(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-26
(54)【発明の名称】電解質組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240318BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240318BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240318BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240318BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M10/0569
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563104
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(85)【翻訳文提出日】2023-11-06
(86)【国際出願番号】 GB2022050717
(87)【国際公開番号】W WO2022219299
(87)【国際公開日】2022-10-20
(32)【優先日】2021-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500024469
【氏名又は名称】ダイソン・テクノロジー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230514
【氏名又は名称】泉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】マシュー ロバート ロバーツ
(72)【発明者】
【氏名】リユ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ユー フー
(72)【発明者】
【氏名】ライス ディアス フェレイラ
(72)【発明者】
【氏名】ニッコーロ グエルリーニ
(72)【発明者】
【氏名】アレックス マッドセン
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ06
5H029HJ01
5H029HJ10
5H029HJ14
(57)【要約】
リチウムイオンバッテリー用の電解質組成物。この組成物は、5~25重量%のリチウム塩、2~10重量%の添加剤、及び65~93重量%の溶媒を含み、
(a)前記リチウム塩は、20~100mol%のテトラフルオロホウ酸リチウムと0~95mol%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとを含み、
(b)前記添加剤は、ビニレンカーボネートと、任意に30~90mol%のフルオロエチレンカーボネートとを含み、
(c)前記溶媒は、70~90mol%のエチレンカーボネートと10~30mol%のプロピレンカーボネートを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンバッテリー用の電解質組成物であって、前記組成物は、5~25重量%のリチウム塩、2~10重量%の添加剤、及び65~93重量%の溶媒を含み、
(a)前記リチウム塩は、20~100mol%のテトラフルオロホウ酸リチウムと0~95mol%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとを含み、
(b)前記添加剤は、ビニレンカーボネートと、任意に30~90mol%のフルオロエチレンカーボネートとを含み、
(c)前記溶媒は、70~90mol%のエチレンカーボネートと10~30mol%のプロピレンカーボネートを含む、
電解質組成物。
【請求項2】
前記組成物中のリチウム濃度は、約0.7Mと2.0Mの間である、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
前記リチウム塩は、20~100mol%のテトラフルオロホウ酸リチウムと、0~95mol%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとからなる、請求項1又は2に記載の電解質組成物。
【請求項4】
前記添加剤は、(i)ビニレンカーボネート、又は(ii)10~70mol%のビニレンカーボネートと30~90mol%のフルオロエチレンカーボネートからなる、請求項1~3の何れか1項に記載の電解質組成物。
【請求項5】
前記溶媒は、70~90mol%のエチレンカーボネートと10~30mol%のプロピレンカーボネートからなる、請求項1~4の何れか1項に記載の電解質組成物。
【請求項6】
前記電解質組成物は、
a)7.8重量%のテトラフルオロホウ酸リチウム、69.3重量%のエチレンカーボネート、17.3重量%のプロピレンカーボネート、及び5.5重量%のビニレンカーボネート、
b)1.6重量%のテトラフルオロホウ酸リチウム、19.1重量%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、55.9重量%のエチレンカーボネート、18.6重量%のプロピレンカーボネート、及び4.8重量%のビニレンカーボネート、
