むがこれらに限定されない、さまざまな程度の生化学的損傷または合併症の導入。これらの影響の中には、特に細胞ベースの治療または再生医療の開発において規制上の懸念を引き起こすものもある;および
・ローディング手順中(すなわち、凍結前)および解除手順中(すなわち、解凍後)の細胞および組織への物理的な浸透圧損傷により、細胞および組織の構造ならびに超微細構造が損傷されること。
【0017】
その結果、細胞透過性凍結保護剤を利用する上記の凍結保存方法は、さらなる改善のための解決不可能な課題に直面している。これらの課題の例については、以下でさらに詳しく説明する。
【0018】
高濃度、通常、体積あたり40%~50%(v/v)の細胞透過性凍結保護剤を使用するガラス化アプローチは、軽減または完全に排除する必要がある、治療および組織工学の用途に有害な多大な化学的影響および浸透圧の影響をもたらす。ガラス化アプローチでは、また、冷却中にガラス化を達成するために、いわゆる臨界冷却速度(たとえば、104ケルビン(K)/分)よりも高い冷却速度と、失透(加温中のガラス化溶液の結晶化)とその後の失透溶液の再結晶化プロセスの両方を防止するための、さらに高い昇温速度(たとえば、105K/分)が必要である。両方の要件により、生体サンプルの熱伝導の制限によって、ガラス化アプローチで利用されるサンプルサイズが制限される。さらに、浸透性凍結保護剤溶液のガラス化および失透温度は、ほとんどの場合、-100℃より低いという事実により、ガラス化手順は、極低温流体(たとえば、液体窒素、液相で-196℃および密閉容器の気相で120℃~-196℃の間)および関連設備、または約-80℃で動作する通常の冷凍庫の代わりに、非常に高価な超低温冷凍庫の使用を必要とする。しかしながら、液体窒素の設備または装置は高価かつ大規模であり、保存、輸送、およびメンテナンスのコストが大幅に増加する。したがって、たとえガラス化法が解凍後の高い生存率を達成することができたとしても、産業的使用者はこのアプローチを避けることを好む。ヒトの皮膚同種移植片を例として挙げると、小さな(たとえば、5cm2未満)ヒトの皮膚サンプルは、ガラス化培地と手順を使用して効率的に凍結保存されうることが実証されているが、多数の通常のドナー組織(それぞれサイズが異なり、通常は100cm2以上)の保存には、スキンバンクでは、解凍後の生存率がガラス化法で得られるものの約半分にすぎないにもかかわらず、15%~30%v/vグリセロールで凍結し、通常の冷凍庫で保存するという伝統的なアプローチが使用される。
【0019】
低濃度(通常5~15%v/v)の細胞透過性凍結保護剤を使用した徐冷アプローチでは、ガラス化アプローチよりも化学的および浸透圧による損傷が少なくなる。再結晶による損傷に耐えることができる一部の機械的に頑丈な細胞(たとえば、細菌細胞、特定の昆虫細胞、哺乳動物の赤血球など)は、-80℃の冷凍庫で長期保存が可能である。しかしながら、ほとんどの哺乳類細胞タイプでは、再結晶を防止できない限り、長期保存には液体窒素設備が必要である。組織の場合、徐冷方法は一般に、解凍後の生存率が低く、凍結中の氷の形成と加温中の再結晶化に伴う重大な構造的組織損傷を引き起こす。繰り返しになるが、ヒトの皮膚同種移植片を例として挙げると、従来のグリセロール由来のアプローチでは、研究室ベースの操作と組織バンク操作の両方において50%以上の細胞損失が発生する。結果は、他のヒトの組織タイプでも同様である。
【0020】
-80℃付近の保存温度での氷の再結晶化を防ぐために、比較的高濃度(細胞懸濁液と混合後、約10%w/v)のフィコール70(約70kDaの分子量(MW)を有する球状の緻密なポリスクロース分子)などの非常に緻密な球状多糖分子と低濃度のDMSO(5~10%v/v)を含む凍結保存培地が、Hanら、2017(Han X、Yuan Y、and Roberts R.M. 2017. Cryopreservation Medium and Method to Prevent Recrystallization、PCT/US2017/032606)によって開示され、Yuanら、2016(Yuan Y、Yang Y、Tian Y、Park J、Dai A、Roberts RM、Liu Y、Han X. Efficient long-term cryopreservation of pluripotent stem cells at -80℃. Nature、Scientific Reports. 2016 6:34476)によって記載されている。この培地により、通常の冷凍庫で哺乳類細胞を短期間保存できるようになり、したがって、哺乳類細胞および昆虫細胞の長期保存、さらには組織の凍結保存のための液体窒素設備が不要になった。以前の熱研究で実証されたように(Yuan Y、Yang Y、Tian Y、Park J、Dai A、Roberts RM、Liu Y、Han X. Efficient long-term cryopreservation of pluripotent stem cells at -80℃. Nature、Scientific Reports. 2016 6:34476)、10%w/v~20%w/vのフィコール70を含む培地は、約-65℃までの温度で氷の再結晶化を防止するため、この方法は、通常の実験室用機械式冷凍庫の典型的な動作温度を含む約-70℃以下の温度での長期保存に適している。市販品(C80EZ(登録商標)培地)は、数多くの産業用途で使用され成功しており、現在も使用され続けている。しかしながら、我々の例の1つが示すように、20%を超える濃度であっても、フィコール70の単独使用は、効率的な細胞および組織の凍結保存のためにDMSOまたはその他の細胞透過性凍結保護剤を完全に除去することはできない。
【0021】
本開示は、水性液体中の2つのタイプまたはクラスの凍結保護粒子または巨大分子の使用を組み合わせ、細胞の生存能力と機能を維持しながらの生物学的サンプルの長期保存を達成するために小分子細胞浸透性凍結保護剤の使用の必要性を取り除く凍結保存培地に関する。「凍結保存培地」とは、生細胞(あるいは細胞の構成要素、または細胞または細胞構成要素に似た人工的に作成された構造)を凍結状態で保存し、解凍後もすべてまたは実質的にすべての細胞特性および機能(あるいは細胞構成要素の場合はそれぞれの特性)を保持できるようにする溶液である。
【0022】
本明細書は、第1の凍結保護粒子または巨大分子;第2の凍結保護粒子または巨大分子;および水性液体を含む凍結保存培地であって、第1の凍結保護粒子または巨大分子は親水性であり、水性液体に溶解または懸濁したときに球形を有し、第2の凍結保護粒子または巨大分子は、第1の凍結保護粒子または巨大分子に対する親和性および細胞の原形質膜に対する親和性を有する、凍結保存培地を開示する。
【0023】
第1の凍結保護粒子または巨大分子は親水性であり、水に溶解または懸濁すると非常に緻密で球形、またはほぼ球形になるというナノスケールの特徴を有し、親水性が高い表面を有する。
図1では、第1のタイプ10の代表的な凍結保護粒子または巨大分子が特定されている。溶液中では、第1の凍結保護粒子または巨大分子は、その表面付近でのナノスケールの立方体氷結晶30の形成を促進する一方、その表面付近での六角形氷晶40の形成の防止も妨げる。
【0024】
第2の凍結保護粒子または巨大分子は、第1の粒子または巨大分子に対して高い親和性を有する。
図1では、第1および第2の凍結保護粒子または巨大分子の間の代表的な結合50が示される。
【0025】
第1の凍結保護粒子または巨大分子の具体例としては、球状の親水性多糖類、重合シクロデキストリン、重合糖類、球状タンパク質、球状タンパク質の外表面に結合したオリゴ糖鎖を含む球状糖タンパク質、球状タンパク質誘導体、球状ポリペプチド、球状核酸が挙げられる。
【0026】
