(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】水面下環境における地熱エネルギのスクリーニング、探索、および開発のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
F24T 50/00 20180101AFI20240314BHJP
E21B 43/00 20060101ALI20240314BHJP
F24V 50/00 20180101ALI20240314BHJP
【FI】
F24T50/00
E21B43/00 C
F24V50/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557770
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(85)【翻訳文提出日】2023-11-13
(86)【国際出願番号】 IB2022000131
(87)【国際公開番号】W WO2022214867
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522190421
【氏名又は名称】セジェージェー セルヴィシズ エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】クロスリー,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ボルトン,レベッカ
(72)【発明者】
【氏名】ハードマン,ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ドラム,エリシャ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ,マーク
(72)【発明者】
【氏名】ナッシー,モハンマド
(57)【要約】
海洋底の下にある地熱貯留層(1230)からエネルギを抽出するための地熱プラント(1600,1700,1800,2000)が、浮きプラットフォーム(1202)と、地熱貯留層(1230)内にさく井された井戸(1208)から浮きプラットフォーム(1202)まで延びるライザ(1240)と、ライザ(1240)の穴に設置される機械的作動部(1264)およびライザの外側に設置される電子部(1266)を有する電気ポンプ(1260)であって、地熱貯留層(1230)から浮きプラットフォーム(1202)へ地熱液体(1226)をポンピングするように構成された電気ポンプ(1260)と、浮きプラットフォーム(1202)上に設置され、かつ地熱液体(1226)によって生成された蒸気(1222)を使用して電力を生成するように構成された発電プラント(1210)を含む。電気ポンプ(1260)は、地熱液体(1226)が単相である場合にライザ(1240)の深さに配置される。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋底の下にある地熱貯留層(1230)からエネルギを抽出するための地熱プラント(1600,1700,1800,2000)であって、
浮きプラットフォーム(1202)と、
前記地熱貯留層(1230)内にさく井された井戸(1208)から前記浮きプラットフォーム(1202)まで延びるライザ(1240)と、
前記ライザ(1240)の穴に設置される機械的作動部(1264)および前記ライザの外側に設置される電子部(1266)を有する電気ポンプ(1260)であって、前記地熱貯留層(1230)から前記浮きプラットフォーム(1202)へ地熱液体(1226)をポンピングするように構成された電気ポンプ(1260)と、
前記浮きプラットフォーム(1202)上に設置され、かつ前記地熱液体(1226)によって生成された蒸気(1222)を使用して電力を生成するように構成された発電プラント(1210)と、
を包含し、前記電気ポンプ(1260)は、前記地熱液体(1226)が単相である場合に前記ライザ(1240)の深さに配置される、
地熱プラント(1600,1700,1800,2000)。
【請求項2】
前記浮きプラットフォームから前記地熱貯留層内まで延びる塩水パイプをさらに包含し、前記塩水パイプは、前記地熱液体からの塩水を前記地熱貯留層内または隣の地熱貯留層に吐出するように構成される、
請求項1に記載のプラント。
【請求項3】
前記塩水が専ら重力に起因して前記地熱貯留層内に流れることから前記塩水を前記地熱貯留層内にポンピングするポンプが存在しない、
請求項2に記載のプラント。
【請求項4】
前記浮きプラットフォーム上に設置され、前記塩水から前記蒸気を分離するように構成された分離器と、
前記電力を蓄電するように構成された蓄電ユニットと、
をさらに包含する、請求項2に記載のプラント。
【請求項5】
前記単相の地熱液体(1226)が2相の地殻流体(1220)になる位置(1228)より下の前記ライザ上に設置される切り替えバルブ(1622)と、
前記切り替えバルブ(1622)から前記浮きプラットフォームまで延びる補助ライザ(1610)と、
をさらに包含し、
前記単相の地熱液体は、前記切り替えバルブが第1の状態にあるときには前記ライザだけを通り、前記切り替えバルブが第2の状態にあるときには前記ライザの下側部分と、前記補助ライザを通って流れる、
請求項1に記載のプラント。
【請求項6】
前記切り替えバルブの状態を変更し、かつ前記電気ポンプを制御するように構成された計算装置、
をさらに包含する、請求項5に記載のプラント。
【請求項7】
前記地熱貯留層内に入るように構成され、前記ライザから離れて設置される重力供給管と、
前記重力供給管のヘッドに設置され、前記浮きプラットフォーム上に設置される計算装置によって指示されたときに、海洋水が専ら重力に起因して前記重力供給管内に入ることを可能にするように構成された重力供給バルブと、
をさらに、包含する、請求項1に記載のプラント。
【請求項8】
前記ライザ周りに三角形または六角形を形成するように分布される追加の重力供給管、
をさらに包含する、請求項7に記載のプラント。
【請求項9】
開いた塩水タンクであって、前記重力供給バルブが塩水タンクの完全に内側となるように海洋底上において前記重力供給管周りに配置されるように構成された塩水タンクと、
前記浮きプラットフォームから前記開いた塩水タンクまで延びる塩水パイプであって、前記地熱液体から分離された塩水を前記開いた塩水タンク内に吐出するように構成された塩水パイプと、
をさらに包含する、請求項7に記載のプラント。
【請求項10】
前記浮きプラットフォーム上に設置され、前記発電プラントによって使用された前記蒸気から水素および酸素を生成するように構成された電気分解ユニット、
をさらに包含する、請求項1に記載のプラント。
【請求項11】
前記浮きプラットフォーム上に設置され、前記電気分解ユニットによって生成された前記水素からアンモニアを生成するように構成されたアンモニア反応器、
をさらに包含する、請求項10に記載のプラント。
【請求項12】
塩水を受け取るべく流体接続される生け簀、
をさらに包含する、請求項11に記載のプラント。
【請求項13】
陸地と接続されて前記電力を送電するように構成された電気ケーブルと、
前記発電プラントによって使用された前記蒸気と流体接続され、海洋水との接触時に前記蒸気を真水に凝縮するように構成され、かつ前記陸地まで延びて前記真水を供給するように構成されたパイプと、
をさらに包含する、請求項11に記載のプラント。
【請求項14】
海洋底の下方に位置付けられた地熱貯留層(1230)からエネルギを抽出するための方法であって、
ライザ(1240)の第1の端部を前記地熱貯留層(1230)内にさく井された井戸(1208)内に配置すること(2100)と、
前記ライザ(1240)の第2の端部を浮きプラットフォーム(1202)に接続すること(2102)と、
前記ライザ(1240)の穴に設置される機械的作動部(1264)および前記ライザ(1240)の外側に設置される電子部(1266)を有する電気ポンプ(1260)を作動して、前記地熱貯留層(1230)から前記浮きプラットフォーム(1202)へ地熱液体(1226)をポンピングすること(2104)と、
前記地熱液体(1226)からの蒸気(1222)を使用し、前記浮きプラットフォーム(1202)上に設置された発電プラント(1210)を用いて電力を生成すること(2106)と、
を包含し、
前記地熱液体(1226)が単相である場合には、前記電気ポンプ(1260)は前記ライザ(1240)の深さに配置される、
方法。
【請求項15】
塩水パイプの第1の端部を前記地熱貯留層内に配置することと、
前記塩水パイプの第2の端部を前記浮きプラットフォームに接続することと、
前記地熱液体から分離した塩水を前記地熱貯留層内または隣の地熱貯留層に、前記塩水が専ら重力に起因して前記地熱貯留層内に流れることからポンプを伴わずに前記塩水パイプを通じて吐出することと、
をさらに包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記浮きプラットフォーム上に設置された分離器を用いて前記地熱液体の前記塩水から前記蒸気を分離することと、
前記浮きプラットフォーム上に設置された蓄電ユニットに前記電力を蓄電することと、
をさらに包含する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記単相の地熱液体(1226)が2相の地殻流体(1220)になる位置(1228)より下の前記ライザ上に切り替えバルブ(1622)を取り付けることと、
補助ライザ(1610)の一端を前記切り替えバルブ(1622)に、他端を前記浮きプラットフォームに接続することと、
をさらに包含し、
前記単相の地熱液体は、前記切り替えバルブが第1の状態にあるときには前記ライザだけを通り、前記切り替えバルブが第2の状態にあるときには前記ライザの下側部分と、前記補助ライザを通って流れる、
請求項14に記載の方法。
【請求項18】
重力供給管の一端を前記地熱貯留層内に、前記ライザから離して設置することと、
前記重力供給管のヘッドに重力供給バルブを設置し、専ら重力に起因して海洋水が前記重力供給管内に、かつ前記地熱貯留層内に入ることを可能にすることと、
をさらに包含する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
海洋底上において、開いた塩水タンクを前記重力供給管周りに、前記重力供給バルブが前記塩水タンクの完全に内側となるように配置することと、
塩水パイプの一端を前記浮きプラットフォームに、他端を前記開いた塩水タンクに接続することと、
前記地熱液体からの塩水を前記開いた塩水タンク内に吐出することと、
をさらに包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
海洋底上の、地熱貯留層を探索するための井戸をさく井する場所を推定するための方法であって、
前記地熱貯留層および前記地熱貯留層より上の海洋状態を示すデータ・セットを受信すること(900)と、
前記データ・セット内に表されている、前記地熱貯留層を示す複数のファクタを選択すること(902)と、
前記複数のファクタの各ファクタを、前記地熱貯留層の前記場所の前記井戸をさく井する望ましさを示す1つ以上の評価基準と関連付けすること(904)と、
前記複数のファクタの各ファクタに対し、前記地熱貯留層の前記場所の前記井戸をさく井する前記望ましさを表す前記1つ以上の評価基準に基づいて個別スコアを割り当てること(906)と、
前記個別スコアを単一の全体的なスコアに総計すること(908)と、
前記単一の全体的なスコアが所与の閾値より大きいとき、前記地熱貯留層の前記場所を選択すること(910)と、
を包含し、
