(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】変異型SpoTタンパク質及びそれを用いたL-アミノ酸を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20240315BHJP
C07K 14/245 20060101ALI20240315BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240315BHJP
C12P 13/04 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C12N15/31
C07K14/245 ZNA
C12N1/21
C12P13/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561411
(86)(22)【出願日】2022-04-28
(85)【翻訳文提出日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 KR2022006097
(87)【国際公開番号】W WO2022231342
(87)【国際公開日】2022-11-03
(31)【優先権主張番号】10-2021-0055169
(32)【優先日】2021-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒジュン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ムー ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヘ ミ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョナ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AE03
4B064AE34
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B064DA20
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA60
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本出願は、変異型SpoTタンパク質及びそれを用いてL-アミノ酸を生産する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の配列において262番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換を含む変異型SpoTタンパク質。
【請求項2】
前記他のアミノ酸は、極性アミノ酸から選択されるものである、請求項1に記載の変異型SpoTタンパク質。
【請求項3】
前記他のアミノ酸は、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンから選択されるものである、請求項1に記載の変異型SpoTタンパク質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の変異型SpoTタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の変異型SpoTタンパク質及び前記変異型SpoTタンパク質をコードするポリヌクレオチドの少なくとも1つを含むエシェリキア属(Escherichia sp.)微生物。
【請求項6】
前記エシェリキア属微生物は大腸菌である、請求項5に記載のエシェリキア属微生物。
【請求項7】
前記エシェリキア属微生物は、L-アミノ酸を生産するものである、請求項5に記載のエシェリキア属微生物。
【請求項8】
前記L-アミノ酸はL-トリプトファンである、請求項7に記載のエシェリキア属微生物。
【請求項9】
請求項5に記載のエシェリキア属微生物を培地で培養するステップを含む、L-アミノ酸を生産する方法。
【請求項10】
前記L-アミノ酸はL-トリプトファンである、請求項9に記載のL-アミノ酸を生産する方法。
【請求項11】
前記方法は、前記微生物又は培地からL-アミノ酸を回収するステップをさらに含む、請求項9に記載のL-アミノ酸を生産する方法。
【請求項12】
請求項1~3のいずれか一項に記載の変異型SpoTタンパク質、前記変異型SpoTタンパク質を発現するエシェリキア属微生物、又は前記微生物の培養物を含むL-アミノ酸生産用組成物。
【請求項13】
請求項1~3のいずれか一項に記載の変異型SpoTタンパク質を発現するように微生物を改変するステップを含む、微生物のL-アミノ酸生産能を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、変異型SpoTタンパク質及びそれを用いてL-アミノ酸を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-アミノ酸生産に用いられる微生物として、初期には化学的又は物理的突然変異によるアナログ耐性を示す選択菌株が主に用いられていたが、1990年代に遺伝子組換え技術が急激に発展し、分子レベルの調節機序が解明されることにより、遺伝子操作技法を用いた組換え菌株が主に用いられている。
【0003】
緊縮応答(stringent response)は、様々なストレス状況に対するバクテリアの反応であり、最初はアミノ酸の欠乏状態においてタンパク質の合成が抑制される現象として見出されたが、現在は細胞分裂の停止やDNA複製の阻害などの様々な生理活動の変化により様々なストレス環境に適応するためのものであることが知られている(非特許文献1,2)。緊縮応答の中核反応は、グアノシン5リン酸(pppGpp)とグアノシン4リン酸(ppGpp)により開始する。この2つの分子は、機能的に大差がないので、一般に(p)ppGppと表記する。
【0004】
大腸菌において、pppGppは、RelAというpppGpp合成酵素により生成される。RelAタンパク質は、リボソームにおいてタンパク質が翻訳される状態を監視する。細胞内でタンパク質が不足すると、アミノ酸を持たないtRNAの濃度が高くなるが、このtRNAがリボソームに結合すると、RelAが活性化する。RelAは、グアノシン3リン酸(GTP)とアデノシン3リン酸(ATP)を反応させてpppGppを生産する。細胞内のアミノ酸濃度が上昇してバランスが回復すると、SpoTタンパク質により(p)ppGppが加水分解される。SpoTタンパク質は、(p)ppGppの分解活性だけでなく、合成活性も有する(非特許文献3)。しかし、SpoTタンパク質とアミノ酸生産の関連性はいまだ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8569066号明細書
【特許文献2】米国特許第8835154号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2020/0063219号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.C. Neidhart, ed. (Washington, D.C.: ASM Press), (1996) pp. 1458-1496
【非特許文献2】J. Mol. Microbiol. Biotechnol.(2002) 4: 331-340.