c)1.6重量%のテトラフルオロホウ酸リチウム、19.1重量%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、54.7重量%のエチレンカーボネート、18.2重量%のプロピレンカーボネート、4.2重量%のビニレンカーボネート、及び2.1重量%のフルオロエチレンカーボネート、
d)7.8重量%のテトラフルオロホウ酸リチウム、64.9重量%のエチレンカーボネート、16.2重量%のプロピレンカーボネート、及び11.1重量%のビニレンカーボネート、
からなるグループから選択される、請求項1~5の何れか1項に記載の電解質組成物。
【請求項7】
前記電解質組成物は、7.8重量%のテトラフルオロホウ酸リチウム、64.9重量%のエチレンカーボネート、16.2重量%のプロピレンカーボネート、及び11.1重量%のビニレンカーボネートからなる、請求項6に記載の電解質組成物。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の電解質組成物を含む、押出成形されたバッテリーコンポーネント。
【請求項9】
請求項1~7の何れか1項に記載の組成物を約55℃を超える温度で加熱することを必要とする処理ステップを含む、バッテリーコンポーネントを形成する方法。
【請求項10】
前記処理ステップが、請求項1~7の何れか1項に記載の組成物を押出成形することを含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
市販のリチウムイオンバッテリーは、通常、リチウム塩としてLiPF6を使用し、溶媒として鎖状カーボネート、例えばDEC/DMC/EMCを使用する。しかしながら、ほとんどの市販のリチウムイオンバッテリーで使用される塩及び溶媒成分は、熱分解及び/又はその揮発性のために高温で処理することができない。
【0003】
押出成形によるリチウムイオンバッテリーコンポーネントの製造は、製造コストとスループットの点から、現在注目されている分野である。押出成形は通常、高温での処理を伴う。高温を伴うバッテリ製造のための他の有用な処理技術には、熱間圧延及びホットプレスが含まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様によれば、リチウムイオンバッテリー用の電解質組成物が提供され、この組成物は、5~25重量%のリチウム塩、2~10重量%の添加剤、及び65~93重量%の溶媒を含み、
(a)前記リチウム塩は、20~100mol%のテトラフルオロホウ酸リチウムと0~95mol%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとを含み、
(b)前記添加剤は、ビニレンカーボネートと、任意に30~90mol%のフルオロエチレンカーボネートとを含み、
(c)前記溶媒は、70~90mol%のエチレンカーボネートと10~30mol%のプロピレンカーボネートを含む。
【0005】
リチウムイオンバッテリー用の新しい電解質組成物の特定は一筋縄ではいかない。本発明者らは、高温でも揮発性の低いLiPF6を含まない一連の液体電解質を特定し、高温を伴う処理技術に使用できるようにした(LiPF6はこのような高温で分解する。また、LiPF6は水分に敏感であり、水と接触するとHFを放出し、水と接触すると熱暴走を起こす可能性があるため、LiPF6の使用を避けた方が有利な場合もある)。現在注目されている組成物は、(a)グラファイトを不動態化し(グラファイトをアノード材料として使用できることを意味する)、(b)100℃を超える引火点を有する高温で安定であり、低い蒸気圧を有するため、押出成形(又は高温での処理)が可能であり、(c)一般的なカソード材料に対して安定であり、(d)十分なイオン伝導度を有し、(e)十分なレート性能を提供するものである。
【0006】
本発明はまた、第1の態様による電解質組成物を含む押出成形されたバッテリーコンポーネント、及び約55℃を超える温度で第1の態様による組成物を加熱することを必要とする処理ステップを含む、バッテリーコンポーネントを形成する方法を提供する。好適には、処理ステップは、約60℃、70℃又は80℃を超える温度で組成物を加熱することを必要としてもよい。いくつかの態様において、加熱を必要とする処理ステップは、押出成形を含んでもよい。
【0007】
本発明のさらなる特徴と利点は、添付の図面を参照してなされる、例としてのみ与えられる本発明の好ましい実施形態に関する以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、30℃における高Niカソードと天然黒鉛アノードのCレートの関数としての放電容量を示す。実線は実施例2のデータであり、破線は比較例である。同じバッチの電極とセル形式が使用され、すなわち、唯一の違いは電解質である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
場合によっては、電解質組成物中のリチウム濃度は、約0.7Mから2.0Mの間である。
【0010】
場合によっては、リチウム塩は、20~100mol%のテトラフルオロホウ酸リチウムと0~95mol%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとからなる。
【0011】
