(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼、表面粗さの調整制御方法、不動態化膜の形成方法および使用
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240315BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20240315BHJP
C25F 3/06 20060101ALI20240315BHJP
C25F 7/00 20060101ALI20240315BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20240315BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20240315BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240315BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/50
C25F3/06
C25F7/00 V
H01M8/021
C21D9/46 R
H01M8/10 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540711
(86)(22)【出願日】2022-03-21
(85)【翻訳文提出日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 CN2022081922
(87)【国際公開番号】W WO2023155264
(87)【国際公開日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】202210155650.8
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522260920
【氏名又は名称】山東産研先進材料研究院有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG INDUSTRIAL RESEARCH INSTITUTE OF ADVANCED MATERIALS CO., LTD
【住所又は居所原語表記】2105, Floor 21 Building 3, Future Chuangye Plaza, North Section Of Gangxing Third Road, Jinan, China (Shandong) Pilot Free Trade Zone, High-tech Zone Jinan, Shandong 250000 China
(71)【出願人】
【識別番号】522260931
【氏名又は名称】国家電投集団▲ケイ▼能科技発展有限公司
【氏名又は名称原語表記】STATE POWER INVESTMENT CORPORATION HYDROGEN ENERGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Building 1, Courtyard 7, Yingcai South 1st Street, Future Science City, Beiqijia Town, Changping District Beijing 102209 China
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】盧華興
(72)【発明者】
【氏名】席▲ヨウ▼廷
(72)【発明者】
【氏名】楊運民
(72)【発明者】
【氏名】隗健
【テーマコード(参考)】
4K037
5H126
【Fターム(参考)】
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
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4K037EA31
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4K037EA36
4K037EB02
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4K037FA02
4K037FC03
4K037FC04
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4K037FF03
4K037FG00
4K037FH01
5H126AA12
5H126BB06
5H126GG08
5H126JJ01
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ06
5H126JJ08
(57)【要約】
本願は、燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼、表面粗さの調整制御方法、不動態化膜の形成方法および使用を開示する。前記フェライト系ステンレス鋼は、C:0.03wt.%以下、N:0.02wt.%以下、Si:0.4wt.%以下、Mn:0.5wt.%以下、Cr:16~23wt.%、Cuを:0~2.0wt.%、Mo:1.8~2.5wt.%、Ni:0.2~2.0wt.%、Ti:0.1~0.5wt.%、Nb:0.005~0.5wt.%、P:0.02wt.%以下、S:0.02wt.%以下を含み、残量がFeおよび不可避的に含まれる他の元素であり、前記フェライト系ステンレス鋼の結晶粒度は4~9番である。本願に係る燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼は、良好な耐腐食性能、導電性能、良好な伸度および変形能力を備えるとともに、経済性およびコストメリットを兼ね備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系ステンレス鋼の質量を100wt.%として計算すると、前記フェライト系ステンレス鋼は、
C:0.03wt.%以下、
N:0.02wt.%以下、
Si:0.4wt.%以下、
Mn:0.5wt.%以下、
Cr:16~23wt.%、
Cu:0~2.0wt.%、
Mo:1.8~2.5wt.%、
Ni:0.2~2.0wt.%、
Ti:0.1~0.5wt.%、
Nb:0.005~0.5wt.%、
P:0.02wt.%以下、
S:0.02wt.%以下、
を含み、
残量がFeおよび不可避的に含まれる他の元素であり、
前記フェライト系ステンレス鋼の結晶粒度は4~9番である、
燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
前記フェライト系ステンレス鋼の結晶粒度は6~8番である、
請求項1に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記フェライト系ステンレス鋼は、V:0~1wt.%以下および/またはW:0~1wt.%を更に含む、
請求項1に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
前記フェライト系ステンレス鋼は、希土類金属:0.0002~1wt.%を更に含む、
請求項1に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
前記フェライト系ステンレス鋼の表面粗さは、100~700nmの間にあり、100~600nmにあることが好ましく、200~500nmにあることが更に好ましい、
請求項1または2に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項6】
前記フェライト系ステンレス鋼の表面に不動態化膜が設けられ、前記不動態化膜は、p型不動態化膜およびn型不動態化膜を含み、
好ましくは、前記p型不動態化膜内の水酸化クロムと酸化クロムとのモル比はI
p[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]であり、I
p[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]が10以上であり、15以上であることが好ましく、
好ましくは、前記n型不動態化膜内の水酸化クロムと酸化クロムとのモル比はI
n[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]であり、I
n[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]が10以下であり、5よりも小さいことが好ましく、
