(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-26
(54)【発明の名称】液体ジェットターゲットX線源
(51)【国際特許分類】
H01J 35/08 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
H01J35/08 F
H01J35/08 B
H01J35/08 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563066
(86)(22)【出願日】2022-04-06
(85)【翻訳文提出日】2023-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2022059126
(87)【国際公開番号】W WO2022218778
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】317016811
【氏名又は名称】エクシルム・エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホールステッド、ユリウス
(72)【発明者】
【氏名】ルンドストレーム、ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】タクマン、ペル
(57)【要約】
長軸及び短軸を有する細長い断面を有する液体ジェットを生成するように構成されたターゲット生成器と、相互作用領域中で液体ジェットと相互作用してX線放射を生成するように構成された電子ビームを生成するように構成された電子源と、相互作用領域中で生成されたX線放射を透過するように構成されたX線透過窓とを備えるX線源が提供され、X線透過窓は、長軸に対してαの角度でX線放射を取り出すために配置され、ターゲット生成器は、液体ジェットが、相互作用領域において、電子ビームの伝播方向に沿って、液体ジェット中の電子ビームの電子侵入深さ未満の厚さを有するように液体ジェットを生成するように構成される。X線放射を生成するための対応する方法も提供される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長軸及び短軸を有する細長い断面を有する液体ジェットを生成するように構成されたターゲット生成器と、
相互作用領域中で前記液体ジェットと相互作用してX線放射を生成するように構成された電子ビームを生成するように構成された電子源と、
前記相互作用領域中で生成されたX線放射を透過するように構成されたX線透過窓と、を備えるX線源であって、前記X線透過窓は、前記長軸に対してαの角度でX線放射を取り出すために配置され、
前記ターゲット生成器は、前記液体ジェットが、前記相互作用領域において、前記電子ビームの伝播方向に沿って、前記液体ジェット中における前記電子ビームの電子侵入深さ未満の厚さを有するように前記液体ジェットを生成するように構成されている、X線源。
【請求項2】
前記電子源及び前記ターゲット生成器は、前記電子ビームが前記長軸に対して実質的に垂直に前記液体ジェットと衝突するように構成されている、請求項1に記載のX線源。
【請求項3】
前記電子源及び前記ターゲット生成器は、前記電子ビームが前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも短い距離で前記液体ジェットと衝突するように構成され、
αは20度未満である、請求項1又は2に記載のX線源。
【請求項4】
前記X線透過窓は、前記電子ビームに対して前記液体ジェットから下流に配置され、
αは約90度である、請求項1又は2に記載のX線源。
【請求項5】
前記電子源及び前記ターゲット生成器は、前記電子ビームが前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも長い距離で前記液体ジェットと衝突するように構成され、
前記X線透過窓は、前記電子ビームに対して、前記液体ジェットから上流に配置され、
αは20度未満であり、0度よりも大きい、請求項1又は2に記載のX線源。
【請求項6】
αは3~10度である、請求項5に記載のX線源。
【請求項7】
αは10度未満、好ましくは5度未満、最も好ましくは約0度である、請求項3に記載のX線源。
【請求項8】
前記ターゲット生成器は、前記電子ビームの前記伝播方向に沿って、5~150μm、好ましくは5~25μmの厚さを有するようにターゲットジェットを生成するように構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のX線源。
【請求項9】
X線放射を生成するための方法であって、
長軸及び短軸を有する細長い断面を有する液体ジェットを提供することと、
相互作用領域中で前記液体ジェットと相互作用してX線放射を生成する電子ビームを提供することと、