前記複数のファクタは、地震活動、海洋地殻の年齢、沈殿物の厚さ、測深、波候、活動海洋底ベント、火山、および海山群を含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示されている発明事項の実施態様は、地熱資源に到達するために1つ以上の井戸をどこにさく井するかを決定するべく水底をスクリーニングするため、またそれらの地熱資源を最大に利用してそれらの熱エネルギをほかの形のエネルギに変換するための多様なシステムのためのシステムおよび方法に関係する。
【背景技術】
【0002】
地球内部の熱は、その多くの割合が、陸上および水面下環境の火山活動によって、また地殻および上に重なる地層を通る伝導、対流、および移流の組み合わせによって、地球のリソスフェアおよび地殻の伸張およびリフティング(これが、新たな海洋地殻の形成を導く)の間に解放される。この地熱は、二酸化炭素の放出を殆ど、またはまったく伴うことなく電気エネルギおよび熱エネルギを生み出すために利用することが可能である。
【0003】
沿岸においては、火山および活断層等の、電気エネルギの引き渡しのための地熱的に好ましい地質学的環境を含むエリアが制限される。それに加えて、これらのエリアの多くは、人口密度が高く、さらなる地熱開発の可能性を制限する。しかしながら、広く利用可能ではあるが加熱のためには低めの沿岸の地熱温度の利用は進歩しつつあるが、大量のグリーン電気エネルギを求める厖大なグローバル・ニーズを実現するには至らない。
【0004】
これらの欠点に取り組むために、火山または熱伝導の形式で利用可能な沖合の、すなわち海洋底の大きな地熱資源にアクセスする動きがある。しかしながら、火山は、時には大噴火および/または地震によって特徴付けされ、それらの地熱資源からの熱の抽出のために使用できるあらゆる産業施設に望ましくない。この利用可能な熱の利用に現在使用されている既存の熱伝導デバイスは、取るに足らないサイズのものであり、まだ初期の段階にある。このように、地熱を抽出するための産業施設を配置する場所を決定するための商業的に利用可能なシステムまたは方法が存在せず、また、地熱を抽出し、かつそれを別のタイプの、既存のエネルギ消費側によって容易に使用可能な、たとえば電気エネルギに変換することが可能な商業的に利用可能な産業施設も存在しない。
【0005】
以下に列挙するすべての刊行物の全内容は、参照によってこの特許出願に援用される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hiriart,G.(ハイリアート・G)、Prol-Ledesma R.M.(プロール・レデズマ・R・M)、Alcocer,S.(アルコサー・S)、およびEspindola,S.(エスピンドラ・S)著:「Submarine Geothermics;Hydrothermal Vents and Electricity Generation(サブマリン・ジオサーミクス;ハイドロサーマル・ベンツ・アンド・エレクトリシティ・ジェネレーション)」、Proceedings World Geothermal Congress 2010(プロシーディングス・ワールド・ジオサーマル・コングレス2010)、インドネシア、バリ、2010年4月25-29日
【非特許文献2】Hiriat,G.(ハイリアート・G)およびChavez,I.M.(チャベス・I・M)著:「Submarine geothermal generation(サブマリン・ジオサーマル・ジェネレーション)」、World Geothermal Congress 2021(ワールド・ジオサーマル・コングレス2021)、アブストラクト、2021年
【非特許文献3】Tjetland,G.(ジェトランド・G)2017著:「How can a ship be used to harvest energy? - Nor-Shipping 2022(ハウ・キャン・ア・シップ・ビー・ユーズド・トゥ・ハーベスト・エナジー? - ノア・シッピング2022)」(nor-shipping.com参照)
【非特許文献4】Schnell,J.(シュネル・J)、Hiriart,G.(ハイリアート・G)、Nichols,K(ニコルス・K)、およびOrcutt,J.(オーカット・J)著:「Energy from ocean-floor geothermal resources(エナジー・フロム・オーシャン・フロア・ジオサーマル・リソーセズ)」、2015年、www.oceangeothermal.org/wp-content/uploads/2015/05/OGEF-Energy-from-Ocean-Floor-Geothermal-Resources.pdf参照
【非特許文献5】Allsopp,M.(アルソップ・M)、Santillo,D.(サンティロ・D)、およびJohnston,P.(ジョンストン・P)著:「A scientific critique of oceanic iron fertilization as a climate change mitigation strategy(ア・サイエンティフィック・クリティク・オブ・オーシャン・アイアン・ファーティライゼーション・アズ・ア・クライメット・チェンジ・ミティゲーション・ストラテジー)」、Greenpeace Research Laboratories Technical Note 07/2007(グリーンピース・リサーチ・ラボラトリーズ・テクニカル・ノート07/2007)、2007年
【非特許文献6】Rosmorduc,V.(ロズモーダック・V)、2021年、www.learn-eo.org/monitoring Atlantic storms
【非特許文献7】Becker K.(ベッカー・K)、Fisher,A.(フィッシャー・A)、およびTsuji,T.(ツジ・T)著:「New packer experiments and borehole logs in upper oceanic crust:Evidence for ridge-parallel consistency in crustal hydrogeological properties(ニュー・パッカー・エクスペリメンツ・アンド・ボアホール・ログズ・イン・アッパー・オーシャニック・クラスト:エビデンス・フォア・リッジ・パラレル・コンシステンシー・イン・クラスタル・ハイドロジオロジカル・プロパティーズ)」,Geochem.Geophys.Geosyst.(ジオケム・ジオフィズ・ジオシスト)、14、2900-2915、doi:10.1002/ggge.20201、2013年
【非特許文献8】Sanyal S.K.(サニャル・K)、Morrow,J.M.(モロー・J・M)、およびButler,S.J.(バトラー・S・J)著:「Net power capacity of geothermal wells versus reservoir temperature ― a practical perspective(ネット・パワー・キャパシティ・オブ・ジオサーマル・ウェルズ・バーサス・リザーバー・テンパーチャ - ア・プラクティカル・パースペクティブ)」、Thirty-Second Workshop on Geothermal Reservoir Engineering(サーティ・セカンド・ワークショップ・オン・ジオサーマル・リザーバー・エンジニアリング)会報、スタンフォード大学、カリフォルニア州スタンフォード、2007年1月22-24日、SGP-TR-183、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、大量の地熱が利用可能かつ抽出可能な海洋底の場所を決定する能力を有する新しいシステムおよび方法、およびこの地熱を大規模に利用し、かつ発生させたエネルギを消費側に提供することが可能な産業施設またはプラントも必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある実施態様によれば、海洋底の下にある地熱貯留層からエネルギを抽出するための地熱プラントが提供される。前記地熱プラントは、浮きプラットフォームと、前記地熱貯留層内にさく井された井戸から前記浮きプラットフォームまで延びるライザと、前記ライザの穴に設置される機械的作動部および前記ライザの外側に設置される電子部を有する電気ポンプであって、前記地熱貯留層から前記浮きプラットフォームへ地熱液体をポンピングするように構成された電気ポンプと、前記浮きプラットフォーム上に設置され、かつ前記地熱液体によって生成された蒸気を使用して電力を生成するように構成された発電プラントを含む。前記地熱液体が単相である場合には、前記電気ポンプは前記ライザの深さに配置される。
【0009】
1つの実施態様においては、海洋底の下にある地熱貯留層からエネルギを抽出するための方法が提供される。前記方法は、前記地熱貯留層内にさく井された井戸内にライザの第1の端部を配置するステップと、前記ライザの第2の端部を浮きプラットフォームに接続するステップと、前記ライザの穴に設置される機械的作動部および前記ライザの外側に設置される電子部を有する電気ポンプを作動して、前記地熱貯留層から前記浮きプラットフォームへ地熱液体をポンピングするステップと、前記地熱液体からの蒸気を使用し、前記浮きプラットフォーム上に設置された発電プラントを用いて電力を生成するステップと、を含む。前記地熱液体が単相である場合には、前記電気ポンプは前記ライザの深さに配置される。
【0010】
さらに別の実施態様によれば、海洋底上の、地熱貯留層を探索するための井戸をさく井する場所を推定するための方法が提供される。前記方法は、前記地熱貯留層および前記地熱貯留層より上の海洋状態を示すデータ・セットを受信するステップと、前記データ・セット内に表されている、前記地熱貯留層を示す複数のファクタを選択するステップと、前記複数のファクタの各ファクタを、前記地熱貯留層の前記場所の前記井戸をさく井する望ましさを示す1つ以上の評価基準と関連付けするステップと、前記複数のファクタの各ファクタに対し、前記地熱貯留層の前記場所の前記井戸をさく井する前記望ましさを表す前記1つ以上の評価基準に基づいて個別スコアを割り当てるステップと、前記個別スコアを単一の全体的なスコアに総計するステップと、前記単一の全体的なスコアが所与の閾値より大きいとき、前記地熱貯留層の前記場所を選択するステップと、を含む。前記複数のファクタは、地震活動、海洋地殻の年齢、沈殿物の厚さ、測深、波候、活動海洋底ベント(はけ口)、火山、および海山群を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明のより完全な理解のために、次に挙げる添付図面と併せて以下の説明を参照する。
【0012】
【
図1】地球の内層およびそれらの層のうちのいくつかに貯められた大量の地熱エネルギの存在を示した略図である。
【
図2】多くの内熱が通って逃げる地球の海洋拡散中心を示した略図である。
【
図3】海洋拡散中心および海底ベントの場所を示す。
【
図4】陸上火山および水面下の海山群の場所を示すマップである。
【
図5】測深の等高線マップ上に示した地震規模4を超える水面下地震の震央を示したマップである。
【
図6】海洋底の沈殿物の厚さおよび断裂ゾーンおよび測深を示したマップである。
【
図7】地熱用地を探索するための海洋表面の合成開口レーダ画像を示したマップである。
【
図9】地熱貯留層に到達する井戸のさく井に好都合な海洋底の場所を選択するための方法を示したフローチャートである。
【
図10】沿岸の地熱地帯についての資源密度を示す。
【
図11A】海洋底のベント裸坑の構造を図式で示す。
【
図11B】枕状玄武岩用地内の高い自然浸水性を示すデータのグラフである。
【
図12】浮きプラットフォーム上に設置される発電プラントを使用する、地熱貯留層からの地熱液体からエネルギを抽出するように構成された地熱プラントの略図である。
【
図13】地熱貯留層から浮きプラットフォームへの地熱液体の移動に使用される電気ポンプのライザの内側および外側における場所を示す。
【