第2の凍結保護粒子または巨大分子はまた、細胞膜または細胞様構造の原形質膜内の構造/材料に対して高い親和性を有し、そのような細胞膜は凍結保存される細胞または組織と結び付く。原形質膜のそのような構造/材料には、たとえば、細胞原形質膜の外表面に位置するリン脂質層、タンパク質、または他の巨大分子が含まれる。
図1には、第2のタイプの凍結保護粒子または巨大分子と、凍結保存される細胞または組織と結び付く細胞膜との間の代表的な結合60が示される。
【0027】
一緒に作用する2種類の凍結保護粒子または巨大分子の使用によって生成される上記のユニークな結合の組み合わせにより、冷凍保存プロセスの期間全体にわたって、細胞膜が第1の凍結保護粒子または巨大分子の表面近くに形成されるナノスケールの立方体氷の結晶のみと接触する確率が大幅に増加する。
図2Bに示す透過型電子顕微鏡の結果によって実証されるように、第1の粒子または巨大分子はそれぞれ、約-80℃に冷却された後、その周囲に厚さ約10~50nmの立方体氷の層を生成することができる。そのため、六角形氷晶は、間にある第2の凍結保護粒子または巨大分子の存在により、第1の凍結保護粒子または巨大分子から遠く離れた位置にあるため、細胞原形質膜は大きな六角形氷晶による損傷を受けにくくなる。その結果、原形質膜は凍結中にこの層によって十分に保護され、膜の外側のナノスケールの氷の形成が細胞内氷形成を導入しないか、またはこのシナリオで誘発される細胞内氷結晶のサイズと数が膜の外側にあるナノスケールの立方体氷結晶よりはるかに小さい。そのため、凍結保存培地に細胞透過性凍結保護剤が含まれていない場合でも、細胞内成分も効率的に保護される。
【0028】
ナノスケールの立方体氷構造と第1の凍結保護粒子または巨大分子の存在もまた、分離することにより六角形氷晶の相互の直接接触を制限し、それらが結合または融合してより大きな結晶を形成することを防ぎ、六角形氷の再結晶を防ぐメカニズムとして機能する。六角形氷の再結晶を防ぐこのようなメカニズムは、小分子細胞透過性凍結保護剤または他の種類の非透過性分子を含む従来の凍結保存培地では実現できない。ナノスケール立方体氷は、サイズ0.1nm~10nmのスケールのIce Icの形成である。
【0029】
Yuanら、2016による熱研究(Yuan Y、Yang Y、Tian Y、Park J、Dai A、Roberts RM、Liu Y、Han X. Efficient long-term cryopreservation of pluripotent stem cells at -80℃. Nature、Scientific Reports. 2016 6:34476)で実証されたように、第1の凍結保護粒子または巨大分子は、約-65℃までの温度での氷の再結晶を防止する。したがって、本発明の方法は、通常の実験室用機械式冷凍庫の典型的な運転温度、液体窒素施設の保存温度(約-120℃~-196℃)、および他の極低温流体または物理的プロセスによって提供される低温(-196℃~-273℃)を含む、約-70℃未満の任意の温度での長期保存に適している。
【0030】
1つの態様では、第1の凍結保護粒子または巨大分子は、ポリマーである。ポリマーは、水性液体に溶解するとほぼ球形の緻密な三次元構造を形成する分子を含んでもよい。1つの態様では、第1の凍結保護粒子または巨大分子は、球状の親水性多糖類、重合シクロデキストリン、重合糖類、球状タンパク質、球状タンパク質の外表面に結合したオリゴ糖鎖を含む球状糖タンパク質、球状タンパク質誘導体、またはそれらの組み合わせを含む。
【0031】
第1の凍結保護粒子または巨大分子はナノメートルサイズの粒径を有する。1つの態様では、第1の凍結保護粒子または巨大分子は、約50nm以下、または約25nm以下、または約10nm以下の粒径を有する。1つの態様では、第1の凍結保護粒子または巨大分子は、約10nmの粒径を有する。
【0032】
1つの態様では、第1の凍結保護粒子または巨大分子は、スクロースとエピクロルヒドリンのコポリマーを含む球状親水性多糖類を含む。スクロースとエピクロルヒドリンのコポリマーの例には、FICOLLTM分子が含まれる。球状親水性多糖類は、約50,000Da~約100,000Da、または約60,000Da~約80,000Da、または約68,000Da~約72,000Da、または約69,000Da~約71,000Daの平均分子量を有する。1つの態様では、球状親水性多糖類は、70,000Daの平均分子量を有する。別の態様では、球状親水性多糖類は、約5,000Da~約1,000,000Daの平均分子量を有する。
【0033】
1つの態様では、第1の凍結保護粒子または巨大分子は、スクロースとエピクロルヒドリンの共重合によって形成される高分子量スクロースポリマーである、本明細書では一般に「フィコール70」とも呼ばれる FICOLLTM70を含む。フィコール70分子は高度に分岐しており、ヒドロキシル基の含有量が高いため、水性媒体中での材料の溶解性が非常に優れている。フィコール70は、約70,000Daの平均分子量を有する。
【0034】
1つの態様では、第2の凍結保護粒子または巨大分子もポリマーである。ポリマーは、多糖類、特に、異なる種類の糖または単一の種類の糖の鎖で形成された多糖類である分子を含んでもよい。1つの態様では、多糖類は、グリコサミノグリカン(GAG)、修飾GAG、それらの塩、またはそれらの組み合わせを含む。1つの態様では、GAGはコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、またはそれらの組み合わせを含む。1つの態様では、コンドロイチン硫酸は、コンドロイチン硫酸A、コンドロイチン硫酸C、コンドロイチン硫酸D、コンドロイチン硫酸E、それらの塩、またはそれらの組み合わせを含む。修飾GAGの例としては、たとえば、硫酸化GAGが挙げられる。
【0035】
本明細書に開示される塩は、所定の化合物の生物学的有効性および特性を保持しており、生物学的またはその他の点で望ましくないものではない。許容される塩基付加塩は、無機塩基および有機塩基から製造することができる。無機塩基に由来する塩には、単なる例としてであるが、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウムおよびマグネシウム塩が含まれる。有機塩基に由来する塩には、アルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、置換アルキルアミン、ジ(置換アルキル)アミン、トリ(置換アルキル)アミン、アルケニルアミン、ジアルケニルアミン、トリアルケニルアミン、置換アルケニルアミン、ジ(置換アルケニル)アミン、トリ(置換アルケニル)アミン、シクロアルキルアミン、ジ(シクロアルキル)アミン、トリ(シクロアルキル)アミン、置換シクロアルキルアミン、ジ置換シクロアルキルアミン、トリ置換シクロアルキルアミン、シクロアルケニルアミン、ジ(シクロアルケニル)アミン、トリ(シクロアルケニル)アミン、置換シクロアルケニルアミン、ジ置換シクロアルケニルアミン、トリ置換シクロアルケニルアミン、アリールアミン、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ヘテロアリールアミン、ジヘテロアリールアミン、トリヘテロアリールアミン、複素環アミン、ジ複素環アミン、トリ複素環アミン、混合ジおよびトリアミンなどの第一級、第二級、および第三級アミンの塩が含まれ、ここで、アミン上の置換基のうちの少なくとも2つは異なり、アルキル、置換アルキル、アルケニル、置換アルケニル、シクロアルキル、置換シクロアルキル、シクロアルケニル、置換シクロアルケニル、アリール、ヘテロアリール、複素環などからなる群から選択されるが、これらに限定されない。2つまたは3つの置換基がアミノ窒素と一緒になって複素環基またはヘテロアリール基を形成するアミンも含まれる。
【0036】