前記長軸に対してαの角度でX線放射を取り出すことと、を備え、
前記液体ジェットは、前記相互作用領域において、前記電子ビームの伝播方向に沿って、前記液体ジェット中における前記電子ビームの電子侵入深さ未満の厚さを有する、方法。
【請求項10】
前記電子ビームは、前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも短い距離で前記液体ジェットと衝突し、αは20度未満である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
X線放射は、前記電子ビームに対して前記液体ジェットから下流で取り出され、
αは、約90度である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記電子ビームは、前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも長い距離で前記液体ジェットと衝突し、
X線放射は、前記電子ビームに対して、前記液体ジェットから上流で取り出され、
αは20度未満であり、0度よりも大きい、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
αは3~10度である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
αは10度未満、好ましくは5度未満、最も好ましくは約0度である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記液体ジェットは、前記電子ビームの伝播方向に沿って、5~150μm、好ましくは5~25μmの厚さを有する、請求項9~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ジェットターゲットX線源及び関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体ジェットターゲットX線源は、一般に、当該技術分野において知られている。電子ビームが、ターゲット材料の液体ジェットに向けられ、ターゲット上に電子ビームが衝突するとX線放射が生成される。電子ビーム断面及び液体ジェットターゲットについての様々な形状が研究されてきた。例えば、WO2019/106145は、液体ターゲットの流れ軸に対して非円形の断面を有するように液体ターゲットを成形するように構成された液体ターゲット成形器を備えるX線源を開示している。一般に、そのような液体ターゲットは、オーバル又は楕円形の断面形状を有し得る。断面は、電子ビームが衝突する液体ターゲットの表面が実質的に平坦であると見ることができるほど細長くさえあり得る。極端な場合、そのような液体ターゲットは、液体カーテンと呼ぶことができる。そのような形状を使用すると、液体ターゲットの流量を増加させる必要なく、電子ビームに対するより広い衝突面が使用され得、それは、同じ液体ジェット上で1つよりも多くの電子ビームを使用することを容易にする。
【発明の概要】
【0003】
以下では、ターゲット材料における吸収に起因して、X線束が係数1/eだけ減少する距離として定められるX線吸収長への言及が成されるであろう。
【0004】
電子が衝突時にターゲットに侵入し得る最大範囲を示す尺度である電子侵入深さへの言及も成されるであろう。電子侵入深さdは、以下のように近似され得る:
【0005】
【0006】
ここで、dは、ミクロン(μm)単位であり、E0は、keV単位で測定された到来する電子のエネルギーであり、ρは、g/cm3単位で測定されたターゲット材料の密度である。
【0007】
本発明は、ターゲットへの電子侵入深さよりも小さい電子ビームの伝播方向における厚さを有する細長い、好ましくは凸状の断面を有する液体ジェットターゲットを使用する液体ジェットターゲットX線源を提供する。好ましくは、液体ジェット断面の伸長(偏心)は、電子衝突面が実質的に平坦であるとみなすことができるほど顕著である。電子侵入深さよりも小さい厚さを有することによって、見かけのX線スポットは、電子ビームの伝播方向に沿ったターゲットジェットの厚さによって部分的に決定されるであろう。液体ジェットは、少なくとも衝突面の位置で、周囲環境に対して自由に伝播し得る。液体ジェットの材料は、故に、X線源のチャンバ中の環境に曝され得る。液体ジェットは、好ましくは、液体金属ジェットである。液体金属は、合金であり得る。本発明での使用に適した金属の例は、In、Sn、Pb、Bi、及びGaである。当該分野において一般的に知られているように、液体金属ターゲットの使用は、他の技術に勝るいくつかの利点を提供する。例えば、ターゲットは連続的に再生され、既に液体状態にあるので、永久的なターゲット損傷に関連するいかなる問題も排除される。そのような液体金属ターゲットは、このことから、より高い電子ビーム出力をサポートし、従って、他のタイプのX線源と比較して、増加したX線束を提供することができる。
