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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-25
(54)【発明の名称】アルギン酸マイクロスフェアの装填
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/127 20060101AFI20240315BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 31/427 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 31/475 20060101ALI20240315BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 33/18 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 51/00 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 51/02 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/36
A61K31/337
A61K9/50
A61K31/427
A61K31/704
A61K31/475
A61P35/00
A61K33/18
A61K33/00
A61K51/00 200
A61K51/02
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023564500
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(85)【翻訳文提出日】2023-10-20
(86)【国際出願番号】 US2022018992
(87)【国際公開番号】W WO2022187683
(87)【国際公開日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】63/157,546
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】バイター ライアン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA61
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE30
4C076EE36
4C085HH03
4C085KA29
4C085KB10
4C085KB11
4C085KB12
4C085KB18
4C085LL18
4C086AA01
4C086BA02
4C086CA01
4C086CB14
4C086EA10
4C086HA05
4C086HA09
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA24
4C086MA38
4C086NA03
4C086ZB26
(57)【要約】
特定の態様は、リポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアに作用物質を装填する方法に向けられており、このリポソーム含有マイクロスフェアは、リポソームの装填前に形成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のpH勾配リポソームを含むマイクロスフェアに、装填剤と複合体形成した治療剤もしくは装填剤と複合体形成した診断剤またはこれらの任意の組み合わせを含む装填用複合体を接触させる工程を含む、リポソーム含有ヒドロゲルマイクロスフェアの製造後装填方法であって、該装填剤がリポソーム中に保持される、前記方法。
【請求項2】
ヒドロゲルマイクロスフェアが多糖マイクロスフェアである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
多糖マイクロスフェアがアルギン酸マイクロスフェアである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
イメージング剤が99mTcである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
治療剤が化学療法剤または放射線治療剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
化学療法剤が、タキサン、エポチロン、アントラサイクリン、またはビンカアルカロイドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
放射線治療剤が、131I、90Y、177Lu、186Re、188Re、125I、もしくは123I、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
装填剤がBMEDAである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
(i)ヒドロゲルマイクロスフェアの容器と、(ii)装填剤とを含む、リポソーム含有ヒドロゲルマイクロスフェアに後装填するためのキット。
【請求項10】
装填剤と複合体形成した治療剤、装填剤と複合体形成した診断剤、またはこれらの任意の組み合わせを封入している複数のpH勾配リポソームを封入しているマイクロスフェアを含むリポソーム含有マイクロスフェアであって、治療剤の装填効率が40~100%である、前記リポソーム含有マイクロスフェア。
【請求項11】
ヒドロゲルマイクロスフェアが多糖マイクロスフェアである、請求項10に記載のリポソーム含有マイクロスフェア。
【請求項12】
多糖マイクロスフェアがアルギン酸マイクロスフェアである、請求項11に記載のリポソーム含有マイクロスフェア。
【請求項13】
リポソームが、スフィンゴ脂質、エーテル脂質、ステロール、リン脂質、ホスホグリセリド、または糖脂質である、請求項10~12のいずれか一項に記載のリポソーム含有マイクロスフェア。
【請求項14】
イメージング剤が99mTcである、請求項10に記載のリポソーム含有マイクロスフェア。
【請求項15】
治療剤が化学療法剤または放射線治療剤である、請求項10~14のいずれか一項に記載のリポソーム含有マイクロスフェア。
【請求項16】
化学療法剤が、タキサン、エポチロン、またはビンカアルカロイドである、請求項15に記載のリポソーム含有マイクロスフェア。
【請求項17】
放射線治療剤が、131I、90Y、177Lu、186Re、188Re、125I、もしくは123I、またはこれらの任意の組み合わせである、請求項15に記載のリポソーム含有マイクロスフェア。
【請求項18】
装填剤がBMEDAである、請求項10~17のいずれか一項に記載のリポソーム含有マイクロスフェア。
【請求項19】
請求項11~18のいずれか一項に記載のリポソーム含有マイクロスフェアを腫瘍血管系に注入する工程を含む、腫瘍を有する対象に塞栓治療を実施する方法。
【請求項20】
対象の状態の治療または診断に使用するためのリポソーム含有マイクロスフェア組成物であって、リポソーム含有マイクロスフェアが、装填剤と複合体形成した治療剤、装填剤と複合体形成した診断剤、またはこれらの組み合わせを封入している複数のpH勾配リポソームを封入しているマイクロスフェアを含み、治療剤の装填効率が10~100%である、前記リポソーム含有マイクロスフェア組成物。
【請求項21】
治療剤または診断剤が、131I、90Y、99mTc、177Lu、186Re、188Re、125I、または123Iのうちの1つまたは複数である、請求項20に記載のリポソーム含有マイクロスフェア組成物。
【請求項22】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法により作製された、リポソーム含有マイクロスフェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の段落
本出願は、2021年3月5日に出願された米国仮特許出願第63/157,546号の優先権を主張する国際出願であり、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府により資金提供を受けた研究に関する声明
なし。
【背景技術】
【0003】
背景
肝細胞癌(Hepatocellular Carcinoma:HCC)は、最もよく見られるタイプの肝臓がんである。それは、がんの種類としては6番目に多く、がんによる死亡原因としては3番目に多いものである。HCCは特に侵襲性が強く、生存率が低いため(5年生存率が5%未満)、世界中で重要な社会健康上の問題となっている(GlobalData Intelligence Center - Pharma, URL pharma.globaldata.com/HomePage, 2019(非特許文献1))。HCCは、肝硬変、つまり肝臓の瘢痕化を呈している肝臓に発生することが最も多く、肝硬変は、B型肝炎感染、C型肝炎感染、慢性アルコール乱用、およびトウモロコシなどの特定の作物で生育し得る真菌に普通に見られるアフラトキシンを含めて、多くの要因によって引き起こされる可能性がある。HCCは、女性と比較して2.4:1の割合で男性に多く見られることもわかっている(Balogh et al., J Hepatocell Carcinoma 3:41-53, 2016(非特許文献2))。
【0004】
肝硬変を示さないHCCの主な治療手段は、手術(切除)によって腫瘍を取り除くことである。しかし、患者の肝機能がすでに損なわれている場合、腫瘍が複数の場所に広がっているか大きすぎる場合、または切除後に患者の肝臓がほとんど残らないため術後の肝機能を確保できない場合には、腫瘍が切除可能とは見なされないことがある。肝硬変を示す患者にとって、最良の治療法は肝移植であるが、ドナー臓器の不足のため、移植の基準を満たす患者の待ち時間は2年を超えている。
【0005】
切除不能なHCCについては、疾患の進行を遅らせるために腫瘍のサイズや数を減らそうとしたり、切除を可能にするために患者指標(patient indicators)を改善しようとする、他の非外科的選択肢がいくつか利用可能である。最も一般的な方法は、2つの主要な血管のうちの1つである肝動脈をブロック(閉塞)して腫瘍の血液供給を遮断する肝動脈化学塞栓術(transarterial chemoembolization)である。塞栓術に先立って、化学療法剤を腫瘍細胞に優先的に送達するために、化学療法剤が動脈に注入される。このアプローチは、肝門脈を無傷のまま残すため、主に血液供給を肝門脈に頼っている非腫瘍性肝細胞の健康を保持すると考えられる。最近では、化学療法剤を経時的に放出するビーズの使用が、これらの治療法の有効性を高めることが示唆されている。
【0006】
同様に、肝動脈放射線塞栓術(transarterial radioembolization)は、腫瘍の血液供給を遮断するために同じタイプの粒子を使用するものである;しかし、化学療法剤の代わりに、該粒子は、腫瘍に送達される粒子(マイクロスフェア)に埋め込まれた、イットリウム-90(Y-90)などのアイソトープから放出される放射線を当てにしている。経皮的局所焼灼術(percutaneous local ablation)として知られる、この方法の1つの変形は、放射線塞栓術に続いて、エタノールを腫瘍に数日間にわたって直接注入するものである。
【0007】
最後に、900kHzを超える周波数の電磁波を用いて、腫瘍を100℃より高い温度に加熱するマイクロ波焼灼術がある。これにより、腫瘍のより速く、より均一な焼灼(アブレーション)が可能であるが、研究からは、放射線塞栓術と比較して、有効性の統計上の差異がまだ示されていない。
【0008】
切除または局所焼灼を行うには進行しすぎていると判断されたHCC患者の標準治療は、全身化学療法である。治療群の平均生存期間の改善を示した唯一の治療法は、Bayer社のNexavar(ソラフェニブ)であるが、これは生存期間を3ヶ月延長したにすぎない。したがって、HCCとその他のがんに対する追加の治療法の選択肢が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】GlobalData Intelligence Center - Pharma, URL pharma.globaldata.com/HomePage, 2019
【非特許文献2】Balogh et al., J Hepatocell Carcinoma 3:41-53, 2016
【発明の概要】
【0010】
アルギン酸マイクロスフェア中のリポソーム(Liposomes in Alginate Microsphere:LAM)を作製する方法に伴う現在の制限は、アルギン酸マイクロスフェアに組み込まれる前にLAMが放射性標識され、その結果、非効率的な装填(loading)と、装填されたLAMの追加処理(例えば、ろ過など)が生じることである。本明細書に記載の特定の態様は、LAMを形成する前にリポソームに装填することに伴う現在の課題に対する解決策を提供する。これらの態様は、LAMの形成後にリポソームに装填する方法、すなわち製造後装填(post-manufacture loading)または後装填(post-loading)に向けられる。製造後放射性標識されたLAMは、化学療法剤および放射性核種マイクロスフェアの送達に使用することができる。
【0011】
特定の態様は、pH勾配リポソームがマイクロスフェアに封入されているLAMに後装填する方法に向けられる。LAMは所望のサイズに最適化され、包装され、保存され得る。LAMには、必要に応じて、例えば、放射性標識、放射線治療剤、および/または診断剤を装填することができる。製造後標識または装填は、それらの臨床使用の直前に現場で行うことが可能である。
【0012】