【非特許文献3】Nat Rev Microbiol. (2012) 10(3) : 203-12
【非特許文献4】Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献5】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献6】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献7】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献8】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献9】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献10】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献11】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献12】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献13】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献14】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【非特許文献15】DG Gibson et al., NATURE METHODS, VOL.6 NO.5, MAY 2009, NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願は、変異型SpoTタンパク質及びそれを用いてL-アミノ酸を生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、配列番号1の配列において262番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換を含む変異型SpoTタンパク質を提供することを目的とする。
【0009】
また、本出願は、前記変異型SpoTタンパク質をコードするポリヌクレオチド及びそれを含むベクターを提供することを目的とする。
【0010】
本出願は、前記変異型SpoTタンパク質、前記変異型SpoTタンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むエシェリキア属微生物を提供することを目的とする。
【0011】
また、本出願は、前記微生物を培地で培養するステップを含むL-アミノ酸生産方法を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本出願は、前記変異型SpoTタンパク質を発現するように微生物を改変するステップを含む、微生物のL-アミノ酸生産能を向上させる方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0013】
本出願の変異型タンパク質を用いると、L-アミノ酸を効果的に生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。さらに、本明細書全体にわたって多くの論文及び特許文献が参照されており、その引用が示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容はその全体が本明細書に参照として組み込まれており、それにより本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【0015】
本出願の一態様は、配列番号1の配列において262番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換を含む変異型SpoTタンパク質を提供する。
【0016】
前記変異型SpoTタンパク質とは、SpoTタンパク質の活性を有するポリペプチド、又はSpoTタンパク質において、配列番号1のアミノ酸配列のN末端から262番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換を含む変異型タンパク質を意味する。
【0017】
一実施例において、前記他のアミノ酸は、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン及びヒスチジンから選択されるアミノ酸であってもよい。
【0018】
前述した実施例のいずれかによる変異型タンパク質において、前記他のアミノ酸は、極性アミノ酸から選択されるものであってもよい。
【0019】
前述した実施例のいずれかによる変異型タンパク質において、前記他のアミノ酸は、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンから選択されるものであってもよい。
【0020】
前述した実施例のいずれかによる変異型タンパク質において、前記変異型SpoTタンパク質は、配列番号19~24で表されるアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を有するものであってもよく、前記アミノ酸配列を含むものであってもよく、前記アミノ酸配列から実質的に構成される(essentially consisting of)ものであってもよい。
【0021】
前述した実施例のいずれかによる変異型タンパク質において、前記変異型SpoTタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列において262番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換を含み、配列番号1で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%以上、100%未満の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。
【0022】
また、そのような相同性又は同一性を有し、本出願の変異型タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換、保存的置換又は付加されたアミノ酸配列を有する変異型タンパク質であっても本出願に含まれることは言うまでもない。
