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特表2024-513192色素沈着過剰障害を処置するための方法及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】色素沈着過剰障害を処置するための方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/421 20060101AFI20240314BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A61K31/421
A61P17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560002
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 IB2021000260
(87)【国際公開番号】W WO2022208123
(87)【国際公開日】2022-10-06
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】520100435
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・コート・ダジュール
【氏名又は名称原語表記】Universite Cote d’Azur
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】バロッティ,ロベール
(72)【発明者】
【氏名】ベルトロット,コリーヌ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC69
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
色素沈着障害は、人々の生活の質を変化させ、処置の有効性が限られ、このため、不満足な結果がもたらされ、高い治療要求が存在する。本発明者らは、再構成されたヒト表皮を使用したより生理学的なモデルにおいて、BCH及びJPH203を試験し、SLC7A5阻害の臨床的可能性、並びにBCH及びJPH203の色素沈着過剰疾患における化粧学的又は皮膚科学的介在に適した色素脱失剤としての位置付けを実証し、色素沈着の強力な阻害を確認した。このため、本発明は、色素沈着過剰障害の処置を必要とする対象において色素沈着過剰障害を処置するための方法であって、治療上有効量のJPH203を前記対象に投与することを含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素沈着過剰障害の処置を必要とする対象において色素沈着過剰障害を処置するための方法であって、
治療上有効量のJPH203を前記対象に投与することを含む、
方法。
【請求項2】
色素沈着過剰障害が、皮膚の色素脱失である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
色素沈着過剰障害が、皮膚の白化である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
有効量のJPH203又はその化粧学的もしくは薬学的に許容し得る塩を含む、
色素沈着過剰障害の処置に使用するための組成物。
【請求項5】
局所適用のための、請求項4記載の使用のための組成物。
【請求項6】
色素沈着過剰の病理が、皮膚の白化及び/又は皮膚の色素脱失を含む、請求項4又は5記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、化粧品及び/又は皮膚科学の分野におけるものである。本発明は、スキンケアの分野において、特に、皮膚の色素脱失又は皮膚の白化を含む色素沈着過剰の処置に、特に有利な用途を見出される。
【0002】
発明の背景
ヒトの皮膚の色に関与する色素であるメラニンは、表皮におけるメラノサイトにより合成される。したがって、メラノサイトの増殖及び分化を制御する分子メカニズムは、皮膚の色素沈着に影響を及ぼす。
【0003】
メラニン合成又はメラニン生成は、メラノサイト特異的酵素であるチロシナーゼ(TYR)により厳密にレギュレーションされる。チロシナーゼは、メラニン生成の律速段階であるL-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-DOPA)へのチロシンのヒドロキシル化を含む多くの反応を触媒する。他の酵素は、メラニン生成に関与する。例えば、チロシナーゼ関連タンパク質-1(TYRP1)は、DHICAオキシダーゼ活性を有し、DCTによりコードされる酵素は、ドーパクロムトートメラーゼ活性を有する。TYRP1及びDCTは、紫外線照射の有害な影響に対する光保護を担う黒褐色メラニンであるユーメラニンの合成に関与する(Miyamura et al., 2007)。
【0004】
メラニン生成は、メラノソームと呼ばれる特殊な細胞小器官で生じる。それらは、リソソームに関連するが、これらの小胞の生合成及び特定を可能にする幾つかの特異的タンパク質、例えば、PMEL17、MART1、GPR143、SLC45A2、SLC24A5、他多数を含有する(Kondo and Hearing, 2011)。メラノサイトは、細胞内小胞の特異的輸送機構を備えている。この機構は、メラノソームがメラノサイトのデンドライトの末端に蓄積することを可能にするRAB27A、MLPH及びMYOVaを含む。このプロセスにより、隣接するケラチノサイトへのメラノソームの移動及び均一な皮膚の色素沈着が促進される(Hume and Seabra, 2011; Sitaram and Marks, 2012)。
【0005】