薬学的に許容される塩の例として、アミンなどの塩基性残基の無機酸塩または有機酸塩;カルボン酸などの酸性残基のアルカリまたは有機塩;などが挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に許容される塩として、従来の非毒性塩、およびたとえば、非毒性無機酸または有機酸から形成される親化合物の第四級アンモニウム塩が挙げられる。たとえば、従来の非毒性の酸塩として、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸から誘導される塩;および酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、メシル酸、エシル酸、ベシル酸、スルファニル酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸、HOOC-(CH2)n-COOH(式中、n=0~4)などの有機酸から調製される塩が挙げられる。
【0037】
1つの態様では、第2の凍結保護粒子または巨大分子は、コンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含む。
【0038】
本明細書に開示される凍結保護培地には、水性液体が含まれる。「水性液体」は、主に水を含み、水が液体状態である温度範囲にわたって液体状態である液体である。1つの態様では、水性液体は、食塩水、細胞または組織の培養培地、緩衝液またはそれらの組み合わせを含む。
【0039】
食塩水としては、たとえば、アルセバー液、アール平衡塩類溶液(EBSS)、ゲイ平衡塩類溶液(GBSS)、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、(ダルベッコ)リン酸緩衝食塩水(DPBSまたはPBS)、リンガー平衡塩類溶液(RBSS)、シム平衡塩類溶液(SBSS)、TRIS緩衝塩類溶液(TBS)、タイロード平衡塩類溶液(TBSS)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジン-1-イル]エタン-1-スルホン酸)、CaCl2水溶液、NaCl水溶液、KCl水溶液、またはそれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0040】
1つの態様では、水性液体は、細胞または組織の培養培地を含み得る。細胞または組織の培養培地には、細胞および/または組織の増殖および/または維持を促進する成分が含まれる。細胞または組織培養培地の具体的な組成は、使用される細胞および/組織の種類によって異なる。細胞または組織培養培地中の成分の非限定的な例として、たとえば、血清(たとえば、ウシ胎児血清:FBS)、炭水化物(たとえば、スクロース、ガラクトース、フルクトース、マルトース)、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、無機塩、pH緩衝系、ホルモン、基本および微量元素(鉄、亜鉛、銅、セレン、マグネシウム)、サプリメント、抗生物質が挙げられる。単独で使用することも、追加の成分(血清、抗生物質など)と組み合わせて使用することもできる、細胞または組織培養培地の具体例としては、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、フラッシング保持培地(FHM)、DPBS(ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水)、RPMI(ロズウェルパーク記念研究所)培地、BF5培地、EX-CELL(登録商標) 培地、溶原性ブロス(LB)、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
凍結保存培地中の第1の凍結保護粒子または巨大分子の量は、約10%(w/v)~約50%(w/v)、または約15%(w/v)~約30%(w/v)、または約15%(w/v)~約25%(w/v)、または約18%(w/v)~約22%(w/v)である。
【0042】
凍結保存培地中の第2の凍結保護粒子または巨大分子の量は、約1%(w/v)~約15%(w/v)、または約2.5%(w/v)~約10%(w/v)、または約4.5%(w/v)~約10%(w/v)、または約4.5%(w/v)~約7.5%(w/v)である。
【0043】
本開示は、本明細書に開示される凍結保存培地を使用して細胞および組織を凍結保存するための方法を提供する。1つの態様では、凍結保存培地は、細胞浸透性凍結保護剤を実質的に含まない(substantially no)。言い換えれば、凍結保存培は、細胞浸透性凍結保護剤を実質的に含まない(substantially free of)。本明細書で使用される「substantially free of 細胞浸透性凍結保護剤」および/または「substantially no 細胞浸透性凍結保護剤」は、凍結保存培地が5%未満、2.5%未満、1%未満、0.5%未満の細胞浸透性当家保護剤を含むことを意味する。1つの態様では、凍結保存培地は、細胞透過性凍結保護剤を含まない(is free of)、すなわち、細胞透過性凍結保護剤を含まない(does not include)。
【0044】
凍結保存培地は、脂質膜結合生体構造の脂質膜の保護のために使用することができる。本明細書で使用される場合、「脂質膜結合生体構造」とは、生体構造の外表面を画定する脂質膜を有する生体構造を示す。このような脂質膜結合生体構造には、細胞、細胞外小胞、および/または脂質結合小胞が含まれる。脂質膜によって画定される外表面を有する少なくとも1つの細胞で構成される構造である「組織」もこの用語に包含される。したがって、1つの態様では、脂質膜結合生体構造は、細胞、組織、細胞外小胞、脂質結合小胞、器官、生物、またはそれらの組み合わせを含む。
【0045】
1つの態様では、脂質膜結合生体構造は、細胞、細胞外小胞、脂質結合小胞、器官、生物、またはそれらの組み合わせを含む。
【0046】
1つの態様では、脂質膜結合生体構造は、複数の細胞を含む組織、複数の細胞を含む器官、または複数の細胞を含む生物である。
【0047】
1つの態様では、本明細書に開示されるのは、脂質膜結合生体構造の脂質膜を保護する方法であって、脂質膜結合生体構造を約-70℃と約-273℃との間の温度に冷却する前に、脂質膜結合生体構造を凍結保存培地と接触させることを含み、約-70℃~約-273℃の温度で脂質膜の周囲に立方体氷が形成される方法である。
【0048】
また、脂質膜結合生体構造の凍結保存方法であって、脂質膜結合生体構造を本明細書に開示される凍結保存培地と接触させて、脂質膜結合生体構造を処理すること;処理された脂質膜結合生体構造を約-70℃~約-273℃の温度に冷却して、脂質膜結合生体構造を凍結させること;および約-70℃~約-273℃の温度で凍結した脂質膜結合生体構造を維持すること;を含む方法も開示される。
【0049】
1つの態様では、接触は、脂質膜結合生体構造を含む二次元または三次元培養物および培養培地に一定量の凍結保存培地を添加することを含む。凍結保存培地は、培養培地を除去することなく、二次元または三次元培養物中の脂質膜結合生体構造に直接添加することができる。1つの態様では、凍結保存培地を添加する前に培地を除去することができる。
【0050】
1つの態様では、凍結保存培地の濃縮調製物は、最初に培養培地(または脂質膜結合生体構造が洗浄されている場合には洗浄培地)を除去することなく、脂質膜結合生体構造を含む培養物または懸濁液に直接添加される。濃縮凍結保存培地は、第1および第2の粒子または巨大分子の濃度が、上記の非濃縮凍結保存培地中のそれぞれの濃度よりも約1.5倍、または約2倍、または約2.5倍、または約3倍、または約3.5倍、または約4倍、または約4.5倍、または約5.5倍、または約6倍、または約6.5倍、または約7倍、または約7.5倍、または約8倍、または約8.5倍、または約9倍、または約9.5倍、または約10倍の高濃度であるように、増加した量の第1および第2の粒子または巨大分子を含む。濃縮凍結保存培地は、培地中の第1および第2の粒子または巨大分子の濃度を上記の量に希釈するために、特定の体積比で添加される。
