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特表2024-513221糖脂質を単離及び/又は精製する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】糖脂質を単離及び/又は精製する方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 13/04 20060101AFI20240314BHJP
   C07H 1/08 20060101ALI20240314BHJP
   C07H 15/02 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C07H13/04
C07H1/08
C07H15/02
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023560983
(86)(22)【出願日】2021-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2021058367
(87)【国際公開番号】W WO2022207086
(87)【国際公開日】2022-10-06
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523373739
【氏名又は名称】アンフィスター ビーブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【弁理士】
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】メス,カロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ローランツ,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】ソエタート,ヴィム
(72)【発明者】
【氏名】ルダン,エミール
(72)【発明者】
【氏名】エヴェラート,ベルント
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA11
4C057BB02
4C057BB03
4C057DD01
4C057DD02
4C057JJ01
4C057JJ21
(57)【要約】
本発明は、糖脂質含有組成物から糖脂質を単離及び/又は精製する方法に関するものであり、上記方法は、プロセス装置に吸着剤を供給する工程であって、上記吸着剤はポリマー樹脂である、工程と、糖脂質含有組成物と吸着剤とを接触させて、ポリマー樹脂に負荷物質を負荷させる工程であって、上記負荷物質は少なくとも或る量の糖脂質を含む、工程と、吸着剤を処理して、吸着剤に負荷された負荷物質内に存在する予め決められた所望の種類の糖脂質を回収する工程であって、上記処理は、吸着剤と予め選択された回収液とを接触させて、吸着剤上の負荷物質から予め決められた所望の種類の糖脂質を回収することを含む、工程と、回収された予め決められた所望の種類の糖脂質をプロセス装置から取得する工程とを含む。上記方法を、例えば食品産業若しくは飲料産業、又は化粧品産業若しくは医薬品産業における生物系界面活性剤の効率的な精製方法として使用することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖脂質含有組成物(IM)から糖脂質(GL)を単離及び/又は精製する方法であって、
プロセス装置(100)に吸着剤(R)を供給する工程であって、
前記吸着剤はポリマー樹脂である、工程と、
前記糖脂質含有組成物と前記吸着剤とを接触させて、前記ポリマー樹脂に負荷物質(LM)を負荷させる工程であって、
前記負荷物質は少なくとも或る量の糖脂質(LM1)を含む、工程と、
前記吸着剤を処理して、予め決められた所望の種類の糖脂質(PLM1)を回収する工程であって、
前記処理は、前記吸着剤と予め選択された回収液(RL)とを接触させて、前記吸着剤上の前記負荷物質から前記予め決められた所望の種類の糖脂質を回収することを含む、工程と、
回収された前記予め決められた所望の種類の糖脂質(PLM1)を前記プロセス装置から取得する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記方法は、
前記吸着剤を洗浄液(WL)で洗浄して、少なくとも非負荷物質(NLM)を前記吸着剤から分離する工程、
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記処理工程は、
前記吸着剤と1種以上の処理液(TL)とを接触させて、少なくとも或る量の糖脂質(LM1)を改質する及び/又は前記吸着剤(R)から1種以上の二次成分(NPLM2)を除去する工程、
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記1種以上の処理液(TL)は、極性溶剤、非極性溶剤、アルカリ性溶剤、酸性溶剤、中性溶剤、又はそれらの組合せから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記1種以上の処理液(TL)は、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、KOH、NaOH、NH4OH、水、RO水、又はそれらの組合せから選択される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記予め選択された回収液(RL)は、イオン液体、液体二酸化炭素、超臨界溶剤、酢酸エチル、メタノール、イソプロパノール、アセトン、エタノール、ヘプタン、tert-ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、アセトニトリル、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ヒドロシンナミルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジメチルイソソルビド、サリチル酸メチル、オイゲノール、リナロール、ヘキサノール、氷酢酸、ジメチルカーボネート、ジプロピレングリコールメチルエーテル及び1-プロポキシ2-プロパノール等の或る特定のグリコールエーテル、並びに乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸アミル、乳酸エチルヘキシルを含む乳酸エステル、又はそれらの組合せを含む群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記糖脂質(GL)は、グリコシル化脂肪酸、グリコシル化脂肪アルコール、グリコシル化カロテノイド、グリコシル化ホパノイド、グリコシル化ステロール、グリコシル化パラコン酸、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、リポ多糖、フェノール性糖脂質、糖ペプチド脂質、ヌクレオシド脂質を含む群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記糖脂質(GL)は、ソホロ脂質、ラムノ脂質、セロビオース脂質、キシロ脂質、トレハロース脂質、マンノシルエリスリトール脂質、グルコリピド、脂肪アルコールグルコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルソホロシド、(アニオン性)アルキルグルコシド、(アニオン性)アルキルペントシド、ショ糖エステル、ソルビタンエステル、メチルグルコシドエステル、脂肪酸メチルグルカミド、オリゴ糖脂肪アルコールを含む群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記糖脂質(GL)は、アセチル化形態又は非アセチル化形態の酸性型ソホロ脂質(ASL)、ラクトン型ソホロ脂質(LSL)から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記糖脂質(GL)は、アセチル化形態又は非アセチル化形態のボラ型ソホロ脂質(BSL)、ボラ型ソホロシド(BSS)、アルキルソホロシド(ASS)、アルコールグルコシド(AGS)、ショ糖エステル(SE)、ボラ型グルコシド(BGS)、アルキルグルコシド(ALGS)、グルコリピド、又はそれらの組合せから選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記処理工程は、
前記吸着剤(R)と第1の濃度c1の処理液を含む処理溶液(TS2)とを接触させることと、
前記吸着剤(R)と第2の濃度c2の回収液を含む回収溶液(RS2)とを接触させることと、
を含み、ここで、
前記第1の濃度c1は、前記負荷物質内の糖脂質(LM1)の本質的に全てが前記吸着剤から除去されないような濃度であり、かつ、
前記第2の濃度c2は、前記負荷物質内の糖脂質(LM1)の本質的に全てが前記吸着剤から除去されるような濃度である、請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記処理液(TL2)及び前記回収液(RL2)はどちらも、極性溶剤、非極性溶剤、アルカリ性溶剤、酸性溶剤、中性溶剤、又はそれらの組合せのうちの1つである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記吸着剤(R)から、負荷された及び/又は負荷されていない1種以上の二次成分(NPLM2)の第1の画分(F1)を除去するための、請求項10又は12に記載の方法の使用であって、第1の画分が、タンパク質、色素等のような不純物から選択される、使用。
【請求項14】
前記処理工程は、
前記吸着剤(R)と第1の処理液(TL1)、好ましくはアルカリ性試薬とを接触させて、前記吸着剤に負荷された前記糖脂質(GL)を少なくとも部分的に改質すること、
を含む、請求項3~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
アセチル化糖脂質を非アセチル化糖脂質に転化させるための、請求項14に記載の方法の使用。
【請求項16】
アセチル化ラクトン型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化ラクトン型ソホロ脂質(LSL)をアセチル化酸性型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化酸性型ソホロ脂質(ASL)に転化させるための、請求項14に記載の方法の使用。
【請求項17】
アセチル化ボラ型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化ボラ型ソホロ脂質(BSL)をアセチル化酸性型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化酸性型ソホロ脂質(ASL)及びアセチル化ソホロース及び/又は非アセチル化ソホロースに転化させるための、請求項14に記載の方法の使用。
【請求項18】
前記処理工程は、
前記吸着剤(R)と第2の処理液(TL2)、好ましくは非極性溶剤、より好ましくは非極性有機溶剤とを接触させて、前記負荷物質から前記1種以上の二次成分の第2の画分(F2)を除去すること、
を含み、ここで、
前記第2の画分は、遊離脂肪酸、脂肪アルコール、トリアシルグリセリド、ジカルボン酸、ジオール、アルカン、及び/又は油等の非極性成分から選択される、請求項1~12及び14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の処理液(TL2)は、ヘキサン、ヘプタン、又はメチルtert-ブチルエーテルから選択される、請求項1~12、14及び18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記処理工程は、
