(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】細胞生死表現型に基づく薬物標的アンタゴニストの新規スクリーニングシステム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240315BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240315BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240315BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12Q1/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561631
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(85)【翻訳文提出日】2023-12-04
(86)【国際出願番号】 CN2022085517
(87)【国際公開番号】W WO2022214023
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】202110385275.1
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520308488
【氏名又は名称】センター フォー エクセレンス イン モレキュラー セル サイエンス,チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100203828
【氏名又は名称】喜多村 久美
(72)【発明者】
【氏名】チアン ハイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン シーショアン
(72)【発明者】
【氏名】チュー イェンカイ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QR80
4B063QS36
4B063QX01
4B065AA90X
(57)【要約】
細胞生死表現型に基づく薬物標的アンタゴニストの新規スクリーニングシステムを提供する。具体的には、標的タンパク質及び条件付き自殺タンパク質FKBP12(F36V)-Caspase9に基づいて、標的タンパク質の阻害剤又は分解剤をスクリーニングするためのスクリーニングシステムを設計する。スクリーニングシステムは、安定且つ効率的であり、表現型の観察が明らかに容易であり、ハイスループットスクリーニングに使用されることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質に対する阻害剤をスクリーニングするためのスクリーニングシステムであって、
前記スクリーニングシステムは、一つの培養システム及び前記培養システム中に存在する以下の成分を含み、
(a)生検出細胞、前記検出細胞は、外因性融合タンパク質を発現し、前記融合タンパク質は、標的タンパク質と細胞自殺要素との融合タンパク質であり、ここで、前記融合タンパク質は、自殺誘導剤の存在下で、前記検出細胞のアポトーシスを誘導し、
(b)スクリーニングしようとする被験物、
ここで、前記検出細胞が前記融合タンパク質を発現し且つ前記被験物が前記融合タンパク質の分解又は減少を引き起こさない場合、前記自殺誘導剤は、前記検出細胞のアポトーシスを誘導し、
また、前記被験物が前記検出細胞において前記融合タンパク質を発現させないか、又は前記融合タンパク質を分解もしくは減少させる場合、前記自殺誘導剤は、前記検出細胞のアポトーシスを誘導しないことを特徴とする、前記スクリーニングシステム。
【請求項2】
前記スクリーニングシステムは、
(c)自殺誘導剤をさらに含み、前記自殺誘導剤は、前記融合タンパク質を介して前記検出細胞のアポトーシスを誘導することを特徴とする
請求項1に記載のスクリーニングシステム。
【請求項3】
前記スクリーニングしようとする被験物は、前記標的タンパク質のタンパク質分解剤及び/又は転写阻害剤であることを特徴とする
請求項1に記載のスクリーニングシステム。
【請求項4】
前記スクリーニングしようとする被験物は、低分子化合物、核酸分子、プロテアソームターゲティングキメラ(PROTAC)から選択されることを特徴とする
請求項3に記載のスクリーニングシステム。
【請求項5】
前記標的タンパク質と細胞自殺要素との融合タンパク質構造は、式Iに示されたとおりであり、
式I:B-L1-A
式において、
Bは、標的タンパク質、好ましくは疾患標的タンパク質であり、
Aは、細胞自殺要素であり、
L1は、なし又はリンカー配列であり、
「-」は、独立して、Cペプチド又はペプチド結合であることを特徴とする
請求項1に記載のスクリーニングシステム。
【請求項6】
前記疾患標的タンパク質は、PD1、PD-L1、CD47、LAG3、TIGIT、KRas、Myc、TERT、SKP2、AR、PAX3、DUX4、SGLT2、SNCA、RdRp、NSP7、NSP8、RBD、IMPDH1、RANK、β-Catenin、FLI1、Caspase1、スパイクタンパク質(Spike)、NSP8からなる群から選択されることを特徴とする
請求項1に記載のスクリーニングシステム。
【請求項7】
前記細胞自殺要素の構造は、次の式IIに示されたとおりであり、
F-L2-C(II)
ここで、
各「-」は、独立して、Cペプチド又はペプチド結合であり、
Fは、自殺遺伝子誘導要素であり、
L2は、なし又は柔軟性リンカーであり、
Cは、自殺遺伝子要素であることを特徴とする
請求項5に記載のスクリーニングシステム。
【請求項8】
標的タンパク質に対する候補薬物をスクリーニングするための方法であって、
(a)スクリーニングしようとする被験物を加える培養システムを実験群とし、試験化合物を加えない培養システムを空白対照群とする段階と、ここで、前記培養システムは、培養された生検出細胞を含み、前記検出細胞は、外因性融合タンパク質を発現し、前記融合タンパク質は、前記標的タンパク質と細胞自殺要素との融合タンパク質であり、ここで、前記融合タンパク質は、自殺誘導剤の存在下で、前記検出細胞のアポトーシスを誘導し、ならびに
(b)前記実験群及び空白対照群に自殺誘導剤を加えて、実験群及び空白対照群の検出細胞の生存状況を観測する段階とを含み、
ここで、実験群における検出細胞の生存数が対照群に比べて有意に多い場合、当該被験物が、候補薬物であることを示すことを特徴とする、前記標的タンパク質に対する候補薬物をスクリーニングするための方法。
【請求項9】
請求項1に記載のスクリーニングシステムの用途であって、
標的タンパク質のタンパク質分解剤及び/又は転写阻害剤のスクリーニングに使用されることを特徴とする、前記請求項1に記載のスクリーニングシステムの用途。
【請求項10】
標的タンパク質に対する阻害剤をスクリーニングするためのスクリーニング装置であって、
前記装置は、
(d1)生検出細胞を培養するためのn個の培養チャンバー(又はウェル)(compartment)が設置される一つ又は複数の培養ユニットを含むアポトーシススクリーニングモジュールと、ここで、前記培養チャンバーには、請求項1に記載の標的タンパク質に対する阻害剤をスクリーニングするためのスクリーニングシステムが含まれ、nは、≧2の正の整数であり、
(d2)アポトーシススクリーニングモジュールにおける各培養チャンバー中の前記検出細胞のアポトーシス状況に対してデータを収集するように構成されるデータ収集モジュールと、
(d3)前記データ収集モジュールからの細胞アポトーシス状況を分析して、スクリーニングしようとする被験物が標的タンパク質に対する阻害剤であるかどうかの分析結果を取得するように構成されるスクリーニング分析モジュールと、ならびに
(d4)スクリーニング分析モジュールの分析結果を出力する出力モジュールとを含むことを特徴とする、前記スクリーニング装置。
【請求項11】
前記培養ユニットの数は、1~200個、好ましくは4~100個、より好ましくは8~50個、最も好ましくは10~20個であることを特徴とする
請求項10に記載のスクリーニング装置。
【請求項12】
融合タンパク質であって、
前記融合タンパク質の構造は、式Iに示されたとおりであり、
式I:B-L1-A
式において、
Bは、疾患標的タンパク質であり、
Aは、細胞自殺要素であり、
L1は、なし又はリンカー配列であり、
「-」は、独立して、Cペプチド又はペプチド結合であることを特徴とする、前記融合タンパク質。
【請求項13】
