(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】ウイルス性疾患の治療において使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/02 20060101AFI20240315BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240315BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240315BHJP
A61K 36/05 20060101ALI20240315BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240315BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240315BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A61K36/02
A61P31/12
A61P31/14
A61K36/05
A61K38/02
A61K31/519
A61K33/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023561801
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 EP2022059929
(87)【国際公開番号】W WO2022219071
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596060424
【氏名又は名称】フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】ホエング ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル トールン マルコ
(72)【発明者】
【氏名】レングリ カスパー
(72)【発明者】
【氏名】アストロロゴ レティツィア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA44
4C084DC27
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB33
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB09
4C086HA11
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB33
4C088AA12
4C088AA16
4C088BA05
4C088NA14
4C088ZB33
(57)【要約】
【課題】ウイルス性疾患の治療において使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物を提供する。
【解決手段】真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物は、ウイルス性疾患(例えばコロナウイルス)の治療において使用するもの、およびアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)へのスパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)の結合の阻害剤として使用するものでありうる。真核微細藻類から誘導可能な化合物はまた、ウイルス性疾患の治療において使用するものでありうる。結果として、真核微細藻類を抗ウイルス剤として使用しうる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス性疾患の治療において使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物。
【請求項2】
前記ウイルス性疾患が、重症急性呼吸器症候群(SARS)である、請求項1に記載の使用する組成物。
【請求項3】
前記ウイルス性疾患が、SARS関連ウイルスによって引き起こされる、請求項1または請求項2に記載の使用する組成物。
【請求項4】
前記ウイルス性疾患が、コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる、請求項1~3のいずれかに記載の使用する組成物。
【請求項5】
前記真核微細藻類が、緑色真核微細藻類である、請求項1~4のいずれかに記載の使用する組成物。
【請求項6】
前記真核微細藻類が、緑藻植物門、好ましくはクロレラである、請求項1~5のいずれかに記載の使用する組成物。
【請求項7】
前記真核微細藻類が、Chlorella autotrophica、Chlorella colonials、Chlorella lewinii、Chlorella minutissima、Chlorella pituita、Chlorella pulchelloides、Chlorella pyrenoidosa、Chlorella rotunda、Chlorella singularis、Chlorella sorokiniana、Chlorella variabilis、Chlorella volutis、Chlorella vulgarisのうちの一つ以上から選択される、請求項1~6のいずれかに記載の使用する組成物。