好ましくは、I
p[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]/I
n[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]>3であり、I
p[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]/I
n[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]≧4であることが好ましい、
請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項7】
前記不動態化膜の厚さは5~20nmであり、10~15nmであることが好ましく、
好ましくは、前記p型不動態化膜の厚さをt
pとし、前記n型不動態化膜の厚さをt
nとし、0.2<t
p/t
n<0.6であり、
好ましくは、前記不動態化膜において、内層がn型不動態化膜で、外層がp型不動態化膜であり、更に0.2<t
p/t
n<0.6を満たす、
請求項6に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項8】
ステンレス鋼主材を提供し、前記ステンレス鋼主材を酸溶液中で電解し、前記電解の過程において、分極電圧が下記式(I)を満たすことを含む、ステンレス鋼の表面粗さの調整制御方法。
[式2]
E≧lgD+12+pH (I)
(ただし、Eは分極電圧であり、分極電圧の単位はVであり、Dはステンレス鋼主材の結晶粒サイズであり、結晶粒サイズの単位はマイクロメートルであり、pHは初期酸液のpHである。)
【請求項9】
前記分極電圧は5~15Vである、
請求項8に記載のステンレス鋼の表面粗さの調整制御方法。
【請求項10】
前記電解する時間は10~300sであり、20~120sであることが好ましい、
請求項8に記載のステンレス鋼の表面粗さの調整制御方法。
【請求項11】
前記電解する温度は25~70℃であり、25~40℃であることが好ましく、
好ましくは、前記電解の過程で使用される酸液は、硫酸、または硫酸とハロゲン化水素酸との混合酸液であり、
好ましくは、前記ハロゲン化水素酸は、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸の少なくとも1つであり、塩酸および/またはフッ化水素酸であることが好ましく、
好ましくは、前記硫酸の濃度は0.1~14mol/Lであり、0.1~7mol/Lであることが好ましく、
好ましくは、前記硫酸とハロゲン化水素酸との混合酸液において、ハロゲン化水素酸の濃度は0~3mol/Lで0を含まず、0.5mol/L以下であることが好ましい、
請求項8に記載のステンレス鋼の表面粗さの調整制御方法。
【請求項12】
電気化学的不動態化の方法を採用して不動態化膜を調製し、
ステンレス鋼主材を提供し、三電極系を採用し、前記ステンレス鋼主材、対極、および参照電極を電気化学的不動態化液に置き、定電位分極を行い、ステンレス鋼主材の表面に不動態化膜を形成することを含む、
ステンレス鋼の表面に不動態化膜を形成する方法。
【請求項13】
前記電気化学的不動態化液は、濃度0.05~10mol/Lの硝酸溶液であり、前記硝酸溶液の濃度は、1.5~5mol/Lであることが好ましい、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電気化学的不動態化の温度は20~85℃であり、35~65℃であることが好ましい、
請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記電気化学的不動態化のアノード電圧は0.45V以上であり、0.8~1.2Vであることが好ましく、
好ましくは、前記電気化学的不動態化の時間は5~120minであり、50~90minであることが好ましい、
請求項12に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフェライト系ステンレス鋼の使用であって、前記フェライト系ステンレス鋼は、燃料電池のバイポーラプレートに使用される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の実施例は、ステンレス鋼の生産の技術分野に関し、例えば、燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼、表面粗さの調整制御方法、不動態化膜の形成方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料が持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置であり、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)は、燃料電池の1種である。PEMFCは、その高い発電効率および環境への汚染性がないことで、これまでに、全世界で重視され急速に発展している。バイポーラプレートは、燃料電池の中核部材として、燃料電池における膜電極構造を支持し、水素ガスと酸素ガスとを分離し、電子を収集し、熱を伝導し、水素ガスおよび酸素ガスの通路を提供し、反応で生成された水を排出し、冷却液流路を提供する等の重要な作用を奏する。燃料電池の高体積パワー密度に対する要求の高まりに伴い、金属バイポーラプレートは、その材料が高い強度および靱性を有するため、プレスの方式で薄いバイポーラプレートとして作製することができ、適用がますます拡大している。
【0003】
しかし、金属バイポーラプレートは、水素燃料電池の環境での耐腐食性能が悪く、界面接触抵抗が高く、常に厄介な問題となっており、業界は、産業の急速な発展による大規模な需要に対応するために、耐食性が強く、導電性がよく、コストが安い金属材料を切望している。2017年、韓国の学者が、優れた接触抵抗を有するポリマー燃料電池セパレータ用のステンレス鋼およびその製造方法を開示し(KR:013918/2017、特許文献1)、そのステンレス鋼製品は、現在、現代の燃料電池自動車の生産に使用され、その導電性および耐食性は、米国エネルギー省が策定した規格に合致する。2010年、日本の学者が、JFEに使用される耐食性に優れた燃料電池用のステンレス鋼およびその製造方法を開示し(特許文献2、JP:062739/2010)、関連材料は、燃料電池バスに適用されている。
近年の業界の急速な発展に伴い、製品の一貫性に対する要求も高まり、関連するフェライト系ステンレス鋼バイポーラプレートの調製についての技術案の主な問題は、成分設計の問題により変形能力が悪く、バイポーラプレートの加工過程で成形の難度が高く、バイポーラプレートの変形により密封性が悪くなる等の問題にある。それとともに、合金化元素が多いことによるコスト問題が存在する。一方、ステンレス鋼の表面の不動態化膜は、重要な耐食性機能層として、その調製プロセスの問題により、形成された不動態化膜が薄くて不連続であり、耐食性能が悪くなり、不動態化膜の成長および成分を制御できず、導電性能および耐食性能が安定しない。また、金属バイポーラプレートの現在の主流材料は、ステンレス鋼に加えてチタンもあり、チタンは、バイポーラプレート材料としての変形能力が比較的悪く、プレスする難度が大きく、コストがステンレス鋼よりも大幅に高く、これらがいずれもポーラプレートの一貫性、耐食性および経済性等の重要な問題に影響を及ぼし、早急に解決することが必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国特許第110199047号(CN:110199047B/2017)
【特許文献2】中国特許第102471916号(CN:102471916/2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下は、本願について詳細に説明する主題の概要である。本概要は、特許請求の範囲を制限するものではない。
【0006】
本願は、燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼、表面粗さの調整制御方法、不動態化膜の形成方法および使用を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
態様1において、本願の実施例は、燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼を提供し、前記フェライト系ステンレス鋼の質量を100wt.%として計算すると、
C:0.03wt.%以下、
N:0.02wt.%以下、
Si:0.4wt.%以下、
Mn:0.5wt.%以下、