【0008】
電子ビームは、典型的には、少なくとも10kVの加速電圧を使用して生成される。いくつかの実装形態では、加速電圧は、少なくとも50kV、又は100kVさえも超え得る。電子ビームの出力は、少なくとも38W、例えば少なくとも50W又は少なくとも100Wであり得る。
【0009】
各考えられる液体ジェットターゲットの断面は必ずしも楕円形ではないが、断面は、依然として、最大寸法に沿った長軸と、最小寸法に沿った短軸とを有するものとして説明することができる。長軸は、このことから、細長い断面の縁部から縁部(頂点から頂点)にまでわたり、短軸は、その面から面にまでわたる。
【0010】
本発明の原理を一般的に理解するために、ターゲットジェットの断面は、それぞれ長軸及び短軸に対応する辺を有する矩形であると仮定することさえできる。しかしながら、実際の実装形態における液体ジェットターゲットは、楕円形又は少なくとも鋭い角のない凸状の断面を有し得ることを理解されたい。また、2つの丸いセグメントを縁部において接続する実質的に平坦な部分、即ち2Dダンベル形状に似たものなど、他の断面形状も考えられる。ターゲットジェットの断面形状は、依然として、1つの長軸及び1つの短軸によって特徴付けられ得る。一般に、また、より特殊な形状の場合も、長軸は、ターゲット断面の最大寸法に沿っていると定めることができ、短軸は、長軸に対する垂直二等分線として定めることができる。
【0011】
第1の実施形態では、X線源は、電子ビームが、長軸に対して垂直な方向で、ターゲットの縁部(又は頂点)からある距離を隔ててターゲットに衝突するように構成される。例えば、半値全幅によって測定されるような電子ビームは、液体ターゲットの縁部/頂点から、ターゲット材料内の少なくともX線吸収長だけ離れている。生成されたX線放射は、反射で、ターゲットジェットの長軸に対して、典型的には、取出し角度に沿った見かけのX線スポットが長軸に対して垂直な電子ビームの延長よりも小さくなるような角度で取り出される。
【0012】
第2の実施形態では、X線源は、電子ビームがターゲットの縁部又は頂点においてターゲットに衝突するように構成され、電子ビームの中心は、ターゲットジェットの縁部/頂点からX線吸収長未満だけ離れている。生成されたX線放射は、次いで、過度の再吸収に煩わされることなく、ターゲットジェットの長軸に対して平行な方向にもX線源から取り出され得る。理解されるように、ターゲットジェット断面の長軸に対して平行な取出し角度に対して、見かけのX線スポットは、ターゲットの厚さに等しいターゲットジェット厚さを横切る方向に延長を有し、即ち、X線スポットのサイズは、1次元で、ターゲットジェットの短軸に沿ったターゲットジェット厚さによって決定されるであろう。
【0013】
第3の実施形態では、生成されたX線放射は、透過で、即ち、一般に電子ビームの伝播方向で取り出される。X線放射の達成可能なスポットサイズは、ターゲット内の電子ビームの散乱によって制限され、それは、電子ビームがターゲット材料に侵入するときに電子ビームの漸進的な広がりをもたらす。故に、ターゲットが電子ビームの伝播方向に薄いほど、電子ビームの広がりが小さくなり、その結果、X線スポットサイズが小さくなる。この実施形態では、電子ビームは、ターゲットの縁部/頂点で、又は縁部/頂点からある距離を隔ててターゲットに衝突し得る。
【0014】
本発明の範囲内において、いくつかの修正形態及び変形形態が可能である。特に、1つよりも多いターゲット又は1つよりも多い電子ビームを備えるX線源が、本発明の概念の範囲内で考えられる。更に、本明細書で説明するタイプのX線源は、有利には、限定されないが、医療診断、非破壊検査、リソグラフィ、結晶解析、顕微鏡検査、材料科学、顕微鏡検査表面物理学、X線回折によるタンパク質構造決定、X線分光法(XPS)、限界寸法小角X線散乱(CD-SAXS)、広角X線散乱(WAXS)、及びX線蛍光(XRF)によって例証される特定の用途に合わせて調整されたX線光学系及び/又は検出器と組み合わせられ得る。
【0015】
以下の発明を実施するための形態では、添付の図面への参照が成される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1b】液体ジェットを成形するための磁場生成器を備える液体ジェットX線源を概略的に示す。
【
図4】スポットサイズ及びX線束が取出し角度に応じてどのように変化し得るかを例示するグラフである。
【
図6】Ga及びInについての典型的なX線吸収長及び電子侵入深さを示す。
【
図7】様々なターゲットジェット断面形状を概略的に例示する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明によるX線源は、
