IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユーシービー バイオファルマ エスピーアールエルの特許一覧

<>
  • 特表-細胞培養方法 図1
  • 特表-細胞培養方法 図2
  • 特表-細胞培養方法 図3
  • 特表-細胞培養方法 図4
  • 特表-細胞培養方法 図5
  • 特表-細胞培養方法 図6
  • 特表-細胞培養方法 図7
  • 特表-細胞培養方法 図8
  • 特表-細胞培養方法 図9
  • 特表-細胞培養方法 図10
  • 特表-細胞培養方法 図11
  • 特表-細胞培養方法 図12
  • 特表-細胞培養方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-26
(54)【発明の名称】細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240318BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240318BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240318BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
C12N5/10
C12P21/02
C12P21/02 H
C12P21/02 K
C12P21/08
C12N1/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563022
(86)(22)【出願日】2022-04-13
(85)【翻訳文提出日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2022059903
(87)【国際公開番号】W WO2022219059
(87)【国際公開日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】2105424.2
(32)【優先日】2021-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベン ヤイア、バッセム
(72)【発明者】
【氏名】ピエノワール、アントワーヌ フィリペ トマ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC03
4B064CD13
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BB01
4B065BC01
4B065BD33
4B065CA25
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、組換えタンパク質、とくに抗体の製造の分野に属する。より具体的には、本発明は、商業規模製造中に収率を改善してタンパク質を発現させるための細胞培養方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養する方法:
培養培地中で前記哺乳動物細胞を培養する工程、及び
培養の1日目と7日目との間にシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程、
ただし、例外的なボーラスは、細胞培養物中に高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する。
【請求項2】
以下を含む、組換えタンパク質を産生する方法:
組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養培地中で培養する工程、及び
培養の1日目と7日目との間にシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程、
ただし、例外的なボーラスは、細胞培養物中に高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する。
【請求項3】
以下を含む、哺乳動物細胞が組換えタンパク質を発現する、培養中の哺乳動物細胞の比生産性(Qp)を増加させるための方法:
培養培地中で前記哺乳動物細胞を培養する工程、及び
培養の1日目と7日目との間にシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程、
ただし、例外的なボーラスは、細胞培養物中に高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する。
【請求項4】
例外的なボーラスの添加時に細胞培養物中に存在するCys、Trp及びTyrの総濃度がそれぞれ、
a.Cysについて少なくとも約2.45mM;
b.Trpについて少なくとも約1.50mM;及び
c.Tyrについて少なくとも約2.75mM
である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
例外的なボーラスのCys、Tyr及びTrpの濃度が、細胞培養物において高総濃度のCys、Tyr及びTrpに到達するように適合され、到達すべきCys、Tyr及びTrpの高濃度が、
a.Cysについて少なくとも約2.45mM;
b.Trpについて少なくとも約1.50mM;及び
c.Tyrについて少なくとも約2.75mM
からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
哺乳動物細胞が最大生細胞濃度(VCC)に達する日を決定するために少なくとも1回の初期実験を行う予備工程、及び/又は
例外的なボーラスによって添加されるCys、Trp及びTyrの量を決定するために、培養開始後の培養培地中のCys、Trp及びTyrの1日当たりの濃度を決定するために少なくとも1回の初期実験を行う予備工程
をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
細胞培養物中のCys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスの添加が、最大生細胞濃度(VCC)に達する日の前に行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞培養物中のCys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスの添加が、最大VCCに達する少なくとも1日前に行われる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
例外的なボーラスの添加時に細胞培養物中に存在するCys、Trp及びTyrの総濃度が、それぞれ少なくとも2.45mM、1.50mM及び2.75mMであり、前記総濃度が、最大VCCに達する少なくとも1日前に達する、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞培養物中のCys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスの添加が、最大VCCに達する日の1~7日前に行われる、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
例外的なボーラスにおいて、Cys、Tyr及びTrpが、
(i)以下のいずれかで同時に添加される:
(a)単一の溶液中で組み合わされて、
(b)Cys、Tyr及びTrpのうちの1つをそれぞれ含む個々の溶液中で;又は
(c)1つの溶液中の2つのアミノ酸と、残りのアミノ酸を含む第2の溶液との組み合わせ;又は
(ii)順序を問わず別々に添加される、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
培養培地中で哺乳動物細胞を培養する工程が産生段階中に行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
細胞培養がフェドバッチ方法に従って行われる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
Cys、Tyr及びTrpのいずれかの枯渇を防ぐために、例外的なボーラス添加の後に、培養全体にわたって、Cys、Tyr及びTrpのさらなる添加が行われる、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
主供給培地を細胞培養物に添加する工程をさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
主供給培地がCys、Tyr又はTrpを含まない、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
組換えタンパク質が、サイトカイン、成長因子、ホルモン、抗体又は融合タンパク質である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
例外的なボーラスによって細胞培養物中に提供されるCys、Tyr及びTrpの高濃度が、
a.Cysについて少なくとも約2.45mM;
b.Trpについて少なくとも約1.50mM;及び
c.Tyrについて少なくとも約2.75mM
からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質、とくに抗体の製造の分野に属する。より具体的には、本発明は、商業規模製造中に収率を改善してタンパク質を発現させるための細胞培養方法に関する。
【0002】
発明の背景
治療用抗体などの治療用タンパク質としての組換えタンパク質の開発には、工業規模での組換えタンパク質の生産が必要である。これを達成するために、原核生物系及び真核生物系の両方の異なる発現系を使用することができる。しかしながら、過去20年間にわたって、治療薬として承認されたタンパク質の大部分は哺乳動物細胞培養によって製造されており、そのような系は依然としてヒト使用のための大量の組換えタンパク質を産生するための好ましい発現系である。
【0003】
過去30年間にわたって、細胞培養培地の組成(例えば、Hecklau C.et al.,2016;Zang Li.et al.,2011を参照)及び操作条件の変更、並びに大型バイオリアクタの開発を通じて最適な細胞増殖に到達することに専念する研究に多くの焦点を当てて、細胞培養及び組換えタンパク質発現の基本パラメータを確立することに多くの努力が払われてきた。
【0004】
