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特表2024-513375線形定量的ダイナミックレンジ拡張のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】線形定量的ダイナミックレンジ拡張のための方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240315BHJP
   H01J 49/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 X
H01J49/00 270
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560033
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-09-28
(86)【国際出願番号】 IB2022052280
(87)【国際公開番号】W WO2022208208
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】63/167,916
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】イボセフ, ゴルダナ
(72)【発明者】
【氏名】テイト, スティーブン エー.
(72)【発明者】
【氏名】カン, ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ブルームフィールド, ニック ジー.
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA21
2G041GA06
2G041GA09
2G041HA01
2G041LA09
2G041LA20
(57)【要約】
2個以上の定量イオンの等化された量の不確実性加重平均が、定量化実験自体から計算される。n個の既知のiイオン化合物が、m個の異なるサンプルのうちの各々において、経時的に質量分析され、m個のサンプルのうちの各々に関して、n個のXICピークを生成する。n個のiイオンのうちのjイオンである基準イオンj、または仮説イオンjが、選択される。n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積に対するjイオンのピーク面積の比率r(j,i)が、m個のサンプルのうちの各々に関して計算され、n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率を生成する。予期される比率r(j,i)は、n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率から、n個のiイオンのうちの各イオンに関して計算される。各サンプルに関して、不確実性加重平均は、r(j,i)を使用して計算される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分光測定システムであって、前記質量分光測定システムは、
質量分光計であって、前記質量分光計は、m個の異なる実験サンプルのうちの各々における着目化合物のn個の既知のiイオンを経時的に質量分析し、前記m個の異なるサンプルのうちの各々に関するn個の抽出されたイオンクロマトグラフ(XIC)ピークを生成する、質量分光計と、
プロセッサと
を備え、
前記プロセッサは、
前記n個のiイオンのうちのjイオンである基準イオンj、または仮説イオンjを選択することと、
前記m個のサンプルのうちの各々に関して、前記jイオンのピーク面積の前記n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積に対する比率r(j,i)を計算し、前記n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率を生成することと、
前記n個のiイオンのうちの各々に関する前記m個のr(j,i)比率から、前記n個のiイオンのうちの各イオンに関する予期される比率r(j,i)を計算することと、
前記m個のサンプルのうちの各サンプルに関して、
【数7】
から、前記jイオンに対して等化された不確実性加重平均量Xを計算することであって、式中、wは、前記各サンプルに関する前記n個のiイオンのうちの各イオンに関する0~1の不確実性重みであり、値が1に近いほど、より低い不確実性を意味し、値が0に近いほど、より高い不確実性を意味する、ことと
を行う、質量分光測定システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記各イオンに関する前記m個のr(j,i)比率の最頻値を計算することによって、前記n個のiイオンのうちの各イオンに関する予期される比率r(j,i)を計算する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、各サンプルに関する前記n個のiイオンのうちの各イオンに関して計算された前記r(j,i)を前記予期されるr(j,i)と比較することによって、不確実性重みwを計算し、値が1に近いほど、より高い当量比を意味し、値が0に近いほど、より低い当量比を意味する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記各サンプルに関する前記n個のiイオンのうちの各イオンに関して計算された前記r(j,i)を前記予期されるr(j,i)と比較することは、
前記各イオンに関する前記m個のr(j,i)比率r(j,i)のヒストグラムを計算することであって、前記ヒストグラムは、前記m個のr(j,i)比率の関数として、前記m個のr(j,i)比率の各比率の発生の数を提供する、ことと、
計算された前記r(j,i)と前記予期されるr(j,i)との間の距離を計算することと、
前記不確実性重みwを前記距離の逆数から計算することと
を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサは、
前記m個のサンプルのうちの1個以上のサンプルにおける前記n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積における前記n個のiイオンのうちの全ての他のイオンのピーク面積に対する最大差異を計算することと、
前記m個のサンプルのうちの1個以上のサンプルにおける最も小さい最大ピーク差異を生成する前記n個のiイオンのうちのイオンを選択することと
を行うことによって、前記n個のiイオンのうちのjイオンである基準イオンjを選択する、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記n個のiイオンのうちの1個以上は、前記化合物の生成イオンを備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記n個のiイオンのうちの1個以上は、前記化合物の前駆体イオンの同位体、または前記化合物の生成イオンの同位体を備えている、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
質量分光測定の方法であって、前記方法は、
m個の異なる実験サンプルのうちの各々における着目化合物のn個の既知のiイオンを経時的に質量分析し、前記m個の異なるサンプルのうちの各々に関するn個の抽出されたイオンクロマトグラフ(XIC)ピークを生成することと、
前記n個のiイオンのうちのjイオンである基準イオンj、または仮説イオンjを選択することと、
前記m個のサンプルのうちの各々に関して、前記jイオンのピーク面積の前記n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積に対する比率r(j,i)を計算し、前記n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率を生成することと、
前記n個のiイオンのうちの各々に関する前記m個のr(j,i)比率から、前記n個のiイオンのうちの各イオンに関する予期される比率r(j,i)を計算することと、
前記m個のサンプルのうちの各サンプルに関して、
【数8】
から、前記jイオンに対して等化された不確実性加重平均量Xを計算することであって、式中、wは、前記各サンプルに関する前記n個のiイオンのうちの各イオンに関する0~1の不確実性重みであり、値が1に近いほど、より低い不確実性を意味し、値が0に近いほど、より高い不確実性を意味する、ことと
を含む、方法。
【請求項9】