図14A】地殻流体が沸騰を開始するライザ内の深さの推定の水面下地熱資源モデルの図表である。
【
図14B】地殻流体が沸騰を開始するライザ内の深さの推定の水面下地熱資源モデルの図表である。
【
図15】産出指数として表現された多様な貯留層品質の単一沿岸地熱井戸についてのモデリングされた正味の電力容量の限界を示す。
【
図16】主ライザのデスケーリングを補助するための補助ライザを有する地熱プラントを示す。
【
図17】重力供給井戸を使用して地熱貯留層内の圧力を維持する地熱プラントを示す。
【
図18】地熱貯留層に塩水を戻すために重力供給井戸に供給される余剰塩水を使用する地熱プラントを示す。
【
図19A】主ライザ周りに重力供給井戸を分布するための多様な構成を示す。
【
図19B】主ライザ周りに重力供給井戸を分布するための多様な構成を示す。
【
図19C】主ライザ周りに重力供給井戸を分布するための多様な構成を示す。
【
図19D】主ライザ周りに重力供給井戸を分布するための多様な構成を示す。
【
図20】地熱貯留層から抽出されたエネルギを使用して多様な化学物質、鉱物、真水、および電気を生成する地熱プラントを示す。
【
図21】地熱貯留層から電気エネルギを産出するための方法を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の実施態様の説明は、添付図面を参照する。異なる図面の中の同一の参照番号は、同一または類似の要素を識別する。以下の詳細な説明は、本発明を限定しない。むしろ本発明の範囲は、付随する特許請求の範囲によって定義される。
【0014】
明細書全体を通じて、『1つの実施態様』または『ある実施態様』と言及するときは、実施態様に関連して説明される特定の特徴、構造、または特性が、開示されている発明の要旨の少なくとも1つの実施態様に含まれることを意味する。したがって、明細書全体を通じて随所に現れる『1つの実施態様においては』または『ある実施態様においては』という言い回しは、必ずしも同一の実施態様を参照しているとは限らない。さらに、特定の特徴、構造、または特性は、任意の適切な態様で1つ以上の実施態様の中で組み合わされることが許容される。
【0015】
ある実施態様によれば、地熱資源の利用のための最良のさく井場所について海洋底をスクリーニングするための新しい方法が提供される。別の実施態様によれば、1つ以上の産業施設(または、地熱プラント)が提供され、この地熱プラント(本明細書では、簡単に『プラント』と呼ぶ)が、地熱を抽出し、それを別の、消費のために既存の消費者へ引き渡すことが可能なエネルギ源に変換するべく設計される。
【0016】
図1に示すように、地球100の内部領域102、104は、大量の地熱エネルギを含んでいる。これらの熱の一部は、火山108を介して地球表面106へ逃げる。歴史的にみても陸上火山エリアは、今日までの地熱エネルギの商業利用の殆どのターゲットであった。熱の一部は、地球のリソスフェア110を通じた伝導によって表面106に向かって失われ、この熱源が、比較的低温の地熱エネルギ源として沿岸において利用され始めている。しかしながら、地球の内熱の多くは、
図2に示されているとおり、海洋拡散中心200を通じて、またより小さい程度で海底火山210を介して逃げる。本明細書では海洋拡散中心を、海洋底上の2つの分岐リソスフェア・プレートの間における境界を表すと理解する。これらの水面下の地熱エネルギ資源は、現在のところ、まったく未開発のまま残されている。本明細書では実施態様が海洋底に言及しているが、同じことが海の底、または湖の底にも当てはまることに留意すべきである。
【0017】
多様な研究論文が、おそらくは大量にあるカリフォルニア湾の一部の海底熱エネルギに注目しているが、これらの論文には、探索方法の提供はなく、またこれらの資源の利用方法の説明もない。非特許文献1には、海底発電プラントを設置することによって、そのエリア内の海底の活動ベントを利用するための方法が記述されている。地球規模の地熱エネルギに関する2011年のIPCCレポートは、海洋ベント用地における潜在的な海底地熱資源についてだけ言及し、それらの利用に適したテクノロジが存在しないことをコメントしている。カリフォルニア湾のベントのための潜在的な海底発電プラント・アプローチの記述は、非特許文献2においてより絞り込まれた。
【0018】
別の参考文献である非特許文献3は、海底発電プラントを介した、または浮体からの可能性のある利用とともに海洋地熱資源を使用する潜在的可能性を理論的に示した。しかしながら、この参考文献には、資源の規模をどのように評価するか、またそれをどのように探索するかについての記述がなく、これらの目的を達成する具体的な地熱開発および生産方法またはプラントの提案もない。
【0019】
より具体的な提案が非特許文献4によってなされ、天然のベントではなく、さく井された井戸が利用される。この提案は、超臨界の温度および圧力における地殻流体へのアクセスが可能であること、および海底に設置された超臨界タービンをそれらが駆動することを前提としている。しかしながら、3kmに達すると見られる深さの海洋底に超臨界タービンを備えることは、容易な努力ではなく、それらのメンテナンスは困難なものとなるであろう。また、所定量の超臨界流体の使用は、より冷たい流体より大きな力を引き渡すことが理論的に可能であるが、超臨界状態における潜在的な岩盤浸水性の問題、および圧力および温度の低下とともに超臨界流体が蒸気と液体に変化するときの腐食または湯垢の問題が有意であり、特に、深海底に設置されるテクノロジについては著しい。したがって、このテクノロジは、大規模な海洋底探索にとっての望ましい典型的様式であるようには見られない。
【0020】
石油およびガス会社、たとえばCGGは、地球科学および地下画像化における特定の専門知識を有していることから、この出願の譲受人、発明者は、既存の地熱資源を利用することが可能な、潜在的な井戸の最良の場所を決定するための方法を確立するべく、地熱資源に関する利用可能なデータと、すでに石油およびガス調査に関して生成済みの地震データとを組み合わせている。これに関して、発明者は、高温スポットを、それらの高温スポットを取り囲む地殻の高い浸水性との組み合わせにおいてターゲットとすることが、水面下環境における地熱資源の利用の経済的成功を保証することになるであろうと確信している。これに関して、この開示は、水面下地熱探索のスクリーニング、開発、および生産のための新規の方法を明らかにする。
【0021】
1つの実施態様においては、沿岸の地熱井戸とは対照的に、沖合の高温地熱井戸の流量は、ポンピングによって増加することが可能である。バルブ制御される重力供給を使用する新しい貯留層注入についても説明する。また別の実施態様では、探索、開発、または生産段階において働きが予想以下であった沖合地熱井戸を、安全な貯蔵および二酸化炭素を鉱化させるためにどのように使用することが可能であるかについて開示する。本明細書に論じられている1つ以上の実施態様は、組み合わせにより、これらの潜在的に規模および流量において大きな沖合地熱資源の開発を向上させることが可能であり、2050年までに二酸化炭素排出正味ゼロを目指す世界の目標を助けることになるであろう。
【0022】
この中で論じられている実施態様は、種々の市場環境において沖合グリーン地熱資源の価値を引き渡すことが可能ないくつかの方法を明らかにする:(1)海岸までの電力ケーブル、(2)加水分解を介した水素の生成、(3)水素からアンモニアへの変換、(4)バッテリ格納。このほかのテクノロジもまた、論じられる実施態様に基づいて使用することができる。1つの応用において、発明者らは、どのようにして沖合地熱発電の副産物に適切な市場環境における商業的可能性を持たせることができるかを示しており、それには、限定ではないが、次のことが含まれる:
【0023】
すべての電力が海岸へ送出されるか、またはバッテリに蓄電される場合には、凝縮可能な全蒸気量とする真水、または一部がグリーン水素の生成に使用される場合には残りの余剰の真水;
【0024】
有光ゾーン内に解放されて海洋の一次生産力を増加させる一方、自由な水域の水産業を増強するか、または水産養殖の持続を補助し、また単純な低コスト・テクノロジを使用する大気中の二酸化炭素の新たな削減という有益性を有する地殻流体の塩水養分;
【0025】
富栄養化を防止し、したがって自然の水産業を増強するか、またはケージで囲まれる水産養殖の開発を補助する塩水養分と並ぶ電気分解の酸素副産物の放出;および、
【0026】
一部の分野において正当な理由を引き出すに充分に過ぎるものとなり得る地熱塩水中の金属または化学物質の濃縮。
【0027】
沖合地熱電力資源の量は、非常に大きく、好ましい地理的環境において、その電力をセメントの低炭素製造のため、または鋼製造のために使用することができる。商業化への複数のルートと、それに加えたそれらの規模および潜在的『余裕』の組み合わせは、沖合地熱資源を、将来的な低炭素の地球規模の開発に対する貴重な貢献者とする好地位に置く。
【0028】
以下、沖合地熱探索のスクリーニングのための方法を論じる。この方法は、次に挙げる構成要素のマッピングおよび統合を伴う:
【0029】
海洋地殻の年齢、
【0030】
拡散中心、
【0031】
トランスフォーム断層、
【0032】
火山、
【0033】
海山群、
【0034】
地震活動、
【0035】
海洋底ベント、
【0036】
沈殿物の厚さ、
【0037】
沈殿物のタイプ、
【0038】
測深、および、
【0039】
波候。
【0040】
これらの構成要素のそれぞれに個別スコアが割り当てられた後に、それらの個別スコアが総計されて全体的なスコアが生成される。井戸の場所の選択は、この全体的なスコアに基づく。ここで、これらの構成要素のそれぞれについて論じ、その後、これらの構成要素の個別スコアを組み合わせて地熱探索のスクリーニングのための全体的なスコアを生成する方法について論じる。
【0041】
海洋地殻の年齢、拡散中心、およびトランスフォーム断層は、井戸をさく井するための最良の位置のスクリーニングに寄与する主要なファクタである。したがって、これらのファクタは、全体的なスコアの中でほかのファクタより重く重み付けすることができる。
図2に示されている海洋地殻の年齢のマップは、石油およびガス探索に関して収集されたデータに基づいて生成され、
図3に示されている海洋拡散中心200およびトランスフォーム断層310の新たなマッピングによって改善された。この出願においては、2つの海洋拡散中心を連結する活断層のゾーンの参照に『トランスフォーム断層』という用語が使用される。新しいマッピングは、最近の測深データおよび地震活動の統合されたArcGISマップを基礎とした。ArcGISは、Environmental Systems Research Institute(エンバイロメント・システムズ・リサーチ・インスティテュート)によって維持されているマップおよび地理情報を用いる作業のための地理情報システムである。このマッピングは、トランスフォーム断層にわたって並置される拡散中心と古い海洋底の間における年齢差を、マップ・ベースの熱的モデリング方法への入力に先行して定量化することを可能にする。
【0042】
図4には、海山群220とともに海洋火山210および陸上火山212が示されている。海洋底のもっとも若い部分230もまた、このマップ内に表されている。いくつかの沖合火山210の海中側面は、地熱探索の二次ターゲットを提供することができ、したがって活火山および潜在的休火山の分布が、多様な情報源(たとえば、海洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Agency)およびスミソニアン協会(the Smithsonian Institute))から編集され、ArcGIS内に統合された。この情報の統合のために、そのほかのソフトウエア・プラットフォームを使用することもできる。井戸をさく井するための場所のスクリーニングのための方法は、任意のソフトウエアおよび適切なハードウエアを使用してこの方法の実装が可能であることからソフトウエアおよび機械非依存であることに留意すべきである。