【0023】
例えば、アミノ酸配列のN末端、C末端及び/又は内部に、本出願の変異型タンパク質の機能を変更しない配列付加もしくは欠失、自然に発生する突然変異、非表現突然変異(silent mutation)もしくは保存的置換を有するものが挙げられる。
【0024】
前記「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。通常、保存的置換は、タンパク質又はポリペプチドの活性にほとんど又は全く影響を及ぼさない。
【0025】
本出願の変異型タンパク質は、「タンパク質変異体」ともいう。
【0026】
本出願における「変異体(variant)」とは、少なくとも1つのアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)及び/又は改変(modification)により前記変異体の変異前のアミノ酸配列とは異なるが、機能(functions)又は特性(properties)が維持されるポリペプチドを意味する。このような変異体は、一般に前記ポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸を改変し、その改変したポリペプチドの特性を評価することにより同定(identify)することができる。すなわち、変異体の能力は、変異前のポリペプチドより向上するか、変わらないか又は低下する。また、一部の変異体には、N末端リーダー配列や膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの少なくとも1つの部分が除去された変異体も含まれる。他の変異体には、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異体も含まれる。前記「変異体」には、変異型、改変、変異型ポリペプチド、変異したタンパク質、変異などの用語(英語表現では、modification、modified polypeptide、modified protein、mutant、mutein、divergentなど)が用いられるが、変異を意味する用語であればいかなるものでもよい。本出願の目的上、前記変異体は、配列番号1のアミノ酸配列の262番目の位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。
【0027】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小限の影響を及ぼすアミノ酸の欠失又は付加を含んでもよい。例えば、変異体のN末端には、翻訳と同時に(co-translationally)又は翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移動(translocation)に関与するシグナル(又はリーダー)配列が結合されてもよい。また、前記変異体は、確認、精製又は合成できるように、他の配列又はリンカーに結合されてもよい。
【0028】
本出願における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が類似する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0029】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全部又は一部分とハイブリダイズする。ハイブリダイゼーションには、ポリヌクレオチドにおいて一般のコドン又はコドン縮退を考慮したコドンを有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることは言うまでもない。
【0030】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献4のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献5)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献6)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献7)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献8、9及び10)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0031】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献11に開示されているように、非特許文献6などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献12に開示されているように、非特許文献13の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。
【0032】
本出願の一例として、本出願の変異型SpoTタンパク質は、SpoTタンパク質の活性を有するものであってもよい。また、本出願の変異型SpoTタンパク質は、SpoTタンパク質の活性を有する野生型ポリペプチドに比べてL-アミノ酸生産能を向上させる活性を有するものであってもよい。
【0033】
本出願における「SpoTタンパク質」とは、(p)ppGppの分解及び/又は合成活性を有するポリペプチドを意味する。具体的には、本出願のSpoTタンパク質は、Bifunctional (p)ppGpp synthase、bifunctional (p)ppGpp hydrolaseと混用される。本出願において、前記SpoTタンパク質は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。具体的には、spoT遺伝子によりコードされるポリペプチドであるが、これに限定されるものではない。
【0034】
一実施例において、本出願のSpoTタンパク質は、エシェリキア属(Escherichia sp.)由来のものであってもよい。一実施例において、本出願のSpoTタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列であってもよい。一実施例において、本出願のSpoTタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列と70%以上、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を含むものであってもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0035】