Cr:16~23wt.%、
Cu:0~2.0wt.%、
Mo:1.8~2.5wt.%、
Ni:0.2~2.0wt.%、
Ti:0.1~0.5wt.%、
Nb:0.005~0.5wt.%、
P:0.02wt.%以下、
S:0.02wt.%以下、
を含み、
残量がFeおよび不可避的に含まれる他の元素であり、不可避的な不純物のうち、Oが0.02wt.%以下で、Snが0.1%以下であることが好ましく、
前記フェライト系ステンレス鋼の結晶粒度は4~9番であり、例えば、4番、5番、6番、7番または8番等で、6~8番であることが好ましい。これにより、ステンレス鋼材料が適当な作業性(圧延、熱処理等のプロセスに寄与する)を有し、バイポーラプレート材料の加工成形に寄与するとともに、一定の経済性を兼ね備える。
【0008】
Cは固溶強化の効果を有し、フェライト内での溶解度が低く、過剰な炭素は炭化物の形式で析出されるとともに、CはCrとCrの炭窒化物を形成し、フェライト系ステンレス鋼の粒界腐食および粒界クロム欠乏につながり、材料の力学および溶接等の性能に影響を及ぼす。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Cの含有量は0.03wt.%以下であり、例えば、0.03wt.%、0.02wt.%または0.01wt.%等で、Cの含有量が0.02wt.%以下であることが好ましい。
【0009】
Nは、CrとCrの炭窒化物を形成し、Cr欠乏領域を生成してステンレス鋼の耐食性を低減させる。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Nの含有量は0.02wt.%以下であり、例えば、0.02wt.%または0.01wt.%等である。
【0010】
Siは、脱酸素に有用な元素である。しかし、その含有量の増加に伴い、材料の加工性能は低下する。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Siの含有量は0.4wt.%以下であり、例えば、0.4wt.%、0.35wt.%、0.3wt.%、0.25wt.%、0.2wt.%、0.15wt.%、0.1wt.%、0.08wt.%、0.05wt.%または0.03wt.%等である。
【0011】
Mnは、鋼に不可避的に混入された元素であり、一定の脱酸素作用に加え、鋼の強度を高めることもできる。しかし、不純物としてのMnSは腐食の開始点となり、耐食性を低減させる。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Mnの含有量は0.5wt.%以下であり、例えば、0.5wt.%、0.47wt.%、0.45wt.%、0.4wt.%、0.35wt.%、0.3wt.%、0.25wt.%、0.2wt.%、0.15wt.%、0.1wt.%、0.08wt.%、0.05wt.%または0.03wt.%等である。
【0012】
Crは、フェライト系ステンレス鋼の耐食性を決定する基本要素であり、クロムは腐食媒体内の酸素と作用し、鋼の外表面に1層の薄い酸化膜を形成し、鋼の基体の更なる腐食を阻害することができる。しかし、クロム含有量の増加は、α相およびσ相の形成および沈殿を加速し、その靱性を低減させて脆性遷移温度を著しく向上させ、ステンレス鋼の製造過程における加工に不利である。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Crの含有量は16~23wt.%であり、例えば、16wt.%、16.5wt.%、16.8wt.%、17wt.%、17.5wt.%、18wt.%、18.5wt.%、19wt.%、19.5wt.%、20wt.%、20.5wt.%、21wt.%、21.5wt.%、22wt.%、22.5wt.%または23wt.%等である。
【0013】
Cuは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、且つ、材料の冷間加工性を改善することができる。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Cuの含有量は0~2.0wt.%であり、例えば、0wt.%、0.05wt.%、0.1wt.%、0.2wt.%、0.25wt.%、0.3wt.%、0.35wt.%、0.4wt.%、0.5wt.%、0.55wt.%、0.6wt.%、0.7wt.%、0.8wt.%、1wt.%、1.2wt.%、1.3wt.%、1.4wt.%、1.6wt.%、1.8wt.%または2wt.%等である。
【0014】
Moは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる別の主要元素である。Fe-Cr合金の不動態化を促進し、鋼の還元性媒体での耐食性を向上させ、特に、塩化物溶液での耐孔食、耐隙間腐食等の抗局所腐食性能を向上させる。しかし、Moの含有量が高い場合、フェライトのσ相および他の脆性相が発生しやすく、鋼の靱性を低減させて強度を増加し、材料の加工に不利である。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Moの含有量は1.8~2.5wt.%であり、例えば、1.8wt.%、1.85wt.%、1.9wt.%、2.0wt.%、2.1wt.%、2.2wt.%、2.3wt.%、2.4wt.%、または2.5wt.%等である。
【0015】
Niは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であるとともに、接触抵抗を低減する作用を果たすことができる。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Niの含有量は0.2~2.0wt.%であり、例えば、0.2wt.%、0.3wt.%、0.4wt.%、0.5wt.%、0.6wt.%、0.8wt.%、1.0wt.%、1.1wt.%、1.3wt.%、1.4wt.%、1.5wt.%、1.7wt.%、1.8wt.%または2.0wt.%等である。
【0016】
TiおよびNbは、いずれも優先的にC、Nと結合して炭窒化物を生成し、Cr炭窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する。しかし、それらの含有量が高すぎると、加工性は低下する。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Tiの含有量は0.1~0.5wt.%であり、例えば、0.1wt.%、0.2wt.%、0.3wt.%、0.4wt.%または0.5wt.%等である。本願のフェライト系ステンレス鋼において、Nbの含有量は0.005~0.5wt.%であり、例えば、0.1wt.%、0.2wt.%、0.3wt.%、0.4wt.%または0.5wt.%等で、Nbは、0.1~0.4wt.%であることが好ましい。
【0017】
本願のフェライト系ステンレス鋼において、Pの含有量は0.02wt.%以下であり、例えば、0.02wt.%または0.01wt.%等である。
【0018】
本願のフェライト系ステンレス鋼において、Sの含有量は0.02wt.%以下であり、例えば、0.02wt.%または0.01wt.%等で、0.01wt.%以下であることが好ましい。
【0019】
また、上記以外に、耐食性の改善を目的として、V:0~1wt.%および/またはW:0~1wt.%をそれぞれ含んでもよい。該効果を得るために、この2種の元素は、含有量がいずれも0.1wt.%以上であることが好ましい。
【0020】
本願の1つの好ましい技術案として、VおよびWは、Crよりも優先的にCと結合し、材料の耐食性を向上させ、一定の程度でNbと協同作用を有し、それとともに、適当な材料加工性能を維持するために、VおよびWを添加する際、Nbの添加量を適当に低減する必要がある。
【0021】
熱間加工性を向上させることを目的として、希土類金属:0.0002~1wt.%を含んでもよく、CeまたはYを含むことが好ましい。該効果を得るために、0.0005wt.%以上含むことが好ましい。
【0022】
本願のフェライト系ステンレス鋼は、合金元素の種類が少なく、Cr含有量が低いという特徴を有し、各元素の種類および含有量の設計により、良好な耐腐食性能、導電性能、良好な伸度および変形能力を取得するとともに、経済性およびコストメリットを兼ね備える。ここで、Niの含有量は0.9~1.2wt.%であることが好ましく、コストを更に低減し、且つ、上記効果を依然として達成する。
【0023】
本願のフェライト系ステンレス鋼は、他の金属材料バイポーラプレート(例えば、チタンバイポーラプレート)と比べて、コストが低いというメリット、および成形加工性能がより良いという利点を有する。
