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特表2024-513655量子サブシステムのビット反転エラーのタイプと位相反転エラーのタイプとを同時に阻止するシステム、方法、及び制御命令
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】量子サブシステムのビット反転エラーのタイプと位相反転エラーのタイプとを同時に阻止するシステム、方法、及び制御命令
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20240319BHJP
   H10N 60/10 20230101ALI20240319BHJP
【FI】
G06N10/40 ZAA
H10N60/10 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023552488
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 CA2022050402
(87)【国際公開番号】W WO2022193019
(87)【国際公開日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】63/163,231
(32)【優先日】2021-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】523326827
【氏名又は名称】ノール クアンティキ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サン - ジャン、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ラチャンス - クウィリーオン、ダニー
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AC45
4M113AC50
4M113AD01
(57)【要約】
このシステムは、N個のコヒーレント状態を有するボソンのキャット状態を提供するよう駆動可能な量子サブシステムであって、Nが、2より大きく、N個のコヒーレント状態が、計算空間を定義する、量子サブシステムと、制御命令に従って駆動ハードウェアを制御するよう動作可能に接続されたコントローラとを含むことができ、ボソンのキャット状態と環境との間の、制御命令から生じたものではない少なくとも1つの相互作用のタイプが、N個のコヒーレント状態の位相シフトをもたらし、制御命令は、論理情報を表す2つの相異なる論理状態の所与の重ね合わせとして定義される、ボソンのキャット状態の初期状態を生成する機能を含み、2つの相異なる論理状態は、計算空間内の論理部分空間に広がり、初期状態からのいかなる位相シフトも、該論理情報を保持しながら、論理部分空間の外部にある、修正された状態をもたらし、又は初期状態に戻る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子システムであって、
N個のコヒーレント状態を有する、ボソンのキャット状態を提供するよう駆動可能な量子サブシステムであり、Nが、2よりも大きく、前記N個のコヒーレント状態が、計算空間を定義する、量子サブシステムと、
前記量子サブシステムを駆動して、前記ボソンのキャット状態を提供するよう動作可能に接続された駆動ハードウェアと、
制御命令に従って、前記駆動ハードウェアを制御するよう動作可能に接続されたコントローラと
を備え、
前記ボソンのキャット状態と環境との間の、前記制御命令から生じたものではない少なくとも1つの相互作用のタイプが、前記N個のコヒーレント状態の位相シフトをもたらし、
前記制御命令が、論理情報を表す2つの相異なる論理状態の所与の重ね合わせとして定義される、前記ボソンのキャット状態の初期状態を生成する機能を含み、前記2つの相異なる論理状態が、前記計算空間内の論理部分空間に広がり、前記初期状態からのいかなる位相シフトも、
i)前記論理情報を保持しながら、前記論理部分空間の外部にある、修正された状態をもたらし、又は
ii)前記初期状態に戻る、
量子システム。
【請求項2】
前記N個のコヒーレント状態が、前記量子サブシステムの位相空間における、円の周りの点として表現可能であり、前記量子サブシステムを前記駆動することが、前記量子システムのボソンの数を制御することを含み、前記ボソンのキャット状態が前記円の周りを回転すると、前記論理状態が回転非対称となる、請求項1に記載の量子システム。
【請求項3】
少なくとも2つの前記量子サブシステムを備え、各量子サブシステムが、前記駆動ハードウェアのうちの対応する1つを備え、前記少なくとも2つの駆動ハードウェアが両方とも、前記コントローラによって制御され、量子サブシステムが、相互接続された量子サブシステムの前記コヒーレント状態が相互作用できるように、相互接続されている、請求項1に記載の量子システム。
【請求項4】
前記量子サブシステムのそれぞれが、その他の量子サブシステムと、直接的に、又は前記量子サブシステムのうちの他の量子サブシステムを介して、接続されている、請求項3に記載の量子システム。
【請求項5】
前記量子サブシステムのそれぞれが、結合器を介して前記量子サブシステムのうちの少なくとも別の1つに接続され、前記結合器が、前記接続された量子システムの前記コヒーレント状態間の相互作用を選択的に許可又は防止するよう駆動可能である、請求項3に記載の量子システム。
【請求項6】
N=3である、請求項1に記載の量子システム。
【請求項7】
前記量子サブシステムが、コヒーレント状態|α>、|αe2πi/3>、|αe-2πi/3>を提供するよう駆動可能であり、前記論理状態のうちの第1の状態が、前記コヒーレント状態のうちの第1のコヒーレント状態として符号化され、前記論理状態のうちの第2の状態が、他の2つのコヒーレント状態として符号化される、請求項6に記載の量子システム。
【請求項8】
前記量子サブシステムが、共振器周波数を有する共振器であり、前記駆動ハードウェアが、ドライブ周波数を有する3光子ドライブを備え、前記キャット状態が、ハミルトニアン
【数1】

に基づいて駆動され、ここで、Kが、カー非線形性の項の振幅であり、εが、前記3光子ドライブの振幅であり、Δが、前記ドライブ周波数と前記共振器周波数との間の離調である、請求項6に記載の量子システム。
【請求項9】
前記コントローラが、
【数2】

となるように、前記駆動ハードウェアを制御するよう構成される、請求項8に記載の量子システム。
【請求項10】
少なくとも2つのコヒーレント状態を有するキャット状態を提供するよう駆動可能な補助サブシステムをさらに備え、前記補助サブシステムの前記コヒーレント状態が、前記量子サブシステムの前記コヒーレント状態から、選択的にエンタングルされる又はディスエンタングルされるように、前記補助サブシステムが選択的に接続可能である、請求項9に記載の量子システム。
【請求項11】
前記補助サブシステムが、2つのコヒーレント状態を有するキャット状態を提供するよう駆動可能である、請求項10に記載の量子システム。
【請求項12】
前記ボソンが光子であり、前記量子サブシステムが、第1のトランズモン周波数を有する第1のキュービック・トランズモンを備え、前記補助サブシステムが、第2のトランズモン周波数を有する第2のキュービック・トランズモンと、前記第2のキュービック・トランズモンに結合され、共振周波数を有する読出し共振器とを備え、前記駆動ハードウェアが、前記第1のトランズモンに接続され、前記第1のトランズモン周波数で動作する1光子ドライブと、前記第1のトランズモンに接続され、前記キュービック・トランズモン周波数の3倍で動作する3光子ドライブと、前記第2のキュービック・トランズモンに接続され、前記キュービック・トランズモン周波数の2倍で動作する2光子ドライブと、前記第2のキュービック・トランズモンに接続され、前記第2のキュービック・トランズモン周波数で動作する1光子ドライブと、前記第1のキュービック・トランズモンと前記第2のキュービック・トランズモンとの間に接続され、時間制御されたzzタイプの相互作用のために、前記キュービック・トランズモン周波数の差で動作する第1のパラメータ式ドライブと、前記第1のキュービック・トランズモンと前記第2のキュービック・トランズモンとの間に接続され、静的な前記ZZタイプの相互作用を抑制するよう構成された第2のパラメータ式ドライブと、前記第2のキュービック・トランズモンと前記対応する共振器との間の差で駆動する第3のパラメータ式ドライブとを含む、請求項10に記載の量子システム。
【請求項13】
Nが素数である、請求項1に記載の量子システム。
【請求項14】
第1の論理状態が、前記コヒーレント状態のうちの第1のコヒーレント状態で符号化され、前記第2の論理状態が、前記コヒーレント状態のうちのその他のコヒーレント状態で符号化される、請求項1に記載の量子システム。
【請求項15】
前記回転対称性が、前記コヒーレント状態のうちの少なくとも1つに、ゼロの係数を帰属させることによって破られる、請求項1に記載の量子システム。
【請求項16】
前記ボソンが光子である、請求項1に記載の量子システム。
【請求項17】
前記量子サブシステムが、キュービック・トランズモンを含む超伝導回路である、請求項1に記載の量子システム。
【請求項18】
量子サブシステムにおいて、N個のコヒーレント状態を有するボソンのキャット状態を提供する方法であって、Nが、2よりも大きく、前記N個のコヒーレント状態が、計算空間を定義し、前記方法が、前記ボソンのキャット状態の初期状態を生成するステップを含み、前記初期状態が、論理情報を表す2つの相異なる論理状態の所与の重ね合わせであり、前記2つの相異なる論理状態が、前記計算空間内の論理部分空間に広がり、前記2つの論理状態が、前記ボソンのキャット状態と環境との間の制御されていない相互作用から生じる、前記初期状態からの前記ボソンのキャット状態のいかなる位相シフトも、前記論理情報を保持しながら、前記論理部分空間の外部にある1つ又は複数の修正された状態をもたらし、又は前記初期状態に戻るように、制約されるように定義されている、方法。
【請求項19】
前記N個のコヒーレント状態が、前記量子サブシステムの位相空間における、円の周りの点として表現可能であり、前記生成するステップが、量子システムのボソンの数を制御するステップを含み、前記ボソンのキャット状態が前記円の周りを回転すると、前記ボソンの数を前記制御するステップの外部で生じる、前記量子システムのボソンの損失により、前記論理状態が回転非対称となる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記量子サブシステムが、第1の量子サブシステムであり、第2の量子サブシステムにおいて、N個のコヒーレント状態を有するキャット状態を駆動するステップと、前記第1の量子サブシステムの前記コヒーレント状態を、前記第2の量子サブシステムの前記コヒーレント状態と相互作用させるステップとをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記修正された状態を検出するステップを含む、前記コヒーレント状態における論理エラーを検出するステップをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
補助サブシステムにおいて、少なくとも2つのコヒーレント状態を有するキャット状態を駆動するステップと、前記論理状態を、前記量子サブシステムの前記キャット状態から前記補助サブシステムの前記キャット状態に移動させるステップと、前記量子サブシステムの前記コヒーレント状態をリセットするステップと、前記論理状態を、前記補助サブシステムの前記キャット状態から前記量子サブシステムの前記キャット状態に戻すステップとをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記量子サブシステムの前記キャット状態が、第1の光子モードで提供され、前記補助サブシステムの前記キャット状態が、第2の光子モードで提供される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記相互作用させるステップが、時間制御されたビームスプリッタの相互作用によって実行される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
時間制御されたビームスプリッタの相互作用を使用して、前記補助サブシステムの前記キャット状態を読み取るステップをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記初期状態を前記生成するステップが、前記量子サブシステムのキャビティを真空状態に設定するステップと、ハミルトニアン
【数3】

