(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】アルツハイマー病の処置方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/30 20060101AFI20240314BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240314BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A61K33/30
A61P25/28
A61K9/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558873
(86)(22)【出願日】2021-03-26
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 US2021024440
(87)【国際公開番号】W WO2022203685
(87)【国際公開日】2022-09-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522201026
【氏名又は名称】ベクター・ビターレ・アイピー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Vector Vitale IP LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】ノバク,ピーター ワイ
(72)【発明者】
【氏名】テムニコフ,マキシム ブイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB01
4C076BB13
4C076CC01
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA03
4C086HA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA16
(57)【要約】
疾患を処置または予防するのに治療上有効または予防上有効な用量で、64Zneまたはその塩を含む医薬組成物を投与することを含む、アルツハイマー病を処置または予防する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを含む組成物の治療有効量を、処置を必要とする対象体に投与することを含む、アルツハイマー病を処置する方法であって、該組成物が、
64Zn
e化合物またはその塩を含み、
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも80%
64Zn
eである、方法。
【請求項2】
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも95%
64Zn
eである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも99%
64Zn
eである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
64Zn
eが、アスパラギン酸塩、硫酸塩およびクエン酸塩からなる群より選択される塩の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
組成物が、注射によって投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
組成物が、経口投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
Znを含む組成物の予防有効量を、発症遅延を必要とする対象体に投与することを含む、アルツハイマー病の発症を遅延する方法であって、該組成物が、
64Zn
e化合物またはその塩を含み、
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも80%
64Zn
eである、方法。
【請求項8】
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも95%
64Zn
eである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも99%
64Zn
eである、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
64Zn
eが、アスパラギン酸塩、硫酸塩およびクエン酸塩からなる群より選択される塩の形態である、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
組成物が、注射によって投与される、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
組成物が、経口投与される、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルツハイマー病の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(「AD」)は、最も多い認知症の形態であり、世界中で3,700万人超が罹患している(Mount C, Downton C., Nature Medicine 2006;12(7):780-784; Wimo A et al., Alzheimer's and Dementia 2010;6(2):98-103)。現代社会では、ADの発生率が増加し、人口高齢化の見通しにより社会的および経済的需要が増大することを考慮すると、ADは医学的および社会的に大きな関心事である。
【0003】
ADは、罹患した脳内に細胞外アミロイド斑および細胞内神経原線維変化が存在することを特徴とし、これは新皮質、海馬および前脳基底部で神経細胞の損失を引き起こし、進行性の認知および行動低下を引き起こす(Watt NT et al., Int J Alzheimers Dis. 2010;2011:971021. Published 2010 Dec 20. doi:10.4061/2011/971021)。
【0004】
ADの治療方法はない。
【発明の概要】
【0005】
一態様において、本開示は、ADを処置または予防するのに治療上有効または予防上有効な用量で、亜鉛を含む医薬組成物を患者に投与することを含む、患者においてADを処置または予防する方法を提供する。いくつかの実施態様において、組成物は、64Zn富化亜鉛を含む(用語「64Zne」は、本明細書において、64Zn富化亜鉛を指すために用いる)。
【0006】
いくつかの実施態様において、64Zn富化亜鉛は、64Zne化合物または64Zne塩の形態である。特定の実施態様において、開示される組成物は、少なくとも80%64Zne、少なくとも90%64Zne、少なくとも95%64Zneまたは少なくとも99%64Zneである亜鉛、例えば、80%64Zne、85%64Zne、90%64Zne、95%64Zne、99%64Zneまたは99.9%64Zneである亜鉛を含む。
【0007】
本発明のこれらおよび他の態様に従って、多くの他の態様が提供される。本発明の他の特徴および態様は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲からより完全に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、アルツハイマー病の実験モデルの行動機能に対する
64Zn-aspの治療効果の試験における実験計画の図示である。
【0009】
【0010】
【
図3】
図3は、Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける体重に対する
64Zn-aspの影響を示す。データは、アルツハイマー病を模倣する前の動物の体重を100%としたときの、動物の最終体重(剖検日)のパーセンテージ比として示されている。
【0011】
【
図4】
図4Aおよび
図4Bは、Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける摂食(餌の摂取)(
図4B)および飲水(水の摂取)(
図4A)行動に対する
64Zn-aspの影響を示す。動物を個別のケージに入れ、ラットが摂取した餌および水の量を、18日目(手術後8日)から開始し、実験終了(37日目)まで、毎日各ラットについて測定した。データを、まず群内で1日当たり1匹のラットに平均化し、その後全観察期間にわたって1日当たり1匹のラットに平均化した。
【0012】
【
図5】
図5A~
図5Dは、無処置のラット(
図5A)、偽手術のラット(プラセボ)(
図5B)、H
2Oを注入したAβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデル(
図5C)、および
64Zn-aspで処置したAβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデル(
図5D)の海馬のニューロンにおける、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)活性の免疫組織化学的特性評価を示す。TH陽性染色(暗色)。Oc. 40、ob. 10。
【0013】
【
図6】
図6A(手術前)および
図6B(手術後)は、Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルがバーンズ迷路における空間学習に要した時間を示すグラフである。データを、15分/ラット/日ごとの4回の試行の平均、および各群内の平均/日として表す。M±SD
【0014】
【
図7】
図7A(手術前)および
図7B(手術後)は、Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける訓練の24時間後(4日間の訓練後5日目)および5日後(4日間の訓練後9日目)の、短期および長期の空間記憶効率(「逃避箱」への入口を見つけるのに要した時間)および認知柔軟性(「逃避箱」への入口付近で過ごした時間)を示す。M±SD
【0015】
【
図8】
図8は、Aβ1-40の注入によって誘発したADのラットモデルの海馬におけるAβレベルに対する
64Zn-aspの治療効果を示す(全群でn=5)。Aは、食作用を行う細胞の相対数である;Bは、食作用活性である。*p≦0.05、対無処置の動物
【0016】
【
図9】
図9は、Aβ1-40の注入によって誘発したADのラットモデルの海馬におけるタウタンパク質レベルに対する
64Zn-aspの治療効果を示す(全群でn=5)。Aは、食作用を行う細胞の相対数である;Bは、食作用活性である。*p≦0.05、対無処置の動物
【0017】
【
図10】
図10Aおよび
図10Bは、Aβ1-40の注入によって誘発したADのラットモデルにおけるミクログリアの食作用に対する
64Zn-aspの治療効果を示す(全群でn=5)。
図10Aは、食作用を行う細胞の相対数を示す;
図10Bは、食作用活性を示す。*p≦0.05、対無処置の動物
【0018】
【
図11】
図11は、Aβ1-40の注入によって誘発したADのラットモデルのミクログリアにおける酸化代謝に対する
64Zn-aspの治療効果を示す(全群でn=5)。*p≦0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【0019】
【
図12】
図12Aおよび
図12Bは、Aβ1-40の注入によって誘発したアルツハイマー病の
64Zn-asp処置ラットモデルのミクログリアにおけるCD86の発現を示す(全群でn=5)。
図12Aは、分析した集団中に発現する細胞数である;
図12Bは、発現レベルである。*p≦0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【0020】
【
図13】
図13Aおよび
図13Bは、Aβ1-40の注入によって誘発したアルツハイマー病の
64Zn-asp処置ラットモデルのミクログリアにおけるCD206の発現を示す(全群でn=5)。
図13Aは、分析した集団中に発現する細胞数である;
図13Bは、発現レベルである。*p<0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【0021】
【
図14】
図14はAβ1-40誘発ADのラットモデルにおける循環白血球のレベルに対する
64Zn-aspの影響を示す。M±SD。注:*p<0.05、対無処置の動物、#p<0.05、対ADの未処置動物モデル
【0022】
【
図15】
図15A(食作用を行う細胞数、%)および
図15B(食作用指標、GMean)は、Aβ1-40誘発ADのラットモデルにおける循環多形核顆粒球の食作用活性に対する
64Zn-aspの影響を示す。M±SD。注:*p<0.05、対無処置の動物、#p<0.05、対ADの未処置動物モデル
【0023】
【
図16】
図16A(食作用を行う細胞数、%)および
図16B(食作用指標、GMean)は、Aβ1-40誘発ADのラットモデルにおける循環単球の食作用活性に対する
64Zn-aspの影響を示す。M±SD。注:*p<0.05、対無処置の動物、#p<0.05、対ADの未処置動物モデル
【0024】
【
図17】
図17Aおよび
図17Bは、Aβ1-40誘発ADのラットモデルの循環顆粒球(
図17A)および単球(
図17B)における酸化代謝に対する
64Zn-aspの影響を示す。注:*p<0.05、対無処置の動物;#<0.05、対未処置AD動物モデル
【0025】
【
図18】
図18Aおよび
図18Bは、Aβ1-40の注入によって誘発したアルツハイマー病の