収率は依然として哺乳動物細胞培養の非常に重要な側面であるが、近年では、開発及び生産規模のすべての段階における製品品質及び方法の一貫性を制御することに焦点が移行している。哺乳動物細胞培養によって産生される治療用タンパク質は、様々なレベルの不均一性を示す。そのような不均一性には、異なるグリコシル化パターン、脱アミド化又は酸化に起因する差異、異なる電荷又はサイズ変異体が含まれるが、これらに限定されない。近年、治療用タンパク質を高濃度で製剤化することを必要とする治療用タンパク質の皮下送達への着実な傾向がある。高濃度は、凝集体レベルの増加に関連している(Purdie J.et al.,2016)。酸性種のレベルの増加などの電荷変異体の増加は、タンパク質の安定性に影響を及ぼし得る(Banks D.D.et al.,2009)。細胞培養条件、例えば培地の組成(Kshirsagar R.et al.,2012;米国特許出願公開第20130281355号;国際公開第2013158275号;Ben Yahia B.et al.,2016;Ben Yahia B.et al.,2016)、並びに、供給戦略(国際公開第2018219968号;Pan et al.,2017)、pH及び温度(米国特許第8765413号)を含む生育条件は、治療用タンパク質の収率及び品質属性に影響を及ぼすことが示されている。
【0005】
しかし、タンパク質の不均一性への影響を最小限に抑えながら、治療用タンパク質の産生のための収率を改善した細胞培養方法を提供する必要性が依然として存在する。
【0006】
発明の概要
第1の側面では、本発明は、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養する方法であって、培養培地中で前記哺乳動物細胞を培養する工程、及び培養の1日目と7日目との間にシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的な(exceptional、通常用いられるものではない)ボーラス(bolus)を添加する工程を含み、前記例外的なボーラスは細胞培養物中に高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する、方法を提供する。
【0007】
第2の側面では、本発明は、組換えタンパク質を産生する方法であって、前記組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養培地中で培養する工程、及び培養の1日目と7日目との間にシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程を含み、前記例外的なボーラスは、細胞培養物中に高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する、方法を提供する。
【0008】
第3の側面では、本発明は、哺乳動物細胞が組換えタンパク質を発現する、培養中の哺乳動物細胞の比生産性(Qp)を増加させるための方法であって、培養培地中で前記哺乳動物細胞を培養する工程、及び培養の1日目と7日目との間に(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程を含み、前記例外的なボーラスは細胞培養物中に高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する、方法を提供する。
【0009】
これらの側面のいずれか1つの状況では、例外的なボーラスの添加時に細胞培養物中に存在するCys、Trp及びTyrの総濃度は、それぞれ、Cysについて少なくとも約2.45mM;Trpについて少なくとも約1.50mM;及びTyrについて少なくとも約2.75mMである。
【0010】
これらの側面のいずれかのさらに好ましい実施形態では、Cys、Tyr及びTrpの総濃度は、最大生細胞濃度ピークに達する少なくとも1日前の細胞培養物中、少なくとも約2.45mM、少なくとも約2.75mM及び少なくとも約1.50mMにそれぞれ達するように制御される。
【0011】
好ましくは、これらの高濃度は、同時に又は連続的に(sequentially)達する。Cys、Tyr及びTrpは、同じ供給培地又は異なる供給培地の一部であり得る。
【0012】
定義
相容れない定義が存在する場合、本明細書の記載が、定義を含め、優先する。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本明細書における発明の対象が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、以下の定義は、本発明の理解を容易にするために提供される。
【0013】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、本明細書で「A及び/又はB」などの句で使用される「及び/又は」の語は、「A及びB」、「A又はB」、「A」、及び「B」を含むことを意図している。
【0014】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「細胞培養」又は「培養」の語は、インビトロ、すなわち生物又は組織の外側での細胞の成長及び増殖を意味する。哺乳動物細胞に適した培養条件は、Ozturk&Hu(2005)に教示されているように、当技術分野で公知である。哺乳動物細胞は、懸濁液中で、又は固体基質に付着しながら培養され得る。
【0015】
「細胞培養培地」、「培養培地」、「培地」の語及びそれらのあらゆる複数形は、あらゆる種類の細胞を培養することができるあらゆる培地を指す。「基礎培地」は、細胞代謝に有用なすべての必須成分を含有する細胞培養培地を指す。これには、例えば、アミノ酸、脂質、炭素源、ビタミン及びミネラル塩が含まれる。DMEM(ダルベッコス改変イーグル培地)、RPMI(ロズウェルパーク記念研究所培地)又は培地F12(ハムF12培地)は、市販の基礎培地の例である。他の適切な培地は、例えば、国際公開第98/08934号及び米国特許出願公開第2006/0148074号に記載されている(両方ともその全体が本明細書に組み込まれる)。さらに適切な市販の培地には、AmpliCHO CD培地、Dynamis(商標)培地、EX-CELL(登録商標)Advanced(商標)CHO Fed-batch System、CD FortiCHO(商標)培地、CP OptiCHO(商標)培地、Minimum Essential Media(MEM)、BalanCD(登録商標)CHO Growth A Medium、ActiPro(商標)培地、DMEM-ダルベッコ改変イーグル培地及びRPMI-1640培地が含まれるが、これらに限定されない。あるいは、前記基礎培地は、本明細書では「化学的に定義された培地」又は「化学的に定義された培養培地」ともいう独自の培地であってもよく、すべての成分が化学式に関して記載され得、特定の濃度で存在する。培養培地は、好ましくはタンパク質を含まず、血清を含まず、培養中の細胞の必要性に応じて、アミノ酸、塩、糖、ビタミン、ホルモン、成長因子などのあらゆる追加の化合物(複数可)を補充することができる。
【0016】
「供給培地」の語(及びその複数形)は、消費される栄養素を補充するためにフェドバッチモードで培養中に補充として使用される培地を指す。供給培地は、市販の供給培地又は独自の供給培地であり得る。適切な市販の供給培地には、Cell Boost(商標)サプリメント、EfficientFeed(商標)サプリメント、ExpiCHO(商標)Feedsが含まれるが、これらに限定されない。あるいは、前記供給培地は、本明細書では「定義された供給培地」又は「化学的に定義された供給培地」ともいう独自の供給培地であってもよく、すべての成分が化学式に関して記載され得、特定の濃度で存在する。供給培地は、典型的には、培養物の総体積を高レベルに増加させないために濃縮される。そのような供給培地は、細胞培養培地の成分の大部分を、例えば、基礎培地中のそれらの通常量の約1.5倍、2倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、12倍、14倍、16倍、20倍、30倍、50倍、100倍、200倍又はさらには500倍で含有することができる。独自の供給培地は、典型的には粉末である。市販の供給物は、液体又は粉末のいずれかである。供給物が既に液体形態である場合、それらはパンフレットに従ってそのまま使用される。粉末状の供給物は、使用前に、例えば水に可溶化する必要がある。それらは、所与の量の水(例えば、1Lの水中に100g、図1Aを参照)に可溶化されると考えられる。しかしながら、粉末中の供給物をさらに濃縮することができる。そのような場合、それらは、前記量に通常必要とされるよりも少ない液体を使用して可溶化される(例えば、1Lの水中に200g、図1Bを参照)。標準プロトコルに従って調製された液体市販供給物又は粉末中供給物は、本明細書では「通常の」供給物ともいう。濃縮方法に従って調製された液体市販供給物又は粉末中供給物は、本明細書では「濃縮供給物」又は「濃縮主供給物」という。
【0017】
本培養方法の全体を通して、異なる組成の異なる供給培地を添加することができる。例えば、3つの異なる供給培地:炭素源(例えば、グルコース)からなる1つの供給培地、消費される栄養素の大部分を含む1つの供給培地(この供給培地は主供給培地ともいう)、及び例えばこれらの栄養素が凝集/安定性の問題を呈する場合、いくつかのさらなる栄養素を含むさらなる供給培地を同じ方法中に使用することができる。
【0018】
「バイオリアクタ」の語は、細胞を培養することができるあらゆる系を指す。これには、フラスコ、静的フラスコ、スピナーフラスコ、チューブ、振盪管、振盪ボトル、ウェーブバッグ、バイオリアクタ、繊維バイオリアクタ、及びマイクロキャリアを含む又は含まない撹拌タンクバイオリアクタが含まれるが、これらに限定されない。あるいは、この用語は、マイクロタイタープレート、キャピラリー又はマルチウェルプレートも含む。例えば、1mL、5mL、0.01L、0.1L、1L、2L、5L、10L、50L、100L、500L、1000L(すなわち1KL)、2000L(すなわち2KL)、5000L(すなわち5KL)、10000L(すなわち10KL)、15000L(すなわち15KL)又は20000L(20KL)など、1ミリリットル(1mL、非常に小規模)~20000リットル(20000Lすなわち20KL、非常に大規模)のあらゆるサイズのバイオリアクタを使用することができる。
【0019】