特定の態様は、複数のリポソームを含有するマイクロスフェアに、治療剤/診断剤または装填剤(loading agent)に結合させた治療剤/診断剤を含む装填用複合体を接触させる工程を含む、リポソーム含有多糖マイクロスフェアの製造後装填方法に向けられ、この場合、治療剤/診断剤もしくは治療剤/診断剤/装填剤の複合体またはコンジュゲートはリポソーム中に保持される。特定の局面では、リポソーム含有マイクロスフェアは適切な緩衝液に懸濁される。緩衝液はpH6.5~7.5の生理食塩水緩衝液であり得る。特定の局面では、マイクロスフェアは、ヒドロゲルマイクロスフェア、例えばアルギン酸マイクロスフェアである。治療剤は化学療法剤または放射線治療剤であり得る。特定の局面では、化学療法剤はタキサン、エポチロン、アントラサイクリン(例:ドキソルビシン)またはビンカアルカロイドである。特定の局面では、放射線治療剤は131I、90Y、99mTc、177Lu、186Re、188Re、125I、123I、またはこれらの任意の組み合わせである。他の局面では、放射線治療剤は、ビスマス-213、セシウム-131、クロム-51、コバルト-60、ジスプロシウム-165、エルビウム-169、ホルミウム-166、ヨウ素-125、ヨウ素-131、イリジウム-192、鉄-59、鉛-212、ルテチウム-177、モリブデン-99、パラジウム-103、リン-32、カリウム-42、ラジウム-223、レニウム-186、レニウム-188、サマリウム-153、スカンジウム-47、セレン-75、ナトリウム-24、ストロンチウム-89、テクネチウム-99m、トリウム-227、キセノン-133、イッテルビウム-169、イッテルビウム-177、イットリウム-90、アクチニウム-225、アスタチン-211、ビスマス-212、炭素-11、フッ素-18、窒素-13、酸素-15、コバルト-57、銅-64、銅-67、ガリウム-67、ガリウム-68、ゲルマニウム-68、インジウム-111、ヨウ素-123、ヨウ素-124、クリプトン-81m、ルビジウム-82、ストロンチウム-82、および/またはタリウム-201のうちの1つまたは複数であり得る。特定の局面では、装填剤または治療剤は両親媒性の塩基または酸である。特定の局面では、装填剤はBMEDAである。
【0013】
特定の態様は、(i)ヒドロゲルマイクロスフェアまたはリポソーム装填マイクロスフェアの容器と、(ii)装填剤とを含む、ヒドロゲルマイクロスフェアに後装填するためのキットに向けられる。このキットは、装填プロセスに必要な他の緩衝液または試薬、ならびに装填済みマイクロスフェアを未装填(unload)の作用物質から分離するための他の成分を含むことができる。
【0014】
特定の態様は、リポソーム中の治療剤の装填効率(loading efficiency)が10~90%である、リポソーム含有マイクロスフェアに向けられる。特定の局面では、装填効率は少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%である。装填効率は10%~100%、20%~100%、30%~100%、40%~100%、50%~100%、60%~100%、70%~100%、80%~100%、90%~100%、10%~90%、20%~90%、30%~90%、40%~90%、50%~90%、60%~90%、70%~90%、80%~90%、10%~80%、20%~80%、30%~80%、40%~80%、50%~80%、60%~80%、または70%~80%であり得る。
【0015】
特定の局面では、ヒドロゲルマイクロスフェアは多糖マイクロスフェアである。多糖マイクロスフェアはアルギン酸マイクロスフェアであり得る。特定の局面では、リポソームはスフィンゴ脂質、エーテル脂質、ステロール、リン脂質、ホスホグリセリド、または糖脂質を含む。
【0016】
特定の局面では、イメージング剤は99mTcである。治療剤は化学療法剤または放射線治療剤であり得る。化学療法剤はタキサン、エポチロン、アントラサイクリン(例:ドキソルビシン)、またはビンカアルカロイドであり得る。放射線治療剤は131I、90Y、177Lu、186Re、188Re、125I、123I、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。
【0017】
特定の局面では、装填剤はBMEDAである。
【0018】
特定の態様は、マイクロスフェアあたりの比放射能(specific activity)が40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000から、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000、15000、20000Bqまたはそれ以上(それらの間の全ての値および範囲を含む)であるリポソーム含有マイクロスフェアに向けられる。特定の局面では、リポソーム含有マイクロスフェアは、マイクロスフェアあたり少なくとも200、少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも5000、少なくとも10000、少なくとも15000、または少なくとも20000Bqの比放射能を有する。
【0019】
他の態様は、本明細書に記載のリポソーム含有マイクロスフェアを対象の血管系、好ましくは腫瘍血管系、に注入する工程を含む、腫瘍がある対象に塞栓治療を実施するか、または対象に診断法もしくは撮像法を実施するための方法に向けられる。
【0020】
他の態様は、対象における状態の治療または診断に使用するためのリポソーム含有マイクロスフェア組成物に向けられ、該リポソーム含有マイクロスフェアは、装填剤と複合体形成した治療剤、装填剤と複合体形成した診断剤、またはこれらの組み合わせを封入(装填)した複数のpH勾配リポソームを封入しているマイクロスフェアを含み、ここで、治療剤の装填効率は10、20、30、40、50、60、70、80、90%から、100%(それらの間の全ての範囲および値を含む)である。特定の局面では、治療剤または診断剤は、ビスマス-213、セシウム-131、クロム-51、コバルト-60、ジスプロシウム-165、エルビウム-169、ホルミウム-166、ヨウ素-125、ヨウ素-131、イリジウム-192、鉄-59、鉛-212、ルテチウム-177、モリブデン-99、パラジウム-103、リン-32、カリウム-42、ラジウム-223、レニウム-186、レニウム-188、サマリウム-153、スカンジウム-47、セレン-75、ナトリウム-24、ストロンチウム-89、テクネチウム-99m、トリウム-227、キセノン-133、イッテルビウム-169、イッテルビウム-177、イットリウム-90、アクチニウム-225、アスタチン-211、ビスマス-212、炭素-11、フッ素-18、窒素-13、酸素-15、コバルト-57、銅-64、銅-67、ガリウム-67、ガリウム-68、ゲルマニウム-68、インジウム-111、ヨウ素-123、ヨウ素-124、クリプトン-81m、ルビジウム-82、ストロンチウム-82、および/またはタリウム-201のうちの1つまたは複数である。
【0021】
他の態様は、本明細書に記載の方法によって作製されたリポソーム含有マイクロスフェアに向けられる。
【0022】
LAMに後装填することのいくつかの利点として、以下が挙げられる:(1)高画質のイメージングが可能。99mTcまたはレニウム-188は理想的な光子エネルギーで画像化され得る。これは、ガンマ光子を持たず、ベータ粒子で生成された光子だけが画像化されるY-90治療剤と比較して、大きな利点である。(2)インビボで安定せず、肺と腎臓の働きが顕著になるレニウム-188リピオドールに比べて、大きな改善。(3)後装填されたLAMは、注文から2時間以内に製造可能。典型的なY-90マイクロスフェアは、2週間前に注文する必要があり得る。(4)LAMは生分解性であり、骨への親和性(avidity)なしにレニウムの腎臓を介した自然なクリアランスを可能にする。Y-90樹脂マイクロスフェアは生分解性がなく、骨に取り込まれたY-90を放出する可能性がある。ある種のY-90マイクロスフェアはガラス製で、生分解性がない。(5)生分解性によって、作用物質の一部が対象から排出されるので、再治療が可能になる。(6)別の利点は、99mTcによる事前線量測定(pre-dosimetry)イメージング用のマイクロスフェアが治療用マイクロスフェアと全く同じサイズであり、より正確な事前線量測定評価が可能であることである。これは、サイズ分布が大きく異なる99mTcマクロ凝集アルブミンを用いて行われるY-90事前線量測定には当てはまらない。
【0023】
LAMのリポソーム成分には様々な有用物質が封入される。リポソームに封入してアルギン酸マイクロスフェアに組み込み得る注目の物質としては、放射線治療剤(例:レニウム188)、放射性標識(例:テクネチウム99m)、化学療法剤(ドキソルビシン)、磁性粒子(例:10μm鉄ナノ粒子)、および放射線不透過性物質(例:ヨード造影剤)が挙げられる。特定の局面では、アルギン酸マイクロスフェア中のレニウム-188リポソーム(Rhe-LAM)は、肝腫瘍、特に肝細胞癌(HCC)の治療に使用することができる。より特定の局面では、HCC治療は放射線塞栓術を介して行われ、この場合、マイクロスフェアが動脈から腫瘍への血液供給を遮断すると同時に、レニウム-188が主にがん細胞に標的指向された高線量の放射線を送達する。
【0024】
本明細書で使用する「リポソーム」とは、1つまたは複数のリン脂質層で囲まれた水性コアからなる小胞(ベシクル)を指す。リポソームは、単一の二重層で構成されたユニラメラ型であっても、2つ以上の同心円状の二重層で構成されたマルチラメラ型であってもよい。リポソームには、小さなユニラメラ小胞(SUV)から大きなマルチラメラ小胞(LMV)までの幅がある。LMVは、一般的に脂質を有機溶媒に溶解し、その溶液を容器の壁に塗布して、該溶媒を蒸発させることにより形成された、脂質のドライフィルム/ケーキをかき混ぜながら水和させることで自然に形成される。その後、エネルギーを加えると、LMVがSUV、LUVなどに変換される。エネルギーは、より小さな単一および多重ラメラ小胞をもたらすように超音波処理、高圧、高温、および押し出しの形をとることができるが、これらに限定されない。このプロセスの間に、水性媒体の一部が小胞に取り込まれる。また、リポソームは、エマルションテンプレート法(emulsion templating)を用いて調製することもできる。エマルションテンプレート法は、簡単に言えば、脂質で安定化された油中水型エマルションを調製し、該エマルションを水相上に層状化し、水/油滴を水相中に遠心分離し、油相を除去してユニラメラリポソームの分散液を得ることを含む。上述した方法だけでなく、任意の方法で調製されたリポソームは、本発明の組成物および方法において使用することができる。前述の技術、ならびに当技術分野で知られているかまたは将来的に知られるようになり得る他の技術はいずれも、本発明の送達界面(delivery interface)内または送達界面上の治療剤の組成物として使用され得る。リン脂質および/またはスフィンゴ脂質を含むリポソームは、内部リポソーム容積内に封入された親水性(水溶性)もしくは沈殿性の治療用化合物を送達するために、かつ/または疎水性二重層膜内に分散された疎水性の治療剤を送達するために使用される。特定の局面では、リポソームは、スフィンゴ脂質、エーテル脂質、ステロール、リン脂質、ホスホグリセリド、および糖脂質から選択される脂質を含む。特定の局面では、脂質には、例えば、DSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン)が含まれる。
【0025】
本明細書で使用する「装填」(loading)、「封入」(encapsulation)、または「捕捉」(entrapment)という用語は、リポソームの内部、内腔、またはコアへの作用物質の取り込みを指す。
【0026】
用語「装填効率」、「捕捉効率」または「封入効率」は、本明細書では交換可能に使用され、リポソームの内部、内腔、またはコアへの作用物質の取り込みの割合を指し、調製に使用された総初期量のパーセンテージとして表される。
【0027】
本明細書で使用する「装填剤」または「捕捉剤」は、一旦リポソーム内に入ると化学的に改変される成分(moiety)であり、その改変によって、その成分がリポソーム内に保持される。装填剤は、pH6~8で非イオン化される両親媒性の弱塩基であり得、リポソーム膜を通って拡散することができる;しかし、pH6未満の酸性、例えばpH5では、装填剤はイオン化されて、リポソームの内腔に捕捉される。勾配を利用したリポソームの装填は、薬物が脂質二重層を通って浸透・拡散してリポソーム内に蓄積し、かつリポソームからの浸透・拡散を妨げるような構造的特徴を有する作用物質に適用され得る。適合する両親媒性の弱酸または弱塩基は、この装填メカニズムに影響を与えるために利用することができる。pHまたはイオン勾配による装填は、装填された分子のpH7でのlogDが-2.5~2.0の範囲にあり、両親媒性弱塩基のpKaが≦11、または両親媒性弱酸のpKaが>3であることを必要とする。いくつかの作用物質は、その構造の一部としてこうした基を有するが、他の作用物質は、例えば金属のキレート剤などの、装填剤に結合させることができる。特定の局面では、装填剤はBMEDAである。
【0028】
用語「ヒドロゲル」は、水を含む三次元親水性ポリマー網目構造またはゲルを指し、この場合には水が連続相である。特定の局面では、ヒドロゲルはアルギン酸ヒドロゲルである。
【0029】