64Zn-asp処置ラットモデルの循環食細胞集団におけるCD86の発現を示す(全群でn=5)。
図18Aは、分析した集団中に発現する細胞数である;
図18Bは、発現レベルである。*p<0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【0026】
【
図19】
図19Aおよび
図19Bは、Aβ1-40の注入によって誘発したアルツハイマー病の
64Zn-asp処置ラットモデルの循環食細胞集団におけるCD206の発現を示す(全群でn=5)。
図19Aは、分析した集団中に発現する細胞数である;
図19Bは、発現レベルである。*p<0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【0027】
【
図20】
図20は、Aβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける体重に対する
64Zn-aspの影響を示す。データは、アルツハイマー病を模倣する前の動物の体重を100%としたときの、動物の最終体重(剖検日)のパーセンテージ比として示されている。
【0028】
【
図21】
図21A、
図21B、
図21Cおよび
図21Dは、無処置のラット(
図21A)、偽手術のラット(プラセボ)(
図21B)、H
2Oを注入したAβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデル(
図21C)、および
64Zn-aspで処置したAβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデル(
図21D)の海馬のニューロンにおける、チロシンヒドロキシラーゼ活性の免疫組織化学的特性評価を示す。TH陽性染色(暗色)。Oc. 40、ob. 10。
【0029】
【
図22】
図22A(手術前)および
図22B(手術後)は、Aβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデルがバーンズ迷路における空間学習に要した時間を示すグラフである。データを、15分/ラット/日ごとの4回の試行の平均、および各群内の平均/日として表す。M±SD。
【0030】
【
図23】
図23Aおよび
図23Bは、Aβ25-35の注入によって誘発したADのラットモデルの海馬におけるAβ(A)およびタウタンパク質(B)レベルに対する
64Zn-aspの治療効果を示す(全群でn=5)。
図23Aは、食作用を行う細胞の相対数である;
図23Bは、食作用活性である。*p<0.05、対無処置の動物
【0031】
【
図24】
図24Aおよび
図24Bは、Aβ25-35の注入によって誘発したADのラットモデルにおけるミクログリアの食作用に対する
64Zn-aspの治療効果を示す(全群でn=5)。
図24Aは、食作用を行う細胞の相対数である;
図24Bは、食作用活性である。*p<0.05、対無処置の動物;#p≦0.05、対ADの対照ラットモデル
【0032】
【
図25】
図25は、Aβ25-35の注入によって誘発したADのラットモデルのミクログリアにおける酸化代謝に対する
64Zn-aspの治療効果を示す(全群でn=5)。*p≦0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【0033】
【
図26】
図26Aおよび
図26Bは、Aβ25-35の注入によって誘発したアルツハイマー病の
64Zn-asp処置ラットモデルのミクログリアにおけるCD86の発現を示す(全群でn=5)。
図26Aは、分析した集団中に発現する細胞数である;
図26Bは、発現レベルである。*p<0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【0034】
【
図27】
図27Aおよび
図27Bは、Aβ25-35の注入によって誘発したアルツハイマー病の
64Zn-asp処置ラットモデルのミクログリアにおけるCD206の発現を示す(全群でn=5)。
図27Aは、分析した集団中に発現する細胞数である;
図27Bは、発現レベルである。*p<0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【0035】
【
図28】
図28は、Aβ25-35誘発ADのラットモデルにおける循環白血球のレベルに対する
64Zn-aspの影響を示す。M±SD。注:*p<0.05、対無処置の動物、#p<0.05、対ADの未処置動物モデル
【0036】
【
図29】
図29Aおよび
図29Bは、Aβ25-35誘発ADのラットモデルにおける循環顆粒球の食作用活性に対する
64Zn-aspの治療効果を示す(全群でn=5)。
図29Aは、食作用を行う細胞数である;
図29Bは、食作用活性である。注:*p<0.05、対無処置の動物、#p≦0.05、対ADの対照動物モデル
【0037】
【
図30】
図30Aおよび
図30Bは、Aβ25-35誘発ADのラットモデルにおける循環単球の食作用活性に対する
64Zn-aspの治療効果を示す(全群でn=5)。
図30Aは、食作用を行う細胞の相対数である;
図30Bは、食作用活性である。注:*p<0.05、対無処置の動物、#p≦0.05、対ADの対照動物モデル
【0038】
【
図31】
図31Aおよび
図31Bは、Aβ25-35誘発ADのラットモデルの循環顆粒球(
図31A)および単球(
図31B)における酸化代謝に対する
64Zn-aspの影響を示す。注:*p<0.05、対無処置の動物;#<0.05、対未処置AD動物モデル
【0039】
【
図32】
図32Aおよび
図32Bは、Aβ25-35の注入によって誘発したアルツハイマー病の
64Zn-asp処置ラットモデルの循環食細胞集団におけるCD86の発現を示す(全群でn=5)。
図32Aは、分析した集団中に発現する細胞数である;
図32Bは、発現レベルである。*p<0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【0040】
【
図33】
図33Aおよび
図33Bは、Aβ25-35の注入によって誘発したアルツハイマー病の
64Zn-asp処置ラットモデルの循環食細胞集団におけるCD206の発現を示す(全群でn=5)。
図33Aは、分析した集団中に発現する細胞数である;
図33Bは、発現レベルである。*p<0.05、対無処置の動物;#≦0.05、対対照AD動物モデル
【発明を実施するための形態】
【0041】
本明細書で用いる、名詞の前の単語「ある(a)」または「複数」は、1つまたは複数の特定の名詞を表わす。
【0042】
用語「例えば(for example)」および「等(such as)」ならびにその文法上の等価物について、他に明確に断らない限り、「および限定されない」という語句が続くと理解される。本明細書で用いる用語「約」は、実験誤差によるばらつきを考慮することを意味する。本明細書で示されるすべての測定値は、他に明確に断らない限り、用語が明示的に用いられるかどうかにかかわらず、「約」という用語によって修飾されると理解される。本明細書で用いる単数形「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、文脈で明確に示されない限り、複数の言及を含む。
【0043】
「有効量」、「予防有効量」または「治療有効量」は、対象体に有益な効果または好ましい結果を提供する薬物または組成物の量、あるいは所望のインビボまたはインビトロ活性を示す薬物または組成物の量を指す。「有効量」、「予防有効量」または「治療有効量」は、所望の生物学的、治療的および/または予防的結果を提供する薬物または組成物の量を指す。その結果は、患者/対象体における疾患、障害または状態の兆候、症状または原因の1つまたは複数の減少、改善、緩和、低下、遅延および/または軽減、または生物系のその他の所望の変化であり得る。有効量は、1回以上の投与で投与され得る。
【0044】
「有効量」、「予防有効量」または「治療有効量」は、細胞培養アッセイに従って、または動物モデル、典型的にはマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌまたはブタを用いて、最初に推定され得る。動物モデルを用いて、適切な濃度範囲および投与経路を決定し得る。そして、このような情報を用いて、ヒトへの適切な用量および投与経路を決定し得る。ヒトの等価用量を計算するとき、Guidance for Industry:Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers(U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, Center for Drug Evaluation and Research (CDER), July 2005)で提供されるような換算表を用い得る。当業者は、非ヒトデータに基づいてヒトの治療投与量をもたらすためにも用いられ得る更なる追加の指針を知っている。有効用量は、一般的に0.01mg/kg~2000mg/kgの活性物質、好ましくは0.05mg/kg~500mg/kgの活性物質である。正確な有効量は、疾患の重症度、患者の一般的な健康状態、年齢、体重および性別、栄養状態、投与の時間および頻度、医薬の組合せ、応答の感受性、投与に対する耐性/応答、ならびに当業者が当該技術分野の知識に基づいて特定の患者に対する投与量および投与経路を決定する際に考慮する他の要因に依存する。このような用量は、日常的な実験を実施することによって、医師の判断によって決定され得る。有効用量はまた、他の薬剤の使用などの他の治療手順との併用の可能性によって異なる。
【0045】
本明細書で用いる「患者」および「対象体」は、相互交換可能な用語であり、ヒト患者/対象体、イヌ、ネコ、非ヒト霊長類などを指し得る。
【0046】
本明細書に開示されるすべての範囲は、その中に包含されるあらゆる部分範囲を包含すると理解されるべきである。例えば、「1.0~10.0」という指定範囲は、1.0以上の最小値で始まり10.0以下の最大値で終わるあらゆる部分範囲、例えば1.0~5.3または4.7~10.0または3.6~7.9を含むとみなされるべきである。
【0047】
本明細書に開示されるすべての範囲はまた、他に明確に断らない限り、範囲の終点を含むものとみなされる。例えば、「5と10の間」、「5から10」または「5~10」の範囲は、終点の5と10を含むとみなされるべきである。
【0048】
さらに、本開示または関連する実施態様の性質によって明示的に禁止されていない限り、一実施態様の1つまたは複数の特徴は、他の実施態様において具体的に記載または例示されていなくても、一般に他の実施態様に適用され得ることが理解されるべきである。同様に、本明細書に記載の組成物および方法は、本開示の目的と矛盾しない、本明細書に記載の特徴および/またはステップの任意の組合せを含み得る。本明細書に記載される組成物および方法の多くの改変および/または適応は、本主題から逸脱することなく当業者には容易に明らかであろう。
【0049】
他に定義されない限り、本明細書で用いるすべての技術および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本発明で使用するための方法および材料を本明細書で説明し;当技術分野で知られている他の適切な方法および材料もまた用い得る。材料、方法および実施例は単なる例示であり、限定することを意図するものではない。本明細書で言及するすべての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリおよび他の参考文献は、出典明示によりその全体として本明細書の一部とする。矛盾がある場合、定義を含む本明細書が優先される。
【0050】
アルツハイマー病(「AD」)
【0051】
アミロイドまたは「老人性」斑は、ADの病態生理学における主な要因である。アミロイドまたは「老人性」斑は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解処理プロセシングに由来するAβペプチドから主に構成される。APPは、大きなN末端細胞外ドメイン、単一の疎水性膜貫通ドメインおよび小さなC末端細胞質ドメインを有するグリコシル化膜貫通タンパク質である。
【0052】
APPは、Aβの産生につながるアミロイド生成経路と、非アミロイド生成経路の2つの経路のいずれかによって処理され得る(Chow VW et al., Neuromolecular Medicine 2010;12(1):1-12)。健康な脳における主要なAPPプロセシング経路は非アミロイド生成経路であり、ここでAPPはAβ領域内のα-セクレターゼによって切断され、分泌型APPα(sAPPα)断片と83アミノ酸の膜結合C末端断片(C83)が形成される。α-セクレターゼ活性は、長い亜鉛結合コンセンサス配列を有するため、亜鉛メタロプロテアーゼのディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ(ADAM)ファミリーに起因している(Bode W, et al., Adv Exp Med Biol 1996;389:1-11. doi:10.1007/978-1-4613-0335-0_1)。続いて、C83はγ-セクレターゼ複合体によって切断され、APP細胞内ドメイン(AICD)とp3が形成される。アミロイド生成経路において、APPはアスパルチルプロテアーゼによって連続的に切断され、分泌型APPβ(sAPPβ)断片と99アミノ酸の膜結合C末端断片(C99)が形成される。その後、C99断片は、γ-セクレターゼ複合体によってさらに処理されて、主に長さが40と42アミノ酸であるAICDペプチドとAβペプチドになる。これらの凝集しやすいAβペプチドは、脳内に沈着し、時間の経過と共にADを引き起こすオリゴマー構造および線維構造を形成する(Zhang YW et al., Mol Brain 2011;4:3. Published 2011 Jan 7. doi:10.1186/1756-6606-4-3)。