現在まで、250超の遺伝子が、ヒトにおける皮膚の色素沈着の制御に直接又は間接的に関与している(Baxter et al., 2019)。これらの遺伝子の中でも、MITFは、これらの発生プロセスにおいて重要な役割を果たす。メラノサイトの発生に関与する全てのシグナル伝達経路の交差点にあるためである。MITFは、メラノサイトの増殖、生存及び遊走に関与する多くの遺伝子、例えば、CDK2、BCL2及びMET(この列記は網羅的ではない)の発現をレギュレーションする転写因子である。他のMITFターゲット遺伝子は、メラノサイト分化プロセスに直接関与する。MITFは、メラニン合成、メラノソーム生合成及びメラノソーム輸送に必要とされる上記取り上げられたタンパク質をコードする全ての遺伝子の発現を制御する。MITFにより、最適な分化及び生理学的な皮膚の色素沈着に必要な全てのこれらのプロセスの協調したレギュレーションが確実となる(Cheli et al., 2010;Goding and Arnheiter, 2019)。色素沈着障害は、人々の生活の質を変化させ、処置の有効性が限られ、このため、不満足なアウトカムがもたらされ、高い治療要求が存在する。
【0006】
ここで、本発明者らは、色素沈着に関与する以前に報告されていない遺伝子を特定することを目的とした。このような遺伝子は、色素沈着過剰疾患、例えば、黒皮症又は光線性黒子の処置に使用される色素脱失剤についての分子標ターゲットである場合がある。これまでに特定されたMITFターゲット遺伝子の大部分は、公知の機能を有していないため、メラノサイト分化及び色素合成におけるそれらの関与は、評価するのに値する。
【0007】
公開されているChIP-Seq及びトランスクリプトームデータの複合バイオインフォマティクス分析により、本発明者らは、それらの知識が以前に報告されていなかったMITFターゲット遺伝子を直接特定することが可能になった。更なる分析から、以前に報告されていないMITFターゲット及び色素沈着遺伝子として、SLC7A5が指摘された。SLC7A5は、遺伝的又は薬理学的阻害によりメラニン色素合成を減少させ、再構築された色素沈着表皮の色素脱失を可能にするアミノ酸トランスポーターをコードする。これにより、SLC7A5は、色素沈着過剰の病理の処置における潜在的なターゲットであると指摘される。このため、色素沈着障害に対する新規な処置を特定する必要がある。
【0008】
発明の概要
本発明は、色素沈着過剰障害を処置するための方法及び組成物に関する。特に、本発明は、特許請求の範囲により定義される。
【0009】
発明の詳細な説明
ChIPseqとマイクロアレイデータとの統合により、本発明者らが知る限り以前に報告されていなかったMITFターゲット遺伝子、中でも、アミノ酸トランスポーターであるSLC7A5を特定することが可能となった。本発明者らは、siRNA媒介SLC7A5ノックダウンにより、形態にも、樹状突起形成度にも影響を及ぼすことなく、B16F10細胞における色素沈着が減少することを示した。SLC7A5阻害剤であるBCH又はJPH203による処理によっても、B16F10細胞におけるメラニン合成が減少した。本発明者らの知見から、BCHが参照色素脱失剤であるコウジ酸と同程度に強力であるが、チロシナーゼ活性に影響を及ぼさない異なる経路を介して作用することが示された。また、BCHにより、ヒトMNT1メラノーマ細胞又は正常なヒトメラノサイトにおいても、色素沈着が減少した。最後に、本発明者らは、再構成されたヒト表皮を使用したより生理学的なモデルにおいて、BCH及びJPH203を試験し、色素沈着の強い阻害を確認した。このことから、SLC7A5阻害の臨床的可能性が実証され、BCH及びJPH203は、色素沈着過剰疾患における化粧学的又は皮膚科学的介在に適した色素脱失剤として位置付けられる。
【0010】
第1の態様では、本発明は、色素沈着過剰障害の処置を必要とする対象において色素沈着過剰障害を処置するための方法であって、治療上有効量のJPH203を前記対象に投与することを含む、方法に関する。
【0011】
本明細書で使用する場合、「対象」という用語は、任意のほ乳類、例えば、げっ歯類、ネコ、イヌ及び霊長類を指す。特に、本発明において、対象は、ヒトである。とりわけ、対象は、上記された色素沈着過剰障害のうちの1つを患っているヒトである。
【0012】
本明細書で使用する場合、「色素沈着過剰皮膚障害」又は「色素沈着過剰障害」という用語は、互換的に使用され、増加したメラニンにより引き起こされる皮膚又は爪の領域の黒ずみを指す。色素沈着過剰は、2つの発生:(1)異常に高濃度のメラノサイトがメラニンを産生するか又は(2)メラノサイトが活動亢進であるかのいずれかの結果である。色素沈着過剰障害は、顔面、手及び首を含む身体の任意の部分に影響を及ぼす場合がある。色素沈着過剰障害は、皮膚の色素脱失、皮膚白化、日光黒子、黒皮症、そばかす、加齢斑、座瘡後色素沈着及び炎症後色素沈着からなる群より選択されるが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書で使用する場合、「皮膚の色素脱失」という用語は、皮膚の美白又は色素の喪失を指す。皮膚の色素脱失は、数多くの局所的及び全身的な状態により引き起こされる場合がある。色素の喪失は、部分的(皮膚への損傷)又は完全(白斑により引き起こされる)である場合がある。一時的なもの(澱風由来)又は永久的なもの(白皮症由来)である場合がある。
【0014】
本明細書で使用する場合、皮膚の美白(lightening)又は皮膚の美白(whitening)としても公知の「皮膚の白化」という用語は、皮膚中のメラニン濃度を低下させることにより、皮膚を美白するか又は均一な皮膚色を提供するための試みにおいて、化学物質を使用する行為である。幾つかの化学物質は、皮膚の美白に有効であることが示されているが、一部は毒性であることが証明されているか又は安全性プロファイルが疑わしい。これには、神経学的な問題及び腎臓の問題を引き起こす場合がある水銀化合物を含む。
【0015】
本明細書で使用する場合、「黒子(lentigo)/黒子(lentigines)」又は「日光黒子」という用語は、日光誘発性そばかす又は老人性黒子としても公知であり、自然な又は人工的な紫外(UV)光により引き起こされる暗い(色素沈着過剰)病変である。「黒皮症」という用語は、妊娠誘発性黒皮症とも呼ばれる。また、これは、妊娠性黒皮症又は妊娠性肝斑としても公知である。黒皮症では、色素沈着は、一般的には対称的であり、明確に画定された縁部を有する。
【0016】
本明細書で使用する場合、「そばかす」という用語は、通常、黄褐色又は淡褐色である平坦な円形斑を指す。そばかすは、非常に一般的なタイプの色素沈着過剰であるが、それらは、より薄い皮膚の色調を有する人々の間で、より頻繁に見られる。
