(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】洗濯洗浄用途向けのバイオベースの分散剤
(51)【国際特許分類】
C11D 3/382 20060101AFI20240315BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20240315BHJP
C07G 1/00 20110101ALN20240315BHJP
【FI】
C11D3/382
C08L101/16 ZBP
C07G1/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023555755
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2022056532
(87)【国際公開番号】W WO2022194774
(87)【国際公開日】2022-09-22
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513013182
【氏名又は名称】ボレガード アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100227592
【氏名又は名称】孔 詩麒
(72)【発明者】
【氏名】ロス ヨハンネス エリス
【テーマコード(参考)】
4H003
4J200
【Fターム(参考)】
4H003DA01
4H003EB46
4H003FA06
4J200AA26
4J200BA38
4J200DA21
4J200EA11
(57)【要約】
本発明は、洗濯洗剤組成物における添加剤としての、スルホン化度及び酸化度の特定の組み合わせを有するリグニン誘導体の使用に関する。さらに、本発明は、前記リグニン誘導体を含む洗濯洗剤組成物及び洗濯物の洗浄方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯洗剤組成物における添加剤としてのスルホン化リグニン誘導体の使用であって、
前記スルホン化リグニン誘導体は、リグニンに結合したスルホネート基に関連する有機硫黄の量が、リグニン誘導体の全乾燥固体重量に対する乾燥固体で測定して、少なくとも4.5%w/w、好ましくは4.5%w/w~14%w/w、さらに好ましくは6%w/w~10%w/wであり、そしてカルボキシレート含有量が、リグニン誘導体の全乾燥固体重量に対する乾燥固体で測定して、少なくとも6%w/w、好ましくは6%w/w~30%w/w、さらに好ましくは6%w/w~20%w/wであることを特徴とし、
前記有機硫黄の量及び前記カルボキシレート含有量は、明細書に記載されているように決定される、使用。
【請求項2】
前記リグニン誘導体は、天然リグニンを亜硫酸パルプ化プロセスで処理することによって得られ、前記亜硫酸パルプ化プロセスの後に、場合により、1つ以上のパルプ化後スルホン化工程を行う、又は、
前記リグニン誘導体は、天然リグニンをクラフトパルプ化プロセスで処理し、続いて、1つ以上のパルプ化後スルホン化工程を行うことによって得られる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記1つ以上のパルプ化後スルホン化工程以外のパルプ化後工程は適用されない、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記リグニン誘導体はリグノスルホネートであり、場合によりさらに1つ以上のパルプ化後スルホン化工程を受けたものであるか、又は、前記リグニン誘導体はスルホン化クラフトリグニンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
前記リグニン誘導体は、亜硫酸パルプ化、クラフトパルプ化又は1つ以上のパルプ化後スルホン化工程以外のいかなる官能化工程も受けていない、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記リグニン誘導体は、亜硫酸パルプ化、クラフトパルプ化又は1つ以上のパルプ化後スルホン化工程から得られる官能基以外の官能基を含まず、好ましくは前記スルホン化工程は少なくとも以下のものから選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用:少なくとも1つの亜硫酸塩を使用した追加の亜硫酸塩蒸解又はスルホメチル化反応。
【請求項7】
前記リグニン誘導体は、亜硫酸パルプ化から得られたリグノスルホネートである、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記リグニン誘導体は、スルホン化クラフトリグニンである、請求項1~6のいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
前記リグノスルホネートは、カルボキシメチルセルロース(CMC)と組み合わせて使用される、請求項4~8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
前記リグニン誘導体の平均分子量は、明細書中に特定されるように測定して、100,000Da未満、好ましくは2,000Da~100,000Da、好ましくは5,000Da~100,000Da、さらに好ましくは10,000~100,000である、請求項1~9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
前記リグニン誘導体は、非天然疎水性置換基を含まない、請求項1~10のいずれか1項に記載の使用。
【請求項12】
前記リグニン誘導体は、洗濯洗浄プロセス中に布帛への汚れの再付着を防止するために使用される、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のリグニン誘導体を含む、洗濯洗剤組成物。
【請求項14】
前記リグニン誘導体は、洗濯洗剤組成物中に、洗剤配合物の総重量に基づいて、0.01~10%w/w、好ましくは0.1~5%w/w、さらにより好ましくは1~5%w/wの量で含まれる、請求項13に記載の洗濯洗剤組成物。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載のスルホン化リグニン誘導体と洗濯物を接触させる工程を含む、洗濯物を洗浄するための方法。
【請求項16】
洗剤スラリー組成物の粘度を低下させるための、請求項1~12のいずれか1項に記載のリグニン誘導体の使用であって、
前記リグニン誘導体は、前記洗剤スラリー組成物の総重量に基づいて、0.001~15%w/w、好ましくは0.1~10%w/w、より好ましくは0.2~5%w/wの量で存在する、
使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、洗濯洗剤組成物中の添加剤としての、スルホン化度及び酸化度の特定の組み合わせを有するリグニン誘導体の使用に関する。さらに本発明は、前記リグニン誘導体を含む洗濯洗剤組成物及び洗濯洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