図1aに概略的に示す。電子ビーム100は、例えば高電圧カソードを備える電子銃などの電子源102から生成され、液体ジェットターゲット104は、ターゲット生成器106から提供される。電子ビーム100は、電子ビーム100が液体ターゲット104と相互作用してX線放射108を生成するように、液体ターゲット104の衝突部分に向けられる。液体ターゲット104は、好ましくは、液体ターゲット104を生成するために、少なくとも10バール、好ましくは少なくとも50バールまで圧力を上昇させるように適合された高圧ポンプなどのポンプ110によって、ターゲット生成器106に収集されて戻される。
【0018】
液体ターゲット104は、例えば液体金属又は液体合金などの流体が噴射されて液体ターゲット104を形成し得るノズルを使用してターゲット生成器106によって形成され得る。複数の液体ターゲット及び/又は複数の電子ビームを備えるX線源が、本発明の概念の範囲内で可能であることを理解されたい。高い伝播速度で液体ジェットを生成するために、ノズルを通して液体(例えば、金属又は合金)を噴射するために使用される圧力は、少なくとも50バール、又は少なくとも100バール、又は少なくとも200バールであり得る。液体を再循環させ、液体がノズルを通って噴射される前に圧力を所望のレベルまで上昇させるために、高圧ポンプ、又は場合によっては2段ポンプ構成が使用される。
【0019】
依然として
図1aを参照すると、X線源は、電子ビーム100と液体ターゲット104との相互作用から生成されたX線放射が透過されることを可能にするように構成されたX線窓(図示せず)を備え得る。X線窓は、電子ビームの進行方向に対して実質的に垂直に配置され得る。
【0020】
ここで
図1bを参照すると、磁場生成器103が、ターゲット生成器106及び液体ターゲット104に関連して示されている。磁場生成器103及び液体ターゲット104は、
図1aに関連して議論したX線源と同様に構成され得るX線源中に備えられ得る。磁場生成器103は、流れ軸に沿って更に延在し得、示す磁場生成器103の配置は、いくつかの異なる構成の中の例に過ぎないことを理解されたい。本例では、磁場生成器103は、液体ターゲット104の断面を修正又は成形するための磁場を生成するための複数の要素を備え得る。そのような手段の例は、例えば、電磁石を含み得、電磁石は、例えば、液体ターゲット104の形状に影響を及ぼすように、液体ターゲット104の経路の異なる側に配置され得る。
【0021】
電子ビームが液体ジェットターゲットに衝突してX線放射を生成するように構成された液体ジェットターゲットX線源が提供され、液体ジェットは、細長い断面を有する。一般に、電子ビームは、ターゲットジェットの細長い断面の短軸に沿ってターゲットジェットに衝突することが好ましい。X線放射は、電子ビームの延長とターゲット材料への電子ビームの侵入とによって定められる相互作用領域中で生成される。電子ビームは、液体ジェットの進行方向に対して垂直な長軸(本明細書では幅と呼ばれる)と、液体ジェットの進行方向に沿った直交方向の短軸(高さ)とを有する楕円形の断面を有し得る。相互作用領域は、このことから、電子ビーム断面の幅及び高さによって定められる断面を有するであろう。液体ジェットの幅は、少なくとも500μm、例えば少なくとも1000μmであり得る。
【0022】
ターゲットジェットの厚さがターゲット材料への電子侵入深さよりも大きい先行技術のシステムでは、X線放射は、電子侵入深さによって制限されるターゲットの領域中で生成されるであろう。ターゲットジェットが電子ビームの伝播方向に沿って、電子侵入深さよりも薄い場合、本発明の実施形態によると、相互作用領域は、ターゲットジェットの厚さによって定められるであろう。任意の取り出し角に沿った、即ち、任意の取り出し方向におけるX線スポットのサイズは、その方向への相互作用領域の投影であろう。
【0023】
X線放射の効率的な取り出しのために、しかしながら、生成されたX線放射は、ターゲットによって過度に再吸収されるべきではない。相互作用領域の任意の点から取り出し方向に沿ってターゲットジェットの表面までの距離は、従って、X線吸収長未満であるべきである。しかしながら、X線吸収長は、いかなる急激なカットオフも定めないが、X線束の漸減があることを理解されたい。X線吸収長は、このことから、特徴的なX線再吸収の便利な尺度として使用される。
【0024】
第1の実施形態では、