前記吸着剤(R)と第3の処理液(TL3)、好ましくは極性溶剤とを接触させて、前記負荷物質から前記1種以上の二次成分の第3の画分(F3)を除去すること、
を含み、ここで、
前記第3の画分は、糖、タンパク質、ペプチド、ポリオール、有機酸、無機酸、炭水化物、塩等のような親水性不純物から選択される、請求項1~12、14、18及び19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリマー樹脂は、ポリメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、又はそれらの組合せを含む群から選択され、特にスチレン-ジビニルベンゼン、ポリメタクリレート、化学的に臭素化されたポリスチレン、アクリル酸エステル、ポリスチレン、架橋ポリスチレン、メタクリル、多孔質ポリスチレン-ジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン、アクリル酸エステル、ポリメタクリレート、化学的に臭素化されたポリスチレンから選択される、請求項1~12、14及び18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリマー樹脂は、中性樹脂である、請求項1~12、14及び18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記プロセス装置は、投入流(S1)及び排出流(S2)を備え、かつ前記洗浄工程は、排出流のパラメーターが投入流のパラメーターの予め決められた範囲内となるまで、前記投入流を介して前記洗浄液(WL)を前記プロセス装置に投入することによって実施される、請求項2並びに請求項3~12、14及び18~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記プロセス装置は、投入流(S1)及び排出流(S2)を備え、かつ前記処理工程は、排出流のパラメーターが投入流のパラメーターの予め決められた範囲内となるまで、前記投入流を介して前記処理液(TL)を前記プロセス装置に投入することによって実施される、請求項3並びに請求項4~12、14及び18~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記パラメーターは、導電率、屈折率、pH、タンパク質含有量、糖含有量、試験スワブ値、又はそれらの組合せから選択される、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記回収液(RL)を蒸発させる工程と、
存在する場合には前記処理液(TL)を蒸発させる工程と、
を更に含む、請求項1~12、14及び18~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
回収液(RL)、処理液(TL)、及び任意に洗浄液(WL)のうちの少なくとも1つを再循環すること、
を更に含む、請求項1~12、14及び18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記糖脂質含有組成物は、植物抽出物、又は発酵的製造方法、酵素的製造方法、若しくは化学的製造方法の最終生成物である、請求項1~12、14及び18~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記方法を、発酵方法と組み合わせて、好ましくはin-situでの生成物回収設備における発酵方法と組み合わせて実施する、請求項1~12、14及び18~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記方法を、回分方式、連続方式、又は半連続方式で実施する、請求項1~12、14及び18~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記糖脂質含有組成物を、前記吸着剤を含む反応器に通す、請求項1~12、14及び18~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記糖脂質含有組成物を、前記ポリマー吸着剤で充填されたカラムに通す、請求項1~12、14及び18~31のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖脂質含有組成物から糖脂質を単離及び/又は精製する方法に関する。上記方法を、例えば食品産業、飼料産業、若しくは飲料産業、又は化粧品産業、洗剤産業、工業的産業、及び/又は医薬品産業における生物系界面活性剤についての効率的な精製方法として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
糖脂質等の生物系界面活性剤には大きな市場潜在性があるが、それらの大量用途での成功は、経済的な限界及び純度の要求によって制限されている。下流の処理には、高収率、拡張可能性、経済的実現可能性が不可欠であるが、特定の用途では間違いなく純度が重要な側面となる。したがって、生物工学的生成物の製造コストの大部分は一般に下流の処理コスト及び生成物損失によるものである。
【0003】
生物系界面活性剤の下流の処理における主要な問題点は、生物系界面活性剤を含む混合物の複雑さである。生物系界面活性剤が発酵、生体触媒作用、植物バイオマス、又は化学合成によって製造されるかどうかに応じて、複雑な混合物中に様々な種類の不純物が存在することになる。これらの混合物は、微生物細胞、タンパク質、酵素、塩、イオン、ペプチド、炭水化物、脂肪アルコール、ジオール、脂肪酸、油脂、不所望な生物系界面活性剤の副生成物又は前駆体等を含み得る。タンパク質、ペプチド、酵素は、これらが最終生成物中に残留するとアレルギー反応を引き起こす可能性があり、遺伝子改変された微生物も有毒な触媒も最終生成物において検出されるべきではない。また、親油性化合物は最終生成物中に残留すべきではないが、生物系界面活性剤等の両親媒性化合物を最終混合物中に典型的に存在する親油性化合物から分離することは困難であることがよく知られている。それというのも、親油性化合物は、生物系界面活性剤の製造に対する基質として使用されることが多く、しばしば過剰に添加されるからである。不純物、例えば親水性夾雑物対疎水性夾雑物の種類が様々であると、多くの場合、精製方法において様々なプロセス装置が必要となるため、生物系界面活性剤の全体的な精製が遅くなり、費用がかかり、プロセス装置間で生成物損失が発生する可能性がある。
【0004】
必要とされる純度は対象生成物の用途によって異なる。医薬品用途、食品用途、及び化粧品用途には格段な純度が必要とされるのに対し、(工業用)洗剤、環境修復、及び農業等の用途分野はそれほど厳格な要件を有しない場合がある。殆どの場合、アレルギー反応を引き起こし得る可能性がある細胞、DNA及びRNA等の細胞破片、並びにタンパク質/ペプチドを全て除去することが必須である。用途によっては、糖脂質の混合物を分離し、特定の糖脂質コンジナーを精製することさえ不可欠である場合もある。糖脂質等の生物系界面活性剤の既存の適用される精製方法は、多くの場合、沈殿、融解、洗浄、溶剤抽出、膜濾過、泡沫分離、結晶化、イオン交換等の技術及び方法を組み合わせたものである。しかしながら、そのような精製方法は様々な処理装置及び処理工程を必要とすることから、各工程において生成物損失が引き起こされる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の課題は、予め選択された最終生成物の純度及び高い回収率/収率を達成しながら、資源を効率的に使用して、時間的及び空間的に効率良く、様々な種類の混合物から糖脂質を単離する技術を提供することである。
【0006】
それ故、本発明は請求項1に記載の方法、より特には、糖脂質含有組成物から糖脂質を単離及び/又は精製する方法を提供し、上記方法は、プロセス装置に吸着剤Rを供給する工程であって、上記吸着剤はポリマー樹脂である、工程と、糖脂質含有組成物と吸着剤とを接触させて、ポリマー樹脂に負荷物質LMを負荷させる工程であって、上記負荷物質は少なくとも或る量の糖脂質LM1を含む、工程と、吸着剤を処理して、予め決められた所望の種類の糖脂質PLM1を回収する工程であって、上記処理は、吸着剤と予め選択された回収液RLとを接触させて、吸着剤上の負荷物質から予め決められた所望の種類の糖脂質を回収することを含む、工程と、回収された予め決められた所望の種類の糖脂質PLM1をプロセス装置から取得する工程とを含む。
【0007】
本発明は、適切に設計されたプロセス装置を使用することによって、予め決められた種類の糖脂質を選択し、プロセス装置に添加される複雑な混合物から上記の種類の糖脂質を単離及び/又は精製することができるという洞察に基づいている。ポリマー樹脂が、プロセス装置に供給される混合物から或る特定の種類の成分及び少なくとも或る量の糖脂質を吸着することができることが判明した。ポリマー樹脂の吸着能力により、上記成分は吸着剤に負荷され、ポリマー樹脂上に負荷物質を形成する。その後、負荷物質が吸着された吸着剤を予め選択された回収液で処理することにより、吸着剤に負荷された物質から予め決められた所望の種類の糖脂質を回収することができる。このように、プロセス装置に供給される混合物から所望の種類の糖脂質を取得することができ、こうして、追加の下流の処理工程を殆ど又は全く伴わずに高い純度及び回収率を達成することができる。このように、生成物損失が大幅に少なくなり、高い純度を得ることができ、これは、低い最終回収率/収率のため最適状態に及ばない経済性をもたらす、扱いづらく、時間がかかり、資源を大量に消費する追加の処理精製工程を必要とすることなく、殆どの用途に適している。
【0008】
上記方法は、吸着剤を洗浄液WLで洗浄して、吸着剤から少なくとも非負荷物質NLMを分離する工程を更に含むことが好ましい。洗浄液を使用することにより、非負荷物質を吸着剤から除去することができることが判明した。
【0009】
洗浄液は、非負荷物質NLMをプロセス装置から除去するのに使用される液体として理解され得る。すなわち、非負荷物質は吸着剤に吸着されておらず、例示的な洗浄液はRO水であるが、またプロセス装置から非負荷物質を除去することができる1種以上の洗浄液を含む溶液からなる場合もある。
【0010】
回収液は、物質を吸着剤から脱着させる及び/又は除去するのに使用される液体として理解され得る。回収液は典型的には、所望の糖脂質を脱着させ、回収するのに使用される。回収液は、単一の液体成分からなり得るか、又は吸着剤から物質を脱着させる及び/又は除去することができる1種以上の回収液を含む溶液からなり得る。
【0011】
処理液は、吸着剤に吸着されるタンパク質、色素、脂肪酸、塩、糖、細胞等の二次成分の或る特定の画分を吸着剤から除去し得るように吸着剤を処理するのに使用される液体として、及び/又は例えば負荷物質を部分加水分解することによって、若しくは例えば負荷物質に対してグリコシル化等の特定の化学的改質(複数の場合もある)を行うことによって負荷物質を改質するのに使用される処理液として理解され得る。処理液は、単一の液体成分からなり得るか、又は負荷物質を改質する及び/又は吸着剤から物質を除去することができる1種以上の処理液を含む溶液からなり得る。
【0012】
本明細書に記載される負荷容量は、吸着剤に結合する所望の種類の糖脂質等の対象成分の量を吸着剤の総量により割ったものとして理解され得る。上記量は典型的には、質量%によって、例えばポリマー樹脂に吸着された所望の糖脂質のkgをポリマー樹脂の質量(kg)により割ったものによって表される。
【0013】
生成物純度は、所望の種類の糖脂質等の対象成分の量を最終生成物中に存在する成分の総量により割ったものとして理解され得る。生成物純度は典型的には、質量%として表される。
【0014】
本出願全体を通じて、負荷物質及び非負荷物質について言及する。本発明の文脈内では、負荷物質は吸着剤に吸着する物質である。対照的に、非負荷物質は吸収剤に吸着していない。
【0015】
