(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】アレルゲン性が減少した免疫原性タンパク質加水分解物
(51)【国際特許分類】
C07K 14/47 20060101AFI20240315BHJP
A61K 35/20 20060101ALI20240315BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240315BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240315BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240315BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240315BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240315BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20240315BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240315BHJP
【FI】
C07K14/47
A61K35/20
A61K38/02
A61P37/08
A61P17/00
A61P11/06
A61P11/02
C12P21/00 A
A23L33/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023553220
(86)(22)【出願日】2022-03-02
(85)【翻訳文提出日】2023-09-11
(86)【国際出願番号】 EP2022055289
(87)【国際公開番号】W WO2022184772
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514140089
【氏名又は名称】アーラ フーズ エエムビエ
【氏名又は名称原語表記】Arla Foods amba
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】スレンセン,ハンス ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ベルテルセン,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】クリットゴード,セーレン
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブセン,ロッテ ネアゴード
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン,ディッテ モラー
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD71
4B018ME14
4B018MF12
4B064AG01
4B064CA21
4B064CB01
4B064DA10
4C084AA02
4C084AA07
4C084CA38
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA34
4C084ZA61
4C084ZA89
4C084ZB13
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB39
4C087CA16
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA34
4C087ZA61
4C087ZA89
4C087ZB13
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA43
4H045EA01
4H045FA16
(57)【要約】
本発明は、アレルゲン性が減少し、免疫原性が保持された新規ホエイタンパク質加水分解物に関する。新規ホエイタンパク質加水分解物は、少量のより大きなペプチドを有することも特徴とする。本発明はさらに、新規ホエイタンパク質加水分解物の調製法、新規ホエイタンパク質加水分解物の使用、及びこの新規ホエイタンパク質加水分解物を含む食品に関する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴を有するホエイタンパク質加水分解物:
i)2500Da以上の分子量を有するペプチドを総タンパク質含有量の7.5重量%以下の量で含むこと;
ii)RBL細胞アッセイで測定して500mgBLG/kgタンパク質未満のベータ-ラクトグロブリン(BLG)濃度に相当するアレルゲン性;
iii)加水分解されていないホエイタンパク質と本質的に同じである、免疫化動物の血清IgG力価に基づく免疫原性;
iv)インタクトなタンパク質を本質的に含まないこと。
【請求項2】
前記加水分解度が少なくとも17%である、請求項1に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項3】
前記加水分解度が17%~30%の範囲である、請求項2に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項4】
前記ベータ-ラクトグロブリン濃度が、ELISAアッセイを用いて測定して500mg/kg全タンパク質未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項5】
ホエイタンパク質加水分解物が、前記固形分の6.0重量%以下の範囲の灰量を含む、請求項1~4のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項6】
ホエイタンパク質加水分解物を調製する方法であって:
a)ホエイタンパク質を含む溶液を提供するステップと;
b)少なくとも、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来のサブチリシン、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)由来のサーモリシン、及びアナナス・コモスス(Ananas comosus)由来のシステインエンドプロテアーゼを、ホエイタンパク質を含む溶液に添加し、第一加水分解ステップを実施するステップと;
c)温度を少なくとも60℃に調節し、前記温度を少なくとも60℃で残りの折りたたまれたタンパク質のアンフォールディングに充分な時間維持することによって、ステップb)の加水分解された溶液を熱処理するステップと;
d)ステップc)の熱処理された溶液の温度を50℃~70℃の温度に調節するステップと;
e)ステップd)の加水分解産物に少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシンを添加し、第二加水分解ステップを実施するステップと;
f)加水分解度が少なくとも17%である場合に酵素を不活化するステップと
を含み、ホエイタンパク質加水分解物を得る、方法。
【請求項7】
得られたホエイタンパク質加水分解物の限外ろ過を含まない、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第一加水分解ステップb)が少なくとも45分間である、請求項6及び7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記pHが6.0~7.5である、請求項6~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物を含む食品。
【請求項11】
乳児栄養製品である、請求項10に記載の食品。
【請求項12】
乳児の栄養における請求項1~5のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物の使用。
【請求項13】
それを必要とする乳児又は患者において牛乳タンパク質に対するアレルギーのリスクを低減する際に使用するための、請求項1~5のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項14】
それを必要とする乳児又は患者においてアトピー性皮膚炎、喘息、及び/又はアレルギー性鼻炎を予防又は発症のリスクを低減するための、請求項1~5のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛乳アレルギー及び経口寛容の誘導に関する。特に、本発明は、アレルゲン性が減少し、免疫原性が保持されたホエイタンパク質加水分解物、及び前記ホエイタンパク質加水分解物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食物アレルギーとは、ある特定の食物を食べた後に起こる異常な免疫応答である。一般に、アレルギーは、アレルゲンと呼ばれる無害なタンパク質に対して免疫寛容が発生しないことから生じる。その代わりに、感作と呼ばれる免疫応答が起こる。一度感作されると、個体は、充分な量のアレルギンに再度曝露されたときに、有害反応(臨床アレルギー)を受ける可能性がある。アレルギー反応は、典型的には、曝露後数分から数時間以内に起こり、症状は軽症(口唇腫脹、口中の掻痒感)から重症までさまざまである。人によっては、命を脅かす反応(アナフィラキシー)を引き起こす可能性さえある。アレルギーは、皮膚、呼吸器及び胃腸管の反応をはじめとするさまざまな症状で現れる。
【0003】
3歳未満の子どもの約6~8%は食物アレルギーに罹っていると推定される。牛乳は子どもの食物アレルギーの最多原因の一つであり、有病率は2~3%である。
【0004】
アレルギー性疾患は世界的に増加しているため、有効な予防策の必要性が高まっている。牛乳アレルギーを患い、回復した乳児は、後年、アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症などのアトピー症状を発症する傾向が依然として強いため、予防は極めて重要である。これは、いわゆる「アレルギーマーチ」であり、その後の病気、生活の質、及び医療費の点で負担になる。現在、治療法は存在せず、アレルギー反応を予防する最善の方法は、アレルゲンとして特定された食物を避けることである。
【0005】
牛乳に対するアレルギーは世界中で大きな問題となっており、牛乳アレルギーは乳児の有病率が高いため、アレルギーの発症を予防する調整粉乳が非常に必要とされている。
【0006】
アレルギー反応を回避するために身体が使用するメカニズムの一つは、所与の物質に対する寛容性を構築する(感作を予防する)ことである。寛容性は、免疫原性が高い物質によって誘導される。経口寛容は、経口経路で投与されたアレルゲンに対する免疫系の積極的な無応答である。粘膜免疫系は、それぞれ炎症又は寛容性をもたらす有害な化合物と無害な化合物とを区別することができる。食物成分は、免疫応答が常に抑制される必要がある重要な非自己アレルゲンである。この種の寛容性誘導は経口寛容として知られている。アレルゲン回避がアレルギー予防においてうまくいかないか、又は有害でさえあり得ることがますます明らかになってきている。食物タンパク質由来のペプチドによる経口寛容の誘導は、免疫系を感作ではなく寛容性へと導く強力な手段である。
【0007】
調整粉乳をはじめとする様々な食品中の成分としてホエイタンパク質加水分解物を使用することはよく知られている。ホエイタンパク質加水分解物は、通常、ホエイタンパク質濃縮物などのホエイタンパク性物質を、食品等級のタンパク質分解性及び/又はペプチド分解性調製物で所望の加水分解度まで加水分解することによって調製される。状況によっては、ホエイタンパク質加水分解物のアレルゲン性を低くするために、大きなペプチドの量が少なく、加水分解度が高いホエイタンパク質加水分解物を調製することが望ましい。
【0008】
アレルギー管理に使用される既存のホエイタンパク質加水分解物の一部は限外ろ過に供されたものである。限外ろ過は、より大きなペプチドを除去し、そのような限外ろ過されたホエイタンパク質加水分解物は、アレルギー応答を誘導しない。しかしながら、限外ろ過されたホエイタンパク質加水分解物はアレルゲン性が低く、このことは、牛乳に対してアレルギーのある乳児又は子どもに対して投与された場合にアレルギー応答が回避されることを意味するが、免疫原性も低いという欠点がある。したがって、限外ろ過されたホエイタンパク質加水分解物は、牛乳タンパク質に対する経口寛容を誘導しない。
【0009】
例えば、EP0642307A1において、発明者等は、15%~35%の加水分解度のホエイタンパク質加水分解物を産生する方法において、加水分解後に限外ろ過を使用している。EP0642307A1に開示されているように、得られたホエイタンパク質加水分解物はアレルゲン性が減少している。しかしながら、限外ろ過ステップのために、免疫原性はさらに低くなり、これにより経口寛容誘導が妨げられる可能性がある。
【0010】
さらに、当該技術分野では、溶解性及び熱安定性が高いホエイタンパク質加水分解物を産生することが望まれてきた。これは、加水分解中に生成物にミネラルを添加することによって達成できる。しかしながら、世界各地の現地での規制により、製品に対しての灰を含むミネラルの添加量を制限することが求められている。中国では、灰分を5.5%以下に制限する必要がある。
【0011】
