(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】PD-L1に対する単一ドメイン抗体及びその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240319BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240319BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240319BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240319BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240319BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240319BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240319BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240319BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240319BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240319BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240319BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240319BHJP
A61K 47/55 20170101ALI20240319BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240319BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240319BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240319BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240319BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20240319BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20240319BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20240319BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240319BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240319BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20240319BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20240319BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240319BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240319BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240319BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240319BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240319BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
A61K39/395 N
A61K39/395 L
A61K45/00
A61K47/55
A61K47/68
A61P35/00
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A61P1/16
A61P25/00
A61P15/00
A61P1/04
A61P1/02
A61P11/02
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A61P13/10
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A61P35/04
A61P13/08
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A61P7/06
A61P31/00
A61P31/12
A61P43/00 105
G01N33/574 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023550153
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(85)【翻訳文提出日】2023-09-04
(86)【国際出願番号】 KR2022002529
(87)【国際公開番号】W WO2022177393
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】10-2021-0022807
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521165873
【氏名又は名称】シャペロン インク.
【氏名又は名称原語表記】SHAPERON INC.
【住所又は居所原語表記】#606(Jagok-dong), Gangnam ACE Tower 174-10, Jagok-ro Gangnam-gu, Seoul 06373 (KR)
(71)【出願人】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】ソン、スンヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ、サンボム
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
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4B065CA46
4C076CC01
4C076CC10
4C076CC14
4C076CC15
4C076CC16
4C076CC17
4C076CC18
4C076CC26
4C076CC27
4C076CC31
4C076CC35
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF34
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA341
4C084ZA551
4C084ZA591
4C084ZA661
4C084ZA671
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4C084ZB021
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZB271
4C084ZB321
4C084ZB331
4C085AA14
4C085AA16
4C085AA25
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4C085CC23
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4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、PD-L1に対する単一ドメイン抗体及びその用途に関する。さらに詳しくは、免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)であるPD-L1に特異的に結合する単一ドメイン抗体を調製し、その免疫抗原に対する親和性及び抗腫瘍効果が確認されたので、免疫療法における免疫チェックポイント阻害剤として、前記単一ドメイン抗体を有用に用いることができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-L1に特異的に結合する単一ドメイン抗体(sdAb)を含む抗体またはその抗原結合断片であって、
前記sdAbが、
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるCDR1;
配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるCDR2;及び
配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるCDR3
を含む、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記sdAbが、以下のVHHドメインを含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるFR1;
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるFR2;
配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるFR3;及び
配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるFR4。
【請求項3】
前記sdAbが、配列番号1及び10のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる、請求項2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
少なくとも1つのアミノ酸置換が保存的置換である、請求項4に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
少なくとも1つのアミノ酸置換がアミノ酸の非遺伝子コードアミノ酸または合成アミノ酸への置換である、請求項5に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記sdAbが、Fc断片に融合された重鎖のみの抗体(HCAb)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記HCAbが、単量体性または多量体性である、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
前記Fc断片が、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
前記sdAbが、ペプチドリンカーを介してFc断片に融合する、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
前記HCAbが、配列番号5及び11のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項11に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項13】
少なくとも1つのアミノ酸置換が保存的置換である、請求項12に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項14】
少なくとも1つのアミノ酸置換がアミノ酸の非遺伝子コードアミノ酸または合成アミノ酸への置換である、請求項13に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項15】
(a)前記sdAbを含む第1の抗原結合部分と、(b)第2のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分と、を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項16】
前記第2の抗原結合部分が、全長抗体、Fab、Fab'、(Fab')2、Fv、単鎖Fv(scFv)、scFv-scFv、ミニボディ、ダイアボディまたは第2のsdAbである、請求項15に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項17】
前記第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分が、ペプチドリンカーを介して互いに融合している、請求項15に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項18】
免疫調節剤、サイトカイン、細胞毒性剤、化学療法剤、診断剤、抗ウイルス剤、抗微生物剤または薬物に結合している、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項19】
免疫調節剤、サイトカイン、細胞毒性剤、化学療法剤、診断剤、抗ウイルス剤、抗微生物剤または薬物に結合している請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、抗体複合体。
【請求項20】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項22】
請求項21に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項23】
(a)抗体を発現させる条件下で請求項22に記載の宿主細胞を培養するステップと、
(b)発現された抗体またはその抗原結合断片を回収するステップと、
を含む、抗体またはその抗原結合断片を産生する方法。
【請求項24】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項19に記載の抗体複合体を有効成分として含有する、癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項25】
前記癌が、黒色腫、肺癌、肝臓癌、神経膠腫、卵巣癌、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、胃癌、乳癌、転移癌、前立腺癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、孤立性骨髄腫及び再生不良性貧血からなる群から選択される、請求項24に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
前記薬学的組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項24に記載の薬学的組成物。
【請求項27】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項19に記載の抗体複合体を薬学的に有効な量で個体に投与するステップを含む、癌の予防または治療方法。
【請求項28】
癌の予防または治療に用いるための、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項19に記載の抗体複合体の用途。
【請求項29】
(i)請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片を試料と接触させるステップと、
(ii)前記抗体またはその抗原結合断片とPD-L1との間の複合体形成を検出するか、あるいは複合体の量を決定するステップと、
を含む、試料からPD-L1を検出するか、あるいはPD-L1の量を決定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)であるPD-L1に対する単一ドメイン抗体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、人体の免疫システムを用いて新たに開発された免疫抗癌療法の治療効果が立証されたことから、従来の化学療法剤及び標的治療剤による抗癌治療は、免疫治療剤による免疫抗癌療法に変化しつつある。
【0003】
基本的に、癌患者の免疫細胞は、癌抗原に対する耐性(tolerance)を獲得しているので、癌細胞を認識することはできるものの、機能的には抑制されており、癌細胞を効果的に除去することができない。耐性に陥った免疫細胞を目覚めさせて活性化された免疫細胞へ誘導し、癌細胞を破壊することが免疫治療の核心である。そのような免疫治療としては、IFN-γ、IL-2などのサイトカイン治療剤、樹状細胞を用いた癌ワクチン、T細胞を用いた細胞治療剤、免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)を遮断する免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitor;ICI)などが挙げられ、通常、そのような治療剤を免疫抗癌剤(immuno-oncology therapy)と呼ぶ。その中でも、国際的な製薬会社が競争的に開発している免疫抗癌剤は、免疫チェックポイント阻害剤である。
【0004】
免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)は、細胞膜タンパク質であり、免疫細胞の分化、増殖、活性を抑制する。具体的には、このタンパク質は通常、活性化されたT細胞で発現され、T細胞の増殖、サイトカイン分泌、細胞毒性を低下させ、T細胞の過剰な活性を抑制する機能があるため、co-inhibitory分子とも呼ばれる。代表的には、T細胞にはco-inhibitory受容体であるCTLA-4とPD-1が発現されており、それぞれのリガンドであるB7.1/2及びPD-L1との結合によってT細胞の活性を調節する。一方、PD-L1は、癌細胞で発現され、癌特異的なT細胞を不活化させ、アポトーシスを誘導してT細胞の免疫攻撃から癌細胞を保護してくれる重要な分子シールド(molecular shield)の役割を果たしており、癌の免疫回避機構になることがある。また、癌細胞内で異所性(ectopic)なPD-L1が発現した癌患者は、そうでない癌患者に比べて予後がより悪いと報告されている。
【0005】
免疫チェックポイント阻害剤は、そのようなT細胞阻害に関与する免疫チェックポイントタンパク質の活性を遮断することでT細胞を活性化させ、癌細胞を攻撃する薬剤であり、代表的には、CTLA-4、PD-1、PD-L1を認識する抗体が用いられる。CTLA-4阻害剤であるイピリムマブ(ipilimumab(Yervoy))が免疫チェックポイント阻害剤の中では初めて転移黒色腫に対する二次治療剤として2011年FDA承認を獲得した。その後、2014年にPD-1遮断剤であるニボルマブ(nivolumab(Opdivo))とペンブロリズマブ(pembrolizumab(Keytruda))が転移黒色腫に対してそれぞれFDA承認を獲得している。それ以来、PD-L1に対する免疫チェックポイント阻害剤であるアテゾリズマブ(atezolizumab(Tecentriq))が膀胱癌に対して(2016年)、アベルマブ(avelumab(Bavencio))が皮膚癌の一種である転移メルケル細胞癌治療に対して、デュルバルマブ(Durvalumab(Imfinzi))が膀胱癌に対して、2017年にFDA承認を獲得した。2018年には、PD-1阻害剤のセミプリマブ(cemiplimab(Libtayo))が皮膚扁平上皮癌に対してFDA承認を獲得した。現在、これらの薬剤は治療適応症を拡大しながら、ますます多くの癌腫の治療に対してFDA承認を獲得している。2019年基準で、6種のPD-1/PD-L1阻害剤は、合計18個の癌種に対してFDA承認を獲得している。さらに、B7-H4、ICOS、HVEM、PDL-2、PVRIGなどの免疫調節タンパク質などが新たなターゲットで前臨床試験に入っている。これらの治療剤のほとんどは、T細胞上に発現しているターゲットを標的としている。
【0006】
このようにT細胞中心の偏向的なターゲット発掘傾向を克服するために、近年ではマクロファージ、樹状細胞などのmyeloid系列の細胞で発現される免疫チェックポイントタンパク質を標的とする阻害剤が開発されている。その中でも、CSF1R、CD47、TLR7などが重要なターゲットとして浮上している。
【0007】
T細胞の活性を阻害することで、腫瘍細胞が免疫系から攻撃を回避できるようにする免疫チェックポイントタンパク質の一つであるPD-L1(Programmed Death-Ligand 1)は、リンパ系及び非リンパ性組織の白血球及び非造血(Nongematopoietic)細胞で主に発現し、大腸癌、膵臓癌、黒色腫、及び子宮頸癌など、様々な腫瘍細胞の表面にも発現する。特に、活性化T細胞表面に発現するPD-1(Programmed Death-1)と相互作用することで、TCRを介したT細胞の活性化(TCR mediated T-cell activation)、サイトカイン発現(Cytokine release)及びT細胞の増殖(T-cell proliferation)を阻害することにより、T細胞の免疫応答を負に調節する。
【0008】
そこで、本発明者らは、免疫チェックポイントタンパク質をターゲットとする免疫チェックポイント阻害剤を開発することにより、本出願に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8,008,449号明細書
【特許文献2】国際公開第94/04678号
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0307787号明細書
【特許文献4】米国特許第8,754,287号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2015/0289489号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2010/0122358号明細書
【特許文献7】国際公開第2004/049794号
【特許文献8】国際公開第99/37681号
【特許文献9】国際公開第01/90190号
【特許文献10】国際公開第03/025020号
【特許文献11】国際公開第03/035694号
【特許文献12】国際公開第00/43507号
【特許文献13】国際公開第06/030220号
【特許文献14】国際公開第06/003388号
【特許文献15】米国特許第4,816,567号明細書
【特許文献16】国際公開第1996/34103号
【特許文献17】国際公開第93/08829号
【特許文献18】米国特許第5731168号明細書
【特許文献19】国際公開第2009/089004号
【特許文献20】米国特許第4676980号明細書
【特許文献21】米国特許出願公開第2011/0028695号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Pol Specenier(2016):Ipilimumab in melanoma、Expert Review of Anticancer Therapy.
