(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-22
(54)【発明の名称】固定床反応器用の細胞培養試料採取基体
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20240314BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561323
(86)(22)【出願日】2022-04-04
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 US2022023229
(87)【国際公開番号】W WO2022216568
(87)【国際公開日】2022-10-13
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】ブレイクリー,エイミー マリー リヒター
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,トリスタン イェール
(72)【発明者】
【氏名】フィネガン,マイケル フランシス
(72)【発明者】
【氏名】フリーク,ジェイコブ ディラン
(72)【発明者】
【氏名】ゴラール,ヴァシリー ニコラエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】メルコウミアン,ザラ
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,スティーヴン エリック
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029GA08
4B029GB10
4B029HA10
(57)【要約】
固定床バイオリアクタ用の細胞培養基体(200,308)およびそのような細胞培養基体を有する固定床バイオリアクタが提供される。この基体は、その上で細胞を培養するための構造的に明確な表面を有し、この構造的に明確な表面は、細胞培養基体の厚さを貫通する開口の秩序のある規則的な配列を画成する。細胞培養基体の少なくとも一部は試料基体を含み、その試料基体は、試料基体と細胞培養基体の残りとの間の分離境界により規定され、その分離境界は、細胞培養基体の残りから試料基体の分離を可能にする。試料基体の無菌除去のためのポートを有するバイオリアクタ(300)も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床バイオリアクタ用の細胞培養基体において、
その上で細胞を培養するための構造的に明確な表面であって、前記細胞培養基体の厚さを貫通する開口の秩序のある規則的配列を画成する構造的に明確な表面、
を備え、
前記細胞培養基体の少なくとも一部が試料基体を構成し、該試料基体は、該試料基体と前記細胞培養基体の残りとの間の分離境界により画成されており、
前記分離境界は、前記細胞培養基体の残りから前記試料基体を分離するように作られている、細胞培養基体。
【請求項2】
前記分離境界が、以下:前記細胞培養基体における穿孔、それに入るかまたは貫通する切込み、またはその局所的に薄い部分の少なくとも1つを含む、請求項1記載の細胞培養基体。
【請求項3】
前記分離境界が、前記試料基体と前記細胞培養基体の残りとの間に取付材料をさらに含み、該取付材料は、張力下で、該試料基体および該細胞培養基体の残りの一方または両方から解放されるように作られている、請求項1記載の細胞培養基体。
【請求項4】
複数の試料基体をさらに備える、請求項1記載の細胞培養基体。
【請求項5】
前記複数の試料基体の内の少なくとも2つが、該複数の試料基体の内の1つではない前記細胞培養基体の残りの一部によって、互いから隔てられている、請求項4記載の細胞培養基体。
【請求項6】
前記複数の試料基体の少なくとも一部が、それらの間に該複数の試料基体の内の1つではない前記細胞培養基体の残りのいずれもなく、前記分離境界により互いから隔てられている、請求項4記載の細胞培養基体。
【請求項7】
前記細胞培養基体が円形ディスク形状を有する、請求項1記載の細胞培養基体。
【請求項8】
前記試料基体が、以下の形状:正方形、長方形、パイ形、または先細の内の少なくとも1つを有する、請求項1記載の細胞培養基体。
【請求項9】
前記試料基体が、前記細胞培養基体の外縁にある狭い先細端部で先細になっている、請求項8記載の細胞培養基体。
【請求項10】
前記試料基体が、前記細胞培養基体の外縁より内部にある該試料基体の第1の端部で正方形または長方形であり、該細胞培養基体の外縁にある第2の端部で先細になっている、請求項8記載の細胞培養基体。
【請求項11】
前記細胞培養基体が円形であり、複数のパイ形試料基体を含む、請求項8記載の細胞培養基体。
【請求項12】
前記構造的に明確な表面が、1つ以上の繊維を含む、請求項1記載の細胞培養基体。
【請求項13】
前記細胞培養基体が複数の織り繊維を含む、請求項12記載の細胞培養基体。
【請求項14】
細胞を培養するための固定床バイオリアクタであって、
少なくとも1つの内部槽、該槽に流体接続された入口、および該槽に流体接続された出口を備えた細胞培養容器と、
前記内部槽内に配置された請求項1記載の細胞培養基体と、
を含む固定床バイオリアクタ。
【請求項15】
前記細胞培養容器が、前記内部槽を画成する側壁を含み、該側壁は前記少なくとも1つの基体試料層に揃えられたポートを含み、該ポートは、前記試料部分をその中に通過させるように作られたサイズを有する、請求項14記載の固定床バイオリアクタ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2021年4月6日に出願された米国仮特許出願第63/171371号の米国法典第35編第119条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、広く、基体の試料採取を可能にする細胞を培養するための基体、並びにそのような基体を有するバイオリアクタに関する。詳しくは、本開示は、細胞培養基体と、そのような基体を組み込み、バイオリアクタからの試料の除去を可能にするポートを有して、培養および他の過程の健康と進行をモニタするために、細胞培養過程の最中および/または後の基体の部分の無菌試料採取を可能にする、バイオリアクタとに関する。
【背景技術】
【0003】
バイオプロセス産業では、ホルモン、酵素、抗体、ワクチンの生産、および細胞療法の目的で、細胞の大規模培養が行われている。細胞療法と遺伝子療法の市場は、急成長しており、有望な治療法が、臨床試験を開始し、急激に商業化に進んでいる。しかしながら、1回の細胞療法の用量は、数十億の細胞または数兆のウイルスを必要とし得る。それゆえ、臨床的に成功を収めるためには、わずかな時間で大量の細胞産物を提供できることが非常に重要である。
【0004】
バイオプロセスに使用される細胞の大部分は足場依存性であり、これは、細胞が、成長し、機能するために接着する表面が必要であることを意味する。従来、接着細胞の培養は、T-フラスコ、ペトリ皿、細胞工場、細胞積層容器、ローラーボトル、およびHYPERStack(登録商標)容器などの多数の容器形態の内の1つに組み込まれた二次元(2D)細胞接着表面上で行われる。これらの手法には、治療または細胞の大規模生産を実行可能にするのに十分に高い細胞密度を達成するのが困難であることを含む、重大な欠陥があり得る。
【0005】
培養細胞の体積密度を増加させるために、代わりの方法が提言されてきた。これらには、撹拌槽内で行われるマイクロキャリア培養がある。この手法では、マイクロキャリアの表面に付着した細胞が一定の剪断応力に曝されて、増殖と培養性能に重大な影響が及ぼされる。高密度細胞培養システムの別の例に、細胞が、間の空いた繊維空間内で増殖するときに、大きい三次元集合体を形成することができる、中空繊維バイオリアクタがある。しかしながら、細胞の成長と性能は、栄養素の欠乏により著しく阻害される。この問題を軽減するために、これらのバイオリアクタは、小さく作られ、大規模製造には適していない。
【0006】
足場依存性細胞のための高密度培養システムの別の例に、充填床バイオリアクタシステムがある。このタイプのバイオリアクタでは、接着細胞が付着する表面を提供するために、細胞基体が使用される。細胞成長に必要な栄養素と酸素を提供するために、表面に沿って、または半多孔質基体を通じて、培地が灌流される。例えば、細胞を取り込むための支持体またはマトリクスシステムの充填床を含有する充填床バイオリアクタシステムが、既に特許文献1から3に開示されている。充填床マトリクスは、通常、高分子の不織布超極細繊維または基体としての多孔質粒子から作られる。そのようなバイオリアクタは、再循環流通型バイオリアクタとして機能する。そのようなバイオリアクタに関する重大な課題の1つは、充填床内部の細胞分布の不均一性である。例えば、充填床は深層フィルタとして機能し、細胞は主に入口領域で捕捉され、接種工程中に細胞分布の勾配を生じる。それに加え、無作為な繊維充填のために、充填床の断面の細胞捕捉効率と流れ抵抗が均一ではない。例えば、培地は、細胞充填密度が低い領域では速く流れ、取り込まれた細胞の数が多いために抵抗が高い領域では、遅く流れる。これにより、体積細胞密度が低い領域には、栄養素と酸素はより効率的に送達され、細胞密度が高い領域は、次善の培養条件に維持されるというチャネリング効果が生じる。
【0007】
従来技術に開示された充填床システムの別の重大な欠点は、培養過程の終わりに無傷な生存細胞を効率的に収穫できないことである。最終産物が細胞である場合、またはバイオリアクタが「シードトレイン(seed train)」(細胞集団が、ある容器内で増殖させられ、次いで、さらなる集団の増殖のために別の容器に移送される)の一部として使用されている場合、細胞の収穫は重要である。特許文献4には、細胞収穫工程中の充填床からの細胞回収の効率を改善するためのバイオリアクタ設計が開示されている。その設計は、充填床マトリクスを緩め、充填床粒子を揺動または撹拌して、多孔質マトリクスを衝突させ、よって細胞を取り外すことに基づく。しかしながら、この手法は、多くの時間と労力を要し、著しく細胞を損傷させ、よって、全体の細胞の生存を低下させるであろう。
【0008】