本出願における「相当する(corresponding to)」とは、ポリペプチドにおいて列挙される位置のアミノ酸残基であるか、又はポリペプチドにおいて列挙される残基に類似、同一もしくは相当するアミノ酸残基であることを意味する。相当する位置のアミノ酸を確認することは、特定配列を参照する配列の特定アミノ酸を決定することになる。本出願における「相当領域」とは、一般に関連タンパク質又は比較(reference)タンパク質における類似又は対応する位置を示す。
【0036】
例えば、任意のアミノ酸配列を配列番号1とアライメント(align)すると、それに基づいて、前記アミノ酸配列の各アミノ酸残基は、配列番号1のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基の数、位置を参照してナンバリングすることができる。例えば、本出願における配列アラインメントアルゴリズムは、クエリー配列(「参照配列」ともいう)と比較すると、アミノ酸の位置、又は置換、挿入、欠失などの改変が生じる位置を確認することができる。
【0037】
このようなアラインメントには、例えばNeedleman-Wunschアルゴリズム(非特許文献6)、EMBOSSパッケージのNeedleプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献5)などを用いることができるが、これらに限定されるものではなく、当該技術分野で公知の配列アラインメントプログラム、ペアワイズ配列(pairwise sequence)比較アルゴリズムなどを適宜用いることができる。
【0038】
本出願の他の態様は、本出願の変異型SpoTタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0039】
本出願における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖を意味し、より具体的には前記変異型SpoTタンパク質をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0040】
本出願の変異型SpoTタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1の配列において262番目の位置に相当するアミノ酸の他のアミノ酸への置換を含むアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものであってもよい。一実施例において、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号19~24のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むものであってもよく、前記塩基配列からなるものであってもよく、前記塩基配列から実質的に構成されるものであってもよい。
【0041】
本出願のポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は本出願の変異型タンパク質を発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、本出願の変異型タンパク質のアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。具体的には、本出願のポリヌクレオチドは、配列番号2の配列と相同性もしくは同一性が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上及び100%未満の塩基配列を有するものであるか、前記塩基配列を含むものであるか、又は配列番号2の配列と相同性もしくは同一性が70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上及び100%未満の塩基配列からなるものであるか、前記塩基配列から実質的に構成されるものであるが、これらに限定されるものではない。ここで、前記相同性もしくは同一性を有する配列において、配列番号1の262番目の位置に相当するアミノ酸をコードするコドンは、アラニンを除くアミノ酸、具体的にはグリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン及びヒスチジンから選択されるアミノ酸をコードするコドンの1つであってもよい。
【0042】
また、本出願のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば本出願のポリヌクレオチド配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(非特許文献14参照)に具体的に記載されている。例えば、相同性もしくは同一性の高いポリヌクレオチド同士、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するポリヌクレオチド同士をハイブリダイズし、それより相同性もしくは同一性の低いポリヌクレオチド同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0043】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願のポリヌクレオチドには、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0044】
具体的には、本出願のポリヌクレオチドと相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検出することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0045】
前記ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切なストリンジェンシーはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(例えば、非特許文献14)。
