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特表2024-513588遺伝性突然変異のための可動性エンドヌクレアーゼ
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  • 特表-遺伝性突然変異のための可動性エンドヌクレアーゼ 図1
  • 特表-遺伝性突然変異のための可動性エンドヌクレアーゼ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-26
(54)【発明の名称】遺伝性突然変異のための可動性エンドヌクレアーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20240318BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240318BHJP
   C12N 15/83 20060101ALI20240318BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240318BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240318BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/83 Z
C12N15/09 110
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562992
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(85)【翻訳文提出日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2022060160
(87)【国際公開番号】W WO2022219175
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】21168638.1
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508186875
【氏名又は名称】キージーン ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ウィンド,ユリア ヨハンナ
(72)【発明者】
【氏名】クルースターマン,ビョルン アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】リュイシエ,フランク ジョルジュ ポール
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA11X
4B065AA88X
4B065AB03
4B065BA02
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、植物細胞、好ましくは分裂組織細胞の標的ゲノム修飾に関する。より詳細には、本発明は、コード用RNAを発現するベクターであって、コード用RNAは、CRISPRヌクレアーゼをコードする配列と、可動性エレメントとを含み、可動性エレメントは、コード用RNAの細胞間移行、好ましくは分裂組織細胞への細胞間移行を可能にする、ベクターに関する。本発明は、コード用RNAを含む編集用RNAであって、ガイドRNAを更に含む編集用RNAに更に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コード用RNAを発現するベクターであって、前記コード用RNAは、CRISPRヌクレアーゼをコードする配列と、第1の可動性エレメントとを含み、前記可動性エレメントは、前記コード用RNAの細胞間移行を可能にし、好ましくは、前記CRISPRヌクレアーゼは、核局在化シグナルを含む、ベクター。
【請求項2】
a)ウイルスであって、好ましくは、
i)機能性のコートタンパク質を発現せず、好ましくは前記コートタンパク質をコードする配列に欠失を有すること;及び
ii)タバコ茎えそウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)又はソンクスイエローネットウイルス(SYNV)、好ましくはタバコモザイクウイルスRNAベースの過剰発現ベクター(TRBO)であること
の少なくとも1つである、ウイルス;
b)ネイキッドDNAであって、好ましくは環状核酸分子であるネイキッドDNA;又は
c)DNA複合体であって、好ましくは担体に結合されており、前記担体は、好ましくは、リポプレックス、リポソーム、ポリマーソーム、ポリプレックス、PEG、デンドリマー、無機ナノ粒子、ビロソーム及び細胞透過性ペプチドからなる群から選択される、DNA複合体
である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記可動性エレメントは、分裂組織細胞、好ましくは茎頂分裂組織細胞への細胞間移行を可能にする、請求項1又は2に記載のベクター。
【請求項4】
前記可動性エレメントは、転移RNA(tRNA)及び遺伝子転写物の少なくとも1つであり、好ましくは、
- 前記tRNAは、メチオニン、グリシン-、トレオニン-、アルギニン-、リジン-及びグルタミン-tRNAの少なくとも1つであること;及び
- 前記遺伝子転写物は、FT、GAI、SP2G、SP3D、SP5G、SP9D、CEN様タンパク質1、FT及びTFのタンパク質MOTHER 1、開花遺伝子座T-a、開花遺伝子座T-b、PP16-1、GAIP、スケアクロウ様(SCL14P)、シュートメリステムレス(STMP)、エチレン応答因子(ERFP)及びMyb(MybP)からなる群から選択される遺伝子の転写物であり、任意選択により、前記FT遺伝子転写物は、突然変異体FT及び/又はトランケート型FTであること
の少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
ガイドRNA及び任意選択により前記ガイドRNAの細胞間移行を可能にする第2の可動性エレメントを更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項6】
請求項1、3又は4のいずれか一項に記載のコード用RNAを含む編集用RNAであって、請求項5に記載のガイドRNA及び任意選択により第2の可動性エレメントを更に含む編集用RNA。
【請求項7】
前記コード用RNAと前記ガイドRNAとの間に位置する切断可能なスペーサー配列を更に含む、請求項6に記載の編集用RNA。
【請求項8】
前記第1及び第2の可動性エレメントの少なくとも1つは、前記編集用RNAの5’末端又は3’末端に位置する、請求項6又は7に記載の編集用RNA。
【請求項9】
2つ以上のガイドRNAを含み、好ましくは、切断可能なスペーサー配列は、前記2つ以上のガイドRNA間に位置する、請求項6~8のいずれか一項に記載の編集用RNA。
【請求項10】
前記2つ以上のガイドRNAは、前記CRISPRヌクレアーゼを同じ遺伝子に導く、請求項9に記載の編集用RNA。
【請求項11】
請求項6~10のいずれか一項に記載の編集用RNAを発現するベクター。
【請求項12】
i)請求項1~5又は11のいずれか一項に記載のベクター;及び
ii)請求項6~10のいずれか一項に記載の編集用RNA
の少なくとも1つを発現するアグロバクテリウム。
【請求項13】
標的ゲノム修飾を有する分裂組織細胞を作製する方法であって、
i)植物体を提供するステップ;及び
ii)前記植物体の細胞において、請求項1、3又は4のいずれか一項に記載のコード用RNA、請求項5に記載のガイドRNA及び任意選択により第2の可動性エレメントを発現させるステップ
を含み、
前記コード用RNA及びガイドRNAは、分裂組織細胞に移行し、
前記コード用RNA及び前記ガイドRNAは、請求項6~10のいずれか一項に記載の編集用RNA内に含まれ、及び/又は前記ガイドRNAは、前記第2の可動性エレメントに連結され、
前記分裂組織細胞において、CRISPRヌクレアーゼは、前記コード用RNAから発現され、前記ガイドRNAは、前記分裂組織細胞における標的ゲノム修飾を発生させるために、前記発現されたCRISPRヌクレアーゼをゲノム中の位置に導き、
好ましくは、前記分裂組織細胞は、茎頂分裂組織細胞である、方法。
【請求項14】
前記コード用RNA及びガイドRNAは、前記植物細胞に、
- 請求項1~5又は11のいずれか一項に記載のベクター;及び
- 請求項12に記載のアグロバクテリウム
の少なくとも1つをトランスフェクトすることによって発現される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
標的ゲノム修飾を有する分裂組織細胞であって、請求項13又は14に記載の方法によって入手可能な分裂組織細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子植物生物学の分野に関する。本発明は、植物細胞の標的遺伝子修飾に関する。詳細には、本発明は、植物分裂組織細胞の標的修飾及びそれに由来する植物体に関する。
【背景技術】
【0002】
作物に定方向で遺伝性の突然変異を迅速且つ効率的に作り出すことは、形質の研究及び遺伝子検証に重要である。インタクトな分裂組織への編集の導入は、それが次世代への伝播を確実にするため、極めて望ましいと考えられている。分裂組織に編集を生じさせるには、2つの取り組み方がある:分裂組織に編集複合体(例えば、ガイドRNAを伴うCAS9)を入れて、それらの細胞を直接編集することによるか、又は体細胞組織を編集し、後に分裂組織形成を惹起することによる。
【0003】
編集された体細胞は、編集された分裂組織に変換されるため、結果として、それらの編集が後代に伝えられることになる。しかしながら、ピーマンなどのように、インビトロ組織培養を通した分裂組織形成の惹起が難しいか又は不可能な作物では、この方法は、機能しない。
【0004】
残念ながら、トランス遺伝子を分裂組織に直接送達するのは困難であることが分かっており、これまでのところ、成功は、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)及びその近縁種に限られている(Clough,SJ and Bent,AF,“Floral dip:a simplified method for Agrobacterium-mediated transformation of Arabidopsis thaliana”.Plant J.16,735-743(1998)及びHamada,H.et al.“An in planta biolistic method for stable wheat transformation.Sci.Rep.7,11443(2017))。
【0005】
従って、当技術分野では、再生させる必要のない、植物体の効率的な遺伝性突然変異を実現する方法が依然として必要とされている。
【0006】
これまで、当技術分野では、1つ以上の可動性ガイドRNAを発現するベクターをCas9トランスジェニックベンサミアナタバコ(N.benthamiana)植物体にトランスフェクトすることにより、遺伝性突然変異が実現され得ることが示されている。このようなガイドRNAのトランスフェクションにより、遺伝性の遺伝子編集が生じた(Ellison et al,Multiplexed heritable gene editing using RNA viruses and mobile single guide RNAs,Nat Plants,2020;6(6):620-624)。
【0007】
残念ながら、この手法は、遺伝性突然変異をもたらすために必然的にCas9トランスジェニック植物体の使用を伴うものであった。これは、かかるトランスジェニック植物体をもたらすために実験を入念に練ることを要求し得るか、又は全く実現不可能であり得る。その上、かかる植物体からもたらされる任意の種子は、遺伝性突然変異を含み得るが、トランスジェニックCas9タンパク質もなお発現し得る。とりわけ、かかるトランスジェニック植物体は、例えば、食用消費に向けた商品化が困難であり得る。
【0008】
このように、当技術分野では、遺伝性突然変異を含む非トランスジェニック植物体を効率的にもたらすための汎用性のある方法が依然として必要とされている。更に、かかる方法で使用される核酸及びベクターが必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、以下の実施形態に要約することができる。
【0010】
実施形態1.コード用RNAを発現するベクターであって、コード用RNAは、CRISPRヌクレアーゼをコードする配列と、第1の可動性エレメントとを含み、可動性エレメントは、コード用RNAの細胞間移行を可能にし、好ましくは、CRISPRヌクレアーゼは、核局在化シグナルを含む、ベクター。
【0011】
実施形態2.a)ウイルスであって、好ましくは機能性のコートタンパク質を発現せず、好ましくはコートタンパク質をコードする配列に欠失を有するウイルス;
b)ネイキッドDNAであって、好ましくは環状核酸分子であるネイキッドDNA;又は
c)DNA複合体であって、好ましくは担体に結合されており、担体は、好ましくは、リポプレックス、リポソーム、ポリマーソーム、ポリプレックス、PEG、デンドリマー、無機ナノ粒子、ビロソーム及び細胞透過性ペプチドからなる群から選択される、DNA複合体
である、実施形態1に記載のベクター。
【0012】
実施形態3.タバコ茎えそウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)又はソンクスイエローネットウイルス(SYNV)、好ましくはタバコモザイクウイルスRNAベースの過剰発現ベクター(TRBO)である、実施形態2に記載のベクター。
【0013】
実施形態4.可動性エレメントは、分裂組織細胞、好ましくは茎頂分裂組織細胞への細胞間移行を可能にする、実施形態1~3のいずれか1つに記載のベクター。
【0014】
実施形態5.可動性エレメントは、転移RNA(tRNA)及び遺伝子転写物の少なくとも1つである、実施形態1~4のいずれか1つに記載のベクター。
【0015】
実施形態6.- tRNAは、メチオニン、グリシン-、トレオニン-、アルギニン-、リジン-及びグルタミン-tRNAの少なくとも1つであること;及び
- 遺伝子転写物は、FT、GAI、SP2G、SP3D、SP5G、SP9D、CEN様タンパク質1、FT及びTFのタンパク質MOTHER 1、開花遺伝子座T-a、開花遺伝子座T-b、PP16-1、GAIP、スケアクロウ様(SCL14P)、シュートメリステムレス(STMP)、エチレン応答因子(ERFP)及びMyb(MybP)からなる群から選択される遺伝子の転写物であり、任意選択により、FT遺伝子転写物は、突然変異体FT及び/又はトランケート型FTであること
の少なくとも1つである、実施形態5に記載のベクター。
【0016】
実施形態7.ガイドRNA及び任意選択によりガイドRNAの細胞間移行を可能にする第2の可動性エレメントを更に含む、実施形態1~6のいずれか1つに記載のベクター。
【0017】
実施形態8.実施形態1及び4~6のいずれか1つに定義されるとおりのコード用RNAを含む編集用RNAであって、実施形態7に定義されるとおりのガイドRNA及び任意選択により第2の可動性エレメントを更に含む編集用RNA。
【0018】
実施形態9.コード用RNAとガイドRNAとの間に位置する切断可能なスペーサー配列を更に含む、実施形態8に記載の編集用RNA。
【0019】
実施形態10.第1及び第2の可動性エレメントの少なくとも1つは、編集用RNAの5’末端又は3’末端に位置する、実施形態8又は9に記載の編集用RNA。
【0020】
実施形態11.2つ以上のガイドRNAを含む、実施形態8~10のいずれか1つに記載の編集用RNA。
【0021】
実施形態12.切断可能なスペーサー配列は、2つ以上のガイドRNA間に位置する、実施形態11に記載の編集用RNA。
【0022】
実施形態13.2つ以上のガイドRNAは、CRISPRヌクレアーゼを同じ遺伝子に導く、実施形態11又は12に記載の編集用RNA。