「フェドバッチ培養」の語は、培地を除去することなく、消費される栄養素を補充するためのボーラス(典型的には数回のボーラス)又は連続供給培地(又は供給培地)補充がある、細胞を培養する方法を指す。供給物(複数可)は、例えば、毎日、2日に1回、3日に1回などの所定のスケジュールに従って添加することができる。あるいは、供給が連続的である場合、供給速度は培養全体にわたって変化させることができる。この細胞培養技術は、培地製剤、細胞株、及び他の細胞増殖条件に応じて、10×10細胞/ml超~30×10細胞/ml程度の高い細胞密度を得る可能性を有する。二相性培養条件は、様々な供給戦略及び培地製剤によって作成及び維持することができる。
【0020】
代替的に、灌流培養を使用することができる。灌流培養は、細胞培養物が新鮮な灌流供給培地を受け、同時に使用済み培地を除去するものである。灌流は、連続的、段階的、断続的、又はこれらのいずれか又はすべての組み合わせであり得る。灌流速度は、1日当たり作業容量未満~多くの作業容量であり得る。好ましくは、細胞は培養物中に保持され、除去された使用済み培地は、細胞を実質的に含まないか、又は培養物よりも有意に少ない細胞を有する。灌流は、遠心分離、沈降又は濾過を含むいくつかの細胞保持技術によって達成することができる(例えば、Voisard et al.,2003を参照)。本発明の方法(process)、方法(method)及び/又は細胞培養技術を使用する場合、哺乳動物細胞では、組換えタンパク質は一般に培養培地に直接分泌される。前記タンパク質が培地に分泌されると、目的のタンパク質の単離を開始し、精製及び製剤化する前であれば濃縮するために、そのような発現系からの上清を最初に清澄化することができる。
【0021】
本発明による「産生段階」の語は、細胞が組換えポリペプチドを発現する(すなわち産生する)場合の、組換えタンパク質を製造するための方法中の細胞培養のその段階を含む。産生段階は、所望の産物の力価が増加したときに始まり、細胞又は細胞培養液又は上清の採取で終わる。典型的には、産生段階の開始時に、細胞培養物をバイオリアクタなどの産生容器に移す。採取は、組換えタンパク質(組換え抗体など)を回収し、その後の工程で精製するために、細胞培養液を産生容器から取り出す工程である。
【0022】
「システイン」は、121.16g/molの分子量を有するアミノ酸である。Lエナンチオマーが好ましい(すなわち、L-システイン)。この用語はまた、そのあらゆる塩又は誘導体、例えば(限定されないが)システイン水和物、システイン二水和物、システイン塩酸塩、システイン二塩酸塩、システイン塩酸塩一水和物、システインS-硫酸塩(S-スルホシステインとしても知られる)、アセチルシステイン、N-アセチルシステインも包含する。あるいは、国際公開第2019106091号に開示されているあらゆるシステイン/シスチン類似体を使用することができる。
【0023】
「シスチン」は、240.3g/molの分子量を有するアミノ酸である。Lエナンチオマーが好ましい(すなわち、L-シスチン)。この用語はまた、そのあらゆる塩又は誘導体、例えば、シスチン塩酸塩、シスチン二塩酸塩、N,N’-ジアセチル-L-シスチン、N,N’-ジアセチル-L-シスチンジメチルエステル又はL-シスチンジメチルエステルも包含する。
【0024】
細胞培養培地中の「システイン」及び「シスチン」は一定の平衡状態にあり、2分子のシステインが酸化してシスチンの分子になり、これが還元されて2分子のシステインに戻る。この文書では、読みやすくするために主にシステイン(あるいはCys)というが、システインに限定されない。したがって、「Cys」の語は、システイン、シスチン、それらの塩、それらの誘導体又はそれらのあらゆる組み合わせを指す。例えば、「Cysについて約2.45mM」と言及される場合、当業者は、それが例えば約2.45mMのL-システイン、L-シスチン、それらの塩、それらの誘導体又はシステインとシスチンの組み合わせを包含することを理解する。g/Lで表す場合、「約2.45mMのCys」は、例えば約0.30g/LのL-システイン又は約0.60g/LのL-シスチンに相当する。
【0025】
本明細書で「Tyr」ともいう「チロシン」は、181.19g/molの分子量を有するアミノ酸である。Lエナンチオマーが好ましい(すなわち、L-チロシン)。この用語はまた、そのあらゆる塩又は誘導体、例えば(限定されないが)チロシン二ナトリウム塩、チロシン二ナトリウム水和物、チロシン二ナトリウム二水和物、N-アセチル-L-チロシン又はホスホチロシンナトリウムも包含する。g/Lで表される場合、「約2.75mMのTyr」は、例えば約0.50g/LのL-チロシンに相当する。
【0026】
本明細書で「Trp」ともいう「トリプトファン」は、204.23g/molの分子量を有するアミノ酸である。Lエナンチオマーが好ましい(すなわち、L-トリプトファン)。この用語はまた、そのあらゆる塩、例えば(限定されないが)トリプトファンナトリウムも包含する。g/Lで表される場合、「約1.50mMのTrp」は、例えば約0.30g/LのL-トリプトファンに対応する。
【0027】
Cys、Trp又はTyrのいずれか1つについての「高濃度」の語は、システイン(若しくはシスチン又はそのあらゆる塩)については2.0mM以上、Tyrについては1.7mM以上、又はTrpについては1mM以上の濃度を指す(例えば、Pan et al.,2017を参照されたい。)。
【0028】
本明細書で使用される場合、「細胞濃度」(「細胞密度」としても知られる)は、所与の体積の培養培地中の細胞の数を指す。
【0029】
「生細胞濃度」(又は「VCC」)の語は、所与の体積の培養培地中の生きている細胞の数を指す。これは、標準的な生存率アッセイによって決定される。当業者は、各特定の細胞株の最大VCCを決定する方法を知っていることを理解されたい:これは、典型的には、1回又は複数回の初期実験によって行われる。所与の条件下で所与のタンパク質を発現する1つの細胞株について最大VCCに達する日が分かれば、本発明による方法を設計することができる。すべての実験についてVCCを決定する必要はない。
【0030】
「IVCC」の語は、積分生細胞数を意味し、細胞培養成長曲線
【数1】

のもとで面積を見出すことによって決定することができる。
【0031】
「生存率」又は「細胞生存率」の語は、生細胞の総数と培養中の細胞の総数との間の比を指す。生存率は、典型的には、培養の開始と比較して60%の閾値を下回らない限り許容可能であるが、許容可能な閾値は、ケースバイケースで決定することができる。生存率は、採取の時期を決定するために使用されることが多い。例えば、フェドバッチ培養では、培養において生存率が少なくとも60%に達するか、又は約14日(典型的には14日+/-1日)後に採取を行うことができる。標準的な方法を使用して、例えば、VI-CELL(登録商標)XR自動細胞計数装置(Beckman-Coulter Inc.)の使用によって、細胞生存率又はVCCを決定することができる。
【0032】
「力価」の語は、溶液中の目的のタンパク質の濃度を指す。これは、例のセクションにおいて用いられるように、CEDEX又はプロテインA高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、Biacore C(登録商標)又はForteBIO Octet(登録商標)法を用いて、検出方法(比色、クロマトグラフィーなど)と組み合わせた段階希釈などの標準的な力価アッセイによって決定される。
【0033】
「比生産性」の語は、「qp」としても知られ、1日当たりの細胞当たり産生される目的のタンパク質の量を指す。
【0034】
「高力価」又は「より高い生産性」の語及びその等価物は、対照培養条件と比較した場合、力価又は生産性が少なくとも10%増加することを意味する。力価又は比生産性は、対照培養条件と比較して-10%~10%の範囲内にある場合に維持されていると見なされる。「低力価」又は「より低い生産性」の語及びその等価物は、対照培養条件と比較した場合、力価又は生産性が少なくとも10%減少することを意味する。
【0035】
本明細書で使用される「不均一性」の語は、同じ製造方法又は同じ製造バッチ内で産生された分子の集団における個々の分子、例えば組換えタンパク質間の違いを指す。不均一性は、例えばポリペプチドの翻訳後修飾又は転写若しくは翻訳中の誤組み込みに起因する組換えポリペプチドの不完全又は不均一な修飾に起因し得る。翻訳後修飾は、例えば、脱アミノ化反応及び/又は酸化反応及び/又は小分子の共有結合付加、例えば糖化反応及び/又は異性化反応及び/又は断片化反応及び/又は他の反応の結果であり得、糖化パターンの変動も含む。そのような不均一性の化学物理的発現は、限定されないが電荷変異体プロファイル、色又は色強度及び分子量プロファイルを含む、得られる組換えポリペプチド調製物における様々な特徴をもたらす。
【0036】
電荷不均一性の減少は、好ましくは、細胞培養物中で産生された組換えタンパク質の集団中の酸性ピークグループ(APG)種を測定することによって定義される。APG減少を測定する可能な方法は、画像化キャピラリー電気泳動(例えば、ProteinSimple iCE3)を介して、システイン/システイン類似体を含む又は含まない細胞培養培地中で産生された組換えタンパク質の酸性(酸性ピーク群のAPG)アイソフォームの相対的割合を決定することによるものであり、この組換えタンパク質は測定時に好ましくは精製される。組換えタンパク質のアイソフォームを測定する場合、APGの他に、塩基性アイソフォーム(塩基性ピーク群(BPG))及び主電荷種も測定され、主電荷種は、得ることが望まれる組換えタンパク質のアイソフォームを表す。APGが減少する場合、BPGの増加は実質的にないことが好ましい。好ましくは、APGが減少すると、主電荷種レベルが増加する。
【0037】
本明細書で使用される「タンパク質」の語は、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質を含み、2つ以上のアミノ酸残基を含む化合物を指す。本発明によるタンパク質には、サイトカイン、成長因子、ホルモン、融合タンパク質、抗体又はその断片が含まれるが、これらに限定されない。治療用タンパク質は、治療に使用することができるか、又は治療に使用されるタンパク質を指す。
【0038】
「組換えタンパク質」の語は、組換え技術によって産生されるタンパク質を意味する。組換え技術は、十分に当業者の知識の範囲内である(例えば、Sambrook et al.,1989、及びアップデートを参照)。
【0039】