好ましくは、処理工程は、吸着剤と1種以上の処理液TLとを接触させて、吸着剤に負荷された少なくとも或る量の糖脂質を改質する及び/又は吸着剤から1種以上の二次成分NPLM2を除去する工程を更に含む。このように、上記二次成分を除去し、所望の種類の糖脂質を精製することができ、及び/又は吸着剤に負荷された少なくとも或る量の糖脂質を改質することによって、負荷物質を所望の種類の糖脂質に転化させることができる。場合によっては、洗浄液と処理液とを混合し、例えばRO水とイソプロパノールとを混合し、こうして二次成分と非負荷物質とを一度に除去することができる。好ましくは、1種以上の処理液TLは、極性溶剤、非極性溶剤、アルカリ性溶剤、酸性溶剤、中性溶剤、又はそれらの組合せから選択される。より具体的には、1種以上の処理液TLは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、KOH、NaOH、NH4OH、水、RO水、又はそれらの組合せから選択されることが好ましい。処理液を選択することによって、本明細書において更に説明されるように予め規定された様式で、吸着剤上の負荷物質を処理し、上記負荷物質を取り扱うことができる。
【0016】
予め選択された回収液RLは、イオン液体、液体二酸化炭素、超臨界溶剤、酢酸エチル、メタノール、イソプロパノール、アセトン、エタノール、ヘプタン、tert-ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、アセトニトリル、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ヒドロシンナミルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジメチルイソソルビド、サリチル酸メチル、オイゲノール、リナロール、ヘキサノール、氷酢酸、ジメチルカーボネート、ジプロピレングリコールメチルエーテル及び1-プロポキシ2-プロパノール等の或る特定のグリコールエーテル、並びに乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸アミル、乳酸エチルヘキシルを含む乳酸エステル、又はそれらの組合せを含む群から選択されることが好ましい。上記液体は、吸着剤から予め決められた種類の糖脂質を除去する所望の能力を有することが判明しているか、又はその能力を有すると予想されている。好ましくは、糖脂質GLは、グリコシル化脂肪酸、グリコシル化脂肪アルコール、グリコシル化カロテノイド、グリコシル化ホパノイド、グリコシル化ステロール、グリコシル化パラコン酸、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、リポ多糖、フェノール性糖脂質、糖ペプチド脂質、ヌクレオシド脂質を含む群から選択される。
【0017】
一実施の形態において、糖脂質GLは、ソホロ脂質、ラムノ脂質、セロビオース脂質、キシロ脂質、トレハロース脂質、マンノシルエリスリトール脂質、グルコリピド、脂肪アルコールグルコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルソホロシド、(アニオン性)アルキルグルコシド、(アニオン性)アルキルペントシド、ショ糖エステル、ソルビタンエステル、メチルグルコシドエステル、脂肪酸メチルグルカミド、オリゴ糖脂肪アルコールを含む群から選択される。
【0018】
一実施の形態において、糖脂質GLは、アセチル化形態及び/又は非アセチル化形態の酸性型ソホロ脂質(ASL)、ラクトン型ソホロ脂質(LSL)から選択される。
【0019】
好ましい実施の形態において、糖脂質GLは、アセチル化形態及び/又は非アセチル化形態のボラ型ソホロ脂質(BSL)、ボラ型ソホロシド(BSS)、アルキルソホロシド(ASS)、アルコールグルコシド(AGS)、ボラ型ソホロシド(BSS)、ショ糖エステル(SE)、ボラ型グルコシド(BGS)、アルキルグルコシド(ALGS)、グルコリピド、又はそれらの組合せから選択される。
【0020】
本発明の一実施の形態において、処理工程は、吸着剤Rと第1の濃度c1の処理液を含む処理溶液TS2とを接触させることと、吸着剤Rと第2の濃度c2の回収液を含む回収溶液RS2とを接触させることとを含み、ここで、第1の濃度c1は、負荷物質内の糖脂質LM1の本質的に全てが吸着剤から除去されないような濃度であり、かつ、第2の濃度c2は、負荷物質内の糖脂質LM1の本質的に全てが吸着剤から除去されるような濃度である。このように、最初に吸着剤を処理して、所望の糖脂質とは異なる他の成分を除去した後に、回収液を用いて所望の糖脂質を回収することができる。幾つかの実施の形態において、処理液と回収液とは同じであってもよい。上記の場合、すなわち本発明において、処理工程は、吸着剤と第1の濃度c1の処理液を含む処理溶液とを接触させることと、吸着剤と第2の濃度c2の回収液を含む回収溶液とを接触させることとを含み、ここで、処理液のc1が、負荷物質内の糖脂質が吸着剤から効率的に除去されないほど十分に低く、回収液のc2が、負荷物質内の糖脂質を吸着剤から効率的に除去するのに十分に高いように、第1の濃度は第2の濃度よりも低い。回収液の濃度を選択することによって、或る特定の二次成分を選択し、より低い濃度c1を使用する回収溶液を用いて吸着剤から除去することができ、ここで、上記のより低い濃度では、吸着剤から実質的な量の所望の糖脂質は溶出されない。このように、特定のタンパク質及び色素等の不純物を除去することができるため、所望の糖脂質は主として吸着剤上に精製された状態で残留する。次いで、上記精製された所望の糖脂質をより高い濃度c2を有する回収液によって取得することができる。処理液と回収液とが同じである好ましい実施の形態において、不純物は45%未満の濃度、より好ましくは10%から35%の間の濃度、最も好ましくは15%~30%の範囲内の濃度を有する回収液を用いて除去される。好ましくは、回収液はRO水で希釈されたイソプロパノールを含む。
【0021】
本発明の一実施の形態において、処理液及び回収液はどちらも、極性溶剤、非極性溶剤、アルカリ性溶剤、酸性溶剤、中性溶剤、又はそれらの組合せのうちの1つである。
【0022】
本発明の一態様において、上記方法は、吸着剤から負荷された及び/又は負荷されていない1種以上の二次成分の第1の画分を除去するのに使用され、ここで、上記第1の画分は、タンパク質、色素等のような不純物、又は不所望な種類の糖脂質から選択される。このように、典型的には不純物又は他の種類の糖脂質である上記1種以上の二次成分が所望の糖脂質から除去される。
【0023】
本発明の一実施の形態において、処理工程は、吸着剤と第1の処理液、好ましくはアルカリ性試薬とを接触させて、吸着剤に負荷された或る量の糖脂質を少なくとも部分的に加水分解する/転化させることを含む。このように、例えばエステル官能基を含む糖脂質等の或る特定の種類の糖脂質を、エステル官能基の部分加水分解によって所望の種類の糖脂質へと転化させることができる。したがって、転化により、所望の種類の糖脂質を作製又は精製することができる。本発明の一態様において、本発明による方法を使用して、アセチル化糖脂質を非アセチル化糖脂質に転化させることができる。別の態様において、アセチル化ラクトン型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化ラクトン型ソホロ脂質をアセチル化酸性型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化酸性型ソホロ脂質に転化させる方法を使用することができる。別の態様において、アセチル化ボラ型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化ボラ型ソホロ脂質をアセチル化酸性型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化酸性型ソホロ脂質並びにアセチル化ソホロース及び/又は非アセチル化ソホロースに転化させる方法を使用することができる。
【0024】
本発明の一実施の形態において、処理工程は、吸着剤と第2の処理液、好ましくは非極性溶剤、より好ましくは非極性有機溶剤とを接触させて、負荷物質から1種以上の二次成分の第2の画分を除去することを含み、ここで、上記第2の画分は、遊離脂肪酸、脂肪アルコール、アルカン、及び/又は油等のような非極性成分から選択される。好ましくは、処理液はヘキサン、ヘプタン、又はメチルtert-ブチルエーテルから選択される。好ましくは、処理液はヘキサン又はヘプタンから選択される。第2の処理液を更にメタノール、ブタノール、水、イソプロパノール、又はそれらの組合せ等の極性溶剤と混合してもよい。上記第2の処理液を使用することによって、第2の画分を除去することができるため、吸着剤に負荷された所望の糖脂質が精製される。
【0025】
本発明の一実施の形態において、処理工程は、吸着剤と第3の処理液、好ましくは極性溶剤とを接触させて、負荷物質から1種以上の二次成分の第3の画分を除去することを含み、ここで、上記第3の画分は、糖、タンパク質、炭水化物、塩等のような親水性不純物から選択される。上記第3の処理液を使用することによって、第3の画分を除去することができるため、吸着剤に負荷された所望の糖脂質が精製され得る。
【0026】
上述の処理工程のそれぞれを、単独で又は上記処理工程の1つ以上と組み合わせて実施することができる。好ましい実施の形態において、全ての処理工程を実施する。上記第1の処理液、上記第2の処理液、及び上記第3の処理液を選択することによって、プロセス装置に供給される混合物から或る特定の画分を選択的に除去することができるだけでなく、吸着剤上の負荷物質から或る特定の画分を除去することができる。このように、プロセス装置を使用して、更なる精製工程に依存する必要なくして、所望の糖脂質を、好ましくは90%を超える、更により好ましくは93%を超える範囲内の高い純度まで単離及び/又は精製することができる。
【0027】
本発明の一実施の形態において、吸着剤は中性ポリマー樹脂である。このように、疎水性相互作用により、所望の糖脂質が中性ポリマー樹脂に結合する。中性ポリマー樹脂の全体的な電荷は中性であり、所望の糖脂質をポリマー樹脂に結合させるのにイオン交換は必要とされない。所望の糖脂質の疎水性相互作用又は親和性を温度変化によって変化させることができる。好ましくは、吸着剤はポリマー樹脂であり、ポリメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、又はそれらの組合せを含む群から選択され、特に、スチレン-ジビニルベンゼン、ポリメタクリレート、化学的に臭素化されたポリスチレン、アクリル酸エステル、ポリスチレン、架橋ポリスチレン、メタクリル(Methacrylic)、多孔質ポリスチレン-ジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン、アクリル酸エステル、ポリメタクリレート、化学的に臭素化されたポリスチレンから選択される。上記選択された樹脂は、接触時に少なくとも或る量の糖脂質がポリマー樹脂に結合するような糖脂質との所望の親和性を有することが判明した。高い親和性により、高い負荷容量を達成することができる。
【0028】
本発明の一実施の形態において、プロセス装置は、投入流S1及び排出流S2を備え、洗浄工程は、排出流のパラメーターが投入流のパラメーターの予め決められた範囲内となるまで、上記投入流を介して洗浄液WLをプロセス装置に投入することによって実施されることが好ましい。一実施の形態において、処理工程は、排出流のパラメーターが投入流のパラメーターの予め決められた範囲内となるまで、上記投入流を介して処理液TLをプロセス装置に投入することによって実施される。例えば、RO水を投入して、糖、タンパク質、ペプチド、ポリオール、有機酸、無機酸、炭水化物、塩等の親水性不純物を除去する。一実施の形態において、上記パラメーターは、導電率、屈折率、pH、タンパク質含有量、糖含有量、試験スワブ値(test-swab values)、又はそれらの組合せから選択される。当然、例えば導電率を考慮する場合、排出流の導電率が投入流の導電率の150%よりも低い値に達するまで、洗浄工程又は処理工程を実施する。