【0023】
実施形態14.実施形態8~13のいずれか1つに定義されるとおりの編集用RNAを発現するベクター。
【0024】
実施形態15.i)実施形態1~7及び14のいずれか1つに記載のベクター;及び
ii)実施形態8~13のいずれか1つに記載の編集用RNA
の少なくとも1つを発現するアグロバクテリウム。
【0025】
実施形態16.標的ゲノム修飾を有する分裂組織細胞を作製する方法であって、
i)植物体を提供するステップ;及び
ii)植物体の細胞において、実施形態1及び4~6のいずれか1つに定義されるとおりのコード用RNA、実施形態7に定義されるとおりのガイドRNA及び任意選択により第2の可動性エレメントを発現させるステップ
を含み、
コード用RNA及びガイドRNAは、分裂組織細胞に移行し、
コード用RNA及びガイドRNAは、実施形態8~13のいずれか1つに記載の編集用RNA内に含まれ、及び/又はガイドRNAは、第2の可動性エレメントに連結され、
分裂組織細胞において、CRISPRヌクレアーゼは、コード用RNAから発現され、ガイドRNAは、分裂組織細胞における標的ゲノム修飾を発生させるために、発現されたCRISPRヌクレアーゼをゲノム中の位置に導く、方法。
【0026】
実施形態17.コード用RNA及びガイドRNAは、植物細胞に、
- 実施形態1~7及び14のいずれか1つに記載のベクター;及び
- 実施形態15に定義されるとおりのアグロバクテリウム
の少なくとも1つをトランスフェクトすることによって発現される、実施形態16に記載の方法。
【0027】
実施形態18.分裂組織細胞は、茎頂分裂組織細胞である、実施形態16又は17に記載の方法。
【0028】
実施形態19.標的ゲノム修飾を有する分裂組織細胞であって、実施形態16~18のいずれか1つに記載の方法によって入手可能な分裂組織細胞。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】FT配列を有する(A)及びFT配列を有しない(B)Cas9-GFP融合体を含むベクターの概略図である。
図2】FTシグナルあり又はなしのCas9-GFPコンストラクトを葉に浸潤させた植物体の茎頂におけるCas9及びGFPの、qPCRにより決定したときの平均発現(ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)チューブリンmRNAの発現に対する相対的な任意単位)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本明細書及び特許請求の範囲全体を通して、本発明の方法、組成物、使用及び他の態様に関して様々な用語を使用する。かかる用語には、特に指示されない限り、本発明が関係する技術分野におけるその通常の意味が与えられるものとする。他の具体的に定義される用語は、本明細書に提供される定義と矛盾しない方法で解釈されるものとする。
本発明を実施するために、本明細書に記載されるものと同様の又は均等な任意の方法及び材料を使用し得ることは、当業者に明らかである。
【0031】
本発明の方法に使用される従来技術を実行する方法は、当業者に明らかであろう。分子生物学、生化学、計算機化学、細胞培養、組換えDNA、バイオインフォマティクス、ゲノミクス、シーケンシング及び関連する分野における従来技術の実施は、当業者に周知であり、例えば以下の参考文献で考察されている:Sambrook et al.Molecular Cloning.A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989;Ausubel et al.Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York,1987及び定期更新;及びシリーズMethods in Enzymology,Academic Press,San Diego。
【0032】
単数形の用語「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その」は、文脈上特に明確に指示されない限り、複数の指示対象を含む。従って、例えば、「細胞」という表現には、2つ以上の細胞の組み合わせが含まれる等である。このように、不定冠詞「1つの(a)」又は「1つの(an)」は、通常、「少なくとも1つ」を意味する。
【0033】
用語「及び/又は」は、述べられている場合の1つ以上が単独で起こることも、又は述べられている場合の少なくとも1つとの組み合わせ、最大で述べられている場合の全てとの組み合わせで起こることもあるような状況を指す。
【0034】
本明細書で使用されるとき、用語「約」は、小さいばらつきを表現し、且つそれを考慮するために使用される。例えば、この用語は、±(+又は-)10%以下、例えば±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下又は±0.05%以下を指し得る。加えて、本明細書では、量、比及び他の数値が範囲の形式で提示される。かかる範囲の形式は、簡便さ且つ簡潔さのために使用され、範囲の限界値として明示的に指定されている数値を含むが、その範囲内に包含されるあらゆる個々の数値又は部分的範囲も、あたかも各数値及び部分的範囲が明示的に指定されているかのように含むものと柔軟に理解されなければならないことが理解されるべきである。例えば、約1~約200の範囲にある比は、約1及び約200という明示的に記載されている限界値を含むが、約2、約3及び約4などの個々の比並びに約10~約50、約20~約100などの部分的範囲も含むものと理解されなければならない。
【0035】
用語「含む」は、包含的なオープンエンド形式であり、排他的ではないと解釈される。具体的には、この用語及びその変化形は、指定されている特徴、工程又は成分が包含されることを意味する。これらの用語は、他の特徴、工程又は成分の存在を除外するものと解釈されてはならない。
【0036】
用語「タンパク質」又は「ポリペプチド」は、同義的に使用され、具体的な作用様式、サイズ、三次元構造又は起源に関係なく、アミノ酸の鎖からなる分子を指す。このように、タンパク質の「断片」又は「一部分」は、なおも「タンパク質」と称することができる。「単離されたタンパク質」は、もはやその天然の環境にない、例えばインビトロにあるか、又は組換え細菌若しくは植物宿主細胞にあるタンパク質を指して使用される。
【0037】
「植物体」は、全植物体を指すか、又は植物体から入手可能な組織若しくは器官(例えば、花粉、種子、配偶子、根、葉、花、花芽、葯、果実等)など、植物体の一部並びにこれらのいずれかの誘導体及び自殖又は交配によるかかる植物体に由来する後代を指すかのいずれかである。植物体の非限定的な例としては、アフリカナス、ニンニク、チョウセンアザミ、アスパラガス、オオムギ、テンサイ、ピーマン、ゴーヤ、ホオズキ、ユウガオ、キャベツ、キャノーラ、ニンジン、キャッサバ、カリフラワー、セロリ、チコリー、インゲンマメ、コーンサラダ、ワタ、キュウリ、ナス、エンダイブ、ウイキョウ、ガーキン、ブドウ、トウガラシ、レタス、トウモロコシ、メロン、アブラナ、オクラ、パセリ、パースニップ、ペピーノ、トウガラシ、ジャガイモ、カボチャ、ダイコン、コメ、トカドヘチマ、ロケット、ライムギ、ヘビウリ、モロコシ、ホウレンソウ、ヘチマ、カボチャ、サトウダイコン、サトウキビ、ヒマワリ、トマティーヨ、トマト、トマト台木、アブラナ属(Brassica)の野菜、スイカ、トウガン、コムギ及びズッキーニなど、作物植物体及び栽培植物体が挙げられる。
【0038】
「1つ又は複数の植物細胞」には、単離されているか、又は組織、器官若しくは生物体内にあるかのいずれかであるプロトプラスト、配偶子、浮遊培養物、小胞子、花粉粒等が含まれる。植物細胞は、例えば、カルス、分裂組織、植物器官又は外植体など、多細胞性構造体の一部であり得る。
【0039】
植物体/植物細胞の培養についての「同様の条件」とは、とりわけ、同様の温度、湿度、栄養及び光条件並びに同様の灌水及び明/暗周期の使用を意味する。
【0040】
用語「相同性」、「配列同一性」などは、本明細書では同義的に使用される。配列同一性は、本明細書では、2つ以上のアミノ酸(ポリペプチド又はタンパク質)配列又は2つ以上のヌクレオチド(ポリヌクレオチド)配列間の、それらの配列を比較することにより決定したときの関係として定義される。当技術分野では、「同一性」は、場合により、かかる配列の一続き間の一致性により決定したときのアミノ酸配列間又は核酸配列間の配列関連性の程度も意味する。2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、1つのポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存されたアミノ酸置換を第2のポリペプチドの配列と比較することにより決定される。「同一性」及び「類似性」は、公知の方法によって容易に計算することができる。配列同一性/類似性パーセンテージは、配列の全長にわたって決定することができる。
【0041】
本明細書で使用されるとき「配列同一性」は、2つの最適にアラインメントされたポリヌクレオチド又はペプチド配列が、構成要素、例えばヌクレオチド又はアミノ酸のアラインメントウィンドウ全体にわたってどの程度不変であるかを指す。試験配列と参照配列とのアラインメントされた区間についての「同一性率」とは、それらの2つのアラインメントされた配列が共有する同一の構成要素の数を、参照配列区間、即ち参照配列全体又は参照配列のうち、それより小さい決められた部分にある構成要素の総数で除したものである。「同一性パーセント」は、同一性率に100を乗じたものである。
【0042】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列の長さに応じて大域的又は局所的アラインメントアルゴリズムを使用したそれらの2つの配列のアラインメントにより決定することができる。同様の長さの配列は、好ましくは、配列を全長にわたって最適にアラインメントする大域的アラインメントアルゴリズム(例えば、ニードルマン・ブンシュ(Needleman Wunsch))を用いてアラインメントされる一方、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、局所的アラインメントアルゴリズム(例えば、スミス・ウォーターマン(Smith Waterman))を用いてアラインメントされる。従って、配列は、それらが(例えば、プログラムGAP又はBESTFITによりデフォルトパラメータを使用して最適にアラインメントしたとき)少なくともある一定の最小限の配列同一性パーセンテージ(本明細書に定義するとおり)を共有しているとき、「実質的に同一である」又は「本質的に類似している」と称し得る。配列同一性パーセントは、好ましくは、Sequence Analysis Software Package(商標)(バージョン10;Genetics Computer Group,Inc.,Madison,Wis.)の「BESTFIT」又は「GAP」プログラムを用いて決定される。GAPは、ニードルマン・ブンシュの大域的アラインメントアルゴリズム(Needleman and Wunsch,Journal of Molecular Biology 48:443-453,1970)を用いて、2つの配列をその長さ全体(完全長)にわたり、マッチ数が最大となり、且つギャップ数が最小となるようにしてアラインメントする。大域的アラインメントは、2つの配列が同様の長さを有するときの配列同一性の決定に好適に使用される。概して、ギャップ生成ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)のGAPデフォルトパラメータが使用される。ヌクレオチドについては、使用されるデフォルトスコアリング行列はnwsgapdnaであり、タンパク質については、デフォルトスコアリング行列はBlosum62である(Henikoff&Henikoff,1992,PNAS 89,915-919)。配列同一性パーセンテージについての配列アラインメント及びスコアは、Accelrys Inc.,9685 Scranton Road,San Diego,CA 92121-3752 USAから入手可能なGCG Wisconsin Package、バージョン10.3などのコンピュータプログラムを使用して決定するか、又はEmbossWIN、バージョン2.10.0のプログラム「needle」(大域的ニードルマン・ブンシュのアルゴリズムを使用する)又は「water」(局所的スミス・ウォーターマンアルゴリズムを使用する)などのオープンソースソフトウェアを使用して、上記のGAPと同じパラメータを使用するか、又はデフォルト設定を使用して決定し得る(「needle」及び「water」の両方について且つタンパク質及びDNAアラインメントの両方について、デフォルトギャップ開始ペナルティは、10.0であり、デフォルトギャップ伸長ペナルティは、0.5であり;デフォルトスコアリング行列は、タンパク質についてBlossum62及びDNAについてDNAFullである)。ギャップ伸長ペナルティは、0.5であり;デフォルトスコアリング行列は、タンパク質についてBlossum62及びDNAについてDNAFullである)。「BESTFIT」は、2つの配列間の最良の類似性区間の最適なアラインメントを実施し、スミス・ウォーターマンの局所的相同性アルゴリズムを用いてギャップを挿入してマッチ数を最大化する(Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics,2:482-489,1981、Smith et al.,Nucleic Acids Research 11:2205-2220,1983)。配列が実質的に異なる全長を有するとき、スミス・ウォーターマンのアルゴリズムを使用するものなど、局所的アラインメントが好ましい。
【0043】
配列同一性を決定する有用な方法については、Guide to Huge Computers,Martin J.Bishop,ed.,Academic Press,San Diego,1994及びCarillo,H.,and Lipton,D.,Applied Math(1988)48:1073にも開示されている。より詳細には、配列同一性を決定する好ましいコンピュータプログラムとしては、国立医学図書館(National Library of Medicine)、国立衛生研究所(National Institute of Health)、Bethesda、Md.20894の米国国立生物工学情報センター(National Center Biotechnology Information:NCBI)から公的に利用可能なBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)プログラムが挙げられ;BLAST Manual,Altschul et al.,NCBI,NLM,NIH;Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990)を参照されたく;バージョン2.0以上のBLASTプログラムでは、アラインメントへのギャップ(欠失及び挿入)の導入が可能であり;ペプチド配列については、配列同一性の決定にBLASTXを使用することができ;及びポリヌクレオチド配列については、配列同一性の決定にBLASTNを使用することができる。
【0044】
