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特表2024-513238抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体を発現する腫瘍溶解性ウイルス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体を発現する腫瘍溶解性ウイルス
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20240314BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240314BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240314BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20240314BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240314BHJP
   C12N 15/38 20060101ALI20240314BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240314BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20240314BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240314BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240314BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20240314BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C07K16/30
C12N15/63 Z
C12N15/38
C12N7/01
C12N15/24
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K35/763
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561292
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 US2022024017
(87)【国際公開番号】W WO2022217048
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】63/173,205
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514291864
【氏名又は名称】ソレント・セラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Sorrento Therapeutics, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ブレッソン, ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】パワーズ, コリン
(72)【発明者】
【氏名】アレン, ロバート
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA56
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、ROR1およびCD3に結合する二重特異性抗体ならびにこのような二重特異性抗体をコードする核酸構築物をコードする腫瘍溶解性ウイルスを提供する。また、二重特異性抗体およびそれらをコードする腫瘍溶解性ウイルスを使用してがんを処置する方法も含まれる。本明細書で記載されるようなαROR1/αCD3 Bsp Abをコードする構築物を、機能的RL-1遺伝子を含まないHSV 17に由来する腫瘍溶解性HSV-1ウイルス(「Seprehvec」)中にクローニングし、ウイルス感染細胞を使用して、二重特異性抗体を含むウイルス不含細胞培地(VFCM)を生成し、ROR1発現性腫瘍細胞に対するT細胞の細胞傷害性を増強する能力について試験した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ROR1に結合する単鎖可変断片抗体(ScFv)およびCD3に結合する単鎖可変断片抗体(ScFv)を含む二重特異性抗体であって、抗RORI scFvおよび抗CD3 scFvはリンカーを介して接合され、さらに
ScFv抗ROR1抗体は、配列番号1に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号5に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを有する、
抗ROR1 ScFvは、配列番号10に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号14に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを有する、
抗ROR1 ScFvは、配列番号19に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号23に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを有する、
抗ROR1 ScFvは、配列番号52に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号56に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを有する、または
抗ROR1 ScFvは、配列番号60に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号64に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを有する、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記抗ROR1 scFvが、配列番号1に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号5に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを有する、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記抗ROR1 scFvが、配列番号9に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記抗ROR1 ScFvが、配列番号10に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号14に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを有する、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記抗ROR1 scFvが、配列番号18に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記抗ROR1 ScFvが、配列番号19に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号23に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを有する、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
前記抗ROR1 scFvが、配列番号27に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項6に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記抗CD3 scFvが、配列番号32に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号33に対して少なくとも95%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを含む、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
前記抗CD3 scFvが、配列番号34に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項8に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記scFv抗体の前記重鎖および軽鎖可変ドメインが、GSリンカーによって接合される、前記の請求項のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体をコードする核酸構築物。
【請求項12】
前記抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体をコードする配列が、そのN末端にシグナルペプチドをコードする配列を含む、請求項11に記載の核酸構築物。
【請求項13】
前記抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体をコードする配列が、プロモーターに作動可能に連結される、請求項11に記載の核酸構築物。
【請求項14】
前記プロモーターが、EF1αプロモーター、CMVプロモーター、JETプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーター、CAGプロモーター、ベータ-アクチンプロモーター、HTLVプロモーターまたはEF1α/HTLVハイブリッドプロモーターである、請求項13に記載の核酸構築物。
【請求項15】
前記抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体をコードする配列の3’末端に連結されたポリアデニル化配列をさらに含む、請求項13に記載の核酸構築物。
【請求項16】
請求項11~15のいずれかに記載の核酸構築物を含む組換えウイルスゲノム。
【請求項17】
請求項11~15のいずれかに記載の核酸構築物を含む組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項18】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、単純ヘルペスウイルス(HSV)である、請求項17に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項19】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、HSV-1である、請求項18に記載の組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項20】
前記腫瘍溶解性HSVが、IL-12をコードする核酸配列をさらに含む、請求項19に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項21】
前記IL-12が、ヒトIL-12である、請求項20に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項22】
前記IL-12が、配列番号47のアミノ酸配列を含む、請求項20に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項23】
前記腫瘍溶解性HSVが、抗VEGFR抗体をコードする核酸配列を含む、請求項19に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項24】
前記抗VEGFR抗体が、配列番号49を含む、請求項23に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項25】
前記腫瘍溶解性HSVが、HSV-1株17、HSV-1株F、HSV-1株KOSまたはHSV-1株JS1に由来する、請求項19に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項26】
前記腫瘍溶解性HSVが、HSV株17に由来する、請求項25に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項27】
前記腫瘍溶解性HSVが、機能的ICP34.5をコードする遺伝子をコードしない、請求項19~26のいずれかに記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項28】
前記ICP34.5をコードする遺伝子のすべてまたは一部分が欠失している、請求項27に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項29】
前記抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体をコードする前記核酸構築物が、前記ICP34.5をコードする遺伝子座位中に挿入されている、請求項27に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項30】
がんを処置する方法において使用するための組換え腫瘍溶解性ウイルスであって、前記方法は、請求項17~29のいずれかに記載の腫瘍溶解性ウイルスを、がんを有する対象に投与することを含む、組換え腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項31】
前記腫瘍溶解性ウイルスが腫瘍溶解性HSVである、請求項30に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項32】
前記方法が、前記腫瘍溶解性HSVを静脈内、腔内、腹腔内、腫瘍内または腫瘍周囲送達によって投与することを含む、請求項31に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項33】
前記送達が、カテーテル、注入または注射を介するものである、請求項32に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項34】
前記方法が、前記腫瘍溶解性HSVの1つより多い用量を前記対象に投与することを含む、請求項30~33のいずれかに記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項35】
前記がんが固形腫瘍である、請求項30~34のいずれかに記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項36】
前記対象がイヌ、ウマまたは霊長類である、請求項30~35のいずれかに記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項37】
前記対象がヒトである、請求項36に記載の組換え腫瘍溶解性HSV。
【請求項38】
請求項17~37のいずれかに記載の組換え腫瘍溶解性HSVおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項39】
前記腫瘍溶解性HSVが、1mlあたり少なくとも10の濃度である、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項40】
前記腫瘍溶解性HSVが、1mlあたり少なくとも10の濃度である、請求項34に記載の医薬組成物。
【請求項41】
対象においてがんを処置する方法であって、請求項17~40のいずれかに記載の腫瘍溶解性HSVまたは医薬組成物を、がんを有する対象に投与することを含む、方法。
【請求項42】
前記対象がイヌ、ウマまたは霊長類である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記対象がヒトである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記腫瘍溶解性HSVを静脈内、動脈内、腔内、腫瘍内または腫瘍周囲送達によって投与することを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
送達が、カテーテルによる、注入による、または注射によるものである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記腫瘍溶解性HSVの1つより多い用量を前記対象に投与することを含む、請求項32~36のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
前記がんが固形腫瘍である、請求項41~46のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
請求項17~29のいずれかに記載の腫瘍溶解性ウイルスに感染した宿主細胞。
【請求項49】
Vero細胞、HEK293細胞またはBHK細胞である、請求項48に記載の宿主細胞。
【請求項50】
医薬ウイルス組成物を生成する方法であって、請求項48に記載の宿主細胞を培養して、ウイルス上清を生成すること、および前記ウイルス上清からウイルスを単離して、医薬ウイルス組成物を生成することを含む、方法。
【請求項51】
請求項1~10のいずれかに記載の二重特異性抗体を含むウイルス不含条件培地(VCFM)。
【請求項52】
がんを処置する方法であって、請求項1~10のいずれかに記載の抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体を含む医薬組成物を用いて対象を処置することを含む、方法。
【請求項53】
がんを処置する方法であって、請求項51に記載のVFCMを含む医薬組成物を用いて対象を処置することを含む、方法。
【請求項54】
前記対象が非ヒト対象である、請求項53に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119条の下、2021年4月9日に出願された米国仮出願第63/173,205号に基づく優先権の利益を主張し、その全内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
【0003】
本開示は、ROR1とCD3の両方に同時に結合する二重特異性抗体を提供する。本開示は、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体をコードする核酸、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体をコードする構築物を含む腫瘍溶解性ウイルスおよびがんの処置における使用方法を提供する。
【背景技術】
【0004】
背景
【0005】
受容体チロシンキナーゼオーファン受容体-1および-2(ROR1およびROR2)は、特定のがんと特異的に関連していると記載されており(Rebagay et al., 2012, Front Oncol., 2(34))、健康な組織での発現はいくつかの例外はあるもののほとんどない(Balakrishnan et al., 2017, Clin. Cancer Res., 23(12), 3061-3071)。RORファミリーメンバーの極めて腫瘍選択的な発現のために、それらは標的化がん療法の関連標的に相当する。
【0006】
受容体チロシンキナーゼオーファン受容体-1(ROR1)は、B細胞慢性リンパ性白血病(CLL)およびマントル細胞リンパ腫(MCL)において異常に発現される。ROR1は、慢性リンパ性白血病(CLL)とほぼ100%の関連を示し(Cui et al., 2016, Blood, 128(25), 2931)、一部の急性リンパ性白血病(ALL)、マントル細胞リンパ腫および一部の他の血液悪性腫瘍のマーカーとして確立されている。ROR1はまた、ある特定の固形腫瘍、例えば、肺および乳がんのものにおいて発現される(Balakrishnan et al., 2017, Clin. Cancer Res., 23(12), 3061-3071)。ROR1は、いくつかの固形腫瘍、例えば、神経芽細胞腫、肉腫、腎細胞癌、乳がん、肺がん、結腸がん、頭頸部がんおよび黒色腫の進行に関与しているとわかっており、アポトーシスを阻害し、EGFRシグナル伝達を増強し、上皮間葉転換(EMT)を誘導し、カベオラ形成に寄与すると示されている。
【0007】
ROR1は、主に胚組織において検出可能であり、一般に、成体組織には存在せず、タンパク質をがん療法の理想的な薬物標的にする。したがって、ROR1は、ROR1特異的抗体の開発のための標的として認識されている。しかし、ヒトとカニクイザルの間でアミノ酸レベルで100%保存されており、ヒトとマウスの間で96.7%相同であり、ヒトとウサギの間で96.3%相同である、様々な哺乳動物種間のROR1の高い相同性のために、動物免疫化などの標準技術によってこの標的に対する高親和性抗体を作製することは困難であった。
【0008】
腫瘍溶解性ウイルスは、がん細胞に選択的に感染し、溶解するウイルスである。腫瘍溶解性ウイルスは、黒色腫、神経膠腫、頭頸部がん、卵巣がん、肺がん、肝臓がん、膀胱がん、前立腺がんおよび膵臓がんを含む多様ながんの処置のための臨床試験の対象であった(Aghi & Martuza (2005) Oncogene 24:7802-7816)。複数の臨床試験によって、ICP34.5をコードする遺伝子の少なくとも1つのコピーの欠失によって正常細胞において複製するその能力が減弱された腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルス(HSV)の安全性が実証されている(Rampling et al. (2000) Gene Therapy 7:859-866; Papanastassiou et al. (2002) Gene Therapy 9:398-406; Makie et al. (2001) Lancet 357:525-526; Markert et al. (2000) Gene Therapy 7:867-874; Markert et al. (2009) Molecular Therapy 17:199-207; Senzer et al. (2009) J Clin Oncol 27:5763-5771)。
【0009】
がん細胞を溶解することによって腫瘍を直接的に攻撃することに加えて、腫瘍溶解性HSVは、ウイルス抗原が感染がん細胞上で発現され、がん細胞が溶解すると腫瘍抗原が放出されるので、患者において抗腫瘍免疫応答を誘導できる(Papanastassiou et al. (2002); Markert et al. (2009); Senzer et al. (2009))。ウイルスはまた、ウイルス感染の宿主認識の一部として自然免疫応答のメディエーターに関与し、炎症反応をもたらす(Hu et al. (2006) Clin Cancer Res. 12:6737-6747)。腫瘍溶解性ウイルスを用いる処置に対するこれらの免疫応答は、がん患者に全身の利益を提供し、転移性腫瘍を含むウイルスに感染していない腫瘍の抑制もたらす場合があり、疾患再発を防ぐ場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Rebagay et al., 2012, Front Oncol., 2(34)
【非特許文献2】Balakrishnan et al., 2017, Clin. Cancer Res., 23(12), 3061-3071
【非特許文献3】Rampling et al. (2000) Gene Therapy 7:859-866
【非特許文献4】Papanastassiou et al. (2002) Gene Therapy 9:398-406
【非特許文献5】Makie et al. (2001) Lancet 357:525-526
【非特許文献6】Markert et al. (2000) Gene Therapy 7:867-874
【非特許文献7】Markert et al. (2009) Molecular Therapy 17:199-207
【非特許文献8】Senzer et al. (2009) J Clin Oncol 27:5763-5771
【非特許文献9】Hu et al. (2006) Clin Cancer Res. 12:6737-6747
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