【0046】
本出願のさらに他の態様は、本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。前記ベクターは、前記ポリヌクレオチドを宿主細胞において発現させるための発現ベクターであるが、これに限定されるものではない。
【0047】
本出願における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的ポリペプチドを発現させることができるように、好適な発現調節領域(又は発現調節配列)に作動可能に連結された前記標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含むDNA産物を意味する。前記発現調節領域には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれる。
【0048】
本出願に用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pDC、pDCM2、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0049】
例えば、細胞内染色体導入用ベクターにより、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを染色体内に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行うことができるが、これに限定されるものではない。前記染色体に導入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面ポリペプチドの発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0050】
本出願における「形質転換」とは、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞又は微生物内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドを発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的ポリペプチドをコードするDNA及び/又はRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されるものでもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0051】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本出願の標的変異体をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0052】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異型SpoTタンパク質、前記変異型SpoTタンパク質をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含むエシェリキア属(Escherichia sp.)微生物を提供する。
【0053】
本出願の微生物は、本出願の変異型SpoTタンパク質、前記変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチド、又は本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを含むものであってもよい。
【0054】
一実施例において、本出願の微生物は、本出願の変異型SpoTタンパク質、前記変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチド、又は本出願のポリヌクレオチドを含むベクターを含むことにより、本出願の変異型SpoTタンパク質を発現する。
【0055】
本出願における「菌株(又は微生物)」とは、野生型微生物や自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は不活性化されるなどの原因により、特定機序が弱化又は強化された微生物であって、目的とするポリペプチド、タンパク質又は産物の生産のために遺伝的改変(modification)が行われた微生物であってもよい。
【0056】
本出願の菌株は、本出願の変異型タンパク質、本出願のポリヌクレオチド、及び本出願のポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含む菌株、本出願の変異型タンパク質、もしくは本出願のポリヌクレオチドを発現するように改変された菌株、本出願の変異型タンパク質、もしくは本出願のポリヌクレオチドを発現する菌株(例えば、組換え菌株)、又は本出願の変異型タンパク質の活性を有する菌株(例えば、組換え菌株)であるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
本出願の菌株は、L-アミノ酸生産能を有する菌株であってもよい。
【0058】
一実施例において、前記L-アミノ酸はL-トリプトファンであってもよい。
【0059】
本出願の菌株は、自然にSpoTタンパク質もしくはL-アミノ酸生産能を有する微生物、又はSpoTタンパク質もしくはL-アミノ酸生産能のない親株に、本出願の変異型SpoTタンパク質もしくはそれをコードするポリヌクレオチド(又は前記ポリヌクレオチドを含むベクター)が導入され、かつ/もしくはL-アミノ酸生産能が付与された微生物であるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
例えば、本出願の菌株は、本出願のポリヌクレオチド、又は本出願の変異型タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換され、本出願の変異型タンパク質を発現する細胞又は微生物であり、本出願の菌株は、本出願の変異型タンパク質を含み、L-アミノ酸を生産する微生物であればいかなるものでもよい。例えば、本出願の菌株は、天然の野生型微生物又はL-アミノ酸を生産する微生物に本出願の変異体をコードするポリヌクレオチドを導入することにより、SpoT変異体が発現し、L-アミノ酸生産能が向上した組換え菌株であってもよい。前記L-アミノ酸生産能が向上した組換え菌株は、天然の野生型微生物又はSpoT非改変微生物(すなわち、野生型SpoTタンパク質を発現する微生物)に比べてL-アミノ酸生産能が向上した微生物であるが、これらに限定されるものではない。例えば、前記L-アミノ酸生産能を向上するか否かを比較する対象菌株であるSpoTタンパク質非改変微生物は、CA04-4303、KCCM11166P菌株であるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