前記各イオンに関する前記m個のr(j,i)比率の最頻値を計算することによって、前記n個のiイオンのうちの各イオンに関する予期される比率r(j,i)を計算すること、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
不確実性重みwは、前記各サンプルに関する前記n個のiイオンのうちの各イオンに関して計算された前記r(j,i)を前記予期されるr(j,i)と比較することによって計算され、値が1に近いほど、より高い当量比を意味し、値が0に近いほど、より低い当量比を意味する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記各サンプルに関する前記n個のiイオンのうちの各イオンに関して計算された前記r(j,i)を前記予期されるr(j,i)と比較することは、
前記各イオンに関する前記m個のr(j,i)比率r(j,i)のヒストグラムを計算することであって、前記ヒストグラムは、前記m個のr(j,i)比率の関数として、前記m個のr(j,i)比率の各比率の発生の数を提供する、ことと、
計算された前記r(j,i)と前記予期されるr(j,i)との間の距離を計算することと、
前記不確実性重みwを前記距離の逆数から計算することと
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記n個のiイオンのうちのjイオンである基準イオンjを選択することは、
前記m個のサンプルのうちの1個以上のサンプルにおける前記n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積における前記n個のiイオンのうちの全ての他のイオンのピーク面積に対する最大差異を計算することと、
前記m個のサンプルのうちの1個以上のサンプルにおける最も小さい最大ピーク差異を生成する前記n個のiイオンのうちのイオンを選択することと
を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記n個のiイオンのうちの1個以上は、前記化合物の生成イオンを備えている、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記n個のiイオンのうちの1個以上は、前記化合物の前駆体イオンの同位体、または前記化合物の生成イオンの同位体を備えている、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
非一過性有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を備えているコンピュータプログラム製品であって、そのコンテンツは、質量分光測定方法のためにプロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含み、前記質量分光測定方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを備え、前記異なるソフトウェアモジュールは、制御モジュールと分析モジュールとを備えている、ことと、
前記制御モジュールを使用して、m個の異なる実験サンプルのうちの各々における着目化合物のn個の既知のiイオンを経時的に質量分析し、前記m個の異なるサンプルのうちの各々に関するn個の抽出されたイオンクロマトグラフ(XIC)ピークを生成するように質量分光計に命令することと、
前記分析モジュールを使用して、前記n個のiイオンのうちのjイオンである基準イオンj、または仮説イオンjを選択することと、
前記分析モジュールを使用して、前記m個のサンプルのうちの各々に関して、前記jイオンのピーク面積の前記n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積に対する比率r(j,i)を計算し、前記n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率を生成することと、
前記分析モジュールを使用して、前記n個のiイオンのうちの各々に関する前記m個のr(j,i)比率から、前記n個のiイオンのうちの各イオンに関する予期される比率r(j,i)を計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記m個のサンプルのうちの各サンプルに関して、
【数9】
から、前記jイオンに対して等化された不確実性加重平均量Xを計算することであって、式中、wは、前記各サンプルに関する前記n個のiイオンのうちの各イオンに関する0~1の不確実性重みであり、値が1に近いほど、より低い不確実性を意味し、値が0に近いほど、より高い不確実性を意味する、ことと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、その内容が参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる2021年3月30日に出願された米国仮特許出願第63/167,916号の利益を主張する。
【0002】
(緒言)
本明細書の教示は、液体クロマトグラフ-質量分光測定(LC-MS)または液体クロマトグラフ-質量分光測定/質量分光測定(LC-MS/MS)において、着目化合物の定量化可能線形ダイナミックレンジを拡張することに関する。より具体的に、本明細書の教示は、定量化実験自体から取得される2個以上の定量イオン(quantifier ion)の推測または等化された量の不確実性加重平均を使用することによって、着目化合物の定量化可能範囲を拡張するためのシステムおよび方法に関する。
【0003】
本明細書のシステムおよび方法は、プロセッサ、コントローラ、または図1のコンピュータシステム等のコンピュータシステムと併せて、実施されることができる。
【背景技術】
【0004】
(複数の定量因子を使用した拡張された線形ダイナミックレンジ)
定量化のための線形ダイナミックレンジ(LDR)は、質量分光測定におけるイオン信号応答に対するサンプル濃度の線形性によって決定される。LDR結果は、「イオン効率」における差異に起因して種々の感度レベルを伴う同じサンプルから異なる標的イオン(定量イオン)を選定することによって、変動させられ得る。任意の質量分光計に関して、イオン効率は、限定ではないが、イオン化効率、断片化効率、および検出効率を含むいくつかの要因に依存する。飛行時間(TOF)質量分光計に関して、イオン効率は、例えば、TOFデューティサイクル損失にも依存する。
【0005】
図2は、イオン強度対サンプル濃度の例示的プロット200であり、本発明の実施形態が実装され得る異なる定量イオンを選定することによって、LDR結果が、いかに変動させられ得るかを示す。プロット200は、定量イオン210および定量イオン220に関するLDRを示す。定量イオン210のLDRの傾きは、1に近い。これは、定量イオン210が、高イオン効率を有することを意味する。サンプル濃度の任意の変化は、イオン強度における比例変化を生成する。したがって、定量イオン210は、高検出感度を有する。
【0006】
定量イオン210のような高イオン効率を伴うイオンの別の利点は、それらが、質量分光測定信号変動に比例する濃度変動(CV)を生成することである。例えば、質量分光測定信号変動230は、定量イオン210に関する比例CV231を生成する。
【0007】
残念ながら、定量イオン210のような高イオン効率を伴うイオンは、質量分光計の飽和上限に迅速に到達する。これは、それらのLDRが、他のイオンより短く、次に、それらのサンプル濃度範囲も、より短いことを意味する。プロット200では、定量イオン210のLDRは、サンプル濃度範囲241を生成する。
【0008】
対照的に、定量イオン220のLDRの傾きは、1を大きく下回る。これは、定量イオン220が、定量イオン210より低いイオン効率を有することを意味する。サンプル濃度の任意の変化は、イオン強度におけるより小さい変化を生成する。したがって、定量イオン220は、定量イオン210より低い検出感度を有する。
【0009】
定量イオン220のようなより低いイオン効率を伴うイオンの別の不利点は、質量分光測定信号変動に応答して、それらが、はるかに大きいCVを生成することである。例えば、質量分光測定信号変動230は、定量イオン220に関して、定量イオン210のCV231よりはるかに大きいCV232を生成する。
【0010】
しかしながら、より低いイオン効率の1つの利点は、より大きいサンプル濃度範囲である。定量イオン220のようなより低いイオン効率を伴うイオンは、質量分光計の飽和上限に到達するまでにより長い時間がかかる。これは、それらのLDRが、より長く、次に、それらのサンプル濃度範囲も、より長いことを意味する。プロット200では、定量イオン220のLDRは、サンプル濃度範囲242を生成し、それは、定量イオン210のサンプル濃度範囲241よりはるかに大きい。