前記細胞自殺要素の構造は、次の式IIに示されたとおりであり、
F-L2-C (II)
ここで、
各「-」は、独立して、Cペプチド又はペプチド結合であり、
Fは、自殺遺伝子誘導要素であり、
L2は、なし又は柔軟性リンカーであり、
Cは、自殺遺伝子要素であることを特徴とする
請求項12に記載の融合タンパク質。
【請求項14】
核酸分子であって、
前記核酸分子は、請求項12に記載の融合タンパク質をコードすることを特徴とする、前記核酸分子。
【請求項15】
ベクターであって、
前記ベクターは、請求項14に記載の核酸分子を含むことを特徴とする、前記ベクター。
【請求項16】
宿主細胞であって、
前記宿主細胞は、請求項15に記載のベクターを含むか、又は染色体には請求項14に記載の核酸分子が組み込まれていることを特徴とする、前記宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的スクリーニング分野に関し、具体的には、細胞生死表現型に基づく薬物標的アンタゴニストの新規スクリーニングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞における特定のタンパク質の異常が蓄積すると、いくつかの疾患の発生につながる可能性があり、これらのタンパク質は、様々な疾患における重要な標的である。例えば、KRASタンパク質の異常な活性化は、様々な腫瘍の発生に関され、SNCAタンパク質の異常な活性化は、いくつかの神経変性疾患の発生に関連する。これに加えて、新型コロナウイルスのRNAポリメラーゼ及びSpikeタンパク質等のいくつかの病原体由来のタンパク質も、疾患治療の重要な標的である。
【0003】
これらの疾患の治療法の探索では、標的タンパク質に対する阻害剤は、一般的な製薬策略である。しかし、標的タンパク質がキナーゼではない場合、阻害剤を設計してスクリーニングすることは困難である。これにより、現在、多くの重要な疾患標的が薬物介入手段がない。理論的は、疾患標的タンパク質に対する特異的転写阻害剤、特異的タンパク質の分解剤を発展できれば、これらの疾患に対する薬物介入は、大幅に広がる可能性がある。しかしながら、細胞中の標的遺伝子の転写阻害又はタンパク質の分解それ自体は、視覚的な生物学的プロセスではないため、現在、安定して適用可能なハイスループットスクリーニングシステムはない。
【0004】
要約すると、安定で、効率的で表現型が可視化できるハイスループットスクリーニングシステムを開発することが緊急に必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、安定で、効率的で表現型が可視化できるハイスループットスクリーニングシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、標的タンパク質に対する阻害剤をスクリーニングするためのスクリーニングシステムを提供し、前記スクリーニングシステムは、一つの培養システム及び前記培養システム中に存在する以下の成分を含み、
(a)生検出細胞、前記検出細胞は、外因性融合タンパク質を発現し、前記融合タンパク質は、標的タンパク質と細胞自殺要素との融合タンパク質であり、ここで、前記融合タンパク質は、自殺誘導剤の存在下で、前記検出細胞のアポトーシスを誘導し、
(b)スクリーニングしようとする被験物、
ここで、前記検出細胞が前記融合タンパク質を発現し且つ前記被験物が前記融合タンパク質の分解又は減少を引き起こさない場合、前記自殺誘導剤は、前記検出細胞のアポトーシスを誘導し、
また、前記被験物が前記検出細胞において前記融合タンパク質を発現させないか、又は前記融合タンパク質を分解もしくは減少させる場合、前記自殺誘導剤は、前記検出細胞のアポトーシスを誘導しない。
【0007】
別の好ましい例において、前記被験物が前記検出細胞において前記融合タンパク質を発現させないか、又は前記融合タンパク質を分解もしくは減少させる場合、前記被験物は、候補薬物と見なされる。
【0008】
別の好ましい例において、前記候補薬物は、標的タンパク質のタンパク質分解剤、標的タンパク質転写阻害剤又はその組み合わせからなる群から選択される。
【0009】
別の好ましい例において、前記スクリーニングシステムは、
(c)自殺誘導剤をさらに含み、前記自殺誘導剤は、前記融合タンパク質を介して前記検出細胞のアポトーシスを誘導する。
【0010】
別の好ましい例において、前記スクリーニングしようとする被験物は、前記標的タンパク質のタンパク質分解剤及び/又は転写阻害剤である。
【0011】
別の好ましい例において、前記標的タンパク質は、疾患標的タンパク質である。
【0012】
別の好ましい例において、前記疾患標的タンパク質は、PD1、PD-L1、CD47、LAG3、TIGIT、KRas、Myc、TERT、SKP2、AR、PAX3、DUX4、SGLT2、SNCA、RdRp、NSP7、NSP8、RBD、IMPDH1、RANK、β-Catenin、FLI1、Caspase1、スパイクタンパク質(Spike)、NSP8からなる群から選択される。
【0013】
別の好ましい例において、前記スクリーニングしようとする被験物は、低分子化合物、核酸分子、プロテアソームターゲティングキメラ(PROTAC)から選択される。
【0014】
別の好ましい例において、自殺誘導剤の存在下で、前記融合タンパク質は、二量体を形成することにより、細胞アポトーシスを誘発する。
【0015】
別の好ましい例において、自殺誘導剤の非存在下で、前記融合タンパク質は、単量体形態を維持し、細胞アポトーシスを誘発しない。
【0016】
別の好ましい例において、前記標的タンパク質と細胞自殺要素との融合タンパク質構造は、式Iに示されたとおりであり、
式I:B-L1-A
式において、
Bは、疾患標的タンパク質であり、
Aは、細胞自殺要素であり、
L1は、なし又はリンカー配列であり、
「-」は、独立して、Cペプチド又はペプチド結合である。
【0017】
別の好ましい例において、前記細胞自殺要素の構造は、次の式IIに示されたとおりであり、
F-L2-C(II)
ここで、
各「-」は、独立して、Cペプチド又はペプチド結合であり、
Fは、自殺遺伝子誘導要素であり、
L2は、なし又は柔軟性リンカーであり、
Cは、自殺遺伝子要素である。
【0018】
別の好ましい例において、前記細胞自殺要素は、iCasp9を含む。
【0019】
別の好ましい例において、前記Cは、カスパーゼ-9のコード遺伝子(Caspase9遺伝子)である。
【0020】
別の好ましい例において、前記Fは、FKBP12-F36Vドメインである。
【0021】
別の好ましい例において、前記FKBP12-F36Vドメインは、FKBPドメインを含み、FKBPドメインの36位のアミノ酸は、フェニルアラニンからバリンに突然変異する。
【0022】
別の好ましい例において、前記L2の配列は、SEQ ID NO:1の109~114位のアミノ酸に示されたとおりである(Ser-Gly-Gly-Gly-Ser)。
【0023】
別の好ましい例において、前記自殺遺伝子要素のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1に示されたとおりである。
【0024】
別の好ましい例において、前記自殺誘導剤は、AP1903である。
【0025】
別の好ましい例において、前記細胞は、遺伝子操作された細胞である。
【0026】
別の好ましい例において、前記細胞は、哺乳動物細胞である。
【0027】
別の好ましい例において、前記細胞は、ヒト腎上皮細胞(293A細胞)、ヒト末梢血白血病T細胞(Jurkat T細胞)、JHH7細胞、Hela細胞から選択される。
【0028】
本発明の第2の態様は、標的タンパク質に対する候補薬物をスクリーニングするための方法を提供し、
(a)スクリーニングしようとする被験物を加える培養システムを実験群とし、試験化合物を加えない培養システムを空白対照群とする段階と、ここで、前記培養システムは、培養された生検出細胞を含み、前記検出細胞は、外因性融合タンパク質を発現し、前記融合タンパク質は、前記標的タンパク質と細胞自殺要素との融合タンパク質であり、ここで、前記融合タンパク質は、自殺誘導剤の存在下で、前記検出細胞のアポトーシスを誘導し、ならびに
(b)前記実験群及び空白対照群に自殺誘導剤を加えて、実験群及び空白対照群の検出細胞の生存状況を観測する段階とを含み、
ここで、実験群における検出細胞の生存数が対照群に比べて有意に多い場合、当該被験物が、候補薬物であることを示す。
【0029】
別の好ましい例において、前記候補薬物は、タンパク質分解剤及び/又は転写阻害剤を含む。
【0030】
