(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240315BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240315BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560532
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(85)【翻訳文提出日】2023-09-29
(86)【国際出願番号】 KR2022004548
(87)【国際公開番号】W WO2022211507
(87)【国際公開日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】10-2021-0041373
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(71)【出願人】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】511038879
【氏名又は名称】ポスコ ケミカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ナム、 サン チョル
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 クォン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ジュン フン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 サンヒョク
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
本開示は、正極活物質に関する。一実施形態による正極活物質は、中心部と、中心部の表面に位置する表面部とを含む金属酸化物粒子でかつ、金属酸化物粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含み、単粒子からなるものであり、ドーピング元素は、Zr、Al、B、P、La、Ta、Ti、W、Mo、Si、Ga、Zn、Nb、Ag、Sn、Bi、Au、Y、Ge、V、Cr、およびFeからなるグループより選択された2種以上を含むことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部と、前記中心部の表面に位置する表面部とを含む金属酸化物粒子で、かつ、
前記金属酸化物粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含み、単粒子からなるものであり、
前記ドーピング元素は、ZrおよびAlを含む正極活物質。
【請求項2】
前記ドーピング元素の含有量は、
前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として、0.0005モル~0.04モルの範囲である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記Zrの含有量は、
前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として、0.001モル~0.01モルの範囲である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記Alの含有量は、
前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として、0.001モル~0.04モルの範囲である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記金属酸化物粒子におけるニッケルの含有量は、
前記ニッケル、コバルトおよびマンガンの総和1モルを基準として、0.8モル以上である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記表面部は、XRD測定においてピークが観察されない被膜を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記被膜は、非晶質構造の化合物を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記非晶質構造の化合物は、炭素およびリチウムを含む、請求項7に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記表面部は、非晶質構造および岩塩(rock salt)構造を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記中心部は、層状(layered)構造を含む、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記金属酸化物粒子の粒子強度は、291MPa以上である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項12】
前記金属酸化物粒子の結晶粒サイズは、2,500Å~5,000Åの範囲である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項13】
前記金属酸化物粒子の比表面積(BET)は、0.70m
2/g以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項14】
前記正極活物質全体を基準として、
平均粒径が2μm以下の粒子の比率は、2.5%以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項15】
前記正極活物質全体を基準として、
平均粒径が10μm以上の粒子の比率は、3%以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項16】
前記金属酸化物粒子のD50粒径は、5.5μm以下である、請求項1に記載の正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施例は、リチウム二次電池用正極活物質およびこれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、電気自動車の爆発的な需要および走行距離増大の要求を受けて、それに符合するための高容量、高エネルギー密度を有する二次電池の開発が全世界的に活発に進められている。