【0051】
1つの態様では、脂質膜結合生体構造は懸濁液中にあり、脂質膜結合生体構造を保存培地と接触させる前に(たとえば、遠心分離によって)ペレット化される。ペレット化されたら、存在する培養培地または洗浄培地を脂質膜結合生体構造から除去し、凍結保存培地をペレットに直接添加して脂質膜結合生体構造を再懸濁し、新しい懸濁液を保存のために極低温まで冷却する。1つの態様では、凍結保存培地と脂質膜結合生体構造ペレットの体積比は、10:1~約10,000:1である。
【0052】
1つの態様では、凍結保存培地と比較的体積の大きい組織またはその他の膜結合生体構造の体積比は、約1:1~約10:1である。
【0053】
1つの態様では、凍結保存される脂質膜結合生体構造を、培地中に存在する第1および第2の粒子または巨大分子が脂質膜結合生体構造によって完全に拡散するのに十分な時間、凍結保存媒体と接触させる。このように処理された脂質膜結合生体構造は、保存のために極低温まで冷却される。
【0054】
1つの態様では、処理された脂質膜結合生体構造を、約-70℃~約-273℃の間の温度に冷却して、脂質膜結合生体構造を凍結させる。1つの態様では、処理された脂質膜結合生体構造を、約-196℃~約-70℃、または約-120℃~約-80℃の温度まで冷却して、脂質膜結合生体構造を凍結させる。1つの態様では、凍結保存培地と脂質膜結合生体構造を室温で約30分~約120分間接触させた後、冷却する。
【0055】
いくつかの実施形態では、冷却は、約0.01℃/分~約1000℃/分の速度、または約0.1℃/分~約100℃/分の速度、または約0.5℃/分~約1℃/分の速度、または約1℃/分~約5℃/分の速度で生じる。いくつかの態様では、冷却は、脂質結合生体構造を凍結保存培地と接触させた直後に行われる。
【0056】
任意選択で、冷却ステップの前に、脂質膜結合生体構造をまず約-18℃~約-25℃の温度で、ある期間凍結することができる。この期間は、脂質膜結合生体構造または比較的大きなサイズを確実に完全に凍結させるのに十分な長さであるが、その構造および/または生存率に悪影響を与えるほど長くはない。期間は、約6時間または約12時間~1週間以上まで可能であるが、必ずしもそれに限定されるものではない。
【0057】
本明細書に開示される方法では、冷却後、脂質膜結合生体構造は、約-70℃~約-273℃の間の温度で維持(保存)される。
【0058】
上で論じたように、冷却中に、凍結保存培地中の水は、脂質膜結合生体構造の脂質膜の外表面に立方体氷を形成する。したがって、凍結した脂質膜結合生体構造は、約-70℃~約-85℃の温度で少なくとも3週間の期間、維持した場合に実質的に無傷のままである。1つの態様では、期間は少なくとも1年である。
【0059】
1つの態様では、脂質膜結合生体構造は複数の細胞を含み、凍結された複数の細胞の解凍後の生存率は、冷却前の生存細胞の総数の約60%、または約75%、または約80%、または約90%以上である。
【0060】
1つの態様では、脂質膜結合生体構造は、真核細胞または原核細胞を含む。真核細胞は、哺乳類細胞、植物細胞、昆虫細胞、またはそれらの組み合わせであってもよい。哺乳類細胞は必ずしも限定されず、たとえば、ヒト細胞、マウス細胞、ブタ細胞、ウシ細胞、イヌ細胞、ネコ細胞、またはそれらの組み合わせが挙げられる。哺乳類細胞として、幹細胞、脂肪細胞、体細胞、生殖細胞、クロム親和性細胞、真皮細胞、上皮細胞、神経前駆細胞、胚性幹細胞、多能性幹細胞、赤血球、白血球、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0061】
1つの態様では、脂質膜結合生体構造は組織を含む。組織は生体または生体人工真核生物組織である。真核生物組織は、哺乳類組織であってもよい。哺乳類の組織には、たとえば、ヒト組織、マウス組織、ブタ組織、ウシ組織、イヌ組織、ネコ組織、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0062】
1つの態様では、解凍後の凍結組織の生存率は、細胞透過性凍結保護剤を含む凍結保存培地と接触させた同じ凍結組織の生存率よりも高い。
【0063】
本開示は、非常に緻密な球状で親水性の高いフィコール70とコンドロイチン硫酸の使用を組み合わせる。これらを組み合わせて使用すると、
図1に示すように、仮説上不可欠な物理的および生物物理学的作用メカニズムとともに、ナノスケールと細胞レベルの両方で氷形成メカニズムを根本的に変化させる。
【0064】
図1に示すように、それぞれ第1の凍結保護粒子または巨大分子10(たとえば、フィコール70)は、その表面付近でのナノスケールの立方体氷30の形成を促進する。第1の凍結保護粒子または巨大分子10は、ほぼ完全な球形およびナノメートルサイズの粒径(たとえば、粒径(直径)約10nm)を有し、非常に緻密で、かつ高い親水性を有するなどの独特の特徴の組み合わせを有し、ナノスケールの立方体氷構造をもたらす。私たちの知る限り、そのようなナノスケールの立方体氷構造は、他の種類のポリマーを使用する他のすべての既存の凍結保護培地には存在しない。
【0065】
第2の凍結保護粒子または巨大分子20 (たとえば、コンドロイチン硫酸)は、細胞の原形質膜と第1の凍結保護粒子または巨大分子10の間の接続を改善するだけでなく、第1の凍結保護粒子自体の間の接続も改善する「接着剤」または「コネクター」として機能し、それによって、細胞の表面近くに細胞原形質膜と第1の凍結保護粒子または巨大分子で構成される特別なネットワークが形成される。この第1および第2の凍結保護粒子または巨大分子の独自の組み合わせと使用により、細胞膜が第1の凍結保護粒子または巨大分子の表面近くに形成されるナノスケールの立方体氷の結晶のみに接触する可能性が大幅に増加する。したがって、細胞原形質膜は、第1の凍結保護粒子または巨大分子10の表面から遠く離れたところに位置する大きな六角形氷晶40によって損傷を受ける傾向が少ない。その結果、細胞膜は凍結中に十分に保護され、膜の外側のナノスケールの氷の形成は細胞内に氷の形成を導入しないか、または誘導された細胞内氷の結晶のサイズと数が、膜の外側にあるナノスケールの立方体氷晶のサイズと数よりもはるかに少ないかのいずれかである。そのため、細胞内成分も効率的に保護される。
【0066】
第1および第2の凍結保護粒子または巨大分子の併用の作用メカニズムを、具体例としてフィコール70およびコンドロイチン硫酸分子を使用して、以下でさらに詳細に説明する。
【0067】
凍結保存に使用される他の巨大分子との大きな違いとして、フィコール70は水溶液中では完全に近い球形を形成し、非常に緻密な構造をとる。有利なことに、フィコール70が有する特殊な構造と親水性の高い表面(すなわち、高度に分岐したスクロースネットワーク)が、凍結中にナノスケールの立方体氷の形成を促進することが有利に発見された。
【0068】
純水の状態図によれば、1気圧では-100℃以下の温度でのみ立方体氷が形成される。1気圧より大幅に低い圧力では、水は-100℃を超える温度で立方体氷を形成することができる。フィコール70の巨大分子が水中に存在すると、フィコール70分子の表面近くの比較的高温(たとえば、-80℃以上)でナノスケールの立方体氷の形成が達成されうる。この効果は、
図2Aおよび2Bに示すように、10%フィコール70を含む培地の凍結割断サンプルのレプリカの極低温X線回折および透過型電子顕微鏡を使用した実験から得られた結果によって証明されている。
【0069】