代わりに、類似性又は同一性パーセンテージは、FASTA、BLAST等などのアルゴリズムを使用して公開データベースを検索することにより決定され得る。このように、本発明の核酸及びタンパク質配列を更に「問い合わせ配列」として使用して公開データベースの検索を実施し、例えば他のファミリーメンバー又は関連する配列を同定することができる。かかる検索は、Altschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-10のBLASTn及びBLASTxプログラム(バージョン2.0)を使用して実施することができる。BLASTヌクレオチド検索は、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実施すると、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を入手することができる。BLASTタンパク質検索をBLASTxプログラム、スコア=50、ワード長=3で実施すると、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を入手することができる。比較目的でギャップ付きアラインメントを入手するには、Altschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402に記載されるとおりのギャップ付きBLASTを利用することができる。BLAST及びギャップ付きBLASTプログラムを利用するとき、それぞれのプログラム(例えば、BLASTx及びBLASTn)のデフォルトパラメータを使用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/の国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)のホームページを参照されたい。
【0045】
タンパク質のドメイン、配列又は位置に関連して、参照タンパク質の指示されるドメイン、配列又は位置に対して「~と類似している」とは、本明細書では、ニードルマン・ブンシュなど、本明細書に記載されるとおりのアラインメントアルゴリズムを使用してそのタンパク質を参照タンパク質とアラインメントしたときに、参照タンパク質の指示されるドメイン、配列又は位置とアラインメントするドメイン、配列又は位置と理解されるものとする。
【0046】
核酸のドメイン、配列又は位置に関連して、参照核酸の指示されるドメイン、配列又は位置に対して「~と類似している」とは、本明細書では、ニードルマン・ブンシュなど、本明細書に記載されるとおりのアラインメントアルゴリズムを使用してその核酸を参照核酸とアラインメントしたときに、参照核酸の指示されるドメイン、配列又は位置とアラインメントするドメイン、配列又は位置と理解されるものとする。
【0047】
本発明に係る「核酸」又は「ポリヌクレオチド」には、ピリミジン及びプリン塩基、好ましくは、それぞれシトシン、チミン及びウラシル並びにアデニン及びグアニンの任意のポリマー又はオリゴマーが含まれ得る(Albert L.Lehninger,Principles of Biochemistry,at 793-800(Worth Pub.1982)(これは、あらゆる目的で本明細書に全体として参照により援用される)を参照されたい)。本発明は、任意のデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド又は核酸成分並びにその任意の化学的変異体、例えばメチル化、ヒドロキシメチル化又はグリコシル化された形態のこれらの塩基などを企図する。ポリマー又はオリゴマーは、組成の点で異種又は同種であり得、天然に存在する供給源から単離され得るか、又は人工的若しくは合成的に作製され得る。加えて、核酸は、DNA(任意選択によりcDNA)若しくはRNA又はこれらの混合物であり得、ホモ二重鎖、ヘテロ二重鎖及びハイブリッド状態を含め、一本鎖又は二本鎖の形態で永久に又は過渡的に存在し得る。「単離された核酸」は、もはやその天然の環境にない、例えばインビトロにあるか又は組換え細菌若しくは植物細胞にある核酸を指して使用される。
【0048】
本発明の核酸及び/又はタンパク質は、組換え、合成又は人工核酸及び/又はタンパク質の少なくとも1つであり得る。
【0049】
用語「核酸コンストラクト」、「核酸ベクター」、「ベクター」及び「発現コンストラクト」は、本明細書では同義的に使用され、本明細書では、組換えDNA技術を用いた結果として生じる人為的に作り出された核酸分子として定義される。従って用語「核酸コンストラクト」及び「核酸ベクター」には、天然に存在する核酸分子は含まれないが、しかし、核酸コンストラクトは、天然に存在する核酸分子(の一部)を含み得る。
【0050】
ベクター骨格は、例えば、当技術分野で公知のとおり且つ本明細書の他の部分に記載されるとおりのバイナリー又はスーパーバイナリーベクター(例えば、米国特許第5,591,616号明細書、米国特許出願公開第2002138879号明細書及び国際公開第95/06722号パンフレットを参照されたい)、共組込みベクター又はT-DNAベクターであり、そこにキメラ遺伝子が組み込まれるか、又は好適な転写調節配列が既に存在する場合、所望の核酸配列(例えば、コード配列、アンチセンス又は逆方向反復配列)のみが転写調節配列の下流に組み込まれるものであり得る。ベクターは、例えば、選択可能マーカー、多重クローニング部位など、分子クローニングでのその使用を容易にするための更なる遺伝学的エレメントを含み得る。
【0051】
用語「遺伝子」は、好適な調節領域(例えば、プロモーター)に作動可能に連結された、細胞内でRNA分子(例えば、mRNA)に転写される領域(転写領域)を含むDNA断片を意味する。遺伝子は、通常、プロモーター、5’リーダー配列、コード領域及びポリアデニル化部位を含む3’非翻訳配列(3’末端)など、幾つかの作動可能に連結された断片を含むことになる。
【0052】
「遺伝子の発現」は、適切な調節領域、特にプロモーターに作動可能に連結されているDNA領域が、生物学的に活性なものであるRNA、例えば生物学的に活性なタンパク質又はペプチドに翻訳される能力を有するRNA又は例えば調節性非コード用RNAに転写される過程を指す。
【0053】
用語「作動可能に連結されている」は、機能的関係にあるポリヌクレオチドエレメントの連結を指す。核酸は、それが別の核酸配列と機能的関係に置かれているとき、「作動可能に連結されている」。例えば、プロモーター又はむしろ転写調節配列は、コード配列に対し、それがコード配列の転写に影響を及ぼす場合、作動可能に連結されている。作動可能に連結されているとは、それらの連結されているDNA配列が隣接していることを意味し得る。
【0054】
「プロモーター」は、1つ以上の核酸の転写を制御するように機能する核酸断片を指す。プロモーター断片は、好ましくは、遺伝子の転写開始部位から転写方向に対して上流(5’側)に位置し、構造的には、DNA依存性RNAポリメラーゼに対する結合部位、1つ又は複数の転写開始部位の存在によって同定され、更に、限定されないが、転写因子結合部位、抑制因子及び活性化因子タンパク質結合部位及び直接又は間接的にプロモーターからの転写量を調節する働きをする当業者に公知の任意の他のヌクレオチド配列を含め、任意の他のDNA配列を含み得る。
【0055】
「構成的」プロモーターは、ほとんどの組織においてほとんどの生理的及び発生的条件下で活性のあるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、生理的に調節される(例えば、ある種の化合物を外部から適用することによる)又は発生的に調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定の種類の組織又は細胞においてのみ活性がある。
【0056】
任意選択により、用語「プロモーター」には、5’UTR領域(5’非翻訳領域)も含まれ得る(例えば、本明細書ではプロモーターには、転写領域の翻訳開始コドンから上流にある1つ以上の部分が、転写及び/又は翻訳の調節においてその領域が役割を有し得ることに伴い含まれ得る)。
【0057】
「3’UTR」又は「3’非翻訳配列」(3’非翻訳領域又は3’末端と称されることも多い)は、遺伝子のコード配列の下流に見られる核酸配列であり、例えば転写終結部位及び(全てではないが、ほとんどの真核生物mRNAにおける)ポリアデニル化シグナル(例えば、AAUAAA又はその変異体など)を含むものを指す。転写終結後、mRNA転写物は、ポリアデニル化シグナルの下流で切断され得、且つ細胞質(翻訳が行われるところ)へのmRNAの輸送に関わるポリ(A)テールが付加され得る。
【0058】
用語「cDNA」は、相補的DNAを意味する。相補的DNAは、RNAから相補的DNA配列への逆転写によって作られる。cDNA配列は、このように、遺伝子から発現するRNA配列に対応する。ゲノムから発現するRNA配列は、スプライシングを受け得、即ちプレmRNAからスプライシングによりイントロンが除去され、エクソンが一体につなぎ合わされた後、それが細胞質においてタンパク質に翻訳されるため、cDNAの配列は、mRNAの配列に対応することが理解される。このように、cDNAは、あるタンパク質についての、つなぎ合わされたエクソンからなる完全なオープンリーディングフレームのみをコードし得る一方、ゲノムDNA配列は、イントロン配列が間に入ったエクソン配列を含み得るため、cDNA配列は、それが対応するゲノムDNA配列と同一でないこともあり得る。タンパク質をコードする遺伝子を遺伝子修飾するということは、このように、そのタンパク質をコードする配列を修飾することが関係し得るのみならず、ゲノムDNAのイントロン配列及び/又はその遺伝子の他の遺伝子調節配列を突然変異させることも関わり得る。
【0059】
用語「再生」は、本明細書では、単一の植物細胞、カルス、外植体、組織又は器官からの新規組織及び/又は新規器官の形成として定義される。再生経路は、体細胞胚形成又は器官形成であり得る。体細胞胚形成とは、本明細書では体細胞胚の形成と理解され、これを成長させると全植物体を再生することができる。器官形成とは、本明細書では、(未分化)細胞からの新規器官の形成と理解される。好ましくは、再生は、異所性頂端分裂組織形成、シュート再生及び根再生の少なくとも1つである。
【0060】
本明細書に定義するとおりの再生とは、好ましくは、少なくともデノボのシュート形成に関し得る。例えば、再生とは、(伸長した)胚軸外植体から(花序)シュートに向かう再生であり得る。
【0061】
再生には、単一の植物細胞又は例えばカルス、外植体、組織若しくは器官からの新規植物体の形成が更に含まれ得る。再生プロセスは、親組織から直接行うか、又は間接的に例えばカルスの形成を経て行うことができる。
【0062】
用語「再生を許容する条件」は、本明細書では、植物細胞又は組織が再生できる環境と理解される。かかる条件には、最低でも、好適な温度(即ち0℃~60℃)、栄養、昼夜周期、灌水並びに1つ以上の植物ホルモン及び/又は植物ホルモン様化合物が含まれる。更に、「再生を許容する最適条件」は、植物細胞の最大限の再生を許容するような環境条件である。
【0063】
用語「野生型」は、本発明との関連においてタンパク質又は核酸との組み合わせで使用されるとき、前記タンパク質又は核酸が、全体として自然界に存在するそれぞれアミノ酸又はヌクレオチド配列からなり、それ自体として自然界の生物から単離することができる、例えば標的又はランダム突然変異誘発などの修飾技法の結果でないことを意味する。野生型タンパク質は、特定の、例えばそれが自然界で存在するとおりの環境条件下において、少なくともある特定の発生段階で発現する。
【0064】
用語「内因性」は、本発明との関連においてタンパク質又は核酸と組み合わせて使用されるとき、前記タンパク質又は核酸がなおも植物体内に含まれる、即ちその天然の環境に存在することを意味する。多くの場合、内因性遺伝子は、植物体におけるその通常の遺伝的コンテクストで存在することになる。
【0065】
標的突然変異誘発とは、限定されないが、オリゴ特異的突然変異誘発、RNA誘導型エンドヌクレアーゼ(例えば、CRISPR技術)、TALEN又はジンクフィンガー技術など、特異的なヌクレオチド又は核酸配列を改変するように設計することのできる突然変異誘発である。
【0066】
用語「目的の配列」には、限定されないが、例えば遺伝子、遺伝子の一部又は遺伝子内にあるか若しくは遺伝子に隣接する非コード配列など、好ましくは細胞内に存在する任意の遺伝子配列が含まれる。目的の配列は、染色体、エピソーム、ミトコンドリア若しくは葉緑体ゲノムなどの細胞小器官ゲノム又は例えば感染ウイルスゲノム、プラスミド、エピソーム、トランスポゾンなど、遺伝子材料の主体とは独立して存在し得る遺伝子材料に存在し得る。目的の配列は、遺伝子のコード配列内、転写された非コード配列内、例えばリーダー配列、トレーラー配列又はイントロンなどにあり得る。前記目的の配列は、二本鎖又は一本鎖核酸分子に存在し得る。核酸配列は、好ましくは、二本鎖核酸分子に存在する。目的の配列は、核酸内にある任意の配列、例えば遺伝子、遺伝子複合体、遺伝子座、偽遺伝子、調節領域、高度に反復性の領域、多型領域又はこれらの一部分であり得る。目的の配列は、表現型又は疾患の指標である遺伝的又は後成的変異を含む領域でもあり得る。好ましくは、目的の配列は、二重鎖DNAの小さい又はより長い一続きの隣接するヌクレオチド(即ちポリヌクレオチド)であり、前記二重鎖DNAは、前記二重鎖DNAの相補鎖に、標的配列に相補的な配列を更に含む。
【0067】
「対照植物体」は、本明細書において参照されるとき、本発明の植物体と同じ種及び好ましくは同じ遺伝的背景の植物体、即ち本明細書に教示されるとおりの方法に供された植物体である。好ましくは、対照植物体は、推定上の供試植物体と比べると、対照植物体が本明細書に詳述されるとおりの標的修飾を有しない点のみが異なる。
【0068】
好ましくは、対照植物体は、本発明の方法に供される植物体と同じ条件下で成長する。
【0069】
本発明者らは、CRISPRタンパク質編集複合体が既存の分裂組織に入り込むことができ、そのため再生の必要性を回避し得る手法を発見した。この目的で、本発明者らは、可動性エレメントをガイドRNA並びにCRISPRタンパク質をコードする(m)RNAと融合し、それにより植物体輸送システムを通して移動し、分裂組織に入り込むことのできるRNA分子を作り出した。
【0070】
可動性RNAは、このように、植物組織における任意のランダムな好適な位置に導入することができる。こうしたRNA分子は、続いて維管束組織に取り込まれ、例えば分裂組織に向けて輸送される。代わりに又は加えて、こうしたRNA分子は、プラスモデスムを通して例えば分裂組織に向けて輸送される。標的細胞に到達すると、CRISPRタンパク質コード用RNAはCRISPRタンパク質に翻訳され、ガイドRNAと組み合わせになって必要な編集複合体を形成する。分裂組織に編集が作られると、それらの編集は後続の1つ又は複数の世代に受け継がれることになる。
【0071】
第1の態様において、従って、本発明は、CRISPRタンパク質をコードする配列と可動性エレメントとを含むか又はそれからなるコード用RNAに関する。このコード用RNAは合成又は組換えであり得る。コード用RNAは、CRISPRタンパク質をコードする配列と可動性エレメントとからなるか又はそれらを含む二本鎖又は一本鎖リボ核酸分子であり得る。任意選択により、コード用RNAは、ベクター、コンストラクト又は本明細書に定義するとおりの編集用RNAに含まれる。好ましくは、可動性エレメントはコード用RNAの細胞間移行を可能にする。好ましくは、CRISPRタンパク質は核局在化シグナルを含む。好ましくは、CRISPRタンパク質はCRISPRヌクレアーゼである。
【0072】
細胞間移行とは、本明細書では、本明細書に定義するとおりのRNA分子など、分子の1つの細胞から別の細胞への長距離輸送と理解される。好ましい細胞間移動は、師部、木部及び/又はプラスモデスムを通したもの、好ましくは師部を通したものである。
【0073】
水及び無機栄養素は、植物体の根から木部を通して地上部に輸送される。師部は、例えばソース組織からシンク組織への光合成産物及び巨大分子の移動を支える。師部は、核のない生細胞である師要素が伴細胞に補助されたもので構成される。これらの師要素細胞が一体に積み重なって師管を形成し、それにより分子が植物体内を長距離にわたって速やかに流れることが可能になっている。タンパク質、RNA及びリボ核タンパク質複合体を含めた巨大分子は、師部流に見出されている。興味深いことに、師部樹液にはRNアーゼ活性は検出不能である。実際、様々なRNA種は師部を通して離れた組織に輸送されるものと見られる(Liu et al,Nat Plants.2018;4(11):869-878)。