図2を参照すると、X線源は、電子ビームがターゲットの縁部又は頂点からある距離を隔ててターゲットに衝突するように構成される。例えば、半値全幅によって測定されるような電子ビームは、液体ジェットターゲットの縁部/頂点から、ターゲット材料内の少なくともX線吸収長だけ離れている。生成されたX線放射は、反射で、ターゲットジェットの長軸に対してある角度で取り出される。長軸に対して垂直な、即ち、ターゲットジェット断面の短軸に沿った取出し角度に対して、有効X線スポットサイズは、電子ビームの延長によって決定されるであろう。非垂直取出し角度の場合、有効スポットサイズは、その方向に沿った相互作用領域の幾何学的投影によって、及び電子侵入深さ又はターゲット厚さ(どちらかより短い方)によって決定されるであろう。所与の取出し角度に対して、X線放射の有効スポットサイズは、このことから、ターゲットジェットの厚さを電子侵入深さよりも短くすることによって低減することができる。X線放射がターゲットジェットの長軸に対してαの角度で取り出されると仮定し、ターゲット中のX線吸収長未満の距離を横断した放射のみがX線スポットサイズに寄与することに留意すると、有効スポットサイズは、一般に、以下のように表わされ得る:
【0025】
【0026】
ここで、Seffは、ターゲットジェットの長軸に対する取出し角度αに沿ったX線放射の有効スポットサイズであり、wは、ターゲットジェットに衝突するときの電子ビームの幅であり、λは、X線吸収長であり、tは、電子ビームの伝播方向におけるターゲットの厚さであり、dは、電子侵入深さである。Seffに対して直交する次元におけるX線スポットサイズは、電子ビームの高さ(即ち、ターゲットジェットの進行方向に沿った電子ビームのサイズ)によって決定され、X線放射がターゲットジェットの進行方向に対して直交する方向で取り出される場合、電子ビームの高さに等しいであろう。上記(2)から明らかなように、取出し角度がゼロになると、スポットサイズはゼロになるであろう。しかしながら、再吸収が顕著になると、総X線束も減少するであろう。これは、有効侵入深さとして理解され得、即ち、吸収長(λ sin α)の投影未満の深さまで侵入した電子のみが、取り出されたX線ビームに寄与するX線放射を生成することが可能であろう。本発明の実施形態では、電子ビームの伝播方向におけるターゲットジェットの厚さは、電子侵入深さ未満であり、即ち、t<dである。
【0027】
第2の実施形態では、
図3を参照すると、相互作用領域は、ターゲットジェットの縁部/頂点に、又はその近くに位置する。第2の実施形態によるX線源は、このことから、電子ビームがターゲットの縁部又は頂点においてターゲットに衝突するように構成され、これは、典型的には、電子ビームの中心がターゲットジェットの1つの縁部/頂点からX線吸収長未満だけ離れていることを意味する。生成されたX線放射は、次いで、過度の再吸収に煩わされることなく、ターゲットジェット断面の長軸に対して平行な方向にX線源から取り出され得る。短軸に近い取出し角度に対して、この実施形態は、上記の第1の実施形態のX線スポットと同様のX線スポットを生成するであろう。しかしながら、ターゲットジェット断面の長軸に沿った又はそれに近い取出し角度に対して、この第2の実施形態は、X線束を維持しながら、より小さいX線スポットを与え得る。電子ビーム幅、電子侵入深さ、ジェット厚さ、及びX線吸収長の異なる組み合わせは、異なる特性を与えるであろう。この実施形態では、ターゲット断面の長軸に対して平行な取出し角度は、電子ビームに曝されたターゲットジェットの一部の最大厚さによって定められるX線スポットサイズを生成するであろう(ただし、電子侵入深さよりも小さいならば)。垂直方向において、即ちターゲットジェットの進行方向に沿って、X線スポットサイズは、ターゲット材料内の電子ビーム散乱と共に電子ビーム集束によって決定されるであろう。ターゲットジェット断面の長軸に対して平行な、即ちターゲットジェットの縁部/頂点からのX線放射の取り出しは、再吸収によって影響されないので、スポットサイズは、X線吸収長とは無関係であろう。このことから、有効スポットサイズは、一般に、以下のように表され得る:
【0028】
【0029】
ここで、繰り返すが、αは、ターゲットジェット断面の長軸に対する取出し角度であり、wは、ターゲットジェットに衝突するときの電子ビームの幅であり、tは、電子ビームの伝播方向におけるターゲットの厚さであり、本発明の実施形態ではt<dであることを考慮する。
【0030】
第2の実施形態では、X線放射は、取出し角度がゼロになるとき(即ち、取出し角度が長軸に対して平行であるとき)にも放出されるであろう。吸収長のそれぞれの投影が相互作用領域の幅及び深さよりもそれぞれ長いならば、総X線束は、第1の近似に対して、取出し角度とは無関係であろう。
【0031】
図4は、第1の実施形態(「面エミッタ」)及び第2の実施形態(「縁部エミッタ」)について、スポットサイズ及びX線束が取出し角度に応じてどのように変化し得るかを例示するグラフを示す。示す例では、電子ビームスポットサイズは、4×1単位(それぞれ幅及び高さ)に設定され、ジェット厚は、1単位(本発明による電子侵入深さよりも短い)に設定され、その一方で、吸収長は、4単位に設定されている。見かけのスポットサイズは、上記の表現に従って計算された。総X線束は、放出されたX線放射に寄与する相互作用領域の一部の体積として計算されている。縁部エミッタに対して対称的なX線スポットを得ることが望ましいならば、ターゲットジェットの長軸に沿った取出し角度は、1×1単位の見かけのスポットサイズ及び4単位の総X線束を与えることが好ましいであろう。面エミッタの場合、約7度の角度は、対応する対称スポット及び約2単位の総光束を与える。この実施形態についての好ましい取出し角度は、一般に約3~10度、又は少なくとも約20度未満であり得る。