Uchidaら、2010(Uchida T、Takeya S. Powder X-ray diffraction observations of ice crystals formed from disaccharide solutions. Phys Chem Phys. 2010 Dec 7;12(45):15034-9)の報告では、極めて高濃度(およそ50% w/v)の二糖類(たとえば、スクロースおよびトレハロース)を含む溶液を比較的高い冷却速度(たとえば、数百度/分)で凍結すると、低温の水中でのそれらの溶解度限界により糖類分子が自発的に沈殿し、システムのエネルギーを最小限に抑えるため、自発的にナノスケールの球状粒子を形成することが報告されている。
図2Aに示すように、フィコールリッチ培地のX線回折パターンと同様のX線回折パターンが、ナノスケールの顆粒糖粒子を含む凍結溶液で発見された。しかしながら、これらの同じ溶液をより遅い冷却速度(たとえば、細胞および組織のゆっくりとした凍結手順に使用されるように、毎分1度)で冷却すると、それらのナノスケールの球状構造は形成されず、代わりに同じ溶液中で正六角形氷の形成のみが検出された。このような高濃度の小分子糖の使用は、ほぼすべての種類の細胞に致死的な浸透圧損傷を引き起こし、これは実用的な凍結保存アプローチではない。
【0070】
一方、特定のナノ構造では立方体氷が形成されることが予測されている(Davies MB、Fitzner M、Michaelides A. Routes to cubic ice through heterogeneous nucleation. Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Mar 30;118(13):e2025245118)。しかしながら、通常の物質(半球状のタンパク質など)の表面はナノスケールで凹凸があること、および/またはそれらの分子は比較的緩く、フィコール70分子ほど緻密ではないこと、および/または表面がフィコール70ほど親水性ではないこと、および/または溶解度が非常に低いことなどの複数の影響要因により、結果として得られる氷の構造は一般にハイブリッドであるか、関連する粒子または巨大分子の溶解度が低いために立方体氷の部分が最小限すぎる。したがって、本発明の培地の組成および方法によって有利に発見されたものは、フィコール70分子によって生成される独特の氷形成機構である。
【0071】
理論に制限されることなく、特定の表面修飾(たとえば、糖分子との結合)の有無にかかわらず、他の人工球状ナノ粒子(たとえば、高度に球形の有機または無機ナノ粒子)も、親水性と溶解性が十分に高ければ、フィコール70と同様の効果が得られる場合もある。非常に緻密な球状の多糖分子(たとえば、ポリトレハロースおよびポリマンニトール)も同様の効果を達成できる可能性がある。既存の多糖類については、ほぼすべての種類が水に溶解すると緩い構造を形成するか、または不規則な形状であるが、さまざまな分子量のデキストランは例外として長い棒状構造を形成し、これは、立方体氷の形成を促進するのに適していない。一方、フィコール400(分子量約400kDaのポリスクロース)は、もう1つの非常に緻密で球状のポリスクロースタイプの一例であるが、フィコール70よりも直径がはるかに大きいため、表面張力が低下し、効率が低くなる。
【0072】
しかしながら、上記のナノスケールの立方体氷形成現象はフィコール70の表面付近に局在しており、六角形氷はフィコール70分子の表面から比較的離れた距離で形成され、依然として凍結フィコール70溶液中で支配的であり、
図2Aに示すように、凍結フィコール70溶液のX線回折によって観察される主要なTE111ピーク(立方晶氷に典型的)は、主に立方晶氷がナノスケールの結晶サイズによるX線に匹敵する強い回折強度を生成するという事実によるものである。したがって、フィコール70単独の使用では不十分であり、フィコール70溶液に懸濁された細胞は六角形氷によって損傷を受ける可能性が高くなる。
【0073】
コンドロイチン硫酸は細胞膜に対して高い親和性を有し、細胞膜と他の有機物質との接着を大幅に増加させる。コンドロイチン硫酸は、組織スキャフォールドへの細胞の接着を促進するために組織工学でも頻繁に使用されている。コンドロイチン硫酸は、二糖の繰り返し単位を有し、高度に分岐したショ糖ネットワークによって形成された表面を持つフィコール70との自然な親和性も備えている。したがって、フィコール70水溶液に十分な濃度のコンドロイチン硫酸を添加すると、
図1に示されているように、細胞膜がフィコール70分子に結合する機会と確率が大幅に増加し、同時にフィコール分子同士が結合してネットワークを形成する。蛍光顕微鏡検査法単語帳を用いた
図3に示す結果は、この新規作用機序を裏付ける。
【0074】
その結果、凍結中、この新たに発見された作用メカニズムは、フィコール70巨大分子に近接する細胞膜付近での六角形氷の形成を効率的に防止する。一方、細胞内の氷は一般に細胞外の氷によって導入され、細胞内氷晶のサイズは常に細胞外氷晶のサイズよりもはるかに小さいため、高濃度の細胞内巨大分子(凍結前の哺乳動物細胞では約30%~50%v/vであり、凍結中の細胞内水分の損失により大幅に増加する)の存在により、細胞膜近くのナノスケールの立方体氷の形成が細胞内の氷の形成を妨げる役割を果たす。このシナリオで誘導された細胞内氷が形成されたとしても、そのような結晶氷のサイズは細胞膜の外側のナノスケールの氷構造よりもはるかに小さく、細胞内小器官や細胞の超微細構造に損傷を与えないか、無視できる程度である。したがって、フィコール70とコンドロイチン硫酸の両方を水性媒体中で十分な濃度で組み合わせて使用すると、細胞膜と細胞内構造の両方に適切な保護が提供され、それによって解凍後の生存率が向上する。
【0075】
このような凍結保存培地の効率は、特にコンドロイチン硫酸の存在によって寄与される他のいくつかの有益な要因によるものであるとも考えられる。これらの要因として、特定の生物物理学的影響(たとえば、凍結中の細胞内水の損失など)による細胞死を減少させる抗アポトーシス剤としてのコンドロイチン硫酸の役割;プロテオグリカンとヒアルロン酸の細胞合成を刺激し、これにより適切な構造と機能が刺激され、凍結損傷が軽減される、コンドロイチン硫酸の役割;および/またはさまざまなメカニズムを通じて細胞の損傷プロセスを遅らせるコンドロイチンの役割;が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
本開示は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは限定的なものではない。
【実施例1】
【0077】
凍結割断サンプルのレプリカの極低温X線回折および透過型電子顕微鏡検査による、フィコール70を含む培地中のナノスケール立方体氷の検出
比較的高濃度のフィコール70を含む培地中でナノスケールの立方体氷が形成されることは、独特の凍結保護メカニズムとして、極低温X線回折と透過型電子顕微鏡の両方の結果によって実証される。
【0078】
10%フィコール70水溶液を含む標準サンプルホルダーを、最初に-80℃までゆっくりと凍結させ、次に、Holmら、2004(Holm A P、Pecharsky V K、Gschneidner K A、Rink R、and Jirmanus M N、X-ray powder diffractometer for in situ structural studies in magnetic fields from 0 to 35 kOe between 2.2 and 315 K、Rev. Sci. Instrum. 2004 75:1081)によって記載されたプロトコルに従い、同じ装置システムを使用して極低温X線回折チャンバーで検査した。