洗濯物、特に衣類は、親水性の高い汚れ(例えば、粘土)から疎水性の高い汚れ(例えば、油及びグリース)まで、様々な異なる汚れで汚れる可能性がある。したがって、親水性及び疎水性の汚れを含む広範囲の異なる汚れを除去できる洗濯洗剤組成物が一般に求められている。その目的を達成するために、界面活性剤、キレート剤、酵素、ビルダーなどの成分の複雑な混合物を含む洗濯洗剤組成物が開発されてきた。このような洗濯洗剤組成物は、しばしば、汚れを分散させ、洗濯物への汚れの再付着を防止するための分散剤をさらに含む。
【0003】
とりわけ、エトキシル化ポリアルキレンイミン及びポリカルボキシレートは分散剤として使用されている。しかしながら、そのような化合物は一般に石油由来であり、実験室の化学合成プロセスを介して調製されるため、非常に高価で環境に優しくない。
【0004】
したがって、洗濯洗剤組成物に使用するための、バイオベースで環境に優しく、なおも効果的な分散剤に対する需要が一般に高い。
【0005】
リグニン誘導体は、洗濯洗剤組成物の成分として使用されている。
【0006】
リグニン(「天然リグニン」とも呼ばれる)は、自然界で最も豊富な有機材料の1つであり、樹木及び他の植物に強度と支持を提供する。リグニンはバイオポリマー、より正確にはバイオポリマーの混合物であり、植物の支持組織、特に植物に剛性を与える細胞壁に存在する。リグニンはフェノール系ポリマー、より正確にはフェノール系ポリマーの混合物である。リグニンの具体的な構造及び組成は植物に依存するため、リグニンが由来する植物によって異なる。天然の形態、すなわち植物中に存在するリグニンは、芳香族主鎖構造を含み、一般に疎水性で水不溶性である。リグニンは、時に、セルロース骨格における「グルー」とも呼ばれる。
【0007】
例えば、国際公開第WO03/062254号明細書は、米国特許第6,207,808号明細書、米国特許第6,100,385号明細書及び米国特許第5,230,814号明細書に記載されているような、クラフトリグニン又は接触還元を介したリグノスルホネートに由来するリグニンフェノール及びリグニンフェノール誘導体の、家庭用クリーニング及び洗濯洗剤組成物における使用を報告している。しかしながら、これらのリグニンフェノール及びリグニンフェノール誘導体の調製には、かなり過酷な化学合成を使用する必要があり、コスト及び環境への影響が増加する。
【0008】
さらに、国際公開第WO2010/033743号明細書は、洗浄組成物における変性リグニンポリマーの使用を報告している。リグニンポリマーは、ランダムに置換されたリグニン主鎖を含み、ランダムに置換されたリグニン主鎖上のヒドロキシル基の2つ以上がR置換基で置換されており、各R置換基は独立して、置換重量パーセントが0%~75%の窒素含有置換基R1、置換重量パーセントが0%~90%のアニオン性置換基R2、置換重量パーセントが0%~90%のアルコキシ置換基R3及びこれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれるR置換基タイプであり、ただし、ランダムに置換されたリグニン主鎖は少なくとも2つの異なるR置換基タイプを含むことを条件とする。しかしながら、ここでも、これらのリグニン誘導体の調製には専用実験室化学の使用が必要であり、そのコスト及び環境への影響が増加する。
【0009】
したがって、全体として、洗濯洗剤組成物中の添加剤として使用するための、バイオベースで環境に優しく、低価格でありながら効果的な分散剤が非常に求められている。
【発明の概要】
【0010】
本発明の概要
上記に基づいて、本発明の目的は、洗濯洗剤組成物中の添加剤として使用するための、バイオベースで持続可能に調達され、製造が容易で非常に効果的な分散剤を提供することである。さらに、分散剤は、高価な化学物質/反応体を必要とせずに、天然由来材料を使用して工業規模のプロセスで容易かつ費用効果よく調製できることが望ましい。工業プロセスにおいて副生成物として生成され、したがって大量に入手可能な化合物を使用することが特に望ましい。
【0011】
これらの目的は、本発明のスルホン化リグニン誘導体によって達成される。本発明は、スルホン化度及び酸化度(リグニン中のカルボキシレート基の含有量として測定される)の特定の組み合わせを有するリグニン誘導体が、洗濯物の洗浄目的に有効な再付着防止助剤であるという驚くべき発見に基づいている。しかしながら、すべてのスルホン化リグニン誘導体、特にすべてのリグノスルホネートがこれらの再付着防止効果を示すわけではなく、実際、この効果はスルホン化度とカルボキシレート含有量の特定の組み合わせに基づいている。
【0012】
本発明によれば、本発明者らは、少なくとも4.5%w/w、好ましくは4.5%w/w~14%w/w、さらに好ましくは6w/w%~10%w/wの有機硫黄(乾燥固体で測定)を達成するスルホン化度、及び少なくとも6%w/w、好ましくは6%w/w~30%w/w、さらに好ましくは6%w/w~20%w/wのカルボキシレート(COOH)含有量(これも乾燥固体で測定される)を有するリグノスルホネート誘導体は、洗濯洗浄プロセス中に布帛上への汚れの再付着を効果的に低減又は防止することを発見した。
【0013】
「有機」硫黄の量(%S(org)、すなわち、リグニンに結合したスルホネート基に関連する硫黄の量)、すなわち、スルホン化度は、総硫黄%S(tot)及び無機硫黄%S(inorg)との差異に基づいて以下の関係を用いて決定される:%S(org)=%S(tot)-%S(inorg)。総硫黄は、元素分析装置、例えば ThermoQuest NCS 2500で測定する。適切なサンプル量(例えば、1~2mg)を、適切な触媒(例えば 、五酸化バナジウム)とともにスズカプセルに入れる。次に、2,5-ビス(5-tert-ブチル-2-ベンゾ-オキサゾール-2-イル)チオフェン(BBOT)標準又は他の適切な硫黄標準を使用して、サンプル中の総硫黄を定量する。サンプルは1400℃で燃焼され、すべての硫黄がSO2に酸化されて定量される。無機硫黄は、導電率検出付きイオンクロマトグラフィー(例えば、13mM OH溶離液を含むIonPac AS11-HCカラムを使用するDionex装置)を使用して酸化サンプル中のスルフェートを測定することによって測定される。30mgのサンプルを秤量して50mlメスフラスコに入れる。10mlの0.5% NaOH及び5mlの3% H2O2を加えて、硫黄含有無機アニオンを酸化してスルフェートにする。次にサンプルを12~16時間放置して反応させる時間を与える。Milli-Q水を加え、2mlの5% CH3COOHを加えてpHを中和し、Milli-Q水で標線まで希釈する。スルフェート標準は5mg/l~80mg/lで調製される。次に、酸化されたサンプル中のスルフェート含有量は、機器マニュアルに従ってイオンクロマトグラフィーを使用して測定される。
【0014】
