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特表2024-513292リチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法
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  • 特表-リチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】リチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20240315BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240315BHJP
   C22B 5/02 20060101ALI20240315BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B7/00 C
C22B5/02
C22B26/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023548960
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-14
(86)【国際出願番号】 KR2022002987
(87)【国際公開番号】W WO2022191499
(87)【国際公開日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0030270
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ソ ユン ビン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジ ユン
(72)【発明者】
【氏名】ソン スン レル
(72)【発明者】
【氏名】イ サン イク
(72)【発明者】
【氏名】ホン スク ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ミン
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001DA02
5H031RR02
(57)【要約】
リチウム二次電池の水酸化リチウムの回収方法では、リチウム二次電池の正極から正極パウダーを準備する。前記正極パウダーにカルシウム化合物を混合して正極活物質混合物を製造する。前記正極活物質混合物を還元処理して予備前駆体混合物を形成する。前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体を回収する。これにより、酸溶液の湿式ベースの工程から引き起こされる複雑な浸出工程、付加工程なしに高純度でリチウム前駆体を得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池の正極から正極パウダーを準備するステップと、
前記正極パウダーにカルシウム化合物を混合して正極活物質混合物を製造するステップと、
前記正極活物質混合物を還元処理して予備前駆体混合物を形成するステップと、
前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体を回収するステップとを含む、リチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項2】
前記正極は、スクラップ由来の廃正極を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項3】
前記正極パウダーを準備するステップは、前記リチウム二次電池の前記正極を乾式粉砕することを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項4】
前記正極は、集電体と、前記集電体上に形成され、バインダーおよび正極活物質を含む正極活物質層とを含み、
前記正極パウダーは、前記正極活物質および前記バインダーに由来する成分を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項5】
前記正極活物質混合物を製造するステップまたは前記予備前駆体混合物を形成するステップは、前記バインダーに由来する成分を前記カルシウム化合物と反応させて少なくとも部分的に除去することを含む、請求項4に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項6】
前記バインダーに由来する成分は、フッ素成分および炭素成分を含む、請求項5に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項7】
前記カルシウム化合物は、酸化カルシウムを含む、請求項5に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項8】