したがって、大きなペプチド(2500Daを超えるペプチド)の割合が低く、したがって免疫原性を減少させることなくアレルゲン性が減少したホエイタンパク質加水分解物が有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者等は、驚くべきことに、加水分解ステップの間に熱処理を行う特定の二段階加水分解法を、ホエイタンパク質の酵素加水分解のための特定の酵素の組み合わせと組み合わせて使用することによって、アレルゲン性が減少し、免疫性が保持された、大きなペプチドの量が少ない(2500Daを超える分子量を有するペプチドが総タンパク質含有量の7.5%未満)ホエイタンパク質加水分解物を得ることが可能であることを見出した。さらに、ホエイタンパク質加水分解物は少量の灰を含む。
【0014】
二つの加水分解ステップ間の熱処理によってタンパク質のアンフォールディングが起こる。このアンフォールディングにより、タンパク質の埋没した部分が露出し、加水分解の第二ステップで酵素は、熱処理前にはアクセスできなかった新しい切断部位にアクセスできるようになる。これにより、タンパク質がさらに加水分解され、得られたタンパク質加水分解物では、熱処理なしで調製されたタンパク質加水分解物と比べて、大きなペプチドの割合が低くなる。
【0015】
本発明の目的は、アレルゲン性が減少し、免疫原性が保持されたホエイタンパク質加水分解物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様は、以下の特徴を有するホエイタンパク質加水分解物に関する:
i)2500Da以上の分子量を有するペプチドを総タンパク質含有量の7.5重量%以下の量で含むこと;
ii)RBL細胞アッセイで測定して500mgBLG/kgタンパク質未満のベータ-ラクトグロブリン(BLG)濃度に相当するアレルゲン性;
iii)加水分解されていないホエイタンパク質と本質的に同じである、免疫化動物の血清IgG力価に基づく免疫原性;
iv)インタクトなタンパク質を本質的に含まないこと。
【0017】
本発明の別の態様は、ホエイタンパク質加水分解物を調製する方法であって:
a)ホエイタンパク質を含む溶液を提供するステップと;
b)少なくとも、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来のサブチリシン、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)由来のサーモリシン、及びアナナス・コモスス(Ananas comosus)由来のシステインエンドプロテアーゼを、ホエイタンパク質を含む溶液に添加し、第一加水分解ステップを実施するステップと;
c)温度を少なくとも60℃に調節し、前記温度を少なくとも60℃で残りの折りたたまれたタンパク質のアンフォールディングに充分な時間維持することによって、ステップb)の加水分解された溶液を熱処理するステップと;
d)ステップc)の熱処理された溶液の温度を50℃~70℃の温度に調節するステップと;
e)ステップd)の加水分解産物に少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシンを添加し、第二加水分解ステップを実施するステップと;
f)加水分解度が少なくとも17%である場合に酵素を不活化するステップと
を含み、ホエイタンパク質加水分解物を得る方法に関する。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物を含む食品に関する。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、乳児の栄養における本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物の使用に関する。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、それを必要とする乳児又は患者において、牛乳タンパク質に対するアレルギーのリスクを軽減するための、本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物に関する。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、それを必要とする乳児又は患者において、アトピー性皮膚炎、喘息、及び/又はアレルギー性鼻炎の予防又は発症するリスクを低減するための、本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、ベータ-ラクトグロブリン及びアルファ-ラクトアルブミンの検出及び定量化のための本発明のホエイタンパク質加水分解物のサンプルのHPLCクロマトグラムを示す。
【
図2A】
図2A、B、及びCは、それぞれ、加水分解されていないホエイタンパク質及び加水分解されたホエイタンパク質の様々なサンプルで免疫化されたラットの第21日、第28日、及び第35日のラット血清中のIgG1力価を示す。
【
図2B】
図2A、B、及びCは、それぞれ、加水分解されていないホエイタンパク質及び加水分解されたホエイタンパク質の様々なサンプルで免疫化されたラットの第21日、第28日、及び第35日のラット血清中のIgG1力価を示す。
【
図2C】
図2A、B、及びCは、それぞれ、加水分解されていないホエイタンパク質及び加水分解されたホエイタンパク質の様々なサンプルで免疫化されたラットの第21日、第28日、及び第35日のラット血清中のIgG1力価を示す。
【
図3A】
図3A、B、及びCは、それぞれ、加水分解されていないホエイタンパク質及び加水分解されたホエイタンパク質の異なるサンプルで免疫化されたラットの第21日、第28日、及び第35日のラット血清中のIgE力価を示す。
【
図3B】
図3A、B、及びCは、それぞれ、加水分解されていないホエイタンパク質及び加水分解されたホエイタンパク質の異なるサンプルで免疫化されたラットの第21日、第28日、及び第35日のラット血清中のIgE力価を示す。
【
図3C】
図3A、B、及びCは、それぞれ、加水分解されていないホエイタンパク質及び加水分解されたホエイタンパク質の異なるサンプルで免疫化されたラットの第21日、第28日、及び第35日のラット血清中のIgE力価を示す。
【0023】
次に、本発明を以下でより詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
本発明をさらに詳細に論じる前に、以下の用語及び表現法をまず定義する。
【0025】
本発明の単数形の特徴又は制限に対する言及はすべて、別段の指定がない限り、又は言及される文脈によって反対であることが具体的若しくは明確に暗示されていない限り、対応する複数の特徴又は制限を含むものとし、その逆もまた同様である。
【0026】
本明細書中で言及されるすべてのパーセントは、特に断りのない限り、重量パーセントである。また、「乾物重量」及び「乾物基準」という用語は、同じ概念を指し、交換可能に使用される。
【0027】
例えば、1%w/wの「w/w」という用語は、1重量%の化合物を含む組成を指す。
【0028】
本発明の文脈において、「ベータ-ラクトグロブリン」という用語は「BLG」と称される場合もある。この用語は、交換可能に使用することができ、哺乳類種由来のBLGに関連する。さらに、「アルファ-ラクトアルブミン」という用語は、本発明の文脈では「ALA」と称される場合もあり、哺乳類種由来のアルファ-ラクトアルブミンに関連する。
【0029】
ホエイタンパク質加水分解物
一態様において、本発明は以下の特徴を有するホエイタンパク質加水分解物に関する:
i)2500Da以上の分子量を有するペプチドを総タンパク質含有量の7.5重量%以下の量で含むこと;
ii)RBL細胞アッセイで測定して500mgBLG/kgタンパク質未満のベータ-ラクトグロブリン(BLG)濃度に相当するアレルゲン性;
iii)加水分解されていないホエイタンパク質と本質的に同じである、免疫化動物の血清IgG力価に基づく免疫原性;
iv)インタクトなタンパク質を本質的に含まないこと。
【0030】
したがって、本発明は、高分子量を有するペプチドを少量含み、アレルゲン性が減少し、免疫原性が保持され、インタクトなタンパク質が本質的に存在しないホエイタンパク質加水分解物に関する。
【0031】
「アレルゲン性」という用語は、物質がアレルゲンであることを指す。アレルゲンは、他の場合では身体にとって無害なものに対して望ましくない免疫応答を誘導する抗原の一種である。アレルゲンは、対象の免疫系によるIgE応答を介して反応を刺激できる。IgEは、正常な状態では感染から身体を防御することに向けられる。
【0032】
「アレルギー誘発性(allergenic potential)」という用語は、抗体結合能力を有する物質を指す。結合は、アレルギー反応が起こるための前提条件である。アレルギー誘発性は、ELISAアッセイを用いて決定できる。
【0033】
本発明に関連して、「感作」という用語も使用される。アレルギーにおける免疫応答は感作から始まる。感作アレルゲンに初めて曝露されると、血漿B細胞が刺激されてIgE抗体が産生され、これは他のイムノグロブリンアイソタイプの抗体のように、そのフラグメント抗原結合(Fab)部分を介して特定のアレルゲンと結合できる。異なるアレルゲンは、対応するアレルゲン特異的IgE抗体の産生を刺激する。牛乳では、ベータ-ラクトグロブリンが関心対象のアレルゲンであり、免疫系は、ベータ-ラクトグロブリン上の特定のエピトープに対して反応する抗体のクローン選択によってアレルギー反応を媒介する可能性がある。一度形成され、循環中に放出されると、IgEは、そのフラグメント結晶化可能(Fc)部分を介してマスト細胞上の高親和性受容体と結合し、そのアレルゲン特異的受容体部位(パラトープ)はアレルゲン(例えば、ベータ-ラクトグロブリン上のエピトープ)と将来相互作用に利用できるように残される。IgEの高親和性受容体を発現することが知られている他の細胞としては、好塩基球、ランゲルハンス細胞、及び活性化単球が挙げられる。アレルゲン特異的IgE抗体の産生により、感作として知られる免疫反応が完了する。同じアレルゲンに再曝露された後、アレルゲンは、マスト細胞の表面上の特定のIgE抗体と結合・架橋でき、その結果、マスト細胞の脱顆粒と、ヒスタミンなどの炎症性メディエータの放出とが起こり、アレルギー反応に至る。
【0034】
「ホエイタンパク質加水分解物」という用語は、本発明の文脈では、ホエイタンパク質加水分解物として当業者に知られているのと同じもの、すなわち、ホエイタンパク質出発物質の酵素加水分解によって得られる加水分解されたホエイタンパク質材料を指す。したがって、ホエイタンパク質加水分解物は、ホエイタンパク質出発物質の酵素加水分解によって直接得られる産物である。したがって、ペプチドを任意に組み合わせた任意の組成物は(ホエイ由来のものであっても)、当該組成物がホエイタンパク質の酵素加水分解によって得られるものではないならば、ホエイタンパク質加水分解物ではない。
【0035】
本発明のホエイタンパク質加水分解物は、アレルゲン性が減少していることを特徴とする。ホエイタンパク質ベータ-ラクトグロブリンはアレルゲンであり、したがって、牛乳アレルギーの個人においてアレルギー応答を引き起こす可能性があるので、アレルゲン性の減少は、ベータ-ラクトグロブリンの濃度に基づいて表わすことができる。加水分解されていないホエイタンパク質濃縮物は、約540,000mg/kg粉末の量でベータ-ラクトグロブリンを含み得る。しかしながら、プロテアーゼ処理後、ベータ-ラクトグロブリンはペプチドに加水分解され、したがって、アレルギー応答を引き起こし得るホエイタンパク質加水分解物中のベータ-ラクトグロブリン濃度は減少する。したがって、ホエイタンパク質加水分解物のアレルゲン性を表わす場合、ベータ-ラクトグロブリン濃度を使用できる。本発明のホエイタンパク質加水分解物では、ベータ-ラクトグロブリン濃度がRBL(ラット好塩基球性白血病)細胞アッセイで測定して500mg/kg全タンパク質以下であることが判明した。
【0036】
本発明のホエイタンパク質加水分解物のアレルゲン性は、タンパク質加水分解物などのタンパク質調製物によるIgE抗体の脱顆粒によって表わされる。
【0037】
脱顆粒は、好塩基球/マスト細胞のようなエフェクター細胞上の特異的IgE抗体による食物アレルゲンの架橋の結果である。脱顆粒が起こるためには、アレルゲンは、二つの異なるエピトープを含むのに十分大きく、それによって好塩基球/マスト細胞上の二つのIgE抗体によって結合される必要がある。アレルゲンが細胞に付着した二つのIgE抗体と結合すると、IgE抗体の架橋を引き起こし、脱顆粒に至り、これによりメディエータが放出され、対象において様々な症状が起こる。そのようなアレルゲンの非限定例はベータ-ラクトグロブリンである。
【0038】
したがって、本発明の一態様において、ホエイタンパク質加水分解物は、RBL細胞アッセイで測定して500mgBLG/kgタンパク質未満に相当するアレルゲン性を有する。RBL細胞アッセイは当該技術分野で周知であり、RBL細胞は、IgE及びそのFcεRI受容体に対する細胞の強力な応答のために、アレルギー研究で使用されることが通常知られている。例えば、Na Sun et al “Use of a rat basophil leukemia(RBL)cell-based immunological assay for allergen identification,clinical diagnosis of allergy,and identification of anti-allergy agents for use in immunotherapy”,Journal of Immunotoxicology,p.199-2052014を参照。様々なRBLアッセイを本発明のホエイタンパク質加水分解物のアレルゲン性の測定に関連して使用することができ、一例は、ポーランドのPolpharma Biologics S.A.によって提供されるRBLアッセイである。
【0039】