本明細書で使用される「抗体」の語は、当技術分野で公知の組換え技術によって生成されるモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及び組換え抗体を含むが、これらに限定されない。「抗体」には、あらゆる種、とくに哺乳動物種の抗体;例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE、IgDを含むあらゆるアイソタイプのヒト抗体、及びIgGA1、IgGA2を含むこの基本構造の二量体として産生される抗体、又はIgMなどの五量体及びその改変変異体;例えば、チンパンジー、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザル由来の非ヒト霊長類抗体;例えばマウス又はラット由来の齧歯類抗体;ウサギ、ヤギ又はウマの抗体;ラクダ科抗体(例えば、Nanobodies(商標)などのラクダ又はラマからのもの)及びその誘導体;ニワトリ抗体などの鳥類の抗体;又はサメ抗体などの魚種の抗体が含まれる。「抗体」の語はまた、少なくとも1つの重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第1の部分が第1の種に由来し、重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第2の部分が第2の種に由来する「キメラ」抗体を指す。本明細書における目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザルなどの旧世界ザル)に由来する可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体に由来する配列を含むキメラ抗体である。大部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域からの残基が、所望の特異性、親和性及び活性を有する、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域[すなわち相補性決定領域(CDR)]からの残基で置き換えられたヒト抗体(レシピエント抗体)である。ほとんどの場合、CDR以外のヒト(レシピエント)抗体の残基;すなわち、フレームワーク領域(FR)において、対応する非ヒト残基によってさらに置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体には見られない残基を含み得る。これらの改変は、抗体特性をさらに改良するために行われる。ヒト化は、ヒトにおける非ヒト抗体の免疫原性を低下させ、したがって、ヒト疾患の処置への抗体の適用を容易にする。ヒト化抗体及びそれらを生成するためのいくつかの異なる技術は、当技術分野で周知である。「抗体」の語はまた、ヒト化の代替として生成することができるヒト抗体を指す。例えば、免疫化の際に内因性マウス抗体の産生の非存在下でヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を産生することが可能である。インビトロでヒト抗体/抗体断片を得るための他の方法は、ファージディスプレイ又はリボソームディスプレイ技術などのディスプレイ技術に基づいており、少なくとも部分的に人工的に又はドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから生成される組換えDNAライブラリーが使用される。ヒト抗体を生成するためのファージ及びリボソームディスプレイ技術は、当技術分野で周知である。ヒト抗体はまた、目的の抗原でエクスビボ免疫され、続いて融合されてハイブリドーマを生成し、次いでこれを最適なヒト抗体についてスクリーニングすることができる、単離されたヒトB細胞から生成され得る。「抗体」の語は、グリコシル化抗体と非グリコシル化抗体の両方を指す。さらに、本明細書で使用される「抗体」の語は、完全長抗体を指すだけでなく、抗体断片、より具体的にはその抗原結合断片も指す。抗体の断片は、当該分野で公知の少なくとも1つの重鎖又は軽鎖免疫グロブリンドメインを含み、1つ又は複数の抗原に結合する。本発明による抗体断片の例としては、Fab、改変Fab、Fab’、改変Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFv及びBis-scFv断片が挙げられる。前記断片はまた、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、単一ドメイン抗体(dAb)、例えばsdAb、VL、VH、VHH又はラクダ科抗体(例えばラクダ又はラマ由来、Nanobody(商標)など)及びVNAR断片であり得る。本発明による抗原結合断片はまた、1つ又は2つのscFv又はdsscFvに連結されたFabを含むことができ、各scFv又はdsscFvは同じ又は異なる標的に結合する(例えば、1つのscFv又はdsscFvは治療標的に結合し、1つのscFv又はdsscFvは例えばアルブミンに結合することによって半減期を延長する)。そのような抗体断片の例は、FabdsscFv(BYbe(登録商標)ともいう)又はFab-(dsscFv)2(TrYbe(登録商標)ともいう。例えば国際公開第2015197772号を参照)である。上で定義した抗体断片は、当技術分野で公知である。
【0040】
発明の詳細な説明
本開示は、哺乳動物細胞における組換えタンパク質の産生、及び組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞の培養のための方法に関する。とくに、本発明は、1)供給培地(feed medium)(又は供給培地(feed media))によってもたらされるシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の量並びに2)添加のタイミングを制御することによって、組換えタンパク質の品質に影響を与えることなく、細胞の比生産性を高め、生産収率を高めながら、細胞増殖を低下させるという驚くべき効果があるという本発明者らの知見に基づいている。とくに、電荷変異体、脱アミノ化変異体又は酸化種などの生成物関連変異体の形成は、本明細書に記載の方法の実施によって低減される。
【0041】
本明細書に記載の方法は、目的の組換えタンパク質の産生中の細胞培養物中のCys、Trp及びTyrの濃度の制御に依存する。実際、驚くべきことに、高い制御された濃度のCys、Tyr及びTrpを含む例外的なボーラス供給物をタイムライン様式で(例えば、培養開始後1日~7日及び/又はVCCに達すると予想される日の少なくとも1日前に)添加することによって、培養培地中のこれらのアミノ酸の各々のより高い濃度に到達し、培養中の細胞の特異的モノクローナル抗体生産性を増加させることが可能であることが分かった。
【0042】
本開示は、産生バイオリアクタ収率を最大化し、細胞増殖を最小化し、産生される組換えタンパク質の微小不均一性を最小化するために、これらのパラメータをどのように制御するかを記載する。本開示は、これらのパラメータが特許請求される範囲内で制御される方法(とくにフェドバッチ方法)の具体例を提供し、システイン、チロシン及びトリプトファンの可能な添加様式(例外的なボーラス及びそのタイミング対連続的/半連続的など)の具体例を提供する。
【0043】
一態様では、本発明は、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養する方法であって、培養培地中で前記哺乳動物細胞を培養する工程、及び培養の1日目と7日目との間にシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程を含み、前記例外的なボーラスは細胞培養物中に高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する、方法を提供する。
【0044】
別の態様では、本発明は、組換えタンパク質を産生する方法であって、前記組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養培地中で培養する工程、及び培養開始後1日目と7日目との間にシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程を含み、前記例外的なボーラスは、細胞培養物中に高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する、方法を提供する。
【0045】
さらなる態様では、哺乳動物細胞が組換えタンパク質を発現する、培養中の哺乳動物細胞の比生産性(Qp)を増加させるための方法であって、培養培地中で前記哺乳動物細胞を培養する工程、及び培養の1日目と7日目との間に(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程を含み、前記例外的なボーラスは細胞培養物中に高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する、方法が本明細書に記載される。
【0046】
本発明の内容全体との関連において、組換えタンパク質を産生するための方法、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養するための方法、又は培養中の哺乳動物細胞の比生産性を高めるための方法は、以下の主要な工程を含む:
i)哺乳動物細胞をバイオリアクタ(産生バイオリアクタなど)内の培養培地に接種する工程であって、培養培地が任意に初期量のシステイン/シスチン、チロシン及びトリプトファンを含む、工程
ii)組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養培地(細胞培養物ともいう)中で培養する工程、
iii)細胞培養物に、さらに以下を添加する工程:
a.培養の1日目と7日目との間に、細胞培養物において高濃度のシステイン、トリプトファン及びチロシンを提供する例外的なボーラス、
b.細胞培養物への一定間隔での主供給物、
c.細胞培養中のCys、Tyr及びTrpのいずれかの枯渇を防ぐためのシステイン、トリプトファン及びチロシンのさらなるボーラス(複数可)、
iv)任意に、細胞培養液(CCF)から組換えタンパク質を回収する工程。
【0047】
代替的に、組換えタンパク質を産生するための方法、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養するための方法、又は培養中の哺乳動物細胞の比生産性を高めるための方法は、以下の主要な工程を含む:
