(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】二重特異性抗PD-L1/VEGF抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240314BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240314BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240314BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240314BHJP
C07K 16/22 20060101ALI20240314BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240314BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240314BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240314BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240314BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240314BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240314BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240314BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20240314BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240314BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240314BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240314BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240314BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240314BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240314BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240314BHJP
G01N 33/577 20060101ALI20240314BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C07K16/46
C07K16/28
C07K16/22
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
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C12P21/08
C12N5/0783
C12N5/09
A61K47/65
A61K48/00
A61P35/00
A61P1/00
A61K45/00
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K39/395 D
A61K39/395 Y
A61P43/00 121
G01N33/577 B
G01N33/574 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560435
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-10-23
(86)【国際出願番号】 CN2022084086
(87)【国際公開番号】W WO2022206843
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/084447
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518330176
【氏名又は名称】ウーシー バイオロジクス アイルランド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】チン イー
(72)【発明者】
【氏名】ワン チュオチー
(72)【発明者】
【氏名】チェン ユンイン
(72)【発明者】
【氏名】リー チン
(72)【発明者】
【氏名】クー チーチエ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
本開示は、二重特異性抗VEGF×PD-L1抗体またはその抗原結合部分、該二重特異性抗体またはその抗原結合部分を産生する方法、該二重特異性抗体またはその抗原結合部分を使用して疾患または状態を治療する方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VEGF抗原結合部分と結合したPD-L1抗原結合部分を含む、二重特異性抗体またはその抗原結合部分であって、ここで:
PD-L1抗原結合部分は以下を含む:
配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3;および
VEGF抗原結合部分は以下を含む:
配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3、
二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
前記PD-L1抗原結合部分がscFvであり、前記VEGF抗原結合部分がFabである、請求項1に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分であって、ここで:
PD-L1抗原結合部分は、配列番号13のアミノ酸配列、または配列番号13に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号14のアミノ酸配列、または配列番号14に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み;および/または
VEGF抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列、または配列番号15に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号16のアミノ酸配列、または配列番号16に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、
二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項4】
PD-L1抗原結合部分がVEGF抗原結合部分のN末端に融合されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項5】
前記PD-L1抗原結合部分が、必要に応じてリンカーを介して、VEGF抗原結合部分の重鎖のN末端に作動可能に連結されている、請求項4に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項6】
前記リンカーがペプチドリンカーであり、必要に応じて前記リンカーが1~4コピーのGGGGS(G4S)を含むか、またはそれらからなる、請求項5に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項7】
重鎖および軽鎖を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分であって、ここで:
重鎖は、N末端からC末端まで、scFv-VH-CH1-ヒンジ-Fcと同様に作動可能に連結されたドメインを含み、ここでscFvはPD-L1抗原結合部分に由来し、VH-CH1はPD-L1抗原結合部分に由来する;および
軽鎖は、N末端からC末端まで、VL-CLと同様に作動可能に連結されたドメインを含み、ここでVL-CLはVEGF抗原結合部分に由来する、
二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項8】
前記Fc領域がヒトIgG Fc領域、好ましくはヒトIgG1 Fc領域またはそのバリアントである、請求項7に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項9】
前記Fc領域が、EUナンバリングによる(according to EU numbering)L234AおよびL235A置換を含む、請求項7または8に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項10】
前記重鎖が配列番号17を含み、前記軽鎖が配列番号18を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項11】
前記二重特異性抗体がヒト化抗体である、請求項1~10のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分をコードする核酸配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項13】
前記核酸配列が配列番号19および/または配列番号20を含む、請求項12に記載の単離された核酸分子。
【請求項14】
請求項12または13に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項15】
請求項12に記載の核酸分子または請求項14に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分を産生する方法であって、以下の工程を含む方法:
- 二重特異性抗体またはその抗原結合部分をコードする核酸配列を含む宿主細胞を適切な条件下で培養する工程;および
- 二重特異性抗体またはその抗原結合部分を宿主細胞から単離する工程。
【請求項18】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体もしくはその抗原結合部分、または請求項16に記載の医薬組成物を対象に投与することを含み、場合によって免疫応答はPD-L1および/またはVEGFに関連している、対象において免疫応答を調節するための方法。
【請求項19】
有効量の請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体もしくはその抗原結合部分、または請求項16に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における腫瘍細胞の増殖を阻害するための方法。
【請求項20】
有効量の請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体もしくはその抗原結合部分、または請求項16に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む、対象におけるがんを予防または治療するための方法。
【請求項21】
前記がんがPD-L1および/またはVEGFに関連している、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記がんが結腸がんまたは結腸直腸がんである、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分が、がん免疫療法に使用するための化学療法剤、放射線、および/または他の薬剤と併用して投与される、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
i) PD-L1および/またはVEGFに関連している免疫応答の調節において;
ii) T細胞の増殖およびサイトカイン産生の増強において;および/または
iii) がん細胞に対する免疫応答の増強等の、免疫応答または機能の刺激において
使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項25】
がんの診断、治療、または予防に使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項26】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、その全体が参照により組み込まれる、2021年3月31日に出願された国際出願PCT/CN2021/084447号の利益を主張する。
【0002】
配列表
本出願は、電子形式の配列表とともに提出される。配列表の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
分野
本開示は、概して、二重特異性抗PD-L1×VEGF抗体、その調製方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
血管新生は腫瘍の増殖および転移の進行に不可欠である。腫瘍関連血管新生の制御は、がん治療の有望な戦略である。血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生の重要なメディエーターであり、様々な種類のヒトのがんで検証されている[1]。腫瘍細胞は近くの内皮細胞に結合するVEGF等の成長因子を放出し、内皮細胞が分裂して新しい血管を形成するように刺激するシグナル伝達カスケードを開始する。受容体VEGFRを介したVEGFシグナル伝達は、多くの固形腫瘍の血管新生および増殖において重要な役割を果たす。VEGF経路を標的とするアバスチン(ベバシズマブ)等の抗血管新生薬は、臨床で成功を収めている。
【0005】
一方、プログラム死リガンド1[programmed death 1](PD-L1)、またはその受容体であるプログラム死1[programmed death 1](PD-1)等の免疫チェックポイント分子を標的とすることは、有望な臨床的成功を示している[2,3]。PD-L1発現は、様々な種類のがんにおける予後不良と強く相関している。抗PD-L1抗体は、腫瘍細胞および腫瘍浸潤免疫細胞に発現するPD-L1を標的とし、T細胞表面のPD-1およびB7.1への結合を阻止する。また、T細胞の活性化を可能にするだけでなく、腫瘍を攻撃するために他のT細胞の動員を可能にし、免疫系が複数の種類のがんと闘う力を強化する。
【0006】
抗VEGF療法は、確立された抗血管新生効果に加えて、VEGF関連の免疫抑制を阻害すること、T細胞腫瘍の浸潤を促進すること、ならびに腫瘍抗原に対するT細胞応答のプライミングおよび活性化を可能にすることにより、抗がん免疫を回復する抗PD-1/PD-L1療法の能力をさらに強化し得る[4、5]。したがって、抗血管新生療法および免疫チェックポイント阻害を一緒に組み合わせたVEGFおよびPD-L1二重特異性抗体を開発すれば、がん治療において期待できる結果を達成できる可能性がある。
【0007】
VEGFを標的にし、PD-1/PD-L1治療も標的とすることの明確な利点にもかかわらず、依然として満たされていない重要なニーズが存在する。15%~20%の患者は抗VEGF治療に反応せず、がん治療における抗VEGF薬の長期使用が腫瘍耐性を促進することを示す証拠が増えている。3%~9%の患者に治療の免疫原性が現れる。また、骨形態の変化、腎臓の炎症を伴う糸球体症、および副腎の炎症を伴う空胞形成の減少を含む、全生存期間の延長が限られ、安全性も限られているという問題もある。ニボルマブ、ペムブロリズマブ、およびアテゾリズマブ等のPD-1/PD-L1経路を遮断する免疫チェックポイント阻害剤は、多発がん患者の標準治療選択肢となる。しかし、これらの薬剤の奏効率は、選択されていない集団(unselected populations)では14~23%、PD-L1発現腫瘍患者では16~48%であり、これらの薬剤は、すべての患者ではなく一部の患者で転帰の改善をもたらす。
【0008】
したがって、新規の抗PD-L1/抗VEGF二重特異性抗体を開発するニーズが大きい。本開示では、ヒトPD-L1およびVEGFに高い親和性で同時に結合し、PD-1/PD-L1およびVEGF/VEGFRシグナル伝達の両方を遮断し、優れた抗腫瘍効果を示すことができる二重特異性抗体が生成された。
【発明の概要】
【0009】
これらおよび他の目的は、広い意味で、改善された効果を示す抗体を提供する化合物、方法、組成物、および製品を対象とする本開示によって提供される。本開示によって提供される利点は、抗体医薬および診断の分野に広く適用可能であり、様々な標的と反応する抗体と併用することができる。
【0010】
一態様では、本開示は、PD-L1抗原結合部分およびVEGF抗原結合部分を含む二重特異性抗体またはその抗原結合部分を提供する。
【0011】
一部の実施形態では、本開示は、VEGF抗原結合部分と結合したPD-L1抗原結合部分を含む、二重特異性抗体またはその抗原結合部分を提供し、ここで:
PD-L1抗原結合部分は以下を含む: 配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3;および
VEGF抗原結合部分は以下を含む: 配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3。
【0012】
特定の実施形態では、PD-L1抗原結合部分はscFvであり、VEGF抗原結合部分はFabである。
【0013】
特定の実施形態では、PD-L1抗原結合部分は、配列番号13のアミノ酸配列、または配列番号13に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号14のアミノ酸配列、または配列番号14に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0014】
特定の実施形態では、VEGF抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列、または配列番号15に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号16のアミノ酸配列、または配列番号16に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。
【0015】
特定の実施形態では、PD-L1抗原結合部分がVEGF抗原結合部分のN末端に融合されている。一部の他の実施形態では、PD-L1抗原結合部分がVEGF抗原結合部分のC末端に融合されている。
【0016】
特定の実施形態では、PD-L1抗原結合部分が、必要に応じてリンカーを介して、VEGF抗原結合部分の軽鎖または重鎖のN末端に作動可能に連結されている。リンカーは、1~4コピーのGGGGS(G4S)を含むか、またはそれらからなる。たとえば、リンカーは(G4S)2であってもよい。
【0017】
特定の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分は、重鎖および軽鎖を含み、ここで:
重鎖は、N末端からC末端まで、scFv-VH-CH1-ヒンジ-Fcと同様に作動可能に連結されたドメインを含み、ここでscFvはPD-L1抗原結合部分に由来し、VH-CH1はPD-L1抗原結合部分に由来する;および
軽鎖は、N末端からC末端まで、VL-CLと同様に作動可能に連結されたドメインを含み、ここでVL-CLはVEGF抗原結合部分に由来する。
【0018】
特定の実施形態では、Fc領域は、ヒトIgG Fc領域、好ましくはヒトIgG1 Fc領域またはそのバリアントである。具体的には、上記二重特異性抗体のFc領域は、EUナンバリングによる(according to EU numbering)L234AおよびL235A置換を含む。
【0019】
特定の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分は、配列番号17を含む重鎖、および配列番号18を含む軽鎖を含む。
【0020】
特定の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分は、ヒト化抗体である。
【0021】
一態様では、本開示は、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分をコードする核酸配列を含む、単離された核酸分子を提供する。
【0022】
一態様では、本開示は、本明細書に開示される核酸分子を含むベクターを提供する。一態様では、本開示は、本明細書に開示される核酸分子またはベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0023】
一態様では、本開示は、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0024】
一態様では、本開示は、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分を産生する方法を提供し、該方法は以下の工程を含む:
- 二重特異性抗体またはその抗原結合部分をコードする核酸分子またはベクターを含む宿主細胞において二重特異性抗体またはその抗原結合部分を発現させる工程;および
- 二重特異性抗体またはその抗原結合部分を宿主細胞から単離する工程。
【0025】
一態様では、本開示は、二重特異性抗体もしくはその抗原結合部分、または本明細書に開示される医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における免疫応答を調節するための方法を提供し、場合によって免疫応答はPD-L1および/またはVEGFに関連している。
【0026】
一態様では、本開示は、有効量の二重特異性抗体もしくはその抗原結合部分、または本明細書に開示される医薬組成物を対象に投与することを含む、対象における腫瘍細胞の増殖を阻害する方法を提供する。
【0027】
一態様では、本開示は、有効量の二重特異性抗体もしくはその抗原結合部分、または医薬組成物を対象に投与することを含む、対象におけるがんを予防または治療する方法を提供する。がんは、PD-L1および/またはVEGFに関連している可能性がある。特定の実施形態では、治療されるがんは結腸がんまたは結腸直腸がんである。
【0028】
特定の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分は、がん免疫療法に使用するための化学療法剤、放射線、および/または他の薬剤と併用して投与することができる。
【0029】
一態様では、本開示は、以下における使用のための本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分を提供する:
i) PD-L1および/またはVEGFに関連している免疫応答の調節において;
ii) T細胞の増殖およびサイトカイン産生の増強において;および/または
iii) がん細胞に対する免疫応答の増強等の、免疫応答または機能の刺激において。
【0030】
一態様では、本開示は、がんの診断、予防、または治療に使用するための、本明細書に開示の二重特異性抗体またはその抗原結合部分を提供する。
【0031】
