(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(54)【発明の名称】プロテインC及び活性化プロテインCを測定する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240319BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240319BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240319BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240319BHJP
C12Q 1/37 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/68 ZNA
A61P31/04
A61K38/17
C12Q1/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023553423
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(85)【翻訳文提出日】2023-10-27
(86)【国際出願番号】 EP2022055176
(87)【国際公開番号】W WO2022184725
(87)【国際公開日】2022-09-09
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522289275
【氏名又は名称】コンソルシオ セントロ デ インベスティガシオン ビオメディカ エン レッド (セイベエエレ)
(71)【出願人】
【識別番号】519098394
【氏名又は名称】ウニベルシタ デ バレンシア
(71)【出願人】
【識別番号】523332013
【氏名又は名称】インスティテュート デ インベスティガシオン サニタリア インクリヴァ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ヒメネス ホセ ルイス
(72)【発明者】
【氏名】パジャルド カラタユド フェデリコ ビセンテ
(72)【発明者】
【氏名】メナ モーラ サルバドール
(72)【発明者】
【氏名】カルボネル モンレオン ニエベス
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041EA12
2G041FA12
2G041FA13
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4B063QA13
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4C084ZB351
4C084ZB352
(57)【要約】
本発明は、測定を必要とする被験体におけるプロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルを測定する方法であって、被験体から単離された1つ以上の生体試料の酵素消化を行う工程と、配列番号1(LGEYDLR)及び/又は配列番号2(TFVLNFIK)のペプチドのレベルを測定する工程とを含み、ここで、配列番号1及び/又は配列番号2のレベルが、上記1つ以上の生体試料中に存在するPROC、好ましくはAPCのレベルに対応する、方法に関する。また、被験体を分類し、治療に対する奏功を予後予測する方法も含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある被験体をスクリーニング又は分類する質量分析に基づく方法であって、
i)前記被験体から単離された1つ以上の生体試料に対して酵素消化を行う工程と、質量分析計を使用することによって配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルを測定する工程とを含み、配列番号1(LGEYDLR)のレベルが、前記1つ以上の生体試料中に存在するPROCのレベルに対応する、方法を実施することによって、プロテインC(PROC)のレベルを測定する工程と、
ii)工程i)において取得された前記レベルと基準値とを比較する工程と、
を含み、ここで、前記基準値は、1431.57ng/mLであり、少なくとも40%の低下が、前記被験体が敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがあることの指標である、方法。
【請求項2】
前記方法は、前記患者が敗血症又は敗血症性ショックを患っていることを臨床的に確認する工程を更に含む、請求項1に記載の質量分析に基づく方法。
【請求項3】
播種性血管内凝固症候群(DIC)を患うリスクがある、敗血症又は敗血症性ショックと診断された被験体をスクリーニング又は分類する質量分析に基づく方法であって、
i)前記被験体から単離された1つ以上の生体試料に対して酵素消化を行う工程と、質量分析計を使用することによって配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルを測定する工程とを含み、配列番号1(LGEYDLR)のレベルが、前記1つ以上の生体試料中に存在するPROCのレベルに対応する、方法を実施することによって、プロテインC(PROC)のレベルを測定する工程と、
ii)工程i)において取得された前記レベルと基準値とを比較する工程と、
を含み、ここで、前記基準値は、600ng/mLであり、少なくとも20%の低下が、前記被験体がDICを患うリスクがあることの指標である、方法。
【請求項4】
前記方法は、前記患者が播種性血管内凝固症候群を患っていることを臨床的に確認する工程を更に含む、請求項3に記載の質量分析に基づく方法。
【請求項5】
前記酵素消化に使用される酵素は、トリプシン及び/又はArgC、又は消化後に配列番号1のLGEYDLRペプチドを生じさせるプロテアーゼのあらゆる組合せである、請求項1~4のいずれか一項に記載の質量分析に基づく方法。
【請求項6】
配列番号1(LGEYDLR)のペプチドの測定は、配列番号1(LGEYDLR)の標識プロテオタイプペプチドをスパイクインすることによって行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の質量分析に基づく方法。
【請求項7】
配列番号1(LGEYDLR)のスパイクイン標識プロテオタイプペプチドは、少なくとも1つ以上の重アミノ酸を用いて合成され、前記ペプチドは、好ましくはC末端アミノ酸残基においてタグで標識される、請求項1~6のいずれか一項に記載の質量分析に基づく方法。
【請求項8】
前記方法は、前記1つ以上の生体試料を還元剤で還元する工程と、前記1つ以上の生体試料をアルキル化剤でアルキル化する工程とを更に含み、ここで、前記還元工程及び前記アルキル化工程の両方を、前記酵素消化の工程の前に行う、請求項1~7のいずれか一項に記載の質量分析に基づく方法。
【請求項9】
前記1つ以上の生体試料は、血液、血清、血漿、唾液、尿、又は脳脊髄液からなる群より選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の質量分析に基づく方法。
【請求項10】
予後予測を必要とする被験体における組換えプロテインC(PROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(APC)による治療に対する奏効を予後予測する質量分析に基づく方法であって、
i)請求項3~9のいずれか一項に記載の方法の各工程を実施することによって、前記被験体が播種性血管内凝固症候群(DIC)を患うリスクがあるかどうかをスクリーニングする工程と、
ii)前記被験体がDICを患うリスクがあると特定されるか、又はDICと診断される場合に、前記被験体を前記治療に対するレスポンダーとして分類し、前記被験体がDICを患うリスクがあるとも特定されず、DICとも診断されない場合に、前記被験体を前記治療に対するノンレスポンダーとして分類する工程と、
を含む、方法。
【請求項11】
前記予後診断を行った後に、前記被験体を組換えプロテインC(rPROC)で治療し、好ましくは組換え活性化プロテインCで治療する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
敗血症、敗血症性ショック、又は脳卒中の治療において使用される組換えプロテインC(rPROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(rAPC)を含む組成物であって、前記使用は、請求項10又は11に従ってレスポンダーとして分類される前記被験体に前記組成物を投与する工程を含む、組成物。
【請求項13】
敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある被験体をスクリーニングするバイオマーカーとしての、使用を必要とする被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルのin vitroでの使用。
【請求項14】
播種性血管内凝固症候群を患うリスクがある被験体をスクリーニングするバイオマーカーとしての、敗血症又は敗血症性ショックを患っている被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルのin vitroでの使用。
【請求項15】
敗血症又は敗血症性ショック及び播種性血管内凝固症候群(DIC)を患っている被験体における、組換えPROC、好ましくは組換えAPCによる治療に対する奏効を予後予測するバイオマーカーとしての、使用を必要とする被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルのin vitroでの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野、特に質量分析に基づく方法を使用することによりバイオマーカーを測定する分野に関する。より詳細には、本発明は、プロテインC、好ましくは活性化プロテインCを、それらのタンパク質と相関する特定のペプチドを使用して測定/定量化する質量分析に基づく方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1において、敗血症は、感染症に対する身体の応答が自身の組織を損傷する場合に起こる生命を脅かす臓器機能不全(既存の臓器機能不全を有することが分かっていない患者におけるベースラインのSOFAをゼロと仮定して、SOFAスコアの合計が2ポイント以上)と定義された。敗血症性ショックは、重度の循環異常、細胞異常、及び代謝異常が、敗血症単独の場合よりも高められた死亡リスクと関連する敗血症の部分集合として定義された。しかし、ワクチン、抗生物質、及び集中治療室(ICU)における急性期治療になされた進歩にもかかわらず、敗血症は4900万人もの人が罹患し、依然として世界中で年間1100万人以上が死亡する感染症による主たる死因となっており、ICUにおける最も頻度の高い死因である。
【0003】
播種性血管内凝固症候群(DIC)は、血管系におけるフィブリン沈着、臓器機能不全、凝固因子及び血小板の消費を引き起こす凝固の広範な活性化、並びに生命を脅かす出血を特徴とする後天性の臨床生物学的症候群である。
【0004】
プロテインC欠乏症(PROC欠乏症)は、プロテインCの欠乏を特徴とする稀な遺伝性障害であるため、この稀な疾患に罹患した被験体は凝塊、特に深部静脈血栓症と呼ばれる一種の凝血塊を発症するリスクがある。非常に稀ではあるが、出生時(先天性)に見られる重度の型があり、これは体内に広範囲の小さな凝塊を生じ、幼児期に生命を脅かす合併症を引き起こす可能性がある。プロテインCレベルが検出不可能な患者は、通常、出生後数時間から数日でその疾患を認め、電撃性紫斑病又は大規模な静脈血栓症を伴う。
【0005】
プロテインC(PROC)は、抗血栓性、抗炎症性、及び線維素溶解促進性の特性を有し、これらはセプチセミア(septicemia)に対する重度の全身応答の有害な効果を抑える役割を担うことができる。DICの病因におけるPROC抗凝固経路の役割は、敗血症誘発性DICの実験モデル及び敗血症を患う患者において研究されている。プロテインC欠乏症は、敗血症を患う患者において、主に消費の増加、肝臓合成障害、及び血管漏出が原因で頻繁に見られる。
【0006】
活性化プロテインC(APC)は56kDaの血液ビタミンK-セリンプロテアーゼであり、プロテインC(PROC)からのArg169-Leu170ペプチド結合が切断され、重鎖からドデカペプチド(残基158~残基169)が放出されることにより生ずる。APCは、抗凝固活性、細胞保護活性、抗炎症活性、及び細胞シグナル伝達活性を示した。APCに最近割り当てられた役割の中で、トロンビン生成の主要な調節因子としてのAPCの役割、及びフィブリン凝塊の発生に必須の凝血促進性活性化補因子のタンパク質分解により血液凝固を抑えるというAPCの役割は広く知られている。さらに、APCは自己免疫疾患の幾つかの前臨床モデルにおいて適応免疫応答に寄与することが明らかになっている。
【0007】
幾つかの研究によりAPCの治療的使用が実証され、こうして、組換えヒトAPC(rhAPC)による治療が市場に現れた。敗血症誘発性DICにおける後天性APC欠乏症は、敗血症患者における凝固亢進状態及び死亡率の増加に関連している。APCによる治療により、敗血症関連DICを伴う部分群に遡及的に割り当てられた患者を含む重度の敗血症を患う患者の28日死亡率が低下することが実証されている。しかしながら、APCによる治療は他の患者群においては一切効能を示さなかったことから、DICを患う敗血症患者のみがAPC治療(すなわち、Xigris又は他の組換えAPC)の使用から便益を受けるであろうことが示唆される。また、APC治療により敗血症を患う患者における出血リスクが増加することも判明したことから、治療前及び治療中の患者におけるPROC及び/又はAPCのレベルを測定することの重要性が強調される。