【0003】
このような要求を満足するための技術として、Ni含有量の高いNCM正極材を用い、かつ、電極極板の密度を向上させるために、大粒子および小粒子が一定の分率で混合されたバイモーダル形態の正極活物質を適用した二次電池に関する研究が活発である。
【0004】
しかし、一次粒子が凝集された二次粒子状に構成された正極材の形態は、粉末の比表面積が大きく電解液と接触する面積が広くいため、ガス発生の可能性が高く、これによる寿命劣化の問題点がある。
【0005】
また、二次粒子の強度が弱いため、圧延工程中に小粒子が一次粒子状に壊れる問題点があり、これによっても寿命特性が劣化する問題がある。
【0006】
このような問題点を解決するために、一次粒子の大きさを増加させる方法が提示されている。
【0007】
しかし、このように大きさを増加させた一次粒子は、ケーキ(cake)の強度が増加して解砕が容易でなく、たとえ解砕されても微粉および粗粉が多量存在するため、粒子の均一性が低下する問題がある。
【0008】
したがって、一次粒子の大きさを増加させながらも粒子の均一性を向上させることができる技術の開発が要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示の一実施形態では、微粉および粗粉が微量存在するため、粒子の均一度および粒子強度に優れた正極活物質を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態による正極活物質は、中心部と、前記中心部の表面に位置する表面部とを含む金属酸化物粒子でかつ、前記金属酸化物粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含み、単粒子からなるものであり、前記ドーピング元素は、ZrおよびAlを含むことができる。
【0011】
前記ドーピング元素の含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として、0.0005モル~0.04モルの範囲であってもよい。
【0012】
この時、前記Zrの含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として、0.001モル~0.01モルの範囲であってもよい。
【0013】
前記Alの含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として、0.001モル~0.04モルの範囲であってもよい。
【0014】
前記金属酸化物粒子におけるニッケルの含有量は、前記ニッケル、コバルトおよびマンガンの総和1モルを基準として、0.8モル以上であってもよい。
【0015】
本開示の一実施形態において、前記金属酸化物粒子の表面部は、XRD測定においてピークが観察されない被膜を含むことができる。
【0016】
前記被膜は、非晶質構造の化合物を含むことができる。
【0017】
この時、前記非晶質構造の化合物は、炭素およびリチウムを含むことができる。
【0018】
前記表面部は、非晶質構造および岩塩(rock salt)構造を含むことができる。
【0019】
前記中心部は、層状(layered)構造を含むことができる。
【0020】
前記金属酸化物粒子の粒子強度は、291MPa以上であってもよい。
【0021】
前記金属酸化物粒子の結晶粒サイズは、2,500Å~5,000Åの範囲であってもよい。
【0022】
前記金属酸化物粒子の比表面積(BET)は、0.7m2/g以下であってもよい。
【0023】
前記正極活物質全体を基準として、平均粒径が2μm以下の粒子の比率は、2.5%以下であってもよい。
【0024】
前記正極活物質全体を基準として、平均粒径が10μm以上の粒子の比率は、3%以下であってもよい。
【0025】
前記金属酸化物粒子のD50粒径は、5.5μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
一実施形態による正極活物質は、2種のドーピング元素を含む単粒子からなり、解砕が非常に容易で微粉および粗粉がほとんど存在せず、これによって、粒子の均一度に非常に優れている。
【0027】
また、前記正極活物質は、粒子強度が非常に高いため、電極形成時に圧延率を増加させることができ、結果的に、エネルギー密度が高いリチウム二次電池を実現することができる。
【0028】
これとともに、前記正極活物質を適用する場合、リチウム二次電池の寿命が増加し、抵抗増加率が低く、熱安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】一実施形態により単粒子からなる正極活物質の製造方法を説明するための概略図である。
【
図2】従来の単粒子からなる正極活物質の製造方法を概略的に示す図である。
【
図3A】実施例1の正極活物質に対して10,000倍で測定したSEM分析結果である。
【
図3B】実施例1の正極活物質に対して1,000倍で測定したSEM分析結果である。
【
図4】比較例2の正極活物質に対して1,000倍で測定したSEM分析結果である。
【
図5】実施例1により製造した正極活物質に対して、HRTEM(High resolution transmission electron microscope)装置を用いたイメージ測定結果である。
【
図6】
図5のA領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示す図である。
【
図7】
図5のB領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示す図である。
【
図8】
図5のC領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示す図である。
【
図9】比較例1により製造した正極活物質に対して、HRTEM(High resolution transmission electron microscope)装置を用いたイメージ測定結果である。
【
図10】
図9のA領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示す図である。
【
図11】
図9のB領域をFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを示す図である。
【
図12】実施例1で製造した正極活物質をFIBでミリング処理した後の断面イメージを示す図である。
【
図13】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示す図である。