前記正極パウダーに前記カルシウム化合物を反応させることは、前記正極パウダーに含有されているフッ素元素に対して0.5~1.5倍のカルシウム元素が含有されているカルシウム化合物を混合することを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項9】
前記正極活物質混合物を製造するステップは、前記正極パウダーおよび前記カルシウム化合物を共に300~600℃の温度で熱処理することを含む、請求項8に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項10】
前記還元処理は、水素ガスまたは炭素系物質を用いた乾式還元を含む、請求項1に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項11】
前記還元処理の温度は400~600℃である、請求項1に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項12】
前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体を回収するステップは、前記予備前駆体混合物を水洗してリチウム前駆体水和物を得ることを含む、請求項1に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【請求項13】
前記リチウム前駆体水和物中の水酸化リチウムの選択度は97%以上である、請求項12に記載のリチウム二次電池からのリチウム前駆体の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池からリチウム前駆体を回収する方法に関し、より詳しくは、廃リチウム二次電池の正極から高純度のリチウム前駆体を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充電と放電の繰り返しが可能な電池であり、情報通信及びディスプレイ産業の発展につれてカムコーダー、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子通信機器に広く適用されてきた。二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池などが挙げられる。中でもリチウム二次電池は、動作電圧および単位重量当たりのエネルギー密度が高く、充電速度および軽量化に有利な点で積極的に開発及び適用されてきた。
【0003】
リチウム二次電池は、正極、負極及び分離膜(セパレーター)を含む電極組立体と、前記電極組立体を含浸させる電解質とを含むことができる。前記リチウム二次電池は、前記電極組立体および電解質を収容する、例えば、パウチ状の外装材をさらに含むことができる。
【0004】
前記リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物を用いることができる。前記リチウム複合酸化物は、さらに、ニッケル、コバルト、マンガンなどの遷移金属を共に含有することができる。
【0005】
前記正極用活物質に前述した高コストの有価金属が用いられることにより、正極材の製造に製造コストの20%以上がかかっている。また、近年、環境保護への関心が高まることによって、正極用活物質のリサイクル方法の研究が進められている。
【0006】
従来は硫酸のような強酸に廃正極活物質を浸出させて有価金属を順次回収する方法が活用されていたが、前記の湿式工程の場合は、再生選択性、再生時間などの面で不利であり、環境汚染を引き起こすことがある。
【0007】
例えば、日本特開2019-178395号では、湿式方法を用いたリチウム前駆体の回収方法を開示している。しかし、この場合には、リチウム前駆体以外の他の材料、成分から発生する不純物に対する純度の低下を考慮していないという問題がある。そこで、乾式ベースの反応を利用してリチウム前駆体を高純度で回収する方法の研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの課題は、廃リチウム二次電池からリチウム前駆体を高純度で回収する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例示的な実施形態によるリチウム二次電池のリチウム前駆体の回収方法では、リチウム二次電池の正極から正極パウダーを準備する。前記正極パウダーにカルシウム化合物を混合し、正極活物質混合物を製造する。前記正極活物質混合物を還元処理し、予備前駆体混合物を形成する。前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体を回収する。
【0010】