【0043】
いくつかの海山群は、認識されていない活火山または休火山を表していることがあり、したがって、地熱探索のための第3レベルのターゲットを提供する可能性がある。
図4に示されている海山群220の分布は、たとえば大洋水深総図(General Bathymetric Chart of the Oceans)(GEBCO;www.gebco.net参照)によって提供されているような測深グリッドから、また衛星により導出された重力異常の分布(Kim(キム)およびWessel(ウェッセル)著『New global seamount census from altimetry-derived gravity data(ニュー・グローバル・シーマウント・センサス・フロム・アルティマトリー・デライブド・グラビティ・データ)』、Geographical Journal International(ジオグラフィカル・ジャーナル・インターナショナル)186、615-631ページ、2011年)から編集された。
【0044】
地震活動は、井戸の場所に影響を及ぼすもう一つのファクタである。地殻内における対流および移流によって伝達される熱は、地殻内の比較的浅い深度下の地層およびその被覆岩の温度上昇において重要な役割を演ずることが可能である。地震活動の分布は、岩盤がどこで裂けているか、したがって熱い地熱流体が上る潜在的な浸水性経路の指標を提供する。
図5に、地震活動の震央500の分布を示すが、これは公に利用可能な情報源から編集された。
【0045】
沈殿物の厚さおよび沈殿物のタイプは、地下の地熱システムを冷たい海洋底の水からシールすること、したがって対流および移流による地熱貯留層の過剰な冷却の防止が補助可能であることを示すファクタである。沈殿物のタイプは、それのシール容量との関係を有することが可能である。また沈殿物の厚さおよび特性は、熱伝導による熱損失から地熱貯留層を遮断するそれの能力にも影響を及ぼし得る。いくつかの状況においては、数百メートルの沈殿物の存在が、初期さく井およびケーシングの設定の助けとなることが可能である。したがって、妥当な、たとえば3,000m未満の厚さを伴う良好な沈殿物は、井戸を選択するための全体的なスコアが計算されるときに高いスコアの寄与を有する。しかしながら、3,000mを超える沈殿物の厚さは、海洋地殻における地熱開発を実際的でないものにし得るが、この状況においては、沈積によって生じた地熱貯留層が沈殿物の柱の中に存在し得る。沈殿物の厚さの分布が主として内部情報源から編集され、
図6に示した。
【0046】
連続および一時的な海洋底ベントは、両方ともに多くの場合、熱い地熱流体が海洋地殻を通って上り、沈殿物が海底に放出される場所を示す。既知および未知のほぼ連続的な噴出ベントは、潜在的に生物学的および化学的研究にとって価値のある用地であり、かつ地熱システムを冷却することがありがちであるため、それらを回避することが可能となるようにマップする必要がある。いくつかのベントは探訪され、標本採集されており、したがってそれらの場所、流体温度、化学的性質、および流量は既知である。そのほかの存在は、海洋水柱のベント流体の化学的『フィンガープリント』から推論される。一般性は低いものの、栄養分に富む地熱流体の表面への流動は、衛星画像上に見られるほど大きな地表水における藻類異常発生をトリガする。
図7に示されている新しいマッピングは、地熱水の漏出の生物起源または無機化合物の海面表現を表すことができるスリックを検出する、重要なエリアにおける合成開口レーダの使用を示す。この識別に基づいて、対応する海洋底ベントが決定される。
図7は、海洋拡散中心200、多様なランクの漏出スリック710、および新しい未分類スリック720の軸を示している。なお、これらのスリックは、場合によっては地熱水の一時的な漏出を表すことがあり、したがってそれらは、水面下の地熱用地のための追加の探索ツールを提供する。この方法は、その種のスリックがいくつかの拡散中心200の近傍においては比較的一般的であることを示す。これは、ここで提案されるとおり、それが自由な海洋の生態系が地殻流体内の栄養分の流動に適合されることが、非特許文献5にある鉄の投入等の以前から試みられているが異論のある海洋施肥の方法よりありがちであることを示唆することから重要である。
【0047】
測深および波候ファクタのそれぞれは、それらの値に応じて、高または低の個別スコアを有することが可能である。たとえば、可能性のある井戸の場所についての水深は、400m未満であることが望ましく、これは高い個別スコアを有することを意味する。しかしながら、水深が4,000mを超えることは、その種の深さにライザを配置することの困難から望ましくない。したがって、その種の水深は、低い個別スコアを有することになる。波候ファクタに関して言えば、水面が滑らかであることが望ましく、また選択された用地に据えられる浮きプラットフォームおよびプラントの中央部に導くすべての構成要素が大きな波によって負の影響を受けることになるため、それらの波による影響がないことが望ましい。
【0048】
地熱流体および二酸化炭素の熱力学的な振る舞いが静水圧によって部分的に制御されることから、
図5に示されているような測深マップが編集された。それに加えて、水深および波候は、エンジニアリング、したがってコストについての重要な言外の意味を伝える。そのため、非特許文献6の公知情報から導出された
図8に示されているような波候のグローバル地図と測深が、地熱の潜在的可能性のための高いグレードの沖合エリアを補助するべく結びつけられた。
図8は、低波エリアの主拡散中心のセクション800および限局性の海洋拡散中心200のエリア810を示している。
【0049】
次に、これらのファクタのうちのいくつかまたはすべてに基づいて、沖合地熱探索のスクリーニングの方法を
図9に関連して論じる。この方法は、コンピューティング・システムに実装され、ステップ900において1つ以上のデータ・セット、たとえば図面に関連して上に論じられているマップを受け取る。それらのデータ・セットは、
図1乃至8に示されているマップとすることができる。1つの応用においては、これらすべてのマップが入力として受け取られる。しかしながら、この分野の当業者であれば理解されようが、それらより少ない、またはそれらより多いマップが受け取られること、すなわちより少ないファクタが考慮に入れられるか、または水温や岩盤浸水性等の追加のファクタが考慮に入れられることはあり得る。各データ・セットまたはマップは、少なくとも1つのファクタの例証であり、ファクタは、海洋地殻の年齢、拡散中心、トランスフォーム断層、火山、海山群、地震活動、海洋底ベント、沈殿物の厚さ、沈殿物のタイプ、測深、または波候のうちの任意の1つとすることができる。そのほかの、たとえば海洋底の水温、周囲温度(たとえば、非常に寒い地域にプラントを有することは望ましくない可能性がある)、岩盤浸水性、居住エリアへの近接性、居住密度の高いエリアへの近接性、陸地への近接性、海岸土壌のタイプ(たとえば、海岸地域が沼地であった場合には、その種の環境においてケーブルおよび/またはパイプを配置することが望ましくない)等のファクタを考慮に入れることもできる。
【0050】
ステップ902においては、これらのファクタのうちの1つ以上が、個別スコアを割り当てるために選択される。この処理は、コンピューティング・システムのオペレータによって、または自動化されたソフトウエア手順、たとえばニューラル・ネットワーク・システムによって実行できる。言い換えると、対応するファクタと関連付けされた複数の受け取り済みのデータ・セットから、1つ以上のファクタが、さらなる処理のために選択される。一例として述べるが、オペレータまたは自動ソフトウエア手順は、M個の利用可能なファクタからファクタをN個だけ選択することができ、NおよびMは自然数であり、かつN<Mとする。1つの実施態様においては、N=Mである。
【0051】
ステップ904においては、各ファクタが評価基準のセット、すなわち規則のセットと関連付けされる。たとえば、ファクタが地震活動である場合には、2016年に至るまでの38年間にわたり、10,000km2当たりの規模が2以上の地震のみ考慮に入れる。それらの地震は、対応するマップに示され、たとえば、200超、200と100の間、100と10の間、10と1の間、および1未満といった間隔またはビンと関連付けすることができる。これらの間隔またはビンは、例示であって本発明を限定する意図はない。この分野の当業者であれば、この出願から得られた知識に基づいて間隔またはビンのサイズを必要に応じて変更することが可能である。
【0052】
ステップ906においては、ステップ902から選択されたファクタに対して、ステップ900において受け取ったデータ・セットに基づいて、またステップ904において受け取った評価基準に基づいて個別スコアが与えられる。スクリーニング処理のために選択されたファクタの個別スコアは、その後、以下に定義されている評価基準に従って、等しいスコアの多角形エリアを定義する等高線として描かれる(多角形化される)。多角形・スコアは、たとえばArcGIS内において合計され、全体的な探索スクリーニング・スコアが生成される。1つの実施態様においては、次に示すようにファクタにスコア付けされる(考え得るスコア値を[]で囲んで示す):
【0053】
地震活動は、スコア[5]:2016年に至るまでの38年間にわたり、M2の地震が10,000km2当たり200を超える場合、[4]:M2の地震が200から100まで、[3]:M2の地震が100から10まで、[2]:M2の地震が10から1まで、および[1]:M2の地震が1未満、を有する。
【0054】
海洋地殻の年齢(100万年単位)は、[5]:0から6まで、[4]:6から10まで、[3]:10から15まで、[2]:15から20まで、および[1]:>20としてスコア付けされる。
【0055】
沈殿物の厚さ(m)は、[5]:300から1,000まで、[4]:50から300まで、1,000から1,500まで、[3]:1,500から2,000まで、[2]:2,000から3,000まで、および[1]:>3,000としてスコア付けされる。
【0056】
測深(海洋の深さ)は、[5]:0から400まで、[4]:400から1,000まで、[3]:1,000から2,000まで、[2]:2,000から3,000まで、[1]:3,000から4,000まで、および[0]:>4,000としてスコア付けされる。
【0057】
波候(12年の期間内の最大有意波高:m)は、[5]:0から6まで、[3]:6から12まで、および[1]:>12としてスコア付けされる。
【0058】
連続的に活動している海洋底ベント(さく井用地周囲の10kmの緩衝域)は、[-28]とする。この大きな負のスコアは、これらのゾーンが安定ではなく、地熱プラントにとって危険となり得ることからその種の用地がターゲットにならないことを確保するべく選択された。
【0059】
活火山および休火山(さく井用地周囲の10kmの緩衝域)は、[2]としてスコア付けされる。
【0060】
海山群(さく井用地周囲の10kmの緩衝域)は、[1]としてスコア付けされる。
【0061】
ファクタのうちのいくつかは望ましく、したがってそれらに高いスコアが与えられる一方、ほかのファクタは存在すると望ましくなく、したがってそれらに非常に低いスコアが与えられるか、または負の個別スコアが与えられることさえあり得ることに留意すべきである。
【0062】
全体的なスコアは、ステップ908において計算される。全体的なスコアを計算するために、多様な方法を使用することができる。1つは、ソフトウエア・プラットフォームArcGISである。別の1つは、すべての個別スコアを入力として取り、単一の全体的なスコアを出力する関数『f』を使用する。関数fは、所与の係数を用いて各個別スコアが重み付けされる多項式関数とすることができる。1つの応用においては、関数fが単純にすべての個別スコアの合計になる。そのほかの関数またはソフトウエア・プラットフォームを使用して個別スコアを組み合わせることもできる。
