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特表2024-513194副産物の生成が低減した2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物、及びこれを用いる2,3-ブタンジオールの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】副産物の生成が低減した2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物、及びこれを用いる2,3-ブタンジオールの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20240314BHJP
   C12P 7/18 20060101ALI20240314BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/18
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560034
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-11-28
(86)【国際出願番号】 KR2021017564
(87)【国際公開番号】W WO2022211212
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0043483
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513132586
【氏名又は名称】ジーエス カルテックス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,チャンウ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ヒョハク
(72)【発明者】
【氏名】ラツナシン,チェルラドゥライ
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジョンミョン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AC05
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA50
4B064CC24
4B064CE03
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA11
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA15X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA05
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、2,3-ブタンジオール生合成経路を有する微生物において、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、スクロースをレバンに転換する経路、ピルビン酸を乳酸に転換する経路、及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制された、2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物に関する。また、本発明は、前記2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を用いる2,3-ブタンジオールの生産方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3-ブタンジオール生合成経路を有する微生物において、
ポリグルタミン酸生合成経路、レバン生合成経路、乳酸生合成経路、及びグリセロール生合成経路からなる群から選択される1つ以上が抑制された、
2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項2】
ポリグルタミン酸生合成経路は、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路であることを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項3】
レバン生合成経路は、スクロースをレバンに転換する経路であることを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項4】
乳酸生合成経路は、ピルビン酸を乳酸に転換する経路であることを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項5】
グリセロール生合成経路は、グリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路であることを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項6】
前記組換え微生物を培養するとき、野生型微生物に比べて粘液性高分子、乳酸またはグリセロールの生産量が少ないことを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項7】
野生型微生物に比べて、2,3-ブタンジオールの生産能が増加したことを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項8】
グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路は、抑制され、スクロースをレバンに転換する経路、ピルビン酸を乳酸に転換する経路、及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路は、抑制されていないことを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項9】
グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、スクロースをレバンに転換する経路、ピルビン酸を乳酸に転換する経路、及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制されたことを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項10】
グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路及びスクロースをレバンに転換する経路は、抑制され、ピルビン酸を乳酸に転換する経路及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路は、抑制されていないことを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項11】
グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、スクロースをレバンに転換する経路、及びピルビン酸を乳酸に転換する経路は、抑制され、グリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路は、抑制されていないことを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項12】
グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、スクロースをレバンに転換する経路、ピルビン酸を乳酸に転換する経路、及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路が抑制されたことを特徴とする、
請求項1に記載の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物。
【請求項13】
請求項1~請求項12のいずれか一項の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を培養する段階と、
前記培養物から2,3-ブタンジオールを回収する段階と、を含む、
2,3-ブタンジオールの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副産物の生成が低減した2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物、及びこれを用いる2,3-ブタンジオールの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4個の炭素と2個のヒドロキシ基(-OH)とを有するアルコールの1つ(CHCHOHCHOHCH)である2,3-ブタンジオールは、合成ゴム製造工程の原料物質である1,3-ブタジエン(1,3-Butadiene)と、燃料添加剤及び溶媒として使用されるメチルエチルケトン(Methyl ethyl ketone,MEK)への化学的な触媒転換が可能である(Ji et al.,Biotechnol.Adv.,29:351,2011)。また、2,3-ブタンジオールは、ガソリン(Gasoline)と混合して、octane boosterに適用することができ、産業的に非常に重要な中間体でる(Celinska et al.,Biotechnol.Adv.,27:715,2009)。
【0003】
微生物によって生産した2,3-ブタンジオールは、経済性かつ産業用利用可能性におけるその価値が非常に高い化学物質である。化学触媒工程による生産の場合、複雑であり、高い工程コストを要する反面、生物学的な発酵及び分離精製工程によって生産すると、経済的な生産が可能であるだけでなく、食品、医薬、農業製品、化粧品など、様々な高付加価値の製品原料に適用可能であるという長所がある。歴史的に、2,3-ブタンジオールは、クレブシエラ(Klebsiella)、エンテロバクター(Enterobacter)、セラチア(Serratia)、大膓菌(Escherichia coli)、バチルス(Bacillus)等、様々な微生物によって生産可能であることが検証されている。このうち、Bacillus licheniformisは、菌株改良のため遺伝体道具(genetic toolbox)を良く備えており、高温培養(thermophlic)特性により発酵生産の際、汚染防止、冷却コストの減少、同時糖化発酵の可能などの長所があり、何よりもGRAS(generally recognized as safe)特性により産業的利用価値が高い微生物と言える。
【0004】
2,3-ブタンジオールの生産に関連する微生物の開発研究は、主に副産物を減少させる方向に行われてきた。代表的に、Jiなどは、野生型クレブシエラ・オキシトカ菌株に物理/化学的突然変異方法の一種であるUVを露出させて、副産物である有機酸の生成を一部抑制させることに成功した(Ji et al.,Biotechnol.Lett.,30:731,2008)。このほか、イオン走査(Ion beam)方式をクレブシエラ・ニューモニエ菌株に適用して、バイオマスの消耗速度を増加させることにより、2,3-ブタンジオールの生産を向上させる試みもある(Ma et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,82:49,2009)。また、野生型クレブシエラ微生物の主な副産物の生成代謝経路であるldhとpflB経路を代謝工学的に抑制させることにより、2,3-ブタンジオールの生成能を増大させた研究結果もある。
【0005】
他方、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)の場合、野生型バチルス・リケニフォルミスは、粘液性を有する傾向に強く、主な代謝化学物質もまた、クレブシエラ微生物群と異なる特性を示すことから、微生物の開発戦略においても異なった接近方法が必要であると言える。
【0006】
よって、本発明者らは、副産物の生成が抑制された組換えバチルス・リケニフォルミスを研究した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、副産物の生成が抑制された2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物、好ましくは、組換えバチルス・リケニフォルミスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、
2,3-ブタンジオール生合成経路を有する微生物において、
ポリグルタミン酸生合成経路、レバン生合成経路、乳酸生合成経路、及びグリセロール生合成経路からなる群から選択される1つ以上が抑制された、
2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を提供する。
【0009】
また、本発明は、
2,3-ブタンジオール生合成経路を有する微生物において、
グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、スクロースをレバンに転換する経路、ピルビン酸を乳酸に転換する経路、及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制された、
2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を提供する。
【0010】
また、本発明は、
本発明の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を培養する段階と、
前記培養物から2,3-ブタンジオールを回収する段階とを含む、
2,3-ブタンジオールの生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組換え微生物は、副産物の生成が抑制されるため、2,3-ブタンジオールの生産に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の組換え微生物における2,3-ブタンジオール生合成経路及び組換え微生物の製作戦略を示す図である。
図2】野生型及び粘液性高分子を除去する微生物の菌体の形状を示す図である。
図3】ブドウ糖含有培地及びショ糖含有培地でそれぞれ培養したとき、比較例1の野生型微生物、製造例1及び2の組換え微生物の細胞のほか、高分子の生成量を示す図である。
図4】ブドウ糖含有培地及びショ糖含有培地でそれぞれ培養したとき、比較例1の野生型微生物、製造例1及び2の組換え微生物の2,3-ブタンジオールの生成量及び収率を示す図である。
図5a】ポリグルタミン酸、レバン、及びこれらの13C NMR chemical shiftを示す図である。
図5b】比較例1の野生型微生物の培養時、培養物内のポリグルタミン酸及びレバンのNMR分析結果である。
図5c】製造例1の組換え微生物の培養時、培養物内のポリグルタミン酸及びレバンのNMR分析結果である。
図5d】製造例2の組換え微生物の培養時、培養物内のポリグルタミン酸及びレバンのNMR分析結果である。
図6】製造例2~4の組換え微生物の乳酸及びグリセロールの生成量を分析した結果である。
図7】製造例2~4の組換え微生物の2,3-ブタンジオールの生成量及び収率を分析した結果である。
図8】ブドウ糖培地で発酵したとき、製造例4の組換え微生物の2,3-ブタンジオール及び主な副産物の生成量を分析した結果である。
図9】ショ糖培地で発酵したとき、製造例4の組換え微生物の2,3-ブタンジオール及び主な副産物の生成量を分析した結果である。
【発明を実施するための最善の形態】
【0013】
本発明は、
2,3-ブタンジオール生合成経路を有する微生物において、
ポリグルタミン酸生合成経路、レバン生合成経路、乳酸生合成経路、及びグリセロール生合成経路からなる群から選択される1つ以上が抑制された、
2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物に関する。
【0014】
本発明は、
2,3-ブタンジオール生合成経路を有する微生物において、
グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、スクロースをレバンに転換する経路、ピルビン酸を乳酸に転換する経路、及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制された、
2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物に関する。
【0015】
また、本発明は、
本発明の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を培養する段階と、
前記培養物から2,3-ブタンジオールを回収する段階とを含む、
2,3-ブタンジオールの生産方法に関する。
【0016】
以下、本発明を詳説する。
【0017】
[2,3-ブタンジオール生合成経路を有する微生物]
本発明の微生物は、2,3-ブタンジオール生合成経路を有する。前記2,3-ブタンジオール生合成経路は、微生物内特定の代謝産物から2,3-ブタンジオールが合成する経路を意味する。本発明の2,3-ブタンジオール生合成経路は、ピルベート、アルファ-アセトラクテート及び/またはアセトインから直接或いは間接に2,3-ブタンジオールが合成する経路などになり得る。好ましくは、本発明の微生物は、アセトインから2,3-ブタンジオールが合成する経路を含んでいてもよい。
【0018】
また、本発明の微生物は、2,3-ブタンジオール生合成経路を野生型に有している微生物、または遺伝子組換えによって有する組換え微生物であってもよい。好ましくは、前記微生物は、2,3-ブタンジオールの生成能を有する微生物である。前記微生物は、クレブシエラ(Klebsiella)属、バチルス(Bacillus)属、セラチア(Serratia)属、またはエンテロバクター(Enterobacter)属の微生物であってもよく、好ましくは、バチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)、枯草菌(B.subtilis)、バチルス・アミロリケファシエンス(B.amyloliquefaciens)、パエニバシラス・ポリミキサ(P.polymyxa)等になり得、最も好ましくは、バチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)であってもよい。このとき、バチルス・リケニフォルミスを用いることが、2,3ブタンジオールの産業的規模の生産に有利である。
【0019】
[ポリグルタミン酸生合成経路]
本発明の組換え微生物は、ポリグルタミン酸生合成経路を抑制することができる。本発明のポリグルタミン酸生合成経路は、微生物内特定の代謝産物からポリグルタミン酸が合成する経路を意味する。ポリグルタミン酸生合成経路は、グルタミン酸(glutamate)からポリグルタミン酸(polyglutamate)が合成する経路、つまりグルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路であってもよい。前記グルタミン酸からポリグルタミン酸が合成する経路は、ポリグルタメートシンターゼによってグルタミン酸からポリグルタミン酸が合成する経路であってもよい。
【0020】