【0017】
本明細書で使用する場合、「加齢斑」という用語は、黄褐色、褐色又は黒色を指す。加齢斑は、楕円形であり、サイズは、そばかすサイズから13mm超で変化する。また、それは、肝斑としても公知であり、40歳以降、顔及び他の光曝露領域に発生する傾向がある。
【0018】
本明細書で使用する場合、「座瘡後色素沈着」という用語は、座瘡により引き起こされる痕跡を指す。それらは、一部の民族において、座瘡の60%超において観察される場合がある。ほとんどの場合、暗色の色素痕跡は、罹患領域における皮膚の炎症に対する反応におけるメラニンの過剰産生に起因する。適切な処置を行わないと、座瘡後色素沈着は、退色するのに数か月又は数年を要する場合がある。「炎症後色素沈着過剰」という用語は、皮膚への傷害又は炎症により引き起こされる痕跡を指し、このような状態では色素の産生が向上する。
【0019】
一実施態様では、色素沈着過剰の病理は、皮膚の色素脱失である。
【0020】
一実施態様では、色素沈着過剰の病理は、皮膚の白化である。
【0021】
本明細書で使用する場合、「LAT-1/SLC7A5トランスポーター」という用語は、大型の中性アミノ酸又はL型アミノ酸とも呼ばれるアミノ酸、例えば、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、アルギニン、トリプトファンといった細胞輸送の機能を有するタンパク質を指す。LAT-1トランスポーターは、膜貫通トランスポーターである。LAT-1トランスポーターは、SLC7A5遺伝子によりコードされる。LAT-1トランスポーターは、T細胞、ガン細胞又は脳の内皮細胞にも及ぶ数多くの細胞種において発現される。
【0022】
本明細書で使用する場合、「LAT-1/SLC7A5トランスポーターの阻害剤」という用語は、当技術分野におけるその一般的な意味を有し、LAT-1/SLC7A5トランスポーターの活性又は発現を選択的に低減し又はサプレッションする能力を有する化合物を指す。本発明の文脈において、この化合物は、LAT-1/SLC7A5トランスポーターの相互作用を阻害する。
【0023】
本明細書で使用する場合、「JPH203」という用語は、O-[(5-アミノ-2-フェニル-7-ベンゾオキサゾリル)メチル]-3,5-ジクロロ-L-チロシンとして公知の化学分子を指す。ケース番号は、1037592-40-7であり、この分子は、下記式:
【化1】

により表わされる。
【0024】
本明細書で使用する場合、「処置すること」又は「処置」という用語は、予防的(prophylactic)又は予防的(preventive)処置と、治癒的又は疾患修飾処置との両方を指し、疾患にかかるリスクがあるか又は疾患にかかっていたと疑われる対象及び疾患又は病状を患っているか又は患っていると診断された対象の処置を含み、臨床的再発のサプレッションを含む。処置を、医学的障害を有するか又は障害を最終的に獲得してしまうおそれがある対象に、障害もしくは再発性障害を予防し、治癒し、これらの発症を遅延させ、これらの重症度を低減しもしくはこれらの1種以上の症状を改善するために又はこのような処置の非存在下で予想される生存を超えて対象の生存を延長するために投与することができる。「治療計画」とは、疾患の処置パターン、例えば、治療中に使用される投与パターンを意味する。治療計画は、導入計画及び維持計画を含むことができる。「導入計画」又は「導入期間」という語句は、疾患の初期処置に使用される治療計画(又は治療計画の一部)を指す。導入計画の一般的な目標は、処置計画の初期期間中に対象に高レベルの薬剤を提供することである。導入計画は、「負荷計画」を(部分的に又は全体的に)利用することができる。負荷計画は、医師が維持計画中に利用するであろうより多い用量の薬剤を投与すること、医師が維持計画中に薬剤を投与するであろうより頻繁に薬剤を投与すること又はその両方を含むことができる。「維持計画」又は「維持期間」という語句は、疾患の処置中に対象を維持するために、例えば、対象を長期間(数か月又は数年)寛解状態に保つために使用される治療計画(又は治療計画の一部)を指す。維持計画は、連続療法(例えば、規則的な間隔、例えば、毎週、毎月、毎年等で薬剤を投与する)又は断続的療法(例えば、間欠的処置、断続的処置、再発時の処置又は特定の所定の基準[例えば、疼痛、疾患症状等]の達成時の処置)を使用することができる。
【0025】
本明細書で使用する場合、「局所適用」という用語は、本発明の組成物を皮膚の表面に適用し又は広げるという事実を指す。
【0026】
本明細書で使用する場合、「化粧学的に又は薬学的に許容し得る」という用語は、本発明の組成物が毒性反応又は不耐性を引き起こすことなく、身体、とりわけ、皮膚と接触するのに適していることを指す。
【0027】
本明細書で使用する場合、「投与すること」又は「投与」という用語は、例えば、局所、皮内、粘膜、静脈内、皮下、筋肉内送達及び/又は本明細書に記載されもしくは当技術分野において公知の任意の他の物理的送達方法により、体外に存在する物質(例えば、LAT-1/SLC7A5トランスポーターの阻害剤、すなわち、JPH203)を対象に注射するか又は何等かの方法で物理的に送達する行為を指す。疾患又はその症状が処置される場合、物質の投与を典型的には、疾患又はその症状の発症後に行う。疾患又はその症状が予防される場合、物質の投与を典型的には、疾患又はその症状の発症前に行う。
【0028】