【0053】
健康な脳では、構成的に生成される比較的少量のAβは、Aβ分解酵素によって安全になる。多数のAβ分解酵素の候補が同定されており、その大部分は亜鉛メタロプロテアーゼである(Bateman RJ et al., Nature Medicine 2006;12(7):856-861)。
【0054】
亜鉛は、脳内で最も豊富な微量金属であり、アルツハイマー病(AD)において多因子機能を有する。亜鉛は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の酵素的非アミロイド生成性プロセシングおよびアミロイドβ(Aβ)ペプチドの酵素的分解において重要である。亜鉛は、Aβに結合し、神経毒性種への凝集を促進し;脳内の亜鉛恒常性の崩壊は、シナプスおよび記憶の欠損を引き起こす。亜鉛の特異的結合部位は、APPの細胞外ドメイン上のシステインに富む領域(細胞外ドメイン内)に局在している(Bush AI et al., The Journal of Biological Chemistry. 1993;268(22):16109-16112; Bush AI, et al., The Journal of Biological Chemistry 1994;269(43):26618-26621)。臨床観察は、AD患者の血清中の亜鉛値が、健康な対照者と比較して著しく低いことを示している。
【0055】
高遊離銅は、ADの病因との関連を支持する有望な証拠を示している。遊離銅は、反応性酸素種を生成し、その結果、神経炎症および神経変性が活性化される。神経炎症は、AD、ならびにシヌクレイノパチーおよびタウオパチーのグループの他の神経変性疾患の病態生理学において重要な役割を果たす(Zhang F, Jiang L. Neuropsychiatr Dis Treat 2015;11:243-256)。亜鉛治療は、遊離銅中毒症の処置に対する有望なアプローチであると考えられている。亜鉛は、腸内メタロチオネインの生成を誘導し、便を介した遊離銅の排泄を増加させる(Avan A, Hoogenraad TU. Journal of Alzheimer's Disease 46 (2015) 89-92 DOI 10.3233/JAD-150186)。亜鉛は、細胞-細胞間および細胞マトリックスの相互作用中にAPPの接着性を維持する役割を果たし得る(Multhaup G et al., FEBS Letters 1994;355(2):151-154; Multhaup G, et al., Biochemistry 1998;37(20):7224-7230)。
【0056】
方法および組成物
【0057】
一態様において、本開示は、ADを処置または予防するのに治療上有効または予防上有効な用量で、亜鉛を含む医薬組成物を患者に投与することを含む、処置または発症遅延を必要とする患者においてADを処置するまたはADの発症を遅延する(すなわち予防する)方法を提供する。いくつかの実施態様において、組成物は、64Zn富化亜鉛を含む(用語「64Zne」は、本明細書において、64Zn富化亜鉛を指すために用いる)。
【0058】
いくつかの実施態様において、溶液は、天然の64Zne塩を含む。いくつかの実施態様において、64Zne塩は、エン酸塩またはアスパラギン酸塩である。いくつかの実施態様において、64Zne塩は、2つの分子のアスパラギン酸を有する64Zneアスパラギン酸塩である。
【0059】
いくつかの実施態様において、64Zn富化亜鉛は、64Zne化合物または64Zne塩の形態である。特定の実施態様において、開示される組成物は、少なくとも80%64Zne、少なくとも90%64Zne、少なくとも95%64Zneまたは少なくとも99%64Zneである亜鉛、例えば、80%64Zne、85%64Zne、90%64Zne、95%64Zne、99%64Zneまたは99.9%64Zneである亜鉛を含む。
【0060】
いくつかの実施態様において、64Zneは、2つのアスパラギン酸分子を有するアスパラギン酸塩(化学式C4H5O4N64Zne)、硫酸塩、およびクエン酸塩からなる群より選択される塩の形態である。いくつかの実施態様において、64Zneは、2つのアスパラギン酸分子を有する64Zneアスパラギン酸塩(化学式C4H5O4N64Zne)の形態である。
【0061】
用語「64Zne」は、本明細書において、64Zn富化亜鉛を指すために用いる。すなわち、64Znが天然の亜鉛中における通常の割合より多く富化されているように、64Znが富化されている亜鉛である。
【0062】
軽同位体64Zneの形態の亜鉛は、天然に存在する亜鉛よりはるかによく体内で吸収される。特定の実施態様において、開示される組成物は、少なくとも80%64Zne、少なくとも90%64Zne、少なくとも95%64Zneまたは少なくとも99%64Zneである亜鉛、例えば、80%64Zne、85%64Zne、90%64Zne、95%64Zne、99%64Zneまたは99.9%64Zneである亜鉛を含む。
【0063】
いくつかの実施態様において、組成物は、0.05mg~110mgの64Zneを含む。いくつかの実施態様において、組成物は、1~10mgの64Zneを含む。いくつかの実施態様において、64Zne化合物またはその塩は、少なくとも90%64Zneであり、組成物は、64Zneが0.1mg/ml~10mg/mlの濃度で存在する水溶液である。
【0064】
いくつかの実施態様において、ヒト対象体に対する治療用量は、ヒト対象体の体重1kg当たり0.2~0.8mgのZn-64である。
【0065】
いくつかの実施態様において、組成物または溶液は、注射によって投与される。他の実施態様において、組成物または溶液は、経口投与される。
【0066】
製剤化および投与組成物
【0067】
開示される組成物は、任意の適切な投与様式、任意の適切な頻度、および任意の適切な有効用量で、それを必要とする対象体に投与され得る。
【0068】
いくつかの実施態様において、投与される亜鉛の総量は、米国が推奨する亜鉛の1日当たりの許容量または摂取量と同じである。いくつかの実施態様において、投与される亜鉛の総量は、米国が推奨する亜鉛の1日当たりの許容量または摂取量の1/2、2倍、3倍、5倍または10倍である。いくつかの実施態様において、Znの総量は、米国が推奨する亜鉛の1日当たりの許容量または摂取量の1/2から10倍である。開示される方法で使用するための組成物は、1日1回投与される所定の1日量、または1日当たり対応する回数投与されるその一部を含み得る。開示される方法で使用するための組成物はまた、2日に1回、3日に1回、1週間に1回、または任意の他の適切な頻度で投与される量のZnを含み得る。
【0069】
開示される方法で使用するための組成物は、任意の適切な形態であり得て、任意の適切な送達手段のために製剤化され得る。いくつかの実施態様において、開示される方法で使用するための組成物は、錠剤、丸剤、トローチ剤、カプセル剤、液体懸濁剤、液剤または任意の他の従来の経口剤形などの経口投与に適した形態で提供される。経口剤形は、即時放出、遅延放出、持続放出または腸溶性放出を提供し得て、適切な場合、1つ以上のコーティングを含み得る。いくつかの実施態様において、開示される組成物は、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内または他の任意の注射経路などの注射に適した形態で提供される。いくつかの実施態様において、注射用組成物は、無菌および/または非発熱性形態で提供され、防腐剤および/または他の適切な添加剤、例えばスクロース、二塩基性リン酸ナトリウム七水和物または他の適切な緩衝剤、pH調整剤、例えば塩酸または水酸化ナトリウム、およびポリソルベート80または他の適切な界面活性剤を含み得る。
【0070】
溶液形態で提供される場合、いくつかの実施態様において、開示される方法で使用するための組成物は、ガラスまたはプラスチックボトル、バイアルまたはアンプルで提供され、そのいずれも単回または複数回使用のいずれかに適し得る。開示される組成物を含有するボトル、バイアルまたはアンプルは、適切なゲージの1つ以上の針および/または1つ以上のシリンジと共にキットの形態で提供され得て、それらはすべて好ましくは滅菌されている。したがって、特定の実施態様において、適切なガラスまたはプラスチックボトル、バイアルまたはアンプルに包装され、1つ以上の針および/または1つ以上のシリンジをさらに含み得る、上記の液体溶液を含むキットが提供される。キットは使用指示書をさらに含み得る。
【0071】
特定の実施態様において、亜鉛の投与量は、対応する元素の様々な権威ある一日摂取指導(例えば、推奨食事許容量(USRDA)、適切な摂取量(AI)、推奨食事摂取量(RDI))に比例する。
【0072】
いくつかの実施態様において、Zn投与量は、指導量の約1/2~約20倍、より好ましくは指導量の約1~約10倍、さらにより好ましくは指導量の約1~約3倍である。したがって、特定の実施態様において、毎日投与するための開示される方法で使用するための組成物の単回用量は、これらの範囲内の量、例えば、指導量の約1/2、約1、約3、約5、約10および約20倍を含むように製剤化される。これらの量は一般に、経口摂取または局所適用のためである。いくつかの実施態様において、静脈内投与量は、指導量の約1/10~約1/2など、より低い。これらの範囲の下限の用量は、特定の元素または元素の種類に対する感受性が高くなっている人(例えば、腎臓に問題がある人)に適切である。亜鉛について、1日当たりの指導量は、乳児の2mgから9歳以上の場合の8~11mg(性別に応じる)までの範囲である。本出願を通して論じられる1日投与量は、分数投与量に細分され得て、分数投与量用量は、1日当たり適切な回数投与されて、1日当たりの総投与量を提供する(例えば、1日用量の1/2を1日2回投与し、1日用量の1/3を1日3回投与するなど)。
【0073】
開示される方法で使用するための組成物は、例えばRemington: The Science and Practice of Pharmacy (Pharmaceutical Press; 21st revised ed. (2011)) (以下、「レミントン」)に示される方法など、製薬産業での一般的な慣行に従って採用される方法によって製造され得る。
【0074】
いくつかの実施態様において、開示される方法で使用するための組成物は、少なくとも1つの医薬的に許容されるビヒクルまたは添加剤を含む。これらは、例えば、希釈剤、担体、添加剤、賦形剤、崩壊剤、可溶化剤、分散剤、防腐剤、湿潤剤、防腐剤、安定化剤、緩衝剤(例えばリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、酒石酸塩)、懸濁化剤、乳化剤、浸透促進剤(例えばDMSO)を必要に応じて含む。組成物はまた、適切な補助物質、例えば可溶化剤、分散剤、懸濁化剤および乳化剤を含み得る。
【0075】
特定の実施態様において、組成物は、適切な希釈剤、流動促進剤、滑沢剤、酸味料、安定化剤、賦形剤、結合剤、可塑剤または放出助剤、および他の医薬的に許容される添加剤をさらに含み得る。
【0076】
医薬的に許容される添加剤の全体的な説明は、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub., Co., N.J. 1991)または他の標準的な薬科学のテキスト、例えばHandbook of Pharmaceutical Excipients(Shesky et al. eds., 8th ed. 2017)で見つけられ得る。
【0077】
いくつかの実施態様において、開示される方法で使用するための組成物は、胃内、経口、静脈内、腹腔内または筋肉内に投与され得るが、他の投与経路もまた可能である。
【0078】
水は、組成物中の担体および希釈剤として用いられ得る。水に加えてまたはその代わりに、他の医薬的に許容される溶媒および希釈剤を使用することも許容される。特定の実施態様において、重水素除去水が希釈剤として用いられる。
【0079】
タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸、アミノ酸のコポリマーなどのゆっくりと代謝される大きな高分子もまた、組成物の担体化合物として用いられ得る。治療組成物中の医薬的に許容される担体は、水、生理食塩水、グリセロールまたはエタノールなどの液体をさらに含み得る。さらに、組成物は、湿潤剤または乳化剤、緩衝物質などの添加剤をさらに含み得る。このような添加剤は、とりわけ、当技術分野で従来の希釈剤および担体、および/または細胞への活性化合物の浸透を促進する物質、例えばDMSO、ならびに防腐剤および安定化剤を含む。
【0080】
開示される方法で使用するための組成物は、適用の目的に応じて様々な剤形で提供され得て;特に、注射用の溶液として製剤化され得る。
【0081】
開示される方法で使用するための組成物は、全身投与され得る。適切な投与経路は、例えば、経口投与、または静脈内、腹腔内、胃内などの非経腸投与、ならびに飲料水による投与を含む。しかしながら、剤形に依存して、開示される組成物は、他の経路により投与され得る。
【0082】
特定の実施態様において、開示される方法で使用するためのZnを含む組成物は、2.25mg/mlの濃度で胃内投与される。
【0083】
いくつかの実施態様において、開示される方法で使用するための組成物は、約2mlである。
【0084】