別の好ましい例において、前記「有意に高い」とは、空白実験群で検出された細胞の生存数E0に対する実験群で検出された細胞の生存数E1の比(E1/E0)は、≧1.5、好ましくは≧2.0、より好ましくは≧4である。
【0031】
別の好ましい例において、前記方法は、(c1)前段階で決定された候補薬物に対して、融合タンパク質に対する前記候補薬物の作用モードを試験又は分析する段階をさらに含み、
ここで、前記候補薬物が検出細胞中の融合タンパク質を分解する場合、前記候補薬物は、標的タンパク質のタンパク質分解剤であり、及び/又は
前記候補薬物が検出細胞中の融合タンパク質の発現を減少又は阻害する場合、前記候補薬物は、標的タンパク質の転写阻害剤である。
【0032】
別の好ましい例において、前記方法は、(c2)標的タンパク質に対する前記候補薬物の分解効果、標的タンパク質の転写に対する前記候補薬物の阻害効果、及び/又は標的タンパク質関連疾患に対する前記候補薬物の予防又は治療効果を試験する段階をさらに含む。
【0033】
本発明の第3の態様は、標的タンパク質のタンパク質分解剤及び/又は転写阻害剤のスクリーニングに使用される、本発明の第1の態様に記載のスクリーニングシステムの用途を提供する。
【0034】
本発明の第4の態様は、標的タンパク質に対する阻害剤をスクリーニングするためのスクリーニング装置を提供し、前記装置は、
(d1)生検出細胞を培養するためのn個の培養チャンバー(又はウェル)(compartment)が設置される一つ又は複数の培養ユニットを含むアポトーシススクリーニングモジュールと、ここで、前記培養チャンバーは、本発明の第1の態様に記載の標的タンパク質に対する阻害剤をスクリーニングするためのスクリーニングシステムを含み、nは、≧2の正の整数であり、
(d2)アポトーシススクリーニングモジュールにおける各培養チャンバー中の前記検出細胞のアポトーシス状況に対してデータを収集するように構成されるデータ収集モジュールと、
(d3)前記データ収集モジュールからの細胞アポトーシス状況を分析して、スクリーニングしようとする被験物が標的タンパク質に対する阻害剤であるかどうかの分析結果を取得するように構成されるスクリーニング分析モジュールと、ならびに
(d4)スクリーニング分析モジュールの分析結果を出力する出力モジュールとを含む。
【0035】
別の好ましい例において、前記培養ユニットの数は、1~200個、好ましくは4~100個、より好ましくは8~50個、最も好ましくは10~20個である。
【0036】
別の好ましい例において、nは、≧16、好ましくは≧48、より好ましくは≧96、例えば16~100000、48~10000、又は96~5000である。
【0037】
別の好ましい例において、前記培養ユニットは、1536ウェルプレート、384ウェルプレート、96ウェルプレート等のマルチウェルプレートである。
【0038】
別の好ましい例において、前記検出細胞の培養チャンバー(又はウェル)の体積は、5μl~5mlである。
【0039】
別の好ましい例において、前記スクリーニングシステムは、ハイスループットスクリーニングシステムである。
【0040】
別の好ましい例において、前記培養ユニットには、空白対照群の培養チャンバー及び実験群の培養チャンバーが設置され、ここで、スクリーニングしようとする被験物を加えた培養システムを実験群とし、試験化合物を加えない培養システムを空白対照群とする。(即ち、スクリーニングしようとする被験物の追加の有無を除いて、実験群及び空白対照群の他の条件は同じである)。
【0041】
別の好ましい例において、前記培養ユニットにおいて、m個の異なる実験群が設置されて、m種の異なるスクリーニングしようとする被験物又は被験物の組み合わせを試験し、mは、≧1の正の整数である(1~1600)。
【0042】
本発明の第5の態様は、融合タンパク質を提供し、前記融合タンパク質の構造は、式Iに示されたとおりであり、
式I:B-L1-A
式において、
Bは、疾患標的タンパク質であり、
Aは、細胞自殺要素であり、
L1は、なし又はリンカー配列であり、
「-」は、独立して、Cペプチド又はペプチド結合である。
【0043】
別の好ましい例において、前記疾患標的は、癌促進タンパク質標的、腫瘍免疫標的、糖尿病標的、神経変性疾患標的、新型コロナウイルス標的、遺伝病標的、又はその組み合わせからなる群から選択される。
【0044】
別の好ましい例において、前記疾患標的タンパク質は、PD-1、PD-L1、CD47、LAG3、TIGIT、KRas、Myc、TERT、SKP2、AR、PAX3、DUX4、SGLT2、SNCA、RdRp、NSP7、NSP8、RBD、IMPDH1、RANK、β-Catenin、FLI1、Caspase1、スパイクタンパク質(Spike)、NSP8からなる群から選択される。
【0045】
別の好ましい例において、前記細胞自殺要素の構造は、次の式IIに示されたとおりであり、
F-L2-C(II)
ここで、
各「-」は、独立して、Cペプチド又はペプチド結合であり、
Fは、自殺遺伝子誘導要素であり、
L2は、なし又は柔軟性リンカーであり、
Cは、自殺遺伝子要素である。
【0046】
別の好ましい例において、前記細胞自殺要素は、iCasp9を含む。
【0047】
別の好ましい例において、前記Cは、カスパーゼ-9のコード遺伝子(Caspase9遺伝子)である。
【0048】
別の好ましい例において、前記Fは、FKBP12-F36Vドメインである。
【0049】
別の好ましい例において、前記FKBP12-F36Vドメインは、FKBPドメインを含み、FKBPドメインの36位のアミノ酸は、フェニルアラニンからバリンに突然変異する。
【0050】
別の好ましい例において、前記L2の配列は、SEQ ID NO:1の109~114位のアミノ酸に示されたとおりである(Ser-Gly-Gly-Gly-Ser)。
【0051】
別の好ましい例において、前記自殺遺伝子要素のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1に示されたとおりである。
【0052】
本発明の第6の態様は、核酸分子を提供し、前記核酸分子は、本発明の第5の態様に記載の融合タンパク質をコードする。
【0053】
本発明の第7の態様は、ベクターを提供し、前記ベクターは、本発明の第6の態様に記載の核酸分子を含む。
【0054】
本発明の第8の態様は、宿主細胞を提供し、前記宿主細胞は、本発明の第7の態様に記載のベクターを含むか、又は染色体には本発明の第6の態様に記載の核酸分子が組み込まれている。
【0055】
別の好ましい例において、前記細胞は、分離された細胞であり、及び/又は前記細胞は、遺伝子操作された細胞である。
【0056】
別の好ましい例において、前記細胞は、哺乳動物細胞である。
【0057】
別の好ましい例において、前記細胞は、ヒト腎上皮細胞(293A細胞)、ヒト末梢血白血病T細胞(Jurkat T細胞)、JHH7細胞、Hela細胞から選択される。
【0058】
別の好ましい例において、操作された293A細胞を提供し、前記操作された293A細胞は、本発明の第5の態様に記載の融合タンパク質を発現し、ここで、融合タンパク質の構造は、細胞自殺要素を含み、前記細胞自殺要素は、iCasp9である。
【発明の効果】
【0059】
本発明の範囲内で、本発明の上記の各技術的特徴と以下(例えば、実施例)に具体的に説明される各技術的特徴との間を、互いに組み合わせることにより、新しいまたは好ましい技術的解決策を構成することができることに理解されたい。スペースに限りがあるため、ここでは繰り返さない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】AP1903によって誘導されるFKBP12(F36V)-△CASP9二量体化の模式図を示す。
【
図2】薬物標的の発現阻害及びタンパク質分解による細胞の「死」から「生存」への変化の模式図を示す。図において、青いボール(左)は、標的タンパク質を表わし、赤いボール(右)は、細胞内で一つの融合タンパク質として発現されるF-Cタンパク質を表わす。薬物干渉がない場合、AP1903は、細胞アポトーシスを誘導し、標的遺伝子転写又は分解標的タンパク質を阻害する薬物を加えると、AP1903は、細胞アポトーシスを誘導しない。
【
図3】タンパク質阻害剤スクリーニング細胞株の検証を示し、a図は、標的タンパク質阻害剤スクリーニングシステムの要素模式図であり、b図は、各標的タンパク質及びFKBP12(F36V)-△CASP9融合タンパク質を発現する細胞は、AP1903処理後に死亡するのを示す。
【