【0008】
したがって、rhAPC(ドロトレコジンα、DrotAA)、特にXigris(商標)(Eli Lilly Inc.)は製造業者によって市場から取り下げられ、幾つかの疾患におけるAPC治療の治療可能性及び安全性を改善する取り組みが行われた。出血リスクを減らすのに、ネイティブのAPC構造を突然変異させた:3つのリジンをアラニンにより置き換え(K191A、K192A、K193A)、多数の細胞シグナル伝達活性を維持しながら抗凝固活性の90%超が取り除かれた。このAPC形態は3K3A-APCと名付けられた。したがって、ZZ Biotechの3K3A-APC(http://zzbiotech.com/the-company/3k3a-activated-protein-c)は、凝血及び炎症の調節において役割を担う天然に存在するAPCの遺伝子操作された変異体である。APCは、細胞保護特性、抗炎症特性、及び抗凝固特性を有する。3K3A-APCは抗凝固能力の低下を示し、それにより未改変のAPCによって誘発される出血のリスクが最小限に抑えられる。脳卒中、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、神経外傷、及び敗血症の動物モデルにおいて、3K3A-APC療法は、有効性の向上及び出血のリスク低下において組換えAPCよりも優れていることが明らかになっている。脳内の血管内壁に対する3K3A-APCの保護効果は更に、急性虚血性脳卒中の治療に現在適応されている唯一の薬物である組織プラスミノーゲン活性化因子、すなわちtPAによって時々引き起こされる出血の抑制に役立ち、最近ではコロナウイルス感染症2019を患う重病の患者に提案されている。
【0009】
組換え天然ヒトAPC又は突然変異型ヒトAPCの治療的利用に関するこれまでの研究により、内因性及び外因性のヒトPROC又は/及びAPCを測定するための、そしてまた診断的環境及び治療的環境のための検出及びモニタリングの方法が必要であるという考えが強められる。本発明は、三次病院の集中治療室に入院している患者(敗血症及び敗血症性ショック、並びに脳卒中のような脳血管発作を患う重度の罹患者を含む)の血漿中を含む、ヒト被験体から得られた血液中の循環PROC及び循環APCを測定する方法を記載する。本明細書に記載される方法は、多重反応モニタリング標的質量分析(MRM-MS)及び特定の(スパイクイン標識)プロテオタイプペプチドの使用に基づき、感度及び特異度が高い方法が得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】敗血症及び敗血症性ショックの国際コンセンサス定義第3版(Sepsis-3)(Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3))
【発明の概要】
【0011】
第1の態様において、本発明は、敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある被験体をスクリーニング又は分類する質量分析に基づく方法であって、
i)被験体から単離された1つ以上の生体試料に対して酵素消化を行う工程と、質量分析計を使用することによって配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルを測定する工程とを含み、配列番号1(LGEYDLR)のレベルが、上記1つ以上の生体試料中に存在するPROCのレベルに対応する、方法を実施することによって、プロテインC(PROC)のレベルを測定する工程と、
ii)工程i)において取得されたレベルと基準値とを比較する工程と、
を含み、ここで、基準値は、1431.57ng/mLであり、少なくとも40%の低下が、敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがあることの指標である、方法に関する。好ましくは、方法は、患者が敗血症又は敗血症性ショックを患っていることを臨床的に確認する工程を更に含む。
【0012】
更なる態様において、本発明は、播種性血管内凝固症候群(DIC)を患うリスクがある、敗血症又は敗血症性ショックと診断された被験体をスクリーニング又は分類する質量分析に基づく方法であって、
i)被験体から単離された1つ以上の生体試料に対して酵素消化を行う工程と、質量分析計を使用することによって配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルを測定する工程とを含み、配列番号1(LGEYDLR)のレベルが、上記1つ以上の生体試料中に存在するPROCのレベルに対応する、方法を実施することによって、プロテインC(PROC)のレベルを測定する工程と、
ii)工程i)において取得されたレベルと基準値とを比較する工程と、
を含み、ここで、基準値は、600ng/mLであり、少なくとも20%の低下が、被験体がDICを患うリスクがあることの指標である、方法に関する。好ましくは、方法は、患者が播種性血管内凝固症候群を患っていることを臨床的に確認する工程を更に含む。
【0013】
好ましくは、酵素消化に使用される酵素は、トリプシン及び/又はArgC、又は消化後に配列番号1のLGEYDLRペプチドを生じさせるプロテアーゼのあらゆる組合せである。好ましくは、配列番号1(LGEYDLR)のペプチドの測定は、配列番号1(LGEYDLR)の標識プロテオタイプペプチドをスパイクインすることによって行われる。好ましくは、配列番号1(LGEYDLR)のスパイクイン標識プロテオタイプペプチドは、少なくとも1つ以上の重アミノ酸を用いて合成され、上記ペプチドは、好ましくはC末端アミノ酸残基においてタグで標識される。好ましくは、方法は、1つ以上の生体試料を還元剤で還元する工程と、1つ以上の生体試料をアルキル化剤でアルキル化する工程とを更に含み、ここで、還元工程及びアルキル化工程の両方を、酵素消化の工程の前に行う。
【0014】
好ましくは、1つ以上の生体試料は、血液、血清、血漿、唾液、尿、又は脳脊髄液からなる群より選択される。
【0015】
更なる態様において、本発明は、予後予測を必要とする被験体における組換えプロテインC(PROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(APC)による治療に対する奏効を予後予測する質量分析に基づく方法であって、
i)上記様態のいずれかに記載の方法の各工程を実施することによって、被験体が播種性血管内凝固症候群(DIC)を患うリスクがあるかどうかをスクリーニングする工程と、
ii)被験体がDICを患うリスクがあると特定されるか、又はDICと診断される場合に、被験体を上記治療に対するレスポンダーとして分類し、被験体がDICを患うリスクがあるとも特定されず、DICとも診断されない場合に、被験体を上記治療に対するノンレスポンダーとして分類する工程と、
を含む、方法に関する。
【0016】
好ましくは、予後診断を行った後に、被験体を組換えプロテインC(rPROC)で治療し、好ましくは組換え活性化プロテインCで治療する。
【0017】
更なる態様において、本発明は、敗血症、敗血症性ショック、又は脳卒中の治療において使用される組換えプロテインC(rPROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(rAPC)を含む組成物であって、使用は、上記態様に従ってレスポンダーとして分類される被験体に上記組成物を投与する工程を含む、組成物に関する。
【0018】
更なる態様において、本発明は、敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある被験体をスクリーニングするバイオマーカーとしての、又は播種性血管内凝固症候群を患うリスクがある被験体をスクリーニングするバイオマーカーとしての、使用を必要とする被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルのin vitroでの使用に関する。
【0019】
更なる態様において、本発明は、敗血症又は敗血症性ショック及び播種性血管内凝固症候群(DIC)を患っている被験体における、組換えPROC、好ましくは組換えAPCによる治療に対する奏効を予後予測するバイオマーカーとしての、使用を必要とする被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルのin vitroでの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】MS実験において様々な濃度(fmol)の重スパイクインペプチド(heavy spike-in peptides)を使用した、選択されたAPCペプチドについての直線性を示す図である。
【
図2】APC(ng/mL)と、敗血症の生理病理学に関連する様々なパラメーターとの間のスピアマン相関を示す図である。a)ヒストンH2B(スピアマンのロー0.469、p=0.021)、b)プロカルシトニン(PCT)(スピアマンのロー0.468、p=0.021)、c)Quick指数(Quick index)(スピアマンのロー0.514、p=0.010)、d)機能的プロテインC(スピアマンのロー0.900、p=0.037)とのAPC相関。
【
図3】APC(ng/mL)と、敗血症性ショックの生理病理学に関連する様々なパラメーターとの間のスピアマン相関を示す図である。a)血小板(スピアマンのロー0.374、p=0.0001)、b)Quick指数(スピアマンのロー0.302、p=0.003)、c)活性化部分トロンボプラスチン時間(スピアマンのロー-0.267、p=0.026)、d)D-二量体(スピアマンのロー-0.437、p=0.002)、及びe)機能的プロテインC(スピアマンのロー0.900ρ、p<0.0001)とのAPC相関。
【
図4】DICと診断された患者又はDICを患っていない患者の試料中の血漿APCレベルの研究(p=0.0014)を示す図である。
【
図5】MS実験において様々な濃度(fmol)の重スパイクインペプチドを使用した、選択されたPROCペプチドについての直線性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一般的な定義
本明細書において使用される場合に、数量を特定していない単数形(the singular forms "a", "an", and "the")は、文脈上特段の明示がない限り、複数の参照を含むことに留意されたい。さらに、特段の指示がない限り、一連の要素に先立つ「少なくとも」という用語は、一連の中の全ての要素を指すものと理解されるべきである。当業者は、日常の実験を使用するだけで、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態の多くの均等物を認識し、又は把握することができるであろう。そのような均等物は、本発明により包含されることが意図される。
【0022】
本明細書において使用される場合、多数の列挙された要素間の接続語「及び/又は」は、個別の選択肢及び組み合わされた選択肢の両方を包含するものとして理解される。例えば、2つの要素が「及び/又は」により接続されている場合、1つ目の選択肢は1つ目の要素を2つ目の要素を除いて適用可能であることを指す。2つ目の選択肢は2つ目の要素を1つ目の要素を除いて適用可能であることを指す。3つ目の選択肢は1つ目の要素と2つ目の要素とを一緒に適用可能であることを指す。これらの選択肢のいずれか1つがその意味の範囲内に含まれ、したがって本明細書において使用される「及び/又は」という用語の要件を満たすものと理解される。2つ以上の選択肢を同時に適用可能であることもその意味の範囲内に含まれ、したがって「及び/又は」という用語の要件を満たすものと理解される。
【0023】
本明細書及び特許請求の範囲全体を通じて、文脈上特段の必要がない限り、「~を含む(comprise)」という語、並びに「~を含む(comprises)」及び「~を含む(comprising)」等の別形は、指定された整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むが、あらゆる他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群も除外しないことを意味するものと理解されるであろう。本明細書において使用される場合、「~を含む(comprising)」という用語を、「~を含有する(containing)」若しくは「~を含む(including)」という用語で置き換えることができ、又は本明細書において使用される場合、時には「~を有する(having)」という用語で置き換えることができる。上述の用語(~を含む(comprising)、~を含有する(containing)、~を含む(including)、~を有する(having))のいずれも、本発明の態様又は実施形態の文脈において本明細書で使用されるときはいつでも、「~のみからなる(consisting of)」という用語で置き換えることができるが、これはあまり好ましくない。
【0024】
本明細書において使用される場合、「約」という用語は、示された値±その値の1%を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の2%を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の5%を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の10%を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の20%を意味するか、又は「約」という用語は、示された値±その値の30%を意味し、好ましくは、「約」という用語は、正確に示された値(±0%)を意味する。