【請求項8】
前記抽出物が、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、葉酸、鉄、繊維、および/または色素のうちの一つ以上を含んでもよい、請求項1~7のいずれかに記載の使用する組成物。
【請求項9】
前記タンパク質が、プラストシアニン(A0A2P6TGD1)、グリシンリッチ2(A0A2P6TDY2)、SMAD FHAドメイン含有(A0A2P6U3K7)、葉緑体のチラコイド内腔kDa(A0A2P6TNZ5)、ペプチジルプロリルイソメラーゼ(A0A2P6TGB0)、カルモジュリン(A0A2P6TFR8)、10kDaシャペロニン様(A0A2P6THP7)、膜アイソフォームA(A0A2P6TEF6)、L-誘発性ニッパ(A0A2P6TU12)、ベータ-Ig-H3ファシクリン(A0A2P6TQQ9)のうちの一つ以上から選択される、請求項8に記載の使用する組成物。
【請求項10】
前記組成物が局所的に投与される、請求項1~9のいずれかに記載の使用する組成物。
【請求項11】
ウイルス性疾患の前記治療において使用する真核微細藻類から誘導可能な化合物。
【請求項12】
アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)へのスパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)の結合の阻害剤として使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物。
【請求項13】
ACE2活性に影響を与えることのない、請求項12に記載の使用する組成物。
【請求項14】
抗ウイルス剤としての真核微細藻類またはその抽出物の使用。
【請求項15】
ウイルス性疾患の前記治療において使用する原核微細藻類またはその抽出物を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物に関する。より具体的に、本発明は、ウイルス性疾患の治療において使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物と、ウイルス性疾患の治療において使用する真核微細藻類から誘導可能な化合物と、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)へのスパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)の結合の阻害剤として使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物と、抗ウイルス剤としての真核微細藻類またはその抽出物の使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスは、他の生物の生細胞内でのみ複製する小さい感染因子である。ウイルスは、動物および植物から微生物(細菌および古細菌を含む)に至る様々な生物形態に感染することができる。ウイルス感染は典型的に、罹患した対象に疾患症状を引き起こし、これは軽度の症状から重度の症状まで異なる可能性があり、これは病的状態および死亡をもたらす可能性がある。
【0003】
ウイルス感染と関連付けられた最も一般的な症状のうちの一部は、ヒトの呼吸器疾患に由来する。ウイルスから生じるヒトの呼吸器疾患の例としては、様々なインフルエンザウイルスによって引き起こされるインフルエンザ、コロナウイルス(SARS-CoV)によって引き起こされる重症急性呼吸器症候群(SARS)、アデノウイルスによって引き起こされる可能性がある呼吸器系の疾患、および呼吸器合胞体ウイルス(RSV)によって引き起こされる気管支炎および小児肺炎が挙げられる。
【0004】
一般的に「COVID19」として知られている、コロナウイルス疾患2019は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる感染性疾患である。コロナウイルスパンデミックとしても知られる、COVID-19パンデミックは2021年3月現在、世界中で8,800万例を超える症例が確認され、また189万人を超える死者を出した現在進行中のパンデミックである。死亡率は、高齢者および基礎的な健康上の問題があるその他の人で最も高い。大半の人々が軽度の症状を発現する一方で、一部の人々は、肺炎、呼吸不全、ショック、または多臓器機能障害などの重度の症状を発現する。
【0005】
重度の急性SARS-CoV-2感染を伴い救命救急診療を受けた患者の高い死亡率は、高炎症性症候群と、凝固障害と、サイトカイン放出症候群につながる免疫学的経路の病理学的活性化との組み合わせに帰属する。
【0006】
重度のCOVID-19症例が医療インフラに及ぼす圧力を制限するために、抗ウイルス作用と疾患修飾作用の両方を有する効果的な早期治療に対する緊急の必要性がある。SARS-CoV-2感染の一次予防のために最も有効な手段はワクチン接種である一方で、抗ウイルス剤の鼻腔内または口腔内送達は、SARS-CoV-2および他の呼吸器ウイルスの感染および拡散を予防するための重要な追加的アプローチでありうる。