いくつかの例示的な実施形態による前記正極は、スクラップ由来の廃正極を含むことができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記正極パウダーを準備するステップは、前記リチウム二次電池の前記正極を乾式粉砕することを含むことができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記正極は、集電体と、前記集電体上に形成され、バインダーおよび正極活物質を含む正極活物質層とを含み、前記正極パウダーは、前記正極活物質および前記バインダーに由来する成分を含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物を製造するステップまたは前記予備前駆体混合物を形成するステップは、前記バインダーに由来する成分を前記カルシウム化合物と反応させて少なくとも部分的に除去することを含むことができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記バインダーに由来する成分は、フッ素成分および炭素成分を含むことができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記カルシウム化合物は、酸化カルシウムを含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記正極パウダーに前記カルシウム化合物を反応させることは、前記正極パウダーに含有されているフッ素元素に対して0.5~1.5倍のカルシウム元素が含有されているカルシウム化合物を混合することを含むことができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物を製造するステップは、前記正極パウダーおよび前記カルシウム化合物を共に300~600℃の温度で、好ましくは400~500℃の温度で熱処理することを含むことができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記還元処理は、水素ガスまたは炭素系物質を使用した乾式還元を含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記還元処理の温度は400~600℃であってもよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記予備前駆体混合物からリチウム前駆体を回収するステップは、前記予備前駆体混合物を水洗してリチウム前駆体水和物を得ることを含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記リチウム前駆体水和物中の水酸化リチウム選択度は97%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
前述の例示的な実施形態によれば、例えば、廃正極活物質から乾式還元工程を利用した乾式ベースの工程によってリチウム前駆体を回収することができる。これにより、酸溶液の湿式ベースの工程から引き起こされる複雑な浸出工程、付加工程なしに高純度でリチウム前駆体を得ることができる。
【0023】
例示的な実施形態によれば、廃正極活物質にカルシウム化合物を混合して乾式還元工程で発生するフッ化水素、二酸化炭素などの不純物がリチウムと反応する前にカルシウムと先に反応して、リチウム前駆体の収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池のリチウム前駆体の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態は、リチウム二次電池から乾式還元反応によって高純度、高収率でリチウム前駆体を回収する方法を提供する。
【0026】
以下では、添付の図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明することとする。しかし、これらの実施形態は例示的なものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0027】
本明細書で使用される用語「前駆体」は、電極活物質に含まれる特定の金属を提供するために、前記特定の金属を含む化合物を包括的に指すものとして使用される。
【0028】
本明細書で使用される用語「正極パウダー」とは、前記廃正極から正極集電体が実質的に除去された後、後述する還元性反応処理に投入される原料物質を指すことができる。
【0029】
本明細書で使用される用語「スクラップ(scrap)」とは、正極材の製造過程やリチウムイオン電池の製造過程で発生する正極材スクラップ(工程スクラップ)、または廃リチウムイオン電池から分離または選別過程を経て得られる正極材スクラップ(廃スクラップ)を含むものを意味する。
【0030】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム二次電池のリチウム前駆体の回収方法を説明するための概略的なフローチャートである。説明の都合上、図1は工程の流れと反応器の模式図を共に示している。
【0031】
図1を参照すると、リチウム二次電池の正極から正極活物質(例えば、正極パウダー)を準備することができる(例えば、S10ステップ)。
【0032】
前記リチウム二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する分離膜とを含む電極組立体を含むことができる。前記の正極および負極は、それぞれ、正極集電体および負極集電体上にコーティングされた正極活物質層および負極活物質層を含むことができる。