本発明の文脈において、「ベータ-ラクトグロブリン」又は(BLG)という用語は、牛乳のホエイ中の主要なタンパク質を指す。ホエイBLGは周知のアレルゲンであり、IgE応答のインデューサである。したがって、ベータ-ラクトグロブリンのレベルを、物質がアレルゲン性を媒介する可能性の度数として使用することが可能である。
【0040】
本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用して測定して500mg/kg全タンパク質以下であるベータ-ラクトグロブリン濃度に相当するアレルギー誘発性を有する。ELISAアッセイは当該技術分野において周知であり、あらゆる種類のELISAアッセイを使用してBLGを測定できる。ベータ-ラクトグロブリン濃度を測定するために使用できるELISAアッセイの一例は、競合的酵素イムノアッセイ、すなわち、競合的ELISAアッセイである。これは、例えば、独国のR-Biopharm AGによって提供されるELISAアッセイRIDASCREEN(登録商標)ベータ-ラクトグロブリンアッセイ(Art.No.R4901)であり得、これは、ホエイタンパク質加水分解物及び食品中の天然及び加工残留ベータ-ラクトグロブリンを定量するように設計されている。しかしながら、他のELISAアッセイを使用してBLG濃度を測定することもできる。
【0041】
本発明の好ましい実施形態において、アレルギー誘発性は、ELISAで測定して400mg/kg全タンパク質以下であるベータ-ラクトグロブリン濃度に相当し、好ましくは、アレルギー誘発性は、ELISAで測定して350mg/kg全タンパク質以下であるベータ-ラクトグロブリン濃度に相当し、なお一層好ましくは、アレルギー誘発性は、ELISAで測定して、300mg/kg全タンパク質以下であるベータ-ラクトグロブリン濃度に相当する。
【0042】
ホエイタンパク質加水分解物におけるアレルゲン性を表わす別の方法は、タンパク質加水分解物に供された動物由来の血清中のIgE抗体力価によるものである。「IgE力価」という用語は、タンパク質加水分解物に供された動物由来の血清中のIgE抗体濃度の尺度である。ここで、抗体力価(IgG又はIgE)は、ホエイタンパク質由来のエピトープを認識するラット血清中の抗体濃度と定義され、ELISAで陽性となる最高希釈度の逆数として表される。
【0043】
アレルゲン性は、抗体媒介性又は細胞媒介性であり得る、「免疫学的メカニズムによって媒介される過敏反応」と定義することができる。ほとんどの場合、通常アレルギー反応の原因となる抗体は、IgEアイソタイプに属し、個人はIgE媒介性アレルギー性疾患にかかっていると称される場合がある。したがって、タンパク質加水分解物に供された動物由来の血清中のIgE抗体力価を測定することは、IgE媒介性アレルゲン性のレベルを表わす良い方法である。
【0044】
非IgE媒介性アレルギーは、IgE抗体は別として、免疫系の他の成分が関与する反応によって引き起こされる。反応は食物を摂取した直後には現れず、通常、胃腸管での反応に関連する。対照的に、IgE媒介性食物アレルギーの徴候や症状は、通常、摂取の数分以内に起こり、蕁麻疹、皮膚の発赤、嘔吐、さらに重症の反応では、アナフィラキシーが挙げられる。IgE媒介性食物アレルギーとは異なり、この種の食物アレルギーはあまりよく理解されていないので、一般的医療業務で非IgE媒介性食物アレルギーを診断するのに有用であることが証明されている血液検査又は皮膚検査はない。
【0045】
食物アレルギーの個人は、IgE媒介性及び非IgE媒介性アレルギーに均等に分けられると推測される。しかしながら、両タイプのアレルギーが同じ人で見られる可能性もある。
【0046】
本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物では、タンパク質加水分解物に供された動物からの35日後の血清中のIgE抗体力価は、同じ濃度のインタクトなホエイタンパク質に供された動物からの35日後の血清中で得られるIgE抗体力価の最大でも50%である。動物は好ましくは哺乳類である。本発明を説明する実施例では、ラットを使用してIgE抗体力価を決定した。好ましくは、タンパク質加水分解物に供された動物からの35日後の血清中のIgE抗体力価は、同じ濃度のインタクトなホエイタンパク質に供された動物からの35日後の血清中で得られるIgE抗体力価の最大でも40%である。
【0047】
本発明のホエイタンパク質加水分解物はまた、タンパク質加水分解物に供された動物からの血清中のIgG抗体力価によって表すことができる、免疫原性が保持されていることを特徴とする。「力価」という用語は、タンパク質加水分解物に供された動物からの血清中の抗体の存在及び量を指す。IgGは、ベータ-ラクトグロブリンなどの抗原に対する一次及び二次応答として産生される。したがって、血清中の特定の抗原に対するIgGの濃度は、免疫系のこの抗原に対する曝露の尺度であり、また抗原が免疫系を刺激する能力(免疫原性)の尺度でもある。
【0048】
「免疫原性」という用語は、異物が対象において免疫応答を誘導する能力を指す。食物アレルギーでは、これは、ベータ-ラクトグロブリンのようなアレルゲンに対する制御された免疫反応として見られる。この応答は、特異的IgG抗体の産生によって媒介される。
【0049】
本発明において、本発明者らは、アレルゲン性を減少させつつ免疫原性を維持できるタンパク質加水分解物を産生するプロセスを見出した。
【0050】
したがって、本発明の一態様において、ホエイタンパク質加水分解物は、加水分解されていないホエイタンパク質で免疫化された動物と本質的に同じである、免疫化動物の血清IgG力価に基づいた免疫原性を有している。免疫化動物のIgG力価に基づく免疫原性は、例えば、論文“Preclinical Brown Norway Rat Models for the Assessment of Infant Formulas in the Prevention and treatment of Cow’s Milk Allergy”、Jensenら、International Archives of Allergy and Immunology、2019年2月13日公開、DOI:10.1159/000495801および論文“Characterization of the Immunogenicity and Allergenicity of Two Cow’s Milk Hydrolysates-A Study in Brown Norway Rats”、Boeghら、published in Scandinavian Journal of Immunology、2014年12月23日公開、DOI:10.1111/sji.12271に記載されているBrown Norwayラットモデルを使用することによって測定できる。
【0051】
「本質的に同じ」という用語は、本発明の文脈では、ホエイタンパク質加水分解物で免疫化された動物の血清IgG力価及び加水分解されていないホエイタンパク質で免疫化された動物のIgG力価は有意に異ならないことを指す。「本質的に同じ」という用語を定義するもう一つ別の方法は、ホエイタンパク質加水分解物で免疫化された動物の血清IgG力価と加水分解されていないホエイタンパク質で免疫化された動物の血清IgG力価との間の差が5%以下、例えば4%以下、好ましくは3%以下ということである。
【0052】
本発明者等は、驚くべきことに、本発明の方法で、2500Da以上の分子量を有する少量のペプチドを総タンパク質含有量の7.5重量%以下の量で有するホエイタンパク質加水分解物を得ることが可能であり、前記加水分解産物は免疫原性が保持されていることとあわせて、アレルゲン性が減少していることを見出した。したがって、本発明のタンパク質加水分解物を用いて、免疫系が加水分解産物を検出することが可能になり、経口寛容が誘導され得る。本発明者らは、免疫原性が保持され、アレルゲン性が減少した前記加水分解産物が、動物に投与された場合、有害なアレルギー反応なしに経口寛容誘導をもたらす可能性があると考える。動物は好ましくは哺乳類である。
【0053】
本発明の目的は、限外ろ過ステップなしで、免疫原性の保持とあわせてアレルゲン性が減少した、高加水分解度を有するホエイタンパク質加水分解物を産生することであった。
【0054】
本発明の目的は、免疫原性を保持しつつアレルゲン性が減少し、同時に少量のより大きなペプチドを有するホエイタンパク質加水分解物を調製することであった。驚くべきことに、本発明者等は、本発明の方法を用いてこれを得ることができることを見出した。本発明者等にとって特に意外だったのは、本発明の方法を用いて、アレルゲン性が減少し、免疫原性が保持されたホエイタンパク質加水分解物を得ることができただけでなく、少量のより大きなペプチド、すなわち、総タンパク質含有量の7.5重量%以下の2500Da以上の分子量を有するペプチドを有するホエイタンパク質加水分解物を得ることもできたことである。さらに、前記特徴を有し、また高加水分解度も有するホエイタンパク質が得られたことも本発明者らにとっては驚くべきことであった。
【0055】
本発明のホエイタンパク質加水分解物は、典型的には、総タンパク質含有量の70重量%超~80重量%未満の375~2500Daの分子量を有するものを含む。さらに、本発明のホエイタンパク質加水分解物中の総タンパク質含有量の55重量%超68重量%未満は、375~1250Daの分子量を有する。さらに、本発明のホエイタンパク質加水分解物は、総タンパク質含有量の15%~20重量%の375Da以下の分子量を有するものを含む。
【0056】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物の加水分解度は少なくとも17%、なお一層好ましくは、ホエイタンパク質加水分解物の加水分解度は少なくとも20%である。
【0057】
本発明の別の実施形態において、本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物は、17~30%、例えば、20~25%の加水分解度を有する。
【0058】
本発明の一態様において、ホエイタンパク質加水分解物はインタクトなタンパク質を本質的に含まない。したがって、ホエイタンパク質加水分解物は加水分解されていないタンパク質を本質的に含まない。「インタクトなタンパク質」及び「加水分解されていないタンパク質」という用語は、同じものを指す。一実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、インタクトなホエイタンパク質を本質的に含まず、好ましくは、ホエイタンパク質加水分解物は、インタクトなベータ-ラクトグロブリン及びインタクトなアルファ-ラクトアルブミンを本質的に含まない。
【0059】
「インタクトなタンパク質が本質的に無い」という用語は、ホエイタンパク質加水分解物中のホエイタンパク質、ベータ-ラクトグロブリン及びアルファ-ラクトアルブミンなどのインタクトなタンパク質の量が、総タンパク質含有量の1.0重量%以下、例えば、総タンパク質含有量の0.5重量%以下であることを指す。「総タンパク質含有量」という用語は、タンパク質及びタンパク質由来のペプチドの全量を指す。
【0060】
ホエイタンパク質加水分解物は、タンパク質以外の成分、例えば、炭水化物、脂質、及びミネラルを含み得る。
【0061】
本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、全固形分に基づいて10重量%以下の量、例えば、全固形分に基づいて5重量%以下、好ましくは全固形分に基づいて4重量%以下の量で炭水化物を含む。
【0062】
本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、全固形分に基づいて15重量%以下、例えば、全固形分に基づいて10重量%以下、好ましくは全固形分に基づいて8重量%以下の量で脂質を含む。別の実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、全固形分に基づいて1重量%以下の量、例えば、全固形分の0.5重量%以下の脂質含有量で脂質を含む。
【0063】
驚くべきことに、本発明者らは、本発明の方法によって得られるホエイタンパク質加水分解物が、タンパク質加水分解物中の低灰分を保持しつつ調製できることを見出した。
【0064】
したがって、本発明の一実施形態では、ホエイタンパク質加水分解物は、固形分の6.0重量%以下の量、例えば、固形分の5.0重量%以下の量で灰を含む。本発明に係るホエイタンパク質加水分解物の粉末は、94~95重量%の固形分を含む。したがって、そのようなホエイタンパク質加水分解物は5.5重量%以下、例えば5.0重量%以下の量で灰を含む。
【0065】
灰は、例えば、GB5009.4-2016食品中の灰分測定のための中国規格を使用することによって測定できる。この規格は、食物中の灰分を測定するための中華人民共和国食物安全規格である。
【0066】
本発明の好ましい実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、粉末又は顆粒などの乾燥組成物、好ましくは粉末の形態である。
【0067】
別の実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は液体組成物である。
【0068】
ホエイタンパク質加水分解物の産生方法:
一態様において、本発明は、ホエイタンパク質加水分解物を調製する方法であって:
a)ホエイタンパク質を含む溶液を提供するステップと;
b)少なくとも、バチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシン、バチルス・アミロリケファシエンス由来のサーモリシン、及びアナナス・コモスス由来のシステインエンドプロテアーゼを、ホエイタンパク質を含む溶液に添加し、第一加水分解ステップを実施するステップと;