一態様では、本開示は、一態様では、本開示は、対象における免疫応答を調節するか、または腫瘍細胞の増殖を阻害するための医薬の製造における、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分の使用を提供する。
【0032】
一態様では、本開示は、がんを診断、治療、または予防するための薬剤の製造における、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分の使用を提供する。
【0033】
一態様では、本開示は、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分を含むキットを提供する。このキットは、がん等の疾患または状態の検出、診断、予後診断(prognosis)、または治療に使用することができる。
【0034】
上記は概要であるため、必然的に簡略化、一般化、および詳細の省略が含まれる;したがって、当業者であれば、この概要は例示のみを目的としており、決して限定することを意図したものではないことを理解するであろう。本明細書に記載の方法、組成物および/または装置および/または他の主題の他の態様、特徴、および利点は、本明細書に記載の教示で明らかになるであろう。この概要は、以下の発明の詳細な説明でさらに記載される概念の選択を簡略化した形で導入するために提供される。この概要は、請求された主題の主要な特徴または本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、また、請求された主題の範囲を決定する際の補助として使用されることを意図したものでもない。さらに、本出願を通じて引用されるすべての参考文献、特許および公開された特許出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】W3253抗体のフォーマットの概略図を示す。
【
図2】W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のSDS-PAGEを示す(レーン1)。 1:非還元状態、1’: NuPAGE (Novex 4~12% Bis-Tris)ゲルにおける還元状態。M、PageRuler(商標)未染色タンパク質ラダー。
【
図3】W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のHPLC-SECの結果を示す。
【
図4】ヒトVEGF(カニクイザルVEGFと同じ)に対するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のELISA結合結果を示す。
【
図5】ヒトPD-L1に対するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のFACS結合結果を示す。
【
図6】W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のVEGF、次いでPD-L1への二重結合の結果を示す。
【
図7】カニクイザルPD-L1に対するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のFACS結合結果を示す。
【
図8】
図8A、8Bおよび9は、ヒトPD-L1(
図8A)、カニクイザルPD-L1(
図8B)およびヒトVEGF(
図9)に結合するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のSPRセンサーグラムを示す。
【
図9】
図8A、8Bおよび9は、ヒトPD-L1(
図8A)、カニクイザルPD-L1(
図8B)およびヒトVEGF(
図9)に結合するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のSPRセンサーグラムを示す。
【
図10】
図10~12は、ヒトVEGF結合におけるヒトVEGFR1(
図10)およびVEGFR2(
図11)に対するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の競合、およびヒトPD-L1結合(
図12)におけるヒトPD-1に対するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の競合を示す。
【
図11】
図10~12は、ヒトVEGF結合におけるヒトVEGFR1(
図10)およびVEGFR2(
図11)に対するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の競合、およびヒトPD-L1結合(
図12)におけるヒトPD-1に対するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の競合を示す。
【
図12】
図10~12は、ヒトVEGF結合におけるヒトVEGFR1(
図10)およびVEGFR2(
図11)に対するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の競合、およびヒトPD-L1結合(
図12)におけるヒトPD-1に対するW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の競合を示す。
【
図13】HUVEC細胞増殖に対する抗体による阻害を示す。
【
図14】PD-L1レポーター遺伝子アッセイに対する抗体の効果を示す。
【
図16】二重結合ELISAによるヒト血清安定性試験における抗体の効果を示す。
【
図17】W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のDSFプロファイルを示す。
【
図18】異なる方法によって検出された、マウスにおけるW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の薬物動態プロファイルを示す。
【
図19】
図19~20は、異なる抗体による処置後の混合RKO-PBMCモデルにおける各群の体重(
図19)および腫瘍体積(
図20)を示す。
【
図20】
図19~20は、異なる抗体による処置後の混合RKO-PBMCモデルにおける各群の体重(
図19)および腫瘍体積(
図20)を示す。
【
図21】
図21~22は、異なる抗体による処置後のヒトPD-L1ノックインMC38+ヒトPD1/PD-L1デュアルノックイントランスジェニックマウスモデルにおける各群の体重(
図21)および腫瘍体積(
図22)を示す。
【
図22】
図21~22は、異なる抗体による処置後のヒトPD-L1ノックインMC38+ヒトPD1/PD-L1デュアルノックイントランスジェニックマウスモデルにおける各群の体重(
図21)および腫瘍体積(
図22)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
本開示は多くの異なる形態で具体化され得るが、本明細書では、本開示の原理を例示する特定の例示的な実施形態が開示される。本開示は、図示された特定の実施形態に限定されないことを強調すべきである。さらに、ここで使用されているセクションの見出しは、整理のみを目的としており、記載されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0037】
本明細書で別段の定義がない限り、本開示に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものとする。さらに、状況により別途要求されない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。より具体的には、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の指示対象を含む。したがって、たとえば、「タンパク質」という表現は複数のタンパク質を含む。「細胞」という表現は、細胞の混合物等を含む。本出願では、別段の記載がない限り、「または」の使用は「および/または」を意味する。さらに、「含む(comprising)」という用語、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprised)」等の他の形式の使用は、限定的なものではない。さらに、明細書および添付の特許請求の範囲で提供される範囲は、エンドポイントおよびエンドポイント間のすべての点を含む。
【0038】
一般に、本明細書に記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、タンパク質および核酸の化学およびハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法およびその技術は、当技術分野でよく知られており、一般に使用されているものである。本開示の方法および技術は、一般に、当技術分野で周知の従来の方法に従って、また、別段の指示がない限り、本明細書全体にわたって引用および議論される様々な一般的およびより具体的な参考文献に記載されているように実施される。たとえば、Abbas et al., Cellular and Molecular Immunology, 6th ed., W.B. Saunders Company (2010); Sambrook J. & Russell D. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (2000); Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, Wiley, John & Sons, Inc. (2002); Harlow and Lane Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1998);およびColigan et al., Short Protocols in Protein Science, Wiley, John & Sons, Inc. (2003)を参照されたい。本明細書に記載される分析化学、有機合成化学、および医薬化学に関連して使用される命名法、ならびにそれらの実験手順および技術は、当技術分野でよく知られており、一般的に使用されているものである。
【0039】
定義
本開示をよりよく理解するために、関連する用語の定義および説明を以下に示す。
【0040】
本明細書における「抗体」または「Ab」という用語は、最も広い意味で使用され、ポリクローナル抗体、単一特異性および多重特異性抗体(たとえば、二重特異性抗体)を含む様々な抗体構造を包含する。天然のインタクトな抗体は一般に、ジスルフィド共有結合および非共有結合相互作用によって結合された2本の重(H)ポリペプチド鎖および2本の軽(L)ポリペプチド鎖を含むY字型の四量体タンパク質である。抗体の軽鎖はκ軽鎖とλ軽鎖に分類することができる。重鎖はμ、δ、γ、α、およびεに分類することができ、それぞれ抗体のアイソタイプをIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして定義する。軽鎖および重鎖では、可変領域が約12アミノ酸以上の「J」領域を介して定常領域に連結されており、重鎖はさらに約3アミノ酸以上の「D」領域を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)で構成される。重鎖定常領域は3つのドメイン(CH1、CH2、CH3)で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)で構成される。VHおよびVL領域はさらに、比較的保存的な領域(フレームワーク領域(FR)と呼ばれる)によって挟まれた超可変領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)に分割することができる。各VHおよびVLは、N末端からC末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で3つのCDRおよび4つのFRで構成される。各重鎖/軽鎖ペアの可変領域(VHおよびVL)は、それぞれ抗原結合部位を形成する。様々な領域またはドメインにおけるアミノ酸の分布は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987 and 1991)),またはChothia & Lesk (1987) J. Mol. Biol. 196:901-917; Chothia et al., (1989) Nature 342:878-883の定義に従う。抗体は、異なる抗体アイソタイプ、たとえば、IgG(たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、またはIgM抗体であってもよい。
【0041】
抗体の「抗原結合部分」または「抗原結合断片」という用語は、本出願の状況において交換可能に使用することができ、完全長抗体が特異的に結合する抗原に特異的に結合する能力を保持する、および/または同じ抗原への結合に関して完全長抗体と競合する、完全長抗体の断片を含むポリペプチドを指す。一般的には、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれるFundamental Immunology, Ch. 7 (Paul, W., ed., the second edition, Raven Press, N.Y. (1989)を参照されたい。抗体の抗原結合断片は、たとえば、タンパク質分解消化または抗体可変ドメインおよび場合により定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組換え遺伝子工学技術等の任意の適切な標準技術を使用して、完全な抗体分子から誘導することができる。そのようなDNAは既知であり、および/またはたとえば商業的供給源、DNAライブラリー(たとえば、ファージ-抗体ディスプレイを含む)から容易に入手可能である、または合成することができる。DNAは、化学的に、または分子生物学技術を使用して配列決定および操作され、たとえば、一つまたは複数の可変ドメインおよび/または定常ドメインを適切な構成に配置したり、コドン導入、システイン残基の作成、アミノ酸の改変、追加または削除等することができる。
【0042】
抗原結合断片の非限定的な例は以下を含む: (i)Fab断片; (ii)F(ab’)2断片; (iii)Fd断片; (iv)Fv断片; (v)単鎖Fv(scFv)分子; (vi)dAb断片; および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチド等の単離された相補性決定領域(CDR))、または拘束性(constrained)FR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(たとえば、一価ナノボディ、二価ナノボディ等)、小モジュラー免疫薬(small modular immunopharmaceutical)(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインも、本明細書で使用する「抗原結合断片」という表現に含まれる。特定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも一つの定常ドメインに共有結合した少なくとも一つの可変ドメインを含んでもよい。可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接結合していてもよく、または完全または部分的なヒンジまたはリンカー領域によって結合していてもよい。ヒンジ領域は、単一ポリペプチド分子内の隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間にフレキシブルまたはセミフレキシブルな結合をもたらす少なくとも2個(たとえば、5、10、15、20、40、60個またはそれ以上)のアミノ酸から構成されていてもよい。
【0043】
本明細書で使用される抗体に関する「可変ドメイン」という用語は、一つまたは複数のCDRを含む抗体可変領域またはその断片を指す。可変ドメインはインタクトな可変領域(HCVRまたはLCVR等)を含む場合があるが、インタクトな可変領域を含みながらも抗原に結合する能力または抗原結合部位を形成する能力を依然として保持することも可能である。
【0044】
本明細書で使用される用語「抗原結合部分」は、一つまたは複数のCDRを含む抗体の一部から形成される抗体断片、または抗原に結合するがインタクトな天然の抗体構造を含まない任意の他の抗体断片を指す。一般に可変ドメインを指す「抗原結合部位」という用語とは異なり、抗原結合部分は、可変ドメインに加えて定常ドメインを含み得る。抗原結合部分の例とは、可変ドメイン、可変領域、ダイアボディ、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv’)、ジスルフィド安定化ダイアボディ (dsダイアボディ)、多重特異性抗体、ラクダ化単一ドメイン抗体、ナノボディ、ドメイン抗体、および二価ドメイン抗体を含むが、これらに限定されない。抗原結合部分は、親抗体が結合するのと同じ抗原に結合することができる。特定の実施形態では、抗原結合部分は、Fab断片またはVHH抗体であってもよい。一部の実施形態では、抗原結合部分は、一つまたは複数の異なるヒト抗体由来のフレームワーク領域に移植された特定のヒト抗体由来の一つまたは複数のCDRを含んでもよい。抗原結合部分のより詳細な形式については、その全体が本明細書に組み込まれるSpiess et al., Molecular Immunology, 67(2), pp.95-106 (2015),および Brinkman et al., mAbs, 9(2), pp.182-212 (2017)に記載されている。
【0045】
抗体に関する「Fab」は、ジスルフィド結合によって単一の重鎖の可変領域および第一の定常領域に結合する単一の軽鎖(可変領域および定常領域の両方)からなる抗体の部分を指す。
【0046】
本明細書で使用される「ScFv」または「単鎖可変断片(single-chain fragment variable)」という用語は、一般に短いリンカーペプチド(たとえば、長さは約6~25アミノ酸)によって連結された、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖(VHおよびVL)の可変領域の融合タンパク質を指す。scFvのサイズが小さいことで、より高い負荷容量および標的リガンドの優れた配向が可能になり、全体的な有効性の向上につながることが見出された。
【0047】
抗体に関する「Fc」(断片の略、結晶化可能)は、第二の重鎖の第二および第三の定常領域にジスルフィド結合を介して結合した第一の重鎖の第二(CH2)および第三(CH3)の定常領域を含む抗体の部分を指す。Fc領域に言及する場合、状況に応じて、Fc領域の一方の鎖または両方の鎖を指し得る。抗体のFc部分は、ADCCおよびCDC等の様々なエフェクター機能を担っているが、抗原結合では機能しない。Fcドメインを介してエフェクター機能を開始および制御する抗体の能力は、そのインビボ保護活性の重要な要素である。抗体の中和活性は、これまで単にFab抗原相互作用の結果であると考えられてきたが、そのインビボ活性は、エフェクター白血球の表面に発現する、IgG Fcドメインおよびその同族受容体(cognate receptor)であるFcγ受容体(FcγR)との相互作用に大きく依存していることが明らかになった。
【0048】
「PD-L1」という用語は、プログラム死リガンド1[programmed death 1]としても知られ、免疫系の適応アームの抑制に主要な役割を果たしていると推測されている40kDaの1型膜貫通タンパク質である。PD-L1は、骨髄細胞、リンパ細胞、正常上皮細胞、およびがんにおいて構成的に発現され、または誘導される共抑制受容体であるプログラム死1[programmed death 1](PD-1)(PD-1)の主要なリガンドである。本明細書で使用される「PD-L1」という用語は、全長PD-L1タンパク質、またはPD-L1の細胞外ドメイン(PD-L1 ECD)もしくはPD-L1 ECDを含む断片;PD-L1 ECDの融合タンパク質を含むPD-L1タンパク質のアミノ酸配列を指す場合、たとえば、マウスまたはヒト由来のIgG Fcと融合した断片(mFcまたはhFc)も含まれる。さらに、当業者には理解されるように、PD-L1タンパク質には、生物学的機能に影響を与えることなく、アミノ酸配列の変異(置換、欠失および/または付加を含むがこれらに限定されない)が天然または人工的に導入されたものも含まれるであろう。
【0049】
本明細書で使用される「PD-L1に結合する抗体」または「抗PD-L1抗体」という用語は、PD-L1を特異的に認識する抗体およびその抗原結合断片を含む。本開示の抗体および抗原結合断片は、可溶性PD-L1タンパク質および/または細胞表面発現PD-L1に結合することができる。可溶性PD-L1は、天然のPD-L1タンパク質、ならびに膜貫通ドメインを欠く、または細胞膜と結合していない組換えPD-L1タンパク質バリアントを含む。本明細書で使用される場合、「抗PD-L1抗体」という表現は、単一の特異性を有する一価抗体、ならびにPD-L1に結合する第一の抗原結合部位および第二の(標的)抗原に結合する第二の抗原結合部位を含む二重特異性抗体の両方を含む。ここで、抗PD-L1抗原結合部位は、本明細書の表Aに記載のHCVR/LCVR配列またはCDR配列のいずれかを含む。抗PD-L1二重特異性抗体の例は、本明細書の他の場所に記載されている。「抗原結合分子」という用語は、たとえば二重特異性抗体を含む、抗体および抗体の抗原結合断片を含む。
【0050】
「VEGF」(血管内皮増殖因子、VEGF-Aとしても知られる)という用語は、血管の形成を刺激する細胞によって産生されるシグナルタンパク質である。VEGFは成長因子のサブファミリーであり、シスチンノット成長因子の血小板由来成長因子ファミリーである。これらは、脈管形成(胎児循環系の新規の形成)および血管新生(既存の脈管構造からの血管の成長)の両方に関与する重要なシグナル伝達タンパク質である。VEGFファミリーは、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、PlGF(胎盤成長因子)、VEGF-E(Orf-VEGF)、およびTrimeresurus flavoviridis sv VEGFを含む。
【0051】
本明細書で使用される「VEGF受容体」または「VEGFR」という用語は、血管内皮増殖因子(VEGF)の受容体を指す。VEGFRには3つの主要なサブタイプがあり、1、2、3と番号付けされている。VEGF受容体は、選択的スプライシングに応じて、膜結合性または可溶性の場合がある。VEGF受容体の中で、VEGFR-1はVEGF-A、PlGF、およびVEGF-Bに結合する。
【0052】
本明細書で使用される場合、「二重特異性抗体」は、2つの異なるモノクローナル抗体に由来する断片を有し、2つの異なるエピトープに結合することができる人工抗体を指す。2つのエピトープは同じ抗原上に存在する場合もあれば、2つの異なる抗原上に存在する場合もある。
【0053】