本明細書で使用する「アルギネート(アルギン酸)」(alginate)とは、海藻に由来することができる直鎖状の多糖類を指す。アルギネートの最も一般的な供給源は、オオウキモ(Macrocystis pyrifera)という種である。アルギネートは、D-マンヌロン酸(M)とL-グルロン酸(G)の繰り返し単位で構成され、その繰り返し単位は交互のブロックと交互の各残基の両方で提示される。可溶性アルギネートは、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムを含むがこれらに限定されない、1価の塩の形であり得る。特定の局面では、アルギネートには、限定するものではないが、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸マグネシウム、アルギン酸アンモニウム、およびアルギン酸トリエタノールアミンの1つまたは複数が含まれる。アルギネートは、5~80重量%の範囲の量で、好ましくは20~60重量%の範囲の量で、最も好ましくは約50重量%の量で配合物中に存在する。特定の局面では、アルギネートはウルトラピュア(ultra-pure)アルギネート(例えば、Novamatrix社のウルトラピュアアルギネート)である。アルギネートは、溶液中の多価カチオン、例えば多価カチオンを含む水溶液またはアルコール溶液、がアルギネートと反応して提供されるイオンゲル化により架橋される。アルギネートと共に使用するための多価カチオン(例えば、2価カチオン;1価カチオンはアルギネートを架橋するのに十分でない)としては、限定するものではないが、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、鉄、銀、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、銅、および亜鉛(これらの塩を含む)が挙げられる。特定の局面では、該カチオンはカルシウムであり、塩化カルシウム水溶液の形で提供される。
【0030】
特定の局面では、治療剤またはイメージング剤は、化学療法剤、放射線治療剤、温熱治療剤、または造影剤である。
【0031】
特定の局面では、放射線治療剤は、放射性標識または放射線治療剤、例えば、ベータ放射体(131I、90Y、177Lu、186Re、188Re、これらのいずれか1つを特に除外し得る)もしくはガンマ放射体(125I、123I、99mTc)、またはこれらの任意の組み合わせを含む。特定の局面では、放射線治療剤は188Reである。さらに、用語「放射線治療剤」は、より広範に、放射性標識された部分を包含すると解釈することができ、放射性核種に結合したまたは放射性核種を含むリポソームまたはLAMを含み得る。原子炉(nuclear reactor)は多くの放射性同位体の供給源であるが、サイクロトロンからも供給される。一般に、核分裂[原子炉]は中性子が豊富な同位体を生成する一方で、中性子が枯渇した同位体、例えばPET核種はサイクロトロン生成される[通常のPET陽電子同位体ではサイクロトロンエネルギー約10~20MeV]のに対し、単一光子生成物は通常、より高いサイクロトロンエネルギー[約30MeV]を必要とする。特定の態様では、放射線治療剤は原子炉放射性同位体またはサイクロトロン放射性同位体であり得る。原子炉放射性同位体には、(1)治療用[Rx]、ベータ線とアルファ線の両方および低エネルギーX線(ブラキセラピー(小線源治療)用);ならびに/または(2)診断用[Dx]、陽電子と単一光子の両方;が含まれる。ここに挙げたRxまたはDxは、放射性同位体がどのように使用され得るかの例示的な態様である。本発明の範囲には、ここに挙げた放射性同位体を他のRxまたはDxにおいて利用することが含まれる。原子炉放射性同位体には、限定するものではないが、以下が含まれる:ビスマス-213(アルファ)、セシウム-131(X線 ブラキRx(brachyRx))、クロム-51(Dx)、コバルト-60(歴史的にはEBRT、現在では滅菌に普遍的に使用される;歴史的には脳腫瘍RxとしてのHSACo-60)、ジスプロシウム-165(ベータRx)、エルビウム-169(ベータRx)、ホルミウム-166(ベータRx)、ヨウ素-125(低エネルギーX線RxブラキセラピーおよびRIA用途)、ヨウ素-131(ベータRx[核分裂生成物];高エネルギーではあるが、イメージング用のガンマ線を有する)、イリジウム-192(ベータRx;前立腺などのブラキセラピー用にワイヤー形状であることが多い)、鉄-59(Dx歴史的には鉄代謝研究)、鉛-212(アルファRx)、ルテチウム-177(Rxベータ;イメージング用のガンマ放射を有する)、モリブデン-99(Dx - Tc99m[核分裂生成物]の親)、パラジウム-103(Rx 永久挿入ブラキセラピーの低エネルギーX線の例)、リン-32(ベータRx;真性赤血球増加症の歴史的Rx)、カリウム-42(Dx 冠動脈血流の交換可能K+の歴史的測定)、ラジウム-223(Rxアルファ;低エネルギーX線による歴史的ブラキRx)、レニウム-186(イメージング光子を含むベータRx;歴史的なRx骨痛)、レニウム-188(ベータRx;ステントを介した歴史的な冠動脈)、サマリウム-153(ベータRx;骨痛/転移用の歴史的製品[Quadramet])、スカンジウム-47(イメージング能があるベータRx;~Lu-177;Ca-46を照射してCa-47を生成し、それが崩壊してSc-47になることで生成される)、セレン-75(Dx;GI研究用の歴史的なセレノメチオニン)、ナトリウム-24(Dx歴史的な電解質研究)、ストロンチウム-89(Rx骨痛および転移[核分裂生成物])、テクネチウム-99m(Dx;核医学の主力Dx同位体;Mo-99から発生器で生成される)、トリウム-227(Rxアルファ;崩壊して別のアルファRxであるRa-223になる)、キセノン-133(Dx[ガス核分裂生成物])、イッテルビウム-169(Dx;CSFの流れの研究のためにIn-111の前に使用される)、イッテルビウム-177(Rx;Yb-176中性子照射によるLu-177の前駆体)、およびイットリウム-90(Rx;純粋なベータ放射体[核分裂生成物])。サイクロトロン放射性同位体には、限定するものではないが、以下が含まれる:アクチニウム-225(Rxアルファ)、アスタチン-211(Rxアルファ)、ビスマス-212(Rxアルファ)、炭素-11(Dx陽電子/PET)、フッ素-18(Dx陽電子/PET)、窒素-13(Dx陽電子/PET)、酸素-15(Dx陽電子/PET)、コバルト-57(DxインビトロDxキット)、銅-64(Dx陽電子;歴史的な銅代謝研究)、銅-67(Rxベータ)、ガリウム-67(Dx単一光子)、ガリウム-68(Dx陽電子)、ゲルマニウム-68(Dx - Ga-68発生器のための親)、インジウム-111(Dx)、ヨウ素-123(Dx、ベータ放射なし)、ヨウ素-124(Dx陽電子)、クリプトン-81m(Dx[ベッドサイドでRb-81から発生器により生成されるガス;T1/2=13秒])、ルビジウム-82(Dx陽電子、灌流イメージング用のカリウムアナログ;患者の場所で発生器により生成される;T1/2=75秒)、ストロンチウム-82(Dx - Rb-82発生器のための親)、およびタリウム-201(Dx)。リポソームまたはLAMは、キレート剤、直接化学結合、またはリンカータンパク質などの他の手段を介して、放射性核種と会合することができる。
【0032】
特定の局面において、化学療法剤には、増殖している細胞を抑制するかまたは死滅させる化合物、およびがんの治療に使用できるかまたは使用が承認されている化合物が含まれるが、これらに限定されない。例示的な化学療法剤には、核分裂または細胞原形質分裂のレベルで細胞分裂を阻止、妨害、破壊、または遅延させる細胞増殖抑制剤が含まれる。そのような薬剤は、タキサン類、特にドセタキセルまたはパクリタキセル、およびエポチロン類、特にエポチロンA、B、C、D、E、Fなどの、微小管を安定化させるもの、あるいはビンカアルカロイド類、特にビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンフルニン、ビノレルビンなどの、微小管を不安定にするものであり得る。他の化学療法剤には、アントラサイクリン系、例えば、ドキソルビシン、4'-エピ-ドキソルビシン(すなわち、エピルビシン)、4'-デソキシ-ドキソルビシン(すなわち、エソルビシン(esorubicin))、4'-デソキシ-4'-ヨード-ドキソルビシン、ダウノルビシン、および4-デメトキシダウノルビシン(すなわち、イダルビシン)などが含まれる。リポソームはミセルとして親水性物質を運ぶために使用され得、かつ、親油性物質を運ぶために使用され得る。
【0033】
一般的に、温熱治療剤は、エネルギー感受性材料の複数の磁性ナノ粒子、つまり「サセプタ」(susceptor)を含み、これは、交流磁場(AMF)などのエネルギー源の存在下で、磁気ヒステリシス損失によって熱を発生させることができる。ここに記載の方法は、一般に、治療を必要とする対象に有効量の温熱治療化合物を投与するステップと、該対象にエネルギーを印加するステップを含む。エネルギーの印加は、磁性ナノ粒子の誘導加温を引き起こし、それは次に、温熱治療化合物が投与された組織を十分に加温して、組織を焼灼することができる。特定の局面では、温熱治療剤は、限定するものではないが、マグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)およびFeCo/SiO2を含み、いくつかの態様では、例えば、Co36C65、Bi3Fe5O12、BaFe12O19、NiFe、CoNiFe、Co-Fe3O4、およびFePt-Agの超常磁性粒子の凝集体を含んでもよく、該凝集体の状態が磁気ブロッキング(magnetic blocking)を起こし得る。温熱療法では、AC磁場に対するMNPの応答により、熱エネルギーが周囲に放散されて、腫瘍細胞を死滅させる。さらに、ハイパーサーミアは、がんの放射線および化学療法による治療を高めることができる。本明細書で使用する用語「ハイパーサーミア」(hyperthermia)とは、組織を約40℃~約60℃の温度に加温することを意味する。本明細書で使用する用語「交流磁場」(alternating magnetic field)または「AMF」とは、その磁場ベクトルの方向が、約80kHz~約800kHzの範囲の周波数を有する、典型的には正弦波、三角波、矩形波、または同様の形状パターンで、周期的に変化する磁場を意味する。また、生じる磁場ベクトルのAMF成分のみが方向を変えるように、AMFを静磁場に加えることもできる。交流磁場は、交流電場を伴うことがあり、電磁的な性質であり得ることが理解されよう。特定の態様では、温熱治療剤を脂質の非存在下でアルギン酸マイクロスフェアに組み込むことができる;かくして、温熱治療剤がリポソームに組み込まれずにアルギン酸マイクロスフェアに組み込まれた、温熱治療剤含有アルギン酸マイクロスフェアが形成される。
【0034】
特定の局面において、造影剤またはイメージング剤には、遷移金属、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェンなどのカーボンナノ材料、インドシアニングリーン(ICG)などの近赤外吸収(NIR)色素、および金ナノ粒子が含まれるが、これらに限定されない。遷移金属は、元素周期表の第3族から第12族の金属を指し、例えば、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)、ランタニド系元素、例えば、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)、イッテルビウム(Yb)、エルビウム(Er)など、またはポスト遷移金属、例えば、ガリウム(Ga)、インジウム(In)などである。一局面では、画像診断法は、陽電子放出断層撮影(PET)、単一光子放射断層撮影(SPECT)、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴イメージング(MRI)、超音波イメージング(US)、および光学イメージングを含む群から選択される。本発明の別の局面では、画像診断法は陽電子放出断層撮影(PET)である。イメージング剤には、放射性標識、フルオロフォア、蛍光色素、光学レポーター、磁気レポーター、X線レポーター、超音波イメージングレポーター、またはナノ粒子レポーターが含まれるが、これらに限定されない。本発明の別の局面では、イメージング剤は、以下からなる群より選択される放射性同位元素を含む群から選択された放射性標識である:アスタチン、ビスマス、炭素、銅、フッ素、ガリウム、インジウム、ヨウ素、ルテチウム、窒素、酸素、リン、レニウム、ルビジウム、サマリウム、テクネチウム、タリウム、イットリウム、およびジルコニウム。別の局面では、放射性標識は、ジルコニウム-89(89Zr)、ヨウ素-124(124I)、ヨウ素-131(131I)、ヨウ素-125(125I)、ヨウ素-123(123I)、ビスマス-212(212Bi)、ビスマス-213(213Bi)、アスタチン-211(211At)、銅-67(67Cu)、銅-64(64Cu)、レニウム-186(186Re)、レニウム-188(188Re)、リン-32(32P)、サマリウム-153(153Sm)、ルテチウム-177(177Lu)、テクネチウム-99m(99mTc)、ガリウム-67(67Ga)、インジウム-111(111In)、タリウム-201(201Tl)、炭素-11、窒素-13(13N)、酸素-15(15O)、フッ素-18(18F)、およびルビジウム-82(82Ru)を含む群から選択される。
【0035】
本発明の他の態様は、本出願を通して説明される。本発明の1つの局面に関して説明された任意の態様は、本発明の他の局面にも適用され、その逆もまた同様である。本明細書に記載の各態様は、本発明の全ての局面に適用可能な本発明の態様であると理解される。本明細書で説明される任意の態様は、本発明の任意の方法または組成物に関して実施することができ、その逆もまた同様であると考えられる。さらに、本発明の組成物およびキットは、本発明の方法を実施するために使用することができる。
【0036】
特許請求の範囲および/または明細書において用語「含む」(comprising)と併せて使用される場合の単語「a」または「an」の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは2つ以上」の意味とも矛盾しない。
【0037】