【0025】
本明細書において使用される場合、「~のみからなる(consisting of)」は、クレームの要素に特定されていないあらゆる要素、工程、又は成分を除外する。本明細書において使用される場合、「本質的に~のみからなる(consisting essentially of)」は、クレームの基本的な特徴及び新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料又は工程を除外しない。
【0026】
本発明の文脈において、「検出」、「定量化」、及び「測定」という用語は同義と見なされ、1つ以上の生体試料中のPROC、好ましくはAPCのレベルを計算することを指す。本明細書において使用される「レベル」という用語は濃度又は量と同義である。したがって、例えば、本発明の文脈におけるPROC、好ましくはAPCのレベルの測定とは、上記タンパク質の濃度又は量を計算することを意味する。
【0027】
本明細書において使用される場合、「敗血症」という用語は、感染症の疑い又は証明に加えての全身性炎症性応答症候群(例えば、発熱、頻脈、頻呼吸、又は白血球増加症)として定義される。重要なことには、敗血症の多くの症例において感染症の原因を確認することができない。
【0028】
本明細書において使用される場合、「敗血症性ショック」という用語は、全身性感染症が危険なほどの低血圧をもたらした場合に起こる重篤な病態として定義される。敗血症性ショックは通常、呼吸不全又は心不全、脳卒中、他の臓器の不全、及び死亡につながる可能性がある血圧の大幅な低下に関連している。
【0029】
本明細書において使用される場合、「播種性血管内凝固症候群(DIC)」という用語は、血管系におけるフィブリン沈着、臓器機能不全、凝固因子及び血小板の消費を引き起こす凝固の広範な活性化、並びに生命を脅かす出血を特徴とする後天性の臨床生物学的症候群として定義される。
【0030】
本明細書において使用される場合、「プロテインC欠乏症」という用語は、プロテインCの欠乏を特徴とする遺伝性障害として定義されるため、この稀な疾患に罹患した被験体は凝塊、特に深部静脈血栓症と呼ばれる一種の凝血塊を発症するリスクがある。
【0031】
本明細書において使用される場合、「プロテインC」(PROC)という用語は、活性化プロテインC(APC)のチモーゲン(酵素の不活性前駆体)であるビタミンK依存性糖タンパク質として定義される。本明細書において使用される場合、活性化プロテインC(APC)は、プロテインCからのArg169-Leu170ペプチド結合が切断され、重鎖からドデカペプチド(残基158~残基169)が放出されることにより生じた56kDaの血液ビタミンK-セリンプロテアーゼとして定義される。
【0032】
本明細書において使用される場合、「内因性タンパク質」という用語は、被験体内を起源とするタンパク質として定義される。内因性タンパク質は、外因性タンパク質が被験体外を起源とする、例えば、別の被験体に由来するという点で「外因性タンパク質」と異なる。したがって、内因性のPROC又はAPCは、被験体によって合成されたPROC又はAPCを指すのに対し、外因性のPROC又はAPCは、被験体によって合成されず、被験体に投与されたPROC又はAPCを指し、したがって、これらは組換えの(すなわち、実験室法によって作製された)PROC又はAPCであり得る。
【0033】
詳細な説明
ドロトレコジンαは、ヒト活性化プロテインCの組換え形態である。Xigris(商標)(Eli Lilly製)は、活性物質のドロトレコジンα(活性化型)を含み、多臓器不全を患う成人患者における重度の敗血症を最良の標準治療に加えて治療することについて、例外的な状況下で2002年に欧州連合において認可された医薬である。
【0034】
後に、Xigris(商標)を使用したPROWESS-SHOCK研究の結果は、プラセボと比較して、Xigrisで治療された患者における28日間全死因死亡率が統計的に有意に低下するという主要評価項目を満たすことができなかった。この研究はまた、重度のプロテインC欠乏症を患う患者の集団において死亡率が低下するという二次評価項目にも不合格であった。Eli Lillyは世界中の市場から製品を取り下げることを決定した。
【0035】
米国特許出願公開第2010/028910号に開示された3K3A-APCを含む、新しく開発された、rhAPCに基づく、抗凝固活性が明らかに大幅に低下した最適化医薬が開発されている。さらに、rhAPC療法は脳卒中の治療にも提案されている。しかしながら、APC治療が重篤な出血のリスクの増加と関連していることを示す強力な証拠のため、APC関連治療の転帰に関して重大な不確実性が見られる。
【0036】
組換えPROC治療又は組換えAPC治療に関連する重要な二次的効果のため、患者における内因性のPROC及びAPCのレベルを測定するのに現在使用されている方法を感度及び特異度を高めた他の方法又は技術に置き換えて、敗血症又は敗血症性ショック又はDICを患うリスクがある被験体の分類を改善し、組換えPROC(rPROC)治療又は組換えAPC(rAPC)治療に対する奏効を予後予測することが求められている。
【0037】
本発明は、本発明の著者らによって内因性のPROC及びAPCのレベルと相関することが見出された2つの特定のペプチドLGEYDLR(配列番号1)及びTFVLNFIK(配列番号2)の質量分析を使用した検出に基づいてPROC及びAPCを測定する効率的かつ正確な方法を提供することによって、上記の問題を解決することを目的とする。さらに、本発明はまた、上記疾患の治療だけでなく患者の選択にも使用されるPROC又はAPCを含む組成物を提供する。最後に、バイオマーカーとしてのペプチドLGEYDLR及びTFVLNFIKのin vitroでの使用も提供される。
【0038】
PROC、好ましくはAPCを検出する方法
本発明の第1の態様は、測定を必要とする被験体におけるプロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルを測定する方法であって、被験体から単離された1つ以上の生体試料の酵素消化を行う工程と、配列番号1(LGEYDLR)及び/又は配列番号2(TFVLNFIK)のペプチドのレベルを測定する工程とを含み、ここで、配列番号1及び/又は配列番号2のレベルが、上記1つ以上の生体試料中に存在するPROC、好ましくはAPCのレベルに対応する、方法に関する。
【0039】
このような方法論を提供し、PROC、好ましくはAPCのレベルと有意な相関を有するペプチドを選択するのに、2つのペプチド(配列番号1:LGEYDLR及び配列番号2:TFVLNFIK)を選択し、上記タンパク質とのそれらの直線性について試験した。配列番号1及び配列番号2のペプチドのレベルを使用して、PROC、好ましくはAPCのレベルを計算することが可能であることが本発明の知見であった。これが可能であるのは、
図1に示されるように、配列番号1及び配列番号2のペプチドと、PROC及びAPCとの間に相関が見られるからである。さらに、両方のペプチドの中で、配列番号1のペプチドが配列番号2よりも良好なPROC及びAPCのレベルとの直線性を示したことから、このペプチドが1つ以上の生体試料中のPROC、好ましくはAPCのレベルを測定するのに好ましいペプチドとなることも判明した。
【0040】
したがって、配列番号1のペプチドは、PROC又はAPCの濃度が1fmolから250fmolの間である場合、配列番号2のペプチドよりも良好な直線性を示すだけでなく(R
2 0.99対0.963、
図1の下のグラフを参照)、より低い濃度範囲でも依然としてPROC又はAPCと相関する唯一のペプチドである(
図1における上のグラフ、配列番号2のペプチドは、1fmolから10fmolの間の範囲ではAPCのレベルと相関しない)。これらの結果は、第3のペプチド(配列番号7 ANSFLEEFR)を含めることによって更に裏付けられ、配列番号1が低濃度範囲で直線性を示す唯一のペプチドであると結論付けられた(
図5の上のグラフを参照)。最後に、表6は、PROC濃度又はAPC濃度が0.8fmol/μlから84fmol/μlの間の範囲にある被験体の集団(n=86)を示し、この集団には敗血症性ショックに罹患している患者(n=66)が含まれ、その中の9人がDICに罹患しており、これらの患者群のPROCレベル又はAPCレベルが配列番号2及び配列番号7等の他のペプチドの検出限界外であるため、これらの患者群は配列番号1のペプチドを使用してのみ特定されることを示している。
【0041】
まとめると、これらの結果は、配列番号1のペプチドが、高い特異度及び感度を維持しながら、敗血症又は敗血症性ショックを患っており、かつDICを患うリスクがあるより広範囲の被験体を対象に含めるペプチドであることを示している。とりわけ、より低いレベルのPROC又はAPCを有する患者は最も重度の疾患の形態を呈する患者であるため、これらの患者は、DICに罹患するリスクが高まった非常に脆弱な集団である。これらの場合に、配列番号1のペプチドを使用したMSに基づく方法のみが、DICを患っているとして、又はDICを患うリスクが高いとしてそれらの患者を分類することができることとなる。
【0042】
最後に、機能的プロテインCは、敗血症又は敗血症性ショックを患う群において質量分析により決定されるAPCの濃度とも相関することも判明した(
図2及び
図3を参照)。重要なことには、PROC/APCはまた、敗血症患者において、ヒストンH2B(好中球から放出される細胞傷害メディエーター)、PCT(活動性感染症の場合に上昇するプロカルシトニン)、Quick指数(血液凝固に関連するパラメーター)のレベルとも相関する。敗血症性ショック患者の群において、PROC/APCレベルは、血小板(凝固プロセスに関与する)、活性化トロンボプラスチン時間(凝血塊を適切に形成する人の能力を評価するのに使用される)、及びD-二量体(このレベルは重篤な凝血塊の存在を除外するのに役立つ)と相関した。
【0043】
したがって、一実施形態において、配列番号1及び/又は配列番号2、好ましくは配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルは、上記1つ以上の生体試料中に存在するPROC、好ましくはAPCのレベルと直線的に相関する。別の実施形態において、上記直線的相関は-1.0から1.0の間にあり、これは、Y=bXの形の等式(式中、Xは配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドのレベルに対応し、YはPROC、好ましくはAPCのレベルに対応し、bは1である)を通じて変数を関連付ける。好ましくは、配列番号1のペプチドのレベルは、上記タンパク質が試料中に5600ng/ml未満、好ましくは2800ng/ml未満、最も好ましくは560ng/ml未満の濃度で存在する場合、PROC、好ましくはAPCのレベルと直線的に相関する。
【0044】
したがって、一実施形態において、被験体は、好ましくは、14000ng/ml(=250fmol/μl)未満、6000ng/ml未満、2800ng/ml未満、好ましくは800ng/ml未満、600ng/ml未満、又は最も好ましくは500ng/ml未満のPROC又はAPCのレベルを有する被験体の群から選択される。好ましくは、被験体は、14000ng/mlから20ng/mlの間、12000ng/mlから20ng/mlの間、11500ng/mlから20ng/mlの間、10000ng/mlから20ng/mlの間、8000ng/mlから20ng/mlの間、6000ng/mlから20ng/mlの間、5000ng/mlから20ng/mlの間、3000ng/mlから20ng/mlの間、2800ng/mlから20ng/mlの間、2500ng/mlから20ng/mlの間、2000ng/mlから20ng/mlの間、1500ng/mlから20ng/mlの間、1000ng/mlから20ng/mlの間、900ng/mlから20ng/mlの間、800ng/mlから20ng/mlの間、700ng/mlから20ng/mlの間、650ng/mlから20ng/mlの間、600ng/mlから20ng/mlの間、500ng/mlから20ng/mlの間、400ng/mlから20ng/mlの間、300ng/mlから20ng/mlの間、200ng/mlから20ng/mlの間、100ng/mlから20ng/mlの間、50ng/mlから20ng/mlの間のPROC又はAPCのレベルを有する被験体の群から選択される。ng/mlでの値は、それらの値を56(PROCの分子量)で割ることによりfmol/μlに変換することができる。
【0045】
第1の態様又はその実施形態のいずれかの酵素消化工程は、この方法にとって非常に重要である。この工程を測定工程の前に行うのは、測定前に1つ以上の生体試料を分離されたペプチドに変換又は消化する必要があるからである。酵素消化に使用することができる酵素の例は、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、パパインペプシン、パパイン、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(V8)プロテアーゼ、顎下腺プロテアーゼ、ブロメライン、サーモリシン、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ、若しくはArgC、又はそれらのあらゆる組合せである。好ましくは、酵素消化に使用される酵素は、PROCタンパク質及びAPCタンパク質を消化して、配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドが含まれる多数のペプチドを生じさせる酵素である。好ましい実施形態において、トリプシン、ArgC、及び/又は消化後に配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドを生じさせるプロテアーゼのあらゆる組合せが酵素消化工程に使用される。時間及び温度等の最適な消化条件は当該技術分野において既知である。