【0029】
本発明の一実施の形態において、上記方法は、回収液を蒸発させる工程と、存在する場合には処理液を蒸発させる工程とを更に含む。吸着剤から所望の種類の糖脂質を回収するのに使用した回収液及び/又は処理液を蒸発させることによって、上記回収液及び/又は処理液を除去することができ、好ましくは再利用することができる。このように、所望の糖脂質を高純度の形態で得ることができる。98質量%を超える純度を達成することができることが判明した。本発明の一実施の形態において、上記方法は、回収液RL、処理液TL、及び任意に洗浄液WLのうちの少なくとも1つを再循環する工程を含む。実際の試験により、回収液及び/又は処理液、及び任意に洗浄液を再循環することによって、資源を更に効率的に使用することができることが明らかになった。
【0030】
回収液RL、処理液TL、及び任意に洗浄液WLのうちの少なくとも1つを再循環することが好ましい。このように、資源の効率的な使用を改善することができる。
【0031】
一実施の形態において、糖脂質含有組成物は、植物抽出物、又は発酵的製造方法、酵素的製造方法、植物バイオマス製造方法、若しくは化学的製造方法の最終生成物である。一実施の形態において、上記方法を、発酵方法と組み合わせて、好ましくはin-situでの生成物回収設備における発酵方法と組み合わせて実施する。
【0032】
一実施の形態によれば、上記方法は回分方式、連続方式、又は半連続方式で実施される。連続方式又は半連続方式が好ましい。
【0033】
一実施の形態によれば、糖脂質含有組成物を、吸着剤を含む反応器に通す。
【0034】
一実施の形態によれば、糖脂質含有組成物を、ポリマー吸着剤で充填されたカラムに通す。
【0035】
ここで図を具体的に参照すると、示される詳細は、例としてであり、本発明の異なる実施の形態の例証的な論考のみを目的としたものであることが強調される。それらは、本発明の原理及び概念的側面の最も有用かつ容易な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点に関して、本発明の基本的な理解のために必要であるよりも詳細に本発明の構造的な詳細を示す試みはなされていない。説明は、図面と共に、本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化され得るかを当業者に明らかにするものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】上記方法の工程を含むフローチャートを示す図である。
図2】上記方法の例示的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本出願は、糖脂質含有組成物から糖脂質を単離する方法に関する。典型的には、上記組成物は生物起源に由来する。上記方法は、請求項1に記載の工程に基づいており、この方法を以下で更に説明する。
【0038】
単離された糖脂質を生物系界面活性剤として使用することができ、単離された糖脂質は典型的には化石由来である古典的な対応物と比較して穏やかな製造条件、より低い毒性、より高い生分解性並びに皮膚適合性及び環境適合性、(完全な)生物由来の性質等のような独特の特性を示す。特に微生物性の生物系界面活性剤は幾つかの利点を有する。それというのも、これらは、局地的な(廃棄)バイオマス流から製造され得るため、明らかな問題を伴う熱帯(例えば、パーム油)資源及び/又は化石資源への依存が避けられるからである。これらの数多くの利点により、食品産業、農薬産業、化粧品産業、及び医薬品産業だけでなく、環境保護及びエネルギー削減技術における応用も同様に促されている。生物系界面活性剤には大きな市場潜在性があるが、それらの大量用途での成功は、経済的及び技術的な限界並びに一部の市場での厳格な純度の要求によって制限されている。上流の処理において、安価な原材料の選択的かつ効率的な(基質に対する高い収率)転化及び高い生産性が必要とされる。下流の処理では、高い収率(回収率)が不可欠である。多くの用途において、所望の糖脂質の純度が重要であり、アレルゲン等の二次成分が除去されるべきである。多くの場合に、生物工学的生成物の製造コストの大部分は下流の処理コスト及び対応する生成物損失によるものである場合がある。
【0039】
生物系界面活性剤の下流の処理における一部の主要な問題点は、多くの場合比較的低い所望の生成物濃度を含む混合物の複雑さに関連している。生物系界面活性剤が発酵、生体触媒作用、植物バイオマスを通じて、又は化学合成によって製造されるかどうかに応じて、混合物中に様々な不純物が存在することになる。様々な製造方法では一般に、糖脂質構造物を製造するのに、親水性基質(例えば、グリセロール、グリコース(glycose)、ショ糖等)だけでなく疎水性基質(例えば、アルカン、脂肪酸、トリアシルグリセリド、脂肪アルコール等)も必要とされる。発酵の製造方法等の一部の生化学的製造方法では、親水性基質及び疎水性基質の両方を供給することは厳密には必要とされないが、これらの基質を組み合わせると、一般により高い生産性が得られるため、これは好ましい選択肢である。
【0040】
発酵ブロスは基質、細胞、塩、炭水化物、ポリオール、タンパク質、ペプチド、並びに細胞内代謝産物及び細胞外代謝産物等を含む場合があるため、発酵の製造方法では、典型的には複雑な混合物が生ずる。疎水性基質、例えば油及び脂肪酸は、製造された生物系界面活性剤によってブロス中に可溶化されることが多い。
【0041】
したがって、生物系界面活性剤の処理における主要な問題点は、しばしば比較的低い生成物濃度を含む混合物の複雑さ、及び上記混合物中に無数の不純物が存在することにある。あらゆる細胞、破片、DNA、RNA、及びタンパク質等の不純物を除去する必要がある。これは、特に、タンパク質、ペプチド、又は酵素、及びGM生物に由来する可能性のあるDNA/RNAによって引き起こされるアレルギー反応の可能性があるためである。これまで、クロマトグラフィー及び/又は吸着等の特定の単離技術は、非常に非効率な方法、樹脂の低い吸着能力、機器のサイズ、並びに多額の投資コスト及び運用コストのため、多くの場合、大抵は研究開発実験室設備における低濃度の生物系界面活性剤含有混合物の単離及び精製に限定されていた。
【0042】
従来技術の吸着剤の低い吸着能力、及び混合物中の生物系界面活性剤と他の成分との間の分離能力の欠如、樹脂の高いコスト、並びに必要な機器の大きなサイズにより、吸着が殆どの用途に不適となることが当該技術分野において頻繁に述べられている。さらに、アセチル化形態又は非アセチル化形態のボラ型ソホロ脂質(BSL)、ボラ型ソホロシド(BSS)、アルキルソホロシド(ASS)、アルコールグルコシド(AGS)、ショ糖エステル(SE)、ボラ型グルコシド(BGS)、アルキルグルコシド(ALGS)、グルコリピド等の(発酵により製造された)糖脂質を精製する精製方法としての吸着の使用は報告されていない。
【0043】
本発明により、発明者らは、糖脂質を含む混合物から糖脂質を単離して、高回収率で高純度の生成物を得ることにより、アレルギー反応のリスクを最小限に抑えながら、単離された糖脂質が幾つかの用途に使用されるようになる改善された方法を記載している。さらに、単離された糖脂質の所望の純度を柔軟な洗浄工程及び/又は処理工程により変更することができる。さらに、本発明の方法で単離された糖脂質を精製方法の間に更に改質することができ、これにより糖脂質を従来の方法で誘導体化した後に精製する際に必要となる可能性がある(下流の)プロセス装置における追加の処理工程及び/又は精製工程の必要性がなくなる。したがって、本発明の方法は、結果として、生物系界面活性剤を転化させる及び/又は単離するより効率的な方法となる。
【0044】
本発明による方法の例示的な実施形態を、図1に示される工程のフローチャート及び図2に示される方法のフローチャートを使用してより詳細に説明する。プロセス装置は吸着剤Rとしてポリマー樹脂を含む。
【0045】
本明細書において使用される場合、複雑な混合物、糖脂質含有組成物、投入混合物という用語は、文脈上別段の記載又は示唆がない限り、区別なく使用され得る。
【0046】
図1の工程のフローチャートに示されるように、上記方法は平衡化工程10から開始し得る。典型的には、洗浄液WLを使用してポリマー樹脂を平衡化する。好ましい洗浄液は、RO水としても知られる逆浸透水である。典型的には、洗浄液WLを3床容量~5床容量で加える。追加的に又は代替的に、ポリマー樹脂を樹脂平衡液RELに曝す樹脂平衡化工程11を実施する。典型的には、平衡液は、所望の種類の糖脂質を回収するのに本方法で後に使用される回収液と類似又は同じである。洗浄液を使用して、非負荷物質NLMをプロセス装置から除去する。すなわち、非負荷物質は吸着剤に吸着されていない。複雑な混合物IMは糖脂質GLを含み、これをプロセス装置に供給する。この混合物を精密濾過工程、重量分離工程、又は遠心分離工程等の前処理工程15で前処理してもよい。糖脂質は吸着剤に負荷され(20)、廃棄物流60を介して残りの非負荷物質を除去することができ、資源を効率的に使用するのに、任意の再循環流を合間に添加することができる。
【0047】
負荷工程20の後、吸着剤を、処理液TLを使用する一連の処理工程(31~34)に供して、二次成分NPLM2を吸着剤から除去することができる。除去される典型的な二次成分は、イオン、塩、糖類、(オリゴ)糖類、細胞、油、脂肪酸、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、残留疎水性基質及び/又は疎水性物質、色素、又はそれらの組合せを含む群から選択される。
【0048】
資源を効率的に使用するのに、処理液TLを、再循環流62を介してプロセス装置に戻し加えることができる。処理液TLは、好ましくはイソプロパノール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、NaOH、NH4OH、水、RO水、又はそれらの組合せから選択される。予め決められた処理液TLを選択することによって、吸着剤から負荷物質NPLM2の予め決められた画分を除去することができる。このように、所望の糖脂質を精製することができる。次いで、所望の糖脂質を回収液RLにより回収することができる。精製工程42中に回収液RLを除去すると、所望の糖脂質を高純度の形態61で得ることができる。
【0049】
本発明の方法の特徴は、幾つかの処理工程が存在し得ること、及び全ての処理工程を同じプロセス装置で実施し得ることである。上記の場合に、糖脂質が吸着されている吸着剤を水、緩衝溶液、溶剤、又はそれらの混合物で処理して、特定の不純物を除去することができる。吸着剤に吸着されていない画分に存在する親水性不純物を除去するには、典型的には、水性洗浄で十分である。このような不純物は、様々な有機又は無機の塩及び酸、糖、炭水化物、ポリオール、タンパク質、ペプチド、及び様々な色素/色成分である。緩衝溶液で洗浄すると、難水溶性の化合物の洗出が向上する場合があり、又は生成物の安定性の保証に役立つ場合がある。水-溶剤混合物(限定されるものではないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、及びアセトン等)で洗浄すると、吸着剤に他に弱く吸着された不純物の洗出が促進され得る。
【0050】