【0074】
コード用RNA
コード用RNAは、第1の植物細胞に導入され得、可動性エレメントがコード用RNAを植物体の維管束組織内に導き入れる。コード用RNAは、維管束組織を通して別の第2の植物細胞に移動し、そこでコード用RNAからCRISPRタンパク質が翻訳される。代わりに又は加えて、コード用RNAはプラスモデスムを通る細胞間輸送を用いて別の第2の植物細胞に移動する。
【0075】
植物体の「維管束組織」という用語は当業者に周知であり、木部及び師部の両方を包含する。好ましい維管束組織は、師部である。このように、好ましくは、可動性エレメントは、RNAを植物体の師部に導き入れる。
【0076】
コード用RNAが第2の、即ち「標的」細胞に到達すると、CRISPRタンパク質が発現し、これはガイドRNAと複合体を形成すると、第2の細胞の標的配列を修飾することができる。
【0077】
コード用RNAの配列は、好ましくは、CRISPRタンパク質をコードする配列と可動性エレメントの配列とを少なくとも含む。コード用RNAは、追加の配列を含み得る。非限定的な例として、CRISPRタンパク質コード配列には、5’-UTR及び3’-UTRの少なくとも一方が隣接し得る。コード用RNAは、限定されないが、コード用RNAからのCRISPRタンパク質の翻訳を増大させる又はそれに役立つ1つ以上の配列など、追加の配列を含み得る。コード用RNAは、翻訳の開始に役立つ及び/又は終結に役立つ配列を含み得る。CRISPRタンパク質コード配列は、その野生型3’-UTR及び/又は野生型5’-UTR配列を含み得る。加えて又は代わりに、CRISPRタンパク質コード配列は、その後ろに例えばTリピート配列が続く。
【0078】
好ましくは、CRISRタンパク質をコードする配列は、植物細胞での発現に最適化され、即ち植物細胞での発現にコドン最適化される。加えて又は代わりに、CRISPRタンパク質をコードする配列は、イントロン配列を含み得る。好ましくは、CRISPRタンパク質をコードする配列は、イントロン配列を欠いている。
【0079】
コード用RNAは、好ましくは、可動性エレメントとCRISPRタンパク質をコードする配列とを少なくとも含む。コード用RNAは、単一のCRISPRタンパク質コード配列及び/又は単一の可動性エレメントを含み得る。代わりに、コード用RNAは、複数のCRISPRタンパク質コード配列及び/又は複数の可動性エレメントを含み得る。コード用RNAは、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれを超えるCRISPRタンパク質コード配列及び/又は2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれを超える可動性エレメントを含み得る。好ましくは、コード用RNAは、CRISPRタンパク質をコードする配列に隣接する少なくとも2つの可動性エレメントを含む。
【0080】
コード用RNAは、2種類以上の異なるタンパク質のコード配列、限定されないが、2、3、4、5、6種又はそれを超える異なるタンパク質のコード配列などを含み得る。非限定的な例として、コード用RNAは、1つ以上のCRISPRタンパク質コード配列と、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする配列など、1つ以上のレポータータンパク質コード配列とを含み得る。
【0081】
可動性エレメント
本発明において使用されるとおりの可動性エレメントは、好ましくは、本明細書に定義するとおりのコード用RNA、編集用RNA及びガイド用RNAの少なくとも1つに含まれるエレメントである。
【0082】
編集用RNAとは、本明細書では、第1のエレメントが本明細書に定義するとおりのコード用RNAであり、且つ第2のエレメントがガイドRNAである2つのエレメントを含むと理解されるべきである。任意選択により、第2のエレメントは、本明細書に定義するとおりのガイド用RNAである。編集用RNAは、合成又は組換えであり得る。編集用RNAは、コード用RNA及びガイドRNAからなるか又はそれらを含む二本鎖又は一本鎖リボ核酸分子であり得る。任意選択により、編集用RNAは、ベクター又はコンストラクトに含まれる。
【0083】
ガイド用RNAとは、本明細書では、可動性エレメント及びガイドRNAを含むか又はそれらからなると理解されるものとする。ガイド用RNAは、合成又は組換えであり得る。ガイド用RNAは、ガイドRNA及び可動性エレメントからなるか又はそれらを含む二本鎖又は一本鎖リボ核酸分子であり得る。任意選択により、ガイド用RNAは、ベクター、コンストラクト又は編集用RNAに含まれる。任意選択により、編集用RNAがコード用RNAとガイド用RNAとを含む。
【0084】
RNA分子の細胞間移行を生じさせる任意の可動性エレメントが、本発明での使用に好適となる。可動性エレメントは、RNA分子を第1の「産生」細胞から植物体の維管束組織に且つ維管束組織から第2の「標的」細胞に移行させることができる。可動性エレメントは、好ましくは、RNA分子を植物体の木部及び/又は師部、好ましくは師部に移行させる。
【0085】
代わりに又は加えて、可動性エレメントは、プラスモデスムを通した細胞間輸送を用いてRNA分子を第2の「標的」植物細胞に移行させることができる。
【0086】
RNA分子を分裂組織、根組織及び/又は葉などの特定の植物組織に輸送することのできる、当技術分野で公知の可動性RNAエレメントがある。好ましくは、可動性エレメントはRNA分子を分裂組織に移行させる。しかしながら、本発明は、RNA分子を分裂組織に移行させる可動性エレメントに限定されない。非限定的な例として、可動性エレメントは、加えて又は代わりに、RNA分子を植物体の配偶子、葉及び/又は花に移行させる。修飾を含む細胞は、続いて単離され、新規の植物体に再生され得る。
【0087】
好ましくは、可動性エレメントは、RNA分子を分裂組織細胞に移行させる能力を有する。本発明における使用のための可動性エレメントは、このように好ましくはRNA分子を第1の「産生」細胞から第2の「標的」細胞に移行させ、第2の細胞は、好ましくは、分裂組織細胞である。興味深いことに、可動性RNAエレメントは植物輸送タンパク質によって認識されるため、そうした可動性エレメントと結び付いているRNAは輸送時に分解から確実に保護されることが以前示されている(Ham et al,2009,Plant Cell(2009);21(1):197-215)。
【0088】
分裂組織は、細胞分裂能力のある未分化細胞を含む組織である。こうした細胞は全能性であり、植物体に存在する他の全ての組織及び器官に発生することができる:根分裂組織細胞は根器官を形成し、茎分裂組織細胞は茎器官を形成する。可動性エレメントは、好ましくはRNA分子を分裂組織細胞に移行させ、分裂組織細胞は、好ましくは、頂端分裂組織細胞、介在分裂組織細胞及び花分裂組織細胞の少なくとも1つである。好ましくは、可動性エレメントはRNA分子を頂端分裂組織細胞に移行させる。頂端分裂組織細胞は、好ましくは茎頂分裂組織細胞又は根端分裂組織細胞である。好ましくは、可動性エレメントはRNA分子を茎頂分裂組織細胞(SAM)に移行させる。茎頂分裂組織は、全ての地上にある器官、限定されないが、葉及び花などの供給源である。茎頂分裂組織は、植物体におけるほとんどの胚発生の部位でもある。分裂組織細胞、好ましくは茎頂分裂組織細胞は、卵細胞又は花粉へと発生し得る。本発明における使用のための可動性エレメントは、好ましくはRNA分子を分裂組織細胞、好ましくは茎頂分裂組織細胞に移行させ、茎頂分裂組織細胞は、好ましくは、卵細胞及び/又は花粉へと発生する。本明細書では、語句「可動性エレメントは、~を移行させる」は、語句「可動性エレメントは、移行を可能にする」と同義的に使用し得ることが理解される。
【0089】
好ましくは、本発明のコード用RNAは可動性エレメントを含み、可動性エレメントは、分裂組織細胞への細胞間移行を可能にする。好ましくは、本発明のコード用RNAは、茎頂分裂組織細胞への移行を可能にする可動性エレメントを含む。本発明のRNA分子が第2の細胞に移行する結果、第2の細胞に標的ゲノム修飾が生じる。非限定的な例では、標的ゲノム修飾を含む標的細胞は、卵細胞及び/又は花粉に発生する茎頂分裂組織細胞であり、このようにして卵細胞及び/又は花粉が標的ゲノム修飾を含み、それが次世代に受け継がれる。
【0090】
本発明における使用のための1つ又は複数の可動性エレメントは、CRISPRタンパク質をコードする配列の5’側及び/又は3’側に位置し得る。加えて又は代わりに、可動性エレメントは、ガイドRNAの5’側及び/又は3’側に位置し得る。
【0091】
当業者は、コード用RNA並びに任意選択によりガイドRNA及び/又は編集用RNAの細胞間移行を可能にする可動性エレメントであればいずれでも、本発明での使用に好適となり得ることを理解する。可動性エレメントは、転移RNA(tRNA)及び遺伝子転写物の少なくとも1つ又はその機能性断片であり得る。かかる可動性エレメントの例は、例えば、Zhang W,et al(2016)tRNA-Related Sequences Trigger Systemic mRNA Transport in Plants,Plant Cell.doi:10.1105/tpc.15.01056及びEllison EE et al,(2020)Multiplexed heritable gene editing using RNA viruses and mobile single guide RNAs.Nat Plants.doi:10.1038/s41477-020-0670-yに開示されている。
【0092】
tRNAは、tRNA様構造体であり得る。好ましくは、tRNA又はtRNA様構造体は、tRNAAla、tRNAArg、tRNAAsn、tRNAAsp、tRNACys、tRNAGln、tRNAGlu、tRNAGly、tRNAHis、tRNAIle、tRNALeu、tRNALys、tRNAMet、tRNAphe、tRNAPro、tRNASer、tRNAThr、tRNATrp、tRNATyr及びtRNAValからなる群から選択される。代わりに、tRNA様構造体は、tRNAAla、tRNAArg、tRNAAsn、tRNAAsp、tRNACys、tRNAGln、tRNAGlu、tRNAGly、tRNAHis、tRNAIle、tRNALeu、tRNALys、tRNAMet、tRNAphe、tRNAPro、tRNASer、tRNAThr、tRNATrp、tRNATyr及びtRNAValからなる群から選択することができ、tRNA様構造体は、Dステム-ループ、D及びTステム-ループ並びにD及びAステム-ループの少なくとも1つを欠いている。好ましくは、tRNA又はtRNA様構造体は、tRNAArg、tRNAGlu、tRNAGly、tRNALys、tRNAMet及びtRNAThrからなる群から選択される。代わりに、tRNA様構造体は、tRNAArg、tRNAGlu、tRNAGly、tRNALys、tRNAMet及びtRNAThrからなる群から選択することができ、tRNA様構造体は、Dステム-ループ、D及びTステム-ループ並びにD及びAステム-ループの少なくとも1つを欠いている。
【0093】
tRNA又はtRNA様構造体は、切断可能な可動性エレメントとして機能し得る。従ってある実施形態において、本明細書に定義するとおりのtRNA又はtRNA様構造体は、このように本明細書に定義するとおりの可動性エレメント並びに本明細書に定義するとおりの切断可能な配列として機能する。
【0094】
本発明における使用のためのtRNA又はtRNA様構造体は、可動性エレメント並びに切断可能な配列として機能する能力、即ち切断可能な可動性エレメントとして機能する能力を有する天然に存在するtRNAであり得る。任意の天然に存在する植物tRNAが、切断可能な配列として機能する能力を有し得る。従って可動性エレメントとして機能する任意のtRNA又はtRNA様構造体が、加えて切断可能な配列として機能することができ、例えば切断可能な可動性エレメントとして機能する。当業者は、どうすればかかる植物tRNA又はtRNA様構造体の配列を簡単に入手できるかを理解している。
【0095】
天然に存在するtRNAは、RNアーゼP及びRNアーゼZの少なくとも一方による切断の認識部位を含み得る。天然によるtRNAは、好ましくは3’末端及び/又は5’末端又はそのすぐ近くにリーダー配列AACAAAを含み得る。リーダー配列は、可動性エレメントのプロセシング又は「切断」を可能にし得る。好ましくは、tRNAは、tRNAの5’末端又はそのすぐ近くにリーダー配列AACAAAを含む。好適なtRNA切断可能エレメントについては、例えば、Xie et al(“Boosting CRISPR/Cas9 multiplex editing capability with the endogenous tRNA-processing system”,2015,Proc Natl Acad Sci USA;112(11):3570-5)(これは、参照により本明細書に援用される)に記載されている。これらの切断可能なtRNA配列は、このように本明細書に定義するとおりの可動性エレメントとしても加えて機能し得る。好ましい切断可能なtRNAは、tRNAGlyである。
【0096】
代わりに又は加えて、本明細書に定義するとおりのtRNA又はtRNA様構造体は、切断可能な配列としても加えて機能するように修飾することができる。tRNA又はtRNA様構造体は、RNアーゼP及びRNアーゼZの少なくとも一方による切断の認識部位を含むように修飾し得る。好ましくは、tRNA又はtRNA様構造体は、好ましくは3’末端及び/又は5’末端又はそのすぐ近くにリーダー配列AACAAAを含むように修飾される。好ましくは、tRNAは、tRNAの5’末端又はそのすぐ近くにリーダー配列AACAAAを含む。
【0097】
切断可能な可動性エレメントを含むコード用RNA、ガイド用RNA及び/又は編集用RNAは、好ましくは、初めに移行した後、第2の、即ち「標的」細胞で切断される。切断可能な可動性エレメントは、コード用RNA内、前記コード用RNAの3’末端及び/又は5’末端又はそのすぐ近くに位置し得る。切断可能な可動性エレメントは、ガイド用RNA内で、前記ガイド用RNAの3’末端及び/又は5’末端又はそのすぐ近くに位置し得る。任意選択により、切断可能な可動性エレメントは、本明細書に定義するとおりのガイド用RNAに含まれる2つ以上のガイドRNA間に位置し得る。切断可能な可動性エレメントは、編集用RNA内で、編集用RNAの3’末端及び/又は5’末端又はそのすぐ近くに位置し得る。非限定的な例として、切断可能な可動性エレメントは、編集用RNA内に含まれるガイドRNA、任意選択によりガイド用RNAと、コード用RNAとの間に位置し得る。加えて又は代わりに、切断可能な可動性エレメントは、本明細書に定義するとおりのガイド用RNAの1つ以上のガイドRNA間に位置し得る。
【0098】
可動性エレメントは、遺伝子転写物又はその機能性断片であり得る。好ましくは、遺伝子転写物は、FT、GAI、SP2G、SP3D、SP5G、SP9D、CEN様タンパク質1、FT及びTFのタンパク質MOTHER 1、開花遺伝子座T-a及び開花遺伝子座T-b、PP16-1、GAIP、スケアクロウ様(SCL14P)、シュートメリステムレス(STMP)、エチレン応答因子(ERFP)及びMyb(MybP)からなる群から選択される遺伝子の転写物である。遺伝子転写物は、天然に存在する遺伝子転写物、又は突然変異体、又はトランケート型遺伝子転写物であり得る。好ましくは、可動性エレメントは遺伝子転写物であり、遺伝子転写物は、FT、突然変異体FT及びトランケート型FTの少なくとも1つである。遺伝子転写物は、天然に存在する遺伝子転写物であり得、例えば、転写物は、表1に列挙されるとおりの転写物又はそのホモログ若しくはオルソログである。
【0099】
遺伝子転写物又はその機能性断片は、tRNA様構造体(TLS)モチーフ及びホスホチロシン結合(PTB)モチーフの少なくとも1つを含み得る。
【0100】