「治療上有効量」は、LAT-1/SLC7A5トランスポーターの阻害剤、すなわち、JPH203の、任意の医学的処置に適用可能で妥当な利益/リスク比で色素沈着過剰の病理の処置のための方法における使用するのに十分な量を意味する。本発明の化合物及び組成物の1日の総使用量は、適切な医学的判断の範囲内で、主治医により決定されるであろうと理解されたい。任意の特定の対象のための具体的な治療上有効用量レベルは、対象の年齢、体重、一般的な健康状態、性別及び食事;投与時間、投与経路並びに利用される具体的な化合物の排泄速度;処置期間;利用される具体的なポリペプチドと組み合わせて又は同時に使用される薬剤を含む各種の要因並びに医学分野において周知の同様の要因により決まるであろう。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要とされるレベルより低いレベルで化合物の投与を開始し、所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加させることは、当業者に周知である。ただし、製品の1日用量を成人1日当たりに、0.01~1,000mgの広範囲にわたって変動させることができる。典型的には、該組成物は、処置される対象への用量の対症的調整のために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mg 有効成分を含有する。薬剤は、典型的には、約0.01mg~約500mg 有効成分、典型的には、1mg~約100mg 有効成分を含有する。有効量の薬剤は、通常、0.0002mg/kg 体重/日~約20mg/kg 体重/日、特に、約0.001mg/kg 体重/日~7mg/kg 体重/日の用量レベルで供給される。
【0029】
LAT-1/SLC7A5トランスポーターの阻害剤、すなわち、上記されたJPH203を薬学的に許容し得る賦形剤及び場合により、徐放性マトリックス、例えば、生分解性ポリマーと組み合わせて、医薬組成物を形成することができる。
【0030】
第2の態様では、本発明は、有効量のJPH203又はその化粧学的もしくは薬学的に許容し得る塩を含む、色素沈着過剰障害の処置に使用するための組成物に関する。
【0031】
特に、該組成物は、該組成物の総重量に対して、0.5重量%~20重量% LAT-1/SLC7A5トランスポーターの阻害剤を含む。
【0032】
特に、該組成物は、該組成物の総重量に対して、0.5重量%~20重量% JPH203を含む。
【0033】
「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」は、必要に応じて、ほ乳類、特に、ヒトに投与された場合、有害反応、アレルギー反応又は他の有害な反応を生じない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤を指す。
【0034】
「薬学的に」又は「薬学的に許容し得る」は、必要に応じて、ほ乳類、特に、ヒトに投与された場合、有害反応、アレルギー反応又は他の有害な反応を生じない分子実体及び組成物を指す。薬学的に許容し得る担体又は賦形剤は、下記作用剤:溶媒、例えば、オリーブ油、精製オリーブ油、綿実油、ゴマ油、ヒマワリ油、ヒマワリ種子油、ピーナッツ油、小麦胚芽油、ダイズ油、ホホバ油、マツヨイグサ油、ココナッツ油、パーム油、スイートアーモンド油、アロエ油、キョウニン油、アボカド油、ボラージ油、大麻種子油、マカダミアナッツ油、ローズヒップ油、ペカン油、ヘーゼルナッツ油、サザンカ油、米ぬか油、シアバター、トウモロコシ油、ツバキ油、ブドウ種子油、キャノーラ油、ヒマシ油及びそれらの組み合わせ、好ましくは、精製オリーブ油、乳化剤、懸濁化剤、崩壊剤、結合剤、賦形剤、安定剤、キレート剤、希釈剤、ゲル化剤、増粘剤、例えば、蜜ロウ及び/又はワセリン、防腐剤、滑沢剤、吸収遅延剤、リポソーム、抗酸化剤、例えば、ブチルヒドロキシトルエン又はブチルヒドロキシアニソール等のうちの1種以上を指す。また、それは、任意のタイプの非毒性固体、半固体もしくは液体充填剤、希釈剤、封入材料又は製剤補助剤も指す。局所、皮下、経口、舌下、筋肉内、静脈内、経皮、局所又は直腸投与のための本発明の医薬組成物を、有効成分を単独で又は別の有効成分と組み合わせて、単位投与形態で、従来の薬学的支持体との混合物として、動物及びヒトに投与することができる。適切な単位投与形態は、局所、例えば、クリーム剤、経口経路形態、例えば、錠剤、ゲルカプセル剤、散剤、顆粒剤及び経口懸濁剤又は溶剤、舌下及び頬側投与形態、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、髄腔内及び鼻腔内投与形態並びに直腸投与形態を含む。典型的には、該医薬組成物は、注射可能な製剤について薬学的に許容し得る担体を含有する。これらは、特に、等張性で無菌の生理食塩水溶液(リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムもしくは塩化マグネシウム等又はこのような塩の混合物)又は乾燥、特に、凍結乾燥された組成物であることができる。この組成物は、場合に応じて、滅菌水又は生理食塩水の添加に基づいて、注射溶液の構成が可能となる。注射用途に適した薬学的形態は、無菌水溶液又は分散液;ゴマ油、ピーナツ油又は水性プロピレングリコールを含む製剤及び無菌注射溶液又は分散液の即時調製のための無菌粉末を含む。全ての場合に、該形態は、無菌でなければならずかつ容易に注入できる程度に流動的でなければならない。それは、製造及び保存の条件下で安定でなければならずかつ微生物、例えば、細菌及び真菌の汚染作用に対して保持されなければならない。遊離塩基又は薬理学的に許容し得る塩として本発明の化合物を含む溶液を界面活性剤、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースと適切に混合された水中で調製することができる。分散液をグリセロール、液体ポリエチレングリコール及びそれら混合物中並びに油中で調製することもできる。保存及び使用の通常の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐために防腐剤を含む。ポリペプチド(又はそれをコードする核酸)を中性形態又は塩形態にある組成物に製剤化することができる。薬学的に許容し得る塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基で形成される)を含み、この酸付加塩は、無機酸、例えば、塩酸もしくはリン酸等又は有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等で形成される。また、遊離カルボキシル基で形成される塩も、無機塩基、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム又は水酸化第二鉄等及び有機塩基、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカイン等から得ることができる。