いくつかの実施態様において、64Zneの富化レベルは約99%以上である。他の更なる実施態様において、2mlの組成物の64Zneは、2つのアスパラギン酸分子を有するアスパラギン酸亜鉛(化学式C4H5O4N64Zne)を含むか、またはそれからなる。開示される方法で使用するための組成物の用量は、処置される対象体、疾患の重症度、患者の状態、ならびに当技術分野における知識に基づいて特定の患者に対する投与量および経路を決定する際に当業者によって考慮される他の要因に応じて変化し得る。
【0085】
軽同位体は、購入し得る。必要な富化度を有するZn-64酸化物は、例えばOak Ridge National laboratory(Oak Ridge, TN, USA)から購入し得る。
【0086】
いくつかの実施態様において、アスパラギン酸亜鉛は、2つのアスパラギン酸分子を有する化学式C
4H
5O
4N
64Zn
eを有する。いくつかの実施態様において、アスパラギン酸亜鉛の構造は、下記のとおりである:
【化1】
【0087】
特定の実施態様において、開示される方法で使用するための組成物は、組成物の約20%~約100%で64Zneを含む。
【0088】
開示される組成物は、適切な別の薬物または治療と共に投与され得る。
【0089】
以下の実施例に示すように、ADのラットモデルにおける認知症状について64Zn-アスパラギン酸(64Zn-asp)を試験するために、異なるβ-アミロイドペプチドの混合物(1-40および25-35)の注入によって誘発した2つのモデルを使用した。64Zn-aspは、実施例において「試験物質」と称する。
【0090】
ADの動物モデルは、医薬品開発プロセスの基礎であり、その表現型を高い確実性で再現して、疾患に可能な限り関連するものである必要がある。過去20年間にわたり、トランスジェニックADモデルは、疾患の発症と進行に関与する分子機構の理解に多大な貢献をした。しかしながら、多くの文献データは、ADの遺伝子モデルを用いても疾患の完全な臨床像を再現できず、AD表現型をアミロイドβペプチドの注入によって誘発したラットモデルを使用すると、より再現性が高くなることを示している(Lecanu L, Papadopoulos V. Alzheimers Res Ther. 2013;5(3):17. doi:10.1186/alzrt171)。このようなモデルでは、AD表現型は、ヒト型の42残基アミロイドペプチド(Aβ1-42)を含む溶液を脳室内経路で投与することによって最も多く誘発される(Mudo G et al., J Neuroinflammation 2019;16(1):44. doi:10.1186/s12974-019-1417-4)。その優れた凝集特性と、あらゆるアミロイド斑形成の核を構成すると考えられていたため、Aβ1-42を選択した。
【0091】
βアミロイドペプチド25-35の注入に基づくADモデルは、より新しいモデルである。これまでに研究されたAβ断片の中で、Aβ(25-35)ペプチドは、脳プロテアーゼの作用の結果としてインビボで形成される最も短いAβ断片である(Kubo, T. et al., J. Neurosci. Res. 2002; 70, 474-483)。このペプチドは、金属結合部位を欠いているが、著しいレベルの分子凝集を示し、フルサイズのペプチドの毒性を保持している。この知見と一致して、Aβ(25-35)ペプチドがAβの生物学的に活性な領域を表すことが提案されている。
【0092】
中枢神経系におけるAβの沈着はADの特徴であり、神経変性の原因である可能性があるにもかかわらず、いくつかの報告は、いくつかの非凝集アミロイド分子およびそのペプチド断片がニューロンの細胞膜に侵入し、膜の活性を直接変化させ得ることを示唆している(Pike, C.J. et al., J. Neurochem. 1995; 64, 253-265; Dahlgren, K.N. et al., J. Biol. Chem. 2002; 277, 32046-32053)。最近の研究は、ADの初期段階では、Aβ断片の非凝集型、すなわちモノ/オリゴマーAβ(25-35)型もまた、細胞膜を貫通して、細胞内毒性メカニズムを引き起こすことができることが示されている(Clementi ME et al., FEBS Lett. 2005;579(13):2913-2918 doi:10.1016/j.febslet.2005.04.041)。
【0093】
また、アルツハイマー病(AD)におけるβ-アミロイド(Aβ)の沈着と神経変性の間の遅滞期は、年齢依存性の要因が病因に関与していることを示唆する。AβにおけるSerとAspのラセミ化は、ADにおける典型的な年齢依存性の改変である。最近、Ser26にてラセミ化されたAβ1-40([D-Ser26]Aβ1-40)は可溶性であり、神経細胞に対して無毒であるが、脳プロテアーゼによって、切断された毒性断片([D-Ser26]Aβ25-35/40)に容易に変換されることが示された。抗[D-Ser26]Aβ25-35/40特異的抗体を用いた免疫組織化学的分析は、AD脳の老人斑および変性海馬CA1ニューロンに[D-Ser26]Aβ25-35/40抗原が存在するが、年齢をマッチさせた対照脳では存在しないことを示した。これらの結果は、おそらく加齢に伴って生成される可溶性[D-Ser26]Aβ1-40が斑から放出され、タンパク質分解によって有毒な[D-Ser26]Aβ25-35/40に変換され、ADにおける興奮毒性を増強することによって海馬CA1ニューロンに損傷を与えるという仮説を裏付ける(Kubo T. et al., J Neurosci Res. 2002;70(3):474-483 doi:10.1002/jnr.10391)。
【0094】
さらに、かなりの数のタンパク質とペプチドが、実験条件下でアミロイド構造に会合し得ることを研究は示した。これらのポリペプチドは立体配座的相同性も構造的相同性も示さないが、それらのアミロイド原線維は、中心にβ折り畳み構造が存在するという共通の構造的特徴を明らかに有し、これはアミロイド形成がポリペプチド骨格の共通の特性であることを示している。細胞機構がタンパク質凝集体を除去できない場合、このようなプロセスが体内で進行し得る。
【0095】
アミロイド凝集体の別の共通の特徴は、それらが核形成依存機構によって生じること、および様々なタンパク質の初期のオリゴマー構造および前線維構造が細胞毒性であることである。
【0096】
成熟した原線維は不活性物質と考えられ、器官および組織に物理的損傷を引き起こし得る(Moulias R et al., Ann Med Interne (Paris) 2002;153:441-445; Bucciantini M et al., Nature 2002;416: 507-511)。
【0097】
最近、ADを含む認知症の病態生理学において自己免疫要素が報告されている。臨床試験は、様々な分子に対する自己抗体がADの発症および進行に関連することを説得力をもって実証している。したがって、Aβおよびタウタンパク質に対する抗体、複数の伝達物質および受容体分子(グルタミン酸、ドーパミンなど)、GFAPなどのグリアマーカー、脂質(セラミド、酸化低密度リポタンパク質)、RAGE(終末糖化産物の受容体、ほぼすべての神経変性疾患の病因に関与する受容体)などの血管マーカー、アルドラーゼなどの細胞酵素、および他の多くの自己抗原が、AD患者の血清中に見られる。(Wu J, Li L. J Biomed Res. 2016;30(5):361-372. doi:10.7555/JBR.30.20150131; MacLean M. et al., Neurochem Int. 2019;126:154-164. doi:10.1016/j.neuint.2019.03.012)。ADにおけるこれらの自己抗体の役割は不明のままであるが、疾患の発症および進行との関連は、その病態生理学における免疫系の主要な役割を説得力をもって証明している。発表された臨床観察の結果によると、Aβ25-35は、AD患者の90%の血清中に高力価の抗体が見られる自己抗原の1つである(Gruden MA et al., Dement Geriatr Cogn Disord. 2004;18(2):165-171 doi:10.1159/000079197)。したがって、本明細書においてAβ25-35の注入によって誘発したADモデルを使用することは理にかなっていた。
【実施例】
【0098】
実施例
【0099】
本発明をよりよく理解するために、以下の実施例を記載する。これらの実施例は例示のみを目的とするものであり、いかなる方法によっても本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。
【0100】
実施例1 ADのラットモデルにおける64Zn-aspの治療効果
【0101】
(材料および方法)
【0102】
実験動物
【0103】
雄性Wistarラット(300~500g)を用いた。動物を、Taras Shevchenko National University of KyivのESC "Institute of Biology and Medicine"の飼育室で標準条件下で維持した。飼料および水を自由に摂取させた。
【0104】
ラットにおけるアルツハイマー病のモデル化
【0105】
アルツハイマー病を、老齢雄性ラット(14月齢)において、凝集したアミロイドβ(Aβ1-40)ペプチド(ヒト)(Cayman Chemical Company)およびアミロイドβ(Aβ25-35)ペプチド(ヒト)(Tocris Bioscience、Brostol)を海馬内注射をすることにより誘導した。Aβ1-40およびAβ25-35を15μmol/Lの濃度まで再蒸留水に溶解させて、凝集のために37℃にて24時間インキュベートした。Aβ集合体を、超音波によって粉砕し、注射直前に滅菌した。
【0106】
ケタミン(75mg/kg、注射用滅菌水で希釈、Sigma、USA)と2%キシラジン(100μl/ラット、Alfasan International B.V.、Netherlands)の混合物を総量1mlで腹腔内投与してラットを麻酔した。ラット用に変更した定位固定装置(SEZH-4)にラットを置いた。その後、動物を、矢状縫合線とブレグマの交点(ゼロ点)から遠位2mm、側方2mm、深さ3.5mmで頭皮を切開し、海馬に直接注射針で穿孔開口部を作製した。溶解させたAβ1-40またはAβ25-35を自作のマイクロインジェクターに採取し、その先端を穿孔開口部に滴下した。
【0107】
動物当たり10μlの量の懸濁液を、0.5μl/分(15秒ごと)の速度で5分間注入した。Aβを投与した後、マイクロインジェクターの先端を、脳組織内に4分間留めた。その後、マイクロインジェクターを取り除き、動物の頭皮の軟組織を縫合した。対照動物に、Aβ1-40またはAβ25-35の代わりに、プラセボである10μlの滅菌重水素除去水を投与した(偽手術動物)。
【0108】
実験デザイン
【0109】
動物を6群に分けた:
【0110】
I(n=7) - 標準的な飼育条件下で維持され、何れの操作を受けていない、無処置の動物;
【0111】
II(n=7) - 手術後10日間(実験18日目~27日目を含む)、毎日0.1mlの重水素減少水を静脈内(i.v.)投与された、偽手術ラット;
【0112】
III(n=7) - Aβ1-40を注入してADを誘発した後10日間(実験18日目~27日目を含む)、0.1mlの重水素減少水を投与(i.v.)されたラット;
【0113】
IV(n=7) - ADをAβ1-40の注入によって誘発し、その後、10日間(実験18日目~27日目を含む)、毎日1.5mg/kgの量で64Zn-asp溶液をi.v.投与されたラット;
【0114】
V(n=7) - ADをAβ25-35によって誘発し、その後、10日間(実験18日目~27日目を含む)、毎日0.1mlの重水素減少水を投与(i.v.)されたラット;
【0115】
VI(n=7) - ADをAβ25-35の注入に
64Zn-aspよって誘発し、その後、10日間(実験18日目~27日目を含む)、毎日1.5mg/kgの量で溶液をi.v.投与されたラット(
図1)。
【0116】
ラットにおける摂食および飲水行動の評価
【0117】
動物を個別のケージに入れ、ラットが摂取した餌および水の量を、18日目(手術後8日)から開始し、実験終了(37日目)まで、毎日各ラットについて測定した。データを、まず群内で1日当たり1匹のラットに平均化し、その後全観察期間にわたって1日当たり1匹のラットに平均化した。
【0118】
ドーパミン作動性ニューロンの免疫組織化学的特性評価
【0119】
海馬ニューロンの変性を、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)の発現レベルの免疫組織化学的分析を用いて評価した。免疫組織化学染色を、1:200希釈の一次抗TH抗体(Millipore、AB152)を用いて実施した。内因性ペルオキシダーゼ活性を、ブロッキング試薬(Dako、EnVision Flex、DM821)でブロックした。非特異的抗体結合を、0.2%トリトンX-100を含むTris緩衝生理食塩水(TBS)中に溶解した4%ドライミルクを用いてブロックした。
【0120】
一次抗体を、0.2%トリトンX-100を含むTBSで希釈し、組織切片に適用した。その後、切片を一晩インキュベートした(+4℃)。二次抗体(抗ウサギビオチニル化抗体、1:200)を60分間インキュベートした。免疫反応を、ジアミノベンジジン(Dako、EnVision)を5分間適用して生じさせた。免疫組織化学的染色の結果を、Zeiss Primo Star顕微鏡を用いて光学顕微鏡レベルで評価した。TH陽性染色の強度を、陽性(染色された)細胞の数および染色の強度を考慮した、定量的スコアリング方法(http://www.ihcworld.com/ihc_scoring.htm)で説明されている半定量的スコアリング系を用いて評価した(表1)。結果を、下記式により計算するクイックスコア(Q)として表した:式:Q=P×I、式中、Pは陽性細胞の割合であり、Iは染色強度である。