【
図14】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示す図である。
【
図15】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示す図である。
【
図16】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示す図である。
【
図17】実施例1により製造した正極活物質に対する元素マッピング(elements mapping)分析結果を元素別に示す図である。
【
図18】実施例1により製造した正極活物質に対して、STEM分析装置で分析した断面の分析結果である。
【
図19】
図15におけるA領域に対するEELS分析結果を示す図である。
【
図20】
図15におけるB領域に対するEELS分析結果を示す図である。
【
図21】
図15におけるC領域に対するEELS分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを、他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及されてもよい。
【0031】
ここで使用される専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
【0032】
ある部分が他の部分の「上に」あると言及した場合、これは直に他の部分の上にあってもよいし、その間に他の部分が介在してもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及した場合、その間には他の部分が介在しない。
【0033】
他に定義しないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される事前に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
【0034】
一実施形態による正極活物質は、中心部と、前記中心部の表面に位置する表面部とを含む金属酸化物粒子で、かつ、前記金属酸化物粒子は、ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素を含み、単粒子からなるものであり、前記ドーピング元素は、ZrおよびAlを含むことができる。
【0035】
このとき、前記ドーピング元素の含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和を1モル基準とするとき、0.0005モル~0.04モルまたは0.001モル~0.03モルの範囲であってもよい。この時、前記ドーピング元素は、最終的に得られる正極活物質に含まれるドーピング元素のドーピング量を意味する。
【0036】
正極活物質において、寿命および多様な電気化学的性能を確保するためには、ドーピング元素の選定が重要である。本開示の一実施形態によれば、前記のように多様なドーピング元素を適用して正極活物質の特性を向上させることができる。
【0037】
Zrは、ZrイオンがLi siteを占めるため、一種のピラー(pillar)の役割を果たし、充放電過程中にリチウムイオン経路(lithium ion path)の収縮を緩和させて層状構造の安定化をもたらす。このような現象はつまり、陽イオン混合(cation mixing)を減少させ、リチウム拡散係数(lithium diffusion coefficient)を増加させてサイクル寿命を増加させることができる。
【0038】
また、Alイオンは、tetragonal lattice siteに移動して、層状構造が相対的にリチウムイオンの移動が円滑でないスピネル構造に劣化することを抑制する。
【0039】
前記Zrの含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として、0.001モル~0.01モル、より具体的には、0.0016モル~0.0064モルの範囲、0.0017モル~0.0055モルまたは0.002モル~0.005モルの範囲であってもよい。Zrドーピング量が前記範囲を満足する場合、高温抵抗増加率を減少させると同時に、優れた寿命特性を確保することができる。
【0040】
前記Alの含有量は、前記ニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として、0.001モル~0.04モル、より具体的には、0.004モル~0.028モルの範囲、0.0045モル~0.027モルまたは0.0055モル~0.025モルの範囲であってもよい。Alドーピング量が前記範囲を満足する場合、高温寿命および熱安定性をより向上させることができる。
【0041】
一実施形態において、前記金属酸化物粒子におけるニッケルの含有量は、前記ニッケル、コバルトおよびマンガン1モルを基準として、0.8モル以上であってもよい。より具体的には、ニッケルの含有量は、0.8~0.99、0.85~0.99、0.88~0.99の範囲であってもよい。
【0042】
一実施形態のように、リチウム金属酸化物内金属中のニッケルの含有量が80%以上の場合、高出力特性を有する正極活物質を実現することができる。このような組成を有する一実施形態の正極活物質は、体積あたりのエネルギー密度が高くなるので、これを適用する電池の容量を向上させることができ、電気自動車用への使用にも非常に適する。
【0043】
一方、前記正極活物質は、中心部と、前記中心部の表面に位置する表面部とを含む金属酸化物粒子でかつ、前記金属酸化物粒子は、単粒子からなり、前記表面部は、XRD測定においてピークが観察されない被膜を含むことができる。
【0044】
前記金属酸化物粒子において、表面部は、金属酸化物粒子の最外郭表面から中心に向かって、1nm~30nmの深さに相当する領域を意味する。
【0045】
前記表面部には、アイランド状に形成された被膜が位置することができる。
【0046】
前記被膜は、非晶質構造の化合物を含むことができる。より具体的には、前記非晶質構造の化合物は、炭素およびリチウムを含むことができる。
【0047】
本実施例の金属酸化物粒子において、中心部は、層状(layered)構造を含むことができ、前記表面部は、非晶質構造および岩塩(rock salt)構造を含むことができる。つまり、表面部は、非晶質構造および岩塩構造が混在した構造を含むことができる。
【0048】
前記金属酸化物粒子は、単粒子からなるものである。本明細書において、単粒子は、一次粒子を意味してもよく、平均粒径が小さいいくつかの一次粒子が結合してサイズの増加した形態を意味してもよい。