図2Aに示すように、-80℃でのX線回折(線A)の検出により、立方体氷の形成に特徴的な主要なTE111ピークが実証され、立方体氷の結晶のサイズにより、ナノスケールの結晶サイズによるX線の波長に匹敵する強い回折強度が生成される。対照的に、10% DMSO水溶液、または10% DMSOと10% PVPまたはPEG水溶液の場合、同じ手順に従った回折パターン(線B)は、正六角形氷からの回折パターンとほぼ同じであり、支配的なTE111ピークがなかった。
【0079】
10%フィコール70水溶液を含む凍結割断用標準サンプルホルダーを最初に-80℃までゆっくりと凍結させ、次に、標準凍結割断レプリカサンプル調製システム(Leica EM ACE900)に移した。金およびニッケルのナノ粒子を用いて割断面のレプリカを作製した。次に、レプリカを通常の透過型電子顕微鏡を使用して分析した。10,000倍の増幅では、フィコール分子とナノスケールの氷の混合物(
図2Bの11と11')によって分離された六角形氷晶(
図2Bの12と12')の構造が明確に明らかになった。そして、11または11'におけるさらなる増幅により、フィコール分子がより微細な氷構造に囲まれていることが実証され、これは、
図2Aに示すX線回折実験の結果から決定された立方体氷である。
【0080】
これらの研究は、通常の水溶液では物理的に不可能である、1気圧、-100℃以上の温度で表面付近に立方体氷を形成するフィコール70分子の独特の作用メカニズムと、フィコール70培地がそれらを互いに分離することによって六角形氷の再結晶化を防ぐことを説明し、Hanら、2017(Han X、Yuan Y、and Roberts R.M. 2017. Cryopreservation Medium and Method to Prevent Recrystallization、PCT/US2017/032606)およびYuanら、2016(Yuan Y、Yang Y、Tian Y、Park J、Dai A、Roberts RM、Liu Y、Han X. Efficient long-term cryopreservation of pluripotent stem cells at -80℃. Nature、Scientific Reports. 2016 6:34476)によって実証された熱研究の基礎となるメカニズムを説明する。
【実施例2】
【0081】
コンドロイチン硫酸Aナトリウム塩分子がフィコール 70 分子と細胞膜間の親和性を大幅に促進することを示す蛍光顕微鏡検査
フィコール70水溶液(DMEM)に十分な濃度のコンドロイチン硫酸を添加すると、細胞膜がフィコール70分子に結合する機会と確率が増加し、同時にフィコール分子同士が結合してネットワークを形成する機会が増加する。このユニークなメカニズムを実証するために、蛍光顕微鏡実験が行われた。
【0082】
フィコール70のフルオレセインイソチオシアネート型(FITC-フィコール70)を購入した。網膜色素上皮(RPE)細胞シートを、DMEM培地に基づく以下を含む4つの異なる溶液と組み合わせた:(A)20%w/vレギュラーフィコール70、(B)20%フィコール+0.01%FITC-フィコール、(C)20%フィコール+0.01%FITC-フィコール+2.5%コンドロイチン硫酸Aナトリウム塩、および(D)20%フィコール+0.01% FITC-フィコール+5%コンドロイチン硫酸Aトリウム塩。細胞シート表面付近のFITC蛍光強度を測定した結果を
図3に示す。
【0083】
図3に見られるように、ほんの短時間(15分)後、5%コンドロイチン硫酸を含む溶液は細胞表面へのFITC-フィコールの付着を大幅に促進した。したがって、この実験は凍結保存培地の作用メカニズムを解明し、
図1に示す仮説を検証した。その結果、凍結中、この新たに発見された作用メカニズムは、フィコール70巨大分子に近接する細胞膜近くの正六角形氷の形成を効率的に防止する。一方、細胞内の氷は一般に細胞外の氷によって導入され、細胞内の氷晶のサイズは常に細胞外の氷晶よりもはるかに小さいため、高濃度の細胞内巨大分子(凍結前の哺乳動物細胞では約30%~50%v/vであり、凍結中の細胞内水分の損失により大幅に増加する)の存在により、細胞膜近くでのナノスケールの立方体氷の形成は、細胞内の氷の形成を阻止する役割を果たすはずである。したがって、水性媒体中でフィコール70とコンドロイチン硫酸の両方を組み合わせて使用すると、細胞膜と細胞内構造の両方に十分な保護を提供することができるため、解凍後の生存率が向上する。
【実施例3】
【0084】
本発明の培地が凍結中の細胞内氷の形成を防止することを実証する極低温顕微鏡検査
細胞密度108個/ml(細胞の総体積対培地の総体積は、約1:2である)のSf9細胞(標準的な昆虫細胞株)を、20%w/vフィコール70と5%コンドロイチン硫酸Aナトリウム塩(A)、10%v/v DMSOと10%v/v FBSを含むEX-CELL培地(B)、およびEX-CELL単独(C)をそれぞれ含む通常培地EX-CELL培地に懸濁した。細胞懸濁液サンプルを標準的な極低温顕微鏡(Linkam、英国)の凍結チャンバーにロードし、1 K/分の冷却速度で0℃から-196℃まで冷却した。本発明の培地(A)と通常の凍結保存培地(B)はどちらも、通常、極低温顕微鏡で見ると細胞外の氷領域よりもはるかに暗い細胞内の氷の形成を防ぎ、一方、培地に凍結保護剤が含まれていない場合(C)、この手順では重度の細胞内氷が発生した。A中の氷晶も、B中の氷晶よりもはるかに小さいが、本発明の培地では、実施例2に示すメカニズムによって六角形氷晶のサイズが大幅に減少した。
【実施例4】
【0085】
-80℃および液体窒素温度の両方におけるSf9細胞の凍結保存における本発明の培地の有効性
実施例3の細胞懸濁液もクライオバイアルに移し、2、4および8週間保存するために、通常の実験室用冷凍庫または液体窒素タンク内で-80℃で凍結した。処理は、20%w/vフィコール70と5%コンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含むEX-CELL培地(A)、10%v/v DMSOと10%v/v FBSを含むEX-CELL培地(B)およびEX-CELL単体(C)であった。標準自動セルカウンター(Countess II)とトリパンブルーアッセイで測定した解凍後の生存率の結果を、-80℃(
図5A)および液体窒素温度(
図5B)での保存について
図5に示す。明らかに、Sf9細胞の場合、本発明の培地は両方の保存条件で通常の凍結保存培地を使用した場合と同様の効率を達成したが、凍結保護剤を含まない培地を使用した場合には、観察された細胞生存は無視できる程度であった。以下の実施例で実証されるように、従来の方法を使用すると、Sf9細胞は-80℃で長期凍結保存することができるが、他のほとんどの細胞およびすべての組織は不可能である。
【実施例5】
【0086】
-80℃でのヒト脂肪幹細胞の凍結保存における本発明の凍結保存培地の有効性
20%w/vフィコール70および5%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含む凍結保護培地中で-80℃にてヒト脂肪由来間葉系幹細胞を長期保存し、10%DMSOおよび10%ウシ胎児血清を含む従来の培地と比較した。
【0087】
ドナーからのヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hASC)を継代し、hASCの標準的な培養プロトコルに従って十分な数の播種細胞培養フラスコを生成した。細胞を遠心分離管に移し、遠心分離により細胞ペレットを形成し、上清を除去した。ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地に20%w/vフィコール70と5%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウムを含む凍結保存培地を、細胞透過性凍結保護剤を含まずに細胞ペレットに直接添加して、約10