また、担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)、それらの適切な混合物及び植物油を含有する溶媒又は分散媒体あることもできる。適当な流動性を例えば、被覆、例えば、レシチンの使用により、分散液の場合には必要な粒径の維持により、界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止を種々の抗細菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によりもたらすことができる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖類又は塩化ナトリウムを含むのが好ましいであろう。注射組成物の持続的吸収を、吸収を遅延させる作用剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを該組成物中で使用することによりもたらすことができる。無菌注射溶液は、活性ポリペプチドを必要な量で、必要に応じて上記列挙された他の成分の幾つかと共に、適切な溶媒に包含させ、続けて、ろ過滅菌することにより調製される。一般的には、分散液は、種々の滅菌された有効成分を、基本的な分散媒と上記列挙されたものから必要とされる他の成分とを含有する無菌媒体に包含させることにより調製される。滅菌注射溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥技術及び凍結乾燥技術である。これらの技術により、予めろ過滅菌されたその溶液から、任意の追加の所望の成分を加えた有効成分の粉末が生成される。製剤に基づいて、溶剤は、投与製剤に適合した様式でかつ治療上有効であるような量で投与されるであろう。該製剤は、各種の投与形態、例えば、上記された注射溶液のタイプで容易に投与されるが、薬剤放出カプセル剤等も利用することができる。水溶液剤での非経口投与には、例えば、液剤は、必要に応じて適切に緩衝化されるべきであり、まず、液体希釈剤が、十分な生理食塩液又はグルコースにより等張にされるべきである。これらの特定の水溶液剤は、局所、静脈内、筋肉内、皮下及び腹腔内投与に特に適している。この関係で、利用することができる無菌水性媒体は、本開示を考慮して、当業者には公知であろう。例えば、1用量を等張NaCl溶液 1mlに溶解させ、皮下注入液 1000mlに加えるか又は提案された注入部位に注射することができる。該医薬組成物は、皮膚、例えば、色素沈着過剰障害を患っている皮膚に直接適用することができる局所製剤に製剤化される。本出願の一実施態様では、該医薬組成物は、本出願の抽出物を基剤、例えば、当技術分野において周知でありかつ一般的に使用されているものと混合することにより、外用調製物に製剤化される。いずれにしても、投与責任者が、個々の対象に適した用量を決定するであろう。処置される対象の状態に応じて、ある程度の用量のばらつきが必然的に生じるであろう。
【0035】
本発明の組成物は、局所適用、例えば、軟膏に適した化粧学及び皮膚科学において通常使用される全ての投与形態中に存在する。該医薬組成物に適した局所製剤は、水相中に脂肪相を分散させることにより得られる、ゲル剤、パッチ、塗布剤、エアロゾル剤、スプレー剤、ペースト剤、泡剤、液滴、血清ローション剤、ある程度の稠度の液体の乳剤、白色又は着色された、水相に脂肪相を分散させることにより得られた水中油型乳剤(O/W)又は逆に油中水型乳剤(W/O)ミルク、クリーム、ゲル、ゲル-乳剤、マスク又は無水オイルバーム、散剤であることができる。また、それらは、スティックの形態であることもできる。これらの調製物の中でも、クリーム剤、流動性もしくは濃いゲル剤又はスプレー剤が好ましく、その適用は、身体の全ての部分で単純かつ容易である。本発明の組成物は、ヒトにおいて十分な量で、すなわち、考慮される組成物のタイプ(ゲル剤、クリーム剤、ローション剤等)について通常の適用用量に対応する量で局所的に適用される。例えば、フェイスクリームの場合、1日当たりに0.5~3g、特に、1~2g クリーム剤が、1回以上の曝露で適用される。例えば、ボディクリームの場合、1日当たりに5~12g、特に、7~10g クリーム剤が、1回以上の発揮(exhibition)で適用される。
【0036】
本発明は、下記図面及び実施例によりさらに例証されるであろう。ただし、これらの実施例及び図面は、決して本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】SLC7A5サイレンシングは、メラニン生成に影響を及ぼす。SLC7A5サイレンシング後のB16F10細胞におけるメラニン含量。値をタンパク質の量当たりに正規化し、対照条件(siCt)の%として計算した。値は、3回の異なる実験からの平均±SDである。****p<0.0001。
図2】メラニン合成に対するJPH203の効果。種々の用量のJPH203で処理されたB16F10細胞中のメラニン含量の定量化。値をタンパク質の量当たりに正規化し、基本条件の%として計算した。値は、3回の異なる実験からの平均±SDである。*p<0.05、**p<0.01。
【0038】
実施例
材料及び方法
細胞培養及び化学物質
マウスB16F10細胞及びヒト501Melメラノーマ細胞を、7% ウシ胎仔血清及び1% ペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。ヒトMNT1メラノーマ細胞を記載されているように(Yasumoto et al., 2004)培養した。正常ヒトメラノサイトを包皮手術後に得られた包皮から単離した。患者の同意は必要とされなかった。フランスの法律では、切除後に残された組織は廃棄された材料とみなされるためである。メラノサイトを記載されているように(Bonet et al., 2017)MCDB培地中で培養した。細胞をマイコバクテリアの存在について、4週間毎に試験した。BCH(Tocris, France)及びコウジ酸(Sigma, France)を水中に、50mMで再懸濁させ、JPH203(Selleckchem, France)をDMSO中に、50mM ストック溶液で再懸濁させた。
【0039】