【0049】
一実施形態の正極活物質は、正極活物質全体を基準として、平均粒径が2μm以下の粒子の比率が2.5%以下、より具体的には、0.1%~2.5%、0.1%~2.3%、0.2%~2%、または0.2%~1.5%の範囲であってもよい。
【0050】
また、平均粒径が10μm以上の粒子の比率は、3%以下、より具体的には、0.2%~3%、0.2%~2.8%、または0.3%~2.7%の範囲であってもよい。
【0051】
前記金属酸化物粒子のD50粒径は、5.5μm以下、より具体的には、3.5μm~5.5μm、3.5μm~5.3μm、3.7μm~5μm、または3.7μm~4.8μmの範囲であってもよい。
【0052】
一実施形態では、ニッケル含有量の高いNCM正極活物質の性能が低下するのを防止するために一次粒子のサイズを増加させるにあたり、別途に高価な解砕装置または数回の解砕工程なしに、つまり、一般的な解砕装置を用いても微粉および粗粉が極めて少ない、均一な粒度分布を有する正極活物質を提供することができる。
【0053】
したがって、平均粒径が2μm以下の粒子、平均粒径が10μm以上の粒子の比率が前記範囲を満足すると同時に、金属酸化物粒子のD50粒径が前記範囲を満足する場合、優れた電気化学的特性を有する正極活物質を実現することができる。
【0054】
一実施形態において、前記金属酸化物粒子の粒子強度は、291MPa以上、より具体的には、291MPa~450MPa、300MPa~450MPa、305MPa~400MPa、または315MPa~400MPaの範囲であってもよい。粒子強度が300MPa以上の場合、前記正極活物質を用いて電極を製造する時、圧延率をより向上させることができる。これによって、エネルギー密度に優れたリチウム二次電池を実現することができる。
【0055】
また、前記金属酸化物粒子の結晶粒サイズは、2,500Å~5,000Åの範囲、より具体的には、2,600Å~4,900Å、2,650Å~4,800Å、または2,900Å~4,800Åの範囲であってもよい。結晶粒サイズが前記範囲を満足する場合、残留リチウムの含有量を低減させることができ、電池の寿命特性を向上させることができる。
【0056】
前記金属酸化物粒子の比表面積(BET)は、0.7m2/g以下、より具体的には、0.35m2/g~0.70m2/g、0.40m2/g~0.67m2/g、0.43m2/g~0.65m2/g、0.45m2/g~0.63m2/g、または0.47m2/g~0.61m2/gの範囲であってもよい。BET値が前記範囲を満足する場合、これを用いて電池を実現する場合、充電および放電時のガス発生量を顕著に低下させることができるので、非常に有利な効果を有する。
【0057】
一実施形態による正極活物質は、ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質および水を含む金属塩水溶液を製造する段階と、共沈反応器に前記金属塩水溶液を供給して金属水酸化物を得る段階と、前記金属水酸化物粒子、リチウム原料物質、ドーピング原料物質およびボロン化合物を混合した後、焼成してリチウム金属酸化物を得る段階と、前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後、水洗する段階とを含む製造方法により製造できる。
【0058】
ニッケル原料物質、コバルト原料物質、マンガン原料物質および水を含む金属塩水溶液を製造した後、共沈反応器に前記金属塩水溶液を供給して金属水酸化物を得る段階は、当業界にて一般に知られた正極活物質前駆体の製造方法により行うことができる。
【0059】
一実施形態の正極活物質は、焼成してリチウム金属酸化物を得る段階において、前記金属水酸化物粒子、リチウム原料物質およびドーピング原料を混合し、かつ、リチウム原料物質を過剰投入して混合し、同時にボロン化合物を共に混合することを特徴とする。
【0060】
図1には、一実施形態により単粒子からなる正極活物質の製造方法を概略的に示した。
【0061】
図1を参照すれば、一実施形態では、正極活物質を製造する過程でリチウム原料およびボロン化合物を過剰投入して、過焼成が起こりやすいように助ける。
【0062】
リチウム原料物質は、前駆体と酸化物とを形成する。この時、過剰含有されたリチウムがボロンと反応して、ボロン塩の一種であるリチウムボレートが形成される。
【0063】
過焼成工程では、一次粒子間で焼結される過程にリチウムボレートが存在することによって、一次粒子間の結着力を弱化させる役割を果たす。これによって、焼成後解砕過程中にサイズの増加した一次粒子、つまり、単粒子(Single Particle)間の分離が容易に行われる。したがって、高価な解砕装置を用いたり、解砕工程を数回経たりすることなく、一般の解砕装置を用いても微粉および粗粉の比率が低い、つまり、均一度に優れた単粒子活物質を製造することができる。
【0064】
このようなリチウムボレートは、水に溶解しやすいため、後述する水洗工程で残留リチウムと共に自然に除去可能である。
【0065】
図2には、従来の単粒子からなる正極活物質の製造方法を概略的に示した。
【0066】
図2を参照すれば、従来は、サイズを増加させた一次粒子は、ケーキ(cake)の強度が増加して解砕が容易でなく、たとえ解砕されても微粉および粗粉が多量存在してしまう。
【0067】
しかし、前述のように、一実施形態の製造方法により正極活物質を製造する場合、解砕工程が容易であるため、微粉および粗粉が微量存在する単粒子からなる正極活物質を製造することができる。
【0068】
具体的には、前記リチウム金属酸化物を得る段階において、前記ボロン化合物は、最終的に得られた正極活物質においてニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として、0.003モル~0.03モル、または0.007モル~0.028モルの範囲で投入して混合できる。
【0069】
これとともに、前記リチウム金属酸化物を得る段階において、リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は、1.01~1.1の範囲、または1.03~1.08の範囲であってもよい。
【0070】
ボロン化合物の投入量およびLi/Meが前記範囲を満足する場合、リチウムとボロンとが十分に反応して、リチウムボレートの形成が可能である。
【0071】
一方、前記リチウム金属酸化物を得る段階において、前記焼成は、820℃~890℃、または830℃~880℃の範囲で10時間~24時間行われる。焼成温度および時間条件が前記範囲を満足する場合、単粒子状の粒子の成長が行われる。