要旨
【0012】
本出願は、ROR1およびCD3に同時に結合する二重特異性抗体(αROR1/αCD3 Bsp Ab)を記載する。本明細書で記載されるようなαROR1/αCD3 Bsp Abをコードする構築物を、機能的RL-1遺伝子を含まないHSV 17に由来する腫瘍溶解性HSV-1ウイルス(「Seprehvec」)中にクローニングした。ウイルス感染細胞を使用して、二重特異性抗体を含むウイルス不含細胞培地(VFCM)を生成し、ROR1発現性腫瘍細胞に対するT細胞の細胞傷害性を増強する能力について試験した。本明細書で開示されるαROR1/αCD3 BspAbは、前臨床研究において特異的な抗腫瘍活性を有する強力なT細胞標的化を実証した。腫瘍溶解性Seprehvec HSVによるαROR1/αCD3 BspAbの発現は、ウイルス処置の抗腫瘍活性を抗原依存的に有意に増大した。
【0013】
第1の態様において、ROR1に結合する第1の単鎖可変断片抗体(ScFv)およびCD3に結合する第2の単鎖可変断片抗体(ScFv)を含む二重特異性抗体が本明細書で提供され、抗RORI scFvおよび抗CD3 scFvがリンカーを介して接合される。リンカーは、例えば、GSリンカー、例えば、それだけには限らないが、(G4S)nリンカー(式中、nは、1~20の、例えば、1~8の整数であり得る)であり得る。抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体(αROR1/αCD3 BspAb)は、単離されたタンパク質であり得、一部の例では、部分的に、または実質的に精製されている。
【0014】
二重特異性抗体の抗ROR1 scFvは、リンカー、例えば、(G4S)nリンカーによって接続された重鎖可変ドメイン(VH)配列および軽鎖可変ドメイン(VL)配列を有し得、VHおよびVL配列は、ROR1に結合する、例えば、ヒトROR1タンパク質に結合するモノクローナル抗体に由来し得る。例えば、二重特異性抗体の抗ROR1 scFvは、配列番号1に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列および配列番号5に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列を含み得る。別の例では、二重特異性抗体の抗ROR1 scFvは、配列番号10に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列および配列番号14に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列を含み得る。さらなる例では、二重特異性抗体の抗ROR1 scFvは、配列番号19に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列および配列番号23に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列を含み得る。
【0015】
さらなる例では、二重特異性抗体の抗ROR1 scFvは、配列番号52に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列および配列番号56に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列を含み得る、あるいは二重特異性抗体の抗ROR1 scFvは、配列番号60に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列および配列番号64に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVHドメイン配列を含み得る。
【0016】
多様な実施形態では、本明細書で提供されるような抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体(αROR1/αCD3 BspAb)の抗ROR1 scFvは、配列番号9、配列番号18または配列番号27に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有し得る。
【0017】
本明細書で提供されるαROR1/αCD3 BspAbの抗CD3 scFvは、限定されない実施形態では、配列番号32に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有する重鎖可変ドメインおよび配列番号33に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有する軽鎖可変ドメインを含む抗CD3 scFvであり得る。一部の実施形態では、抗CD3 scFvは、配列番号34に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0018】
本明細書で提供されるさらなる態様は、本明細書で開示されるαROR1/αCD3 BspAbのいずれかをコードする核酸構築物である。核酸構築物によってコードされるαROR1/αCD3 BspAbは、二重特異性抗体構築物のN末端にシグナルペプチド、例えば、配列番号28のシグナルペプチドまたは任意の適したシグナルペプチドを含み得る。核酸構築物は、αROR1/αCD3 BspAbコード配列に作動可能に連結したプロモーターを含むDNA構築物であり得る。プロモーターは、限定されない例として、EF1 αプロモーター、CMVプロモーター(例えば、配列番号42)、JeTプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーター、CAGプロモーター、ベータ-アクチンプロモーター、HTLVプロモーターまたはEF1α/HTLVハイブリッドプロモーター(例えば、配列番号41)であり得る。核酸構築物は、BspAbコード配列のポリアデニル化配列3’、例えば、SV40 3’配列などをさらに含み得る。核酸構築物は、ベクターで提供される場合があり、一部の例では、組換えウイルスゲノムにクローニングされ得る。
【0019】
本明細書で提供されるさらなる態様は、本明細書で開示される任意のものに従うαROR1/αCD3 BspAbをコードする核酸配列を含む核酸構築物を含む組換え腫瘍溶解性ウイルスである。多様な実施形態では、組換え腫瘍溶解性ウイルスは、組換え単純ヘルペスウイルス(HSV)、例えば、HSV-1ウイルス、例えば、HSV-1株17、HSV-1株F、HSV-1株KOSまたはHSV-1株JS1に由来するウイルスである。一部の実施形態では、本明細書で提供されるようなαROR1/αCD3 BspAbを発現するための遺伝子構築物を含む組換え腫瘍溶解性HSVは、機能的ICP34.5コード遺伝子を含まず、一部の例では、ICP34.5コード遺伝子のすべてまたは一部分が欠失されている場合がある。例えば、組換え腫瘍溶解性HSVは、HSV 17株に由来する場合があり、αROR1/αCD3 BspAbをコードする核酸構築物は、ICP34.5コード遺伝子座位中に挿入され得る。
【0020】
ある特定の実施形態では、αROR1/αCD3 BspAbをコードする核酸配列を含む核酸構築物を含む組換え腫瘍溶解性ウイルスは、サイトカインをコードする核酸配列をさらに含み得る。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、αROR1/αCD3 BspAbをコードする遺伝子およびIL-12をコードする遺伝子を含み得る。本明細書で開示される特定の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、αROR1/αCD3 BspAb、例えば、本明細書で開示されるいずれかおよびIL-12、例えば、配列番号46に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するヒトIL-12などをコードする遺伝子を含む。一部の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、αROR1/αCD3 BspAbをコードする遺伝子および増殖因子または増殖因子受容体、例えば、VEGFR2に結合する異なる抗体、例えば、scFvをコードする遺伝子を含み得る。本明細書で開示される特定の例では、腫瘍溶解性ウイルスは、本明細書で開示されるいずれかなどのαROR1/αCD3 BspAbをコードする遺伝子および抗VEGFR2 scFv、例えば、配列番号49に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するVEGFR2 scFVなどをコードする遺伝子を含む。一部の実施形態では、本明細書で開示されるような腫瘍溶解性ウイルスは、1)αROR1/αCD3 BspAb、2)IL-12ポリペプチドおよび3)抗VEGFR2 scFvをコードする。
【0021】
αROR1/αCD3 BspAbを発現する遺伝子構築物および必要に応じて1つまたは複数のさらなる導入遺伝子を含む組換え腫瘍溶解性HSVであり得る組換え腫瘍溶解性ウイルスおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物がさらに含まれる。腫瘍溶解性ウイルスは、生理食塩水溶液、例えば、PBS、リンゲルまたはHBSSなどの中で提供される場合があり、製剤は、必要に応じて、限定されない例として、1種または複数の保存料または凍結保護物質(例えば、DMSOまたはグリセロール)をさらに含み得る。一部の実施形態では、医薬組成物中のウイルスの濃度は、1mlあたり少なくとも10、1mlあたり少なくとも10、1mlあたり少なくとも5×10、または1mlあたり少なくとも10である。
【0022】
さらに別の態様は、本明細書で提供されるような医薬組成物を含む、本明細書で提供されるようなαROR1/αCD3 BspAbをコードする腫瘍溶解性ウイルスを投与することによってがんを処置する方法である。腫瘍溶解性ウイルスは、1つまたは複数のさらなる導入遺伝子、例えば、それだけには限らないが、IL-12ポリペプチドをコードする遺伝子および/またはVEGFR2に結合する抗体をコードする遺伝子を含み得る。対象は、血液がんまたは固形腫瘍であり得るがんを有すると診断された対象であり得る。対象は、限定されない例として、イヌ、ウマまたは霊長類であり得、ヒト対象であり得る。腫瘍溶解性ウイルスは、腫瘍溶解性HSVであり得、投与は、例えば、静脈内、動脈内、腔内、腹腔内、腫瘍内または腫瘍周囲送達であり得る。例えば、腫瘍溶解性ウイルスは、注射によって、注入によって、またはカテーテルの手段によって送達され得る。方法は、複投薬が数日、数週間または数カ月、離れている数回の投与を含み得る。
【0023】
また、本明細書で開示される腫瘍溶解性ウイルスのいずれかに感染した細胞を培養することによって生成されるVFCMを使用する対象を処置する方法も提供される。
【0024】
また、本明細書で提供されるようなαROR1/αCD3 BspAbを発現する遺伝子構築物を含む腫瘍溶解性ウイルスに感染した宿主細胞も本明細書で提供される。宿主細胞は、例えば、哺乳動物宿主細胞であり得、細胞株であり得る。一部の実施形態では、宿主細胞は、Vero細胞、BHK細胞またはHEK293細胞である。また、本明細書で開示される腫瘍溶解性ウイルスのいずれかに感染した細胞を培養することによって生成されたVFCMを使用してがんを有する対象を処置する方法も提供される。VCFMは、例えば、細胞上清の遠心分離および濾過によって調製でき、VFCMは、腫瘍溶解性ウイルスによってコードされる1種または複数の組換えポリペプチド、例えば、本明細書で提供されるようなαROR1/αCD3 BspAbなど、および必要に応じて、IL-12および/または抗VEGFR2抗体を含み得る。処置されるべき対象は、一部の実施形態では、非ヒト対象であり得る。
【0025】
さらなる態様において、二重特異性抗体を発現する遺伝子構築物を含む腫瘍溶解性ウイルスに感染した宿主細胞を培養して、二重特異性抗体を含むウイルス不含条件細胞培地(VFCM)を生成することおよびVFCMから二重特異性抗体を単離することによって、本明細書で開示されるαROR1/αCD3二重特異性抗体のいずれかを生成することを含む二重特異性抗体を生成する方法が提供される。VFCMは、1種または複数のさらなるポリペプチドまたは抗体、例えば、それだけには限らないが、IL-12ポリペプチドおよび/またはVEGFR2に結合する抗体を含み得る。本明細書で開示されるようなαROR1/αCD3二重特異性抗体を含む医薬組成物および本明細書で開示されるようなαROR1/αCD3二重特異性抗体を対象に投与することによってがんを有する対象を処置する方法がさらに含まれる。一部の実施形態では、方法は、対象、例えば、それだけには限らないが、非ヒト対象を、例えば、遠心分離および濾過を使用して細胞培養物から調製され得るVFCMで処置することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体をコードする構築物(右から左に転写される)の一例を示す概略図である。
【0027】
図2図2Aは、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体のELISA検出アッセイの形式を例示する。図2Bは、HSV SepGI-189、SepGI-201およびSepGI-203に感染した細胞によって生成される抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体の結合曲線を提供する。細胞培養物のVFCMがアッセイされた。
【0028】
図3A図3Aは、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体の細胞結合アッセイの形式を例示する。野生型A549細胞はROR1を発現し、ROR1遺伝子についてノックアウトされたA549細胞も対照として試験された。
【0029】
図3B図3Bは、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体の細胞結合アッセイの結果を提供する。抗ROR1/抗CD3 BspAbをコードするウイルスSepGI-189、SepGI-201およびSepGI-203に感染した細胞の培養物のVFCMがアッセイされた。
【0030】
図4A図4Aは、T細胞腫瘍細胞相互作用アッセイの形式を例示する。
【0031】
図4B図4Bは、HSV SepGI-189、SepGI-201およびSepGI-203に感染した培養物のVFCMS中に存在するαROR1/αCD3 BsAbによって媒介されるようなT細胞腫瘍細胞相互作用のフローサイトメトリー分析の結果を提供する。
【0032】
図5A図5Aは、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体のルシフェラーゼベースの細胞シグナル伝達アッセイの形式を例示する。
【0033】
図5B図5Bは、HSV SepGI-189、SepGI-201およびSepGI-203に感染した培養物のVFCMSを使用する細胞シグナル伝達アッセイの結果を提供する。
【0034】
図6図6は、T細胞およびHSV SepGI-189、SepGI-201およびSepGI-203に感染した培養物のVFCMSを含んでいた細胞傷害性アッセイにおける死滅パーセントを提供する。右のグラフにおいてT細胞によるインターフェロンガンマ(IFNγ)分泌も提供される。
【0035】
図7A図7Aは、抗ROR1抗体のA549、A549/ROR1 KO、MCF-7およびHepG2腫瘍細胞への結合のグラフを提供する。
【0036】
図7B-1】図7Bは、T細胞およびαROR1/αCD3 BsAbを発現するSepGI-201 HSVに感染した培養物のVFCMを含んでいた、標的としてA549、MCF-7およびHepG2腫瘍細胞を使用する細胞傷害性アッセイにおける死滅パーセントのグラフを提供する。対照は、T細胞の不在下でのアッセイおよびαROR1/αCD3 BsAbを発現しなかったSepGI-ヌルウイルスに感染した細胞から生成されたVFCMのアッセイを含んでいた。また、共培養物のIFNγアッセイの結果も提供される。
【0037】
図7B-2】図7Bは、T細胞およびαROR1/αCD3 BsAbを発現するSepGI-201 HSVに感染した培養物のVFCMを含んでいた、標的としてA549、MCF-7およびHepG2腫瘍細胞を使用する細胞傷害性アッセイにおける死滅パーセントのグラフを提供する。対照は、T細胞の不在下でのアッセイおよびαROR1/αCD3 BsAbを発現しなかったSepGI-ヌルウイルスに感染した細胞から生成されたVFCMのアッセイを含んでいた。また、共培養物のIFNγアッセイの結果も提供される。
【0038】
図8A図8Aは、αROR1/αCD3 BsAbを発現するHSVによるA549腫瘍細胞の死滅のアッセイの手順を提供する。
【0039】
図8B図8Bは、多様なMOIで培養物に感染するように使用されたウイルスによるROR1陽性腫瘍細胞およびROR1ノックアウト細胞の死滅の増強を実証するグラフを提供する。
【0040】
図9A図9Aは、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体によるマウスROR1の結合についてのELISA検出アッセイの形式を例示する。
【0041】
図9B図9Bは、マウスROR1に対する抗体s10およびjlv1011の結合曲線を提供する。
【0042】
図10A図10Aは、HSV SepGI-189およびSepGI-201を用いる腫瘍の処置のin vivo研究の腫瘍接種および処置スケジュールを提供する。
【0043】
図10B図10Bは、HSV SepGI-189およびSepGI-201を用いて処置された、A549腫瘍接種マウスの腫瘍体積のグラフを提供する。
【0044】
図10C図10Cは、HSV SepGI-ヌル、SepGI-189およびSepGI-201を用いて処置されたマウスの腫瘍成長阻害パーセントのグラフを提供する。
【0045】
図10D図10Dは、図10A、BおよびCに示される研究の過程にわたる体重のグラフを提供する。
【0046】
図11A図11Aは、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体(右から左に転写される)およびヒトIL-12ポリペプチド(左から右に転写される)をコードする構築物の例を示す概略図である。
【0047】
図11B図11Bは、抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体(右から左に転写される)および抗VEGFR2 scFvおよびヒトIL-12ポリペプチドをコードする構築物の例を示す概略図である。抗VEGFR2 scFvおよびヒトIL-12ポリペプチドは、同一プロモーターによって左から右に転写され、それらのコード配列は、T2A自己切断ペプチドをコードする配列を介して接続される。
【0048】
図12A図12Aは、様々なHSVに感染した細胞のVFCMにおける抗RSV抗体を検出するためのELISAの結果を提供する。グラフは、SepGI-207およびSepGI-218 VFCMが、抗RSV抗体を含んでいたことを示す。
【0049】
図12B図12Bは、様々なHSVに感染した細胞のVFCMにおける抗ROR1抗体を検出するためのELISAの結果を提供する。グラフは、SepGI-201、SepGI-212およびSepGI-216 VFCMが抗ROR1抗体を含んでいたことを示す。
【0050】
図12C図12Cは、様々なHSVに感染した細胞のVFCMにおけるヒトIL-12を検出するためのELISAの結果を提供する。グラフは、SepGI-212、SepGI-216およびSepGI-218 VFCMがヒトIL-12を含んでいたことを示す。
【0051】
図13図13は、様々なHSVに感染した細胞のVFCMにおける抗VEGFR2抗体を検出するためのELISAの結果を提供する。グラフは、SepGI-212の分離株のVFCMが抗VEGFR2抗体を含んでいたことを示す。
【0052】
図14図14は、HSV SepGI-ヌル、SepGI-201、SepGI-207、SepGI-212、SepGI-214、SepGI-216およびSepGI-218に感染した細胞のVFCMにおけるIL-12の活性を検出するアッセイの結果を提供する棒グラフである。
【0053】
図15A図15Aは、非標識腫瘍細胞のフローサイトメトリーの結果を提供する。
【0054】
図15B図15Bは、eFluor 450で標識された腫瘍細胞のフローサイトメトリーの結果を提供する。
【0055】
図15C図15Cは、eFluor 670で標識されたヒトT細胞のフローサイトメトリーの結果を提供する。
【0056】
図15D図15Dは、抗ROR1-抗CD3二重特異性抗体を含んでいたVFCMと共培養された標識された腫瘍細胞および標識されたT細胞のフローサイトメトリーの結果を提供する。
【0057】
図16A図16Aは、腫瘍細胞がHepa 1-6、A549およびA549 ROR1ノックアウト細胞であった場合の、分析された細胞のパーセンテージとしての、SepGI-218 VFCM(αRSV-αCD3 bsp抗体およびIL-12)によって媒介される腫瘍細胞-T細胞相互作用のフローサイトメトリーアッセイの結果の棒グラフを提供する。
【0058】
図16B図16Bは、腫瘍細胞が、Hepa 1-6およびA549細胞であった場合の、分析された細胞のパーセンテージとしての、SepGI-201 VFCM(αROR1-αCD3 bsp抗体)によって媒介される腫瘍細胞-T細胞相互作用のフローサイトメトリーアッセイの結果の棒グラフを提供する。
【0059】
図16C図16Cは、腫瘍細胞がHepa 1-6およびA549細胞であった場合の、分析細胞のパーセンテージとしての、SepGI-216 VFCM(αROR1-αCD3 bsp 抗体およびIL-12およびVEGFR2抗体)によって媒介される腫瘍細胞-T細胞相互作用のフローサイトメトリーアッセイの結果の棒グラフを提供する。
【0060】
図17A-B】図17Aは、T細胞がROR1ノックアウト腫瘍標的細胞の存在下でインキュベートされた場合の、3日にわたるT細胞活性化アッセイにおいて使用された生存CD3+T細胞のパーセンテージを示すグラフである(日毎に左から右に進行するバーの):非感染細胞のVFCM、SepGI-ヌルに感染した細胞のVFCM、SepGI-207に感染した細胞のVFCM、SepGI-201に感染した細胞のVFCMおよびCD3/CD28ビーズ。バーの各対の第1のものは、10:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供し、バーの各対の第2のものは、5:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供する。図17Bは、T細胞活性化アッセイの各々におけるCD3+CD4+細胞計数を提供するグラフである。アッセイVFCMおよびE:T比は、図17Aにおけるとおりである。
【0061】
図17C-D】図17Cは、T細胞がROR1+腫瘍標的細胞の存在下でインキュベートされている活性化アッセイにおけるCD3+CD4+細胞のパーセンテージとしてのCD25+T細胞を提供する(日毎に左から右に進行するバーの):非感染細胞のVFCM、SepGI-ヌルに感染した細胞のVFCM、SepGI-207に感染した細胞のVFCM、SepGI-201に感染した細胞のVFCMおよびCD3/CD28ビーズ。バーの各対の第1のものは、10:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供し、バーの各対の第2のものは、5:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供する。図17Dは、T細胞がROR1+腫瘍標的細胞の存在下でインキュベートされている活性化アッセイにおけるCD3+CD4+細胞のパーセンテージとしてのCD69+T細胞を提供する(日毎に左から右に進行するバーの):非感染細胞のVFCM、SepGI-ヌルに感染した細胞のVFCM、SepGI-207に感染した細胞のVFCM、SepGI-201に感染した細胞のVFCMおよびCD3/CD28ビーズ。バーの各対の第1のものは、10:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供し、バーの各対の第2のものは、5:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供する。
【0062】