のドライブ・パラメータを徐々に増加させるステップとを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
補助サブシステムにおいて、少なくとも2つのコヒーレント状態を有するキャット状態を生成するステップと、前記量子サブシステムと前記補助サブシステムとの間で、前記論理状態が両方に組み込まれるように、エンタングルメント演算を適用するステップと、前記論理状態が前記補助サブシステムからしか提供されなくなるように、前記量子サブシステムをリセットするステップと、逆回転を使用して、前記論理状態を前記補助サブシステムから前記量子サブシステムに戻すステップと、前記補助サブシステムをリセットするステップとをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
補助サブシステムにおいて、少なくとも2つのコヒーレント状態を有するキャット状態を生成するステップをさらに含み、2つの相異なる論理状態を符号化するステップが、前記補助サブシステムにおいて、前記2つの相異なる論理状態を準備するステップと、回転を使用して、前記論理状態を前記補助サブシステムから前記量子サブシステムにするステップとを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
補助サブシステムにおいて、少なくとも2つのコヒーレント状態を有するキャット状態を駆動するステップと、前記量子サブシステムと前記補助サブシステムとの間で、前記論理状態が両方に組み込まれるように、エンタングルメント演算を適用するステップと、前記論理状態が前記補助サブシステムからしか提供されなくなるように、前記量子サブシステムをリセットするステップと、前記補助サブシステム上で読出しを実行するステップとをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
エンタングルメント演算を前記適用するステップが、前記補助サブシステムが標的として設定され、前記量子サブシステムが制御部として設定される、修正された制御位相ゲートとして実現される、請求項27又は29に記載の方法。
【請求項31】
非一時的コンピュータ可読メモリに記憶される制御命令であって、前記制御命令が、
コンピュータによって実行されると、量子サブシステムにおいて、N個のコヒーレント状態を有するボソンのキャット状態の初期状態を生成する機能であり、Nが、2より大きく、前記N個のコヒーレント状態が、計算空間を定義し、前記初期状態が、論理情報を表す2つの相異なる論理状態の所与の重ね合わせとして定義され、前記2つの相異なる論理状態が、前記計算空間内の論理部分空間に広がり、前記ボソンのキャット状態と環境との間の、前記制御命令から生じたものではない少なくとも1つの相互作用のタイプが、前記N個のコヒーレント状態の位相シフトをもたらす、機能と、
前記2つの相異なる論理状態の定義であり、前記定義が、前記初期状態から、前記位相シフトのいずれかに応じて、前記論理情報を保持しながらの、前記論理部分空間の外部にある修正された状態までの、又は前記初期状態に戻るまでの、前記ボソンのキャット状態の展開を制約する、定義
を含む、制御命令。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子サブシステムのビット反転エラーのタイプと位相反転エラーのタイプとを同時に阻止するシステム、方法、及び制御命令に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、量子計算の分野は、現代の計算、通信、及び暗号化を混乱させる可能性があるので、活発な研究領域となっている。
【0003】
情報がメモリに物理的に記憶され、バイナリ形式(ビット)で検索され、送信され、処理される古典コンピュータと対照的に、量子コンピュータでは、ここでは量子情報と呼ばれる情報が、量子サブシステム(量子ビット)の状態で符号化することにより、メモリに物理的に記憶され、量子アルゴリズムで処理し、フォン・ノイマン・エントロピーに基づいて測定(検索)され得る。
【0004】
実際の物理デバイスにおいて、量子情報を符号化する際に直面する主な課題のうちの1つは、2つの相反する要件のバランスを取ることである。第1に、量子情報は、本来壊れやすく、デコヒーレンスの破壊的原因の影響を受ける。残念なことに、環境とのほとんどの相互作用が、デコヒーレンスの原因となる。したがって、量子情報を記憶及び処理するよう設計されたシステムは、通常、環境との相互作用から可能な限り隔離される。第2に、量子情報が有用であるためには、量子情報を処理して最終的にアクセスできる必要があり、これは、量子情報が、外部制御システムとの相互作用を通じて制御可能である必要があり、プロセッサが効率的であるために、こうした相互作用の制御を、比較的高い頻度で実行する必要があることを意味する。
【0005】
この第2の要件のため、量子情報処理におけるエラーを回避するのは非常に困難である。古典情報処理の分野から生じる1つの汎用の手法は、追加の物理リソース上で量子情報を冗長的に符号化するなど、冗長性によって、こうしたエラーを部分的に訂正しようとするものである。この手法はコストが高く、実際の適用例では、典型的なオーバーヘッドが10,000倍程度になり得るため、この手法は、多くの実際の適用例で、魅力的なものではない。
【0006】
より最近の手法は、量子情報が、単一の物理要素内で冗長的に符号化されるように、元々、よりリッチな量子サブシステムで量子ビットを符号化することである。この手法の有望な手段は、ボソニック符号化であり、個々の系の位相空間は、情報を符号化するための、理論的に無限次元のヒルベルト空間を提供することができる。
【0007】
無限サイズの符号化空間では、その中で量子ビットを符号化する手法が、理論上、無限に存在する。実際には、最近、興味深い特性を有する少数の有望な候補が現われている。かかる1つの候補が、いわゆるキャット状態符号化であり、量子ビットは、系の2つの準古典的コヒーレント状態を重ね合わせて符号化される。キャット状態符号化に関する最近の研究では、興味深い結果が得られているが、依然として改善が必要である。具体的には、依然として、ビット反転エラーのタイプと位相反転エラーのタイプとを同時に阻止する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様によれば、量子サブシステムにおいて、N個のコヒーレント状態を有するボソンのキャット状態を提供する(host)方法が提供され、Nは2よりも大きく、N個のコヒーレント状態は、計算空間を定義し、この方法は、ボソンのキャット状態の初期状態を生成するステップを含み、初期状態は、論理情報を表す2つの相異なる論理状態の所与の重ねあわせであり、2つの異なる論理状態は、計算空間内の論理部分空間に広がり、2つの論理状態は、ボソンのキャット状態と環境との間の、制御されていない相互作用から生じる、初期状態からのボソンのキャット状態のいかなる位相シフトも、該論理情報を保持しながら、論理部分空間の外部にある1つ又は複数の修正された状態をもたらし、又は初期状態に戻るよう、制約されるように定義されている。
【0009】
別の態様によれば、量子システムが提供され、量子システムは、N個のコヒーレント状態を有するボソンのキャット状態を提供するよう駆動可能な、量子サブシステムであって、Nは2より大きく、N個のコヒーレント状態は、計算空間を定義する、量子サブシステムと、量子サブシステムを駆動して、ボソンのキャット状態を提供するよう動作可能に接続された駆動ハードウェアと、制御命令に従って駆動ハードウェアを制御するよう、動作可能に接続されたコントローラとを備え、ボソンのキャット状態と環境との間の、制御命令から生じたものではない、少なくとも1つの相互作用のタイプが、N個のコヒーレント状態の位相シフトをもたらし、制御命令には、論理情報を表す2つの相異なる論理状態の所与の重ね合わせとして定義される、ボソンのキャット状態の初期状態を生成する機能が含まれ、2つの相異なる論理状態は、計算空間内の論理部分空間に広がり、初期状態からのいかなる位相シフトも、該論理情報を保持しながら、論理部分空間の外部にある、修正された状態をもたらし、又は初期状態に戻る。
【0010】
別の態様によれば、非一時的コンピュータ可読メモリに記憶される制御命令が提供され、制御命令は、コンピュータによって実行されると、量子サブシステムにおいて、N個のコヒーレント状態を有するボソンのキャット状態の初期状態を生成する機能であって、Nが2より大きく、N個のコヒーレント状態が計算空間を定義し、初期状態が、論理情報を表す2つの相異なる論理状態の所与の重ね合わせとして定義され、2つの相異なる論理状態が、計算空間内の論理部分空間に広がり、ボソンのキャット状態と環境との間の、制御命令から生じたものではない少なくとも1つの相互作用タイプが、N個のコヒーレント状態の位相シフトをもたらす、機能と、2つの相異なる論理状態の定義であって、該定義が、初期状態から、該位相シフトのいずれかに応じて、該論理情報を保持しながら、論理部分空間の外部にある修正された状態までの、又は初期状態に戻るまでの、ボソンのキャット状態の展開を制約する、定義とを含む。