「カルボキシレート」、すなわち、COOH基の量は、C.W. Denceの参考書 “Methods in Lignin Chemistry”のサブチャプタ7.5.2(“Determination of carboxyl Groups by Nonaqueous Potentiometric Titration”)、S. Y. Lin及びC. W. Dence, Springer-Verlag Berlin Heidelberg, 1992, p 458-464に記載されている電位差滴定によって測定される。この量は、リグニン誘導体の全乾燥固体重量に対するカルボキシレートンの重量%として表される。この標準的な参考書の詳細については、前のパラグラに提供される。
理論に束縛されるものではないが、リグノスルホネート誘導体の再付着防止性能を特徴づけるのは、主に、あるいは支配的にCOOH含有量(COOR含有量ではない)であると考えられている。したがって、特にCOOH含有量は測定され、請求される。
【0015】
さらに、驚くべきことに、洗濯洗剤中での再付着防止性の改良を示すスルホン化リグニン誘導体を得るのに「実験室化学」(合成)は必要なく、そのような誘導体は亜硫酸パルプ化から直接得ることができることが判明した。この発見により、洗濯洗剤組成物中の添加剤として使用するための、費用効果が高く、バイオベースで環境に優しく、なおも非常に効果的な分散剤の提供が可能になる。
しかしながら、すべてのスルホン化リグニン誘導体、特にすべてのリグノスルホネートが、本明細書で規定され、有利な防汚性及び再付着防止特性を得るために必要な程度のスルホン化度及びカルボキシレート含有量を有するわけではない。適切な条件は、特許請求の範囲に記載されているリグニン誘導体中のスルホン化度とカルボキシレート含有量の組み合わせによって最もよく説明される。当業者は一般に、例えば、S. A. Rydholmによる標準教科書“Pulping Processes”, Interscience Publishers 1965, 例えばpages 773 - 775に記載されているように、これらの特徴的なパルプパラメータを達成するためにパルプ化プロセス条件を調整する方法を理解している。上記段落[0013]及び[0014]に記載されているように、パルプ化条件を調整し、スルホネート及びカルボキシレート含有量を決定する。
【0016】
第一の態様において、本発明は、洗濯洗剤組成物中の添加剤としてのスルホン化リグニン誘導体の使用に関する。リグニン誘導体は、リグニン誘導体の全乾燥固体重量に対する乾燥固体で測定して、少なくとも4.5%w/w、好ましくは4.5%w/w~14%w/w、さらに好ましくは6%w/w~10%w/wの有機硫黄の「有機」硫黄の量(すなわち、リグニンに結合したスルホネート基に関連する硫黄の量)、すなわち、スルホン化度を有し、リグニン誘導体の全乾燥固体重量に対する乾燥固体で測定して、少なくとも6%w/w、好ましくは6%w/w~30%w/w、さらに好ましくは6%w/w~20%w/wのカルボキシレート(COOH)含有量を有することを特徴とする。
スルホン化度(すなわち、「有機」硫黄含有量)及びカルボキシレート含有量(-COOH-基含有量)は、それぞれ段落[0013]及び[0014]で上記に記載されているとおりである。
【0017】
第二の態様において、本発明は、本明細書で規定されるとおりのスルホン化リグニン誘導体を含む洗濯洗剤組成物に関する。
【0018】
第三の態様において、本発明は、洗濯物を本明細書に記載のスルホン化リグニン誘導体と接触させる工程を含む、洗濯物の洗浄方法に関する。
【0019】
第四の態様において、本発明は、加工中の洗剤スラリーの粘度を低下させるための、本明細書に規定されるとおりのリグニン誘導体の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、亜硫酸パルプ化から得られるリグノスルホネート分子の例示的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
本発明は、スルホン化リグニン誘導体が少なくとも4.5%w/w、好ましくは4.5%w/w~14%w/w、さらに好ましくは6%w/w~10%w/wの有機硫黄に達するスルホン化度及び少なくとも6%w/w、好ましくは6%w/w~30%w/w、さらに好ましくは6%w/w~20%w/wのカルボキシレート含有量を有する場合、洗濯洗浄プロセス中に布帛上への汚れの再付着を低減及び/又は防止するのに特に効果的であるという驚くべき発見に少なくとも部分的に基づいており、ここで重量%は、リグニン誘導体の全乾燥固体重量に対して与えられる。
【0022】
スルホン化度(すなわち、「有機」硫黄含有量)及びカルボキシレート含有量(-COOH-基含有量)は、それぞれ段落[0013]及び[0014]で上記に記載されている通りである。
【0023】
特に、洗濯物への汚れの再付着を最小限に抑えるという有利な特性は、工業的な亜硫酸パルプ化からの副生成物として得られるリグニン誘導体、又は、単にスルホン化反応を受けているだけのクラフトパルプ化から得られるリグニン誘導体を用いて得ることができることが判明した。したがって、従来技術のアプローチとは対照的に、専用の合成ルート/実験室化学を介して特定の官能基を導入する必要なく、非常に効果的なリグニンベースの分散剤を得ることができることが判明した。必要に応じて、スルホン化度を微調整するための1つ以上のパルプ化後スルホン化工程を実施してもよい。しかしながら、このような手順は必ずしも必要というわけではない。
【0024】
リグニンに非バイオベースの炭素(すなわち、リグニンに由来しない炭素)を導入せずにスルホネート/カルボキシレート含有量を最適化するパルプ化後方法の例としては、スルホン化及び様々な種類の酸化(例えば、熱処理、酸素、過酸化物、オゾンなど)が挙げられる。しかしながら、好ましい実施形態において、リグノスルホネートのパルプ化後の化学修飾は行われない。
【0025】
ある実施形態において、リグノスルホネートは、再付着防止特性を高めるためにカルボキシメチルセルロース(CMC)と組み合わせて使用される。理論に束縛されるものではないが、CMCは布帛表面への吸着を通じて作用して負の表面電荷を伝達し、一方、リグノスルホネートは汚れ粒子の表面に吸着して負の電荷を伝達すると考えられている。これにより、汚れと布帛との間に反発相互作用が生じ、再堆積が防止される。
【0026】
さらなる実施形態において、リグノスルホネートは布帛表面からの汚れの解放も助ける。理論に束縛されるものではないが、この解放機能は、主鎖が疎水性であり、スルホンネート基が親水性であるリグノスルホネートポリマーの両親媒性特性によるものと考えられる。両親媒性は洗剤の界面活性に寄与し、これが布帛表面からの汚れの解放に主に関与していると考えられる。
【0027】
さらなる実施形態において、洗濯洗剤中のリグノスルホネートは、加工助剤として(も)使用される。リグノスルホネートはスラリーの粘度を低下させ、洗濯洗剤粉末の噴霧乾燥、又は、水を減らして密度を高めるための錠剤のプレスに有用である。
【0028】
本明細書で言及されるときに、「スルホン化リグニン誘導体」は、スルホネート基を導入することによって天然リグニンから得られるリグニン誘導体である。スルホンネート基は、本明細書で定義されるときに、硫黄原子がリグニン主鎖の炭素原子に結合している、構造-SO3