【0024】
好ましくは、前記フェライト系ステンレス鋼の表面粗さは、100~700nmの間にあり、粗さは、例えば、100nm、150nm、170nm、200nm、230nm、260nm、300nm、325nm、350nm、380nm、400nm、435nm、460nmまたは500nm等にあり、粗さが小さすぎると、界面接触抵抗が著しく増加し、燃料電池の内部抵抗が増大し、ガス拡散層との良好な貼り合わせを実現することができないため、応用に適さない。粗さが大きすぎると、接触抵抗が低いが、材料耐食性能が明らかに低下し、燃料電池の内部および酸性環境でのバイポーラプレートに対する要求を満たすことができず、100~600nmにあることが好ましく、200~500nmにあることが更に好ましい。
【0025】
本願に係るフェライト系ステンレス鋼の好ましい技術案として、前記フェライト系ステンレス鋼の表面に不動態化膜が設けられ、前記不動態化膜は、p型不動態化膜およびn型不動態化膜を含む。該不動態化膜は、重要な耐腐食、導電の機能層として、性能でメリットを有し、その技術原理は以下のとおりである。p型不動態化膜が溶液と基体との接触による腐食を効果的に防止することができ、n型不動態化膜が金属イオンの溶出を効果的に防止することができ、これにより、金属イオンの燃料電池の他の中核部材(例えば、プロトン交換膜、触媒等)への悪影響を効果的に低減し、燃料電池のセルスタック性能および寿命を向上させる。
【0026】
本願において、p型不動態化膜はp型半導体領域に対応し、n型不動態化膜はn型半導体領域に対応する。
【0027】
本願において、p型不動態化膜は、p型半導体型の不動態化膜を指し、n型不動態化膜は、n型半導体型の不動態化膜を指す。
【0028】
本願において、p型不動態化膜とn型不動態化膜との位置関係については具体的に限定せず、例えば、内層がn型で外層がp型の不動態化膜であってもよい。内層は、不動態化膜のステンレス鋼主材に近い側を指し、外層は、溶液に近い側を指す。
【0029】
好ましくは、前記p型不動態化膜内の水酸化クロムと酸化クロムとのモル比はIp[Cr(OH)3/Cr2O3]であり、Ip[Cr(OH)3/Cr2O3]が10以上であり、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、20、23または25等で、15以上であることが好ましい。p型不動態化膜内の水酸化クロムと酸化クロムとのモル比を最適化することにより、優れた耐食性を取得することができ、該割合が高ければ高いほど、水酸化物の割合は高くなり、耐食性は良好となる。
【0030】
好ましくは、前記n型不動態化膜内の水酸化クロムと酸化クロムとのモル比はIn[Cr(OH)3/Cr2O3]であり、In[Cr(OH)3/Cr2O3]が10以下であり、例えば、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1または0.5等で、5よりも小さいことが好ましい。n型不動態化膜内の水酸化クロムと酸化クロムとのモル比を最適化することにより、優れた導電性を取得することができ、該割合が低ければ低いほど、酸化物の割合は高くなり、導電性は良好となる。
【0031】
好ましくは、Ip[Cr(OH)3/Cr2O3]/In[Cr(OH)3/Cr2O3]>3であり、Ip[Cr(OH)3/Cr2O3]/In[Cr(OH)3/Cr2O3]≧4であることが好ましい。例えば、3.5、4、5、6、7、8、9または10等である。Ip[Cr(OH)3/Cr2O3]/In[Cr(OH)3/Cr2O3]≦3であると、不動態化膜の総合性能は確保できない。
【0032】
本願において、Ip[Cr(OH)3/Cr2O3]/In[Cr(OH)3/Cr2O3]は、Ip/Inと略称される。
【0033】
好ましくは、前記不動態化膜の厚さは5~20nmであり、例えば、5nm、6nm、8nm、10nm、12nm、13nm、15nm、16nm、18nm、19nmまたは20nm等で、10~15nmであることが好ましい。不動態化膜が薄すぎると(5nmよりも小さい)、耐食性は良くなく、不動態化膜が厚すぎると(20nmより大きい)、導電性は良くなく、ここで、好ましい厚さの範囲は10~15nm内であり、良好な耐食性と導電性とをより良く兼ね備えることができる。
【0034】
好ましくは、前記p型不動態化膜の厚さはtpで、前記n型不動態化膜の厚さはtnであり、0.2<tp/tn<0.6であり、tp/tnは、例えば、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5または0.55等である。この条件で、優れた界面接触抵抗をより良く確保することができる。
【0035】
好ましくは、前記不動態化膜において、内層がn型不動態化膜で、外層がp型不動態化膜であり、更に0.2<tp/tn<0.6を満たす。
【0036】
この好ましい技術案において、不動態化膜の構造は内層がn型(導電性が良い)で外層がp型(耐食性が良い)であり、且つ、p型不動態化膜が薄く、n型不動態化膜が厚く、このような構造により、良好な耐食性と導電性とを兼ね備えることを決定する。
【0037】
態様2において、本願の実施例は、
ステンレス鋼主材を提供し、前記ステンレス鋼主材を酸溶液中で電解し、前記電解の過程において、分極電圧が下記式(I)を満たすことを含む、ステンレス鋼の表面粗さの調整制御方法を提供する。
[式1]
E≧lgD+12+pH (I)
(ただし、Eは分極電圧であり、分極電圧の単位はVであり、Dはステンレス鋼主材の結晶粒サイズであり、結晶粒サイズの単位はマイクロメートルであり、pHは初期酸液のpHである)
【0038】
本願の調整制御方法は、電解の方法でステンレス鋼主材の表面粗さを調整制御し、表面粗さが制御可能なメリットを有し、プロトン交換膜燃料電池における膜電極およびガス拡散の特徴に基づいてステンレス鋼の表面粗さを目的に合わせて調整することができ、バイポーラプレートと関連部材との良好な貼り合わせを実現し、電池システムの接触抵抗を低減し、業界の応用特徴に更に適する。
【0039】
本願の方法において、Eが式(I)を満たさないと、粗さは明らかに変化せず、ガス拡散層に合致するための最適な粗さに達することができず、燃料電池のセルスタック性能に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0040】
該調整制御方法は、態様1に記載のフェライト系ステンレス鋼を基礎としてもよい。該調整制御方法は、本分野の他のステンレス鋼材料を基礎としてもよい。
【0041】
ここで、「態様1に記載のフェライト系ステンレス鋼を基礎とする」ことは、ステンレス鋼主材(例えば、ステンレス鋼板)が、態様1に記載のフェライト系ステンレス鋼で作製され、例えば、製錬、熱間圧延および冷間圧延により作製されることを意味する。
【0042】
好ましくは、前記分極電圧は5~15Vであり、例えば、5V、6V、8V、9V、10V、12V、13Vまたは15V等である。
【0043】
好ましくは、前記電解する時間は10~300sであり、例えば、10s、15s、20s、25s、30s、35s、40s、45s、50s、60s、65s、70s、75s、80s、85s、90s、100s、120s、130s、140s、150s、160s、170s、180s、200s、220s、230s、240s、260s、280sまたは300s等で、20~120sであることが好ましい。
【0044】
好ましくは、前記電解する温度は25~70℃であり、例えば、25℃、27℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃または70℃等で、25~40℃であることが好ましい。
【0045】
好ましくは、前記電解の過程で使用される酸液は、硫酸、または硫酸とハロゲン化水素酸との混合酸液である。硫酸とハロゲン化水素酸との配合により、粗さの調製時間を短縮し、粗さを適当に増大することができる。
【0046】
本願において、ハロゲン化水素酸は、HX酸と略記することができ、ここで、Xはハロゲンであり、Xは、例えば、F、Cl、BrまたはIであってもよい。
【0047】
好ましくは、前記ハロゲン化水素酸は、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸の少なくとも1つであり、塩酸および/またはフッ化水素酸であることが好ましい。
【0048】