【0046】
任意に、酵素消化に際してマイクロ波支援消化を使用してペプチドの形成を促進することもできる(P Muralidhar Reddy, et al.著の「マイクロ波支援反応及び従来のトリプシン触媒反応の消化の完全性(Digestion Completeness of Microwave-Assisted and Conventional Trypsin-Catalyzed Reactions.)」 Journal of the American Society for Mass Spectrometry. Volume 21, Issue 3, March 2010, Pages 421-424)。好ましい実施形態において、酵素消化は、トリプシン及び/又はArgC及び/又は消化後に配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドを生じさせるプロテアーゼのあらゆる組合せを用いたマイクロ波支援消化である。
【0047】
さらに、酵素消化の前であっても、1つ以上の生体試料を、任意に還元剤及び/又はアルキル化剤で処理することができる。「還元剤」とは、酸化還元化学反応において電子受容体へと電子を失い(又は供与し)、還元剤の酸化及び受容体化合物の還元をもたらすあらゆる元素又は化合物を意味する。還元剤の例は、ジチオトレイトール(DTT)、トリス(2-カルボキシエチルホスフィン)(TCEP)、アスコルビン酸、塩酸システイン、2-メルカプトエタノール、亜硫酸ナトリウム、又はチオグリコール酸ナトリウムである。「アルキル化剤」とは、アルキル基を別の化合物に転移するあらゆる元素又は化合物を意味する。ペプチドマッピングの目的で使用されるアルキル化剤の一例は、ヨードアセトアミドである。
【0048】
したがって、第1の態様の更なる好ましい実施形態において、上記方法は、1つ以上の生体試料を還元剤で還元する工程、及び/又は1つ以上の生体試料をアルキル化剤でアルキル化する工程を更に含む場合があり、ここで、還元工程及び/又はアルキル化工程の両方は、酵素消化の工程の前、したがって測定工程の前に行われる。
【0049】
一実施形態において、PROC、好ましくはAPCのレベルを測定するのに使用される1つ以上の生体試料は、血液、血清、血漿、唾液、尿、又は脳脊髄液からなる群より選択される。好ましくは、1つ以上の生体試料は、血液、血清、又は血漿からなる群より選択される。
【0050】
一実施形態において、第1の態様又はその好ましい実施形態のいずれかによる被験体は、哺乳動物、好ましくはヒトである。別の実施形態において、ヒト被験体は、集中治療室(ICU)にいる患者から選択される。
【0051】
第1の態様又はその実施形態のいずれかに記載される方法が内因性又は外因性のプロテインC及び活性化プロテインC(APC)の両方を測定することができるのは、これらのタンパク質変異体の全てが配列番号1及び配列番号2のペプチドを含むためであることに留意すべきである。さらに、本発明の第1の態様又はその実施形態のいずれかの方法は、上記タンパク質の断片又は変異体が配列番号1及び/又は配列番号2の測定されるペプチドを含む限り、上記タンパク質のあらゆる断片又は変異体を測定することもできる。したがって、第1の態様の一実施形態において、測定されるPROC又はAPCは、外因性及び/又は内因性の起源に由来する。別の実施形態において、測定されるPROC、好ましくは、APCは、外因性の3K3A-APC、又はXigris(商標)医薬に含まれる活性化ドロトレコジンαである。
【0052】
配列番号2(TFVLNFIK)のペプチドは配列番号1(LGEYDLR)のペプチドほど良好な直線性を示さなかったが、本発明の一実施形態において、両方のペプチドを組み合わせて両方の測定を含むより頑健な方法を得て、PROC、好ましくはAPCのレベルのより良好な計算をもたらすことができる。代替的には、これらのペプチドを別々に使用することもできる。第1の態様又はその実施形態のいずれかの好ましい実施形態において、測定工程は、配列番号1のペプチドのみを用いて行われる。
【0053】
第1の態様又はその実施形態のいずれかに存在する測定工程において使用される技術に関して、配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドが特異的に検出される限り、あらゆる技術を使用することができる。それというのも、上記のように、かつ
図1に示されるように、これらのペプチドはPROC及びAPCのレベルと相関するからである。したがって、例えば、測定工程に使用される技術は、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、化学発光ELISA若しくは比色ELISA、免疫蛍光アッセイ(IFA)、ドットブロット、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、Luminexアッセイ及びProQuantumイムノアッセイ、又は好ましくは質量分析であり得る。
【0054】
好ましい実施形態において、第1の態様は、測定を必要とする被験体におけるプロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルを測定する質量分析に基づく方法であって、被験体から単離された1つ以上の生体試料の酵素消化を行う工程と、質量分析計を使用することによって配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドのレベルを測定する工程とを含み、ここで、配列番号1及び/又は配列番号2のレベルが、上記1つ以上の生体試料中に存在するPROC、好ましくはAPCのレベルに対応する、方法に関する。
【0055】
更なる好ましい実施形態において、液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析とに基づく方法(LC-MS/MS)及び多重反応モニタリングアプローチ(MRM)に基づく方法(MRM-MS)を使用する。MRM-MSは、バイオマーカーの発見及びバイオマーカーの検証の両方にとって有望な方法論を表す。さらに、この方法はバイオマーカーの臨床的検証に必要とされる感度、精度、及び高いスループットをもたらすため、様々な発見方法及び検証方法を実施する必要性が排除される。血漿は診断アッセイ用のバイオマーカーの供給源であるが、この流体中に存在するタンパク質のダイナミックレンジが広いため(1010)、血漿はプロテオミクス研究にとって困難な生体マトリックスでもある。ペプチドごとの単一のトランジションのモニタリングは、血漿等の複雑な混合物中のペプチド定量化に十分に特異的であると提案されている。一方、古典的なバイオマーカーでは、敗血症患者の転帰を予測する際に包括的なスコアよりも多くの情報は付加されない。敗血症の診断を補完するC反応性タンパク質(CRP)及びプロカルシトニン(PCT)を有し、PCTが予後診断バイオマーカーとして有用であるにもかかわらず、敗血症の将来の評価には、感度が高く、特異度が高く、かつ経済的に手頃であり得る新しいバイオマーカーを見出すことが必要とされる。
【0056】
好ましくは、第1の態様の質量分析計は、好ましくはクロマトグラフィーシステムを備え、より好ましくはナノLCクロマトグラフィーシステム又はマイクロLCクロマトグラフィーシステムを備えたトリプル四重極線形イオントラップ質量分析計又はハイブリッドトリプル四重極線形イオントラップ質量分析計である。好ましくは、本発明の第1の態様による、被験体におけるPROC、好ましくはAPCを測定する質量分析に基づく方法では、PROC、好ましくはAPCのレベル又は濃度は、配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドの量と同等である。好ましくは、生体試料中のPROC又はAPCのレベル又は濃度を測定するのに、対象シグナルペプチド/シグナルペプチドスパイクインの比として理解される配列番号1及び/又は配列番号2の平均化比率を得る。より好ましくは、配列番号1及び/又は配列番号2の選択されたペプチド配列は、好ましくは、本発明の第1の態様又はその好ましい実施形態のいずれかによる方法において、PROC、好ましくはAPCの絶対的定量化用にSpikeTides(商標)TQ(Arg:13C6、15N4;Lys:Arg:13C6、15N2等の重同位体で標識される)として調製され得る。
【0057】
好ましい実施形態において、配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドを測定することによるPROC、好ましくはAPCの測定は、配列番号1及び/又は配列番号2の標識プロテオタイプペプチドをスパイクインすることによって行われる。更なる好ましい実施形態において、配列番号1及び/又は配列番号2のスパイクイン標識プロテオタイプペプチドは、少なくとも1つ以上の重アミノ酸を用いて合成され、ここで、上記ペプチドは、好ましくはC末端アミノ酸残基においてタグで標識される。
【0058】
本発明の文脈において、「タグ」という用語は、非標識アミノ酸対応物と同じ物理化学的特性及び同じ化学的活性を共にする安定同位体標識アミノ酸として理解される。タグはまた、MS実験前のトリプシン処理又は他のプロテアーゼ処理中に切断される小さな化学修飾でもあり得る。プロテオタイプペプチドに連結されたタグは、標的化MS実験におけるペプチド定量化に使用される。
【0059】
本発明の文脈において、「重アミノ酸」という用語は、MSによって識別され得る重原子、例えば13C、15N、17O、及び/又は34Sを含むタグに組み込まれる同位体原子を指す。
【0060】
本発明の文脈において、「少なくとも1つ以上の重アミノ酸を用いて合成された」という用語は、配列番号1及び/又は配列番号2に対応するスパイクインアミノ酸配列における少なくとも1つ以上の重原子13C、15N、17O、及び/又は34Sを含む「タグ」として理解される。
【0061】
敗血症又は敗血症性ショックを患う患者をスクリーニング又は分類する方法
第1の態様又はその実施形態のいずれかにおいて規定される方法はまた、敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある患者を、上記患者において測定されたPROC、好ましくはAPCのレベルに従ってスクリーニング又は分類することを可能にする。実施例において、具体的に表2に示されるように、157個の血漿試料を分析したところ、敗血症又は敗血症性ショックを患う患者と、これらの疾患に罹患していない患者との間に統計的有意差が見出された。特に、これらの差は、PROC、好ましくはAPCのレベルが800ng/ml未満の場合に統計的に有意であったことから、第1の態様又はその実施形態のいずれかにおいて規定される方法を使用してPROC、好ましくはAPCのレベルを測定することは、これらの疾患に罹患するリスクがある患者をスクリーニング及び分類するのに有用である可能性があることが示された。
【0062】
これを考慮して、本発明の第2の態様は、敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある被験体をスクリーニング又は分類する質量分析に基づく方法、好ましくは多重反応モニタリング標的質量分析に基づく方法(MRM-MS)及び多重反応モニタリングアプローチに基づく方法であって、
i)第1の態様又はその実施形態のいずれかにおいて規定される方法を実施することによって、プロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルを測定する工程と、
ii)工程i)において取得されたレベルと基準値とを比較する工程と、
を含み、ここで、工程i)の測定値とii)の基準値との統計的に有意な変動が、被験体が敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがあることの指標である、方法に関する。
【0063】
第1の態様において示されるように、測定工程を、配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドの定量化を可能にするあらゆる分析技術を用いて実施することができ、ここで、質量分析が好ましい。したがって、第2の態様及び以下の実施形態のいずれかは、特に質量分析について言及しているが、この技術を、ラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光酵素結合免疫吸着アッセイ若しくは比色酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫蛍光アッセイ(IFA)、ドットブロット、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、又は好ましくは質量分析等のあらゆる他の技術によって置き換えることができることを理解されたい。
【0064】