遺伝子転写物又はその機能性断片は、tRNA様構造体(TLS)モチーフを含み得る。こうした構造体は、当技術分野では、植物体におけるRNA分子の全身輸送を惹起することが公知である(Zhang et al,Plant Cell.2016;28(6):1237-49。かかる可動性転写物の例が、Zhang et al supra,supplemental dataset 1-3(これらの転写物は、参照により本明細書に援用される)に列挙されている。可動性エレメントは、2シストロン性mRNA:tRNA遺伝子転写物であり得る。
【0101】
代わりに又は加えて、遺伝子転写物又はその機能性断片は、ホスホチロシン結合(PTB)モチーフを含み得る。非限定的な例として、セイヨウカボチャ(Cucurbita maxima)栽培品種Big Maxからの遺伝子:PP16-1、GAIP、スケアクロウ様(SCL14P)、シュートメリステムレス(STMP)、エチレン応答因子(ERFP)、Myb(MybP)がPTB結合モチーフを含み、当技術分野において、可動性であり、カボチャ師部樹液に存在することが示された(Ham et al,supra)。
【0102】
【表1】
【0103】
本発明における使用のための可動性エレメントは、配列番号1~16のいずれか1つと少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性及び/又は配列番号1~16及び28のいずれか1つと少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有し得る。可動性エレメントは、配列番号1~16のいずれか1つの機能性断片及び/又は配列番号1~16及び28のいずれか1つの機能性断片であり得る。
【0104】
CRISPRタンパク質
コード用RNAは、好ましくは、可動性エレメントに加えて、CRISPRタンパク質をコードする配列を含む。CRISPRタンパク質をコードする配列は、本明細書に定義するとおりの可動性エレメントの3’側又は5’側に位置し得る。好ましくはCRISPRタンパク質のコドン配列は、植物細胞での発現に最適化される。
【0105】
CRISPRタンパク質は、好ましくは、CRISPRヌクレアーゼ、CRISPRニッカーゼ及びCRISPRデアミナーゼの少なくとも1つである。好ましくは、CRISPRタンパク質は、CRISPRヌクレアーゼである。
【0106】
コード用RNAによってコードされるCRISPRタンパク質は、当技術分野で公知の任意の好適なCRISPRタンパク質であり得る。好ましくは、コード用RNAによってコードされるCRISPRタンパク質は、発現したCRISPRタンパク質を植物細胞の核に導く核局在化シグナル(NLS)を含む。NLSは、CRISPRタンパク質のC末端及び/又はN末端に位置し得る。公知の核局在化シグナルであればいずれでも、本発明での使用に好適であり得る。好ましい核局在化シグナルとしては、限定されないが、SV40ラージT抗原のNLS MEDPTMAPKKKRKV(配列番号17)、単節型NLS PKKKRKV(配列番号18)及びヌクレオプラスミンのNLS KRPAATKKAGQAKKKK(配列番号19)が挙げられる。CRISPRタンパク質は、2つ以上の核局在化シグナルを例えばN末端に1つ以上及びC末端に1つ以上含み得る。CRISPRタンパク質は、2つ以上の異なる核局在化シグナルを含み得、例えばC末端のNLSがN末端のNLSと異なり得る。
【0107】
CRISPRヌクレアーゼは、ヌクレアーゼドメインと、ガイドRNAと相互作用する少なくとも1つのドメインとを含む。ガイドRNAと複合体化すると、CRISPRタンパク質複合体はガイドRNAによって特異的な核酸配列に導かれる。ガイドRNAはCRISPRヌクレアーゼと相互作用するとともに、標的特異的核酸配列とも相互作用し、そのため、CRISPRヌクレアーゼは、標的核酸配列を含む部位にガイド配列を介して導かれると、標的部位に二本鎖切断を導入することが可能になる。
【0108】
CRISPRタンパク質がCRISPRヌクレアーゼである場合、ヌクレアーゼの両方のドメインに触媒活性があり、このタンパク質は、標的部位に二本鎖切断を導入することが可能である。CRISPRタンパク質がCRISPRニッカーゼである場合、ヌクレアーゼの一方のドメインに触媒活性があって、一方のドメインには触媒活性がなく、このタンパク質は標的部位に一本鎖切断を導入することが可能である。
【0109】
当業者は、ガイドRNAがCRISPRヌクレアーゼ又はCRISPRニッカーゼと組み合わせになったとき、核酸分子の所定の部位への一本鎖又は二本鎖切断の導入を達成するような方法でガイドRNAを設計するにはどうすればよいかを十分に分かっている。
【0110】
CRISPRタンパク質は、概して、6つの主要なタイプ(I~VI型)に分類することができ、これはコアエレメントの含有量及び配列に基づき更にサブタイプに細分される(Makarova et al,2011,Nat Rev Microbiol 9:467-77及びWright et al,2016,Cell 164(1-2):29-44)。一般に、CRISPRタンパク質複合体の2つの鍵となるエレメントは、CRISPRタンパク質及びガイドRNAである。
【0111】
II型CRISPRタンパク質複合体は、単一のタンパク質(約160KDa)であるシグネチャCas9タンパク質であり、crRNAを作成して二重鎖DNAを特異的に切断する能力を有する。Cas9タンパク質は、典型的には、アミノ末端近傍にあるRuvC様ヌクレアーゼドメインと、タンパク質の中央近傍にあるHNH(又はMcrA様)ヌクレアーゼドメインとの2つのヌクレアーゼドメインを含む。Cas9タンパク質の各ヌクレアーゼドメインは、二重らせんの一方の差を切断することに特化している(Jinek et al,2012,Science 337(6096):816-821)。Cas9タンパク質は、II型CRISPR/-CASシステムのCRISPRタンパク質の一例であり、crRNA及びトランス活性化crRNA(tracrRNA)と呼ばれる第2のRNAと組み合わせになると、エンドヌクレアーゼを形成する。crRNA及びtracrRNAは一緒になってガイドRNAとして機能する。CRISPRヌクレアーゼ複合体は、crRNAによって定義されるゲノム中の位置にDNA二本鎖切断(DSB)を導入する。Jinek et al.(2012,Science 337:816-820)は、crRNAの不可欠な部分とtracrRNAとを融合することによってもたらされた単鎖キメラガイドRNA(本明細書では「sgRNA」又は「シングルガイドRNA」として定義される)が、Cas9タンパク質との組み合わせで機能性のCRISPRヌクレアーゼ複合体を形成可能であったことを実証した。
【0112】
V型CRISPRタンパク質複合体、プレボテラ属(Prevotella)及びフランシセラ属(Francisella)からのクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート1又はCRISPR/Cpf1については記載されている。Cpf1遺伝子はCRISPR遺伝子座に関連し、crRNAがDNAを標的化するのに使用するエンドヌクレアーゼをコードする。Cpf1は、Cas9よりも小さいエンドヌクレアーゼであり、このことにより、CRISPR-Cas9システムの限界の一部が克服され得る。Cpf1は、tracrRNAを欠くシングルRNA誘導型エンドヌクレアーゼであり、これはTリッチプロトスペーサー隣接モチーフを利用する。Cpf1は、付着末端型のDNA二本鎖切断でDNAを切断する(Zetsche et al(2015)Cell 163(3):759-771)。V型CRISPRタンパク質システムには、好ましくは、Cpf1、C2c1及びC2c3の少なくとも1つが含まれる。
【0113】
本発明における使用のためのCRISPRタンパク質は、本明細書において上記に定義したとおりの任意のCRISPRタンパク質を含み得る。好ましくは、CRISPRタンパク質は、II型CRISPRタンパク質、好ましくはII型CRISPRヌクレアーゼ、例えばCas9(例えば、配列番号21によってコードされる配列番号20のタンパク質]又は配列番号22のタンパク質)又はV型CRISPRタンパク質、好ましくはV型CRISPRヌクレアーゼ、例えばCpf1(例えば、配列番号24によってコードされる配列番号23のタンパク質)又はMad7(例えば、配列番号25又は26のタンパク質)又はこれらに由来する、好ましくはその長さ全体にわたって前記タンパク質と少なくとも約70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有するタンパク質である。
【0114】
好ましくは、CRISPRタンパク質は、II型CRISPRヌクレアーゼ、好ましくはCas9ヌクレアーゼである。
【0115】
当業者は、CRISPRヌクレアーゼをコードする配列など、CRISPRタンパク質をコードする配列を含むコード用RNAをどのように見つけ出し、調製すればよいかを知っている。先行技術では、その設計及び使用に関して多くの報告が利用可能である。例えば、ガイドRNAの設計及びCASタンパク質(元は化膿レンサ球菌(S.pyogenes)から入手された)とのその組み合わせでの使用に関して、Haeussler et alによるレビュー(J Genet Genomics.(2016)43(5):239-50.doi:10.1016/j.jgg.2016.04.008.)を参照されたく、又はLee et al.によるレビュー(Plant Biotechnology Journal(2016)14(2)448-462)を参照されたい。
【0116】
一般に、Cas9などのCRISPRヌクレアーゼは、触媒活性のあるヌクレアーゼドメインを2つ含む。例えば、Cas9タンパク質は、RuvC様ヌクレアーゼドメインとHNH様ヌクレアーゼドメインとを含み得る。RuvC及びHNHドメインは一緒に働き、両方とも一本鎖を切断するものであり、DNAに二本鎖切断を作り出す(Jinek et al.,Science,337:816-821)。
【0117】
デッドCRISPRヌクレアーゼは、ヌクレアーゼドメインのいずれも切断活性を示さなくなるような修飾を含む。CRISPRニッカーゼは、ヌクレアーゼドメインの一方が突然変異していて、それがもはや機能しなくなっている(即ちヌクレアーゼ活性が存在しない)ようなCRISPRヌクレアーゼの変異体であり得る。一例は、D10A又はH840Aのいずれかの突然変異を有するSpCas9変異体である。好ましくは、コード用RNAによってコードされるヌクレアーゼは、デッドヌクレアーゼではない。
【0118】
好ましくは、CRISPRタンパク質は、ニッカーゼ又は(エンド)ヌクレアーゼのいずれかである。
【0119】
コード用RNAによってコードされるCRISPRタンパク質は、II型若しくはV型CRISPRタンパク質全体又はその変異体若しくは機能性断片を含み得るか又はそれからなり得る。好ましくは、かかる断片は、ガイドRNAに結合するが、例えばヌクレアーゼ活性に必要な1つ以上の残基を欠き得る。
【0120】
好ましくは、本発明のコード用RNAによってコードされるCRISPRタンパク質は、Cas9タンパク質である。Cas9タンパク質は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)(SpCas9;NCBI参照配列NC_017053.1;UniProtKB-Q99ZW2)、ゲオバチルス・サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)(UniProtKB-A0A178TEJ9)、コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)(NCBI参照:NC_015683.1、NC_017317.1);ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheria)(NCBI参照:NC_016782.1、NC_016786.1);スピロプラズマ・シルフィディコーラ(Spiroplasma syrphidicola)(NCBI参照:NC_021284.1);プレボテラ・インターメディア(Prevotella intermedia)(NCBI参照:NC_017861.1);スピロプラズマ・タイワネンス(Spiroplasma taiwanense)(NCBI参照:NC_021846.1);ストレプトコッカス・イニアエ(Streptococcus iniae)(NCBI参照:NC_021314.1);ベルリエラ・バルティカ(Belliella baltica)(NCBI参照:NC_018010.1);サイクロフレクサス・トークイス(Psychroflexus torquis)(NCBI参照:NC_018721.1);ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(NCBI参照:YP_820832.1);リステリア・イノキュア(Listeria innocua)(NCBI参照:NP_472073.1);カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(NCBI参照:YP_002344900.1);又は髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)(NCBI参照:YP_002342100.1)といった細菌に由来し得る。これらからの、SpCas9とのHNH若しくはRuvCドメイン不活性化ホモログを有するCas9変異体、例えばSpCas9_D10A若しくはSpCas9_H840A又はSpCas9タンパク質のD10若しくはH840に対応する位置に均等な置換を有することによってニッカーゼにされたCas9も包含される。
【0121】
コード用RNAによってコードされるCRISPRタンパク質は、Cpf1、例えばアシダミノコッカス属種(Acidaminococcus sp)からのCpf1;UniProtKB-U2UMQ6であり得るか又はそれに由来し得る。変異体は、RuvC又はNUCドメインがもはやヌクレアーゼ活性を有しないような、不活性化したRuvC又はNUCドメインを有するCpf1ニッカーゼであり得る。当業者は、部位特異的突然変異誘発、PCR媒介性突然変異誘発及び全遺伝子合成など、不活性化したRuvC又はNUCドメインなどの不活性化したヌクレアーゼを可能にする、当技術分野で利用可能な技法について十分に分かっている。NUCドメインが不活性化しているCpf1ニッカーゼの一例は、Cpf1 R1226Aである(Gao et al.Cell Research(2016)26:901-913、Yamano et al.Cell(2016)165(4):949-962を参照されたい)。この変異体では、NUCドメインにアルギニンからアラニンへの(R1226A)変換があり、これがNUCドメインを不活性化させる。
【0122】
コード用RNAによってコードされるCRISPRタンパク質は、Cas9のほぼ半分のサイズのヌクレアーゼであるCRISPR-CasΦであり得るか又はそれに由来し得る。CRISPR-CasΦは、例えば、Pausch et al(CRISPR-CasΦ from huge phages is a hypercompact genome editor,Science(2020);369(6501):333-337)に記載されるとおり、核酸の標的化及び切断に単一のcrRNAを使用する。
【0123】
コード用RNAによってコードされる活性な、部分的に不活性な又はデッド型のCRISPRタンパク質は、本明細書に詳述されるとおりの融合した機能性ドメインを、ガイドRNAが決定するとおりのDNAの特異的部位に誘導する働きをし得る。
【0124】