処理工程31において、吸着剤を処理溶液TS2で処理して、吸着剤から第1の画分F1を除去する。通常、吸着剤から所望の糖脂質を溶出させることができる処理液が、吸着剤から所望の糖脂質を溶出させるのに使用されるものよりも低い濃度を有する場合、吸着剤からタンパク質及び着色色素等の不純物を除去することができるのに対し、所望の糖脂質は主として吸着剤上に残ることが判明した。このように、所望の糖脂質を精製することができる。すなわち、第1の濃度は、所望の糖脂質を効率的に脱着させるほど十分高くないため、上記所望のグルコリピドは吸着剤上に残留する。好ましい処理溶液はアルコール-溶剤溶液であり、ここで、アルコールは、水等の水溶液中で、好ましくは20容量%~40容量%、より好ましくは24容量%~34容量%、最も好ましくは25容量%~30容量%の濃度において希釈されたC1~C7アルコールである。好ましい処理溶液はプロパノールであり、更により好ましいのはイソプロパノールである。その後、回収工程40において、回収溶液RS2を用いて所望の種類の糖脂質PLM1を回収することによって、所望の糖脂質を取り出すことができる。回収溶液は処理溶液と同様であり得るが、所望の糖脂質を除去するのに十分に高いより高い濃度を有する。方法的には、これは類似又は同じ種類の溶液を使用する場合に有利である。
【0051】
本発明者らはまた、吸着剤を、吸着剤が第2の処理液TL2、好ましくは非極性有機溶剤で処理される処理工程32に供することができることを見出した。このように、非極性有機溶剤を使用して、非極性成分を含む第2の画分F2を吸着剤から除去することができる。このように、遊離脂肪酸、脂肪アルコール、ジオール、ジカルボン酸、トリアシルグリセリド、油等のような成分を吸着剤から除去することができるのに対し、所望の糖脂質は吸着剤上に残留する。第2の画分を除去することによって、その後、吸着剤を回収液に曝して所望の糖脂質を回収することにより、所望の糖脂質をより純粋な形態で取得することができる。ヘキサン及びヘプタンが好ましい有機溶剤である。限定されるものではないが、糖脂質を可溶化しづらいヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、及びジエチルエーテル等の純粋な非極性溶剤又は非極性溶剤の混合物での処理を使用して、ポリマー吸着剤に吸着された不純物を洗出することができる。これは、これらの不純物が糖脂質と同時に溶出する場合に、一部が糖脂質の製造において基質として使用され、及び/又は微生物産生株によって同時産生される遊離脂肪酸、油、脂肪アルコール、脂肪、ジオール、ジカルボン酸、トリアシルグリセリド等のような疎水性基質の分離に特に有用である。
【0052】
更なる処理工程33を使用して、所望の糖脂質を精製することができる。本発明者らは、処理工程33の間に吸着剤を第3の処理液TL3、好ましくはRO水等の極性溶剤で処理することによって、所望の糖脂質の更なる精製が達成され得ることを見出した。この場合、糖、タンパク質、ペプチド、有機酸、ポリオール、炭水化物、塩等のような親水性不純物も吸着剤から除去することができるのに対し、所望の種類の糖脂質は吸着剤上に負荷されたままとなることが判明した。
【0053】
更に驚くべきことに、処理工程34を使用して、上記糖脂質が吸着剤に吸着されているときに、糖脂質を改質する及び/又は転化させることができることが判明した。このような改質の例としては、エステル結合及びグリコシド結合の化学的加水分解が挙げられ、又はエステル化、グリコシル化、及び当該技術分野において記載される(生)化学的誘導体化経路等の他の化学的改質は、例えば、限定されるものではないが、例えば(Delbeke, 2016、Delbeke et al., 2018、Delbeke, Lozach, et al., 2016、Delbeke,Movsisyan, et al., 2015、Delbeke, Roelants, et al., 2016、Delbeke, Roman, et al., 2015、D. Develter& Fleurackers, 2008、Gross et al., 2013、Van Bogaert et al., 2011)により記載される野生型SLについて当該技術分野において記載されるようなω-第四級アンモニウムSL(QASL)、ω-SSアミン酸化物、ω-SSアミン、ω20ボラ型両親媒性物質SS等に向けたグリコシル化、アシル化、アルキル化、アミド化、アミノ化、アリール化、ビオチン化、15カルバモイル化(15 carbamoylation)、カルボニル化、環化付加、カップリング反応、エーテル化、エステル化、グリコシル化、ハロゲン化、金属化、メタセシス、ニトリル形成、オレフィン化、酸化、ホスフィニル化、ホスホニル化、リン酸化、第四級化、転位反応、還元、シリル化、チオール化、チオン化、若しくはそれらのあらゆる組合せであるが、これらに限定されない。このような改質を、(生)化学反応において必要とされる供与体/受容体と任意に組み合わせた(生体)触媒を含有する水溶液又は水性溶剤を吸着剤上に通すことによって行うことができ、その間に(生体)触媒は吸着された糖脂質と反応する。好ましい実施形態において、吸着剤及びその上の負荷物質をアルカリ剤と接触させて、負荷物質中に存在する或る量の糖脂質を部分的に改質する。このように、改質及び/又は転化を使用して、吸着剤上の他の種類の糖脂質を所望の種類の糖脂質に転化させることによって、所望の種類の糖脂質を更に精製することができる。転化により、所望の種類の糖脂質を作製又は精製することができる。この方法を使用して、アセチル化糖脂質を非アセチル化糖脂質に及び/又はラクトン型糖脂質を酸性型糖脂質に転化させることができる。非アセチル化ラクトン型ソホロ脂質をアセチル化酸性型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化酸性型ソホロ脂質に転化させることができる。別の態様において、この方法を使用して、アセチル化ボラ型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化ボラ型ソホロ脂質をアセチル化酸性型ソホロ脂質及び/又は非アセチル化酸性型ソホロ脂質並びにアセチル化ソホロース及び非アセチル化ソホロースに転化させることができる。
【0054】
図2は、方法のフローチャートの例示的な実施形態を示している。プロセス装置100は吸着剤Rを備えている。示される例示的な実施形態において、吸着剤は投入流SC1及び排出流SC2を備えたカラム100a内に設けられている。洗浄液WL、処理液TL、及び回収液RLを、連続的又は半連続的であり得る制御流で反応器に供給することができる。導管をN2ガス等の加圧ガスで加圧することができる。追加的に又は代替的に、膜ポンプ等のポンプを使用して、吸着剤に供給される液体を制御することができる。一実施形態において、複数のカラム100aを使用することができ、これらのカラムを直列に又は互いに並列に配置することができる。始動時に、典型的には、洗浄液WLを用いて吸着剤Rをスクリーニングした後に、糖脂質含有混合物IMをカラム100aに供給する。糖脂質含有混合物をカラム100aに供給して、吸着剤に糖脂質を負荷させる。回収液RLの種類を選択することによって、回収液RLで糖脂質を脱着させることにより、所望の種類の糖脂質を回収及び単離することができる。回収液及び/又は処理液を再循環流200aによって再循環させることができる。
【0055】
本発明は、典型的には、糖脂質含有組成物IMから糖脂質を単離する方法を提供することを特徴とする。上記組成物を、上記方法のプロセス装置に投入混合物IMとして供給することができる。一実施形態において、上記糖脂質含有組成物は、発酵方法、酵素的製造方法、植物バイオマス製造方法、又は化学的製造方法の最終生成物である。
【0056】
更なる実施形態において、上記糖脂質含有組成物は植物抽出の最終生成物である。別の実施形態において、本発明の様々な実施形態による方法における糖脂質含有組成物は、酵素的誘導体化法の最終生成物である。別の実施形態において、本発明の様々な実施形態による方法における糖脂質含有組成物は、化学的誘導体化法の最終生成物である。当該技術分野において記載される化学的(誘導体化)経路による誘導体化は、フィッシャー合成、例えば、限定されるものではないが、例えば(Delbeke, 2016、Delbeke et al., 2018、Delbeke, Lozach, et al., 2016、Delbeke,Movsisyan, et al., 2015、Delbeke, Roelants, et al., 2016、Delbeke, Roman, et al., 2015、D. Develter& Fleurackers, 2008、Gross et al., 2013、Van Bogaert et al., 2011)により記載される野生型SLについて当該技術分野において記載されるようなω-第四級アンモニウムSL(QASL)、ω-SSアミン酸化物、ω-SSアミン、ω20ボラ型両親媒性物質SS等に向けたグリコシル化、アシル化、アルキル化、アミド化、アミノ化、アリール化、ビオチン化、15カルバモイル化、カルボニル化、環化付加、カップリング反応、エーテル化、エステル化、グリコシル化、ハロゲン化、金属化、メタセシス、ニトリル形成、オレフィン化、酸化、ホスフィニル化、ホスホニル化、リン酸化、第四級化、転位反応、還元、シリル化、チオール化、チオン化、若しくはそれらのあらゆる組合せであるが、これらに限定されない。
【0057】
特定の実施形態において、本発明による方法は、糖脂質含有組成物IMから高分子糖脂質を単離することである。更に別の実施形態において、糖脂質は、グリコシル化脂肪酸、グリコシル化脂肪アルコール、グリコシル化カロテノイド、グリコシル化ホパノイド、グリコシル化ステロール、グリコシル化パラコン酸、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、リポ多糖、フェノール性糖脂質、糖ペプチド脂質、ヌクレオシド脂質を含む群から選択される。なおも更なる実施形態において、本発明による方法は、ソホロ脂質、ラムノ脂質、キシロ脂質、トレハロース脂質、マンノシルエリスリトール脂質、グルコリピド、脂肪アルコールグルコシド、アルキルポリグルコシド、アルキルソホロシド、(アニオン性)アルキルグルコシド、(アニオン性)アルキルペントシド、糖エステル、脂肪酸メチルグルカミド、オリゴ糖脂肪アルコールを糖脂質含有組成物から単離することであり、ここで、上記特定の糖脂質をポリマー吸着剤に吸着させ、引き続き上記特定の糖脂質を上記ポリマー吸着剤から脱着させる。また更なる特定の実施形態において、本発明は、ソホロ脂質含有組成物からソホロ脂質を単離する方法であって、ソホロ脂質をポリマー吸着剤に吸着させ、上記ポリマー吸着剤からソホロ脂質を脱着させることを含む、方法を開示している。
【0058】
好ましい実施形態において、糖脂質組成物は、例えば国際公開第2020/104582号に記載され、引用することにより本明細書の一部をなすボラ型グルコシド、アセチル化ボラ型グルコシド、アルキルソホロシド、アセチル化アルキルソホロシド、アルキルグルコシド、アセチル化アルキルグルコシド、アルコールグルコシド、アセチル化アルコールグルコシド、ボラ型ソホロシド、アセチル化ボラ型ソホロシド、及び国際公開第2015/028278号に記載され、引用することにより本明細書の一部をなすボラ型ソホロ脂質等の糖脂質を含む。
【0059】
一実施形態において、化学的に臭素化されたポリスチレンベースの樹脂を使用して、投入混合物IMから糖脂質を吸着する。回収液としてアルコール溶剤を使用して、ボラ型SLを選択的に脱着させる。このように、酸性型ボラ型SL等の他の種類の糖脂質からボラ型SLを単離することができる。
【0060】
一実施形態において、二次成分及び/又はボラ型SL等の他の種類の糖脂質等の他の成分を吸着剤から除去することによって、酸性型SLを単離する。他の種類の糖脂質を除去し、好ましくはイソプロパノール等の回収液RL、好ましくは非酸性回収液によって回収する。次いで、酸性型SLを酸性回収液によって回収する。ここで、酸性回収液は、酢酸、クエン酸、及び/又は塩酸等のハロゲン化水素を含む混合物、又はそれらの混合物を含む水溶液である。
【0061】