図17E-F】図17Eは、T細胞がROR1+腫瘍標的細胞の存在下でインキュベートされた場合の3日にわたるT細胞活性化アッセイにおいて使用された生存CD3+T細胞のパーセンテージを示すグラフ(日毎に左から右に進行するバーの)である:非感染細胞のVFCM、SepGI-ヌルに感染した細胞のVFCM、SepGI-207に感染した細胞のVFCM、SepGI-201に感染した細胞のVFCMおよびCD3/CD28ビーズ。バーの各対の第1のものは、10:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供し、バーの各対の第2のものは、5:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供する。図17Fは、T細胞活性化アッセイの各々におけるCD3+CD4+細胞計数を提供するグラフである。アッセイVFCMおよびE:T比は、図17Eにおけるとおりである。
【0063】
図17G-H】図17Gは、T細胞がROR1+腫瘍標的細胞の存在下でインキュベートされた活性化アッセイにおけるCD3+CD4+細胞のパーセンテージとしてのCD25+T細胞を提供する(日毎に左から右に進行するバーの):非感染細胞のVFCM、SepGI-ヌルに感染した細胞のVFCM、SepGI-207に感染した細胞のVFCM、SepGI-201に感染した細胞のVFCMおよびCD3/CD28ビーズ。バーの各対の第1のものは、10:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供し、バーの各対の第2のものは、5:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供する。図17Hは、T細胞がROR1+腫瘍標的細胞の存在下でインキュベートされた活性化アッセイにおけるCD3+CD4+細胞のパーセンテージとしてのCD69+T細胞を提供する(日毎に左から右に進行するバーの):非感染細胞のVFCM、SepGI-ヌルに感染した細胞のVFCM、SepGI-207に感染した細胞のVFCM、SepGI-201に感染した細胞のVFCMおよびCD3/CD28ビーズ。バーの各対の第1のものは、10:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供し、バーの各対の第2のものは、5:1のE:T比で実施されたアッセイの値を提供する。
【0064】
図18A図18Aは、T細胞がA549野生型(ROR1+)腫瘍標的細胞の存在下でインキュベートされた場合の、3日にわたるT細胞活性化アッセイにおいて使用された生存CD3+T細胞のパーセンテージを示すグラフである(日毎に左から右に進行するバーの):SepGI-ヌルに感染した細胞のVFCM、SepGI-207に感染した細胞のVFCM、SepGI-201に感染した細胞のVFCM、SepGI-218に感染した細胞のVFCMおよびSepGI-216に感染した細胞のVFCM。5:1のE:T比で実施されたアッセイ。
【0065】
図18B図18Bは、T細胞がA549 ROR1ノックアウト腫瘍標的細胞の存在下でインキュベートされた場合の、3日にわたるT細胞活性化アッセイにおいて使用された生存CD3+T細胞のパーセンテージを示すグラフ(日毎に左から右に進行するバーの)である:SepGI-ヌルに感染した細胞のVFCM、SepGI-207に感染した細胞のVFCM、SepGI-201に感染した細胞のVFCM、SepGI-218に感染した細胞のVFCMおよびSepGI-216に感染した細胞のVFCM。5:1のE:T比で実施されたアッセイ。
【0066】
図19A-B】図19Aは、標的がルシフェラーゼを発現するA549野生型細胞であり、アッセイが非感染細胞またはSepGI-ヌル、SepGI-201、SepGI-207、SepGI-212、SepGI-214、SepGI-216およびSepGI-218に感染した細胞のVFCMの存在下で実施された場合の、T細胞の不在下および存在下でのルシフェラーゼベースの毒性アッセイの結果を示すグラフである。図19Bは、標的がルシフェラーゼを発現するA549 ROR1ノックアウト細胞であり、アッセイが非感染細胞またはSepGI-ヌル、SepGI-201、SepGI-207、SepGI-212、SepGI-214、SepGI-216およびSepGI-218に感染した細胞のVFCMの存在下で実施された場合の、T細胞の不在下および存在下でのルシフェラーゼベースの毒性アッセイの結果を示すグラフである。
【0067】
図19C-D】図19Cは、図17Cのアッセイの死滅パーセンテージを提供するグラフである。図19Dは、図17Bのアッセイの死滅パーセンテージを提供するグラフである。
【0068】
図20図20は、標的としてA549野生型細胞を使用するインピーダンスベースの細胞傷害性アッセイにおける細胞の経時的な細胞指数を示す。実施例18を参照されたい。
【0069】
図21図21は、標的としてA549ノックアウト細胞を使用するインピーダンスベースの細胞傷害性アッセイにおける細胞の経時的な細胞指数を示す。実施例18を参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0070】
詳細な説明
【0071】
本出願を通じて、多様な刊行物、特許および/または特許出願が参照される。刊行物、特許および/または特許出願の開示内容は、本開示が関係する最先端技術をより十分に説明するために、ここで参照によりその全体が本出願に組み込まれる。
【0072】
定義:
【0073】
別に定義されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、別に定義されない限り、当業者に一般に理解される意味を有する。一般に、本明細書で記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、トランスジェニック細胞生成、タンパク質化学および核酸化学およびハイブリダイゼーションの技術に関係する用語法は、当技術分野で周知であり、一般的に使用されている。特に断りのない限り、本明細書で提供される方法および技術は、一般に、当技術分野で周知の、ならびに本明細書で引用され、論じられる多様な一般的なおよびより具体的な参考文献に記載されるような従来の手順に従って実施される。例えば、Sambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)およびAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992)を参照されたい。Borrebaeck (ed) Antibody Engineering, 2nd Edition Freeman and Company, NY, 1995; McCafferty et al. Antibody Engineering, A Practical Approach IRL at Oxford Press, Oxford, England, 1996;およびPaul (1995) Antibody Engineering Protocols Humana Press, Towata, N.J., 1995; Paul (ed.), Fundamental Immunology, Raven Press, N.Y, 1993; Coligan (1991) Current Protocols in Immunology Wiley/Greene, NY; Harlow and Lane (1989) Antibodies: A Laboratory Manual Cold Spring Harbor Press, NY; Stites et al. (eds.) Basic and Clinical Immunology (4th ed.) Lange Medical Publications, Los Altos, Calif.およびそれに引用された参考文献; Coding Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (2nd ed.) Academic Press, New York, N.Y., 1986, and Kohler and Milstein Nature 256: 495-497, 1975を含むいくつかの基本教本には、標準的な抗体生成プロセスが記載されている。本明細書で引用される参考文献のすべては、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。酵素反応および濃縮/精製技術も周知であり、当技術分野で一般的に達成されるように、または本明細書で記載されるように、製造業者の仕様書に従って実施される。本明細書で記載される分析化学、合成有機化学および医薬品化学および製薬化学に関連して使用される技術用語ならびにその実験手順および技術は、当技術分野で周知であり、一般的に使用されている。標準的な技術は、化学合成、化学分析、医薬品調製、製剤化および送達および患者の処置のために使用され得る。
【0074】
本明細書で提供される見出しは、本開示の多様な態様の制限ではなく、それらの態様は、全体として本明細書を参照することによって理解され得る。
【0075】
本明細書の文脈によって別に必要とされない限り、単数形の用語は、複数形を含むものとし、複数形の用語は、単数形を含むものとする。単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」および任意の単語の単数形使用は、明示的に、明白に1つの指示対象に制限しない限り、複数形の指示対象を含む。
【0076】
本明細書における代替語(例えば、「または」)の使用は、代替語の一方または両方、またはそれらの任意の組合せのいずれかを意味すると解釈されることは理解される。
【0077】
本明細書で使用される「および/または」という用語は、特定の特徴または構成成分の各々の、他方の有無にかかわらず、特定の開示を意味すると解釈されるべきである。例えば、本明細書で「Aおよび/またはB」などの語句において使用されるような「および/または」という用語は、「AおよびB」、「AまたはB」、「A」(単独)および「B」(単独)を含むように意図される。同様に、「A、Bおよび/またはC」などの語句において使用されるような「および/または」という用語は、以下の態様の各々:A、BおよびC;A、BまたはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)を包含するように意図される。
【0078】
本明細書で使用される場合、「含んでいる(comprising)」、「含んでいる(including)」、「有する(having)」および「含有している(containing)」という用語ならびにそれらの文法的な異形は、本明細書で使用される場合、リスト中の1つの項目または複数の項目が、列挙される項目と置換され得る、またはそれに付加され得る他の項目を除外しないような限定されないように意図される。態様が「含んでいる(comprising)」という言葉と共に本明細書で記載される場合は常に、「からなる(consisting of)」および/または「本質的にからなる(consisting essentially of)」の用語で記載されるそうではない類似の態様も提供されるということは理解される。
【0079】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当業者によって決定されるような特定の値または組成の許容される誤差範囲内である値または組成を指し、これは、幾分かは値または組成が測定または決定される方法、すなわち、測定システムの制限に応じて変わる。例えば、「約」または「およそ」は、当技術分野における慣行によって1以内または1より大きい標準偏差を意味する場合がある。あるいは、「約」または「およそ」は、測定システムの制限に応じて最大10%(すなわち、±10%)の範囲またはより多くを意味する場合がある。例えば、約5mgは、4.5mgから5.5mgの間の任意の数字を含み得る。さらに、特に、生物システムまたはプロセスに関しては、この用語は、値の最大1桁または最大5倍を意味する場合がある。本開示において特定の値または組成が提供される場合は、別に明記されない限り、「約」または「およそ」の意味は、その特定の値または組成の許容される誤差範囲内であると想定されるべきである。
【0080】
「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語および本明細書で使用される他の関連用語は、同義的に使用され、アミノ酸のポリマーを指し、任意の特定の長さに制限されない。ポリペプチドは、天然および非天然アミノ酸を含み得る。ポリペプチドは、組換え形態または化学合成形態を含む。ポリペプチドはまた、切断、例えば、分泌シグナルペプチドによる、またはある特定のアミノ酸残基での非酵素的切断による切断にまだ付されていない前駆体分子も含む。ポリペプチドは、切断を起こしている成熟した分子を含む。これらの用語は、天然タンパク質および人工タンパク質、タンパク質断片およびタンパク質配列のポリペプチドアナログ(ムテイン、バリアント、キメラタンパク質および融合タンパク質など)ならびに翻訳後に、またはそうでなければ共有結合によって、もしくは非共有結合によって改変されたタンパク質を包含する。2つまたはそれより多いポリペプチド(例えば、3つのポリペプチド鎖)が、共有結合および/または非共有結合による会合によって互いに会合して、ポリペプチド複合体を形成する場合がある。ポリペプチド鎖の会合はまた、ペプチドフォールディングを含み得る。したがって、ポリペプチド複合体は、複合体を形成するポリペプチド鎖の数に応じて二量体、三量体、四量体または高次複合体であり得る。
【0081】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語および本明細書で使用される他の関連用語は、同義的に使用され、ヌクレオチドのポリマーを指し、任意の特定の長さに制限されない。核酸は、組換え形態および化学合成形態を含む。核酸は、DNA分子(cDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチドアナログ(例えば、ペプチド核酸および天然に存在しないヌクレオチドアナログ)を使用して作製されたDNAまたはRNAのアナログおよびそれらのハイブリッドを含む。核酸分子は、一本鎖である場合も、二本鎖である場合もある。一実施形態では、本開示の核酸分子は、抗体またはその断片またはscFv、誘導体、ムテインまたはバリアントをコードする連続オープンリーディングフレームを含む。一実施形態では、核酸は、1種類のポリヌクレオチドまたは2種またはそれより多い様々な種類のポリヌクレオチドの混合物を含む。二重特異性抗体をコードする核酸が本明細書で記載される。
【0082】
「回収する」または「回収」または「回収すること」という用語および他の関連用語は、宿主細胞培養培地から、または宿主細胞溶解物から、または宿主細胞膜からタンパク質(例えば、抗体またはその抗原結合部分)を得ることを指す。一実施形態では、タンパク質は、宿主細胞によって宿主細胞から(例えば、哺乳動物宿主細胞から)の発現されたタンパク質の分泌を媒介する分泌シグナルペプチド(リーダーペプチド配列)配列に融合された組換えタンパク質として発現される。分泌されたタンパク質は、宿主細胞培地から回収できる。一実施形態では、タンパク質は、宿主細胞によって分泌シグナルペプチド配列を欠く組換えタンパク質として発現され、これは、宿主細胞溶解物から回収できる。一実施形態では、タンパク質は、宿主細胞によって膜結合タンパク質として発現され、これは、発現されたタンパク質を宿主細胞膜から放出するための界面活性剤を使用して回収できる。一実施形態では、タンパク質を回収するために使用される方法に関わらず、タンパク質は、回収されたタンパク質から細胞片を除去する手順に付される場合がある。例えば、回収されたタンパク質は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動および/または透析に付される場合がある。一実施形態では、クロマトグラフィーは、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーおよび/またはシリカでのクロマトグラフィーを含む手順のいずれか1つまたは任意の組合せまたは2つもしくはそれより多くを含む。一実施形態では、アフィニティークロマトグラフィーは、プロテインAまたはG(Staphylococcus aureus由来の細胞壁構成成分)を含む。
【0083】
「単離された」という用語は、他の細胞性材料を実質的に含まないタンパク質(例えば、抗体またはその抗原結合部分)またはポリヌクレオチドを指す。タンパク質を、当技術分野で周知のタンパク質精製技術を使用する単離によって、天然に関連している構成成分(または抗体を生成するために使用される細胞性発現システムまたは化学合成法と関連する構成成分)を実質的に含まないようにできる。単離されたという用語はまた、同一種の他の分子、例えば、それぞれ異なるアミノ酸またはヌクレオチド配列を有する他のタンパク質またはポリヌクレオチドを実質的に含まないタンパク質またはポリヌクレオチドを指す。所望の分子の均一性の純度は、ゲル電気泳動などの低分解能法およびHPLCまたは質量分析などの高分解能法を含む当技術分野で周知の技術を使用してアッセイできる。多様な実施形態では、本開示の二重特異性抗体は単離される。
【0084】
「シグナルペプチド」、「[ペプチド]シグナル配列」、「リーダー配列」、「リーダーペプチド」または「分泌シグナルペプチド」という用語は、ポリペプチドのN末端に位置するペプチド配列を指す。リーダー配列は、ポリペプチド鎖を細胞分泌経路に向かわせ、細胞膜の脂質二重層への膜タンパク質の組み込みおよび繋留を指示できる。通常、リーダー配列は、約10~60個のアミノ酸長であり、より一般的には、15~50個のアミノ酸長である。リーダー配列は、サイトゾルから小胞体への前駆体ポリペプチドの輸送を指示できる。多様な実施形態では、リーダー配列は、CD8α、CD28もしくはCD16リーダー配列またはマウスもしくはヒトIgガンマ分泌シグナルペプチドを含むシグナル配列を含む。一実施形態では、リーダー配列は、マウスIgガンマリーダーペプチド配列MEWSWVFLFFLSVTTGVHS(配列番号)を含む。
【0085】
「抗原結合タンパク質」および本明細書で使用される関連する用語は、抗原に結合する部分および必要に応じて抗原結合部分が、抗原への抗原結合タンパク質の結合を促進するコンホメーションを採ることを可能にする足場またはフレームワーク部分を含むタンパク質を指す。抗原結合タンパク質の例として、抗体、抗体断片(例えば、抗体の抗原結合部分)、抗体誘導体および抗体アナログが挙げられる。抗原結合タンパク質は、例えば、グラフトされたCDRまたはCDR誘導体を有する代替タンパク質足場または人工足場を含み得る。このような足場として、それだけには限らないが、例えば、抗原結合タンパク質の三次元構造を安定化するために導入された突然変異を含む抗体由来足場ならびに例えば、生体適合性ポリマーを含む完全合成足場が挙げられる。例えば、Korndorfer et al., 2003, Proteins: Structure, Function, and Bioinformatics, Volume 53, Issue 1:121-129; Roque et al., 2004, Biotechnol. Prog. 20:639-654を参照されたい。さらに、ペプチド抗体ミメティクス(「PAM」)ならびに足場としてフィブロネクチン構成成分を利用する抗体ミメティクスをベースとする足場を使用できる。
【0086】
抗原結合タンパク質は、例えば、天然に存在する免疫グロブリンの構造を有する場合がある。一実施形態では、「免疫グロブリン」とは、ポリペプチド鎖の2つの同一対から構成され、各対が1つの「軽」(約25kDa)および1つの「重」鎖(約50~70kDa)を有する天然に存在する四量体分子を指す。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識に関与する約100~110またはそれより多いアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能に関与する定常領域を定義する。ヒト軽鎖はカッパまたはラムダ軽鎖として分類される。重鎖は、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファまたはイプシロンとして分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEとして抗体のアイソタイプを定義する。軽および重鎖内で、可変および定常領域は、約12個またはそれより多いのアミノ酸の「J」領域によって接合され、重鎖はまた約10個またはそれより多いアミノ酸の「D」領域を含む。全般的に、Fundamental Immunology Ch. 7 (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N.Y. (1989))(すべての目的のためにその全体で参照によって組み込まれる)を参照されたい。重および/または軽鎖は、分泌のためのリーダー配列を含む場合も含まない場合もある。各軽/重鎖対の可変領域は、抗体結合部位を形成し、その結果、無傷免疫グロブリンは、2つの抗原結合部位を有する。一実施形態では、抗原結合タンパク質は、四量体免疫グロブリン分子とは異なるが、標的抗原に依然として結合する、または2つもしくはそれより多くの標的抗原に結合する構造を有する合成分子であり得る。例えば、合成抗原結合タンパク質は、抗体断片、1~6またはそれより多いポリペプチド鎖、ポリペプチドの非対称アセンブリーまたは他の合成分子を含み得る。多様な実施形態では、本開示の二重特異性抗体は、免疫グロブリン様特性を示し、2つの異なる標的抗原(ROR1およびCD3)に特異的に結合する。
【0087】
免疫グロブリン鎖の可変領域は、相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる3つの超可変領域によって接合されている相対的に保存されたフレームワーク領域(FR)の同一の一般構造を示す。N末端からC末端に、軽および重鎖の両方がドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。
【0088】
1つまたは複数のCDRを、共有結合的にまたは非共有結合的に分子中に組み込み、それを抗原結合タンパク質にできる。抗原結合タンパク質は、CDR(複数可)を大きなポリペプチド鎖の一部として組み込むことができ、CDR(複数可)を別のポリペプチド鎖に共有結合的に連結することができる、またはCDR(複数可)を非共有結合的に組み込むことができる。CDRは、抗原結合タンパク質が目的の特定の抗原に特異的に結合することを可能にする。
【0089】
各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed., US Dept. of Health and Human Services, PHS, NIH, NIH Publication no. 91-3242, 1991中のKabatらの定義(「Kabat番号付け」)に従う。免疫グロブリン鎖中のアミノ酸の他の番号付けシステムには、IMGT.RTM.(国際ImMunoGeneTics情報システム; Lefranc et al, Dev. Comp. Immunol. 29:185-203; 2005)およびAHo(Honegger and Pluckthun, J. Mol. Biol. 309(3):657-670; 2001);Chothia(Al-Lazikani et al., 1997 Journal of Molecular Biology 273:927-948; Contact(Maccallum et al., 1996 Journal of Molecular Biology 262:732-745およびAho(Honegger and Pluckthun 2001 Journal of Molecular Biology 309:657-670が含まれる。
【0090】
「抗体(単数および複数)」および本明細書で使用される関連用語は、抗原に特異的に結合する無傷免疫グロブリンまたはその抗原結合部分を指す。抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、または無傷抗体の酵素的もしくは化学的切断によって生成され得る。抗原結合部分には、とりわけ、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、ドメイン抗体(dAb)および相補性決定領域(CDR)断片、単鎖抗体(scFv)、キメラ抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディおよびポリペプチドに特異的抗原結合を付与するのに十分である免疫グロブリンの少なくとも一部分を含有するポリペプチドが含まれる。
【0091】