図4】ハイスループット薬物のスクリーニングプロセスを示す。
【
図5】PD1阻害剤としての化合物A6のスクリーニング及び検証図を示す。ここで、aは、DMSO又はPD1転写阻害剤A6で24時間処理した後のPD1-F-Cタンパク質を発現する細胞の生存状態を示し、bは、フローサイトメトリー染色によって検出されたJurkat細胞におけるPD1の発現レベルを示し、PMA及びイオノマイシン(ionomycin)は、細胞内のPD1の発現を活性化し、ここで、図において、x軸は、細胞PD1の蛍光強度を表わし、y軸は、細胞の均一性の程度を表わし、cは、Jurkat細胞がPMA及びinonmycinによって活性化され、同時にA6で処理され、PD1 mRNA発現レベルがqPCRによって検出される図を示し、dは、外因性HA-PD1を過剰発現するJurkat細胞におけるPD1レベルのA6で処理されたWestern Blot検出の図を示し、actinは、アクチンであり、eは、PD1コード配列の568-639核酸配列とKRasのコード配列との融合模式図を示し、ここで、intは、イントロンであり、extは、エクソンであり、fは、PD1とKRasとが5eのモード(即ち、PD1-1-KRAS)のように融合及び発現する場合、DMSO及びA6で処理した後、PD1-1-KRASのmRNA発現レベルのqPCR検出の図を示し、gは、KRAS配列がPD1の当該セクションの配列と融合及び発現しない場合、A6で処理し、KRAS mRNA発現レベルのqPCR検出の図を示す。
【
図6】SKP2特異的タンパク質分解剤B3のスクリーニング及び検証の図を示し、ここで、aは、SKP2-F-C細胞をDMSO又はSKP2タンパク質分解剤B3で24時間処理した後にAP1903を加えた細胞生存状態図を示し、ここで、DMSO対照群の細胞は、死亡し、B3処理群の細胞は、生存し、no treatmentは、無処理群であり、bは、SKP2-F-Cタンパク質の細胞を発現し、JHH7細胞をB3で処理し、Western Blotによって12時間、24時間、48時間でSKP2の発現レベルを検出し、B3で処理した細胞SKP2タンパク質レベルが有意に減少することを示し、cは、SKP2-F-Cタンパク質の細胞を発現し、JHH7細胞をB3で処理し、qPCRによって12時間、24時間、48時間でSKP2のmRNAレベルを検出し、B3で処理した細胞SKP2発現量の差が大きくないことを示し、dは、B3処理後、JHH7細胞内のSKP2タンパク質の分解を有意に促進することを示し、d’は、B3処理後、Hela細胞内のSKP2タンパク質の分解を有意に促進することを示す。
【
図7】PD1-GFP融合タンパク質システムと本発明のF-Cタンパク質融合システムとの比較を示し、ここで、aは、有効な薬物処理後、本発明のF-Cタンパク質融合システムの表現型の変化を示し、bは、有効な薬物処理後、PD1-GFP融合タンパク質システムの蛍光値の変化を示し、cは、A6処理後、PD1-GFP融合タンパク質システムの蛍光値の変化を示す。
【
図8】ハイスループットスクリーニングによって得られた異なる標的タンパク質(β-Catenin、FLI1、LAG3、Caspase1、Spike、NSP8)の分解剤(化合物1-12)に関するウエスタンブロット実験の検証結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本発明者らは、広範囲かつ詳細な研究の後、条件付き自殺タンパク質(F-C融合タンパク質)に基づく薬物スクリーニングシステムを設計した。具体的には、標的タンパク質とF-Cタンパク質とを細胞内で融合および発現させて、標的タンパク質-「自殺タンパク質」発現細胞株を構築し、化合物ライブラリー薬物及び自殺誘導薬物(例えば、AP1903)を介して生存細胞をスクリーニングし、細胞アポトーシスを防止できる対応する化合物をスクリーニングすることにより、標的タンパク質の阻害剤又は分解剤をスクリーニングする。本発明のスクリーニング方法において、「生死」実験表現型の観察が容易であり、スクリーニングシステムは、効率的且つ簡単であり、ハイスループットスクリーニングに適する。これに基づいて、本発明を完成させた。
【0062】
用語
本発明を説明する前に、本発明は、記載された具体的な方法および実験条件に限定されないため、このような方法および条件を変化させることができることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、具体的な実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は、添付された特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されたい。
【0063】
特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および科学的用語の両方とも、本発明が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0064】
本明細書で使用されるように、「本発明の新規スクリーニングシステム」、「本発明のタンパク質分解剤スクリーニングシステム」、「条件付き自殺タンパク質(F-C融合タンパク質)に基づく薬物スクリーニングシステム」という用語は、交換可能に使用され、どちらも本発明の第1の態様に記載の標的タンパク質に対する阻害剤をスクリーニングするためのスクリーニングシステムを指す。
【0065】
本明細書に使用されるように、具体的に記載された値に関連して使用される場合、「約」という用語は、当該値が記載された値から1%以下しか変化しない可能性があることを指す。例えば、本明細書に使用されるように、「約100」という表現は、99から101までの間のすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4等)を含む。
【0066】
本明細書で使用されるように、「含有」または「包括(含む)」という用語は、開放式、半閉鎖式および閉鎖式であり得る。言い換えれば、前記用語も、「基本的にからなる」、または「からなる」を含む。
【0067】
本発明で使用されるアミノ酸の3文字コードおよび1文字コードは、J.biol.chem、243、p3558(1968)に記載されたとおりである。
【0068】
本明細書で使用されるように、「任意選択」または「任意選択で」という用語は、後述する事件または状況が発生する可能性があるが、発生する必要はないことを意味する。
【0069】
本発明に記載の「配列同一性」は、適切な交換、挿入または欠失等の突然変異を有する状況下で最適と比較される場合の二つの核酸または二つのアミノ酸配列の間の同一性程度を指す。本発明中に記載の配列とその同一性を有する配列の間の配列同一性は、少なくとも85%、90%または95%、好ましくは少なくとも95%であり得る。非限定的な実施例としては、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%を含む。
【0070】
細胞自殺要素
本発明で使用される細胞自殺要素は、単純ヘルペスウイルススチミジンキナーゼ(the herpes symplex virus thymidine kinase、HSV-TK)、誘導可能なカスパーゼ9(inducible caspase 9、iCasp9)、CD20、突然変異型ヒトチミジンキナーゼ(mutated human thymidylate kinase、mTMPK)等であり得る。
【0071】
本発明の好ましい実施例において、iCasp9細胞自殺要素は、リクルートドメインを含まない柔軟性Ser-Gly-Gly-Gly-Ser(SEQ ID NO:1の109~114位)を介してカスパーゼ9(Caspase 9)に結合できる、FKBP12-F36Vドメインを含む。FKBP12-F36Vは、36番目のアミノ酸残基部位でフェニルアラニンがバリンを置き換える、一つのFKBPドメインを含む。それは、他の不活性小分子AP1903等の二量体化合成リガンドを結合できる、高い選択性及びナノモル以下の親和性を有する。小分子を加えた後、その二量体化を促進することにより細胞アポトーシスを誘導することができるが、自殺遺伝子を有さない正常細胞には影響を与えない。
【0072】
本明細書で使用されるように、本発明の条件付き自殺タンパク質、「F-Cタンパク質」、「F-C融合タンパク質」、「FKBP12(F36V)-△CASP9」及び「FKBP12(F36V)-Caspase9」とは、交換可能に使用され、本発明におけるiCasp9細胞自殺要素を指し、当該融合タンパク質を発現する細胞は、自殺誘導薬物AP1903によってアポトーシスを誘導することができる。