【0011】
従来、化合物のLDRは、2個以上の定量イオンを使用して、拡張されている。しかしながら、較正曲線を発生させるための試験では、規定された遷移または使用される生成イオンは、慎重に選択される必要がある。
【0012】
図3は、本発明の実施形態が実装され得る図2の2個のイオンの完全強度対サンプル濃度応答を示す例示的プロット300である。典型的に、最高イオン効率を有する選択された生成イオンは、サンプル濃度の下限におけるLDR限界を拡張するために使用される。例えば、線310は、図2の定量イオン210の強度対サンプル濃度応答であり、サンプル濃度の下限におけるLDR限界を拡張するために使用されることができる。しかしながら、線310は、強度が、サンプル濃度の数桁において、検出上限に到達するので、総LDR範囲の下限濃度に限定されるにすぎないであろう。
【0013】
線320は、図2の定量イオン210の強度対サンプル濃度応答であり、サンプル濃度の上限におけるLDR限界を拡張するために使用されることができる。線320は、より低い「イオン効率」を伴うより低い強度の生成イオンの応答を表すことを思い出されたい。
【0014】
複数の定量イオンのための良好な較正曲線を発生させるために、労力は、1)定量イオン質量/電荷比(m/z)および定量イオン強度比等の情報を集めること、2)下限および上限における定量イオンの慎重な選択、3)システム飽和限界内の強度を伴う定量イオンを使用すること、4)滞留時間(RT)情報に基づいて、任意の干渉イオンの選択を回避するために、正しい定量イオンが下限において選択されているかどうかの手動チェックを含んだ。
【0015】
較正曲線を発生させるときの異なる定量イオンの最適化された利用は、サンプル濃度範囲の下限および上限の両方において、総LDR範囲を拡張する潜在性を有する。しかしながら、これを達成することは、方法最適化、データ入手、およびデータ処理におけるかなりの追加の労力を要求する。
【0016】
結果として、良好な精度を伴って、かつ方法最適化、データ入手、およびデータ処理におけるかなりの追加の労力を伴わずに、正しい定量イオンの賢明な使用を用いて、最適化された定量化解決策を生成し、高線形ダイナミックレンジを確信を持って達成するための追加のシステムおよび方法が、必要とされる。
(LC-MSおよびLC-MS/MS背景)
【0017】
質量分光測定(MS)は、化学化合物から形成されるイオンの質量/電荷比(m/z)の分析に基づくそれらの化合物の検出および定量化のための分析技法である。質量分光測定(MS)と液体クロマトグラフ(LC)との組み合わせは、混合物中の化合物の識別および定量化のための重要な分析ツールである。概して、液体クロマトグラフでは、分析対象の流体サンプルは、化学的に処置された固体吸着材料(典型的に、小固体粒子の形態にあり、例えば、シリカ)で充填されたカラムに通される。混合物の成分と固体吸着材料の若干異なる相互作用(典型的に、定常期と称される)に起因して、異なる成分は、充塞されたカラムを通して、異なる遷移(溶出)時間を有し、種々の成分の分離をもたらし得る。LC-MSでは、LCカラムから出て行く流出物は、質量分光測定分析を連続して受け得る。この分析からのデータは、処理され、抽出イオンクロマトグラフ(XIC)を発生させることができ、それは、検出されたイオン強度(1個以上の特定の分析物の検出されたイオンの数の尺度)を滞留時間の関数として描写することができる。
【0018】
ある場合、LC流出物は、XICにおけるピークに対応する生成イオンの識別のために、タンデム質量分光測定(または質量分光測定/質量分光測定MS/MS)を受けることができる。例えば、前駆体イオンは、質量分析の後続段階を受けるべきそれらの質量/電荷比に基づいて選択されることができる。例えば、選択された前駆体イオンは、断片化されることができ(例えば、衝突誘発解離を介して)、断片化されたイオン(生成イオン)は、質量分光測定の後続段階を介して分析されることができる。
(タンデム質量分光測定またはMS/MS背景)
【0019】
タンデム質量分光測定またはMS/MSは、サンプルからの1個以上の着目化合物のイオン化と、1個以上の化合物の1個以上の前駆体イオンの選択と、1個以上の前駆体イオンの生成イオンへの断片化と、生成イオンの質量分析とを伴う。
【0020】
タンデム質量分光測定は、定質的および定量的情報の両方を提供することができる。生成イオンスペクトルは、着目分子を識別するために使用されることができる。1個以上の生成イオンの強度は、サンプル内に存在する化合物の量を定量化するために使用されることができる。
【0021】
多数の異なるタイプの実験方法またはワークフローが、タンデム質量分光計を使用して、実施されることができる。これらのワークフローは、限定ではないが、標的化された入手、情報依存入手(IDA)またはデータ依存入手(DDA)、およびデータ独立入手(DIA)を含むことができる。
【0022】
標的化された入手方法では、前駆体イオンの生成イオンへの1つ以上の遷移が、着目化合物に関して事前に定義される。サンプルが、タンデム質量分光計の中に導入されると、1つ以上の遷移が、複数の期間またはサイクルの各期間またはサイクル中、調べられる。換言すると、質量分光計は、各遷移の前駆体イオンを選択および断片化し、遷移中の生成イオンのための標的化された質量分析を実施する。結果として、クロマトグラフ(滞留時間に伴う強度の変動)が、各遷移に関して生成される。標的化入手方法は、限定ではないが、多重反応監視(MRM)および選択反応監視(SRM)を含む。
【0023】
MRM実験は、典型的に、限定ではないが、三重四重極(QqQ)または四重極線形イオントラップ(QqLIT)デバイスを含む「低分解能」器具を使用して実施される。「高分解能」器具の出現に伴って、QqQ/QqLITシステムに類似するワークフローを使用して、MSおよびMS/MSを収集することが所望された。高分解能器具は、限定ではないが、四重極飛行時間(QqTOF)またはオービトラップデバイスを含む。これらの高分解能器具も、新しい機能性を提供する。
【0024】
QqQ/QqLITシステム上のMRMは、複合混合物中の特定の成分の検出のための最高特異性および感度を提供するためのその能力に起因して、あらゆる応用分野における標的化された定量化のための選択肢である標準的質量分光測定技法である。しかしながら、今日の正確な質量システムの速さおよび感度は、類似性能特性を伴う新しい定量化方略を可能にしている。この方略(MRM高分解能(MRM-HR)または並列反応監視(PRM)と称される)では、ループMS/MSスペクトルが、短累積時間を伴って、高分解能において収集され、次いで、断片化イオン(生成イオン)が、入手後に抽出され、積分および定量化のためのMRM様ピークを発生させる。AB SCIEXTMのTRIPLETOF(登録商標)システムのような器具類を用いることで、この標的化技法は、最高級三重四重極器具に類似する定量的性能を可能にするために十分に敏感かつ高速であり、高分解能および高質量精度において測定された完全断片化データを伴う。
【0025】
換言すると、MRM-HR等の方法では、高分解能前駆体イオン質量スペクトルが、取得され、1個以上の前駆体イオンが、選択および断片化され、高分解能完全生成イオンスペクトルが、各選択された前駆体イオンに関して取得される。完全生成イオンスペクトルが、各選択された前駆体イオンに関して収集されるが、着目生成イオン質量が、規定され得、着目生成イオン質量の質量窓以外の全てのものは、廃棄され得る。
【0026】
IDA(またはDDA)方法では、ユーザは、サンプルがタンデム質量分光計の中に導入されている間、生成イオンの質量スペクトルを収集するための基準を規定することができる。例えば、IDA方法では、前駆体イオンまたは質量分光測定(MS)調査走査が、前駆体イオンピークリストを発生させるために実施される。ユーザは、ピークリスト上の前駆体イオンの一部に関してピークリストをフィルタリングするための基準を選択することができる。調査走査およびピークリストは、周期的に、リフレッシュまたは更新され、MS/MSが、次いで、前駆体イオンの一部の各前駆体イオンに対して実施される。生成イオンスペクトルが、各前駆体イオンに関して生成される。MS/MSは、サンプルがタンデム質量分光計に導入されると、前駆体イオンの一部の前駆体イオンに対して繰り返し実施される。
【0027】
しかしながら、プロテオミクスおよび多くの他の用途では、化合物の複雑性およびダイナミックレンジは、非常に広い。これは、広範囲の分析物の識別および定量化の両方を行うために、サンプルを徹底的に調べるための非常に高速のMS/MS入手を要求する従来の標的化およびIDA方法に関する課題を提起する。
【0028】