一実施形態において、吸着剤、好ましくはポリマー樹脂、より好ましくはポリメタクリレート樹脂及び/又はアクリル酸エステルベースの樹脂に非極性SLを吸収させることによって、複雑な混合物からラクトン型SL等の非極性低水溶性SLを単離する。
【0062】
一実施形態において、投入混合物IMは、エタノール溶液等のアルコール溶液中に溶解した発酵ブロスを含む。好ましくは、アルコール溶液は、80%以上の濃度でC1アルコール、C2アルコール、C3アルコール、C4アルコールを含む。
【0063】
本発明の一実施形態において、低極性溶剤と非極性溶剤との溶剤混合物を含む回収液を用いて、吸収剤Rからアルキルソホロシド(ASS)を回収する。好ましくは、低極性溶剤は、20℃で測定して5 g/100 mLから80g/100 mLの間、好ましくは7 g/100 mLから80 g/100mLの間、最も好ましくは7 g/100 mLから80g/100 mLの間の水溶解度を有する。好ましくは、非極性溶剤は、20℃で測定して0 g/100 mLから5 g/100 mLの間、好ましくは0 g/100 mLから1 g/100 mLの間の水溶解度を有する。当業者であれば、ILO国際化学物質安全性カードに従って水溶解度パラメーターを照会することができる。好ましい非極性溶剤は、ヘキサン、オクタン、及びヘプタン等のアルカンである。好ましい低極性溶剤は、酢酸エチル等のエステルである。好ましくは、この混合物は、アルコール、好ましくはC1アルコール、C2アルコール、C3アルコール、C4アルコールのいずれか1つ、例えばメタノール及び/又はブタノールを更に含む。
【0064】
糖脂質含有組成物IMは、あらゆる追加の化合物又は物質を更に含み得る。更なる実施形態において、糖脂質含有組成物は、糖脂質と、イオン、塩、(オリゴ)糖類、細胞、有機酸及び/又は無機酸、油、脂肪酸、タンパク質、酵素、ペプチド、アミノ酸、(残留)疎水性基質、残留疎水性物質、色素、及び/又はアレルゲン、又はそれらの組合せを含む群から選択される1種以上の追加の二次化合物とを含む。
【0065】
本発明の実施形態による方法は、タンパク質、ペプチド、(残留)疎水性基質、残留疎水性物質、塩、及び/又は有機酸等の二次成分を糖脂質含有組成物から除去した後に、糖脂質をポリマー吸着剤から脱着させることを特徴とする。上記(残留)疎水性物質を、脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪ジオール、ジカルボン酸、トリアシルグリセリド、アルカン、油、脂肪等から選択することができる。上記成分を処理液TLによって除去することができることが判明した。
【0066】
本発明にとって典型的であるのは、糖脂質を最初にポリマー吸着剤Rに吸着させ、続いて上記ポリマー吸着剤から糖脂質を脱着させることである。特に、1種以上の溶剤、好ましくは1種以上の有機溶剤又は無機溶剤を含む回収溶液であり得る回収液RLを用いて、糖脂質の脱着を行う。本発明者らは、ポリマー吸着剤への糖脂質の吸着が糖脂質と吸着剤との間の親和性に基づいていることを見出した。吸着剤はポリマー樹脂である。或る特定のポリマー樹脂がより高い負荷容量、特に5%を超え、更には10%以上までの負荷容量を達成することができることが判明した。好ましいポリマー樹脂は、ポリメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、又はそれらの組合せを含む群から選択され、特に、スチレン-ジビニルベンゼン、ポリメタクリレート、化学的に臭素化されたポリスチレン、アクリル酸エステル、ポリスチレン、架橋ポリスチレン、メタクリル、多孔質ポリスチレン-ジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン、アクリル酸エステル、ポリメタクリレート、化学的に臭素化されたポリスチレンから選択されるポリマー樹脂から選択される。
【0067】
その様々な実施形態による方法は、糖脂質の脱着を、好ましくは1種以上の溶剤、好ましくは1種以上の有機溶剤又は無機溶剤を含む回収液RLを用いて行うことを更に特徴とする。更なる実施形態において、上記1種以上の溶剤は、イオン液体、液体二酸化炭素、超臨界溶剤、酢酸エチル、メタノール、イソプロパノール、アセトン、エタノール、ヘプタン、tert-ブチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、アセトニトリル、フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ヒドロシンナミルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジメチルイソソルビド、サリチル酸メチル、オイゲノール、リナロール、ヘキサノール、氷酢酸、ジメチルカーボネート、ジプロピレングリコールメチルエーテル及び1-プロポキシ2-プロパノール等の或る特定のグリコールエーテル、並びに乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸アミル、乳酸エチルヘキシルを含む乳酸エステルを含む群から選択される。本発明の別の実施形態において、上述の1種以上の溶剤の総濃度は20%から100%の間、好ましくは50%から100%の間、更により好ましくは70%から100%の間であり、ここで、上記濃度は容量濃度として表される。さらに、ポリマー吸着剤からの糖脂質の回収を、回収液、特に水-溶剤混合物又は純粋な溶剤を吸着剤上に通すことによる脱着又は溶出によって行うことができる。この場合、糖脂質がその中で十分に高い溶解度を示す溶剤を選択することが不可欠である。脱着、ひいては溶出の効率は、接触時間、温度、溶剤/溶離液中での糖脂質の溶解度、溶剤/溶離液の容量、及びポリマー吸着剤の特定のマトリックスに依存する。
【0068】
本発明の様々な実施形態による方法は、典型的には、組成物から糖脂質を単離する間に、糖脂質をポリマー吸着剤に吸着させることを特徴とする。特定の実施形態において、上記ポリマー吸着剤はポリマー吸着樹脂である。更に別の実施形態において、上記ポリマー吸着剤は、ポリメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、又はそれらの混合物を含む群から選択される。また更なる特定の実施形態において、ポリマー吸着剤はポリスチレン樹脂である。
【0069】
本発明の別の態様において、上記方法は1つ以上の処理工程を更に含む。好ましくは、ポリマー吸着剤への糖脂質の吸着後、かつ上記ポリマー吸着剤からの糖脂質の脱着前に、少なくとも1つの処理工程を実施する。本発明の方法における洗浄工程は、水、緩衝溶液、溶剤、又はそれらの組合せを使用して行うことができる。
【0070】
さらに、様々な疎水性を有する種々の処理溶液を使用して、負荷物質の段階的な脱着を達成することができる。例えば、酸性型ソホロ脂質及び/又はラクトン型ソホロ脂質及び/又はそれらの混合物を脂肪酸から分離することができ、又はソホロ脂質の様々なコンジナーを互いに分離することができ、例えばボラ型SLを酸性型SLから分離することができる。
【0071】
本発明による方法は、糖脂質含有組成物から糖脂質を単離することであり、ここで、ポリマー吸着剤への糖脂質の吸着に続いて、上記ポリマー吸着剤からの糖脂質の脱着を行う。特定の実施形態において、上記方法の間に、吸着された糖脂質の(生)化学的改質及び/又は酵素的改質を行った後に、処理液TLを使用することによってポリマー吸着剤から糖脂質を脱着させることができる。吸着された糖脂質の化学的改質及び/又は酵素的改質は、エステル結合の化学的加水分解及び/又は酵素的加水分解、グリコシド結合の化学的加水分解及び/又は酵素的加水分解、エステル化、エーテル化、グリコシル化、重合、アミド化、(還元的)アミノ化、第四級化、酸化、エポキシ化から選択され得る。このように、追加の改質工程及び/又は下流の工程に依存する必要なくして、同じプロセス装置内で吸収剤上に負荷された糖脂質を改変させ、少なくとも或る量の負荷された糖脂質を所望の種類の糖脂質に転化させることができる。このように、同じプロセス装置内で所望の糖脂質の改質及び精製の両方を行うことができる。さらに、負荷物質を所望の糖脂質に改質することにより、上記所望の糖脂質の純度を向上させることができる。
【0072】
単離方法の終わりに、例えば、蒸発、好ましくは真空蒸発によって、又は限外濾過若しくはナノ濾過とダイアフィルトレーションとの組合せによって、溶出された画分から所望の糖脂質を収集する。図2に示されるように、処理液及び/又は回収液を、蒸発容器102内で所望の糖脂質PLM1から分離することができる。液体で満たされた容器102内の圧力を処理液及び/又は回収液の蒸気圧未満に低下させることで、上記液体は通常よりも低い温度で蒸発する。資源を最適に使用するのに、蒸発した液体を、好ましくは、方法の最初に再循環して戻す。試験により、処理液及び/又は回収液をこのように再利用することができ、資源の効率的な使用が達成されることが明らかになった。
【0073】
別の態様において、ポリマー吸着剤Rを再生し、次回の単離用に準備することができる。樹脂を準無限的に再生することができる。試験により、樹脂を再生することができることから、樹脂を複数回の方法の実行に再利用することができ、これは効率的な資源の使用の観点から有益であることが明らかになった。再生は水、緩衝液、及び/又は溶剤の組合せを用いて実施することができる。この洗浄工程は厳密には必要とされないが、不純物が吸着剤に蓄積し、その負荷能力が低下する可能性がある場合には、洗浄工程は有利なものとなり得る。
【0074】
本発明のまた別の態様において、糖脂質含有組成物から糖脂質を単離する方法を回分方式で実施する。別の実施形態において、この方法を連続方式で実施する。また別の実施形態において、この方法を半連続方式で実施する。
【0075】
更なる態様において、本発明による方法を、発酵方法、生体触媒方法、及び/又は化学的方法と組み合わせて実施する。上記態様において、発酵による糖脂質含有組成物の製造を、糖脂質の単離と組み合わせて、例えばin situでの生成物回収の構成における発酵と組み合わせて実施する。特定の構成において、ポリマー吸着剤と糖脂質含有組成物とを反応器内で混合する。更なる実施形態においては、上記構成において、本発明による方法を反応器内で行う。
【0076】
一実施形態において、吸収剤に負荷された糖脂質を、部分加水分解によって化学的に改質する。特定の実施形態において、ボラ型ソホロ脂質(ボラ型SL)を使用して、例えば国際公開第2015/028278号に記載され、引用することにより本明細書の一部をなす酸性型ソホロ脂質SL及びソホロースを製造した。上記ボラ型SLを含む負荷物質をNaOH等のアルカリ剤に曝すことによって。アルカリ剤のpHは、好ましくは8より高く、より好ましくは12より高い。pHが高いほど、反応速度が高まることにより、処理時間が改善されることが判明した。典型的には、吸着剤を水で洗浄して、ソホロース及び塩基を除去し、続いて酸性型ソホロ脂質の脱着を行う。
【0077】
また別の構成において、本発明の方法の間に、糖脂質含有組成物を、ポリマー吸着剤を含む反応器に通す。一実施形態において、本明細書に記載されるポリマー樹脂を、本発明による方法が実施される反応器内で糖脂質含有混合物IMと混合することができる。好ましい実施形態において、本発明の様々な実施形態による方法の間に、糖脂質含有組成物をポリマー吸着剤が充填されたカラムに通す。別の実施形態において、ラクトン型SLをプロセス装置内の吸収剤に吸収させ、アルカリ剤で改質して酸性型SLを形成する。典型的には、吸着剤を水で洗浄して酢酸塩及び塩基を除去する。
【0078】
本出願による方法は、食品産業、化粧品産業、医薬品産業、環境保護、又はエネルギー削減産業における糖脂質の単離に使用することができる。
【実施例
【0079】
以下で、実施例を参考にして本発明をより具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれに又はこれらによって限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で当業者により様々な変更を加えることが可能である。本発明を以下の実施例によって例示する。