【0073】
本発明における条件付き自殺タンパク質FKBP12(F36V)-Caspase9は、当該タンパク質を発現する細胞において自殺誘導薬物AP1903によってアポトーシスを誘導することができる。ここで、caspase9は、細胞アポトーシスの実行因子であり、それは、二量体化後に活性を生成してアポトーシスを引き起こす。FKBP12-F36Vは、化合物AP1903の誘導下で二量体化することができる。従って、FKBP12-F36Vをcaspase9(以下、F-Cタンパク質と略す)に融合させて発現させた後、AP1903の追加は、caspase9の二量体化を誘導し、細胞アポトーシスを迅速に引き起こすことができる。その誘導プロセスは、
図1に示されたとおりである。
【0074】
誘導性安全スイッチcaspase9(iCasp9)は、ヒトcaspase9を使用してFK506結合タンパク質(FKBP)を融合して、化学誘導剤(AP1903/Rimiducid、Bellicum Pharmaceutical)で二量体の形成を誘導し、融合タンパク質を発現する細胞アポトーシスを引き起こすことができる。
【0075】
融合タンパク質
PD1は、重要な腫瘍免疫標的であり、現在、PD1の化学アンタゴニストはない。
【0076】
SKP2は、重要な癌促進遺伝子及び広範囲に注目されている癌治療の標的であるが、現在、標的に対する阻害手段が足りない。
【0077】
本明細書で使用されるように、「本発明の融合タンパク質」、「組換え融合タンパク質」とは、すべて、標的タンパク質と条件付き自殺タンパク質FKBP12(F36V)-Caspase9との融合タンパク質を指す。
【0078】
本明細書で使用されるように、「融合タンパク質」という用語は、上記活性を有する変異形態をさらに含む。これらの変異形態は、1~3個(通常は、1~2個、より好ましくは1個である)のアミノ酸の欠失、挿入及び/又は置換、及びC末端及び/又はN末端での一つ又は複数(通常は、3個以内、好ましくは2個以内、より好ましくは1個以内である)のアミノ酸の追加又は欠失を含む(これらに限定されない)。例えば、当技術分野において、性能が類似又は同様なアミノ酸で置換される場合、通常、タンパク質の機能を変えない。別の例として、C末端及び/又はN末端での一つ又は複数のアミノ酸の追加又は欠失も、通常タンパク質の構造及び機能を変えない。さらに、前記用語は、単量体及び多量体形態の本発明のポリペプチドをさらに含む。当該用語は、線状及び非線状のポリペプチド(例えば、環状ペプチド)をさらに含む。
【0079】
本発明は、上記融合タンパク質の活性断片、誘導体及び類似体をさらに含む。本明細書で使用されるように、「断片」、「誘導体」及び「類似体」という用語は、本発明の融合タンパク質の機能又は活性を実質的に保持するポリペプチドを指す。本発明のポリペプチドフラグメント、誘導体または類似体は、(i)一つのまたはいくつかの保存的または非保存性的アミノ酸残基(好ましくは、保存的アミノ酸残基)が置換されたポリペプチド、または(ii)一つのまたは複数のアミノ酸残基に置換基を有するポリペプチド、または(iii)ポリペプチドと別の化合物(例えば、ポリエチレングリコール等のポリペプチドの半減期を延長する化合物)との融合によって形成されるポリペプチドまたは(iv)追加のアミノ酸配列がポリペプチド配列に融合されることによって形成されたポリペプチド(リーダー配列、分泌配列または6His等のタグ配列と融合して形成された融合タンパク質)であり得る。本明細書の教示によると、これらのフラグメント、誘導体および類似体は、当業者の周知の範囲内である。
【0080】
好ましい種類の活性誘導体とは、本発明のアミノ酸配列と比較して、最大3個、好ましくは最大2個、より好ましくは最大1個のアミノ酸が性質が類似又は同様なアミノ酸によって置換されてポリペプチドを形成することを指す。これらの保存的な変異体ポリペプチドは、好ましくは、表Aに従ってアミノ酸置換によって生成される。
【0081】
【0082】
本発明は、本発明の融合タンパク質の類似体をさらに提供する。これらの類似体と本発明のポリペプチドとの違いは、アミノ酸配列の違い、配列に影響を与えない修飾形態の違い、又はその両方であり得る。類似体は、天然のL-アミノ酸とは異なる残基(例えば、D-アミノ酸)を有する類似体、ならびに非天然に存在するアミノ酸又は合成されたアミノ酸(例えば、β、γ-アミノ酸)を有する類似体をさらに含む。本発明のポリペプチドは、上記で例示した代表的なポリペプチドに限定されないことを理解されたい。
【0083】
さらに、本発明の融合タンパク質を修飾することもできる。修飾(通常は、一次構造を変えない)形態は、インビボ又はインビトロでのアセチル化またはカルボキシル化等の化学的に誘導体化されたポリペプチドを含む。修飾は、例えば、ポリペプチドの合成及び加工中で、又はさらなる加工段階でポリペプチドをグリコシル化修飾することにより精製されたポリペプチド等のグリコシル化をさらに含む。このような修飾は、ポリペプチドを、グリコシル化を行う酵素(例えば、哺乳動物のグリコシラーゼ又はデグリコシラーゼ)に暴露することによって達成することができる。修飾形態は、リン酸化されたアミノ酸残基(例えば、ホスホチロシン、ホスホセリン、ホスホスレオニン)を有する配列をさらに含む。修飾されることによって、そのタンパク質加水分解に対する性能を高めるか、又は溶解性能を最適化するポリペプチドをさらに含む。
【0084】
「本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド」という用語は、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むことができ、コード配列及び/又は非コード配列を尽かするポリヌクレオチドをさらに含むことができる。
【0085】
本発明は、本発明と同じアミノ酸配列を有するポリペプチド又は融合タンパク質の断片、類似体及び誘導体をコードする、上記ポリヌクレオチドの変異体にも関する。これらのヌクレオチド変異体は、置換変異体、欠失変異体及び挿入変異体を含む。当技術分野で知られているように、対立遺伝子変異体は、ポリヌクレオチドの代替形態であり、それは、一つ又は複数のヌクレオチドの置換、欠失又は挿入であり得るが、それがコードする融合タンパク質の機能を実質的に変えない。
【0086】
本発明は、前記配列とハイブリダイズし、二つの配列間で少なくとも50%、好ましくは、少なくとも70%、より好ましくは、少なくとも80%の同一性を有するポリヌクレオチドにさらに関する。本発明は、特に、ストリンジェント条件(または厳しい条件)下で本発明の前記ポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「ストリンジェント条件」とは、(1)例えば、0.2×SSC、0.1%SDS、60℃等のより低いイオン強度およびより高い温度でのハイブリダイズおよび溶出、または(2)ハイブリダイズ中に、例えば、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%子牛血清/0.1%フィコール(Ficoll)、42℃等の変性剤の添加、または(3)二つの配列間の同一性が少なくとも90%以上、より好ましくは、95%以上である場合にのみおこるハイブリダイズを指す。
【0087】
本発明の融合タンパク質及びポリヌクレオチドは、好ましくは分離された形態で提供され、より好ましくは、均一に生成された形態で提供される。
【0088】
本発明の全長ポリヌクレオチドは、通常、PCR増幅法、組換え法又は人工合成法によって得られることができる。PCR増幅法の場合、本発明で開示される関連ヌクレオチド配列、特にオープンリーディングフレーム配列に基づいてプライマーを設計することができ、市販のcDNAライブラリー又はと業者に公知の常法により調製したcDNAライブラリーをテンプレートとして増幅して、関連配列を取得する。配列が長い場合、多くの場合、2回又は複数回のPCR増幅を実行し、次いで各回の増幅された断片を正しい順序でスプライスする必要がある。
【0089】
関連する配列を得られたら、組換え法を使用して、関連する配列を大量に得ることができる。通常、これは、それをベクターにクローニングし、次に細胞に形質転換し、次に従来の方法によって増殖した宿主細胞から関連する配列を単離することによって得られる。
【0090】
さらに、特に断片の長さが比較的短い場合に、人工合成法によって関連する配列を合成することもできる。通常、まず複数の小さな断片を合成した後に連結することによって、配列が非常に長い断片を得ることができる。