(i)哺乳動物細胞をバイオリアクタ(産生バイオリアクタなど)内の培養培地に接種する工程であって、培養培地が任意に初期量のシステイン/シスチン、チロシン及びトリプトファンを含む、工程、
(ii)フェドバッチ方法に従って培養物を産生段階まで進行させる工程であって、組換えタンパク質が、哺乳動物細胞によって生産され、前記産生段階の間、細胞培養物は、
a)培養の1日目と7日目との間に、システイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスが補充され、前記例外的なボーラスは、細胞培養物において高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する、
b)細胞培養物へ一定間隔で少なくとも1つの主供給培地が補充され、及び
c)細胞培養中のCys、Tyr及びTrpのいずれかの枯渇を防ぐために、システイン/シスチン、チロシン及びトリプトファンのうちの1つ又は複数の供給物がさらに供給され、
iii)任意に、細胞培養液(CCF)から組換えタンパク質を回収する工程。
【0048】
当業者は、「培養の1日目と7日目との間」の語が「培養開始後1日~7日」又はあるいは「バイオリアクタにおける哺乳動物細胞の接種後1日~7日」を意味することを理解するであろう。実際、培養の開始又は哺乳動物細胞がバイオリアクタに接種された日は0日目に対応する。当業者はまた、「培養の1日目と7日目との間」が、培養の1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目又は7日目のいずれかを意味することを理解するはずである。
【0049】
システイン/シスチン、チロシン及びトリプトファンは、同時に又は連続的に添加され得る。3つのアミノ酸が同時に添加される場合、それらは、(a)単一の溶液中にすべてが組み合わされたものとして、(b)それぞれがCys、Tyr又はTrpの1つを含む個々の溶液中に;又は(c)1つの溶液中の2つのアミノ酸と、残りのアミノ酸を含む第2の溶液との組み合わせとして提供され得る。アミノ酸を連続的に添加する場合、あらゆる順序で、好ましくは2時間のウインドウ期間内に添加することができる(例えば、CysをH0で添加する場合、TyrをH+1で添加し、TrpをH+2で添加することができ、又はTyrをH0で添加する場合、TrpをH+0.5で添加し、CysをH+1.5で添加することができる)。
【0050】
本発明全体の内容において、高濃度のCys、Tyr及びTrpは、Cys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスの添加時に細胞培養物において到達する。一側面では、例外的なボーラスの添加時に細胞培養物中に存在するCys、Trp及びTyrの総濃度は、それぞれ、
a.Cysについて少なくとも約2.45mM;
b.Trpについて少なくとも約1.50mM;及び
c.Tyrについて少なくとも約2.75mMである。
【0051】
あるいは、例外的なボーラスの添加時に細胞培養物中に存在するCys、Trp及びTyrの総濃度は、それぞれ、
a.Cysについて約2.45mM~約6.6mM;
b.Trpについて約1.50mM~約2.9mM;及び
c.Tyrについて約2.75mM~約6.2mMである。
【0052】
当業者は、例外的なボーラスの添加時に細胞培養物中のこれらの高い総濃度に達するために、例外的なボーラスのCys、Tyr及びTrpの濃度を適合させる方法を知っている。
【0053】
本発明による方法は、全体として、培養開始後の培養培地中のCys、Trp及びTyrの1日当たりの濃度を決定するために少なくとも1回の初期実験を実施する予備工程をさらに含むことができ、例外的なボーラスを添加する日に応じて、例外的なボーラスを介して添加されるCys、Trp及びTyrの量を決定する。この初期実験は、本発明による方法が行われるたびに繰り返す必要はないことを理解されたい。換言すれば、例外的なボーラスによって添加されるCys、Trp及びTyrの量が決定されると、少なくとも1つの初期実験において、所与の条件下で、1つの特定のクローンについて、本発明による方法を実施するたびにこれらの濃度を制御する必要はない。
【0054】
本発明による方法の内容において、全体として、高濃度のCys、Tyr及びTrpは、Cys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスの添加時に、最大VCCに達する日の前に(又は最大VCCに達すると予想される日の前に)細胞培養培地中で達することが好ましい。一側面では、最大VCCに達する日の前(又は最大VCCに達すると予想される日の前)の例外的なボーラスの添加時の細胞培養物中に存在するCys、Tyr及びTrpの総濃度は、Cysについて少なくとも約2.45mM;Trpについて少なくとも約1.50mM;及びTyrについて少なくとも約2.75mMからなる。別の側面では、最大VCCに達する日の前(又は最大VCCに達すると予想される日の前)の例外的なボーラスの添加時の細胞培養物中に存在するCys、Tyr及びTrpの総濃度は、Cysについて約2.45mM~約6.6mM;Tyrについて約2.75mM~約6.2mM;及びTrpについて約1.50mM~約2.9mM)からなる。特定の側面では、Cys、Tyr及びTrpの濃度は、最大VCCに達する(又は達すると予想される)少なくとも1日前に、細胞培養培地中でそれぞれ少なくとも約2.45mM、少なくとも約2.75mM及び少なくとも約1.50mMに同時に(又は別々に)達するように制御される。これらの濃度は、最大VCCに達する(又は達すると予想される)少なくとも1日前にCys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスを添加することによって達成される。これに関連して、Cys、Tyr及びTrpの添加は、最大VCCに達する(又は達すると予想される)日の1日前までに開始することが好ましい。あるいは、Cys、Tyr及びTrpの添加は、最大VCCの日(又は最大VCCの日と予想される日)の2日前、3日前、4日前、5日前、6日前又は7日前に開始することが好ましい。さらに好ましくは、Cys、Tyr及びTrpの添加は、最大VCCの日(又は最大VCCの日と予想される日)の2日前、3日前又は4日前に開始する。例えば、8日目に最大VCCに達する(又は達すると予想される)場合、Cys、Tyr及びTrpの添加は、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目又は7日目に行うことができる。別の例では、5日目に最大VCCに達する(又は達すると予想される)場合、Cys、Tyr及びTrpの添加は、1日目、2日目、3日目又は4日目に行うことができる。
【0055】
本発明による方法は全体として、培養中の哺乳動物細胞が最大生細胞濃度(VCC)に達する日を決定するために少なくとも1回の初期実験を行う予備工程もさらに含むことができる。この初期実験は、本発明による方法が行われるたびに繰り返す必要はないことを理解されたい。換言すれば、最大VCCに達する(又は達すると予想される)日が決定されると、少なくとも1つの初期実験において、所与の条件下で、1つの特定のクローンについて、本発明による方法を実施するたびにそれを制御する必要はない。
【0056】
本発明の内容全体との関連において、あらゆる予備工程が(例えば、最大生細胞濃度(VCC)の日に決定するために、又は例外的なボーラスによって添加されるCys、Trp及びTyrの量を決定するために)実施される場合、組換えタンパク質を産生するための方法、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養するための方法、又は培養中の哺乳動物細胞の比生産性を高めるための方法は、以下の主要な工程を含む:
i)任意に、前記例外的なボーラスが添加される日に応じて、例外的なボーラスを介して添加されるCys、Trp及びTyrの量を決定するために、培養開始後に培養培地中のCys、Trp及びTyrの1日当たりの濃度を決定するための少なくとも1回の初期実験を実施する工程、
ii)任意に、少なくとも1回の初期実験を実施し、培養中の哺乳動物細胞が最大生細胞濃度(VCC)に達する日を決定する工程、
iii)哺乳動物細胞をバイオリアクタ(産生バイオリアクタなど)内の培養培地に接種する工程であって、培養培地が任意に初期量のシステイン/シスチン、チロシン及びトリプトファンを含む、工程
iv)組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養培地(細胞培養物ともいう)中で培養する工程、
v)細胞培養物に、さらに以下を添加する工程:
a.培養の1日目と7日目との間に、細胞培養物において高濃度のシステイン、トリプトファン及びチロシンを提供する例外的なボーラス、
b.細胞培養物への一定間隔での主供給物、
c.細胞培養中のCys、Tyr及びTrpのいずれかの枯渇を防ぐためのシステイン、トリプトファン及びチロシンのさらなるボーラス(複数可)、
vi)任意に、細胞培養液(CCF)から組換えタンパク質を回収する工程。
【0057】
代替的に、あらゆる予備工程が(例えば、最大生細胞濃度(VCC)の日に決定するために、又は例外的なボーラスによって添加されるCys、Trp及びTyrの量を決定するために実施される場合、組換えタンパク質を産生するための方法、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養するための方法、又は培養中の哺乳動物細胞の比生産性を高めるための方法は、以下の主要な工程を含む:
i)任意に、前記例外的なボーラスが添加される日に応じて、例外的なボーラスを介して添加されるCys、Trp及びTyrの量を決定するために、培養開始後に培養培地中のCys、Trp及びTyrの1日当たりの濃度を決定するための少なくとも1回の初期実験を実施する工程、
ii)任意に、少なくとも1回の初期実験を実施し、培養中の哺乳動物細胞が最大生細胞濃度(VCC)に達する日を決定する工程、
(iii)哺乳動物細胞をバイオリアクタ(産生バイオリアクタなど)内の培養培地に接種する工程であって、培養培地が任意に初期量のシステイン/シスチン、チロシン及びトリプトファンを含む、工程、
(iv)フェドバッチ方法に従って培養物を産生段階まで進行させる工程であって、組換えタンパク質が、哺乳動物細胞によって生産され、前記産生段階の間、細胞培養物は、