好ましい実施形態において、第2の態様の工程ii)の基準値は、健康な被験体又は健康な被験体の集団から取得される(この場合、基準値は平均値である)。代替的に、第2の態様の基準値は、集中治療室(ICU)にいるが、敗血症又は敗血症性ショックに罹患していない被験体又は被験体の集団から取得される。上記基準値を取得するのに、本発明の第1の態様又はその実施形態のいずれかに記載された方法を使用することができる。代替的に、当該技術分野において既知である健康な被験体又は健康な被験体の集団におけるPROC、好ましくはAPCのレベルを測定する他の方法を使用することができる。
【0065】
また好ましくは、工程i)において測定されたレベル(PROC、好ましくはAPCのレベル)の統計的に有意な変動は、基準値と比較した統計的に有意な低下である。この有意な低下は、被験体が敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがあることの指標である。有意な低下は、配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドのレベルにおける減少として定義され、これはまた、上記レベルを統計的検定によって基準レベルと比較した場合の生体試料中のPROC又はAPCにおける有意な減少を意味する。統計的検定はパラメトリック検定、又は好ましくはノンパラメトリック検定であり得て、有意な結果と非有意の結果とを区別する閾値として定義される有意な閾値は、0.05以下、0.005以下、又は0.001以下として設定され得る。
【0066】
人体における循環PROC又は循環APCの平均量は3000ng/mlから5000ng/mlの間であると推定されている(例えば、https://diapharma.com/protein-c/、https://emedicine.medscape.com/article/2085992-overviewを参照)。特定の実施形態において、PROC、好ましくはAPCについての基準値は約4000ng/mLであり、ここで、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも95%、少なくとも100%の低下は、敗血症又は敗血症性ショックのリスクがあることの指標である。定義のセクションにおいて事前に定義したように、「約」という用語は、示された値±10%を指し得る。
【0067】
表2に示されるように、敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクを示すマンホイットニーU検定(ノンパラメトリック)によって得られた有意な低下は、コントロールレベル1431.57ng/ml(基準値)と比較して613.70ng/mlのAPCのレベルであった。この低下は、基準レベルに対する約40%(0.4倍)の低下に相当する。
【0068】
したがって、好ましい実施形態において、PROC、好ましくはAPCについての基準値は約1431.57ng/mLであり、ここで、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも95%、少なくとも約100%の低下は、敗血症又は敗血症性ショックのリスクがあることの指標である。定義のセクションにおいて事前に定義したように、「約」という用語は、示された値±10%を指し得る。
【0069】
さらに、敗血症又は敗血症性ショックを患う被験体の比較から得られたコントロール(基準集団+ICUコントロール)に対する被験体でのROC曲線(表4、実施例5)にも示されるように、上記低下に最適なカットオフ値は約800ng/mlと計算され、79.5%の感度及び97.1%の特異度を有する(p<0.0001)。したがって、別の実施形態において、有意な低下は、本明細書において例示されるROC曲線に従ってカットオフ値として選択されるPROC、好ましくはAPCの800ng/mlのレベルを少なくとも下回る低下を指す。好ましくは、基準値は900ng/mlから800ng/mlの間、好ましくは800ng/mlであるため、上記基準値を下回るPROC又はAPCのレベルは、被験体が敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがあることの指標である。
【0070】
本発明の第2の態様又はその好ましい実施形態のいずれかの方法を実施して、敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある被験体が特定されたら、CRP又はPCT等の臨床的確認方法を実施して、特定された被験体が実際に敗血症又は敗血症性ショックを患っているかどうかを確認することが好ましいことに留意されたい。したがって、好ましい実施形態において、第2の態様又はその実施形態のいずれかの方法は、患者が敗血症又は敗血症性ショックを患っていることを臨床的に確認する工程を更に含む。
【0071】
更なる実施形態において、本発明はまた、敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある被験体をスクリーニングするバイオマーカーとしての、使用を必要とする被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドのレベルのin vitroでの使用に関する。
【0072】
別の特定の実施形態において、第2の態様又はその実施形態のいずれかによる方法はまた、敗血症反応シグネチャー1(SRS1)及び敗血症反応シグネチャー2(SRS2)である2つのサブ表現型(エンドタイプ)において敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある患者を分類するのにも有用である。このエンドタイプ分類は、Antcliffe and Gordon 2019[David B. Antcliffe, Anthony C. Gordon.(2019年)著の「敗血症性ショックにおけるステロイド試験について敗血症エンドタイプを理解することが重要である理由(Why Understanding Sepsis Endotypes Is Important for Steroid Trials in Septic Shock.)」 Society of Critical Care Medicine and Wolters Kluwer Health, Inc. Volume 47巻. Number 12. DOI: 10.1097/CCM.0000000000003833]によって記載されるように、最適治療にとって、特にコルチコステロイド治療において重要である。
【0073】
第1の態様の場合と同様に、被験体は、好ましくは、14000ng/ml(=250fmol/μl)未満、6000ng/ml未満、2800ng/ml未満、好ましくは800ng/ml未満、600ng/ml未満、又は最も好ましくは500ng/ml未満のPROC又はAPCのレベルを有する被験体の群から選択される。好ましくは、被験体は、14000ng/mlから20ng/mlの間、12000ng/mlから20ng/mlの間、11500ng/mlから20ng/mlの間、10000ng/mlから20ng/mlの間、8000ng/mlから20ng/mlの間、6000ng/mlから20ng/mlの間、5000ng/mlから20ng/mlの間、3000ng/mlから20ng/mlの間、2800ng/mlから20ng/mlの間、2500ng/mlから20ng/mlの間、2000ng/mlから20ng/mlの間、1500ng/mlから20ng/mlの間、1000ng/mlから20ng/mlの間、900ng/mlから20ng/mlの間、800ng/mlから20ng/mlの間、700ng/mlから20ng/mlの間、650ng/mlから20ng/mlの間、600ng/mlから20ng/mlの間、500ng/mlから20ng/mlの間、400ng/mlから20ng/mlの間、300ng/mlから20ng/mlの間、200ng/mlから20ng/mlの間、100ng/mlから20ng/mlの間、50ng/mlから20ng/mlの間のPROC又はAPCのレベルを有する被験体の群から選択される。ng/mlでの値は、それらの値を56(PROCの分子量)で割ることによりfmol/μlに変換することができる。
【0074】
本発明において記載される方法の別の利点は、これらの方法を、患者が集中治療室(ICU)に入室したらすぐに使用することができるか、又は他の確認診断試験を実施する前に使用することができることである。これが重要であるのは、医師が患者の発症の可能性を事前に推論することを可能にし、それにより集中治療及び治療を前もって準備することが可能となるためである。したがって、上記方法を、集中治療設備又はICUに入ったばかりの患者において実施することが好ましい。好ましくは、上記方法を、患者が入院した後の最初の4時間、5時間、好ましくは6時間で実施する。
【0075】
DICを患う患者をスクリーニング又は分類する方法
上述のように、これまでの研究により、敗血症を患う患者の大部分において、組換えAPCによる治療が何ら効果を有しなかったことが明らかになっている。しかしながら、興味深いことに、播種性血管内凝固症候群(DIC)に罹患している患者のみが組換えAPC治療に対して奏効した。したがって、組換えAPC関連治療の安全性及び有効性に関する将来の研究では、敗血症又は敗血症性ショックを患い、かつDICを患うリスクがある患者を特定することが必要とされるであろう。それというのも、これらの患者がひいては上記治療に対する真のレスポンダーとなる可能性があるからである。これに関して、
図4に示されるように、DICと診断された患者におけるAPCの平均レベルが、DICに罹患していない患者よりも低いことが本発明において見出された。特に、468ng/mLを下回るPROC、好ましくはAPCのレベルは、敗血症又は敗血症性ショックに罹患している患者がDICを患うリスクがあることを示すことが判明した。
【0076】
この知見を考慮して、本発明の第3の態様は、播種性血管内凝固症候群(DIC)を患うリスクがある被験体をスクリーニング又は分類する質量分析に基づく方法であって、
i)第1の態様又はその実施形態のいずれかにおいて規定される方法を実施することによって、プロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルを測定する工程と、
ii)工程i)において取得されたレベルと基準値とを比較する工程と、
を含み、ここで、工程i)の測定値とii)の基準値との統計的に有意な変動が、被験体がDICを患うリスクがあることの指標である、方法に関する。
【0077】
代替的な第3の態様において、本発明は、播種性血管内凝固症候群(DIC)に罹患している被験体を診断する質量分析に基づく方法であって、
i)第1の態様又はその実施形態のいずれかにおいて規定される方法を実施することによって、プロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルを測定する工程と、
ii)工程i)において取得されたレベルと基準値とを比較する工程と、
を含み、ここで、工程i)の測定値とii)の基準値との統計的に有意な変動が、患者がDICを患っていることの指標である、方法に関する。
【0078】
第1の態様及び第2の態様において示されるように、測定工程を、配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドの定量化を可能にするあらゆる分析技術を用いて実施することができ、ここで、質量分析が好ましい。したがって、第3の態様及び以下の実施形態のいずれかは、特に質量分析について言及しているが、この技術を、あらゆる他の技術、ラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光酵素結合免疫吸着アッセイ若しくは比色酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫蛍光アッセイ(IFA)、ドットブロット、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、Luminexアッセイ、ProQuantumイムノアッセイ、又は好ましくは質量分析によって置き換えることができることを理解されたい。
【0079】
第3の態様の好ましい実施形態において、工程ii)の基準値は、敗血症又は敗血症性ショックを患っているが、播種性血管内凝固症候群(DIC)を患っていない被験体又は被験体の集団から取得される。この基準値を、第1の態様若しくは第2の態様又はそれらの実施形態のいずれかによる方法を実施することによって、上記被験体から取得することができる。
【0080】
また好ましくは、工程i)において測定されたレベル(PROC、好ましくはAPCのレベル)の統計的に有意な変動は、基準値と比較した統計的に有意な低下である。この有意な低下は、被験体がDICを患うリスクがあることの指標である。統計的に有意な変動を、第2の態様又はその実施形態のいずれかについて前もって定義された統計的検定によるが、この場合、基準値が第2の態様(健康であるか、又はICUにいるが、敗血症に罹患していない)とは異なる被験体又は被験体の集団(敗血症又は敗血症性ショックを患っている)に由来することを考慮して計算することができる。
【0081】
図4に示されるように、DICと診断された患者の試料中のAPCレベル(平均468ng/ml)は、DICを患っていない被験体のレベル(平均600ng/ml)と比較して統計的に低下している(p=0.0014)。この低下は、基準レベルに対する約20%(0.2倍)の低下に相当する。
【0082】