c)温度を少なくとも60℃に調節し、温度を少なくとも60℃で、残りのタンパク質のアンフォールディングに充分な時間維持することによって、ステップb)の加水分解された溶液を熱処理するステップと;
d)ステップc)の熱処理された溶液の温度を50℃~70℃の温度に調節するステップと;
e)ステップd)の加水分解産物に少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシンを添加し、第二加水分解ステップを実施するステップと;
f)加水分解度が少なくとも17%である場合に酵素を不活化するステップと
を含み、ホエイタンパク質加水分解物を得る方法に関する。
【0069】
本発明の方法で使用するためのフィード材料は、ホエイタンパク質を含む溶液である。
【0070】
ホエイタンパク質を含む溶液:
本発明の文脈において、「ホエイタンパク質を含む溶液」のような「溶液」という用語は、液体及び固体化合物又はタンパク質粒子などの半固体粒子の組み合わせを含む組成物を包含する。したがって、「溶液」は懸濁液であってもよいし、さらにはスラリーであってもよい。しかしながら、「溶液」は好ましくはポンプ吸い上げ可能であり、ホエイタンパク質を含む溶液中の液体の量は、好ましくは70~98%、さらに好ましくは80~96%である。ホエイタンパク質溶液に使用される液体は、典型的には水である。
【0071】
ホエイタンパク質を含む溶液は、典型的には溶液の2重量%以上の量のタンパク質を含む。本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質溶液は、溶液の2重量%~20重量%の範囲のタンパク質を含む。好ましくは、ホエイタンパク質を含む溶液は、溶液の5重量%~15重量%の範囲の量のタンパク質を含む。
【0072】
加水分解で使用されるホエイタンパク質を含む溶液は、水などの液体中にホエイタンパク質を含む組成物を分散させることによって得られる。好ましくは、ホエイタンパク質を含む溶液は、乳清タンパク質濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物、乳清タンパク質単離物及び/又はホエイタンパク質単離物のいずれかを水と混合することによって作製される。したがって、本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質を含む溶液は、乳清タンパク質濃縮物、ホエイタンパク質濃縮物、乳清タンパク質単離物及び/又はホエイタンパク質単離物を含む。
【0073】
本発明のホエイタンパク質を含む溶液は、全固形分に基づいて少なくとも50%の量のホエイタンパク質を含む。ホエイタンパク質の含有量が全固形分の50%未満である場合、全体的な分子組成(タンパク質、炭水化物、脂質及びミネラル間の比率)は異なり、したがって、酵素は異なった挙動をする可能性があり、したがって得られる生成物も異なるであろう。
【0074】
ホエイタンパク質とは別に、ホエイタンパク質溶液は、少量の他のタンパク質、例えば、カゼインを含み得る。
【0075】
ホエイタンパク質溶液は、典型的には、タンパク質に加えて他の成分を含む。ホエイタンパク質溶液は、通常、ホエイ又は乳清中に見られる他の成分、例えば、ミネラル、炭水化物、及び/又は脂質を含み得る。代替的又は付加的に、ホエイタンパク質溶液は、ホエイ又は乳清中に本来無い成分を含み得る。しかしながら、そのような非天然乳成分は、食品製造での使用に好適かつ安全でなければならない。
【0076】
全固形分に基づいて、ホエイタンパク質溶液中のタンパク質の含有量が低いほど、脂質、炭水化物(主にラクトース)及びホエイタンパク質以外のタンパク質の量が多くなる。
【0077】
ホエイタンパク質を含む溶液は、例えば、ラクトース、オリゴ糖及び/又はラクトースの加水分解産物(すなわち、グルコース及びガラクトース)などの炭水化物を含み得る。ホエイタンパク質溶液は、例えば、全固形分に基づいて0重量%~15重量%の範囲の炭水化物を含み得る。
【0078】
ホエイタンパク質を含む溶液を調製するためにホエイタンパク質濃縮物(WPC)又は乳清タンパク質濃縮物(SPC)を使用する場合、溶液中の炭水化物の量は、好ましくは、全固形分に基づいて2~8重量%の範囲である。
【0079】
ホエイタンパク質単離物(WPI)及び乳清タンパク質単離物(SPI)も、ホエイタンパク質を含む溶液を調製するために使用し得る。ここで、ラクトースなどの炭水化物の量は非常に少ない。したがって、ホエイタンパク質を含む溶液の調製のためにWPI又はSPIを使用する場合、ホエイタンパク質を含む溶液中の炭水化物の含有量は、全固形分に基づいて0重量%~1重量%の範囲である。
【0080】
ホエイタンパク質を含む溶液はまた、トリグリセリド及び/又はリン脂質などの他の種類の脂質の形態で含み得る。
【0081】
本発明の文脈において、「脂肪」及び「脂質」という用語は、同じ意味を有し、交換可能に使用できる。
【0082】
本発明に係るホエイタンパク質を含む溶液は、ホエイタンパク質を全固形分に基づいて少なくとも50重量%の量で含まなければならない。ホエイタンパク質を含む溶液中のタンパク質含有量が全固形分の50重量%未満である場合、加水分解後に得られるホエイタンパク質加水分解物は、本発明に係るホエイタンパク質加水分解物を規定する特徴を有さない可能性がある。
【0083】
ホエイタンパク質を含む溶液は、例えば、全固形分に基づいて50~98重量%、例えば、全固形分に基づいて60~92重量%、なお一層好ましくは、全固形分に基づいて65~90重量%の量でホエイタンパク質を含み得る。本発明のさらに好ましい実施形態において、ホエイタンパク質を含む溶液は、全固形分に基づいて少なくとも80重量%の量でホエイタンパク質を含む。
【0084】
ホエイタンパク質を含む溶液中に存在するタンパク質は、主にホエイタンパク質でなければならない。しかしながら、少量の他のタンパク質、例えば、カゼインが存在していてもよい。したがって、本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質を含む溶液は、タンパク質の全量に基づいて90重量%以上の量でホエイタンパク質を含む。好ましくは、ホエイタンパク質を含む溶液は、タンパク質の全量に基づいて、95重量%以上の量でホエイタンパク質を含む。したがって、本発明のさらなる実施形態において、ホエイタンパク質を含む溶液は、タンパク質の全量に基づいて、最大で10重量%のカゼイン又は他の非ホエイタンパク質、好ましくは最大で5重量%、さらに好ましくは、タンパク質の全量に基づいて、最大で3重量%のカゼイン又は他の非ホエイタンパク質を含む。
【0085】
本発明の好ましい実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、ホエイタンパク質濃縮物及び/又は乳清タンパク質濃縮物であるホエイタンパク質を含む溶液を使用することによって得られる。好ましくは、ホエイタンパク質を含む溶液は、水中に混合されたホエイタンパク質濃縮物又は乳清タンパク質濃縮物である。
【0086】
ホエイタンパク質:
本発明の一態様において、ホエイタンパク質加水分解物は、ホエイタンパク質を含む溶液を加水分解することによって得られる。
【0087】
本発明の文脈において、「ホエイタンパク質」という用語は、ホエイ又は乳清中で見られるタンパク質に関連する。ホエイタンパク質を含む溶液中に存在するホエイタンパク質は、ホエイ若しくは乳清中で見られるタンパク質種のサブセットであってもよく、又はホエイ及び/若しくは乳清中で見られるタンパク質種の完全なセットであってもよい。ホエイタンパク質は、チーズ製造の副産物として創出される液体物質であるホエイから単離されたタンパク質の混合物である。ホエイタンパク質は、乳又は凝固乳のいずれかの血清相中に存在するタンパク質である。乳の血清相のタンパク質は、ホエイタンパク質以外に、乳清タンパク質とも称される場合がある。
【0088】
「乳清」という用語は、例えば、精密ろ過、又は大孔径限外ろ過によって、カゼイン及び乳脂肪球が乳から除去された後に残る液体に関連する。乳清はまた、「理想的なホエイ」と呼ばれる場合もある。
【0089】
「乳清タンパク質」又は「血清タンパク質」という用語は、乳清中に存在するタンパク質に関連する。
【0090】
「ホエイ」という用語は、乳のカゼインを沈殿させ、除去した後に残る液体上清に関連する。カゼインの沈殿は、例えば、乳の酸性化及び/又はレンネット酵素の使用によって達成することができる。
【0091】
スイートホエイ、酸ホエイ、及びカゼインホエイなど数種類のホエイが存在する。
【0092】
本発明のホエイタンパク質溶液中に存在するホエイタンパク質は、様々なホエイ源、例えば、カゼインホエイ、酸ホエイ、又はスイートホエイから誘導することができる。
【0093】
本発明の好ましい実施形態において、ホエイタンパク質を含む溶液中のホエイタンパク質はスイートホエイ由来である。スイートホエイは、主に、ベータ-ラクトグロブリン(BLG)(総タンパク質含有量の約55~65%)、アルファ-ラクトアルブミン(ALA)(総タンパク質含有量の約18~23%)及びカゼインマクロペプチド(CMP)というタンパク質を含む。しかしながら、スイートホエイは、イムノグロブリン、オステオポンチン、ラクトフェリン、ウシ血清アルブミン、及び脂肪球膜タンパク質などの他のタンパク質を含む可能性がある。WPI及びWPCはスイートホエイから得ることができる。
【0094】
「スイートホエイ」という用語は、本明細書中で使用される場合、レンネットタイプのチーズを作製する際に、乳を凝固させ、濾した後に残る液体を指す。「スイートホエイ」は、チェダーチーズ又はスイスチーズのようなレンネットタイプのハードチーズを作製する際に得られる。スイートホエイは、乳組成物にレンネット酵素を添加することによって得られ、これによりカッパ-カゼインがパラ-カッパ-カゼイン及びペプチドカゼインマクロペプチド(CMP)に切断され、それによって、カゼインミセルを不安定化させ、カゼインを沈殿させる。レンネット沈殿カゼインの周囲の液体は、スイートホエイと称される。スイートホエイのpH値は5.2~6.7の範囲であり得る。
【0095】
「カゼインホエイ」(サワーホエイ又は酸ホエイと称する場合もある)という用語は、カゼイン/カゼイネート産生から得られるホエイに関する。本発明の文脈において、カゼインホエイは酸ホエイと同じではない。カゼインホエイは、精密ろ過によるカゼイン/カゼイネートの分離後に得られるホエイフラクションである。SPC及びSPIはカゼインホエイから得られる。
【0096】
酸ホエイという用語は、カッテージチーズやクォークなどの酸タイプのチーズの製造中に得られるホエイについて用いられる。酸タイプのチーズの調製では、酸沈殿によって、すなわち、カゼインの等電点であり、カゼインミセルを崩壊させ沈殿させる、4.6より低いpHまで乳のpH値を低下させることによって、カゼインを乳から除去する。pHはしばしば3.8~4.6の範囲まで低下する。酸沈殿カゼインの周囲の液体は、しばしば、酸ホエイと称される。WPC及びWPIは、酸ホエイから得られる。
【0097】
本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質を含む溶液中で使用されるホエイタンパク質は、酸ホエイ又はカゼインホエイではない。
【0098】
本発明においてホエイタンパク質を含む溶液中で使用されるホエイタンパク質は、好ましくは、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)又は乳清タンパク質濃縮物(SPC)であり得る。さらに、ホエイタンパク質単離物(WPI)又は乳清タンパク質単離物(SPI)が選択肢となる。ホエイタンパク質濃縮物とホエイタンパク質単離物との間の差は、生成物の組成、特にタンパク質含有量である。ホエイタンパク質単離物は濃縮物よりも純粋であり、ホエイタンパク質を「単離」するために他の非タンパク質成分が部分的に除去されている。したがって、ホエイタンパク質単離物はタンパク質のパーセンテージがより高く、実質的にラクトースフリー、炭水化物フリー、脂肪フリー、及びコレステロールフリーであるのに充分純粋であり得る。
【0099】
本明細書の文脈で、「ホエイタンパク質濃縮物(WPC)」及び「血清タンパク質濃縮物(SPC)」という用語は、ホエイタンパク質の乾燥組成物及び液体組成物の両方を包含する。本発明で使用するWPC及びSPC中のタンパク質含有量は全固形分に基づいて50重量%以上である。しかしながら、ホエイタンパク質濃縮物は、より多量のホエイタンパク質、例えば、乾物含量に基づいて80重量%のホエイタンパク質を含み得る。液体ホエイの乾燥部分は、乾燥生成物が50重量%以上のホエイタンパク質を含むように充分な非タンパク質成分をホエイから除去することによって得られる。
【0100】
本発明で使用するWPC又はSPCは、好ましくは、
全固形分に対して50~89重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して15~70重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して8~50重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~40重量%のCMP
を含む。
【0101】
あるいは、
全固形分に対して50~89重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して15~80重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して4~50重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~40重量%のCMP