a)培養の1日目と7日目との間に、システイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスが補充され、前記例外的なボーラスは、細胞培養物において高濃度のCys、Tyr及びTrpを提供する、
b)細胞培養物へ一定間隔で少なくとも1つの主供給培地が補充され、及び
c)細胞培養中のCys、Tyr及びTrpのいずれかの枯渇を防ぐために、システイン/シスチン、チロシン及びトリプトファンのうちの1つ又は複数の供給物がさらに供給され、
v)任意に、細胞培養液(CCF)から組換えタンパク質を回収する工程。
【0058】
本発明者らは、とくに細胞の比生産性を高めるための本発明の重要な側面が、本明細書に記載されるように、Cys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスが、細胞培養物中のこれら3つのアミノ酸の特定の最小濃度に達するために適時に添加されることであることを示した。しかしながら、この例外的なボーラスを、既に定められた製品品質属性(PQA)を有する組換えタンパク質を産生するために既に行われている産生方法に組み込んだ場合、大量のこれらのアミノ酸がPQAに悪影響を及ぼすリスクを冒さないために、(既に行われている方法と比較して)培養全体にわたって提供されるCys、Tyr及びTrpの総量を維持することが推奨される。そのような場合、例外的なボーラス後に追加される追加のボーラス中のCys、Tyr及びTrpの量を適合させることができる。
【0059】
1つの所与の哺乳動物細胞株で発現される1つの所与の組換えタンパク質の製品品質属性の特定の範囲内に維持することが必要な場合、方法中に提供されるCys、Tyr及びTrpの総量は、好ましくは、Cys、Tyr及びTrpの例外的なボーラス添加なしの標準的な方法に匹敵するままである(図2を参照)。その後の日の標準的な方法の供給戦略に適合するために、Cys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスの添加が実行された後、Cys、Tyr及びTrpの次の添加は、例外的なボーラス中にCys、Tyr及びTrpを添加した累積量が、Cys、Tyr及びTrpを例外的にボーラス添加しない標準的な方法の累積量と同等である場合に実施される。例えば、例外的なボーラスが1日目に添加され、例外的なボーラスにおいて添加されたCys、Tyr及びTrpの量が、標準的な方法で4日間添加されたCys、Tyr及びTrpの量に対応する場合、5日目に供給を再開する。別の例では、例外的なボーラスが3日目に添加され、例外的なボーラスにおいて添加されたCys、Tyr及びTrpの量が、標準的な方法で3日間添加されたCys、Tyr及びTrpの量に対応する場合、6日目に供給を再開する。同様の戦略を適用して、まだ満たされるべき一定の範囲の製品品質属性を有していない組換えタンパク質を産生することができる。そのような場合、当業者は、標準的な方法又はプラットフォーム方法をどのように適合させるかを理解し、それらは組換えタンパク質を産生するために利用される。
【0060】
この文書内では、読みやすくするために主にシステインというが、システイン自体に限定はなく、すなわち「システイン」と「シスチン」は交換可能である。定義のセクションで説明したように、細胞培養培地中のシステイン及びシスチンは一定の平衡状態にあり、2分子のシステインが酸化してシスチンの分子になり、これが還元されて2分子のシステインに戻る。システインの代わりにシスチンを使用することが好ましい場合、例外的なボーラスの添加時に少なくとも約2.45mMのシスチンに到達する必要がある。あるいは、システインとシスチンとの組み合わせを使用することができる。さらに、そのあらゆる塩を使用することができる。
【0061】
本発明の内容において、全体として、Cys、Tyr及びTrpは同じ供給培地の一部である。好ましくは、Cys、Tyr及びTrpを含む供給培地は、いかなる他の栄養素も含有しない(すなわち、好ましくは、供給培地は、Cys、Tyr及びTrpからなる)。これは、細胞の正しい増殖に必要な他の栄養素が、主供給培地などの他の供給培地を介してもたらされることを意味する。あるいは、Cys、Tyr及びTrpは、Cysを含む又はCysからなる第1の供給培地、Tyrを含む又はTyrからなる第2の供給培地、及びTrpを含む又はTrpからなる第3の供給培地などの異なる供給培地の一部である。他の栄養素は、これらの3つの供給培地のうちの1つを介して、細胞要求を満たすために補充され得るか(この供給培地のうちの1つが主供給物である場合)、又は少なくとも第4の供給培地を介してもたらされる。
【0062】
本発明の内容において、全体として、培養開始(0日目)と、Cys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスの添加(少なくとも最大VCCに達する前日又は7日目まで)との間に、Cys、Tyr及びTrpは添加されない。対照的に、少なくとも、標準的な供給戦略に従って毎日のボーラス又は連続的な供給を介して添加されたであろうCys、Tyr及びTrpの量が、例外的なボーラスとして一度に添加され(培養の1日目と7日目との間及び/又は最大VCCに達すると予想される少なくとも前日)、次いで、その後の日の標準的な方法の供給戦略に適合するために、例えば例外的なボーラス添加中にCys、Tyr及びTrpを添加した累積量がCys、Tyr及びTrpの例外的なボーラスを添加しない標準的な方法の累積量と同等である場合に、「通常の」供給戦略が再開する(図2を参照)。例えば、例外的なボーラスで1日目に添加されたCys、Tyr及びTrpの量が、標準的な方法で4日間添加されたCys、Tyr及びTrpの量に対応する場合、5日目に供給を再開する(図2参照)。最大VCCに達する(又は達すると予想される)日は、本発明による方法が実行されるたびに制御される必要はないことを理解されたい。最大VCCのこの日は、当業者に周知のように、少なくとも1回の予備実験に従って実際に決定される。上記は非限定的な例である。実際、標準的な方法と比較して、培養全体にわたって添加されるCys、Trp及びTyrの総量を同じに維持したい場合、当業者は、例外的なボーラスの日及び通常の供給が再開される日(すなわち、例外的なボーラスの1日以上後)にかかわらず、Cys、Trp及びTyrのための全体的な供給戦略を適合させる方法を知っているであろう。非限定的な例として、基礎培地に提供された各アミノ酸0.5mMを含んで10日間の培養にわたって細胞培養体積1リットル当たり5mmolのCys、Tyr及びTrpの総量を提供することを望む場合、2日目に例外的なボーラスを添加して、細胞培養物中に2.45mMのCys、1.50mMのTrp、2.75mMのTyrを提供し、次いで、4日目、6日目及び8日目にさらに供給物を添加し、各供給物はそれぞれ細胞培養物中に0.85mMのCys、1.17mMのTrp、0.75mMのTyrを提供する方法を設計することができる。別の非限定的な例では、基礎培地に提供された1mMの各アミノ酸を含んで、6日目の最大VCCを考慮して、14日間の培養にわたって細胞培養体積1リットル当たり10mmolのCys、Tyr及びTrpの総量を提供することを望むならば、4日目に例外的なボーラスを添加して、細胞培養物中に3mMのCys、2mMのTrp、3mMのTyrを提供し、次いでさらに7日目から12日目まで供給物を毎日添加し、各供給物はそれぞれ細胞培養物中に1mMのCys、1.17mMのTrp、1mMのTyrを提供する方法を設計することができる。
【0063】
当業者は、以下の方法を知っていることを理解されたい:
-各特定の細胞株/クローンについて最大VCCに達する日を決定する:これは通常、1回又は複数回の初期実験によって行われる。所与の条件下で所与のタンパク質を発現する1つの細胞株について最大VCCに達する(又は達すると予想される)日が分かれば、本発明による方法を設計することができる。すべての実験又はバッチについてVCCを決定する必要はない。
-産生段階などの特定の段階に細胞培養物に添加された及び/又は細胞培養物中に存在するシステイン(及び/又はシスチン)、チロシン及びトリプトファンの濃度を測定する。そのような決定は、典型的には、1回又は複数回の初期実験によって行われる。例えば、これは、本明細書の例に記載されるように行うことができる(これらの方法に限定されない)。所与の条件下で所与のタンパク質を発現する1つの細胞株についてそれぞれの量が既知になると、本発明による方法を設計することができる。あらゆる実験又は製造バッチについてシステイン(及び/又はシスチン)、チロシン及びトリプトファンの量を決定する必要はない。
-所与の条件下で所与のタンパク質を発現する1つの細胞株によって産生された組換えタンパク質の総量を測定し、その結果、所望の技術的効果を達成するために本発明の教示を適用する。これは、本明細書の例に記載されているように、例えばForteBio Octetモデルアナライザ(ForteBio,Inc.)又は分析前に-80°Cで保存した細胞培養上清試料を用いたプロテインA高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して行うこともできる。所与の条件下で所与のタンパク質を発現する1つの細胞株について、細胞培養によって産生される組換えタンパク質の総量が既知になると、本発明による方法を設計することができる。すべての実験又はバッチについてそのような総量を決定する必要はない。
【0064】
本発明の内容において、全体として、培養開始時の培養培地(あるいは本明細書では基礎培地と呼ぶ)は、好ましくはタンパク質及び血清を含まない培養培地である。前記タンパク質及び血清を含まない培養培地は、市販の培地又は化学的に定義された培地であり得る。前記培養培地は、初期量のシステイン(及び/又はシスチン)、チロシン及びトリプトファンを含み得る。前記培養培地が初期量のシステイン(及び/又はシスチン)、チロシン及びトリプトファンを含まない場合、初期量のシステイン(及び/又はシスチン)、チロシン及びトリプトファンをバイオリアクタにおける培養の前又は開始時に添加することができる。
【0065】
本発明の内容において、全体として、主供給培地は、標準的な主供給培地又は濃縮された主供給培地、例えば濃縮された規定の主供給培地であり得る。好ましくは、この主供給培地は、Cys(システインもシスチンも含まない)、Trp及びTyrを含まない。
【0066】