現在市販されている充填床バイオリアクタの一例に、Pall Corporationにより製造されているiCellis(登録商標)がある。「iCellis」では、不織配列に無作為に配向した繊維からなる細胞基体材料の小片が使用される。これらの小片が容器内に充填されて、充填床を作る。しかしながら、市場での類似の解決策のように、このタイプの充填床基体にも欠点がある。詳しくは、基体片の不均一な充填により、充填床内に目に見えるチャネルが形成され、充填床を通じて優先的で不均一な培地の流れと栄養素の分布が生じる。「iCellis」の研究で、「固定床の上部から底部に数が増加する、細胞の系統的不均一分布」、並びに「栄養素勾配・・・細胞の増殖と産生の制限をもたらす」ことが指摘され、その全てで、「細胞の不均等な分布により、トランスフェクション効率が損なわれることがある」(非特許文献1)。研究で、充填床の揺動により分散が改善されることがあるが、他の欠点があるであろう(すなわち、「接種およびトランスフェクション中に分散を良好にするのに必要な揺動は、剪断応力の増加を誘発し、転じて、細胞の生存を低下させるであろう」同文献)。別の研究では、「iCellis」について、細胞の不均一な分布により、バイオマスセンサを使用した細胞集団のモニタが困難になることが言及された(「・・・細胞が不均一に分布された場合、上部キャリア上の細胞からのバイオマス信号が、バイオリアクタ全体の一般的な見解を示さないことがある」、非特許文献2)。
【0009】
それに加え、基体片内の繊維の無作為配置および「iCellis」のある充填床と別の充填床との間の小片の充填のばらつきのために、基体は培養毎に異なるので、顧客が細胞培養性能を予測するのが困難になり得る。さらに、「iCellis」の充填基体により、細胞が充填床により閉じ込められると考えられるので、細胞を効率的に収穫するのが非常に難しくなるか、不可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4833083号明細書
【特許文献2】米国特許第5501971号明細書
【特許文献3】米国特許第5510262号明細書
【特許文献4】米国特許第9273278号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Rational plasmid design and bioprocess optimization to enhance recombinant adeno-associated virus (AAV) productivity in mammalian cells. Biotechnol. J. 2016, 11, 290-297
【非特許文献2】Process Development of Adenoviral Vector Production in Fixed Bed Bioreactor: From Bench to Commercial Scale. Human Gene Therapy, Vol. 26, No. 8, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
初期段階の臨床試験のためのウイルスベクターの製造は、既存のプラットフォームで可能であるが、後期の商業生産規模に到達するためには、高品質の産物を数多く産生できるプラットフォームが必要である。
【0013】
それに加え、細胞を培養するため、またはAAVを製造するため、または生化学的産生のために細胞増殖を促進するためのシードトレインを作るために使用されるバイオリアクタをモニタできることが望ましい。接着細胞反応器を使用する場合、成長培地の試料は、細胞を含有しないか、または少なくとも、接着基体上での培養の状態をモニタするのに有用な程度までは細胞を含有しない。
【0014】
細胞分布が均一であり、収穫収率が容易に達成でき、増加しており、高密度フォーマットでの細胞の培養を可能にしつつ、基体を無菌でモニタすることを含む、細胞培養過程の最中および/または後に基体上の細胞を調べることによって、ユーザが細胞培養過程の状態をモニタできるようにする、細胞培養マトリクス、システム、および方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示の実施の形態によれば、基体の全てまたは一部を試料採取して、細胞培養の状態または健康をモニタできるようにする細胞培養基体が開示されている。実施の形態は、1つ以上の層がこの試料採取を可能にするように特別に設計されている、多層固定床細胞培養マトリクスを含む。実施の形態は、そのような細胞培養基体および/またはマトリクスを備えた固定床バイオリアクタも含む。
【0016】
接着細胞バイオリアクタ床内での細胞の数およびその分布と健康を予測できるようにするために、ある方法では、細胞培養または細胞増殖過程の真っ最中に基体の一部を取り出す。この過程中に試料採取することによって、細胞培養の実施についての情報を使用して、その過程の品質と性能を評価することができる。細胞数は試料から予測することができ、増殖は、異なる時間で試料採取することによって、モニタすることができる。この情報を使用して、シードトレインやウイルスベクター産生などの特定の生物学的過程の性能を発展させ、最適化することができる。産生において、汚染されたか、または仕様から外れた実施を終わらせて、満足な結果が得られずに終わりまでこの過程を実施する費用を削減させることができる。成長培地および失われた産生時間は、典型的な生物学的過程にとってかなりの費用となる。本開示の実施の形態は、固定床細胞培養基体の全てまたは一部を筐体から取り出して、その床またはバイオリアクタの容器を壊さずに、ユーザが床にアクセスできるようにする。これにより、固定床の任意の部分または選択された部分を評価することができる。その床は、細胞培養過程後、または細胞培養の「事後(post-mortem)」分析のために所望の成分の収穫が完了した後にも評価することができる。
【0017】
本開示の実施の形態によれば、細胞を培養するための充填床バイオリアクタシステムが提供される。このシステムは、少なくとも1つの内部槽、その槽に流体接続された入口、およびその槽に流体接続された出口を備えた細胞培養容器と;槽内に配置された充填床細胞培養マトリクスとを含む。この細胞培養マトリクスは、そこに細胞を接着するための複数の構造的に明確な基体層を含み、その基体層の各々は、規則的で均一な物理的構造および気孔率を有する。実施の形態のいくつかの態様は、均一な気孔率を有する充填床細胞培養マトリクスおよび/またはその中を流体が均一に流れるように構成された充填床細胞培養マトリクスを含む。追加の態様として、複数の構造的に明確な基体は、槽内に配置された基体ディスクの積層体を含む。さらなる態様において、構造的に明確な基体は、気孔率を規定する複数の開口を含み、その複数の開口は、各基体ディスク内で規則的または均一なパターンで配列されている。
【0018】
本開示の実施の形態によれば、細胞培養マトリクスが提供される。この細胞培養マトリクスは、第一面、その第一面と反対にある第二面、第一面と第二面を隔てる厚さ、および基体内に形成され、基体の厚さを貫通する複数の開口を備えた基体を含む。複数の開口は、細胞培養培地、細胞または細胞産物の少なくとも1つが基体の厚さを通って流れるように構成されている。その基体は、成形された高分子格子シート、3D印刷された格子シート、および織物メッシュシートの少なくとも1つであり得る。基体は、規則的で秩序のある構造を有し、細胞接着、増殖、および最終的な細胞遊離のための表面を提供する。
【0019】
本開示の実施の形態によれば、細胞培養のためのバイオリアクタシステムにおいて、少なくとも1つの槽を有する細胞培養容器、およびその少なくとも1つの槽内に配置された細胞培養マトリクスであって、細胞をそこに接着するように構成された表面を有する複数の編み込まれた繊維を有する織物基体を含む細胞培養マトリクスを含むシステムが提供される。
【0020】
1つ以上の実施の形態によれば、細胞培養システムであって、バイオリアクタ容器;およびそのバイオリアクタ容器内に配置され、細胞を培養するように構成された細胞培養マトリクスを含む細胞培養システムが提供される。その細胞培養マトリクスは、第一面、その第一面と反対にある第二面、第一面と第二面を隔てる厚さ、および基体内に形成され、基体の厚さを貫通する複数の開口であって、細胞培養培地、細胞または細胞産物の少なくとも1つが基体の厚さを通って流れるように構成されている複数の開口を備えた基体を含む。
【0021】
1つ以上の実施の形態によれば、細胞を培養するためのバイオリアクタシステムが提供される。そのシステムは、第1の端部、第2の端部、および第1の端部と第2の端部との間にある少なくとも1つの槽を有する細胞培養容器と;その少なくとも1つの槽内に配置された細胞培養マトリクスとを含む。細胞培養マトリクスは、各々が、細胞をそこに接着するように構成された表面を備えた複数の編み込まれた繊維を含む、複数の織物基体を有する。このバイオリアクタシステムは、第1の端部から第2の端部への流れ方向に少なくとも1つの槽を通って材料を流すように作られ、複数の織物基体の基体は、各織物基体が他の織物基体の各々と実質的に平行であり、流れ方向に実質的に垂直であるように積層されている。
【0022】
1つ以上の実施の形態によれば、細胞を培養するためのバイオリアクタシステムが提供される。そのシステムは、第1の端部、第2の端部、および第1の端部と第2の端部との間にある少なくとも1つの槽を有する細胞培養容器と;その少なくとも1つの槽内に配置された細胞培養マトリクスであって、各々が、細胞をそこに接着するように構成された表面を備えた複数の編み込まれた繊維を有する複数の織物基体を含む細胞培養マトリクスとを含む。このバイオリアクタシステムは、第1の端部から第2の端部への流れ方向に少なくとも1つの槽を通って材料を流すように作られ、複数の織物基体の基体は、各織物基体が他の織物基体の各々と実質的に平行であり、流れ方向に実質的に垂直であるように積層されている。
【0023】
1つ以上の実施の形態によれば、細胞を培養するためのバイオリアクタシステムが提供される。そのシステムは、第1の端部、第2の端部、および第1の端部と第2の端部との間にある少なくとも1つの槽を有する細胞培養容器と;その少なくとも1つの槽内に配置された細胞培養マトリクスとを含む。細胞培養マトリクスは、細胞をそこに接着するように構成された表面を備えた複数の編み込まれた繊維から作られた織物基体を含み、その織物基体は、円筒状細胞培養マトリクスを提供するように巻き形状で少なくとも1つの槽内に配置され、その織物基体の表面は、円筒状細胞培養マトリクスの縦軸に対して平行である。
【0024】
別の実施の形態によれば、バイオリアクタ内で細胞を培養する方法が提供される。その方法は、中に細胞培養チャンバを有するバイオリアクタ容器、および細胞培養チャンバ内に配置された細胞培養マトリクスを提供する工程を含む。その細胞培養マトリクスは、その上で細胞を培養するために提供される。その細胞培養マトリクスは、第一面、その第一面と反対にある第二面、第一面と第二面を隔てる厚さ、および基体内に形成され、基体の厚さを貫通する複数の開口を備えた基体を含む。この方法は、細胞培養マトリクス上に細胞を播種する工程、細胞培養マトリクス上で細胞を培養する工程、および細胞を培養した産物を収穫する工程をさらに含む。基体内の複数の開口により、細胞培養培地、細胞または細胞産物の少なくとも1つが基体の厚さを通って流れることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1A】本開示の1つ以上の実施の形態による、細胞培養基体の三次元モデルの斜視図