【0033】
例えば、前記正極活物質層に含まれる正極活物質は、リチウムおよび遷移金属を含有する酸化物を含むことができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、下記化学式1で表される化合物を含むことができる。
【0035】
[化学式1]
LiM1M2M3
【0036】
化学式1中、M1、M2及びM3は、Ni、Co、Mn、Na、Mg、Ca、Ti、V、Cr、Cu、Zn、Ge、Sr、Ag、Ba、Zr、Nb、Mo、Al、GaまたはBから選択される遷移金属であってもよい。化学式1中、0<x≦1.1、2≦y≦2.02、0<a<1、0<b<1、0<c<1、0<a+b+c≦1であってもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質は、ニッケル、コバルトおよびマンガンを含むNCM系リチウム酸化物であってもよい。
【0038】
前記廃リチウム二次電池から前記正極を分離して廃正極を回収することができる。前記廃正極は、前述のように正極集電体(例えば、アルミニウム(Al))および正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、前述した正極活物質に加えて、導電材及びバインダーを共に含むことができる。
【0039】
前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系物質を含むことができる。前記バインダーは、例えば、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride,PVDF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などの樹脂物質を含むことができる。
【0040】
例示的な実施形態によれば、前記正極はスクラップ由来の正極を含むことができる。前述の工程スクラップは、炭素などの不純物がほとんど含まれていないが、廃スクラップは、分離または選別過程で電極集電体に負極材などをさらに含んでいるため、特性上、リチウムイオン電池を構成する物質を完全に除去することが難しく、炭素、フッ素などの不純物が含まれている。この不純物を含むスクラップ由来の正極から正極パウダーを準備することができる。
【0041】
例示的な実施形態によれば、前記正極パウダーを準備するステップは、前記リチウム二次電池の前記正極を乾式粉砕することを含むことができる。これにより、前記正極パウダーは、粉末状に製造することができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、前記正極集電体から前記正極活物質層を剥離し、分離された前記正極活物質層を粉砕して正極パウダーを生成することができる。これにより、前記正極パウダーは粉末状に製造することができ、例えば、ブラックパウダー(black powder)の形態で収集することができる。
【0043】
前記正極活物質粒子は、前述のようにリチウム-遷移金属酸化物の粉末を含み、例えば、NCM系リチウム酸化物粉末(例えば、Li(NCM)O)を含むことができる。この場合、前記化学式1中のM1、M2及びM3は、それぞれNi、Co、Mnであってもよい。一実施形態では、前記正極パウダーは、前記バインダーまたは前記導電材に由来する成分を一部含んでいてもよい。
【0044】
すなわち、例示的な実施形態によれば、前記正極は、集電体と、前記集電体上に形成され、バインダーおよび正極活物質を含む正極活物質層とを含み、前記正極パウダーは、前記正極活物質および前記バインダーに由来する成分を含むことができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記正極パウダーの平均粒径(D50)(体積累積分布における平均粒径)は、5~100μmであってもよい。前記範囲では、後述する流動層反応器による還元性反応を容易に行うことができる。
【0046】
例えば、S20ステップでは、前記正極パウダーにカルシウム化合物を混合して正極活物質混合物を製造することができる。
【0047】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物を製造するステップまたは後述する予備前駆体混合物を形成するステップは、前記正極パウダーにカルシウム化合物を混合して、正極パウダー中の前記バインダーに由来する成分を少なくとも部分的に除去することを含むことができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、前記バインダーに由来する成分は、フッ素成分および炭素成分を含み得る。このフッ素成分および炭素成分がリチウムと反応すると、フッ化リチウム(LiF)および炭酸リチウム(LiCO)を形成し、リチウム前駆体の収率が低下してしまう。したがって、正極パウダーにカルシウム化合物を混合して正極活物質混合物を製造すると、後述する熱処理または還元処理時に前記のフッ素成分および炭素成分がカルシウムと先に反応して、フッ化カルシウム(CaF)および炭酸カルシウム(CaCO)を形成することができる。