-の官能基である。-SO3H基も、本明細書で使用されるときに、「スルホネート基」という用語に含まれる。
【0029】
例示的なスルホン化リグニン誘導体(亜硫酸パルプ化から得られるとおり)を
図1に示す。スルホネート基は一般に異なる方法で導入できるが、スルホネート基は亜硫酸パルプ化によって導入されることが好ましい。
【0030】
「亜硫酸パルプ化」は、木材/植物材料処理の分野で知られている。亜硫酸パルプ化は、リグノセルロース系バイオマス(すなわち、植物物質)からほぼ純粋なセルロース繊維を製造するために使用できる。この「パルプ化」は、典型的に、蒸解釜と呼ばれる大きな圧力容器内で様々な亜硫酸塩を使用してリグノセルロース系バイオマスからリグニンを抽出することによって行われる。亜硫酸塩パルプ化中に、リグニン分子はスルホン化され、それによって水溶性になる。本発明によれば、「亜硫酸パルプ化」は、リグノセルロース系バイオマス又はその誘導体を少なくとも1つの亜硫酸塩と反応させるプロセスを指す。前記パルプ化プロセスで使用される塩は、好ましくは亜硫酸塩(SO3
2-)又は重亜硫酸塩(HSO3
-)である。パルプ化条件、供給材料及び行う可能性のある後処理に応じて、リグノスルホネートポリマーは、分子量、スルホン化度、共役度、カルボキシレート基 (-COOH)、フェノール基などの様々な構造及び化学官能基を有することができる。
【0031】
したがって、リグノスルホネートは、非常に多様なクラスの材料を表す。亜硫酸パルプ化から得られるリグノスルホネート分子の例示的な図を
図1に示す。
【0032】
亜硫酸塩パルプ化から製造されるリグノスルホネートのスルホン化度及びカルボキシレート含有量は、パルプ化条件を変えることによって適切に調整でき、亜硫酸塩含有量が高く、温度が高いほど、一般にスルホン化度が高くなり、厳しい条件(例えば、高温)であるほど、一般に、より高いカルボキシレート含有量を特徴とする、より酸化されたリグニン構造が得られる。
【0033】
「クラフトパルプ化」(「硫酸塩パルプ化」とも呼ばれる)は、木材/植物材料の別の処理プロセスである。クラフトプロセスでは、白液として知られる、水、水酸化ナトリウム及び硫化ナトリウムの高温混合物で木材チップを処理し、リグニン、ヘミセルロース及びセルロースを結ぶ結合を破壊する。クラフトリグニンは、沈殿した非スルホン化アルカリ性リグニンとして記載できる。クラフトリグニンは、クラフトリグニンが水溶性ではないという点でリグノスルホネートとは構造的及び化学的に異なる。したがって、クラフトリグニンが洗濯洗剤組成物に使用されるならば、クラフトリグニンは、まず、スルホン化によって水溶性にされなければならない。クラフトリグニンのスルホン化には、亜硫酸パルプ化又は他のスルホン化反応を使用することができる。
【0034】
本出願の関係で使用されるときに、「リグノスルホネート」という用語は、亜硫酸イオン及び/又は重亜硫酸イオンの存在下に、例えば木材などのリグニン含有材料の亜硫酸パルプ化中に形成されるあらゆるリグニン誘導体を指す。例えば、リグニンベースの材料の酸性亜硫酸パルプ化中に、酸触媒によるエーテル開裂の結果として、リグニン中に求電子性炭素カチオンは生成される。したがって、リグニンは、リグノスルホネートの生成下で、これらの炭素カチオンを介して亜硫酸イオン又は重亜硫酸イオンと反応することができる。
【0035】
本明細書で使用されるときに、「クラフトリグニン」は、クラフトパルプ化プロセスから得られるリグニン生成物を指す。クラフトリグニンはスルホネート基を含まない。したがって、クラフトリグニンが本発明で使用されるならば、クラフトリグニンはまず、スルホン化によって水溶性にされる。したがって、本発明の1つの実施形態において、リグニン誘導体は、クラフトリグニンから得られるスルホン化リグニン(「スルホン化クラフトリグニン」とも呼ばれる)である。ある実施形態において、そのようなスルホン化クラフトリグニンは、クラフトリグニンが高温及び高圧でアルカリ亜硫酸塩及びアルキルアルデヒドで処理されるときに得ることができる。他の実施形態において、クラフトリグニンをスルホン化するために亜硫酸パルプ化を使用することができる。
【0036】
別の実施形態によれば、本明細書及び上記に記載の亜硫酸パルプ化/蒸解から得られるリグニン誘導体、又は、本明細書及び上記に記載のスルホン化クラフトリグニンから得られるリグニン誘導体のいずれかが、さらなる化学処理工程に供され、ここで、前記さらなる工程は、少なくとも1つの酸化工程及び/又は熱処理工程及び/又はスルホン化工程から選択される。
【0037】
理論に束縛されるものではないが、酸化工程は、主に、亜硫酸パルプ化/蒸解工程ですでに達成されているものを超えて-COOH基の数を増加させることによってリグニンの特性を変えると考えられている。以下の実験に示されているように、-COOH含有量を増加させると、一般に再付着防止性能が向上する。
【0038】
好ましい実施形態において、前記酸化工程は、以下のうちの少なくとも1つから選択される:空気(酸素)及び/又は過ヨウ素酸塩、過酸化物、オゾンなどによる、場合により高温での酸化、場合により酸化触媒の存在下でのTEMPO酸化、ならびにバイオマスを酸化するための当業者に知られている他の方法及び薬剤。
【0039】
このような方法の例は、Dorothy Alexandra Brauns及びFriedrich Emil BraunsによるThe Chemistry of Lignin. Supplement Volume, Covering the Literature for the Years 1949-1958 (Academic Press; First Edition, January 1, 1960, pg 498-548)に記載されている。スルホン化工程は、主に、亜硫酸パルプ化/蒸解工程ですでに達成されているものを超えてスルホネート基の数を増加させることによって、リグニンの特性を変化させる。以下の実験に示されているように、スルホン化度を高めると、一般に、再付着防止性能が向上する。
【0040】
好ましい実施形態において、前記スルホン化工程は、以下の少なくとも1つから選択される:上記亜硫酸塩のいずれかを用いた追加の亜硫酸塩蒸解、スルホメチル化反応及びバイオマスをスルホン化するための当業者に知られている他の方法及び薬剤。
【0041】
このような方法の例は、Dorothy Alexandra Brauns及びFriedrich Emil BraunsによるThe Chemistry of Lignin. Supplement Volume, Covering the Literature for the Years 1949-1958 (Academic Press; First Edition, January 1, 1960, pg 313-386)に開示されている。