したがって、一実施形態において、敗血症又は敗血症性ショックを患っているが、DICに罹患していない患者のPROC、好ましくはAPCについての基準値は約600ng/mLであり、ここで、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約20%、少なくとも25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも95%、少なくとも約100%の低下は、DICを患うリスクがあることの指標である。定義のセクションにおいて事前に定義したように、「約」という用語は、示された値±10%を指し得る。好ましくは、基準値は500ng/mlから400ng/mlの間、好ましくは468ng/mlであるため、上記基準値を下回るPROC又はAPCのレベルは、被験体がDICを患うリスクがあることの指標である。
【0083】
第1の態様及び第2の態様の場合と同様に、被験体は、好ましくは、14000ng/ml(=250fmol/μl)未満、6000ng/ml未満、2800ng/ml未満、好ましくは800ng/ml未満、600ng/ml未満、又は最も好ましくは500ng/ml未満のPROC又はAPCのレベルを有する被験体の群から選択される。好ましくは、被験体は、14000ng/mlから20ng/mlの間、12000ng/mlから20ng/mlの間、11500ng/mlから20ng/mlの間、10000ng/mlから20ng/mlの間、8000ng/mlから20ng/mlの間、6000ng/mlから20ng/mlの間、5000ng/mlから20ng/mlの間、3000ng/mlから20ng/mlの間、2800ng/mlから20ng/mlの間、2500ng/mlから20ng/mlの間、2000ng/mlから20ng/mlの間、1500ng/mlから20ng/mlの間、1000ng/mlから20ng/mlの間、900ng/mlから20ng/mlの間、800ng/mlから20ng/mlの間、700ng/mlから20ng/mlの間、650ng/mlから20ng/mlの間、600ng/mlから20ng/mlの間、500ng/mlから20ng/mlの間、400ng/mlから20ng/mlの間、300ng/mlから20ng/mlの間、200ng/mlから20ng/mlの間、100ng/mlから20ng/mlの間、50ng/mlから20ng/mlの間のPROC又はAPCのレベルを有する被験体の群から選択される。ng/mlでの値は、それらの値を56(PROCの分子量)で割ることによりfmol/μlに変換することができる。
【0084】
上記と同様に、この方法を、集中治療設備又はICUに入ったばかりの患者に実施することが好ましい。好ましくは、上記方法を、患者が入院した後の最初の4時間、5時間、好ましくは6時間で実施する。
【0085】
さらに、実施例7において示されるように、敗血症を患う被験体におけるDICを特定するROC曲線(表5b)により、上記低下についての約468ng/mlの最適なカットオフ値がもたらされ、71.4%の感度及び71.4%の特異度を有する(p=0.00013)。したがって、別の実施形態において、患者がDICを患うリスクがあることの指標となる有意な低下は、本明細書において例示されるROC曲線に従ってカットオフ値として選択されるPROC、好ましくはAPCの468ng/mlのレベルを少なくとも下回る低下を指す。
【0086】
好ましい実施形態において、被験体は、この態様又はその実施形態のいずれかによる方法を実施する前に、事前に敗血症又は敗血症性ショックと診断されている。
【0087】
第2の態様における定義と同様に、本発明の第3の態様又はその好ましい実施形態のいずれかの方法を実施して、被験体がDICを患うリスクがあると分類されたら、臨床的確認方法を実施して、特定された被験体がDICを患っているかどうかを確認することが好ましい。したがって、好ましい実施形態において、第3の態様の方法は、患者がDICを患っていることを臨床的に確認する工程を更に含む。
【0088】
外因性PROC、好ましくは組換えPROC(rPROC)、及び外因性APC、好ましくは組換えAPC(rAPC)による治療に対する奏効を予後予測する方法
上記説明のように、組換えPROC治療又は組換えAPC治療に対する個々の患者の奏効を評価するには、治療を受けている被験体又は治療される被験体がDICを患うリスクがあるかどうかを知ることが重要である。これを踏まえて、本発明の第4の態様は、予後予測を必要とする被験体における組換えプロテインC(rPROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(rAPC)による治療に対する奏効を予後予測する質量分析に基づく方法であって、
i)第3の態様又はその実施形態のいずれかにおいて規定される方法の各工程を実施することによって、被験体が播種性血管内凝固症候群(DIC)を患うリスクがあるかどうかをスクリーニングする工程と、
ii)被験体がDICを患うリスクがあると特定されるか、又はDICと診断される場合に、被験体を上記治療に対するレスポンダーとして分類し、被験体がDICを患うリスクがあるとも特定されず、DICとも診断されない場合に、被験体を上記治療に対するノンレスポンダーとして分類する工程と、
を含む、方法に関する。
【0089】
第1の態様、第2の態様、及び第3の態様、又はそれらの実施形態のいずれかにおいて示されるように、測定工程を、配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドの定量化を可能にするあらゆる分析技術を用いて実施することができ、ここで、質量分析が好ましい。したがって、第4の態様及び以下の実施形態のいずれかは、特に質量分析について言及しているが、この技術を、ラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光酵素結合免疫吸着アッセイ若しくは比色酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫蛍光アッセイ(IFA)、ドットブロット、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、Luminexアッセイ、ProQuantumイムノアッセイ、又は好ましくは質量分析等のあらゆる他の技術によって置き換えることができることを理解されたい。
【0090】
本発明の文脈において、特定の治療により、治療される疾患の転帰における改善が引き起こされる被験体を「レスポンダー」として理解すべきである。「ノンレスポンダー」は、治療により、期待される改善が一切起こらないか、又は上記被験体の臨床状況が更に悪化する可能性がある被験体である。
【0091】
この態様の好ましい実施形態において、予後診断を行った後に、被験体を組換えプロテインCで治療し、好ましくは組換え活性化プロテインCで治療する。
【0092】
別の実施形態において、本発明はまた、播種性血管内凝固症候群(DIC)を患うリスクがある被験体をスクリーニングするバイオマーカーとしての、敗血症又は敗血症性ショックを患っている被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドのレベルのin vitroでの使用に関する。
【0093】
その他の実施形態において、本発明はまた、敗血症又は敗血症性ショック及び播種性血管内凝固症候群(DIC)を患っている被験体における、組換えPROC、好ましくは組換えAPCによる治療に対する奏効を予後予測するバイオマーカーとしての、使用を必要とする被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドのin vitroでの使用に関する。好ましい実施形態において、このin vitroでの使用を行った後に、被験体を組換えPROC、好ましくは組換えAPCで治療する。
【0094】
組成物及びキット
上記のように、APC治療は敗血症、敗血症性ショック、又は脳卒中等の様々な病理学的病態に使用されている。これを考慮して、本発明の第5の態様は、内因性PROC及び内因性APCのレベルがそれらの生理学的レベル未満に減少するあらゆる病態生理学的病態の治療において使用される組換えプロテインC(rPROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(rAPC)を含む組成物であって、この使用は、上記で定義される第4の態様又はその実施形態のいずれかに従ってレスポンダーとして分類される被験体に上記組成物を投与する工程を含む、組成物に関する。好ましくは、治療される病態生理学的病態は、敗血症、敗血症性ショック、DIC、又は脳卒中である。
【0095】
また好ましくは、第5の態様は、敗血症又は敗血症性ショック又はDICの治療において使用される組換えプロテインC(rPROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(rAPC)を含む組成物であって、使用は、上記第4の態様又はその実施形態のいずれかに従ってレスポンダーとして分類される被験体に上記組成物を投与する工程を含む、組成物に関する。
【0096】
第6の態様において、本発明は、敗血症又は敗血症性ショック及び播種性血管内凝固症候群(DIC)を患っていることを特徴とする患者選択(patient selection)の治療において使用される組換えプロテインC(rPROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(rAPC)を含む組成物に関する。
【0097】
第7の態様において、本発明は、被験体における敗血症又は敗血症性ショック又はDICをスクリーニング又は分類するのに適した、及び/又は被験体における組換えプロテインC(rPROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(rAPC)による治療に対する奏効を予測(予後予測)するのに適したキット又はデバイスであって、配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドを含み、ここで、ペプチド(複数の場合もある)は、好ましくは少なくとも1つ以上の重アミノ酸を用いて合成され、かつ上記ペプチドは、好ましくはC末端アミノ酸残基におけるタグによる標識である、キット又はデバイスに関する。
【0098】
キットは、キット内の材料を用いることができる方法を示す使用説明書も含み得る。
【0099】
任意に(付加的に)、キットはトリプシン、キモトリプシン、ペプシン、パパインペプシン、パパイン、スタフィロコッカス・アウレウス(V8)プロテアーゼ、顎下腺プロテアーゼ、ブロメライン、テルモリシン、アスパラギン酸エンドペプチダーゼ、及び/又はArgC等の開裂酵素を含んでいてもよい。キットはまた、DTT若しくはIAM等の化学試薬、又はタンパク質由来ポリペプチドの化学的生成のための他の化学試薬を含んでいてもよい。
【0100】
任意に、好ましくはトリプシン、ArgC、及び/又は消化後に配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドを生じさせるプロテアーゼのあらゆる組合せによる酵素消化中にマイクロ波支援消化を使用して、ペプチドの形成を促進することもできる(P Muralidhar Reddy, et al.著の「マイクロ波支援反応及び従来のトリプシン触媒反応の消化の完全性(Digestion Completeness of Microwave-Assisted and Conventional Trypsin-Catalyzed Reactions.)」 Journal of the American Society for Mass Spectrometry. Volume 21, Issue 3, March 2010, Pages 421-424)。キットは、トリプシン、ArgC、及び/又は消化後に配列番号1及び/又は配列番号2のペプチドを生じさせるプロテアーゼのあらゆる組合せと、配列番号1及び/又は配列番号2の最適な分析用の特別なマイクロ波支援消化プロトコルとを含み得る。
【0101】
本発明の第8の態様は、敗血症、敗血症性ショック、若しくはDICを患うリスクがある被験体をスクリーニング若しくは分類するための、又は被験体における組換えプロテインC(rPROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(rAPC)による治療に対する奏効を予測(予後予測)するための、本発明の第7の態様又はその実施形態のいずれかにおいて規定されるキットのin vitroでの使用に関する。キットを、第3の態様又はその実施形態のいずれかに従って、DICを患う患者を診断するのに使用することもできる。
【0102】
本発明の第9の態様は、デジタルコンピューターの内部メモリに直接ロード可能なコンピュータープログラム製品であって、上記製品をコンピューター上で実行した場合、比較を必要とする被験体の1つ以上の生体試料からのPROC、好ましくはAPCのレベル又は濃度と基準値とを比較するステップと、敗血症、敗血症性ショック、若しくはDICを患うリスク、又は組換えPROC治療若しくは組換えAPC治療に対するレスポンダー/ノンレスポンダーであることの予測を提供するステップとを実行するソフトウェアコード部分を含む、コンピュータープログラム製品に関する。
【0103】
以下の項目又は実施形態も本発明に含まれる:
【0104】
1.測定を必要とする被験体におけるプロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルを測定する質量分析に基づく方法であって、被験体から単離された1つ以上の生体試料に対して酵素消化を行う工程と、質量分析計を使用することによって配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルを測定する工程とを含み、ここで、配列番号1(LGEYDLR)のレベルが、上記1つ以上の生体試料中に存在するPROC、好ましくはAPCのレベルに対応する、方法。