【0091】
現在、完全に化学的合成によって本発明のタンパク質(またはそのフラグメントまたはその誘導体)をコードするDNA配列を得ることができる。次に、当該DNA配列を当技術分野で知られている様々な既存のDNA分子(またはベクター等)および細胞に導入することができる。
【0092】
PCR技術を利用してDNA/RNAを増幅する方法は、好ましくは本発明のポリヌクレオチドを得るために使用される。特に、ライブラリーから全長cDNAを得ることが困難な場合、好ましくはRACE法(RACE-cDNA末端高速増幅法)を使用することができ、PCRに使用されるプライマーは、本明細書で開示される本発明の配列情報に基づいて適宜選択し、常法によって合成されることができる。ゲル電気泳動等の従来の方法によって、増幅されたDNA/RNA断片を分離及び精製することができる。
【0093】
発現ベクター
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、本発明のベクター又は本発明の融合タンパク質のコード配列を使用して遺伝子操作された宿主細胞、ならびに組換え技術による本発明に記載のポリペプチドの調製方法に関する。
【0094】
通常、従来の組換えDNA技術により、本発明のポリヌクレオチド配列を組換え融合タンパク質を発現又は生成するために使用することができる。一般的には、次のような段階を含む。
(1)本発明の本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド(又は変異体)を使用するか、又は当該ポリヌクレオチドを含む組換え発現ベクターを使用して、適切な宿主細胞を形質転換又は形質導入する。
(2)適切な培地で宿主細胞を培養する。
(3)培地又は細胞からタンパク質を分離及び精製する。
【0095】
本発明において、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、組換え発現ベクターに挿入されることができる。「組換え発現ベクター」という用語は、当技術分野で周知の細菌プラスミド、ファージ、酵母プラスミド、植物細胞ウイルス、アデノウイルス等の哺乳動物細胞ウイルス、逆転写ウイルス又は他のベクターを指す。宿主体内で複製でき、安定である限り、任意のプラスミド及びベクターを使用することができる。発現ベクターの重要な特徴は、通常、複製起点、プロモーター、マーカー遺伝子及び翻訳制御要素を含むことである。
【0096】
当業者に周知の方法を使用して、本発明の融合タンパク質をコードするDNA配列及び適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築することができる。これらの方法は、インビトロ組換えDNA技術、DNA合成技術、インビボ組換え技術等を含む。前記DNA配列は、発現ベクター内の適切なプロモーターに作動可能に連結して、mRNA合成を指示することができる。これらのプロモーターの代表的な例としては、大腸菌lac又はtrpプロモーター、λファージPLプロモーター、CMV前初期プロモーター、HSVチミジンキナーゼプロモーター、初期及び後期SV40プロモーター、レトロウイルスLTRsを含む真核プロモーター、ならびに他のいくつかの知られている原核細胞又は真核細胞又はそのウイルスにおいて遺伝子の発現を制御することができるプロモーターを含む。発現ベクターは、翻訳開始のためのリボソーム結合部位及び転写ターミネーターをさらに含む。
【0097】
さらに、発現ベクターは、好ましくは、真核細胞培養用のジヒドロ葉酸レダクターゼ、ネオマイシン耐性及び緑色蛍光タンパク質(GFP)、又は大腸菌に使用されるテトラサイクリン又はアンピシリン耐性等、形質転換宿主細胞の選択のための表現型形質を提供するための、一つ又は複数の選択マーカー遺伝子を含む。
【0098】
上記の適切なDNA配列及び適切なプロモーター又は制御配列を含むベクターを使用して、タンパク質を発現できるように適切な宿主細胞を形質転換することができる。
【0099】
宿主細胞は、細菌細胞等の原核細胞、又は酵母細胞等の下等真核細胞、又は哺乳動物細胞等の高等真核細胞であり得る。代表的な例としては、大腸菌、放線菌、ネズミチフス菌の細菌細胞、酵母等の真菌細胞、植物細胞(例えば、人参細胞)を含む。
【0100】
本発明のポリヌクレオチドが高等真核細胞で発現される場合、ベクターにエンハンサー配列を挿入すると転写が増強される。エンハンサーは、DNAのシス作用因子であり、通常約10~300個の塩基対を有し、プロモーターに作用して遺伝子転写を増強する。挙げられる例としては、複製起点の後期側の100~270個の塩基対のSV40エンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサー等を含む。
【0101】
当業者であれば、適切なベクター、プロモーター、エンハンサー及び宿主細胞を選択する方法を知っているであろう。
【0102】
組換えDNAによる宿主細胞の形質転換は、当業者に周知の従来の技術を使用して行うことができる。宿主が大腸菌等の原核生物である場合、DNAを吸収できる感受性細胞は、指数関数的増殖後に採取し、CaCl2法で処理することができ、使用される段階は、当技術分野で周知である。別の方法は、MgCl2を使用することである。必要に応じて、形質転換は、エレクトロポレーションによって行われることもできる。宿主が真核生物である場合、リン酸カルシウム共沈法;マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、リポソームパッケージング等の従来の機械的方法等のDNAトランスフェクション方法を選択することができる。
【0103】
取得した形質転換体を従来の方法によって培養することにより、本発明の遺伝子によってコードされるポリペプチドを発現することができる。使用される宿主細胞に応じて、培養に使用される培地は、従来の様々な培地から選択されることができる。宿主細胞の成長に適した条件下で培養する。宿主細胞が適切な細胞密度まで成長した後、選択されたプロモーターを適切な方法(例えば、温度シフト又は科学的誘導)によって誘導し、細胞をさらに一定期間培養する。
【0104】
上記方法における組換えポリペプチドは、細胞内、又は細胞膜上で発現させてもよいし、細胞外に分泌させてもよい。必要に応じて、その物理的、化学的及び他の特性を利用して、様々な分離方法によって、組換えタンパク質を分離及び精製することができる。これらの方法は、当業者にはよく知られている。これらの方法の例としては、従来のリフォールディング処理、タンパク質沈殿剤処理(塩析法)、遠心分離、浸潤滅菌、超処理、超遠心分離、モレキュラーシーブクロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及び他の様々な液体クロマトグラフィー技術、ならびにこれらの方法の組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0105】
本発明の設計方法
本発明において、標的タンパク質を条件付き自殺タンパク質」に連結して融合タンパク質を形成して細胞内で発現するため、これらの細胞は、自殺誘導薬物によってアポトーシスを引き起こすように誘導される。本発明のスクリーニングシステムは、上記のF-C融合タンパク質の条件的自殺特性に基づく。例えば、KRasを上記のF-Cに融合させ且つ細胞内で発現した後、AP1903を添加すると細胞死を生じる(
図2)。細胞培地中にKRasの特異的転写阻害剤、又はKRasの特異的タンパク質分解剤が存在する場合、細胞中にKRas-F-C融合タンパク質は存在せず、細胞は、AP1903の添加後も生存する。このような方法を使用すると、標的タンパク質KRasの転写阻害及びタンパク質分解を、細胞を「死」から「生存」までの視覚的な実験表現型に変換することができる。
【0106】
本発明のF-C融合タンパク質のスクリーニングシステムは、様々な疾患の重要な標的に適用されることができる。
図3aに示されるように、疾患に関連する重要な疾患標的タンパク質をF-Cと融合及び発現させ、発現細胞株を構築し、検証により、標的タンパク質分解剤が存在しない状況下で、これらの細胞は、AP1903処理後にアポトーシスを引き起こすことができることが確認される。これらの融合及び発現させた細胞は、自殺誘導薬物によく応答し、「死」から「生存」までの細胞の表現型を可視化することで、特定の標的タンパク質の分解剤をスクリーニングできることを示す。
【0107】