本発明の内容において、全体として、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞は、好ましくはフェドバッチ方法で培養される。一態様では、産生段階は、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも10日間、より好ましくは少なくとも12日間、例えば12日間、13日間、14日間又は15日間の持続時間を有する。例外的なボーラスでのCys、Trp及びTyrの添加は本発明に従って行われるが、採取の1日前又は2日前まで、一定の間隔で(毎日又は1日おきなど)又は要求に応じて、残りの必要な栄養素(例えば、Cys、Trp及びTyr以外のアミノ酸、塩、糖)を含む供給物(複数可)(主供給物など)で培養物を補足することができる。
【0067】
本発明の内容において、全体として、培養培地中で前記哺乳動物細胞を培養する工程は、好ましくは産生段階中に行われる。
【0068】
本発明の内容において、全体として、産生段階は、好ましくは50L以上、100L以上、500L以上、1000L以上、2,000L以上、5,000L以上、10,000L以上、又は20,000Lよりも大きな体積を有するバイオリアクタ(産生バイオリアクタなど)で行われる。換言すれば、組換えタンパク質を産生する哺乳動物細胞は、好ましくは50L以上、100L以上、500L以上、1000L以上、2,000L以上、5,000L以上、10,000L以上、又は20,000Lよりも大きな体積を有するバイオリアクタ(産生バイオリアクタなど)で培養される。
【0069】
本発明の内容において、全体として、適切な哺乳動物宿主細胞(哺乳動物細胞ともいう)には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)、リンパ球系細胞株、例えばNSO骨髄腫細胞及びSP2細胞、COS細胞、骨髄腫又はハイブリドーマ細胞が含まれる。好ましい態様では、哺乳動物細胞はCHO細胞である。適切なタイプのCHO細胞には、CHO-K1、CHOK1-SV、dhfr-CHO、例えばCHO-DG44、CHO-DXB11、CHO-DXB1、又はCHO-S細胞が含まれ得る。宿主細胞は、好ましくは、目的の組換えタンパク質をコードする発現ベクターで安定に形質転換又はトランスフェクトされる。
【0070】
本発明の内容全体として、組換えタンパク質は、サイトカイン、成長因子、ホルモン、融合タンパク質又は抗体などのタンパク質である。タンパク質が抗体である場合、それは、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体であり得、好ましくはIgG、例えばIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4である。あるいは、それは、本明細書で与えられる定義によるあらゆる種類であり得る。好ましくは、本発明の方法(method)、使用及びプロセス(process)によるタンパク質は、抗体若しくはその抗原結合断片又は融合タンパク質である。本発明による方法は、組換えタンパク質を含む細胞培養液(CCF)を回収する工程(採取工程)をさらに含むことができる。採取に続いて、例えばタンパク質が抗体である場合、プロテインAクロマトグラフィー及び他のクロマトグラフィー/濾過工程を使用して、組換えタンパク質を精製してもよい。方法は、精製された組換えタンパク質を、例えば、10mg/ml以上、例えば50mg/ml以上、例えば100mg/ml以上、150mg/ml以上、又はさらには200mg/mL以上の濃度などの高タンパク質濃度を有する製剤に製剤化する工程をさらに含んでもよい。限定するものではないが、製剤は、液体製剤、凍結乾燥製剤又は噴霧乾燥製剤であり得る。
【0071】
別の態様では、初期培養培地(又は基礎培地)からCys、Tyr及びTrpを枯渇させることができるので、例外的なボーラスによって細胞培養物中に提供されるCys、Tyr及びTrpの濃度は、Cysについて少なくとも約2.45mM;Trpについて少なくとも約1.50mM;Tyrについて少なくとも約2.75mMからなり得る。あるいは、例外的なボーラスによって細胞培養物中に提供されるCys、Tyr及びTrpの濃度は、Cysについて約2.45mM~約6.6mM;Trpについて約1.50mM~約2.9mM;Tyrについて約2.75mM~約6.2mMからなり得る。さらなる態様では、初期培養培地(又は基礎培地)がCys、Tyr及びTrpを含有する場合、細胞がこれらの3つのアミノ酸を非常に迅速に消費し得るので、例外的なボーラスによって細胞培養物中に提供されるCys、Tyr及びTrpの濃度は、Cysについて少なくとも約2.45mM;Trpについて少なくとも約1.50mM;Tyrについて少なくとも約2.75mMからなり得る。あるいは、例外的なボーラスによって提供されるCys、Tyr及びTrpの濃度は、Cysについて約2.45mM~約6.6mM;Trpについて約1.50mM~約2.9mM;Tyrについて約2.75mM~約6.2mMからなり得る。したがって、本明細書では、組換えタンパク質を産生するための方法、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養するための方法、又は培養中の哺乳動物細胞の比生産性を増加させるための方法が提供され、前記哺乳動物細胞を培養培地中で培養し、培養の1日目と7日目との間にシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程を含み、例外的なボーラスによって細胞培養物中に提供されるCys、Tyr及びTrpの濃度は、Cysについて少なくとも約2.45mM;Trpについて少なくとも約1.50mM;Tyrについて少なくとも約2.75mMからなる。あるいは、本明細書では、組換えタンパク質を産生するための方法、組換えタンパク質を発現する哺乳動物細胞を培養するための方法、又は培養中の哺乳動物細胞の比生産性を増加させるための方法が提供され、前記哺乳動物細胞を培養培地中で培養し、培養の1日目と7日目との間にシステイン(Cys)、トリプトファン(Trp)及びチロシン(Tyr)の例外的なボーラスを添加する工程を含み、例外的なボーラスによって細胞培養物中に提供されるCys、Tyr及びTrpの濃度は、Cysについて約2.45mM~約6.6mM;Trpについて約1.50mM~約2.9mM;Tyrについて約2.75mM~約6.2mMからなる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】A)粉末からの「通常の」供給物の調製。B)粉末からの「濃縮」供給物の調製。
図2】標準的な供給戦略と本発明による供給戦略を示す図である。各ピックは、Cys、Tyr及びTrpのボーラス添加に対応する。
図3】Mab-1を産生するCHO細胞株の生細胞濃度プロファイル。
図4】Mab-1の力価プロファイル。
図5】比生産性プロファイル。
図6】mAb-1の主な電荷。
図7】mAb-1の薬物色強度。
図8】比生産性の等高線図である。
図9】Mab-2を産生するCHO細胞株についての累積生細胞数の等高線図。
図10】mAb-2の比生産性。
図11】A)Mab-3を産生するCHO細胞株に対するVCC、B)Mab-3の力価及びC)Mab-3を産生する細胞株の比生産性。
図12】mAb3の特性評価プロファイル(酸性種、主要な種及び塩基性種)
図13】mAb-4の比生産性。
【0073】

細胞株、細胞培養及び実験手順
4つの異なる産生CHO-DG44細胞株を使用した(それぞれmAb-1(7.3~7.95のpIを有する完全IgG4抗体)、mAb-2(8.6~9.2のpIを有するTrybe抗体)、mAb-3(8.1~8.4のpIを有する完全IgG4抗体)、mAb-4(6.1~6.3のpIを有する完全IgG4抗体)を産生する)。
【0074】
細胞を、多発酵制御システム(MFCS、Sartorius Stedim Biotech)によって制御される供給塔(C-DCUII、Sartorius Stedim Biotech)を有する2L撹拌タンクガラスバイオリアクタ(STR)又は振盪フラスコ中で培養した。リアクタには3セグメントブレードインペラを装備した。培養開始体積は、培養終了体積が最適であることを確実にするように適合された。産生バイオリアクタに目標播種密度(TSD)で播種した。産生バイオリアクタのpH制御を約7.0に制御した。pO2を特定の範囲に制御するために、空気、窒素及び酸素を、所定の混合物プロファイルを使用してカスケードコントローラに基づいて培養容器に散布した。温度を約37°Cに制御した。製造をフェドバッチモードで14日間行った。この段階の間、モノクローナル抗体(mAb)は培地中に分泌される。試料を毎日採取して、VCC、生存率、オフラインpH、pCO2、重量オスモル濃度、グルコース-乳酸濃度、アミノ酸濃度及びmAb濃度(-80°Cで貯蔵)を決定した。消泡剤を要求に応じて手動で添加した。接種72時間後に、供給培地1(主供給;Cys、Tyr及びTrpを除く必要な栄養素を含む)を用いて所定の速度で連続栄養供給を開始した。グルコース濃度が特定の閾値を下回ったときに(毎日測定)、グルコース(供給培地2)を必要に応じて培養物に添加した。とくに明記しない限り、Cys、Tyr及びTrpを含有する供給培地3を、(0.35x10細胞/mLで接種したバイオリアクタの場合)3日目から、又は(より高い細胞密度で接種したバイオリアクタの場合)0日目から、産生の12日目まで毎日ボーラスとして添加した。供給培地3を添加する前に、アミノ酸分析用の試料を採取した。供給後の細胞外濃度は、供給培地3の組成及び供給培地3添加前に測定された栄養素濃度、又は基礎培地組成に基づいて計算された。
【0075】
分析方法