6細胞/mlの細胞密度(細胞の総体積対培地の総体積は、約1:200である)を有する新たな懸濁液を形成した。新たな懸濁液を標準のクライオバイアルに等分した。次に、クライオバイアルを、標準的な冷却ボックスを使用して通常の実験室用冷凍庫内で約1℃/分の冷却速度で-80℃まで冷却し、-80℃の冷凍庫で2か月間保存した。凍結バイアルを37℃のウォーターバスで解凍し、トリパンブルー排除に基づいた標準的な自動細胞計数装置を使用して解凍後の生存率を測定した。比較として、同じドナーからの細胞を、10%v/v DMSOと10%v/vウシ胎児血清を含む標準培地である従来の凍結保存培地、または20%w/vフィコール70のみを含むDMEMを使用して調製した。本発明の凍結保存培地を使用して得られた解凍後の生存率が大幅に改善されたことが
図6Aに示される(黒色のバー)。
【0088】
図6Aに示すように、20%w/vフィコール70および5%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含む凍結保護培地を使用した場合、80%を超える生存率が観察された。比較すると、10%DMSOと10%ウシ胎児血清を含む従来の培地を使用した場合、わずか約20%の生存率しかなく、20%w/vフィコール70単独を使用した場合も約20%の生存率しかなかった。
図6A参照。
【0089】
凍結保護培地を使用した処理からの解凍細胞も効率的に増殖し、
図6Bに示すように脂肪生成を発現した。したがって、20%w/vフィコール70と5%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含む凍結保護培地は、-80℃でのhASCの長期保存を効率的に可能にし、細胞の生存率と多能性を維持する。10%DMSOと血清を含む従来の培地は、液体窒素施設での長期保存で同様の効率を可能にしたが、このようなアプローチは、ここで説明するように、細胞に損傷を与える再結晶化が起こるため、-80℃での保存には適していない。
【実施例6】
【0090】
-80℃でのウシクロム親和性細胞の凍結保存における本発明の凍結保存培地の有効性
20%w/vフィコール70と5%または10%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩のいずれかを含む凍結保存培地を使用したウシ初代クロム親和性細胞の-80℃における効率的な長期保存と、10%DMSOと10%ウシ胎仔血清を含む従来の培地とを比較した。
【0091】
ウシ初代クロム親和性細胞は、ウシ副腎から単離された。実施例1に記載したものと同じ手順を使用して、細胞を以下のように保存した:(A)20%w/vフィコール70と5%コンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含むDMEM;(B)20%w/vフィコール70と10%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含むDMEM;(C)従来の培地(10%DMSOおよび10%血清を含むDMEM);(D)コントロール培地(DMEMと20%w/vフィコール70);および(E)10%w/v フィコール70と5%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含むDMEM。保存温度は-80℃であり、保存期間は4か月であった。本発明の培地を使用することにより解凍後の生存率が大幅に向上したことが
図7に示される(2本の黒いバー)。結果は実施例5と同様であった。
【0092】
20%w/vフィコール70と5%または10%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩のいずれかを含む凍結保存培地で保存されたウシ初代クロム親和性細胞は、70%を超える生存率を示し、10%w/vフィコール70と5%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含む培地保存された細胞は、約30%の生存率を示した。一方、10% DMSOと10%ウシ胎仔血清を含む従来の培地で保存された細胞は、約20%の生存率を示し、20%w/vフィコール70のみを含む培地で保存された細胞は、約10%の生存率を示した。
【実施例7】
【0093】
-80℃でのヒト皮膚移植片、ヒト角膜輪部組織、ウシ副腎組織凍結保存における本発明の凍結保存液の有効性
ドナー組織の凍結保存のための本発明の培地(20%w/vフィコール70および5%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含むDMEM)の使用効率を評価した。
【0094】
特に、7人の異なるドナーからのヒト皮膚移植片の凍結保存に対する本発明の媒体の効率を試験した。各皮膚移植片は0.5mmの中間層厚さを有した。各組織(サイズ約10cm×10cm)を滅菌凍結バッグ内で2倍量の本発明の培地と混合した。充填された凍結バッグを、まず-20℃の冷凍庫で一晩冷却し、その後-80℃の冷凍庫に移して保存した。-80℃で1か月間保存した後、7人の異なるドナーからの皮膚移植片の解凍後の機能を標準的なPrestoBlueアッセイによって分析し、組織の品質を標準的なTUNEL染色によって評価し、組織の超微細構造を透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察した。同じドナーからの同様の組織も、比較のために従来のアプローチとして、リンゲル液に15%グリセロールを含む標準培地で凍結した。結果を
図8A~8Cに示す。試験結果は、本発明の培地によって提供される凍結保護が、高濃度のグリセロールを含む従来の培地よりも有意に優れている(細胞アポトーシスおよび超微細構造損傷の低減)か、または同等である(細胞数)ことを示す。
【0095】
本発明の培地(20%w/vフィコール70と5%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含有するDMEM)を、-80℃での輪部組織の凍結保存に対するその効果について評価した。2組の適格なヒト角膜が、角膜輪部幹細胞(LSC)移植の専門知識を持つワシントン大学の外科チームに送られた。各角膜対について、1つの角膜を放射状に4つの切片(4分割)に切断し、各四分割を、本発明の培地10mlを含有する標準の無菌の15ml冷凍バイアル(Nalgene(商標))中に個別に凍結保存した。同じ対の他の角膜については、コントロールとして5% DMSOと10% FBSを含む標準 DMEM培地で4分割を個別に凍結保存した。組織も最初は-20℃で一晩凍結し、その後、-80℃で1週間または1か月間保存した後解凍した。解凍後、各角膜の4分割について、4部分の1つをTUNEL染色用に標準固定液で固定し、4分割のもう1つを透過型電子顕微鏡(TEM)用に固定し、解凍した組織からのLSCの増殖を決定するためのインビトロ培養のために、残りの2つを放射状にそれぞれ3分割に切断した(合計2x3=6個)。
【0096】
-80℃で1週間保存した後、LSCの増殖は2つのグループで同様であったが、1か月後、LSCの増殖は本発明の培地で凍結保存したグループでより顕著であった。特に、各グループの6つの組織片の評価では、7日間培養後、本発明の培地を使用したグループの6/6がLSCの増殖を達成したのに対し、DMSO+FBSグループでは3/6がLSCの増殖を達成した。理論に制限されるものではないが、この違いは、発明されたプロトコルが有毒なDMSOの使用を含まないという事実による可能性があると考えられている。
図9は、本発明の凍結保存培地を使用した、-80℃で1か月間のヒト輪部組織の凍結保存についての代表的な結果を示す。
図9A:解凍後の組織からの輪部幹細胞の増殖を示す代表的な画像。
図9B:よく分化した細胞を示す細胞染色(CK3に対するAE5抗体)の代表的な画像。