【0049】
例示的な実施形態によれば、前記カルシウム化合物は、好ましくは酸化カルシウム(CaO)を含むことができる。正極パウダーに酸化カルシウムを混合すると、フッ素成分および炭素成分がリチウムと反応する前にカルシウムと先に反応し、リチウムが不純物と反応することを抑制することができ、最終的には、回収の目的物であるリチウム前駆体の収率を向上させることができる。
【0050】
例示的な実施形態によれば、前記正極パウダーに前記カルシウム化合物を反応させることは、前記正極パウダーに含有されているフッ素元素に対して0.5~1.5倍のカルシウム元素が含有されているカルシウム化合物を混合することを含むことができる。前記範囲では、フッ化水素(HF)および二酸化炭素(CO)との反応を最適化することができるので、リチウム前駆体の回収率向上に役立つ。
【0051】
いくつかの実施形態では、前記正極活物質混合物は、後述する還元性反応器100に投入する前に熱処理を行うことができる。前記熱処理により、前記廃正極活物質混合物に含まれる前記導電材およびバインダーのような不純物を除去または低減し、前記リチウム-遷移金属酸化物を高純度で前記還元性反応器に投入することができる。
【0052】
例示的な実施形態によれば、前記正極活物質混合物を製造するステップは、前記正極パウダーおよび前記カルシウム化合物を共に300~600℃の温度で、好ましくは400~500℃の温度で熱処理することを含むことができる。
【0053】
例示的な実施形態によれば、前記正極活物質混合物を製造するステップは、前記バインダーに由来する成分を前記カルシウム化合物と反応させて少なくとも部分的に除去することを含むことができる。前記バインダーに由来する成分は、フッ素成分および炭素成分を含み得る。例えば、400~600℃の温度で熱処理する場合、フッ化水素、二酸化炭素のようなバインダー由来の成分がリチウムよりもカルシウムと先に反応し、フッ化カルシウム(CaF)および炭酸カルシウム(CaCO)を形成することができる。
【0054】
前記熱処理の温度は、例えば約600℃以下、一実施形態では約300~600℃、好ましくは約400~500℃であってもよい。前記範囲では、実質的に前記不純物が除去されてリチウム-遷移金属酸化物の分解、損傷を防止することができる。
【0055】
一実施形態では、前記熱処理は還元性反応器100内で行うことができる。この場合、反応器下部110に接続された反応ガス流路102を介して、例えば、窒素(N)、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)などのキャリアガスを注入し、還元性反応器100内で流動化熱処理を行うことができる。
【0056】
一実施形態では、正極活物質混合物は、別に熱処理された後に還元性反応器100に投入されてもよい。
【0057】
例えば、S30ステップでは、前記正極活物質混合物を還元性反応器100内で還元処理し、予備前駆体混合物80を形成することができる。
【0058】
図1に示すように、還元性反応器100は、反応器本体130と、反応器下部110と、反応器上部150とに分けることができる。反応器本体130は、ヒーターのような加熱手段を含んでいてもよく、加熱手段と一体化してもよい。
【0059】
前記正極活物質混合物は、供給流路106a,106bを介して反応器本体130に供給することができる。前記正極活物質混合物は、反応器上部150に接続された第1供給流路106aを介して滴下するか、または反応器本体130の底部に接続された第2供給流路106bを介して投入することができる。一実施形態では、第1及び第2供給流路106a,106bを共に使用して前記正極活物質混合物を供給することもできる。
【0060】
例えば、反応器本体130と反応器下部110との間に支持部120を配置し、前記正極活物質混合物の粉末を定着することができる。支持部120は、後述する還元処理時に還元性反応ガス及び/又はキャリアガスを通過させる気孔または噴射口を含むことができる。
【0061】
反応器下部110に接続された反応ガス流路102を介して、前記正極活物質混合物を予備前駆体に変換するための還元性反応ガスを反応器本体130に供給することができる。
【0062】
例示的な実施形態によれば、前記還元処理は、水素ガスまたは炭素系物質を使用した乾式還元を含むことができる。
【0063】
いくつかの実施形態では、還元処理時に提供される還元性ガスは、水素(H)ガスを含むことができる。また、窒素(N)、アルゴン(Ar)のようなキャリアガスをさらに含むことができる。
【0064】
いくつかの実施形態では、前記還元性反応ガス中の水素の濃度は約10~40体積%(vol%)であってもよい。前記水素の濃度は、前記混合ガスの全体積における水素の体積%であってもよい。
【0065】
例示的な実施形態によれば、還元処理の温度は約400~800℃の範囲で調整することができ、好ましくは約400~600℃、より好ましくは約400~500℃の範囲で調整することができる。