一例として、前記L-アミノ酸生産能が向上した組換え菌株は、変異前の親株又は非改変微生物のL-アミノ酸生産能に比べて、約5%以上、6%以上、8%以上向上したものであるが、変異前の親株又は非改変微生物の生産能に比べて、+値の増加量を示すものであれば、いかなるものでもよい。前記「約(about)」とは、±0.5、±0.4、±0.3、±0.2、±0.1などが全て含まれる範囲であり、約という用語の後に続く数値と同等又は同程度の範囲の数値であればいかなるものでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本出願における「非改変微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、野生型菌株もしくは天然菌株自体、又は自然要因もしくは人為的要因により遺伝的に変異して形質が変化する前の菌株を意味する。例えば、前記非改変微生物とは、本出願の変異型SpoTタンパク質が導入されていないか、導入される前の菌株を意味する。前記「非改変微生物」は、「改変前の菌株」、「改変前の微生物」、「非変異菌株」、「非改変菌株」、「非変異微生物」又は「基準微生物」と混用される。
【0063】
本出願の他の例として、本出願の微生物はエシェリキア属微生物であってもよい。具体的には、大腸菌(Escherichia coli)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0064】
本出願の微生物における変異型SpoTタンパク質、ポリヌクレオチド、L-アミノ酸などについては前述した通りである。
【0065】
本出願のさらに他の態様は、本出願のエシェリキア属微生物を培地で培養するステップを含むL-アミノ酸生産方法を提供する。
【0066】
本出願のL-アミノ酸生産方法は、本出願の変異型SpoTタンパク質、本出願のポリヌクレオチド、又は本出願のベクターを含むエシェリキア属菌株を培地で培養するステップを含んでもよい。
【0067】
一実施例において、前記L-アミノ酸はL-トリプトファンであってもよい。
【0068】
本出願における「培養」とは、本出願のエシェリキア属菌株を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行うことができる。このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び/又は流加培養であるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
本出願における「培地」とは、本出願のエシェリキア属菌株を培養するために必要な栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質や発育因子などを供給する。具体的には、本出願のエシェリキア属菌株の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常の微生物の培養に用いられる培地であればいかなるものでもよく、好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性条件下にて温度、pHなどを調節して本出願のエシェリキア属菌株を培養することができる。
【0070】
本出願における前記炭素源としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などの有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられる。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス、トウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができ、具体的には、グルコースや殺菌した前処理糖蜜(すなわち、還元糖に変換した糖蜜)などの炭水化物を用いることができ、その他適量の炭素源であればいかなるものでも用いることができる。これらの炭素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源と、グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物などの有機窒素源とを用いることができる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
前記リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又はそれらに相当するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどを用いることができ、それ以外に、アミノ酸、ビタミン及び/又は好適な前駆体などを用いることができる。これらの構成成分又は前駆体は、培地に回分式又は連続式で添加することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0073】
また、本出願のエシェリキア属菌株の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培地に好適な方法で添加し、培地のpHを調整してもよい。さらに、培養中に脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。さらに、培地の好気状態を維持するために、培地中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0074】
本出願の培養において、培養温度は20~45℃、具体的には25~40℃に維持し、約10~160時間培養するが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本出願の培養により生産されたL-アミノ酸は、培地中に分泌されるか、細胞内に残留する。