【0007】
典型的に、SARS-CoV-2は主に、感染した人々が呼吸する、咳をする、くしゃみする、または発話する際の、感染した人々からのエアロゾルへの曝露によって拡散する。それ故に、人体の中へのSARS-CoV-2ウイルスの主な侵入地点のうちの一つは、口、鼻、または目を介してである。これらの侵入地点を薬理学的に遮断することができることは、COVID-19の症例数を減らすのに役立つ可能性がある。ウイルスは対象の口、鼻、または目を介して対象に入る時に、細胞に入る前に宿主細胞表面に付着することによって複製する。スパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)は、I型およびII型の肺細胞、内皮細胞、ならびに繊毛気管支上皮細胞の表面上に見いだされるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を認識し、それに付着する。ACE2は、アンジオテンシン1-7およびL-フェニルアラニンへのアンジオテンシンIIの変換を触媒するエキソペプチダーゼである。アンジオテンシンIIは、体液バランスと血圧を調節する、かつ血管緊張を維持するホルモンシステムである古典的なレニンアンジオテンシンシステム(RAS)の一部である。ACE2はまた、ヒト呼吸器コロナウイルスNL63、SARS-コロナウイルス(SARS-CoV)、および新しいB117のような他のSARS-CoV-2バリアントのような呼吸器ウイルスの侵入に対する主な受容体であることが証明されている。ACE2へのSARS-CoVおよびSARS-CoV-2の結合(その後に膜融合および細胞の中へのウイルス侵入が続く)は、ACE2受容体の下方制御とリンクしている。ACE2のこの下方制御はまた、そのピボタル保護機能、アンジオテンシン1-7へのアンジオテンシンIIの分解を損なう。アンジオテンシンIIは、心血管疾患、酸化ストレスに応答して亢進した炎症、過剰凝固を含む様々な有害な健康転帰を伴う。さらに、アンジオテンシンIIはまた、IL-6およびTNFαの分泌の増加だけでなく、他の炎症反応につながるマクロファージ活性化剤である。ACE2受容体は、アンジオテンシンIIを分解する(従って除去する)ことによって、またアンジオテンシン1-7へのアンジオテンシンIIの変換を触媒することによって、アンジオテンシンIIに対抗し、結果としてアンジオテンシンIIに対して幾つかの積極的かつさらには拮抗的な作用をもたらす。SARS-CoV-2などのウイルスの細胞付着を阻害する場合がある、MLN-4760などの選択的ACE2阻害剤が存在するものの、それらはまた、アンジオテンシン1-7へのアンジオテンシンIIの分解を遮断することになる。
【発明の概要】
【0008】
従って、ACE2を阻害することなく、SARS-CoV-2 RBDを介したウイルスの侵入を遮断する、新しい治療方法に対するニーズが存在する。
【0009】
本発明は、ウイルス性疾患の治療において使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物を提供する。
【0010】
本明細書で使用される「治療」という用語は、予防(preventative)(予防(prophylactic))治療、根治的(curative)治療、維持治療、促進治療(promotive treatment)を含んでもよい。
【0011】
驚くべきことに、真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物は、COVID-19などのウイルス性疾患の拡散の防止に有益な効果を有することが見いだされている。
【0012】
ウイルス性疾患は、呼吸器ウイルス性疾患であってもよい。ウイルス性疾患は、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、パラインフルエンザウイルス、または呼吸器アデノウイルスのうちの一つ以上によって引き起こされる場合がある。ウイルス性疾患は、重症急性呼吸器症候群(SARS)であってもよい。ウイルス性疾患は、MERSおよび/またはCOVID-19であってもよい。ウイルス性疾患は、SARS関連ウイルスによって引き起こされる場合がある。ウイルス性疾患は、コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる場合がある。ここで、コロナウイルスは、コロナウイルス科の中のオルソコロナウイルス亜科を含むことが理解される。
【0013】