【0066】
また、前記還元処理時、水素濃度、反応温度、還元反応時間などの工程条件によって微調整することができる。
【0067】
前記還元処理時に水素ガスが還元性反応器100の下部から供給されて前記正極活物質混合物と接触するので、前記正極活物質混合物が反応器上部150に移動しながら、または反応器本体130内に滞留しながら前記還元性反応ガスと反応し、前記予備前駆体混合物80に変換され得る。
【0068】
いくつかの実施形態では、前記還元処理時に水素ガスが注入されるか、またはキャリアガスが注入され、反応器本体130内で流動層を形成することができる。そのため、還元性反応器100は流動層反応器であってもよい。
【0069】
すなわち、例示的な実施形態によれば、前記予備前駆体混合物80を形成するステップは、前記正極活物質混合物を流動層反応器内で前記還元処理することを含むことができる。
【0070】
前記流動層内で正極活物質混合物を処理する際に上昇、滞留、下降を繰り返すことによって反応接触時間が増加し、粒子の分散が促進され、均一なサイズの予備前駆体混合物80が得られる。
【0071】
しかし、本発明のコンセプトは、必ずしも流動層反応に限定されるものではない。例えば、バッチ(batch)式反応器または管状反応器内に正極活物質混合物を予めロードした後、還元性反応ガスを供給する固定式反応を行うこともできる。
【0072】
いくつかの実施形態では、前記リチウム-遷移金属酸化物の前記還元処理によって、例えば、リチウム水酸化物(LiOH)、リチウム酸化物(例えば、LiO)を含む予備リチウム前駆体粒子60、および遷移金属または遷移金属酸化物が生成され得る。
【0073】
例えば、還元工程が進むことによってLi(NCM)Oの結晶構造が崩壊し、Liが前記結晶構造から離脱し得る。一方、前記結晶構造からNiOおよびCoOが生成され、還元工程が持続することによってNiおよびCo相が共に生成され得る。
【0074】
特に、前述のように前記予備前駆体混合物80を形成するステップは、前記バインダーに由来する成分を前記カルシウム化合物と反応させて少なくとも部分的に除去することを含むことができる。
【0075】
前記バインダーに由来する成分は、フッ素成分および炭素成分を含み、このフッ素成分および炭素成分がリチウムと反応すると、フッ化リチウム(LiF)および炭酸リチウム(LiCO)を形成してリチウム前駆体の収率が低下してしまう。そのため、前記正極活物質混合物にカルシウム化合物として酸化カルシウムを含むことにより、高温の還元処理時に発生する不純物であるフッ化水素(HF)と二酸化炭素(CO)がカルシウムと先に反応するように誘導することができる。
【0076】
これにより、フッ化カルシウム(CaF)および炭酸カルシウム(CaCO)をフッ化リチウム(LiF)および炭酸リチウム(LiCO)よりも先に生成することにより、予備前駆体混合物80中の予備リチウム前駆体粒子60の収率を向上させることができ、目的物の回収率を顕著に向上させることができる。
【0077】
還元処理の後、反応器本体130内では、予備リチウム前駆体粒子60および遷移金属含有粒子70(例えば、前記遷移金属または遷移金属酸化物)を含む予備前駆体混合物80を形成することができる。予備リチウム前駆体粒子60は、例えば、リチウム水酸化物(LiOH)、リチウム酸化物(LiO)及び/又はリチウム炭酸化物(リチウムカーボネート)(LICO)を含むことができ、好ましくはリチウム水酸化物(LiOH)であってもよい。
【0078】
例示的な実施形態によれば、前記予備前駆体混合物80からリチウム前駆体を回収するステップは、前記予備前駆体混合物80を水洗してリチウム前駆体水和物を得ることを含むことができる(例えば、S40ステップ)。
【0079】
例えば、乾式還元工程によって得られた予備前駆体混合物80を後続する回収工程のために収集することができる。
【0080】
一実施形態では、ニッケル、コバルトまたはマンガンを含む遷移金属含有粒子70は、相対的に予備リチウム前駆体粒子60よりも重いので、予備リチウム前駆体粒子60を、排出口160a,160bを介して先に収集することができる。
【0081】
一実施形態では、反応器上部150に接続された第1排出口160aを介して予備リチウム前駆体粒子60を排出することができる。この場合には、重量勾配による予備リチウム前駆体粒子60の選択的回収を促進することができる。
【0082】
一実施形態では、反応器本体130に接続された第2排出口160bを介して、予備リチウム前駆体粒子60および遷移金属含有粒子70を含む予備前駆体混合物80を収集することができる。この場合には、流動層形成領域において予備前駆体混合物80を直接回収し、収率を向上させることができる。
【0083】
一実施形態では、第1及び第2排出口160a,160bを介して共に予備前駆体混合物80を収集することができる。
【0084】
排出口160を介して収集された予備リチウム前駆体粒子60をリチウム前駆体として回収することができる。
【0085】