【非特許文献2】DB Johnson、C Peng et al.Nivolumab in melanoma:latest evidence and clinical potential.Ther Adv Med Oncol 2015、Vol.7(2)97-106
【非特許文献3】Liu J、Wang L、Zhao F、Tseng S、Narayanan C、Shura L、et al.(2015)Pre-Clinical Development of a Humanized Anti-CD47 Antibody with Anti-Cancer Therapeutic Potential.PLoS ONE 10(9):e0137345.
【非特許文献4】Kabat、Elvin A.、Sequence of Immunological Interest、Fifth Edition、National Institute of Health、Bethesda、Md.(1991)
【非特許文献5】Hamers-Casterman et al.、Nature 363:446-448(1993)
【非特許文献6】Sheriff et al.、Nature Struct.Biol.3:733-736(1996)
【非特許文献7】Kabat、Elvin A.、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed. Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1991)
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【非特許文献10】Morrison et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6851-6855(1984)
【非特許文献11】Milstein and Cuello、Nature 305:537(1983)))
【非特許文献12】Traunecker et al.、EMBO J.10:3655(1991)
【非特許文献13】Brennan et al.、Science、229:81(1985)
【非特許文献14】Kostelny et al.、J.Immunol.、148(5):1547-1553(1992)
【非特許文献15】Hollinger et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:6444-6448(1993)
【非特許文献16】Gruber et al.、J.Immunol.、152:5368(1994)
【非特許文献17】Tutt et al.、J.Immunol.147:60(1991)
【非特許文献18】Conrath et al.、J.Biol.Chem.、2001;276(10):7346-50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)であるPD-L1に対する単一ドメイン抗体及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的を達成するために、本発明は、PD-L1に特異的に結合する単一ドメイン抗体(sdAb)を含む抗体またはその抗原結合断片であって、
前記sdAbが、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む、抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0013】
本発明の一態様において、前記sdAbは、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるFR1、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるFR2、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるFR3、及び配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるFR4を有するVHHドメインを含んでもよく、一部の実現例において、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有する。
【0014】
本発明の一態様において、前記sdAbは、少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、前記少なくとも1つのアミノ酸置換は保存的置換であってもよく、アミノ酸の非遺伝子コードアミノ酸または合成アミノ酸への置換であってもよい。
【0015】
本発明の一態様において、前記sdAbは、単量体性または多量体性であってもよい。多量体性である場合、前記sdAb間ペプチドリンカーを介して融合してもよく、一部の実現例において、配列番号10で表されるアミノ酸配列を有する。
【0016】
本発明の一態様において、前記sdAbは、Fc断片に融合した重鎖のみの抗体(HCAb)を提供する。一部の実現例において、前記HCAbは、配列番号5及び11のいずれかで表されるアミノ酸配列からなってもよい。
【0017】
本発明の一態様において、前記HCAbは、単量体性または多量体性であってもよい。
【0018】
本発明の一態様において、前記Fc断片にsdAbがペプチドリンカーを介して融合してもよく、前記Fc断片は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4であってもよい。
【0019】
本発明の一態様において、前記HCAbは、少なくとも1つのアミノ酸置換を含み、前記少なくとも1つのアミノ酸置換は保存的置換であってもよく、アミノ酸の非遺伝子コードアミノ酸または合成アミノ酸への置換であってもよい。
【0020】
本発明の一態様において、(a)前記sdAbを含む第1の抗原結合部分と、(b)第2のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分と、を含む抗体を提供する。
【0021】
本発明の一態様において、前記抗体は、二重特異性または多重特異性であってもよい。
【0022】
本発明の一態様において、前記第2の抗原結合部分は、第1の抗原結合部分とペプチドリンカーを介して互いに融合してもよく、前記第2の抗原結合部分は、全長抗体、Fab、Fab'、(Fab')2、Fv、単鎖Fv(scFv)、scFv-scFv、ミニボディ、ダイアボディまたは第2のsdAbであってもよい。
【0023】
本発明の一態様において、免疫調節剤、サイトカイン、細胞毒性剤、化学療法剤、診断剤、抗ウイルス剤、抗微生物剤または薬物が結合されてもよい。よって、本発明は、免疫調節剤、サイトカイン、細胞毒性剤、化学療法剤、診断剤、抗ウイルス剤、抗微生物剤または薬物に結合した抗体またはその抗原結合断片を含む抗体複合体を提供する。
【0024】
また、本発明は、前記抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸分子を提供する。
【0025】
さらに、本発明は、前記核酸分子を含む発現ベクターを提供する。
【0026】
また、本発明は、前記発現ベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0027】
さらに、本発明は、
(a)抗体を発現させる条件下で前記宿主細胞を培養するステップと、
(b)発現された抗体またはその抗原結合断片を回収するステップと、
を含む、抗体またはその抗原結合断片を産生する方法を提供する。
【0028】
また、本発明は、前記抗体またはその抗原結合断片、あるいは前記抗体複合体を有効成分として含有する、癌の予防または治療用薬学的組成物と、前記抗体またはその抗原結合断片、あるいは抗体複合体を薬学的に有効な量で個体に投与するステップを含む、癌の予防または治療方法と、癌の予防または治療に用いるための前記抗体またはその抗原結合断片、あるいは抗体複合体の用途を提供する。
【0029】
本発明の一形態において、前記癌は、黒色腫、肺癌、肝臓癌、神経膠腫、卵巣癌、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、胃癌、乳癌、転移癌、前立腺癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、孤立性骨髄腫及び再生不良性貧血からなる群から選択されてもよい。
【0030】
本発明の一態様において、前記薬学的組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。
【0031】
また、本発明は、
(i)前記抗体またはその抗原結合断片を試料と接触させるステップと、
(ii)前記抗体またはその抗原結合断片とPD-L1との間の複合体形成を検出するか、あるいは複合体の量を決定するステップと、
を含む、試料からPD-L1を検出するか、あるいはPD-L1の量を決定する方法を提供する。
【発明の効果】
【0032】
本発明はでは、免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)であるPD-L1に特異的に結合する単一ドメイン抗体を調製し、それらの免疫抗原に対する親和性及び抗腫瘍効果が確認されたので、免疫療法における免疫チェックポイント阻害剤として、前記単一ドメイン抗体を有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1A】本発明の一実施例に従って作製したCHO-K1_PD-L1細胞株(PD-L1抗原の発現を誘導したCHO-K1細胞)と、抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)を濃度ごとに反応させ、細胞表面に発現するPD-L1抗原に対する結合能(EC50)を確認した図である。
【
図1B】本発明の一実施例に従って作製したCHO-K1_PD-L1細胞株(PD-L1抗原の発現を誘導したCHO-K1細胞)と、PD-1タンパク質との結合後の抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)がPD-L1/PD-1の相互作用に及ぼす抑制能(IC50)を確認した図である。
【
図2A】本発明の一実施例に従って作製したCHO-K1_PD-L1細胞株(PD-L1抗原の発現を誘導したCHO-K1細胞)と、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)を濃度ごとに反応させ、細胞表面に発現するPD-L1抗原に対する結合能(EC50)を確認した図である。
【
図2B】本発明の一実施例に従って作製したCHO-K1_PD-L1細胞株(PD-L1抗原の発現を誘導したCHO-K1細胞)と、PD-1タンパク質との結合後の抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)がPD-L1/PD-1の相互作用に及ぼす抑制能(IC50)を確認した図である。
【
図3】CHO-K1_PD-L1細胞(PD-L1タンパク質の過剰発現を誘導したCHO-K1細胞)と、PD-1が発現するJurkat細胞を用いて、本発明の一実施例に従って作製した抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のPD-L1/PD-1の相互作用阻害能を確認した図である。
【
図4】本発明の一実施例に従って作製した抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)を、B16F10_PD-L1細胞株(PD-L1抗原の発現を誘導した腫瘍細胞)で腫瘍形成を誘導したC57BL/6マウスに腹腔投与した後、抗腫瘍効果を確認した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施形態を挙げて詳しく説明する。本発明の実施例は、当該技術分野における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供するものである。よって、本発明の実施例は様々な他の形態に変形してもよく、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
本発明において、「エピトープ」なる用語は、抗体に特異的結合をすることができるタンパク質決定要因を意味する。エピトープは一般に、分子、例えば、アミノ酸または糖側鎖の化学的に活性な表面のグループ化からなり、通常は特異的な三次元構造特性のみならず、特異的電荷特性を有する。
【0036】
「治療」なる用語は、本明細書に開示される障害または疾患、例えば、疾患の症状または合併症を遅らせたり、中断したり、中止したり、制御したり、停止したり、軽減したり、あるいは改善したりすること、またはその進行を逆転させることでもよいが、必ずしもすべての疾患または障害の症状の完全な除去を示すわけではなく、すべての過程を意味する。
【0037】
「予防」なる用語は、疾患または障害、例えば、疾患の予防的治療、あるいは疾患または障害の発症または進行を遅延させることを意味する。
【0038】
「個体」または「対象体」なる用語は、非限定的に、ヒト、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、げっ歯類、または霊長類を含む哺乳動物を指す。一部の実現例において、個体はヒトである。
【0039】
「抗体」なる用語は、その最も広い意味で使用され、それらが所望の抗原結合活性を示す限り、非限定的にモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、全長抗体及びその抗原結合断片を含む、様々な抗体構造を包括する。「抗体」なる用語は、従来の4鎖抗体、単一ドメイン抗体、及びそれらの抗原結合断片を含む。
【0040】