従って、CRISPRタンパク質は、機能性ドメインと融合され得る。任意選択により、かかる機能性ドメインは、後成的修飾のドメインであり、例えばヒストン修飾ドメインである。後成的修飾のドメインは、メチルトランスフェラーゼ、デメチラーゼ、デアセチラーゼ、メチラーゼ、デアセチラーゼ、デオキシゲナーゼ、グリコシラーゼ及びアセチラーゼからなる群から選択することができる(Cano-Rodriguez et al,Curr Genet Med Rep(2016)4:170-179)。メチルトランスフェラーゼは、G9a、Suv39h1、DNMT3、PRDM9及びDot1Lからなる群から選択され得る。デメチラーゼは、LSD1であり得る。デアセチラーゼは、SIRT6又はSIRT3であり得る。メチラーゼは、KYP、TgSET8及びNUEの少なくとも1つであり得る。デアセチラーゼは、HDAC8、RPD3、Sir2a及びSin3aからなる群から選択され得る。デオキシゲナーゼは、TET1、TET2及びTET3の少なくとも1つ、好ましくはTET1cdであり得る(Gallego-Bartolome J et al,Proc Natl Acad Sci USA.(2018);115(9):E2125-E2134)。グリコシラーゼは、TDGであり得る。アセチラーゼは、p300であり得る。
【0125】
任意選択により、機能性ドメインは、デアミナーゼ又はその機能性断片であり、アポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーデアミナーゼ、活性化誘導性シトシンデアミナーゼ(AID)、ACF1/ASEデアミナーゼ、アデニンデアミナーゼ及びADATファミリーデアミナーゼからなる群から選択される。代わりに又は加えて、デアミナーゼ又はその機能性断片は、ADAR1若しくはADAR2又はその変異体であり得る。
【0126】
シトシンデアミナーゼ酵素のアポリポタンパク質B mRNA編集複合体(APOBEC)ファミリーは、突然変異誘発を制御された有益な方法で開始させる働きをする11個のタンパク質を包含する。好ましくは、APOBECデアミナーゼは、APOBEC1、APOBEC2、APOBEC3A、APOBEC3B、APOBEC3C、APOBEC3D、APOBEC3F、APOBEC3G、APOBEC3H、APOBEC4及び活性化誘導性(シチジン)デアミナーゼからなる群から選択される。好ましくは、APOBECファミリーのシトシンデアミナーゼは、活性化誘導性シトシン(又はシチジン)デアミナーゼ(AID)又はアポリポタンパク質B編集複合体3(APOBEC3)である。好ましくは、CRISPRタンパク質に融合したデアミナーゼドメイン、APOBEC1ファミリーデアミナーゼである。
【0127】
CRISPRシステムヌクレアーゼと融合し得る別の例示的な好適な種類のデアミナーゼドメインは、アデニン又はアデノシンデアミナーゼ、例えばADATアデニンデアミナーゼファミリーである。更に、アデニンデアミナーゼは、好ましくはGaudelli et al.,2017(Gaudelli et al.2017 Nature 551:464-471)に記載されるとおり、TadA又はその変異体であり得る。更に、CRISPRシステムヌクレアーゼは、例えばADAR1又はADAR2に由来するデアミナーゼドメインと融合し得る。本発明のデアミナーゼドメインは、全デアミナーゼタンパク質又は触媒活性を有するその断片を含み得るか又はそれからなり得る。好ましくは、デアミナーゼドメインは、デアミナーゼ活性を有する。任意選択により、CRISPRタンパク質は、UDG阻害薬(UGI)ドメインと更に融合される。
【0128】
本発明のコード用RNAは、CRISPRタンパク質をコードする配列を2つ以上含み得る。任意選択により、コード用RNAは、同じCRISPRタンパク質を2倍以上の頻度でコードし得る。代わりに又は加えて、コード用RNAは、限定されないがCRISPR-Cas9とCRISPR-Cpf1など、2つ以上の異なるCRISPRタンパク質をコードする。
【0129】
ガイド用RNA
標的細胞では、コード用RNAが翻訳される結果、CRISPRタンパク質の発現が生じる。このCRISPRタンパク質がガイドRNAと会合し、ガイドRNAがCRISPRタンパク質を植物細胞のゲノム中の特異的な位置に誘導することにより、標的ゲノム修飾が実現する。
【0130】
ある態様において、従って、本発明は、本明細書に定義するとおりのコード用RNAと1つ以上のガイドRNAとの組み合わせにも関する。ガイドRNAは、ガイド用RNAに含まれ得る。ガイド用RNAは、ガイドRNAと可動性エレメントとを含む。任意選択により、ガイド用RNAは、2つ以上の可動性エレメント及び/又は2つ以上のガイドRNAを含む。従って、本発明は、本明細書に定義するとおりのコード用RNAと1つ以上のガイド用RNAとの組み合わせにも関する。
【0131】
ガイドRNAは、プロトスペーサー配列とも呼ばれる二本鎖核酸分子中の決められた標的部位に複合体を導く。ガイドRNAは、好ましくは、植物細胞のゲノム中で目的の配列の近くにあるか、そこにあるか又はその範囲内にあるプロトスペーサー配列にCRISPRタンパク質複合体を標的化させるための配列を含む。
【0132】
ガイドRNAは、シングルガイド(sg)RNA分子、又は別個の分子としてのcrRNAとtracrRNAとの組み合わせ(例えば、Cas9について)、又はcrRNA分子のみ(例えば、Cpf1及びCasΦの場合)であることができる。好ましくは、ガイドRNAは、シングルガイドRNA(例えば、Cas9について)又はcrRNAのみ(例えば、Cpf1及びCasΦの場合)の少なくとも1つを含む。
【0133】
本発明の方法における使用のためのCRISPRタンパク質複合体は、このようにガイドRNAを含み得、ガイドRNAは、crRNAとtracrRNAとの組み合わせを含み、好ましくは、CRISPRタンパク質は、Cas9である。crRNA及びtracrRNAは、好ましくは、組み合わさってsgRNA(シングルガイドRNA)になる。代わりに、本発明の方法における使用のためのCRISPRタンパク質複合体は、ガイドRNAを含み得、ガイドRNAは、crRNAを含み、好ましくは、CRISPRタンパク質は、Cpf1又はCasΦである。
【0134】
本発明の方法における使用のためのガイドRNAは、目的の配列、好ましくは本明細書に定義するとおりの目的の配列又はその近傍にハイブリダイズすることのできる配列を含み得る。ガイドRNAは、目的の配列中の配列と完全に相補的なヌクレオチド配列を含み得、即ち、目的の配列は、プロトスペーサー配列を含む。代わりに又は加えて、本発明の方法における使用のためのガイドRNAは、目的の配列の相補体又はその近傍にハイブリダイズすることのできる配列を含み得る。
【0135】
crRNAのうち、プロトスペーサー配列に相補的な部分は、プロトスペーサー配列とハイブリダイズして複合体化したCRISPRタンパク質の配列特異的結合を導くのに十分なプロトスペーサー配列との相補性を有するように設計される。プロトスペーサー配列は、好ましくはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列に隣接していて、このPAM配列が、RNA誘導型CRISPRタンパク質複合体のCRISPRタンパク質と相互作用し得る。例えば、CRISPRタンパク質が化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9である場合、PAM配列は、好ましくは、5’-NGG-3’(式中、Nは、T、G、A又はCのいずれか1つであり得る)である。
【0136】
当業者は、好ましくは任意の所望のプロトスペーサー配列と少なくとも部分的に相補的となって、それとハイブリダイズするように配列を操作することにより、crRNAが任意の所望の配列を標的化するように操作する能力を有する。好ましくは、crRNA配列の部分とその対応するプロトスペーサー配列との間の相補性は、好適なアラインメントアルゴリズムを用いて最適にアラインメントしたとき、少なくとも70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は100%である。crRNA配列のうち、プロトスペーサー配列と相補的な部分は、少なくとも約5、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、75ヌクレオチド長又はそれを超え得る。一部の好ましい実施形態では、標的配列と相補的な配列は、約75、50、45、40、35、30、25、20ヌクレオチド長未満である。好ましくは、標的配列と相補的な配列の長さは、少なくとも17ヌクレオチドである。好ましくは相補的なcrRNA配列は、約10~30ヌクレオチド長、約17~25ヌクレオチド長又は約15~21ヌクレオチド長である。好ましくは、crRNAのうち、プロトスペーサー配列と相補的な部分は、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25ヌクレオチド長、好ましくは20又は21ヌクレオチド、好ましくは20ヌクレオチドである。
【0137】
crRNA及びtracrRNAとして好適な分子又は配列は、当技術分野で周知である(例えば、国際公開第2013142578号パンフレット及びJinek et al.,Science(2012)337,816-821を参照されたい)。好ましくは、crRNAとtracrRNAとは一体に連結されて、シングルガイド(sg)RNAを形成する。crRNA及びtracrRNAは、当技術分野で公知の任意の従来方法を用いて連結することができ、好ましくは共有結合的に連結することができる。crRNAとtracrRNAとの共有結合性の連結については、例えば、Jinek et al.(前掲)及び国際公開第13/176772号パンフレット(これらは、参照により本明細書に援用される)に記載されている。crRNAとtracrRNAとは、例えばリンカーヌクレオチドを使用するか、又はcrRNAの3’末端とtracrRNAの5’末端との直接的な共有結合性の連結を介して共有結合的に連結することができる。
【0138】
ガイドRNAは、本明細書に定義するとおりの可動性エレメントに連結され得、これによりガイド用RNAが生じる。好ましくは、少なくともガイドRNAが本明細書に定義するとおりの編集用RNAの一部でないとき、ガイドRNAは、可動性エレメントに連結される。このように、ガイド用RNAは、可動性エレメントとガイドRNAとの2つのエレメントを含む。可動性エレメントは、ガイドRNAに直接連結され得る。代わりに、可動性エレメントとガイドRNAとの間に1つ以上のヌクレオチド、例えば約1~500、5~400、10~300、15~200又は20~100ヌクレオチドが位置し得る。可動性エレメントは、ガイドRNAの細胞間移行を可能にする。
【0139】
前記ガイド用RNAの可動性エレメントは、前記コード用RNAに存在する同じエレメント又は異なるエレメントであり得る。好ましくは、前記ガイド用RNAに存在する可動性エレメントと、前記コード用RNAに存在する可動性エレメントとは、両方のRNA分子を同じ標的組織に導く。好ましくは、前記ガイド用RNA分子に存在する可動性エレメントと、前記コード用RNA分子に存在する可動性エレメントとは、同じ可動性エレメント又は実質的に同じ可動性エレメントである。
【0140】
ガイド用RNAは、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれを超える可動性エレメントを含み得る。1つ又は複数の可動性エレメントは、sgRNAの上流及び/又は下流に位置し得る。加えて又は代わりに、1つ又は複数の可動性エレメントは、crRNAの上流及び/又は下流に位置し得る。
【0141】
任意選択により、本明細書に定義するとおりのガイド用RNAは、2つ以上のsgRNA及び/又は2つ以上のcrRNAを含み得、例えばそれにより2つ以上の異なる目的配列を標的化するか、又は同じ目的配列の2つ以上の位置を標的化する。
【0142】
ガイド用RNAは、2つ以上のガイドRNA配列を含み得る。ガイド用RNAは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれを超えるガイドRNA配列を含み得る。換言すれば、ガイド用RNAは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれを超えるシングルガイド(sg)RNA及び/又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個又はそれを超えるcrRNAを含み得る。
【0143】
ガイド用RNA中の異なるガイドRNA配列は、CRISPRタンパク質を同じ遺伝子中の異なる位置に導き得る。代わりに又は加えて、ガイド用RNA中の異なるガイド配列は、CRISPRタンパク質を植物細胞の異なる遺伝子に導き得る。
【0144】
ガイド用RNA中の異なるガイドRNAを分離する少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25ヌクレオチド又はそれを超える配列があり得る。任意選択により、ガイド用RNA中の異なるガイドRNAは、切断可能なスペーサー配列、好ましくは本明細書に定義するとおりの切断可能なスペーサー配列によって分離される。ガイド用RNAは、複数の可動性エレメントを更に含み得、好ましくは、それらは、ガイド用RNAにおいて、スペーサー配列の切断後、切断されたRNA分子が可動性エレメントに加えてガイドRNAをそれぞれ含むことになるような位置にある。
【0145】
編集用RNA
ガイドRNA及びコード用RNAは、シングル編集用RNAに含まれ得、この編集用RNAは、少なくとも以下のエレメント:
i)CRISPRタンパク質をコードする配列;
ii)第1の可動性エレメント;及び
iii)ガイドRNA
を含む。
【0146】
CRISPRタンパク質をコードする配列及び第1の可動性エレメントは、本明細書に定義するとおりのコード用RNAの一部であり得る。代わりに又は加えて、ガイドRNAは、本明細書に定義するとおりのガイド用RNAの一部であり得る。好ましくは、従って編集用RNAは、少なくとも以下の2つのエレメント:
i)本明細書に定義されるコード用RNA;及び
ii)ガイドRNA
を含む。
【0147】
任意選択により、編集用RNAは、以下の2つのエレメント:
i)本明細書に定義するコード用RNA;及び
ii)本明細書に定義するとおりのガイド用RNA
を含む。
【0148】
CRISPRタンパク質をコードする配列は、ガイドRNAの5’側に位置し得る。代わりに、ガイドRNAは、CRISPRタンパク質をコードする配列の5’側に位置し得る。CRISPRタンパク質をコードする配列は、ガイド用RNAの5’側に位置し得る。代わりに、ガイド用RNAは、CRISPRタンパク質をコードする配列の5’側に位置し得る。本明細書に詳述されるとおり、ガイド用RNAは、任意選択により切断可能なスペーサー配列及び/又は可動性エレメントで分離された、複数のガイドRNAを含み得る。CRISPRタンパク質をコードする配列は、好ましくはそれらの複数のガイドRNAの5’末端又は3’末端に位置する。
【0149】
編集用RNAは、好ましくは、少なくとも1つ以上の可動性エレメントを含む。これらの1つ以上の可動性エレメントは、編集用RNAの5’末端、編集用RNAの3’末端、CRISPRタンパク質をコードする配列とガイドRNAとの間及び/又はガイド用RNA内の複数のガイドRNA間に位置することができる。
【0150】
編集用RNAは、少なくとも2つの可動性エレメント、例えば第1及び第2の可動性エレメントを含み得る。好ましくは、第1及び第2の可動性エレメントの少なくとも一方が編集用RNAの5’末端又は3’末端に位置する。可動性エレメントの一方は、好ましくは、CRISPRタンパク質をコードする配列に直接隣接し、可動性エレメントの一方は、好ましくは、ガイドRNAに直接隣接する。従って可動性エレメントの一方は、CRISPRタンパク質をコードする配列の5’末端又は3’末端の近くにあって位置し、他方の可動性エレメントはガイドRNAの5’末端又は3’末端の近くに位置する。
【0151】
編集用RNAは、1つ以上の切断可能なスペーサー配列を更に含み得る。好ましくは、切断可能なスペーサーは、CRISPRタンパク質をコードする配列とガイドRNAとの間に位置する。好ましくは、スペーサー配列は、コード用RNAとガイドRNAとの間に位置する。
【0152】