【0121】
【0122】
バーンズ迷路を用いた短期および長期記憶変化試験
【0123】
バーンズ迷路(
図2)は、げっ歯類の空間学習および記憶を測定するために用いられるツールであって、アルツハイマー病などの疾患のモデルとなるげっ歯類の認知障害を特定するのに役立つ(Kinga Gawel et al., Assessment of spatial learning and memory in the Barnes maze task in rodents-methodological consideration, Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol. 2019; 392(1): 1-18. doi: 10.1007/s00210-018-1589-y)。この試験は、1979年にCarol Barnes博士によって最初に開発され、明るく照らされた開けた面という嫌悪環境から逃避し、小さくて暗い「逃避箱(escape box)」の中に避難場所を探すという対象体の内在的な傾向に基づいている。動物は、試験エリア内の周囲の視覚的手がかりを参照点として用いて、ターゲットゾーン(「逃避箱」)の位置を記憶することを学習する。この試験において、動物の個々の特性に基づく行動の変動を増大させるための強化として強い嫌悪刺激(水泳によって誘発されるストレス)または剥奪(餌または水の欠乏)を利用する他の試験とは対照的に、動物はストレスのない条件下で「逃避箱」の位置を見つけ出す。
【0124】
用いたバーンズ迷路は、その周囲に16個の円形の穴がある円形のテーブルで構成されていた。動物をより良く方向付けるために、黒色のマーク(一方の壁に三角形、反対側の壁に2つの平行な帯)などの周囲の視覚的手がかりを配置した。穴の1つの下に、動物用の標準的な充填材が入った「逃避箱」を固定した。各動物に、「逃避箱」が固定された穴の番号を割り当てた。他の穴は開いたままであった。探索期(手術後)を実施する前に、穴の番号を変更した。
【0125】
実験の1日目に、ラットの最初の訓練中に、馴化セッションを実施したが、探索期中に繰り返されなかった。ラットを円形テーブルの中央に置き、不透明なフードの下に10秒間放置した。その後、テーブルの上の照明を点灯させ、フードを持ち上げた。ラットは、テーブルの周りを2~3分間自由に動き回ることができた。この間に動物が「逃避箱」を見つけられなかった場合、正しい道を見つけるのを助けた。
【0126】
馴化セッションの15分後、実験の2、3および4日目に、課題訓練を15分毎に4回繰り返した(テーブル表面上で3分+消灯した「逃避箱」中で1分)。各試行で、動物が「逃避箱」に到達できるまでの時間を記録した。
【0127】
動物の短期記憶を5日目に試験し、長期記憶を9日目(最後の訓練の5日後)に試験した。迷路のすべての穴を閉じ、ラットを90秒間開けた場所を自由に探索することができ、テーブル上部で「その」対応する穴(その下に「逃避箱」が以前配置されていた)を探した。動物が正しい穴を探すのに要した時間と、穴付近で過ごした時間を記録した。テーブル表面を各試行後消毒した。
【0128】
手術の18日後、動物は、「逃避箱」の位置を変更してさらに4日間の訓練セッション(探索期)を受けた。手術前と同様に、短期記憶を5日目に試験し、長期記憶を9日目(最後の訓練セッションの5日後)に試験した。
【0129】
以下の時間を秒単位で測定した:1)動物が「逃避箱」への入口を見つけるのに要した時間(海馬機能に関連する空間学習と空間記憶の評価);2)動物が入口付近で過ごした時間(脳の前頭皮質の機能に関連する認知的柔軟性の評価)- 動物が閉じられた入口付近で過ごした時間が短いほど、逃避のために他の場所を探す必要があることをより早く理解する。
【0130】
海馬ホモジネート中の可溶性アミロイドβおよびタウパウタンパク質レベルの評価
【0131】
ADのラットモデルの海馬ホモジネート中の可溶型のアミロイドβおよびタウタンパク質のレベルを、製造業者の推奨に従ってELISAキットを用いて測定した。海馬ホモジネートも製造業者の推奨に従って調製した。プロテアーゼとホスファターゼ阻害剤の複合体を用いて、ホモジネート中のアミロイドβのタンパク質分解を防止した。
【0132】
血液学的試験
【0133】
血球数値を、実験完了時(37日目)に分析した。白血球の絶対数、ならびにリンパ球、単球および好中性顆粒球の絶対数および相対数を計算した。
【0134】
様々な局在の食細胞のエンドサイトーシス活性の評価
【0135】
ミクログリアおよび末梢血食細胞の食作用活性を、食作用の対象としてFITC標識黄色ブドウ球菌Wood 46細胞を用いてフローサイトメーターで分析した。黄色ブドウ球菌細胞は、National Taras Shevchenko UniversityのERC Institute of Biology and MedicineのDepartment of Microbiology and Immunologyのコレクションから入手した。循環単核および多形核食細胞の食細胞活性値の差異評価を、ゲーティング法を用いて実施した。
【0136】
様々な局在の食細胞の酸化代謝の評価
【0137】
様々な局在の食細胞の酸化代謝を、細胞内エステラーゼによって非蛍光の膜不透過性カルボキシ-H2DCF形態に変換される細胞透過性2'7'-ジクロロジヒドロフルオレセイン-ジアセテート(DHP)(カルボキシ-H2DCFDA、Invitrogen、USA)を使用したフローサイトメトリーによって分析した。循環単核および多形核食細胞の酸化代謝値の示差評価を、ゲーティング法を用いて実施した。代謝予備能を評価するために、細胞をLPS(Sigma、USA)で処理した。
【0138】
様々な局在の食細胞の表現型プロファイルの評価
【0139】
様々な局在性の食細胞の表現型プロファイルを、機能的成熟および代謝的極性のマーカー(CD206およびCD86)の発現によって特性評価し、これはフローサイトメトリーおよび蛍光色素(Abcam、Becton Dickinson)で標識された適切な特異性のモノクローナル抗体の使用によって決定した。
【0140】
統計データの分析法
【0141】
数値結果を、Statistica 12.0ソフトウェアパッケージを使用した統計データ分析法を用いて処理した。各群によって示した結果間の信頼できる差の統計的有意性を決定するために、スチューデントのt検定を用いた。有意性をp<0.05に設定した。
【0142】
(試験結果)
【0143】
Aβ1-40の注入によって誘発されるアルツハイマー病のラットモデルにおける認知活動および局所的および全身的免疫反応性に対する64Zn-aspの治療効果
【0144】
Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける認知症状に対する64Zn-aspの影響
【0145】
Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける体重変化に対する64Zn-aspの影響
【0146】
動物の体重は、動物の全身状態を特徴付ける典型的な臨床兆候であり、実験中の体重の減少は、動物の状態が悪化していることを示す。この実験は初期体重が350~500gの老齢動物を含むため、実験中の体重の変化は、同じ期間の若齢動物(120~200g)と比較してわずかでした。この事実にもかかわらず、実験の1か月以内にAβ1-40誘発ADの動物モデルの体重の著しい減少が観察された。偽手術動物群の初期動物体重(手術前)は445.0±41.1gであり、剖検日の実験終了時に449.5±37.4g、すなわち体重増加は1.3±4.0%であった。手術前のAβ1-40誘発ADのラットモデルの体重は361.1±25.3gであり、剖検日に340.3±33.5gであり、4.3±3.7%の体重減少を示した(P<0.01、偽手術動物と比較)(
図3)。
【0147】
64Zn-aspの投与は、このパラメーターが著しく改善した。したがって、手術前のAβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルの64Zn-asp処置ラットの体重は432.1±29.7gであり、剖検日の実験終了時に425.4±40.8gであり、0.6±2.3%の実験群での体重減少を示した(P<0.05、偽手術動物と比較)。
【0148】
Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける摂食および飲水行動に対する64Zn-aspの影響
【0149】
Aβ1-40誘発ADのラットモデルの大樹変化は、偽手術動物と比較して餌および水の摂取の減少と関連していた(
図4Aおよび
図4B)。
【0150】
Aβ1-40誘発アルツハイマー病の64Zn-asp処置ラットモデルは、摂食および飲水行動が正常に回復することが観察された。
【0151】
Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルの海馬におけるチロシンヒドロキシラーゼ発現に対する64Zn-aspの影響
【0152】
無処置の動物からの海馬切片調製物の免疫組織化学的分析の結果によれば、それらのチロシンヒドロキシラーゼの発現レベルは、6.0±0.0スコアであった。偽手術動物において、TH陽性細胞の染色強度は、無処置のラットのものと著しい差はなく、7.0±1.7スコアであった(表2)。Aβ1-40誘発ADのラットモデルにおけるチロシンヒドロキシラーゼの発現は2.3±1.5スコアであり、これは、無処置の動物および偽手術動物から得られた値より著しく低く、AD中の海馬ドーパミン作動性ニューロンの破壊を示している。Aβ1-40誘発ADのラットモデルへの
64Zn-aspの投与は、主に未処置のADラットおよび偽手術のラットと比較してその細胞数ではなく免疫陽性染色細胞の強度が増加したため、4.0±2.0スコアへのQの増加を引き起こし、このパラメーターはほぼ対照値に戻った(
図5A~
図5D)。
【0153】
【0154】
得られた結果は、海馬におけるドーパミン作動性ニューロンの機能に関連した試験物質の保護的役割を示している。
【0155】
Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける空間記憶に対する64Zn-aspの影響
【0156】
高齢者に最も一般的であるアルツハイマー病は、事象の記憶である宣言的記憶の障害に関連する。ヒトの宣言的記憶は、げっ歯類の空間的記憶と類似点がある(これが、げっ歯類が宣言的記憶の優れたモデルを提供する理由である)。宣言的記憶を担うニューロンは海馬に表現しており、長期増強として知られる特定の神経細胞プロセスに関連している。げっ歯類において、海馬は、空間情報のコーディングに関与しており、様々な迷路で研究されている。バーンズ迷路が用いられる。
【0157】
アルツハイマー病における空間学習に要した時間を評価するために、手術前の4日間の訓練中と手術後の4日間の訓練中(手術後18日目から開始)で「逃避箱」を見つけるのに要した時間を比較した。手術の前後の訓練期および探索期で、「逃避箱」の異なる場所を用いた。
図6から分かるとおり、4日間の訓練中、手術前後の両方で、すべてのラット群が逃避穴への入口を見つけるのに要した時間を短縮した。対照群(無処置の動物およびプラセボ処置動物)とAβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルとの間で時間の差は見られなかった。
【0158】
短期記憶を評価するために、最後の4日間の訓練期の24時間後(訓練開始後5日目)、ラットをバーンズ迷路に入れたが、「逃避箱」への入口は閉じた。長期記憶を評価するために、4日間の訓練期後の5日目に同じ試験を繰り返した。
【0159】
各動物が「逃避箱」を見つけるのに要した時間を測定した。動物が正しい穴を早く見つけるほど、空間記憶(海馬機能)のレベルが高かった。認知的柔軟性のレベルをまた、動物が逃避穴の入口付近で過ごした時間を測定することによって評価した。動物がそこにいた時間が短いほど、その動物が有する認知的柔軟性(前頭葉皮質機能)のレベルは高かった、すなわち、動物は、逃避穴を別の場所で探すべきだとより早く認識した。
【0160】
表3ならびにおよび
図7Aおよび
図7Bから分かるとおり、手術前にすべての群の動物が示した値は、かなり個体差があったため、絶対的な数値ではなく変化のパターンを比較するのが論理的だった。
【0161】
表3および
図7Aおよび
図7Bに示すとおり、すべての群のラットが手術前に「逃避箱」を探すのに要した時間は、訓練試行の24時間後と5日後のこのパラメーターの試験間で自然に増加した。
【0162】
【0163】
ラットの認知的柔軟性のレベルを、動物が逃避穴付近で過ごした時間によって評価したとき、4日間の訓練期の24時間後と5日後にこのパラメーターの自然な減少が観察され、このパターンは、手術前のすべての動物群に典型的であった(表4、
図7Aおよび
図7B)。
【0164】
探索期(手術後18日)中に、動物の短期および長期記憶を試験したとき、すべての群のラットが「逃避箱」を探すのに要した時間が、群内の値と比較してそれぞれ平均40%と33%減少した。Aβ1-40誘発ADのラットモデルは、無処置の動物と同じパターンのこれらのパラメーターの変化を示し、同様の変化が、64Zn-aspで処置したAβ1-40誘発ADのラットモデル群で観察されたことに留意すべきである。したがって、Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルにおいて、短期または長期記憶のいずれにも統計的に有意な障害はないと結論付けることができる。
【0165】