抗体は、組換えによって生成された抗体および抗原結合部分を含む。抗体には、非ヒト、キメラ、ヒト化および完全ヒト抗体が含まれる。抗体には、単一特異性、多重特異性(例えば、二重特異性、三重特異性および高次特異性)が含まれる。抗体には、四量体抗体、軽鎖単量体、重鎖単量体、軽鎖二量体、重鎖二量体が含まれる。抗体には、F(ab’)断片、Fab’断片およびFab断片が含まれる。抗体には、単一ドメイン抗体、一価抗体、単鎖抗体、単鎖可変断片(scFv)、ラクダ化抗体、アフィボディ、ジスルフィド結合Fvs(sdFv)、抗イディオタイプ抗体(抗Id)、ミニボディが含まれる。抗体には、モノクローナルおよびポリクローナル集団が含まれる。本明細書で記載される一部の実施形態では、二重特異性抗体は、2つの単鎖可変断片抗体を含み、これらはリンカーによって接合された二重特異性抗体分子の「scFv部分」または簡単に「scFv」として記載される場合がある。
【0092】
「抗原結合ドメイン」、「抗原結合領域」または「抗原結合部位」および本明細書で使用される他の関連用語とは、抗原と相互作用し、抗原結合タンパク質の抗原に対する特異性および親和性に寄与するアミノ酸残基(または他の部分)を含有する抗原結合タンパク質の一部分を指す。その抗原に特異的に結合する抗体について、これはそのCDRドメインのうち少なくとも1つの少なくとも一部を含む。モノクローナル抗体および二重特異性抗体からの抗原結合ドメインが、本明細書で提供される。
【0093】
「特異的結合」、「特異的に結合する」または「特異的に結合すること」という用語および他の関連用語は、抗体または抗原結合タンパク質(例えば、ヘテロ二量体抗体)または抗体断片の文脈において本明細書で使用される場合、他の分子または部分と比べて抗原に対する非共有結合性または共有結合性優先的結合を指す(例えば、抗体は、他の利用可能な抗原と比べて特定の抗原に特異的に結合する)。一実施形態では、抗体は、10-5Mもしくはそれ未満または10-6Mもしくはそれ未満または10-7Mもしくはそれ未満または10-8Mもしくはそれ未満または10-9Mもしくはそれ未満または10-10Mもしくはそれ未満または10-11Mもしくはそれ未満の解離定数Kで抗原に結合する場合に、標的抗原に特異的に結合する。ROR1およびCD3に特異的に結合する二重特異性抗体が、本明細書で記載される。
【0094】
一実施形態では、結合特異性は、ELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)、エレクトロケミルミネッセンスアッセイ(ECL)、免疫放射線測定法(IRMA)または酵素免疫アッセイ(EIA)によって測定され得る。
【0095】
一実施形態では、解離定数(K)は、BIACORE表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを使用して測定され得る。表面プラズモン共鳴とは、例えば、BIACOREシステム(GE Healthcare、Piscataway、NJのBiacore Life Sciences部門)を使用するバイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変更の検出によるリアルタイム相互作用の分析が可能になる光学的現象を指す。
【0096】
「エピトープ」および関連用語は、本明細書で使用される場合、抗原結合タンパク質によって(例えば、抗体またはその抗原結合部分によって)結合される抗原の一部分を指す。エピトープは、抗原結合タンパク質によって結合される2つまたはそれより多い抗原の部分を含み得る。エピトープは、抗原の、または2つもしくはそれより多い抗原の非連続部分(例えば、抗原の一次配列においては連続していないが、抗原の三次および四次構造の状況では、抗原結合タンパク質によって結合されるのに互いに十分に近接しているアミノ酸残基)を含み得る。一般に、抗体の可変領域、特に、CDRは、エピトープと相互作用する。ROR1ポリペプチドのエピトープに結合し、CD3ポリペプチドのエピトープに結合する二重特異性抗体が、本明細書で記載される。
【0097】
「抗体断片」、「抗体部分」、「抗体の抗原結合断片」または「抗体の抗原結合部分」および本明細書で使用される他の関連用語は、無傷抗体が結合する抗原に結合する無傷抗体の一部分を含む無傷抗体以外の分子を指す。抗体断片の例として、それだけには限らないが、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、FdおよびFv断片ならびにdAb、ダイアボディ、線形抗体、単鎖抗体分子(例えば、scFv)、ポリペプチドに特異的抗原結合を付与するのに十分である抗体の少なくとも一部分を含有するポリペプチドが挙げられる。抗体の抗原結合部分は、組換えDNA技術によって、または無傷抗体の酵素的もしくは化学的切断によって生成され得る。抗原結合部分には、とりわけ、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ドメイン抗体(dAb)および相補性決定領域(CDR)断片、キメラ抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディおよび抗体断片に抗原結合特性を付与するのに十分である免疫グロブリンの少なくとも一部分を含有するポリペプチドが含まれる。
【0098】
「Fab」、「Fab断片」という用語および他の関連用語とは、軽鎖可変鎖領域(V)、定常軽鎖領域(C)、重鎖可変鎖領域(V)および第1の定常領域(CH1)を含む一価断片を指す。Fabは、抗原に結合可能である。F(ab’)断片は、ヒンジ領域でジスルフィド橋によって連結される2つのFab断片を含む二価断片である。F(Ab’)は、抗原結合能を有する。Fd断片は、VおよびCH1領域を含む。Fv断片は、VおよびV領域を含む。Fvは、抗原に結合できる。dAb断片は、Vドメイン、VドメインまたはVもしくはVLドメインの抗原結合断片を有する(米国特許第6,846,634号および同6,696,245号;米国公開出願第2002/02512号、同2004/0202995号、同2004/0038291号、同2004/0009507号、同2003/0039958号;およびWard et al., Nature 341:544-546, 1989)。
【0099】
単鎖抗体(scFv)は、VおよびV領域がリンカー(例えば、アミノ酸残基の合成配列)を介して接合されて、連続タンパク質鎖を形成する抗体である。好ましくは、リンカーは、タンパク質鎖が折り畳まれて、一価抗原結合部位を形成することを可能にするのに十分に長い(例えば、Bird et al., 1988, Science 242:423-26およびHuston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-83を参照されたい)。ROR1に特異的に結合する単鎖抗体およびCD3に特異的に結合する単鎖抗体が、本明細書で記載される。
【0100】
ダイアボディは、2つのポリペプチド鎖を含む二価抗体であり、各ポリペプチド鎖は、短すぎて同一鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にすることができず、したがって、各ドメインが別のポリペプチド鎖上の相補的ドメインと対を形成するリンカーによって接合されたVおよびVドメインを含む(例えば、Holliger et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-48およびPoljak et al., 1994, Structure 2:1121-23を参照されたい)。ダイアボディの2つのポリペプチド鎖が同一である場合には、その対形成に起因するダイアボディは、2つの同一の抗原結合部位を有する。異なる配列を有するポリペプチド鎖を使用して、2つの異なる抗原結合部位を有するダイアボディを作製できる。沿うように、トリアボディおよびテトラボディは、それぞれ3つおよび4つのポリペプチド鎖を含み、同一である場合も異なる場合もあるそれぞれ3つおよび4つの抗原結合部位を形成する抗体である。
【0101】
「ヒト抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する1つまたは複数の可変および定常領域を有する抗体を指す。一実施形態では、可変および定常ドメインのすべては、ヒト免疫グロブリン配列(例えば、完全ヒト抗体)に由来する。これらの抗体は、種々の方法で調製でき、組換え方法論によって、またはヒト重および/もしくは軽鎖をコードする遺伝子に由来する抗体を発現するように遺伝子改変されているマウスの目的の抗原を用いる免疫化によってを含め、それらの例は以下に記載されている。
【0102】
「ヒト化」抗体とは、1つまたは複数のアミノ酸置換、欠失および/または付加によって非ヒト種に由来する抗体の配列とは異なる配列を有する抗体を指し、その結果、ヒト化抗体は、ヒト対象に投与された場合に非ヒト種抗体と比較して、免疫応答を誘導する可能性が低い、および/またはあまり重度ではない免疫応答を誘導する。一実施形態では、ヒト化抗体を生成するために、非ヒト種抗体の重および/または軽鎖のフレームワークおよび定常ドメイン中のある特定のアミノ酸が突然変異されている。別の実施形態では、ヒト抗体由来の定常ドメイン(複数可)が非ヒト種の可変ドメイン(複数可)に融合されている。別の実施形態では、ヒト対象に投与された場合の非ヒト抗体のあり得る免疫原性を低減するために、非ヒト抗体の1つまたは複数のCDR配列中の1つまたは複数のアミノ酸残基が変更され、変更されるアミノ酸残基は、抗体のその抗原への免疫特異的結合にとって重要ではないか、またはヒト化抗体の抗原への結合が、非ヒト抗体の抗原への結合よりも大幅に悪化しないように、行われるアミノ酸配列への変更は保存的変化である。ヒト化抗体を作製する方法の例は、米国特許第6,054,297号、同5,886,152号および同5,877,293号に見出すことができる。
【0103】
「キメラ抗体」という用語および本明細書で使用される関連用語は、第1の抗体に由来する1つまたは複数の領域および1つまたは複数の他の抗体に由来する1つまたは複数の領域を含有する抗体を指す。一実施形態では、CDRのうち1つまたは複数が、ヒト抗体に由来する。別の実施形態では、CDRのすべてが、ヒト抗体に由来する。別の実施形態では、1つより多いヒト抗体に由来するCDRが混合され、キメラ抗体に調和される。例えば、キメラ抗体は、第1のヒト抗体の軽鎖に由来するCDR1、第2のヒト抗体の軽鎖に由来するCDR2およびCDR3ならびに第3の抗体からの重鎖に由来するCDRを含み得る。別の例では、CDRは、ヒトおよびマウスまたはヒトおよびウサギまたはヒトおよびヤギなどの異なる種に起因する。当業者ならば、他の組合せがあり得ることは理解するであろう。
【0104】
さらに、フレームワーク領域は、同一抗体の1つに、1つまたは複数の異なる抗体、例えば、ヒト抗体に、またはヒト化抗体に由来し得る。キメラ抗体の一例では、重および/または軽鎖の一部分は、特定の種からの抗体または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体と同一である、それと相同である、またはそれに由来し、鎖(複数可)の残部は、別の種からの抗体(複数可)または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体と同一である、それと相同である、またはそれに由来する。また、所望の生物活性(すなわち、標的抗原に特異的に結合する能力)を示すこのような抗体の断片も含まれる。
【0105】
本明細書で使用される場合、「バリアント」ポリペプチドおよびポリペプチドの「バリアント」という用語は、参照ポリペプチド配列と比べて、アミノ酸配列に1つまたは複数のアミノ酸残基が挿入されている、欠失しているおよび/または置換されているアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。ポリペプチドバリアントは、融合タンパク質を含む。同じように、バリアントポリヌクレオチドは、別のポリヌクレオチド配列と比べて、ヌクレオチド配列に1つまたは複数のヌクレオチドが挿入されている、欠失しているおよび/または置換されているヌクレオチド配列を含む。ポリヌクレオチドバリアントは、融合ポリヌクレオチドを含む。
【0106】
本明細書で使用される場合、ポリペプチドの「誘導体」という用語は、例えば、別の化学的部分、例えば、ポリエチレングリコール、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン)などへのコンジュゲーション、リン酸化およびグリコシル化によって化学的に改変されているポリペプチド(例えば、抗体)である。特に断りのない限り、「抗体」という用語は、2つの全長重鎖および2つの全長軽鎖を含む抗体に加えて、その誘導体、バリアント、断片およびムテインを含み、それらの例は、以下に記載されている。
【0107】
「Fc」または「Fc領域」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒンジ領域中で始まるかヒンジ領域後に始まり、重鎖のC末端で終了する抗体重鎖定常領域の部分を指す。Fc領域は、CHおよびCH3領域の少なくとも一部分を含み、ヒンジ領域の一部分を含む場合も、含まない場合もある。各々、半分のFc領域を保持する2つのポリペプチド鎖は二量体化して、Fc領域を形成できる。Fc領域は、Fc細胞表面受容体および免疫補体システムの一部のタンパク質に結合できる。Fc領域は、補体依存性細胞傷害性(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害性(ADCC)、抗体依存性食作用(ADP)、オプソニン作用および/または細胞結合を含む2つまたはそれより多い活性のうちいずれか1つまたは任意の組合せを含むエフェクター機能を示す。Fc領域は、FcγRI(例えば、CD64)、FcγRII(例えば、CD32)および/またはFcγRIII(例えば、CD16a)を含むFc受容体に結合できる。
【0108】
「標識された抗体」という用語または本明細書で使用される関連用語は、非標識である、または検出のための検出可能な標識もしくは部分に接合されている抗体およびその抗原結合部分を指し、検出可能な標識または部分は、放射活性、比色性、抗原性、酵素性の検出可能なビーズ(例えば、磁性または電子密度の高い(例えば、金)ビーズ)、ビオチン、ストレプトアビジンまたはプロテインAである。それだけには限らないが、放射性核種、蛍光剤、酵素、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤およびリガンド(例えば、ビオチン、ハプテン)を含む種々の標識を利用できる。本明細書で記載される二重特異性抗体のいずれも非標識であり得る、または検出可能な標識もしくは部分に接合され得る。
【0109】
「同一性パーセント」または「相同性パーセント」および本明細書で使用される関連用語は、2つのポリペプチド間または2つのポリヌクレオチド配列間の類似性の定量的測定を指す。ポリペプチド配列間の同一性パーセントは、2つのポリペプチド配列のアラインメントを最適化するために導入される必要がある場合がある、ギャップ数および各ギャップの長さを考慮した、2つのポリペプチド配列間で共有されるアラインされた位置での同一アミノ酸数の関数である。同様の方法で、2つのポリヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、2つのポリヌクレオチド配列のアラインメントを最適化するために導入される必要がある場合がある、ギャップ数および各ギャップの長さを考慮した、2つのポリヌクレオチド配列間で共有されるアラインされた位置での同一ヌクレオチド数の関数である。配列間の比較および2つのポリペプチド配列間の、または2つのポリヌクレオチド配列間の同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成され得る。例えば、2つのポリペプチドまたは2つのポリヌクレオチド配列の「同一性パーセント」または「相同性パーセント」は、そのデフォルトパラメータを使用するGAPコンピュータプログラム(GCG Wisconsin Package、バージョン10.3(Accelrys、San Diego、Calif.)の一部門)を使用して配列を比較することによって決定され得る。試験配列に関する「Yに対して少なくともX%の同一性を有する配列を含む」などの表現は、上記のように配列Yに対してアラインされた場合に、試験配列が、Yの残基の少なくともX%に対して同一の残基を含むことを意味する。
【0110】
一実施形態では、試験抗体のアミノ酸配列は、本明細書に記載される二重特異性抗体を構成するポリペプチドのアミノ酸配列のいずれかに対して同様であるが、同一ではない場合がある。試験抗体とポリペプチドの間の類似性は、本明細書に記載される二重特異性抗体を構成するポリペプチドのいずれかに対して、少なくとも95%、または少なくとも96%同一または少なくとも97%同一または少なくとも98%同一または少なくとも99%同一であり得る。一実施形態では、同様のポリペプチドは、重および/または軽鎖内にアミノ酸置換を含有し得る。一実施形態では、アミノ酸置換は、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換を含む。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、同様の化学特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されるものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変更しない。2つまたはそれより多いアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合には、配列同一性パーセントまたは類似性の程度を上向きに調整して、置換の保存的性質について補正できる。この調整を行う手段は、当業者に周知である。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Pearson (1994) Methods Mol. Biol. 24: 307-331を参照されたい。同様の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例として、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン;(2)脂肪族ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リシン、アルギニンおよびヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸ならびに(7)硫黄含有側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。
【0111】
抗体は、抗原特異性が変更された免疫グロブリンを含有する血清または血漿などの供給源から得ることができる。このような抗体がアフィニティー精製に付される場合には、それらは、特定の抗原特異性について濃縮され得る。抗体のこのような濃縮調製物は普通、特定の抗原に対して特異的結合活性を有する約10%未満の抗体で作られている。これらの調製物をアフィニティー精製の数ラウンドに付すことによって、抗原に対して特異的結合活性を有する抗体の割合を増大することができる。この方法で調製された抗体は、「単一特異性」と呼ばれることが多い。単一特異性抗体調製物は、特定の抗原に対して特異的結合活性を有する約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%または99.9%の抗体で構成される場合がある。抗体は、以下に記載されるような組換え核酸技術を使用して生成され得る。
【0112】
「ベクター」および本明細書で使用される関連用語は、外来遺伝物質(例えば、核酸導入遺伝子)に作動可能に連結され得る核酸分子(例えば、DNAまたはRNA)を指す。ベクターは、外来遺伝物質を細胞(例えば、宿主細胞)中に導入するためのビヒクルとして使用され得る。ベクターは、ベクターへの導入遺伝子の挿入のための少なくとも1つの制限エンドヌクレアーゼ認識配列を含み得る。ベクターは、ベクター-導入遺伝子構築物を有する宿主細胞の選択を補助する抗生物質耐性または選択可能な特徴を付与する少なくとも1つの遺伝子配列を含み得る。ベクターは、一本鎖核酸分子である場合も、二本鎖核酸分子である場合もある。ベクターは、線形核酸分子または環状核酸分子である場合もある。ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENまたはCRISPR/Casを利用する遺伝子編集法のために使用されるドナー核酸は、ベクターの1種であり得る。ベクターの1種として、「プラスミド」があり、これは、導入遺伝子に連結され得る線形または環状二重鎖染色体外DNA分子を指し、宿主細胞において複製可能であり、導入遺伝子を転写および/または翻訳可能である。ウイルスベクターは通常、導入遺伝子に連結され得るウイルスRNAまたはDNA骨格配列を含有する。ウイルス骨格配列は、感染できないが、宿主細胞ゲノムへのウイルス骨格および共連結された導入遺伝子の挿入を保持するように改変され得る。ウイルスベクターの例として、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴、バキュロウイルス、パポバウイルス、ワクシニアウイルス、単純ヘルペスウイルスおよびエプスタインバーウイルスベクターが挙げられる。ある特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞において自己複製可能である(例えば、細菌の複製起点を含む細菌ベクターおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入の際に宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。
【0113】
「発現ベクター」は、1つまたは複数の調節配列、例えば、誘導可能および/または構成的プロモーターおよびエンハンサーを含有し得るベクターの1種である。発現ベクターは、リボソーム結合部位および/またはポリアデニル化部位を含み得る。発現ベクターは、1つまたは複数の複製起点配列を含み得る。調節配列は、宿主細胞中に形質導入される発現ベクターに連結された導入遺伝子の転写、または転写および翻訳を指示する。調節配列(複数可)は、導入遺伝子の発現のレベル、タイミングおよび/または位置を制御できる。調節配列は、例えば、導入遺伝子に対して直接的に、または1つまたは複数の他の分子(例えば、調節配列および/または核酸に結合するポリペプチド)の作用を介してその効果を発揮できる。調節配列は、ベクターの一部であり得る。調節配列のさらなる例は、例えば、Goeddel, 1990, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185, Academic Press, San Diego, Calif.およびBaron et al., 1995, Nucleic Acids Res. 23:3605-3606に記載されている。発現ベクターは、本明細書で記載される二重特異性抗体のいずれかの少なくとも一部分をコードする核酸を含み得る。
【0114】
導入遺伝子は、ベクター中に含有される導入遺伝子配列の機能または発現を可能にする、導入遺伝子とベクターの間の連結がある場合にベクターに「作動可能に連結される」。一実施形態では、調節配列が導入遺伝子の発現(例えば、発現のレベル、タイミングまたは位置)に影響を及ぼす場合に、導入遺伝子は調節配列に「作動可能に連結されている」。
【0115】
「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語または本明細書で使用される他の関連用語は、外因性核酸(例えば、導入遺伝子)が、宿主細胞中に移行されるまたは導入されるプロセスを指す。「トランスフェクトされた」または「形質転換された」または「形質導入された」宿主細胞とは、外因性核酸(導入遺伝子)を用いてトランスフェクトされている、形質転換されているまたは形質導入されているものである。宿主細胞は、一次対象細胞およびその後代を含む。本明細書で記載される二重特異性抗体のいずれかの少なくとも一部分をコードする外因性核酸は、宿主細胞中に導入され得る。本明細書で記載される二重特異性抗体のいずれかの少なくとも一部分を含む発現ベクターは、宿主細胞中に導入される場合があり、宿主細胞は、二重特異性抗体の少なくとも一部分を含むポリペプチドを発現し得る。
【0116】