第一の態様において、本発明は、洗濯洗剤組成物中の添加剤としてのスルホン化リグニン誘導体の使用に関する。リグニン誘導体は、少なくとも4.5%w/w、好ましくは4.5%w/w~14%w/w、さらに好ましくは6%w/w~10%w/wの有機硫黄を達成するスルホン化度、及び、少なくとも6%w/w、好ましくは6%w/w~30%w/w、さらに好ましくは6%w/w~20%w/wのカルボキシレート含有量を有することを特徴とし、ここで%w/wは、リグニン誘導体の全乾燥固体重量に対する重量%を指す。スルホン化度(すなわち、「有機」硫黄含有量)及びカルボキシレート含有量(-COOH-基含有量)は、それぞれ段落[0013]及び[0014]で上記に記載されている通りである。
【0042】
このようなリグニン誘導体は、洗濯洗浄プロセス中に布帛への汚れの再付着を軽減及び/又は防止するのに非常に効果的であることが判明している。特に、たとえカルボキシレート含有量が6%を超えても、スルホン化度が4.5%w/w未満の有機硫黄であるならば、布帛への汚れの低減及び/又は防止はかなり悪くなることが判明した。同様に、たとえスルホン化度が4.5%の有機硫黄を超えていたとしても、カルボキシレート含有量が6%未満であるならば、布帛への汚れの低減及び/又は防止はかなり悪くなることが判明した。
【0043】
好ましくは、スルホン化リグニン誘導体は、天然リグニンを亜硫酸パルプ化プロセスで処理することによって得られる。亜硫酸パルプ化プロセスの後に、スルホン化度をさらに高めるために、1つ以上のパルプ化後スルホン化工程が続いてもよい。しかしながら、好ましい実施形態において、スルホン化工程以外のパルプ化後工程は適用されない。
【0044】
別の好ましい実施形態によれば、スルホン化リグニン誘導体は、天然リグニンをクラフトパルプ化プロセスで処理してクラフトリグニンを得て、前記クラフトリグニンを1つ以上のパルプ化後スルホン化工程で処理することによって得られる。亜硫酸パルプ化は、クラフトリグニンをスルホン化するために使用されうる。しかしながら、好ましい実施形態において、スルホン化工程以外のパルプ化後工程は適用されない。
【0045】
換言すれば、スルホン化リグニン誘導体は、好ましくは、1つ以上のパルプ化後スルホン化工程を場合により受けたリグノスルホネートであり、又は、スルホン化リグニン誘導体はスルホン化クラフトリグニン(すなわち、さらに1つ以上のスルホン化工程を受けたクラフトリグニン)である。したがって、スルホン化リグニン誘導体は、好ましくは、亜硫酸パルプ化、クラフトパルプ化、又は、1つ以上のパルプ化後スルホン化工程から得られる官能基以外の官能基を含まない。
【0046】
好ましくは、リグニン誘導体は、亜硫酸パルプ化から得られるリグノスルホネートであって、さらに1つ以上のパルプ化後スルホン化工程を場合により受けたものである。さらに好ましくは、リグニン誘導体は、亜硫酸パルプ化から得られるリグノスルホネートであって、パルプ化後官能化工程を受けていないものである。
【0047】
別の好ましい実施形態によれば、リグニン誘導体はスルホン化クラフトリグニンである。
【0048】
本明細書で言及されるときに、「パルプ化後官能化工程」、「パルプ化後工程」などは、亜硫酸パルプ化又はクラフトパルプ化に続いて適用され、前記「パルプ化後官能化工程」を受けるリグニン誘導体の分子構造を変化させる化学的又は物理的処理工程である。しかしながら、亜硫酸パルプ化又はクラフトパルプ化の後に適用される、リグニン誘導体の化学構造を変化させないいずれかの工程、例えば、リグニン生成物の純度を高めるための工程(例えば、洗浄工程、ろ過工程など)は、本出願の意味の範囲内の「パルプ化後官能化工程」、「パルプ化後工程」などではない。
【0049】
本明細書で言及されるときに、「亜硫酸パルプ化から得られるリグノスルホネート」とは、亜硫酸パルプ化の直接生成物であるリグノスルホネートである。あるいは、換言すると、「亜硫酸パルプ化から得られるリグノスルホネート」は、いかなるパルプ化後官能化工程も適用せずに、亜硫酸パルプ化プロセスから直接得られるリグノスルホネートである。したがって、亜硫酸パルプ化によるセルロース製造の副生成物として得られるリグノスルホネートは、本発明の意味の範囲内の「亜硫酸パルプ化から得られるリグノスルホネート」である。
【0050】
亜硫酸パルプ化から得られるリグノスルホネートの構造(特に、分子量及び-COOH基の量)は、好ましい実施形態において、亜硫酸パルプ化条件を変更することによってさらに微調整できることが見出されている。
【0051】
ある実施形態において、亜硫酸塩前処理工程を適用することができる。
【0052】
好ましい実施形態において、セルロース系バイオマスは本方法において基質として使用され、特に機械的(前)処理を必要としないリグノセルロース系バイオマスであり、亜硫酸塩(前)処理(「蒸解」)が唯一の(前)処理として適用される。
【0053】
亜硫酸塩蒸解は一般に、酸パルプ化、酸性重亜硫酸塩パルプ化、弱アルカリパルプ化及びアルカリ亜硫酸塩パルプ化の4つの主要な群に分類できる。
【0054】
本発明の好ましい実施形態において、セルロース系バイオマスは、酸性、中性又は塩基性条件下で、亜硫酸塩、好ましくは亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム又は亜硫酸マグネシウムを用いて蒸解される。この亜硫酸塩蒸解により、ヘミセルロースの一部とともに、セルロース系バイオマス中に存在する天然リグニンの大部分がスルホン化リグニン(リグノスルホネート;水溶性リグニン)として溶解される。
【0055】
亜硫酸塩前処理は、好ましくは、以下の実施形態のうちの1つに従って行われる。本開示においてそして本開示全体を通じて、「亜硫酸塩前処理」は「蒸解」とも呼ばれる。
・酸性蒸解(好ましくは水酸化物を伴う、さらに好ましくはCa(OH)2、NaOH、NH4OH又はMg(OH)2を伴うSO2)、
・重亜硫酸塩蒸解(好ましくは水酸化物を伴う、さらに好ましくはNaOH、NH4OH又はMg(OH)2を伴うSO2)、
・弱アルカリ性蒸解(好ましくはNa2SO3、さらに好ましくはNa2CO3)、及び、
・アルカリ性蒸解(好ましくは水酸化物、さらに好ましくはNaOHを伴うNa2SO3)。
亜硫酸塩蒸解に関して、2009年12月16日に出願された「リグノセルロース系バイオマス転化」という発明の名称の国際公開第WO2010/078930号明細書のそれぞれの開示を、参照により本開示に組み込む。
【0056】
リグニン誘導体が、非天然窒素含有置換基(本明細書では置換基R1とも呼ばれる)も非天然アルコキシ置換基(本明細書では置換基R3とも呼ばれる)も含まないことが特に好ましい。このような置換基は、当該技術分野で現在使用されているリグニン誘導体に含まれるが、好ましくは、本発明のリグニン誘導体には含まれない。このような置換基は、専用の実験室化学によって導入されなければならないが、本発明によってそれは回避される。
【0057】
非天然置換基は、本明細書で使用されるときに、天然リグニンには存在せず、化学合成によって導入された置換基(官能基の意味で)である。
【0058】
非天然窒素含有置換基R
1(好ましくは、本発明のリグニン誘導体には含まれない)としては、少なくとも1つの第四級アンモニウムカチオン又は少なくとも1つのアミン窒素(すなわち、第一級、第二級及び第三級アミンを有する置換基であって、弱酸性条件下でプロトン化されてアンモニウムカチオンを生成することができるものが挙げられる。特に、非天然窒素含有置換基R