【
図2A】いくつかの実施の形態による、細胞培養基体の一例を示す図
【
図2B】いくつかの実施の形態による、細胞培養基体の一例を示す図
【
図2C】いくつかの実施の形態による、細胞培養基体の一例を示す図
【
図3A】1つ以上の実施の形態による、多層細胞培養基体の斜視図
【
図3B】1つ以上の実施の形態による、多層細胞培養基体の平面図
【
図4】1つ以上の実施の形態による、
図3Bの多層細胞培養基体の線B-Bに沿った断面図
【
図5】1つ以上の実施の形態による、
図4の多層細胞培養基体の線C-Cに沿った断面図
【
図6】1つ以上の実施の形態による、細胞培養システムの説明図
【
図7A】1つ以上の実施の形態による、分離境界が基体試料部分を画成している、細胞培養基体の試料層の平面図
【
図7B】1つ以上の実施の形態による、試料部分が基体の試料層の残りから分離された後の、
図7Aの細胞培養基体の試料層と試料部分の平面図
【
図8A】1つ以上の実施の形態による、先細端部を有する複数の基体試料部分を備えた細胞培養基体の試料層の平面図
【
図8C】
図8Bの個々の基体試料部分および基体試料部分をそこを通じて固定床細胞培養基体から引き抜けるポートを示す図
【
図9A】いくつかの実施の形態による、容器の内部槽内の細胞培養試料部分にアクセスするための多数のポートを有する細胞培養容器の側壁を示す図
【
図10】いくつかの実施の形態による、試料部分が繋がれている、基体試料層の平面図
【
図11A】いくつかの実施の形態による、織物PETメッシュの基体試料層の写真
【
図11B】いくつかの実施の形態による、接着細胞を収穫する前に織物PETメッシュのクリスタルバイオレットで染色された試料部分の写真
【
図11C】いくつかの実施の形態による、接着細胞を収穫した後の織物PETメッシュ基体のクリスタルバイオレットで染色された試料部分の写真
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示の様々な実施の形態を、もしあれば、図面を参照して、詳しく説明する。様々な実施の形態に対する言及は、本発明の範囲を限定するものではなく、その範囲は、ここに付随の特許請求の範囲によってしか限定されない。それに加え、本明細書に述べられたどの例も、限定的ではなく、請求項に記載された発明の多くの可能な実施の形態のいくつかを述べているに過ぎない。
【0027】
本開示の実施の形態は、細胞培養基体、並びに細胞培養をモニタするために基体またはその基体の一部の試料採取を可能にする、そのような基体を組み込んだ細胞培養バイオリアクタを含む。
【0028】
従来の大規模細胞培養バイオリアクタでは、異なるタイプの充填床バイオリアクタが使用されてきた。通常、これらの充填床は、接着または浮遊細胞を維持し、成長と増殖を支援するために多孔質マトリクスを含有する。充填床マトリクスは、高い表面積対体積比を提供し、よって、細胞密度は、他のシステムにおけるよりも高くなり得る。しかしながら、充填床は、多くの場合、深層フィルタとして機能し、その場合、細胞は、マトリクスの繊維に物理的に捕えられるか、巻き込まれる。それゆえ、充填床を通る細胞接種材料の直線流のために、細胞は、充填床内の不均一な分布に曝され、充填床の深さまたは幅に亘る細胞密度のばらつきがもたらされる。例えば、細胞密度は、バイオリアクタの入口領域でより高く、バイオリアクタの出口に近いところで著しく低いであろう。充填床の内部の細胞のこのような不均一な分布により、バイオプロセス製造においてそのようなバイオリアクタの拡張性と予測可能性が著しく妨げられ、充填床の単位表面積または体積当たりの細胞の成長またはウイルスベクター産生に関する効率の低下さえもたらし得る。
【0029】
従来技術に開示された充填床バイオリアクタにおいて遭遇する別の問題に、チャネリング効果がある。充填床の任意の所定の断面での局所繊維密度は、充填不織繊維のランダム性のために、均一ではない。培地は、繊維密度が低い(床透過性が高い)領域で速く流れ、繊維密度が高い(床透過性がより低い)領域でずっと遅く流れる。充填床を横切る結果としての不均一な培地灌流により、チャネリング効果が生じ、これは、細胞培養全体とバイオリアクタの性能に悪影響を及ぼす栄養素と代謝産物の著しい勾配として現れる。培地灌流が低い領域に位置する細胞は、飢え、非常に多くの場合、栄養素の欠乏または代謝産物中毒のために死ぬことになる。細胞収穫は、不織繊維足場が充填されたバイオリアクタが使用される場合に遭遇するさらに別の問題である。細胞培養過程の終わりに放出される細胞は、深層フィルタとしての充填床機能のために、充填床の内部に取り込まれ、細胞回収率は非常に低い。このことにより、生細胞が産生物であるバイオプロセスにおけるそのようなバイオリアクタの利用が著しく制限される。それゆえ、不均一性は、流動と剪断への曝露が異なる区域をもたらし、利用できる細胞培養区域を事実上減少させ、不均一な培養を生じ、トランスフェクション効率と細胞放出を妨げる。
【0030】
既存の細胞培養の解決策のこれらと他の問題に対処するために、本開示の実施の形態は、接着依存性細胞の効率的かつ高収率の細胞培養および細胞産物(例えば、タンパク質、抗体、ウイルス粒子)の産生を可能にする、細胞成長基体、そのような基体のマトリクス、および/またはそのような基体を使用する充填床システムを提供する。実施の形態は、均一な細胞播種および培地/栄養素灌流、並びに効率的な細胞収穫を可能にする、多孔質基体材料の規則的な秩序配列から製造された多孔質細胞培養マトリクスを含む。実施の形態は、実施の形態の均一な性能を犠牲にせずに、プロセス開発規模から完全生産サイズ規模まで、細胞を播種し成長させられる、および/または細胞産物を収穫することのできる基体およびバイオリアクタに関する拡張可能な細胞培養の解決策も提供する。例えば、いくつかの実施の形態において、バイオリアクタは、プロセス開発規模から、生産規模に亘り基体の単位表面積当たりの同等なウイルスゲノム(VG/cm2)で生産規模まで、容易に拡張できる。ここに記載された実施の形態の収穫安定性および拡張性により、同じ細胞基体上での複数の規模での細胞集団を成長させるための効率的なシードトレインに使用可能になる。それに加え、ここに記載された実施の形態は、記載された他の特徴との組合せで、高収率の細胞培養の解決策を可能にする高い表面積を有する細胞培養気質を提供する。いくつかの実施の形態において、例えば、ここに述べられた細胞培養基体および/またはバイオリアクタは、バッチ当たり1016から1018のウイルスゲノム(VG)を産生できる。
【0031】
1つの実施の形態において、接着細胞が付着し、増殖するための構造的に明確な表面積を有し、良好な機械的強度を有し、充填床または他のバイオリアクタ内で組み立てられたときに、高度に均一な多数の相互接続された流体ネットワークを形成するマトリクスが提供される。特定の実施の形態において、機械的に安定で非分解性織物メッシュを基体として使用して、接着細胞産生を支援することができる。ここに開示された細胞培養マトリクスは、高い体積密度の形式で足場依存性細胞の付着と増殖を支援する。そのようなマトリクスの均一な細胞播種、並びに細胞またはバイオリアクタの他の産生物の効率的な収穫が達成できる。それに加え、本開示の実施の形態は、接種工程中に均一な細胞分布を提供し、開示されたマトリクス上の接着細胞のコンフルエントな単層または多層を達成するように細胞培養を支援し、栄養素の拡散が限られ、代謝産物の濃度が増加した大きいおよび/または制御不能な3D細胞凝集体の形成を避けることができる。それゆえ、そのマトリクスでは、バイオリアクタの作動中、拡散限界がなくなる。それに加え、そのマトリクスは、バイオリアクタからの容易かつ効率的な細胞収穫を可能にする。1つ以上の実施の形態の構造的に明確なマトリクスにより、バイオリアクタの充填床からの完全な細胞回収と一貫した細胞収穫が可能になる。
【0032】
いくつかの実施の形態によれば、治療用タンパク質、抗体、ウイルス性ワクチン、またはウイルスベクターをバイオプロセスで生産するためのマトリクスを有するバイオリアクタを使用する、細胞培養方法も提供される。
【0033】
細胞培養バイオリアクタに使用される既存の細胞培養基体(すなわち、無作為な秩序の繊維の不織基体)とは対照的に、本開示の実施の形態は、明確な秩序構造を有する細胞培養基体を含む。明確な秩序構造により、一貫した予測可能な細胞培養結果が得られる。それに加え、その基体は、細胞の閉じ込めを防ぎ、充填床を均一な流れが通れるようにする開放多孔質構造を有する。この構成により、細胞播種、栄養素の供給、細胞成長、および細胞収穫を改善することができる。1つ以上の特別な実施の形態によれば、比較的小さい厚さだけ隔てられた第1と第2の面を有する薄いシート状構造を有し、よって、シートの厚さが、基体の第1と第2の面の幅および/または長さに対して小さい、基体材料でマトリクスが形成される。それに加え、複数の孔または開口が、基体の厚さを貫通して形成されている。開口の間の基体材料は、ほぼ二次元(2D)表面であるかのように基体材料の表面に細胞を付着させ、一方で、基体材料の周りと開口を通じて適切に流体を流せるサイズと形状のものである。いくつかの実施の形態において、基体は、高分子系材料であり、成形高分子シート;厚さを貫通して開口が開けられた高分子シート;メッシュ状層に融合された多数のフィラメント;3Dプリント基体;またはメッシュ層に編み込まれた複数のフィラメントとして形成され得る。マトリクスの物理的構造は、足場依存性細胞を培養するために高い表面積対体積比を有する。様々な実施の形態によれば、マトリクスは、均一な細胞播種と成長、均一な培地灌流、および効率的な細胞収穫についてここに述べられた特定の様式でバイオリアクタ内に配列または充填することができる。
【0034】
本開示の実施の形態は、バッチ当たり約1014ウイルスゲノム超、バッチ当たり約1015ウイルスゲノム超、バッチ当たり約1016ウイルスゲノム超、バッチ当たり約1017ウイルスゲノム超、またはバッチ当たり約1016ウイルスゲノムまでまたは超の規模でウイルスゲノムを産生できる実用的サイズのウイルスベクタープラットフォームを達成できる。いくつかの実施の形態において、産生は、バッチ当たり約1015から約1018以上のウイルスゲノムである。例えば、いくつかの実施の形態において、ウイルスゲノム収量は、バッチ当たり約1015から約1016のウイルスゲノム、またはバッチ当たり約1016から約1019のウイルスゲノム、またはバッチ当たり約1016から約1018のウイルスゲノム、またはバッチ当たり約1017から約1019のウイルスゲノム、またはバッチ当たり約1018から約1019のウイルスゲノム、またはバッチ当たり約1018以上のウイルスゲノムであり得る。
