(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】クエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 55/02 20060101AFI20240315BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20240315BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240315BHJP
A01N 59/16 20060101ALI20240315BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240315BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240315BHJP
B01J 13/00 20060101ALI20240315BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240315BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20240315BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20240315BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20240315BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A01N55/02 160
A01N25/12 101
A01P3/00
A01N59/16 Z
C09D5/00 Z
C09D201/00
B01J13/00
A61Q19/00
A61Q5/02
A61Q19/10
A61K8/04
A61K8/36
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023558694
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(85)【翻訳文提出日】2023-09-22
(86)【国際出願番号】 KR2022003593
(87)【国際公開番号】W WO2022203262
(87)【国際公開日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0037106
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523362319
【氏名又は名称】ケミシュティカル インコーポレイティッド
【氏名又は名称原語表記】CHEMICEUTICAL INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】パク・インス
【テーマコード(参考)】
4C083
4G065
4H011
4J038
【Fターム(参考)】
4C083AB171
4C083AB211
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4J038MA10
4J038NA25
4J038NA27
4J038PB05
(57)【要約】
本発明は、優れた水分散安定性を有し、パーソナルケア製品及び塗料等に添加され、細菌、カビ及びウイルスに対する広い抗菌スペクトルを示すクエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物。
【請求項2】
前記クエン酸銅は、下記化学式1で示されるクエン酸銅水和物または下記化学式2で示されるクエン酸銅無水物であることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性水分散組成物。
【化1】
【化2】
【請求項3】
前記クエン酸銅水和物及び前記クエン酸銅無水物は、粉末性状を有することを特徴とする、請求項2に記載の抗菌性水分散組成物。
【請求項4】
前記クエン酸銅粉末の粒度が0.1~100μmであり、平均粒子径(D50)が0.5~10μmであることを特徴とする、請求項3に記載の抗菌性水分散組成物。
【請求項5】
前記クエン酸銅は、組成物の全体重量に対して0.1~50重量%の含量で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性水分散組成物。
【請求項6】
前記抗菌性水分散組成物に含有される銅イオンの含量が0.3~170mg/mLであることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性水分散組成物。
【請求項7】
前記抗菌性水分散組成物がクエン酸銅及び水からなることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性水分散組成物。
【請求項8】
前記抗菌性水分散組成物は、金属酸化物、分散剤及び補助添加剤のうちいずれか一つ以上の成分をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性水分散組成物。