【0076】
本出願のL-アミノ酸生産方法は、本出願のエシェリキア属菌株を準備するステップ、前記菌株を培養するための培地を準備するステップ、又はそれらの組み合わせ(任意の順序,in any order)を、例えば前記培養するステップの前にさらに含んでもよい。
【0077】
本出願のL-アミノ酸生産方法は、前記培養に用いた培地(培養が行われた培地)又は本出願のエシェリキア属菌株からL-アミノ酸を回収するステップをさらに含んでもよい。前記回収するステップは、前記培養するステップの後にさらに含んでもよい。
【0078】
前記回収は、本出願の微生物の培養方法、例えば回分、連続、流加培養方法などに応じて、当該技術分野で公知の好適な方法を用いて目的とするL-アミノ酸を回収(collect)するものであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、結晶化、タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外濾過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLC又はそれらの組み合わせが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物から目的とするL-アミノ酸を回収することができる。
【0079】
また、本出願のL-アミノ酸生産方法は、精製ステップをさらに含んでもよい。前記精製は、当該技術分野で公知の好適な方法により行うことができる。例えば、本出願のL-アミノ酸生産方法が回収ステップと精製ステップの両方を含む場合、前記回収ステップと前記精製ステップは、順序に関係なく異時的(又は連続的)に行ってもよく、同時に又は1つのステップとして統合して行ってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0080】
本出願の方法における変異型SpoTタンパク質、ポリヌクレオチド、ベクター、菌株などについては前述した通りである。
【0081】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異型SpoTタンパク質を含むL-アミノ酸生産用組成物を提供する。
【0082】
一実施例において、前記組成物は、本出願の変異型SpoTタンパク質、前記変異型SpoTタンパク質をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含むベクター、もしくは本出願のポリヌクレオチドを含むエシェリキア属菌株を含むか、それを培養した培養物を含むか、又はそれらの2つ以上の組み合わせを含むものであってもよい。
【0083】
本出願の組成物は、アミノ酸生産用組成物に通常用いられる任意の好適な賦形剤をさらに含んでもよい。このような賦形剤としては、例えば保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本出願の組成物における変異型SpoTタンパク質、ポリヌクレオチド、ベクター、菌株、培地、L-アミノ酸などについては前述した通りである。
【0085】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異型SpoTタンパク質を発現するように微生物を改変するステップを含む、微生物のL-アミノ酸生産能を向上させる方法を提供する。
【0086】
本出願のさらに他の態様は、本出願の変異型SpoTタンパク質のL-アミノ酸生産用途を提供する。
【0087】
変異型SpoTタンパク質、微生物、L-アミノ酸などについては前述した通りである。
【0088】
なお、本明細書において、特に断らない限り、「含む」、「有する」、「含有する」などの表現は、明示した整数(integer)又は整数の集合を含むことを意味するが、他の整数又は整数の集合を排除するものではないと解されるべきである。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を挙げて本出願を詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示するものにすぎず、本出願がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
実施例1
組換えベクターpSKH-spoTの作製
遺伝子spoT(配列番号2)の変異部位を含むDNA断片約1.63kbを得るために、Qiagen(社)のGenomic-tipシステムを用いて大腸菌野生株であるW3110の染色体DNA(gDNA)を抽出し、前記gDNAを鋳型とし、PCR HL premix kit(BIONEER社製,以下同様)を用いてPCR(polymerase chain reaction)を行った。SpoTアミノ酸配列(配列番号1)の262番目のアミノ酸であるアラニンを他の極性アミノ酸であるセリン(S)、トレオニン(T)、システイン(C)、チロシン(Y)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)に置換した遺伝子断片部位を増幅するために、表1のプライマーをセットを用いて95℃で30秒間の変性(denaturation)、56℃で30秒間のアニーリング(annealing)、及び68℃で1分間の伸長(elongation)からなるサイクルを27回繰り返してPCRを行った。
【0091】
その結果、置換変異によりそれぞれ0.82kb、0.88kbの大きさの遺伝子断片が得られた。
【0092】
【0093】
増幅した変異体spoT遺伝子断片、及びEcoR V制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpSKH vector(特許文献1)をギブソンアセンブリ(非特許文献15)方法でクローニングすることにより組換えプラスミドを得て、置換された変異に応じてpSKH-spoT(A262S)、pSKH-spoT(A262T)、pSKH-spoT(A262C)、pSKH-spoT(A262Y)、pSKH-spoT(A262N)、pSKH-spoT(A262Q)と命名した。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0094】
実施例2
SpoTの262番目のアミノ酸コード配列が極性アミノ酸コード配列に置換された突然変異菌株の開発