「宿主細胞」または「宿主細胞の集団」という用語または本明細書で使用される関連用語は、外来(外因性または導入遺伝子)核酸が導入されている細胞(またはその集団)を指す。外来核酸は、導入遺伝子に作動可能に連結した発現ベクターを含む場合があり、宿主細胞は、外来核酸(導入遺伝子)によってコードされる核酸および/またはポリペプチドを発現するために使用され得る。宿主細胞(またはその集団)は、培養細胞であり得、または対象から抽出され得る。宿主細胞(またはその集団)は、継代数に関わらず、一次対象細胞およびその後代を含む。後代細胞は、親細胞と比較して同一遺伝物質を有する場合も有さない場合もある。宿主細胞は、後代細胞を包含する。一実施形態では、宿主細胞とは、本明細書で開示されるように、抗体を発現するためにいずれかの方法で改変、トランスフェクト、形質導入、形質転換および/またはマニピュレートされている任意の細胞(その後代を含む)を説明する。一例では、宿主細胞(またはその集団)には、本明細書で記載される所望の抗体またはその抗原結合部分をコードする核酸に作動可能に連結した発現ベクターが導入され得る。宿主細胞およびその集団は、宿主のゲノム中に安定に組み込まれている発現ベクターを有し得、または染色体外発現ベクターを有する場合がある。一実施形態では、宿主細胞およびその集団は、数回の細胞分裂後に存在するか、または一過性に存在し、数回の細胞分裂後に失われる染色体外ベクターを有する場合がある。
【0117】
トランスジェニック宿主細胞は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENSまたはCRISPR/Casを含む周知のデザイナーヌクレアーゼを含む非ウイルス法を使用して調製できる。導入遺伝子は、ジンクフィンガーヌクレアーゼなどのゲノム編集技術を使用して宿主細胞のゲノム中に導入され得る。ジンクフィンガーヌクレアーゼは、キメラタンパク質の対を含み、各々は、操作されたジンクフィンガーモチーフからのDNA結合ドメインに融合された制限エンドヌクレアーゼ(例えば、FokI)の非特異的エンドヌクレアーゼドメインを含有する。DNA結合ドメインを、宿主のゲノム中の特定の配列に結合するように操作することができ、エンドヌクレアーゼドメインは二本鎖切断を行う。ドナーDNAは、導入遺伝子、例えば、本明細書で記載されるCARまたはDAR構築物をコードする核酸のいずれかおよび宿主細胞のゲノム中の意図される挿入部位のいずれかの側の領域に対して相同である隣接する配列を保持する。宿主細胞のDNA修復機構によって、相同DNA修復による導入遺伝子の正確な挿入が可能になる。トランスジェニック哺乳動物宿主細胞は、ジンクフィンガーヌクレアーゼを使用して調製されている(米国特許第9,597,357号、同9,616,090号、同9,816,074号および同8,945,868号)。トランスジェニック宿主細胞は、正確な導入遺伝子挿入を遂行できるDNA結合ドメインに融合された非特異的エンドヌクレアーゼドメインを含む点でジンクフィンガーヌクレアーゼと同様であるTALEN(転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ)を使用して調製できる。ジンクフィンガーヌクレアーゼのように、TALENも宿主のDNA中に二本鎖切断を導入する。トランスジェニック宿主細胞は、CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats))を使用して調製できる。CRISPRは、標的特異的ドナーDNA組み込みのためのガイドRNAにカップリングされたCasエンドヌクレアーゼを利用する。ガイドRNAは、標的DNA中のgRNA結合領域の上流のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列を含有する保存されたマルチヌクレオチドを含み、Casエンドヌクレアーゼが二本鎖標的DNAを切断する宿主細胞標的部位にハイブリダイズする。ガイドRNAは、特定の標的部位にハイブリダイズするように設計できる。ジンクフィンガーヌクレアーゼおよびTALENと同様に、CRISPR/Casシステムを使用して、挿入部位に対して相同性を有する隣接する配列を有するドナーDNAの部位特異的挿入を導入できる。ゲノムを改変するために使用されるCRISPR/Casシステムの例は、例えば、米国特許第8,697,359号、同10,000,772号、同9,790,490号および米国特許出願公開番号US2018/0346927に記載されている。一実施形態では、トランスジェニック宿主細胞は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENまたはCRISPR/Casシステムを使用して調製でき、宿主標的部位は、TRAC遺伝子(T細胞受容体アルファ定常)であり得る。ドナーDNAは、例えば、本明細書で記載されるCARまたはDAR構築物をコードする核酸のいずれかを含み得る。エレクトロポレーション、ヌクレオフェクションまたはリポフェクションを使用して、宿主細胞中にドナーDNAをジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALENまたはCRISPR/Casシステムと同時送達できる。
【0118】
宿主細胞は、原核生物、例えば、E.coliであり得、または真核生物、例えば、単細胞真核生物(例えば、酵母または他の真菌)、植物細胞(例えば、タバコまたはトマト植物細胞)、哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞、サル細胞、ハムスター細胞、ラット細胞、マウス細胞または昆虫細胞)またはハイブリドーマである場合もある。一実施形態では、宿主細胞に、所望の抗体をコードする核酸に作動可能に連結した発現ベクターを導入でき、それによって、トランスフェクトされた/形質転換された宿主細胞を生成し、これをトランスフェクトされた/形質転換された宿主細胞による抗体の発現に適した条件下で培養し、必要に応じて、トランスフェクトされた/形質転換された宿主細胞から抗体を回収する(例えば、宿主細胞溶解物から回収する)または培養培地から回収する。一実施形態では、宿主細胞は、CHO、BHK、NS0、SP2/0およびYB2/0を含む非ヒト細胞を含む。一実施形態では、宿主細胞は、HEK293、HT-1080、Huh-7およびPER.C6を含むヒト細胞を含む。宿主細胞の例として、サル腎臓細胞のCOS-7株(ATCC CRL 1651)(Gluzman et al., 1981, Cell 23: 175を参照されたい)、L細胞、C127細胞、3T3細胞(ATCC CCL 163)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはそれらの誘導体、例えば、血清不含培地で増殖するVeggie CHOおよび関連細胞株(Rasmussen et al., 1998, Cytotechnology 28:31を参照されたい)またはDHFRを欠損しているCHO株DX-B 11(Urlaub et al., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216-20を参照されたい)、HeLa細胞、BHK(ATCC CRL 10)細胞株、アフリカミドリザル腎臓細胞株CV1(ATCC CCL 70)に由来するCV1/EBNA細胞株(McMahan et al., 1991, EMBO J. 10:2821を参照されたい)、ヒト胚腎臓細胞、例えば、293、293 EBNAまたはMSR293、ヒト上皮A431細胞、ヒトColo205細胞、他の形質転換された霊長類細胞株、正常型2倍体細胞、一次組織、一次外植片のin vitro培養に由来する細胞株、HL-60、U937、HaKまたはJurkat細胞が挙げられる。一実施形態では、宿主細胞は、リンパ系細胞、例えば、Y0、NS0またはSp20を含む。一実施形態では、宿主細胞は、哺乳動物宿主細胞であるが、ヒト宿主細胞ではない。通常、宿主細胞は、ポリペプチドをコードする核酸で形質転換またはトランスフェクトされ得る培養細胞であり、次いで、ポリペプチドをコードする核酸は宿主細胞において発現され得る。「トランスジェニック宿主細胞」または「組換え宿主細胞」という語句は、発現されるべき核酸を用いて形質転換またはトランスフェクトされている宿主細胞を表すために使用され得る。宿主細胞はまた、核酸を含むが、調節配列が宿主細胞中に導入され、その結果、核酸と作動可能に連結されるようにならない限り、それを所望のレベルでは発現しない細胞であり得る。宿主細胞という用語は、特定の対象細胞だけでなく、このような細胞の後代または潜在的な後代も指すということは理解される。ある特定の改変は例えば、突然変異または環境的影響のために続く世代で生じる場合があるので、このような後代は、親細胞に対して実際には同一ではない場合があるが、依然として本明細書で使用される用語の範囲内に含まれる。1つまたは複数の二重特異性抗体をコードする少なくとも1つの核酸に作動可能に連結したベクター(例えば、発現ベクター)を有する宿主細胞または宿主細胞の集団が、本明細書で記載される。
【0119】
本開示のポリペプチド(例えば、抗体および抗原結合タンパク質)は、当技術分野で公知の任意の方法を使用して生成され得る。一例では、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードする核酸配列(例えば、DNA)を組換え発現ベクター中に挿入し、これを宿主細胞中に導入し、発現を促進する条件下で宿主細胞によって発現させることによる組換え核酸法によって生成される。
【0120】
組換え核酸マニピュレーションのための一般的な方法は、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2 ed., 1989中のSambrookらまたはCurrent Protocols in Molecular Biology (Green Publishing and Wiley-Interscience: New York, 1987)中のF.Ausubelらおよび定期的更新に記載されている。ポリペプチドをコードする核酸(例えば、DNA)は、哺乳動物、ウイルスまたは昆虫遺伝子に由来する1つまたは複数の適した転写または翻訳調節エレメントを保持する発現ベクターに作動可能に連結される。このような調節エレメントには、転写を制御するための転写プロモーター、必要に応じてオペレーター配列、適したmRNAリボソーム結合部位をコードする配列ならびに転写および翻訳の終結を制御する配列が含まれる。発現ベクターは、宿主細胞において複製能を付与する複製起点を含み得る。発現ベクターは、トランスジェニック宿主細胞(例えば、形質転換体)の認識を促進するための選択を付与する遺伝子を含み得る。
【0121】
組換えDNAはまた、タンパク質を精製するのに有用であり得るタンパク質タグ配列の任意の種類もコードする場合がある。タンパク質タグの例として、それだけには限らないが、ヒスチジンタグ、FLAGタグ、mycタグ、HAタグまたはGSTタグが挙げられる。細菌、真菌、酵母および哺乳動物細胞宿主と共に使用するための適当なクローニングおよび発現ベクターは、Cloning Vectors: A Laboratory Manual, (Elsevier, N.Y., 1985)に見出すことができる。
【0122】
発現ベクター構築物は、宿主細胞にとって適当な方法を使用して宿主細胞中に導入され得る。核酸を宿主細胞中に導入するための種々の方法が当技術分野で公知であり、それだけには限らないが、エレクトロポレーション;塩化カルシウム、塩化ルビジウム、リン酸カルシウム、DEAE-デキストランまたは他の物質を利用するトランスフェクション、ウイルス性トランスフェクション、非ウイルス性トランスフェクション、微粒子銃、リポフェクションおよび感染(例えば、ベクターが感染剤である場合)が挙げられる。適した宿主細胞として、原核生物、酵母、哺乳動物細胞または細菌細胞が挙げられる。
【0123】
適した細菌として、グラム陰性またはグラム陽性生物、例えば、E.coliまたはBacillus種が挙げられる。酵母、好ましくは、Saccharomyces種のもの、例えば、S.cerevisiaeも、ポリペプチドの生成のために使用され得る。多様な哺乳動物または昆虫細胞培養システムも、組換えタンパク質を発現するために利用され得る。昆虫細胞における異種性タンパク質の生成のためのバキュロウイルスシステムは、Luckow and Summers, (Bio/Technology, 6:47, 1988)に総説されている。適した哺乳動物宿主細胞株の例として、内皮細胞、COS-7サル腎臓細胞、CV-1、L細胞、C127、3T3、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、ヒト胚腎臓細胞、HeLa、293、293TおよびBHK細胞株が挙げられる。精製されたポリペプチドは、適した宿主/ベクターシステムを培養して、組換えタンパク質を発現させることによって調製される。多数の適用のために、本明細書で開示されるポリペプチドの多くの小さいサイズは、発現のための好ましい方法としてE.coliにおける発現を行うであろう。次いで、タンパク質は培養培地または細胞抽出物から精製される。本明細書で開示される二重特異性抗体のいずれも、トランスジェニック宿主細胞によって発現され得る。
【0124】
本明細書で開示される抗体および抗原結合タンパク質はまた、細胞翻訳システムを使用して生成され得る。このような目的のために、ポリペプチドをコードする核酸は、mRNAを生成するin vitro転写を可能にするように、利用されている特定の無細胞システム(真核細胞のもの、例えば、哺乳動物もしくは酵母細胞不含翻訳システムまたは原核生物のもの、例えば、細菌細胞不含翻訳システム)においてmRNAの細胞不含翻訳を可能にするように改変されなければならない。
【0125】
本明細書で開示される多様なポリペプチドのいずれかをコードする核酸は、化学合成され得る。コドン使用は、細胞における発現を改善するように選択され得る。このようなコドン使用は、選択された細胞種に応じて変わる。E.coliおよび他の細菌ならびに哺乳動物細胞、植物細胞、酵母細胞および昆虫細胞のための特殊化されたコドン使用パターンが開発されている。例えば:Mayfield et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2003 100(2):438-42; Sinclair et al. Protein Expr. Purif. 2002 (1):96-105; Connell N D. Curr. Opin. Biotechnol. 2001 12(5):446-9; Makrides et al. Microbiol. Rev. 1996 60(3):512-38およびSharp et al. Yeast. 1991 7(7):657-78を参照されたい。
【0126】
本明細書で記載される抗体および抗原結合タンパク質はまた、化学合成によって(例えば、Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd ed., 1984, The Pierce Chemical Co., Rockford, Ill.に記載される方法によって)生成され得る。タンパク質への改変も化学合成によって生成され得る。
【0127】
本明細書で記載される抗体および抗原結合タンパク質は、タンパク質化学の分野で一般的に知られるタンパク質の単離/精製法によって精製され得る。限定されない例として、抽出、再結晶化、塩析(例えば、硫酸アンモニウムまたは硫酸ナトリウムを用いる)、遠心分離、透析、限外濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、ゲル浸透クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動、向流分配またはこれらの任意の組合せが挙げられる。精製後、ポリペプチドは、それだけには限らないが、様々な緩衝液中に交換することができ、ならびに/または濾過および透析を含む当技術分野で公知の種々の方法のいずれかによって濃縮することができる。
【0128】
本明細書で記載される精製された抗体および抗原結合タンパク質は、好ましくは、少なくとも65%純粋、少なくとも75%純粋、少なくとも85%純粋、より好ましくは、少なくとも95%純粋および最も好ましくは、少なくとも98%純粋である。純度の正確な数値に関わらず、ポリペプチドは、医薬製剤として使用するために十分に純粋である。本明細書で記載される二重特異性抗体のいずれも、任意の技術分野で公知の方法を使用して、トランスジェニック宿主細胞によって発現され、次いで、約65~98%の純度または高レベルの純度に精製され得る。
【0129】
ある特定の実施形態では、本明細書における抗体および抗原結合タンパク質は翻訳後改変をさらに含み得る。例示的翻訳後タンパク質改変として、リン酸化、アセチル化、メチル化、ADP-リボシル化、ユビキチン化、グリコシル化、カルボニル化、SUMO化、ビオチン化またはポリペプチド側鎖のもしくは疎水基の付加が挙げられる。結果として、改変ポリペプチドは、非アミノ酸要素、例えば、脂質、ポリ-またはモノ-糖類およびリン酸を含有し得る。グリコシル化の好ましい形態として、シアリル化があり、これは1つまたは複数のシアル酸部分をポリペプチドにコンジュゲートする。シアル酸部分は、溶解度および血清半減期を改善し、一方で、タンパク質の潜在的な免疫原性を低減する。Raju et al. Biochemistry. 2001 31; 40(30):8868-76を参照されたい。
【0130】
一実施形態では、本明細書で記載される抗体および抗原結合タンパク質を、可溶性ポリペプチドになるように改変することができ、これは、抗体および抗原結合タンパク質を非タンパク質性ポリマーに連結することを含む。一実施形態では、非タンパク質性ポリマーは、米国特許第4,640,835号、同4,496,689号、同4,301,144号、同4,670,417号、同4,791,192号または同4,179,337号に示される方法でポリエチレングリコール(「PEG」)、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレンを含む。
【0131】
本開示は、薬学的に許容される賦形剤との混合物中に本明細書で記載される二重特異性抗体のいずれかを含む治療用組成物を提供する。賦形剤には、担体、安定化剤および賦形剤が包含される。薬学的に許容される賦形剤の例として、例えば、不活性の希釈剤または充填剤(例えば、スクロースおよびソルビトール)、滑沢剤、流動促進剤および抗接着剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、硬化植物油またはタルク)が挙げられる。さらなる例として、緩衝化剤、安定化剤、保存料、非イオン性界面活性剤、抗酸化物質および等張化剤が挙げられる。
【0132】
治療用組成物および当技術分野で周知であるそれらを調製する方法は、例えば、“Remington: The Science and Practice of Pharmacy” (20th ed., ed. A. R. Gennaro A R., 2000, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, Pa.)に見出される。治療用組成物は、非経口投与用に製剤化することができ、例えば、賦形剤、滅菌水、生理食塩水、ポリアルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、植物起源のオイルまたは水素化ナフタレンを含有し得る。本明細書で記載される抗体(またはその抗原結合タンパク質)の放出を制御するために、生体適合性、生分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーを使用してもよい。抗体(またはその抗原結合タンパク質)の体内分布を制御するために、ナノ粒子状製剤(例えば、生分解性ナノ粒子、固形脂質ナノ粒子、リポソーム)を使用してもよい。他の潜在的に有用な非経口送達システムとして、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋め込み可能な注入システムおよびリポソームが挙げられる。製剤中の抗体(またはその抗原結合タンパク質)の濃度は、投与されるべき薬物の投与量および投与経路を含むいくつかの因子に応じて変わる。
【0133】
二重特異性抗体(またはその抗原結合タンパク質)のいずれも、必要に応じて、医薬品産業において一般的に使用される薬学的に許容される塩、例えば、非毒性酸付加塩または金属錯体として投与され得る。酸付加塩の例として、有機酸、例えば、酢酸、乳酸、パモン酸、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、安息香酸、パルミチン酸、スベリン酸、サリチル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸またはトリフルオロ酢酸など;ポリマー酸、例えば、タンニン酸、カルボキシメチルセルロースなど;および無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸などが挙げられる。金属錯体として、亜鉛、鉄などが挙げられる。一例では、抗体(またはその抗原結合タンパク質)は、熱安定性を増大するために酢酸ナトリウムの存在下で製剤化される。
【0134】
二重特異性抗体(またはその抗原結合タンパク質)のいずれも、非毒性の薬学的に許容される賦形剤との混合物中に有効成分(複数可)を含有する錠剤を含む経口使用のために製剤化され得る。経口使用のための製剤はまた、咀嚼錠として、または活性成分が不活性固形希釈剤と混合されているハードゼラチンカプセル剤として、または活性成分が水または油性媒体と混合されているソフトゼラチンカプセル剤としても提供され得る。
【0135】
「対象」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒトならびに脊椎動物、哺乳動物および非哺乳動物を含む非ヒト動物を指す。一実施形態では、対象は、ヒト、非ヒト霊長類、サル、類人猿、ネズミ科の動物(例えば、マウスおよびラット)、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヤギ、オオカミ、カエルまたは魚であり得る。
【0136】
「投与すること」、「投与された」という用語および文法上のバリアントは、当業者に公知の多様な方法および送達システムのいずれかを使用して対象に薬剤を物理的に導入することを指す。本明細書で開示される製剤の例示的投与経路として、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、脊髄または他の非経口経路の投与、例えば、注射または注入によるものが挙げられる。「非経口投与」という語句は、本明細書で使用される場合、経腸および局所投与以外の、普通、注射による投与の様式を意味し、制限するものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、リンパ内、病巣内、関節内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内注射および注入ならびにin vivoエレクトロポレーションが含まれる。一実施形態では、製剤は非経口ではない経路によって、例えば、経口的に投与される。他の非経口ではない経路として、局所、上皮または粘膜経路の投与、例えば、鼻腔内、膣内、直腸性、舌下または局所性が挙げられる。投与することはまた、例えば、1回、複数回および/または1もしくは複数の長期間にわたって実施され得る。本明細書で記載される二重特異性抗体(またはその抗原結合タンパク質)のいずれも、技術分野で公知の方法および送達経路を使用して対象に投与され得る。
【0137】
「有効量」、「治療上有効量」または「有効用量」という用語または関連用語は、同義的に使用でき、対象に投与された場合に、腫瘍もしくはがん抗原発現と関連する疾患もしくは障害の測定可能な改善または防止を達成するのに十分である抗体または抗原結合タンパク質(例えば、二重特異性抗体)の量を指す。本明細書で提供される抗体の治療上有効量は、単独または組合せて使用された場合に、抗体および組合せの相対活性(例えば、細胞成長の阻害における)に応じて、処置されている対象および疾患状態、対象の体重および齢および性別、対象における疾患状態の重症度、投与方法などに応じて変わり、それらは当業者によって容易に決定され得る。
【0138】
一実施形態では、治療上有効量は、処置されるべき対象のある特定の態様および処置されるべき障害に応じて変わり、当業者によって公知の技術を使用して確認され得る。一般に、ポリペプチドは、1日あたり約0.01g/kg~約50mg/kg、好ましくは、1日あたり0.01mg/kg~約30mg/kg、最も好ましくは、1日あたり0.1mg/kg~約20mg/kgで投与される。ポリペプチドは、毎日(例えば、1日1回、2回、3回または4回)または好ましくは、より少ない頻度で(例えば、毎週、2週間毎、3週間毎、毎月または3カ月毎)投与され得る。さらに、当技術分野で公知であるように、齢ならびに体重、全身の健康、性別、食事、投与の時間、薬物相互作用および疾患の重症度についての調整が必要である場合もある。