本出願全体を通して、用語「約」は、ある値が、その値を決定するために使用されている装置または方法の誤差の標準偏差を含む、ことを示すために使用される。
【0038】
特許請求の範囲における用語「または」の使用は、代替物のみを指すことが明示的に示されない限り、または代替物が相互に排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示では、代替物のみと「および/または」を指す定義が支持される。
【0039】
本明細書および特許請求の範囲で使用される単語「comprising」(およびcomprisingの任意の形、例えば、「comprise」、「comprises」など)、「having」(およびhavingの任意の形、例えば、「have」、「has」など)、「including」(およびincludingの任意の形、例えば、「includes」、「include」など)、または「containing」(およびcontainingの任意の形、例えば、「contains」、「contain」など)は、包括的またはオープンエンドであり、追加の、記載されていない要素または方法ステップを除外するものではない。
【0040】
本明細書で使用する用語「含む」(comprises,comprising,includes,including)、「有する」(has,having)、「含有する」(contains,containing)、「~を特徴とする」(characterized by)、またはそれらの他の変化形は、記載された構成要素の、特に明示された制限を条件として、非排他的包含を網羅することが意図される。例えば、要素(構成成分または特徴またはステップなど)のリストを「含む」(comprises)化学的組成物および/または方法は、必ずしもそれらの要素(または構成成分または特徴またはステップ)のみに限定されるものではなく、明示的にリストアップされていないか、あるいは化学的組成物および/または方法に固有ではない他の要素(または構成成分または特徴またはステップ)を含んでいてもよい。
【0041】
本明細書で使用する移行句「からなる」(consists ofおよびconsisting of)は、指定されていない要素、ステップ、または構成成分を除外する。例えば、ある請求項で「からなる」が使用されている場合、その請求項は、そこに具体的に記載された構成成分、材料またはステップに限定されるが、通常それらに付随する不純物(すなわち、所与の構成成分に含まれる不純物)は除かれる。語句「からなる」が、前置き(preamble)の直後ではなく、請求項の本文の節に現れる場合、語句「からなる」は、その節に記載された要素(または構成成分またはステップ)のみを制限する;他の要素(または構成成分)は、請求項全体から除外されない。
【0042】
本明細書で使用する移行句「本質的に~からなる」(consists essentially ofおよびconsisting essentially of)は、文字通り開示されたものに加えて、材料、ステップ、特徴、構成成分、または要素を含む化学的組成物および/または方法を定義するために使用されるが、ただし、これらの追加の材料、ステップ、特徴、構成成分、または要素が、請求項に記載の発明の基本的かつ新規な特性(複数可)に実質的な影響を及ぼさないことを条件とする。「本質的に~からなる」という用語は、「含む」と「からなる」の中間に位置している。
【0043】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の精神および範囲内での様々な変更および修飾がこの詳細な説明から当業者には明らかになるであろうから、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の具体的な態様を示しているが、例示としてのみ与えられていることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
以下の図面は、本明細書の一部を構成し、本発明の特定の局面をさらに明示するために含まれる。本発明は、本明細書に提示された具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の1つまたは複数を参照することによって、よりよく理解することができる。
【0045】
図1図1. 装填済みリポソーム含有マイクロスフェア、例えばRe-188装填マイクロスフェア、の一例を示す図。
図2図2. リポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアを形成するための装置およびプロセスの一例を示す図。
図3図3. pH勾配リポソームの装填メカニズムの一例を示す図。
図4図4. リポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアの後装填を一般化した図。
図5図5. 既製のリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアを放射性標識する一例を示す図。
図6図6A、6B、および6C. 標識されたリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアを作製するための後装填方法を用いて得られた結果の一例 - (6A)顕微鏡分析によりサイズ範囲ごとにカウントしたマイクロスフェアのサイズ分布、平均49.5ミクロン、標準偏差10.4;(6B)マイクロスフェアの画像;および(6C)シンチグラフィーによる放射性標識効率:左は、レニウム-キレートの洗浄液とペレット(線量の15%)のシンチグラフである;右は、アルギン酸マイクロスフェア中のリポソーム中のレニウム-キレートの洗浄液とペレット(線量の51%)のシンチグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
詳細な説明
以下の説明は、本発明の様々な態様に向けられている。「発明」という用語は、特定の態様を指すものではなく、また本開示の範囲を限定するものでもない。これらの態様の1つまたは複数は好適であり得るが、開示された態様は、特許請求の範囲を含む本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきでなく、また使用されるべきでもない。さらに、当業者であれば、以下の説明が広範な適用範囲を有し、かつ任意の態様の説明が、その態様の例示にすぎないことを意味し、特許請求の範囲を含む本開示の範囲がその態様に限定されることを暗示するものではないことを理解するであろう。
【0047】
アルギン酸マイクロスフェア中のリポソームは、中等度ステージの肝腫瘍を治療するためにインターベンショナル・ラジオロジー専門医(Interventional radiologist)が採用する一般的な技術である経動脈放射線塞栓療法(TARE)の薬剤としての可能性がある。本明細書に記載の方法は、pH勾配リポソームをナノ多孔質マイクロスフェアに封入して、非装填LAMを形成する技術を提供する。LAMには、作用物質または装填用複合体、例えばTc/Re-BMEDA(低分子量分子)を装填することができる。装填用複合体は、それがリポソームに入り、そこで変換されてリポソームの酸性内腔に捕捉されることを可能にする固有の特性を備えている。この分子は、ナノ多孔質アルギン酸マトリックスを通って、マイクロ封入されたリポソーム内に拡散し得る。形成後のLAMに装填するこの技術は、放射線塞栓療法の産業界に向けて、この薬剤の実現性と市場性を大いに高めるものである。
【0048】
本明細書では、アルギン酸マイクロスフェア中のリポソーム(LAM)を製造後放射性標識するためのアプローチ、すなわち、マイクロスフェアに封入されたリポソームに装填する、LAMの後装填が記載される。特定の局面では、製造後標識されたLAMは、化学療法剤および放射性核種マイクロスフェアの送達に使用され得る。例えば、LAMにはTc-99m、Re-186、Re-188、またはこれらの任意の組み合わせを装填することができる。これまでの方法では、アルギン酸マイクロスフェアに組み込む前にリポソームにこれらの作用物質を装填し、LAMに前装填(pre-loading)していた。本出願では、pH勾配リポソームが装填前にアルギン酸マイクロスフェアに封入される、LAMの後装填方法が記載される。pH勾配を有するリポソームとは、外部環境のpHと比較して、リポソームの内部で異なるpHを有するリポソームのことである。これらの後装填されたLAMは、所望のサイズに最適化することができる。後装填されたLAMはまた、例えば臨床使用の直前に、使用場所の近くでまたは使用場所で放射性標識することもできる。
【0049】
マイクロスフェアに後装填することの利点としては、以下が含まれる:(1)例えば放射性核種または化学療法剤を後装填する前に、アルギン酸マイクロスフェアを理想的なサイズにすることが可能。これにより、すでに均質なサイズのLAMを、アルギン酸マイクロスフェアの超音波ネブライザーによって最適化することができる。(2)ろ過が不要なため、レニウム-188などの、より高濃度の作用物質を装填することが可能。(3)装填済みLAMを短時間で調製することが可能であり、例えば、現地のラジオファーマシー(radiopharmacy:放射性医薬品薬局)での通知から数時間以内に、標準的なラジオファーマシーの方法を用いて調製することができる。(4)ドキシルなどの化学療法剤を、使用前に短時間(例えば、数分から数時間以内)で、現地で、例えば薬局で、またはインターベンショナル・ラジオロジー専門医によって、LAMに後装填することが可能であり、これにより、最も汎用されている化学療法剤ドキソルビシンなどの化学療法剤の、使用前の数ヶ月間のLAM内での安定性試験が不要になる、というFDA承認上の利点が得られる。
【0050】
後装填を可能にするメカニズムには、アルギン酸マイクロスフェアのナノ多孔性が含まれるが、これは、化学療法薬や放射性核種のキレート複合体などの低分子量分子がLAMおよびLAMのリポソーム成分に拡散することを可能にする。ひとたび内部または内腔に入ると、酸性度により特定の両親媒性塩基がリポソームに捕捉され、LAMに装填される。
【0051】
リポソームの形成: 硫酸アンモニウム勾配によりリポソームを作製する。丸底フラスコにリン脂質とコレステロールを適量加える。脂質の組成に応じてクロロホルムまたはクロロホルム-メタノールを加え、脂質を溶解して脂質溶液とする。脂質溶液を回転蒸発させて溶媒を除去し、脂質薄膜を形成する。温度と蒸発時間は、脂質の配合によって変化しうる。脂質薄膜を真空下で少なくとも4時間乾燥させる。特定の局面では、乾燥を一晩とすることもできる。所定の総脂質濃度(例えば、60mM)で注入するために、脂質薄膜を再水和する(例えば、滅菌水中の300mMスクロース)。この溶液をボルテックスし、全ての脂質が溶解状態になるまで脂質の相転移温度以上に加熱する。脂質溶液を凍結し、凍結乾燥させて乾燥粉末を形成する。この乾燥粉末を、適切な緩衝液(例えば、滅菌水中の硫酸アンモニウム)で、適切な総脂質濃度(例えば、60mM)になるまで再水和して、新しい溶液を形成する。この溶液を激しくボルテックスし、全ての脂質が溶解状態になるまで脂質の相転移温度以上に加熱する。脂質溶液を液体窒素で凍結させた後、脂質の相転移温度以上の温度に設定したウォーターバスで融解する。凍結融解の手順を少なくとも3回繰り返す。所望の粒子径になるまでリポソームサンプルを押し出す。押し出し後、最終的なリポソーム製品は必要になるまで4℃で保存する必要がある。リポソームは、レーザー光散乱による粒子径測定、発熱性、無菌性、および脂質濃度によって特徴付けることができる。
【0052】
アルギン酸マイクロスフェアへのリポソームのマイクロ封入: リポソームは、アルギネート溶液中でホモジナイズした後、マイクロボア(microbore)を挿入した超音波ノズルに供給される。簡単に説明すると、スフェア製造の少なくとも2日前に、ウルトラピュアアルギネートの溶液を調製する(濃度3.0%w/v)。2mlの放射性標識脂質溶液を2mlのアルギネート溶液と混合し、次いで均質化するまでボルテックスする。Sonotek超音波アトマイザーを図2のようにセットアップすることができる。発生器を5.0ワットの電力で作動させる。リポソームアルギネート溶液を、シリンジポンプにより毎分0.5mlの速度でノズルに供給する。新たに形成された微小液滴が、撹拌下の20g/L CaCl2二水和物溶液中に沈降する。スフェアを20~70ミクロンのサイズ範囲にふるい分けする。スフェアペレットを10mlのCaCl2二水和物溶液に懸濁させる。このスフェア溶液のpHを約7.4に調整した。
【0053】
N,N-ビス(2-メルカプトエチル)-N',N'-ジエチレンジアミン(BMEDA)へのTc-99mのキレート化: Tc-99mのBMEDAへのキレート化は、Goinsら(J Liposome Res 2011, 21(1):17-27)に記載されるように実施した。簡単に説明すると、3.5μlのBMEDAと50mgのグルコヘプトン酸ナトリウムを、10ml滅菌ガラス製血清バイアル内で5.0mlの脱窒素ガス生理食塩水に溶解する。この溶液を室温で20分間撹拌する。65μlの新たに調製した15mg/mlの塩化第一スズ/生理食塩水をBMEDA溶液に加える。BMEDA-GH-塩化第一スズ溶液のpHを、50mM水酸化ナトリウムを用いて素早く7.0に調整する。1mlのこの調整済み溶液を、0.5mlの99mTc-過テクネチウム酸ナトリウム(線量に非依存性)を含む新しいバイアルに入れる。線量を線量キャリブレータ(Atomlab 100 Biodex Medical Systems, Shirley, New York)により測定する。99mTc-BMEDA溶液を静かに振とうした後、室温で20分間インキュベートする。この溶液のpHを約7.4に調整した。
【0054】