好ましくは、前記硫酸の濃度は0.1~14mol/Lであり、例えば、0.1mol/L、0.3mol/L、0.5mol/L、0.8mol/L、1mol/L、1.5mol/L、1.7mol/L、2mol/L、2.2mol/L、2.5mol/L、2.8mol/L、3mol/L、3.5mol/L、3.8mol/L、4mol/L、4.5mol/L、5mol/L、5.5mol/L、6mol/L、6.5mol/L、7mol/L、7.5mol/L、8mol/L、8.5mol/L、9mol/L、9.5mol/L、10mol/L、11mol/L、12mol/L、13mol/Lまたは14mol/L等で、0.1~7mol/Lであることが好ましい。
【0049】
好ましくは、前記硫酸とハロゲン化水素酸との混合酸液において、ハロゲン化水素酸の濃度は0~3mol/Lで0を含まず、例えば、0.05mol/L、0.1mol/L、0.2mol/L、0.25mol/L、0.3mol/L、0.4mol/L、0.5mol/L、0.7mol/L、1mol/L、1.5mol/L、1.7mol/L、1.9mol/L、2mol/L、2.2mol/L、2.4mol/L、2.5mol/L、2.8mol/Lまたは3mol/L等であり、0.5mol/L以下であることが好ましい。
【0050】
態様3において、本願の実施例は、
電気化学的不動態化の方法を採用して不動態化膜を調製し、
ステンレス鋼主材を提供し、三電極系を採用し、前記ステンレス鋼主材、対極、および参照電極を電気化学的不動態化液に置き、定電位分極を行い、ステンレス鋼主材の表面に不動態化膜を形成することを含む、
ステンレス鋼の表面に不動態化膜を形成する方法を提供する。
【0051】
三電極系において、ステンレス鋼主材は、処理待ちサンプルであり、別の2つの電極は、それぞれ対極および参照電極である。一般的には、参照電極は処理待ちサンプルと対極との間にある。
【0052】
本願は、電気化学的不動態化の方法によりステンレス鋼の表面に不動態化膜を形成し、得られた不動態化膜は性能に優れ、不動態化膜が緻密で連続性が良く、耐食性を向上させて接触抵抗を低減するという目的を達成することができる。更に、不動態化溶液の選択および方法で環境性が良く、超低濃度またはフッ化水素酸無しの条件で優れた接触抵抗(米国DOE規格を満たす)を確保することを実現することができる。
【0053】
本願の電気化学的不動態化方法は、不動態化膜の成分、構造および厚さに対する制御を実現することができ、不動態化膜に対する制御は、特定の材料成分に基づいて設計し、電気化学的不動態化のプロセスで実現することができる。
【0054】
ステンレス鋼の表面に不動態化膜を形成する方法において、関連するステンレス鋼主材は、態様1に記載のフェライト系ステンレス鋼を基礎としてもよいし、態様2に記載の粗さを調整制御した後のステンレス鋼を基礎としてもよいし、本分野の他のステンレス鋼材料を基礎としてもよい。
【0055】
本願において、ステンレス鋼主材の調製方法は従来技術であり、当業者は、関連技術を参照して調製することができ、例示であって制限的なものではないが、下記方法に従って調製することができる。
【0056】
上記態様1のフェライト系ステンレス鋼の組成に従ってインゴットを調製し、インゴットを一定の厚さ(例えば、80~120mm)に分塊してステンレス鋼板を得た後、熱間圧延し、加熱保温温度を1150~1200℃とし、保温時間を1.5~2.0hとし、圧延開始温度を1100~1150℃に制御し、8~10パスの圧延を経て一定の厚さ(例えば、2~3mm)にし、圧延終了温度を800℃以上に制御する。
【0057】
熱間圧延後にアニール処理を行い、アニール温度を950℃~1050℃とし、保温時間は熱延板コイルのサイズによって決められ、熱間圧延後に酸洗処理を行う。8~10パスの冷間圧延を経て必要な厚さにし、その後、連続アニールを行い、時間を1~3minとする。
【0058】
本願の方法は、ステンレス鋼の表面で制御可能な粗さを調製してから、不動態化膜を形成することにより、優れた耐食性能および導電性能を確保することができる。
【0059】
好ましくは、前記電気化学的不動態化液は、濃度0.05~10mol/Lの硝酸溶液であり、例えば、0.5mol/L、1mol/L、1.5mol/L、2mol/L、2.5mol/L、3mol/L、3.5mol/L、4mol/L、4.5mol/L、5mol/L、5.5mol/L、6mol/L、6.5mol/L、7mol/L、7.5mol/L、8mol/L、8.5mol/L、9mol/Lまたは10mol/L等で、前記硝酸溶液の濃度は、1.5~5mol/Lであることが好ましい。
【0060】
好ましくは、前記電気化学的不動態化の温度は20~85℃であり、例えば、20℃、25℃、30℃、33℃、35℃、38℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃または85℃等で、35~65℃であることが好ましい。
【0061】
好ましくは、前記電気化学的不動態化のアノード電圧は0.45V以上であり、例えば、0.5V、0.6V、0.7V、0.8V、0.9V、1.0V、1.1V、1.2V、1.3Vまたは1.4V等で、0.8~1.2Vであることが好ましい。
【0062】
好ましくは、前記電気化学的不動態化の時間は5~120minであり、例えば、5min、10min、15min、20min、25min、30min、35min、40min、45min、50min、55min、60min、65min、70min、80min、90min、100min、110minまたは120min等で、50~90minであることが好ましい。
【0063】
態様4において、本願の実施例は、態様1に記載のフェライト系ステンレス鋼の使用であって、前記フェライト系ステンレス鋼が、燃料電池のバイポーラプレートに使用される、使用を提供する、
【発明の効果】
【0064】
関連技術と比べ、本願は、以下のような有益な効果を有する。
【0065】
(1)本願の実施例のフェライト系ステンレス鋼は、合金元素の種類が少なく、Cr含有量が低いという特徴を有し、各元素の種類および含有量の設計により、良好な耐腐食性能、導電性能、良好な伸度および変形能力を取得するとともに、経済性およびコストメリットを兼ね備える。ここで、Niの含有量は、0.2~0.5と低くなることができ、コストを更に低減し、且つ、上記効果を依然として満たす。
【0066】
(2)本願の実施例の調整制御方法は、電解の方法でステンレス鋼主材の表面粗さを調整制御し、表面粗さが制御可能なメリットを有し、プロトン交換膜燃料電池における膜電極およびガス拡散の特徴に基づいてステンレス鋼の表面粗さを目的に合わせて調整することができ、バイポーラプレートと関連部材との良好な貼り合わせを実現し、電池システムの接触抵抗を低減し、業界の応用特徴に更に適する。
【0067】
(3)本願の実施例は、電気化学的不動態化の方法によりステンレス鋼の表面に不動態化膜を形成し、得られた不動態化膜は性能に優れ、不動態化膜が緻密で連続性が良く、耐食性を向上させて接触抵抗を低減するという目的を達成することができる。更に、不動態化溶液の選択および方法で環境性が良く、超低濃度またはフッ化水素酸無しの条件で優れた接触抵抗(米国DOE規格を満たす)を確保することを実現することができる。
【0068】
図面および詳細な説明を閲読し理解することで、他の態様も理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図面は、本願の技術案に対する理解を提供するためのものであり、明細書の一部を構成し、本願の実施例と共に本願の実施例の技術案を解釈するために用いられ、本願の技術案を限定するものではない。
【0070】
【
図1】本願の一実施例におけるステンレス鋼の粗さと界面接触抵抗との関係図であり、サンプル1~6は、それぞれ実施例16~21に順次対応する。
【
図2】本願の一実施例におけるステンレス鋼の不動態化膜のXPS図である。
【
図3】本願の一実施例におけるステンレス鋼の不動態化膜のXPS図である。
【
図4】本願の一実施例におけるステンレス鋼の不動態化膜のM-S曲線図である。
【
図5】本願の一実施例におけるステンレス鋼のp型とn型不動態化膜のキャリア濃度図である。
【
図6】本願の一実施例におけるステンレス鋼の不動態化膜の断面プロファイル図である。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下、図面および具体的な実施例を参照しながら本願の技術案について更に説明する。
【0072】
製鋼に使用される材料の化学組成(質量百分率、wt.%)は、表1に示すとおりである。
【0073】
【0074】
フェライト系ステンレス鋼における各元素の作用は以下のとおりである。
【0075】