【0011】
別の態様によれば、量子システムが提供され、量子システムは、N個のコヒーレント状態を有するキャット状態を提供するよう駆動可能な、量子サブシステムであって、N個のコヒーレント状態は、量子サブシステムの位相空間における、円の周りの点として表現可能であり、Nが2より大きい、量子サブシステムと、量子システムのボソンの数を制御することにより、量子システムを駆動してキャット状態を提供するよう動作可能に接続された、駆動ハードウェアと、N個のコヒーレント状態を有する、2つの相異なる論理状態を符号化するように、駆動ハードウェアを制御するために動作可能に接続された、コントローラとを備え、キャット状態が円の周りを回転すると、量子システムのボソンの損失によって、論理状態は回転非対称となる。
【0012】
別の態様によれば、量子の処理を実行する方法が提供され、この方法は、量子サブシステムにおいて、N個のコヒーレント状態を有するキャット状態を駆動するステップを含み、N個のコヒーレント状態は、量子サブシステムの位相空間における、円の周りの点として表現可能であり、Nは2より大きく、該駆動するステップは、量子システムのボソンの数を制御するステップと、N個のコヒーレント状態を有する、2つの相異なる論理状態を符号化するステップとを含み、キャット状態が円の周りを回転すると、量子システムのボソンの損失によって、論理状態は回転非対称となる。
【0013】
当業者であれば、本開示を読めば、本改善に関する、多くの更なる特徴及び特徴の組合せが明らかとなろう。
【0014】
図面において、以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】コヒーレント状態(大きな円)の重ね合わせ、及びコヒーレント状態が生成する干渉縞を示す、a)2キャット状態、b)3キャット状態、c)4キャット状態のより詳細な位相空間表現を示す図である。
図2】ハミルトニアン安定化のメタポテンシャル表現の図である。
図3】量子プロセッサとして実装可能な量子システムの概略図である。
図4】クリーニング演算プロセスを段階的に表す模式図である。
図5】3本足のキャット状態(3キャット)に組み込まれた論理量子ビットの、モード、並びに安定化及び量子エラー訂正を可能にする相互作用の、概略説明の図である。
図6】提案されているプロトコルを実装するための例示的な回路の模式図である。
図7a】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7b】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7c】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7d】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7e】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7f】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7g】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7h】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7i】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7j】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図8a】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図8b】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の、模式的な表現の図である。
図8c】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の、模式的な表現の図である。
図8d】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の、模式的な表現の図である。
図8e】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の、模式的な表現の図である。
図9a】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9b】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9c】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9d】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9e】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9f】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
共振器内のボソンの量子状態は、量子調和振動子システムとしてモデル化できる。共振器内のボソンの取り得る状態はいずれも、特定の励起準位状態にわたる分布によって表すことができる(ボソンの数状態の基底又はフォック状態の基底として知られている)。こうした状態は、状態の波動関数のウィグナー変換によって与えられる、2次元位相空間での準分布によって表すこともできる。
【0017】
最低のエネルギー状態は、真空状態であることが知られている。位相空間では、最低のエネルギー状態のウィグナー変換は、ウィグナー変換の2つの直交位相の原点における、円形の準ガウス分布によって表される。
【0018】
真空状態に変位演算子を適用すると、コヒーレント状態と定義されるものが得られ、この表現は、位相空間では、変形(translation)されるまでは真空状態と同一である。
【0019】
この変位は、複素数αによってパラメータ化することができ、αの実数部は、水平直交位相に沿った変位を表し、虚数部は、垂直直交位相に沿った変位を表す。
【0020】
同じ絶対値を共有するαの値を有するコヒーレント状態はすべて、半径|α|の円上にあり、そのすべてが、同一の平均ボソン数を有する状態を表す(したがって、<n>=|α|)。
【0021】
キャット状態は、位相空間の原点を中心とする円上にあり、したがって同じ値|α|を共有する、任意の数のコヒーレント状態の、あらゆる重ね合わせと定義することができる。
【0022】
nキャット状態は、具体的には、半径|α|の円周に沿って均一に分布した、n個の状態の重ね合わせによって形成されるキャット状態である。
【0023】
図1Aは、位相空間における円の周りの等距離点として表される、2つのコヒーレント状態を有するキャット状態を提供する、量子サブシステムの一実施例を示す。かかるキャット状態を、単に2キャットと呼ぶことができる。
【0024】
外部EMドライブを使用する、安定化メカニズムを使用して、寿命の長い2キャット状態を実現することができる。かかる符号化は、いわゆるビット反転エラー(純粋状態|0>が|1>になるか、又はその逆)に対して、堅牢にすることができる。しかし、かかる符号化は、環境に対する励起損失(例えば、単一光子損失)の影響下で、別の重大なエラー・チャネル、すなわち位相反転(状態の所与の特定の重ね合わせ、例えば|0>+|1>が、別の重ね合わせ、例えば|0>-|1>に変換される)に対して、堅牢ではない場合がある。このため、2つの主要なエラー・チャネルのうちの一方である、ビット反転タイプのエラーに対処することにより、物理的な冗長性の必要性を低減できるが、物理的な冗長性の必要性は残る。したがって、依然として、ビット反転エラーと位相反転エラーとの両方のタイプに、同時に対処する必要がある。
【0025】
ボソンのキャット状態における、考えられるエラーの原因の1つは、この望ましからざる相互作用が生じた後の系の状態も、有効な論理状態を表す場合の、単一光子損失である。かかる場合、単に論理状態からでは、エラーを検出できない場合がある。すなわち、一般的な量子ビット状態は、以下で与えられる。
【数1】