基本的な4鎖抗体ユニットは、2つの同じ軽(L)鎖と2つの同じ重(H)鎖からなるヘテロ四量体性糖タンパク質である。IgM抗体は、J鎖と呼ばれる追加のポリペプチドと共に、基本ヘテロ四量体ユニットのうち5個からなり、10個の抗原結合部位を含むが、IgA抗体は、J鎖と組み合わせて多価集合体を形成するために、重合化可能な基本4鎖ユニットのうち2~5個を含む。IgGの場合、4鎖ユニットは一般に約150,000ダルトンである。各L鎖は1つの共有ジスルフィド結合によってH鎖に結合するが、それに対して2つのH鎖はH鎖アイソタイプに依存して少なくとも1つのジスルフィド結合によって互いに結合している。各H鎖及びL鎖はまた、規則的に離間した鎖間ジスルフィドブリッジを有する。各H鎖は、N末端において、α鎖及びγ鎖のそれぞれに対して可変ドメイン(VH)、続いて3つの定常ドメイン(CH)、並びにμ及びεアイソタイプに対して4つのCHドメインを有する。各L鎖は、N末端において、その他方の端部に可変ドメイン(VL)に続いて定常ドメインを有する。VLはVHと整列し、CLは重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)と整列する。VHとVLの組み合わせは、共に単一の抗原結合部位を形成する。任意の脊椎動物種におけるL鎖は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ及びラムダと呼ばれる、明確に区別される2つのタイプのうちの1つに割り当てられる。それらの重鎖の定常ドメイン(CH)のアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは異なるクラスまたはアイソタイプに割り当てられる。免疫グロブリンには5つのクラスがある:α、δ、ε、γ及びμ、それぞれに指定された重鎖を有する、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM。γクラス及びαクラスは、CH配列及び機能において比較的少ない差に基づいてさらにサブクラスに分割され、例えば、ヒトは以下のサブクラスを発現する:IgG1、IgG2A、IgG2B、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2。
【0041】
「重鎖のみの抗体」または「HCAb」なる用語は、重鎖を含むが、4鎖抗体に一般的に見られる軽鎖を欠いている機能性抗体を指す。
【0042】
「単一ドメイン抗体」、「ナノボディ」または「sdAb」なる用語は、3つの相補性決定領域(CDR)を有する単一の抗原結合ポリペプチドを指す。sdAb単独は、対応するCDR含有ポリペプチドと対合することなく抗原に結合することができる。場合によっては、本明細書において、単一ドメイン抗体はラクダ科HCAbから操作され、それらの重鎖可変ドメインは「VHH」(重鎖抗体の重鎖の可変ドメイン)と呼ばれる。基本VHHは、N末端からC末端まで以下の構造を有する:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4、ここで、FR1~FR4は、フレームワーク領域1~4のそれぞれのことを指し、CDR1~CDR3は、相補性決定領域1~3を指す。
【0043】
抗体の「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体の重鎖または軽鎖のアミノ末端ドメインを指す。重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ「VH」及び「VL」と呼ばれることがある。それらのドメインは一般に(同じクラスの他の抗体と比較して)抗体の最大可変性部分であり、抗原結合部位を含む。ラクダ科種からの重鎖のみの抗体は、「VHH」と呼ばれる単一の重鎖可変領域を有する。
【0044】
「可変」なる用語は、可変ドメインの特定のフラグメントが抗体の配列中で広範囲に異なるという事実を指す。Vドメインは抗原結合を媒介し、その特定の抗原に対する特定の抗体の特異性を定義する。しかしながら、可変性は、可変ドメインの全範囲にわたって均等に分布していない。その代わりに、重鎖及び軽鎖可変ドメインの両方において、相補性決定領域(CDR)または超可変領域(HVR)と呼ばれる3つのフラグメントで濃縮される。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然重鎖及び軽鎖のそれぞれの可変ドメインは、3つのCDRで接続されたループ接続を形成し、主にベータシート構成を採用し、場合によってはベータシート構造の一部を形成する、4つのFR領域を有する。各鎖において、CDRは、FR領域によって非常に近接して一緒に保持され、他の鎖からのCDRは、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(非特許文献4を参照されたい)。定常ドメインは、抗原に対する抗体の結合に直接関与しないが、様々なエフェクター機能、例えば、抗体依存性細胞毒性における抗体の関与を示す。
【0045】
「定常ドメイン」なる用語は、抗原結合部位を含む免疫グロブリンの他の部分、可変ドメインと比較して保存されたアミノ酸配列をより多く有する免疫グロブリン分子の部分を指す。定常ドメインには、重鎖のCH1、CH2及びCH3ドメイン(総称してCH)及び軽鎖のCHL(またはCL)ドメインが含まれる。
【0046】
「全長抗体」、「無傷抗体」、または「全体抗体」なる用語は、抗体断片とは対照的に、その実質的に完全な形態の抗体を指すために互換的に用いられる。具体的には、全長4鎖抗体は、Fc領域を含む重鎖及び軽鎖を有するものを含む。全長重鎖のみの抗体は、重鎖可変ドメイン(例えば、VHH)及びFc領域を含む。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)またはそのアミノ酸配列変異体であってもよい。場合によって、無傷抗体は、少なくとも1つのエフェクター機能を有してもよい。
【0047】
「抗体断片」または「抗原結合断片」は、無傷抗体の一部、好ましくは無傷抗体の抗原結合及び/または可変領域を含む。抗体断片の例は、非限定的に、Fab、Fab'、F(ab')2及びFv断片;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体(scFv)分子;単一ドメイン抗体(例えば、VHH)、並びに抗体断片から形成された多重特異性抗体を含む。「Fv」は、完全な抗原認識及び結合部位を含む最小の抗体断片である。その断片は、緻密な非共有結合において、1つの重鎖及び1つの軽鎖可変領域ドメインの二量体からなる。「単鎖Fv」もまた、略称「sFv」もしくは「scFv」は、単一のポリペプチド鎖に連結されたVH及びVL抗体ドメインを含む抗体断片である。好ましくは、scFvポリペプチドは、scFvが抗原結合のために所望の構造を形成できるようにするVHとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。「ダイアボディ」は、Vドメインの鎖内ではなく鎖間での対合が達成されるように、VHドメインとVLドメインとの間の短いリンカー(約5~10個の残基)を有するsFv断片を構築し、それによって二価断片、すなわち2つの抗原結合部位を有する断片をもたらすことによって作製された小さな抗体断片を指す。二重特異性ダイアボディは、2つの抗体のVH及びVLドメインが異なるポリペプチド鎖上に存在する2つの「交差」sFv断片のヘテロ二量体である。
【0048】
「ヒト化抗体」なる用語は、「キメラ抗体」のサブセットとして用いられる。
【0049】
非ヒト(例えば、ラマまたはラクダ科)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。一部の実現例において、ヒト化抗体は、レシピエントの(以下で定義される)CDRからの残基が所望の特異性、親和性、及び/または受容性を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ラクダ、ラマ、アルパカ、またはヒト以外の霊長類のCDRからの残基で置換されるヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。
【0050】
いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク(「FR」)残基は、対応する非ヒト残基で置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体またはドナー抗体で見られない残基を含んでもよい。それらの修飾は、抗体性能、例えば、結合親和性をさらに改善するために実施されることがある。
【0051】
「超可変領域」、「HVR」、または「HV」なる用語は、本明細書で用いられる場合、配列においてに超可変である、及び/または構造的に定義されたループを形成する抗体可変ドメインの領域を指す。一般に、単一ドメイン抗体は、3つのHVR(またはCDR):HVR1(またはCDR1)、HVR2(またはCDR2)、及びHVR3(またはCDR3)を含む。HVR3(またはCDR3)は、3つのHVRの中でも最も高い多様性を示し、抗体に微小特異性を与える際に固有の役割を果たすことが知られている。例えば、非特許文献5、6を参照されたい。
【0052】
「相補性決定領域」または「CDR」なる用語は、カバットシステムによって定義されているように超可変領域を指すために用いられる。非特許文献7を参照されたい。カバット相補性決定領域(CDR)は、配列可変性に基づくものであり、最も一般的に用いられる。
【0053】
用語「フレームワーク」または「FR」残基は、本明細書で定義されるように、HVR残基以外の可変ドメイン残基である。
【0054】
「特異的」なる用語は、抗原の特定のエピトープに対する抗原結合タンパク質(例えば、sdAb)の選択的認識を指す。
【0055】
天然抗体は、例えば、単一特異性である。本明細書で用いられるように、「多重特異性」なる用語は、抗原結合タンパク質がポリエピトープ特異性を有する(すなわち、1つの生物学的分子において2つ、3つ、またはそれ以上の、異なるエピトープに特異的に結合することができるか、あるいは、2つ、3つ、またはそれ以上の異なる生物学的分子においてエピトープに特異的に結合することができる)ことを示す。本明細書で用いられるように、「二重特異性」は、抗原結合タンパク質が2つの異なる抗原結合特異性を有することを指す。
【0056】
本明細書で用いられるように、「単一特異性」なる用語は、同じ抗原の同じエピトープを結合する少なくとも1つのそれぞれの結合部位を有する抗原結合タンパク質を指す。
【0057】
「価」なる用語は、抗原結合タンパク質中に特定の数の結合部位が存在することを示す。例えば、用語「二価」「三価」、「四価」、「五価」及び「六価」は、抗原結合タンパク質における2つの結合部位、3つの結合部位、4つの結合部位、5つの結合部位、及び6つの結合部位が存在することを示す。
【0058】
「抗体エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域またはアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因するそれらの生物学的活性を指し、抗体アイソタイプによって様々である。抗体エフェクター機能の例には、以下が含まれる:C1q結合及び補体依存性細胞傷害性;Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介細胞傷害性(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;及びB細胞活性化。「補体依存性細胞傷害性」または「CDC」は、補体の存在下における標的細胞の溶解を指す。古典的補体経路の活性化は、補体システムの第1の成分(C1q)のそれらの同族抗原に結合する(適切なサブクラスの)抗体への結合によって開始される。「抗体依存性細胞媒介細胞傷害性」またはADCCは、特定の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)に存在するFc受容体(FcR)に結合している分泌Igが、それらの細胞傷害性エフェクター細胞を抗原保有標的細胞に特異的に結合させ、その後標的細胞を細胞毒素で死滅させる細胞毒性の一形態を指す。
【0059】
本明細書において、「Fc領域」または「断片結晶化可能領域」なる用語は、天然配列Fc領域及び変異体Fc領域を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。本明細書に記載の抗体で用いられるのに適した天然配列Fc領域には、ヒトIgG1、IgG2(IgG2A、IgG2B)、IgG3及びIgG4が含まれる。
【0060】
「結合親和性」は、一般に、分子(例えば、抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有結合相互作用の合計の強度を指す。特に明記しない限り、本明細書で用いられるように、「結合親和性」は、結合対のメンバー間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。結合親和性は、Kd、Koff、Kon、またはKaで表すことができる。本明細書で用いられるように、平衡解離定数「KD」または「Kd」なる用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離定数を指し、平衡状態で抗体分子の溶液中に存在するすべての抗体結合ドメインの二分の一を占めるのに必要な抗原の濃度を記載し、Mの単位で表される。KDの測定は、全ての結合剤が溶液中にあることを前提としている。解離定数(KDまたはKd)は、抗原に対する抗体の親和性を示す指標として用いられる。例えば、容易な分析は、各種のマーカー製剤でマーキングされた抗体を利用するスキャッチャード(Scatchard)法によるか、それのみならず、キットに付属の取扱説明書や実験操作方法による、一般医薬品、測定キットを用いることで可能である。それらの方法で導出できるKD値は、M(Mols)の単位で表される。
【0061】
ペプチド、ポリペプチドまたは抗体配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」及び「相同性」は、最大パーセント配列同一性を達成するために、必要に応じて配列アラインメント及びギャップ導入後、ならびに配列同一性の一部として任意の保存的置換を考慮せずに、特異的ペプチドまたはポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同じ候補配列におけるアミノ酸残基の百分率として定義される。パーセントアミノ酸配列同一性の決定目的のためのアライメントは、当技術分野の技術範囲内にある様々な方法で、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMEGALIGNTM(DNATAR)ソフトウェアを用いて達成される。当技術分野における当業者であれば、比較されるべき配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するのに必要な任意のアルゴリズムを始めとするアライメント測定のための適切なパラメータを決定することができる。