Crは、フェライト系ステンレス鋼の耐食性を決定する基本要素であり、クロムは腐食媒体内の酸素と作用し、鋼の外表面に1層の薄い酸化膜を構成し、鋼の基体の更なる腐食を阻害することができる。しかし、クロム含有量の増加は、α相およびσ相の形成および沈殿を加速し、その靱性を低減させて脆性遷移温度を著しく向上させ、ステンレス鋼の製造過程における加工に不利である。
【0076】
Moは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる別の主要元素である。Fe-Cr合金の不動態化を促進し、鋼の還元性媒体での耐食性を向上させ、特に、塩化物溶液での抗孔食、隙間腐食等の抗局所腐食性能を向上させる。しかし、Mo含有量が高い場合、フェライトのσ相および他の脆性相が現れやすく、鋼の靱性を低減させて強度を増加し、材料の加工に不利である。
【0077】
Cは固溶強化の効果を有する。フェライト内での溶解度が低く、過剰な炭素は炭化物の形式で析出されるとともに、フェライト系ステンレス鋼の粒界腐食および粒界クロム欠乏につながり、材料の力学および溶接等の性能に影響を及ぼす。
【0078】
Siは、脱酸素に有用な元素である。しかし、その含有量の増加に伴い、材料の加工性能は低下する。
【0079】
Mnは、鋼に不可避的に混入された元素であり、一定の脱酸素作用に加え、鋼の強度を高めることもできる。しかし、不純物としてのMnSは腐食の開始点となり、耐食性を低減させる。
【0080】
NおよびCは、CrとCrの炭窒化物を形成し、Cr欠乏領域を生成してステンレス鋼の耐食性を低減させる。
【0081】
TiおよびNbは、いずれも優先的にC、Nと結合して炭窒化物を生成し、Cr炭窒化物の析出による耐食性の低下を抑制する。しかし、それらの含有量が高すぎると、加工性は低下する。
【0082】
Cuは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、且つ、材料の冷間加工性を改善することができる。
【0083】
Niは、ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であるとともに、接触抵抗を低減する作用を果たすことができる。
【0084】
残量は、Feおよび不可避的な不純物である。
【0085】
また、上記以外に、耐食性の改善を目的として、V:0~1wt.%および/またはW:0~1wt.%をそれぞれ含んでもよい。該効果を得るために、この2種の元素は、含有量がいずれも0.1wt.%以上であることが好ましい。
【0086】
熱間加工性を向上させることを目的として、希土類金属:0.0002~1wt.%を含んでもよく、CeまたはYを含むことが好ましい。該効果を得るために、0.0005wt.%以上含むことが好ましい。
【0087】
[実施例1~21]
上記表1に示す異なる鋼の番号のフェライト系ステンレス鋼に従ってインゴットを調製し、ここで、各実施例のインゴットと異なる鋼の番号のフェライト系ステンレス鋼との対応関係は表2に示され、インゴットを100mmに分塊してステンレス鋼板を得た後、熱間圧延し、加熱保温温度を1200℃とし、保温時間を2hとし、圧延開始温度を1100℃に制御し、8パスの圧延を経て3mmにし、圧延終了温度を800℃に制御した。熱間圧延後にアニール処理を行い、アニール温度を1050℃とし、保温時間は熱延板コイルのサイズによって決められ、熱間圧延後に酸洗処理を行った。その後、空冷を取り出してから冷間圧延を行い、必要な厚さの箔材を作製し、その後、950℃で2min保温するアニール処理を行い、最終的な箔材サンプル、即ち、ステンレス鋼材料を取得した。
【0088】
実施例1のステンレス鋼材料に対し、GB/T 228.1-2010の要求に従って室温での破断伸度を検出し、試料を、規格に従ってシート状延伸規格に調製してテストし、得られた試料の破断伸度は33.5%であった。
【0089】
上記ステンレス鋼材料に対して表面粗さ処理を順次行い、材料を異なる表面粗さに調製し、具体的な処理方法は、濃硫酸および脱イオン水を用いて硫酸溶液を調製し、上記ステンレス鋼材料と、最終的に加工された長さ、幅がいずれも20mmの材料とを硫酸溶液に入れて異なるパラメータでの表面粗さ処理を行い、粗さの調製条件は表2を参照する。
【0090】
【0091】
実施例16~21のステンレス鋼材料を粗さ処理した後、サンプリングし、アセトンで材料表面を洗浄して窒素ガスで乾燥した後、プロフィロメータでステンレス鋼に対して表面粗さをテストして記録し、界面接触抵抗計測器で材料の150N/cm
2での界面接触抵抗値をテストして記録し、結果は表3および
図1に示すとおりであった。
【0092】
【0093】
表3および
図1から分かるように、一定の表面粗さの範囲内に、ステンレス鋼材料は、低い界面接触抵抗を有し、材料は、適当な最適化をしてから燃料電池に適用することができ、粗さが100~700nmの間にあることが好ましく、200~500nmにあることが更に好ましい。好ましい範囲外の材料の界面接触抵抗は高く(実施例19、20、21)、燃料電池に適用するには難しい。粗さが小さすぎると、界面接触抵抗が著しく増加し、燃料電池の内部抵抗が増大し、ガス拡散層との良好な貼り合わせを実現することができないため、応用に適しない。粗さが大きすぎると、接触抵抗は低いが、材料耐食性能が明らかに低下し、燃料電池の内部および酸性環境でのバイポーラプレートに対する要求を満たすことができない。上記粗さ処理後(ここで、実施例16~21は、表面粗さおよび界面接触抵抗のテストをした)、実施例1~21の鋼板に対して電気化学的不動態化処理を行い続け、具体的な処理方法は、以下のとおりであった。
【0094】
得られた鋼板を40℃の1.6mol/LのHNO3溶液内において、1.1Vのアノード電圧で電気化学的不動態化を1h行った。
【0095】
上記電気化学的不動態化処理後、サンプルを脱イオン水で洗い流して窒素ガスで冷風乾燥させ、室温の乾燥環境(空気)で24h置いた。その後、サンプルをテストし、具体的には、以下のとおりであった。
【0096】
(1)下記方法に従ってtp/tnおよびIp/Inを確定し、結果を表4に示した。
【0097】
(I)X線光電子スペクトル(XPS)で不動態化膜に対して深さプロフィリングを行ってナロースキャンを行い、X線源はAl Kαマイクロフォーカス単色源であり、CAEスキャンモードでスキャンし、ナロースキャンのパスエネルギーは30~50eVであり、ステップは0.05~0.1eVであり、アルゴンイオンエッチングを採用して深さプロフィリングを行い、毎回のエッチング深さはそれぞれ1nm、1nm、1nm、1nm、2nm、2nm、2nm、2nm、5nm、5nmであった。
【0098】
(II)ソフトウェアで測定結果を解析し、各物相に対応するピーク面積でその含有量を表した。XPSテストでは、ステンレス鋼の不動態化膜における主要組成がFeとCrの水酸化物と酸化物であるため、主に不動態化膜におけるFeとCrの物相およびその水酸化物と酸化物の含有量を解析した。不動態化膜FeとCrの水酸化物の含有量が不動態化膜におけるFeとCrの酸化物の含有量よりも高い場合、不動態化膜がp型半導体不動態化膜であると判定し、不動態化膜におけるFeとCrの水酸化物の含有量が不動態化膜におけるFeとCrの酸化物の含有量よりも低い場合、n型半導体不動態化膜であると判定した。これに基づき、不動態化膜におけるp型半導体の厚さtpとn型半導体の厚さtn、およびp型不動態化膜とn型不動態化膜における水酸化クロムと酸化クロムとの比を確定し、tp/tnおよびIp/Inを取得することができた。
【0099】
図2および
図3は、実施例1におけるステンレス鋼の不動態化膜のXPS図であり、
図2は、不動態化膜におけるFeとCrの水酸化物と酸化物の含有量を示した。図から見られるように、p型半導体不動態化膜の厚さは5nm程度であり、n型半導体不動態化膜の厚さは10~15nmの間であった。両者の不動態化膜の厚さの比t
p/t
nは0.33~0.56であり、修正後のt
p/t
nは0.55であった。
図3において、ヒストグラムは、不動態化膜における異なる厚さの領域でのCrの水酸化物とCrの酸化物の含有量をそれぞれ表し、曲線図は、対応する水酸化物と酸化物との比を表した。
図2と合わせて分かるように、p型不動態化膜において、水酸化物と酸化物との比は10以上であり、大部分が15以上(平均値15を取った)であったが、n型不動態化膜におけるCrの水酸化物と酸化物との比は2~5程度であり、大部分が2~3(平均値2.5を取った)であった。従って、I
p/I
nが7であると判断することができた。
【0100】
(2)燃料電池の動作環境でのサービス性能を模擬するテストを行った。300hの耐久テストを行い、温度を80℃とし、pH=3の硫酸溶液とし、電位を0.84V(vs.SHE)とし、腐食電流密度値を記録し、150N/cm2での材料表面の界面接触抵抗値を測定し、結果を表4に示す。