探索期では、無処置の動物と偽手術動物は、最後の訓練試験の24時間後に「逃避箱」への入口付近で過ごした時間が平均23%減少し(短期効果)、最後の訓練試験の5日後に平均12%減少した(長期効果)。これは、ラットの認知的柔軟性の正常レベルを示す(表4)。Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルにおいて、逆の結果が観察されたことに留意すべきである。「逃避箱」への入口付近で過ごした時間は2倍(P=0.02)増加し(短期間記憶)、長期記憶を試験するとこのパラメーターがより強く現れ、逃避穴付近で過ごした時間が4倍増加した(P=0.04)。この事実は、Aβ1-40誘発アルツハイマー病における認知機能を担う前頭皮質の機能障害を示している。
【0166】
【0167】
64Zn-aspの投与は、ADのラットモデルにおける認知機能を著しく改善し、無処置の動物および偽手術動物から得られた値に実質的に戻った(Voikar V. Evaluation of methods and applications for behavioral profiling of transgenic mice. Academic dissertation. Faculty of Biosciences, University of Helsinki. 2006. 73 p)。
【0168】
Aβ1-40の注入によって誘発したアルツハイマー病のラットモデルからの海馬ホモジネート中のAβおよびタウタンパク質レベルに対する64Zn-aspの治療効果
【0169】
海馬における可溶性Aβおよびタウタンパク質の存在は、ADの動物モデルにおけるAD発症の明白な兆候であり、疾患の重症度および病因処置法の有効性を評価するためのマーカーである。結果によれば、Aβ1-40注入によって誘発されたADのラットモデルにおける海馬ホモジネート中の可溶性Aβのレベルは、無処置の動物のレベルよりほぼ4倍高かった(
図8)。プラセボ処置動物(偽手術動物)において、可溶性Aβのレベルも無処置のラットよりわずかに高かった。試験物質で処置したADラットモデルの海馬におけるAβレベルは、対照ADラットモデルより1.5倍低かったが、無処置/偽手術動物のレベルに達しなかった。このパラメーターは例外的なばらつきを示し、そのため、取得されたデータの証拠を適切に評価することが不可能になったことに留意すべきである。このような高度なばらつきは、動物の統計的サンプリングが少ないこと、試験で用いた試験システムのサンプル調製方法が、他の製造業者のELISAキットを用いてこのパラメーターを試験するための文献(Xuan A et al., J Neuroinflammation 2012;9:202. doi:10.1186/1742-2094-9-202; Wang L et al., Iran J Basic Med Sci. 2017;20(5):474-480. doi:10.22038/IJBMS.2017.8669)に記載されている同様の手順とは異なること、ならびにADモデルにおけるこのパラメーターの自然なばらつきによる可能性がある。最近文献(Zhao HF et al., Neuroscience. 2015;310:641-649 doi:10.1016/j.neuroscience.2015.10.006)に記載されている不溶型のAβの濃度が、ADにおける老人斑の形成についてのより適切な基準であり得る。
【0170】
ADのラットモデルからの海馬ホモジネート中のリン酸化タウタンパク質のレベルもまた、モデルの疾患の進行および妥当性の基準である無処置の動物から得られた値を4倍超上回る(
図9)。
64Zn-aspによる一連の治療的処置を受けた動物において、海馬内のこのタンパク質のレベルは対照ADモデルより低かったが、おそらく上記の理由により、すべての動物群におけるこのパラメーターの個別変動が大きいため、この差は有意であるとは考えられない。
【0171】
一般に、ADの病因に関与するタンパク質のレベルの分析は、試験物質がAD動物モデルにおける斑形成成分の濃度の減少をもたらす病因治療効果を有することを示す。
【0172】
Aβ1-40の注入によって誘発したアルツハイマー病のラットモデルにおけるミクログリアの機能的および表現型特性に対する64Zn-aspの治療効果
【0173】
ミクログリアの食作用活性はその活性化状態の指標であり、その変化は他の機能的および表現型特性の変化に照らして見るべきである。ミクログリア細胞の食作用活性の増加は、炎症促進性および抗炎症性の両方のミクログリア活性化を伴い得る。また、血液脳関門(BBB)の透過性が増加すると、常在ミクログリア細胞の集団が末梢血食細胞によって補充されるが、この試験条件下ではその差異評価は不可能であった。結果によると、AD動物モデルにおける貪食性ミクログリアの相対数(食作用指標、(PI))は、無処置の動物より2倍高かった。この値は偽手術(SO)動物において著しく低かったことに留意すべきである。ADラットにおけるエンドサイトーシス活性(PI)もまた、無処置の動物より著しく(ほぼ5倍)高く、偽手術のラットより2倍高かった(
図10Aおよび
図10B)。試験物質の投与により、貪食性ミクログリアの相対数とそのエンドサイトーシス(食作用)活性レベルの両方が完全に正常化され、これは薬物候補の抗炎症効果を示している。
【0174】
酸化代謝は、ミクログリアの別の代謝指標である。この試験において、無処置の動物のミクログリアは、細菌LPSによるインビトロ刺激に対する反応がないことを特徴とし、これは老化に伴う炎症への関与を示す(
図11)(Norden DM, Godbout JP. Review: microglia of the aged brain: primed to be activated and resistant to regulation. Neuropathol Appl Neurobiol. 2013;39(1):19-34. doi:10.1111/j.1365-2990.2012.01306.x)。
【0175】
偽手術動物の酸化代謝は、実験時に無処置の動物と比較していくらか増強されており、これは炎症によって悪化した持続的な修復炎症過程についての仮定を支持するものである。この状態の更なる基準は、インビトロのLPS処置に反応したこの群の動物におけるミクログリアの酸化代謝の機能的予備能の欠如である。
【0176】
ADの進行は、ミクログリア細胞による活性酸素種の生成の著しい(5倍)増加を伴った。ミクログリアにおける酸化代謝の増加は、ADに関連する神経炎症の必須の要素であり、それ故に、データは選択したモデルの妥当性を支持するものである。この群の動物におけるミクログリア細胞のインビトロLPS処理に対する反応は、極めて陰性であり、これは極度の炎症促進性活性化を示している。試験物質の投与により、ADラットモデルにおけるミクログリアの酸化代謝、すなわちROS生成の基礎レベルとこの機能の代謝予備能の両方が完全に正常化された。したがって、ミクログリアの機能極性化の代謝値の分析は、ADラットモデルにおける炎症促進性代謝転換の存在と、試験物質による一連の治療的処置後のその消失を示した。
【0177】
ミクログリアの表現型プロファイルを特性評価するために、CD206(スカベンジャー受容体、脳外局在の食細胞の代替極性のマーカーであり、活性化常在ミクログリアのマーカーでもある)およびCD86(抗原提示のプロセスに関与する共刺激分子、大脳外局在の食細胞の炎症促進性活性化のマーカーであり、骨髄由来の抑制細胞によっても過剰発現され、自然免疫および適応免疫の炎症促進反応の負の調節因子である)のマーカーを使用した。おそらく老化プロセスが不均一であり、動物の統計的サンプリングが少ないことにより、表現型ミクログリアマーカーの定量分析には大きなばらつきがあった。一般に、ミクログリア細胞の表現型プロファイルの評価結果を
図12A、
図12B、
図13Aおよび
図13Bに示す。
【0178】
AD動物モデルのミクログリア集団におけるCD86+細胞の数は、無処置の動物と比較して1.6倍高かった(
図12Aおよび
図12B)。ミクログリア細胞におけるこのマーカーの発現レベルは、無処置の動物より2.5倍以上高かく、これは、ADに特徴的なミクログリア機能の炎症促進性転換を証明し、これらの細胞の代謝パラメーターの評価結果を裏付けるものである。試験物質の投与により、陽性細胞におけるCD86+細胞の数とこのマーカーの発現レベルの両方が正常化され、これは薬物候補の強力な抗炎症効果を示している。
【0179】
CD86発現に関するデータは、別の表現型マーカーであるCD206の発現に関するデータによっても裏付けられる(
図13Aおよび
図13B)。
【0180】
ADラットモデルにおけるCD206を発現するミクログリア細胞の数は、無処置の動物より3.5倍高く、これはADラットの脳における食細胞の活性化を示している。ADラットの陽性細胞におけるこのマーカーの発現レベルは、無処置のラットのものより5倍超高かった。亜鉛ベースの試験物質による処置は、無処置の動物のレベルに対する上記の値の減少を引き起こし、これは試験物質の抗炎症効果の別の証拠である。
【0181】
したがって、Aβ1-40誘発ADの進行は、ミクログリア細胞の顕著な炎症誘発性機能転換を伴った。単独治療としての64Zn-aspの使用は、ミクログリアの表現型および機能パラメーターを正常化する:実験時のこの食細胞集団の分析された特徴はすべて、対応する年齢群の健康な動物におけるパラメーターと変わらなかった。
【0182】
Aβ1-40の注入によって誘発したアルツハイマー病のラットモデルにおける血球数値に対する64Zn-aspの治療効果
【0183】
文献データは、慢性炎症がアルツハイマー病を含むシヌクレイノパチーおよびタウパチーの最も重要な病態生理学的要素の1つであるという強力な証拠を提供している。AD患者の白血球検査(Leukogram)は、単球と好中球の数が増加し、リンパ球数が少ないことが明らかにする。単球と好中球のレベルの上昇は慢性炎症の特徴であり、ADの前兆とその結果の両方であり得る。リンパ球の数が少ないことは、感染と闘う体の抵抗力が著しく低下していることを示している(Shad KF et al., Synapse. 2013;67(8):541-543. doi:10.1002/syn.21651; Stock AJ, Kasus-Jacobi A, Pereira HA. J Neuroinflammation. 2018;15(1):240 doi:10.1186/s12974-018-1284-4)。ADにおける血液脳関門(BBB)の透過性の増加は、末梢への神経炎症性メディエーターの移動および脳への循環白血球の動員を促進し、これは持続的なメタ炎症過程の前提条件を作り出す(Yamazaki Y, Kanekiyo T. Int J Mol Sci. 2017;18(9):1965 doi:10.3390/ijms1809196)。実験終了時に実験動物の血球数値を測定した。
【0184】
Aβ1-40誘発ADのラットモデルからの血液サンプルの分析は、極めて高い白血球(WBC)数を示し、その血液中の循環白血球の数は、無処置の動物と比較して2.5倍高かった(
図14)。白血球増加がプラセボ処置ラットでも観察されたことに留意すべきであるが、これは明らかに老齢動物の免疫系の修復能力が低いためであると考えられる。試験物質による処置により、ADの動物モデルにおける循環白血球の絶対数が完全に正常化された。
【0185】
循環白血球の集団組成の分析は、リンパ球数のわずかな減少および単球数の著しい減少(中等度の単球減少)を示した。ADの誘発はまた、好中球-リンパ球比(末梢血中の絶対好中球数と絶対リンパ球数の比、NLR)が著しく(4倍超)増加した象的な好中球増加を伴っていた。NLRは、AD進行の初期マーカー(Kuyumcu ME et al., Dement Geriatr Cogn Disord. 2012;34(2):69-74. doi:10.1159/000341583)および認知障害患者を特定するための重要なバイオマーカー(Dong X et al., Front Aging Neurosci. 2019;11:332 Published 2019 Dec 5. doi:10.3389/fnagi.2019.00332)の1つである。亜鉛ベースの製剤の投与により、リンパ球数の増加(調節細胞の抑制機能を活性化することによる炎症消失の基準である)と分割好中球数の著しい減少の両方により、NLRが完全に正常化された。
【0186】
Aβ1-40の注入によって誘発したアルツハイマー病のラットモデルにおける循環食細胞の機能的および表現型特性に対する64Zn-aspの治療効果
【0187】
上記のとおり、ADの発症は全身性炎症の形成を伴っており、これは神経炎症過程の持続を増加および維持する。この状況により、全身性炎症過程のエフェクター細胞は、ADにおける抗炎症治療の標的として常在性白血球に劣らず魅力的になる。これは、Aβ1-40誘発ADのラットモデルにおける循環食細胞の機能的および表現型的特性を分析する理由の1つであった。また、試験物質を静脈内に投与し、これは循環食細胞を第一線の応答細胞にする。上述のとおり、血球計算の結果は、著しい白血球増加、好中球増加および好中球-リンパ球比の増加(進行型のADにおける全身性炎症過程の検証されたバイオマーカーである)を伴うAβ1-40誘発ADのラットモデルにおける全身性炎症過程の存在を示した。循環食細胞の機能的および表現型特性の分析は、これらの観察を裏付けた。
【0188】
ADラットの血液サンプルで検出された好中球増加には、食作用活性の著しい増加を伴っており、これは、一方では細胞の活性状態のマーカーであり、他方では代謝における抗免疫転換の兆候である(
図15B)。さらに、この群の動物における貪食性好中球の相対数は、無処置のラットおよびSOラットにおけるものと著しい差はなかった(