【0035】
それに加え、ここに開示された実施の形態は、細胞培養基体への細胞の付着と成長だけでなく、培養細胞の生存した状態での収穫を可能にする。生存細胞を収穫できないことは、現行のプラットフォームにおける重大な欠点であり、これは、生産能力に関する十分な数の細胞の構築と維持の難点をもたらす。本開示の実施の形態の態様によれば、80%から100%生存、または約85%から約99%生存、または約90%から約99%生存を含む、生存細胞を細胞培養基体から収穫することが可能である。例えば、収穫された細胞の内、少なくとも80%が生存している、少なくとも85%が生存している、少なくとも90%が生存している、少なくとも91%が生存している、少なくとも92%が生存している、少なくとも93%が生存している、少なくとも94%が生存している、少なくとも95%が生存している、少なくとも96%が生存している、少なくとも97%が生存している、少なくとも98%が生存している、または少なくとも99%が生存している。細胞は、例えば、トリプシン、TrypLE、またはAccutase(登録商標)を使用して、細胞培養基体から放出されることがある。
【0036】
図1Aおよび1Bは、本開示の1つ以上の実施の形態の一例による、細胞培養基体100の、それぞれ、三次元(3D)斜視図および二次元(2D)平面図を示す。細胞培養基体100は、第1の方向に延在する第1の複数の繊維102および第2の方向に延在する第2の複数の繊維104から作られた織物メッシュ層である。基体100の編まれた繊維は複数の開口106を形成し、その開口は、1つ以上の幅または直径(例えば、D
1、D
2)で規定することができる。開口のサイズと形状は、織り方のタイプ(例えば、フィラメントの数、形状およびサイズ;交差するフィラメント間の角度など)に基づいて様々であり得る。織りメッシュは、マクロ規模、二次元シートまたは層として、特徴付けられることがある。しかしながら、織りメッシュを綿密に検査すると、メッシュの交差する繊維の隆起と降下のために、三次元構造が明らかになる。よって、
図1Cに示されるように、織物メッシュ100の厚さTは、単繊維の厚さ(例えば、t
1)より厚いであろう。ここに用いられているように、厚さTは、織物メッシュの第一面108と第二面110との間の最大厚さである。理論で束縛する意図はないが、基体100の三次元構造は、接着細胞を培養するために大きい表面積を提供するので、都合よく、メッシュの構造的硬直性は、均一な流体流を可能にする一貫した予測可能な細胞培養マトリクス構造を提供できると考えられる。
【0037】
図1Bにおいて、開口106は、互いに反対の繊維102の間の距離として定義される直径D
1、および互いに反対の繊維104の間の距離として定義される距離D
2を有する。D
1およびD
2は、織り形状に応じて、等しくても、等しくなくても差し支えない。D
1およびD
2が等しくない場合、大きい方を外径と称し、小さい方を内径と称することができる。いくつかの実施の形態において、開口の直径は、開口の最も広い部分を称することがある。特に明記のない限り、開口の直径は、ここに用いられているように、開口の互いに反対側にある平行な繊維間の距離を称することになる。
【0038】
複数の繊維102の所定の繊維は厚さt
1を有し、複数の繊維104の所定の繊維は厚さt
2を有する。
図1Aに示されるような、円形断面の繊維の場合、または他の三次元断面の場合、厚さt
1およびt
2は、繊維断面の最大直径または厚さである。いくつかの実施の形態によれば、複数の繊維102の全ては同じ厚さt
1を有し、複数の繊維104の全ては同じ厚さt
2を有する。それに加え、t
1およびt
2は等しいことがある。しかしながら、1つ以上の実施の形態において、t
1およびt
2は、複数の繊維102が複数の繊維104と異なる場合など、等しくない。それに加え、複数の繊維102および複数の繊維104の各々は、2つ以上の異なる厚さ(例えば、t
1a、t
1bなど、およびt
2a、t
2bなど)の繊維を含有することがある。実施の形態によれば、厚さt
1およびt
2は、その上で培養されている細胞のサイズに対して大きく、よって、その繊維は、細胞の観点から平面の近似を提供し、このことにより、繊維サイズが小さい(例えば、細胞の直径の規模の)いくつかの他の解決策と比べて、細胞の付着と増殖を良好にすることができる。
図1A~1Cに示されるような、織物メッシュの三次元特性のために、細胞の付着と増殖に利用できる繊維の2D表面積は、同等な平らな2D表面上に付着するための表面積を超えている。
【0039】
1つ以上の実施の形態において、繊維は、約50μmから約1000μm、約100μmから約750μm、約125μmから約600μm、約150μmから約500μm、約200μmから約400μm、約200μmから約300μm、または約150μmから約300μmの範囲の直径を有することがある。微小規模では、細胞と比べた繊維の規模のために(例えば、繊維の直径は細胞より大きい)、単繊維の表面は、接着細胞が付着し、増殖するための2D表面の近似として提示される。繊維は、約100μm×100μmから約1000μm×1000μmに及ぶ開口を持つメッシュに編むことができる。いくつかの実施の形態において、開口は、約50μmから約1000μm、約100μmから約750μm、約125μmから約600μm、約150μmから約500μm、約200μmから約400μm、または約200μmから約300μmの直径を有することがある。フィラメントの直径および開口の直径のこれらの範囲は、いくつかの実施の形態の例であって、全ての実施の形態によるメッシュの可能な特徴サイズを限定する意図はない。繊維の直径と開口の直径の組合せは、例えば、細胞培養マトリクスが多数の隣接するメッシュ層(例えば、個々の層の積層体または丸められたメッシュ層)から作られる場合、基体を通る効率的かつ均一な流体流を提供するように選択される。
【0040】
繊維の直径、開口の直径、および織り方/パターンなどの要因により、細胞の付着と成長に利用できる表面積が決まることになる。それに加え、細胞培養マトリクスが、重複する基体の積層体、ロール、または他の配置を含む場合、細胞培養マトリクスの充填密度が充填床マトリクスの表面積に影響することになる。充填密度は、基体材料の充填厚さ(例えば、基体の層に必要な空間)により代わり得る。例えば、細胞培養マトリクスの積層体が特定の高さを有する場合、積層体の各層は、積層体の全高を積層体中の層の数で割ることによって決まる充填厚さを有すると言える。その充填厚さは、繊維の直径と織り方に基づいて様々となるが、積層体中の隣接する層の揃い方に基づいても変動し得る。例えば、編み層の三次元特性のために、互いの揃い方に基づいて隣接する層が収容できるかみ合いまたは重複の特定の量がある。第1の揃い方では、隣接する層は互いにきつく収まり得るが、第2の揃い方では、隣接する層は、上層の最下点が下層の最上点と直接接触している場合など、重複がないことがあり得る。特定の用途では、層の充填密度がより低い(例えば、より高い透過性が優先事項である場合)または充填密度がより高い(例えば、基体の表面積を最大にすることが優先事項である場合)細胞培養マトリクスを提供することが望ましいことがある。1つ以上の実施の形態によれば、充填厚さは、約50μmから約1000μm、約100μmから約750μm、約125μmから約600μm、約150μmから約500μm、約200μmから約400μm、約200μmから約300μmであり得る。
【0041】
上述した構造的要因により、細胞培養基体の単層または基体の多層を有する細胞培養マトリクスであるかにかかわらず、細胞培養マトリクスの表面積を決定することができる。例えば、特定の実施の形態において、円形で直径6cmの織物メッシュ基体の単層は、約68cm2の有効表面積を有し得る。ここに用いられているような「有効表面積」は、細胞の付着と成長に利用できる基体材料の部分における繊維の全表面積である。特に明記のない限り、「表面積」に対する言及は、この有効表面積を称する。1つ以上の実施の形態によれば、直径6cmの単一織物メッシュ基体層は、約50cm2から約90cm2、約53cm2から約81cm2、約68cm2、約75cm2、または約81cm2の有効表面積を有することがある。有効表面積のこれらの範囲は、例としてのみ与えられ、いくつかの実施の形態は、異なる有効表面積を有してもよい。細胞培養マトリクスは、本明細書の実施例に述べられるように、多孔質に関して特徴付けることもできる。
【0042】
基体メッシュは、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール、およびポリプロピレンオキシドを含む、細胞培養用途に適合する高分子材料の単繊維または多繊維から製造することができる。メッシュ基体は、例えば、編み、縦編み、または織り(例えば、平織り、あや織り、畳織り(dutch weave)、五本針織り(five needle weave))を含む、異なるパターンまたは織りを有することがある。
【0043】
メッシュフィラメントの界面化学は、所望の細胞接着特性を提供するように変更する必要があるであろう。そのような変更は、メッシュの高分子材料の化学処理により、またはフィラメント表面に細胞接着分子をグラフト化することにより、行うことができる。あるいは、メッシュに、例えば、コラーゲンまたはMatrigel(登録商標)を含む、細胞接着特性を示す生体適合性ヒドロゲルの薄層を被覆することができる。あるいは、メッシュのフィラメント繊維の表面に、当該技術分野で公知の様々なタイプのプラズマ、処理ガス、および/または化学物質による処理過程で、細胞接着特性を与えることができる。しかしながら、1つ以上の実施の形態において、メッシュは、表面処理を行わずに、効率的な細胞成長表面を提供することができる。
【0044】
図2A~2Cは、本開示のいくつかの考えられる実施の形態による織物メッシュの異なる例を示している。これらのメッシュの繊維直径および開口サイズ、並びに同等な2D表面に対するそれぞれのメッシュの単層により与えられる細胞培養表面積の増加の近似の大きさが、下記の表1に纏められている。表1において、メッシュAは
図2Aのメッシュを指し、メッシュBは
図2Bのメッシュを指し、メッシュCは
図2Cのメッシュを指す。表1の3つのメッシュ形状は例に過ぎず、本開示の実施の形態はこれらの具体例に限定されない。メッシュCは最も大きい表面積を与えるので、細胞の付着と増殖で高密度を達成し、それゆえ、細胞培養のための最も効率的な基体を提供するのに都合よいであろう。しかしながら、いくつかの実施の形態において、細胞培養マトリクスが、例えば、培養チャンバ内で所望の細胞分布または流動特性を達成するために、メッシュAまたはメッシュB、もしくは異なる表面積のメッシュの組合せなど、表面積がより小さいメッシュを含むことが都合よいことがある。