結果として、タンデム質量分光測定の第3の広義のカテゴリであるDIA方法が、開発された。これらのDIA方法が、複合サンプルからのデータ収集の再現性および包括性を増すために使用されている。DIA方法は、非特異性断片化方法とも呼ばれ得る。DIA方法では、タンデム質量分光計の活動は、MS/MS走査間で、前の前駆体または調査走査において入手されたデータに基づいて変動させられない。代わりに、前駆体イオン質量範囲が、選択される。前駆体イオン質量選択窓が、次いで、前駆体イオン質量範囲にわたって段階化される。前駆体イオン質量選択窓における全ての前駆体イオンが、断片化され、前駆体イオン質量選択窓における前駆体イオンの全ての生成イオンの全てが、質量分析される。
【0029】
質量範囲を走査するために使用される前駆体イオン質量選択窓は、窓内の複数の前駆体の可能性が低いように、狭くあることができる。このタイプのDIA方法は、例えば、MS/MSALLと呼ばれる。MS/MSALL方法では、約1amuの前駆体イオン質量選択窓が、走査されるか、または、質量範囲全体にわたって段階化される。生成イオンスペクトルが、各1amu前駆体質量窓に関して生成される。質量範囲全体を一度分析または走査するためにかかる時間は、1走査サイクルと称される。しかしながら、各サイクル中、広い前駆体イオン質量範囲にわたって狭い前駆体イオン質量選択窓を走査することは、長時間を要し得、いくつかの器具および実験に関して実践的ではない。
【0030】
結果として、より大きい前駆体イオン質量選択窓またはより広い幅を伴う選択窓が、全体前駆体質量範囲にわたって段階化される。このタイプのDIA方法は、例えば、SWATH入手と呼ばれる。SWATH入手では、各サイクルにおいて前駆体質量範囲にわたって段階化される前駆体イオン質量選択窓は、5~25amuまたはさらにより広い幅を有し得る。MS/MSALL方法のように、各前駆体イオン質量選択窓における前駆体イオンの全ては、断片化され、各質量選択窓における前駆体イオンの全ての生成イオンの全てが、質量分析される。しかしながら、より広い前駆体イオン質量選択窓が使用されるので、サイクル時間は、MS/MSALL方法のサイクル時間と比較して、かなり減らされ得る。
【0031】
米国特許第8,809,770号は、SWATH入手が、着目化合物の前駆体イオンについての定量的および定質的情報を提供するために使用され得る方法を説明する。特に、前駆体イオン質量選択窓を断片化することから見出される生成イオンは、着目化合物の既知の生成イオンのデータベースと比較される。加えて、前駆体イオン質量選択窓を断片化することから見出される生成イオンのイオントレースまたは抽出イオンクロマトグラフ(XIC)が、分析され、定量的および定質的情報を提供する。
(定量化ダイナミックレンジ背景)
【0032】
質量分光測定による定量化は、典型的に、MRMまたはMRM-HRおよびLCを導入システムとして使用する。例えば、特定のMRM遷移からの応答が、着目化合物がLCカラムから溶出することが予期される時間中に測定される。クロマトグラフが、発生させられ、クロマトグラフ内に存在する任意のピークのエリアを決定するために処理され、対応する量が、較正曲線から、または既知の濃度の標準に対する比率から計算される。着目化合物または分析物の測定された信号は、最初に、濃度に伴って線形に増加するであろうが、最終的に、測定され得る最大濃度を限定するプラトーに到達するであろうことが周知である。線形応答を与える、濃度範囲は、線形ダイナミックレンジとして知られる。この信号プラトーまたはロールオーバーは、概して、着目化合物の濃度の増加が、もはや、作成または検出されるイオンの数の増加を引き起こさないような、イオン源、検出器、またはカラムにおける飽和に起因する。
【0033】
この信号プラトーは、付加物、二量体、三量体、多価イオン、およびその他の形成にも起因し得る。多くの化合物は、形態M+HおよびM-Hのイオンを与えるための陽子の添加(正のモード)または除去(負のモード)によってイオン化されるが、他の種、例えば、Na、NH 、K、CHO 、C 等も、添加されることができる。これらの形態は、概して、付加物として知られる。これらのイオンは、分離を改良するためにLC溶媒に添加されるイオン緩衝剤(例えば、ギ酸または酢酸ナトリウムまたはアンモニウム)から生じ得るが、ナトリウムおよびカリウムも、ガラス製品から浸出し得る。さらに、複数の分子を含む種(二量体および三量体)、例えば、2M+H、2M+Na、3M+H等も、観察され得、全ての分子イオンは、イオン導入光学系において断片化し、HO、CO等の損失に対応する断片イオンを発生させ得る。タンパク質およびペプチド等のより大きい種では、M+2H2+、M+3H3+等の多価イオンも、形成され得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0034】
システム、方法、およびコンピュータプログラム製品が、2個以上の定量イオンの等化された量の不確実性加重平均を定量化実験自体から計算するために開示される。システムは、質量分光計と、プロセッサとを含む。
【0035】
質量分光計は、m個の異なる実験サンプルのうちの各々における着目化合物のn個の既知のiイオンを経時的に質量分析し、XICピークを生成する。XICピークは、m個の異なるサンプルのうちの各々に関して、n個のピークを含む。
【0036】
プロセッサは、n個のiイオンのうちのjイオンである基準イオンj、または仮説イオンjを選択する。プロセッサは、m個のサンプルのうちの各々に関して、n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積に対するjイオンのピーク面積の比率r(j,i)を計算し、n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率を生成する。プロセッサは、n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率から、n個のiイオンのうちの各イオンに関する予期される比率r(j,i)を計算する。最後に、プロセッサは、以下の式から、jイオンに対して等化された不確実性加重平均量Xを計算し、
【数1】
式中、wは、各サンプルに関するn個のiイオンのうちの各イオンに関する0~1の不確実性重みであり、値が1に近いほど、より低い不確実性を意味し、値が0に近いほど、より高い不確実性を意味する。
【0037】
本出願人の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
当業者は、下記に説明される図面が、例証目的のみのためであることを理解するであろう。図面は、本教示の範囲をいかようにも限定するように意図するものではない。
【0039】
図1図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステムを図示するブロック図である。
【0040】
図2図2は、イオン強度対サンプル濃度の例示的プロットであり、線形ダイナミックレンジ(LDR)結果が、本発明の実施形態が実装され得る異なる定量イオンを選定することによって、変動させられ得る様子を示す。
【0041】
図3図3は、本発明の実施形態が実装され得る図2の2個のイオンの完全強度対サンプル濃度応答を示す例示的プロットである。
【0042】
図4図4は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオン相対的ピーク面積を示す例示的プロットである(対数スケール)。
【0043】
図5図5は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオンの濃度変動(CV)が濃度に伴って変動した様子を示す例示的ヒートマップである(対数スケール)。
【0044】
図6図6は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオンのLDRが濃度に伴って変動した様子を示す例示的ヒートマップである(対数スケール)。
【0045】
図7図7は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオンの測定されたピーク面積が濃度に伴って変動した様子を示す例示的ヒートマップである。
【0046】
図8図8は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオンの等化されたピーク面積が濃度に伴って変動した様子を示す例示的ヒートマップである。
【0047】
図9図9は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の個々の定量イオンの濃度範囲または定量化限界(LOQ)がコンセンサス量と比較して、濃度に伴って変動した様子を示す例示的プロットである(対数スケール)。