を含むWPC又はSPCも好ましい。
【0102】
さらに好ましくは、WPC又はSPCは、
全固形分に対して70~89重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して30~80重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して4~35重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~25重量%のCMP
を含む。
【0103】
「ホエイタンパク質単離物」及び「血清タンパク質単離物」という用語は、一般的に、ラクトース及びコレステロールをほとんど含まないと考えられ、全固形分に基づいて少なくとも90重量%のホエイタンパク質含有量を有する乾燥又は液体組成物に関連する。ホエイタンパク質単離物は、例えば、全固形分に基づいて92重量%以上のホエイタンパク質を含み得る。好ましくは、WPI及びSPIは、全固形分に基づいて90~100重量%のタンパク質、例えば、全固形分に基づいて92~99重量%のタンパク質を含む。
【0104】
WPI又はSPIは、好ましくは、
全固形分に対して90~100重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して15~70重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して8~50重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~40重量%のCMP
を含み得る。
【0105】
あるいは、WPI又はSPIが、
全固形分に対して90~100重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して30~80重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して4~35重量%のALA
総タンパク質含有量に対して0~25重量%のCMP
を含むことも好ましい。
【0106】
好ましくは、WPIは、
全固形分に対して90~100重量%のタンパク質
総タンパク質含有量に対して60~70重量%のBLG
総タンパク質含有量に対して10~25重量%のALA
総タンパク質含有量に対して10~25重量%のCMP
を含み得る。
【0107】
本発明の一実施形態において、本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物の調製で使用されるホエイタンパク質を含む溶液は、乾物の50~98重量%、例えば、60~92重量%、好ましくは70~90重量%の範囲のホエイタンパク質の全量を含む。
【0108】
任意の好適なホエイタンパク質源を使用して、本発明に係るホエイタンパク質を含む溶液を調製することができる。本発明に係るホエイタンパク質を含む溶液中で使用されるホエイタンパク質は、好ましくは、哺乳類の乳、例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、バッファロー、ラクダ、ラマ、雌ロバ、ウマ、及び/又はシカからの乳由来のホエイタンパク質である。本発明のいくつかの好ましい実施形態において、ホエイタンパク質はウシの乳(牛乳)に由来する。
【0109】
概して、ホエイタンパク質を含む溶液中の灰分は低いのが好ましい。本発明の方法を用いて、驚くべきことに、低灰分を有するホエイタンパク質加水分解物を得ることが可能であることが見出された。したがって、本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質を含む溶液中の灰分は、全固形分に基づいて6%以下であり、より好ましくは5.5%以下である。
【0110】
本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質溶液は、総タンパク質含有量の30重量%以上のBLG、例えば、40重量%以上のBLGを含む。最も好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、総タンパク質含有量に基づいて50重量%以上のBLGを含み、なお一層好ましくは、ホエイタンパク質溶液は、総タンパク質含有量に基づいて55重量%以上の量でBLGを含む。本発明の別の実施形態において、ホエイタンパク質溶液は、総タンパク質含有量に基づいて30~95重量%のBLG、例えば、総タンパク質含有量に基づいて40~90重量%のBLG、なお一層好ましくは、総タンパク質含有量に基づいて45~80重量%の範囲の量でBLGを含む。
【0111】
熱処理を用いた二段階酵素加水分解:
本発明によると、熱処理ステップをその間に挟む二段階加水分解にホエイタンパク質溶液を供する。第一加水分解ステップは方法のステップb)であり、第二加水分解ステップは方法のステップe)である。熱処理は本発明の方法のステップc)である。
【0112】
本発明の方法のステップb)において、バチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシン、バチルス・アミロリケファシエンス由来のサーモリシン、及びアナナス・コモスス由来のシステインエンドプロテアーゼを、ホエイタンパク質を含む溶液に添加し、第一加水分解ステップを実施する。バチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシン、バチルス・アミロリケファシエンス由来のサーモリシン、及びアナナス・コモスス由来のシステインエンドプロテアーゼを第一加水分解ステップb)で使用することが重要である。異なる酵素はペプチド/タンパク質において異なる切断部位を有し、本発明者等は、驚くべきことに、その後に続いて熱処理ステップを行う第一加水分解ステップ及び第二加水分解ステップにおいて言及される酵素により、より大きなペプチド(2500Da超)の量が7.5重量%以下であるホエイタンパク質加水分解物が得られることを見出した。同時に、アレルゲン性は、他の部分的に加水分解された産物におけるよりも低く、免疫原性は、限外ろ過によって産生される広範に加水分解された産物よりも高い。バチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシン、バチルス・アミロリケファシエンス由来のサーモリシン、及びアナナス・コモスス由来のシステインエンドプロテアーゼの存在が加水分解度、ペプチドのサイズ分布、アレルゲン性、及び免疫原性に関して望ましい産物を得るために必要であるため、これらを選択した。加水分解度、ペプチドのサイズ分布、アレルゲン性、及び免疫原性の類似の組み合わせは、これらの酵素が含まれない場合には得ることができなかった。酵素のうちの一つを、例えばトリプシンで置き換えると、同じ組成は得られなかった。
【0113】
三つの酵素は同時又は別々に添加することができ、本発明は、三つの酵素を添加する任意の順序に限定されるべきではない。典型的には、酵素は一度に一つずつ別々に添加されるが、これは単に技術的理由によるものである。本特許出願の実施例は、酵素を一度に一つ添加する本発明の実施形態を示すが、酵素は同時に添加することもできるし、又は異なる順序で添加することもできる。
【0114】
バチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシンは、典型的にはAlcalaseであり、バチルス・アミロリケファシエンス由来のサーモリシンは、典型的にはNeutraseであり、アナナス・コモスス由来のシステインエンドプロテアーゼは、典型的にはPromod523MDPである。しかしながら、他のブランドの酵素を使用することもできる。
【0115】
第一加水分解ステップb)は、三つの酵素のみを含むことに限定されず、したがって、少量の他の酵素を含んでもよい。例えば、第一加水分解ステップは、三つ、四つ、五つ、又はそれ以上の酵素を用いて実施できる。
【0116】
そのようなさらなる酵素は、例えば、エンドプロテアーゼ/ペプチダーゼ又はエキソプロテアーゼ/ペプチダーゼ(例えば、セリン-プロテアーゼ、メタロ-プロテアーゼ、システイン-プロテアーゼ、アスパラギン-プロテアーゼ、アミノ-ペプチダーゼ又はカルボキシ-ペプチダーゼ)であり得る。ホエイタンパク質を加水分解するのに適した他のさらなるプロテアーゼは、セリン-プロテアーゼのトリプシン様プロテアーゼであり得る。
【0117】
「トリプシン様プロテアーゼ」は、微生物起源のプロテアーゼである。したがって、「トリプシン様プロテアーゼ」という用語は、例えば、微生物起源でないパンクレアチンを含まない。反対に、パンクレアチンは、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アミラーゼ、及びリパーゼを含む、膵臓由来の酵素の混合物である。さらに、「トリプシン様プロテアーゼ」という用語は、「トリプシン」と混同してはならない。
【0118】
本発明のさらなる実施形態において、第一加水分解ステップに使用される酵素は、Enzyme Commision番号(EC)を有する以下の酵素群:EC3.4.21.62、EC3.4.24.28、EC3.4.22.32、及びEC3.4.22.33から選択される。しかしながら、前述のように、他の酵素が存在してもよい。
【0119】
加水分解は、ステップb)で開始された後、所望の加水分解度を得るために充分な期間維持される。加水分解が停止されるまでの酵素加水分解の時間は、使用される酵素の量及び活性に依存する。好ましくは、第一加水分解ステップにおける加水分解は、加水分解度が少なくとも12%、例えば、少なくとも15%になるまで維持される。
【0120】
本発明の一実施形態において、ステップb)における加水分解は、少なくとも45分、例えば、少なくとも60分、好ましくは、少なくとも1.5時間、そしてなお一層好ましくは、少なくとも2時間、実施される。好ましくは、ステップb)における加水分解は、時間の上限によって限定されず、停止するのが望ましくなるまで実施され得る。しかしながら、一例として、ステップb)における加水分解は、45分~8時間、より好ましくは1時間~4時間実施される。本発明の好ましい実施形態において、ステップb)における加水分解は、2~3時間実施される。
【0121】
別の実施形態において、ステップb)における加水分解は、30℃~70℃、例えば35℃~65℃、好ましくは40℃~62℃、より好ましくは50℃~60℃の温度で実施される。
【0122】
本発明者等は、驚くべきことに、ステップb)からの加水分解組成物を第二加水分解ステップであるステップe)に供する前の熱処理ステップc)の結果、高い加水分解度を有し、2500Da以上の分子量を有するペプチドをペプチドの全量の7.5重量%以下で含むホエイタンパク質加水分解物が得られることを見出した。
【0123】
二つの加水分解ステップ間の熱処理は、残存するタンパク質由来の三次構造をアンフォールディングさせる。このアンフォールディングにより、タンパク質又はタンパク質フラグメントの埋没部分が露出され、加水分解の第二ステップにおける酵素が以前にはアクセスできなかった切断部位にアクセスできるようになり、加水分解の増加につながり、熱処理が省略される場合よりも生成物中の大きなペプチドの割合が低くなる。
【0124】
したがって、本発明の一態様において、加水分解組成物は、第一加水分解ステップ(ステップb))の後で第二加水分解ステップ(ステップe))の前に、組成物の温度を少なくとも60℃の温度に調節することにより熱処理ステップ(ステップc))に供される。少なくとも60℃の温度は、残存するタンパク質をアンフォールディングするのに充分な時間維持される。酵素が不活化される温度まで熱処理する必要はないが、残存するタンパク質のアンフォールディングを開始するためには、温度は60℃超でなければならない。
【0125】
ステップc)の加熱時間は使用する加熱装置の種類及び熱処理中の温度に依存するので、本発明の方法は特定の加熱時間に限定されるべきではない。温度が高いほど、残存するタンパク質のアンフォールディングに必要な時間が短くなる。しかしながら、本発明の一実施形態において、加水分解された組成物はステップc)において5分~120分間、より好ましくは10分~60分間熱処理される。この加熱時間は、温度が60℃~100℃である場合に関連する。別の実施形態において、ステップc)における熱処理の加熱時間は4秒~10分である。この加熱時間は、温度が90℃~145℃と高い場合に関連する。ステップc)の熱処理は、熱交換器の使用又は熱注入の使用によるものであってもよい。
【0126】
したがって、本発明の一態様において、ステップc)の熱処理は、温度を少なくとも60℃に調節することによって実施される。一実施形態において、ステップc)の熱処理は、温度を少なくとも65℃、例えば少なくとも70℃に調節することによって実施される。典型的には、ステップc)の温度は、60℃~145℃、より好ましくは65℃~100℃、例えば68℃~90℃、なお一層好ましくは70℃~85℃の範囲である。
【0127】
好ましい実施形態において、ステップc)における熱処理は、60℃~90℃の温度で5分~2時間、好ましくは70℃~80℃で5分~2時間、又は少なくとも5分間実施される。別の実施形態において、熱処理は、90℃~145℃の温度で4秒~10分間、例えば、90℃~120℃で30秒~10分間実施される。
【0128】
ステップc)における熱処理の後で第二加水分解ステップの開始前に、熱処理溶液の温度をステップd)で、第二加水分解ステップで使用される酵素(複数可)に適した温度に調節する。ステップe)の開始時に温度が高すぎると酵素が損傷を受ける。
【0129】
本発明の一実施形態では、ステップc)の熱処理溶液の温度は、50℃~70℃、より好ましくは50℃~60℃の温度に調節される。