「二重特異性抗原結合分子」という用語は、少なくとも第一の抗原結合ドメイン(本明細書では第一の抗原結合部位とも呼ばれる)および第二の抗原結合ドメイン(本明細書では第二の抗原結合部位とも呼ばれる)を含むタンパク質、ポリペプチド、または分子複合体を意味する。一部の実施形態では、「二重特異性抗原結合分子」は「二重特異性抗体」である。二重特異性抗体内の各抗原結合ドメインは、単独で、または一つまたは複数の追加のCDRおよび/またはFRと組み合わせて、特定の抗原に特異的に結合する少なくとも一つのCDRを含む。本開示の状況において、第一の抗原結合部位は第一の抗原(たとえば、PD-L1)に特異的に結合し、第二の抗原結合部位は第二の、異なる抗原(たとえば、VEGF)に特異的に結合する。
【0054】
本明細書において互換的に使用される「抗PD-L1/抗VEGF抗体」、「抗PD-L1/抗VEGF二重特異性抗体」、「PD-L1およびVEGFに対する抗体」、「抗PD-L1×VEGF二重特異性抗体」、「PD-L1×VEGF抗体」という用語は、PD-L1およびVEGFに特異的に結合する二重特異性抗体を指す。
【0055】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」または「mAb」という用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体は、特定のエピトープに対して単一の結合特異性および親和性を示す。
【0056】
本明細書で使用する「ヒト抗体」という用語は、フレームワーク領域およびCDR領域の両方がヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を含むことを意図する。さらに、抗体が定常領域を含む場合、その定常領域もヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する。ヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(たとえば、インビトロでのランダムまたは部位特異的変異誘発、またはインビボでの体細胞変異によって導入された変異)を含んでもよい。しかしながら、本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、マウス等の別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植されている抗体を含むことを意図するものではない。
【0057】
「ヒト化抗体」という用語は、マウス等の別の哺乳動物種の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植されている抗体を指すことを意図している。さらなるフレームワーク領域の改変がヒトフレームワーク配列内で行われてもよい。
【0058】
「作動可能に連結された」という用語は、スペーサーまたはリンカーの有無にかかわらず、目的の2つ以上の生物学的配列が、それらが意図した様式で機能することができるような関係にあるような方法で並置することを指す。ポリペプチドに関して使用される場合、「作動可能に連結された」は、連結生成物が意図した生物学的機能を有することを可能にするような方法でポリペプチド配列が連結されていることを意味することを意図している。たとえば、抗体可変領域は、抗原結合活性を有する安定な生成物を提供するために、定常領域に作動可能に連結することができる。この用語は、ポリヌクレオチドに関しても使用することができる。一例として、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが調節配列(たとえば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー配列等)に作動可能に連結されている場合、これは、ポリヌクレオチドからのポリペプチドの調節された発現を可能にするような方法でポリヌクレオチド配列が連結されていることを意味することを意図する。作動可能に連結されたという用語は、ポリペプチドを形成するために連結されたドメインを記述するために本明細書で使用される場合、「-」で表すことができ、ドメイン間の直接的な連結、または一連の (G4S)n リンカー(n=1~5(1、2、3、4、または5))等、長さ1~30のアミノ酸を含むリンカーを介した連結を指すことができる。
【0059】
本明細書で使用される用語「Ka」は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を指すことが意図され、一方、用語「Kd」は、本明細書で使用される場合、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すことが意図される。抗体のKd値は、当技術分野で十分に確立された方法を使用して決定することができる。本明細書で使用される「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離定数を指すことを意図しており、Kd対Kaの比(すなわち、Kd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表される。抗体のKdを決定するための好ましい方法は、表面プラズモン共鳴を使用することによるものであり、好ましくはBiacore(登録商標)システム等のバイオセンサーシステムを使用することによる。
【0060】
本明細書で使用される、IgG抗体に対する「高親和性」という用語は、標的抗原に対して、1×10-8M以下、より好ましくは5×10-9M以下、さらにより好ましくは1×10-9M以下、さらにより好ましくは5×10-10M以下、さらにより好ましくは4×10-10M以下(even more preferably 4 x 10-10M)、さらにより好ましくは3×10-10M以下、さらにより好ましくは2×10-10M以下、さらにより好ましくは1×10-10M以下、さらにより好ましくは5×10-11M以下、およびさらにより好ましくは3×10-11M以下のKDを有する抗体を指す。
【0061】
本明細書で使用する「EC50」という用語は、「半数効果濃度(half maximal effective concentration)」とも称され、特定の曝露時間後にベースラインと最大値との間の中間の反応を誘発する薬物、抗体、または毒物の濃度を指す。本出願の関連では、EC50は「nM」の単位で表される。
【0062】
本明細書で使用する「IC50」という用語は、「半数阻害濃度(half maximal inhibitory concentration)」とも呼ばれ、特定の生物学的または生化学的機能を阻害する物質の効力の尺度である。本出願の関連では、IC50は「nM」の単位で表される。
【0063】
本明細書で使用される「結合を阻害する」という能力は、抗体またはその抗原結合断片が2つの分子(たとえば、ヒトPD-L1およびPD-1、VEGFR1およびVEGF)の結合を任意の検出可能なレベルまで阻害する能力を指す。特定の実施形態では、2つの分子の結合は、50nM以下、30nM以下、10nM以下、5nM以下、1nM以下、またはそれ以下のIC50で抗体によって阻害され得る。
【0064】
本明細書で使用される「単離された」という用語は、自然状態から人工的手段によって得られた状態を指す。特定の「単離された」物質または成分が天然に存在する場合、またはその自然環境が変化するか、その物質が自然環境から分離されるか、またははその両方であるために、それは可能である。たとえば、ある未単離のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、ある生きた動物体内に天然に存在し、そのような自然状態から単離された純度の高い同一のポリヌクレオチドまたはポリペプチドを単離ポリヌクレオチドまたは単離ポリペプチドと呼ぶ。「単離された」という用語は、人工または合成された混合物質や、単離された物質の活性に影響を及ぼさないその他の不純物質を除外するものではない。
【0065】
本明細書で使用される「単離抗体(isolated antibody)」という用語は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことを意図する(たとえば、PD-L1/VEGFタンパク質に特異的に結合する単離抗体は、PD-L1/VEGFタンパク質以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)ただし、ヒトPD-L1/VEGFタンパク質に特異的に結合する単離抗体は、他の種由来のPD-L1/VEGFタンパク質等の他の抗原に対して交差反応性を有していてもよい。さらに、単離抗体は、他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0066】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドがその中に挿入され得る核酸ビヒクルを指す。ベクターが、その中に挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の発現を可能にする場合、そのベクターは発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、宿主細胞への形質転換、形質導入、またはトランスフェクションによって宿主細胞内で発現される、運搬された(carried)遺伝物質要素を有していてもよい。ベクターは当業者に周知であり、プラスミド、ファージ、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)またはP1由来人工染色体(PAC)等の人工染色体;λファージまたはM13ファージ等のファージおよび動物ウイルスを含むが、これらに限定されない。ベクターとして使用することができる動物ウイルスは、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス等)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス(SV40等)を含むが、これらに限定されない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択エレメント、およびレポーター遺伝子を含むがこれらに限定されない、発現を制御するための複数のエレメントを含んでもよい。さらに、ベクターは複製起点を含んでもよい。
【0067】
本明細書で使用される「宿主細胞」という用語は、目的のタンパク質、タンパク質断片、またはペプチドを生成するように操作することができる細胞系を指す。宿主細胞は、培養細胞、たとえば、CHO、BHK、NSO、SP2/0、YB2/0等のげっ歯類(ラット、マウス、モルモット、またはハムスター)由来の哺乳類培養細胞;または、ヒト組織またはハイブリドーマ細胞、酵母細胞、および昆虫細胞、ならびにトランスジェニック動物または培養組織内に含まれる細胞を含むが、これらに限定されない。この用語は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫も包含する。変異または環境の影響により、後続の世代で特定の改変が発生する可能性があるため、そのような子孫は親細胞と同一ではない可能性があるが、それでも「宿主細胞」という用語の範囲内に含まれる。
【0068】
本明細書で使用される「同一性」または「相同性」という用語は、配列を整列させて比較することによって決定される、2つ以上のポリペプチド分子または2つ以上の核酸分子の配列間の関係を指す。「同一性パーセント(Percent identity)」とは、比較される分子内のアミノ酸またはヌクレオチド間の同一残基の割合を意味し、比較される分子の最小サイズに基づいて計算される。これらの計算では、位置合わせのギャップ(存在する場合)は、特定の数学的モデルまたはコンピュータプログラム(すなわち、「アルゴリズム」)によって対処されることが好ましい。整列した核酸またはポリペプチドの同一性を計算するために使用できる方法は、Computational Molecular Biology, (Lesk, A. M., ed.), 1988, New York: Oxford University Press; Biocomputing Informatics and Genome Projects, (Smith, D. W., ed.), 1993, New York: Academic Press; Computer Analysis of Sequence Data, Part I, (Griffin, A. M., and Griffin, H. G., eds.), 1994, New Jersey: Humana Press; von Heinje, G., 1987, Sequence Analysis in Molecular Biology, New York: Academic Press; Sequence Analysis Primer, (Gribskov, M. and Devereux, J., eds.), 1991, New York: M. Stockton Press;およびCarillo et al, 1988, SIAMJ. Applied Math. 48:1073に記載されている方法を含む。
【0069】
本明細書で使用される「免疫原性」という用語は、生物体内での特異的抗体または感作リンパ球の形成を刺激する能力を指す。抗原が特定の免疫細胞を刺激して活性化、増殖、および分化させ、「免疫原性」は、最終的に抗体および感作リンパ球等の免疫エフェクター物質を生成する性質を指すだけでなく、また、生物体を抗原で刺激した後、生物体の免疫系で抗体または感作されたTリンパ球が形成される特異的な免疫応答も指す。免疫原性は抗原の最も重要な特性である。抗原が宿主内で免疫応答の生成をうまく誘導できるかどうかは、抗原の性質、宿主の反応性、および免疫手段という3つの要素に依存する。
【0070】
本明細書で使用される「トランスフェクション」という用語は、核酸が真核細胞、特に哺乳動物細胞に導入されるプロセスを指す。トランスフェクションのプロトコールおよび技術は、脂質トランスフェクション、およびエレクトロポレーション等の化学的および物理的方法を含むが、これらに限定されない。多くのトランスフェクション技術が当技術分野で周知であり、本明細書に開示されている。たとえば、Graham et al., 1973, Virology 52:456; Sambrook et al., 2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual,前出; Davis et al., 1986, Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier; Chu et al, 1981, Gene 13:197を参照されたい。本開示の特定の実施形態では、ヒトPD-L1/VEGF遺伝子を293F細胞にトランスフェクトした。
【0071】
本明細書で使用される「SPR」または「表面プラズモン共鳴」という用語は、たとえばBIAcoreシステム(Pharmacia Biosensor AB, Uppsala,Sweden and Piscataway,N.J.)を使用して、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化を検出することにより、リアルタイムの生体分子特異的相互作用の分析を可能にする光学現象を指し、そして含む。詳細については、実施例5、ならびにJoensson, U., et al. (1993) Ann. Biol. Clin. 51:19-26; Joensson, U., et al. (1991) Biotechniques 11:620-627; Johnsson, B., et al. (1995) J. Mol. Recognit. 8:125-131;およびJohnnson, B., et al. (1991) Anal. Biochem. 198:268-277を参照されたい。
【0072】
本明細書で使用される「蛍光活性化セルソーティング」または「FACS」という用語は、特殊なタイプのフローサイトメトリーを指す。これは、各細胞の特定の光散乱および蛍光特性に基づいて、生体細胞の不均一混合物を2つ以上の容器に一度に1細胞ずつ仕分ける方法を提供する(FlowMetric. “Sorting Out Fluorescence Activated Cell Sorting”. Retrieved 2017-11-09.)。FACSを実行するための機器は当業者に知られており、一般に市販されている。このような機器の例は、Becton Dickinson(カリフォルニア州フォスターシティ)のFACS Star Plus、FACScanおよびFACSort instrument、Coulter Epics Division(フロリダ州ハイアリーア)のEpics C、およびCytomation(コロラド州コロラドスプリングス)のMoFloを含む。
【0073】
「対象」という用語は、任意のヒトまたは非ヒト動物を含み、好ましくはヒトである。
【0074】
本明細書で使用される「がん」という用語は、任意の腫瘍または悪性細胞の成長、増殖、または転移を介した固形腫瘍および白血病等の非固形腫瘍を指し、状態を引き起こす。
【0075】
状態の治療に関連して本明細書で使用される「治療」、「治療する」または「治療された」という用語は、一般に、ヒトまたは動物のいずれであっても、何らかの所望の治療効果(たとえば、状態の進行の阻害)が達成される治療および療法に関し、進行速度の低下、進行速度の停止、状態の退縮、状態の寛解、および状態の治癒を含む。がんの場合、「治療する」とは、腫瘍または悪性細胞の成長、増殖、もしくは転移、またはそれらの一部の組み合わせを弱めるかまたは遅らせることを指す場合がある。腫瘍の場合、「治療」は、腫瘍の全体または一部の除去、腫瘍の成長および転移の阻害または遅延、腫瘍の発生の予防または遅延、またはそれらの一部の組み合わせを含む。
【0076】
用語「予防する」、「予防」、または「予防すること」は、状態を予防するという状況で本明細書で使用される場合、一般に、(人間であろうと動物であろうと)対象における疾患の発症を予防もしくは遅延させること、またはその臨床症状もしくは亜臨床症状の発現を予防すること、たとえばその状態や病気にかかりやすいが、まだその病気であると診断されていない対象においてその病気が起こるのを防ぐことを指す。
【0077】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、所望の治療レジメンに従って投与された場合に合理的な利益/リスク比に見合った、何らかの所望の治療効果を生み出すのに有効な、活性化合物、または活性化合物を含む材料、組成物もしくは剤形の量に関する。たとえば、「有効量」は、PD-L1/VEGF関連疾患または状態の治療と関連して使用される場合、上記疾患または状態を治療するのに有効な量または濃度の抗体またはその抗原結合部分を指す。
【0078】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/またはそれらの塩が、製剤中の他の成分と化学的および/または物理的に適合し、レシピエントと生理学的に適合することを意味する。
【0079】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体および/または賦形剤」という用語は、対象および活性薬剤と薬理学的および/または生理学的に適合する担体および/または賦形剤を指し、これは当技術分野で周知である(たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences. Edited by Gennaro AR, 19th ed. Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1995)。そして、pH調整剤、界面活性剤、アジュバントおよびイオン強度増強剤を含むが、これらに限定されない。たとえば、pH調整剤は、リン酸緩衝液を含むが、これに限定されない;界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、または非イオン性界面活性剤、たとえばTween(登録商標)-80を含むが、これらに限定されない;イオン強度増強剤は、塩化ナトリウムを含むが、これらに限定されない。
【0080】
本明細書で使用される場合、「アジュバント」という用語は、抗原と一緒に生物体に送達されるか、または生物体に先に送達されるときに、抗原に対する免疫応答を増強するか、または生物体内の免疫応答のタイプを変化させることができる、非特異的免疫増強剤を指す。アルミニウムアジュバント(たとえば、水酸化アルミニウム)、フロイントアジュバント(たとえば、フロイントの完全アジュバントおよびフロイントの不完全アジュバント)、コリネバクテリウムパルバム(coryne bacterium parvum)、リポ多糖、サイトカイン等を含むが、これらに限定されない、様々なアジュバントが存在する。フロイントアジュバントは、現在動物実験で最も一般的に使用されているアジュバントである。水酸化アルミニウムアジュバントは臨床試験でより一般的に使用される。
【0081】
二重特異性抗体およびその抗原結合部分
一態様では、二重特異性抗体およびその抗原結合部分が本明細書に提供される。一部の実施形態では、二重特異性抗体およびその抗原結合部分は、PD-L1に対して第一の特異性を有し、VEGFに対して第二の特異性を有する。一部のさらなる実施形態では、本明細書で提供される抗体は多重特異性である。
【0082】
特定の例示的な実施形態によれば、本開示は、PD-L1に特異的に結合する第一の抗原結合部分、およびVEGFに特異的に結合する第二の抗原結合部分を含む、二重特異性抗体またはその抗原結合部分を含む。このような抗体は、本明細書では、たとえば、「抗VEGF/抗PD-L1」または「抗PD-L1/VEGF」または「抗PD-L1xVEGF」または「PD-L1xVEGF」二重特異性抗体、または他の同様の用語で呼ばれる場合がある。
【0083】
一部の実施形態では、二重特異性抗体は、抗VEGF抗体に作動可能に連結された親抗PD-L1抗体に由来するPD-L1結合部分を含む。一部の他の実施形態では、二重特異性抗体は、抗PD-L1抗体に作動可能に連結された親抗VEGF抗体に由来するVEGF結合部分を含む。一部の他の実施形態では、二重特異性抗体は、親抗VEGF抗体由来のVEGF結合部分に作動可能に連結された親抗PD-L1抗体由来のPD-L1結合部分を含む。
【0084】
本開示の二重特異性抗体は、高い親和性でヒトPD-L1およびヒトVEGFに結合することができた。PD-L1またはVEGFに対する本開示の抗体の結合は、当技術分野で十分に確立されている一つまたは複数の技術、たとえばELISAを使用して評価することができる。ELISAアッセイでは、組換えPD-L1タンパク質を使用することもできる。本明細書に開示される抗体の結合特異性は、PD-L1タンパク質またはVEGFタンパク質を発現する細胞への抗体の結合をモニタリングすることによって、たとえばフローサイトメトリーによって測定することもできる。たとえば、抗体は、細胞表面にPD-L1を発現するようにトランスフェクトされたCHO細胞等、ヒトPD-L1を発現する細胞株と抗体を反応させるフローサイトメトリーアッセイによって試験することができる。さらに、または代替的に、結合動態(たとえば、KD値等)を含む抗体の結合をBIAcore結合アッセイで試験することができる。
【0085】