【0032】
第3の実施形態は、
図5を参照すると、透過ターゲット形状を利用し、それは、電子ビームの方向に放出されるX線放射が利用されることを意味する。典型的には、円形の電子ビームスポットが、第3の実施形態で用いられるであろう。電子がターゲットジェット中に侵入すると、電子は、電子ビームの幅が広がるように散乱され、有効X線スポットの拡大をもたらすであろう。点状の電子ビームを仮定すると、電子侵入深さに対応するターゲット材料の内側の深さにおける幅は、以下のように近似され得る:
【0033】
【0034】
ここで、yは、ミクロン(μm)単位で表される幅である。このことから、電子は、到来する電子ビームの方向からtan-1(0.077/(2x0.1))の頂角を有する円錐又は錐台内に分布し、有効又は見かけのスポットサイズは、電子がターゲット材料を貫通するにつれて増加するであろう。有効又は見かけのスポットサイズは、以下のように書かれ得る:
【0035】
【0036】
ここで、Seffは、X線放射の有効スポットサイズであり、wは、ターゲットジェットに衝突するときの電子ビームの幅であり、tは、電子ビームの伝播方向におけるターゲットの厚さであり、dは、電子侵入深さである。ここでは、ターゲットの厚さは、X線吸収長未満であると仮定された。
【0037】
ターゲットが電子ビームの伝播方向における電子侵入深さよりも薄い場合、これは、起こり得る散乱の量を制限し、このことから広がりを制限し、それによって有効スポットサイズも制限するであろう。X線スポットの広がりは、このことから、ターゲットが電子侵入深さよりも厚かった場合に結果として生じたであろう式(4)による幅yよりも小さくなるであろう。他方では、次いで、電子が相互作用するために利用可能なターゲット材料も少なくなり、このことから、より厚いターゲット(透過ターゲットに対して一般的である)と比較して、生成されるX線放射の量を低減するであろう。例として、電子侵入深さが電子ビームスポットサイズに匹敵する状況を考えることができる。この場合、電子がターゲットに侵入するにつれて、スポットはほぼ80%広がるであろう。電子ビームスポットを更に小さくすると、スポットサイズの相対的な変化が大きくなるであろう。このことから、ターゲットをより薄くすることによって電子散乱を制限することは、透過ターゲットのための小さいスポットサイズを達成するために重要である。
【0038】
電子侵入深さは、上記の式(1)によって示すように、電子エネルギー及び材料特性に依存する。同様に、X線吸収長は、X線放射のエネルギー及び材料特性に依存する。X線吸収は、電子励起エネルギーの離散性が吸収スペクトルにジャンプを引き起こすであろうという点で、本質的に非線形プロセスである。これを例示するために、
図6は、Ga及びInについての典型的なX線吸収長を示す。X線吸収は、従来、質量減衰係数μ/ρによって定量化され、ここで、μは、線形減衰係数であり、ρは、密度である。Ga及びInの密度は、
図6に示すプロットに対して、それぞれ5.9及び7.31g/cm
3に設定された。比較のために、図は、式(1)を用いて計算された電子侵入深さも示す。
【0039】
一般に、X線スポットサイズがターゲットジェット厚さによって定められる実施形態では、一貫したサイズを有するX線スポットを提供する問題は、一貫した厚さを有する液体ジェットを提供する問題に変換される。非円形の断面を有するターゲットジェットは、例えば、上記で参照したWO2019/106145に説明されているような非円形の開口部を有するノズルを使用して生成することができる。典型的なノズル開口部は、丸い角と、例えば1:2又は1:4のアスペクト比とを有する矩形である。代替として又は加えて、液体ジェットターゲットは、液体ターゲットを所望の断面形状に成形する磁場を生成するように構成された磁場生成器を使用して成形され得る。
図7は、いくつかの考えられる断面形状を例示する。
図7(a)に示すように、本質的に楕円形であるターゲット断面を有することが好ましいが、ターゲットは、
図7(b)に示すようなダンベル形の断面を有し得るか、又は
図7(c)に概略的に示すような非対称の断面さえ有し得る。
【0040】
本発明の実施形態では、電子ビームの伝播方向におけるターゲットジェットの厚さは、5~150μmの範囲内であり得、ターゲットジェットの幅は、典型的には200~500μmの範囲内又はそれよりも大きい。ターゲットジェットの幅は、機能にとって重要ではなく、いくつかの実装形態では、少なくとも2000又は3000μmの幅を有し得る。相互作用領域におけるターゲットジェットの例証的な断面形状は、楕円形であり、約100keVの電子エネルギーに対して、長軸(即ち幅)に沿って約300μm、