【0062】
本発明は、(以下、「抗PD-L1 sdAb」と称する)PD-L1に特異的に結合する単一ドメイン抗体(sdAb)を含む抗体またはその抗原結合断片、例えば、抗PD-L1 sdAb、抗PD-L1重鎖のみの抗体(HCAb)(例えば、ヒト免疫グロブリンG(IgG)の結晶性断片(Fc断片)に抗PD-L1 sdAbが融合した抗PD-L1 sdAb-Fc融合タンパク質)、または他のsdAb、全長4鎖抗体またはその抗原結合断片(例えば、FabまたはscFv)に抗PD-L1 sdAbが融合した多重特異性抗原結合タンパク質、並びにその調製及び用途に関する。
【0063】
そこで、本発明は、抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【0064】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片は、抗PD-L1 sdAbまたはその抗原結合断片であってもよい。
【0065】
本発明において、抗PD-L1 sdAbは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるCDR1、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるCDR2、及び配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるCDR3を含む。
【0066】
前記CDR配列を表6に示す。
【0067】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbは、FR領域に対して任意の適切な配列を含んでもよい。具体的には、前記FR配列は、下記表1~表4で表されるアミノ酸配列であってもよい。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
より具体的には、前記抗PD-L1 sdAbは、以下のFR1、FR2、FR3、及びFR4を含んでもよい:
配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるFR1;
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるFR2;
配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるFR3;及び
配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるFR4。
【0073】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbは、前記FR領域を含むVHHドメインを含んでもよい。
【0074】
具体的には、前記抗PD-L1 sdAbは、配列番号1で表されるアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列に少なくとも80%(例えば、少なくとも任意の80%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)の配列相同性を有するその変異体を含んでもよい。
【0075】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbは、単量体性または多量体性であってもよい。また、多量体性である場合、例えば、本明細書に記載の抗PD-L1 sdAbとは異なる抗PD-L1 sdAbを含む、多重特異性及び多価(例えば、二重特異性及び二価)であってもよく、あるいは、同じ抗PD-L1 sdAbの少なくとも2つのコピーを含む、単一特異性及び多価(例えば、二価)であってもよい。さらに、sdAb同士がペプチドリンカーを介して融合してもよい。一部の実現例において、ペプチドリンカーは、隣接するドメインが互いに対して自由に移動するように、可撓性残基(例えば、グリシン及びセリン)を含む。例えば、グリシン-セリンダブレットは、適切なペプチドリンカーであってもよい。また、ペプチドリンカーは、任意の適切な長さであってもよい。一部の実現例において、ペプチドリンカーは、少なくとも約任意の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50、75、100個、もしくはそれ以上のアミノ酸の長さである。一部の実現例において、前記抗PD-L1 sdAbは、配列番号10で表されるアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列に少なくとも80%(例えば、少なくとも任意の80%、58%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)配列相同性を有するその変異体を含んでもよい。
【0076】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbは、PD-L1のエピトープに結合する。
【0077】
また、前記抗PD-L1 sdAbとPD-L1との結合のKDは、10-6M~10-12M、10-6M~10-11M、10-6M~10-10M、10-6M~10-9M、または10-6M~10-8Mであってもよい。
【0078】
さらに、前記抗PD-L1 sdAbのEC50は、FACS分析において500nM未満であってもよく、具体的には0.1nM~500nM、0.1nM~400nM、0.1nM~300nM、0.1nM~0.00nM、0.1~50nM、0.1~10nM、1nM~500nM、1nM~400nM、1nM~300nM、1nM~200nM、1nM~100nM、1nM~50nM、または1nM~10nMであってもよい。
【0079】
本発明に係る単一ドメイン抗体(sdAb)は、重鎖のみの抗体からの重鎖可変ドメイン(例えば、ラクダ科におけるVHH(重鎖抗体の重鎖の可変ドメイン))、従来の4鎖抗体に由来する軽鎖、単一ドメイン(例えば、VHまたはVL)を天然に欠く結合分子、ヒト化重鎖のみの抗体、ヒト重鎖フラグメントを発現する遺伝子移植マウスまたはラットによって産生されたヒト単一ドメイン抗体、並びに抗体に由来するもの以外の操作されたドメイン及び単一ドメイン足場を非限定的に含んでもよい。sdAbは、マウス、ラット、ヒト、ラクダ、ラマ、ヤツメウナギ、魚類、サメ、ヤギ、ウサギ、及びウシ科を非限定的に含む任意の種に由来してもよい。また、ラクダ科以外の種からの天然に存在するsdAb分子を含んでもよい。
【0080】
さらに、sdAbは、軽鎖を欠く重鎖抗体として知られている天然に存在する単一ドメイン抗原結合分子に由来する。そのような単一ドメイン分子は、例えば、特許文献2及び非特許文献5に開示されている。軽鎖を天然に欠く重鎖分子に由来する可変ドメインは、本明細書ではVHHとして知られており、これを4鎖免疫グロブリンの従来のVHと区別する。そのようなVHH分子は、ラクダ科種、例えば、ラクダ、ラマ、ビキューナ、ヒトコブラクダ、アルパカ及びグアナコから産生される抗体に由来してもよい。ラクダ科以外の他の種は、自然に軽鎖の欠く重鎖分子を産生することができ、そのようなVHHは、本明細書の範囲内である。
【0081】
また、sdAbは、組換え、CDRグラフト化、ヒト化、ラクダ化、脱免疫化及び/またはインビトロで生成されてもよい(例えば、ファージディスプレイによって選択される)。一部の実現例において、フレームワーク領域のアミノ酸配列は、フレームワーク領域内の特異的アミノ酸残基の「ラクダ化」によって変更されてもよい。ラクダ化は、重鎖抗体のVHHドメインにおける対応する位置に生じるアミノ酸残基の少なくとも1つによって、従来の4鎖抗体からの(天然に存在する)VHドメインのアミノ酸配列におけるアミノ酸残基の少なくとも1つの代替または置換を指し、当技術分野における公知の方法で実施することができる。
【0082】
さらに、sdAbは、ヒト重鎖フラグメントを発現する遺伝子移植マウスまたはラットによって産生されたヒトsdAbであってもよい。例えば、特許文献3~7を参照されたい。
【0083】
さらに、特定の抗原または標的に対する天然に存在するVHHドメインは、ラクダ科のVHH配列の(未接触または免疫)ライブラリーから得られてもよい。そのような方法は、前記抗原または標的を利用するそのようなライブラリー、またはそれ自体公知の少なくとも1つのスクリーニング技術を用いるその少なくとも一部、断片、抗原性決定因子またはエピトープスクリーニングを含むか、あるいは含まなくてもよい。そのようなライブラリー及び技術は、例えば、特許文献8~11に開示されている。代案として、(非接触または免疫)VHHライブラリーに由来する改良された合成または半合成ライブラリー、例えば、特許文献12に記載されているように、技術的に、例えば、ランダムな突然変異誘発及び/またはCDRシャッフリングによって(未接触または免疫)VHHライブラリーから得られたVHHライブラリーを用いてもよい。
【0084】
また、sdAbは従来の4鎖抗体から生成されてもよい。例えば、非特許文献8、9と、特許文献13、14を参照されたい。
【0085】
さらに、本発明に係るsdABは、キメラ抗体であってもよい。特定のキメラ抗体は、例えば、特許文献15及び非特許文献10に開示されている。一部の実現例において、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、ラクダ科種、例えばラマ由来の可変領域)及びヒト定常領域を含んでもよい。また、キメラ抗体はヒト化されてもよい。典型的には、非ヒト抗体はヒト化されて、ヒトに対する免疫原性を低下させるが、親系非ヒト抗体の特異性及び親和性を維持する。一般に、ヒト化抗体は、HVR、例えば、CDR、(またはその部分)が非ヒト抗体に由来し、FR(またはその部分)がヒト抗体配列に由来する少なくとも1つの可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、場合によってはヒト定常領域の少なくとも1つの部分も含むであろう。一部の実現例において、ヒト化抗体における一部のFR残基は、例えば、抗体特異性または親和性を回復または改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)に対応する残基で置換される。
【0086】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片は、抗PD-L1 HCAbまたはその抗原結合断片であってもよい。
【0087】
具体的には、抗PD-L1 HCAbは、本明細書に記載の抗PD-L1 sdAbが少なくとも1つのCH2及び/またはCH3ドメイン、例えば、Fc断片に融合したものである。
【0088】
前記CH2及び/またはCH3ドメインは、免疫グロブリンに由来する。前記免疫グロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgMであり、具体的にはIgGであってもよい。一部の実現例において、抗PD-L1 HCAbは、IgG、例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のFc断片を含んでもよく、前記Fc断片は、ヒトFc、例えば、ヒトIgG1(hIgG1)Fc、hIgG2 Fc、hIgG3 Fcもしくは、hIgG4 Fcであってもよい。
【0089】
前記抗PD-L1 HCAbは、単量体性または多量体性であってもよい。また、多量体性である場合、例えば、本明細書に記載の抗PD-L1 sdAbとは異なる抗PD-L1 sdAbを含む、多重特異性及び多価(例えば、二重特異性及び二価)であってもよく、あるいは、同じ抗PD-L1 sdAbの少なくとも2つのコピーを含む、単一特異性及び多価(例えば、二価)であってもよい。
【0090】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAb並びにCH2及び/またはCH3ドメイン、具体的にはFc断片は、ペプチドリンカーを介して融合されてもよい。前記ペプチドリンカーの長さ、柔軟性の程度及び/または他の特性は、少なくとも1つの特定の抗原またはエピトープに対して非限定的に、親和性、特異性または結合能を始めとする特性においていくつかの影響を及ぼし得る。例えば、より長いペプチドリンカーは、2つの隣接ドメインが互いに立体的に干渉しないことを保証できるように選択されてもよい。一部の実現例において、ペプチドリンカーは、隣接するドメインが互いに対して自由に移動するように、可撓性残基(例えば、グリシン及びセリン)を含む。例えば、グリシン-セリンダブレットは、適切なペプチドリンカーであってもよい。また、ペプチドリンカーは、任意の適切な長さであってもよい。一部の実現例において、ペプチドリンカーは、少なくとも約任意の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50、75、100個、もしくはそれ以上のアミノ酸の長さである。
【0091】
さらに、ペプチドリンカーは、天然に存在する配列、または非天然に存在する配列を有してもい。例えば、重鎖のみの抗体のヒンジ領域に由来する配列をリンカーとして用いることができる。例えば、特許文献16を参照されたい。一部の実現例において、前記ペプチドリンカーは、hIgG1ヒンジ、hIgG2ヒンジ、hIgG3ヒンジ、hIgG4ヒンジ、またはそれらの変異体であってもよい。
【0092】
本発明において、前記抗PD-L1 HCAbは、配列番号5及び11のいずれかで表されるアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列に少なくとも80%(例えば、少なくとも任意の80%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%)配列相同性を有するその変異体を含んでもよい。
【0093】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片は、他のsdAb、全長4鎖抗体またはその抗原結合断片に抗PD-L1 sdAbが融合した多重特異的抗原結合タンパク質(MABP)(例えば、(以下、抗PD-L1 BABPと呼ぶ)抗PD-L1 sdAbが融合した二重特異性抗原結合タンパク質(BABP))またはその抗原結合断片であってもよい。