細胞生存率
細胞生存率を供給元により推奨されるように、CellTiter Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(Promega, France)を使用して評価した。
【0040】
遺伝子サイレンシング及び色素沈着の誘引
細胞を、HiPerfectトランスフェクション試薬(Qiagen, France)を使用して、SLC7A5、MITFに対する50nM siRNA又は対照siRNA(ON-TARGETplus, Dharmacon)でトランスフェクションした。示された場合、フォルスコリン(20μM)及びIBMX(100μM)を加えて、B16F10細胞に色素沈着を誘引した。48時間後、培地を除去し、細胞をウエスタンブロット、定量的PCR、メラニン含量分析、免疫蛍光又は明視野撮像に使用した。
【0041】
タンパク質発現
タンパク質をSDS-PAGEにより分析し、PVDFメンブラン(Sigma, France)にトランスファーした。使用された抗体を以下のとおりとした:Abcam製のベータ-アクチン(ab8226)、MITF(ab12039)及びチロシナーゼ(ab738)、Cell Signaling Technologies製のRab27a(#69295)及びHSP90(#4874)、Santa Cruz製のSLC7A5(sc-374232)及びTYRP1(sc-166857)。シグナルを、ECL検出キットを使用して、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体で検出し、デジタル撮像(Fuji LAS4000)により定量化した。
【0042】
メラニン含量
細胞を0.05% トリプシン-EDTA溶液(Thermo Scientific, France)で剥離し、0.5N NaOH中に可溶化した。光学密度を、メラニン標準を基準として、405nmで測定した。メラニン含量をタンパク質含量に対して正規化した。
【0043】
免疫蛍光及び共焦点分析
細胞を4% パラホルムアルデヒドで固定し、0.1% Tritonで透過処理し、抗TYRP1抗体(Santa Cruz, sc-58438)と共にインキュベーションした。蛍光シグナルを、Alexa Fluor 594ラベルされた二次抗体(Thermo Scientific, France)を使用して明らかにした。画像を、共焦点Nikon A1R顕微鏡(40×油浸レンズ)を使用して得た。
【0044】
リアルタイム定量的PCR
リアルタイム定量的PCRを、StepOne Real-Time PCRシステム(Thermo Scientific, France)を使用して、SYBR Greenで行った。結果を、GAPDHを使用して正規化した。プライマー配列は、要求に応じて利用可能である。
【0045】
L-DOPA活性
タンパク質を5mM L-DOPAが補充された0.1M リン酸ナトリウムpH6.8中に再懸濁させた。37℃で1時間インキュベーションした後、光学濃度を475nmで読み取った。
【0046】
再構築されたヒト色素沈着上皮
Phototype VI Reconstructed Human Pigmented Epidermis(Sterlab, France)をBCH又は媒体で7日間処理した。10μmの凍結切片を、Fontana-Masson染色キット(Interchim, France)を使用してメラニンを可視化するのに使用した。画像をNikon顕微鏡及び20×レンズにより取得した。メラニン含量をSolvable(登録商標)溶液(PerkinElmer, France)中での表皮の可溶化後に定量化し、メラニン含量を上記されたように定量化した。
【0047】
統計分析
全てのデータを平均±SDとして表わす。一元配置ANOVA検定を全ての実験について使用し、続けて、Dunnettの多重比較検定を使用した。
【0048】
データの利用可能性
この文献に関連するデータセットをGEO Omnibus(Laurette et al., 2015)でホストされている[https://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/query/acc.cgi?acc=GSE61967]及びBROAD instituteによりホストされている[https://portals.broadinstitute.org/ccle/data]に見出すことができる。
【0049】
結果
直接的なMITFターゲット遺伝子の特定
まず、MITFに結合した遺伝子及びMITFと共存する発現を特定するために、本発明者らは、MITF ChIPSeq実験(Laurette et al., 2015)の分析とCCLEメラノーマパネル(Broad Institute)の分析とを組み合わせた。この分析により、946個の遺伝子中の1068個のピックが特定された。これらの遺伝子の遺伝子オントロジー分析から、メラニン合成に関連する関係(terms)の濃縮が示され(データを示さず)、色素沈着遺伝子の正のレギュレーションにおけるMITFの役割が強化された。
【0050】
946個の遺伝子の中から、本発明者らは、501Melヒトメラノーマ細胞及びB16F10マウスメラノーマ細胞の両方において、MITF siRNAによりダウンレギュレートされる遺伝子を調査した。本発明者らは、これら全ての基準を満たす5つの遺伝子を見出した(データを示さず)。これらの遺伝子のうち、TYR、RAB27A及びMLPHは、色素沈着に関与すると既に記載されている。色素沈着における機能がこれまで記録されていなかった2つの更なる遺伝子(ST3GAL6及びSLC7A5)が特定された。
【0051】
St3gal6及びSlc7a5に対するsiRNAを使用した第1のラウンドの機能分析から、St3gal6サイレンシングによりB16F10メラノーマ細胞の増殖が阻害される(データを示さず)が、Slc7a5発現の阻害は細胞増殖に対して顕著な効果を有さない(データを示さず)が示された。したがって、Slc7a5を更なる研究のために選択した。
【0052】
MITFターゲットとしてのSLC7A5の検証