【0130】
ステップd)に続いて、ステップe)の第二加水分解ステップは、少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシンを加水分解組成物に添加することによって開始される。
【0131】
本発明の一実施形態において、バチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシンはAlcalaseである。
【0132】
バチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシン以外の酵素を第二加水分解ステップで添加することができるが、添加される主な酵素はバチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシンである。他の酵素が添加される場合、典型的には、酵素の全量の20%以下の量、例えば、酵素の全量の10%以下の量で添加される。
【0133】
本発明のさらなる実施形態において、ステップe)の加水分解は、ステップb)と同じ時点及び同じ温度で実施される。
【0134】
本発明のステップf)では、酵素を不活化することによって酵素加水分解を停止させる。
【0135】
酵素加水分解は、典型的には、加水分解度(DH)が少なくとも17%である場合、ステップf)で停止される。加水分解度(DH)は、加水分解によって切断された、もとのタンパク質中のペプチド結合のパーセンテージとして定義される。加水分解度は、Adler-Nissen,J.Determination of the degree of hydrolysis of food protein hydrolysates by trinitrobenzenesulfonic acid.J.Agric.Food Chem.27,1256-1262(1979)及びNielsen,P.M.,Petersen,D.&Dambmann,C.Improved method for determining food protein degree of hydrolysis.J.Food Sci.66,642-646(2001)で記載されているようにして測定できる。
【0136】
さらなる実施形態において、ステップf)で加水分解を停止させると、インタクトなタンパク質は本質的に残らない。「インタクトなタンパク質」という用語は、本発明の文脈では、加水分解されていないタンパク質を指す。さらに、「インタクトなタンパク質は本質的にない」という用語は、本発明の文脈では、インタクトなタンパク質が総タンパク質含有量の3%未満であることを指す。好ましくは、インタクトなタンパク質は全タンパク質の2%未満であり、なお一層好ましくは、インタクトなタンパク質は全タンパク質の1%未満である。
【0137】
添加される酵素の量は酵素の種類及び酵素の比活性に依存するため、本発明のホエイタンパク質加水分解物の調製法は、加水分解ステップ中に添加される酵素の量に限定されるべきではない。しかしながら、ガイダンスとして、酵素加水分解は酵素の組み合わせで実施され、酵素の全量は、タンパク質100gあたり0.05~10g、例えば、タンパク質100gあたり0.1~7.5g酵素の範囲である。好ましくは、酵素の量は、タンパク質100gあたり0.2~5.0gの量である。「比活性」という用語は、酵素量当たりの酵素の活性を指す。
【0138】
ホエイタンパク質を含む溶液は、酵素加水分解の間、6~9の範囲のpHを有するのが好ましい。好ましい実施形態において、酵素加水分解の間のpHは6.0~7.5である。このpH範囲で、プロテアーゼは最高の比活性を有し、したがって、タンパク質をペプチドに最も効率的に切断する。さらに、このpH範囲で、加水分解プロセス中だけでなく酵素を不活化するための熱処理中の両方で、凝集は回避される。
【0139】
本発明に係るホエイタンパク質加水分解物の調製法のステップf)において、酵素加水分解は、酵素を不活化することによって停止される。本発明の文脈において、「不活化」という用語は、酵素の不可逆的不活化を指す。酵素が他の条件下で活性にならないように、酵素の不活化は不可逆的でなければならない。ステップc)の熱処理は、第一加水分解ステップで使用される酵素の不活化を伴う可能性があり、これは、熱処理の温度に依存する。しかしながら、ステップf)において、方法のステップb)及びステップe)の両方で使用されるすべての酵素が不活化される。
【0140】
加水分解度が少なくとも17%、例えば少なくとも20%、好ましくは少なくとも23%である場合、加水分解を停止させる。本発明の一実施形態において、加水分解度が17%~30%、好ましくは19%~30%、なお一層好ましくは21%~28%の範囲である場合、加水分解をステップf)で停止させる。
【0141】
ステップf)における酵素の不活化と、したがって、加水分解の停止は、当該技術分野で公知の任意の方法によるものであり得る。例えば、酵素の不活化は、温度を、酵素が不活性であり変性される温度に修正することによるものであり得る。酵素の不活化及び変性は、溶液のpHを、酵素が不活性であるpHに修正することによるものでもあり得る。
【0142】
したがって、本発明の一実施形態において、ステップf)における酵素の不活化は、ホエイタンパク質を含む溶液及び添加された酵素を少なくとも80℃の温度まで加熱することによる。酵素の不活化は、好ましくは、80℃~130℃、例えば85℃~125℃、なお一層好ましくは90℃~120℃に加熱することによる。加熱によるステップf)における酵素の不活化は、例えば、高温に短時間加熱すること、例えば、110℃~130℃の温度に5~30秒間加熱することによるものであり得る。あるいは、ステップf)における酵素の不活化は、比較的低い温度に、ただし、より長い時間加熱することによるものであり得る。これは、80℃~90℃に2~10分間加熱することを含み得る。
【0143】
本発明の別の実施形態において、ステップf)における酵素の不可逆的不活化は、酵素を添加したホエイタンパク質溶液、すなわち、ホエイタンパク質加水分解物のpHを、酵素が不活性であるpHまで上昇又は低下させることを含む。本発明の一実施形態では、pHを10以上のpHまで上昇させる。別の実施形態では、pHを4以下のpHまで低下させる。
【0144】
本発明の好ましい実施形態において、当該方法は、ステップf)で得られるホエイタンパク質加水分解物の限外ろ過のステップを含まない。ステップb)及びステップe)の加水分解間のステップc)で熱処理を加えることで、限外ろ過を適用する場合にしばしばみられるような免疫原性の低下を伴わず、ペプチドの全量の7.5重量%以下の2500Da(又はそれ以上)の分子量を有するペプチドの量が得られることは、本発明者らにとって驚くべきことであった。
【0145】
本発明の文脈において、「限外ろ過」という用語は、1,500Da~50,000Da、好ましくは2,000Da~20,000Daの範囲の分子量カットオフ(MWCO)を有する膜での膜ろ過を指す。
【0146】
タンパク質加水分解物の限外ろ過の間、脂肪、インタクトなタンパク質、並びにより大きなペプチドの一部は、限外ろ過膜に保持され、また残余分中に保持される一方、遊離アミノ酸、より小さなペプチド、及びミネラルは、限外ろ過透過物中にある。
【0147】
本発明の方法によって得られるホエイタンパク質加水分解物は、好ましくは、濃縮及び/又は乾燥させることができる。濃縮は、例えば、ナノろ過、逆浸透ろ過、及び蒸発のうちの一つ以上の単位操作によるものであり得る。
【0148】
本発明の別の実施形態において、乾燥ステップは、噴霧乾燥、凍結乾燥、及びスピンフラッシュ乾燥の一つ以上の単位操作を含み、回転乾燥及び/又は流動床乾燥も使用できる。
【0149】
食品:
一態様において、本発明は、本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物を含む食品を提供することに関する。
【0150】
好ましい実施形態において、食品は、乳児栄養製品、例えば、調整粉乳又は他の乳児栄養製品である。
【0151】
食品が液体形態である場合、食品は本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物を含み得る。好ましくは、食品は、2~25重量%の加水分解されたホエイタンパク質、好ましくは3~20重量%の加水分解されたホエイタンパク質、例えば、3~15重量%の加水分解されたホエイタンパク質、なお一層好ましくは、3~10重量%の加水分解されたホエイタンパク質に相当する量でホエイタンパク質加水分解物を含む。
【0152】
本発明の好ましい実施形態において、本発明のホエイタンパク質加水分解物を含む液体食品は、中性のpH、すなわち、22℃で4%タンパク質溶液中6.5~8.0のpHを有する。
【0153】
本発明に係るホエイタンパク質加水分解物は、調整粉乳などの乳児栄養で使用し得る。本発明の文脈において、「調整粉乳」という用語は、フォローオン調整粉乳、成長期用調整粉乳、及び早生児用調整粉乳をはじめとするあらゆる種類の調整粉乳を指す。
【0154】
本発明に係るホエイタンパク質加水分解物を調整粉乳で使用する場合、調整粉乳中のタンパク質含有量は1.6~5.0g/100kcalの範囲である。ホエイタンパク質加水分解物とは別に、調整粉乳は、脂質、ビタミン、及びミネラル、並びに炭水化物、例えば、ラクトース、及びオリゴ糖も含み得る。
【0155】
本発明に係るホエイタンパク質加水分解物はまた、調整粉乳以外の乳児栄養調製物、例えば、スムージー、ポリッジなどで使用することもできる。
【0156】
本発明のホエイタンパク質加水分解物は、好ましくは、乳児、より好ましくは、アレルギーを発症するリスクのある乳児用の調整粉乳で使用することを意図している。しかしながら、加水分解産物を医学的栄養用途などの他の目的に使用できることを除外するものではない。
【0157】
したがって、本発明のさらに別の実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、臨床飲料の調製において食物成分として使用される。本発明の文脈において、「臨床飲料」という用語は、臨床的又は医学的適応を有する飲料を指す。例えば、臨床飲料は、健康に関連する効果を有し得る。臨床飲料は、典型的には、栄養上の難題を抱える入院患者若しくは高齢者又は病状から回復するためにあらかじめ消化されたタンパク質を必要とする個人により使用される。例えば、臨床飲料は、栄養失調又は吸収不良を患っている個人に使用される飲料であり得る。臨床飲料は、胃腸疾患を患っている個人のためのものでもあり得る。本文脈では、「臨床飲料」及び「医学的飲料」は同じ意味を有する。
【0158】
臨床飲料は、例えば、本発明のホエイタンパク質加水分解物を、2~20重量%の加水分解されたホエイタンパク質を含む飲料に相当する量で含み得る。臨床飲料は、炭水化物を飲料の5~50重量%の量で含み得る。炭水化物の量は、例えば、10~40重量%、例えば15~35重量%の範囲であり得る。臨床飲料は脂肪も含み得る。例えば、臨床飲料中の脂肪含有量は、2~30重量%、例えば3~20重量%、より好ましくは3~18重量%の範囲であり得る。
【0159】
一例において、臨床飲料は、4~10重量%の加水分解されたホエイタンパク質、3~15重量%の脂肪、及び10~35重量%の炭水化物の量に相当する本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物を含む。
【0160】
臨床飲料は、好ましくは、中性のpH値、すなわち、6.5~8.0の範囲のpHを有する。
【0161】
臨床飲料は、透明飲料、乳飲料、経管栄養の形態、又は液体で復元される粉末の形態であってよい。
【0162】
一実施形態において、本発明のホエイタンパク質加水分解物はまた、ジューススタイルの飲料の調製でも使用できる。ジューススタイルの飲料は、好ましくは、4~10重量%の加水分解されたホエイタンパク質、0~1重量%の脂肪、及び15~35重量%の炭水化物に相当する量で本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物を含む。
【0163】
臨床飲料が経管栄養の形態である場合、本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物を、4~15重量%の加水分解されたホエイタンパク質、約5~35重量%の炭水化物、及び約3~15重量%の脂肪に相当する量で含み得る。
【0164】
本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、乳児における牛乳タンパク質に対するアレルギーのリスクを軽減するために使用できる。
【0165】
本発明の一実施形態において、ホエイタンパク質加水分解物は、それを必要とする患者において牛乳タンパク質に対するアレルギーのリスクを軽減するために使用できる。
【0166】
したがって、本発明は、それを必要とする乳児又は患者において、牛乳タンパク質に対するアレルギーのリスクを軽減するための、本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物に関する。
【0167】
さらに、本発明は、それを必要とする乳児又は患者において、アトピー性皮膚炎、喘息、及び/又はアレルギー性鼻炎の予防又は発症するリスクを低減するための、本発明にかかるホエイタンパク質加水分解物に関する。
【0168】
「アトピー性皮膚炎」という用語は、湿疹とも称される場合があり、アレルギー性鼻炎は花粉症と称される場合がある。
【0169】
本発明の態様の一つの文脈で記載される実施形態及び特徴は、本発明の他の態様にも適用されることに留意されたい。
【0170】