【0080】
実施例における液体の濃度は典型的には、容量%として表される。これは、他の液体と混合し、及び/又はそれにより希釈して混合物を形成することができる液体の容量を、その混合物の総容量により割ったものを意味する。
【0081】
実施例1-吸着樹脂を用いた複雑な混合物からの酸性型ソホロ脂質(ASL)及びボラ型ソホロ脂質(BSL)の精製及び単離
樹脂(ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼン、ポリメタクリレート、アクリル酸エステル、デキストラン炭末(dextran based coal)及び瀝青炭)とSLを含む溶液とを混合することによって、最初の樹脂スクリーニングを実施した。樹脂を最初にRO水、エタノール、そして再びRO水で順次平衡化した。各段階で、混合物を200 rpmで15分間にわたってインキュベーター内に置いた。樹脂の添加前後の液体中のSLの濃度を比較することによって、負荷容量を推定した。引き続き、100 μmのカットオフの篩を通して濾過することによって混合物から樹脂を取り除き、洗浄水の導電率が100μS/cm未満に達するまでRO水で洗浄した。これにより、糖及び塩のような全ての親水性不純物が確実に除去される。
【0082】
全ての樹脂は、本明細書においてSL(単数又は複数)とも略記されるソホロ脂質を或る程度保持することができた。吸着樹脂をインキュベーター内で200 rpmにて30分間アセトンと混合したところ、最大77%の回収率が得られた。エタノール、イソプロパノール、及び酢酸エチル等の他の溶剤もSLを溶出させることができた。
【0083】
化学的に臭素化されたポリスチレンベースの樹脂を用いると、40%~50%のイソプロパノールを使用して、酸性型SLを一切伴わずに全てのボラ型SLを溶出させることができた。架橋ポリスチレン樹脂を用いても可能であるが、親和性の差がより小さく、分離がより困難になると思われる。
【0084】
瀝青炭は酸性型SLのみを吸着し、ボラ型SLを吸着しなかったが負荷容量はかなり低いため、ボラ型SL生成物中に残留する少量の酸性型SL不純物を除去する方法の終わりの最終精製工程としてより適していると考えられる。
【0085】
ボラ型SLは荷電していないが、これらはまたイオン性樹脂の疎水性骨格によって吸着される。この特性を使用して、最初にボラ型SLを溶剤で溶出させ、引き続きイオン交換樹脂の再生により酸性型SLを溶出させることによって、酸性型SLとボラ型SLとを分離することができる。
【0086】
SL溶液と各樹脂とを混合することによって、イオン交換樹脂をスクリーニングした。全てのイオン性樹脂は両方のSLを保持することができ、弱アニオン性架橋ポリスチレン樹脂は許容可能な負荷容量を有することが観察された。ボラ型SLを架橋ポリスチレン吸着樹脂と同様に70%イソプロパノールで溶出させることができたのに対し、酸性型SLは96%イソプロパノールを適用した場合でもイオン結合によって樹脂と会合したままであった。同じ原理を適用して、ボラ型SLから脂肪酸を除去することも、又はラクトン型SLから酸性型SLを除去することもできる。酢酸(CH3COOH)及びクエン酸(C6H8O7)は、酸性型SLを部分的に除去することができた。5%の塩化水素(HCl)水溶液を用いて最良の結果が得られた。
【0087】
樹脂が充填された10 mL~15 mLの小さなカラムを保持する真空マニホールドを使用して、追加の溶出試験を実施した。選択した吸着樹脂をRO水、イソプロパノール、そしてRO水で順次平衡化した。次に、発酵によって製造されたSLを含む無細胞上清を各カラムに加えた。カラムを30℃及び200 rpmで15分間にわたってインキュベーター内に置いた。このインキュベーション工程を各負荷工程、溶出工程、及び洗浄工程ごとに繰り返した。真空チャンバーを使用して、各工程にて画分を15 mL試験管内に収集した。RO水を用いて洗浄工程を行い、溶出を50%~96%のイソプロパノール溶液を用いて行った。わずか15分の短い接触時間でさえも、化学的に臭素化されたポリスチレン樹脂では最大10%の負荷容量が記録された。
【0088】
技術経済に関連する最適なポリスチレン樹脂を300 mLの容量を有するガラス製の実験室規模のカラムにおいて試験した。試料を定期的に採取して、SL濃度、導電率、pH、及びブリックスを追跡した。標準的なBCAタンパク質アッセイを使用して、タンパク質濃度を全ての画分において求めた。実験は常に以下の順序で実行した:
RO水で洗浄する。
樹脂(新しい樹脂のみ)をコンディショニングする。
生成物を負荷させる。
100μS/cm未満の導電率までRO水で洗浄する。
生成物を50%~100%の溶剤(例えば、エタノール)で溶出させる。
(樹脂を90%~100%の溶剤、例えば、エタノールで再生する)。
【0089】
主にボラ型SL及び幾らかの非アセチル化酸性型SLを含む無細胞発酵ブロスを上記の方法で処理した。ポリスチレン樹脂を使用し、96%エタノールで溶出させると、7.5%を超える負荷容量及び80%を超える回収率が得られた。溶出段階を延長することによって、この回収率をより一層高めることができた。溶出中にタンパク質において顕著なピークが検出されたため、純度を高めることもできる。上記事例を実施例2において更に説明する。
【0090】
実施例2-吸着樹脂を用いたタンパク質及び着色色素からの酸性型SL及びボラ型SLの精製
生成物が負荷されたポリスチレン樹脂をRO水ですすいだ後、高いエタノール濃度を使用してSLを溶出させると、実施例1に記載されるように、全てのSLが脱着するが、一部のタンパク質も脱着する。タンパク質及び着色色素の殆どは負荷工程及びRO水洗浄工程の間に既に除去されているが、樹脂とのそれらの親和性のため、より多くの疎水性タンパク質及び着色色素が残留した。実施例1における300 mLの実験を繰り返したが、今度は樹脂をより低いエタノール濃度で洗浄した。最初に樹脂を25%~30%のエタノールで洗浄することによって、より多くのタンパク質及び着色色素を除去することができた。これは、殆どの着色色素及びタンパク質を排除するには十分であるが、SLを一切脱着しない程度には十分に低いものである。次いで、50%~96%のエタノールを用いてSLを溶出させた。
【0091】
以下の順序を適用することによって、高い回収率に影響を与えることなく、SLの純度の増大を達成した:
RO水で洗浄する。
樹脂(新しい樹脂のみ)をコンディショニングする。
生成物を負荷させる。
25%~30%のエタノール/イソプロパノールで洗浄する。
100μS/cm未満の導電率までRO水で洗浄する。
50%~100%のエタノール/イソプロパノールで生成物を溶出させる。
(樹脂を90%~100%の溶剤、例えば、エタノールで再生する)。
【0092】
純度の増大が望まれる場合、上述の吸着工程を糖脂質精製方法に置き換えることができ、又はそれに追加することができる。
【0093】
この方法を、ポリスチレン樹脂吸収剤を含む30 Lのパイロット規模のカラムにおいても評価した。発酵ブロスを精密濾過に供して細胞を除去した後に、この濾液を吸着樹脂で処理した。SLを溶出させるのに、96%エタノールを使用して回収率を最大化し、全て1工程でカラムを完全に再生した。体系的に8%を超える負荷容量が記録され、95%を超えるボラ型SLの回収率が得られた。この精製方針と、発酵により製造された同じ無細胞濾液に対する50 kDa及び10 kDaのPES限外濾過精製方法の組合せとを比較すると、表1に示されるように、回収率及び純度の両方を大幅に高めることができる。
【0094】
【表1】
【0095】
最後に、吸着剤を使用して15 m3の発酵物からSLを精製した。細胞を精密濾過で除去し、その濾液を使用して1.1 m3のカラムにポリスチレン樹脂を装填した。70%イソプロパノールの溶液を使用してSLを溶出させた。数回のバッチを行ったところ、ボラ型SLについて95%の総回収率が得られた。
【0096】
実施例3-吸着樹脂を用いた複雑な混合物からのラクトン型SL(非水溶性)の精製
様々なアセチル化度を有する酸性型SL及びラクトン型SLの混合物を含む試料を調製した。ジアセチル化ラクトン型SLが最も目立って存在していた。9種類の異なる吸着樹脂(ポリスチレン、スチレン-ジビニルベンゼン、アクリル酸エステル、及びポリメタクリレートベース)を発酵ブロス及び上清の両方を用いてスクリーニングした。後者は同じブロスの遠心分離によって得られたものである。
【0097】
樹脂が充填された10 mL~15 mLの小さなカラムを保持する真空マニホールドを使用して、実験室規模の試験を実施した。負荷させる前に、樹脂をRO水ですすぎ、200 rpmで15分間振盪した。真空の適用によって水を除去した後、樹脂にブロス又は上清を負荷させ、200 rpmで30分間振盪した。樹脂をRO水で洗浄して親水性不純物を除去した後に溶出させた。70%のイソプロパノール水溶液を溶離液として使用した。スチレン-ジビニルベンゼンベースの樹脂は幾らかの吸着を示したが、ポリメタクリレート及びアクリル酸エステルベースの樹脂で最良の結果が得られ、最大8%の負荷容量に達した。樹脂がより大きな表面積を有するほど、より多くのSLを吸着することができたが、SLの溶出ははるかに困難であることが分かった。
【0098】
他の幾つかの溶剤を、水中に溶解した酸性型SL及びラクトン型SLの混合物において評価した。基準溶出溶剤は70%イソプロパノールとした。どちらのSLも70%エタノール、70%メタノール、100%ブタノール、100%アセトニトリル、70%アセトン、及び100%テトラヒドロフランによって溶出させることができ、ブタノールの方がイソプロパノールよりも僅かに良好に機能した。ヘキサン及びヘプタン等の非極性溶剤はSLを一切溶出させなかったため、吸着中に遊離脂肪酸、脂肪アルコール、及び油を分離するのに適している可能性がある。
【0099】
吸着能力及び溶出効率について樹脂をスクリーニングした後、300 mLのカラムに規模を拡大した。SLを含む同じ発酵ブロス及び上清を使用して実験を行った。カラムにポリメタクリレートベースの吸着樹脂を充填した。カラムを20 μS/cmを下回る導電率までRO水ですすいだ後に、ブロス又は上清を負荷させた。溶出前に、樹脂を50 μS/cmの導電率までRO水で洗浄した。70%イソプロパノール溶液を用いて溶出を行った。
【0100】
有望な結果であったため、ラクトン型SLの精製を5 Lのガラスカラムにおいて試験した。5 Lのカラムにポリメタクリレートベースの吸着樹脂を充填した。流出液の導電率が20 μS/cm未満に低下するまで、樹脂をRO水ですすいだ。
【0101】
発酵ブロスを等量の96%エタノールと混合して、できる限り多くのラクトン型SLを溶解させた。次いで、ブロスを珪藻土濾過助剤と混合し、濾床上に注ぎ、全ての細胞及び破片を除去した。この濾液中のエタノールを蒸発させた後に樹脂に負荷させて、吸着効率を高めた。カラムの負荷後、導電率が50 μS/cm未満に低下するまで、樹脂をRO水で洗浄した。70%イソプロパノール溶液を用いて溶出を行った。試料を5分置きに採取して、SL濃度、導電率、pH、及びブリックスを追跡した。全体的なSL回収率は89%に達した。
【0102】
実施例4-吸着樹脂を用いた複雑な混合物からのボラ型ソホロシド(BSS)、アルキルソホロシド、及びアルコールグルコシドの精製及び単離
実験室規模の10 mL~15 mLのカラムにポリスチレンベースの樹脂を充填し、RO水ですすいだ。引き続き、高温での発酵ブロスの精密濾過により無細胞濾液を得た。この濾液は、アルキルソホロシド(アルキルSS)、アルコールグルコシド(アルコールGS)、及びボラ型ソホロシド(ボラ型SS)を含んでいた。濾液をカラムに装填した後、100 μS/cm未満の導電率まで、樹脂をRO水で洗浄した。メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)及びイソプロパノールを含む様々な溶剤混合物、又はヘプタン、酢酸エチル、メタノール、ブタノール、及び水の混合物を樹脂に添加し、200 rpmで30分間振盪し、引き続き溶出させた。