【0094】
前記抗PD-L1 BABPは、(a)本明細書に記載の抗PD-L1 sdAbを含む第1の抗原結合部分と、(b)第2のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分と、を含む。
【0095】
前記第2のエピトープは、PD-L1以外の抗原、またはPD-L1における第2のエピトープであってもよい。
【0096】
前記第2の抗原結合部分は、全長抗体、Fab、Fab'、(Fab')2、Fv、単鎖Fv(scFv)、scFv-scFv、ミニボディ、ダイアボディまたは第2のsdAbであってもよい。また、第2の抗原結合部分は、VHを有する重鎖及びVLを有する軽鎖を含んでもよい。一部の実現例において、第1の抗原結合部分は、重鎖のN末端、軽鎖のN末端、Fc領域のN末端、重鎖のC末端、または軽鎖のC末端における第2の抗原結合部分に融合されてもよい。一部の実現例において、第2の抗原結合部分は、FabまたはscFvを含んでもよい。一部の実現例において、第1の抗原結合部分は、FabまたはscFvのC末端で第2の抗原結合部分に融合されてもよい。一部の実現例において、第2の抗原結合部分は、全長4鎖抗体を含んでもよい。一部の実現例において、第1の抗原結合部分は、ペプチドリンカーを介して第2の抗原結合部分に融合されてもよい。一部の実現例において、第2の抗原結合部分は、Fc領域、例えば、IgG1 Fc、IgG2 Fc、IgG3 Fc、またはIgG4 Fcを含んでもよい。
【0097】
前記抗PD-L1 MABPは、少なくとも2つの異なるエピトープを特異的に結合する少なくとも2つの抗原結合部分を含む。少なくとも2つの抗原結合部分の一部は、MABPが2つの異なるエピトープ用結合部位を有する限り、同一であってもよい。さらに、抗PD-L1 MABPは、本明細書に記載の抗PD-L1 sdAbをそれぞれ含む1、2、3、4、5、6、7、8個またはそれ以上の異なる抗原結合部分のいずれかを含んでもよい。
【0098】
また、抗PD-L1 MABPは、PD-L1の第1のエピトープ及び/または第2のエピトープに対する仮数の任意の適切な数、及び特異性の任意の適切な数を有してもよい。一部の実現例において、抗PD-L1 MABPは、PD-L1に対して二価、三価、四価、五価、六価、またはより高い価数であってもよい。一部の実現例において、MABPは三重特異性であってもよく、四重特異性であってもよい。
【0099】
本発明に係る多重特異性抗体の製造技術は、非限定的に、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(例えば、非特許文献11、12、特許文献17)、及び「ノブインホール」エンジニアリング(例えば、特許文献18)を含む。多重特異性抗体はまた、抗体Fc-ヘテロ二量体性分子の製造用静電気操舵効果の操作(特許文献19);少なくとも2つの抗体または断片の架橋結合(例えば、特許文献20、非特許文献13);二重特異性抗体を産生するためのロイシンジッパーの利用(例えば、非特許文献14);二重特異性抗体断片の製造用「ダイアボディ」技術の利用(例えば、非特許文献15);及び単鎖Fv(sFv)二量体の利用(例えば、非特許文献16);並びに、例えば、非特許文献17に記載のように、三重特異性抗体の調製;及びタンデム単一ドメイン抗体を含むポリペプチドの創出(例えば、特許文献21、非特許文献18)によって実施されてもよい。
【0100】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸配列変異体を含む。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードする核酸配列への適切な修飾の導入によって、またはペプチド合成によって調製されてもよい。そのような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失、及び/または挿入及び/または置換を含む。欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせは、最終作製物に至るように作ることができ、ただし、最終作製物は、所望の特徴、例えば、抗原結合を保持する。一部の実現例において、置換、挿入、または欠失は、そのような変更が抗原を結合させる抗体の能力を実質的に低下させない限り、少なくとも1つの超可変領域(HVR)内で起こり得る。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保存的変更は、HVRで実施されてもよい。そのような変更は、HVR「ホットスポット」またはCDRの外部であってもよい。
【0101】
また、前記アミノ酸置換は、少なくとも1つ(例えば、任意の1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個)のアミノ酸置換であってもよい。さらに、少なくとも1つのアミノ酸置換は、保存的置換であってもよく、非遺伝子コードアミノ酸または合成アミノ酸への置換であってもよい。一部の実現例において、前記アミノ酸置換はCDR領域に存在してもよく、CDR1、CDR2及び/またはCDR3において少なくとも1つ(例えば、任意の1、2、3、または4個)のアミノ酸置換を含んでもよい。一部の実現例において、アミノ酸置換はFR領域に存在してもよく、FR1、FR2、FR3及び/またはFR4における少なくとも1つ(例えば、任意の1、2、3、4、5または6個)のアミノ酸置換を含んでもよい。
【0102】
また、前記アミノ酸配列の挿入は、1つの残基から100以上の残基を含むポリペプチドまでの長さ範囲のアミノ及び/またはカルボキシル末端融合、並びに単一または多重のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入変異体は、抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドまたは(例えば、ADEPTの場合)酵素に対する抗体のN末端またはC末端への融合を含んでもよい。
【0103】
さらに、少なくとも1つのアミノ酸修飾は、本明細書に提供される抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片(例えば、抗PD-L1 HCAb、または抗PD-L1 MABP)のFc領域に導入され、それによってFc領域変異体を生成してもよい。Fc領域変異体は、少なくとも1つのアミノ酸位置にアミノ酸修飾(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4 Fc)を含んでもよい。
【0104】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片は、診断部分(moiety)または生体適合性調節剤に連結されたり、それに融合されたり、それに結合されたり(例えば、共有または非共有)、あるいは、そうでなければそれと会合されたりしてもよい。例えば、ペプチドまたはポリペプチド(例えば、生物毒素、バイオマーカー、精製タグなど)、タンパク質、重合体、核酸分子、小分子、模倣剤、合成薬物、無機分子、有機分子、または放射性同位元素が結合または会合されてもよい。
【0105】
また、前記抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片は、生物学的分子(例えば、ペプチドまたはヌクレオチド)、小分子、蛍光団、または放射性同位元素であってもよい診断剤または検出可能な作用剤、マーカ、あるいは、レポータに結合または会合されてもよい。標識されたモジュレータは、PD-L1に関連する疾患、例えば、癌の発生または進行をモニターしたり、本明細書に開示される抗体を含む特定の療法の有効性を決定したり(すなわち、テラグノシス(theragnosis))、あるいは将来の治療過程を決定する臨床試験手順の一部として役立ったりする。そのようなマーカまたはレポータはまた、本明細書に開示される抗体を精製するのに有用である。
【0106】
さらに、前記抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片は、免疫調節剤、サイトカイン、細胞毒性剤、化学療法剤、診断剤、抗ウイルス剤、抗微生物剤または薬物に結合してもよい。よって、本発明は、免疫調節剤、サイトカイン、細胞毒性剤、化学療法剤、診断剤、抗ウイルス剤、抗微生物剤または薬物に結合した本発明に係る抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片を含む抗体複合体を提供する。
【0107】
本発明はまた、本明細書に開示される抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸分子、核酸分子を含む発現ベクター、及び発現ベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。
【0108】
さらに、本発明は、(a)抗体を発現させる条件下で宿主細胞を培養するステップと、(b)発現された抗体またはその抗原結合断片を回収するステップと、を含む、抗体またはその抗原結合断片を産生する方法を提供する。
【0109】
本発明において、本明細書に開示される抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、抗体重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)容易に単離及び配列解析されてもよい。単離され、サブクローニングされたハイブリドーマ細胞(またはファージまたは酵母由来のコロニー)は、そのようなDNAの好ましい供給源としての役割を果たす。また特に、単離されたDNA(修飾されてもよい)は、抗体の調製のために定常及び可変領域配列をクローニングするために使用されてもよい。
【0110】
1つの例示的な方法は、選択された細胞からのRNAの抽出、cDNAへの変換、及び抗体特異的プライマーを用いたPCRによる増幅を伴う。適切なプライマーは関連技術分野で周知であり、本明細書に例示されるように、多くの商業的供給源から容易に入手可能である。組合せライブラリーのスクリーニングによって単離された組換えヒトまたは非ヒト抗体を発現させるために、抗体をコードするDNAを組換え発現ベクターにクローニングし、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母及びバクテリアを含む宿主細胞内に導入される。一部の実現例において、他の所望の構築物を産生しないサルCOS細胞、NS0細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、または骨髄腫細胞にモジュレータが導入され、それによって発現される。
【0111】
本発明において、前記核酸分子は、ベクター中に、適切な場合に核酸の発現を制御するプロモーターと共に存在する。前記ベクターはその最も一般的な意味で使用され、核酸を、例えば、原核細胞及び/または真核細胞中に導入し、適切な場合にゲノムに組み込むことを可能にする、核酸のための任意の中間ビヒクルを含む。その種のベクターは、好ましくは細胞内で複製及び/または発現される。ベクターはプラスミド、ファージミド、バクテリオファージまたはウイルスゲノムを含んでもよい。前記プラスミドは一般に、染色体DNAとは独立して複製することができる染色体外遺伝物質構築物、典型的には環状DNA二重鎖に関する。
【0112】
関連技術分野の当業者であれば周知の方法を用いて、抗体コード配列及び適切な転写及び翻訳制御シグナルを含む発現ベクターを構築することができる。それらの方法は、例えば、インビトロ組換えDNA技術、合成技術、及びインビボ遺伝子組換えを含む。
【0113】
本発明において、前記宿主細胞または組換え宿主細胞とは、発現ベクターが導入された細胞を意味する。組換え宿主細胞及び宿主細胞は、特定の対象細胞だけでなく、そのような細胞の子孫も意味する。突然変異または環境的影響のために後続世代で特定の修飾が起こり得るので、そのような子孫は実質的に親細胞と同一ではない場合があるが、本明細書で用いられる用語宿主細胞の範囲内に含まれる。そのような細胞は、前記のようなベクターを含んでもよい。
【0114】
また、関連技術分野で認識される分子生物学技術及び現在のタンパク質発現方法論を用いて、本明細書に開示される抗体の実質的な量を産生してもよい。さらに詳しくは、そのような抗体をコードする核酸分子は、様々なタイプの宿主細胞を含む周知で市販されているタンパク質生産システムに組み込まれ、前臨床、臨床、または商業的量の所望の医薬製品を提供することができる。一部の実現例において、抗体をコードする核酸分子は、選択された宿主細胞中への効率的な組み込み及びその後の抗体の高い発現レベルを提供するベクターまたは発現ベクターに操作される。
【0115】
好ましくは、本明細書に開示される抗体をコードする核酸分子及びそれらの核酸分子を含むベクターは、適切な哺乳動物、植物、バクテリアまたは酵母宿主細胞のトランスフェクションに用いることができるが、原核システムを用いてもよい。トランスフェクションは、ポリヌクレオチドを宿主細胞中に導入するための任意の公知の方法によって行う。異種ポリヌクレオチドを哺乳動物細胞に導入する方法は、当技術分野において周知であり、デキストラン媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、ポリブレン媒介トランスフェクション、プロトプラスト融合、電気穿孔、リポソーム内ポリヌクレオチドのカプセル化、及びDNAの核内への直接マイクロインジェクションを含む。さらに、核酸分子をウイルスベクターによって哺乳動物細胞に導入してもよい。哺乳動物細胞を形質転換する方法は、当技術分野において周知である。植物細胞を形質転換する方法もまた当技術分野において周知であり、例えば、アグロバクテリウム媒介形質転換、バイオリスティック形質転換、直接注射、電気穿孔、及びウイルス形質転換を含む。細菌及び酵母細胞を形質転換する方法もまた当技術分野において周知である。
【0116】