編集用RNAが切断可能なスペーサー配列を含む場合、編集用RNAは、好ましくは、少なくとも2つの可動性エレメントも含む。好ましくは、これらの少なくとも2つの可動性エレメントは、RNA分子を同じ標的組織に移行させる。好ましくは、少なくとも2つの可動性エレメントは、同じ可動性エレメントであるか又は実質的に同じ可動性エレメントである。
【0153】
好ましくは、切断可能なスペーサー配列は、編集用RNAにおいて、切断を受けると別個のRNA分子が生じるような位置にあり、分離されたRNA分子は、各々が可動性エレメントを含む。非限定的な例として、編集用RNAが切断を受けると、本明細書に定義するとおりのコード用RNA分子と、本明細書に定義するとおりのガイド用RNA分子とが生じ、ガイド用RNA分子は、可動性エレメントを含む。
【0154】
編集用RNAが切断可能なスペーサー配列を含む場合、編集用RNAにおける種々のエレメントの向きは、以下のとおりであり得る:
a)第1の可動性エレメント;
b)CRISPRタンパク質をコードする配列;
c)切断可能なスペーサー;
d)第2の可動性エレメント;
e)ガイドRNA。
【0155】
当業者は、編集用RNAにおいて、限定されないが、
- b)、a)、c)、d)及びe);
- a)、b)、c)、e)及びd);
- b)a)、c)、e)及びd);
- a)、e)、c)、d)、b);
- e)、a)、c)、d)及びb);
- a)、e)、c)、b)及びd);及び
- e)a)、c)、b)及びd)
など、別の再編成が等しく好適であることを容易に理解する。
【0156】
ガイドRNA及び可動性エレメントは、まとめて、本明細書に定義するとおりの「ガイド用RNA」とアノテートすることもできる。当業者は、ガイド用RNAが、本明細書に詳述されるとおり1つ、2つ以上のガイドRNAと更なる可動性エレメントと切断可能なスペーサー配列とを含み得ることを理解する。編集用RNAにおいて切断可能な配列は、このようにガイド用RNAの2つ以上のガイドRNA間に位置し得る。
【0157】
編集用RNAは、第1の(産生)細胞において且つ/又は第2の(標的)細胞において切断され得る。切断可能なスペーサー配列は、植物細胞におけるRNA分子の切断に好適な当業者に公知の任意の配列であり得る。かかる切断可能なスペーサー配列の非限定的な例としては、限定されないが、以下の配列:
UCGCGGCCGGGUACGUGUUGAGC(配列番号27)
を有するスペーサーが挙げられる。
【0158】
切断可能な配列は、配列番号27と少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列であり得る。
【0159】
代わりに、切断可能なスペーサー配列は、任意の、好ましくは植物由来のtRNA配列であり得る。切断可能なtRNA配列は、天然に存在する配列であり得るか又は切断可能な配列を含むように修飾され得る。tRNA配列は、本明細書に定義するとおりのtRNA様構造体であり得る。切断可能なtRNA配列は、本明細書に定義するとおりの切断可能な可動性エレメントであり得る。切断可能なtRNA配列は、RNアーゼP及びRNアーゼZの少なくとも一方による切断の認識部位を含み得る。切断可能なtRNA配列は、好ましくは、3’及び/又は5’末端又はそのすぐ近くに、好ましくは5’末端又はそのすぐ近くにtRNAリーダー配列を有する。tRNAリーダー配列は、好ましくは、配列AACAAA又は前記配列と1若しくは2ヌクレオチドが異なる配列を含む。好適なtRNA切断可能エレメントについては、例えば、Xie et al(“Boosting CRISPR/Cas9 multiplex editing capability with the endogenous tRNA-processing system”,2015,Proc Natl Acad Sci USA;112(11):3570-5)(これは、参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0160】
1つ又は複数のRNAの化学修飾
本発明のRNAには、コード用RNA、ガイド用RNA及び編集用RNAの少なくとも1つが含まれる。
【0161】
本発明のRNAの少なくとも1つは、修飾されていない又は天然に存在するヌクレオチドを含み得るか又はそれからなり得る。任意選択により、本発明の方法において使用される全てのRNAが、修飾されていない又は天然に存在するヌクレオチドを含み得るか又はそれからなり得る。
【0162】
代わりに又は加えて、本発明のRNAの少なくとも1つは、修飾された又は天然に存在しないヌクレオチドを含み得るか又はそれからなり得る。任意選択により、本発明の全てのRNAが、修飾された又は天然に存在しないヌクレオチドを含み得るか又はそれからなり得る。かかる化学的に修飾されたヌクレオチドは、好ましくは、1つ又は複数のRNAを分解から保護する。任意選択により、RNAの少なくとも1つ、即ちコード用RNA、ガイド用RNA及び編集用RNAの少なくとも1つは、リボヌクレオチドと非リボヌクレオチドとを含む。RNAの少なくとも1つは、1つ以上のリボヌクレオチドと1つ以上のデオキシリボヌクレオチドとを含み得る。
【0163】
任意選択により、RNAの少なくとも1つ、即ちコード用RNA、ガイド用RNA及び編集用RNAの少なくとも1つは、ホスホロチオエート結合のあるヌクレオチド、リボース環の2’炭素と4’炭素との間にメチレン架橋を含むロックド核酸(LNA)ヌクレオチド、架橋型核酸(BNA)、2’-O-メチル類似体、2’-デオキシ類似体、2’-フルオロ類似体又はこれらの組み合わせなど、1つ以上の天然に存在しないヌクレオチド又はヌクレオチド類似体を含む。修飾ヌクレオチドは、限定されないが、2-アミノプリン、5-ブロモ-ウリジン、プソイドウリジン、イノシン及び7-メチルグアノシンからなる群から選択される修飾塩基を含み得る。
【0164】
RNAの少なくとも1つ、即ちコード用RNA、ガイド用RNA及び編集用RNAの少なくとも1つは、1つ以上の末端ヌクレオチドにおいて、2’-O-メチル(M)、2’-O-メチル3’ホスホロチオエート(MS)、2’-O-メチル3’チオPACE(ホスホノ酢酸塩)(MSP)又はこれらの組み合わせの取込みにより化学的に修飾され得る。かかる化学的に修飾されたRNAは、修飾されていないRNAと比較すると、安定性の増加及び/又は活性の増加を含み得る(Hendel et al,2015,Nat Biotechnol.33(9);985-989;Maruggi et al,Mol Ther,2019 Apr 10;27(4):757-772)。本発明のある実施形態では、操作されたRNA構造体に、デオキシリボヌクレオチド及び/又はヌクレオチド類似体が取り込まれ得る。
【0165】
植物体
任意の植物体が、本発明での使用に好適であり得る。本発明はこのように、いかなる具体的な植物体にも限定されることはない。好ましい植物体は、維管束系を有する植物、即ち維管束植物類である。
【0166】
本発明における使用のための植物体は、単子葉類又は双子葉類であり得る。植物体は作物又は穀物植物体であり得る。本発明における使用のための穀物植物体の非限定的な例は、キャッサバ、コーン、モロコシ、ダイズ、コムギ、オートムギ又はコメである。作物植物体とは、人間によって栽培及び育種される植物種である。作物植物体は、食用目的(例えば、圃場作物)又は観賞目的(例えば、切り花、芝生用の草等の生産)で栽培され得る。本明細書に定義するとおりの作物植物体には、燃料用の油、プラスチックポリマー、医薬製品、コルクなど、非食用製品を回収するための植物体も含まれる。
【0167】
植物体は、樹木又は生産植物体、果実又は野菜(例えば、柑橘類樹木、例えばオレンジ、グレープフルーツ又はレモン樹木;モモ又はネクタリン樹木;リンゴ又はセイヨウナシ樹木;アーモンド又はクルミ又はピスタチオ樹木などの堅果類樹木などの樹木;ナス属植物体;アブラナ属(Brassica)の植物体;アキノノゲシ属(Lactuca)の植物体;ホウレンソウ属(Spinacia)の植物体;トウガラシ属(Capsicum)の植物体;ナス属(Solanum)の植物体、好ましくはトマト(Solanum lycopersicum))でもあり得る。好ましくは、植物体は、ナス属(Solanum)の植物体である。本発明における使用のための好ましい植物体は、トマト(Solanum lycopersicum)植物体である。
【0168】
別の好ましい実施形態において、細胞は、アスパラガス、オオムギ、クロイチゴ、ブルーベリー、ブロッコリー、キャベツ、キャノーラ、ニンジン、キャッサバ、カリフラワー、チコリー、ココア、コーヒー、ワタ、キュウリ、ナス、ブドウ、トウガラシ、レタス、トウモロコシ、メロン、アブラナ、コショウ、ジャガイモ、カボチャ、ラズベリー、コメ、ライムギ、モロコシ、ホウレンソウ、カボチャ、イチゴ、サトウキビ、サトウダイコン、ヒマワリ、アマトウガラシ、タバコ、トマト、スイカ、コムギ及びズッキーニからなる群から選択される植物体から入手可能である。
【0169】
好ましくは、本発明における使用のための植物体は、ウイルス送達ベクターが到達できないか又は効率的に到達できない1つ以上の分裂組織を含む。好ましくは、本発明における使用のための植物体は、ウイルス送達ベクターが到達できないか又は効率的に到達できない1つ以上の茎頂分裂組織を含む。
【0170】
好ましくは、本発明における使用のための植物体は、ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)ではなく、好ましくはベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)GenBankアクセッションPRJNA170566ではない。
【0171】
送達ベクター
本明細書に定義するとおりのコード用RNA、ガイド用RNA及び編集用RNAの少なくとも1つは、1つ又は複数のRNAを植物体の維管束組織に直接注射することによって師部に導入し得る。この点で、コード用RNA、ガイド用RNA及び/又は編集用RNAは、例えばRNAの安定性を増加させるため、化学修飾を含み得る。
【0172】
代わりに又は加えて、本明細書に定義するとおりのコード用RNA、ガイド用RNA及び編集用RNAの少なくとも1つは、1つ又は複数の前記RNAを発現するベクターを植物細胞に導入することによって植物細胞内に導入される。従ってある態様において、本発明は、本発明のRNAを発現するベクターに関する。本発明はこのように、本明細書に定義するとおりのコード用RNAを発現するベクター、本明細書に定義するとおりのガイド用RNAを発現するベクター及び本明細書に定義するとおりの編集用RNAを発現するベクターの少なくとも1つに関する。本発明のベクターは、本発明のRNAの組み合わせを発現し得る。例えば、ベクターは、コード用RNA及びガイド用RNAを発現し得る。
【0173】
ベクターは、植物宿主細胞(第1の、産生細胞)で本発明のRNAを発現させるために使用され得る。本発明のRNAは、このように、ベクターに含まれる発現カセットから転写され得る。ベクター骨格は、例えば、発現カセットが組み込まれるか、又は好適な転写調節配列が既に存在する場合(例えば、(誘導性)プロモーター)、所望のヌクレオチド配列のみ(例えば、本発明のRNAの1つ以上をコードする配列)がその転写調節配列の下流に組み込まれるプラスミドであり得る。
【0174】
好適なプロモーター、好ましくは、編集用RNA、ガイドRNA及びコード用RNAの少なくとも1つの発現に好適なプロモーターとしては、限定されないが、ウイルス天然コートタンパク質プロモーターが挙げられる。本発明における使用のためのかかる天然コートタンパク質プロモーターは、例えば、タバコ茎えそウイルス(例えば、Deng X et al,2013,Modification of Tobacco rattle virus RNA1 to Serve as a VIGS Vector Reveals That the 29K Movement Protein Is an RNA Silencing Suppressor of the Virus,Mol Plant-Microbe Interact.doi:10.1094/MPMI-12-12-0280-Rに記載されるとおり)、エンドウマメ早期褐変ウイルス(例えば、MacFarlane SA and Popovich AH(2000)Efficient expression of foreign proteins in roots from tobravirus vectors.Virology.doi:10.1006/viro.1999.0098に記載されるとおり)、タバコ茎えそウイルス株TCM、PLB、PSG及びPRVのいずれか1つ(例えば、Goulden MG et al,1990,The complete nucleotide sequence of PEBV RNA2 reveals the presence of a novel open reading frame and provides insights into the structure of tobraviral subgenomic promoters.Nucleic Acids Res.doi:10.1093/nar/18.15.4507に記載されるとおり)に由来し得る。プロモーターは、PEBVプロモーター、U6プロモーター又はpol IIIプロモーターであり得る。
【0175】
本発明のベクターは、例えば、選択可能マーカー、多重クローニング部位など、分子クローニングにおけるその使用を促進する更なる遺伝子エレメントを含み得る。ベクター骨格は、例えば、当技術分野で公知のとおりのバイナリー又はスーパーバイナリーベクター(例えば、米国特許第5,591,616号明細書、米国特許出願公開第2002138879号明細書及び国際公開第95/06722号パンフレットを参照されたい)、共組換えベクター又はT-DNAベクターであり得る。
【0176】
本発明に係るベクターは、特に本発明のRNAの発現を植物細胞に導入するのに好適である。好ましい発現ベクターは、ネイキッドDNA、DNA複合体又はウイルスベクターである。
【0177】
好ましいネイキッドDNAは、線状又は環状核酸分子、例えばプラスミドである。プラスミドとは、標準的な分子クローニング技術によるなどして追加的なDNAセグメントを挿入することのできる環状二本鎖DNAループを指す。DNA複合体は、DNAを細胞に送達するのに好適な任意の担体に結合されたDNA分子であり得る。好ましい担体は、リポプレックス、リポソーム、ポリマーソーム、ポリプレックス、PEG、デンドリマー、無機ナノ粒子、ビロソーム及び細胞透過性ペプチドからなる群から選択される。
【0178】
ベクターは、好ましくはウイルスベクターである。ウイルスベクターは、DNAウイルス又はRNAウイルスであり得る。ウイルスベクターは、トバモウイルス、トブラウイルス、ポテックスウイルスジェミニウイルス、アルファモウイルス、ククモウイルス、ポティウイルス、トンブスウイルス、ホルデイウイルス又はヌクレオラブドウイルスであるか又はそれをベースとし得る。
【0179】
トバモウイルスのウイルスベクターは、タバコモザイクウイルス(TMV)及びサンヘンプモザイクウイルス(SHMV)の少なくとも1つであり得る。トブラウイルスのウイルスベクターは、タバコ茎えそウイルス(TRV)であり得る。ポテックスウイルスのウイルスベクターは、ジャガイモXウイルス(PVX)及びパパイヤモザイクポテックスウイルス(PapMV)の少なくとも1つであり得る。ジェミニウイルスのウイルスベクターは、コモウイルスササゲモザイクウイルス(CPMV)であり得る。好適なジェミニウイルスのウイルスベクターの更なる例としては、キャベツ巻葉ウイルス、トマトゴールデンモザイクウイルス、インゲン黄化萎縮ウイルス、アフリカキャッサバモザイクウイルス、コムギ萎縮ウイルス、オギ条斑マストレウイルス、タバコ黄化萎縮ウイルス、トマト黄化巻葉ウイルス、マメゴールデンモザイクウイルス、テンサイカーリートップウイルス、トウモロコシ条斑ウイルス及びトマトシュードカーリートップウイルスを挙げることができる。アルファモウイルスは、アルファルファモザイクウイルス(AMV)であり得る。ククモウイルスは、キュウリモザイクウイルス(CMV)であり得る。ポティウイルスは、プラムポックスウイルス(PPV)であり得る。トンブスウイルスは、トマトブッシースタントウイルス(TBSV)であり得る。ホルデイウイルスは、ムギ斑葉モザイクウイルスであり得る。ヌクレオラブドウイルスは、ソンクスイエローネットウイルス(SYNV)であり得る(例えば、Hefferon K,Plant Virus Expression Vectors:A Powerhouse for Global Health,Biomedicines.2017,5(3):44及びLico et al,Viral vectors for production of recombinant proteins in plants,J Cell Physiol,2008;216(2):366-77を参照されたい)。