MITF(黒色)(Laurette et al., 2015)、H3K27ac及びH3K4me3(紫色)(Ohanna et al., 2018)のChIP-seq実験からのSLC7A5プロモーター領域のUCSCブラウザ画像捕捉(データを示さず)から、MITFは、SLC7A5プロモーターに結合し、ヒストン活性化エピジェネティックマークが重複することが確認された。ついで、MITF siRNAによるB16F10メラノーマ細胞のトランスフェクションから、メッセンジャーレベル(データを示さず)とタンパク質レベル(データを示さず)との両方で、Mitf及びSlc7a5発現の減少が示された。このことは、Slc7a5がMitfターゲット遺伝子であり、MITFサイレンシングによっても、501Mel細胞におけるSLC7A5発現が減少することが実証された(データを示さず)。
【0053】
siRNA媒介Slc7a5ノックダウンによりB16F10細胞におけるメラニン生成が阻害される
ついで、本発明者らは、B16F10メラノーマ細胞における色素沈着に対するSlc7a5サイレンシングの効果を研究した。対照(siCt)又はSlc7a5(siSlc7a5)siRNAによりトランスフェクションされた細胞をcAMP上昇剤(フォルスコリン、20μM、IBMX 100μM)と共にインキュベーションして、メラニン生成を向上させた。48時間後、ウエスタンブロット分析により、2つの異なるsiSlc7a5によるタンパク質レベルでのSlc7a5発現の強い阻害が確認された(データを示さず)。明視野画像(データを示さず)では、Slc7a5サイレンシング後に、細胞色素沈着の明確な阻害が見られた。この観察は、メラニン含量の測定により確認された(図1)。Slc7a5に対する両siRNAにより、メラニン含量の60%の減少がもたらされた。予想外に、Slc7a5サイレンシングでは、チロシナーゼ(Tyr)及びDctのわずかな増加がもたらされかつほとんど増加しなかったが、その効果は、Tyrp1発現について、はるかに顕著であった。Rab27a発現についての顕著な効果は観察されなかった(データを示さず)。qPCR分析から、siSlc7A5によりSlc7a5 mRNAレベルが効果的に阻害されるが、Tyr、Tyrp1、Dct及びRab27aの発現には顕著には影響を及ぼさないことが実証された(データを示さず)。Tyrp1発現の免疫蛍光研究から、Slc7a5サイレンシングは、細胞形態又は樹状突起形成度に劇的に影響を及ぼさないことが示され、Tyrp1の発現の増加が確認された(データを示さず)。Tyrp1発現は、明らかに細胞周辺部に局在するため、Slc7a5サイレンシングは、メラノソーム輸送に影響を及ぼすことはないであろう。
【0054】
SLC7A5の薬理学的阻害によりB16F10細胞におけるメラニン含量が減少する
次に、本発明者らは、抗ガン剤として現在臨床試験中にある、BCH及びJPH203によるSLC7A5の薬理学的阻害剤の効果を検討した。
【0055】
まず、用量応答実験から、最大10mM BCHは、B16F10細胞の生存率に顕著には影響を及ぼさないことが示された(データを示さず)。メラニン含量の評価から、5mM BCH(25%)及び10mM BCH(60%)によるB16F10細胞におけるメラニン産生の顕著な阻害が示された(データを示さず)。明視野画像から、10mM BCHにより色素沈着が阻害されることが確認された(データ示さず)。Tyrp1抗体による免疫蛍光から、10mM BCHによっては、細胞の形態が明らかには変化しないことが示された(データを示さず)。Slc7a5に対するsiRNAによる場合と同様に、本発明者らは、Tyrp1ラベリングの一貫した増加を観察した。ウエスタンブロット分析により、BCHに応じたTyrp1発現の用量依存的増加が確認されたが、他のメラニン生成タンパク質、例えば、チロシナーゼ又はRab27aには、BCHは一貫して影響を及ぼさなかった。BCHは、Slc7a5発現に影響を及ぼさなかった(データを示さず)。
【0056】
この観察を補強するように、10及び50μM JPH203によっても、細胞増殖を阻害しなかった用量で、B16F10細胞における色素沈着が効率的に阻害された(図2)。まとめると、これらの観察から、メラニン生成におけるSlc7a5の関与及び色素脱失戦略としてのSlc7a5の薬理学的阻害の可能性のある使用が確認された。
【0057】
色素沈着に対するBCHとコウジ酸との効果の比較
次に、本発明者らは、BCHの効果を周知の参照色素脱失剤であるコウジ酸の効果と比較した。用量応答実験から、細胞増殖に影響を及ぼさない用量でのコウジ酸によるメラニン生成の阻害が確認された(データ示さず)。1mMにおいて、本発明者らは、メラニン含量の60%の阻害を観察した。この効果は、BCHに応じたB16F10細胞で観察された効果に匹敵する。さらに、コウジ酸(1mM)によるB16F10細胞の処理により、チロシナーゼ活性が阻害されたが、BCH(10mM)によっては阻害されなかった(データを示さず)。ついで、DOPAオキシダーゼアッセイ(データを示さず)の中に細胞ライゼートに直接加えた場合、コウジ酸によりチロシナーゼ活性が阻害されたが、BCHによっては阻害されなかった。したがって、本発明者らは、BCHがB16F10メラノーマ細胞におけるメラニン生成を阻害することについてコウジ酸と同程度に強力であり、BCHによりチロシナーゼ活性が阻害されないと結論付けることができる。
【0058】
BCHによりMNT1ヒトメラノーマ細胞、正常ヒトメラノサイト及び再構築されたヒト色素沈着表皮における色素沈着が阻害された
次に、本発明者らは、ヒト細胞並びにより生理学的なモデル、例えば、正常ヒトメラノサイト及び再構築された表皮に対するBCHの効果を検証した。まず、高度に色素沈着したヒトメラノーマ細胞、MNT1(データを示さず)及び色素沈着した正常ヒトメラノサイト(NHM)(データを表さず)を使用して、本発明者らは、両方の細胞種において、BCHによりメラニン産生が顕著に減少することが確認された。ついで、メラノサイトとケラチノサイトとの両方を含有する再構築された色素沈着表皮を使用して、本発明者らは、BCH処理によって、肉眼画像(データを示さず)により示され、表皮の明視野顕微鏡画像(データを示さず)により確認されるように、色素沈着が阻害されることを明確に観察した。加えて、表皮切片のフォンタナマッソン染色により、BCHに曝露された、再構築された表皮において色素沈着したメラノサイトが存在しないことが実証された(データを示さず)。最後に、メラニン含量の定量化から、BCHで処理された、再構築された表皮におけるメラニン含量の統計的に有意な減少が確認された(データを示さず)。