【請求項9】
前記金属酸化物が酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項8に記載の抗菌性水分散組成物。
【請求項10】
前記分散剤は、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium lauryl sulfate)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Polyoxyethylene sorbitan monooleate)、ポリエチレングリコール tert-オクチルフェニルエーテル(Polyethylene glycol tert-octylphenyl ether)、ソルビタンモノパルミテート(Sorbitan monopalmitate)及びこれらの混合物からなる群から選択される界面活性剤であることを特徴とする、請求項8に記載の抗菌性水分散組成物。
【請求項11】
前記補助添加剤は、メチルセルロース(Methyl cellulose)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Hydroxypropyl methyl cellulose)、カルボキシメチルセルロース(Carboxy methyl cellulose)、キサンタンガム(Xanthan Gum)、ポリアクリル酸(Polyacrylic acid)及びこれらの混合物からなる群から選択される増粘剤であることを特徴とする、請求項8に記載の抗菌性水分散組成物。
【請求項12】
前記抗菌性水分散組成物は、パーソナルケア製品用または塗料用であることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌性水分散組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年3月23日付の韓国特許出願第10-2021-0037106号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、クエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物に関し、さらに詳しくは、優れた水分散安定性を有し、パーソナルケア製品及び塗料等に添加され、細菌、カビ及びウイルスに対する広い抗菌スペクトルを示すクエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
最近、コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行に伴い、世界の各塗料製造会社は、コロナウイルスを殺すことができる建築用ペイントを競争的に発売している。このような塗料の活性成分は、元素状態の金、銀及び銅等であり、実際の抗ウイルス性能を具現する活性物質は、これらの金属元素と大気中の水分が接触する時に極微量に生成されるこれらの金属のイオン成分として知られている。
【0004】
現在発売されている抗ウイルス塗料に使用される抗菌剤は、大きく分けて、銀または銅をガラス(ケイ酸塩)と一緒に高温で溶融させた後、冷却及び結晶化後、粉砕を通じて得られるセラミック形態と、銀または銅イオンが置換されたゼオライト(すなわち、Ag+/zeoliteまたはCu2+/zeolite)や亜酸化銅ナノ粒子ゼオライト(Cu2O NPs/zeolite)等のゼオライト系に分類される。しかし、これらの製造工程は、高温溶融を必要としたり、ゼオライトの金属置換反応を必要とする等、その製造方法が非常に難しく、製造後にエアジェットミル等を用いて数ミクロンまたはそれ以下の単位への別途の粉砕工程が必要であり、塗料に添加されるこれらの粉末(すなわち、粉砕された粉末)の比率が一般的に0.3重量%(3,000ppm)以上にならなければ抗菌効果を発揮しないため、価格対性能の限界が問題点として台頭している。
【0005】
一方、抗ウイルス性を要求する以前の建築用塗料及びパーソナルケア(シャンプー等)製品には主にジンクピリチオン(Zinc Pyrithione)が1,000~5,000ppmレベルで含有され使用されてきた。しかし、欧州化学物質庁(ECHA)の資料によると、ジンクピリチオンは、齧歯類に対する急性経口毒性(acute oral toxicity)LD50(50%致死量)が269mg/kgと報告されており、韓国の場合、化評法(化学物質の登録及び評価等に関する法律)16条の有毒物質指定基準である齧歯類に対する急性経口毒性LD50 300mg/kg以下である物質(すなわち、有毒物質)に該当する恐れがある。
【0006】
文献によると、銅イオンのブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に対する最小阻害濃度は9~90ppmと知られている。これは、ジンクピリチオンが抗菌性能を発揮するための適正濃度である1,000~5,000ppmに比べて非常に少ない濃度で効果的な抗菌性能を発揮するものであり、参考的に、クエン酸銅(copper citrate)の齧歯類に対する急性経口毒性は1,580mg/kgと比較的安全である。
【0007】