ポリグルタメートシンターゼ(polyglutamate synthase)は、グルタミン酸のポリグルタミン酸への転換を調節する。前記ポリグルタメートシンターゼを抑制することにより、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路を抑制することができる。前記ポリグルタメートシンターゼの抑制は、ポリグルタメートシンターゼの発現の抑制、ポリグルタメートシンターゼの酵素活性の抑制などによって行うことができる。例えば、ポリグルタメートシンターゼをコードする遺伝子であるpgsBCAEを欠失させる、あるいは、前記遺伝子に突然変異(一部の塩基を変異、置換または削除するか、一部の塩基を導入して、正常な遺伝子の発現を抑制させるなどの突然変異)を起こすか、転写過程または翻訳過程における遺伝子の発現の調節など、当業者は、適宜な方法を選択して、ポリグルタメートシンターゼを抑制することができる。前記pgsBCAE遺伝子は、配列番号1と80%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、好ましくは、85%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、より好ましくは、90%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、さらに好ましくは、95%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、最も好ましくは、100%の相同性を有する塩基配列であってもよい。
【0021】
[レバン生合成経路]
本発明の組換え微生物は、レバン生合成経路を抑制することができる。本発明のレバン生合成経路は、微生物内特定の代謝産物からレバンが合成する経路を意味する。レバン生合成経路は、スクロース(sucrose)からレバン(levan)が合成する経路、つまりスクロースをレバンに転換する経路であってもよい。前記スクロースからレバンが合成する経路は、レバンスクラーゼによってスクロースからレバンが合成する経路であってもよい。
【0022】
レバンスクラーゼ(levansucrase)は、スクロースのレバンへの転換を調節する。前記レバンスクラーゼを抑制することにより、スクロースをレバンに転換する経路を抑制することができる。前記レバンスクラーゼの抑制は、レバンスクラーゼの発現の抑制、レバンスクラーゼの酵素活性の抑制などによって行うことができる。例えば、レバンスクラーゼをコードする遺伝子であるsacBを欠失させる、あるいは、前記遺伝子に突然変異(一部の塩基を変異、置換または削除するか、一部の塩基を導入して、正常な遺伝子の発現を抑制させるなどの突然変異)を起こすか、転写過程または翻訳過程における遺伝子の発現の調節など、当業者は、適宜な方法を選択して、ポリグルタメートシンターゼを抑制することができる。前記sacB遺伝子は、配列番号9と80%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、好ましくは、85%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、より好ましくは、90%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、さらに好ましくは、95%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、最も好ましくは、100%の相同性を有する塩基配列であってもよい。
【0023】
[乳酸生合成経路]
本発明の組換え微生物は、乳酸生合成経路を抑制することができる。本発明の乳酸(lactate)生合成経路は、微生物内特定の代謝産物から乳酸が合成する経路を意味する。乳酸生合成経路は、ピルビン酸(pyruvate)から乳酸(lactate)が合成する経路、つまりピルビン酸を乳酸に転換する経路であってもよい。前記ピルビン酸から乳酸が合成する経路は、乳酸脱水素酵素によってピルビン酸から乳酸が合成する経路であってもよい。
【0024】
乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase)は、ピルビン酸の乳酸への転換を調節する。前記乳酸脱水素酵素を抑制することにより、ピルベートをラクテートに転換する経路を抑制することができる。前記乳酸脱水素酵素の抑制は、乳酸脱水素酵素の発現の抑制、乳酸脱水素酵素の酵素活性の抑制などによって行うことができる。例えば、乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子であるldhを欠失させる、あるいは、前記遺伝子に突然変異(一部の塩基を変異、置換または削除するか、一部の塩基を導入して、正常な遺伝子の発現を抑制させるなどの突然変異)を起こすか、転写過程または翻訳過程における遺伝子の発現の調節など、当業者は、適宜な方法を選択して、乳酸脱水素酵素を抑制することができる。前記ldh遺伝子は、配列番号17と80%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、好ましくは、85%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、より好ましくは、90%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、さらに好ましくは、95%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、最も好ましくは、100%の相同性を有する塩基配列であってもよい。
【0025】
[グリセロール生合成経路]
本発明の組換え微生物は、グリセロール生合成経路を抑制することができる。本発明のグリセロール(glycerol)生合成経路は、微生物内特定の代謝産物からグリセロールが合成する経路を意味する。グリセロール生合成経路は、グリセロホスフェート(glycerophosphate)からグリセロール(glycerol)を合成する経路、つまりグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路であってもよい。前記グリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路は、グリセロホスファターゼによってグリセロホスフェートのグリセロールへの転換が調節される経路であってもよい。
【0026】