【0048】
図10図10は、種々の実施形態による3個の個々の定量イオンおよびコンセンサス量に関するパーセンテージCV対濃度の例示的プロットである。
【0049】
図11図11は、種々の実施形態による3個の個々の定量イオンおよびコンセンサス量に関するパーセンテージ精度対濃度の例示的プロットである。
【0050】
図12図12は、種々の実施形態による2個以上の定量イオンの等化された量の不確実性加重平均を定量化実験自体から計算するためのシステムを示す概略図である。
【0051】
図13図13は、種々の実施形態による2個以上の定量イオンの等化された量の不確実性加重平均を定量化実験自体から計算する方法を示すフローチャートである。
【0052】
図14図14は、種々の実施形態による2個以上の定量イオンの等化された量の不確実性加重平均を定量化実験自体から計算する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本教示の1つ以上の実施形態が、詳細に説明される前に、当業者は、本教示が、その用途において、以下の詳細な説明に記載される、または図面に図示される構造、構成要素の配置、およびステップの配置の詳細に限定されないことを理解するであろう。本明細書に使用される語法および専門用語が説明の目的のためであり、限定と見なされるべきではないことも理解されたい。
(コンピュータ実装システム)
【0054】
図1は、本教示の実施形態が実装され得るコンピュータシステム100を図示するブロック図である。コンピュータシステム100は、情報を通信するためのバス102または他の通信機構と、情報を処理するためにバス102と結合されたプロセッサ104とを含む。コンピュータシステム100は、メモリ106も含み、それは、プロセッサ104によって実行されるべき命令を記憶するためにバス102に結合されたランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得る。メモリ106は、プロセッサ104によって実行されるべき命令の実行中、一時的変数または他の中間情報を記憶するためにも使用され得る。コンピュータシステム100は、プロセッサ104に関する静的情報および命令を記憶するためにバス102に結合された読み取り専用メモリ(ROM)108または他の静的記憶デバイスをさらに含む。磁気ディスクまたは光ディスク等の記憶デバイス110が、提供され、情報および命令を記憶するために、バス102に結合される。
【0055】
コンピュータシステム100は、情報をコンピュータユーザに表示するために、ブラウン管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ112に、バス102を介して結合され得る。英数字および他のキーを含む入力デバイス114が、プロセッサ104に情報およびコマンド選択を通信するために、バス102に結合される。別のタイプのユーザ入力デバイスは、マウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御116であり、それらは、プロセッサ104に方向情報およびコマンド選択を通信し、ディスプレイ112上のカーソル移動を制御する。
【0056】
コンピュータシステム100が、本教示を実施することができる。本教示のある実装と一貫して、結果が、プロセッサ104がメモリ106内に含まれる1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスを実行することに応答して、コンピュータシステム100によって提供される。そのような命令は、記憶デバイス110等の別のコンピュータ読み取り可能な媒体から、メモリ106に読み込まれ得る。メモリ106内に含まれる命令のシーケンスの実行は、プロセッサ104に、本明細書に説明されるプロセスを実施させる。代替として、有線回路網が、本教示を実装するためのソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて、使用され得る。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路網およびソフトウェアの任意の具体的組み合わせに限定されない。
【0057】
本明細書に使用されるような用語「コンピュータ読み取り可能な媒体」または「コンピュータプログラム製品」は、実行のためにプロセッサ104に命令を提供することに関与する任意の媒体を指す。用語「コンピュータ読み取り可能な媒体」および「コンピュータプログラム製品」は、本記載の説明全体を通して、同義的に使用される。そのような媒体は、限定ではないが、不揮発性媒体、揮発性媒体、および前駆体イオン質量選択媒体を含む多くの形態をとり得る。不揮発性媒体は、例えば、記憶デバイス110等の光学または磁気ディスクを含む。揮発性媒体は、メモリ106等の動的メモリを含む。
【0058】
一般的形態のコンピュータ読み取り可能な媒体は、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または任意の他の磁気媒体、CD-ROM、デジタルビデオディスク(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク、任意の他の光学媒体、サムドライブ、メモリカード、RAM、PROM、およびEPROM、FLASH(登録商標)-EPROM、任意の他のメモリチップまたはカートリッジ、またはそれからコンピュータが読み取り得る任意の他の有形媒体を含む。
【0059】
種々の形態のコンピュータ読み取り可能な媒体が、実行のために、プロセッサ104に1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスを搬送することに関わり得る。例えば、命令は、最初に、遠隔コンピュータの磁気ディスク上に搬送され得る。遠隔コンピュータは、命令をその動的メモリの中にロードし、モデムを使用して、電話回線を経由して、命令を送信することができる。コンピュータシステム100にローカルなモデムが、電話回線上でデータを受信し、赤外線信号にデータを変換するように赤外線送信機を使用することができる。バス102に結合される、赤外線検出器が、赤外線信号内で搬送されるデータを受信し、バス102上にデータを入れることができる。バス102は、メモリ106にデータを搬送し、それからプロセッサ104が、命令を読み出し、実行する。メモリ106によって受信される命令は、随意に、プロセッサ104による実行前または後のいずれかに、記憶デバイス110に記憶され得る。
【0060】
種々の実施形態によると、方法を実施するようにプロセッサによって実行されるように構成される命令が、コンピュータ読み取り可能な媒体上に記憶される。コンピュータ読み取り可能な媒体は、デジタル情報を記憶するデバイスであることができる。例えば、コンピュータ読み取り可能な媒体は、ソフトウェアを記憶するための当技術分野において公知であるような、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)を含む。コンピュータ読み取り可能な媒体は、実行されるように構成される命令を実行するために好適なプロセッサによって、アクセスされる。
【0061】
本教示の種々の実装の以下の説明は、例証および説明の目的のために提示されている。それは、包括的ではなく、開示される精密な形態に本教示を限定するものでもない。修正および変形例が、上記の教示に照らして可能であるか、または本教示の実践から入手され得る。加えて、説明される実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせとして、またはハードウェア単独で実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向プログラミングシステムの両方を用いて、実装され得る。
(可能性が最も高い比率を使用したダイナミックレンジの拡張)
【0062】
上で説明されるように、定量化のための線形ダイナミックレンジ(LDR)は、質量分光測定におけるイオン信号応答に対するサンプル濃度の線形性によって決定される。LDR結果は、「イオン効率」における差異に起因して種々の感度レベルを伴う同じサンプルから、異なる標的イオン(定量イオン)を選定することによって、変動させられ得る。
【0063】
従来、化合物のLDRは、2個以上の定量イオンを使用して、拡張されている。較正曲線を発生させるときの異なる定量イオンの最適化された利用は、サンプル濃度範囲の下限および上限の両方において、総LDR範囲を拡張する潜在性を有する。しかしながら、これを達成することは、方法最適化、データ入手、およびデータ処理におけるかなりの追加の労力を要求する。