たとえば、本開示の抗体は、表面プラズモン共鳴で測定した場合、1×10-8M以下のKD、5×10-9M以下のKD、2×10-9M以下のKD、1×10-9M以下のKD、5×10-10M以下のKD、4×10-10M以下のKD、3×10-10M以下のKD、2×10-10M以下のKD、1×10-10M以下のKD、5×10-11M以下のKD、または3×10-11M以下のKD、でヒトPD-L1タンパク質またはヒトVEGFタンパク質に結合する。
【0086】
実施例セクションで実証されるように、本開示の二重特異性抗体は、高い親和性でPD-L1およびVEGFに結合することができた;たとえばnMグレードのIC50で、PD-1/PD-L1およびVEGFR/VEGFシグナル伝達経路の両方を効果的に遮断することができた;本開示の二重特異性抗体は、VEGF誘導性のHUVEC増殖を遮断することができた;およびサイトカイン分泌に強いアゴニスト効果をもたらすことができた。
【0087】
一部の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体は、単一特異性抗PD-L1抗体(たとえば、アテゾリズマブ)、または他の抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体と比較して、PD-L1に対してより高い結合親和性を有する。一部の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体は、たとえばKDで測定したとき、単一特異性抗PD-L1抗体または他の抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体よりも少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%高い、PD-L1に対する結合親和性を有する。
【0088】
一部の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体は、単一特異性抗PD-L1抗体(たとえば、アテゾリズマブ)と比較してPD-L1に対してより高い結合親和性を有し、および/または単一特異性抗VEGF抗体(たとえばアバスチン)と比較してVEGFに対してより高い結合親和性を有する。一部の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体は、アテゾリズマブと比較してPD-L1に対してより高い結合親和性を有し、アバスチンと比較してVEGFに対してより高いまたは同等の結合親和性を有する。一部の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体は、単一特異性抗PD-L1抗体と単一特異性抗VEGF抗体との組み合わせ、たとえばアテゾリズマブとアバスチンとの組み合わせと比較して、抗腫瘍有効性が著しく改善された。
【0089】
一部の実施形態では、本明細書に開示される二重特異性抗体は、他の抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体と比較してPD-L1に対してより高い結合親和性を有し、および/または他の抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体と比較してVEGFに対してより高い結合親和性を有する。
【0090】
PD-L1抗原結合部分
本明細書で定義されるPD-L1結合部分は、二重特異性抗体に適合し、PD-L1に特異的に結合できる限り、様々なフォーマット(たとえば、VHH、scFv、Fab)で提示され得る。一般に、二重特異性抗体に含まれるPD-L1結合部分は、単一特異性抗PD-L1抗体に由来し、これは既知の抗体であっても、新規に開発された抗体であってもよい。本出願による一部の実施形態では、PD-L1結合部分は完全ヒトモノクローナル抗体に由来する。特定の抗原に対する完全ヒト抗体を取得するための様々な方法は、当業者に知られており、たとえば、ヒト抗体レパートリーまたは他のヒト抗体コード配列を利用するトランスジェニック非ヒト動物(たとえば、OMTラット)を免疫化することによる。
【0091】
PD-L1結合部分は、抗PD-L1モノクローナル抗体に由来していてもよい。「に由来する」とは、本明細書において、PD-L1結合部分が、PD-L1の抗原結合部分または抗原結合能力を保持するそのバリアントを含むか、またはそれらから構成されることを意味する。たとえば、PD-L1結合部分は、抗PD-L1親抗体のscFv、Fab、またはVHH断片であってもよい。
【0092】
一部の実施形態では、PD-L1結合部分は、抗PD-L1抗体のVLに作動可能に連結された抗PD-L1抗体のVHを含む単鎖Fv断片(scFv)を含む。VHおよびVLは、(G4S)n(n=1~4)等のペプチドリンカーを介して連結されていてもよい。
【0093】
一部の実施形態では、PD-L1抗原結合部分は、以下からなる群から選択される一つまたは複数のCDRを含む:
(i) 配列番号1のアミノ酸配列を含むHCDR1、または配列番号1とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;
(ii) 配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、または配列番号2とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;
(iii) 配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3、または配列番号3とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;
(iv) 配列番号4のアミノ酸配列を含むLCDR1、または配列番号4とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;
(v) 配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、または配列番号5とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;および
(vi) 配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3、または配列番号6とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列。
【0094】
一部の実施形態では、VHは、(i)配列番号1のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるHCDR1;(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるHCDR2;および(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるHCDR3を含む;およびVLは、(i)配列番号4のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるLCDR1;(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるLCDR2;および(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるLCDR3を含む。
【0095】
一部の実施形態では、PD-L1抗原結合部分はVHおよびVL領域を含み、ここでVH領域は以下を含む: (i)配列番号13のアミノ酸配列;(ii)配列番号13と少なくとも85%、90%、または95%の同一性(好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%(たとえば、95%、96%、97%、98%、または99%)の同一性)を有するアミノ酸配列;または(iii)配列番号13と比較して、一つ以上(たとえば、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1個)のアミノ酸が付加、欠失および/または置換されたアミノ酸配列;および/または
ここでVL領域は、以下を含む: (i)配列番号14のアミノ酸配列;(ii)配列番号14と少なくとも85%、90%、または95%の同一性(好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%(たとえば、95%、96%、97%、98%、または99%)の同一性)を有するアミノ酸配列;または(iii)配列番号14と比較して、一つ以上(たとえば、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1個)のアミノ酸が付加、欠失および/または置換されたアミノ酸配列。
【0096】
VEGF抗原結合部分
同様に、本明細書で提供されるVEGF抗原結合部分は、親抗VEGF単一特異性抗体に由来していてもよい。本出願による一部の実施形態では、VEGF抗原結合部分は、抗VEGF完全抗体のFab断片であり、すなわち、重鎖にVH領域およびCH1領域、ならびに軽鎖にVL領域およびCL領域を含む。
【0097】
親抗体として使用される抗VEGF抗体は、当技術分野で既に知られているモノクローナル抗体(ベバシズマブ等)であっても、新規に開発されたモノクローナル抗体であってもよい。好ましくは、抗VEGF抗体は完全ヒト抗体またはヒト化抗体である。
【0098】
一部の実施形態では、VEGF結合部分は完全ヒトモノクローナル抗体に由来する。たとえば、VEGF結合部分は、抗VEGF親抗体のscFv、Fab、またはVHH断片であってもよい。一部の実施形態では、VEGF結合部分は、抗VEGF抗体のVLと結合した抗VEGF抗体のVHを含むFabを含む。
【0099】
一部の実施形態では、VEGF抗原結合部分のVH領域は、以下からなる群から選択される一つまたは複数の重鎖CDR(HCDR)を含み:
(i) 配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、または配列番号7とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;
(ii) 配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、または配列番号8とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;および
(iii) 配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3、または配列番号9とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;および/または
VL領域は、以下からなる群から選択される一つまたは複数の軽鎖CDR(LCDR)を含む:
(i) 配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、または配列番号10とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;
(ii) 配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、または配列番号11とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列;および
(iii) 配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3、または配列番号12とは、1、2または3個以下のアミノ酸の付加、欠失または置換によって異なるアミノ酸配列。
【0100】
一部の実施形態では、VHは、(i)配列番号7のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるHCDR1;(ii)配列番号8のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるHCDR2;および(iii)配列番号9のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるHCDR3を含む;およびVLは、(i)配列番号10のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるLCDR1;(ii)配列番号11のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるLCDR2;および(iii)配列番号12のアミノ酸配列を含む、またはそれからなるLCDR3を含む。
【0101】
一部の実施形態では、VEGF抗原結合部分のVH領域は以下を含む: (i)配列番号15のアミノ酸配列;(ii)配列番号15と少なくとも85%、90%、または95%の同一性(好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%(たとえば、95%、96%、97%、98%、または99%)の同一性)を有するアミノ酸配列;または(iii)配列番号15と比較して、一つ以上(たとえば、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1個)のアミノ酸が付加、欠失および/または置換されたアミノ酸配列。
【0102】
一部の実施形態では、VEGF抗原結合部分のVL領域は以下を含む: (i)配列番号16のアミノ酸配列;(ii)配列番号16と少なくとも85%、90%、または95%の同一性(好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%(たとえば、95%、96%、97%、98%、または99%)の同一性)を有するアミノ酸配列;または(iii)配列番号16と比較して、一つ以上(たとえば、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1個)のアミノ酸が付加、欠失および/または置換されたアミノ酸配列。
【0103】
各CDRへのアミノ酸の割り当ては、特に断りのない限り、Kabat et al. (1991) Sequences of Proteins of Immunological Interest (5th Ed.), US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH, NIH Publication no. 91-3242; Chothia et al., 1987, PMID: 3681981; Chothia et al., 1989, PMID: 2687698; MacCallum et al.,1996, PMID: 8876650;またはDubel, Ed. (2007) Handbook of Therapeutic Antibodies, 3rd Ed., Wily-VCH Verlag GmbH and Co. が提供するナンバリングスキームの1つに従うことができる。
【0104】
抗体配列中の可変領域およびCDRは、当技術分野で開発された一般規則(たとえば、Kabatナンバリングシステム等、上記で示したもの)に従って、または既知の可変領域のデータベースに対して配列を整列させることによって同定することができる。これらの領域を同定する方法は、Kontermann and Dubel, eds., Antibody Engineering, Springer, New York, NY, 2001およびDinarello et al., Current Protocols in Immunology, John Wiley and Sons Inc., Hoboken, NJ, 2000に記載されている。抗体配列の例示的なデータベースは、www.bioinf.org.uk/absで「Abysis」ウェブサイト(英国ロンドンのユニバーシティ・カレッジ・ロンドン生化学・分子生物学科のA.C.Martinによって管理されている)に、およびRetter et al., Nucl. Acids Res., 33 (Database issue): D671 -D674 (2005)に記載されているようにwww.vbase2.orgに記載されており、そこからアクセスすることができる。好ましくは、配列は、Kabat、IMGTおよびタンパク質データバンク(PDB)からの配列データをPDBからの構造データと統合するAbysisデータベースを使用して分析される。ウェブサイトbioinforg.uk/absでも入手可能なDr. Andrew C. R. Martin's book chapter Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains. In: Antibody Engineering Lab Manual (Ed.: Duebel, S. and Kontermann, R., Springer-Verlag, Heidelberg, ISBN-13: 978-3540413547を参照されたい。Abysisデータベースのウェブサイトは、本明細書の教示に関して使用することができるCDRを識別するために開発された一般規則をさらに含む。特に明記しない限り、本明細書に記載されているすべてのCDRは、KabatによるAbysisデータベースウェブサイトに従って導出されている。
【0105】
2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれているE. Meyers and W. Miller (Comput. Appl. Biosci., 4:11-17 (1988))のアルゴリズムを使用して、PAM120 weight residue table、ギャップ長ペナルティ12およびギャップペナルティ4を使用して決定することができる。さらに、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラムに組み込まれているNeedleman and Wunsch (J. Mol. Biol. 48:444-453 (1970))のアルゴリズムによって、Blossum62マトリックスまたはPAM250マトリックス、およびギャップウェイト16、14、12、10、8、6、または4、およびレングスウェイト1、2、3、4、5、または6を使用して決定することができる。
【0106】
さらに、または代替的に、本開示のタンパク質配列はさらに、たとえば関連する配列を同定するために公的データベースに対して検索を実行するための「クエリ配列」として使用することができる。このような検索は、Altschul, et al. (1990) J. MoI. Biol. 215:403-10のXBLASTプログラム(バージョン2.0)を使用して実行することができる。BLASTタンパク質検索は、本開示の抗体分子と相同なアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実行することができる。比較目的でギャップのあるアライメントを取得するには、Altschul et al, (1997) Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402で記載されているようにGapped BLASTを利用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメーター(たとえば、XBLASTおよびNBLAST)を使用することができる。www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。
【0107】
他の実施形態では、CDRアミノ酸配列は、上記のそれぞれの配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であってもよい。他の実施形態では、可変領域のアミノ酸配列は、上記のそれぞれの配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であってもよい。
【0108】
好ましくは、単離された抗体またはその抗原結合部分のCDRは、2アミノ酸以下、または1アミノ酸以下の保存的置換を含む。本明細書で使用する「保存的置換」という用語は、アミノ酸配列を含むタンパク質/ポリペプチドの本質的な特性に不利な影響を与えたり、変化させたりしないアミノ酸置換を指す。たとえば、保存的置換は、部位特異的変異誘発およびPCRを介した変異誘発等の当技術分野で知られている標準的な技術によって導入することができる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基を、類似の側鎖を有する別のアミノ酸残基、たとえば、対応するアミノ酸残基と物理的または機能的に類似した(たとえば、類似のサイズ、形状、電荷、共有結合または水素結合等を形成する能力を含む化学的性質を有する)残基で置換する置換を含む。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野において定義されている。これらのファミリーは、アルカリ性側鎖を有するアミノ酸(たとえば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(たとえば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖を有するアミノ酸(たとえば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。したがって、対応するアミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基で置換されることが好ましい。アミノ酸の保存的置換を同定する方法は当技術分野で周知である(たとえば、参照により本明細書に組み込まれるBrummell et al., Biochem. 32: 1180-1187 (1993); Kobayashi et al., Protein Eng. 12(10): 879-884 (1999);およびBurks et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94: 412-417 (1997)を参照されたい。)。
【0109】
二重特異性抗体の生成
抗PD-L1/VEGF二重特異性抗体を構築するために、上記のPD-L1抗原結合部分およびVEGF抗原結合部分を様々なフォーマットで融合させることができる。二重特異性抗体のPD-L1抗原結合部分およびVEGF抗原結合部分は、直接的または間接的に互いに結合していてもよい。特定の実施形態では、PD-L1抗原結合部分およびVEGF抗原結合部分は、リンカーによって互いに結合されていてもよい。リンカーは、GGGGS(G4S)の1~4コピーを含むようなペプチドリンカーであってもよい。一実施形態では、リンカーは(G4S)2である。
【0110】
一部の特定の実施形態では、PD-L1抗原結合部分は、VEGF抗原結合部分のN末端に融合される。PD-L1抗原結合部分がscFvである場合、PD-L1抗原結合部分の一本鎖は、場合によりリンカーを介して、VEGF抗原結合部分の重鎖または軽鎖に作動可能に連結されていてもよい。好ましくは、PD-L1抗原結合部分は、ペプチドリンカーを介してVEGF抗原結合部分の重鎖に連結される。
【0111】