1は以下の構造を有する。
【化1】
(上式中、各R
4は、孤立電子対、H、CH
3及び直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C
2-C
18アルキルからなる群より独立して選ばれ、ただし、R
4基のうちの少なくとも2つは孤立電子対ではなく、R
5は、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C
2-C
18アルキル鎖、又は、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和の第二級ヒドロキシ(C
2-C
18)アルキル鎖であり、Lは、-O-、-C(O)O-、-NR
6-、-C(O)NR
6-及び-NR
6C(O)NR
6-からなる群より選ばれる結合基であり、R
6はH又はC
1-C
6であり、yの値は0又は1であり、zの値は0又は1である)
【0059】
非天然アルコキシ置換基R
3(これも、好ましくは、本発明のリグニン誘導体に含まれない)は、特に以下の構造を有する。
【化2】
[上式中、eの値は0又は1であり、fは0~8の整数であり、gは0~50の整数であり、L''は、-O―、-C(O)O-、-NR
11、-C(O)NR
11-及び-NR
11C(O)NR
11-からなる群より選ばれる結合基であり、R
11はH又はC
1-C
6アルキルであり、各R
9は、エチレン、プロピレン、ブチレン又はそれらの混合物の基であり、R
10は、水素、C
1-C
20アルキル、ヒドロキシ、-OR
1及び-OR
2からなる群より選ばれる末端基であり、R
2はアニオン性置換基であり、それは好ましくは以下の構造を有する:
【化3】
(上式中、R
7は、カルボキシレート、カルボキシメチル、スクシネート、スルフェート、スルホネート、アリールスルホネート、ホスフェート、ホスホネート、ジカルボキシレート及びポリカルボネートからなる群より選ばれるアニオン性基であり、L'は、-O-、-CO(O)-、-NR
8-、-C(O)NR
8-及び-NR
8(CO)NR
8-からなる群より選ばれる結合基であり、R
8はH又はC
1-C
6アルキルであり、aの値は0又は1であり、bは0~18の整数である)]
【0060】
特に好ましい実施形態によれば、リグニン誘導体は、以下のものを含む変性リグニンポリマーではない。
置換リグニンモノマー残基及び非置換リグニンモノマー残基を含むランダム置換リグニン主鎖、ここで、ランダム置換リグニン主鎖上のヒドロキシル基の少なくとも2つ以上がR置換基で置換されており、各R置換基は独立して、置換重量パーセントが0%~75%の範囲の窒素含有置換基R1、置換重量パーセントが0%~90%の範囲のアニオン性置換基R2、置換重量パーセントが0%~90%の範囲のアルコキシ置換基R3及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれるR置換基タイプであり、ただし、ランダム置換リグニン主鎖は少なくとも2つの異なるR置換基タイプを含むことを条件とする。
好ましくは、その好ましい実施形態において、窒素含有置換基R1、アニオン性置換基R2及びアルコキシ置換基R3は上記のように規定される。
【0061】
好ましくは、リグニン誘導体は非天然疎水性置換基を含まない。このような非天然疎水性置換基は、好ましくは、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C1-C18アルキル、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和のC7-C18アルキルアリール、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和第二級ヒドロキシ(C2-C18)アルキル、疎水性ポリマーグラフト、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C1-C18アルキルエーテルから選択される。
【0062】
上記から明らかなように、リグニン誘導体は、好ましくは、洗濯洗浄プロセス中の布帛への汚れの再付着を防止又は低減するために使用される。
【0063】
リグニン誘導体の分子量(重量平均、MW)は、好ましくは100,000Da未満、又は2,000Da~100,000Da、好ましくは5,000~100,000、さらにより好ましくは10,000~100,000である。分子量は、G. Fredheim らの “Molecular weight determination of lignosulfonates by size-exclusion chromatography and multi-angle laser light scattering”, J Chromatogr A., 942, 2002, 191-199に記載されているとおりのサイズ排除クロマトグラフィーによって決定される。
【0064】
第二の態様において、本発明は、本明細書で規定されるとおりのリグニン誘導体を含む洗濯洗剤組成物に関する。
【0065】
洗濯洗剤組成物は、任意の適切な形態、例えば錠剤、粉末、顆粒、ペースト、液体又はゲルの形態であってよい。
【0066】
好ましくは、リグニン誘導体は、洗濯洗剤組成物中に、洗剤配合物の総重量に基づいて0.01~10%w/w、好ましくは0.1~5%w/w、さらにより好ましくは1~5%w/wの量で含まれる。
【0067】
第三の態様において、本発明は、本明細書で規定されるとおりのスルホン化リグニン誘導体と洗濯物を接触させる工程を含む、洗濯物の洗浄方法に関する。
【0068】
第四の態様において、本発明は、加工中の洗剤スラリーの粘度を低下させるための、本明細書で規定されるとおりのリグニン誘導体の使用に関する。
【0069】
好ましくは、スルホン化リグニン誘導体と洗濯物を接触させる工程は、スルホン化リグニン誘導体を含む水溶液と前記洗濯物を接触させる工程である。第四の態様において、本発明は、加工中の洗剤スラリーの粘度を低下させるための、本明細書に規定されるとおりのリグニン誘導体の使用に関する。
【0070】
リグノスルホネートは、無機塩スラリー及びペーストの粘度を下げることがよく知られている。これにより、粉末、顆粒及び錠剤のより効率的な加工が可能になる。本発明の1つの実施形態において、本明細書で規定されるとおりのリグニン誘導体は、加工中に洗剤スラリー組成物の粘度を低下させるために使用される。これにより、乾燥中に除去する必要のある水が少なくなり、より効率的な製造が可能になり、改良された噴霧乾燥洗剤粉末が得られ、より密度の高い洗剤錠剤などが得られる。リグニン誘導体は、洗剤スラリー組成物の総重量に基づいて、0.001~15%w/w好ましくは0.1~10%w/w、より好ましくは0.2~5%w/wの量で存在する。
【0071】
本発明は、以下の項目/実施形態によって、また、相互に組み合わせて、そして本開示全体にわたって記載される特徴又は実施形態と組み合わせて記載される。
項目1.