図9C:解凍した組織のTUNEL染色を示す代表的な画像であり、正常な角膜輪部構造と細胞の健康状態(アポトーシス細胞がほとんどない)を示す。
図9D:凍結保存後の正常なLSC超微細構造を示す代表的な透過型電子顕微鏡法。
【0097】
神経内分泌組織(たとえば、膵島)の凍結保存の臨床的価値を考慮して、副腎の髄質組織の長期保存における本発明の培地の効率を評価し、膵島の移植における本発明の培地の将来的採用への道を切り開く。副腎の髄質を各辺約2mmの小片に加工した。約30~40個のサンプルを、保存培地として本発明の培地10mlを含む1つの15mlクライオバイアルに、またはコントロールとして10%DMSOおよび10%FBSを含む組織培養培地10mlを含む1つの15mlクライオバイアルに移した。クライオバイアルは、まず-20℃で一晩凍結し、その後-80℃の冷凍庫に移して保存した。-80℃で1年間保存した後、TUNEL染色によって組織の品質を分析し、微小電気化学的微小電極を使用した単一小胞カテコールアミン放出の検出によってクロム親和性細胞の機能を評価した。典型的な結果を
図10A~Bに示す。
【0098】
図に示すように、コントロールグループ(
図10B、従来の培地を使用した場合)の解凍後の細胞生存率は低く、組織構造は大幅に損傷を受けており、カテコールアミン放出の検出可能なシグナルはない。対照的に、本発明の培地を使用した処理(
図10A)は、組織構造、細胞生存率および機能性をよく保存した。この研究は、組織の長期保存におけるハイスループットの達成における本発明の凍結保存培地の有効性を実証した。
【実施例8】
【0099】
-80℃での分化iPSC由来の2D RPE組織および3D神経組織の例による生体人工組織の凍結保存における本発明の凍結保存培地の有効性
iPSC由来の生体人工組織の凍結保存における本発明の培地(20%w/vフィコール70と5%w/vコンドロイチン硫酸Aナトリウム塩を含むDMEM)の効率を評価した。上に示したように、標準的な15mlクライオバイアル(直径2.5cmおよび高さ5cm)と小さな組織を凍結するための本発明の培地を使用することの成功と簡単さを考慮して、iPSC由来組織にも、通常は円形で直径1cmである同じクライオバイアルを使用することに決定した。冷却手順には、本発明の培地10mlと組織1つを入れたクライオバイアルを-80℃の冷凍庫に直接取り付けることが含まれる。組織の冷却速度は、クライオバイアルの底部にある本発明の培地に熱電対を挿入することによって推定した(組織の密度は常に本発明の培地の密度より大きいため)。結晶化プロセスの典型的な温度範囲、すなわち、-1℃から-40℃の範囲内では、この方法によって測定された平均冷却速度は1~2℃/分の範囲であり、これは比較的小さな組織のための最適な冷却速度にも近い。加温/解凍プロセスには、凍結したクライオバイアルを37℃のウォーターバスに入れることが含まれ、加温速度は約10℃/分である。2D iPSC由来の分化したRPE組織と3D前駆細胞由来(ReNTM細胞)の分化した神経構造は、以下の標準プロトコルによって生成された。
【0100】
組織を、15mlの凍結バイアル中の10mlの本発明の培地または10%DMSOと10%FBSを含む従来の培地と一緒に、上記のように直接冷却し、-80℃の冷凍庫に保存した。2か月の保存後、RPE細胞およびReN細胞の標準染色および共焦点顕微鏡によって解凍後の生存率を評価し、代表的な結果を
図11A~11Bおよび
図12A~12Bに示した。本発明の培地を使用したグループ(
図11Aおよび12A)は、従来の培地グループ(
図11Bおよび12B)よりもはるかに高い生存率および組織品質をもたらし、非凍結コントロールと同等であった。
【0101】
本発明の培地を長期保存(たとえば、6か月および12か月)した場合の効率も調査する。
【0102】
あるいは、組成物、方法、および物品は、本明細書に開示される任意の適切な材料、ステップ、または構成要素を含む、それらからなる、または本質的にそれらからなることができる。組成物、方法、および物品は、組成物、方法、および物品の機能または機能の達成に必要のない材料(または種)、ステップ、または構成要素を含まない、または実質的に含まないように、追加的に、または代替的に配合することができる。
【0103】
本明細書に開示されるすべての範囲には終点が含まれており、終点は互いに独立して組み合わせることができる(たとえば、「最大25wt.%、より具体的には5wt.%~20wt.%は、終点の値と「5wt.%~25wt.%」の範囲のすべての中間値など」を含む)。「組み合わせ」には、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などが含まれる。「第1」、「第2」などの用語は、順序、量、または重要性を表すものではなく、ある要素を別の要素から区別するために使用される。「a」、「an」、および「the」という用語は、数量の制限を意味するものではなく、本明細書に別段の指示がある場合または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形と複数形の両方をカバーすると解釈されるべきである。特に明記されていない限り、「または」は「および/または」を意味する。本明細書で使用する場合、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、「含む(involving)」などの用語は、オープンな意味であると理解されるべきである。特に断りのない限り、「含む(including)」を意味するが、これに限定されない。本明細書で使用される「約」または「およそ」には、記載された値が含まれ、問題になている測定および特定の量測定に関連する誤差(すなわち、測定システムの制限)を考慮して当業者によって決定される特定の値の偏差の許容範囲内にあることを意味する。たとえば、「約」は、1つまたは複数の標準偏差以内、あるいは記載された値の±10%または±5%以内を意味する。あらゆる例、または例示的な文言(たとえば、「など」)の使用は、単に本発明をより良く説明することを意図しており、別段の請求がない限り、本発明の範囲を制限するものではない。明細書のいかなる文言も、特許請求されていない要素が本明細書で使用される本発明の実施に必須であることを示すものとして解釈されるべきではない。
【0104】
本明細書全体にわたる「態様」、「実施形態」などへの言及は、その実施形態に関連して説明される特定の要素が本明細書に記載される少なくとも1つの実施形態に含まれ、他の実施形態には存在することもあれば存在しないこともあるということを意味する。さらに、記載された要素は、さまざまな実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができることを理解すべきである。「それらの組み合わせ」は自由であり、列挙された構成要素または特性の少なくとも1つと、場合によって同様のまたは同等の構成要素または特性を含む任意の組み合わせが含まれる。
【0105】
本発明を例示的な実施形態を参照して説明してきたが、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな変更を行うことができ、その要素を等価物に置き換えることができることが理解されるであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を加えることができる。したがって、本発明は、本発明を実施するための最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を含むことが意図される。本明細書に別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、あらゆる可能な変形における上記の要素の任意の組み合わせが本発明に包含される。
【国際調査報告】