【0059】
議論
メラノサイト機能不全に関連する病理は、白斑又は色素沈着過剰、例えば、加齢斑(光線性黒子)もしくは黒皮症におけるような色素脱失をもたらす場合がある。これらの色素欠損は、罹患した人々の生命を危険にさらすことはないが、著しい心理的影響を及ぼす。これまで、色素性病理である白斑、黒皮症及び光線性黒子の処置において、重度の皮膚科学的アプローチのみが、実際の有効性を示してきた。色素沈着過剰の病理に関連して既に使用されている化粧学的アプローチは、主に、メラニン合成における重要な酵素であるチロシナーゼ及び/又はケラチノサイトへのメラニンの移動をターゲットとしている。これらの処置は、低い効率を示す。
【0060】
本研究では、非常に厳密なバイオインフォマティクス分析を使用して、本発明者らは、色素沈着における機能が全く研究されていなかった、以前に報告されていないMITFターゲット遺伝子であるST3GAL6及びSLC7A5を特定した。当然、本発明者らの分析により生成されたリストは、公知のMITFターゲット遺伝子を全て含有していないが、より耐性の高いフィルタを適用することにより容易に増加させることができる。
【0061】
SLC7A5は、中性アミノ酸に加えて、ヒスチジン、トリプトファン及びチロシンの輸送に特化したL型アミノ酸トランスポーターファミリーのメンバー(LAT1)をコードする(Singh and Ecker., 2018)。Slc7a5サイレンシングは、B16F10メラノーマ細胞の増殖にほとんど影響を及ぼさなかったが、メラニン生成の強力かつ再現性のある阻害を促進した。
【0062】
アミノ酸、甲状腺ホルモン及び代謝産物の輸送におけるSLC7A5の重要な役割並びにガン細胞の生存/増殖におけるその関与を理解するために、多大な努力がなされ、SLC7A5阻害剤が特定されてきた(Wang and Holst., 2015)。今日までに、多数のこのような阻害剤が検証されている。
【0063】
SLC7A5阻害剤のクラスにおける1番のBCH(Kim et al., 2008)及び臨床試験における阻害剤であるJPH203(Oda et al., 2010)を試験することにより、本発明者らは、両阻害剤によりB16F10メラノーマ細胞における色素沈着が効率的に阻害されることを実証することが可能となった。
【0064】
Slc7a5の阻害がメラニン生成に影響を及ぼすメカニズムに関して、本発明者らは、メラニン生成酵素であるTyr、Tyrp1及びDctの発現の阻害を観察しなかった。対照的に、本発明者らは、Slc7a5の遺伝的阻害と薬理学的阻害との両方により、Tyrp1発現の増加が誘引されることを観察した。mRNAレベルでの変化が観察されなかったため、本発明者らは、チロシナーゼについて報告されているように(Watabe et al., 2004、Fujita et al., 2009)、Slc7a5阻害により、Tyrp1のプロテアソーム又はリソソーム分解区画へのターゲット化が損なわれることを示唆することができる。また、本発明者らのデータからも、BCHによりチロシナーゼ活性が直接阻害される可能性が除外された。
【0065】
SLC7A5は、メラニン合成に重要な基質であるチロシンを輸送する。したがって、SLC7A5阻害により、チロシンが必須アミノ酸ではないにもかかわらず、メラノサイトは、フェニルアラニンからチロシンを合成することができず、細胞チロシンレベルが低下する場合がある。さらに、メラニン生成がメラノソームで起こるため、チロシンは、これらの細胞小器官に輸送されなければならない。チロシン輸送活性は特定されているが、トランスポーターの性質は未だに解明されていない。メラノソームのプロテオーム分析(Basrur et al., 2003)とインタクトなメラノソームの免疫沈降(データを示さず)との両方では、この細胞小器官におけるSLC7A5の存在を検証することができなかった。
【0066】
さらに、SLC7A5は、L-グルタミンの細胞外への流出及びL-ロイシンの細胞内への輸送をレギュレーションすることが報告された。この活性を通じて、SLC7A5は、mTOR及びオートファジーの制御において重要な役割を果たしている(Nicklin et al., 2009)。興味深いことに、オートファジーは、その活性化によりメラニンの分解及びメラニン合成の阻害がもたらされるため、メラニン生成をレギュレーションすることが記載されていた(Ho and Ganesan, 2011)。したがって、SLC7A5阻害により、色素沈着の阻害を担うオートファジーが活性化されることを提案することができる。本発明者らは、オートファジー阻害剤(3-MA又はクロロキン)をBCH又はSLC7A5 siRNAと組み合わせることにより、この仮説を評価した。しかしながら、オートファジー阻害剤により、SLC7A5阻害の抗増殖効果が強力に増強され(データを示さず)、結果の信頼できる解釈が妨げられてしまう。それにもかかわらず、5及び10mM BCHにより、LC3-IからLC3-IIへの変換が誘引される。これは、オートファジーの活性化を実証しており、BCHによるSlc7a5の阻害を検証している(データを示さず)。
【0067】
最後に、本発明者らは、BCHにより2つの異なるヒト細胞モデルにおいて色素沈着が防止されたことを示すことができた。また、BCHにより、表皮構造又はケラチン化に影響を及ぼすことなく、再構築されたヒト表皮における色素沈着が阻害された。これにより、主な有害作用が起こらないと予想される。
【0068】
まとめると、これらのデータから、SLC7A5は、メラニン産生において重要な役割を果たし、色素沈着過剰状態の処置のための薬理学的ターゲティングに適していることが示される。
【0069】
参考文献
本願全体をとおして、種々の参考文献により、本発明が属する分野の最先端が記載されている。これらの参考文献の開示は、参照により本開示に組み入れられる。
【0070】
【表1】

図1
図2
【国際調査報告】