グリセロホスファターゼ(glycerophosphatase)は、グリセロホスフェートのグリセロールへの転換を調節する。前記グリセロホスファターゼを抑制することにより、グリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路を抑制することができる。前記グリセロホスファターゼの抑制は、グリセロホスファターゼの発現の抑制、グリセロホスファターゼの酵素活性の抑制などによって行うことができる。例えば、グリセロホスファターゼをコードする遺伝子であるdgpを欠失させる、あるいは、前記遺伝子に突然変異(一部の塩基を変異、置換または削除するか、一部の塩基を導入して、正常な遺伝子の発現を抑制させるなどの突然変異)を起こすか、転写過程または翻訳過程における遺伝子の発現の調節など、当業者は、適宜な方法を選択して、グリセロホスファターゼを抑制することができる。前記dgp遺伝子は、配列番号25と80%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、好ましくは、85%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、より好ましくは、90%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、さらに好ましくは、95%以上の相同性を有する塩基配列であってもよく、最も好ましくは、100%の相同性を有する塩基配列であってもよい。
【0027】
[2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物]
本発明の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物は、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路は、抑制され、スクロースをレバンに転換する経路、ピルビン酸を乳酸に転換する経路、及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路は、抑制されていないことを特徴とする、2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物であってもよい。
【0028】
本発明の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物は、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路及びスクロースをレバンに転換する経路は、抑制され、ピルビン酸を乳酸に転換する経路及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路は、抑制されていないことを特徴とする、2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物であってもよい。
【0029】
本発明の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物は、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、スクロースをレバンに転換する経路、及びピルビン酸を乳酸に転換する経路は、抑制され、グリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路は、抑制されていないことを特徴とする、2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物であってもよい。
【0030】
本発明の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物は、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、スクロースをレバンに転換する経路、ピルビン酸を乳酸に転換する経路、及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路が抑制されたことを特徴とする、2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物であってもよい。
【0031】
本発明の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物は、2,3-ブタンジオールの生産性(単位時間、単位体積当たり生産される2,3-ブタンジオールの量)、生産能(単位体積当たり生産される2,3-ブタンジオールの量、つまり発酵液内2,3-ブタンジオールの濃度)、収率(炭素源の量に対する2,3-ブタンジオールの生産量)が高くてもよく、特に、前記組換え微生物は、発酵時、野生型微生物に比べて、発酵液内2,3-ブタンジオールの濃度が高くてもよい。
【0032】
本発明の前記組換え微生物を培養時、野生型微生物に比べて粘液性高分子、乳酸またはグリセロールの生産量が少なくてもよい。
【0033】
本発明の組換え微生物における2,3-ブタンジオールの生合成経路及び組換え微生物の製作戦略は、図1に示されている。
【0034】
[2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を培養する段階]
本発明の2,3-ブタンジオールの生産方法は、本発明の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を培養する段階を含んでいてもよい。前記培養は、好気条件下で行われ、好ましくは、微好気的条件(microaerobic condition)下で行うことができる。例えば、上記培養は、培養時、酸素、つまり空気を供給しながら行われ、具体例として、これは、攪拌によって行うことができるものの、これに制限されるものではない。本発明の組換え微生物は、複合培地で培養することができ、複合培地の種類は特に制限されず、当業者は、一般的に市販、使用される複合培地を適宜選択して使用できることは、自明である。
【0035】
[前記培養物から2,3-ブタンジオールを回収する段階]
本発明の2,3-ブタンジオールの生産方法は、前記培養物から2,3-ブタンジオールを回収する段階を含んでいてもよい。前記回収段階は、特に制限されず、微生物を用いて培養物から特定の産物を回収する通常の方法により行えば良い。
【0036】
[2,3-ブタンジオールの生産方法]
本発明は、本発明の2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を用いて2,3-ブタンジオールを生産する方法を含む。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の利点及び特徴、そしてそれらを達成する方法は、詳細に後述する実施例を参照すれば明確になる。しかし、本発明は、以下で開示の実施例に限定されるものではなく、相異する様々な形態に具現されるものである。但し、本実施例は、本発明の開示を完全なものにして、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は、請求項の範疇によって定義されるだけである。