【0072】
次に、前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後、水洗する段階を行う。
【0073】
前述のように、解砕は、従来の一般的な解砕装置を用いて行うことができる。また、前記水洗する段階は、表面に存在する残留リチウムを除去するためのもので、例えば、蒸留水を用いて行われる。
【0074】
次に、前記焼成されたリチウム金属酸化物を解砕した後、水洗する段階の後、前記水洗されたリチウム金属酸化物およびリチウム原料物質を混合して2次焼成する段階をさらに含むことができる。
【0075】
2次焼成する段階を経る場合、焼成過程で発生する表面の岩塩(rock salt)構造によって欠乏したリチウムと、水洗工程で水素イオン交換(proton exchange)から欠乏したリチウムを補償する効果がある。
【0076】
前記2次焼成する段階は、730℃~800℃、または740℃~780℃の範囲で3時間~10時間行われる。2次焼成工程が前記条件を満足する場合、初期抵抗を低下させることができる。
【0077】
前記2次焼成する段階において、前記リチウム原料物質の混合量は、前記水洗されたリチウム金属酸化物100gを基準として、0.3g~5gまたは1g~4gの範囲であってもよい。リチウム原料物質の混合量が前記範囲を満足する場合、表面に欠乏したリチウムを補償して、最終的に正極活物質の性能を向上させることができる。
【0078】
本発明の他の実施形態では、前述した本発明の一実施形態による正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、前記正極および負極の間に位置する電解質とを含むリチウム二次電池を提供する。
【0079】
前記正極活物質に関連する説明は、前述した本発明の一実施形態と同一であるので、省略する。
【0080】
前記正極活物質層は、バインダーおよび導電材を含むことができる。
【0081】
前記バインダーは、正極活物質粒子を互いによく付着させ、また、正極活物質を電流集電体によく付着させる役割を果たす。
【0082】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性材料であればいずれのものでも使用可能である。
【0083】
前記負極は、集電体と、前記集電体上に形成された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含む。
【0084】
前記負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離可能な物質、リチウム金属、リチウム金属の合金、リチウムをドープおよび脱ドープ可能な物質、または遷移金属酸化物を含む。
【0085】
前記リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離可能な物質としては、炭素物質であって、リチウムイオン二次電池において一般に使用される炭素系負極活物質はいずれのものでも使用可能であり、その代表例としては、結晶質炭素、非晶質炭素、またはこれらを共に使用することができる。
【0086】
前記リチウム金属の合金としては、リチウムと、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Si、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、AlおよびSnからなる群より選択される金属の合金が使用できる。
【0087】
前記リチウムをドープおよび脱ドープ可能な物質としては、Si、SiOx(0<x<2)、Si-Y合金(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、Siではない)、Sn、SnO2、Sn-Y(前記Yは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族元素、14族元素、遷移金属、希土類元素、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、Snではない)などが挙げられる。
【0088】
前記遷移金属酸化物としては、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物などが挙げられる。前記負極活物質層はさらに、バインダーを含み、選択的に導電材をさらに含んでもよい。
【0089】
前記バインダーは、負極活物質粒子を互いによく付着させ、また、負極活物質を電流集電体によく付着させる役割を果たす。
【0090】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく電子伝導性材料であればいずれのものでも使用可能である。
【0091】
前記集電体としては、銅箔、ニッケル箔、ステレンス鋼箔、チタン箔、ニッケル発泡体(foam)、銅発泡体、導電性金属がコーティングされたポリマー基材、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるものを使用することができる。
【0092】
前記負極および正極は、活物質、導電材および結着剤を溶媒中で混合して活物質組成物を製造し、この組成物を電流集電体に塗布して製造する。このような電極の製造方法は当該分野にて広く知られた内容であるので、本明細書において詳細な説明は省略する。前記溶媒としては、N-メチルピロリドンなどを使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0093】
前記電解質は、非水性有機溶媒とリチウム塩とを含む。
【0094】
前記非水性有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を果たす。
【0095】
前記リチウム塩は、有機溶媒に溶解して、電池内でリチウムイオンの供給源として作用して基本的なリチウム二次電池の作動を可能にし、正極と負極との間のリチウムイオンの移動を促進する役割を果たす物質である。
【0096】
リチウム二次電池の種類によって、正極と負極との間にセパレータが存在してもよい。このようなセパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニリデンフルオライド、またはこれらの2層以上の多層膜が使用可能であり、ポリエチレン/ポリプロピレンの2層セパレータ、ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレンの3層セパレータ、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層セパレータなどのような混合多層膜が使用できることはもちろんである。