【0064】
結果として、良好な精度を伴って、かつ方法最適化、データ入手、およびデータ処理におけるかなりの追加の労力を伴わずに、正しい定量イオンの賢明な使用を用いて、最適化された定量化解決策を生成し、高線形ダイナミックレンジを確信をもって達成するための追加のシステムおよび方法が、必要とされる。
【0065】
種々の実施形態では、着目分析物または化合物の2個以上の定量イオン間の関係または比率が、実験データから発見される。2個以上の定量イオンの測定された量は、比率を使用して、等化される。最終的に、等化された量は、コンセンサス量の中に組み合わせられる。
【0066】
2個以上のイオンが、定量化のために抽出される。化合物定量イオンは、典型的に、着目化合物の生成イオンを含む。しかしながら、前駆体イオンの同位体、または生成イオンと同位体との任意の組み合わせも、使用されることができる。
【0067】
定量イオンは、典型的に、同じイオン効率(例えば、断片イオン発生の可能性)または天然存在度(同位体)を有しておらず、所与の前駆体分子量に関して、そのようなイオン間の観察される強度に有意な差異をもたらす。換言すると、着目化合物のX個の分子に関して、質量分光計は、定量イオン(i)のX(i)個のイオンをイオン化し、式中、X(i)<=XおよびX(1)<=X(2)<=X(3)<=・・・<=X(n)<=Xである。
【0068】
2個の定量イオンiとjとの間の関係または比率は、r(j,i)=X(j)/X(i)として表される。種々の実施形態では、定量イオンは、X(1)<<X(n)であるように選択される。1つのそのようなシナリオが、図2に実証される。任意の定量イオンが、着目化合物を推測(定量化)するために使用されることができる。
【0069】
従来、定量化は、単一定量イオンを使用して、または2個以上の定量イオンの合計を使用して、実施されている。単一定量因子を使用するとき、典型的に、(低効率イオンのような)最大量のダイナミックレンジを伴う定量イオンが、使用されるか、または、着目化合物の着目範囲と重複する最良線形ダイナミックレンジを有する定量イオンが、使用される。
【0070】
2個以上の定量イオンの合計を使用することの動機は、強度で重み付けられた量による測定変動性を減らすことである。それは、時として、LDRを拡張するために正しくなく予期されるが、合計は、典型的に、LDRに影響を及ぼさない。しかしながら、それは、r(j,i)~1の場合、推測される相違に確実に影響を及ぼす。それは、定量イオン応答が著しく異なる(r(j,i)<<1)場合にも、LDRは、最も豊富な定量イオンによって左右される。
【0071】
種々の実施形態では、LDR拡張は、2個以上の定量イオンの合計を使用して可能である。例えば、LDR拡張は、選択された定量イオンが、著しく異なるイオン応答を有する場合、可能である。これらの異なるイオン応答は、生成イオンの異なる断片化効率、例えば、同位体比および電荷クラスタ比のような質量分光測定化学特性、およびTOF実験におけるオン/オフZenoパルス化の使用等の他の理由に起因し得る。
【0072】
LDR拡張は、r(j,i)が、全ての定量イオンに関して既知である場合、または決定され得る場合にも、可能である。同位体存在度比は、既知であり、したがって、r(j,i)は、同位体間で既知である。r(j,i)が専用実験から全ての定量イオンに関して決定され得ることも、周知である。例えば、生成イオン比は、IDA実験から決定されることができる。
【0073】
しかしながら、種々の実施形態では、r(j,i)は、定量化実験自体から、全ての定量イオンに関して推定されることができる。従来、これは、可能であると考えられていなかった。種々の実施形態では、この推定は、十分な測定点またはサンプルが存在する場合、可能性が最も高い比率(MLR)を使用して、可能である。
MLRは、多数のサンプルの中で、比率が同じであるためには、1つの方法しかなく、比率が異なるためには、多くの方法があるという概念である。換言すると、比率が多数のサンプルの中で逸脱している場合、比率は、異なる量の変動において逸脱するであろう。例えば、サンプルの中で観察された比率のヒストグラムでは、最も頻繁に観察された比率が、可能性が最も高い正しい比率である。ここで使用されるMLRは、主に、高衝突エネルギー断片化を使用することを通して見出される生成イオン、高衝突エネルギー断片化を使用することを通して見出される生成イオンの同位体、または低衝突エネルギー断片化を使用して見出される前駆体イオンの同位体を対象とするので、断片MLR(FMLR)と称され得る。
【0074】
FMLRまたは予期されるr(j,i)(式中、i,jは、着目化合物のための定量イオンの組からの任意の定量イオン対である)および測定不確実性wを前提として、着目化合物の量Xが、以下の式を使用して、化合物のための全ての定量イオンによって推測される量の不確実性加重平均として推測される。
【数2】
【0075】
式中、定量イオンi測定値が低不確実性を有するとき、不確実性重みw~1であり、定量イオン測定不確実性が高いとき、不確実性重みw~0である。量r(j,i)*Area(i)は、定量イオンiから推測または等化された化合物量Xであり、式中、jは、ある基準イオン(例えば、任意の他のイオンとの最小の最大面積差を伴うもの)を指す。比率r(j,i)は、上記に解説されるように、測定されたイオンiとある基準イオンjとの間の既知または推定されるイオン比率である。
【0076】
種々の実施形態では、不確実性wは、限定ではないが、器具検出システム測定不確実性、特徴検出、および積分不確実性を含む複数の要因を組み込むようにモデル化されることができる。器具検出システム不確実性成分は、利用可能な次元(LC時間またはm/z)に沿って測定されたデータから、リアルタイムで、または入手後に計算され、器具検出システムダイナミックレンジ特性を考慮することができる。
【0077】
好ましい実施形態では、不確実性重みwは、サンプルの数が十分であるとき、希釈測定の組から、または好ましくは、定量化実験自体から、計算される、w Fmlrである。理論的に、3回を上回る実験の数で十分であるが、実践的に、3回を上回る実験が、好ましい。
【0078】
具体的に、w Fmlrは、各サンプルに関するn個のイオンのうちの各イオンiに関して計算されたr(j,i)を予期されるr(j,i)と比較することによって、決定される。値が1に近いほど、より高い当量比に割り当てられ、値が0に近いほど、より低い当量比に割り当てられる。これは、例えば、m個の比率の関数として、各イオンに関して、m個の比率のうちの各比率の発生の数を提供する各イオンiに関するm個の比率r(j,i)のヒストグラムを計算することによって、行われる。距離が、各イオンiに関して計算されたr(j,i)と予期されるr(j,i)との間で計算される。不確実性重みw Fmlrは、距離の逆数から計算される。
【0079】
種々の実施形態では、サンプルに関する着目化合物の濃度は、推測される量Xの不確実性加重平均を基準イオンjに関する標準的較正曲線と比較することによって、見出される。
(実験結果)
【0080】
アトルバスタチンのTOF-MS/MSデータ組が、分析された。サンプル組は、20個の希釈物を含み、内部標準に対する濃度比率は、約9桁変動した。各濃度は、3個の複製物を有していた。
【0081】
図4は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオンの相対的ピーク面積を示す例示的プロット400である(対数スケール)。プロット400は、440m/zにおける定量イオンが最も強いイオンであることを示す。
【0082】
図5は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオンのCVが、濃度に伴って変動した様子を示す例示的ヒートマップ500である(対数スケール)。より明るいエリアは、良好なCVに対応する。ヒートマップ500は、例えば、440m/zにおける最も強い定量イオンのCVが、イオンが最高濃度において飽和するまで、良好である様子を示す。
【0083】
図6は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオンのLDRが、濃度に伴って変動した様子を示す例示的ヒートマップ600である(対数スケール)。より明るいエリアは、定量イオンがLDR内にある濃度に対応する。ヒートマップ600は、例えば、440m/zにおける最も強い定量イオンが最高濃度において飽和すると、それがLDR外となる様子を示す。
【0084】