【0038】
<材料及び方法>
大田近くの土壌サンプルから分離した野生型菌株であるバチルス・リケニフォルミスGSC4071(KCTC14485BP)を用意した。下記の実験例における粘液性高分子(Viscous polymer)は、培養後、細胞を除去して、エタノール沈殿によって得られる固形物を総称し、具体的には、ポリグルタミン酸及びレバンを含み、このほか、他の粘液性高分子も含む種々の粘液性高分子の総称である。
【0039】
2,3-ブタンジオールの濃度(g/L)、収率(g/g)及び生産性(g/L/h)は、下記のように計算した。
-2,3-ブタンジオールの濃度(g/L):単位体積当たり生産される2,3-ブタンジオールの量
-2,3-ブタンジオールの収率(g/g):(2,3-ブタンジオールの生産量(g)/炭素源(g))×100
-2,3-ブタンジオールの生産性(g/L/h):単位時間(hour)、単位体積(L)当たり生産される2,3-ブタンジオールの量(g)
【0040】
<実験例1>
バチルス・リケニフォルミスGSC4071を用いて組換え菌株を製造した。
【0041】
<1-1>pgsBCAE、sacB、ldh、dgpが欠失した組換えB.リケニフォルミスの製造
標的遺伝子の相同部位を含むDNA断片の製作
バチルス・リケニフォルミスの標的遺伝子を不活性化するため、バクテリアの組換え機構を用いており、除去しようとする遺伝子の相同部位(homologous region)をPCRで増幅した。その後、相同部位を含む該DNA断片をバクテリアに伝達した後、DNA断片にある遺伝子の相同部位と、バチルス・リケニホルニスの染色体にある遺伝子との間に組換え酵素(recombinase)による組換え機構で標的遺伝子を除去することになる。
【0042】
先ず、バチルス・リケニフォルミスのポリグルタメートシンターゼをクローニングするため、標的遺伝子であるpgsBCAE(配列番号1)の相同部位1(配列番号2)を配列番号3及び4のプライマーを用いて、PCRで増幅した。また、相同部位2(配列番号5)を配列番号6及び7のプライマーを用いて、PCRで増幅した。その後、相同部位1と2を同時に鋳型として、PCRで増幅し、相同部位1と2が含まれたDNA断片(配列番号8)を完成した。
【0043】
一方、バチルス・リケニフォルミスのレバンスクラーゼの相同部位をクローニングするため、標的遺伝子であるsacB(配列番号9)の相同部位1(配列番号10)を配列番号11及び12のプライマーを用いて、PCRで増幅した。また、相同部位2(配列番号13)を配列番号14及び15のプライマーを用いて、PCRで増幅した。その後、相同部位1と2を同時に鋳型として、PCRで増幅し、相同部位1と2が含まれたDNA断片(配列番号16)を完成した。
【0044】
一方、バチルス・リケニフォルミスの乳酸脱水素酵素の相同部位をクローニングするため、標的遺伝子であるldh(配列番号17)の相同部位1(配列番号18)を配列番号19及び20のプライマーを用いて、PCRで増幅した。また、相同部位2(配列番号21)を配列番号22及び23のプライマーを用いて、PCRで増幅した。その後、相同部位1と2を同時に鋳型として、PCRで増幅し、相同部位1と2が含まれたDNA断片(配列番号24)を完成した。
【0045】
一方、バチルス・リケニフォルミスのグリセロホスファターゼの相同部位をクローニングするため、標的遺伝子であるdgp(配列番号25)の相同部位1(配列番号26)を配列番号27及び28のプライマーを用いて、PCRで増幅した。また、相同部位2(配列番号29)を配列番号30及び31のプライマーを用いて、PCRで増幅した。その後、相同部位1と2を同時に鋳型として、PCRで増幅し、相同部位1と2が含まれたDNA断片(配列番号32)を完成した(表1)。
【0046】
【表1】
【0047】
<1-2>pgsBCAE、sacB、ldh、dgpが欠失した組換えB. リケニフォルミスの製造
前記製作されたDNA断片を電気穿孔法(electroporation,25uF,200Ω,2.5kV/cm)を用いて、バチルス・リケニフォルミスGSC4071に伝達しており、微生物の組換え機構を用いて標的遺伝子を除去することができた。
【0048】
バチルス・リケニフォルミスGSC4071(野生型)にpgsBCAE遺伝子の相同部位を含むDNA断片(配列番号8)を伝達して、pgsBCAE遺伝子を除去した組換えバチルス・リケニフォルミスを製造した。このように製造されたpgsBCAEが欠失した組換え微生物を製造例1の菌株(B.licheniformis4071 ΔpgsBCAE)として使用した。
【0049】
一方、前述したように、バチルス・リケニフォルミスGSC4071(野生型)からpgsBCAE遺伝子を除去した後、sacB遺伝子の相同部位を含むDNA断片(配列番号16)を伝達して、pgsBCAE遺伝子にさらにsacB遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを製造した。このように製造されたpgsBCAE、sacBが欠失した組換え微生物を製造例2の菌株(B.licheniformis4071 ΔpgsBCAE ΔsacB)として使用しており、その菌体の形状は、図2の下段パネルに示されている。
【0050】
一方、前述したように、バチルス・リケニフォルミスGSC4071(野生型)からpgsBCAE、sacB遺伝子を除去した後、ldh遺伝子の相同部位を含むDNA断片(配列番号24)を伝達して、pgsBCAE、sacB遺伝子にさらにldh遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを製造した。このように製造されたpgsBCAE、sacB、ldhが欠失した組換え微生物を製造例3の菌株(B.licheniformis4071 ΔpgsBCAE ΔsacB Δldh)として使用した。
【0051】
一方、前述したように、バチルス・リケニフォルミスGSC4071(野生型)からpgsBCAE、sacB、ldh遺伝子を除去した後、dgp遺伝子の相同部位を含むDNA断片(配列番号32)を伝達して、pgsBCAE、sacB、ldh遺伝子にさらにdgp遺伝子が除去されたバチルス・リケニフォルミスを製造した。このように製造されたpgsBCAE、sacB、ldh、dgpが欠失した組換え微生物を製造例4の菌株(B.licheniformis 4071 ΔpgsBCAE ΔsacB Δldh Δdgp)として使用した。
【0052】