BMEDAおよび他の装填用成分(loading moiety)は両親媒性の弱塩基である(pH7ではイオン化しておらず、リポソーム膜を通って拡散することができるが、pH5ではイオン化しており、その電荷のためリポソームの内腔に捕捉される)。この性質は一部の薬物にも見られる;最もよく知られている候補はドキソルビシンであり、これは薬剤ドキシル(BMEDAと同じ装填メカニズムを採用したドキソルビシンのリポソーム製剤)としてすでに実施されている。
【0055】
LAMへのTc-99mの後装填: Tc-99m-BMEDA溶液をマイクロスフェア溶液と混合する。次に、合わせた溶液を40℃の水浴中で2時間インキュベートする。その後、スフェアを塩化カルシウム溶液で2回洗浄して、封入されなかった放射性核種を除去する。動脈内送達に備えて、マイクロスフェアを生理食塩水中に再懸濁する。
【0056】
ヒドロゲルマイクロスフェア
ヒドロゲルマイクロ粒子の製造方法は、ヒドロゲルマイクロ粒子中でのリポソームの装填を可能にする。リポソームが内部に封入されているヒドロゲルマイクロ粒子は、分解性ヒドロゲルから形成され得る。本明細書で使用する用語「分解性ヒドロゲル」とは、温度、摩耗、pH、イオン強度、電圧、電流効果、放射線、生物学的手段などの特定の条件下で、より小さな分子に分解し得る構造を持つヒドロゲルを指す。本出願で使用する用語「ヒドロゲル」は、水性媒体に対して親和性を有し、多量の水性媒体を吸収し得るが、通常は水性媒体に溶解しない、天然または合成の広範なクラスの高分子材料を指す。一般に、ヒドロゲルは、少なくとも1つの、または1つもしくは複数の種類のヒドロゲル形成物質を使用し、1つまたは複数の種類のヒドロゲル形成物質を水性媒体中で硬化または固化させて三次元網目構造を形成することによって形成され得る;この三次元網目構造の形成により、1つまたは複数の種類のヒドロゲル形成物質がゲル化して、ヒドロゲルを形成するようになる。「ヒドロゲル形成物質」という用語は、本明細書では「ヒドロゲル前駆物質」とも呼ばれ、ヒドロゲルを作るために使用され得る任意の化学物質を指す。ヒドロゲル形成物質は、物理的に架橋可能なポリマー、化学的に架橋可能なポリマー、またはこれらの混合物を含み得る。
【0057】
物理的架橋は、例えば、錯体形成、水素結合、脱溶媒和、ファンデルワールス相互作用、またはイオン結合を介して行われる。様々な態様では、ヒドロゲルは、水性媒体中で1つまたは複数の種類のヒドロゲル形成物質を自己集合させることによって形成され得る。用語「自己集合」(self-assembly)とは、構成成分間の化学結合の形成なしに、構成成分相互の引力に依存することによって、高次構造の構成成分が自発的に組織化されるプロセスを指す。例えば、ポリマー鎖は、ポリマー鎖上に誘発される疎水性力、水素結合、ファンデルワールス相互作用、静電気力、またはポリマー鎖の絡み合い(entanglement)のいずれか1つを介して互いに相互作用し、その結果として、ポリマー鎖が水性媒体中で凝集または凝固して三次元網目構造を形成し、それによって水の分子を取り込んでヒドロゲルを形成する。使用できる物理的架橋性ポリマーの例には、ゼラチン、アルギネート、ペクチン、フルセララン(furcellaran)、カラギーナン、キトサン、これらの誘導体、これらのコポリマー、およびこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0058】
化学的架橋は、例えば、連鎖反応(付加)重合および段階反応(縮合)重合によって行われる。本明細書で使用する用語「化学架橋」は、例えば、共有結合、イオン結合、または親和性相互作用(例:リガンド/受容体相互作用、抗体/抗原相互作用など)を含むがこれらに限定されない、化学結合を介したポリマー鎖間の相互連結を指す。使用できる化学的架橋性ポリマーの例には、デンプン、ゲランガム、デキストラン、ヒアルロン酸、ポリ(エチレンオキシド)、ポリホスファゼン、これらの誘導体、これらのコポリマー、およびこれらの混合物が含まれるが、これらに限定されない。このようなポリマーは、例えばメタクリレート基で官能化することができ、製造プロセスでのエマルション液滴の形成中に、これらの基の重合を介してその場で架橋することが可能である。
【0059】
化学的架橋は、化学架橋剤の存在下で行うことができる。用語「化学架橋剤」は、化学架橋を誘導する物質を指す。化学架橋剤は、隣接するポリマー鎖間の化学結合を誘導することができる任意の物質であり得る。例えば、化学架橋剤は化学物質であってよい。架橋剤として作用し得る化学物質の例としては、限定するものではないが、以下が挙げられる:1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC)、ビニルアミン、2-アミノエチルメタクリレート、3-アミノプロピルメタクリルアミド、エチレンジアミン、エチレングリコールジメタクリレート、メチルメタクリレート、N,N'-メチレン-ビスアクリルアミド、N,N'-メチレン-ビス-メタクリルアミド、ジアリルタルタルジアミド、アリル(メタ)アクリレート、低級アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ低級アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、低級アルキレンジ(メタ)アクリレート、ジビニルエーテル、ジビニルスルホン、ジ-またはトリビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルフタレート、ジアリルフタレート、トランスグルタミナーゼ、これらの誘導体またはこれらの混合物。
【0060】
いくつかの態様では、ヒドロゲル形成物質はそれ自体、架橋剤を使用することなく、化学的または物理的架橋が可能である。
【0061】
上記のほかに、ヒドロゲル形成物質は、電磁波の形の架橋剤を用いて架橋することもできる。この架橋は、ガンマ線や紫外線などの電磁波を用いて行うことができ、これによりポリマー鎖が架橋して三次元マトリックスを形成し、それによって水分子を取り込んでヒドロゲルを形成することができる。
【0062】
したがって、架橋剤の選択は、ポリマー鎖および存在する官能基の種類に依存し、当業者であれば、それに応じて適切な種類の架橋剤を選択することができるであろう。
【0063】
様々な態様では、ヒドロゲル形成物質は本質的に物理的架橋性ポリマーからなる。いくつかの態様では、ヒドロゲル形成物質はアルギネートを含む。多糖類は、2つ以上の単糖分子に加水分解することができる炭水化物である。それらは、炭水化物の繰り返し、すなわち糖単位の骨格を含み得る。特定の局面では、ヒドロゲルは多糖類で構成される。多糖類の例には、アルギネート、アガロース、キトサン、デキストラン、デンプン、およびゲランガムが含まれるが、これらに限定されない。グリコサミノグリカンは、構成成分としてアミノ糖を含む多糖類である。グリコサミノグリカンの例には、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマチン硫酸、ケラチン硫酸、デキストラン硫酸、ヘパリン硫酸、ヘパリン、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクトース、ガラクトサミン、およびグルコサミンが含まれるが、これらに限定されない。
【0064】
リポソームアルギン酸マイクロスフェア
アルギネートは、カルシウム、バリウムなどの2価カチオンの存在下で硬化したゲルマトリックスを形成する多糖類である。アルギネートから作製されたマイクロスフェアは、アルギン酸マトリックスからの治療剤の遅延放出について研究されてきた。特に、低分子量の分子(ドキソルビシンなど)は、該スフェアから標的組織へとエスケープすることができる。
【0065】
標準的な製造方法で作製されたマイクロ粒子は、多くの場合、広い粒度分布を有し、均一性に欠け、適切な放出速度または他の特性を提供できず、製造が困難で費用がかかる。さらに、マイクロ粒子は大きく、かつ凝集体を形成しやすいことがあり、注入または吸入によって患者に投与するには大きすぎると考えられる粒子を除去するためのサイズ選択プロセスが必要となる。これにはふるい分けが必要で、製品のロスが発生する。本明細書に記載される特定の態様では、リポソーム含有マイクロスフェアを作製するために、超音波ノズルまたはネブライザーが使用される。超音波ネブライザーは、高周波の電気エネルギーを用いて機械振動エネルギーを作り出すもので、一般には圧電トランスデューサを利用する。このエネルギーが液体または配合物に伝わって直接的にまたはカップリング流体(マイクロスフェアを含むエアロゾルを生成する)を介してマイクロスフェアを形成し、その後、マイクロスフェアは硬化または架橋される。一般的に、超音波エネルギーは、リポソームを形成している脂質の会合を破壊する。リポソームは超音波の破壊的作用に抵抗して製造プロセスの間無傷のまま残り、その結果、より小さなリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェアが形成される。
【0066】
特定の局面では、リポソーム含有アルギン酸マイクロスフェア(LAM)は、リポソーム/アルギネート溶液(液体または供給源)を、アルギン酸架橋剤を含む硬化液に噴霧することによって作製される。一般的には、液体を電動ポンプによって単純または複雑なオリフィスノズルに供給し、そのノズルから液体流を噴霧してスプレー液滴にする;その液滴が硬化液にさらされると、架橋される。ノズルは、多くの場合、第一に、必要とされる流量の望ましい範囲で選択され、第二に、液滴サイズの範囲で選択される。本明細書に記載の液体から液滴を生成することができるスプレーアトマイザーは、どれも使用することができる。適切なスプレーアトマイザーには、二流体ノズル、一流体ノズル、Sono-Tek(商標)超音波ノズルなどの超音波ノズル、回転式アトマイザーまたは振動オリフィスエアロゾル発生装置(VOAG)などが含まれる。特定の局面では、ノズルは超音波ノズルであり、1Hz~約100kHzのノズルである。特定の一局面では、ノズルは25kHzのノズルである。ある局面では、スプレーアトマイザーは、以下の1つまたは複数の仕様を持つことができる:(a)25kHz~180kHzのノズル、特に25kHzノズル;(b)1~10Wの発生装置、特に5.0W発生装置;(c)0.1~1.0ml/min、特に0.5ml/minの流量が可能なポンプ(この程度に低い流量にはマイクロボア(microbore)が必要かもしれない)。硬化液は、噴霧された液体を受け取る位置に配置され得る。ノズルと硬化液との間の距離は、1~10cmの間で変化し、特に4cmであり得る。このシステムは、ノズルの使用全体にわたって作動させることができる。発生装置を作動させると、そのポンプによってリポソーム含有アルギン酸マイクロスフェア(LAM)が形成され得る。マイクロスフェアは、硬化液(例えば、CaCl2溶液)中で1~10分間、特に5分間、室温(例えば、20~30℃)でインキュベートされる。特定の局面では、マイクロスフェアは、例えば1000~1200rpmで、スピンダウンされ得る。架橋または遠心分離中に発生した可能性のある集塊を除くために、マイクロスフェア溶液を100μm孔のステンレス鋼メッシュに通してもよい。これらのLAMは後装填および動脈内投与に使用することができる。特定の局面では、マイクロスフェアは光学顕微鏡で可視化することができ、装填後に線量計を用いて、放射性物質が装填されたLAMにおける放射能保持量を測定することができる。
【0067】
特定の態様は、直径が1、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、300、350、400、450、500μmまで(それらの間の全ての値および範囲を含み、特定の局面では、値または部分範囲のいずれかを特に除外できる)のLAMに向けられる。特定の局面では、LAMは20、30、40から、50、60、70 80μm(それらの間の全ての値および範囲を含む)の平均直径を有する。特定の局面では、リポソームとアルギネートの比率(w/wまたはv/v)は、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4(それらの間のすべての比率および範囲を含み、特定の局面では、値または部分範囲のいずれかを特に除外できる)である。特定の局面では、LAMは、10~80重量%のリポソーム/脂質、10~80重量%のアルギネート溶液、0.01~5重量%のアルギン酸架橋剤、および1~30重量%の治療剤および/またはイメージング剤を含む。
【0068】
化学塞栓療法または放射線塞栓療法は、粒子が血流を通して腫瘍に送達されるがん治療法である。粒子は腫瘍内にとどまり、がん細胞を死滅させる治療剤、化学療法剤または放射線を提供する。
【0069】
リポソーム
リポソーム装填済みマイクロスフェアまたはリポソームアルギン酸マイクロスフェア(LAM)は、弱い非特異的結合の破壊に依存する現在の薬剤よりもむしろ、リポソームの最終的な破裂が薬物の放出を推進することを考慮すると、より制御された持続放出メカニズムを提供する。リポソームの脂質二重層の破壊は、転移温度に依存し得る。特定の局面では、放射性核種治療に使用されるLAMには、55℃の転移温度を有するDSPCが装填される。薬物溶出用に設計されるLAMでは、転移温度が41℃(生理的温度の37℃に近い)のDPPCなどの脂質を利用することができる。持続的な溶出は、特定の脂質を特定の比率でLAMに組み込んだ結果である可能性が最も高い。
【0070】
リポソームの組成に適した脂質の選択は、以下の要因に支配される:(1)リポソームの安定性、(2)相転移温度、(3)電荷、(4)哺乳類系への無毒性、(5)カプセル化(封入)効率、(6)脂質混合物の特性など。小胞形成性の脂質は、好ましくは、2本の炭化水素鎖、典型的にはアシル鎖と、極性または非極性のいずれかのヘッドグループ(head group)とを有する。炭化水素鎖は、飽和であってもよいし、様々な不飽和度を有していてもよい。様々な合成の小胞形成性脂質および天然由来の小胞形成性脂質が存在しており、例えば、スフィンゴ脂質、エーテル脂質、ステロール、リン脂質、ホスホグリセリド、および糖脂質(例:セレブロシドおよびガングリオシド)がある。