図15A)。SOラットにおける多形核食細胞の吸収活性は、無処置の対照より著しく高かったことに留意すべきであり、これは、食細胞代謝における抗炎症転換を特徴とする、手術およびそれに伴う修復過程の活性化の結果であり得る。
【0189】
試験物質による処置は、これらの細胞の食作用活性が実質的に無処置の動物によって示される値まで減少することを伴い、これはその恒常性全身効果を示す。
【0190】
ADのラットモデルにおいて食作用を行う単球の相対数は、無処置のラットおよびSOラットと比較してほぼ4倍高かった(
図16A)。さらに、これらの細胞の食作用活性は、動物の対照群両方のものと変わらなかった(
図16B)。
【0191】
両集団の循環食細胞における酸化代謝の指標の分析は、AD動物モデルと無処置の動物との間に統計的に有意な差は示さかった(
図17Aおよび
図17B)。ADラットへの亜鉛ベースの製剤の投与により、分析した循環食細胞集団において酸化代謝の機能的予備能がわずかに形成されたことに留意すべきであり、これは末梢血に「若い」細胞が存在する兆候であり得て、それ故に、骨髄造血を適度に刺激する薬物候補の能力を示している。
【0192】
偽手術動物において、末梢血の顆粒球と単核食細胞の両方における酸化代謝指標の急激な増加が記録された。同時に、酸化代謝の機能的予備能があった。おそらく、この結果は、髄質骨髄造血の活性化を伴う持続的な修復炎症を反映している可能性がある。
【0193】
ADの動物モデルにおける循環食細胞の表現型マーカーの分析はまた、全身性炎症の自然消失を裏付ける。ADラットにおけるCD86+循環食細胞の相対数は、対照動物より著しく多い(
図18Aおよび
図18B)。
【0194】
上述のとおり、このマーカーは、炎症促進性代謝転換を伴う食細胞と骨髄性抑制細胞の両方の特徴である。末梢血食細胞の食作用活性の増加を考慮すると、CD86+細胞の割合の増加は骨髄性抑制細胞の存在によるものであると推測できる。
【0195】
このマーカーの発現レベルが増加したCD86+細胞の割合の増加が偽手術(SO)動物で見られ、これは外科的処置によって誘発される修復過程の結果を補完する。
【0196】
CD206発現の分析はまた、炎症の消失を裏付ける。ADラットにおいて、CD206マーカー陽性細胞の割合は、無処置の動物のものとサイズが変わらなかった。しかしながら、循環食細胞によるその発現レベルは、無処置の対照より高かった(
図19Aおよび
図19B)。
【0197】
単剤療法としての試験物質の投与により、これらのマーカーを発現する細胞の数とその発現レベルを正常にし、これはAβ1-40の注入によって誘発したADの進行における全身性免疫反応性に対する恒常性効果を裏付けた。
【0198】
(知見)
【0199】
Aβ1-40誘発ADのラットモデルにおいて、疾患の模倣の3週間後に、体重の減少と水および餌の摂取量の減少が観察された。これらのパラメーターは、64Zn-aspで10日間処置したADラットにおいて回復した。
【0200】
Aβ1-40誘発ADのラットモデルにおいて、海馬ドーパミン作動性ニューロン数の減少と、海馬ドーパミン作動性ニューロンにおけるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)発現の減少が認められた。Aβ1-40 ADラットに64Zn-aspの投与は、TH免疫陽性細胞の数よりむしろ染色強度を増加させた。
【0201】
Aβ1-40誘発ADの進行は、前頭皮質の機能障害を示す、ADラットにおける認知柔軟性の障害と関連する。Aβ1-40誘発アルツハイマー病のラットモデルは、空間学習や短期/長期記憶の能力(海馬機能)の変化を示さなかった。64Zn-aspの投与は、ADモデルの認知機能が著しく改善し、無処置の動物および偽手術動物の値に実質的に戻った。
【0202】
Aβ1-40誘発ADの進行は、長期の急性局所(ミクログリア中)炎症過程と、自然消失の兆候を伴う適度に発現した全身性炎症によって特徴付けられた。
【0203】
亜鉛ベースの試験物質による治療は、神経炎症のほぼ完全な消失および全身性免疫反応性の恒常性調節をもたらし、これはその治療効果の病因的性質を示している。
【0204】
(試験IIの結果)
【0205】
Aβ25-35の注入によって誘発されるアルツハイマー病のラットモデルにおける認知活動および局所的および全身的免疫反応性に対する64Zn-aspの治療効果
【0206】
Aβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける認知症状に対する64Zn-aspの影響
【0207】
Aβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける体重変化に対する64Zn-aspの影響
【0208】
動物の体重は、動物の全身状態を特徴付ける典型的な臨床兆候であり、実験中の体重の減少は、動物の状態が悪化していることを示す。1か月の実験中Aβ25-35誘発ADのラットモデルの体重に有意な変化は観察されなかった(
図20)。
【0209】
64Zn-aspの投与は、このパラメーターに対して影響を与えなかった。
【0210】
Aβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデルの海馬におけるチロシンヒドロキシラーゼ発現に対する64Zn-aspの影響
【0211】
チロシンヒドロキシラーゼの発現に関する免疫組織化学的分析の結果によれば、ADラットモデルにおけるクイックスコア(Q)は、6.0±0.0であった。偽手術された動物におけるTH陽性細胞の染色強度は、無処置のラットのものと著しい差はなく、7.0±1.7スコアであった(表5)。
【0212】
【0213】
Aβ25-35誘発ADの動物モデルにおいて、無処置の動物およびプラセボ処置動物と比較して、TH陽性ニューロンの数または染色の強度のいずれにも統計的に有意な変化はなかった(Q=5.3±1.5)。Aβ25-35誘発ADのラットモデルへの
64Zn-aspの投与は、TH陽性細胞の染色強度に影響を与えず;この群のQ値は、5.0±1.4であった(
図21A、
図21B、
図21Cおよび
図21D)。
【0214】
この分析は、TH陽性海馬ニューロンの機能または数に著しい変化を示さなかった。
【0215】
Aβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデルにおける空間記憶に対する64Zn-aspの影響
【0216】
アルツハイマー病における空間学習に要した時間を評価するために、手術前の4日間の訓練中と手術後の4日間の訓練中(手術後18日目から開始)で「逃避箱」を見つけるのに要した時間を比較した。手術の前後の訓練期および探索期で、「逃避箱」の異なる場所を用いた。
図22Aおよび
図22Bから分かるとおり、4日間の訓練中、手術前後の両方で、すべてのラット群が逃避穴への入口を見つけるのに要した時間を短縮した。対照群(無処置の動物およびプラセボ処置動物)とAβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデルとの間で時間の差は見られなかった。
【0217】
短期記憶を評価するために、最後の4日間の訓練期の24時間後(訓練開始後5日目)、ラットをバーンズ迷路に入れたが、「逃避箱」への入口は閉じた。長期記憶を評価するために、4日間のト訓練期後の5日目に同じ試験を繰り返した。
【0218】
各動物が「逃避箱」を見つけるのに要した時間を測定した。動物が正しい穴を早く見つけるほど、空間記憶(海馬機能)のレベルが高かった。認知的柔軟性のレベルをまた、動物が逃避穴の入口付近で過ごした時間を測定することによって評価した。動物がそこにいた時間が短いほど、その動物が有する認知的柔軟性(前頭葉皮質機能)のレベルは高かった、すなわち、動物は、逃避穴を別の場所で探すべきだとより早く認識した。
【0219】
表6および7に示すとおり、手術前にすべての群の動物が示した値は、かなり個体差があったため、絶対的な数値ではなく変化のパターンを比較するのが論理的だった。
【0220】
表6に示すとおり、すべての群のラットが手術前に「逃避箱」を探すのに要した時間は、探索期の24時間後と5日後のこのパラメーターの試験間で自然に増加した。ADを模倣するために後にAβ25-35を注入されたラットのみが、「逃避箱」を見つけるのに要した時間が減少することが観察され、これはこれらのラットの個々の特性に関連している可能性がある。
【0221】
【0222】
探索期(手術後18日)中に、短期記憶試験においてすべての実験群のラットが「逃避箱」を見つけるのに要した時間は、わずかに減少したか、または同じままであった。動物を長期記憶について試験したとき、結果は無処置のラットおよび偽手術のラットではほぼ同じであったが、Aβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデルでは正しい穴を見つけるのに要した時間が増加することが観察された。同じパターンが、64Zn-aspで処置した25-35誘発ADラットモデル群で観察された。しかしながら、両方の群で観察された変化は、統計的に有意ではなかった。したがって、Aβ25-35誘発アルツハイマー病のラットモデルにおいて、短期記憶に統計的に有意な障害はないが、64Zn-aspによって改善されなかった長期記憶に障害が生じる傾向があると結論付けることができる。
【0223】
4日間の探索期の24時間後と5日後に、動物が「逃避箱」への入口付近で過ごした時間を測定することによってラットの認知的柔軟性のレベルを評価したとき、このパラメーターの自然な減少または変化は観察されなかった(表7)。
【0224】
【0225】
このパターンは、手術前のすべての動物群に特徴的であったが、後にアルツハイマー病のモデルとして用いられたラットは例外で、逃避穴付近で過ごした時間の増加を示し、これはこれらのラットの個々の特性と関連している可能性がある。探索期中に、無処置の動物および偽手術動物ならびにAβ25-35 ADラットは、「逃避箱」への入口付近ですごした時間がわずかに短いことが観察された。これは、ADラットの認知柔軟性が正常レベルであり、このパラメーターに対するAβ25-35の影響がないことを示している。試験物質による治療後も、このパラメーターに著しい変化は観察されなかった。
【0226】
Aβ25-35の注入によって誘発したアルツハイマー病のラットモデルからの海馬ホモジネート中のAβおよびタウタンパク質レベルに対する64Zn-aspの治療効果
【0227】
Aβ25-35 ADラットモデルからの海馬ホモジネート中のADの病態生理学的プロセスに関与するタンパク質(Aβおよびタウタンパク質)のレベルの分析は、Aβ1-40の注入によって誘発したADの動物モデルから得られたものと同様の結果を示した。AD対照におけるAβおよびタウタンパク質の両方のレベルは、無処置のラットおよびSOラットにおける値を著しく上回った(
図23Aおよび
図23B)。試験物質による治療的処置は、これらのタンパク質のレベルの著しい減少をもたらしたが、完全には正常に戻らなかった。Aβ1-40の注入によって誘発したADモデルと同様に、海馬ホモジネート中の両方のタンパク質の値は極めて高いばらつきを特徴とし、結果が決定的ではないことに留意すべきである。このような値のばらつきは、次の要因によって引き起こされ得る:試験で用いた試験システムの製造業者が推奨するサンプル調製方法が、同じ目的で用いられるほとんどすべての試験システムのプロトコールに記載され、文献に示されている方法とは異なること;すべての実験群の少数の動物を用いて、このパラメーターを分析したこと(試験がパイロットとして宣言されたことを考慮して)。
【0228】
しかしながら、これらのパラメーターの分析結果は、試験物質がアルツハイマー病の病因マーカーの定量的特徴の減少を伴う病因治療効果を有することを示唆する。
【0229】
Aβ25-35の注入によって誘発したアルツハイマー病のラットモデルにおけるミクログリアの機能的および表現型特性に対する64Zn-aspの治療効果
【0230】
上述のとおり、Aβ25-35の注入によって誘発したADモデルは、ADにおける老人斑の形成におけるAβ断片の例外的な役割、Aβ沈着の形成に関わらずその死滅につながるニューロンの直接毒性を及ぼす能力、ならびにこのペプチドに対する自己免疫反応の発生およびADの進行を伴うことにより選択された。Aβ25-35の注入によって誘発したADのラットモデルにおけるミクログリアの機能的および表現型的特徴の分析は、以下を示した。
【0231】
対照ADラットにおける食作用を行うミクログリア細胞の数は、無処置の動物およびSO動物の2倍超高く、これは脳内の食細胞の複雑な集団の活性化状態を示している(
図24Aおよび
図24B)。しかしながら、ADの動物モデルにおけるミクログリアの吸収活性の強度は、無処置の動物のものと変わらなかった。したがって、吸収活性の増加は、神経炎症の自然消失によって引き起こされるミクログリアの抗炎症活性化に起因し得る(分析を実験終了時に行ったため)。
【0232】
SO動物におけるミクログリアの高レベルの吸収活性が観察されたことに留意すべきであり、これはおそらく手術後の修復過程に関連している。試験物質による治療は、ADラットモデルにおける貪食性ミクログリア細胞の数の急激な減少を引き起こし、AD対照と比較して10倍、無処置の動物と比較して5倍であった。同時に、食作用の速度が著しく増加した。食細胞機能の変化は、その位置に関係なく、他の代謝反応の変化と関連して分析するべきである。この場合、ADモデリング(偽手術を含む)がBBB透過性の変化およびミクログリアへの循環食細胞の移動を引き起こすということをおそらく考慮するべきである。これらのプロセスの結果、ミクログリア集団は、常在マクロファージに加えて、動員された単核および多形核食細胞を含むが、その差異評価は試験の期間および条件によって提供されていない。上記を考慮すると、抗炎症表現型のミクログリアの吸収活性の増加は脳外食細胞(複雑なミクログリア集団におけるその割合は極めて重要であり得る)の特徴であるため、食細胞活性に関するデータは、試験物質による修復過程の刺激の兆候として解釈できる。