より具体的に、真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物は、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に結合するウイルス性スパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)を阻害する場合があることが見いだされている。有利なことに、真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物は、ACE2活性に影響を与えない。結果として、真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物は、呼吸器系の機能を損なわず、または心血管疾患、酸化ストレスに応答して高められた炎症、または過剰凝固につながらない。有利なことに、組成物は、ウイルス性疾患が脳または気管支および肺に到達することを防止する。それ故に、本発明の組成物は、呼吸器系が損なわれることを阻止または防止するために使用されてもよい。さらに、ウイルス感染が呼吸中枢を攻撃し、かつニューロンに影響を及ぼすために中枢神経系に移動する可能性がある、嗅覚上皮細胞および歯肉上皮細胞のウイルス感染の定着を防止することによって、本発明の組成物はまた、SARS-CoV-2感染が嗅覚喪失を引き起こすことを防止する場合がある。
【0014】
代替的な一実施形態において、本発明は、原核微細藻類またはその抽出物に関してもよい。真核微細藻類またはその抽出物に関して記述される本発明の態様は、本発明の原核微細藻類またはその抽出物に等しく適用されてもよい。具体的に、本発明は、ウイルス性疾患の治療において使用する原核微細藻類またはその抽出物を含む組成物に関してもよい。原核微細藻類としては、シアノバクテリア(以前は「藍藻類」と呼ばれていた)が挙げられてもよい。
【0015】
「真核微細藻類」という用語は、光合成を行う能力を有する多様な水生生物群を意味すると理解される。真核微細藻類は、個別に、または鎖もしくは群で存在する単細胞種である。真核微細藻類は、緑藻類、褐藻類、紅藻類を含んでもよい。より具体的に、真核微細藻類は、門(紅藻植物門(紅藻類)、緑藻植物門(緑藻類)、褐藻植物門(褐藻類))を含んでもよい。真核微細藻類は、ナンノクロロプシス属またはテトラセルミス属であってもよい。
【0016】
好ましくは、真核微細藻類は、緑色真核微細藻類、例えば光合成の能力を有する緑色真核微細藻類であってもよい。真核微細藻類は、緑藻植物門であってもよく、好ましくはクロレラであってもよい。「クロレラ」という用語は、緑藻植物門に属する単細胞の真核生物の緑藻類の属に関連すると理解される。有利なことに、クロレラは、FDAによって一般に安全と認められる(GRAS)物質である。
【0017】
好ましくは、真核微細藻類は、Chlorella autotrophica、Chlorella colonials、Chlorella lewinii、Chlorella minutissima、Chlorella pituita、Chlorella pulchelloides、Chlorella pyrenoidosa、Chlorella rotunda、Chlorella singularis、Chlorella sorokiniana、Chlorella variabilis、Chlorella volutis、Chlorella vulgaris、Tetraselmis Chuii、Nannochloropsis gaditanaのうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0018】
より好ましくは、組成物は、コロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされるウイルス性疾患の治療において使用する真核微細藻類またはその抽出物を含んでもよく、真核微細藻類はクロレラである。
【0019】
驚くべきことに、クロレラまたはその抽出物を含む組成物は、COVID-19の治療に有益な効果を有する場合があることが見いだされている。より具体的に、クロレラはACE2活性に影響を与えることなく、ACE2受容体へのウイルス性RBD結合を阻害する場合があることが見いだされている。それ故に、クロレラまたはその抽出物を含む組成物は、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19の治療に使用されてもよい。
【0020】
さらに、クロレラは、口、鼻、および/または目の細胞上に存在するACE2受容体へのウイルス結合を防止することが見いだされている。これらの細胞表面へのウイルス性疾患の結合を防止することによって、クロレラは、細胞内に侵入するおよび細胞において複製するウイルス性疾患の能力を阻害し、また既に感染した細胞によって放出されるウイルス性疾患粒子からのさらなる感染を防止する。
【0021】
真核微細藻類の抽出物は、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、葉酸、鉄、繊維、および/または色素のうちの一つ以上を含んでもよい。ビタミンは、ビタミンBおよびビタミンD12を含んでもよい。
【0022】
タンパク質は、プラストシアニン(A0A2P6TGD1)、グリシンリッチ2(A0A2P6TDY2)、SMAD FHAドメイン含有(A0A2P6U3K7)、葉緑体のチラコイド内腔kDa(A0A2P6TNZ5)、ペプチジルプロリルイソメラーゼ(A0A2P6TGB0)、カルモジュリン(A0A2P6TFR8)、10kDaシャペロニン様(A0A2P6THP7)、膜アイソフォームA(A0A2P6TEF6)、L-誘発性ニッパ(A0A2P6TU12)、ベータ-Ig-H3ファシクリン(A0A2P6TQQ9)のうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0023】