様々な市販されている多くの宿主発現ベクターシステムを用いて、本明細書に開示の抗体を発現させてもよい。そのような宿主発現システムは、目的のコード配列を発現させ、その後に精製されてもよいビヒクルを示すだけでなく、適切なヌクレオチドコード配列で形質転換またはトランスフェクトされた場合に、本発明の分子をインサイチュで発現することができる細胞を示す。そのようなシステムは、モジュレータ・コード配列を含む組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された微生物、例えばバクテリア(例えば、イー・コリ(E.coli)、バシラス・サブティリス(B.subtilis)、ストレプトマイセス(streptomyces));モジュレータ・コード配列を含む組換え酵母発現ベクターでトランスフェクトされた酵母(例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia));モジュレータ・コード配列を含む組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)で感染した昆虫細胞システム;組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)で感染するか、あるいはモジュレータ・コード配列を含む組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)でトランスフェクトされた植物細胞システム(例えば、ニコチアナ(Nicotiana)、アラビドプシス(Arabidopsis)、アオウキクサ、トウモロコシ、コムギ、ジャガイモなど);あるいは、哺乳動物細胞のゲノムに由来するか(例えば、メタロチオネインプロモーター)、あるいは哺乳動物ウイルスに由来する(例えば、アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)プロモーターを含む組換え発現構築物を含む哺乳動物細胞システム(例えば、COS、CHO、BHK、293、3T3細胞)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0117】
本明細書に開示された抗体が組換え発現または本明細書に開示された他の技術のいずれかによって産生された場合、それは、免疫グロブリンの精製に関する当技術分野で周知の任意の方法によって、あるいはより一般的には、タンパク質の精製のための任意の他の標準技術によって精製されてもよい。
【0118】
また、本発明は、本明細書に開示される抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片、もしくは前記抗体またはその抗原結合断片を含む抗体複合体を有効成分として含有する、癌の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0119】
さらに、本発明は、薬学的に有効な量の本明細書に開示される抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片、もしくは前記抗体またはその抗原結合断片を含む抗体複合体を包含する薬学的組成物を個体に投与するステップを含む、癌の予防または治療方法を提供する。
【0120】
また、本発明は、癌の予防または治療に用いるための本明細書に開示される抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片、もしくは前記抗体またはその抗原結合断片を含む抗体複合体の用途を提供する。
【0121】
本発明において、前記癌は、免疫チェックポイントタンパク質の活性を遮断してT細胞を活性化する必要がある癌であり、例えば、黒色腫、肺癌、肝臓癌、神経膠腫、卵巣癌、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、胃癌、乳癌、転移癌、前立腺癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、孤立性骨髄腫及び再生不良性貧血からなる群から選択されてもよいが、それらに限定されるものではない。
【0122】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片、もしくは前記抗体またはその抗原結合断片を含む抗体複合体に関する内容は前記と同じであるので、具体的な説明は前記内容を援用し、以下では、薬学的組成物及び用途の特有の構成についてのみを説明する。
【0123】
本発明に係る薬学的組成物は、本明細書に記載の少なくとも1種(例えば、2または3種)の抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片、もしくは前記抗体またはその抗原結合断片を含んでもよい。
【0124】
本発明に係る薬学的組成物を個体、特に癌患者に投与することによって、癌を予防または治療することができる。
【0125】
また、本発明に係る薬学的組成物は、本明細書に記載の抗体の形態、意図された送達様式、及び他の幾多の変数に応じて、関連技術分野で認識される技術を用いて所望のように製剤化されてもよい。さらに、関連技術分野において周知であり、投与を容易にするか、あるいは送達のために薬学的に最適化された製剤で活性化合物を処理することを助ける、比較的不活性物質である賦形剤及びアジュバントを始めとする薬学的に許容される適切な担体を含有するように製剤化されてもよい。例えば、ビヒクル、アジュバント、及び希釈剤を含む薬学的に許容される様々な担体は、複数の商業的供給源から容易に入手可能である。また、薬学的に許容される補助物質の分類、例えば、pH調整剤及び緩衝剤、等張化剤、安定化剤、湿潤剤なども入手可能である。特定の非限定的且つ例示的な担体には、ブライン、緩衝ブライン、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、及びそれらの組み合わせが含まれる。
【0126】
また、本発明に係る薬学的組成物は、経腸、非経口または局所投与のために製剤化されてもよい。実際には、3つのタイプの製剤のすべてを同時に用いて活性成分の全身投与を達成してもよい。非経口及び非経口薬物送達のための賦形剤のみならず、製剤は関連技術分野において周知である。非経口投与に適した製剤には、水溶性形態の活性化合物、例えば、水溶性塩の水溶液が含まれる。さらに、油性注射懸濁液に適切な活性化合物の懸濁液を投与してもよい。適切な親脂性溶媒またはビヒクルには、脂肪油、例えば、ゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチルまたはトリグリセリドが挙げられる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよく、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、及び/またはデキストランが挙げられる。任意で、懸濁液は、安定化剤を含有してもよい。さらに、リポソームを用いて細胞への送達のために作用剤をカプセル化してもよい。
【0127】
経腸投与に適した製剤には、硬質または軟質ゼラチンカプセル、丸剤、コーティングされた錠剤を始めとする錠剤、エリキシル、懸濁液、シロップまたは吸入剤及びその制御放出形態が含まれる。
【0128】
一般に、本明細書に開示される抗体は、それを必要とする対象体に経口、静脈内、動脈内、皮下、非経口、鼻腔内、筋肉内、心臓内、脳室内、気管内、頬側、直腸、腹腔内、皮内、局所、経皮、及び脊椎腔内、またはそうでなければ移植または吸入によるものを含むが、それらに限定されない様々な経路によってインビボで投与される。投与の適切な製剤及び経路は、意図される用途及び治療法に応じて選択可能である。
【0129】
本発明に係る薬学的組成物は、癌の治療または予防のための薬学的に有効な量で投与される。前記薬学的に有効な量は、医師または他の臨床医によって求められる、対象体における生物学的または医学的応答を引き出すべき抗体またはそれを含む薬学的組成物の量を意味する。さらに、予防及び/または治療効果を有する治療の量を達成するために、特定の頻度で多重容量の抗体またはそれを含む薬学的組成物を投与してもよい。
【0130】
前記薬学的に有効な量は、典型的には治療される対象の体重、その身体状態、治療される状態の広さ、及び治療される対象の年齢に依存する。一般に、本明細書に開示される抗体は、用量当たり約10ng/kg体重~約100mg/kg体重範囲、約50μg/kg体重~約5mg/kg体重範囲、約100μg/kg体重~約10mg/kg体重範囲、約100μg/kg体重~約20mg/kg体重範囲、0.5mg/kg体重~約20mg/kg体重範囲の量で投与してもよいが、それらに限定されるものではない。さらに、抗体は、少なくとも約100μg/kg体重、少なくとも約250μg/kg体重、少なくとも約750μg/kg体重、少なくとも約3mg/kg体重、少なくとも約5mg/kg体重、または少なくとも約10mg/kg体重の用量で投与してもよいが、それらに限定されるものではない。
【0131】
また、本発明に係る薬学的組成物は、約100mg~約10,000mgの用量、約200mg~約9,000mgの用量、約300mg~約8,000mgの用量、約400mg~7,000mgの用量、500mg~5,000mgの用量で投与してもよいが、それらに限定されるものではない。
【0132】
本発明に係る薬学的組成物は通常、患者に複数回投与される。例示的な治療計画は、2週間ごとに1回、1ヶ月1回、または3~6ヶ月ごとに1回投与を含む。例えば、患者は、サイクルとして4週間ごとに、例えば、28日ごとに1回の抗体を(例えば、静脈内製剤として)提供される。投与頻度は、患者における抗体の薬物動態学的プロファイルに応じて調整されてもよい。例えば、抗体の半減期は2週間の投与頻度を必要とする。いくつかの方法では、異なる結合特異性を有する少なくとも2つの抗体を同時に投与してもよく、そのような場合に投与される各抗体の投与量は示された範囲内に属する。
【0133】
投与量及び頻度は、患者における抗体の半減期に依存する。一般に、ヒト抗体は最も長い半減期を示し、次いでヒト化抗体、キメラ抗体、及び非ヒト抗体である。投与量及び投与頻度は、治療が予防的であるか、もしくは治療的であるかに応じて変わり得る。
【0134】
治療計画の持続期間は、治療される疾患、患者の年齢及び状態、患者の疾患の病期及び種類、患者が治療にどのように反応するかなどに依存する。臨床医は、治療の効果を綿密に観察し、必要に応じて任意の調整を行う。作用剤を組み合わせて用いる場合、2種以上の治療剤を同時にまたは任意の順序で逐次投与し、すなわち、本明細書に開示される抗体は、第2の治療剤を投与する前に、第2の治療剤と共同で、あるいは第2の治療剤の投与に続いて投与する。
【0135】
また、本発明は、
(i)本発明に開示される抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片と試料を接触させるステップと、
(ii)前記抗体またはその抗原結合断片とPD-L1との間の複合体形成を検出するか、あるいは複合体の量を決定するステップと、
を含む、試料からPD-L1を検出するか、あるいはPD-L1の量を決定する方法を提供する。
【0136】
本発明において、前記抗PD-L1 sdAbを含む抗体またはその抗原結合断片、もしくは前記抗体またはその抗原結合断片を含む抗体複合体に関する内容は前記と同じであるので、具体的な説明は前記内容を援用する。
【0137】
本発明において、前記試料は細胞試料、すなわち癌細胞などの細胞を含む試料であってもよい。
【0138】
本発明の抗体または抗原結合断片を用いて、PD-L1またはPD-L1発現細胞の検出またはPD-L1またはPD-L1発現細胞の量を決定することができる。PD-L1と本発明の抗体または抗原結合断片との間の複合体の量を検出または決定することによって、PD-L1またはPD-L1発現細胞が検出されるか、あるいはPD-L1またはPD-L1発現細胞の量が決定される。複合体の形成は、PD-L1またはPD-L1発現細胞の存在を示す。そのような量の検出または決定は、幾多の方法、本発明の抗体または抗原結合断片を利用する免疫検出を含むが、それらに限定されない方法で実施されてもよい。ペプチドまたはタンパク質を検出するために抗体を用いる方法は周知であり、ELISA、競合的結合アッセイ、及びそれと同様の方法を含む。一般に、そのようなアッセイは、検出のために提供する標識、例えば、インジケーター(indicator)酵素、放射性標識、蛍光団、または常磁性粒子に直接的または間接的に結合した標的ペプチドまたはタンパク質に特異的に結合する抗体または抗体断片を利用する。本発明の方法は、PD-L1レベルまたはPD-L1発現細胞のレベルの定量的及び/または定性的評価(evaluations)、例えば、絶対的及び/または相対的評価を可能にする。
【0139】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0140】
但し、下記実施例及び実験例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記実施例及び実験例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0141】
免疫及び採血
免疫抗原としてヒトPD-L1タンパク質を免疫アジュバント(GERBU)と混合し、1頭のアルパカに3回にかけて筋肉注射により免疫した。3次にわたって免疫を行い、最後の免疫から14日目にアルパカから10mLずつ採血し、ELISAによって免疫応答を解析した。抗体産生の有無を測定するため、1μg/mLの濃度で免疫抗原をコーティングバッファーを用いて96ウェルマイクロプレートに分注し、4℃で一晩コーティングした。96ウェルマイクロプレートをPBSTで3回洗浄し、次いで、非特異的結合を阻害するために5%スキームミルク(skim milk)を室温で2時間処理してブロッキング(blocking)した。その後、PBSTで3回洗浄後、免疫前(day 0)、免疫後14日(day 14)、28日(day 28)、42日(day 42)に確保した血清試料をステップごとの希釈濃度で処理した。その後、96ウェルマイクロプレートをPBSTで5回洗浄し、次いで、goat anti-Llama IgG HRP抗体と室温で1時間反応させ、TMB反応で免疫抗原に結合した抗体有無を確認した。
【実施例2】
【0142】
ライブラリの作成及び評価
<実施例1>で確認した免疫抗原に結合する単一ドメイン抗体をコードする遺伝子の増幅によりライブラリーを構築した。ライブラリー構築のために、血液からフィコール(Ficoll)を用いて末梢血単核球細胞(PBMC)を単離した。単離された末梢血単核球細胞(PBMC)から抽出した全RNA(Total RNA)から特異的プライマー(specific primer)を用いて単一ドメイン抗体をコードする遺伝子断片を増幅し、pComb3×ベクターにクローニングした。作製された免疫ライブラリーのサイズは5.4×108であった。