銅イオンのソースは一般的に塩化第二銅(CuCl2)、硫酸銅(CuSO4)等の単純塩の形態を有することができる。しかし、これは水に非常によく溶解するため、浸出(leaching)の問題で塗料には使用することができない。従って、水に溶解せず、少量使用でも抗菌効果が卓越した銅塩を模索し、ジンクピリチオンが有することができなかった抗ウイルス性が付加された塗料及びパーソナルケア製品用の抗菌性水分散組成物の開発が切実に要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のような水に溶解しない銅塩を模索していたところ、特に、有機弱酸と銅の錯化合物に着眼し、このような化合物は主にCu-EDTA、シュウ酸銅(Cu-Oxalate)、アスピリン酸銅(Cu-Aspirinate)、クエン酸銅(Cu-Citrate)等の非常に多様な組み合わせの化合物となり得るが、本出願人は、相対的に毒性が低く、製造が簡単なクエン酸銅(Cu-citrate)を選定した。実際にクエン酸銅は、健康補助食品(銅イオン補充剤)として摂取することもあり、また、ワイン生産時には工程補助剤(Processing Aid)として使用され、発酵等のワイン製造工程中に副生する不快な臭いの原因物質である硫化物(sulfide)系物質を除去するためにも使用されている。
【0009】
従って、本発明の目的は、優れた水分散安定性を有し、パーソナルケア製品及び塗料等に添加され、細菌、カビ及びウイルスに対する広い抗菌スペクトルを示す、クエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は、クエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるクエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物は、優れた水分散安定性を有し、パーソナルケア製品及び塗料等に添加され、細菌、カビ及びウイルスに対する広い抗菌スペクトルを示す利点を有する。また、本発明によるクエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物は、人体に相対的に安全であるだけでなく、少量でも十分な抗菌力を確保することができる利点を有する。また、本発明によるクエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物は、西欧の民間を中心に広く使用されてきたクエン酸銅を産業的にも活用することができる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例及び比較例で使用した対照群(Control)のS.aureus菌株培養後のイメージ(a)及び本発明による試料との接触後に死滅したS.aureus菌株のイメージ(b)である。
【
図2】本発明の実施例及び比較例で使用した対照群(Control)のE.coli菌株培養後のイメージ(a)及び本発明による試料との接触後に死滅したE.coli菌株のイメージ(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書及び特許請求の範囲で使用された用語や単語は、通常であるか、辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は、その自身の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づき、本発明の技術的思想に符号する意味と概念で解釈されなければならない。
【0014】
本発明による抗菌性水分散組成物は、銅イオンを多量に含有してパーソナルケア製品(例えば、シャンプー、石鹸及び化粧品)及び塗料(特に、水性建築用塗料)等に抗菌性能または防腐活性を付与することができるものであり、クエン酸銅を有効成分として含むものの、必要に応じて、金属酸化物、分散剤及び補助添加剤のうちいずれか一つ以上の成分をさらに含んでもよい。
【0015】
通常の建築用塗料及びパーソナルケア製品には主にジンクピリチオン(Zinc Pyrithione)が1,000~2,500ppmレベルで含有され使用されてきた。しかし、ジンクピリチオンは、抗カビ及び抗菌力が優れているのに対し、抗ウイルス性能についての報告事例はない。従って、最近、コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行により、抗ウイルス性を有する建築用塗料及びパーソナルケア製品が要求されているにもかかわらず、前記ジンクピリチオンは制限的といえる。
【0016】
そこで、本出願人は、銅イオンのブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)に対する最小阻害濃度が9~90ppmと知られている点と、このような銅イオンが抗菌性能を発揮するためのジンクピリチオンの適正濃度(1,000~2,500ppm)に比べて非常に少ない濃度で効果的な抗菌性能を発揮する点を考慮し、水に溶解しない銅塩のうちCu-EDTA、シュウ酸銅(Cu-Oxalate)、アスピリン酸銅(Cu-Aspirinate)及びクエン酸銅(Cu-Citrate)のような有機弱酸と銅の錯化合物を銅イオンのソースとして着眼し、この中でも相対的に毒性が低く(齧歯類に対する急性経口毒性:1,580mg/kg)、製造が簡単なクエン酸銅(Cu-citrate)を抗菌性水分散組成物の核心成分として選定したのである。参考的に、クエン酸銅を除く前記銅錯化合物の急性経口毒性の資料は報告されたことがないため、「銅イオンの共役酸」に対する齧歯類経口毒性(LD50)資料を参考にし、下記の表1のように整理した。