【0105】
2.酵素消化に使用される酵素は、トリプシン及び/又はArgC、又は消化後に配列番号1のLGEYDLRペプチドを生じさせるプロテアーゼのあらゆる組合せである、項目1の質量分析に基づく方法。
【0106】
3.配列番号1(LGEYDLR)のペプチドの測定は、配列番号1(LGEYDLR)の標識プロテオタイプペプチドをスパイクインすることによって行われる、項目1及び2の質量分析に基づく方法。
【0107】
4.配列番号1(LGEYDLR)のスパイクイン標識プロテオタイプペプチドは、少なくとも1つ以上の重アミノ酸を用いて合成され、上記ペプチドは、好ましくはC末端アミノ酸残基においてタグで標識される、項目1~3のいずれかの質量分析に基づく方法。
【0108】
5.方法は、1つ以上の生体試料を還元剤で還元する工程と、1つ以上の生体試料をアルキル化剤でアルキル化する工程とを更に含み、ここで、還元工程及びアルキル化工程の両方を、酵素消化の工程の前に行う、項目1~4の質量分析に基づく方法。
【0109】
6.1つ以上の生体試料は、血液、血清、血漿、唾液、尿、又は脳脊髄液からなる群より選択される、項目1~5のいずれかの質量分析に基づく方法。
【0110】
7.敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある被験体をスクリーニング又は分類する質量分析に基づく方法であって、
i)項目1~6のいずれかの方法を実施することによって、プロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルを測定する工程と、
ii)工程i)において取得されたレベルと基準値とを比較する工程と、
を含み、ここで、工程i)の測定値とii)の基準値との統計的に有意な変動が、被験体が敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがあることの指標である、方法。
【0111】
8.工程ii)の基準値は、健康な被験体又は健康な被験体の集団から取得され、プロテインC、好ましくは活性化プロテインCのレベルにおける統計的に有意な低下が、被験体が敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがあることの指標である、項目7に記載の質量分析に基づく方法。
【0112】
9.方法は、患者が敗血症又は敗血症性ショックを患っていることを臨床的に確認する工程を更に含む、項目7及び8のいずれかに記載の質量分析に基づく方法。
【0113】
10.播種性血管内凝固症候群(DIC)を患うリスクがある敗血症又は敗血症性ショックと診断された被験体をスクリーニング又は分類する質量分析に基づく方法であって、
i)項目1~6のいずれかの方法を実施することによって、プロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルを測定する工程と、
ii)工程i)において取得されたレベルと基準値とを比較する工程と、
を含み、ここで、工程i)の測定値とii)の基準値との統計的に有意な変動が、被験体がDICを患うリスクがあることの指標である、方法。
【0114】
11.工程ii)の基準値は、敗血症又は敗血症性ショックを患っているが、播種性血管内凝固症候群(DIC)を患っていない被験体又は被験体の集団から取得され、プロテインC(PROC)、好ましくは活性化プロテインC(APC)のレベルにおける統計的に有意な低下が、被験体がDICを患うリスクがあることの指標である、項目10に記載の質量分析に基づく方法。
【0115】
12.方法は、患者が播種性血管内凝固症候群を患っていることを臨床的に確認する工程を更に含む、項目10及び11のいずれかに記載の質量分析に基づく方法。
【0116】
13.予後予測を必要とする被験体における組換えプロテインC(PROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(APC)による治療に対する奏効を予後予測する質量分析に基づく方法であって、
i)項目10~13のいずれかの方法の各工程を実施することによって、被験体が播種性血管内凝固症候群(DIC)を患うリスクがあるかどうかをスクリーニングする工程と、
ii)被験体がDICを患うリスクがあると特定されるか、又はDICと診断される場合に、被験体を上記治療に対するレスポンダーとして分類し、被験体がDICを患うリスクがあるとも特定されず、DICとも診断されない場合に、被験体を上記治療に対するノンレスポンダーとして分類する工程と、
を含む、方法。
【0117】
14.予後診断を行った後に、被験体を組換えプロテインC(rPROC)で治療し、好ましくは組換え活性化プロテインCで治療する、項目13の方法。
【0118】
15.敗血症、敗血症性ショック、又は脳卒中の治療において使用される組換えプロテインC(rPROC)、好ましくは組換え活性化プロテインC(rAPC)を含む組成物であって、使用は、項目13及び14のいずれかに従ってレスポンダーとして分類される被験体に上記組成物を投与する工程を含む、組成物。
【0119】
16.敗血症又は敗血症性ショックを患うリスクがある被験体をスクリーニングするバイオマーカーとしての、使用を必要とする被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルのin vitroでの使用。
【0120】
17.播種性血管内凝固症候群を患うリスクがある被験体をスクリーニングするバイオマーカーとしての、敗血症又は敗血症性ショックを患っている被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルのin vitroでの使用。
【0121】
18.敗血症又は敗血症性ショック及び播種性血管内凝固症候群(DIC)を患っている被験体における、組換えPROC、好ましくは組換えAPCによる治療に対する奏効を予後予測するバイオマーカーとしての、使用を必要とする被験体から単離された1つ以上の生体試料中の配列番号1(LGEYDLR)のペプチドのレベルのin vitroでの使用。
【0122】
以下の実施例は、本発明を単に説明するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0123】
実施例1:方法
試料数
合計157個の血漿試料を以下の通りに4つの群に分けた:17個の基準集団コントロールの試料、17個の関連する敗血症プロセスを一切伴わないICUコントロール、24症例の敗血症、及び99症例の敗血症性ショック。INCLIVAのBiobankからの基準集団のコレクション及び敗血症のコレクションから全ての試料を得た。
【0124】
試料の調製
試料の調製及びトリプシンによる消化について、様々なプロトコルを試験した。敗血症を伴う血清の分析に必要な時間の短縮を考慮して、DTTによる還元及びトリプシンを用いたマイクロ波消化を含む分析プロトコルを最適化した。最適化した方法を以下に記載する。
【0125】
血漿試料を15000gで15分間遠心分離して、脱脂処理した。2μLの各血漿試料を8μLのH2O中で希釈した。2μLのそれぞれ1/5希釈した血漿(約25μg)を18μLの50mMのBA中で25fmolの混合重ペプチド(Heavy Mix peptides)とともに20μLの最終容量で混合する。システイン残基を50mMのABC中2mMのDTT(DL-ジチオトレイトール)により300Wのマイクロ波で3分間還元した。スルフヒドリル基を50mMのABC中5mMのIAM(ヨードアセトアミド)を用いて暗所にて室温で20分間アルキル化した。試料を50mMのABC中の5μg(2.5μg/μl)のシーケンシンググレードの改変トリプシン(Promega)を用いて300Wのマイクロ波で4分間トリプシン消化に供した。1%の最終濃度のTFA(トリフルオロ酢酸)で反応を停止させた。
【0126】
試料を調製する時間:45分
【0127】
質量分析による分析
MRM実験を、Micro M3 MicroLCクロマトグラフィーシステムを備えた5500 QTRAPハイブリッドトリプル四重極/線形イオントラップ質量分析計(SCIEX)において実施した。10μLのトリプシン消化物(約9μgのタンパク質及び25fmolの各スパイクインペプチド)をトラップカラム(10×0.3mmのTrap Cartridge Chromxp C18CL 5μm、ABSCIEX)へと注入した後に、分析カラム(ChromXP C18、120Å、3μm、150×0.3mm)上にロードして分離した。溶出をA中0%→35%のBの線形勾配で5μl/分の流量にて30分間行った(A:0.1%のFA;B:ACN、0.1%のFA)。
【0128】
5500 QTRAPをMRMモードで操作した。MRMデータを5500Vのスプレー電圧、カーテンガス:25psi、イオンソースガス:25psi、入口電位(EP):10、及び出口電位(EXP):16を用いてポジティブモードで取得した。衝突エネルギー(CE)及びデクラスタリング電位(DP)を各トランジションごとに事前に最適化した。
【0129】
データ分析を行い、Skyline 4.2.1.19058ソフトウェア(MacCoss lab)を使用して全てのトランジションについての面積比(軽/重)を計算し、軽の濃度を初期血清のfmol/μLとして推定した。分析に使用される重ペプチドは、CNB(Centro Nacional de Biotecnologia-CSIC)によって合成された。
【0130】
試料を分析する時間:30分。
【0131】
各タンパク質の定量化に使用したペプチドは以下の通りである:
【0132】
【0133】
スパイクインされたペプチドについての直線性評価
最初に、配列番号1(LGEYDLR)及び配列番号2(TFVLNFIK)の配列を含む市販のAPC用の軽ペプチドをトリプシン処理し、5600 triple TOF(SCIEX、米国マサチューセッツ州、フレーミングハム)においてLC-MS/MS_DDAを使用して分析して、良好なシグナルを有するこれらの明白なペプチドを特定した。MRMパラメーターを、5500 QTRAP機器(SCIEX)においてMRM-PILOTソフトウェア(SCUEX)によって最適化し、全てのペプチドについてのデクラスタリング電位(DP)、並びに滞留時間(DT)及び各トランジションについての衝突エネルギー(CE)を決定した。その後、検出可能な高いトランジション数、高い感度、及び高い線形ダイナミックレンジを有するペプチドを選択して、MRM-MS実験を実施した。選択したペプチド配列(配列番号1(LGEYDLR)及び配列番号2(TFVLNFIK))を、絶対的定量化用にSpikeTides(商標)TQ(重同位体で標識される;Arg:13C6、15N4;Lys:Arg:13C6、15N2)(JPT Peptide Technologies、ドイツ、ベルリン)として調製した。
【0134】
ROC曲線
受信者動作特性(ROC)曲線を作成し、分析して、敗血症プロセスの診断用及び敗血症性ショック症例におけるDICの特定用のAPCバイオマーカーについての曲線下面積(AUC)、カットオフ値、感度、及び特異度を取得した。0.5を上回るAUC(p<0.05)を統計的に有意であると見なした。全ての分析をGraPhad Prism v5を使用して実施した。
【0135】
統計分析
各研究群におけるAPCタンパク質について統計パラメーター(平均、標準偏差、最小、最大)を計算した。群間を比較するのに、最初に群間で可変のAPCについて正規性検定(コルモゴロフ-スミルノフ)を実施した。その後、マンホイットニーU検定(2つの群の場合)及び3つ以上の群間の比較の場合にクラスカル-ウォリス検定とともにダンの事後検定を使用することによって群間の比較を行った。
【0136】
APC値と他の臨床変数及び生化学変数との間の相関を評価するのに、スピアマンの順位相関係数を計算した。検定のp値が0.05より小さい場合、差異及び関連性を統計的に有意であると見なした。全ての分析をGraPhad Prism v5を使用して実施した。
【0137】
実施例2:活性化プロテインCの選択されたペプチドについての質量分析の直線性
APCの配列及び全配列のバイオインフォマティクス用トリプシン処理(bioinformatic trypsinization)を使用した初期の探索的研究により、幾つかのペプチド候補を得た。しかしながら、最終的にはLGEYDLR及びTFVLNFIKという2つのペプチドを使用することに決めた。これら2つのペプチド(以下に灰色でマークした)は、peptidecutter-ExPasy[https://web.expasy.org/cgi-bin/peptide_cutter/peptidecutter.pl]によってトリプシンを使用し、かつLGYDLR(配列番号1)の場合は位置54から位置60の間で切断を生じさせ、そしてTFVLNFIK(配列番号2)の場合は位置156から位置164の間で切断を生じさせて生成した。
【0138】
APCのタンパク質一次配列
C鎖(配列番号5)(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/1AUT_C)
1 lidgkmtrrg dspwqvvlld skkklacgav lihpswvlta ahcmdeskkl lvrlgeydlr
61 rwekweldld ikevfvhpny sksttdndia llhlaqpatl sqtivpiclp dsglaereln
121 qagqetlvtg wgyhssreke akrnrtfvln fikipvvphn ecsevmsnmv senmlcagil
181 gdrqdacegd sggpmvasfh gtwflvglvs wgegcgllhn ygvytkvsry ldwihghird