他の例では、乾式還元工程によって得られた予備前駆体混合物80からリチウム前駆体を回収するために、反応器本体130に水(例えば、蒸留水)を直接投入してもよい。
【0086】
いくつかの実施形態では、前記予備前駆体混合物80中の予備リチウム前駆体粒子60を水洗処理することができる。前記水洗処理により、リチウム水酸化物(LiOH)の形態の予備リチウム前駆体粒子60は、実質的に水に溶解して遷移金属前駆体から分離して優先回収することができる。水に溶解したリチウム水酸化物は、結晶化工程等によってリチウム水酸化物で実質的に構成されているリチウム前駆体(リチウム前駆体水和物)を得ることができる。
【0087】
例示的な実施形態によれば、前記リチウム前駆体水和物中の水酸化リチウム選択度は、97%以上、または98%以上、または99%以上であってもよい。ここで「選択度」とは、最終的に回収されたリチウム前駆体水和物中のリチウムに対するリチウム前駆体水和物中の水酸化リチウムのモル比(mol%)であってもよい。これにより、スクラップ由来の廃正極から高純度のリチウム前駆体水和物を回収することができる。
【0088】
一実施形態では、リチウム酸化物およびリチウムカーボネートの形態の予備リチウム前駆体粒子は、実質的に前記水洗処理によって除去することができる。一実施形態では、リチウム酸化物およびリチウムカーボネートの形態の予備リチウム前駆体粒子は、前記水洗処理によって少なくとも部分的にリチウム水酸化物に変換することができる。
【0089】
また、必要によって予備リチウム前駆体粒子を一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)などの炭素含有ガスと反応させ、リチウム前駆体としてリチウムカーボネート(例えば、LiCO)を得ることができる。前記炭素含有ガスとの反応により、結晶化したリチウム前駆体を得ることができる。例えば、前記水洗処理中に炭素含有ガスを共に注入し、リチウムカーボネートを収集することができる。
【0090】
前記炭素含有ガスによる結晶化反応の温度は、例えば約60~150℃の範囲であってもよい。前記温度の範囲では、結晶構造を損なうことなく、高信頼性のリチウムカーボネートを生成することができる。
【0091】
前述のように、例示的な実施形態によれば、廃正極からリチウム前駆体を連続する乾式工程によって回収することができる。
【0092】
本発明の実施形態によれば、溶液の使用が排除された乾式還元性反応によってリチウム前駆体が収集されるので、副産物が減少して収率が増加し、排水処理が不要で環境に優しい工程の設計が可能である。
【0093】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実施例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0094】
実施例1
スクラップから分離された正極材1kgを450℃で1時間熱処理した。熱処理した前記正極材を小単位で切断し、ミリングにより粉砕処理して、Li-Ni-Co-Mn酸化物正極活物質パウダーを採取した。
【0095】
前記正極活物質パウダー200gに酸化カルシウム7gを混合し、正極活物質混合物を製造し、流動層反応器に投入した。
【0096】
反応器の内部温度を480℃に維持したまま、反応器下部から窒素100%のガスを5.5L/minの流量で注入し、流動化熱処理を3時間行った。
【0097】
熱処理工程の後、反応器の温度を460℃に下げ、反応器下部から水素20vol%/窒素80vol%の混合ガスを5.5L/minの流量で4時間注入し、還元反応を行った。このとき、流動層反応器の内部温度は460℃に維持した。還元反応の後、反応器の温度を25℃に減温し、予備前駆体混合物を確保した。
【0098】
得られた予備前駆体混合物と水(19倍;重量基準)を共に入れて撹拌した。水に溶けたリチウムの濃度を分析し、最初の正極活物質パウダーにおけるリチウム重量に対する水に溶けたリチウム重量の比によってリチウム変換率(mol%)を測定した。
【0099】
また、水溶液に残存する水酸化リチウム、炭酸リチウムおよびフッ化リチウムのモル濃度によって選択度を測定した。
【0100】
実施例2
酸化カルシウムを3.5g混合した以外は実施例1と同様にして工程を行った。評価の結果は下記表1にまとめて示す。
【0101】
比較例
酸化カルシウムを含まなかった以外は、実施例1と同様にして工程を行った。評価の結果は下記表1にまとめて示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1に示すように、本発明の前述の実施例による範囲内で酸化カルシウムを含む場合には、回収過程でリチウム変換率を減少させることなく炭酸リチウムおよびフッ化リチウムの選択度が顕著に低いことを確認することができた。このことから、炭酸リチウムおよびフッ化リチウムが、炭酸カルシウムおよびフッ化カルシウムに変換されたことを確認でき、これにより、リチウム前駆体である水酸化リチウムの回収率(変換率×選択度)が顕著に高くなることを確認できる。
図1
【国際調査報告】