【0045】
【0046】
上記表に示されるように、これらのメッシュの三次元品質は、同等サイズの平らな2D表面と比べて、細胞の付着と増殖のための増加した表面積を提供する。この増加した表面積は、本開示の実施の形態で達成される拡張可能性能に役立つ。プロセス開発およびプロセスバリデーションの研究のために、小規模バイオリアクタは、多くの場合、試薬の費用を節約し、実験処理能力を増加させることが要求される。本開示の実施の形態は、そのような小規模研究に適用できるが、同様に、工業または生産規模まで拡張することができる。例えば、直径2.2cmの円形の形態にある100層のメッシュCが、内径2.2cmの円筒充填床内に充填されている場合、細胞が付着し、増殖するのに利用できる全表面積は、約935cm2と等しい。そのようなバイオリアクタを10倍に拡張するために、内径7cmの円筒充填床および100層の同じメッシュの類似の構成を使用できる。そのような場合、全表面積は、9,350cm2と等しくなるであろう。いくつかの実施の形態において、利用できる表面積は、約99,000cm2/L以上である。充填床内のプラグタイプの灌流の流れのために、ml/分/充填床の断面表面積のcm2で表される同じ流量をバイオリアクタの小規模のものと大規模のものに使用することができる。表面積がより大きいと、播種密度をより高くし、細胞増殖密度をより高くすることができる。1つ以上の実施の形態によれば、ここに記載された細胞培養基体は、22,000細胞/cm2まで、またはそれより大きい細胞播種密度を示した。参考のために、Corning HyperFlask(登録商標)は、二次元表面上で約20,000細胞/cm2の播種密度を有する。
【0047】
より大きい表面積および高い細胞播種または増殖密度の別の利点は、ここに開示された実施の形態の費用が、競合する解決策と同じか、またはそれより安くなり得ることである。具体的に、細胞産物当たり(例えば、細胞当たりまたはウイルスゲノム当たり)の費用が、他の充填床バイオリアクタと等しいか、またはそれより安くなり得る。
【0048】
下記に述べられる本開示のさらなる実施の形態において、織物メッシュ基体を、バイオリアクタ内に円筒ロール形態で充填することができる(
図8および9参照のこと)。そのような実施の形態において、充填床バイオリアクタの拡張可能性は、メッシュ片の全長およびその高さを増加させることによって、達成することができる。この円筒ロール構造に使用されるメッシュの量は、充填床の所望の充填密度に基づいて、様々であり得る。例えば、この円筒ロールは、きついロールで緻密に充填されても、または緩いロールで緩く充填されても差し支えない。充填密度は、大抵、所定の用途または規模に要求される所要の細胞培養基体の表面積により決まることになる。1つの実施の形態において、メッシュの所要長さは、以下の式:
【0049】
【0050】
を使用して充填床バイオリアクタの直径から計算することができ、式中、Lはバイオリアクタを充填するために必要なメッシュの全長(すなわち、
図8のH)であり、Rは充填床培養チャンバの内半径であり、rは、メッシュが周りに巻かれる内側支持体(
図9の支持体366)の半径であり、tはメッシュの一層の厚さである。そのような構造において、バイオリアクタの拡張可能性は、充填床円筒ロールの直径または幅(すなわち、
図8のW)を増加させ、および/または充填床円筒ロールの高さHを増加させ、よって、接着細胞を播種し、増殖させるためのより大きい基体表面積を提供することによって、達成することができる。
【0051】
剛性が十分な構造的に明確な培養マトリクスを使用することによって、そのマトリクスまたは充填床に亘り高い流れ抵抗の均一性が達成される。様々な実施の形態によれば、そのマトリクスは、単層または多層形態で設置することができる。この融通性により、拡散限界がなくなり、マトリクスに付着した細胞に栄養素と酸素が均一に送達される。それに加え、開放マトリクスは、充填床構造においてどのような細胞取込み領域もなく、培養の終わりに高生存能力で完全な細胞収穫が可能になる。そのマトリクスは、充填床にとって充填均一性も与え、プロセス開発ユニットから、大規模工業バイオプロセスユニットへの直接的な拡張が可能になる。充填床から細胞を直接収穫する能力のために、撹拌容器または機械的に震盪された容器内でマトリクスを再懸濁させる必要(これにより、複雑さが加わるであろうし、細胞に有害な剪断応力が与えられ得る)がなくなる。さらに、細胞培養マトリクスの高い充填密度により、工業規模で管理可能な体積でのバイオプロセス生産性が高くなる。
【0052】
ここに用いられているように、「構造的に明確な」とは、基体の構造が所定の設計にしたがっており、無作為ではないことを意味する。それゆえ、構造的に明確な基体は、織物設計であり得る、3D印刷する、成形する、またはその構造を所定の計画構造に従わせる当該技術分野で公知のいくつかの他の技術によって形成することができる。
【0053】
図3Aは、多層基体200を備えたマトリクスの実施の形態を示し、
図3Bは同じ多層基体200の平面図である。多層基体200は、第1のメッシュ基体層202および第2のメッシュ基体層204を含む。第1と第2の基体層202および204の重複にもかかわらず、メッシュ幾何学(例えば、繊維直径に対する開口直径の比)は、第1と第2の基体層202および204の開口が重複し、
図3Bのフィラメントがない開口206で示されるように、多層基体200の全厚を通じて流体が流れる通路を提供するようなものである。
【0054】
図4は、
図3Bの線B-Bでの多層基体200の断面図を示す。矢印208は、第2の基体層204の開口を通り、次いで第1の基体層202のフィラメントの周りを通る、考えられる流体流路を示す。メッシュ基体層の形状は、1つまたは多数の基体層を通る効率的かつ均一な流れを可能にするように設計されている。それに加え、マトリクス200の構造は、多数の向きにマトリクスを通る流体流を収容することができる。例えば、
図4に示されるように、バルク流体流の方向(矢印208で示されるような)は、第1と第2の基体層202および204の主側面に対して垂直である。しかしながら、そのマトリクスは、基体層の側面がバルク流の方向に平行であるように、流れに対して方向付けることもできる。
図5は、
図4の線C-Cに沿った多層基体200の断面図を示し、マトリクス200の構造により、多層基体200中の流体経路を流体流(矢印210)が通ることができる。流体流がメッシュ層の第一面と第二面に垂直または平行であることに加え、そのマトリクスは、基体の多数の片が中間の角度になっている、またさらには流体流に対して無作為な配列になるように配置することができる。位置付けにおけるこの融通性は、織物基体の実質的に等方性の流れ挙動によって可能になる。反対に、既存のバイオリアクタにおける接着細胞のための基体は、この挙動を示さず、代わりに、その充填床は、優先的な流路を作り、異方性の透過性を持つ基体材料を有する傾向にある。本開示のマトリクスの融通性により、様々な用途およびバイオリアクタまたは容器の設計に使用可能になり、一方で、バイオリアクタ容器全体で、より良好かつより均一な透過性が可能になる。
【0055】
ここに述べられるように、1つ以上の実施の形態により、前記細胞培養基体をバイオリアクタ容器内に使用することができる。例えば、その基体は、充填床バイオリアクタ構造、または三次元培養チャンバ内の他の構造内に使用することができる。しかしながら、実施の形態は、三次元培養空間に限定されず、その基体は、細胞のための培養基体を提供するために、平底培養皿内など、基体の1つ以上の層が平らになっている、二次元培養表面構造と考えられるものに使用することができる。その容器は、汚染の懸念のために、使用後に廃棄できる使い捨て容器であり得る。
【0056】
1つ以上の実施の形態によれば、細胞培養マトリクスがバイオリアクタ容器の培養チャンバ内に使用される、細胞培養システムが提供される。
図6は、バイオリアクタ容器302の内部に細胞培養チャンバ304を有するバイオリアクタ容器302を含む細胞培養システム300の一例を示す。細胞培養チャンバ304内に、基体層308の積層体から作られた細胞培養マトリクス306がある。基体層308は、ある基体層の第一面または第二面が、隣接する基体層の第一面または第二面に面するように積層されている。バイオリアクタ容器302は、培地、細胞、および/または栄養素が培養チャンバ304内に入るための入口310を一方の端部に、培養チャンバ304から培地、細胞、または細胞産物を取り出すための出口312を反対の端部に有する。このように基体層を積層できるようにすることで、前記システムは、規定の構造および積層基体を通る効率的な流体流のために、細胞の付着と増殖に悪影響を与えずに、容易に拡張することができる。容器302は、概して、入口310と出口312を有すると記載されることがあるが、いくつかの実施の形態では、培養チャンバ304に培地、細胞、または他の内容物を出入りするように流すために入口310および出口312の一方または両方を使用してもよい。例えば、入口310は、細胞の播種、灌流、または培養段階中に培地または細胞を培養チャンバ304に流すために使用されることがあるが、収穫段階では、入口310を通じて培地、細胞、または細胞産物を取り出すために使用されることもある。それゆえ、「入口」および「出口」という用語は、それらの開口の機能を制限する意図はない。
【0057】
1つ以上の実施の形態において、充填床の流れ抵抗および体積密度は、異なる形状の基体層を交互に配置することによって、制御することができる。詳しくは、メッシュのサイズと形状(例えば、繊維の直径、開口の直径、および/または開口の形状)により、充填床形態における流体の流れ抵抗が規定される。サイズと形状が異なるメッシュを交互に配置することによって、バイオリアクタの1つ以上の特定の部分において流れ抵抗を制御するまたは変えることができる。このことにより、充填床内の液体灌流の均一性をより良くすることができる。例えば、10層のメッシュA(表1)とその後に10層のメッシュB(表1)と、その後に10層のメッシュC(表1)を積層させて、所望の充填床特性を達成することができる。別の例では、充填床は、10層のメッシュBで始まり、次に、50層のメッシュCが続き、その後、10層のメッシュBが続くことがある。そのような反復パターンは、バイオリアクタがメッシュで完全に充填されるまで続けることができる。これらは例に過ぎず、可能性のある組合せに対する限定を意図せずに、説明目的のために使用される。実際に、細胞増殖表面の体積密度および流れ抵抗の異なるプロファイルを得るために、異なるサイズのメッシュの様々な組合せが可能である。異なるサイズのメッシュを交互に配置することによって、例えば、様々な体積細胞密度のゾーン(例えば、低/高/低/高などの密度のパターンを作り出す一連のゾーン)を備えた充填床カラムを組み立てることができる。