定量イオンが線形ダイナミックレンジに対してどれほど近いかは、精度またはパーセンテージ精度と称される。予期されるLDRは、既知である。予期されるLDRは、測定されたLDRから減算され、誤差を取得する。ヒートマップ600の最も明るいエリアは、例えば、ゼロの20%以内のLDR誤差を表す。
【0085】
図7は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオンの測定されたピーク面積が、濃度に伴って変動した様子を示す例示的ヒートマップ700である。より明るいエリアは、より大きいピーク面積に対応する。ヒートマップ700は、例えば、ピーク面積の率が、濃度に伴って増加し、最大ピーク面積が、22個の定量イオン間で変動することを示す。440m/zにおける最も強い定量イオンは、濃度に伴って増加するピーク面積の最も高い率と、最も大きい最大ピーク面積との両方を有する。
【0086】
図8は、種々の実施形態によるアトルバスタチンを定量化するために使用される22個の定量イオンの等化されたピーク面積が、濃度に伴って変動した様子を示す例示的ヒートマップ800である。より明るいエリアは、より大きいピーク面積に対応する。上で説明されるように、各定量イオンのピーク面積は、定量イオンiの分子の数または面積に対する基準イオンjの分子の数または面積の予期される比率r(j,i)によって、測定された面積を乗算することによって、等化される。上でも説明されるように、予期される比率r(j,i)は、好ましくは、実験データからのMLRを使用して見出される。ヒートマップ800は、例えば、ピーク面積の率が濃度に伴って増加することを示し、最大ピーク面積は、ここでは、22個の定量イオン間で等化されている。ピーク面積増加の率および最大ピーク面積は、基準イオンjに対して等化されている。
【0087】
この場合、基準イオンjは、559m/zにおける定量イオンであった。22個の定量イオンの各々の面積に対する559m/zにおける定量イオンの面積の比率は、MLRを使用して、見出された。
【0088】
上で説明されるように、基準イオンは、好ましくは、任意の他のイオンとの最小の最大ピーク面積差異を生成するように選定される。これを説明する別の方法は、基準イオンが、好ましくは、最も高いピーク面積と最も低いピーク面積との平均に最も近いピーク面積を伴う定量イオンであるように選定されることである。
【0089】
図8の等化されたピーク面積を使用して、22個の定量イオンの等化されたピーク面積のコンセンサス量または不確実性加重平均が、各濃度に関して計算された。上で説明されるように、このコンセンサス応答は、以下の式を使用して計算された。
【数3】
【0090】
式中、wは、上で説明される計算されたw Fmlrである。
【0091】
図9は、種々の実施形態によるコンセンサス量と比較して、アトルバスタチンを定量化するために使用される22個の個々の定量イオンの濃度範囲または定量化限界(LOQ)が、濃度に伴って変動した様子を示す例示的プロット900である(対数スケール)。プロット900は、コンセンサス量910が、22個の個々の定量イオンの任意のものより高い濃度範囲を有することを示す。換言すると、22個の定量イオンの等化されたピーク面積の不確実性加重平均は、個々のイオンの任意のものより大きい濃度範囲を有する。
【0092】
コンセンサス量910は、440m/zにおける最も強い定量イオンによってのみ到達される最低濃度レベルに到達する。しかしながら、コンセンサス量910は、他の定量イオンの大部分によって到達される最高濃度レベルまで延びてもいる。結果として、プロット900は、コンセンサス量910が任意の個々の定量イオンにまさるLOQにおける改良を生成することを示す。
【0093】
図10は、種々の実施形態による3個の個々の定量イオンおよびコンセンサス量に関するパーセンテージCV対濃度の例示的プロット1000である。プロット1000は、466m/zにおける個々の定量イオン1020、448m/zにおける個々の定量イオン1030、440m/zにおける個々の定量イオン1040、およびコンセンサス量1010に関するパーセンテージCV値を含む。プロット1000は、高および低濃度の両方において、コンセンサス量1010が、より低いパーセンテージCVを有することを示す。個々の定量イオンのいずれも、高および低濃度の両方において、そのような低パーセンテージCVを生成しない。
【0094】
図11は、種々の実施形態による3個の個々の定量イオンおよびコンセンサス量に関するパーセンテージ精度対濃度の例示的プロット1100である。プロット1100は、466m/zにおける個々の定量イオン1020、448m/zにおける個々の定量イオン1030、440m/zにおける個々の定量イオン1040、およびコンセンサス量1010に関するパーセンテージ精度値を含む。上で説明されるように、線形ダイナミックレンジに対して定量イオンがどの程度近いかは、精度またはパーセンテージ精度と称される。プロット1100では、より高いパーセンテージ精度は、イオンまたはコンセンサスが、予期される線形ダイナミックレンジにより近いことを意味する。プロット1100は、コンセンサス量1010が、任意の個々の定量イオンより大きい濃度範囲に関して、より高いパーセンテージ精度を有することを示す。
【0095】
図9-11のプロットは、アトルバスタチン実験のコンセンサス量が、より長いLOQ、高および低濃度の両方におけるより低いパーセンテージCV、および任意の個々の定量イオンより大きい濃度範囲に関するより高いパーセンテージ精度を提供したことを示す。換言すると、図9-11は、コンセンサス量1010が、拡張され、より正確なダイナミックレンジを提供し、任意の個々のイオンより少ない濃度変動を提供したことを示す。
(ダイナミックレンジを拡張するためのシステム)
【0096】
図12は、種々の実施形態による2個以上の定量イオンの等化された量の不確実性加重平均を定量化実験自体から計算するためのシステムを示す、概略図1200である。図12のシステムは、質量分光計1230と、プロセッサ1240とを含む。
【0097】
質量分光計1230は、m個の異なる実験サンプル1201の各々において、着目化合物のn個の既知であるiイオンを経時的に質量分析し、ピーク1235を生成する。ピーク1235は、m個の異なるサンプル1201の各々に関するn個の抽出されたイオンクロマトグラフ(XIC)ピークを含む。
【0098】
質量分光計1230は、QqTOFデバイスとして示される。当業者は、質量分光計1230が、限定ではないが、イオントラップ、オービトラップ、QqQデバイス、QqLITデバイス、またはフーリエ変換イオンサイクロトロン共振(FT-ICR)デバイスを含む他のタイプの質量分光測定デバイスも含むことができることを理解し得る。
【0099】
種々の実施形態では、図12のシステムは、サンプル導入デバイス1210と、イオン源デバイス1220とをさらに含む。サンプル導入デバイス1210は、着目化合物を含む各サンプルをシステムに経時的に導入する。サンプルは、例えば、サンプルプレートから取得される。サンプル導入デバイス1210は、限定ではないが、イオン移動度、ガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ(LC)、キャピラリー電気泳動(CE)、音響放出質量分光測定(AEMS)、またはフローインジェクション分析(FIA)を含む技法を実施することができる。
【0100】
イオン源デバイス1220は、サンプルの化合物をイオン化し、化合物をイオンビームに変換する。イオン源デバイス1220は、限定ではないが、マトリクス支援レーザ脱離/イオン化(MALDI)またはエレクトロスプレーイオン化(ESI)を含むイオン化技法を実施することができる。
【0101】
プロセッサ1240は、限定ではないが、コンピュータ、マイクロプロセッサ、図1のコンピュータシステム、または制御信号およびデータを質量分光計1230に送信し、それから受信し、データを処理することが可能である任意のデバイスであることができる。プロセッサ1240は、質量分光計1230と通信する。
【0102】
ステップ1241では、プロセッサ1240は、基準イオンjを選択する。好ましい実施形態では、プロセッサ1240は、n個のiイオンのうちのjイオンを基準イオンとして選択する。n個のiイオンのいずれかが、基準イオンとして選択されることができる。種々の実施形態では、プロセッサ1240は、m個のサンプルのうちの1個以上のサンプルにおけるn個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積におけるn個のiイオンのうちの全ての他のイオンのピーク面積に対する最大差異を計算することによって、jイオンを選択する。プロセッサ1240は、次いで、m個のサンプルのうちの1個以上のサンプルにおける最小の最大ピーク差異を生成するn個のiイオンのうちのイオンを選択する。