色素はクロロフィルであってもよい。クロロフィルは、クロロフィルa、クロロフィルb、クロロフィルc1、クロロフィルc2、クロロフィルd、クロロフィルfのうちの一つ以上であってもよい。好ましくは、抽出物は、クロロフィルc1および/またはc2を含んでもよく、これは数多くの藻類内に広く普及している。抽出物は、クロロフィルの前駆物質、例えばグルタミン酸塩に由来する前駆物質を含んでもよい。
【0024】
真核微細藻類の抽出物は、天然クロロフィルまたは合成クロロフィルを含んでもよい。有利なことに、食品添加物着色剤(E140)として登録されている合成クロロフィルは、食品に使っても安全である。
【0025】
ウイルス性疾患の治療において使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物は、局所的に投与されてもよい。好ましくは、本発明による組成物は、局部に投与されてもよい。組成物は、粉末、液体、エアロゾル、ゲル、ペーストまたはクリームであってもよい。組成物は、鼻腔または口腔に投与されてもよい。好ましくは、本発明による組成物は、鼻腔用スプレー、口内洗浄液、または経口吸入製剤として投与されてもよい。呼吸経路への局所投与は、全身投与と比較して全身負荷を低く保つ一方で、感染の一次部位(例えば、気道呼吸器上皮)にて真核微細藻類またはその抽出物の高い局所濃度を維持するのに役立つため望ましい。有利なことに、これには二重の利点があり、第一に、鼻腔用スプレーまたは口内洗浄液として投与される組成物は、鼻腔粘膜および口腔粘膜の上皮細胞を遮蔽することによって、健康な対象における鼻腔および口腔を介したウイルス感染を停止させる場合があり、第二に、新たに診断された被感染対象の場合、鼻腔用スプレーまたは口内洗浄液として投与される組成物は、死滅する細胞によって放出されるウイルス性粒子が新しい細胞(嗅覚上皮、歯肉上皮など)に定着するのを制限または防止する場合がある。さらなる定着の制限および/または防止によって、ウイルスが心臓血管系などの新しい経路に拡散することが防止され、および/または呼吸器上皮もしくは下呼吸器系のより多くの細胞に感染することが防止される。
【0026】
本発明による組成物は、少なくとも約0.001μg/mL、少なくとも約0.01μg/mL、少なくとも約0.1μg/mL、少なくとも約1μg/mLの真核微細藻類またはその抽出物を含んでもよい。
【0027】
本発明による組成物は、約10000μg/mL以下、約1000μg/mL以下、約100μg/mL以下、約10μg/mL以下の真核微細藻類またはその抽出物を含んでもよい。
【0028】
本発明による組成物は、約0.001μg/mL~約10000μg/mL、約0.01μg/mL~約1000μg/mL、約0.1μg/mL~約100μg/mL、約1~約10μg/mLの真核微細藻類またはその抽出物を含んでもよい。
【0029】
真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物は、所与の終点からの任意の範囲を含んでもよい。真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物は、例えばウイルス性疾患の治療において使用する抽出物の有効用量を可能にする場合がある。
【0030】
本発明はまた、ウイルス性疾患の治療において使用する真核微細藻類から誘導可能な化合物を提供する。本明細書において「真核微細藻類から誘導可能な化合物」という表現は、化合物が微細藻類から単離または抽出されてもよい、例えば化合物が微細藻類の培養物から単離または抽出されてもよいことを意味すると理解される。微細藻類から化合物を単離または抽出するための従来の方法は、例えば微細藻類から化合物を単離または抽出するための市販のキットの形態で、当業者に利用可能である。「真核微細藻類から誘導可能な化合物」という表現はまた、真核微細藻類の中に天然に存在する化学的に合成された化合物も包含してもよく、それ故に従来の方法によって真核微細藻類から「誘導可能」でありうる。
【0031】
本発明はまた、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)へのスパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)の結合の阻害剤として使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物を提供する。好ましくは、組成物は、インビボでのACE2へのRBDの結合の阻害剤として使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む。例えば、組成物は、ヒト対象におけるACE2へのRBDの結合の阻害剤として使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む。
【0032】