特定の実施形態では、PD-L1抗原結合部分とVEGF抗原結合部分との融合物はさらにFc領域に結合する。あるいは、PD-L1部分およびVEGF部分はそれぞれFc領域の一端に接続される。
【0112】
本明細書で提供される二重特異性抗体および抗原結合部分は、当技術分野で知られている任意の適切な方法で作製することができる。従来のアプローチでは、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアを宿主細胞内で共発現させて、組換え法で二重特異性抗体を産生し、続いてアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる(たとえば、Milstein and Cuello, Nature, 305: 537 (1983)を参照)。異なる組換えアプローチも使用することができ、この場合、2つの特異性に対する抗体重鎖可変ドメインをコードする配列は、それぞれ免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合され、続いて発現ベクターに挿入され、軽鎖配列の発現ベクターとともに二重特異性抗体の組換え発現に適した宿主細胞に同時トランスフェクトされる(たとえば、WO94/04690号;Suresh et al., Methods in Enzymology, 121:210 (1986)を参照)。同様に、scFv二量体も組換えにより構築し、宿主細胞から発現させることができる(たとえば、Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994)を参照)。
【0113】
Fc領域
特定の実施形態では、Fc領域はVEGF抗原結合部分に作動可能に連結されている。本明細書に開示される二重特異性抗体のFc領域は、好ましくはヒトIgG Fc領域である。IgG Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4を含むがこれらに限定されない任意のアイソタイプであってよい。特定の実施形態では、Fc領域はIgG1アイソタイプのものである。具体的には、二重特異性抗体の重鎖は、scFv-VH-CH1-ヒンジ-Fcのように作動可能に連結されたドメインを含んでもよく、ここで、scFvはPD-L1抗原結合部分に由来し、VH-CH1はVEGF抗原結合ドメインに由来する;および軽鎖は、VL-CLのように作動可能に連結されたドメインを含み、ここで、VL-CLはVEGF抗原結合部分に由来する。
【0114】
本開示の二重特異性抗体の関連において、Fc領域は、Fc領域の特定のキメラバージョンと比較して、一つまたは複数のアミノ酸変化(たとえば、挿入、欠失または置換)を含んでもよい。本開示は、FcとFcRnまたはFcγRとの間の結合相互作用が改変された改変Fc領域をもたらす、Fc領域に一つまたは複数の改変を含む二重特異性抗原結合分子を包含する。
【0115】
たとえば、Fc領域は、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)または他のエフェクター機能を変化させる一つまたは複数のアミノ酸改変(たとえば、Leu234Ala/Leu235AlaまたはLALA)を含んでもよい。
【0116】
特定の実施形態では、Fc改変は、KabatらのようなEUナンバリングによるLALA変異、すなわち、L234AおよびL235Aの変異を含む。LALA変異は、おそらく、抗体エフェクター機能を破壊する、たとえば特定のFcγRへのFc結合を排除し、PBMCおよび単球によって媒介されるADCC活性を低下させるために最も一般的に使用される変異である。「EUナンバリングシステム」または「EUインデックス」は、一般に、免疫グロブリン重鎖定常領域内の残基を指す場合に使用される(たとえば、Kabatら(前出)に報告されているEUインデックス)。「KabatにおけるEUナンバリング」または「KabatにおけるEUインデックス」は、ヒトIgG1 EU抗体の残基ナンバリングを指す。本明細書において別段の記載がない限り、抗体の定常ドメインにおける残基番号への言及は、EUナンバリングシステムによる残基ナンバリングを意味する。
【0117】
特定の実施形態では、Fc領域は、ヒトIgG1、IgG2、またはIgG4に由来し得るヒンジ領域を介してVEGF結合部分に作動可能に連結される。特定の実施形態では、ヒンジ領域はFcと同じアイソタイプを有し、またヒトIgG1に由来する。
【0118】
本開示の抗体をコードする核酸分子
一部の態様では、本開示は、本明細書に開示される二重特異性抗体または抗原結合部分をコードする核酸配列を含む、単離された核酸分子に関する。たとえば、核酸配列は二重特異性抗体の重鎖および/または軽鎖をコードしていてもよい。あるいは、核酸配列は、PD-L1抗原結合部分、またはVEGF抗原結合部分の重鎖もしくは軽鎖可変領域をコードしていてもよい。核酸配列は、二重特異性抗体のFc領域をさらにコードしていてもよい。
【0119】
一部の実施形態では、単離された核酸分子は、以下からなる群から選択される一つまたは複数の核酸配列を含む:
(A) VEGF結合部分の重鎖配列または軽鎖配列をコードする核酸配列;
(B) PD-L1結合部分のアミノ酸配列をコードする核酸配列;
(C) PD-L1結合部分のアミノ酸配列に作動可能に連結されたVEGF結合部分の重鎖配列をコードする核酸配列;
(D) (A)~(C)の任意の組み合わせ;および
(E) (A)~(D)の拡散配列の相補鎖に高ストリンジェンシーな条件でハイブリダイズした核酸配列。
【0120】
一部の実施形態では、二重特異性抗体の重鎖をコードする核酸配列は配列番号19に示されるとおりであり、二重特異性抗体の軽鎖をコードする核酸配列は配列番号20に示されるとおりである。
【0121】
一部の態様では、本開示は、本明細書に開示される核酸配列を含むベクターに関する。さらなる実施形態では、発現ベクターは、二重特異性抗体、たとえばヒト化二重特異性抗体の定常領域をコードするヌクレオチド配列をさらに含む。
【0122】
本開示の関連におけるベクターは、染色体、非染色体、および合成核酸ベクター(発現制御エレメントの適切なセットを含む核酸配列)を含む、任意の適切なベクターであってもよい。このようなベクターの例は、SV40の誘導体、細菌プラスミド、ファージDNA、バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミドとファージDNAの組み合わせに由来するベクター、およびウイルス核酸(RNAまたはDNA)ベクターを含む。一実施形態では、PD-L1またはVEGF抗体をコードする核酸は、たとえば、線形発現エレメント(たとえば、Sykes and Johnston, Nat Biotech 17, 355-59 (1997)に記載)、圧縮核酸ベクター(たとえば米国特許第6,077,835号および/またはWO00/70087号に記載)、pBR322、pUC19/18、またはpUC118/119等のプラスミドベクター、「ミッジ」最小サイズの核酸ベクター(たとえば、Schakowski et al. , Mol Ther 3, 793-800 (2001)に記載)、またはCaP04沈降構築物[CaP04-precipitated construct]等の沈降核酸ベクター構築物[precipitated nucleic acid vector construct](たとえば、WO200046147号、Benvenisty and Reshef, PNAS USA 83, 9551-55 (1986), Wigler et al. , Cell 14, 725 ( 1978),およびCoraro and Pearson, Somatic Cell Genetics 7, 603 (1981)に記載)を含む、ネイキッドなDNAまたはRNAベクターに含まれる。このような核酸ベクターおよびその使用法は当技術分野でよく知られている(たとえば、米国特許第5,589,466号および米国特許第5,973,972号を参照)。
【0123】
一実施形態では、ベクターは、細菌細胞における抗PD-L1抗体および/または抗VEGF抗体の発現に適している。このようなベクターの例は、BlueScript(Stratagene)、pINベクター(Van Heeke & Schuster、J Biol Chem 264、5503-5509 (1989))、pETベクター(Novagen、ウィスコンシン州マディソン)等の発現ベクターを含む。ベクターはまた、もしくは代替的に、酵母系での発現に適したベクターであってもよい。酵母系での発現に適した任意のベクターを使用することができる。適切なベクターは、たとえば、アルファ因子、アルコールオキシダーゼおよびPGH等の構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含むベクターを含む(F. Ausubel et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley InterScience New York (1987),およびGrant et al., Methods in Enzymol 153, 516-544 (1987)でレビューされてている)。
【0124】
ベクターはまた、または代替的に、哺乳動物細胞発現に適したベクター、たとえばBebbington (1992) Biotechnology (NY) 10: 169-175に記載されているベクター等、選択マーカーとしてグルタミンシンテターゼを含むベクターであってもよい。
【0125】
核酸および/またはベクターはまた、新生ポリペプチド鎖等のポリペプチドをペリプラズム空間または細胞培養培地に標的化することができる分泌/局在化配列をコードする核酸配列を含んでもよい。このような配列は当技術分野で知られており、分泌リーダーまたはシグナルペプチドを含む。
【0126】
ベクターは、任意の適切なプロモーター、エンハンサー、および他の発現促進エレメントを含むか、またはそれらと結合することができる。このようなエレメントの例は、強力な発現プロモーター(たとえば、ヒトCMV IEプロモーター/エンハンサー、RSV、SV40、SL3-3、MMTV、およびHIV LTRプロモーター)、有効なポリ(A)終結配列、大腸菌におけるプラスミド産物の複製起点、選択マーカーとしての抗生物質耐性遺伝子、および/または便利なクローニングサイト(たとえば、ポリリンカー)を含む。核酸は、CMV IE等の構成的プロモーターとは対照的に、誘導性プロモーターを含んでもよい。
【0127】
さらなる態様において、本開示は、本明細書において上記で特定されるベクターを含む宿主細胞に関する。したがって、本開示は、トランスフェクトーマ等、本開示の二重特異性抗体を産生する組換え真核生物または原核生物宿主細胞にも関する。
【0128】
PD-L1特異的抗体は、本明細書に定義される本開示の抗体または本明細書に定義される本開示の二重特異性抗体を産生する、トランスフェクトーマ等の組換え真核生物または原核生物宿主細胞において発現させることができる。VEGF特異的抗体は同様に、本明細書に定義される本開示の抗体または本明細書に定義される本開示の二重特異性抗体を産生する、トランスフェクトーマ等の組換え真核生物または原核生物宿主細胞において発現させることができる。
【0129】
宿主細胞の例は、酵母、細菌、植物、および哺乳動物の細胞、たとえばCHO、CHO-S、HEK、HEK293、HEK-293F、Expi293F、PER.C6もしくはNSO細胞またはリンパ球細胞を含む。たとえば、一実施形態では、宿主細胞は、細胞ゲノムに安定して組み込まれた第一および第二の核酸構築物を含んでいてもよい。別の実施形態では、本開示は、上記で特定した第一および第二の核酸構築物を含む、プラスミド、コスミド、ファージミド、または線状発現エレメント等の非組み込み核酸を含む細胞を提供する。
【0130】
本開示の抗体を発現するための哺乳類宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)(たとえば、R. J. Kaufman and P. A. Sharp (1982) J. MoI. Biol. 159:601-621に記載のDHFR選択マーカーとともに使用される、Urlaub and Chasin, (1980) Proc. Natl. Acad. ScL USA 77:4216-4220に記載のdhfr CHO細胞を含む)、COS細胞およびSP2細胞を含むが、これらに限定されない。特に、NSO骨髄腫細胞で使用するための別の発現系は、WO87/04462号、WO89/01036号、および欧州特許出願338,841号に開示されているGS遺伝子発現系である。SV40(COS-7、ATCC CRL 1651)によって形質転換されたサル腎臓 CV1株;ヒト胎児腎臓株(293細胞、または懸濁培養での増殖のためにサブクローン化された293細胞、Graham et al., J. Gen Virol. 36:59 (1977));ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216);マウスのセルトリ細胞(TM4、Mather, 1980, Biol. Reprod. 23:243-251);サルの腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザルの腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸がん細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌの腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2, HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al., 1982, Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68);MRC5細胞;FS4細胞、NSO(たとえばRCB0213、1992, Bio/Technology 10:169)およびSP2/0細胞(たとえばSP2/0-Ag14細胞、ATCC CRL 1581)等のマウス骨髄腫細胞;YB2/0細胞(たとえば、YB2/3HL.P2.G11.16Ag.20細胞、 ATCC CRL 1662)等のラット骨髄腫細胞;PER.C6細胞;およびヒト肝細胞腫株(Hep G2)も含む。CHO細胞は、本明細書で使用できる細胞株の一つであり、CHO-K1、DUK-B11、CHO-DP12、CHO-DG44(Somatic Cell and Molecular Genetics 12:555 (1986))、およびLec13が例示的な宿主細胞株である。CHO-K1、DUK-B11、DG44、またはCHO-DP12宿主細胞の場合、これらは、その中で発現されるタンパク質をフコシル化する能力が欠損するように改変することができる。
【0131】
この目的に適した原核生物は、グラム陰性菌またはグラム陽性菌等の真正細菌、たとえば大腸菌(Escherichia)、たとえばE.coli等の腸内細菌科、エンテロバクター、エルウィニア、クレブシエラ、プロテウス、サルモネラ菌、たとえばサルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア、 たとえば、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescans)およびシゲラ、ならびにバチルス・サブティリス(B.subtilis)およびバチルス・リケニフォルミス(B.licheniformis)等の桿菌、シュードモナス・エルギノーザ(P.aeruginosa)等のシュードモナス、およびStreptomycesを含む。
【0132】
原核生物に加えて、糸状菌または酵母菌等の真核微生物も、二重特異性抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現宿主として適している。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、または一般的なパン酵母は、下等真核生物の宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかしながら、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe);たとえばクルイベロミセス・ラクティス(K.lactis)、クルイベロミセス・フラジリス(K.fragilis)(ATCC 12,424)、クルイベロミセス・ブルガリクス(K.bulgaricus)(ATCC 16,045)、クルイベロミセス・ウィケラミイ(K.wickeramii)(ATCC 24,178)、クルイベロミセス・ワルチ(K.waltii)(ATCC 56,500)、クルイベロミセス・ドロソフィラム(K.drosophilarum)(ATCC 36,906)、クルイベロミセス・サーモトレランス(K.thermotolerans)、およびクルイベロミセス・マルシアナス(K.marxianus)等のクルイベロミセス宿主;ヤロウィア(EP 402,226);ピキア・パストリス(Pichia pastoris)(EP 183,070);カンジダ;トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)(EP 244,234);ニューロスポラ・クラッサ(Neurosporacrassa);シュワンニオミセス・オシデンタリス(Schwanniomycesoccidentalis)等のシュワンニオミセス;およびたとえばニューロスポラ、ペニシリウム、トリポクラジウム、等の糸状菌、およびアスペルギルス・ニデュランス(A.nidulans)およびアスペルギルス・ニガー(A.niger)等のアスペルギルス宿主等の、他の多くの属、種、および株も一般に入手可能であり、本明細書において有用である。
【0133】
さらなる態様では、本開示は、1セットまたは2セットのヒト重鎖およびヒト軽鎖をコードする核酸を含むトランスジェニック非ヒト動物または植物に関し、ここで該動物または植物は、本開示の二重特異性抗体を産生する。
【0134】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に定義される本発明の二重特異性抗体で使用するための抗体を産生するハイブリドーマに関する。
【0135】
一態様では、本開示は、以下を含む発現ベクターに関する:
(i) PD-L1抗原結合部分をコードする核酸配列;
(ii) VFGF抗原結合部分の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸配列;
(iii) Fc領域をコードする核酸配列;
(iv) 二重特異性抗体の重鎖または軽鎖をコードする核酸配列。
【0136】
一態様では、本開示は、本明細書に開示される二重特異性抗体を発現する発現ベクターまたは複数の発現ベクターを含む本明細書に開示される宿主細胞を培養する工程、および培地から該抗体を精製する工程を含む、本明細書に開示される実施形態のいずれか1つによる二重特異性抗体を産生する方法に関する。一態様では、本開示は、上で定義した発現ベクターを含む宿主細胞に関する。一実施形態では、宿主細胞は、組換え真核生物、組換え原核生物、または組換え微生物宿主細胞である。
【0137】
医薬組成物
一部の態様では、本開示は、本明細書に開示される二重特異性抗体またはその抗原結合部分および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物を対象とする。
【0138】
組成物の成分
【0139】
医薬組成物は、場合により、別の抗体または薬物等の一つまたは複数の追加の薬学的活性成分を含有していてもよい。本開示の医薬組成物は、たとえば、抗PD-L1/抗VEGF二重特異性抗体がワクチンに対する免疫応答を強化するように別の免疫刺激剤、抗がん剤、抗ウイルス剤、またはワクチンとの併用療法で投与することもできる。薬学的に許容される担体は、たとえば、薬学的に許容される液体、ゲルまたは固体担体、水性媒体、非水性媒体、抗菌剤、等張剤、緩衝剤、抗酸化剤、麻酔剤、懸濁剤/分散剤、 キレート剤、希釈剤、アジュバント、賦形剤または非毒性補助物質、当技術分野で知られているその他の成分の様々な組み合わせ、またはそれ以上(other known in the art various combinations of components or more)を含んでもよい。
【0140】
適切な成分は、たとえば、酸化防止剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、保存剤、滑沢剤、香料、増粘剤、着色剤、乳化剤または安定剤、たとえば糖およびシクロデキストリンを含んでもよい。適切な抗酸化剤は、たとえば、メチオニン、アスコルビン酸、EDTA、チオ硫酸ナトリウム、白金、カタラーゼ、クエン酸、システイン、メルカプトグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトソルビトール、ブチルメチルアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエンおよび/または没食子酸プロピル(propylgalacte)を含んでもよい。本開示で開示されるように、本開示の抗体または抗原結合断片を含む溶媒中では、メチオニン等の一つまたは複数の抗酸化剤を含む組成物が開示され、還元抗体またはその抗原結合断片は酸化されていてもよい。酸化還元により結合親和性の低下が防止または軽減され、それによって抗体の安定性が向上し、保存期間が延長される可能性がある。したがって、一部の実施形態では、本開示は、一つまたは複数の抗体またはその抗原結合断片、およびメチオニン等の一つまたは複数の抗酸化剤を含む組成物を提供する。本開示はさらに、抗体またはその抗原結合断片をメチオニン等の一つまたは複数の抗酸化剤と混合して、抗体またはその抗原結合断片の酸化を防止し、その保存期間を延長することおよび/または活性の増加ができる様々な方法を提供する。
【0141】
さらに説明すると、薬学的に許容される担体は、たとえば、塩化ナトリウム注射液、リンゲル注射液、等張ブドウ糖注射液、滅菌水注射液、またはブドウ糖および乳酸リンゲル注射液等の水性ビヒクル、植物由来の固定油、綿実油、コーン油、ゴマ油、またはピーナッツ油等の非水性ビヒクル、静菌または静真菌濃度の抗菌剤、塩化ナトリウムまたはブドウ糖等の等張剤、リン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液等の緩衝剤、重硫酸ナトリウム等の抗酸化剤、塩酸プロカイン等の局所麻酔薬、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドン等の懸濁剤および分散剤、ポリソルベート80(TWEEN(登録商標)-80)等の乳化剤、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)またはEGTA(エチレングリコール四酢酸)等の金属イオン封鎖剤またはキレート剤、エチルアルコール、 ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、水酸化ナトリウム、塩酸、クエン酸、または乳酸を含んでもよい。担体として利用される抗菌剤は、フェノールまたはクレゾール、水銀剤、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルおよびプロピルp-ヒドロキシ安息香酸エステル、チメロサール、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムを含む複数回用量の容器内の医薬組成物に添加すてもよい。適切な賦形剤は、たとえば、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、またはエタノールを含む。適切な非毒性補助物質は、たとえば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、安定剤、溶解促進剤、または酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、オレイン酸トリエタノールアミンもしくはシクロデキストリン等の薬剤を含む。