下記の実験例では、このように製造された組換え微生物を用いて、下記の培養及び分析実験を行った。このとき、野生型菌株であるバチルス・リケニフォルミスGSC4071は、比較例1で使用しており、その菌体の形状は、図2の上段パネルに示されている。
【0053】
<実験例2>製造例1及び2の組換え微生物の2,3-ブタンジオールの生産能
比較例1のバチルス・リケニフォルミスGSC4071、製造例1及び2の組換えバチルス・リケニフォルミスに対して、2,3-ブタンジオールの生産能及び副産物の低減能を評価した。
【0054】
先ず、前記微生物に対して、下記のようにフラスコ培養を行った。前記微生物を50g/Lブドウ糖(glucose)または同一濃度のショ糖(sucrose)を含む、50mlの複合培地を含む250mlのフラスコに接種して、45℃で、16時間、180rpmの条件で培養した。培養条件は、微好気的条件を維持させて、初期pH7.0で行った。前記野生型及び組換えバチルスに対して、培養終了後、サンプルを採取し、採取した試料は、13,000rpmで、10分間、遠心分離した後、上層液の2,3-ブタンジオール濃度を液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。上層液の粘液性高分子濃度は、下記のように測定した。先ず、上層液をエタノール1:2の割合で混合した後、24時間、エタノール沈殿(ethanol precipitation)させて、遠心分離し、高分子を回収した。回収した高分子は、透析(membrane dialysis,10kDa)によって低分子を除去し、最後に、凍結乾燥(freeze drying)によって乾燥重量を測定した。乾燥した粘液性高分子のうち、ポリグルタミン酸とレバンを特定するためNMR分析によって同定した。
【0055】
その結果、ブドウ糖で培養時、比較例1の野生型バチルスの2,3-ブタンジオールの生産量は、16.7g/Lであり、収率は、0.37g/g、粘液性高分子の生成量は、3.5g/Lであった。製造例1の組換え微生物の場合、2,3-ブタンジオールの生産量は、18.9g/L、収率は、0.39g/g、粘液性高分子の生成量は、1.7g/Lであった。
【0056】
ショ糖で培養時、比較例1の野生型バチルスの2,3-ブタンジオールの生成量は、13.8g/L、収率は、0.26g/g、粘液性高分子の生成量は、14.8g/Lであった。製造例1の組換え微生物の場合、2,3-ブタンジオールの生産量は、15.6g/L、収率は、0.29g/g、粘液性高分子は、8.5g/Lであった。製造例2の組換え微生物の場合、2,3-ブタンジオールの生産量は、14.6g/L、収率は、0.38g/g、粘液性高分子は、1.8g/Lであった。
【0057】
ブドウ糖培地では、pgsBCAE遺伝子の除去によって、製造例1の組換え微生物の場合、粘液性高分子が51%減少し、2,3-ブタンジオールの生産量と収率は、それぞれ13%、5%増加することが確認できた。製造例2の組換え微生物の場合、ショ糖培地でのみ影響が表れることを予測することができるものの、ブドウ糖培地においても、粘液性高分子の生成量が製造例1の組換え微生物に対して、35%減少することが確認できた。これは、Biofilmを構成する様々な粘液性高分子の生成が互いに有機的に連関し得、ブドウ糖のほか、添加される他の培地成分による影響であり得る。
【0058】
ショ糖培地では、製造例1の組換え微生物の場合、粘液性高分子が43%減少し、2,3-ブタンジオールの生産量と収率は、それぞれ13%、12%増加した。また、さらにsacB遺伝子の除去によって、製造例2の組換え微生物の場合、野生型バチルスである比較例1に対して粘液性高分子が88%減少し、2,3-ブタンジオールの生産量と収率は、それぞれ6%、46%増加した。全体的に、粘液性高分子の生成に関連する遺伝子であるpgsBCAEとsacBを順次除去することによって、製造例1及び2の組換え菌株における粘液性高分子の生成量は、漸次減少し、2,3-ブタンジオールの収率は、ブドウ糖とショ糖培地でいずれも改善した。pgsBCAEが除去された製造例1の組換え微生物では、ポリグルタミン酸の生成が抑制されることが確認でき、sacBがさらに除去された製造例2の組換え微生物では、レバンの生成が抑制されることをNMR分析から確認した(表2及び表3、図3図4、及び図5)。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
<実験例3>製造例2~4の組換え微生物の2,3-ブタンジオールの生産能
製造例2~4の組換え微生物に対して、2,3-ブタンジオールの生産能及び副産物の低減を評価した。
【0062】
比較例1の野生型バチルス・リケニフォルミス、製造例2~4の組換えバチルス・リケニフォルミスに対して、下記のように、フラスコ培養を行った。先ず、前記微生物を50g/Lブドウ糖(glucose)を含む、50mlの複合培地を含む250mlのフラスコに接種して、45℃で、16時間、180rpmの条件で培養した。培養条件は、微好気的条件を維持させて、初期pH7.0で行った。前記野生型及び組換えバチルス微生物に対して、培養終了後、サンプルを採取し、採取した試料は、13,000rpmで、10分間、遠心分離した後、上層液の2,3-ブタンジオール、乳酸、グリセロールの濃度を液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0063】
その結果、比較例1の組換え微生物の場合、2,3-ブタンジオールの生産量は、16.7g/Lであり、収率は、0.37g/g、乳酸の生産量は、5.25g/L、グリセロールの生産量は、4.97g/Lであった。製造例2の組換え微生物の2,3-ブタンジオールの生産量は、19.0g/Lであり、収率は、0.39g/g、乳酸の生産量は、5.13g/L、グリセロールの生産量は、3.47g/Lであった。ポリグルタミン酸及びレバンの除去による乳酸及びグリセロールの生産量の有意な減少は、観察されなかった。製造例3の組換え微生物の場合、2,3-ブタンジオールの生産量は、20.14g/L、収率は、0.39g/g、乳酸の生産量は、0.832g/L、グリセロールの生産量は、8.45g/Lであった。製造例4の組換え微生物の場合、2,3-ブタンジオールの生産量は、20.42g/L、収率は、0.45g/g、乳酸の生産量は、1.25g/L、グリセロールの生産量は、0.04g/Lであった。製造例3の組換え微生物は、製造例2の組換え微生物に対して、2,3-ブタンジオールの生産量が増加し、乳酸の生産量は、84%減少したが、グリセロールの生産量は、144%増加することにより、2,3-ブタンジオールの収率改善では効果が少なかった。製造例4の組換え微生物は、製造例2の組換え微生物に対して、収率が約13%増加し、乳酸の生産量が75%減少し、グリセロールは、ほとんど生産されなかった。これによって、ldh及びdgp遺伝子のそれぞれを除去することにより、乳酸とグリセロールの生産量が大きく減少することが確認でき、両遺伝子とも欠失したとき、2,3-ブタンジオールの生産量のみならず、収率も大きく改善することが確認できた(表4、図6、及び図7)。