好ましくは、真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物は、ACE2活性に影響を与えることのない、ACE2へのRBDの結合の阻害剤として使用するものである。
【0033】
本発明は、ウイルス性疾患の治療において使用する、および/または有害事象の低減を提供するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)へのスパイクタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)の結合の阻害剤として使用する真核微細藻類またはその抽出物を含む組成物を提供する。有害事象としては、呼吸困難などのアンジオテンシンIIの過剰によって引き起こされる有害事象、心臓血管事象、酸化ストレスに応答する炎症などの炎症反応、血小板減少症を伴う血栓、播種性血管内凝固(DIC)などの過剰凝固が挙げられる場合があるが、これらに限定されない。
【0034】
ここで本発明の実施形態を、以下の添付図面を参照しながら、例証としてのみであるが説明する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、クロレラ抽出物を示すタンパク質ゲルの画像である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、様々な濃度のクロレラ抽出物[MIX0000036](
図2A)と、陽性対照であるEDTA(
図2B)とを使用して、化学発光によって測定された、ACE2:SARS-CoV-2スパイク結合の阻害を示す。
【
図3】
図3は、クロレラ抽出物の存在下でのACE2の活性を示す。
【
図4】
図4は、活性SARS-CoV-2を用いたVero E6細胞培養の感染に対するクロレラ抽出物およびレムデシビルの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
実験1-プロテオーム特性評価
以下の実験を、Algosource(フランス、サンナゼール)から得られたクロレラ抽出物を用いて実施し、これはプロテオーム解析後にChlorella sorokinianaとの最大の均質性を示した。
【0037】
クロレラ抽出物のプロテオームを、マイクロ流体電気泳動(LabChipタンパク質特性評価システム)によって、およびデータ依存性取得モード(タンパク質プロファイリング)で質量分析(LC-MS/MS)に連結された液体クロマトグラフィーによって評価した。
【0038】
マイクロ流体電気泳動は、低い分子量範囲において最も高い存在量のタンパク質を実証した。
図1は、20kDaを下回るタンパク質が最も高い存在量を有することを確認するタンパク質ゲルの画像である。
【0039】
データ依存性取得アプローチを使用するLC-MSによる総タンパク質存在量測定値は、これらの観察を確認した(表1)。表1は、最も豊富なタンパク質のリストを、それらのアクセッション番号および正規化スペクトル存在量因子(NSAF)スコアとともに含む。スペクトルカウント分析は、光合成に関与する幾つかのタンパク質が特に豊富であることを実証した。
【表1】
【0040】
実験2-阻害剤スクリーニングアッセイ
標準的なACE2:SARS-CoV-2スパイク阻害剤スクリーニングアッセイプロトコル(BPSBioscience、米国サンディエゴ)に従い、アッセイプレートをACE2-His溶液(1μg/mL)で室温(RT)にて1時間にわたりコーティングした。アッセイプレートにコーティングされたACE2-Hisのみを保持するために、ACE2-Hisコーティング溶液を洗い落した。アッセイプレートをブロッキング緩衝液で10分間にわたりインキュベートして、スパイクの特異的な結合を得た。ブロッキング緩衝液を除去した後、0.001~100μg/mLの範囲の様々な濃度のクロレラ抽出物を、1時間にわたりインキュベートし、続いてSARS-CoV-2スパイク(20ng/ウェル)溶液を使用して結合反応を開始した。混合物を室温にてさらに1時間にわたりインキュベートし、次いで洗浄し、10分間にわたり再度ブロッキングした。最後に、プレートを、SARS-CoV-2スパイクに対して二次HRP標識抗体溶液(1:1000)で室温にて1時間にわたりインキュベートした。HRP標識抗体を洗い落し、化学発光を開始し、強化化学発光基材およびFLUOstar Omegaプレートリーダー(BMG Labtech)を使用して測定した。
【0041】
ACE2:SARS-CoV-2結合に対するクロレラ抽出物の影響を特性評価するために、阻害剤のスクリーニングおよびプロファイリングのために設計された、市販の組み換え型SARS-CoV-2スパイク阻害剤スクリーニングアッセイ(BPSBioscience、米国サンディエゴ)を使用した。
【0042】
図2Aは、クロレラ抽出物が、SARS-CoV-2へのACE2の結合の用量依存的な阻害を有することを実証する。結果として、これは、細胞の中へのウイルスの主な侵入が遮断されることを示す。より具体的に、
図2Aおよび
図2Bは、様々な濃度の(
図2A、MIX0000036、クロレラ抽出物)と、陽性対照であるEDTA(
図2B)とを使用して、化学発光によって測定された、ACE2:SARS-CoV-2スパイク結合の阻害を示す。