【0071】
ホスホグリセリドには、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、およびジホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)などのリン脂質が含まれ、2本の炭化水素鎖は典型的には、長さが約14~22個の炭素原子であり、様々な不飽和度を有する。本明細書で使用する略語「PC」はホスファチジルコリンを表し、「PS」はホスファチジルセリンを表す。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のいずれかを含む脂質は、当業者に広く利用可能である。さらに、脂質の2本の炭化水素鎖は、対称であっても非対称であってもよい。アシル鎖が様々な長さと飽和度を有する上記の脂質およびリン脂質は、商業的に入手できるか、または公表された方法に従って調製することができる。
【0072】
ホスファチジルコリンとしては、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジアラキドイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ジエルコイルホスファチジルコリン、パルミトイル-オレオイルホスファチジルコリン、卵ホスファチジルコリン、ミリストイル-パルミトイルホスファチジルコリン、パルミトイル-ミリストイル-ホスファチジルコリン、ミリストイル-ステアロイルホスファチジルコリン、パルミトイル-ステアロイル-ホスファチジルコリン、ステアロイル-パルミトイルホスファチジルコリン、ステアロイル-オレオイル-ホスファチジルコリン、ステアロイル-リノレオイルホスファチジルコリン、およびパルミトイル-リノレオイル-ホスファチジルコリンが挙げられるが、これらに限定されない。非対称型ホスファチジルコリンは、1-アシル,2-アシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンと呼ばれ、これらのアシル基は互いに異なっている。対称型ホスファチジルコリンは、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンと呼ばれる。本明細書で使用する略語「PC」は、ホスファチジルコリンを指す。ホスファチジルコリンの1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンは、本明細書では「DMPC」と略記される。ホスファチジルコリンの1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンは、本明細書では「DOPC」と略記される。ホスファチジルコリンの1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンは、本明細書では「DPPC」と略記される。
【0073】
一般に、様々な脂質に見られる飽和アシル基には、以下の慣用名を有する基が含まれる:プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、カプロイル、ヘプタノイル、カプリロイル、ノナノイル、カプリル、ウンデカノイル、ラウロイル、トリデカノイル、ミリストイル、ペンタデカノイル、パルミトイル、フィタノイル、ヘプタデカノイル、ステアロイル、ノナデカノイル、アラキドイル、ヘネイコサノイル、ベヘノイル、トルシサノイル、およびリグノセロイル。飽和アシル基の対応するIUPAC名は、以下の通りである:トリアノイック、テトラノイック、ペンタノイック、ヘキサノイック、ヘプタノイック、オクタノイック、ノナノイック、デカノイック、ウンデカノイック、ドデカノイック、トリデカノイック、テトラデカノイック、ペンタデカノイック、ヘキサデカノイック、3,7,11,15-テトラメチルヘキサデカノイック、ヘプタデカノイック、オクタデカノイック、ノナデカノイック、エイコサノイック、ヘネイコサノイック、ドコサノイック、トロコサノイック、およびテトラコサノイック。対称型と非対称型の両方のホスファチジルコリンに見られる不飽和アシル基には、ミリストレオイル、パルミトレイル、オレオイル、エライドイル、リノレオイル、リノレノイル、エイコセノイル、およびアラキドノイルが含まれる。不飽和アシル基の対応するIUPAC名は、9-cis-テトラデカノイック、9-cis-ヘキサデカノイック、9-cis-オクタデカノイック、9-trans-オクタデカノイック、9-cis-12-cis-オクタデカジエノイック、9-cis-12-cis-15-cis-オクタデカトリエノイック、11-cis-エイコセノイック、および5-cis-8-cis-11-cis-14-cis-エイコサテトラエノイックである。
【0074】
ホスファチジルエタノールアミンとしては、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン、および卵ホスファチジルエタノールアミンが挙げられるが、これらに限定されない。また、ホスファチジルエタノールアミンは、IUPAC命名法では、対称型脂質か非対称型脂質かに応じて、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンまたは1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンと呼ばれることもある。
【0075】
ホスファチジン酸としては、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、およびジオレオイルホスファチジン酸が挙げられるが、これらに限定されない。また、ホスファチジン酸は、IUPAC命名法では、対称型脂質か非対称型脂質かに応じて、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-リン酸または1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-リン酸と呼ばれることもある。
【0076】
ホスファチジルセリンとしては、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、パルミトイル-オレイルホスファチジルセリン、および脳ホスファチジルセリンが挙げられるが、これらに限定されない。また、ホスファチジルセリンは、IUPAC命名法では、対称型脂質か非対称型脂質かに応じて、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン]または1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン]と呼ばれることもある。本明細書で使用する略語「PS」は、ホスファチジルセリンを指す。
【0077】
ホスファチジルグリセロールとしては、ジラウリロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、パルミトイル-オレオイルホスファチジルグリセロール、および卵ホスファチジルグリセロールが挙げられるが、これらに限定されない。また、ホスファチジルグリセロールは、IUPAC命名法では、対称型脂質か非対称型脂質かに応じて、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]または1-アシル-2-アシル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]と呼ばれることもある。ホスファチジルグリセロールの1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)]は、本明細書では「DMPG」と略記される。ホスファチジルグリセロールの1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-(ホスホ-rac-1-グリセロール)(ナトリウム塩)は、本明細書では「DPPG」と略記される。
【0078】
適切なスフィンゴミエリンとしては、脳スフィンゴミエリン、卵スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、およびジステアロイルスフィンゴミエリンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
他の適切な脂質には、糖脂質、スフィンゴ脂質、エーテル脂質、セレブロシドとガングリオシドなどの糖脂質、コレステロールとエルゴステロールなどのステロールが含まれる。本明細書で使用するコレステロールという用語は、「Chol」と略記されることがある。リポソームに使用するのに適した追加の脂質は、当業者に知られている。
【0080】
特定の局面では、リポソームの全体的な表面電荷を変えることができる。特定の態様では、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピンなどのアニオン性リン脂質を使用する。ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)などの中性脂質を使用してもよい。リポソームの電荷を変化させるために、カチオン性脂質を、脂質組成物の微量成分として、または主成分もしくは唯一の成分として、使用することもできる。適切なカチオン性脂質は、一般的に、ステロール、アシルまたはジアシル鎖などの親油性部分を有し、該脂質は全体的に正味の正電荷を有する。好ましくは、脂質のヘッドグループは正電荷を帯びている。
【0081】
当業者は、指定された程度の流動性または剛性(硬さ)を達成する小胞形成性脂質を選択するであろう。リポソームの流動性または剛性を利用して、リポソームの安定性または封入された作用物質の放出速度などの要因を制御することができる。より硬い脂質二重層、または液晶二重層を有するリポソームは、比較的硬い脂質を組み込むことによって達成される。脂質二重層の硬さは、二重層中に存在する脂質の相転移温度と相関している。相転移温度とは、脂質が物理的状態を変化させて、秩序あるゲル相から無秩序な液晶相へと移行する温度である。脂質の相転移温度には、脂質の炭化水素鎖の長さと不飽和度、電荷、およびヘッドグループの種類を含めて、いくつかの要因が影響している。相転移温度が比較的高い脂質は、より硬い二重層をもたらすだろう。コレステロールなどの他の脂質成分も、脂質二重層構造の膜剛性に寄与することが知られている。コレステロールは、脂質二重層の流動性、弾力性、透過性を操作するために、当業者に広く利用されている。それは、脂質二重層の隙間を埋めることで機能すると考えられる。対照的に、脂質の流動性は、比較的流動性のある脂質、典型的にはより低い相転移温度を有する脂質、を組み込むことによって達成される。多くの脂質の相転移温度は、様々な情報源で表にまとめられている。
【0082】
特定の局面では、リポソームは、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)およびジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン[DOPC]、コレステロール(CHOL)、およびカルジオリピンなどの内因性リン脂質から作られる。
【0083】
リポソームの装填効率: リポソームの装填方法の装填効率は、遊離の放射性金属イオンまたは遊離の放射性標識複合体を、リポソームに封入された放射性核種から分離できる、イオン交換クロマトグラフィー、放射性薄層クロマトグラフィー(ラジオTLC)、透析、またはサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を含む、当技術分野における従来の方法を用いて測定することができる。SECを使用する場合には、SEC中の溶出プロファイルをモニターし、放射能検出器で放射能を測定するか、または誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、誘導結合プラズマ原子発光分光分析法(ICP-AES)もしくは誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を用いて金属実体(metal entity)の濃度を測定することによって、遊離の放射性金属イオンまたは遊離の放射性標識複合体の量と比較した、リポソーム内に保持された放射能の量を決定することができる。リポソームを含まない溶出画分と比較した、リポソームを含む溶出画分で測定された放射能を使用して、リポソーム内に保持された放射能の割合を計算することにより、装填効率を決定することができる。同様に、リポソームに結合された放射能の量を、リポソームに捕捉されなかった放射能の量と比較することで、当技術分野で知られた他の従来の方法を使用する場合の装填効率の指標を得ることができる。
【0084】
本発明の方法では、調製に使用された多量の放射性核種が、マイクロスフェア中に存在するリポソームの内部に確実に捕捉される。封入または装填効率は、リポソームに装填された作用物質または複合体の封入(内部)量を外部リポソームの初期量で割った値に100を乗じたものとして定義される。本方法の一態様では、装填の効率は10%より高く、例えば10%~100%の範囲、例えば15%超、例えば20%超、例えば25%超、例えば30%超、例えば35%超、例えば40%超、例えば50%超、例えば60%超、例えば65%超、例えば70%超、例えば75%超、例えば80%超、例えば85%超、例えば90%超、例えば95%超、または例えば96%超、または例えば97%超、または例えば98%超、または例えば99%超、または例えば99.5%超、または例えば99.9%超であり得る。本発明の別の態様では、本発明の方法を使用する場合の装填効率は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC、実施例に記載)、イオン交換クロマトグラフィー、または透析を用いてアッセイした場合に30%より高く、例えば30%~100%、例えば55%~100%の装填効率、80%~100%の装填効率、95%~100%の装填効率などである。