【0058】
図6において、バルク流方向は、入口310から出口312への方向にあり、この例では、基体層308の第1と第2の主面は、バルク流方向に垂直である。
【0059】
細胞培養マトリクスは、所望のシステムに応じて、培養チャンバ内に多数の構造で配置することができる。例えば、1つ以上の実施の形態において、そのシステムは、培養チャンバ内の規定の細胞培養空間の幅に亘り延在する幅をもつ基体を一層または複数層含む。多層の基体は、このようにして、所定の高さまで積層することができる。先に述べたように、基体層は、1つ以上の層の第一面と第二面が、培養チャンバ内の規定の培養空間を通る培地のバルク流方向に垂直であるように配置されることがある、または1つ以上の層の第一面と第二面が、バルク流方向と平行であることがある。1つ以上の実施の形態において、細胞培養マトリクスは、バルク流に対して第1の向きに1つ以上の基体層を、その第1の向きと異なる第2の向きに1つ以上の他の層を含む。例えば、様々な層が、バルク流方向に平行または垂直な、もしくはそれらの間のある角度で第一面と第二面を有することがある。
【0060】
1つ以上の実施の形態において、細胞培養システムは、充填床構造で細胞培養基体の複数の個別片を含み、基体の片の長さおよび/または幅は、培養チャンバに対して小さい。ここに用いられているように、基体の片は、基体の片の長さおよび/または幅が培養空間の長さおよび/または幅の約50%以下である場合、培養チャンバに対して小さい長さおよび/または幅を有すると考えられる。それゆえ、細胞培養システムは、所望の配列で培養空間中に充填された基体の複数の片を含むことがある。基体片の配列は、無作為または半無作為であることがある、もしくは片が実質的に類似の向き(例えば、水平、鉛直、またはバルク流方向に対して0°と90°の間の角度で)に配向されているなど、所定の秩序またはアライメントを有することがある。
【0061】
ここに用いられている「所定の培養空間」は、細胞培養マトリクスで占められ、細胞播種および/または培養が行われることになっている培養チャンバ内の空間を称する。規定の培養空間は、培養チャンバのほぼ全てを満たすことができる、または培養チャンバ内の空間の一部を占めてもよい。ここに用いられているように、「バルク流方向」は、細胞の培養中に、および/または培地の培養チャンバへの流入または流出中に、細胞培養マトリクスの中または上の流体または培地のバルク質量流の方向と定義される。
【0062】
1つ以上の実施の形態において、細胞培養マトリクスは、固定機構によって培養チャンバ内に固定される。その固定機構は、細胞培養マトリクスの一部を、そのマトリクスを取り囲む培養チャンバの壁に、または培養チャンバの一端にあるチャンバ壁に固定することがある。いくつかの実施の形態において、固定機構は、細胞培養マトリクスの一部を、培養チャンバの縦軸に平行に延在する部材、またはその縦軸に垂直に延在する部材など、培養チャンバを通って延在する部材に接着する。しかしながら、1つ以上の他の実施の形態において、細胞培養マトリクスは、チャンバまたはバイオリアクタ容器の壁に固定して付着されずに、培養チャンバ内に収容されることがある。例えば、そのマトリクスは、培養チャンバの境界、またはチャンバ内の他の構造部材により、マトリクスがそれらの境界または構造部材にしっかりと固定されずに、マトリクスがバイオリアクタ容器の所定の区域内に保持されるように、収容されることがある。
【0063】
織物またはメッシュ基体を含むマトリクスなどの、本開示の実施の形態による細胞培養マトリクスを使用することによって、接着細胞が付着し、増殖し、機能するのに利用できる表面積が増加したローラーボトル容器が提供される。詳しくは、ローラーボトル内にモノフィラメント高分子材料の織物メッシュの基体を使用することによって、表面積は、標準ローラーボトルのものの約2.4から約4.8倍または約10倍に増加することがある。ここに述べられるように、メッシュ基体の各モノフィラメントストランドは、それ自体、接着細胞が付着する2D表面となることができる。それに加え、多数の層のメッシュをローラーボトル内に配置して、標準ローラーボトルのものの約2から20倍に及ぶ利用可能な全表面積の増加をもたらすことができる。それゆえ、既存のローラーボトル設備、並びに細胞播種、培地交換、および細胞収穫を含む処理を、既存の作業インフラストラクチャーおよび処理工程に対する影響を最小にして、ここに開示された改良型細胞培養マトリクスを追加することによって、変更することができる。
【0064】
バイオリアクタ容器は、必要に応じて、入口および/または出口手段に取り付けることのできる1つ以上の出口を備える。その1つ以上の出口を通じて、液体、培地、または細胞をチャンバに供給したり、チャンバから取り出したりすることができる。容器における単一ポートは入口と出口の両方の機能を果たすことができる、または専用の入口および出口のために多数のポートを設けることができる。
【0065】
1つ以上の実施の形態の充填床細胞培養マトリクスは、その細胞培養マトリクス内に配置されたか、またはそれに散在する細胞培養基体のどの他の形態もなく、織物細胞培養メッシュ基体からなり得る。すなわち、本開示の実施の形態の織物細胞培養メッシュ基体は、既存の解決策に使用される不規則な不織基体のタイプを必要としない、効果的な細胞培養基体である。これにより、高密度の細胞培養基体に、流動均一性、収穫可能性などに関連する、ここに述べられた他の利点を与えつつ、簡略設計と構造の細胞培養システムが可能になる。
【0066】
ここに述べられるように、提供される細胞培養基体およびバイオリアクタシステムは、多数の利点を提示する。例えば、本開示の実施の形態は、AAV(全血清型)およびレンチウイルスなどの多数のウイルスベクターのいずれかの産生を支援することができ、生体内および生体外の遺伝子治療用途を目指して適用することができる。均一な細胞播種と分布は、容器当たりのウイルスベクター収量を最大にし、その設計により、生存細胞の収穫が可能になり、このことは、同じプラットフォームを使用した多重展開期間からなるシードトレインにとって有用であり得る。それに加え、ここでの実施の形態は、プロセス開発規模から生産規模まで拡張可能であり、これにより、最終的に開発時間と費用が節約される。ここに開示された方法およびシステムにより、ベクターの収量を最大にし、再現性を改善するために、細胞培養過程の自動化と制御も可能になる。最終的に、ウイルスベクターの生産レベル規模(例えば、バッチ当たり1016から1018のAAV VG)に到達するのに必要な容器の数は、他の細胞培養の解決策と比べて、大幅に減少させることができる。
【0067】
実施の形態は、中心縦軸の周りの容器の回転に限定されない。例えば、容器は、容器に関して中心に位置していない軸の周りに回転することがある。それに加え、回転軸は、水平または垂直軸であることがある。
【0068】
本開示には、基体、および取外し可能な試料片を作るための、高分子メッシュ基体を含む細胞培養基体の層を切断し、穿孔する方法が記載されている。本開示には、バイオリアクタから試料を無菌で取り出すための方法および装置も記載されている。細胞培養過程中に試料採取を行うことによって、その実施に関する情報を使用して、培養過程の品質と性能を評価することができる。細胞数は試料から推測することができ、増殖は、異なる時間でまたはバイオリアクタ内の異なる場所で、試料採取することによって、モニタすることができる。この情報を使用して、シードトレインおよびウイルスベクター産生などの特定の生物学的過程のためにパラメータを開発し、最適化することができる。産生において、汚染されたか、または仕様からはずれた過程を打ち切って、満足な結果が得られずに終わりまでその過程を実施する費用を削減することができる。成長培地および失われた産生時間は、典型的な生物学的過程にとってかなりの費用となる。
【0069】
ここでの実施の形態において、基体の試料部分は、試料採取を、試料採取過程中の主要なメッシュ体を乱さずに、理想的には手作業で行うために少ない力で、細胞培養基体の残りから分離可能である。例えば、比較的小さい(例えば、手で加えられる)力で、力が加えられる試料部分と、基体の残りとの間の張力により、試料部分を基体の残りから分離することができる。除去力を低く維持するために、試料部分と基体の残りとの間に分離境界を施すことができる。この分離境界は、例えば、スコーリング、穿孔、レーザ切断、または打抜きなどの他の切断手段によって形成することができ、固定床から除去できる基体の分離可能片を含む基体の層を作るために使用することができる。
【0070】
いくつかの実施の形態では、細孔または開口の秩序配列を画成する織り繊維を有する織物高分子メッシュ基体が使用される。メッシュ中の繊維の各々は非常に強力であるので、試料を小さい力で取り外しやすくするために、取外し可能な試料とメッシュの本体との間に延在する繊維がないことが望ましい。メッシュ積層体バイオリアクタ床を作るために使用される製造・組立過程中で取り扱われる場合、メッシュ層が丈夫であることも望ましい。これを成し遂げるために、いくつかの繊維を、
図7Aに示されるように、試料をメッシュ本体に接続するメッシュの編み部分を残すようなやり方で切断することができる。ここに開示された様々な高分子(PETを含む)から形成することのできる、繊維の相対的な剛性のために、個々の繊維が切断されて、試料部分の分離境界を作っているにもかかわらず、織り合わされた繊維は、付着したままでいられる。
図7Aの線が分離境界を示す。
図7Bは、細胞培養基体の残りから取り外された後の試料部分を示す。
【0071】
試料片が切断されたメッシュ層は、バイオリアクタの筐体を開き、それらを床から消毒済み器具で引き抜くことによってバイオリアクタから除去することができる、またはそれらは、無菌試料採取ポートを使用することによって、反応器から除去することができる。
【0072】
試料採取片の多様性は、単層に由来し得る。織物基体を使用する実施の形態において、ほとんどの切断パターンに関して、切断パターンと関わり合うときの織り方と縦糸の方向は、構造的完全性を維持し、容易な除去を可能にすると考えられる。作られたいくつかの切断パターンはメッシュ繊維の向きの影響をそれほど受けず、メッシュの向きは精密に制御する必要はないので、これらのパターンを製造に使用することが都合よい。
【0073】
図8A~8Cは、試料採取層が多数の試料採取部分を含んでいる別の実施の形態を示す。試料採取部分の形状は、試料採取層の外縁より内部にある試料採取部分の内側にある長方形端部、および試料採取層の外縁の外側端部にある先細端部を含む。先細端部により、バイオリアクタの側壁にあるポートを通じて試料採取部分を容易に除去することができる。基体材料は、側壁にあるポートのサイズが、狭い端部の側と同じかまたはわずかに大きいことがあり得、試料採取部分の幅広部分が、側壁にある開口を通じて引っ張られるときに、わずかに折り曲がるか、湾曲することができるようなものである。