ここで、uは、1より小さい非負の実数(0≦u≦1)、vはu^2+|v|^2=1となるような複素数であり、単一光子損失の影響は、この状態を、以下に変換することになる。
【数2】

これも有効な論理状態であるため、系に検出不能なエラーを引き起こす。
【0026】
この問題を回避するための、1つの可能性のある手法は、より多くのコヒーレント成分を有するキャット状態を使用することである。
【0027】
図1Bは、量子サブシステムが2つではなく4つのコヒーレント状態を有する、キャット状態を提供する例示的な実施例を提示している。後で参照しやすいように、これら4つのコヒーレント成分のキャット状態を、「4本足のキャット」又は単に4キャットと呼び、2つのコヒーレント成分のキャット状態を「2本足の猫」又は単に2キャットと呼ぶことにする。この手法は、2つのまったく別な課題に直面している。第1に、これらの4キャット状態を安定させることは、2キャット状態を安定させるよりも、はるかに困難であると思われる。第2に、4キャットの符号化は、理論的には単一のエラーを区別できるが、そのためには、準連続的であり得るボソンの損失の確率に対応する時間枠よりも頻繁に、監視する必要がある。例えば、一実施例では、単一のエラーが見逃されると、第2のエラーが位相反転エラーを引き起こすシナリオが生じる可能性があり、したがって、検出できなくなる。
【0028】
ここで、第2の問題は、4キャットの論理符号化が、回転対称性を有するという事実について、幾分条件付きであることに気づかれよう。したがって、いくつかの実施例では、回転対称性を持たないNキャットの論理符号化の解、すなわち、いかなる光子の損失も、n<Nの場合、論理的基底の外部にあり、したがって検出可能で、場合によっては訂正可能な状態となる、Nキャットの論理符号化を選択することが、好ましい可能性がある。
【0029】
これは、具体的には、3キャットの論理符号化の場合の可能性があり、下記に提示されるように、特に有望であるように思われ、その概略的な実施例が図1Cに提示されている。第1の論理状態は、コヒーレント成分のうちの2つに関連づけることができ、第2の論理状態は、他のコヒーレント成分(又はコヒーレント成分の線形結合)に関連づけることができる。
【0030】
回転非対称条件は、N=4の場合を含め、Nが2より大きい場合の、他のNキャットの論理符号化でも、満たすことができることが判明した。非回転対称条件は、例えばNが、やはり素数である場合に必ず存在するが、他の比較的単純な方式でも必ず存在する可能性があり、その一部については、下記で詳述することにする。言い換えれば、以下の仕様では、N>2であり、選択された構成が回転対称性を示さない、N個の相異なる量子状態のよりリッチなセットを表現できる、物理系における符号化方式を検討することとする。論理量子ビットは、このようにして定義することができる。さらに、以下の仕様では、光子の損失を引き起こした環境との、望ましからざる相互作用によって発生し得たエラーを訂正できるような、量子ビット上での演算の実行を可能にする技法を検討することとする。
【0031】
図1は、a)2キャット状態、b)3キャット状態、c)4キャット状態の位相空間表現を提示し、コヒーレント状態(大きな円)の重ね合わせ、及びコヒーレント状態が生成する干渉縞を示している。
【0032】
2キャット、及び少なくともいくつかのより高次の符号化方式に共通する1つの弱点は、おそらく最も一般的には、論理状態が符号化されるキャット状態は、ボソンの損失が発生すると、結果として生じる状態の変化が、最初の論理部分空間と区別できない論理部分空間をもたらすような構成であることと、要約することができる。こうした構成では、単に状態の判定だけでは、ボソンの損失の発生を検出できない場合がある。この問題に対処するための1つの一般的な技法は、初期状態からの1つの(又は理想的には1つ若しくは複数の)ボソンの損失により、初期論理部分空間とは明らかに異なる論理部分空間が生じる構成を使用することである。
【0033】
この一般的な技法を実施するための例示的な一手法は、回転対称性を持たない符号化方式を選択することである。実際、こうした構成では、初期状態からのボソンの損失は、初期論理部分空間とは明らかに異なる論理部分空間をもたらすことができ、エラーの検出が可能になる。セグメント化方式を使用して、論理部分空間を2つの論理状態にセグメント化することができる。素数のコヒーレント成分を使用するセグメント化方式、又はコヒーレント成分のうちの1つの、一方の論理状態を符号化し、他のコヒーレント成分の組合せの、他方の論理状態を符号化するセグメント化方式など、回転対称性を持たない、いくつかの例示的なセグメント化方式を、下記に提示することにする。最も単純な場合は、おそらく、3つのコヒーレント状態を有するキャット符号化方式の場合であり、ここで、コヒーレント状態の最初の1つの、第1の論理状態が符号化され、他の2つのコヒーレント状態の組合せの、第2の論理状態が符号化される。この最も単純なケースは、安定化などをさらに容易にするなど、いくつかの理由から、一部の実施例で好ましい場合があるが、ボソンの損失が、相異なる論理サブステートをもたらし、これにより検出可能となる、他のセグメント化スキームが理解されよう。代替となるいくつかの好適な符号化方式は、例えば、キャット状態における、さもなければ対称のコヒーレント成分の構成の、対称性を壊す論理状態を定義するよう選択された、線形結合の慎重な選択から得られ得ることに気づかれよう。
【0034】
更なる例示的な実施例を検討する前に、3キャットの構成に基づく、第1の実例を検討することから始めることにする。
【0035】
例示的な実施例
コヒーレント状態の論理状態への帰属
ここで、単一のコヒーレント状態を論理|0>として選択し、他の2つの組合せを論理|1>として選択する(又はその逆)ことによりセグメント化される、N=3の場合の量子サブシステム(また、量子トリット(qutrit)又はキュービック・キャット状態と呼ぶことができる)に基づく、例示的な実施例について詳述することにする。
【0036】
2つの論理量子ビットの状態を、定義する作業から始める。N=3の場合、3つの元々コヒーレントな状態、すなわち下記が存在する。
|α>、|αe2πi/3>、|αe-2πi/3
ここで、αは、位相空間表現では、キャット状態の各コヒーレント成分の状態(「足」と呼ばれることが多い)が位置する、円の半径に対応するので、通常、キャットの「サイズ」と呼ばれる、正の実数である。これら3つのコヒーレント状態から、これら3つの状態のうちの最初のものが|0>の論理状態を表し、他の2つが論理|1>の状態を表すように、有効なセグメント化が選択される。論理|0>が、この場合、以下の通り定義されることは自明である。
【数3】
【0037】
|1>の論理状態については、これを定義するために選択を行わなければならない。この実例では、わかりやすくするために、以下の選択が行われる。
【数4】

ここで、記号~は、追加の正規化係数が状態の定義に含まれるように、状態が、上記の式の右側に比例することを意味する。この正規化は、典型的には、αの値がかなり大きい場合、1に近い数値になる。
【0038】
更なる実証において、有用であると証明されている、第3の準直交状態を定義する。すなわち、
【数5】

であり、この状態は「補助」状態と呼ばれる。
【0039】
一般的な論理量子ビット状態から始める。
【数6】

ここで、
【数7】

である。状態は、次いで、単一光子損失又は2光子損失に対して、以下のように変換されることになる。
【数8】
【0040】
このモデルでは、系が3光子損失を受ける場合、状態は、正確に系の元の状態に戻る。これは、光子の損失が何回発生しても、系が循環できる、可能な3つの状態だけが存在することを意味する。最も重要なことは、これらの他の2つの状態は、第3の量子トリット状態|2>に関係するので、論理基底内にない。したがって、他の2つの状態は区別可能であり、保存する必要がある論理量子情報を担持するu、v、及びΦの、相対値を壊すことはない。これは、1)位相空間表現における回転対称性を回避する2つのサブセットへの、元々のコヒーレント状態の適切なセグメント化を見つける、2)自明ではなく、準直交するか又は好ましくは直交する、これらのサブセットの2つの論理状態を定義する、プロセスのおかげで機能する。
【0041】
コヒーレント状態の安定化
量子ビットに符号化された量子情報の寿命を、確実により長くするために、安定化プロセスを実施することが、好適である可能性がある。3本足のキャットを安定させるために、所望の特性を有するハミルトニアンを生成する、具体的な方法を提案する。提案する、回転するフレームにおけるハミルトニアンの形式は、以下で与えられる。
【数9】