【0139】
本開示は、1つまたは複数の腫瘍関連抗原の発現と関連する疾患を有する対象を処置する方法を提供する。疾患は、腫瘍関連抗原、例えば、CD38および/またはCD3抗原などを発現するがんまたは腫瘍細胞を含む。一実施形態では、がんまたは腫瘍は、前立腺、乳房、卵巣、頭頸部、膀胱、皮膚、結腸直腸、肛門、直腸、膵臓、肺(非小細胞肺および小細胞肺がんを含む)、平滑筋腫、脳、神経膠腫、神経膠芽腫、食道、肝臓、腎臓、胃、結腸、子宮頸部、子宮、子宮内膜、外陰部、喉頭、膣、骨、鼻腔、副鼻腔、上咽頭、口腔、中咽頭、喉頭、下咽頭、唾液腺、尿管、尿道、陰茎および精巣のがんを含む。
【0140】
一実施形態では、がんは、白血病、リンパ腫、骨髄腫およびB細胞リンパ腫を含む血液がんを含む。血液系がんとして、多発性骨髄腫(MM)、バーキットリンパ腫(BL)を含む非ホジキンリンパ腫(NHL)、B慢性リンパ性白血病(B-CLL)、全身性エリテマトーデス(SLE)、BおよびT急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄球性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、慢性骨髄性白血病(CML)、へアリー細胞白血病(HCL)、濾胞性リンパ腫、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症、マントル細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫(HL)、形質細胞骨髄腫、前駆体B細胞リンパ性白血病/リンパ腫、形質細胞腫、巨大細胞骨髄腫、形質細胞骨髄腫、重鎖骨髄腫、軽鎖またはベンスジョーンズ骨髄腫、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ増殖性障害、免疫調節性障害、関節リウマチ、重症筋無力症、特発性血小板減少症紫斑病、抗リン脂質症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェジナー肉芽腫症、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群、天然痘尋常性、強皮症、多発性硬化症、抗リン脂質症候群、ANCA関連血管炎、グッドパスチャー病、川崎病、自己免疫性溶血性貧血および急速進行性糸球体腎炎、重鎖疾患、原発性または免疫細胞関連アミロイドーシスおよび意味未確定の単クローン性高ガンマグロブリン血症が挙げられる。
抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体をコードする組換え腫瘍溶解性ウイルス
【0141】
本開示は、とりわけ、ROR1およびCD3に結合する二重特異性抗体を発現する腫瘍溶解性ウイルス、このようなウイルスに感染した細胞、および二重特異性抗体を発現するウイルスを使用してがんを処置する方法を提供する。また、感染細胞によって生成されたウイルス不含条件培養培地(VFCM)およびVFCMを使用して医薬製剤を生成する方法が提供される。
【0142】
腫瘍溶解性ウイルスは、それらが腫瘍細胞において選択的に複製し、溶解するので、がん療法の標的化アプローチを提供する。多様な種類の腫瘍溶解性ウイルスが当技術分野で公知であり、パルボウイルス、粘液腫ウイルス、レオウイルス、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、セネカバレーウイルス(SVV)、ポリオウイルス(PV)、麻疹ウイルス(MV)、ワクシニアウイルス(VACV)、アデノウイルス、水泡性口内炎ウイルス(VSV)および単純ヘルペスウイルス(HSV)が挙げられる。これらのウイルスは、腫瘍細胞において複製し、細胞溶解を引き起こし、および/またはそれらが感染する腫瘍細胞に対する免疫応答を誘導する。本開示は、本明細書で開示されるいずれかなどの抗ROR1/抗CD3二重特異性抗体(αROR1/αCD3 BspAb)をコードする異種性遺伝子構築物を含む組換え腫瘍溶解性ウイルスを提供する。構築物は、αROR1/αCD3 BspAbをコードする配列に作動可能に連結した哺乳動物細胞において活性なプロモーターを含むことができ、構築物は、腫瘍溶解性ウイルスのゲノム中に挿入され得る。
【0143】
種々の実施形態では、αROR1/αCD3 BspAbの発現のために改変された腫瘍溶解性ウイルスは、単純ヘルペスウイルス(ヒトアルファヘルペスウイルス;HSV)、例えば、HSV-1、HSV-2またはHSV-1またはHSV-2の両方の配列を有する組換えHSVであり得る。例えば、HSV-1またはHSV-2株の実験室株または臨床分離株を使用できる。HSV-1およびHSV-2の複数の単離され、改変された株が、当技術分野で公知であり、本明細書で開示される組成物および方法において使用するために企図することができ、限定されない例として、HSV-1株A44、HSV-1株Angelotti、HSV-1株CL101、HSV-1株CVG-2、HSV-1株H129、HSV-1株HFEM、HSV-1株HZT、HSV-1株JS1、HSV-1株MGH10、HSV-1株MP、HSV-1株Patton、HSV-1株R15、HSV-1株R19、HSV-1株RH2、HSV-1株SC16、HSV-1株KOS、HSV-1株F、およびHSV-1株17、HSV-2株186、HSV-2株333、HSV-2株B4327UR、HSV-2株G、HSV-2株G、HSV-2株HG52、HSV-2株SA8、HSV-2株SD90、HSV-2株SN03、HSV-2株SS01およびHSV-2株ST04が挙げられる。また、これらの株または当技術分野で公知であり得る、もしくは単離され得る他のものの誘導体または突然変異体も本明細書で提供される組成物および方法における使用のために企図される。
【0144】
ウイルス株の誘導体として、制限するものではないが、部分的もしくは完全に欠失している1つまたは複数の内因性遺伝子を含む、突然変異されている1つまたは複数の内因性遺伝子を有する可能性がある、ウイルスゲノム中に挿入された導入遺伝子(異種性遺伝子)(それだけには限らないが、1つまたは複数の選択マーカー、陰性選択マーカー(「自殺遺伝子」)および/もしくは検出可能なマーカー(例えば、蛍光タンパク質をコードする遺伝子もしくは検出可能な生成物を生成する酵素をコードする遺伝子)を含む)を有する可能性がある、および/または1つまたは複数の改変、例えば、それだけには限らないが、制限部位、組換え部位もしくは「ランディングパッド」、外因性プロモーターなどを有する可能性があるウイルスが挙げられる。誘導体は、他の改変、例えば、それだけには限らないが、非遺伝子配列、例えば、プロモーターまたは非コード配列などの遺伝子調節領域など、例えば、それだけには限らないが、直接または逆方向反復配列の欠失または突然変異を有する可能性がある。ウイルス株の誘導体は、他の改変に代わりに、またはそれに加えて、限定されない例として、ウイルスの成長または生存力を支持もしくは調節する1つもしくは複数の導入遺伝子、宿主細胞機能に影響を及ぼす1つもしくは複数の遺伝子または治療用タンパク質をコードする1つもしくは複数の導入遺伝子を含むウイルスであり得る。
【0145】
一部の限定されない実施形態では、HSVは、HSV-1、例えば、HSV-1株17、HSV-1株KOSもしくはHSV-1株FまたはHSV-1株17、HSV-1株KOSもしくはHSV-1株Fのいずれかの誘導体である。例えば、ScFv-Fc-TGFβtrap構築物の導入のために使用される株は、HSV-1株17突然変異体1716、HSV-1株F突然変異体R3616(Chou & Roizman (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. 89: 3266-3270)、HSV-1株F突然変異体G207(Toda et al. (1995) Human Gene Therapy 9:2177-2185)、HSV-1株F突然変異体G47Δ(Todo et al. (2001) Proc Natl Acad Sci USA 98:6396-6401)、HSV-1突然変異体NV1020(Geevarghese et al. (2010) Human Gene Therapy 21:1119-28)、RE6(Thompson et al. (1983) Virology 131:171-179)、KeM34.5(Manservigi et al. (2010) The Open Virology Journal 4:123-156)、M032(Campadelli-Fiume et al. (2011) Rev Med. Virol 21:213-226)、Baco(Fu et al. (2011) Int. J. Cancer 129:1503-10)、M032もしくはC134(Cassady et al. (2010) The Open Virology Journal 4:103-108)またはタリモジーンラハーパレプベック(「Tvec」、以前はOncoVex(登録商標);Liu et al. (2003) Gene Therapy 10:292-303)またはこれらのいずれかのさらなる誘導体または突然変異体であり得る。
【0146】
内因性ウイルス遺伝子の突然変異は、非がん性細胞におけるウイルスの複製もしくは増殖またはウイルスの宿主防御を避ける能力に影響を及ぼす遺伝子の突然変異または欠失を含み得る。例えば、αROR1/αCD3 BspAbを含むHSVは、ICP34.5をコードする遺伝子、ICP6をコードする遺伝子、ICP0をコードする遺伝子、vhsをコードする遺伝子またはICP27をコードする遺伝子のいずれかにおいて欠失され得る。遺伝子または複数の遺伝子(遺伝子がマルチコピーである場合)によってコードされる機能的タンパク質を生成しない突然変異体は、本明細書において機能的に欠失した遺伝子を有すると言われる。ICP34.5をコードする遺伝子、ICP6をコードする遺伝子、ICP0をコードする遺伝子およびvhsをコードする遺伝子のうち1つまたは複数の機能的欠失は、非がん性細胞における複製が損なわれたHSVをもたらし得る。
【0147】
ICP34.5をコードする遺伝子RL1は、HSV-1ゲノムの長い反復(RL)中に位置し、2つのコピーで存在する。一部の実施形態では、ICP34.5をコードする遺伝子の一方または両方のコピーが突然変異される、または部分的もしくは完全に欠失され、その結果、機能的タンパク質が作製されない。好ましい実施形態では、ScFv-Fc-TGFβtrapタンパク質をコードする導入遺伝子、および必要に応じてIL12遺伝子を含む腫瘍溶解性HSVは、神経毒性に関与するICP34.5をコードする遺伝子について機能的に欠失している(Chou et al. (1990) Science 250:1262-1266)、例えば、HSVウイルスゲノムのICP34.5をコードする遺伝子の両方のコピーが不活性化されている。例えば、ScFv-Fc-TGFβtrap構築物の導入のために使用される腫瘍溶解性HSVは、HSV-1株17の突然変異体である可能性があり、HSV1716(Brown et al. (1994) Journal of General Virology 75: 2367-2377; MacLean et al. (1991) Journal of General Virology 72:631-639)もしくはその突然変異体もしくは誘導体であり得る、またはSeprehvec(商標)もしくはその誘導体もしくは突然変異体であり得る。HSV1716およびSeprehvec(商標)は両方とも、ICP34.5をコードする遺伝子の両方のコピー中に欠失を有し、その結果、それらは機能的遺伝子生成物を生成しないが、各々は、そうではなく、HSV株17のものと実質的に類似のゲノムを有し、これは、完全に配列決定されている(Pfaff et al. (2016) J Gen Virol 97:2732-2741;ncbi.nlm.nih.gov/genome、受託番号JN555585)。
【0148】
本明細書で提供されるような組換えHSVは、ICP34.5座位、ICP6座位、ICP0座位またはvhs座位中に挿入された1つまたは複数の導入遺伝子を有し得る。一部の好ましい実施形態では、本明細書で提供されるような組換え腫瘍溶解性HSVは、欠失されたICP34.5をコードする遺伝子座位中に挿入されたαROR1/αCD3 BspAb遺伝子を有し得る。一部の好ましい実施形態では、本明細書で提供されるような組換え腫瘍溶解性HSVは、ICP34.5について機能的に欠失しており(すなわち、ICP34.5ヌルであり)、ICP34.5をコードする遺伝子座位の両コピー中に挿入されたαROR1/αCD3 BspAb遺伝子を有する。
【0149】
多数の腫瘍細胞種に感染できる本明細書で提供される組換え腫瘍溶解性ウイルスは、ROR1、多数の腫瘍細胞上に発現されるタンパク質、およびT細胞上に発現されるCD3に結合する新規二重特異性抗体をコードする発現構築物を含み、二重特異性抗体は、それらをコードする組換えウイルスに感染した細胞によって発現および分泌され得る。αROR1/αCD3 BspAb のROR1 scFv部分は、免疫チェックポイントタンパク質に特異的に結合し、CD3 scFv部分は、T細胞に結合し、T細胞を標的腫瘍細胞と近接させて、腫瘍細胞の死滅を増強する。
【0150】
本明細書で記載されるαROR1/αCD3 BspAbをコードする例示的構築物は、配列番号1の重鎖可変鎖領域またはそれに対して少なくとも95%の同一性を有し、配列番号2、配列番号3および配列番号4の重鎖可変領域CDRを有する配列、ならびに配列番号5の軽鎖可変鎖領域またはそれに対して少なくとも95%の同一性を有し、配列番号6、配列番号7および配列番号8の軽鎖可変領域CDRを有する配列を有するROR1モノクローナル抗体o11に由来するscFvを使用する。
【0151】
本明細書で記載されるαROR1/αCD3 BspAbをコードするさらなる例示的構築物は、配列番号10の重鎖可変鎖領域またはそれに対して少なくとも95%の同一性を有し、配列番号11、配列番号12および配列番号13の重鎖可変領域CDRを有する配列ならびに配列番号14の軽鎖可変鎖領域またはそれに対して少なくとも95%の同一性を有し、配列番号15、配列番号16および配列番号17の軽鎖可変領域CDRを有する配列を有するROR1モノクローナル抗体s10に由来するscFvを使用する。
【0152】
本明細書で記載されるαROR1/αCD3 BspAbをコードするさらなる例示的構築物は、配列番号19の重鎖可変鎖領域またはそれに対して少なくとも95%の同一性を有し、配列番号20、配列番号21および配列番号22の重鎖可変領域CDRを有する配列ならびに配列番号23の軽鎖可変鎖領域またはそれに対して少なくとも95%の同一性を有し、配列番号24、配列番号25および配列番号26の軽鎖可変領域CDRを有する配列を有するROR1モノクローナル抗体jlv1011に由来するscFvを使用する。
【0153】
特定の例では、αROR1/αCD3 BspAbは、配列番号36、配列番号38もしくは配列番号40の配列を有し得る、または配列番号36、配列番号38もしくは配列番号40のいずれかに対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を有し得る。
【0154】
αROR1/αCD3 BspAbは、形式:重鎖可変領域-リンカー-軽鎖可変領域または軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域を有し得る。αROR1/αCD3 BspAbの抗ROR1 scFvは、抗CD3 scFv部分のN末端であり得る、逆もまた同様である。
【0155】
αROR1/αCD3 BspAb、IL-12ポリペプチドまたは抗VEGFR抗体(例えば、抗VEGFR scFv)をコードする構築物は、真核細胞における発現のためにプロモーターに作動可能に連結され得る。αROR1/αCD3 BspAbの発現のために組換えウイルスにおいて使用できるプロモーターの例として、制限するものではないが、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(例えば、配列番号33)、ハイブリッドCMVプロモーター(例えば、U.S9,777,290)、HTLVプロモーター、EF1αプロモーター、ハイブリッドEF1α/HTLVプロモーター(例えば、配列番号32)、JeTプロモーター(米国特許第6,555,674号)、SPARCプロモーター(例えば、US8,436,160)、RSVプロモーター、SV40プロモーターまたはレトロウイルスLTRプロモーター、例えば、MMLVプロモーターまたはこれらのいずれかに由来するプロモーターが挙げられる。構築物はまた、ポリアデニル化配列、例えば、BGH、SV40、HGHまたはRBGポリアデニル化配列などを含み得る。一部の実施形態では、ポリアデニル化配列は、配列番号38の配列を有する。
【0156】
腫瘍溶解性ウイルス、例えば、αROR1/αCD3 BspAb、IL-12および/または抗VEGFR抗体をコードする導入遺伝子を含む本明細書に記載されるものなどを使用して、宿主細胞に感染させることができ、これを、VFCM、必要に応じて、二重特異性抗体または治療目的のために使用され得る他の組換えポリペプチドの生成のために培養できる。VFCMは、例えば、細胞上清の遠心分離と、例えば、0.22、0.2、および/または0.1ミクロンフィルターを使用するその後の濾過を使用して生成され得る。対象、例えば、がんを有する対象は、例えば、αROR1/αCD3 BspAbを含むVFCMを用いて処置され得る。対象は、一部の実施形態では、非ヒト動物である可能性があり、限定されない例として、イヌ、ウマ、ネコ、サル、類人猿、家畜動物または絶滅危惧種のメンバーであり得る。
【0157】
本開示は、αROR1/αCD3 BspAbをコードする組換えHSVを使用してがんを処置する方法を提供する。方法は、本明細書で提供されるようなαROR1/αCD3 BspAbをコードする核酸構築物を含む組換えHSVを、がんを有する対象に投与することを含み得る。一部の実施形態では、がんは、固形腫瘍であり得る。組換えHSVは、本明細書で開示される任意のもの、例えば、αROR1/αCD3 BspAbをコードする任意のものなどであり得る。対象は、ヒトであり得る、または非ヒト動物、例えば、イヌ、ネコ、雌ウシ、雄ウシもしくはウマなどであり得る。がんは、制限するものではないが、膀胱、骨、乳房、眼、胃、頭頸部、腎臓、肝臓、肺、卵巣、膵臓、前立腺、皮膚または子宮のがん、中皮腫、神経膠腫、神経細胞腫または軟骨肉腫であり得る。投与することは、任意の手段によるものであってよく、限定されない例として、非経口、全身、腔内(例えば、胸膜内、腹腔内)、腫瘍周囲または腫瘍内であり得、注射、静脈内または動脈内注入、または他の送達手段によるものであり得る。注射は、例えば、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、動脈内、腫瘍内または腫瘍周囲である場合がある。処置レジメンは、ウイルスの1回より多い投与を含んでもよく、数日、数週間または数カ月の期間にわたる複数回の投薬を含む場合がある。
【0158】
一部の実施形態では、本方法において使用されるHSVによってコードされるαROR1/αCD3 BspAbは、配列番号36、配列番号38または配列番号40に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を有するαROR1/αCD3 BspAb(またはそうでなければ異なるシグナルペプチドを有するか、またはシグナルペプチドを欠く相同なαROR1/αCD3 BspAb)である。HSVは、限定されない例として、配列番号47に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有するIL-12ポリペプチドまたは配列番号49に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の同一性を有する抗VEGFR scFVをコードし得る1つまたは複数のさらなる導入遺伝子(またはそうでなければ異なるシグナルペプチドを有するか、またはシグナルペプチドを欠く相同なポリペプチド)をさらに含み得る。
【実施例
【0159】
(実施例1)
α-ROR1/α-CD3 BspAb単純ヘルペスウイルス(HSV)構築物。
N末端からC末端に進行して:シグナルペプチド(配列番号28)、ROR1に特異的に結合するscFv抗体、GSリンカー(配列番号29)および抗CD3 scFv抗体(hum291、配列番号34)を含んでいた二重特異性抗体(BspAb)を発現させるために3種の構築物を設計した。図1は、αROR1/αCD3二重特異性抗体(αROR1/αCD3 BspAb)をコードする構築物を表す全体図を提供する。すべての構築物は、BspAbをコードする配列に作動可能に連結したEF1α/HTLVハイブリッドプロモーター(配列番号41)を含んでいた。ROR1 scFvにおいてのみ異なっていた3種の異なるαROR1/αCD3BspAbをコードする構築物を作製した:o11 ROR1 scFv(配列番号9)を含んでいたαCD3/αROR1 BspAb、s10 ROR1 scFv(配列番号18)を含んでいたαCD3/αROR1 BspAb、およびjlv1011 ROR1 scFv(配列番号27)を含んでいたαCD3/αROR1 BspAb。
【0160】
これらの構築物をウイルスゲノム中にクローニングするために、attL部位が隣接したBspAb構築物をPCRクローニングによって作製し、HSV-1 Seprehvec(登録商標)ゲノムの内部が欠失しているRL1座位中に挿入した。Seprehvec(登録商標)は、HSV株17由来のHSV-1ベクターであり、神経毒性に関与するγ34.5kd(ICP34.5)ポリペプチドをコードするRL1遺伝子の両コピーは、RL1遺伝子を不活性化する695bpの欠失(RL1配列内のヌクレオチド125975~125221)によって破棄されている。RL1欠失部位は、attL配列が隣接する目的の任意の遺伝子または構築物の挿入のためのattR組換え部位を含む。attL配列が隣接する抗CD3/抗ROR1 BspAb構築物を、Integrase and Integration Host Factor(ThermoFisher、Carlsbad、CA)のLR Clonase(商標)Plus酵素混合物を本質的に製造業者の使用説明書に従って使用したin vitro組換えクローニングを使用して、欠失部位で両RL1遺伝子座中に挿入した。
【0161】
組換え反応後、組換えウイルスの生成のために、ウイルスゲノムDNAをBHK(ベビーハムスター腎臓線維芽細胞)細胞中にトランスフェクトした。ウイルスをトランスフェクトされたBHK細胞から回収し、次いで、Vero(アフリカミドリザル(Chlorocebus sp.)腎臓上皮)細胞に感染させるために使用した。感染Vero細胞から個々のプラークを収集して、新規Vero細胞に継代した。このプロセスを合計4ラウンドのプラーク単離の間、反復した。次いで、約3.2×10プラーク形成単位(PFU)のウイルスを用いる約3.2×10個BHK細胞の感染および3日間培養によってウイルスストックを作製した。3日後、上清を2,100gで2回回転して、細胞および細片をペレット化した。細胞をペレット化した後、ウイルスを含有する上清を17,200gで回転させて、ウイルスをペレット化した。ウイルスを再懸濁し、濾過し、Vero細胞で力価測定した。精製αROR1/αCD3 BspAbウイルスSepGI-189(o11 αROR1 scFv)、SepGI-201(s10 αROR1 scFv)およびSepGI-203(jlv1011 αROR1 scFv)からウイルスシードストックおよび研究ストックを生成した。
【表1】
(実施例2)
αROR1/αCD3 BspAb構築物を発現するHSVからのウイルス不含条件培地(VFCM)の生成。
【0162】
αROR1/α-CD3BspAbウイルスSepGI-189、SepGI-201およびSepGI-203からウイルス不含条件培地(VFCM)を作製するために、37℃、5% COにおいて1mLの培地中の、3×10個のA431細胞を12ウェルプレートに、または別個のプレートに、HepG2細胞を播種した。翌日、A431細胞およびHepG2細胞に組換えHSVをMOI(多重感染度)0.5で感染させ、1.25mLの培地中で3日間インキュベートした。3日後、細胞上清を除去し、0.1μmのメンブラン(Pall Acrodisc シリンジフィルターパート番号4611)を通して濾過して、ウイルスを除去した。次いで、VFCMをアリコートにし、-80℃で保存した。SepGI-ヌルのVFCM、外因性導入遺伝子を含まないSeprehvec(登録商標)HSVベクターも対照として調製した。