【0142】
用法、製剤および用量
本開示の医薬組成物は、経口、静脈内、動脈内、皮下、非経口、鼻腔内、筋肉内、頭蓋内、心臓内、脳室内、気管内、バッカル、直腸内、腹腔内、皮内、局所、経皮、およびくも膜下腔内を含むがこれらに限定されない様々な経路によって、またはさもなければ移植または吸入により、それを必要とする対象に生体内で投与され得る。本発明の組成物は、固体、半固体、液体、または気体の形態(錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏、液剤、坐剤、浣腸剤、注射剤、吸入剤、エアロゾル剤を含むが、これらに限定されない。)で製剤に配合することができる。適切な製剤および投与経路は、意図される用途および治療レジメンに従って選択することができる。
【0143】
経腸投与に適した製剤は、硬質または軟質ゼラチンのカプセル剤、丸剤、被覆錠剤を含む錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、または吸入剤およびそれらの制御放出剤形を含む。
【0144】
非経口投与(たとえば、注射による)に適した製剤は、水性または非水性、等張性、パイロジェンフリー、滅菌液(たとえば、溶液、懸濁液)を含み、その中に活性成分が溶解、懸濁、または他の方法で提供される(たとえば、リポソームまたは他の微粒子内)。このような液体は、抗酸化剤、緩衝剤、防腐剤、安定剤、静菌剤、懸濁剤、増粘剤、および製剤を対象のレシピエントの血液(または他の関連する体液)と等張にする溶質等の他の薬学的に許容される成分をさらに含有してもよい。賦形剤の例は、たとえば、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油等を含む。このような製剤での使用に適した等張担体の例は、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、または乳酸リンゲル注射液を含む。同様に、用量、タイミング、および反復を含む特定の投与レジメンは、特定の個体およびその個体の病歴、ならびに薬物動態(たとえば、半減期、クリアランス率等)等の経験的考慮事項に依存する。
【0145】
投与頻度は、治療期間中に決定および調整することができ、増殖性細胞または腫瘍形成性細胞の数の減少、そのような腫瘍細胞の減少の維持、腫瘍細胞の増殖の減少、または転移の進行の遅延に基づいている。一部の実施形態では、潜在的な副作用および/または毒性を管理するために、投与量を調整または減量することができる。あるいは、主題の治療用組成物の徐放性連続放出製剤が適切な場合もある。
【0146】
適切な用量が患者ごとに変わり得ることは、当業者には理解されるであろう。最適な投与量の決定には、一般に、リスクまたは有害な副作用に対する治療効果のレベルのバランスが含まれる。選択される用量レベルは、特定の化合物の活性、投与経路、投与時間、化合物の排泄速度、治療期間、組み合わせて使用されるその他の薬物、化合物、および/または材料、状態の重症度、患者の種、性別、年齢、体重、状態、一般的な健康状態、および以前の病歴を含むがこれらに限定されない様々な要因に依存するであろう。化合物の量および投与経路は、最終的には医師、獣医師、または臨床医の裁量に任されるが、一般的に投与量は、実質的な有害な(harmful)または有害な(deleterious)副作用を引き起こすことなく、所望の効果を達成する作用部位での局所濃度を達成するように選択される。
【0147】
一般に、本開示の抗体またはその抗原結合部分は、様々な範囲で投与され得る。これらは、これらには、1回の用量当たり約5μg/kg体重~約100mg/kg体重;1回の用量当たり約50μg/kg体重~約5mg/kg体重;1回の用量当たり約100μg/kg体重~約10mg/kg体重を含む。他の範囲は、1回の用量当たり約100μg/kg体重~約20mg/kg体重、および1回の用量当たり約0.5mg/kg体重~約20mg/kg体重を含む。特定の実施形態では、用量は、1回の用量あたり少なくとも約100μg/kg体重、少なくとも約250μg/kg体重、少なくとも約750μg/kg体重、少なくとも約3mg/kg体重、少なくとも約5mg/kg体重、少なくとも約10mg/kg体重である。
【0148】
いずれにしても、本開示の抗体またはその抗原結合部分は、必要に応じて、それを必要とする対象に投与されることが好ましい。投与頻度の決定は、治療される状態、治療される対象の年齢、治療される状態の重症度、対象の一般的な健康状態の考慮等に基づいて、主治医などの当業者によって行われ得る。
【0149】
特定の好ましい実施形態では、本開示の抗体またはその抗原結合部分を含む一連の治療は、数週間または数ヶ月にわたる選択された医薬品の複数回投与を含むであろう。より具体的には、本開示の抗体またはその抗原結合部分は、毎日、2日ごと、4日ごと、1週間ごと、10日ごと、2週間ごと、3週間ごと、1カ月ごと、6週間ごと、2カ月ごと、10週間ごと、または3カ月ごとに投与され得る。この点に関して、患者の反応および臨床実践に基づいて投与量を変更したり、間隔を調整したりできることが理解されるであろう。
【0150】
用量およびレジメンは、1回以上の投与を受けた個体における開示された治療組成物について経験的に決定することもできる。たとえば、本明細書に記載のように生産される治療組成物の増分用量を個体に与えてもよい。選択された実施形態では、用量は、それぞれ経験的に決定または観察された副作用または毒性に基づいて、徐々に増加または減少または減弱され得る。選択された組成物の有効性を評価するために、前述のように、特定の疾患、障害、または状態のマーカーを追跡することができる。がんの場合、これらには、触診または視覚的観察による腫瘍サイズの直接測定、X線またはその他のイメージング技術による腫瘍サイズの間接測定;直接的な腫瘍生検および腫瘍試料の顕微鏡検査によって評価される改善;間接的腫瘍マーカー(たとえば、前立腺がんのPSA)または本明細書に記載の方法に従って同定された腫瘍原性抗原の測定、痛みまたは麻痺の減少;腫瘍に関連する言語、視覚、呼吸、またはその他の障害の改善;食欲の増加;または、受け入れられた検査または生存期間の延長によって測定される生活の質の向上が含まれる。当業者には、用量が個体、腫瘍性状態のタイプ、腫瘍性状態の段階、腫瘍性状態が個体内の他の部位に転移し始めているかどうか、および過去および同時に使用されている治療法に応じて変化することは明らかであろう。
【0151】
非経口投与(たとえば、静脈内注射)に適合する製剤は、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合部分を約10μg/ml~約100mg/mlの濃度で含むだろう。特定の選択された実施形態では、抗体またはその抗原結合部分の濃度は、20μg/ml、40μg/ml、60μg/ml、80μg/ml、100μg/ml、200μg/ml、300μg/ml、400μg/ml、500μg/ml、600μg/ml、700μg/ml、800μg/ml、900μg/ml、または1mg/mlを含むだろう。他の好ましい実施形態では、抗体またはその抗原結合部分の濃度は、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、6mg/ml、8mg/ml、10mg/ml、12mg/ml、14mg/ml、16mg/ml、18mg/ml、20mg/ml、25mg/ml、30mg/ml、35mg/ml、40mg/ml、45mg/ml、50mg/ml、60mg/ml、70mg/ml、80mg/ml、90mg/ml、または100mg/mlを含むであろう。
【0152】
開示の適用
一部の態様では、本開示は、治療を必要とする対象(たとえば、ヒト)に、本明細書に開示される抗体またはその抗原結合部分の治療有効量を投与することを含む、対象における障害を治療する方法を提供する。たとえば、障害はがんである。
【0153】
PD-L1および/またはVEGFが関与する様々ながんは、悪性か良性か、原発性か続発性かを問わず、本開示によって提供される方法で治療または予防することができる。がんは固形がんまたは血液悪性腫瘍であり得る。一部の実施形態では、本明細書に開示される抗体は、結腸がんおよび結腸直腸がん等の、PD-L1および/またはVEGFに関連するがんの予防、寛解、および治療に使用され得る。
【0154】
一部の他の実施形態では、本明細書に開示される抗体は、血管新生に関連する障害の予防、寛解、および治療に使用され得る。
【0155】
一部の他の実施形態では、障害は自己免疫疾患である。抗体またはその抗原結合部分で治療できる自己免疫疾患の例は、自己免疫性脳脊髄炎、エリテマトーデス、および関節リウマチを含む。抗体またはその抗原結合部分は、感染症、炎症性疾患(アレルギー性喘息等)および慢性移植片対宿主病を治療または予防するために使用することもできる。
【0156】
化学療法との併用
抗体またはその抗原結合部分は、抗がん剤、細胞毒性剤、または化学療法剤と組み合わせて使用することができる。
【0157】
「抗がん剤」または「抗増殖剤」という用語は、がん等の細胞増殖性障害を治療するために使用できる任意の薬剤を意味し、細胞毒性剤、細胞増殖抑制剤、抗血管新生剤、減量剤、化学療法剤、放射線療法および放射線療法剤、標的抗がん剤、BRM、治療用抗体、がんワクチン、サイトカイン、ホルモン療法、放射線療法および抗転移剤および免疫療法剤を含むが、これらに限定されない。上述の選択された実施形態において、そのような抗がん剤はコンジュゲートを含んでもよく、投与前に開示された部位特異的抗体と会合してもよいことが理解されるであろう。より具体的には、特定の実施形態では、選択された抗がん剤は、操作された抗体の不対システインに結合されて、本明細書に記載の操作されたコンジュゲートを提供する。したがって、そのような操作されたコンジュゲートは、本開示の範囲内にあることが明示的に企図される。他の実施形態では、開示された抗がん剤は、上記の異なる治療薬を含む部位特異的コンジュゲートと組み合わせて投与される。
【0158】
本明細書で使用される場合、用語「細胞毒性剤」は、細胞に対して有毒であり、細胞の機能を減少または阻害し、および/または細胞の破壊を引き起こす物質を意味する。特定の実施形態では、物質は、生体に由来する天然に存在する分子である。細胞毒性剤の例は、細菌の(たとえば、ジフテリア毒素、シュードモナス属の内毒素および外毒素、ブドウ球菌のエンテロトキシンA)、真菌(たとえば、α-サルシン、レストリクトシン)、植物(たとえば、アブリン、リシン、モデクシン、ビスクミン、ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、サポリン、ゲロニン、モモリジン、トリコサンチン、大麦毒素、アレウライト・フォルディ)(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチンタンパク質、フィトラッカ・メリカーナ(Phytolacca mericana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP-S)、ニガウリ(モモルディカ・チャランティア[Momordica charantia])阻害剤、クルシン、クロチン、サポナリア・オフィシナリス阻害剤、ゲロニン、ミテゲリン、レストリクトシン、フェノマイシン、ネオマイシン、およびトリコテセン)、または動物(たとえば、細胞外膵臓RNase等の細胞傷害性RNase;DNaseI(その断片および/またはバリアントを含む)の小分子毒素または酵素活性毒素を含むが、これらに限定されない。
【0159】
本開示の目的のために、「化学療法剤」は、がん細胞の増殖(growth)、増殖(proliferation)、および/または生存を非特異的に減少させるか阻害する化合物(たとえば、細胞毒性剤または細胞増殖抑制剤)を含む。このような化学物質は、多くの場合、細胞の増殖または分裂に必要な細胞内プロセスを対象としており、したがって、一般に急速に増殖および分裂するがん性細胞に対して特に効果的である。たとえば、ビンクリスチンは微小管を脱重合し、細胞が有糸分裂に入るのを阻害する。一般に、化学療法剤は、がん性細胞またはがん性になりそうか、または腫瘍形成性の子孫(たとえば、TIC)を生成する可能性のある細胞を阻害する、または阻害するように設計された任意の化学薬剤を含んでもよい。このような薬剤は、たとえばCHOPまたはFOLFIRI等のレジメンと組み合わせて投与されることが多く、最も効果的であることが多い。
【0160】
本開示の抗体と組み合わせて(部位特異的コンジュゲートの成分として、または非結合状態で)使用され得る抗がん剤の例は、アルキル化剤、アルキルスルホネート、アジリジン、エチレンイミンおよびメチルアメルアミン(methylamelamine)、アセトゲニン、カンプトテシン、ブリオスタチン、カリスタチン(callystatin)、CC-1065、クリプトフィシン、ドラスタチン、デュオカルマイシン、エリュテロビン、パンクラチスタチン(pancratistatin)、サルコディクチン(sarcodictyin)、スポンジスタチン(spongistatin)、ナイトロジェンマスタード、抗生物質、エンジイン系抗生物質、ダイネマイシン(dynemicin)、ビスホスホネート、エスペラミシン、色素タンパク質エンジイン抗生物質発色団、アクラシノマイシン(aclacinomysin)、アクチノマイシン、アウトラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、アドリアマイシン(登録商標)ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、 マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗薬、エルロチニブ、ベムラフェニブ、クリゾチニブ、ソラフェニブ、イブルチニブ、エンザルタミド、葉酸アナログ、プリンアナログ、アンドロゲン、抗副腎薬、フロリン酸等の葉酸補充剤(replenisher)、アセグラトン、アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside)、アミノレブリン酸、エニルウラシル、アムサクリン、ベストラブシル(bestrabucil)、ビサントレン(bisantrene)、エダトラキサート(edatraxate)、デフォファミン(defofamine)、デメコルチン、ジアジクオン、エフロルニチン(elfornithine)、酢酸エリプチニウム、エポチロン、エトグルシド、硝酸ガリウム、ヒドロキシ尿素、レンチナン、ロニダミン(lonidainine)、マイタンシノイド(maytansinoid)、ミトグアゾン、ミトキサントロン、モピダンモール(mopidanmol)、ニトラエリン(nitraerine)、ペントスタチン、フェナメット、ピラルビシン、ロソキサントロン、ポドフィリン酸(podophyllinic acid)、2-エチルヒドラジド、プロカルバジン、PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products、オレゴン州ユージーン)、ラゾキサン;リゾキシン(rhizoxin);シゾフィラン;スピロゲルマニウム(spirogermanium);テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特にT-2毒素、ベラクリンA、ロリジンA、およびアンギジン);ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド、クロラムブシル(chloranbucil);ジェムザール(登録商標)[GEMZAR] ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金アナログ、ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド; ミトキサントロン;ビンクリスチン;ナベルビン(登録商標)[NAVELBINE] ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸(ibandronate);イリノテカン(カンプトサール、CPT-11)、トポイソメラーゼ阻害剤RFS 2000;ジフルオロメチルロルニチン;レチノイド;カペシタビン;コンブレタスタチン;ロイコボリン;オキサリプラチン;細胞増殖を減少させるPKC-α、Raf、H-Ras、EGFRおよびVEGF-Aの阻害剤、ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸または誘導体を含むが、これらに限定されない。この定義には、抗エストロゲンおよび選択的エストロゲン受容体モジュレーター等、腫瘍に対するホルモン作用を調節または阻害する抗ホルモン剤、副腎でのエストロゲン産生を調節するアロマターゼ酵素を阻害するアロマターゼ阻害剤、および抗アンドロゲン;ならびにトロキサシタビン(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシンアナログ)、アンチセンス オリゴヌクレオチド、VEGF発現阻害剤およびHER2発現阻害剤等のリボザイム;ワクチン、プロロイキン(登録商標)[PROLEUKIN] rIL-2;ルルトテカン(登録商標)[LURTOTECAN] トポイソメラーゼ1阻害剤;アバレリクス(登録商標) rmRH;ビノレルビンおよびエスペラミシン、ならびに上記のいずれかの薬学的に許容される塩、酸、または誘導体も含まれる。
【0161】
放射線治療との併用
本開示はまた、抗体またはその抗原結合部分と放射線療法(すなわち、ガンマ線照射、X線、UV照射、マイクロ波、電子放出等の、腫瘍細胞内で局所的にDNA損傷を誘発する任意の機構)との組み合わせを提供する。腫瘍細胞への放射性同位体の指向性送達(directed delivery)を使用する併用療法も企図されており、開示された抗体は、標的化抗がん剤または他の標的化手段と組み合わせて使用することができる。典型的には、放射線療法は、約1週間から約2週間の期間にわたってパルス的に施される。放射線療法は、頭頸部がんに罹患している対象に約6~7週間施される場合がある。任意選択で、放射線療法は、単回線量として、または複数回の連続線量として投与されてもよい。
【0162】
医薬品パックおよびキット
1回以上の用量の抗体またはその抗原結合部分を含む、1つ以上の容器を含む医薬パックおよびキットも提供される。特定の実施形態では、たとえば、一つまたは複数の追加の薬剤の有無にかかわらず、抗体またはその抗原結合部分を含む所定量の組成物を含む、単位用量が提供される。他の実施形態では、そのような単位用量は、注射用の単回使用のプレフィルドシリンジで供給される。さらに他の実施形態では、単位用量に含まれる組成物は、生理食塩水、スクロース等;リン酸塩等の緩衝液;を含んでもよく;および/または安定かつ有効なpH範囲内で配合される。あるいは、特定の実施形態では、組成物は、適切な液体、たとえば滅菌水または生理食塩水の添加により再構成することができる凍結乾燥粉末として提供されてもよい。特定の好ましい実施形態では、組成物は、スクロースおよびアルギニンを含むがこれらに限定されない、タンパク質の凝集を阻害する一つまたは複数の物質を含む。容器上の、または容器に付随するラベルは、封入された組成物が選択された腫瘍性疾患状態の治療に使用されることを示す。
【0163】
本開示はまた、抗体の単回投与または複数回投与単位、および場合により一つまたは複数の抗がん剤を生成するためのキットを提供する。キットは、容器、および容器上の、または容器に付随するラベルまたは添付文書を含む。適切な容器は、たとえば、ボトル、バイアル、注射器等を含む。容器は、ガラスまたはプラスチック等の様々な材料から形成することができ、結合型または非結合型のいずれかで、薬学的に有効量の開示された抗体を含有することができる。他の好ましい実施形態では、容器は滅菌アクセスポートを備える(たとえば、容器は、皮下注射針によって穿刺可能なストッパーを有する静脈注射用溶液(intravenous solution)バッグまたはバイアルであってもよい)。このようなキットは一般に、適切な容器内に抗体の薬学的に許容される製剤を含み、場合により同じまたは異なる容器内に一つまたは複数の抗がん剤を含む。キットは、診断または併用療法のいずれかのために、他の薬学的に許容される製剤も含んでもよい。たとえば、本開示の抗体またはその抗原結合部分に加えて、そのようなキットは、化学療法剤または放射線療法剤(radiotherapeutic drug);抗血管新生剤;抗転移剤;標的抗がん剤;細胞毒性剤;および/または他の抗がん剤等の一連の抗がん剤のうちの任意の一つまたは複数を含んでもよい。
【0164】
より具体的には、キットは、追加の成分の有無にかかわらず、開示された抗体またはその抗原結合部分を含む単一の容器を有してもよく、または所望の薬剤ごとに別個の容器を有してもよい。組み合わせ治療薬(combined therapeutics)が結合のために提供される場合、単一の溶液を、モル当量の組み合わせで、または一方の成分を他方より過剰に混合して、事前に混合することができる。あるいは、キットの抗体および任意の抗がん剤は、患者に投与する前に別個の容器内に別々に維持されてもよい。キットはまた、滅菌した薬学的に許容される緩衝液、または静菌性注射用水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンゲル液およびブドウ糖液等の他の希釈剤を収容するための第二/第三の容器手段を含んでもよい。
【0165】
キットの成分が一つまたは複数の溶液で提供される場合、溶液は好ましくは水溶液であり、滅菌水溶液または生理食塩水が特に好ましい。ただし、キットの成分は乾燥粉末として提供されてもよい。試薬または成分が乾燥粉末として提供される場合、粉末は適切な溶媒を添加することによって再構成することができる。溶媒が別の容器に提供されてもよいことが想定される。
【0166】
上で簡単に示したように、キットはまた、抗体またはその抗原結合部分および任意の成分を患者に投与するための手段、たとえば、1本または複数の針、静脈注射用バッグ(I.V. bag)または注射器、さらには点眼器、ピペット、または他の同様の装置であり、そこから製剤を動物に注射または導入する、または体の患部に塗布したりすることができる装置を含んでもよい。本開示のキットは、典型的には、バイアル等を収容するための手段、および、たとえば所望のバイアルおよび他の装置が配置され、保持される射出成形またはブロー成形プラスチック容器等に、商業販売のために密封(close confinement)された他の成分を含む。