【0101】
【0102】
上記表4から、粗さ処理と電気化学的不動態化処理とを同時に実施した場合、接触抵抗が8mΩ・cm2以下で、p型とn型半導体の厚さの比が0.2~0.6の間にあり、且つIp[Cr(OH)3/Cr2O3]/In[Cr(OH)3/Cr2O3]が4よりも大きい表面不動態化膜を取得することができ、電流密度が3μA・cm-2よりも小さく、界面接触抵抗が8mΩ・cm2よりも小さいことは、不動態化膜が優れた保護性および導電性を有することを意味することが分かった。
【0103】
それとともに、表4から、電気化学的不動態化処理の条件が変わらないことを前提に、粗さの調製条件を変更することにより、ステンレス鋼の表面状態を変更し、最終的に調製された不動態化膜の性能を改善することができることが見られた。
【0104】
実施例2~3から、粗さの調製条件において、ハロゲン化水素酸の濃度を0~3mol/L範囲内にすることは、Ip/Inを高め、tp/tnを適当な範囲内にし、界面接触抵抗および腐食電流密度を低減することに寄与することが分かった。
【0105】
実施例2~5から、粗さの調製条件において、硫酸の濃度を0.1~7mol/L範囲内にすることは、Ip/Inを高め、tp/tnを適当な範囲内にし、界面接触抵抗および腐食電流密度を低減することに寄与することが分かった。
【0106】
実施例6~9から、粗さの調製条件において、電解の温度を25~70℃範囲内にすることは、Ip/Inを高め、界面接触抵抗および腐食電流密度を低減することに寄与することが分かった。
【0107】
実施例10と実施例11との比較、および実施例14と実施例15との比較から、粗さの調製条件において、分極電圧を5~15V範囲内にすることは、Ip/Inを高め、tp/tnを適当な範囲内にし、界面接触抵抗および腐食電流密度を低減することに寄与することが分かった。
【0108】
実施例10~13をまとめると、実施例13における不動態化膜の性能が低下した原因は、粗さの調製条件において、電解時間が長すぎ、p型不動態化膜とn型不動態化膜の厚さ比および組成が悪くなるためである可能性がある。
【0109】
[実施例22~30]
実施例1との区別は、異なるパラメータで電気化学的不動態化処理を行ったことにあり、実施例1と同じ方法で分析して評価し、実施例1および実施例22~30の電気化学的不動態化の条件およびテスト結果を表5に示す。
【0110】
【0111】
表4から、硝酸濃度、温度、電位および不動態化時間のような電気化学的不動態化のパラメータ条件を規定範囲に調整することにより、不動態化膜の性能を更に向上させることができることが分かった。ここで、実施例1のステンレス鋼サンプルは、燃料電池の環境において一定の期間サービスした後のテスト結果から、該不動態化膜は、ステンレス鋼の界面接触抵抗を8mΩ・cm2以下に低減することができるだけでなく、ステンレス鋼の腐食電流密度を低いレベルに保持し、良好な耐食性および導電性を示すことができることが分かった。
【0112】
実施例1、実施例25、実施例29および実施例30に対してモット-ショットキー(Mott-Schottky、M-S)曲線試験を行い、不動態化膜のキャリア濃度を確定し、電気化学的不動態化処理および電圧の不動態化膜性能への影響を判断した。
【0113】
具体的なM-S曲線試験の方法は以下のとおりであった。
【0114】
サンプルを80℃のpH=3の硫酸溶液でM-S曲線試験を行い、ここで、硫酸溶液の導電性を増加するために、溶液に0.1mol/LのNa2SO4を添加した。M-S曲線試験は、電気化学ステーションを採用し、テスト範囲が-1~1Vであり、テストステップが25mV/stepであった。フィッティングによりp型不動態化膜とn型不動態化膜の直線セグメントの傾きを取得した後、M-Sモデルに基づいてp型とn型に対応するキャリア濃度を計算し、キャリア濃度により不動態化膜の性能を確定した。
【0115】
図4は、実施例1(電気化学的不動態化の電圧が1.1V)、実施例25(電気化学的不動態化の電圧が0.8V)、実施例29(電気化学的不動態化の電圧が0.6V)、および実施例30(電気化学的不動態化が行われていない)のステンレス鋼の不動態化膜のM-S曲線図であり、
図4から分かるように、電気化学的不動態化されていないサンプルは、p型半導体領域が明らかではなく、不動態化膜が主にn型半導体領域の特徴を表した。0.6V定電位分極後、p型とn型半導体領域の直線セグメントの傾きはいずれも増加したが、p型領域の増加は明らかではなかった。一方、0.8Vおよび1.1V定電位分極した後、p型半導体領域とn型半導体領域の先行段階の傾きは著しく増加した。全体的に見ると、定電位分極電圧の増加に伴い、p型半導体の直線セグメントの傾きも著しく徐々に増加した。n型半導体領域の直線セグメントの傾きも徐々に増加した。
【0116】
図5は、実施例1(電気化学的不動態化の電圧が1.1V)、実施例25(電気化学的不動態化の電圧が0.8V)、実施例29(電気化学的不動態化の電圧が0.6V)および実施例30(電気化学的不動態化が行われていない)のステンレス鋼の不動態化膜のM-Sキャリア濃度図であり、
図5から分かるように、電気化学的不動態化後のサンプルの表面の不動態化膜のp型半導体領域のキャリア濃度は徐々に低下し(1.1V時に、電気化学的不動態化されていない場合よりも約4倍低下した)、キャリア濃度の低下は、不動態化膜の緻密性の増加を表し、その保護性能が良くなることを意味する。電気化学的不動態化後のn型半導体領域のキャリア濃度は低下し(1.1V時に、2倍未満に低下した)、この点で、n型半導体不動態化膜領域の保護性が増加した一方、その導電性が著しく低下していないことを意味する。従って、全体的に見ると、不動態化膜は、耐食性能の向上を確保することができるとともに、接触抵抗を著しく高めることがなかった。
【0117】
それとともに、上記表4、
図4および
図5から、電気化学的不動態化処理のパラメータを調整することにより、不動態化膜の組成を変更し、不動態化膜の性能を最適化することができることが分かった。例えば、電気化学的不動態化処理で異なる電圧を印加し、不動態化膜の特性を調整制御することができ(
図4および
図5を参照)、電位の向上に伴い、不動態化膜におけるp型半導体とn型半導体の厚さ比t
p/t
nは徐々に増加し、更にステンレス鋼の燃料電池セルスタックでのサービス性能を向上させ、即ち、上記パラメータの調整は、不動態化膜の組成を変更し、不動態化膜の性能を最適化し、最終的にステンレス鋼バイポーラプレートを燃料電池に適用する適応性を向上させることができた。
【0118】
実施例1のステンレス鋼の不動態化膜の断面プロファイルを表し、具体的な表し方法は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて集束イオンビームで切断したサンプル断面を表し、不動態化膜の断面プロファイル図(不動態化膜が集束イオンビームサンプルの調製過程で破壊されないように保護するために、最初に最表層に1層の炭素膜を堆積した)を取得し、結果は
図6に示すように、最上部分は堆積されたC層で、中間部分は不動態化膜で、最下部分はステンレス鋼基体であった。図から分かるように、不動態化膜は、全体的に連続で、緻密かつ均一であり、明らかな欠陥がなく、厚さが12~20nm程度であった。不動態化膜の外層が平らでないのは、最外層の不動態化膜が酸溶液内に動的に成長して溶解する過程が存在し、酸溶液内の不動態化膜の表面が、通常、いずれも平らではないためである。
【0119】
[実施例31~37]
実施例1との区別は、鋼の番号、表面粗さ処理を行うか否か、電気化学的不動態化処理を行うか否かであり、結果を表6に示した。具体的には、ステップ(1)の後に直接表面粗さ処理を行い、電気化学的不動態化処理を行わなくてもよいし、ステップ(1)の後に直接電気化学的不動態化処理を行い、表面粗さ処理を行わなくてもよいし、ステップ(1)の後に表面粗さ処理および電気化学的不動態化処理を順次行ってもよい。
【0120】
[実施例38~45]
実施例1との区別は、鋼の番号、表面粗さ処理を行うか否か、電気化学的不動態化処理を行うか否かであり、結果を表6に示す。具体的には、ステップ(1)の後に直接表面粗さ処理を行い、電気化学的不動態化処理を行わなくてもよいし、ステップ(1)の後に直接電気化学的不動態化処理を行い、表面粗さ処理を行わなくてもよいし、ステップ(1)の後に表面粗さ処理および電気化学的不動態化処理を順次行ってもよい。
【0121】
ここで、粗さ処理の条件は、室温(25℃)、3mol/LのH2SO4溶液内において10Vの電圧でサンプルを50s分極させることである。
【0122】