本発明において、前記分解剤は、10を超える疾患標的の並行スクリーニングにおいて、特定のタンパク質のみを分解することができる。この物質が標的タンパク質に対して選択性を有し、F-Cタンパク質を標的とする分解剤を排除し、偽陽性を最大限に回避することを示す。
【0108】
別の好ましい例において、含まれる標的は、重要な癌促進タンパク質(KRas、Myc、TERT、SKP2、AR、IMPDH1、RANK)、癌免疫分野の重要な標的(PD1、PD-L1、CD47、LAG3、TIGIT)、糖尿病標的(SGLT2)、神経変性疾患標的(SNCA)、新規コロナウイルス標的(RdRp、NSP7、NSP8、Spikeタンパク質RBDドメイン)、遺伝病標的(PAX3、DUX4)から選択され、
図3bに示されたとおりである。
【0109】
本発明における標的タンパク質及び「条件付き自殺タンパク質」は、頭-頭、頭-尾、又は尾-尾のモードで接続され得ることを理解されたい。前記「頭」とは、ポリペプチド又はその断片のN末端、特に野生型ポリペプチド又はその断片のN末端を指し、前記「尾」とは、ポリペプチド又はその断片のC末端、特に野生型ポリペプチド又はその断片のC末端を指す。
【0110】
別の好ましい例において、前記FKBP12(F36V)-Caspase9の配列は、次のとおりである。
【0111】
MGVQVETISPGDGRTFPKRGQTCVVHYTGMLEDGKKVDSSRDRNKPFKFMLGKQEVIRGWEEGVAQMSVGQRAKLTISPDYAYGATGHPGIIPPHATLVFDVELLKLESGGGSGFGDVGALESLRGNADLAYILSMEPCGHCLIINNVNFCRESGLRTRTGSNIDCEKLRRRFSSLHFMVEVKGDLTAKKMVLALLELAQQDHGALDCCVVVILSHGCQASHLQFPGAVYGTDGCPVSVEKIVNIFNGTSCPSLGGKPKLFFIQACGGEQKDHGFEVASTSPEDESPGSNPEPDATPFQEGLRTFDQLDAISSLPTPSDIFVSYSTFPGFVSWRDPKSGSWYVETLDDIFEQWAHSEDLQSLLLRVANAVSVKGIYKQMPGCFNFLRKKLFFKTS(SEQ ID NO:1)。
【0112】
標的タンパク質PD1の配列は、次のとおりである。
【0113】
MQIPQAPWPVVWAVLQLGWRPGWFLDSPDRPWNPPTFSPALLVVTEGDNATFTCSFSNTSESFVLNWYRMSPSNQTDKLAAFPEDRSQPGQDCRFRVTQLPNGRDFHMSVVRARRNDSGTYLCGAISLAPKAQIKESLRAELRVTERRAEVPTAHPSPSPRPAGQFQTLVVGVVGGLLGSLVLLVWVLAVICSRAARGTIGARRTGQPLKEDPSAVPVFSVDYGELDFQWREKTPEPPVPCVPEQTEYATIVFPSGMGTSSPARRGSADGPRSAQPLRPEDGHCSWPL(SEQ ID NO:2)。
【0114】
スクリーニング方法
本発明のスクリーニングシステムは、化合物の同じバッチに対して10を超える重要な疾患標的のハイスループットスクリーニングを同時に行うことができる。
【0115】
別の好ましい例において、本発明のハイスループット化合物スクリーニング方法は、次のとおりである。
【0116】
各標的のF-C融合タンパク質発現細胞を384ウェルプレートで培養した後、化合物ライブラリーをハイスループットスクリーニング装置により各ウェルに添加し、24時間後に自殺誘導薬物AP1903を添加して処理する。
図4に示されるように、ほとんどのウェルにおける細胞アポトーシス及び個々のウェルの細胞生存は、これらのウェル内の対応する化合物が細胞内の標的タンパク質のレベルに影響を与える可能性があることを示す。各ウェルにおける細胞生存状況は、写真分析ソフトウェアによって自動的に生成され、統計表が作成される。同じバッチの化合物が複数の標的に対して同時にスクリーニングできるため、特定の標的に対する転写阻害剤又はタンパク質分解剤を特異的にスクリーニングすることができる。
【0117】
好ましい例において、本発明者らは、PD1とF-Cタンパク質とを融合させ且つ細胞内で発現させ、
図4のスクリーニングプロセスにより化合物A6をスクリーニングする。後続の検証試験によると、本発明のシステムによってスクリーニングされた薬物A6がPD1のmRNA転写に対して強い阻害効果を有することを示す。
【0118】
本発明の主な利点は、次のとおりである。
(a)本発明の新規スクリーニングシステムにおける生死表現型は、非常に安定であり、容易に視認できる。
(b)本発明の新規スクリーニングシステムは、ハイスループットスクリーニングに使用されることができ、操作が簡単で一貫性が高い。
(c)本発明の新規スクリーニングシステムは、様々な疾患標的タンパク質のアンタゴニストをスクリーニングするのに適すことができる。
(d)本発明の新規スクリーニングシステムは、敏感な応答、直線的な結果、強力な抗干渉能力を有する。
(e)本発明の新規スクリーニングシステム反応は、効率的且つ迅速なハイスループットスクリーニングを達成するために少量の化合物のみを必要とする。
【0119】
以下の具体的な実施例により、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。以下の実施例における具体的な条件を示さない実験方法は、通常、一般的な条件、例えば、(SambrookおよびRussellら、分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第3版)(2001)CSHL出版社)に記載の条件、メーカーよって提案された条件に従う。特に明記されない限り、パーセンテージと部数とは、重量で計算される。
【実施例】
【0120】
実施例1:PD-1とF-Cタンパク質との融合システム
PD1とF-Cタンパク質とを融合させ且つ細胞内で発現させる。
図4のスクリーニングプロセスを通じて人工合成低分子化合物A6をスクリーニングする。PD1-F-C融合タンパク質を発現する細胞を、DMSO又はA6で24時間処理した後、AP1903を添加して処理し、DMSO対照群の細胞は、死亡するが、化合物A6を添加した後、細胞は、死亡しなくなり、A6がPD1遺伝子に対して拮抗作用を有することを示唆する。
【0121】
実験結果は、
図5aに示されたとおりであり、当該化合物で処理した細胞は、AP1903処理後も生存しており、これは、当該化合物がPD1遺伝子の転写に対して影響を与える可能性があることを示す。
【0122】
同じバッチでスクリーニングした約10種類の疾患タンパク質標的において、当該化合物は、PD1-F-C融合タンパク質を発現する細胞にのみ有効であり、これは、遺伝子転写、タンパク質分解を妨げたり、細胞アポトーシスを阻害したりする一般的な化合物ではなく、標的特異的であることを示す。
【0123】
本発明者らは、Jurkat T細胞においてさらに検証した。フローサイトメトリー染色によって、細胞におけるPD1の発現レベルを検出する。Jurkat T細胞は、PMA及びイオノマイシンによって活性化され、細胞内のPD1の転写発現を促進する。
【0124】
図5bに示されるように、Jurkat細胞を10ng/mlのPMA及び1μMのイオノマイシン(ionomycin)で活性化した後、DMSO対照群におけるPD1の発現レベルが大幅に増加する。A6で処理した実験群におけるPD1の発現レベルは、基本的に増加しない。
【0125】
図5cに示されるように、Jurkat細胞をPMA及びinonmycinで活性化し、同時にA6で処理し、qPCRでPD1 mRNA発現レベルを検出し、A6で処理した細胞におけるPD1 mRNAレベルは、大幅に減少する。
【0126】
実験結果によると、Jurkat T細胞を活性化しながら、A6を添加して処理し、FACS及びqPCR検出を通じて、対照群と比較して、A6で処理したJurkat T細胞の膜表面のPD1は、基本的に発現せず、細胞内のPD1 mRNAの発現量も低いことを示す。
【0127】
図5dに示されるように、外因性HA-PD1を過剰発現するJurkat細胞をA6で処理し、Western BlotでPD1レベルを検出し、A6で処理した細胞のPD1タンパク質レベルは、減少する。本発明者らは、外因性HA tag-PD1を安定して発現するJurkat T細胞を検出し、Western Blot結果によると、A6で処理したJurkat-HA-PD1細胞は、より低いPD1安定性を有することを示す。
【0128】