【0167】
配列表の概要
本願には、多数のアミノ酸配列を含む配列表が添付される。以下の表Aは、含まれる配列の概要を示す。
【0168】
抗VEGF/抗PD-L1二重特異性抗体である、本明細書に開示される例示的な抗体の一つは、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320(「W3253」と略記)と称される。
【0169】
【実施例1】
【0170】
このように一般的に記載された本開示は、例示として提供され、本開示を限定することを意図するものではない、以下の実施例を参照することによってより容易に理解されるであろう。実施例は、以下の実験が実施されたすべての実験または唯一の実験であることを示すことを意図したものではない。
【0171】
実施例1
材料、ベンチマーク抗体および細胞株の調製
1.1 材料の準備
実施例で使用した市販の材料に関する情報を表1に示す。
【0172】
【0173】
1.2 抗原の調製
ヒトVEGFの配列(Uniport No.:P15692)、ヒトPD-L1(Uniport No.:Q9NZQ7)、カニクイザルPD-1 (Uniport No.:Q15116)、およびヒトPD-1の (Uniport No.:Q15116)の細胞外ドメイン配列をコードするDNA配列をSangon Biothech(中国、上海)で合成し、次にC末端に異なるタグ(6×his、ヒトFc、またはマウスFc等)を有する改変pcDNA3.3発現ベクターにサブクローニングした。
【0174】
Expi293細胞(Thermo Fisher Scientific、A14527)を、精製した発現ベクターでトランスフェクトした。細胞を5日間培養し、Ni-NTAカラム(GE Healthcare、175248)、プロテインAカラム(GE Healthcare、175438)またはプロテインGカラム(GE Healthcare、170618)を使用してタンパク質精製のために上清を収集した。得られたヒトVEGF、ヒトPD-L1、およびヒトPD-1はSDS-PAGEおよびSECでQC処理し、-80℃で保存した。
【0175】
1.3 ベンチマーク抗体(BMK Ab)の作製
ベバシズマブ(すなわち、アバスチン、ドラッグバンクからの配列、Drug Bank No.:DB00112)およびアテゾリズマブ(ロシュが開発した抗PD-L1抗体)の可変領域をコードするDNA配列を、Sangon Biothech(中国、上海)またはGenewiz(中国蘇州)を使用して、ヒトIgG1の定常領域を含む改変型pcDNA3.3発現ベクターにサブクローニングした。
【0176】
重鎖および軽鎖をコードするプラスミドをExpi293細胞に共トランスフェクトした。細胞を5日間培養し、プロテインAカラム(GE Healthcare、175438)を使用したタンパク質精製のために上清を収集した。得られた抗体をSDS-PAGEおよびSEC-HPLCで分析し、-80℃で保存した。
【0177】
1.4 安定した細胞株/細胞プールの確立
PD-L1発現細胞株
ヒトPD-L1高発現安定細胞株(WBP315.CHO-K1.hPro1.C11)およびカニクイザルPD-L1高発現安定細胞株(WBP315.293F.cPro1.2A)を限界希釈法により取得した。
【0178】
簡単に説明すると、ヒトPD-L1またはカニクイザルPD-L1の遺伝子をそれぞれ発現ベクターpcDNA3.3に挿入した。次に、プラスミドをそれぞれCHO-K1/293F細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの6~8時間後、細胞をPBSで洗浄し、6ウェルプレートで3mlの新鮮な非選択培地を与えた。トランスフェクションの24~48時間後にトリプシンを用いて細胞を回収し、選択培地(F12-K、10%FBS、10μg/mlブラストサイジン)中のT75フラスコに播種した。限界希釈により高発現安定細胞株を得て、FACSにより発現レベルを測定した。
【0179】
不死の細胞株
ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)は、ScienceCell(カタログ番号:8000)から購入し、基本培地、5%FBS、1%内皮細胞成長因子 (ECGS、ScienceCell、カタログ番号:1052)を含む内皮細胞培地(ECM、ScienceCell、カタログ番号:1001)で培養した。細胞を37℃、および5% CO2のインキュベーター内で培養した。長期保存の場合、細胞を5%(v/v) DMSOを補充した完全増殖培地中で凍結し、液体窒素気相中で保存した。
【0180】
実施例2
PD-L1/VEGF二重特異性抗体の生成
BsAb構築のために、OMTラット免疫化およびハイブリドーマ技術により抗PD-L1完全ヒトモノクローナル抗体をインハウスで生成し、得られた抗PD-L1モノクローナル抗体を同定し、W3155-r1.14.4と命名した。重鎖および軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号13および14に示される通りであった。W3155-r1.14.4およびベバシズマブの可変領域を二重特異性抗体の構築に使用した。
【0181】
W3155-r1.14.4の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を一つの鎖に結合して、抗PD-L1 scFvを形成した。抗PD-L1 scFv(VH-(G4S)4-VL)をコードするDNA配列を(G4S)2リンカーにより、そのFc領域にはFcエフェクター機能を無効にするLALA変異が含まれているベバシズマブの重鎖のN末端に付加した。軽鎖はベバシズマブと同じであった。構築されたBsAbは、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320(接尾辞「V320」は、L234A/L235A置換を含むIgG1 Fc領域を意味する)またはW3253と名付けられた。次に、両方の鎖をコードするDNA配列を、改変されたpcDNA3.3発現ベクターにクローン化した。
【0182】
重鎖および軽鎖発現プラスミドを、製造業者の指示に従ってExpi293発現システム キット(ThermoFisher-A14635)を使用してExpi293細胞に共トランスフェクトした。トランスフェクションの5日後、上清を収集し、プロテインAカラムおよびCEXカラムを使用したタンパク質精製に使用した。抗体濃度はNanoDropで測定した。タンパク質の純度は、SDS-PAGEおよびHPLC-SECによって評価された(
図2および3)。W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320抗体の特定の配列を以下の表2~4に列挙する。
【0183】
【0184】
【0185】
【0186】
実施例3
二重特異性抗体のインビトロ特性評価
3.1 ヒト/カニクイザルのVEGF結合(ELISA)
カニクイザルVEGFのアミノ酸配列はヒトVEGFと同一である。ELISA結合の場合、非組織培養処理平底96ウェル プレート(Nunc MaxiSorp、ThermoFisher)を0.25μg/mlのSino BiologicalヒトVEGFタンパク質W325-hPro1 (Sino)で4℃で一晩プレコーティングした。2% BSAブロッキング後、200nM~0.000190735nMの4倍滴定抗体 100μLを各ウェルにピペットで移し、周囲温度で2時間インキュベートした。未結合物質の除去後、1:5000に希釈したHRP標識ヤギ抗ヒトIgG(Betic A80-304P)100μLをウェルに添加し、1時間インキュベートした。100μLのTMB基質を分注することで発色させ、100μLの2M HClで発色を停止した。マイクロプレート分光光度計(SpectraMax(登録商標) M5e)を使用して、450nmおよび540nmで吸光度を読み取った。
【0187】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320は、ヒトVEGF上で親抗体アバスチンと同等の結合能を示し、EC
50は0.01nMである(
図4)。
【0188】
3.2 ヒトPD-L1結合(FACS)
FACS結合のために、操作されたヒトPD-L1発現細胞W315-CHOK1.hPro1.C11を、U底96ウェルプレート(COSTAR 3799)に1×105細胞/ウェルで播種した。200nM~0.000762939nMの1%BSA DPBSで4倍滴定したAbを細胞に添加した。プレートを4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、1:150に希釈したPE標識ヤギ抗ヒト抗体 (Jackson 109-115-098) 100μLを各ウェルに添加し、プレートを4℃で30分間インキュベートした。細胞への抗体の結合はフローサイトメトリーによって試験し、平均蛍光強度(MFI)はFlowJoによって分析した。
【0189】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320も、ヒトPD-L1上でアテゾリズマブと同等の結合能を示し、EC
50は0.128nMであった(
図5)。
【0190】
3.3 ヒトVEGF/ヒトPD-L1二重結合(ELISA)
二重特異性抗体がヒトPD-L1およびVEGFの両方に結合することができるかどうかを試験するために、以下のようにELISAアッセイを開発した。96ウェルELISAプレート(Nunc MaxiSorp、ThermoFisher)を、炭酸-重炭酸緩衝液中の1μg/ml 抗原-1(hVEGF.his、W325-hPro1.his (インハウス))で4℃で一晩コーティングした。カゼイン緩衝液を用いたブロッキング工程では、カゼイン緩衝液中の異なるPD-L1×VEGF二重特異性抗体の段階希釈(5倍希釈、100nM~0.00128nM)をプレート上で室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、プレートを、0.5%(v/v)Tween(登録商標)20を含有するPBS300μL/ウェルで3回洗浄した。1μg/mlの抗原-2(hPD-L1-ECD.mFc、W315-hPro1.ECD.mFc(インハウス))をプレートに添加し、1時間インキュベートした(W315-hPro1.ECD.mFc (in house) was added to plates and incubation 1 hour)。プレートを3回洗浄した後、1:5000に希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG(Bethyl A90-231P)100μLを添加し、プレート上で室温で1時間インキュベートした。0.5%(v/v) Tween(登録商標)20を含むPBS 300μL/ウェルで6回洗浄し、検出のためにTMB基質100μL/ウェルを添加し(for the detection pre well)、約5分後に反応を停止した。ウェルの吸光度を、多層プレートリーダー(SpectraMax(登録商標) M5e)を使用して450nmおよび540nmで測定した。
【0191】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320のヒトVEGFおよびヒトPD-L1に対する二重結合活性をELISAベースの結合アッセイによって測定した。結果は、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の結合がその後のPD-L1の結合に影響を及ぼさないことを示していまる(
図6)。
【0192】
3.4 カニクイザルPD-L1結合(FACS)
FACS結合のために、操作されたカニクイザルPD-L1発現細胞W315-293F.cPro1.2A2(インハウス)をU底96ウェルプレート(COSTAR 3799)に1×105細胞/ウェルで播種した。200nM~0.000762939nMの1%BSA DPBSで4倍滴定したAbを細胞に添加した。プレートを4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、1:150に希釈したPE標識ヤギ抗ヒト抗体(Jackson 109-115-098) 100μLを各ウェルに添加し、プレートを4℃で30分間インキュベートした。細胞への抗体の結合はフローサイトメトリーによって試験し、平均蛍光強度(MFI)はFlowJoによって分析した。
【0193】
カニクイザルVEGFのアミノ酸はヒトVEGFと同一であるため、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320もカニクイザルVEGFに対する結合活性を有する。W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320は、カニクイザルPD-L1に対してアテゾリズマブと同等の結合能力を示し、EC
50は0.59nMであった(
図7)。
【0194】
3.5 VEGFおよびPD-L1(SPR)に対する結合親和性
抗原に対する抗体結合親和性は、Biacore 8Kを使用するSPRアッセイによって検出した。Abは、抗ヒトIgG Fc抗体固定化CM5センサーチップ(GE)上に捕捉された。異なる濃度の抗原を、会合段階で30μL/分の流速でセンサーチップ上に注入し、続いて解離段階を行った。チップは各結合サイクル後に10mMグリシン(pH1.5)によって再生した。ブランク表面および緩衝液チャネルのセンサーグラムは、テストセンサーグラムから差し引いた。実験データは、ラングミュア(Langmiur)解析を使用して1:1モデルによってフィッティングした。
【0195】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の親和定数(K
D)は、SPR技術に基づいて測定された。この間に、オン速度定数(ka)およびオフ速度定数(kd)が測定される。各インタラクションの最終データは、参照チャネルおよびバッファチャネルのデータから差し引いた(deducted)。実験データは、
図8A、
図8B、および
図9に示すように分析された。抗体の動的親和性の結果を表5に示す。
【0196】
【0197】
3.6 ヒトVEGFR1およびVEGFR2競合アッセイ
二重特異性抗体がヒトVEGFR1およびVEGFR2のヒトVEGFタンパク質への結合をブロックすることができるかどうかを試験するために、以下のようにリガンド競合アッセイを行った。
【0198】
ELISAでは、平底96ウェルプレート(Nunc MaxiSorp、ThermoFisher)を0.5μg/mlのW325-hpro1R1.ECD.hFc(SB)または2μg/mlのW325-hpro1R2.ECD.hFc(SB)で4℃で一晩、事前にコーティングした。カゼイン緩衝液でブロッキングした後、0.02μg/mlヒトVEGFタンパク質W325-hPro1.his.biotinと結合した200nM~0.000190735nMの2倍滴定Ab 100μLをピペットで各ウェルに入れ、周囲温度で2時間インキュベートした。インキュベート後、0.5%(v/v) Tween(登録商標)20を含む300μL/ウェルのPBSでプレートを3回洗浄した。1:10000に希釈したストレプトアビジン-HRP (Lifetechnologies ♯SNN1004) 100μLをプレートプレウェルに添加し、1時間インキュベートした。6回洗浄した後、100μLのTMB基質を分注することによって発色させ、その後、100μLの2M HClによって発色を止めた。マイクロプレート分光光度計(SpectraMax(登録商標) M5e)を使用して、450nmおよび540nmで吸光度を読み取った。
【0199】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320は、1.47nMのIC
50でVEGFに結合するhVEGFR1に対して親抗体よりも優れた競合能力を示し(
図10)、1.04nMのIC
50でVEGFに結合するhVEGFR2に対して親抗体よりも優れた競合能力を示す(
図11)。
【0200】
3.7 ヒトPD-1競合アッセイ
二重特異性抗体がPD-L1発現細胞へのPD-1タンパク質の結合をブロックすることができるかどうかを試験するために、次の競合アッセイを行った。
【0201】
FACSによってヒトPD-1のヒトPD-L1への結合をブロックするために、遺伝子操作されたヒトPD-L1発現細胞W315-CHOK1.hPro1.C11をU底96ウェルプレート(COSTAR 3799)に1×105細胞/ウェルで播種した。5μg/mlのインハウスヒトPD-1タンパク質W305-hPro1.ECD.mFcと結合した200nM~0.000762939nMの4倍滴定Abを細胞に添加した。プレートを4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、1:150に希釈したPE標識ヤギ抗マウス抗体(abcam 98742) 100μLを各ウェルに添加し、プレートを4℃で30分間インキュベートした。細胞への抗体の競合結合はフローサイトメトリーによって試験し、平均蛍光強度(MFI)はFlowJoによって分析した。
【0202】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320は、ヒトPD-1とPD-L1の間の結合のブロックにおいてアテゾリズマブと同等の競合能力を示し、IC
50は0.39nMであった(
図12)。
【0203】
3.8 HUVEC細胞増殖アッセイ
VEGF誘導性HUVEC増殖におけるW3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の生物学的活性を評価した。HUVEC細胞を、ECM+ 5%FBS+1%ECGS中で日常的に培養した。サブコンフルエントな細胞をトリプシンによって回収し、ECM+1%FBS+0.05%ECGSで1×105細胞/mLに希釈した。細胞を96ウェル透明底黒色プレート(Greiner、655090)に4000細胞/ウェルの密度で播種した。段階希釈した抗体を、50ng/mLのヒトVEGF(WBP325-hPro1、Sino Biological、11066-HNAB)とともに添加した。プレートを5日間インキュベーターに戻し、その後、CellTiter Glo(Promega、G7573)を使用して細胞生存率を評価した。リガンドを添加していないウェルは、リガンド刺激による細胞増殖の対照として機能した。リガンド刺激による細胞増殖の阻害に対する試験抗体の効果は、バックグラウンド(リガンドなし)の発光を差し引いた後、抗体添加(リガンドのみ)の有無にかかわらず発光値を比較することによって計算した。GraphPad Prism 5ソフトウェアを使用して、4パラメーター非線形回帰分析を使用して増殖阻害IC50値を取得した。
【0204】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320は、0.95nMのIC
50および114.2%の最大阻害率で、濃度依存的にVEGF誘導性HUVEC増殖を効果的に阻止した(
図13)。
【0205】
3.9 レポーター遺伝子アッセイ
WBP3253リード抗体が、T細胞応答の調節におけるPD-L1の役割に機能的に対抗できるかどうかを試験するために、全長PD-1を発現し、NFAT-RE-Luc2pと統合されたJurakt細胞(効果細胞[effect cell])および抗CD3 (OTK3) ScFv Abを有するCHO-K1-PD-L1細胞(標的細胞)を、それぞれ2×104細胞/50μLおよび4×104細胞/50μLで播種した。次に、50μLのWBP3253 Ab(4倍希釈、33.5nM~0.002045nM)と37℃で6時間共培養した。インキュベート後、発色のために50μLのone-gloルシフェラーゼ基質を各ウェルに添加した。ウェルの蛍光強度はEnVision(NO.798104)により測定した。
【0206】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320は、PD-L1レポート遺伝子アッセイにおける機能性を示す(
図14)。
【0207】
3.10 混合リンパ球反応(MLR)アッセイ
MLRは、サイトカイン、ヒトIFN-γ分泌、および活性化ヒトCD4+T細胞の増殖に対するPD-L1抗体のアゴニスト効果を試験するために使用した。
【0208】
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、Ficoll-Paque(商標) PLUS勾配遠心分離を使用して健康なドナーから新たに単離された。単球は、製造者の指示に従ってヒト単球濃縮キット(Miltenyi Biotec-130-050-201)を使用して単離された。細胞濃度を、800U/mlの組換えヒトGM-CSFおよび50μg/mlのIL-4を、6ウェルプレート中において2.5ml/ウェルで補充した完全RPMI-1640培地(Gibco-22400089)中で2×106細胞/mlに調整した。細胞を5~7日間培養して樹状細胞(DC)に分化させた。サイトカインは、培地の半分をサイトカインを補充した新しい培地と交換することにより、2~3日ごとに補充された。ヒトCD4+T細胞は、メーカーのプロトコールに従ってヒトCD4+ T細胞濃縮キットを使用して単離された。
【0209】
MLRは、完全RPMI-1640培地を使用して96ウェル丸底プレート(Nunc、163320)にセットアップされた。CD4+ T細胞、様々な濃度の抗体、および未成熟DCをプレートに添加した。プレートを37℃、5% CO2でインキュベートした。IFN-γ産生は5日目に測定した。
【0210】
ヒトIFN-γは、対応する抗体ペアを使用した酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって測定した。組換えヒトIFN-γ(PeproTech、300-02)をそれぞれ標準として使用した。プレートは、ヒトIFN-γに特異的な捕捉抗体(Pierce、M700A)で事前にコーティングした。ブロッキング後、標準または試料を各ウェルにピペットで移し、周囲温度で2時間インキュベートした。未結合物質の除去後、IFN-γに特異的なビオチン結合検出抗体(Pierce、M701B)をウェルに添加し、それぞれ1時間インキュベートした。次に、ストレプトアビジン結合西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Invitrogen、SNN1004)をウェルに添加し、周囲温度で30分間インキュベートした。TMB基質を分注することによって発色させ、その後2M HClによって発色を停止させた。マイクロプレート分光光度計を使用して、450nMおよび540nMでの吸光度を読み取った。
【0211】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320は、混合リンパ球反応アッセイにおいて濃度依存的にヒトIL-2(hIL-2)およびヒトIFN-γ(hIFN-γ)分泌を誘導することができた(
図15Aおよび
図15B)。
【0212】
3.11 ヒト血清の安定性