細胞を、トリパンブルー排除に基づいて操作したVI-CELL(登録商標)XR(Beckman-Coulter)自動細胞計数装置を使用して計数した。培養培地中のグルコース及び乳酸レベルを、NOVA 400 BioProfile自動分析装置(Nova Biomedical)又はCedex Bio HT(Roche)を用いて決定した。代謝産物濃度もまた、CedexBioHTシステム(Roche)を使用して毎日決定した。製品の力価分析は、ForteBio Octetモデルアナライザ(ForteBio Inc)、又は分析前に-80°Cで保存した細胞培養上清試料を用いたCEDEX又はプロテインA高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)で行った。アミノ酸を、Amicon Ultra-0.5mL遠心フィルタ(Merck Millipore)を使用して限外濾過した後、逆相UPLC(Waters AccQ・Tagultra法)によって分析した。細胞培養上清試料を採取し、AKTA XpressシステムでプロテインA精製を用いて精製した。精製mAbの主要、酸性(酸性ピークグループについてはAPG)及び塩基性(塩基性ピークグループについてはBPG)アイソフォームの相対的割合を、画像化キャピラリー電気泳動(ProteinSimple iCE3)によって決定した。精製mAbの凝集体(HMWS)、モノマー及び断片(LMWS)レベルをサイズ排除クロマトグラフィー(SE-UPLC)又はプロテインA HPLC勾配によって決定した。濃縮抗体組成物の色強度を、透過型分光光度計(UltrascanPro)を使用して濃縮プロテインA溶出液中で測定し、CIE(Commission Internationale de l’Eclairage)スケールと比較した。数値結果を40mg/mLの濃度に対して正規化した。統計分析は、SASソフトウェアJMP 11(c)を使用して行った。
【0076】
例1
この実験のために、2Lのバイオリアクタに、0.35x10細胞/mLの播種密度でmAb-1を産生するCHO細胞を接種した。実験手順に記載されているように、フェドバッチ方法で3つの条件を試験した。バイオリアクタ(BR)ID 1及び2は、同じ供給戦略を有していた(Cys、Trp及びTyrを毎日添加し、3日目に最初のボーラスを添加した)が、BR ID 2では、Cys、Tyr及びTrpの濃度が2倍低かった。BR ID 3は、条件2と同じ供給培地組成を有していた(すなわち、Cys、Tyr及びTrpの濃度は、BR ID 1と比較して2倍低かった)。しかし、3日目から開始してCys、Trp及びTyrを毎日供給する代わりに、Cys、Tyr及びTrpを含有する供給物を、バイオリアクタID 2の3日目と7日目との間に添加されるべきCys、Tyr及びTrpの量に対応する例外的なボーラス(高ボーラスともいう)として3日目に添加した。3日目の後、7日目までを含んで、Cys、Tyr及びTrpは、もはやバイオリアクタID 3の細胞培養の産生物に供給培地を添加しなかった。8日目の時点で、供給戦略はバイオリアクタID 2と同様である(すなわち、Cys、Trp及びTyrの供給が再開する)。目的は、高濃度のCys、Tyr、Trp及び添加タイミングが組換えmAb-1の細胞増殖及び比生産性に及ぼす影響を評価することであった(mAb-1を発現するこの細胞株の最大VCCは、予備実験から10日目に推定され、BR ID 1及び2を用いてこの例で行われた各バイオリアクタで、すなわち例外的なボーラスなしの条件で確認された)。
【表1】
【0077】
図3に示される結果は、最大VCCに達する前に(BR ID 3;すなわち、8日目の前に)、(細胞培養物において)システイン、チロシン及びトリプトファンが高濃度に到達した条件について、より低い細胞増殖を実証する。バイオリアクタID 3のVCCプロファイルが低いにもかかわらず、その条件の最終的な力価はバイオリアクタID 2より高かった(図4参照)。比生産性の観点(図5)から、バイオリアクタID 3についてQpが有意に増加したことが示された。最後に、実験手順のセクションに記載されているように測定された主電荷(図6)は、バイオリアクタID 2と3との間で同等であり、産生されたmAbの総量当たりの産生を通して添加されたCys、Tyr及びTrpの総量が変化しない場合、組換えタンパク質電荷変異体に対する高濃度のCys、Tyr及びTrpの影響はないことが確認された。同様の傾向が色強度で観察された(図7)。さらに、Cys、Tyr及びTrpの総量はBR ID2及びBR ID3について同一であったが、例外的なボーラスとして特定のタイミングに従って一度に前記量を添加することは、比生産性を高めながら細胞増殖を阻害することにプラスの影響を与えた。
【0078】
例1の結論:多量のCys、Tyr及びTrpを一度に(同時に又は付随して)、特定のタイミングに従って添加すると、細胞増殖が阻害され、比生産性(mAb1)が増加した。実際、この例に示される実験から、高濃度のCys、Tyr及びTrp、すなわち少なくとも0.34g/L、0.37g/L及び0.98g/Lが、最大VCCの日の前に細胞培養物の産生中に(細胞培養物において)到達し、比生産性の増加をもたらしたと結論付けられた。
【0079】
例2
この実験のために、15×2Lのバイオリアクタに、上記の実験手順に記載されるようなフェドバッチ方法において3.75x10細胞/mLの播種密度でmAb-2を産生するCHO細胞を接種した。この実験では、様々な最大濃度のCys、Tyr及びTrpが最大VCCの日の前の異なる時点で(細胞培養物において)到達した複数の条件を試験した(表2)。すべての条件について、同じ総量(基礎培地及び異なる供給物を介してもたらされる総量)のCys、Tyr及びTrpを、産生実行にわたって添加した。mAb-2を発現する細胞株の最大VCCは、予備実験において7日目に推定され、この例における各バイオリアクタ実行について確認された。
【表2】
【0080】
システイン、トリプトファン及びチロシンの例外的なボーラスを、それぞれ0.32g/L、0.33g/L及び0.51g/L以上の濃度の例外的なボーラスの後に(細胞培養物において)到達した最高濃度について、最大VCCに達する前(すなわち、2日前又は4日前)に添加した場合、比生産性(図8)が増加した。最大VCCの日に、(細胞培養物において)高濃度のシステイン、トリプトファン及びチロシンに達した場合、比生産性に対する影響は観察されなかった。
また、システイン、トリプトファン及びチロシンの例外的なボーラスを、高ボーラスの後に(細胞培養物において)到達した最高濃度について、すなわち、それぞれ0.32g/L、0.33g/L及び0.51g/L以上の濃度について、最大VCCに達する日の2日前又は4日前に実施した場合、累積IVCC(図9)は減少した。
低濃度のCys、Tyr及びTrpが最大VCCの日前に(細胞培養物において)到達した対照条件(対照条件)と、高濃度のCys、Tyr及びTrpが最大VCCに到達した日に(細胞培養物において)到達した条件の比生産性を比較したところ、有意差は認められなかった(図10)。
【0081】
例2の結論:Cys、Tyr及びTrpの例外的なボーラス(細胞培養培地中のCys、Tyr及びTrpの総濃度が高くなる)を適時に添加すると、細胞増殖が阻害され、比生産性(mAb2)が増加した。Qpに対するCys、Trp及びTyrのこの例外的なボーラスの添加(細胞培養培地中のCys、Tyr及びTrpの総濃度が高くなる)の利点は、前記添加が細胞培養物において最大VCCに達する日前に行われた場合にのみ観察されるようである。高総濃度のCys、Tyr及びTrpは、細胞培養培地中で同時に又は付随して到達しなければならない。
【0082】
例3
この実験のために、5×2Lのバイオリアクタに、上記の実験手順に記載されるようなフェドバッチ方法において3.75x10細胞/mLの播種密度で完全抗体(mAb-3)を産生するCHO細胞を接種した。この実験では、様々な最大濃度のCys、Tyr及びTrpが最大VCCに達する4日前に(細胞培養物において)到達した2つの条件を試験した(この細胞株について8日目に最大VCCが観察された)(表3)。すべての条件について、同じ総量(基礎培地及び異なる供給物を介してもたらされる総量)のCys、Tyr及びTrpを、産生実行にわたって添加した。図11Cに示される平均比生産性は、産生中に到達した最高濃度のCys、Tyr及びTrpを有するバイオリアクタ、すなわちそれぞれ0.80g/L、1.08g/L及び0.58g/L(BR ID 19及びBR ID 20)が最高の比生産性をもたらしたことを示している。この例は、他のmAbを産生する他の細胞株で観察されたことを確認し、最大VCCに達する日の前の細胞培養物の産生中の(細胞培養物における)高濃度のCys、Tyr及びTrpが、比生産性の増加をもたらすことを確認した。これらの高濃度は、適時に添加された例外的なボーラスによって達成された。図12に示されるように、mAb3(中性形態、酸性種及び塩基性種)の特徴づけプロファイルは、どのような条件であっても類似している(1ポイント未満の変動)。したがって、抗体の品質に対する高ボーラスのタイミングの影響はない(ただし、VCCに達する少なくとも1日前に実施する必要がある)。
【表3】
【0083】
例3の結論:本例により、最大VCCに達する日の前に、細胞培養物中のCys、Tyr及びTrpの高い総濃度に達する(Cys、Trp及びTyrの場合、例外的なボーラスの添加による)ことの、比生産性の増加に対する正の影響が再度確認された。
【0084】
例4-3つのアミノ酸の相乗効果
この実験は、比生産性に対する、(細胞培養物中の)高濃度のCys、Tyr及びTrpの影響が、3つのアミノ酸の相乗効果によるものであるか否か、又はそれが1つ又は2つのアミノ酸のみによるものであるか否かを評価するために設計された。
この例のために、19個の振盪フラスコに、材料及び方法に記載されているようにフェドバッチ方法で0.35x10細胞/mLの播種密度でmAb-4を産生するCHO細胞を接種した。最大VCCに達する日の4日前(すなわち、8日目)に到達した様々な最大濃度のCys、Tyr及びTrpを有する複数の条件を試験し(表4)、3つのアミノ酸の効果を分離した。すべての条件について、同じ総量(基礎培地及び異なる供給物を介してもたらされる総量)のCys、Tyr及びTrpを、産生実行にわたって添加した。例外的なボーラスの添加直後、(細胞培養物において)Cys、Tyr及びTrpについて到達した最大濃度は、それぞれ0.48g/L、0.71g/L及び0.41g/Lであった。
図13に示されるすべての条件の平均比生産性は、高濃度のCys、Tyr及びTrpの組み合わせで比生産性の驚くべき相乗的増加が得られたことを示している。
【0085】
結論:本例により、さらに別の細胞株(抗体mAb-4を発現する)を用いて、最大VCCの日前に細胞培養物中に高い総濃度のCys、Tyr及びTrpが存在する場合(すなわち、Cysについて少なくとも約2.45mM;Trpについて少なくとも約1.50mM、Tyrについては少なくとも約2.75mM;例外的なボーラス添加による)、比生産性(Qp)の増加がもたらされることが確認された。高総濃度のCys、Tyr及びTrpは、同時に又は付随して到達しなければならない。同時に又は付随して高濃度のCys、Tyr及びTrpの効果は相乗的であり、相加的ではなかった。
【表4】
【0086】
参考文献
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】