【0017】
【0018】
本発明の抗菌性水分散組成物に核心有効成分として含まれるクエン酸銅は、下記反応式1に従って製造されるものであり、この時に製造されるクエン酸銅は、水に溶けない下記化学式1の水和物状態で沈殿し、これを濾過及び乾燥すると下記化学式2で示されるクエン酸銅無水物を得ることができる。一方、クエン酸銅無水物は、大気中の湿気または水と接触することにより、クエン酸銅水和物に再び転換することができる。
【0019】
(反応式1)
3CuSO4(aq)+2Na3C6H5O7(aq)→Cu3(C6H5O7)2(s)+3Na2SO4(aq)
【0020】
【0021】
【0022】
一方、本発明の抗菌性水分散組成物に含まれるクエン酸銅は、前記化学式1で示される水和物の形態でも含むことができ、前記化学式2で示される無水物の形態でも含むことができる等、特に制限はない(すなわち、クエン酸銅を抗菌性水分散組成物に水和物の形態で含ませるか、無水物の形態で含ませるか、水分散組成物内でクエン酸銅は常に水和物の状態で存在するためである)。
【0023】
ただし、乾燥していない状態の水和物の形態で含ませる場合には、クエン酸銅水和物濾過ケーキの含水率によって乾燥後に投入されるクエン酸銅無水物の重量が変化するため、組成物製品に含まれる銅イオンの含量を意図したとおりに正確に管理することが容易でない場合がある。従って、このような面まで考慮した時には、前記化学式2で示されるクエン酸銅無水物を組成物に含ませることがより望ましい場合がある。
【0024】
ここで、前記化学式1で示されるクエン酸銅水和物は、青緑色(Bluish-green)の1.5水和物(Copper citrate hemitrihydrate)の形態である(Cu2C6H4O7).1.5H2Oであり(沈殿物として粉末性状を有する)、前記化学式2で示されるクエン酸銅無水物は、青色(Sky blue)の粉末性状のCu3(C6H5O7)2である。
【0025】
本発明によるクエン酸銅粉末の粒度は0.1~100μm、望ましくは1~20μmであってもよい。もし、前記クエン酸銅粉末の粒度が0.1μm未満であると、別途の粉砕工程が必要であるか、微細粉塵による工程中、作業者の安全性の面で不利な問題が発生する可能性があり、100μmを超過する場合には、塗料またはパーソナルケア製品に適用される原料の粒子サイズ管理規格(300Mesh(=50μm)99.8%以上通過)を逸脱したり、粒子の表面積低下による大気中の水分との接触によって銅イオン放出が低減され、抗菌力の低下を招くことがある。
【0026】
また、本発明によるクエン酸銅粉末の平均粒子径(D50)は、0.5~10μm、望ましくは1~5μmであってもよい。もし、前記クエン酸銅粉末の平均粒子径(D50)が0.5μm未満であると、前記反応式1に従って製造されたクエン酸銅粉末の濾過及び洗浄工程に問題が発生する可能性があり、10μmを超過する場合には、沈殿をはじめとする水分散組成物の層安定性が低下し、製品の保管安定性に問題が発生する可能性がある。
【0027】
前記クエン酸銅は、本発明の抗菌性水分散組成物の全体重量に対して0.1~50重量%、望ましくは15~45重量%の含量で含んでもよい。もし、前記クエン酸銅が抗菌性水分散組成物の全体重量に対して0.1重量%未満の含量で含まれる場合、クエン酸銅の濃度が低く、物流費用過多及び十分な抗菌活性を発揮することができない問題が発生する可能性があり、50重量%を超過する含量で含まれる場合には、水分散組成物製品の固形分含量過多による水分散組成物の粘性増加及び流動性不良により、使用利便性に問題が発生する可能性がある。
【0028】
このようなクエン酸銅を組成物として含ませることにより、本発明の抗菌性水分散組成物には、銅イオンを多量に含有することができる。より具体的には、前記抗菌性水分散組成物に含有される銅イオンの含量は0.3~170mg/mL、望ましくは50~100mg/mLであってもよい。もし、前記抗菌性水分散組成物内の銅イオンの含量が0.1mg/mL未満であると、組成物の抗菌能力が低下し、細菌、カビ及びウイルスに対する広い抗菌スペクトルを示すことができない問題が発生する可能性があり、170mg/mLを超過する場合には、水分散組成物の使用利便性に問題が発生する可能性がある。
【0029】
一方、本発明によるクエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物は、クエン酸銅以外に純水(DIwater)を必須で含み、必要に応じて、金属酸化物、分散剤及び補助添加剤のうちいずれか一つ以上の成分をさらに含んでもよい。これらの金属酸化物、分散剤及び補助添加剤のいずれも、クエン酸銅との抗菌力シナジー効果を付与する役割を果たすことができる。
【0030】
また、前記金属酸化物は、パーソナルケア及び塗料分野で一般的に使用されるものであり、これまで使用されてきたパーソナルケア製品及び塗料のフォーミュレーションへの組成的異質感を最小化し、完成品の剤形安定性を図るために、金属酸化物を本発明の抗菌性水分散組成物にも含ませることができる。