洗濯洗剤組成物における添加剤としてのスルホン化リグニン誘導体の使用であって、
前記スルホン化リグニン誘導体は、リグニンに結合したスルホネート基に関連する有機硫黄の量が、リグニン誘導体の全乾燥固体重量に対する乾燥固体で測定して、少なくとも4.5%w/w、好ましくは4.5%w/w~14%w/w、さらに好ましくは6%w/w~10%w/wであり、そしてカルボキシレート含有量が、リグニン誘導体の全乾燥固体重量に対する乾燥固体で測定して、少なくとも6%w/w、好ましくは6%w/w~30%w/w、さらに好ましくは6%w/w~20%w/wであることを特徴とし、
前記有機硫黄の量及び前記カルボキシレート含有量は、明細書に記載されているように決定される、使用。
項目2.
前記リグニン誘導体は、天然リグニンを亜硫酸パルプ化プロセスで処理することによって得られ、前記亜硫酸パルプ化プロセスの後に、場合により、1つ以上のパルプ化後スルホン化工程を行う、又は、
前記リグニン誘導体は、天然リグニンをクラフトパルプ化プロセスで処理し、続いて、1つ以上のパルプ化後スルホン化工程を行うことによって得られる、項目1記載の使用。
項目3.
前記1つ以上のパルプ化後スルホン化工程以外のパルプ化後工程は適用されない、項目2記載の使用。
項目4.
前記リグニン誘導体はリグノスルホネートであり、場合によりさらに1つ以上のパルプ化後スルホン化工程を受けたものであるか、又は、前記リグニン誘導体はスルホン化クラフトリグニンである、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目5.
前記リグニン誘導体は、亜硫酸パルプ化、クラフトパルプ化又は1つ以上のパルプ化後スルホン化工程以外のいかなる官能化工程も受けていない、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目6.
前記リグニン誘導体は、亜硫酸パルプ化、クラフトパルプ化又は1つ以上のパルプ化後スルホン化工程から得られる官能基以外の官能基を含まず、好ましくは前記1つ以上のスルホン化工程は少なくとも以下のもの:少なくとも1つの亜硫酸塩を使用した追加の亜硫酸塩蒸解又はスルホメチル化反応から選ばれる、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目7.
前記リグニン誘導体は、亜硫酸パルプ化から得られたとおりのリグノスルホネートである、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目8.
前記リグニン誘導体はスルホン化クラフトリグニンである、項目1~6のいずれか1項記載の使用。
項目9.
前記リグノスルホネートはカルボキシメチルセルロース(CMC)と組み合わせて使用される、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目11.
前記リグノスルホネートは1つのさらなる化学処理工程を受け、前記化学処理工程は酸化工程であり、好ましくは、前記酸化工程は、空気(酸素)及び/又は過ヨウ素酸塩、過酸化物、オゾンなどによる、場合により高温での酸化、場合により酸化触媒の存在下でのTEMPO酸化のうちの少なくとも1つから選ばれる、項目1~4又は項目7もしくは項目8のいずれか1項記載の使用。
項目13.
前記リグニン誘導体の平均分子量は、明細書中に特定されるように測定して、100,000Da未満、好ましくは2,000Da~100,000Da、好ましくは5,000Da~100,000Da、さらに好ましくは10,000以上である、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目14.
前記リグニン誘導体は非天然窒素含有置換基R
1も非天然アルコキシ置換基R
3も含まない、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目15.
前記非天然窒素含有置換基R
1は、以下の構造を有する、項目14記載の使用:
【化4】
式中、各R
4は、孤立電子対、H、CH
3及び直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C
2-C
18アルキルからなる群より独立して選ばれ、ただし、R
4基のうちの少なくとも2つは孤立電子対ではなく、R
5は、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C
2-C
18アルキル鎖、又は、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和の第二級ヒドロキシ(C
2-C
18)アルキル鎖であり、Lは、-O-、-C(O)O-、-NR
6-、-C(O)NR
6-及び-NR
6C(O)NR
6-からなる群より選ばれる結合基であり、R
6はH又はC
1-C
6であり、yの値は0又は1であり、zの値は0又は1である。
項目16.
前記非天然アルコキシ置換基R
3は、以下の構造を有し:
【化5】
式中、eの値は0又は1であり、fは0~8の整数であり、gは0~50の整数であり、L''は、-O―、-C(O)O-、-NR
11、-C(O)NR
11-及び-NR
11C(O)NR
11-からなる群より選ばれる結合基であり、ここで、R
11は、H又はC
1-C
6アルキルであり、各R
9は、エチレン、プロピレン、ブチレン又はそれらの混合物の基であり、かつR
10は、水素、C
1-C
20アルキル、ヒドロキシ、-OR
1及び-OR
2からなる群より選ばれる末端基であり、
R
1は、請求項10又は11に規定されるとおりであり、かつ
R
2は、好ましくはアニオン性置換基であり、以下の構造を有する、項目14又は項目15記載の使用:
【化6】
式中、R
7は、カルボキシレート、カルボキシメチル、スクシネート、スルフェート、スルホネート、アリールスルホネート、ホスフェート、ホスホネート、ジカルボキシレート及びポリカルボネートからなる群より選ばれるアニオン性基であり、L'は、-O-、-CO(O)-、-NR
8-、-C(O)NR
8-及び-NR
8(CO)NR
8-からなる群より選ばれる結合基であり、R
8はH又はC
1-C
6アルキルであり、aの値は0又は1であり、bは0~18の整数である。
項目17.