図8Bは、取り外された後の個々の試料採取部分の拡大図を示し、
図8Cは、バイオリアクタにある側壁ポートと試料採取部分との間の相対的サイズの一例を示しているが、その相対的サイズは様々な実施の形態で変わり得る。
【0074】
無菌ポートアセンブリは、試料採取位置を任意の高さと向きで反応器に加えられるように、モジュール式であり得る。
図9Aは、バイオリアクタ容器に組み立てられた4つの試料ポートの3層を示す。
図9Bは、
図9Aの線A-Aを通る平面図であり、バイオリアクタの側壁内のポート接続具の分解図である。これらのポート接続具は、試料部分を捕捉し、それらを無菌環境に維持するために容器の外部に無菌捕捉機構を取り付けるために使用することができる。
【0075】
図10は、基体の試料層が試料部分に成形されたテザーを有し、よって、テザーを引っ張って試料部分を取り出せる実施の形態を示す。実施の形態は、試料採取ポートの高さに到達するまで、基体の層をバイオリアクタの筐体に加える、バイオリアクタを組み立てる方法を含む。この時点で、試料採取層がバイオリアクタ容器に挿入され、テザーがポートを通じて引っ張られる。ポートの外部にある無菌容器を使用して、無菌試料採取を行うことができる。
【0076】
図11Aは、6個のパイ形試料採取部分を有する試料層を示す。試料採取部分の数と形状は様々であり得る。この場合、分離境界が、織物メッシュ基体の繊維を通じてレーザ切断されている。試料層は、層の左側にアライメント特徴も備え、これは、試料採取部分が試料採取を容易にするために所定の位置にあるように、試料層を所定の位置に保持するために有用であり得る。このアライメント特徴は、容器側壁の内部にある対応する特徴とかみ合うように設計することができる。
図11Bは、基体上の接着細胞の存在を示すように染色された3個のパイ形試料部分を示す。
図11Cは、基体から細胞を採取するための採取手順後の試料採取された3個のパイ形試料部分を示す。
図11Bと11Cを比べると、この例における収穫手順の有効性が示される。
【0077】
説明に役立つ実行例
以下は、開示された主題の実行例の様々な態様の記述である。各態様は、開示された主題の様々な特徴、特性、または利点の1つ以上を含むことがある。この実行例は、開示された主題のいくつかの態様を説明する意図があり、全ての可能な実行例の包括的なまたは網羅的な記述と考えるべきではない。
【0078】
態様1は、固定床バイオリアクタ用の細胞培養基体において、その上で細胞を培養するための構造的に明確な表面であって、細胞培養基体の厚さを貫通する開口の秩序のある規則的配列を画成する構造的に明確な表面を備え、細胞培養基体の少なくとも一部が試料基体を構成し、その試料基体は、試料基体と細胞培養基体の残りとの間の分離境界により画成されており、分離境界は、細胞培養基体の残りから試料基体を分離するように作られている、細胞培養基体に関する。
【0079】
態様2は、分離境界が、以下:細胞培養基体における穿孔、それに入るかまたは貫通する切込み、またはその局所的に薄い部分の少なくとも1つを含む、態様1の細胞培養基体に関する。
【0080】
態様3は、分離境界が、試料基体と細胞培養基体の残りとの間に取付材料をさらに含み、その取付材料は、張力下で、試料基体および細胞培養基体の残りの一方または両方から解放されるように作られている、態様1または態様2の細胞培養基体に関する。
【0081】
態様4は、複数の試料基体をさらに備える、先の態様1~3のいずれかの細胞培養基体に関する。
【0082】
態様5は、複数の試料基体の内の少なくとも2つが、複数の試料基体の内の1つではない細胞培養基体の残りの一部によって、互いから隔てられている、態様4の細胞培養基体に関する。
【0083】
態様6は、複数の試料基体の少なくとも一部が、それらの間に複数の試料基体の内の1つではない細胞培養基体の残りのいずれもなく、分離境界により互いから隔てられている、態様4または態様5の細胞培養基体に関する。
【0084】
態様7は、細胞培養基体が円形ディスク形状を有する、先の態様1~6のいずれかの細胞培養基体に関する。
【0085】
態様8は、試料基体が、以下の形状:正方形、長方形、パイ形、または先細の内の少なくとも1つを有する、先の態様1~7のいずれかの細胞培養基体に関する。
【0086】
態様9は、試料基体が、細胞培養基体の外縁にある狭い先細端部で先細になっている、態様8の細胞培養基体に関する。
【0087】
態様10は、試料基体が、細胞培養基体の外縁より内部にある試料基体の第1の端部で正方形または長方形であり、細胞培養基体の外縁にある第2の端部で先細になっている、態様8または態様9の細胞培養基体に関する。
【0088】
態様11は、細胞培養基体が円形であり、複数のパイ形試料基体を含む、態様8の細胞培養基体に関する。
【0089】
態様12は、構造的に明確な表面が、1つ以上の繊維を含む、先の態様1~11のいずれかの細胞培養基体に関する。
【0090】
態様13は、細胞培養基体が複数の織り繊維を含む、態様12の細胞培養基体に関する。
【0091】
態様14は、固定床バイオリアクタ用の細胞培養マトリクスにおいて、細胞培養基体の複数の層であって、細胞培養基体の複数の層の各層が、その層の厚さを貫通する開口の秩序のある規則的配列を含み、その開口は、その層の1つ以上の繊維により隔てられている、細胞培養基体の複数の層を備え、細胞培養基体の複数の層は、細胞培養基体の複数の層から分離可能であるように作られた試料部分を含む少なくとも1つの基体試料層を含む、細胞培養マトリクスに関する。
【0092】
態様15は、試料部分が、基体試料層の残りから分離可能であるように作られている、態様14の細胞培養マトリクスに関する。
【0093】
態様16は、試料部分が、試料部分と基体試料層の残りとの間の分離境界により画成される、態様15の細胞培養マトリクスに関する。
【0094】
態様17は、分離境界が、以下:層の1つ以上の繊維における穿孔、それに入るかまたは貫通する切込み、またはその局所的に薄い部分の少なくとも1つを含む、態様15の細胞培養マトリクスに関する。
【0095】
態様18は、分離境界が、試料部分と基体試料層の残りとの間に取付材料をさらに含み、その取付材料は、張力下で、試料部分および基体試料層の残りの一方または両方から解放されるように作られている、態様16または態様17の細胞培養マトリクスに関する。
【0096】
態様19は、基体試料層が複数の試料部分を含む、態様14~18のいずれか1つの細胞培養マトリクスに関する。
【0097】
態様20は、複数の基体試料層をさらに含む、態様14~19のいずれか1つの細胞培養マトリクスに関する。
【0098】
態様21は、複数の試料部分の内の少なくとも2つが、複数の試料部分の内の1つではない基体試料層の残りの一部により互いから隔てられている、態様19~20のいずれか1つの細胞培養マトリクスに関する。
【0099】
態様22は、複数の試料部分の少なくとも一部が、それらの間に複数の試料部分の内の1つではない基体試料層の残りのいずれもなく、分離境界により互いから隔てられている、態様20または態様21の細胞培養マトリクスに関する。
【0100】
態様23は、細胞培養基体の複数の層の各層が円形ディスク形状を有する、態様14~22のいずれかの細胞培養マトリクスに関する。
【0101】
態様24は、試料部分が、以下の形状:正方形、長方形、パイ形、または先細の少なくとも1つを有する、態様14~23のいずれかの細胞培養マトリクスに関する。
【0102】
態様25は、試料部分が、基体試料層の外縁にある狭い先細端部で先細になっている、態様24の細胞培養マトリクスに関する。
【0103】
態様26は、試料部分が、基体試料層の外縁の内部にある試料部分の第1の端部で正方形または長方形であり、基体試料層の外縁にある第2の端部で先細になっている、態様24または態様25の細胞培養マトリクスに関する。
【0104】
態様27は、基体試料層が円形であり、複数のパイ形試料部分を含む、態様25の細胞培養マトリクスに関する。
【0105】
態様28は、層の1つ以上の繊維が互いに編まれている、態様14~27のいずれかの細胞培養マトリクスに関する。
【0106】
態様29は、複数の細胞培養基体層が、積層構造で配置されている、態様14~28のいずれかの細胞培養マトリクスに関する。
【0107】
態様30は、細胞を培養するための固定床バイオリアクタであって、少なくとも1つの内部槽、その槽に流体接続された入口、およびその槽に流体接続された出口を備えた細胞培養容器と;内部槽内に配置された態様14~28のいずれかの細胞培養マトリクスとを含む、固定床バイオリアクタに関する。
【0108】
態様31は、槽が長さと幅により規定され、その長さは、入口に隣接する槽の第1の端部から出口に隣接する槽の第2の端部まで延在し、細胞培養マトリクスは、実質的に槽の幅に亘り延在する幅を有する、態様30の固定床バイオリアクタに関する。
【0109】
態様32は、複数の細胞培養基体層が、槽内に積層構造で配置されている、態様30または態様31の固定床バイオリアクタに関する。
【0110】
態様33は、細胞培養容器が、内部槽を画成する側壁を含み、その側壁は少なくとも1つの基体試料層に揃えられたポートを含み、そのポートは、試料部分をその中に通過させるように作られたサイズを有する、態様30~32のいずれかの固定床バイオリアクタに関する。
【0111】
態様34は、固定床バイオリアクタが、細胞培養容器から試料部分を無菌除去するように作られている、態様30~33のいずれかの固定床バイオリアクタに関する。
【0112】
定義
「全合成」または「完全合成」とは、合成供給源材料から完全になり、どのような動物由来または動物源の材料も含まない、マイクロキャリアまたは培養容器の表面など、細胞培養物品を称する。開示された全合成細胞培養物品には、異種汚染のリスクがない。
【0113】
「含む」などの用語は、限定されずに包含する、すなわち、包括的であって排他的ではないことを意味する。
【0114】
「ユーザ」は、ここに開示されたシステム、方法、物品、またはキットを使用する人を称し、細胞または細胞産物を収穫するために細胞を培養する人、またはここに記載された実施の形態にしたがって培養された、および/または収穫された細胞または細胞産物を使用する人を含む。
【0115】