【0097】
リチウム二次電池は、使用するセパレータと電解質の種類によって、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池およびリチウムポリマー電池に分類され、形態によって、円筒形、角型、コイン型、パウチ型などに分類され、サイズによって、バルクタイプと薄膜タイプとに分けられる。これらの電池の構造と製造方法はこの分野にて広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0098】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。ただし、これは例として提示されるものであり、これによって本発明が制限されず、本発明は後述する特許請求の範囲の範疇によってのみ定義される。
【0099】
[実施例1-B0.01モル+Zr0.0035モル+Al0.0085モル]
(1)前駆体の製造
一般的な共沈法で前駆体を製造した。
具体的には、ニッケル原料物質としてはNiSO4・6H2O、コバルト原料物質としてはCoSO4・7H2O、マンガン原料物質としてはMnSO4・H2Oを用いた。これらの原料を蒸留水に溶解させて金属塩水溶液を製造した。
【0100】
共沈反応器を用意した後、共沈反応時、金属イオンの酸化を防止するためにN2をパージ(purging)し、反応器の温度は50℃を維持した。
前記共沈反応器にキレート剤としてNH4(OH)を投入し、pH調節のためにNaOHを使用した。共沈工程により得られた沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄した後、100℃のオーブンで24時間乾燥して正極活物質前駆体を製造した。
製造された前駆体の組成は(Ni0.92Co0.04Mn0.04)(OH)2であり、平均粒径(D50)は約4μmであった。
【0101】
(2)正極活物質の製造
前記(1)で製造した前駆体339gにLiOH・H2Oを161g、H3BO3を2.3g、Al(OH)3を2.45g、ZrO2を1.59g称量して均一に混合した混合物を、酸素が1,000mL/min流入するボックス状の焼成炉で焼成した。焼成は830-890℃で24時間焼成した。
この時、リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は1.05に設計し、Bも最終的に得られる正極活物質のニッケル、コバルト、マンガンおよびドーピング元素の総和1モルを基準として0.01モルとなるように投入した。
【0102】
前記焼成物をACM(Air classifying mill)を用いて解砕した後、表面の残留リチウムを除去するために、水洗(washing)処理を実施した後、12時間乾燥した。
次に、乾燥した正極活物質100gあたり約2.3gのLiOH・H2O(0.053mol)を混合した後、酸素雰囲気下で熱処理して、単粒子からなる実施例1の正極活物質を製造した。熱処理は730-800℃で5時間行った。
【0103】
[実施例2~16]
正極活物質の製造時、焼成工程でボロン化合物、ドーピング原料の投入量を下記表1のように調節したことを除けば、実施例1と同様の方法で正極活物質を製造した。
【0104】
[比較例1]
前記(1)で製造した前駆体339gにLiOH・H2Oを161g、Al(OH)3を2.45g、ZrO2を1.59g称量して均一に混合した混合物を、酸素が1,000mL/min流入するボックス状の焼成炉で焼成した。焼成は830-890℃で24時間焼成した。
この時、リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は1.05に設計した。
【0105】
前記焼成物をACM(Air classifying mill)を用いて解砕した後、表面の残留リチウムを除去するために、水洗(washing)処理を実施した後、12時間乾燥した。
次に、乾燥した正極活物質を酸素雰囲気下で熱処理して、表面部に岩塩構造を含む単粒子からなる比較例1の正極活物質を製造した。熱処理は730-800℃で5時間行った。
【0106】
[比較例2]
正極活物質の製造時、焼成工程でボロン化合物を投入しないことを除けば、実施例1と同様の方法で単粒子からなる正極活物質を製造した。
【0107】
[比較例3]
実施例1の(1)と同様の方法で前駆体を製造した後、前記前駆体339gにLiOH・H2Oを161g、Al(OH)3を2.45g、ZrO2を1.59g称量して均一に混合した混合物を、酸素が1,000mL/min流入するボックス状の焼成炉で焼成した。焼成は730~760℃で24時間焼成した。この時、リチウムを除いた全体金属(Me)に対するリチウム(Li)のモル比(Li/Me)は1.01に設計した。
【0108】
前記焼成物をACM(Air classifying mill)を用いて解砕した後、表面の残留リチウムを除去するために、水洗(washing)処理を実施した後、12時間乾燥した。
【0109】
次に、乾燥した正極活物質100gあたり約2.3gのLiOH・H2O(0.053mol)を混合した後、酸素雰囲気下で熱処理して、一次粒子が凝集された形態の二次粒子からなる比較例2の正極活物質を製造した。熱処理は730-750℃で5時間行った。
【0110】
【0111】
[実験例1-粒子サイズ分布の測定]
実施例1~10、参考例1~6および比較例1~3により製造された正極活物質に対して、粒子サイズ測定装置(Particle Size Analyzer)を用いて粒子のサイズ分布を測定した。結果は下記表2に示した。
【0112】
【0113】
表2を参照すれば、焼成時に過剰のリチウム原料と共にボロン化合物を導入した実施例1~10の場合、製造された正極活物質の粒子サイズ分布が非常に均一であることが分かる。
これに対し、ボロン化合物を使用しない比較例1および2の正極活物質は、微粉および粗粉の比率が実施例に比べて非常に高いことを確認することができる。
表2の結果を参照することにより、焼成時に投入されるボロンが正極活物質粒子の均一度に非常に大きな影響を与えることを確認することができる。
【0114】
[実験例2-SEM分析]
実施例1および比較例2により製造した正極活物質に対してSEM分析を実施して、
図3A、
図3Bおよび