【0063】
地震活動および沈殿物の厚さのためのデータが不充分と見做されるエリア内の多角形マッピングの解釈をガイドする補助にマップ構成要素:拡散中心、トランスフォーム断層、および沈殿物のタイプが使用される。このことは、すべてのファクタが利用可能でないエリアの場合でさえ、それにもかかわらずこの方法が、より少ないファクタに基づいて全体的なスコアを計算可能であることを意味する。言い換えると、関数は、利用可能なデータに依存する可変数のファクタを有することができる。しかしながら、1つの実施態様においては、関数が全体的なスコアを計算するためには、少なくとも拡散中心、トランスフォーム断層、および沈殿物のタイプのデータが必要になる。
【0064】
ステップ910においては、全体的なスコアが所与の閾値と比較され、全体的なスコアが当該所与の閾値より大きい場合には、その全体的なスコアに対応する物理的な海洋の場所が、井戸のさく井および地熱エネルギの抽出のために望ましい場所であるとしてリストされる。
図9に記述した方法を使用したマップ要素の統合からの結果は、探索のために理想的な潜在的地熱資源の予測に使用することが可能である。たとえば、拡散中心の資源の潜在的可能性は、
図10に示されている、35MWe/kmのアイスランド・リフトの類似形から資源密度を使用して推定することが可能である。アイスランドにおけるリフト環境は、若い海洋地殻上の海洋の拡散中心にもっとも近い沿岸類似形である。この類似形は、20年の期間にわたる最大有意波高が6m未満のエリア内の年齢が600万年より若い、水深が1,000m未満の海洋地殻エリアに適用される。
【0065】
潜在的な資源の結果は、5,900GWeであり、これは、全世界の合計の年間発電をわずかに超える。水深の制約を、現在の炭化水素の探索および生産の深度ウィンドウ内となる3,000mまで緩和すれば、合計の潜在的資源は、67,000GWeまで増加する。沿岸類似形の適用は、沖合環境における利用可能な潜在的資源を少なく見積もる可能性がある。次の生産関連の議論では、沿岸環境においては利用可能でない、高温流体のポンピングからの沖合地熱の潜在的な良い面を示す。それに加えて、比較的大きな裸坑が深海環境において利用可能であり、そのことがより高い流量を可能にし、したがって井戸当たりのエネルギ流動率を改善するという追加の可能性を有する。
【0066】
地熱資源を探索するための最良の場所を選択した後の次のステップは、地熱生産と関係付けられる。次に示す実施態様は、地熱生産のこの運用側面に取り組み、このエネルギを地殻から抽出するための新しい方法を紹介する。これらの実施態様は、少なくとも次に挙げる4つの構成に指向されている:(1)流れの減衰を伴わない湯垢または腐食箇所の修復を可能にする2相流が始まる深度より下の主ライザから分岐する補助ライザ、(2)海洋水および海洋水圧を使用して、ポンピングを伴うことなく貯留層圧力を持続させるバルブ方式およびシステム、(3)地熱塩水および海洋水圧を使用して、ポンピングを伴うことなく貯留層圧力を持続させ、かつ注入浸水性を減少させる可能性のある有機物成長を抑制するバルブ方式およびシステム、および、(4)生産の間にわたって進展するべく設計され、貯留層圧力を維持し、かつ重力駆動注入装置と生産装置の間の熱スイープを向上させる注入パターン方法およびシステム。
【0067】
海底ベントは、拡散中心近傍の海洋地殻が浸水性であることを示しており、多くのベント・フィールドは、250℃から400℃までの温度範囲に入る流体を放出する少なくとも1つの系を含む。海嶺頂部から遠い約600万年前の玄武岩内にさく井された調査井戸は、6,000-7,000リットル/時と計算される流量を与える浸水性が海洋地殻の上側部分内に存続することを明らかにした。枕状溶岩内の浸水系へのこの流量は、約3℃の冷たい海洋水と約70℃の枕状溶岩孔の水の間における密度差によって駆動される。これに関して、
図11Aは、沈殿物質1120を通って延び、シールとして(たとえば、生体分泌物)作用し、かつ地熱貯留層1130からの熱水と冷たい海洋底水1140を接続するベント裸坑1110を図式で示している。
図11Bは、海洋底からの深度の関数とする地殻温度について収集した実験的な測定値を、また推定流入量の場所1150、すなわち深さ400mも示す。
【0068】
これも
図11Bに関してであるが、比較的遅いP波速度が、若い海洋地殻の上側1乃至2kmが多孔質であることを示しているとして解釈される一方、数十年以上の年齢の上側海洋地殻が正常なP波速度を示し、多孔質系が時間とともに固く結び付くことを示唆している。P波速度のこの解釈と調和して、変成苦鉄質火成岩からのコア標本の化学的性質は、新生代後期の海洋地殻内の少なくとも1.5kmの深さまで海洋水が浸透したことを示す。
【0069】
石油およびガス井戸のさく井の間に回収されたコア標本の熱機械的特性の多くの測定値が利用可能である。これらの標本における測定済みの浸水性および多孔性は、通常、非常に低い。しかしながら、海洋地殻の上部からのコア回収は、概して50%より低く、このことは、回収されていないコア抜きの合間がどのような浸水性を表すかという疑問をそのまま残す。石油およびガス探索からの発明者らの経験は、未回収のセクションがしばしば、コア抜きされた岩盤シーケンスの、もっとも浸水性があり、かつ多孔性のセクションを表していることを示唆する。非常に限定された数ではあるが、流体注入試験は、上側の海洋地殻における浸水性が、海洋地殻から回収されたコアで測定された浸水性から推論されるより有意に高いことを示す(非特許文献7)。
【0070】
若い海洋地殻における温度および浸水性の現場測定を伴った井戸の数は、極めて限られている。その結果、さく井可能な深度における高い浸水性および高い温度の組み合わせが地熱探索および開発に有利な場所を予測するための方法を開発する必要性が存在する。堆積盆地における石油およびガス探索のための温度のモデリングに通常適用されるソフトウエアの使用が、以下に関する公開データの照合および統合によって海洋地殻環境にまで拡張された:
【0071】
海洋地殻およびリソスフェア内に期待される、ある範囲にわたる火成岩およびそのほかの結晶岩タイプについての熱伝導度;
【0072】
これらの熱伝導度の、多様な温度および圧力に伴う変化;および、
【0073】
定置の間、結晶化の間、および凝固後における海洋地殻およびリソスフェア内に期待される、ある範囲にわたる火成岩およびそのほかの結晶岩タイプについての産熱量。
【0074】
熱伝導度および産熱量を含む適切な熱機械的な値が割り当てられた新しい結石学タイプが、その後Zetaware(ジータウェア)(zetaware.com参照)熱モデリング・ソフトウエア製品のGenesis(ジェネシス)およびTrinity(トリニティ)を事前設定するために作り出された。なお、本明細書ではモデリング・ソフトウエア製品の具体例を使用しているが、これらの例の及ぶ範囲は、この分野の当業者による本発明の理解を可能にすることにあって、実施態様をこれらのソフトウエア製品のいずれかに限定することはない。実際、ほかの、Petromod(ペトロモッド)(software.slb.com参照)等の産業ソフトウエア製品が利用可能であり、この中に述べられている作業の実施に使用することが可能である。
【0075】
さく井が意図されたゾーンの浸水性は、地熱資源への到達のための井戸をさく井するか否かを決定するために使用することも可能である。堆積盆地における石油およびガス探索のための浸水性のモデリングに通常適用されるソフトウエアの使用が、以下に関する公開データの照合および統合によって海洋地殻環境における浸水性を含むべく拡張された:
【0076】
海洋地殻およびリソスフェア内に期待される、ある範囲にわたる火成岩およびそのほかの結晶岩タイプの浸水性;
【0077】
これらの浸水性の、多様な温度および圧力に伴う変化;
【0078】
海洋地殻およびリソスフェア内に期待される、ある範囲にわたる火成岩およびそのほかの結晶岩タイプの、ある範囲にわたる断層および断裂タイプの浸水性;および、
【0079】
これらの断層および断裂の浸水性の、温度、圧力、および流体の化学的性質における変化に伴う変化。
【0080】
これらの浸水性の変化の原因は、限定ではないが:(1)伸張による浸水性経路の開きに起因する増加と、(2)浸水性経路に沿った岩盤の腐食に起因する増加と、(3)圧縮による浸水性経路の閉じに起因する減少と、(4)浸水性経路に沿った鉱物の析出に起因する減少を含むことが可能である。
【0081】
これらの変化を駆動する地質学的プロセスは、限定ではないが:(1)海洋の拡散中心からの距離の増加に伴う地殻の冷却に起因する岩盤の収縮による断層および断裂にわたる伸張に起因する浸水性の増加と、(2)構造プレート内応力体系における変化に起因する断層および断裂にわたる伸張に起因する浸水性の増加と、(3)土被り厚さの追加によって増加した負荷に起因する断層および断裂にわたる圧縮に起因する浸水性の減少と、(4)構造プレート内応力体系における変化に起因する断層および断裂にわたる圧縮と、(5)拡散中心からの距離の増加に伴う地殻および積層する沈殿物の冷却によってトリガされることがある、現場の地殻流体による浸水性経路に沿った母岩鉱物の溶解による浸水性の増加、または現場の地殻流体からの浸水性経路に沿った鉱物の析出による浸水性の減少と、(6)土被りの追加により増加した埋没に起因する地殻および積層する沈殿物の加熱によってトリガされることがある、現場の地殻流体による浸水性経路に沿った母岩鉱物の溶解による浸水性の増加、または現場の地殻流体からの浸水性経路に沿った鉱物の析出による浸水性の減少と、(7)異なる温度または化学的性質を伴う異なる流体の移流に関係する流入によっても生じることのある溶解による浸水性の増加、または鉱物の析出による浸水性の減少(構造応力体系、埋没ストレス/温度レジームにおける変化、または更新されるマグマ貫入および加熱は、すべてこの意味における移流に関係する流入の潜在的な変化である)と、(8)異なる温度または化学的性質を伴う異なる流体の対流循環によっても生じることのある溶解による浸水性の増加、または鉱物の析出による浸水性の減少を含むことが可能である。構造応力体系、埋没ストレス/温度レジームにおける変化、または更新されるマグマ貫入および加熱は、この意味における対流循環を潜在的にトリガすることが可能である。これらの浸水性駆動源の間における相互作用の決定は、浸水性の分布のための一連の地質学的モデルの基礎を形成する。
【0082】
岩盤の熱機械的応答、流体の流量、および異なる地質学的シナリオにおける熱伝達率が、たとえばCGG GeoSIMソフトウエア(パリ、CGG)内においてモデリングされる。手前に言及されているとおり、TOUGH 3(タフ・スリー)(tough.lbl.gov/software/tough3/)およびEclipse(エクリプス)(www.software.slb.com/products/eclipse/fieldmgmt)といったそのほかのソフトウエア・プラットフォームも類似するモデリングを行うことができると見られる。なお、地殻の浸水性および温度勾配に影響を及ぼす上記のすべてのファクタは、
図9に示されている方法に関連するファクタとして使用することができ、また可能性のあるさく井場所の温度勾配および浸水性は、その場所の全体的なスコアに寄与するべくスコア付けすることができる。1つの応用においては、上に論じられている、地殻の温度勾配および浸水性に影響を及ぼすすべてのファクタは、全体的なスコアを決定するために
図9の方法とともに使用することもできる。これにおいて、あるいは別の応用においては、地殻の温度勾配および浸水性が、地熱貯留層の上方の地殻または沈殿物の浸水性が低く、かつ温度勾配が高いことが望ましいために、全体的なスコアに影響を及ぼすべく重く重み付けされる。