抗体を、新たに単離したヒト血清(血清含量>90%)中で37℃でインキュベートした。示された時点で、血清処理試料のアリコートをインキュベーターから取り出し、液体N2中で急速冷凍し、試験の準備が整うまで80℃で保管した。試料は安定性試験の直前に急速に解凍した。簡単に言うと、プレートを1μg/mLのW325-hPro1.ECD.his(インハウス)で4℃で一晩、事前にコーティングした。1時間のブロッキング後、試験抗体を様々な濃度(25nM~0.0015nMの4倍連続希釈)でプレートに添加した。プレートを室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、0.5%(v/v) Tween(登録商標)20を含む、300μL/ウェルのPBSでプレートを3回洗浄した。1μg/mlのW315-hPro1.ECD.mFc(インハウス)をプレートに添加し、1時間インキュベートした。プレートを3回洗浄した後、1:5000に希釈したHRP標識ヤギ抗マウスIgG(Bethyl A90-231P)100μLを添加し、プレート上で室温で1時間インキュベートした。0.5%(v/v) Tween(登録商標)20を含む、300μL/ウェルのPBSで6回洗浄した後、検出プレウェルのために100μLのTMB基質を添加した。約5分後に、ウェル当たり100μLの2M HClを添加して反応を停止させた。ウェルの吸光度は、多層プレートリーダー(SpectraMax(登録商標) M5e)を使用して450nmおよび540nmで測定した。
【0213】
W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の血清安定性を、ヒト血清下、37℃で2週間評価した。ヒト血清で1日間、4日間、7日間、および14日間処理した抗体結合能力は、0日間と同等であった(
図16)。
【0214】
3.12 熱安定性(DSF)
抗体のTmは、QuantStudio 7 FlexリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を使用して研究した。19μLの抗体溶液を1μLの62.5×SYPRO Orange溶液(Invitrogen)と混合し、96ウェルプレート(Biosystems)に移した。プレートを26℃から95℃まで0.9℃/分の速度で加熱し、得られた蛍光データを収集した。異なる温度に対する蛍光変化の負の導関数を計算し、その最大値を融解温度Tmとして定義した。タンパク質に複数のアンフォールディング遷移がある場合、最初の2つのTmがレポートされ、Tm1およびTm2と名付けられる。データ収集およびTm計算は、操作ソフトウェア(QuantStudio(登録商標)リアルタイムPCRソフトウェアv1.3)によって自動的に行われた。
【0215】
DSFアッセイの結果は、Tm1値が68.7℃であることを示す(
図17)。
【0216】
実施例4
二重特異性抗体のインビボ特性評価
4.1 マウスPK研究
WBP3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320の薬物動態をC57BL/6メスマウスで試験した。生後6~8週のメスのC57BL/6マウス(Shanghai Lingchang Biotech Co.,LTD)を研究に使用した。
【0217】
薬物動態研究では、3匹のC57BL/6メスマウスに13.3mg/kgの WBP3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320を静脈内注射した。抗体注射の前に、投与前の血液を採取した。抗体注射後、30分、2時間、6時間、24時間、2日間、3日間、5日間、7日間、および10日間の間隔で、血液試料を目から採取し、EDTAチューブに移した。チューブを4℃、6000rpmで5分間遠心分離し、次に血漿を収集して-20℃で保存した。
【0218】
血清抗体濃度はELISAによる3つの方法で測定した。ヤギ抗ヒトIgG FcまたはW315-hPro1.ECD.mFcを、それぞれ96 ELISAプレートに1μg/mlで4℃で一晩固定した。プレートを100μlのリン酸緩衝生理食塩水tween(登録商標)(PBST)で3回洗浄し、残りの結合部位を2%(w/v)ウシアルブミン(BSA)で室温で1時間ブロッキングした。精製した組換え抗体、血清試料、およびQC試料を2%BSAで希釈し、二重に滴定し、ELISAプレート内で室温で1時間インキュベートした。プレートをPBSTで3回洗浄した後、ヤギ抗ヒトIgG Fc-ビオチン(0.0625μg/ml)またはVEGF.his.biotin(1μg/ml)を室温で1時間インキュベートした。検出は、50μlテトラメチルベンジジン(TMB)基質を使用して、HRP結合ストレプトアビジンで行った。反応を50μlの2M HClで停止させ、SpectraMax(登録商標)M5eにより450~540nmで吸光度を測定した。標準曲線は、精製された組換え抗体によって計算した。血清抗体濃度は、標準曲線に基づいてSoftMaxを使用して計算した。データは、Graph-Prismソフトウェア(米国カリフォルニア州ラホーヤ)を使用して3つの独立した結合曲線からフィットした。血清抗体の濃度は、Phoenix WinNonlinソフトウェア(バージョン8.1、Pharsight、カリフォルニア州マウンテンビュー)を使用してノンコンパートメントモデルで分析した。PKのパラメーターは線形対数台形公式(linear log trapezoid rule)であった。結果は平均値および標準偏差(平均値±SD)で表した。その方法をPKワークフローにまとめた。
【0219】
研究における動物の取り扱い、世話、および治療に関連するすべての手順は、実験動物管理評価認定協会(Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care;AAALAC)のガイダンスに従って、Shanghai WuXibiologics Co.,Ltdの施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって承認されたガイドラインに従って実行した。
【0220】
図18に示すように、抗体がマウスにおいて安定であるという同様の結果が3つの検出方法で得られた。表6に示すように、t
1/2は、それぞれ292時間(Fc+Fc)、342時間(Fc+PD-L1)、および356時間(PDL1+VEGF)であった。
【0221】
【0222】
4.2 異種移植された(Exnografted)RKO結腸がん腫瘍モデル
WBP3253のインビボ有効性研究は、NCGメスマウスRKO結腸がん腫瘍モデルで試験された。この研究には、生後8~10週のメスのNCGマウス(Nanjing Galaxy Biopharmaceutical Co.,LTD)を使用した。RKO細胞は、10%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシンを補充したEMEM培地中で、37℃、空気中5%CO2の雰囲気下で単層培養物としてインビトロで維持された。腫瘍細胞は、0.25%トリプシン-EDTA処理により週に2回定期的に継代培養された。対数増殖期で増殖する細胞を採取し、腫瘍接種のために計数した。
【0223】
治療モデルでは、各マウスの右前脇腹に、RKO腫瘍細胞およびcryo PBMCの混合物(200μl PBS中の50%のマトリゲルと混合した2.0×106腫瘍細胞および2.0×106 PBMC)を接種した。接種後6日後に平均腫瘍体積が約137mm3に達したとき、動物をランダムに5つの群に分類し、各群に7匹のマウスを含めた。5つのマウスの群にそれぞれ次の腹腔内注射を投与した: PBS、アバスチン(3mg/kg)、アテゾリズマブ(3mg/kg)、アバスチン+アテゾリズマブ(3mg/kg+3mg/kg)、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320(4.2mg/kg)。腹腔内注射の日を0日目とみなした。すべての腫瘍研究について、マウスの体重を量り、ノギスを使用して週に2回、腫瘍の増殖を測定した。研究における動物の取り扱い、世話、および治療に関連するすべての手順は、実験動物管理評価認定協会(AAALAC)のガイダンスに従って、Shanghai SIPPR-BK Laboratory Animal Co., Ltdの施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって承認されたガイドラインに従って実行した。
【0224】
腫瘍体積は式(1/2(長さ×幅2)で計算された。TGI(腫瘍増殖抑制率;tumor growth inhalation)は以下の式を使用して各群について計算された: TGI(%)=[1-(Ti-T0)/(Vi-V0)]×100。Tiは、特定の日の治療群の平均腫瘍体積である。T0は、治療初日の治療群の平均腫瘍体積である。Viは、Tiと同日のビヒクル対照群の平均腫瘍体積であり(Vi is the average tumor volume of the vehicle control group on the same day with Ti)、V0は、治療初日のビヒクルグループ群の平均腫瘍体積である。体重変化の相対変化(RCBW)は、式[(BWt-BW0)/BW0]×100で計算した。BW0は0日目の平均体重、BWtは測定日の平均体重である。結果は平均値および標準誤差(平均±SEM)で表された。17日目のデータは、Graphpad Prism 6.0を使用した通常の二元配置 分散分析Tukeyの多重比較検定を使用して分析された。そして、p<0.05は、統計的に有意であると見なされた。
【0225】
図19に示すように、各群の他のすべての動物では明らかな体重減少は観察されず、これは動物が各試験物質(test article)に対して耐容性がよいことを示した。
【0226】
図20に示すように、17日目のビヒクル対照群の平均腫瘍体積は2017mm
3であり、これはRKO異種移植結腸がん腫瘍モデルが十分に確立されていることを示した。各群の17日目のTGIは、アバスチンで69.37%、アテゾリズマブで33.42%、アバスチン+アテゾリズマブの併用で78.37%、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320で86.55%であった。ビヒクル対照群と比較して、すべての試験物質は腫瘍増殖の阻害を示した; 2つのモノクローナル抗体と比較して、アバスチン+アテゾリズマブの併用およびW3253二重特異性抗体は、より強力な抗腫瘍効果を示した(p<0.001)。併用と比較して、W3253二重特異性抗体はより強力な抗腫瘍効果を示した(p<0.05)。
【0227】
4.3 ヒトPD1/PD-L1デュアルノックイントランスジェニックマウスモデルにおけるヒトPD-L1ノックインMC38
WBP3253のインビボ有効性研究は、C57BL/6-hPD1/hPDL1メスマウスのヒトPD1/PD-L1デュアルノックイントランスジェニックマウスモデルにおけるMC38/hPD-L1で試験した。生後8~9週のメスのC57BL/6-hPD1/hPD-L1マウス(Nanjing Galaxy Biopharmaceutical Co.,LTD)を研究に使用した。MC38/hPD-L1細胞は、10%ウシ胎児血清、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシンを補充したDMEM培地中で、37℃、空気中5%CO2の雰囲気下で単層培養物としてインビトロで維持された。腫瘍細胞は、0.25%トリプシン-EDTA処理により週に2回定期的に継代培養した。対数増殖期で増殖する細胞を採取し、腫瘍接種のために計数した。
【0228】
治療モデルでは、各マウスの右前脇腹にMC38/hPD-L1腫瘍細胞(100μl PBS中1.0×106腫瘍細胞)を皮下接種した。接種後6日後に平均腫瘍体積が約86mm3に達したとき、動物をランダムに6つの群に分け、各群に8匹のマウスを含めた。6つの群のマウスにそれぞれ次の腹腔内注射を投与した: PBS、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320(13.3mg/kg)、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320(3.9mg/kg)、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320(1.3mg/kg)、アテゾリズマブ(10mg/kg)、アバスチン(10mg/kg)。腹腔内注射の日を0日目とみなした。すべての腫瘍研究で、マウスの体重を量り、ノギスを使用して週に2回腫瘍の増殖を測定した。研究における動物の取り扱い、世話、および治療に関連するすべての手順は、実験動物管理評価認定協会(AAALAC)のガイダンスに従って、Shanghai SIPPR-BK Laboratory Animal Co., Ltdの施設内動物管理使用委員会(IACUC)によって承認されたガイドラインに従って実行した。腫瘍体積は式(1/2(長さ×幅2)で計算された。
【0229】
TGI(腫瘍増殖抑制率;tumor growth inhalation)は、上記のように計算した。結果は平均値および標準誤差(平均±SEM)で表された。30日目のデータは、Graphpad Prism 6.0を使用した通常の二元配置 分散分析Tukeyの多重比較検定を使用して分析された。そして、p<0.05は、統計的に有意であると見なされた。
【0230】
図21に示すように、各群の他のすべての動物では明らかな体重減少は観察されず、これは動物が各試験物質に対して耐容性がよいことを示した。
【0231】
図22に示すように、30日目のビヒクル対照群の平均腫瘍体積は2037mm
3であり、ヒトPD1/PD-L1デュアルノックイントランスジェニックマウスモデルにおけるMC38/hPD-L1が十分に確立されたことを示した。各群の30日目のTGIは、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320 (13.3mg/kg)で78.22%、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320 (3.9mg/kg)で71.06%、W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320 (1.3mg/kg)で30.95%、アテゾリズマブ(10mg/kg)で73.76%、アバスチン(10mg/kg)で52.95%であった。ビヒクル対照群と比較して、すべての試験品物質は腫瘍増殖の阻害を示した。W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320二重特異性抗体は、等モル用量レベルでアテゾリズマブと同等の腫瘍阻害を示す; W3253-U9T2.G17-1.uIgG1V320は用量依存的な腫瘍阻害を示した。
【0232】
当業者はさらに、本開示がその趣旨または中心的属性から逸脱することなく他の特定の形態で具体化され得ることを理解するであろう。本開示の上記の記載は、その例示的な実施形態のみを開示しているという点で、他の変形も本開示の範囲内であると考えられることを理解されたい。したがって、本開示は、本明細書で詳細に記載した特定の実施形態に限定されない。むしろ、本開示の範囲および内容を示すものとして、添付の特許請求の範囲を参照すべきである。
【0233】
参考文献
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[5] Chen DS, Hurwitz H. Combinations of Bevacizumab With Cancer Immunotherapy. Cancer J. 2018 Jul/Aug;24(4):193-204.
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-11-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
VEGF抗原結合部分と結合したPD-L1抗原結合部分を含む、二重特異性抗体またはその抗原結合部分であって、ここで:
PD-L1抗原結合部分は以下を含む:
配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖相補性決定領域(HCDR)1、配列番号2のアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号3のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号4のアミノ酸配列を含む軽鎖相補性決定領域(LCDR)1、配列番号5のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列を含むLCDR3;および
VEGF抗原結合部分は以下を含む:
配列番号7のアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号8のアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号9のアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号10のアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号11のアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号12のアミノ酸配列を含むLCDR3、
二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項2】
前記PD-L1抗原結合部分がscFvであり、前記VEGF抗原結合部分がFabである、請求項1に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分であって、ここで:
PD-L1抗原結合部分は、配列番号13のアミノ酸配列、または配列番号13に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号14のアミノ酸配列、または配列番号14に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み;および/または
VEGF抗原結合部分は、配列番号15のアミノ酸配列、または配列番号15に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、ならびに配列番号16のアミノ酸配列、または配列番号16に対して少なくとも85%、90%、もしくは95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、
二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項4】
PD-L1抗原結合部分がVEGF抗原結合部分のN末端に融合されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項5】
前記PD-L1抗原結合部分が
、リンカーを介して、VEGF抗原結合部分の重鎖のN末端に作動可能に連結されている、請求項4に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項6】
前記リンカーが
1~4コピーのGGGGS(G4S)を含むか、またはそれらからなるペプチドリンカーで
ある、請求項5に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項7】
重鎖および軽鎖を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分であって、ここで:
重鎖は、N末端からC末端まで、scFv-VH-CH1-ヒンジ-Fcと同様に作動可能に連結されたドメインを含み、ここでscFvはPD-L1抗原結合部分に由来し、VH-CH1はPD-L1抗原結合部分に由来する;および
軽鎖は、N末端からC末端まで、VL-CLと同様に作動可能に連結されたドメインを含み、ここでVL-CLはVEGF抗原結合部分に由来する、
二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項8】
前記Fc領域がヒトIgG Fc領
域である、請求項7に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項9】
前記Fc領域がヒトIgG1 Fc領域またはそのバリアントである、請求項8に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項10】
前記Fc領域が、EUナンバリングによる(according to EU numbering)L234AおよびL235A置換を含む、請求項7または8に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項11】
前記重鎖が配列番号17を含み、前記軽鎖が配列番号18を含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分をコードする核酸配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項13】
前記核酸配列が配列番号19および/または配列番号20を含む、請求項12に記載の単離された核酸分子。
【請求項14】
請求項12または13に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項15】
請求項12に記載の核酸分子または請求項14に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分を産生する方法であって、以下の工程を含む方法:
- 二重特異性抗体またはその抗原結合部分をコードする核酸配列を含む宿主細胞を適切な条件下で培養する工程;および
- 二重特異性抗体またはその抗原結合部分を宿主細胞から単離する工程。
【請求項18】
i) PD-L1および/またはVEGFに関連している免疫応答の調
節;
ii) T細胞の増殖およびサイトカイン産生の増
強;および/または
iii) がん細胞に対する免疫応答の増
強
のするための、請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項19】
対象におけるがんの診断、治療、または予防
のための、請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分
であって、ここで該がんはPD-L1および/またはVEGFに関連している、二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項20】
前記がんが結腸がんまたは結腸直腸がんである、請求項19に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項21】
前記二重特異性抗体またはその抗原結合部分が、化学療法剤、放射線および/またはがん免疫療法で使用するための他の薬剤と組み合わせて投与される、請求項19に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分。
【請求項22】
請求項1~11のいずれか一項に記載の二重特異性抗体またはその抗原結合部分を含むキット。
【国際調査報告】