図4に示した。
図3Aは、実施例1の正極活物質に対してx10,000倍で測定したSEM分析結果であり、
図3Bは、x1,000倍で測定したSEM分析結果である。
図4は、比較例2の正極活物質に対してx1,000倍で測定したSEM分析結果である。
図3Aを参照すれば、実施例1により製造された正極活物質は、1つの粒子、つまり、単粒子(single particle)からなることが分かる。また、
図3Bを参照すれば、単粒子状が均一であり、微粉および粗粉なしにその大きさも非常に均一であることを確認することができる。これに対し、
図4を参照すれば、
図3Bに比べて相対的に微粉および粗粉が多く存在することが分かる。
本実施例のように、粒度の均一度に優れた、つまり、微粉および粗粉をほとんど含まない正極活物質は、後にバイモーダル形態の正極活物質としても利用可能である。
このようなバイモーダル正極活物質を用いて電極を製造する場合、電極の圧延率を向上させてエネルギー密度を増加させることができる。
【0115】
[実験例3-粒子特性評価]
(1)比表面積の測定
実施例および比較例で製造した正極活物質に対して、BET測定装置(Micromeritics TriStar II 3020)を用いて比表面積を測定した。
【0116】
(2)粒子強度の測定
実施例および比較例で製造した正極活物質に対して、粒子強度測定装置(Fisherscope HM2000)を用いて粒子強度を測定した。
【0117】
(3)XRD測定
実施例および比較例で製造された正極活物質に対して、CuKα線を用いてX線回折測定を行った。
XRD装置(Panalytical社のX’pert3 powder diffraction)を用いて、スキャンスピード(°/s)0.328で(003)面および(104)面の強度(ピーク面積)と(110)面の強度を測定した。この結果からI(003)/I(104)を求めて、下記表3に示した。
また、(006)面、(102)面および(101)面の強度測定の結果から、下記式1によりR-ファクターを求めた。
式1:R-ファクター={I(006)+I(102)}/I(101)
正極活物質の結晶粒サイズ(crystalline size)を測定した。
【0118】
【0119】
表3を参照すれば、実施例1~10の正極活物質は、平均結晶粒サイズが最小2500Å以上で、比較例1~3に比べて全体的に非常に増加したことを確認することができる。これは同一の焼成温度で結晶化がより良く進行したことを意味する。このように結晶化が良く進行した実施例の正極活物質をリチウム二次電池に適用する場合、電池の寿命特性を向上させることができ、残留リチウムを低減させることが可能で、非常に有利である。
【0120】
また、実施例1~10の比表面積(BET)は0.70m2/g以下で、二次粒子状に製造された比較例3に比べて顕著に減少したことを確認することができる。このように、本実施例の正極活物質は、BET値が非常に低いため、セル充放電時のガス発生量を顕著に低下させることができるので、非常に有利な効果を有する。
次に、実施例1~10による正極活物質の粒子強度は291MPa以上で、比較例1~3に比べて増加したことが分かる。特に、二次粒子状に製造された比較例3に比べて2.5倍以上増加した。このように粒子強度に優れた正極活物質を用いてリチウム二次電池を実現する場合、電極の圧延率を向上させることができ、これによって電池のエネルギー密度を増加させることができる。
【0121】
[実験例4-電気化学評価]
(1)コイン型半電池の製造
前記のように製造された正極活物質を用いてCR2032コインセルを製造した後、電気化学評価を進行させた。
具体的には、正極活物質、導電材(Denka Black)およびポリビニリデンフルオライドバインダー(商品名:KF1120)を96.5:1.5:2の重量比で混合し、この混合物を固形分が約30重量%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(N-Methyl-2-pyrrolidone)溶媒に添加して正極活物質スラリーを製造した。
前記スラリーを、ドクターブレード(Doctor blade)を用いて正極集電体のアルミニウム箔(Al foil、厚さ:15μm)上にコーティングし、乾燥した後、圧延して正極を製造した。前記正極のローディング量は約15mg/cm2であり、圧延密度は約3.4g/cm3であった。
前記正極、リチウム金属負極(厚さ300μm、MTI)、電解液とポリプロピレンセパレータを用いて、通常の方法で2032コイン型半電池を製造した。前記電解液は、1M LiPF6をエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(混合比EC:DMC:EMC=3:4:3体積%)に溶解させて混合溶液を製造した後、これにビニレンカーボネート(VC)3重量%を添加して使用した。
【0122】
(2)充放電特性評価
前記(1)で製造されたコイン型半電池を常温(25℃)で10時間エージング(aging)した後、充放電テストを進行させた。
容量評価は205mAh/gを基準容量とし、充放電条件は定電流(CC)/定電圧(CV)2.5V~4.25V、1/20Cカット-オフを適用した。初期容量は0.1C充電/0.1C放電後に放電容量を測定し、0.2C充電/0.2C放電を実施した後、初期効率を計算した。
【0123】
(3)寿命特性の測定
高温サイクル寿命特性は、高温(45℃)で0.3C充電/0.3C放電条件で30回を測定した。
【0124】
(4)抵抗特性の測定
常温初期抵抗(直流内部抵抗:DC-IR(Direct current internal resistance))は、電池を25℃で定電流-定電圧2.5V~4.25V、1/20Cカット-オフ条件で、0.2C充電および0.2放電を1回実施し、4.25V充電100%で放電電流印加後60秒後の電圧値を測定した後、これを計算した。
抵抗増加率は、高温(45℃)で初期に測定した抵抗(常温初期抵抗)と、サイクル寿命30回後の抵抗を初期抵抗の測定方法と同様にして測定した値とを比較し、その上昇率を百分率(%)で換算した。
【0125】
(5)熱安定性評価
示差重量熱分析(DSC:Differential Scanning Calorimetry)は、半電池を初期0.1C充電条件で4.25Vまで充電後、半電池を分解して正極のみ別途に得て、この正極をジメチルカーボネートで5回洗浄して用意した。DSC用ルツボに洗浄された正極を電解液で含浸させた後、温度を上昇させながらDSC機器(Mettler toledo社のDSC1 star system)を用いて、熱量変化を測定した後、得られたDSCピーク温度を示した。