【0031】
このような金属酸化物としては、酸化亜鉛(ZnO)、二酸化チタン(TiO2)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)及びこれらの混合物等を例示することができ、もし、前記金属酸化物が本発明の抗菌性水分散組成物に含まれる場合には、抗菌性水分散組成物の全体重量に対して20重量%以下、望ましくは10~15重量%の含量で含むことができる。
【0032】
前記分散剤は、界面活性剤であることが望ましく、このような界面活性剤として、当業界で通用するものを制限なく使用することができ、具体的には、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium lauryl sulfate)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Polyoxyethylene sorbitan monooleate、製品名:Tween 80)、ポリエチレングリコール tert-オクチルフェニルエーテル(Polyethylene glycol tert-octylphenyl ether、製品名:Triton X-100)、ソルビタンモノパルミテート(Sorbitan monopalmitate、製品名:Span 40)及びこれらの混合物を例示することができる。もし、前記分散剤が本発明の抗菌性水分散組成物に含まれる場合には、抗菌性水分散組成物の全体重量に対して0.1~1重量%、望ましくは0.5~0.8重量%の含量で含むことができる。
【0033】
前記補助添加剤は、増粘剤であることが望ましく、このような増粘剤として、当業界で通用するものを制限なく使用することができ、具体的には、メチルセルロース(Methyl cellulose)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Hydroxypropyl methyl cellulose)、カルボキシメチルセルロース(Carboxy methyl cellulose)、キサンタンガム(Xanthan Gum)、ポリアクリル酸(Polyacrylic acid、製品名:Carbopol)及びこれらの混合物を例示することができる。もし、前記補助添加剤が本発明の抗菌性水分散組成物に含まれる場合には、抗菌性水分散組成物の全体重量に対して0.1~3重量%、望ましくは0.7~1.5重量%の含量で含むことができる。
【0034】
一方、本発明の他の目的は、西欧の民間を中心に広く使用されてきたクエン酸銅を産業的に活用することにある。民間でのクエン酸銅の製造方法は、一般的に電気化学的方法に従っており、具体的には、クエン酸が溶解している水に銅電極を刺して電流を流すことにより、コロイド状態の低濃度クエン酸銅水溶液を得る方法である。この時に得られるコロイド状態のクエン酸銅生成濃度は、加えられる電圧、電流量及び時間によって異なるが、一般的に6時間で10ppm前後の少量のクエン酸銅が得られる。そのため、このような方法ではクエン酸銅を産業的に活用することができない。
【0035】
そこで、本発明では、使用利便性と産業的活用度を高めることができるように、クエン酸銅を化学的に大量に合成する、クエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物の製造方法を提供する。
【0036】
本発明によるクエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物を製造する方法は、a)下記反応式1に従って硫酸銅とクエン酸ナトリウムを反応させ、クエン酸銅を大量合成する段階;及びb)前記合成されたクエン酸銅を純水(DI water)に添加する段階;を含み、必要に応じて、前記b)段階でクエン酸銅と共に金属酸化物、分散剤及び補助添加剤のうちいずれか一つ以上の成分をさらに添加してもよい。また、必要に応じて、前記b)段階以後、ビーズミル等を使用する粉砕工程を行うことができる。
【0037】
(反応式1)
3CuSO4(aq)+2Na3C6H5O7(aq)→Cu3(C6H5O7)2(s)+3Na2SO4(aq)
【0038】
一方、前記反応式1で合成または製造されたクエン酸銅は、クエン酸銅水和物の形態で沈殿し、銅イオン濃度の定量性を確保するために、クエン酸銅水和物を濾過した後、完全に乾燥させてクエン酸銅無水物の形態に転換することが望ましい場合がある。
【0039】
以上で説明した本発明のクエン酸銅を有効成分として含む抗菌性水分散組成物は、パーソナルケア及び塗料等の抗菌を必要とする分野に幅広く使用することができ、従って、パーソナルケア製品及び塗料(特に、水性塗料)等の抗菌を必要とする製品に含んで使用することができ、この時、ビーズミル等を使用して製品化することができる。
【0040】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を示すが、下記実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で様々な変更及び修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更及び修正が添付された特許請求の範囲に属することも当然である。