場合によっては、添加剤は、(i)ビニレンカーボネート、又は(ii)10~70mol%のビニレンカーボネートと30~90mol%のフルオロエチレンカーボネートからなる。
【0012】
場合によっては、溶媒は、70~90mol%のエチレンカーボネートと10~30mol%のプロピレンカーボネートからなる。
【0013】
場合によっては、電解質組成物は、以下からなるグループから選択される。
a)7.8重量%のテトラフルオロホウ酸リチウム、69.3重量%のエチレンカーボネート、17.3重量%のプロピレンカーボネート、及び5.5重量%のビニレンカーボネート、
b)1.6重量%のテトラフルオロホウ酸リチウム、19.1重量%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、55.9重量%のエチレンカーボネート、18.6重量%のプロピレンカーボネート、及び4.8重量%のビニレンカーボネート、
c)1.6重量%のテトラフルオロホウ酸リチウム、19.1重量%のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、54.7重量%のエチレンカーボネート、18.2重量%のプロピレンカーボネート、4.2重量%のビニレンカーボネート、及び2.1重量%のフルオロエチレンカーボネート、
d)7.8重量%のテトラフルオロホウ酸リチウム、64.9重量%のエチレンカーボネート、16.2重量%のプロピレンカーボネート、及び11.1重量%のビニレンカーボネート。
【0014】
このような場合には、電解質組成物が組成dであることがある。
【0015】
本願で使用する比較データは、当該技術分野で公知の以下の電解質組成物に関する。
-溶媒中に1モル濃度のLiPF6を含み、前記溶媒は、1:3の重量比のエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを含む。
-この溶液に添加剤成分を加えた。これには、ビニレンカーボネート(2重量%)とフルオロエチレンカーボネート(0.5重量%、重量%は塩+溶媒+添加剤を含む溶液の総重量に基づく)が含まれる。
【0016】
いくつかの電解質組成物を以下の表1に示す。これらは、図に示すように、様々な放電レートにおける最初のサイクル効率とレート容量を測定するために、以下に述べるように、セルで試験された。
【0017】
【0018】
表1では、以下の表記を用いている。
LiBF4:テトラフルオロホウ酸リチウム
LiTFSI:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
LiPF6:ヘキサフルオロリン酸リチウム
EC:エチレンカーボネート
PC:プロピレンカーボネート
VC:ビニレンカーボネート
FEC:フルオロエチレンカーボネート
【0019】
電解質の電気化学的評価は、スウェージロック型セル又はパウチ型セルを用いて行った。すべてのセルは、90重量%以上の高ニッケルNMC活物質からなるコーティング面積重量が150g/m2以上の1つのカソード層と、90重量%以上の黒鉛/SiOx混合活物質からなるコーティング面積重量100g/m2以上の1つのアノード層を有する。
【0020】
セルの組み立ては、露点-40℃以下のドライルームで行われた。設計上、公称容量は、それぞれ、スウェージロック型セルで約3.5mAh、パウチ型セルで約40.0mAhであった。容量バランスは、約85~90%のアノード利用率に制御した。すべてのセルにグラスファイバー製セパレータを使用し、スウェージロック型セルには70μl、パウチ型セルには1mlの電解質を添加した。
【0021】
すべてのセルは30℃で電気化学的に形成された。セルは、最初の1時間はC/20(セルの完全充放電に20時間かかる電流)の電流で充電され、残りの充電については、C/10に上げ、セル電圧がカットオフ電圧の4.2Vに達するまで行った。その後、カットオフ電圧の2.5VまでC/10で放電する。充電も放電もC/10で同じカットオフ電圧で、セルに対してさらに2サイクルの充放電を行った。最初のサイクル効率は、最初のサイクルの充電容量を最初のサイクルの放電容量で割って求め、パーセントで表示した。セルがこの形成ステップを終えると、30℃と45℃で順次レート能力を試験した。Cレートはカソード公称容量(活物質重量×理論容量)に基づいて計算された。レート能力試験では、充電はすべてC/5の電流で行い、放電はC/10~10Cの範囲で行った。こうしてレート容量が決定され、同じ試験から得られたC/10容量で割ることでさらに正規化することができる。
【0022】
表1に示したデータに加えて、0.2Cでのレート試験後の電解質組成物C及び2を含むセルの容量保持率は、100%又はその近傍であることが判明した。
【0023】
上記の実施形態は、本発明の例示として理解されるべきである。本発明のさらなる実施形態が想定される。任意の1つの実施形態に関連して記載された任意の特徴は、単独で、又は記載された他の特徴と組み合わせて使用することができ、また、他のいずれかの実施形態の1つ又は2つ以上の特徴とも、又は他のいずれかの実施形態のいかなる組み合わせとも、組み合わせて使用することができることを理解されたい。さらに、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の範囲から逸脱することなく、上記に記載されていない均等態様及び変更態様も採用することができる。
【国際調査報告】