【0083】
図12には、沖合地熱井戸の構成が、地熱貯留層から熱を抽出するべく、かつそれをほかのエネルギ源に変換するように構成された地熱プラント1200とともに示されている。より具体的に述べれば、プラント1200は、発電プラント1210を支持するに充分な大きさの浮きプラットフォーム1202、たとえば船舶、浮体、油田掘削装置、バージ等を含むことができる。発電プラント1210は、到来する2相地殻流体1220を蒸気1222と塩水1224に分離する分離ユニット1212を少なくとも含む。なお、地熱貯留層1230から抽出された当初の液体1226は、単相の液体であるが、この単相の液体1226が海洋表面に向かって進むときに冷却され、それの圧力を失い、特定の海洋深度1228において2相地殻流体1220になる。上昇している熱い地熱流体が蒸気の形成を始める海面下深度1228は、主として温度、地殻流体の化学的性質、および地殻流体の圧力に依存する。後者は、貯留層の浸水性に特に強く影響を及ぼし、後述するが、貯留層注入によって貯留層圧力が維持されない場合には、時を経るに従って深くなっていく。
【0084】
さらに、発電プラント1210は、蒸気1222を電力1232に変換する熱変換ユニット1231、たとえばタービンを含む。電力1232は、バッテリ格納ユニット1234に乗せて蓄電すること、または浮きプラットフォーム1202が陸地に充分近い場合には、電力ケーブル1236を備えて電力をはるか陸上の電力施設1238まで送電することができる。地殻流体1220から分離された塩水1224は、塩水パイプ1225に沿って海洋底の沈殿物1204へ戻して処分することができる。
【0085】
ライザ1240が、浮きプラットフォーム1202から地熱貯留層1230まで延びている。ライザ1240は、地熱液体1226によるエネルギ損失の量を最小化するべく好ましく断熱されており、井戸1208をさく井するための石油およびガス設備を使用して地殻1250内に部分的に配置することができる。
図12は、脆い玄武岩の海洋地殻1254の上面に位置を占める沈殿層1252を有する地殻1250を示しており、またそれは、ダクタイル・マントル1256の上面に位置を占める。なお、ライザ1240は、少なくとも沈殿層1252に入り込む。1つの実施態様においては、ライザ1240が、さらに脆い玄武岩の海洋地殻内に入り込む。
【0086】
この実施態様によれば、ライザ1226に沿って1つ以上の電気ポンプ1260を水面下に設置し、地熱貯留層1230から浮きプラットフォーム1202へ地熱液体1226をポンピングすることができる。電気ポンプ1260は、単相液体1226が2相流体1220に変化する場所1228より下方の海洋底に、またはそれより上の任意の場所1262に設置することが可能である。この実施態様においては、電気ポンプ1260が、
図13に示されているとおりライザ1240の内側に設置される機械的作動部1264、およびライザ1240の外側に設置される、たとえば、これもまた
図13に示されているとおりライザに取り付けられる電気部品1266を有する。1つの実施態様においては、電気部品1266を、浮きプラットフォーム1202上に設置することができる。機械的作動部1264は、インペラおよび当該インペラを回転させるモータを含むことができる。電気部品1266は、モータおよび1つ以上のセンサ、たとえば温度センサを制御する電子機器を含むことができる。電気部品1266は、浮きプラットフォーム1202上に設置された電源と、電気ケーブル1268を通じて電気的に接続される。電気ケーブル1268は、電力だけでなく、命令および/またはデータを送るためにも使用することができる。電気部品1266からの電気エネルギおよび/または信号は、ライザの壁への穿孔がなくて済むように誘導を通じるか、または穿孔(図示せず)を通じてライザの内側に入る電気ワイヤ(図示せず)を通じるかのいずれかにより機械的作動部1264に伝えられる。電気ポンプ1260の電子機器をライザ1240の外側の、約4℃という低い温度に置くことが可能であるという事実は、ライザの内側の温度が通常は非常に高いことから、石油およびガス地熱探索の場合のようにライザの内側に設置してポンプが故障するといったことがないことを保証する。このことは、機械的作動部1264によって発生した余分な熱を海洋水が迅速に吸収することから、この余分な熱について配慮することなく、ポンプを可能な限り大きくし得ることを意味する。
【0087】
図14Aおよび14Bは、地熱液体1226が沸騰を開始するライザ1240内の深さの推定を示している。この図中のデータは、貯留層がメンテナンスされなかった場合にライザ内の地熱液体が沸騰を開始する深さが時間とともに深くなっていくことを示す。またデータは、貯留層の浸水性が50mDから2倍の100mDになる場合には、貯留層の多孔度が2倍になる場合よりもフラッシュ深度1228を浅いレベルに保つことがより重要になるということも示している。
図15は、産出指数として表現された多様な貯留層品質の単一沿岸地熱井戸についてのモデリングされた正味の電力容量の限界を示す(非特許文献8)。ポンプの電気設備についての温度限界(約190℃)に到達した後の容量の低下は、当該電気設備をライザの外側の低い水温で動作させることが可能であるため、比較的深い水中環境には適用されない。その結果、高温の地殻流体が流れる水面下地熱井戸の電力容量は、沿岸のそれと比較して有意に増加することが可能である(図の1500参照)。したがって、この実施態様によれば、沿岸地熱システムにおけるポンピングには高すぎる温度の流体のために、貯留層圧力および高い流量の持続を補助するべくポンプを沖合エリアの深海に設置することが可能である。地熱ポンプは、液体と蒸気の混合流体よりは単相流体において最良の働きが得られ、そのため2相流深度より深い水深における地熱システムの方が、ポンピングのオプションから利益を得ることが可能である。これは、裸坑の直径が同一であれば、高温の深海地熱システムの方が、沿岸のそれらより多くのエネルギの引き渡しが可能であることを含意する。それに加えて、深海の沖合裸坑は、岩盤を貫通するさく井時における機械的理由から必要とされる裸坑の直径を減ずることなく、高い圧力に達することが可能である。このことは、沖合地熱井戸からのより高い流量の追加の可能性を与える。
【0088】
沿岸の地熱井戸は、地下のライザのスケーリングに苦労する可能性がある。これは、しばしば修正が可能であるが、改修作業のためにシャットダウン(電力の喪失という結果を招く)を必要とすることがある。沖合環境においては、この実施態様によれば、
図16に例証されているとおり、この問題を克服することが可能である。より具体的に述べれば、この実施態様によれば、
図12の構成を修正して補助ライザ1610を通じて地熱液体1226の流れを分岐することが可能であり、このことは、主ライザ1240を閉じる必要がないことを意味する。また
図16は、地熱貯留層から突然の圧力上昇の到来がライザ内に検出されたときに、噴出防止装置がライザの穴を閉じて浮きプラットフォーム1202への圧力波の到達を防止することが可能となるように海洋底に設置されるライザ上の噴出防止装置1612も示している。ポンプ1260および噴出防止装置1612は、浮きプラットフォーム上に設置される計算装置1620を用いて制御することができる。
【0089】
地熱液体1226の流れを、主ライザ1240に沿って、または補助ライザ1610に沿って指向させることを可能にするために、単相液体1226が2相地殻流体1220に変化する海洋深度1228の主ライザ上において切り替えバルブ1622が設置される。切り替えバルブ1622は、ライザ1240を上昇する流体を主ライザ1240の上部または補助ライザ1610のいずれかに指向することが可能となるように、計算装置1620によって電子的に制御することが可能である。
【0090】
また
図16は、当初液体1226が主ライザ1240の下側部分を通って切り替えバルブ1622まで流れ、その後、液体が補助ライザ1610に分岐される一方、主ライザ1240の上部が、たとえば加圧ブリードによってデスケーリングされる構成も示している。この図には、ポンプ1260の配置深度範囲Hも示されている。
【0091】
発明者らは、地熱液体1226の流量が自然断裂の刺激作用によって改善可能であることを確信している。深成岩は、比較的脆く、夥しい自然節理および冷却時の収縮に起因する断裂を含むことになる。潜在的な地熱貯留層1230は、今日比較的良好に理解されている応力体系内にもある。これらの環境における薄く、かつ熱的に弱められる地殻の性質に起因して、自然地震活動は、殆ど地震規模5を超えない。その結果、より深く、かつより高温の火成貯留層の部分は、広く予測可能な幾何形状と、誘導される地震活動の規模に対する控えめな上限と、人口中心から比較的遠方の場所とともに断裂刺激に対する良好な応答を期待することが可能である。
【0092】
これらの観察に基づくと、この実施態様によれば、ポンピングなしに地熱貯留層注入を達成することが可能である。より具体的に述べれば、冷たい海洋水の柱からの静水圧を貯留層圧力の支持のために使用し、沿岸においては通常必要とされることになるポンピングのコストを伴わずにライザへ向かう熱を『スイープ』することが可能である。
図17は、その種の、重力供給バルブ1710、1714が対応する重力供給管1712、1716に貯留層の圧力および流れの制御を提供する構成を示している。流れの制御は、たとえば、予期されていない高い浸水性ゾーンがライザへの冷水の到達を可能にした場合に必要となる可能性がある。この理由のため、重力供給バルブ1710および1716もまた、計算装置1620によって制御される。
【0093】
したがって、この図に示されているプラント1700は、
図16に示されているプラント1600の要素に加えて、地殻から(より具体的に述べれば、地熱貯留層1230周囲のゾーンから)海洋底1720の直上の海洋水内まで延びる1つ以上の重力供給管1712、1716を有する。なお、重力供給管1712、1716は、主および補助ライザ1240および1610とは異なり、海洋表面1722に至るまで延びてなく、またそれらは、浮きプラットフォーム1202上のプラントのいずれの部分とも流体連通していない。重力供給管1712、1716は、冷たい海洋水1724(温度約3℃、密度約1002kg/m
3を有する)の取り込みにちょうど充分なだけ海洋水中に延び、かつ対応するバルブ1710、1714が被せられる。パイプ1712、1714のヘッド周囲の水の密度が約1002kg/m
3であり、地熱貯留層1230内の水の密度が約820kg/m
3であることから、単純にバルブ1710、1714を開くことによって冷たい水1724が重力供給管の内側に入り、完全に重力に起因して、すなわち冷たい水と熱い水の間の重量の差によって地熱貯留層の入口まで移動する。したがって、この実施態様については地熱貯留層の内側に流体をポンピングする必要がなく、これは、沿岸井戸を超える利点である。重力供給管1712、1716は、主ライザ1240から少なくともDの距離にさく井される井戸内に配置され、距離Dは、冷たい水1724がライザ1240に到達する前に200乃至300℃まで加熱されるに充分な時間を有するように選択される。この分野の当業者であれば理解されるであろうが、距離Dは、多くのファクタに依存し、したがって、貯留層のタイプ、海洋底の状態等に依存することから単一の値を提供することは可能でない。重力供給管を通る重力供給の速度は、対応するバルブ1710、1714によって制御され、貯留層の浸水性およびライザにおける地殻流体の圧力ドローダウンと調和させることが可能である。
【0094】