241 keapqkswap
【0139】
L鎖(配列番号6)(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/1AUT_L)
1 skhvdgdqcl vlplehpcas lccghgtcix gigsfscdcr sgwegrfcqr evsflncsld
61 nggcthycle evgwrrcsca pgyklgddll qchpavkfpc grpwkrmekk rshl
【0140】
検量線を上記説明のように成し遂げた。検量線において得られた結果から、LGEYDLRペプチドがTFVLNFIKよりも良好な直線性を示したため、LGEYDLRを定量化に好ましいペプチドとして選択した(
図1)。
【0141】
LGEYDLR及びTFVLNFIKの両方のペプチドを使用して、内因性型及び組換え型のPROC及びAPC(Xigris及び3K3A-APC)の両方を測定することができることに留意することが重要である。
【0142】
特により低濃度のPROC又はAPC(より重度の敗血症を患う被験体の場合)で、ペプチドLGEYDLRが他のペプチドよりも良好な直線性を示すことを更に裏付けるのに、LGEYDLR及びTFVLNFIKと、配列番号7:ANSFLEELRの新しいペプチドとを比較する同様の実験を実施した。結果を
図5に示す。見て取れるように、より低い濃度(1fmol/μlから10fmol/μlの間)を試験した場合、ANSFLEELRは直線性を有さず、これらの範囲内のPROC及び/又はAPCのレベルの測定に適した唯一のペプチドはLGEYDLRである。
【0143】
実施例3:敗血症プロセスの診断
APCは、集団及び敗血症コントロール群において通常分布するが、敗血症性ショック及びICUコントロール群においては通常分布しない。行われる全ての対比には、データが正常に挙動しない場合により頑健であるノンパラメトリック検定を使用する。
【0144】
各研究群におけるAPC濃度(ng/mL)についての記述統計を計算した。表2に、症例(敗血症性ショック+敗血症)及びコントロール(基準集団+ICUの非敗血症患者)において取得された値を示す。
【0145】
【0146】
その後、分析した各部分群におけるAPCの濃度(ng/mL)についての統計パラメーターを計算した(表3)。
【0147】
【0148】
次に、異なる研究群間でAPC濃度を比較して、実測値における統計的有意差を確認した。
【0149】
症例とコントロールとの間の比較には、マンホイットニーU検定を使用する。これは、観察された差異がp<0.0001の値で統計的に有意であることを示す。4つの研究群間の対比には、ANOVAパラメトリック検定と同等のクラスカル-ウォリス検定を使用する。この検定では、p<0.0001の値が示されたことから、異なる研究群間でPCAレベルにおいて統計的有意差が見られることが示される。
【0150】
以下の比較において、統計的有意差が見られた:
ICUコントロールに対するショック(p<0.001)、基準集団に対するショック(p<0.0001)
ICUコントロールに対する敗血症(p<0.0001)、基準集団に対する敗血症(p<0.0001)。
【0151】
これらの結果から、APCはコントロールに対する敗血症プロセスの診断に有用であり得ると推測することができる。
【0152】
実施例4:APCと他の臨床パラメーター及び分析パラメーターとの相関
APCレベル及び/又はPROCレベルの分析は、敗血症又は敗血症性ショックの診断及び予後診断用のin vitroでの診断試験を準備する本発明の一部として考えられた。したがって、幾つかの臨床パラメーター及び生化学的パラメーターも同様に患者から取得したデータベースを作成した。次に、APC及び研究中に取得された他の臨床変数の間の相関分析を続いて実施して、他のどのパラメーターがAPCと相関しているかを調べた。結果を
図2及び
図3に示す。
【0153】
ICUコントロール群においては、APCレベルは機能的プロテインC値と有意な相関を示した(スピアマンのロー0.882、p<0.0001)。機能的プロテインCを、クリニコ・デ・バレンシア大学病院(Hospital Universitario Clinico de Valencia)にある臨床研究所からInstrumentation Laboratory(Werfenの会社)製のキットHemosIL(商標)Protein Cを使用することにより取得した。
【0154】
敗血症の群において、APCレベルは、ヒストンH2B(スピアマンのロー0.469、p=0.021)、PCT(スピアマンのロー0.468、p=0.021)、Quick指数(スピアマンのロー0.514、p=0.010)、機能的プロテインC(スピアマンのロー0.900、p=0.037)と有意な相関を示した。
【0155】
敗血症性ショックの症例の群において、APCレベルは、血小板(スピアマンのロー0.374、p=0.0001)、Quick指数(スピアマンのロー0.302、p=0.003)、活性化部分トロンボプラスチン時間(スピアマンのロー-0.267、p=0.026)、D-二量体(スピアマンのロー-0.437、p=0.002)、及び機能的プロテインC(スピアマンのロー0.900、p<0.0001)と有意な相関を示す。
【0156】
機能的プロテインCについての基準値は70%から140%の間と判明した。機能的プロテインC欠乏症は、例えば敗血症が見られる際にDIC(播種性血管内凝固症候群)のリスクを高めることを強調することが重要である。
【0157】
次に、本発明者らの研究に含まれる様々な敗血症患者及び敗血症性ショック患者由来の血漿中に見出されるAPCのレベル(ng/mL)を調査したところ、DICと診断された患者(DIC群)におけるPROC/APCの平均レベルが、この臨床的機能不全を示さなかった患者(DICなし)よりも低いことが判明した(
図4)。敗血症プロセスにおいてAPCがDICを予測する可能性を評価するのに、臨床医が臨床変数を再検討して、敗血症患者をDIC又は非DICに分類した。
図4に示されるように、DICと診断された患者の試料中の平均APCレベル(平均値468ng/ml)は、DICを患っていない被験体の平均レベル(平均600ng/ml)と比較して統計的に低下した(p=0.0014)。本発明に基づくこの分類により、本発明の方法によるAPCの測定を使用することによって、DICを患う14人の患者及びDICを患っていない85人の患者を特定することが可能となった。対応するROC曲線を作成し、分析した(実施例7を参照)。
【0158】
これらの知見は非常に重要である。それというのも、Papageorgiou et al., 2018によって実施された研究[Papageorgiou C, et al.著の「播種性血管内凝固症候群:病因、診断、及び治療戦略に関する最新情報(Disseminated Intravascular Coagulation: An Update on Pathogenesis, Diagnosis, and Therapeutic Strategies.)」 Clin Appl Thromb Hemost. 2018;24(9_suppl):8S-28S. doi:10.1177/1076029618806424]において、APCによる治療により、敗血症関連のDICを患う部分群に遡及的に割り当てられた患者を含む重度の敗血症を患う患者の28日死亡率が低下することが実証されたからである。興味深いことに、APCによる治療は他の患者群においては一切効能を示さなかったことから、DICを患う敗血症患者のみがAPC治療(すなわち、Xigris又は他のrhAPC)の使用から便益を受けるであろうことを示唆している。この研究において、APC治療が敗血症を患う患者における出血リスクを高めることも判明したため、敗血症を正確に診断し、同時に内因性APCレベルを測定することが非常に重要である。さらに一層、敗血症患者の治療において、出血能力を有しないAPC誘導体の使用が最も重要となると考えられる。
【0159】
実施例5:コントロールに対する敗血症プロセス(敗血症又は敗血症性ショック)のスクリーニング用のROC曲線
コントロール(基準集団+ICUコントロール)に対する敗血症プロセスにおけるAPCのスクリーニング可能性を評価するのに、対応するROC曲線を作成し、分析した。
【0160】
【0161】
[1]簡単な診断試験
信頼水準: 95.0%
参照試験
診断試験 患者 コントロール 合計
----- --- --- ---
陽性 97 1 98
陰性 25 33 58
----- --- --- ---
合計 122 34 156
値 CI(95%)
--------- ---- --------------
感度(%) 79.51 71.94 87.08
特異度(%) 97.06 89.91 100.00
妥当性指数(%) 83.33 77.16 89.50
陽性的中率(%) 98.98 96.48 100.00
陰性的中率(%) 56.90 43.29 70.50
有病率(%) 78.21 71.41 85.00
ユーデン指数 0.77 0.67 0.86
陽性尤度比検定 27.03 3.91 186.81
陰性尤度比検定 0.21 0.15 0.30
【0162】
したがって、本発明者らの統計分析において得られた感度値及び特異度値によれば、PROC/APCバイオマーカーに基づく試験は信頼性があることが分かる。本発明の方法は、敗血症症例(敗血症又は敗血症性ショック)の79.5%及びコントロールの97.06%を適切に分類することができる。
【0163】
この点において、的中率は、陽性の試験結果が得られた場合としての分類に許容可能であり、信頼性があると見なすことができる(PPV 98.98)。
【0164】
これらの結論は、1よりもはるかに大きい陽性尤度比と、1からはるかに遠い陰性尤度比とによって裏付けられる。
【0165】
実施例6:ICUコントロールに対する敗血症プロセス(敗血症又は敗血症性ショック)のスクリーニング用のROC曲線
三次病院のICU内のICUコントロールに対する敗血症プロセスにおけるAPCの診断可能性を評価するのに、対応するROC曲線を作成し、分析した。
【0166】
【0167】
簡単な診断試験
信頼水準: 95.0%
参照試験
診断試験 患者 コントロール 合計
----- --- --- ---
陽性 97 1 98
陰性 25 16 41
----- --- --- ---
合計 122 17 139
値 CI(95%)
--------- ---- --------------
感度(%) 79.51 71.94 87.08
特異度(%) 94.12 79.99 100.00
妥当性指数(%) 81.29 74.45 88.14
陽性的中率(%) 98.98 96.48 100.00
陰性的中率(%) 39.02 22.87 55.18
有病率(%) 87.77 81.96 93.58
ユーデン指数 0.74 0.60 0.87
陽性尤度比検定 13.52 2.01 90.69
陰性尤度比検定 0.22 0.15 0.31
【0168】
したがって、本発明者らの統計分析において得られた感度値及び特異度値によれば、PROC/APCバイオマーカーに基づく試験は信頼性があることが分かる。この試験は、敗血症症例の79.5%及びコントロールの94.12%を適切に分類することができる。
【0169】
この点において、的中率は、陽性の試験結果が得られた場合としての分類に許容可能であり、信頼性があると見なすことができる(PPV 98.98)。
【0170】
これらの結論は、1よりもはるかに大きい陽性尤度比と、1からはるかに遠い陰性尤度比とによって裏付けられる。
【0171】
実施例7:DICを患うリスクがある患者の分類用のROC曲線
敗血症プロセスにおいてAPCがDICを予測する可能性を評価するのに、臨床医が臨床変数を再検討して、敗血症患者をDIC又は非DICに分類した。この分類により、MSによるAPCの測定を使用することによって、DICを患う14人の患者及びDICを患っていない85人の患者を特定することが可能となった。対応するROC曲線を作成し、分析した。
【0172】
【0173】
したがって、本発明者らの統計分析において得られた感度値及び特異度値によれば、PROC/APCタンパク質のレベルの測定に基づく方法は信頼性があることが分かる。この試験は、DIC症例の71.4%及びコントロールの71.4%を適切に分類することができる。
【0174】
これらの結論は、1よりもはるかに大きい陽性尤度比と、1からはるかに遠い陰性尤度比とによって裏付けられる。
【0175】
実施例7:低い濃度のPROC又はAPCを有する患者におけるPROC又はAPCの測定
上記で示したように、配列番号1のペプチドは、特に上記タンパク質が試料1μl当たり100fmolを下回る濃度で存在する場合、配列番号2又は配列番号7よりも良好なPROCレベル又はAPCレベルとの相関を表す。この患者群における配列番号1の有用性を確認するのに、健康なコントロール及び敗血症、敗血症性ショック、又はDICの患者のPROC又はAPCのレベルを測定した。表6に示される結果によれば、試験した全ての患者(健康及び敗血症)が、配列番号2又は配列番号7の検出限界未満、すなわち100fmol/μl未満のPROC又はAPCのレベルを有したことが示される。その中で、66人の患者が敗血症性ショックに罹患しており、その中の9人がDICに罹患している。全ての測定値は100fmol/μlを下回るため、このコホート研究において上記タンパク質のレベルを正確に測定するのに使用することができる唯一のペプチドは配列番号1である。
【0176】
【0177】
この表を考慮すると、ペプチドLGEYDLRは非常に低濃度のPROC又はAPCを検出することができると結論付けられる。
【配列表】
【国際調査報告】