化学不動態化処理の条件は、上記粗さ処理後に得られた鋼板を40℃の1.6mol/LのHNO3溶液内において、1.1Vのアノード電圧で電気化学的不動態化を1h行うことである。
【0123】
【0124】
上記の表6から分かるように、粗さ処理後に不動態化膜を設けることにより、保護作用を更に増強して導電性を向上させ、性能を更に向上させることができることが分かった。
【0125】
それとともに、ステンレス鋼を順次粗さ処理した後に不動態化膜を設け、ステンレス鋼の表面の不動態化膜はいずれも良好な性能を有し、p型とn型半導体の厚さ比は0.2~0.6の間であり、且つ、Ip[Cr(OH)3/Cr2O3]/In[Cr(OH)3/Cr2O3]は4よりも大きく、且つ、一定の時間運行した後、その界面接触抵抗は8mΩ・cm2よりも小さくなり、電流密度は3μA/cm2よりも小さくなり、性能が良好であった。また、粗さ処理後に不動態化膜を設けないか、または粗さ処理を行わずに直接不動態化膜を設けるかにかかわらず、表面不動態化膜の性能は、粗さ処理も行っていないとともに不動態化膜の設置も行っていないサンプルに対し、いずれも大幅に向上し、後続の長期間サービステストにおいても、その界面接触抵抗が低下し、電流密度が低下することが示された。
【0126】
本願は、上記実施例により本願の詳細な方法について説明するが、本願は上記詳細な方法に限定するものではなく、すなわち、本願は上記実施例に依存して実施しなければならないことを意味するものではないことを、出願人より声明する。当業者であれば、本願に対するいかなる改良、本願の製品の原料に対する等価的な置換および補助成分の追加、具体的な形態の選択等は、全て本願の保護範囲および開示範囲内に含まれることを理解すべきである。
【手続補正書】
【提出日】2022-07-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系ステンレス鋼の質量を100wt.%として計算すると、前記フェライト系ステンレス鋼は、
C:0.03wt.%以下、
N:0.02wt.%以下、
Si:0.4wt.%以下、
Mn:0.5wt.%以下、
Cr:16~23wt.%、
Cu:0~2.0wt.%、
Mo:1.8~2.5wt.%、
Ni:0.2~2.0wt.%、
Ti:0.1~0.5wt.%、
Nb:0.005~0.5wt.%、
P:0.02wt.%以下、
S:0.02wt.%以下、
を含み、
残量がFeおよび不可避的に含まれる他の元素であり、
前記フェライト系ステンレス鋼の結晶粒度は4~9番である、
燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
前記フェライト系ステンレス鋼の結晶粒度は6~8番である、
請求項1に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記フェライト系ステンレス鋼は、V:0~1wt.%以下および/またはW:0~1wt.%を更に含む、
請求項1に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
前記フェライト系ステンレス鋼は、希土類金属:0.0002~1wt.%を更に含む、
請求項1に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
前記フェライト系ステンレス鋼の表面粗さは、100~700nmの間にあり、100~600nmにあることが好ましく、200~500nmにあることが更に好ましい、
請求項1または2に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項6】
前記フェライト系ステンレス鋼の表面に不動態化膜が設けられ、前記不動態化膜は、p型不動態化膜およびn型不動態化膜を含み、
好ましくは、前記p型不動態化膜内の水酸化クロムと酸化クロムとのモル比はI
p[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]であり、I
p[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]が10以上であり、15以上であることが好ましく、
好ましくは、前記n型不動態化膜内の水酸化クロムと酸化クロムとのモル比はI
n[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]であり、I
n[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]が10以下であり、5よりも小さいことが好ましく、
好ましくは、I
p[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]/I
n[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]>3であり、I
p[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]/I
n[Cr(OH)
3/Cr
2O
3]≧4であることが好ましい、
請求項
1に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項7】
前記不動態化膜の厚さは5~20nmであり、10~15nmであることが好ましく、
好ましくは、前記p型不動態化膜の厚さをt
pとし、前記n型不動態化膜の厚さをt
nとし、0.2<t
p/t
n<0.6であり、
好ましくは、前記不動態化膜において、内層がn型不動態化膜で、外層がp型不動態化膜であり、更に0.2<t
p/t
n<0.6を満たす、
請求項6に記載の燃料電池のバイポーラプレート用のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項8】
ステンレス鋼主材を提供し、前記ステンレス鋼主材を酸溶液中で電解し、前記電解の過程において、分極電圧が下記式(I)を満たすことを含む、ステンレス鋼の表面粗さの調整制御方法。
[式2]
E≧lgD+12+pH (I)
(ただし、Eは分極電圧であり、分極電圧の単位はVであり、Dはステンレス鋼主材の結晶粒サイズであり、結晶粒サイズの単位はマイクロメートルであり、pHは初期酸液のpHである。)
【請求項9】
前記分極電圧は5~15Vである、
請求項8に記載のステンレス鋼の表面粗さの調整制御方法。
【請求項10】
前記電解する時間は10~300sであり、20~120sであることが好ましい、
請求項8に記載のステンレス鋼の表面粗さの調整制御方法。
【請求項11】
前記電解する温度は25~70℃であり、25~40℃であることが好ましく、
好ましくは、前記電解の過程で使用される酸液は、硫酸、または硫酸とハロゲン化水素酸との混合酸液であり、
好ましくは、前記ハロゲン化水素酸は、フッ化水素酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸の少なくとも1つであり、塩酸および/またはフッ化水素酸であることが好ましく、
好ましくは、前記硫酸の濃度は0.1~14mol/Lであり、0.1~7mol/Lであることが好ましく、
好ましくは、前記硫酸とハロゲン化水素酸との混合酸液において、ハロゲン化水素酸の濃度は0~3mol/Lで0を含まず、0.5mol/L以下であることが好ましい、
請求項8に記載のステンレス鋼の表面粗さの調整制御方法。
【請求項12】
電気化学的不動態化の方法を採用して不動態化膜を調製し、
ステンレス鋼主材を提供し、三電極系を採用し、前記ステンレス鋼主材、対極、および参照電極を電気化学的不動態化液に置き、定電位分極を行い、ステンレス鋼主材の表面に不動態化膜を形成することを含む、
ステンレス鋼の表面に不動態化膜を形成する方法。
【請求項13】
前記電気化学的不動態化液は、濃度0.05~10mol/Lの硝酸溶液であり、前記硝酸溶液の濃度は、1.5~5mol/Lであることが好ましい、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電気化学的不動態化の温度は20~85℃であり、35~65℃であることが好ましい、
請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記電気化学的不動態化のアノード電圧は0.45V以上であり、0.8~1.2Vであることが好ましく、
好ましくは、前記電気化学的不動態化の時間は5~120minであり、50~90minであることが好ましい、
請求項12に記載の方法。
【請求項16】
請求項
1に記載のフェライト系ステンレス鋼の使用であって、前記フェライト系ステンレス鋼は、燃料電池のバイポーラプレートに使用される、使用。
【国際調査報告】