前記リグニン誘導体は、
置換リグニンモノマー残基及び非置換リグニンモノマー残基を含むランダム置換リグニン主鎖、ここで、ランダム置換リグニン主鎖上のヒドロキシル基の少なくとも2つ以上がR置換基で置換されており、各R置換基は独立して、置換重量パーセントが0%~75%の範囲の窒素含有置換基R
1、置換重量パーセントが0%~90%の範囲のアニオン性置換基R
2、置換重量パーセントが0%~90%の範囲のアルコキシ置換基R
3及びそれらの任意の組み合わせからなる群より選ばれるR置換基タイプであり、ただし、ランダム置換リグニン主鎖は少なくとも2つの異なるR置換基タイプを含むことを条件とする、
を含む変性リグニンポリマーではない、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目18.
各含窒素置換基R
1は、独立して以下の構造を有する、項目17記載の使用:
【化7】
式中、各R
4は、孤立電子対、H、CH
3及び直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C
2-C
18アルキルからなる群より独立して選ばれ、ただし、R
4基のうちの少なくとも2つは孤立電子対ではなく、R
5は、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C
2-C
18アルキル鎖、又は、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和の第二級ヒドロキシ(C
2-C
18)アルキル鎖であり、Lは、-O-、-C(O)O-、-NR
6-、-C(O)NR
6-及び-NR
6C(O)NR
6-からなる群より選ばれる結合基であり、R
6はH又はC
1-C
6アルキルであり、yの値は0又は1であり、zの値は0又は1である。
項目19.
各アニオン性置換基R
2は、独立して以下の構造を有する、項17又は項18記載の使用:
【化8】
式中、R
7は、カルボキシレート、カルボキシメチル、スクシネート、スルフェート、スルホネート、アリールスルホネート、ホスフェート、ホスホネート、ジカルボキシレート及びポリカルボネートからなる群より選ばれるアニオン性基であり、L'は、-O-、-CO(O)-、-NR
8-、-C(O)NR
8-及びNR
8(CO)NR
8-からなる群より選ばれる結合基であり、R
8はH又はC
1-C
6アルキルであり、aの値は0又は1であり、bは0~18の整数である。
項目20
各アルコキシ置換基R
3は、独立して以下の構造を有する、項目17~19のいずれか1項記載の使用:
【化9】
式中、eの値は0又は1であり、fは0~8の整数であり、gは0~50の整数であり、L''は、-O―、-C(O)O-、-NR
11、-C(O)NR
11-及び-NR
11C(O)NR
11-からなる群より選ばれる結合基であり、R
11はH又はC
1-C
6アルキルであり、各R
9は、エチレン、プロピレン、ブチレン又はそれらの混合物の基であり、R
10は、水素、C
1-C
20アルキル、ヒドロキシ、-OR
1及び-OR
2からなる群より選ばれる末端基である。
項目22.
前記リグニン誘導体は非天然疎水性置換基を含まない、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目23.
前記疎水性置換基は、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C
1-C
18アルキル、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C
7-C
18アルキルアリール、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和第二級ヒドロキシ(C
2-C
18)アルキル、疎水性ポリマーグラフト、及び、直鎖もしくは分枝鎖の飽和もしくは不飽和C
1-C
18アルキルエーテルから選ばれる構造を有する、請求項22記載の使用。
項目24.
前記リグニン誘導体は、洗濯洗浄プロセス中に布帛への汚れの再付着を防止するために使用される、先行の項目のいずれか1項記載の使用。
項目25.
項目1~23のいずれか1項記載のリグニン誘導体を含む洗濯洗剤組成物。
項目26.
前記リグニン誘導体は、洗濯洗剤組成物中に、洗剤配合物の総重量に基づいて、0.01~10%w/w、好ましくは0.1~5%w/w、さらにより好ましくは1~5%w/wの量で含まれる、項目25記載の洗濯洗剤組成物。
項目27.
項目1~23のいずれか1項記載のスルホン化リグニン誘導体と洗濯物を接触させる工程を含む、洗濯物を洗浄するための方法。
項目28.
洗剤スラリー組成物の粘度を低下させるための項目1~23のいずれか1項記載のリグニン誘導体の使用であって、
前記リグニン誘導体は、洗剤スラリー組成物の総重量に基づいて、0.001~15%w/w、好ましくは0.1~10%w/w、より好ましくは0.2~5%w/wの量で存在する使用。
【実施例】
【0072】
例1:
以下の例では、様々な市販のスルホン化リグニンを再付着防止特性についてスクリーニングした。試験したスルホン化リグニンは、リグノスルホネートの商業生産で典型的に適用されるパルプ化条件及びパルプ化後処理の違いにより、スルホン化度及びカルボキシレート含有量が異なる。工場内でリグノスルホネートが製造される正確な条件は、メーカー及び製品ラインによって異なる。これらの例の目的のために、A及びBとラベル付けされた2つのリグノスルホネートは本発明によるものであるが、リグノスルホネートC~Hは必要とされる高スルホン化度及びカルボキシル化度を有していないため、参考例である(
図2及び3を参照されたい)。
スルホン化度(すなわち、「有機」硫黄含有量)及びカルボレート含有量(-COOH-基含有量)は、それぞれ段落[0013]及び[0014]に記載されている通りである。
布帛への「汚れ」の付着を防止する様々なリグノスルホネートの活性を試験するために、以下の試験を使用した。
・Ultraturraxミキサを使用して1gのカーボンブラックを200mLの食用油に混合して「汚れ」を作成した。
・600mLビーカに300mLの水を加え、マグネチックスターラで急速に撹拌し、3mLの「汚れ」(上記)を加えた。
・汚れが水中に細かく分散するまで混合物を撹拌した。
・白い10cmx10cmの正方形の綿ポリエステル布帛をビーカに落とし、10分間撹拌した。
・撹拌を停止し、布帛をピンセットで取り出し、真水の入ったビーカに浸して簡単にすすいだ。
・布帛を乾燥させてから検査した。
・再付着防止性能は布帛上の黒い汚れのスポットの量によって定性的に判断した。
試験の結果(
図2及び3を参照されたい。サンプルA及びB対サンプルC~H)は、特許請求されている比較的に高いスルホン化度及び比較的に高いカルボキシレート含有量を有するリグニンの性能が有意に優れていることを示している。
【国際調査報告】