【0180】
好ましくは、ウイルスベクターは、タバコ茎えそウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)、ソンクスイエローネットウイルス(SYNV)及びジャガイモXウイルス(PVX)からなる群から選択される。好ましくは、ウイルスベクターは、タバコ茎えそウイルス(TRV)、タバコモザイクウイルス(TMV)及びソンクスイエローネットウイルス(SYNV)の少なくとも1つである。
【0181】
本発明における使用のためのベクターは、好ましくは、機能性のコートタンパク質を発現しない。コートタンパク質をコードする配列は、機能性のコートタンパク質の発現を消失させるための突然変異を含み得る。この突然変異は、欠失、追加、置換又はこれらの組み合わせの少なくとも1つであり、好ましくは中途終止コドンを生じさせるものであり得る。好ましくは、コートタンパク質をコードする配列の少なくとも一部を欠失させる。好ましくは、ウイルスコートタンパク質をコードする配列の少なくとも2%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%をウイルスゲノムから欠失させる。
【0182】
このように、本発明の1つ又は複数のRNAを発現するウイルスベクターは、1つ以上の遺伝子の欠失を含み得、例えばそれによりウイルスのパッケージング容量が増加し、ゲノム安定性が向上し、且つ/又は遺伝子発現が増加し得る。好ましい実施形態において、ウイルスは、コートタンパク質(CP)をコードする遺伝子の少なくとも一部の突然変異、好ましくは欠失を含む。コートタンパク質をコードする配列の少なくとも一部の突然変異、好ましくは欠失を含む好ましいウイルスベクターは、トバモウイルスのウイルス又はトブラウイルスのウイルスである。好ましくはコートタンパク質の欠失を含むウイルスベクターは、トバモウイルス、好ましくはタバコモザイクウイルス(TMV)である。好ましいウイルスベクターは、例えば、Lindbo(TRBO:A High-Efficiency Tobacco Mosaic Virus RNA-Based Overexpression Vector,Plant Physiol,2007;145(4):1232-40)に記載されるとおりのTMV RNAベースの過剰発現ベクター(TRBO)である。
【0183】
植物細胞を例えばTRBO又は任意の他の好適なベクターに感染させると、好ましくは、第1の、産生植物細胞において本発明のRNAの高度な発現が生じる。本発明のRNAの高度な発現は、例えば、ウイルスコートタンパク質を欠失させること及び/又は強力なプロモーターの使用によって実現され得る。ウイルスベクターは、例えば、国際公開第2018/226972号パンフレット(これは、参照により本明細書に援用される)に記載されるとおりの自己複製性RNAであり得る。
【0184】
ベクター、好ましくはウイルスベクターは、最初にウイルスベクターを植物体の細胞に導入するため、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)に含まれ得る。感染後、植物細胞中のアグロバクテリウム属(Agrobacterium)からウイルスベクターが発現する。ウイルスベクターは、本発明の1つ以上のRNAを発現し得、加えて、周囲の植物細胞を複製し、且つ感染させ得る。ウイルスベクターは、例えば、コートタンパク質の欠失により修飾され得、それによりウイルスが全身に広がることが防止される。
【0185】
ある態様において、従って、本発明は、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)に関し、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)は、本明細書に定義するとおりのベクターを発現する。好ましくは、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)である。
【0186】
更なる態様において、本発明は、標的ゲノム修飾を有する植物細胞を作製する方法に関する。好ましくは、植物細胞は分裂組織細胞である。植物細胞は、好ましくは、シュート、根又は葉細胞である。好ましくは本発明の方法における使用のための植物細胞は細胞壁を含む。好ましくは、植物細胞は植物細胞プロトプラストではない。この方法は、好ましくは、
i)植物体を提供するステップ;及び
ii)植物体の細胞において、本明細書に定義するとおりのコード用RNA及びガイドRNAを発現させるステップ
を含む。任意選択により、ガイドRNAはガイド用RNAに含まれる。任意選択により、コード用RNA及びガイドRNA又はガイド用RNAは編集用RNAに含まれる。発現した1つ又は複数のRNAは、続いて第2の「標的」細胞に移行し得る。好ましくは、コード用RNA及びガイドRNAは分裂組織細胞に移行する。好ましくは、コード用RNA及びガイドRNAは茎頂分裂組織細胞に移行する。
【0187】
好ましくは、コード用RNAは編集用RNA内に含まれる。好ましくは、コード用RNA及びガイドRNAは、本明細書に定義するとおりの編集用RNA内に含まれる。代わりに、コード用RNA及びガイドRNAは別個の実体である。この実施形態において、ガイドRNAは、好ましくはガイド用RNAに含まれる。ある実施形態において、コード用RNA及びガイド用RNAは別個の実体である。
【0188】
好ましくは第2の「標的」細胞において、コード用RNAからCRISPRヌクレアーゼが発現し、ガイドRNAが、標的細胞における標的ゲノム修飾を発生させようとするゲノム中の位置にまで、発現したCRISPRヌクレアーゼを導く。好ましくは、標的細胞は分裂組織細胞である。従って好ましくは分裂組織細胞において、コード用RNAからCRISPRヌクレアーゼが発現し、ガイドRNAが、分裂組織細胞における標的ゲノム修飾を発生させようとするゲノム中の位置にまで、発現したCRISPRヌクレアーゼを導く。
【0189】
好ましくは、コード用RNA及びガイド用RNAは、植物細胞に本明細書に記載されるとおりのベクターをトランスフェクトすることにより、(第1の又は「標的」)細胞において別個の実体として又は編集用RNA内で発現する。好ましくは、植物細胞には、本明細書に記載されるとおりの編集用RNAを発現するベクター及び/又は第1及び第2のベクターの組み合わせがトランスフェクトされ、第1のベクターは、本明細書に記載されるとおりのコード用RNAを発現し、第2のベクターは、本明細書に定義するとおりのガイド用RNAを発現する。
【0190】
ベクターは、本明細書に定義するとおりのベクターを含むアグロバクテリウム属(Agrobacterium)を細胞にトランスフェクトすることによって植物細胞に導入され得る。
【0191】
標的ゲノム修飾を含む細胞を続いて発生させると、ゲノム修飾を含む新規の植物体になり得る。本発明の方法は、このように、標的ゲノム修飾を含む細胞から、好ましくは分裂組織細胞から植物体を発生させるステップを含み得る。
【0192】
標的ゲノム修飾を含む植物細胞から植物体を発生させることは、当技術分野で公知の任意の従来方法を用いて行うことができる。非限定的な例として、標的ゲノム修飾を含む細胞を発生させると、花粉及び/又は卵細胞になり、続いてそれを自家受粉させるか、又は同じ又は異なる標的ゲノム修飾を有する細胞を含む第2の植物体を受粉させる。
【0193】
代わりに、標的ゲノム修飾を有する分裂組織細胞は、例えば、裁頭後に再生によって植物体に発生され得る。非限定的な例として、植物体の1つ以上の植物細胞、好ましくは子葉の1つ以上の細胞を本明細書に定義するとおりの方法を用いてトランスフェクトした後、続いて好ましくは茎頂分裂組織を裁頭し得る。続いて新しく形成された分裂組織細胞(即ち「第2の」又は「標的」細胞)は、標的ゲノム修飾を含み得、それらの新しく形成された分裂組織細胞を再生させると、標的ゲノム修飾を有する細胞を含む植物体になり得る。代わりに、植物体は、初めに裁頭した後、続いて第1の「産生株」細胞をトランスフェクトし、続いて新しく形成された分裂組織細胞(「第2の」細胞)をゲノム修飾し得る。新しく形成された分裂組織細胞を再生すると、標的ゲノム修飾を有する細胞を含む植物体になり得る。
【0194】
本発明は、本発明の方法によって入手可能な植物細胞又は植物体に更に関する。好ましくは、植物細胞は分裂組織細胞である。好ましくは、植物細胞及び/又は植物体は標的ゲノム修飾を含む。本発明の植物体は、好ましくは、少なくとも、自然界に存在する植物体と比べると、それが1つの目的遺伝子に少なくとも1つの突然変異を含む点が異なる。好ましくは、本発明の植物体は、本質的に生物学的過程によって入手されるのでないか、又はそれによってのみ入手されるのでない。
【0195】
植物体の全て又は実質的に全ての細胞が標的ゲノム修飾を含み得る。代わりに、植物体の一部のみが標的ゲノム修飾を含む。好ましくは、植物体の1つ以上の分裂組織細胞が標的修飾を含む。
【0196】
本発明は、上記に幾つもの例示的な実施形態を参照して記載された。幾つかの部分又は要素の変形形態及び代替的な実装形態が可能であり、添付の特許請求の範囲に定義されるとおりの保護範囲内に含まれる。
【0197】
(図面の説明)
図1)FT配列を有する(A)及びFT配列を有しない(B)Cas9-GFP融合体を含むベクターの概略図である。
図2)FTシグナルあり又はなしのCas9-GFPコンストラクトを葉に浸潤させた植物体の茎頂におけるCas9及びGFPの、qPCRにより決定したときの平均発現(ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)チューブリンmRNAの発現に対する相対的な任意単位)である。
【実施例
【0198】
実施例1
本発明者らは、体細胞編集の誘導を目的として、植物体でCAS9及びガイドRNA配列を一過性に発現させるためのタバコ茎えそウイルス(TRV)の使用について調べた。2つのベクター:TRV1及びTRV2の一過性発現を通してTRV感染を生じさせる。配列はTRV2にクローニングすることができ、サブゲノムプロモーターを用いることにより、植物体においてそれらの配列の発現を生じさせる。この実験の目標は、2個(pKG11581)又は3個(pKG11580)のガイドRNA並びにCAS9を発現するTRV2プラスミドの感染を通した体細胞編集をトマト子葉に検出することであった。
【0199】
材料及び方法:
2つの配列の導入を通して2つのTRV2プラスミドを作製した。第1の配列には、2個(pKG11581)又は3個(pKG11580)のいずれかのガイドRNAが含まれた。第2の配列はNLS:Sp-CAS9の発現用であり、この配列をTRV2プラスミドにクローニングし、それによってTRVコートタンパク質をコードする配列を置き換えた。TRV1:TRV2(pKG11580又はpKG11581)を1:1比で含むアグロバクテリウム属(Agrobacterium)試料の混合物をトマト栽培品種Moneyberg(De Ruiter Seeds CV,The Netherlands)の実生(発芽数日後)の両方の子葉に浸潤させた。浸潤から2日後、葉柄試料を採取してCAS9発現を検出した。浸潤から7日後、2つの別個の遺伝子を標的化するガイドRNAによって作られる編集を検出するため、子葉試料を採取した。
【0200】
結果:
浸潤から2日後、Q-PCRでCAS9が検出された。浸潤から7日後、各実生につき1枚の子葉を回収し、凍結した。DNAを単離し、精製し、PCRを実施して標的配列の編集を検出した。対照試料には編集は見出されなかった。トランスフェクトした子葉には、様々な編集が検出された。従って、本発明者らは、CAS9が発現し、翻訳され、且つ機能性であり、TRVウイルスにおけるカーゴとしてのCAS9及びガイドRNAの配列で編集を作り出すことができると結論付ける。
【0201】
従って、TRV2プラスミドは、可動性RNAの送達に使用可能であると考えることができる。こうした可動性RNAは、次に、分裂組織細胞にCAS9編集複合体を発生させることが可能であろう。
【0202】
実施例2
例示的可動性エレメント(FT)がCAS9-GFP融合体mRNAの可動性に及ぼす影響を試験した。ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)(Herbalistics,Australia)を16時間明期(22℃)、8時間暗期(20℃)及び70%相対湿度で5週間成長させた。5つの個別の植物体は、CAS9-GFP-NLSインサート(図1B)を含むpBINplusベクターを保有するアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を浸潤させた葉であった。別の5つの個別の植物体は、FT可動性配列を含むCAS9-GFP-NLS-FTインサート(図1A)を含むpBINplusベクターを保有するA.ツメファシエンス(A.tumefaciens)を浸潤させた葉であった。浸潤から3日後、植物体毎に、いかなる認識できる葉もない2mm長さの茎頂試料を採取した。Maxwell RSC機器(Promega、AS4500)においてMaxwell(登録商標)RSC植物RNAキット(Promega、AS1500)でRNAを抽出した。RNAを測定し、QuantiTect(登録商標)逆転写キット(Qiagen、注文番号205311)で製造者の指示に従い各試料につき1μgのRNAをcDNAに合成した。全ての試料について、CAS9及びGFP転写物及び参照としてのベンサミアナタバコ(N.benthamiana)チューブリンmRNAを検出するための定量的PCR測定を行った(プライマーの一覧については、表2を参照されたい)。
【0203】
mRNAレベルは、ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)チューブリンmRNAの発現に対する相対的な任意単位で表した。平均CAS9及びGFP転写物レベルは、FTシグナルを欠くコンストラクトを浸潤させた植物体と比べて、FTシグナルを含むCAS9-GFPコンストラクトを浸潤させた植物体のシュートにおいてより高かった(図2)。結論として、FT配列は、CAS9-GFP-NLS-FTインサートを有するpBINplusベクターを浸潤させた葉である植物体の茎頂におけるCAS9転写物の量に正の影響を与える。
【0204】
トマト(Solanum lycopersicum)植物体が、前出の例にあるとおりのCAS9-GFP-NLS-FTコンストラクトを有するpBINplusベクターを保有する同じA.ツメファシエンス(A.tumefaciens)を浸潤させた葉であった関連する例において、完全長CAS9-GFP転写物のcDNAに対してqPCRを実施した。これは、表3に示すとおりのCAS9及びGFP特異的プライマーを使用することによって実現した。この結果、全転写物長さの78%を網羅する3881bpの断片が得られた。この転写物は、浸潤させた葉並びにSAMの両方で検出されたことから、葉に適用したとき、インタクトな転写物がSAMに到達することが確認された。
【0205】
【表2】
【0206】
【表3】
図1
図2
【配列表】
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【国際調査報告】