【実施例3】
【0143】
ライブラリの増幅
<実施例2>で作製した免疫ライブラリーをXL1-blue株に形質転換(transformation)した。形質転換したXL1-blue株を、2%のグルコース、100μg/mLのアンピシリンを含む10mLの2×YT培地に加え、37℃の振とう攪拌機で培養した。OD600で吸光度が0.5になるまで培養し、M13K07ファージ(Invitrogen)を1×1011 pfu/mLになるように添加した。その後、37℃で30分間静置培養後、37℃の振とう攪拌機で200rpmで30分間追加培養した。培養液を常温下、4,000rpmで15分間遠心分離して上清を除去した。その後、100μg/mLのアンピシリン、50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT培地10mLを添加することで培養液のペレットを再懸濁し、30℃の振とう培養器で250rpmで一晩培養した。その後、4℃、4,000rpmで30分間遠心分離した。上清をPEG沈殿法を用いて沈殿し、4℃、12,000rpmで30分間遠心分離した。ペレットをPBSで再懸濁し、4℃、13,000rpmで5分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移して用いるまで4℃で保存した。
【実施例4】
【0144】
バイオパニング(bio-panning)
免疫抗原に特異的な単一ドメイン抗体を選別するために、96ウェルマイクロプレートに5μg/mLの濃度でコーティングバッファーを用いて免疫抗原を分注し、4℃で一晩コーティングした。単一ドメイン抗体を選別するための用いられるライブラリー(<実施例3>のライブラリー)を96ウェルマイクロプレートに分注し、室温で30分間反応させた。その後、新しいウェルにライブラリーを移し、常温で30分間反応させる作業を4回繰り返した。そのような操作は、マイクロプレートウェルに非特異的に結合するライブラリーを減少させるために行われた。ライブラリーを1.7mLチューブに移し、使用するまでは4℃で保存した。免疫抗原でコーティングされたマイクロプレートをPBSTで5回洗浄し、次いで、5%のスキームミルクを加えて室温で2時間ブロッキングした。その後、PBSTで5回洗浄し、次いで、非特異的結合率が減少したライブラリーをバインディング溶液(2.5%のスキームミルク、0.5%のtween 20)と共に5×1012 virions/ウェルで分注し、常温で30分間反応した。その後、洗浄溶液(PBS、0.5%のtween 20)で10回洗浄し、次いで、さらにPBSTで3回洗浄した。免疫抗原に特異的に結合した単一ドメイン抗体は、1ウェル当たり5μgの免疫抗原を添加し、次いで、室温、500rpmで30分間反応して選択的に溶出した。溶出したファージを対数増殖期のXL-1 blue細胞に感染させた後、2×YT寒天培地に塗抹した。第2の選別目的のパニングのために、前記と同じ条件下で繰り返した。寒天培地で生成された単一のファージクローンをそれぞれ増幅し、FACSを用いてスクリーニングした。
【実施例5】
【0145】
ファージスクリーニング
Expi-CHO細胞における免疫抗原の一時的な過剰発現を誘導するために、免疫抗原をコードする遺伝子をpCMV6-GFPベクターに挿入してpCMV6-免疫抗原-GFPプラスミドを構築した。Expi-CHO細胞をDPBSで洗浄し、次いで、室温、1,200rpmで3分間遠心分離した。上清を除去し、2%のスキームミルクで細胞を再懸濁して4℃、30分間ブロッキングした。細胞を室温、1200rpmで3分間遠心分離して上清を除去してからDPBSで2回洗浄し、96ウェルマイクロプレートに3×105細胞/100μL/ウェルとなるように分注した。各ウェルにモノクローナルファージを加えて4℃で1時間反応させた後、DPBSで2回洗浄した。細胞に、ファージに特異的に結合する抗体(M13 major coat protein Alexa Flour 647(Santacruz))を分注し、光を遮断したまま4℃で30分間反応する。細胞をDPBSで2回洗浄し、次いで、新しいDPBSで再懸濁し、Accuri C6(BD)装置を用いてFACS解析した。FACSシステムを用いてスクリーニングされたクローンを選別し、塩基配列解析を行った。
【実施例6】
【0146】
ヒトIgG Fcドメインが融合した単一ドメイン抗体の発現及び精製
<6-1>ヒトIgG1 Fcドメインが融合した一価単一ドメイン抗体の発現及び精製
<実施例5>で選別したクローンをTGEX-Fc(IgG1)発現ベクターにクローニングした。ヒトIgG1 Fcドメインを融合した単一ドメイン抗体の発現のために、95~99%の生存率のExpi-CHO細胞を計数し、7×106細胞を25mLの培地(Expi-CHO expression medium(Gibco))に添加する。そして、8%CO2が維持された37℃の振とう培養器で、125rpm、一晩培養した。その後、80μLのExpiFectamineTM CHO Reagent(Gibco,100033021)と920μLのOptiPROTM medium混合液に、ヒトIgG1 Fcドメインが融合した単一ドメイン抗体をコードする20μgのプラスミドDNAと、1mLのOptiPROTM medium混合液を加え、室温で5分間反応させた後、培養細胞に添加した。細胞を8%CO2が維持された振とう培養器中で125rpm、20時間培養した。その後、ヒトIgG1 Fcドメインが融合した単一ドメイン抗体の発現を増強する150μLのExpiFectamineTM CHO enhancer(Gibco)と、6mLのExpiCHO Feed(Gibco)を入れ、5%のCO2が維持される32℃の振とう培養器で125rpm、5日間培養した。培養した細胞を4℃、4,000rpmで30分間遠心分離し、上清を0.2μmのシリンジフィルターを用いてろ過した。その後、HiTrap protein G HP column(GE Healthcare)に上清をロードし、PBSで洗浄してから、IgG elutionバッファー(Thermo)を用いてヒトIgG1 Fcドメインが融合した単一ドメイン抗体をcolumnから溶出した。溶出した試料を1M Tris-HCl(pH9.0)を加えて中和し、次いで、使用するまでは4℃で保存した。
【0147】
<6-2>ヒトIgG4 Fcドメインが融合したPD-L1抗原特異的二価単一ドメイン抗体の発現及び精製
<実施例5>で選別したクローンを2つのG2Sリンカー(GGSGGS)を用いて連結することにより、二価単一ドメイン抗体を作製した。前記二価単一ドメイン抗体をコードするヌクレオチドは、遺伝子合成(マクロジェン,韓国)によって確保した。ヒトIgG4 Fcドメインが融合した単一ドメイン抗体の発現及び精製のために合成された遺伝子を、TGEX-Fc(IgG4)発現ベクターにクローニングした。その後、実施例<6-1>に記載のものと同様の方法で発現及び精製した。
【実施例7】
【0148】
FACSを用いたヒトIgG Fcドメインが融合した単一ドメイン抗体と免疫抗原の結合能評価
<実施例6>で精製した抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)と免疫抗原との結合能を、FACSにより確認した。
【0149】
具体的には、CHO-K1_PD-L1細胞株(PD-L1抗原が過剰発現されるCHO-K1細胞)をDPBSで洗浄し、次いで、常温、1,200rpmで3分間遠心分離した。上清を除去し、2%のスキームミルクで細胞を再懸濁して4℃、30分間ブロッキングした。細胞を室温、1,200rpmで3分間遠心分離して上清を除去し、次いで、DPBSで2回洗浄した。その後、各ウェルに3×105細胞/100μL/ウェルで細胞を分注し、次いで、抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)をそれぞれ濃度ごとに処理し、陰性対照群としてアイソタイプコントロール(isotype control)抗体を使用した。細胞を4℃で1時間反応させた後、DPBSで2回洗浄した。その後、ヒトFcドメインに特異的に結合する抗体(Anti-human IgG Fc APC抗体(Biolegend))を処理し、光を遮断したまま4℃で30分間反応した。細胞をDPBSで2回洗浄し、次いで、100μLのDPBSで再懸濁し、Accuri C6(BD)装置を用いてFACS解析した。
【実施例8】
【0150】
FACSを用いたヒトIgG Fcドメインが融合した単一ドメイン抗体の免疫抗原相互作用に対する阻害能評価
<実施例6>で精製した抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)がPD-1/PD-L1の相互作用に及ぼす抑制能を評価した。
【0151】
具体的には、PD-1/PD-L1の相互作用に対する抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)の評価のために、CHO-K1_PD-L1細胞株(PD-L1抗原が一定に発現するCHO-K1細胞)を96ウェルマイクロプレートにウェル当たり2×105細胞で分注し、10μg/mLのヒトPD-1-Hisタンパク質で処理した。その後、抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)をそれぞれ濃度ごとに処理し、陰性対照群として、アイソタイプコントロール抗体で処理した。細胞を4℃で1時間反応させ、DPBSで3回洗浄し、次いで、His抗原に特異的に結合する抗体(Goat anti-His PE)を加え、光を遮断したまま、4℃で30分間反応させた。細胞をDPBSで3回洗浄し、次いで、100μLのDPBSで再懸濁し、Accuri C6(BD)装置でCHO-K1_PD-L1細胞(PD-L1抗原が一定に発現するCHO-K1細胞)に残っているPD-1-Hisタンパク質量を確認することで、抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)がPD-1/PD-L1の相互作用に及ぼす抑制能を評価した。
【実施例9】
【0152】
ヒトIgG Fcドメインが融合した単一ドメイン抗体の免疫抗原との親和性評価
Octet RED 96e(ForteBio)装置を用いて、<実施例6>で精製した抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)と、免疫抗原タンパク質との親和性(Kd)を測定した。
【0153】
具体的には、抗ヒトFcでコーティングされたバイオセンサーチップ(tip)(Fortebio)を、5μg/mLの抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)がそれぞれ分注された96ウェルマイクロプレート(Greiner)で1.5nmレベルで飽和結合させた。PD-L1抗原は、10~400nMで1×kineticバッファー(ForteBio)を用いて2倍に段階的に希釈し、30℃、1,000rpmで撹拌しながら反応した。試料の結合と解離反応を、それぞれ200、400秒間解析した。結果データは、1:1相互作用モデル(Global fitting)法を用いて解析した。
【実施例10】
【0154】
抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のin vitroの有効性評価
CHO-K1_PD-L1細胞(PD-L1抗原の過剰発現を誘導したCHO-K1細胞)と、PD-1が発現するJurkat細胞を用いて、<実施例6>で精製した抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のin vitroの有効性を評価した。
【0155】
具体的には、CHO-K1_PD-L1細胞(PD-L1抗原を過剰発現を誘導したCHO-K1細胞)を、96ウェルマイクロプレートにウェルあたり2×104細胞に分注し、次いで、5%のCO2が維持される培養器で16時間培養した。その後、培地を除去し、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)を濃度ごとに処理し、1時間反応した。5×105細胞/100uLのJurkat細胞を用意し、次いで、PHAを0.5mg/mLになるように処理し、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)処理済みのCHO-K1_PD-L1細胞に添加してから、48時間反応した。その後、ELISA法により上清のIL-2濃度を測定し、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のin vitroの有効性を評価した。
【実施例11】
【0156】
抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のin vivoの有効性評価
<実施例6>で精製した抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のin vivoの有効性は、ヒトPD-L1発現を誘導した腫瘍細胞株(B16F10細胞)をC57BL/6マウスに注入して、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)による抗腫瘍効果を評価した。
【0157】
具体的には、6~8週齢のC57BL/6雌マウスに、B16F10_PD-L1細胞株(PD-L1の過剰発現を誘導したB16F10細胞)を8×105細胞/100μLを注入した。横×縦の腫瘍サイズが3×3mmに達するまで腫瘍形成を誘導した。その後、2日間隔で10mpkの抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)を7回にわたって腹腔投与し、腫瘍サイズを測定した。最後の腹腔投与後、2日間隔で1週間の腫瘍サイズを測定し、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のin vivoの有効性を評価した。
【0158】
<実験例1>抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)の作製
免疫抗原としてヒトPD-L1抗原を用いて、<実施例5>に記載のものと同様の方法で、PD-L1タンパク質に特異的な単一ドメイン抗体クローンを選別して塩基配列解析を行った。前記の選別された抗PD-L1 sdAb(PDL1 Nb#01)のアミノ酸配列を下記表5及び表6に示す。