【0043】
ACE2:SARS-CoV-2スパイク結合を、相対光単位(RLU)で測定した。最大阻害濃度の半量(IC50)を決定した。これは、クロレラ抽出物でIC50=16.58μg/mLであった。
図2Bは、そのようなアッセイが機能していることを確認する。陰性対照として、SARS-CoV-2スパイクは適用されなかった(陰性)。陽性対照として、1ng/μLのSARS-CoV-2スパイクが適用された(陽性)。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を使用して、0.45μm~1000μmの試験範囲にて、ACE2:SARS-CoV-2スパイク結合を確認した。
【0044】
実験3-ACE2の触媒経路との非干渉
ACE2酵素活性に対するクロレラ抽出物の影響を特性評価するために、蛍光の消失によって良好な阻害を実証するために、蛍光ACE2基材を用いたACE2の触媒活性をモニターする細胞アッセイを使用した。
【0045】
ACE2酵素活性アッセイは、ACE2のエキソペプチダーゼ活性を測定するように、かつ阻害をスクリーニングするように設計された。活性は、ACE2およびrACE2用の市販の合成蛍光性基材(R&D Systems、スイス、ツーク)を使用して測定した。rACE2を使用して、アッセイ緩衝液、75mMのTRIS、1MのNaCl、ph7.5を使用して標準曲線を作成した。100ng/mLのrACE2および15μMのACE2蛍光性基材、かつ様々な濃度のクロレラ抽出物を使用して、天然抽出物スクリーニングを実施した。続いて、混合物を37℃にて1時間にわたりインキュベートして、Flexstation 3(Molecular Devices、米国カリフォルニア州サンノゼ)を使用して、励起320nmおよび放射405nmで測定した。
【0046】
4.5μg/mL~10000μg/mLの範囲内のクロレラ抽出物は、ACE2酵素活性に対する効果を示さず、アンジオテンシンIIをアンジオテンシン1-7へと分解するACE2の主な機能が維持されることを示した(
図3)。陽性対照として、0.045nM~11100nMの範囲内の知られているACE2阻害剤(MLN-4760)が使用された。より具体的に、
図3は、様々な濃度のクロレラ抽出物(MIX0000036、
図3A)、および陽性対照であるMLN-4760(
図3B)の存在下で、蛍光によって測定されたACE2の触媒経路の活性を示し、ここでRFUは相対蛍光単位である。MLN-4760の最大阻害濃度の半量(IC50)は、0.19nMであった。
【0047】
実験4-クロレラ抽出物は、活性SARS-CoV-2に対して細胞を感染から保護する。
SARS-CoV-2による感染に対するVero E6細胞の脆弱性に対するクロレラ抽出物の保護効果を特性評価するために、細胞生存をモニターするウイルス中和試験を実施した。
【0048】
SARS-CoV-2を200 TCID50用量で含有するウイルス懸濁液を200μLの最終的な体積で、異なる濃度のクロレラおよびレムデシビル用に調製した。結果として得られたウイルス懸濁液を、CO2バッグおよびH2Oを包含する搬送ボックスの中で、37℃にて1時間にわたりインキュベートした。
【0049】
メーカーの手順に従い、Vero E6細胞を、MEM(M3303)、1.25%のL-グルタミン、1%のP/S、1%のNEAA、Bicarbonat、10%のFCS(すべてBioswisstec、スイス)で、培養密度まで増殖させた。次いで、96ウェルプレート内に200,000個/ウェルで細胞を播種した。Vero E6細胞の感染は、細胞懸濁液から細胞培地を除去することと、調製された200μLのウイルス懸濁液を添加することとによって実行された。SARS-CoV-2/クロレラ/レムデシビルとともにVero E6を含有する細胞懸濁液を、CO2バッグおよびH2Oを含有する搬送ボックスの中で、37℃にて4日間にわたりインキュベートした。インキュベーション後、Celltiter Glo(Promega)をメーカーの手順に従って使用して、Vero E6細胞を測定し、またGloMaxプレートリーダー(Promega)を使用して測定した。
【0050】
図4は、活性SARS-CoV-2(フランス分離株)およびVeroE6細胞を使用する、クロレラ抽出物(MIX0000036、白丸)の抗ウイルス活性を示す。VeroE6細胞におけるウイルス融合は主に、ACE2結合後に生じ、その後エンドサイトーシスが生じる。63μg/mL~2000μg/mLの試験された濃度を通したクロレラ抽出物の前処理をSARS-CoV-2感染前に行ったところ、VeroE6中のおよそ140μg/mLのIC50で、72時間にわたり、SARS-CoV-2ウイルスの侵入を阻害した。クロレラ抽出物の存在下で、SARS-CoV-2感染後のVero E6細胞生存率は、250μg/mLでピークに達した。
【0051】
陽性対照として、広域スペクトル抗ウイルス医薬レムデシビル(
図4、黒丸)を使用し、これは、ウイルス性RNA合成を停止することによって、0.04μg/mL~10μg/mLの試験された範囲にわたってSARS-CoV-2の複製を遮断した。
【国際調査報告】