【0126】
【0127】
表4は、焼成時にボロン化合物およびドーピング原料の混合量を変化しながら製造した正極活物質に対して測定した電気化学的特性を評価した結果である。
【0128】
表4を参照すれば、Zrが少量ドーピングされる参考例1の場合、高温抵抗増加率が増加し、寿命特性が低下することを確認することができる。また、Zrが過剰ドーピングされる参考例2の場合、初期容量が低下することが分かる。
【0129】
Alが過剰ドーピングされる参考例3の場合、初期容量が低下することが分かる。Alが少量ドーピングされる参考例4の場合、寿命特性が低下し、熱安定性が減少することを確認することができる。
【0130】
また、製造過程でBが過剰導入される参考例6の場合、初期容量が低下することを確認することができる。
【0131】
一方、比較例1は、初期抵抗と抵抗増加率が顕著に増加することが分かる。
【0132】
また、比較例2は、初期抵抗、寿命、抵抗増加率が全体的に実施例に比べて劣ることが分かる。さらに、一次粒子が凝集された二次粒子、つまり、多結晶(polycrystalline)形態で製造された比較例3の正極活物質は、抵抗増加率が非常に高いことが分かる。
【0133】
[実験例5-正極活物質構造の分析]
実施例1により製造した正極活物質に対してHRTEM(High resolution transmission electron microscope)装置を用いてイメージ測定して、
図5に示した。
【0134】
図5を参照すれば、正極活物質の中心部はA領域、表面部はBおよびC領域に区分されることが分かる。
【0135】
図5のイメージにおいてA、B、C領域に対してFFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを得て、その結果を
図6~
図8に示した。
【0136】
図6を参照すれば、正極活物質の中心部には典型的なLiNiO
2(85-1966)のR-3m構造の層状系layered構造(Rhombohedral、a=b=0.28831nm、c=1.41991nm)が形成されていることが分かる。
【0137】
図7を参照すれば、約5~10nmの厚さのNiO(89-5881)のFm-3m構造のRock salt構造(Cubic、a=b=c=0.83532nm)が形成されていることが分かる。
【0138】
図8を参照すれば、C領域では非晶質の構造が存在することが分かる。
【0139】
つまり、実施例1により製造された正極活物質の中心部は層状(layered)構造を含み、表面部は非晶質構造および岩塩(rock salt)構造を含むことを確認することができる。
【0140】
次に、比較例1により製造した正極活物質に対して、HRTEM(High resolution transmission electron microscope)装置を用いてイメージ測定して、
図9に示した。
【0141】
図9を参照すれば、正極活物質の中心部はA領域、表面部はB領域に区分されることが分かる。
【0142】
図9のイメージにおいてA、B領域に対して、FFT(Fast Fourier transform)変換して回折パターンに対するイメージを得て、その結果を
図10および
図11に示した。
【0143】
図10を参照すれば、比較例1の正極活物質の中心部にはR-3m構造の層状(layered)構造(Rhombohedral、a=b=0.28831nm、c=1.41991nm)が形成されていることが分かる。
図11を参照すれば、比較例11の正極活物質の表面部には岩塩構造(rock salt)(Cubic、a=b=c=0.83532nm)が形成されていることを確認することができる。
【0144】
[実験例6-粒子の内部成分に対するEDS分析]
図12には、実施例1で製造した正極活物質をFIB(Focused Ion Beam、SEIKO 3050SE)でミリング処理後の断面イメージを示した。次に、正極活物質の内部に存在する元素を確認するために、EDS(Energy dispersed spectroscopy、Oxford X_max 100TLE)分析装置を用いて分析した後、結果を
図13~
図17に示した。
【0145】
図13~
図17を参照すれば、単粒子からなる実施例1の正極活物質の内部にはNi、Co、Mnとドーピング元素として導入したZrおよびAlが均一に分布していることが分かる。しかし、Bは、元素マッピング(mapping)上、正極活物質の内部で観察されなかった。
【0146】
[実験例7-粒子断面に対してEELSを用いたリチウム分析]
実施例1で製造した正極活物質をFIB(Focused Ion Beam、SEIKO 3050SE)で断面を切断し、STEM(Scanning Transmission Electron Microscopy、JEOL ARM 200F)分析装置で分析した断面を、
図18に示した。
【0147】
次に、LiおよびBの存在の有無を確認するために、
図18に表示されたA、B、C領域に対して、EELS(Electron Energy Loss Spectroscopy、GATAN GIF Quantum ER 965)装置を用いて分析した結果を、
図19~
図21に示した。
【0148】
図19は、A領域に対する分析結果であり、
図20は、B領域に対する分析結果であり、
図21は、C領域に対する分析結果である。
【0149】
図18にてAで表示された領域はFIB測定のためのカーボンコーティング層で、正極活物質に相当する部分ではない。したがって、
図19を参照すれば、LiおよびBがすべて観察されておらず、C(carbon)のみ観察されることが分かる。
【0150】
また、
図20を参照すれば、実施例1の正極活物質の表面部では、LiおよびCは観察されたものの、Bは観察されなかった。
【0151】
図20の結果と、
図13~
図17の元素マッピング結果を参照する時、単粒子からなる正極活物質の表面部の一部領域には非晶質形態のリチウムおよび炭素が位置することが分かる。
【0152】
また、
図21を参照すれば、リチウムおよび酸素が分析されることが分かる。つまり、単粒子の中心部には層状構造を含むリチウム金属酸化物が存在することが分かる。
本発明は、上記の実施例に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施例はすべての面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。
【国際調査報告】