本出願において引用されるすべての特許文献および非特許文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0171】
次に本発明を以下の非限定的な実施例でさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0172】
実施例1
分析方法
実施例1.1:加水分解度(DH)の決定
加水分解度(DH)は、加水分解によって切断されたペプチド結合のパーセンテージとして定義される。以下の式(1)を参照。DH値は、利用可能なペプチド結合に関連する、形成されたペプチドの数に関する情報を与える。
【0173】
ホエイタンパク質加水分解物のDHは、Adler-Nissen,J.Determination of the degree of hydrolysis of food protein hydrolysates by trinitrobenzenesulfonic acid.J.Agric.Food Chem.27,1256-1262(1979)及びNielsen,P.M.,Petersen,D.&Dambmann,C.Improved method for determining food protein degree of hydrolysis.J.Food Sci.66,642-646(2001)で記載されるようにして測定した。式(1)中、hは、切断されたペプチド結合の数を表し、htotalは、利用可能なペプチド結合の総数を表す。したがって、DHは、切断されたペプチド結合のパーセンテージを与える。
式(1):DH=(遊離アミノ末端の数)/(利用可能なペプチド結合の総数)・100%=h/htotal・100%
【0174】
加水分解後に形成される遊離アルファ-アミノ基はo-フタルアルデヒド(OPA)と反応し、340nmの光を吸収し、したがって、分光光度法で測定できる黄色の複合体を形成する。色の形成に基づいてDHを算出できる。
【0175】
加水分解産物を水中に適切な濃度(0.03~0.08%タンパク質)で懸濁させ、2容積を2分間25℃で15容積のOPA試薬(100mM Na2B4O7、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム、6mM DL-ジチオレイトール、6mM o-フタルアルデヒド、及び2%エチルアルコール)と反応させた。同様の反応を行ってL-セリンの濃度系列を作製した。次に、340nmでの吸光度(A340)を測定し、OPAと水との反応からのA340シグナルを差し引いた。真のDHを求めるために、上清中で測定されたセリン当量を、トリニトロベンゼンスルホン酸法についてAdler-Nissenによって示唆されるようにして修正し[Adler-Nissen J;Agricultural and Food Chemistry,1979 27(6)1256]、記載されたOPA法と同じ応答が得られた。ホエイタンパク質加水分解物に使用した係数は、a=1、b=0.4、htotal=8.8であった。
【0176】
実施例1.2:全タンパク質の決定
サンプルの総タンパク質含有量(タンパク質当量)は:
1)ISO8968-1/2IIDF 020-1/2-乳-窒素含有量の決定-パート172:Kjeldahl法を使用した窒素含有量の決定に従ってサンプルの全窒素を測定すること
2)タンパク質の全量をNx6.38として算出すること
によって決定される。
【0177】
実施例1.3:ホエイタンパク質加水分解物におけるペプチド分布を決定する方法
分子ふるいクロマトグラフィー(SEC)を使用してホエイタンパク質加水分解物におけるペプチドの分子量分布を分析した。SECを使用して、ポリマータイプの分子をサイズによって分離する。異なるサイズの成分の混合物、ここではペプチドは、SECによって分離できる。溶出時間は分子のサイズに依存する。分子が小さいほど溶出時間は長くなる。
【0178】
サンプルを移動相中0.5%w/vの濃度になるように溶解させた。注入前に、サンプルを0.45μmフィルターでろ過した。クロマトグラフィー分離を、直列に結合させた三つのTSK G2000 SWXL(125Å、5μm、7.5mm×300mm)カラム上で実施した。0.0375Mリン酸塩緩衝液、0.375M塩化アンモニウム、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)、及び25%アセトニトリル(CH3CN)の緩衝液を毎分0.7mLの流量で移動相として使用した。ペプチドの検出は、214nmで測定するUV検出器を用いて実施した。保持時間に基づいて、ペプチドの分布をサイズにしたがって分割し、相対量は分子量にしたがって与えられる。
【0179】
実施例2 本発明のホエイタンパク質加水分解物の調製
実施例2は、本発明に係るホエイタンパク質加水分解物調製の一例を示す。
【0180】
フィード材料及び基質として、Arla Foods Ingredients製のホエイタンパク質濃縮物(WPC)であるLacprodan(登録商標)DI-8306の溶液を使用した。WPCを水中で8重量%のタンパク質濃度まで希釈した。溶液を約50℃まで加熱し、4.2%KOH/5.8%NaOHの溶液を使用してpHを7.0に調節した。Novozymes A/S製のNeutrase conc BGを16AU-N/kgタンパク質(AU-NはAnson Units-Neutraseを指す)の量で添加し、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの混合物を使用してpHを7に維持しながら第一加水分解ステップを開始した。約15分後、Biocatalysts製のPromod523MPDを12500GDU/kgタンパク質(GDUはゼラチン分解単位を指す)の量で添加し、pHを7に維持しながら加水分解を継続した。さらに15分後(加水分解開始から30分)、タンパク質量の27%に相当する4.2%KOH/5.8%NaOHの全量(kg)が添加されるまで(最初のpH調節に使用した量を含む)、pHを7に維持しながら14AU-A/kgタンパク質(AU-AはAnson Units-Alcalaseを指す)の量でNovozymes A/S製のAlcalase conc BGを添加し、加水分解をさらに75分間継続した後、加水分解溶液の温度を75℃に調節した。75℃での熱処理を30分間実施した後、温度を65℃に調節し、35AU-A/kgタンパク質の量のAlcalase conc BGを添加することによって第二加水分解ステップを実施した。加水分解を120分間継続し、続いて反応においてタンパク質(kg)量の7.3%に相当する量(kg)の10%クエン酸を添加した。
【0181】
第二加水分解ステップで120分間加水分解した後、90℃に加熱し、保持時間240秒で加水分解を停止して、酵素を不活化した。得られたホエイタンパク質加水分解物を逆浸透に供して水を除去し、続いて低温殺菌した後、噴霧乾燥し、最終粉末を収集した。
【0182】
実施例3-本発明のホエイタンパク質加水分解物の分析
本発明のホエイタンパク質加水分解物のペプチド分布を測定し、Nestle製の市販の調整粉乳組成物NAN HA1中のペプチドのペプチド分布と比較した。NAN HA1は、低アレルゲン性であることが知られている調整粉乳であり、乳タンパク質に対するアレルギーを発症するリスクのある健常な子ども用に販売促進されている。NAN HA1調整粉乳のタンパク質源はタンパク質加水分解物である。NAN HA1は多くの臨床研究で試験されており、アレルギーを発症するリスクのある乳児においてアレルギー反応/発現の予防に有効であることが示されている。しかしながら、以下の表1に示すように、NAN HA1のペプチド分布は本発明のホエイタンパク質加水分解物とは大きく異なっている。
【0183】
実施例2に記載するようにして調製した本発明のホエイタンパク質加水分解物のサンプル及びNAN HA1のサンプルを調製し、実施例1.3に開示した方法によってペプチドのサイズ分布を測定した。結果を表1に示す。本発明のホエイタンパク質加水分解物のサンプルを「WPHinvention」と称する。
【0184】
【0185】
表1に示すように、本発明のホエイタンパク質加水分解物のペプチドのサイズ分布は、NAN HA1中のペプチドのペプチドサイズ分布とは大きく異なる。例えば、本発明のホエイタンパク質加水分解物中のより大きなペプチドの量は、NAN HA1中(NAN HA1中のペプチドの24.9%が2500Da超の分子量を有する)よりも低い(ペプチドの4.5%が2500Da超の分子量を有する)。さらに、本発明のホエイタンパク質加水分解物中の375Da未満の小さなペプチドの量はNAN HA1中(9.3%)よりも高い(17%)。
【0186】
さらに、本発明のホエイタンパク質加水分解物の加水分解度(DH)及び灰分を決定した。DHは、実施例1.1で開示された方法にしたがって決定し、灰分は、GB.5009.4規格に従った重量法を使用してEurofins Laboratoriesで決定された。結果を表2に示す。
【0187】
【0188】
NAN HA1中のより大きなペプチドの量は本発明の加水分解産物中よりも高いので、NAN HA1で使用される加水分解産物のDHは、本発明の加水分解産物中よりも低いと推測される。例えば、NAN HA1中のペプチドの約51.6%は1250Da以上の分子量を有するが、本発明のホエイタンパク質加水分解物中のペプチドのうちの20%だけが1250Da以上の分子量を有する。
【0189】
本発明のホエイタンパク質加水分解物の灰分は、固形分の約4.8重量%であり、粉末形態のホエイタンパク質加水分解物(5~6%の水分を含む)中4.5重量%であった。ホエイタンパク質加水分解物中の灰の量は、他の類似のホエイタンパク質加水分解物と比較して驚くほど少ないことが判明した。
【0190】
実施例4 インタクトなタンパク質の存在の分析
本発明のホエイタンパク質加水分解物であるWPHinvention中のホエイタンパク質アルファ-ラクトアルブミン及びベータ-ラクトグロブリンの量は、HPLCを使用して測定した。
【0191】
サンプルを、2-メルカプトエタノールを還元剤として使用して6MグアニジンHCl緩衝液中に溶解させた。この分離は、変性タンパク質の分子ふるいクロマトグラフィー(SEC)に基づく。この方法は、サンプル溶媒及びHPLC移動相の両方として6MグアニジンHCl緩衝液を使用する。この分離は、二つのTSK-GEL G3000SWXL(7.7mm×30.0cm)カラムと直列のガードカラムとに基づき、原料中の主要タンパク質の適切な分離を達成する。アルファ-ラクトアルブミンの検出及び定量化はUV検出(280nm)によって実施する。ベータ-ラクトグロブリンは33.50分後に溶出し、アルファ-ラクトアルブミンは35.8分後に溶出する。HPLC分析の結果を
図1に示すが、検出可能なベータ-ラクトグロブリン又はアルファ-ラクトアルブミンがWPH
invention中に存在しないことは明らかである。
【0192】
実施例5 ELISAによるアレルギー誘発性の分析
本発明のホエイタンパク質加水分解物のアレルギー誘発性は、酵素結合免疫測定(ELISA)試験法R4901を使用してIntertek Food Services GmbHによって測定された。R4901アッセイは、加水分解された乳製品又はベビーフード中のベータ-ラクトグロブリン(BLG)含有量を定量的に決定する競合的酵素イムノアッセイである。アッセイキットは、RIDASCREENベータ-ラクトグロブリンとして知られ、R-Biopharm AG(品番:R4901)から入手可能である。マイクロタイターウェルをBLGでコーティングし、標準、サンプル溶液、及び抗BLGを添加する。遊離BLG及び固定化BLGは抗体結合部位について競合する。洗浄後、ペルオキシダーゼで標識された二次抗体を添加し、抗体-BLG複合体に結合させる。次いで、非結合酵素複合体を洗浄ステップにより除去する。発色性酵素基質をウェルに添加する。結合した酵素複合体は、無色の発色性基質を着色生成物に変換する。測定は測光的に行われ、吸収はサンプル中のBLG濃度に反比例する。
【0193】
以下のサンプルを分析した:
・WPHinvention-実施例2で得られたホエイタンパク質加水分解物
・NAN HA1
・Arla Foods Ingredients製のPeptigen(登録商標)IF-3080(23~29%のDHを有する限外ろ過ホエイタンパク質加水分解物)
【0194】
「n=3」及び「n=4」という用語は、それぞれ、三つのサンプル及び四つのサンプルを試験したことを意味する。結果を表3に示す。
【0195】
さらに、ホエイタンパク質加水分解物を調製するために使用した原料中のインタクトな加水分解されていないタンパク質の量を算出することができ、したがって、ベータ-ラクトグロブリン(BLG)含有量の減少倍率を算出することもできる。本発明に係るホエイタンパク質加水分解物は、54%のBLG、すなわち、540,000mgBLG/kg粉末を含むホエイタンパク質濃縮物を使用することによって調製される。粉末中のタンパク質含有量は80重量%であり、したがって、BLGの量は432,000mgBLG/kgタンパク質に相当する。BLGの減少倍率も表3に示す。
【0196】
【表3】
*WPH
invention中のインタクトな加水分解されていないBLGとBLGとの比は(432000:300=1440)として算出した。
【0197】
表3に示すように、本発明のホエイタンパク質加水分解物中のBLG含有量は少なくとも1440分の1に減少した。WPHinventionのBLG含有量、したがってアレルギー誘発性は、NAN HA1のアレルギー誘発性と類似し、予想どおり、アレルギー誘発性は限外ろ過加水分解産物Peptigen(登録商標)IF-3080についても低い。加水分解産物を限外ろ過することによって、より大きなペプチドが除去される。NAN HA1のアレルギー誘発性は臨床試験から低いことが知られているが、WPHinventionのアレルギー誘発性もNAN HA1と同程度に低いことが予想される。なぜなら二つの生成物中のBLG含有量は類似しているからである。したがって、本発明のタンパク質加水分解物及びNAN HA1は類似した低いアレルギー誘発性を有する。