【実施例】
【0041】
[実施例1] クエン酸銅を含む抗菌性水分散組成物の製造
まず、純水(DI water)413.7gを600mlのビーカーに入れ、これに硫酸銅五水和物374.5g(1.5mol)とクエン酸ナトリウム二水和物294.1g(1.0mol)を反応させて製造したクエン酸銅無水物粉末75.0gとヒドロキシプロピルメチルセルロース(Hydroxypropyl methyl cellulose、増粘剤)7.75g及びラウリル硫酸ナトリウム(Sodium lauryl sulfate、界面活性剤)3.55gを投入した後、30℃の温度で3時間攪拌及び分散させ、500gの抗菌性水分散組成物を製造した。
【0042】
[実施例2] クエン酸銅を含む抗菌性水分散組成物の製造
純水(DI water)の含量を413.7gから363.7gに50.0g減量する代わりに、この減量された量の分の酸化亜鉛をさらに投入したことを除いては、前記実施例1と同様に行い、500gの抗菌性水分散組成物を製造した。
【0043】
[実施例3] クエン酸銅を含む抗菌性水分散組成物の製造
純水(DI water)の含量を363.7gから431.2gに67.5g増量する代わりに、この増量された量の分のクエン酸銅無水物粉末の含量を減量させたことを除いては、前記実施例2と同様に行い、500gの抗菌性水分散組成物を製造した。
【0044】
[比較例1] 通常の構造用接着剤組成物の製造
クエン酸銅の代わりにCu2+/ゼオライト(zeolite)を使用したことを除いては、前記実施例1と同じ組成で混合して水分散組成物を製造した。一方、Cu2+/ゼオライト(zeolite)の製造方法は公知の技術であり、本出願人が独自に製造して使用した。
以上の実施例1~3及び比較例1で製造された組成物の各組成を下記表2に示した。
【0045】
【0046】
[試験例1] 組成物内の銅イオンの濃度測定
実施例1~3及び比較例1で製造された組成物内に含まれる銅イオン(Cu2+)の濃度(%)を測定し、その結果を下記表3に示した。
【0047】
【0048】
[試験例2] 組成物の抗菌性評価
前記実施例1~3及び比較例1で製造された組成物それぞれの細菌2種(S.aureus及びE.coli)に対する抗菌性を評価した。細菌に対する評価方法は、ASTM E 2149に従って実施し、50mL phosphate buffer溶液(リン酸緩衝溶液)に18時間前培養した菌を接種して菌濃度を1.5~3.0×105CFU/mLとした後、それぞれの試料を0.1g(=0.2%)を入れて1時間振盪した後、バッファー(buffer)のCFU(Colony Forming Unit)を測定し、下記の式1に従って菌減少率を測定し、その結果を下記表4に示した。一方、前記表3に示したように、比較例1で製造された組成物内の銅イオンの濃度は1.1%であり、前記実施例1で製造された組成物の銅イオン濃度(5.0%)に比べて低いため、同じ銅イオン濃度条件を合わせるために、比較例1に該当する試料の量を0.5g(=1.0%)に増量適用した。
【0049】
(式1)
菌減少率(%)=[(Controlの培養後菌数)-(試料の培養後菌数)]/(Controlの培養後菌数)×100
【0050】
【0051】
評価結果、クエン酸銅を含む実施例1~3の抗菌性水分散組成物は、細菌に対して接触1時間で98.1~99.9%の菌減少率が確認された反面、通常の抗菌剤であるCu2+/ゼオライトを使用した比較例1の場合には、96.3~97.2%の菌減少率を示し、実施例1~3に比べて抗菌性能が低いことを確認することができた。また、クエン酸銅、増粘剤及び界面活性剤のみを含む実施例1と、これに酸化亜鉛まで含む実施例2の比較及び対照を通じては、組成物に酸化亜鉛が添加される場合、ブドウ球菌(S.aureus)に対する抗菌性能が小幅に向上することを確認することができた。
【0052】
一方、
図1は、本発明の実施例及び比較例で使用した対照群(Control)のS.aureus菌株の培養後のイメージ(a)及び実施例1試料との接触後に死滅したS.aureus菌株のイメージ(b)であり、
図2は、本発明の実施例及び比較例で使用したControlのE.coli菌株の培養後のイメージ(a)及び実施例1試料との接触後に死滅したE.coli菌株のイメージ(b)である。
【0053】
一方、比較例1の組成物に含まれるCu2+/ゼオライトの場合、水分散組成物内の銅イオンの濃度が1.1%に過ぎず、抗菌試験に使用したサンプル量を約5倍に増量させることにより、実施例1及び2と同じ銅イオン濃度を合わせたにもかかわらず、菌減少率が96.3~97.2%と、クエン酸銅の菌減少率に比べて劣位を示した。
【0054】
一方、文献によると、2.5重量%濃度の銅イオンを含有するCu2+/ゼオライトの齧歯類急性経口毒性(LD50)は、18,000mg/kgと知られている。これは、純粋なクエン酸銅(銅イオン濃度:33.5%)の齧歯類急性経口毒性(LD50)が1,580mg/kgである点を勘案すると、クエン酸銅がCu2+/ゼオライトより人体に有害ではないことを類推することができる。
【国際調査報告】