1つの応用においては、海洋水の取り入れ口または重力供給管1712および1716のヘッドが、海洋底1720の上に立ち上げられており、移動する底生生物または底層流によって運ばれる海底泥プリュームの『取り込み』を回避する。取り入れ口には、漂泳生物を排除するべく設計されたフィルタ(格子)を嵌め込むことが可能である。この枠組みは、固着生物の成長のための用地となる可能性がある。その種の成長は、深海環境においては比較的遅いプロセスであるが、高塩分の地熱塩水を用いるフラッシングによって抑えることが可能である。
【0095】
図17は、さらに、発電プラント1210によって2相流体1220から分離された塩水1224を、対応する塩水パイプ1225を通じて地熱貯留層1230のより近くに、またはそれの中に放出することが可能であることを示しており、すなわち、
図17に示されているとおり、貯留層または地殻内に井戸がさく井され、パイプが所与の長さまで地殻内に入り込むようにこの井戸の内側に塩水パイプ1225が入れられる。塩水1224の温度が40乃至60℃の間であることから、塩水パイプ1225と主ライザ1240の間の距離dは、重力供給管1710と主ライザ1240の間の距離Dより小さい。これは、温かい塩水1224が200乃至300℃まで温め戻され、地熱貯留層の温度まで達するために必要な時間がより短いことによる。
【0096】
蒸気1222を分離したときに結果としてもたらされる地熱塩水1224は、
図18の実施態様に関連して次に論じるとおり、ポンピングを伴うことなく処理することが可能である。この図のプラント1800は、重力供給管1712のヘッド周りに設置される塩水タンク1810を使用する。塩水タンク1810は、図に示されているとおり、切り替えバルブ1710全体が塩水タンクの内側に収まるようにサイズ設定され、位置決めされる。1つの実施態様においては、塩水タンクが海洋底上に設置される。塩水パイプ1225は、水平パイプ1812を伴って延び、塩水タンク1810と流体接続される。パイプ1812とタンク1810の間にバルブ1814が備えられ、塩水タンク1810への塩水1224の流れが制御される。バルブ1814は、計算装置1620によって電子的に制御される。タンク1810は、海洋水1724がタンク内に自由に入ることが可能となるように上面が開いている。
【0097】
この実施態様においては、バルブ制御を用いて、パイプ1812を介して、または人工的な塩水プールを介して塩水タンク1814から塩水1224を重力供給管1712に直接追加することが可能である。塩水プール1810のリム1810Aは、パイプ1712内への海洋水の取り入れ口のレベルより高くなるように設計される。これは、取り入れ口バルブ1710を通る流れを減じ、かつ塩水バルブ1814を通る流れを増加することによって、塩水プール1810内への塩水1224のレベルを上昇させて時々海洋取り入れ口エリアを塩水で覆うオプションを与える。この活動を使用して、海洋水取り入れ口に形成されるおそれのある任意の有機物成長を抑制することが可能であり、またこの動作の間に注入される流体が高塩分の塩水であることから、これが貯留層1230の注入ゾーン内における有機物フィルムの形成も抑制することになる。なお、塩水の濃度が比較的高いことから重力によって塩水の移動が招かれるため、塩水の流れのためにポンピングを行う必要性がない。
【0098】
重力供給管1712、1716に関連付けされる注入装置ポンプのコストが存在しないことから、沿岸地熱地帯において通常に達成されるより高い熱回収ファクタを引き渡す、対応する井戸のパターンのさく井が実行可能となり得る。たとえば、
図19Aは、3本の重力供給管1712-1乃至1712-3が正三角形1900の頂点に配置され、その中心にライザ1240が置かれる三角形パターンを示している。3本のパイプ1712-1乃至1712-3は低温Cの冷たい塩水を注入する一方、ライザ1240は、高温Hの熱い地熱液体1226を抽出し、Cを40と60℃の間とすることが可能であり、Hを200と300℃の間とすることが可能である。そのほかの値が使用されることもある。冷たい塩水は、三角形1900の頂点から、ライザ1240が熱い地熱液体を抽出しているその中心に向かって熱い液体1226を押し、またはスイープする。
【0099】
熱スイープの増加が望ましい場合には、より多くの井戸を追加して、
図19Bに示されるように六角形セルまたはパターン1910を形成することが可能である。そのほかの幾何学的形状をパイプ1712の配置に使用してもよい。
図19Cは、2つの隣接するセルが2本のパイプ1712を共有するように六角形セル1910-Iが反復される別の構成を示している。この構成を使用すれば、1つのセル1910-3内の1つのライザ1240-3をオフにし、ほかのすべてのライザ1240-Iを開いたまま残すことが可能になる。これは、そのセル内の地熱液体1226が冷たすぎるために、その液体が昇温して生産的な温度に戻るまでセルがより多くの時間を必要とする場合に役立つこととなり得る。
【0100】
図20に示されているプラント2000は、手前に論じられているプラントの多様な構成要素を含み、かつ別の目的に利用するための沖合地熱井戸における鉱化によって二酸化炭素を貯蔵し、かつ永久的に固定する能力を有する。なお、本明細書では、手前に述べられているプラントのいくつかの要素が省略されているが、プラント2000は、それらの手前のプラントにある要素のそれぞれを有することが可能である。二酸化炭素に関して言えば、25℃から0℃までの範囲の温度にわたって、二酸化炭素は、控えめな圧力において気体から液体に変化する。液体二酸化炭素は、水よりも圧縮可能であり、そのため2500mを超える海洋深度に匹敵する高圧においては、液体二酸化炭素が海水1724より高密度になる。このことは、浮力を抑えることが求められないために深海の二酸化炭素貯蔵システム(井戸)が堅牢になることを意味する。
【0101】
二酸化炭素は、温水よりも冷水における方がより溶解容易であり、そのため、比較的熱い岩盤と反応して鉱物を形成する傾向を有することになる。玄武岩は、二酸化炭素反応のための特に良好なホストであり、通常、比較的迅速なレートで炭酸塩鉱物を形成する。堅牢な貯蔵と迅速な鉱化の組み合わせは、充分な流量または充分に高い温度の地熱流体を引き渡さない沖合地熱井戸のための追加の応用を提供する。
【0102】
図20は、熱変換ユニット1231からの使用後の蒸気2010を多様な方法で使用可能であることを示す。1つの方法は、蒸気を浮きプラットフォーム1202から海洋水1724内へ延びる冷却パイプ2020に凝縮し、図に示されているとおり、パイプ2020を通じて直接地上へ引き渡すこと、またはポンピングして浮きプラットフォームに戻し、そこにある真水タンク2021に貯蔵することが可能な真水を生成する。浮きプラットフォームが、地上と近い場合には、使用後の蒸気2010をパイプ2020内へポンピングする必要がない。別のオプションは、電気分解モジュール2030内において使用後の蒸気2010と電気分解のために発電された電力2014を使用して、水素H
2および酸素O
2を発生させる。水素は、反応器2032内において使用してそれを、アンモニア・タンク2034内にオンボードで貯蔵されるアンモニアに変換することができる。それに代えて、水素そのものを水素タンク2036内に貯蔵することもできる。発生された酸素は、それを直接海洋に、または浮きプラットフォーム上に設置するか、または浮きプラットフォームに連結することができる生け簀2038にポンピングすることによって魚集団を充実させるように使用することができる。塩水1224もまた、生け簀2038内へ栄養分が運ばれるように専用パイプ2040に沿って逸らせることができる。それに代えて、塩水1224から鉱物および/または化学物質をオンボードで抽出し、鉱物タンク2042内に貯蔵することもできる。タンク2044または周囲環境からの二酸化炭素は、ポンプ2046を用いて、浮きプラットフォームから地殻1250内に形成された井戸2056まで延びる二酸化炭素パイプ2048に沿ってポンピングすることが可能である。二酸化炭素2052ガスがパイプ2048に入るとき、海洋水の低い温度に起因して冷却が開始され、液体二酸化炭素2054になるまでそれが続く。液体二酸化炭素2054が海洋水1724より密度が高いことから、液体二酸化炭素を1つ以上の井戸2056内に吐出することが容易であり、そこでそれが既存の岩盤と相互作用し、容易な貯蔵のために鉱化することが可能である。
【0103】
この中に論じられている多様な構造の温度および浸水性および流体の流れは、プラントのサイズおよびその効率を見越してモデリングすることが可能である。次に示す基準水平線がソフトウエア・プラットフォームを用いて温度-深度分布のためにマップされる:
【0104】
水柱の基底に対する深度、
【0105】
連続する、堆積層、火成岩、そのほかの結晶岩を含めることが可能な岩石層の上面に対する深度、
【0106】
アセノスフェアの上面に対する深度、
【0107】
連続する各層内の岩盤の温度特性(マップされた特性は横方向に変化し得る)、
【0108】
連続する各岩盤層内の多孔性百分率(マップされた多孔率は横方向に変化し得る)。
【0109】
水柱より下の温度-深度の関係は、(1)水柱の基底における温度、(2)マップされた岩盤の連続する層の厚さ、温度特性、および多孔性、および(3)アセノスフェアの上面における温度から計算される。このモデリングは、Zetaware(ジータウェア)製品のGenesis(ジェネシス)およびTrinity(トリニティ)を用いて、適切なところで新しい岩盤層特性を使用し、着手することができる。試錐孔データが利用可能な場合には、Genesis(ジェネシス)を使用して岩盤の特性を調整し、試錐孔の温度-深度の関係との良好な整合を求める。その後、Trinity(トリニティ)を使用して、マップされた岩盤層を含む全体を通じた温度-深度の関係を補外する。手前で論じたとおり、そのほかのソフトウエア・プラットフォームを使用することもできる。
【0110】
モデリングする浸水性分布の予測マッピングは、次に示す基準水平線を使用する:
【0111】
水柱の基底に対する深度、
【0112】
連続する、(1)堆積層、(2)火成岩、および(3)そのほかの結晶岩を含めることが可能な岩石層の上面に対する深度、
【0113】
アセノスフェアの上面に対する深度、
【0114】
連続する各層内の岩盤の温度特性、および各層内のこれらの特性の分布における横方向の変化、
【0115】
連続する各岩盤層内の多孔性百分率、および各層内の多孔性の分布における横方向の変化、および、
【0116】
連続する各岩盤層内の母岩浸水性、および各層内の母岩浸水性の分布における横方向の変化。
【0117】
断裂および断層に起因すると考えられる浸水性が基本の多層岩盤特性モデルの上に重ね合わされる。概念上の地質学的な断裂および断層モデル、およびそれに加えた浸水性の熱機械的モデルからの洞察は、この起因の主な基礎を形成する。これらの浸水性の割り当ては、次のようにすることができる:
【0118】
調整井戸内の温度勾配の説明には充分であるが、追加の方位データを伴わない一般的な垂直浸水性、
【0119】
ストライクに伴って変化する一般的な垂直浸水性、
【0120】
ストライクに伴って変化する垂直浸水性のゾーン、
【0121】
ディップおよびストライクに伴って変化する断裂浸水性のセット、
【0122】
ディップおよびストライクに伴って変化する断層浸水性のセット、
【0123】
ディップおよびストライクに伴って変化する特定の断裂浸水性、および、
【0124】
ディップおよびストライクに伴って変化する特定の断層浸水性。
【0125】
今日の応力体系データは、(1)裸坑の画像ログ解析、定方位キャリパ・データ、定方位コアの断裂解析を含む試錐孔から、(2)マップされた断層および断裂の向きとの組み合わせにおける地震活動の第1の運動解析から、(3)GPS解析からのプレート運動から、および(4)プレート・モデルからの相対プレート運動から獲得される。断裂のタイプと幾何形状の間の関係は、今日の応力体系に関するデータと組み合わされて自然および刺激による浸水性断裂についてのもっともありがちな向きの予測に使用される。