【0198】
実施例6 脱顆粒の分析
アレルゲン性の測定値としての本発明のホエイタンパク質加水分解物の脱顆粒を分析した。
【0199】
脱顆粒、したがってアレルゲン性は、RBL細胞アッセイを使用することによりPolpharma Biologicsによって測定された。RBL(ラット好塩基球白血病)細胞は、ベータ-ラクトグロブリンに対する六つの異なるキメラ(マウス/ヒト)抗体のプールで感作された。様々な加水分解産物に曝露した場合、(細胞外ヘキソサミニダーゼ活性を測定することにより)細胞の脱顆粒を測定し、アレルゲン性を決定した。
【0200】
脱顆粒とは、加水分解産物からのエピトープが抗体と結合した結果、抗体が架橋し、メディエータが放出され、最終的にアレルギー応答が起こることを指す。
【0201】
脱顆粒が無いか又は低いという結果は、加水分解産物からのエピトープが加水分解プロセスで破壊/減少しているので、このエピトープの結合及び架橋が減少していることを示すものである。
【0202】
加水分解タンパク質を含む市販の調整粉乳NAN HA1と同様に、本発明のホエイタンパク質加水分解物(WPHinvention)の脱顆粒効果を分析し、アレルゲン性を決定した。
サンプル1~3:NAN HA1
サンプル4~6:WPHinvention
結果を下記表4に示す。
【0203】
【0204】
したがって、表4のデータは、本発明のホエイタンパク質加水分解物のアレルゲン性がNAN HA1のアレルゲン性よりも低いことを示し、すなわち、本発明の加水分解産物を使用する場合、エピトープに対する抗体の架橋能が、NAN HA1を使用する場合よりも低いことを示す。WPHinventionのアレルゲン性は、500mgBLG/kgタンパク質よりも低い。反対に、NAN HA1の脱顆粒によって測定したアレルゲン性は、80×103mgBLG/kgタンパク質よりも高い。
【0205】
したがって、NAN HA1は臨床試験ではアレルゲン性でないことが示されているが、アレルゲン性(脱顆粒)は、本発明のホエイタンパク質加水分解物よりも150倍超高い。
【0206】
実施例7 免疫原性及びアレルゲン性/感作の分析
本発明のホエイタンパク質加水分解物の免疫原性及びアレルゲン性/感作を、食物アレルギー感作についてのBrown Norwayラットモデルを用いて、ホエイタンパク質濃縮物及び広範に加水分解され、ろ過されたホエイタンパク質産物と比較した。感作はアレルギーの前兆であるので、アレルゲン性のマーカーとされる。
【0207】
Brown Norwayラットは、IgE応答が高く、そのため、アレルギーを発症する素因がアトピー体質のヒトに似せるのに好適になる。Brown Norwayラットモデルを使用した実験は、デンマーク工科大学によって実施された。Brown Norwayラットモデルは、論文“Characterization of the Immunogenicity and Allergenicity of two Cow’s Milk Hydrolysates-A Study in Brown Norway Rats”、Boegh et al.、Scandinavian Journal of Immunology、2014年12月23日公開、DOI:10.1111/sji.12271に記載されている。
【0208】
免疫原性及び感作を評価するために、ラットに1用量あたり100μg又は200μgのサンプル/産物を腹腔内注射し、“Preclinical Brown Norway Rat Models for the Assessment of Infant Formulas in the Prevention and treatment of Cow’s Milk Allergy”, Jensen et al.、International Archives of Allergy and Immunology、2019年2月13日公開、 DOI: 10.1159/000495801 and Boegh et al,2014で開示されているようにしてELISAアッセイを用いて特異的IgG1及び特異的IgE抗体を測定した。可能であれば、産物の感作の差を調査するために100μgの用量を使用して、最大感作を確実にするために、200μgの用量を使用した。産物の免疫原性及び感作は、Arla Foods Ingredients製のインタクトなホエイ産物WPC Lacprodan(登録商標)DI-8306に対する特異的IgG1(免疫原性)及び特異的IgE(感作/アレルゲン性)抗体のレベルに基づいて評価した。
【0209】
ラットは、少なくとも10世代にわたり牛乳を含まない飼料で飼育され、したがって、牛乳に対して無感作であった。動物は5~8週令であり、水及び飼料は自由摂取させ、マクロロンケージ(macrolon cage)中、同性3匹1組で保管した。ラットの他の条件は、Jensen et al.,2019及びBoegh et al.,2014に開示されている。
【0210】
ラットを試験中3回;第0日、第14日、及び第28日に0.5mL/動物の溶液で腹腔内免疫化した。血液サンプルは、動物を第35日に処分した時に収集した以外にも、第21日及び第28日にも舌静脈から採取した。Jensen et al.,2019及びBoegh et al.,2014で開示されているようにして、全ての血液サンプルを収集し、血清に変換して、血清を得た。Jensen et al.,2019及びBoegh et al.,2014に開示されているようにして二つの異なるELISAを用いて、血清を特異的IgG1(免疫原性)及び特異的IgE(感作)について分析した。
【0211】
以下のサンプルの免疫原性(IgG1)及び感作(IgE)を試験した:
・PBS(リン酸緩衝食塩水)。
・WPC:Arla Foods Ingredients製のホエイタンパク質濃縮物Lacprodan(登録商標)DI-8306からのインタクトなホエイタンパク質を使用した。
・広範に加水分解されたWPC1:25~30の加水分解度を有する、Arla Foods Ingredients製の広範にろ過された加水分解されたホエイタンパク質、Peptigen(登録商標)IF-3080(バッチ1)を使用した。
・広範に加水分解されたWPC2:25~30の加水分解度を有する、別の広範にろ過された加水分解されたホエイタンパク質加水分解物であるPeptigen(登録商標)IF-3080(バッチ2)を使用した。
・部分的に加水分解されたWPC1:本発明の方法の第一ステップによって調製されたが、熱処理及び二次加水分解を行っていないホエイタンパク質加水分解物。
・部分的に加水分解されたWPC2:実施例2の方法にしたがって調製された本発明のホエイタンパク質加水分解物。部分的に加水分解されたWPC2は、先の実施例におけるWPHinventionに相当し、約23.5の加水分解度を有する。
【0212】
全てのサンプルをPBS中に溶解させ、ラットに腹腔内注射した。
【0213】
図2A、B、及びCは、それぞれ、第21日、第28日、及び第35日のラット血清におけるIgG1力価を示す。PBSを投与した対照群と比較した、異なる群間の統計的有意差を星印で示す:*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、****p≦0.0001。GraphPad Prism version 7.00(San Diego,CA,USA)を使用して統計分析を行った。A)は、二回目の投与の一週間後(第21日)の特異的IgG1を示し、B)は、二回目の投与の二週間後(第28日)の特異的IgG1を示し、C)は、三回目の投与の一週間後(第35日)の特異的IgG1を示す。
【0214】
図2A~Cから、免疫化後、本発明のホエイタンパク質加水分解物及びホエイタンパク質濃縮物で免疫化された群はすべて、対照群と比較してLacprodan(登録商標)DI-8306に対して有意に高い特異的IgG1レベルを発現したことは明らかであり、これらの産物が免疫原性IgG応答を誘導したことを意味する。反対に、広範に加水分解されたホエイタンパク質を注射したラット群では、血清中でIgGは検出されず、広範に加水分解されたホエイタンパク質加水分解物は免疫原性IgG応答を誘導しなかったことを意味する。
【0215】
図3A、B、及びCは、それぞれ、第21日、第28日、及び第35日のWPC Lacprodan(登録商標)DI-8306に対する特異的IgEの力価としての感作を示す。異なる群間の統計的有意差を星印で示す:*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001、**** p≦0.0001。A)は、二回目の投与の一週間後(第21日)の特異的IgEを示し、B)は、二回目の投与の二週間後(第28日)の特異的IgEを示し、C)は、三回目の投与の一週間後(第35日)の特異的IgEを示す。
【0216】
図3は、広範に加水分解されたWPC1及びWPC2又は部分的に加水分解されたWPC1若しくはWPC2によって免疫化された動物よりも、WPCによって免疫化された動物の方が、28日後のIgE力価が高いことを示す。したがって、本発明のホエイタンパク質加水分解物及び広範に加水分解されたホエイタンパク質加水分解物の感作は低い。35日後、部分的に加水分解されたWPCの力価は、広範に加水分解されたWPCの力価よりも高い。本発明の部分的に加水分解されたWPC2の力価は、35日後のWPCの力価よりも低い。
【手続補正書】
【提出日】2023-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の特徴を有するホエイタンパク質加水分解物:
i)2500Da以上の分子量を有するペプチドを総タンパク質含有量の7.5重量%以下の量で含むこと;
ii)RBL細胞アッセイで測定して500mgBLG/kgタンパク質未満のベータ-ラクトグロブリン(BLG)濃度に相当するアレルゲン性;
iii)加水分解されていないホエイタンパク質と本質的に同じである、免疫化動物の血清IgG力価に基づく免疫原性;
iv)インタクトなタンパク質を本質的に含ま
ず、かつ前記加水分解度が少なくとも17%であること。
【請求項2】
前記加水分解度が17%~30%の範囲である、請求項
1に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項3】
前記ベータ-ラクトグロブリン濃度が、ELISAアッセイを用いて測定して500mg/kg全タンパク質未満である、請求項1~
2のいずれか一項に記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項4】
ホエイタンパク質加水分解物が、前記固形分の6.0重量%以下の範囲の灰量を含む、請求項1~
3のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項5】
ホエイタンパク質加水分解物を調製する方法であって:
a)ホエイタンパク質を含む溶液を提供するステップと;
b)少なくとも、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来のサブチリシン、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)由来のサーモリシン、及びアナナス・コモスス(Ananas comosus)由来のシステインエンドプロテアーゼを、ホエイタンパク質を含む溶液に添加し、第一加水分解ステップを実施するステップと;
c)温度を少なくとも60℃に調節し、前記温度を少なくとも60℃で残りの折りたたまれたタンパク質のアンフォールディングに充分な時間維持することによって、ステップb)の加水分解された溶液を熱処理するステップと;
d)ステップc)の熱処理された溶液の温度を50℃~70℃の温度に調節するステップと;
e)ステップd)の加水分解産物に少なくともバチルス・リケニフォルミス由来のサブチリシンを添加し、第二加水分解ステップを実施するステップと;
f)加水分解度が少なくとも17%である場合に酵素を不活化するステップと
を含み、ホエイタンパク質加水分解物を得る、方法。
【請求項6】
得られたホエイタンパク質加水分解物の限外ろ過を含まない、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記第一加水分解ステップb)が少なくとも45分間である、請求項
5及び
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記pHが6.0~7.5である、請求項
5~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1~
4のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物を含む食品。
【請求項10】
乳児栄養製品である、請求項
9に記載の食品。
【請求項11】
それを必要とする乳児又は患者において牛乳タンパク質に対するアレルギーのリスクを低減する際に使用するための、請求項1~
4のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【請求項12】
それを必要とする乳児又は患者においてアトピー性皮膚炎、喘息、及び/又はアレルギー性鼻炎を予防又は発症のリスクを低減するための、請求項1~
4のいずれかに記載のホエイタンパク質加水分解物。
【国際調査報告】