【0233】
Aβ25-35の注入によって誘発したADの動物モデルにおけるミクログリアの食作用活性の評価結果は、これらの細胞における酸化代謝の評価結果によって裏付けられた(
図25)。
【0234】
Aβ25-35 ADのラットモデルにおけるROS生成のレベルは、無処置の動物におけるものと変わらず、偽手術のラットより著しく低かった。外科的介入によって引き起こされる持続的な修復過程のマーカーとしての偽手術ラットにおけるミクログリアの活性化状態の評価は、この群の動物の生理学的状態の分析によって検証され、これは認知活動または行動反応における逸脱はなく、完全に満足のいくものであった。したがって、SO動物におけるROS生成レベルの増加は、修復炎症過程の指標と考えられ得る。Aβ25-35誘発ADのラットモデルと無処置の動物におけるミクログリアの酸化代謝に差がないことは、神経炎症の自然消失および試験で用いたADモデルの不完全性を示し得る。Aβ25-35誘発ADのラットモデルへの試験物質の投与は、ミクログリアの酸化代謝が増加させ、これは薬物候補による修復過程の刺激の証拠であり得る。
【0235】
ミクログリア細胞の表現型マーカーの発現レベルは、一般にそれらの代謝プロファイルと一致しているが(
図26Aおよび
図26B)、このADモデルにおけるミクログリアのより詳細な試験を必要とする要素を含んでいる。
【0236】
AD動物のミクログリア集団中のCD86+細胞の数は、無処置の動物より著しく多かった。CD86+細胞を骨髄性抑制細胞のマーカーと考える場合、得られたデータはADラットモデルにおける神経炎症の自然退縮の概念と一致し、これはモデルの不完全性を示している。しかしながら、CD86+細胞の割合の増加を抗原提示で活性化されるエフェクター食細胞の数の増加によるものと考える場合、表現型マーカーの分析結果は、Aβ25-35の注入によって開始される脳内自己免疫反応の活性化を示し、これはADの自己免疫成分におけるAβ25-35の関与に関する文献データと一致する。この場合、亜鉛ベースの製剤による一連の治療後のAD動物におけるCD86+細胞の割合の急激な減少は、ADに関連する自己免疫反応の発生を阻害する試験物質の能力の証拠と考えることができる。
【0237】
この仮定は、別のミクログリア表現型マーカーであるCD206の発現の評価結果と矛盾しない(
図27Aおよび
図27B)。
【0238】
ミクログリアにおけるこのマーカーの発現レベルおよびAD動物における陽性細胞の割合のサイズは、無処置の動物における比較値と著しい差はなかった。このマーカーがミクログリアの活性化状態を示すと考える場合、試験物質の作用により陽性細胞の割合の低下は、その恒常性治療効果の証拠と考えることができる。
【0239】
Aβ25-35の注入によって誘発したアルツハイマー病のラットモデルにおける循環食細胞の機能的および表現型特性に対する64Zn-aspの治療効果
【0240】
Aβ25-35誘発ADのラットモデルの差異血球数は、Aβ1-40 ADモデルよりさらに顕著な炎症を示した(
図28)が、いくらか異なる特徴を有していた。
【0241】
ADラットモデルにおける循環白血球の数は、無処置の動物の2倍高く、リンパ球および好中球顆粒球の数も2倍であり、単球の数は無処置の動物と比較してほぼ4倍増加した。同時に、ADラットにおける好中球-リンパ球比(NLR)は、無処置の動物より著しく低かった。このようなリンパ球数の増加は、自己反応性T細胞免疫応答(自己免疫)の活性化の証拠であり得て、これはミクログリアの機能的および表現型プロファイルの評価結果について提案されている解釈と一致する。試験物質による一連の治療により、白血球増加はわずかに減少したが、白血球数は正常に戻らなかった。この減少は主に単球数の正常化によるものであった。しかしながら、処置後の好中球およびリンパ球のレベルは変化せず、NLRは未処置のADラットと同じくらい高いままであった。
【0242】
ADのラットモデルの末梢血における食作用を行う好中球の相対数は、無処置の動物より多かった。しかしながら、その差はわずかであった(
図29Aおよび
図29B)。
【0243】
ADのラットモデルにおける循環多形核食細胞による食作用の速度は、対照動物より著しく高く、これはこれらの細胞の活性化状態の兆候である。試験物質による処置は、その数に特定の影響を与えることなく、循環顆粒球の食作用指数をわずかであるが統計的に有意な減少を引き起こし、これは、AD進行におけるこの循環食細胞集団に対する薬物候補の免疫調節効果の恒常性を示している。
【0244】
ADのラットモデルの末梢血における食作用を行う単球の数およびその食作用活性は、対照より著しく高かった(
図30Aおよび
図30B)。
【0245】
亜鉛ベースの製剤による処置により、分析したパラメーターが正常化され、これは、試験物質の免疫調節効果の恒常性に関する我々の仮定を裏付けている。
【0246】
これらのADのラットモデルにおける循環単核および多形核食細胞における酸化代謝の指標は、無処置の動物のものより高く、SO動物のものをわずかに超えただけであった(
図31Aおよび
図31B)。
【0247】
試験物質による処置は、末梢血食細胞の酸化代謝に著しい変化を引き起こさなかった。
【0248】
末梢血食細胞による表現型マーカーの発現の評価結果は解釈が困難である。Aβ25-35誘発ADのラットモデルにおけるCD86+細胞の割合および循環食細胞によるこのマーカーの発現レベルは、無処置の動物のものとほとんど変わらず、偽手術のラットより低かった(
図32Aおよび
図32B)。これは、最も簡単には、疾患の自然退縮およびADモデルの不完全性によって説明される。
【0249】
64Zn-asp処置は、CD86+細胞の割合の増加およびこのマーカーの発現の増加を引き起こし、これは、試験物質の作用下で炎症消失が促進された証拠であり得る。この仮定はまた、別の表現型マーカーであるCD206発現の評価結果によって裏付けられる(
図33Aおよび
図33B)。
【0250】
Aβ25-35を注射したラットにおいて、陽性細胞(抗炎症表現型を有する細胞)の割合が増加した。AD動物モデルにおける血液食細胞によるこのマーカーの発現レベルは、無処置の動物のものと変わらなかった。試験物質による処置により、このマーカーに対して陽性の細胞の割合が急激に減少したが、その発現は著しく増加した。
【0251】
(知見)
【0252】
Aβ25-35誘発ADのラットモデルは、選択され分析された疾患進行マーカー(動物の体重、海馬のTH陽性ニューロンの数およびTH発現レベル、空間学習、短期および長期記憶、認知的柔軟性)のいずれにおいても著しい変化を示さなかった。長期空間記憶の障害の傾向のみがあった。単独治療として投与された64Zn-aspは、Aβ25-35を注射された動物における認知症状に対して統計的に有意な影響を与えなかった。
【0253】
Aβ25-35の注入によって誘発したADのモデルは、神経炎症の古典的な状況を特徴としおらず、それ故に、本試験で用いたプロトコールはアルツハイマー病の臨床状況を反映しなかった。このモデルに伴う局所的な自己免疫プロセスが存在する可能性があるという事実だけが注目に値する。
【0254】
このADモデルに対する試験物質の治療効果は、抗炎症性恒常的性質のものである。
【0255】
本発明をその詳細な説明と併せて説明したが、上記の説明は例示を意図するものであり、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。他の態様、利点および改変が、添付の特許請求の範囲に含まれる。したがって、本発明の特定の特徴のみを例示および説明したが、当業者には多くの改変および変更が生じるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神に含まれるすべてのそのような改変および変更を包含するものであることを理解されたい。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを含む組成物の治療有効量
を含む、アルツハイマー病を処置する
ための医薬であって、該組成物が、
64Zn
e化合物またはその塩を含み、
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも80%
64Zn
eである、
医薬。
【請求項2】
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも95%
64Zn
eである、請求項1に記載の
医薬。
【請求項3】
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも99%
64Zn
eである、請求項1または2に記載の
医薬。
【請求項4】
64Zn
eが、アスパラギン酸塩、硫酸塩およびクエン酸塩からなる群より選択される塩の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の
医薬。
【請求項5】
組成物が、注射によって投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の
医薬。
【請求項6】
組成物が、経口投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の
医薬。
【請求項7】
Znを含む組成物の予防有効量
を含む、アルツハイマー病の発症を遅延する
ための医薬であって、該組成物が、
64Zn
e化合物またはその塩を含み、
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも80%
64Zn
eである、
医薬。
【請求項8】
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも95%
64Zn
eである、請求項7に記載の
医薬。
【請求項9】
64Zn
e化合物またはその塩が、少なくとも99%
64Zn
eである、請求項7または8に記載の
医薬。
【請求項10】
64Zn
eが、アスパラギン酸塩、硫酸塩およびクエン酸塩からなる群より選択される塩の形態である、請求項7~9のいずれか一項に記載の
医薬。
【請求項11】
組成物が、注射によって投与される、請求項7~10のいずれか一項に記載の
医薬。
【請求項12】
組成物が、経口投与される、請求項7~10のいずれか一項に記載の
医薬。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0255
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0255】
本発明は、以下の態様および実施態様を含む。
[1] Znを含む組成物の治療有効量を、処置を必要とする対象体に投与することを含む、アルツハイマー病を処置する方法であって、該組成物が、
64
Zn
e
化合物またはその塩を含み、
64
Zn
e
化合物またはその塩が、少なくとも80%
64
Zn
e
である、方法。
[2]
64
Zn
e
化合物またはその塩が、少なくとも95%
64
Zn
e
である、[1]に記載の方法。
[3]
64
Zn
e
化合物またはその塩が、少なくとも99%
64
Zn
e
である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]
64
Zn
e
が、アスパラギン酸塩、硫酸塩およびクエン酸塩からなる群より選択される塩の形態である、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 組成物が、注射によって投与される、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 組成物が、経口投与される、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[7] Znを含む組成物の予防有効量を、発症遅延を必要とする対象体に投与することを含む、アルツハイマー病の発症を遅延する方法であって、該組成物が、
64
Zn
e
化合物またはその塩を含み、
64
Zn
e
化合物またはその塩が、少なくとも80%
64
Zn
e
である、方法。
[8]
64
Zn
e
化合物またはその塩が、少なくとも95%
64
Zn
e
である、[7]に記載の方法。
[9]
64
Zn
e
化合物またはその塩が、少なくとも99%
64
Zn
e
である、[7]または[8]に記載の方法。
[10]
64
Zn
e
が、アスパラギン酸塩、硫酸塩およびクエン酸塩からなる群より選択される塩の形態である、[7]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 組成物が、注射によって投与される、[7]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12] 組成物が、経口投与される、[7]~[10]のいずれかに記載の方法。
本発明をその詳細な説明と併せて説明したが、上記の説明は例示を意図するものであり、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。他の態様、利点および改変が、添付の特許請求の範囲に含まれる。したがって、本発明の特定の特徴のみを例示および説明したが、当業者には多くの改変および変更が生じるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神に含まれるすべてのそのような改変および変更を包含するものであることを理解されたい。
【国際調査報告】