【0064】
【表4】
【0065】
<実験例4>
製造例4の組換え微生物を用いて、ブドウ糖及びショ糖の培地条件下で流加式発酵性能を評価した。
【0066】
微生物の発酵実験は、下記のように行った。先ず、前記微生物を300mlの複合培地を含む1Lのフラスコに接種して、45℃で、16時間、180rpmの条件で培養した。培養した微生物は、最終培養液の体積が3Lとなるように、7.5L容量の発酵器に接種した。初期条件で、pH7.0、温度45℃、550rpm、酸素1vvmの条件で行った。初期ブドウ糖またはショ糖の濃度は、100g/Lで行った。培養中、アセトイン(acetoin)の量が、10g/L以上になると、攪拌速度を350rpmに下げる2段階発酵を行い、培養液内の糖濃度が20g/L以下に下がるとき、150gのブドウ糖またはショ糖パウダーをさらにフィーディング(feeding)して行った。前記組換えバチルスに対して培養終了後、サンプルを採取しており、細胞成長は、spectrophotometerによってOD600値と測定し、採取した試料は、13,000rpmで、10分間、遠心分離した後、上層液のブドウ糖、ショ糖、2,3-ブタンジオール、有機代謝物質の濃度を液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0067】
その結果、ブドウ糖で流加式発酵を行ったとき、2,3-ブタンジオールの生産量は、119.6g/L、収率は、0.42g/g、生産性は、1.87g/L/hであった。同様、ショ糖で流加式発酵を行ったとき、2,3-ブタジオールの生産量は、120.1g/L、収率は、0.42g/g、生産性は、2.14g/L/hであった。粘液性高分子及び有機代謝物質は、2,3-ブタンジオールの発酵に影響を及ぼさない微量の水準にだけ生成された。流加式発酵によって組換え微生物は、ブドウ糖とショ糖培地において、いずれも産業的水準の高濃度2,3-ブタンジオールの生産が可能であることが確認できた(表5、図8、及び図9)。
【0068】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、2,3-ブタンジオール生合成経路を有する微生物において、グルタミン酸をポリグルタミン酸に転換する経路、スクロースをレバンに転換する経路、ピルビン酸を乳酸に転換する経路、及びグリセロホスフェートをグリセロールに転換する経路からなる群から選択される1つ以上が抑制された、2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物に関する。また、本発明は、前記2,3-ブタンジオール生産用の組換え微生物を用いる2,3-ブタンジオールの生産方法に関する。
【配列表フリーテキスト】
【0070】
配列番号1:pgsBCAEの塩基配列である。
配列番号2:pgsBCAEの相同部位1の塩基配列である。
配列番号3:pgsBCAEの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号4:pgsBCAEの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号5:pgsBCAEの相同部位2の塩基配列である。
配列番号6:pgsBCAEの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号7:pgsBCAEの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号8:pgsBCAEの相同部位1及び2が含まれたDNA断片の塩基配列である。
配列番号9:sacBの塩基配列である。
配列番号10:sacBの相同部位1の塩基配列である。
配列番号11:sacBの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号12:sacBの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号13:sacBの相同部位2の塩基配列である。
配列番号14:sacBの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号15:sacBの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号16:sacBの相同部位1及び2が含まれたDNA断片の塩基配列である。
配列番号17:ldhの塩基配列である。
配列番号18:ldhの相同部位1の塩基配列である。
配列番号19:ldhの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号20:ldhの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号21:ldhの相同部位2の塩基配列である。
配列番号22:ldhの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号23:ldhの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号24:ldhの相同部位1及び2が含まれたDNA断片の塩基配列である。
配列番号25:dgpの塩基配列である。
配列番号26:dgpの相同部位1の塩基配列である。
配列番号27:dgpの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号28:dgpの相同部位1をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号29:dgpの相同部位2の塩基配列である。
配列番号30:dgpの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号31:dgpの相同部位2をPCRで増幅するためのプライマーの塩基配列である。
配列番号32:dgpの相同部位1及び2が含まれたDNA断片の塩基配列である。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2024513194000001.app
【国際調査報告】