図6に示すように、短軸(即ち厚さ)に沿って約10μmであり得る。
【0041】
対応する方法800を、
図8に概略的に例示する。ステップ801において、長軸及び短軸を有する細長い断面を有する液体ジェットが提供される。ステップ802において、相互作用領域中で液体ジェットと相互作用してX線放射を生成する電子ビームが提供される。ステップ803において、生成されたX線放射が、長軸に対してαの角度でX線放射を取り出される。本発明の実施形態によると、液体ジェットは、電子ビームの伝播方向に沿って、液体ジェット中の電子ビームの電子侵入深さ未満の厚さを有する。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長軸及び短軸を有する細長い断面を有する液体ジェットを生成するように構成されたターゲット生成器と、
相互作用領域中で前記液体ジェットと相互作用してX線放射を生成するように構成された電子ビームを生成するように構成された電子源と、
前記相互作用領域中で生成されたX線放射を透過するように構成されたX線透過窓と、を備えるX線源であって、前記X線透過窓は、前記長軸に対してαの角度でX線放射を取り出すために配置され、
前記ターゲット生成器は、前記液体ジェットが、前記相互作用領域において、前記電子ビームの伝播方向に沿って、前記液体ジェット中における前記電子ビームの電子侵入深さ未満の厚さを有するように前記液体ジェットを生成するように構成されている、X線源。
【請求項2】
前記電子源及び前記ターゲット生成器は、前記電子ビームが前記長軸に対して実質的に垂直に前記液体ジェットと衝突するように構成されている、請求項1に記載のX線源。
【請求項3】
前記電子源及び前記ターゲット生成器は、前記電子ビームが前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも短い距離で前記液体ジェットと衝突するように構成され、
αは20度未満である、請求項1又は2に記載のX線源。
【請求項4】
前記X線透過窓は、前記電子ビームに対して前記液体ジェットから下流に配置され、
αは約90度である、請求項1又は2に記載のX線源。
【請求項5】
前記電子源及び前記ターゲット生成器は、前記電子ビームが前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも長い距離で前記液体ジェットと衝突するように構成され、
前記X線透過窓は、前記電子ビームに対して、前記液体ジェットから上流に配置され、
αは20度未満であり、0度よりも大きい、請求項1又は2に記載のX線源。
【請求項6】
αは3~10度である、請求項5に記載のX線源。
【請求項7】
αは10度未満、好ましくは5度未満、最も好ましくは約0度である、請求項3に記載のX線源。
【請求項8】
前記ターゲット生成器は、前記電子ビームの前記伝播方向に沿って、5~150μm、好ましくは5~25μmの厚さを有するようにターゲットジェットを生成するように構成されている、請求項1
又は2に記載のX線源。
【請求項9】
X線放射を生成するための方法であって、
長軸及び短軸を有する細長い断面を有する液体ジェットを提供することと、
相互作用領域中で前記液体ジェットと相互作用してX線放射を生成する電子ビームを提供することと、
前記長軸に対してαの角度でX線放射を取り出すことと、を備え、
前記液体ジェットは、前記相互作用領域において、前記電子ビームの伝播方向に沿って、前記液体ジェット中における前記電子ビームの電子侵入深さ未満の厚さを有する、方法。
【請求項10】
前記電子ビームは、前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも短い距離で前記液体ジェットと衝突し、αは20度未満である、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
X線放射は、前記電子ビームに対して前記液体ジェットから下流で取り出され、
αは、約90度である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記電子ビームは、前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも長い距離で前記液体ジェットと衝突し、
X線放射は、前記電子ビームに対して、前記液体ジェットから上流で取り出され、
αは20度未満であり、0度よりも大きい、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
αは3~10度である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