ここで、Kは、カー非線形性の項の振幅であり、εは、3光子ドライブの振幅であり、Δは、ドライブと共振器周波数との間の離調である。これらのパラメータを慎重に選択することにより、3本のコヒーレントの足の準縮退を伴う、キュービック・キャット状態を安定化する、メタポテンシャルを生成することができる。追加の単一光子ドライブと2光子ドライブを使用して、各状態の相対エネルギーの最小値を微調整することができる。
【0042】
この提案の背後にある基本原理は、ハミルトニアンが、3光子ポンプ及び離調の項と一緒に、当然生じるカーの項の使用を可能にするものということである。
【0043】
これがどのように機能するかを理解するために、変位したフレームにおいて、以下のようにハミルトニアンを書き直すことは、パラメータの適切な選択によって、どのようにして、特定の項が無視できるようになり、その結果、このフレームにおいて真空が固有状態になるかを確認するために、有用である可能性がある。
【数10】

ここで、最初の3つの項には、追加のエルミート補数(Hermitian complement)があることを理解されたい(明確にするために省略されている)。簡単な検証によって、
【数11】

の唯一の項を、ゼロにできないことが理解されよう。しかし、パラメータの選択によって
【数12】

の離調の項に対して小さいままであることが保証される限り、これは問題にはならない。これは、例えば、下記で示されるように、|ε|<<|Δ|のような、パラメータの選択に対して考慮されるであろう。
【0044】
最初の項に戻って、以下のように記述される。
α=|α|eiθ
【0045】
次いで、以下のようになる。
【数13】
【0046】
これが成立する場合、最初の項は、以下のように書き換えることができる。
【数14】
【0047】
これは、|α|の2次関数であり、以下の行列式が成立する場合、実根が許される。
【数15】
【0048】
具体的には、
|ε|<<|Δ|
である場合、以下のようになる。
【数16】
【0049】
【数17】

の圧搾(squeezing)の項は、以下の場合に削除することができる。
【数18】
【0050】
また、(上記のように)αの絶対値に関する条件が考慮される場合、
【数19】

の離調の項はほぼ-Δに等しく、その代わりに、|ε|<<|Δ|の場合、離調の項は、確実にaの項よりも著しく大きくなり、これがこの実証の目的であった。
【0051】
この提案したハミルトニアン安定化は、図2に、メタポテンシャル表現で提示されている。メタポテンシャルは、最小値の周りで準円形のままであり、これが、安定化状態の圧搾変形を回避するのに役立つことができることに留意されたい。
【0052】
論理量子ビットに対する演算
提案したキュービック・キャット量子ビットに対して実行されるべき演算は、完全なプロセッサのアーキテクチャの選択にある程度依存する。複数の、競合するアーキテクチャがある。そのうちの2つ、すなわち量子アニーラ及びゲートベースの量子プロセッサに関する例示的な実施例を、下記で提示することにする。
【0053】
アーキテクチャのタイプ、及び論理状態の基底として使用される、量子サブシステムのタイプにも応じて、量子プロセッサの実施態様の詳細は、実施例ごとに大きく異なる可能性がある。しかし、多くのアーキテクチャ及びタイプは、概して、論理状態を提供するために、2つ以上の量子サブシステムの使用を必要とすることになる。実際、図3に示されているように、典型的な量子プロセッサには、量子サブシステムのコヒーレント状態が、通常エンタングルメントを伴う相互作用において、相互作用するために相互接続される、少なくとも2つの量子サブシステムが必要となろう。量子サブシステムのタイプは、アーキテクチャによって異なるであろう。ボソンベースの量子プロセッサとして具現化されるほとんどの量子システムは、コヒーレント状態を提供する何らかの形態の共振器を必要とし、コヒーレント状態は、量子サブシステムのいくつかのボソンを制御できる、何らかの形の駆動ハードウェアを使用して、量子サブシステムで駆動されることになる。駆動ハードウェアは、本明細書ではコントローラと呼ばれる構成要素によって制御され、典型的には、古典コンピュータの形態で提供される。量子サブシステムは通常、非常に低い温度に冷却され、環境から隔離される。量子アニーリングのタイプのアーキテクチャでは、量子サブシステムを、互いに直接動作可能に相互接続することができる。ゲートベースの量子コンピュータ処理では、量子サブシステムは通常、量子サブシステム間の相互作用を選択的に制御するために使用される、結合器を介して相互接続される。結合器は、接続されている2つ以上の量子サブシステムのコヒーレント状態が、結合器を介して相互作用できる状態を提供するよう動作可能な、量子サブシステムでもあり、また、便宜上同じコントローラで制御できる、駆動ハードウェアによって駆動される。ここで、3キャットの構成を使用して、量子コンピュータ処理を実行できる、例示的な手法を検討することにする。
【0054】
A 量子アニーリング(QA:quantum annealing)
QAでは、量子ビットは、計算の開始から終了まで、連続的に演算される。各物理量子ビットに適用されるハミルトニアンは、容易に準備されるよう意図された単純な初期ハミルトニアンから、連続的に変更され、次いで、解決すべき問題を表す最終形にまで段階的に変更される。
【0055】
プロセスの3つの重要なステップ、すなわち準備(又は初期化)、展開、及び読出しを区別することができる。
【0056】
初期化:初期化は、個々の物理量子ビットごとに別々に実行でき、最も単純な例では、すべての量子ビットについて、パラメータを同一にすることができる。量子ビットは、ほとんどの場合、|+>状態(|+>=|0>+|1>)で初期化される。提案したキュービック・キャット符号化の場合、これは、キャビティを真空状態に設定して、提案したハミルトニアンのアクティブ・パラメータ(すなわち、ドライブのパラメータ)を徐々に増加させることによって、実現することができる。初期状態が、上記の最も単純な場合とは相異なる必要がある場合、より汎用の初期化方法を使用することができる(ゲートベースのモデルに関しては、次の節で説明される)。
【0057】
展開:ハミルトニアンは、展開の段階では、解決すべき問題を表すように、徐々に変更される。自明でない問題には、任意の所与の量子ビットの、少なくとも1つの他の量子ビットとのエンタングルメントが含まれる。ほとんどの場合、ハミルトニアンの問題には、以下の形のエンタングルメントの項だけが関与する。
【数20】