【0126】
上に論じられている実施態様は、次に示す新しい特徴のうちの1つ以上を開示する:
【0127】
沖合環境における地熱資源のための探索のスクリーニングの方法、
【0128】
沿岸の等価な地熱システムで達成可能となるより大きな、特に高温の地殻流体について潜在的な可能性のある流量を有する地熱開発の方法およびプラント、
【0129】
バルブ制御される水柱からの静水圧の使用を通じ、圧力維持のために地熱貯留層内への海洋水のポンピングなしの注入を可能にする地熱生産の方法およびプラント、
【0130】
バルブ制御される水柱からの静水圧の使用を通じ、圧力維持のために地熱貯留層内への塩水のポンピングなしの注入を可能にする地熱生産の方法およびプラント。この実施態様は、塩度を変化(海洋水についてはより低く、塩水については遙かに高く)させ、注入装置の取り入れ口または貯留層内における浸水性を妨げるおそれのある潜在的可能性のある有機物成長を緩和することが可能であるという追加の有益性を有し、
【0131】
地熱貯留層からの熱スイープを最大化するべく注入パターンが設計される。注入パターンは、三角形から六角形、ネスティングされた六角形へと現場開発の間に進展することが可能である。ネスティングされたパターンは、岩盤から、また地球の自然熱流からの伝導によって地殻流体温度の回復を可能にするべく個別の六角形熱スイープ・セルからの生産をシャットダウンするか、または遅くする潜在的可能性を提供する。この生産パターンは、沿岸地熱地帯において通常に可能であるより、遙かに高い割合で地熱貯留層の熱を回収するべく設計され、
【0132】
プロセスおよびプラントは、タービンから蒸気を取り込み、凝縮し、地殻流体から脱塩水を引き渡す。沿岸においては、通常、蒸気が大気に放出されるか、または凝縮されて地下に再注入され、
【0133】
プロセスおよびプラントは、当初分離された地殻流体の塩水からの栄養分を使用し、水域の有光ゾーンを肥沃にして一次生産力を強化し、
【0134】
現場で加水分解が行われるプラントであれば、酸素副産物を使用して一次生産力が増加する間の富栄養化の防止を補助し、かつ、
【0135】
プラントは、化学物質(いくつかの二酸化炭素取り込み方法に使用されるアルカリ等)を、当初分離された地殻流体の塩水から抽出する。
【0136】
この分野の当業者であれば、この開示の読後、水面下地熱地帯の開発のための営利性へのそのほかの複数の経路が存在することを理解するであろう。それには、次のことが含まれる:
【0137】
ケーブルによる海岸までの電気の送出ができること、
【0138】
加水分解によるグリーン水素の生成に電気の現場使用ができること、
【0139】
グリーン・アンモニアへの水素の変換に電気の現場使用ができること、
【0140】
炭素の貯蔵および鉱化のために地下への二酸化炭素のポンピングに電気の現場使用ができること、
【0141】
現場におけるバッテリへの電気の一時的な蓄電ができること、
【0142】
現場において酸素副産物を引き渡す加水分解が行われない場合の富栄養化を防止する曝気システムの駆動に電気の現場使用ができること、および、
【0143】
当初分離された地殻流体の塩水から金属が抽出される可能性があること。
【0144】
この開示の探索スクリーニングの部分に基づく電力資源の推定は、水面下地熱資源の一部だけで、世界が目指す2050年までの二酸化炭素排出正味ゼロの補助に対して具体的な影響を有するに充分な規模であることを明らかにしている。地球の巨大な水面下地熱エネルギ資源は、この中に述べられている本発明の適用を通じて、有益な副産物として真水および栄養分を提供することも可能であり、それが、世界の真水不足および枯渇する魚資源の緩和を補助することが可能である。地熱探索の追加の環境的利益は、ほかのグリーン・エネルギ源と比較して、それがほかの地球資源に対して発電された単位電力当たり比較的低い需要を有することである。コンクリート、セメント、鋼、ガラス、プラスチック、複合および重要な金属等の材料の採掘および生産のための地球資源の使用は、別の産業に大きなカーボン・フットプリントを作り出す効果を有する可能性がある。
【0145】
発電された単位電力当たりでほかの資源に対する需要を表現するとき、現在の地熱と比較して太陽光発電の場合には約300%高く、風力発電の場合には200%高く、水力発電の場合には250%高い。原子力は、地球資源に対する需要がより低いが、広範囲のエリアを汚染するおそれのある潜在的可能性を有する。陸上バイオマスは、直接的なエネルギ源として、持続不可能なほどに広大な土地面積を消費する。バイオマスおよびそのほかの廃棄物は、バイオガスまたは焼却を介して有用なエネルギを提供可能であるが、小規模であるに過ぎない。
【0146】
この中に述べられている新しい方法およびプラントを使用し、石油およびガス産業テクノロジの応用から生じることがありがちなより大きな効率は、発電された単位電力当たりの水面下地熱の資源需要が、現在の沿岸地熱のそれより大きくならないと見られることを意味しているとし得る。規模の潜在的な有益性は、発電された単位電力当たりの資源需要が経時的に減少することを意味し得る。このことは、真水および栄養分等の貴重な副産物の潜在的可能性および商業的および地理的な柔軟性の価値と、土地の使用の負担をまったく伴うことなく組み合わされ、地球上の持続可能な開発への主要な貢献をなす水面下地熱を結果としてもたらす。
【0147】
次に、
図21に関連して、海洋底の下方に位置付けられた地熱貯留層1230からエネルギを抽出するための方法について論じる。この方法は、ライザの第1の端部を地熱貯留層内にさく井された井戸内に配置するステップ2100と、ライザの第2の端部を浮きプラットフォームに接続するステップ2102と、ライザの穴に設置される機械的作動部およびライザの外側に設置される電子部を有する電気ポンプを作動して、地熱貯留層から浮きプラットフォームへ地熱液体をポンピングするステップ2104と、地熱液体からの蒸気を使用し、浮きプラットフォーム上に設置された発電プラントを用いて電力を生成することを含む。前記地熱液体が単相である場合には、前記電気ポンプは前記ライザの深さに配置される。
【0148】
またこの方法は、塩水パイプの第1の端部を地熱貯留層内に配置するステップと、塩水パイプの第2の端部を浮きプラットフォームに接続するステップと、地熱液体からの塩水を地熱貯留層内またはそれの隣に、塩水が専ら重力に起因して地熱貯留層内に流れることからポンプを伴わない塩水パイプを通じて吐出するステップも含むことができる。さらにこの方法は、浮きプラットフォーム上に設置される分離器を用いて地熱液体の塩水から蒸気を分離するステップと、浮きプラットフォーム上に設置される蓄電ユニットに電力を蓄電するステップを含むことができる。1つの応用において、この方法は、単相の地熱液体が2相の地殻流体になる位置より下となるライザ上に切り替えバルブを取り付けるステップと、補助ライザの一端を切り替えバルブに、他端を浮きプラットフォームに接続するステップを含むことができ、単相の地熱液体は、切り替えバルブが第1の状態にあるときはライザだけを通り、切り替えバルブが第2の状態にあるときはライザの下側部分と、補助ライザを通って流れる。さらにこの方法は、重力供給管の一端を地熱貯留層内に、ライザから離して設置するステップと、重力供給管のヘッドに重力供給バルブを設置し、専ら重力に起因して海洋水が重力供給管内に、かつ地熱貯留層内に入ることを可能にするステップを含むことができる。またこの方法は、海洋底上において、開いた塩水タンクを重力供給管の周りに、重力供給バルブがその塩水タンクの完全に内側となるように配置するステップと、塩水パイプの一端を浮きプラットフォームに、他端を開いた塩水タンクに接続するステップと、地熱液体からの塩水を開いた塩水タンク内に吐出するステップも含むことができる。
【0149】
開示されている実施態様は、海洋底の下にある地熱貯留層からエネルギを生成するための地熱プラントを提供する。理解されるものとするが、この記述は、本発明の限定を意図したものではない。むしろそれとは対照的に、これらの実施態様は、付随する特許請求の範囲によって定義されるとおりの本発明の精神および範囲に含まれる代替、修正、および均等を保護するべく意図されている。さらに、実施態様の詳細な記述においては、請求されている発明の包括的な理解を提供するために多数の具体的な詳細が示されている。しかしながら、この分野の当業者は、その種の具体的な詳細を伴うことなく多様な実施態様が実施できることを理解することになるであろう。
【0150】
これらの実施態様の特徴および要素は、特に組み合わせにおいて実施態様の中に記述されているが、それぞれの特徴または要素を、実施態様内のほかの特徴および要素を伴うことなく単独で、あるいはこの中に開示されているほかの特徴および要素とともに、またはそれらを伴うことなく多様な組み合わせで使用することは可能である。
【0151】
記載されている説明は、いずれかのデバイスまたはシステムを作り、使用すること、およびいずれかの組み込まれている方法を行うことを含め、開示されている発明をこの分野の当業者が実施することを可能にするべくその要旨の例を使用している。発明の要旨の特許性のある範囲は、請求項によって定義され、この分野の当業者が思い浮かぶそのほかの例を含めることができる。その種のそのほかの例は、特許請求の範囲内となることが意図されている。
【符号の説明】
【0152】
100 地球
102、104 内部領域
106 地球表面、表面
108 火山
110 リソスフェア
200 海洋拡散中心
210 海底火山
212 陸上火山
220 海山群
230 もっとも若い部分
310 トランスフォーム断層
710 漏出スリック
720 未分類スリック
800 セクション
810 エリア
1110 裸坑
1120 沈殿物質
1130 地熱貯留層
1140 海洋底水
1150 場所
1200 地熱プラント
1202 浮きプラットフォーム
1204 沈殿物
1208 井戸
1210 発電プラント
1212 分離ユニット
1220 2相地殻流体、地殻流体、2相流体
1222 蒸気
1224 塩水、地熱塩水
1225 塩水パイプ
1226 液体、地熱液体、単相液体
1228 海洋深度、フラッシュ深度
1230 地熱貯留層
1231 熱変換ユニット
1232 電力
1234 バッテリ格納ユニット
1236 電力ケーブル
1238 電力施設
1240 ライザ、主ライザ
1240-I ライザ
1250 地殻
1252 沈殿層
1254 脆い玄武岩の海洋地殻
1256 ダクタイル・マントル
1260 電気ポンプ、ポンプ
1262 場所
1264 機械的作動部
1266 電気部品
1268 電気ケーブル
1600 プラント
1610 補助ライザ
1612 噴出防止装置
1620 計算装置
1622 切り替えバルブ
1700 プラント
1710 重力供給バルブ、バルブ
1712 重力供給管、パイプ
1712-1、1712-2、1712-3 重力供給管
1714 重力供給バルブ
1716 重力供給管
1720 海洋底
1722 海洋表面
1724 冷たい海洋水、海洋水
1800 プラント
1810 塩水タンク、塩水プール
1810A リム
1812 水平パイプ
1814 バルブ、塩水バルブ
1900 正三角形
1910 六角形セルまたはパターン
1910-I 六角形セル
2000 プラント
2010 使用後の蒸気
2014 発電された電力
2020 冷却パイプ、パイプ
2021 真水タンク
2030 電気分解モジュール
2032 反応器
2034 アンモニア・タンク
2038 生け簀
2040 パイプ
2042 鉱物タンク
2044 タンク
2046 ポンプ
2048 二酸化炭素パイプ、パイプ
2052 二酸化炭素
2054 液体二酸化炭素
2056 井戸
900-910 ステップ
2100-2106 ステップ
【国際調査報告】