αは10度未満、好ましくは5度未満、最も好ましくは約0度である、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記液体ジェットは、前記電子ビームの伝播方向に沿って、5~150μm、好ましくは5~25μmの厚さを有する、請求項
9に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
対応する方法800を、
図8に概略的に例示する。ステップ801において、長軸及び短軸を有する細長い断面を有する液体ジェットが提供される。ステップ802において、相互作用領域中で液体ジェットと相互作用してX線放射を生成する電子ビームが提供される。ステップ803において、生成されたX線放射が、長軸に対してαの角度でX線放射を取り出される。本発明の実施形態によると、液体ジェットは、電子ビームの伝播方向に沿って、液体ジェット中の電子ビームの電子侵入深さ未満の厚さを有する。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[1] 長軸及び短軸を有する細長い断面を有する液体ジェットを生成するように構成されたターゲット生成器と、
相互作用領域中で前記液体ジェットと相互作用してX線放射を生成するように構成された電子ビームを生成するように構成された電子源と、
前記相互作用領域中で生成されたX線放射を透過するように構成されたX線透過窓と、を備えるX線源であって、前記X線透過窓は、前記長軸に対してαの角度でX線放射を取り出すために配置され、
前記ターゲット生成器は、前記液体ジェットが、前記相互作用領域において、前記電子ビームの伝播方向に沿って、前記液体ジェット中における前記電子ビームの電子侵入深さ未満の厚さを有するように前記液体ジェットを生成するように構成されている、X線源。
[2] 前記電子源及び前記ターゲット生成器は、前記電子ビームが前記長軸に対して実質的に垂直に前記液体ジェットと衝突するように構成されている、[1]に記載のX線源。
[3] 前記電子源及び前記ターゲット生成器は、前記電子ビームが前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも短い距離で前記液体ジェットと衝突するように構成され、
αは20度未満である、[1]又は[2]に記載のX線源。
[4] 前記X線透過窓は、前記電子ビームに対して前記液体ジェットから下流に配置され、
αは約90度である、[1]又は[2]に記載のX線源。
[5] 前記電子源及び前記ターゲット生成器は、前記電子ビームが前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも長い距離で前記液体ジェットと衝突するように構成され、
前記X線透過窓は、前記電子ビームに対して、前記液体ジェットから上流に配置され、
αは20度未満であり、0度よりも大きい、[1]又は[2]に記載のX線源。
[6] αは3~10度である、[5]に記載のX線源。
[7] αは10度未満、好ましくは5度未満、最も好ましくは約0度である、[3]に記載のX線源。
[8] 前記ターゲット生成器は、前記電子ビームの前記伝播方向に沿って、5~150μm、好ましくは5~25μmの厚さを有するようにターゲットジェットを生成するように構成されている、[1]~[7]のいずれか一項に記載のX線源。
[9] X線放射を生成するための方法であって、
長軸及び短軸を有する細長い断面を有する液体ジェットを提供することと、
相互作用領域中で前記液体ジェットと相互作用してX線放射を生成する電子ビームを提供することと、
前記長軸に対してαの角度でX線放射を取り出すことと、を備え、
前記液体ジェットは、前記相互作用領域において、前記電子ビームの伝播方向に沿って、前記液体ジェット中における前記電子ビームの電子侵入深さ未満の厚さを有する、方法。
[10] 前記電子ビームは、前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも短い距離で前記液体ジェットと衝突し、αは20度未満である、
[9]に記載の方法。
[11] X線放射は、前記電子ビームに対して前記液体ジェットから下流で取り出され、
αは、約90度である、[9]に記載の方法。
[12] 前記電子ビームは、前記液体ジェットの縁部からX線吸収長よりも長い距離で前記液体ジェットと衝突し、
X線放射は、前記電子ビームに対して、前記液体ジェットから上流で取り出され、
αは20度未満であり、0度よりも大きい、[9]に記載の方法。
[13] αは3~10度である、[12]に記載の方法。
[14] αは10度未満、好ましくは5度未満、最も好ましくは約0度である、[10]に記載の方法。
[15] 前記液体ジェットは、前記電子ビームの伝播方向に沿って、5~150μm、好ましくは5~25μmの厚さを有する、[9]~[14]のいずれか一項に記載の方法。
【国際調査報告】