すなわち、σ演算子の積の合計だけである。この場合、量子ビットの誤り訂正を実行する必要がない、問題のハミルトニアンを表す、ハミルトニアンの量子ビット間相互作用の項を実現することが可能である。これは、σ演算は、その直交成分に対する0成分の複素位相だけに影響するという事実、及びσ演算は、所与の量子ビットがいつでも、3つの可能な循環する状態のいずれに対しても同じであるという事実によるものである。
【0058】
読出し:量子ビットの論理状態は、キュービック・トランズモンと読出し共振器との間の、パラメータ式ビームスプリッタの相互作用によって、相異なる位相を有するコヒーレント状態間を区別する、射影又は量子非破壊測定で読み出すことができる。
【0059】
B ゲートベースのモデル(GB:gate-based model)
ゲートベースのアーキテクチャでは、量子ビットは、原理的に、1つ又は複数の量子ビットが関与する論理演算が実行されるとき、離散時間に演算されるだけでよい。量子ビットは、実際には、提案されている多くの実施態様では、誤り訂正の目的で、準連続的に演算(又は少なくとも監視)される。
【0060】
提案する一実施例では、量子ビットに対する、いかなる継続的な演算又は監視の必要性も、分かりにくくなり得る。エラー訂正演算は、特定のタイプの論理演算が、1つ又は複数の量子ビットに対して実行されるべき場合に、離散時間にだけ実行されればよい。この方法は、もちろん、必要に応じて、他の目的で継続的に監視することを妨げるものではない。
【0061】
ここでもまた、QAアーキテクチャと同様の手法で、GBアーキテクチャにおける計算プロセスの3つの重要なステップ、すなわち、準備(又は初期化)、演算のためのクリーニング(エラー除去)、及び読出しを区別する。
【0062】
演算のためのクリーニング:初期化及び読出しは、どちらも本質的にこのステップのサブステップであるので、プロセスの第2のステップについて説明することから始める。
【0063】
本明細書で「クリーニング」と呼ばれるステップは、Z演算子が光子損失に影響されない可能性があるので、Z演算子の積によって記述できない演算を実行する場合に、必要となり得る。
【0064】
他の演算について、元の状態|φ>を回復することは、追加の物理リソース、すなわち補助リソースを使用することでしか実現し得ず、その最も単純なものは、単一の物理2キャット量子ビットである。主な考え方は、以下の通りである。
1)これら2つの要素がエンタングルされた状態になり、ここで論理量子ビットが両方に組み込まれるように、量子トリット/補助システムにエンタングルメント演算を適用する。
2)論理量子ビットが補助系に完全に転送されるように、量子トリットをリセットする。
3)逆回転を即座に適用して、論理量子ビットを量子トリットに戻して、光子損失の有害な影響から保護する。そして、
4)補助系をリセットする。
【0065】
上記のステップ1)のエンタングルメント演算の重要な要素は、補助系を標的とし、キュービック・キャットを制御部とする、修正された制御位相ゲートとして実現される。このプロセスに含まれる一連の例示的な演算ステップの説明については、以下の節で提示する。
【0066】
初期化:初期化は、最初に、補助量子ビットで所望の論理状態を準備し、次いで、上記(演算ためのクリーニング)と同様のステップ3)及び4)を実行することにより、実行される。
【0067】
読出し:読出しは、上記(演算のためのクリーニング)と同様のステップ1)及び2)を適用し、次いで、補助量子ビット上で読出しを実行することにより、実行される。
【0068】
演算のためのクリーニングを実行するステップの高度な説明
【0069】
クリーニング演算を、上記で提示した概括的な原理に基づいて、具体的に、様々な実施例に適合させることができる。ここで、上記で提示した3キャットの特定の実施例への、可能な適合を検討し、例示的な一実施例を詳細に提示することにする。
【0070】
上記の考察から、3光子損失は系を元の状態に戻すので、目的を、1光子損失又は2光子損失のいずれかから回復することに、限定することができる。したがって、主エラー・チャネルは、組み込まれた量子ビット情報を保存する、3つの相異なる状態間を循環し、これにより、光子損失を継続的に監視する必要がなく、必要な場合、すなわち非保存ゲートを使用する場合にのみ回復すればよい。
【0071】
クリーニング演算を、上記で提示した概括的な原理に基づいて、具体的に、様々な実施例に適合させることができる。ここで、上記で提示した3キャットの特定の実施例への、可能な適合を検討し、例示的な一実施例を詳細に提示することにする。
【0072】
図4では、補助量子ビットと量子トリットとのテンソル積を表すために、補助2キャット量子ビットの2本の足の漫画的ウィグナー図(cartoon Wigner diagram)が、2つの大きな輪郭の赤い円として表されており、これらの各円の中には、対応する量子トリットの漫画的ウィグナー図が表されている。
【0073】
訂正の直前に、量子トリットは、ただ3つの起こり得る状態のうちの、状態Ψにある。すなわち、
【数21】

であり、ここで、
【数22】

である。
【0074】
また、上記の通り、
【数23】

であり、そして
【数24】

である。
【0075】
1つの手段は、単に量子トリットの状態を複製し、3つの起こり得る状態のうちの1つを測定し、元の量子トリットに適切な訂正を適用することであろう。これは、残念なことに、量子複製不可能定理によって禁止されている。しかし、あるサブシステムから別のサブシステムに量子情報を移動させることは、禁止されていない。また、論理量子ビットは、単に、完全な量子トリットの周囲に移動することにはほとんど意味がないが、物理量子トリットの内部から、物理量子トリットに結合された追加の物理量子ビット(補助系又は補助量子ビットと呼ばれる)上に移動して、望ましからざる位相緩和だけを残し、次いで、ノイズによって引き起こされる望ましからざる位相緩和を排除するために、元の量子トリットをリセットすることができる(図4参照)。
【0076】
最初の操作ステップは、補助量子ビットがまだ量子トリットに結合されていない間に、πi/2のx回転によって、|+>状態の補助量子ビットを準備することである(図4の2行目から3行目)。このステップの後、組み合わされた量子ビットと量子トリットとの系は、以下の状態になる。
|+>|Ψ>
ここで、b及びtの下付き文字は、それぞれ、量子ビット及び量子トリットを指す。
【0077】
次のステップは、やはりこのプロセスの主要なステップであるが、分析的に以下のように記述される、特定の量子ビット-量子トリット制御位相ゲートCZ=ZZ(π/2)によって、量子トリットを補助量子ビットとエンタングルさせることである。
【数25】
【0078】
組み合わされた状態を、以下に変換する。
【数26】
【0079】
この最後のステップは、図4の3行目から4行目に示されている。
【0080】
補助量子ビットが2本足のキャット状態である特定の場合には、以下の補助系/量子トリットの相互作用ハミルトニアンを実施することによって、この演算を実現することができる。
【数27】

ここで、Jb,tは、補助系と量子トリットとの間の、ビームスプリッタの相互作用の結合係数である。これにより、以下の、所望の修正された制御位相演算子を、実現することができる。
【数28】