(実施例3)
VFCMにおけるαROR1/αCD3二重特異性抗体の検出。
【0163】
96ウェルプレートを、2μg/mLの50μL/ウェルの組換えヒトROR1 Fc融合タンパク質(R&D Systems、カタログ番号9490-RO-050)を用いてコーティングした。次いで、プレートを密閉し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレートを150μL/ウェルの洗浄緩衝液(0.05% V/V Tween(登録商標)20を有するDulbeccoのリン酸緩衝生理食塩水1×)で洗浄した。80μL/ウェルのブロッキング緩衝液(2% BSA+0.05% Tween20を有するDulbeccoのリン酸緩衝生理食塩水)を使用して非特異的結合をブロッキングし、プレートを37℃で1時間インキュベートした。これらの洗浄後、SepGI-189、SepGI-201またはSepGI-203のαROR1/αCD3 BspAbを含有するウイルス不含培養培地(VFCM)ならびに対照VFCM(SepGI-ヌル)をブロッキング緩衝液で段階希釈し、50μL/ウェルを低速振盪条件下で室温(RT)で2時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、50μL/ウェルのブロッキング緩衝液で希釈した抗CD3 Hum291抗イディオタイプクローン5A2(1:80希釈)を添加した。プレートを37℃で1時間インキュベートした。3回洗浄した後、50μL/ウェルの、1:120,000希釈でブロッキング緩衝液で希釈したヤギ抗ウサギIgG HRP抗体(Abcam;カタログ番号ab6721)を添加した。プレートを37℃、暗所で1時間インキュベートした。次いで、プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、ウェルにSureBlue Reserve TMB 1-成分マイクロウェルペルオキシダーゼ基質溶液(SeraCare、カタログ番号5120-0082)を添加した(80μL/ウェル)。プレートを室温、暗所で10~15分間インキュベートした。50μL/ウェルのTMB Blue STOP溶液(SeraCare、カタログ番号5150-0022)を添加することによってシグナル発生を停止し、その後、TecanSparkまたは他のデバイスを使用してシグナルを450nm(SeraCare TMB BlueSTOP溶液に対して特異的)で読み取った。図2Aは、アッセイの概略図を提供する。図2Bは、操作されたSepGI腫瘍溶解性ウイルスSepGI-189、SepGI-201およびSepGI-203によって3種の二重特異性構築物すべてが発現され、ROR1に結合できたことを示す。
(実施例4)
ROR1陽性腫瘍細胞へのウイルス感染培養物のVFCMからのαROR1/αCD3 BspAbの結合。
【0164】
A549ヒト肺胞腺癌(非小細胞肺がん)細胞を、CRISPR/Cas-9法を使用してROR1遺伝子についてノックアウトした。A549/ROR1-ノックアウト(A549/ROR1-KO)細胞またはA549野生型(WT)細胞をV底96ウェルプレート(ウェルあたり80,000個細胞)中に移行した。実施例2に記載されたように生成されたウイルス不含培養培地(VFCM)の調製物を、FACS緩衝液(PBS 1×+2%FCS/FBS)で段階希釈し(1:5~1:3,125希釈)、ウェル(100μL/ウェル)に添加し、細胞と共に室温で1時間インキュベートした。3回洗浄した後、細胞を、100μL/ウェルの、FACS緩衝液で10μg/mLに希釈したモノクローナルウサギ抗CD3 Hum291抗イディオタイプ抗体(クローン5A2)中に再懸濁した。プレートをプレートシールで覆い、37℃で1時間インキュベートした。
【0165】
次いで、細胞を、100μL/ウェルの、1:1000希釈したロバ抗ウサギAPC(Southern Biotech;カタログ番号6441-31-31、ロット番号K2916-Z779B)を含有するFACS緩衝液に再懸濁し、プレートを37℃、暗所で1時間インキュベートした。細胞を、120μL/ウェルのFACS緩衝液に最後に再懸濁し、シグナルをAttuneNxtフローサイトメーターで分析した。図3Aは、アッセイ形式を提供し、ROR1を発現するA549 WT細胞は、VFCM中に存在するBspAbに結合し、これは、順に、抗イディオタイプ抗CD3抗体によって認識される。複合体はアロフィコシアニン(APC)標識ロバ抗ウサギ抗体を使用して明らかにされる。VFCM中に存在するBspAbによるA549/ROR1-KO細胞の結合は生じないと予測される。図3Bは、二重特異性構築物を含んでいたウイルスのすべてのVFCMが、ROR1発現A549腫瘍細胞に結合したαROR1/αCD3二重特異性抗体を含有していたが、A549/ROR1-KO細胞に結合できなかったことを示すフローサイトメトリー結果を提供する。二重特異性構築物を含んでいなかった対照ウイルス(SepGI-ヌル)に感染した細胞の培養物から調製したVFCMは、細胞に結合できた抗体および抗イディオタイプCD3抗体を含有していなかった。
(実施例5)
ウイルス感染培養物のVFCMからのαROR1/αCD3二重特異性抗体のROR1陽性腫瘍細胞への結合。
【0166】
A549-WTおよびA549-ROR1 KO細胞をeFluor450色素(Thermo Fisher Scientific;カタログ番号50-246-096)を用い、製造業者によって推奨されるように染色した。精製されたヒトT細胞を、汎T細胞単離キット、ヒト(Miltenyi Biotec;カタログ番号130-096-535)を使用して健康血液ドナーから新たに単離し、eFluor670色素(Thermo Fisher Scientific;カタログ番号65-0840-85)を用い、製造業者によって推奨されるように染色した。細胞を37℃でDulbecco’s 1×リン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で1.0E+07個細胞/mLに再懸濁した。eFluor450標識A549-WTまたはA549-ROR1 KO腫瘍細胞を、精製されたeFluor670標識T細胞と1:1の比(30,000個腫瘍細胞および30,000個T細胞/ウェル)で混合し、U底低付着性96ウェルプレート中で精製した(10% FBSを含有する100μL/ウェルの完全RPMI 1640培地中)。細胞を1,500rpmで3分遠心分離し、プレートを迅速にはじくことによって上清を除去した。細胞ペレットを50μLの、αCD3/αROR1二重特異性構築物(SepGI-189、SepGI-201またはSepGI-203)を含有する未希釈ウイルス不含培養培地(VFCM)に再懸濁した。細胞を37℃で1時間インキュベートした。その後、細胞を、ウェルに直接添加された100μLの固定化緩衝液(Biolegend;カタログ番号420801、ロット番号B295965)を用いて固定化し、細胞および抗体を、細胞を破壊したり、ピペッティングすることなく室温、暗所で20分間インキュベートした。試料を、洗浄またはピペッティングすることなく、Attune NxTサイトメーターで直ちに分析した。図4Aは、ROR1(WT A549細胞上に発現される)およびCD3(T細胞で発現された)の両方に結合するBspAbが、eFluor 450標識WT A549細胞およびeFluor 670標識T細胞の両方に結合できる(しかし、A549/ROR1-KO細胞に結合できない)アッセイ設計を示す。
【0167】
図4Bは、フローサイトメトリー後に標識T細胞(単独)および標識WT A549細胞(単独)が見られる蛍光四分円を示す。最右のプロットは、細胞がVFCMの存在下で混合されると、細胞がプロットの新規領域に現れることを示し、これは、両フルオロフォアが空間的に密接に接触していることを示す。グラフは、各々αROR1/αCD3 BspAb構築物を含む、SepGI-189ウイルス、SepGI-201ウイルスおよびSepGI-203ウイルスに感染した培養物から作製されたVFCMについてのT細胞のWT A549細胞およびA549/ROR1-KO細胞との相互作用パーセントを示す。各場合において、WT A549細胞およびCD3細胞の相互作用は、A549/ROR1-KO細胞およびCD3細胞の相互作用よりも著しく高く、これは、3種の二重特異性抗体すべてが、抗原特異的に腫瘍およびT細胞に同時に結合できることを示す。
(実施例6)
VFCMのαROR1/αCD3二重特異性抗体の機能活性。
【0168】
T細胞における二重特異性αROR1/αCD3抗体のシグナル伝達を誘導する能力を試験するために、NFAT応答エレメント(Jurkat-NFAT-Luc)の制御下にルシフェラーゼ遺伝子を有するJurkat細胞を使用するアッセイを使用した。図5Aは、ROR1発現A549細胞に結合しているBspAbが、Jurkat細胞上のCD3にも結合し、ルシフェラーゼ発現および発光シグナルにつながるシグナル伝達をもたらすアッセイ設定を表す。αROR1/αCD3 BspAbに結合しないA549/ROR1-KO細胞は、Jurkat細胞シグナル伝達を刺激しない。
【0169】
アッセイを実施するために、20,000個のA549-WTまたはA549-ROR1 KO細胞を、乳白色の平底96ウェルアッセイプレート(Corningカタログ番号3917)中に100μLの完全RPMI-1640(10%FCSを含有するRPMI-1640)中でプレーティングした。プレートを1,500rpmで1分間回転した後、37℃で一晩インキュベートし、細胞を付着させた。次いで、プレートを1,500rpmで3分間回転させ、プレートを迅速にはじくことによって、上清を廃棄した。次いで、NFAT応答エレメントの制御下でルシフェラーゼを発現するJurkat細胞(Jurkat-NFAT-Luc)を、ウェル中にプレーティングした(50μLの完全RPMI-1640培地/ウェル中の30,000個細胞)。50μL/ウェルの、1:1,000希釈したαROR1/αCD3(SepGI-189、SepGI-201またはSepGI-203)または陰性対照VFCM(SepGI-ヌル)のいずれかを添加することによって、細胞活性化を誘導した。精製された抗CD3クローンHum291抗体を、T細胞活性化の陽性対照として2μg/mLで別個のウェルに添加した。プレートを、加湿細胞インキュベーター中で37℃で5時間インキュベートした。100μL/ウェルのBio-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイ基質(Promega;カタログ番号G7940;ロット番号0000422404)を製造業者によって推奨されるとおりに添加し、プレートを低速振盪条件下で室温で5分間、暗所でインキュベートすることによって発光シグナルが示された。TECANデバイス(積分時間:500ms)を用いて発光シグナルを読み取った。図5Bは、3種のVFCMすべてがT細胞活性化を誘導し、SepGI-201およびSepGI-203 VFCMがROR1依存性に強力なT細胞活性化を誘導したことを示す。
(実施例7)
αROR1/αCD3二重特異性抗体を含有するVFCMを使用する細胞傷害性アッセイ。
【0170】
αROR1/αCD3二重特異性抗体の存在下でのT細胞によるROR1発現腫瘍細胞の死滅を試験するために、細胞傷害性アッセイを以下のとおりに実施した。0日目、10,000個のA549-FLuc WTおよびA549-FLuc ROR1 KO細胞(標的細胞)を乳白色の平底96ウェルアッセイプレート(Corningカタログ番号3917)中に、100μLの完全RPMI1640(10%FCSを補給したRPMI1640)中でプレーティングした。プレートを1,500rpmで1分間回転し、37℃で一晩インキュベートし、細胞を付着させた。
【0171】
1日目に、ヒト末梢血単核細胞(hPBMC)をヒト健康全血から単離し、ヒトT細胞は、汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec;カタログ番号130-096-535、ロット519115439)を製造業者によって推奨されるとおりに使用してhPBMCから単離した。
【0172】
プレートを迅速にはじくことによって標的細胞を含有する96ウェルプレートから上清を除去し、α-ROR1/α-CD3二重特異性抗体を含有するVFCMを、完全RPMI1640で希釈し、標的細胞に100μL/ウェルで添加した。その後、100μL/ウェルの精製されたヒトT細胞(エフェクター細胞)を標的細胞の上部に添加して(5,000個細胞/ウェル)、0.5:1のE:T比に到達した。対照として、一部のウェルには、エフェクター細胞を入れなかった。細胞を穏やかに混合し、1,500rpmで1分間回転させ、37℃で3日間インキュベートした。4日目に、上清(100μL/ウェル)を収集して、各条件のIFNγ発現レベルを、Meso Scale Discovery(MSD;カタログ番号K15049D)からの炎症促進性パネル1(ヒト)キットを使用し、製造業者の推奨に従うことによって測定した。100μL/ウェルのBio-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイ基質(Promega;カタログ番号G7940;ロット番号0000422404)を製造業者によって推奨されるとおりに添加し、低速振盪条件下で室温で8分間、暗所でインキュベートすることによって示された発光シグナルを測定することによって、殺活性を評価した。TECANデバイス(積分時間:500ms)を用いて発光シグナルを読み取った。試料の死滅パーセントは、以下のとおりに算出した:100-([発光試料/ベースライン発光VFCMなし対照])×100。
【0173】
図6において提供される結果は、SepGI-189およびSepGI-201に感染した細胞のVFCMは、T細胞によるROR1発現腫瘍細胞の死滅を刺激できたことおよびこの効率的な死滅がROR1を発現する腫瘍細胞に特異的であったことを示す。αROR1/αCD3二重特異性抗体の存在下で標的細胞と共培養されたT細胞はまた、相当な量のインターフェロンガンマを分泌した。
(実施例8)
様々なレベルのROR1発現を有する腫瘍株を使用するαROR1/αCD3二重特異性抗体を含有するVFCMを含む細胞傷害性アッセイ。
【0174】
腫瘍細胞株A549-Fluc WT、A459-Fluc/ROR1 KO、MCF-7-Flucおよびホタルルシフェラーゼを発現するHepG2-Fluc(Fluc)でのROR1発現は、フローサイトメトリーによって評価された。手短には、細胞を80,000個細胞/ウェルでV底96ウェルプレート中にプレーティングし、170μL/ウェルのFACS緩衝液(PBS 1×+2%FCS/FBS+0.1%ナトリウムアジド)を使用して2回洗浄した。精製されたヒト抗ヒトROR1抗体を多様な濃度(10~0.00061μg/mLの範囲;希釈1:4)でFACS緩衝液で希釈し、次いで、細胞を100μL/ウェルの希釈抗体に再懸濁し、4℃で30分間インキュベートした。170μL/ウェルのFACS緩衝液で2回洗浄した後、細胞を80μL/ウェルで、AF647がコンジュゲートされたヤギ抗ヒトIgG二次抗体(Southern Biotech;カタログ番号2040-31、ロットK471X873C;FACS緩衝液で希釈1:2,000)と共に4℃で20分間インキュベートした。細胞ペレットを2回洗浄し、その後、120μLの固定化緩衝液(Biolegend;カタログ番号420801、ロット番号B306498)を用いて再懸濁し、室温、暗所で15分間インキュベートした。次いで、細胞を1,500rpmで2分間遠心分離し、プレートを迅速にはじくことによって上清を除去した。細胞を2回洗浄し、150μL/ウェルのFACS緩衝液で再懸濁し、Attune NxTでのフローサイトメトリーによって取得した。データはFlowJo v10を使用して分析した。図7Aは、ヒト腫瘍細胞株、A549(肺胞腺癌)のものが、ROR1発現の最高レベルを有し、HepG2(肝臓がん)は、ROR1をほとんど発現せず、ROR1抗体の検出された標識がA549-ROR1ノックアウト細胞のものと同等であることを示す。MCF-7(乳がん)細胞は、中間レベルのROR1を発現した。
【0175】
死滅アッセイを実施するために、ヒト健康全血からヒト末梢血単核細胞(hPBMC)を単離し、次いで、EasySepヒトT細胞単離キット(StemCell Technology;カタログ番号17951、ロット1000024139)を製造業者によって推奨されるとおりに使用して、ヒトT細胞をhPBMCから単離した。A549-Fluc WT、A459-Fluc/ROR1 KO、MCF-7-FlucおよびHepG2-Fluc標的細胞を、乳白色の平底96ウェルアッセイプレート(Corningカタログ番号3917)中に100μLの完全培養培地中、10,000個細胞/ウェルでプレーティングした。プレートを1,500rpmで1分間回転させ、37℃で一晩インキュベートし、細胞を付着させた。標的細胞を含有する96ウェルプレートから上清を、プレートを迅速にはじくことによって除去した。精製されたエフェクターT細胞(100μL/ウェル)を標的細胞の上部に2:1 E:T比でプレーティングした。対照として、一部のウェルには、エフェクター細胞を入れなかった。SepGI-201感染培養物またはSepGI-ヌル感染培養物のVFCMを完全RPMI1640で希釈し、100μL/ウェルで細胞に添加した。SepGI-201ウイルスは、αROR1/αCD3 BspAb構築物を含み、SepGI-ヌルウイルスは、BspAb構築物を含まない。細胞を穏やかに混合し、1,500rpmで1分間回転させ、37℃で3日間インキュベートし、その後、上清(100μL/ウェル)を収集した。上清中に存在するIFNγレベルを、Meso Scale Discovery(MSD;カタログ番号K15049D)からの炎症促進性パネル1(ヒト)キットを使用し、製造業者の推奨に従うことによって測定した。殺活性は、製造業者によって推奨されるとおり、100μL/ウェルのBio-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイ基質(Promega;カタログ番号G7940;ロット番号0000422404)を添加することおよび低速振盪条件下で室温、暗所で5分インキュベートすることによってウェルからの発光シグナルを測定することによって評価した。TECANデバイス(積分時間:500ms)を用いて発光シグナルを読み取った。試料の死滅パーセントは、以下のとおりに算出した:100-([発光試料/ベースライン発光VFCMなし対照])×100。図7Bは、IFNγ発現の増大によって実証されるように、A549およびMCF-7細胞はSepGI-201 VCFMの存在下でT細胞によって死滅したが、一方で、HepG2細胞は、高いVFCM濃度でT細胞が活性化された場合であっても保存された(低いROR1発現のために)ことを実証する。
(実施例9)
二重特異性抗体を発現する腫瘍溶解性ウイルスSepGI-189、SepGI-201およびSepGI-203の殺活性。
【0176】
図8Aは、それぞれ「o11」αROR1/αCD3、「s10」αROR1/αCD3および「jlv1011」αROR1/αCD3 BspAb構築物を発現する、腫瘍溶解性ウイルスSepGI-189、SepGI-201および SepGI-203によって、A549腫瘍細胞を死滅させることを評価するための実験計画を提供する(表1)。0日目に、A549-Fluc WTおよびA549-Fluc ROR1 KO標的細胞を、乳白色の平底96ウェルアッセイプレート(Corningカタログ番号3917)中に、100μLの完全RPMI-1640+10%FCS中、10,000個細胞/ウェルでプレーティングした。プレートを1,500rpmで1分間回転させ、37℃で一晩インキュベートして、細胞を付着させた。1日目に、標的細胞に、αROR1/αCD3ウイルス(SepGI-189、SepGI-201またはSepGI-203、表1を参照されたい)または陰性対照SepGI-ヌルウイルスのいずれかを1、0.33、0.11、0.04および0.01の感染多重度(MOI)で感染させた。2日目に、汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec;カタログ番号130-096-535、ロット519115439)を製造業者によって推奨されるとおりに使用して、新たに単離されたPBMCからT細胞を精製した。96ウェルプレートを迅速にはじくことによって標的細胞から上清を除去し、20,000個のエフェクターT細胞を100μL/ウェルでプレーティングして、2:1のE:T比に到達した。細胞を穏やかに混合し、1,500rpmで1分間回転させ、37℃で4日間インキュベートした。6日目に、100μL/ウェルのBio-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイ基質(Promega;カタログ番号G7940;ロット番号0000422404)を製造業者によって推奨されるとおりに使用し、低速振盪条件下で室温で5分間、暗所でインキュベートすることによって発光シグナルを測定することによって殺活性を評価した。TECANデバイス(積分時間:500ms)を用いて発光シグナルを読み取った。試料の死滅パーセントは、以下のとおりに算出した:100-([発光試料/ベースライン発光ウイルスなし])×100。
【0177】
図8Bは、0.11程度の低いMOIでBspAb発現ウイルスの各々に感染した腫瘍細胞が、SepGI-ヌルウイルスに感染した腫瘍細胞よりも有意なパーセンテージで死滅したことを示す。SepGI-201での腫瘍細胞の感染は、0.04のMOIで腫瘍細胞の有意に高い死滅につながり、一方で、SepGI-203での腫瘍細胞の感染は、0.01のMOIで腫瘍細胞の有意に高い死滅につながった。ROR1ノックアウト腫瘍細胞がウイルスに感染し、標的として使用された場合には、同一効果は見られなかった。この場合には、SepGI-203ウイルスでの感染のみが、有意に高い死滅につながり、SepGI-203が0.11より高いMOIで、ある程度の非特異的死滅を示したことを実証した。これらのデータをすべて合わせると、αROR1/αCD3 BspAbと組み合わされた腫瘍溶解活性は、抗原特異的な依存的方法で抗腫瘍活性を有意に増大することが示された。
(実施例10)
s10およびjlv1011モノクローナル抗体のマウス交差反応性。
【0178】
αROR1/αCD3二重特異性抗体の操作において使用されるs10(RO6D8-s10)およびjlv1011(RO6D8-jlv1011)モノクローナル抗体が、ヒトROR1に加えてマウスROR1を認識したか否かを試験するために、図9Aに表されるアッセイを利用した。96ウェルプレートを、2μg/mLの50μL/ウェルの組換えマウスROR1 IgG-Fc融合タンパク質でコーティングし(R&D Systems、カタログ番号9910-RO-050、ロット番号DIWM0120121)、次いで、プレートを密閉し、4℃で一晩インキュベートした。翌日、プレートを150μL/ウェルの洗浄緩衝液(0.05% V/V Tween20を有するDulbeccoのリン酸緩衝生理食塩水1×)で洗浄した。80μL/ウェルのブロッキング緩衝液(2% BSA+0.05% Tween20を有するDulbeccoのリン酸緩衝生理食塩水)を使用することによって非特異的結合をブロックし、プレートを37℃で1時間インキュベートした。3回洗浄した後、2種の抗ヒトROR1抗体(s10およびjlv1011)をブロッキング緩衝液(80μL/ウェル)で段階希釈し、低速で振盪しながら室温(RT)で2時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、次いで、80μL/ウェルの、ブロッキング緩衝液で希釈した(1:2,000希釈)二次HRP標識ヤギ抗ヒトIgG Fc(SouthernBiotech;カタログ番号2081-05;ロット番号L5311-TE40)を添加した。プレートを37℃、暗所で1時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、ウェルにSureBlue Reserve TMB 1-成分マイクロウェルペルオキシダーゼ基質溶液(SeraCare、カタログ番号5120-0082)を添加した(80μL/ウェル)。プレートを室温、暗所で10~15分間インキュベートした。50μL/ウェルのTMB Blue STOP溶液(SeraCare、カタログ番号5150-0022)を添加することによってシグナル発生を停止し、その後、TecanSparkまたは他のデバイスを使用してシグナルを450nm(SeraCare TMB BlueSTOP溶液に対して特異的)で読み取った。図9Bは、SepGI-201およびSepGI-203のBspAb構築物を作製するために使用された両抗ROR1抗体が、マウス交差反応性を示すことを示す。