実施例1で得られたpSKH-spoT(A262S)、pSKH-spoT(A262T)、pSKH-spoT(A262C)、pSKH-spoT(A262Y)、pSKH-spoT(A262N)、pSKH-spoT(A262Q)をL-トリプトファン生産菌株KCCM11166P(特許文献2)のelectro-competent cellにエレクトロポレーションにより形質転換(transformation)し、その後2次交差過程を経て、染色体上でSpoTの262番目のアミノ酸であるアラニンのコード配列が極性アミノ酸であるセリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミン(配列番号19~24)のコード配列に置換された菌株を得た。当該遺伝子が挿入された相同組換え上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する、配列番号3及び配列番号4のプライマーを用いたPCR法とゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認した。
配列番号3(spoT-confirm forward)
CCAGGAACAGCAAGAGCA
配列番号4(spoT-confirm reverse)
ACGGATATTACGGCAGGA
【0095】
このようにして得られた菌株を大腸菌KCCM11166P::spoT(A262S)、KCCM11166P::spoT(A262T)、KCCM11166P::spoT(A262C)、KCCM11166P::spoT(A262Y)、KCCM11166P::spoT(A262N)、KCCM11166P::spoT(A262Q)と命名した。
【0096】
また、前述したSpoTの262番目への変異の導入が他のエシェリキア属L-トリプトファン生産菌株においても同じ効果を発揮するか否かを、他のL-トリプトファン生産菌株であるCA04-4303(特許文献3)において確認した。CA04-4303は、野生型W3110菌株において、trpR、mtr、tnaAが欠損し、trpEの21番目のアミノ酸がプロリンからセリンに置換された菌株である。CA04-4303菌株の染色体上でSpoTの262番目のアミノ酸であるアラニンのコード配列が極性アミノ酸であるセリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンのコード配列に置換された菌株を作製した。作製過程は前述したKCCM11166Pの導入過程と同様である。
【0097】
このようにして得られた菌株をCA04-4303::spoT(A262S)、CA04-4303::spoT(A262T)、CA04-4303::spoT(A262C)、CA04-4303::spoT(A262Y)、CA04-4303::spoT(A262N)、CA04-4303::spoT(A262Q)と命名した。
【0098】
実施例3
SpoTの262番目のアミノ酸が極性アミノ酸に置換された突然変異菌株のL-トリプトファン生産能の比較
実施例2で作製されたL-トリプトファン生産菌株KCCM11166PベースのSpoTの262番目のアミノ酸が極性アミノ酸に置換された菌株は、表2に示す組成で作製したトリプトファン力価培地で培養し、L-トリプトファン生産能を確認した。
【0099】
【0100】
具体的には、37℃の培養器(incubator)内のLB固体培地で一晩培養した大腸菌KCCM11166P及び大腸菌KCCM11166P::spoT(A262S)、KCCM11166P::spoT(A262T)、KCCM11166P::spoT(A262C)、KCCM11166P::spoT(A262Y)、KCCM11166P::spoT(A262N)、KCCM11166P::spoT(A262Q)をそれぞれ表2の25mLの力価培地に1白金耳ずつ接種し、次いでそれを37℃、200rpmの培養器で48時間培養し、糖消費速度及びL-トリプトファン濃度を比較した。
【0101】
その結果、表3に示すように、培養22時間後に観察された対照群KCCM11166P菌株における消費糖は25.0g/Lであったが、SpoTタンパク質アミノ酸配列の262番目のアミノ酸を極性アミノ酸に置換した突然変異菌株における同一時間の消費糖は27~31g/Lであった。これは、生産性が8.8%~25.8%向上した数値であり、特にKCCM11166P::spoT(A262T)の生産性が最も大幅に向上することが確認された。
【0102】
これらの結果により、SpoTタンパク質の262番目のアミノ酸位置が当該タンパク質の活性を変化させるための主要領域であることが確認された。これは、262番目のアミノ酸の極性アミノ酸への置換により、L-トリプトファン発酵において生産性が大幅に向上することを意味する。
【0103】
【0104】
SpoTの262番目のアミノ酸の極性アミノ酸への置換によるL-トリプトファン生産能の変化は、実施例2で得られたCA04-4303菌株においても確認した。L-トリプトファン生産能の比較のための培養方法及び培地の組成は、前記KCCM11166Pベースの培養と同様である。
【0105】
次の結果から分かるように、L-トリプトファン生産菌株CA04-4303菌株ベースのSpoTの262番目のアミノ酸置換においても、本出願で選択した変異がL-トリプトファン生産性を大幅に向上させることが確認された。
【0106】
表4に示すように、培養22時間後に観察された対照群CA04-4303菌株における消費糖は30.0g/Lであったが、SpoTタンパク質アミノ酸配列の262番目のアミノ酸を極性アミノ酸に置換した突然変異菌株における同一時間の消費糖は31.8~33.0g/Lであった。これは、生産性が13.0%~30.4%向上した数値であり、特にCA04-4303::spoT(A262Y)の生産性が最も大幅に向上することが確認された。
【0107】
【0108】
これらの結果は、本出願のアミノ酸配列の262番めのアミノ酸を極性アミノ酸に置換した変異型SpoTを導入したエシェリキア属微生物においてL-アミノ酸生産性が向上し、結果として非改変菌株よりL-アミノ酸の生産性が向上することを示唆するものである。
【0109】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【配列表】
【国際調査報告】