【0103】
20%のヘプタン(25℃で0.0022 g/100 mlの水溶解度)、27.5%の酢酸エチル(EA)(20℃で8.7 g/100 mlの水溶解度)、2.5%のブタノール、2.5%のメタノール、及び37.5%の水の混合物はアルキルSSに対して最も選択的であると思われ、93%を溶出させるが、アルコールGSは10%しか溶出されず、ボラ型SSは溶出されなかった。イソプロパノールは全く選択的ではなく、3種の糖脂質全てを溶出させた。
【0104】
メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)(4.2g/100 mlの水溶解度)及びジエチルエーテル(20℃で6.9g/100 mlの水溶解度)は幾らかの選択的特性を示したが、より低い効率を有し、40%のアルキルSSとともに13%のアルコールGS及び3%のボラ型SSが溶出された。
【0105】
ソホロシド及びグルコリピドのこの混合物を産生する遺伝子改変されたスタルメレラ・ボンビコラ(Starmerella bombicola)株はまたde novoで脂肪酸を産生する。これらの脂肪酸は、上述の溶剤混合物を使用するとSSと一緒に溶出するため、やはり除去することが必要である。
【0106】
溶剤を蒸発させた後、沈殿したSSをRO水中に分散させ、ポリスチレンベースの樹脂が充填されたカラムに再び装填した。カラムをRO水で洗浄した後、各カラムを別の溶剤(混合物)で溶出させた。以下のヘプタンと酢酸エチルとの比率を適用した:100:0、90:10、80:20、60:40、及び40:60。100%のヘプタンを使用した場合、de novo脂肪酸誘導体は除去されなかった。ヘキサン溶液は非極性すぎるようである。90:10溶液はde novo脂肪誘導体の一部及びアルキルSSの39.6%を溶出させたが、80:20溶液はde novo脂肪誘導体の大部分を除去するのに最も有望であるように思われた。残念なことに、59%のアルキルSSのより多くの共溶出も見られた。60:40溶液及び40:60溶液はどちらも、全てのアルキルSSだけでなくde novo脂肪誘導体も溶出することができた。しかしながら、2つ目の比率ではアルコールGSの画分も共溶出された。更なる最適化が必要とされるが、この実験は、吸着樹脂からの選択的溶出によってde novo脂肪酸誘導体、アルキルSS、及びアルコールGSの分離が可能であることを示している。
【0107】
実施例5-吸着樹脂を用いた複雑な混合物からのアセチル化ボラ型ソホロシド(ABSS)の精製
ポリスチレン樹脂上でのアセチル化ボラ型ソホロシドの吸着能力の推定を、5 mLのエッペンドルフチューブに樹脂を充填し、様々な既知の生成物濃度(5 m/m%~12 m/m%)を樹脂に負荷させることによって行った。必要量の凍結乾燥された純粋な生成物をRO水中に溶解することによって溶液を調製した。200 rpmで45分間振盪した後、溶液の試料を採取し、TLCを用いて分析した。樹脂の負荷容量を超えると、TLCプレート上に生成物のスポットが見られることから、生成物が全て樹脂に結合することができたわけではなかったことを示している。
【0108】
この実験の結論は、この樹脂上でのアセチル化ボラ型ソホロシドの吸着能力が5 m/m%から6 m/m%の間であるということであった。これは、同じ樹脂のボラ型SLについての吸着能力(8 m/m%)よりも大幅に低い。仮説は、余分な空間がアセチル基によって占有されて、吸着することができる生成物がより少ないというものであった。しかしながら、実験を繰り返したところ、一晩振盪すると、試験された最も高い12 m/m%のボラ型SS比率でさえも、樹脂に完全に吸着された。十分な接触時間が適用されると、多層吸着が起こると考えられる。
【0109】
発酵ブロスからのアセチル化ボラ型SSの精製を、ボラ型SLについて実施例1に記載した方法を使用して最初に300 mLのカラムにおいて検証し、その後、30 Lのカラムでも検証した。使用前に、樹脂が充填されたカラムをRO水、96%イソプロパノール、及びRO水ですすいだ。無細胞濾液をカラムに装填した後、20 μS/cmの導電率まで、樹脂をRO水で再び洗浄した。ボラ型SSを70%イソプロパノールで溶出させた。95%を超える純度で88%のABSSの回収率が達成されたことから、これは実施例1においてボラ型SLに対して得られた結果と一致する。
【0110】
【表2】
【0111】
実施例6-吸着樹脂を用いたショ糖エステル(SE)の精製
温水中に可溶なE473ショ糖エステルについて吸着を評価した。ポリメタクリレートベースの樹脂が充填された10mL~15 mLの小さなカラムを保持する真空マニホールドを使用して、実験室規模の試験を実施した。負荷させる前に、樹脂をRO水ですすぎ、200 rpmで15分間振盪した。真空の適用によって水を除去した後、樹脂にショ糖エステル溶液を負荷させ、200 rpmで30分間振盪したところ、これは全てのSEを吸着するのに十分であった。樹脂を再びRO水で洗浄して親水性不純物を除去した後に溶出させた。70%イソプロパノールでの溶出は成功したが、酸性型SL及びラクトン型SLの場合よりも低い回収率で成功し、これはイソプロパノール濃度を高めるか、又は溶出時間を増やすことによって補うことができる。
【0112】
実施例7-糖脂質の化学的(部分)加水分解
1)ボラ型SLをカラム上で(部分)加水分解することによる酸性型SL及びソホロースの製造
ボラ型SLは(アルカリ)加水分解されやすいエステル結合を有する。グリコシド結合はアルカリ加水分解に耐えることができるため、得られる生成物は非アセチル化酸性型SL及びソホロースであり、どちらも興味深い分子である。カラム上で加水分解を行うことによって、ボラ型SLを含む無細胞発酵ブロス等の複雑な混合物から開始する場合であっても、同じ装置操作で酸性型SL及びソホロースを製造及び精製することができる。精製は同じ装置操作中に行われるため、部分加水分解を実施して、ボラ型SLと酸性型SLとの間の望ましい比率を得ることもできる。ソホロースは加水分解中に溶出することになる。ソホロースを更にイオン交換工程、ナノ濾過工程、又は透析最終精製(dialysis polishing)工程によって精製して、イオン及び塩を除去することができる。ボラ型SLの酸性型SL及びソホロースへの好ましい転化を以下に例示する。
化学式1
【化1】
【0113】
水酸化ナトリウム及び水酸化アンモニアを化学的加水分解用の塩基として評価するのに、最初に精製ボラ型SLを幾つかの濃度(それぞれ0.01 M~0.5 M及び0.1 M~1 M)の各塩基と混合し、200 rpmで1時間振盪した。NaOHを使用する場合、完全な転化を達成するのに、0.05 Mの最低濃度又はpH12の維持が必要とされる。NH4OHの場合、より大幅に高い1 Mが必要とされる。NH4OHを使用する利点は、これが揮発性であり、ソホロースから取り除くことができるため、追加の複雑な精製を必要としないことであろう。揮発性は、処理中に刺激性のアンモニア蒸気が生ずるため、欠点でもある。加水分解はpH8で早くも始まるが、pH12では大幅に速くなる。酸性型SLが形成するため、加水分解中にpHが低下することになり、高い反応速度を維持するには再びpHを高めるべきである。
【0114】
【表3】
【0115】
次に、ポリスチレン樹脂が充填された300 mLの吸着カラムにおいて加水分解を試験した。樹脂を実施例1に記載されるように平衡化し、50 μS/cm未満の導電率までRO水で洗浄し、次いで樹脂に対して10 m/m%のSL溶液を負荷させた。2床容量をNaOHの場合は0.1 M及び0.25 Mの濃度で、そしてNH4OHの場合は0.5 Mの濃度で、全て1時間当たり約3床容量の流量にて試験した。導電率及びブリックス値の上昇のため、加水分解を追跡することができた。この最後の値はソホロースの量に関連する。樹脂を50 μS/cmの導電率までRO水で洗浄し、引き続き96%エタノールを使用してSLを溶出させた。どちらのNaOH濃度でもボラ型SLは検出されなかったのに対して、0.5 MのNH4OHは現行の接触時間で加水分解を完了するのに十分なものではなかった。
【0116】
同じSL負荷を使用し、かつ2床容量の0.1 MのNaOH溶液を1時間当たり約2床容量の流量で使用して、この方法を30 Lのカラムまで規模を拡大した。加水分解中に、流出液におけるpHは12.5に上昇した。RO水で洗浄した後、50%エタノールを使用してSLを溶出させた。予想通り、ボラ型SLは検出されなかったことから、これは完全な加水分解を示している。
【0117】
代替的に、最初に反応器内で加水分解を行った後に吸着を行うことも可能であり、これにより追跡及び調節が容易になる。しかしながら、無細胞発酵ブロス等の複雑な組成物を使用すると、他の生成物との反応も起こるため、予期せぬ副生成物及びより高い塩基消費量がもたらされることになる。したがって、加水分解後の吸着は、より高純度の既に単離された生成物に対して使用される傾向が強い。
【0118】
2)ラクトン型SLのカラム上での化学的(部分)加水分解
ラクトン型SLはまた、酸性型SLを形成する(アルカリ)加水分解を受けやすい。しかしながら、発酵により製造されたラクトン型SL(野生型)は通常、二重アセチル化されている。酢酸塩及び塩基イオンを加水分解後に除去することが好ましい。加水分解と吸着とを組み合わせることで、非アセチル化酸性型SLを、アセチル化酸性型SLとラクトン型SLとの混合物を含む純粋な生成物又は無細胞発酵ブロスから直接的に製造及び精製することができる。
【0119】
加水分解試験を、実施例1において記載したのと同じ真空マニホールド及び方法論を使用して実験室規模で実施した。違いは、負荷工程とすすぎ工程との間に、1床容量の0.1 MのNaOH溶液をカラムに加えたことである。加水分解反応をサーモミキサー中で50℃にて一晩実施した。24時間後、酢酸塩及び塩を含む溶液を真空の適用によって除去した。RO水ですすいだ後、非アセチル化酸性型SLを70%イソプロパノールで溶出させた。これらの条件では完全な転化が観察された。
【0120】
3)化学的(部分)加水分解による糖脂質に対するアセチル化の除去
アセチル化は糖脂質の特性に劇的な影響を与え得る。これらを(アルカリ)加水分解によって(部分的に)除去することができる。酢酸塩及び塩基イオンを加水分解後に除去することが好ましい。加水分解と吸着とを組み合わせることによって、糖脂質をカラム上で(部分的に)脱アセチル化し、アセチル化糖脂質を含む純粋な生成物又は無細胞発酵ブロスから直接的に精製することができる。
【0121】
アセチル化ボラ型SS
アセチル化ボラ型SSの製造に使用される遺伝子改変されたスタルメレラ・ボンビコラ株は少量のボラ型SLも産生する。実施例7において上記したように、カラム上でアルカリ加水分解を適用して、ボラ型SLを酸性型SL及びソホロースに転化させることができる。しかしながら、これによりアセチル化も除去されるため、異なる生成物が生じることになる。次いで、実施例1における方法を使用して、酸性型SLからボラ型SSを分離することができる。
【0122】
アセチル化ボラ型SLを含む150 Lでの発酵からの無細胞ブロスを加水分解してアセチル化を除去した。これを、30%のNaOH溶液をpH12まで加えることによって行った。この溶液を1時間インキュベートし、連続的に監視してpHを12に調節し、その後、4.5 MのH2SO4を添加することによって溶液をpH4~pH5に安定化した。
【0123】
加水分解された溶液を、ポリスチレン樹脂を含む30 Lのカラムに装填した。50 μS/cm未満の導電率までRO水ですすいだ後、70%イソプロパノールを使用してSLを溶出させたところ、純粋なアセチル化ボラ型SSが得られた。
【0124】
【表4】
【0125】
図面訳
図1
Process unit プロセス装置
図1
図2
【国際調査報告】