ここで、
θ=3Jb,tαgate
であり、ここでtgateは、相互作用の継続時間である。
【0081】
最後のステップは、量子トリットをその|0>状態にリセットするステップで構成され、これは、補助量子ビットに対する、事前の-π/2のx回転によって容易である(図4の4行目から5行目及び5行目から6行目)。
【0082】
モード及び相互作用
図5は、上記に提示したクリーニングのために、2キャット量子サブシステムが各3キャットサブシステムに追加される、例示的な実施例におけるモード及び相互作用を表す模式図を提示している。光子タイプの実施態様では、3本足のキャットを提供するモードは、時間制御されたビームスプリッタの相互作用によって、2本足のキャット状態(2キャット)を提供する補助モードと相互作用することができる。2本足のキャットの状態は、読出しモードとの、時間制御されたビームスプリッタの相互作用によって、読み出すことができる。
【0083】
例示的な回路
図6は、上記で説明されたプロセスを実施するための、例示的な回路を提示している。3本足及び2本足のキャット状態は、2つのキュービック・トランズモンに存在し、各キュービック・トランズモンは、N≧2の、より大きい接合部と並列の、小さなジョセフソン接合、及び大きなシャント容量から構成される。2次非線形性を実現させるために、接合ループに有限の磁束が与えられる。磁束は、個々の磁束線(図示のように)又は単一の磁束線によって、与えることができる。個々の駆動ポートにより、1光子ポンプ並びに3光子ポンプ(1光子ポンプ及び2光子ポンプ)でキュービック・トランズモンを励起し、3キャット(2キャット)を安定させることができる。2つのキュービック・トランズモンは、容量結合されており、固定ビームスプリッタの相互作用が生じる。両方のモードが互いに大きく離調している場合、ビームスプリッタの相互作用により、静的で望ましからざる分散性のZZタイプの相互作用が生じる可能性がある。この相互作用は、キュービック・トランズモンのいずれかに連続するドライブを追加することで、抑制することができる。両方のキュービック・トランズモン間の、所望の時間制御されたビームスプリッタの相互作用は、どちらかのモードをキュービック・トランズモンの周波数差で駆動することによって、パラメータ式にアクティブ化される。2本足のキャット状態の量子非破壊読出しは、キュービック・トランズモンと共振器との周波数差で、キュービック・トランズモンを駆動することで、対応するキュービック・トランズモンと読出し共振器との間のビームスプリッタの相互作用を、パラメータ式にアクティブ化することによって実行される。
【0084】
回路は、一実例では、以下のドライブを装備することができる。
3キャットの安定化:キュービック・トランズモン周波数での1光子ドライブ
3キャットの安定化:キュービック・トランズモン周波数の3倍の周波数での3光子ドライブ
2キャットの安定化:キュービック・トランズモン周波数の2倍の周波数での2光子ドライブ
2キャット上での演算:キュービック・トランズモン周波数での1光子ドライブ
2キャットの読出し:2キャットのキュービック・トランズモンと、対応する共振器との差での、パラメータ式ドライブ
3キャットと2キャットとの相互作用:時間制御されたZZタイプの相互作用のための、キュービック・トランズモン周波数の差での、パラメータ式ドライブ
3キャットと2キャットとの相互作用:静的なZZタイプの相互作用を抑制するためのパラメータ式ドライブ
【0085】
例示的な代替実施例
光子以外のボソン
提案している方式は、素励起が他のタイプのボソンであるモードの、代替のアーキテクチャで実施することができる。最も注目すべき候補は、フォノンをベースとするアーキテクチャである。かかるアーキテクチャの1つの明確な利点は、寿命が1秒に達するフォノニック共振器が、実証試験されていることである。別の可能性のある実施態様は、マグノンがボソニック励起である静磁気モードを使用することであろう。マグノン・ベースのアーキテクチャにおける1つの大きな課題は、寿命が、約数百ナノ秒と短いことである。両方の代替の物理的実施態様において、提案した方式で必要とされる非線形性は、ボソニック・モードを非線形超伝導回路に結合することによって、実現される可能性が高い。
【0086】
N>3本の脚を有するキャットの安定化の可能性
キュービック・トランズモンに存在する2次線形性(ポッケルス)及び3次非線形性(カー)は、場合によってはN>3であるN光子ドライブを設計するために必要な条件を提供する。しかし、Nが増加するにつれて、かかるドライブの効率が低下する場合があることに気づかれよう。
【0087】
図7aから図7jは、量子ビットの基底を形成することができる、符号化の実例を表す概略図の集合である。一般的な形態において、N>2の場合の、N本足のキャット(又はNキャット)ステートに関して、符号化を実行することが提案されている。こうしたN個の個々の状態は、共振器キャビティの位相空間で表すと、円周上に、すべて等距離に位置する。
【0088】
N個の個々の状態は、それぞれ白丸印又は黒丸印で表される2つのサブセットにセグメント化され、それぞれが、量子ビットの2つの論理状態のうちの一方を表している。論理状態は、回転非対称になるよう構成される。すなわち、論理状態を回転して同じ構成に戻ることができる角度が、1回転より小さい角度となることはない。図7aから図7fは、状態の、サブセットの所与の状態への帰属に基づいて、この回転非対称性を実現させる手法を提示しており、これを、サブセット構成による非対称性と呼ぶことにする。図7jは、回転非対称性が、さもなければ回転対称であるサブセット構成への、ゼロ係数の帰属によるものであり、係数構成による非対称性と呼ぶことができる実例を提示している。まず、サブセット構成に基づいて回転非対称性を実現させることについて、論じることから始める。
【0089】
例えば、Nが2より大きい素数である場合、この条件は、2つのサブセット間のセグメント化が可能なすべての構成において、自動的に考慮される。ただし、図7iに示されているように、Nが奇数であることが、回転対称性がないことを保証するものではないことに留意されたい。図7g及び図7hも、回転対称性が存在するセグメント化構成を表している。図7aから図7fは、回転対称性が存在しない様々な実例を提示している。
【0090】
回転対称性が存在しないセグメント化の実現を容易にするか、又は自動化するために、様々な方法又はルールを実施することができる。例えば、Nが素数であるか否かに関係なく、回転対称性のないセグメント化構成は、図7aから図7cで表されるような、2つの連続するサブセットを選択することによって、実現することができる。2つの論理状態のうちの一方を表すために、ただ1つの状態を選択し、他方の論理状態を表すために、残りN-1個の状態を選択することによって、さらに単純なセグメント化を常に得ることができ、これは、図7c及び図7fに提示されている構成の場合である。しかし、比較的大きいNに対してこの構成を選択すると、下記で論じられる追加要件である、両方の論理状態の近似直交性を実現させることが、より困難になる可能性がある。Nが奇数の場合、図7dのように、セグメント化を単に交互に繰り返すだけで、別の好適なセグメント化構成を得ることができる。
【0091】
概して、特に安定化が問題となり得る場合には、単純化のために、小さいNの値を選択することが好ましい場合がある。例えば、Nの値3、4、又は5を選択することが好ましい可能性がある。図7fに提示されているようなN=3は、いくつかの実施例では、より好ましい可能性があり、下記に提示される詳細な例示的実施例を実現することに基づいて、選択されている。
【0092】
適切なサブセットが選択されると、各量子状態(|0>及び|1>)は、状態のそれぞれのサブセットを構成する、状態の任意の自明ではない線形結合によって定義でき、線形結合では、複素係数が許され、選択した状態を適切に正規化することができる。その際、2つの論理状態の、正確な直交性ではないにしても、少なくともおおよその直交性を確保する必要がある。
【0093】
回転対称セグメント化構成で、論理状態の符号化を適合させることも可能であるが、線形結合における係数の特定の選択により、対称性が破られる。かかる変形の簡単な実例が図7jに提示され、ここでは、「X」記号でマークされた状態に係数0が割り当てられ、この6キャットの回転対称のセグメント化構成が、3キャットの非対称構成に効果的に変換される。両方の概念を組み合わせることができ、非対称構成はさらに、1つ又は複数のゼロ係数が帰属され、非回転対称のまま保持することができる。
【0094】
さらに他の実施例も、可能であることに気づかれよう。この概念はおそらく、初期状態からの位相シフトを概略的に表す図8a~図8eを参照して、より全般的に述べることができる。図8aでは、2つの相異なる論理状態は、図の位相空間表現において、i)白い点のグループの重ね合わせ、及びii)黒い点のグループの重ね合わせとして定義される。各論理状態の定義には、コヒーレント状態ごとに、複素数、すなわち振幅及び位相を帰属させることが含まれる(ゼロにすることもでき、その場合、それぞれのコヒーレント状態は、論理状態の定義から除外される)。知られているように、各論理状態の複素数の振幅の2乗和は1に等しく、両方の論理状態の内積は最小になる。初期状態は、論理情報を表す、論理状態の所与の重ね合わせである。
【0095】
図8bでは、初期状態における各コヒーレント状態の位相が、時計の針によって表されている。環境との望ましからざる、又は予期しない相互作用、すなわち、制御命令によって駆動される相互作用に一致しない相互作用の、いくつかのタイプでは、位相シフトが生じる可能性がある。位相シフトは、相異なる個々のコヒーレント状態によって、様々に影響を受ける。例えば、図8cは、位相シフトによって、最初のコヒーレント状態(右側)が影響を受けないまま残り、時計の針の位置を変化させることによって表される位相変化が、円の周りを反時計回りの順序で、最初のコヒーレント状態から次のコヒーレント状態へ、比例して、ますます大きくなるシナリオを表している。
【0096】
この実例に提示されているように、各論理状態に関連づけられた様々なコヒーレント状態は、コヒーレント状態間で同位相のままであるが、他の論理状態に関連づけられたコヒーレント状態とは位相がずれている場合、論理情報は失われる。これは望ましからざることであるが、これが起こらないように論理状態を定義することによって、回避することができる。確実に、これが起こらないようにするために、多くの様々な技法を使用でき、技法の多くが多数の実例の基礎をなすように、上記で提示されている。
【0097】
しかし、他の実施例では、他の技法を使用することもできる。例えば、Sが、系のn個すべてのコヒーレント状態のセットであり、A及びBは、Sの厳密なサブセットである、すなわち、A及びBは、厳密にSに含まれ(ただし、AはNに等しくなく、BもNに等しくない)、第1の論理状態は、Aの要素から構成され(Aのすべての要素、又はAの任意のサブセットを含むことができる)、第2の論理状態は、Bの要素から構成される(Bのすべての要素、又はBの任意のサブセットを含むことができる)、シナリオを調べることにする。かかるシナリオでは、以下のようにA及びBが選択されると、訂正不可能なエラーが生じる可能性がある。
i)AとBとは両方とも、セットSの、回転対称で等間隔に離間されたサブサンプリング(上の行の状態1及び0、下の行の状態0など)であり、且つ
ii)Bは、Aを回転させることにより得ることができる(Bはただ単にAを回転させたものであり、逆も同様である)。
したがって、起こり得る問題を回避するために、A及びBを、以下のように選択することができる。