【0159】
また、前記選別した抗PD-L1 sdAb(PD-L1 Nb#01)を用いて、実施例<6-1>に記載のものと同様の方法で、ヒトIgG1 Fcドメインを含むPD-L1に特異的な一価単一ドメイン抗体を発現及び精製し、精製された一価単一ドメイン抗体を抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)と命名した。ヒトIgG1 Fcドメインを含む抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)のアミノ酸配列を下記表7に示す。
【0160】
また、前記選別した抗PD-L1 sdAb(PDL1 Nb#01)クローンを用いて、実施例<6-2>に記載のものと同様の方法で、ヒトIgG4 Fcを含むPD-L1に特異的な二価単一ドメイン抗体を発現及び精製し、精製された二価単一ドメイン抗体を抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)と命名した。抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)から、ヒトIgG4 Fcを除いた抗PD-L1二価sdAb(PP Nb)のアミノ酸配列を下記表8に示し、ヒトIgG4 Fcドメインを含む抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のアミノ酸配列を下記表9に示す。
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
<実験例2>抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)及び抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)の抗原結合能、並びにPD-1/PD-L1の相互作用に対する阻害能評価
<実施例7>及び<実施例8>に記載の方法と同様に、FACSを用いて<実験例1>で精製した抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)及び抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)の抗原結合能(
図1A及び
図2A)、並びにPD-1/PD-L1の相互作用に及ぼす阻害能(
図1B及び
図2B)を評価した。
【0167】
その結果、
図1A及び
図1Bに示すように、抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)は、CHO-K1_PD-L1細胞(PD-L1抗原が一定に発現するCHO-K1細胞)において、23.31nM(EC50)の抗原結合能が確認され、PD-1/PD-L1の相互作用に及ぼす阻害能が4.60nM(IC50)であることが確認された。
【0168】
さらに、
図2A及び
図2Bに示すように、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)は、CHO-K1_PD-L1細胞(PD-L1抗原が一定に発現するCHO-K1細胞)において、1.93nM(EC50)の抗原結合能が確認され、PD-1/PD-L1の相互作用に及ぼす阻害能が2.86nM(IC50)であることが確認された。
【0169】
<実験例3>抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)及び抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)と、免疫抗原との親和性評価
<実験例1>で精製した抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)及び抗-PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)において、それぞれPD-L1抗原との親和性を<実施例9>に記載のものと同様の方法で評価した。
【0170】
その結果、表10に示すように、抗PD-L1 HCAb(PDL1 Nb#01-IgG1)は、PD-L1抗原と7.08nMの抗原親和力が確認され、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)は、PD-L1抗原と4.58nMの抗原親和性が確認された。
【0171】
【0172】
<実験例4>抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のin vitroの有効性評価
<実験例1>で精製した抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)を用いてin vitroの有効性を評価した。
【0173】
具体的には、<実施例10>に記載のものと同様の方法で、CHO-K1_PD-L1細胞(PD-L1を一定に発現するCHO-K1細胞)と、PD-1を発現するjurkat細胞との相互作用を、抗-PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)が阻害して、jurkat細胞から発現されたIL-2の濃度を測定することによって、in vitroの有効性を評価した。
【0174】
その結果、
図3に示すように、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)は、PD-1を発現するjurkat細胞とPD-L1を発現するCHO-K1細胞とに干渉し、CHO-K1 細胞とjurkat細胞との相互作用に対する0.80nM(IC50)の阻害能が確認された。
【0175】
<実験例5>抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のin vivoの有効性評価
<実験例1>で精製した抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)のin vivoの有効性評価は、マウス腫瘍モデルを用いて行った。
【0176】
具体的には、<実施例11>に記載のものと同様の方法で、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)にPD-L1抗原を発現する腫瘍細胞(B16F10細胞)を注入し、腫瘍が形成されたマウスモデルにおける腹腔投与による抗腫瘍効果を観察した。
【0177】
その結果、
図4に示すように、抗PD-L1二価HCAb(PP Nb-IgG4)は、陰性対照群(Isotype group)に対して約39.2%の抗腫瘍効果が示されることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明に係る単一ドメイン抗体は、免疫チェックポイントタンパク質(immune checkpoint protein)であるPD-L1に対する優れた親和性及び抗腫瘍効果を示すので、免疫チェックポイント阻害剤として免疫抗癌療法に有用に用いることができる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-09-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-L1に特異的に結合する単一ドメイン抗体(sdAb)を含む抗体またはその抗原結合断片であって、
前記sdAbが、
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるCDR1;
配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるCDR2;及び
配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるCDR3
を含む、抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記sdAbが、以下のVHHドメインを含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片:
配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるFR1;
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるFR2;
配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるFR3;及び
配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるFR4。
【請求項3】
前記sdAbが、配列番号1及び10のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる、請求項2に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
少なくとも1つのアミノ酸置換が保存的置換である、請求項4に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
少なくとも1つのアミノ酸置換がアミノ酸の非遺伝子コードアミノ酸または合成アミノ酸への置換である、請求項5に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
前記sdAbが、Fc断片に融合された重鎖のみの抗体(HCAb)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
前記HCAbが、単量体性または多量体性である、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
前記Fc断片が、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
前記sdAbが、ペプチドリンカーを介してFc断片に融合する、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
前記HCAbが、配列番号5及び11のいずれかで表されるアミノ酸配列からなる、請求項7に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、請求項11に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項13】
少なくとも1つのアミノ酸置換が保存的置換である、請求項12に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項14】
少なくとも1つのアミノ酸置換がアミノ酸の非遺伝子コードアミノ酸または合成アミノ酸への置換である、請求項13に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項15】
(a)前記sdAbを含む第1の抗原結合部分と、(b)第2のエピトープに特異的に結合する第2の抗原結合部分と、を含む、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項16】
前記第2の抗原結合部分が、全長抗体、Fab、Fab'、(Fab')2、Fv、単鎖Fv(scFv)、scFv-scFv、ミニボディ、ダイアボディまたは第2のsdAbである、請求項15に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項17】
前記第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分が、ペプチドリンカーを介して互いに融合している、請求項15に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項18】
免疫調節剤、サイトカイン、細胞毒性剤、化学療法剤、診断剤、抗ウイルス剤、抗微生物剤または薬物に結合している、請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項19】
免疫調節剤、サイトカイン、細胞毒性剤、化学療法剤、診断剤、抗ウイルス剤、抗微生物剤または薬物に結合している請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片を含む、抗体複合体。
【請求項20】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項22】
請求項21に記載の発現ベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項23】
(a)抗体を発現させる条件下で請求項22に記載の宿主細胞を培養するステップと、
(b)発現された抗体またはその抗原結合断片を回収するステップと、
を含む、抗体またはその抗原結合断片を産生する方法。
【請求項24】
請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項19に記載の抗体複合体を有効成分として含有する、癌の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項25】
前記癌が、黒色腫、肺癌、肝臓癌、神経膠腫、卵巣癌、大腸癌、頭頸部癌、膀胱癌、腎細胞癌、胃癌、乳癌、転移癌、前立腺癌、膵臓癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、リンパ腫、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、孤立性骨髄腫及び再生不良性貧血からなる群から選択される、請求項24に記載の薬学的組成物。
【請求項26】
前記薬学的組成物が、薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項24に記載の薬学的組成物。
【請求項27】
(i)請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片を試料と接触させるステップと、
(ii)前記抗体またはその抗原結合断片とPD-L1との間の複合体形成を検出するか、あるいは複合体の量を決定するステップと、
を含む、試料からPD-L1を検出するか、あるいはPD-L1の量を決定する方法。
【国際調査報告】