【0103】
別の実施形態では、基準イオンjは、仮説イオンであることができる。例えば、jイオンは、100%イオン効率を伴う仮説イオンであることができる。結果として、全てのn個のイオンは、それらのうちの1つまたは(45度イオン化効率線のような)ある仮説代表値に等化されることができる。
【0104】
ステップ1242では、プロセッサ1240は、m個のサンプル1201の各々に関して、n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積に対するjイオンのピーク面積の比率r(j,i)を計算する。ステップ1242では、m個のr(j,i)比率が、n個のiイオンのうちの各々に関して生成される。
【0105】
ステップ1243では、プロセッサ1240は、n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率から、n個のiイオンのうちの各イオンに関する予期される比率r(j,i)を計算する。種々の実施形態では、プロセッサ1240は、各イオンに関して、m個の比率r(j,i)のうちの最も頻繁に生じるものまたは最頻値として、予期される比率r(j,i)を計算する。
【0106】
ステップ1244では、m個のサンプルのうちの各サンプルに関して、プロセッサ1240は、以下の式から、jイオンに対して等化された不確実性加重平均量Xを計算し、
【数4】
式中、wは、各サンプルに関するn個のiイオンのうちの各イオンに関する0~1の不確実性重みであり、値が1に近いほど、より低い不確実性を意味し、値が0に近いほど、より高い不確実性を意味する。種々の実施形態では、プロセッサ1240は、各サンプルに関するn個のiイオンのうちの各イオンに関して計算されたr(j,i)と予期されるr(j,i)を比較することによって、不確実性重みwを計算する。値が1に近いほど、比率は、より高い当量であることを意味し、値が0に近いほど、比率は、より低い当量であることを意味する。
【0107】
種々の実施形態では、プロセッサ1240は、m個のr(j,i)比率の関数として、m個のr(j,i)比率のうちの各比率の発生の数を提供する各イオンに関するm個のr(j,i)比率r(j,i)のヒストグラムを計算することによって、各サンプルに関するn個のiイオンのうちの各イオンに関して計算されたr(j,i)を予期されるr(j,i)と比較する。プロセッサ1240は、次いで、計算されたr(j,i)と予期されるr(j,i)との間の距離を計算する。最後に、プロセッサ1240は、不確実性重みwを距離の逆数から計算する。
【0108】
種々の実施形態では、上で説明されるように、n個のiイオンは、化合物の生成イオンまたは化合物の前駆体イオンの同位体または化合物の生成イオンの同位体を含むことができる。実験が、DDA(IDA)である場合、定量化は、多くの場合、質量分光測定(MS)のみを使用することから行われ、したがって、前駆体イオンおよびその同位体が、分析される。化合物の量に関連する付加物/損失物およびそれらの同位体も、同様に分析されることができる。
【0109】
実験がDIA、MRM、またはMRM-HR(スケジュールの有無を問わない)である場合、断片または生成イオンが、生成および分析される。実験がDIAまたはMRM-HRである場合、生成イオンおよびその同位体は、定量化のために利用可能である。
(ダイナミックレンジを拡張する方法)
【0110】
図13は、種々の実施形態による2個以上の定量イオンの等化された量の不確実性加重平均を定量化実験自体から計算する方法1300を示すフローチャートである。
【0111】
方法1300のステップ1310では、着目化合物のn個の既知のiイオンが、m個の異なる実験サンプルのうちの各々において、経時的に質量分析され、m個の異なるサンプルのうちの各々に関して、n個のXICピークを生成する。
【0112】
ステップ1320では、n個のiイオンのうちのjイオンであるか、または仮説イオンjである基準イオンjが、選択される。
【0113】
ステップ1330では、n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積に対するjイオンのピーク面積の比率r(j,i)が、m個のサンプルのうちの各々に関して計算され、n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率を生成する。
【0114】
ステップ1340では、予期される比率r(j,i)が、n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率から、n個のiイオンのうちの各イオンに関して計算される。
【0115】
ステップ1350では、jイオンに対して等化されたm個のサンプルのうちの各サンプルに関して、不確実性加重平均量Xが、以下の式から計算され、
【数5】
【0116】
式中、wは、各サンプルに関するn個のiイオンのうちの各イオンに関する0~1の不確実性重みであり、値が1に近いほど、より低い不確実性を意味し、値が0に近いほど、より高い不確実性を意味する。
(ダイナミックレンジを拡張するためのコンピュータプログラム製品)
【0117】
種々の実施形態では、コンピュータプログラム製品は、非一過性有形コンピュータ読み取り可能な記憶媒体を含み、そのコンテンツは、2個以上の定量イオンの等化された量の不確実性加重平均を定量化実験自体から計算する方法を実施するように、プロセッサ上で実行される命令を伴うプログラムを含む。方法は、1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステムによって実施される。
【0118】
図14は、種々の実施形態による2個以上の定量イオンの等化された量の不確実性加重平均を定量化実験自体から計算する方法を実施する1つ以上の異なるソフトウェアモジュールを含むシステム1400の概略図である。システム1400は、制御モジュール1410と、分析モジュール1420とを含む。
【0119】
制御モジュール1410は、質量分光計に、m個の異なる実験サンプルのうちの各々における着目化合物のn個の既知のiイオンを経時的に質量分析し、m個の異なるサンプルのうちの各々に関して、n個のXICピークを生成するように命令する。
【0120】
分析モジュール1420は、n個のiイオンのうちのjイオンである基準イオンj、または仮説イオンjを選択する。分析モジュール1420は、m個のサンプルのうちの各々に関して、n個のiイオンのうちの各イオンのピーク面積に対するjイオンのピーク面積の比率r(j,i)を計算し、n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率を生成する。分析モジュール1420は、n個のiイオンのうちの各々に関するm個のr(j,i)比率から、n個のiイオンのうちの各イオンに関する予期される比率r(j,i)を計算する。最後に、分析モジュール1420は、m個のサンプルのうちの各サンプルに関して、以下の式から、jイオンに対して等化された不確実性加重平均量Xを計算し、
【数6】
【0121】
式中、wは、各サンプルに関するn個のiイオンのうちの各イオンに関する0~1の不確実性重みであり、値が1に近いほど、より低い不確実性を意味し、値が0に近いほど、より高い不確実性を意味する。
【0122】
本教示は、種々の実施形態と併せて説明されるが、本教示は、そのような実施形態に限定されることを意図するものではない。対照的に、本教示は、当業者によって理解されるであろうように、種々の代替、修正等を包含する。
【0123】
さらに、種々の実施形態を説明することにおいて、本明細書は、ステップの特定のシーケンスとして、方法および/またはプロセスを提示し得る。しかしながら、方法またはプロセスが、本明細書に記載されるステップの特定の順序に依拠しない限りにおいて、方法またはプロセスは、説明されるステップの特定のシーケンスに限定されるべきではない。当業者が理解し得るように、ステップの他のシーケンスが、可能であり得る。したがって、本明細書に記載されるステップの特定の順序は、請求項に関する限界として解釈されるべきではない。加えて、方法および/またはプロセスを対象とする請求項は、そのステップの性能を書かれた順序に限定されるべきではなく、当業者は、シーケンスが変動し、依然として、種々の実施形態の精神および範囲内のままであり得ることを容易に理解することができる。
図1
図2
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図10
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【国際調査報告】