i)論理状態の少なくとも一方が、Sの回転対称サブセットのサブセットで構成されていないか、又は
ii)論理状態の両方が、Sの回転対称サブセットのサブセットで構成されている場合、論理状態は、回転次第で同一となる、Sの2つの回転対称サブセットのサブセットで構成されてはならない。
【0098】
図8a~図8eに提示されたシナリオとは対照的に、同じ論理表現を使用した別のシナリオが、図9a~図9fに提示されている。図9a~図9fのシナリオでは、論理状態は、図9c、図9d、図9e、及び図9fに提示されている、図9bの初期状態からの起こり得る位相シフトの増分のいずれかを制限し、論理情報を保持しながら、論理部分空間の外部にある、1つ若しくは複数の修正された状態(例えば、図9c、図9d、図9e、図9f)になるか、又は初期状態に戻るように定義される。実際、図9cから図9fで表されている中間の位相シフトのそれぞれにおいて、各論理状態のコヒーレント状態は、他の論理状態に関連づけられたコヒーレント状態とは位相がずれているが、コヒーレント状態間で同位相ではない。
【0099】
論理状態の定義は、複素数の別個の組合せを各コヒーレント状態に帰属させることを、含むことができる。図7a~図7i、図8a、及び図9aに提示されているシナリオでは、複素数は、1又は0に重みづけされ、第1の論理状態の定義で1に重みづけされたコヒーレント状態の組合せは、第2の論理状態では0に重みづけされ、その逆もある。図7jに提示されているシナリオでは、一部のコヒーレント状態は、両方の論理状態の定義でゼロに重みづけされるため、使用されない。様々な実施例において、各コヒーレント状態に関連づけられ、2つの論理状態を定義する、複素数の組合せの正確な選択は、変化する可能性があり、論理状態は、コヒーレント状態の一部又は全部を共有でき、ただ単に、論理状態の内積を最小化するように、1以外の値での重みづけを含め、様々に重みづけされる。同様に、図9bでは、初期状態で、すべてのコヒーレント状態が同期しているが、初期状態で、コヒーレント状態が、互いに非同期の可能性があることが理解されよう。
【0100】
本明細書で使用される「コンピュータ」、「古典コンピュータ」、又は「コントローラ」という表現は、限定的に解釈されるべきではないことが理解されよう。「コンピュータ」は、むしろ広義に使用され、全般的に、何らかの形態の1つ又は複数の処理ユニットと、処理ユニットによってアクセス可能な、何らかの形態のメモリ・システムとの組合せを指す。「コントローラ」は、広義に使用され、全般的に、制御機能を実行するデバイスを指し、コンピュータ又は別のタイプのデバイスであってもよい。コンピュータが非一時的なタイプの可能性がある場合の、メモリ・システム。本明細書で使用される、「コンピュータ」という表現の単数形での使用には、その範囲内に、所与の機能を実行するために協働して動作する、2台以上のコンピュータの組合せが含まれ、この2台以上のコンピュータが、構内、遠隔、又は分散型であるかどうかは、無関係である。さらに、本明細書で使用される「コンピュータ」という表現には、その範囲内に、所与の処理ユニットの部分的な機能の使用が含まれる。
【0101】
処理ユニットは、いくつか実例を挙げると、汎用マイクロプロセッサ又はマイクロコントローラ、デジタル信号処理(DSP:digital signal processing)プロセッサ、集積回路、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:field programmable gate array)、再構成可能なプロセッサ、プログラマブル読取り専用メモリ(PROM:programmable read-only memory)の形態で、具現化することができる。
【0102】
メモリ・システムは、内部、又は外部のいずれかに配置され、直接、又はインターネットなどのネットワークを介して、有線又は無線でプロセッサがアクセス可能な、任意の好適なタイプのコンピュータ可読メモリの、好適な組合せを含むことができる。コンピュータ可読メモリは、いくつか実例を挙げると、ランダム・アクセス・メモリ(RAM:random-access memory)、読取り専用メモリ(ROM:read-only memory)、コンパクト・ディスク読取り専用メモリ(CDROM:compact disc read-only memory)、電気光学メモリ、光磁気メモリ、消去可能なプログラマブル読取り専用メモリ(EPROM:erasable programmable read-only memory)、電気的に消去可能なプログラマブル読取り専用メモリ(EEPROM:electrically-erasable programmable read-only memory)、強誘電体RAM(FRAM(登録商標):Ferroelectric RAM)の形態で、具現化することができる。
【0103】
コンピュータは、人間のユーザとの通信、及び/又はキーボード、マウス、タッチスクリーン、アンテナ、ポートなど、関連する入力、出力、若しくは入出力デバイスを介した、別のコンピュータとの通信を可能にする、1つ又は複数の入出力(I/O:input/output)インタフェースを備えることができる。各I/Oインタフェースは、コンピュータが、他の構成要素と通信及び/若しくはデータ交換すること、ネットワーク・リソースにアクセス及び接続すること、アプリケーションにサービス提供すること、並びに/又はいくつか実例を挙げると、インターネット、イーサネット(登録商標)、旧来の電話サービス(POTS:plain old telephone service)回線、公衆交換電話網(PSTN:public switch telephone network)、サービス総合デジタル網(ISDN:integrated services digital network)、デジタル加入者回線(DSL:digital subscriber line)、同軸ケーブル、光ファイバ、衛星、携帯電話、無線(例えばWi-Fi、Bluetooth、WiMAX)、SS7信号ネットワーク、固定回線、構内ネットワーク、広域ネットワークを含む、データを伝送できる1つのネットワーク(若しくは複数のネットワーク)に接続することにより、他のコンピュータ処理アプリケーションを実行することを、可能にすることができる。
【0104】
コンピュータは、ハードウェア、又はハードウェアとソフトウェアとの両方の組合せによって、機能又はプロセスを実行できることが理解されよう。例えば、ハードウェアは、プロセッサのシリコン・チップの一部として備えられる、論理ゲートを含むことができる。ソフトウェア(例えば、アプリケーション、プロセス)は、1つ又は複数の処理ユニットがアクセス可能な非一時的コンピュータ可読メモリに記憶された、コンピュータ可読命令などのデータの形態の可能性がある。コンピュータ又は処理ユニットに関する、「~よう構成される」という表現は、関連する機能を実行するよう動作可能な、ハードウェア又はハードウェアとソフトウェアとの組合せの存在に関係する。
【0105】
理解できるように、上記で説明され、図示された実例は、例示のみを意図している。範囲は、添付の特許請求の範囲によって示されている。
図1a-1c】
図2
図3
図4
図5
図6
図7a
図7b
図7c
図7d
図7e
図7f
図7g
図7h
図7i
図7j
図8a
図8b
図8c
図8d
図8e
図9a
図9b
図9c
図9d
図9e
図9f
【手続補正書】
【提出日】2023-10-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
図1】コヒーレント状態(大きな円)の重ね合わせ、及びコヒーレント状態が生成する干渉縞を示す、a)2キャット状態、b)キャット状態、c)キャット状態のより詳細な位相空間表現を示す図である。
図2】ハミルトニアン安定化のメタポテンシャル表現の図である。
図3】量子プロセッサとして実装可能な量子システムの概略図である。
図4】クリーニング演算プロセスを段階的に表す模式図である。
図5】3本足のキャット状態(3キャット)に組み込まれた論理量子ビットの、モード、並びに安定化及び量子エラー訂正を可能にする相互作用の、概略説明の図である。
図6】提案されているプロトコルを実装するための例示的な回路の模式図である。
図7a】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7b】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7c】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7d】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7e】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7f】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7g】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7h】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7i】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図7j】位相空間において、N個の状態が、論理状態に関連づけられ、量子ビット符号化の基底を形成できる、N個の個々の状態を表す概略図の集合である。
図8a】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図8b】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の、模式的な表現の図である。
図8c】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の、模式的な表現の図である。
図8d】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の、模式的な表現の図である。
図8e】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の、模式的な表現の図である。
図9a】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9b】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9c】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9d】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9e】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
図9f】2つの例示的な論理状態の定義について、連続するボソンの損失による位相の展開の模式的な表現の図である。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0031
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0031】
図1は、a)2キャット状態、b)キャット状態、c)キャット状態の位相空間表現を提示し、コヒーレント状態(大きな円)の重ね合わせ、及びコヒーレント状態が生成する干渉縞を示している。
【国際調査報告】