【0085】
好ましくは、本発明による方法の装填効率は、55%~100%の範囲、例えば80%~100%の範囲、より好ましくは95%~100%の範囲、例えば95%~97%、または例えば97%~99.9%の装填効率である。
【0086】
装填用成分(loading component)の作用物質捕捉: 本発明または本発明の方法の作用物質捕捉用成分は、遷移金属または放射性標識物質、例えば放射性核種、とキレート複合体を形成するキレート剤であり得る。
【0087】
キレート剤(例えばDOTAなど)がリポソーム内部の水相に存在する場合、膜バリアを通過した金属イオンが、キレート剤との強固な結合により内膜リーフレットから効果的に除去されるため、リポソームの外部と内部の平衡がシフトする。金属イオンとキレート剤との非常に効果的な複合体(錯体)形成は、リポソーム内部の遊離の金属イオン濃度を無視できるほどにし、全ての金属イオンがリポソームに装填されてしまうまで、または平衡に達してしまうまで、装填が進行する。過剰のキレート剤を使用すると、リポソーム内の金属イオン濃度は装填中の全ての段階で低くなり、膜間勾配(trans-membrane gradient)はリポソームの外側の遊離金属イオン濃度によって決まるだろう。
【0088】
本発明によれば、キレート剤は、以下を含む群から選択することができる:1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)とその誘導体;1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(シクラム(cyclam))とその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(シクレン(cyclen))とその誘導体;1,4-エタノ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(エタ-シクラム(et-cyclam))とその誘導体;1,4,7,11-テトラアザシクロテトラデカン(イソシクラム(isocyclam))とその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン([13]aneN4)とその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-二酢酸(DO2A)とその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(DO3A)とその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-ジ(メタンホスホン酸)(DO2P)とその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ(メタンホスホン酸)(DO3P)とその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ(メタンホスホン酸)(DOTP)とその誘導体;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)とその誘導体;ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)とその誘導体;1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)とその誘導体、または他のアダマンザン類とそれらの誘導体。
【0089】
他の態様では、本発明による作用物質捕捉用成分は、他の物質を還元する能力があり、それ故に還元剤とも呼ばれる物質であり得る。還元剤の例には、アスコルビン酸、グルコース、フルクトース、グリセルアルデヒド、ラクトース、アラビノース、マルトース、およびアセトールが含まれる。
【0090】
さらなる態様では、本発明または本発明の方法の範囲内の作用物質捕捉用成分は、放射性核種または金属実体と低溶解度の塩を形成する物質であり得る。
【0091】
本発明または本発明の方法の一態様では、作用物質捕捉用成分は、以下からなる群より選択されるキレート剤である:アダマンザン類を含む大環状化合物;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン([12]aneN4)またはその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロトリデカン([13]aneN4)またはその誘導体;1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン([14]aneN4)またはその誘導体;1,4,8,12-テトラアザシクロペンタデカン([15]aneN4)またはその誘導体;1,5,9,13-テトラアザシクロヘキサデカン([16]aneN4)またはその誘導体;および金属イオンと結合できる他のキレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはその誘導体、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはその誘導体。
【0092】
本発明または本発明の方法の一態様では、作用物質捕捉用成分は、以下からなる群より選択されるキレート剤である:1,4-エタノ-1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(エタ-シクラム)またはその誘導体;1,4,7,11-テトラアザシクロテトラデカン(イソ-シクラム)またはその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)またはその誘導体;2-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)酢酸(DO1A)またはその誘導体;2,2'-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-ジイル)二酢酸(DO2A)またはその誘導体;2,2',2''-(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリイル)三酢酸(DO3A)またはその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ(メタンホスホン酸)(DOTP)またはその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,7-ジ(メタンホスホン酸)(DO2P)またはその誘導体;1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリ(メタンホスホン酸)(DO3P)またはその誘導体;1,4,8,11-15テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)またはその誘導体;2-(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1-イル)酢酸(TE1A)またはその誘導体;2,2'-(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,8-ジイル)二酢酸(TE2A)またはその誘導体;および他のアダマンザン類またはそれらの誘導体。
【0093】
本発明または本発明の方法の一態様では、作用物質捕捉用成分は、以下からなる群より選択される:1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)またはその誘導体、1,4,8,11-15テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)またはその誘導体、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ(メタンホスホン酸)(DOTP)、シクラムおよびシクレン。
【0094】
本発明または本発明の方法の特に重要な態様では、作用物質捕捉用成分は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)である。
【0095】
イオノフォアは、イオン輸送体、親油性キレート剤、チャネル形成剤、親油性複合体などとして特徴づけることができる。一般に、イオノフォアは、細胞膜またはリポソームの脂質二重層を横切ってイオンを輸送する脂溶性分子と定義することができる。イオノフォアは、イオンに対する脂質膜の透過性を高め、膜の内外への、膜を介した分子の移動を促進するために使用される。イオノフォアは一般的に2つに大きく分類される;1つは、特定のイオンや分子に結合またはキレート化して、その電荷を周囲の環境から遮蔽することで、脂質膜の疎水性内部のその通過を促進する化学物質、移動性キャリア、または親油性キレート剤である。2つ目の分類は、膜に親水性の細孔を導入するチャネル形成剤であり、膜の疎水性内部との接触を避けながら分子または金属イオンを通過させることができる。
【0096】
イオノフォアを使用したり、イオンの輸送もしくはナノ粒子の装填を可能にする他の成分を使用したりする従来の方法では、結果として得られるナノ粒子が、装填の手順で使用されたイオン輸送体またはイオノフォアを少量含む。本発明によって提供されるナノ粒子は、イオノフォアのようなイオン輸送体を使用せずに調製される。したがって、本発明は、イオン輸送体またはイオノフォアを含まないナノ粒子組成物に関する。
【0097】
本発明の別の態様では、本明細書で定義されるナノ粒子組成物は、添加されたイオノフォアを含まない。
【0098】
本発明のナノ粒子には含まれないイオン輸送体またはイオノフォア化合物は、以下からなる群より選択することができる:8-ヒドロキシキノリン(オキシン);8-ヒドロキシキノリンβ-D-ガラクトピラノシド;8-ヒドロキシキノリンβ-D-グルコピラノシド;8-ヒドロキシキノリングルクロニド;8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸;8-ヒドロキシキノリン-β-D-グルクロニドナトリウム塩;8-キノリノールヘミ硫酸塩;8-キノリノールN-オキシド;2-アミノ-8-キノリノール;5,7-ジブロモ-8-ヒドロキシキノリン;5,7-ジクロロ-8-ヒドロキシキノリン;5,7-ジヨード-8-ヒドロキシキノリン;5,7-ジメチル-8-キノリノール;5-アミノ-8-ヒドロキシキノリン二塩酸塩;5-クロロ-8-キノリノール;5-ニトロ-8-ヒドロキシキノリン;7-ブロモ-5-クロロ-8-キノリノール;N-ブチル-2,2'-イミノ-ジ(8-キノリノール);8-ヒドロキシキノリン安息香酸塩;2-ベンジル-8-ヒドロキシキノリン;5-クロロ-8-ヒドロキシキノリン塩酸塩;2-メチル-8-キノリノール;5-クロロ-7-ヨード-8-キノリノール;8-ヒドロキシ-5-ニトロキノリン;8-ヒドロキシ-7-ヨード-5-キノリンスルホン酸;5,7-ジクロロ-8-ヒドロキシ-2-メチルキノリン、および他のキノリン類(1-アザナフタレン、1-ベンザジン)からなる化学物質とそれらの誘導体。一態様では、イオノフォア化合物は、以下からなる群より選択される:8-ヒドロキシキノリン(オキシン);8-ヒドロキシキノリンβ-D-ガラクトピラノシド;8-ヒドロキシキノリンβ-D-グルコピラノシド;8-ヒドロキシキノリングルクロニド;8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸;8-ヒドロキシキノリン-β-D-グルクロニドナトリウム塩;8-キノリノールヘミ硫酸塩;8-キノリノールN-オキシド;2-アミノ-8-キノリノール;5,7-ジブロモ-8-ヒドロキシキノリン;5,7-ジクロロ-8-ヒドロキシキノリン;5,7-ジヨード-8-ヒドロキシキノリン;5,7-ジメチル-8-キノリノール;5-アミノ-8-ヒドロキシキノリン二塩酸塩;5-クロロ-8-キノリノール;5-ニトロ-8-ヒドロキシキノリン;7-ブロモ-5-クロロ-8-キノリノール;N-ブチル-2,2'-イミノ-ジ(8-キノリノール);8-ヒドロキシキノリン安息香酸塩;2-ベンジル-8-ヒドロキシキノリン;5-クロロ-8-ヒドロキシキノリン塩酸塩;2-メチル-8-キノリノール;5-クロロ-7-ヨード-8-キノリノール;8-ヒドロキシ-5-ニトロキノリン;8-ヒドロキシ-7-ヨード-5-キノリンスルホン酸;5,7-ジクロロ-8-ヒドロキシ-2-メチルキノリン、および他のキノリン類(1-アザナフタレン、1-ベンザジン)からなる化学物質とそれらの誘導体。
【0099】