(実施例11)
BspAbを発現するウイルスを用いる腫瘍処置のin vivo研究。
【0179】
図10Aは、αROR1/αCD3二重特異性抗体を発現する腫瘍溶解性ウイルスの有効性を試験するために使用されたマウスの接種および処置スケジュールの図を提供する。-6日目に(D-6)、Dulbeccoのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)1×中の1.0E+07個の新たに精製されたヒト末梢血単核細胞(PBMC)を用いて、雌のNSG-Tg(Hu-IL-15)マウス(6週齢)に腹膜内注射した(I.P.)。0日目(D0)、100μLのDPBS 1×で希釈した5.0E+06個のA549-WT腫瘍細胞を用いてマウスに右側腹部に皮下注射した(S.C.)。6日目(D6)に、マウスを4群に無作為化し(3つの「ウイルス処置」群および1つの「ウイルス処置なし」対照群)、6、10および12日目に、ウイルス処置を開始した:SepG1-189、SepG1-201、SepGI-ヌルのいずれかの50μL/マウス/注射、またはウイルスなしを腫瘍周囲(P.T.)に送達した。腫瘍成長および体重を週に2回モニタリングした。腫瘍体積をノギスを使用して測定し、式V=(長さ×幅)/2を使用して算出した。31日目に研究を終了し、腫瘍成長阻害パーセント(TGI)を以下のとおりに算出した:[1-(処置群の相対腫瘍体積)/(対照群の相対腫瘍体積)]×100。
【0180】
図10Bおよび10Cは、処置群および非処置群の腫瘍体積および算出された腫瘍成長阻害(TGI)を提供し、図10Dは、各実験の過程にわたるマウス体重を提供する。αROR1/αCD3二重特異性抗体を発現するウイルス(SepGI-189およびSepGI-201)を用いる処置は、処置なしまたはαROR1/αCD3 BspAbを発現しなかったウイルス(SepGI-ヌル)を用いる処置のいずれかよりも腫瘍成長のより大きな阻害につながった。
(実施例12)
ROR1/CD3二重特異性抗体を、IL-12またはIL-12および抗VEGFR抗体をコードするさらなる遺伝子と一緒に発現するための構築物。
【0181】
ROR1-CD3二重特異性抗体、さらにサイトカインIL-12をコードするHSVの合成のためにさらなる構築物を作製した。SepGI-216構築物(二重遺伝子構築物、図11A)は、EF1α/HTLVプロモーター(配列番号41)の制御下のαROR1(s10)-αCD3二重特異性抗体(配列番号18)およびCMVプロモーター(配列番号42)の制御下のヒトIL-12(配列番号46)をコードする遺伝子を含んでいた。ヒトIL-12遺伝子は、2×エラスチンリンカー(配列番号66)によって接続された、IL-12のp40およびp35サブユニットを両方とも包含する単一ポリペプチド(配列番号47)をコードしていた。SepGI-212構築物(三重遺伝子構築物、図11B)は、EF1α/HTLVプロモーター(配列番号41)の制御下にαROR1(s10)-αCD3二重特異性抗体(配列番号37)をコードする遺伝子およびFc1領域(配列番号50)に連結された抗VEGFR2 scFvをコードする遺伝子およびヒトIL-12遺伝子(配列番号46)を含み、αVEGFR2 scFv-Fc1(配列番号48)をコードする配列およびヒトIL-12(配列番号46)をコードする配列は、T2A自己切断ペプチド(配列番号51)をコードする配列によって分けられており、ヒトIL-12ポリペプチドおよびVEGFR2 scFv-Fc1ポリペプチドをコードする配列を包含する連続オープンリーディングフレームは、CMVプロモーター(配列番号42)の制御下にある(図11Bを参照されたい)。
【0182】
さらに、対照として使用するために、αROR1(s10)-αCD3二重特異性抗体をコードする遺伝子が、呼吸器合胞体ウイルスのFタンパク質(配列番号43)およびCD3(本明細書において「αRSV-αCD3二重特異性抗体」と呼ばれる)に結合したscFvを含んでいた二重特異性抗体をコードする遺伝子によって置き換えられた類似の構築物を設計した。これらの構築物のクローニングならびに組換えウイルスの生成および単離は、本質的に実施例1に示されたように実施した。
【表2】
【0183】
導入遺伝子の発現についてELISAによって評価するために、ウイルス(実施例2を参照されたい)から生成されたVFCMを、本質的に実施例3に記載されるように試験し、プレートのウェルをROR1、RSVタンパク質またはヒトVEGFRのいずれかでコーティングした。
【0184】
ELISAの結果が図12A、BおよびCに提供されている。第1のグラフ(図12A)は、RSVタンパク質抗体をコードする遺伝子を含んでいた3種のウイルス(SepGI-207、SepGI-214およびSepGI-218)はすべて、RSV抗体を生成したが、他のウイルス(RSVタンパク質抗体を欠く)のうち生成したものはなかったことを示す。図12Bは、ウイルスSepGI-201、SepGI-216およびSepGI-212はすべて、予測されたようにROR1抗体を発現したが、αROR1(s10)-αCD3二重特異性抗体をコードする遺伝子を欠く対照ウイルスは発現しなかったことを示す。図12Cは、IL-12を検出するために使用されたELISAの結果を示す。この場合には、SepGI-212、SepGI-216およびSepGI-218に感染した細胞からのVFCMはすべて、IL-12タンパク質を含有するとわかったが、SepGI-214に感染した細胞の2つの分離株は含有しなかった(SepGI-214のその後の分離株は、後にIL-12を生成するとわかった)。予測されたように、IL-12は、非感染培養物またはSepGIヌルウイルスもしくはSepGI-207ウイルスに感染した培養物のVFCMでは検出されなかった。
【0185】
VEGFR2 scFv抗体を検出するためのELISAの結果が図13に示されており、96ウェルELISAプレートのウェルは、組換えヒトVEGFR2(VEGFR2/KDRタンパク質(ECD、Hisタグ)(Sino Biological))でコーティングされていた。抗原でコーティングされたウェルを洗浄した後、VFCMをブロッキング緩衝液で8倍段階希釈し、50μL/ウェルで添加し、プレートをシェーカー上で室温で2時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄し、50μL/ウェルのヤギ抗ヒトIgG(H+L)二次抗体、HRP(ブロッキング緩衝液で1:5,000×希釈された)を添加し(Invitrogen)、プレートを37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄緩衝液で3回洗浄した後、50μL/ウェルのSureBlue Reserve TMB 1-成分マイクロウェルペルオキシダーゼ基質溶液(カタログ番号5120-0082、SeraCare)を使用することによってシグナルを検出した。プレートを室温、暗所で10~12分インキュベートした。次いで、50μL/ウェルのTMB BlueSTOP溶液(カタログ番号5150-0022、SeraCare)を添加し、TecanSparkを使用して吸光度を450nm(SeraCare TMB BlueSTOP溶液に対して特異的)で読み取った。図13のグラフは、三重遺伝子ウイルスSepGI-212の1つの分離株のVFCMはαVEGFR2-Fc抗体の発現を実証したが、αVEGFR2-Fc抗体遺伝子を含まなかったウイルス(SepGI-ヌル、SepGI-201、SepGI-207、SepGI-216およびSepGI-218)のVCFMのいずれかの結合はなかったことを示す。
(実施例13)
IL-12活性アッセイ。
【0186】
IL-12の活性のアッセイを、本質的に実施例9に記載されるように実施し、SepGI-ヌル、SepGI-201、SepGI-207、SepGI-212、SepGI-214、SepGI-216およびSepG1-218に感染した細胞のVFCMを、ルシフェラーゼベースのアッセイで試験した。ヘテロ二量体IL-12受容体を有し、IL-12応答性プロモーター(iLite(登録商標)IL-12 Assay Ready Cell(Eagle Biosciences(Amherst、NH)))の制御下にルシフェラーゼ遺伝子を有するように操作された細胞を組換えHSVに感染した細胞の溶解物と共にインキュベートした、細胞ベースのアッセイを使用した。Promega Corporations One-Gloルシフェラーゼシステムを検出のために使用した。
【0187】
手短には、非感染細胞または多様なHSVに感染した細胞からの希釈したVFCMを、96ウェルプレートのウェルに添加することによってアッセイを実施した。感染細胞培養物の溶解物(VFCM)を、実施例2に記載されるように生成した。組換え型IL-12(R&D Systems)の希釈系列を、さらなるウェルに添加して、標準曲線を作製した。IL-12リポーター細胞を本質的に製造業者の使用説明書に従って使用した。40K iLite細胞を解凍し、希釈し、96ウェルプレートの各ウェルに40μlを添加した。次いで、VFCMの40μlの希釈系列をアッセイウェルに添加し、ウェルの内容物を混合し、プレートを37℃、5% COで5時間インキュベートした。標準曲線を作成するために、組換えIL-12を希釈系列で別個のウェルに添加した。次いで、各ウェルにOne-Gloルシフェラーゼ試薬(Promega Corp.、Madison、WI)を添加し(40μL)、室温で10分後に、TecanSparkプレートリーダーを使用してホタルルシフェラーゼ発光を測定した。結果は、図14に示されており、非感染細胞条件培地、外因性導入遺伝子を含まなかったウイルス(SepGI-ヌル)に感染した細胞からの条件培地、およびIL12遺伝子含有ウイルスSepGI-201およびSepGI-207(IL12遺伝子なし)、SepGI-212およびSepGI-214(IL-12遺伝子を有する三重遺伝子ウイルス)ならびにSepGI-216およびSepGI-216(IL-12遺伝子を有する二重遺伝子ウイルス)に感染した細胞からの条件培地を使用するアッセイからの発光のグラフを提供する。注目すべきことに、ELISAにおいてIL-12タンパク質の生成もまた示さなかった(実施例12)三重遺伝子ウイルスSepGI-214の分離株を除いて、IL-12遺伝子を含んでいたウイルスに感染したすべての細胞は、機能的IL-12を発現した。
(実施例14)
細胞-細胞相互作用アッセイ。
【0188】
操作されたHSVによってコードされるαROR1-αCD3二重特異性抗体の、標的ROR1発現腫瘍細胞およびT細胞にコンジュゲートする能力を評価するために、フルオロフォアを用いてマウス腫瘍細胞およびヒトT細胞を別個に標識した。両方ともROR1を発現するHepa 1-6細胞およびA549細胞を、eFluor 450(ThermoFisher)を用いて標識し(図15B)、PBMCから単離されたヒトT細胞を使用し、eFluor 670を用いて事前に標識し(図15C)、本質的に実施例5に記載されたように、細胞-細胞相互作用をアッセイし、フローサイトメトリーによって分析した。図15Dは、フローサイトメトリー結果の一例を示し、コンジュゲートされた細胞(両波長で蛍光を発する)がプロットの右上の象限に見られる。
【0189】
T細胞のROR1発現腫瘍細胞とのαROR1-αCD3二重特異性抗体媒介性コンジュゲーションのフローサイトメトリーアッセイの結果が、図16A、BおよびCに図によって示されている。図16Aは、左から右に、αRSV-αCD3二重特異性抗体ならびにIL-12をコードする構築物を発現するSepGI-218 VFCMの存在下での共インキュベーション後にT細胞にコンジュゲートされたHepa 1-6細胞、A549野生型細胞およびA549 ROR1ノックアウト細胞のパーセンテージを示す。図16Bは、左から右に、αROR1-αCD3二重特異性抗体をコードする構築物を発現するSepGI-201 VFCMの存在下での共インキュベーション後のHepa 1-6細胞、次いでA549野生型細胞のパーセンテージを示す。図16Cは、左から右に、αROR1-αCD3二重特異性抗体ならびにIL-12をコードする構築物を発現するSepGI-216 VFCMの存在下での共インキュベーション後のHepa 1-6細胞、次いでA549野生型細胞のパーセンテージを示す。SROR1+の存在下で最小の細胞-細胞相互作用が観察され、SepGI-201感染細胞およびSepGI-216感染細胞のVFCMの存在下で腫瘍細胞-T細胞相互作用が観察され、SepGI-201感染細胞とSepGI-216感染細胞の間では有意差は観察されなかった。
(実施例15)
T細胞活性化アッセイ。
【0190】
T細胞活性化に対するαROR1-αCD3二重特異性抗体の効果を決定するために、ROR1発現腫瘍細胞が、αROR1-αCD3二重特異性抗体をコードするウイルスに感染した細胞のVFCMの存在下でT細胞と共にインキュベートされ、その後、T細胞の表面上の活性化マーカーが評価されるアッセイを実施した。手短には、野生型A549細胞を、または対照としてROR1ノックアウトA549細胞を、ウェルあたり10個細胞で96ウェルプレートのウェル中にプレーティングした。翌日、CFSEで染色された新たに単離されたCD3+T細胞を、10:1または5:1のE:T比でウェルに添加した。VFCMを1,000倍希釈でウェルに添加し、または陽性対照としてCD3/CD28ビーズをウェルに添加した(1:20のビーズ:細胞比)。1、2および3日後、活性化マーカーの発現についてのT細胞の染色およびフローサイトメトリーによる分析のために上清を除去した。
【0191】
図17A~Dは、標的としてROR1ノックアウトA549細胞を用いるアッセイの結果を提供する。図17Aは、アッセイの1、2および3日目でのCD3+T細胞の生存力は、細胞が非感染培養物のVFCMと共に(第1の2つのバー)またはSepGI-ヌルウイルス(第2の2つのバー)、SepGI-207ウイルス(第2の2つのバー)、SepGI-201ウイルス(第3の2つのバー)もしくはCD3/CD28ビーズ(第4の2つのバー)に感染した細胞のVFCMと共に培養されたか否かに関わらず、100%に近かったことを示す。図17Bは、連続するアッセイ日での各アッセイ群のCD3+CD4+細胞計数を提供する。図17Cは、フローサイトメトリーに基づいた、連続するアッセイ日での各アッセイ群のCD25+細胞のパーセンテージを提供し、図17Dは、連続するアッセイ日での各アッセイ群のCD69+細胞のパーセンテージを提供する。CD3/CD38ビーズは、アッセイの過程にわたるCD25およびCD69両方の発現の増大によって証明されるようにT細胞の活性化をもたらしたが、ROR1ノックアウト細胞が標的として使用される場合には、VFCMの存在に関わらずCD25およびCD69の発現によって評価されるように、T細胞の活性化は観察されなかった。
【0192】
図17E~Hは、標的としてROR1を発現する野生型A549細胞を用いるアッセイの結果を提供する。図17Eは、CD3+T細胞の生存力が、細胞が非感染培養物のVFCMと共に(第1の2つのバー)またはSepGI-ヌルウイルス(第2の2つのバー)、SepGI-207ウイルス(第2の2つのバー)、SepGI-201ウイルス(第3の2つのバー)またはCD3/CD28ビーズ(第4の2つのバー)に感染した細胞のVFCMと共に培養されたか否かに関わらず、アッセイの1、2および3日目に、100%に近かったことを示す。図17Fは、連続するアッセイ日での各アッセイ群のCD3+CD4+細胞計数を提供する。図17Gは、フローサイトメトリーに基づいた、連続するアッセイ日での各アッセイ群のCD25+細胞のパーセンテージを提供し、図17Hは、連続するアッセイ日での各アッセイ群のCD69+細胞のパーセンテージを提供する。注目すべきことに、αROR1-αCD3二重特異性抗体を発現するように操作されたSepGI-201ウイルスに感染した培養物のVFCMの存在は、共培養においてT細胞によるCD25およびCD69両方の発現をもたらした。この誘導された発現は、代わりにSepGI-207感染細胞のVFCM、SepGI-207感染細胞のVFCMまたは非感染細胞のVFCMを含んでいた共培養物については観察されなかった。したがって、ROR1を発現した標的細胞を使用する、共培養物中のT細胞の活性化は、T細胞に関与してその活性化を引き起こすことができる、αROR1-αCD3二重特異性抗体の存在に起因する可能性がある。
(実施例16)
T細胞増殖/活性化アッセイ。
【0193】
単一および二重遺伝子発現ウイルスを用いてさらなる細胞培養アッセイを実施した。これらのアッセイではA549野生型またはA549 ROR1ノックアウト細胞を、ウェルあたり10個細胞で96ウェルプレートのウェル中にプレーティングした。セルトレースバイオレット(CTV)色素で染色された精製されたヒトT細胞を10:1および5:1エフェクター:標的比でウェルに添加し、1:1,000希釈のVFCMをウェルに添加した。VFCMは、SepGI-207(αRSV-αCD3二重特異性抗体遺伝子)、SepGI-201(αROR1-αCD3二重特異性抗体遺伝子)、SepGI-216(αROR1-αCD3二重特異性抗体遺伝子およびIL-12遺伝子)およびSepGI-218(αROR1-αCD3二重特異性抗体遺伝子およびIL-12遺伝子)に感染した細胞のものであった。プレートを3日間インキュベートし、1、2または3日後にフローサイトメトリーを実施して、CTV+T細胞のパーセンテージによって細胞増殖を決定した。図18は、5:1のエフェクター対標的比のアッセイの結果を示し、ROR+標的細胞についてのみ、およびSepGI-201およびSepGI-216感染培養物のαROR1-αCD3二重特異性抗体含有VFCMが培養物中に含まれた場合にのみ特異的T細胞増殖が観察された。
(実施例17)
αROR1-αCD3二重特異性抗体を発現するように操作された、単一、二重および三重遺伝子HSVに感染した細胞のVFCMを使用する、ルシフェラーゼベースの死滅アッセイ。
【0194】
αROR1-αCD3二重特異性抗体を発現するように操作されたHSVに感染した細胞のVFCMの、T細胞によるROR1+腫瘍細胞の死滅に対する効果を評価するアッセイを実施した。これらのアッセイのために、標的細胞(対照として使用するためのA549野生型細胞またはA549 ROR1ノックアウト細胞)を、細胞にGFPおよびホタルルシフェラーゼを発現させるためにレトロウイルスを形質導入することによって標識した。ルシフェラーゼ発現標的細胞を、96ウェルプレート中に100μlのRPMI-1640+10%FCS中でウェルあたり10個細胞でプレーティングし、37℃で2日間培養した。PBMCから新たに単離した新たに単離したヒトT細胞を、次いで0.5:1の比でウェルに添加し、1,000または1:8,000の希釈のVFCMを各アッセイウェルに添加した。プレートを37℃で4日間インキュベートし、その後、ルシフェラーゼ発現細胞数を、80μlのBio-Gloルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega)を添加すること、プレートを暗所で5分間インキュベートすること、およびTECANデバイスで発光を読み取ること(積分時間、500ms)によって評価した。図19Aは、T細胞(エフェクター)の不在下では、A549野生型細胞数は、培養物に添加されるVCFMの存在または種類に関わらず、10に近いことを示す。しかし、T細胞の存在下では、αROR1-αCD3二重特異性抗体を発現するように操作されたウイルス:SepGI-201、SepGI-212およびSepGI-216(表2を参照されたい)のVFCMを含んでいた培養物におけるA549野生型標的細胞の低減が明らかである。図19Cに示されるように死滅のパーセンテージを提供するグラフにおいて見られるように、標的細胞の死滅は、αROR1-αCD3二重特異性抗体を発現するように操作されなかったSepGI-207、SepGI-214およびSepGI218ウイルスのVFCMを含んでいた培養物では観察されなかった。図19Bおよび19Dは、ROR1ノックアウトA549標的細胞が使用された場合の結果を提供し、共培養中のVCFM(または二重特異性抗体)に関わらずT細胞エフェクターによるROR1を発現しなかった細胞の死滅がないことを実証する。
(実施例18)
単一、二重、三重遺伝子発現体(VFCM)を用いる549WT細胞を使用するXcelligence死滅アッセイ。
【0195】
xCELLigence(登録商標)リアルタイム細胞アナライザー(Acea Biosciences、San Diego、CA)を使用する死滅アッセイも実施した。これらの実験のために、A549野生型およびA549 ROR1ノックアウト細胞を、50μlのRPMI-1640+10%FCS中で10,000個細胞/ウェルで96ウェルEプレート(Acea Biosciences)のウェル中に播種した。T細胞を0.5:1のエフェクター対標的比で添加し、HSV SepGI-ヌル、SepGI-207、SepGI-212、SepGI-216およびSepGI-218に感染した細胞培養物のVFCMの1:1,000希釈も添加した。プレートを3日間連続的に読み取った。図20は、αROR1-αCD3二重特異性抗体構築物を含まなかったHSV:SepGI-207、SepGI-214、SepGI-218およびSepGI-123(IL-12遺伝子のみ)のVFCMを含んでいたアッセイが、VFCMを全体で欠く培養物と本質的に同じ程度に、同じパターンで増殖したことを示す。他方、αROR1-αCD3二重特異性抗体構築物を発現するように操作されたHSV:SepGI-201、SepGI-212およびSepGI-216のVFCMを含んでいたアッセイは、増殖の低減を実証し、これは、これらの培養物におけるROR1+標的細胞の死滅を示した。図21は、標的細胞がROR1ノックアウト細胞であった並行アッセイの結果を示す。この場合には、増殖が損なわれることは観察されなかった。
(実施例19)
NOD/Scid偽性ヒト化マウスモデルにおけるSepGI-201 VFCMの抗腫瘍活性のin vivo研究。
【0196】
αROR1-αCD3二重特異性抗体を発現するように操作されたSepGI-201 HSVに感染した細胞のVFCMを用いる、腫瘍保有NOD/Scid偽性ヒト化マウスの処置の効果を評価する研究を設計した。対照として、αRSV-αCD3二重特異性抗体を発現するように操作されたSepGI-207 HSVに感染した細胞のVFCMを用いて、一部の腫瘍保有マウスを処置した。表3に示される処置レジメンを用いる8匹のマウスの6群を確立した。
【表3】
【0197】
すべてのマウスにおいて、腫瘍細胞、A549野生型またはA549 ROR1ノックアウトいずれかを、皮下にヒトPBMCと同時注射した。4週間後、群2~6のマウスに、50μlのVFCMを合計5処置の間4日毎~5日毎、腫瘍周囲に注射する処置が始まる。腫瘍成長および体重を週に2回モニタリングする。腫瘍体積を、およそ9週間の研究の終了時にノギスを使用して測定し、腫瘍成長阻害(TGI)を以下のとおりに算出する:[1-(処置群の相対腫瘍体積)/(対照群の相対腫瘍体積)]×100。
(実施例20)
NSG-B2m KO偽性ヒト化マウスモデルにおけるSepGI-201 VFCMの抗腫瘍活性のin vivo研究。
【0198】
αROR1-αCD3二重特異性抗体を発現するように操作されたSepGI-201 HSVを用いる、腫瘍保有NSG-B2mノックアウト偽性ヒト化マウスの処置の効果を評価する研究を設計した。対照として、一部のマウス群をαRSV-αCD3二重特異性抗体を発現するように操作されたSepGI-207 HSVを用いて処置する。表4に示される処置レジメンを用いる8匹のマウスの6群を確立した。
【表4】
【0199】
すべてのマウスにおいて、腫瘍細胞、A549野生型またはA549 ROR1ノックアウトのいずれかを、皮下にヒトPBMCと同時注射した。4週間後、群2~5のマウスに、50μlの腫瘍溶解性ウイルスを合計3処置の間4日毎~5日毎、腫瘍周囲に注射する処置が始まる。腫瘍成長および体重を週に2回モニタリングする。腫瘍体積を、およそ9週間の研究の終了時にノギスを使用して測定し、腫瘍成長阻害(TGI)を以下のとおりに算出する:[1-(処置群の相対腫瘍体積)/(対照群の相対腫瘍体積)]×100。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B-1】
図7B-2】
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図12A
図12B
図12C
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図16A
図16B
図16C
図17A-B】
図17C-D】
図17E-F】
図17G-H】
図18A
図18B
図19A-B】
図19C-D】
図20
図21
【配列表】
2024513238000001.app
【国際調査報告】