PD1のコード配列上で数十塩基の配列を見つけ、当該配列を残りの標的に融合した後、それらの標的のmRNA転写レベルもA6によって阻害され、これは、A6がPD1転写を特異的に阻害することによって、その機能に影響を与えることをさらに証明する。
図5e及び5fに示されるように、PD1コード配列の568~639の核酸配列がKRasコード配列と融合した後、A6は、KRas融合タンパク質のmRNA発現を阻害することができる。
図5gに示されるように、KRas配列がPD1のこの配列と融合していない場合、A6は、KRas mRNAに対して阻害効果を有さない。
【0129】
従って、本発明のシステムによってスクリーニングされた薬物A6は、PD1のmRNA転写に対して強い阻害効果を有する。
【0130】
実施例2:SKP2とF-Cタンパク質との融合システム
本発明者らは、SKP2とF-Cタンパク質とを融合させ且つ細胞内で発現させる。SKP2-F-C融合タンパク質を発現するためのスクリーニングシステムを構築し、
図4のハイスループットスクリーニングプロセスを通じて、SKP2特異的タンパク質分解剤である人工合成低分子化合物B3(
図6a)を発見した。SKP2-F-Cタンパク質を発現する細胞をDMSO又はB3で24時間処理した後、AP1903を添加し、DMSO対照群の細胞は、死亡するが、B3処理群の細胞は、生存する。
【0131】
図6bに示されるように、SKP2-F-Cタンパク質を発現する細胞及びJHH7細胞をB3で処理し、Western Blotによって、SKP2レベルを検出する。実験結果によると、B3で処理した細胞SKP2タンパク質レベルは、大幅に減少することを示す。SKP2-F-Cタンパク質を発現する細胞及びJHH7細胞をB3で処理し、qPCRによって、SKP2 mRNAレベルを検出し、結果は、
図6cに示されたとおりであり、B3で処理した細胞SKP2タンパク質の発現量には、有意な差はない。
【0132】
図6d-d’に示されるように、B3でJHH7細胞及びHela細胞を処理すると、細胞内SKP2タンパク質の分解を有意に促進する。
【0133】
細胞実験によると、当該阻害剤がタンパク質分解に作用するが(
図6b、d)、mRNAレベルには影響を与えないことが証明された(
図6c)。10を超える疾患標的の並行スクリーニングにおいて、この化合物は、SKP2-F-Cタンパク質を発現する細胞に対してのみ保護効果を示し、これは、当該化合物がSKP2タンパク質に対して特異的であることを示す。
【0134】
要約すると、本発明者らは、F-Cタンパク質と薬物標的タンパク質との融合を利用して、標的遺伝子転写阻害剤及びタンパク質分解剤のスクリーニングに使用できる簡単かつ効率的な実験システムを構築した。
【0135】
実施例3:本発明のタンパク質分解剤スクリーニングシステムのハイスループットスクリーニング
本発明のスクリーニングシステムを使用し、実施例1及び2と同様の方法を使用して、本発明者らは、二つの化合物ライブラリー(約12000個の化合物)を使用して、30を超える重要な疾患標的に対してハイスループットスクリーニングを実施した。
【0136】
ここで、10を超える標的タンパク質について分解剤を発見し、ここで、いくつかは、Western Blottingによって事前に検証し、
図8に示されたとおりである。これらの標的の疾患との関連性は、次のとおりである。
【0137】
β-Catenin:癌の標的。肝臓がん及び子宮内膜がんの約20%、南部肉腫及び髄膜腫の約40%、胃がん及び大腸がんの病例の約6%における駆動突然変異である。β-Catenin突然変異後、細胞の内部メカニズムによってβ-Cateninが分解されなくなり、制御不能な異常な活性化が生じ、細胞増殖及び癌の発生を促進する。今回のスクリーニングでは、腫瘍における活性化突然変異体が使用され、二つの化合物がスクリーニングされて、これらの活性化突然変異体の分解を促進することができる。
【0138】
FLI1:癌の標的。ほとんどのユーイング肉腫における再構成された遺伝子である。FLI1とEWSRとを融合させた後、発現された融合タンパク質は、転写因子として作用し、ユーイング肉腫の発生、進行及び転移を促進する。
【0139】
LAG3:腫瘍免疫治療の標的。LAG3は、共阻害受容体として、免疫阻害シグナルを伝達することによって、体の免疫恒常性、T細胞の活性化及び機能、ならびにサイトカインの産生等の複数のリンクを制御し、自己免疫寛容及び腫瘍の発生、進行及び免疫逃避において重要な役割を果たす。
【0140】
Caspase1:急性炎症の標的。インフラマソームは、caspase-1を活性化することにより、IL-1βの成熟及び放出を促進し、下流のピロトーシス反応等の一連の炎症事象を開始する。
【0141】
Spike及びNSP8:新規コロナウイルスの標的。SARS-CoV-2は、Spikeを介してヒト細胞表面受容体ACE2に結合することで細胞に侵入し、NSP8は、コロナウイルスファミリーのRNA複製に対して非常に重要であり、その構造への損傷は、ウイルスのRNA合成に深刻な影響を与える。
【0142】
上記の結果は、本発明のタンパク質分解剤スクリーニングシステムの有効性をさらに証明する。
【0143】
対比例.標的タンパク質-GFPの融合タンパク質スクリーニングシステム
標的タンパク質と緑色蛍光タンパク質GFPとで融合タンパク質を形成し、GFPの蛍光強度の変化に基づいて標的タンパク質の転写阻害剤又はタンパク質分解剤をスクリーニングする。
【0144】
図7bに示されるように、GFPの蛍光強度の読み取り値は、対数形態で表示され、一つの化合物は、標的タンパク質レベルを75%しか減少させず、GFPの指数軸の読み取り値の変化は、非常に小さく、その感度が低いため、正確なハイスループット化合物スクリーニングは困難である。
【0145】
本発明のスクリーニングシステムと比較して、
図7aに示されるように、本発明の条件付き自殺タンパク質FKBP12(F36V)-Caspase9媒介性表現型は、非常に感度が高く安定した実験表現型であり、75%の減少により生死表現型に明確な変化が生じることができる。
【0146】
実施例2における
図5aに示されるように、スクリーニングされたPD1転写阻害剤化合物A6は、PD1-F-C融合システム下での生死表現型を明らかに変化させることができる。
図7cに示されるように、PD1-GFPの融合タンパク質システムにおいて、化合物A6の処理は、同じ実験条件の処理によって、GFP蛍光値をほぼ変化させなかった。
【0147】
要約すると、PD1-GFP融合タンパク質システムを選択する場合、化合物A6をスクリーニングすることはできない。これは、本発明のスクリーニングシステムの感度の高さを反映する。
【0148】
議論
caspase9以外にも他の自殺遺伝子もあり、例えばHPRTは、化学療法薬6-TGを活性化し、毒性物質として細胞を殺傷することができる。しかしながら、他の自殺遺伝子システムの場合、当該遺伝子の機能から細胞アポトーシスまで多くの段階があり、これらの段階は、ハイスループット化合物ライブラリー内の特定の化合物によって干渉されることにより、スクリーニングの偽陽性を引き起こすことができる。例えば、HPRTが6TGを活性化した後、一リン酸化、二リン酸化、三リン酸化、リボースの脱酸素、DNAの取り込み、クリッピングミスマッチメカニズムによる識別、DNA損傷、二本鎖切断、p53活性化、PUMA発現、ミトコンドリア損傷、シトクロムC放出という一連のプロセスを経て、caspase 9を活性化して、細胞を殺傷することができる。これらのプロセスは、化合物によって干渉されることができ、標的タンパク質の発現レベルと無関係に細胞生存表現型を引き起こし、それによりハイスループットスクリーニングの偽陽性結果を引き起こす。
【0149】
対照的に、細胞死の過程で最も下流にあるCaspase9を死滅機構として利用することで、caspase阻害剤を除いて、他の化合物による干渉を基本的に受けず、偽陽性結果を最大限に排除することができる。
【0150】
本発明のスクリーニング方法は、少量の化合物(0.1~10μl)のみを必要と死、効率、迅速かつハイスループットなスクリーニングを実現でき、方法が簡単であり、工業的生産及び応用に有益である。
【0151】
本発明で言及されたすべての文書は、あたかも各文書が個別に参照として引用されたかのように、本出願における参照として引用される。さらに、本発明の上記の教示内容を読んだ後、当業者は本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態も、本出願の添付の請求範囲によって定義される範囲に含まれる。
【配列表】
【国際調査報告】