本発明のナノ粒子に含まれない、または本発明の方法で使用されないイオン輸送体もしくはイオノフォア化合物は、さらに、以下からなる群より選択することができる:2-ヒドロキシキノリン-4-カルボン酸;6-クロロ-2-ヒドロキシキノリン;8-クロロ-2-ヒドロキシキノリン;カルボスチリル124;カルボスチリル165;4,6-ジメチル-2-ヒドロキシキノリン;4,8-ジメチル-2-ヒドロキシキノリン;または他の2-キノリノール化合物;8-ヒドロキシキノリン(オキシン);8-ヒドロキシキノリンβ-D-ガラクトピラノシド;8-ヒドロキシキノリンβ-D-グルコピラノシド;8-ヒドロキシキノリングルクロニド;8-ヒドロキシキノリン-5-スルホン酸;8-ヒドロキシキノリン-β-D-グルクロニドナトリウム塩;8-キノリノールヘミ硫酸塩;8-キノリノールN-オキシド;2-アミノ-8-キノリノール;5,7-ジブロモ-8-ヒドロキシキノリン;5,7-ジクロロ-8-ヒドロキシキノリン;5,7-ジヨード-8-ヒドロキシキノリン;5,7-ジメチル-8-キノリノール;5-アミノ-8-ヒドロキシキノリン二塩酸塩;5-クロロ-8-キノリノール;5-ニトロ-8-ヒドロキシキノリン;7-ブロモ-5-クロロ-8-キノリノール;N-ブチル-2,2'-イミノ-ジ(8-キノリノール);8-ヒドロキシキノリン安息香酸塩;2-ベンジル-8-ヒドロキシキノリン;5-クロロ-8-ヒドロキシキノリン塩酸塩;2-メチル-8-キノリノール;5-クロロ-7-ヨード-8-キノリノール;8-ヒドロキシ-5-ニトロキノリン;8-ヒドロキシ-7-ヨード-5-キノリンスルホン酸;5,7-ジクロロ-8-ヒドロキシ-2-メチルキノリン、および他のキノリン類(1-アザナフタレン、1-ベンザジン)からなる化学物質とそれらの誘導体、[6S-[6α(2S*,3S*),8β(R*),9β,11α]]-5-(メチルアミノ)-2-[[3,9,11-トリメチル-8-[1-メチル-2-オキソ-2-(1H-ピロール2-イル)エチル]-1,7-ジオキサスピロ[5.5]ウンデカ-2-イル]メチル]-4-ベンゾオキサゾールカルボン酸(A23187とも呼ばれる)、HMPAO(ヘキサメチルプロピレンアミンオキシム)、HYNIC(6-ヒドラジノピリジン-3-カルボン酸)、BMEDA(N,N-ビス(2-メルカプトエチル)-N',N'-ジエチルエチレンジアミン)、DISIDA(ジイソプロピルイミノジ酢酸)、フタルジアルデヒドとその誘導体、2,4-ジニトロフェノールとその誘導体、ジ-ベンゾ-18-クラウン-6とその誘導体、o-キシリレンビス(N,N-ジイソブチルジチオカルバメート)とその誘導体、N,N,N',N'-テトラシクロヘキシル-2,2'-チオジアセトアミドとその誘導体、2-(1,4,8,11-テトラチアシクロテトラデカ-6-イルオキシ)ヘキサン酸、2-(3,6,10,13-テトラチアシクロテトラデカ-1-オキシ)ヘキサン酸とその誘導体、N,N-ビス(2-メルカプトエチル)-N',N'-ジエチルエチレンジアミンとその誘導体、ビューベリシン、エンニアチン、グラミシジン、イオノマイシン、ラサロシド、モネシン、ニゲリシン、ノナクチン、ナイスタチン、サリノマイシン、バリノマイシン、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン(PIH)、サリチルアルデヒドイソニコチノイルヒドラゾン(SIH)、1,4,7-トリスメルカプトエチル-1,4,7-トリアザシクロノナン、N,N',N''-トリス(2-メルカプトエチル)-1,4,7-トリアザシクロノナン、モネンシス、DP-b99、DP-109、BAPTA、ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン(PIH)、アラメチシン、ジ-2-ピリジルケトンチオセミカルバゾン(HDpT)、カルボニルシアニドm-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)、ラサロシドA(X-537A)、ラサロシドの5-ブロモ誘導体;環状デプシペプチド;環状ペプチド:DECYL-2;N,N,N',N'-テトラブチル-3,6-ジオキサオクタンジ[チオアミド]);N,N,N',N'-テトラシクロヘキシル-3-オキサ-ペンタンジアミド;N,N-ジシクロヘキシル-N',N'-ジオクタデシル-ジグリコール酸-ジアミド;N,N'-ジヘプチル-N,N'-ジメチル-1,-ブタンジアミド; N,N'-オクタメチレン-ビス[N'-ヘプチル-N'-メチル-マロンアミド;N,N-ジオクタデシル-N',N'-ジプロピル-3,6-ジオキサオクタンジアミド;N-[2-(1H-ピロリル-メチル)]-N'-(4-ペンテン-3-オン-2)-エタン-1,2-ジアミン(MRP20);および抗真菌毒素;アベナシオリド(avenaciolide)または上記のイオノフォアの誘導体、ならびにWO2011/006510に記載されるイオノフォアおよび当技術分野で知られる他のイオノフォア。
【0100】
pH勾配装填可能な作用物質は、1つまたは複数のイオン化可能な部分(ionisable moiety)を有する作用物質であり、そのイオン化可能な部分が中性形態であると、金属実体はリポソーム膜を通過することができ、イオン化可能な部分が荷電形態に変換されると、金属実体はリポソーム内に封入されたままとなる;本発明によれば、こうした作用物質もイオノフォアと見なされる。イオン化可能な部分は、アミン基、カルボン酸基およびヒドロキシル基を含み得るが、これらに限定されない。酸性の内部に応答して装填されるpH勾配装填可能な作用物質は、酸性環境に応答して荷電されるイオン化可能な部分を含むことができ、一方、塩基性の内部に応答して装填される作用物質は、塩基性環境に応答して荷電される部分を含む。内部が塩基性の場合には、カルボン酸基またはヒドロキシル基を含むがこれらに限定されないイオン化可能な部分が利用され得る。
【0101】
本発明によるナノ粒子の内部pHは、ナノ粒子の特徴が最適化される特定の範囲内になるように調整することができる。
【0102】
本発明または本発明の方法の一態様では、リポソーム組成物の内部pHを調整することにより、作用物質捕捉用成分および/またはイオノフォアの所望のプロトン化状態が達成され、それによって放射性核種の効率的な装填と捕捉が確保される。
【0103】
本発明または本発明の方法の好ましい態様では、リポソーム組成物の内部pHを調整することにより、作用物質捕捉用成分の所望のプロトン化状態が達成され、それによって放射性核種の効率的な装填と捕捉が確保される。
【0104】
銅同位体が装填されたナノ粒子組成物を製造するための開示された方法の別の態様では、ナノ粒子の合成中に内部pHを調整して、ナノ粒子の内部pHが1~10の範囲内、例えば1~2、例えば2~3、例えば3~4、例えば4~5、例えば5~6、例えば6~7、例えば7~8、例えば8~9、例えば9~10になるようにする。
【0105】
本発明の好ましい態様では、ナノ粒子(リポソーム)の内部pHは4~8.5の範囲内、例えば4.0~4.5、例えば4.5~5.0、例えば5.0~5.5、例えば5.5~6.0、例えば6.0~6.5、例えば6.5~7.0、例えば7.0~7.5、例えば7.5~8.0、例えば8.0~8.5である。
【0106】
本発明の別の態様では、本発明によるナノ粒子の内部pHは、ナノ粒子の安定性を引き延ばすために最適化される。このような安定性の向上は、例えば、より長い貯蔵寿命またはより広範囲の貯蔵温度の可能性につながり、それによってナノ粒子の使用を容易にすることができる。安定性の向上が得られるのは、例えば、内部pHが小胞を形成する小胞形成成分の安定性の増加につながるため、捕捉された放射性核種の有無にかかわらず作用物質捕捉用成分の安定性を増加させるため、またはナノ粒子の他の特徴の安定性を向上させるためである。安定性の向上のために最適化される内部pHは、1~10の範囲内、例えば1~2、例えば2~3、例えば3~4、例えば4~5、例えば5~6、例えば6~7、例えば7~8、例えば8~9、例えば9~10であり得る。
【0107】
本発明の好ましい態様では、ナノ粒子の安定性の向上につながる内部pHは、4~8.5の範囲内、例えば4.0~4.5、例えば4.5~5.0、例えば5.0~5.5、例えば5.5~6.0、例えば6.0~6.5、例えば6.5~7.0、例えば7.0~7.5、例えば7.5~8.0、例えば8.0~8.5である。
【0108】
投与および治療の方法
現在、経動脈化学塞栓療法(TACE)は、化学療法剤(中でも特にドキソルビシン)を装填した薬物溶出ビーズが肝腫瘍に送達されるTAREと同様に実施される。ポリビニルアルコールから形成されたマイクロスフェアは、これらのマイクロスフェアに薬物溶出特性を可能にする非特異的結合基を保持するように修飾される;しかし、その非特異的結合メカニズムを考えると、薬物装填能および拡散速度は最適とはいえない。TACEのためのより持続的な放出メカニズムが非常に望まれている。
【0109】
本明細書に記載したLAMは、TAREに加えてTACEの候補でもある。理論的には、BMEDAとドキソルビシンが両親媒性の弱塩基であることを考慮すると、それらはいずれも、マイクロ封入されたpH勾配リポソームへの同じ拡散メカニズムを受ける可能性がある。
【0110】
塞栓療法: 腫瘍動脈塞栓の方法には、微小動脈に塞栓を注入して、機械的遮断を引き起こし、かつ腫瘍の成長を抑制することが含まれる。特定の局面では、その塞栓は、本明細書に記載されるようなリポソームアルギン酸マイクロスフェア(LAM)である。特定の局面では、治療される腫瘍は、外科手術に適さない悪性腫瘍である。そうした腫瘍は、肝細胞癌(HCC)、腎臓がん、骨盤内腫瘍、および頭頸部がんであり得る。
【0111】
塞栓目的でのマイクロスフェアの有効性は、マイクロスフェアの直径、マイクロスフェアの分解速度、および治療剤の放出速度の1つまたは複数に依存する。マイクロスフェア製剤は、がんまたは腫瘍を支援している微小血管を遮断することができる。塞栓は、腫瘍を標的とした治療剤を供給することができ、治療剤を標的指向可能および制御可能となるようにする。この種の薬物投与は、インビボでの薬物分布を改善し、薬物動態学的特性を高め、薬物の生物学的利用能を増加し、治療効果を改善し、かつ毒性または副作用を軽減することができる。
【0112】
特定の局面では、放射線塞栓療法は放射線増感剤との組み合わせで使用することができる。本発明において、「放射線増感剤」(radiation sensitizerまたはradiosensitizer)という用語は、放射線の効果を増強する化合物を意味する。放射線増感剤の例には、ニトロイミダゾール類、例えば、ミソニダゾール、エタニダゾール、メトロニダゾール、ニモラゾールなど;ドセタキセル、パクリタキセル、イドクスウリジン、フルダラビン、ゲムシタビン、およびタキサン類が含まれるが、これらに限定されない。
【0113】
後装填されるリポソーム含有マイクロスフェアを含むキット
本発明は、製造後にマイクロスフェア組成物を調製する、すなわち後装填する、ための部品キット(kit of parts)を提供する。このようなキットは、リポソーム装填マイクロスフェアと、作用物質捕捉用または作用物質装填用の成分とを含む、マイクロスフェアまたはLAM組成物を含み得る。一態様では、キットは、封入する作用物質、または放射性核種などの金属実体を含むことができる。特定の局面では、封入する作用物質は別個に提供される。
【0114】
金属実体または放射性核種は、特定の放射性核種の特性に応じて、保管されているか、製造業者から配送される。放射性核種は、(凍結乾燥された)塩または水溶液の形態で配送されてもよいし、既存の製造設備と出発材料を用いて施設内で合成されてもよい。放射性核種含有ナノ粒子を投与する前に、キットの構成成分は、本明細書に記載の後装填法において使用される。
【実施例
【0115】
以下の実施例および図面は、本発明の好ましい態様を示すために含まれる。当業者には理解されるように、実施例または図面に開示された技術は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者らによって発見された技術を表しており、したがって、その実施のための好ましい形態を構成すると考えられる。しかし、当業者であれば、本開示に照らして、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様において多くの変更を加えることができ、それでもなお同様または類似の結果が得られることを理解すべきである。
【0116】
実施例1
放射線塞栓療法のためのアルギン酸マイクロスフェアへのTc-99mおよびR-186の装填方法
β線を放出するイットリウム-90スフェアは、放射線塞栓療法のための主要な薬剤として機能する;しかし、製造コストが高いこと、肝循環から肺循環へのシャント(shunting:分流)があること、処置後可視化が限られることなどの制限がある。Tc-99mまたはRe-186を装填できるアルギン酸マイクロスフェア中のリポソーム(LAM)の作製については、以前に記載されている。これらのマイクロスフェアは、放射線塞栓療法への応用に対する大きな意味合いがある;しかしながら、本発明者らは、pH勾配リポソームがアルギン酸マイクロスフェアに封入されてから、製造後に放射性標識されるという、それらの改良された製造方法を提案する。
【0117】
材料および方法: 簡単に説明すると、pH勾配リポソームを製造し、超音波霧化によってアルギン酸マイクロスフェアにマイクロ封入した。マイクロスフェアの直径を光学顕微鏡で測定した。続いて、マイクロスフェアをRe-186/Tc-99m-BMEDA複合体とインキュベートし、その後洗浄して、封入されていない放射性核種を除去した。Re-186/Tc-99m-BMEDA複合体をアルギン酸マイクロスフェア(リポソームを含まない)とインキュベートし、ガンマ線イメージングを用いてLAMと直接比較した。塞栓を評価するために、Tc-LAMを生体外ウシ腎灌流モデルに動脈内送達した。血圧および腎臓の流量を記録した。マイクロスフェア送達中に静脈還流(venous return)を収集した。塞栓を起こした腎臓および静脈還流の5分間の平面ガンマ画像とSPECTを取得した。
【0118】
結果: 平均直径が49.5μm(STDV=10.4μm)であるLAMを作製した。Re-LAMは51%の放射性標識効率を示したのに対し、リポソームを含まないアルギン酸スフェアは15%の線量を保持した。続いて、2mlの2.98mCi Tc-LAMを作製し、生体外の腎臓に送達した。BP(血圧)は約110/50であり、灌流時の流量は約300ml/minであった。3Frマイクロカテーテルを用いて、全線量のスフェアを腎臓に非選択的に送達した。静脈還流のガンマ線イメージングにより、放射能の3.7%の静脈シャントが示された。SPECTにより、腎皮質で高い放射能が示され、静脈流出路に沿って微量の線量が認められた。
【0119】
結論: 製造後にLAMを放射性標識する方法は、放射能保持と塞栓能力に関して成功を示した。提案された方法は、マイクロスフェアの安定性と放射能保持を犠牲にすることなく、ラジオファーマシーによるLAMの製造を容易にするものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】