本開示の実施の形態を記載する上で使用される、例えば、組成物中の成分の量、濃度、体積、工程温度、工程所要時間、収率、流量、圧力、粘度、および同様の値、並びにその範囲、または構成要素の寸法、および同様の値、並びにその範囲を修飾する「約」は、例えば、材料、組成物、複合体、濃縮物、構成部品、製造物品、または使用製剤の調製に使用される典型的な測定および取扱手順により;これらの手順における故意ではない誤りにより;方法を実施するために使用される出発材料または成分の製造、供給源、または純度の差により;および同様の検討事項により生じ得る数量のばらつきを称する。「約」という用語は、特定の初期濃度または混合物を有する組成物または配合物の経年変化により異なる量、および特定の初期濃度または混合物を有する組成物または配合物の混合または処理により異なる量も包含する。
【0116】
「随意的」または「必要に応じて」とは、その後に記載された事象または環境が起こり得るまたは起こり得ないこと、およびその記載が、その事象または環境が生じる例と生じない例を含むことを意味する。
【0117】
名詞は、特に明記のない限り、少なくとも1つ、または1つ以上の対象を含む。
【0118】
当業者に周知の省略形を使用してよい(例えば、時間の「h」または「hrs」、グラムの「g」または「gm」、ミリリットルの「mL」、および室温の「rt」、ナノメートルの「nm」、および同様の省略形)。
【0119】
構成要素、成分、添加物、寸法、条件、および同様の属性について開示された特定の値および好ましい値、並びにその範囲は、説明のためだけであり、それらは、他の所定の値または所定の範囲内の他の値を排除するものではない。本開示のシステム、キット、および方法は、明白なまたは潜在的な中間値および範囲を含む、ここに記載された値、特定値、より特定の値、および好ましい値のどの値またはどの組合せも含み得る。
【0120】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程が特定の順序で行われることを必要とするものと解釈されることは決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程がしたがうべき順序を実際に列挙していない場合、または工程が特定の順序に限定されるべきことが、請求項または記載に他の具体的に述べられていない場合、どの特定の順序も暗示されているものとは、決して意図されていない。
【0121】
開示された実施の形態の精神または範囲から逸脱せずに、様々な改変および変更を行えることが、当業者に明白であろう。開示された実施の形態の精神および実体を含む実施の形態の改変、組合せ、部分的な組合せおよび変更が当業者に想起されるであろうから、開示された実施の形態は、付随の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内に全てを含むと解釈されるべきである。
【0122】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0123】
実施形態1
固定床バイオリアクタ用の細胞培養基体において、
その上で細胞を培養するための構造的に明確な表面であって、前記細胞培養基体の厚さを貫通する開口の秩序のある規則的配列を画成する構造的に明確な表面、
を備え、
前記細胞培養基体の少なくとも一部が試料基体を構成し、該試料基体は、該試料基体と前記細胞培養基体の残りとの間の分離境界により画成されており、
前記分離境界は、前記細胞培養基体の残りから前記試料基体を分離するように作られている、細胞培養基体。
【0124】
実施形態2
前記分離境界が、以下:前記細胞培養基体における穿孔、それに入るかまたは貫通する切込み、またはその局所的に薄い部分の少なくとも1つを含む、実施形態1に記載の細胞培養基体。
【0125】
実施形態3
前記分離境界が、前記試料基体と前記細胞培養基体の残りとの間に取付材料をさらに含み、該取付材料は、張力下で、該試料基体および該細胞培養基体の残りの一方または両方から解放されるように作られている、実施形態1または実施形態2に記載の細胞培養基体。
【0126】
実施形態4
複数の試料基体をさらに備える、実施形態1から3のいずれか1つに記載の細胞培養基体。
【0127】
実施形態5
前記複数の試料基体の内の少なくとも2つが、該複数の試料基体の内の1つではない前記細胞培養基体の残りの一部によって、互いから隔てられている、実施形態4に記載の細胞培養基体。
【0128】
実施形態6
前記複数の試料基体の少なくとも一部が、それらの間に該複数の試料基体の内の1つではない前記細胞培養基体の残りのいずれもなく、前記分離境界により互いから隔てられている、実施形態4または実施形態5に記載の細胞培養基体。
【0129】
実施形態7
前記細胞培養基体が円形ディスク形状を有する、実施形態1から6のいずれか1つに記載の細胞培養基体。
【0130】
実施形態8
前記試料基体が、以下の形状:正方形、長方形、パイ形、または先細の内の少なくとも1つを有する、実施形態1から7のいずれか1つに記載の細胞培養基体。
【0131】
実施形態9
前記試料基体が、前記細胞培養基体の外縁にある狭い先細端部で先細になっている、実施形態8に記載の細胞培養基体。
【0132】
実施形態10
前記試料基体が、前記細胞培養基体の外縁より内部にある該試料基体の第1の端部で正方形または長方形であり、該細胞培養基体の外縁にある第2の端部で先細になっている、実施形態8または実施形態9に記載の細胞培養基体。
【0133】
実施形態11
前記細胞培養基体が円形であり、複数のパイ形試料基体を含む、実施形態8に記載の細胞培養基体。
【0134】
実施形態12
前記構造的に明確な表面が、1つ以上の繊維を含む、実施形態1から11のいずれか1つに記載の細胞培養基体。
【0135】
実施形態13
前記細胞培養基体が複数の織り繊維を含む、実施形態12に記載の細胞培養基体。
【0136】
実施形態14
固定床バイオリアクタ用の細胞培養マトリクスにおいて、
細胞培養基体の複数の層であって、該細胞培養基体の複数の層の各層が、該層の厚さを貫通する開口の秩序のある規則的配列を含み、該開口は、該層の1つ以上の繊維により隔てられている、細胞培養基体の複数の層、
を備え、
前記細胞培養基体の複数の層は、該細胞培養基体の複数の層から分離可能であるように作られた試料部分を含む少なくとも1つの基体試料層を含む、細胞培養マトリクス。
【0137】
実施形態15
前記試料部分が、前記基体試料層の残りから分離可能であるように作られている、実施形態14に記載の細胞培養マトリクス。
【0138】
実施形態16
前記試料部分が、該試料部分と前記基体試料層の残りとの間の分離境界により画成される、実施形態15に記載の細胞培養マトリクス。
【0139】
実施形態17
前記分離境界が、以下:前記層の1つ以上の繊維における穿孔、それに入るかまたは貫通する切込み、またはその局所的に薄い部分の少なくとも1つを含む、実施形態15に記載の細胞培養マトリクス。
【0140】
実施形態18
前記分離境界が、前記試料部分と前記基体試料層の残りとの間に取付材料をさらに含み、該取付材料は、張力下で、該試料部分および該基体試料層の残りの一方または両方から解放されるように作られている、実施形態16または実施形態17に記載の細胞培養マトリクス。
【0141】
実施形態19
前記基体試料層が複数の試料部分を含む、実施形態14から18のいずれか1つに記載の細胞培養マトリクス。
【0142】
実施形態20
複数の基体試料層をさらに含む、実施形態14から19のいずれか1つに記載の細胞培養マトリクス。
【0143】
実施形態21
前記複数の試料部分の内の少なくとも2つが、該複数の試料部分の内の1つではない前記基体試料層の残りの一部により互いから隔てられている、実施形態19または20に記載の細胞培養マトリクス。
【0144】
実施形態22
前記複数の試料部分の少なくとも一部が、それらの間に該複数の試料部分の内の1つではない前記基体試料層の残りのいずれもなく、前記分離境界により互いから隔てられている、実施形態20または実施形態21に記載の細胞培養マトリクス。
【0145】
実施形態23
前記細胞培養基体の複数の層の各層が円形ディスク形状を有する、実施形態14から22のいずれか1つに記載の細胞培養マトリクス。
【0146】
実施形態24
前記試料部分が、以下の形状:正方形、長方形、パイ形、または先細の少なくとも1つを有する、実施形態14から23のいずれか1つに記載の細胞培養マトリクス。
【0147】
実施形態25
前記試料部分が、前記基体試料層の外縁にある狭い先細端部で先細になっている、実施形態24に記載の細胞培養マトリクス。
【0148】
実施形態26
前記試料部分が、前記基体試料層の外縁の内部にある該試料部分の第1の端部で正方形または長方形であり、該基体試料層の外縁にある第2の端部で先細になっている、実施形態24または実施形態25に記載の細胞培養マトリクス。
【0149】
実施形態27
前記基体試料層が円形であり、複数のパイ形試料部分を含む、実施形態25に記載の細胞培養マトリクス。
【0150】
実施形態28
前記層の前記1つ以上の繊維が互いに編まれている、実施形態14から27のいずれか1つに記載の細胞培養マトリクス。
【0151】
実施形態29
前記複数の細胞培養基体層が、積層構造で配置されている、実施形態14から28のいずれか1つに記載の細胞培養マトリクス。
【0152】
実施形態30
細胞を培養するための固定床バイオリアクタであって、
少なくとも1つの内部槽、該槽に流体接続された入口、および該槽に流体接続された出口を備えた細胞培養容器と、
前記内部槽内に配置された実施形態14から28のいずれか1つに記載の細胞培養マトリクスと、
を含む固定床バイオリアクタ。
【0153】
実施形態31
前記槽が長さと幅により規定され、該長さは、前記入口に隣接する該槽の第1の端部から前記出口に隣接する該槽の第2の端部まで延在し、前記細胞培養マトリクスは、実質的に該槽の幅に亘り延在する幅を有する、実施形態30に記載の固定床バイオリアクタ。
【0154】
実施形態32
前記複数の細胞培養基体層が、前記槽内に積層構造で配置されている、実施形態30または実施形態31に記載の固定床バイオリアクタ。
【0155】
実施形態33
前記細胞培養容器が、前記内部槽を画成する側壁を含み、該側壁は前記少なくとも1つの基体試料層に揃えられたポートを含み、該ポートは、前記試料部分をその中に通過させるように作られたサイズを有する、実施形態30から32のいずれか1つに記載の固定床バイオリアクタ。
【0156】
実施形態34
前記固定床バイオリアクタが、前記細胞培養容器から前記試料部分を無菌除去するように作られている、実施形態30から33のいずれか1つに記載の固定床バイオリアクタ。
【符号の説明】
【0157】
100 基体
102 第1の複数の繊維
104 第2の複数の繊維
106、206 開口
108 第一面
110 第二面
200 多層基体
202 第1のメッシュ基体
204 第2のメッシュ基体
300 細胞培養システム
302 バイオリアクタ容器
304 培養チャンバ
306 細胞培養マトリクス
308 基体層
310 入口
312 出口
【国際調査報告】